サシャ「味を占めちゃいましたかね?」(129)


・『サシャ「落ち着く味だといいですね」』の続きです


―― トロスト区 中心街付近

ミーナ「ごめんねアニ、一緒に訓練所まで戻るハメになっちゃって。忘れ物にもうちょっと早く気づけばよかったんだけど」タッタッタッ

アニ「どうせ待機場所にいても暇だし、これくらい別にいいよ。でも夜更かしは程々にしないと、また忘れ物するんじゃない?」タッタッタッ

ミーナ「あはは、久々に面白い本見つけちゃってさ。今度アニにも貸してあげようか?」

アニ「別にいらないよ。……ところで、今日って何のお祭りなの?」

ミーナ「えー……っとね、知らない」エヘヘ

アニ「知らないって……あんたここの地区の出身でしょ」

ミーナ「あっ、私の出身覚えてくれたんだ。嬉しいなぁ」

アニ「……で、なんで知らないの?」

ミーナ「だって、どういう理由でお祭りやってるのかなんてあんまり気にしたことなかったし……第一、アニだって去年も一昨年も参加してるじゃない。今まで疑問に思わなかったの?」

アニ「……なかった」


ミーナ「うーん……たぶん収穫祭ってのが一番近いんだろうけどね。出店もいっぱい出るし」

アニ「そこら中にあるよね。……邪魔くさい」

ミーナ「まあまあ、そう言わないで。他にも色々なことやってるから、歩いて見てるだけでも結構楽しいよ? 内地から来た楽団の人たちが真ん中の広場で演奏してたりもするし……それとね、子どもは大人からお菓子をもらえるんだよ!」

アニ「お菓子?」

ミーナ「そうそう。まあ私たちは配る側なんだけどね。去年も配るためのお菓子が支給されたでしょ?」

アニ「……ああ、あのクッキーってそういう意味だったんだ」

ミーナ「あれ? ちっちゃい子に『お菓子をくれないといたずらするぞー』って言われなかった? 私なんか途中で足りなくなっちゃって――」

アニ「……なかった」

ミーナ「……」

アニ「…………部屋に戻って一人で食べた」

ミーナ「……こっ、今年はきっとアニだってモテモテだって! ね?」ポンポン

アニ「いや別に……気にしてないから……」ボソボソ

ミーナ「ほら、話してる間に着いたよ! ――ん?」


ミカサ「……」モコモコ

サシャ「……」モコモコ

クリスタ「……」モコモコ

ユミル「……」モコモコ



アニ(なんで四人で密着して座ってるんだろ。鳥の雛みたい)

ミーナ「……アニ、戻るよ」クルッ

アニ「なんで」

ミーナ「マフラー取りに行くの。ほら急いで」グイッ

アニ「私、マフラー持ってない」

ミーナ「……なんて?」

アニ「マフラー持ってない」

ミーナ「んもおおおおおこれだからパーカー大好きっ子はぁっ! あのね、パーカー被っても前が寒いでしょ!? 口元とかほっぺたとか首の前とか寒いでしょ!?」

アニ「でもこれ口元まで閉まるタイプだし」チーッ

ミーナ「閉めちゃだめぇっ!!」クワッ!!


ミーナ「そりゃあね? パーカーの帽子の下はあったかいよ? 訓練で寒い時思わず手を突っ込みたくなるよ? でもダメだよマフラーは持ってなきゃダメ!!」

アニ「そのこだわりはなんなの……」ハァ

ミーナ「というわけで今度買いに行こうね」

アニ「えー……………………………………………………………………………………いらない」

ミーナ「いらなくないのぉっ! 全然いらなくないよぉっ!」ダンダンダンダン!!





ベルトルト「……ミーナは何を興奮してるの? なんで地団駄踏んでるの?」

エレン「さあなー」

アルミン「思春期の女子にはよくあることだよ。気にしちゃ負けだ」

コニー「なあライナー! 祭の開始まで暇だし、アレやってくれよアレ」

ライナー「アレか……まあ、まだ時間もあるしいいか」


ユミル「私は今クリスタに包まれている」キリッ

サシャ「マフラーと手袋をセットで身につけて嬉しいのはわかりますけど、その言い方はちょっと」

ミカサ「私は今エレンに包まれている」キリッ

クリスタ「対抗しなくてもいいよミカサ」

サシャ「……おや、コニーとライナーが何か始めましたね」

ミカサ「ライナーの腕にコニーがぶら下がっている。……謎」

ユミル「思春期の男子にはよくあることだ。気にしちゃ負けだぞ」

クリスタ「……楽しそう」キラキラキラキラ


サシャ「……」ウズウズ

ミカサ「サシャ、我慢しては身体に悪い」

サシャ「ですよね……ですよね!!」スクッ

サシャ「ライナー! コニー! 私も混ぜてくださーい!」タッタッタッ



ミカサ「やりたいことがあったらあまり悩まないで突き進む……あれがサシャのいいところ」

ユミル「人はそれを馬鹿と言う」

クリスタ「もう、ユミルったら」


サシャ「何やら楽しそうなことしてますね! 何してるんですか?」

コニー「見てわかんねえのか? ライナーの腕にぶら下がってんだよ」ブーラブーラ

サシャ「それ、私も! 私もやりたいです!」ハイッ

ライナー「コニーの後でいいなら構わんが……」

サシャ「やったー! お願いしますっ!」ワーイ



ミカサ「そして、自分の言葉や行為がどういう意味を持つのかあまり考えない……それもサシャのいいところ」

ユミル「人はそれを鈍感と言う」

クリスタ「もう、ユミルったらっ」


サシャ「足足! 足浮いてます! あはははっ!」ブーラブーラ

ライナー「楽しいか?」

サシャ「はい、とっても!」ブーラブーラ



ミカサ「気づいた時にはなんかちょっとズレている。たまに気づかない時もある。今回は後者。……それもいいところ」

ユミル「人はそれを天然と言う」

クリスタ「もう、ユミルったら!」

ユミル「ていうかいいところばっかりじゃねえか。いいとこ探しの天才だなミカサは」

ミカサ「私はエレンのいいところを100個言える。当然」

ユミル「私はクリスタの気持ちいいところを108個言えるぞ」

クリスタ「デタラメ言わないでねユミル。……あっ、エレンがベルトルトと話してるね」

ユミル「なんか山岳訓練の直前くらいからエレンに懐いてるよなーベルトルさん」

クリスタ「……あれ? ミカサは?」キョロキョロ

ユミル「あそこ」


アルミン「こうして見てると、コニーもサシャもライナーも兄弟みたいだね」ウフフ

エレン「なあベルトルト、俺もあれやりたい」ユビサシ

ベルトルト「? やってもらえばいいんじゃない?」

エレン「そりゃそうなんだけどさ……今ライナーのところ行きづれぇんだよ。だからベルトルト、頼む!」

ベルトルト「やってあげたいのは山々だけど、僕にできるかなぁ……ライナーほど筋肉ついてないし……」ウーン...

ミカサ「エレン、何なら私がやってあげる」ニュッ

ベルトルト「うわっ!」ビクッ

アルミン「ミカサ、いつ来たの? さっきまであそこに座ってなかった?」

ミカサ「座ってない。気のせい。……さあエレン、私の腕に掴まって」スッ


エレン「やだよお前俺と身長同じじゃん」プイッ

ミカサ「」

ベルトルト「ちょっとエレン、そんな直接的に言っちゃミカサが傷つく――」

ミカサ「ベルトルト」

ベルトルト「え? 何?」ビクッ

ミカサ「あなたの身長を分けてほしい。今すぐ」

ベルトルト「……ダメだできない」

ミカサ「……」ギロッ

ベルトルト「に、睨まないでよ……」ビクビク

エレン「あーあ、俺もライナーかベルトルトくらい身長あったらなー」


ジャン「おーい、支給品届いたぞー。待機中に遊んでんなよ、お前ら」ドサッ

ライナー「おう、お疲れさん。少し遅かったな」

ジャン「まあ……色々あってな」

ベルトルト「あれ? ジャンってマルコと一緒に行ったんじゃなかった?」キョロキョロ

ジャン「あいつは財布という名の心臓を捧げに行った」

コニー「あぁ? なんだって?」

ジャン「この祭、今年で三十周年なんだとよ。それで、王室限定の刺繍が入ったハンカチだのスカーフだのベルトだの色々売り出されるらしくってな。それ買いに行った」

ライナー「……あいつ班長だぞ? 大丈夫なのか?」

ジャン「いいんだよマルコは今だけは自由の翼だから」

エレン「お前マルコには甘いよな」

コニー「で? 支給品って何届いたんだよ。こんなでかい木箱持ってきて――」パカッ


アルミン「こっちの小分けになった紙袋は……子どもたちに配るためのクッキーだね」ガサゴソ

ジャン「おい、箱から出すなよアルミン。時間ギリギリまではサシャに見せんな。面倒くせえからよ」ガサゴソ

サシャ「呼びましたー?」ヒョコッ

コニー「呼んでねえよー」

ライナー「よーしサシャ、ちょっとあっちに行ってよう。な?」グイッ

サシャ「でも今こっちのほうからなんかいい匂いがしたんですけど。まるでクッキーのような」

ライナー「今日はいつもに比べて出店が多いからな。たぶんそれだろう」

サシャ「えっ、クッキーの出店があるんですか!?」

ライナー「そうだな、後で一緒に探しに行こうなー」スタスタ...



ライナー『クッキー隠したら呼んでくれ』クルッ

アルミン『了解』サッ

ジャン『お前も大変だなー』トントン


ミカサ「……扱いに慣れてきている」

アルミン「日頃の調教の賜物だね」

コニー「サシャの奴、最近パンねだらなくなったしなー。おかげで俺、結構身長伸びたんだぜ?」ニッシッシ

エレン「へー、すげえな。何cm伸びたんだ?」

コニー「1cmくらい」キリッ

ジャン「そんなもん誤差の範囲内だろ」

コニー「やっぱりベルトルトから分けてもらったほうが早いよな」ジッ...

ベルトルト「なんでみんな僕から身長むしり取ろうとするの……?」ビクビク

ジャン「いいじゃねえか減るもんじゃねえし。分けてやれよ」

ベルトルト「減るよ!」

アルミン「……? 他にもまだ何か入ってるね」

エレン「どれどれ? えーっと、何……が…………」ピタッ

ミカサ「……? エレン、どうしたの?」


エレン「……なんだこれ」ヒョイ

ミカサ「……」

アルミン「それってもしかして――」

ユミル「おーい、支給品届いたって? 私らにも見せろよ」スタスタ...

ミーナ「んん? ねえ、エレンが手に持ってるのって――」

クリスタ「……猫耳?」キョトン

アニ「……何それ。あんたの趣味?」ササッ

エレン「はぁっ!? 違う違う違う! ジャンの趣味だろこれ!!」ブンブン

ジャン「あぁ!? んなわけねえだろ、第一そりゃ支給品だって言ったじゃねえか!! 俺の趣味は関係ねえって!」ブンブン

ベルトルト「えっ……? ジャン、君は『ケモノ耳もいいもんだよなぁ』ってこの前言ってたじゃないか……! あの言葉は嘘だったの!?」

ジャン「ややこしくなるから本の話はやめろ!!」


コニー「これつけて祭に参加しろってことかぁ? 去年はなかったよな、こういうの」

ユミル「……? おい、なんかメモが入ってんぞ」

アルミン「えーっと、何々……? ――『女子訓練兵は支給品である耳を必ず身につけること。男子訓練兵は任意とする』。……だって」

ミーナ「えー……何それ、不公平じゃない?」

アニ「偉い人の趣味なんじゃないの」

ユミル「趣味で着けさせられたんじゃたまんねえな。クリスタ、さっさと戻るぞ」

クリスタ「どれにしよっかなー」ガサゴソ

ミカサ「何やら種類や色がたくさんある」ガサゴソ

ユミル「おい」

ミーナ「……え、ミカサもクリスタもつけるの? 本気?」

ミカサ「つけないと怒られる。ので、つける」ガサゴソ


クリスタ「ミーナは着けたくないの?」キョトン

ミーナ「そりゃあ……つけたくないって言ったら嘘だけど……耳自体はすっごくかわいいし……」ボソボソ

クリスタ「じゃあ着けようよ! こんな機会滅多にないんだし」

ミーナ「……それもそうだね! 着けちゃおーっと」ゴソゴソ

ユミル「ったく、クリスタ様にゃかなわねえなあ。――どれ、私も選ぶか」ゴソゴソ

アニ「……」サササッ

ミーナ「はいはいアニ。逃げちゃだーめ」ガシッ

アルミン「みんな選ぶんなら、クッキー隠してサシャも呼んであげようか。――ライナー、もういいよー」


ライナー「中身チェックしたんだろ? 他に何が入ってたんだ?」

アルミン「獣の耳」

ライナー「……お守り的な何かか?」

サシャ「パァンの耳ですか!? 砂糖をかけて揚げるとおいしいですよ!!」

アルミン「違うよ。今ミカサがつけてるから」

エレン「何か気に入ったのあったか? ミカサ」

ミカサ「ちょっと待って。今つけている」ゴソゴソ

サシャ「『他に』って元々何が入ってたんですか? おいしいものでも入ってたんですか?」クイクイ

ライナー「はいはい。後でな」

ミカサ「……つけた」クルッ


ミカサ「ミカサだにゃー」ニャンニャン

サシャ「わぁ、かわいいですね!」

エレン「おー、いいんじゃねえの?」

アルミン「うん。似合ってるよ、ミカサ」

ミカサ「……///」テレテレ



ジャン「」バターン!!

ライナー「ジャン!?」

コニー「どうしたぁっ!?」

ジャン「ライナー、コニー……俺ぁ、もうダメだ……」ゴフッ

コニー「おいジャン、顔真っ赤だぞ? 風邪ひいたのか?」

ライナー「馬鹿野郎!! お前……もうちょっと頑張れよ……!」

ジャン「無理だって……俺はあの外見のミカサに話しかけられたら昇天する」

コニー「そんな重症なのかよ……!? 救護室行こうぜ救護室」


サシャ「へー、色々あるんですねー」ガサゴソガサゴソ

ミカサ「サシャの耳は私が選んでみた。着けてみて」スッ

サシャ「はーい」ゴソゴソ

クリスタ「……犬?」

ミカサ「垂れ耳。とても似合ってる」

サシャ「……わんわん」

ミカサ「にゃんにゃん」

サシャ「……わんわん! わんわん!」

ミカサ「にゃんにゃん! にゃんにゃん!」

サシャ「わおーん!!」

ミカサ「にゃおーん!!」

エレン「おい馬鹿なこといつまでもやってんなよ二人とも」

サシャ「……すみません」

ミカサ「……ごめんなさい」


エレン「いくら待機場所だからって、離れたところには教官も上官の先輩も普通にいるんだぞ? 騒いだら迷惑だろ。――そうだよな? ライナー」クルッ

ライナー「おい、エレン……なんで止めた……?」ゴゴゴゴ...

ジャン「ふざけんなよ……? やらせてろよ三時間くらい……!!」ゴゴゴゴ...

エレン「へっ!?」ビクッ!!

ライナー「お前は頼めばいつだって見られるだろうけどな、俺たちは滅多に見られないんだぞ……? わかるか……?」

ジャン「なあ、お前に俺らの楽しみ邪魔する権利あるのか? なあ?」

エレン「なんでお前らそんなに必死なんだよ!?」

ジャン「ライナー、俺やってやんよ……! こうなったら頭の中にあの姿を刻みつけてやる……! 寝ても覚めても瞼の裏にちらつくまで……!」

ライナー「ああ、その意気だぞジャン!」

ジャン「見た目は紳士、中身は変態。――それくらいの開き直りはあって然るべきだよな!」

ライナー「その通りだ!」

ジャン「ライナー!」ガシッ

ライナー「ジャン!」ガシッ



エレン(……離れておこう)ササッ


ベルトルト(女の子は全員耳着けるのか……ということは)

ミーナ「ねーねーベルトルト見て見て! みーにゃだよ! みーにゃ!」

ベルトルト「……ああそっか、名前とかけたんだね」

ミーナ「そうそう! ――そしてこちらがアニ・にゃおんハートちゃんでーす!」グイッ

アニ「……」ムスッ

ベルトルト(わーお。怒ってるぅ……)

ミーナ「どう? アニかわいいでしょ?」

ベルトルト「二人とも似合ってるよ」

ミーナ「私も? あはは、どうもありがとう!」

アニ「……ベルトルト、あんたはこれつけな」スッ

ベルトルト「……犬耳?」キョトン

アニ「それつけたら、この前のことは許してあげる」

ベルトルト(まあ……つけるくらいで許してもらえるならいいかな)ゴソゴソ


ベルトルト「……つけたよ」

アニ「じゃあ、くるっと回って鳴いてみて」

ベルトルト「……」クルッ

ベルトルト「……わん」

アニ「……よし」ホッコリ

ベルトルト(あっ珍しい……アニが和んでる……)

アニ「じゃあ、この件はこれで終わりで――」

ミーナ「ちょーっと待ったアニ、それはフェアじゃないよ? 喧嘩は痛み分けなんだから、アニもやってみせてあげないと」ガシッ

ベルトルト「え? いや、元々僕が悪いんだから、それは別に……」

ミーナ「だーめ。――私、アニがベルトルトから逃げてたの知ってるんだから」

アニ「ちょっ、なんでバラすのっ」アセアセ

ベルトルト「そうなの?」

ミーナ「本当本当。私、何度か『ベルトルトいないか見てきて』ってアニに頼まれ――おっと危ないっ」サッ


アニ「避けるんじゃないよミーナ……お尻に当たらないでしょ……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ...

ミーナ「だからぁ、喧嘩両成敗って言ってるでしょ? ベルトルトに謝る機会を与えなかったアニも同罪です。――ほら、アニもやるやる」

アニ「……」チラッ

ベルトルト「……」ビクッ

アニ「……しょうがない、か」ハァ

ベルトルト「え? いいよアニ、無理してやらなくても――」

アニ「一度しか言わないから、耳の穴かっぽじってよく聞きなよ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ...

ベルトルト(あわわわわわわわ僕の話聞いてない)



アニ「……」





アニ「…………………………にゃ、にゃあっ」ボソッ


ベルトルト(……あ、いいかも)ホッコリ

アニ「……」グッ

ミーナ「ベルトルト蹴ったらポーズも追加でもう一回ね」

アニ「…………」ピタッ

ミーナ「はいっ、これで仲直り! いいよね? 二人とも」

アニ「……」

ベルトルト「……」チラッ

アニ「……もう謝ったんだから、ビクビクするのやめなよ」ムスッ...

ベルトルト「あっ……うん、ごめん」

ミーナ「全くもう、アニったら素直じゃないんだから」クスクス

ベルトルト「ミーナ。……どうもありがとう」

ミーナ「ふふっ、どういたしまして!」


ユミル「ダメだ、私にはわからん……! 猫耳か犬耳かうさ耳かクマ耳か……どれが正解なんだ……!! くそっ!!」バシッ!!

コニー「うぉっ!? ――なんだなんだ危ねえな。どうしたユミル」

ユミル「あえてクマ耳をつけてギャップ萌えを楽しめばいいのか……? いやでもぴょんぴょんしてるうさ耳クリスタも捨てがたい……」ブツブツ

コニー「お前自分の耳選んでるんじゃねえのかよ」

ユミル「私なんかその辺の草頭に刺しときゃそれで充分だ!!」クワッ!!

コニー「それ叱られるだろ。……おっ、これでいいんじゃね?」ヒョイッ

クリスタ「……おさかなの帽子?」

コニー「おう。被ってみ」


ユミル「……」

クリスタ「きゃっ……この帽子大きいね……」ズルッ

コニー「魚の鳴き声ってなんだろうなー」ウーン...

クリスタ「……ぎょぎょぎょ?」

コニー「わかんねえことはアルミンに聞くのが一番だ。――おーいアルミン、魚の鳴き声ってなんだー?」

アルミン「魚は鳴かないよ、コニー」

コニー「そっか、ありがとなー! ――というわけでクリスタ。鳴かなくていいらしいぞ。楽でよかったな」

クリスタ「えっ、喋っちゃダメってこと? それは困るなぁ……」


ユミル「……コニー」

コニー「なんだよ。箱の中にあったんだからこれでもいいだろ?」

ユミル「お前いい仕事したな」

コニー「お? ……おお、そうかよ」

ユミル「ぶかぶか帽子も……いいな……!」キラキラキラキラ

コニー「なんで新しい扉開いてんだ」

クリスタ「でも、これじゃ帽子がずり下がってくるし、お仕事できないよ……やっぱり猫耳にする」ゴソゴソ

クリスタ「がおーっ!」

コニー「あんまり怖くねえなー」

クリスタ「……」ショボン


サシャ「ライナー! この耳どうですか? ミカサに選んでもらったんですけど」

ライナー(結婚しよ)ボーッ...

サシャ「……ライナー?」

ライナー「あっ……あー………………に、似合ってるな」ボソッ

サシャ「本当ですか!?」

ライナー「ああ。……かわいいんじゃないか?」

サシャ「私に聞かれても」

ライナー「………………かわいいぞ」

サシャ「……へへー」ニヘラ


ライナー「おっとそうだ。今日は近道だとかうまいもんあるとか言って裏路地に入るなよ? 柄の悪い連中がいつもより多いからな」

サシャ「子どもじゃないんですからそんな簡単に入りませんってば。大丈夫ですよ」

ライナー「……あのな、忘れてるかもしれないが前科一犯だからな? 春にホイホイ知らない奴らについてったのはどこのどいつだ?」

サシャ「……あの時はご迷惑をおかけしました」ズーン...

ライナー「そう思ってるなら食欲で物を考える癖をなんとかしろ」

サシャ「はーい、気をつけます……」

ユミル「躾はちゃあんとしないとなぁ、飼い主さんよ。そいつ馬鹿犬だからな」ニュッ

クリスタ「もう、ユミルってば! サシャだってやればできる子なんだから!」

ミカサ「……ここは飼い主のお手並み拝見と行こう」チラッ

ライナー「見えてる間はなんとかなるんだがなぁ」


クリスタ「そろそろ時間だから行こうよ、サシャ。私たちは西班だよね?」

サシャ「あっ、そうですね……じゃあみなさん、また後で!」

ライナー「……ちょっと待った。――クリスタ、もう少しサシャを借りていいか? すぐ終わる」

クリスタ「? じゃあ私、ゆっくり歩いて先に行ってるねー」テクテク...



サシャ「どうかしました? ……あっ、拾い食いはしませんから大丈夫ですよ? ちゃんとお金出して食べますから!」グッ

ライナー「違う。――今日の空き時間、二人で出店回るか?」ヒソヒソ

サシャ「えっ? いいんですか? でもライナーは班長でしたよね? 時間取れないんじゃ――」

ライナー「少しくらいなら取れるだろ。とはいえいつになるかわからんからな、時間ができたらこっちから迎えに行く」

ライナー「あまり期待はするなよ? 行けない可能性のほうがずっと高いからな」

サシャ「……いえ、約束だけでも充分です。今日はお互い頑張りましょうね」

ライナー「ああ。……じゃあ、また後でな」ポン


サシャ「……」

サシャ(さて、クリスタを追いかけないと……)スタスタ...

サシャ「……」

サシャ(「期待するな」って言われても……しちゃいますよね)

サシャ「……」

サシャ「ふーんふふーんふふーん♪」ピョンピョン





クリスタ「あれ? サシャ?」

クリスタ「……スキップしながら行っちゃった」


―― 誘導・南班 待機場所

アニ「……」ムスッ

ジャン「なあアニ、お前もうちょっと愛想よくしろって。ガキが逃げてくぞ?」

アニ「今ここにいないでしょ」

ジャン「そりゃそうだけどよ……」

ライナー「ジャンの言う通りだぞ、アニ。今からそんな調子でどうする」

アニ「……なんで誘導係なんて面倒くさいの、私たちがやらなきゃいけないんだろうね」ハァ

ユミル「同感だな。飲んだくれてる駐屯兵団だのふんぞり返ってる憲兵団だの使えばいいだろ」

ジャン「いや、そういうわけにもいかねえだろ。出店の仕切りもしなくちゃなんねえし、あちこちでスリだの恐喝だの盗みだの物騒なことばかり起きてやがる。駐屯兵団や憲兵団だけじゃ手が回んねえよ」

アニ「……祭でハメを外しすぎ」

ライナー「それだけじゃないぞ。冬の備蓄の買い付けに、遠くの村や町から来てる奴もいるからな。全員がハメを外してるわけじゃない」

ユミル「ああ、なるほど……右も左もわからないお上りさんが多いってわけか。ならず者にとっちゃあ稼ぎ時だな」

ライナー「そういうことだ。訓練兵は数だけは多いからな。こういう人手が必要な時に使わない手はないだろう」

アニ「……どうでもいい」ハァ


ジャン「まあ、面倒くさがるアニの気持ちもわかるけどな。誘導係なんて当たり障りのねえ名前が付いてっけど、中身はただの雑用係だ。迷子もババアもまとめて面倒見てやらなくちゃなんねえ、クソ面倒くせえ仕事だよ」ケッ

ユミル「門の近くにいる案内係とか楽そうだよなぁ……。ありゃ実質ニコニコ笑って座りながらチラシ配ってるだけだかんな」ケッ

アニ「……なんだかギスギスしてるね」

ライナー「色々あったんだろ」

ユミル「最近のガキはませてるからなぁ……何度殴りたくなったものやら……」ウフフ

ジャン「ガキよりおばちゃんのほうが面倒だろ。目的がフワッフワしてる上に移り気だからな。何度聞いてもどこに行きたいのかわかんねえんだよ」

ライナー「誘導したことがあるのか? ジャン」

ジャン「何を隠そう、俺の訓練兵一年目はおばちゃんと過ごして終わった」フッ

ユミル「あーお前おばちゃん受けしそうだもんなー」

アニ「……へえ」

ジャン「ババアにモテてもちっとも嬉しくねえんだよ」ケッ

アニ「は? モテてるだけいいでしょ……?」イラッ

ジャン「!? ……なんでキレてんだ?」


ジャン「そういやお前耳はどうしたんだよ、ユミル」

ユミル「あー、どっかに置いてきたー」

ライナー「おいおい……アニを見習えアニを。本当は恥ずかしいのにミーナに選んでもらったからって理由で律儀に着けて」

アニ「うるさい」ゲシッ

ライナー「いってぇ!?」ドサッ

ジャン「おいおい、ライナー大丈夫か!?」

ライナー「……ケツが割れた」ジンジン

ジャン「よし正常だ」

ユミル「問題ねえな」

アニ「砕け散ったらよかったのに」





リコ「――おい、何を騒いでいる?」


アニ(駐屯兵団……!)バッ

ユミル(やっべ……耳着けてないのバレるかも)バッ

ジャン「ライナー倒れてる場合じゃねえって! 起きろ!」ヒソヒソ

ライナー「ちょっと待ってくれ、ケツが痛くて立てん……」ジンジン

リコ「そこの訓練兵! 耳はどうした!」

ユミル「申し訳ありません紛失しました!!」バッ

リコ「大丈夫だ。予備がある」ザラッ

ユミル「」

リコ「よりどりみどりだ。好きなものを選ぶといい」フフン

ユミル「……あの、自分はですね」


リコ「なんだ? 好みの色が見つからないのか? そんな贅沢を言うくらいなら忘れ物はするものじゃないな」

ユミル「はあ、それはそうなんですが……」

リコ「特に気に入るものがないならうさ耳をおすすめしておこう。リボンのオマケ付きという豪華仕様だからな。――さあ、観念して選べ」

ユミル「……失礼ですが、上官殿には恥じらいや慎みといった感情はないのですか?」

リコ「恥だと……? そんな役に立たんものは、訓練兵のうちに巨人にでも食わせておくんだな」

ユミル「……じゃあ、これで」

リコ「結構。以後紛失しないように」スタスタ...





ジャン「……おっかねえ姉ちゃんだな」

ライナー「色々あるんだろ」


リコ「……」スタスタ...

イアン「おーいリコ、こんなところにいたのか。ピクシス司令がお前を呼んで……」

リコ「――あぁん?」ギロッ

イアン「ひっ」ビクッ

リコ「……なんだイアンか。悪いね、気が立ってたんだ」

イアン「あ、いや……俺もいきなり声をかけてすまなかった」

リコ「それで何? 司令が呼んでるって?」

イアン「ああ。――なあ、司令と何かあったのか? 今の怒り方は尋常じゃなかったぞ?」

リコ「……イアン。私ね、ピクシス司令に呼び出されるのはこれで十四回目なんだよ」

イアン「……」

リコ「今は午前中。祭が始まってまだ一時間も経ってない。――意味わかる?」

イアン「……がんばれ」

リコ「だったら代わってよ」

イアン「…………すまん」

リコ「……」チッ


―― トロスト区 中央広場付近

サシャ「お、重かった……」ゼエハア

クリスタ「お疲れさま、サシャ。重いほう持たせちゃってごめんね?」

サシャ「いえ、じゃんけんで負けたから仕方がないですよ……さっきの人って駐屯兵団の人なんでしょうかね? 大きい看板のあるテントのほうに行っちゃいましたけど」

クリスタ「違うと思うな。仕立てのいい服を着てたから、内地から来た人なんじゃない?」

サシャ「クリスタもなかなかいい観察眼をお持ちですね。狩人になりますか?」

クリスタ「考えておくね」

サシャ「内地、ということは憲兵団の人ですかね? 運んだ荷物も立体機動装置のケースにそっくりでしたし」

クリスタ「ううん。あれはたぶん……ホルンのケースだね」

サシャ「ほるん? お菓子か何かですか?」キラキラキラキラ

クリスタ「そうだなぁ……角笛って言ったほうがサシャにはわかりやすいんじゃないかな?」


サシャ「おおっ、なるほど……角笛ですか! 昔お父さんが片手間に作ってたりしました!」ポンッ

クリスタ「そうそう、その角笛だよ」

サシャ「……でもあんなに大きい角ってちょっと手に入りにくい気がするんですが」

クリスタ「元になったのが角笛ってだけで、楽器には動物の角は使ってないよ。ホルン自体は金属製だと思うなぁ」

サシャ「金属製ってことはラッパと同じ材質ってことですか? うるさそうですね」

クリスタ「ううん、そんなことないよ。ホルンはね、とっても柔らかい音がするんだよ。私は好きだなぁ……」

サシャ「へえ、クリスタはホルンの音を聞いたことあるんですか? でもあの楽団の人、内地から来たんじゃ――」

クリスタ「って本に書いてあったから一度聞いてみたいなぁって思ってたのっ!!」アセアセ

サシャ「へー、そうなんですかー」


クリスタ「ずっと話してたらみんな待たせちゃうよね。そろそろ行く?」

サシャ「ああ、お腹が空いて力が出ない……」ヨロヨロ...

クリスタ「クッキーは食べちゃダメ」

サシャ「……一枚くらいなら」

クリスタ「ダメ」キッパリ

サシャ「……」グスン

クリスタ「泣いてもダメ。……ほら、早く行こう?」

サシャ「私はもう少し休憩してから行きます、疲れましたし……」

クリスタ「クッキー」

サシャ「食べませんってば」

クリスタ「じゃあ信じるからね? 先に戻ってるよ?」

サシャ「はい、また後で会いましょう」フリフリ


サシャ「……」

サシャ「クリスタ様神様すみません、私は悪い子です」スクッ

サシャ「本当はこれっぽっちも疲れてません。元気でした。でもクッキーは食べないので許してください」ペコッ

サシャ「……よし」

サシャ(さーて、では出店をちょろっと見て回りましょうかね。休み時間だけじゃ全部見て回れないですし)クルッ

サシャ(やっぱり普段より数が多いですねー……あっ、串焼きおいしそう)テクテク...

サシャ(場所を覚えといて、後で一緒に来ましょうか。えーっと、あの店とあの店と……)キョロキョロ

サシャ(――こんなものですかね。大体チェックしましたし、そろそろ戻りますか)クルッ

サシャ「……」スタスタ...

サシャ(……売り切れたりしませんよね?)ピタッ

サシャ「……」


サシャ(だって、後で一緒に回るって約束しましたしね。……いつ迎えに来るか全然わかりませんけど)グルグル

サシャ(買って持って行ってあげるって手もありますけどタイミング悪い可能性もありますしでもおいしいかどうか調査しておくことって大事ですよねでもでもでもでもでも)グルグル ウロウロ

サシャ(ああっ……後ろ髪ひかれる思いです……! まるで本当に後ろの裾を引っ張られているような……!)

サシャ「……裾?」クルッ

???「……」ジーッ...

サシャ「……?」キョトン

???「おかしくれなきゃいたずらするぞ!」

サシャ「……私にですか?」

???「そう!」

サシャ「……そちらの手に持ってる芋は?」

???「べつばら!」

サシャ「なるほど」


サシャ「えーっと、えーっと……クッキークッキー」ガサゴソガサゴソ

サシャ(ありましたありました、割れてませんね。これを渡せばいいわけですね)ジッ...

サシャ「……」

???「どうしたのー? くれないのー?」

サシャ「いえ、その……」

サシャ(支給品とはいえ、食べ物を人に渡すのは……うぐぐぐぐ)

サシャ「ど、どうぞ……」グスッ...

???「おねえちゃんお腹すいてるの? おいもさん半分あげようか?」パカッ

サシャ「ううっ、ありがとうございますぅ……」グスグス


サシャ「やっぱりふかし芋はおいしいですね!」モグモグ

???「ねー」モグモグ

サシャ「ふぅ。――それではごちそうさまでした。このご恩は忘れませんから」ペコペコ

???「ううん、いいよ。クッキーありがとう」

サシャ「いえいえ、芋に比べたら私のクッキーなんて大したことありませんよ」

???「そうかなぁ、クッキーもおいしいよ?」サクサク

サシャ「まあクッキーがおいしいのは当然なんですが……ところであなた、お母さんかお父さんはどうしました? 一人でこの辺りを歩いてちゃ危ないですよ?」キョロキョロ

???「……あれ?」キョトン

サシャ「……もしかして、迷子になっちゃいました?」

???「ちがうもん! おかあさんが迷子になったんだよ!」ブンブン

サシャ「はぁ、そうですか」

サシャ(迷子札……はつけてませんよね)ジーッ...


サシャ「それじゃあ、ふかし芋のお礼に私がお母さんを探してきてあげますよ!」エッヘン

???「おねえちゃん、探せるの?」

サシャ「はい、大丈夫ですよ! 私に任せてください! ――その前に、あなたのお名前教えてもらえますか?」

???「さしゃ!」ハイッ

サシャ「……すみません、もう一度お願いします」

???「だから『さしゃ』だよー」

サシャ「…………サシャちゃん?」

???「そう」コクコク

サシャ「……なるほど」

サシャ(よりにもよって同じ名前ですか……ややこしいですね)


サシャ「ええっと、名字はわかりますか?」

???「みょうじって何? おかあさんはわたしのことさしゃって呼ぶよ?」

サシャ「あちゃー……そうですか……」

サシャ(名字がわからないのは困りましたね……なんとかなるんでしょうか?)

???「ねえ、おねえちゃんのお名前は? なんていうの?」

サシャ「私ですか? 私は――」

サシャ(このまま名乗ったら混乱しますよね……ええっと)

サシャ「――ミカサです。ミカサ・アッカーマン」

サシャ(すみませんミカサ、今だけ名前借りさせてもらいます……)

???「みかさか?」キョトン

サシャ「ミカサですよ、ミカサ」

???「みさかー」

サシャ「……行きましょっか」


???「……さむい」プルッ

サシャ「ああ、薄着ですもんね……えっと、じゃあ私の上着とマフラー貸してあげますよ」ヌギヌギ

???「おねえちゃんのマフラーながいねー」ビローン

サシャ「大事なお友だちからもらったんですよ。……これでよしっと」クルクル

???「おともだちからもらったの? これ、わたしが巻いてもいいの?」

サシャ「子どもはそんなこと気にしなくていいんですよ! ……でもちゃんと後で返してくださいね?」

???「うん、わかったー」

サシャ「それじゃあ、はぐれないように手を繋いでいきましょうねー」ギュッ

???「……その耳もつけたい」ユビサシ

サシャ「はいはい、どうぞどうぞ」スッ


―― 誘導・西班 待機場所

サシャ「ただいま戻りました!」バッ

モブ駐屯兵「はい、ご苦労様。……ん? その子はあなたの妹? なんだかそっくりだけど」

サシャ「いえ、迷子です。中央の広場の近くで保護しまして……」

モブ駐屯兵「じゃあ、記録するから少し待って」

サシャ(記録……そっか、他の班に知らせないとダメなんですよね)

モブ駐屯兵「それで(この子の)名前は?」

サシャ「あ、はい。(私の名前は)サシャ・ブラウスです」

モブ駐屯兵「(迷子の子の名前は)サシャちゃんね。――合ってるかな?」

サシャ(小)「あってるー!」

モブ駐屯兵「特徴はっと……」カキカキ...

モブ駐屯兵(ポニーテイル、黄色のマフラー……っと)

モブ駐屯兵「この耳と上着はあなたの?」

サシャ「はい、そうです」

モブ駐屯兵「そう。他の人に見つかったら怒られるかもしれないから気をつけてね」


モブ駐屯兵「それじゃ、他の誘導係に迷子の情報回しておくから。今は仕事もないし、奥で待機してていいよ」

サシャ「いえ、できればこのまま休まないで、この子のお母さんを探しに行こうと思ってるんですけど……」

モブ駐屯兵「そう? じゃあこの子の世話は奥にいる他の訓練兵に頼むからいいや。行ってらっしゃい」

サシャ「はい、それではよろしくお願いします」ペコッ

サシャ(小)「……? おねえちゃん、どこか行くの?」

サシャ「はい。私があなたのお母さんを必ず連れてきてあげますから、ここで待っててくださいね? いいですか、動いちゃダメですよ?」

サシャ(小)「うん。わかったー」コクコク

サシャ「それでは行って参ります!」バッ

サシャ(小)「……?」バッ

サシャ「ああっ、敬礼はしなくていですよ」アセアセ

サシャ(小)「そうなの?」キョトン


モブ駐屯兵(さてと、それじゃあ誰か手が空いてる子は――うん、彼女たちでいいかな)キョロキョロ

モブ駐屯兵「そこの訓練兵、手は空いてる?」

クリスタ「はい、空いてます」バッ

ミーナ「仕事ですか?」バッ

モブ駐屯兵「ちょっとこの子を見ててもらえるかな。私は他の班まで出かけてくるから」

サシャ(小)「……」ヒョコッ

ミーナ(あれ? この子、なんかどこかで見たことあるような……?)

モブ駐屯兵「じゃあ、このお姉さんたちと一緒にいてね」タッタッタッ

サシャ(小)「はーい」モグモグ

ミーナ(あのマフラーと耳って、サシャが着けてたものだよね? 上着は誰のものなんだろう……ふかし芋をずっと食べてるのも気になるし……)ウーン...

クリスタ「こんにちは! あなたのお名前言えるかな?」



サシャ(小)「さしゃ!」ハイッ


クリスタ「……サシャ?」キョトン

ミーナ「やっぱり……!」

クリスタ「やっぱり? 何がやっぱりなの? ミーナ」

ミーナ「クリスタ、落ち着いて聞いてね。――この子はサシャが小さくなった姿なんだよ」

クリスタ「…………へっ?」

ミーナ「だから、この子はサシャが小さくなった姿なの! わかる!?」

クリスタ「全然わかんない」ブンブン

ミーナ「だって見てよ、このマフラーと犬耳ってサシャが着けてたものでしょう? 上着もほらっ!」ペラッ

サシャ(小)「きゃーえっちー!」ジタバタジタバタ

クリスタ「あっ……! サシャ・ブラウスって書いてある! ――ということは、本当にサシャなの……!?」

サシャ(小)「さしゃだよ?」モグモグ

クリスタ「本当だ……! えっ、こういう時ってどうしたらいいの? 救護室? 技巧室? 実験室?」オロオロ

ミーナ「私たちだけで考えても埒があかないよ! 取り敢えず、同じ班のエレンとコニーに伝えに行こう!」ダッ


―― 誘導・西班 待機場所・奥

エレン「――だからさ、この前からライナーのこと真っ直ぐに見られなくてよ……妙に気恥ずかしいって言うか……」モジモジ

コニー「あー……なるほどな。そりゃ恋だな」キリッ

エレン「んなわけねえだろ何言ってんだ。……くそっ、考えたら頭痛くなってきた」ウーン...

コニー「悩みすぎるとハゲんぞー、エレン」

エレン「……お揃いかぁ」ジーッ...

コニー「いや俺は坊主だぞ? ハゲてねえよ?」

エレン「大体、コニーはなんであいつらと普通に話してんだよ? 罪悪感半端ねえとかこの前色々言ってただろ?」

コニー「だって俺、よくよく考えたら何度かあいつらのそういう場面見てるしな」

エレン「は? ……はぁっ!?」

コニー「そういやジャンから聞いたこともあるな。あの時はなんだったっけかなぁ……」ウーン...

エレン「……」ゴクッ


コニー「確かありゃ春のことだった――」

ミーナ「コニー! エレン! 大変大変!」タタタッ

コニー「おーう今行くー」スクッ

エレン「待てよ続きは!?」

コニー「忘れた」キッパリ

エレン「変なところで切るなよ余計に気になるだろ!!」

コニー「おいミーナ、何が大変だってー?」スタスタ...

エレン「……ん? クリスタも一緒か。その子どもは誰だ? 迷子か?」



クリスタ「違うの! サシャが小さくなっちゃったの!」



コニー「……」

エレン「……は?」


コニー「お、おう…………おう?」

エレン「二人とも大丈夫か? 休憩取るか? あっちに日の当たらない木陰があったぞ?」

クリスタ「違うよ! ほら見てよ、どう見てもサシャでしょ!?」グイッ

コニー「んん……? 確かに、パッと見は似てるような気がするけどよ」ジーッ...

ミーナ「似てるも何も同じじゃない! この何も考えてなさそうな目とか! 半開きの口とか!」

エレン「ひでえ言い様だな」

クリスタ「このマフラーは私がサシャにあげたものだし、羽織ってる上着はサシャの名前が書いてるし、耳だってさっきまでサシャが着けてたものだし!」

ミーナ「そして何よりこの子は食い意地が張ってるの!! さっきからふかし芋全然離そうとしないんだから!!」

コニー「ああ、そりゃサシャだな。間違いねえ」キリッ

エレン「食い意地が張った子どもくらいその辺にいくらでもいるだろ。ただのそっくりさんじゃねえのか?」

コニー「サシャの奴、変なもん色々食いたがるからな。多少体に異常が出てもおかしくねえだろ」

エレン「多少……?」ウーン...


クリスタ「……コニー、アルミンを呼んできて」

エレン「アルミン? あいつ北班だろ? 呼んできてどうするんだ?」

クリスタ「アルミンならきっとサシャをなんとかしてくれるって私信じてる!」グッ

エレン「おいおい、ちょっと待てって。この子どもがサシャなのは確定なのか?」

ミーナ「確定!」

エレン「根拠は?」

ミーナ「目の前にあるからそれで充分!」

エレン「お前らちょっと落ち着けよ、もう少し話を聞いてからでも――」

コニー「よっしゃ、よくわかんねえけど俺アルミンのところ行ってくるわ」ダッ

ミーナ「じゃあ私はマルコを呼んでくる!」ダッ

クリスタ「私はライナーに声かけてくる! エレンはサシャのこと見ててね!」ダッ


エレン「あっ……! おい、三人も一気に抜けてどうすんだよ! それにマルコは班長だし捕まらないんじゃ――」

エレン「……ダメだ、行っちまった」

エレン「……」チラッ

サシャ(小)「……」モグモグ

エレン(どう見てもそっくりさんにしか見えねえんだけどなぁ……)ウーン...

エレン「お前、本当にサシャなのか?」

サシャ(小)「うん」モグモグ

エレン「……マジ?」

サシャ(小)「ほんとう」モグモグ

エレン「…………」


―― 誘導・南班 待機場所・奥

ユミル「暇だなー」ブーラブーラ

ジャン「ウォール・ローゼの門がある北に比べたら、こっち側は大分楽だよな。出店も人通りも多くねえし」

ユミル「へえ、そうなのか。ライナー、お前頑張ったなー。素晴らしいよ」パチパチ

ライナー「そりゃどうも。お前に褒められるとは、会議で粘った甲斐があったってもんだ」

ジャン「……? おいライナー、座らないのか? ずっと立ってたら疲れるだろ?」

ライナー「ケツが痛くて座れないんだ。気にしないでくれ」チラッ

アニ「……」プイッ

ユミル「素晴らしいって言えば、ベルトルさんの犬耳チョイスは素晴らしかったなー、アニ」

アニ「……どうも」

ジャン「結局ベルトルトの奴は耳どうしたんだ? 着けてったのか?」

ユミル「そうみたいだな。尻尾ぶんぶん振りながら喜んでたぞベルトルさん」

ジャン「あいつ尻尾生えてねえよ」


ユミル「ところでさぁ、なんでベルトルさんにあんな格好させたんだ? お前らそんなに仲良かったのか?」

ライナー「……」ピクッ

ライナー(ユミルの奴、まさか俺たちの関係に気づいたわけじゃないだろうな……俺が話を逸らしたほうがいいのか?)

ジャン(普通に考えりゃ山岳訓練の時の仕返しか何かだろうなー。――にしても、今まで引きずってたのかよベルトルトの奴。積極性がないにも程があるだろ)

アニ「……あんたに言う必要ないでしょ」

ユミル「まあ、なんでさせたのかはミーナ辺りに聞きゃすぐわかるからな。今は追及しねえよ。他のことは聞かせてもらうけどな」

アニ「他のこと?」

ユミル「さっきのベルトルさんかわいかったよな?」

アニ「まあ…………………………………………………………………………ちょっとは」

ユミル「だろぉー?」ニヤニヤ

アニ「……」ゲシッ

ユミル「あだぁっ!?」ドサッ

ジャン「おい今一瞬ユミルの体浮いたぞ!?」

ライナー「今回はユミルが悪いな」

ユミル「くそ、最悪だ、ゴリラとお揃いになるなんて……今日椅子に座れねえかも……」ジンジン


モブ駐屯兵(南)「訓練兵、仕事だ」パサッ

ジャン「はい! ――おい、迷子一覧が回ってきたぞ」パラパラ

ユミル「うわっ、枚数多いなー……まさか暇そうだから親探してこいって命令か?」

アニ「……面倒臭そう」

ライナー「そう言うな。……親がいないと心細いだろう」

アニ「……それもそうだね、ごめん」

ジャン「やっぱり出入りが激しい北で迷子になる奴が一番多いみてえだなー。……ん?」ピタッ

ライナー「どうした? 知り合いでもいたか?」


ジャン「知り合いっつーか……サシャがいるんだが。迷子一覧に」

ライナー「……なんだって?」ピクッ

アニ「同姓同名の別人じゃないの?」

ジャン「いや、特徴もまんまみてえだが……まあ、文字情報だけじゃなんとも言えねえな」

ユミル「もしくはただの誤報だろ? 紙切れと口頭伝達で回してるんだから、そういうこともあるんじゃねえの?」

ジャン「預かり場所は……西か。しっかし、名前と特徴が同じ迷子だなんて、珍しいこともあるもんだなー」パラパラ...

ライナー「……」ソワソワ

ユミル「あと十分で私ら休憩だろ。我慢しろよ」


クリスタ「あっ、ライナー! みんな! 大変大変!」バタバタ

ユミル「おおっ! なんだぁクリスタ、私に会いに来てくれたのかー?」ダキッ



クリスタ「違うよ、それどころじゃないの! ――あのね、サシャが小さくなっちゃったの!」



ライナー「……は?」

ジャン「クリスタ、お前……なんか悪いもんでも食ったのか?」

アニ「救護室行く?」

ユミル「眠れないなら私が横で子守歌歌ってやるよクリスタ」ポンポン

クリスタ「もうっ、本当なんだってば!」


ユミル「あのなぁクリスタ。私はアホの子はかわいいとは思うがな、おとぎ話と現実の区別がつかない痛々しい子はどうかと思うぞ?」ナデナデ

クリスタ「真面目に聞いてよ! 冗談言ってるんじゃないんだってば!」

ジャン「んなこと言われたってよ……服じゃあるまいし、そんな簡単に人が伸び縮みしてたまるかよ。だったら人間だって巨人になれちまうだろ?」

ライナー「……」

アニ「……」

ユミル「……」

クリスタ「うっ……そう言われてみれば、そうかもしれないね……」

ジャン「だろ? 大方寝不足でおかしな妄想でも暴走させたんじゃねえか? やっぱり少し休んでいけよ、クリスタ」

クリスタ「うん、そうだね。少し休んでいこうかな。ごめんねみんな、一人で騒いじゃって――」

アニ「……ちょっと待ってよ。その小さくなったサシャとやらを一目見てから判断しても遅くないんじゃない?」

ライナー「そうだな。服だって伸び縮みするんだから人だって伸び縮みしてもおかしくないだろう」

ユミル「第一天使が嘘を吐くわけないしな」

ジャン「なんで三人揃って手のひら返してんだよ」


ジャン「なあ、落ち着いてよく考えてみろよ。第一こうして呼びに来られたってな、俺たちが行ったところで何もできねえだろ?」

クリスタ「それは、そうなんだけど……」

ジャン「そもそも、俺らはまだここ抜けられねえし――」

ライナー「休憩時間を前倒ししてついでに延長してもらえるよう交渉してきたぞ」

ジャン「仕事早ぇな!?」

ユミル「でかしたライナー」

アニ「よし、早く行くよ」ダッ

ジャン「……おいおい」

クリスタ「……行っちゃったね、三人とも」

ジャン「なんであいつら急にやる気になったんだ?」

クリスタ「さあ?」

ジャン「……やっぱり休んでくか? クリスタ」

クリスタ「ううん、いいや」


―― 同刻 誘導・北班 待機場所

アルミン「そんなまさかぁ」アハハ

コニー「本当だって!」

ミカサ「信じがたい」

ベルトルト「うん……人が小さくなるなんて、ありえないと思うな」

アルミン「ベルトルトの言う通りだよ。そんなことが可能なら、人間は巨人にだってなれちゃうって」アハハ

ベルトルト「……」ダラダラダラダラ

ミカサ「ベルトルト、どうしたの? すごい汗」

ベルトルト「あ、いや……ほら、最近暑くなってきたからさ」

ミカサ「そんなわけない。そろそろ冬。……私は寒い」プルッ


コニー「なあアルミン、一緒にサシャが元に戻る方法を考えてくれよ!」

アルミン「うーん……引っ張って伸ばすとか?」

コニー「おおっ! なるほどな、流石はアルミン」

ミカサ「アルミン、人は引っ張っても伸びない。ほら見て、ベルトルトを引っ張っても伸びないでしょ?」グイッ

ベルトルト「いたいいたいいたいミカサいたい」ジタバタジタバタ

ミカサ「それとももしや……ベルトルトは引っ張られて大きくなったの?」ハッ

ベルトルト「違うよ? 人は引っ張っても大きくならないからね?」

アルミン「じゃあ水に浸けたらふやけて大きくなるんじゃない?」

コニー「乾物じゃねえんだぞ」

ミカサ「いえ、アルミンには正解を導く力がある。ちょっと今不安になったけれどたぶん正しい。……ので」チャプッ

ベルトルト「ミカサ。その桶に入った水を僕にかけても大きくならないよ? ならないからね? ならないから早く桶を置いて早く」ササッ

アルミン「とにかく、行って見てみないことにはなんとも言えないね。そろそろ休憩時間だし……コニー、案内してくれる?」


―― 誘導・西班 待機場所・奥

サシャ(小)「ほんとうにできるの?」

エレン「こんなの簡単だって。ほら、親指と中指と小指の部分を折りこんで……これで顔ができただろ?」ゴソゴソ

サシャ(小)「……かお」ジーッ

エレン「そんで、これを人差し指と中指と薬指に差し込むっと……よっしゃできた、うさぎの三兄弟だ!」ジャーン!!

サシャ(小)「えー……女の子がいい」

エレン「んじゃ姉妹だな……俺も耳着けてっと……」モゾモゾ

エレン・右手「うさみだよー」(裏声)

エレン・左手「うさこだよー」(低音)

サシャ(小)「わぁっ……かわいい!」

エレン「俺は何にするかなー……うさぎうさぎ……ぴょん、ぴょん吉……面倒くせえな、エレぴょんでいいか」




ミカサ「エレ……」



アルミン「……ぴょん?」



エレン「」ピタッ

エレン「……」クルッ



ライナー「エレン、お前……子どもの面倒、見られたんだな」

コニー「手袋うさぎかー。俺もやったなぁ」

クリスタ「えっと……あの、エレンは面倒見がいいんだね!」アセアセ

ユミル「ふーんエレぴょんねー」プーックスクス



エレン「あ…………い、いや、これはな、その、な? わかるだろ? な? おい」

サシャ(小)「あぁーお耳とっちゃだめー」グイグイ


ジャン「……死に急ぎエレぴょん」ボソッ

ベルトルト「」ブフォッ!!

アニ「……っ! っくぅ……っ!」プルプルプルプル...

コニー「おいウォール・ベルトルトとウォール・アニが突破されたぞ!」

ユミル「だっははははははエレぴょんすげえ!」ゲラゲラ

エレン「~~~~っ!! 笑うなぁっ!! ――なあ、ミカサ、アルミン! お前らならわかってくれるよな? なあ!?」

ミカサ「エレン、大丈夫。……私はわかっている」

エレン「ミカサ……!」ホッ

ミカサ「いえ……誤解していた、と言ったほうが正しいかもしれない」

エレン「……誤解?」

ミカサ「エレンには、猫耳が似合うと密かに思っていたのに……っ! 手袋うさぎの合わせ技で来るとは私も予想外……っ!」ギリッ...

ミカサ「エレンの可能性を、将来性を自ら狭めていたなんて……! とても悔しい……っ!」

エレン「……」


アルミン「……エレン」ポン

エレン「アルミン……俺、もう誰も信じられない……」グスッ

アルミン「……」ナデナデ



アニ「……そういえばミーナがいないね」キョロキョロ

クリスタ「ミーナならマルコを呼びに行ったはずだよ? まだ帰って来てないのかな?」

ジャン「おいおい、今のマルコに話しかけるのは自殺行為だぞ? ミーナの奴もう戻ってこねえだろうな」

ライナー「そんなにひどいのか? マルコの奴」

ジャン「ああ。駆逐モードのエレぴょんみてえな顔してたぜ」

アニ「……っ」プルプルプルプル...

ユミル「あーもうダメだな。ツボに入っちまった。顔が真っ赤だぞぉアニ」ニヤニヤ

アニ「……」ブンッ

ユミル「おっと危ない」サッ


アルミン「それで……本当にこの子がサシャなの?」

エレン「俺も最初は疑ってたんだけど、本人がそう言ってるしなぁ。上着もマフラーもサシャのものだし」

ジャン「上着はサシャの奴が貸したんじゃねえのか? そのヒラヒラした服じゃ今日は寒いだろ」

クリスタ「ううん、それだけじゃないんだよ! ちょっと見ててね? ――ねえサシャ、好きな食べ物は何かな?」

サシャ(小)「おいもさん!」

クリスタ「ほら、サシャでしょう?」ドヤァ

ジャン「クリスタ……お前どうやってサシャを認識してんだよ……?」

アルミン「うーん、それだけじゃあちょっと根拠として弱いかなぁ」

ジャン「なーんだか嘘くせえよなぁ……」チラッ

サシャ(小)「……」ジーッ...

ジャン「……なんだよ」ギロッ

サシャ(小)「ひっ……」ササッ


エレン「ジャン、子ども相手に凄むなよ。怖がってるじゃねえか」ナデナデ

サシャ(小)「……」ギューッ...

ジャン「凄んでねえよ。見ただけだろ」

コニー「ジャンは上背あるからなぁ。頭の上から見下ろされたから、単純に怖がってるだけだろ。こうやって屈んで目線合わせて――」

サシャ(小)「……」ビクッ

コニー「さっきはびっくりしただけだよなー? あの兄ちゃんも、顔は怖いけど優しい奴だからさ。怖がらなくても大丈夫だぞ?」ポンポン

サシャ(小)「……うん」

コニー「ジャンもほら、言うことあるなら早いうちに言っとけ。ちゃんと目線合わせろよ」

ジャン「ったく、わかったよ。……驚かせてごめんな」

サシャ(小)「ううん、わたしもごめんなさい……」

ユミル「よかったなジャン。お礼におばちゃんにモテるコツでもコニーに伝授してやりな」ケケケ


サシャ(小)「……」ジーッ...

ユミル「……? なんだよ、私の顔に何かついてるか?」

サシャ(小)「おねえちゃん……きれい……」ウットリ

ユミル「…………」

サシャ「おとなのひとみたいで、かっこいい……」

ユミル「――よし、出店でなんでも買ってやろう」スタスタ...

サシャ(小)「わーい」テクテク...

アニ「ちょっと待った。勝手に連れてくんじゃないよ、ユミル」

ユミル「でもお腹空いたよなー? もう芋食っちゃったし」

サシャ(小)「空いたー……」

アニ「!! ……じゃっ、じゃあさ」ガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソ


アニ「……このクッキー、あげようか?」スッ

サシャ(小)「いいの!?」

アニ「あんたが欲しいならあげるよ。……どうぞ」

サシャ(小)「おねえちゃん、ありがとう!」

アニ「……」

ユミル「よかったなぁアニ、お菓子受け取ってもらえて」ニヤニヤ

アニ「……」

ユミル「……? アニ? どうした?」

アニ「…………ほ」

ユミル「ほ?」

アニ「欲しいもの何でも買ってあげる」キリッ

ユミル「ちょろいなお前」


ミカサ「……たぶん、あれはサシャじゃない」

アルミン「だよね。ミカサもそう思う?」

ミカサ「飲み込みがよすぎる」

アルミン「あーそうきたかー。――取り敢えずもうちょっと話を聞いてみようか」スッ

アルミン「ねえ、君が着ているその上着はどうしたのかな? 誰かにもらったの?」

サシャ(小)「うん。おねえちゃんがかしてくれた」

アルミン「そのお姉ちゃんの名前は?」

サシャ(小)「んっとね……み、み、みさかさか?」

アルミン「……? もしかして、ミカサ? ミカサ・アッカーマン?」

サシャ(小)「そう! そのひと!」

アルミン「おかしいな……ミカサはずっと僕やベルトルトと一緒にいたんだから、この子と会ってるはずないのに……」ブツブツ

ミカサ「――アルミン」

アルミン「何? どうしたの? 何か思い当たることでもあった?」

ミカサ「あった。――ついに私は分身の術を身につけた」ニンニン

アルミン「ミカサ。人は二つに分裂しないよ」


ミカサ「いつの間にか、分身の術を使えるようになっていたなんて……自分の才能が怖い……」カタカタカタカタ...

アルミン「あのねミカサ。人間は突然小さくなることや二人に分かれることはないんだよ。そんなことが可能なら、人間は巨人にだってなれちゃうでしょ?」アハハ

ライナー「……」

ベルトルト「……」

アニ「……」

ユミル「……」

アルミン「ねえ、君をここに連れてきたそのお姉さんは、この人と同じ顔だった?」

サシャ(小)「わかんない……でも、おんなじ服着てた」

アルミン「髪の色はどうかな。僕とこっちのお姉さん、どっちの色に近い?

サシャ(小)「そっちのおねえちゃん」

ミカサ「……やはり分身」

アルミン「違うよ。……やっぱりただの勘違いだね。この子はサシャじゃなくて、よく似てる違う子だよ」


アルミン「それで、この子を連れてきた人がどうしてミカサの名前を名乗ったのかってことなんだけど――」

ミカサ「分身だから」ニンニン

アルミン「違うよ。たぶん名乗れない事情があったんだ。その事情っていうのは、その人とこの子の名前が同じだったからだって考えたらどう?」

ミカサ「あんなにハマっていたのにこんなにあっさり手のひらを返すなんて……アルミン、恐ろしい子……!」

アルミン「話を聞いてねミカサ。この子はサシャがここに連れてきたんだよ。きっと名乗ったら混乱すると思ったから、ミカサの名前を使ったんだろうね。――だから、この子はサシャ・ブラウスが小さくなった姿なんかじゃなくて、同姓同名の別人だよ」

アルミン「それに、ミカサのフルネームを知ってるのは教官か訓練兵くらいでしょ? ついでに言えば、とっさに名乗るってことはある程度親しくないとできないよね。だから、やっぱりこの子はサシャが連れてきた可能性が高いよ」

ミカサ「うん…………うん! 私たちは友だち! とても! 友だち!!」コクコクコクコク

アルミン「興奮しなくてもわかったから。どうどう」


クリスタ「みんな、ごめんなさい……私とミーナが早とちりしたせいで、大騒ぎになっちゃって……」ションボリ

アルミン「誰だって勘違いはあるさ。思ったより大変なことにならなくてよかったよ」

ミカサ「やはりアルミンには正解を導く力があった。さっきは疑ってごめんなさい」

アルミン「いいっていいって。僕も謎が解けてスッキリしたからね」



ベルトルト「万が一ってことも考えたけど……まあ、冷静に考えたら人が小さくなるわけないか。ねえライナー?」ヒソヒソ

ライナー「羨ましい……」ギリッ...

ベルトルト「……ちょっと、なんで妬いてるの? あれはサシャじゃないんだよ? 大丈夫?」ユサユサユサユサ

ライナー「よく考えてみろよベルトルト。――今、目の前にちっちゃいアニのそっくりさんが現れたらかわいがりたいだろ?」

ベルトルト「小さいアニ……?」モンモン

やっと見つけた!!
このシリーズ大好きです!!

いつもコメ欄にしか書けてなかったけど
ずっと続いて欲しい程だいすきです(´Д` )!!

ライサシャ大好きです、っていうか
好きにさせてもらいました。毎週楽しみにしています
頑張ってください(^O^)!!




アニ(小)『ねーねーべるとるとー、抱っこしてー』ピョンピョン



ベルトルト「……あっ、いいかも」ホッコリ

ライナー「だろ?」

ベルトルト「……ん? じゃあなんでここでブツブツ言ってるのさ。思う存分かわいがってきたらいいだろ」

ライナー「ああ、そうしようかと思ってたんだけどな……さっきのジャンを見ただろ?」

ベルトルト「もしかして、あの避けられ方を見て尻込みしてるの?」

ライナー「……まあ、そんなところだ」

ベルトルト「変なところで奥手なんだから……思春期の女の子じゃあるまいし、でかい図体でモジモジしてても不気味なだけだよ? いつもの兄貴面して混ざってきたら?」

ライナー「お前結構言うなぁ……ちょっと傷ついたぞ」ショボン...

ベルトルト「そうこうしてる間にジャンが楽しげに高い高いしはじめたよ」

ライナー「行ってくる」ダッ


ジャン「あっはっはーたかいたかーい」ニコニコ

エレン「おいジャン! 次は俺の番だぞ俺の番!」

コニー「お前ら、遊んでやるのはいいけどもう少し丁寧に扱ってやれよー?」

ライナー「……やっ、やってるか?」ギクシャク

クリスタ「うん。みんな楽しそうだよ! ライナーもサシャと遊びに来たの?」

ライナー「まあ、そんなところだ」チラッ

サシャ(小)「……おっきい」ジーッ...

ライナー「……」ドキドキ

サシャ(小)「……きょじん?」

ライナー「」

クリスタ「ちっ、違うよ!? ごめんねライナー、悪気はないと思うの……」アタフタアタフタ

割り込みごめんなさいm(_ _)m
本当に大好きなんです
出てくる人みんな可愛いし…
全部お気に入りしてます、信者です(´Д` )


コニー「こらこら、初対面の人にいきなりそんなこと言っちゃダメだろ? ――ほら、あのお兄ちゃん、さっき高い高いしてくれたお兄ちゃんよりずっと背が高いだろ? 遊んでもらったらきっともっと楽しいぞー?」

サシャ(小)「……たのしいの?」

コニー「ああ。肩車でもしてもらったら、すっげえワクワクするだろうなぁ。いろんな人を上から見下ろしたり、ずーっと遠くまで町の景色が見通せたり、いいことずくめだ!」

サシャ(小)「……やりたい!」キラキラキラキラ

コニー「じゃあお願いしねえとな。それと、今言っちゃったこともちゃんと謝らないとな。……できるか?」

サシャ(小)「……うん」

コニー「よっしゃ。じゃあ俺が横についててやるから、一緒にお願いしような」

コニー『ライナー、少し屈んでくれ』チョイチョイ

ライナー(……目線を同じ高さにするんだったな)スッ


サシャ(小)「あの……さっきは、ごめんなさい」ペコッ

ライナー「気にしてないぞ、大丈夫だ」

コニー「よーし、いい子だ。偉いぞー。じゃあ、お願いもしような?」ナデナデ

サシャ(小)「うん……」

ライナー「……」



サシャ(小)「……あのね、あのね」モジモジ





サシャ(小)「……………………肩車、して?」


ベルトルト「……」

アニ「……」

ベルトルト「……見てよ、アニ」

アニ「見てるよ」

ベルトルト「今までに見たことがないくらい頬が緩んでるね。ライナー」

アニ「どっかネジ外れたんじゃないの」

ベルトルト「ねえ、アニも肩車したい?」

アニ「何? 私のことチビだって言いたいわけ?」イラッ

ベルトルト「……ごめん、やっぱりなんでもない」



ユミル「コニーの奴、末恐ろしいな……あいつ兵士じゃなくて保育士にでもなったほうがいいんじゃねえの?」

ミカサ「……肩車、ライナーも小さいサシャも楽しそう」

アルミン「うん、そうだね。――でも、みんなそろそろ持ち場に戻らないといけないから、お開きにしないと」

クリスタ「アルミンの言うとおりだよ。このままだとライナーが父性に目覚めちゃうもんね」


コニー「お疲れさん、ライナー。――どうだった? 肩車楽しかったろ? サシャ」ポンポン

サシャ(小)「うん! たのしかったー!」

ジャン「隊長、ブラウン訓練兵が興奮のあまり息をしておりません! 顔も真っ赤です!」バッ!!

エレン「大丈夫かよライナー、顔扇いでやるか?」パタパタ

ライナー「……すまんなエレン」

アルミン「はいはい、遊びはそこまでにしようね。……ねえサシャ、さっきのおねえちゃんと別れた時、何か言われたことはある?」

サシャ(小)「……? えっと、おかあさんはおねえちゃんが探してくるから、ここで待っててって……」

アルミン「そっか。じゃあ君のお母さんからは何か言われてないかな? 迷った時はどうしたらいいとか聞いてない?」

サシャ(小)「…………」

アルミン「ゆっくりでいいよ。思い出したら教えてくれるかな」

サシャ(小)「……まよったら、おっきいカンバンがあるところに来なさいって」

クリスタ「――あっ! そういえば、中央広場に看板があったよ!」

アルミン「確かそこで楽団が演奏してるんだよね。なるほど、目印としてはわかりやすいか」


アルミン「ということは、サシャがこの子のお母さんを連れて来るまで、このままここで待ったほうがいいのかな……それとも看板のところまで行ってみたほうが……」ウーン...

ミカサ「でも、私たちはもう行かないと。休憩時間も残り少ない」

サシャ(小)「えっ……? みんな、行っちゃうの?」

ユミル「私らは仕事投げ出してここに来ちまったようなもんだしなー。面倒くせえけど、何事もないならもう帰らねえと」

サシャ(小)「……うん、わかった」

ジャン『……おい、これ泣き出すんじゃねえか』クルッ クイクイ

アニ『大丈夫だよ、私たちには子どもの味方、コニー・スプリンガーがついてる』トントン

コニー『いやいや、いくら俺でも万能じゃねえんだけど』ブンブン

ライナー「……」


ライナー「なあ。……その上着を貸してくれた人は、『自分に任せておけ』って言わなかったか?」

サシャ(小)「……? そういえば、言ってた……」

ライナー「なら大丈夫だ。その人は、できないことをできるとは言わない奴だからな。『必ず連れてくる』って言ったんなら、ちゃんとやり遂げるさ」

サシャ(小)「……おにいちゃん、あのおねえちゃんと知りあいなの?」

ライナー「ああ。同期の仲間だ」

サシャ(小)「どーき……?」

ライナー「まあ……友だちみたいなもんだな」

ミカサ「かーのじょっ」ヘーイ

ユミル「こいーびとっ」ヘーイ

ライナー「ちょっと静かにしような、そこの二人」イラッ


ライナー「ただ、信用できる奴ではあるんだが、少し抜けてるところがあるからな……お母さんに早く会いたいか?」

サシャ(小)「……うん、会いたい」

ライナー「よし、じゃあ行くか」

アルミン「……? 行くってどこへ?」

ライナー「このままだといつサシャが戻ってくるかわからないし、早く母親のところに連れて行ってやりたいからな。ダメ元で看板のところまで行ってくる」

ユミル「とんだお節介野郎だな……班長さんよ、上官方への言い訳はどうすんだ?」

ライナー「担当は違うが、これも誘導係の仕事のうちだ。問題ない」

クリスタ「だったら私が引き受けるよ! 元々西班に割り振られた仕事だし――」

ライナー「いや、クリスタはこのままここにいてくれ。もしサシャが来たら、看板のところに来るように伝えておいてくれると助かる。そうだな……三十分くらいあれば充分だろう」

ジャン「……おいおいライナー、それだと午後は休憩時間なくなっちまうぞ? いいのか?」

ライナー「この子を泣き顔にさせるよりずっといいだろ。……じゃあ、後はよろしく頼むな」スタスタ...


エレン「……やっぱりすげえな、ライナーの奴」

コニー「ああ。あんなのサラッと言い切れることじゃねえよな」

ベルトルト「……うん、そうだね」

アニ「……そういうところは昔から変わらない、か」ボソッ





ミカサ「……でもやはりあの身長差は父と娘にしか」

アルミン「しーっ!! ダメだよライナーは気にしてるんだから! 自分の体臭を真剣に悩んでいた時期だってあったんだからね!?」


―― 中央広場付近

ライナー「……混んでるな」キョロキョロ

ライナー(思った以上だ……これじゃあ、サシャもこの子の母親も見つけるのは難しいな。さて、どうするか……)ウーン...

サシャ(小)「みえないー」ピョンピョン

ライナー「そうだな……よし、よく見えるようにしてやる」ヒョイッ

サシャ(小)「わーい、肩車!」

ライナー「これなら遠くまで見えるだろ? お母さんの姿が見えたらすぐ知らせるんだぞ?」

サシャ(小)「……」ブチッ

ライナー「いてっ……こらこら、髪の毛むしるんじゃない」

サシャ(小)「……ねえ、おにいちゃんのお名前は?」

ライナー「ライナーだ。ライナー・ブラウン」

サシャ(小)「らいなー……おにいちゃん……」

ライナー「長くて呼びにくいだろ? ライナーでいいぞ」

サシャ(小)「……らいなー」


サシャ(小)「ねーねー、らいなーはどうしてそんなにおっきくなったの? わたしも、らいなーみたいにおっきくなれる?」

ライナー「ああ、なれるさ」

サシャ(小)「らいなーは、高いところこわくないの? こんなに上からみて、さみしくなったりしない?」

ライナー「そうだな……背が高いと、色んなものが見えるからな。案外悪くないぞ」

サシャ(小)「足元も? 足元もちゃんとみえてるの? ころんだりしないの?」

ライナー「昔は……よく、見えてなかったかもな」

サシャ(小)「じゃあ、今はみえてるの?」

ライナー「……どうだろうなぁ」

サシャ(小)「じゃあ、わたしがみてあげる!」

ライナー「そりゃあ助かる。……サシャはいい子だな」

サシャ(小)「……えへへ」


サシャ(小)「あとねー、あとねー、……らいなー、さしゃのことすき?」

ライナー「おー、好きだぞー」

サシャ(小)「じゃあ、さしゃとけっこんしよ!」

ライナー「ははは、それもいいかもなー」









   「………………………………何してるんですか?」









ライナー「」ビクッ

サシャ(小)「あーっ! さっきのおねえちゃんだ!」


ライナー「……」クルッ

サシャ「……どうも」

ライナー「きっ、奇遇だな。サシャ」ギクシャク

サシャ「……」

ライナー「……」

サシャ「お母さん、探してきたんです。その子の」スッ

母親「どうもご迷惑をおかけしました。――ほらサシャ、そのお兄ちゃんの上から降りなさい」

サシャ(小)「やだー! わたし、らいなーとけっこんするの! いっしょに帰る!」ギューッ

母親「もう、わがまま言わないの。お父さんの演奏を聞きに来たんでしょう? そろそろ時間になるわよ?」

サシャ(小)「! じゃあ行く! おろしておろしてらいなーおろして!」ジタバタジタバタ

ライナー「おいこら、暴れると落ちるぞ……よっと」ヒョイ


サシャ(小)「おかあさぁーんっ!」ダキッ

母親「本当にすみませんでした。この子の相手、大変だったでしょう?」

ライナー「いえ、こちらも楽しい時間を過ごさせてもらいましたので――」チラッ

サシャ(小)「……」ジーッ

ライナー「……元気でな」ナデナデ

サシャ(小)「……また、あそんでくれる?」

ライナー「ああ。また今度な」

母親「ほら、そっちのお姉さんにもちゃんとお礼言いなさい? マフラーと上着貸してもらったんでしょう?」

サシャ(小)「はーい。……おねえちゃん、マフラーと着るものかしてくれてありがとう」ペコッ

サシャ「いえ、いいんですよ。どういたしまして。――また、ここに遊びに来てくださいね」ニコッ

サシャ(小)「うん! ――じゃあおねえちゃん、らいなー、ばいばーい!」フリフリ


ライナー「よくあの子の母親を見つけてきたな。こんなに混んでるのに大したもんだ」

サシャ「……」

ライナー「サシャ?」

サシャ「――内地の、ヤルケル区から」

ライナー「内地?」

サシャ「そこからきた楽団の、演奏者さんの、家族だったみたいです。トロスト区に来るのがはじめてで、勝手がわからなくて、歩いてるうちにはぐれちゃったみたいで」

ライナー「そうか。――会わせてやれてよかったよな」

サシャ「そうですね」

ライナー「……」

ライナー(なんだろうな、この沈黙は……無性に後ろめたさが込み上げてくるというか……)チクチク

ライナー(さっきの話、聞かれてたのか? ……いや、流石にサシャだって、子ども相手に妬くわけないよな)チラッ

サシャ「……」スタスタ...

ライナー「……? おいサシャ、どうしたんだ? そっちは裏道だぞ?」

サシャ「……こっち」グイッ

ライナー「路地の奥に何かあるのか?」スタスタ...


サシャ「……ここでいいです。止まってください」ピタッ

ライナー「おっと。……随分中途半端なところで止まったな」キョロキョロ

サシャ「……あっちの、表通りに背中向けてください」

ライナー「まあ、それくらいはいいが……」クルッ

サシャ「……腕」

ライナー「? ほら」スッ

サシャ「右だけじゃなくて、両方です」

ライナー「……?」スッ

サシャ「揃えて」

ライナー「……」ピタッ

サシャ「……」シュルッ

ライナー「おい、なんで俺の腕にマフラー巻いて――」

サシャ「……」グルグルグルグル

ライナー「は? 何縛ってんだ――んむっ!?」


ライナー「――っは、お前、こんなところでキスなんか……っ!?」ヨロッ

サシャ「……」グイッ

ライナー(おいおいこのまま二回戦か!? 早すぎだろ!?)

ライナー「サシャ、ちょっと待て……っ!」ググググ...

サシャ「……」グイグイグイグイ

ライナー(聞いてねえ!? 何なんだいったい……!)

ライナー(襟を掴まれてるから逃げられねえし、こうなったらマフラーを解くしか――)

ライナー(!? ――くそっ、肘までがっちり縛ってやがる……! 外れん……!)ギシギシ

ライナー(こうなったら――これしかないな、すまんサシャ!)

ライナー「一旦離れろ、サシャ!」ドンッ!

サシャ「あっ……」ヨロッ


サシャ「……」

ライナー(し、舌ごと食われるかと思った……)ゼエハア

ライナー「突き飛ばして悪かったな。……大丈夫か? どこか打ったりしてないか?」

サシャ「……平気です」

ライナー「ならいいが……こんなところでおっ始めようとしたのは感心しないな。今は仕事中だぞ? わかってるか?」

サシャ「……わかってます」

ライナー「腹でも減ったのか? クッキーがないなら俺のをやるから、それで我慢しろ」

サシャ「……」

ライナー「サシャ? 聞いてるか?」

サシャ「……聞いてますよ」

ライナー「なら、下向いてないでこっち見ろ」

サシャ「……嫌です」


サシャ「だって、たぶん今、ひどい顔してますもん……」

ライナー「……」ズイッ

サシャ「やぁっ……ちょっ、顔、見ないでくださいよ……っ!」フイッ

ライナー「……おい。なんて顔してんだ、お前」

サシャ「……どんな顔ですか?」

ライナー(……泣く一歩手前の顔、って言ったら決壊しそうだよな)

ライナー「何か嫌なことでもあったのか? あの子の母親を探してる間に」

サシャ「……ありました」

ライナー「やっぱりか。……もしかしてお前、あの子に妬いてるわけじゃないよな?」

サシャ「ちがっ……! 違います! 違いますよ! 流石に小さい子と張り合ったりしません!」ブンブン

ライナー「だよな。……なら、何があった? 話してみろ」

サシャ「……軽蔑しません?」

ライナー「今更するか」


サシャ「……さっきのは、ライナーがしてあげたんですか?」

ライナー(さっきの……? 肩車のことか?)

ライナー「ああ。高いほうが見つけやすいと思ったから、俺がやってやった。……なんだ、お前もやってほしかったのか? それくらい言えばしてやるって前にも――」

サシャ「させてくれなかったじゃないですか」

ライナー「……? いや、言われたことないぞ?」

サシャ「言いました。この前。川に釣りに行った、前の日に」

ライナー「前の日……?」

サシャ「私は、目の前でお預けされたのに……そんなのずるですよ、ずるい……」ブツブツ

ライナー「待て待て、肩車の話なんかしたか?」

サシャ「誰も肩車の話なんかしてません」

ライナー「……? じゃあなんだ? さっきから何の話してるんだ?」





サシャ「…………髪の毛」


ライナー「は? ……髪?」

サシャ「だって、だって……あの子には、あんなにべたべた触らせてたじゃないですか」

ライナー「まあ……確かに、触らせてはいたが」

サシャ「わ、私は、私だって……、本当は、堂々と、触りたくて……触りたい、のに」

サシャ「なのに……私には、お預けさせるなんて……ずるいですよ」

ライナー「……それだけか?」

サシャ「他に何かありますか?」

ライナー「いや……むしろ他にないのか?」

サシャ「え? ……ありませんけど」

ライナー「そうか。………………そっかー、なるほどなー」

ライナー(ああ……こりゃあ、久々にぶっ飛んだ主張がきたなぁ……)


ライナー「……ん? なら今のうちに、頭撫でるなり触るなりすればよかったんじゃないか?」

サシャ「でも、『触らせない』ってこの前言ったじゃないですか。……ライナーが嫌がることは、表だってはしませんよ」

ライナー「裏で何かやったのか……?」

サシャ「ノーコメントです」プイッ

ライナー「黙ってるのはお前の勝手だがな、この後どうするつもりだ?」

サシャ「えっ? ……この後?」

ライナー「ほら、この腕どうするんだ? まさかこのまま一日過ごせなんて言わないよな?」ヒョイ

サシャ「え、えーっと……どうしましょう……?」オロオロ

ライナー「いや、俺に聞かれてもな。自分で考えろよ」

サシャ「……取り敢えず腕痛そうなので外します?」

ライナー「お前何のために縛ったんだ?」


ライナー「あのな、例えば……『解いてほしかったら頭撫でさせろ』とかな、色々やり様があるだろ? もう少し頭使え」

サシャ「おおっ、なるほど! ライナーは頭がいいですね! じゃあそれでお願いします!」

ライナー「馬鹿かぁお前は!?」クワッ!!

サシャ「ひぇっ!?」ビクッ!!

ライナー「ぐっだぐだじゃねえか!! もうちょっと自分で頭使って色々考えろ!! 第一こんなこと説教させるな!!」ガミガミ

サシャ「はい、すみませんすみませんすみません!」ペコペコ

ライナー「……で? この後どうするんだ?」イライラ

サシャ「頭触らせてください!」

ライナー「……………………どうぞ」

サシャ「やったー!」ワーイ

ライナー「――いやちょっと待て、髪の毛は食うなよ?」ササッ

サシャ「私をなんだと思ってるんですか。食べませんよ」


サシャ「……♪」ワッシャワッシャ

ライナー「……」グッタリ

ライナー(どっと疲れたな……なんだこれ……?)

ライナー(というか、腕を縛られたまま頭を撫でられるってのは、変な気分だな……妙に気恥ずかしいというか、むず痒いというか……)ソワソワ

サシャ「……へっへへー」ナデナデ

ライナー「おいサシャ、そろそろいいだろ? 触りたいならまたやらせてやるから――」

サシャ「……」ズイッ

ライナー「な、なんだ?」ビクッ

サシャ「最後に、締めのデザートください」パクッ

ライナー「……俺の耳は食い物じゃないぞ、サシャ」

サシャ「歯は立ててませーん」ガジガジ

ライナー「……ったく。好きにしろ」


ライナー「もう気も済んだだろ? そろそろマフラー外してくれ」スッ

サシャ「……解いた途端に逃げたりしません?」

ライナー「この後に及んで逃げるか。犬や猫じゃあるまいし」

サシャ「どうだか。……嘘を吐いてる可能性だってありますよね?」

ライナー「じゃあ特技とやらで確かめてみろ。ほら」スッ

サシャ「……いいんですか?」

ライナー「ああ。……いやちょっと待て、少し汗臭いかもしれないから、何かで拭いてからのほうが――うわっ!?」ヨロッ

サシャ「……」グイッ  ――ペロッ

ライナー(……躊躇いもしないのか)


サシャ「……」

ライナー「どうだった?」

サシャ「……仕方がないですね。外してあげましょう」シュルッ

ライナー「どうも。跡には……なってないな。それにしても、お前縛るの上手すぎだろ。俺の力でも外せなかったぞ」サスサス

サシャ「私、縛るの得意なんですよ。縄の扱いには慣れてますし」

ライナー(……あまり怒らせないようにしよう)ゾクッ

サシャ「痛くしてすみませんでした。……怒ってます?」

ライナー「怒ったというか、呆れたというか、驚いたというか、まるで成長していないというか……」

サシャ「こういうところはもう治りませんよ。諦めてください」

ライナー「子どものころからこんな調子だったのか?」

サシャ「そうですねぇ……冬は考えなしに備蓄の燻製を食べちゃって大変でした」エヘヘ

ライナー「少しは慎みを覚えろ」

サシャ「努力します」


サシャ「まあ、私のことはともかく。……ライナーの小さい頃ってどんな感じだったんですか? いい機会なので教えてくださいよ」

ライナー「そう言われてもな……今とあまり変わらないぞ?」

サシャ「へー……ということは、昔から大きかったんですか?」

ライナー「ああ。だが、でかいだけで……世間知らずだったな。色々と」

サシャ「じゃあ、私と一緒ですね!」

ライナー「そうか? ……確かに、サシャも上背はあるほうだよな」

サシャ「違います違います。――そうじゃなくて、世間知らずってところがですよ!」

ライナー「……あまり嬉しくないな」

サシャ「そうですか? 私はスタート地点が同じだってわかりましたから嬉しいですけどね。追いつける可能性がまた増えました」

ライナー「じゃあ、また縛られる前に逃げないとな……」

サシャ「そう簡単には逃がしませんよ」


サシャ「さてと、そろそろ戻りましょうか? 今休憩時間じゃないですよね?」

ライナー「ああ、色々ほっぽり出してきちまったからなぁ……今日はもう、出店回るのは無理そうだ。悪い」

サシャ「いいんですよ。さっき色々補充させてもらいましたからね。また、二人でどこか行きましょう?」

ライナー「そうだな。……続きは、今日の夜にな」

サシャ「続き?」

ライナー「やってほしくないのか? ――肩車」

サシャ「…………………………してほしいです」

ライナー「素直でよろしい。――いつもの場所でな」


サシャ「……それにしても」

ライナー「ん? なんだ?」

サシャ「マフラーって、便利なんですね」



ライナー「……味を占めたな?」

サシャ「もう遅いです」クスクス


.




           ※     ※     ※     



ユミル「よお保護者さん、お疲れ。無事合流できたみたいだな。アニとジャンは先に行かせたぞ」

ライナー「なんだ、まだ戻ってなかったのか? ユミル」

ユミル「ギリギリまでクリスタと話してたら、荷物の運搬頼まれたんだよ。手伝え」

ライナー「どれどれ? ――こりゃ女子一人に持たせる量じゃないな。わかった、手伝おう」

ユミル「どうもありがとさん。……ん? なんだライナー、今日はお前が躾けられて帰ってきたのか?」

ライナー「躾?」

ユミル「ほら、私の手鏡貸してやるよ。自分で見てみろ。左胸な」トントン

ライナー「……げ」


ユミル「おいおい、何驚いてるんだよ。普通は吸われたらわかるもんじゃねえの? 今の今まで付けられてるの気づかなかったのか?」

ライナー「こういうのは上手いんだよ、あいつは」

ユミル「へーえ。――お前が仕込んだのか?」

ライナー「……ノーコメントだ」

ユミル「しっかし、今回は随分と際どいところにつけられたなぁ、この色男め。いつもはシャツに隠れるくらいか、タオルでも巻けばなんとか誤魔化せる位置なのによ」

ライナー「お前どこからそんな情報仕入れてくるんだ? 怖ぇぞ」

ユミル「ミカサから」

ライナー「二人で同盟でも組んでるのか?」

ユミル「いいや。ミカサとは組んでねえよ」


ユミル「見えそうで見えない位置ってところがいかにもあいつらしいが……よっぽど腹に据えかねたことがあったみたいだな。何したんだよお前」

ライナー「……それもノーコメントだ」

ユミル「それだと動けば見えちまうよな。絆創膏貸してやろうか?」

ライナー「いや、そのままにしておく。……躾らしいしな」

ユミル「お前、将来絶対尻に敷かれるな」ケケケ

ライナー「……ほっとけ」





おわり

というわけでなんとか幼児化ネタをねじ込みたかったので色々考えた結果こうなりました
今回は拘束プレイで終わっちゃったのでカップル巻きとか肩車はそのうち機会があったら

>>79 さん 途中で返信できず申し訳ありません。楽しんでいただけているようで何よりです。割り込みは気にしていないので大丈夫ですよー



次回からやっと冬です 何やるかはまだ決めてませんがまた来週ー

いつもながら楽しませてもらいました!!

もっと読みたいです、ファイトです(´Д` )

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