櫻子「好きな人に触れていないと死んでしまうらしい」 (54)

櫻子「こんばんはー! ってあれ、誰もいない……」

櫻子(今日は理科室で生徒会って聞いたけど……私が一番乗りか。先輩方より先って珍しいなー)

櫻子「にしても喉が渇いた。なんか飲み物……お。こんなところにジュースが」

櫻子「ん? なんだ? このドクロマークのラベル。趣味わるっ……だ、だんげあ? 変な名前のジュースだなぁ。まあいいや」

櫻子「ごくごく……」

櫻子「うまい!」

櫻子「はー。早く先輩方来ないかなー」

 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
櫻子(なんでだろう……すごく、息が苦しい……)

櫻子「はぁ……はぁ……」

櫻子(なに、これ……だんだん、息、吸えなくなって……!)

向日葵「こんばんは……あら、珍しいですわね。あなたが一番早く来るなんて……櫻子?」

櫻子「ん、ごほっ、ごほっ……! ごほっ……!! たす、けて……ひま……わり……」

向日葵「さ、櫻子!? 一体どうしたんですの!? 」

櫻子「いき……すえな……」

櫻子(もう、だめ……)フラ…

向日葵「さ、櫻子危ない!」

櫻子「……へ? なんで息、出来るように……」

向日葵「だ、大丈夫ですの櫻子!? あなたさっきまですごく辛そうに……!」

櫻子「う、うん。さっきまで息が吸えなくて、死ぬかと思ったんだけど……」

向日葵「息が吸えなかった? そんなことあるわけ……」

櫻子「ほ、本当だもん! 本当に息吸えなくなってめちゃくちゃしんどくなって、それで……!」

向日葵「そんなこと言われても信じられるわけ……」

向日葵(掴んでいた櫻子の手を何気なく離したその時―――)

櫻子「!?」

櫻子「ごほっ、ごほっ……!」

向日葵「えっ……?」

櫻子「ごほっ……! また、いきっ……すえなく……!」

向日葵(演技してるようになんか見えない……まさか本当に息が吸えなくなって……!?)

向日葵「だ、大丈夫ですの櫻子!? どうしてこんなことが……!」

櫻子「はぁ……はぁ……んっ、はぁ……!」

向日葵(背中をさすっても動悸が止まらない……! 一体どうすれば……!?)

櫻子「ひま……わり……」

向日葵「だ、誰か呼んできますわ! すぐ戻ってくるからここで待ってて!」

櫻子「あっ……やだ……行かないで……!」

櫻子(離れようとする向日葵を止めようと、手を伸ばして―――)

向日葵「さ、櫻子……?」

櫻子「……えっ? あれ、息出来るようになった……なんで?」

向日葵「な、なんでって、そんなのこっちが聞きた……あ、もしかして」

櫻子「へ? 向日葵なんか分かったの!?」

向日葵「櫻子、今は息が出来るんでしょう?」

櫻子「う、うん、そうだけど……」

向日葵「わたくしと手を繋いでる状態ですわ」

櫻子「あーっ!」

向日葵(もう一度手を離して確認してみたいけど……想像の範疇を超えた事態、現状維持が賢明ですわね……)

櫻子「……なんで向日葵と手繋いでなかったら息出来ないんだろう」

向日葵「分かりませんわ。あなた、急にこの症状に見舞われましたの? 何か変なもの食べたとか……」

櫻子「そんなわけ……あ」

櫻子「そこのジュース、飲んだ」

向日葵「ジュース? な、なんですのこれ。ラベルにドクロマーク、Dangerって……あ、あなたなんでこんなもの飲んだの!?」

櫻子「な、なんでって、喉かわいたから……」

向日葵「バカ櫻子! あなたこの文字が読めなかったの!?」

櫻子「う、うっさい! 英語わかんないんだからしょうがないだろ!」

向日葵「読めないにしてもドクロマークって明らかに飲んじゃいけないものでしょこのバカ!」

櫻子「ばかばか言うなバカ! ただの趣味悪いラベルだって思ったんだもん! 飲んじゃいけないなんて知らないもん!」

向日葵「そもそもここは理科室……」

向日葵「西垣先生が日頃から使ってるような場所なのに、そこに置いてあるこんな警告文の書かれた飲み物を飲むなんて……」

櫻子「もしかして、そのジュースが原因……?」

向日葵「それ以外に何があるんですの……」

櫻子「ど、どうしよう……治るよね向日葵……?」

向日葵「……まあ、十中八九西垣先生が作ったものでしょうし、そこは心配いらないでしょう。治す薬か何かあるはずですわ」

櫻子「そ、そっか……そうだよね……」

向日葵「……とにかく、西垣先生を探して事情を説明しましょう」

櫻子「うん……」

 
――――――――――――――――――――――――――――――――
 
西垣「なに!? あの薬を飲んだ!?」

櫻子「ごめんなさい……」

向日葵「すみません先生、わたくしが付いていればこんなことには……」

西垣「分かりやすく危ないものだと書いたつもりだったが、大室には逆効果だったか……」

櫻子「うぅ……」

向日葵「あの、先生。あれは一体どういった薬なんでしょうか?」

西垣「ん? あれか? あれは好きな人に触れていないと死んでしまう薬だ」

櫻子「えっ!?」

向日葵「なっ!?」

西垣「ある知り合いに頼まれてな。私自身出来るとは思っていなくて、面目上作るだけ作った薬なんだが……って聞いてるのかお前ら?」

櫻子(す、好きな人って……確かに向日葵のことは嫌いじゃないけど……)

向日葵(す、好きな人……櫻子のことですし、友達的な意味の方でしょうけど……悪い気はしませんわね……)

西垣「まあいい。その様子だとどうやら成功らしいな。いやー、我ながら自分の才能が恐ろしいよ」

向日葵「な、治す薬も作れるんですよね!?」

櫻子「そ、そうそう! 私このままずっと向日葵と手繋ぎっぱなんて絶対嫌です!」

向日葵「そ、そんなのわたくしも一緒ですわ! なんでよりによって櫻子なんかと!」

西垣「まあ落ち着け。出来るだけ早く作れるように努力はする。しかし……時期は確約できない」

さくひま「……」

西垣「出来るのが明日かもしれんし、1年後かもしれんし」

櫻子「い、1年!?」

西垣「もしかしたら一生出来ないかもな。はっはっは」

向日葵「一生って……笑い事じゃありませんわ!」

櫻子「そーですよ! 絶対なんとかしてください!」

西垣「まー心配するな。一生出来ないは流石に冗談だから」

向日葵(一年後ってのは否定しないんですのね……)

西垣「とりあえず理科室に戻ったらどうだ? 生徒会あるんだろ?」

櫻子「あ、忘れてた! おい向日葵! 早く戻るぞ!」

向日葵(事の重大さを理解してるのかしらこの子……)


―――――――――――――――――――――――――――――――


向日葵「遅れてすみません。杉浦先輩、池田先輩」

綾乃「あら、古谷さんに大室さん。二人して珍しいわね、生徒会に遅刻してくるなんて……?」

綾乃(ど、どうして二人は手を繋いでいるのかしら……)

櫻子「ひ、向日葵と一緒にトイレ行ってました!」

綾乃「そ、そう。ならいいんだけど」アハハ

向日葵(なんなんですのその微妙な嘘……よりによってトイレって……)

千歳「ところで、なんで二人は手繋いどるん?」

ひまさく「!?」

綾乃(さ、流石千歳……私が訊くに訊けないことをさらっと……)

櫻子「えっと、これは、そのー……」

向日葵(……お二人には正直に言った方がいいですわね。隠す理由もありませんわ)

向日葵「実は……」


――――――――――――――――――――――――――――――――


綾乃「西垣先生……またとんでもないものを……」

千歳「素敵な薬やねぇ。死んでまうのはアレやけども」

綾乃「素敵な薬って……千歳の感覚が分からないわ……」

千歳「そう? 好きな人とずっと一緒におれるなんてめちゃくちゃ幸せやん」

櫻子「向日葵のことが好きとかありえませんから!」

向日葵「わたくしこそ櫻子なんか!」

千歳「でもそやったら大室さんはなんで無事なん?」

櫻子「そ、それは……」

向日葵(どうして顔を赤くしますの!?)

千歳(二人ともかわええなぁ)


綾乃「と、とにかく! 事情は分かったわ」

綾乃「今は夏休み中だし、協力出来ることは少ないかもしれないけど……困ったことがあったら遠慮せずに言ってね?」

千歳「どんどん頼ってなー」

向日葵「はい、ありがとうございます先輩方……」

櫻子「心配しなくて大丈夫ですよ! 私が責任もって向日葵の面倒見るんで!」

向日葵「張り倒しますわよあなた……!」

千歳「綾乃ちゃんもその薬飲んでみたら? 歳納さんともっと親密になれるで?」

綾乃「ふ、ふざけるんじゃないわよ!? 私は歳納京子のことなんてこれっぽっちも好きじゃないんだから!」

綾乃(でも、もし本当に飲んだら一日中歳納京子と一緒に……)

千歳「綾乃ちゃんと歳納さんが手繋いでるとこ想像するだけで……いいわぁ……」

向日葵(お二人とも死の危険が伴っているということは分かっているのかしら……)


―――――――――――――――――――――――――――――――――


櫻子「……なんか生徒会やることなかったね」

向日葵「まあ、今日は今後の活動を確認するだけでしたし」

向日葵「こんな状態じゃ仕事どころじゃないから良かったですわ」

櫻子「はぁ。残りの夏休みずーっと向日葵と一緒なんて……不幸だー!」

向日葵「それはわたくしの台詞ですわ。楓の世話もしないといけないし、そもそも家事や料理だって……」

櫻子「そんくらい手伝うよ。……私が悪いんだし」

向日葵「お、驚きですわ。あなたがそんな認識を持っていたなんて」

櫻子「うるさいな。そりゃちょっとくらい罪悪感はあるよ……」

向日葵「その殊勝な心がけを常に持っていて欲しいですわ」

櫻子「調子に乗んなバカ向日葵! 大体いつも一緒にいるみたいなもんだから今さら変わんないだろ!」

向日葵「あなたがいつもわたくしを付き合わせているんでしょうに……」

櫻子「ふっふーん、向日葵は私の下僕だからねー」

向日葵「どうしてそこで得意げになる」

「あー、見てあの子たち、手繋いでるー」

「ふふ、可愛いねー」

さくひま「!?」

向日葵「は、早く帰りますわよ!」

櫻子「ちょ、ま、うわぁ!?」

 
――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
櫻子「……で、どっちの家で過ごすの?」

向日葵「楓が心配ですし、わたくしの家が妥当かしら」

櫻子「ん、了解。どうせ隣同士だしね」

向日葵「先に櫻子の家に入りましょうか。撫子さんたちにも事情を話しておかないと」



櫻子「ただいまー」

向日葵「お邪魔しますわ」

櫻子「喉かわいた! 冷蔵庫になんか無いかなー」

向日葵「さっそく目的を忘れてますわよ……」

櫻子「よっと。ただいま姉ちゃん。あれ、花子は?」

撫子「花子なら今さっきコンビニ行ったよ」

櫻子「コンビニ……アイス買ってきて欲しいな」

向日葵「こんにちは撫子さん。お邪魔していますわ」

撫子「んー。そこに昼ご飯あるから、お腹減ってるなら適当に食べてきな」

向日葵「ありがとうございます。っとその前に少しお話が……ってちょっと櫻子! どこに連れて行きますの!?」

櫻子「喉かわいたって言っただろ。お茶飲ませろ」

向日葵「ホント自由ですわねあなた……」

櫻子「お、シュークリーム発見! これ食べていいー?」

撫子「ダメ。食べたらぶっ飛ばすよ」

櫻子「何故だ!?」

撫子「別になんでもいいでしょ。とにかく食べたらダメだから」

櫻子「むー。ケチケチー」

向日葵「櫻子は食い意地が張り過ぎですわ。そんなことしてたら太りますわよ」

櫻子「太るか! 向日葵じゃあるまいし」

向日葵「な、何を失礼な! わたくしは日頃から間食も控えてバランスの良い食事を……」

櫻子「この前2キロ増えて落ち込んでたじゃん」

向日葵「なな、なんで知ってますの!?」

櫻子「さー、なんでだろうねー。んぐんぐ……うまい!」

向日葵「ちょ、ちょっと! 何をはぐらかしてますの!? ちゃんと訳を言いなさい!」

櫻子「ふっふーん、そうだなぁ、宿題終わってるとこまで見せてくれたら教えてあげてもいいけどー?」

向日葵「くっ……! 卑怯ですわよ櫻子……!」

櫻子「へっへーん、で、どうすんのー? 私は別にどっちでも」

撫子「この前ひま子がうちの体重計使ってたときに覗いてたよ、この子」

櫻子「な!?」

向日葵「さーくーらーこー?」ギュウウ

櫻子「痛い痛い痛い!? 手に力込めないで!?」

向日葵「あなた人のプライバシーをなんだと思ってますの!? 信じられませんわ!」

櫻子「うるさい! 見えるような場所で体重計使う向日葵が悪いんだろ!」

櫻子「そもそも体重くらい家ではかれ! おっぱいもげろ!」

向日葵「今は胸の話は関係ないでしょバカ櫻子!」

櫻子「バカって言うなおっぱい魔人!」

さくひま「うぐぐぐぐ……!」

撫子(仲良いなぁ……)

花子「ただいまー……って櫻子とひま子お姉ちゃんまた喧嘩してるし…… 」

撫子「いつものことでしょ。ニコニコしながら話してる方が気持ち悪いよ」

花子「まあそうだけど……ってなんであの二人手繋いでるし?」

撫子「……触れるんだね、それ」

花子「え、いや、どう考えてもおかしいし」

撫子「まあそうなんだけど……そういえば帰って来てからずっとあのままだ」

花子「一体どういうことだし……」

撫子「まあ本人たちに聞くのが一番手っ取り早いだろうね」

花子(……ここは話の早そうな)

花子「ねえ、ひま子お姉ちゃん。訊きたいことがあるんだけど」

向日葵「あ、花子ちゃん。お帰りなさい。お邪魔していますわ」

櫻子「ってコラ向日葵! 話の途中だぞ! 無視すんな!」

向日葵「うるさいですわね。ちょっとお待ちなさい……で、どうかしました?」

花子「なんで櫻子と手繋いでるの?」

さくひま「!?」

さくひま(か、完全に忘れてた……)

花子「不思議だし」

撫子(子供って無邪気だなぁ……まあ私もずっと気になってたけど)

櫻子「……向日葵、説明して。私話まとめんの苦手だから」

向日葵「随分と潔いですわね……えっと、信じられない話かもしれませんが―――」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

花子「嘘くさいし」

撫子「うん、嘘くさい」

櫻子「おい!」

撫子「でも櫻子だけならまだしも、ひま子までこんなアホなこと言い出すとも思えないし……」

花子「……撫子お姉ちゃん。たぶんイチャイチャするための口実だし」

撫子「なるほど」

櫻子「そんなわけあるかバカ!! てか聞こえてるんだけど!?」

向日葵「さ、櫻子とイチャイチャなんてありえないですわ!」

花子「手繋ぎながら言われてもだし」

撫子(でも嘘ついてるようにも思えないんだよね……)

櫻子「うーん、どうやったら信じてもらえるんだろ……」

向日葵「西垣先生のことを知ってる人ならすぐに信じてくださるんでしょうけど……」

撫子「……ちょっと気になったんだけどさ」

撫子「好きな人に触れてないと死んじゃうらしいけど、その好きな人ってどういう好きな人?」

さくひま「……え?」

撫子「ライクなのかラブなのか。もしライクの方ならひま子に迷惑かけずに済むだろうし」

花子「撫子お姉ちゃん、この二人が言ってること本気で信じてるの?」

撫子「まあ一応。この子たちとの付き合いもかなり長いし、嘘言ってるかどうかくらいは分かるよ」

向日葵「撫子さん……」

櫻子「さすが姉ちゃん! よく分かんないけど花子も見習え!」

花子「うるさいし!」

撫子「話を戻すよ。それを確かめる方法なんだけど……ま、簡単だね。ほら櫻子、掴んでみな」

櫻子「……?」

向日葵「これで発作が起こらなければ前者。……起これば後者ですわ」

向日葵(もし後者なら、櫻子はわたくしのことを……)

櫻子「よ、よくわかんないけど、向日葵の手離して姉ちゃんの手掴めばいいんだよね?」

撫子「そういうこと。何も考えずにやってみな」

櫻子「ほい」

櫻子「!?」

櫻子「ごほっ、ごほっ……!!」

花子「きゅ、急にどうしたし櫻子!?」

撫子(この様子……本当に……!?)

向日葵「さ、櫻子!」ギュ

櫻子「んっ……あ、ありがとう向日葵」

花子「へ? な、なんで? さっきまであんなにも苦しそうに……演技? でも櫻子にそんなこと……」

撫子「出来る訳ないよね」

撫子(世の中には不思議なこともあるんだなぁ……)

櫻子「やっと信じたか! まったく、これだから花子は……」

花子「むむむ……!」

向日葵(うそ……そんな……そんなことって……)

櫻子「どうしたの向日葵?」

向日葵「っ……」

櫻子「な、なんだよ、急に顔赤くして……」

花子(さっきの話の意味、全然わかってないし……)

撫子(この子自身、自分の気持ちがどういうものなのか理解してないんだろうな……)

撫子「……どうするひま子? 花子でもやってみる? なんなら仲の良い友達で試してみてもいいし」

向日葵「いや、もう十分ですわ。撫子さんで発作が起こったんですもの、疑いようがありませんわ」

向日葵「なにより……これ以上櫻子に苦しい思いをさせたくはありません」

撫子「……そっか。優しいね、ひま子は」

櫻子「な、なんだよ。そりゃ私も息出来ないのは嫌だけど……」

櫻子「てかなんで私姉ちゃんと握手させられたの?」

櫻子「ら、らいく? とかラブとかよく分かんないこと言ってたけど……」

花子「し、信じられない英語力だし……」

撫子「まだ中一の夏だけど、それにしても酷過ぎるね……」

櫻子「な、なんだよその目! 言いたいことがあるなら言え!」

花子「櫻子、英語の期末テストの点数何点だったし」

櫻子「忘れた!」

なではな(ダメだこりゃ……)

撫子(……ひま子の方も別の意味で重傷だね。この先どうなるのやら)

向日葵「……」

櫻子「ま、とりあえずそういうことだから。治るまで色々協力してね」

花子「なんか櫻子に言われるとむかつくし……」

撫子「ひま子のためだと思うのがいいね」

櫻子「おい!」

櫻子「あ、そうだ。向日葵、私の部屋行くぞ」

向日葵「ふぁ!? ななな、なんで……!?」

櫻子「着替えるんだよ。制服暑いし動きにくい」

向日葵「き、着替えるって……」

櫻子「ほら、行くよ」

向日葵「ちょっ、まっ」

花子「……一番大変なのはひまお姉ちゃんだし」

撫子「そうだね。櫻子みたいにバカだったら色々考えなくて済むんだけど……」

撫子(……ま、頑張りなひま子)

     
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    
櫻子「うーん、どうしよう。手繋いだままどうやって着替えれば……うーん……」

向日葵「ちょ、ちょっと櫻子、本気で着替えるつもりですの? 別にこのままでも……」

櫻子「なに言ってんだよ。どうせお風呂とか入らないといけないんだし、手繋いだまま服脱ぐ練習しとかなきゃ」

向日葵「て、手を繋いだまま……お風呂……」

櫻子「ど、どうしたんだよ向日葵。さっきからなんか変だぞ?」

向日葵(この状況で変にならない方がおかしいでしょうに……)

向日葵「櫻子、あなた今どういう状況か分かってますの?」

櫻子「?」

向日葵「ふ、服を脱ぐんですわよ?」

櫻子「そりゃ脱がないと着替えられないだろ」

向日葵「わたくしが見ていても何も気にしないんですの!?」

櫻子「向日葵が……見て……?」

櫻子「……」

櫻子「なっ!?」

向日葵(やっと意味が分かりましたわね……)

櫻子「てて、ってことは、おお、お風呂も一緒に入って……!」カァァ

向日葵(そんなにも顔を赤くされるとこっちまで……)

さくひま「……」

櫻子「……ど、どうすんのさ」

向日葵「ど、どうするって……治るまでお風呂に入らないなんてこと出来るわけないんだから……」

櫻子「っ……」

向日葵(櫻子顔真っ赤……)

向日葵「と、とにかく! お風呂のことはそのときにでも考えるとして、今は着替えることに専念しますわよ!」

櫻子「そ、そんなこと言ったって、着替えられるわけ……」

櫻子「そうだ! 向日葵が目閉じればいいんだ!」

向日葵「なるほど、確かにそれなら……櫻子らしい単純な思考が功を奏しましたわね!」

櫻子「なんかバカにされてるような気がするけど別にいいや! あとは、どうやって服脱いだり着たりするか……」

向日葵「素足でわたくしの体のどこかに触れておく、というのはどう?」

櫻子「それだ! えっと、靴下脱いでっと……向日葵も靴下脱いで。足、踏んどくから」

向日葵「分かりましたわ」

櫻子「よし、これで手を離して……」

櫻子「っ!」

櫻子「……」ギュ

向日葵「櫻子? どうしましたの?」

櫻子「……ダメみたい。向日葵の手離したとき、苦しくなった」

向日葵「そ、そんな……!? どうして……」

櫻子「たぶん、手でどこかに触っていないとダメなんだと思う。めんどくさいなぁ……」

向日葵「……冷静になって考えてみると、両手を使えるなら全然難しい話じゃありませんわね」

櫻子「どゆこと?」

向日葵「とりあえず、この状態で片手を使って上を脱いでみなさい」

櫻子「うん……むっ、なかなか難しい……」

向日葵「何をやっていますの……ほら」

櫻子「お、サンキュー向日葵……ってほら。やっぱ脱げないじゃん。手繋いでるとこで引っかかって」

向日葵「少しは頭を使いなさい。両手があるんだからこうすればいいでしょ」パッ

櫻子「おお! なるほど!」

向日葵「ブレザーが脱げるならあとは問題ありませんわね……ワンピースでも手間は同じですし」

櫻子「着るときも同じようにして……」

櫻子「……」

向日葵「?」

向日葵「どうしましたの?」

櫻子「っ……! 目つむれバカ向日葵っ!」

向日葵「あっ……ご、ごめんなさい。つい」

櫻子「うぅ……次見たら許さないからな……!」

向日葵(同性同士だし、そこまで気にしなくていいような気がするんですけど……)

向日葵(自分の身で考えると恥ずかしいですわね……せめて櫻子じゃなかったら……)

さくひま「……」

向日葵「ほ、ほら。目閉じとくから早く着替えなさい」

櫻子「言われなくてもそうしてるよ……」

向日葵(衣擦れの音……わ、わたくしは一体何を……)

櫻子(うぅ、恥ずかしいな……見られてないって分かっててもこんなこと……)



ひまさく(これからどうなるんだろう……)


終わり
 

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