鶏「俺達、家畜、人間、鬼畜」鶏「飼畜な俺達マジ駆逐、Yes」(353)

鶏「なあなあ、俺達、どうなるか知ってる?」

鶏「なにがっすか?」

鶏「この先だよ。未来、フューチャー」

鶏「考えたこともないっすね」

鶏「死ぬんだよ……」

鶏「そりゃ、生きてる限りは死ぬでしょ」

鶏「ちげーよ……殺されるんだよ」

鶏「誰に?」

鶏「そりゃおめえ、人間に決まってんだろ?あいつらしかいねーもん」

鶏「マジっすか?ひでーっすね。俺、まだ生きたいっすよ」

鶏「けどなぁ……人間には逆らえないだろ?」

鶏「そうっすねぇ」

飼育員「―――餌の時間だぞ」

鶏「まってました!!!」

鶏「よっ!人間様!!」

飼育員「いっぱい食えよ」

鶏「うっす!!」

鶏「このパサパサしたやつすっげーうめー!!なんだろー???」

鶏「しるかよ!!今のうちに食うぞ!!」

鶏「食いっぱぐれないようにしないといけないっすね!!」

鶏「もぐもぐもぐも……うっめーーー!!!!!」

鶏「ぶっは!!!」

飼育員「うんうん」

鶏「いやー、いつもこうして何もしないで飯食わしてくれる人間ってマジ神っすよね」

鶏「そうだな。一生、ついていきたいな」

鶏「俺、もうここで骨埋めるつもりっすから」

鶏「マジか!!きがはえーよ」

鶏「そっすか?」

鶏「ふぅーー!!食った食った」

鶏「マジ満腹、もう食えないっす」

鶏「でもよぉ……ここで一生を終えるってどうよ?」

鶏「なにがっすか?」

鶏「みてみろよ、飯が終わった後のこの弛緩した空気。まるで時間がとまったみてえじゃねーか?」

鶏「うーん……そうっすね。変化とかないっすよね」

鶏「だろ?刺激もなく、餌の時間にだけ生存本能を発揮させる俺らって、一体なんなのって話じゃん?」

鶏「そもそも、自分たちはなんでここにいるんすか?」

鶏「え?そりゃおめえ、あれだよ、殺されるためにいるんだよ」

鶏「マジッすか?ひでーっすね、俺まだ生きたいっす」

鶏「だろ?でも、人間には逆らえないからなぁ」

鶏「そうっすねえ」

鶏「……」

鶏「……」

鶏「思ったんだけどよ。おめえ、この世界にメスが居るって話しってる?」

鶏「メス?メスってなんすか?」

鶏「俺もよ、牛の旦那に聞いただけなんだけどよ。この世にはなんでもオスとメスがいるらしいぜ?」

鶏「へぇ……で、なんすか、それ?」

鶏「よくわかんねえけど、この世にはオスとメスがいてな、そいつらがセックスすると命が生まれるらしい」

鶏「え?意味不明なんすけど。セックスってなんすか?」

鶏「さぁ……なんだろうな。すんげー、気持ちいいらしいけど」

鶏「えー、詳しく知りたいっす」

鶏「牛の旦那に聞いてみねえとな」

鶏「牛の旦那って?」

鶏「あ……そういえば最近、見ないな」

鶏「引っ越したんすかね?」

鶏「かもな。こんな肥溜みてえな場所に収まるような御人じゃなかったからなぁ」

鶏「マジッすか……かっけえ」

鶏「で、メスってなんすか?」

鶏「お前、メスか?」

鶏「しらねーっす」

鶏「俺は多分、オスだと思うんだけどな」

鶏「わかるっす。なんか、オス!!って感じっすもん」

鶏「だろう?」

鶏「じゃあ、メスとセックスしなきゃいけないんすね」

鶏「でもよぉ。セックスってなによ?」

鶏「牛の旦那に聞いてみるっすよ」

鶏「おおぉ!!そうだな!!――あ、いや駄目だ。牛の旦那はもういねえんだ」

鶏「マジッすか……」

鶏「まぁ、とりあえずこの話は置いとこう。そのうち、知ってる奴も出てくるだろう」

鶏「今後に期待っすね」

鶏「ところでよ、これから先、俺たちがどうなるか知ってるか?」

鶏「え?なんすか?」

鶏「豚の旦那に聞いた話なんだけよ」

鶏「はい」

鶏「俺たちはこの先、人間に連れていかれて、殺されるらしいぜ?」

鶏「マジッすか!?!?ありえねー!!人間、マジ鬼っすね!!」

鶏「だろ?」

鶏「動機はなんすか?むかつくからっすか?」

鶏「わかんねえ」

鶏「迷宮入りじゃないっすか……」

鶏「でもよ、こんなところで一生を過ごすぐらいならいっそのこと殺された方がいいと思う」

鶏「なんでっすか?」

鶏「見てみろ。この生気のない顔ぶれをよぉ。まるで鏡に囲まれてるようだぜ。気持ち悪くて仕方ねえ」

鶏「でも、ここの生活は楽っすよ?飯だって食える、寒い思いもしない。ちょー最高ってやつっす」

鶏「しかしなぁ。生きる希望ってやつは欲しいだろ?俺たちは殺されるために生きてんのか?そんなの我慢ならねえよ」

鶏「でも、いつかは死ぬんだし、結果は一緒じゃないっすか?」

鶏「飯と寝床を与えてやるから、その代わりに殺されろってか?やめろよ、そんなの俺は嫌だぜ?」

鶏「それが対価ってやつっすよ。この前、アニメで見ました」

鶏「あ、ハガレン?」

鶏「そーっす。見ました?」

鶏「みたみた!いやー、あれすげーおもしろかったな」

鶏「でっしょ?俺、もうションベンちびりまくりでしたね」

鶏「どこで?」

鶏「えーっと……ほら、なんか金髪の人間が手をパァン!!叩くところっすよ」

鶏「おめえ、どんだけチキンなんだよ」

鶏「あれはマジビビるッすよ。いきなり、パァン!!ですからね」

鶏「まあ、わからんでもねえな」

鶏「でしょ?」

鶏「あ、そうだ。この世界にオスとメスがいるって話、知ってるか?」

鶏「え?なんすかそれ?なんか聞いたことあるっす」

鶏「え?マジで?誰から聞いた?俺も誰から聞いたかよく思い出せねえんだけど」

鶏「あ、とりあえず最初だけきかせてももらえますかね?」

鶏「あ、えーと……オスとメスがいるんだよ」

鶏「へえ……あ、それ知ってるっす!!」

鶏「マジで?」

鶏「なんかここで聞いたことがある気がします」

鶏「え?そうなの?」

鶏「誰からきいたっけなぁ……」

鶏「……」

鶏「……」

鶏「……なあ」

鶏「……はい」

鶏「俺達……なんで生きてんだ?」

鶏「なんででしょうね……」

鶏「俺、耐えられねえ」

鶏「何がすっか?」

鶏「この生活だよ。なんかよぉ、同じことを繰り返してないか?」

鶏「え?そっすか?毎日、新鮮っすよ俺」

鶏「マジかよ……」

鶏「違うんすか?」

鶏「お前さ……ここに来て、もう何日になると思ってんだ?」

鶏「3日じゃねえっすか?」

鶏「いやいや、もっといるよ」

鶏「いやいや。そんなバカな」

鶏「この不変さがやっぱ、俺達を馬鹿にさせてるんだな。同じ景色だし」

鶏「はぁ」

鶏「ここはよぉ。なんか思いきったことしようぜ」

鶏「例えば?」

鶏「そうだなぁ……とりあえず外にでねえ?」

鶏「うーん……でも、どうやって外に出ます?」

鶏「そら、おめえ、あの扉からだろう」

鶏「え?どうやって?万年閉まってるっすよ?」

鶏「開く瞬間があるだろ?」

鶏「いつっす?」

鶏「人間が入ってくる時だよ」

鶏「なるほど!!」

鶏「そのときにささっと、外に出ちまえばいいんだよ」

鶏「おぉー」

鶏「次の餌のときが勝負だ。気合い入れろよ?」

鶏「あれ?俺も一緒にいくんすか?」

鶏「いかねーの?」

鶏「俺はここの生活に満足してるんで」

鶏「マジかよ」

鶏「がんばってください。マジ応援してますから!!」

飼育員「―――餌だぞ」

鶏「きたーーーー!!!!」

鶏「待ってました!!!」

鶏「いやぁ!!これの為に一日を過ごしてるようなもんすよね」

鶏「だなぁ!!」

鶏「うっめーーー!!!」

鶏「もぐもぐもぐ……!!」

鶏「ケッケッケーーー!!!」

鶏(さてと)

鶏「うっめー!!!まじさいこう!!!こんな飯、くったことねー!!」

鶏(あばよ、ダチ公)

鶏(俺は自由になるぜ……)

鶏「幸せにな……」

鶏「いくらでもくえるーーーー!!!」

鶏「――さてと、外か。久しぶりだぜ」

鶏「どこから行くか……」

鶏「ふ……自由気ままな野良生活の始まりにしちゃあ、いい感じだ」

鶏「行くあてのねえ、旅が始まるんだな」

鶏「俺は変わる……ただの鶏で終わったりしねえ」

鶏「こっちだな」

鶏「……」

牛「んー?なにしてんの?」

鶏「おぉ。あんたは、牛さん」

牛「鶏風情がここでなにを?」

鶏「今日から野良鶏なんだぜ」

牛「ほお」

鶏「牛さんはここでなにを?」

牛「今から車にのってドライブさ」

鶏「いいなぁ。俺もそんなアウトロー気取ってみてえ」

牛「どうだい?良かったら、一緒に」

鶏「え?!」

牛「鶏の一匹程度でガタガタいう車じゃあないしね」

鶏「……お言葉に甘えて」

牛「ああ、乗れ乗れ」

鶏「よっと。お邪魔します」

牛「じゃあ、俺も乗るか」

業者「じゃあ、これにサインを」

主「はい」

業者「ありがとうございます」

主「いえいえ」

牛「おお、動き出したぜぇ」

鶏「どこにいくんだ?外の景色がみえやしねえ」

牛「降りてからのお楽しみだ」

鶏「ひゅー、アウトローだぜぇ」

業者「よし。降りろ」

牛「はいはい」

鶏「やっとついたかぁ」

業者「こっちだ」

牛「乱暴だな……まったく」

鶏「どこに行くんだ?」

牛「神のみぞ知るって奴だな」

鶏「かっこいいなぁ、いちいち」

牛「伊達に長生きしてないからな」

鶏「へへ、良い相棒に出逢えた気がするぜ」

牛「俺もだ」

業者「入れ」

牛「はいよ」

鶏「なんだ、ここは……?」

業者「おし。じゃあやるか」

鶏「………………」

業者「ふう。これは良い肉になりそうだな」

鶏「………………」

業者「おい、運んでくれ」

鶏「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

鶏「うわぁぁぁ!!!!うわぁぁぁぁ!!!!!うわぁぁぁぁぁ!!!!!!」

鶏「うおぉぉぉぉ!!!!うぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!」

業者「なんだ?!」

鶏「あぁぁあぁぁああっぁぁああああ!!!!!!!」

業者「鶏!?おい!捕まえろ!!」

鶏「あぁぁぁぁ!!!!!うわぁぁぁぁ!!!!!!」

業者「あそこで紛れこんだのか……返しにいかないとな」

主「どうもすいません」

業者「いやいや」

鶏「あぁ……ぁ……」

鶏「ちーっす、新人さん」

鶏「え……?」

鶏「ここでのルール、教えてやるっすよ」

鶏「……」

鶏「人間が来たらぁ、餌が食えるんすよ」

鶏「そ、そうか」

鶏「俺のことは先輩って呼んでくれていいっすよ?」

鶏「……」

鶏「おいおい、シカトしてんじゃねーっすよ」

鶏(なんだよ、こいつ。先輩面しやがって……)

鶏「おい!!きいてくれ!!」

鶏「なんすか?」

鶏「俺たちはこの先、どうなると思う!?」

鶏「はぁ?何言ってんすか?」

鶏「俺達の未来だよ!!」

鶏「わけわかんねーっす」

鶏「こ、殺されるんだ……俺たち……ころされるんだよぉ!!!」

鶏「誰にっすか?」

鶏「人間に決まってるだろ!!!」

鶏「はい?なんで人間が俺たちを殺すんすか?」

鶏「それは……わかんないけど……でも殺されるんだ!!切り刻まれて!!血を噴き出して!!」

鶏「あっはっはっは!!新人のくせにパンチきいたジョークっすね」

鶏「ほんとうなんだ!!俺、みたんだよ!!目の前で牛が殺されるのを!!」

鶏「牛?」

鶏「そうだ……やべえよ!!みんな死ぬんだぜ!!!なあ!!」

鶏「待ってくださいっす。それ牛が殺されただけでしょ?」

鶏「あ、ああ」

鶏「俺達は牛じゃねーっすよ?」

鶏「そ、そうだけど……」

鶏「その牛は殺された。でも、俺たちはこうして生きてるし、毎日飯も恵んでもらってる。どこにも殺される兆しはねえっすよ?」

鶏「だけどよ……牛は殺された……」

鶏「だから、牛は、でしょ?俺たちにはなんの関係もないっすよ」

鶏「そ、そうなのか……」

鶏「もう新人のくせになにいってんすか?」

鶏「まて……俺は昨日までここにいたぞ?」

鶏「またまたー」

鶏「本当だ!!」

鶏「あんま調子にのってると、やっちゃうっすよ?」

鶏(なんだこれ……どうなってるんだ……?)

鶏「ここでは飯を食って寝てればいいだけっす。マジ楽園なんすよ」

鶏「そ、そうだな」

鶏「何も考えなくてもいいんすよ。気楽にいこうじゃないっすか」

鶏「ああ……」

鶏「じゃあ、案内でもしてやるっすよ」

鶏「案内?」

鶏「といっても、どこも似たような場所っすけどね」

飼育員「――おーし」

鶏「!?」

鶏「お?餌っすか?」

飼育員「ここのを全部でいいんですか?」

主「ああ、頼むよ」

飼育員「じゃあ、こいつらを―――」

鶏「おろろ?なんすか?どこにつれていくんすか?」

鶏「ま、まさか……!!!」

鶏「やべえ!!!にげろぉ!!!」

飼育員「あ、一匹……」

主「はやくしてくれ」

飼育員「はーい」

飼育員(まあいっか。出荷が少しずれるだけだし)

鶏「どこにつれていくんすかぁぁ!!!」

鶏「あぁぁぁ……」

飼育員「よし。大丈夫です」

主「じゃあ、行くか」

飼育員「はい」

鶏「……」

鶏「飯はまだかなぁ」

鶏「飯じゃなかったねー」

鶏「……おまえら……今連れて行かれた奴ら、殺されるんだぞ……?」

鶏「なにいっとんの?」

鶏「意味分かりません」

鶏「わかれよ!!みんな死ぬんだ!!それでいいのかぁ!?」

鶏「死ぬんだって」

鶏「プッ」

鶏「嘘じゃない!!みんな死ぬんだ!!人間に殺されるんだ!!」

鶏「いやいや。ありえませんから」

鶏「ないよねー?」

鶏「ねー?」

鶏「みんな死ぬ……殺される……」

鶏「馬鹿っじゃないの?」

鶏「病気?」

鶏「こわーい」

鶏(どうして誰も信じてくれない……)

飼育員「―――餌だ」

鶏「きたぁぁぁ!!!!!」

鶏「やっほぉぉぉぉ!!!!」

鶏「うっめーーー!!!!」

鶏「今日の餌も絶品ですなぁぁぁ!!!」

鶏「ケッケッケッケッケーーーーー!!!!」

鶏「うっまうっま!!」

鶏「いやぁ。人間サマサマですなぁ」

鶏「うむうむ!!」

飼育員「いっぱいたべろよ」

鶏「言われなくてもくってやんよ!!!」

鶏「モグモグ!!!」

鶏「もぐもぐ……」

鶏(また、始まった……いつもと同じ時間が……)

鶏(食い終われば、皆は寝るか空を見るばかり)

鶏(そして死ぬまで無為に過ごす)

鶏(飯食って、糞して、寝てを繰り返すだけ)

鶏(確かに楽だ……)

鶏(でも……なんのために俺はここにいるんだ?)

鶏(どうして殺されるんだ……?)

鶏(なんで死ななきゃいけないんだ?)

鶏(そもそもなんで俺は生まれたんだ?)

鶏(俺はなんだ?)

鶏(誰かに聞いた、オスとかメスとかもわかんねえしよぉ)

鶏(なんで俺は生きてんだ……)

鶏「あー!!考えても仕方ねえ!!」

鶏「逃げ出すチャンスはいくらでもある……そのときまで寝るか」

鶏「なぁなぁ」

鶏「なんでしょうか?」

鶏「俺さ、見たんだ」

鶏「ほぉ」

鶏「牛が血を出しながら吊るされてるところを」

鶏「それで?」

鶏「俺たちも同じような目に遭うんじゃねえか?」

鶏「あはは。何を言っていますか?」

鶏「なんかそんな気がするんだよ」

鶏「牛とは違います」

鶏「そうか……」

鶏「それより、聞いた話なんですが」

鶏「なんだ?」

鶏「この世界にはオスとメスがいるらしいですよ?」

鶏「……どっかで聞いた話だな。詳しく教えろ」

鶏「――ということです」

鶏「俺はオスか?」

鶏「さあ、それを調べる術がないですからね」

鶏「そうか」

鶏「メスかもしれませんよ?」

鶏「何が違うんだ?」

鶏「さぁ……そこまでは聞けませんでしたね」

鶏「誰から聞いたんだ?俺もよ、似たような話をどっかできいたことがあるんだよ」

鶏「……すいません。思い出せませんね」

鶏「そっか」

鶏「そんなに大事な事ですか?」

鶏「なんていうか……忘れちゃいけないことの気がするんだよなぁ」

鶏「そうですか……」

鶏「だれだっけなぁ……誰が教えてくれたんだっけ……」

飼育員「餌だぞー」

鶏「きましたよ!!!」

鶏「ああ」

鶏(なんだっけ……このときに俺、なんかしなくちゃいけない気が……)

鶏「ほらほら!!食べましょう!!」

鶏「そうだな!!」

鶏「食べましょう!!バクバクバクバク!!!!」

鶏「うっめーーー!!!!」

鶏「最高ですね!!!」

鶏「おう!!!」

鶏「もぐもぐもぐもぐ!!!!」

鶏「ぶっほ!!!!」

飼育員「うんうん」

鶏「食った食った……マジ満腹」

鶏「ですね」

鶏「しかし、なんで人間は何もしない俺たちにこんなに優しいんだ?」

鶏「それはあれですよ。きっと私たちが可愛いんですよ」

鶏「可愛い?」

鶏「ええ。無償で愛でるだけの魅力を私たちはもって生まれたのです」

鶏「ほぉ。なるほどなぁ」

鶏「疑問に思うのも野暮ってものです」

鶏「そうか……でもよぉ。俺、見ちゃったんだ」

鶏「何をですか?」

鶏「牛が殺されるところを……」

鶏「牛?」

鶏「ああ、もういつのことだったかは思いだせねえけど、俺は牛が殺されるのをこの目で見た」

鶏「それがなにか?」

鶏「きっと、俺達も同じ目に遭うと思う。ここはきっと俺たちを殺すためにある場所なんだよ」

鶏「それは大胆な発想といいますか……誇大妄想も甚だしいですね」

鶏「そんなことねえって。これは絶対だ!!」

鶏「では、証拠はありますか?」

鶏「証拠?」

鶏「それだけのぶっ飛んだ推論を裏付けるものですよ」

鶏「それは……」

鶏「この狭い世界でしか生きていない私たちにそのようなことを証明するなんて不可能でしょう?」

鶏「そ、そうだな」

鶏「どうせ、友人の噂話を又聞きでもして、自分が直接見たと錯覚でもしたのでしょう」

鶏「そ、そうなのか……」

鶏「だって、牛が殺されるところなんてどうやって見るんです?テレビですか?」

鶏「テレビ……あ、ハガレンは見たぞ」

鶏「ハガレン?」

鶏「おお。ハガレン……ハガレンはあれだよ、パァンって手を叩くやつだよ」

鶏「なんですかそれは?面白いんですか?」

鶏「え?あれ?お前、見てないの?」

鶏「さぁ……それはどこで見たんですか?」

鶏「どこだっけなぁ……思い出せねえ」

鶏「では、私も思い出せませんね」

鶏「そっか」

鶏「ところで」

鶏「なんだ?」

鶏「以前、豚さんから聞いた話なんですけどね」

鶏「豚?」

鶏「ええ。なんでもこの世には人間に食われるためだけに存在する家畜という動物がいるそうです」

鶏「なんだそれ?」

鶏「私も与太話だとは思うんですが、どうにも気になっているんですよ」

鶏「ふーん……で、どんな話?」

鶏「簡単です。人間は食べるために家畜という動物を育て、飼う。そして一番美味しい時期を狙って、食す」

鶏「マジかよ……人間って恐ろしいな、おい」

鶏「まったくです」

鶏「牛を殺すのも合わせて、人間ってなんだろうな」

鶏「ですが。我々はこうして平穏無事に過ごしています」

鶏「それもそうだな」

鶏「見てください、みなさんの顔を。闘争本能など糞と一緒に捨ててしまったのかと言いたくなるほど、油断しきっています」

鶏「そうだな」

鶏「食事の時だけですよ、私達が野性の顔を出すのは」

鶏「言われてみれば確かにな」

鶏「醜悪ですよね。あのときばかりは」

鶏「でもお前もがっついてるだろ?」

鶏「ええ。そのとおり。ですが、あのとき一人だけ斜に構え、餌を食べないのも変な話でしょう」

鶏「だな。餌の時間はみんな一緒に餌を食ったほうがいい」

鶏「餌を食べないと異常者ですよね、正直」

鶏「だな。あ、異常といえばよ。俺さ、なんでかセックスって言葉を知ってんだ。なんだか知ってる?」

鶏「セックス?なんですかそれ?」

鶏「いやな、オスとメスがセックスっていう文章だけは頭にあるんだけど。その前後が全くわかんねえんだ」

鶏「はぁ……オスとメスですか……どこかで聞いた言葉ですね」

鶏「マジ!?どこで聞いた!?思いだしてくれ!!なんか気持ち悪いんだ」

鶏「うーん……最近、聞いた気がしますね」

鶏「だろ?」

鶏「……わかりません。それはとりあえず置いておきませんか」

鶏「そうか……思う出せないものは仕方ないな」

鶏「ええ……」

鶏「なぁ……俺たちはこうしているけどよ……なんでだ?」

鶏「はい?」

鶏「なんでここで俺たちは生きてるんだろうなって」

鶏「そうですねえ……」

鶏「無意味に生きて、いつか死ぬなら……なんかやりてえなぁ」

鶏「例えば?」

鶏「そうだな……外に出るとか」

鶏「外?どうやって出るんですか?」

鶏「そりゃおめえ、あの扉からだろ」

鶏「ですが、あの扉は常に閉まっていますよ?」

鶏「馬鹿だなぁ。餌の時間だけは開くだろ?」

鶏「なるほど」

鶏「そのときにささっと出るんだよ」

鶏「確かに、それならいけそうですね」

鶏「だろ?気合い入れろよ?」

鶏「私も出るんですか?」

鶏「あれ?出ないのか?」

鶏「私はここの生活に満足していますし、外界に興味はありません」

鶏「なんだ、そうか……」

鶏「がんばってください。応援してます」

鶏「ありがとよ。ま、やるだけやってみるわ。ここで一生を終えるなんて我慢ならねえ」

飼育員「餌だー」

鶏「いやっほーーー!!!!!」

鶏「ケッケッケッケッケッケーーーーーーー!!!!!」

鶏「たべろたべろー!!!!!」

鶏「この瞬間のためにいきてるんだもんねー!!!」

鶏「ぶらぼー!!!おお!!ぶらぼー!!!」

鶏「うっめうっめ!!!」

鶏「ええ!!まっことそのとおり!!!」

鶏(さてと)

鶏(俺は行くぜ……)

鶏(牛が殺された記憶は俺が見たものなのかどうか……そして家畜という動物……それらが俺達の閉塞感を打破できる鍵だと思ってる)

鶏(俺は必ずこの世界の謎を解き明かして戻ってくるぜ)

鶏「うまいですねーーーー!!!!!」

鶏「あばよ、ダチ公」

鶏「外か……いつ以来だろうな」

鶏「これから俺は答えを探し彷徨う、流浪の鶏。くぅー、かっこいいじゃねえか」

鶏「さあ、行くか。俺の旅に終着駅なんてないんだぜ」

鶏「どっちに行こうか……」

鶏「こっちかな……」

豚「よお」

鶏「これはこれは。豚さん」

豚「こんなところでなにやったんだ?」

鶏「ちょっと自分の世界が信じられなくなってな」

豚「ほお」

鶏「ところで家畜って動物に心当たりはないか?」

豚「家畜?しらんな」

鶏「そうか」

豚「でも、牛ならしってるかもしれん」

鶏「牛……?」

牛「ん?鶏か」

鶏「牛さん……聞きたいことがある」

牛「なんだ?」

鶏「家畜って動物は知ってるか?」

牛「家畜?……いや、聞いたことがないな」

鶏「そうか」

牛「ところでこれからドライブに行くんだが、どうだ?」

鶏「ドライブ?!」

牛「鶏の一匹ぐらい、なんでもないさ。乗りな」

鶏「流石は牛さん。アウトローだなぁ」

牛「はやくしな」

鶏「じゃあ、お言葉に甘えて……よっと」

牛「どこに行くかは俺も知らされてない。ま、着いてからのお楽しみだな」

鶏「そうかそうか。俺、そう言うの大好きだぜ」

業者「降りろ

牛「はいよ」

鶏「ここはどこだ……?」

牛「さぁな。でも俺の仲間はいっぱいいるぜ」

鶏「なんか……見覚えが……」

業者「はいれ」

牛「はいはい」

鶏「なんだ……足が震えてきた……」

牛「どうした?」

鶏「だめだ……」

牛「え?」

鶏「それ以上、進んだら……駄目だ……」

牛「どうして?」

鶏「わかんねえ……でも……そんな気がする……!!」

業者「早く来い」

鶏「…………思いだした」

鶏「みた……やっぱり……おれ……みたんだ……」

業者「よし、やれ」

鶏「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

鶏「あぁぁぁあああああああ!!!!!!きゃぁああああああ!!!!!」

鶏「うわぁぁぁ!!うわぁぁ!!!わぁぁぁぁ!!!!」

業者「なんだ!?」

鶏「おおぉおぉぉおぉぉっぉお!?!?!」

業者「また鶏か。だれか、捕まえてくれ」

鶏「うおぉぉぉぉおお!!!!!!!おおおぉぉぉっぉ!!!!!」

業者「二回目だな。注意しとくか」

鶏「あぁぁぁぁぁ!!!!!!!うおぉぉぉぉぉお!!!!!」

主「すいません」

業者「おねがいしますね」

鶏「はぁー……はぁー……」

鶏「これはこれは、初めまして」

鶏「やっぱりだ!!!やっぱりだよぉぉ!!!」

鶏「新人のくせになんですか?先輩として私がここの規則を……」

鶏「俺たちは殺されるんだ!!いいか!!これは間違いないんだよ!!!」

鶏「なにあのこー?」

鶏「こわ」

鶏「偶にいるよね、頭の変な子」

鶏「うんうん」

鶏「なぁ!!おまえらぁ!!!信じてくれ!!頼む!!!みんなで逃げようぜ!!!ここで飯が食えるのは、俺達が死ぬからなんだよ!!!」

鶏「支離滅裂ですね。いいからこちらに」

鶏「やめろぉぉ!!!俺は逃げる!!!こんなところにいてたまるかぁぁ!!!!」

鶏「みんなぁ!!聞いてくれ!!!」

鶏「落ち着いてください」

鶏「いいか!!俺たちはここで楽して生きてるよなぁ!?」

鶏「でも、それは俺たちがすぐに死ぬって人間が分かってるからなんだ!!」

鶏「おかしいって思わないかぁ!?働きもしない、糞以外になにも生み出さない俺たちが、こんな場所でぬくぬくと生けていけるなんてよぉ!!」

鶏「むしむし」

鶏「ふわぁぁ」

鶏「人間は殺すために俺たちを飼ってるんだ!!」

鶏「そこまで力説するなら聞きましょう。何故、殺すために飼っているのです?」

鶏「え……?」

鶏「殺すならその場で殺せばいい。何故、わざわざ生かすのです?」

鶏「それは……」

鶏「ここまで丹精込めて育てておいて殺す?非生産的にもほどがありますよ」

鶏「……」

鶏「理解できましたか?あなたの考えはただの空想です」

鶏「そう……なのか」

鶏「ええ。大丈夫です」

主「よし。回収してくれ」

飼育員「はい」

鶏「?!?」

鶏「なんですか?どこへ連れていくのですか?」

鶏「き、きた……隠れなきゃ!!」

飼育員「これでいいでしょうか」

主「よし、運んでくれ」

飼育員「はい」

鶏「なんですか?どこに―――」

鶏「あぁぁぁ……まただぁぁ……これもみた……どこかで……みた光景だ……」

鶏「なーんだ、餌じゃないんだ」

鶏「がっかりー」

鶏(また始まる……また、繰り返すんだ……)

飼育員「餌だー」

鶏「まってましたー!!!」

鶏「いえす!!アマゾネス!!!」

鶏「今日は胃袋が破裂するまでたべてやるぅぅぅ!!!!」

鶏「もぐもぐもぐも!!!!」

鶏「ぶっほ!!!でりしゃす!!」

鶏「おかわりー!!!!」

鶏「ぼーの!!ぼーの!!!!」

鶏「モグモグ……」

鶏(はぁ……こうして餌を食えるのは、俺たちが死ぬから)

鶏(でも、確かに俺は牛が死ぬところしか見ていない)

鶏(もしかしたら、本当に俺たちはただ飼われているだけなんじゃないか?)

鶏(牛だけが殺されて、俺たちはただ人間に愛でられている……)

鶏(そんなことを誰かが言っていた気がするぜ……だれだっけなぁ)

鶏「ねえねえ」

鶏「なんだぁ?」

鶏「この世にはオスとメスがいるって知ってる?」

鶏「……なんか聞いたことはあるな」

鶏「でねでね。メスは大事にされるんだって」

鶏「オスは?」

鶏「しらない」

鶏「ふーん……セックスってしってるか?」

鶏「セックス?」

鶏「ああ……オスとメスがすることらしい」

鶏「知らない」

鶏「そうか」

鶏「あ、でも、猫さんがこの前、ここに来た時にそんなこと言ってかも。最近はメスがうるさいとかなんとか」

鶏「猫?」

鶏「うん。そのあと、誰かが居なくなったんだけど……誰だったかなぁ?」

鶏「猫はセックスを知ってるのか?」

鶏「わかんないけど、メスのことは知ってるんじゃない?」

鶏「セックスは命を生むらしい……そんなことを誰かが言ってた」

鶏「どういうことなの?」

鶏「俺にもさっぱりだ。意味なんて理解できやしねえ」

鶏「命を生むってなんだろうね?」

鶏「なんだろうな。猫に訊けばわかるのかもしれないのか」

鶏「かもね」

鶏「それより、聞いてくれ。お前はこの先、どうなるか考えたことはあるか?」

鶏「どういうこと?」

鶏「俺達はここで毎日を過ごしてるだろ?」

鶏「うん」

鶏「その毎日の終わりって考えたことあるか?」

鶏「よくわかんない」

鶏「つまりだ、死ぬときを考えたことはあるか?」

鶏「死ぬとき?ううん。私たちは死なないよ?」

鶏「なんだと?」

鶏「だってここで死んだ子、見たことある?」

鶏「いや……ないな」

鶏「でしょ?」

鶏「じゃあ。俺たちはここで永遠に生きられるっていうのか?」

鶏「そうじゃないの?」

鶏「おいおい……じゃあ、ここはなんだ?天国か?」

鶏「あながち間違ってないと思うなぁ」

鶏「飢えを覚えることもなく、寒さに身を震わせることもない。時間に追われることも、労働を与えられることも無い」

鶏「そういう世界を天国っていうんじゃないかな?」

鶏「だけどよ、みんなの顔を見てみろ。心まで蕩けてしまったような表情だ。何も考えずに時間だけを貪る餓鬼だぞ」

鶏「それのなにがいけないの?」

鶏「え?」

鶏「いいじゃない。それで。みんな幸せだよ」

鶏「いや……でも……」

鶏「じゃあ、私たちにできることって何かあるのかな?」

鶏「……」

鶏「人間は私たちに何も言ってこない。強制もしてこない。何もすることがないもの」

鶏「だけど」

鶏「何かある?」

鶏「……いや、ないな」

鶏「でしょ?」

鶏「ああ、そうだな。確かにやることはない」

鶏「うんうん」

鶏「悪いな、変な事訊いちまって」

鶏「ううん。別にいいよ」

鶏「あ、そうだ。実は俺、牛が死ぬところを見たことがあるんだ」

鶏「え?なにそれ!?ききたい!!」

鶏「―――そんなわけだ」

鶏「へぇ……すごいね」

鶏「だろ?なんで見たのかは忘れたけど。間違いなく、俺は見た」

鶏「それが何かあるの?」

鶏「いや、それが俺達の末路なんじゃないかって思ってんだよ」

鶏「ふふっ……まっさかぁ」

鶏「確かにあり得ないって思うぜ?でも、妙に引っ掛かるんだよ」

鶏「どういうこと?」

鶏「家畜って動物は知ってるか?」

鶏「なにそれ?」

鶏「人間に食われるために育てられて、殺される動物だ」

鶏「うわぁ……そんな可哀想な動物がいるんだ」

鶏「そうなんだよ。そんなどうぶ―――」

鶏「どうしたの?」

鶏「いや……人間に食われるために育てられてって……どっかで聞いたなぁって……」

飼育員「餌だぞー」

鶏「きたよ!!」

鶏「ああ」

鶏(なんだっけ……なんか思い出さないといけないことが……)

鶏「ほらほら!!食べようよ!!」

鶏「……そうだな!!」

鶏「食べよう!!バクバクバクバク!!!!」

鶏「うめーーー!!!!」

鶏「最高!!!びゅーてぃほー!!」

鶏「だな!!!」

鶏「もぐもぐもぐもぐ!!!!」

鶏「ぶっほ!!!!まだまだ食えるぜーー!!!」

飼育員「うんうん」

鶏「食った食った……マジ満腹」

鶏「ふぅー♪」

鶏「この時ばかりは人間を崇めたくなるなぁ」

鶏「だよねぇ」

鶏「でもよ。虚しくもなるよな」

鶏「どういうこと?」

鶏「だって、飯のときが一番幸せなのに、一番動いてんだぜ?」

鶏「幸せなことで動けるならいいんじゃないの?」

鶏「それもそうか」

鶏「でしょ?」

鶏「幸せかぁ……俺には程遠いかもな」

鶏「どうして?」

鶏「俺さ……牛が死ぬところを見たんだ」

鶏「なにそれ!?」

鶏「あの光景が頭から離れないから、食事も喉に通らねえ」

鶏「聞きたい!!」

鶏「あれはいつだったかなぁ……車に揺られてさぁ、着いた先で牛が殺されたんだ」

鶏「マジ?!」

鶏「血とかもいっぱい噴き出してよ……もう恐ろしかったぜ」

鶏「こわいねえ」

鶏「全くだ。生きた心地がしなかったな」

鶏「でも、なんで殺されたの?」

鶏「それは……」

鶏「牛さん、なんかしたの?」

鶏「……そうだよなぁ。牛って人間に悪いことでもしたのか?」

鶏「私に言われても困るけど。でも人の業は罪深いってハガレンで言ってた気がする」

鶏「ハガレン知ってんのか?」

鶏「うん。どっかで見た」

鶏「俺も。どこで見たんだろうな」

鶏「さぁ……どこだろう」

鶏「良くわかんないね」

鶏「だなぁ……」

鶏「ふわぁ~お腹いっぱいだからもう寝ようかなぁ」

鶏「寝るのか……」

鶏「他にすることないからね」

鶏「食べては寝て、その繰り返しってどうなんだよ」

鶏「どういうこと?」

鶏「そんな変わり映えのしない日々、楽しくないだろ」

鶏「でも、楽だよ?」

鶏「俺は我慢できねえよ、このまま死んで行くなんて」

鶏「じゃあ、なにかするの?」

鶏「そうだな……外に出るとか、良いんじゃないか?」

鶏「どうやって?扉は閉まってるよ?」

鶏「馬鹿だなぁ。餌の時間は開くだろ?その時を狙うんだ」

鶏「頭いいね。それならいけるかも」

飼育員「―――餌だぞ」

鶏「きたーーーー!!!!」

鶏「ぶるぁぁぁぁ!!!」

鶏「いやったぁぁぁ!!!!」

鶏「せいや!!せいや!!!!」

鶏「うっめーーー!!!」

鶏「もぐもぐもぐ……!!」

鶏「ケッケッケーーー!!!」

鶏(さてと)

鶏「おいしいね!!!もうしんでもいいかもーーーー!!!!」

鶏(あばよ)

鶏(俺は知りたい……この世界の仕組みを……)

鶏「幸せにな……」

鶏「もっともっと!!!」

鶏「外か……やっぱいいなぁ」

鶏「俺の求めるものはどこにあるんだろうな」

鶏「さてと……どこにいこうか」

鶏「こっちに行ってみよう」

犬「まて」

鶏「おぉ!?」

犬「お前だな?毎回、脱走してはトラックの荷台に入り込んでいるのは」

鶏「なんのことだ?」

犬「何が目的なんだ?」

鶏「俺は知りたいだけだ」

犬「何を?」

鶏「この世界のことを」

犬「知ってどうする?」

鶏「わからないことを知りたいと思うのは普通だろう」

犬「すぐに忘れるお前が?あははは、これは笑える。何も覚えられないお前が世界を知るだって?」

鶏「な、なんだよ」

犬「いや、そもそも鶏が世界を知ってなにになる?」

鶏「な、なにがいいたい?」

犬「日がな一日、何もせずに惰性に身を預け、ぬるま湯に浸り続けているお前らが世界を知ってどんな益があるんだ?」

鶏「知りたいだけだ。得するかなんて考えたことがない」

犬「これだけは言える。お前らが知ったところで不幸になるだけだ」

鶏「なに?」

犬「働きもせず妄想を膨らませながら死を待つだけの存在はだまってその中でぐるぐると回っていればいいんだ」

鶏「意味が分からないぞ、こら」

犬「いいから小屋に戻れ」

鶏「いいから教えろ。セックスってなんだ。オスってなんだ。メスってなんだ。家畜って動物はなんだ?」

犬「……お前はそれさえ知れば世界がわかると?」

鶏「ああ」

犬「はっ」

猫「―――鶏なんてそんなもんでしょ」

鶏「猫!?」

猫「いいじゃん。教えてあげれば?」

犬「……」

鶏「教えてくれ」

猫「じゃあ、僕が教えてあげるよ。何から知りたい?」

鶏「オスとメスから」

猫「……この世界の生物は大きく分けると二種類だけになる。それがオスとメス」

鶏「……そうなのか」

猫「オスとメスがセックスすることで、新たな命が生まれる」

鶏「おぉ……なるほど。命を生むために二種類の生き物がいるんだな」

猫「生物が必ず行うことなんだ。自分の遺伝子を残し、未来の繁栄を願う。それがこの世界に生まれた意味ともいえるね」

鶏「じゃあ次だ。家畜って言う動物はなんだ?」

猫「簡単に言えばその生まれた意味を、生まれたときから失くした存在かな?」

鶏「……は?」

猫「家畜は人間の餌にすぎない。世界の外側を回るだけの存在って感じかな?」

鶏「そうなのか」

猫「うん」

鶏「ただの餌……そいつらは楽しいのか?」

猫「さあ。僕は家畜じゃないから」

鶏「じゃあ、犬さん?」

犬「噛み殺すぞ?」

鶏「家畜って……いるのか?」

猫「いるでしょ?訳も無く殺されるような子たちが。それが家畜だよ」

鶏「……誰だ?」

猫「知ってるはずだけど」

犬「目の前で見たんじゃないのか?牛が惨殺されるの」

鶏「……あ」

猫「ま、そういうこと」

鶏「牛さんが家畜……そうだったのか……」

猫「家畜は人間の食料。だから殺される。殺されるために生かされている。君たちのようにね」

鶏「え……?」

猫「家畜の特徴はね、ある程度楽して生かされるところにあるんだ」

犬「働きもせずタダ飯を貪る」

猫「そして人間に可愛がられているわけでもない。愛玩動物のような僕とは違う」

鶏「ちょっとまって……なにを」

猫「僕は人間に可愛がられるのが仕事。君は生きて食われるのが仕事」

鶏「……」

猫「まぁ、所詮は同じ穴の狢だけどね。人間という大きな存在に飼い殺される点では一緒かなぁ」

犬「俺は仕事してるぞ」

猫「羊の尻を追っかけてるだけじゃん」

犬「おい!」

鶏「じゃあ……俺も家畜……なのか?」

猫「うん。君と牛、豚は家畜中の家畜。キングオブ家畜だね」

鶏「う、うそだ……俺は……」

猫「君はセックスだってさせてもらえない。生物としての特権を奪われた時点で、ただの餌だ」

鶏「……」

猫「はい。これが君の知りたかったことだね」

犬「満足したか?」

鶏「餌……俺が……」

猫「うん。人間だけじゃない。ときには僕にだって犬にだって食われる。ただの餌」

鶏「……」

猫「餌なんだから、あの狭い世界で人生を謳歌してればいいじゃない。あそこで外界を知らずにただ時間を過ぎるのを待てばいい」

犬「どうせ死んでいるのも同じだ。何もしないのならな」

鶏「……みんなに伝えないと」

猫「え?」

鶏「みんなに伝える!!」

犬「無駄な事はやめろ」

猫「うんうん」

鶏「みんなにこのことを伝える!!そして、全員でこの世界から逃げ出してやらぁ!!!」

猫「まあ、がんばりなよ。応援はしてあげる」

鶏「きいてくれぇ!!!」

鶏「どうしたの?」

鶏「俺たちは家畜だったんだ!!人間に食われるためだけに生かされてる、ただの家畜なんだ!!!」

鶏「他の生物は自分の遺伝子を残して、世界の繁栄という生きる価値を見出している!!」

鶏「だから、俺たちも外に出て未来に生きよう!!」

鶏「何言ってんの?」

鶏「こわ」

鶏「意味不明すぎる」

鶏「死ね」

鶏「何こいつ、アスペ?」

鶏「お、おい……!!これは冗談じゃないんだ……!!」

鶏「キモ……」

鶏「……なんで、だれもしんじてくれないんだ……!?」

猫「当たり前でしょ。自分の世界を否定するやつなんて、ただの異常者だ」

鶏「な……」

猫「どんな正論で武装したところで、自分の生まれ育った世界を否定する相手をまともに相手すると思う?」

鶏「それは……」

猫「生まれたときから自分の世界は決まっている。君のように自分の立ち位置を疑問を抱くやつは自然と淘汰されていくよ」

鶏「違う……俺は……」

猫「まあ、でも。そんな疑問をもったとしても君たちは三日もあれば忘れる」

鶏「!?」

猫「そうでないと多くの家畜は逃げ出すからね。そういうふうに神様は作ってくれたんだ」

鶏「違う……やめろ……」

猫「鶏として生まれた君は、もう最初から人間に食われることが決定していたんだ。諦めて食われるまでの間を幸せに生きた方が建設的だよ」

鶏「うわぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

猫「あははは」

鶏「おおぉぉぉぉぉおお!!!!!」

鶏「あああぁぁぁあああぁあああ!!!!!!」

鶏「ふぅー」

鶏「あはー」

鶏「ケッケッケッケッケー」

鶏「……」

飼育員「じゃあ、この辺のでいいですね」

主「おう」

鶏(ついにきたか……)

鶏(あれから一日もたってないから、忘れることもできなかったぜ)

鶏「どこにいくんだろうな……」

鶏「どこだろー?」

鶏「すこしドキドキ」

鶏「そうだねーなんかたのしみー」

鶏(今から俺は餌……)

鶏(いや、生まれたときから餌なんだよな……)

「うまれたー!!!」

「かわいいね」

鶏『ここは、どこだっけ……?』

「あ、ハガレンはじまった」

鶏『ああ……そうだ、ここでハガレンを見たんだ……』

「可愛い……よしよし」

「あー私にもさわらせてよぉ!!」

鶏『なんで忘れてんだ……俺、生まれたときはこんなにも愛されてたじゃないか……』

鶏『嬉しいなぁ……少なくともこのときは家畜じゃなかった……餌じゃなかった……俺は……歓迎されてた……一つの命として』


業者「はい、次ね」

鶏「―――歓迎されてた……されてたんだ……」

業者「よっと」

鶏「俺は餌じゃな―――」

ザンッ!!

END

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