勇者「はじめからから始まるまで」 (204)

――――――――――――――――

 

【勇者の家】

母「おきなさい、勇者。きょうは とても たいせつなひ」

母「勇者が はじめて おしろに いくひ だったでしょ」

母「このひのために おまえを ゆうかんな おとこのことして そだてたつもりです」

母「さあ おしろで おうさまが まっていますよ」

 

母「あら、どうしたの? おうさまに あってらっしゃい」




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1381653166


VIPで落としてしまったので
こちらでゆっくり投下しながら完結させます


【玉座の間】

王様「よくぞきた! ゆうかんなる 勇者よ!」

王様「なきちちの あとをつぎ たびに でたいという そなたのねがい」

王様「しかと ききとどけたぞ!」

王様「てきは まおうじゃ!」

王様「へんきょうにある まおうのしろで まちかまえておる!」

王様「せかいの ひとびとは いまだ まおうのそんざいすら しらぬ」

王様「だが このままでは やがて せかいは まおうに ほろぼされよう」

王様「ゆうしゃよ。まおうを うちたおしてくるのじゃ!」

 

王様「まずは ひがしのもりを ぬけ きたのむらに むかうとよい」

王様「まちの さかばで なかまをみつけ そうびをととのえるが よかろう」

王様「では またあおう! 勇者よ!!」



【ルイーダの酒場】

ルイーダ「ここは ルイーダのみせ」

ルイーダ「たびびとたちが なかまをもとめて あつまる」

ルイーダ「であいと わかれの さかばよ。なにが おのぞみかしら」

 

ルイーダ「僧侶さーん! 勇者さんが およびよー!」

ルイーダ「戦士さーん! 勇者さんが およびよー!」

ルイーダ「魔法使いさーん! 勇者さんが およびよー!」

ルイーダ「ほかに ごようは?」

ルイーダ「じゃ また いらしてね」


【東の森】

 

森の主「よくぞ まもののむれをぬけて ここまでやってきたな」

森の主「おれさまは このもりのぬし」

森の主「きたえぬいた このうでさえあれば」

森の主「勇者など おそるるに たりず!」

森の主「にんげんどもめ このじまんの かいりきを おもいしれ!」

森の主「いくぞ! ガオーッ!」

 







【北の村】

村人A「勇者さま ようこそ きたのむらへ!」

 

村人B「そんちょうの 家は あちらですよ」

 
 
村長「勇者さま おまちしておりましたぞ」


村長「ここから にしに すすんださきにある どうくつをぬけると」

村長「みなとまちを じょうかとする しろがあるのじゃ」

村長「おうさまに このしょじょうを みせれば ふねが てにはいるはずじゃ」

村長「勇者さま。うみをこえて まおうじょうへ むかうのじゃ!」




【西の洞窟】

 

 

洞窟の主「ククク ばかめ」

洞窟の主「のこのこ どうくつの おくまで きおって」

洞窟の主「おれは どうくつの ぬし」

洞窟の主「この うでと あしで なんでも きりさいて みせよう」

洞窟の主「そう いまから ここが きさまのはかばと なるのだ」

洞窟の主「さあ くちはてるがいい」

洞窟の主「ギャオーッ!」








【港町】

町人A「ここは みなとまち ですわ。あちらに おしろも ございますわ」

町人B「おうさまが 勇者さまに あいたがっていたようだよ」



【酒場】

酒場の男「まおうを たおすには でんせつの つるぎが ひつようらしい」

酒場の男「そのつるぎさえ あれば こんなおれでも……  ひっく!」

酒場の女「まおうのしろへ すすむには ひかりのたまが ひつようらしいわ」

酒場の女「きっと とても きれいな たからもの なんでしょうね」


【南の城・城門】

門番「なにやつ。いなかものは かえれ!」

門番「むっ そのしょじょうは」

門番「これは しつれい いたしました! ささっ おくへ どうぞ」


 

【南の城】

南の王「よくぞ わがしろにきた。はなしは ききおよんでおる」

南の王「そなたは まおうとうばつの たびに いそしんでおるようじゃな」

 

南の王「わしの みみにした うわさによると」

南の王「ここから うみを わたったさきに あらたな たいりくがある」

南の王「じょうりくしたあとは さいしょに しんでんに たどりつくはずじゃ」

南の王「そこの しんかんならば」

南の王「まおうのしろへ のりこむ てがかりを つかんでいる であろう」

 

南の王「じょうかの そとに ふねを よういしておる。じゆうに つかうがよい」

南の王「しかし ちかごろは うみのかいぶつが ふねを おそっておるそうじゃ」

南の王「じゅうぶん きをつけるのだぞ」

南の王「そなたの たびに ぶうんを!」



――


【海】





近海の主「グオーッ」

近海の主「えものが いたぜ!」

近海の主「うみでの たたかいならば もはや おれに てきはいない!」

近海の主「しっかり みておけ!」

近海の主「おれこそが きんかいの あらたな かみだ!」

近海の主「グオーッ!」






【神殿】

神官「おお 勇者よ。よくぞ ここまでたどりついた」

神官「ここでは なかまを てんしょくさせることが できるのだ」


――


神官「では ほんだいに はいらせて もらおう」

神官「まおうを たおすために ひつような ものは ふたつ」

神官「ひとつは ひかりの たま」

神官「これは せかいの どこかに あるという 『とう』に ねむっているらしい」

 

神官「もうひとつは でんせつの つるぎ」

神官「これは さらに うみを こえたさきの 『しまぐに』に あるとされておる」

 

神官「それらを そろえたとき まおうに たいこうするちからが ととのうであろう」

神官「さあ ゆくがよい。勇者に かみのごかご あらんことを!」



【島国】

村人A「ああ 勇者さま。このような いこくのちまで ようこそ」

村人B「いま このむらでは たいへんなことが おこっているのです」

村人C「くわしくは そんちょうのはなしを きいてくだされ」


【村長の家】

村長「おお 勇者さま。おたすけくだされ」

村長「いま このむらは オロチという おそろしい まものに あらされております」

村長「むらが ほろぼされるのを ふせぐためには」

村長「まいとし むらの むすめを いけにえに ささげなければならないのです」

 

村長「ことしは わしの ひとりむすめの ばん」

村長「もし むすめが すくわれるのなら どんなことでも いたしましょう」

村長「どうか オロチを たいじ してくだされ!」


【祭壇の間】

 

オロチ「ゲェーッ! ゲェーッ! ゲェーッ!!」

オロチ「なんだ。おまえたちは」

オロチ「ただちに きえうせて おとなしく むすめを さしだすがよい」

 

オロチ「ふん。 この オロチの じゃまだてを するというのか」

オロチ「うるさいものは たたきつぶすに かぎる」

オロチ「勇者も まおうも おなじことだ!」

オロチ「ここで ほろびるがよい!」

オロチ「ゲェーッ! ゲェーッ! ゲェーッ!!」







【島国】

村長「ああ 勇者さま。おかげで むすめは すくわれました」

村長「なんと おれいを いってよいのやら」

村長「そうだ。このくにに まつわる」

村長「この でんせつの つるぎを さしあげましょう」

村長「ふるくより たいまの ちからが そなわっていると つたえられています」


勇者は てんくうのつるぎを てにいれた! ▼


村長「ここから ふねを せかいの はてまで すすめたさきに」

村長「おさがしの 『とう』が みつかるはず です」

村長「しかし そこには すでに まおうぐんの てが まわっているとの うわさ」

村長「じゅうじゅう おきをつけ くだされ」

村長「勇者さまの たびに ごぶうんあれ!」



 

【最果ての塔】



将軍「おまえが うわさの勇者か」

将軍「ここから さきへは いのちに かえても とおすわけには いかん」

将軍「きさまは ここで おわりだ」

将軍「しんぱいせずとも せかいじゅうの にんげんごと いっしょに おくってやる」

将軍「む。 そのつるぎは……」

将軍「わるくない けんだ。わたしに よこすがいい」

将軍「このよへの おきみやげと してな!」

将軍「ゴオォーッ!!」

 






【城塞】

国王「勇者よ。ようやく たどりついたか」

国王「このしろは まおうぐんとの さいぜんせん」

国王「ここよりきたにすすめば まおうのしろがある」

国王「しかし そこに いたるまでは ながくけわしい みちのりとなろう」

国王「このまちで そうびを ととのえ ゆっくりやすむとよい」


――


国王「ついに まおうを うつときが きたか」

国王「ここから きたへ すすんださきに ほこらが ある」

国王「そこで その ひかりのたまを つかえば」

国王「まのしろへの みちがひらけるであろう」

国王「勇者よ。どうか このせかいを まのてより まもってくれ!」

国王「勇者に ぶうんあれ!」


【ほこら】


勇者は ひかりのたまを つかった!

なんと! まおうのしろへ にじの かけはしが かかった!

 
 


【魔王の城】


 
 

側近「カカカ わたしは まおうのへやを まもるもの」

側近「まおうさまに さからった つみは おもい」

側近「すぐには ころさぬ。 ぜつぼうの かぎりを あじわわせ」

側近「じわじわと なぶりごろしに してくれよう キキキーッ」







側近「ククク ここまでか。この わたしが やぶれるとはな。ケッケッケ」

側近「これもまた さだめか。 まおうさまに えいこうあれ  ご こふっ」



【魔王の間】

魔王「よくぞ ここまできた。勇者よ」

魔王「われこそは すべてを ほろぼすもの」

魔王「すべての いのちを わが いけにえとし」

魔王「ぜつぼうで せかいを おおいつくしてやろう!」


――


 ▼

魔王「ぐっ」

魔王「にんげんごときが」

魔王「つけあがるで ない!!」


魔王は しんの すがたに あらわした! ▼


真・魔王「わがちから きわまれり」

真・魔王「われは さいやくを もたらすもの」

真・魔王「もはや たつに およばず」

真・魔王「とく きえよ!!」


真・魔王は こごえる ふぶきを はいた! ▼


――

真・魔王は こうげき! ▼


魔法使いは ダメージを うけた!

魔法使いは しんでしまった!  ▼


戦士の こうげき! 

魔王は ダメージを うけた! ▼


真・魔王は マヒャドを となえた! ▼

戦士は ダメージを うけた!

戦士は しんでしまった!  ▼


賢者は ダメージを うけた! 

勇者は ダメージを うけた!  ▼


勇者の こうげき! 

真・魔王に ダメージを あたえた! ▼



賢者は ベホマを となえた!

勇者の キズが かいふくした! ▼


真・魔王は こごえるふぶきを はいた! ▼

賢者は ダメージを うけた!

賢者は しんでしまった! ▼

勇者は ダメージを うけた! ▼


勇者の こうげき!

真・魔王に ダメージを あたえた! ▼


真・魔王の こうげき!

つうこんの いちげき!

勇者は ダメージを うけた! ▼

勇者は しんでしまった! ▼

 

勇者たちは ぜんめつした! ▼

               ▼

            ▼

――――――◆――――――――



――

――――

 

勇者「あれ」

 

勇者「ここはどこだ」

 

 

勇者「……荒野?」


勇者「え? なぜ」

勇者「だってさっきまで俺、魔王城で……」

勇者「……」

 

 

勇者(何もない)

勇者(どこ向いても地平線だ……)

 


 

勇者(薄暗い)

勇者(空一面が曇っているみたいだ)

 

勇者(そ、そうだ。みんなは)

 

勇者「おーい!」

勇者「戦士!」

勇者「魔法使い!」

勇者「賢者!」

 

 

勇者(……誰もいないどころか、物音すらしない)

勇者(どうやら俺だけここに取り残されてしまったみたいだ)

勇者(みんなは無事なんだろうか……)




勇者(みんながここにいないなら、急いで戻らないと)

勇者「ルーラ!」



勇者「……あれ?」

勇者「リレミト! ホイミ! メラ!」

 

勇者「…………」

 

勇者「なんでだよ」

勇者「お、おい、これじゃ帰れないだろ!? ルーラもリレミトも……」

勇者(……メラすら出ない……。何だよここ)

勇者(なんか俺の知っている世界とは違う。雰囲気が全然違うし)

勇者(なんだか、俺の人生じゃ話にならないほどの、ものすごい強制力がはたらいてる……)

 

勇者(おい。それでどうやって帰ればいいんだよ)

勇者(この無限のさら地……脱出できる手がかりすら見当たらない……)

勇者(くそ……とりあえず、歩いてみるしか……)

 

勇者(……どこへ……?)



  ザッ    ザッ    ザッ



勇者(……)

勇者(地面は黒っぽいこげ茶色……)

勇者(空はどんよりしたネズミ色……)

勇者(それがどっちも広大無辺に敷かれてる)



勇者(生き物はおろか、朽ち木の一本も生えてやしない)

勇者(世界中回っても、こんな場所はなかった)


  ザッ    ザッ    ザッ


勇者(なんてこった。本当に何にもないや)

勇者(あと一時間もしたら、気が狂うかもな)


  ザッ    ザッ    ザッ


勇者(これは、あれなのか)

勇者(定めを受けていながら、魔王を倒せなかった罰ってやつなのかな……)


勇者(……俺の持ち物は、いま装備しているやつだけか)


E 天空の剣
E ドラゴンメイル
E ドラゴンシールド
E グレートヘルム
E パワーベルト


勇者(この装備、最終決戦のときのままだ)

勇者(俺の最後の記憶――魔王との最終決戦)

勇者(そこで俺は指示を間違えて……)

勇者(無駄に体力と魔力を消耗してしまって……)

勇者(そして魔王が真の正体を現してから、次々にみんなが犠牲になって……)

勇者(俺だけ最後に残って……最期は……)


勇者「……」


勇者(じゃあここは、あれか)

勇者(あの世ってことでいいのか?)

勇者(はは)

勇者(思ってたより、えらく寂しいトコなんだな……)


 カチャ…

勇者「!  ……」


勇者(……この装備も)

勇者(身を守る必要も、倒す相手もいないなら、全く意味がないぜ)

勇者(何が『伝説の剣』だ。こんなもの、今は何の役にも立たない)

勇者「いや」


勇者(役に立つものが、ここには存在するのか?)

勇者(そもそも、ここで何が何の役に立つっていうんだ?)

勇者(意味、意味は?)

勇者(俺がここにいる意味は何だよ? この場所そのものの意味は?)


勇者「……」


勇者(あーだめだ。この頭でいま考えるのはダメだ)

勇者「そういうときは、とりあえず寝るのが一番。ラリホー!」

勇者「……」

勇者「……」

勇者「……うーん」

勇者(タダでさえ、魔王との戦いで疲れきってる身体のはずなんだけど……)

勇者(ちっとも眠くないし……おなかも空かない……)



 ザッ     ザッ     ザッ


勇者(……)

勇者(本当に誰もいないのか)

勇者(話し相手が欲しいな)


ザッ  ザッ  ザッ   ザッ


勇者(もうみんなとは会えないんだろうか)

勇者(旅の仲間にも、母さんにも、王様にも、今まで出会った村や町の誰にも)


ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ


勇者(はあ。こんなことなら、悔いが残るような決戦の臨み方するんじゃなかった)

勇者(まさか本当に最終決戦で負けるなんて、思ってもみなかったし)


ザッザッザッザッザッザッザッザッ ザッザッザッ


勇者「おい!」

勇者「本当に誰もいないのかよ! 誰か何とか言えよ!!」


ザッザッザッザッザッザッザッザッ ザッザッザッ


勇者「 ハッ  ハッ  」


ザッザッザッザッザッザ

ザザーッ


勇者「痛っ……うう……」

勇者「ハァ……ハァ……」

勇者「……はー……」ゴロン


勇者(……なんだよこれ……)

勇者(どこまで走っても、全然景色変わらねえじゃねーか……)

勇者(……空にも何にもねー。雲一つないのに、薄暗いとしかいえない一色……)


勇者「なんだよこれ」

勇者「俺に何をさせたいんだよ!?」

勇者「まったく、意味が」

勇者「分かんねえぜ……」


勇者「……」


ガバッ


勇者(くそっ)

勇者(不貞寝することもできないのかよ)

勇者(仕方ない。先に進んで、少しでも変化を求めよう)

勇者(まだ理性が残ってるうちに……)

 ザッ    ザッ

勇者(眠くもないし、お腹も空かない。何だか、自分で生気を感じられないし)

勇者(もしかして、自殺さえもできないんじゃないか。そんな気がしてきた)

勇者(死ぬことも許されず、残りの意識の全てを、ここで費やす人生)

勇者(それが俺の末路? 冗談だろ。なあ)


      ザッ


勇者「!!」

勇者(いま、何か見えたような――)



勇者(! やっぱり! ここからまっすぐ行った先だ!)

勇者(豆粒みたいなのが動いてる!)


ザッザッザッザッ


勇者「おーい!」


ザッザッザッザッザッザッザッザッ


勇者「おぉーい!!」


ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ


勇者(あれは……人だ!)

勇者(何人か集団になってるぞ!)

勇者(よかった。一時はどうなることかと思ったぜ!)



勇者「おおぉーいぃ!!」



――

A「! お、おいあれ」

B「あ、あいつは……」

C「ほら、やっぱりまた来ただろ」

D「もう一人追加か」

E「一体どこまで増えるのやら」

 

F「あいつは……まさか……」

F「ダメだったのか……?」

 

勇者「ハァ……ハァ……」


ザザーッ


勇者(つ、ついた……)

勇者(!?)

勇者「!!」

勇者「お、お前たちはっ……!」


勇者「全員同じ顔!?」

勇者「い、いや待て、その前にその顔は……」

勇者C「毎朝カガミで見てただろ?」

勇者D「よう、『俺』」

勇者E「厳密には、7人目の『俺』だな」

 

勇者「ち、違う!」


 バッ  
     シャキン


勇者「俺は知ってる! これは『モシャス』だ!」

勇者「姿かたちを相手そっくりに変身する呪文だ!」

勇者「魔物どもめ、正体を現せ!!」

 

勇者D「まぁ、場数踏んでたらこうなるよな」

勇者B「魔物か……いるならこっちから会いに行きたいぐらいだぜ」

勇者「……!?」


勇者F「その、いま抜いてる剣は、この『天空の剣』で間違いないな」

勇者「だ、だからそいつは、モシャスで化かしてるんだろ!」

勇者E「おい、俺もまったく同じのを持ってるぞ。ほら」

勇者「!?」

勇者D「ちなみに俺は持ってない。俺を含めた残りの4人は全員、な」

勇者「そ、そんなこと知るか! とにかくお前らはモシャスで――」

勇者C「呪文なんて効かない」

勇者「!?」

勇者C「『俺』なら、試したはずだろ? この空間じゃ、呪文なんて意味がないんだ」

勇者「え……そ、それじゃあ、モシャスが効かないってんなら、お前らは……」

勇者F「だから」

勇者F「『俺』だよ」

勇者F「もう一人の『俺』。もう2人目の『俺』。3人。4人――」

勇者F「で、お前が7人目だ」

勇者「……う……嘘だ」

勇者「お、お前ら全員で俺を担ごうとしてるんだろ!? ンなこと信じられるか!!」


勇者E「証拠はある。そら」ポイッ

勇者「うわっ」パシッ

勇者「こ……これは……モシャスじゃないのか?」

勇者「となると、『天空の剣』……の、レプリカ……?」

勇者E「いいから確かめてみろよ。抜いてみろって」

勇者「……馬鹿な……」 シャラン

勇者「!!」

勇者「こ、この光沢……そ、そっくり……というより……」

勇者F「正真正銘の本物だ」

勇者F「紛れもない、『世界にたった一本しかない剣』だよ」

勇者「じゃあなんでそれが3本もあるんだ!!」

勇者E「俺とお前、そしてそっちの『俺』は、オロチを倒せたからだよ」

勇者「!?」

勇者D「俺は倒せなかった。残りの3人は、オロチまで到達できなかった」

勇者B「うるせーな」

勇者A「俺だって、旅に慣れていたなら……くそっ……」


勇者「な、なんだ? よく見るとみんな装備がバラバラ……」

勇者D「俺の武器は『ドラゴンキラー』だ。オロチに通用する武器だったのにな」

勇者C「俺は『炎のブーメラン』。投げる武器って流行らなかったんだな……強いのに……」

勇者B「『はがねのつるぎ』。前の武器から大躍進したのに、上には上があったんだな」

勇者A「見れば分かるだろ。これがその前の武器、『ひのきのぼう』だよ!」

勇者「……防具も、武器に比例してどんどん格式が高くなっていってる」

勇者「こ、これはつまり……」

勇者D「もうすぐ答えが出そうだな」

勇者「……お前は確か、さっきオロチを倒せなかったって……」

勇者D「そうだ」

勇者「倒せなかったってことはつまり……」

勇者「ぜ、全滅したのか?」

勇者D「ああ。そうだ」

勇者「……俺も魔王との戦いで全滅した」

勇者「って、てことは待て、これはつまり」

勇者「それまでの冒険で全滅してしまった、過去の『俺』の集まりってことか!?」


勇者E「さすがは最後に来た『俺』。かしこさも高まってるな」

勇者「そ……そうなのか? 本当にそうだというのか!?」

勇者F「正解だ。それはいい。それより確かめたい」

勇者「えっ?」

勇者F「お前は側近を倒し、魔王との戦いで敗れた、ということで間違いないな」

勇者「……」

勇者「ああ……そうだ」

勇者「俺は……作戦をうまく組み立てられなかった」

勇者「魔法使いが倒れ……」

勇者「戦士が倒れ……

勇者「そして、賢者が身を挺して俺を回復してくれて……」

勇者F「!」

勇者「俺は……もう何も考えられなくなって……」

勇者F「馬鹿が!!」 ボゴッ

勇者「がっ!」 ズシャッ

勇者F「どうしてアイテムですぐに賢者を生き返らせなかったんだよ!」

勇者F「なんであと一歩だったのに、なんでそこでしくじるんだよ!!」


勇者E「さすがは最後に来た『俺』。かしこさも高まってるな」

勇者「そ……そうなのか? 本当にそうだというのか!?」

勇者F「正解だ。それはいい。それより確かめたい」

勇者「えっ?」

勇者F「お前は側近を倒し、魔王との戦いで敗れた、ということで間違いないな」

勇者「……」

勇者「ああ……そうだ」

勇者「俺は……作戦をうまく組み立てられなかった」

勇者「魔法使いが倒れ……」

勇者「戦士が倒れ……

勇者「そして、賢者が身を挺して俺を回復してくれて……」

勇者F「!」

勇者「俺は……もう何も考えられなくなって……」

勇者F「馬鹿が!!」 ボゴッ

勇者「がっ!」 ズシャッ

勇者F「どうしてアイテムですぐに賢者を生き返らせなかったんだよ!」

勇者F「なんであと一歩だったのに、なんでそこでしくじるんだよ!!」

重複ミス
>>42=>>43


勇者B「おいよせ!」

勇者C「八つ当たりはやめろ!」

勇者F「放せよ!」

勇者F「俺はこいつに言いたいことが山ほどあんだよ! 放せって!!」

勇者「お」

勇者「お前だって全滅したってことだろ!?」

勇者「みんなを守れなかったのは、お前だって同じってことだろうが!」

勇者F「そうだよ! 俺は側近の奴にやられたんだよ!」

勇者F「でもお前はそこを乗り越えたんだろ!? 最後の戦いに臨めたんだろ!?」

勇者F「じゃあ、あと一息で全部終わってたじゃねえか!」

勇者「そ、そんなの」

勇者F「なのにこんな所にのこのこ来やがって! なんで……なんでお前は……」

勇者F「……『俺』は……」

 

勇者「くそっ」

勇者「無念なのは、俺だって同じなんだよ……」


勇者E「なあ。参考までに聞きたいんだが」

勇者「……何だよ」

勇者E「次にもし、再び魔王と戦えるチャンスがあったとして」

勇者E「お前はそれに勝てると思うか?」

勇者「勝てる。絶対に勝てる!」

勇者「攻撃パターンは熟知している。俺の防具や、仲間の装備も変えるつもりだ」

勇者「絶対に負けない。もう一度チャンスがあるなら、絶対に討ち果たしてみせる」

勇者E「……そうか」

勇者E「それなら、ここに来る『俺』は、お前で最後なのかもしれないな」

勇者「え?」

勇者E「順番なんだ。俺は、【最果ての塔】の将軍に敗れた」

勇者E「そしてここにたどり着いて、同じ事を思った。次は絶対に負けないと」

勇者E「で、俺の後にここに漂着したのが、その将軍を破った『別の俺』だ」

勇者E「しかしその『俺』は、側近とやらにやられたという」

勇者F「ふん……」

勇者E「それで最後に来たお前は」

勇者「側近までを撃破したが、魔王にやられてしまったってわけか……」

今更ですがVIPと違って行数制限が緩いので
ちょろちょろ加筆修正してます


勇者「ちょ、ちょっと待てよ。まだ俺たちが『俺』だと断定できないことがある」

勇者E「なんだ?」

勇者「記憶だよ。俺達は、姿かたちは似ていても」

勇者「辿ってきた旅路は違うかもしれないじゃないか」

勇者「まるきり同じ大きなイベントを経てきたとしても、それまでの経緯が違ったら」

勇者「それはもう俺以外の『俺』ってことになるんじゃないか?」

勇者A「何だかごちゃごちゃしてきたな」

勇者B「俺ら序盤中盤で退場した『俺』は、まだかしこさが足りてないんだよね」

勇者E「それは簡単に確認する方法があるぞ、『最後の俺』よ」

勇者「どうやって?」

勇者E「俺の最初のパーティーは僧侶・戦士・魔法使いだった」

勇者D「俺もだ」

勇者C「俺も。ていうかすでに一度確認してて、皆そうだったんだよな」

勇者「じゃあ少し違うじゃないか。だって僧侶は――」

勇者E「最初のパーティーって言っただろ? 途中の『神殿』で、僧侶は賢者に転職したんだ」

勇者「!!」


勇者D「ちなみに賢者姿の僧侶を拝めた記憶は、俺のときからね」

勇者C「もうその話はやめろよ。俺たちは見られなかったんだから」

勇者B「な、なあ。あの僧侶が、本当にミニスカートなんか穿いてたのか?」

勇者A「だ、だからお前ら僧侶僧侶って呼び捨てにして、馴れ馴れしいだろ」

勇者「お前ら3人は、僧侶が賢者になったことを知らないのか?」

勇者B「うるせぇー!」

勇者A「そもそも賢者なんて職業も知らなかった」



勇者E「なんなら、もっと確かめてやろうか?」

勇者E「お前さ。ルイーダの酒場で、なんで最初に僧侶って職の女の子を頼んだんだ?」

勇者「え……そ、そりゃあ……」

勇者「さ、酒場の男が言ってたんだよ。最初のパーティーは戦・僧・魔がいいって」

勇者E「そう、戦・僧・魔だ」

勇者E「で、何で戦士じゃなくて僧侶から選んだんだ?」

勇者「え! そ、そんな、順番なんてどうでも……」

勇者D「前々から女僧侶の服装が好みだったからだろ? 旅立つ前から決めてたんだろ?」

勇者「!? ち、ちが……」

勇者A「お前らもうやめろよ! 僧侶さんをそういう目で見るのはやめろよ!!」


勇者D「僧侶さんねぇ」

勇者C「最低レベルの『俺』は、いつまで経ってもウブだなぁ」

勇者A「うるさい!」

勇者D「あとおっぱい見てたもんな。紹介されて初めて出会ったときにさ」

勇者A「見てない!」

勇者D「いいや見てた。『俺』が言うんだから間違いない」

勇者A「うあああああ!!」



勇者「……馬鹿な……本当に記憶を共有してるのか?」

勇者「これは一体、どういう仕組みなんだ……」

勇者E「……仮説の域を出ないが、現時点での俺の考えはこうだ」

勇者E「一度全滅してしまうと、その瞬間、なぜか別の『俺』が生まれる」

勇者E「そいつは、直前に全滅してしまった『俺』の記憶を、そっくり受け継いでいるんだ」

勇者E「ただしたった一つ、『全滅した当時』の記憶だけは取り除かれている」

勇者E「全滅したってことは、この空間に来てしまう訳だからな」

勇者E「よく分からないが、その記憶があったらおかしいことになるんだろう」


勇者「じゃ、じゃあ『俺』は、全滅のたびに何度も蘇ってるってことになるのか……?」

勇者「いやでも待て! 俺は死んだ記憶ならあるぞ!」

勇者「復活呪文や世界樹の葉、もしくは教会に寄付金払って、死の淵から蘇ったんだ!」

勇者E「それは仲間が一人でも生きていた場合の話だろ?」

勇者「か、関係ないのか?」

勇者E「そりゃそうだ。たとえ勇者が一人死んだとしても」

勇者E「はたまたもう二人までなら死んでも、まだ取り返しはつく」

勇者E「ただし『全滅』してしまったなら、もう打つ手がない」

勇者E「生き返らせてくれる者もいないし、勇者の死を伝える人間もいない」

勇者E「そこで詰みだ。その世界では、もう誰も魔王を倒せない」

勇者「……本来なら、か」

勇者F「とにかく俺たちはさ」

勇者F「絶対に『全滅』だけはしてはいけなかったんだ」

勇者F「言われるまでもないって思うだろ? 好きで全滅する勇者なんかいないもんな」

勇者F「でもよ……こんな、こんなとこに連れてこられてさ」

勇者F「延々と後悔しなきゃならないなんてな……」


勇者「……じゃあ結局、魔王を倒すって目的のために、俺たちは生まれ続けているわけか?」

勇者「記憶を受け継ぎながら……世代を変えながら、冒険していたってことなのか?」

勇者E「あくまで俺の仮説だ。もっとも装備といい記憶といい、根拠は揃ってるけどな」

勇者「……」


勇者C「なあ、そういえばさ」

勇者C「全滅してしまったら、仲間はどうなるんだ?」


勇者「!」

勇者C「だって勇者のパーティーだったってことは」

勇者C「少なからず『俺』って存在に干渉してるんだろ? 僧侶ちゃんはどうなるんだ?」

勇者C「ちょっと抜けてるけど憎めなくて、いつも身体張って前線に立ってくれた戦士や」

勇者C「ツンツンしてて口は悪いけど、いつも窮地を救ってくれた参謀役の魔法使いちゃんは」

勇者C「一体どうなるっていうんだよ?」

勇者E「……それは……この世界にいない以上は、全滅自体がなかったことになって」

勇者E「勇者の再スタートと同時に巻き戻されてるとか、じゃないか」

勇者F「まだいないと決まったわけじゃないだろ! きっとどこか」

勇者F「この世界のどこかに……いるはずなんだ……」


勇者A「分からねえよ。この世界のことなんて」

勇者「!」

勇者A「かつての仲間なんて贅沢は言わねえ、もう魔物でも魔王でもいいんだ」

勇者A「いい加減に、自分と同じ顔した落ち武者以外の何かに会いたいぜ」

勇者D「落ち武者とは言ってくれるじゃないか、低レベルのヒヨコさんよ」

勇者A「この世界じゃ俺が一番センパイなはずだろ!」

勇者B「まぁ俺と初めて会った時のお前は、俺よりも狂喜乱舞してたもんな」

勇者A「余計なことは言うなよ!」

勇者「なぁ、ひのきの棒の『俺』」

勇者A「その呼び方やめろ!」

勇者「お前は一体どのくらいの間、この世界でさまよってたんだ?」

勇者A「……分からない……半年か、あるいは10年くらいか」

勇者「じゅっ!?」

勇者A「ここには日の出も日没もない上に、空腹も眠気も湧きゃあしない」

勇者A「時間の感覚なんか、とっくに取り上げられちまったよ……」


勇者A「じゃあ逆に俺からお前に聞きたいんだけど」

勇者A「世界に厄災を振りまいたっていう『魔王』ってのは、一体どんな成りをしていたんだ?」

勇者F「そうだ。俺もそれが聞きたかった」

勇者「え? ええっと……まず、導師系の外見の割に、馬鹿みたいにデカいんだよ」

勇者D「デカいってどのくらいだ? オロチよりデカいのか?」

勇者「いや、あそこまで大きくはないけど、動きが段違いに素早いんだ」

勇者「だから次に戦うときは、補助や回復に徹するための仲間ではなく」

勇者「攻守回復のバランスの整った俺自身に、『ほしふるうでわ』を装備して挑むつもりだ」

勇者B「次があればな。って何だその腕輪は」

勇者E「すばやさが倍になる装飾品だよ。ってお前らにはもう何回も見せただろ」

勇者F「これのことだ」スッ

勇者「! そう、それだ。しれっと装備してたのか」

勇者C「いつ見てもかっこいいデザインだな」

勇者F「だがこれは賢者に装備すべきだった」

勇者F「呪文に長けた側近戦では、何よりも補助・回復を安定させるべきだった」

勇者「そうだ、それで俺は側近戦を乗り切ったんだ」

勇者F「……待て。お前の装備……ちょっとよく見せてみろ!」


勇者「な、なんだよ急に」

勇者F「ドラゴンメイルにドラゴンシールド……?」

勇者「ああ。炎対策型の装備だ。魔王城にはドラゴン系モンスターも多かったからな」

勇者「そして側近も炎の使い手だった。たまたま装備の相性が良かったな」

勇者F「たまたまじゃない!!」

勇者「!?」

勇者F「その装備は俺が理想と考えてた、リベンジ用の一式じゃねえか!」

勇者「えっ?」

勇者E「何、どういうこと?」

勇者D「ま、待て。そういえばオロチを突破したお前らは、全員同じ装備じゃなかったか?」

勇者B「ああ、そんな話もあったな。洞窟の主も同じだったろ?」

勇者C「近海の主を倒したときもだ。それもやっぱり、当時の理想系の装備でだ!」

勇者A「えー、だから、ってことは?」

勇者「……全員が同じ対策をもってして、躓いてきたボス達を乗り越えてきた……つまり」

勇者「全滅した当時の記憶は失われているのに、戦った経験は残っていた……?」


勇者C「ますます訳がわかんねえな」

勇者E「過去の自分の身体が、未来のボス戦の情報を憶えていたっていうのか?」

勇者A「いったんそこで止まれ。そろそろオツムがおっつかなくなってきた」

勇者D「まぁ結論が分かったところで、今の俺たちにはどうしようもないしな」

勇者B「そうだそうだ。この何もない無限の荒野を見ろ。まさに不毛な議論だぜ」

勇者C「もっとうまいこと言えよ」

勇者F「話を戻すが」

勇者F「魔王はその炎対策の装備だと、倒せなかったんだよな」

勇者「ああ。魔王はヒャド系の呪文や、吹雪系のブレスも使ってきたからな」

勇者F「氷か……。一度側近戦を終えた後、また装備を改める必要があるな」

勇者A「お前、もしかしてまだ帰るつもりでいるのか?」

勇者F「当たり前だ。必ず帰って、魔王を倒しきるんだ」

勇者「俺だってそうさ。帰れるものなら帰って、真の平和を取り戻したい」

勇者D「でもさ、それ」

勇者D「二人一緒に同じ世界に帰っちゃったらどうなるんだ? 何かまずいんじゃないのか」

勇者「それは……」

勇者「……わからない……」


勇者「……ところで今更なんだが、最初から気になってることがある」

勇者E「なんだ。話せるネタはどんどん話せ。俺たちは退屈しのぎに飢えている」

勇者「これまでこの集団は、俺が合流したときからずっと話し込んできたけど」


ザッ  ザザッ  ザッ  ザッ  ザザッ  ザザッ 


勇者「足はほとんど止めてないよな。いったいどこに向かっているんだ?」

勇者E「分かんねえよ」

勇者「えっ?」

勇者E「最初に進んでいた方角を、ただひたすら目指してる」

勇者「な、なんで? ただ無意味に歩いてるだけ? おいひのきの棒の『俺』!」

勇者A「うるさいな。分からねえっつってんだろ」

勇者A「一番最初に足を運んだ方向に、ずっとまっすぐ進んでいるだけだよ」

勇者A「もし遠くに何かあるなら、ふらふら横道それるより最短ルートだろ」

勇者「だってお前……10年間だろ……?」

勇者A「半年かもしれないって。ま、どちらにせよ、今までまるっきり収穫なしだけどな!」


勇者「んな馬鹿な……同じ景色の中をひたすら練り歩くだけの旅路かよ……」

勇者E「ホントにお前、よく精神崩壊しなかったよな」

勇者A「前も言っただろ? 不可能なんだよ。気が狂うなんてことは」

勇者A「それどころか、自殺も数え切れないくらい試したもんだぜ」

勇者B「俺もそれ手伝ったな。あん時は『来世で会おう』とかカッコつけまくったな」

勇者「や、やっぱり死ねないのか?」

勇者C「死ねない」

勇者D「死ねなかったな」

勇者E「持ってる武器を結集しても死ねなかった。剣の刃がうまく通らないんだ」

勇者C「けど何故か痛みは残ってるもんだから、ホントに痛いだけなんだ」

勇者B「結構えげつないこともやったけど、結果はなーんにも変わらなかったぞ」

勇者「そんな……」

勇者F「俺達はここに、心身もろとも完全に閉じ込められてるんだよ。くそっ」

勇者A「ま、そんなわけだから、残った脱出手段として」

勇者「終わりの見えない旅を続けてるってことか……」


勇者E「あながちアテのない放浪でもないさ。すがる根拠はある」

勇者「えっ?」

勇者E「お前、初めてここに来た時、どっちに進もうと思った?」

勇者「……さぁ。いま進んでいる方向に近いのかな……」

勇者B「え、やっぱり?」

勇者E「実は俺たち全員、最初は自然にこっちの方角に足を向けてるんだ」

勇者「!」

勇者D「まぁ漂着した座標はズレてるけど、結局は合流するような経路を辿ってるんだよね」

勇者C「別に何かに吸い寄せられてる感覚なんかはないんだけどな」

勇者「ど、どういうことなんだよ。適当に歩いたら、奇跡的にみんな重なったってことか?」

勇者A「まあ奇跡的だな。最初はほんとにどっちに進んでも良かったんだ」

勇者E「その前に合流するってのも奇跡だ。多分、スタート地点は集団の近くに落とされてる」

勇者「落とされている……? 誰に?」

勇者E「ま、何にせよ」

勇者E「同じことが5回以上も続いたら、さすがに偶然じゃ片付かないさ」

勇者F「この先には『何か』があるんだよ。俺たちを導き、引き寄せる『何か』が……」


勇者「な、何かあるなら急がないと……いや」

勇者「急いで到着してるなら、もうとっくにゴールしてるはずだもんな」

勇者E「おお! お前は、俺よりひとつ先の『俺』とは違うな」

勇者F「俺のことかよ」

勇者D「お前は急げ急げってずっと皆を急きたててたもんな」

勇者A「おかげで恒例のランニング大会が、第448回までカウントされちまったぜ」

勇者「そんなにやってたのか」

勇者A「そんくらいじゃないの」

勇者D「賢さ最低値の言葉は真に受けるな」

勇者A「なんだとこら!」

勇者B「じゃあ新人の歓迎祝いにいっちょやってみるか」

勇者C「えっやるの」

勇者F「やるぞ」

勇者「えっなに、何の話」

勇者B「じゃあいくぞ。第449回ランニング大会、よーいドンッ!」


――


勇者「……で。ゴールは?」

勇者F「決まってない。誰かがはぐれかけたら終わりだ」

勇者E「まぁ順当にこの3人がトップ3になるよな」


  勇者D「……ハァ……ハァ……」

     勇者C「……ま、待ってくれぇ……」

         勇者B「おーい終わりだー走るの終わりー」


勇者「体力に差が開くな。レベルは全滅した当時と変わってないのか」

勇者F「ああ。ここでは何をどうしたって自分の能力値が変わることはない」

勇者E「一度『俺』同士で特訓みたいなこともしたが、まぁ意味は無かったな」

勇者「成長もできないのか……」

勇者D「……ハァ……ハァ……やっと追いついた……」

勇者E「おつかれ。あれ? そういえば最初の『俺』はどこいった?」

勇者D「え? ああ、多分あの豆つぶ……」


――

ザッ  ザッ  ザッ  ザザッ  ザッ  ザッ

勇者E「……ところでさ。最後に来た『俺』」

勇者「俺か? なんだ」

勇者E「お前、戦士と魔法使いのこと、どう思う?」

勇者「えっ!?」

勇者C「その話題ももう100回以上やったけどな」

勇者E「まぁ昔話は何度やってもいいもんさ。で、どうなんだ?」

勇者「うーん……やっぱり俺の見立てでは……両思いだったんじゃないか?」

勇者E「だよなぁ!」

勇者B「うそでー。あの不器っちょな戦士と、いつもツンツン魔法使いがー?」

勇者C「全然そんな風には見えなかったけどなぁ」

勇者D「俺の時点では、二人とも怪しい仕草は見せてたけどな」

勇者E「あの時だろ。戦士がトロールの一撃を庇った時」

勇者「そうそう。あの後の魔法使いの『バカ』の一言で気付いてしまったな」


勇者A「……あのパーティーのメンバーがそんなことになるなんて……」

勇者D「まぁ長く一緒にいれば、そんだけ絆も深まるってもんさ」

勇者「ああ。最終決戦前夜なんか、あの二人だけの時間も結構長かったしな」

勇者C「詳しく聞かせてもらおうか」

勇者「無粋なことはしない主義だよ」

勇者B「さすが『俺』だぜ。おい、『俺』も見習えよ」

勇者C「そろそろ『俺』がゲシュタルト崩壊してきた。ってセリフも何回目だろうか」

勇者E「でだ。本題に入るが」

勇者F「やめろ」

勇者E「聞きたくないなら離れておけよ」

勇者「なんだ? 賢者絡みか?」

勇者E「そうだよ。賢者のこと、どう思う?」

勇者「そりゃ」

勇者「お前らも分かってるはずだろ」

勇者「好きだよ。賢者のことは」


勇者B「お……おお。さすが経験を積んだ『俺』は違うな」

勇者C「貫禄あるよな」

勇者A「やめろ! 恥ずかしい! わー」ダダダダダ

勇者D「……そうかぁ」

勇者D「やっぱり、『好き』だったんだな。俺は気付けなかったよ」

勇者「……付け加えておくと、賢者の方も、俺を好きだったと思う」

勇者E「そこまでうまい話になってたか?」

勇者「ああ。多分、なってた」

勇者E「……そっか」

勇者E「そりゃあ」

勇者E「もったいなかったな」

勇者F「……」

勇者「……でも、きっと賢者は」

勇者「『魔王を倒した俺』が、幸せにしてくれるさ」

勇者F「違うッ!!」


勇者「!!」

勇者F「賢者を幸せにするのは、俺の役目なんだ!」

勇者F「他の誰でも、得体の知れない『俺』なんかじゃなくて、この俺なんだよ!」

勇者E「おいまたか。落ち着けって」

勇者F「いくら『俺』が同じ存在だっていっても、ちゃんと自我がある!」

勇者F「お前らは悔しくないのか? 自分が好きになった女の子も守れず死んでしまって!」

勇者F「それでも『俺』か!? なぁ、なんでもっと焦らないんだよ!」

勇者「……お前、どうした? ……いや」

勇者「俺の冒険では、そこまで激昂するようなことは起きなかった。ということは」

勇者「何かあったんだな。側近戦で」

勇者F「……ふん! 知るか」

勇者C「お。おいちょっと待てって。あーもう自己中な『俺』だな」

勇者「……」

勇者E「何か知ってるのか? 俺は側近まで行けなかったから事情が分からん」

勇者「……さあな。そういえばあの側近の奴は……まぁ、別にいいか……」


――

  ザッ ザッ ザッ ザッ ザザッ ザッ ザッ 

勇者「……」

勇者「ふう」

勇者「ほんとに何もないんだな。ほんとに歩くだけなんだな」

勇者A「そうだよ!」

勇者B「ついに最後の『俺』も初ギブアップか?」

勇者C「ここじゃ100回ギブアップしてやっと一人前だぜ」

勇者D「その無意味なカウントはやめろよ」

勇者「お前らもうすっかりカウント症候群だな……」

 

勇者「ん?」

勇者「おい」

勇者「なんだあれ」

勇者「なんか見えるぞ」


勇者「おい、待て!」

勇者「ほらあそこ! 右っかわ!!」

勇者A「はいはい」

勇者B「その手にはもう二度と乗らないもんね」

勇者C「最後の『俺』はここの初心者だから、俺らにその手のネタが通じると思ってんだよ」

勇者D「本命は冗談。対抗馬で錯覚。大穴でもう一人の『俺』ってとこだな」

勇者「違う! いる! 集団だ!」

勇者E「またまた……って……」

勇者E「え?」

勇者F「お、おい……マジだ! いる!」

勇者A「うっそ!?」

勇者D「集団!? 今までにないパターンだぞ!」

勇者C「あ、ああ、俺にも見えてきた! 確かに動いてる!」

勇者B「え、マジで!? マジかよ! 1000万歩ぶりに興奮してきた!!」

勇者F「「おお~いいい~!!」」ダダダダダダッ

勇者「お、おい! あの早とちりめ」

勇者「……あの集団も、進路方向は同じみたいだな……」


――

――――

女勇者A「へえ、君たちもここに辿り着いたの?」

女勇者B「他にも、ボク達みたいに漂着した勇者がいたんだね!」

女勇者C「元の世界で冒険してた仲間だったら良かったのにな、ってのが本音。あはは」

女勇者「それにしても7人かぁ。ボク達はこの4人だけだよ」

勇者A「お、女の子……の、勇者……?」

勇者B「ど、どうも……」

勇者C「みんな同じ顔だけど……か、かわいい」

女勇者B「ありがと! 君たちもカッコいいよ!」

女勇者C「これから楽しくやっていこーねー!」

 

勇者「女勇者だけのパーティー? どうなってるんだ……」

勇者F「……」

勇者E「↑おい、いい加減元気出せよ」


勇者「お前が、一番冒険を進めていた女勇者か」

女勇者「あら。どうして分かったの?」

勇者「装備が一番充実してる」

女勇者「はは、そりゃそっか。どう? この『ひかりのドレス』」

勇者「そいつは、うちのパーティーの賢者が装備していた防具だ」

女勇者「えっ? やだなー。賢者がこんなドレス着てたら気持ち悪いよー」

勇者「何だとッ!? ――いや。待て。賢者。そっちの賢者は」

勇者「男賢者か」

女勇者「え? 賢者っていったら男じゃないの?」

勇者「なるほど。それじゃあ残りもあべこべ、戦士は女で、魔法使いは男ってわけだ」

女勇者「え? 違うよ。後のパーティーは盗賊クンと商人ちゃんだよ」

勇者「あれ?」

勇者「話が食い違ってるな。お前の冒険は俺と違うのか? 船は? オロチは?」

女勇者「オロチなら倒しましたとも! 強敵だったよねっ!」

勇者「~??」


――

勇者「――話をまとめると、スタートしたパーティー構成は違うが」

勇者「冒険の進行ルートはまったく同じ。全滅してからもまったく同じ経緯で合流」

勇者「単に最初の連れ添いが違うだけか」

女勇者「ちなみにボクは、【最果ての塔】の将軍のトコで力尽きちゃったんだ」

女勇者「あの時、指示を間違えなければなぁ……」

勇者「……」

勇者「なぁ、お前は本当に女なんだな」

女勇者「そだよ。あっ、もしかしてヤラシイことして確かめる気なんでしょ!」

勇者「お、俺は無粋なことはしない主義だよ。分かった、信じる」

勇者「となると……こちらの冒険とは、別の平行世界があったということか」

女勇者「平行世界……それは、ボク以外の『ボク』たちの世界とは違うの?」

勇者「俺以外の『俺』たちの世界は、『俺』が勇者である独立した一つの世界だ」

女勇者「? えっと要するに、【ボク世界】と【俺世界】があるってコト?」

勇者「たぶん、そういうことだと思う」


勇者「図にするまでもないが、二つの世界線が平行に伸びているんだ」


【勇者世界】  >>A>>B>>C>>D>>E>>F>勇者

【女勇者世界】 >>A>>>B>>>C>>>女勇者


女勇者「なるほど。アルファベットが全滅した時点ってわけだね。……で」

女勇者「それが分かったところで……?」

勇者「無論、どうしようもない。謎の断片を砕いただけだ。放浪は続行」

女勇者「やっぱりかぁ。元の世界に帰る帰らない、って話にはならないんだね」

勇者「悪かったな。ま、地道にまた何か見つけるしかないさ」

女勇者「ううん、色々教えてくれてありがと」

勇者「……ん。どうした」

勇者「何か今の話、面白かったか?」

女勇者「ううん。なんだかね。お兄ちゃんができたみたい」

勇者「そうか。俺も妹ができたような気分だよ」

勇者「ま、俺たちは漏れなく一人っ子だけどな」

女勇者「妹ならあっちにあと3人もいるよ!」

勇者「兄だって6人いるぞ。好きなの選べ」


――

わいわい  わいわい

勇者D「洞窟の主を倒すときあーだこーだ」
勇者A「初心者はつらいからあーだこーだ」
女勇者B「タンスから毒針をあーだこーだ」
勇者C「実は魔法使いもかわいくてあーだこーだ」
女勇者A「盗賊クンと商人ちゃんがあーだこーだ」
勇者E「お前はぱふぱふとは無縁なあーだこーだ」
女勇者C「ちょっといま発言した奴あーだこーだ」
 

勇者「一気ににぎやかになったな」

勇者F「にぎやかになっただけだ。実質何の進展もない」

勇者F「第一、勇者が増えても仕方ないだろう。倒すべき魔物がいないんだからな」

勇者「まぁそう言いなさんなって。この合流には何か意味があるさ」

勇者F「どんな意味だよ。言ってみろ」

勇者「例えば……ええっと……」

 

勇者「……ん」

勇者「おい『俺』。あれ、見えるか?」

勇者F「……ん!? あ、あれは!?」 ダッ

勇者「あっ。ちょっともう、『俺』のせっかち野郎め」

勇者「「みんなー! なんかまた集団を見つけたぞー!!」」


――

勇者1「どうもー」

勇者9「よろしくー」

勇者「た、大量に俺と同じ顔が……不気味だ……」

勇者「で、それが何人いるんだ」

勇者30「ちょうど30人だよ」

勇者「多いな!?」

勇者30「まぁ色々あったんだよ」

勇者「……そんで、最後尾にいるお前が最大レベルってわけか」

勇者「ん? いや、お前じゃないみたいだな」

勇者30「え? いや俺だよ」

勇者「だったらなんで『ひのきのぼう』なんて装備してるんだよ」

勇者A「」チラッ

勇者30「よく見ろよ。全員メイン武器は同じ『ひのきのぼう』だろ」

勇者「げっほんとだ! 何だよこの集団。あ、分かった」

勇者「お前らは最初のダンジョンの、【東の森】で全滅しまくったんだ」

勇者30「と思うだろ? 俺は違う」

勇者30「なんとこの装備で、あのオロチまでいったんだ!」

勇者「はあ?」


勇者「そんな『ひのきのぼう』やら『かわのぼうし』で進められるわけないだろ」

勇者30「理論上は可能なんだよ。キモは回復呪文の使い方だな」

勇者30「あと、魔物の攻撃パターンをしっかり把握しておくことだ」

勇者30「それと、いざとなったら気合いで思い切りよく行動!」

勇者30「まぁ気合いでどうにもならないこともあるから俺はここにいるんだが」

勇者「……百歩譲って本当だったとして、その冒険に何の意味があるんだよ」

勇者30「『ひのきのぼう』縛りの冒険さ。何があってもコレから装備は変えない」

勇者「意味不明。だからその冒険にどういう意図があるんだよ」

勇者30「分からないか? 『ひのきのぼう』で魔王討伐……どうだロマンあるだろ?」

勇者「『ひのきのぼう』で魔王を倒せると思っているのかよ!」

勇者30「うるさいな。お前はぼう一本で竜王を撃破した僧侶伝説を知らねーのかよ!」

勇者「正気かよ……お前の仲間は誰も止めなかったのかよ……」

勇者30「ふっ、お前仲間なんて連れて旅していたのか? ぬるすぎる」

勇者30「漢ならなァ。漢なら、一騎当千で名を上げんかい!!」

勇者「仲間を連れずにその装備で!? よくオロチまでいけたな……。あ」

勇者「つまりこの行列はそういうことか……あほか」

勇者30「『俺』たちの栄えある軌跡をバカにするな!!」

勇者「……」

勇者(……しかし一つ参考になった。平行世界は、複数存在する……)


――

ドドドドドド   ドドドド   ドドドドド……

勇者「魔王も真っ青な軍団だな」

女勇者「あはは。一人残らず勇者だもんね」

勇者30「おい、左右と後ろには気を配っておけよ」

勇者30「『俺』の仲間がさまよっているかもしれん」

勇者「なんでお前の仲間限定なんだよ。まぁ生産率は高いか」

勇者30「生産率ってなんだよ工場みたいに言うな!」

女勇者「ね、例えばアレとか? ほらあそこにいる」

勇者30「おうそうだ! ああいうのだ!」

勇者「え? うわっ、また豆つぶ発見かよ。急にどうしたんだ」

勇者「最初の頃に比べたら、何の感動もなくなっちまったな……」

女勇者「あるぇ? なんだかアレ、何人かいるみたいだよ?」

勇者「何! ほ、ほんとだ。3人だ!」

勇者30「ぬー。我が同胞ではなさそうだ」

勇者「きっと他の平行世界の勇者だ!  おおーーいい!!」


――

――――

勇者イ「ハァ……ハァ……」

勇者「どうだ? 少しは落ち着いたか?」

勇者ロ「あ、ああ。何とか」

女勇者「いきなり逃げ出すなんて、一体どうしたの?」

勇者ハ「いや、またあの恐怖がやってきたのかと……」

勇者「あの恐怖?」

勇者イ「ああ……俺たち3人、訳わかんねぇ形でここに来たんだ」

勇者「え? 全滅したんじゃないのか?」

勇者ロ「ううん……全滅したのかどうかも分からない……」

勇者ハ「気付いたらここにいたんだよ」

女勇者「何があったの?」

勇者イ「それは……ああ……なんて表現したらいいのか」

勇者ハ「うっ……思い出しただけで吐き気が!」ウプッ


――

勇者「……世界が壊れた?」

勇者イ「いや、ねじれたというか。イカれたというか」

勇者ロ「突然、身動きひとつ取れなくなってしまってさ」

女勇者「具体的には、何があったの?」

勇者ハ「お、俺の記憶では、みたこともない物体が一気に生まれて」

勇者ハ「それが視界全体に広がって、それが身体にめりこんで――」

勇者イ「そう、めりこんだ! 壁が、人が、グチャグチャにめりこんだんだ!」

勇者ロ「それに、不協和音が鳴るような、すごく不安定な気持ちになって……」

女勇者「……??」

勇者「まったく要領を得ないな……」

勇者ロ「とにかく世界が狂ったんだよ! それなのに体が動かないんだ!」

勇者イ「いや、俺のときは動けた。動けたけど……一歩ごとに風景が変わって……」

勇者ハ「ここも相当異常だが、あの世界よりはマシだ。安定感があるからな……」

女勇者「ふーん。ここよりも異常だなんて、想像もつかないなぁ」

勇者(……ふむ……)


ドドドドドドドドド   ドドドドドドド   ドドドドドドド…
ドドドドドド
――
ドド
――――
ド
勇者E「おーい、また別の集団を見つけたぞー!」
ド
――――
ドド
勇者D「はぐれ勇者発見ー!」
ド
――――
ドド
女勇者C「ねー、あそこに見えるの、別の団体さんじゃなーいー?」
ドドド
――――
ドドドドドドドドドドド……
――――

 

勇者(せきを切ったように、全滅した勇者集団が膨れ上がっていく)

勇者(一団と一団が、水滴のようにくっついて同じ場所に流れている)

勇者(俺も含め、みんな薄々勘付いている)

勇者(この先にある『何か』は近いと……)


――

勇者E「よう、久しぶりだな」

勇者「ああ、俺の世界の『俺』か」

勇者E「あれから何か分かったか?」

勇者「……ひと通り、チームの長とは話し合ったよ」

勇者「その結果、色んなパターンはあれど、全員に共通してる点が確認された」

勇者E「ほう。そいつぁ?」

勇者「『全員まだ魔王を倒していない』ってことだ」

勇者「どの集団にも、魔王を倒した勇者はまだ来ていないそうだ」

勇者E「……ふーん。まぁ今更というか、ぱっとしない情報だな」

勇者「それともう一つ。これは個人的に発見したことだが」

勇者「全員、お前も含めて全員」

勇者「『母さんに起こされたのが最初の記憶』ってこと」

勇者E「え? それは別に、おかしい話じゃないだろ?」

勇者「ああ、おかしい話ではない……」

勇者「……本当にそうか……?」


――――


勇者(勇者の集団はますます数を増し、ついに一万を突破した)

勇者(全員が同じ場所を目指していた)



勇者(次第に、集団の動きが早まっていく)

勇者(誰ともなしに押し黙り、急きたてられるように足を進める)



勇者(そして)

勇者(ついに『それ』は、姿を現した)



勇者(『それ』の周りには)

勇者(俺たち一万人規模の集団が、他にもたくさん到着していて)

勇者(ぐるりと『それ』を取り巻くように、幾多の勇者の波が集中していた――)


とりあえずここまで


――――

どよどよ  どよどよ……


  ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ …


勇者「こ。これは」

勇者「この渦巻きみたいなものは、何度も見たことがある」

勇者「『旅のとびら』だ!」

勇者「中へ飛び込めば別の地点へ移動できる、ワープポイント!」

勇者「そ、それにしてもなんて大きさだ……こんな巨大なものは見たことがない……」

 

女勇者「よく見て! 全部で3つもあるよ!」

勇者E「3つの旅のとびらが、バカみたいにでけぇ大穴に一緒に収まってるな……」

勇者F「こ、これが元の世界に帰る手がかりなのか!?」

勇者30「ま、待て、この大きさだ。ふちを伝ってどれか一つにしか飛び込めないぞ!」

勇者イ「お、おい! あれ、もしかして立て札じゃないか!?」

勇者「な、何だって!?」


勇者「すまん、通してくれ!」

勇者「ごめん、ちょっと失礼!」

勇者「……よ、よし抜けた! えーとなになに」


<解放のとびら>

・プログラムからの解放
・プログラムの動作外時点へ還元


勇者「へ……? な、なんだこれ?」

勇者@「ちょっと、読めたならどいてくれよ!」

勇者「あぁ悪い。うわっとっと」

 

勇者(……『プログラム』?)

勇者(『プログラム』って何だ? 続く文脈も意味不明だし……)

勇者「そ、そうだ!」

勇者「他の旅のとびらの前にも、似たような立て札があるかもしれない!」


――

<転生のとびら>

・基礎データのみ保持および転送
・新規プログラムの実行

――

<終着のとびら>

・データの消去

――

勇者「他の立て札は以上か」

勇者E「プログラム? データ??」

女勇者「どれもこれも、聞いたことがない言葉だよ……」

勇者F「くそっ……結局、どれに飛び込めばいいんだ!」

勇者30「ま、待てよ。まず、飛び込む必要があるのか?」

勇者イ「だ、だって、他の集団の最終地点もここみたいだぜ?」

勇者「他に手がかりがない以上、腹を括るしかないのか……」


――

勇者「……この3つの旅のとびら」

勇者「よくみると、それぞれ様子がまるっきり違うな」

女勇者「そうだね。他の勇者たちもそれについて話し合ってる」

勇者「……まず……<終着のとびら>とやらが嫌でも目に付くな」

女勇者「うん。真っ黒だ……」

女勇者「何にもない。暗闇が不気味に渦巻いてるだけだね……」

勇者「ああ。恐らくこれに飛び込んだら、俺たちの存在が消去されるんだろう」

勇者C「え? 『データ』って、俺たちの存在のことなの?」

勇者「いや、分からん。でもこの雰囲気と立て札から、そう考えるのが本命だろう」

女勇者「うーん……だったら、進んで飛び込もうとする勇者なんて……」

勇者イ「俺達は飛び込むかもな」

勇者「! お前たちは、狂った世界の……」

勇者ロ「ああ。あんな世界に戻るくらいなら、このまま消えちまったほうがマシだ」

勇者ハ「正直、勇者業も中途半端だったしな。さっぱり消えちまうのもアリって感じだよ」


勇者「……次に、<転生のとびら>ってのは……」

女勇者「ボクたちがよく知る『旅のとびら』そのものだね!」

女勇者「サイズは違うけど、あの青白い渦巻きは目に馴染んだものだよ」

勇者「ああ。ってことは、ある程度は同質のものかもしれないな」

勇者「例えば、この世界のどこかにワープしてしまうとか……」

女勇者「ええっ、そんなのは願い下げだよ!」

勇者「もっと別の、地下とか天空かもしれないだろ」

勇者E「……この地面と空を見る限り、それはあり得ない風に感じるが……」

女勇者「じゃ、じゃあやっぱり飛ばされる先は無限の荒野?」

勇者E「もしそうだったら、<データ消去>に飛び込んだほうがマシだな」

勇者E「あの実のない旅を再開する羽目になるくらいなら、ここで終わらせるさ」

勇者「そうか……まぁ、そうなるよな。でもあの立て札の内容」

勇者「<転送>はともかく、<新規プログラム>を<実行>ってのがメインのような気がする」

勇者E「それこそ、もっかい荒野の旅をおっぱじめるって意味じゃないのか?」

勇者「うーん……まだ断定はできないけど……」

勇者E「なんなら飛び込んでみりゃいい、それが一番早いぜ」

勇者「待てよ。現時点で飛び込むんなら――」


女勇者「この目の前にある、<解放のとびら>?」

勇者「ああ」

女勇者「変わった渦巻きだよね。何かつぶつぶみたいなのが、大量に連なってる……」

勇者「いやよく見ろ。その一つ一つを」

女勇者「ううーん? ……あ! ああっ!!」

女勇者「数字!? あの繋がってて渦を作ってるのは、全部数字!?」

勇者「どんな数字にみえる?」

女勇者「0と1……?」

勇者「そうだ」

勇者「1と0が鎖のように繋がって、それが群を為して巨大な渦巻きを作ってる」

女勇者「ど、どういう意味……?」

勇者「まったく分からない。分からないが」

勇者「あれを潜り抜けると、どうも何かから<解放>されるらしい」

女勇者「何かって……プログラム? ねえ、だからそのプログラムって」

勇者「まだ分からねえ。何にも分からねえよ……」


――

勇者「……あれから結構時間が経ったが」

勇者「みんなひたすら様子を窺ってるな……」

勇者「まだ無闇に飛び込んだ……文字通り勇者はいないか……」


どよどよ   どよどよ……


勇者「ん?」

勇者E「おい、聞いたか!?」

勇者E「ついに旅のとびらに飛び込んだ勇者が出たらしいぞ!」

勇者「さすがにそろそろ出てきたか。どのとびらだ?」

勇者E「<解放のとびら>だよ!」

勇者E「誰かが吹聴したんだ!」

勇者E「『俺たちはプログラムとやらに囚われているから、こんなところに閉じ込められた』」

勇者E「『だからそこから解放されれば、元の世界に帰れる』って!」

勇者(……。俺と似たようなことを考えてた奴がいたのか)

勇者(だが……何か引っかかる……)

勇者E「ちなみに、飛び降りたのは例のひのきのぼう集団らしい」

勇者「あいつらかよ!」


――

勇者F「おい、最後の『俺』」

勇者「どうした、俺の直前の『俺』。ん……他の『俺』も一緒か」

勇者A「ええ」
勇者B「びぃ」
勇者C「しぃ」
勇者D「でんでんで」

勇者「……決意は固まったって感じか」

勇者F「ああ。俺たちは旅のとびらに飛び込む」

勇者F「あの<解放のとびら>にな」

勇者E「そ! ……そうか」

勇者「止めはしない。けど、俺の考えがまとまるまで待ってはくれないか」

勇者F「待たない。帰れると分かった以上、もう一刻の猶予も惜しいんだ」

勇者「でもそれは……いや。そうか」

勇者「まぁあるいは、いま伝播してる帰還説が、正解かもしれないしな」

勇者F「ああ、悪いな。そっちの方を信じ込ませてもらっている」


勇者F「……」

ザッ

 

勇者F「……お前たちは少人数の時からの仲だから、特別に話す」

勇者F「俺は、側近になぶり殺しにされたんだ」

勇者E「!」

勇者「……」

勇者F「それで……仲間を一人ひとり半殺しにされて……」

勇者F「最初に魔法使いが……戦士に想いを告げて息絶えた」

勇者F「次に激昂した戦士が、術式を破って側近に切りかかって……」

勇者F「笑いながら繰り出された呪文の集中砲火を浴びて、絶命した」

勇者「……」

勇者F「そして……そして次に……」

勇者F「賢者が……」

勇者F「俺に……微笑みながら……伝えてきて……」

勇者F「それで……」

勇者F「あの野郎に……殺された……」

勇者「…………」


勇者F「最後に残った俺は、もう訳わかんなくなって……」

勇者F「それで……賢者の亡骸に手を伸ばして……」

勇者F「……そ、それで……」

勇者F「……届かなかったんだ!!」

勇者「……」

勇者F「だから俺は、一瞬でも早く戻らないといけない」

勇者F「あの場に帰って、あの手を握ってやらないといけない」

勇者F「だから俺は行く。止めるな」ザッ

勇者E「お、おい」

勇者F「お前らも、元の世界に帰ったら、幸せにな」

勇者「おい」

勇者「おい待て!!」



勇者F「じゃあな!!」  バッ



勇者「あ……」

勇者E「落ちた……行ってしまった……」


勇者A「……あいつ……」

勇者C「やけにそっけない『俺』だと思ったら、そんな経緯があったのか……」

勇者B「色々、無神経なこと言っちまったな……」

勇者「……」

 

勇者D「……さて!」

勇者D「じゃー俺も続きますか」

勇者「!」

勇者E「お、お前も行くのか?」

勇者D「ああ。さっきの話聞いて、俺も思い出しちまったよ」

勇者D「あいつほど酷くはないけど、それなりに心残りのある別れ方だったしな」

勇者「……お前確か、同じ世界に一緒に帰ったらまずいんじゃないかって、不安がってたよな」

勇者D「ああ。よく憶えていたな」

勇者D「そりゃま、これだけの人数と、こんだけでかい穴を見てしまったらな」

勇者D「スケールに飲み込まれたって言うか、もうどうでもよくなっちまったよ」

勇者「……まぁ気持ちは分からなくもないけどな……」

勇者D「ま、後の謎解きは任せたぜ」

勇者D「……そうだな。そんなお前に、最後に伝えておこう」


勇者「なんだ?」

勇者D「俺は旅の中で、一度だけこう言われたことがある」

勇者D「……正確にはある気がする」

勇者D「『全滅してしまうとは情けない!』ってね」

勇者「!? ぜ、全滅!? あの世界でか!?」

勇者E「だ、誰がそんなことを!?」

勇者D「それが覚えていない。本当に言われたのかどうかも怪しい」

勇者D「ただ、まったく不自然な場面……でのことだったような気がする」

勇者「……? 不自然な場面……?」

勇者D「まぁ気のせいかもしれないし、まったくもって要領を得ない話さ」

勇者D「だから今までそのことは話さなかった。俺だけの秘密にしてたんだ」

勇者「……いや、それは本当にそうか?」

勇者「話さなかった理由は、意味がなかったからか?」

勇者D「いや、違うな」

勇者D「やっぱり俺の考えなんてお見通しか」

勇者D「そう。俺は『俺』じゃなくて、唯一の『自分』である拠り所が欲しかったんだ」

勇者D「だって正直、嫌だったろ? 自分以外の何かと、何もかも全く同じ存在、だなんてな」


勇者D「皆が一度も話したことも無い、下らない情報を意固地に抱えることで」

勇者D「自我同一性ってやつを、確かめたかったんだろうな」

勇者「……」

勇者D「まぁ『俺』たちと付き合っているうちに、んなもんは無意味って悟ったけどな」

勇者D「俺たちは姿かたちも考え方も似てるけど、それぞれに確かな『自我』がある」

勇者D「俺たちはいくら『同じ世界』の同一人物だとしても」

勇者D「独立している存在だ。別人なのさ」

勇者D「まぁそんなこと、お前にとってはわざわざ語るまでもないことだけどな」

勇者「……いや……」

勇者「参考になった。ありがとう」

勇者D「こっちこそ、オロチを片付けてくれてありがとよ」

勇者D「……話が長くなったな。よし」



勇者D「それじゃあなっ!」  バッ



勇者「あっ……」

勇者「行ってしまったか……」


勇者A「難しい話は終わったようだな!」バッ

勇者「ん」

勇者A「次は俺だっ!」

勇者B「いや俺が先だっ!」

勇者E「やっぱり二人ともコレに飛び込む気か」

勇者A「ああ。もう二人も飛び込んじまったからな。俺も勢いで続く!」

勇者「ひのきの棒の『俺』……すべては、お前が始まりだったんだよな」

勇者A「最初に全滅したって意味ではな。よく分からんけど」

勇者A「というより正直俺さ。まだ旅の半ばまでいけてなかったし」

勇者A「なーんか皆の話題にはいつも蚊帳の外だったし、つまんなかったし」

勇者A「一丁スパッて、けじめをつけたいのさ」

勇者E「いつもスネさせちまって悪かったな」

勇者A「いいよ。これから僧侶さんとの思い出作りのことを思うと、楽しみでしょーがない」

勇者「待てよ。ちょいと俺の話を聞こうとは思わないか」

勇者A「いやー遠慮しとくよ。小難しい話を理解できるほど、頭も育っちゃいないんでね」


勇者A「まぁ正直、お前らがいてくれて救われたぜ」

勇者A「この世界じゃ理性が失われることはないし、死ぬこともない」

勇者A「だから一人でも大丈夫……って、そんなわけあるかよ!」

勇者A「お前らがいてくれなかったら、俺は理性も捨てられず、死ぬことも出来ず」

勇者A「陰鬱とこの荒野をトボトボ歩いていただろうよ。延々とだ! 冗談じゃねえ」

勇者「持つべき者は仲間か?」

勇者A「ああそうだ。仲間だよ。『俺』たちは第二のパーティーだ」

勇者「なら魔王も楽勝だな」

勇者A「違いない。来世で会うことがあったら、是非とももう一度結成しようぜ」

勇者「来世か……どうなんだろうな」

勇者A「ふふん。新米冒険者だった俺も、ずいぶん舌が回るようになったな」

勇者「ああ。お前はステータスの枠とは関係なく、立派に成長してるさ」

勇者A「そうだといいけどな。……じゃ、そろそろ行くぜ」

勇者「じゃあな、最初の『俺』」

勇者A「ああ!」


勇者A「またな、最後の『俺』!」 バッ


勇者B「……次は俺か」

勇者「何か言い残すことはあるか?」

勇者B「はは。どうせお前も飛び込むなら、残る言葉なんて無いだろ」

勇者「そうかもしれない」

勇者B「ま。とっておきって訳でもないけど、参考になりそうな話は用意してるぜ」

勇者「ほう、それは?」

勇者B「冒険の途中で、所持金が半分になった事件」

勇者「ゴールドが半分に? 何か大層な武器でも買ったか?」

勇者B「違う違う、気付いたときには半分になってたんだよ」

勇者「パーティーの誰かが無心したんじゃないのか」

勇者B「そんなはずはない……と言いたいとこだけど、実際分からない」

勇者B「落としたか? 盗られたか? もしかしたら知らない間に使ってたかも」

勇者「おいおい、旅に不慣れで金銭管理が不十分だっただけじゃないのか」

勇者B「違うね逆だ。旅に不慣れだったからこそ、お金の額だけは必死にチェックしてたんだ」

勇者B「でもそれに気付けたのは、パーティーの中でも俺だけだったな……」


勇者「……そう言われてみれば……」

勇者「俺も急に所持金が減ったことが、あったようななかったような……」

勇者「それも、一回だけじゃなかったような……ううんダメだ思い出せない……」

勇者B「そうなのか? 俺は後にも先にも、その一回きりだったけどな」

勇者「うーんそれにしたって」

勇者「全財産がいきなり半分になるなんて、とても看過できる事態じゃないのに」

勇者「どうして詳細が思い出せないんだ? いや、そもそもその事実さえも疑わしい……」

勇者B「いや、確かに事実はあった」

勇者B「当時の俺は、死ぬほど『はがねのつるぎ』が欲しかったんだから」

勇者B「まぁご存知の通り、無理に仲間の武具を優先したせいで」

勇者B「それが手に入る頃には、もっといい武器も店頭に並んでたがな」

勇者B「俺にとっては、思いいれのある武器に違いないんだ」

勇者「知ってるさ」

勇者「その『はがねのつるぎ』、実は売り払ってないんだぜ。ちゃんととってある」

勇者B「へぇそりゃいいや。さすが『俺』!」


勇者B「つーわけで、そろそろ……」

勇者「ああ……じゃあな」



勇者B「じゃあな!」バッ



勇者「……」

勇者E「また一人『俺』が行ったか」

勇者C「……」

勇者「お前は行かないのか?」

勇者C「ん。俺は……お前の話を聞いてから飛び込むよ」

勇者「えっ?」

勇者C「俺ぐらいの進行度合いだと、船を手に入れたばっかで、旅の自由を楽しんでる段階なんだ」

勇者C「寄り道したり、宝探ししたり、小さなイベントをこなしたりしてな」

勇者C「だから一本道に囚われず、細かい部分とこも見知った上で、とびらに飛び込みたい」

勇者「そうか……そういえば、そういう時期もあったな」

勇者C「旅が忙しくなって俺の存在なんて忘れてただろ? はは、良心と思えよな」


勇者E「俺も似たような感じだ」

勇者E「他の『俺』はそれぞれ訳アリだったが、本質的な『俺』は変わらないってことだ」

勇者「町の人全員に話しかけたり、未踏の地をしらみつぶしに探索する性格のことだな」

勇者C「あ、やっぱり後半も変わってないんだな、それ」

勇者E「でも最後の『俺』は、訳アリにならなかったのか?」

勇者「ん?」

勇者E「魔王までいって負けたんだろ? なのにどっしり構えてるのな」

勇者「ああ。何でだろうな。死ぬほど帰りたいのに、自分でも驚くほど冷静だ」

勇者「あるいは【俺世界】の『最後の俺』だから、何か不思議な力でも詰まってるのかもな」

 

女勇者「やあ、ここに集まってたんだ」

勇者「!」

勇者C「女勇者ちゃんじゃないか!」

勇者E「……他の3人は?」

女勇者「行ったよ。ボクだけ残っちゃった」


女勇者「こっちは、3人も残ったんだね」

勇者「几帳面な性格のおかげでな」

勇者E「それが幸いなのか災いしてるのかは、分かんないけどな」

女勇者「他の勇者グループは、全員飛び込んだところも多いみたいだよ」

勇者C「え! そ、そうなんだ」

女勇者「逆に一人も飛び込まないで、じっくり考えてるグループもある」

勇者E「マジか。みんな同じ立場の勇者なのに、行動がバラバラなのな」

女勇者「うん。ここから察するに――」

勇者「それぞれの【世界ごと】に、勇者の性格が似通っている傾向がある」

女勇者「そうそう! 進行度合いや、ここに行き着いた経緯なんかで差はあるけど」

女勇者「基本的な性格は同じみたい。一人称が『僕』や『私』で統一されていたりね」

勇者「つまりそれぞれの世界に、それぞれ基本となる勇者像がいる、ってことはほぼ確定か」

勇者C「ややこしい言い方するなよ」

勇者E「別にややこしかないだろ」

勇者C「俺がこの中で一番バカなんだから分かりやすく頼むぜ!」


女勇者「それで、ねえ」

女勇者「どこまで推測できたの?」

勇者「ん? それは……ええっと……」

勇者E「そういうお前の方はどこまで分かったんだよ」

女勇者「ぜへんぜん! ボクは社交的に明るく楽しく情報集めるタイプだからね」

女勇者「自分であれこれ考えるより、人に聞いた方が早い! 派だよ」

勇者C「それずるい!」

勇者「……ってことは、他の3人は」

女勇者「うん。元の世界に帰れるって聞いて、喜んで<解放のとびら>に飛び込んじゃった」

勇者E「おい! 集めた情報からどう判断して行動するか、ってのが腕の見せ所だろうが!」

女勇者「だからボクはこうして残ってるでしょ」

勇者「残ってたのは、衝動を抑えこめきれた賢さだったんじゃ……」

勇者C「あ、もしかして俺より賢さ低いってこと?」

女勇者「低くないもん! ボクバカじゃないもん!」

勇者E「かわいい」


女勇者「そもそもさ」

女勇者「ボクたちの冒険は、基本的に誰かの情報を鵜呑みにしてきたでしょ」

女勇者「それで旅は順調どころか、魔王まで進められたんだから問題ないでしょ!」

勇者E「そういう問題じゃ……」


勇者「……」


勇者「言われてみればそうだ」

勇者「俺たちの冒険は……勇者の冒険は、『詰まらなかった』」

勇者C「え? 楽しかったでしょ」

女勇者「楽しかったよ?」

勇者E「お前らは黙っとけ」

 

勇者「……『詰む』ことが、なかった……」

勇者「これって、不自然じゃないか?」

勇者E「え?」

勇者「まるで……まるであらかじめ敷かれた道を、歩かされてきたような……」


とりあえずここまで。
ひのきのぼうは後日談の構想温めてるから、いつか書こうと思ってる


勇者「……そうだ。おぼろげながら見えてきたかもしれない」

勇者C「何が」

勇者「プログラムとやらの正体」

勇者E「マジでか」

女勇者「何が分かったの?」

勇者「まぁそう慌てるなよ。結論から先に言うから」

 

勇者「プログラムの正体、それは」

勇者「俺たち元の世界で『冒険』と呼んできた旅、そのものだよ」

 

女勇者「えっ?」

勇者E「プログラムが冒険?」

勇者C「どういうことなの……」

勇者「いいか。ここから先の話は、証拠が用意できない」

勇者「ほぼ俺の憶測だけだ。だからあまり期待せず、参考程度に聞いてくれ」


勇者「まずこの何もない世界には、実際この中にいるかどうかは別として」

勇者「『創造主』がいる」

女勇者「そーぞーしゅぅ?」

勇者C「つまり、神様のことだろ?」

女勇者「神? それなら元の世界にもいたでしょ?」

勇者C「そうそう。僧侶や神父さんは神様への信仰で、奇跡の御技を授かるんだ」

勇者E「いや、あくまでそれとは別物って位置づけなんだろ」

勇者「そうだ。俺が特に指したいのは、この世界を作った『創造主』」

勇者「この3つの旅のとびらや、立て札を設置した張本人のことだ」

勇者C「……うーん、まぁそんくらいだったら、俺だって思いつくけどなぁ」

勇者「そしてその『創造主』は、『プログラム』をも創った」

女勇者「まー立て札を立てたんなら、そうなるだろーね……ん?」

女勇者「ねえ、さっきプログラムの正体って……」

勇者「そうだ」

勇者「その『創造主』は、俺たちの冒険――」

勇者「俺たちの世界にも介入しているんだ!」


勇者C「ど、どういうことなの?」

女勇者「ええと、その『創造主』が創ったプログラムは、ボク達の冒険ってことだから……」

勇者E「俺たちは、元の世界からこの異世界に飛ばされた、って話じゃないのか?」

勇者「ああ。俺も最初はそう思っていた。けどそうじゃない」

勇者「俺たちは、すでに『創造主』が作り上げたモノから、この世界に送られてきたんだよ」

勇者C「ちょ、ちょっとくれ……意味が……」

女勇者「え、するとつまり何、ボクたちがいた世界は、架空の世界だったってコト?」

勇者E「あれが架空の世界だったら、こっちが現実って訳かよ!?」

勇者「違う……」

勇者「俺たちの世界は、紛れもなく元から確かに存在した世界……」

勇者「その方向で考えたい。俺自身、そう信じたい」

勇者E「ますますワケ分かんねえ。じゃあプログラムってのは何なんだよ!?」

勇者「つまり!」

勇者「俺たちがいた元の世界は、この世界の『創造主』に、乗っ取られているんだよ!」

勇者「『勇者が旅立ち、魔王を倒すまでの間』だけ、切り取られてたってことだよ!!」


女勇者「そ……それはどういう……」

勇者C「ま、まだついていける……いけてる……多分……」

勇者E「な」

勇者E「なんでまた、そんな中途半端な期間が浮かび上がったんだよ」

勇者「そこが、『勇者(一行)が全滅した時点』の範囲内だからだよ」

勇者「この旅のとびらに行き着くまでの集団遠征の中で、密かに確認していたんだ」

女勇者「あ、ボクに確かめてって言ってたアレ?」

勇者「ああ。あれは思いのほか有益な情報だった」

勇者「全滅までの最速時点は、フィールドに出てからの最初のスライム戦」

勇者「つまり、旅立ちの前に死んだって奴は一人もいなかった」

勇者「全滅までの最長時点は、俺と同じ魔王との最終決戦」

勇者「つまり、魔王を討ち果たした奴も一人もいなかった」

勇者「だから創造主の言う『プログラム』ってのは、とりあえずはこの期間なんだ」

勇者E「ちょ、ちょっと待てよ。まず前提をはっきりさせろよ」

勇者E「お前はどうして、その『プログラム』が『俺たちの冒険』だと思ったんだよ?」


勇者「直接それらを結びつける証拠は、ない」

勇者「だがそう推測する根拠はある」

勇者「まず最初に違和感を覚えたのは、あの<解放のとびら>の立て札の文面だ」

勇者C「ええっと何だったっけ?」

勇者女「ボクは全部のとびらの文面、一字一句憶えてるよ!」


<解放のとびら>

・プログラムからの解放
・プログラムの動作外時点へ還元

<転生のとびら>

・基礎データのみ保持および転送
・新規プログラムの実行

<終着のとびら>

・データの消去


勇者E「<解放のとびら>の文面に違和感……『プログラムからの解放』って部分か?」

勇者「『動作』ってのもだ。まずこの呼び方が妙に引っかかった」


勇者「で、立て札の文面は置いといて、他方、俺たちの冒険を思い出してくれ」

勇者「俺たちの冒険には、常に道しるべがあった。おかげで途中で『詰む』こともなく」

勇者「道のりは遠くても、魔王戦まではすんなり一本道で辿り着くことができた」

勇者「これ、後から考えてみたら、異常じゃないか?」

勇者C「そう?」

女勇者「異常って例えば?」

勇者「俺たちの到着まで、いや生まれる前に、魔王軍が世界を侵略してたらどうするんだよ」

勇者E「はぁ? だからそうなる前に、天の導きによって俺たちは……」

勇者「なんで神官は、魔王討伐のキーアイテムの場所を正しく知っていたんだ?」

勇者「なんで『ひかりのたま』が、あんな分かりやすいところに用意されてた?」

勇者「偶然オロチが村を襲う月日に、俺たちの到着が重なったのは何でだ?」

勇者「そうだ、今にして思えば」

勇者「挙げ出したらキリがないほど、都合のいいことばかりだった」

勇者E「はぁ……だからそれは全部、神様の導きと勇者たる必然性によって為されたことだろ?」

勇者「そう。俺たちの世界では、全てその言い分でカタがついてしまう」

勇者「だが、まだ決定打が残っている!」


勇者E「何があるっていうんだよ」

勇者「この世界に行き着いてから知った、最大の異常だ。それは」

勇者「『ルイーダの酒場』だ」

勇者C「え、あそこが?」

女勇者「ボクらの故郷の城下町にある、最初に仲間を集める場所だよね」

勇者E「何が異常なんだよ」

勇者「それぞれの世界によって、そこで選んだ仲間が違うってことだよ」

勇者「【俺世界】では、女僧侶・男戦士・女魔法使いだった」

女勇者「【ボク世界】では、男僧侶・女商人・男盗賊だけどね」

勇者「他の世界の話だと、あと他に『武闘家』と『遊び人』がいる。全部で計7職だ」

勇者E「それは選ぶ前から分かってたことだろ? 何が異常なんだよ」

勇者「異常なのは、その中から希望する人材が、一人残らず酒場にいたってことだよ」

勇者「『○○さーん! 勇者さんがおよびよー!』の一言で、即座に仲間が現れた」

勇者「ただの一人も、性別・職業とも外れずにだ!」

勇者E「……あ……そういうことか……」

女勇者「どういうこと?」

勇者C「kwsk!」


勇者「考えてもみろ」

勇者「そうやって注文した人材を、漏れなく請け負ってくれるだけでもおかしいのに」

勇者「同じ『ルイーダの酒場』が、周囲のこれだけの世界の数だけあって」

勇者「必要な仲間が足りなかったなんて話は、一切無かった!」

勇者C「酒場の人が、その人数分、用意してくれてるんじゃないの?」

勇者「それを言うには、まず7つの職が仲間分の3名の、計21人」

勇者「それが男女いるから、少なくとも42人は控えてなくちゃいけないぞ」

勇者E「……あの小さな酒場に、そんな人数が収容されてる様子はなかったな……」

女勇者「そういえば他の世界では、仲間が入れ替わり立ち代りしてるところもあったよ!」

女勇者「他にも、解雇したり、また別の人を雇ったりして……その分も入れると……」

勇者「ああ。あらゆるケースを考えると、膨大な数になる」

勇者C「きっと、地下かどこかに閉じ込めてたんじゃない?」

勇者「そんな話だったら、絶対に仲間の誰かが話すだろ。その経緯を隠す理由も無いし」

勇者「それに人数を考えると、やはり予め自力で用意されていたというのは無理がある」

勇者E「じゃあ、注文した途端に仲間が生えてきたってことか? それこそ無理があるだろ!!」

勇者「だから異常だってさっきから言ってるだろ!」


勇者E「そんな……じゃあそれは、プログラムって奴による影響だっていうのかよ」

勇者「ああ……」

勇者E「そ、そんなことで」

勇者E「『プログラム=冒険そのもの』説が成立してしまうってのかよ……」

勇者「俺たちは、『普通に冒険しているように錯覚させられていた』と考えるのが妥当だろう」

勇者「無論、憶測に過ぎないが、これからの話はそういった前提を元に展開させてもらう」

勇者C「バカにとってはうんざりな言い方!」

女勇者「分かりやすくお願いします!」

勇者「分かりやすいというか、じゃあ一番知りたそうなことから話そう」

勇者C「知りたそうなこと?」

勇者「ああ。この<解放のとびら>の行き着く先だ」

女勇者「エッ!?」

勇者E「そ、そこまで分かったのか?」

勇者「分かるわけないだろ。全部推測とカンだよ」

勇者E「か、勘……」

勇者C「それで、どこに繋がってるんだ?」

勇者「……それは……」


勇者「それを言うには、まず、もう一つ前提を打ち立てないといけない」

女勇者「またー?」

勇者「簡単な話だ。まず、そこのあほな方の『俺』」

勇者C「うがー何だよっ」

勇者「そもそもだ」

勇者「俺たちの正体って何だろうな」

勇者C「えっ? 勇者じゃないの?」

勇者「ああ、違う違う。いまこうして思考し対話する、『自意識』の正体だよ」

勇者C「ふぇあ??」

勇者「勇者だって人間だ。赤ん坊から生まれ、幼児を経てここまで育ってきた」

勇者「そう、俺たちは、『プログラム』が始まる前から存在していた、元々一つの命だったはずだ」

勇者「それなのに『プログラム』によって、次々に生み出る同一人物として誕生している」

勇者「ただし、それぞれに『自我』『自意識』がある」

勇者「全滅の経緯や、この世界への漂流歴によって、性格も考え方も変わる」

勇者「つまり、本質の部分は完全な別人だろ? それは何を拠り所として成り立っているんだ?」

勇者C「え? 分かりません……」


女勇者「うーん……」

勇者「じゃあ、賢い方の『俺』は?」

勇者E「……お前がどういうことを聞きたいのかは何となく伝わるが」

勇者E「別人である拠り所? なんて正体は想像もつかない。一体お前は何だと思うってんだ」

勇者「魂だ」

勇者E「たましい?」

勇者「俺も何ていったらいいか分からないから、便宜上『魂』ということにしておく」

勇者E「それで?」

勇者「俺たちは世界線が同じだろうが異なろうが、それぞれ独立した『魂』なんだよ」

勇者「……それさえも創造されたものというのなら、話は続かない。議論は終わりだ」

勇者「<解放のとびら>の行き先なんて、分かりっこない」

勇者E「俺たちが『魂』だとしたら、分かりっこあるってのか?」

勇者「ある」

勇者「<解放のとびら>の先は、『プログラムの動作外時点』……つまり」

勇者「それぞれの世界の勇者が『旅立つ前』か、『魔王を倒した後』の時点だ」


勇者C「え……な、なんで? それじゃあ肝心の勇者が活躍する場面がないじゃん」

女勇者「『旅立つ前』だったら、そこから活躍していけばいいんじゃないの?」

勇者E「そもそも、どっちの時点に飛ばされるっていうんだよ」

勇者「……おそらく」

勇者「その世界で、魔王が倒されてるか否か、によって変わると思う」

勇者C「ヘァ?」

勇者「また必要な説明がある。話題が二転三転して申し訳ないが」

勇者「俺が思うに、この『プログラム』――それぞれの世界から、解除される条件があり得る」

女勇者「え? 『解放』じゃなくて?」

勇者「解放ってのは、『プログラム』の呪縛から単体で解き放たれること」

勇者「解除は、その呪縛そのものが無くなるって表現だ」

勇者C「なにそれ。最高じゃない!」

勇者E「その、解除の条件ってのは?」

勇者「それは……その世界で勇者が魔王を倒しきること」

勇者「そうすれば『プログラム』の最終目標は到達されることとなり、一切の呪縛は消える」

勇者「『プログラム』が解除されたなら、いくら全滅を演じようともこの異世界に来ることはないし」

勇者「この異世界には、今後その世界からの勇者が流れ込むことはない」


勇者E「どうしてそう言いきれるんだ?」

勇者「簡単な話さ。この世界に、魔王を倒した勇者がいないからだよ」

勇者「俺たちの冒険の目的と併せて、『プログラム』も連動していると考えるのが自然だ」

勇者「尤もその勝ち組の勇者が、別の場所に送られていた場合なんかは知らないけどな」

勇者E「……今更だが、穴だらけの推理だな」

勇者「聞き伝えの状況証拠だけで、ゼロから論理立てているんだ。そりゃ仕方ないさ」

勇者C「ええっと、とりあえず、『魔王が倒された世界』は、プログラムってのがないんだね」

女勇者「ええっと、それでさっきはどういう話だったっけ?」

勇者「<解放のとびら>に飛び込んだらどうなるかって話だ」


<解放のとびら>

・プログラムからの解放
・プログラムの動作外時点へ還元


勇者「この二番目の文章」

勇者「『プログラムの動作外時点』とは、旅が始まる前か、魔王が倒された後の時点のこと」

勇者「元の世界で魔王討伐が未遂であれば、旅が始まる前の時点へ――」

勇者「魔王が倒されていたら、そうして得た平和な世界の時点へ『還元』される」

勇者E「『還元』……」


勇者C「ねえ、思ったんだけど」

勇者C「魔王が倒された後に、俺たちの魂が戻っちゃったらどうなるの?」

女勇者「普通に考えたら、その魔王を倒した勇者と、魂が入れ替わっちゃうんじゃない?」

勇者E「で、でもよ、もう大量にコレに飛び込んじまったぞ? 『俺』だって4人も」

勇者「ああ……その4人は……」

勇者「……その4人は……」

勇者「本来の目的が叶うことは、ないだろう」

勇者C「!? ど、どうして!?」

勇者「……それぞれの世界でプログラムの進行を辿れる勇者は、ただ一人だ」

勇者「<プログラムの動作外時点へ>。この文面を信じるとすれば」

勇者「少なくとも同一時系列の『プログラム』内に帰還することは、ない」

勇者E「そ、それじゃあ」

勇者E「それじゃあ、あの4人は、どこにどうやって復活するっていうんだよ!!」

勇者「『復活』じゃない。『還元』だ」

勇者「その世界に、プログラムで使用した『魂』が返される」

勇者「自然に考えれば、『転生』」

勇者「もう一度赤ん坊から生まれ直すんだよ」

勇者「勇者以外の誰かにな」


勇者C「ええだって、勇者やってたのに、何で勇者以外になっちゃうの?」

勇者「その世界にすでに勇者がいるからだよ。繰り返すことになるが」

勇者「プログラム動作中、その世界に『勇者』という人間は一人しか存在できないんだ」

勇者「だから俺たちは、いや俺たちの魂は、別の誰かとして生まれ変わるしかない」

勇者「いや、人間かどうかも怪しい。もしかしたら魔物か、そこらの小虫かもしれない……」

勇者E「な……なんだよそれ……」

勇者C「そ、そんなのひどい……せっかく頑張ったのに……」

勇者「確かに俺たちは頑張った。だが、『全滅』してしまった」

勇者「元の世界に帰ろうと思ったら、もう勇者を捨てるしか、道は残ってないんだ」

勇者E「ぜ、前世の記憶は?」

勇者「無論、ないだろう。あったとしても辛くなるだけだ。例えば」

勇者「もし元の世界で魔王が倒されているならば……そして転生先が、その時点付近なら」

勇者「そこでは『自分以外の自分』が魔王を倒し、称えられていて」

勇者「恋人がいたとしても、『自分以外の自分』に寄り添っている世界なんだ」

勇者「発狂するだろうよ。俺だったら、狂う」

勇者E「…………」


勇者「まとめると、こうだ」


・<解放のとびら>に飛び込む
 ↓
・もし元の世界で魔王が倒されていたなら、魔王討伐後の時間軸に(勇者以外の存在へ)転生
 or
・もし元の世界でまだ魔王が倒されていなかったから
 勇者が旅立つ以前の時間軸に(勇者以外の存在へ)転生
 のちにプログラムに巻き込まれる


勇者「これが俺の、<解放のとびら>に関する結論だ」

勇者E「最後のその、『プログラム』に巻き込まれるとどうなるんだ?」

勇者「恐らく魔王が倒されるまで、記号化されてしまうんじゃないかと思う」

勇者「『プログラム内の勇者』が、冒険しやすいように……」

勇者E「そんな……」

女勇者「……」

勇者C「なあ」

勇者「ん」

勇者C「『俺』たちは、どっちの時間に転生したのかな……」

勇者「……」

勇者「俺は、魔王戦をもう一度やるなら、絶対に負けないと思う」

勇者「だからきっと、俺の直後に続いた勇者が、魔王を討ち果たしたあとの……」

勇者「……平和な世界だと思う……」

とりあえずここまで

勇者「まあ、あれだ」

勇者「あくまで俺の仮説だから、今の推理が事実かどうかは別の話だ」

勇者「もっともらしく論じたところで、所詮は現状を変えられない自己満足だよ」

勇者C「そ、そうだよな。あくまで証拠のない仮説だよな!」

女勇者「参考にはなったけどね」

勇者E「話を続けてくれよ」

勇者「ん?」

勇者E「もう粗方考えもまとまってるんだろ?」

勇者E「続きを頼むよ。あっちの<転生のとびら>に飛び込んだらどうなるのかを」

勇者C「お、おう、知りたいなそっちも」

女勇者「『転生』って言葉、さっきの話にも出てきたけど、それとは別なの?」

勇者「……ああ」

勇者「<転生のとびら>は……」

勇者「まず、立て札の内容をおさらいしてみよう」


<転生のとびら>

・基礎データのみ保持および転送
・新規プログラムの実行


勇者C「最初の【基礎データ】ってなんのことだろうね」

女勇者「それを保持はともかく、転送ってどこに?」

勇者E「そりゃ新規の『プログラム』の中にだろ」

勇者「そう、つまり『新しい冒険』だ」

勇者C「えっ! 新しい冒険」

勇者「これまでの話をそのまま踏襲したら、すんなり推察できる」

勇者「データというのは多分、プログラム内における『勇者』のことだ」

勇者「要するに新しい勇者として、新しい冒険の場に転生するってわけだ」

勇者C「さ、最高じゃないのそれ!」

女勇者「いいコト尽くしだね!」

勇者E「待てよ」

勇者E「『基礎』データ『のみ』ってどういうことだよ」

勇者E「とても『何のリスクもありません』って響きには聞こえないぞ」

勇者「ああ、俺もそう思う」

勇者「おそらく今の俺たちの……後天性って言えばいいのかな。それは全部パァになる」


勇者C「ど、どういうことなの? 後天性?」

勇者E「つまり俺たちが生まれてから得たもの全てが、消えるってことか?」

勇者「ああ」

勇者「俺たちが経た『プログラム』、そしてこの全滅後の世界から分かるように」

勇者「いま俺たちが有していて、且つプログラムに必要なのは唯一、『魂』だけだ」

勇者「『プログラム』には『魂』さえあれば、あとの媒体は後付け自由なんだよ」

勇者「だからこのとびらに飛び込めば、今ここに存在する肉体も記憶もすべて消滅され」

勇者「『新規プログラム』仕様に、新しく組み替えられる可能性が高いだろう」

勇者C「ひい」

勇者E「でも、要は記憶がパァになって新しく生まれ変わるんだろ?」

勇者E「それだったら、さっきの<解放のとびら>と似たようなもんじゃないか」

勇者「あのとびらは、100%元の世界へ帰還できる点で違う」

勇者「今度の転生は、いつのどこに飛ばされるのかまったく不明だ」

勇者「ただ一つの見当は、転生先が『勇者』であるかもしれない、ということだけだ」

勇者C「え……てことは……」

勇者「選べってことさ」

勇者「元の世界には帰還するが、勇者には戻れない<解放のとびら>か」

勇者「勇者として転生する可能性はあるが、どこに飛ばされるか分からない<転生のとびら>か……」


女勇者「<解放>か<転生>か……<終着>」

勇者E「おい、選べだって?」

勇者E「どこまで上から目線なんだよ、その『想像主』って奴はよ」

勇者「いや、配慮はあるだろう」

勇者「その気になれば、用済みになった俺たちなんてすぐに処分できるだけの力はあるはずなのに」

勇者「この場に自由意志と選択権が与えられてるってことは、『創造主』の寛容ってやつじゃないか」

勇者E「俺はそうは思わねえ。あの長旅は、下手すりゃ史上最悪の拷問沙汰だぜ」

勇者E「目的地も分からないまま彷徨うことを強いられた挙げ句、突然『ほら末路を選べ』ってか?」

勇者E「先方における俺たちの扱い方は、どう考えても実験動物だろ!」

勇者「何か理由があるかもしれない」

勇者E「お前は、この世界の長旅が一番短かったからそんな考えができるんだ」

勇者E「そっちのお前なら、俺と同意見だよな?」

勇者C「えっ? 分からない。……でも俺は」

勇者C「俺は、みんなと色んなことが話せて、楽しかった分のが大きいかな」

勇者E「あれえ俺こんな純粋だったっけ」

勇者「これも『魂』の違いなのかもな」


勇者C「うーん。とにかく分からないことだらけだけど」

勇者C「なんだか『創造主』ってのに酷いことされてる、って感じは伝わる……」

勇者E「ああ。勝手に人の世界に押し入って、人の魂を弄ぶなんてな」

勇者「でも、あながち悪い奴とも言い切れないかもしれないぞ」

勇者C「へ? どうして?」

勇者「そいつによる『プログラム』があれば……少なくとも、その世界では魔王は倒せる」

勇者「『プログラム』なしの世界の歴史には、勇者という概念自体ないのかもしれないし」

勇者「もし魔王が本気で侵略を考えたら、その世界は魔王に滅ぼされていたかもしれない」

勇者E「その魔王だって、『プログラム』によって生み出された悪役かもしれないだろ!」

勇者「あくまで仮定の話さ。『かもしれない』祭りを騒いだところで仕方がない」

勇者「俺が言いたかったのは、『創造主=悪』だとも言い切れないってことだ」

勇者E「……お前が、そいつの肩を持ちたがる理由は何だ?」

勇者「それは……これだ。この3つの旅のとびらだ」

勇者「さっきも似たようなこと言ったろ。それが理由」

勇者「最後の最後に、この魂に選択権を与えてくれたためだよ」


女勇者「どういう意味?」

勇者C「それが『創造主』がいい奴だってことになるの?」

勇者「ああ。同じことを繰り返すことになるけど」

勇者「こんだけ人様の冒険を『プログラム』として自在に設定できる相手だぞ」

勇者「目的を果たせなかった有象無象の『魂』なんか、好きに処分すればいいじゃないか」

勇者「それを一つ残らず一箇所にかき集めて、最後に行く末をそれぞれに委ねるんだぞ」

勇者「俺には、どことなく親切っていうか――」

勇者E「だったら!」

勇者E「なんで俺たちの望む選択肢がないんだよ!!」

勇者E「帰らせてくれよ! もう一度全滅したところから、『この俺の魂』をさ!」

勇者「……それが」

勇者「できなかったんだと思う」

勇者「さっきも言ったろ。一つの世界に、勇者は一人しか存在できないんだ」

勇者「いまある自我を、既に存在する勇者の人格に無理に押し込もうとしたら」

勇者「その世界に存在する勇者は、身心ともに破綻してしまうだろう。そうなれば魔王は倒せない」

勇者「だからこれは、せめてもの措置……なんじゃないかと思う……」

勇者E「そんなの……そんなの納得できるかよ……」


女勇者「えっとじゃあ、何」

女勇者「いまこの光景は、勝手に魂を弄んだ『創造主』からのお詫びの印、ってこと?」

勇者C「それは信じられない! だったらなんで」

勇者C「なんで立て札に、わざわざ意味不明の言葉を選ぶんだよー!」

勇者「……そういう言葉遣いでしか伝えられなかったか、それとも」

勇者「真実に至る手がかりを残し、自分の存在に気付いて欲しかったのかもしれない……」

勇者E「どちらにしろ、結局は手前勝手でとても感心できない奴だぜ」

勇者「……」

女勇者「でも、でもさ」

女勇者「さっきちょろっと挙がってて、逸れていっちゃったけどさ」

勇者「?」

女勇者「なんでその『創造主』は」

女勇者「わざわざ手間をかけて『プログラム』なんてのを創ったのかなーって話」

女勇者「魔王を勇者に倒させるため? みたいなことさっき言ってたけど」

女勇者「それだったら、もっと短くて簡単な旅にしてくれても良かったのにね」


勇者C「おーそうだそうだ。最終目標がその世界の魔王を倒すことなら」

勇者C「俺たち勇者一行が全滅するなんておかしいだろー」

勇者E「……言われてみればそうだな。どんな意図があるんだ?」

勇者「それは」

勇者「人類に、試練を乗り越えて魔王を討ち果たして欲しかったため」

勇者「種としての成長を図ったため。それがこの『プログラム』の主旨――」

勇者C「な、なるほど」

勇者E「はっ、結局俺たちは実験材料じゃないか」

女勇者「……」

勇者「種としての成長――」

勇者「と。ここに辿り着くまでは思っていた」

女勇者「!」

勇者C「え?」

勇者E「どういうことだよ」

勇者「……」

勇者「頭に引っかかって離れないことがあるんだ」

勇者「『全滅してしまうとは情けない!』と」

勇者「『所持金が半分になった』事件だ」

女勇者「なにそれ?」


勇者C「その二つは、あれだよ。ええっと」

勇者E「先に飛び込んだ『俺』二人からの、置き土産だ。だがそれがどうした?」

勇者「……そもそも俺たち、全滅のたびに記憶を受け継いで復活する、みたいな話だったろ」

勇者E「ああ。お前と最初に会ったとき、俺が話したことだな」

勇者「それ、後から疑問に思ってたんだが」

勇者「じゃあ、いったい、俺たちは『どこ』から再開していたんだ?」

勇者C「へ? どこって?」

勇者「全滅の記憶がない以上、その時点より巻き戻ってるのは確実なんだが……」

勇者E「でも俺たちの記憶では、それぞれ旅立って一度しか全滅してないんだぜ」

勇者E「そんなポイント、あったとしても自覚できっこないだろ」

勇者「『できたかもしれなかった奴』が、いた」

勇者「先に飛び込んでしまった、二人の『俺』だ」

勇者E「あの最後の話か? 分からないな。再開のポイントは、いつだっていうんだ」

勇者「『全滅してしまうとは情けない!』って言われたときか」

勇者「『所持金が半分になった』時……あるいは、それらが同時に発生したときだ」


勇者E「同時に発生?」

勇者「ああ。この二点はいずれも」

勇者「冒険に深く関わっている俺たちなら、まず忘れるはずがない出来事のはず」

勇者「それなのに酷く曖昧な記憶になってる。恐らくこの再開ポイントと関係がある」

勇者E「でもあれは、二人とも自信なさげだっただろ?」

勇者E「単に勘違いしただけか、その時点でのみ発生した出来事なのかもしれん」

勇者「……『全滅してしまうとはなさけない』」

勇者「勇者である俺に、面と向かってそう言ってのけられる人物といえば?」

勇者E「……まぁ……」

勇者E「勇者である俺を派遣した、王様ぐらいなもんじゃないの?」

勇者「その玉座の前ってさ。何となく」

勇者「全滅後に巻き戻って、冒険を再開するには、丁度いい位置だと思わないか?」

勇者E「はあ~?」

勇者「話は変わって、所持金が半分になったってとき」

勇者「それって、全滅直後の話だったら、冒険に失敗したペナルティとして、丁度良くはないか?」


勇者E「待て待て、いきなり話が飛躍しすぎて訳が分からん」

勇者E「つまり何が言いたいんだ? 結論から言え」

勇者「つまり……」

勇者「これは後から思いついたことなんだが……」

勇者「『創造主』とは別の、『プログラム進行者』が存在するんじゃないかって話だ」

勇者E「進行者……?」

勇者「そいつは、創造主ほど全能ではないけれども」

勇者「俺たち『勇者』を操ることができるんだ」

勇者「でも俺たちは、それに気付くことができない。動かされるままに動いてるだけだ」

勇者E「はあ……また何を言い出すんだ」

勇者「だから!」

勇者「『創造主』は、その『進行者』のために、わざわざプログラムを組み立てたってことだよ!」

勇者E「……その『進行者』に、俺たち『勇者』を使って、魔王を倒させるため?」

勇者「そうだ。操られてるんだ。そいつは俺たちを使って遊んでいるんだ!」

勇者「言うなれば『遊戯者』なんだよ!」


勇者E「『遊戯者』……そこまで言い張る根拠ってのが」

勇者「そうだ。王様の時点への巻き戻りと、所持金カットのペナルティ」

勇者E「んなバカな思い付きがあるか!」

勇者「根拠なら他にもある! ボス戦攻略だ!」

勇者E「!?」

勇者「お前は確か、【最果ての塔】の将軍にやられたんだろ」

勇者「でも次の『俺』は、そいつを理想系の装備と作戦で倒した」

勇者「のみならず、【俺世界】の全ての『俺』は、まるで未来を見透かした闘い方をしている!」

勇者E「……それが、『遊戯者』のおかげだというのか」

勇者「ああ。他にも、ひのきのぼうだけで冒険を踏破しようとしていた勇者集団がいただろ」

勇者「あれも今にして思えば、『その世界を遊んだ遊戯者』の仕業だったんだ」

勇者「だって一番最初の勇者は、全員等しく『俺』だぜ? 常識ぐらい持ってるだろ」

勇者E「……そのひのきのぼうの『遊戯者』は、非常識だったってことか……」

勇者「ああ。各世界の『俺』『僕』『ボク』『私』それぞれの性格が統一されていなかったのは」

勇者「すべてそれぞれの世界を担った『遊戯者』による違いだったんだよ!」

勇者E「はぁ……?」


勇者「この件に関する俺の結論は、こうだ」

勇者「『創造主がプログラムを創ったのは』」

勇者「『遊戯者に俺たち勇者を操作させ、魔王を倒してもらうため』だ」

勇者「しかし、簡単に魔王を倒せてはつまらない……遊戯として成り立たない」

勇者「だからある程度難易度を設けることで、楽しませようとしているんだ」

勇者「これが俺の、新しい説だ」

勇者E「滅茶苦茶だな……じゃあ、この『魂』の正体は遊戯者の性格そのものってことか?」

勇者「それは違う。プログラム内の『俺』と、今この場にいる『俺の魂』は別物なんだよ」

勇者「……正直、自分でもなんでこんなこと口走っているかは分からない」

勇者「でも、そんな気がしてならないんだ」

勇者E「脈絡が無さすぎる。何か憑いてしまったのか?」

勇者「憑いたというか、潜在していた思考に着いたというか」

勇者「もしかして俺は、前世の勇者で」

勇者「何かもっと信憑性のある手がかりをつかんで、同じ事を感じ取ったのかもしれない」

勇者E「前世って何だよ。第一、それが分かったところでどうするんだ?」

勇者「……元より打開策なんて無いさ。そいつを踏まえた上で、とびらを選ぶだけだ」

勇者E「はあ。結局それに落ち着くのかよ」


勇者C「ねえ、難しい話は終わった?」

勇者E「お前いたのか」

勇者「あんまり静かだから、勝手に飛び降りたのかと思った」

女勇者「おーい」

勇者E「あいつもまだいたのか」

勇者「おい、どこ行ってたんだ」

女勇者「んー。ちょっと周囲の勇者状況を把握しに」

勇者「どんな感じだった?」

女勇者「かなり減ってるみたい。もう全体の1割も残ってないんじゃないかな」

勇者E「皆とびらに飛び込んでしまったのか?」

女勇者「うん。この目の前の<解放のとびら>が圧倒的に多いけど」

女勇者「<転生のとびら>にも<終着のとびら>にも、何人か飛び込んでるみたい」

勇者「そうか……」

勇者E「……」

勇者E「で、俺たちはどうする?」


勇者「……決行する前に、最後に残ったとびらについてだが」

勇者E「ああ、<終着のとびら>ね。語るまでもないだろ」

勇者E「今までの話から察すると……『魂のゴミ箱』ってところか?」

勇者C「うーん。そうなのかなぁ」

勇者「このとびらの需要は、あの壊れた世界の勇者たちぐらいにしかないだろう」

勇者E「あの、支離滅裂なことを叫んでいた3人の勇者か」

勇者「ああ。彼らの魂は、折れてしまっていた」

勇者「恐怖を深く刻まれ、再起する気力も失った。だから終焉を望んだんだ」

女勇者「あの人たちが言ってた世界って、結局何だったんだろうね」

勇者「『組み立てに失敗したプログラム』……俺はそう睨んでいる」

勇者「そういったものが出てしまうのは不可抗力だったか」

勇者「あるいは……あの勇者たちは、何かプログラムに抵触するタブーを犯したか」

勇者「どちらにせよ<終着>が末路になるなんて、不運だったかもしれないな」

勇者C「俺はそうは思わないけどなぁ」

勇者「!」


勇者E「あの勇者たち3人が不運ではないと、そう言ったのか?」

勇者C「あ、ごめんごめん、その人たちのことじゃなくてさ」

勇者C「この<終着のとびら>を、悪いもの扱いしてる風な空気だよ」

女勇者「えっ、じゃあいいものなの?」

勇者C「……そもそも、立て札の前に書いてあった『データの消去』って」

勇者C「どういう意味だったっけ?」

勇者E「それは、普通に考えたらこの『魂』の完全消滅ってことじゃないのか」

勇者C「俺はそうは思わないかも」

勇者「どう思うんだ?」

勇者C「何て言ったらいいのか……『本当の解放』って言うのかな?」

勇者「!?」

勇者C「だって<解放のとびら>は、プログラムのせいで勇者以外の何かに転生するってことでしょ」

勇者C「んで<転生のとびら>は、『創造主』の用意したプログラムをまたやるってことでしょ」

勇者C「何だか『こっちに行け』って行き先が決められてるみたいで、俺はやだな」

勇者E「……お前まさか……」


勇者C「うん」

勇者C「俺は『終着のとびら』に飛び込むよ」

勇者「!」

女勇者「や、やめておいた方がいいんじゃない?」

勇者E「お前は話をよく理解できなかったから、暴走してるだけだ」

勇者C「話がよく理解できなかったから、好きなとびらに飛び込んでもいいじゃない」

勇者E「だから、あのとびらに飛び込んだら消えてしまうんだって!」

勇者C「いいよ、究極それでも」

勇者「!?」

勇者C「どうせ今の記憶を保持するとびらもないんでしょ」

勇者C「だったら結局、どれ選ぼうが同じことなんじゃないかな」

勇者「……そうだな」

勇者「考えてみると……<終着のとびら>が設置されたのも、自暴自棄の勇者用じゃなくて」

勇者「もっと深い意味があるのかもしれない。『消滅』ではなく『終着』だもんな……」

勇者C「そう! 終わるんだよ。一歩離れた視点からの、どでかい縛りがさ」


勇者C「これは俺が全滅した時期による影響なんだろうけど」

勇者C「やっぱり自由がいい。新しいものを知りたいんだ」

勇者「次に生命を与えられるかどうかも分からないんだぞ」

勇者C「どうして?」

勇者「どうしてって……データが消去されるって、そういうことじゃないのか」

勇者C「データって、『プログラム』内における『勇者』って位置づけだったよね」

勇者「あ、ああ」

勇者「てことは、もう『勇者』って概念自体なくなるんじゃないかな」

女勇者「それが消されると、どうなるっていうの」

勇者C「つまり、『魂』ってのが、丸裸になるんだ!」

勇者C「それをもって『創造主』からの干渉を『終着』とする。これで晴れて自由だ!」

勇者「……『創造主』からの干渉を受けなくなるのは、<解放のとびら>も同じだけど」

勇者C「勇者だったのに別の勇者がいる世界、ってのが気に入らない」

勇者E「じゃあ勇者になれる<転生のとびら>に飛び込めばいいじゃないか」

勇者C「もう一度『プログラム』をやんなきゃいけないのが気に入らない!」


勇者C「というわけで俺は」

勇者C「<終着のとびら>に飛び込むとするよ」

勇者「まあ、<終着のとびら>に関しては、自信もって判断できる要素が少ないからな……」

勇者「自由を手にするって考え方も、正しいのかもしれない」

勇者C「ああ。足りない頭で必死に出した結論だよ」

勇者C「俺はあの<終着のとびら>に飛び込んで」

勇者C「この『創造主』さえ知らない、未知の世界に行ってみたい」 ザッ…

勇者「お、おい」

勇者E「ほ、本当に行くのか?」

勇者C「おうさ」

勇者「……そうだな」

勇者「俺も船を手に入れたばかりの頃だったら、同じことを思ったかもしれないな」

勇者「あの時、海原を突き進む舳先が、新たな世界を切り拓いていくように思えた」

勇者「けど、世界を全部見て回ってしまって……未知を失って」

勇者「冒険を進めて、目的の方からこっちに迫ってくるうちに」

勇者「自由なんて言葉、俺の頭の中からすっかり剥がれ落ちてしまってたな……」

勇者C「はは。言ったろ。俺は、後半の『俺』の良心なんだよ!」


勇者C「じゃあな、3人とも」

勇者E「ああ……」

女勇者「またね……あ! 『もし』があればね!」

勇者「……次に」

勇者「次に行き着いたところでも、頑張れよ、『俺』!」

勇者C「ああ!」

勇者C「じゃあな!」 ザッザッザッ…

 

勇者E「……」

女勇者「……」

勇者「<終着のとびら>まで、まだ結構が歩くみたいだな……」

勇者E「でも、足取りは軽やかだ」

女勇者「うん……そうだね」

勇者(……『俺』の良心か)

勇者(それが今、行ってしまったんだな……)

とりあえずここまで
多分次かその次に完結します

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