響「のーさんきゅー ほりでい」 (21)



今日は絶好のお仕事日和。
天候にも恵まれ、少し肌寒くなった風に太陽の暖かさがしみる季節。
野外での撮影も気持ちよく出来るだろう、屋内であろうとも例外ではない。
しかもなんと、今日は自分の記念すべハッピーバースデイ。



響「だって言うのに……」



響「なんで今日オフなんだ……」



ベッドの上で特に何もすることも無く、ただダラダラと時間を浪費する。
携帯を少しいじっては手離し、いじっては手離しを繰り返していた。

液晶の右上に表示されている時間は、昼御飯を終えた午後二時だった。


・響誕SSです。 響お誕生日おめでとう!!
・地の文あり。
・すべて書き終わっていますのですぐ終わります

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1381406023

ベッドの上で特に何もすることも無く、ただダラダラと時間を浪費する。
携帯を少しいじっては手離し、いじっては手離しを繰り返していた。

液晶の右上に表示されている時間は、昼御飯を終えた午後二時だった。

仕事があれば、スタッフの人やファンのみんなに祝ってもらえるだろう。
例えそうでないとしても、仕事があれば誕生日ということを忘れられる。


……言っておくが、自分の誕生日を祝ってくれる友人が居ないわけではない。
実際、携帯には日付が変わった瞬間にお祝いのメールが送られてきた。

しかし、なんというか、まぁ。
こういう事は、メールよりも直接会って言われた方が嬉しいものなのだ。

だが、あいにくその友人たちは総じて今会えない状況にいる。
その友人たちは、「アイドル」という職業に就いていて、
そしてなんと、喜ばしいことに人気も急上昇中で、多忙な毎日を送っている。

つまり、そういうことだ。
その友人であるアイドルたちは、多忙故に会えないでいた。
かくいう自分も今日が数少ない休みのうちの一つなのだ。
……あまり手放しで喜べる休みではないが。


響「うーーん…………どぉしよかな……」


一つ寝返り、もう一つ寝返り。
今自分が悩んでいるのは、外出するかどうかである。
ここでただ明日が来るのを待っていては、腐るだけだ。
せめて何かしたい、何か。 と考えた末出したアイデアだった。

しかし、外出しても特に買うものが思い当たらない。
家族たち、ハム蔵たちのご飯だってすでに買い溜めてある。
自分のご飯だって冷蔵庫と相談すればどうにかなるのであった。

響「牛乳も切らしてないでしょー、卵もある。 うーん、何かないかなぁ……」


何もすることが無いという暇、そして出来るなら今日を早く終わらせたいために、
必死に外出する理由が無いかを探す。

……別に、自分の誕生日が嫌なわけではない。
うちの事務所の事務員さんは、誕生日が来るのを嫌がっていたけど、
自分にはまだそういう感覚は無く、歳を重ねる事に抵抗は無い。

今自分がこうして早く今日を終わらせようと努力しているのは、
ただ単に寂しいという事実を紛らわせるためだ。

個人的な意見で恐縮だが、誕生日はみんなで楽しく騒いでこそと思ってる。
みんなからプレゼントを貰い、ケーキを食べてパーッと楽しむのだ。


響「……ん? プレゼント……パーッと…………」



響「……………そうだ!! 自分で自分のプレゼントでも買おう!!!」

ガバリとベッドから上半身を勢い良く持ち上げる。
あまりにも勢いがつきすぎた所為で、脳への血液の供給が行かずめまいを覚える。
しかし、気分は好調である。

なんて寂しいアイデアだと哀れむこと無かれ。
家族たちのご飯は、そりゃもうお金が掛かるもので、その為に日々節約生活を続けている。
それ故、自分の欲しい物があっても、我慢して押し込んでいたのだ。


響「けど、今日くらい…………、良いよね」


ベッドから降り、リビングに置いたままのトートバッグから財布を取り出す。
てぃーち、たーち、みーち、ゆーち……。 よし、これだけあれば大体の物は買えるだろう。
思い立ったが吉日という言葉に従い、未だ着替えていなかった寝巻きから着替える。


ハム蔵「……ヂュイ?」


着替えを終え、脱衣所から出てきたところで、リビングからハム蔵の声が聞こえた。
お昼御飯の後にある、お決まりのシエスタをしていた所、自分の着替える音で気付いたらしい。

響「あ、ハム蔵ごめん、起こしちゃったかな? ちょっと出かけてくるね!」

ハム蔵「ヂュイヂュイ?」

響「ん? どれくらい遅くなるのかって? 大丈夫、夕方には帰るよ!!」

ハム蔵「ヂュイッ!!」


「そうか、ならそれまで他のみんなの世話は任せておけ」と言わんばかりに胸を叩く仕草をする。
そこらへんの普通の人よりも役に立つのではないか、と疑ってしまうほどだ。


響「うん、よろしくね!」


他のみんなを起こさないよう、いつもより少し小さめに声を張り、ハム蔵にウインクを送り玄関に赴く。
愛用のトートを持ち、いつもの外出用スニーカーを履き、つま先と踵を整える。
シアンブルーのゴム紐を手に取り、後ろ髪を結ってアップ目のポニーテールを作る。

携帯持った、お財布持った。 ハンカチもOK、最低限のコスメもひーじーさー。
いざと言う時の変装用のサングラスと帽子もちゃんと入ってる。

準備はカンペキ。


響「じゃあ、いってきまーす!」

・ ・ ・ ・ ・


テクテクと歩きながら何を買おうか考える。
正直、今のままでも十分充実しているので、欲しい物は無かったりする。


響「でもそれじゃ来た意味無いしなぁ…………」


むー、と左腕を土台にすることで右腕で頬杖をつく。
しかしそんな事をした所で浮かばないものは浮かばないのであった。


響「ま、行けばなにか思いつくかもな!」


持ち前のポジティブをこれでもかと活用し、あっという間に悩みを吹き飛ばす。

電車もなにも交通手段を使わなかったのは目的地がすぐ近いためだ。


響「…………よし、着いた!!」


視線を送る先は、売れ時のピークを追えても尚、喧騒が飛び交うような、
そんな明るく、盛んな商店街であった。


響「へへ、ここなら何か見つかるでしょ!」


勇み足で商店街の中へと歩を進める。
賑やかな雰囲気の内側に入ると、まるで自分がその一員になったのでは、
という錯覚を覚え気分が高揚してくる。

入り口周りの店の建ち並びは、薬局が比較的多く、
店頭にはシャンプーなどを始めとした生活用品がワゴンセールで売られている。


響(シャンプーはあるしなぁ…………)


そもそも、ワゴンセールに出るような生活用品はアイドルとしてNGか、と一人ごちる。
「自分を飾るものは出来るだけ高品質の物を」同じ事務所のアイドルである伊織が言っていた言葉だ。


そんな事を思い出しながら、商店街の半ばへと差し掛かってきたところ、
華やかな景観と香りが広がってきた。

左右二店ずつ、合わせて四店もの花屋が構えていた。

シクラメンやコスモス、ダリアやアイビーゼラニウムなど、
10月に開花する花が店だけではなく、この商店街を彩っている。


響「でもなぁ…………」


とても魅力的であるが、これもボツ。
アイドルである以上、仕事の関係で長期間家を空けてしまう事もある。
帰ってきたその時、大好きな花が色を失っていたら悲しくなってしまうから。

赤、白、黄色と見目鮮やかな花々の色彩を網膜に焼き付け、
四季折々ひととせの香りを胸いっぱいに吸い込みながら、その場を後にする。


商店街の終わりが遠目に見えるところまで歩いてきた。
こうやって意識しながら歩いていると、意外とこの商店街も短めなんだなとふと思う。


響「…………お」


と、気付けば喫茶店が右手にございました。
ここの喫茶店は結構お気に入りで、もう十数回はお邪魔になっている。

モダンな雰囲気で、流れる曲はジャズィーな曲ばかりでとても落ち着く良い店だ。
店主もとても愛想が良く、しかしながら店の空気を崩さないためか無駄な会話もあまりしない。

喫茶店自体良く行くわけではないが、好きな喫茶店を上げろと言われたら一番にここが浮かぶ。



響「うーん………………」


が、ボツ。
自分へのプレゼントは出来れば形に残るものが良い。
お誕生日パーティで食べるものならまだしも、一人で飲食してそれがプレゼントというのは寂しい。
という、他者から見ればどーーでもいいこだわりではあるのだけど。

「ごめんね、今度また来るから!」と、届けビビビテレパシーと言わんばかりに、
頭の中で強く喫茶店の店主に向けて謝罪をしながら、その店に背中を見せた。



響「う~~~ん…………、まずいぞ…………」


商店街へ足を運んでいた時と同じように、空中頬杖をつきながら、
もう少しでこの商店街の終わりに着こうとしている事にあせっていた。

結局、このままでは何も買わずに終わってしまうんではないか?
これではただの無駄足であり、折角の休みを棒に振ってしまったのではないか。
「骨折り損のくたびれもうけ」という言葉と同時に、骸骨がくしゃくしゃになっていくイメージが浮かんだ。



響「うがー! どうしよー!!」


世界の中心でもなければ商店街の中心でもない場所で、愛でもない叫びをあげた。
通行人もなんだなんだと一斉に視線を向けるが、早く家に帰りたいのか、それとも買い物がしたいのか、
自分には一向に解らないが、じきに視線の集中砲火は数十秒前と同じようになった。

恥ずかしさと申し訳なさ、そして虚しさが同居した胸の内が重くなったのか、
がっくりと肩を落とし、振り子のような涙を流す。


響「…………………………ん?」


何故だか左耳が騒がしい、とても賑やかなオーケストラだ。
小さな音楽楽団の正体を突き止めるべく、瞳をそちらに向けると。

そこにはとても小ぢんまりとしたペットショップがあった。
見たところ外装は比較的新しく、汚れも目立たない。
ショーケースの中には犬や猫と言った、ペットの定番といった動物達が道行く人に愛想を振りまいている。



響「こんな所にあったんだ……」


恥ずかしながら、大体この商店街では先ほどの喫茶店で踵を返して家に帰るので、
これ以上進んだことが無かったのだ。 こちら側から商店街に入ったことも無い。

数分前の胸の重さはどこへやら、らんらんと瞳を輝かせ気分を高ぶらせる。
仕方ない、ペットショップを見たらテンションが上がる、これだけは動物好きとしてのサガだ。

迷わずペットショップの中へと入る。 まず始めに自動ドアが出迎えてくれた。
そして矢継ぎ早に店員から「いらっしゃいませ」との声。
新人だろうか、声が上ずっているように聞こえる。 緊張しているのだろう。


響「さて…………」


左腕につけた時計を確認する。
もうじき午後の五時が来ようかとしている時間だ、窓から見える太陽も朱い。
そろそろ帰ってやらねば家族たちが腹を空かせて、ご飯が入るハズの空の器を恨めしそうに見るだろう。
ペットの種類も確認してみたかったところだが、仕方ないとここは諦める。

「また来ようかな」と思ったその時だった。



響「………………む!?」


会計を行うカウンターのすぐ脇に、ペット用グッズが列を成しているのだが、
その中にとても目の引くものがあった。


響「ペット用ケーキ…………!!」


確かに聞いたことはある。 無添加かつ糖分も抑え、犬や猫用に作られたケーキがあることは。
しかし、そういったものは予約でしか手に入れる事は出来ず、
予定日通りに取りに行けるかどうか解らないという環境のため諦めていたのだ。

まさかこんな所で、しかも予約無しで! 購入する事が出来るとは……。

買おう。

何の迷いも無い、値段さえも一切見なかった。
財布の中身が足りるのかもわからない、だとしてもすぐ近くの銀行から引き落とそう。
それほどの覚悟を一瞬のうちに固め、店員に声をかける。


響「あの! すいません! このペット用ケーキっていうの……」



・ ・ ・ ・ ・


響「べっぴんさんでも元気にえいさー てんつくてんつく ちんとんしゃーん♪」


透明の袋を両手に持ちながら、鼻歌を口ずさむ。
その数、実に11個。 ペット用のケーキで良かった。
もし人が食べるくらいの大きさだったら、こうやって手で持ち帰ることは不可能だったろう。

重さもそれほどで、いつもの買い物帰りとそう変わらない。
軽い足取りで帰路につきながら、やっぱり自分は動物が好きなんだなーと思い至る。
結局、自分のプレゼントではなく、家族たちのプレゼントを買ってしまった。

でも、これで良いんだ。

家族たちの喜ぶ顔が、自分への最高のプレゼントなんだから。


響「へへ、みーんな食べてくれると良いなー。 あ、モモ次郎やオウ助には多いかもなー」


どうしよー、と言いながらも声はとてもダンサブルだ。
もし多かったならワニ江やぶた太が食べてくれるだろうし、それほど心配は無い。
それよりも今は早く家に帰ってみんなにプレゼントしたいという気持ちだけが先走っている。

自宅のあるマンションのエレベーターを待つのも惜しい。
思わず足踏みをしたり、安全扉の窓から今どれくらいまで来ているのかを確認してしまうほどに。


エレベーターに乗りながら、今日あったことを振り返る。
とても身にならない、けどとても良い時間だったと感じられる。

良い誕生日だったなぁ、なんて今ではそう思える。


チン、という無機質な親切心の音を聞き扉が開くと同時にダッシュ。
一目散で自分を待ってくれる家族たちが居る家へと駆け足。 

ポケットから鍵を取り出して鍵穴に挿すと、その音を聞きつけてか、
お昼寝から起きた家族たちが扉越しに「おかえり」と言っているのが解る。

それが嬉しくて、たまらなくて。
扉を開けた瞬間お隣さんも気にせず大きな声でこう言った。


響「みんな!!! ただいまーーーーーーっ!!!!!」





お し り

ここまで読んでいただきそうもありがとう御座いました。
響本当にお誕生日おめでとう!!!!! いっぺーかなさんどー!!!

今読み返してみると商店街クッソ小さいですね。
生鮮系とか畜産系とかの店一つも無いですね、やっちまいましたね。

こんなところ賑わうかよ!!!!!!!!!!!!!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom