シンジ「学園都市?」(128)

気付けばうたた寝をしてしまっていた。
揺れる電車の中、寝ぼけた頭の中で幾つかの風景が流れて消えた。

「学園都市、か」

碇シンジはそう呟いて、再び眠気に身を任せた。
彼以外誰も乗っていないその電車は彼のためだけに、何度もその車輪を軋ませながら目的地へと走った。

シンジ「……はじめまして、碇シンジです」

教室から向けられる好奇の視線。それを無視して彼は自らが立つ教壇の向かい側の壁を見つめていた。

教師「ええと、それじゃあ碇君は奥の席へ」
シンジ「はい」
教師「午後にはシステムスキャンを行うから、取り合えずわからないことがあったらクラスメイトに聞くように。またみんなも碇君と仲良くするように」

一番奥、窓際の席に座り、窓の外を眺める。
校庭では走り回る生徒の姿があった。人がいて、声がして。
そのすべてが、知らない風景だった。


シンジ「……疲れた」

一日が終わり、帰路につく学生達。その中に紛れるようにシンジは歩いた。

シンジ「本当に学生だらけなんだな」

家に帰るのもなにか味気なくて、彼は意味もなく知らない道を歩いた。右へ曲がっても、左へ曲がっても、知らない道が続いた。
繁華街を離れてひと気のない小道を過ぎたとき、シンジは目の前に白い物体が転がっていることに気付いた。
異様な物質に道を変えようと思い至ったのと、その物質と目があったのはほぼ同時だった。

「お、……」
シンジ「……お?」



「お腹が、すいたんだよ」

そこには純白の修道服をきた、外国人が転がっていた


「ぷはぁー!! 満腹なんだよ!!」

シンジ「……うん、ならよかったよ」

目の前に転がっていたシスターを投げ捨てておくわけにもいかず、二人は数十分前に近くのファミレスに入った。

シンジ(初めて入ったところだけど、もうここには来れないな)

目の前のシスターはあらかたのメニューを食べつくして、今から食後のココアを注文するところだった。
因みにその間、シンジは一杯だけコーヒーを飲んだ。
無論店員からは好奇の目線を向けられているが目の前のシスターには気にした様子はない。

「ごちそうさまなんだよ!! 私はインデックス!! あなたの名前はなんていうのかな?」

「僕? 僕は碇シンジだよ。それでインデックスさんは、あんなところにどうして倒れてたのかな?」


インデックス「しんじだね!! よろしく!! ううんと、倒れていたのは……」

シンジ「?」

そこまで言うとインデックスは言いよどみ、ちょいちょいとシンジを手招きした。
シンジは不思議に思いながらも、インデックスの方へと顔を寄せる。インデックスはキョロキョロと周囲を見回したと思うと、突然身を乗り出してシンジの傍へと寄った。

インデックス「……私は実は追われているんだよ」
インデックス「実は私は10万3000千冊の……」

いたって真剣な表情でインデックスは言う。
が、シンジはインデックスから香るいい匂いに顔を赤らめていた。
言葉を発するたびにインデックスは周囲を伺う。その行為自体が人目を惹いているのだが、インデックスが動くたびに長い髪が揺れて、女の子の匂いがシンジの鼻腔をくすぐった。


シンジ「な、なるほど。大変なんだね。インデックスさん」

インデックス「あ、インデックスでいいんだよ、しんじ!」

インデックスは笑った。
シンジは何故か前かがみ気味に笑った。


二人は程なくしてファミレスを出た。
日はまだ昇っていたが、学生の姿は幾分か減ったようだった。

シンジ「それでインデックスはこれからどうするの?」

インデックス「わたしが所属している協会を探してかくまってもらうつもりなんだよ」

シンジ「……そっか」

事情はわからないし、どこか突飛な話だったがシンジはなぜか無条件に彼女の話を受け入れていた。
彼女は笑顔で歩き出す。曇りのないように見えて、どこか、ほんの少しだけ影のあるそんな笑顔で。

インデックス「ありがとうなんだよ、しんじ。あなたに神のご加護がありますように」

シンジ「……がんばってね」

インデックス「まかせてなんだよ!」

彼女はそういって、人ごみの向こうに消えていった。

シンジ「がんばって、かあ……」

無責任な言葉だな、そう呟いてから、彼も帰路へとついた。

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視界が暗くなる。頭を掴まれる感覚。顔面を何かが貫く。

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身体が吹き飛んだ、後ろを無理向く僕。額に嫌な汗が滲んだ。
ミサトさんの声がする。父さんの声が聞きたかった。
お腹が一気に熱くなる。重たい息が漏れた。レバーを握り締めた。強く、強く。


逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ
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目の前が真っ白に塗りつぶされる。身体が焼ける感覚。身体が焦げる感覚。恐かった。怖かった。こわかった。
彼女は笑った。僕はどんな顔をしていたのだろう。月が綺麗だった。
閃光が夜を翔けた。彼女は生きていた。僕は生きていた。


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なんで、逃げちゃ駄目なんだろう?


バットがボールを捕らえて。遠くで甲高い金属音が響いた。

「で、あるからして。すなわち、自分だけの現実の取得と言うのは……」

髪の少し薄くなった教師が、黒板にチョークでテキストどおりの文章を書いている。擦れるチョークの音だけが教室に響いていた。
開けた窓からそよ風がなびいている。カーテンがそれにそって、静かに揺れた。

ジッと自分の机を見つめた。机の木目を数えて、自分の呼吸が激しいことに気付いた。
少しずつ呼吸を緩やかにしていく。鼻先から一滴、汗が垂れて書きかけのノートの文字が滲んだ。

今は午後の授業中だった。周囲を見回すと眠りほうけているクラスメイトがたくさんいた。
外では髪の長い女子生徒がホームランを打ってはしゃいでいた。
そよ風が滲んだ汗を少しだけ乾かせた。
目を瞑って誰にも気付かれないように、ゆっくり深呼吸をした。


「碇君、どうかしたの?」

隣の席の女子が怪訝な表情をして声をかけてきた。
頬杖をつきながら彼女は退屈そうにペンを回している。

シンジ「ううん、ちょっと暑くて」

「とか言っちゃって、授業退屈だから寝ちゃってたんでしょ」

彼女はわかるわかると言いながら、教師には聞こえないよう静かに笑った。

「はい、よかったら使って」

彼女はそういってハンカチを差し出した。

シンジ「あ、ありがとう」

「いいよいいよ、私もよく授業中寝ちゃって、寝汗かくしね」

シンジ「うん、ありがと……でも、もってるから大丈夫」




シンジはそういってポケットからハンカチを取り出した。

「へえ、準備いいねー」

彼女はそういい、少し笑ってからまた黒板の方へと視線をそらした。
しかし、シンジはそれに気付かない。
ハンカチを握ったままシャツの袖口で顎に溜まった汗を拭った。
吹き抜ける風が心地良かった。


シンジ「ほら、ケンカしないで食べなよ」

シンジがそういって皿を置くと、草陰から数匹の猫が小さい鳴き声をあげながら姿を現した。
彼がこの街に着てから数日が過ぎた。もう人の手から炎が出ることや掃除用のロボットが街中を掃除している光景にも抵抗がなくなってきていた。

シンジ「ああ、今日も暑いなあ」

彼は河川敷の草むらに寝転がって、空を見ていた。
隣で猫の鳴き声が聞こえて、なんだか心地良かった。

「おお、こんなところにたくさんの天使たちが、とミサカは興奮を隠しきれず声をあげます」

シンジ「え?」

人の声が聞こえてシンジが寝返りを打つと、そこには随分と遠くでしゃがみこんだ女子高生の姿があった。

「もしかして、これは貴方の仕業なのですか、とミサカは天使たち、もとい子猫たちの傍で当たり前のように横になっている少年に声をかけます」

シンジ「は、はい」

「いったい、いったい、これはどんな芸当なのでしょう、とミサカは子猫たちに警戒されぬように慎重に貴方に近づきます」

シンジ「えーと」

「はい、えーと、なんでしょう、とミサカは少年の言葉を促します」

シンジ「餌付け、です」

>>47

ミスった。
女子高生じゃなくて女子中学生ね

「なるほど、勉強になります。野良猫たちへキャットフードを与えることにより、彼らを安心させ、
またそれを継続して行うことにより彼らと信頼関係を築き上げ、ひいてはまた明日、同じ時間にな。といいあう仲にまでなれる、ということですね。とミサカは貴方から得た新たなる情報をまとめ、メモに取ります」

シンジ「まあ、大体そんな感じですね、はい」

遠くで猫の様子をうかがっていた女子中学生はいつのまにやらシンジの隣に腰掛けている。
頭には大きなゴツゴツとしたゴーグルをかけ、彼女は必死にメモをとり、満足そうに頷いた。

「これが子猫、というものなのですね。はじめて見ましたがまるで天使のようです。とミサカは見たこともない天使のイメージを勝手に固定しようと試みます」

シンジ「子猫、見たことないんですか?」

子猫たちはとっくにキャットフードを平らげ、シンジの持ってきたボールと戯れている。

「はい、ミサカは研究所での生活が長かったので、と意味深に自分の人生の一ページをほのめかします」

そういいながらも彼女は前かがみになり、猫を凝視している。

シンジ「触りたいんですか?」

「い、いや、まさかそんな、とミサカは心を読まれたことに動揺しつつ、それを華麗に誤魔化します」

シンジ「大丈夫ですよ、こいつらはお腹一杯のときはひっかいたりしませんから」

シンジはくすりと笑ってから、目の前の少女にそう、助言した。


「い、いや。でも、とミサカは急な展開に動揺を隠し切れません」

シンジ「大丈夫ですよ、ほら」

シンジがそういって、猫の下へ駆け寄ると、子猫たちはしゃがみこんだシンジにじゃれるように寄り添ってきた。
その様子をみて少女は、ゆっくりとシンジたちの傍へ近づいてくる。視線はジッと子猫たちを捕らえて離さず。
シンジはなぜかそれをみて少しだけ笑ってしまった。無論それは少女の視界には入らなかったのだが。

少女はシンジの隣へしゃがみこんだ。猫達はあまり気にした様子もなくじゃれあっている。
少女が子猫へと手を伸ばしたときだった。触れるか触れないかのところで、一匹の子猫が急に駆け出し、それに釣られるように残りの子猫たちも草むらへと逃げ出してしまった。

シンジ「……あ」

「やはり、こうなってしまいましたか。とミサカは差し出した手をひきます」

シンジ「たぶんびっくりしただけですよ、そんなに気にすること……」

「いえ、違うのです。ミサカは発電能力者なので微弱な電磁波を身体の周囲にまとっています。人間ならば気付かないほど些細なものですが、敏感な動物はすぐにそれに気付きます。
子猫たちはそれに反応して逃げていったのです。わかりきっていたことなのですが、とミサカは自らの行動を反省します」

シンジ「……」


少女は落ち込んでいる様を隠しもせずにしゃがみこんでいた。
きっと加持さんならこんな時に気の聞いた台詞の一つでもいうだろうな、と。シンジは少しだけ的外れなことを考えながら、遠く響いている。電車の音を聞いていた。

「すみません。ミサカの所為で貴方まで子猫と戯れることが出来なくなって、とミサカは自らの失態を詫びます」

シンジ「僕は平気ですよ。この場所が好きなだけですから」

「それでは、ミサカは調整がありますので失礼します」

そう言って彼女は去っていった。
シンジは彼女を見送り、そして再び茂みに背中を預けた。

シンジ「学園都市かあ、」

街中を歩いていると周囲が少し騒がしいことに気づいた。
道行く人の視線が集まっている。シンジがそこに視線を向けると、いつかみた白い服を着た少女が掃除用ロボに噛み付いていた。

禁書目録「かえしてなんだよ!! なんでそんなことするのかな!!」

時間を確認すると登校時間ギリギリだった。たいしたことには見えず、このまま素通りしようという考えが頭に浮かぶ。

「ジャッジメントですの!」

声高らかに聞こえた風紀委員という声。
シンジは数秒逡巡したのち、結局、真っ白なシスターと再会する選択肢を選んだ。

禁書目録「ありがとうなんだよ、しんじ」

シンジ「うん、誤解が解けてよかったよ……」

インデックスは頬にクリームをつけながら、クレープを食べている。
気の抜けるような声で返事をしたシンジはインデックスの真っ白な修道服にたくさんの安全ピンがついていることに気がついた。

シンジ「服、どうかしたの?」

口に出してから、前回出会った時にインデックスが口にした追われている。という言葉を思い出した。

禁書目録「そうなんだよ!! 聞いて欲しいんだよ!! とーまがね、私の服に触って私をすっぽんぽんにしちゃったんだよ!!」

シンジ「……そのとーまっていうのが、インデックスを追っている人なの?」

禁書目録「ううん、私が偶然とーまの家のベランダにひっかかった時にご飯をくれたのがとーまなんだよ」

シンジ「……そうなんだ」

禁書目録「うん、それでとーまの『異能ならなんでもうちけせる幻想殺し』でわたしの『歩く教会』が破壊されちゃったの!」

異能、という言葉に今日がシステムスキャンの結果がわかるはずだった日であることを、シンジは思い出す。
超能力開発を行う学園都市において、その才能を見定める。システムスキャン。
どうやらシンジの通う中学はその才能が余りない人たちが揃った学校のようだったし、とてもじゃないが自分にそんな才能があるとは思えないが、やはりその結果とやらは多少気にはなった。

禁書目録「ちょっと、しんじ、ちゃんと聞いてるのかな!」

シンジ「うん、ちゃんと聞いてるよ」

禁書目録「怪しいんだよ!!」

それでも目の前の少女はシンジをすぐには話してくれそうになかったし、それに


なぜか似ても似つかないはずの目の前の少女にかつての同居人を重ねていたジンジには、ここを離れてすぐに学校へ行くなんてことは出来そうにもなかった。


禁書目録「なんだか人が少なくなったね」

シンジ「たぶん、皆学校へ行ったからじゃないかな」

禁書目録「え、駄目なんだよ! シンジもちゃんと学校にいかないと!」

シンジ「いや、インデックスと話してたから……」

禁書目録「言い訳はめっ! なんだよ!」

急にまともなことを言い出すインデックスにシンジは少しだけ笑ってしまう。

禁書目録「なんで笑うのしんじ! 学校はちゃんと行かなきゃいけないんんだよ!」

シンジ「うん、ちゃんといくよ、大丈夫。それよインデックスは大丈夫なの? 教会にはちゃんといけた?」

禁書目録「わたしの心配はいいんだよ! ほらしんじはちゃんと学校に行くんだよ!」

シンジ「ああ、わかったよ、わかったってば」

膨れっ面でシンジの背中を押すインデックスにシンジは再び苦笑してしまう。


禁書目録「ちゃんと勉強して立派になるんだよ!!」

そういって手を振るインデックス。
彼女に急かされてシンジは走るように学校への道をいく。
インデックスはシンジの背中が見えなくなるまで手を振っていた。


ありがと。さよなら。しんじ。貴方にどうか神のご加護がありますように。


インデックスが見えなくなってから空耳のように聞こえた彼女の声。
シンジはもう一度振りむいたけれど、やはりもう彼女の姿は見えなかった。


つーかこれ誰か見てんのかな

ちょっとシャワー浴びてくる
落ちたら落ちたでいいや


シンジ「……なんだか学校いくの面倒だなあ」

ミサカ「おや、今日もここにいるんですねとミサカは久しぶりの再会の演出をします」

シンジ「昨日もあった気がします。と僕は返事をします」

ミサカ「何故ミサカの真似をするのですか、とミサカは憤慨しつつ日課の餌やりを行います」

シンジ「……ああ、最近ご飯を持ってきてもあんまり寄り付かないと思ったら」

ミサカ「ふっふっふ、普段学校に通っている貴方より研究所暮らしのミサカの方が餌やりには適しているのです。とミサカはここに勝利宣言します」

シンジ「じゃあ、お願いするね。餌やり」

ミサカ「な、なんですと。とミサカはあまりにあっさりと役目を奪い取れたことに少々物足りなさを感じます」


シンジ「……別に餌やりが趣味でここに来てるわけじゃないからね」

ミサカ「では何故毎日子猫に餌を、とミサカは尋ねます」

シンジ「場所を借りるときは、なにかしら返さないとさ」

ミサカ「そういうものなのでしょうか、とミサカは貴方の言葉を理解しようと考えます」

シンジ「わからないけど、いままでがそうだったから。君が変わりにやってくれるなら安心だよ」

ミサカ「よくわかりませんが、当面の間は任せてください。と無い胸をはってみせます」

シンジ「うん、君なら安心、出来るかなあ」




ミサカ「随分と眠たそうですが、とミサカは貴方に質問を投げかけますが、同時に貴方はいつも眠そうだともミサカは考察します」

シンジ「うーん、少し寝不足なのかなあ」

ミサカ「つまり、ここはあなたの昼寝スポットですね、とミサカは結論付けます」

シンジ「そうなのかもね。いい風が吹いて。人が来なくて。ここはよく眠れる気がするよ」

ミサカ「家のベッドよりも、ですか。とミサカは疑問をそのまま口にします」

シンジ「うん。もしかしたら。そうかもしれない」


ミサカ「それでは失礼します。とミサカは貴方の横に寝転がります」

シンジ「……え、い、いきなりなんだよ」

ミサカ「抜群の昼寝所だと貴方が太鼓判を押したので、真似てみただけですが。とミサカは答えます」

シンジ「いや、いいけどさ」

ミサカ「といいながらミサカを気にするあたりは思春期の少年なのですね。とミサカは小さな嫌がらせをしてみます」

シンジ「なんなんだよ、もう!」

ミサカ「ああ、怒らないでください。とミサカはほんの出来心だったっとテンプレートどおりの言い訳をします」


シンジ「……気にしてないから、慌てなくても大丈夫だよ」

ミサカ「……昼寝もミサカにとっては初めてです」

シンジ「そっか」

ミサカ「はい」


シンジ「いつの間にか寝ちゃってた、か」

目を覚ますと既に夕方で、もう少女の姿はなかった。きっといつもの調整とやらにいったのだろう。
起き上がるとシンジの足元に一枚の紙が落ちていた。女の子の字で書かれた、ちぎられたメモ帳。


猫師匠へ

気持ちよさそうに寝ていたので、取り合えず放置していくことにします。
決して寝過ごして調整の時間に間に合わなくて動揺しているわけではないとミサカはここに付け加えておきます。
最近猫太郎達はキャットフードより、鮭フレークが好みのようです。
昼寝、草がくすぐったかったです。

それではまた明日


雑に切り取られたメモ帳をシンジは少しだけ迷ってたたんでポケットへと入れた。
子猫たちがにゃあにゃあといっていたので、手を振って草むらをゆっくりと歩いた。


シンジ「それにしても猫太郎ってなんだよ。……ペンペンくらい安易な名前だなあ」


猫師匠の名称については明日文句を言ってやろう。
そう思った帰り道のことだった。

「ってえな!! んだよ!!」

呆けて遠くを見ていると、いかにも柄の悪そうな人たちと肩がぶつかってしまった。
謝ろうと思ったときには既に胸倉を掴まれていた。

「てめえ、どこみて歩いてんだ? あ?」

久しぶりに誰かに敵意というものを向けられた気がする。
素直に謝ればいいものを、シンジは何故か言葉が出ずに呆けていた。

すると案の定、すぐに言葉はやみ。代わりに拳が飛んできた。


頬に鈍い痛みが走る。
ああ、これは駄目だ、とシンジの中でなにかしらの警告がでる。
これはいけない、と。警鐘のなる。

反抗も謝罪もしないシンジに不良たちは苛立ちを大きくさせたのか、そのまま近くの路地裏へとシンジを引きずり込んだ。

「ああ、悪いことした時はどうするのか、母ちゃんにならわなかったのかあ?」

後ろに立つ取り巻きが笑いながら、声を荒げる。
これはよくない。駄目だ。シンジは怯えた。目の前の暴力ではなく。
自分の中のものに。それを引きずり出そうと言う行為に。


目の前には四人の不良が立っていた。
けれどシンジの目にはその不良たちはうつっていない。

「なんだよお前、なんとか言ってみたらどうなんだ? ああ!?」

再び拳が飛んでくる。それは俯いていたシンジの額を打ち、シンジはそのまま地面に倒れこんだ。
痛みを感じる。頭の中にノイズが混じる。

「転校生、ワイはお前をなぐらなあかん」

殴られた額でも打ち付けた下半身でもなく。いつか友人に、親友に殴られた場所が痛んだ。
視界が揺れる。腹部を蹴られたのだと気づいたのはその少しあとだった。


「男がそんなんでいいのかよ? 一発くらい殴り返してこいや!」

同時に上がる笑い声。
シンジは蓋を閉じようとする。鍵をかけようとする。

「そんなんじゃあ、なんかあったとき何にも出来ないぞ? お前」

何も出来ない。なにもできない。ナニモ、デキナイ。

自分の中から感情があふれ出すのがわかった。そしてそれはとても黒くて、とても暗いものだということ。
それだけがわかった。それしかわからなかった。

遠くで音がした。込みあがる何かがシンジの容量を超える。あふれ



「おい、大丈夫か?」






ふと、視界が澄んだ。
髪の毛がツンツンの高校生がシンジの肩に手をかけ、声をかけている。

「おい! ほんとに大丈夫か?」

シンジ「あ、はい。なんとか」

「なんだよ、あんまり反応ないから上条さんはびっくりしましたよ」

目の前の少年はわざとらしくため息をついて、そのあと、シンジを庇うように手を広げ振り返った。

「よし、今のうちに逃げてとけ」

「ざけんなよこらああ!!」


不良が声を荒げて目の前の少年に二人がかりで突っ込んでくる。
よく見ると一人は地面に転がっていて、もう一人はすぐそこで尻餅をついている。

「うるせえなあ!! 黙って聞いてりゃ男、男って、四人がかりで中学生に殴りかかっといて!!」

ツンツン頭の少年は突っ込んできた一人のパンチをかわして、倒れた男の方へと振り回すように強引に投げ飛ばす。

「てめえらの方がよっぽど男じゃねえだろうがよおおお!!!」

そして、もう一人の男のパンチに合わせるようにカウンターを食らわせ、交わしきれなかったパンチを豪快に顔面へと貰っていた。


「いてて、てて」

シンジ「だ、大丈夫ですか?」

「こんなの余裕っていうかお前のほうが一杯貰ってただろ?」

シンジ「いや、僕は全然……」

「へへっ、強いやつだな。おまえ」

シンジ「あ、いや……」

「とまあ、あいつらが追っかけて来る前にさっさと逃げるぞ。四対二なんてちゃんとやったら絶対勝てねえ」


「ふう、危なかったなあ」

少し離れた公園で二人はベンチに腰掛ける。もう辺りは夕暮れで暗いというのに、ぼろぼろの二人はどこか浮いていた。

シンジ「あ、あのさっきはすみませんでした」

「ああ、いいよ。気にしないでくれ、好きでやったことだから。それより、なんか飲むか?」

シンジ「え、いや悪いですよ。ここは僕が……」

「いいんだよ、気にすんな。こういう時は年上に奢らせてくれよ。コーヒーで大丈夫か?」

シンジ「あ、はい……すみません」


「ほら」

シンジ「す、すみません」

「んーすみません、ばっかりだなあ」

シンジ「え?」

「ありがとう、のが嬉しいんだけどな」

少年はそういってシンジに向かって微笑み、コーヒーを手渡した。

シンジ「あ、ありがとうっございま……」

「あー!! ちっくしょう!! またのまれたあ!! くそう最後の百円だったのに!」

シンジ「……」

自販機の前で不幸だ……と呟く、その背中を見て、シンジは少し笑った。
さっきまでのことを忘れたかのように振舞うその姿をかっこいいと、素直に感じていた。


シンジ「よかったらどうぞ」

自販機に百円を入れて、うなだれている目の前の少年に声をかけた。

「え、いいのか?」

シンジ「はい、さっきのお礼です」

「おお、ありがとう!」

シンジ「こちらこそ、ありがとうございます」


「ってもうこんな時間だ。特売が終わっちまう」

シンジ「え、あ……」

「コーヒーありがとなー!」

シンジ「えっと、あの……、行っちゃった」



シンジ「財布、落としてるのに……」





シンジ「えっと、ここの路地を曲がって……こっちか」

シンジ「っいて、……コーヒー染みるな」

シンジ「もうすぐ、かな?」

少年のポケットに深々と入っていたはずの財布が誰かに引っ張られるかのように落ちるのを目撃してから数十分。
シンジは学生証の住所を頼りに先ほどの少年の家を探していた。

シンジ「学生寮を探すにしても、学生寮だらけだからなあ」

夕暮れ時は過ぎ、日も落ちて、辺りはずいぶんと暗くなっていた。
遠くで、サイレンの音がする。何かあったのだろうか。

なんだか胸騒ぎがした。粘りつくような、嫌な感覚。

シンジ「あっちの方みたいだな。……ちょっと言ってみようかな」

杞憂ならそれでかわまない。そう思いながら何故かシンジは自分の悪い予感が当たる、そんな気がしていた。

時は少しさかのぼる
先ほどの少年と別れたあと、ツンツン頭の少年――もとい、上条当麻はいつもどおりに不幸を嘆きながら、いつもどおりの道を歩いていた。

上条「ああ、やはり今日も不幸だった……」

スーパーの特売を逃した余りか、そもそも財布を落としていたことに上条は多少落ち込みを見せる。
しかしそれでも、上条当麻にとってはそのような不幸を含めて、ここまでの出来事がいつもどおりの事柄であったため、彼はそれこそ“いつもどおり”に不幸を嘆いていただけであった。

しかし、そんな彼の一日の締めくくりはその“いつもどおり”から逸脱していたものだった。


自分の住む男子寮の階段を上り、自分の部屋へと続く廊下へと足を進める。
そこには“いつもどおり”の殺風景な、“いつもどおり”の何もない廊下が続いているはずだったのに。
上条当麻の目の前には“いつもどおり”の知っている風景は広がっていなかった。

彼の部屋の前には一人の男が立ち、一人の女の子が横たわっていた。

上条「な、……んな、」

立っている男は見たこともない男だったが、上条はその足元で横たわっている少女を今朝見かけたばかりだった。

上条「な、……インデックス!!」

「……ここにはもう誰もいないと思っていたんだけどね」

 長身の男は値踏みをするかのように上条を見据える。
 
「やれやれ、これは面倒なことになってしまった」


禁書目録「とー……ま……なんでここに……」

 純白の修道服を真っ赤に染めたインデックスが上条に話しかける。

禁書目録「早く………逃げ……………て……」

 そう言い終わるとインデックスの体から力が抜ける。
 意識を失ったらしい。

上条「……てめえが、インデックスの言っていた魔術師なのか?」

 上条は拳を握り締めて目の前の男に尋ねた。
 
「君の言う、インデックスが言っていた魔術師が何をさすのか、僕にはわからないけれど。その魔術師が彼女のことを捕らえにきた魔術師を指すのなら。間違いなく、僕がその魔術師だよ」

 魔術師は悪びれる様子もなく、上条へとそう言い放った。


上条「……どいてくれ、インデックスを病院へ連れて行く」

「出来ない相談だ。そもそも彼女は外部の人間だ。その彼女を引き入れてくれる病院がこの学園都市にあるのかい? 外部の人間であるなら、外部の人間である僕が回収する。それが道理だろう?」

上条「なんとしてでも治すさ。お前に連れて行かれるより、ずっとずっとマシだ」

「はあ……、話にならないね。いいかい?僕はあくまでも禁書目録の回収のためにここにいる。禁書目録を死なせる理由はない」

魔術師は言葉を続けながら、口元の煙草へ火をつける。

「同じように僕達にとっての外部の人間である、君達学園都市の人間にも極力危害を加えるつもりはない。禁書目録の回収、それに影響が出ない限りは、ね」

上条「御託はそれでおしまいか」

「わからない男だな。今、君が退けば僕は追わない。また逆に僕の目的の障害になるようならば、僕は君を排除することを厭わない。そういってるんだよ?」


上条「ああ、それでも俺はお前をぶっ飛ばして、インデックスを助ける」

「はあ、長々悪かったよ。無駄口だったようだ」
「―――『Fortis931』」

魔術師はそうつぶやき、上条を見据えた。
真っ黒い全身を覆うコートが風に靡いた。

「これは魔法名といってね。昔は相手に名前を知られてはいけないなんて言い伝えがあったそうだが……まあそれはどうでもいいか。そうそう、僕の本当の名はステイル・マグヌスというんだ。せっかくだ覚えておくといい」



ステイル「――それが君を殺す男の名だ」





ステイルの手からタバコが落ちる。

ステイル「せめてもの慈悲だ、痛みを感じる間もなく終わらせよう――炎よ」 

彼の手の上で炎が燃え上がる。それはまもなく肥大し、すぐさま巨大な炎の塊となった。

ステイル「巨人に苦痛の贈り物を!」

その炎は真っ直ぐと上条へと飛んでいった。上下左右に逃げ場を許さないほどの巨大な熱量の塊。それは程なくして上条当麻を包み込み。
そして上条当麻の右手、どんな異能でも消し去る異能――『幻想殺し』によって打ち消された。



シンジがその建物に到着したときには周囲には少ないながらも野次馬が集まっていた。
学生寮であろう、その建物は小さな火の手が上がっており、その弱々しい炎が嘘であるかのように、その周囲は黒く焼け焦げていた。

先ほど拾った財布から学生証を引っ張り出して、建物の名前と照らし合わせる。

シンジ「やっぱり、同じだ……」

心臓が少しだけ早く高鳴っている。
幾つかの選択肢が浮かんだ、がシンジはそのどれかを選択するよりも早く、階段から先ほどの少年と朝方一緒にパフェを食べた少女が姿を現した。
インデックスは上条に背負われて、二人とも煤で体中を黒くしながら、野次馬の視線から逃げるようにその場を離れた。

シンジは少しだけ迷って、それから、二人を追いかけた。

ねみい、もしねたらすまんこ

一回落として書き溜めしてからまた夜にでもスレ立てろよ


さすがに投下遅すぎ

>>121

うん、そうしようかな
何書いてんのか、わからんくなってきたし。

全部描ききってから、もう一回同じタイトルでスレ立てるわ
見てくれてた人すまん

sssp://img.2ch.net/ico/002.gif
書き切るって言ったじゃないですか!やだー!



その時は最初から貼り直したほうがいいかもな

>>123
ほんとに申し訳ないです

>>124
誤字とかもなおしときます

ありがとごめんなさい。あとは落としてくださいな

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