………君の名をこのチに刻もう(6)

郊外にある小さな丘。そこへと続く階段。

 小気味よさとは程遠いリズムで、乾いた足音を奏でる。
 
 ゆっくりと、ゆっくりと歩を進める老人。
 
 小さく腰を曲げて石畳を昇ってゆく。
 
 その身体に不釣合いな程に大きな布の塊りを抱えて。
 
 その足音がピタリと止まる。

 陰鬱とした雰囲気の場所。眼前に並ぶ小さな二十六の墓。

 そして、それらとは違い、異様なほど大きな石碑がそびえ立つ。

 三列、二十六行に及ぶ石に刻まれた文字の並び。
 
 古びて苔むしたそれ。読み取る事が出来ないほどに。
 
 その一番下に刻まれた二つの名前。間にポツンと間を空けて。

 『年上魔導士           年下魔導士』

 時はこれより、その名が刻まれる少し前まで遡る。

―――祈りを捧げている。

   ―――誰のために?
 
        ―――民のために?
 
             ―――国のために?

      ―――いや、チガウ

      ―――オレ自身のために

   ―――大切なものを失わないために

~丘の上の墓地~
 
 年下魔導士「……」チラチラ (以下 下魔)

 勇者「……」

 下魔「……」ギュッ

 勇者「……」スッ

 下魔「……」チラチラ ハッ!

 勇者「ん? どうしたんだ下魔?」

 下魔「いえ、そのう、勇者さん随分長い事お祈りしてましたから、一体どんな事をお祈りしていたのかなって……」イヤーアハハ

 勇者「……たいした事じゃないよ」
 
 下魔「いっぱいお祈りごとしたんですか?」

 勇者「いや、たった一つだけ、ほんの少しだけね」

 下魔「どんな事ですか? 気になります!」ズイッ

 勇者「……皆が幸せになる未来……かな」

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