京子「ちなつちゃんが好きすぎて辛い」(104)

京子「ちーなーつーちゃーん!」

ガバッ

ちなつ「……」サッ

京子「うぐっ」ドゴッ

ちなつ「……」

京子「うぬぅ……」

抱きついても避けられ蹴られ早数ヶ月。
こうなったらもう、ちなつちゃんを意地でも振り向かせてやらなければ――!

ごらく部部室。
けれど本当は旧茶道部の部室でもある。

そして本当はちなつちゃんは茶道部に入部志望だったわけで……!

京子「ちなつちゃん!」

ちなつ「なんですかー」

京子「お茶を立てようと思う」

ちなつ「へえ」

京子「うん」

ちなつ「……」

京子「興味、ない?」

ちなつ「結衣先輩もあかりちゃんも遅いですね」

京子「ぐぬぬっ」

結衣め、あかりめっ。
ちなつちゃんを奪いやがって!
こんなにミラクるんに似た可愛い横顔で(なんかよくわかんないけど)本に目を
落としているちなつちゃんを!

京子「ぺらっ」

ちなつ「……」ペラッ

京子「ぺらぺらっ」

ちなつ「……」ペラペラッ

京子「ぺ」

ちなつ「邪魔しないでください!」

怒られました。
そんなに目を三角にしなくても。

ちなつ「もう」

京子「……」

ちなつ「……」

京子「なに読んでるの?」

ちなつ「京子先輩にはわからない内容のものです」

京子「なら尚更見せて!」

ちなつ「嫌ですよ穢れますよ」

京子「そこまでっ!?」ズーン

ちなつ「うっ……今のは言いすぎたかも、ですけど」

京子「ちなつちゃん!」ガバッ

ちなつ「ちょ、くっつかないでくださいよ~」

京子「ちなつちゃんはきもちいいなあー!」

ちなつ「ちょっと京子先輩ー!」

ガラッ

あかり「京子ちゃん、ちなつちゃん、遅くなって……」

結衣「……」

おや。
お早いご登場だことで。
私はちなつちゃんに頬ずりしたまま固まる結衣とあかりを見上げた。

結衣「なにしてんだ」

京子「じゃれてる」

ごつんっ
結衣の拳骨が落とされた。その衝動でちなつちゃんを手離してしまった。
あぁ、もうちょっと抱きついておきたかったのに!

京子「なにするんだ結衣ー!」

結衣「ちなつちゃんが嫌がってるだろ」

ちなつ「はう……」キラキラ

ちなつ「……」ハッ

ちなつ「ふえーん、結衣先輩~!」ガバッ

結衣「ち、ちなつちゃん?」

京子「……ぬう」

結衣「よしよし、もう大丈夫だからね」

ちなつ「結衣先輩……!」

そして展開される結衣とちなつちゃんの二人の世界。
いかん、眩しすぎる!

京子「……」

あかり「……」

京子「うぐぐっ」

あかり「えっ」ビクッ

あんなに可愛いちなつちゃんがなぜ結衣に懐いて私に懐かないのか。
ここはもう一歩攻めてみて――

京子「ちーなつちゃ」

ちなつ「来ないで下さい」ゲシッ

京子「おうふっ」


京子「はあ……」

結衣「なんだよ京子のくせに溜息なんて」

京子「あ゛?」

結衣「千鶴じゃないんだから」

京子「はあ……」

結衣「……めんどくさいなもう」

京子「結衣ー」

結衣「ん?」

京子「私の何が悪いか教えてほしい。出来るだけ簡潔に」

帰り道。
ちなつちゃんとあかりはもう少し学校に残ると言って私たちだけが先に帰って
来ていた。

結衣「めんどくさい」

京子「ほんとに簡潔だな」

結衣「簡潔にって言ったからな」

京子「じゃあなんで私、ちなつちゃんに懐かれないんだろう」

結衣「あぁ、そういうこと」

京子「そういうこと」

結衣「めんどくさい」

京子「泣いていいですか」

結衣「お前、毎日毎日飽きずにちなつちゃんに抱き着いたりするからだろ?」

京子「だって気持ちいいんだもん」

結衣「でもちなつちゃんは嫌そうだし」

京子「毎日結衣に抱き着いてるちなつちゃんがそういうこと嫌がるとは思えない」

結衣「じゃあ京子を嫌がってる」

京子「わかってるとはいえ言葉に出されるとちょっときついよ結衣」

結衣「うん、ごめん」

京子「どうしたらちなつちゃんが私に懐いてくれるのだろうか……」

結衣「うーん、どうしたら、ねえ」

京子「結衣ならわかるはずだ!」

結衣「って言われても」

京子「ちなつちゃんに懐かれたい!」

結衣「ちなつちゃんは猫でも犬でもないが」

京子「じゃあちなつちゃんに好かれたい!」

結衣「じゃあってお前な……まあでも、好かれたいんなら今の京子の行動を
   見直すべきなんじゃない?」

京子「ほう……」

結衣「たとえば一回一日中抱きつかないでいるとか」

京子「無理」キリッ

結衣「あぁ、じゃあ無理だな」

京子「えっ」

結衣「ちなつちゃんに嫌がられ続けるか、一度だけ一日ちなつちゃん禁止するか」

京子「そんなの決まってるじゃん!」

結衣「うん」

京子「……」

結衣「ちなつちゃん禁止できなかったら京子は」

京子「ちな禁!」

結衣「……ちな禁?」


翌日

あかり「二人ともおはよー」

京子「おー、あかり」

結衣「おはよ」

すうっと深呼吸。
あかりが来たらもう少しで可愛いちなつちゃんの登場だ。

京子「……」ウズウズ

結衣「……」

京子「……」ウズウズ

結衣「……落ち着けよ」

京子「はい」

その時、たたたっと足音が。
おぉ、ちなつちゃん!

ちなつ「すいませーん、遅くなりましたー!」

あかり「ちなつちゃん、大丈夫だよぉ」

結衣「おはよう、ちなつちゃん」

ちなつ「ゆ、結衣先輩おはようございますっ」

さあ今こそ――!
そこでぐっと自分を抑えた。
危ない危ない。ついいつもの癖でちなつちゃんに飛び掛りそうになってしまった。

京子「お、おはよちなつちゃん!」

ちなつ「!」ビクッ

ちなつ「……あれ?」

一瞬身構えたちなつちゃんがきょとんとしている。
今日も私に抱きつかれるとでも思ったのだろうか。
やっぱりちなつちゃんは可愛いな!けどちょっと傷付くよ!

ちなつ「おはよう、ございます……」

うぅ、めっちゃ警戒されてるし。

ちなつ「あかりちゃん、今日の京子先輩どうしたの……?」

あかり「えっ、どうして?」

おーい、聞こえてるよちなつちゃん。
そうは思いながらもここは我慢我慢。ここでちなつちゃんに絡んだら抱きつかなかった
意味がないからな!

京子「おーい、先行くよー」

結衣「あ、京子」

まってーとあかりの声がする。
隣に並んだ結衣が「どう?」と訊ねてきた。

京子「正直かなり抱きつきたくてしょうがない」

結衣「重症だな」

京子「うん、重症だわ」

結衣「でも今日一日だけ」

京子「ちな禁」

結衣「昨日から思ってたけどその言い方如何わしいからやめろ」

京子「えー」

ぶーっと膨れたとき、
ようやくあかりたちが追いついてきた模様。

あかり「結衣ちゃん、京子ちゃん、待ってよー!」

京子「悪い悪い」

結衣「ちなつちゃん、大丈夫?鞄重そうだけど……」

ちなつ「結衣先輩!へ、平気です平気ですこんなのぜんぜん!」

結衣「そう?」

やっぱり結衣先輩ったら優しいー!
きゃー!
とでも聞こえてきそうだ。

京子「……むー」

ちなつ「……」

京子「……」

ちなつ「……なんですか?」

はっ。
ついちなつちゃんをじっと見詰めてしまっていた。

京子「べ、べつに抱きつきたいとか考えてないし!」

ちなつ「いきなりどうしたんですかその出来の悪いツンデレみたいな台詞」

結衣「あはは……ちなつちゃん、今日の京子はちょっと変なんだよ」

ちなつ「それなら納得です。ていうか結衣先輩が言うから無理矢理納得です」

なんかやけに清清しそうな顔してるなちなつちゃん。
私が抱きつかなかったのが良かったのか?
いや、でも態度がひどくなった気もするから悪かったというべきか……。

あー、もふりたいっ!

あかり「おーい、京子ちゃーん」

結衣「なにしてんだ、いくぞ」

―――――
 ―――――

どさっ。
鞄を下ろして、教室の冷たい椅子に崩れ落ちる。

京子「朝からかなり疲れた」

結衣「お疲れ。でもなにで疲れたのかわからん」

京子「ちなつちゃんをぎゅってしないために頑張ったらかなり疲れた」

結衣「よっぽどだな」

京子「ってことで授業中は寝るからよろしく」

結衣「おいこら」

京子「あー、他になんかいい方法はないのかー」

結衣「日ごろのお前の行いが悪いからしかたない」

京子「私が何をしたってんだー!」

結衣「自分の胸に聞いてみろ」

京子「はい……」

朝からこの調子だと、ちなつちゃんと同じ空間にいることになる放課後は
どうなるというのか。
あぁ、ちなつちゃんに触りたいなあ。

指がちなつちゃんの髪に触るときみたいにもふもふ動いた。
それを見て結衣が聞こえよがしの溜息を吐いたのは知らなかったことにする。


一時間目
→爆睡

二時間目
→爆睡(ちなつちゃんの夢を見た)

三時間目
→内職

四時間目
→移動教室。ちなつちゃんを発見した。でも頑張って抱きつかなかった!
歳納京子は偉い!どんどんぱふぱふ!

昼休み
→ちなつちゃんが教室に!一瞬飛びかかろうとしたら警戒されたので堪えた。
京子たんったら健気!

五時間目
→爆睡(ちなつちゃんをもふる夢を見た)

六時間目
→内職。気が付けばちなつちゃんの似顔絵を描いていた
(ミラクるん似だけど決してミラクるんではなくちなつちゃんである)

放課後
→今ココ

結衣「……なんだこれ」

なんだこれって、そりゃもちろん。
帰りのホームルームのときにつけた、学級日誌ならん歳納京子日誌だ。
それを見て、結衣が当然のように固まった。

京子「これほどちなつちゃんが足りないってことだ」

結衣「うん、それはわかるけど」

京子「だから早く部室に」

結衣「授業ちゃんと受けろよ」

京子「てへっ」

結衣「もうテスト前とかノート見せてやんないからな」

京子「ごめん見せてください結衣様お願いしますそれだけは勘弁してください」

結衣「あーもう」

京子「で、早く部室」

結衣「私、今日掃除なんだが」

京子「えっ」

結衣「ちなつちゃんに早く会いたいなら先行けば?」

できるならそうしたいけれども。
たしか今日もあかりは花の水遣りかなんかで遅くなるはずだし。

結衣「ちなつちゃんと二人っきりになれるかもよ?」

だから行けないとなぜわからん結衣様よ!
二人っきりだと私のこのちなつちゃんに触りたい衝動をどう抑えろと!

結衣「行くの行かないの?」

京子「えぇー」

結衣「行かないなら掃除手伝ってもらうけど」

京子「結衣にゃんひどい」

結衣「結衣にゃんじゃねえし」

京子「じゃあ結衣様」

結衣「ちなつちゃんに」

京子「結衣」

結衣「で、行かなくてもいいわけ?」

行きたいけど勇気がない。
そう呟くと、結衣は「なんの勇気だよ」と笑った。

結衣「京子はいつでも勇気奮う間もなく行動してるだろ」

京子「褒め言葉?」

結衣「どうとるかは京子次第」

京子「勇気がないっていうかこの湧き上がる衝動を止められる気がしない」

結衣「湧き上がる衝動ってなんかかっこいいな」

京子「そうかな」

結衣「じゃあ今日はいっそ、ちなつちゃんに会わずに帰るのは?」

京子「それはやだ」

結衣「なら掃除を」

京子「それもやだ」

結衣「んじゃ部室」

京子「……ちなつちゃんに抱きついちゃったら結衣のせいにする」

結衣「なんでだよ」


部室の前に立つと、朝と同じようにすうっと深呼吸した。
ちなつちゃんを見ても身体が勝手に動かないようにしっかり監視しなきゃ。

京子「よし……」

ぐっ
思い切り手に力を込め、部室の扉を開けた。

京子「たのもー!」

沈黙。
なんの返事も返ってこない。
いつのまにか瞑っていた目を開けると、部室には誰の姿もなかった。

拍子抜け。
私の緊張を返せこのやろう。

とりあえず鞄を中に放り置いて深々と息を吐いた。
よいしょ、とその場に座り込んで。

びくんっと思い切り身体を揺らしてしまった。

ちなつ「こんにちはー!」

ちなつちゃんだ。
中に入ってきたちなつちゃんは私を見つけると「なんだ、京子先輩ですか……」と
不機嫌そうな顔。そんな顔も可愛いけどやっぱりちょっと傷付くよちなつちゃん。

そんな顔をした罰にもふもふーっとやってやりたいのに、そんなことをするわけにも
いかない。
ぐっと堪える。

京子「おー、ちなつちゃん」

よしよし、この調子だ私。
そう思った時、ちなつちゃんがいつもより近くに腰を下ろしてきた。
ちょうどちなつちゃんをもふりやすい角度、場所……!

狙っているとしか思えない。
まあちなつちゃんだからそれはないのだろうけど。

ちなつ「結衣先輩は?」

京子「掃除だよ」

ちなつ「あかりちゃんはお花の水遣りだそうです」

京子「へえ」

どっどっどっ
変な汗が流れてくるしちなつちゃんをぎゅっとしたくて心臓が暴れている。
あぁ、こんなに近くにいるってのにちくしょー!

ちなつ「お茶淹れましょうか」

京子「よろしくー」

ちなつ「手伝ってくださいよねもー」

京子「んー」

……うん?
ここは手伝ったほうが好印象な気が。
いつもここはちなつちゃんの小言を流して何かしてたりするから、たまに
手伝ったりすれば「きゃー、京子先輩かっこいい!」ってなるかも。

京子「よし、手伝おう!」スクッ

ちなつ「えっ」

京子「ちなつちゃんが来る前は私が給仕係やってたからね!」

ちなつ「……意外です」

京子「へへーん」

得意満面の笑顔を浮かべながら、私はちなつちゃんの手からポットを奪い取る。
そのとき少しだけ触れた手にでれーっと。
は、していない。

ちなつ「お湯はこれです」

京子「えっ、もう沸いてるの?」

ちなつ「いつも帰りのホームルームの前にお湯がちょうどいい温度になるように沸かしにきてるので」

京子「ほえー」

知らなかった。
そりゃちなつちゃんのお茶が美味しいのは当たり前だ。

ちなつ「これでも茶道部志望でしたからね」

京子「今は?」

ちなつ「結衣先輩がいるからいいです」

さすが安定の結衣。
こうなってきたらもう妬くどころか結衣が羨ましくなってくる。

京子「私は?」

ちなつ「どうでもいいです」

京子「うっ」

ちなつ「まあいないよりはいたほうがいい、ですけど」フイッ

突然ぱあっと世界が明るくなった気がした。
やっぱちなつちゃんいい!
「ちーなつちゃん!」とそう抱きつこうとして、けれど寸止め。
せっかくちなつちゃんがオちかけてるのにここで抱きついちゃってどうする。

ちなつ「って、京子先輩、お湯お湯!こぼれてます!」

京子「えっ」

ちなつ「なにやってんですかもー」

京子「いやつい……」

嬉しくって。
でもこれを口に出したらまたちなつちゃんに手を伸ばしそうになるので
やめておいた。

ちなつ「で、今日のお茶何にします?」

京子「なにって、おーい○茶じゃないの?」

ちなつ「はあ?」

京子「えっ」

ちなつ「インスタントにするつもりだったんですか!いいですか、お茶っていうのはですね!」

うわ、ちなつちゃんが語りだした。
そりゃちなつちゃんのお茶が美味しいのは当たり前だ。

京子「うんうん、じゃあ私が手伝うなんて無理だー」

ちなつ「ここまでやっといてですか!」

京子「だってわかんないもん」

ちなつ「ちゃんと説明したじゃないですかー!」

説明してたけど私には難しすぎてわからないです。
結論から言うと面倒臭い。
けど、そんな面倒臭いのを毎日毎日やってるちなつちゃんを想像したら突然心の中から
何かがわきあがってきた。

やばっ、これは――

京子「ちなつちゃん!」

ちなつ「なんですか!」

京子「後ろ向いて!」

ちなつ「……は?」

京子「あ、やっぱだめ、斜め!」

ちなつ「……こう、ですか?」

京子「いや、もうちょっと!」

ちなつ「……」

京子「うぅー!」

だめだっ、どんなちなつちゃんももふりたくって仕方が無い!

ちなつ「あの、京子先輩……?」

うおっ、ちなつちゃんが私の名前を――
ていうかこっち見た!

京子「ち、ちなつちゃん……」

後ずさる。
手が、指が、ちなつちゃんを求めている。
あぁ、ちなつちゃん、お願いだから私を、私をそんな――!

ちなつ「あ、お茶できた」

京子「……」

がくん
崩れ落ちた。
まあけど、あのままじゃちなつちゃんをもふるまで秒読みってところだったからよしとしよう。

ちなつ「はい、京子先輩も」

崩れ落ちたところにちなつちゃんの淹れた温かいお茶。
ありがたく受取ることにする。

京子「サンキュー」

ちなつ「……」

どういたしまして、というちなつちゃんの反応が遅れた。
何かおかしいというように首をかしげている。

ちなつ「……京子先輩」

二口目のお茶を口に含んだときだった。
突然、ちなつちゃんが恐々というように私の名前を口にした。
ごくりと熱いお茶を飲み込んでちなつちゃんを見上げる。

京子「どうしたの?」

ちなつちゃんはことんとテーブルに半分以上お茶の残ったカップを置くと、
私の前に立った。
それからそのままがっと私の肩を掴んで――

えっ、これはえっと。
ちなつさん……?

ちなつ「京子先輩!」

結衣「ちなつちゃん、無事ー?」

がらっ
ちなつちゃんの声と同時に、すごく邪魔な結衣の声が。

結衣「……みたいだ、ね」

ちなつ「きゃーっ、結衣先輩!こ、これはその、違うんです結衣先輩!」

結衣「えっ、あ、うん……」

うわタイミング悪っ。
結衣の顔にもそう書かれてあるし、私も思う存分心の中ではかせてもらおう。
でも正直、結衣が来てくれてほっとしているかもしれない。
肩にはまだちなつちゃんの手の感触が残っているけど。

ちなつ「結衣先輩ー!」

今のちなつちゃんの手は、結衣の肩にあるわけだし。

その後あかりも来て、いつものごらく部の活動が始まった。
活動とはいっても活動と呼べるものではないわけだけど。

結衣「一瞬ちなつちゃんと京子がどうにかなったんじゃないかと思った」

京子「どうにかって?」

結衣「それは言えんが」

京子「どうにかなればよかったのになー」

どっかの誰かさんのせいでなー。
こそっと隣に来た結衣があまりに申し訳なさそうにしてるから言わないでおいてやる。

京子「あー、もふりてー」

結衣「指がこえーよ」

あかりに楽しそうに話しかけるちなつちゃんを見ながら指がうずうず。
身体がぞくぞく。
さっきの手の感触だけでごはん五杯はいけるが一日我慢するほどの効果は得られない。

結衣「どんだけ依存症だ」

京子「それだけ毎日だきついてたんだなと改めて思った」

結衣「そうだな」

京子「あともうちょっとの辛抱か」

結衣「うん」

はあ、と溜息。
ちなつちゃんに触れられないのは辛い。

京子「明日は触りまくるんだ……」

結衣「二つの意味でそういうこと言うのやめとけ」

京子「二つの意味とは」

結衣「死亡フラグっぽい」

京子「もう一つは」

結衣「犯罪臭い」

京子「犯罪者でもなんでもいいや」

ちなつちゃん分が足りないのが一番の犯罪だと思うほど、
ちなつちゃん分が究極に足りない。

そのときチャイム。
これから帰って寝るまでの数時間は、ちなつちゃんのことを考えずにいたら
乗り切れる!

マンガのネタ出しとか色々残ってるし大丈夫なはず!

京子「よし帰ろう!」

結衣「用意はやいな」

京子「帰りたい!」

あかり「えっ、京子ちゃんがいち早く帰りたいなんて……」

そんなに驚くことでもないって。
そう言いながら、部室を出る。ちなつちゃんのほうは見ないように見ないように。

学校を出て、いつもの別れ際までなんとかやってきた。
ここからはみんな別々だ。

勝ったも同然!
明日からはちなつちゃんに堂々と……。
あれ?でもその前にちなつちゃんに好かれなきゃいけなくって。

結衣「じゃあまた明日」

あかり「また明日ねー」

うん、また明日と手を振りながら私はひたすら首を傾げた。
これで好かれたとは考えにくいしやっぱり明日もちな禁を……。
そんなことを考えながら、みんなに背を向けて、帰ろうとしたとき。

ちなつ「京子先輩!」

びくうっ
肩を思いっきりすくめ、私は振り向いた。もちろんいるのはちなつちゃん。

京子「ち、ちなつちゃん……?」

帰らないのかな。
夕日の中、心なしかちなつちゃんは怒っているように見える。
しまった、何かしたか私。

ちなつ「先輩、やっぱなんか変です!」

京子「へ、へん?」

ちなつ「変です!」

京子「そう何度も言わなくったって」

ちなつ「だって、変なんだもん!」

朝からずっと、何もしてこないし変なことも言ってこないし抱きついてもこない!
別にそれでもいいんですけど!
でもなんかいつもの京子先輩みたいじゃないし!

ちなつちゃんはそう言いながら、ぐいぐいと私に近付いてくる。

ちなつ「いつもの京子先輩なんて嫌ですけど、でもそんな京子先輩に嫌われたなんて
    思うともっと嫌なんです!」

京子「ちなつちゃん……」

ちなつ「何かしたなら謝りますから!だから、あの、私……!」

泣きそうな声になるちなつちゃん。
それを聞きながら、ちなつちゃんは私に嫌われたと思ったのかと納得した。
そんなわけなくって、むしろちなつちゃんに触りたくって仕方が無かったってのに。

あぁもう可愛いんだからちなつちゃんは!

京子「ちなつちゃん、ちなつちゃん」

ひょいひょいと手を動かして、ちなつちゃんを呼び寄せる。
不思議そうな顔をして近付いてきたちなつちゃんに、私はぎゅっと抱きついた。

今日一日我慢した、ちなつちゃんだ。

ちなつ「ちょっ、京子先輩!」

京子「もふもふ」

ちなつ「……許してくれるんですか」

許すも何も。
そう言い掛けて。

京子「許さない」

ちなつ「なっ」

京子「けど、こうやって毎日抱きつかせてくれたら許しちゃおっかなあ」

そう言って笑ってみせると、ちなつちゃんは。
ふいっと顔を逸らして。

ちなつ「……もう、仕方ないですね」

ずっきゅーん。
可愛すぎるよちなつちゃん!

ちなつ「ゆ、結衣先輩がいないときだけですよ!」

京子「よしっ!」

ちなつちゃんの頭をもふもふしながらガッツポーズ。
「すごい喜びようですね……」と呆れたようにちなつちゃんが呟いた。
でも堪えきれずに噴出して。

ちなつ「……ぷっ」

京子「……へ?」ドキッ

ちなつ「くくっ……なんだか、安心したら笑けてきましたよもー……!」

京子「……」

ちなつちゃんの笑顔。
そういえば、こんなふうに笑うちなつちゃんってあんまり見たことない気がする。
釣られて私も噴出した。何がおかしいかなんてそんなのはどうでもいいか。
ちなつちゃんが笑ってる横でこうして笑えるのが嬉しい。

京子「明日からいっぱいもふもふするから、ちなつちゃん!」

ちなつ「いっぱいはだめです」

京子「えー」

ちなつ「だきついてくるのはいいですけど……」

京子「もちろんだきつくさ!」ギュウッ

ちなつ「今はもういいですってばー!」

終わり

近々京ちなのガチ百合ルートも書けたらいいなと思っている
支援保守、最後まで見てくださった方ありがとうございました
それではまた

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