勇者宅
魔王「城から来てやったぞ!!早く我を倒さんかぁ!!」
勇者「もう帰ってください!!」
魔王「ばかやろう!!お前が我を倒さないとこの世界に平和は来ないぞ!!」
勇者「僕は痛いのは嫌です!!」
魔王「あのなぁ!我と勇者の戦いはもう1000年前から決定事項なんだ!!」
勇者「知りません!!」
魔王「お前が我を倒すことも予言でちゃんと記されている!!だから、ある程度戦ったらわざと負けてやる!!」
勇者「じゃあ、戦わないでこの場で負けを認めてください!!」
魔王「それは……駄目だ。予言では勇者と魔王は壮絶な戦いを繰り広げることになっておる」
勇者「じゃあ、もう帰ってください!!僕は戦いません!!」
魔王「おい!!いいから顔を見せろ!!」
勇者「僕は勇者の一族ですけど、普通の16歳です!別に特別強いとか、魔法が使えるとか、ないですから!!」
魔王「それでも戦え!!」
勇者「お断りです!!」
魔王「おのれ……では、世界は我のものになるぞ!!」
勇者「税金を安くしてくれるなら、どーぞ!!」
魔王「……」
勇者「……」
魔王「もうよい!!またくる!!」
勇者「もう来ないでください!!!」
魔王「全く……」
勇者母「すいません……わざわざ遠いところから来てくださったのに」
魔王「いや、気にしないでもらいたい。これは我にとっても大事なことだからな」
勇者母「そういっていただけると助かります」
魔王「母上殿、顔を上げてくれ」
勇者母「ですが……」
魔王「また来る」
勇者母「私のほうからも説得してみます」
魔王「ああ、よろくし頼む」
勇者母「……あの」
魔王「ん?」
勇者母「お、お茶でもどうでしょうか?」
魔王「いや、失礼する。これ以上、母上殿に迷惑は掛けられない」
勇者母「そんなこと……」
魔王「では、これで」
街
「あ、魔王だ」
「また来たの?」
魔王「うるさい」
「またスライムちゃん貸してー」
魔王「気が向いたらな」
魔王「はぁ……」
魔王「しかし……早く勇者に倒されないと、一年もせんうちに世界を征服してしまうぞ」
魔王「世界など統治しても正直、面倒ばかりだからな……」
魔王「部族間の格差や地域格差などもあるし……」
魔王「統治したら絶対に民から不平不満をぶつけられるし……」
魔王「早く手を打たんとな……」
酒場
魔王「マスター、いつもの」
マスター「はい」
魔王「……」
魔王「ん……?」
魔王「……」ペラッ
マスター「お、どうしたんです?」
魔王「これは?」
マスター「ああ、新しく傭兵登録所ができるみたいで」
魔王「傭兵登録所?」
マスター「なんでも屈強な傭兵を簡単な手続きで雇えるところらしいですよ」
魔王「ほぅ……」
魔王「……これだ」
数日後 傭兵登録所
魔王「失礼する」
「はい?」
魔王「ここで傭兵を雇えるそうだな」
「ええ」
魔王「リストを見せてくれ」
「どうぞ」
魔王「……」
「もしかして……魔王?」
魔王「そうだが?」
「あはは、魔王が傭兵雇うんですか?」
魔王「違う。勇者がだ」
「はい?」
魔王「―――うむ」
戦士「魔王だ」
僧侶「わぁ……おっきい……」
魔法使い「肩車してもよろしいです?」
魔王「今から勇者のところにいってくれ」
戦士「勇者?」
魔王「ああ。で、皆で我を倒せ」
僧侶「え……?」
魔王「勇者は引きこもりでな。まぁ、大変だと思うががんばってくれ」
魔法使い「あの……お金は?」
魔王「我が全額負担する。心配するな」
戦士「はぁ……」
魔王「では、頼んだ」
勇者宅
僧侶「ごめんくださーい」
勇者母「はいはい」
僧侶「あ、どうも」
勇者母「どちら様ですか?」
僧侶「魔王様に雇われた勇者様の傭兵です」
勇者母「???」
僧侶「あの、上がらせてもらっても?」
勇者母「ど、どうぞ」
僧侶「お邪魔します」
戦士「失礼しまーす」
魔法使い「ごめんください」
勇者母「……」
僧侶「勇者さまー」トントン
勇者「誰ですか?」
僧侶「魔王様に雇われた勇者様の傭兵部隊です」
戦士「かおみせてくれー」
魔法使い「ドアをぶちやぶってもいいんです?」
勇者「か、かえってください!!僕は戦いません!!」
僧侶「どうしてですか?」
勇者「だって……僕は弱いから!!」
戦士「そんなの戦ってるうちに強くなるって」
魔法使い「れべるあっぷで筋肉つくんです?」
勇者「僕は戦いません!!帰ってください!!」
僧侶「……困りましたね」
戦士「そうだな」
魔法使い「扉を燃やしてもいいんです?」
僧侶「魔王様の頼みでもあるので、一緒に旅をしていただかないと困ります」
勇者「しりません!!」
戦士「お前と旅しないとお給料もらえないだろ」
魔法使い「お腹ペコペコになっちゃいます」
勇者「じゃあ、他の仕事してください!!」
戦士「正論だな」
僧侶「ですね……傭兵なんてつぶしがききませんし」
魔法使い「ケーキ屋でもやるんです?」
戦士「でも、今の仕事は傭兵だ!とりあえず顔だけでもみせろー」
僧侶「お願いします」
魔法使い「いい加減にしないと地獄の業火で灰になるんです?」
勇者「僕は絶対に戦いません!!!ほっといてください!!!」
僧侶「むー……」
僧侶「はぁ……」
勇者母「すいません……うちの子は極度の怖がりで」
戦士「そっか……」
魔法使い「お腹がすいたんです。何かください」
勇者母「ああ、ごめんなさい。気が利かなくて。いま、お菓子を用意しますね」
魔法使い「うれしいです」
僧侶「これからどうしましょうか?」
戦士「そうだな……とりあえずこの三人で魔王の城にいってみるか?」
僧侶「それでどうするんですか?」
戦士「あれだよ、勇者の指示によって魔王に勝ったってことにすればいいんじゃないか?」
僧侶「現状ではその手しかないですね」
戦士「よし。お菓子くったら、出発だ」
僧侶「はい」
魔法使い「紅茶がおいしいんです?」
魔王城
魔王「勇者はまだか……」イライラ
側近「落ち着いてください」
魔王「しかしだなぁ……着実に世界を征服していっておるのだぞ?」
側近「魔王様が育てた魔物部隊が優秀すぎるのですよ」
魔王「もっと腑抜けにするべきだったか」
側近「魔王様は真面目ですからね」
魔王「失策だな」
戦士「魔王ー」
魔王「ん?どうした?」
僧侶「あの、戦ってもらえませんか?」
魔王「どういうことだ?」
魔法使い「勇者様の指示で戦ったことにしちゃうんです?」
魔王「ならん!!」
戦士「ど、どうして?」
側近「予言では魔王様と勇者様が直接刃を交わしたとあるのです」
戦士「そうなのか……」
魔王「うむ。だから、我と勇者は直接戦わなければならん」
僧侶「その預言書、みせてください」
魔王「よいぞ、ほれ」
僧侶「どうも」
魔法使い「ボロボロの本なんです?」
魔王「1000年前に書かれたものだからな」
戦士「この予言、守らないとだめなのか?」
魔王「無論だ」
僧侶「どうして?」
魔王「予言だからだ」
戦士「……?」
魔法使い「魔王さま、占いとか大好きなんです?」
魔王「うむ」
僧侶「ちょっと、まってください」
魔王「なんだ?」
戦士「別にこれ、外れても問題なんじゃ……」
魔王「予言が外れたらあとが怖いだろう」
僧侶「あと?」
魔王「そこに書かれている未来が実現しないかもしれんのだぞ?」
魔法使い「魔王さま、予言まもってるんです?」
魔王「うむ。我はその予言の通りに行動してきた」
僧侶「じゃあ、現在、世界を支配しようとしているのも……」
魔王「予言にあったからだ。魔王が世界を支配しようとする。とな」
戦士「ふーん……」
魔王「だが、支配したわけではない。志半ばで勇者に倒されるからな」
魔法使い「魔王さま、死んじゃうんです?」
魔王「そうだな。だが、魔王が倒されたあと、この世界は未来永劫の平和が訪れるとある。そのために死ねるなら本望だ。我はもう何百年も生きてきたしな」
戦士「……」
魔法使い「魔王さま、すてきむてきなんです」
魔王「予言を遵守しておるだけだ」
戦士「平和が訪れるためには勇者が魔王を倒さないといけないのか」
魔王「その通りだ」
僧侶「魔王様……」
魔王「だから、早く勇者をつれてこんかぁ」
戦士「そういわれても……」
僧侶「勇者様は外に出ませんしね」
魔法使い「勇者様の部屋、燃やせばいいんです?」
魔王「お前らでも駄目か」
戦士「悪い」
魔王「よかろう。もう一度、我がいく」
僧侶「お供します」
戦士「ああ」
魔法使い「三時のおやつはクッキーです?」
勇者宅
魔王「勇者!!でてこい!!」ドンドン
勇者「もうこないでください!!なんど言えばわかってくれるんですかぁ!!」
魔王「いいから、出てくるだけでてこい!!」
戦士「一回、ゆっくり話そうぜ」
僧侶「はい。一度、卓を囲んで会議でもしましょう」
魔法使い「ドーナツがおいしいんです?」
勇者「そんなこといって、僕を無理やり戦わせる気なんですね!!」
魔王「そんなこと考えておらんわぁ」
勇者「騙されませんよ!!!」
魔王「いい加減にせんか!!」
僧侶「勇者様!!」
戦士「でてこーい」
魔法使い「灼熱の火炎で消し炭になりたいんです?」
勇者「帰ってください!!僕は何があっても戦いませんから!!!」
魔王「勇者……」
僧侶「はぁ……」
戦士「鉄壁だな」
魔法使い「ボディががらあきです?」
魔王「むう……どうにかできんものか……これではいつまでたっても平行線だ」
僧侶「そうですね」
戦士「こっちも金をもらってるだけに働かないのもなぁ」
魔法使い「タダ働きはお腹がすくんです?」
魔王「心配するな。我が倒れるときまで金は払おう」
戦士「魔王……」
魔法使い「漢なんです?」
僧侶「ですね。かっこいいです」
魔王「それよりも勇者だ。はやくせんと、我の部隊がこの街まできてしまうかもしれん」
戦士「命令でとめられないのか?」
魔王「とめてもよいが、恐らく不満がでる。フラストレーションが溜まった我の部隊は同士討ちをしかねんのでな。血の気が多くて困る」
僧侶「勇者様……」
魔王「勇者、どうすれば部屋から出てきてくれる?」
勇者「出ません」
魔王「それでは困るのだ」
勇者「どうしてそんなに倒されたいんですか」
魔王「予言でそうなっておる」
勇者「そんなの無視して征服したらいいじゃないですか」
魔王「それを実行したあと、もし世界が大混乱になったらどうする?」
勇者「大混乱?」
魔王「例えば……謎の疫病が大流行してしまうとか、大飢饉が発生するとか」
勇者「そんなの起きませんよ」
魔王「予言が外れたあとの未来は誰にも予測がつかんということだ」
勇者「……」
魔王「だから、部屋から出て来い。そして激闘の末に我を倒すが良い」
勇者「野蛮なことは大嫌いです!!」
魔法使い「魔王さま魔王さま」
魔王「なんだ?」
魔法使い「予言ではどんな戦いになってるんです?」
魔王「うむ。勇者と魔王が刃を交え、激闘を繰り広げることになっておる」
魔法使い「具体的にはどんな激闘なんです?」
魔王「大地は荒廃し、氷河すらも溶ける激闘だ」
戦士「あつそうだな」
僧侶「ですね」
魔法使い「獄炎に焼かれるんです?」
魔王「そうかもな」
勇者「そんなのしたくないです!!!」
魔王「……」
戦士「はぁ……埒があかないな。とりあえず、今日は帰ろう」
魔王「またくるぞ、勇者よ」
勇者「もうやめて!!」
魔王城
側近「おかえりなさい」
魔王「うむ」
側近「先発部隊がまたひとつ、街を陥落させたと報告がございました」
魔王「そうか……なるべく手荒なことはするなと伝えろ」
側近「ははっ」
魔王「勇者め……どうすれば……」
側近「もう無理やり部屋から出してしませばどうでしょうか?」
魔王「無理やりか……だが、それでは少し可哀想な気も……」
側近「そんなことを言っていてはいつまでたっても勇者たちに倒してもらえませんよ?」
魔王「それもそうだな……我が直接出向くようになってからはや半月。そろそろ強硬手段をとらざるを得んな」
側近「ええ」
魔王「……」
魔王(だが、勇者も多感な年頃だ)
魔王(平和になった世界で勇者の心だけが荒んでしまっているのは……)
魔王「難しいな……」
ドラゴン「あ、魔王様、ごきげんうるわしゅう」
魔王「うむ」
ドラゴン「……」ドスドス
魔王「あ、待て」
ドラゴン「なんですか?」
魔王「お前、明日暇か?」
ドラゴン「ええ、まあ」
魔王「よし、我に付き合え」
ドラゴン「何をするんですか?」
魔王「いいから」
ドラゴン「……?」
翌日 勇者宅
僧侶「勇者さまー」
戦士「いい加減にしろー」
勇者「僕は戦いません!!!」
魔法使い「このクマのぬいぐるみ、かわいいです?」
勇者「知りません!!!」
魔法使い「かわいいのに……」
戦士「駄目だな」
僧侶「もう扉をぶち破りますか?」
魔法使い「爆発でどかーんです?」
戦士「よし」
勇者「やめてください!!器物損壊で逮捕されちゃいますよ!!!」
僧侶「だって……」
魔王「―――ふはははは!!!!勇者よ!!!窓のカーテンをあけてみろ!!!」
勇者「なんですか!!開けません!!」
魔王「いや、あけんかぁ!!世にも珍しい光景が広がっておるのだぞ!!」
勇者「いやです!!」
魔王「魔王がドラゴンにまたがっているのだ!!どうだ!!想像しただけでも鳥肌もののかっこよさだろう!!」
勇者「見たくないです!!!」
魔王「今ならドラゴンの背中に乗せてやっても良いぞ?」
勇者「え……」
魔王「ドラゴンの背中に乗るなんて普通の人間ではまず経験できん!!」
ドラゴン「普通は人間なんて乗せませんし」
魔王「だそうだ!!どうだ、魅力的だろう?!」
勇者「いいです!!ドラゴンなんかに興味ありません!!!」
ドラゴン「な……」
魔王「おい!!ドラゴンが落ち込んだではないかぁ!!どうしてくれる!?」
勇者「お帰りください!!おねがいですからぁ!!!」
魔王「ドラゴンにも釣られんとは……ロマンを知らんやつだ」
ドラゴン「……興味ない……って……」
勇者宅 庭
僧侶「魔王様ー」
魔王「お前たちも来ていたか」
戦士「まあな。今、やれることは説得しかないし」
ドラゴン「はぁ……人間に興味ないとか言われたの……初めて……」
魔法使い「トカゲさん、しっぽ切ってもいいんです?」
魔王「ドラゴンなら好奇心に煽られて顔ぐらいみせると思ったのだが」
僧侶「普通は見ますよ」
戦士「うんうん」
魔王「だろう?勇者の感覚がわからんな」
ドラゴン「うぅ……」
魔法使い「やきはらえーです?」
魔王「いい案はないか?」
魔法使い「炙り出しとかどうです?」
魔王「そういうやりかたは好かんな」
僧侶「でも、炙り出しはともかく実力行使にうってでませんと」
戦士「いつになっても勇者は出てこないよな」
魔王「むぅ」
魔法使い「ドラゴラム!!」
ドラゴン「わぁ!」
魔法使い「これでなかよしです?」
ドラゴン「すげー」
戦士「ここはやっぱ、扉をぶちやぶるしか……」
魔王「まて!」
戦士「なんだよ?」
魔王「よし……かっこいいが駄目ならかわいいでいってみようではないか」
僧侶「かわいい?」
魔王「配下の中で随一の愛らしさを持つ魔物を召喚する」
魔法使い「アライグマです?」
勇者「……」
「ゆうしゃーたまー、あけてー」カリカリ
勇者「え?」
「にゃーにゃー」カリカリ
勇者「……だれ?」
「ねこだよー」
勇者「猫はしゃべりません」
「しゃべられる猫だよー」カリカリ
勇者「喋られる猫……?」
「にゃぁにゃぁ」カリカリ
勇者「……」ゴクリ
勇者「……」ガチャ
勇者「……」ソーッ
キラーマジンガ「あ、でてきた」
勇者「ひぃぃ!?!!?!」
勇者「わぁぁぁぁ!!!!」
キラーマジンガ「にゃぁにゃぁ」
勇者「よらないで!!こないで!!!ころさないで!!!」
キラーマジンガ「ねこだよー」ガシャンガシャン
勇者「うわぁぁぁん!!!!くるな!!!くるなぁぁ!!!」
キラーマジンガ「にゃぁ、どうしてにゃあ?」
勇者「たすけて!!!たすけてぇぇ!!!!」
キラーマジンガ「ゆうしゃたまー、にゃあにゃあ」
勇者「ひぃぃぃん!!!!」
キラーマジンガ「……」ガシャンガシャン
勇者「あぁ……」フラ
キラーマジンガ「にゃぁ?」
勇者「……」ドサ
キラーマジンガ「ゆうしゃたま?おーい」
キラーマジンガ「ねちゃったにゃぁ」
庭
僧侶「あの殺人マシーンのようなロボットが可愛いんですか?」
魔王「容姿は確かに恐怖するところだが、性格の可愛さはまさに無差別級だ」
戦士「へえ」
魔王「最近、萌えというものを覚えたらしくてな。我が部隊の中にファンクラブが存在しているほどだ」
魔法使い「猫耳なんです?」
魔王「ああ。そういうのもつけていたこともある」
僧侶「なんというか愉快ですね」
魔王「息抜きも大事だからな。キラーマジンガのようなムードメーカーは必須だ」
戦士「なるほどねー」
キラーマジンガ「まおうたまー」ガシャンガシャン
魔王「どうだった?」
キラーマジンガ「ゆうしゃたま、ねちゃったんでベッドにはこんどきました」
魔王「寝たのか?!はぁ……キラーマジンガの癒しは底がしれんな」
キラーマジンガ「にゃぁ」
戦士「じゃあ、今のうちに部屋に」
魔王「寝込みを襲うのか?」
僧侶「言い方は悪いですが……」
魔法使い「朝でも夜這いなんです?」
魔王「むぅ……」
僧侶「魔法で起こしますよ」
魔王「しかしなぁ……」
戦士「覚悟を決めろ。このままじゃ本当に世界を征服しちまうぞ?」
魔王「それは困る。人間を統治下に置くなど嫌だからな」
僧侶「そうなんですか?」
魔王「色々なしがらみがありそうで、面倒そうだからな」
戦士「あー、それはあるかも」
魔法使い「仁義なき戦いなんです?」
僧侶「とりあえず行きましょう。勇者様とちゃんと話し合わないと」
魔王「そうだな……仕方あるまいか」
勇者自室
勇者「ん……うぅ……ん……」
勇者「ん……?」
魔王「起きたか」
勇者「ひゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」
魔王「悲鳴をあげるな」
勇者「なんですか!!!ここ魔王の城!?僕、つかまったんですかぁ!?」
魔王「違う!落ち着け!!」
勇者「そうだ!!そうなんですね!!!もう僕は魔王の腹の中にいるんだぁ!!!!」
魔王「こら!!」
僧侶「勇者様!!」
戦士「よくみろ。お前の部屋だよ!!」
勇者「え……あ、本当だ……」
魔王「始めましてになるな、勇者。こうして顔を合わせられて我は嬉しいぞ?」
魔法使い「勇者さまのゴミ箱、きたないんです?」
勇者「勝手にみないでください!!」
魔王「勇者……」
勇者「で、でていって……僕は絶対にたたかいませんからぁ……」
魔王「何故だ?」
勇者「痛いのは嫌なんです!!」
魔王「はぁ……」
僧侶「回復は任せてください」
勇者「傷つくのが嫌なんです!!」
戦士「守ってやるって」
勇者「絶対……?」
戦士「おう」
勇者「……」
戦士「だから……」
勇者「火とか爆発からも?」
戦士「それは……攻撃範囲が広いからなんとも……」
勇者「火傷で死ぬ……」ブルブル
魔王「こやつは……」
僧侶「うーん……魔王様?」
魔王「なんだ?」
僧侶「とにかく勇者様と激闘を繰り広げられればいいんですよね?」
魔王「そうだが?」
僧侶「思ったのですが、それは一方的な戦いでは駄目なのですが?」
魔王「ああ、どちらも満身創痍になっている」
僧侶「となると台本をつくって演劇のようにすることもできませんね」
魔王「……」
戦士「チャンバラでもするってか?」
僧侶「勇者様を見る限り、そうでもしないと」
魔法使い「私は木の役でいいんです?」
勇者「出て行って……おねがいですから……一人にして……」ウルウル
魔王「劇か……」
戦士「歴史を揺るがす壮大な八百長だもんな……演劇でもよさそうだけど」
僧侶「はい」
魔王「だがな、それでは勇者という役さえいれば誰でもいいことになる」
戦士「それでも駄目か?」
魔王「予言では勇者は勇者の血を受け継ぐ者だとされている」
僧侶「じゃあ……」
勇者「うぅ……」ブルブル
魔法使い「ブルブルしてたのしいです?」
勇者「よらないで!!」
僧侶「演劇にするにしろ勇者様にはご出席していただかないといけませんね」
魔王「そういうことだな」
勇者「かえって……かえってください……」
魔法使い「ブルブルー」
魔王「勇者……」
勇者「僕は戦いません……戦いませんから……」
魔王「わかった!!!」
勇者「ひぃ!?」
魔王「もうよい。勇者よ、お前のことはよくわかった」
勇者「……」
僧侶「魔王様?」
魔王「確かに予言通りにしなくても世界はきちんと回ってくれるだろう」
戦士「どうした?」
魔王「我は世界を征服する!!」
魔法使い「大変なんです?」
魔王「ああ。大変だ!世界中の人間が我の支配下に置かれるのだ!!こわいなー!!!」
勇者「……がんばって統治してください」
魔王「……」
勇者「応援します」
魔王「―――やっぱり人間は皆殺しだ!!」
勇者「えぇ?!」
魔王「さぁ、困ったなぁ。お前が我をとめんと、何の罪もない人間が死んでいくのだぞ?」
勇者「……」
魔王「それでもいいのか?いや、いいはずが―――」
勇者「か、勝手にしてください。僕には関係ありません」
魔王「!?」
僧侶「勇者様!!」
戦士「おい!!」
魔法使い「三時のおやつはまだなんです?」
勇者「僕は勇者の一族ってだけで……特別な力なんてないんですから……貴方の暴虐を止めることなんてできません」
魔王「勇者……本心か?」
勇者「……」
魔王「我の目をみろ!!」
勇者「帰って……ください……」
魔王「勇者……」
魔法使い「おやつまだなんです?」
魔王「―――よかろう。その言葉、しかと受け止めた」
僧侶「え……」
戦士「お、おい……」
魔王「さらばだ」
勇者「……」
魔王「ほんとうに帰るぞ?」
勇者「……」
魔王「とめるなら今だぞ?」
勇者「……」
魔王「我が城に帰ったら、手遅れになるぞ?」
勇者「……」
魔王「あと十秒だ」
勇者「帰ってください!!」
魔王「……わかった!!帰る!!後悔するがよいわぁ!!!あっはっはっは!!―――はぁ」トボトボ
僧侶「魔王様……」
戦士「勇者、いいのかよ!?」
僧侶「皆殺しですよ?お母様も死んでしまうんですよ?」
勇者「……」
魔法使い「おやつ……」
戦士「勇者!!今なら間に合う、魔王を追うぞ!!」
僧侶「行きましょう!!」
勇者「みなさんが戦えばいいじゃないですか」
僧侶「それは……」
戦士「お前じゃなきゃ勝てないんだよ」
勇者「僕より強いくせに……」
戦士「それは……」
勇者「もう帰って……一人にしてぇ……」
僧侶「……」
戦士「……」
魔法使い「……」グゥ~
街
魔王「勇者は追ってこないな……」
魔王「全く……!!」
「魔王だー」
「スライムちゃんはー?」
魔王「よさんか、離れろ!!」
「魔王、また魔法でなんかみせてー」
魔王「我は曲芸師ではない!!」
「魔王ー」
「まおー」
「まおーまおー」
「あ、まおちゃんだ」
魔王「ええい!!マスコットみたいに慕うでないわぁ!!」
「きゃー、おこったー」
魔王「くそ……それどころではないというに……」
公園
魔王「ふぅー……」
魔王「どうすればよいか……」
魔王「本気でこの街に攻め込んでみるか……?」
魔王「だが、今の勇者では死を簡単に受け入れてしまいそうだ」
魔王「勇者が死ねば、世界は我のものになる」
魔王「それだけは避けねば……!!」
魔王「……」
「ちょっと、魔王!!そこに座ったらシーソーで遊べないんだけど!?」
「何人乗っても動かないよ!!」
魔王「ああ、すまん」スッ
「きゃぁぁ!!」バターン
「急に立たないで!!」
魔王「どうしろというのだ?」
魔王「ふむ……」
魔王「勇者はどうすれば本気になるのだ?」
勇者母「あら、魔王様」
魔王「これは母上殿」
勇者母「いつもすいません」
魔王「きにするでな―――」
勇者母「どうされました?」
魔王(これだ)
魔王「母上殿、ちょっといいかな?」
勇者母「え、な、なんでしょう?」
魔王「我と一緒に城まできてもらえませんか?」
勇者母「や、やですわ……そんな……死んだ夫を裏切るわけには……」
魔王「ふふ……いいではないか」
勇者母「魔王……さま……」
戦士「駄目だな……」
僧侶「出直しますか?」
魔法使い「もう四時です。おやつはまだなんです?」
戦士「これでも食ってろ」スッ
魔法使い「クッキー♪」モソモソ
僧侶「はぁ……」
魔王「―――勇者よ!!きこえておろう!!」
僧侶「??!」
戦士「なんだぁ!?」
魔王「お前の大事な母親は我が預かった!!返して欲しくば我の城までこい!!ふはははは!!!」
僧侶「そんな……人質!?」
戦士「魔王……そんな汚い手をつかうなんて……!!」
魔法使い「もっとください。クッキーたりないんです?」
戦士「おらよ」
魔法使い「クッキー♪」
勇者自室
勇者「え……!?」
魔王「大事な母親を助けたければ、必ず我が城までこい!!よいなぁ!!!!」
勇者「お母さんが……!!」
勇者「……」
勇者「なんて卑怯な……」
勇者「……」
勇者「でも……僕には……」
勇者「お母さんを助けるだけの力なんて……ない……」
勇者「出来損ないの勇者なんだ……」
勇者「うぅ……」グスッ
戦士「勇者!!」
勇者「……!」
僧侶「お母様を助けにいきましょう!!」
勇者「……」
魔法使い「クッキーおいしいんです?」
勇者「だめです……僕には……」
戦士「……ふざけんなよ」
勇者「え……?」
戦士「母親が浚われてもそんなこというのかよ!!ええ!?!」
勇者「ひぃ……」
僧侶「落ち着いてください」
魔法使い「カルシウムが足りないんです?」
戦士「母親だぞ!?母親が危険に晒されても、自分は弱いから仕方ないって言い訳すんのか!?」
勇者「そ、れは……」
戦士「母親が死んでも……そういうのか?」
勇者「え?」
戦士「自分が弱いから守れなかった。仕方ない。そう自分に言い訳すんのかよ!?」
僧侶「口が過ぎます」
魔法使い「クッキーもっとないんです?」
戦士「立てよ」グイッ
勇者「や、めて……」
僧侶「あの……乱暴は……」
魔法使い「勇者さま、クッキーたべます?」
勇者「え……?」
魔法使い「きっとお腹がすいてるから、元気ないんです。お腹いっぱいになれば元気でるんです?」
勇者「……」
戦士「……行くよな?」
勇者「……」
僧侶「勇者さま……」
魔法使い「クッキー食べれば大丈夫です?」
戦士「ほら……食え」スッ
勇者「え?」
戦士「腹がへってたら、確かに力はでないからな」
勇者「……はい」
戦士「いくぞ」
勇者「……」モソモソ
魔法使い「勇者さま、おいしいんです?」
勇者「はい……おいしいです」
魔法使い「それはよかったです」
僧侶「勇者様、必ずお守りします」
戦士「盾になる。死ぬ気でな」
勇者「……」
魔法使い「ドラゴンになって爆炎で灰塵にしてあげるんです?」
勇者「あの……ひとつだけ」
戦士「なんだ?」
勇者「無茶はしないで……ください……」
戦士「おぉ!!」
僧侶「はい!!」
魔法使い「魔王の城までいくんです?」
魔王城
魔王「母上殿、あの……」
勇者母「ふふ……魔王様……」
魔王「むぅ……」
側近「仲がよろしゅうございますなぁ」
魔王「勇者は?」
側近「はい。旅立ったと報告がございました」
魔王「やっとか!!―――流石に母親まで見捨てるような腑抜けでなかったか」
側近「勇者様たちの出迎えはどのように?」
魔王「いつもどおりで構わん。だが、殺すな。万が一、倒してしまった場合は治療して町の教会にでも運んでやれ」
側近「わかりました」
魔王「よろしく頼む」
勇者母「魔王様……今宵はどんな戯れを?」
魔王「いや……流石に今日は……」
勇者母「だめですよ?誘拐したのは魔王様なんですから、ふふ」
数週間後
戦士「来たな」
僧侶「はい」
魔法使い「勇者さま、大丈夫なんです?」
勇者「はい……」ガクガク
戦士「大丈夫だ。ここまで来れたんだから」
勇者「でも……」
僧侶「それに勇者様は勝つことになっています。何を恐れることがありますか」
戦士「そうだ。母親助けて、ついでに世界も平和にしちゃおうぜ」
魔法使い「早く帰ってご飯食べて歯を磨いて寝るんです?」
勇者「そうですね……行きましょう」
戦士「うし」
僧侶「では……」
魔法使い「おやつです?」
側近「魔王様」
魔王「どうした?」
側近「勇者様がお見えに」
魔王「ふっふっふ……来たか」
勇者母「魔王様……」
魔王「母上殿、この数週間、実に楽しかった」
勇者母「私も……」
魔王「ん……」
勇者母「ん……」
魔王「……続きはまた夜だ」
勇者母「魔王様……いかないで……」
魔王「よし。勇者を出迎える!!」
側近「ははー!!」
勇者母「まおう……さ……ま……」
謁見の間
魔王「……勇者よ。この日を待ちわびたぞ?」
勇者「ひぃ……」
魔王「さぁ……こい。母親を救いたければ、我をたおせぇ!!」
勇者「うぅ……」
僧侶「ほら、勇者様。魔王様の懐ががらあきです」
戦士「とりあえず初撃はくらってくれるみたいだぞ?」
魔王「こい!!さぁ!!こい!!」
勇者「でも……やっぱり怖い……」
魔法使い「……まんじゅうこわい」モグモグ
魔王「どうしたー?!まだかぁー!!」
勇者「ひぃ……!!」
僧侶「魔王様!!大声は控えてください!!」
戦士「勇者がびびっちまうだろ」
魔王「そ、そうか……すまん」
勇者「……」ガクガク
魔王「ほら、我のここ隙だらけだぞ?」
勇者「うぅ……」ヨチヨチ
僧侶「がんばって!」
戦士「もうちょっとだ!!勇者!!」
魔法使い「ふわぁぁ……」
魔王「よし!そうだ!!がんばれ!!」
勇者「ひぃ……」ヨチヨチ
魔王「よし、射程距離だ。剣をふれ!!」
勇者「でぁ!!」ズバッ
魔王「ぬう!!ぬかったわ!!」
戦士「やったぜ!!」
僧侶「勇者さま!!素敵です!!」
魔王「ふふ……ではこちらの番だな」
勇者「うわぁぁぁぁ!!!」ダダダダッ
魔王「にげるな!!」
勇者「うぅ……戦士さん……守ってぇ……」
戦士「仕方ないな……こい!!魔王!!」
魔王「手加減は……できんぞ?」
戦士「覚悟はできてる!!」
魔王「くらえぇ!!!」ドゴォ
戦士「あぎぃ?!」
勇者「わぁぁ!!」
魔王「ふん……」
僧侶「大丈夫ですか!?」
戦士「あぁ……よし、勇者、次はお前の番だ」
勇者「え……」
戦士「早くいけ!!」
魔王「さあ、勇者のターンだ。こい!!」
勇者「ま、またぁ……?」
魔法使い「眠くなってきたんです?」
僧侶「勇者様!!」
勇者「えい!!」ズバッ
魔王「いたい!!―――よし、次は我のターンだ」
勇者「うわぁぁ!!!戦士さぁぁん!!」
戦士「またか!?」
魔王「戦士が可哀想だろ!!」
勇者「じゃあ……」
僧侶「えぇ?!」
魔王「おま……!?」
魔法使い「勇者様の盾になるんです?」
魔王「貴様……とことん屑だな……!!」
勇者「だ、だって……」
魔王「よかろう!!僧侶!!次はお前がダメージを食らう番だ!!」
僧侶「やめてください!!死んでしまいます!!」
魔王「ふん!!」ドゴォ
僧侶「ふげぇ!?」
魔王「……ふぅ」
勇者「僧侶さん……」
僧侶「うぐぐ……さ、さぁ……勇者さまの番ですよ……?」
勇者「あ、はい……」
魔王「さぁこい!!」
勇者「うぅ……でぁ!!」ズバッ
魔王「よし。今のは効いたぞ!!」
勇者「うわぁぁん!!」
魔法使い「あらら?後ろに隠れてどうしたんです?」
魔王「一番貧弱な魔法使いすら盾にするか……」
魔法使い「痛そうなんです?」
魔王「悪く思うな!!でぁ!!!」
魔法使い「!?」
魔法使い「―――あぶないです」ギィィン
魔王「?!」
僧侶「え!?」
魔法使い「……」
魔王「我の拳を……杖で……?!」
魔法使い「地獄の業火に焼かれたいんです?」
魔王「な……」
魔法使い「なんでいじめるんです?死にたいんです?」
魔王「お、おい……」
勇者「あ、あの……」
魔法使い「……」
魔王「お前は……」
勇者「魔法使いさん……?」
魔法使い「せぃ!!」パシンッ
魔王「ぶっ!!」
魔法使い「やぁ!!やぁ!!」バシバシ
魔王「がはぁ!?」
戦士「おい!!やめろ!!」
僧侶「だめです!!やりすぎです!!」
魔法使い「うぅー……!!」
魔王「こわい……」
勇者「魔王さん……もう、お母さんを返してください」
魔王「え?」
勇者「僕……もう戦いたくないです……」
魔王「しかし……我はどうしてもお前に倒されなくては……」
勇者「じゃあ、もう倒したことにしてください!!」
魔王「待て。我はまだ死んでおらん」
勇者「社会的に死んだってことにしましょうよ!!」
魔王「それは……」
勇者「もう……剣を振るいたくないんです……重いし」
魔王「だがなぁ……」
勇者母「魔王様……」
勇者「お母さん!?」
魔王「母上殿……どうして……?」
勇者母「私……やはり魔王様のことが……」
魔王「あ、いや……その話は……」
勇者「魔王……さん?」
戦士「どういうことだ?」
魔王「あ、いや……」
勇者母「あの夜……優しく包み込んでくれたこと……私は……」
魔王「母上殿!?」
僧侶「魔王様……まさか、未亡人とはいえ……人妻に手を……?」
勇者「……」
魔王「あ、ちが……」
魔法使い「不潔」
勇者母「魔王さまのことしか……考えられません」
魔王「母上殿……口が滑りすぎ……」オロオロ
勇者「……」
僧侶「さいてーですね」
戦士「見損なったぜ」
魔法使い「汚物」
魔王「まて……誤解だ……!」
勇者母「魔王様……」
魔王「母上殿!!」
勇者「よりにもよって……僕のお母さんに……」
魔王「勇者……これは……!!」
僧侶「魔王様?これは問題ですよ?」
魔王「え……?」
戦士「魔族が人間に手を出した。しかも王が勇者一族にだ。配下たちの信頼も地に落ちるな」
魔法使い「自業自得」
魔王「くっ……!!」
勇者「……」
僧侶「いきましょう。勇者様」
戦士「このことを全世界に広めないと」
魔法使い「スキャンダルです?」
勇者「そうですね……」
魔王「まて……!!」
勇者母「魔王様ぁ……♪」
魔王「あぁ!!」
勇者「魔王は……死んだ!!」
僧侶「ええ」
戦士「だな」
魔法使い「大勝利なんです?」
魔王「まて!!まってくれ!!こんな死に方は予言にはない!!!」
数週間後
側近「魔王様!!反乱軍がそこまで迫っています!!」
魔王「くぅぅ……!!」
側近「お逃げになってください!!」
魔王「退かぬ!!」
側近「魔王様……!!」
魔王「ここで退いて何が王か!!」
勇者母「すてき……♪」
側近「わかりました……では、お暇をいただきます」
魔王「こら!!」
側近「未亡人だからと勇者の正妻に手を出すから……うぅ……」
魔王「悪かった……魔が差したんだ……魔王だけに」
側近「……」
魔王「……」
側近「さよなら……」
数ヵ月後 古城
勇者「……魔王さん、ようやく見つけました」
魔王「勇者……」
勇者「生きていたんですね」
魔王「母上殿は?」
勇者「元気にしています」
魔王「あの騒乱の中、無事に逃げられたかどうかだけが心配だった……」
勇者「魔王さん……」
魔王「ここに隠れ住んでからどのくらい経過したか……世界は平和か?」
勇者「いいえ……王を失った魔物たちが各地で暴れ、小さな村や町は次々に壊滅していってます」
魔王「なんと……!!」
勇者「このままでは僕の街もいずれ……」
魔王「勇者……我にどうしろと?」
勇者「僕たちを守ってください……おねがい……」
魔王「都合のよいやつめ……」
街
勇者「みなさん!!」
戦士「おぉ!!」
僧侶「魔王様!!」
魔法使い「魔王さまなんです?」
魔王「ふふ……久しいな」
勇者母「あぁ……!!」
勇者「僕たちを守ってくれることになりました」
戦士「いいのか?」
魔王「どうせ我は魔族からも人間からも見放された身だ。好き勝手にやらせてもらう」
僧侶「魔王様……」
魔王「やはり予言と違う結果は混乱しか生まなかったか……」
勇者「ごめんなさい……」
魔王「だが……この先の未来、どうなるか楽しみでもあるがな。ふははは!!」
勇者母「抱いて!!」
魔物「いたぞー!!」
魔王「とまれぃ!!」
魔物「?!」
魔王「これまでの蛮行……同属だからと看過できるものではない!!」
魔物「うっせー!!人間に手を出したくせに!!」
魔王「!?」
魔物「変態野郎!!」
魔物「ケダモノ!!」
魔物「恥知らず!!」
魔王「やめ……」
魔物「変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!」
魔王「おぉぉ……!!!」
魔物「変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!」
魔王「や、やめてくれぇぇ……!!!」
勇者「魔王……さん……」
数日後 小屋
魔物「おらぁ!!魔王出て来い!!」
魔王「ひぃ!!」
魔物「俺たちになんの弁解もなしかぁ!!」ドンドン
魔王「もうゆるしてくれ……たのむ……たのむ……」
勇者「魔王さん……あれからずっと篭りっぱなしですね」
戦士「予言に従わなかったからか……」
僧侶「少し罪悪感が……」
魔法使い「魔族の中では人間に手を出すなんて考えられないんです?」
僧侶「ええ。人間が馬や犬に発情するようなものらしいです」
勇者「なんてことだ……」
魔王「ひぃ……もう……やめてくれ……」
勇者母「私がずっと傍にいますわ……」
魔王「母上殿……うぅ……」ポロポロ
勇者母「大丈夫……大丈夫ですよ……」
魔王「うぅ……母上殿……」
勇者母「私が守ってあげます」
魔王「すまない……すまない……」
勇者母「ふふ……」
魔王「母上殿……」
勇者母「―――さあ、魔王様」
魔王「母上……ど……の……」
数年後
魔物「やべえ!!あいつだぁぁ!!!」
勇者妹「しね!!」ドドーン
勇者「おい……」
勇者妹「魔物は敵だぁぁ!!!」
勇者「……」
勇者妹「行くぞ!!世界中の魔物を駆逐してやるぜ!!!」
勇者「お母さん……なんて妹をつくってくれたんだ……5歳にして魔王並みの実力があるなんて……」
勇者妹「ウォォォォ!!!!」
勇者「……まあ、妹のおかげで世界は平和になってきたけど」
勇者妹「はやくしろ!!」
勇者「あ、ああ……」
勇者妹「パパを愚弄した魔物は皆殺しだぁぁぁ!!!!」
勇者「……」
おしまい。
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