ほむら「僕たちは天使だった」(110)

――夜が明けて――

まどか「きれいな空…… 昨日の戦いが嘘みたい」

QB「ワルプルギスの夜は倒された。だけど失ったものも大きい」

まどか「昨夜、光るものが空へ昇っていくように見えたの。あれ、ほむらちゃんでしょ?」

QB「知っていたんだね。暁美ほむらのことを」

まどか「マミさんに、さやかちゃんに、杏子ちゃん」

まどか「今度はほむらちゃんまで、行っちゃったんだね」

QB「願い事は決まったかい?」

まどか「うん。私の願い事はね……」

まどか「これからもずっとみんなを忘れないで、ちゃんと大人になること!」

まどか「…どうかな、叶えられる?」

QB「残念だけど、まどか… その願いは叶えられない」

まどか「やっぱりね」

QB「僕が手を貸すまでもなく、君はその願いを実現するだろう」

QB「エントロピーも何もあったものじゃない」

まどか「じゃあこれからどうするの?」

QB「他の子を探しに行くよ。君たちに指摘された通り、説明不足だった点を補っても」

QB「魔法少女になりたいっていう子は、きっとまだいるから」

まどか「じゃあお別れだね」

QB「うん。元気でね、まどか」

  完

――病室――

ほむら(ここは…… そうか、またダメだったんだ)

ほむら(そうだ、確か砂が切れて、身動きとれなくなった隙に……)

ほむら(でも途中まではいい線行ってたはず。巴マミや佐倉杏子を味方に付ければ、せめて進路を変えるくらいは)

ほむら(今度こそ、まどかを契約させないで、この一ヶ月を終わりにしてみせる!)グッ

ほむら(……あ、あれ?)

ゴソゴソ
ほむら(まさか…… ない?)バッ!

ほむら(ない! ソウルジェムが…… いつもなら手に持ってるのに!?)

――教室――

ほむら(結局、ソウルジェムは見つからないまま……)

ほむら(おそるおそる病室から出てみたけど体は何ともない)

ほむら(強いて言えば視力が戻ったから、メガネかけてないといけないくらいね)

ほむら(こんなこともあるの……? まずはQBを探して、問い正してみないと)

和子先生「今日はみなさんに転校生を紹介します。暁美さん」

さやか(うわぁ、すごい美人)

ほむら「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

ほむら(まどかはいるようね。美樹さやかも)

和子先生「暁美さんは心臓の病気で、ずっと入院していたの」

ほむら(まどかを狙って、アイツは必ず現れるはず)

まどか(あの子、私を見てる……?)

ほむら(うっかり契約されないように、まどかを見張っておかないと)

さやか(なにガン飛ばしてんのよ?)

――放課後、ショッピングモール

ほむら(まさかとは思ってたけど、QBもなかなか現れないわね)

ほむら(大抵このあたりにいるのに…… もう少し待ってみましょう)

コツ…… コツ……
ほむら(誰か来る? あれは!)

ほむら「まどか!?」

まどか「ひっ! ……ほ、ほむらちゃん? よかったぁ 暗いしどこかわからないし、こわかったよ~」

ほむら「どうしてこんな所に? もしかして、誰かに呼ばれなかった?」

まどか「へ? ああ私は…… お手洗いに行こうとしたら、道に迷っちゃって」

ほむら「声が聞こえなかった? 『タスケテ』とか」

まどか「ううん、聞いてないよ」

ほむら(やっぱりQBとは接触していないようね……)

まどか「あの、ほむらちゃん? 誰かいるの?」

ほむら(なら余計なことは言わなくていいわね)

ほむら「聞こえたと思ったのだけれど、私の気のせいだったようね」

まどか「助けを求めてる子はいなかったんだね。そ、それならさ、ほむらちゃん……」ソワソワ

ほむら「帰りましょうか」

まどか「お手洗い、一緒に行かない? 安心したら…… こう……」モソモソ

ほむら(大丈夫、ここなら誰も見ていないわ!)

ほむら(……と、言いたいところだけど、やめておいた方が無難そうね)

ライトウィングだと思った・・・

>>9
ドラゴンボールです


ほむら「大丈夫、ここなら誰も見ていないわ!」
ほむら(あ……)

まどか「何言ってるの!? ほむらちゃんが見てるじゃない!」

ほむら「ごめんなさい。ふざけてる場合じゃなかったわね」

ほむら「さっき地図で見たわ。お手洗いはこっちよ。はぐれないでね」

まどか「は~い!」



まどか「お待たせ~」

さやか「遅かったね。買い物済ませといたよ」

まどか「ごめんね、ちょっと道に迷っちゃって」

さやか「よく来てるのにどうやったら迷うんだよ…… ん、転校生も?」

ほむら「ええ、さっき駐車場でまどかに会って」

まどか「おかげで帰ってこられたんだよ」

ほむら(美樹さやか…… たいていの時間軸では魔女化するわ、そうでなくても私とは相性が悪いわ)

さやか「そっかぁ、ありがとう。まどかを助けてくれて!」

ほむら(……やっぱり今回は特殊なケースみたいね)

ほむら(ソウルジェムはない、QBも魔女も現れなかった……)

さやか「まどかも少しは気をつけなよ。この間だって、マミさんがいたから無事で済んだけどさ」

ほむら「!?」ハッ

ほむら(巴マミ。彼女ならきっと既に魔法少女になっている! 手がかりをつかめそうね)

まどか「ほむらちゃん、マミさんがどうかしたの?」

ほむら(おそらくまだ二人とも契約していない。それどころか、QBとも接触していない)

ほむら(魔法少女のことは伏せておいた方が良さそうね)

ほむら「ええと…… クラスの名簿に載っていなかったから、誰かしらって」

さやか「そんなのちゃんと見てたんだ。マミさんは一個上の先輩なんだよ」

まどか「いつも一緒にお昼食べてるの。今度ほむらちゃんもおいでよ」

ほむら「いいの? 私が行っても」

まどか「大丈夫だって。マミさん優しくていい人だしね」

さやか「オマケに料理もうまいし部屋きれいだし、ありゃいい嫁さんになるわ~」

ほむら(前回と違って、ずいぶん待遇いいのね……)

――翌日、お昼休みになりました――

まどか「では紹介しましょう。三年生の巴マミさんと」

マミさん「はじめまして、暁美さん」

さやか「同じクラスの上条恭介」

上条「よろしくね」

ほむら「暁美ほむらです」

ほむら(そうだ、テレパシーなら皆に聞かれることなく、直接巴マミに伝わるはず)

ほむら(あなたも魔法少女なら聞こえるでしょう? 何かがおかしいのよ。私のソウルジェムが……)

マミさん「志筑さんは、今日もお休み?」

ほむら(聞こえてない……?)

上条「そうですね。でもせっかくだから、仁美はゆっくり休んでた方がいいですよ」

まどか「お稽古ごとでいつも忙しそうだもんね」

さやか「仁美ってのはウチのクラスの志筑仁美のことね。ここだけの話、この恭介と付き合ってるの」

上条「それ全然『ここだけの話』じゃないよね!? 気がついたらクラス中みんな知ってるんだけど!」

さやか「で、近頃冷やかされて男子グループに居場所がなくなりつつあるから、こっちへ逃げてきたんだね」

上条「だいたい合ってるとはいえ、ひどい言い方だなぁ。でもなんでこんなに早くバレたんだろ?」

さやか「わ、私じゃないよ! まどかにしか言ってないから!」

まどか「私も中沢くんにしか言っ…… てないよ。うん」

上条「君らのおかげでご覧の有様だよ…… 最初はなるべく秘密にしとくつもりだったのになぁ」

マミさん「誰でも人の噂は好きなものなのね」

ほむら(上条恭介が怪我をしていないで、しかも彼女たちともうまくいってるみたい)

ほむら(珍しいケースね。私にとっては好都合なことだけど…… 少し探ってみましょう)

ほむら(でも探るって、どう言えばいいんだろう?)

まどか「言われなくてもわかっちゃうよ~」

さやか「恭介、仁美に甘いからねぇ」

ほむら「そういうあなたも彼のこt」
ほむら(あ……)

さやか&上条「……」ギク

ほむら(いやいやいやちょっと待て!)

ほむら(いくらなんでも本人にいきなり言うなんてヒドいよほむらちゃん! こんなのってないよ!)

さやか「……ちょ、ちょっと転校生さん? なんでそれを……」カタカタ

まどか「ホントなの、さやかちゃん!?」オロオロ

マミさん「……皆が気づかないようにしてたのに、ハッキリ言う子ね」

さやか「バレちゃしょうがないか。ほむらはこんな会ってすぐなのによくわかったじゃない」

マミさん「都会っ子は鋭くないと生き延びられないのね」

さやか「東京って怖いですね……」

まどか「で、実際どうだったの?」

さやか(なんでそうワクワクしてんだこの子は……)

上条「いやぁ…… そのことはお互い、なんて言うんだろ? 黒歴史?」

さやか「若気の至りよ」

上条「そうだ、それだよ」

さやか「実はさ、ほむらが転校してくる前に、コイツすっごいケガで入院してたんだわ」

上条「冗談抜きで、危うく片手なくなるところだったんだよ」

ほむら「もういいの?」

ほむら(治っているなら、美樹さやかが契約することもなくなる)

上条「まだまだリハビリ中だけどね。だいぶ動くようになってきたよ」

上条「ぼくはバイオリンが好きでさ、弾けなくなったらどうしようって、心配してたんだ」

さやか「いやぁ、あの時は荒れてましたっけねぇ」

上条「ううっ、それ言われるとイタいんだけど… でもあの時期にさやかがいてくれて、助かってたんだ」

ほむら「そう…… よかった」

さやか「それでお見舞いに行ったりしてるうちに、自然とね、こう…… イイ具合になっちゃったワケですよ」

上条「とはいっても、あまり長くは続かなかったよ。僕たちはきょうだいみたいなものだから」

まどか「小さい頃から一緒だったんだっけ」

マミさん「♪知りすぎてる アナタに~」

まどマミ「♪想いはカラ回り~」

さやか「そうそう。今更恋人同士ってガラでもなかったのですわ」

さやか「何しろさやかちゃんは恭介が幼稚園の肝試しでおもらししたのを目の当たりにしちゃってるくらいですから」

上条「やめてよ! それを言うならさやかだって、小学校へ上がってすぐ」

さやか「わーわー!! ストップ! やめて上条さんやめて! わかったからその話はやめて!」

上条「……お互い変な気を起こさない方がいいね」

マミさん「誰でも秘密にしておきたいことくらいあるものね」
マミさん(私が魔法少女に変身する妄想ノートとか)

まどか「やっぱりそうですよね~」
まどか(私が魔法少女に変身する妄想ノートとか)

ほむら(まどかの秘密……? ソウルジェムさえあれば、秘密なんかあって無きがごとし……!)

ほむら(なのに一体どこへ行ったの! いや別に悪用するわけじゃないのよ! まどかを監視してないといけないから!)

ほむら(……しかし不便なものね)

――二週間後

ほむら(相変わらず、ソウルジェムもQBも見つからないまま……)

ほむら(ついでに言うと魔女も現れない…… というより、いるのかもしれないけど、今の私には気配を探ることもできない)

ほむら(魔法を使えない私にできることは)

まどか「おはよう、ほむらちゃん!」

ほむら「おはよう」

さやか「ほむら~ 数学の宿題教えてよ!」

ほむら「数学は五時限目だから、お昼休みに教えてあげましょうね」

ほむら(普通の学校生活を送るフリをしつつ、まどかを監視してQBを待つ)

まどか「昨日ね、ニュースでやってたの。隣の県の動物園で、マレーグマの赤ちゃんが生まれたんだって」

さやか「え、それクマなの?」

まどか「ちっちゃいクマなんだって、かわいかったよ~ ほむらちゃんも見た?」

ほむら「見てないけど、マレーグマは聞いた事はあるわ。大人になっても小柄なのね」

まどか「もう少し大きくなったら一般公開だって。一緒に会いに行こうよ!」

さやか「ちょっと遠出だねぇ、私らだけで大丈夫かな」

まどか「マミさんや杏子ちゃんにも来てもらうから平気だよ! ほむらちゃんも行くよね?」

ほむら「もちろんよ」

ほむら(とは言ったものの)

ほむら(クマの赤ちゃんって、どのくらいで大きくなるんだろう……? 二、三ヶ月くらいかしら)

ほむら(この一ヶ月よりも後のことになるんだから、期待してはいけない……)

まどか「楽しみだね~ 早く大きくならないかなぁ」

ほむら(わかってるのに、今回なら…… と、思えてしまうくらい今までは順調にきてる)

ほむら(その分どんな落とし穴が待っているか、怖くなってくるわね)

――マミさんの部屋

ほむら(怖い怖いといいつつ、皆とけっこう打ち解けてきて)

ほむら(今日は巴マミの部屋へ一緒に来てしまいました)

まどか「ほむらちゃんは初めてだね」

さやか「マミさんのケーキおいしいよ~! 期待してな!」

ほむら「どうしてあなたが自慢げなのよ?」

マミさん「お口に合うといいけど、どうかしら」

ほむら「ありがとう。いただきます」

さやか・まどか「いただきま~す!」

ほむら ホムッ(甘い…… 久しぶりね、ケーキなんて)

ほむら(そうよ、最初の頃はよくここへ来ていたっけ)

さやか「いやぁ、マミさん相変わらず…… え?」

まどか「しーっ……」

マミさん「……」

ほむら(一人で戦うようになる前の、私がまだ、まどかに頼りきりだった頃……)

ほむら(みんなでこうして、時間を忘れたもの……)



マミさん「あのぅ…… 暁美さん?」

ほむら「は、はいっ!?」ビクリ

マミさん「気に入っていただけたかしら……?」

まどか「ほむらちゃん、すっごい真剣な顔で食べてるんだもん」

さやか「つい見入っちゃったよ。そんなにおいしかった?」

ほむら「ええ……」

ほむら(ダメよ。二人が見てる前で…… まだこらえて)

ほむら「巴さんのケーキ、なんだかとても…… 懐かしい味がするようです」

ほむら(こんなふうに、みんなで一緒にいた頃のことが)

ほむら(もう懐かしい思い出になってしまっているのね……)

マミさん「喜んでもらえてよかったわ」

さやか「そんなおいしいケーキを焼いてくれるマミさんに、今日はいいもの持って来ましたよ」

さやか「ちょっと待ってくださいね。カバンにしまって…… お、あった! これです」

まどか「わぁ~ かわいいね! なにこれ?」

さやか「そこのゲーセンでとったの。マミさんが欲しがってたの思い出してさ」

マミさん「まぁ、ありがとう!」

まどか「さやかちゃん、よくこういうの取れるよね。私なんていくらやってもダメだよ」

マミさん「ちゃんと飾っておきましょうね~」

ほむら(ぬいぐるみの並んでる棚…… ずいぶんたくさんいるわね)

ほむら(TV放送時は殺風景だったのに、いまやだいぶ賑やかになって……)

ほむら(……へ?)

ほむら「キュウべぇ!!」ガシッ

三人「!!?」

ほむら「やっと見つけた! 今までどこにいたの!?」

マミさん「あ、暁美さん…… その子がなにか?」

ほむら「だってこれ、QBでしょう!? ほら、この耳のコレとか!」

マミさん「そうよ。私が小さい頃におばあちゃんが作ってくれたの」

ほむら「作ったって、QBを!?」

ほむら(……よく見たら)

ほむら「これ、ぬいぐるみ…… なのね?」フゥ

まどか「いきなりどうしたの、ほむらちゃん?」ドキドキ

さやか「あ~…… ビックリしすぎて笑えてきたわ。今度はナニ? ぬいぐるみと感動の再会っすか」

マミさん「暁美さん、よくQBを知ってたわね」

まどか「マミさんのおばあちゃんのオリジナルキャラじゃなかったんですね」

マミさん「どうやらそうみたいね」

ほむら「巴さん、この子をどこで?」

マミさん「私ね、小さい頃、両親がケガで入院してる間、おばあちゃんの家で暮らしてたの」

ほむら(今までの時間軸だと、その事故がきっかけで魔法少女になったのよね)

ほむら(やっぱり、今回は違うというの?)

マミさん「むこうでなかなか友達できなかったから、おばあちゃんが話し相手にって、くれたのよ」

マミさん「それからずっと一緒だったわ。両親のお見舞いへ行く時もいつも連れて行ったりね」

マミさん「事故の後、一人で寝るのが怖かったけど、キュウべぇが来てからは平気になった」

マミさん「こっちへ戻ってからも、私の大事なお友達だったの」

ほむら「そうだったんですか……」

まどか「キュウべぇはマミさんに可愛がってもらえて幸せね」

マミさん「暁美さんはどこでキュウべぇに会ったの?」

ほむら「私は……」
ほむら(うかつに話さない方がよさそうね)

ほむら「ええと…… どう言ったらいいのかしら」
ほむら(でも、今の巴マミ、いいえ巴さんなら)

ほむら「ごめんなさい、私も覚えてないんです」
ほむら(やっぱりダメよ……)

ほむら「ずっともやもやしてて、この子を見たら急に思い出したみたい……」

さやか「小さい頃に持ってたりしたのかな」

まどか「夢の中で会ってた、とか」

ほむら「そうかもしれないわね」
ほむら(夢…… みたいなものね、今となっては)

ほむら(どちらかというと、私にとってはこっちの世界が夢の中みたいだわ)

ほむら(そうか)

ほむら(いざとなったら『夢でした』で切り抜けるようにすれば……)




さやか「さてと、宿題も終わったし、そろそろおいとましないと」

まどか「すいません、ずいぶん長居しちゃった」

マミさん「いいのよ、もうじき暗くなるから、気をつけて帰ってね」

ほむら「私はもう少し巴さんとお話したいことが…… いいかしら?」

マミさん「いいわよ。でもあまり遅くならないようならね。お家の人が心配するでしょう」

まどか「へぇ~ 秘密の相談?」

ほむら「そうなの。だから悪いけど二人は先に帰っててもらえるかしら」

さやか「じゃあまた明日ね。おじゃましました~!」

マミさん「はい。今日はぬいぐるみ、ありがとうね。大事にするわ」

さやか「あんなの、またとってきますって。杏子がけっこううまいから、教えてもらってるの」

マミさん「あの子が? 意外な一面ね」

マミさん「それで暁美さん、私に話したいことって?」

マミさん「あの子たちの前では言いづらいことかな」

ほむら「……マミさん」

 ぽすっ

マミさん「え……」

マミさん(いきなり抱きついて……! ど、どういうことなの!?)

マミさん(落ち着くのよ巴マミ! これはきっと都会ではよくあるスキンシップなんだわ……)

マミさん(ホラ、向こうの子って、その、進んでるから… いろんな方向に)

ほむら「私ね、ずっとマミさんって呼びたかったんだよ」

マミさん「『ずっと』って言ってもねぇ。まだそんなに経ってないでしょ?」

ほむら「ちがうの」ウルン

マミさん(泣いちゃってるよ…… どうしよう?)

ほむら「あなたにとって私はつい最近出会ったばかりだけど」

マミさん(ずっとアナタを見てました、って? いやそういうのは私の役目じゃないでしょ!?)

ほむら「私はもう何度も、マミさんと会って、お別れしてきたんだよ」

ほむら「もう一人で頑張るって決めたのに、ダメね。久しぶりに皆と仲良くなれたら」

マミさん(やっぱ腰細いなぁ)

ほむら「最初の頃のこと、思い出しちゃって……」ぐすっ

マミさん「あのね暁美さん、感極まっちゃってるところ申し訳ないんだけど」

ほむら「はい」

マミさん「まずは泣き止んでからにしましょうか」ナデナデ

マミさん(首すじもこんなに…… これは食生活が心配になってくるわね)

マミさん(私みたいに、健康的にしてあげないと)

コポコポコポ

マミさん「どう、少し落ち着いた?」

ほむら「ええ、ごめんなさい。二人きりになったら、気が緩んじゃったみたい」

マミさん「いいのよ。それより、さっき言ってた『何度もお別れしてきた』っていうのは?」

ほむら「ちょっと信じられない話になるわ。その前に一つ念を押しておきたいの」

ほむら「もしこれから話すことが、少しでも素直に信じられなければ」

ほむら「その時は、私のみたおかしな夢の話とでも思って聞いて」

マミさん「わかったわ。なんだか深刻な話みたいね」

ほむら「私は転校してからの一ヶ月間を、もう何度もやり直してるの」

ほむら「時間を操作する魔法の力で」

マミさん(うわぁ…… こういうの、なんて言うんだっけ?)

マミさん(そう、中二病だわ。まぁ仕方ないわね。実際、中学二年生なんだし)

マミさん(私くらいになれば、妄想はノートにとどめておけるのに)

ほむら「……今、『うわぁ』って思わなかった?」

マミさん「お、思ってないよ! 全然思ってないから続けて続けて!」

ほむら「そのくらいの方がかえって話しやすいわ」




ほむら「……それで、今回初めてソウルジェムがなくなったの」

マミさん「しかも私や美樹さんも魔法少女じゃない、と」

ほむら「信じてくれるの?」

マミさん「う~ん、正直言って、簡単には信じられないわ。でも、あなたは美樹さんと上条くんのことも知っていたし」

マミさん「ケーキを食べてた時の顔を見れば、辛い思いをしてたのは想像できる」

マミさん「ただの夢の話とも思えないわね」

マミさん「妙にリアリティあるのよ。その…… 魔女になることを知って、私が暴れだしちゃうとか」

ほむら「マミさんは人一倍正義感の強い人だったから、自分が魔女になるのを受け入れられなかったんでしょう」

マミさん「そういう結末を知ってて、最初に念を押したのね」

ほむら「取り越し苦労だったみたいだけどね。今のマミさんは怖くないもの」

マミさん「鹿目さんと美樹さんには話してないの?」

ほむら「まだQB…… あ、あそこにいるぬいぐるみの子じゃなくて、今までの時間軸のね」

ほむら「アイツと接触してないみたいだから、まどかにはそれとなく警告しておいただけ」

マミさん「心配なさそうなら、知らない方が良さそうものね。特に彼女の場合は」

ほむら「さやかとは、こんな普通に仲良くなったのなんて、初めてだから、話しにくくて」

ほむら「下手したらまた上条くんの時みたいになっちゃいそう」

マミさん「それじゃあ、今回も一人で戦う気なの?」

ほむら「そうなるわね。私が発見できてないだけで、魔女やインキュベイターはきっといる」

マミさん「ね、この話をもう一人の魔法少女にも相談してみない?」

ほむら「もう一人って、佐倉杏子に?」

マミさん「ええ、彼女も魔法少女ではないから、一緒に戦えないけど」

マミさん「話してみたらラクになると思う。少なくとも、あなた一人で抱え込むよりはね」

ほむら「どうかな……? でも、マミさんがそう言うなら」

マミさん「よ~し、そうと決まったら、お風呂入りましょうか」

ほむら「どうしてそうなるのよ?」

マミさん「重い話で疲れたでしょう? 疲れたらお風呂が一番よ」

マミさん「遅くなっちゃったから、今日は泊まって行きなさい。パジャマ貸してあげる」

ほむら「いいの? 私、マミさんの家でお泊まりなんて、初めてだよ」ニコニコ

マミさん(鹿目さんたちが見たらビックリするでしょうね、この笑顔)




ほむら(マミさんと一緒に寝てる……)

ほむら(まどかを守ると決めたのに、戦いもしないでマミさんと一緒に寝てる)

ほむら(いいのかな? さしずめ魔法ニート…… いえ、魔法使えないからニート少女……)

ほむら(一体何なの、この時間軸は? まるで終わらない休日だわ……)

QB(正確には、今までのループとは違う現象だけどね)

ほむら「ッ…!!!!」 ※声をあげないよう必死でこらえてます

ほむら(QB? 今度こそ本物なの? どこにいるのよ!)

QB(ここだよ。君たちがマミのぬいぐるみと思っているものが、今のぼくさ)

ほむら(見ない間に、ずいぶん可愛くなったものね)

QB(ぼくはそっちの時間軸に招かれなかったからね。外側から観測するには、こうするしかなかったのさ)

ほむら(話ができればそれで十分よ。教えて、ループとは違う現象って? 私のソウルジェムはどこへ行ったの?)

QB(そんなもの、もうなくなったよ。暁美ほむら。君はワルプルギスの夜との戦いの中で、魔女になったんだ)

ほむら(まさか……! 確かに私は、退院前まで時間を戻したはず)

QB(戻っていないよ。ぼくに記憶が残っているのが、その証拠さ)

QB(魔女と化した君の戦いぶりは圧巻だったよ。ワルプルギスを飲み込んで、その魔力を奪い取ったんだから)

QB(そして人間だった頃の暁美ほむらと同じものをいくつも作っては、平行して存在する複数の時間軸にバラまいた)

ほむら(そのうち一体がこの私というわけ? よく出来てるものね)

QB(魔法少女だった頃も、魔法で肉体を再生できただろう。仕組みは一緒さ)

ほむら(魔女になってもまだまどかとの出会いをやり直すとは…… さすが私だわ)

QB(君の願いと性格と性癖と執念から考えれば、驚くに値しないことだよ)

ほむら(我ながら呆れてるのよ)

QB(もう薄々気づいてるかもしれないけど、魔女もインキュベイターもいないところに送り込まれたようだね)

ほむら(確信はなかった。でも戦わなくていいならいいに越したことはないわね)

QB(何だって都合良くはいかないものなのさ。今そこにいる君は、魔女でも魔法少女でもないんだよ)

QB(魔法の力なしで、その時間軸にいる、もっと厄介なものと戦わなきゃいけないんだ)

ほむら(なによ、あなたたちより厄介なものって)

QB(それは君たちの方が詳しいはずだよ。ぼくはまだここにいるから、しばらく探してみるといい)

QB(今日はもうおやすみ。マミの隣じゃ狭いだろうけど、落ちないよう気をつけてね)

QB(それと僕はそっちの時間軸に直接手出しはできないから、鹿目まどかの監視は必要ないよ)

ほむら(日課がなくなると、それはそれで寂しいわね)

――翌朝――

まどか「おっはよ~ ほむらちゃん!」

さやか「あれ、今日はマミさんと一緒?」

マミさん「昨夜話が盛り上がりすぎて、ウチに泊まったのよ。なかなか寝させてくれなかったんだから」

さやか「ほほぅ、意外とおアツい子なんですね~」

ほむら「マミさ~ん、変な言い方やめ…」オロオロ

まどさや「え?」

ほむら「おかしな誤解を招く言い方はやめてくれない?」キリッ

マミさん(いつもの暁美さんに戻った……!?)

ほむら「質問が来ているわ…」

QB「ソウルジェムの有効範囲についてだね」

ほむら「それが不安だったのよ。退院前にどこまで離れられるか、試してみたのよ」

QB「結果、抜け殻にならなかったから退院したんだね」

ほむら「まさかソウルジェムが無くなってるなんて思わなかったから、半信半疑だったわ」

――教会――

杏子「それで私の所に来た訳か」

ほむら「魔女と戦わなくていいなんて、久しぶりすぎて…… どうしていいやら」

マミさん「今までずっと、ひどい目にあっていたものね」

杏子「まずそっからなんだけどさ、魔法少女って、それほど悪い話じゃねぇと思うんだ」

杏子「人生の三大苦って聞いたことあるかい? 老・病・死の三つな」

ほむら「それ、仏教じゃない?」

杏子「……まぁ、そうだけど、三つのうち『病』と、たぶん『老』も免除なんだろ」

ほむら「確かに、私も魔法を使えた頃は、メガネをかけずに済んでたけど」

ほむら「魔法少女も身長はのびるし、いろいろと…… 成長はするわよ。まだまだこれから」

マミさん「でも、年をとって体力が衰えたり、シミが増えたりするのは抑えられそうね」

杏子「マミはついでにこのデカ乳も治してもらえってんだ」モニモニ

マミさん「これは病気とかじゃないから! むしろ健康なの!」

杏子「ともかく、それだけでもボロ儲けじゃねぇか。オマケに願いが何でも叶う、と」

ほむら「ええ。そのために大きな対価を……」

杏子「当たり前のことなんだよ。行き過ぎた欲にバチが当たるってのは、そうおかしくないだろ」

杏子「なんていったっけ? お金を外国のに替えて儲けるやつ」

マミ「FXね」

杏子「あれで小遣い稼ごうといて、家一軒建っちゃうくらいの借金作った人だっているんだぞ」

杏子「そこへいくとQBってヤツは、あんたが思ってるよりだいぶ良心的な部類に入るよ」

ほむら「アイツがまだ良心的……?」

杏子「最低でも、ちゃんと願い事は叶えてくれるんだからな」

マミさん「なら佐倉さん、もしQBがいたら、契約するの?」

杏子「誰がするかっつーの。システムとしては納得いくけど、やるやらないは別の話だ」

杏子「んなこと言ってられるのも、今の暮らしに満足できて、余裕があるからかもしれないけどな」

ほむら「そうだ…… アイツは自分には感情がないくせに、人の心に余裕がない時を見逃さない」

杏子「あんたもあんただ。そんな思い詰めるなよ。だから今までQBのいいようにされてきたんだろ」

杏子「幸いここには魔女とかってのもいないし、何度もループして戦ってたなら、たまには休んでな」

ほむら「……いいのかな?」

杏子「いいんだよ。こんな幸せなトコに生まれてきて、わざわざ命賭けようなんてバカな話があるかい」

杏子「幸せっていいもんだぞ~ あんた、まどかが好きなんだろ?」

ほむら「す、好きって…… 別に、まどかとはまだ、そういうのじゃ///」

杏子「オイなんだ語尾の「///」←コレは! 私が言ってるのはだな……」

杏子「お~い、モモ! ちょっとおいで」

モモ「なに~?」

杏子「モモ、お姉ちゃんのこと好きかい?」

モモ「好きの~!」ブンブン

杏子「お~し、よく言った! いい子だ! ちゅーしてやるぞ、ちゅ~……」

モモ「やめてよ~! 恥ずかしいもん」タタッ

マミさん「あら、行っちゃった」

杏子「と、まぁ、こういうのがあってもいいだろ?」

ほむら「……あなたほどうまくやる自信はないわ」

――後日

ほむら「やっぱりうまくいかなかった」

マミさん「しかたないわよ。カラオケ行くの、初めてでしょ?」

ほむら「とはいえあれは、いくらなんでも…… もうちょっとは練習しないとね」

まどか「私も杏子ちゃんみたいにうまくなりたいな~」

杏子「嬉しいこと言ってくれるじゃないの」

ほむら「そう言えば、杏子は意外とうまかったような」

さやか「コイツ、日曜学校で小さい子に歌教えたりしてるんだよ」

マミさん「いいお姉さんね」

杏子「うるさいチビ子が集まるから大変だよ。教会は動物園じゃねぇっつの」

まどか「そうだ杏子ちゃん、今度動物園へ行かない? マレーグマの赤ちゃんが生まれたの」

杏子「何だ? それクマなのか?」

さやか「私と同じこと言うな。この間生まれたばっかりで、もうちょっと大きくなったら見せてくれるんだって」

杏子「へぇ~、そりゃ行きたいな」

ほむら(二ヶ月後か、三ヶ月後…… 私も行けるかな)

ほむら(一ヶ月後よりも先があるなんて、久しぶりね)

さやか「あっ、あそこ……」

マミさん「どうしたの、美樹さん?」

さやか「道路の向こうのビル…… 屋上に誰かいる」

杏子「あれって、まさか……? おいやめろよ!」

ほむら(そうだ、ここはあの廃ビル! でも魔女はいないはずじゃ?)

ほむら(跳んだ……!?)

 敵が来る

ほむら(時間は止められない、リボンの魔法もない…… こうなったら!)

 絶望から生み出された魔女たちよりも恐ろしい敵が

ほむら「見ないで!」ガシッ

まどか「!?」

 魔女のいない世界へ迫り来る――




ほむら(とりあえず現場からだいぶ離れたものの)

ほむら(まどかがしがみついてはなれない……)

マミさん「鹿目さん、もう大丈夫よ」

ほむら(このままだと私が別の意味で大丈夫じゃないんですが)

まどか「うん…… ヒック でもまだ…… もうちょっと」カタカタ

マミさん「無理もないけど、こまったわね」

杏子「よし、マミの家に行こう」

マミさん「なんでよ?」

杏子「まどかを少し休ませないと。ここから近いんだろ?」

マミさん「ホントのこと言わない子におやつはありません」

杏子「……わかってるじゃん」

まどか「そうだよ、私……」ガシッ

ほむら(ま、まどかが…… まどかが私の腕の中に! ……中に)

まどか「こうしてないと、今日寝れないかも……」

ほむら(世界を変える力がこの手にッ!!)

さやか「あの、私も…… ちょっとツラいかも……」

杏子「けっこう本気で顔色悪いぞ…… 見ちゃったのか、おお、よしよし。ケーキでも食うかい?」

マミさん「じゃ今夜はお泊まり保育しますか。

マミさん「みんな、一旦帰って、用意ができたら私の部屋に集合でいいかしら」

マミさん「暁美さんは、鹿目さんについていってあげて」

ほむら「うん。ゴメンね、いつもマミさんに迷惑かけてる」

マミさん「いいのよ、もっと頼りなさいな」

まどか(マミさんって言った……!?)

さやか(マミさんって言った……!?)

――マミさんの部屋――

まどか「マミさん、ママが電話代わってって」

マミさん「私に?」

まどか「はい」

さやか(泊まりじゃダメだって?)ヒソヒソ

まどか(いいけど、マミさんと話してみたかったんだって)

マミさん「お電話代わりました。巴マミです」

詢子「どうも、初めまして。まどかとほむらちゃんから事情は聞いたよ」

マミさん「すいません。急に決まっちゃって」

詢子「こっちこそ、面倒見させてごめんね。マミちゃんも辛いでしょうに」

マミさん「いえ、私は平気ですよ」

詢子「そういう時は無理しなさんなって。さやかちゃんや、えっと、名前出てこないな。教会の子もいるんでしょ?」

詢子「明日は休みだし、まどかにお土産持たせといたし、今夜は楽しくやってね」

マミさん「ありがとうございます。後でいただきますね」

詢子「じゃあまたね。今度ウチにも遊びにおいでよ」

マミさん「はい。では失礼します」

まどか「ママとどんな話してたんですか?」

マミさん「楽しくやりなさいってさ」

杏子「だよな! 五人揃ってオールなんて初めてじゃないか?」

まどか「モモちゃんも連れて来てあげれば良かったのに」

杏子「ダメダメ。アイツはまどかよりちっちゃいんだぞ」

まどか「私はちっちゃくないよ~!」

さやか「にしても杏子、パパさん厳しそうなのに、よく来られたね」

杏子「ナニ言ってんだよ。私がいないと寝れないくせに」ワシワシ

さやか「そんなことない! ……ことも、ない…… かも///」シュン

杏子(うっわ…… このさやか、できるわ)

杏子「そういう時は一人より二人!」

マミさん「二人より五人!」

杏子「……と言って頼んだら、これも悩める衆生を救うためだってさ」

さやか「おお、話せる」

ほむら(私にとっては六人)

ほむら(その六人目に聞きたいことがある)

――深夜

ほむら(みんなが寝静まった夜)

ほむら(とてもすごいものを見たんだ)

QB(見たのは昼間のことじゃないか)

ほむら(よく知ってるわね)

QB(君たちの常識というルールで測れない世界に、僕たちインキュベイターはいるからね)

ほむら(で、そのインキュベイターも魔女もいないこっち側でも、あの人は今までと同じように身を投げた)

ほむら(この間言ってた、『もっと厄介な敵』の仕業なの?)

QB(ああ。その通りさ。君もその目で見たろう)

ほむら(何も見えなかったし、ソウルジェムがなければ気配も感じない…… 確かに厄介な連中ね)

QB(戦うつもりなら、せいぜい頑張るといい。僕たちはもう傍観しているだけしか出来ないからね)

ほむら(どうして見ているの? こっちいる『敵』も、あなたたちに関係があるというの?)

QB(君の魔法がヒントになって、こうして他の時間軸を観測できるようになったんだ)

QB(しかも今回は、宇宙でも珍しいケースなんだ。資料として実に興味深い)

ほむら(相変わらずいじきたないわね)

ほむら(知ってるならさっさと教えなさい。今度の敵が何者なのか)

QB(この間も言ったけど、君たちの方が詳しいはずなんだ)

QB(だから僕からはどう戦えばいいか、までは教えられない。それでもいいなら……)

――数日後、ある日の帰り道

杏子「なぁ、あそこでプリクラ撮ってるの、坊やじゃないか?」

さやか「恭介? あ、ホントだ」

杏子「ちょっとからかってやろう」

さやか「やめなさいって! 仁美も一緒なんだから、邪魔しちゃ悪いでしょ」

マミさん「佐倉さん、上条くんと仲悪いわよね」

杏子「なんでかアイツ見るといじめなきゃいけない気がするんだよ…… 前世からの因縁だ、きっと」

仁美「あら、あれは美樹さんたち」

上条「早く帰ろう」

仁美「つめたいのね。また美樹さんとケンカでもしたんですか?」

上条「さやかじゃない、もう一人が……」

仁美「見かけない方ですわね。ちょっとご挨拶を」

上条「やめなさいって! 三人で盛り上がってるみたいだから、邪魔しちゃ悪いよ」

仁美「でも……」

杏子「そうなんだよ~ 今日は三人」

上条「うわ来た!」

仁美「はじめまして」

杏子「おう、あんたがウワサの彼女さんかい。私、佐倉杏子ってんだ。よろしくな」

仁美「志筑仁美です」ペコリ

杏子「まどかが言ってた仁美ちゃんだな。だったらまどかとほむらのこと、知ってんだろ」

仁美「ええ、最近とても仲が良くて」

杏子「今日も二人でどっか行っちまうし」

さやか「あれはほむらが、まどかと二人きりにしてほしいって言うから」

仁美「ついに春の訪れが!?」

杏子「んなワケあるか! ……ん、あるか?」

さやか「いや…… ないでしょ、たぶん」

上条「それはそれでアリだと思う!」グッ

杏子「オマエの意見は聞いてねぇよ!」

マミさん(いいわね、こういうの……)シミジミ

ほむら「まどか、帰りにどこか寄って行かない?」

ほむら「今日はなんでも奢っちゃうよ!」

まどか「ほむらちゃんご機嫌だね~ それならさやかちゃんたちも誘えばよかったな」

まどか「やけに急いでたけど、何があったんだろ」

ほむら「私が頼んでおいたの」

まどか「? なんでそんな」

ほむら「まどか、今日は何の日だと思う?」

まどか「なんだろ? あ、もしかして、ほむらちゃんのお誕生日とかかな」

ほむら「違うわ。正解はね」

まどか「……うん」

ほむら「私が転校して一ヶ月目の記念日なの」

まどか「え~ そんなのわかるわけ……」ハッ

まどか(ほむらちゃん、ずっと入院してたっていうから)

まどか(一ヶ月も休まないで学校来られるのって、珍しいのかも)

まどか「あ…… ご、ゴメンね。気づかなくって」

ほむら「気にしないで。おめでたいことなんだから、お祝いしましょう」

まどか「だったらなおさら、みんなも呼んだ方が良かったんじゃ……」

ほむら「転校してから一ヶ月。まどかと出会って一ヶ月でもあるのよ」

ほむら「今日はまどかにちゃんとお礼をする日なの」

まどか「……私、何かしたっけ?」

ほむら「私がこっちへ来て、最初のお友達になってくれたでしょう」

ほむら「あなたのおかげで、他の皆とも仲良くなれた」

ほむら「さやかにマミさんに、杏子に仁美に上条くんも……」

ほむら「皆よい子で、一緒にいられるのが幸せだなって感じて」

ほむら「毎日、普通に学校へ行くのがこんな楽しみなの、初めてよ」

ほむら「こんな気持ちになったこと、まどかにもある?」

まどか「ないかな…… そこまではね。でも、ほむらちゃんの気持ちはよくわかるよ」

まどか「だって、ほむらちゃん泣いてる」

ほむら「えっ? い、いつから?」コシコシ

まどか「さっきからだよ。自分で気がつかなかったの?」

ほむら「うん、全然……」ホロリ

ほむら「なんだろ? 気がついたら…… 止まらないよ」

まどか「止めなくたっていいんだよ」スッ

まどか「この間のお返し。ほむらちゃんの涙を拭く役目、私がもらっちゃうね」

ほむら(あの頃のまどかと同じ……)

ほむら(彼女を守れる私になりたい、か)

ほむら(願いは叶ったのかな…… 魔法なしで、本当に叶うのかな)

ほむら「まどか、ついでにもう一つ頼めるかしら?」

まどか「なんなりと」

ほむら「手をつないでもいい?」

まどか「えっと……/// うん、いいよ…… いいけど」

まどか「そんなあらためて言われると…… 緊張しちゃうな……」

ほむら「フフッ そのつもりで言ったのよ」

まどか「もぅ~、ほむらちゃんの意地悪!」

まどか(ほむらちゃん、やっぱり指もほっそいなぁ)

ほむら(叶うよね)キュッ

ほむら(この温もりが伝わるなら、きっと叶う)

ほむら(今度こそ、まどかを守りきれる私になるんだ!)

ほむら(だから今日は、新しい戦いを始める日)

ほむら(今までだったら、ワルプルギスの夜がやって来る、何度も繰り返した一ヶ月間で最後の日)

ほむら(さよなら…… もう二度と会いたくないけど)

ほむら(今日はあなたたちとのお別れ会も兼ねてあげるわ)

――翌朝

詢子(まどかの様子がおかしい)

詢子「昨日は帰り遅かったんだって?」

まどか「うん、ほむらちゃんの家にお呼ばれしちゃって」ニコニコ

詢子「ああ、この間の」

詢子(最近よく聞くな、ほむらちゃんって)

詢子(しかし昨夜もそうなのかとなると)ジッ

まどか「ほむらちゃん、ずっと入院してて、お料理とか苦手なんだって」

まどか「だから昨日の晩ご飯は、私が作り方教えてあげたんだよ」テカテカ

詢子(イイ顔しちゃって…… かといって、まどかにそんな嘘がボロ出さずに吐けるか?)

詢子(この符号が意味するものは一つ!)

詢子「彼氏とか出来たら、ちゃんとウチに連れて来なよ」

まどか「ち、ちがうよ! ほむらちゃんはそんなのじゃないよ///」

まどか「あ、ううん、そんなのだけど…… 男の子じゃないからセーフだよね」

詢子「やっぱ連れて来な。ほむらちゃんとじっくりしたい話があるから」

テレビ『では次のニュースです。凄惨な事件でした』

まどか「あ、この動物園、今度みんなで行くところだ」

まどか「何かあったのかな」

――マミさんの部屋

『飼育員の男は、生後一ヶ月の小熊を殺し、自身も獣舎へ入りました』

マミさん「……ひどい……」

QB(またか…… まったく、そっちの時間軸の地球人は、わけがわからないよ)

『他の職員に助け出され、病院へ搬送されましたが、間もなく死亡しました』

――教会

モモ「クマちゃん、死んじゃったの?」

杏子「ごめんな、そうみたいだ……」

『警察では職場での人間関係に悩んだ末の自殺とみて捜査を進めています』

杏子「悩み事があるなら、この人もウチに来れば、少しは違ったかな」

佐倉父「どんな教えにも、そこまでの力はないよ。魔法じゃないんだから」

杏子「じゃあ、もし魔法が使えたら……?」

佐倉父「人の手に余るものを、うまく使おうなんて思っちゃいけないな」

杏子「そうなんだよなぁ」

杏子(どの道、こうなるのは避けられないもんなのかな)

杏子(そいやほむらに聞いてなかったな。あたしは何を願って魔法少女になんてなったんだろ……?)

――教室

ほむら「まどかはだいぶ落ち込んでるみたいね」ヒソヒソ

さやか「ずいぶん楽しみにしてたからな」ヒソヒソ

さやか「行ってきなよ。こういう時にいてやるの、もうあんたの役目なんだろ?」

ほむら「…まどかに聞いたの?」

さやか「見りゃわかるさ。いつからか知らないけど」

ほむら(でも何て声をかければいいんだろう……)

ほむら(口べたって自覚してるつもりだけど、 なかなか直せないのがもどかしいわね)

ほむら(落ち着いて、この間、QBに聞いた話を思い出して……)

――話は前後して、お泊まりした日のマミさんの部屋

QB(君たちが生まれる前の話をしよう)

QB(この国に、とてつもない大災害が起こった)

QB(観測史上最大の大地震と、それに伴う津波によって、いくつもの町が壊滅的な被害を受けた)

ほむら(映像で見たことあるわ。社会の教科書にも載ってる)

QB(もしもあれが魔女の仕業だったとしたら、と考えてみたらいい)

QB(君が何度戦ってもまどかなしで勝てなかった、ワルプルギスの夜よりも、はるかに強力な魔女だっただろう)

QB(死者・行方不明者は合計二万人を超えた。普通の魔女は勿論、ワルプルギスでもそう簡単には追いつけない数値だ)

ほむら(二万人というのも、災害の規模にしては随分少なかったようね)

QB(しかしそれよりも多く、この国では年間三万人の自殺者が出ている)

QB(三万人というのもどこまで本当に数えているか怪しいものさ)

QB(おまけに未遂者を含めると、どれだけいることか)

ほむら(そんなに……?)

QB(君からすれば、そっちは戦いに明け暮れる必要のない、幸せな世界に見えるかもしれない)

QB(でもその幸せな世界で、社会に適合できなくてあぶれる人たちが、これだけいるってことさ)

ほむら(どうして…… 誰も魔女の呪いを受けない世界で、どうしてそんな……)

QB(そっちの世界は、僕たちが手を貸さなくても、こっちと同じくらいの水準まで発展しているだろう)

QB(するとどこかに生じるはずのしわ寄せを受けるのも、その『しわ』を生み出す源も、人間なんだ)

QB(幸せな世界で生まれて、誰もが幸せになりたいのに)

QB(絶望から生まれた魔女たちよりも、おそろしい呪いをまき散らしているんだよ)

ほむら(私に、戦う力は… もう……)

QB(まだ残されているはずさ)

QB(元をたどれば人間が生み出した絶望だからね)

QB(ただの人間の力で乗り越えられることだって、きっとあるよ)

――再び教室

ほむら(そうだ… たとえ魔法の力を失っても)

ほむら(私は願いから生み出され、希望をふりまく…)

ほむら「まどか!」

まどか「はい!?」ビクッ

ほむら「私、魔法少女になったんだよ!」

まどか「えっ……? えっと///」

ほむら(あ……)

――帰り道――

さやか「私、魔法少女になったんだよ!」キラキラ

ほむら「…//////」クッ

まどか「さやかちゃん、やめてあげてよ~」

さやか「ゴメンゴメン! ほむらがあんまり真剣だったからさ~ 杏子にも見せたかったよ」

杏子「いいんじゃねーの、真剣だったり必死だったりって、悪い事じゃないだろ」

杏子「あたしもなろっかな、魔法少女」

さやか「えっ……」

マミさん「私も!」

さやか「そんな!」

まどか「魔法少女なら、お揃いの衣装とか考えないとね!」

ほむら(みんなそろって魔法少女、か…… 今度のは長い戦いになりそうだけど)

ほむら(この五人ならこの先も、いつまでだって戦えるわね!)


  おわり

読んでくださったみなさん、ありがとうございました!
最後まで書けてよかったです。

子供の頃は何とも思わなかったけど
大人になってから「僕たちは天使だった」を歌うと、無性に泣きたくなることがあって
そこから作った話です。
思い入れがある話なので、途中で落ちなくて良かったです。
昨夜みたいに途中からいきなり書き込めなくなったらどうしようかと。
みなさん、本当にありがとうございました!
また他のスレでお会いしましょう!

実は
出張先のビジネスホテルからこんなスレ立ててたんだぜ…
三連休もタダ宿おいしいです

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom