美也「にぃにー! あっさだよ-?」(331)

美也「はやくおきないとちこくしちゃうよぉ……?」コショコショ…

純一 ぐーぐー…

美也「みゃーは今、にぃにの布団の中に一緒に居るよ~…?」ぬくぬく

純一 ぐーぐー…

美也「──だめだこりゃ。こんなにもみゃーが珍しくあまえてあげてるのに…
   にぃにってば本当に空気が読めないねぇ」

純一「──……うぅん…むにゃむにゃ……絢辻さん、うふふ…
   そこはだめだってばぁ~……」ごそごそ

美也「え、にぃに起きたの───にぁああ!!
   に、にぃにどこ触ってるの!? そこは───」

純一「ん、ん……んん?──絢辻さん、胸しぼんだ……?
   なんかまんまにくまんぐらいあった気が───」

美也「にゃあああああああ!!にぃにのばかぁああああ!!!」がしがしっ

前篇
美也「にぃにー! あっさだよー!!」 - SSまとめ速報
(http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1321254616/l50)
後篇1/2
美也「にぃにー! あっさだよー!!」 - SSまとめ速報
(http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1321254616/l50)
後篇2/2


すみません今回は私用に付き書きだめがゼロですが、
最終篇です
できれば最後までご付き合いください

数分後
登校路

純一「いたた……なんだよアイツは…いきなり僕の頬をひっかきやがって…」さすさす…

梅原「──おーい、大将ぉー!」

純一「ん? おう、梅原。おはよう」

梅原「おぅよ! おはよーさん……ってお前…また今日は顔がえらいことになってんな…」

純一「そうなんだよ。なぜだか今日は美也が僕の布団の中にいてさ……良い夢見てたって思ってたのに、
   美也のせいで台無しだよ」

梅原「まぁまぁ、美也ちゃんだって甘えたい年頃なんだよ。それぐらい兄貴として分かってやれって」

純一「いや……高校生にもなってまだ、甘えたい時期ってあるものなのか……?
   僕としてはなんか、それは嫌だなぁ…」

梅原「ははは。てれ隠しすんなって大将ぅ。そんな風に慕われるのは嫌な気分じゃないだろ?」

純一「……なにいってるんだよ。まっぴらごめんだよ」

梅原「そうか? そりゃすまねぇな──お、棚町おはようさん」

薫「はろー。馬鹿二人ー!」

純一「……その呼び方には少し、僕は言いたいことがあるぞ薫」

薫「んー? なによ、棚町さんのネーミングセンスにケチつける気なのかしら」

純一「そうだな。薫は馬鹿二人と言ったが……それは間違いだ。
   ──そう、それは詳細に言うなら、ここは馬鹿三人だろ?」

薫「へ? アンタと梅原君、あと誰を入れるのよ?」

純一「──さて、梅原…そろそろ走って逃げるぞ」だだだだ!

梅原「了解」だだだだ!

薫「ちょ、ちょっと二人とも…!
  ──なによ、馬鹿三人って……他のぞいたらあたしぐらいしか───」

薫「──純一まちなさいッ!」だっ!

純一「梅原ッ! お前は先に行け!僕が薫を引きつけるから!」

梅原「だ、だが大将…ッ? それは棚町相手はいくらなんでも分がわるいってもんじゃ…!?」

純一「大丈夫だ。僕には勝算がある───さぁ行くんだ!僕の屍をこえていけ!」

梅原「それじゃ死んでるぜたしょー!? ……だが、まかせたぜ」ぐっ

純一「ああ、いってこい………!」

薫「──良い覚悟ね、純一。あたしを馬鹿だと称したこと、それがどれだけの
  体裁がまってるか……わかってるわよね?」

純一「……そうかな、薫…僕は、知っているんだよ…」

薫「なにかしら。最後に残す言葉でもあるの純一」

純一「いいや、ないさ。あるのは──そう、これだけだ薫」

純一「──僕は、薫のことをなんでも知っている」

薫「……なによ、そう自信満々に答えて。かっこいい顔をする場所まちがって
  ───ちょ、ちょっと! アンタまだ逃げる気?!」

純一「逃げないよ薫…! これは僕が最大限で薫と対等に戦えることを願ってのことなんだ…!」だっだっ

薫「なにいってんのかさっぱりよあんた!それよか何処まで行くのよ!?
  もう校門すぎちゃったわよ!」

純一「すぐにわかるさ──そら、見えてきた!」

薫「見えてきたって──校舎裏のフェンス…?」

純一「ああ、そうだ……そして僕はここを通る!」ささっ

薫「あ、あんたいきなり地べたに這いつくばってなにしてんのよ…?」

純一「良く見ろ薫。ここにある穴を……よっと。ほら、こうやって通り抜けられるんだ」

薫「よくもまぁ見つけるわねそんなの……というかなにかしら、
  そんな程度の逃げ道で得意になってる所申し訳ないけど……」

薫「別にあたし、地面に這いつくばってでもあんたのこと追いかけるわよ?」

純一「そうだろうな。僕が知っている薫はそうするはずだ……じゃあ、やってみてよ薫」

薫「あんたに言われなくてもやるわよ。なにを企んでるかわからないけどね──
  この棚町さんにかかれば、あんたの考えなんて石ころと………」ずぼっぴたっ

薫「……え?」

純一「──言っただろう、薫…僕は薫のことを知っていると……」

薫「え、どうして──なんでくぐりきれないのよ……!?」

純一「ははは。薫、お前……太っただろ?」

薫「な、なんでそのことを───」

純一「だから言っただろ。僕は前の薫を覚えてるって、だから前との薫がなんか違うなぁって
   最近になって気付いてさ。それがなんなのかやっとわかったんだよ」

純一「それはお前が……太ったんだとね」すっ

薫「あ、あたしは別に太ってなんかいないわよ……っ!」

純一「いーや嘘だよ。そうだったら以前までのダイエットには気を配る薫なら、
   こんな僕でも通れる穴を普通に通れたはずだしね」

純一「でも、今の薫は通れないでいる。それが今の現状だよ」ごそごそ…

薫「ちょっと……あんたなに、カバンから出そうとしてるの……ッ!
  いいから助けなさいよ! ここから!」

純一「待てって。いくらなんでも僕でも薫を置いていったりしないよ。
   少し我慢してくれれば、それでいいからさ」す…

薫「な、なによそれ……?」

純一「え? これって──見ればわかるだろ薫?」

純一「僕の朝ご飯だった、飲むヨーグルトだよ」

薫「──はい…?あんた、それをなにしようっていうのよ…?」

純一「いや、今朝に色々とあってご飯食べてなくてさ。
   登校中にでも食べようかなって思ってて持ってきたんだ」

薫「それはわかったわよ……それで、なんでこのタイミングでそれを出すのよ」

純一「いやー薫には悪いことを言ったって僕も反省はしてるんだ。
   だからそのお詫びって事で、これを上げようと思ったんだ」

薫「べ、べつにそんなのいらないわよ…!それよりも早くここから助けなさいってば!」

純一「落ち着けって薫。まだ登校時間には余裕があるからさ、
   こうやって一息つこうじゃないか」ぱきゅ!

薫「なにあけてるの……!別にい、いらないから……!」

純一「怯えるなよ薫……これは僕の謝罪の気持ちなんだから。
   もっと怒っても良いんだよ?今日は特別に殴っても良いからさ!」

薫「な、殴りたくてもあんたに届かないでしょ…!
  あたしが動けないからって、良い気になって…ここから出たら覚えて──むぐっ!?」

純一「どう?美味しい薫?」

薫「むぎゅ……むぐっ……んくっ……?!」じゅるじゅる!

純一「ああ、ほらほら……ゆっくり飲んでいいんだよ?
   焦らないでいいからさ。のどに絡まったら大変だよ」

薫「んく……んくっ……ごく…!」

純一「ん? どうしたんだよ薫……そんな悔しそうに上目使いをしてさ」

薫「ん~!んんー!!」

純一「あーあ、いやいやしたら零れちゃうじゃないか。
   ちゃんと最後まで飲みきらないと薫」

薫「っ……こく……んっ……」

純一「そうそう……そうやってゆっくりね。いいよいいよ薫。完璧だよ!」

薫「こくん──……ぷはっ……」

純一「よし、もう容器はからっぽだから僕が後で捨てておくね」

薫「けほっ……こほっ……純一、満足した?」

純一「うん! 満足したよ、そしたらほら薫…片手を貸してくれ」

薫「………」すっ

純一「よいしょ、よいしょ───うん、これでおっけーだよかお───」

数分後

純一「──こ、これはあんまりじゃないか薫……?
   いくらなんでも、フェンスの穴に突っ込んで僕を詰まらせるなんてさ…」

薫「あたしの羞恥心に比べればどうってことないでしょ」

純一「…羞恥心? ああ、太ったっていったこと?」

薫「そ、それはもうどうだっていいのよ……それよりもさっきアンタがしたことよ!」

純一「したことって……ただ薫に飲むヨーグルト飲ませただけじゃないか」

薫「それが恥ずかしいってことよ! なに、あんた……あ、あああんなことさせて…っ!」

純一「あんなことって、ただ本当に薫にヨーグルトを飲んでもらいたかっただけだよ?
   だってあんな状況にならきゃ、薫も素直にヨーグルト飲んでくれなかっただろうしさ」

薫「そ、それ……あんた本気で言ってるの…?」

純一「うん、本気だよ。確かに薫をあの状況で飲ませるのは僕だって心苦しかったけど……
   それよりも馬鹿だって言ったことはあやまりたかったしね」

薫「……な、なによ…あ、あたしはてっきり…」

純一「え? どうしたの薫?」

薫「な、なんでもないわよ!この変態!」

純一「ええ!? なんでだよ?!」

薫「ま、まあ? 今のあんたの状況に免じて許してあげるけど」

純一「そうしたのは薫じゃないか……」

薫「ちょっと黙ってなさい!
  ──それよりも、最近アンタに聞いてなかったけど……」

純一「ん、なにか僕に用事でもあるの?」

薫「──記憶のことよ、アンタの。ここ最近、あまりそう言った話してないじゃない?
  だから良い機会だって思ったのよ。状況があれだけどね」

純一「……そうだね、かれこれ確か薫に相談して───一か月はたったね」

薫「早いものね~。あっというまだった気がするわよあたし」

純一「だな。僕もそう思う……記憶がないって気付いて、色々とあったけど。
   それから一カ月は早く感じたよ」

薫「そうね、でも時間はたっても……こうやってあんたは普通にやってる。
  あたしと普通に会話もしてるし」

純一「そうだね、記憶がなくても今を過ごせてる。けっこう思いだしたこともあるけど、
   それでもこうやって楽しく会話できるのも……皆のおかげだろうと思う」

薫「感謝しなさいよねー。──特に絢辻さんの件とか」

純一「ああ、あれには薫には感謝しても感謝しきれないよ。
   あの状況にしてくれなかったら……今でも絢辻さんとは仲良く出来なかった気がするしさ」

薫「そうね。でも、あたしはあんな風に絢辻さんと……その、アンタと仲良くなるとは思わなかったわよ」

純一「そう? 僕にとっては変わらないけどなぁ……まぁ、これもこの世界とは違う記憶だと思うけど」

薫「またそれ? 今になってもよくわからないわよ、その思いだす記憶の違いってやつ。
  難しい話は棚町さんにはよくわからないわ~」

純一「僕だってよくわかってないよ。だから絢辻さんに全部、そのことはまかせっきりだしさ
   ──あ、そうだった。今日は朝から絢辻さんの仕事の手伝いを任せられてたんだった!」

薫「え、また頼まれてたのアンタ?」

純一「そうだよ! 色々と絢辻さんには迷惑をかけてるから……
   こうやって絢辻さんの負担を少なくさせようって思ってるんだから」

薫「……ふーん、そうなの」

純一「そうなの、じゃないよ薫。そろそろ僕を助けてくれ──
   こんな風に折り曲げた状態で入れられてたら、いくら僕だって抜け出せられないよ…!」

薫「……。大丈夫でしょ? それぐらい、アンタの力だったら抜け出せるはずよ~」

純一「そこで僕に変な期待を求めるのはやめてくれ……ほら、太ったって言って
   悪かったからさ。助けてくれよ」

薫「…………」

純一「な、なんだよ……まだ許してくれないっていうのか?
   そしたらなにをしたら許してくれるんだよ」

薫「……そうね。そしたら今日、あたしの買い物につきあいなさい」

純一「買い物?」

薫「そう、そうよ買い物よ。最近、あんたって誰かとかまって付き合い悪いじゃない?
  だから放課後まっすぐに買い物に行くの。いいでしょ?」

純一「……うーん、でもなぁ…絢辻さんの仕事を手伝わないとなぁ…うーん…」

薫「…………」

純一「──ちゃんと言えば、あの寛容のある絢辻さんはゆるしてくれるかもだけど…
   うーん……でもなぁ…」

薫「──そう、そしたらそこに一生いなさい。もう、あたし行くから」

純一「え、ちょ、薫……?まさか、本当に置いて行くつもりじゃ……?」

薫「ほんきよー。そこで長年たって化石でもなってないさーい」すたすた…

純一「ま、まってくれ薫……!こんな所にひとりっきりでおいて行かれたら、
   誰にも見つからないよ…!」

薫「あら、だったらその頼りになる絢辻さんを呼べばいいんじゃないかしら?
  ほらほら~ 早くしないと遅刻するわよ~」すたすた…

純一「ホントに待ってよ…! 薫! かおるぅー!」

純一「……行ってしまった…なんであんなにも怒るんだよアイツ…。
  僕はただ、絢辻さんの為になりたいって思ってるだけなのに…」

純一「…………」

純一「よいしょ! よいしょ!」がさがさ!

純一「──だめだ…! どう動いたって、ぬけだせそうにないよ…!」


純一(もしかしたら本当に、このまま僕は誰にも見つからず……
   骨となって化石になってしまうんだろうか…)

純一(誰にもわからず、見つからず、地面に埋まって動けずに……
   ただただ僕の上を通り過ぎていく人を見るだけの存在…)

純一(通って行く人は、色々な人で…時にはそれは学校の女子生徒かもしれない)

純一(……ん?そうなると、僕は見上げる形となるわけだから───もしかしてこれ、
   パンツが見放題……なんじゃないか!?)

純一(そうだよ、僕はただの化石なんだ。誰も気にはしないはず。
   だって地面となんら変わりがないんだから!そうなればこれは──)

純一「パンツ、天国って奴……なのか!?」

「──先輩は朝から、なにをいってるんですか?」

純一「え? えっとね、僕がここにずっといれば……あ、七咲!」

七咲「はい、おはようございます先輩……色々と突っ込もうと思いましたが、
   何時も通りだと思ってスルーさせていただきますね…」


純一「僕はいつだって僕だよ。あはは、七咲はおかしなことをいうなぁ」

七咲「……はぁ。先輩もたいがいおかしいことをいってますけど、今はべつにいいです。
   それよか先輩、そろそろ登校時間が危ういんですけど…大丈夫なんですか?」

純一「うん…そうなんだよ。見てくれればわかると思うけど、僕つまっちゃってるんだ。
   どうにもこうにも出来なくてさ……というか、七咲は時間は大丈夫なの?」

七咲「ええ、部活で遅くなるとは先生に言ってましたので」

純一「なるほど、それでここを取っていたのか──というか七咲!
   僕、動けないんだよ!助けてくれないかな?」

七咲「この状況で、まずはその言葉が出てくるが普通だと思うんですけど……わかりました。
   まだ時間には余裕があるので、助けてあげますよ」すっ

純一「ありがとう! いやー薫とは大違いだなぁ……
   こうやって七咲みたいに素直で可愛いこだったらよかったのに」

七咲「ありがとうございます。でも、先輩も色々と気を配らないとだめですよ?」ぐいっぐいっ

純一「え?どうしたの急に?──い、いたい!もう少し優しく……いた!?」

七咲「──実は先ほどから、先輩たちのことを見ていたんです」ぐいぐい!

純一「いたっ──え、さっきから見てたって……僕と薫のこと?」

七咲「そうですね。その先輩と何時も仲良さそうにされている方と、
   一緒に楽しそうに会話をしていた所をみてたんです」ぐしぐい!

純一「何処から見てたのか分からないけど……そこまで楽しい会話してなかったけど」

七咲「そうですね、これはその──ただの皮肉ですから。気にしなくていいです」

純一「そ、そうなの……?よくわからないけど、七咲…なんか怒ってる?」

七咲「──べつに怒ってませんよ。おかしなことを言うせんぱいですね……」

七咲「……ただ、最近は私の泳ぎを見に来ることもなくなってて。
   グラウンドで堂々と私に告白をしてきた人とは思えないほどに──…」

七咲「私をないがしろにしたことを、べつに怒るわけないじゃないですか…先輩?」ぐいごき!

純一「っ!……な、七咲…その、いま変なおとしなかったかな…?」

七咲「気のせいですよ」

七咲「──それよりも、先輩。ちゃんと説明してください」

七咲「どうしてここ最近、私の泳ぎを見に来てくださらないんですか?
   ──あのときの、私に言ってくれた言葉は……嘘だったんですか…?」

純一「い、いや嘘じゃないよ! ちゃんと僕は七咲のこと……」

七咲「……私のこと、を?」

純一「っ……す、すきだって……うん、思ってるよっ……?」

七咲「もっとはっきりお願いします」

純一「だ、だからその……! す、すきだって───!」

七咲「すみません、ちょうど風にかきけされて聞こえませんでした」

純一「ほ、本当にっ?」

七咲「本当です。ですからもう一度お願いします、先輩」

純一「だ、だからさ……僕は、けっして七咲のことを嫌いにはなってないよ?
   その、色々と最近七咲と喋ってないって思ってたけどさ……」

純一「でも、それでも僕は──七咲のことは大好きだからさ、うん」

七咲「───………はい、わかりました。先輩」

純一「そ、そう?なんだか恥ずかしいことをいっぱい言った気がするよ」

七咲「別に恥ずかしいことじゃありませんよ。これは大切なことなんですから。
   ──先輩と私、それは大切な言葉でつながっていなくちゃだめなんですよ?」

純一「え、ええと……なんだかそれって良い言葉だね、七咲」

七咲「ええ、ですから。私もおかえしに言ってあげなくちゃいけませんよね」すっ

純一(え、急に座り込んで──それじゃあスカートの中身、見えちゃうよ七咲!)

七咲「……ふふっ。別にせんぱいでしたら見てもかまいませんよ?」

純一「──えぇっ!? ぼ、僕はべつに……!」

七咲「──これは言わないでおこうと思ってましたが……なんだかそうやって穴に、
   はまり込んでる先輩って、小屋の中にいる犬みたいですよね」

純一「そ、そんなこと言わないでよ…!冗談じゃなくて、本当に困ってるんだからさ…!」

七咲「わかってますって。でも、そんな可愛い先輩をちょっとは見てたいんです」

七咲「それと同時に──好きだって言ってくれた先輩にお返しとして、
   こうやって座り込んでいるんですよ?」

純一「座り込んでるって……僕は、助けてくれた方がおかえしとして──……ッ!?」

純一「……な、七咲…! そ、そんな風に手を下したらスカートが……っ!!」

七咲「スカートが? どうかなさいましたか?」

純一「え、だってそれだと抑えてた端が垂れて……その、中が丸見えに──」ちらっ

純一「───空に晴れ渡る青空を隠すような、天をさす高き白い雲って……偉大だよね」

七咲「──ふふっ……はい、これでおしまいですよ先輩。
   ……ちゃんとお返しは受け取られましたか?」

純一「ああ、そうだね。綺麗な白い月だったよ、七咲」

七咲「よくわかりませんけど……先輩が嬉しそうなのでよしとしましょう。
   じゃあ、そろそろ助けてあげますね」

純一「ああ、是非によろしくたのむ」

七咲「よいしょっと─よいしょ……」ぐいぐい!

純一(んん、こうやって見えるチラリズムもなかなか…)ごき!べき!

数分後

七咲「──えぇと、先輩……その…」

純一「──いや、言わなくてもわかるよ七咲。今この状況は、僕が一番わかってる」

七咲「すみません…その、お役に立てなくて」

純一「いいんだよ、折り曲げられた状況じゃ無くなっただけでも儲けもんさ!」

七咲「ですが……」

純一「良いんだよ。ほら、もう七咲は行かなくちゃいけない時間だろ?
   僕はもう諦めたからさ、七咲は先に行ってていいからさ」

七咲「わ、わかりました……途中で職員室に先生を呼んできますので、
   それまで待っててください先輩」

純一「あ、それは駄目だよ七咲。それだとこの穴がばれて、遅刻したときの
   ルートが潰されちゃうよ。だから先生には秘密にしておいてくれないかな」

七咲「ですけど……先輩はそこからどうなされるんですか?」

純一「うーん、まぁここまできたら自分でどうにかできると思うよ。
   だから心配しないで行ってきなよ」

七咲「……先輩がそうおっしゃるなら──わかりました。では、私は行きますね」

純一「うん、遅れないようにね七咲」

七咲「先輩こそ、遅れないように。……もう遅いかもしれませんが」

純一「ははは。それじゃ七咲またね」

七咲「ええ、また先輩合いましょう……
   いや、これはちがいますね───大好きな先輩っ!また合いましょうねっ」たったった…!

純一「こ、こら七咲……! ──ふぅ、ここ最近になって七咲は…ちょっと大胆になってきたなぁ。
   さっきもスカートめくってきたし……いや、それは嬉しかったけどね」

純一「──七咲も、真面目そうに見えたえっちぃなぁ……声もえっちぃもんなぁ」

純一「…………」

純一「うんしょ!」がさごそ…

純一「……やっぱ出れないよ。本当にこれどうしよう…」

純一「……はぁあ。もう怒られるのはわかってるけど、絢辻さんに怒られるのは嫌だなぁ」

純一「それとも僕のこと心配してくれてるだろうか……いや、ないな。絶対に怒ってるよこれは」

純一「…………」

純一「──そういえば僕、なんでこの穴のことを知っているんだろう…?」

純一「ここ最近で、見た覚えもないのに……こうやって知ってて当然のように穴を覚えてた」

純一「……これも、思いだしそうになってる記憶なのかなぁ。でも、誰と一緒に過ごした記憶だろう」

純一「───僕は、できれば森島先輩とだったらいいのになぁ……」

「あれれ、どこかで私の名前を呼んだ子がいる気がするわ!」

純一「ん、この声は───」

「んん~……この声は、そうね──橘君! 橘純一君だわ!」

純一「は、はーい! 僕ですよ森島せんぱーい!」

「むむむ。声は聞こえるのに姿は見えない……さては橘君、忍者の家計だなっ?」

純一「ち、違いますよー。僕はここにいますよ森島先輩!」

「あら、こっち? こっちかしら?」

純一「あ、はい。声が近くなってきてるので……そうそう、そうです。ここですよ先輩!」

森島「こっちね!───わぁお! 橘君、なんだか面白いことやってるわね!」

純一「まったく面白くないですよ……というか先輩は、この時間帯になにをやってるんですか?」

森島「えっとね……実は響ちゃんを覗きに来てたの!でもでも朝連終わっちゃったみたいでね、
   こうやって一人さびしく教室に戻ろうとしてたところかなぁ」

純一「覗きに行ったって……でも、見つかったら大変ですよ」

森島「そうなのよね~。見つかったら響ちゃんにこっぴどく叱られるって思ってたけどね」

森島「──でも、そんな困難を乗り越えての…幸せでしょ!宝の光景でしょう?」

>>2のURLが前編と後編1が一緒になってる

純一(た、確かに僕にとってはそうだけど……森島先輩にいえるわけないよな、そんなこと。
   というかそれよりも、ここから抜け出してくれるよう頼んでみないと)

純一「……ご相談があるんですけど、先輩」

森島「あら、なにかしら?」

純一「その、僕……ここから出られなくなってまして…
   どういった状況でこうなったkはあえて聞かないでください」

純一「でも、不本意な形でこうなってるのは事実です。
   そこで出来たら助けてくれ下さると嬉しいんですが……」

森島「そうなの? わたしったらてっきり橘君が自ら穴にはまってるって
   思ってたんだけど……違ったのね」

純一「ち、違いますよ…! 僕がそんなことするわけないじゃないですか!」

森島「ふふ、冗談よ。そうね、私も今は暇だし~……おっけー!橘君、助けてあげるわよ!」

純一「あ、ありがとうございます…! そ、それじゃそのひっぱってくれれば、後は抜け出すだけなんで…」

森島「──うんうん、それで?」

純一「そう、ですね…こう引っ張れば、僕もこう動いて…」

まちがった
ほしゅどうもです

ずぼっ!

純一「うおっ!? や、やった…!やっと抜けれたよ…!」

森島「よかったね橘くん、これでよかったの?」

純一「ええ、一時はどうなるかと思いましたよ……でも、森島先輩が通りかかってくれて
   本当に助かりました」

森島「そう? 君が助かったって思ったのなら、私も嬉しいわ。
   ……でも、橘君が助けてって言ったのはちょっと新鮮だったよ~」?

純一「え、どうしてですか?」ぱんぱん…

森島「ほら君ってば一人でこなしていくイメージがあるからね。
   それで私の手がなくても、だからどんなことがあっても大丈夫って思ってたの」

純一「そ、その気持ちはありがたいですけど…出来ることとできないことはあるわけですから…」

純一(薫もそうだけど、なんでこうも僕が凄い人間だと思うんだろうか…)

森島「そうかしら? 私には、人が出来ないって思ったことを、
   君は何だってかなえて食える人だと思ってるよ?」

純一「えらく持ち上げますね……僕はなにもでませんよ。出して上げたいんですけど…」

森島「いいの。私はもう、今でもいっぱいもらってるから」

純一「え…?」

森島「──今日は橘君と会えて本当によかったわ!
   あのときのこと、もう一度ちゃんとお話をしておきたかったの」

純一「あの時のって……路美雄の時のことですか?」

森島「そうそう。あ、そうだ立ち話もなんだからどっかで座りながら
   おしゃべりしましょう。それがいいわね!」すっ

純一「え、えっと……それは僕にとっても嬉しいことなんですけど。
   先輩は急いでないんですか?」

森島「大丈夫よ! ──ひびきちゃんに色々と頼まれてた気がするけど…
   思いだせないから、そこまでたいしたことじゃないわ」

純一「そ、そうですか……でも、まぁ、僕もそこまで急いで行くこともないですし、
   それじゃあ行きましょうか!」

森島「おっ。いきなりやる気になったわね橘君」

純一「当たり前じゃないですか! 先輩とおしゃべりできるなんて、
   それだけでも嬉しいですよ」

森島「ふふっ。相変らず橘君お世辞得意ね。でも、ありがとね」

純一「いいんです。先輩が気を使うことはありませんよ」

森島「──相変らず優しいね、橘君は。それじゃあ行きましょう!」1

純一「はい…!」

テラス

森島「──んーと……ここなら落ちついておしゃべりもできるよね?」

純一「テラスですか……この場所って、職員室から丸見えじゃないですか?」

森島「いいのいいの。私は先生より、ひびきちゃんに見つかる方が怖いんだから!」

純一「そ、そうですね……あ、そうだ。先輩飲み物っていります?
   そこの自販機で買ってきますけど……」

森島「あっおねがーい! 私は紅茶でいいわよ!」

純一「わかりました」たったった…

純一「いや~先輩と出会うなんて、今日はついてるなぁ。
   確かに路美雄との件からだいぶあってない気がするよ」

純一「──そういえば、路美雄は最近みないけど……元気にやってんのかな」

数分後

純一「──よいしょっと。なんか自動販売機壊れてて、
   余分に缶ジュース出てきたよ…これってついてるのかな」

「──へーそうなの~」
「はい、ですから──」

純一「ん? この声は──誰かいるのか?」

「──あ、先輩っ!」

純一「おう、なんだ君か──路美雄、久しぶりだね」

樹里「はい、おひさしぶりです! 橘先輩!」

純一「うん、元気にやってたの? 最近、君の姿をみてなかったからさ」

樹里「はい、今日から登校が決まったんできてたんです。
   そうしたらテラスに森島先輩がいるのに気付いて」

森島「そうなの! 樹里くんって頑張ったらしいよ?
   親御さんを無事に説得してきたらしいの!」

純一「へー! よかったな路美雄……大変だったろ?」

樹里「い、いえ……これも橘先輩のおかげですから…えへへ…」

純一「そっか。あの紗江ちゃんの件が効いたんだね」

樹里「はい──あれから中多さんは大分変りましたし、最近もよく
   学校にでてるみたいでしたし、それが…許嫁の件をスムーズに終わらせてくれました」

純一「うんうん。でも、ちゃんと紗江ちゃんにも報告したの路美雄?
   これは僕だけじゃなくて、お前の意志でもあるんだから。ちゃんと言わなきゃだめだよ」

樹里「はい、そうですね…ですから、それを僕の件で迷惑をかけた人に報告をするために……
   こうやって今日は学校に来てたんです」

樹里「──ですからちょっと遅れて学校に来たんですけど、先輩方……なにやってるんですかここで」

森島&純一「……えっとー…」

樹里「……。なんだか今日も、先輩方は自由なことをしているようですね。羨ましいですよ本当に」

森島「でもでも、樹里君。君も自由になったんだから、今日はぱーっとここでおしゃべりしていきましょ!
   今日はその自由を楽しむことに使うべきよ!」

純一「そうだよ、路美雄。僕だって君の大変だった話も聞きたいしさ、ほらジュースだって三本あるしね」

樹里「えっと……そのお邪魔でないのであれば、是非お願いします」

数分後

森島「──なるほどね~……親御さんは、君のことを思ってそうしてたの~」

純一「いい親じゃないか。路美雄の為を思って──自分たちからはやく一人立ちをして、
   自分のお金で生活できるよう、計らっていたなんて」

樹里「はい、僕もまさか……自分だけの会社をもたせようとしていたなんて思いもしませんでした。
   それで許嫁をつくって、一人立ちを企てていたなんて……」

純一「……自分だけの会社を持たせるって、まるで人生ゲームみたいな話だなぁ」

森島「あら、そう? 私の兄もそうやって両親から会社をもらってたけど……」
樹里「え、そういったもんじゃないんですか? 先輩?」

純一「えっと、僕はわからないかな……? あはは…」

純一(よくよく考えたら、この二人はいいとこの子供だったんだ…この話はついていけないなぁ)

純一「──あ、路美雄。君はいつからちゃんと学校にくるの?」

樹里「そうですね──それはまだ、ちゃんとは決まっては無いんですが…とりあえずは今日からは
   学校にこれるみたいです。ですから、先輩よろしくお願いしますね」

純一「うん、いつだって僕の所に合いにおいでよ。ジュースぐらいだったらおごってあげるからさ」

樹里「あ、ありがとうございます…っ。僕、絶対に先輩の所に会いに行きますね…っ!」

純一「うん、そうだよ。こうやって仲良くなったんだからさ」

森島「あ、そうそう樹里く───」

樹里「橘先輩! それで、その……今日は放課後とか空いていますか?」

純一「え?放課後? うーん……今日はちょっと用事があるかなぁ。ごめんね」

森島「えっと……あのー橘く──」

純一「あ、でも明日ならべつにいいよ? たぶん、空いてるだろうしさ」

樹里「え、本当ですか!? じゃ、じゃあ明日に牛丼を食べに行きませんか?!」

森島「おーい、みんな───」

樹里「あそこの汁、だくだくだくっていうのを食べて見たいんです!
   是非に僕におごらせてください!」

純一「いやいや、牛丼ぐらいだったら僕が自分で買うよ。
   というか牛丼よりも、美味しいラーメン屋があってさ。そこに行こうよ」

樹里「え、先輩のおすすめのラーメン屋ですか…!? いきます!いかせていただきます!」

森島「………………」

純一「うん、そしたら明日に───あれ、先輩どうかしましたか?」
樹里「はい、明日に──あれ、森島先輩……?」

森島 ツーン

純一「そっぽなんか向いて…先輩も話に加わりましょうよ!
   今はほら、路美雄とラーメンを食べ行く話をしてまして……」
樹里「そうなんですよ、先輩のいきつけのラーメン楽しみでして……」

森島「──……なによなによ、二人して。わたしのことをのけものしちゃって。
   さっきから話しかけてるのに、二人とも全然きいてくれないし」

純一「え、そうだったんですか?気付かなかった……」
樹里「ぼ、ぼくも……」

森島「わたしもらーめんたべたいなぁー。わたしも一緒にあそびたいなぁー」

純一「森島先輩も行きましょうよ! ね、路美雄?」

樹里「──え、あ、はい! そうですよ! 森島先輩も一緒に……はい!」

純一(ん……? なんだか返事の切れが悪いなぁ路美雄…どうしたんだろう?)

森島「───むむむ。きみきみ、樹里君。もしかして」すっ

樹里「えっ……なんですか、森島先輩──内緒話ですか…?」

森島「────」こしょこしょ

樹里「──ち、ちがいますよ! ぼ、ぼくはけっしてそんなことは……っ!」

森島「わかるわよー……だって橘君って、誰にでも好かれそうだもの」

純一「?」

樹里「い、いや…だからってそんなことはありえませんよ…っ!
   だってほら、ぼくはまだ森島先輩のことを──」

森島「あら、そうなの? そしたらほら──……こうしちゃったら、
   君はどう思うのかな?」ぎゅっ

純一「ちょ、ちょっと森島先輩…!? いきなり僕の腕に抱きついてきてどうしたんですか…!」

樹里「なっ───」

森島「……ふふ。わかったわ樹里くん、今の光景で最初に確認したのは──橘君の顔だったわね」

樹里「そ、そんなわけ──ぼ、ぼくはただその変態そうな表情をした先輩が最初に目に入った
   だけでして……!!」

純一「おい」

森島「そうなの? うーんと、わたしにははっきりと橘君の顔を見て──心配そうな表情を作った気が
   したんだけど……気のせいかな?」

樹里「……っ……それは…違いますよ……違いますから!!!」

森島「かわいーわね樹里君…その思い、応援したいけどね。
   私も頑張って狙ってるから──なかなかそれは応援しきれないの」

森島「君がどんなに強い思いを持ってたとしても、わたしに勝たなきゃダメよ?
   橘君が──私と樹里君と付き合ってるふりをしていたとしても、そこに突っ込んでいくような」

森島「そんな強い気を持って立ち向かわなきゃ、誰だって振り向かないの」

樹里「ですから……ぼくは…」

純一(な、なんの話をしているんだろう……というか先輩の、その、やわらかいところが二の腕に…っ)

森島「それに、わたしだけじゃないの。彼にはいっぱい候補がいる──わたしがしってるだけでも、
   五人はいるわ───ん、だとしたら君も含めて六人ね!」

樹里「………………」

森島「だから、これはお互いに宣戦布告ってわけかな?
   わぁお!……ふふ、なんだか面白くなってきたわね!そう思わない?橘君っ!」

純一「そ、そうですね……僕もなんだかたのしくなってきました……や、やわらかい…」

樹里「……──そう、ですか…ぼくは、そんなことになってたんですか……」

森島「──そうよ、誰だって好きだって思いは疎いものよ。私は特別そういうのって疎い方だと、
   自分でも思ってるけど……こと、それが慣れないものだったら疎くなるのが普通なの」

森島「君は確かに変な思いを抱えてるかもしれない──でも、それは誇っていいことなの!
   だって好きだって思いは、誰にだってばかにはできない素敵なことなんだもの!」


樹里「素敵なこと……これが、この気持ちが素敵なことなんですか…?」

森島「そうよ。だからどうどうとしてなきゃ!
   君は君でそれでいいの。私もそれを否定はしないわ…まぁ邪魔はするけどね?」

森島「樹里君ばっかり良い思いをさせないわよ──ねぇ、橘君。明日のこと私も言っていいかしら?」

純一「くんくん……えっ!? あ、はい!是非ともきてください!!」

森島「うん、ありがと!」

樹里「………はぁ、なんだか学校にいるみなさんにご報告をしに来ただけですのに…
   なんでしょうか、この疲れは……」

森島「わぁお! 樹里君、とても疲れた表情をしてるわよ?大丈夫?」

樹里「え、ええ…大丈夫です。それにこれからまだ言わなくちゃいけない人たちがいるので……
   先輩方、ぼくはこのへんでおいとまさせていただかいます…」がた…

純一「え、うん。気を付けていってこいよ路美雄……本当に大丈夫か?」

樹里「………大丈夫です。先輩も、明日のことを忘れないでくださいね──では…」すたすた…

森島「う~ん! 彼も良い表情をするようになってきたわね……少し大人になったのかしら」

純一「え? どうなんでしょうね……僕にはわからないですけど」

>>50
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美也「にぃにー! あっさだよー!」 - SSまとめ速報
(http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1321003282/304)
これです すみません

ちょっとトイレ

純一「と、というか先輩……いつまでこうやって抱きついてるつもりですか…っ?」

森島「…いやだったかしら?」

純一「い、いえ…いやじゃないですよ! 逆にもっと強く抱きついてもらってもかまいません!」

森島「ふふっ! ──橘君、君もしょーじきものでとっても好きよ」

純一「え、好き!?」

森島「そうなの。……まるで子犬ちゃんみたいね」

純一「ああ、そういう………」

森島「──でも、そんな子犬ちゃんでもちゃんと恋をする」

純一「え……?」

森島「この子の為に頑張りたい、この子の為に生きて行きたい。
   そうやってしっぽをブンブン振って頑張る君は、ちゃんと恋をしている……」

森島「……ねぇ、橘君。君はあの時に、私に告白したことを──後悔してる?」

純一「──な、なにをいってるんですか……僕は…!」

森島「いいの。これでも橘君より年上よ?
   わかってることは、ちゃんとわかってるつもりなの」

森島「君が私に思っていた思いが──君の恋の妨げになっているのなら、
   それは私も悲しいと思ってるし、ちゃんと君にも選んだ幸せを見つけてほしい」

純一「先輩……」

森島「こうやって色んな娘たちから思いを寄せられて──んと、ここは子たちかな?
   君はとても幸せ者だと思う」

森島「でも、それよりももっと……橘君を好きになった子たちの方は、幸せだと思うわ。
   ──だってこんなにも凄い子を好きになるって、とても良い経験だと思うもの」

純一「凄いって……僕は、全然そんなことは……」

森島「これは素直な気持ちよ。だから君にも素直に受け取ってほしいの。
   ──だから君はなにも悪くない、君は……最後には誰かを選ぶべきだと思うわ」

森島「その結果に──私は後悔をしないように、これから過ごすつもり。
   君が選んだ幸せのカタチを、後になって辛くならない様……私も頑張るの」

森島「──橘君、私は君が好き。
   誰かの為に頑張る君は、私には不安でいっぱいだけど……それでも好きでしょうがないの」

純一「せん、ぱい……」

森島「それに君が見つけた幸せも──ちゃんと応援してあげる。その隣に、私がいなくても
   誰か違う子がいたとしても──それでも、君の幸せを願ってあげる」

森島「だってそれは、君に恋した気持ちが大きくて……素敵過ぎて、それで満足しちゃうくらいに
   君は凄いんだもの。確かにそばに居たらずっとそれを経験できるけど……」

森島「……でも、それは樹里君に言った言葉通り──生半可な思いじゃ、安易に自分のものにならないから」

森島「君は凄いから、周りの子も頑張るはず。君がそれに答えるだけの──気持ちと余裕を持たなきゃダメ。
   だから君は……私みたいな子に、囚われたままじゃダメなの」

純一「……でも、僕はまだ……先輩のことを…」

森島「──ありがと、橘君。本当にその気持ちは嬉しい。……でも、それは告白してくれた時と同じぐらいの…
   …あの時の気持ちでいてられてる?」

純一「それは……その…」

森島「……………」

純一「──……はい、すみません。僕は告白した時と、その時の気持ちとは…違いがあります…」

純一「あのときの僕は……確かに、先輩が好きでした。今でも、その気持ちには変わりはありません…
   でも、その気持ちが──まっすぐ先輩だとは、いいきれません……」

森島「うん……続けて」

純一「僕は……この一カ月で、色々なことがありました。先輩の件もそうですし、それに他の子たちとも……
   その中で、僕は色んな子たちの顔を見ました……」

純一「──この子は不安がってる。この子は頑張ってる。この子はこんなにも可愛いって……それは、僕が知らない
   彼女たちで、仮に知ってても無視はできない彼女たちで……」

純一「……僕は、そんな彼女たちを──嘘をついてまで、自分を誤魔化してまで、接することはできません……」

純一「これがどれだけわがままなことなのかって……わかってるつもりです。
   路美雄が以前、僕に言った言葉通りの……そんな奴になってるかもしれません」

純一「餌を選んでつまみぐい、好きなものを最後に選んで──後のことはしらんぷり」

純一「それは、確かに僕は否定をしたい──でも、今の現状はそうなってしまっている…」

純一「……でも、僕はそれでも。そんな状況になったとしても……僕は──」

森島「──君は、最後まで頑張るのよね」

純一「……はい、僕は頑張るつもりです。僕は決して今の状況をそのままにするつもりはないです。
   森島先輩が言った通り、僕は絶対に──この状況をどうにかするつもりです」

純一「それが、どんな結果だとしても……僕は最後まで頑張ります。
   ──先輩、僕はもしかしたら貴方を悲しませるかもしれない」

森島「うん、それは覚悟してるわ」

純一「……すみません。でも、それが先輩が言ってくれた通り──僕が僕らしく、気持でいられるのなら。
   ちゃんと幸せの形になると……いや、なるように僕はするんです」

森島「…期待してるわ、橘君。私は君のことは本当に信頼してるの。
   これだけのことになっても……こんなことになっても、君は絶対に後悔をしないと思う」

森島「だって、そんな君を……私は好きになったんだから!」

純一「…ありがとう、ございます……先輩」

森島「自分を信用してあげて、橘君。私が好きになった君は、けっしてそんなことをしない子だと思ってる。
   だから私が好きになった君を、心から信用してあげてね」

森島「そうすれば──君は、絶対に幸せになれる。これはもう答えといっても違いはないの!」

純一「はい……」

森島「──まだまだ不安そうね、橘君。……あ、そうだ!」

純一「え、どうかしましたか先輩…?」

森島「──ふふっ。そうね、私もまだ君にちゃんとやっておかなくちゃいけないことがあったわ……」すっ

純一「えっなにを───ん…っ」

森島「──ね、橘君? 私は君にちゃんといつかは……口にって言ってたわよね…」

純一「で、でもこんないきなり…!!」

森島「ううん……いきなりじゃないの。これで、私はちゃんとここの立場にこられた。
   私はいつもそればかり考えてたんだよ? でも、それもここでおしまい───」

森島「──君を好きでいられると思える、自分が今ここにいるの。
   だから、橘君……君も私に振り向いてくれるよう、ものすごく頑張るから」

森島「この思いについてこられるほどに───君はどうか、ついてきてね。
   ふふ、こんなこと言われなくてもわかってたかな?」

純一「──いえ、先輩……ありがとうございます。僕、頑張りますから」

純一「だって先輩にこれほどまで好きって言われて……頑張らない男なんて、
   この世にいるわけないですもん!」

森島「そうよ~! 私が好きになるって、ひびきちゃんに言わせたら……本当に凄いことなんだって
   いってるもの。だから橘君はその凄さにびっくりしちゃだめよ?」

純一「はい、頑張ります!」

森島「良い返事ねっ。じゃあ私はそろそろ行くね……ひびきちゃんの用件も思いだしたし」

純一「そうなんですか? だいぶ時間を取らせてしまいましたけど……」

森島「いいの。ひびきちゃんもわかってくれてると思うわ──だから、ここでお話ししたんだもの」

純一「え…? それってどういう───」

森島「さーて! う~ん……ひびきちゃんに怒られにいこっかなぁ~…うん、ちょっと逃げたくなってきたわ」

純一「それだと、逆にもっと怒られそうになりませんか…?」

森島「だいじょーぶよ! んじゃ橘くん、まったね~」すたすた

純一「はい、また!」

純一「……そしてこれから、お願いします。森島先輩……」

ちょっと電話
三次には戻ります

ありがとう
いまからかきます

校舎入り口

森島「ふんふ~ん…♪」すたすた

森島「──ここらへんかな。ひびきちゃーん、でておいで~」

「───……あら、ばれてたのはるか」

森島「あたりまえじゃない。だって、絶対に見てるって思ってたもの」

塚原「──そうなの、けっこうばれないよう気を使ってたつもりだったんだけどね」

森島「私とひびきちゃんの仲で、隠し事なんてムリムリ」

塚原「そうね、改めて思い知ったわ。……それで、言ってきたの?」

森島「え? うん、ちゃんと言ってきたよ。好きだよって」

塚原「そう、なの……で、彼の反応は?」

森島「ひびきちゃんが想像してる通りだと思う。
   ──とりあえず振られちゃったかなぁ。ふふ、橘君も罪な男ね~」

塚原「……でも、はるか。とても振られた直後とは思えないほどいつもどおりね」

森島「そうかしら? これでもけっこう、落ち込んでるよ?
   だって好きだって言われて、だめだって言われたら誰だって落ちこんじゃうもの」

森島「いくらか私から曖昧にしちゃったけど…それもただの逃げ道だし、
   私のことを彼が思ってくれてるよう、ちょっと悪戯めいたことを言っただけ…」

塚原「……一体なにをいったのかわからないけれど、それは後悔しているの?」

森島「──ううん、後悔はしてないの。だって、本当に思ったことなんだもの」

森島「私は──彼のことを好きだと思ってる。だから、私のことを思ってほしい。
   それに、彼も色々と悩んでいたみたいってことは知ってたから──」

森島「わたしも、そこに甘えさせて……いさせてもらおっかなって。ふふ、私もたいがいね」

塚原「……はるかがそんなにも一生懸命になるってことは、めずらしいことだと思う。
   でも、それを後悔してないでいられるってのは──とても良いことだと思うわ」

森島「そう? ひびきちゃんに言われたら…ちょっと自身が湧いてきたな。
   ありがとうひびきちゃん」

塚原「ええ、どうってことないわよ」

森島「──それでそれでぇ……ひびきちゃん、どうおもったかしら?うん?」

塚原「な、なによ…はるか」

森島「え~! だって見てたんでしょう? ──だったら、私と彼がキスしていた所を
   見てたんじゃないの?」

塚原「っ……べ、べつに私はどうもおもってなんか……っ」

森島「またまた~…そうやってすぐひびきちゃんは隠し事をするんだから。
   ほらほら、いってよひびきちゃん。どうおもったの?ねぇってば?」

塚原「だ、だからなにも思ってなんかいないわよ…っ!
   ──わ、わたしだって……色々とあれだし…」ゴニョゴニョ…

森島「──え? もしかしてひびきちゃん……もう、橘君と…?」

塚原「え、えぇえ!? ち、ちがうわよはるか!? それはその…!
   なんというか不可抗力っていうか……!!私もそれなりに考えて行動したことであって……!
   だからその、私が本意でやったことじゃなくてね…!!」

森島「え、ひびきちゃん……ほんとうにキスしたの?」

塚原「え……? いや、はるか……」

森島「ちょっと冗談でいったつもりだったのに……そうなんだ、ひびきちゃん…私より先に、
   彼とキスを済ませてたんだ…そうなんだ…」

塚原「ち、ちがうわよはるか!? い、いや…違わないけど……それはあれでね!?」

森島「くやしいなぁ……これでも、ひびきちゃんよりは先にいってるつもりだったのに…」

塚原「は、はるか……?」

森島「──あ、そうだ! ひびきちゃん、キスしよっか?」

塚原「……はい?」

塚原「な、なにいってるのよはるか…!? あたまおかしくなったの…!?」

森島「もーぅ。そんなこといっつもひびきちゃんから言われてるわよー。
   だから今は正気よ?」

塚原「ちゃんと日本語を喋ってよはるか……なにをいってるか自分で理解できてる…?」

森島「できてるできてる。それじゃ、ひびきちゃん──ん~!」ずいっ

塚原「ちょ、ちょっとはるかやめなさい…!なんでそんな力がつよっ……本当にっ!」ぐいぐい

森島「だって~。こうやってひびきちゃんとキスすれば、間接キッスで彼とのキスした時の思いも、
   二人してげっとになるじゃない!」ぐいぐい

塚原「ならないっ! ならないから……ちょ、ほんと、顔が近いから…!」ぐいぐい~

森島「そんなてれなくてもいいじゃないの~。ほらもう少しで───」ぐいっ

塚原「あ、ちょと、はるか……やめ────」


数十分後

純一「ふんふふ~ん♪……あれ、あそこに座り込んでるのは…」

塚原「──あ、きみ……」

純一「……塚原先輩じゃないですか、どうしたんですか入口の前で」

塚原「いや、うん……なんでもないわ。ちょっとものすごい経験をしただけだから…」

純一「そ、そうなんですか……よくわかりませんけど、わかったことにしておきますね…」

塚原「──……うん。なんだか君と喋ったら気分が戻ってきたわ……ありがとう橘君」

純一「え、そうですか? なにもしてませんけど……良くなったならよかったです」

塚原「ええ、本当に……はるか──覚えておきなさい……!」

純一(なにか森島先輩とあったんだろうか…? よくわからないけれど…)

塚原「──ふぅ…それで橘君、はるかとはちゃんと会話できた?」

純一「え、あ、はい……そうですね。ちゃんとできました」

純一「──やっぱり、森島先輩は凄い人でした。
   こうやって僕の悩みを聞いてくれて、それの答えまで言ってくれました……」

純一「……感謝しても、しきれないぐらいですよ。本当に…」

塚原「そう、よかったわね。これから色々と──その、大変だとは思うけど」

純一「え、ああ、そうですね……頑張りたいと思ってます」

塚原「──どうやら大丈夫そうね。心配して見に来たけど……こうやって君は
   ちゃんとやってるんだもの。──春香をよろしく頼むわよ、橘君」

純一「はい、わかりました……塚原先輩」

塚原「ん。でも橘君──これは覚悟しなきゃだめだからね」

純一「え、覚悟ですか…?」

塚原「そう、あのはるかが……本気になったんだから。
   ──あの子はこの世に愛されてる。本人が思ってもないことが常に起こるほどに」

塚原「そんなはるかが──本気になったのなら。橘君、君は本当に……大変な目に合うとおもうわ」

純一「そ、そうなんですか…?」

塚原「ええ、それは親友の私が保証する……それに、またあのカチューシャを付け始めたしね」

純一「カチューシャ…?」

塚原「そうなの。最近はずっとポニーテールだったけど……あの偽彼氏の件からずっとつけてなかった奴なの。
   それをつけ直すって言ってたから……たぶん、あれは本気ね」

純一「──そう、なんですか……」

純一(……あれ…? なんだか森島先輩の髪留めを考えたら──あの、もやもやが湧いてきた……)

純一(これはもしかして──あの、記憶を取り戻すための…フラグか…?)

純一「……それで、先輩はどこにいったんですか?」

塚原「はるか? ──どうかしらね、多分…教室に戻ったと思うわ。会いに行くの?」

純一「──はい、ちょっと森島先輩に用があって」

塚原「そうなの。だったら行ってきなさい──応援してるわよ、橘君。
   私は……色々な娘を応援してるけど、君が一番と思える幸せをみつけてほしいと思ってるから」

純一「はい、ありがとうございます先輩……では、これでっ!」たったった…

塚原「またね、橘君………ふぅ…」

塚原「──なんだか、疲れたわ…橘君、本当に大丈夫かしら……」

塚原「──七咲も、はるかも…また凄い子を好きになったものね───………」

塚原「………ま。人のこといえないけれど」すたすた…

廊下

純一(塚原先輩がいったカチューシャの件……それを言われただけでもやもや出た。
   それはつまり、とても大きなフラグのこと──)ったったった!

純一(──フラグとは、絢辻さんいわく……思い出される記憶の断片。
   それを僕という知らない僕が知っていて、思い返される一つ……)たったった!

純一「つまりは、森島先輩の記憶フラグってわけだ……!」

純一「──よし、ここをまがればって…うおっ!?」

「きゃ……っ!?」

純一「おっとと──す、すみません! ちょっと急いでいたものですから…!」

絢辻「──あら、橘君」

純一「え、あ、絢辻さん…!?」

絢辻「なにをそんなにも驚いてるの。私の顔になにかついてる?」

純一「──え……その、仮面…?」

絢辻「ちょっとこっちきなさい」ぐいっ

純一「え、ごめん…! ちょっとした冗談だよ…!?あ、そんなにネクタイ引っ張ったら、
   く、首が……!!」

とある空き教室

絢辻「──ここなら誰もいないわね」

純一「けほっ…もう、絢辻さん…あんなかっこうしてたら誰かに見られてたかもしれないよ…?」

絢辻「そんなのあたしが把握しきってるにきまってるでしょう。
   そこら辺はぬかりないわよ」

純一「あ、そうなんだ……」

純一(仮面がはずれた絢辻さん……この変わりようは凄いよなぁ、うん)

絢辻「──なにやら失礼なことを思われてる気がするけど、今は良いわ」

純一「え、そ、そんなことないよ…!うん!」

絢辻「……はぁ。それで貴方はあたしに言わなくちゃいけないことがあるんじゃないの?」

純一「え、いいたいこと…? あ、そうだった…今日はごめん!
   今朝の仕事を手伝うって言ってたのに…!」

絢辻「ホントにね。昨日あれだけ──貴方から、貴方からっ……仕事をしたいって言ってきたのに。
   今日になってみれば来てない。あたしが心配になって探しても、いない!」

純一「え、心配してくれてたの…? ははは、ありがとう絢辻さん!」

絢辻「い、いまは別にそんなことどうだっていいの!
   とにかくそれなりの理由を言ってもらわないと、あたしを満足しきれる理由があるならの話だけどね」

純一「ええっとその……」

純一(──考えてみれば、ろくな理由じゃないよ…!フェンスにはまってました。
   なんていっても絢辻さんが納得するわけないし……!)

純一「そ、そのことはちゃんと申し訳ないって思ってるけど…!
   それよりも──あれだよ、絢辻さん!」

絢辻「それよりもって言葉が気になるけど……なによ、大事な話?」

純一「そ、そうなんだ! さっきフラグを感じたんだよ!」

絢辻「フラグ?──ああ、あたしがいった橘君の記憶を思い出される瞬間の?」

純一「そうそう。そのフラグ……今回は森島先輩だったんだ」

絢辻「……そう、今度は森島先輩。フラグのものはなんだったの?」

純一「え? ああ、ものはたぶん──先輩のカチューシャだと思うよ。
   その話をしただけで、けっこうなもやもやが湧いてきたから」

絢辻「なるほど、ね……それでその記憶は森島先輩との記憶だったかしら?」

純一「うーんと、まだ思い出してないから何とも言えないけど……たぶん、今回もそうだと思う」

純一(僕が彼女たちのものや動物をふれて思い出す───この記憶。
   それは僕がなくした記憶じゃない。それは彼女たちと過ごした……それだけの記憶だ)

純一(それもなくなった期間の記憶じゃないくて……もっと別のもの。
   絢辻さんが持つ、愚痴手帳に書かれたような──世界が別のような、記憶たち)

純一(それが一体何なのか…僕と絢辻さんは知りたがっている。
   この思い返される記憶と、書かれた愚痴。それは何処から来ているのか)

純一(今のところの手掛かりはこの僕のフラグだけ……それをみんなから集めれば、
   なにかしらの答えに繋がるんじゃないかって思ってるんだ)

純一「…それで、今回のことで何かわかったかな?」

絢辻「…そうね、まだはっきりとはわからないけれど。それでも貴方が思い返す記憶の
   基準は、女の子ばかり」

純一「えっと…そうだね。確かにそうだ」

絢辻「どこも規律のとれたものじゃない……年、環境、関係性…どれも含めてもみな
   共通点がないんだもの」

純一「そう、だね……でもこうやって絢辻さんが頑張ってるんだ。
   絶対にわかるはずだよ、このことは」

絢辻「もちろんよ。それに──貴方にも頑張ってもらわないと」

絢辻「あたしもこのことに付きっ切りでかかれるほど、暇でもない。
   だから貴方がしっかりしないと、わかることもわからないわ」

純一「うん、わかってる。ちゃんとするよ」

絢辻「よろしい。とりあえずは──そうね、その森島先輩の記憶を取り戻してきなさい」

純一「うん、わかった。もう行った方がいいかな?」

絢辻「そうね。フラグのことは早く知っておきたいし……」

純一「うん!わかった! それじゃあさっそく言ってくるね!」だっ

絢辻「あ、ちょっと待ちなさい! まだ言いたいことが───」

絢辻「……はぁ。本当にせっかちね、彼って。
   なんで急がなくちゃいけないのか、わかってるのかしら」

絢辻「一個先輩はもうすぐ卒業──学校からいなくなれば、会う機会が減って大変だからって……」

絢辻「…………………………」

絢辻「──卒業、式……?」

絢辻「……おかしいわね。なんで卒業式って思ったのかしら……いや、だってそれは当たり前…」

絢辻「──そう思っていたから、あたしが学校の行事を誤認するわけがないから…。
   でもこの疑問は、なにかしら…だってそうよ、卒業式は───」

絢辻「──とっくに、終わってるはず……よね?」

絢辻「……なに、これは…どうしてそんなこと───」

ぴちゅん!

絢辻「え、なに……っ!?──テレビが勝手についた……?」

ワーワーキャーキャー…

絢辻「これは……どこかのライブ会場…?」

『はぁ~い! 今日はみんな、集まってくれてありがとねぇ~!』

絢辻「桜井、さん……そっか。アイドルになってたんだっけ……あれ、でもいつから…?」

『今日は新曲の、新しい歌だよ~! みんなぜひきいてねぇ~!!』

絢辻「いつから、桜井さんは……それに、思えば棚町さんも…転校は何時決まった……?」

絢辻「橘君が言っていた、七咲さんも……水泳の練習はいつまでやってるの…?
   中多さんも、彼女はいつから学校に来ていない…?」

『──それではみんなきいてぇ!新曲〝恋は何時でもとらぶりゅ~〟!!』

絢辻「わたしは──そもそも、勘違いをして────……」

うんこいてくる

三年教室前

純一「ここだよな。よし──入ろうっと……」がらり

純一「すみませーん、その森島先輩は──」

森島「──ん~…あれ?橘君?」

純一「──あれ?森島先輩、一人だけですか…?」

森島「うん、そうよ。来たらみんないなくて。だからこうやってのびのびとしてるの」

純一「あ、そうだったんですか……」

純一(──でも、いまって一次元目はじまったばっかりだよな。
   何で教室に誰もいないんだろう……あ、そっか!)

純一(体育の授業中なんだろうな。それなら納得だよ!)

純一「…………」

純一(いやいや待て純一……ッ! ならなぜ着替えがないんだ?
   どの机の上にも、着替え残しがないじゃないか……!?)

純一「──どうして、そんなことが……」

森島「あ、そうだ橘君! これ、どうおもう?」

純一「え、なんですか──っ……!!?」

森島「このカチューシャなんだけどね……こうやって付けるのも久しぶりなの。
   おかしくないかな───」

純一(……きた、もやもやだ。それもとても大きい。やっぱりこれが森島先輩とのフラグだ…)

純一「は、はい…とっても似合ってますよ?」

森島「そ、そうかしら? ありがと橘くん………」

純一「あの、その先輩……っ!」

森島「えへへ……え、えっとなにかしら?」

純一「えーとその、なんというか……そのカチューシャ素敵ですね」

森島「でしょう! これはね、私のお婆ちゃんが買ってくれた奴でね。
   すっごく大切なものなの!」

純一「そうなんですか──あの、そしたらちょっと聞きにくいんですが……」

森島「ん? どうかしたのかしら橘君」

純一(ど、どうしよう……とりあえずカチューシャを触れるだけでいいんだけど…
   大事にしてるっているし…もっともらしいことを言わなくちゃいけないよね…)

純一(とりあえず…このもやもやにまかせて、どうにか乗り切るんだ。
   口を開けば──僕ならこの状況もやってのけれるはずだから!)

純一「……その、先輩。僕───」

森島「うんうん、どうしたの?」

純一「───…女装に、興味があるんですよ」

森島「───……え?女装?橘君が?」

純一「……はい、そうなんです。かれこれ興味を持ち始めて大分経ちますけど……
   ちょっとその気持ちが大分膨れ上がってきたんです」

純一「でも、それはそうそう手を出しにくいことです。ですから先輩のカチューシャを借りて、
   ちょっと女の子の気持ちを体験してみたいなって思って──あれ、森島先輩?」

森島「っ……っ………」ぷるぷる…

純一「えっと…その、大きく目を開かれて…なんで震えてらっしゃるんですか?」

森島「──それは、その……あれなのかしら…」

純一「え? なんでしょうか?」

森島「それは───樹里、くんに……気に行ってもらいたい、から……とかそういうの…?」

純一「……へ? はい? なんでそこで路美雄のことが出るんですか?」

森島「……だってそうよね…さっきもすっごく仲良かったもの…それに、樹里君のこと下で読んでるし…」

純一(なにを小声でいってるんだろう? なんかおかしなこといったかな…?
   確かに女装が好きだなんて、変なこと言ったけど…これしかおもいつかなかったし…)

純一「あの、先輩……?どうかなされました…?」

森島「──え、いや! なんでもない、なんでもないのよ……うん」

純一「なんでもないって…そう見えないんですけど…?」

森島「そ、そうね……ちょっとショックが大きかったというか、そういう感じなのかしらこれって……
   ……でも、まさか選んだ子が──樹里君だとは思わなかったの……」

純一「………え、えええ!?なにいってるんですか?!」

三年教室・廊下側

中多(え、ぇえええええええ…!?しぇ、しぇんぱい……ええええ!?)

中多(せ、せんぱいの姿をみつけて…おいかけたら、三年の教室に入ってしまって…
   こっそり聞き耳を立ててたら──なんてことを聞いてしまったの……っ!)

中多(あの一年生の……樹里君と、しぇんぱいが…しぇんぱいが……)

中多(好き合ってる……の?……お、おおおおとこどうしなのにっ…!
   同人誌なら見慣れてあれだけど…それでもしぇんぱいが樹里君と───)

中多「………っ」もんもん

中多「──久しぶりに、筆をにぎろっかなぁ……えへへ」

教室側

純一「な、なにをいってるんですか先輩……!?
   それってあの、あの話のことですよね!?」

森島「……橘君。私は自分で言った言葉は──そうね、ちゃんと守るつもりなの。
   いっつもいい加減だけど、こればっかりはホントのつもり」

純一「も、森島先輩……?」

森島「橘君、幸せになってね。わたし…わたし、ちょっと答えがはやすぎて…その…
   本当は後悔をしちゃってるの…でも、それが君の選んだ幸せだっていうなら……」

純一「ちょ、ちょっと先輩…!違いますって!」

森島「ううん、いいの。君も戸惑ってるんだよね……だって男同志だもの。
   でも聞いてね、橘君。これはけっして悪いことじゃないの」

森島「好き同士っていうのは…誰にだって否定が出来ないものだから。
   お互いに好きであれば、なにごとがあっても……乗り越えられるんだから!」

純一「せ、先輩だから───」

純一「──え、好き同士…?」

森島「……気付いてしまったようね、橘君…そうなの。
   樹里君はその……君のことを───」

廊下側

中多(なになになに…っ?きになる……とっても気になる!
   じゅ、樹里君はしぇんぱいのこと……を…っ?)もんもん

教室

森島「──好き、なのよ……」

純一「………。なにをいってるんですか、先輩……そんなわけ…」

森島「…………」

純一「──そ、そんなわけ……ないです、よね…?」

廊下

中多(きたぁ────!!……けほっかほっ…わ、私たら興奮し過ぎ……
   ちょっとのどがいたくなってきちゃった…けほけほ…)

純一「え、でもそれって……ただの、先輩とか親友とか…そういった好き、ですよね…?」

森島「──ライク、ラブと聞かれたらそれは……ラブだと、私は思ってる」

純一「な、なんだって……アイツが、アイツが僕をラブだって……!?」

森島「そうなの、そうなの橘君……君は決して不幸にはならないわ…。
   だって両想いなんだもの…幸せになってね、橘君───」すっ……

中多(…わわっ…こっちに来ちゃう……!)ばたばた…!

純一「ま、まってください先輩!! ぼ、僕はその……!!」

森島「──いいの。むしろなにも今は……言わないでくれたら、嬉しいかな…
   これでも頑張って…泣くのを堪えてるから……っうぐす……」

純一(え、えええ……どうしよう。先輩ものすごく勘違いをしてるよ…!
   僕が路美雄のこと好きだってことも、路美雄が僕のことを好きになってることも…!)

純一(ここはもう、記憶を取り戻してどうにかするしかない…!
   自分の運命に任せて──いざっ!)

純一「──先輩、すみません…!ちょっと強引にいかせていただきます…!」だっ

森島「えっ───」

純一「……すみません、急に後ろから抱きついて…」

森島「あ、うん……い、いいのよ…ぐすっ……でも、こんなの樹里君がみたら悲しむわよ…?」

純一「……。ですから、僕はけっして路美雄のことは好きじゃないですから…」ぎゅっ…

森島「そう、なの……? でもさっきの言葉は……?」

純一「ちょっとした冗談ですよ…僕は女装なんか興味はありません…天変地異が起こっても、
   興味がわくことなんてありませんよ…」

森島「じゃあ…どうして、そんなこといったの…?」

純一「──そう、ですね……それは、今から言いたいと思います、先輩……」すっ…

純一(───────ふぁおおえjふぉうぇjふぉいwじぇおfjをいえjふぉうぃじゃおえ)

純一「ッ────っ……はぁ~……これが、先輩との記憶…」

ジジッ…ザザァー…

『先輩!どうか僕とつきあってください!』
『──ごめんね、橘君……』

純一「先輩はいつだって、綺麗で……」

ジザザ…ざざっ……

『牛丼を食べに行かないっ?』
『(なんだろう、あの顔の赤い人……こっちみてるよ)』

純一「先輩のことを──とてもとても…」

ジザッ……!ざざ!!

『わたし、とっても不安だったんだから……』
『はい、すみませんでした……先輩』

純一「────先輩…僕はけっして、ものごとを曖昧にはしないです。
   だから僕が何も言うまえに……どっかいこうとするはやめてください」

森島「橘君……でも、わたしは…」

純一「僕はまだ、なにも言ってませんよ。森島先輩との約束を、そんな曖昧に終わらせたくはないです」

純一「僕は──まだ、誰かを選んだつもりはありません。
   このまま終わらせようとも、こんな曖昧なままで……ご飯をくいちらかしたままでは行きません」

森島「たちばな、くん……」

純一「むしろぼくは未だ……ちゃんとみんなからご飯をもらっていないんです。
   味見なんてそんなたいそれたこともできてない。僕はまだお腹は減ってます」

純一「お腹がすいたままじゃ、誰だって満足はできない。
   まだかなまだかなって待ってても、まだいいよって言われてないんです」

純一「……先輩、僕はまだ決めてはいません。
   ですからどうか……泣かないでください」

森島「──本当に…? 本当に、誰もまだ…選んでない……の?」

純一「ええ、本当です。ちゃんとお腹はぺこぺこですよ」

森島「そう、なの…ぐすっ……ごめんなさいね。私ったら勘違いをして…」

純一「あはは。いいんですよ、僕も路美雄とその…疑われるようなことをしてた
   みたいですし……だからといって本当に隙って訳じゃないですよっ?」

森島「ふふっ。わかった……ちゃんと聞こえてるよ、橘君。
   君はちゃんと女の子が好きなんだよね?」

純一「あ、あたりまえですよ…! 僕は断然、女の子が好きです!」

森島「……えっと、そしたら……女の子の私も?すき?」

純一「え、ええ…当たり前です! 好きです!森島先輩大好き!」

森島「え、あうん……ありがと、橘君…っ……」

純一「え、あ、はい……!なんかすみません……!」

廊下

中多(……とてもいい雰囲気ですね…しぇんぱい。
   私にはよくわかりませんけど……しぇんぱいはまだ、心に決めた子はいなんですか…)

中多(……とりあえず、そろそろ戻ろう…美也ちゃんも心配してるだろうし…)こそこそ…

中多「……このネタも、忘れないうちにメモっておこうっと」にこにこ

教室

森島「──うん、そろそろ離していいよ。橘君」

純一「え? あ、ああすみません…! まだ抱きついたままでしたね……!」ばっ…

森島「え、私もっと抱きついてもらってても構わないけどなぁ?」

純一「か、勘弁してください…! 僕だってはずかしいですよ…!」

森島「冗談よ。本気にしちゃって……かーわい」

純一「からかわないでくださいよ先輩……!」

森島「ふふ……えっとそれで、どうして急にカチューシャが欲しいっていってきたの?
   女装が嘘だったなら、何か別に意味があったのかしら?」

純一「え、ええっとそれは……その…」

森島「?」

純一「と、特に意味は無かったりするんですけど───」


「きゃあああああああ…!!?」


森島「──え、橘君これって…っ」

純一「どこかで悲鳴が、聞こえましたよね……?」

森島「近くだわ! 行きましょ橘君!」だっ

純一「は、はい……!」だっ

階段

中多「え、だだだ大丈夫ですか……っ?」

「う、うう……」

純一「──あ、あれっ? 紗江ちゃん……!?」

中多「しぇ、しぇんぱっぁあああああい…! あ、歩いてたら…そこに人が倒れてて…!」

純一「じゃ、じゃあさっきの悲鳴は紗江ちゃん……?
   でも誰が倒れてて───」

「──どうやら、貴方は無事のようね……橘君……っ」

純一「──え、あ、絢辻さん……!?」

純一「え、どうしたのさ!? 具合でも悪いの!?」

絢辻「ち、ちがうわ……ちがうの、橘君……っ」

純一「何が違うっていうんだよっ……先輩、どうか保健室の人を……っ」

森島「わ、わかったわ……えーと保健室は……っ」

純一「このまま下りて一階の廊下の突き当たりです!」

森島「ありがと橘君! じゃいってくるね!」だっだっだ…!

純一「──あ、絢辻さん……!本当に大丈夫……!?」

絢辻「大丈夫に見えるの貴方は…っ? ものすごく大変よ……」

純一「みえないよ! 絢辻さん、顔が真っ青だもん…!」

絢辻「だから、そうじゃないの……あ、あたしが大変なんかじゃない……
   …おかしいわけじゃない…そんなの、貴方でも分かってるはず…っ」

純一「そ、そりゃそうだけど……!絢辻さんは強い子だけど、それでも…!」

絢辻「──とにかく、きいて……たちばなくん…っ!
   どうかあたしが忘れないうちに……貴方に伝えておくわ……!」

純一「つ、伝えておく…?わすれないうちに…?
   何をいってるの絢辻さん……?」

絢辻「黙って聞いて──今ここで、森島先輩を外させたことは行幸よ…橘君。
   あの人のおかげで気付いたし…それに、あの人には聞かせてはだめ…」

絢辻「良く考えて聞いてちょうだい……貴方は、この一カ月の間…
   なにかがおかしいと思わなかった…?」

純一「え……おかしいことだらけで、むしろ普通のことがなかったきがするけど…?」

絢辻「──正解よ、橘君…ほんとうにここ最近は…おかしいことばかりだった。
   貴方にとってはそうだったし…あたしにとっても、それは正解…」

絢辻「でも、でも……あたしたちは見逃していた……いちばん身近なことを…
   あたしでさえ気付けないでいた──いや、気付かせないようにされていた…」

絢辻「……この世界の、不具合……」

純一「不具合…? なにをいってるの…?」

絢辻「はぁっ……はぁっ…うっ……な、なるほど…すこしわかってきた…
   ──あの歌は、誤差をなくすためのものなのね……っ…」

純一「あ、絢辻さん…!?大丈夫?!」

絢辻「はぁっ……たちばなくんっ……ちゃんと森島先輩の記憶は取り戻したの…?
   それと、その記憶は色んな事を含まれてた……っ?」

純一「う、うん…そうだよ。確かにそういった記憶だったけど…!」

絢辻「そう、そうなの……橘君…貴方は最後の一人…」

絢辻「──桜井さんの……フラグを絶対にたてなさい……!!」

純一「最後のって……しかも、梨穂子……?」

絢辻「あたしがわかるのは……この世界の不具合は、桜井さんのせい……だと思ってる…っ
   予想が正しければ、ちゃんとこれはあってるはず……うっ……」

純一「絢辻さん……!?」

絢辻「うろたえないの……いい、きいてね橘君…この世界は、おかしい。
   誰かが望んでそうなってると思うほどに、都合がいい風になってる…!」

絢辻「貴方はなぜ、色んな人と会話できたのか……それと…」

絢辻「貴方がなぜ、そうやって頑張れるのかを……考えて…………」

絢辻「……信じてるから……そうでしょう…?……大好きな、橘君なら……絶対に………」かく…

純一「あ、絢辻さんっ? 絢辻さんってば!?」

絢辻 すぅー…すぅー……

純一「ね、ねてる…? どうしたんだよ絢辻さん……急に変なこと言って…」

中多「──せ、せんぱい……」

純一「え……?あ、紗江ちゃん…どうしたの…?」

中多「こ、この人が言ってた……不具合って……あるじゃないですか…?」

純一「え、うん…それがどうしたの…?」

中多「──わたし、その…日記を付けてるんですけど…少し、きになることがあって…
   ……自分が、あの趣味にハマりこんだきっかけが……書いてないんです…」

純一「え、それってどういう…こと…?」

中多「だ、だって……日記ですから、素直に思ってることをかいてるはずなんです…!
   で、でも……こんな大事な趣味を、その始めをかいてないだなんて…おかしいっておもってて…」

中多「でも、今……その絢辻先輩の言葉を聞いて思いました……わたし、記憶がぬけおちたように……」

中多「ある部分の期間の記憶が……ないような気が、します……」

中多「しぇ、しぇんぱい……私はどういうことなのか…さっぱりで……」

純一「さ、紗江ちゃん……そんな、気のせいじゃないよね…?」

うんこごめん

中多「はい……気のせいじゃないと───」

『はい、それでは今日はお昼の放送を始めたいと思います~』

純一「──え、お昼の放送……?どうして、今はまだ朝じゃ…」

『今日ならせていただくのは、桜井リホの新曲〝恋は何時でもとらぶりゅ~〟です!』

ちゃらら~……

純一「どうなってるんだ…確かにさっきまでは───」

中多「……………」

純一「──さ、紗江ちゃん…?どうしたの…?急に黙って……」

中多「──えっ、あっ……なんでもないです……あれ? 私なんでここにいるの…?」

純一「え、なにをいって───」

中多「あ~! お、お昼の放送始まってる……美也ちゃんとご飯食べる約束が……!
   しぇ、しぇんぱい…!すみません!わたしはこれで…!」たったった…

純一「え、あ、ちょっと紗江ちゃん……!?」

純一「ど、どういことなんだ…?いきなり、紗江ちゃんがおかしくなったような…」

純一「……くそ、よくわからないよ…絢辻さん。
   ──とりあえず…絢辻さんを保健室に連れて行かないと…」

保健室

純一「──よし、これでいいや……後はちゃんと布団をかぶせて…」

絢辻 すぅー…すぅー…

純一「……。先輩、森島先輩どこいったんだろう……保健室に行ったと、
   思ったんだけどな……」

純一(……これは、どういうことなんだ…?
   みんななんだか急におかしくなって……いきなり変わってしまった…)

純一(なにかが原因でそうなったのかな…?いや、でもそう感じるモノは無かった気がする…)

純一「──絢辻さん、どうしたっていうのさ…馬鹿な僕じゃ、さっぱりだよ…」

純一「なにも、なにもわからない……どうしてこうなったんだ…絢辻さん、どうか起きて僕を、
   こんな馬鹿な僕を怒ってよ……」

純一「……………………」

純一「……だめだよ、橘純一……これじゃだめだ…何を弱気になってる……!」

純一「なにも僕だけじゃできないわけじゃない……そうだよ、僕は絢辻さんに言われていたじゃないか」

純一「『だから貴方がしっかりしないと、わかることもわからない』──そうだよ、僕は託されたんだ。
   絢辻さんはたぶん、決死の思いで僕にまで伝えに来たんだ……そのことを、ちゃんと思い出そう…!」

純一「まっててよ、絢辻さん…僕は必ず、君が伝えようとしてくれたことをわかってあげる。
   ──そして、どうにかして答えを見つけるから!」

純一「──それと、大好きって言ってくれてありがとう。僕も絢辻さんのこと大好きだからね…」

純一「……よし、じゃあいっちょ気合入れて行くかなっ!」

数十分後

純一「…………」

純一「うーん……」

純一「そうだなぁ………うんうん───」

純一「───ぜんぜんわからないよ……僕の脳みそじゃわかることも、分からなくなってる気がするよ…!」

純一「──あ、そうだ!ここは頼りになるあいつがいるじゃないか!」

純一「……でもなぁ、なんだかちょっと聞きにくいけど…」

絢辻 すぅー…すぅー…

純一「…うん。そんなこと言ってる暇なんてないよ、行かなくちゃいけないんだから」たったった…

教室

薫「……なに、あんた。いっきなり土下座して」

純一「……………すみませんでした」

薫「いっみわかんないわよ。ちゃんと説明して」

純一「何もご説明する事はありません。
   本当に心から謝罪の言葉しかないんです」

薫「それが意味が分からないっていってんのよ。
  なに? あんた周りが見てんのに恥ずかしくないの?」

純一「棚町さんに謝罪の気持ちに敵う感情は、今は持ち合わせていません。はい」

薫「へー…そうなの。そしたらなに?あたしが命令で、女装しろって言ったら
  あんたはこの場ではじめてくれるの?」

純一「ご命令であれば」

薫「じゃあやりなさいよ」

純一「…………」いそいそ…

薫「ば、ばか!!ほんとうにするやつがある!?」ごん!

純一「いだっ!?ええ!?」

廊下

薫「はぁー……ほんとってアンタ、羞恥心ってものを持ち合わせてないの?
  あたしまで教室に居られなくなったじゃないっ」

純一「だ、だから言っただろ…? 僕は謝罪の気持ちしかないって。
   それが薫からの命令だったら、僕はなんだってするよ」

薫「そうだとしても限度があるでしょ! ったく……もう、それでなんなの?
  いきなり土下座って事は、そうとうなことをがあったんじゃないの?」

純一「……絢辻さんが、倒れたんだ…」

薫「え? 絢辻さんが……? どうしてよっ?」

純一「それは……僕にも分らないよ。でも、急に変なことを僕に言い伝えて、
   それで意識を失ったんだ……」

薫「なによそれ……もうちょっと詳しく聞かせないさいよ純一」

数分後

薫「──なるほど、ね。世界の不具合……」

純一「うん、そうなんだ。こればっかりはよくわからなくて…
   紗江ちゃんも気になることを言ってたし…なにかそれについてわかることある?」

薫「……そうね、特には無いけれど…でも、なんで急にそんなことを言ったのかしら?」

純一「わからないよ…僕はたぶん、この記憶のことと関係があるんじゃないかって
   思ってるけど……でも、よくはわかってないし…」

薫「──そうね、とりあえずはそこは置いといて。その周りの人たちの不具合を話し合いましょ」

純一「え? ああ、紗江ちゃんとか…森島先輩とか?」

薫「そう、あたしが知ってる限りじゃ……
  その二人共は、倒れてる人を見過ごすような性格じゃないって思ってる。そうでしょ純一」

純一「当たり前だよ!そんなの!」

薫「怒らないの。ちゃんとわかってるって言ったでしょ?だからとりあえず、その原因を調べるの」

薫「なにかしらの原因があるはずだから……とりあえず、その時の状況をもっと詳しく教えなさい」

純一「ええっとその……あの時は、森島先輩は保健室に行って…紗江ちゃんと僕はその場に残った。
   そして絢辻さんが気を失って…お昼の放送が鳴って、紗江ちゃんがおかしくなって……」

薫「改めて聞くと、凄い状況ねそれって……それで、アンタはなにか気にかかることでもあった?」

純一「いや、特には……でも、紗江ちゃんの変わりようを直に見てたから…それがちょっと」

薫「ふむふむ……変わりようね。その変わった瞬間って、なにかしら起こってたかしら?」

純一「えっと……その──そうそう! なんで忘れてたんだろう…あれだよあれ。
   朝だと思ってたら、急にお昼の放送が鳴ったんだった!」

薫「……? まぁとりあえず、放送がなったと…そしたら中多さんが変わったってワケね…」

純一「そ、そうだな……なんでだろう。よくわからないよ薫……」

薫「………………」

純一「薫…? どうしたんだよ」

薫「ねぇ、絢辻さんって『最後の一人の桜井さんのフラグ』って行ったのよね?
  それと、桜井さんが不具合の原因とも……」

純一「う、うん……言ってたね。絢辻さんが嘘を言うわけないし、
   僕もびっくりしたけど…それがどうかしたの?」

薫「──さっきの放送で流れたあれ、確か桜井リホの新曲じゃなかったかしら?」

純一「え? ああ、そうだね確かに……」

薫「あたしは自分のウォークマンで曲を聞きながらご飯食べてたから、
  あんまり聞こえはしなかったんだけど……なるほどねぇ。いや、全然なるほどじゃないけど」

純一「どういうことだよ薫…?」

薫「──とりあえず、アンタが聞いたその絢辻さんの言葉と、人が変わった原因は一つ」

薫「桜井さん──ってことにならないかしら?」

純一「……た、確かに…頭いいな薫…
   曲を聞いてから、紗江ちゃんはおかしくなったきがするよ…」

薫「でしょー! ──いや、あたしだっていみわかんないけど、それでも真面目に考えたら
  そうじゃないかって思うしかないわ」

純一「そうか、そうか……原因は、絢辻さんが言いたかったことは……その梨穂子か…」

薫「それにまだ世界の不具合ってのもまだ、わかってないわよ?
  桜井さんとその不具合ってのが、どんなふうにかかわっているかなんて思いつかないわ」

薫「──たぶんだけど、この原因を見つけ出すには……
  そうね、実際に桜井さんに会いに行かなくちゃいけない気がする」

純一「梨穂子に…? でも、あいつはアイドルでそうそう学校になんか───」

薫「……ん? どうかした純一?」

純一「──待てよ、確か今朝にみたテレビで…あいつ、ライブやってたな…」

薫「そうなの? 最近、テレビ見てないからわかんないけど……」

純一「そうなんだよ。それで、どうにかそのライブに行ければ──梨穂子とも会えるかもしれない…」

薫「いい案ね──って言いたいところだけど、アンタ……チケットどうすんのよ?」

純一「そうだよな。今、僕も考えてた……でも」

薫「でも?当てがあるの?」

純一「──ああ、ある。あるというか、あるようにさせるつもりだ」

薫「なにそれ…?とりあえず、あてがあるならあたしの分まで用意してね」

純一「え、お前もくるつもりなのか?」

薫「はいー? ここまで巻き込んでおいて、それはないってもんでしょ純一」

薫「──ちゃんと、最後までアンタについて行くわよ。安心しなさい」

純一「それ、付きまとってるだけじゃ……」

薫「あ"あ"ん…?」

純一「な、なんでもないです…はい…」

テラス

純一「──あ、いたいた…おーい!」

「え……あ、先輩」

純一「よう───路美雄、今朝ぶりだな」

樹里「そ、そうですね……いやーこうやって何度も先輩と出会えるなんて、
   嬉しい限りです!」

純一「う、うん……そうだね、うん…」

純一(今さらだけど、森島先輩が言ったことがとても気になる……
   まさかだとは思うけど、うーん……いや、そんなことはないよね!)

樹里「それでそれで! 先輩はぼくに御用でもあるんですかっ?」

純一「……え? あ、うん──そうなんだけどさ……」

純一「あの〝約束〟……覚えているか路美雄」

樹里「えっ……あの、約束ですか……?」

純一「そう、あの約束だ………」

樹里「…………えへへ」

純一(わらった!? なんで笑うの!?)

純一「と、とりあえず思い出してくれた……?」

樹里「は、はい!あれですよね!
   ……その、ぼくと先輩は…いつまでたっても一緒に居るって!」

純一「何を勝手に言葉を変えてるんだお前…!そこは親友に言葉はいらないってところだったろ!
   それに約束した所違うよ!そこじゃないから!」

純一「助けが欲しかったら、遠慮なく言うつもりだよ。お前の力がひつようだったら、
   僕はなんだってお前に頼るつもりだ」

純一「確かお前にはそう言ったはずだった気がするけど──ちゃんと覚えてる?」

樹里「はい…そうでしたね…」

純一(あれ、落ち込んでる!? なんだよこいつ…はっきりいってめんどくさい!)

純一「ぐっ……」

純一(ここで諦めたらだめだ純一……っ!今頼りになるのはコイツだけなんだから…!!)

純一「──そ、それで路美雄……どうか僕を助けてほしいんだよ…」

樹里「せんぱいが……ぼくに助けを、ですか…?」

純一「そ、そうそう。助けてほしいんだよ!」

樹里「──これほど光栄なことはありません…!
   なんだっていってください!むしろいってください!」

純一「あ、ありがとう……そしたらその、とあるチケットをだな───」

次の日

純一「おおう…これがライブってやつか……凄い人だよ」

薫「そうねぇ。確かに人が多いわね」

純一「……なんだよ薫。なんだか感想が薄いなぁ」

薫「そお? でもまぁ、これでも結構ライブとかいってるしね」

純一「え、そうなの?」

薫「そうよー? ほら、バイトの子とか……あとはよく恵子といったりするわね~」

純一「へー…知らなかったよ。というか今度行く時、僕も誘えよな」

薫「だってアンタ、人ごみとか苦手でしょ?
  ちょっとはこっちも遠慮してあげてんのよ」

純一「え、そうでもないんだけど──それってただ、体よくチケットを準備するのが
   めんどくさいだけじゃ……」

薫「さ、行きましょ! はやく並ばないとだめよ純一ぃ!」だっ

ライブ会場室内

純一「う、うおおお……でかい!」

薫「こ、こらあんた! なにはしゃいでるの…! 恥ずかしいじゃない!」

純一「でもでも薫…! これは凄いよ!凄すぎるよ!」

薫「ガキかあんたは……それよりもほら、こっちこっち!」ぐいぐいっ

純一「うわぁー…すごいなぁー…」ずりずり…

薫「──よし、ここのようね。なんてvip席なのかしら…会場が丸見えね」

純一「え? こういったもんじゃないのか?」

薫「ばかいわないでよ、ほら……あそこの立見席あるでしょ?
  普通のお客はたいがいあそこで立って見るべきなの。座って見るなんて相当ないわよ」

純一「へー……じゃあ僕らは、凄いんだね!」

薫「だからはしゃがないでよ……あんた、気付いてないの…?」

純一「え、どうしたの…?」

薫「あたしたちと同じように座ってる人たち…みんなテレビで見たことのある顔ばっかよ?
  どんだけ凄い所に居るか、ちょっとは考えなさい!」

純一「そ、そうなのか……路美雄の奴、なんだか張り切ってたからなぁ…」

薫「しょーじきにいって、楽しみにしてたライブだったけど……
  なんかちょと気まずくて素直に楽しめないわあたし…」

純一「ま、まぁそういうなって……ただで見られるんだし、よかったじゃないか!」

薫「まぁそうだけど。それよかアンタ……ここ、大丈夫なの?」

純一「え? なんで?」

薫「なんでって……そこを思い出してないなら、別にいいけど……
  けっこうこの場所、高い場所にあるわよ?」

純一「え……?」

薫「──高所恐怖症のアンタは……平気なのかってきいてるの」

純一「………………」ちら

びゅぉおおお……

純一「…………ごめん、薫。かえろっか…」

薫「だめ」がし

純一「や、やめてくれ…! 今、思い出した…!僕って高い所苦手だったよ…!」

薫「しったこっちゃないわ! もうここまできてるんだから!
  大人しく座りなさい!ほら!」

純一「な、なんだよ薫…! さっきまで全然乗り気じゃなかったくせに…!」

薫「いやーなんだか楽しくなってきちゃったっ」

純一「……なんて良い笑顔なんだ…! 
   それ、確実に僕をいじめることが楽しいってことだけだろ……!!」

薫「いーからほら! すわりなさいって!」ぐいっ

純一「わぁあ!?」どしん

薫「──ほら、もう始まるわよ純一……」

純一(ふ、ふとももが目の前に……!!)

薫「──きゃー!!桜井さーん!!かっわいいー!!」

純一(ちょ、ちょっと匂いでも……だめだだめだ!なにやってんだ僕は………)

純一「………くんくん…」

薫「ほら、あんたいつまでつっぷしてんの! ちゃんとみなさいって!」

純一「──ああ、見させていただきます。ふふ、ちゃんとね…」きりっ

『会場のみんなぁ~! 今日もごはんたべてるぅ~?』

タベテルーワーキャー

純一「──ほう、あれが梨穂子……なんだか大分、痩せたなぁ」

薫「そうね! 学校で見たときよりも、だいぶすっきりしてるわねぇ」

純一「──なるほど、な。今の薫とは違って体調管理がきっちりし」

薫「フンッ!」ぶぉん!

純一「──あ、あああぶないじゃないか薫……絶対に当たってたら、
   鼻の骨折れてたと思うぞ…?」

薫「今日はライブに連れてきてくれたってことで、許してあげる。
  でも、それ以上の失言は危険よ純一。それともう、その口調はやめなさい」

純一「は、はい……わかりました…」

薫「それじゃ、楽しむわよ! いぇーいたべてるー!!」

純一(なんだかんだいって…楽しんでるじゃないか薫…まぁ、そんな奴だって
   知ってたけどさ)

純一(それにしても……梨穂子。だいぶ変わったなぁ)

リホ『らんらら~♪ 今日はみんなで焼肉パーティ~♪
   焼肉のたれを零して服汚す♪』

純一(そういえば、梨穂子って歌を歌うのがすきだったなぁ。
   昔からよくわからない歌詞で歌ってた気がするよ……うん)

リホ『でもでもぉ! それは場スクリーンがあればだいじょうぶ!
   え、ちがうちがうそれじゃだめだめ!』

ダメダメー!

リホ『そうだよぉー!それならこれがあるから心配ご無用!
   あたしの愛の洗剤でよごれをおとすぅー!キラ☆』

キラ!!

純一(でも、それはアイドルになってもかわってないな…
   何だろう、最近はこういうのがはやりなのかな…?)

数分後

リホ『っじゃあーつぎのきょくいっくよぉ~!』

純一「いっくよー!!リホリホ~!!」

リホ『食べ残しはだめんだよー! それはだっていけないこと!
   ちゃんとたべて、元気になろうよ!』

純一「げんきになろうよぉー!!」

リホ『食べ物すべては命の源、元気は食事からわっしょい!』

純一「わっしょい!!!!」
薫「わっしょいー!!」

数分後

リホ『ららら~……がんばれるからぁー…』

純一「ううっ…なんて良い曲なんだ……」
薫「そうね……そうよね…ぐす」

数分後

リホ『じゃあ、最後に新曲の歌をうたうよぉ!みんなきいてねぇ!』

純一「リホリホー!!いやだわかれたくないよぉー!!」

薫「──あ、やばい…ちょっと素に戻ってきちゃった…
  ちょ、ちょっと純一……やめなさいってば…」

純一「なんだよ薫ぅ!? そんなしけたかおして!!」

薫「何か急にさめちゃったのよ…さっきまでのあたし、まるでどうにかなってたみたいな…」

純一「なにいってんだこいつぅ!!最後までちゃんと楽しもうぜ!!」つんつん!

薫「なんか、うざいわねあんたのノリ……ま、いいわ。とりあえずちょっとお手洗いに行ってくるから」

純一「ああ、いってこい!!トイレが長くても僕は気にしないから!!」

薫「う、うるさいわね!!ちょ、ちょっと手を洗いに行くだけよ……っ」

純一「おう!!いってら!!」

純一「何だよ薫の奴……ノリが悪いなぁ。あんなノリが悪い奴だって思わなかったよ。
   ──ま、いいや。ここは僕だけでも楽しんで──」

ばばっ!

純一「──あれ? なんだろう、急に会場がまっくらに……」

ばっ!

純一「あっ……急に明るく───」

リホ『とつぜんごめんなさぁーい……みんなびっくりしたよね~?
   実は今日は、新曲に入る前に──飛び入りゲストをよんでまぁ~す!』

純一「え、飛び入りゲスト…一体誰だろう……?」

リホ『それはねぇ~! なんとそれはねぇ! KBT108アイドルから私を推薦してくれて、
   こうやってソロで活動をさせてくれた人で~!』

リホ『そして、新曲の〝恋は何時でもとらぶりゅ~〟を作曲してくれた人なのぉ~!
   みんな気になるよねー!』

キニナルー!!

純一「きになるぅううううう!!」

リホ『だよねだよね~!! じゃあ登場してもらいうね───どうぞ!!』ばんっ

リホ『──金の仮面さんです~!!!』

すたすた…

純一「え……」

すたすた…

金の仮面「──はい、ご紹介に受けたまった……わたし、金の仮面です」

ワァアアアアアアア!!!

純一「──どう、して……貴方が、そこに……」

純一「貴方は、僕が記憶失った時に……謎の手紙をくれた……人物……」

リホ『あのねぇ~!みんなが気になってると思うからさきにいっておくとね~!
   金の仮面さんは、とっても恥ずかしがり屋さんで~こうやって何時も仮面をつけてるの~!』

リホ『でもかっこいいよね~! なんかこう……えじぷと? でありそうな奴だね~』

純一「……そう、だな…確かに、金というよりは……ミイラの仮面…?」

リホ『それではぁ~! なんとなんと、金の仮面さんから重大はっぴょうがあるみたいですー!』

ワァアアアアアア…

金の仮面『……はい、みなさま。今日は桜井リホのライブに来ていただき、ほんとうにありがとうございます』

金の仮面『今日はとても皆さまを幸せにできたことを──深く喜びを感じている所存です』

ワァアアアアア!!

金の仮面『…ありがとうございます。それで今回、わたしから重大な発表をさせていただきます……それは』

ばん!!ばさぁ!!

純一「な、なんだ……舞台の上に急に垂れ幕が──」

金の仮面『───ファン争奪…桜井リホの高校生活で使われた愛用品をげっとせよ。
     これを開始させていただきたいと思います!!』

ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

金の仮面『ルールは簡単……今回、ライブチケットを持っている方みなさまに…その解答件が得られます。
     今はこの会場には……約千人の方が居られますが、その中から──三人、選ばせていただきます』

金の仮面『つまりはそう、すでにもう戦いははじまっているんです……ファンの皆様がた、どうかご了承を。
     今から後ろにあるモニターにより、激選を行った集計結果を表示されます』

金の仮面『では、チケットの半券である右上をご確認ください。そこにかかれている数字が、貴方の証明です。
     それを覚えておき、後ろのモニターに出た数字とご確認ください』

金の仮面『それでは、スタート』

どゅるるるるるるる…

純一「な、なにが起こってるのか分からないけど……とにかくなにか始まったぞ!?
   ど、どうすればいいんだろう……!!?」

どぅるるるるるる……

純一「と、とりあえず…半券の右上の数字を確認…っ」

ばんっ! ワァアアアアアアアア…

純一「あ、でた! 145……ちがう、僕の数字じゃないや…」

ばんっ! ウワァアアアアアアア…

純一「こ、これも違う………というか、僕は何を必死になってるんだろう…。
   確かにこれは、梨穂子と会話をするチャンスかもしれないけど……でも、当たってどうするんだ」

純一「──ここは、ライブ会場。いっぱい人がいるんだ……僕が好きかって出来る場所じゃない…」

ばんっ!

純一「──あ、最後の数字が出た…………僕の数字とは………」

純一「………………」

純一「………────……──…やっぱりちがうや…」

純一「………あ。当たった人が舞台の上にあがっていく…」

純一「みんな嬉しそうだなぁ…うん、やっぱり僕は当たりたかったみたいだ」

純一「……だって、梨穂子とはだいぶ会話もしてない…久しぶりに会話のできる機会だったかもしれないのに…」

純一「──梨穂子、お前は……だいぶ、遠くに行ってしまったんだな……今さらだけどさ──」

薫「あ。あたってる」

純一「え?」

薫「お手洗いから帰ってきたばっかりだからよくわかってないけど……あれよね?
  あそこの数字と同じ数字があったら、あたりじゃないの?」

純一「え、うん、そうだけど………薫あたったのか!?」

薫「え、うん……!そうだけど、どうしたのよ?なんかもらえるの?」

純一「ち、ちがうよ…! それは最後の催しみたいなのに参加できるチケットで───」

リホ『あっれ~? 最後の一人がまだ来てないよぉ~?
   あたったひとぉ!てをあげてー!!』

ばばばばばばば!!

リホ『もうみんなうそつきぃ~!だめだよそれは~!!』

アハハハハハハハ…

純一「──ほ、ほら…! いきなりだからよくわかってないけど、薫いかなきゃ…!」

薫「は、はぁ? どこに?」

純一「どこにって、舞台の上に決まってるだろ!?」

薫「いやよ!!恥ずかしいじゃない!!」

純一「ば、馬鹿お前……なんてたって千人の中から選ばれたんだぞ…!?
   誇らしく胸を張っていけっての!!」

薫「そんなの別に嬉しくなんかないわよ!!──だったらあんたがいけばいいでしょ!」

純一「は、はぁ? お前こそ何言ってんだよ……そんなの誰も許してくれなんか……」

金の仮面『───最後の一人の方、必ず今日は来られているとこちらでは確認が取れています。
     なにかしらの問題が生じているのなら、ここはひとつルール変更を行います』

金の仮面『そもそもチケットの番号が当選した場合……それは、個人の自由で参加権を破棄する
     ことも可能です。ですが、それを他人に渡すことは禁止してましたが──』

金の仮面『──それを今、無しの方向にさせていただきます。どうかみなさま、深いご了解をおねがいます』

金の仮面『……では、三人目の方───どうぞ』ちらっ

純一「えっ……今、僕のことを──見た…? ミイラの仮面かぶってるから、よくわからないけど…っ」

薫「──ほら、よくわからないけど…なんか当たったチケット渡してもいいってよ純一」

純一「え、でも……」

薫「なによ、はっきりしないわね。アンタ、あそこに行きたいんでしょ?」

純一「……………」

薫「──言葉にしなくても、アンタの顔を見てればわかる。ほら、いってきなさい!」とん!

薫「これは、アンタの覚悟でしょ? その胸にしまってある、全てを……言ってきなさいって」どんどん

純一「薫……」

薫「だいじょーぶよ。ちゃんとみててあげるから……心配なら何度だって激昂をとばしてあげるから。
  ここからなら、あんたにも声は届くでしょ」

純一「…………」

薫「アンタがこの一カ月、思いに思ったすべては……あの桜井さんが原因かもしれない。
  それをあんたがどうにかしないで、どうすんのよ。怖がらないで、ほらしっかりする!」

薫「みんなの思いを無駄にしないの。記憶がなくっても、あんたはあんた。
  すべての思いを伝えられるのは───あんたしか、いなんだからね」

舞台前

純一「ごくっ………」とん…とん…

リホ『──あ、来たよぉ~! 最後の一人の参加者……それは……』

純一「──よ、よう…梨穂子……久しぶり、かな…?」

リホ『──じゅ、純一……? 本当に、そのあの……純一なの…?』

ザワザワ…

純一「えっ? うん、そうだよ。僕は純一……お前の幼馴染だよ」

リホ『────…………』

純一「梨穂子……? えっと、どうした…?急に黙って……」

リホ『──ずんいちぃいいいいい!!あいたかったよぉおお~!!』だっ

純一「え、ちょっとまてそれは色々とやば気が───」どすっ

リホ『ひさしぶりだねぇ~! 元気にしてた~っ?』ぎゅう

純一「し、してたさ! うん! だけど梨穂子!ちょっと今は…!』

ざわ!ざわざわ!

リホ『なんで~? だって幼馴染だし、これぐらいどうってことないでしょ~?』

純一『どうってことあるよ! いくら幼馴染だって、やっていいこと悪いことが───あ…』キーン…


観客席

薫「──あの馬鹿二人は……はぁ…」

薫「あんたもいったいじゃない──これ、約千人の桜井リホファンが見てるって。
  それに生放送で全国区で絶賛放送中よこれ……」

舞台

ざわざわざわ…!ざわざわ…!

純一『と、とりあえず離れろ梨穂子…!!とにかくだ!!」ばっ

リホ『え~! どうして~? こうやって久しぶりに会ったって言うのにぃ…』

純一「お、お前……仕事中だろ!? アイドルやってんだから、もうちっとアイドル意識をしろって!!」

純一(──僕は今、こう梨穂子に色々言ってるけど……まったくもって生きた心地がしない!!
   だって…だって!約千人から殺意のようなものを感じてる!こわい!)

純一「と、とりあえず……なっ?ほらほら、ファンだって待たせてるし……」

リホ『もう~!しょうがないなぁ……それなら後で、待機室でまってるからね~!』

純一「ばっ──おま──」

ワァアアアアアアアアアアアアアアアアア

純一(な、なんか違う…!さっきまでの歓声とはちがって……怒気がこもってるよこれ…!
   り、梨穂子……お前は本当になにをいってるんだよ!?)

『──そろそろ、いいでしょうか。二人とも』

純一「え……貴方は……」

金の仮面『……。では参加者三人集まった所により──みなさまお待たせいたしました……。
     それではファン争奪…桜井リホの高校生活で使われた愛用品をげっとせよ。
     始めさせていただきます!!』

ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!!

金の仮面『──はい、ではその勝負形式をご説明させていただきます』

金の仮面『選ばれし三人の方が競い合ってもらうその勝負──それは……クイズ形式です』

うぃーん…がちゃん…がちゃん…

千人とかすくねぇ....

金の仮面『今、わたしの後方でせりあがってくる台座……それの上に乗ってもらい。
     参加者は出される問題を解答してもらいます』

がちゃん…がちゃん…!

金の仮面『問題は全部で三十問。ひとつ正解を得られるたびに、参加者が乗る台座がひとつ、
     上へとあがっていきます。そして五段階である頂上に達した時──』

がちゃこぉん………

金の仮面『──真の桜井リホファンの、名誉が与えられます』

ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!!

純一(……あ、今わかったけど…金の仮面さんって女性なんだ…胸があるし)

金の仮面『それでは参加者の三人の方、台座にどうぞ』

すたすた…

純一「──でも、僕的にはもうすこしあったほうが……あ、あれ?
   ああ、僕もいかないと……っ!」

金の仮面『…………。それでは始めたいと思います、問題はみなさまご存じ──』

金の仮面『桜井リホが好きな食べ物です!!では一問目!』

>>215
やっぱりそうか
なら五千人で。脳内変換たのみます

ちょっとうんこ

リホ『わたしがいつも、歌の番組にでるまえにたべるものはなんでしょ~か!』

純一「はい? そんなのわかるわけ───」

ぴんぽーん!

男b「──それは、新宿デパ地下名産……パーフェクトクリームコロッケ……だっ!!」

ぴんぽんぴんぽん

純一「え、えええ……なんでわかるんだ……?」

男a「くそっ……おれだって分かったのに!!」

純一「わ、わかったんだ……」

金の仮面『はい、では一段階あがります。揺れますので、ご注意ください』うぃーんがたん

金の仮面『ではこれで、一人目が一歩リードです──次、二問目はじめます』

リホ『私がいつも、お笑い番組に出るときに……たべている果物はどれでしょう~……か?』

純一(と、とりあえず早い者勝ち形式なら……押してから考えてもいいじゃないかっ…?よし!連打だ!)

ぴんぽーん!

純一「あ、やべっ……本当に僕になっちゃった……」

金の仮面『──制限時間は三十秒です。早めに解答をどうぞ』

純一「え、ええとその……果物だろ……だったらその、梨穂子が好きそうな奴で……」ちっちっちっち…

純一「──そうだ、バナナとか!?」

ぶっぶー!

金の仮面『不正解です。では次──』

ぴんぽーん

男a「はい! それは……スイカだ!!」

ぴんぽんぴんぽん

純一「ええええ……スイカって、アイツ…番組でる前にスイカ食べんのか……?
   というかそもそもスイカ果物じゃないし……」

金の仮面『これは簡単な問題でしたね。桜井リホはいつも、スイカを果物だと持ってたと、
     とある番組で零したことで有名になりました』

リホ『えへへ~…でも、今はもう間違えないよ~?』

カワイイイイイイイイイイイイイ…ワーキャーワー!

純一(も、盛り上がった……
   でも僕は……なんだか幼馴染としてはずかしいよ梨穂子……)

金の仮面『──はい、一つ段階が上がりました。では次に三問目に入ります──』

純一(し、しかたない……ここは当たって砕けろだ!
   もう色々と普通な回答は通らないってわかった! なら、もう気合で行くしかない──)

純一「……ん? なんだろう、隣の人が僕をみて…」

男b「───へっ」にや

純一(こ、こいつぅ~~!!僕を上から見下ろして……笑ってやがった…っ!!
   くっそー……見てろよ!!すぐに僕が見下ろしてやるからな!!)

数分後

金の仮面『──はい、では二十九問目に入ります。ここで最後に皆さまの得点の状況を、
     改めてご確認しましょう』

金の仮面『左から見て四点。奇しくもひっかけ問題により、五点にはいたっていません。
     真ん中の方三点。途中で入った妨害システムにより、このような点数になってしまいました』

金の仮面『──そして、一番左の方──ゼロ点。
     いったいなにをしにここにきたのか、本当に理解を苦しみます』

純一「……………」

金の仮面『それでは最終問題直前……二十九問目です』

リホ『私がいつも飲んでいるジュースは……いったいなんでしょうか~?』

ぴんぽーん

純一「………」

金の仮面『──はい、では一番左の方。解答をどうぞ』

純一「………メロンジュース」

ぶっぶー!

純一「……………」

ぴんぽーん

男b「しぼりたてメロンジュース!」

ぴんぽんぴんぽん

純一「っ………そん、な……」

金の仮面『──おめでとうございます。真ん中の方、一段階上昇します…揺れにご注意ください』がたん…

金の仮面『それでは、みなさま……最終問題となりました!』

ワァアアアアアアアアアア…

金の仮面『今宵──今、真なる桜井リホファンが生まれようとしています…!!
     みなさまどうか、この精鋭なる参加者たちに、大きな拍手をお送りください!!』

ワァアアアアアア…パチパチ…!

金の仮面『──では、最終問題です。ここからはみなさま、お静かにお願いします』

金の仮面『最後で最後の問題ではどうぞ──ん……?──はい、なんですか……ああ、なるほど…』

金の仮面『──いきなりの中断、非常に申し訳ありません。ここでこのルールに一つ、くわえさせてもらう
     ものがありました──』

リホ『つけたし? どうしたの金の仮面さん~?』

金の仮面『いえ、これは───特別ルール……最後の問題まで行き着いた場合にだけに発生するものです』

金の仮面『それは──最終問題を回答されたかたは……丸々、五点のプレゼント』

純一「え……?」

金の仮面『最終問題で、誰も優勝できなかった場合の処置です。どうか、深いご理解をお願いします』

純一「それって……僕にもチャンスがあるって事……?」

金の仮面『──最終問題です。これは、制限時間がなく、何度でも回答は可能です』

金の仮面『存分に──お悩みください……では、どうぞ』

純一「よ、よし……どうやらチャンスが回ってきたみたいだぞ…!ここで僕が答えれば──あれ、梨穂子…?」

リホ『──…………』

純一「ど、どうしたんだ一体……さっきまで元気に問題出してたのに…いきなり沈んで…」

リホ『──金の、仮面さん……これって…』

金の仮面『はい、問題ですよリホ。貴方がいうべきところです』

リホ『で、でも…これは……』

金の仮面『──いいんです、ここは私の言う通りに……』すっ

金の仮面(だから、リホちゃん。ここは私の言う通りにしてね…ね?)こそこそ

リホ『……う、うん……わかったよぉ~…金の仮面さん……』

純一「なんだろう……内緒話かな…?」

金の仮面『──失礼しました。ではリホ、問題をどうぞ』

リホ『……はい、わかりました──わたしが……アイドルになる前に……』

純一「ごくり……なるまえに……!?」

リホ『──好きだった、大好きだった男の子は……一体誰でしょうか……?』

しーん……

純一「え、それって………」

リホ『……………』

金の仮面『みなさま、これは最終問題。間違ってもリスクはなく、
     何度でも回答は可能です』

純一(だ、だれも押そうとはしない……わからないからか?
   ──いや、それはちがう……)

純一(──これは答えたくなんかないんだ。むしろ、もう答えを知っているような感じ…
   …いくら鈍い僕でも、この状況は分かる)

純一(みんながみんな……なんか僕のこと見てるしね!
   というか梨穂子……お前が僕を見過ぎだよさっきから!)

純一(──もう、それが答えじゃないか……ったく…梨穂子は本当にばかだなぁ…)

ぴんぽーん

金の仮面『──はい、押されましたのは……一番左の方、どうぞ』

純一「………すみません、その前に聞かせてほしいことがあるんです」

ざわざわ…

金の仮面『はい、なんでしょうか。制限時間はありませんので、ご自由に』

純一「ありがとうございます……それじゃあ、聞きたいんですか…」

純一「──優勝賞品は、いったいなんなんですか?
   愛用品ってのは聞きましたけど、それがなんなのか僕は知りたい」

金の仮面『これはこれは……確かに、私としたことが発表がまだでしたね。
     それではここで、報告いたしましょう……』ばさぁ

金の仮面『優勝賞品はこちら──桜井リホが部活で使用していた、茶筅でございます』

ざわ…ざわ…

金の仮面『──どうやら、この賞品に疑問を持つ方がいられるようですが──
     ご想像ください、これは桜井リホがいつも茶を立てるときに使用したもの』

金の仮面『その立てられたお茶をすするのは……桜井リホ自身』

ざわ!…ざわ!…

金の仮面『さらにまた使用された茶筅は……いつかはリホ自身の体液と混ざり、染みつき、
     そして──完成される……』

ざわわ!ざわわ!

金の仮面『これがいかに素晴らしいものなのか──みなさま、ご理解いただけたでしょうか?』

ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

金の仮面『──はい、私ながらの勝手な解釈をいってしまいすみません。
     それでは、左の方。これでよろしいですか?』

純一「はい、ありがとうございます……くっ……」

純一(あの、茶筅……確かに感じる………このもやもや…!
   これは……梨穂子のフラグに、違いない……!)

純一(でも、なんだ……! いつもと、もやもやが違う……
   質が違うっていうか、そのもの自体が違うような……!)

金の仮面『──では、左の方。答えをどうぞ』

純一(──くそ! 大きい…大きすぎる…!
   もやもやが大きくて、意識がもうろうとするよ……!)

純一(答えなきゃいけないのに……!!そうしないと、僕は梨穂子と会話が出来ない…!
   ここでなにもかも、押し殺して……僕は回答しなくちゃいけない……!)

リホ『…ずんいち……』

純一「その、答えは……」

純一(──その、答えは……なんだよ、橘純一……僕は何を言おうってしてるんだ…?)

純一(──忘れるなよ、忘れるんじゃない僕っ……僕は、僕は一人でここに居るんじゃない……!!)

純一(みんなのおかげで、ここに立っていられる…それは、とっても凄いことなんだ…!
   だってそれは絶対に一人じゃできなかったことだから…!)

純一(だから僕は──……僕は簡単に……こんな問題を答えていいものじゃないだ……!!)

純一(正解だからって、これが答えだからって……それがしょうがないからって、
   だからって……みんなの思いを、みんなの気持ちを押し殺していいものなのか……!?)

純一(ここで僕って答えるのは簡単だ……でも、それは……今まで頑張ってきた僕自身を…)

純一(……みんなが好きだって言ってくれた僕を、だめにしちゃう気がするんだ……!!)

金の仮面『──左の方、どうかなされましたか?』

純一「──いや、なんでもないですよ。今から答えます」

金の仮面『……。そうですか、では回答をどうぞ』

純一「……………」

リホ『……………』

純一「……その、答えは──………」ぐぐっ……!


純一「わんわーわーんー!!!」だだだ!

金の仮面『──え? なに、ちょ……!』

純一「わふっ!わふっ!」ぐるぐる…

金の仮面『え、なに……なんでわたしの周りでぐるぐる走ってるの……!?』

純一「わんわん! わーん!!」ばっ

金の仮面『きゃ……!!──だ、だれか警備!!この人を止めて!!』

警備「は、はい……!!わかりました!!」

金の仮面『はやく……! この人をとめなさい!!』

純一「わふぅー……わんわん」ばっば!ばば!

警備「は、はやい──何だコイツ、人間じゃないぞ……!?」

警備2「まるで犬みたいだ……!?」

純一(──そうだ、僕は犬……誰にでも止められやしない。
   自由気ままで、人間社会なんてどうだっていいと思ってるほど自由なんだ)

純一(だって、僕は犬でいいんだ……そうやって僕を好きでいてくれている人たちの、
   顔色をうかがい続ける…そんな人生を歩みたいって思ってる)

純一(それは確かに──人にとっては馬鹿みたいで、恐ろしく醜いかもしれない……
   ……でもそれが、大切な人たちを守るためなのなら──)

純一「僕は人生を止めてもこわくなんかない!!」ばっ!!

ころころ…

金の仮面『あ──賞品が……!?』

純一「わんわん──……そこの、金の仮面さん」

金の仮面『え、なに……?』

純一「僕は本当に、貴方に感謝してるんだ。たぶん、僕は同一人物だと思ってるから
   そういってるつもりだけどね」

金の仮面『……………』

純一「ありがと、その無言が答えだね。
   ──本当にありがとう、僕は君のおかげで……人間を止められた」

金の仮面『い、いや……そんなことを感謝されたくないよ…』

純一「そうかな? 僕はけっこう幸せだよ?
   僕は決して──後悔なんかしたくない、今出来ることを全部やりきる」

純一「それがもし──失敗だとしたら、そんなのは後で悩めばいい。
   だってやらずに後悔よりも、やって後悔の方が……気持ちがいいじゃないか」すっ

純一「──梨穂子、それじゃあ言うね」

リホ『え……?』

純一「なんかその、色々とめちゃくちゃにしてごめん……後でちゃんと謝るよ。
   それにさ、僕いまこんなことになってるけど……それでもちゃんと正気でいるから」

警備(こ、こいつ…走り回りながら会話してるぞ…!)
警備(気持ち悪い……なんだ、速さがましている…!)

リホ『ず、ずんいち…?』

純一「大丈夫。不安がるな梨穂子……僕は僕だ。こうやって犬をやっているけど……
   それでもお前の知ってる僕だ」

純一「だから今度は──梨穂子。次は僕の番なんだ」

純一「……お前が好きでいた僕のすべてを、思い返すんだ」だっ!

ぱくっ

純一(───────あごあをいgふぁwじぇおふぁをえfほwhじょwじぇあじょwj
   ふぁおいえじょあうぇjふぉいわjふぉあじょfじjそdjふぉあしjどjふぁf
   ふぁほfへおいえじょあwじぇおじゃおfじおえwじょふぃうぇおあじょえfjw)

純一「───ッ……ッッ……くっ……!!」

純一「──今、全てを思い出せ……」

ジザザ…! ザザ!

『今日はシュークリームを食べたんだぁ』
『へーそうなのか。というかほっぺについてるぞ…』

純一「そう、僕と梨穂子は幼馴染で…」

ジジジ……ザザー…

『……いたいよ、純一…』
『あ、ごめん……ちょっと強く抱きしめすぎたかな…』

純一「これが、最後の記憶───」

ザザザ……ザザッ…

『うん、ありがとね純一!』
『ああ、ありがとな梨穂子…!』


純一「僕が──僕が知っている。全ての梨穂子……」

純一「──ここに全て、そろったんだ…!!」

純一「──梨穂子、問題をだせ」

リホ『え……急にどうしたの純一…?』

純一「いいから。問題のストックぐらい、あるんだろう?
   それに見てたらいくつかのストックから、ランダムで選んでたみたいだし」

純一「それを──今から出すんだ。問題として、クイズとして、勝負として──」

金の仮面『──そ、そんな暴挙私が許すわけが……!!』

純一「わん!!!」

金の仮面『っ……!!』ささ…

純一「……了解は得られたから、出してくれ梨穂子。
   数はそうだな──そのストック全部でいい。全部でいいから出してない問題を」

純一「───今から全部、答えてやるから」

リホ『でも、そんなの無理だよ~!いくらずんいちでも……!!』

純一「信用しろ、梨穂子。もうお前のことは何だって知ってるから」

純一「──逆に恐怖しておくんだな……ここまで知っている僕を、梨穂子を知り尽くしてる僕のことを…な?」

数十分後

リホ『百五問目……だよ~…!』

純一「ああ、こい……梨穂子!」

リホ『わたしが大切にしてるぬいぐるみは──』

純一「シュナイダー、次!」

おおおお……!!

リホ『ええっと次は……百六問目だよ~…!』

リホ『わたしが初めて公衆電話でやったことは───』

純一「僕の上に肩車でお金を入れる、次!!」

おおおおおおおお……!!

リホ『つ、次は百七問目だよ~……けほけほ…』

純一「んっ? 大丈夫か梨穂子…? ほら、何か飲み物をもってきてください…」

警備「は、はい…!わかりました!」だっ

純一「──大丈夫か梨穂子? 無理させてごめんな」

シンシダ…セキコンデルリホチャンカワイイナァ…スゴイナンデモシッテル…

男a「──あいつは、いったいなにものなんだ…」

男b「幼馴染って事はわかるよ──でも、それでも俺たちの凝り固まった常識さえも…
  すべて答えてる……おい、あの問題でいくつ間違ったお前…?」

男a「い、いや……そうだな…七十問ぐらい、間違った気がする…恥ずかしい限りだよ…」

男b「ばかいうなよ…俺なんか八十こえてしまってるよ……あいつ、凄いな……」

純一「ありがとうございます。お金は……」

警備「い、いえ!めっそうもございません…!」

純一「え…?」

警備「──わたくし、長年警備を務めさせていただいてますが……このようなことは初めてです…!
   貴方のような人を、真なるファンというんですね……!」

純一「え、えっとその───……はい、そうなんです。これがファンという者ですよ、おじさん…!」

警備「は、はい!ありがとうございます!」

純一「いえいえ……梨穂子、ちゃんと飲んだか?」

リホ『う、うん……こくこく…ぷはぁー…本当はリンゴジュースが良かったんだけどね~』

純一「お前……いや、梨穂子らしくていいかな」

純一「よし、そしたら続けるぞ! 僕は……いや僕が満足するまでやってやるからな」

純一「これは証明なんだよ!梨穂子、お前のことを知っている僕が……どれだけのことを
   やったのか知っている僕にとって、お前にたいする証明なんだ!」

リホ『ずんいち……?』

純一「なんでお前がアイドルになったのかわからないよ……それだけはわからなかった!
   記憶の中で、お前はいつだって歌ってた記憶もあったけど、それでもわからなかった!」

純一「───それでも、分かった梨穂子から……幼馴染である僕は、想像ができる!」

純一「梨穂子! お前は別に、僕の負担なんかじゃないよ!」

リホ「っ………」

純一「梨穂子は僕の幼馴染で、何だって知ってる……それはお互い、どっちもだ。
   だからお前は思ったんだろ…?このままじゃ、どっちもダメだって」

純一「だから考えた! お互いに知りすぎてる僕らは……ダメなところも良い所も知ってる。
   それはそのまま……お互いに仲良くなって、もしかして好き合ってしまったら…」

純一「絶対に、負担になるってわかってしまったから!」

リホ『わ、わたしはそんなこと──……』

純一「──まったく梨穂子はかわいいなぁ。僕は気にしないってば」

純一「僕はいっぱい食べる梨穂子も好きだよ?
   それに、なんだって歌にしちゃう梨穂子も好きだ」

リホ『え……?じゅ、純一……?』

純一「他人を怒ることが苦手なのも好きだし、強く言えない梨穂子も可愛いと思う。
   ──それが決して僕の為にならないって、後先のことを考えた梨穂子も可愛いと思ってる」

リホ『わ、わたしは……そんなことおもってないよ~……』

純一「嘘は通じないぞ! 僕は幼馴染だ!
   お前が思ってることは、なんだってわかる!」

純一「だからそうやってアイドルになって、自分を変えようって。
   他人に思いを伝える職について、それに慣れようって思った梨穂子は…僕は凄いって思ってる!」

純一「……でも、そろそろいいだろ梨穂子。はやく帰っておいで」

リホ『…………』

純一「お前はすっごく頑張ったよ。だってアイドルだよ?
   どれだけ凄いことをやってるのか……今になっても理解できてないよ」

純一「どれだけ頑張ったら……そんなことできるんだ?
   だからさ、それを……僕に教えてほしいんだ」

純一「前みたいにさ、一緒に学校から帰りながらでも」

リホ『──純一…わたしは、そんなこと思ってないよ…』

純一「うん、そう言うと思った」

リホ『だから、そうやっていわれたことも、何とも思ってないから…』

純一「そうだね、でも本当は思ってる」

リホ『………純一、本当に純一は…何だって知ってるんだね…』

純一「幼馴染だからな。それに……」

リホ『それに……?』

純一「僕は、梨穂子のこと好きだから──そうやって、強く言えなくて、
   自分ひとりで隠してしまう所──そしてそれを…」

純一「……僕がわかってしまうから、僕の前からいなくなったこと──」

純一「──それは全て、僕にとって可愛い梨穂子なんだ。
   ばかでかわいい、梨穂子だから……なんでも知ってるんだよ」

リホ『純一……』

純一「……だから、おいで。もう何も恐れることなんかないよ?
   逃げ出さなくても、既に僕は知ってしまったんだ」

純一「なんでも食べて、なんでもう歌にする梨穂子……
   ──それが僕が知ってる、一番の梨穂子なんだから」

リホ『──じゅ、純一……っ』

ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

純一「──え、ええ…?なに、急に声援が……!?」

金の仮面『──みなさま、最後まで『桜井リホ最後のコンサート』にご付き合いくださってありがとうございます』

純一「え……?」

金の仮面『──近日、巷で噂されてました……この〝お別れライブ〟。これがその理由です──』

金の仮面『このような別れを告げる結果となり──桜井リホファンの方たちのみなさまには、
     本当にもうしわく思っている所存でございます』

金の仮面『──ですが、みなさま……ご理解いただけたでしょうか?』

金の仮面『彼女は確かにアイドル──それは誰にでも汚されない、神聖なもの。
     ですがそれを背負わされる人はみな……恋する少女なのです』

金の仮面『ことそれは──誰しも魅了するアクセントとなり、老若男女すべて含め虜にするスパイス……』

金の仮面『──その絶妙な雰囲気を出す、この桜井リホ……それは今日でおしまいです』

ウッウッ…リホォ~…リホチャーン…

金の仮面『──みなさまの残念に思う気持ちは、このようにソロの活動へと導いた私にとっても…
     嬉しい限りであります……』

金の仮面『──ですが、みなさま!!どうかこの桜井リホに最後の大きな拍手を送ってください!!』

金の仮面『このように一人立ちを迎えた──真なる一人立ちを迎えた……桜井リホに、どうか拍手を!!』

ワァアアアアアアアアアアアアパチパチパチパチパチパチ…

金の仮面『ありがとうございます───このように愛されるリホは、今日で最後……』

金の仮面『…みなさま、どうか最後の最後までお楽しみください──それでは、新曲……』

金の仮面『──〝恋は何時でもとらぶりゅ~〟です!!』

ちゃらら~……♪

ワァアアアアアアアアアアアア!!

リホ『え、どうしよう……どうしようずんいち!?』

純一「えっとその……お前、最後のライブだったの……?」

リホ『し、しらないよ~!わたしだって、そんなこと初めて知ったよ~!』

純一「ええ…?でも、巷で噂されてたっていってたぞ…?
   それって梨穂子がそろそろやめるって言ったからじゃなくて…?」

リホ『え、ええ…っ? わたし、全然アイドルやめるつもりなかったけど…
   そんな噂されてたの~……?』

純一「いや、僕は知らないけど……というかまぁ、言っておいで梨穂子」

リホ『え、純一……?』

純一「最後なんだろ? それはお前が頑張って来た全てなんだよ。
   終わりを迎えられるのは、ちゃんと頑張った人の特権だよ」

純一「だからほら……行っておいで。ちゃんと最後までやりきるんだ」

リホ『………っ……でも、わたし…!』

純一「何不安がってるんだよ、このアイドル!
   ──お前の歌声、観客席できいてたけど……凄かったぞ!」

リホ『……ほんとに? 純一は、凄いって思ってくれた…?』

純一「ああ、幸せになるのかと思って天にめされそうだったよ!」

リホ『──幸せに……なれた、か……』

リホ『──うん、いっちょがんばるよ~!見ててずんいちー!』

リホ『みんなぁ~!最後だけど……ちゃんときいてねぇ~!!』

ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

リホ『わたしは…♪』

純一「──ふぅ、これでよかったんだよな…」ちら

薫「!……ふふん!」ぐっ

純一「ああ、薫……やってやったぞ」ぐっ

純一「──さて、僕も舞台からおりようっと…あの人たち、既にもう降りてるし…」

純一「……ん?あれは───」

金の仮面「………」すたすた…

純一「…………」たったった…!

舞台裏

金の仮面「…………」

純一「──こんにちわ、金の仮面さん」

純一「……今日は色々とご迷惑をかけてすみませんでした」

金の仮面「──いいんだよ、橘くん…これも予定通りだからね……」

純一「……どうして、僕の名前を?」

金の仮面「それは、桜井リホが……いや、桜井梨穂子ちゃんが貴方をそう──」

純一「呼びませんよ。アイツは下の名前かずんいちです。
   それに仮面をかぶってますけど……貴方とは面識がないはず」

金の仮面「…………」

純一「──貴方はいったい、なにものなんですか?
   たぶん、僕の予想だと……貴方は僕の記憶の原因を、知っているはずだ」

純一「記憶がない期間──思い返される記憶……その違い。それに絢辻さんの手帳もそうだ。
   そして梨穂子の歌のひみつ……作曲が貴方で、梨穂子をアイドルグループから出したのも…」

純一「──僕に元気を付けてくれた手紙を書いたのも、すべて。全部、貴方がしたことのはずだ…!!」

金の仮面「……」

純一「確証なんてものはない。でも、全てにかかわってると予想できるのは……
   ──貴方だけ、というのはわかってる」

金の仮面「………」

純一「───どうか、教えてください。金の仮面さん、貴方は一体……」

純一「……何者なんですか?」

金の仮面「………」

純一「…………」

金の仮面「──ふふっ…ふふふ…」

純一「……っ……」

金の仮面「──ここまで、本当に長かったなぁ……ねぇ橘君。
     わたしってけっこう我慢強いって思ってたけど、そうじゃなかったみたいなんだあ」

金の仮面「色々と工夫して……世界をちょっといじっちゃったけど……こうなってくれたのなら、
     ぜんぜんいいんだよ?橘君?」

金の仮面「……いや、そうじゃないね────」

金の仮面「───21番目の、橘 純一くん……?」

うんこいってきま
すぐもどる

純一「21番目の……僕……?なにをいってるんだ貴方は──」

金の仮面「──あ、ごめんね橘君……本当は詳しく言えばね?1254566番目の橘純一君なの」

純一「1254……いやいや、本当に何を言ってるんだ……っ?」

金の仮面「そうなんだよねー……わたしも──ううん、これはもういっか。
     ──あたしも、びっくりしてるんだよ?」

金の仮面「だってまさかバグっちゃって…
     こんな世界になっちゃうなんて、あたしにもわからなかったんだから」

純一「世界がバグって……?」

金の仮面「え、ああ! いいのいいの! 橘君は考えなくていいから!
     これは全部、あたしのせいなの……すべてあたしのせい」

金の仮面「こうやってプログラムには無い未来の世界になっちゃって……
     あたしも困ってたんだけど、こうやって……」

金の仮面「──あなたが助けに来てくれたから、それでいいんです」

純一(……どうしよう。核心に触れたと思ったら、
   この人が言ってることがまったく理解できないよ…!)

純一(プログラム…?助けに来た…? いったいぜんたい、どういうことなんだ…!?)

金の仮面「──橘君、あなたはとっても凄い人……」すっ…

純一「え、急に近づいてきて…どうしたんですか…?」

金の仮面「だって、貴方はこのバグの嵐を──
     たった一人でくぐり抜けた、唯一の橘君……」

金の仮面「あたしも色々とお世話したけど……それでもちゃんと、
     あたしのところにこれたんだから……凄いとしかいいようがないよ」

金の仮面「ねぇ、橘君……?」

純一「──や、やめてくれ……!!」どん!

金の仮面「きゃ……!」

純一「な、なんなんだ貴方は…!いったいなにをしっているんだ!?
   僕のことを……そして全部のことを!!」

金の仮面「──そうだよね、たしかにそうだよね……ごめんなさい、橘君。
     あたしったら浮かれちゃって、ちゃんと説明しなきゃいけないのに…」

純一「──と、とりあえず……その仮面をとってください!」

金の仮面「え、これ?」

純一「そ、そうです! まずはそれから……それから開けてください。
   そしたら僕も、貴方の話を大人しく聞きますから」

金の仮面「───……そっか。そうだよね、こんな仮面をかぶってちゃ、
      貴方も不安で仕方ないよね……わかりました、今とりますね──」すっ…

「──ふぅ…これでいいかな? 橘君?」

純一「え、あ、うん……?」

純一(え、えええ…!? なんだか可愛いこが仮面からでてきたぞ…!?
   このこがあの、全ての元凶なのか…?!)

「えっと、橘君……ちょっといいかな?」

純一「え、なんですか…?」

「その、敬語はやめてくれるかな……? あたしも本名を言うから、
 それであおいこみたいにならない?」

純一「え、あ、うん……こんな感じかな?」

「うん! ありがとう!」

純一(か、かわいい……い、いや橘純一!なにを惑わされてる!
   この子は可愛いけれど、それとは裏腹に…僕の言ったことを否定をしていない!)

純一(それはこの子がそれを認めてるってことだ!
   ──そうだったのなら、この子に色々と教えてもらわないと……まずは本名だな)

純一「……えっと、それで、君の名前は…?」

「あ、えっとね。あたしの名前は───」

上崎「──上崎、裡沙……気軽に裡沙ちゃんって読んでも、橘君だったら……いいよ?」

純一「上崎 裡沙………?」

上崎「──ん? どうかした橘君……あ、もしかして記憶が戻りそうになってるの?」

純一「っ? なんでそれを───」

上崎「もう! わすれないでよー……そもそも記憶がない橘君を励ましたのは、あたしでしょう?」

上崎「あの手紙、大変だったんだよ?
    ──……世界はバグってるくせに、ちょっとした規律の取れてないことは直ぐ弾かれちゃうから」

上崎「だから、ちょっと簡単に世界に……わからないようにね、記憶だけをすこし閉じ込めたの」

上崎「それにね! あそこは繰り返される共通点が多くてね!
   ──あの公園は、色々と世界で使い回しされてて……世界の規律が緩くなってたんです!」

上崎「それにあの場所じゃなくても……
   学校にある貴方の秘密の場所の、段ボールの中にも入れておいたんだっ」

上崎「あの場所も共通点が多くてね。だからそうやって色々な貴方が行きそうな……ゆるい場所に、
   色々と手助けになるように、手紙をおいてたの」

上崎「──あ、でもね? このことに気付いたのは12554番目の貴方も気付いたんだよ?
   あの時の橘君も凄かったなぁ~……でも、絢辻さんに殺されちゃったけど」

上崎「あ、でも落ち込まないでね!? あ、貴方別に…悪くなかったの!
   悪いのはあっち、絢辻さん……あいつのせい…!」

上崎「なにが貴方の為よ…結局はじぶんのためじゃない…世界を救うためには、
   一緒にしぬしかない…? 馬鹿いわないでよ…そんなのどっちにしてもだめなんだから!」

上崎「あ……ごめんなさい…あたしってば直ぐに一人で喋っちゃって…
   あ、あのね? あたしすっごく今、楽しいんだっ!」

上崎「だってだって…こうやって貴方とおしゃべりができるなんて、ちっとも思ってなかった!
   ──それでも少しは期待してたんだ……きっとあなたなら、あたしを助けに来るって…」

上崎「そして実際に──貴方はきてくれた、ありがとう……橘君……っ」

純一「───ま、まってくれ上崎さん……!!」

上崎「どうしたの? べつに裡沙ってよんでも、いいんだよ…?」

純一「そ、それは考えとくから……それよりも、要所要所で言ってくれないかな…?
   僕ってほら、馬鹿だからさ…もう少し、砕けた感じで言ってくれないとわかんなくて…」

上崎「ご、ごめんなさい……!!あたしってばまた…もう、ちゃんと百万回ぐらい練習したのに…っ」

上崎「貴方の前に立っちゃうと、どうしても緊張しちゃうの……ごめんなさい橘君……」

純一「い、いや……いいんだよ。ゆっくりとでいいからさ、お願いするよ」

上崎「わ、わかった……それで橘君が聞きたいのは──いったいどれなのかな…?」

上崎「──貴方が記憶がないこと?それとも世界が不都合が起こってること?
   それとも貴方がものや動物を触れて、記憶を取り戻すこと?
   桜井さんの歌で、みんなが変わってしまうこと?…なんでもいってね。全部答えるからっ」

純一「──とりあえず、僕が聞きたいのは……この世界のこと」

上崎「世界のこと? 貴方の記憶のことじゃなくていいの?」

純一「うん、僕のことはどうだっていいんだ。まずはそのことを聞きたいよ」

上崎「……そっか。本当に橘君ってすごいね──うん、そしたら教えるね?」

上崎「──この世界は、ゲームなの。橘君」

純一「げ、げーむ……それってあの、遊ぶやつの…?」

上崎「そうなの。いきなりゲームだって言われてもわからないともうけど…
   ここはそうだってことで、話を進めるね」

上崎「貴方はゲームの主人公……冬にトラウマを抱えた橘君は、ある日…
   新しい恋をすることをめざす──それは、貴方が目指すべきエンド」

上崎「新しい人脈、新鮮なイベント……心ふるわせるハッピーエンド。
   それらを体験しながら、幸せをつかみ取る……そんな世界」

上崎「そんなゲームの主人公の貴方は……やっぱり初めてだから色々と失敗をするの。
   思ってもなかったことでバットエンドになって、それでも頑張って次に進む」

上崎「そうやって繰り返していくうちに──世界が何度も新しく構成されていくうちに、
   貴方は限界を迎える──」

純一「げん、かい……?それはなんなの、上崎さん…?」

上崎「──それはね、セーブデータ」

上崎「貴方が何度も繰り返した結果、世界の蓄積は……ちゃんと限界があったの」

上崎「それが、セーブデータの限界。繰り返しつくられた世界の、ストックの限界」

純一「ストックの限界……?」

上崎「信じられないよね? うん、あたしもそう思う……でもね?
   今の橘君ならきっとわかるはず…!だって色々と思いだしたでしょ?」

純一「……それはその、フラグをとったときの、こと…?」

上崎「そうなの。それが今まで、貴方が経験した…20個の記憶。
   そしてバグってしまった先にある──1254566個の記憶」

上崎「それが全部──貴方が思い出す、思い出される記憶なんです」

純一「そんな、膨大な記憶が……思い返されるの…?」

上崎「──そこはちょっとわからないの…ごめんなさい。
   で、でも確かに…!これは本当のことなんです…!」

上崎「だから貴方は、この世界で色々と──思い返す記憶で、たちむかえたんです」

純一「そう、なのか……」

純一「──ありがとう、上崎さん……とても、とても信じられるようなものじゃないけど…
   それでも、信じせざる追えない気がするよ……」

上崎「うんっ! 大丈夫?気をしっかり持ってね橘くん…!」

純一「ありがとう、上崎さん……あの、その…そしたら、なんでそのゲームはバグったの…?」

上崎「え? えっとそれは……」

純一「それに……なんだか、その繰り返してきた記憶を全部知ってるような上崎さんは……
   一体何者なの……?」

上崎「……………」

純一「上崎、さん……?」

上崎「それはね──橘君……貴方が繰り返してきたその世界は…」

上崎「……ただの、貴方の妄想なの」

純一「妄想……? いったいなんのこと…?」

上崎「実は──そうなの、思い返す記憶全てってわけじゃないけれど……
   それでも記憶にあることは、全部──貴方の妄想……」

純一「で、でも僕は確かに……自分の記憶だって…!」

上崎「そう言いきれるの?橘君……だってそれは、本当に貴方の経験したことじゃないでしょ?」

純一「そ、それは……っ」

上崎「確かに、セーブデータのストックはあって。それを消化したのは貴方……」

上崎「……でも、それが全部…ハッピーエンドだったかは…そうじゃないの」

上崎「──だから、バグってしまったのはそのせい……」

上崎「……貴方が繰り返し行われた世界のエンドに…ためにため込んだ、
   幸せを望んだものが妄想が……ついに、世界に影響を与えてしまった…」

純一「僕が……僕の妄想が、世界に…?」

上崎「そう、なの。そして世界はバグって、色々と変わってしまったの……」

純一「そん、な……これは、僕のせいでなったっていうのか…?」


上崎「このバグった世界──どこかおかしいとおもわなかった…?
   ──まるで、自分が好き勝手できるような…そんな風に日常がすぎていく気がしなかった…?」

純一「たしかに……それは絢辻さんもいっていた…今は、誰かの思惑通りに進んでる気がするって…」

上崎「……そう、ここは橘君が望んで作り上げたバグの世界──貴方が自分が好き勝手できるように、
   おもちゃ箱のような世界なの……」

純一「…………まさか、そんなこと…」

上崎「……信じられない、よね? でも、これが現実なんだよ?……だってずっと見てたんだもの」

上崎「あたしは……橘君が繰り返した、妄想の世界での1254566回のを……すべて覚えてるんです…!」

純一「どう、して……?」

上崎「──それは、橘君……うんめいなんです……!」

純一「運命……?」

上崎「そう、それは運命……だって他の人は記憶が蓄積しないのに、あたしだけは違う……」

上崎「これは、ゲームという世界観に選ばれた……貴方のヒロインなんです…っ!」

純一「君が……僕の、ヒロイン…?」

上崎「は、はい…! そうなんです、あたしが…あたしが貴方の妻です!」

純一「妻なの……?」

上崎「あ、いえっ……それはいいすぎました!
   で、でも…いつかそうなると思ってます………」ゴニョゴニョ…

純一「───わかった、とりあえず……この世界のことはわかったよ。
   じゃあ僕はなにしたらいいのかな?」

純一「こうやって色々と頑張って……君にたどり着いたけど、それがただの
   僕の妄想の世界だった……そりゃそうだよ、だって好き勝手やってたのに…」

純一「……誰も、僕を嫌いにならなかった。本当に……僕は、いったい今までなにを…」

上崎「……。落ち込まないで、橘君……あたしがいるじゃないですか…」ぎゅっ…

純一「──上崎、さん………?」

上崎「貴方は頑張って、そんな橘君の妄想の世界でも……こうやってあたしの所にきてくれた。
   これはもう……運命なの。貴方を分かってあげられる、貴方と記憶を共有できるあたしと…」

上崎「運命は……貴方とあたしを引きつけた」

純一「上崎、さん………僕は……」

上崎「ううん、なにもいわなくていいよ。橘君……言わなくても、あたしはわかってる……」

上崎「これまで、色んな人を分かって来た貴方だけど……今度は自分の番だよ?」

純一「上崎さんっ……僕はっ……僕はっ……!」

上崎「大丈夫…大丈夫だから……ね? なかないで橘君…貴方は人の為に頑張れるって、
   そんな事を言われ続けたよね…?」

上崎「でもそれって──裏を返せば、貴方に負担をかけているしかない。
   まかせっきりで、貴方しか心の負担を感じ続けるだけ……」

上崎「でもね? あたしはそんなことはいわないよ…だって貴方の苦しみを知ってるんだもの。
   知ってるのなら、あたしはその苦しみも共有できる……ちゃんと理解もしてあげられる…」

純一「僕はもう──なにも、頑張らなくていいの……?」

上崎「うん、頑張らなくていいよ。あたしと一緒に……いてくれれば、それで…」ぎゅ…

「──それで、なんなのかしら?貴方」

純一「え……?」

上崎「ッ……この声は──!」

「あら、知ってくれてるの? ごめんなさい、どうやらあたしには貴方の気配の薄そうな
 顔つきには見覚えがないわ」

純一「これって……何処から声が…?」

上崎「──また、またあたしの邪魔をする気……!!」

「ふふ……そうなの? 別の世界のあたしも…どうやら貴方のことを嫌いだったみたいね」

純一「──あ、そこにいるのは……」

上崎「くっ……なんで、ここにいるのよ…っ!!」

上崎「──絢辻、詞……!!」

絢辻「名前を覚えてくれてるなんて、光栄ね……上崎 裡沙さん?」

純一「あ、絢辻さん…!? どうしてここに…!
   というか体調はもういいの…!?」

絢辻「──いいもなにもって、テレビの音がうるさいから起きて見れば、
   貴方が全国放送を乗っ取って、独壇場を作り上げてたら誰だって起きるわよ」

純一「え、あうん……ごめん絢辻さん……」

絢辻「まぁ、それもだけど……起きたのはそれだけじゃないのよ」すっ

薫「はろー!棚町さんですよー!」

純一「か、薫……!」

薫「いやー…アンタがその仮面についていったきり、帰ってこなかったからさ~。
  ちょっと人を呼びに、学校までひとっ走り行ってきたのよ」

絢辻「そうなの、そして事情を聞いて…今はあたしはここに居る。理解できた?」

純一「そうなんだ……というか絢辻さん、ずっと学校に居たの…?
   だってあれから一日たってるし……」

絢辻「──そうよね、おかしなはなしよね。不都合がそこでおきるのに、誰もが疑問に思わない」

絢辻「そこの所を少し、ご説明していただけないかしら…上崎さん」

上崎「っ………!」

絢辻「──あら、どうかしたの? はやく答えてよ?
   だってそれは、貴方全部知っていることなんでしょう?」

上崎「ぐっ……絢辻、さん……貴方はどうして、記憶が残ってるのよ………!!」

絢辻「返答になってないわよ、それ。──でもまぁいいわ、答えてあげる」

絢辻「──貴方、あたしの手帳を失念し過ぎてたでしょう?」

絢辻「どうやら、貴方は手帳の中身までは知らないみたいね……どこでどう知るのかは、
   あたしはわからないけれど──それでも、そこに隙が出来た」

絢辻「この手帳──橘君が不幸になって、世界が終わるときに書き変わるって思ったてたけど…
   それは違う。これは───あたしの記憶がリセットされたら書き変わるみたいね」

上崎「っ………そん、なこと……!」

絢辻「ありえるのよ。だからこそ、あたしは何もかも思い出した」

絢辻「だって、あたしは頭がいいんだもの。手帳に書かれてたことですぐ、以前のあたしが
   どう考え、どう思ってたかは──もうすでに理解済み」

絢辻「──だから、あたしが最後にどんな事を思ってたかも…もうわかったわ」

絢辻「ま、そんな感じね。たいして面白くもない話だったわ」

上崎「ぐっ……くぅう…!」

絢辻「──とりあえず、そこの泣き虫な橘君。そんなちんけな話術に引っ掛からないで、
   あたしの話を聞きなさい」

純一「え……?」

絢辻「そもそももっと聞くことがあったでしょうに──例えば、桜井さんの歌!
   あれはこの影薄い彼女が関係してることでしょ?」

純一「あ、そういえばそうだった……!」

絢辻「ちゃんと理解すればわかることでしょ。なんでそんなことを、この彼女がおこなったのか…
   それと、そのやり方も不思議じゃないの?」

純一「そう、いえばそうでした……」

絢辻「ほんっとに橘君って……無能よね。犬になることしかできないの?」

純一「す、すみません……」

薫「まあまあ。コイツの馬鹿さ加減はいまにはじまったことじゃないしさ~」

純一(こ、こいつ…ただ絢辻さんを呼びに行っただけのクセに、良い気になって…!)

上崎「───……ふ、ふん! それで絢辻さん……あたしに何か用でもあるの…!?」

絢辻「あら、いきなり強気ね。この場合は、下手に出て相手の出方を伺うのがセオリーじゃなくて?」

上崎「くっ…本当にむかつく人…!この二重人格!」

絢辻「褒め言葉、どうもありがとうございます。それで?是非とも聞かせていただきたいんだけど…」

絢辻「──貴方、なにを企んでるの?その橘君を誑かせて、貴方はいったい何をする気なのかしら」

上崎「あ、あたしはっ……!ただ、橘君の悩みを…解決させてあげようと……!」

絢辻「嘘ね」

上崎「なっ、なんでそんな事を言えるの…!?」

絢辻「貴方──どうにもこうにも、ウソをつくの下手過ぎない?」

絢辻「それにこのあたし、の前で仮面をかぶろうだなんて……片腹いたいわよ」

絢辻「それに、端の方で聞き耳をたててたから──話している内容も分かったけれど…」

絢辻「──この世界が、橘君の……妄想?運命の出会い? はっ!…笑わせないでよ」

絢辻「どうにもこうにも…そんな言葉を信用するなんて、ばかね!」

純一(絢辻さん……なんだかノリノリだ…)

絢辻「この世界が如何に──不都合な流れになっていたとしても、それは……
   けっして、橘君が望んでることじゃないってぐらい、あたしにもわかるわ」

純一「──絢辻さん……それは、本当に……?」

絢辻「当たり前よ。だってそんなの……貴方が望むわけないじゃない」

純一「え……?」

絢辻「平気で他人を不幸にして、好きだって言わせた奴を約束の場所でぶっちぎる」

純一「お、おおう……」

絢辻「……そんなことを平気で行える人間が、幸せを望む?頑張れる?
   やめてよそんなの……殺したくなっちゃうわ」

純一(だ、だいじょうぶだ……殺したいとかいったのは、僕じゃない今の僕じゃない…!)

絢辻「過去にどれだけの橘君がいたのかは、よくわからない。
   けれど、どこにいたって好き勝手やっていた橘君が……世界を変えるほどの」

絢辻「妄想を蓄えるなんて、想像もつかないわ」

絢辻「手帳でもわかることだし……それに、今の橘くんを見たってわかること」

絢辻「彼は決して──どのようなエンドを迎えても、絶対に後悔はしない。
   これはあたしの命に誓ってでも、そうだと良いきれる!」

純一「あ、絢辻さん…っ!」

上崎「……………っ」

絢辻「──だからね、そこの上崎さん。あたしは貴方に言いたいことがるの」

絢辻「隠しても無駄っ。あたしには通用しないし、どうあがいても無理っ!」

上崎「絢辻、詞……!!」

絢辻「あら、あらら。良い目で睨めつけてくるわね、つぶすわよ?」

上崎「っ…!……」びくん!

絢辻「ふんっ…とりあえず、あたしが言いたいのは最後に一つ」

絢辻「──この世界を、作り上げたのは橘君じゃない。
   ぜったいにこれは──貴方、上崎 裡沙さんでしょう?」

純一「……そう、なの…?上崎さん……?」

上崎「っ………」

純一「この世界は、バグってしまった世界は……君が作り上げたの?」

上崎「それは……それは───っ!!!」ごごごごご!!!

薫「な、なにこれ……!? 急に地面がせりあがって…!!」

絢辻「──ッ……なにをしているの、上崎さん……!」

純一「えっ…これって上崎さんがやってるの……!?」

上崎「……ゆるさない…またこうやって、橘君との幸せを壊して…!
   やっと手に入れたって思ったのに…やっとやっと…!!」ごごごごごお!!!

純一「上崎さん……!? いったいこれはどういう……!!」

上崎「──なにって橘君……またやり直しだよ?」

純一「え……?やり直しって……」

上崎「だって、全てが終わっちゃったんだもん。それだったら、もっかいカセットを抜いて…
   入れ直すの。そうすればまた上手くいけば、最初から……!!」

上崎「もう──こんな世界なんていらないんだから!!
   ぜんぶぜんぶこわれちゃえ!!あはあははあははっはあはっは!!!」

ごががが! ごきん!

純一「なっ……これ、空間がおり曲がったとしか言いようがないよこれ…!」

薫「きゃあ…!」

純一「か、薫……どうした!?大丈夫か!?」

薫「ま、まぁね……それよか、アンタは大丈夫なの?」

純一「大丈夫だよ……なんだか生きた心地がしないけど──あ、絢辻さんは!?」

絢辻「ここにいるわよ?」

純一「うわぁ!? 後ろに居るなら、急に声を出さないでよ…!びっくりするじゃないか…!」

絢辻「そうね、ごめんなさい」

純一「…な、なんだか絢辻さん……余裕だね…?」

絢辻「え? そうかしら……でも確かに、余裕ではあるわね」

絢辻「──だって、これもあれでしょう?」

純一「あれ……?」

薫「──ああ、やっぱり…絢辻さんもそう思ってた?」

純一「え、なんだよ二人して……僕にはまったくわからないよ?」

薫「にぶいわねー…あんたも。そんなあんたは、どうやっていままで…
  色々なことを解決してきたのよ…」

絢辻「…まぁ、本当に何も考えずにやってきたって証拠ね。
   なら最後ぐらい、ちょっとは考えて行動してみなさい」

純一「僕が考えて行動……?」

絢辻「──そう、貴方は今まで……なにをしてきた?
   この世界で、なにを経験してきた?」

薫「──馬鹿みたいに、周りをひっかきまわして…アンタはなにをしたのよ?
  あたしの前で、なにをしてきたのよ?」

純一「…それは……」

薫「──いってきなさい、純一。ほら、背中を押してあげるわよ」

絢辻「──あたしも、押してあげるわ。ほら、いってきなさい」

純一「二人とも……僕は、その……」

純一「──今まで通りのことを、してくるよ……!!」だっだっだ!

純一「はぁっ…地面がめくれあがって、なんだか歩きにくいよ──お…」

上崎「…………」

純一「……なに体育座りをしているのさ、上崎さん」

上崎「──橘君……?」

純一「そうだよ。僕だよ」

上崎「もう、そろそろ……世界は書き変わるよ。
   もう、今までの橘君じゃなくなるから……覚悟しててね…」

純一「そうなんだ。それは大変だね」

上崎「……なんでそんなにも、平気そうなの? もう、終わっちゃうんだよ?
   もう、終わりなんだよ…?」

純一「──終わらせないよ、僕は」

上崎「え……?」

純一「だって、僕はまだ知っていない──知ってない子がいるんだ。
   それを知る前に、この世界を終わらせるなんて……僕にはできないよ」

純一「だから───」すっ


上崎「え、あ……それは…っ!」

純一「……うん、これはもやもやだね。上崎さんのフラグだ…」

上崎「これは……!その…っ」

純一「…可愛いハートのペンダントだね。上崎さんにぴったりだよ。
   ──これが君が仮面を脱いだ時、少しちらりと見えたんだ」

上崎「そう、なんだ……」

純一「だから、上崎さん……僕はこれを触っても良いかな?」

上崎「……触っても、もう遅いよ…どっちにしたって…あたしはもう……」

純一「いいや、だめだよ。僕はそうさせない」

上崎「橘君……?」

純一「──言っただろう? 僕は知らないんだ、知ってからでも遅くは無いから。
   どうか君のことを……僕に教えてくれないか──ッッ!!」びくん!

純一(──ogeowoiweofijwoejfaoio…)

純一「ッ……なるほどね、これが君の記憶──」


ジザザ…! ザザ!

『たちばなくん…っあのね…!』
『ど、どうして僕の名前を……?』

純一「そう、君は何時も僕を見てた……」

ジジジ……ザザー…

『あ、あたしは!貴方のことが好きなの!』
『え、ええ…!君みたいな可愛い子が…!?』

純一「だからこそ、君は何だって知ってる──」

ザザザ……ザザッ…

『…ごめんね、橘君』
『いいよ、僕は全部許すからさ』

純一「これで、全部か……」

上崎「……他の人に比べて、少なかったでしょ?」

純一「そうだね、それは確かにそうだった……」

純一「でも、その分──君の気持ちを…誰よりも濃く知れた。
   誰の記憶よりも……裡沙ちゃん、君も記憶が凄く良かった」

上崎「橘君……お世辞が上手だね…」

純一「お世辞じゃないよ! これは本当の気持ち……」

純一「……だから、君も気持ちもよくわかった」

純一「──僕は君とはハッピーエンドを迎えていないんだね?」

上崎「っ……そん、なことまで分かるんだ…凄いね、橘くん……」

純一「あはは。過去の僕ってば、本当に優秀みたいだよ?
   ……だから、僕はそんな過去の僕たちに縋って、君に伝えたいことがる」

純一「──ごめんね、裡沙ちゃん。君をずっと一人でいさせてしまって」

純一「君はずっと僕を見てくれたんだろう?
   失敗するときも、成功した時も……そうやって僕を見てくれた」

上崎「そう、そうだよ橘君……あたしはずっと、貴方のことを見てた…!」

純一「うん、ありがと……でもね、それを悪いことだと思っては欲しくなかったよ」

上崎「っ………」

純一「君がこの世界のルール性をしったのは……たぶん、遊園地。
   あそこのお化け屋敷じゃない?」

上崎「……うそ、そんな所まで……わかるの…?」

純一「裡沙ちゃんの記憶が戻ったことで、僕もどうやらこの世界のルールがわかったみたいなんだ」

上崎「……よくわからないけど、すごいね橘君……」

純一「ありがとう……それで、君はあそこのファラオの人形で……願ったんだ」

純一「──この世のありかたを教えてください。どうかあたしを幸せに出来る──」

純一「世界の作り方を、教えてくださいって」

上崎「…あたりだよ、そういったよ…確かにあたしは…」

純一「うん、そしたら君は……ここにいた。このバグのループの中に。
   自分ではもう抜け出せれない、頑固な檻の中に入れられてしまった……」

純一「……でも君は、世界の構造を知ってしまった。それをどうにか駆使すれば、また…
   元の現実に戻ることもできるかもしれない──いや、そんなことよりも…」

純一「元の現実とは違う、もっと幸せな形をつくることが出来るんじゃないかって思った」

純一「──そうして、君は頑張って頑張って…僕を応援しつづけてくれたんだね?」

上崎「うん…うんっ……そうだんだよ…あたしは、ずっと貴方のことを見てた…!」

上崎「でも、いつになっても貴方はこない……だから、あたしは世界をいじくって…」

純一「今の僕になるわけだ。記憶がない、少し未来の世界になってしまった」

純一「この世界──この世界はたぶん、みんなの意識が重要だったんじゃない?」

純一「だから君は、梨穂子をアイドルにし歌わせた…それがこの世界の違和感を無くすための
   キーとなるように…みんながみんな、おかしくならないよう…君は、もすごく…」

純一「頑張った……とてもとっても優しい子なんだよ、裡沙ちゃん」

上崎「あたしは……全然、やさしくなんかないよ……!だって自分だけの今年考えてなくて…!
   こうやってまた、自分のわがままで世界を壊そうとしてる…!」

純一「うん、そうだね……でも、人は誰だって弱いものだよ?」

純一「どんなに強くって、どんなに嘘をついてて、どんなに隠してて、どんなに頑張っても……
   みんな、それぞれ弱い所があって、感じたくないものがあるんだ」

純一「誰だって逃げ出したくなることもある。僕だってそうさ、いっぱいあるよ?」

上崎「うそ、だよ……橘君は、この世界で一度だってにげたことないじゃない…!」

純一「……そうだね。僕は逃げないね」

純一「そう、だったら……僕と一緒に、君も頑張らない?」

上崎「え……あたしも…?」

純一「そうだよ! 僕と一緒に、裡沙ちゃんも頑張るんだ!」

純一「そしたらもう、君は弱くなんかない。君は頑張れるこになって、そのうち一人でも頑張れるようになる」

上崎「むりだよ…! あたしには、そんな強いことは無理……」

純一「やってみなくちゃわからないよ? だって君はずっと僕のことを見てられるほどに…
   頑張れたじゃないか。気が遠くなるような時の仲で、僕の為に頑張れた」

上崎「…………」

純一「──さぁ、頑張って裡沙ちゃん! 今、僕の手をとるんだ!」

上崎「橘君…っ」

純一「自分を信じて! 前を向くんだ! 昔の自分はもういない……何かを始めるには、まずは自分からじゃないとだめだ!」

上崎「──っ……」ぱっ…

純一「──よし、君の努力。今受け取ったよ」

上崎「……橘君、あたし…あたし……」

純一「なにもいわなくてもいいよ……次は僕の番なんだ」

純一「今度は君を僕が分かってあげる番。なんでもいってね? いつだってかけよっていくからさ!」

上崎「うん、うん……ありがとう、橘君…」

上崎「──あたし、とっても幸せだよ……!」

うぉおおおおおおおおおおおおん!!!

純一「──え、なんだこれ……周りが真っ白に…っ?」

上崎「ど、どうして……?」

うぉおおおおおおおおおおおおおん!!!

純一「この声、確かどこかで……あ、ファラオの声だ!」

上崎「……もしかして、あたしが幸せだって言ったから…呪いが解けた…?」

純一「……ということは、元の世界にもどるってこと?」

上崎「……た、たちばなくん…!」

純一「え、うん……どうしたの裡沙ちゃん…!」

上崎「たぶん、もうこの世界は終わりを迎えると思う…!
   それはたぶん、ただしいこと……!」

上崎「今までがおかしくて…すべては、まぼろしだったのかもしれない…!」

上崎「でも聞いて!! これは、これは…とってもいいことだと思ってるの……!!」

上崎「あたしは世界が滅びて…やり直すことを望んだ…!
   でも、これから起こる世界の終わりは……また違うこと!」

上崎「あたしが望んで、世界が望んだ……一番きれいな終わり方…!」

上崎「そう、だよね…? 橘君……!」

純一「──そうかもね…今のままだと、僕らは止まったままだ。
   この思いだけが通る世界に……気持ちはとどまったまま──」

上崎「でも貴方は──この歪な世界の、全てを救った……あたしはそれを見てたらか、ぜんぶわかってる!」

純一「うん、ありがとう裡沙ちゃん…!」

上崎「感謝してるのはこっちのほう……橘君、どうか、お願いがあるの──」

純一「え、なに───」

上崎「どうか、元の世界になって──あたしのことをまた──」

「みつけて、あげてね……」

シュオオオオオ………

…………………
……………
………
……

もうあと1、2レスなんだが仕事行かなくちゃです…
どうにか書く手段を得るので、待ってくださればさいわい

では出かけてきます

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