機動戦士ガンダム外伝―彼女達の戦争― (795)

前々スレ
【ジャブローで撃ち落とされた女ジオン兵が…】
ジャブローで撃ち落とされた女ジオン兵が… - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367071502/)
前スレ
【ムラサメ研究所を脱走してきたニュータイプ幼女たちが…】
ムラサメ研究所を脱走してきたニュータイプ幼女たちが… - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371217961/)
1st裏スレ
【ジオン女性士官「また、生きて会いましょう」学徒兵「ええ、必ず」】
ジオン女性士官「また、生きて会いましょう」学徒兵「ええ、必ず」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379074159/)


【諸注意】
*前々スレのファースト編、前スレのZ、ZZ編、1st裏スレからの続き物です。
*オリキャラ、原作キャラいろいろでます。
*if展開は最小限です。基本的に、公式設定(?)に基づいた世界観のお話です。
*公式でうやむやになっているところ、語られていないところを都合良く利用していきます。
*レスは作者へのご褒美です。
*更新情報は逐一、ツイッターで報告いたします→@Catapira_SS

以上、よろしくお願いします。

 

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1381238712


今回も、どうぞよろしく。
 


おっと、酉、こっちの方が落ち着きます。
 

時間が取れず落ち着いたら読もうと思ってたら新スレだと?
1st裏って別の人と思ってたけど同じ人が書いてたのか
ログは保存したし、こっちも期待してますよ

>>4
投下前に書き込むとは、やるな!
貴様ニュータイプか!?ww

お読みいただき感謝です。

投下はもうしばらくお待ちくださいね。
 

>>187
感謝!
彼は、どうしたかったんでしょうね…

>>188
リ・ガズィってZよりもダメなんですかね?
廉価版ってイメージがありましたけど、性能が落ちてるってイメージはなかったです…


そんなこんなで、小出しに続きです。
 


あのマライアたんがルーカスとラブコメやるとはねw

>>189
シャアが何を考えているか……
劇中のセリフ「アムロ、私はアコギな事をしている。近くにいるのなら感じてみせろ」
これに尽きるのでないかと。
地球のため人類のためスペースノイドのため等々の主張も最終的には
「アムロに共感してもらいたい」というワガママに収束してる気がする。
ララァ亡き後、シャアの事を心底理解できる(アルテイシア以上に)のはアムロだけ。
主張は正反対なのにお互いのことはよく理解しているよね。
1stでもCCAでも(演出とはいえ)最終決戦での短い会話で驚くほどお互いの理解が進んでいる。
だからアムロとの邂逅を邪魔するのならば、これからマライアがやるだろう事はシャアの逆鱗に触れるかもしれないね。
そう考えるとミネバに関してはなにか特別な感情を持ってるのかな?
立場的な共感?ジオン家最後の娘アルテイシアの投影?

ゼータについて
Ζは操縦系が非常にピーキーだとのことなので、じゃじゃ馬乗りのマライアさんは大人しいリ・ガズィより好みなんじゃないかな?

我ながら長すぎキモイ

おつおつ

クリス<ごめんなさい、汚れ役を押し付けるような形になって>

地球で既にフラグ立ってたんだな

>>211
クリス「わ、私が言ったのは汚れ役(心理)であって汚れ役(物理)じゃないの……」

マライア「ウソだといってよ!!」

>>211
クリス「わ、私が言ったのは汚れ役(心理)であって汚れ役(物理)じゃないの……」

マライア「ウソだといってよ!!」

なんだこれ
すまん……



うまくクシャトリヤに繋げおった……

ここぞ!という時にミリアムとルーカスの所に戻るのがマライアのマライアたる所以なんだろうね。
アムロやユウの様にはなれないしなるつもりもないだろうし。

しかし戦闘シーンとかUCレベルの作画で脳内再生されてるから興奮が止まらんww

ミリアムは予想ついてたがルーカスはまさかだったわ
でルーカスはどっちとくっつくんですかね


 滑走路に降り立った。どこまでも、青い空が広がっている。

肌を刺すみたいな日差しと、微かに香ってくる、潮の匂い。帰ってきた…

あたし、生きて帰ってきたよ、アルバに!

 なんだか、飛び上がりたくなるような心持ちだった。

もう、嬉しくて嬉しくて、あたしは、プルの手を引いてズンズンと空港の建物の方に歩いていく。

自動ドアから中に入って、ゲートを抜けてロビーに出た。

見回したら、いた、見つけた。あたし達の方を見て、手を振ってくれてる…!

アヤさん、レナさん、ロビンにレベッカに、ユーリさんとアリスさんとカタリナとマリ。レオナも来てくれてる!

あたしは、ルーカスとマリオンをそこに置いて、

プルの手をグイグイ引っ張りながら半ば引きずるようにしながらみんなのところまで走った。

「ただいま、アヤさん!」

もう、タックルに近いくらいの勢いでアヤさんに突っ込む。

アヤさんは、そんなあたしをいつものように軽々と受け止めてくれた。

「お帰り、マライア」

ポンポンと、アヤさんがあたしの頭を叩いてくれる。

「あなたが、プルね。はじめまして」

レナさんが、あたしに引きずってこられたプルを見て、笑顔で挨拶をする。

プルはちょっと照れながら、レナさんに挨拶を返した。

プルの周りに、ユーリさんたちが群がって代わる代わるモミクチャにしている。でも、プルもうれしそうだ。

 そこに、ルーカスろミリアムがやってくる。

「みなさん、ご心配をおかけしてすみませんでした」

ルーカスがそういう。まぁ、心配かけたのは、あたし1人だけど、ね。

なんて正直に言ったら、アヤさんにこのまま関節技をかけられそうだったから、黙っておいた。

そんなことよりも、だ。
 


 あたしは、ミリアムの顔をチラっと見やる。

彼女は、最初はなんだか首をかしげていたけど、次いで、びっくりしたような顔になって、

最後には、確信を持った表情で、目に根涙を浮かべた。

「レ、レナ…?」

ミリアムが、かすれた声でそうレナさんの名を呼ぶ。それに気がついたレナさんは、

「うん、そうだよ、イレーナ。久しぶり」

と笑顔を返した。

 レナさんには、サイド5に居るときにこっそり連絡してやったからね。

ミリアム、びっくりしたでしょ?いい気味だよ!

 偽のレウルーラの中で、ミリアムの部屋に入ったときに、壁に掛かっていた写真をあたしは覚えていた。

最初は、見たことある顔だな、カラバかなんかの知り合いだっけ、なんてのんきなことを言ってたけど、全然そんなんじゃなかった。

シャトルの中で思い返していたら、それは、あたしが初めて会ったときよりも、さらに数ヶ月前に取られたレナさんとミリアムの写真だった。

 話を聞いたら、1年戦争当初、ミリアムは地球へ降下するジオン軍の防衛任務についていたらしい。

あの写真に写っていた人とは、兵学校時代からの友人なんだと、ミリアムは言ってた。

ミリアムは地球に降下するその友人を援護する任務についていたんだ、とも話してくれた。

やっぱり、ニュータイプの“引き”ってすごいよね。

「レナ!」

ミリアムはレナさんに飛びついた。ふふ、ミリアムも喜んでるし、まぁ、これも良かったかな。

 あたしはやっぱりうれしい気持ちになって、自然と笑顔がもれていた。

「さて、とりあえず、ウチかな。大変だったんだろ、あんなことに首を突っ込んでたんだからな。

 とにかく、うまいもの食って少し休め」

アヤさんがそういってくれた。あぁ、アヤさん、やっぱあたし、そうやって、優しくあったかくしてくれるアヤさんが大好きだよ。

 そんなことを思いながら、あたしは、出来る限りの、全力の笑顔でアヤさんに返事を返した。

「うん!」

 ペンションに戻ったあたし達は、いつものとおり、お帰り会をしてもらった。

久しぶりに飲む、アヤさんお気に入りのバーボンは美味しいし、本当に用意してくれてた、ニホン産のお肉も美味しいし、

それに、アヤさんもレナさんも笑ってるし、優しいし、もうホント生きてて良かったって、心のそこからそう思った。

 プルはユーリさんとマリとレオナのおかげですぐに慣れたみたいだったけど、

ミリアムの戸惑いっぷりったらなかったな。そりゃぁ、きっとこんなのは初めてだろうしね。

結局ミリアムは、終始、ルーカスのそばに縮こまってくっ付いていて、まるで子どもみたいでおかしかった。

ミリアムもここにいればきっと明るくなってくれるかな。うん、絶対、そうなるよね。

だって、ここにはみんないるんだもん。

楽しくって明るくって、困ることも大変なこともいっぱいあるけど、それでも、みんなで力をあわせて乗り越えていくんだ。

 ここが、あたし達の帰る場所なんだ。誰にも壊させない、誰にも邪魔させない。

ここが、あたし達の居場所。ここが、あたしの住処なんだから、ね。



 





 その晩、私は、なんとなく寝付けずに、昼間大騒ぎをしていたホールへ降りた。

シーンとしたホールに、アヤって人と、レオナって人の寝息が聞こえている。

私は、ホールの大きな窓から、外を眺めた。遠くに暗い海が見えて、そこに月が写り込んで、

キラキラ、ユラユラと輝いている。

そんな景色を見ながら、なのか、デッキに座っている人の姿が見えた。

―――あれ、マライア?

 私は、それに気がついて、静かにサッシを開けて、デッキに出た。

マライアが気がついて私の方を見るなりうれしそうに

「あぁ、ミリアム」

なんて声を上げた。私は、彼女に笑顔を返す。

「寝れないの?」

マライアはあたしにそう聞きながら、私に隣に座るように促してくる。

「うん、なんだか、ね」

促されるがまま、私はマライアの隣に腰を下ろした。

 サッと、柔らかな風が吹き抜けていく。マライアが何も言わずに、ビールの瓶の栓を切って私に押し付けてきた。

私も黙ってそれを受け取る。

「ん」

私が受け取ったら、今度は自分の瓶を持ってこっちに向けて掲げてきた。

なんだか、そのしぐさがおかしくって、すこし笑ってしまったけど、

私は自分の瓶をマライアの瓶にぶつけて口をつけた。

 苦くて冷たい感覚とアルコールの風味が、口の中いっぱいに広がる。ふぅ、と思わずため息が出てしまった。

今度はマライアが、そんな私を見てふふっと笑った。

 それから、私達はどちらからともなく口をつぐんだ。

私は、と言えば、口を開いたらまた「ごめんなさい」って言ってしまいそうな気がしていたし、

マライアはどう感じているのか分からなかったけど、でも、あれから私とマライアとの会話はいつだって、

「ごめんね」と「あたしこそごめん」の繰り返しだったから、マライアもおんなじことを思っているかもしれないな。

 また、穏やかな風がサワサワと吹いてきた。

スルスルと肌を撫でて抜けていくその風は、まるで、いつかのマライアに感じたように、

私の心からくすんだ何かを取り去ってくれるような感じがした。
 


 「ね、ミリアム」

不意にマライアが口を開いた。

「ん、なに?」

私はそう尋ねる。

「…ミリアムはさ、これから、どうするつもり?宇宙に出て、姫様を探すの?」

マライアは、表情こそ、ボーっとした感じだったけど、そう、探るように私に聞いてきた。

「まだ、決めてないんだ。でも、ミネバ様を探すのは難しいと思う。

 だったら、少し、ここで過ごしてみるのも良いかもしれないなって、思ってる。

 こんなに軽い気持ちになれるのは、子どもの頃以来かもしれない。

 明るいかもしれない明日に期待して、寝るに寝られない気分なんだ」

私は、感じていたことをそのまま話した。ミネバ様のことは、気にならないといえば嘘だ。

でも、あれだけの護衛もいたし、もしかしたら、ミネバ様は私なんかに心配されるほど弱くなんてないのかもしれない。

ミネバ様は、なにがあってもマライアを信じていた。

もちろん、ミネバ様に発現しつつあったニュータイプ的な能力のせいかもしれないけど、だけど、

私のように取り乱して、感情に飲まれることはなかった。

冷静に、マライアが一番安全な方法を瞬時に選択して、総帥に会わせるとまで言ったんだ。

それに、私ひとりで宇宙に上がったって、

散り散りになって身を隠しているだろうネオジオンの残党からミネバ様を探し出すのは無理だと思う。

もちろん、マライアに頼めば一緒に探してくれるだろうけど、ミネバ様にそれが必要かどうか、なんてわからない。

「そっか」

マライアは、私の話にそうとだけ返事をして、なにがおかしいのか、ヘラヘラといつもの調子で笑った。

私は、どうしてか、それがうれしかった。
 


 マライアとこうして笑い合えることを、私は望んでいたのかもしれない。

こんな、穏やかな時間をずっと求めていたのかもしれない。

あのとき、シャトルの中で妹を助けられなかった私が、戦争で、すべてを失ってしまったことに絶望した私が、

地球に降りて逃げ隠れするだけの暮らしを送り続けた私が、ずっとずっと、欲しかったものだったのかもしれない。

 何気ない平穏とか、些細な楽しみとか、明るいかもしれない、明日、とか。

そういうものの全部を、私はマライアに貰った。

あの時、マライアは「あたしの運命をあげる」と言ってくれたけど、でも、

こうしていると、そんなことをされなくったって、マライア、あなたに会えた私は、もう救われていたのかもしれないね。

アレクと再会させてくれた。私を守ってくれた。そばに居て、支えてくれた。

姫様と5thルナの件でマライアはすごく悩んだんだろうし、それで私は、傷つけられたって感じてしまったけど、

でも、それでもマライアは常に私たちのことを考えてくれていた。

それだけは、変わらない真実。

カラバのお喋り悪魔、なんて自分では言って笑っていたけどね、マライア、あなたは私にとっては、

傷だらけで、それでも、あの暗い絶望にとらわれないで、不屈の精神を持った、傷だらけの優しい天使様、だよ。

 「ぶっ!」

そんなことを思っていたら、突然マライアが噴きだした。

「な、なに?」

「いや、今、ものすごいイメージが伝わってきたら、思わず…」

あ…あぁ!しまった!今、私のイメージを共感したの!?

そ、そりゃぁ、頭の中に、ボロボロでも笑ってる、羽の生えた天使みたいなマライアを想像しちゃったけどさ!

そ、そこは黙っておこうよ!?なかったことに、かか、感じなかったことにしとこうよ!?

 私は、顔が熱くなるのを感じて、思わず、マライアの肩口を平手で叩いてしまった。

でも、マライアはそれでも、クスクスと笑っている。

「あー、あたし、ミリアムの中でそんな風に写ってたんだねぇ。あははは、そっかそっか、これはうれしいな」

笑いながらそんなことを言っては、さらにお腹を抱えて笑い続ける。もう!もう!!やめてよ!!本当にやめて!!

 でも、私の気持ちを知ってか知らずか、マライアはそれからしばらく笑い続けた。

最初は恥ずかしいやら悔しいやらでプリプリしていたけど、笑っているマライアを見ていたら、なんだか、

そんなことを気にしていることが自分でも可笑しくなって、気がついたら私も、声をあげて笑っていた。

 二人してなんとか笑いを押さえ込んで、ふうとため息をついた。サラッと風が吹いてくる。

本当に、気持ち良いな、これ…

「マライア」

気がついたら、私は、彼女の名を呼んでいた。

「ん、なに?」

「私、あなたに出会えて、本当に良かった」

スルッと、何の抵抗もなく、そう言葉が出た。マライアは、満面の笑みで、私を見つめてきて

「うん。あたしもだよ、ミリアム!」

って、私の良く知っている、大好きな、いつもの笑顔でそう言ってくれた。


 




 鐘が鳴り響いている。あたしは、人ごみから少し離れて、教会の庭の隅っこの芝生に腰を下ろしていた。

あたしの視線の先には、白いドレスに身を包んだミリアムと、どこで借りてきたんだが、

あんまり似合わない白いタキシードを着込んだルーカスがいる。

その周りをみんなで取り囲んで、シャンパングラスを片手に、騒々しく談笑している。

 ここは、島で唯一の教会。地球へ戻ってから半年、今日は、ミリアムとルーカスの結婚式だ。

ミリアムもルーカスも、見たことのない明るい笑顔で笑ってる。

あたしはそれを見ていたら、なんだか自分も幸せな気分になって、知らず知らずのうちにニヤついていた。

 「なにやってんだ、あんた」

不意に声がしたので、振り返ったら、まるであたしに忍び寄るみたいに、パンツスーツ姿のアヤさんがいた。

うわっ、なにこれ、すごいかっこいい…あたしは、一瞬見とれてしまってから我に返って

「…う、うん、二人を見てたんだ」

と答えた。するとアヤさんは、顔をしかめて

「良かったのかよ、あんた」

なんて言ってくる。言葉の意味は、まぁ、分からないでもない。

あたしともう10年以上も一緒にいてくれているルーカスだ。

お互いのことは、夫婦みたいに知ってるし、まぁ、それこそ、同じテントで野営したりとか、

ルーカスの腕の中で泣きつかれて寝ちゃった、なんてことも、そりゃぁ、あったけど、さ。

「別に?あ、これは、負け惜しみじゃないよ?ルーカスは、なんか、弟みたいな感じなんだよね。

 好きだけど、なんていうか男に見れないっていうかさ。

 それに、ルーカスとミリアムはずっと昔から想い合ってたんだもん。

 新参のあたしがクビを突っ込むなんて、野暮じゃない」

「そうかよ。まぁ、そこまで言うならもうなにも言わないよ」

あたしの言葉にアヤさんは納得したんだか諦めたんだか、そう言ってあたしのそばに腰を下ろした。

まさか、アヤさん、あたしを慰めに来てくれたとか?だとしたら、それはお門違いだよ。

あたしは、本当にルーカスのことは弟くらいにしか思ってなかったんだから。

そりゃぁ、頼りになる相棒だし、ミリアムと結婚したからって、なにかあるときは問答無用で引っ張っていくつもりだしさ。

断るようなら、ぶん殴って気絶させて、引きずってでも連れて行く。

だからまぁ、結婚しようが何しようが、今までのあたしとルーカスとの関係がどうこうなる、ってわけじゃないんだ。
 


 そんなことを思っていたら、今度はレナさんまであたしのところにやってきた。

レナさんは、アヤさん以上に複雑な顔して、あたしの表情を覗き込もうとしている。

だから、大丈夫だってば!もう!みんな心配性なんだから。

 心配してくれるのは嬉しいけど、でも、今二人がしてるのは、まったく不必要な心配だし、あんまり役に立つ方のことじゃない。

ちゃんと説明して、疑いを晴らさないとな、疑いって違うか、壮大な憶測に基づく勘違いっていうか?

まぁ、いいや。とにかく、だ。

「あのね、10年一緒にいて、あたしとルーカスの間にはなぁんにもないんだよ!?

 キスはおろか、そう言う雰囲気で手を握ったこともないんだから!

 そりゃ、あたしがダメなときに胸借りて泣かせてもらったことは何度もあったけどさ…

 それは、仲間として!恋愛感情でそんなことしてたわけじゃないんだからね!」

あたしは、二人に安心してほしくって、そう力説した。

そうしたら、アヤさんもレナさんも、それを聞いて盛大にため息を吐いた。

「なるほどなぁ、そっか。お前、惜しいことしたよ、ルーカス、良い男だったのにな」

「ホントに…。まぁ、ルーカスくんが手をださなかった、っていうのも問題だとは思うけどね…

 今でこそミリアムとああして一緒になったけど、辛かっただろうな、10年間も」

「なんてったっけ、こういうの?据え膳?」

そう言い合って、二人はなんだか呆れた様子でまたため息をつく。

 え、ん?待って、どゆこと、それ?なんで、そんなルーカスがあたしのこと好きだった、みたいな感じになってんの?

え…?あ、あれ…?えっ…えぇぇぇぇ!?ル、ルル、ルーカス、もももしかして、そそそそそそうだったの!?

 あたしはびっくりして、二人の顔を交互に見据えた。アヤさんとレナさんは、渋い表情で黙ってうなずいた。

 ああ、まずったなあ、そうだったんだ…近くに居すぎて、そんなこと全然感じ取れなかったもんなぁ…

あたしは、そんなことを思って頭を抱えてしまった。

「まぁ、もう手遅れだ、あきらめろ」

アヤさんがそう言って、あたしの肩をポンっとたたいてくれる。

ん…?あきらめる、って、なに?だから、それは違うって…

「ね、だから、それは違うんだって。あたしは、ホントにルーカスは弟みたいに思ってただけなんだから」

「じゃあ、なんでそんなにショックそうなの?」

レナさんがそう聞いてくる。そんなの、決まってるじゃん!

「だって、ルーカスそんな風にあたしを思ってくれてたのに、あたしってば、なんにも考えずにルーカスに抱き着いたり着替え見せちゃったり…!

 いやこれ、逆の立場だったらただの拷問でしょ?!

 っていうか、ルーカスどうしてあの状況で一切なんにもしてこなかったのよ!?鉄の意思すぎるじゃん!」

あたしが半狂乱でそんなこと言ったら、アヤさんとレナさんは、顔を見合わせてプッて噴出して、声を上げて笑いだした。

「ははは!なんだよ、ほんとにあんた、なんでもないのかよ!」

「あははは!ルーカス可哀そうだったんだねぇ!」

もう!笑い事じゃないんだってば!
 
あぁぁぁ、謝りたいけど、いまさらそんなこと言ったっておかしな方向に話がいっちゃうじゃん!

あたしは、10年間の罪を、ずっと胸にしまいながら生きて行くしかないんだね、この先ずっと…

うぅ、なんかルーカスの顔を見れなくなっちゃうかもしれない。

あたしは、なんだかシュンと気落ちしてしまうのを感じた。

鈍くてごめんね、ルーカス…気が付いて、聞き出してあげられてれば、ちゃんと振って、失恋させてあげられてたのにね…。


「ったく、そんなんじゃあんた、一生結婚なんてできないぞ?」

アヤさんが、笑いを収めてそんなことを言ってきた。

「あたし、結婚するつもりなんてないよ?」

「は?」

「え?」

あたしが思わずそう言ったら、アヤさんもレナさんも、びっくりした表情であたしのことを見つめてきた。

な、なによう…そんなに見つめられたら、恥ずかしいじゃん。

「結婚しないって、じゃああんた、どうするつもりなんだよ?」

アヤさんが、そんなわかりきったことを聞いてくる。えぇ?今更それを説明しなきゃなんないの?

もう、しょうがないなあ…

「ずっとここにいるよ。ずっとアヤさんとレナさんのそばに居させてよ。

 あたしは、そのためにずっとがんばってきたんだ。

 アヤさんとレナさんの笑ってる顔を見ること、その笑顔を守るのが、あたしの生きがいなんだ。

 だから、結婚なんてするつもりは、あんまりないんだよ。

 だって、今以上の幸せって、たぶん、あんまり見つからないような気がするんだよね」

あたしは、思っていたことを、伝えた。迷いも、後悔も、ためらいもない。

だって、あたしは、マライア・アトウッド曹長なんだ。

アヤさんが家族だって言ってくれた、オメガ隊の末っ子の、泣き虫だけど、ここぞってときには、なんでもやれる、

自分で言うのはなんだか変な感じだけど、二人と、二人の大切なものを守る天使さまなんだよね。

それがあたしの使命で、あたしの幸せで、ここがあたしの帰る場所で、みんながあたしの家族。

他に行くところも依るべきものもない。

どんなことよりも大事な、どんなことにも代われない、あたしの宝物だ。

 「あんた…なに、バカなこと言ってんだよ…」

アヤさんが、そう言ってきた。バカでもなんでも、いいんだ。

「マライア…本気なの?」

あたしはレナさんに頷いて返した。本気も本気!

でなきゃあたしは、今頃はラー・カイラムにでも乗って宇宙を駆け巡っては世のため人のため、とか思って戦ってると思うしね。

 二人は、呆然とあたしを見つめている。あたしは、ふふん、と鼻を鳴らして胸を張ってやった。

ここに居て、あたしの宝物を守る、それがあたしの決めたことで、あたしの誇りだ。
 


 そんなことを思っていたら、唐突にレナさんがあたし目がけて突進してきた。

「うえぇ!?」

と声を上げる間もなく、あたしは座っていた芝生の上に、タックルされたラガーマンみたいに倒れ込んでしまっていた。

あたしの体に両腕を回して締め付けてくるレナさんがあたしの耳元で、掠れた声で囁いた。

「バカよ…マライア、あなた、大バカよ…」

だから、バカでも何でも良いって…あ、ちょ!ア、アヤさん!それはまずい!まずいって!!

レナさんに何かを言い返そうとしていたあたしの目には、レナさんの上からあたしに飛びかかってくるアヤさんの姿が映っていた。

ズムっとあたしの体にアヤさんの体重が降りかかってくる。こ、呼吸がで、出来ないっ…!

そんなあたしのことを知ってか知らずか、アヤさんはそのままあたしの後ろに回ると、抱きしめてるつもりなんだろうけど…

腕をあたしの首元にまわして強烈に締め上げ始めた。

 「うっ…ぐぅぅ!」

あたしは、猛烈な勢いで熱くなる胸と脳の苦しみから逃れようと、必死にアヤさんの腕をタップする。

でも、当のアヤさんは

「ごめんな、マライア。アタシ、あんたにキツいことばっかりやさせて…命かけさせるようなマネばっかさせて…

 もう、二度とそんなことしないからな。安心しろ。

 あんたがアタシらを守ってくれるっていうんなら、あんたのことは必ずアタシとレナで守ってやる…

 だから、もう、どこへも行くなよ…!」

目の前が、うっすら暗くなってくる。行くな、って言われても、ね、アヤさ、ん…あ、あた、し、い、逝…き…そ…

「ア、 アヤ!マライア、白目むいてるよ!?」

「えぇ?!うわっ!おい、大丈夫かよ?!」

レナさんの声が遠くで聞こえたと思ったら、アヤさんのびっくりしたような声も聞こえて、首に回っていた腕がほどけた。

止まっていた血と、酸素が脳へと送られ、呼吸がもとに戻る。くぅぅ、危なかった…今のは、本当に危なかった…。

「なにするのさ!この、鬼!悪魔!」

あたしは、そう叫んで、あたしの背後に居たアヤさんに腕をつかんでひねり上げようとした。でもアヤさんは

「あはは、悪い悪い」

なんて笑いながら、グニャリとそれをいなすと、反対にあたしの腕を絡め取ってそのまんま引っ張ってくる。

「ちょ、危ないよ!アヤ!マライア!」

それを止めようとしてくれたのか、レナさんがいきなり体当たりしてきた。

いやっ!レナさん、そんなことされたら…!

 あたしは、レナさんの体当たりでバランスを崩してしまって、アヤさんとレナさんと一緒になって、芝生に倒れ込んでしまった。
 


「もー!いったいなあ!」

あたしが文句を言ったら、アヤさんが笑って

「だから悪かったって!」

なんて、言い訳にもならないことを言ってくる。

「ふたりとも、何年経ってもホントに変わらず元気だよね」

レナさんも、そう言って笑っている。なんだか、それをみたら、あたしもほっぺたが緩んできた。

だって、そうでしょ?

 そばに立っていた木が、サワサワと風に揺れる。木漏れ日がキラキラと輝きながら降り注いでくる。

おんなじようにキラキラと太陽を反射させている海の潮の香りと波の音を、風が届けてくれている。

 地球はこんなにきれいで、それに、アヤさんとレナさんが笑ってる。

こんなの、笑顔にならない方がおかしいんだよ。

「この先だって、ずっとずっとあたしは元気だよ!二人が居てくれれば!」

あたしは、そう言いきってやった。そしたら、ストン、と、アヤさんの手があたしの頭に降ってきた。

その手は、いつもみたいにあたしの髪をくしゃくしゃに撫でまわしてくれる。

レナさんも、あたしの肩に手を置いてくれる。

「あんたのためにも、アタシらは笑顔を絶やさないようにしないとな」

「大丈夫だよ。だってここに居て笑顔にならない方がおかしいんだから」

アヤさんとレナさんがそう言った。あたし達はそれから顔を見合わせて笑った。



ここがあたし達の帰る場所。みんながあたし達の家族。

どんなことよりも大事な、どんなことにも代われない、あたし達の宝物だ。


 「ね、アヤさん、レナさん」

「ん、なんだよ?」

「実はさ、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なに、マライア?」

「あのさ、良かったら、どっちかの卵子をあた、ぐぁっ!肘は痛い!もう!バカ!冗談だってば!」

「冗談でも言っていいことと悪いことがあるだろ!?」

「そう?じゃぁ、あたしの使う?マライア?」

「なっ!?レナ?レナさん!?」

「ホントにぃ!?」

「あんたは調子に乗るんじゃないっ!」

「ぎゃぁっ!やめてっ!三角締めはやめてっ!」

なんて、本当に他愛のない、いつものやり取りを飽きることなく続けていられる。

あぁ、もう、ほんと。あたしって、あたし達って、幸せだ。




――――――――――to be continued to their future...
 




以上、CCA編完結です。

なんかもっといろいろ書こうかとも思ったのですが、この感じでさらっと行った方が

分かりやすくていいかな、と。


あとがきはまた後日。


以下、レスです。

>>288
感謝!
もしかしたら、クシャトリアのベースになった機体があってもいいですよね、小型化されたクインマンサ。
それから、UCつながりで言うと、偽レウルーラに潜入したときにマライアが見たシャアっぽい人って誰だったのでしょうね、とか。

>>289
感謝!
ルーカスくんは、裏ファースト編とCCAプロローグに、文章構造をまったく同じにしたパートを使ってます。
そこいらあたりくらいしか、アレク=ルーカス、となるヒントはなかったかもしれんです。

超乙!!!!

乙です&日常編よろしくです

乙でございました
マライアちゃんは傷だらけ可愛い

ていうか完全に別エピソードだと思ってこのシリーズ終わった後の楽しみにとっておいたら
最後の最後でネタバレ喰らってしまったでござるの巻wwww

おつー
面白かったよー



ああ、帰るべきところに帰ってくれた感じだ。
個人的にルーカスとくっつくエンディングは嫌だなあと思ってただけに。
アムロはララァに対して謝っていたけど、マライアは誰に気兼ねすることなく「帰れる場所」に帰れるね。
こんなに嬉しいことはないwww

>>301
超感謝!!

>>302
感謝!&了解しておりますw

>>303
感謝!!!
裏Z編ですね、すみません、ネタ的にはグリプス戦争末期にミネバとともにクワトロに連れ去られるミリアム、というのを
考えては居たのですが、それを書いちゃうと早い段階でミリアム=イレーナと言うネタバレになっちゃうかと思いましてw

>>304
感謝!!!

>>305
感謝!!!!
ルーカスとの結婚は最初からほとんどかんがえてませんでした。
マライアは、あれで正解なんだと思います。


以下、あとがきのようなもの。


お読みいただき感謝感謝です。

今回のCCA編は、ご都合主義的な部分を極力排除された世界で生きてきたミリアムと
ご都合主義の恩恵に受けまくったマライアの対比、を描くことが目的でした。
キャタピラ的に、相容れない二つをぶつけて、どっちが勝つかハラハラドキドキしてみたかったのです、はい。

ちなみに、ミリアム・アウフバウムという名前ですが、マライア・アトウッドと裏表になるようにと名付けました。
「アトウッド=Attwood→at+wood」、「アウフバウム=auf+baum」で、「auf」は英語でのinとかonとかちょっと苦しいけどatにあたり、baumは木、つまりwoodです。
「ミリアム」はヘブライ語で、「マリア」の語源ともなった旧約聖書に出てくる女預言者の名でもあり、良い印象と悪い印象の両方をもつ名前のようでした。
処女懐胎した「マリア(=マライア)」に対して、「ミリアム」の名は、淫的なニュアンスを持つ神話もあるようで、対比的に面白いなと思って拝借した次第です。

ようは、マライア・アトウッド≒ミリアム・アウフバウムってことでした。
マライアが作中で言っていたように、ミリアムは絶望に黒く塗りつぶされたもうひとりの「あたし」であり、
このふたりの接近と好意と対立が、ご都合主義VSリアル調戦史の対比として話の骨組みになっていたわけです、はい。

そんな感じでもう一回読み直してくれても良くってよ?


自分で書いておいてあれだけど、長すぎてキモイ。
 

誤字をあえて目立つ場所に配置することにより
思わずスルーしてしまうという読者の心理を突いた高等戦術



これからアヤレナさんの復讐……じゃなくてお礼参り……でもなくて感謝の正拳突き一万発が始まるのか!

>>604
しかも誤字のチョイス(?)が絶妙なww
かえって楽しめるようになったかもw





……お願いします。一回だけでいいから読み返してから投稿ボタン押してくれませんかねぇ?

「画竜点睛を欠く」ってやつだ。
考証、キャラ、プロット、文章。
他が素晴らしいだけにつまらん誤字なんかで完成度が下がるのが「もったいない」って言ってるわけだよ。
ひとつの誤字が目立つからこんな流れになるのよ?

カミーユ「修正してやる!!」
……お願いしますよ


いつまでも平和が一番やなあ

乙!
無事完結おめでとう。今回も安心して楽しめた!



うーん、大団円!
読み終わりにすげーほっこりした。
良い終わり方だったねえ

ところで業務用の砂糖10kgが空になってるんだけどアヤレナマのせいだったか。
どうりで甘すぎると思ったぜ。

おつかれー!

いつもの事ながらエンディング最高や…

大人を叱るレベッカたんかわええなwwwwww

お疲れ様でした!
すごく楽しめました。でもこれで終わりと思うと少し寂しいかなww

乙かれ~
レオナwwwwww

乙、本当に乙

>>567
うへへ、予想通りだったぜえ
ただしこれは決して「展開が読めて面白くなかった」というわけではなく、「ああ、こうだったらいいなあ。こうだったら素敵だなあ」って思い浮かべていたものとドンピシャだったという感じwwww
最っ高の気分だwwww

乙!!

お疲れさん
読み返しのループに完全にハマって抜けられんww

怒りに来た時のレベッカは

・眠そうな半眼
・三角のナイトキャップとピンクのパジャマ
・右わきに大きな枕
・左手にはウサギのぬいぐるみの耳もって引きずってる

で脳内再生完了

一方、ロビンはレベッカの激昂もどこ吹く風でベッドのど真ん中で大の字で爆睡中なんですね、わかりますw

>>625
感謝!
平和を求めて、旅をしてきたみなさんでした!

>>626
感謝!!
ここまで読んでいただけてありがとうございました!

>>627
感謝!!!
彼女たちには、こういう日常が似合います。
レオナが塩が足りない、と言ったのは、甘すぎたからなのかも知れませんw

>>628
感謝!!!!ありがとうございます!
レベッカちゃんはおもいつきでしたが、かわいいですね♪w

>>629
感謝!!!!!
ループしてくれていいんですぜ!?

>>630
感謝!!!!!!
レオナって、コメディやらせたくなる不思議でしたw

>>631
感謝!!!!!!!
予想してくれてた人!
当たってた上で楽しんでいただけているとは、嬉しい限りです…!

>>632
感謝!!!!!!!!

>>633
感謝!!!!!!!!!
ぐるぐる回ってください!

>>634
的確な再生にわろたw
昼間に動物園行ってますしね、うさぎのぬいぐるみ持ってそうw

>>635
そのイメージもありました!
ロビンはアヤ似、レベッカはレナ似+レオナ少々なイメージです!



たくさんのレスありがとうございました。

名残惜しいですが、キャタピラはそろそろ、冬眠の準備に入ろうと思います。

次回作がいつ、どんなものになるかはまだ、モヤモヤっと頭の中ですが、

彼女たちに負けない物語を書いていけたらなと思います。

ここまで読んでいただけて、本当にありがとうございました。



・・・


ときれいに幕引きしたい気持ちもありつつ…

もう一つだけ、書いておきたいことがあったのです。

以下、蛇足かもしれない、もう一つの主人公たちです。

 


 「おい、準備大丈夫か?」

「うん、こっちは平気。なんだっけ、オールグリーン?」

「ははは、無理に難しい言葉を使わなくなっていいさ。操縦はこっちに任せておけ。

 そっちはのんびり、宇宙の旅を満喫していてくれてて構わないから」

俺の声掛けに返事をしたニケにそう返してやった。

 俺たちは、ルオコロニーの港に居た。小型のシャトルを手に入れて、地球に向かう。あれからもう4年だ。

レオナ達は元気だろうか…?

メッセージやなんかでやり取りは続いていたし、写真なんかも送ってもらったりはしていたけど、

こうして会うのはあれ以来、だ。楽しみだ、と言うのが正直なところだ。

 「こっちに、って、マークは計器見てるだけでしょ?」

横からハンナがそう口を挟んでくる。ノーマルスーツの中で、いつものいたずらっぽい笑顔が光っていた。

相変わらずのハンナのこんな調子にもすっかり慣れたな。

「はいはい、分かったよ。ルオ管制室、こちら第3ケージ。出港準備完了した。指示を頼む」

俺はハンナをあしらってから港の管制室にそう無線を入れた。するとすぐに女の管制官の声で

<了解。ケージ内のシール完了を確認。外部ハッチ解放します>

と聞こえてきた。それと同時に、目の前のハッチが音もなく開き始める。

その向こうには、漆黒の宇宙が広がっていた。

「ケージ開放を確認」

<了解。アームロック、解除します。5、4、3、2、1、解除>

「解除、確認」

俺は計器で、シャトルを固定していたロックの解除を確認して報告を入れる。

<了解。出港、してください。お気をつけて>

「感謝する」

そう返事をして、無線をきった。それから、操縦桿を握るハンナの方をチラっと見やる。

ハンナはコクっとうなずいて、ペダルを踏み込んだ。

シャトルがスラスターを吹かしながらゆっくりとコロニーの外に進んでいく。

やがて、港から出ると、ハンナがスロットルを開いて加速を始めた。
 


 俺たちの目的地は、地球。北米のシャトル降下場だ。

そこから車で1時間ほど行ったところにある空港へ向かって、そこに“迎え”が来ている、と言う話になっている。

ハンナの操縦で、無事に北米へ降りられれば、のことだが。

 ハンナは、このコロニーに来てから暇だった、と言うのもあって、シャトルの操縦免許を取った。

1年も学校に通って、ようやく、だ。別にギリギリ卒業とかってわけでもないし、

まぁ、それなりの技術はあるんだろうけど、ハンナの操縦、と言うだけで、どこか不安になるのは俺だけだろうか。

 「地球かぁ、久しぶりだな」

もう、体つきだけはすっかり大人と変わらなくなったサビーノが言っている。

「ね!地球行ったら何しようかなぁ」

ニケの声も聞こえる。サラとエヴァは、いつもみたいにそれを見てニコニコしているんだろうな。

 それからこのシャトルには、もうひとり、お客が居た。

先日、俺たちは今日と同じように、コロニーを出て、地球を目指した。

だが、運悪く俺たちの選んだ航路は

アクシズを落そうとするネオジオンとそれを防ごうとするロンドベルだかってやつらとの戦闘区域を掠めた。

あわてて引き返している最中にサラとエヴァがわめきだして、俺がビビりながら船外に出て、

壊れたモビルスーツの中から、一人のパイロットを回収した。

あのときみた、地球を覆うみたいな緑の光は、なんだったんだか…

ハンナ達はそれに何かを感じ取ったらしいけど、俺はまぁ、きれいなだぁなんてのんきに思っていただけだった。

ま、悪いものじゃなけりゃぁそれでいいんだけどな。

 助け出したパイロットは、体中骨折していた。無理な機動でもして体に負荷が掛かったような感じだった。

乗っていたモビルスーツは、ネオジオンの量産機のようだったが、

どうしてここまでボロボロになるような操縦をしたのか、不思議に思っていた。

 俺たちはコロニーに引き返して、病院まで彼女を運んだ。

すぐに集中治療室に入れられた彼女は、三日三晩眠り続け、四日目の昼間、俺とニケとで様子を見に行ったときに、目を覚ました。

彼女は、最初は呆然としていたけど、しばらくして俺たちが助けて、ここに運んだんだ、って話をしたら、

ようやく生気を取り戻した感じで、ワッと泣き出したのを覚えている。

 話を聞いたら、どうやら、あの戦闘の終盤、大気圏に突っ込みそうになったアクシズを

モビルスーツで押し戻そうとしたパイロットが居たらしい。

それを見た一帯に入り乱れていた部隊や、遅れてやってきた連邦の援軍なんかが加わって、

仕舞いには、ネオジオン軍でさえ、アクシズに取り付いて押し戻そうとしたらしかった。

彼女はその中にいたらしい。

だけど、大気摩擦のせいなのか、なにかものすごい強い力に煽られて、

彼女の機体を捕まえてくれたジェガンのがんばりもむなしく、宇宙に弾かれてしまったんだという。

そこへ、たまたま引き返していた俺たちは通りかかった、ってわけだ。
 


 彼女は、ミシェル・ジェルミだと名乗った。ネオジオンでは、軍曹だったらしい。

だが、ネオジオンは先の戦闘でほぼ壊滅、残ったやつらはまた潜伏したって情報が入っている。

彼女にそのことをつげはしたものの、ほとんど感慨もなさそうに

「そうですか…」

とぼやくように言っていた。どうやら、あの緑の光に当てられたらしい。

あれは、それくらい強い意志の宿った何かだった。戦うこととか、奪い合うことがバカらしいと感じられるくらいに。

 そんなわけで、俺たちはコロニーで彼女の体が治るのを待った。

まぁ、急ぎってわけでもなかったから、特に支障もない。

1ヶ月ほどしてなんとか動けるようになった彼女に俺たちのことを話したら、一緒に連れて行ってほしい、と言うので、今だ。

彼女にしてみたら、おそらく地球なんて脚も踏み入れたことのない場所だろう。

そこへ行きたい、といった彼女は、なにか、新しい人生を探そうと思っているように、オールドタイプの俺には見えた。

ま、本当のところはどうなのか知らないが、ハンナも子どもたちも何も言わないから

変な気を起こすようなやつではないんだろう、と、そうとだけ思っておくことにしていた。

 「よし、巡航軌道に入った。楽にしていいよ」

ハンナがそう言って、ノーマルスーツのバイザーをあけた。俺はヘルメットごと脱いでため息をつく。

 正面の窓の外には、あの青い星が、静かに美しく浮かんでいた。



 





 「ほれ、メシだぞ!」

俺はそう言って、シャトルの中のダイニングテーブルに、今晩の夕食を並べた。

「うは!私、このエビのピラフ!」

ニケが率先してピラフの袋を抱え込む。サビーノ達もハンナもあぁでもないこうでもないと言いながら、

冷凍食品のパッケージを選んでいる。俺はまぁ、食えれば何でもいい。あまったのをいただくことにしよう…

あぁ、だから、

「ミシェル、好きなの選んでいいんだぞ?」

と言い添えてやった。遠慮がちなのは、救助して意識を取り戻してからずっと変わらない。

堅っ苦しいのは苦手だ、って言ったろ。

他人行儀にされるのも、案外疲れるんだよ、普通でいいんだ、とは、何度も言ったけどあまり効果はないらしい。

そうなると、もう俺の手に負える範疇じゃない。ハンナか、ニケに任せておこう。

「あ、はい」

ミシェルはそう言って、遠巻きにテーブルを見つめている。ま、仕方ない、か。俺はひとつため息だけついた。

と、そんなとき、俺のノーマルスーツにつけておいたポーチからポン、と電子音がした。PDAにメッセージだ。

ここにいるやつら以外で、俺に連絡を取ってくるような人は限られてる。

大方、“受け入れ先”からの連絡だろう。

 俺はそんなことを思いながらPDAを取り出して、メッセージを開いた。

――――――――――――――――――――――――――― 

マークへ

 確か、出発は今日だったよね?

こっちは準備万端で迎撃準備をしてあるから、楽しみにしててね!

北米に無事降りれたら連絡頂戴ね!

                     マライア
――――――――――――――――――――――――――――― 

そのメッセージには、画像が添付されていた。

それをタップして開くと、そこには、あのペンションの前で、「welcome!」なんてボードを掲げたマライアさんと、

ペンションのみんなが一緒になって写っていた。相変わらずだな、この人たちは…思わず、笑顔がこぼれてしまう。

「ん、マライアさんから?」

「あぁ、そうだ」

俺はそう返事をしてPDAをハンナに見せる。もれなくハンナも笑顔になった。

 


 ニケやサビーノも見せてくれとせがんでくるのでみんなにも写真を見せてやる。

歓声を上げているこいつらを見てると、なんだか、こっちまでさらに嬉しくなってくるようだった。

コロニーから地球までは、2日と少しかかる。

それまではこの冷凍食品生活だが、まぁ、それでもあのチューブ食に比べたらうまいことこの上ない。

ミシェルも最近ようやく、宇宙旅行症候群の克服もできて、こういう固形物を食べられるようになった。

コロニーでハンナの手料理を初めて食べさせたときの表情ったらなかったよな。

ひどく興奮して美味しい、美味しいと騒ぎまくった挙句に急に大人しなって恍惚とした表情で食事を続け出したもんだから、

こいつこのまま死んじゃうんじゃないか、って、意味もなく感じたっけ。

まぁ、そんなこともなく、ミシェルは俺たちと同じ食事を摂れるようになってる。

食卓を囲む人数は多ければ多いほど楽しいもんだから、これも嬉しい変化に違いない。

 俺たちはそれぞれの食事を温め終えて、袋を開けて食事を始めた。ニケが

「地球、楽しみだな!私、またあの海で遊びたいんだよね!」

なんてニコニコしながら言う。そしたら、珍しくサラが

「私も。お日様、気持ち良い」

なんて笑って言うんで、また嬉しくなってしまった。あの場所は、本当にいいところだ。

ネオジオンがやらかした5thルナ激突の影響も大きくないらしいし、

俺たちが離れたあのときのままなら、どんなに素晴らしいか…

そう思えば、ほとぼりがさめるまでの生活は、別に辛かったわけでもないけど、待ち遠しく感じていた分、長かったな。

 それから俺は、ハンナやサビーノ達と、地球での生活について話をした。

どいつもこいつも、楽しそうな妄想話ばかりでホントに笑いまくってしまってたけど、

俺も俺で、あの白い砂浜でする、人生で一番の勝負の最高の結末を妄想している一人だった。


 











 「みんな、そろそろ突入ポイントだから、ノーマルスーツとベルトのチェックしてね」

ハンナはそう言って、ヘルメットのシールドを上げる。

俺も、自分のノーマルスーツを点検して、それからベルトもしっかり閉まっていることを確認する。

このシャトルは突入時に滑空していくタイプだから、ある程度の振動があるはずだ。

本当は、ミノフスキークラフト技術を使って、大気摩擦を軽減しながら突入していくようなシャトルを手に入れたかったんだけど、

ルオ商会からの援助で食っているような俺たちがそんな贅沢をできるはずもない。

こんな中古のシャトルでも手に入っただけ、幸運だった。

 俺はそうを思いながら計器をチェックする。大丈夫、異常はない。

あとは、ハンナ、お前の操縦に掛かってるんだからな、頼むぞ。

そんなことを思いながらハンナを見てやると、彼女はニコっと笑って

「大丈夫。学校じゃ、私、この訓練が一番点数高かったんだから」

なんて余裕そうだ。でも、俺は知ってる。そいつは、シュミレータでも話だろ?

いくらなんでも、実際にやるのとシュミレータとじゃ、完璧に同じ、ってわけじゃない。

そこんとこ過信しすぎないようにしてくれよな…

 そこの部分だけは、正直、祈るような気持ちがないでもなかった。

それにしても、そう言えば、こっちからキャリフォルニアの降下場に送った無線と識別信号への返答がない。

この距離なら、そんなにラグもなく届くと思うんだが…

 俺はもう一度計器を確認して、管制塔へとビーコンを送る。だが、今回も返事はない。

どうしたってんだ?まさか、通信機が機能してない、なんてことはないだろうな?

ふと、不安になって、俺は電波の状況を確認する。と、モニターに電波レベルが表示された。

それを見て、俺は青ざめた。電波が、ない。い、いや、ついさっきまでは大丈夫だったはずだ。

なのに、急に、なにが、どうなったんだ?

 俺は混乱して、アンテナのチェックを行う。アンテナは機能は正常なようだが、それでも通信が確立できない。

いったい、どういうことだ?
 





「ミノフスキー粒子?」

ハンナがポツリと言った。そうか、ミノフスキー粒子!

俺たちは、戦闘で残されたミノフスキー粒子の雲の中につっこんじまったのかもしれない!

うかつだった、確か事前に、雲の位置と移動方向が情報で送られてきてたはずだったのに…!

「ハンナ、この位置での降下はまずい。いったん距離を取って、別の方向からアプローチをしよう」

俺はハンナにそう言う。だけど、ハンナは俺を見て、苦笑いを浮かべた。

「たぶん、もう無理。重力圏に入っちゃった」

な、な、な…

「なん…だと…!?」

俺は頭から血の気が失せるのを感じた。ど、ど、どうする?

このまま無事に滑空出来たとして、その先にちゃんと降りられるような場所がなかったら、どうするんだ!?

「あーこれ、ちょっとマズイかもしれない」

ハンナがまた言いだした。

「今度はなんだ!?」

「ミノフスキー粒子のせいで、角度情報が入ってこない。

 あれ、地球との磁力の関係で角度計算してるはずだから、影響出るかなぁって思ってたけど、やっぱり出たね…」

は?え?お、おい、それ、ちょっとか?ちょっとマズイだけか?かなり、だろ?

角度が分かんなけりゃ、どうやって突入姿勢取るつもりなんだよ!?

変な角度で入ったら、加速して宇宙の彼方まではじき出されるか、そのまま摩擦で燃え尽きるぞ!?

「ちょっと、見せてください!」

俺たちの話を聞いていたミシェルが操縦スペースに飛び込んできた。

ミシェルは計器を眺めて、そのいくつかを操作する。

「な、なにをしてるんだ!?」

「ジャイロと重力の測定値から、角度を計算します。コンピュータ、見せてください!」

ミシェルはそう言って、俺と計器の間に割り込んできて、モニターとキーボードをたたき始める。

その間にも、シャトルはどんどん地球に引き寄せられているのが分かる。頼む、ミシェル、急いでくれ…!

「隔壁閉めないとヤバそうだなぁ。えーっと、これだ」

ハンナはいたってのんきにそう言って、ボタンを操作してガラス外の保護隔壁を閉める。

代わりに、ガラスにカメラがとらえる外の様子が映し出された。青い地球が、今はもはや恐怖の対象でしかない。

「出ました!25度前傾に!」

ミシェルが叫んだ。すぐさまハンナが

「了解!」

と返事をして、操縦桿を動かす。カメラの映像が、地球と宇宙の半分ずつになった。

よ、よし、なんだか、滑空して行けそうな景色じゃないか…だが、次の瞬間にはミシェルが叫んだ。

「ダメ…速度が上がりすぎている…!」

速すぎる、って言うのか?!
 


「このままだと、はじき出されます!逆噴射を!」

「はいはい、任せて!」

ハンナはそう言って手元のレバーを操作しながらベダルを踏み込んだ。

微かなマイナスGが掛かり、機体の減速が感じられる…が、どうなんだ、これで?

俺はそう思ってミシェルを見やる。だが、彼女の顔色はさえなかった。

「か、角度を、30度まで下げて、加速を!」

加速、か…逆噴射で速度の落ち方がイマイチだったんだな…

それなら、角度を下げて、加速して大気圏に深く突っ込む…それなら、はじき出される心配はないが…

逆に機体が炎上するリスクが増す…ギリギリの状況、ってわけか…!

俺はそれを察知して、歯を食いしばった。くそ、こんなポンコツを買うからだ!

だから俺は、チャーター機で良いんじゃないかって言ったんだ!

ガタガタと機体が激しく振動を始める。ミシェル、他に案はないのか?!

 俺はそんな思いを込めてミシェルを見つめた。

でも、ミシェルはコンピュータのモニターを見つめて、険しい顔をして黙りこくっていた。

もう、打てる手立てがない、ってことかよ…!くそ!こんなんで終わりなのか、俺たち!?

 「ミシェルちゃん、ダメっぽい?」

ハンナがのんきにそう聞く。ミシェルは、コクリと頷いた。やっぱり、なのか…

「そっか、じゃぁ、しょうがないな」

ハンナはそう言って、計器の中にあった蓋のようなものを開けて、その中にあったレバーに手をかけた。

「お、おい、ハンナ!待て、お前、何する気だ?」

俺は慌ててハンナに声を掛けた。するとハンナは、なんでそんなことを聞くの?って顔をして、俺に言った。

「いや、だってこのままじゃ、危ないんでしょ?緊急時はこうしろ、って学校でならったし」

「こうしろ、って、どうするのか、って意味だよ!」

「あぁ、そっちか」

ハンナはヘラヘラと笑って言う。笑いを収めたハンナは、さも何でもない風にして言った。

「バリュート開けってことっ」

バリュートって、あの大気圏突入用のパラシュートのことか?!いや、待て、ハンナ!

今そいつを広げるな!俺がそう怒鳴ろうとした瞬間には、ハンナはレバーをひねっていた。
 


俺はすぐ目の前にいたミシェルの体を腕で抱きとめる。それとほぼ同時にガツンと言う衝撃が走った。

俺は腕の中のミシェルを力いっぱい抱きしめてその衝撃に耐える。

やがて、シャトルの揺れは収まった。どうやら、まだ生きているらしい…。

俺はミシェルを解放してふぅ、とため息を吐いた。ハンナめ、こうするなら最初から言っておけっていうんだ。

俺の冷や冷やしてた時間を返してくれよな、まったく…

そんな文句は思いついたとしても言う気にはならず、

「ミシェル、大丈夫か?」

とミシェルに尋ねる。

「え、あぁ、はい、ありがとう、ございます…」

ミシェルは少し戸惑いながらそう答えてくれた。

ま、元パイロットだって言っても、この状況じゃぁさすがに焦るだろうな、戸惑って当然だ。

それから俺は後ろのニケ達の様子を見る。4人はケロっとしていて

「いやぁ、すごい衝撃だったね」

「そうか?チビのときの、あの脱出艇の方がひどかったじゃないか」

なんて話をしている。

ハンナの考えを読んでいたからなのか、それとも経験的なものなのかはわからないが、まったく、頼もしい限りだ。

 そしている間にも、シャトルはどんどん降下していく。さて、こいつは一体、どこに降りるんだ…?

俺はそう思って、カメラの映像を確認するが、真っ白になっていてなにも見えない。

そうか、バリュートがカメラに干渉している、か…いや、待て、これだと、下の様子が分からなくないか…?

俺は今度はそっちが心配になって、コンピュータを操作する。

大気圏の中に入れば、地上の信号を受け取れる可能性が高い。

それなら、位置情報を確かめることもできるはずだ…よし、大まかだが、出せそうだ…って、おい、これ、まさか…

 そう思った瞬間、コンピュータがビーっという警告音を発し始めた。くそ、なんだ!?

俺はモニターを確認する。そこには、信じがたい文字列が表示されていた。

<Warning low altitude>

低高度警告だと!?俺は計器を見やった。降下が、早すぎる!あと1000メートルしかないぞ!

「ハンナ!着水する!バリュート切り離して、スラスター!」

「え!?あっ!しまった!」

ハンナはそう叫んで、手元のボタンをいくつか押してからペダルを思い切り踏み込んだ。

800、700、600…くそ!速度が落ちない!

「衝撃に備えろ!不時着するぞ!」

俺はニケ達に怒鳴って、そばにいたミシェルを再び捕まえようとした。

その瞬間、下から突き上げるような衝撃がシャトル全体を襲って、俺はシートの上で体の軋む音を聞いた。

全身が強烈に痛んで、身動きが取れなくなる。

だが、幸いなことに、シャトルが壊れた様子もない、俺も、生きているらしい…。

 「大丈夫か?!」

俺は声を上げた。しかし、シャトルの中の誰からも返事が来ない。

くそ…さっきも思ったが、だからこんなシャトルじゃなくて、チャーターしようって言ったんだ、ハンナ!
 


「うぅ、痛たた…」

声が聞こえた。これは、ミシェルか?俺はシートのベルトを外して立ち上がった。

シャトルはなんとか水平を保ってはいるが…位置情報を確認した俺の見間違えでないのなら、

こいつは今、海の上に浮いていることになる。機体に破損があれば、沈んでいくのも時間の問題だ。

しかも、海で遭難することなんか設計の想定に入っていない。

救命ボートもなければ、救命胴衣すらないんだ。バリュートを切り離したのは、失敗だったか…

いや、だけど、切り離さないとスラスターの噴射ができなかったから、海面に激突していた可能性もあった。

 すぐ傍らで、ムクっと何かが動いた。ミシェルだ。

ミシェルは機体がおかしくなってすぐに、俺たちをバックアップしに来てくれた。

ベルトもなしに、この不時着水に遭ったんだ。

「大丈夫か?ケガないか?」

俺はミシェルを助け起こしながらそう尋ねる。彼女はノーマルスーツのヘルメットの中で顔を苦痛に歪めていた。

「腕、折れたみたいです…」

ミシェルは言った。確かに彼女の左腕は、力なく垂れ下がっているように見える。

 「痛っっっったぁぁぁ!」

今度は後方で別の声がした。見たら、ニケがヘルメットを外して首を押さえている。

「ニケ、大丈夫か?」

「うん、たぶん…」

「もし動けたら、サビーノ達の様子を見てくれ」

「了解、マークさん」

ニケはそう言いながら、首を押さえつつベルトを外して立ち上がった。

一瞬、少し足元をふらつかせたが、すぐにしっかり床に足をつけた。

ニケは、大丈夫そうか…後ろは任せるとして、あとは、ハンナだ…

 俺はミシェルをシートに腰掛けさせてからハンナの体を揺すって呼びかけた。

「おい、ハンナ、ハンナ!」

ほどなくハンナはうめき声とともに目を開けた。それから一言

「おぉ、すごい、生きてる…私の腕もなかなかのもんじゃない…」

なんて言いのけた。いや、言ってる場合か!

「無事ならすぐに脱出の準備しろ!下手したらこの船、沈むぞ!」

俺が言ってやったら、ハンナは緩慢な動きでヘルメットを外した。さすがにあの衝撃だ。

俺もそうだが、全身打ち身になっているようなもんだ。
 


 「マークさん、私達は大丈夫!」

ニケの叫ぶ声が聞こえた。後ろをみやったら、子ども達はヘルメットを外していて、全員がヘタっとシートに座り込んでいた。

でも、大きな怪我はなさそうだ。

「ニケ、なんでもいいから、浮きそうなものを探せ。この船から脱出する」

俺はニケにそう言ってやってから周りを見て、シートの脇についていた肘掛けを蹴り壊した。

そのクッション部分を引き剥がして、それを添え木にメディカルボックスから出した包帯を使って

ミシェルの腕を固定して、三角巾で首から下げてやる。そんなときになって、ハンナが

「あれ、ミシェル、怪我したの?」

なんて言い出した。流石に、この反応はおかしすぎるな…

「おい、ハンナ、大丈夫か?」

俺が聞いたら、ハンナはうつろな表情でそう答えた。脳震とうか?頭打ってないといいんだが…

「ハンナ、少し座れ」

俺はハンナにそう声をかけて、シートに腰掛けさせる。それから、そっと頭に触れてみる。

コブなんかは出来てない…

「ハンナ、頭打ったりはしてないか?」

「うん、ベルト締めてたし、ヘルメットつけてるし、それはないよ…クラクラするけど…」

「たぶん脳震とうだ、少し座っとけ。ニケ、何か見つかったか?」

ハンナにそう言い聞かせて、今度はまた後ろに振り返ってニケに聞く。ニケは、ビニールのバッグを手に

「これに空気入れたら浮くよね?」

なんて首をかしげてくる。確かに浮くが…せめてプラスチックボトルか何かの方が安心できるんだがな…

ノーマルスーツのヘルメットはつけておくべきか…?エアーを通さない、ってことは水も吸わないし通さないだろう。

ヘルメットの中の空気でも、多少の浮力はカバー出来る。シャトルから出るときにはつけておいたほうが良さそうだ。

酸素供給装置さえ機能を失わなきゃ、それでしばらくは浮いていられる、か…

いや、待て、その前に、救難信号を発信しておかないと、浮きっぱなしのまま揃って衰弱死だ。

 俺が計器のあるコクピットを振り返った瞬間に、ニケの叫び声が聞こえた。

「マークさん、水が…!」

まさか…もう、浸水が!?俺が確認すると、確かにシャトルの後方から浸水が始まっていた。

同時にシャトル自体が後ろへと傾き始める。そうか、ブースターのノズルからエンジンに…!
 


「脱出するぞ!全員、ヘルメットをつけろ!酸素供給装置を確認しておくんだぞ!サビーノ、ハンナを頼む!」

俺はそう叫んで、ミシェルにノーマルスーツのヘルメットをつけてやった。

俺自身もヘルメットをつけて、ハンナにもヘルメットをつけさせる。

ハンナをサビーノに担がせて、俺はミシェルをそばに呼んだ。

 全員の準備が済んだのを確認して、ハッチの強制開放装置の防御ガラスを殴り破って、中のボタンを押した。

ズボン、という音がしてハッチが外へと弾け飛んだ。とたんに、大量の水が流れ込んでくる。

「ニケ、サラ、エヴァ!先に行け!」

俺はそう怒鳴りながら、そばにいた三人を引っ張ってハッチから外に投げ出した。

それから、ハンナを背負ったサビーノの背中を押し出し、最後にミシェルを抱えて身を投げた。

着水した俺たちをサラとエヴァが引っ張ってシャトルから引き離してくれる。

やがて、と言うほどのまもなく、シャトルは海中に沈んでいった。

「マークさん、大丈夫!?」

ニケが空気を入れて縛った白いビニールバッグにしがみつきながら、ヘルメットの中でそう言ってくる。

「あぁ、危ないところだったな…ミシェル、大丈夫か?」

俺は前に抱いたミシェルにそう聞く。ミシェルは頷いて

「はい…これが、海、なんですね…」

なんてのんきなことを言っている。ネオジオンの軍人だってことだから、

まぁ、海なんて見たことも体験したこともないんだろうから、仕方ない、か…

 それにしたって、この状況はどうしたものか…このまま漂流するしかないのか?

結局、救難信号すら発信できないままだったしな…まずった…

もっと早く、救難信号のことに気がついていれば、少なくとも救助を待つって希望があったが、現状はそれすら望めない。

シャトルの墜落を、どこかのレーダーが捉えてくれているといいが…

連邦のレーダー網は全空域に向けられてはいるが、シャトルが隕石か何かと判断されていれば救助はないだろう。

ただ、マライアさんには事前に連絡を入れている。

頼みの綱は、到着時刻になっても連絡を入れない俺たちをあの人が探してくれること、だが、

果たして俺たちの位置を正確に特定できるのかは疑問だ。

 くそっ…こんな時こそ、あの“力”に助けてもらいたいもんだが…俺はそう思ってニケ達の方をみやった。

と、ニケ達の向こうから、何かが近づいてきているのに気がついた。あれは、船か…?

随分小さいが…漁船か何かか?
 


 俺の視線に気がついたのか、ニケ達も振り返って船の姿を確認した。

「なにかくるよ…?」

ニケがそんなことを言う。良かった、少なくとも、俺の見ている幻ではないらしい。

やがてその船は静かなモーター音を響かせて俺たちのすぐ前に停止した。

「大丈夫か?シャトルが墜落したのが見えたんだ!」

そう叫んで船の中から姿を見せたのは、サビーノと変わらないくらいの青年の姿だった。

「あぁ、ちょっとトラブルでな!助けに来てくれたのか!?」

「何事かと思ってさ。乗りなよ!」

彼はそう言って、船のハッチをあけた。中にはほかにも数人乗っていて、俺たちに手を差し伸べてくれる。

こんな広い海原で、こんな小さな船が近くにいるなんて、本当に運がいい。

俺はニケ達を先に船に上がらせてもらって、最後に海面からミシェルを船に押し上げた。

サビーノがミシェルを船の中に引き込んでくれたのを確認して、俺の自力で上がり込む。

「姉ちゃん、ケガしてんのか?」

中には最初に声をかけてきた青年とは別に女の子が二人乗っていた。

最初に声をかけてくれた彼が、ミシェルを見てそう聞いている。

「えぇ、墜落のときに、ぶつけてしまってね」

ミシェルが言うと彼は別の女の子に頭を振って、

「救急箱あったよな。あそこに、確かちゃんとした固定具が入ってたはずだ」

と言った。それを聞いた女の子が、平らな船の床板を上げて、抱えるほどの大きな箱を取り出した。

蓋を開けるとそこには、年代物の応急セットが収まっている。だが、使えないこともなさそうだ。

「すまない、助かる」

俺はそう言って箱の中を見させてもらい、簡易固定具を取り出してシートの肘掛を利用した固定具と取り替えた。

熱軟化タイプのベークライトを使った固定具もあったけど、あれはちゃんとした器具がないと使えない。

器具もこの中にありそうだが、今は手早く作業できる

簡易タイプの方が都合が良かった。ミシェルの手当を終えて、俺もようやく一息つけた。

 ヘルメットを外してため息をつく。

ハンナは相変わらず、意識がはっきりしていないのか、ヘルメットをつけたまま床に座り込んでいる。

俺は、ハンナのところまで歩いてヘルメットを外してやる。それから、その目を覗き込んだ。

と、ハンナの目が俺を捉える。さっきよりは、意識が戻って来ている、かな。

とりあえずは大丈夫そうだが、なるべく早くに医者に見せておきたいところだ。

脳へのダメージってのはわからないもんだしな。

 そんなことを思いながらハンナの頬に触れてやって

「しっかりしろよ。助かったぞ」

と伝えてやった。
 


 それから、改めて青年たちを見て俺は礼を言った。

「すまない、助かったよ。この船は、漁船か何かか?」

「いや、個人用、かな。あんたたちは、民間人か?」

「あぁ、地球へ旅行に来たんだが、中古のシャトルなんて買うからだなぁ。九死に一生、ってやつだった。本当に感謝するよ」

「なに、困ったときはお互い様だって、親代わりが言ってた。

 この船じゃ、本土は無理だけど、近くの島にならなんとか運んであげられる。

 今日一日、俺たちのところで休んで、そっちへ送るよ。

 そこからなら本土へのフェリーが出てるから、そっちへ行けば、助けになってくれる人もいるだろ」

彼はそう言って笑った。

「ここはどの辺りなんだ?」

「地図上だと、ゴトウ列島の真ん中、らしい。俺は地理はよくわからないんだけどさ」

俺の質問に、彼はそう言いながらまた笑って、操縦のためらしいレバーを握った。

ゴトウ列島…ってことは、ニホンか、ここは…またとんでもないところに降下してきたもんだ。

俺たちの指名手配はマライアさんが内々に出したものだから、書類上は正規の退役で処理されているし、

子ども達もルオコロニーで正式な戸籍を作って、地球への居住を申請して許可も出ているし、

ミシェルに関しても急いでコロニーの係官に戸籍を作ってもらった。幾らかを“包んで”だが。

まぁ、ルオ商会絡みの人間を連邦政府はとやかく詮索はしない。

もう追われる要素はあるはずもないが、あまりいい気分のするエリアではないな。

 そういえば、あのシャトル…沈んじまったな…地球に降りたらあいつを売って、

あの島に家を建てる資金にする予定だったのに。

まったく、資金繰りなんとかなるか?そこら辺から相談ってことになりそうだ。

数日はあのペンションに泊めてもらうことになるだろうしなぁ、迷惑かけっぱなしだ。

まぁ、あの人たちはそれを喜んでくるような人たちだけど、さ。

 そう言えば、操舵している彼は、親代わりだと、そう言ったな。孤児かなにかなんだろうか?

俺はそう思って彼に聞いた。

「なぁ、親代わり、ってのは、どういう事なんだ?」

すると彼は、ニコっと笑っていった。

「あぁ、俺たちの親を戦争で死なせちゃったからって、代わりに俺達を育ててくれてんだ。

 ドアンていう、頼りになる男さ」




 


つづく。

マークさん達、地球に帰ってくるの巻。



そう言えば、また本編とは関係ないけど、小学校時代の友達と同窓会で再会して意気投合。

絵を描くって言うので、お願いしてみたら、描いてくれちゃったアヤレナさんSD化。

一応、なんか一緒にやれたら面白いね、ということで、キャタピラに合わせてキャノピーと言うペンネーム?に決定しました。

とりあえず、あれだ、かわいい。

ttp://up.2ch.to./images/85543f5d6798838d0fce6605c37b0132.ayarena_canopy.1600.800.jpg
 

やべぇ・・・
今回の登場人部がどんな関係か思い出せねぇぇぇぇ・・・
読み返してくるわwwwwwwww

あと、画像のSDバージョンのレナさんイメージ通りだけど、横のリアルバージョンも見たい・・・
アヤさんって短髪だったのか・・・肩ぐらいまでの髪で軽くパーマかかった感じでイメージしてたわwwww

キャノピーwwww

イジェクトするたび吹き飛びそうな名前だなwwww



マークwwww苦労人丸出しですがなwww
レナアヤさんもほぼイメージ通りだな。かわいい
マライアの「貴重なティターンズバージョン」が見たいな


そういえば次何か書く時、それがガンダム関係なくてもキャタピラの名前続けてくれるのかな?
この板で書く時はトリップも今と同じでやってくれると探しやすいから助かるな。

おっと忘れた

乙!続き楽しみにしてる

>>652
ぜひ読み返してきてくださいなw
アヤがベリショなのは宇宙の真理です。

>>653
キャタピラ「キャタピラ(ガンタンク)だからキャノン(ガンキャノン)でいいんじゃね?」
キャノピー「いや、キャノピーがいい」
ということで決まりましたw

>>654
感謝!!

4年経ったマークさんが、どんなかって考えた時に、やはり、あらゆるトラブルを背負いこんで行く人なんだなぁ、と…w
絵、ご好評いただき感謝です!キャノピーが照れておりましたw


>>656
感謝!!

マークハンナは好きなんですが、なぜか非常に動かしずらいです・・・w
船については、今回言及がありますのでご一読のほどを!


ってなわけで、つづきです。
 


 それから少しこの海原を走って、俺たちは小さな砂浜のある島へと連れてこられた。

島そのものも大きくはないようで、近づきながら全景を見ることができた。

青年は砂浜を掘って岩で固めたらしい本当に小さな港に船を停めて、エンジンを切った。

「着いたよ。降りな」

彼がそう言うと、女の子たちがハッチを開けてくれる。

 ニケとサラにエヴァが、彼女たちに手を借りながら船の外へと出る。

俺はハンナを支えて、ミシェルの方は、サビーノに任せた。吹いている風がひんやりしている。

時期も時期、仕方ないことだろう。ノーマルスーツを着込んでいて良かった。

 「足元悪いから気をつけてね。ちょっと行ったところに家があるから、そこで明日の朝まで休むといいよ」

女の子の一人がそう言った。すると、青年がもう一人の子に

「なぁ、ひとっ走り行って、ドアンに知らせてきてくれよ。俺、魚を上げちゃうからさ」

と頼んでいる。彼女は

「うん、わかった」

と返事をして、砂浜から続く道へと駆け出した。

青年は、船の中にあった古ぼけた保温ボックスを肩にかけて船を降りてきてハッチを閉めた。

 「来て!案内するよ!」

残った方の女の子がそう言って歩き出した。俺たちはその後ろをついて歩き出す。

砂浜を抜けると、木々を切り開いて作ったのだろう、森の中を進む道があり、その先へ進むと、平らな場所に出た。

建物が見える。北欧で見るような、丸太を使ったコテージのような家だ。

あそこに見える、草の払われているあたりは、畑か…?

こんなところで自給自足で生活しているなんて、その親代わりのドアン、ってのはどんな人物なんだ?

話を聞く限りじゃぁ、元軍人らしいが…

 そんなことを思いながら歩いていると、その家からさっき先に走っていった女の子と、体躯の大きな男が姿を現した。

中年、40前後くらいだろうか?日に焼けた顔で、どことなく穏やかな雰囲気を醸し出している男だ。

 「話は聞いた。シャトルが墜落したそうだが、大丈夫か?」

男は小走りに俺たちのところにやってきて、そんなことを聞いてきた。

「ええ、なんとか…すみません、少しだけご厄介になっても構わないでしょうか?」

「あぁ、ゆっくりして行ってくれ。彼女は怪我を?」

彼はそう言って、俺が担いでいるハンナを見やる。ハンナはへへへ、と笑って

「衝撃で、脳震とうを起こしちゃったみたいで…」

と報告する。それを聞いた男は、顔をしかめて

「それは、良くないな。すぐに横になれるように準備させよう」

と一緒にいた女の子に話した。彼女が先に家の中に駆け込む。
 


 「申し訳ない。俺は、マーク・マンハイム。こっちは、ハンナ・コイヴィスト。

 子どもたちは、そっちのちびっこいのがニケ、彼がサビーノ。双子はサラとエヴァだ。それから…」

俺は最後にミシェルを紹介しようと、彼女を振り返った。だが、俺が紹介する前に、男が言った。

「君は、軍人だな?パイロットか?」

思わずギクっとしてしまう。い、いや、別に後暗いことがあるわけではないが…

男の眼光が急に鋭くなったもんだから、動揺してしまう。

「はい…ネオジオン軍にいました…」

ミシェルも戸惑いながらそう答えた。男の目がミシェルを突き刺す。

だが、しばらくして男は、ふん、とひとつ息を吐いて、

「まぁ、いいだろう。困っている人間を放って置くわけにもいかんしな」

と言ってから、また最初の穏やかな表情で

「俺は。ドアン。ククルス・ドアンだ。もともとはジオン軍のパイロットだった。

 訳あって今はこの子達の面倒を見ている。よろしくたのむ」

と挨拶をしてくれた。

ジ、ジオン軍…?なるほど…歴戦の勇士、ってわけか…

あの眼光、ただものではない感覚はあったが、まさか、こんなところに、10年以上前の戦争の残存兵がいるなんてな…

ティターンズ連中に発見されていれば、逮捕かあるいは、児童拉致や扇動で即射殺されても不思議ではない。

ま、こんな島に目をつけて視察にくるほど、やつらも徹底して地球を管理できていたわけではない。

それは、マライアさんに言われてやった情報分析からわかっていたことだ。

 俺たちはドアンの案内で家の中に通された。中は想像していたよりも小奇麗に整えられていた。

部屋がいくつかと、キッチンにIHコンロもある。こんな島で、良くもここまで整ったものを作れたものだ。

俺が感心しているとドアンはハハハと笑って

「驚いたか?最初の頃はもっと質素ではあったんだがな。

 10年以上前に来た遭難者がおいて行ってくれた救難艇を使って、近くの島まで出向くことも出来るようになってな。

 ここで育てた野菜や果物をそこで売って稼いだ金で、こうして少しずつ形にしたんだ」

ドアンは胸を張ってそう言う。それから思い出したように

「あぁ、その部屋にあるベッドを使ってくれ。他の者は、座ってくれ。ここで育てた葉の茶を振舞おう」

と言って笑った。俺は言葉に甘えて、ハンナを近くの部屋の中にあったベッドに寝かせ、

テーブルのあったダイニングに戻った。

するとニケ達がすでに、ドアンと女の子にお茶を振舞われているところだった。

「マークさん、これ、すごく美味しい!」

ニケがニコニコと笑顔を見せて言ってきた。ミシェルも、利く方の腕でカップを口に運んで、かすかに微笑んでいる。

サラとエヴァは、サビーノと一緒になって、俺達を拾ってくれた青年と女の子と話を弾ませていた。

「マークくん、と言ったか。座ってくれ、何があったか、話を聞かせてくれないか」

ドアンがそう言って湯気の発つマグを俺に差し出しながら言ってきた。

「すまない。なんてことはない、俺たちも、事故みたいなものだけどな」

俺は彼に笑顔を返しながら、そのマグを受け取って席に着いた。
 


 お茶の飲みながら、ドアンに事の成り行きを説明する。

 「なるほどな…ミノフスキー粒子の雲に、なんの対策もなしに飛び込んだか」

ドアンは苦笑いを浮かべながら俺たちの話を聞いていた。

「あぁ。まさか、そういうシステムもない船だとは思わなかったよ。

 あれを売った業者、戻れたらとっちめてやるっていうのにな」

俺がそう言ったら、ドアンは声を上げて笑った。

「だが、戻る予定はないんだろう?」

「ま、そうだな。俺たちのことを待っていてくれる人がいるんだ」

俺はそう言って、マライアさんたちのことを思い出す。

レナさんとレオナを助け出してから、ティターンズの壊滅までの間、

あの島で過ごした時間は俺にとっても、人生の中で一番、心の穏やかになれる時間だった。

マライアさん達が俺たちの記録を書き換え、それと同時に、俺たちはルオコロニーでの生活の経歴を重ねた。

この4年間がそれ自体、俺たちがあらゆる意味で安心してあの島で暮らしてく為の時間だった。

それがやっと報われる、ってときに、この騒ぎだ。やっぱりチャーターシャトルで北米へ降りるんだったなぁ…

いや、もうそれを考えるのはやめておこうか。

 ふと、俺はそこまで考え、思い出した。

そうだ、マライアさん…時間じゃぁ俺たちはとっくにキャリフォルニアへ降り立っているはずだ。

連絡もなく、降下の記録もないんじゃ、こっちを心配しているかもしれない。

とりあえず、無事だってことだけでも伝えれやらないと…

だけど、PDAは海中に入ったせいでもう二度と機能しないだろう。

「な、なぁ、ドアンさん。あなた、PDAかセルを持っていないか?その人たちに連絡をしておきたいんだ」

俺はドアンにそう聞いてみる。

するとドアンは、あぁ、と言った様子で後ろにあった戸棚から抱えるほどの大きな無線機を出してきた。

これは…ずいぶんとまた、年季の入った…

「これでよければ、だな。

 無線電話には繋げないが、そこまで情報を操作できる技術を持っているのなら、独自の回線くらい持っているんじゃないか?」

ドアンはそう言いながら無線機のスイッチを入れた。冷却ファンの回る音とともに、いくつかのランプが灯る。

マライアさんの無線…確か、ルーカスさんやポールさん達と話すのに使っていた回線があったな…

確か、周波数は…俺は無線機についていたダイヤルを回す。

秘匿回線じゃないから、未だに使っているかどうかはわからないが…

「こちら、ラーク、こちら、ラーク、誰か、聞こえていたら応答してくれ。繰り返す、こちらラーク…」

俺は無線にそう呼びかけた。ラーク、とは、ルーカスさんのコードネーム。確か、鳥の一種だと話していた。

この回線で呼び合うには、そうした鳥の名を取った名前を使うんだと、言っていたから覚えていた。

 なんどか呼びかけるが、反応は帰ってこない。

諦めかけて、無線を切ろうと思ったとき、ガザっと、スピーカーが音を立てた。
 


<…こちら、カナリー…ラークじゃないわね?誰なの?>

女の声だ…でも、マライアさんじゃない。誰だ、これは…いや、気にしている場合じゃない。

少なくとも、ルーカスさんのコードを知っている人物であることは確かだ。

それなら、マライアさんにも情報を連携してもらえる可能性がある。

「すまない、緊急なので、名前を借りた。マラドに伝えて欲しい。“嵐あり、親鳥墜つ”」

<マラドに…?あなた、一体…いえ、彼女に確認すれば分かることね…了解したわ>

マラド、はマライアさんのコードネーム。

暗号のように伝えたのは、この無線の相手が果たして信用に足る人物かわからないからだった。

追われているわけではないが、この島を騒がせたくはないし、な。

「すまない、頼んだ」

俺はそう言って無線を切った。あとは、マライアさんに連絡が付けばいいんだが…な。

そう思っていたら、再び無線機が音を立てた。

<ガッ、ザザッ…こちら、マラド!えっと、雛鳥、応答願います!>

この声…マライアさんだ!

「マラド!連絡が遅くなってすみません!」

<いいの!それより、大丈夫?連絡が遅いから調べてみたら、

 連邦のレーダーが落下物を捉えてるって情報があったから、もしかしてと思ってたんだよ!>

「察しの通り、とんだ目にあいましたけど…こっちはみんな無事です。

 そっちへつくのが少し遅れそうですが、必ず行くんで、頼みますね」

<うん、任せて!――お、マーク!あんた達、無事だったのかよ!良かったぁ!

 あぁ、もう!ちょっとアヤさん、名前出さないでよ!一応、一般回線なんだから!

 マライア、今、あんたも思いっきりアタシの名前呼んでるからな>

すぐそばからしている声とマライアさんが言い合っている。

アヤさんだ…俺は彼女にも声をかけようと思って、無線機のマイクを握ろうと思ったら、

横からいきなりドアンが手を伸ばしてきて、マイクをひっつかんだ。

「すまない…後ろで喋っていた女性、君は、昔、船で遭難したことはないか?」

ドアンは、驚いた表情でマイクにそう話しかけている。なんだ?どうしたって言うんだ?

俺が少し戸惑っていたら無線機から

<あれ?その声、どっかで聞いたな…遭難はしたことあるけど、ずっと昔だぞ?

 あ、いや、待ってくれ、その声、まさか…ドわあああああ!名前禁止!>

と、アヤさんが喋っていたのに、最後はマライアさんが会話を遮った。

<雛鳥、聞いて。この回線は今は緊急用だから、別の方を教えるね。

 チャンネルを広域帯の9番に合わせて、コードは1201にセットしておいて。

 別に聞かれてまずい話をするわけじゃないんだろうけど、一応、プロテクトかけるから、

 こっちから連絡するのを待ってね>

マライアさんがそう言ってきた。これでも、元情報将校。マライアさんが言っている意味は理解できた。
 


「了解、いったんこの回線は切りますね」

<うん、3分したら別の方につなげるね>

マライアさんがそう言って、無線を切った。俺もマイクを置いて、それからドアンを見やる。

ドアンは、信じられない、って顔をして、マジマジと無線機を見つめていた。

なるほど、そうか。

さっきドアンは、俺達を拾ってくれたあの船を昔遭難していた人達にもらった、と言っていたな…

アヤさんとレナさんの話は、4年前に聞いた。それに、今の反応を見れば、自然とどういう状況だったのかは推測できる。

 「ドアンさん、アヤ・ミナトを知っているんだな?」

俺が聞くと、ドアンはすこし戸惑ってから

「あぁ…君たちを乗せた、あの船をおいて行ってくれた…君たちは彼女たちの知り合いだったんだな…」

と俺達を代わる代わる見つめてきた。

ふぅん、これも何かの縁か、それとも、また“白鳥のお姉ちゃん”のおかげ、か?

いや、今回はそう言うわけでもなさそうだな…

ま、なんにせよ、この島へ来て、ドアンさん達に会えた、ってのは、よかったのかもしれないな。

こうして、ドアンさんとアヤさんを繋げられたんだ。過程はどうあれ、その結果が大事、だ。

 俺はズズズっとお茶をすすった。

香ばしい、甘味と苦味の入り混じった力強い味で、俺はなんだか心の底からにじみ出てくるような安心感に体を預けた。

そう、ここはもう、地球だ。あの島までも、もう少し。

ここから、あの島に向かうのにどうすればいいかは後で考えるとしよう。

着の身着のまま、のんびり以降じゃないか。あのときの旅とは違うんだ。

すこしゆっくりと、地球観光でもしながらってのも悪くないだろうしな。

俺は、そんなことを考えながら、なんとなく、幸せな気持ちになって、誰ともなく、笑いかけていた。

 


つづく。


 SDじゃなくってリアルな方が見たい、とリクエストあったので描いてもらいました。

なお、前回の投稿を読みましたキャノピーさんが、あれだと絵の仕事してるみたいじゃね?恐れ多いわっ!

と言うので、補足ですが、キャノピー氏は一般職の人です、プロじゃないんであしからず。


ttp://up.2ch.to./images/ce4d7a6fd41e38c25a8b941b51db99f8.ayarena_canopy2.1560.800.jpg.html




マライア来た!
仔犬感がしっかり出ていてイイじゃないかwww


キャノピーさんのタッチだとメカとか苦手そうだね。
からの
キャタピラさんのバウとマ◯ゼータ マダー?(チラッ

>>698
感謝!
ガンプラは現在作業停止中です。まだバウを中途半端に塗っただけw

>>画像
見れて良かった!
今回もチロっと描いてもらえたのでまた最後にアップしまする。


つづきをば。
 






 「うーい、おはよ、マーク」

二階の客室から降りて来て、ホールに入ろうとしていた俺を見つけて、アヤさんがそう声をかけて来てくれた。

「あぁ、おはようございます」

俺が返事をしたら、アヤさんはいつもの、太陽みたいな笑顔を見せてくれる。

階段下にある小部屋から、大きな箱を抱えて出て来ているところだった。

「何してるんです、それ?」

俺が聞いてみると彼女は嬉しそうに笑って

「海水浴に使う道具の一式の予備だ。人数多いしな」

と肩をすくめた。そのしぐさがなぜか可笑しくて笑ってしまう。

「あぁ、邪魔したな。腹減ってるだろ?飯はちゃんと食っておけよな」

アヤさんはそう俺に言って、スタスタと玄関のドアへと歩いて行く。

「あぁ、そうだ」

と、急にアヤさんがそう声を上げた。俺もホールのドアノブに手を掛けながらアヤさんの方を見る。

「マークはホントに行かないのか?」

アヤさんは玄関のドアを出て行く直前に、俺を振り返ってそう聞いてきた。

「ええ、先にカレンさんと銀行と財団に話を付けて。不動産屋にも行っておきたいですし」

俺が言うとアヤさんは肩をすくめて

「そっか、まぁ、大事なことだもんな」

と言ってくれた。それから

「じゃぁまぁ、なにかあったら言ってくれよな」

と言い残して玄関を出て行った。俺はそれを見送ってから、ホールへと向かう。

ホールにはすでに朝食の用意がされていて、ハンナ達と、それから昨日晩くにやってきた家族連れが食事を取っていた。

そういえば、クリスの姿がないが…

 俺はそんなことを思いながら食卓に付く。

「マークさん、遅いよ!」

「寝坊?」

ニケとサラが聞いてくる。

「まぁ、そんなとこだ」

俺はそう適当に答えておいた。
 


 すこしぬるくなったお茶に口をつけて、それからスープを一口含む。

柔らかな口当たりの、鶏がら風味のスープの味と香りが広がる。おいしい。

「マークさん、おいしい?」

とたんに、俺の足元にそんなことを言いながらロビンが飛びついてきた。いや、どこにいたんだ。ロビン?

「あぁ、おいしいよ」

俺が言ってやるとロビンは

「良かった!それ、一昨日レシピを見て練習したんだよ!」

と声を上げた。

「これロビンが作ったのか?」

「うん、そうだよ!」

俺が聞いたらロビンはピョンと飛び跳ねながら答えた。へぇ、すごいな…

これ、ハンナのに比べると薄口だけど、ずいぶんと上品な味がする。

こんなのを10歳のロビンが、ねえ…

「すごいなロビン!まるで高級なレストランで食べるスープみたいだよ」

俺が言ってやったら、ロビンはまたピョンピョン飛び跳ねて

「ホントに!?良かった!ほら、これ、ガーリック乗せたパンだけど、これに漬けてもおいしいからたくさん食べてね!」

と笑顔を見せてパンの入ったかごをテーブルに置くと、キッチンの方へと消えて行った。

 「ね、マークさんは今日は海に来ないの?」

ロビンがキッチンへ戻ってから、サビーノがそうたずねてくる。いや、俺だって、何もなければ行っておきたいけど、な。

でも、やっぱり、家のこととか仕事のことは先にやっておかなきゃまずいだろう?

「あぁ、うん。今週中にはいろいろと決めておきたいからな。

落ち着いたらまた、一緒にどこかへ連れて行ってもらうつもりさ」

俺が言ってやると、サビーノはすこし寂しそうな表情をしたけど、

「そっか」

と納得したようで返事をくれた。

 「そういえば、クリスの姿が見えないけど?」

ホールに入ってきたときに気がついてすこし気になっていたのでハンナに聞いてみる。

するとハンナは、んー、とうなってから

「なんか、病院に行く、って言ってたよ」

と言って来た。病院?なんだ、隊長でも崩してたのか?そんな風には見えなかったが…

「体調でも悪かったのか?」

「ううん、なんか、知り合いが入院してたんだって。で、今日が退院日らしくて、それに立会いにって言ってた。

 詳しいことは、知らないけど」

ハンナがスープに浸したパンをかじりながらそんなことを教えてくれた。

 本人じゃなくて、知り合いが入院していたのか。クリス、この島の出身、ってわけじゃなさそうだったけど…

どういうことなんだろう?余所からここへ転院させてきたのか、もともとここに住んでる人なのか…

ま、あとで聞いてみるとするか。
 


 とりあえず、今日は午前中にカレンさんとボーフォート財団ってところの人間と、

カレンさんの会社の取引先になっている銀行で話しをする予定になっている。

午後は、不動産屋に行く。時間が余れば仕事探しも出来るかもしれない。

くたびれそうな一日だけど、こんなうまい朝食を食べられれば、活力のほうは十分かもしれない。

あとは、うまい交渉が出来るか、だ。

 朝食を済ませてすぐ、ハンナ達はアヤさんと一緒に例の小さな島での海水浴の準備を嬉々として始めた。

ミシェルも迷っていたけど、とりあえず行ってみると良い、と俺も促したし、

アヤさんにも半ば強引に誘われていて、あの小島へ行くことに決めたようだ。

 ハンナ達はアヤさんが準備した船の留めてあるバーバーへ、マライアさんが車で別のお客と一緒に送って行ってくれた。

それを見送って、庭先でレナさんとマリオンと言う女性と話をしている間に、カレンさんが車でペンションまでやってきた。

「悪い、待たせたね」

「いえ、とんでもない」

車の窓を開けてそう言ってくるカレンさんに俺は笑顔を返す。

レナさん達に挨拶をして、俺はカレンさんの車の助手席に乗り込んだ。

 「今日は、お願いします」

俺は改めてカレンさんにそう頼む。するとカレンさんは、ははは、と笑って

「丁寧なやつだよね、マークはさ。まぁ、任せておきなよ。

 財団の方は五分五分だけど、銀行の方は、これ提出してやれば断らないだろうからさ」

カレンさんはそう言って、ダッシュボートに置いてあった書類ケースからピラッと一枚の紙を取り出して俺に手渡してきた。

そこには、俺の身元と金銭的な支払い能力に問題がないということを保障するという文面とともに、

万が一俺の支払い能力が喪失した場合はカレンさんの会社がそれを肩代わりする旨が印字され、

カレンさんのサインが書き込んであった。

「その、下のところにあんたのサインを書いといてくれよ」

カレンさんはそう言って、旨のポケットからピっとペンを取り出してきた。

受け取ったそのペンは、ずっしりと重い万年筆で、どう見たって値が張りそうな代物に見える。

い、いや、そんなところに注目している場合ではない。

俺は、カレンさんが渡してくれた書類にサインをして、ダッシュボードの書類ケースに差し戻した。

 それから、ふぅ、とため息が出る。これからは、ちょっとした勝負だ。

カレンさんの後押しがあると言ったって、相手が居ること。信用してもらえないことには、資金調達なんて望めない。

ただでさえ、仕事もないうえに子持ちだ。

大きなビジネスのビジョンを広げて資金を貸してほしい、というんじゃない。

家を建てるために金を貸してほしい、と頼みに行くんだ。財団にも銀行にも利子程度の見返りしかないうえに、

今の俺の状況だけを考えれば、返済能力は未知数だ。

俺ならこんなリスクな高そうな男に金を貸すなんて考えられないな。それをどう説得するか…だ。

ここで躓いているようじゃ、今後の自分が思いやられるが…かといって、簡単な問題じゃないと来ている。
 


 「あはは、なに、緊張してるの?」

そんな俺の様子を見て感じたのか、カレンさんがそう言ってくる。

そりゃぁ、そうだ、俺だけじゃない、ハンナや、子ども達の人生がかかってるんだ。気楽な気持ちになれる方がどうかしている。

「まぁ…はい」

そうとしか答えられなかった俺は、短く返事をした。するとカレンさんはまた声を上げて笑った。それから

「まぁ、そういう責任感の強いところは悪くないけどね。背負いこみすぎは毒だよ。

 何かあったらうちで面倒見てやったっていいしさ」

なんて言ってくれる。

 そりゃぁ、そうしてもらえるんならありがたいことこの上ない。

でも…でも、こうして誰かの世話になるのはどうにも心苦しい。

マライアさんに命を助けてもらってからずっと、俺たちはこの人たちにずっと支えられてやってきた。

戦争が終わるまでかくまってくれたのもそう、ルオコロニーへ逃がしてくれたもの、

こうしてここで新たな生活を始めることもそうだ。俺は、俺たちはずっとそうしてもらってばかり…だ。

「それは、ありがたいと思います…」

でも、だけど…じゃぁ、もし、明日、彼女たちがいなくなってしまったとしたら、俺たちは生きて行けるんだろうか?

身を守る必要はもうないとしても、毎日の生活には必ず困るだろう…それじゃぁ、やっぱりダメだよな…

 「なぁ、マーク」

そんなことを考えていた俺に、カレンさんがまた声を掛けてきた。

「なんです?」

俺が聞き返したら、カレンさんは急に

「ハンナとは、どうなの?」

と聞いて来た。俺は思わず、ブッと吹き出してしまう。な、な、な…なんだって…

「なんだって急にそんな話するんですか?!」

瞬間的にパニックになってそう非難をしたら、カレンさんはいたって冷静に

「だって、もうけっこう長いんだろう?女ってのはあんまり待たされると、どうでも良くなっちゃう生き物だからね。
 ちゃんとハッキリさせてやんなよ」

なんて言ってきた。わ、分かってる、そんなこと…

「分かってます…準備が、済み次第、って決めてんです」

「ホントに?あはは、それは楽しみだね!」

俺が言ったら、カレンさんはそう声を上げて笑った。

まったく、そう言う話でからかわれるのはどうしていいか困るからやめてほしいもんなんだけどな…

俺は顔のほてりを感じながらそんな不満を心の中でつぶやいた。
 


からかわれっぱなしじゃ悔しいんで、なんとかやり返してやろうと思って

「カレンさんこそ、そう言う話はないんですか?」

と聞いてやった。そしたら、カレンさんは、今度は空笑いを飛ばして

「こんな性格で、こんな口の利き方だからね。よほどの物好きでもない限り、貰い手なんていないと思うよ」

なんて言う。でも、そうだろうか?

確かに、アヤさんとは違った勢いがあるし、ま、言葉遣いも畏まってるともしとやかとも言いにくい部類だけど、

面倒見は良いし、親しみやすいし、ルックスだって、悪くない。

悪くないどころか、170代後半の俺と身長はさほども変わらないのに締まって、

さすがパイロットって言えるくらい鍛えてあるし健康的だ。

美的な感覚は人それぞれだけど、俺にしてみたら、カレンさんだって、ハンナやレオナや、

アヤさんにレナさんにマライアさんと同じくらい、人間的にも、女性的にも魅力あふれてると思うんだけどな…。

「そうですか?俺は、好きですよ、カレンさんみたいに、輝いてる、って感じの女性」

そう言ったら、カレンさんはまた笑った。

「あははは、そっかそっか、そりゃぁ、なんだね…そう言うのは、やめてくれよ。

 アヤじゃないけど、ダメなんだ、そう言うの」

よくよく見たら、カレンさんはかすかに頬を赤らめていた。

なんだかわからないけど、どうやら仕返しは成功したようだ。

 そんなことを話しているうちに車は島の街の中心地にある建物の地下駐車場へと入った。さて、交渉はこれからだ。
 
俺は、カレンさんのお陰で適度に緩んだ気持ちを引き締めて、頭の中でシュミレーションを始めることにした。
 


 それから数時間。太陽が真上に上がり、島でも一番暑い時間がやってきていた。

俺はカレンさんの車に乗って、ペンションのある高台へと走っていた。

 財団との交渉は難航。むこうとしても、いくら知り合いの頼みだからと言って、

おいそれと個人に対して個人的な資金を貸すほどの余裕はない、とのことだった。

だが、銀行の方ではカレンさんの会社が取引先だ、ということもあり、それほど渋りはしなかった。

ただし、一つだけ俺に条件が出された。その条件とは、一か月以内に定職を見つけること。

もともとそのつもりだったし、この人口過密による就職難の時代でも、この島には俺が役立てそうなことはいくつかある。

4年もコロニーでグータラしてたわけじゃない。

情報分析の経験を生かした通信システムの解析やら情報分野には、そこそこのスキルはあるはずだ。

それに、この島の情報だって、ないわけじゃない。それが例の、島外との連絡を維持しておくための通信会社だ。

アンテナの管理やなんかと言った設備点検もできるし、システム的なこともおそらく大丈夫だろう。

そこが第一志望だ。まぁ、家族持ちの俺があいつらを養えるだけの金を払ってくれる余裕があれば、だが。

 「とりあえず、なんとかなりそうで良かったよ」

カレンさんが笑顔で俺にそう言ってくる。本当に、カレンさんの言う通りだ。

とりあえず、一歩目はなんとかなった。それもこれも、カレンさんのお陰だ。

「本当にありがとうございます」

俺がそう礼を言うと、カレンさんは照れたように笑いながら

「別に、私はあの紙っ切れにサインをしただけだよ。これから大変なのはマーク、あんたでしょ?」

と俺をチラっと見やる。ま、そうだが。できる、って確信はないけど、やらなきゃならないもんな。

もうあの頃の俺とは違う。やるべきときにためらうほど、俺はもう弱くはない筈だ。

「はい。とりあえず、仕事を探します。遅かれ早かれ、必要でしたしね」

「あぁ、そのことなんだけど…あんた、良かったら、うちで働かない?

 今は、飛行機との通信機能は私とデリクとソフィアでメンテをしてるんだけど、

 それを専門にやってくれる人間が居ると、正直助かるんだ。

 私は最近じゃ、飛ぶよりも事務仕事が多くなってて、忙しいんだよね。

 それにほら、うちで働いておけば、あの紙っ切れ以上の信用にはなるだろうしさ」

カレンさんが、視線を前に戻して、そう言ってきた。カレンさんの会社で、仕事…。

そんなにありがたい話って、ないよな。

それなら、何かあった時の我がままも聞いてもらえるかもしれないし、デリクさんや、シェリーちゃんだって働いてる。

職場環境にしたって申し分ない。でも…そう、でも、だ。そんなことで良いんだろうか?

いや、別にカレンさんのところが不満だって言うんじゃない。

だけど、俺はそのために、この島に戻ってきたのか?俺がやりたかったことって、一体何なのだろう?

 この抵抗感は、なんだ?

カレンさんのところで、万が一トラぶったときに、この島に居づらくなる、なんてことを恐れているのか?

いや、そうじゃない。俺の、この人たちへの信頼は、そんな程度の物じゃないはずだ。

何があったって、この人たちは俺たちを見放したりなんてしないだろう。

俺も、なにがあったってこの人たちを裏切るようなマネはしないと誓える。

だから、そう言うことじゃない。

じゃぁ、なんだ?この抵抗感は…?


 車がスピードを落とし、停車した。見るとそこはもうペンションの前だった。

「まぁ、考えといてくれていいよ。別に急いではいないからね」

カレンさんは、返事を返さなかった俺にそう言って笑ってくれる。

「あ…すみません、ありがとうございます…」

俺はそう礼を言って車を降りてから、ハッとした。ありがとうございます…?

そうか…俺はこの島に来て、ずっと気にしていたな。

この人たちの世話になることが、申し訳ないな、って。それは、本当にそう感じているんだろうか?

いや、申し訳ない、ありがたいとは、当然思っている。

だけど、あれこれしてもらうことをただ申し訳ないと思っているんじゃない…俺は、そうだ。

このままじゃいけない、と、そう思ってるんだ…。

「カレンさん」

俺は、コンコン、と車のサイドウィンドウをノックした。

カレンさんが、手元のボタンを操作して、窓を開けてくれる。

「さっきの話、ありがとうございます。良くしてもらって、本当に感謝してます。

 でも、俺、ひとりでやってみたいんです。皆さんの手を借りたくないわけじゃなく、俺自身の力を試してみたいんです。

 俺自身の力で、ハンナや、サビーノや、ニケにサラにエヴァを守れるようになりたいんです…

 マライアさんが、泣き虫で、ヘタれだって言われていたって言う、あの人がそうしたように、

 俺には戦うことはあまりできないけど、でも、別の方法で、俺が俺のできることをして家族を、

 仲間を守っていきたいんです…だから、せっかくの話ですけど、今回は、お断りさせて下さい」

俺は、溢れてくる気持ちのままをカレンさんに伝えた。

カレンさんはしばらくキョトンとした表情をしてたけど、少ししてからニヤっと笑い

「あんたの気持ちは、良くわかったよ」

とつぶやくように言った。それからふぅ、とため息をついて

「私も、世話焼きが過ぎたのかもしれないね。変にプレッシャー掛けちゃってたら、悪かったよ。私らみんなで見ててやるから、しっかりやりなよ」

と言って、また、笑顔を見せてくれた。

「はい!」

俺は、カレンさんの言葉が嬉しくて、軍に居た時のような声を張った返事をしてしまった。

それを見たカレンさんは、フフッと優しくほほ笑んだ。

「ハンナが居なけりゃ、口説こうか、って思うところだよ」

「は…?えっ…!?」

突然、カレンさんが変なことを言いだしたので、また、途端に頭が真っ白になって、言葉が継げなくなる。

口説く?な、ちょっと…カ、カレンさん、急に、それ、えっと、なんだ?どういう意味だ?

思考がまとまらないまま突っ立っていたらカレンさんが

「輝いてる男は嫌いじゃない、ってことさ。しっかりやんなよ」

と、俺の胸板をポンっと拳で叩いて、呆然とする俺を置いて、車を走らせて行ってしまった。

 俺はカレンさんの車が見えなくなってもしばらく、その場に立ち尽くしていた。

頭と気持ちの整理がつかないでグルグルと高速で回転している。ただ、その中で確かに感じ取れる思考がひとつだけあった。

 俺、また、やらかしかけたのか…?くそ、なにがいけないんだよ!

別に、そう言う気はさらさらないんだって!!
 



つづく。


なにも起こらないが起こるマーク編。

次回もこんな感じかな、と思います…gdgdだったらすません。



さて、今日のキャノピーのコーナーですw

マ「アヤさーん、ハンバーガー買って来たよー」
ア「えー?アタシ、フィッシュバーガーが良いっていったじゃんかー」
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キャノ「プラモを見て描いてみました。シン・マツナガ専用ザクです。プラモだと思ってみてください」
キャタ「つうか、自宅にシン・マツナガ機があるってwww」
キャノ「ガノタですから」
ttp://catapirastorage.web.fc2.com/ms06s.jpg



ここ数日連勤+休日出勤の疲れを見事に癒すアヤレナマである あーマジで癒されるー
もうあれだね、ペンション近くで雑貨屋か何か開いて彼女らの生活をほほえみ浮かべながら眺めてる余生を送りたいね
「お前ら今日も元気だな!おう、これ持ってきな!」つって菓子でも放るおさっさん的な

そしてマークまじマーク
カレンにまでフラグ立てるとかあの野郎…

てかさ、何度かそれを匂わせる表現はあったと思うんだけどバーニィ生存って明示されてたっけ?
見落としorド忘れなら非常に恥ずかしいんだが、ふっと胸をなでおろすような感じでしたわ
クリスとバーニィには二人で幸せに笑っていてもらいてえです

ジェルミ…んー?ってなんか見覚えあるなーと思ってたらあの報告書だったか
くっそくっそ、キャタピラがハッピーエンド用意してるのなんて想像して然るべきだったてのに!
まんまと(いい意味で)騙されたたぞこの野郎!wwww

そしてそして、キャノピー氏の画像無事に見れました!
ほんにありがてえ(´∀`)
アヤレナマ3人の脳内イメージ再現率が誇張なく95%超えてるんだよね
「俺の思考読まれてるんじゃ…(ハッ キャノピー氏はニュータイプ!?」疑惑が浮上するレベルwwww
まじぐへへ

もうすぐ終わってしまうのか…
伏線もあらかた回収されつくしちゃってるしな…
もちろん最後まで見守りまっせ!

うう、もっと続きや外伝書いてくれちゃっても一向に構わないんだからね!(チラッチラッ

俺VIPでこんな長い書き込みしたの初めてだwwww

そう言えば、すでに次回作のアイデアを練ってあります。
どれが読みたいか参考までに聞かせておくれやす。

・勇者魔王的なファンタジー世界の未来←オススメ
・千葉県独立戦争記(現代)
・インディジョーンズ的なトレジャーハンターの話
・その他、二次創作(原作指定も)
・よし、これからみんなで決めよう!ただしキャタピラ、ガンダムはもうお腹一杯!

よろしくお願いします!

そうだよな ガンダムSSって
アムロ「シャアが○○だって?」とか、意味のわからないギャグ系ばかり
面白いのなんか1割もないってとこに、これだもんな
これだって最初、ヅダやビグラングの時にでてきたウGMシな連邦兵にでチョメチョメされるエロSSで
どうせくそつまんねーんじゃねぇの?と思ったしww

誤字脱字については私は「意味や文章が脳内で補完できるレベル」であれば全く気にしない
カネとってるプロじゃないんだしね
んじゃUC編もかっけーのヨロ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年02月24日 (月) 20:05:17   ID: bDqjp3TE

なんで>794までひろってるくせに、最終章が抜けてんだよこの無能

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