死神『・・・・お前に明日はない』 (37)

男は、雨の降る町を歩いた。


男の身なりは


漆黒のスーツ、真っ白なシャツ、少し緩めた黒いネクタイ。


髪は、ウェーブのかかった少し長い髪。


中性的な顔。



人の目に、男が映ることはない。



人は、彼を見ることが出来ないから。


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男『・・・』


男は、人混みの中を歩いて行く。



男には、雨が当たらない


だから男は傘を差していなかった。


元々、手に何かを持って歩くことが嫌いだった。



だからポケットに入る分だけしか物を持ち歩かない。

しばらく歩いて行くと、一つのマンションにたどり着いた。


男『・・・』


男はマンションの中に入った。


男『む・・・?』


一つ目の自動ドアは開いたのに、二つ目は開かない。


男『・・・なぜ、開かないんだ』


辺りを見回してみると、二つ目の自動ドアのそばに数字の並んでいる。


男は、そこの前に立つと適当に四桁の数字を入力した。




ピンポーン




女性『はい?だれですか!?』


中年の女性の声がスピーカーから聞こえた。


男『・・・』



女性『ちょっとぉー、誰なのよ!!』


男は、黙ったままだった。


女性『・・・ったく、悪戯!?やめてよね!!』






ガチャッ・・・





それっきり、スピーカーからは音がしなかった。



男『・・・?』


男は少し考えた。


男は、一度マンションを出るとゴミ収集されている場所に向かい段ボールを拾うと、またそれを組み立てた。



組み上がった段ボールを持つとまたマンションの中に入り、


ポストが並んでいるところを見た。


ポストには、一つずつ名字と四桁の数字が並んでいた。


男『なるほどな・・・』



男が再度数字を入力すると、若い女性の声がした。


男は、カメラを殆ど段ボールで隠した。


女性『はい?』


男『宅急便です・・・。速達で。』


女性『あら・・・?私、買い物なんて・・・』


男『えぇ、ですが・・・・』



男はちらと、名字を確認した。


男『ヤマグチ様宛、になっております。』


女『他のヤマグチ、じゃなくて?』


男『はい。シライハイツのヤマグチ様宛です。大きな荷物なので、早めに入れていただけると嬉しいのですが』


女『そうですか・・・。わかりました。入ってください』


二つ目のドアが開いた。


男(やれやれ、姿は見えないんだから厄介だ。)


男は、カメラにも映らない。

段ボールを適当に棄てると、男は二つ目のドアをくぐりエレベーターに乗った。



男『・・・』


13階についた。


長い廊下を歩き続け一つの部屋の前で立ち止まり、インターホンを押した。




ピンポーン・・・・







20秒後、金髪の女性がドアを開けた。


女性「あれ・・・・?」



来ているはずの荷物とそれを運ぶ人間は見当たらなかった。


女性「・・・・?」



女性は眉を寄せながらドアを閉めた。



男(本当に骨が折れる・・・)


男は女性の部屋の中にずかずかと上がり込んでいた。


男『・・・。』


ポケットからナイフを取り出した。



男が柄の部分を押すと、刃が飛び出た。

女性「・・・なんだったのかしら・・・。」


女性は、気がかりでなかった。


悪戯だったとしても、得体の知れない人間をマンションの中に入れてしまったことになる。



女性「ねぇ・・・あなた。」



女性は、書斎にこもる夫に言った。


夫『・・・何だ・・・・』


女性「誰かが、悪戯してマンションの中に入ってきたみたい。これってまずいかな』


夫『そんなくだらないことを俺に言わなくたっていいんだ。』



女性「・・・そう。わかった。ごめんなさい。」





夫は、暗い部屋で動画を編集していた。


夫「・・・・・・・・ブツブツブツブツ」


夫「本当にリオちゃんはかわいいなぁ・・・かわいいよ・・・・」


動画には、幼女が映っていた。


裸の幼女だ。



夫「リオちゃんは、楽しいかな・・・?おじさんはねぇ・・・・たのしかったよぉ・・・?」



夫は動画の編集を終えると、再生した。



夫『リオちゃぁん、今から、とっても楽しいことしよう』


幼女『う・・・なんで・・・こんなことするの・・・・?』


夫『君はとっても可愛いよ・・・・。とってもとっても可愛い』



夫が、幼女の体に触った。


無論、夫も動画の中では裸だ。


何処かのホテルで撮影されているようだ。

幼女『やっ・・・・・』



夫が幼女に覆い被さった。







バギン・・・・ッ!!





ガラスの割れた音がした。


夫「うわぁ!!」


夫は驚いて飛び退いた。




その勢いで書斎の紙片がばらばらと下に落ちていった。


夫(一体・・・・何だ・・?)

ベランダに通じる窓ガラスが割れていた。


恐る恐る、近づいていった。



動画は流れ続けている。


夫『はあっ・・・・・はぁあっ・・・』


幼女『やめっ・・・やめてぇっ・・・・きゃんっ・・・』




夫は、窓を開けた。




夫『あっ・・・出る・・・・・・・』


幼女『あうっ・・・・・・ひぐっ・・・・!!』





そこには何も、いないはずだった。




夫『き、気持ちいいよぉ・・・!!』


幼女『・・・・・』











しかし、夫には聞こえた。













男『・・・・お前に明日はない』








ガタガタガタッ!!!!



夫の部屋から大きな物音がした。



女性「ひっ・・・・」


女性は、体を震えさせた。



女性「・・・あなた・・・?」



返事は、ない。



女性「ねぇ・・・返事してよ・・・怖いって・・・」



女性は、書斎のドアの前に立った。


女性「・・・はいるよ・・・・?」



そーっと、ドアを開ける。



女性が見た物は、凄惨な物だった。



先ほどまで、女性を冷たくあしらっていた夫が


書斎の椅子に座って死んでいた。




目は見開き、女性の方を見ている。

だが、二度とその目で女性を確認することはない。



夫は、胸を一突きされて死んでいた。




女性「あ・・・・あ・・・」


動画は、流れ続けている。



夫『リオちゃ〜ん・・・・今度はおもちゃを使って遊んでみようね〜』

幼女『もう・・・・・・やめ・・・てぇ・・・・・・・』





死神『・・・・』



死神は、教会にいた。



後ろの方の長いすに、足を組んで座っていた。



幼女『・・・おじさん・・・』



どこから現れた、幼女が死神の近くに立っていた。



死神『君の・・・・選択はこれでいいんだな。』



幼女『うん・・・・。でも・・・なんか・・・もやもやしてる・・・』


死神『・・・そうか。』



死神『・・・だが、間違った選択では・・・ないかもしれない。』


幼女『隣にすわってもいい?』



死神『あぁ。』



幼女『よいしょっ』



死神『・・・』



死神は、教会の祭壇。棺の中に入れられている幼女を見ながら言いました。

死神『どうだった?』


幼女『ん?何が〜?』


死神『・・・生きていて・・・よかったか?』


幼女は、にっこりと笑いました。


幼女『死んじゃうときは、苦しかったけど・・・』

幼女『おそーしきのときに、ママとかパパとかみんな、泣いてくれたから。』


幼女『愛されてるんだ〜って思った!』



死神『・・・なるほど』


幼女『ねぇねぇ』



死神『なんだ?』


幼女『おじさんは・・・楽しい?』


死神『何が?』


幼女『じんせい!』


死神『・・・私は・・・死神だ。楽しいもつまらんも無い。』


死神『今まで、幾千もの死を見てきた』


死神『殆どが・・・泣いて、叫んでいた。死にたくない、と。』

幼女『悲しくないの?』



死神『悲しいという感情が・・・わからない。』



幼女『そっか。』


死神『・・・』


幼女『笑うことは・・・・出来ないの?』



死神『笑う?』


幼女『こう!』


幼女はニッと笑った。


死神『どういうときにするんだ?』


幼女『うーん・・・。嬉しいことがあったとき。』


死神『嬉しいというのもわからないんだよ・・・。』


幼女『なら』






幼女『誰かが笑えば、おじさんだってきっと笑えるよ!』



幼女は、満面の笑みで答えた。






死神『そうだと・・・いいな。』



幼女『うん!』


死神は立ち上がった。


幼女『もういっちゃうの?』


死神『今日死ぬ奴は、大勢いる。私は死を伝えに行くのが仕事だ』



幼女『・・・そっか。』


死神『・・・一人で、逝けるか?』



幼女『だいじょーぶ!!』


幼女の姿が、薄くなっていく。



幼女『おじさん!』



死神『どうした?』





幼女『・・・アリガトウ!!』









幼女の姿は、溶けて消えていった。









男には、名前が無い。



だから、男は死神と名乗った。




男は、自分がいつから人の死を管理するようになったか自分でもわからない。



だが、気がつけば死を待つ人間の傍に立っていた。



死神は、淡々と、粛々と、魂を送り届けていた。

死神は、今日も歩く。




死神『次の担当は・・・』



死神は、あるアパートに向かった。


住宅地の端に建てられたアパートは、まだ建てられてすぐのようだ。



死神(ここに・・・・)




男「うほほwwwwwwwwお買い物でござるなwwwwwww」



緊張感に欠ける声が、死神の耳に飛び込んだ



死神(なんだ・・・?)



アパートから離れたところを、親子だろうか。


3人の男女が歩いていた。

少女「やったー!おっかいもの♪おっかいもの♪」


女性「ふふっ、あんまりはしゃいだら転んじゃうわよ〜」



死神『・・・笑っている。』



3人は、そのまま歩いて行った。



死神は、アパートの中へ入っていった

死神の今回の担当は、ある女性だった。


20歳の、大学生。


このアパートで彼氏と同居をしている。

死神は階段を上り、女の居る部屋の前に立つ。



死神『さて・・・・どうしたもんかな。』



死神は時計を見て、時間を確認するとインターホンを押した。





ピンポーン.....。




ばたばた、と足音が聞こえたかと思うとエプロンを着けた女が出てきた。


女「はーい・・・・・あれ?」



案の定、女の前には誰も居なかった。


女「・・・変なの。」

女は、ぱたぱたと奥の方へ戻っていった。


女「うぁ、危ない危ない。」


キッチンに向かうと、火を消した


女「ふぅ、危ない危ない」


女「ん、いい感じにできたっと」

女は野菜炒めが乗ったフライパンを満足そうに見ていた

女「ふふっ、もうすぐ男君帰ってくる時間かな」







テレビが、ついていた。



キャスター『・・・時頃、会社員ヤマグチノボルさんが自宅マンションで殺害されているのを妻のヤマグチリョウコさんが発見しました。死因は胸を鋭利な刃物で一突きされているとのことです。部屋は窓ガラスが割れていること以外は荒らされていません。』



キャスター『リョウコさんと近隣住人の証言から、シライハイツでは悪質な悪戯があり、事件当日もヤマグチさん宅に悪戯がされていました。』



キャスター『なお、被害者のノボルさんのコンピューターにノボルさん自身が映る児童ポルノ映像があり・・・・』


台所からテレビを見つめていた女は、


女「・・・・。」



女は玄関の方を一瞥した。



怖いほど静まり返っている。



女(・・・・人殺し。)





ひゅぅぅ・・・・





窓を締め切っているはずなのに、女の耳元を風が通り過ぎて行く感覚が襲った。



女「っ・・・・!?」




驚いた彼女は、あたりを見回した。



女「え・・・?え・・・・?」

部屋が膨張していくような感覚が、彼女の頭を支配していた。


形容しがたい不快感が、眼球にこびりつく。



女「だ・・・だれか・・・いるの?」






そう言った時、女の脳裏に音が鳴り響いた。






パチンッ・・・・・


女は目を覚まし、辺りを見た。


コンクリートがむきだしの、刑務所のような真四角の部屋だった。


大きな本棚が、三方向の壁全てに並んでいる。


女「・・・・ここは・・・」


そして彼女の前にある壁だけ鉄格子になっていた。


鉄格子の外には、枯れた大地が広がっている。



女「・・・ドア・・・はなさそうね....」


その部屋にドアはない。


女は、その場に座り込んだ。


すると、唐突に声が聞こえた。


死神「おはよう」


女が後ろを振り返ると、知らない男が部屋にはないはずの、シックな椅子に座っていた。


死神「私は、死神だ。」


女「・・・え・・・?」


死神「おっと、質問は一切なしだ。俺から一方的に話させてもらう。君は、あと1ヶ月と6日で死ぬ。事故死だ。」


死神は、淡々と説明を続ける


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