奉太郎「チョコは………………一つか」 入須「おや」 (179)

入須「やあ、折木君」

奉太郎「入須先輩。おはようございます」

入須「ああ、おはよう。冴えない顔をしているが、どうした?」

奉太郎「先輩はご存知でしょう、今日という日が男子にとってどれほど大切な日か…………」

入須「ほう、君はそういったことに興味を示さない男だと思っていたが」

奉太郎「俺だって一応男子高校生ですから」

入須「自分から一応、と付けるのか」

奉太郎「それにしても、入須先輩」

入須「なんだ?」

奉太郎「その紙袋は……………ああ、もらったんですね」

入須「…………………どうして配る側として認知されないのだろうね」

奉太郎「日頃の行いじゃないんですか?」

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奉太郎「山ほどのチョコレート。男子の夢を体現してますね、先輩」

入須「ああ、今から一か月後が憂鬱だよ」

奉太郎「さらりと言ってくれますね」

入須「折木君はどうだったんだ?」

奉太郎「身内は数に入れていいですか? いいですよね。ならゼロではないです。ゼロではないんです」

入須「お、落ち着け折木君。悪かった、聞いた私が悪かったから」

入須「しかし、そうか。身内からだけなのか」

奉太郎「やめてください、再確認させないでください。心が折れます」

入須「いや、そうだな、申し訳ない。聞いたことと、もう一つ」

奉太郎「もう一つ?」

入須「その……………なんだ。わ、私の家では、特別親しい人にはチョコレートを贈らないことにしているんだ」

奉太郎「……………はぁ。そうなんですか」

入須「…………………」

奉太郎「…………………」

入須「………………反応が薄いな」

奉太郎「え、いや、どういった反応を求めてたんですか先輩は」

入須「どういった、と聞かれればそれはそれで困るが、何かあるだろう普通は」

奉太郎「何かあると言われても…………………」

入須「状況を整理する必要があるか?」

奉太郎「入須先輩の家では特別親しい人にはチョコレートを贈らない、と言われました」

入須「前提条件として、その前の会話も思い出そう」

奉太郎「嫌がらせですね、そうなんですね」

入須「だから落ち着くんだ折木君。そんなに繊細だったのか君」

奉太郎「………………………俺が身内からしか、姉からしかチョコレートをもらわないという話でしたね」

入須「ああ、そうだ。そこで、私の発言だ。さ、考えろ」

奉太郎「…………………いや、そんな馬鹿な」

入須「馬鹿ではない。君が思いついたことが答えだ」

奉太郎「…………………じゃ、じゃあ俺はこれで!」

入須「ま、待ちたまえ折木君! こら、待て!」

奉太郎「まずいことになった」

里志「どしたのさ奉太郎。朝走って教室に入ってきた時はどうしたのかと思ったけど、授業中もずっと頭抱えてたよね。あ、もしかして千反田さんからチョコでももらったとか? いやあ、奉太郎も隅に置けないねぇ!」
 
奉太郎「……………里志」

里志「うわ顔色悪いよ奉太郎。青黒いよ」

奉太郎「あれだろうか、灰色の学園生活を望んでいながらヴァレンタインなんぞに現を抜かそうとしていたからなのか」

里志「い、いきなり鬱屈としてるね。なに? 千反田さんから告白されたの?」

奉太郎「ああ、もうこれからはちゃんとやるから。静かに、海の底のように静かなところで一人寂しく生きていくから許してくれ。許してくれ神様」

里志「本当に何があったの奉太郎!?  いったい何が君をそこまで追い詰めてるの!?」

奉太郎「里志………………………。お前は、いっそドッキリの方がいいと思えるような出来事にあったことはあるか?」

里志「一応、 摩耶花に告白されて、しばらくしてから何度かそう思ったよ」

奉太郎「そうか……………………」

里志「……………………誰かに告白されたんだね、奉太郎」

奉太郎「それ紛いのことをされたかもしれない。勘違いかもしれない。その方がいい。ああ、俺はまだ夢を見ているんだ。いや、そんな夢を見るのもどうなんだ。それではまるで俺が入須先輩のことを………………」

里志「え、ちょっと待って奉太郎。今聞き捨てならな名前が聞こえたような、」

入須「折木君はいるか!」

里志「い、入須先輩だ! 入須先輩が見たこともないような活力で僕らの教室にやってきたぞ!」

奉太郎「ま、まずい。里志! 俺は今から『いないもの』になる! 話しかけたりなんかしてみろ、即死だ!」

 
里志「そして奉太郎も今まで見たことがないようなハイテンションで錯乱してる!」 

入須「折木君! 君のせいで今日一日、まったく勉強に手がつかなかったぞ! 弁解しろ!」

奉太郎「それはこっちのセリフです入須先輩! 見てくださいこの顔を! もはや変色していると言ってもいい!」

入須「君が朝のあの時に返事をくれればよかっただけじゃないか!」

奉太郎「そんな急に答えが出せると思ってるんですか!?」

入須「学園でも有数の美人からの告白だぞ!? しろよ!」

奉太郎「じ、自分から美人とか言わないでください!」

里志「……………うわあ、青春してるなぁ奉太郎」 

奉太郎「この時期の屋上は寒々しくて嫌ですね」

入須「君の友人がいったんだぞ? 場所を変えたらどうだと」

奉太郎「さっきは、我ながら気が高ぶってました。失礼なことも言ってしまってすいません」

入須「いや、それは私もだ。いつ以来か分からないくらいだ、あんなにテンションが高い自分は」

奉太郎「で、えっと……………………」

入須「ああ………………………」

奉太郎「……………………………………」

入須「…………………その、なんだ」

奉太郎「はい」

入須「落ち着くと、恥ずかしさが戻ってくるな」

奉太郎「……………………そうですね」

入須「………………結局、どうだった?」

奉太郎「何がですか?」

入須「チョコよ。あの後、誰かからもらった?」

奉太郎「いえ、誰からも。元から友人も少ないので義理もなしです」

入須「そうか…………………」

奉太郎「………………あの」

入須「なんだ?」

奉太郎「………………別に、頼まれたらなんでもやりますから」

入須「は?」

奉太郎「あの時のように、騙さなくても。頼まれたら、できることはしますから。だから、もう俺を弄ばないでください」

入須「………………………」

入須「……………………折木君」

奉太郎「……………………はい」

入須「あの時のことは、今でもすまなかったと思っている。謝って、許してもらえるようなことではないということも」

奉太郎「…………………はい」

入須「だがそれでも、私は君のことが好きだ」

奉太郎「……………正気ですか」

入須「ああ、本気………………正気?」

奉太郎「だって、俺ですよ? 何の取り柄もない、地味で根暗な男に、先輩みたいな人は釣り合わないと……………」

入須「……………折木君」

奉太郎「………………はい」

入須「覚えているか? 私の言ったことを」

奉太郎「……………何、ですか」

入須「……………能力ある人間の無自覚は、能力のない人間には辛辣だ、と」

奉太郎「………………それが、何か」

入須「自身の魅力を自覚していない君の姿は、私には、とても辛辣だよ、折木君」

奉太郎「入須先輩……………泣いてるんですか?」

入須「ふふ、すまない。初めてなんだ、初めてだったんだ。こんなにも、人を好きになったのは」

奉太郎「入須先輩……………………」

入須「私が好きになった君を、君自身がけなさないでくれ。君の友人だって分かっているはずだ」

奉太郎「……………………」

入須「だから、私のこの告白は、決してドッキリでも君に頼みごとをするための手段でもない」

奉太郎「先輩…………」

入須「だが、君の言いたいことはもっともだ。一度騙された相手を信じることなど、なかなかできることじゃない。だから…………」

入須「君は、私を好きにしてくれていい!」

奉太郎「え?」

入須「君は私のことを高評価してくれているようだ。その私を、好きにしていいと言っているんだ」

奉太郎「え、ちょ………………」

入須「キスをしてもいい。髪を触ってもいい。なんなら、もっといやらしいことでもいい」

奉太郎「いや、ちょっと待って先輩、」

入須「そうだ、乱暴してくれたっていい、エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」

奉太郎「落ち着いてください入須先輩!」

奉太郎「い、言いたいことは分かりました。つまり、あれですね、彼氏になってくれることの対価として自身を捧げる、と」

入須「ああ、そうだ」

奉太郎「はぁ…………………」

入須「な、なんだその溜息は。そ、そんなに魅力、ない?」

奉太郎「いや、そうじゃなくて………………」

入須「言っておくが成績も優秀だし、手料理だって作れる。逆玉の輿もやりようによっては可能だ」

奉太郎「先輩……………」

入須「話し方も髪型も、折木君の好みに合わせるよう頑張るから、だから……………!」

奉太郎「だから落ち着いてください、先輩」

奉太郎「分かりました、分かりましたから。ちゃんと本心から、その、俺を好きと言ってくれているということは」

入須「わ、分かってくれたか……………」

奉太郎「………………本当に、俺でいいんですか?」

入須「いや、違う」

奉太郎「えっ」

入須「君でいいんじゃない。君がいいんだ」

奉太郎「入須先輩…………」

入須「好きだ、折木君………………」

翌日

奉太郎「入須先輩と恋仲になったわけだが」

里志「うん、言いたいことは分かってるよ、奉太郎」

奉太郎「ああ、そうか。なら、言わせてもらおう」



奉太郎「愛が重い!」

奉太郎「朝から客が来たと思ったら入須先輩だった」

奉太郎「一緒に行こうと誘われ、歩いていたら何気ない顔で腕を組んできた」

奉太郎「なんてことはない、平日の登校風景が一瞬でバイオレンスなものに変わった」

奉太郎「素知らぬ顔の入須先輩。驚愕を隠し切れずにこちらを眺める生徒たち」

奉太郎「そして女帝の横で歩くあの男は誰だとほぼ全生徒から後ろ指をさされる俺」

奉太郎「登校後わざわざ胃薬を保健室にまでもらいにいくほどまでに、ストレスは溜まっていた」

奉太郎「だが、あの入須先輩の様子だと明日も同様のことが考えられるだろう」

奉太郎「そして昼休みだ」

奉太郎「昼食だ」

奉太郎「重箱だ」

奉太郎「重箱が来た」

奉太郎「おせちに使われるサイズの三段。それを、中庭のベンチで食べさせあいっこだ」

奉太郎「俺は死を覚悟した」

里志「うん、傍から見ていた限りでも大変そうだったね。それでも笑顔を保とうとする奉太郎はよく頑張ったと思うよ」

奉太郎「ああ、頑張った。頑張ったんだ、俺は。だが、そろそろ、」

入須「お、折木君」オズオズ

里志「おお、入須先輩だ。入須先輩が今まで見たことのないようないじらしさを見せながら奉太郎を迎えに来たぞ」

奉太郎「昨日からそうなんだ。いつもの様子はどこへやら、完全にあれだ。大和撫子のそれに近くなっている」ヒソヒソ

里志「さすがは良家の娘…………といったところかな?」ヒソヒソ

入須「ま、まだ帰れないか? 折木君」

奉太郎「ああ、いや、今行きますよ。じゃあな、里志」

里志「うん、頑張ってね、奉太郎」

入須「で、どうだった?」

奉太郎「え?」

入須「だから、昨日今日の私だ。大和撫子のようにしてみたんだが」

奉太郎「ああ、演じてたんですね、あれ…………」

入須「反応があまり芳しくなかったから答えはほとんど出ているようだが」

奉太郎「…………………その」

入須「なんだ? 好みのタイプなら聞くが?」

奉太郎「俺は、いつもの入須先輩がいいです。性格を演じられても寂しいだけです」

入須「折木君………………」

奉太郎「なんか、恥ずかしいですね、こういうことを言うのは………………」

入須「君、マゾだったのか」

奉太郎「……………自分のことを理解しているのはいいことだと思いますが、とりあえず俺はマゾじゃありません」

入須「…………………そうか」

奉太郎「なぜ目に見えて落ち込むんです」

入須「君にはどうも、子犬のような雰囲気があるからな。それで君がマゾなら利害が一致していたのだが」

奉太郎「したくないんですけどそんな利害の一致…………………」

入須「まあ、分かった。君の了承も得られたことだし、これからも私らしく生きさせてもらおう」

奉太郎「先輩の人生設計に深い過ちを犯しかけたのか、俺は……………」

入須「そっかぁ、いつもの入須先輩、かぁ…………!」

奉太郎「うわ、急に走りださないでください!」

入須「いいじゃないか! 私にだって、嬉しくて走り出したいときもある!」

奉太郎「う、嬉しいって………………」

入須「ああ、嬉しい! すごく嬉しい! 昨日徹夜で大和撫子の練習をしていた自分がひどく滑稽に思える!」

奉太郎「何やってんすか女帝ともあろう人が!」

入須「あはははは!」

入須「折木君!」

奉太郎「はい!」

入須「好きだ! 大好きだ!」

奉太郎「お、俺もです!」

 おわり

里志「ふうん、昨日のは演技だったのか」

奉太郎「ああ。今日からは平常運転になるらしい」

里志「でも朝はちゃんと腕組んで登校してたね」

奉太郎「あれはデフォらしいな。大丈夫だ、胃薬は買ってある」

里志「次第に慣れるといいね」

入須「折木君、昼食に誘いに来たぞ」

奉太郎「あ、はい。今行きます」

里志「いってらっしゃい、奉太郎」

奉太郎「ああ」

放課後

奉太郎「甘かった」

里志「空気がかい? 確かに登校時の君と入須先輩は桃色の空気を振りまいていたけどさ」

奉太郎「俺の考えが、だ。入須先輩の愛は思いのほか深いようだ」

里志「まあ、ハマると深い人だとは思うけど、なんでまた?」

奉太郎「………………ヤンデレだ」

里志「へ?」

奉太郎「一応、昨日俺はいつもの入須先輩がいいと言った」

里志「へえ、奉太郎やるじゃん」

奉太郎「だが、あの人はそれでは満足しなかったようだ」

里志「…………まさか、奉太郎」

奉太郎「ああ。……………あの人は、これからいろんなキャラを演じて俺の好みを探るようだ」

里志「それで、今日はヤンデレだったの?」

奉太郎「…………おにぎりの中に、長い、黒く艶のある髪の毛が入っていた」

里志「へ、へえ。そ、それはまた、分かってるじゃないか」

奉太郎「それと、さっき廊下で伊原に会って、少し世間話をしたんだが」

里志「うん」

奉太郎「見られていた」

里志「ほう」

奉太郎「廊下の端から」

里志「へえ」

奉太郎「廊下の角から顔を覗かせる入須先輩。本人は隠れているつもりだったようだが、何事かと集った生徒たちのせいで目立ちすぎていた」

里志「ああ、僕も見てたよ。あの人だかりはそういうことだったんだね」

奉太郎「おそらくは、今日の放課後に問い詰められることだろう」

里志「楽しそうだね奉太郎。しかし、ヤンデレかぁ」

奉太郎「ヤンデレに何か思い入れでもあるのか? なら伊原に伝えておくが」

里志「いや、そうじゃなくてさ。千反田さんに、そういう気があると思わない?」

奉太郎「千反田か?」

里志「部活中なんて、奉太郎を子犬みたいについていってたじゃないか。それに」

奉太郎「それに?」

里志「ここだけの話なんだけど、摩耶花が奉太郎と話してるとき、千反田さんが睨んでた気がするんだよね」

奉太郎「俺を?」

里志「いや、摩耶花を」

奉太郎「…………本当か?」

里志「き、気のせいだといいんだけどね」

奉太郎「……………そういえば」

里志「え、なに? 何かそう思わせる伏線はあった?」

奉太郎「一昨日、千反田からも入須先輩と同様の事を言われていたんだ」

里志「は?」

奉太郎「……………まずいことになった」

里志「……………それは、まずいことではすまないね」

奉太郎「チョコをくれないと聞いた時は落ち込みを隠せなかったが、今考えるとそういう意味で言ったのかもしれない」

里志「なんだかんだで青春してるね奉太郎」

奉太郎「い、いや。これこそ勘違いというものだろう。なんてったって前例がある!」

里志「前例?」

奉太郎「ああ、思わせぶりなヒロインは俺たちの世界につきものだ。実際、かなり親しげな、思わせぶりなヒロインに翻弄された主人公はもはや伝統だ」

里志「………………そういえば、そうだったね」




「くしゅんっ」

「あれ、風邪?」

「かなぁ。それより早く苺タルト買いに行こうよ」

「はいはい」

奉太郎「さて、どうしたものか」

里志「そういえば昨日一昨日と、奉太郎は部活出てないから千反田さんとも会ってないんだよね」

奉太郎「里志は会ったか?」

里志「いや、僕も昨日一昨日は部活に行けてなくてね。廊下でも会わないし」

奉太郎「そうか…………」

里志「放っておくわけにもいかないだろう? 奉太郎、君はきっと放っておけない」

奉太郎「とは言ってもな………」

里志「………………まあ、学校中でこれだけ騒ぎになってるんだ、きっと千反田さんにも噂は届いていると思うけど」

奉太郎「向こうからアクションがあるかもしれない、か」

里志「ないからといってスルーするのもどうかと思うけど、勘違いだったらそれはそれでダメージが来るね」

奉太郎「面倒なことになっ、いやそんなことは言うまい」

里志「………大人になったね奉太郎」

奉太郎「……………一応、確認に行ってみた」

里志「どうだった?」

奉太郎「》54だった」

1、クロだった。………………………入須千反田と三角関係へ
  

2、シロだった。………………………入須先輩と二人で疑似ラブ○ラス

奉太郎「……………クロだった」

里志「うわぁ……………」

奉太郎「苔でも食みながら生きるから。森の中で一人ひっそりと生きるから、どうか神様ゆるしてください」

里志「現実逃避はいいけどさ、いや現実逃避したい気持ちも分かるけどさ。どうするのさ、これから」

奉太郎「…………………今日の放課後、千反田は、入須先輩と対話を果たすそうだ」

里志「奉太郎は?」

奉太郎「来るな、と言われた」

里志「祈るしかないようだね、今は」

奉太郎「……………里志」

里志「なんだい?」

奉太郎「短い人生だったが、お前みたいな親友を持てて本当によかった」

里志「いや、さすがに死には至らないでしょ」

奉太郎「初めてだからな、こういう事態は……………」

里志「僕らの歳でそんな何回も修羅場経験する人なんていないよ…………」

入須「なあ、千反田」

千反田「なんですか? 入須さん」

入須「……………折木君の、どこが好きだ?」

千反田「……………眠たげなまなざしも、きらりと光るひらめきも、思いやりのある心も、全部」

入須「そうか………………私もだ」

千反田「入須さん…………………」

入須「なら、千反田」

千反田「はい」

入須「……………独占欲は、強いか?」

千反田「はい?」

入須「………………一昨日、私は彼に告白した。お前のような投げっぱなしなものではなくて、だ」

千反田「………………はい」

入須「本当を言うとな、焦っていたんだ」

千反田「焦って?」

入須「ただでさえ私は三年になり、彼と関わる時間は無くなり、距離も離れることだろう」

入須「その上、あの日、私は夢を見たんだ」

入須「君と折木君が、二人、歩いている」

入須「季節は春なのだろう、桜が舞い散る中、折木君がお前を見ていた」

入須「その目は優しく、そして決意に満ちていた。まるで、今にも告白をしてしまいそうな」

入須「所詮は夢だ。根拠などないものだ。だが、思ったんだ。今日を逃してしまえば、おそらくそれは現実になる、と」

入須「だから、告白したんだ」

千反田「そう、だったんですか……………」

入須「だが、折木君はおそらく、私に特別な感情など抱いていないだろう」

入須「なにせ私は、彼を一度騙しているからな」

入須「いや、恋心を抱かせる自信はあるが」

千反田「何が、言いたいんですか?」

入須「分からないか? お前がもし先に告白していれば、その時彼は千反田、お前と付き合っていたということだ」

千反田「え?」

入須「彼だってチョコレートを楽しみにするような男子高校生だ。私やお前のような美人に告白されれば、とりあえずはオーケーすることだろう。それは普通、当たり前とさえ言える」

千反田「そんな、美人なんて言わないでください」

入須「無自覚は悪だ。ちゃんと自覚しろ。それで、だ」

入須「私は、彼の隣にいれればそれでいいと思っている。欲を言えば愛されたいが、それは二の次でいい」

入須「だから私は、この際三人で付き合うことを提案する」

千反田「さ、三人ですか?」

入須「ああ。折木君両手に花状態だ」

千反田「どうしてまたそんなことに…………」

入須「なに。お前と私が逆の立場ならそう言ってくると、そう思っただけだ」

千反田「………………三人で」

入須「平和的解決と思えるが、どうだ?」

千反田「…………いいんですか?」

入須「ああ、いいとも。私はそれで、幸せになれる自信はある。………ま、まぁ、結婚云々の話になったら、その時はその時だが」

千反田「………………困りましたね」

入須「困るのか。やっぱりダメか、不埒か」

千反田「いえ、そうではなくて…………」

千反田「私、ちゃんと応援しようとしてたんですよ? お幸せに、ってちゃんと、失恋を、受け止めようとしてたのに………………」

入須「千反田………………」

千反田「知りませんよ? 折木さんが私に惚れてしまっても」

入須「は、望むところだ」

入須「………………彼は、彼の世界は放っておけばどんどん灰色にくすんでいくようだ」

入須「だから、私たち二人で彼の人生を鮮やかなものに変えていこう」

千反田「…………………はい」

翌日

千反田「折木さん、はい、あ〜ん」

奉太郎「あ、あ〜ん」

入須「ふふ、折木君。この卵焼きを食べてくれ。ほら、口を開けろ」

奉太郎「は、はい」

千反田「折木さん! これもどうぞ!」

入須「折木君、これも食べられるな?」

千反田「折木さん!」

入須「折木君!」

奉太郎「どうしてこうなった」

 和やかな三角関係ルート おわり

里志「………で?」

奉太郎「ああ、朝と昼休みにお前が見た光景、それが真実だ」

里志「そうかぁ…………………ふふ、そうかぁ…………」

里志「ってふざけんなぁぁぁぁぁああああ!」

里志「何事もなかったかのように美女二人侍らせといて何が真実だ!
   お、お前昨日修羅場になってたんじゃなかったのか!」

奉太郎「落ち着けよ、里八」

里志「だぁれが里八ィ!?」

里志「…………で? 具体的にはどうなのさ」

奉太郎「ああ…………」

ホンワホンワホンワ

入須『折木君』

奉太郎『あ、入須先輩…………』

える『折木さん…………』

奉太郎『それに千反田も……………』

奉太郎『…………』

奉太郎『…………入須先輩』

入須『なんだ?』

奉太郎『俺を……………殴ってください』

入須『えいっ』

奉太郎『遠慮がないっ!』ゴフッ

える『えいっ』

奉太郎『千反田もっ!』ゴフッ

入須『…………これで、後腐れはなしだ。いいな、千反田』

える『はい!』

奉太郎『千反田に手を上げさせるとは……………何を仕込んだんですか、先輩』

える『ふふ、折木さん。私もそこまで天使じゃないんですよ?』

奉太郎『お前はいつから委員長ちゃんになったんだ………』

入須『ふ、童貞坊やには分からない話さ…………』

奉太郎『ああ、そうですね……………』

入須『そういうわけで、折木君』

奉太郎『そういうわけも何も、説明は何一つなされていないんですが………』

千反田『三人で仲良く付き合いましょう!』

奉太郎『……………は?』

入須『今日はとりあえず千反田と作戦会議をする。明日から、楽しみにしておけ』

ホンワホンワホンワ

奉太郎「………………で、今日の朝だ」

奉太郎「扉を開けるとそこには、二人の美女がいた…………」

里志「それは、また……………君には何のダメージもなかったんだね」

奉太郎「ああ、物理的ダメージ以外はな…………。
    正直『仲良くする』の意味を私刑のそれと思って昨日は眠れなかったがな…………」

里志「ああ、それで隈がひどいんだね…………」



える「折木さん! 帰りますよ!」

里志「お、噂をすれば」

える「あ、福部さん! こんにちは!」

里志「こんにちは千反田さん。いやぁ、なんというかおめでとう」

える「あ、ありがとうございます……………えへへ」

里志「でもいいの? 二股だよ?」

える「チョコレート割った人と比べれば全然ましです!」

里八「ちょっとぉぉぉぉおおおお! それ君が言っちゃいけない台詞だからあああああああああああ!」

入須「遅いぞ、える。いつまでかかっているんだ」
 
える「ご、ごめんなさい冬実さん!」

奉太郎「すいません入須先輩」

入須「お、折木君が謝ることじゃない………なんなら放置プレイも、許そう」

里志「…………ねぇ奉太郎。一昨日かいつかの大和撫子は演じていたキャラと言っていたよね」ヒソヒソ

奉太郎「……………その筈だが」ヒソヒソ

里志「じゃ、じゃあさ、試しに言ってほしいことがあるんだけど」ヒソヒソ

奉太郎「……………正気か?」ヒソヒソ

里志「頼むよ、一生のお願いだからさ」ヒソヒソ

奉太郎「…………お前には色々迷惑をかけたしな。分かった」

奉太郎「入須先輩」

入須「なんだ、折木君」

奉太郎「……………這いつくばれ」

入須「……………………」

奉太郎「(あ、死んだ)」

 

入須「…………いいだろう」

奉太郎「………え?」

える「ふ、冬実さんが折木さんの足元に這いつくばって…………」

里志「そ、そのまま奉太郎を見上げた! ま、まさかこれは…………に、逃げろ奉太郎!」

入須「……………わん。どうだ? これで十分だろう?」

奉太郎「…………………ぐはっ」ゴフッ

える「お、折木さんが吐血を!」

里志「奉太郎ーーーーーー!」

中庭・ベンチ


入須「まったく、しろというからしたと言うのに……………」

える「ちゅ、注文以外のこともしていたと思うんですけど……………」

入須「何、折木君が望んでいると先読みしたまで。…………実際、喜んでくれたようだしな」

える「………………冬実さんは、被虐癖があるんですね」

入須「被支配欲と言うべきかもしれないな」

える「ご自分で分かってるんですか………………」

入須「その代わりに、える、お前は支配欲が強そうだな」

える「そうですか?」

入須「ああ、多分な………………」

える「気づきませんでした……………」

入須「ふふ、それにしても」

入須「クールな外面のよらずマゾな姉キャラと」

入須「健気そうに見えてヤンデレな妹キャラと」

入須「二人を侍らせた君は、思いの他幸せなのかもしれないぞ? 折木君……………」

入須「可愛い寝顔だ…………。根はやはり純粋なのか」

える「だと思いますよ。でなきゃ、私、気になりません」

入須「そうか」ナデナデ

奉太郎「ん、んん………………」

入須「あ、起きたか」

奉太郎「入須先輩……………?」

える「私もいますよ、折木さん」

奉太郎「千反田も………しかし何故二人とも覗き込むように俺を見てくるんだ……………」

奉太郎「……………ああ、そういうことか」

入須「ふふ、察した上で起き上がらないのか」

奉太郎「す、すいません………………」

入須「いや、いいさ。日没まではまだ時間がある。のんびり私の膝の上で眠っているといい」

奉太郎「…………お言葉に甘えて」

える「………………」ウズウズ

入須「…………悪いな、折木君」

奉太郎「はい?」

入須「少しばかり足が痺れてしまった」

奉太郎「! すいません、そんなに長く?」

入須「いや、初めてだから加減が分からなくてな。だが続けられそうにない。だから、える」

える「は、はい?」

入須「交代、頼んでもいいか?」

える「! ……………はい!」

える「………………どうですか、折木さん」

奉太郎「…………やはり照れるな。同級生だと余計に」

入須「ほう、私の年増な太ももでは照れないと?」

奉太郎「い、いや、入須先輩には包容力というか、そういう事をされても恥ずかしがることなく甘えることができるオーラが出ているというか…………」

入須「ならこれからも存分に甘えるといい。なんなら、ハグも許すぞ?」

奉太郎「そんなことをしたら、また鼻血を出すかもしれないですね……………」

入須「その時はまた介抱してやるさ。それより今は」

える「…………折木さんは、私とはお話したくありませんか?」グスッ

奉太郎「そんなことはないぞ千反田! ただ、その、アレだ、照れが回ってるんだ」

える「そ、そうですか………………」

奉太郎「ただ、その、なんだ。心地は、ひどくいいぞ」

える「………………それはなによりです」

奉太郎「…………………」

える「………………」ナデ

入須「………………むう」



入須「折木君、頬に虫が」グイッ

奉太郎「いててててどうしたんですか入須先輩」

入須「………………」

える「ふふ、冬実さんも妬いているんですよ」

入須「える、頬に虫が」

える「痛いです冬実さん!」

奉太郎「……………入須先輩は可愛いですね」グイッ

入須「う、うわっ、折木君! 胸元に抱き寄せるな!」

奉太郎「よーしよしよし」ナデナデ

入須「撫でるなぁ!」

える「ふふ、冬実さん。三人で仲良くですよ」

入須「むぅ…………………」

奉太郎「……………千反田。入須先輩」

える「…………はい」

入須「なんだ?」

奉太郎「………………幸せに、なろうな」

える「……………」

入須「…………………」

える「はい!」
入須「ああ!」

一日目、終わり

二日目 朝

奉太郎「zzz………………」

入須「………………」

える「………………」

奉太郎「zzz……………」

入須「………………」

える「…………………」

入須「…………………困ったな」

える「……………はい」

入須「起こさせてもらうということで、部屋へ上がらせてもらったが」

える「寝顔が健やかすぎて起こせませんね」

奉太郎「………………んう」

入須「お。起きるか」

える「起きそうですね」

奉太郎「ん、朝か……………」

入須「………………」ジー
える「……………」ジー

奉太郎「おうわぁっ!?」ズザッ

奉太郎「朝から驚かされましたよ………」

入須「ふふ、すまない」

える「折木さんのあんな声、初めて聞きました! 私、忘れません!」

奉太郎「そこは忘れてくれ………………」

入須「そういうと思ってボイスレコーダーで撮っておいた」

奉太郎『おうわぁっ!?』ズザッ

奉太郎「ああ、なんてことを…………」

える「ぜひダビングお願いします!」

入須「ああ、もちろんだとも」

摩耶花「あ、ちーちゃん!」

える「摩耶花さん! おはようございます!」

摩耶花「おはよー! 入須先輩もおはようございます!」

入須「ああ、おはよう」

奉太郎「おはよう、伊原」

摩耶花「おはよう噂のスケコマシ」

奉太郎「おい待て、なんだその不名誉なあだ名は」

摩耶花「そんな美人二人も両腕に抱き着かせておいて何言ってんのよ。もう学校中で話題よ? 一年で一番可愛らしく、そして豪農の娘である千反田えると、学校一の女傑にして女帝の入須冬実を侍らせている男がいるって」

奉太郎「学校中なのか…………俺の灰色学園ライフが…………」

入須「そんなものはない」

える「ないです」

奉太郎「何故二人に否定される…………」

入須「といっても、なぁ」

える「はい。私たち二人で折木さんに薔薇色の生活を贈ろうって約束しましたから」

奉太郎「………………………」

摩耶花「え、なに? ちょっと待ってちーちゃん、それに入須先輩」

入須「なんだ?」

える「なんですか?」

摩耶花「そこの天パーが告ったんじゃないの?」

入須「なら逆に聞くが、彼にそんな度胸があるとでも?」

える「冬実さん、それはちょっと言い過ぎのような……………」

入須「まあ、私たちに殴られることを許容するくらいには覚悟してくれていたようだが」

摩耶花「うっそ折木すごいじゃない」

奉太郎「世辞はいらん。当たり前のことだ」

摩耶花「…………なんでちょっと男前になってんのよ」

える「ふふ、あげませんよ?」

摩耶花「いらないわよっ」

里志「お、皆さんおそろいで! おはよう!」

摩耶花「あ、ふくちゃん!」

里志「おはよう摩耶花。それに折木ハーレムの皆さん」

奉太郎「ハーレムにしては尻に敷かれている気がするんだが」

入須「そんなことはないさ。君が望めば喜んで服従しよう。昨日のようにな」

える「わ、私もそうした方がいいですか? 折木さん!」

奉太郎「誰も服従しろとは言っていないが………もっとこう、対等の立場というかだな…………」

入須「それは君が隙あらば怠惰に日々を過ごそうとするからだ。何かを欲してくれなければ、こちらも返せない」

奉太郎「怠惰を欲しているんですが、それは…………」ジー

入須「……………ま、まあ、休日に縁側でのんびりする程度なら」

える「川の字でお昼寝しましょうね!」

入須「もちろん折木君が真ん中だな」

奉太郎「だ、だらけられない……………」

里志「うわ、恐ろしいほどにハーレムしてるよ、あの奉太郎が」

摩耶花「ね、ふくちゃん。あたしたちも負けないようにいちゃいちゃしない?」

里志「そう、だね………………」

摩耶花「え………………?」

里志「正直、奉太郎たちは修羅場になると思ってた。
   僕はそれを見て、二兎を追ってはいけないと改めて自分を戒めるつもりだった。
   でも、奉太郎たちは、今、すごく幸せそうだ。
   だから、僕も。
   僕も、できるのかもしれないって、そう思うんだ」

摩耶花「ふくちゃん………………」

奉太郎「里志………………」

奉太郎「………………お前、消えるのか?」

里志「いや消えないからね?」

える「いーつーもひーとーりーでー」

里志「いや歌わなくていいから!」  

二日目 昼

入須「今日はサンドイッチにしてみたんだが」

奉太郎「おお、これは色鮮やかで目に嬉しいですね。
    これは和風の弁当ではなかなか出せない色合いですよ」

える「なんでちょっとグルメリポート風なんですか」クスッ

奉太郎「少し緊張しているんだ。噂によるところの、美人二人に挟まれてベンチに座っているからな」

入須「朝あれだけ腕を組み、かなり密着した状態で歩いたというのにまだ緊張が残っているのか」

奉太郎「そんなすぐに慣れられるほど弱い刺激じゃありませんよ」ハァ

える「飽きさせないよう努力はしますから安心してください」

奉太郎「……………飽きるつもりはないから安心しろ、千反田」ナデナデ

える「わ………………え、えへへ」テレテレ

入須「私はどうなんだ? 折木君」

奉太郎「入須先輩はまだ予測不可能な所があるので一応の着陸場を見つけたいです」

入須「これでも分かりやすくしているつもりなんだが………」

奉太郎「いや、それは分かるんですが…………」







奉太郎「じゃあ、さっそくいただきますね」ヒョイ

入須「ああ」

奉太郎「いただきま」

入須「ちょっと待て折木君」

奉太郎「はい?」

入須「…………」メヲトジアーン

奉太郎「ッッ………………………」

奉太郎「………………千反田は」

える「………………」メヲトジアーン

奉太郎「………………」

奉太郎「………………………………」プニ

える「ほ、頬をつつかないでください」テレテレ

入須「むぅ……………」ソデヲクイクイ

奉太郎「ああ、すいませんすいません。………………では」

入須「…………………はむ」

奉太郎「………………満足していただけましたか?」

入須「これからは、言わなくてもちゃんとやるように」

奉太郎「……………さいで」

える「折木さん、折木さん」クイクイ

奉太郎「分かってる分かってる」

二日目 放課後

奉太郎「とりあえず、おめでとうと言っておくべきだろうか」

里志「ああ、ありがとう」

奉太郎「………………幸せに、なれよ」

里志「ちょっと。なんで泣きそうなのさ」

奉太郎「い、いや、なんとなくな。親友と、友人のこういった人生の契機に立ち会えて、本当に良かったと思っている」

里志「結婚式じゃないんだから」

奉太郎「そ、それに、二股じゃないしな」

里志「それは当たり前だよ」

摩耶花「ふくちゃーん! 帰ろー!」

里志「ああ、摩耶花が呼んでる。僕は行くよ、奉太郎」

奉太郎「結婚式には呼んでくれよ?」

里志「気が早すぎるよ。
   ……………ありがとね、奉太郎」

奉太郎「………………なに、これまで世話になった分は、まだ返しきれてないくらいさ」

二日目 夜

奉太郎「…………………」ダラダラ

入須「いや、折木君はこう見えて優れた知性を持っておりまして」

える「私も何度も助けられたんです!」フンス

「へえ、そうなのかい!」
「いやあ、冬実お嬢様のお眼鏡にかなう人物というだけで信頼できますがね!」
「千反田家の娘さんの太鼓判まで押されているとは!」

奉太郎「…………………」ダラダラダラダラ

入須「そんな、私の眼などとてもとても。ただ、彼に心を奪われただけですよ」

える「ふふ、私もです」

「おや、二人ともですかい?」
「両手に花とはなかなかプレイボーイじゃないか」
「見た目はおとなしそうなのにねぇ」
「あれじゃないかい? 最近はやりの、だうなぁ系とか」
「それだ!」

奉太郎「…………………」ダラダラダラダラダラダラダラダラ

入須「おや、折木君。食事が進んでいないようだが」

える「ほら、このきんぴら、すっごくおいしいですよ? あーん!」

「おお、えるお嬢様があーんを!」
「微笑ましいねぇ」
「うらやましい、ワシにもやってくれんかのぉ!」
「あんたみたいなヨレヨレのじーさんには無理だよ!」
「何おう!」
 アハハハハハハハ


奉太郎「……………………………どうしてこうなった」

 

廊下

奉太郎「(夕飯に誘われたはいいが、まさか両家の使用人の皆さんとご一緒することになろうとは)」

入須「すまない。さすがに気疲れしただろう、折木君」

奉太郎「入須先輩…………」

入須「申し訳ない。だが、少しでも早く紹介しておきたかったんだ。
   私の世話になっている人に、私の好きな人を。
   …………さすがに、父母にはまだ無理だが」

奉太郎「………………入須先輩」

入須「………………んっ」

奉太郎「………………ずいぶん久々に感じます」

入須「それは、新鮮に思ってくれている証拠さ
   ………………もう一度、いいかい?」

奉太郎「はい…………………」

入須「…………………ああ、幸せだ」

「もう夜も遅いから泊まっていきんしゃい!」

奉太郎「え、でも……………」

「大丈夫だ、使用人の部屋がいくつかあまっとる!」
「親方様にはばれんようにしちゃる!」
「なんならえるお嬢様の部屋に泊まってもいいけんのぉ!」

える「も、もう………怒りますよ!」

「照れとる照れとる!」
「かわええのお!」
 アッハッハッハッハ

入須「というわけだ。泊まらせてもらえ」
奉太郎「は、はい………………お言葉に甘えて」

二日目 夜 入須家使用人用浴場

奉太郎「ふぅ………………」

奉太郎「一時はどうなるかと思ったが………………」

奉太郎「(あの後、使用人の皆さんは片づけをするからと俺に一番風呂を勧めてくれた)」 

奉太郎「(使用人用とはいえしっかりとした浴場だ。
     露天などではないが、木の香りが心を鎮めてくれる)」

奉太郎「ああ、ここが楽園か……………」

ガラッ
入須「そうだな」
える「お邪魔します、折木さん」

奉太郎「は?」

入須「背中はどっちが流す?」
える「じゃんけんで決めましょう!」

奉太郎「…………………」

奉太郎「(絶句するしかなかった)」

奉太郎「(二人のヴィーナスが、そこにいた)」

奉太郎「(体に巻き付けた白いバスタオル。
     その上からでも十二分に存在を主張するボディーライン。
     眺めているだけで鼻血が噴出しそうだ)」

奉太郎「(陶器のような美しさを持っていながらもしっかりと肉感を伝えてくる肌。
     特にバスタオルの下から覗く脚は制服の時とはまた違った印象を見せてくる)」  

入須「ふふ、のぼせてしまいそうか? 折木君」

奉太郎「はあ……………正直、そうですね」

入須「のぼせてくれてもいいぞ? その時はまた、君の大好きな膝枕でちゃんと介抱してやろう」

奉太郎「(そう言って入須先輩はバスタオルを少しだけたくし上げた。 
     太ももの大部分が露わになり、その眩さに目を奪われる)」

える「ふ、冬実さん………………!」

奉太郎「(真っ赤になっている千反田の静止を気にも留めない様子で、入須先輩は言った)」

入須「ここ、触りたいだろ? 折木君。なら、洗わせてあげる」

奉太郎「(その魅力的すぎる誘いに、俺は思わず唾を飲み込んだ)」 

奉太郎「(………いや、待て)」

奉太郎「(………………ここは、俺と入須先輩の、重要な分岐点なのかもしれない)」

奉太郎「(あの美術品のような太ももに屈し、これから入須先輩優勢の生活を送るか)」

奉太郎「(それとも、ここは一度我慢し、俺が主導権を握るか)」

奉太郎「(さあ、どうする?)」

>>112までの総数で

1、屈する…………僕は入須先輩の下僕です
2、屈しない……………俺の先輩がこんなに被虐なわけがない
 
 同数の場合はお茶を濁すルートへ



奉太郎「(…………俺だって、仮にも男だ)」

奉太郎「(男には男なりに、プライドがある)」

奉太郎「(入須先輩は惚れた弱みこそ自覚しているが、なんだかんだで俺を弄んでくる)」

奉太郎「(彼氏として選ばれた身として、その態度を許し続けるのもどうかと思う。だから…………)」

奉太郎「……………冬実」

入須「え………………?」

奉太郎「洗わせてあげる? 誰に向かってそんな口の聞き方をしているんだ」

える「折木……………さん?」



奉太郎「洗ってくださいお願いします、だろ?」




入須「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」ゾクゾクゾクゾク

奉太郎「ほら、もう一度言い直してみろ」

入須「……………はい」

入須「私の身体を、全身隈なく洗ってください…………………奉太郎、様」

える「冬実さん!?」

奉太郎「…………………いい子だ、冬実」



奉太郎「冬実の髪は綺麗だな。絹のようだ」

入須「あ、ありがとうございます………」

奉太郎「何をそんなに緊張しているんだ? ほら、もっと肩の力を抜いて」

入須「か、肩は敏感だから、だ、だめ……………っ!」

奉太郎「駄目? 駄目と言ったのか、冬実?」

入須「あ、ああ、違うんです、ごめんなさい、ごめんなさい…………!」

奉太郎「駄目じゃないか、ご主人様に口応えしちゃあ。お仕置きが必要だな」

入須「そ、そんな、ごめんさ、やぁ、うなじ触ったら、やだぁ…………!」

奉太郎「(まるで全身が性感帯であるかのように、肌に触れただけで入須先輩の身体は跳ねた)」

奉太郎「(何度も身を捩るうちに、バスタオルは脱げ、その大きな乳房は露わになっていた)」

奉太郎「(快感に身を跳ねた時、共に揺れるそれを、後ろから眺めていた)」

奉太郎「………………よし。次は、身体を洗おう」

入須「は、はい………………」

奉太郎「(従順に答えて、彼女はこちらを向いた。
     何も、身につけず、全てを露わにした状態で)」

奉太郎「…………………っ!」

奉太郎「(遠くなりかけた意識を必死で手繰り寄せた。
     これは危険すぎる。人がどうこうしていいようなものではないと、そう思わせる気品さえある)」

奉太郎「………………冬実」

入須「は、はい。なんでしょうか」

奉太郎「先に、俺の身体を洗ってくれないか?」

奉太郎「(その姿を見続けることに危険さえ感じた俺は、いったん休息を入れることにした)」

入須「よ、喜んで」

奉太郎「(震える声で応えた彼女が、スポンジを手に近づいてくる)」

奉太郎「(俺は黙って、背中を向けた)」


 二日目 深夜へ続く
 
 続きは明日以降に。
 風呂描写をキングクリムゾンしますか?

1、はい。………………この稚拙な文は見ていられません。
2、いいえ。………………この残念な文でもいいです。

>>125までの総数で。

2

入須「ん、しょ…………」

奉太郎「(背後から、入須先輩の艶やかな声が聞こえる)」

奉太郎「(千反田は慌てて風呂場を抜け出してしまった。
     使用人さんを呼びに行ったなら俺は”覚悟”をしなければいけないが、それはないだろう)」

奉太郎「(入須先輩と二人、風呂場にいる)」

奉太郎「……………入須先輩」

入須「な、なに…………? 奉太郎、様………」

奉太郎「………いえ、なんでも」

奉太郎「(不覚にも。不覚にもだ)」

奉太郎「(今は心を鬼にしなければいけないというのに、俺は、この状況に安らぎさえ感じている)」

奉太郎「(好意を抱き合う相手と、湯浴みと共にすることに、幸福を覚えている)」

奉太郎「(思わず抱きしめたくなるような、そんな愛おしさと共に)」

奉太郎「(………………心の奥が、暖かい。これは、いったい何なんだろうか)」

入須「…………奉太郎」ギュッ

奉太郎「……………入須先輩」

入須「…………冬実で、いいよ」

奉太郎「(入須先輩は、冬実は後ろから俺を抱きしめてきた)」

奉太郎「(彼女の柔らかい身体の感触が直に伝わり、僅かに身じろぎした)」

奉太郎「どうして、急に?」

入須「…………君と同じさ。………………同じだと、いいな」ギュウ

奉太郎「(背後から聞こえてきた声は、幽かで、今にも消えてしまいそうだった)」

奉太郎「(それを、なかったことにしたくなかった)」

奉太郎「…………大丈夫ですよ」

奉太郎「(駄目だな、と思いながらも、彼女には敵わないと感じて)」

奉太郎「…………俺も、同じですから」

入須「折木君…………」

奉太郎「奉太郎で、いいですよ」

入須「……………ふふ、そうか、奉太郎」

奉太郎「はい。冬実さん」

入須「………身体、洗うよ?」

奉太郎「はい。………お願いします」

奉太郎「(頷き、一度彼女の身から離れようとした)」

入須「…………」

奉太郎「…………冬実さん?」

奉太郎「(しかし、冬実さんは俺を抱きしめた腕を解かず、じっとしていた)」

奉太郎「何を…………」

奉太郎「(しているんですかと問う前に、彼女は言った)」

入須「……………洗うよ?」

奉太郎「(その言葉の意味を理解したと同時に、冬実さんは俺の身体を洗い始めた)」

入須「んっ、はぁ…………っ!」

奉太郎「(背中を柔らかな感触が撫でる。彼女は、自身をスポンジやタオルのそれとして使った)」

奉太郎「(振動とともに熱っぽい吐息が耳をくすぐり、煩悩を刺激する)」

入須「どうだ、奉太郎……はぁっ…気持ちいいか、ぁっ、んっ……………」

奉太郎「はい………非常に………………」

入須「そうか…………よかった………………」

奉太郎「(その、心底安堵したような声に、弱弱しい俺の理性は呆気なく膝を屈した)」

奉太郎「(身体ごと、振り返った)」

入須「ほ、奉太郎………………?」

奉太郎「(怯えたような、しかしどこか期待するような瞳。
     覗き込みながら、その頬に手を添える)」
 
入須「あ……………ん………………」

奉太郎「(喜色を浮かべた彼女に口づけをしながら、豊かな胸に手を伸ばした)」

入須「ん、ふふ…………私の胸は、お眼鏡にかなったかな?」

奉太郎「(いつもの調子の口調。ただ違うのは、そこにいくらかの緊張があることだ)」

入須「あんっ……………強くしすぎだ、奉太郎」

奉太郎「(忠告を無視し、時折その桜色の突起もつまむと彼女は嬌声を上げた。
     やはり、彼女には被虐体質の気があるようだ)」

入須「ほ、ほうたろ、そこはだめッ、あんっ!」

奉太郎「(駄目だと言いながらも、彼女は小動物のように身体を擦り付けてくる。
     俺の首に腕を回し、自分から離れないようにして)」
 

奉太郎「………先輩。今度は俺が身体を洗いますね?」

入須「え……………ひゃんっ!」

奉太郎「(俺は、胸に集中していた泡を、身体全体に広げることにした。
     しなやかな肌。まずは横へ下へとのばしていく)」

入須「は、ほ、奉太郎、わき腹は、駄目だっ、だめだったら………!」

奉太郎「先輩は駄目な所が多いですね。ここですか?」

入須「ああんっ!」

奉太郎「(嬌声が耳元で上がる。彼女は強く強く、俺を抱きしめていた)」

奉太郎「背中も行きますよ」

入須「あ、ああ………………んっ」

奉太郎「(子供をあやすように背中を撫でると、快楽に震えながらも彼女はいくらか落ち着いた)」

奉太郎「(正直やりすぎているとは思っていた。肩で息をしている彼女を労わろうとも)」

奉太郎「(だが)」

入須「ほ、奉太郎……………」

奉太郎「(息を荒げ、涎を口の端に垂らしながら懇願するような目で見てくる彼女に、嗜虐心がくすぐられてしまった)」

奉太郎「……………すいません」

入須「え? ………………あッ!」

奉太郎「(手をさらに下へと移行し、そこにあった桃のような感触を味わう。
     膝をついた体勢の彼女の尻は、非常に揉みやすかった)」

入須「そ、そんなに揉み回すなぁ! ……………あんっ、んんっ、ああっ!」

奉太郎「(弱弱しい怒気を見せながらも、彼女はついに腰を擦り付けてきた)」

入須「あん、あっ、んっ……………」

奉太郎「(撫でまわすのをやめても、彼女は止まらなかった)」

入須「はっ、ほ、ほうたろう……………」

奉太郎「(切なげに声を漏らしながらも必死に腰を擦り付けてくる)」

奉太郎「(静かな浴室、淫らな水音だけが響いている)」

奉太郎「……………先輩」

奉太郎「……………イキたいんですか?」

奉太郎「(問うと、彼女はただ頷いた。口に出す余裕もないほどに、といった様子だった)」

奉太郎「……………なら、言うべき言葉がありますよね?」

奉太郎「(だが、俺の嗜虐心は、人生でもっとも昂っていた)」

奉太郎「まさか勝手にイっていいなんて思ってませんよね?」

入須「は、はい………………」

奉太郎「(彼女は頷き、腰を下ろして、こちらに股を開いた)」

入須「お、お願いします。このいやらしい気持ちを静めてください。奉太郎様………………」

奉太郎「……………よし」

奉太郎「(頷き、軽く頭を撫でた後、俺はその秘部に手を伸ばした)」



R18描写をスキップしますか?

1、はい………………こんな色気のない駄文でエロスなんていらねえ。
2、いいえ………………駄文でいいのでください。

>>140までの多数決で




聞くまでもないな2

奉太郎「…………じゃあ、始めますよ」

入須「うん…………」

奉太郎「(頷かれ、指を添えた)」

入須「んっ……………」

奉太郎「(声を上げ、目を閉じた彼女に、愛しさを感じた)」

奉太郎「(キスをすると、彼女は潤んだ瞳でこちらを見て、微笑んだ)」

奉太郎「(それだけで、心の奥に充足が満ちてくるのが分かる)」

奉太郎「(静かに、指でなぞり始めた)」

入須「ん、はぁ…………っ!」

奉太郎「(目を閉じ、右手を口に添えて、彼女は必死に快感に耐えている)」

入須「あ、あん、ああ…………ああっ!」

奉太郎「(その忍耐もしばらくの攻勢の末に終わりを迎えかけていた)」

奉太郎「(それでも耐えようとする彼女に一言)」

奉太郎「イっていいですよ」

奉太郎「(その言葉を聞いた途端、彼女は安堵したように微笑み、そして、)」

入須「んっ、〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

奉太郎「(身震いした)」

入須「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」

奉太郎「(息を荒げる彼女を見ながら、しばらく俺は茫然としていた)」

奉太郎「(彼女が必死で耐えていた。そして、俺が許した途端にそれをやめた)」

奉太郎「(それはひとえに、俺の許しを待っていたから)」

奉太郎「(その健気さに、従順さに愛しさが溢れ出した)」

奉太郎「気持ちよかったですか、先輩」

入須「あ、ああ…………」

奉太郎「それは、よかった」

奉太郎「(未だ息の整わない彼女の身体を、強く抱きしめた)」

奉太郎「よく我慢しましたね」

入須「ふ、ふふ…………君に言われたからな……………」

奉太郎「(抱きしめ返してくる彼女の頭を撫でた。
     彼女は嬉しそうに目を細めた)」

入須「次は…………君の番だな…………」

奉太郎「………お手数を、おかけします」

入須「そんなこと言うな。………好きでやるんだから」

奉太郎「(そう言って、彼女は身体を離し、俺を床へ横たわらせた)」

入須「……………さて」

奉太郎「(横たわった俺の股の間に正座し、彼女は顎に手を当て思案顔をした)」

奉太郎「…………あの、結構恥ずかしいんですが、この体勢」

奉太郎「(先程からずっと股にある息子が仁王立ちしているため余計に情けない)」

入須「あ、ああ、すまない」

奉太郎「(謝罪を述べながらも、彼女はしげしげと俺の息子を眺めていた)」

入須「……………これより大きくはならないよな?」

奉太郎「ならないとは思いますが…………」

入須「そうか…………なら、いけるか?」

奉太郎「……………あの、お気持ちは分かるんですが、俺のそれ見た後に自分の股見ないでください」

奉太郎「(必要以上に意識してしまう)」

入須「す、すまない……………」

奉太郎「(再びの謝罪の後、彼女はそそり立つ塔に手を添えた)」

入須「じゃ、じゃあ…………いくぞ?」

奉太郎「…………お願いします」

入須「…………痛く、ないか?」

奉太郎「いい………具合です……………」

奉太郎「(細くしなやかな指で、時に撫でるように、時にこするようにしごかれる)」

入須「ふふ、どくどくしてるな…………よし」

奉太郎「(しばらくしごかれた後、手を離された)」

奉太郎「(まさか、足でしごかれるとかではないだろうな、と恐怖を抱き息子が若干萎えたのと同時)」

入須「よい………っしょ……………」

奉太郎「うあ………………」

奉太郎「(その白い乳房に、包み込まれた)」

入須「気持ちいいか? 奉太郎の好きなおっぱいだぞ…………?」

奉太郎「(妖艶に微笑み、ちろりと出した赤い舌で、先端を舐めた)」

奉太郎「ああっ……………!」

入須「お気に召してくれたようだな。なら、続けるぞ」

奉太郎「(言って、彼女は舌の先から谷間へと唾液を垂れ流した)」

奉太郎「うあ、あっ、ああっ、あっ!」

入須「ふふ、情けない顔しているな、奉太郎…………」

奉太郎「(楽しげに笑って、彼女は擦りあげる速度を早めた)」

奉太郎「(股間から迫る快感は脳内を白く染め上げていく。
     今はもう、そのすべてを包み込めそうな感触と彼女の妖艶な微笑みしか頭にない)」

入須「もう、私の事しか考えられないだろ?」

奉太郎「そんな考えもすべて彼女には筒抜けのようだった)」

入須「せめて、今だけでも、私の事だけを考えてくれ…………」

奉太郎「冬実、さん……………」

入須「さあ、早く出してくれ。君の、愛の証拠を」

奉太郎「う、ぁああっ!」

奉太郎「(ビートを刻むように上下する胸に、快感のダムはすぐに決壊し、)」

奉太郎「う、あああああああああああっ!」

奉太郎「(白濁液が、勢いよく溢れた)」

入須「………ふふ、いっぱい出たな」

奉太郎「(胸や顔を汚されながらも、彼女は嬉しそうに微笑んだ)」
  

奉太郎「は………は………はぁ…………」

奉太郎「(息が整わない。興奮と快感と、特有の虚脱感が思考を鈍らせている)」

入須「そんなに息を荒げて………可愛いな、奉太郎は」

奉太郎「(言いながら、彼女は微笑む)」

奉太郎「すいません、顔や胸を汚してしまって」

入須「そんなことを気にするな。君だって私の愛液で腰から下が汚れているだろ?」

奉太郎「なら、どっちもどっちでいいですかね………」

奉太郎「(安堵の息と共に言葉を吐いた。しかし、冬実さんは微笑みを崩さず俺を見ている。
     ……………嫌な予感がした)」

奉太郎「………冬実さん?」

入須「…………まだ、満足はしていないんだろう、奉太郎様?」

奉太郎「(その言葉ですべてを理解した)」

奉太郎「すいませんでした入須先輩。なんでもしますから許してください」

入須「ふふ、急に何を言い出すのかな、私のご主人様は。悪いことなんて何一つしてないじゃないか」

奉太郎「い、いや、先輩を下僕扱いしたのは謝りますから、とりあえず俺の股から離れてください。
    せめて、谷間から俺の息子を解放してください………!」

入須「謝らなくていいですよ、ご主人様。ただ、ご主人様の息子がまだ満足していないようなので、
   精一杯ご奉仕させてもらいますね?」

奉太郎「(にこりと笑う彼女の顔に、怒りのマークを見た)」

奉太郎「いや、ほんとそんなに弾ないんですよ俺、だから、ああッ!?」

入須「だーめ。…………好き勝手した分、恥ずかしい目に遭ってもらうから」

奉太郎「(その後、最高に可愛らしくはにかんだ彼女に痛くなるほど搾り取られた)」

入須「いい湯だったな、奉太郎」

奉太郎「は、はい……………」

奉太郎「(もはやモヤシほどの体力で、浴室を出た)」

奉太郎「じゃあ、俺は使用人の部屋を借りてきますんで。
    おやすみなさい」

奉太郎「(頭を下げ、立ち去ろうとして、袖を引かれた)」

奉太郎「……………いや、ちょっとそれは。無理です」

入須「ば、馬鹿。違う、ただ一緒に寝るだけだ」

奉太郎「す、すいません…………」

入須「これだから男子高校生は……………」

奉太郎「(呆れたように溜息を吐いた後、頬を染め、視線を逸らしながら、)」

入須「まあ…………触るくらいなら、いいぞ」

奉太郎「………………これだから女子高校生は」

入須「なっ、何を言い出すかと思えば! 君が熱のこもった目で私の寝巻姿を見てるから言ってやったというのに!」
 
奉太郎「そうですか……………」

奉太郎「(確かに、風呂上がりで火照った肌にピンクのパジャマを着た彼女は色っぽかった)」

奉太郎「(だがそれ以上に、)」

奉太郎「どちらかと言えば、可愛いですよ、先輩」

入須「…………また、急にそんなことを」

奉太郎「そんな顔を赤らめる先輩も素敵ですよ」

入須「攻めるな………さっきの反撃?」

奉太郎「本心ですよ」

入須「もー……………」

奉太郎「(結局、冬実さんに用意された部屋に連れてこられた)」

奉太郎「(隣り合わせに布団を敷こうとしたが、彼女に止められた)」

入須「一つでいい」

奉太郎「……………男は床で寝ろと?」

入須「そんなわけないだろ………………」

奉太郎「ですよね……………」

入須「あれだけやっといて、一つの布団で寝ることを恥じるのか?」

奉太郎「そういう先輩だって顔赤いですよ?」

入須「むぅ…………」

奉太郎「(顔をしかめながらさらに頬を赤く染めた彼女は、電燈を消した)」

入須「どうだ、これで顔が見えないだろ?」

奉太郎「……………これだけ近づけば、見えますよ」

入須「……………攻め始めると、強いな、君は」

奉太郎「俺も初めて知りました」

入須「ふふ、攻めたのは、私が初めてか」

奉太郎「(暗い部屋の中、嬉しそうに微笑んだ彼女にキスをした)」

入須「………さあ、布団に入ろうか。なあに、明日は休みだ。今日は夜更かししてもいいだろう」

奉太郎「…………そうですね」

奉太郎「(二人で、布団の中に潜った)」

入須「……………腕枕、いい?」

奉太郎「……………はい、どうぞ」

入須「ありがとう」

奉太郎「(間近で二人、見つめあう。空いている手で、頬を撫でた)」

入須「………ふふ、くすぐったいよ」

入須「……………奉太郎」

奉太郎「………はい」

入須「……………今日は、ありがとう」

奉太郎「…………こちらこそ」

入須「本番は……………また、いずれ」

奉太郎「……………はい」

入須「了承したな? …………破ったら、泣くぞ」

奉太郎「…………約束を、ですよね」

入須「……………もう」

奉太郎「(表情を隠すためか、頭をこちらの胸に預けてくる)」

入須「…………期待してるぞ?」

奉太郎「…………頑張らせていただきます」

入須「うん、よろしい」

奉太郎「(満足げに言って、彼女は俺を見上げた)」

入須「………奉太郎」

奉太郎「…………はい」

入須「………………愛してる」

奉太郎「…………俺も、愛してます」

奉太郎「(言って、彼女の身体を抱きしめた)」

奉太郎「(彼女は嬉しそうにくくっ、と笑い声をこぼした)」

二日目 深夜 終

三日目 朝

える「………」ムスッ

奉太郎「なぁ、千反田」

える「………」ツーン

奉太郎「昨日は俺が悪かった。謝るから、機嫌を直してはくれないか?」

える「私一人放って折木さんで仲良く寝てたお二方なんか、もう知りません!」

奉太郎「す、すまん………」

入須「申し訳ない、える。少し、お前にはまだ早い展開になったものでな」

える「や、やっぱり……………!」カアア

える「折木さんのえっち! 変態! 助平太郎!」

奉太郎「ぐふっ…………」

入須「大丈夫だ、える。まだ筆下ろしはしていない。する時は、二人ですると決めていただろう?」

える「ふ、冬実さん…………!」

入須「ほうら、来いえる。私の胸で泣くといい」

える「冬実さぁん……………」

奉太郎「冬実さんもそっち側なのか………」

奉太郎「しかし、今回は全面的に俺が悪い。というわけで、今日は一日千反田に尽くそうと思う」

える「ほ、本当ですか!?」パアア

奉太郎「ああ。今日は休みだし、丸一日お前の為に動こう」

える「お、折木さん…………!」

入須「よかったな、える」

える「はい! ………あ、でも冬実さんが」

入須「私のことは気にするな。昨日奉太郎を占有してしまったのは事実だから遠慮する必要はない」

入須「それに今日は私も用事があるしな。明日の朝には合流するから、朝ご飯は作っておいてくれ」

入須「…………奉太郎の家で」

奉太郎「俺の家、ですか?」

入須「一応先輩、いや義姉さんから許可はもらっているが」

奉太郎「姉貴…………」

える「いいんですか、折木さん?」

奉太郎「………昨日は泊めてもらったからな。今日はこちらが泊める番だろう」

奉太郎「…………さ、来い千反田。可愛がってやろう」

入須「昨日のキャラが残ってるぞ奉太郎」

える「……………むー」

奉太郎「(あれ、外した?)」

入須「オラオラ系は嫌いだったか、える?」

える「…………冬実さん、折木さんのこと、名前で呼んでます」

入須「………」カァ

える「折木さんも、冬実さんのこと、名前で呼んでます」

奉太郎「…………うむ」カァ

える「………私も呼びたいです」

える「呼んでほしいです」

奉太郎「………………」

える「ダメ、ですか?」

奉太郎「……………可愛いなぁもう!」ガバッ

冬実「!?」

える「!?」

奉太郎「抱きしめたいな、千反田!」

える「も、もう抱きしめてますよ折木さん!」

奉太郎「君の存在に心奪われた男だ!」

冬実「奉太郎は思い切りがいいなぁ」

える「ふ、冬実さんも言ってないで止めてください!」

冬実「止めていいのか?」

える「そ、それは………その…………」

冬実「奉太郎なりに、誠意を見せているんじゃないか、それは」

える「そ、そうなんですか………?」

奉太郎「………中の人の力に頼るのはよくないか」

える「中の人って何ですか!?」

冬実「その通りだぞ、童貞坊や」

奉太郎「冬実さんもです」

える「と、というか折木さん! まだ名前で呼んでないです!」

冬実「それは君も同じだと思うが」

える「う……………」

奉太郎「………………どうしたものかな」

冬実「尻込みしているのか、奉太郎」

奉太郎「………ことのほか、緊張がひどいです」

奉太郎「千反田とは、これまで友人として接してきました」

奉太郎「彼女になった今も、どうにも距離感がまだつかみ切れていない気がします」

奉太郎「だから、これが足がかりになるはず」

奉太郎「そう思ってはいるのですが、いかんせん、最初の一歩が踏み出せない」

冬実「…………初々しいな、君」

える「ほ、ほうた、ほうたろ、ううん…………毎日練習してたのですが」

冬実「えるもか」

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