あずさ「春香ちゃん、ちょっと良いかしら~」 (32)


「はい?」

「あのね、ちょっと聞きたいことがあるの」

あずささんから相談されるとは、

私も成長したってことなのかな?

それとも、アイドル関係じゃなくてお菓子のつくり方とか?

「なんですか? 私で良いなら」

「ううん、春香ちゃんじゃなきゃダメなのよ~」

「私じゃなきゃダメ?」

なんだろう?

私の地元関係?

やっぱりお菓子?

そんな私の予想を覆す。

「胸の大きい人って、どう思う?」

あずささんの一言

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胸の大きい人ってどう思う? って、

いや、それって確実にあずささんのことだよね?

オブラート突き破ってるもんね、胸が

いや、30%くらいは貴音さんのことの可能性もあるけど

「……えっと、誰がですか?」

「うふふっ、春香ちゃんに決まってるでしょ~?」

「う、う~ん……」

別に胸の大きさにコンプレックス感じているわけじゃないし、

大きくなりたいとか思ってるわけでもないし、

……って、違うよね?

胸の大きい人=あずささんなんだから、

つまり、あずささんの評価を私にしろって事じゃぁ……

「良いと思いますよ」

「本当? 邪魔だなぁとか、要らないとか、妬ましいとか。思ったりしてない~?」

「す、するわけないじゃないですか」

あずささんはちょっと天然で、かなり方向音痴なところとかあるけど

優しいし、頼れる大人だし……むしろ憧れだよね


「よかった……ずっと不安だったの」

「え?」

「ほら、貴音さんもだけど、私たちってほら。大きいじゃない?」

あずささんは少し困ったように言いながらも

恥ずかしいのか、頬を少しだけピンク色に染めていた

「だから、その……みんなよりも秀でてる分、不利でもあるんじゃないかしらって」

「不利……ですか?」

なんのだろう?

ヴィジュアル面ではむしろプラスになるだろうし、

あ、ダンスでのことかな?

あんまり激しく動くと根元からもぎ取れそうな気がする……

あくまで、気がするだけだけど。

ともかく、

「確かに不利に見えるかもしれないですけど、全然そんなことないですよ。あずささんも貴音さんも完璧ですよ」

「え?」

「だから、自信持ってください」

「春香ちゃん……」

あずささんの曇っていた表情が明るくなっていく

まるで子供のようにパァッと明るくなれるのも、あずささんの魅力なのかもしれない


「春香ちゃん、ありがとう!」

迫るあずささん

迫る巨乳

その距離、僅か数センチ

回避の余地は――ないッ!

「ふぐっ」

その柔らかくも痛く苦しい衝撃を顔に受け、挟み込まれた

「春香ちゃんに認めてもらえて嬉しい……」

「ふぐぐぐっ」

あずささんの胸の谷間にはさまれ、

呼吸ができなくなって、

なのにもかかわらず、幸福感を感じているとは、

これが……幸せを抱いて死ぬってことなのかな

「わ、我が生涯に……一片の悔いなし」

「ぁ、は、春香ちゃん!?」

私はそのまま意識を失い、

柔らかい世界へと……落ちていった


中断。

再開時に>>1の酉を使います


「っ……ぅ?」

体を縛り付けられていたような重い感覚が、

だんだんと抜けていく。

眠っていた神経がせわしなく走り回り

頭から順につま先までの感覚を呼び覚ます

「――ちゃん、――夫?」

後頭部の柔らかく、それでいて弾力性のある何か。

それがもぞっと動いて頭が揺れる

「………………」

暗い場所から一点、明るすぎる世界は目に毒で、

それを遮る長い髪の女性がぼやけた状態から

はっきりと輪郭を取り戻していく

「春香ちゃん、春香ちゃん」

「――あずさ、さん」

天井と電気、それを遮るあずささんの頭

それを遮る私を殺しかけた胸

じゃぁ、後頭部の感触は……膝枕!?


「へぶっ」

「あ、あらあら~……大丈夫~?」

慌てて起きようとした瞬間、

後頭部のそれよりも圧倒的弾力性を誇る胸に弾かれ

再び膝枕へと戻ってしまった

「あ、あずしゃさん……」

鼻が痛い。

柔痛いとはこのことか

「ごめんなさい、つい嬉しくて~」

いえいえ。

私も嬉しかったですよ

死にかけたけど、幸せでしたよ、柔らかくて……って

ちょっと待った

私は別にそんな、いや、そっち系っていうか、

女の子同士の恋愛云々とかえっと、いや

うん……ええっと、あー

……胸が好きだっていいじゃない。人間だもの

何言ってるんだろ、私


「私どれくらい倒れてました?」

「う~ん……大体10分くらいかしら」

「じ、10分も膝枕しててくれたんですか!?」

「え、ええ……嫌だった?」

「そんなことないですよ、嬉しいです!」

不安そうなあずささんに対し私は即答してしまった

確かに本心ではあるし

あずささんが不安そうなのが嫌だって気持ちもあったけど

まさか即答するとは

もしかすると、

私は本当に女の子にときめいちゃうようなはしたない女の子なのかもしれません

真は……えへへ

真にときめいちゃうのは仕方がないんじゃないかなぁ

カッコイイし


「あのね、春香ちゃん」

「はい?」

「女の子が女の子に恋するお話とかあるでしょ~?」

「ふぇ!?」

こ、心を読まれた!?

いや、待って

落ち着いてよ私

相手はあずささんだよ、貴音さんじゃないよ

だから大丈夫。

「こほん。それがどうかしたんですか?」

「どうかしたわけじゃないの~ただ、春香ちゃんはどう思うのかな~って」

や、やよいの真似?

ちょっと可愛いと思った……うぅっ

「わ、私ですか……」


女の子が女の子に恋をする話。

学校とかでたまにそういう話を聞いたりするし

最近、もしかしたら自分がそうなんじゃないかなって思うようになっていることもあって

色々と調べたりしてみたけど

正直良く解ってない

さっきからあずささんの胸云々、膝枕云々考えてるけど、

それが幸せに感じたり、気持ちよく感じたりするのが

女の子にトキめくっていうのは違うと思うし

可愛いから可愛い

かっこいいからかっこいい

そう思うだけで好きとかどうとか判断するのも違うと思う

やよいは可愛い。

じゃぁ、やよいのことが恋愛的な意味で好きなのって聞かれたら違うって言える

「ちょっと、難しいですよね」

「……別に難しく考えなくて良いのよ~。肯定的か、否定的かって聞きたいだけだから」

「ぁ、はい」

私に聞きたいのはそっちかぁ

もっと概念的な部分かと思ったのに


「参考までに、あずささんはどっちですか?」

「え、え~っと……それは……」

賛否を問われた際に使う

基本的な「貴方はどうですか?」なんだけど、

あずささんは困ったように視線を泳がせて

口元を抑えていた

言いたくないようなことなのかな?

だとすると……あずささんは肯定派ってことかも

同性愛は日本の世間一般的視点から考えるなら

まず間違いなくNO、NGな恋愛だし

私がどっちか判らない以上、肯定して引かれるのが嫌なのかもしれない

「い、言わないと……だめ?」

「ぅっ」

恥ずかしそうに視線を逸らし、頬を赤くしながら口元を隠す照れの動作

あざとい、流石あずささんあざとい

……可愛いって思っちゃったじゃないですか


「わ、私に聞いたじゃないですかっ」

「そ、そうだけど~」

「ずるいですよっ」

「だ、だって~」

何をムキになっているんだろう

別に聞き出す必要のあることでもない

どちらでもないって言えば済む話なのに

「………………」

「………………」

私はあずささんの答えを判っているはずなのに

どうして、聞きたいのだろう

それは【確定】していないから?

あずささんが本当に肯定していると決まっていないから?

どうして……

「……あずささん」

「な、なぁに?」

「紙に書いて交換しましょうよ。妥協案、どうですか?」

もしかしたら、

自分が否定派であれ、肯定派であれ、

女の子を好きになってしまう人間だと……思っているから。かもしれない

私の妥協案

あずささんは少し躊躇したものの、

受け入れて、そして――2枚の紙が私達を行き来した


少し中断


「………………」

「………………」

私たちは互いの顔を見合わせ、

開いていいかどうかを確認する

私が紙に書いたのは【肯定】つまり、

あずささんが私の予想とは違うなら

あずささんからは軽蔑されるかもしれない

もしもそれをみんなに伝えられてしまったら

私はこの事務所にいられなくなるかもしれない

だって、ここにいるのは社長とプロデューサーさん以外女の子だから

事務員の小鳥さんだって女の人

……小鳥さんだけは受け入れてくれたりするかなぁ


そんな良く解らない方向へと落ちていく思考

「春香ちゃん」

それを引き戻すほのぼのとした声

「あ、ごめんなさい」

「ううん……やっぱり。やめておく?」

「良いんですか?」

あずささんは私の表情を見て悟ったように切り出した

自分が聞いてきたことなのに、

あずささんは私よりも知りたいことのはずなのに

「春香ちゃん、知られたくないんでしょう?」

いつもの伸びのある声とは違う声だった


それは多分、

あずささん自身も自分の答えを隠しておきたいからなのかもしれない

だけど、教えようとしてくれた

そして、開こうとしてくれている

あとは私が判断すること

あずささんは許可をくれた

なら、私も……でも

なんでこんなに怖いんだろう

ううん、もう解ってる

嫌われるのが怖い

疎遠になってしまうのが怖い

つまり私は……。

「開けて良いですよ」

そんな気持ちを終わらせるために

そんな気持ちなんてなくしてしまうために。

私はあずささんに肯定し、紙を開いた




              『 私は春香ちゃんが好きです。女の子として 』



「え……?」

なのに、

見えたのは否定では確実になく

それでいて肯定という簡単な2文字でもなかった

「…………………」

言葉を失ったまま

あずささんへと視線を向けたけれど

黙り込んだまま、そして俯いたまま

あずささんは何も言ってはくれなかった

「………………」

経験不足というものをこれほど恨んだことはない。

アイドルだって、

最初は初心者だし、経験不足で、レッスンだって手こずったけれど

失敗が許されないものではなかった。でも

これは……失敗できないことなのに

圧倒的な経験不足が、私の沈黙を長引かせていく……


そんな気まずい沈黙を破ったのは、

やっぱり私ではなく、あずささんだった

「ごめんなさい」

寂しそうな、悲しそうな、辛そうな声

「ごめんなさい、春香ちゃん」

私がさっきまで頭を乗せていたあずささんの足

そこにポツポツと、雨が降る

「どうしても……堪えられなかった」

あずささんの手がソファをつかみ、

その一部に吸い寄せられるように周りにシワが寄っていく

「……あの、あずささん」

「忘れようとは思ったの。何度も、それは普通じゃないからって」

私がしようとしたことだ……

「でも、ダメだったみたい……忘れようとすればするほど。春香ちゃんとの距離が開いていく」

「…………………」

「それが苦しくて、辛くて……だから、今朝春香ちゃんに声をかけたの。区切りをつけたかったから」


あずささんは肯定して欲しくなかった

むしろ、否定して欲しかった

なのに、私は肯定してしまった

無理だよ、知らなかったんだから。

なにより、それは私の気持ち自身に嘘をつくことだから

「あずささん」

あずささんがやろうとしたこと。

それと同じことを私はやろうとして

結果的に2人同時にその目論見は失敗に終わってしまった

「それは無理かなって思います」

「……どうして?」

「だって、私は肯定派なんですよ?」


もし、私が【否定】をしたとしても、

私の本当の気持ちは肯定

つまり、あずささんのこの回答を貰ってまで、

否定ですよ。なんて嘘は突き通せない

ぎゃくに私が肯定、あずささんが否定でも

あずささんはきっと気持ちを隠しきれなかった

だって、私が肯定しているんだから

「2人が否定する以外なかったんです」

「区切りをつけたければ嘘をつくしかなかった……」

「でも、相手から自分の気持ちを否定されなきゃ、きっと無理だから」

元々、

私たちは自分の気持ちを押し隠してつらい道を歩むか、

自分の気持ちを暴露して否定されるかしかなかった

ううん……もう、こんな回りくどいこと考えたり、言ったりしても仕方ないよね


「私も女の子好きです。男の子もそりゃ好きですけど……でも。好きです」

「春香ちゃん……」

私は同性だけを好きな人ではない。

でも、だけど。

女の子のことも好きだから

「こんなえっちなことでしか個性がない私で良いですか?」

「えっちなことでは……うふふっあるかしらね~」

少しだけ元気を取り戻したあずささんの笑い声

なんとも言い難い心地よさを感じ、

改めて私は好きなんだなぁ。と、自覚させられる

「……私の答えはもう、聞いてるでしょ~?」

「あはは、そうでした」

握り締めた手の中にある小さな紙切れ

そこに込められた、大きな想い

「春香ちゃん、貴女のことが好きです」

「……はいっ」

柔らかな日差しが斜めに差し込む事務所の中

2人いるはずのその場所には、1つの影しか見えなかった


終わり


あらーさんの口調が途中から判らなくなりました。ごめんなさい

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