ほむら「ワルプルギスの夜が来る」 (151)


このお話には山はない。オチもない。もしかしたら意味だってないかもしれない。
だってこれは、ただの事実の記録。
とある少女が、別れたはずの友人たちと再会するというだけの、なんでもないお話。

強いて言うなら。そう、強いて言うならば、、これは『最後に愛と勇気が勝つストーリー』だったりする。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1364705929

初ssにつき、稚拙ですいません。



私、巴マミ。魔法少女やってます!!


なんて、名乗ったことはないのだけれど、魔法少女と言うのは本当。
人間の障気から生まれる魔獣を退治するに今もパトロールしている。


「そう言えば、今日うちのクラスに転校生が来たんですよ」

隣で一緒にパトロールしてるのは美樹さやかさん。
私も通う見滝原中の二年生で、つい先日魔法少女になったらしい。

「そういえば、そんなこと誰かが言ってたな。さやかのクラスだったのか」


反対のとなりを歩いているのは、同じく魔法少女で、美樹さんと同じ二年生の佐倉杏子。
家族を喪ってしまった彼女は、今私の家で暮らし、一緒に学校にも行っている。





「そうだったの。どんな子かしら」

「うーん、一言で言えばクール?でも病弱、みたいな」

「一言じゃないじゃねぇか」

「うっさい!」


ケラケラと笑う杏子と、彼女に食って掛かる美樹さん。喧嘩するほどなんとやらと言うが、まさに彼女たちのことだといつも思う。

「でも、クールで病弱ってどういうことかしら」

「えーっと、その転校生、いかにもクールビューティー!!って感じなんですけど、心臓の病気で入院してたらしいんですよ。今日も体調崩しちゃったみたいで早退しましたし」

「それで『クールで病弱』ね。」

「そうそう。キャラたってますよねー。それが萌えなのかー!?って感じで」

「ふふっ、美樹さんの話聞いてたら私も会ってみたくなっちゃった。美人さんなんでしょう?」

「はい。…あっ、でもマミさんも負けず劣らず美人ですよ?」

「なっ……!!」


そんなことを正面から言われたら照れてしまう。




「そんなことないわよ。
そ、それで、その転校生さんはどこから転校してきたの?」

「あ、マミさん照れて話そらそうとしてるー。かわいー」

「顔真っ赤だぞ、マミ」

「いいでしょ!!もう。

…と、無駄話はここで終わりね」


ソウルジェムに反応があった。魔獣だ。
一般人に危害が加わる可能性があるから出来るだけ早く退治しなければいけないが、もちろん発生しないに越したことはない。

…今だけは助かったとかは、決して思っていない。


「あーあ、魔獣も空気読めないなぁ。これからが面白いところだったのに」

「全くだよ。さっさと退治しちまおう」


……決して思っていない。



「此所の筈、よね?」

「ああ、間違いないな」


反応を追って駆けつけた場所には魔獣はいなかった。
正確には、反応自体も途中で消えてしまっていたのだが。

と、少し離れたところに人影を発見した。
時刻は深夜。一人で出歩くには少し危険だ。私はその少女に声をかけようとしたが、それは美樹さんに遮られてしまった。


「転校生!?」


どうやら彼女は件の転校生だったらしい。
こちらを一瞥したきり顔を伏せている彼女に、私達は近づいていった。

近づいてみると、彼女の服装が特殊なことがわかった。
紫を基調とした制服のような、しかしどこかファンシーな印象を与える服。独特な指輪。そのどれもが、彼女が魔法少女であることを示していた。
特異な点があるとすれば、全体の雰囲気に合わない赤色のリボンだろうか。


「魔法少女だったんだ」


どうやら美樹さんも気づいたようだ。杏子も同様。

いつまでたっても反応を示さない彼女に、再度私が声を掛けることにした。


「こんばんは。貴女は美樹さんのクラスに来た転校生ね?此所の魔獣は貴女が退治したのかしら」


紫衣の彼女はひどく狼狽した様子で、私の顔をちらと見たあと、くるりと身を翻すと禍々しい雰囲気の翼を生やして飛び去ってしまった。

…翼、かっこいいなぁ


「無視かよ、ムカつくなぁ」

「なんなんだ?あいつ」

「まあまあ、どうせ聞かなければいけないこともあるし、明日話しましょう」


私たちがそんな風に話をしていたところに、白い獣が現れた。
魔法少女の使者、QBだ。


「その席には僕も参加させてもらってもいいかい?」

「ダメって言ってもどーせどっかで聞いてるんでしょ?」

「その通りだけどね。事前に許可を得ないと君たちは怒るだろう?」

「当然だな」


QBに感情がないと聞かされたときは驚いたけれど、やはり彼らも少しずつ感情の機微というものを理解してきているみたいだ。


「そうね、そうしましょう。きっと話のなかでQBに聞かなきゃいけないことも出てくるでしょうし」


私の一言で一応、転校生に関する話は終わった。あとは明日直接話を聞かなければならないだろう。


「さあ、帰りましょうか。
 美樹さんは今日は寄っていく?ケーキが用意してあるわ」

「いいんですか!?やったぁ!!
少しだけお邪魔させていただきます。杏子との愛の巣に長々居座るのも申し訳ないので」

「あ、愛の巣!?」

「気にすんな、マミ。さやかがテキトー言うのはいつもだろ」


そうだけど……うぅ、ビックリした。
慣れられるようなものじゃないわよ。杏子はよく平然としていられるわね。


「あら?」

「どうした?マミ」

「いえ、今そこの陰に女の子みたいな姿が見えたのだけれど」

「え?あたしは気付きませんでしたよ」

「アタシもだ。てかこんな時間に女の子なんていないだろ」

「ええ、それもそうね。行きましょうか」


その後、私たちの家でケーキを食べ、美樹さんはしっかり二時間寛いでいった。


翌日。魔法少女だって学校には通っている。


「巴さん、佐倉さん、おはよー」

「おはよう」


友達だっている。


『おはようございます、マミさん、杏子』

『あら、美樹さん。おはよう』

『いつも思うんだけどよ、なんでマミにはさん付けであたしは呼び捨てなんだ?』

『あはは、なんか杏子は先輩って感じがしないっていうか、親近感が湧くっていうか』

『じゃあ私とは杏子ほど親しくないって言うの?悲しいわ』

『ああっ、そうじゃなくてですね、マミさんはほら尊敬してるっていうか。あははー』

『じゃああたしのことは嘗めてんのか』

『そうじゃなくて!!』

『ふふ、さぁ、美樹さんをからかうのはこれくらいにしないと。遅刻しちゃうわ』

『え…、もうこんな時間!?っていうかからかってたんですか!?』


念波での会話を切り上げて、私と杏子は教室に向かう。


昼休み、美樹さんに転校生を呼び出してもらい、屋上へ向かった。
彼女はフェンス際に、私たちに背を向けるように立っている。


「こんにちは、ええと…」

「暁美ほむら」

「ありがとう。
暁美さん、貴女は魔法少女ということでいいのよね?」


無言。肯定と受け取って次へ。


「貴女は魔法少女になったばかりなのかしら?」


これは多分否定してくる。
昨日の魔獣は初心者が退治できる数ではなかった。

だが、彼女はまたも無言。後ろの二人も問答は私に任せているので、私が促すしかない。


「黙っていられても困るのだけれど」


そう声をかけると彼女はこちらへ振り向いた。


「……その答えは二通りあって、どちらにしてもNOよ」

「え?」


意味がわからない。二通りなのにNO?


「わからないでしょうね。
……ごめんなさい。少し混乱しているの。 明日までには整理をするから、少し待ってもらえないかしら。
大丈夫、貴女たちと敵対する気はないわ」


そう訴える彼女を信じる理由はなかったが、まあ一日くらいなら待ってもいいかもしれない。
後ろを見れば、二人も首肯している。


「いいわ。また明日話を聞かせてもらいましょう」

「…ありがとう」


暁美さんはそう言い残すと、屋上を出る扉に手をかけた。


「…最後にひとついいかしら」


背を向けたまま、暁美さんが尋ねてきた。


「何かしら」

「『鹿目まどか』という名前に心当たりは?」


鹿目まどか、聞いたこともない。


「私は知らないわ」

「アタシもだ」

「あたしも」

「そう…」


扉の向こうに消えた彼女の背中は、ひどく悲しそうに見えた。


「よかったのかい?彼女を行かせてしまって」


現れたのはQBだ。予告通り話を聞いていたらしい。


「いいのよ。明日には話を聞かせてくれるらしいし」

「彼女が明日誘いに応じる保証はあるのかい?」

「それは、ないけど」

「大丈夫だよ、転校生は来る。」

「そう言える根拠は?」

「なんとなく。転校生は…いや、ほむらは悪いやつじゃない。なんとなくそう思うんだ」

「そういうこった。アンタには理解できないかもな」

「そうだね、訳がわからないよ」


そのときQBの耳、もとい触腕が少し動いた。


「おや、暁美ほむらからテレパシーで連絡だ。今夜頭の整理に付き合って欲しいらしい。」

「ああ、アンタはそういうの適任かもな」


確かに感情を廃したQBと話すことは、状況を整理するために有効かもしれない。


「というわけだ、マミ。今夜は君たちの家には行けないよ」

「わかったわ」

「……君たちは僕に、ほむらとの話の内容を伝えて欲しいかい?」

「へぇ、QBもそんなこと言うんだね」

「これでも感情を理解する努力はしているからね。それにこれは合理性から見ても正しい提案だ」

「ふふっ、ありがとうQB。でも遠慮しておくわ。暁美さんのプライバシーに関わるかもしれないもの」

「そうかい。わかったよ」

「あ、でもひとつだけ」


私は、ひとつどうしても彼女に聞きたいことを思いだし、QBに頼むことにした。


「あの翼は私にも出せるようになるか、聞いておいてもらえないかしら」

「マミ………」
「マミさん………」


二人分の溜め息は聞こえないことにしよう。



一応、ここまでで導入?一話?終了です 
続けて二話投下します


あと、酉ってつけた方がいいですかね?


翌日。昨日と同じようにあたしがほむらを屋上に呼び出すと、話が長くなるから放課後、それもマミさんの家がいいと言われた。
なんて図々しいと思ったが、その場でマミさんに確認をとったら喜んで了承してくれた。

まあ、マミさんがいいならあたしは構わないけれど。
というか、きっとケーキが出るから嬉しいくらいだけれど。


というわけで、マミさん(と杏子)の家。そこには、これから始まる話を予感させるような張りつめた空気が…


「おぉぉ!!マミさん、このケーキめちゃくちゃ美味しいですよ!!」

「ふふっ、ありがとう」

「うるせぇよ、さやか。騒ぐな」

「なにおう!?杏子だってもう半分も食べたくせに」

「う、旨いもんは旨いんだよ!!文句あるか!?」


「あの、話をはじめてもいいかしら」


おっといけない、ほむらが置いてきぼりだった。

さて、ここからはシリアスモードだ。ほむらの話を聞かなくては。


「おいアンタ、そのケーキ食わないならもらっていいか!?」


ちょっと!!今せっかくあたしが雰囲気を入れ換えたのに。


ほむらも早く話を始めたいのか、無言でケーキの皿を杏子の方へ押しやった。


「それで、あなた達…」


ほむらはそこで言葉を切ると、たっぷりためを作ってから言った。



「私、未来から来たって言ったら笑う?」



……は?


なんの話だ?ほむらは時空漂流者だったのか?あるいは青狸の仲間?


「ごめんなさい、暁美さん。私は最近ラベンダーの香りは嗅いでないわ」


マミさんはマミさんで訳のわからないことを…
杏子もぽかんとしている


「暁美さん、そのネタが伝わらなかったらどうする気だったのかしら」

「少なくとも貴女には伝わる確信があったのよ」


ネタかよっ!!


「ごめんなさい。話しづらい話になるから。それに、全くもって関係ない話をしたわけでもないの。未来から来たっていうのは本当よ」

「マジ?未来ってどのくらいの?」

「二、三週間後かしら。
昨日言った『初心者ではない』というのはそういうことよ。
ある目的のために何度も同じ時間を繰り返していたから、私の主観時間ではもうベテランの域に入るわ。
でも、日付で言えば私はまだ契約すらしていない。
巴マミが『ときかけ』を読んだことがあるのを知っていたのもこのためね」


場を沈黙が支配する。
最初に口を開いたのは杏子だった。


「それで、目的ってのはなんなんだ?
信じるも信じないも、これからどうするかも、目的を聞かなきゃ始まんねぇだろ」

「私の目的は、気にしなくていいわ。この時間軸では……いえ、永遠に果たせなくなってしまったもの。時間遡行も、前の時間軸のとある出来事が原因で、できなくなってしまったわ」


「だったらアタシの個人的興味ってことでいい。あんたの目的はなんなんだ?」


「ちょっと杏子、それは」


きっと問い詰めていいことじゃない。ほむらの表情がそれを物語っている。


「止めんな、さやか。
アタシだってこいつが悪いやつじゃないのはなんとなくだが分かってる。
でもそれはあくまで『なんとなく』だ。魔法少女の世界は勘だけに頼って生きていけるほど甘くない。

保証が欲しいんだよ。あんたの目的が私達とぶつからないっていう保証が」


杏子の言ってることは正論だ。マミさんも概ね同意見のようで、口を挟まずにいる。
だけど、なにかが引っ掛かる。杏子の言っていることは何かおかしくないか?

さっきより重い沈黙のなか、ほむらが口を開いた。


「そうね、わかった。
私の目的は、友達を守ること。私の、最高の友達を。

けれど彼女はもうこの世には存在しないわ。どの世界にも彼女はいない。私は失敗したのよ。
信じるも信じないもあなたたちしだいだけれど、私の目的はそれ。証明のしようもないけれど事実だわ。




……と、このくらいで通過儀礼はクリアかしら?」


は?
またしても何を言っているんだ?
杏子とマミさんも納得したようにうなずいている。


後で聞いたことだけど、この時杏子は、本気でほむらの目的を聞き出すつもりはなかったらしい。
考えてみればほむらが本当のことをいう保証は無かったのだから当然だ。あたしの違和感もここが原因だった。

敢えて強く問い詰めることで、偽りでも誤魔化しでも、当面あたしたちとの関係を保つ気があるかを試したのだそうだ。

ほむらもそこをわかっていて、本当のことを話し、二人の信頼を得たらしい。


つまり、三人はあたしを置いてきぼりにして高度な心理戦を展開していたのだ。
一言言わせてもらおう。ふざけんな!!あたしの緊張を返せ!!


「じゃあ暁美さん、今日の魔獣退治から参加ということでいいかしら」

「いや、私は別に共闘したかったわけではなくて。敵対さえしなければ…」

「いいの、嫌でも共闘してもらうわ。その方が『監視』しやすいでしょ?」

「『監視』ねぇ…」


まあ、仲間が一人増える対価なら、安いもんだけど。


二話、以上です。
なんか自分で見ても展開に無理がある気がしてきますが、気にしないでください。

とりあえず中断しますが、できれば今日中にもう一回来たいと思います。

暖かい感想ありがとうございます。
ちょっと泣きそうになりました。

文章もできるだけ改善していきたいと思いますので、具体的な指摘があればお願いします。

では、投下開始します。


アイツが——ほむらが仲間になって数日、アタシ達は今日も今日とて魔獣退治に励んでいた。

今、魔獣の結界の中では鴉が空を舞い、黒い矢を放つ。
蜂は地を這いながら銃を撃っている。


「マミさん、もうやめましょうよ。翼が使えなくてもマミさんは十分格好いいですって」


さやかが魔獣を両断しながら言った。

マミはほむらの翼を見てから、自分のリボンでそれを再現しようと悪戦苦闘していた。
あの様子を見ると、今回も失敗だな。


「いいえ、必ずこの『紡ぐ翼』を完成させてみせるわ」


もう名前まで付けてるのかよ…


「でも、今日は失敗みたいね、悔しいわ。

さあ、終わりにしましょう。三人とも離れてて!!」


アタシ達が退いたのを確認したマミは、魔獣の中心で一回転しながら翼を構成するリボンを全てマスケット銃に変え、一斉発射した。

爆煙の中から現れたのは、いつも通り優雅に紅茶をすするマミだけだ。
全く、あの演出過剰なとこはなんとかなんないのかね。


「あんな演出なくても、射撃技術だけで十分に惚れ惚れするような完成度なのだけれど」


どうやらほむらもアタシと同意見だったようだ。
実際、マミの戦闘及び射撃のセンスはアタシたちよりずっと上を行っている。

アタシもほむらもあまり他人を褒める人間ではないが、それでもマミが強いことは共通認識だ。


「やっぱりだめね。翼のサイズと捉えられる風の量のバランスが難しいわ。暁美さん、コツとかないのかしら」

「コツと言われてもね、巴マ…、マミ。私も突然使えるようになったことだからよくわからないのよ」


ほむらがさやかに睨まれて、マミをフルネームで呼ぼうとしたところを名前に言い直した。
さやか曰く、懇親の一環だそうだ。

さやかが満足げに頷くのを見ながら、アタシは懐から取り出した菓子を口にした。
戦闘は体力を使うからしっかり補給するために、アタシはいつも菓子を持ち歩いている。
勿論、これは自分でバイトして買ったものだ。何から何までマミに頼るわけにもいかないからな。食費も入れている。


「さやか、やっぱり慣れた呼び方に戻したいのだけれど」

「だーめ。仲間なんだからフルネームは他人行儀すぎるって」


下らない。
仲良くすることが、じゃない。
呼び方や懇親なんかは強制されることじゃないし、他にいくらでもやり方はあるだろう。例えば、


「ほむら、食うかい?」




翌日、アタシとほむらとさやかは下校途中にたい焼きを食べていた。
マミは、事故の時に世話になった医者に挨拶に行く、と言って病院に行った。


「病院って、どこのかしら」

「あー、あそこだよ。あのでっかいところ」

「恭介が入院してた?」

「そう、そこだ」


恭介というのは、さやかが願いで腕を治した男の名前だ。
人がせっかく名前を出さないようにしてやったってのに。


「そういえばさやか、上條恭介とはどうなったの」

「ど、どうって何が…って、ほむらは知ってるんだっけ。

腕治して終わりだよ。二人がどう思ってるか知らないけど、あたしは魔法少女になったときに恋愛するのは諦めて、割りきった。

うん、あとは恭介が仁美みたいないい子とくっついてくれればさやかちゃんは安心ですよ」


割りきったやつはそんな顔はしないと言いかけて、やめた。いまさやかを追い詰めても仕方ないだろう。
ほむらがそれに気づいたかは知らないが、返答は


「やっぱりそうなの」


の一言だけだった。


「やっぱりって、ほむらが前にいた時間でもそうだったの?」

「大体同じね、どうなったかも聞きたい?」

「……やめとく。自分の結末は自分で見るよ」


さやかは深刻な顔でそう言ったあとに、


「それに、ほむらがもったいぶるってことは、碌なことにはならなかったんでしょ」


と、おどけて笑った。
不安で無理してるのが見え見えだが、こいつが道化でいる間は騙されて笑っていてやろう、と思った。
他人のために祈ったって碌なことにはならないが、その時に受け止めてくれる人がいれば案外、最悪までは落ちないもんだ。
アタシ達はそのときに隣にいてやればいい。


「ちょっと、さやかは私をなんだと思ってるのよ」

「冷血なサディスト」

「違いないな」


アタシ達はまた、顔を見合わせて笑った。
そう、これでいい。非日常に身を置くアタシ達でも、ほむらも最近よく笑うようになったなんて思いながら、気楽に日常を楽しむ権利はあるんだ。




しかし、日常は続かない。


『みんな、一緒にいるかしら』


マミからの、突然の連絡。念波を使っているということは、急を要するのだろう。


『三人とも一緒にいるぜ。どうしたんだよ、今どこだ?』

『病院よ。QBに中継してもらって念波を繋いでいるの


———魔獣よ』



病院で魔獣はかなりまずい。そこには、少し生気を奪われるだけで死ぬ人間が大勢いる。
アタシ達はすぐさま路地に移動し、変身をした。だが、


『みんな、お願いがあるのだけど。今回は私に任せてくれないかしら。
もう少しで翅が完成しそうなの。みんなはあとからゆっくり来てくれればいいわ』


マミはそう言い残して、念波を切った。


「くそ、結界に入りやがったな。あいつはなんでああも勝手なんだ」


と言ったものの、そんなに切羽詰まっている思ったわけではない。
マミの強さは折り紙つきだ。本人の言うとおりにしてもさして問題はないだろう。


「おおかた新しい技の完成が見えて周りが見えなくなっているのでしょう。ともあれ、急がないと」

「うん。
 でも、マミさんがいるんだったらあんまり焦る必要もなくない?変身して走っていけばよゆ…う……」


ほむらのほうを見たさやかが言葉を失った。アタシもそうだ。
ほむらは、今にも倒れそうなほど蒼い顔をしていた。


「おい、どうしたんだよ!大丈夫か!?」

「ええ、大丈夫よ。捨てたはずだった感情が戻ってきて——いえ、捨てきれていなかったことが分かって少し驚いているだけだから。それより、急ぎましょう」


そういってほむらは翼を広げ、アタシたちに手を差し伸べた。




「ん?」

「どうしたの杏子、急いで!」


アタシとさやかは別段急ぐ必要もないと思っていたが、ほむらにそこまで言われて急がない理由もない。二人とも自分につかまったことを確認したほむらは、急激に飛び上がったのちに高速で空を滑っていく。

しかし、ほむらにつかまる寸前、銀髪の女の子がいた気がしたが、気のせいだろうか。



ここまでが三話です。

続いて四話行きます


杏子との念波を強制的に遮断して結界に入ってしまった。きっとみんな怒っているだろうが、それはここの魔獣を一人で一掃することで許してもらいたい。
それができる気はしたし、実際に半分ほどの魔獣はすでにキューブに変わっている。

魔獣たちの砲撃が一段落したところで、私は一度動きを止めた。
いよいよお披露目だ。

さっき病院で男の子が持っていた昆虫の模型、その翅。

薄く、軽く、丈夫。
それらの条件をイメージしながらリボンを背中に接続していく。


次は駆動。
細かに、素早く。鳥ではなく昆虫のイメージで。
ジジジジと、背中の方から特有の音が聞こえ、体中が浮翌遊感に包まれる。

まだ、まだ早い。魔獣たちが再度私に狙いを定め、攻撃を発射するその瞬間、私は宙に飛び出した。


「フフフッ」


思わず笑みがこぼれる。初飛行でここまでうまくいくとは思わなかったのだ。
うまくいかなかったらどうするのかと言われそうだが、その時はきっといつの間にか結界内に到着していた三人が助けてくれただろう。
高速で駆動する翅は私の体をしっかり支えてくれていて、危なげもない。
ホバリングも問題なくできているようだし、移動も走るよりずっと早い。


「体が軽い」


まったく、暁美さんも人が悪い。
こんな気分のいいものを独り占めしていたなんて。

とはいえ、実際の飛行感は私と彼女ではずいぶん違うとも思う。
原理が違うのだから当たり前だけど。
私の戦闘法にはこちらの方があっている気がする。やはりホバリングできるのが大きいのだろう。
対空射撃ならぬ滞空射撃、なんてね。


それにしても楽しい。
私には戦闘狂の気はないし、魔獣との戦いも実を言えば怖かった。でも


「こんな気持ちで戦うの、初めて」


今日の戦闘は楽しい。
怯えることも、足がすくむこともないのだ。


「もう何も怖くない!!」


気付けば魔獣はその数を一割ほどに減らしていた。
今回の魔獣は平均よりずいぶん多かったといえるが、ここまでくればいつものあれで十分に一掃できる。
空中用の必殺技は、またあとで考えましょう。


「これで終わりよ」


私はひときわ高く飛び上がると、まさしく究極、最終の名を冠するにふさわしいサイズの銃、もとい大砲を取り出した。
反動は翅で受け止めればいい、上空からだと狙いもつけやすい。
やっぱり飛べるっていいわね。


「ティロ・フィナーレ!!」



魔獣は爆煙に埋もれ、きっと残らず消滅しただろう。
私は銃器をすべて消して、達成感とともに地に降り立とうとした。





その時、浮かれた私の目を覚ますように、煙の中から一筋のビームが飛び出してきた。
撃ち漏らしがいた、という事実を認識する暇すらなく迫るビームに、私は全く反応できなかった。
ビームは一直線に私の魂——ソウルジェムめがけて飛んでくる。

視界の隅で桃色の煌めきをとらえた直後
光と私が交差した。


ここまでで四話です。

今日中にもう一回目指しますが、来れなかったらごめんなさい。

では、また

再開。

予定を変更して、今日中に本編終了まで行ければいいなと思います


「マミさん!!」


ほむらが撃ち漏らしの魔獣を射抜いているのを横目に、あたしと杏子は墜落したマミさんに駆け寄った。
マミさんは体を抱いてがたがたと震えている。どうやら生きているようだ。よかった。

魔獣のビームが着弾する寸前、ほむらが放った黒い光の矢がマミ翅を器用に片方だけ貫いた。
素早い羽ばたきでバランスを保っていたマミさんは大きくバランスを崩し、結果ソウルジェムは傷つかずに済んだ。


「マミ、大丈夫か?」

「え、ええ。何が起こったのかしら」


あたしと杏子で、今しがた起こった出来事を簡単に説明した。
その間にマミさんも少し落ち着いたようで、少し遅れて近づいてきたほむらに


「ありがとう、助かったわ」


と言うくらいの余裕はできていた。

しかし、それを聞いたほむらは、激昂して


「ふざけないで!!」


と怒鳴りつけた後で、油断していた、浮かれている云々とマミさんに説教をはじめ、しまいには抱きしめて泣き出してしまった。
マミさんのほうも最初は神妙にしていたが、ほむらが泣き出すと困ったような表情を浮かべ最後には一緒に号泣した。


あたしは二人とも可愛いなぁとか思いながら眺めていたのだが、杏子の「結界が崩れそうだ」という言葉で我に返り、病院の前でへたり込み、抱き合って泣くコスプレ少女という図を作らないためになんとか二人をなだめて家へ帰した。


数日後。
ほむらは当初こそ泣き出してしまったことを恥と思い、からかってやるととても可愛い反応(あたしが嫁にしようと決意するくらいの)を見せてくれた。
しかし、やりすぎたのかあたしのことを完全に無視するようになり、必要最低限の会話すら仁美や杏子やマミさんを通じてしかしてくれなくなった。(マミさんはきっとまだ可愛い反応を見せてくれるだろうが、先輩の威厳をあんまり崩すのも忍びないのでからかってはいない)

というわけで、今日は


「ほむら、本当にごめん。反省してる。もうしません」

「さやかもこういってるしさ、僕からも頼むよ。許してやってくれないかな」

「私からもお願いしますわ。伝言役って意外と大変ですのよ」


恭介と仁美を伴っての平謝り攻撃!!
さすがのほむらもこれでは許すしかあるまい。
フッフッフー


と、内心ほくそえんでいると、ほむらが手招きをして仁美を呼び寄せ、何かを耳打ちした。


「『もう怒っていない。許すから今度からは普通に話しかけてきてもいいわよ』だそうです」


全然許してないじゃんかーー!

あたしがショックを受けている横で恭介と仁美、それにほむらはくすくすと笑いだした。


「暁美さんも冗談とかいうんだね。ちょっと意外だったよ」

「ええ、本当に」

「ええ、前の私だったらきっと思いつきもしなかったし、少し前の私でも言いはしなかったでしょうね——さやかのおかげかしらね、お礼を言うわ」


お?デㇾ期きたか?


「だからといって、今後こういうことがあったらマミに頼んで『顔面ティロ・フィナーレ』の刑に処してもらうわ。大丈夫、ソウルジェムさえ守れば死なないもの」


と、ほむらがあたしの耳元で囁いた。もちろん笑顔は崩さずに、だ。

怖っ!!
今後は絶対にほむらを怒らせないようにしようと誓ったさやかちゃんなのでした。

というか、会って二日目にふつうに冗談言ってなかった!?

ほむら曰く、あれは真剣な話をする気負いからくる気の迷いだったらしい。


その日の放課後、あたしはほむら、仁美と三人で下校しようとしていた。


「仁美ー、一緒に帰ろー」

「ちょっと待ってください、さやかさん」


何やら仁美が真剣そうな顔をしている。どうしたんだろう。


「さやかさん、このあと少し時間はありますか?」

「え、ああ。大丈夫だけど」

「すみませんほむらさん、少しさやかさんをお借りします」

「ええ、気にしなくていいわ。さやかも今日はあれ、休んでいいわよ」


あれ、というのは魔獣退治のことだろう。
別に魔獣退治は夜だし、休む気はなかったが、それを告げた時のほむらの硬い表情が少し気にかかった。



結果から言って、あたしはその日の魔獣退治を休んだ。

『私、上條さんのことをお慕い申し上げておりましたの』

今、あたしは自分の部屋のベットの上にいる。

『自分の本当の気持ちに向き合えますか』

あたしの気持ちなんて決まってる。
アタシは恭介が好き。魔法少女になってからはっきりとそれを意識するようになった。

『あははははー、恭介も隅に置けないなぁ』

でも、諦めた。割り切った。魔法少女だから。

『恭介を幸せにしてあげてね、仁美』

そうだ、言ったじゃないか仁美とくっついてくれれば安心だ。

「割り切ったって言ったじゃん…」


悔しいけど、きっとできていなかったのだろう。
でも、もうどうにもならない。割り切らなきゃ。

割り切るには、そうだ、魔女狩り。
今のあたしには世界を守る使命があるんだ。休みなんてとるんじゃなかった。


「よし!!」


結論を出したあたしは勢いをつけてベットから起き上がると、変身して、窓から夜の街に繰り出した。


勢い勇んで家を飛び出したはいいものの、魔獣の反応が全然ない。
やっぱりあらかたマミさん達が狩っちゃったのかな。

いや、ここで諦めちゃダメだ!!あたしは魔獣を狩らなきゃいけないんだから。
よし!!今日は見つかるまでパトロールしよう。



でも結局、魔獣が見つかったのは暗くなってからだった。

……暗くなってから?
あたしはそこで初めて自分が丸一日徘徊していたことに気づいた

だけど、まあ大した問題でもない。
あたしは魔法少女なわけで、最優先事項は魔獣狩りだから。
学校なんか行っても仕方ないし、眠る必要もない。
とにかく魔獣。魔獣を狩らないと。


目の前の結界に入ると、普段より少し多い魔獣があたしを出迎えた。
いいね。それでこそやりがいがある。


あたしの武器は剣。ともあれ間合いに入らなければと思い、あたしは魔獣の攻撃を避けながら前へ出た。
両手に剣を出現させ、目前の2体を切り払う。反撃を避けながら追撃。
マミさんのようにはいかないけれど、魔獣の中心であたしはまるで舞うように戦った。

魔獣の三割ほどを倒したとき、結界の入り口の方から声が聞こえた。


「おい、さやかか!?何やってんだよ」


杏子だ。マミさんとほむらもいる。


「何やってんだ?加勢してやろうか」

「来ないで!!」


杏子がビクッと動きを止めた気配がした。


「あたしがやる。あたしがやんなきゃいけないんだ。
魔法少女になったあたしの目的は魔獣を狩ることなんだから」


我ながら驚くほど冷たい声が出た。


さて、言ってみたはいいものの体が動かない。少しずつ食らったダメージが響いてるみたいだ。

だったら


「あはははははははは」


必殺!痛覚遮断!!


「その気になれば痛みなんて全部消しちゃえるんだ!!」


痛みに怯むこともなくなったあたしは魔獣の群れに突っ込み、片っ端から魔獣を殺していった。


「あはははははははははははははははは」


目の前に最後の一体が倒れ伏している。
あたしは剣を振り上げ

ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ


最後の魔獣が死に、結界が消えたときあたしは達成感なんか感じてなくて————






ただただ、愉快だった。



「おい、さやか」

「なによ。言っとくけど、着いてこないでよね。
この中ではあたしが一番後輩だからね、もっと魔獣を殺さなきゃ。それがあたしの存在意義なんだから」

「美樹さん、あのね、」

「うっさい!!」


どうして分かってくれないんだろう。
あたしは魔獣を[ピーーー]ための存在で、そうすることだけがあたしがこの世に生きる方法なのに。

ああ、そうか


「怒鳴ってごめんなさい。でも、キューブは三人で持っていっていいんで。
これからも魔獣はあたしが[ピーーー]から、三人ともパトロールしなくていいよ」


そう言い残して、あたしはまた別の結界を探しに行くことにした。

やっちまった…


「おい、さやか」

「なによ。言っとくけど、着いてこないでよね。
この中ではあたしが一番後輩だからね、もっと魔獣を殺さなきゃ。それがあたしの存在意義なんだから」

「美樹さん、あのね、」

「うっさい!!」


どうして分かってくれないんだろう。
あたしは魔獣を殺すための存在で、そうすることだけがあたしがこの世に生きる方法なのに。

ああ、そうか


「怒鳴ってごめんなさい。でも、キューブは三人で持っていっていいんで。
これからも魔獣はあたしが殺すから、三人ともパトロールしなくていいよ」


そう言い残して、あたしはまた別の結界を探しに行くことにした。


夜が明けて、昼間。あたしはまだ魔獣の結界を見つけられないでいた。
どうして…、魔獣を殺さないとあたしが生きてる意味なんかないのに。

焦りばかりが募っていき、ソウルジェムも濁りはじめた。
とにかく魔獣を見つけなければ度尾にもならないので、あたしは隣町に行くために電車に乗った。

電車内にはいろいろな人がいる。しかし、あたしの眼はなぜか、銀髪の小学生らしき女の子に止まった。とても顔色が悪い。
じっと見ているとその子はとある駅で降りて行った。


「ッテェな、気ぃ付けろよ!!」


チャラいホスト風の男にぶつかったが、気にせずにあたしも電車を降りる。


これからどうしようかと駅のホームに座っていると、人が近づいてくる気配がした。


「よう」

「何しに来たの。
 大丈夫、キューブならちゃんと届け———」

「ちげぇよ!!」

「っ!!」


杏子が怒鳴った。
口調の荒い杏子だが、声を荒げることは少ない。
あたしはつい身構えてしまった。


「さやか、お前それ本気で言ってんのか?
 ああ、確かにアタシ達にとってキューブは大事だよ。でも、それがすべてじゃないだろ?」


杏子の背後から凄いスピードで近づいてくる人影が二つ。マミさんとほむらだ。
二人とも全然息が切れてない。きっとあの移動も魔法を使ってきたのだろう。


「でも、結局あたしたちは魔法に頼んなきゃ自分の体も動かせないんだよ。
 それってもう化け物じゃん。魔獣と何が違うのよ」


自分で言って、これだ、と思った。
あたしはもう普通の人間じゃない——化け物で、仁美や恭介とは違う存在なんだ。
そのうえ、その親友と幼馴染が恋人になってしまったらあたしは一人になると思った。

だから、魔獣を殺さなきゃなんだ。あたしがあたしであるために。


「大事なのはその魔法を使って何をするかだろ。
 アタシは、魔法は徹頭徹尾自分のために使うべきだって考えてるし、基本的にそう生きてきたつもりだった。
 
でも、違うだろ?
 アタシ達は魔法使って、生命線のキューブも使って、ほかでもないアンタを探してたんだ」



あたしは顔をあげて杏子を見た。


「つまりな——ああ、こういうのらしくない。照れ臭いな——アタシ達はアンタを心配して、その、アンタを探してたってこった。

アタシ達は、キューブとか魔法より仲間、つまりアンタの方が大事だと思ってるわけだ」


顔を赤くして、頬を掻きながら伝えられた杏子の言葉は決して綺麗とは言いがたかったけれど、それでもどうやら、自分を見失って頑なになっていたらしいあたしの心を溶かすくらいには、力があったみたいだ。

杏子はあたしの隣に座った。

こんなに近くにいてくれる仲間がいたのに、勝手に一人だなんて思って仲間にも辛く当たって…


「あたしってほんとバカ」


あたしってほんとバカ。
その言葉をきっかけに、さやかは大声をあげて泣き出した。

よかった。本当によかった。
さやかが一番辛いときに隣にいてやれた。

横を見れば、マミとほむらも表情を緩めていた。

ほむらは心底安堵した様子で、でもそれを隠そうと、平静を保とうとしていた。
きっと、さっきまでの展開がほむらが見てきた『碌なことにならなかった』未来と似ていたんだろう。

マミはアタシとさやかを見比べてクスクスと笑っている。
言わんとすることは分かるが、人をおちょくるのは目尻の涙を拭いてからにしろ。


「アタシも、一番ドン底だったときにお節介な誰かさんが受け止めてくれたんだ」


もしマミと決別してたらと思うとゾッとする。

だから———


「だから、一緒にいてやるよ。ひとりぼっちは寂しいもんな」


さやかが泣いて、泣いて、やっと落ち着いた頃。
待っていたかのように嫌な感覚がやって来た。

さやかも気づいたらしく、涙を拭いて立ち上がると自分の両頬を叩いて気合いを入れた。


「よし!!さやかちゃん大復活!!
張り切っちゃいますからみんなで頑張って魔獣退治しちゃいましょう!」

「ええ、無粋な魔獣さんたちはさっさと退治しちゃいましょ。
そうだわ、この魔獣を退治し終わったらうちでお泊まり会をするのはどう?」

「それフラグだぞ、マミ。
アタシは賛成だけどな」

「私は遠慮を…

わかったわ、行くわよ。行くからそんな目で見ないで」


できた結界はやはり平均よりも大きなものだったが、四人揃っていて負けることはないだろう。

アタシ達は勇んで結界に突入した。








大量に居た魔獣も見る見るうちに数を減らし、いつの間にかアタシの目の前にいる一体が最後になった。
全く持って手ごたえがなかった。というよりは、魔獣たちに戦意がなかったのだろうか。
全員が一定の方向——見滝原から出る方向に行進しているだけだった。


「さ、終わりだ」


アタシはとどめを刺そうと槍を振り上げたが——


「———ル——の——来—」


ん?
気のせいか、今魔獣が人の言葉をしゃべったように聞こえた。
見た目こそ男のような奴らだが、発するのはせいぜいうめくような声だけだ。

それが、どうやら何か言ったようだ。
何を言ったのか確かめるために、アタシは槍を多節棍に変え、魔獣を縛り上げた。


「—————ル——が———夜——ワ———ギ——」

「あ?なんて言ってんだよ」

「——ルギ——来る———夜が————ワルプルギスの夜が来る」


最後に明瞭な言葉を残し、魔獣は消えた。

結界が消え、マミたちが駆け寄ってくる。


「杏子、最後何をしていたの?魔獣を縛っていたように見えたけど」

「ああ、あいつが人間の言葉をしゃべってるように聞こえてな。なんていったか聞いてたんだ」

「へえ、そんなこともあるの?」

「いいえ、私は初めて聞くわ」

「それで、魔獣は何を言っていたのかしら」


ほむらに尋ねられて、アタシは魔獣の最後の言葉を思い出した。


「ああ、多分だが『ワルプルギスの夜が来る』だった——おい、どうした!!」


その言葉を聞いた途端、ほむらの顔が目に見えて青くなり、頭を抱えて震えだした。


「そんな、だってあの時…」

「大丈夫?とりあえず私たちの家に行きましょう」


しかし、アタシたちの家に向かう間もほむらは震えたままだった。







夕食を終え、アタシが風呂から上がるとリビングでマミとさやかが話をしていた。


「ほむらの奴は?」

「なんか頭を整理したいってまたQBと話してるよ」


そういってさやかがさしたベランダを覗くと、ほむらとQBが何やら真剣な表情で話をしていた。


「ふうん、なんだろうな」

「ワルプルギスの夜についてじゃないかしら。
さっき調べてみたらヨーロッパの方にそういうお祭りがあるみたいよ。
ゲーテの『ファウスト』では魔女の宴として出てくるみたいだわ」

「魔女ですか。それってあたしたちのことじゃないですかね
一応魔法少女名乗ってますけど、見方によっては魔女とも言えなくはないでしょう?
 魔女っ娘さやかちゃん!!——なんちゃって」

「じゃあ宴ってなんだよ。魔法少女が集まってパーティーやるわけでもないだろ。魔獣の大量発生の隠喩だったりしてな」

「大魔獣退治祭みたいな?だとしたらほむらが震えてたのもうなずけるなぁ」


そんな話をしていると、ベランダからほむらが入ってきた。


「よう、もういいのか?」

「ええ、とりあえずは大丈夫。心配かけてごめんなさい」

「いいってことよ!いつでもこのさやかちゃんに頼っちゃいなさい!!」

「調子に乗んな」

「こら、杏子。殴らなくてもいいでしょう
 それで、QBと何の話をしていたのかしら」

「……」


ここでほむらが黙る。
長い沈黙の後、重い口を開いてほむらはこう言った。


「…楽しい話ではないわ。今日のこの楽しい気分も台無しにしてしまう。それでもあなたたちは今聞くのかしら」


「ええ、勿論」

「ああ」

「とーぜん!
もしここであたしたちが聞かなくってもほむらは沈んだ気持ちのままでしょ?
だったら聞くよ。こういう会はみんなで楽しまなきゃ意味ないもん」


「ありがとう。
話すわ。この世界の、或いは私の過去、罪、そして全てを

でも、その前にお願いがあるの。
 私の話をすべて聞いた後、私を罵ってくれても構わない、蔑んでくれても構わない。でも、私から離れないでいてくれないかしら。

 私は無限に続く繰り返しの中でだれにも頼らず、孤独に目的を達する覚悟を決めたはずだった。でも、今は怖い。あなたたちと離れるのが、あなたたちが離れていってしまうのがただただ怖いの。結局、私はのろまでどんくさいあの頃の私から何も変われていなかったのね。
 だから、お願いします。私を一人にしないでください」


ほむらは、泣いていた。自分の情けなさと恐怖に泣いていた。


「あったりまえでしょ、ほむらはあたしの嫁になるんだから離すわけないじゃん」


さやかの言葉に二人でうなずくと、ほむらは涙を目に溜めたまま見たこともないような笑顔を見せた。



「かつてこの世界には、魔獣という概念はなかった。その代わりに魔法少女の敵として存在したのが魔女。この世界でひときわ大きな魔獣の結界があったところは、以前の世界で魔女の結界があった場所と一致するの。
 魔女は魔獣とは大きく性質を異にする。一つの結界の中に一体きりで、使い魔を使役して人を襲う。
 一体一体に個性もあるわ。
 例えば私があなたたちと初めて遭遇した結界。あれは『異形の不信』『薔薇園の魔女』ゲルトルートの結界があった場所。
 マミが死にかけたのは『暴食の執着』『お菓子の魔女』シャルロッテ。
 今日の結界は『堕ちた恋慕』『人魚の魔女』オクタヴィア。
他にも『孤独なご招待』『おめかしの魔女』キャンデロロ、『自棄の槍』『武旦の魔女』オリーフィアなんてのもいたわ」

「魔女って言うからには見た目は魔獣と違って女なのか?」

「いいえ、たまに人の形を模したものもいたけれど、魔女のほとんどが正しく化け物と呼ばれる風貌をしていたわ。
 そんな彼女たちが魔女と呼ばれていたのは、その発生方法によるものよ。
 魔女は、ソウルジェムの濁りきった魔法少女から生まれる、魔法少女のなれの果てなの。だから以前の世界ではむしろ、いずれ魔女に成長するものを指して『魔法少女』と呼んでいたといった方が正しいかもしれないわ」


「魔法少女が魔女に、ね。そりゃひどい話だ」

「うん。そうすると、あたしがオクタヴィアかな?」

「じゃあ私はキャンデロロね」

「アタシはオリーフィアってとこか」


ほむらの目が驚愕に見開かれる。


「どうしてわかるのって顔してるな。分かるよ。
 ほかの世界だろうと、化け物になっちまおうとアタシはアタシだ。『自棄の槍』なんてまったくアタシらしいね」


「そう。なら、もっとほかの魔女の名前を言えばよかったかしら。まあいいわ。
 それで、かつての世界では魔法少女は魔女になる運命だった。しかし、私が廻ったひとつ前の時間軸で転機が訪れたの。
 その転機を起こしたのが、鹿目まどかよ。
 私は彼女を守るため、何度も何度も時間を繰り返した。その過程であなたたちと敵対することも、見捨てることも、手にかけることもあったわ」

「守る、というのはつまり魔法少女、ひいては魔女にしないことね。
 
 でも、言ってはなんなのだけれど、どうしてそんなに苦戦したのかしら。魔法少女が魔女になる事実を伝えれば契約なんてしないんじゃないかしら。
 それとも、何か大きな悲劇を抱えた子だったの?」


『手にかけた』と言ったとき、ほむらはアタシ達の様子を窺うような仕草をした。きっとここが一番後ろめたい部分だったのだろう。
しかし、マミが意に介さずに話を続けると、安堵したような驚いたような表情を浮かべて少し動揺し、落ち着いたのちにマミの問いに答えた。


「…突然現れた転校生にそんなことを告げられても、普通は信じないわよ。今回のあなたたちの対応が異常なの」



確かに、普通なら信じないだろう。あたし達が信用したのは、根底に初対面の時の狼狽と、鹿目ってやつの名前を出した時の悲しそうな背中があったからだ。


「まどか自体は普通の家庭の普通の女の子よ。少し優しすぎるだけの、普通の。
 でも、彼女がその優しさゆえに見過ごすことのできない事態が見滝原で起こるの。それがワルプルギスの夜。『無力の悲劇』『舞台装置の魔女』本名不詳の超弩級魔女よ。
 
 アイツは結界を持たない。一度現出するだけで何千単位の人間が死ぬことになるわ」

「それで、人々を助けるために契約してしまうのね」

「ええ、特に最後の時間軸のまどかの願いは一際大きいものだった。
 すべての魔女を生まれる前に消し去ること、魔法少女を救うこと。それを願ってまどかは、円環の理と呼ばれる概念になったわ。
 
 だから本来はワルプルギスの夜という名前が出てくること自体がおかしいのだけれど」



「つまり、アタシたちが魔女にならないのはそのまどかってやつのお蔭なのか」

「ええ、そうよ」

「よっぽどのお人好しなんだな」

「そうね、そこが彼女の美点であり、欠点だった」

「で、そいつは今概念としてこの世界を見てるわけだろ?そんなやつがワルプルギスの夜——実際に魔女がでるのか、それに相当する魔獣の大量発生化は知らないが——を黙ってみてられんのかよ。なんらか干渉してくるんじゃねえのか」

「それは……分からないわ。今までの様子からして、魔獣の大量発生であれば干渉はしてこないでしょうね」

「私は魔女が出ると思うわ、多分だけれど。
 今日の魔獣、見滝原から逃げるように動いていたでしょう?
 魔獣の大量発生が起こるのならむしろ中心部に集まるように動くのじゃないかしら。」

「でも、魔女だとしたら円環の理が導くはずですよね?
 そうすると…………………どうなるんだろう?」


「はー、ここで話し合っても埒があかないな。とりあえずどっちも対応できるようにしとこうぜ。

 ただアタシは、きっとそのまどかってやつが現れるんじゃないかって思う。世界を救って、最後には親友のピンチに駆けつける。そういうもんじゃん?『最後に愛と勇気が勝つストーリー』ってのは」

「そうだといいわね。私もあってみたいわそのまどかさんに」

「まどかは私と違って、ほとんどの時間軸であなたたちと打ち解けていたわ。きっと仲良くなれるわよ」


そう言ってほむらは不安げながらも微笑んで見せた。


「そういえば、少し話は変わるのだけれど、私は実はこの時間軸の記憶も持っているの」

「それってどういうこと?」

「私が時を繰り返すと、そこにもともといた『私』の記憶は私には引き継がれなかったの。けれど今回はこの時間軸での幼少期からの記憶も残っているわ」

「うーん、それは、今回だけは暁美さんが時間を巻き戻したわけじゃないからじゃないかしら。そのくらいしか理由もないと思うのだけれど」

「そうかもしれないわね。ごめんなさい、あなたたちには興味のない話だったわね」

「そんなことないって。あたしはもっとほむらの話聞きたいな。ほかの世界の話とか」


ほむらは少し驚いたような顔を見せたが、すぐに


「ええ、長くなってもいいのなら」

「大丈夫か?無理しなくていいんだぞ」

「大丈夫よ。少しつらい話になるけど、それはお互い様だもの。

 それじゃあまずは最初の時間軸での話ね。その時私は————」




結局その日はそのまま全員寝ちまって、ワルプルギスの夜の対策をし始めたのは翌日からだった。
主に、魔女が出た場合の対策。ほむらが持っていたワルプルギスの夜の資料を基に話し合いを重ねた。
色々なパターンを想定して連携を組み、イメージトレーニングもして、とれる対策は全部取った。


そして、ワルプルギスの夜当日。
前日からスーパーセルの予報がなされ、住民は全員避難している。
そんな中、アタシ達は橋の上にいた。


「いよいよだな」

「ええ。スーパーセルが来ているということはアイツで間違いないようね」


ほむらがアイツと呼ぶ、魔女ワルプルギスの夜。必ず倒して見せる。


その時、マミが橋の上に一般人らしき少女を発見した。

遠目に見えるのは、桃色と白の衣装と、同じ色の下した髪。
アタシはその少女を見たとき、違和感を感じた。
初めて見るや地相手にこの表現はおかしいかもしれないが、髪型がしっくりこないのだ。多分あの少女は普段はあの髪型ではない。なぜかそう思った。


「おーい、そこのアンター」

「まって、杏子」

ともあれ、ここにいては危険なので避難勧告を出すことにしたが、途中でほむらにさえぎられてしまった。
ほむらがそのまま一歩前へ踏み出すと、少女もまたこちらへ振り向いた。


「あなたがいない世界は、とても寂しかった。皆がいてくれたけど、それで満たされることはなかった」


                    「あなたがいる世界を見ているのはとてもつらかった。手を差し伸べてあげたくて仕方がなかった」


「この世界で、何とか生き延びたわ。忘れていた気持ちも取り戻すことができた。」


                     「すべての世界を見て、やっとわかったの。あなたがしてくれたことも、全部思い出した」


「今、私の絶望が再現されようとしているわ。けれど———」


                     「えへへ、私の願い、否定されちゃった。でも———」












          「——あなたに会えた」










「まどか、これを」

「えへへ、ありがとう」


ずっと借りていたリボン。私に力を与えてくれていたリボンをまどかに渡した。
それで髪を縛ったまどかは、もうあの時別れた彼女そのものだった。


「久しぶりだね、ほむらちゃん」

「ええ、久しぶり。会えてうれしいのだけれど…」


どうしてここにいるのか、それを私が問う前に青い影がまどかに飛びついた。


「まどかぁぁぁぁぁ!!」

「わっ、っと。さやかちゃん大丈夫?」

「ちょっとまってさやか、あなたまどかのこと覚えているの!?」


しかしさやかはただ「まどか、まどか」と繰り返すばかりで返答は返ってこない。
代わりに答えたのはまどかだ。


「多分、私のせいかな?
 結構無理やり来ちゃったから因果とかいろいろ引っ張ってきちゃったみたい」

「そう、そこよ。あなたはなんでここに来れたの?」

「うーん、それを話してもいいんだけど、とりあえず目の前の問題を片付けないと」


そういうとまどかは、私の後方へ視線を移した。


「こんにちは、あなたがまどかさんね」

「はい。えへへ、マミさんに『まどかさん』なんて、嬉しいな」

「あら、前の私はあなたのことをなんて呼んでいたのかしら」

「みんな『鹿目さん』って呼んでくれてました。けど、無理して合わせなくてもいいですよ」

「そう?なら呼びやすいように呼ばせてもらうわ。
 その様子だと私たちの記憶もそのうち戻るみたいだしね」

「ええ、さやかちゃんとマミさんと杏子ちゃんの3人の記憶は多分戻ると思います。ほむらちゃんが回った時間軸分が全部」

「そいつは覚悟しとかなきゃなんねえな」


そういって、マミと杏子は笑った。
彼女たちに記憶が戻ったら、改めて謝らなければならないだろう。
しかし、今はそれどころではない。


「まどか、これからここにワルプルギスの夜が来るのよね」

「うん。ほむらちゃんには辛いかもしれないけれど、大丈夫。
 ワルプルギスの夜はたくさんの魔女の集合体なの。この世界に現れるのはその核だから、ほむらちゃんが戦ったワルプルギスの夜ほど強くはないよ。
 その素体は、あの子」


そういって、まどかが指した先には銀色の髪の少女が倒れ伏していた。


「彼女は?導くことはできないの?」

「名前は、神名あすみちゃん。彼女は私が——円環の理が導くことのできない唯一の例外なの」


「例外?」

「…ほむらちゃん、私の願い覚えてる?
もちろん、魔女を消すこともそうだけれど『今日まで魔女とたたかってきたみんなを、希望を信じた魔法少女を、私は泣かせたくない。最後まで笑顔でいてほしい』それが、私の願いだった。
 でも、あすみちゃんだけは例外なの。彼女は呪いを、絶望を願って魔法少女になったから、円環の理では導けない。一度魔女になって、呪いの部分を打倒されないといけないの」

「それを理由にあなたはここに来れたのね?」

「うん、それも理由の一つだよ」

「お二人さん、話し込んでるとこ悪いけど—————来るよ」


宝石が砕ける音とともに現れたのは忌々しいあの姿。弱体化しているといっても恐怖はぬぐえない。
震える私の手に、まどかの手が重なった。


「大丈夫、ほむらちゃん。きっと勝てる。あすみちゃんも救えるよ」

「ええ。ありがとう、まどか」





その後の戦いはその壮絶さとは裏腹に危なげのないものだった。
事前に用意してきた対策や連携は、弱体化を想定していなかったものだった上、最強の魔法少女であるまどかも加わって、もはや負けは見えない。

ワルプルギスの夜、奴が墜ちる寸前に、さやか、マミ、杏子は一歩退き、私たちにとどめを譲ってくれた。


私とまどかは、背中合わせに弓を構えている。
普段とは逆の手で引く弓は、ひどく頼りなかったけれど、背中の温かさが不安消してくれた。


私の左手に現れたのは漆黒の矢。まどかの加護を外れた破魔の矢。
対してまどかが構えたのは桃色の矢。全てを包む救済の矢。


「ワルプルギスの夜、私はあなたを越えてみせる!」
「神名あすみちゃん、私はあなたを救ってみせる!」


声とともに矢を放ち
   ——————夜が明けた。








「————それでは、私たちの勝利と再会を祝しまして」

「「「「「乾杯!!」」」」」


ワルプルギスの夜の翌日、私たちはマミさんの家で祝勝会を開いていました。


「みんな、本当にありがとう。お蔭でアイツを誰もかけることなく越えることができたわ」

「いいえ、あなたのお蔭よ。私たちからお礼を言いたいくらいだわ」

「マミ……」

「あら?もう巴さんとは呼んでくれないのかしら。対等な感じもいいけれど、慕ってくれる暁美さんも可愛かったわ」

「っ!?もう記憶が戻っていたの?」

「ええ、実を言うと戦闘中にね。集中が乱れて困ったわ」

「あ、ついでに言うとアタシもな」

「そうだ二人とも、今のうちにあれやっちゃおう」


さやかちゃんはそういうと、マミさん、杏子ちゃんの三人がほむらちゃんの前に正座しました。そして——


「「「いろいろ迷惑かけてごめんなさい」」」

「えっ?ちょっと、あなた達なにをしているの!?
 謝るのは私の方だわ」

「いや、アタシたちが謝るべきだよ。アタシたちがもっとアンタの話を聞いてればループはもっと早く終わったはずなんだ」

「そんなこと……
 いえ、そうね。赦すわ。
 そして、ごめんなさい。あなたたちを傷つけて、何より、信じなくて」

「ああ、赦すよ」

「ええ、勿論」

「寛大なさやかちゃんに感謝しなさい」

「えへへ、これで一件落着かな」


よかった。ほむらちゃんと皆も和解できたみたい。
私が胸をなでおろしていると、今度は私に言葉が飛んできた。


「まどか、これを聞くのは怖いのだけれど、あなたはどのくらいの間この世界に居られるかしら」


そっか、そうだよね。
ほむらちゃんは不安そうだ。ほかのみんなも固唾をのんで見守っている。


「うん。私は神名あすみちゃんを導くために来てるから。一応もう一つ使命もあるんだけど、それを含めてもそんなに長くはいられないかな?」

「そう……よね。
 ちなみにどれくらいなのかしら」


「うーん、長くて八十年くらいかな?」

「十分長いじゃない!!」

「えへへ、そうかな?
 ずっと時間の感覚がなかったからわかんなくなっちゃった。
 『円環の理』から『鹿目まどか』の意識を切り離してきてるんだから、ちゃんと思い出さなきゃだめだよね」


嘘。ちょっと意地悪しちゃった。
だって、ずっとずっと一人で、話し相手もいなくて、寂しかったんだもん。
だから、こういう何げないやり取りが楽しくって。


「で、もう一つの使命ってなんなんだ?まさかワルプルギスの朝って魔女がいるとか言わねえよな」

「それはないよ杏子ちゃん。
 使命っていうのはね、魔獣を退治することなんだ。
 私は円環の理になって、魔法少女たちの呪いを受け入れているんだけれど、それにも限界があるの。だから私自身に因果を絡めなおさなきゃいけなくって、一番の近道が魔獣退治なんだ。
 人を助けるとそこに関係が生まれ、因果になるから。
 というわけで、これからよろしくお願いします」


私がぺこりと頭を下げると、皆拍手で歓迎してくれた。
きっと受け入れてくれるとは思ったけど、やっぱりうれしいな。


「それでまどか、家とかはどうするの?」

「あー、どうしよう。
 パパとママは記憶が戻る可能性があるんだけど確実じゃないし」

「これからのことは後で考えましょう。
 とりあえず今日はみんな家に泊まっていきなさい」

「え!?いいんですか?やったぁ!!」

「それじゃ、お言葉に甘えて」

「マミさん、杏子ちゃん、お世話になります」


そのあとは、夜遅くまでみんなで騒いで、誰かがどこかから取り出したお酒でみんな潰れてしまったのでした。








「こんなところにいたの、まどか」

「あれ?ほむらちゃん、起こしちゃったかな」

「いえ、そんなことないわ……それにしても頭が痛い」


私が頭を押さえると、まどかはいつものようにえへへと笑った。
マミの家のベランダで二人で並んで夜風にあたる。


「ねえ。ほむらちゃん」

「なに?」

「本当にありがとう。私なんかの……違うね、私のために頑張ってくれて、嬉しかった。」


まどかのその言葉に私は、不覚にも涙ぐんでしまった。
まどかは、やっとわかってくれたのだ。自分が大切に思われていて、卑下することは相手を否定することで、つまりは自分を大切にしてほしいと私がずっと言い続けてきたことを。


「お礼を言うのは私の方よ。ありがとう、昨日も、そして最初の時も、助けに来てくれて。
 今日、皆の前で自分のことを説明するあなたはまるで————」

——まるで、私が憧れた鹿目さんのようだった。


「まるで、なに?」

「いいえ、なんでもないわ」


私は何を言おうとしたのだろう。
どの時間軸でも、まどかはまどかだったじゃないか。


「ほむらちゃん、今ここにいる『私』は、全部の『私』なんだよ。
 最初から最後までのぜーんぶの『私』。
 だから、勿論全部の記憶があるんだけど、知らない人が自分のこと知っているなんて怖いでしょ?だから——」

「何を言ってるのまどか、怖いだなんて…?」


私がまどかの言葉を遮ろうとすると、まどかは人差し指を唇に当ててこう言った。


「だから、クラスのみんなには内緒だよ?」


そう言って、私の親友で、恩人で、なんでも御見通しの、憧れの人だった元神様は、いたずらっぽく笑ったのだった。


と、いうわけで。本編はこれで終了となります
いや、改めてみると短いですね。長編書いてる人たちを尊敬します。

一応コンセプトは、「ほむらを幸せにしたい」ですね。
それを目指して頑張りましたが、構成力不足と駄文のせいで達成できたかは不明です。


ここまでわたしの駄文を読んでくださって、ありがとうございました。
例のコピペを張ろうかとも思いましたが、予想以上に短かったので自分でお礼を書くことにしました。

まどか「ここまで楽しんでくれた人がいたら、それはとっても嬉しいことだなって」































と、終わる雰囲気を出しつつ、ここではまだ終わりません。

何度も『本編』と強調してきたように、この後おまけ、というかエピローグというか、後日談的なものが少しあります。
明日投下予定ですので、そこまで楽しんでいただければ幸いです。

乙乙
視点変更の時、しっかり名前を書いといたほうがいいな
口調でわかるとしても混乱招くもとになっちまう


あすみちゃん好きなので嬉しかった

>>115
ご指摘ありがとうございます
以後気を付けたいと思います。

>>116
私も好きなので、どうにか組み込めないかと思って入れた次第です
不遇になってしまって申し訳ないと思っています

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