美穂子「あら、お弁当の材料が一人分足りないわ……」 (52)

美穂子「しょうがないわね、華菜達の分を減らすなんて出来ないし私は我慢しましょう」

久「……」ジー

久(美穂子は相変わらずいい子ねぇ……部員のために自分が我慢するなんて)

久「……よし、いい事思いついたわ!」

華菜「キャプテンの家の前で何やってるんだし、あの人……」

――後日・清澄高校

ガンガン、ガチャン、グシャ、ボンッ!

まこ「な、なんじゃあ?部室から妙な音がするぞ……」

バンッ!

まこ「のわっ!?」

久「出来たわ!……あら、まこ来てたの?」

まこ「まあの……で、部室で奇怪な音出してたんはあんたか?」

久「奇怪な音とは失礼ねー……まあ、いいわ。それより私ちょっと出かけてくるから後よろしくね!」

まこ「はあ!?出かけるってどこに……行ってしもうた。しゃあないのう、今日は五人で部活するしか……」

ガチャ

咲「た、助かった……」ヘナヘナ

和「SOASOASOASOA……」ガタガタ

優希「」グッタリ

京太郎「おい優希、死ぬな!傷は浅いぞ優希ー!」

まこ「な、なんじゃ、こりゃ……!?」

――風越

久「美穂子ー!」

美穂子「上埜さん?ど、どうしました、何か御用でも……」

久「いや、ちょっと渡したい物があってね……」

美穂子「渡したい物、ですか?」

久「こ、これなんだけど……」

美穂子「これは……お弁当?」

久「ほら、美穂子はよく人のためにお弁当作ってるじゃない?だから私くらいは美穂子のためにお弁当作ってあげたいなあ、なーんて……」

美穂子「上埜さん……」

久「が、柄じゃないのはわかってるんだけどね。私料理なんか全然しないからおいしくないかもしれないし……」

美穂子「い、いえ!あ、ありがとうございます、私すごく嬉しいです!」

久「ま、まだ食べてもいないのにそんなに喜ばれてもねぇ……」

美穂子「それもそうですね!早速いただいてもいいですか?」

久「もちろんよ。そのために持ってきたんだから」

美穂子「ふふっ、それでは……」パカッ




お弁当「」ゴゴゴゴゴ

美穂子「」ピシッ

久「ちょっと見た目は悪いかもしれないけど……」

美穂子「ちょ、ちょっと……ですか」ダラダラ

美穂子(だ、だめよ、美穂子……見た目だけで全てを決めるなんて失礼だわ。きっと食べてみたら美味しいのよ、上埜さんがこんなに自信満々なんだもの!そうに違いないわ!)

美穂子「い、いただきます」パクッ

久「ど、どうかしら?」

美穂子「……」

久「美穂子?」

美穂子「……」フラァ……

ドサッ

久「えっ、ちょっと美穂子?どうしちゃったのよ、美穂子!?」

ガチャ

華菜「今の音なんだし?」

美穂子「」グッタリ

久「あ」

華菜「……キャ、キャプテーン!?」

――後日・清澄高校

久「……」ズーン

咲「部長落ち込んでるね……」

和「まあ、しかたないとは思いますが……」

まこ「優希は?」

咲「腹痛で休みです。京ちゃんがプリントとか届けに行ってますけど……」

まこ「そうか……おい部長」

久「なによまこ……私を笑いに来たの?ふふっ、いいわよ、笑えばいいじゃない……さあ笑いなさいよ!」

まこ「落ち着かんかい」バシッ

久「痛っ!?」

まこ「全く慣れない事するからこんな事になるんじゃ……というか、咲と和から聞いたんじゃが……」

久「な、なにを」

まこ「あんた、色んな調味料でアレンジしまくったらしいな」

久「そ、そうだけど……」

まこ「なんでそんな事した」

久「……えーっと、ほら、私悪い待ちが得意だし、案外まずそうに作れば美味しいものができる気がして……」

まこ「料理初心者が下手なアレンジをしようとするんじゃないわ!」

久「だ、だってつまみ食いした優希は一口食べて美味しさのあまり笑いながら倒れたし……」

まこ「それは!あんたの!料理が!まずかった!だけじゃあ!」

久「言い聞かせるように言わないでよ……」

まこ「ったく、で?」

久「で……?」

まこ「こんまま諦めるんか?」

久「そんな事言われても美穂子倒れちゃったのよ?まこの言う通り慣れない事なんてするべきじゃなかったのよ……」

まこ「はあ……なあ部長」

久「なによ」

まこ「前に優希のタコスをみんなで作った事があったんを覚えとるか?」

久「ああ、そんな事もあったわね……」

まこ「そん時まともに作れんかったんは食品サンプル持ってきたあんたとマズいタコス作った京太郎だけじゃ」

久「こんな時に人の古傷抉らないでよ……」

まこ「で、その京太郎すら今じゃタコス作れるようになった」

久「もう、何が言いたいのよ!」

まこ「まだわからんのか!あんたもわしらを頼ればええじゃろうが!」

久「えっ?」

まこ「あんた以外、ここには料理の出来る連中が揃っとる!なら教えを請えばええ話じゃ!」

久「まこ……」

まこ「違うか?」

久「……いいのかしら?みんなに頼っちゃって」

まこ「別に悪い事ないじゃろう。なあ、咲、和」

咲「は、はい!私に出来る事なら頑張って教えます!」

和「……ゆーきや福路さんのような悲劇はもう起こしたくありません。私も出来る限り助力します」

久「み、みんな……ありがとう!私頑張るわ!」

まこ「おう、それでこそ部長じゃ。厳しく教えたるから覚悟しんさい」

久「えぇ!」

久(待ってて美穂子!私は必ず美味しいお弁当をあなたに持っていくわ!)

――風越

美穂子「」ビクッ

華菜「キャプテン、どうしたんですし!?」

美穂子「い、いえ、なんでもないわ華菜。ちょっと寒気がしただけだから」

美穂子(上埜さん、落ち込んでないかしら……倒れちゃうなんて私酷い事をしてしまったわ……)

美穂子「私もお弁当、清澄まで持っていこうかしら……」

――数日後

咲「ぶ、部長!何してるんですか!?」

久「えっ、卵焼きって甘い方がいいんでしょう?だから砂糖を……」ドバー

咲「入れすぎです!そんなの喜んで食べるのはお姉ちゃんくらいですよ!」

和(一袋の三分の二近い量の砂糖を入れた卵焼きを喜んで食べる!?さ、咲さんのお姉さんはいったい何者なんですか……)


和「あの部長」

久「なに?」ジュー

和「私達は唐揚げを作っていたはずなんですが、何をしてるんですか」

久「えっと……卵の殻を揚げてるわね」

和「……」

久「こ、これが本当の殻揚げ……な、なんてね」

和「部長は遊んでる余裕がおありなんですか……?」ゴッ

久「真面目にやります」

和「はい」

まこ「調子はどうじゃ?」

久「な、なんとか出来たわ……」

まこ「ほぉ、どれどれ……」

お弁当「」グチャア

まこ「……う、うーむ」

久「見た目が悪いのは自覚してるから言わないで……」

まこ「ま、まあ味がよければ全てよしじゃからな……ちょっともらうぞ」パクッ

久「ど、どう?」

まこ「……」ムグムグ

まこ(まあ……見た目の悪さにさえ目をつむれば、及第点じゃな……少なくとも倒れはしないじゃろ)

まこ「わしは食べられると思うが」

久「本当に!?」ズイッ

まこ「お、おう」

久「よかった、頑張ったかいがあったわ……よし、それじゃあ早速行ってくるわね!」

まこ「あっ、待て、連絡くらいして……」

咲「行っちゃいましたね」

和「疲れました……」

まこ「すまんのう、任せきりにしてしもうて」

咲「人に教えるって大変ですね……そういえば優希ちゃんは?」

まこ「まだ家で寝込んどるそうじゃ。まあ優希は京太郎に任せたから心配はいらんじゃろ」

和「早くよくなってくれればいいんですが……」

ガチャ

美穂子「すいません、上埜さんいらっしゃいますか?」

まこ「……は?」

咲「えっ」

和「あ」

美穂子「あ、あら?もしかしてお取り込み中でしたか?」

まこ「いや、なんちゅうか……」

咲「部長……」

和「さすがに言葉がありません……」

美穂子「あ、あのー……?」

――風越

久「えっ、美穂子いないの!?」

華菜「キャプテンはあんたにお弁当届けに清澄まで行ったし」

久「い、入れ違い……そんな」ガクッ

華菜「それでなんの用だし?まさかキャプテンにとどめをさしに来たのか!?」フシャー!

久「違うわよ!今度はきちんと教えてもらいながら作ってきたのよ……でもいないならしょうがないから出直すわ……」

華菜「ちょっと待つし」

久「なにかしら?」

華菜「本当にキャプテンが食べるに相応しいお弁当かどうかこの華菜ちゃんがチェックしてやる!」

久「えっ」

華菜「ほらさっさとよこすし!」

久「まあいいけど……どうせ自分で食べるつもりだったし」

華菜「どれどれ」パカッ

お弁当「」グチャア

華菜「……」

久「み、見た目についてはまだ修行中なのよ……」

華菜「……」パクッ

久「……」

華菜「……まあ、まずくはないし」

久「そ、そう」ホッ

華菜「だけどキャプテンに食べさせるにはまだまだだな!」

久「なっ!?」

華菜「キャプテンの料理の美味しさはあんただってわかってるはずだし!そんな舌の肥えたキャプテンに食べさせるならもっと美味しいお弁当を作ってくるべきだ!」

久「うっ……そ、それはそうかもしれないけど」

華菜「……しかたない、ここは華菜ちゃんが助けてやるか」

久「えっ?」

華菜「自慢じゃないけどキャプテンとご飯を食べた回数はかなり多いと自負してるし!だから私があんたにキャプテンの好みの味を教えてやろう!」

久「池田さん、料理出来たの?」

華菜「失礼な、これでも家のご飯は私が作ってるんだぞ!まあ、華菜ちゃんにまかせておくし!」

久(ふ、不安だわ……)

――清澄高校

美穂子「そうですか、入れ違いになってしまったんですね……」

咲「で、でもいいんですか?このお弁当もらっちゃって……」

美穂子「いいのよ。このまま持って帰っても自分で食べてしまうだけだから、誰かに食べてもらえるならとても嬉しいわ」

和「……本当に美味しいですね」

まこ「全くじゃな……ところで一つええか?」

美穂子「なんですか?」

まこ「あんたはなんで部長にお弁当なんか持ってきたんじゃ?部長が今それで悩んどるのはわかっとったじゃろうが」

美穂子「それは……その、一言謝りたくて」

まこ「謝るぅ?何をじゃ」

美穂子「せっかく上埜さんがお弁当を作ってきてくれたのに、私倒れるなんて真似をして……きっと上埜さん、すごく傷ついたと思うんです」

まこ「傷ついた、ねぇ……」

美穂子「だからそのお詫びにお弁当を作って、謝りに来たんだけど……」

まこ「……はっ、おめでたい頭しとるのう、あんた」

美穂子「えっ……」

まこ「ええか?今、自分の料理下手で悩んどる部長に、よりによってあんたが格の違いを見せつけるようなこんな美味い弁当持ってきてどうする?部長……久から自信を根こそぎ奪い去りたいんか?ああ?」

美穂子「わ、私そんなつもりじゃ……!」

まこ「だったら!!」

美穂子「」ビクッ

まこ「あんたがするんは謝るなんて事じゃない。久の奴が努力して作った弁当を食って美味いと言ってやる事なんじゃ」

美穂子「……!」

まこ「無論マズいならマズいとはっきり言ってやればええ。今のあいつはそんな事で挫けるほどやわじゃないわ」

美穂子「……」

まこ「謝られなんかしたら、久の奴はもっと落ち込むぞ」

美穂子「そう、だったの……私、危うく間違えてしまうところだったのね」

まこ「……」

美穂子「ありがとう、なんだか少しだけど上埜さんの気持ちがわかった気がするわ」

まこ「ふん……」

美穂子「ごめんなさい、今日はこれで失礼するわね。お弁当箱はまた改めて取りに来るから」

咲「あっ、はい……」

和「また、今度……」

まこ「もう一つええか」

美穂子「えっ?」

まこ「いつまでも部長の事名字で呼んでやらんでくれ。久と呼んでやれば、すごく喜ぶと思うからの」

美穂子「……努力、します」

まこ「それならええ、じゃあの」

美穂子「はい、さようなら」

バタンッ

咲「あの、染谷先輩?」

まこ「なんじゃ?」

咲「なんか、らしくありませんでしたね?」

和「そうですね……いつもに比べて感情的だった気がします」

まこ「そうか……やっぱりどうしてもでてしまうもんなんかのう……」

咲「えっ?」

まこ「なんでもない……なあ、この弁当全部もらってええか?」

咲「い、いいですけど」

和「そんなに気に入ったんですか?」

まこ「……やけ食いしたいだけじゃ」ムシャムシャ

まこ(本当、悔しいくらい美味い弁当じゃ……ああ、本当に選ばれんかった身としては差を見せつけられて腹立たしいくらいにのう……!)ムシャムシャ!

――風越

華菜「ああ!何してるんだし!そこはそうじゃなくてこう!」

久「こ、こうかしら?」

華菜「うーん、言いたい事は色々あるけど……まあいいや。何回もやれば慣れるし」

久「な、何回もやるの?」

華菜「当たり前だし!スパルタ教育で徹底的に叩き込んでやるし!」

久「ううっ……」

華菜「よそ見しない!」フシャー!

久「わ、わかってる!」

華菜「だったら口じゃなくて手を動かすし!」

久(スパルタ過ぎるわよ、これぇ!)

華菜「ほら、次の行程に移るし!」

久「は、はいはい!」

華菜「はいは一回!」

久「うああああ……!」

――数時間後

華菜「……」モグモグ

緋菜「……」モグモグ

菜沙「……」モグモグ

城菜「……」モグモグ

久「はあ、はあ、ど、どうかしら?」

華菜「……合格だし」

緋菜「美味しいし!」

菜沙「美味しい!」

城菜「美味し!」

久「そ、そう……よかったわ……」

華菜「まさかこの短時間でここまで上達するとは思わなかったし……なかなかやるじゃないか!」

久「ふふふ、私やればできる子なのかもね」

華菜「調子に乗りすぎだし……」

久「でも本当にありがとうね。池田さんがいなかったらこんなに上手く出来なかったわ、きっと」

華菜「……礼には及ばないし」

久「ねぇ、一つ教えてくれない?どうしてここまでしてくれたの?」

華菜「……」

久「……」

華菜「……キャプテンは」

久「美穂子?」

華菜「キャプテンは本当にあん……あなたの事が好きなんだし。マズいお弁当食べさせられてそれでもあなたが傷ついてないか悩むくらい、キャプテンは惚れ込んでるんだ」

久「……」

華菜「だから、だから……あたしは、キャプテンが大好きだから……大好きなキャプテンには幸せになってほしいから……それだけ、だし……!」

久「池田さん……」

緋菜「お姉ちゃん泣いてるし!」

菜沙「泣き虫さんだし!」

城菜「トイレットペーパーあげるし」

華菜「こ、こしょうが目に入っただけだよ!ああ、もう涙が止まらないし……!」ゴシゴシ!

久「……謝ったら、怒るわよね?」

華菜「謝るような事なんてどこにもないし!あ、あなたがする事は華菜ちゃんから受け継いだ料理の技術でキャプテンを笑顔にする事だし!」

久「……そう、ね」

華菜「さ、さあ、もう遅くなるから早く帰るし!華菜ちゃんの教えを忘れたらまたみっちり叩き込んでやるから覚悟しとくし!」

久「……ありがとう、池田さん」

バタンッ

華菜「これで、よかったんですよねキャプテン……!う、うあああああああん!!」

――数日後

久「……」

美穂子「上埜さん!」

久「ああ、美穂子……い、いい天気ね?」

美穂子「今日は曇りですけど……」

久「……く、曇りが私にはいい天気なのよ」

美穂子「そ、そうだったんですか」

久「あ、あのね!」

美穂子「は、はい!」

久「お弁当、作ってきたの。今度は前と違って美味しいはずよ。受け取って、もらえるかしら?」

美穂子「……もちろんです。開けてみてもいいですか?」

久「えぇ……」

美穂子「それでは……」パカッ

久「……」

美穂子「すごく美味しそう……一週間くらいでここまでなんてさすが上埜さんですね」

久「だ、だから食べる前から誉めないでってば……」

美穂子「ああ、そうでした。それではいただきますね」パクッ、モグモグ

久「……」ゴクッ

美穂子「……ふふっ」

久「な、なに!?なんで笑ったの今!」

美穂子「いえ、とても美味しかったので顔が綻んでしまいました」

久「あっ……」

美穂子「とても美味しいですよ、ひ、久さん」

久「み、み……美穂子ー!」

美穂子「きゃっ!?」

久「よかった、本当によかった……!」

美穂子「あらあら……これじゃあお弁当が食べられませんよ久さん」

久「後でいいわよぉ……」

美穂子「ふふっ、わかりました。それではしばらくこのままで……」

――Roof-top

まこ「おんや、さっきまで曇りだったのに晴れたみたいじゃな」

華菜「きっとキャプテンを祝福してるんだし!ツモ、倍満8000、4000!」

まこ「うおっ、なかなかやるのう」

華菜「華菜ちゃんは風越の時期エースだからな!」

まこ「ならこちらは清澄の時期部長として負けられんな……」カチャッ

華菜「むっ、いやな気配だし……」タンッ

まこ「ロン!親っぱね18000じゃ!」

華菜「にゃあああああ!?」

まこ「ふははは!どうじゃ!」

華菜「ま、まだまだ勝負はこれからだし!恋には敗れたけど麻雀は負けるつもりはないし!」

まこ「はっ、奇遇じゃのう。わしも今全く同じ気持ちなんじゃ……手加減はいっさいなしじゃから覚悟しとけ池田ァ!」

華菜「ふん、華菜ちゃんを甘く見るなよ!返り討ちにしてやるし、染谷ァ!」

――カン!

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