少年「勇者に選ばれたんだ」幼馴染「どゆことー!?」(188)

―――少年宅

幼馴染(13歳♀)「おはようございまーす」

母「あら、どうしたの?」

幼馴染「いえ、なんか話があるっていわれて」

母(35歳♀)「ああ……少し待ってて」

幼馴染「はい」

幼馴染(なんのはなしだろう……ま、まさか……こ、こくはく……?)

幼馴染「きゃー!やだー!そんなことあるわけないなーい!あ、でも……もしかしたらってことも……」

幼馴染「えへへ……」

少年(15歳♂)「―――おはよ」

幼馴染「あ、お、おはよ!!」

―――噴水広場

少年「悪いな。朝早くに」

幼馴染「ううん、いいよいいよ」

少年「……」

幼馴染「あの……は、話ってなにかな?」

少年「あ、のさ……」

幼馴染「う、うん……」

少年「実は、俺……」

幼馴染「ま、まって!!」

少年「え?」

幼馴染「緊張してきた……」

少年「……?」

幼馴染「深呼吸するから待って」

少年「……ああ」

幼馴染「よし!……どうぞ」

少年「俺……勇者に選ばれたんだ」

幼馴染「……はい……え?」

少年「昨日……これが届いた」

幼馴染「手紙……?」

少年「青紙ってやつだ」

幼馴染「うそ……」

少年「来年、俺勇者として旅立つよ」

幼馴染「どゆことー!?」

少年「このことをお前に伝えておこうと思って……」

幼馴染「な、なんで!?なんで君が勇者に……?」

少年「魔王によって勇者の家系が滅んで以降、民衆から選抜してたじゃないか。それぐらい知ってるだろ?」

幼馴染「だ、だからってなんで君が……?」

少年「さぁ」

幼馴染「だって……だって……今まではいかにも強そうな筋肉モリモリの人ばっかりだったのに」

少年「決まったものは仕方ない」

幼馴染「ま、魔物と戦うんだよ……?」

少年「知ってる」

幼馴染「外……怖いよ?」

少年「分かってる」

幼馴染「死んじゃうかも……知れないよ?」

少年「死ぬだろうな……歴代の勇者が誰ひとり帰ってこなかったんだから……」

幼馴染「や、やめなよ……そんなの従うこと……ないよ」

少年「従わなかったら罪になるだろ?」

幼馴染「そうだけど」

少年「母さんに迷惑をかけるわけにはいかない」

幼馴染「来年って……それまでどうするの?」

少年「お城で色んな訓練をすることになってる」

幼馴染「訓練……」

少年「多分、俺を戦えるようにするんだろ」

幼馴染「……」

少年「じゃあ、これで」

幼馴染「あの……」

少年「いつも遊んでくれてありがとう……楽しかった」

幼馴染「……」

少年「バイバイ」

幼馴染「はぁ……勇者だなんて……」

幼馴染「魔王のことなんて……どうでも……よくはないか……」

幼馴染「確か……もう世界の半分ぐらいは支配されてるんだもんね……」

幼馴染「このままお別れなんて……やだなぁ……」

幼馴染「私の想いだって伝えてないし……」

幼馴染「……よ、よし!!」


―――少年宅

少年「なんだよ?」

幼馴染「……あの……」

少年「色々とこっちも準備があるんだけど?」

幼馴染「……えっとね……わ、私ね……」

少年「ん?」

幼馴染「……」

少年「……?」

幼馴染「わ、私……き、君のこと……が……」

少年「……」

幼馴染「あの……」

少年「……」

兵士「―――すいません」

幼馴染「わぁ!?!」

少年「なんですか?」

兵士「王が呼んでいます。一緒に来ていただけますか?」

少年「わかりました。……じゃあな」

幼馴染「あ、うん」

幼馴染「……くそ」

幼馴染「……どうしようかなぁ」

子供「えーん……いたよぉ……」

幼馴染「あれ、どうしたの?」

子供「ころんじゃって……ひざが……」

幼馴染「あ、じっとしてて……いたいのいたいの、とんでけー♪」

子供「あ……きずがなおった……」

幼馴染「もう大丈夫かな?」

子供「ありがとう、おねえちゃん!!」

幼馴染「気を付けてね」

子供「うん!」

幼馴染「……」

幼馴染「……はぁ」

幼馴染「早く、伝えないと……」

―――王城

少年「仲間……ですか?」

王「今のうちに選んでおけ。一年で見つけられない場合は兵士を3人つけてやろう」

少年「はっ……」


―――廊下

少年「……仲間か」

兵士「――聞いたか?また勇者についていく奴、3人選ぶんだってよ」

兵士「でもそれ、勇者が仲間を見つけたらいいんだろ?」

兵士「ばーか。魔王退治なんて誰がいくんだよ」

兵士「それもそうだよな……はあ、選抜された時点で二階級特進だぜ……ったくよ」

兵士「国王も必死なのはわかるけど……単に無駄死にを増やしてるだけだよな」

兵士「勇者がいた国としての誇りを守ろうとしてるんだろうけどな」

少年「……」

―――幼馴染宅

幼馴染「着火!!」

幼馴染「ふぅ……あったかい……」

兄(18歳♂)「またそんなことで魔法使って」

幼馴染「楽だもん」

兄「はいはい」

幼馴染「……ねえ、知ってる?」

兄「なにが?」

幼馴染「……今年、勇者の選ばれた人」

兄「ああ、聞いてる」

幼馴染「なんで……あの子、なのかな?」

兄「城に高名な占い師を呼んで、占いで決めてるって話だな」

幼馴染「……そうなんだ……」

兄「気にするなよ。俺達には関係ない話だ」

幼馴染「そんなことないよ!!」

兄「……」

幼馴染「……だって……私は……」

兄「そーだな。お前はアイツのこと大好きだもんな」

幼馴染「ちょっと、違うよ!!」

兄「早く告れよ。旅立てば取り返しがつかないぞ?」

幼馴染「……むぅ」

兄「勇者か……」

幼馴染「魔王なんかに、人間が勝てっこないのにね……」

兄「そんなことみんな知ってる。でも、戦わないわけにはいかない」

幼馴染「……」

兄「はやいとこ気持ちの整理はしとけよ?」

幼馴染「気持ちの整理……」

―――翌日 少年宅

少年「じゃあ、行ってきます」

母「体には気を付けるのよ?」

少年「週末は帰ってこれるよ……城の兵士寮にいるだけだし、何かあったらすぐに帰ってくるから」

母「うん……」

少年「母さん……ありがとう」

母「……うん」

少年「……」

少年(死ぬための訓練が始まるのか……)

少年(嫌だな……)

少年(はぁ……)

幼馴染「―――待って!!」

少年「え?」

幼馴染「間に合った……」

少年「お、おまえ……なんだよ、その大荷物……」

幼馴染「ふっふっふ……じゃーん!!」

少年「おま……それ青紙……?!」

幼馴染「志願したらすぐくれた」

少年「な、なにかんがえてんだよ!?」

幼馴染「これで私も勇者だー!!あっはっはっは!愚民ども、ひれふせー」

少年「おい!!」

幼馴染「……これで寂しくないでしょ?」

少年「お、まえ……」

幼馴染「ごめんね。でも、君をこのまま行かせたくなかったから……」

少年「バカな真似はよせ」

幼馴染「もう紙もらったし、今更断れないよ」

少年「なんで……そんなこと……」

幼馴染「だって……」

少年「バカ野郎……」

幼馴染「……ごめん」

少年「……ほら、荷物かせ」

幼馴染「え?い、いいよ」

少年「半分もってやる。貸せ」

幼馴染「あ、ありがとう……」

少年「死ぬんだぞ?」

幼馴染「死なないよ」

少年「なんで……?」

幼馴染「君と私なら、死なない」

少年「どこにそんな根拠が……」

幼馴染「なんとなく♪」

少年「バカ」

幼馴染「君もね」

少年「あー、そうかもな」

―――幼馴染宅

母「ごめんください」

兄「はい?――ああ、どうも」

母「妹さんが勇者に志願したって」

兄「ええ、バカな妹ですよ」

母「貴方は?」

兄「……なにがですが?」

母「気持ちの整理……できましたか?」

兄「……」

母「止めるなら今しか……」

兄「貴女は止めないんですか?」

母「私は……」

兄「勇者なんてただの死地への流刑だ……止めないわけがない」

母「……」

兄「でも、あいつは止まらなかった。止まらなかったんですよ……」

―――王城

王「来たか」

少年「はい」

幼馴染「はっ!」

王「お前たちには期待している……精進するようにな」

少年「はい」

幼馴染「はい!がんばります!!」

王「では、二人を寮に」

側近「はい。――こちらです」

少年「……」

幼馴染「どんな部屋か楽しみだね」

少年「そうか?」

―――寮

寮長(18歳♀)「こんにちはー」

幼馴染「こんにちはー」

少年「おはようございます」

寮長「あ、そっか。まだおはようございますの時間ね。じゃあ、おはようございます」

幼馴染「おはようございます」

寮長「はい。元気が一番ですね」

幼馴染「えへへー」

少年「……」

側近「では、あとは任せてよろしいか?」

寮長「はーい。私にドーン!と任せてください!」

側近「では、頼みました」

寮長「さ、部屋の案内をしますね」

幼馴染「(寮長さん、綺麗な人だね)」

少年「(あ、ああ)」

寮長「部屋は相部屋がいいですか?」

幼馴染「え?!!?」

少年「そ、それは嫌です!!」

幼馴染「なんでよー!!」

少年「色々困るだろうが!!」

幼馴染「例えば?」

少年「着替えとか……」

幼馴染「あ、それもそっか」

少年「バカだろ、お前」

寮長「じゃあ、相部屋でいいの?」

少年「違いますよ!!」

寮長「冗談ですって」

少年「はぁ……」

寮長「じゃあ、貴方はこの部屋、貴女はその隣でいいですか?」

幼馴染「はーい。かまいませーん」

寮長「―――はい、ここでの決まりは以上です。なにか質問はあるかしら?」

幼馴染「他の部屋に遊びに行ってもいいんですか?」

寮長「まあ、いいけど。女の子が男の子の部屋に行くのは感心しないわ」

幼馴染「どうして?」

寮長「だって……ほら……もう、いわせないで」

少年「この人、大丈夫か……?」

寮長「これから大変だろうけどがんばってね!」

幼馴染「お世話になります」

寮長「お世話します」

少年「じゃあ、そろそろ」

寮長「はい。明日からがんばってね」

幼馴染「はい」

寮長「うふふふ」

少年「変な人……」

幼馴染「そうかな?」

―――翌朝

寮長「―――みなさぁぁぁぁん!!!朝ごはんできましたよぉぉぉぉぉ!!!!!」

兵士「おはよぉございまーす」

寮長「はい。おはようございます」

少年「―――びっくりした」

幼馴染「寮長さん、おはようございます」

寮長「おはよー」

少年「今のはなんですか?」

寮長「え?みなさんに朝食のお知らせをしただけですが?」

幼馴染「いい目覚ましでした」

寮長「もう、褒めたってなにもでないぞ♪」

幼馴染「それに美人だし。寮長さんってパーフェクトですね」

寮長「もう!―――お味噌汁大盛りにしてあげる!」

幼馴染「わーい!……お味噌汁か……」

―――食堂

寮長「はい」

幼馴染「お味噌汁が丼に入ってる……」

寮長「いっぱい食べてね?」

幼馴染「はい……」

少年「自業自得だな」

幼馴染「うるさいなぁ」

寮長「はーい。みなさん、手を合わせてください。いただきます」

「「いただきまーす」」

少年「……あ、おいしい」

幼馴染「ズズズズ……減らない……」

少年「なんかすごい光景だな」

幼馴染「そう思うなら手伝ってよ!」

少年「やだよ」

寮長「うふふ。仲がいいんだ、あの二人」

「あれが、例の?」

「ああ、勇者様だな」

「まだガキじゃねーか」

「つーか、仲間は見つかったんだろうな……」

「俺、魔王退治になんていきたくないぜ」

「だよな」

少年「……」

幼馴染「ほ、ほら、気にしない気にしない」

少年「でも……」

「あででででで!!!!!!」

少年「え?」

寮長「こら!食事中は黙ってたべる!!」

「す、すいません!!み、耳をひっぱらないで!!」

寮長「よろしい」

幼馴染「すご……兵士さんが……寮長さん、強いんだ……強いのかな?」

―――訓練場

兵士長「では、剣術の訓練からだ!!素振り100本、始め!!」

「えい!えい!!」

少年「えい!えい!!」

幼馴染「はっ!はっ!」

兵士長「おい」

幼馴染「え?」

兵士長「もっと腕を上げろ」

幼馴染「あ、す、すいません……ふっ!」

兵士長「駄目だ。もっと」

幼馴染「は、はい……!」

兵士長「女、子どもだからと甘くはせんぞ?」

幼馴染「は、はい……上等であります……ふっ!」

兵士長「……」

兵士長「実践訓練だ。二人前へ」

兵士「……」

少年「……」

兵士長「始め!!」

兵士「でぁぁぁぁぁぁ!!!!」

少年「はぁぁぁぁ!!!!」

兵士「―――あがぁ?!」

少年「……ありがとうございました」

兵士長(ほぉ……見事な剣捌き……勇者として選抜されるだけのことはあるか)

幼馴染「おねがいしゃっす!!」

兵士「いくぞ!!」

幼馴染「おりゃぁぁぁ!!!―――あわわわわ!!!!」

兵士「……おい、勝手に転ぶな」

幼馴染「す、すいません……」

兵士長(こちらは剣に振り回されている……駄目だな)

兵士長「それまで!!では、休憩後は魔術訓練に入る!!」

「「はい!!」」

少年「大丈夫か?」

幼馴染「な、なんとか……」

兵士長「おい」

少年「あ、はい」

兵士長「お前、見所があるな。これからもがんばってくれ」

少年「は、はい!」

兵士長「ではな」

幼馴染「すごいね。兵士長さんに褒められたよ!!」

少年「いや、多分初めてにしてはってだけだと思う……」

幼馴染「それでもすごいって!」

少年「そ、そうか……?」

「……ちっ」

「良い気になりやがって。訓練と実戦は違うっつーの」

魔術師「では、魔術訓練を始めます。今日は火の呪文です」

幼馴染「はーい!!はい!はい!!」

魔術師「なんですか?」

幼馴染「私、それできまーす!!」

魔術師「え?」

幼馴染「いきますよー!てぃ!!」

「「おぉー!!」」

少年「……」

幼馴染「どうですか?」

魔術師「わんだほー!!どこで習ったんですか?」

幼馴染「兄が元魔術師でそれで色々……えへへ」

魔術師「すんばらしい!!才能ありますよ、あなた!!」

幼馴染「いやぁ……それほどでも……」

少年「つっても簡単なやつだけだよな」

幼馴染「うるさいなぁ」

「他には何かできるの?」

幼馴染「火と氷と雷と……」

「すっげー」

「俺にも教えてください!!!」

幼馴染「あ、えと……」

魔術師(あの魔術センスは中々……)

少年「は!!」

少年「やぁ!!」

「クスクス……」

「あいつ、小さな火も出せないでやんの」

「あれで勇者かよ……笑わせんな」

少年「……」

魔術師(こちらはダメですね)

―――夕方

兵士長「では、本日の訓練はこれで終わりだ!!」

「「ありがとうございました!!」」

少年「はぁ……はぁ……」

幼馴染「やばい……これは……死ぬ……」

兵士長「お前達」

少年「あ、はい」

幼馴染「なんですか?」

兵士長「お前は剣術の、お前は魔術の才能があるようだな」

少年「い、いえ……」

幼馴染「そ、そんなことは……」

兵士長「お前たちには期待している。頑張って欲しい」

少年「……はい」

幼馴染「ありがとうございます!」

兵士長(実に惜しい人材だ……このまま兵士と術師として育てれば間違いなく大成しただろうに)

―――寮

寮長「あ、おかえりなさーい!」

幼馴染「おむ!?―――寮長さん!そんな抱きつかないで……」

寮長「おかえりー!!」

少年「わぷ!??」

幼馴染「きゃぁぁ!!!」

少年「な、なにするんですか!?!」

寮長「おかえりのハグだけど?」

少年「そ、そんなことしないでください!!」

寮長「そう?胸とか気持ちよくなかった?大きさだけでには自信あるんだけど」

幼馴染「……はぁ」

少年「なに溜息ついてんだよ」

幼馴染「だってぇ」

寮長「さ、夕飯の準備はできてますよ。食堂にレッツゴー!」

幼馴染(こ、これからだもん!!)

―――食堂

寮長「あ、隣いい?」

少年「あ、どうぞ」

幼馴染「もぐもぐ……」

寮長「二人とも兵士長から褒められたんだって?」

少年「え……どうしてそれを?」

寮長「うふふ。私、耳年増なの」

幼馴染「なんか意味が違うような」

寮長「でもすごい。あの兵士長、新兵とか訓練生を褒めることなんて滅多にないのよ?」

少年「そうなんですか?」

寮長「うん!もうね、あの人に褒められたいからがんばってる人もいるぐらいだし」

幼馴染「へぇ」

寮長「厳しいけど優しい人だから、人望もあるしね。だから二人ともあの人の期待に応えなきゃだめだぞ?」

少年「わ、わかりました」

幼馴染「がんばります!!」

―――夜 庭

少年「……悪いな、呼びだして」

幼馴染「どうしたの?」

少年「……呪文、教えてくれないか?」

幼馴染「え……?」

少年「剣術は前から趣味程度に齧ってたけど、魔術のほうはさっぱりだったから」

幼馴染「あ、そっか……」

少年「だから……色々、教えてほしい」

幼馴染「良いけど……条件」

少年「条件?」

幼馴染「うん!」

少年「なんだよ……?」

幼馴染「……剣術、教えて?」

少年「……ああ、わかった」

幼馴染「ありがと。……いっぱい訓練して生き残ろう……絶対に」

―――数週間後 訓練場

幼馴染「せぇぇぇい!!!」

「ぐぁ!!?」

兵士長「そこまで!!」

幼馴染「や、った……初めて……勝った」

兵士長「やるな……」

幼馴染「え」

兵士長「とんでもない成長ぶりだ……感服した」

幼馴染「あ、いやいや……そんなことは……」

少年「でぁぁ!!」

「ぁぎゃ!?」

少年「ありがとうございました」

「くそ……」

兵士長(こいつらなら……いや、それでも魔王には到底叶うまい)

兵士長(本当に惜しい……国を担う才能ある若者を見す見す死なせるなんて……)

少年「はぁぁぁ!!!」

魔術師「おぉーー!!えくせれんと!!」

少年「はぁ……いや、まだ火を出せるようになっただけで」

魔術師「いやいや。才能がないと思っていましたが、やはりすごいですね」

少年「え?」

魔術師「あなたには努力の才能がありますね。これからも己を磨いてください」

少年「はい。ありがとうございます」

幼馴染「それそれそれー!!!!」

「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」

「火の玉を連射するのはやめろぉぉぉ!!!」

幼馴染「あははー、たのしいー」

魔術師(この二人……成長が著しい……)

魔術師(何か特訓をしてますね……。この歳で立派な事です)

「くそ……あいつら、少し褒められたからって粋がりやがって」

「マジで一度分からせたほうがいいかもしれないな……」

―――夜 寮の庭

幼馴染「せいや!!!」

少年「だめだめ。腰をもっと下げて」

幼馴染「むずかしいなぁ」

「よう」

少年「あ、どうしたんですか?」

「さすが優等生だな。いつもこんなことしてたのか?」

「偉いなぁ。マジで尊敬するぜ」

幼馴染「そ、それはどうも」

「でも、実戦はまだなんだろ?」

少年「え、ええ」

「なら、今度実戦しにいくか」

幼馴染「実戦って……?」

「魔物とのだ」

少年「魔物と……?」

―――週末

「んじゃ、行くか」

少年「あの、勝手に行ってもいいんですか?」

「ちゃんと兵士長の許可は貰ってるよ」

「ああ、問題ない」

幼馴染「それなら大丈夫ですね!」

「おう」

「へへっ」

少年「……」

「なんだよ?」

少年「いえ……どこに行くんですか?」

「ここから西にある洞窟だ。いい感じに魔物が多くて実戦になるぜ?」

寮長「あれ?みなさんどちらへ?」

幼馴染「少し自主訓練に行ってきます!」

寮長「そ、そう……気をつけてね」

―――洞窟

「ここだ」

幼馴染「うわ……暗い」

少年「たいまつとかいるんじゃないですか?」

「バカ。そういうのは全部魔術で代用するんだよ」

「じゃないと訓練にならないだろ?」

幼馴染「なるほど……それもそうですね!」

少年「えと……どうすれば?」

「この洞窟の奥にある光る石をもってこい。それが訓練成功の証になる」

「がんばれよ」

幼馴染「あれ?二人は行かないんですか?」

「まずはお前らが先だ」

「へへっ、そうだ」

少年「わかりました」

幼馴染「じゃあ、いってきまーす」

幼馴染「く、暗いね……」

少年「あんまりくっつくなよ。動きにくいだろ」

幼馴染「で、でも……怖いし」

少年「俺が守るから」

幼馴染「ほ、ほんとに?」

少年「ああ」

幼馴染「じゃ、信じる、よ?」

少年「……守るに決まってるだろ」

幼馴染「ど、どうして?」

少年「俺が……勇者になった……理由……だから」

幼馴染「……」

少年「お、おい、なんか言えよ……恥ずかしいだ―――」

幼馴染「ま、まえ……」

少年「え?」

魔物「―――」

―――寮

寮長「……自主訓練であの装備……どこか魔物の巣でも行くような……」

兄「―――ごめんください」

寮長「あら。あなたは」

兄「ご無沙汰しています」

寮長「あはは。久しぶり!」

兄「お変わりないようで」

寮長「君もね」

兄「退役してまだ2年です。変わりようがありません」

寮長「そっか。君が抜けてからそんなに経つか……早いね」

兄「貴方も昨年、一線を退いたと聞きました。勇者と共に旅立ち、唯一生き残ったというのに」

寮長「戦うことが怖くなっただけ……ただの臆病者なの」

兄「そんなことは……」

寮長「それで、用件は?」

兄「ああ、妹に渡したい物があったんですが。いますか?」

寮長「あ、ごめんね。妹さんは今、外に」

兄「外?そうか……参ったな……」

寮長「私が渡しておきましょうか?」

兄「助かります」

寮長「これは……?」

兄「魔道書です。そろそろ渡しておこうかと思いまして」

寮長「へえ……すごい年代物ね」

兄「我が家系に受け継がれてきたものですから」

寮長「そうなんだ」

兄「本当は妹に渡したくなんてなかったんですけど」

寮長「……」

兄「アイツはバカだから……真直ぐで……」

寮長「お兄さんも大変ね」

兄「いや……まあ」

寮長「じゃあ、これは預かっておくわね」

―――洞窟

少年「―――はぁぁぁ!!!」

魔物「ァァァァァ……」

少年「よ、よし……」

幼馴染「大丈夫!?」

少年「あ、うん……平気……」

幼馴染「ね、戻らない?」

少年「大丈夫……いける」

幼馴染「……私、怖い……」

少年「俺がいる……大丈夫だ」

幼馴染「う、うん……」

少年「行こう」

幼馴染「……」

少年「はぁ……はぁ……うぇい!!」

魔物「ォォォォォ……」

少年「いっ!?」

幼馴染「今、治癒を……」

少年「悪い……」

幼馴染「……はい。もう痛くない?」

少年「ああ、大丈夫だ。サンキュ」

幼馴染「それにしても、結構歩いたよね……まだかな?」

少年「きっともうすぐだ……」

幼馴染「だといいんだけど……」

―――ヴァァァァァァァン!!!!!!!

少年「!?」

幼馴染「な、なに……今の雄叫び……」

少年「この奥に何かが……」

幼馴染「や、やだ……帰ろうよ!」

―――王城

兵士「―――次の遠征はこのように」

兵士長「そうだな」

寮長「――あのぉ」

兵士長「む……おお!!どうした?」

寮長「えっと……少し聞きたいことが」

兵士長「なんでも言ってくれ」

寮長「あのですね、自主訓練の許可って出されました?」

兵士長「自主訓練?内容は?」

寮長「恐らく、魔物の討伐かなにかじゃないかなって」

兵士長「それは知らないな。どうかしたのか?」

寮長「やっぱり……」

兵士長「どうかしたのか?」

寮長「実は……」

―――街

兄「これをください」

店員「ありがとうございますー」

兄「さてと……帰ろうか」

寮長「あ!!」

兄「ん?」

寮長「あの……一緒に来てくれませんか?」

兄「どこへ……?」

兵士長「―――君は!!」

兄「兵士長殿!?あ、あなたまで……一体、何が……?!」

兵士長「君の妹さんがあの洞窟に向かったらしい」

兄「洞窟って……あそこは最近、凶悪な魔物が住み着いたって……」

兵士長「ああ。だから迎えにいこうと思う。……兵を連れていければよかったが、兵を集めるには王の許可がいるのでな」

寮長「外出許可ならすぐに下りますからね」

兵士長「故に君のような手練が欲しい。来てくれ」

―――洞窟

魔物「ヴゥゥゥゥゥ………!!!!!!」

少年「で、でかい……?!」

幼馴染「や、やだ……帰ろう……ね?帰ろう?」

少年「で、でも……あいつの後ろに……石が」

幼馴染「も、もういいよ……まだ、あんな奴に勝てっこないって」

少年「……」

幼馴染「はやく……見つかっちゃう……!!」

少年「お前はそこにいろ」

幼馴染「ちょ……どうして!?」

少年「このまま石を持って帰れなかったら、きっとあの人たちは俺とお前を陰で貶めようとする」

幼馴染「え……」

少年「初めからあの人たちは俺たちが訓練もこなせないダメな勇者だって流言したいだけだ」

幼馴染「そ、そんな分かってるなら……」

少年「……俺はいい。でもお前を悪く言われるのは我慢できない」

幼馴染「そんなの私は―――」

少年「見ててくれ」

幼馴染「だめ!!!」

魔物「……!?」

少年(大丈夫……戦わなくていい。石さえ取れれば)

魔物「ヴォォォォォォォォォン!!!!!」

少年「尻尾!?」

少年「―――ぎぃ!?!」

幼馴染「逃げて!!逃げてよ!!!」

魔物「ォォォォォォォォォォォン!!!!!」

少年「く、そ……がぁ!!」

少年「―――皮膚が硬い……!?」

魔物「ヴィィィィィィィ!!!!!」

少年「あ―――」

幼馴染「いやぁぁ!!!」

「アイツら遅いな」

「だな」

兵士長「―――おい」

「え―――ぐは!?」

兵士長「何故、殴られたかわかるな?」

「え……あ、の……」

兵士長「お前らはもう兵士ではない。荷物をまとめて故郷へ帰れ」

「そ、そんな……」

兵士長「規律を守れず命を投げ出す奴は私の部下にいらん!!」

「……」

寮長「いそぎましょう」

兄「ああ」

兵士長「いくぞ」

寮長「―――いた!!」

兄「おい!!しっかりしろ!!」

兵士長「二人とも……」

魔物「ォォォォォォォォン!!!!」

寮長「見つかった!?」

兄「援護します!!」

兵士長「頼む!!」

寮長「……っ」

兄「大丈夫……貴方なら」

寮長「……ふー……そうね……久しぶりだから、すこし怖いだけ……」

兵士長「お前の力が必要だ……すまないが……」

寮長「はい……やれます!!」

魔物「ォォォォォ!!!!!」

兵士長「くるぞ!!」

寮長「はぁぁぁぁ!!!」

―――医務室

医者「……」

兵士長「どうでしたか?」

医者「絶望的です……今夜持てばいいほうでしょう……」

兄「そ、んな……」

医者「もう一人も出血が激しく、すぐにでも輸血が必要ですね」

寮長「血は……?」

医者「あの二人は血液型が同じで……許可さえ頂ければ……」

兄「……でも、弱ってる状態で血を抜けば……」

医者「ですが、一人はもう……」

母「―――あの!!」

兵士長「来られましたか。申し訳ありません。私の監督が……」

母「いえ……それで二人の容体は?」

兵士長「芳しくありません……」

医者「あの……輸血は……どうされますか?このままでは二人とも死んでしまいます」

兄「……」

母「……」

医者「許可を……」

王「―――話は聞いた。構わん。やれ」

兵士長「王!?」

寮長「……!?」

王「勇者となるものを殺すわけにはいかん」

兄「お、お言葉ですが……それでは一人が死んでしまうんですよ!?」

母「……あなた……」

王「輸血は間に合わんのだろう?」

医者「……はい」

王「ならばやれ。どうやら親族も血液型が違うのか血を分けられんようだしな」

兄「……」

母「……」

王「わしが許可する。今すぐ勇者の片割れだけでも救え」

―――数日後 病棟 個室
 
「………」

兵士長「気がついたか?」

「……はい」

兵士長「私が誰か分かるか?」

「兵士長さん……」

兵士長「ああ、そうだ」

「あの……アイツは……?」

兵士長「……すまない」

「そ、うですか……」

兵士長「……もう少し早く駆けつけていれば……いや、そもそも自主訓練など禁止にしておけば……」

「……」

兵士長「うぅ……」

「……死んだんだ……アイツ……」

「勇者の……くせ……に……」

―――数ヵ月後

「やぁぁぁぁ!!!!!!」

訓練生「あぐ!?」

「まだまだぁぁぁ!!!!」

訓練生「ま、まってくれ……も、もう!!」

「うあぁぁぁぁぁ!!!!!」

兵士長「そこまでだ!!!」

「はぁ……はぁ……」

兵士長「やりすぎだ……」

「すいません……」

訓練生「こ、こええ……」

兵士長「……少し休め」

「はい……すいませんでした」

訓練生「あ、いや……」

兵士長(やはりまだ立ち直ってはいないのだな……)

―――夜 庭

「はっ!!ふっ!!やっ!!」

寮長「……あの」

「……なんですか?」

寮長「もう寝た方がいいよ?」

「もう少しだけ……」

寮長「そう……あ、そうだ。これ渡しそびれてたんだけど」

「これは?」

寮長「魔道書。是非ともあなたにって」

「誰が……?」

寮長「一人しかいないでしょ?」

「……」

寮長「お礼、言っておいた方がいいわよ?」

「はい」

―――特別病棟 個室

兵士長「……失礼する」

母「あ……」

兄「兵士長殿」

兵士長「なんだ。二人もお見舞いか」

兄「ええ……こんな状態でも生きてるのが不思議ですけど」

母「でも……もう目を覚ますことはないんですよね……?」

兵士長「……」

「失礼します」

兄「あ……来たのか?」

母「無理しなくても……」

「……必ず、生き返らせます……」

兵士長「だが……もう……」

「絶対に……生き返らせる……」

「そのためにも強くならなきゃ……もっと……」

―――寮

寮長「少し危ういです」

兵士長「そうか。夜な夜な訓練を」

兄「バカが」

兵士長「奴は魔王の討伐よりも人を蘇生される術を探そうとしている」

寮長「責任を感じているんでしょうか?」

兵士長「……だろうな。目の前で最愛の人を失ったのと同義だ」

兄「ですが、人を蘇生させる魔術なんてこの世に……」

兵士長「……魔王ならあるいは」

寮長「兵士長!!」

兄「魔王……?」

兵士長「魔王は死人をも操ると聞く。魔王なら蘇生術を知っている可能性がある」

寮長「魔王……」

兄「魔王ですか……」

兵士長「……ああ。そこでだ、一つ頼みたいことがある」

―――半年後 王城

王「よくぞ一年間にも及ぶ訓練を耐え抜いた。今日よりお前を真の勇者と認めよう!!」

勇者「はい」

王「して、仲間は?」

勇者「いえ……」

王「そうか。では、三名お前に与えよう」

勇者「すいませんが、一人でいいです」

王「なに……?」

勇者「一人で……構いません」

王「お前……一人でどうにかなるとでも―――」

勇者「ここの兵士はみんな弱い。自分よりも格段に」

王「き、貴様……!?」

勇者「弱い仲間なんて必要ありません。それでは」

王「ま、またぬか!!」

勇者(魔王なんてどうでもいい……人を蘇生させる術を見つけるんだ……この旅で)

―――特別病棟 個室

勇者「じゃあ、行ってくるよ」

「……」

勇者「……じゃあ、また」

「……」

勇者「……絶対に目覚めさせてみせるから」

「……」


―――街

勇者「……貴方達は!?」

戦士「これでも現役だ。戦える」

武道家「寮の戸締りは完璧です。行きましょう」

賢者「魔王に訊いてみればいい。蘇生術はな」

勇者「………いいんですか?」

戦士「もう国に仕えるのが嫌になった。だから、行こう」

勇者「……はい」

―――街道

勇者「――――はぁぁぁぁ!!!!」

戦士「ふん!!!」

武道家「せいやぁ!!!」

魔物「ガァァァ……」

賢者「みなさん、流石ですね」

勇者「……先を急ぎましょう」

戦士「……」

武道家「あの、そんなに焦らなくても……」

勇者「……焦ってなんて」

賢者「落ち着け……浅慮な行動は命を縮めるだけだ」

勇者「ちゃんと考えてますよ」

戦士「ふむ……ならばいいが」

勇者「……」

―――数週間後 夜営

戦士「まだ寝ないのか?」

勇者「はい……魔道書を見ていました」

戦士「何かあるのか?」

勇者「最後のページに……この世の者では扱えない魔術として記載されているものが」

戦士「それを覚えようとしているのか?」

勇者「はい」

戦士「なぜだ?」

勇者「魔王を倒すため」

戦士「……」

勇者「それしかないじゃないですか」

戦士「そんなことをしても魔王は……倒せんよ」

勇者「何故です?」

戦士「私は目の前で多くの部下を失った……兵士長になったばかりのときだ」

勇者「魔王の討伐に……?」

戦士「勇者による討伐が悉く失敗していたとき、私が王に願い出たのだ。兵を連れて魔王を倒すとな」

勇者「……」

戦士「お前をみていると、まるであの時の私のようだ」

勇者「え?」

戦士「何も考えず、自分の実力を過信し、前を見ることしかしない」

勇者「自分はそんなこと……」

戦士「目の前で愛する人を失ったことをもう忘れたのか?」

勇者「……し、死んでなんかいません!!」

戦士「お前が死んでは意味がない。だから、焦るな」

勇者「自分は……」

戦士「見張りは私がしよう。もう休め」

勇者「はい……」

戦士「……必ず見つける」

勇者「……」

戦士「蘇生させる術を……」

―――山脈

賢者「―――この最後の魔術?」

勇者「うん」

賢者「よく知らないな。習得した者は大昔の大賢者だけだと聞くし」

勇者「……魔王でも一撃で倒せる魔術なら……」

賢者「どうだろうな……だが、そんな魔術は使わない方がいいだろう」

勇者「どうして……?」

賢者「術者の身が滅ぶだけだ」

勇者「……」

武道家「―――はぁぁ~つかれたー」

戦士「もう少しだ。がんばれ」

武道家「もう少しって景色全部山ですけど!?」

戦士「もう少しだ」

武道家「詐欺だ!!」

―――荒廃の村

勇者「酷い……」

武道家「……ここからは魔王の領地ってことですね」

戦士「……数年前は平和だったのに」

武道家「私の時もここはまだ普通の農村でした」

賢者「では、この先はもう危険な魔物が……」

戦士「いるだろうな。それともう街や村はないと思った方が良い」

勇者「そう、ですね……」

賢者「いこう……墓も作ってやれないよ。こんな場所では誰も眠りたくないはずだ」

勇者「わかった」

戦士「いくぞ」

武道家「……っ」

勇者「どうしたんですか?」

武道家「う、ううん……なんでも……」

武道家(足の震えが……なんで……!?)

―――魔王城

勇者「……」

戦士「準備はいいか?」

賢者「いつでも」

武道家「は、はい……」

勇者「あの」

武道家「な、なに……?」

勇者「生きて帰りましょう、絶対に」

武道家「……もっちろん!!」

勇者「大丈夫。自分もみなさんも強いです……きっと勝てます」

武道家「ごめんね……一度逃げた身だから……」

勇者「……」

武道家「魔王の強さを知ってるから……どうしても心が怖がってる」

―――魔王城内

魔王「―――来たか」

勇者「魔王……」

武道家「ひっ……」

戦士「久しぶりだな」

魔王「すまんな。人間の顔など覚えておらん」

戦士「貴様……?!」

賢者「挑発に乗ってはいけない」

魔王「ふふふ……ここまでたどり着ける人間がいるとは思わなかったぞ……」

勇者「魔王……」

魔王「―――死人たちよ!」

ゾンビ「おぉぉぉお……」

戦士「こ、こいつらは!?」

魔王「かつては人間だったものたちだ。ここまでこれたのだ、死人ぐらいわけもないだろう?」

武道家「……外道」

ゾンビ「おぉぉぉお……」

賢者「すいません……もう眠ってください。―――はぁぁぁぁ!!!」

ゾンビ「「おぉぉぉぉぉおおおお!!!!」」

魔王「ほお……業火で一掃とは……ふふふ」

勇者「やはり……魔王は死人を甦らせる術を知っているんだ」

魔王「ああ、その通りだ」

勇者「その術、教えてもらう」

魔王「なんだ?生き返らせたい者でもいるのか?」

勇者「そうだ」

魔王「くくく……ならばここに連れてこい。すぐに蘇生させてやるぞ?」

勇者「え……?」

戦士「なんだと?」

武道家「う、うそよ……そんなこと……お、おまえがするわけ……」

魔王「ふん、信じられんのならば我を倒せばいい。それだと生き返らせる術は手に入らんがな……」

賢者「……」

球、系

魔王「さあ、どうする?」

勇者「その蘇生術だけを教えては……?」

魔王「やれんな」

戦士「なら、何故蘇生させてやるなどと?」

魔王「敬意だ。ここまで辿り着いたな」

賢者「嘘だな。なにを企んでいる?」

魔王「信じられんなら我を倒せと言っている」

武道家「し、信じちゃだめ……アイツは息をするように嘘を吐く……から」

魔王「くくく……」

勇者「……」

魔王「どうするのだ?連れてくるか?それともここで我と戦うか?」

戦士「……」

勇者「……それは」

賢者「……」

魔王(ふん……どちらを選んでも絶望を見せてやろう)

戦士「焦るな」

勇者「え……?」

戦士「奴の蘇生術は先ほどのようなゾンビを生むだけかもしれん」

勇者「あ……」

賢者「魔王……一つ訊ねたい」

魔王「なんだ?」

賢者「この世に蘇生術などないのではないか?」

魔王「お前は何を見ていた?」

賢者「先ほどのはただの化物だ」

魔王「死んだ人間が生き返る。どんな形でもそれは嬉しいだろう?」

武道家「そ、そんなこと……」

勇者「死んでない」

魔王「なに?」

勇者「意識が戻らないだけで……・まだ、死んでない」

魔王「なるほど……なるほど……くくく、ならばもっと簡単だ」

勇者「簡単、だと……?」

魔王「この宝石を使えばいい」

戦士「それは?」

魔王「これにとある魔術をかけることで特殊な宝石へと変化する」

賢者「まさか」

魔王「賢者の石と人間は呼んでいるな」

武道家「それって……?」

賢者「様々な幸福を得られるという大賢者が作り出した魔法石の一つだ」

魔王「そう。これさえあればすぐだ」

勇者「じゃあ……」

魔王「これをくれてやってもいいが、条件がある」

勇者「な、なに……?」

魔王「人間の領土を全て渡せ」

勇者「な……!?」

魔王「人間が生き返るのだ……悪い取引ではあるまい?」

勇者「そんなこと……」

戦士「できんな」

魔王「ならば交渉決裂だ」

武道家「奪えば―――」

魔王「奪うだと……?これは我が長年かけて見つけたものだ。そう簡単には渡さんよ」

戦士「お前が賢者の石を持っていても、仕方ないだろ」

魔王「そんなこはない。この石は持っているだけで効果を発揮する」

賢者「傷が自動で癒えるというのは本当なのか」

魔王「その通り。お前らでは……いや、人間では我を倒すことなどできんよ」

勇者「そんなこと、やってみないと分からない」

魔王「ならばこい。そして絶望を味わえ」

勇者「はぁぁぁぁ!!!」

魔王「―――ふふ」

勇者「……そ、んな、斬ったのに……傷が……!!」

魔王「無駄だといっただろ?」

魔王「ふん!!!」

勇者「うわぁ!?」

戦士「危ない!!」

勇者「―――あ、すいません」

戦士「気にするな」

魔王「くくく……」

賢者「くらえ!!!」

魔王「ほお……立派な炎だ……だが、こうして賢者の石を翳せば」

賢者「炎が消えた!?」

魔王「賢者の石は万能だ。持ち主に降りかかる全ての害を打ち払う」

武道家「そ、そんな……」

戦士「勝てないのか……」

魔王「さあ、人間ども。覚悟はいいか?」

勇者「……死ねない……こんなところで……」

賢者「……できますか?」

武道家「……わからない」

戦士「どうした?」

勇者「……」

魔王「では、いくぞ」

賢者「―――させるか!!!」

魔王「きかんわ!!!」

魔王「賢者の石に魔術は通用せんよ」

賢者「おねがいします」

武道家「あ、あしがふるえて……」

賢者「貴女のスピードでないと」

武道家「でも……」

戦士「そういうことか」

勇者「自分が囮に……」

賢者「駄目だ。お前にそんなことはさせない」

勇者「でも……」

武道家「や、やる……やるから……」

戦士「できるのか?」

武道家「やってみせる……」

賢者「では……いきますよ」

武道家「うん……」

魔王「ふふ……何をするつもりだ?」

賢者「―――くらえ!!」

魔王「何度やっても―――」

武道家「―――ふっ!!」

魔王「なに!?」

武道家「―――その石さえなければ!!」

魔王「翳した隙を狙ったつもりか……!!―――甘いわ!!」

武道家「ひっ!?」

勇者「―――でぁぁぁ!!!」

魔王「ふん!!」

武道家「ごふっ!?」

勇者「はっ!!」

パリーン!!

魔王「賢者の石が……!?」

勇者「しまった……!?」

魔王「貴様ぁぁぁ!!!」

賢者「させるか!!!」

魔王「ちっ!!」

戦士「大丈夫か!!」

武道家「う……」

勇者「賢者の石が砕けた……」

魔王「人間どもめ……!!」

戦士「傷を癒す術はなくなった……ここからが本番だ」

魔王「くそ……死人たちよ、いでよ!!」

ゾンビ「「おぉぉぉぉぉおお!!!」」

勇者「魔王!!」

魔王「賢者の石はまだ不完全だったか……また会おうぞ」

勇者「まて!!!」

賢者「これが……賢者の石の欠片……」

武道家「す、すいません……私が……もっとしっかり狙っていれば……」

戦士「いや、お前はよくやった」

勇者「魔王……逃げられた……」

ゾンビ「「おぉぉぉおおお!!!」」

賢者「我々も退きましょう。ここにいるだけ無駄です」

戦士「そうだな……脱出だ」

勇者「はい」

武道家「ええ……」

賢者「この石……どこかで……」

戦士「急ぐぞ!!」

―――王城

王「取り逃がしただと!?」

勇者「申し訳ありません」

王「あれだけ大口を叩いておきながらなんたる様だ!!」

勇者「はっ」

王「下がれ!!後日またお前には旅に出てもらう!!!」

勇者「はい……」


―――街

戦士「どうだった」

勇者「また旅に出ろと」

武道家「王も勝手だね。自分じゃなにもしないのに」

戦士「今の国王は腐っているからな」

勇者「はぁ……あれ?お兄ちゃんは?」

戦士「調べたいことがあるといって出て行ったぞ」

勇者「そう……」

―――翌日 寮

幼馴染「はぁ……お見舞いに行こう」

寮長「あ、どこかにいくの?」

幼馴染「はい。アイツのお見舞いに」

寮長「気を付けてね」

幼馴染「はい……」

兄「―――おい!!」

幼馴染「あ、どうしたの?」

兄「魔道書、あるか!?」

幼馴染「部屋にあるけど」

兄「持ってこい!!」

幼馴染「う、うん」

寮長「どうかしたの?」

兄「……賢者の石が見つかりました」

寮長「え?!」

―――特別病棟 個室

少年「……」

母「ほ、ほんとうに!?」

兵士長「あの洞窟にあった光る石が……?」

兄「ええ。これに魔術をかければ……頼む」

幼馴染「え?」

兄「練習していたあの最後の魔術は賢者の石を作るためのものだ」

幼馴染「……」

兄「使えないのか?」

幼馴染「やってみる……かして」

兄「ああ」

寮長「上手くいくよ」

兵士長「自分を信じろ」

幼馴染「はい……」

兄「……がんばれ」

幼馴染「………こ、これで」

兄「その石を彼に」

幼馴染「う、うん……起きて、お願い……」

少年「……」

寮長「……」

兵士長「……」

少年「……」

幼馴染「……やっぱり、ダメだったのかな……」

兄「……やはり人間には扱えないのか」

母「……元気だして」

寮長「……」

兵士長「……私は王に呼ばれているのでこれで」

兄「俺も先に帰るな」

母「この子の着替えを持ってくるから、それまで居てくれる?」

幼馴染「は……い……」

幼馴染「……もう一年近く寝てるよ?」

少年「………」

幼馴染「起きてよ……起きてったら……」

幼馴染「勇者なんでしょ……私を守ってくれるんでしょ……」

幼馴染「お願い……目を、さまし、て……」

少年「……」

幼馴染「私……がんばったのに……」

幼馴染「……」

少年「……」

幼馴染「…………キス、するぞ?」

少年「……」

幼馴染「……もう……私……君のことが……好きなんだ、もん……キスぐらい……」

幼馴染「いい……よね……?」

幼馴染「……うー……」

少年「…………や、め、ろ……よ……」

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    ヽ ヽ |   .|.ヽ ヽ (___)  、 〈   く/ ヽ__,」 +    )   ミ;;★:;:;:;ミ/ /   |    |/ /
     ヽ  ヽ,,´・ω・) ヽ  ヽ´・ω・)__ノ ヽ__) /  ,ヘ   | __,, '´ ̄`ヽ__ (・ω・´/ /  (・ω・` / /
 ,.へ ■ヽ ヽ     ー、 ヽ     ー、     /  / |.  | ★((ハヾヽ,.べ, ミ三彡 f  ,-     f+
 l ァ'・ω・) i     ,rュ ', i     rュ ', |||  (   〈  .|  .|  ハ・ω・*`ァノュヘ    |  / ュヘ    |
 ヽ    ○.|    /{_〉,.へ∧ ∧{_〉  << \ ヽ .|  .|   O☆゙ _ノ_,} )   | 〈_} )   |
  |  、 〈 |    〈   l ァ';・ω・)        \ノ |_,,|   ノ´ ̄ゞ⌒'ーァ    ! |||  /    ! |||
||| l__ノ ヽ__)|   ,ヘ. ヽ  ヽ    ○ヽ  +    |__ノ|  )  `7゙(´〈`ー''´     |   /  ,ヘ  |   ガタタタン!!!!

幼馴染「え!?」

少年「う……まく、しゃ、べ……れない……んだ……よ」

幼馴染「き、気づいてたの!?!?」

少年「はな、し、ごえは……きこえ、てた……」

幼馴染「バカ!!」

少年「いてぇ……」

幼馴染「ど、どれだけ心配したと思ってるの!!」

少年「……いや……なにが……あ、った?」

幼馴染「……うぅ……よかった……よかったよぉ……」

少年「………なんだ、よ……くるしいなぁ……だきつくな……」

幼馴染「うぅ……ふぇ……」

少年「わ、わるかった……な……なんか、しらん、けど……」

幼馴染「うぅ……うぅ……」

―――数日後

兵士長「あっはっはっは!!よかったな!!」

少年「いた!叩かないでください!!」

寮長「よかった……退院はいつごろになりそうなの?」

少年「リハビリがどれぐらいかかるか分かりませんが、近いうちに」

兄「よかったな」

少年「でも……」

幼馴染「むふふー♪」

少年「こいつが傍から離れなくて」

兄「仕方ないな、それは」

兵士長「あっはっはっは!!いいじゃないか」

少年「―――こいつから色々訊きました。みなさん、俺のために申し訳ありません」

兵士長「気にしないでいい。そして礼は今後の行動で示せ」

少年「はい……勇者として恥じないように生きます」

幼馴染「えへへー♪なんかいるー?お腹減ってない?」

―――数ヵ月後

王「では、両名に命じる!!魔王を討伐しにいけ!!今度は取り逃がすな!!いいな!!」

少年「はい」

幼馴染「……必ず」

王「いけ!!」


―――街

少年「なんか追放みたいな言われ方だったな」

幼馴染「いいの?君は別に旅立つ必要は……」

少年「お前に任せっぱなしはだめだろ?」

幼馴染「そう、かな?」

少年「ああ」

幼馴染「今度は失敗できないね」

少年「ああ、賢者の石もあるし……なにより、勇者が二人だ」

幼馴染「そうだね」

兵士長「……まてまて。二人では勝てんだろうに」

少年「え……?」

兵士長「王直々にお前たちの護衛を命じられた。共に行かせてももらうぞ」

幼馴染「そ、そうなんですか!?」

兵士長「あっはっは!悪いな。ランデブーに水を差してしまって」

兄「―――俺も行く」

幼馴染「お兄ちゃん!?」

寮長「わたしもー♪」

少年「寮長さんまで!?どうして!?」

兵士長「私が誘ったのだ。前回、魔王を追い詰めたメンバーで行こうとな」

幼馴染「兵士長さん……ありがとうございます!!」

兄「じゃあ、行こうか」

寮長「今度こそ魔王を」

兵士長「ああ、倒すぞ!」

少年「はい!!―――行こう!」

幼馴染「うん!がんばろうね、私の勇者様♪」
                              END


グッドエンドいい

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