鈴「ありゃー…一夏とうとう死んじゃったのか…」(113)

アナウンサー「昨夜、織斑一夏さんが交差点でトラックに跳ねられ、病院に搬送されましたが死亡されました」

アナウンサー「織斑さんがトラックの前に飛び出したという目撃証言もあり、警察は事故と自殺の両面から……」

鈴「そんな……」

プルルップルルッ

シャル「もしもし」

シャル「ああ…、ニュースで見たよ」

シャル「……僕は自殺だと思う。一夏は思い悩んでいたみたいだし」

シャル「うん……やっぱり高校生のときから第4世代のISに乗っちゃってたのがマズかったんだよ」

シャル「他のみんなが能力の低い機体で四苦八苦しながら自分の操縦技術や戦略を高めている時に能力の高い機体に乗って天狗になってたんだもん」

シャル「そりゃあ伸び悩むに決まってるよ」

シャル「ちょっと運が良くてモンド・グロッソでベスト4になったけど結局あれがピークだったよね」

シャル「だって前回はベスト8にも残れてないじゃん」

シャル「常に世界大会優勝者の姉と比べられてたっていうのもプレッシャーだったんじゃないの?」

シャル「第1回大会の優勝者をもつ日本としては『日本は優勝して当たり前』みたいな感じだったからね。スポンサーもだんだん離れて行ってたみたいだったし」

シャル「それより今、高校生の時のクラス対抗のDVD見てたんだ」

シャル「僕と一夏が組んで優勝したやつ」

シャル「懐かしいよねーこの頃は本当に楽しかったなー」

鈴(また始まった……)

鈴「そんなことよりあんた、いつまでそうしているつもり?」

鈴「せっかくIS学園の教師になれたのにもう半年も休職してるんでしょ?」

鈴「もしかして、まだ一夏が箒と結婚したのをひきずってんの?」

シャル「……それはもう関係ないよ」

シャル「ただ少し自分を見つめ直そうと思ってね」

シャル「遊んでるわけじゃないよ。ISの本とか映像みて勉強してるんだ」

鈴「ふーん……」

鈴「……で、一夏の葬儀には行くわよね?」

シャル「……うん」

鈴「それじゃあ私、セシリアとかラウラにも連絡してみるから」

シャル「ラウラは……こないと思うな。責任感じちゃってるだろうし」

鈴「え?なんで?」

シャル「忘れたの?前回のモンド・グロッソで一夏がベスト16で負けた相手……ラウラだよ」

鈴「そうか……そうだったわね」

ピッ

鈴(シャルロット……あんまり悲しんでる様子無かったな)

鈴(シャルロットってあんな一夏に対してひどかったっけ……)

鈴(そうか…『人のものになった一夏』にはそうなるって訳ね)

鈴(だから高校の時の一夏の映像ばっかり観てるってわけかー……)

鈴(……私はどうなんだろう)

鈴(……一夏が死んだっていうのに涙の一粒も出ないもんね)

―――。

箒「何故だ……私を…私を一生守ってくれるんじゃなかったのか……!!」

箒「一夏……一夏!!一夏!!目を覚ませ、一夏!!!」

千冬「箒……もう…一夏は……」

箒「うっ…うぅ……」

箒「ああああぁぁぁぁぁ!!!!」

セシリア「………」

シャル「………」

鈴「……堪らないわね」

千冬「本日は弟の葬儀にお集まりいただき――」

鈴(千冬さん…少しやつれてる……?)

鈴(目の下の隈もすごい……そりゃあ寝られないわよね……)

千冬「こんなにたくさんの方々に集まっていただいて弟も喜んで――」

―――――。

鈴「最後に会ったのいつ?」

セシリア「……私は二人の結婚式以来ですわね」

シャル「僕は半年くらい前」

シャル「一夏と箒が学園に来た時にちょっと会ったんだ」

鈴「そっかー…」

鈴「セシリアは…学園に顔出したりしてる?」

セシリア「……いえ」

鈴「箒……大丈夫かな。考えすぎなきゃいいけど」

シャル「……大丈夫だよ、先生がついてるんだし」

鈴「遺体……すごく綺麗だったよね。トラックに跳ねられたのに」

シャル「信じられないよね……今にも目を覚ましそうな顔だった」

鈴「そうね……」

セシリア「……結局ラウラさんは来ませんでしたわね」

鈴「うん……」

鈴(ラウラは来ないし、シャルもセシリアも涙を一つも流してないし……って私もか)

鈴(一夏の遺体をこの目で見ても何も感じなかった)

鈴(私…一夏のことが好きだったはずなのに……)

鈴(人って変わるものよね……)

シャル「ちょっと待って。アレ、ラウラじゃない?」

タッタッタッ(ラウラが走る音)

ラウラ「はぁっ……はぁっ……」

セシリア「ラウラさん……」

鈴(そんなに息を切らして……来るか来ないか相当迷ったみたいね)

ラウラ「……一夏は?」

シャル「……もう全部終わったよ」

ラウラ「……そうか」

シャル「………」

鈴「………」

ラウラ「私の…私のせいなんだ……」

ラウラ「私は知っていたんだ……一夏は負ければもうあとがないことを」

ラウラ「だから……だから私はずっと迷っていたんだ」

ラウラ「でも一夏は私に言ってくれた」

ラウラ「『ラウラとこんな大舞台で真剣勝負出来るのが嬉しい』と」

ラウラ「それで私は吹っ切れた。実際、一夏との戦いが全ての試合の中で一番厳しかった」

ラウラ「私が優勝したときも一番に祝福してくれたのは一夏だった」

ラウラ「だから……私は……私は……」

シャル「ラウラ……」

ラウラ「私だ…私のせいなんだ…一夏が死んだのは私の……ああ…あああ…ああぁぁぁぁ!!!!!」

シャル「ラウラ……違うよ…ラウラのせいなんかじゃないよ」

ラウラ「ちがっ……ひっく…わたしのっ…うぅ……」

セシリア「……とりあえず移動しましょう」

セシリア「タクシー捕まえてきますわね」

――ポツッ、ポツッ

鈴(………?)

――ザァァーッ

鈴(雨……か)

鈴(……私の代わりに泣いてくれてるのかもね)

ラウラ「うぅ……ああっ……!!あああっ……!!」

シャル「大丈夫…大丈夫だよラウラ」

鈴「……セシリアはまだあの会社に勤めてるの?」

セシリア「ええ。でもそろそろやめてイギリスに帰ろうかと」

セシリア「鈴さんは?」

鈴「私は……まだフリーターやってる」

セシリア「私の会社のIS関連の部署が今人手が足りなくて困ってるそうです。よろしかったら紹介しましょうか?鈴さんなら……」

鈴「んー…考えとくわ」

セシリア「でもこれで私達の中でISを操縦しているのはラウラさんだけになってしまいましたわね」

鈴「……うん」

セシリア「………」

鈴「………」

シャル「………」

ラウラ「うっ…うぅ……」

鈴「やっぱり……自殺なのかな」ボソッ

セシリア「……そう…みたいですわね」

シャル「ちょっと二人とも……ラウラのことを考えてあげてよ」

ラウラ「いいんだシャルロット……私が…私が一夏を殺したんだ……あああっ……!!あああァァァ……!!」

鈴「………」

セシリア「………」

シャル「………」

ラウラ「あっ…ああっ…あああぁ……」

鈴「……るさい」

セシリア「……えっ?」

鈴「…るさい…」


鈴「ベルサイユの薔薇」

鈴「あーもう、うるさいって言ってんのよ!!!いつまでウジウジ泣いてんの!?あんたが泣いたって一夏は生き返ったりしないんだからさぁ!!!」

ラウラ「ひっ……」ビクッ

鈴「そんなに後悔するのなら負けてあげればよかったじゃない!!いいわよねあんたは!!一夏と同じ舞台に立てて!!相手のことを心配するぐらいに強くて!!」

シャル「ちょっと鈴!!それはいいすぎじゃ……」

鈴「あんたもあんたよ!!!一夏が箒に取られたからっていつまでもグスグズグスグズ引きこもっててさぁ!!正直見ててイライラすんのよ!!現実から目を背けて高校の時の一夏の映像ばっか見てんじゃないわよ!!」

シャル「なっ……!!鈴だって人のこと言えないでしょ!?フリーターでずっとプラプラしててさ!!代表候補生のプライドが捨てきれないから就職もままならないじゃん!!そっちの方がイライラするよ!!しかも結婚式の時に一番悔しがってたのは鈴でしょ!?」

鈴「なんですって!?」

セシリア「二人とも……その辺で……今日はやめましょう?」

シャル「セシリアだって何が『ISの操縦をしているのはラウラさんだけになってしまいましたわね……』だよ!!代表を潔く諦めたとか言ってたのにISに未練タラタラじゃないか!!そういうの女々しいっていうんだよ!!」

鈴「そうよ!!そのくせいちいち上から目線でさぁ……一番早くISに乗ることを諦めたくせに!!」

セシリア「……!!その言葉……許しませんわよ……!!」

ラウラ「……やめてくれ」

セシリア「……そういえばそうですわね、ここにいるのはラウラさん以外途中でISを、代表になるのを諦めた口先だけの腰抜けの集まりでしたわね。喧嘩しあうのも無理ないですわ。一夏さんが死んだっていうのに……!!一夏さんは悲しんでますわよ……!!」

シャル「……はぁ?一夏が箒と結婚した途端、私達とぷっつり連絡を途絶えさせたのは誰!?一夏が箒と恋仲になった途端、私達と距離を置き始めたのは誰だよ!?そのセシリアが一夏の何を語るっていうの!?知ったふうな口を聞かないでよ!!!」

セシリア「……シャルロットさんだって人のこと言えないですわよね?自分が一夏さんの一番の理解者みたいな事言わないでくださいませんか!?」

セシリア「おおかた、一夏さんと箒さんが仲睦まじく学園に遊びにきたものだから、それにショックを受けて引き込もってるのでしょう!?」

シャル「……!!」

セシリア「鈴さんも、中国代表になれなかったことをいつまでも引きずって周りに当たり散らすのはいい加減やめてはいかがですか!?」

鈴「何よ……一夏のこともISのことも真っ先に諦めたあんたには言われたくないわよ!!!」

ラウラ「三人ともっ!!やめてくれっ!!!」

三人「ッッ!?」

ラウラ「私がいつまでも泣いていたのは悪かった!!頼むから喧嘩はやめてくれっ……!!私は三人がいがみあってるのなんかみたくはない……!!頼むこの通りだ……!!」


セシリア「………」

鈴「………」

シャル「………」

セシリア「わ、わかりましたわ……」

鈴「うん……」

シャル「わかったよラウラ……だから頭を上げて……」

セシリア「………」

シャル「………」

鈴「………」

シャル「……あのね」

鈴「……?」

シャル「僕……ずっと一夏のそばにいたかったんだ……」

シャル「でも一夏は箒と付き合うことになって、僕はISの代表候補からも外されて……」

シャル「だけどISには関わっていたくて……そうすれば一夏とはまだつながっていられると思って……だから教師になったんだ」

シャル「でも一夏は箒と結婚して…それでこの前一夏と箒の幸せそうな姿を見てそれで……」

シャル「いっ、いままでっ、うっ…ギリギリのっ、ひっく、とっ、ところでっ、止めて……ぐすっ、たものが、うっ、溢れっ、うぅ……ちゃった……」

鈴「私だってそうよ……一夏のことも、ISのことも最後まで諦められなかった大馬鹿よ」

鈴「だからその二つを同時に失った私なんて……ただのクズよ。でも代表候補生だったっていうプライドだけは捨てられなかった。それを無くしたら一夏ともう会えなくなっちゃう気がして」

鈴「……私、人のことなんか批判出来ないわよね」

セシリア「私も……一夏さんのことからもISのことからも真っ先に逃げ出したただの卑怯者ですわ」

セシリア「だから…頑張っている鈴さんやシャルロットさんやラウラさんを見ていると自分自身が嫌になって……」

セシリア「だからっ、一緒にっ、うっ、いたくっ……な、なかったんですわ……うぅ……私、みんなっ、ひっくのことがっ…好きっ、だった、はず、なのにっ……そんなっ、だからぁっ、えぐっ、逃げる、ひっく、しか、なくてっ……」

鈴「………」

鈴(そうよ……みんな…辛かったのよね)

……ねぇ、一夏がモンド・グロッソでベスト4になった時のこと覚えてる?

その時準々決勝で一夏が前回の優勝者でバリバリの優勝候補に当たっちゃってさ。もう絶対に負けちゃうってみんな思ってたんだよね

私も一夏は勝てないかなってちょっと思っちゃってたし

でも一夏は諦めなかった

そしたらすごい接戦の末、一夏が勝ったじゃん

私、あの時感動して泣いちゃったんだよね

一夏もすごく嬉しそうにしてた

……次の試合で負けちゃったけど

その時私思ったんだ

代表ってのは本当にISが大好きで、みんなに感動を与えられることが出来て、あんな風にずっとずっと輝き続けられる人がなるものだって

一夏は私にそれを教えてくれた

私がそれになれないって分かったときはすごく辛かったけど

でも、それを教えてくれた一夏には感謝してる

そんな一夏は自殺なんかしない。もちろんラウラのせいなんかじゃない。そして一夏は私たちが喧嘩したり悲しんだりするのも望んでなんかいない。だから――

――ねぇ鈴

え?

涙、すごい溢れてるよ。顔グショグショ

え?あれ?おかしいな……?あれ?

そういうシャルロットさんだってボロボロですわよ

……セシリアだって

……ほら、ラウラもそんなに泣いちゃダメだよ

――なんだ。

やっぱりみんな、一夏が居なくなっちゃってすごく悲しかったんだ。

ただ、自分に素直になれなかっただけで。自分にちゃんと向き合うことができなかっただけで―――

~数日後~

鈴「何よこれ…手紙?映像もついてる」

鈴「……一夏からだ!!」

――――。

一夏『よしっ…これでちゃんと撮れてるな』

一夏『よぉ鈴、久しぶりだな!!元気にしてるか?』

一夏『俺はなんとか元気だ』

一夏『それで用件なんだけどこの前モンド・グロッソでラウラが優勝しただろ?それの祝勝会をしないか?』

一夏『俺と箒と鈴とラウラとセシリアとシャルで』

一夏『あと……そうだな、千冬姉も』

一夏『箒もみんなに会いたがってるし、久しぶりにみんなで集まろうぜ。いいだろ?』

一夏『それにしてもラウラは強かったな、完敗だったよ』

一夏『でも次の大会では俺が絶対に勝つから!!そんでもって優勝してやる!!ってことで応援よろしくな!!』

一夏『それで、今考えてるのは優勝したら千冬姉みたいに一線を退いてIS学園の教師になってみようと思うんだ』

一夏『今からこんなこと言ってると怒られるかもしれないけどな』

一夏『だから鈴も一緒にやらないか?』

一夏『後身を育てるってのもいいと思うぞ。俺はまたあの頃みたいに6人で……』

一夏『あれ?そろそろ残り時間が……やばっ!!もう…』

――プツッ

鈴「………」

鈴「……ふんっ」

鈴「あの馬鹿……」

鈴「あんた…もういないじゃないのよ……」

鈴「バカ…バカ……一夏の大バカ」

鈴「なんで……死んじゃったのよ……」

鈴「うえっ……ええっ……」

鈴「うっ……うっ……うわぁぁぁぁん……!!」

シャル「どうしたの?教員採用についての資料が欲しいなんて」

鈴「私もちょっとIS学園の教師になってみようかなって思って。厳しいのは分かってるけど」

シャル「頑張ってね。実はセシリアとラウラもなんだよ」

鈴「えっ?ホントに?」

シャル「うん。二人ともさっきまでここにいたんだよ。鈴とは入れ違いになっちゃったけど」

鈴「そっか…」

鈴(……負けてられないわね)

鈴「それじゃあ私帰って早速試験の対策するから!!じゃあね」

シャル「うん。次はまたここで会えるといいね」

鈴「当たり前でしょ!!」

ねぇ一夏、見てる?

私も頑張ってみることにしました。

シャルロットもセシリアもラウラも一生懸命に前に進もうとしているみたいなので。

箒も千冬さんもきっと同じだよね。

でも、一つだけ心配なことがあります。

私は、ついていくことができるのでしょうか。

あなたのいない、この世界のスピードに―――。



おしまい

これで終わりです

俺のオナニーに付き合ってくれてありがとうございました

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