咲「お酒にまつわるエトセトラ」 (69)

咲の短編SSです

一話でやめるかもしれないし、いくつか続けるかも

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咲『杯に愛された子供たち』


東京・とある酒屋の個室


咏「いや〜、みんなお疲れ〜」

一同「おつかれさまでーす」

咏「U-23世界大会の人選相談されたときにはさぁ、長野出身縛りで選べばいいんじゃね?」

「なんて冗談で言って、それが通ったときも驚いたけど」

「まさか優勝しちゃうなんてねー!わっかんね〜」


咲「三尋木プロと戒能プロがオーバーエイジ枠で参加してくださったおかげですよ」

良子「三尋木プロは横浜出身ですけどね」

咏「お偉いさんが、意見通してやったんだからおまえも参加してケツ持てよ。なんていうんだもん」

「いやいや知らんしーって最初は言ってたんだけどねー」フリフリ

良子「ノープロブレム、人は誰しも心に長野をもっているのです」

咏「うんうん、だよねー。知らんけど」

 「でもさ、結果的に優勝できたんだから、参加してよかったと思ってるよ」

 「それに、みんなにも感謝してるからさ。今日は私の奢りだかんね!」

良子「おお〜、グレイト」

咲「いいんですか?」

咏「勿論!遠慮なんかしないでパ〜っとやっちゃって!かんぱーい」


一同「かんぱーい!」



三尋木プロの音頭で始まったU-23日本代表選手の打ち上げは、こうして和やかな雰囲気の中で始まりました。

えり「お楽しみのところ失礼します。私もみなさんの語らいに参加してもよろしいですか?」

和「針生アナ。どうぞ座ってください」

衣「えり!衣のよこにすわれー!」キャッキャッ

咲「針生さん、今日は素敵なお店に招いてくださってありがとうございます」

えり「いえ、代表選手のお話が聴けるのですから前日にいきなり店を抑えろと無茶振りされても、まったく構いませんよ」ゴゴゴ

透華(あ、これは三尋木プロはあとでお説教ですわね)


えり「今回参加されているみなさんは全員成人されているんですよね」


咲「マホちゃん以外はそうですね」


えり「そうでした、夢乃選手はプロ以外から唯一選ばれていますね。高校生からの選抜入りは素晴らしい快挙ですね」


マホ「は、はい!試合には出ませんでしたけど、世界の強豪選手を近くで見ることができて、マホ、感激しました!」グッ


和「マホは『今回の経験でわたし、すっごく強くなれました』なんて言うくらい刺激をうけたみたいですよ」

 「そんな簡単に強くなれたら苦労はしないと言っているのですが、まぁ向上心が刺激されるのはいいことです」ナデナデ


マホ「はい!」


咲(マホちゃんの場合、ホントに強くなるから怖いよね)アハハ

えり「今回は三尋木プロを主将に据えての試合でしたが、問題はありませんでしたか?ストレスとか」


咲「い、いえ!さすがフル代表でもエースなだけあって頼りになりました(ここは褒めておかないと後でうるさいからなー)」エヘヘ


透華「ええ、三尋木プロが後ろに控えているおかげで落ち着いて試合ができましたし(ことあるごとに『えりちゃんがね、えりちゃんがね』ってうるさかったですけど)」オホホ


えり「あ、流石に試合ではちゃんとしているんですね」ホッ


マホ「マホは三尋木プロのことテレビでしか見たことなくて、初めて会った時、中学生からも呼ばれている子がいる!ってびっくりしちゃいました」


えり「ふふふ‥そうなんですか(…三尋木プロって)」


和「ま、マホ、そういうことは思っても口にしてはダメです」


咏「やっほー。みんな飲んでるー?」フリフリ



えり「三尋木プロ」


衣「相伴にあずかっているぞ!咏、此度はかように素敵滅法な席のしつらえ、大義!」


透華「ええ、とても楽しんでいますわ。それにしても、代表の長野縛りなんて改めてよく通りましたわね」


咏「んー、まぁ天江ちゃんを挟んで宮永姉妹と、新人王を3年連続で長野勢がとっちゃったし、良子ちゃんも新人王だったしねー。話題性でゴーサイン出たんじゃね?知らんけど」


和「咲さんや照さん、衣さんはともかく、私なんかより活躍されている方は沢山いるのに…その、良かったのでしょうか?」


咏「大丈夫だって。潜在能力ではみんな同世代でもトップクラスだかんね。それに、仮に23歳以下の日本最強を5人集めたって、世界ではそうそう勝てるもんじゃないでしょ。結果論ではあるけど、このメンバーだから上手くハマったんだよ、多分ね。知らんけど」



良子「いえーす。オフコース結果を出したのだから誰が何と言おうと私たちが正義ですよ」ノソノソ


和「戒能プロ」


咏「南浦ちゃんに照ちゃんも。3人で固まってなーに話してたのさ」


良子「ノーウェイ、素敵な女性は秘密の2・3個くらい持っているものです。ね?」


数絵「ふふ、そうですね」


咏「なんだよー」


良子「南浦プロに、むかし宮永プロとインハイでぶつかった時の話をしていただけですよ」


咏「あー、あれは今でもインハイ最高の名勝負の一つって言われるもんね」シランケド


数絵「私も映像記録で何度も観ていたので、本人たちから話を聞けて幸せでした。ありがとうございます」


良子「Not at all」キリッ


咏「発音良いな、おい」

照「なに飲んでるの?」


衣「衣は梅酒サワーだ!」


透華「衣はこれしか飲めませんものね」クスッ


衣「美味しいから飲んでるだけだ!他のも飲めるもん」プンプン


咏「おいおい、天江ちゃんはまだ子供なのにお酒飲ませちゃいかんでしょー」


衣「衣はこどもじゃない!」



ドッアハハハハ


数絵「みなさんはなにを飲まれているのですか」


透華「ジンジャーエルですわ」


咲「……オレンジジュースだよ」


照(…咲)


和「ウーロン茶です」


咏「あらら、みんな可愛らしいもん飲んでんだねー。」


衣「ふふん、お酒を飲んでいる衣のほうがお姉さんだな」ドヤァ


咲「ふふ、そうだね。衣ちゃん」


衣「ちゃんではなく」


良子「あれ?照ちゃんと南浦プロもソフトドリンクでしたよね」

  「みなさん下戸でしたか?」ハテ?


咲(お姉ちゃん……そう、だよね)


咏「あっれー、そうなの?せっかく良いお酒が揃ってるとこ選んでもらったのに、なんか悪かったかな」


えり「でも皆さん以前インタビューでは同郷で集まって結構飲んだりするって…」


咏「えー!じゃあ飲みなよ。遠慮しなくていいからさ。」

 「先輩の金で高い酒飲めるなんて滅多にないんだからさー。知らんけど」


咲「あ、えっと」アセアセ


えり「三尋木プロ、みなさん十分楽しんでますし、無理強いはいけませんよ」


咏「ぶ〜、わっかんねー」


その後も少しごねてた三尋木プロですが、なんだかんだ機嫌を直して場の空気を盛り上げてくれていました。



咏「だめだ!」カッ


えり「どうしたんですか、いきなり。」


咏「だってさー、せっかくのお祝いなんだから飲めるなら飲もうよー」フリフリ

 「素面で話せる内容もそろそろ尽きてきたしさー、ね?嫌?」


えり「またわがままを」チョットカワイイケド


咲「そんな、嫌なんかじゃないですけど…」


咏「じゃあいいんじゃね?後輩に遠慮されるのも先輩としては悲しいんだぜ?」


咲「う、でも私たちは…」


照「……咲、先輩にここまで言わせてまだ遠慮するのは失礼だよ」


咲「お、お姉ちゃん、でも私たちが飲んだら」


照「三尋木プロ、確認するのも野暮ですが、私たち好きに飲んでもいいんですよね」


咏(お、なんか知らんけど嫌いじゃない雰囲気になってきたねぃ)

 (もういっちょ煽ってみよっかな)



三尋木プロは、ここでやめておくべきでした。後輩たちが自主的に飲むままに任せていれば楽しい会合で終わったかもしれないのに。お酒に酔えば、彼女ほどのプロでも振り込むことがあるということでしょうか。


咏「もっちろん!あ、でも長野っ子に酒を奢っても張り合いないかなー。」


照衣「」ピクッ


咏「浜ッ子みたいに酒を楽しむ気概ってもんがないしねー」


数絵・和「」ピキピキッ


「蕎麦食べながら酒なめてるだけで満足しそうだよねー、知らんけど」


咲「あ?」



ゴッ!!!!!!



一瞬にして空気が重くなったように感じましたが、照さんが静かに立ち上がって店員さんになにやら話をしに行った以外は酒席は表面上依然穏やかな雰囲気を保っていました。一瞬「やべっ」っといった顔をしましたが、その後は安心したような、ちょっと拍子抜けしてつまらないといった表情にシフトしていきました。だけど…


「失礼します」


店員が持ってきたのは酒のボトルの山、山、山…明らかにこの人数で飲める量を超えていたのです。


咏「え、ちょ、これ」


店員「はい、宮永プロの指示でお持ちしました。この度は優勝おめでとうございます。失礼します」


咏「あの、照ちゃん怒ってる?」


照「大丈夫ですよ、高級酒はなるべくはずしてもらってますから」(営業スマイル)




━━━━━━━━━━━━━カン!



咏「…へ?」



ゴクッゴクッ…カン!


ゴクッゴクッ…これもカン!


ゴクッゴクッ…もいっこカン!


ゴクッゴクッ…おまけでカン!


咲「今日はこれ、飲みほしていいんだよね?お姉ちゃん!」


 
━━━━━━━━━嶺上開花!!!




咲「素敵!ふふっ、体の中でお花が咲き誇ってるよ!」


咏「」


ブワッ!!!!


咏(暖かい風!?)


数絵「南場で生まれたお酒なら私の独壇場です」ゴゴゴゴゴ


ゴクッゴクッ…「米焼酎!」カンッ


ゴクッゴクッ…「芋焼酎!!」カンッ


ゴクッゴクッ…「泡盛!!!」カンッ


ゴクッゴクッ…「ワイン!!!!」カンッ


数絵「あったかいの、いっぱ〜い////」


咏(それお前のじゃねえじゃん!)


咏「(チラッ)」



ゴクッ…


ゴクッゴクッ…


ゴクッゴクッゴクッゴクッ…


ゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッ…


良子「おお〜照ちゃん、いんくれでぃぶる。」


  「お猪口から始まって、もう大ジョッキです」


照「まだ序の口です」ギギギ


咏「あわ、あわわわわ」


マホ「和先輩はお水も沢山飲むんですね〜」


和「私はどうすればより多く飲めるか杯効率や体調の期待値も計算して飲んでいます」ゴクゴクゴク


 「爆発力はありませんが長時間スパンでのアルコール量は咲さんにも負けませんよ」ドヤァ


マホ「さすがですー」ゴクッ


和「あ、マホそれ…」


マホ「あれ?この水のんだら何だかポワポワしてきました」ポワーン


  「マホ、今ならこれ、飲み干せる気がします!」




━━━カンッカンッカンッリンシャンカイホー!

咏「」



━━━━━海に映る月を掬い取る


咏「」ビクッ


衣「海底撈月だー!」


透華「梅酒サワーに入っていた梅を掬っているだけではありませんの」


衣「おいしいよ?」シャリシャリ


咏「こ、ころたんかわいい!唯一の良心!まじ天使!」


衣「ふみゅ、なーでーるーな〜!」


えり「…あの、三尋木プロ、これ…」


咏「?なにこれ、パスタ鍋じゃん、なんでこんなところに」


えり「ええ、天江プロがちまちま飲むのは嫌いだとおっしゃいまして…」


  「先ほどこれに梅酒サワーを作って…一気に」



咏「」


照「うぅ、流石にきつくなってきた」フゥ‥


咲「お姉ちゃんくらい飲んでたらロシア人でも急性アル中だよ…でも私もそろそろ」


マホ「これお酒だったんですね、マホ酔っちゃいました」ハフゥ


咏「あ、よ、よし!いやー、みんな満足してくれて嬉しいよ、良かったよかった」


 (今のうちにさっさと終わらせる!)


「ちょっと名残惜しいけど今日はお疲れ…」


数絵「うぅ…龍門渕さん、いつものあれ、お願いしてもいいかしら」


透華「もう、仕方のない方々ですわね!」


ヒュオッ


凍華「━━━━━━治酔!」


咲「!━いつ体験してもすごいね、透華さんのこれ」キャッキャッ


照「アルコールが抜けるわけでもないのに気分がいい」キャッキャッ


和「そんなオカルトありえません」


数絵「でも、これでまだ飲めますよ!」キャッキャッ


咏「」


 「ふえぇ…」



杯に愛された子供(成人)たちによる蹂躙はその後しばらく続き、お店のお酒をほとんど飲みつくしました。戒能プロがカウンターに抜け出してこっそり飲んでいた以外は高級酒に手を出さない配慮があったとはいえ、その費用は並々のものではなく


店員「お会計こちらです」


咏「」


 「か、数え百万くらいくれてやる」


 「えりちゃーーーーーん!!!」ビエーーーッ


魔境・長野を甘くみた三尋木プロのお財布を責任払いで直撃したのでした。


数週間後



良子「あれ、これは宮永姉妹じゃないですか。U-23の打ち上げ以来ですね」


照「戒能プロ」


咲「はう…あれは忘れてください。」


良子「ノープロブレム、お酒でも魔物クラスだとは思いませんでしたが、あれは悪ノリした三尋木プロも悪いですし」


咲「私たち姉妹が飲むとああなるから、ソフトドリンクで済まそうと思ったんですけどね」

 「初めて家族で飲んだ時は私たちのペースに乗せられた両親が病院送りになって、また家族が離散しそうになりましたし」


照「飲み放題がある長野の居酒屋のほとんど全てから出禁もくらってます」


咲「仕方ないから衣ちゃんたちと龍門渕宅で飲んだ時に透華さんのおじさまにトラウマを植え付けてからはアルコールも自重していたんですけど、でも…」


照「長野を馬鹿にされたら仕方ない」

 「戒能プロこそ、あの時高いボトルを空けまくって三尋木プロに恨まれていると聞きましたが…」


良子「いえーす、まあ三尋木プロも冗談のわからない人ではないですから」

  「同卓した時に優先して狙い打たれるくらいですよ」


咲「あはは…(それっていいのかな)」


良子「でも、そもそも私は感謝してほしいくらいですよ」


照「?」


良子「お会計のあと、あの人があんまり泣きやまないから」

  「見かねた針生アナが仕方なく自宅に連れ帰ったらしいです」


照「あ、なるほど」


咲「?」


良子「三尋木プロは針生さんにぞっこんでしたからね…今ちょっと良い感じになってるらしいですよ」

  「つまり私たちのおかげです」ドヤァァ


咲「!」

 「お姉ちゃん!」


照「うん」


咲「やっぱりお酒って楽しいね!」


(反省なしで)カンっ!

2つ目です

『王者の飲みすじ』



初瀬「これからこちらの政策ゼミに新たに参加します、1年生の岡橋初瀬です」


  「一生懸命がんばるのでよろしくおねがいします!」


ワー!パチパチパチ


教授「じゃあ新入生の挨拶も一通り済んだことだし乾杯しようか」


カンパーイ!


高校を卒業した春、勉強のかいもあって私は京都の国立大学に入学した。

この大学を選んだのに特に理由があったわけではないけれど、同じ学部に高校時代の

先輩だった小走やえさんがいることを知ってからは俄然やる気がでた。

勉強も麻雀も人格も、ずっと憧れていた尊敬すべき先輩だ。

絶対同じゼミに入ろうってやろうと思った。

しかし、まさか大学入試並みに入るのが難しいとは思わなかったけど。




ガヤガヤアッハッハガヤガヤ


先輩A「岡橋さんだっけ?このゼミ入るの苦労したでしょ?」


初瀬「あ、はい。すごく倍率が高くて何度も試験と面接を課されました」


先輩A「うんうん、みんなあれで苦労するんだよな」


先輩B「たしか岡橋さんって小走さんの高校の後輩だよね」


初瀬「はい、麻雀部でも後輩で…。先輩はエースだったんですよ!」


女先輩「へー、確か晩成高校だったよね、麻雀も偏差値でも名門じゃん」


初瀬「そうですね、一応全国大会でもけっこう常連校でした」


先輩A「おお!すごいね」


初瀬「あの、今日のコンパって小走先輩は…」


先輩B「あー、なんか学部の教授に呼ばれたから遅れるってさ」


初瀬「あ、そうなんですか…」




先輩A「そんなことよりさー、初瀬ちゃんお酒飲まないの?」


初瀬「あ、私はまだ未成年で…(いきなり名前呼び…まぁいいけど)」


先輩A「大学生なんだから未成年とか関係ないってー」

「ほら、これ試しに飲んでみ?」


初瀬「いや、でも…」


女先輩「ちょっと、飲みすぎじゃない?無理強いは可哀想だって」


先輩A「いや、でもさー、大学入ったら飲む機会なんてメチャクチャあるんだからさー」

    「その度に飲めませんじゃ盛り下がるっしょ」


女先輩「まあ、それはそうかもしれないけどさー」


先輩B「まあ、これはお酒って言ってもジュースみたいなものだし飲んでみなって」


   「初瀬ちゃんもノリ悪いみたいに思われるのイヤっしょー」


初瀬(う、それは…嫌かも。でもうちの家系お酒全然だめだから怖いんだよなー)

  (大学のコンパで泥酔したりしたら危ない目にあうこともあるって言うし)


先輩A「ほらほら、飲んで飲んで!一口飲めば緊張もほぐれるって!」


初瀬(うぅ…いやだけど、断って場を盛り下げるのも嫌だし)

  「じゃ、じゃあ一口だけ」スッ


???「お、私のために注文してくれていたのか初瀬」パシッ


初瀬「え?」


やえ「気がきくじゃない」ゴクゴクゴク


初瀬「小走先輩!」


先輩A「あ、小走さん…これは」



やえ「ふふ、私の後輩とお酒が飲みたいなんて100年早いよ」

  「どうしてもというなら私との飲み比べに勝ってからにするのね」

  「それともニワカには荷が重いかな?」フフン


先輩A「!」

   「よーし、やってやる!」


やえ「お見せしよう、王者の飲みすじを!」



ノミクラベダッテ オーイイゾヤレヤレ ヤンヤヤンヤ





先輩A「参りました…orz」


やえ「ニワカは相手にならんよ」ドヤアア





初瀬「あのっ、小走先輩、ありがとうございます。その、助けていただいて…」


やえ「私は酒が飲みたかっただけだよ」

  「でも、初瀬。大学からは自分の意思は強くもたないといけない」

  「私だっていつも近くにいるわけじゃないんだから」


初瀬「はい!」


やえ「あー…どうやらまた大学から教授の呼び出しだ。私は行くけどお前は楽しむといい」

  「あいつらも基本的には気のいい奴らだから、もう大丈夫だろう」


初瀬「わかりました、お疲れ様です」



女先輩「岡橋さん、さっきはごめんね」


先輩A「いや、おれが悪ノリしちゃって…でも助かったよ、小走さんが来てくれて」


先輩B「引くに引けない感じで、場の空気悪くしちゃいそうだったけど」

   「余興みたいな感じにしてくれて、かえって盛りあがったしね」


先輩A「にしても小走さんすごいね。あんな度数強いお酒ガンガン煽るんだからさ」

   「おれも少しは自信あったんだけどな」


女先輩「すごかったね。………あれ?」

   「でもさ、小走さんって下戸じゃなかったっけ」


初瀬「…え?」


先輩B「いや、あれだけ飲んどいてそんなわけないでしょ」


女先輩「そっか、そうだよね。なんか一口飲んだだけで気分が悪くなるって聞いた気がしたんだけど」


先輩A「気のせい気のせい。それよっか飲もうぜ」

   「初瀬ちゃんはジュースがいいよね」


初瀬「あ、あの、私明日提出の課題をすっかり忘れていたので」

  「今日はここで失礼します」トタタタ


女先輩「岡橋さん?ありゃ…行っちゃった」


初瀬(先輩…)タッタッタ






やえの下宿前


初瀬(あ、あのうずくまっている人!)

  「先輩!」


やえ「…………えっ?岡橋?」ビクッ

  「あ、う、来ちゃダメ!!」


初瀬(…あ、先輩、もどしてしまって…)


やえ「私…大丈夫だから、帰るんだ初瀬」グスッ


初瀬「……いやです、ここで先輩をおいて行くほど私はニワカじゃありません」

  「…大丈夫です、ここは後で私が片づけますから部屋に帰りましょう」


やえ「初瀬…」


初瀬「さ、私につかまってください」


やえ「…ぅっ……ヒグッ………うん」



部屋に帰って口をゆすいだら、先輩は倒れこむように寝てしまった


プライドの高い先輩の顔にできた涙の跡を見て、私は胸が痛んだ


私には何ができるのだろう




(翌朝)


やえ「ん………ここ、私の部屋?」


初瀬「あ、おはようございます」


やえ「あれ、初瀬?なんで………………あ」


ガバッ



初瀬「え?小走先輩?いきなり布団に潜ってどうしたんですか!?」


やえ「うぅ〜〜ごめん私…消えてなくなりたい…!」


初瀬「小走先輩!」


やえ「だって私、あんな失態……いつも偉そうにしてるのに…王者とか言って」

  「あんな…調子のって飲めもしないお酒飲んで、失敗して…」

  「初瀬だって愛想が尽きたでしょ…」


初瀬「…………」

  「小走やえ!」


やえ「」ビクッ


初瀬「布団からでてください、それが王者のすることですか!」


やえ「…」ゴソゴソ

チョコン


初瀬「起立して気を付けです!」


やえ「うぅ…なんなのよ」ピシッ


初瀬「右手を出してください」


やえ「…?」スッ


初瀬「…」ヒザマズイテ



チュッ


やえ「!…え!な?……な?////」



初瀬「忠誠のキスです」


やえ「忠誠?///」


初瀬「昨日先輩はお酒を飲めないわたしを助けてくれました」

  「自分もお酒を飲めないのに身を呈してです」

  「ゼミの先輩方を叱って済ませなかったのは、場の雰囲気のためだけじゃないですね」

「新入生に舞い上がって悪ノリしてしまった先輩方と私の今後の関係に配慮したんですよね」

  「私、これこそ王者の精神だと思います。ホントは飲めなくたって、ちょっとくらい失敗したって」

「あれこそ王者の飲みすじです!」


やえ「初瀬……。」




初瀬「だから忠誠のキスをしました。私、こらからも一番かっこいい小走先輩についていきます!」


やえ「グスン……ふふ、私としたことが情けない姿をみせてしまったようね」

  「さすが私の後輩、そこらのニワカとは違うようだな!」


初瀬「小走先輩…!」


やえ「ついてこい、初瀬!お前には王者の学園生活を一番近くで見せてやる」


初瀬「………はい!どこまでもついて行きます!!」



昔、中学時代の友達が黙って別の高校に行った時、少し悲しかった。

私も誘ってくれればよかったのにとも思った。

でもね憧、今はあの別れにだって感謝しているよ。

だって、お前が阿知賀で手に入れたものに負けないくらい

かけがえのない大切な縁が、私にも用意されていたんだから。


カン

あ、どうでもいいけどタイトル

やえ『王者の飲みすじ』

でした。

最後に今夜

玄「節目のお酒」

投稿して終わりにします

玄『節目のお酒』


私たち姉妹がまだずっと小さかった頃




とても大切な人が天国に旅立っていった。




私はとても悲しくて、不安で、心が押し潰れそうになったけど




腕の中で私よりもぷるぷる震えている小さな肩を抱きしめて、誓ったんだ




私、がんばる




おねえちゃんは私が守るから



どんな時でも、絶対に守ってあげるから




だから天国から見守っていてね





…お母さん




<阿知賀・神社の境内>




憧「宥姉が夜遊び?」



玄「うん、最近旅館の仕事が終わったらふらふらって出て行って…」



穏乃「へー、イメージできないなあ。山かどっかに遊びに行ってんじゃないですか?」



灼「夜遅くに山まで遊びに行くような人のほうが心配だとおも」



穏乃「」



玄「大体3時間くらいで帰っては来るんだけど…その度にお酒の匂いがして」

 「おねえちゃん、成人した時に飲んだ変な外国のお酒が口に合わなくて、それ以来お酒なんて全然飲まなかったのに」



憧「んー、恋人ができたとか?」


玄「え!そんな…」



憧「いやだって、3時間で帰ってきて夜遊びはないっしょ。玄心配しすぎ」

 「多分街に出て、誰かと少し飲んできてるだけでしょ」



灼「玄、宥さんだってもう大人なんだから、そういう人がいたって不思議じゃないとおも」



玄「うぅ、でもでも、おねえちゃんに限って…」





<夜、松実館>



(従業員の)おばさん「玄ちゃん、宥ちゃん、今日はもうあがっていいわよ」



玄「あ、はーい。ではお先に失礼します」



おばさん「あ、そういえばもうすぐ玄ちゃんの誕生日ねえ」



玄「そうなんです。松実玄、ついにハタチになります!」ケイレイッ



おばさん「そうね、おめでとう」



玄「もしかして、祝ってもらえるんですか」ニコニコ



おばさん「ふふ、当日は先約が入っているみたいだけど、次の日にちゃんと祝ってあげるからね」



玄「?ありがとうございます」センヤク?



宥「玄ちゃーん、私出かけてくるねー」



玄「あ、はーい」


 「………」


 「あの…おねえちゃんいつもどこに出かけているのか知っていますか?」



おばさん「あ、えっとー…今はまだ言えないのよ」


    「でも、玄ちゃんもすぐにわかると思うわ、ごめんね」



玄「そうですか…いえ、ありがとうございます」




<玄の部屋>



玄(おねえちゃん、どこ行ったんだろ)


 (おばさんは、言えないって言ってた…まさか本当に恋人なのかな?)


 (でもだったら何で言えないんだろう?)


 (おねえちゃんも言ってくれて良いはずだし、話してくれたら私だって応援)


 (……する、よね。でもなんでこんなにモヤモヤするの…)


 (おねえちゃんとの間に秘密があるのが嫌なのかな)


 (でも姉妹のなかでも言えないことくらいあるの、普通だよね)



宥「玄ちゃん、ただいま」



玄「あ、おねえちゃんおかえり。…なんだか嬉しそうだね」


 (またお酒の匂い…)


宥「うん、ちょっといいことがあって」


玄「へ、へー何々?」


宥「あ、うん、えっと…そのうち話すから。待ってて、玄ちゃん」


玄「おねえちゃん…うん、わかったよ」



玄(もうすぐ話す…おばさんも同じこと言ってた)


 (もうすぐわかる…恋人を紹介するとか?まさか結婚?!)


 (宥「玄ちゃん、おねえちゃんね、この人と結婚するの」)

 

「いやいやないない!」



(……ないよね?おねえちゃん…。)










<玄の誕生日前日、松実館>



おばさん「玄ちゃん、今日はチェックインのお客様も少ないし午後からあがっていいわよ」


玄「え、いいんですか?明日も誕生日だからってお休みいただいているのに」


おばさん「いいのよ、忙しい時間帯は終わったし」

    「最近ちょっと元気ないみたいだしリフレッシュして成人を迎えなさい」




<外>



玄「はぁ…」


 (嬉しそうに帰ってきて以来、おねえちゃんが出かけることはなくなったけど)


 (毎日なにかを楽しみにしているみたい)


 (まさかとは思うけど私の誕生日に婚約発表、とか…そんなことになったら)


 「笑ってお祝い、できるのかな…私」



憧「あれ、玄?なにしてんの、こんなとこで」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



憧「は?結婚?!」



玄「うん…もしかしたらって」


憧「いや〜考えすぎでしょ。(どんだけお姉ちゃんっ子だ)」


玄「うん、でも…」


憧「玄…。…仮にそうだったとして、玄はなんでいやなの?」


 「とてもおめでたいことじゃん」



玄「うん、わかってるんだけど…。おねえちゃんとはずっと一緒で。私がずっと守るって…」


 (あれ?でもおねえちゃんが結婚するなら私が出しゃばって守っても邪魔なのかな)


  (恋人の役目、奪っちゃうことになるかも…)



憧「玄、私ね、あんたたち姉妹が仲良いのも簡単に切れない深い絆があるのも知ってるよ」

 
 「だから、宥姉を守るって言葉を簡単に否定はできない。しない。」

 
 「でもね、宝物を大事にするあまり、いつの間にか握りつぶしていた。なんてことになってほしくないのよ」


玄「憧ちゃん…」


憧「あー、だからさ、なんて言ったらいいのかな」


 「玄はさ、ポヤポヤっとしてるくらいがちょうどいいんだって!」


 「変に悩むくらいなら宥姉と話してみなよ。そのほう玄には似合ってるからさ」



玄「憧ちゃん…。うん、ありがと…そうするよ」







<夜、松実館>





玄「おねえちゃん、いる?」



宥「玄ちゃん?入って」



玄「うん」スッ





宥「?…どうしたの、玄ちゃん」



玄「あのね、おねえちゃん、私考えていることがあって」



宥「うん」



玄「私ね、おねえちゃんは私とずっと一緒で、私が一生守るんだって当たり前に思ってたの」



宥「玄ちゃん…!ありが」



玄「でもね、大切な人に本当に幸せになってほしいなら、信じて送り出すことも必要なのかもしれない」


 「おねえちゃん、お付き合いしている人がいるんでしょ?」



宥「え?」



玄「おねえちゃんを幸せにするんだって言って、私自身が重荷になったらいけないよね」


 「成長するために別れを選ぶことも必要だもんね」グッ


(…3年前のインターハイ準決勝でドラを送り出した時に学んだんだ)


「私、もしおねえちゃんに恋人を紹介されても、笑って送り出してあげるから」


「だから私を気にせず幸せになってね!」






宥「……………………………」




玄「…………………おねえちゃん?」





宥「……………………………」ボロッ



玄「お、おねえちゃん?!」



宥「…ぅ……グスッ………うぅー……」ポロポロ



玄「おねえちゃん!どうしたの?どこか痛いの?」ワタワタ



宥「くろちゃあ……ぁぅ、玄ちゃ、は、おねえちゃんと、いるの、ヤになった…っの?」ポロポロ




玄「そんなことない!でもおねえちゃんのためなら、信じて送り出そうって私…」



宥「おね、ちゃ、グスッ、おねえちゃんの幸せ、は、玄ちゃんと、いることだもん!」ポロポロ




玄「!」




宥「おねえちゃ、の幸せは、玄ちゃ、と…」グイッ



「グスッ…玄ちゃんと一緒に生きることだもん」グスッ



 「玄ちゃんの隣にいるときが一番強くなれるんだもん!」



 「玄ちゃんと一緒に成長したいの、っに、なのに、なんで…」ポロポロ



玄「ごめんね!おねえちゃん、私、ごめん。ホントにごめんね!」



宥「くろちゃ、おねえちゃ、も、知らないんだから〜」ウエーン




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




宥「スン…スン…」



玄「あの、おねえちゃん、まだ怒ってる?」オソルオソル



宥(怒ってないけど大人なのに大泣きしちゃって恥ずかしい///)


「お、怒ってるよ」



玄「あぅぅ…あ!お、おねえちゃん、時計見て!」



宥「?」



玄「松実玄、めでたく成人しました!…というわけで、誕生日祝いに許してくれたらなーなんて」ダメ?






宥「………クスッ 玄ちゃん…じゃあせっかく用意してた誕生日プレゼントはいらないのかな?」



玄「え!?あう…じゃ、じゃあ許すのは成人祝いで、誕生日プレゼントは別でってことで」 



宥「んー、でもおねえちゃんいじわるされちゃったからなー」フフフ



玄「お、おねえちゃー…」




宥「うーん…いいよ。おねえちゃんだから許してあげる」



 「玄ちゃん、20歳の誕生日おめでとう」





玄「ありがとう!」パア




ガサガサ




「…これ、お酒?かわいい色だね」



宥「うん、私初めて飲んだお酒が美味しくなくて、わざわざ飲むことはなくなっちゃったでしょ?」


 「だからまだ誰ともお酒を飲んだこともなくて」


 「それで、できれば初めては玄ちゃんとがいいなって思ったから…」


 「街のバーに通って玄ちゃんの口に合いそうなお酒を探してたの」





玄「恋人じゃなかったんだぁ…」



宥「こ、恋人なんていないよ〜。…いたこともないよぉ」ズーン



玄「だ、大丈夫です!おねえちゃんには私がいるから!」ムン



宥「玄ちゃん…!」


 「…玄ちゃん、わたしもごめんね」



玄「え?」



宥「玄ちゃんを驚かせようと思って内緒にしてたから、不安にさせちゃった…」



玄「そんな!おねえちゃんは悪くないよ!…!け、けど、不安にはなったかもです!」



宥「ご、ごめんねー」



玄「つーん」



宥「玄ちゃ〜」アセアセ



玄「ふーむ、じゃあ一緒に寝てくれたら許すのです」フフン



宥「う、うん!じゃあ今日は遅いからもう寝よう」



<ベッドの中>




宥「玄ちゃんあったか〜い」ギュギュー



玄「ぐえっおねえちゃん、ぐるじい」



宥「あ、ごめんね」パッ



玄「ううん、おねえちゃん、もっとぎゅっとして」



宥「わ〜い」ギュー


玄(おもち…)



宥「明日はあのお酒一緒に飲もうね、玄ちゃん」



玄「うん!楽しみだなー」



宥「ふふ」



パタンっ



玄「!なんの音?」



宥「えーと、あ、お母さんの写真が倒れたみたい」



玄「お母さん…」



 「……………」



 「お姉ちゃん、提案があるんだけど…」





<玄の誕生日・母の墓前>




玄「………」ゴシゴシ


 
 「ふぅ…綺麗になったね、おねえちゃん」



宥「うん、お花も新しいのに替えたし、お母さんも喜んでるよ」


 「気持ちいい天気でよかったぁ」




玄「あとはコップに…」トクトク


 「はい、お母さんのぶんだよ」コトッ



宥「ふふ、初めての誰かが玄ちゃんだけじゃなくて、お母さんもだなんて…嬉しいな」



玄「共同墓地じゃないことに感謝だね」


 「それにしても、写真で知らせてまで一緒に飲みたがるなんて」クスクス




宥「お母さん、けっこうさみしがり屋さんだったから」



玄「…………………うん」



宥「……………………。」







玄「あ、おねえちゃんのぶん注いであげるね」トクトク



宥「ありがとう、玄ちゃん」


 「じゃあ玄ちゃんのぶんはおねえちゃんが…」トクトク



玄「ありがとう、おねえちゃん」


 「じゃあおねえちゃん、お母さん」



玄宥「「かんぱーい」」





玄「!おねえちゃん、これホントに美味しいよ!」



宥「ふふ、よかった〜」コクン


 「うん、おいしい」



玄「…………」



宥「〜♪」



玄「おね〜えちゃんっ」ギュッ



宥「ふぇ、玄ちゃん?どうしたの」ナデナデ



玄「おねえちゃん私ね、この節目の日におねえちゃんとお母さんのとこに来れてよかった」


 (お母さん、あの日の約束、今改めて誓うからね)




玄「おねえちゃん、おねえちゃんは私が守るから」



 「絶対に、ずっとずーっと守ってあげるから」



「だからこれからも一緒にいてね、おねえちゃん」ギュッ



宥「玄ちゃん……うん、どこにもいっちゃだめだよ、玄ちゃん」ギュー




ふわっ




宥「わっ、あったか〜い」



玄(南風……お母さん?)




宥「お母さんかな?」




玄「」


 「うん………うん!おねえちゃん、お母さんだよ!」ボロボロ



宥「玄ちゃん……うん、お母さんだね。お母さんだ」グスン…ナデナデ



玄「お母、さ、ぅわーーーーーん」



宥「」ギューーー






私たちは、それからしばらく抱き合ったまま泣き続けて




喉が渇いたからまたお酒を少し飲んで、手をつないで松実館への帰路についた。




娘たちがそろって目を赤く腫らして帰って来たのを見つけたお父さんが




あわてて走りよって来たけれど、話を聞いた後はほっとしたような顔をして




馬鹿だね、と嬉しそうに笑っていた





おしまい


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