京子「眠る結衣に口付けを」(187)

~ごらく部~

結衣「………」

今日は珍しく、ごらく部に私一人だ。
京子は担任に用事が、あかり達はクラスの用事があるらしい。

結衣「もうすっかり秋だな……」

初秋をとうに迎えているだけあって、爽やかな空気が心地よい。
忙しく鳴く蝉の声も聞こえなくなり、生き物達は冬に備えている頃だろう。

結衣「………」グテー

とりあえず寝転がってみる。
夏から秋への移り変わりは、物寂しさを感じさせるとともに、賑やかさを感じさせる。
虫は伴侶を求めて鳴き、花は咲き、木々は果実を生じる。
様々な側面を持つ秋という季節は、飽きることない楽しみを提供してくれる。

結衣「暇だ……」

とはいえ、いくら秋が楽しみの多い季節といっても、私は女子中学生なのだ。
欲望の枯れたご隠居のように、盆栽や座禅のような趣味で満足できるお年頃でもない。
とりあえずは読書の秋とも言うし、積んであるファッション雑誌でも読み進めてみようか。

結衣「………」ペラッ

秋冬オシャレ特集という文字が一面に出てくる。
そこからは、流行りを作り出そうとする出版社の企みが見え隠れする。

結衣「………」ペラッ

暇に任せて、ファッション雑誌をさらに読み進める。
けれども、その内容は上手く頭には入ってこなくて。

結衣「………」ゴロン

寝転がったまま雑誌を読みつつ、体制を仰向けに変える。
秋物の服のコーディネートを一生懸命に考えるも、次の瞬間には忘却してしまう。

結衣「………」パサッ

急な眠気に襲われて、思わず雑誌を胸元に落としてしまった。
困ったことに、拾って読み進める気も起こらない。
落とした雑誌はそのままに、あくびを噛み殺しながら体を伸ばす。

結衣「………」ファァ

今日はいい天気だから、皆が来るまで昼寝でもしようか。
その思考に従うように、自然と目蓋が閉じた。

結衣「………」zzz

京子「結衣……寝てるの?」

……京子の声がする。
緩やかな目覚めを迎えたけれど、私の体は依然として倦怠感に包まれたままで。
返事をするどころか、目蓋すらもしばらく開けられそうにない。

京子「結衣~、暇だぞー」

いつもよりも控えめな声量で、京子が私を起こそうとしている。
甘えるような声音で、私の覚醒を促す。

京子「起きないや……」

一応、起きている。
起きてはいるものの、この状態でそれを伝えることはできず、少し歯痒い。
京子の手らしきものが、優しく私の髪に触れる。

京子「結衣……寝てるよね……」

ふわりと京子の匂いが鼻腔を擽る。
京子の髪らしき、サラサラとした繊維質が頬にかかってくすぐったい。
こんなに近づいて、京子はいたずらでも企んでいるのだろうか。

京子「結衣……」

切なそうに、京子は私の名前を呼ぶ。
まるで、私が遠くにいて会えないかのように。

京子「結衣…」

京子の様子が、何やらおかしい。
早く起きて、京子の異変を突き止めて解決してあげないと。
そう思うのに、頭は重くて体はピクリとも動かない。

京子「ごめんね……」

いきなりの謝罪に驚いた私だが、それを気にする気持ちも、すぐに吹っ飛ぶことになる。


クチュ

ふと唇に、柔らかな感触を感じた。
京子の息遣いを近くに感じて、思わぬ衝撃に頭がクリアになる。
時間にして数秒くらいだろうか、それでも強い驚きでとても長く感じられた。

京子「……何してるんだろ、私」

京子は軽いため息と共に離れていく。
私の胸の中では幾多の感情が入り乱れて、整理が追いつかない。

京子「生徒会にでも行ってみようかな……」

その呟きと共に、京子の気配が離れて、足音が遠ざかる。

パタン

障子の閉まる音を最後に、場に静寂が戻った。

結衣「………」

ようやく、自由になった体を起こしてみる。
周りを見回しても、京子は既にこの場にいなくて、私は一人だった。

結衣「……京子」

さっきの唇に触れた感触。
あれはきっと、キスだった。

そっと指で触った唇は、少し熱を帯びていた。

ちなつ「遅れてしまってすみません」バタバタ

あかり「やっと終わったよぉ」フゥ

しばらくして、あかりとちなつちゃんが到着した。
クラスの用事で少し疲れている様子だ。

あかり「あれ、結衣ちゃん、京子ちゃんは?」キョロキョロ

結衣「京子なら、荷物はここにあるし、生徒会にでも行ってるんじゃないかな」

京子自らが生徒会に行くと言っていたが、私はあえて言葉を濁した。
実は起きていた、そのことを知られるわけにはいかない。

ちなつ「そうですか、それはそうと結衣先輩!」

ちなつ「今日は寒くなってきましたし、暖いほうじ茶でもどうですか?」ニコッ

結衣「いいね、お煎餅もあるし、今日はほうじ茶を楽しもうか」

どうやら、ちなつちゃんがほうじ茶を持ってきてくれたようだ。
皆の私物を持ち寄った結果、茶器や茶葉の種類も随分と豊富になったものだ。

ちなつ「すぐに準備してきますね」

結衣「私も手伝うよ」ガタッ

ちなつちゃんにばかり任せるのはいささか忍びない。
これでも、お茶もコーヒーも紅茶も、一応の淹れ方とコツは知っている。
ひとまず、ヤカンに火をつけて、炭を入れて放置しておいたお水を沸騰させるとしよう。

あかり「あかりはお皿とお煎餅の準備するね!」

何だろう、あかりの行動に無性に癒される。
あかりのお姉さんが猫可愛がりしているらしい理由も、何となく分かる。

ちなつ「あかりちゃんって、何だか小動物みたい」

あかり「えっと、それって褒められてる?」ムム

ちなつ「可愛いってこと」シレッ

あかり「そっかぁ」エヘヘ

座敷わらし、イギリスで言えばブラウニーといったところだろうか。
居るだけで場を和ませるというのは、一種の才能のようなものではなかろうか。

お茶の準備もできて、三人でまったりした空間を楽しむ。

結衣「ほうじ茶、とっても美味しいよ」ニコッ

ちなつ「そうですか?持ってきた甲斐がありました」エヘヘ

あかり「美味しくて、体がぽかぽかするね」ニコニコ

二人の暖かい笑顔を見ると、ざわついた私の心も落ち着いて。
暖かいほうじ茶は、心を溶かすように私の体に染み渡る。

結衣「お煎餅にも合っていて、いいね」

ちなつ「何だか深まる秋を感じますね」

お煎餅と組み合わせるお茶を変えただけなのに、まるで別物のように感じられる。

あかり「食べ物も飲み物も美味しくって、太っちゃいそう」

結衣「あかりはもう少しふっくらした方が、きっと可愛いよ」

あかり「そっそうかな」テレテレ

あかりもお年頃になって、体重が気に掛かるようだ。
きっと、ちなつちゃんの影響もあってのことではないだろうか。

ちなつ「そんなことを聞いちゃうと、私も食欲を抑えられなくなりそうです」ハァ

結衣「ちなつちゃんも、ダイエットのしすぎは体に悪いよ?」メッ

結衣「ちなつちゃんはそのままで十分に魅力的なんだから」

月並みな言葉だけれど、本当にそう思う。
ちなつちゃんは、容姿や評価にこだわりがあって、自分自身に厳しいところがある。
彼女からは、時には自滅してしまいそうな、そんな危うさを感じることがある。

ちなつ「結衣先輩、ありがとうございます」パァァ

あかり「うんうん、ちなつちゃんは可愛いよ」ニコニコ

ちなつ「そう?ありがと、あかりちゃん」

あかり「ううぅ、露骨に反応が違っていて悲しいよぉ」シクシク

ちなつ「あっ、別にあかりちゃんを蔑ろにしてるわけじゃなくて」アセアセ

結衣「二人とも相変わらず仲がいいね」クスッ

少しリアリストなところのあるちなつちゃんと、あれで精神的に落ち着いているあかり。
二人の相性はとても良くて、お似合いなコンビだと思う。

京子「皆さんお揃いのようで」スパーン

京子「奥山に、紅葉踏み分け、鳴く鹿の?」

結衣「声聞く時ぞ、秋は悲しき」

京子「正解!」

京子の登場によって、落ち着きを見せ始めていた私の心は、再び乱されてしまう。
私の隣に平然と座る京子に、自然と全神経が集中する。

ちなつ「猿丸大夫の詠んだ歌ですか」

あかり「さるまるだゆう?」

京子「昔の詩人の名前だよ」

ちなつ「ひょっとして心当たりないの?あかりちゃん」

あかり「えっと、えへへ」

あかりに百人一首は、少し早かったようだ。

ちなつ「……今度一緒に勉強しましょうか」ハァ

あかり「……はい」シュン

ちなつちゃんに勉強を見てもらえるなら、あかりのテストもきっと大丈夫だろう。

京子「せっかくの秋なんだし、ごらく部にも鹿おどしとか欲しいなぁ」

ここは山もないから、鹿おどしなんて付けても無駄な雑音でしかないわけだが。
それに近くに水源はないし、水道を使おうものなら、一発で部室の無断使用がバレかねない。

京子「ところで、みんな美味しそうなもの食べてるね!」

京子がお茶請けの煎餅に目を付けたようだ。

ちなつ「京子先輩のお煎餅もありますよ、今用意してきますから少し待っていてください」

京子「わざわざすまんねぇ……ちなつちゃん……」

ちなつ「別にいーですよ、おじいさん」ハァ

あかり「二番煎じでよければ、すぐにお茶も入れられるよ、おじいさん!」

京子「おお、では頼もうかのぉー、おばあさん」

あかり「私がおばあさんなの!?」ガーン

何だかんだで京子が小芝居を始める中、私はまったく話に絡めずにいた。
何かを話さなければ、そう思うのだが、上手く舌が動かなくて声がでない。

京子「ところで結衣さんや」

京子が、喋らない私に話を振ってきた。

京子「ぐっすり眠れたかの?」

結衣「ああ、ってやっぱり途中で部室に来てたのか」

鼓動が飛び跳ねて、冷や汗が背中を伝う。
自然な返答が出来ただろうか。

京子「結衣があまりに気持ち良さそうに寝てて、起こせなくてさ」イヤー

京子の表情はいつも通りで、キスのことなんて読み取れない。

京子「ところで今日のお茶は随分と美味しいけど、誰が持ってきてくれたの?」

結衣「ちなつちゃんだよ」

京子「それはそれは、ちなつちゃんに感謝しないと」

京子「ちなつちゃーん」バタバタ

京子は慌ただしく席を立ち、ちなつちゃんに近づいていく。
本当に、昔からは想像もつかないほどに、ちょこまかと落ち着きがない。

ちなつ「なんですか、京子先輩、って危ないから抱きつくのやめてください!」

あかり「あはは、京子ちゃんったら」

相変わらず騒がしくて、微笑ましい光景だ。
けれども、いつものように屈託なく笑うことはできなかった。

京子「もうこんな時間かぁ」

既に空は暗く、星がちらほらと見られる状態だ。

ちなつ「そろそろお開きにしましょうか」

あかり「日が落ちるのも早くなって、損した気分」

結衣「暗くなってから帰ると危ないから、仕方がない」

普段なら日の入りの速さを残念に思うところだが、今日はそれにほっとした。

~下校~

京子「二人ともじゃあなー」

結衣「また明日」

ちなつ「はい、失礼します」

あかり「また明日会おうね~」

分かれ道で、あかりとちなつちゃんと離れ離れになる。

結衣「………」

自然と、京子と私、帰り道で二人きりになってしまった。
どんな顔をすればいいのか分からなくて、胸の動悸が収まらない。

京子「結衣、今日は一緒に帰るか!」ギュッ

京子はそんな私の手を握り、ほほ笑みかけてくる。

結衣「……ッ」バッ

反射的に、京子に握られた手を振り払った。
振り払ってしまった。

京子「…………結衣?」

いきなりの拒絶を示した私に、京子は呆然として、
まるで魂が抜け落ちてしまったような、そんな表情をしている。
今の私は一体どんな表情をしているのだろうか。

結衣「ごめん、京子」

言い訳の言葉が、ごまかしの言葉が、瞬時に頭を駆け巡ったけれど、
私に言うことができたのは、たったそれだけの言葉だった。

京子「そっか」

傷ついた自身の心を隠すように、京子はそっと笑った。

京子「今日は結衣の家に泊まりの予定だったけど、帰る!」

京子「また明日なっ」

振り返ることなく走り去る京子の姿が、どこか寂しく見えて。
その後ろ姿が、暗闇に溶け込んで見えなくなるまで、立ち尽くしたまま見送った。

~結衣のマンション~

結衣「………」ガチャン

重い足を引きずって、ようやくマンションに帰宅した。

結衣「………」

体も心も、底なしの沼に沈んでしまったように動かない。
何もしたくない、何も考えたくない。

結衣「はぁ……」バタッ

今日もお風呂に入って、ご飯を作って、洗濯物を回収して、ゴミの確認をして……。
やるべきことがあるのに、体が、心が、それについてこない。

結衣「お布団……」

まだ玄関なのに、このままではここで眠ってしまいそうだ。
無理やりに気力を集めて、動かない体に鞭を打ち、寝室に行き布団を敷く。

結衣「………」ボスッ

重力に負けて、脱力した私はあっさりと布団に倒れ込む。
ふと、糸の切れたマリオネットのようだなと自虐的なことを考える。

結衣「疲れた……」

今日は京子のスキンシップに、過剰な反応をしてしまった。
始まりは京子のキス、らしきものからだ。

私と京子の関係は深い。
幼少の頃から何をするにも一緒で、彼女はよく私の背中についてきたものだった。

当時の京子は、今からは想像できないほどに、泣き虫で引っ込み思案な子で。
私は、そんな彼女が笑っている姿を見るのが大好きで、よく連れ回して遊んだ。

そんな京子も元気な子に成長したけれど、私たちの関係はさほど変化しなかった。
京子は垢抜けて社交的に、快活になって、成績も優秀になった。
私は男らしさが少し抜けて、ファッションにも興味を持つようになった。
けれども、私たちの半ば依存的な関係は崩れやしなかった。

……少なくとも今日までは。


このまま、私たちの仲は終わるのだろうか。
このまま、気まずいままに疎遠になるのは嫌だ。

では、私は京子に何を望むのだろう。
京子にどうして欲しいのか。
私たちのあるべき関係とは、何だろう。

結衣「………」ギュゥ

静かな夜は嫌いだ。不安が騒いで、眠れなくなるから。
泣いてしまえば楽だけど、泣いてもどうせ喉が渇くだけだろう。

結衣「京子……」

答えは出ないまま、眠りについた。


あれから三日がたった。

私たちはいつものように一緒に登校して、一緒に放課後をだらだらと過ごしている。
内に抱えた悩みを悟られないように、ボロを出さないように、最善の注意を払ったつもりだ。
そして、京子の行動をつぶさに分析して、その心情を理解しようともした。

その結果、分かったことがある。
京子はいつも通りに見えて、あれ以来、私の体には指一本たりとも触れていない。
このことは、あのキスは本物だったのだと、信憑性を高めさせた。

今のところ京子の異変に気がついているのは私とあかりとちなつちゃんの三人くらいだろう。
しかし、この状況が続くなら、周囲にも私たちの関係が怪しまれてしまうだろう。

何時までも、宙ぶらりんのままではいられない。
関係性の変化を恐れて、けれどその一方で、変化が避けられるものではないことを、
私は理解していた。

今日も、憂鬱な朝が始まる。

~登校~

あかり「最近の京子ちゃんは大人しいね」

ちなつ「確かに抱きついてくる回数が減ったような気がするかも」

ちなつ「まぁ、髪や服装の乱れを直さなくて済むし、いいことじゃないかな」

ちなつちゃんはきつい言葉を口にするけれど、
その実、調子の違う京子を心配しているのだろう。
ちなつちゃんの口調は拗ねた子供のそれで、付き合いを深めた私にはその本心が分かる。

京子「えー、そっかなぁ」

京子「それじゃ、遠慮なく、ちなつちゃーん」ガバッ

ちなつ「何してるんですか、京子先輩」モゥ

言われて思い出したように、ちなつちゃんに抱きつく京子。
そんな京子に、呆れた顔のちなつちゃん。
笑顔を絶やさないあかり。


まるで、これではまるで、
いつもの日常を皆で演じているようだ、そんな馬鹿げたことを考えてしまう。

結衣「遅刻するぞ、京子」

今までのように、私も暴走する京子を止めにかかる。

結衣「ちなつちゃんから離れて」ホラ

京子「はーい」

このいつも通りの登校風景は、けれども今日まで限りのものだった。

~昼休み~

京子「結衣」

部室へと先を行く私を、真剣な表情をした京子が呼び止める。

京子「結衣、話したいことがあるから、今から裏門まで一緒に来てくれる?」

結衣「……わかった」

とうとうこの時が来たか、そう思った。

結衣「………」カタカタ

何故か体の震えが止まらない、このまま何かが壊れてしまいそうで。
京子の話はきっと今を変えてしまう類のものだ。

結衣「大丈夫……、きっと大丈夫」ボソッ

震える手をぎゅっと強く握り締めて、そっと自分に言い聞かせた。
大丈夫だと簡単に言わないで、私はそんなに強くはない、そんな心の叫びを底に沈めて。

京子「………」

私の前を無言で行く京子、その心が読めなくて怖い。
食堂に駆ける人やお弁当を片手に歩く人を尻目に、私たちは人気のない裏門へと足を運ぶ。

しばらくして行き止まりになり、裏門の隣にある桜の木の下に着いた。
春には花を風に散らしていた桜も、今は紅葉を始め、冬を迎える準備をしている。
京子が足を止めて、私の方へと向き直る。

京子「ねぇ結衣」

結衣「何、京子」

京子「あの時、起きてたの?」

京子の突然の問いかけに、思わず体が硬直する。
そして、それは言葉よりも雄弁に私の答えを示していて。

京子「やっぱり、起きていたんだ」

京子に、悟られてしまった。

京子「あれから急に結衣の態度がおかしくなったから、何かに気づかれたとは思ってた」

納得したという顔をする京子に、嫌な予感が止まらない。

結衣「……あれは気の迷い?」

もはや、ほぼ確信に至っているが、確認のために聞いた。

京子「もうわかってるくせに」クスッ

京子「私は、結衣が好きなんだよ」

柔らかな風が、沈黙を保つ私たちの間を通り抜ける。
初めての同性からの告白、それは幼馴染からだった。

京子「私は、結衣が好き」

京子「結衣が好きで、好きで、」

京子「気がついたら寝ている結衣に、キスしてた」

京子の言葉が耳を通り過ぎていく。
ショックで、感情がぐるぐると駆け巡って、胸の辺りが苦しい。

京子「ごめんね、気持ち悪いよね」

京子は初めから諦めている、そんな顔をしている。
それなら、なぜ、どうして、
熱に犯された瞳で、期待のこもった目で、私を見ているのだろう。

結衣「……別に気持ち悪いわけじゃない」

結衣「ただ……」

結衣「わからないから」

私にはわからない。
京子の私への気持ちが、私が京子に望むものが、何なのかわからない。
私はこれまでの関係を望むのか、今から変わった関係を望むのか、わからない。

いずれにせよ、もう知らなかった頃には戻れない。
私が望む・望まないにかかわらず、これまで続いてきた私と京子の関係は、
変わらざるを得ないものとなった。

京子「なら、結衣に私を好きだって言わせてみせる」

京子「結衣が私に惚れるまで頑張る」

京子「それは、許してもらえる……かな?」

京子は強くなった、本当にそう思う。
私の背に隠れていた、あの小さな少女は、いつの間にか。

結衣「……うん、構わない」

曖昧な返事は余計に京子を傷つける、そんな考えが脳裏をよぎる。
それでも、京子を拒絶することはできなくて。

京子「ありがとう」

京子は優しく微笑んだ。
それは見たこともないくらいに、綺麗で、汚れないものだった。

結衣「……ごめん」

謝罪の言葉が口をついて出た。
京子の望む答えが分かっていながら、私はそれを口にできずにいた。
京子が傷つくだろうことが分かっていて、それでも謝罪の言葉を口にした。

結衣「それから、しばらくの間、一人にさせてほしい」

その言葉を聞いた京子の顔を、私は見ることなく立ち去った。
ただ何となく、京子の泣き顔が、頭に浮かんでは消えた。

秋の風が、肌寒く感じた。

結衣「………」

京子の告白を受けた後、私は教室に帰ることなく、あかり達の教室に向かうことにした。

結衣「あかりとちなつちゃんに連絡しておかないと……」

もはや心の中はぐちゃぐちゃだが、その一心で体を動かす。
いきなり何も言わずに休めば、二人に心配をかけるだろうから。

結衣「………」ガラッ

結衣「………」キョロキョロ

向日葵「どうかなさいましたか?船見先輩」

挙動不審な私に、古谷さんが話しかけてきてくれた。

結衣「あかりとちなつちゃんに用があるんだけど、居ないみたいだね」

向日葵「彼女達なら、お昼休みが始まると教室を出ていきましたわ」

すると部室にでもいるのだろうか。

向日葵「急ぎの用事ですか?もし私でよければ、伝言を預かりますけれど」

結衣「じゃあ、頼めるかな?」

顔を合わせて伝えるのは辛いので、古谷さんの気遣いは渡りに船だった。

結衣「事情があってしばらくごらく部を休むことと、一緒に登校は出来ないって」

向日葵「……分かりました」

結衣「ありがとう、それじゃ」

しばらくごらく部を休むこと、それから一人で登校する旨を伝えてもらうことにした。
怪訝そうな目で見られたが、事情に深入りされることはなかった。

自分が面倒ごとから、考えることから逃げていることは薄々分かっている。
それでも、どうしても向き合うことが怖かった。


キーンコーンカーンコーン

昼休みの終了を告げるチャイムが鳴ると同時に教室に戻った、けれども京子の姿は見えない。
授業が始まっても、とうとう京子は帰ってこなかった。

先生には、保健室の辺りで見かけた、そう嘘をついた。
目論見通り、具合が悪くて休んでいるのではないかと考えてくれた。

結衣(やっぱり保健室にいるのかな……)

結衣(部室ということも考えられる……)

結衣(いや、不貞腐れて家に帰ったのかも……)

私の思考は、楽観的な方向に向かう。
京子はまだあの場から動いていない、そんな直感を無視して。

京子に会うことが怖くて、あかり達に会いたくなくて、放課後になると早々に帰宅した。

その夜、夢を見た。

小さな京子が泣いていて、私は慌てて駆け寄る。
泣いている理由を聞いても、京子は泣きじゃくるばかりで答えてくれない。

困り果てた私は、京子の手を引いて、駆け出す。

色々な景色を見せて、色々なことを体験させた。
次第に京子は笑顔を見せてくれて、私はそれが誇らしくなった。

嬉しくなって先を急ごうとする私を、後ろから京子が呼び止める。

京子「結衣」

振り返って見えた京子の姿は、いつの間にか、今の姿まで成長していた。

泣きそうな声で私を呼ぶ。
泣きそうな瞳で私を見る。

京子「結衣」

私を見て。
私を愛して。
私を一人にしないで。

私はそんな京子を、助けを求める京子を、見捨てて駆け出した。

ただただ悲しそうに私を見つめる京子の瞳が忘れられなくて、
閉じ込めた言葉と想いが、胸の中で理性を振りほどき暴れ出す。

わかっているから、わかっているから、そんな目で見ないで。
少しだけ、一人にさせて。

結衣「朝か」

朝の目覚めの気分は最悪で、夢の余韻は私の気力を削ぐ。
夢の内容は見事に私の心の中を表していて、それを見せられた私はたまったものではない。

結衣「学校、行きたくないな……」

何だか大好きなこともしたくない、今日が、明日が、怖くて嫌になる。
逃げてしまえれば楽だけれど、きっと逃げても後悔でまた死にたくなるのだろう。

結衣「難儀だなぁ」

板挟みになった私の心は、どうすればいいのだろうか。

天高く馬肥ゆる秋、この気持ちとは裏腹に、外は澄み渡った青空で。
晩秋へ向かうにつれて空は透明度を増し、より一層青く、より一層高くなってきている。
入道雲に代わって、秋特有の雲も多くなり、こんなところからも季節の移り変わりを感じる。

結衣「早いけど、支度しようかな」

することもないのだから、たまにはさっさと学校に行ってもいいだろう。

朝早くから、久しぶりに一人で登校する。
そのことに申し訳なさと、後ろ暗い清々しさを感じる。
どうやら、このところの皆との会話は、私にとって負担になっていたようだ。

楽しくもないのに楽しいフリをしていた、それは何のためで、誰のためだろう。
次はどうすればいいのだろう、また笑えばいいのだろうか。
わからない、答えが見つからない。

結衣「閉まってるか……」

案の定、教室には誰もいなくて、教室の鍵を取りに行く羽目になった。

結衣「………」

人の少ない教室に、徐々に賑やかさが溢れていく。
途中で、京子が隣を通り過ぎたけれど、互いに挨拶はしなかった。
そろそろ授業の準備をしようかと、鞄から教科書を取り出し、机の中を探る。

結衣「……ん?」

机に手紙が入っていた。
差出人は、ちなつちゃんだった。

~昼休み~

ちなつ「好きです、結衣先輩」

最近の私はモテ期というやつなのだろうか。
よりにもよって、同性からの告白を二日連続で体験してしまうなんて。

手紙の内容は、お昼休みを利用した呼び出しだった。
その呼び出しの目的は、告白だったようだ。

結衣「……わたしを?」

面食らって、失礼な返し方をしてしまった。

ちなつ「はい、驚かせてしまったようで、すみません」

結衣「こっちこそ、きちんとした返事をしなくて、ごめん」

結衣「その……女同士だから……」

結衣「本当にそうなのか、どうしても実感できなくて」

京子の時には考えていなかった問題が、気になった。

ちなつ「……そうですね」

ちなつちゃんは私の言葉にうつむく。
私は無神経にも、可愛い後輩を傷つけてしまったようだ。
恋愛事で人を傷つけないためには、どういう言動をすればいいのだろう。

ちなつ「でもっ、私は結衣先輩のことが好きです!」

ちなつ「同性であろうと、学年が違おうと、出会ってから一年も経っていなくても!」

ちなつ「私は、結衣先輩のことが好きなんです!」

結衣「……ありがとう」

京子の告白には言えなかった、感謝の言葉が口をついて出る。

結衣「ちなつちゃんの気持ちは嬉しい、だけど」

結衣「少し、時間をもらえないかな」

優柔不断な私には、もう何を考えればいいのか、それすらわからない。
ちなつちゃんの想いは、今の私にはあまりに重い。

ちなつ「……それは、京子先輩のことで、時間が欲しいからですか?」

結衣「………ッ」

別に京子のことは関係ない、そう言い返そうとした。
けれど、静かなちなつちゃんの瞳を前に、何も言えなかった。

ちなつ「わかりますよ」

ちなつ「私は、結衣先輩のことを、ずっと見てきたんですから」

ちなつちゃんは一体いつから、私を想っていたのだろう。
いつまでも秘めた恋心に気付かなかった私を、どういう気持ちで見ていたのだろうか。

ちなつ「結衣先輩は、意外と顔に出やすい人ですね」

結衣「そう、なのかな」

自分なりに寡黙で分かりにくい性格なのだと思っていたけれど。
この調子では、あかりにも色々と気づかれていそうだ。

ちなつ「昨日から輪をかけて様子がおかしくなった京子先輩に、部活を休んだ結衣先輩」

ちなつ「そんな状況で、気がつかないというのは、無理がありますし」クスッ

ちなつ「それから京子先輩、しばらくごらく部は休みだって、暗い顔でそういったんです」

ちなつ「しばらく、みんな一人でのんびりしようって……」

自分の都合で休む、それが失礼で信頼を裏切る行為だったことを、今一度思い返す。
そして全てを京子に任せて逃げた、京子に辛い選択をさせた、
そんな自分自身への嫌悪で気分が沈む。

ちなつ「あっ、結衣先輩を責めているわけではないんです」

ちなつちゃんは優しい顔で、私に許しをくれる。

ちなつ「……昨日は京子先輩に、告白でもされましたか?」

結衣「………」

私は何も言えなかった。
否定をすれば、ちなつちゃんも追求をやめたかもしれない。
けれど、肯定と否定のどちらかを選ぶ、その勇気が私にはなかった。

ちなつ「やっぱり、そうでしたか」

ちなつちゃんは予想外に、穏やかな表情をしている。

ちなつ「そんな顔、なさらないでください」

今の私はさぞ情けない顔をしていることだろう。
これではちなつちゃんにも愛想を尽かされてしまう。

ちなつ「返事、待っています」

ちなつ「今日は、ありがとうございました」

ちなつちゃんは私の返事を待つことなく、この場を去った。

結衣「………」

結衣「……ちなつちゃん」

私を慕ってくれていることは感じていたけれど、
それが性別の枠を超えた、思慕の念だとは思っていなかった。

キーンコーンカーンコーン

授業開始のチャイムとともに、教室にギリギリの時間で戻る。
当然と言うべきかもしれないが、既に京子は席についていた。

結衣「………」

朝から碌に顔を見ていなかったが、よくよく見ると京子の顔色は悪く、動作も緩慢としている。
私たちの中がこじれているから、そういう話でもないだろう。
それくらいの区別はつく、ずっと一緒だった幼馴染のことなのだ、私には分かる。

結衣「…………京子」

何気に話しかけるのは、京子の告白以来だ。

京子「……っなに?」

京子の顔は不自然に上気していて、それは気持ちの変調だけでは説明がつかない。
今まで、気づけなかった自分自身に腹が立つ。

結衣「額を貸して」ピト

京子「ゆっ、結衣!?」ガタッ

慌てる京子を無視して、手に感じる温度を自分のそれと比べる。

結衣「やっぱり、熱がある……」

京子「えっ……」

季節の変わり目は、風邪を引きやすい。
そこに精神的な要因が加わったといったところか。

結衣「保健室、いくぞ」

おどおどとしている京子の手を、軽く引っ張る。

京子「別に大丈夫だよ、そんなことしなくたってわたs」

結衣「座っているだけでも、辛いくせに」

京子「………」

図星をつかれたのか、京子の抵抗が弱くなる。

結衣「私がおんぶしていくから」

京子「…………うん」

この様子では、熱が出る前から自覚症状もあったはずだ。
私に対する意地で、ずっと前から我慢していたのだろうか。

結衣「先生が来たら、京子は熱があるから保健室にいったって、連絡してもらえるかな」

ウン、ワカッタ ワタシハカバンヲモツネ

結衣「しっかり掴まれる?」

京子「だいじょうぶ」

この高熱に、酷い衰弱ぶり。
ご両親に迎えを頼むことになりそうだ。

~授業中~

「であるので、ここは形容詞の……」

京子のことが気になって、授業に集中できない。
保健医の先生は親御さんを呼ぶと言っていたが、迎えはもう来ただろうか。
体は平気だろうか、寂しい思いをしていないだろうか。

「ここはサ行変格活用で……」

放課後に、京子の家へ見舞いに行こう。
胸が不自然に高鳴るけれど、この想いはきっと行動の先にある。

「ここは音便があって……」

ちなつちゃんへの返事も、京子への想いも、私の気持ちも、
きっと全ては京子に会わないと分からないものなんだ。

「船見さん、聞いていますか?」

先生に怒られてしまった。
けれども、私の頭の中は京子一色で、その後も集中なんてできやしないのであった。
林檎でも持っていったほうがいいだろうか、風邪にはレモネードや生姜湯もいいだろうか。

~京子の家~

結衣「京子」

京子「あ……結衣……」ケホッ

京子「来て……くれたんだ……」

結衣「無理に起きなくていい」

京子の風邪は想像以上に深刻なようだった。
まともに起きていることもできないみたいだ。

結衣「熱が出ているんだから、そのまま安静にしていて」

気まずいから、なんて言っている場合じゃない。
優先順位でいえば、そんなものよりも京子の方が遥かに大切だ。

京子「せっかく結衣が来てくれてるのに、寝てなんていられないよ……」

京子の息は荒く、顔は紅潮している。
ずっと辛そうな表情で、目尻には涙が浮かんでいて、体は汗ばんでいる。

京子「結衣、結衣、行かないで」

はるか昔に迷子になった時のように、寂しくて、不安で、私しか頼れない。
今の京子は、そんな顔をしている。

結衣「どこにもいかないよ」

できるだけ優しく、気持ちが伝わりますように、そう念じて頭を撫でる。

京子「嘘」

ここ数日のことで、不安になっているのだろうか。
私が離れてしまうことに、臆病になっているのだろうか。

結衣「本当、今日は京子の傍にいるよ」

結衣「京子の手を、眠るまで握っているから」

そっと握った京子の手は、頭の熱に比べて驚くほどに冷えていた。

京子「今日だけ?」

結衣「今日の京子は、甘えんぼさんだね」

熱の影響で幼児退行でもしてしまったかのようだ。
私に宣戦布告してみせた、あの不思議な雰囲気は欠片もなく、私の知る京子の姿だった。

結衣「京子の具合が良くなったら、また遊びにくる」

結衣「京子が私の家に泊まりに来てもいい」

私の中の葛藤はどこへやら、京子を安心させる、ただそれだけが頭にあった。

京子「遊んでくれるの?」

結衣「勿論」

京子「ホントに?」

結衣「何年、こうやって付き合いが続いてきたと思ってるんだ、京子は」クスッ

京子「……よかった」ニコッ

京子が笑う、それだけで私の心は沸き立つ。
それは、恋愛事なんて知らなかった昔からのことで。

京子「……本当に、よかった」

結衣「京子?」

京子がそっぽを向いた。
不安になってのぞき込もうとして、京子から聞こえる小さな嗚咽に気が付く。

京子「………」グスッ

結衣「京子……」

結衣「京子は昔から泣き虫だなぁ」ナデナデ

ちょっと大人になったようで、その本質は変わっていないようだ。
京子は時と共に変わってきたけれど、それでも変わらない部分もあったのだ。
そんな当たり前のことに、私は安堵した。

京子「うるさぃ……」ケホッ

結衣「それはごめん」

確かに京子は病人なのだ、騒がしくして、頭を撫でるのは良くないかもしれない。
手を軽く握るだけに留めておこうか。

京子「………」ジィー

京子「もっとなでて?」

結衣「……はいはい」ナデナデ

頭を撫でるのを止めると、催促されてしまった。
素直になった京子というのは、久しぶりな気がする。

京子「………」

目を細めて、今にも喉を鳴らしそうな様は、まるで猫みたいだ。

京子「体調が良くなったら、紅葉を見に行きたい」

そういえば、紅葉の見頃もそろそろか。
京子はイベント好きで、乙女なところがあるから、いつかは言い出すと思っていた。

結衣「その時はお弁当を作ってやるから、一緒に食べようか」ニコッ

これまでの距離感が嘘のように、京子に誘いをかけることができた。
こんなに京子に愛想を振りまいて、寝かしつけてやるのは、いつ以来だろう。

京子「うん……」

その返答を最後に、京子の動きが鈍くなる。
京子の可愛らしい瞳は目蓋で隠されて、程なくして安定した寝息が聞こえてきた。

京子「………」スヤスヤ

結衣「おやすみ、京子」

京子の額に口付けを落とし、病状の改善を祈った。
……どうやら私の答えも定まったようだ。

京子が寝入ってからも、しばらくその手を握って、寝顔を見つめていた。

~登校~

本日は快晴。
起きてすぐに京子のことが気になって、京子の家に向かった。
やはり、高熱が引いていないらしく、欠席させるとのことだ。

結衣「京子は休み、か……」

京子の代わりに私が熱を引き受けてあげられたなら、そんなことを思った。
祭礼や儀式に使う人形も、親しい人の災厄を引き受けたい、
きっとそんな思いから生まれたのだろう。

何時までも心配ばかりしていても気が滅入る、何か明るいことを考えよう。
京子の体調が戻ったら何をしようか、パーティーでもしようか。

昨日に続いて、今日も私は一人で登校する。
けれど、その足取りは心なしか昨日よりも軽いものだった。

~放課後~

ちなつへの告白に返事をするべく、人気のない場所に向かう。

結衣「おまたせ、ちなつちゃん」

ちなつ「結衣先輩」

呼び出したちなつちゃんの顔は、少しこわばっているように見える。
大人びていて察しのいい子だから、分かってしまうのだろう。

結衣「ようやく、答えがでたんだ」

要点から話を始めよう。

結衣「私は……京子がs」

ちなつ「聞きたくないです!」

いつも朗らかに接してくれるちなつちゃんの、初めての悲痛な叫び声。
そんな反応を予想していなかった私は、思わず怯む。

言葉を遮られて、しばしの沈黙が場を支配した。
どうすればいいのかわからなくなって、ただ立ち竦む。

ちなつ「…………フフッ」

ちなつ「……なーんて、冗談です」

先程の気迫から一転、ちなつちゃんはおどけてみせる。

ちなつ「びっくり、しましたか」ニコッ

冗談のような剣幕ではなかった。
けれど、それを突っ込むのは余りにも野暮だろう。

結衣「心臓が止まりそうだったよ」フゥ

ちなつ「可愛い後輩の、ささやかないたずらです」

ちなつ「私の心を奪ったことへのちょっとした意趣返しですから、大目に見てください」

結衣「勿論、それくらいお易い御用だよ」

本来なら、その程度で済む問題ではない。
それでも、ちなつちゃんは認めようとしている。
それはどれほど難しくて、有難いことだろうか。

結衣「ちなつちゃんには、頭が上がらないよ」

ちなつ「もぅ、そんなに卑屈になったら駄目ですよ?」

ちなつ「結衣先輩は格好いいんですから、もっと堂々と王子様していてください!」

結衣「王子様って、大袈裟だなぁ」クスッ

結衣「私、そんなに男の子みたいかな?」

ちなつ「いえ!女の子な結衣先輩も、勿論素敵ですよ!」

ちなつ「あっ、すみません、私余計な話ばかりして……」

ちなつ「……結衣先輩の答え、聞かせてください」

ちなつちゃんのたおやかな手が、制服をつかんで握り拳を作っている。
その眉は苦痛を我慢するように細められていて、私の心を切なくさせた。

結衣「私は、京子が好きだ」

結衣「だから、ちなつちゃんの想いには応えられない」

ちなつ「……ありがとうごさいます」

ちなつちゃんは綺麗に笑った。
何かを耐えて、乗り越えて、そうやってできた笑顔の輝きは人を魅了するものだ。

結衣「……また来週には、部室で、皆で会おう」

私自身の問題には片が付いた。
あとは京子に、想いを伝えるだけだ。

ちなつ「はい、それでは失礼します」ペコッ

静かに場を離れるちなつちゃんを、秋の風が見送った。

~結衣のマンション~

結衣「はぁ……」

溜まっていた家事も全て終えて、一段落する。
今日はちなつちゃんの問題もこなして、少し疲れ気味だ。

結衣「京子は大丈夫かな……」

正直にいえば、見舞いに行きたい。
けれど、行ったところで私に何かできるわけでもなし、
京子のご両親に余計な気遣いをさせてしまうだけだろう。

結衣「京子の声が聞きたいなぁ」

今の私はさしずめ恋する乙女という奴だろうか。
京子が気になって、気になって、仕方がない。

もっとも、今までも京子が生活の中心にいた事に変わりはないのだから、
心境の変化というものは面白い。

プルルルル……

静かな空間に、電話の音が響く。

結衣「はい、船見です」ガチャ

京子『結衣?』

噂をすればと言ったものか、電話は京子からだった。

結衣「京子、体は大丈夫なの?」

京子『大分熱も引いたから、大丈夫dゴホッ』

結衣「治ってないじゃないか、大人しく寝てなよ」

京子『いやいや、大丈夫』

どの口がほざくか。

京子『明日土曜じゃん?』

結衣「京子……まさか……」

京子の考えが何となく分かってしまい、眉を顰める。

京子『山の公園にお昼、待ち合わせな』

やはり、紅葉狩りの誘いだった。

結衣「まだ本調子には程遠いんだろ、ぶり返すことだって考えられる」

結衣「それに山あいは冷える、大体京子のご両親の許可だっt」

京子『時間限定でお母さんに外出許可もらった ケホッ』

結衣「でも!」

京子『結衣に会いたい』

結衣「………ッ」

風邪を直して、来週の土日に行こう、そう言おうとした。
けれど、私はそれ以上、京子を諌める言葉を言えなかった。

結衣「……腕によりをかけて、お弁当作っていくから」

京子『うん』

結衣「ちゃんと厚着、するんだぞ?」

京子『お母さんにも言われた』

結衣「私、京子に会って、伝えたいことがあるんだ」

京子『私も』

結衣「体、大事にするんだぞ」

京子『うん』

結衣「また、明日な」

京子『また明日ね、結衣』

結衣「おやすみ」

京子『おやすみ』

結衣「………」ピッ

あいつも無茶をするやつだ、止めようとする親を無理やりに説得したのだろう。
一応動ける程度には回復したようだけど、消耗した体力は戻っていないはずだ。

結衣「冷蔵庫にある食材で、ちゃんとお料理できるかな」ガサゴソ

旬や彩りを考えた上に、さらに消化によくて滋養にいいものを作らないといけない。
正直、かなり難度が高いが京子のためなら頑張れる。

結衣「レシピ考えて、下ごしらえを急がなきゃ」パタパタ

結衣「暖いお茶は何がいいかな?」ウーン

結衣「薄味にして、魚類の出汁をしっかり取ろうか」

お弁当の用意は夜遅くまでかかったけれど、それを負担に思うことはなかった。

~公園~

結衣「こうやって会うのは何だか久しぶりだね、京子」

京子「そうだね、結衣」

結衣「約束通り、一緒に紅葉狩りにいこうか」

京子「うん」

心配していたよりも京子の顔色は良く、私はほっと胸をなでおろす。
いつものように元気いっぱいではないが、穏やかな表情を浮かべている。

結衣「お弁当、頑張ってみたから」

京子「期待してる」

自然と、京子と手を繋ぐ。
微かな震えが一瞬だけ伝わったが、京子もすぐに握り返してくれた。

京子「綺麗な紅葉だなぁー」

結衣「そうだな」

山の木々は見事に紅葉していて、赤と黄色のグラデーションが美しい。
楓・ケヤキ・ソメイヨシノ・楠・ナナカマド・イチョウ、様々な木々の紅葉が風に揺れる。
公園は様々な種類の木を植えているだけあって、幻想的な風景だった。

結衣「京子、紅葉の正体を知ってる?」

せっかく紅葉狩りをしているのだから、この前に仕入れた豆知識を披露してみよう。

京子「気温の影響……とか?」

結衣「一言で言えば、そうなるかな」

美しく紅葉するための欠かせない条件、それは昼と夜の気温差だ。
京都が紅葉スポットで有名なのも、朝晩の冷え込みが激しく、気温差が大きいからだ。
けれども、紅葉の原因自体は、正確には気温の変化を受けた木それ自体にある。

結衣「冬が近づくと、木は葉を捨てようとして、葉の付け根に仕切りを作る」

結衣「成長する余裕もないから、葉っぱにあげる栄養を打ち切るってわけ」

結衣「やがて葉っぱの緑の色素は分解されて」

結衣「葉に残った糖分が化学変化して赤色の色素に変わる」

結衣「それが紅葉のメカニズム」

ちなみにイチョウは、糖分が葉に残らないから、元々あった黄色の色素が出てくるのだとか。

京子「色素分解?化学変化?」

少し分かりにくかったかもしれない。

結衣「化学的な説明は難しいから省くと、冬を乗り越えようとして、綺麗に紅葉するってこと」

京子「へぇー、良く出来てるんだな」

どうやら理解できてないな、京子は。

結衣「ここでお弁当を食べようか」

丁度、紅葉を見ることができて、座ることもできるいい場所だ。

京子「おー」ケホッ

結衣「はい、お弁当」コトン

京子「おお、何か豪華だ、いただきます」

結衣「どうぞ」

お弁当は考えた結果、二段にして色々なおかずを詰め込んだ。
手軽に食べられるサンドイッチも考えたが、
いささか栄養価も悪く、見栄えがしないと感じてやめた。

京子「」モグモグ

京子「美味しい!」パァァ

どうやら京子の口にもあったみたいだ。

結衣「消化が良くて滋養にいいものを選んで作ったら、精進料理みたいになっちゃったけど」

京子「今の私にも、すごく食べやすいよ」ニコニコ

結衣「頑張った甲斐があった」ホッ

京子「」モグモグ

京子「……結衣も一緒に食べよう?」

結衣「ああ、うん」

何だか胸がいっぱいで、食べ物も喉を通らない。
ただ、楽しそうにする京子を、ずっと見つめていたかった。

京子「ひょっとして、楽しくない……?」

結衣「違うよ」

反応が薄かったせいか、京子を不安にさせてしまった。
確かに食欲はないが、気分はとても爽やかで、何だか楽しいのだ。

結衣「ただ、京子が美味しそうに食べてくれるだけで、とても幸せだなって」ニコッ

京子「なっ、何言ってんの!」

結衣「興奮したら駄目、ほら、口元にご飯粒が飛んだ」

京子「えっ、どこ」アセアセ

結衣「取ってあげる」ヒョイ、パクッ

京子「あっああうぅ……」カァ///

京子の頬が赤く染まって綺麗だ、そんな京子の表情もたくさん知りたい。

京子「何も、何も食べることないじゃんかぁー!」ウガー

結衣「京子の頬に触れていただけで、米粒もほんのりと甘くなるね」フフ

京子「うぅぅ、何か結衣が積極的になってて調子狂う……」

結衣「恥じらう京子も可愛い」

京子「からかうのは禁止ッ」ビシッ

結衣「はいはい」

つい楽しくてやりすぎたようで、やはり怒られてしまった。
これも私の本心ではあるのだけれど。

京子「ご馳走様」カタン

量を抑えて作ったからか、綺麗に完食してくれた。
京子の体調が戻ってきていることを感じて、嬉しくなる。

結衣「はい、食後の番茶」

京子「ありがと」

結衣「京子、飲みながらでいいから、聞いて欲しいことがある」

京子「なに?」

結衣「京子が休んでる間に、ちなつちゃんの告白を断った」

京子「」ブフォッ

結衣「大丈夫?」

京子「」ゴホッゴホ

結衣「ハンカチ使って」ハイ

京子「きっ、聞いてないぞっ」

結衣「今初めて言ったから」

まさかそんなに驚くとは思わなかった。
京子は目を見開いて、ものすごい勢いで私に食ってかかる。

結衣「吹っ切れたから、全てを京子に打ち明けると」

結衣「一昨日のお昼休みに、ちなつちゃんに手紙で呼び出されてた」

京子「はっ?」

結衣「そこで告白を受けたけど、その時は返事を保留させてもらった」

京子「えっ、えっ」ワタワタ

結衣「京子が休んだ昨日、ちなつちゃんの告白を断らせてもらった」

京子「えっ、ええぇぇぇぇぇぇ」

京子の表情が、目まぐるしく変わって面白い。
赤くなったり、青くなったり、まるで信号機のようだ。
病人をからかうのは良くないと分かっているのに、つい止められなかった。

結衣「順を追って、説明しようか?」

京子「うん」ポケー

京子の思考回路はショート寸前のようで、放心している。

結衣「まず、京子が寝ている私にキスをしたことが発覚した」

京子「ぐっ、しましたよ、ええ、しましたとも!」フン

拗ねるのか開き直るのか、どちらかにして欲しい。

結衣「その三日後に、痺れを切らした京子が私に告白する」

京子「いや、あれはその」アタフタ

結衣「焦らなくても」クスクス

京子「うっさい!」プイ

ついいじりたくなって、話が遅々として進まない。
それもこれも、私を魅了する京子が悪いのだ。

結衣「……私は京子との関係が変化することが怖くて、京子の告白から逃げた」

京子「………」

結衣「その翌日に、ちなつちゃんに告白されて」

京子「……うん」

結衣「その時は、返事を待たせてもらった」

京子「こ、このすけこまし!」バシッ

結衣「すけこましって……」ハァ

これで京子も、意外と嫉妬深いようだ。
もっとも、独占欲は私の方が強いような気がするけれど。

結衣「その後に京子が熱出して帰ったから、お見舞いに行って眠るまで傍にいた」

京子「うん、そういえば、結衣が家に来たのって久しぶりだったよね」エヘヘ

結衣「弱った京子を見るのも、久しぶりだったかな」ニヤニヤ

京子「うぅぅ……結衣のくせにぃ……」カァァ///

どんどん顔が赤くなって、真っ赤な紅葉みたいで可愛い。

結衣「それで京子が学校を休んだ昨日だけど、ちなつちゃんの告白を断った」

京子「…………うん」

結衣「ちなつちゃんの名誉のためにも、このことは誰にも話しちゃダメだよ」

京子「わかってる」

結衣「そっか……」

京子には事情が事情だから話したけれど、きっとちなつちゃんも笑って許してくれる気がする。
仕方ないですね、結衣先輩、そう言って。

京子「………」

京子「しかし……」

京子「もう一生分驚いた気がする」ハァ

京子「興奮して汗かいて体が熱い」パタパタ

結衣「そんなわけだから、分かっているだろうけど、京子にも告白の返事をするよ」

京子「今なのっ!?」

思い立ったが吉日、である。

結衣「京子」

京子「はっ、はい!」

結衣「私にとって京子との関係は、幼少から変わりないもので」

結衣「だから私という存在を木の葉だとすれば、その色は春夏秋冬、ずっと緑のままだった」

隣に京子がいるのは私の日常で、当たり前のことだった。
その関係性が崩れるなんて、天地がひっくり返ったとしてもありえない、
そんなことを本気で思っていた。

結衣「けれど、木から切り離されて、葉がその身を赤く染めるように、」

結衣「京子から離れて、私の心も色づいた」

一度離れたほうが、より鮮明に見えるようになることもある。
私の中に知らずに育っていた想いは、こんなにも大きなものだった。

結衣「紅葉はやがて落ちて朽ちるけれど」

結衣「私のこの想いは、尽きることなく溢れ出してくるんだ」

吹き上げる風が、清涼な空気とともに、紅葉と私の想いを運ぶ。


結衣「好きだ、京子」


京子の少し凍てついた手をそっと握る。
こんなにも伝えたいことがあるのに、上手く伝えきれない。
こんなにも近くで、私の心は京子への想いを叫んでいるのに、三分の一も伝えられない。
それでも溢れ出した私の想いは、京子に届いただろうか。


京子「結衣……結衣……」ポロッ

京子「うん、私もずっと結衣が好きだった」ポロポロ

京子の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
ぽたぽたと地面に落ちる雫は、とても綺麗だった。

結衣「京子」

結衣「そんなに泣いていると、腫れちゃうよ」

手を使って拭おうとする京子の動きを察し、手首を掴む。

結衣「擦ると酷くなるから、私に任せて」

結衣「私が、拭ってあげるから」

京子「ん……」イヤイヤ

結衣「綺麗だよ、京子の泣き顔は」クスッ

何故だろうか、京子の想いが、感情が、考えが、今の私には分かる。

結衣「泣き止んで、京子」

止まらない涙をそっと指で払いのけて、京子にほほ笑みかける。



結衣「キス、しよう」


京子「……うん」


そっと重ねた唇で、私の心が満たされていく。

私たちを包むように、秋風が吹く。
秋風は男女の恋情が冷めることを暗示させるけれど、私はそんなものに惑わされたりしない。
私と京子の関係は、容易く切れてしまう程にやわじゃない。

天地神明に誓って、私はこのお姫様を守り続けよう。
病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧するときも、ずっと傍にいよう。

それが、私の見つけた、私の答えだから。

結衣「京子……」グラッ

京子「結衣!?」

ふらついて、京子に寄りかかってしまう。
顔も、体も、心も、何だか熱い。

京子「結衣、どうしたの、って」

京子「結衣も熱あるじゃん!」

ああ、そういうことか。
通りで、食欲がしないわけだ。

京子「なにしてたの!」

京子が怒ると怖い。
けれどもその台詞は、京子自身にも言えることではないだろうか。

結衣「体が変だなぁとは思ってたけど、お弁当の準備してた」ハハ

京子「素直に休みなよ!」

ごもっともな事だけど、舞い上がっていて、不調にも気がつかなかったのだから仕方ない。

京子「やけに結衣が積極的だと思ったよ」ハァ

積極的なのは、京子への想いを自覚したからだと思うけれど。
確かに、熱の影響もあるのかもしれない。

京子「私の家の方が近いから、早く戻って寝るよ!」

看病するはずが、何やら私の方が看病されそうな展開だ。

京子「半笑いになってる場合じゃないぞ!」プンプン

結衣「はいはい」

繋いだ手から伝わる、京子のぬくもりが心地良かった。

ピピピッ

京子「体温計、見せてもらうよ」

結衣「うん」ケホッ

京子「熱が高くなってきたな」フム

結衣「頭がガンガンする」コホッ

やはり京子の風邪が移ったのだろうか。
けれども、もし私の願いが叶って、京子の苦しみを肩代わりできたのなら、
それで京子の風邪が良くなったのだとしたら、この苦しみも享受出来る気がする。

京子「そろそろ、何かお腹に入れておかないと」

京子「何かリクエストある?」

結衣「……お粥がいい」ケホッ

京子「分かった、ちょっと待ってて」

これで一応、料理も出来るのだから器用な奴だ。

京子「この京子ちゃんがあーんをしてやろう!」フフン

京子「ほれ、京子ちゃん特製の愛情たっぷりなお粥だぞ、あーん」

結衣「……うん」アーン

少し恥ずかしいが、こういうのも悪くない。
京子の具合も良くないのだから、今は少しだけ、少しだけ甘えることにしよう。

京子「どんな感じ?」

結衣「……味がしない」

京子「舌も鼻も麻痺してるのかぁ」ヨシヨシ

結衣「京子のお粥、楽しみにしてたのに……」コホッ

悲しいことに、味覚も覚束無くなっていて、お粥を味わうことはできなかった。
まぁ、お弁当を作っている間は正常で助かった、そう考えよう。

京子「覇気のない結衣もかわいいなぁ」ポッ

結衣「おいこら」ゴホッ

京子「あっ、興奮したら体に障るよ」

結衣「興奮させたのは京子だろ……」ハァ

京子「大人しくしてて?ね?」ニコッ

結衣「何か嬉しそうだな」ゴホッ

両想いになったこともあってか、京子の背後には大量のハートマークが見える気がする。
私も京子が嬉しいと、それだけで嬉しくなれるけれども。

京子「あぅぅ、ごめん……」

京子「でもしっかりものの結衣の弱った姿なんて、私くらいしか見ることができないわけで」

京子「そう思うとなんだか、嬉しく思えてきちゃって」

結衣「そう」ゴシゴシ

眠気が襲ってきて、知らずに目蓋が閉じてくる。

京子「ゆっくり眠って、結衣」

京子「私が傍にいるから」

結衣「うん」

ここは京子の言葉に甘えて、眠ろう。
風邪を引いているのに、いい夢が見れそうな、そんな気分だ。

結衣「おやすみ、きょうこ」

京子「おやすみ、結衣」

意識が途絶える前に、京子の優しい笑顔が見えた。

結衣「………」スースー

京子「………」ジィー

チュ

瞳を閉じて眠る結衣が可愛くて、思わず口付けを落とす。
眠りながらもキスの感覚を感じたのか、ゴソゴソとむずかる結衣が愛おしい。

京子「大好きだよ、結衣」

愛の言葉は照れるけれど、この声の続く限り、ずっと君に伝えていこう。

京子「………」ジィー

京子「………」フフ

京子「………」ゴロゴロ

京子「……私も眠たくなってきた」ファァ

何時までも結衣を見つめていたいけれど、
風邪で失った体力を回復させようと、体が休息を求める。

京子「私も、一緒に寝るね」

決して終わりが来たって怖くない。
こうして不器用に生きて、だけど君が傍にいるなら、私は煌めける。

京子「おやすみ、結衣」

そうやって、ありふれた時間が愛おしく思えたなら、きっとそれは愛のしわざなんだ。

京子「………」

今は深まる秋の寒さに負けないように、凍えないように寄り添っていよう。
この手に感じる体温に安心して、今は眠ろう。

京子「………」zzz

秋の夜長も乗り越えて、
そっと繋がれた二人の手は、朝までずっと離れなかったのでした。



おわり

・綾乃ちゃんとあかりちゃんとちなつちゃんの出番は色々あって割愛
・途中でシリアスに耐えられなくて方向転換ギップリャ
・アッカリーン
支援保守あり

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