男「妖怪だと・・・?」妖怪女「・・・」(409)


少し高い山の中腹。

男「ひーっ、ひーっ、はっ、はっ」

一人の男が登山していた。

息は絶え絶えである。

男「もう駄目だ・・・ちょっと休憩しよう」

キョロキョロ

男「どっかに日陰ねーかな・・・あちい・・・」

キョロキョロ

暑さで意識が朦朧とし、注意力がなくなっていた男。

男「ん・・・?」グラッ

その足は気づけば、地面を踏み外していた。

男「のあああああああああああ!!!!!!」

崖から真っ逆さまに落ちていく。


男「痛ってええええええええ」

男「って、ん・・・? 俺、生きてるの・・・」

辺りを見回すと、崖の下の斜面になった岩肌から、舌のように突き出た地面に落ちたようだった。

男「こりゃあ運が良かったな。この狭い足場に偶然乗ったから下まで落ちずにすんだか」

男「しっかし、そういったところでどうやって降りたらいいんだこれ」

斜面から突き出した足場は狭く、麓までの距離はまだかなりあり、降りる手段は見つからない。

男「ちくしょー・・・。携帯電話の充電も切れたし、誰かが助けに来てくれるの待つしかないのか?」

キョロキョロ

男「ん? なんだこれ・・・洞窟?」

足場が出ている斜面を見ると、そこに穴が開いていた。

先は真っ暗で、何も見えない。

男「外は暑いし・・・とりあえず中に入ってみるか」



ト ←突き出た足場って言うのはこんな感じのイメージ


洞窟は奥に行くほど日差しが差し込まなくなり、真っ暗だった。

男は携帯ランタンをつけて進んでいた。

男「なんなんだろ、この洞窟。生き物の気配がなんにもしねえ」

テクテク

男「っていうか物音が何にもしねえし。俺の足音しかしないとか不気味なんだけど」

テクテク

男「俺・・・かえれんのかな」

テクテク

男「この洞窟どっかにつながってんのかな・・・」

テクテク

男「はぁ・・・・・・ん!?」

どれくらい歩いたか、男がふと気づくと、目の前にわずかだが光が漏れていた。

男「お・・・おぉおお!! やっぱりこの洞窟はどっかに繋がっていたんだ。出口ktkr」

ダダダッ


男「なんぞこれ・・・」

その場所は、出口ではなく洞窟に作られた狭い部屋だった。

天井の部分に穴が開いており、そこから差し込む光が部屋を照らしていた。

部屋の中心にある四角い物体の周りに、様々な物体が置かれている。

男「このでっかい四角は何だ・・・棺おけか? それにこの周りにある変なものは何なんだろう」

ガサゴソ

男「駄目だ・・・全然分からんね。とりあえず持って帰ってミス研で調べてみるか」

男が棺おけを取り囲む物体の一つ・・・埴輪のようなものに触れた瞬間。

バチィッ!

男「いって!! 何今の!? 電流走ったんだけど!!」

・・・

男「触っちゃまずかったのかな・・・俺祟られる?」


男「しかし俺もミステリー研究会の一員として、何も持ち帰らずには行くまい」

ミステリー研究会とは男が大学で所属するサークルである。

男「持ち帰るのは無理そうだが・・・この棺おけだけなら開けられるんじゃないかね」

よく見ると、天井の穴は棺おけの真上に開いている。

まるで、棺おけに日の光を浴びさせるかのように。

男「ふむ・・・棺おけは触ってもバチッとこないな。やっぱこれあけるだけなら平気なのかな」

ギィィィッ

バチイィィイッッッ!!!

男「ぬおあおおあおあおあ!!!!」

蓋を開ける瞬間だけ、男にまた電流が走った。

男「いつつ・・・さっきのより強かったが開けることに成功したぜ」

男「しかし・・・これは・・・」ゴクリ

棺おけの中には、女性が横たわっていた。

着物を着ており、その顔は安らかに死んでいるかのようだった。


男「死んでるのか?」ペチペチ

頬を撫でてみると、氷のように冷たかった。

男「お墓か何かだったのか・・・。やっべ、俺祟られる?」

女性はまったく動く様子はなかった。

男「しかしこの女子・・・いい体をしておる」

男「おっぱい触ってもばれないかな」ムニュムニュ

男「うほっ・・・やわらけえ」

男「・・・・・・・・・・いいよな、ちょっとくらい」

男は女性の着物をはだけさせる。

カチャッ

シコシコシコ

男「はぁ、俺って最低だな・・・」ドピュ

男「あ、やべ。俺の右手こえて顔にかかちゃった。拭かなきゃ」

女「・・・・・・んん?」

男「!?」


棺おけの中の女性が体をむっくりと起こし、伸びをする。

女「ふああ・・・。なんじゃ私は・・・寝ておったのか」

男(なんぞあれ。やばいだろ。普通じゃない。俺のホワイトサンが顔にかかってるって知ったら祟られるだろ。逃げよう)

逃げ出そうとする男。

女「おい、そこの男よ」

男「ヒッ!」

振り返ると、女性が男のほうを物凄い形相で見ていた。

明らかに怒っている。

女「今は西暦何年のいつじゃ。教えろ」

男「い、今ですか? 今は西暦2011年9月16日でございますが・・・」

女「2011年じゃと!?」

ズカズカと棺おけを離れ、男に近づく女性。

そして男の胸倉をつかみ、簡単に持ち上げる。


女「本当に今は2011年なのじゃな!? 間違いないのか!!」

その顔は男の体液つきである。

男「まままちがいありましぇん!! ゆるしてくだしあ!! 呪わないで!!」

女性は男を放り投げると、そのままブツブツ何か一人でつぶやきだした。

男(好機!!)

男はそれを見るとすばやくズボンを上げ、一物をしまい、洞窟の出口を目指して走り出そうとした。

しかし、体が動かなかった。

女「ふむ・・・。眠っている間に少しは回復したようじゃな」

男(なんだ・・・体が動かない)

男は一物をしまおうとする体制のまま固まってしまった。

女「ところでお主は何故そんなお粗末なものを露出しているのじゃ? ここで何をしておった? 答えてみい」

男の口が動くようになった。

男「え、いや、それは・・・」

女「正直に答えろよ。返答によってはお前を殺す」

男「すいません。あなたが美しかったので我慢できませんでした」


その瞬間、男の体が見えない力で壁に放り投げられる。

女「よし、決めた。久々に目覚めた私の食事一号になってもらおう」

男「は、はぁ!? 食事!?」

女「そうじゃ。見れば中々お主、良い体つきをしておる。うまそうじゃの」ケタケタ

男「え、いや、え、食う? どういうこと? 俺、死ぬの?」

女「冥土の土産に教えてやろう。私は妖怪じゃ。あまりにも強大な力ゆえ、ここに封印されておった。
  それをお主がわざわざ解いてくれたのじゃ。その礼と体液をかけた失礼をあわせ、お主を苦しめて殺し、食らってやろう」

男「妖怪!? なにそれ! そんなのいるわけないでしょ!! 都市伝説乙! 見逃してくだしあ;;」

妖怪女「往生際の悪いやつめが」

妖怪女の爪が伸び、男の両肩を刺し、壁に貼り付けにする。

男「ぐああああああああああああ」

男(え、俺死ぬの? 死ぬのか。ああ・・・母さん。俺も今そっちにいくわ・・・)

妖怪女「そうじゃな、まずはお主の目玉を抉り取ってやろうかの」

妖怪女の手が、男の顔に伸びる。


妖怪女「むぅっ!?」

途端に、男の首が光る。

男「これは・・・」

それは男のしていたネックレスだった。

妖怪女「お主、それを一体どこで!?」

男「え、これ? これは俺の家に代々伝わるお守りで・・・」

妖怪女はしばらく考え込んだ顔をした後、男から離れた。

男の肩の痛みがすぐに消える。妖怪女が治療したようだ。

男「なに? 俺助かったの?」

妖怪女「助けたわけではない。その首飾りに私の妖力をほとんど吸い取られたのだ」

男「吸い取った?」

妖怪女「それは退魔具じゃ。そして私と相性が悪かった。
     私はお主がその首飾りを通して妖力を供給してくれねば何も出来なくなった」

男「退魔具? 俺の先祖別に寺の人とかでもないのに?」

妖怪女「どうやら私はお前の先祖とも何か因縁があったのかもしれんな」


妖怪女「まあよい。私はもう貴様に逆らうことが出来ん。どうする」

先ほどの強気な態度とはうってかわった態度。

男「そうだなぁ。それじゃあとりあえず俺を家に帰してほしいんだけど・・・」

妖怪女「ほう?」


先ほどの足場まで戻る二人。

妖怪女「なるほどのう。私が封印されたときとは随分地形が変わっておる。
     この洞窟もこんな断崖絶壁になっておるとは」

男「どうにか降りられませんかね」

妖怪女「造作はない。その首飾りに念じ、私に妖力を送るがいい」

男「え、どうやんの?」

妖怪女「少し私に力を戻すイメージを持つだけで良い。
     全て戻してくれてもかまわんぞ。そうしたら、お主を食らってやるのじゃがな」

男「」ビクッ

男がなんとなく念じてみると、薄緑の光が妖怪女に降り注いだ。

女「うむ、これくらいあれば十分じゃろ」

なんだこの男ブロントさんか・・・支援

因みに岩肌から突き出た所は塙って言うらしいよ


妖怪女が目を閉じて念じると、男と妖怪女をシャボン玉のような幕が包んだ。

そのまま、ふわふわと二人は麓に降り立った。

男「すげえええ!!! 魔法使いなん?」

妖怪女「妖怪じゃ」

男「妖怪ってこんな魔法みたいなことも出来るんだな! すっげええええ」

妖怪女「ふん。私は妖怪の中でも大きな力を持っておったからな。
     それに好きでやっておるわけではない。お主が退魔具で私の妖力を持っているので死なれると困るだけじゃ」

男(ツンデレ?)


サー。
風が二人の頬を撫ぜる。

妖怪女「この山から全く妖気を感じんな。私が封印された頃は、多くの妖怪がいたものだが」

男「妖怪なんて都市伝説だろjk。今の科学世界にはそんなもんいませんよ」

妖怪女「お主の目の前におるじゃろが」

男「確かに。ミステリーだわ」

>>16
???
何か他の作品と被ってた?

>>17
なるほど
ありがとう


妖怪女「今は2011年じゃったな」

男「さいですね」

妖怪女「私が封印されたのは1700年くらいじゃった。
     実にあれから300年たっておるわけじゃが・・・世の中はどう変わったのじゃ?」

男「ええと、そうですね。科学が発達して便利な物が増えましたよ」

妖怪女「さっきからそのかがくというのはなんじゃ」

男「見たほうが早いんじゃないかなあ。俺の家にきますか?」

妖怪女「不埒なことをする気ではなかろうな」

男「しt・・・しませんよ。それにそろそろお昼ですからね。ご飯食べないと」

妖怪女「私は妖怪じゃ。人しか食わんぞ」

男「え、人食うの」

妖怪女「妖怪とはそういうものじゃ。私も今まで何人食ろうたことか」

男「」ブルブルブル

妖怪女「しかし、もうどこからもほとんど妖気を感じぬ。妖怪が消えたというのは本当なのじゃろ。
     安心せい、妖力もほとんど残ってはおらんし、何も人間の迷惑になるようなことはせんよ」


――熊本県、とある町

妖怪女「こ、これは・・・」

男「そんなもの珍しそうに歩かないでくださいよ・・・恥ずかしい」

妖怪女「あれは、あれはなんじゃ!? 何故鉄が動いておる!!」

男「あれは車ですよ。車。早く移動できる乗り物」

妖怪女「ではあれはなんじゃ!? 鳥以外に空を飛ぶものなぞ・・・!」

男「あれは飛行機。人間は空を飛べるようにもなったんですよ」

妖怪女「これは凄いな・・・。なるほど、これでは妖怪は生きられぬわけだ・・・」

男「う~ん、食材買うのも大変そう。俺の家にあるものだけで足りるかなあ」

妖怪女「キョロキョロキョロ」


――男の家

男「カップメンでいいかな」

コンロに火をつける。

妖怪女「なんじゃ! 火がでおったぞ!? まさかお主私の妖力で・・・」

男「そういう機械なんですよ。便利でしょ。あ、テレビでも見ましょうか」

ピッ

妖怪女「な、なんじゃ!! 箱の中に人が!!」

男「テレビですよ。電波をキャッチして映像を受信してるの」

妖怪女「なんとも奇天烈な・・・人間は凄いのう」

テレビ「えーここで次のニュースです。
    先ほど熊本県××市で通り魔事件が起きました」

男「うおー、これ隣町じゃん。近いなーこええ」

妖怪女「とおりま?」

男「まあ犯罪ですよ。噛まれたらしいですね。変な犯人だ」

妖怪女「ふーん」


男「ズルルルル」

妖怪女「このカップメンというもの、美味しくないのう。私はもっと肉が食べたいんじゃが」

男「俺は金欠なんです」

妖怪女「ケチじゃの・・・」


男「はー食った食った。で、これからどうすんですか?」

妖怪女「どうすると言われてもな・・・。なんせ300年ぶりに目覚めたのじゃ。
     どこかに残っておるかもしれん仲間を探し、山でひっそりと暮らすとするさ。
     こんなに人間の力が発達しているのでは、私も適わないかもしれんし、大人しくするさ」

男「でも、妖力は俺が持ってるんですよ?」

妖怪女「むっ・・・何が言いたい」

男「俺と一緒に暮らしませんか?」(フヒヒ、おにゃのこと二人暮らしktkr)

妖怪女「寝ている私の顔に精液をつけた男と共に寝ろというのか」

男「あ、あれは出来心で・・・もうしません」

妖怪女「じーっ」

男「ドキッ」


妖怪女「まあいいじゃろ。妖力がなくとも、人間には負ける気はせんしな。
     私に夜這いしようとしたらその一物切り取ってやろう」

男「」ゾクゾクッ

ピンポーン

男「ん? 誰かきたみたいだ」

ガチャ

女「やっほー男。遊びにきたよ」

男「女か。まああがれよ」

女「ういーっす」

男「ハッ・・・」

見詰め合う妖怪女と女。

女「男・・・誰この人」

妖怪女「ん? そういうお主こそたれぞ? 私は男の・・・いまは僕と言ったほうがいいのやもしれぬな」

女「しっ、しもべ・・・!?」

男「あああああ誤解をうむようなことをおおおおおお」


男「女! とりあえず今日は来てもらってすぐ悪いけど帰れ! な!」

目に涙をためる女。

女「もう二度と来ない! あんた最低!! 死ね!!」

バタン!!

・・・・

妖怪女「私は何かまずいことを言ったかの」

男「まずすぎるわ!!!
  あーもう、家にいて誰か来たら困るしこの辺ブラブラして誰かに見つかっても嫌だし・・・」

ピコーン

男「そうだ! 隣町に行こう!」

妖怪女「おお、外に出られるのか!」

男「ええ。でも、あんま不用意に発言しないでくださいよ。
  あんまりはしゃいでると、俺が不審な目で見られるんですから・・・」

妖怪女「なんじゃ、心が狭いのう」


――駅

男「これは電車といって、移動するための乗り物です」

妖怪女「すごいのう・・・。鉄の塊がこんなに早く動いておるし、人もいっぱいじゃ」

男「文明は発達したんですよ。凄いスピードでね」


ガタンゴトンガタンゴトン

妖怪女「町の風景もすっかり変わったのう・・・。あんな高い建物がいっぱいじゃ・・・」

男「東京に行くともっと凄いですよ」

妖怪女「とうきょう?」

男「日本の首都です。車とビルと人ばっかりらしいですよ」

妖怪女「私の性にはあわんな。妖怪は静かに暮らしたいものなんじゃ」


アナウンス「次は~隣町。隣町~」


男「お、つきましたよ」

十数分席をはずします。


妖怪女「先ほどのまちより大きいのう」

男「まあ熊本県じゃ一番大きいですからね」

妖怪女「ふむ。私も結構まちというものに慣れてきたぞ。
     あれがくるまで、あるがびる、あれはひこうきで・・・」

男「おお、よく覚えましたね」

妖怪女「あの人間のもっているのがけいたいでんわ、そしてあれは・・・」

男「ん・・・? ああ、アレは電波塔ですよ」

妖怪女「でんぱとう?」

男「俺も詳しいことは知りませんが、電波を受信して飛ばす施設? なのかな?
  とにかく高くて、東京には東京タワーとかそういうのがあります」

妖怪女「でんぱとかたわーとかようわからんのう・・・。
     しかし、人間は高くて大きいものを作りたがるんじゃな」

男「そうですね。最近ではスカイツリーっていう634メートルの云々かんぬん」

妖怪女「こいつの話はまったくわからんわ」


妖怪女「むっ・・・」

男「あれがこーでこれがこーでペチャクチャ」

妖怪女「おい、男」

男「どうしました?」

妖怪女「さっきから言おうと思っておったんだが、その敬語やめんか。仮にも私の主ぞ」

男「あ、そう? じゃあ・・・どうした、女妖怪」

妖怪女「かすかじゃが・・・妖の気配を感じた。この近くに何かおるぞ」

男「鬼太郎乙。って、え!? 街中に妖怪がいるの?」

妖怪女「うむ・・・。しかし山に妖気が全くなかったというに、街中に妖気があるとは不思議なものよ。
     どれ、ちょいと妖気を追ってみんか」

男「そうしたら、お前の仲間に会えるのかもしれないんだよな」

妖怪女「そうじゃな。しかし、妖怪は人といがみ合う生き物・・・襲ってくるかもしれん」

男「えー・・。でも、その割にはお前は俺を襲わないね」

妖怪女「その首飾りさえなければな」

男「おーこわい。まあ、とにかくいってみましょうか」


タッタッタッタ

男「こんな裏路地はいるの?」

女「仕方なかろう。妖気はこちらの方向へ消えておるのじゃ。
  しかしなんなんじゃ! びるが多すぎて追跡しにくいぞ!!」

男「んなこと言われても・・・。ってか、こんな裏路地入ったら何がいるかブツブツ」


男「あ」


男たちが路地を抜けると、そこは吹き溜まりになっていた。

そして3人のDQN。

DQN1「お? なんだおめー」

DQN2「ここが俺たちの溜り場だって知ってる?」

DQN3「ちょうどいいや。金置いてけよ」

男「イヤソノアノソノ・・・・すぐ帰りますんで・・・」

DQN1「あぁ!? ここに入ったんだから通行料くらいおいてけよなぁ!?」

DQN2「あんまなめてっと殺すぞテメェ・・・」


男「ブッブヒッ!! やめて!! 」

DQN3「んぁ!? そっちの姉ちゃんはお前の連れか? 中々ベッピンじゃねえか・・・」ジュルリ

妖怪女「なんぞこいつらは。私らは急いでおるのじゃ。邪魔をするでない」

DQN1「急いでおるのじゃ。だっておwwwwいつの時代の人間だよwwww」

妖怪女「宝永じゃ」

DQN2「は?」

妖怪女「じゃから宝永といっておろうが」

DQN3「おいおい・・・宝永っつったら1704年じゃねーか。頭イカれてんじゃねえのか?」

DQN1「さ、さすがはDQN3! 博識だなwwwまあたまには不思議ちゃんを犯すのも楽しいんじゃね?ww」

DQN2「だなだなwww」

妖怪女「何じゃこいつらは。おい、男。行くぞ」

男「いやそのあのその・・・・」

DQN1「じゃあ俺はこの男シメるからwwwお前ら女ヨロシコwwww」

DQN23「ういういーwww」


妖怪女「男よ、こいつらは・・・」

男「うう・・・DQNだよ。不良だよ。俺たちボコボコにされちゃうよ・・・」

DQN1「っるせーんだよ!!」

ドゴォ!

男「いてええええええ」

DQN1「へっ、弱ええwwww死ねやwww」

ガッシボカッ!

デュクシ!

男は顔面ぐちゃぐちゃ。

男「わかったわかった!! 金なら出すよ! だから女妖怪には手を出さないでくれええええ!!!」

DQN1「だーめww」

DQN1が更に男を殴ろうと振りかぶったその右手は、何かにつかまれる。

振り返ると、女妖怪がその腕をがっちりつかんでいた。

DQN1「え・・・?」


ゴキリ。

鈍い音がして、DQN1の腕が妙な方向に折れ曲がる。

DQN1「ぐあああああああああああ!!!!!!!!!!」

女妖怪「脆いのぉ・・・。それに全然反応もできんとは。昼寝していても勝ててしまうわ」フワァ

男「女・・・妖怪?」

見れば、DQN2も3も地に伏せっていた。

・・・しかも、血だまりの中に。

女妖怪「運動にもなりゃせんわ。ここなら人目につかんし、食ってもええかえ?」

男「だ、駄目だ食うのは! ってか、殺しちゃったの?」

女妖怪「殺してはおらんよ。まあ、もう普通の生活は送れぬだろうがな」ケタケタ

男「」ゾクゾクッ

男(なんだよこいつ妖力なしでも強すぎじゃねえかうわいつか俺殺されるのかやばいやばいやばい)

女妖怪「まあ良い。さっさとゆくぞ。追っている妖気が薄いから、道草食ってると消えてしまう」

男「ま、まってくれよ!!」


それからいくつも路地を抜けると、古いお屋敷に着いた。

ビル群の中には似合わないむき出しの木造建築物で、あちこちの木が腐っている。

男「路地裏にこんな建物があるとは・・・」

女妖怪「この中じゃな。入ってみるぞ」

男「大丈夫なの? なんか凄い物々しいけど・・・
  それに人住んでるかもしれないよ? 法律で不法侵入が云々」

女妖怪「心配ないじゃろ。人間の気配は感じぬ。
     まあお主はわしにいつでも妖力を供給できるようにしておけよ」

男「うん・・・」

女妖怪が屋敷のドアを開き、中に入る。

誇りっぽいにおいが舞い、男は咳き込んだ。

女妖怪「おい。誰かおるのか」

返事はない。屋敷の中は電気もなく、真っ暗だった。

静寂が続く。

女妖怪「奥へ行くぞ」

男「まじか・・・」


玄関から大広間を抜ける。

たくさんのドアに目もくれず、女妖怪はそのうちの一つを開き、どんどん進んでいく。

男は携帯カンテラを手に持ち、その後をびくびくしながら進んでいった。

男「前見えるの?」

女妖怪「私は鳥ではないぞ。それに、気配だけあれば十分じゃ」

男「へえ・・・」


しばし、静寂。

女妖怪「なあ」

男「はい?」

女妖怪「お主、私が怖いか」

振り返らず、どんどん足を進めながら問いかける女妖怪。

男「そりゃあね・・・妖力なしでもあんなに強いし。
  暗闇でもすいすい進んでいけるし、すげえけどちょっと怖いわ」

女妖怪「そうじゃな・・・。すまぬ、今のは忘れてくれ」

男「ん・・・?」


やがて足を進めると、地下にたどり着いた。

階段からは一本の通路が伸びており、先は見えない。

女妖怪「ここに下りてから妖気が一段と強くなりおったな。
     男よ、私に妖気を戻せ」

男「ど、どのくらい?」

女妖怪「全てじゃ」

男「え、全部!? それはちょっと・・・」

女妖怪「安心せい。お主の意思でいつでも私の妖力は首飾りに戻せる」

男「そうなの? っていうかそんな事わざわざ教えてくれるんだ」

女妖怪「仮にも私の主じゃからな」

男「仮なのね・・・」

女妖怪「私の言うことが信じられんか?」

男「いや・・・それは・・・。ってか、戻った瞬間俺殺したりしない? 大丈夫?」

女妖怪「ごちゃごちゃうるさい奴じゃ! そんなに不安なら4分の1程度でいいわ!!

男「そうしとく・・・」


ホワァァァ。

女妖怪「うーむ。まあ、この時世に私の半分にも及ぶものもおらんだろうし、問題ないじゃろ。よし、行くぞ」

男「うん・・・」

男(ひょっとして俺、とんでもないものを復活させてしまったんじゃ。
  これって下手したら人類滅亡の危機だよね・・・あーどうしよどうしよこれから先)

タッタッタ。

足を進めると、やがて一つのドアがあった。

女妖怪は躊躇せずにそのドアに手を伸ばし、開く。

その向こうは電気のついた明るい部屋になっていた。

やはり腐った木がむき出しの部屋で、家具などはほとんどない。

ただ椅子が一つおいてあり、その上に猫がいた。

その尻尾は、二本。

男「普通の猫じゃない・・・」

空気がぴりぴりと張り詰めるのが、男にも分かった。

しばらく離れます。


女妖怪「猫又か」

猫又とよばれた猫が女妖怪に近づいていく。

男「何が始まるんです?」

男が目を話した瞬間、猫又が人に化けていた。

その姿は、そこらへんにいそうな大学生みたいだった。

ちなみに女妖怪は着物きた長髪クーデレみたいな感じ。

猫又「あなたは・・・」

女妖怪「ほう、私を知っているのか。
     どこかで会ったことがあったかの?」

猫又「会ったも何も・・・あなた、確か300年前に封印された女妖怪様じゃないですか・・・」

女妖怪「んん? 封印される前の私を知っておるのか?
     今日目覚めたんじゃが記憶がおぼろげでの」

猫又「私はあなたの僕・・・っていうか、ここら一体にいた妖怪はみんな貴女の僕だったじゃないですか」

男「女妖怪ってそんなに凄かったんだ・・・」

猫又「ムッ・・・ところで女妖怪様、こやつは一体・・・」

女妖怪「ああ、私の主(仮)じゃ」


猫又「冗談ですよね・・・? 人間が主・・・!?」

女妖怪「冗談ではない。私の力を奴の持つ退魔具に吸い取られた」

猫又「女妖怪様ほどの力を吸う退魔具!? そんなものが、まだこの世の中にあったとは・・・」

男(そんなにすげえんだ、この首飾り・・・。確かに先祖代々のものだったけどさ)

猫又が男の体をじろじろ見る。

男「な、なんすか?」

猫又「ふむ・・・。信じがたいが、お前が女妖怪様の主だというなら、私も貴様の僕となろう」

男「え」

猫又「ただし。私が従うのは貴様でなく女妖怪様だ。覚えておけ」

女妖怪「良いのか、猫又」

猫又「妖怪とはそういうものでしょう」

女妖怪「ふむ・・・。ならばよい。
     ところで猫又よ、お主はこの300年ずっと生きて過ごしたのだな」

猫又「ええ。ずっと生きておりましたよ」

女妖怪「私が封印されてからのことを詳しく聞かせろ」


猫又「300年も前のことですからね。私も詳しくは覚えていませんが」

女妖怪「覚えている範囲でよい」

猫又「では」


今から300年前、大きな飢饉があった。

飢饉は人里に近づくことを退けられ、山で木の実や獣を食らっていた妖怪にも影響があった。

妖怪は人里に下り、人間を食うことにした。

その途中、強力な退魔師との戦いになり、多くの妖怪が死に、敗れた女妖怪は封印された。

頭である女妖怪の封印は周囲の妖怪にも影響を与え、妖怪は日に日に姿を消した。

飢饉でのたれ死んだ者、自ら命を絶った者、人間に敗れた者、多くいた。

やがて飢饉は終わり、文明も発達し、山々は切り崩される。

山に隠れていた妖怪の多くも駆逐された。

猫又は女妖怪が封印された後、すぐに逃げ、各地を転々としていた。




猫又「今では生き残っている妖怪なんてほとんどいませんよ。
    退魔師の生き残りとか結構いますからね。そういうやつはまだ私たちを駆逐したがってます」

女妖怪「そういえばそんなこともあったな・・・。
     しかし猫又よ、お主よく生き延びられたな」

猫又「私は見た目で得をしましたね。妖気を感じられない人間の下、猫の姿で長い月日を生きました。
    その屈辱たるや・・・」

女妖怪「屈辱か・・・」

猫又「女妖怪様?」

女妖怪「猫又よ・・・。今でも人間が憎いか」

猫又「当然でしょう! 奴らは私たちを追いやりました。
    今でも殺したいほど憎いですよ。まあ、変な事は出来ませんから、町に出てたまに思い切り人間に噛み付くくらいですけど」

男(もしかしてさっきテレビでやってた通り魔事件ってこいつ?)

ギロリ。

猫又「おい人間。お前は何故女妖怪様の妖力を吸い取る退魔具を持っていた」

男「え、いや。これは先祖代々のお守りで・・・」

猫又「ふん。貴様からは全く力を感じんが、貴様の先祖が退魔師のようだな。今すぐ殺してやりたいぞ」

男「」ブルッ


女妖怪「そう熱くなるな、猫又よ。とりあえず、色々聞くことが出来て助かった」

猫又「いえ、女妖怪様のためなら」

女妖怪「すまんな、私はお主を覚えていなかった」

猫又「多くの部下を抱えていたから当然ですよ。まあ、あの時代の生き残りはもう私くらいでしょうが」

女妖怪「しかし既に人化できるとなるとかなりの妖力だな。あまり目立つ行動はするなよ」

猫又「当然です。でもまあ、隠した私の妖気を追って来る事が出来るのも、女妖怪様くらいのものでしょう」

男「あの・・・」

猫又「なんだ人間」

男「結構力あるみたいだけど・・・悪さ・・・しないの?」

猫又「私一人で何が出来る。いくら妖気を隠そうとも、人間を殺せばすぐに退魔師に感づかれる。何もしないのではなく、できないのだ」

女妖怪「もはや人間は我らを遥かに超えたらしいな。ハハハ・・・妖怪も堕ちたものよの」

猫又「女妖怪様・・・」

女妖怪「男よ、帰るぞ」スクッ

男「え、ああ・・・いいの?」

女妖怪「まさか目覚めたその日に仲間と会えるとは思わんかった。今日は満足じゃ」


女妖怪「猫又よ。お主も来るか?」

猫又「どこへです?」」

男「俺の家・・・だけど」

猫又「女妖怪様・・・人間と居住を共に?」

女妖怪「こんな世の中じゃ。人間のことを知るのも悪くなかろう」ケタケタ

猫又「女妖怪様・・・。私は、遠慮します。何かあればお呼び下さい」

女妖怪「そうか、わかった。では行くぞ、男」

男「あ、ああ・・・」

タゥタッタ・・・・

猫又「女妖怪様」

女妖怪「なんじゃ」

振り返らずに答える。

猫又「貴女は、300年前・・・誰よりも人間を嫌っておりました。何かあったのですか?」

しばらく、間をおいて

女妖怪「・・・何もありゃせんよ。妖怪は弱くなった。だから、環境に順応するだけじゃ」


――男の家

男「ふうー食った食った」

女妖怪「すごいのぉ。今はこんなに豪華な飯が食えるんじゃな」

男「豪華かな? お米に、タイムセールで買った牛肉に、お惣菜の野菜だよ?」

女妖怪「米を食うのも困難じゃった時代じゃ。人間はすごいのぅ・・・」


男「なあ女妖怪。お前は・・・人間をどう思ってるの?」

女妖怪「・・・わからん。目覚めたばかりで、あまり記憶がないもんでな。
     だが何故か・・・そこまで憎くは感じんのじゃ。何故じゃろうなあ・・・」

男「そっか・・・」

女妖怪「では逆に、お前は妖怪をどう思う」

男「そりゃあ・・・そんなもん本当にいるとはおもわなかったから、ビックリ。
  それに、人間を憎んでるのも多いみたいだし、お前も強いし・・・ちょっと怖い」

女妖怪「そりゃそうじゃな。やっぱり、怖いよなぁ・・・・」

男「・・・女妖怪?」


女妖怪「それより、寝床はどこじゃ。眠いぞ」

男「あ、いや。でもその前に風呂に入らないと」

女妖怪「風呂? そんなもの、明日山で川にでも入ってくるわ」

男「いやいや、今はちゃんとした風呂が・・・。あ、でも俺と一緒に入るのはまずいよな・・・えっと・・・」

女妖怪「何がまずいのじゃ」

男「俺は男、お前は女だろ。その、裸になるのはまずいだろ・・・」

女妖怪「何じゃお前、恥ずかしがっておるのか?」

男「当たり前だろ!! それに服もないし・・・。あ、そうだ」

ピポパポ

男「あー、女か? 悪いんだけど、ちょっと服と下着もって来てくんね?
  え? いや、ちげえよ! 俺が欲しいわけじゃねえし!! ほら、今日家にいた・・・。
  いや、恋人じゃねーから!! 誘拐もしてねえよ!! いいからはやくきてくれって!! んじゃ!」

女妖怪「けいたいでんわか。本当にそんな板に話しかけて人がやってくるのか?」

男「きますよ!! ってちょ、ここで服脱ぐなって!! おい!!」


――風呂

女「えーと、女妖怪さんでしたっけ」

女妖怪「そうじゃが」

女「男とはどんな関係なんですか」

女妖怪「どうって・・・僕と言ったじゃろ」

女「だ・か・ら!! 僕とか意味不明なこと言ってないで本当のこと言ってください!」

女妖怪「何にも嘘いってないんじゃがな・・・」

ゴシゴシ

――――

男『いいか、女にはお前が妖怪だってこと言うなよ!』

女妖怪『何故じゃ?』

男『怖がるだろうし、信じてくれないだろうし、面倒なことになるだろうからだよ!』

――――

女妖怪(めんどくさいのう・・・)


女妖怪「しかしお主、ひんそーな体じゃのう」

女「なっ!!」

女妖怪「この時代は食べ物は豊富なのに、栄養が不足しておるのか?」サワサワ

女「どこ触ってんのよ!! 大体あんたみたいなスイカつけてる方がムカつくのよ!!」ゴシゴシ

女妖怪「スイカとな・・・。面白い表現じゃな」ケタケタ

女「なんなのよこいつ。ムカつく・・・私から男を寝取ろうとしてるのかしらブツブツ・・・・」

湯船につかる二人。

女妖怪「しかしのう。そのしゃわぁというものやしゃんぷぅというものは凄いのう」

女「はぁ?」

女妖怪「ん・・・ああ、いや。なんでもない。独り言じゃ。
     では、そろそろあがるかのう」ザバァ

女「・・・変な人」

なんで二人でふろはいってんだ


その後、女の下着が女妖怪はきつくて入らないとかなんやかんやあった。

結局、男が近くのデパートに女妖怪を連れて色々買って来た。


―――男の家

女妖怪「でぱぁとは凄いのう!! 見たことのないものがいっぱいじゃった!」

男「そうですか・・・。俺はもう疲れたよ・・・。女には散々怒鳴られるし、女性下着とか服とか買わされるし・・・」

女妖怪「しかしあの女とやら。何か私に対して怒っておったようだが・・・」

男「あんま気にしないで。普通男の家に女がいたらそういう反応するもんですから」

女妖怪「私はお前の家におらんほうがいいんじゃないのか?」

男「いや、そんなことは断じてない」



女妖怪「それは・・・下心か?」

男「え?」

女妖怪「お主が私を家におくのは、下心かと問うておるのじゃ」

SSって凄い時間くうのな。
なめてたわ。
今日中には終わらせたかったが無理かも。
昼飯食ってくる。

>>64
女妖怪は風呂の使い方分からないから。


男「やだなぁ・・・下心なんてこれっぽっちも・・・」

女妖怪「寝ている私の顔に精液をかけていたではないか」

男「それは・・・シンジ君だってそうしてたし・・・」

女妖怪「・・・私が怖いのではなかったのか」

男「え?」

女妖怪「・・・」

男「そんなこと気にしてたのか・・・」

女妖怪に近づき、肩をポンと叩く。

男「今日一日お前といて分かったけど、お前悪い奴じゃないし。
  猫又も何だかんだ人間と一緒に暮らしてきてたみたいじゃん?
  まあ確かに最初は怖かったけどさ、今ではそうでもないっつーか・・・。
  はは、俺順応性高いからさ」

女妖怪「・・・単純なやつめ」ケタケタ

男「それに俺はお前の主(仮)なんだろ?
  なら、僕の面倒見るのが当然だろ?」(えっちなこともしたいです)

女妖怪「そうであったな。うむ、その仮をとれ。今日からお前は私の主じゃ」

男「へへ、了解しました」(猫又ちゃんの俺の僕、こいつも俺の僕、フヒヒwwww)


その日は、それから深い眠りに落ちた。

なんとなく、首飾りをしたまま寝た。


不思議な夢を見た。

そこは昔の日本のようで。

俺は空の上からそこを眺めてるみたいだった。


「――まッ!!」

「――ぃ!!!」

誰かが言い争うような声が聞こえた。

姿は見えない。


家が燃えている。煙が立ち込めている。人々が逃げ戸惑っている。

何が起こっているのか。まったくわからない。わかるはずもない。

ただ何故か、凄く懐かしかった。


――1、了




男「ふわぁ・・・」

日がさんさんと部屋に差し込んでいた。

男「女妖怪ー・・・」

横の布団を見る。

そこには誰もいなかった。

男「えっ!?」

眠い目をこするまもなく、男は飛び上がった。

男「女妖怪!?」

慌てて家の中を探し回るが、女妖怪の姿はなかった。

男「おいおい冗談だろ・・・!?
  せっかくこれから俺のハーレm・・・じゃなくて・・・」

キョロキョロ

男「昨日女妖怪のこと怖いって言っちゃたこと・・・気にしてたのかなあ」


男「どうすっかな・・・夏休みだし、探す時間はあるし・・・探すよな」

テレビのリモコンに手をやる。

ピッ。

テレビ「昨夜午後4時ごろ、熊本県××市で男性3人が重症で発見された模様です!!
    内二人はわき腹を鋭利な刃物のようなもので刺され、一人は右腕を複雑骨折しているそうです。
    警察はこの前の通り魔事件と何か関連があると見て云々・・・」

男「げーっ・・・、これ昨日の女妖怪がやったあれじゃねえか・・・」

テレビ「では現場と中継が繋がっています。現場のアナさーん?」

アナ「はい、現場のアナです。私は事件があった路地の手前にいます」

男「あー、そうそう。丁度ここで・・・・ん?」

現場中継のカメラ。

アナウンサーの後ろを通り過ぎる人々。

そこに、立ち入り禁止のテープで閉鎖された路地を超えて進入していく一人の女性の姿。

男「お・・・女妖怪!!?」

男は慌てて家を飛び出した。


電車に乗り込む男。

男「アイツ一人で電車に乗れるとは思わないし・・・歩いていったのか」

「次は~隣町」


タタタッ

男が路地に着くと、やはり立ち入り禁止のテープが張られていた。

まだ報道陣もいて、中に入るのは無理そうであった。

男「どうすりゃいいんだ・・・」

悩んでいる男の背後に、影。

??「おい」

男「!?」

振り返ると、そこにいたのは一人の女性。

男「猫・・・又?」

猫又「何しに来た。ってか、女妖怪様はどうした」

男「いや、それが・・・」


―――
――


猫又「女妖怪様がこの辺りに?」

男「そうなんだよ。てっきり、お前のところに行ったんだと思ってたんだが」

猫又「ふーん。私も散歩して今帰りだからね。家行こうか」

男「え? でもほらさ、規制が・・・って女妖怪はなんで入れたんだろ」

猫又「女妖怪様ほどの方にかかれば、気配を消すなんて造作もないことだろ。
    たぶん、主のお前じゃなきゃ気づけないよ」

男「あ、そうなの・・・。で、俺たちはどう入るの?」

猫又「ここを抜けなくても道はある。ついてこい」


――猫又ハウス

男「いない・・・な」

猫又「本当にこっちに来たのか?」

男「そのはずだけど・・・。ってか、お前は女妖怪の妖気とかたどれないの?」

猫又「あの方は凄いって言っただろ。私みたいな400年くらいしか生きてない妖怪じゃとても追えない」

男「え、お前って400年生きてんだ・・・」

猫又「女妖怪様は1000年以上生きておられるぞ:

男「まじぱねぇわ」

猫又「とりあえずここにいても埒があかん。
    お前と行動するのは気に食わんが、この辺りを探してみるぞ」

男「わかった。あとさ、一応俺お前の主なんだから男様ってよんでほしいなぁ・・・」

猫又「あ? チンポ噛み切られてえのか?」

男「すいませんでした」


それから二人はいろいろな所を捜し歩いた。

狭い路地、繁華街、池とかまあ色々。

でも、女は見つからなかった。

時刻は既に、正午になろうとしていた。


男「いねえなあ・・・。ってかアチィ・・・」

猫又「っつーか、妖気全く感じないし。私が鈍いのかもしれないけど、本当にこの町にいんのかね」

男「間違いなくテレビで見たんだって。報道カメラの後ろスーッて」

猫又「お前が嘘ついてるようにも思えないし・・・・・・・ん?」

突然、鼻をヒクヒクさせる猫又。

男「どうした?」

猫又「本当に微かだが臭う・・・妖気だ。だが、女妖怪様のものじゃない」

男「え? 女妖怪じゃない?」

猫又「熊本にもう妖怪はいないと思っていたが・・・行ってみるか」


たどり着いたのは、古い空き家だった。

郊外にひっそりと佇んでいる。

猫又「ここから臭うな」

男「おいおい・・・。大丈夫なの?」

猫又「妖気は弱い。しかも隠したわけじゃなさそうだ。雑魚だろう」

男「そんな雑魚が良く生き残ってたな」

猫又「全くだな。弱すぎて追うのが大変だったが、その内感づいた退魔師が来るかもしれん」

男「ええー。じゃあ早く女がここにいるか確かめないと」

空き家に入ろうとする男。

猫又「いや、中じゃない。こっちだ」

庭へ行く猫又。

着いたのは古ぼけた倉庫の前。

女妖怪「お?」

女妖怪が、いた。


男「探したぞー。何やってたんだ?」

女妖怪「いやの。微かだがまた妖気を感じたので来てみたのじゃ」

猫又「町一つ離れててもこの妖気を追えるとは・・・さすが女妖怪様」

女妖怪「猫又も一緒じゃったか」

男「で・・・何かいたの?」

女妖怪「ああ。これがおったぞ」

女妖怪の手にはほうきがあった。

男の目にはただのほうきにしか見えない。

男「ほうき?」

猫又「なるほど、付喪神ですか」

男「なにそれ?」

女妖怪「付喪神とは、長年人に忘れられ放置された物が妖怪化したものじゃ」

男「え、じゃあそのほうき妖怪なの?」

女妖怪「まあの。しかし、生まれたばかりじゃ。害はなかろうに」


猫又「妙です」

女妖怪「どうした、猫又?」

猫又「私はこの町で長く暮らしましたが、100年ほど前から付喪神がでたことはありません」

男「よく考えたら、古いものがその・・・つくねがみ?になっちゃったら世の中つくねがみだらけだもんね」

女妖怪「つくもがみな」

猫又「妖怪が廃れていったので付喪神も出現しなくなったと思っていましたが・・・。
   女妖怪様が復活なさった翌日に、付喪神・・・ふむ・・・」

女妖怪「私のせいか?」

猫又「女妖怪様の妖力は強大です。そこの男に吸い取られてもなお、あなたの威厳はすさまじい。
   もしかすると、貴女様が目覚めたことで、この辺りの妖怪が次第に目を覚まそうとしているのでは・・・」

女妖怪「私はそんなに偉大だったかのう。どれ、男よ。私に少し妖力を戻せ」

男「え?」

女妖怪「そこの付喪神に話を聞くのじゃ。ただし、ここに留まるのは危険じゃ。場所を移すぞ」


とりあえず昨日女妖怪に会った山にいくことにした。

その途中のこと。


??「あれ、男じゃん」

男「おお、友! そういやお前隣町に住んでたんだったな。こんなところで何してるん?」

友「散歩だよ散歩。天気もいいし、夏休みだしな。ところで男・・・お前は何してるの?」

男「え?」

後ろには女性二人。

男の手には、ほうき。

男「あ・・ああ~。実はいとこの姉さんと妹がきてね。
  それでこれから、ボランティアで山の掃除に・・・な、二人とも」

女妖怪「あ、ああ・・・。そうzy・・・そうね。男のいとこの姉です」

猫又「男のいとこの妹です」

友「へ、へえ・・・。わざわざ隣町までごくろうなこったねwwwんじゃまたな」

そのまま、海のほうへ歩いていく友。その顔が、一瞬こちらを向いた。

女妖怪「む・・・?」


猫又「誰が妹だコラ」ボカッ

男「いてえ。仕方ねえだろ俺にもリアルってもんが」

女妖怪「・・・・・・・」

猫又「女妖怪様?」

女妖怪「ん。なんでもない。お、ついたようじゃな」

山の麓に到着した。

人気はない。

女妖怪「では男、妖力を戻せ」

男「どのくらい?」

女妖怪「少しで良い」


ホワァ

女妖怪「では、この付喪神に口をつける」


ほうきが光って、口がついた。


ほうき「なんすか。俺どうなるんすか」

女妖怪「心配せずとも少し話を聞くだけじゃ」

ほうき「まじっすか・・・。まあいいっすよ、なんすか」

猫又「おい貴様、口を慎まんか!! この方を女妖怪様と知っての態度か!!」

ほうき「ちょ、おこんないでくださいよ、俺女妖怪様とかしらねっすマジパネェ!!」

女妖怪「落ち着かんか猫又。さて、まず貴様・・・何故生まれた?」

ほうき「なぜといわれましても・・・・」

女妖怪「妖怪となって生まれたのじゃ。記憶はあるじゃろ」

ほうき「うーん。俺はあの家で昔使われてたんす。
    でも・・・100年くらい前かなあ。使われなくなって、ずっと倉庫にいたっす」

男「それでそれで」

ほうき「今朝、誰かが外を歩く音がしたっす。あ、そこの女妖怪様の2時間くらい前っすかね。
    気づいたら、俺は何故か動けるようになってたっす」

猫又「む・・・? 自然発生の付喪神ではないのか?」

ほうき「よくわかんないっす」


猫又「どうやら女妖怪様の影響とかではないようですね」

女妖怪「しかし、自然発生以外で物が妖怪になるのか?」

猫又「聞いたことありませんね」

男「100年たってれば例外もあるんじゃない?」

女妖怪「そうかのう。それに、外を歩いてた誰かというのが気になるのう」

猫又「おいほうき。何か覚えてないのか」

ほうき「えええ。あーでも、そういえば」

女妖怪「なんぞ?」

ほうき「ビップ森が云々言ってたっす」

女妖怪「ビップ森?」

男「ここからすぐ近くの森だ」

猫又「行ってみますか?」

女妖怪「そうじゃな・・・。ほうきよ、お主も来るのじゃ」

ほうき「足ないっすから持って行ってくださいね」


――ビップ森

男「結構深く入ったけど、何もないね」

猫又「本当にここなのか?」

ほうき「って言ってた気がするんすよねぇ」


女妖怪「む・・・」

突然、振り返る女妖怪。

猫又「どうしました、女妖怪様?」

女妖怪「まて・・・。何か妙な力を感じる」


女妖怪がそういった瞬間、空気が張り詰める。

次の瞬間、視界がモノクロになり、キーンという耳鳴りのような音を男は感じた。


男「お、おい・・・なんだこれは・・・」

猫又「ぐっ・・・頭が・・・」

女妖怪「はめおったか!!! 男、今すぐ私に妖力を全て戻すのじゃ!!!」


ほうき「ケケケケ。全く、まんまとかかってくれるとは思わなかったっすよwww」

猫又「ほうき、貴様いったい!?」

ほうき「ほうき様、だろうがよぉ!!」

近くの木の枝が伸び、猫又わき腹を突き刺す。

鮮血が飛び散り、猫又が絶叫する。

女妖怪「お主、憑依妖怪じゃな!?」

ほうき「さすがは女妖怪。知ってますよねwww」

女妖怪「ぬかしおって・・・。私らはまんまとお主のふぃいるどに釣られたわけか」

男「で、でも・・・妖怪はほとんど駆逐されたんじゃ・・・」

ほうき「駆逐された? ハッ、そんなことないっすよwww
    確かに多くの同胞は死にました。でも、みんな息を潜めてるだけっす。復讐の機会を狙ってるんすよwww」

猫又「なんだと・・・ぐっ!」

ほうき「300年前にあんたが封印され、俺はこの森に逃げ延びました。
    それからひっそりと力をつけ、いつか人間に復讐してやろうと思った・・・。
    だが、強い妖怪がいれば強い退魔師がつく。この町には、今も強力な退魔師がいる。
    低位の憑依妖怪がいくら力をつけようとも、そいつにゃかなわねえっす。
    そんな折、昨日・・・凄まじい妖力が放出されるのを感じた。あんたが復活したとすぐわかったっす」


ほうき「だが、あんたは人間に妖力を吸われ、主にしている。気に食わねえんすよ。
     だから俺があんたの体を乗っ取って、人間に復讐してやることにしたんだ」

猫又「私とてそれは気に食わん・・・だが、お前で女妖怪様に適うとでも?」

ほうき「俺だけじゃないっすよ?www」

周りを見ると、木々がざわめいている。

モノクロの世界で揺れ動く木々は不気味でだった。

男「こんなことをすれば、すぐに退魔師が来るだろう!」

ほうき「へっ、だから俺はお前たちをここにおびき寄せて、結界をはったんすよwww
    この結界がある限り、おそらく俺たちの気配に誰も気づくことはないっす。
    それに・・・俺以外にも、力をつけて潜んでいた妖怪がたくさんきてるんだ・・・あんたなんかイチコロだぜ!!」

揺れ動く木々がいっせいに伸び始める。

その矛先は、間違いなく結界の中にとらわれた三人を狙っていた。

女妖怪「!!」

次の瞬間、女妖怪が猫又と男を抱え、跳躍した。

迫る木々を全て肘と足で切り払い、ほうきと距離をとる。


女妖怪「なるほど、全て憑依妖怪か。確かに実態をもたぬお主らなら、ひっそりとしていれば生きられるわけだ」

ほうき「へへ。悪いっすか。でもね、そんな弱い憑依妖怪も100以上いりゃあんたにだって勝てるだろ!!!」

女妖怪「甘く見られたものじゃな・・・」

女妖怪は猫又と男を自分の背後に放り投げる。

猫又は先ほど貫かれたわき腹を押さえ、朦朧としていた。

女妖怪「男よ。しかと見ているが良い」

ほうき「余裕こいてんじゃねーぞゴルァアアア!!」


沢山の鋭利な石が浮き立つ。

木々がその矛先を女妖怪に向ける。

包丁、ドライバー、テレビ・・・様々な投棄物が浮き上がり、女妖怪を狙う。


だが、女妖怪は笑っていた。

女妖怪「数をもってして私に適うと思ったこと、後悔するが良い」


ありとあらゆる物体が一斉に女妖怪を目掛けて襲い掛かる。

その瞬間、女妖怪の両手の爪が意思を持ったかのように自在に動き回り、それらを全て切断していった。

ほうき「なっ!?」

ありとあらゆる物体は爪に触れただけで切断され、粉々になる。

猫又「物体と同時に中の憑依妖怪自体も切断している・・・凄まじい・・・」

女妖怪は一歩もその場から動いていない。

なのに、前、右、左・・・後ろも上も下も、どこから何が来ても10本の爪が臨機応変に動き回り、全てを粉砕した。

後に残ったのは、ほうき一本のみ。


ほうき「ヒ・・・ヒィィイィィィィ!!!!」

女妖怪「並みの妖怪では私に触れることすら出来んじゃろうに。
     せっかく長い時を生きてきたのに、もったいないことをするのう・・・」

女妖怪は、ケタケタと笑った。

ほうき「ゆるしてくれ・・・俺はただ人間に復讐を・・・」

女妖怪「ふむ・・・。では、私の質問に素直に答えよ。そして改心すれば、見逃してやらんこともない」


ほうき「何だ・・・何を聞きたい」

女妖怪「生き残っておる妖怪はどのくらいおる」

ほうき「実体を持つ妖怪はほとんど死んだっす・・・。生き残っているのは本当にそこにいる猫又くらいだと思うっす・・・。
    憑依妖怪は何体か残ってはいたけど、ほとんどは今ここで死んだ・・・。もうこの地域に妖怪はいないっすよ・・・」

女妖怪「では、ここ以外にはおるのかえ?」

ほうき「ここ以外?」

女妖怪「とうきょうとかそういうところじゃ」

ほうき「わ、わからんっす。ただ本州は都市化が進んだ場所が多いから、ほとんどいないと思うっす・・・。
    でも、もしかしたら強い妖怪のいなかった地域では、人目に付かないとこで生き残ってるかもしれないっす・・・」

女妖怪「そうか。ではもう一つ。この地域の退魔師はそんなに強いのか」

ほうき「強いっす。めちゃくちゃ強いっす。だって、あんたを封印した退魔師の子孫っすよ」

男は、自分のもつ首飾りを見る。

女妖怪「お前ではない。私を封印した退魔師は、お前の先祖ではない。それは確実だ」

男「そうなんだ。じゃあこれは一体なんなんだよ・・・」

ほうき「他には何もないっすか・・・?」

女妖怪「・・・・最後にもう一つ。お主のように、人間へ復讐を考える妖怪はまだおるだろうか」


ほうき「・・・・そりゃ。俺たちは多くの同胞を人間に殺され、追いやられたっす。
    人間に復讐を考えないよう会を探すほうが難しいっすよ。きっと。
    もし妖怪がまだ生き残っていたら、虎視眈々と人間への復讐を狙っていると思うっすよ」

女妖怪「そうか。それだけ聞ければもう用はない」


女妖怪が立ち上がり、ほうきに背を向け、男たちのほうに向き直る。

その瞬間、空を割く音。

見れば、ほうきがバラバラに切断されていた。


男「え・・・見逃すんじゃなかったの?」

女妖怪「仮にも私に憑こうとしていた。殺すべきじゃ」


ほうきが死に、結界が解かれる。

モノクロの空間が元に戻り、晴れ渡った空が見えた。



女妖怪「・・・男よ。私の妖力を戻さなくていいのか?」

男「え、あ、ああ・・・」


呆けてしまっていた男は、慌てて妖力を首飾りに戻す。


女妖怪「しかと見ただろう。あれが妖怪の力じゃ。恐ろしかろう。
     私はあれで、実力の10分の1も出しとらん・・・。どうじゃ、恐ろしかろう」

男「・・・女妖怪?」

女妖怪「やはり、人間と妖怪が共存してはいかんのかもしらぬな・・・。
     人間はこの力に恐れおののき、また私たちを駆逐しようとするであろう」

猫又「共存? 女妖怪様、何をおっしゃっておられるのです?」


女妖怪は、寂しげな顔をした。


女妖怪「私はバケモノじゃ。人々に忌み嫌われた、恐怖の象徴じゃ。妖怪の頭じゃ。
     それが人間に現を抜かすとは・・・間違っているのは明らかに私なのじゃ」

猫又「女妖怪様、封印される前・・・何かあったのですか?」


女妖怪「気にするな、猫又よ」

そのまま、森の奥へ足を進めようとする女妖怪。

男「お、おい! どこ行くんだよ!?」

女妖怪「やはり私は妖怪じゃ。森でひっそりと暮らすのが性にあう。
     お主はその首飾りを私が封印されていた棺に戻すが良い。そして、昨日と今日のことは忘れるのじゃ」


女妖怪はそのまま森の奥深くへ行こうとする。

ばつが悪そうな顔で、猫又もその後に続いた。


男「ちょっとまてよ!!!」
  

男「俺はお前が妖怪だとかそんなこと気にしてねえよ!!
  むしろ俺はワクワクしてたよ! いつもと変わらない日常に飽きて、ミステリー研究会とか入ってた!
  だからお前と会ったとき、正直うれしかったよ!!」

女妖怪「嘘をつけ・・・足が震えておるぞ」


男の足は、ガクガク震えていた。


男「これは・・・」

女妖怪「無理をしなくていいのじゃよ」


女妖怪「それでは、さらばじゃ」


歩き出した女妖怪の動きが止まる。

男の両腕が、女妖怪を背後からがっちり抱きしめていた。


男「1週間・・・1週間で良い!! 俺と一緒に暮らしてみろよ!!
  それで、人間との共存がやっぱり無理だと思うなら山に戻ればいいさ!
  だけど、きっとお前のこと分かってくれる人間だっていっぱいいるって!!
  特に俺と同じミス研のやつは保障する!! だから・・・もうすこし待ってみろよ!!」


女妖怪は、ニヤリと笑う。


女妖怪「下心か?」

男「ちげえよ!! 俺はお前に命を助けてもらった。お前は嫌ってるはずの人間を守ってくれた!!
  まだ会って2日目だけど、お前のこと何か凄く信用できる!
  それに俺はお前の主だぞ! 主の言うこと聞け!!」


猫又「おい、いい加減にしないか」

男の体は猫又に引き離され、放り投げられた。

猫又の傷は、もう癒えていた。


猫又「さあ、女妖怪様。行きましょうか」

女妖怪「いや・・・」


女妖怪「気が変わった。男よ。今日より1週間、お前の家で再び世話になるぞ」

猫又「女妖怪様・・・本気ですか?」

女妖怪「猫又よ。いつまでも人間といがみ合っても仕方ないのじゃ。
     私はできれば人間と共存していければ良いと思っておる」

猫又「しかし女妖怪様・・・。貴女は本当に女妖怪様ですか?
   私の知るあなたは、誰よりも人間を憎み、誰よりも多く人間を食らった」

女妖怪「何百年前の話じゃ」

女妖怪が振り返る。

女妖怪「そういうわけで、よろしくの。男よ」

男「お・・・おう!!」


猫又「・・・私も行きます」

女妖怪「良いのか?」

猫又「私は女妖怪様の僕であり、女妖怪様がこいつの僕であるなら私もそうです。
    お供しないわけにはいきません」

男(ハーレムktkr)

猫又「ただし・・・。もし、貴様が不埒なことをしようとしたのなら、その性器を噛み切る」

男「一瞬でも口に入れてくれるのなら・・・」

猫又「ならば切り裂く!!」

男「ヒィッッ」

女妖怪「ははは・・・にぎやかになりそうじゃの」


その後、3人でラーメンを食って家に帰った。

なんだかんだで楽しい日々が始まるんだとこの時は思っていた。

・・・この時は。


――2、了

疲れたのでしばらく消えます。

支援
今更だがおまもりひまりを思い出した

>>116
ありがちな設定だとは思うので何かと被ってるかもしれない

今のvipって3日落ちなくなったのかな。
今日だけじゃ完結できない
保守ありがとうございます、あと1時間くらいしたら戻ります

ほすありがと
書く




女妖怪と猫又と暮らすことになった翌日。

男「ふわぁ~、おはよう」

とりあえず男が目を覚ますと猫又はいなかった。

多分散歩にいってるんだと思った。

女妖怪はテレビを見てた。


女妖怪「にうすというのはすごいのう
     その日起こった事件なんかがすぐわかるんじゃな」

男「まあ今じゃ当たり前だよ。ってか、お前がやったあのDQNどもだってニュースになってたんだぞ」」

女妖怪「すまんのう。でも、ああしなければ襲われておったんじゃろ?」

男「まあそうだけどな・・・」

女妖怪「それより男よ。腹が減ったぞ。飯を作ってくれい」

男「はいはい」

補足ですが5で終わるのでもしかしたら今日中に終わるかもしれません。


そのうち猫又が散歩から帰ってきて食事になった。

男「猫又は猫缶でいいよな?」

猫又「ねこかん・・・? なんだそれは」

男「猫専用の飯だよ。まあ食ってみろよ」

ペロリ

猫又「!? ・・・美味!!」モシャモシャ

男「ふうむ、所詮は猫・・・。食費が浮くな」

女妖怪「して、私らはなんじゃ?」

男「あ、うん。今日は目玉焼き作ってみたよ」

女妖怪「むむ・・・? なんぞこれは」

男「卵だよ。舌にベーコン敷いたしうまいんじゃね?」

ハムッ ハフハフ ハフッ

女妖怪「ふむ、中々に美味じゃのう」モシャモシャ

男「人間の食事も悪くないだろ」

女妖怪「こんなに美味い飯を毎日食えるなら、人なぞ食わずにおられるわな・・・」ムッシャムシャ


猫又「人間の食事は本当に美味だな・・・。私なんて毎日ゴミを漁ってだな・・・」

男「俺と暮らしたら毎日猫缶食わしてやるぜ」

猫又「ニャ!? 本当か!!」

男「ああ。本当に」

猫又「むむむ・・・人間もいいものなのかも知れないな・・・ブツクサ」


女妖怪「ふう、食った食った。実に美味かったぞ」

男「ごちそうさまでした」

女妖怪「ん? なんじゃそれは」

男「ご飯を食べた後はそう言うんだよ」

女妖怪「そうなのか。では、ごちそうさまでした」

猫又「ごちそうさまでした」ゲップ


男「それで今日なんだけど、遊園地に行かないか?」

女妖怪&猫又「遊園地?」

男「遊ぶのにうってつけの場所だよ。
  いきなり人間と交流するより、まず人間の町とか文化を知ってみようと思って」

女妖怪「ふむ・・・私はかまわんが」

猫又「人間が多いところは嫌いだが・・・まあ良いだろう」

男「よーし。じゃあ、今日はビップランドに行くぜ」


――ビップランド

猫又「本当に人間が多いな」

女妖怪「しかしなんじゃあれは? くるまとは違うみたいじゃが・・・」

男「ああ、あれはジェットコースターだよ。俺は怖くて乗れないからパスな」

猫又「何だ、あんなのが怖いのかよ(笑」

男「お前も乗ってみりゃ分かるって」


―――

男「大人三枚」

係員「ウィースwww」

男「よし、行くぞ」

女妖怪&猫又「おー」


猫又「おい男」

男「何?(はじめて名前で呼ばれた気がする)」

猫又「あれに乗りたい」


それはいわゆるタワーオブテラーのような。

男「俺はね。高所恐怖症って言うの。高いところが怖いの。わかる?」

猫又「それで女妖怪様の主とは情けない・・・。怖いものは克服するべきだ」ガシッ

男「え、ちょ?」

猫又「行きましょう、女妖怪様」

女妖怪「おお。面白そうじゃな」

男「ちょ、おま、待てって」ズルズルズル


係員「バーオリシャースwww」

ガコン

女妖怪「なるほど、これでもう私らは逃げられないわけじゃな」

猫又「ワクワクしますねww」

男「あばばばばばばばば」


男たちの座った座席が徐々に上昇する。

猫又「上がってますよ! 女妖怪様!」

女妖怪「おおお・・・。私もさすがに空は飛べんからな・・・すごいのう!!!」

キャッキャはしゃぐ二人を横目に、男は目をふさいでいた。

女妖怪「何を目をふさいでいるのじゃ。
     良い景色じゃぞ」

男「見たくない!!」

猫又「開けよ」グイッ

男「うっわああああああああああああああああああああ」


ピタッ

女妖怪「お? 止まってしまったぞよ、男」

男「これから落ちるんだよ・・・」

男の目は猫又に無理やり開けられていた。

猫又「よく見とけよ男。怖いの克服しろよ」

男「余計なお世話じゃ!!」

ガコッ

男「ヒッ!!」

ヒュウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・


男「あああああああああああああああああああ」

女妖怪「うおおおおお!!! なんじゃこれは!!! すごいスリルじゃああああああ」

猫又「ヒャッホオオオオオオオイ」


――

男「おえええええええええ」

女妖怪「なんじゃ、気持ち悪いのか?」

猫又「なっさけねー」

女妖怪「しかし楽しかったのう。これだけ楽しいと、あのじぇっとこぉすたぁはもっと楽しいんじゃろうな」

男「ちょ・・・俺パス・・・吐く・・・しばらく休憩させて・・・」

女妖怪「情けないのう。どれ、私ら2人で行くかえ」

猫又「そうですね~。おい男、ここで待ってろよ」

男「ふぁい・・・」


楽しそうに列に並ぶ二人。

係員との券のやり取りなども普通にこなす。

猫又も笑顔が絶えていない。


男(どうにか人間嫌いを少しずつ克服できてそうだな・・・ウップ)


友「あれ、男じゃん?」

男「オエッ・・・ん、友じゃん・・・」

友「こんなとこで何してん? 女とデート?」

男「だから女とはそんなんじゃねーって言ってるだろ・・・」

友「その割には、前に女とも遊園地きてたやん?」

男「あれは誘われたから・・・」

友「世間一般ではそれをデートという」


女妖怪「おうい、男ー」

ふと声がするので見れば、女妖怪と猫又が手を振っていた。

どうやら、もうすうぐ乗るらしい。

男も手を振り返す。


友「この前のいとこかー」

男「そうだよ。で、お前は誰と来たんだよ」

友「俺? 俺は親父と」

男「へー、お前のところって仲いいんだな」

友「いや・・・」


その時、一瞬だけ友が神妙な表情になった気がした。


友「そうでもないけどな。まあ、たまには息抜きってことで」

男「へー、そうか。でもお前、なんで一人なの?」

友「ああ! そういえばトイレに行くとこだったんだわ!! そいじゃ」


友が踵を返す。


友「男」

男「ん?」



友「あまり近づきすぎて、どうなっても俺は知らんぞ」


男「・・・・・・・」ゾクゾクゾク


友はそんな事を小さな声で言い残すと、トイレに歩いていった。

男はそのまましばらく、呆然と立ち尽くしていた。


女妖怪「男ー」

男「えっ? あ、女妖怪・・・」

猫又「なんだよボーっとして。まだ気持ち悪いのか?」

男「いや・・・(友は何のことを言ってたんだ? まさか女妖怪たちのことか?)」

女妖怪「それより次はアレに乗りたいぞ」

男「観覧車か。だから俺は高いところが嫌いだと」

猫又「いいからいくんだよ!!」

男「へーい・・・」


男(友にはいずれミス研で集まって女妖怪たちのことを話す予定だったが・・・早いうちに聞いたほうがよさそうだな)


そのままその日は何事もなく一日が終わった。

男と女妖怪と猫又は観覧車とかお化け屋敷とかまあ色々まわった。

途中、妖怪二人が色々問題を起こしたりして男はぶっ倒れそうだった。



――男の家

女妖怪「今日は楽しかったぞ男!! 人間はすごいのうぅ!!」

猫又「私も少し人間を見直したぞ!! 売り子の人間も笑顔を振りまいて愛想が良い! 昔とは全然違うな!」

男「そうか・・・それはよかった」ゲソッ

女妖怪「して、明日はどこに連れて行ってくれるんじゃ?」ワクワク

猫又「もちろん、今日より楽しいところだろうな?」

男「明日のことは明日考えます・・・」パタッ


女妖怪「ちっ、寝てしまったぞ」


なんやかんやで3人は楽しい日々を過ごし、5日目。


男「今日は2人に来てもらいたいところがある」

女妖怪「どこじゃ?」

男「俺の大学だ」

猫又「大学?」

男「人がいっぱいあつまるところだ。
  そこで今日、俺以外の人間にお前たち妖怪のことを話す」


女妖怪と猫又の表情が陰る。


男「安心してくれ。俺の信頼する人間だ。それ、お前たちも会ったことある」

女妖怪「ほう・・・?」

男「メンバーは女と、友だ」

女妖怪「女というと、あのひんそーな体の女か。そして友というのは・・・?」

男「ほうきを山に持っていくときに会っただろ」

女妖怪「む・・・あの男か・・・」


猫又「どうしました、女妖怪様?」

女妖怪「男よ。あの友というのは、寺の息子か?」

男「え? んー・・・確かにそうだったかも」

女妖怪「やはりそうであったか・・・」

猫又「どういうことです?」

女妖怪「あやつ、付喪神の件で会ったときから気になっておった。
     どこか懐かしいような何かを感じていたのじゃが・・・今ハッキリとわかった」

男「え・・・まさか・・・・」


女妖怪「おそらくあやつは、私を封印した退魔師の子息じゃろう」


猫又「なっ・・・!!! 生きておったのかあの一族!!」

女妖怪「落ち着け猫又」

猫又「しかし!!」

女妖怪「殺気は感じんかった。おそらくこちらの動きを伺っておるのじゃろ」

男「なるほど・・・だからアイツ遊園地にいたのか」

猫又「なに!? 遊園地に来ていたのか?」

女妖怪「・・・やはり来ておったか。ここ最近、何者かに尾行されているような気はしておったが、そいつじゃな」

猫又「では、そんな男に私たちのことを話すのは得策とは言えませんね」

女妖怪「いや。奴は何か葛藤しているようじゃった。それに男の友じゃ。丸め込めれば、役に立つかもしれん」

男「もうちょい言葉選べよ」

猫又「しかし、そう上手くいくでしょうか・・・」

男「まあ俺に任せておけよ」


――男の大学、ミス研部室

男「よっ。待たせたな」

女妖怪「ども・・・初部室」

女「遅いわボケ・・・って、何。この前の女妖怪さんに、また女が増えてるじゃない・・・」

猫又「猫又です」

女「あ、これはどうもご丁寧に・・・って、おい!! 男!!」

男「うるさいな、これから話すから待ってろよ」

友「で、男。話ってのは・・・」

男「ああ。その前に友、ちょっと俺と外で話そう。
  女は猫又と女妖怪の相手をしてやっててくれ」

友「・・・わかった」

バタン

女「あ、ちょ、男!! 友!!」


男「単刀直入に聞く」

男「どこまで気づいてる?」

友「・・・・・・・・」

友「あの二人が妖怪だということには気づいている。それも、かなりの力を持っている」

友「そして、お前からも強い妖力を感じる。まあ、お前というよりはそのネックレスからだが」

男「友、お前の家は寺だったよな」

友「ああ。寺だ。もちろん退魔もする。俺も今までしてきた」

男「退魔・・・妖怪を払うのか」

友「いや。殺す」

男「・・・・・・あ?」

友「殺すんだ。妖怪は人間を襲い、食う。それが本能だ」

男「女妖怪と猫又も殺すつもり・・・か?」

友「・・・わからん。猫又はともかく、女妖怪は人間に対して砕けている」

男「そういえば、最近尾行してたんだったな」

友「殺すべきかどうか、見極めるためだ」


――ミス研部室


男は、全てを話した。

登山中に棺おけに入った女妖怪を見つけたこと、猫又と会ったこと。

付喪神に襲われたこと、人間と共存しようとしていること、友が女妖怪を封印した退魔師の子孫だということ。



女「それ、マジ・・・?」

男「嘘じゃない」

女「ほ、本当に大丈夫なの? 私たち殺されない?」

女妖怪「・・・そういえばお主にはスイカといわれたな」ケタケタ

女「」フルフル

女妖怪「安心せい。殺しはせん。人間に復讐するなら、とっくにしとる・・・」

猫又「そうだぞ人間。女妖怪様に失礼な」

女妖怪「よさんか、猫又」


友「女妖怪」

女妖怪「なんじゃ」

友「俺はここ数日お前たちを見ていたが・・・どうにも悪くは思えない。
  人間と親しく接するだけでなく、付喪神の件の後、人間に復讐しようとする憑依妖怪をなぎ倒していた・・・」

猫又「あの時もつけてやがったか!!」

友「俺は妖怪を悪と思うように育てられた。妖怪は絶対的な悪で、人間の敵」

友「だから俺は、妖怪を殺すために修行を積んだ。実際、昔から生き残っていた妖怪を何匹か殺した」

友「俺が殺した妖怪は全部、人間に復讐をしようとしていた。それを見て、俺は寺の教えが正しいと思っていた」

友「だが・・・お前は何だ。書物で読むお前は、人間を一番憎んでいた妖怪だと聞いた。それがなんなんだ、お前は・・・」

女妖怪「書物? 私は書物に載っておるのか」

友「お前は俺の祖先が戦った中で一番強力だったという妖怪だ」

友「しかも殺したのではなく、封印した・・・。封印が解けた際のために、語り継がれてきたんだ」


友「女妖怪・・・お前はソウヒメだろ?」

女妖怪「その名で呼ばれるのは・・・実に300年ぶりじゃな」ケタケタ


猫又「ソウヒメ・・・それが女妖怪様の真名ですか」

女「まな? どういうこと? 女妖怪さんは女妖怪さんじゃないの?」

女妖怪「妖怪にとって、真の名を知られることは色々と都合が悪いのじゃ。名というものは、それ自体が自身を縛るモノ」

女妖怪「猫又というのも種族名じゃ。猫又もまた、何か真名をもっておろう」

猫又「ええ」

男「じゃあ、猫又は猫又だけど猫又じゃない・・・?」

女妖怪「まあ、深く考えなくてよい」


女妖怪「友よ」

友「なんだ?」

女妖怪「私の記憶はおぼろげじゃ・・・。お主の知るソウヒメのことを教えろ」

友「・・・お前が何故今人間と親しくしようとしてるかは知らんが・・・・覚えてないなら聞いても気持ちのいいことじゃないぞ」

女妖怪「構わん。聞かせろ」

友「わかった。俺の知ってることでよければ」


ソウヒメ。爪姫。爪を操る妖怪。

だが、いつしか強大な妖力を身に付け、様々な妖術を扱うようになる。

誰よりも人間を憎み、九州地方の妖怪を掌握していた。

今までに殺した人間は数知れず、多くの退魔師が挑んだが返り討ちにされた。

いつしか「爪」姫は「葬」姫と異名をとるようになった。

しかしある時、強大な力を持つ退魔師が本州から九州に渡り、葬姫の力を押さえ込む。

その力は互角であったが、葬姫を山に追いやり、大人しくさせることに成功した。


ある年、大飢饉が起こる。

食料が消え、飢えた妖怪が人里へ姿を現した。

その折、もちろん葬姫も現れた。

葬姫の強大な力の下、多くの人間が犠牲になった。

やがて現れた一人の退魔師により、葬姫は辛くも山奥に封印されることとなる。

以降、葬姫を封印した退魔師はその地に留まり、妖怪を駆逐していった。

いつかまた葬姫の封印が解かれる時、また人と妖の戦いが起こるであろう。


友「これが俺の知っているソウヒメだ」

女妖怪「なるほど・・・そのように語り継がれておるのか」ケタケタ

男「俺は実はとんでもないものを復活させていたんだな・・・」ブルブル

女「ちょっと、マジで大丈夫なのこれ・・・」

猫又「なんだお前らは!! せっかく女妖怪様が人間と歩み寄ろうとしているというのに・・・!!」

女妖怪「よい。恐れられるのは慣れておる」



男「・・・でも」

男「今の女妖怪が人間と歩み寄ろうとしてるのも事実だ・・・」

女「うん・・・」

友「ああ。俺も、女妖怪なら人間と妖怪をつなぐ架け橋になれると思う」



友「その上で、聞いて欲しいことがある」


女妖怪「・・・なんじゃ? 神妙な顔をしおって」

友「俺は本州や四国の寺とも連絡を取り合っているんだが・・・」

友「三日前か。女妖怪が目覚めてから、間もない頃、本州の寺から連絡があった」


友「目に見えるほどの妖気があふれ出し始めたと」


猫又「・・・・なっ!? 生き残りの妖怪がそんなにいたのか!!」

友「ソウヒメは九州にいながら、本州の妖怪にも恐れられる存在だ。
  おそらく、ソウヒメの復活にあわせて、一気に人間を駆逐しようとしているんだろう」

女妖怪「本州にいながら私の復活に気づくとは・・・。相当強い妖怪が生き残っているんじゃな」

男「ちょ、おい・・・・! せっかく女妖怪が人間と和解しようってのにそりゃないだろ!!」

女「そうだよ!! そんなのって・・・」

友「普通妖怪は人間を憎むもんだ。仕方ないことだ。俺も2日後、親父と東京に経つ予定さ」

猫又「狙いは東京・・・。なるほど、首都を襲撃して、日本を一気に牛耳ろうと」

女妖怪「なるほど、私が協力することを前提に動いているようじゃが・・・。それは見過ごせんの」


友「どうする、女妖怪。あなたほどの力の持ち主が俺たちと共に戦ってくれるなら、これほど心強いことはない・・・」

女妖怪「無論。私も東京へ行こう」

男「女妖怪・・・」

女妖怪「男、お前にも来てもらうぞ。お前は私の主じゃからな」

男「え、俺・・・? でも、俺が行っても足手まといに」

女妖怪「・・・・良いのじゃ。・・・お前に来てもらわねばならぬ理由がある」

男「女妖怪・・・?」


猫又「私も行きますよ」

女妖怪「猫又。良いのか? 全ての妖怪を裏切ることになるぞ」

猫又「まあ、正直共存をしようとしたら、いつかは妖怪たちとぶつかり合うことになるとは思ってました。覚悟の上です」

女妖怪「・・・良い部下をもったの」ケタケタ


女「みんながいくなら、私も・・・」

男「いや、女。お前はここに残れ」

女「え・・・でも・・・」

男「俺は妖怪の力を見たことがある。凄まじかった。巻き込まれたらただじゃすまない」

男「お前を、危険な目にはあわせたくない」

女「ドキッ」



女「わかった・・・。でも、絶対帰ってきてね。約束だよ・・・」

男「絶対帰ってくる。約束するさ」


友「チッ」


友「俺は親父や東京の連中に女妖怪の事を伝える。少し時間はかかるかもしれんが・・・」

女妖怪「そんな簡単に信じてくれるかの」ケタケタ

友「どうにかしてみせるさ。俺はお前を、信頼してるからな」


友「出発は2日後の朝の予定だ。正直、いつ妖怪が現れるかわからないが・・・それまでに、準備をしていてくれ」


それから、そのまま家に帰った。

岐路の途中、男も女妖怪も猫又も何もしゃべらなかった。



そして、その日の夜。


女妖怪「男よ」

男「・・・なんだ?」

女妖怪「お前に見せておかねばならんものがある」

男「?」

女妖怪「私が・・・人間を憎まなくなった原因じゃ」

男「!!!」


女妖怪「私に妖力を全て戻せ」

男「え・・・」

女妖怪「信用できんか?」

男「いや。そんなことはないよ」


ホワァ


女妖怪「知らないほうが良かったと・・・後悔しておらんか?」

男「してないさ」

女妖怪「本当か?」

男「本当だって。言ったろ、俺はミステリーが好きなの」

男「そりゃあ、スケールの大きすぎる事に巻き込まれてるとは思ったけど・・・」

男「女妖怪と過ごした日々は」

男「・・・楽しかったからな。今も楽しい」


女妖怪「楽しい・・・か。不思議な人間もいるものじゃ」ケタケタ

男「不思議でもなんでもねえよ」

女妖怪「うむ・・・。では、今からお主だけに見せて進ぜよう」

女妖怪「300年前・・・私の体験したことを」


――3、了



300年前。小さな村。

その裏に、大きな山があった。

「・・・」

人影が、一つ。その山を登っていく。

「待て、そこを行く者よ」

声が、人影を呼び止める。

女妖怪であった。

女妖怪「ククク・・・獲物が自ら山に来るとはの。食っていいのじゃな?」

「よくない」

女妖怪「貴様の答えなぞきいとらんわ!!!」

カン、と乾いた音がした。

女妖怪「・・・!!!」

女妖怪の爪が、その人の杖に防がれていた。

杖の持ち主は、男性の老人であった。


女妖怪「なんじゃと・・・! 何故お主の様な老いぼれが私の攻撃を防げる!!」

老人「なんでだと思いますか」

女妖怪「小癪な!!」

それから女妖怪は様々な攻撃を仕掛けたが、全て防がれた。

当時最強といわれていた女妖怪には、屈辱であり、恐怖であった。

女妖怪「何者だお主・・・。私の攻撃を防ぐなど、強すぎる・・・!!」

老人「ただの旅人ですよ」

女妖怪「そんなわけがあるか・・!! そうか、私を退治しに来たのだな!?」

老人「いや」

老人は、顔を女妖怪に近づける。

女妖怪「な、なんじゃ」

老人「今日は、あなたと話をしにきたんです」

女妖怪「話・・・じゃと?」


老人「あ、そのまえに」

老人は女妖怪が首に下げていた首飾りをいつの間にか外すと、それを女妖怪の額につけた。

女妖怪「な、何をする!!」

老人「あなたの力を吸い取らせていただきます」

次の瞬間、緑色の光が首飾りを包んだかと思うと、女妖怪はその場に力なくうなだれた。

女妖怪「な・・・何を・・・」

老人「ですから。あなたの妖力を吸い取らせていただきました」

女妖怪「そんな奇天烈な・・・。お主、何者じゃ・・・」

老人「そうですね・・・。まあ、老人と名乗っておきましょう」

女妖怪「ぐうう・・・目的は何だ!!!」

老人「ですから」ズイッ

老人「お話をしに来たんですよ」ニコッ

女妖怪(なんなんじゃ・・・コイツは・・・)ゾクゾクッ

飯食ってきます。

保守ありがとう
意外と人がいて驚いた
長くとも2時までには完結させます
もう20分ほど保守お願いします

同一IDの人がVIPにいる&日付をまたぎそうなので、一回だけ鳥をつけます
ご了承を


女妖怪「話とは何じゃ・・・」

老人「別に難しい事じゃありません」

老人「他愛もないお喋りをしましょう」ニコッ

女妖怪「おのれ・・・人間風情が舐めおって・・・!!」

老人「おっと! あなたにはもう、妖力はありませんよww」

女妖怪「クソが・・・!!!」


空を見上げる老人。

老人「いい天気ですね」

女妖怪「・・・・・・」

老人「それに風も気持ちいい。ここは、良い所ですね」

女妖怪「・・・・」

老人「何とか答えてくれませんかね」

女妖怪「・・・・・けっ」


老人「では話を変えましょう」

老人「あなた方妖怪は何故、人を食らうのでしょう」

女妖怪「愚問だな。本能だからじゃ」

老人「本能・・・ですか」

女妖怪「そうだ。記憶にそう刻まれておる」

女妖怪「そして貴様ら人間は、我々の居場所を追いやっていく。紛れもなく、憎むべき相手じゃ」


老人「それは、悲しい事ですねぇ・・・」

女妖怪「はぁ? 悲しいじゃと?」

老人「人と妖と、手を取り合う事は出来ないものでしょうか・・・」

女妖怪「ハッハッハ!!! 笑止!! そんなことは無理じゃな!!!」

老人「・・・なぜです?」

女妖怪「妖怪を憎まぬ人間、人間を憎まぬ妖怪・・・どちらも、おったとしても豆粒ほどじゃろう!!」

老人「そうでしょうか」

女妖怪「少なくとも、この山には人間と共存しようという妖怪なぞおらんな」


老人「私は、妖と人とが手を取り合う世界を作りたい」

女妖怪「勝手にせい。私は知らぬ」

老人「その為に、私と貴女が架け橋となってみませんか?」

女妖怪「・・・・・はぁ? 私を巻き込むな」

老人「貴女に拒否権はないはずですよ」ニコッ


不気味な笑いを浮かべ、老人は杖の先を女妖怪の首に向ける。


女妖怪「私をソウヒメと知っての事か」

老人「無論」

女妖怪「気に食わん・・・。気に食わん、気に食わん!!!」


杖を持ち、伸びきった老人の右腕を自身の左手で咄嗟につかみ、そのまま右手で老人の顔面を殴ろうとする女妖怪。

しかし、すぐに老人の左手が女妖怪の右手をつかむ。

女妖怪「くっ・・・!? この反応速度に力・・・お主、本当に人間か・・・!?」

老人「・・・人間、ですよ」ニコッ


女妖怪がつかんでいた老人の腕を離す。

同時に、老人も女妖怪の手を離した。


老人「人間以外を食った事はありますか?」

女妖怪「あるわけなかろう」

老人「そうですか・・・」

女妖怪「・・・?」

老人「いいでしょう。今日はこれで帰ります」

老人「ただ、明日も来ます。またここで会いましょう」

女妖怪「何をぬかすか・・・」

老人「ですから」

老人「あなたに拒否権はありませんよ?」

女妖怪「くっ・・・」


そのまま老人は山を下りた。

最強の妖怪、ソウヒメにとって、最も屈辱的な一日であった。


――翌日

老人はかごを背負っていた。その中に、色とりどりの果物が入っていた。

老人「これをどうぞ」

女妖怪「・・・麓は飢饉ではなかったのか?」

老人「ええ。ですが、お気になさらず」

女妖怪「ハッ。低位の妖怪ならまだしも、高位の私が人間以外を食うとでも?」

老人「でも、お腹すいてるんでしょ」

女妖怪「・・・・・・・・。そうであっても、人間から食べ物を恵んでもらうなどという屈辱は耐え切れん」

老人「だから拒否権はないと」

女妖怪の口に、無理やり桃をぶち込む老人。

女妖怪「むがっ・・・!!」

老人「ほらほら、食べなさい」ニコッ

女妖怪「むががががっが・・・・!!!」ペッペッ


女妖怪は桃を吐き出してしまった。


老人「ちょっと」

女妖怪「ふん! 食い物は受け取らんと言うたろうが!!」

そっぽを向いた女妖怪の頬に、老人の鉄拳。

女妖怪は綺麗に吹っ飛んだ。

女妖怪「ぐっ・・・!! 貴様、人間の分際で・・・!!!」

恐ろしい形相で老人をにらむ女妖怪。

だが、老人は微動だにしない。

老人「食べ物を粗末にしてはいけません。さあ、食べなさい」

女妖怪が地べたに吐き出した桃を指差す老人。

女妖怪「糞が・・・!! このような屈辱・・・!!」

老人「・・・・・・」

女妖怪「・・・・!!」ブルッ

老人の見えない覇気に、女妖怪は一瞬身震いした。

そして、地に落ちた桃を拾って食い始めた。


老人「どうですか?」

女妖怪「ムシャムシャ・・・。フン、土がついて食えたものではないな」

老人「では、もう一個あげましょう」

女妖怪「・・・・・・・・・」

女妖怪はためらいながらも、それを口に運ぶ。

女妖怪「む・・・美味」

老人「でしょう」ニコッ

女妖怪「くっ・・・。人間から貰ったものが美味いだの・・・!!」

老人「さあ、もっと食べてください」ニコニコ


そんな調子で、女妖怪は人間以外の味を覚えた。


それから老人は何度も何度も山へ足を運んだ。


その度に女妖怪と言葉を交わした。

老人「おいすー。今日もきたよ」

女妖怪「むっ!! 今日もきおったか!! しつこいやつめ!!」


食を共にした。

老人「どうです? このキノコもおいしいでしょ」

女妖怪「ふむ・・・悪くはないのう」ムシャムシャ


終いにゃ寝床も共にした。

女妖怪「この線より私に近づいたら殺すからな」

老人「近づく気はないですし、あなたじゃ寝込みを襲っても私に勝てませんよ」



女妖怪は、段々と老人に心を開いていた。

それでも、やっぱり女妖怪は人間を好きにはなれなかった。


――ある日。

いつものように、老人が山にやってきた。


女妖怪「お前に一つ聞きたい事がある」

老人「なんでしょう」

女妖怪「お前は言っていたな。人と妖が共存する世界を作りたいと」

老人「ええ」

女妖怪「何故、私なのだ」

老人「・・・・・・」

老人「それは、あなたが妖怪で一番強いと聞きましたから」

老人「あなたが人間との共存を決意してくれれば、他の妖怪も従ってくれるかと」

女妖怪「ハハハ。甘いな。そう簡単にいくものか」

老人「・・・・」

女妖怪「妖怪が人間を憎むのは本能だ。それはどう足掻いても覆せん・・・。我々妖怪には呼吸をするほど大事な事じゃ」


老人「でも、今じゃ妖怪はみんな山にこもってるじゃありませんか」

女妖怪「それは、退魔師が力をつけておるからじゃ」

女妖怪「迂闊に下山すれば殺される・・・。お前の様な馬鹿げた強さの人間がいるかもわからんのだからな」

老人「意外と弁えているんですね。では、尚更人間と共存すれば」

女妖怪「お前は甘すぎる」

老人の言葉をさえぎる。

女妖怪「表面上そう取り繕ったとしても、生物の根本を覆すのはとても難しい」

女妖怪「人間を殺したい妖怪は山ほどおる。逆も然り。例え共存したとて、その憎しみが消えるのは何百年先か」

老人「・・・・。やはり私は、甘いのでしょうか」

女妖怪「甘すぎるな。それでは、人間にも嫌われるであろう」

老人「はは、わかりますか」

女妖怪「それはそうじゃ。私もお前は大嫌いじゃしな。お前を好きになる人間が果たしておるじゃろうか」ケタケタ

老人「ええ・・・。そうですね。私は、人間に嫌われてこの山に来たんですよ」


女妖怪「やはりお前、退魔師ではなかったか」

老人「当然です。退魔師ならば、貴女を放置したりしませんよ」

女妖怪「では、お前は何じゃ。その人間離れした力は何じゃ」

老人「・・・・・・」

女妖怪「答えられんのか」

老人「・・・・・・今は」

女妖怪「いつか答えられる日が来るとでも?」

老人「わかりません」

女妖怪「不気味な奴じゃ。それでは、人にも妖にも混じれぬわけじゃ」

老人「・・・・・・」


その時、老人はいつになく悲しい表情をしていた。


女妖怪「・・・・老人よ」

老人「初めて名前で呼んでくれましたね」

女妖怪「む・・・!!!! そんなことはどうでもよかろう!!!」



女妖怪「・・・・」

女妖怪「私たち妖怪は、3日後にこの山を下り、人里を攻める」

老人「・・・・・・」

女妖怪「想像以上に飢饉が長続きし、退魔師も想像以上にこの地に留まっておる」

女妖怪「もはやこの山の妖怪どもは、食い物にありつくのも難しい」

女妖怪「私のように人間しか食えんような妖怪も多くおる」

老人「そうですか・・・・」

女妖怪「止めはせんのか」

老人「止めて欲しいですか。止めたところでやめますか?」

女妖怪「愚問だな」


老人「女妖怪」

女妖怪「なんじゃ」

老人「私はあなたを愛しています」

女妖怪「ほう、そうか・・・・・」


女妖怪「え・・・? は・・・・、は?」

老人「私は人にも妖怪と共存するように進言しました」

老人「ですが、聞く耳を持ってもらえず・・・。そのため、貴女に接触しました」

老人「最初貴女に会ったとき。やはり妖怪も私の言う事など聞く耳を持っていただけないのかと思いました」

老人「しかし、あなたは段々と私に心を開いてくれた。それがたまらなく嬉しかったのです」

老人「次第に私は、貴女に惹かれていきました」

女妖怪「じょ・・・冗談はよさんか・・・人間風情が・・・・」

老人「冗談ではありません。そして」


老人「私は人間でもありません」


老人「私は、人と妖の間に生まれました。父は本州で最強と謳われた妖怪。母は生贄にと捧げられた村娘です」

女妖怪「人と妖が子供を・・・? そんな馬鹿な話が。妖怪には性欲なぞなかろうし、何故人間と子を残す」

老人「父は冷淡な妖怪でしたが、気まぐれでした。そして母は、話し上手だったと聞きます」

老人「母は自分を食らおうとする妖怪を前にし、気さくに話をし・・・そして父は、そんな母をどこか気に入り始めました」

老人「やがて二人は愛し合うようになりました。そもそも殺しあう以外で関りあう事ない二つの種族が、です」

老人「・・・・母は私を産んですぐに死んだと聞きます。亡骸はもちろん、父が食らいました」

女妖怪「・・・・・・」

老人「父からはいつも母のことを聞かされていました。そして、いつか人間と妖怪が共存できる時代が来るのかもしれぬとも」

老人「私は人と妖の間に生まれましたから、その思想を素晴らしいと思っています」

老人「やがて成長した私は、人間の容姿が色濃く出ていましたので、人里に下りました」

老人「そこで感じた事は、人間の妖怪を憎む声の強いこと。もちろん、山では妖怪が人間を憎む声を聞いて育ちました」

老人「きっと、私のような存在は異端なのだと思いました。人と妖、どちらにも混じる事が出来ず生きていくのだと」

老人「私は人里を離れ、一人山にこもり・・・・・修行をしていました」

老人「人と妖をつなぐためには、いつか力が必要になるだろう、と思ってです」

老人「いつしか父が人間に討たれたという話も耳にしましたが、それでも人間を嫌いにはなりませんでした」


老人「そして数年前。本州の妖怪がほとんど駆逐されたという話を聞きました」

老人「そして、九州最強の妖怪であるソウヒメの話も」

女妖怪「・・・それで九州にきおったのか」

老人「妖怪は年々力を落としています。強力な退魔師が増えたため」

老人「それでも尚、最強と呼ばれるあなたを説得できれば。人間とをつなぐ架け橋が出来るのではないかと」

女妖怪「・・・・・・・・・」

女妖怪「お主、年はいくつじゃ。そのよぼよぼの外見・・・人間の血のせいか? 何年前から、その思想を・・・」

老人「フフ。私は200年ほどしかいきておりませんよ。おそらく、もうすぐ死ぬでしょう」

女妖怪「200年でその老化、そしてその強さ・・・」

女妖怪「お主の信念、本物なのじゃな」

老人「ええ」


女妖怪「・・・・・・それでも」

女妖怪「それでも私は、人間と共存なぞ無理じゃ・・・・」


老人「・・・・・」

女妖怪「そもそも、人間と会話をしようなどと思った事はなかった」

女妖怪「じゃが実際にお前と会話をし・・・・・段々と心を開く己がおったのは事実じゃ」

女妖怪「そして私もいつからか、段々とお前に惹かれておった・・・」

女妖怪「じゃが・・・。じゃが、私は妖怪の頭じゃ。私を信じてついてくる妖怪が何千もおるのじゃ」

女妖怪「私一人の考えで、人間を憎む幾千の妖怪を変えられはせん・・・」

女妖怪「人間に親を殺された妖怪も多い。その憎しみは、何をしようが絶対に消えん・・・」

女妖怪「すまん・・・老人よ・・・・」

老人「・・・・・・。いや」

老人「いいんです。私が、甘い事を言っているのは十分承知しています」

女妖怪「老人・・・」

老人「今日はこれで帰ります。それでは・・・また」


老人は、そう言い残すと静かに山を下りた。


次の日も、その次の日も老人は来なかった。


――老人が山を下りて3日後の早朝。

妖怪が人里を攻める日。


女妖怪「・・・・・・」

女妖怪「・・・・・・!!!」

ザッザッザ

老人「おいすー・・・」

女妖怪「老人・・・!! お前、何をしに来たのじゃ!!」

老人「いやその。今日が人里を攻める日でしたよね」

女妖怪「前に言うたじゃろが!! 今は山の妖怪も気が立っておる・・・帰るんじゃ!!」

老人「いや。そうはいかないんです」

老人「・・・・・・女妖怪」

老人「私は、貴女を封印します」


女妖怪「・・・・・・は!?」


老人「人里には」

老人「私には及ばぬものの、貴女に次ぐ実力を持った退魔師が多くいる」

老人「私に妖力を抜き取られた貴女では、確実に死ぬでしょう」

女妖怪「では、妖力を返さんか!!」

老人「例え貴女が妖力を持っていたとしても、あなたは死ぬでしょう」

女妖怪「・・・・!!!」

老人「そして、人間も沢山死ぬ」

女妖怪「何が言いたいのじゃ!!」


老人「私は、貴女を愛しています」

老人「そして、これは私のエゴですが・・・・貴女に死んで欲しくない」

女妖怪「―――ッ!!」


女妖怪の右手が、男の頬を殴る。

乾いた音が、山中に響いた。


女妖怪「ふざけるのも大概にしろ!! 私はお前のような老いぼれに情けをかけられるほど落ちぶれてはおらん!!」

老人「・・・・・それは、本心ですか」

女妖怪「当たり前じゃろうが!!」


老人「では何故・・・」

老人「何故・・・」

老人「涙を・・・」

女妖怪「こ・・・これは・・・・」


・・・しばらく二人は、無言で対峙した。


女妖怪「老人よ」

先に口を開いたのは、女妖怪だった。

女妖怪「きっと私も・・・・お前を愛してしまったのかもしれん」

老人「相思相愛、ですね」

女妖怪「よせ・・・そんな美しいものではなかろう」

老人「そうですね。今日始まって、今日終わりの愛です」



老人「私が長年修行し、身につけた能力があります」

老人「相手の妖力を吸い取る技です」

女妖怪「なるほどの・・・・。それで意図も簡単に私の能力を」

老人「あえて貴女の首飾りに吸収させる事で、屈辱を味あわせました」ニコ

女妖怪「なめた口を・・・」


老人「吸収したあなたの妖力を、私が吸収しなおすと」

老人「あなたそっくりの姿になります」


女妖怪「・・・・お前。何を考えておる?」

老人「貴女の姿になった私は、まずこの山の妖怪にこう告げます」

老人「山に強大な力を持つ退魔師が現れた」

老人「私の封印を条件にお前たちを見逃すといっている」

老人「私でも適わない。お前たちが束になろうと適わない。黙って従ってくれと」

女妖怪「・・・・・・・」

老人「続いて私は人里に下り、村を焼き払います」

老人「死人が出るかもしれませんが、貴女だと思わせるため、全力で戦います」

老人「そして私は、貴女の姿で死にます」

女妖怪「老人・・・・」

老人「命令に背き、私について来る山の妖怪がおれば、共に戦います」

老人「あくまで、自然な演出をする必要があります」

老人「そしてこれらを行う前に、あなたの体を封印します」

女妖怪「老人・・・・ッ!!!」


老人「山から妖怪を逃がすのは・・・。妖怪に生き残って欲しいからです」

老人「おそらく、このまま真っ向勝負すれば、妖怪は絶滅するでしょう」

老人「それならば、人間に強い恨みを持ち続けるかもしれないものの・・・妖怪には生き延びてもらわねばなりません」

老人「そして、いつか貴女の封印が解けたとき」

老人「その時、世界がどうなっているか分かりませんが・・・。人と妖の共存を目指してください」

老人「この時代では、それは無理。そして、今後私の思想を受け継いでくれるのは・・・あなた以外いないのです」

女妖怪「だからと言って!!! お前が子を残せばよかろう!! 何故お前が私の代わりに死ぬ!!」

老人「貴女が死ななければ、九州の人間は妖怪をますます恐れる。そすて、退魔師もどんどん力を付ける」

老人「貴女は、死ななければならないんです!!」

女妖怪「・・・・ふざけるな!!」

女妖怪「私はそんな事認めんぞ!! 認めん!!!」

女妖怪「例え死ぬとしても、それは私で十分なのじゃ!! 老人よ、今一度・・・・」


言葉を言い終える前に、女妖怪の意識が揺らいだ。

どうやら、老人に何か術をかけられたようであった。



意識が完全に消える間際、女妖怪はその唇に何か暖かいものを感じた。



―――
――


男「・・・今のは?」

女妖怪「私の記憶じゃ」

女妖怪「意識を失い・・・気がつくと、私はあの棺の中におった」

女妖怪「目覚めた私は記憶がおぼろげで・・・・。でも、大切な何かを忘れているような気がして」

女妖怪「すぐ横にいたお主に、時間を尋ねた」

男「2011年9月6日・・・・俺とお前が出会った日、か」

女妖怪「驚いたよ。まる300年も眠っておったとはな」

女妖怪「それから妖怪の本能でお主を襲ってしまったが・・・あの首飾りを見て、大体を思い出した」


男「そういえば・・・この首飾りを持ってるってことは、俺の先祖ってもしかして・・・」

女妖怪「老人かもしれんな・・・。じゃがわからん。あやつが子を残していたとは考えにくい」


女妖怪「お主はもしかすると、勘違いしておるかもしれんが」

男「ん?」

女妖怪「お主に会った時、首飾りに妖力を吸い取られたが・・・・あれは、実際は私が自分で戻したんじゃ」

男「え、何それ。じゃああの光ってたのは自演乙ってこと?」

女妖怪「いや、首飾りが反応したのは偶然じゃ」

女妖怪「その時どうしてか・・・私は老人の妖力移動の術を使う事が出来た」

女妖怪「何故かは分からぬが・・・・本能がそうしろと語りかけてきたような気がしたんじゃ」

女妖怪「もしかしたら、封印の間に蓄えたこの妖力で、また人間を殺してしまう事を恐れておったのかもしれん・・・」

男「女妖怪・・・・」

女妖怪「じゃが、もう制御する必要もなかろう。記憶はハッキリしておる」

女妖怪「その首飾りは、一応東京に持って行け。いざという時、何かの役に立つかもしれん」

男「そうだね。それに・・・何で俺の手にあるかは分からないけど老人さんの遺品だもんね」

男「・・・・っていうか、元々お前のものだろ? 返すよ」

女妖怪「いや、良い。お主がもっておれ」

男「・・・・・わかった」


男「あ、あとひとつ気になったんだけど」

女妖怪「なんじゃ?」

男「友の話ではお前は封印された事になってた。でも、老人さんはお前の姿で死ぬと言ってた」

女妖怪「・・・・・・む!」

男「猫又とか付喪神が、お前の封印を知ってるなら合点は行くけど・・・」

男「人間サイドの伝承でもお前が封印された事になってるのって、なんか変じゃね?」

女妖怪「確かに・・・。いや、もしかしたらただ失敗しただけかも知らんが・・・」

男「でも、もし封印されてるなら。老人さんは生きてるんじゃ?」

女妖怪「・・・・・・まさか。そんなうまい話があるわけなかろうに」

男「いや、仮定の話だけどさ・・・可能性は捨てきれないでしょ?」

女妖怪「・・・・よせ」


女妖怪「期待しすぎると、後での喪失感が大きい」

男「・・・・すまん」


女妖怪「良い。それより今日は寝るぞ。2日後に備えて体を休めねばいかん」

男「そうだな。しっかし、300年前に老人さんが関東の妖怪は駆逐されたって言ってたけど、実際は結構残ってたんだね」

女妖怪「この300年に、私の山におった妖怪がひっそりと力をつけ、各地を転々としたんじゃろ」

女妖怪「人間を憎み、殺し、食う事は、妖怪の本能じゃ」

女妖怪「じゃが・・・私は、そうは思わん」

女妖怪「私も・・・はぁふじゃったが、老人とわかりあうことは出来た」

女妖怪「話す機会もなく、頭ごなしに本能だからと決め付けて人間を襲うていたのは・・・間違いじゃったと最近は思っておる」

女妖怪「私は老人の遺志を継ぐ。今はただ、それだけじゃな」

男「・・・・・女妖怪」

女妖怪「なんじゃ?

男「俺に出来る事があったら、何でも言ってくれな」

女妖怪「・・・・フフ」


女妖怪「頼もしい限りじゃな・・・男」


――4、了

次の5で終わります。

あと3~4時間で終えたいです。
休憩します。

余談ですが>>51の猫又の情報は、老人の嘘と人間の伝承がごっちゃになっています。
女が封印されたあとすぐに山を下りたので、猫又は本当のことを何も知りません。




女妖怪の記憶を見た翌日。

テレビのニュースには、異様な光景が映されていた。

ニュース「たった今入ったニュースです!!
      各地の電波等、アンテナなどを黒い物体が取り巻いています!!
      専門家はこれについt」

そこで、テレビの画面が切れた。

男「なんぞ・・・これ・・・」

女妖怪「妖術じゃな。しかし、各地のでんぱたわぁやあんてなを制圧するなぞ、どれだけの妖怪がおるのじゃ・・・」

猫又「通信するものを全て遮断したってわけか。こりゃあまずいね、東京陥落は時間の問題だ」

プルルル

男「もしもし」

友「男! 事態が悪いほうに転がった!! 電車はもう全部止まってる。ヘリで東京に行くぞ!!」

男「ヘリだぁ!?誰が運転するんだよ!?」

友「俺の親父が運転できる!! この先何か障害を与えられるかもしれん!! 今すぐ俺の寺に来い!」


―――ヘリの中

友「親父、大丈夫そうか?」

親父「問題ない。妨害される前には到着してやるさ」

男「ありがとうございます、わざわざ」

親父「いや・・・礼には及ばんよ。それより」

親父「近くにいると物凄い妖気だな。お主がソウヒメ・・・」

女妖怪「いかにも」

親父「人間と共存とは、本気か?」

女妖怪「私に二言はない」

親父「うむ・・・。今の時代ならできるやもしれんな」

親父「しかし。東京が妖怪に制圧されたとあっては、どうにもならんだろう」

親父「なるべく早急に、終わらせるとしよう」

女妖怪「心得ておる。なに、心配する事はないぞ」

女妖怪「必ずや、東京を救って見せよう」ケタケタ


―――東京、上空

男「雲が真っ黒だ・・・」

女妖怪「・・・非常に強力な妖気を感じる。相手、只者ではないぞ」

友「親父、降りられるか?」

親父「問題ない。東京には何回もきてるからな」

猫又「友の親父は凄い人だな・・・」



―――東京、陸地

親父「どうにか着陸できたか・・・」

友「でもよ・・・通信機器が全部遮断されてんだ。状況が全然分からんぞ・・・」

女妖怪「うむ。やつらはどうにもでんぱとうを遮断したがっておるようじゃな」

女妖怪「じゃがおそらく、それは陽動と通信妨害をかねておるのじゃろ」

女妖怪「何か、真の狙いがあるはずじゃ」

男「わかるのか、女妖怪」

女妖怪「隠しきれない強烈な妖気が、漂っておるのじゃ・・・」


女妖怪「友、親父。お主らはでんぱとうに巣食う妖怪たちを倒すんじゃ」

友「女妖怪、お前は?」

女妖怪「私は・・・。うむ、どうやらこの強大な妖気は、私がケリをつけなければならんようじゃからな」

親父「・・・お前たちだけで大丈夫なのか」

女妖怪「何を心配しておるか」


女妖怪「私は九州最強の妖怪・・・・・・葬姫ぞ」ゾクゾク

女妖怪「男、猫又!! いざ行くぞ!!」

男「おう!!」

猫又「合点!!」

タッタッタ・・・


友「親父・・・。あんな妖怪も、いるんだな」

親父「そうだな。妖怪と人間が手を取り合う・・・そんな未来を考えるのも、本当に悪くないかもしれん」


タッタッタ

猫又「・・・・・・」

男「どうした、猫又。さっきからボーっとして」

猫又「この妖気・・・。心なしか、女妖怪さまのものに似ている」

女妖怪「・・・・・・・」

男「・・・・・!!」

猫又「女妖怪様・・・・」

女妖怪「後でお主にも説明する。黙ってついて参れ!!」

猫又「!! 了解です、女妖怪様!!」



やがて3人がたどり着いたのは、東京の郊外に佇むビップ山であった。


そのビップ山に、真っ黒な巨人がいた。


猫又「なんだあれは・・・ダイダラボッチ・・・ではないな・・・」

女妖怪「あれは・・・巨大な妖気の塊じゃ・・・。激しい憎悪を感じるぞ・・・」


黒い巨人の周りを、囲むように、戦車やヘリが飛んでいる。

やがて発射される銃弾、爆撃。

しかし、それは黒い巨人に何の効果も示していなかった。


やがて黒い巨人の腕が伸び、一つのヘリを粉々にした。


男「!!! あれ、まずいだろ・・・!!」

女妖怪「チッ!! おい猫又、お主はあの人間どもをここから遠ざけさせろ!」

猫又「え、女妖怪様!?」

女妖怪「あのままでは全員死ぬのがオチじゃ!! 殺さなければ手段は問わぬ!! やってくれるな、猫又!!」

猫又「!!! ・・・もちろんです、女妖怪・・・いえ、葬姫様!!!」


タッタッタ

男「女妖怪、俺たちは!?」

女妖怪「私らはあの巨人をどうにかしにいくぞ!! はやくせんと、東京を踏み潰してしまうわ!!」

駆け出す女妖怪。

男も、それを追う。



―――山のふもと


女妖怪「猫又が上手くやってくれたようじゃな・・・! 人間がほとんどおらん!!」

男「しかし近くで見ると・・・でけえ」


巨人はすぐ目前にいた。

その体長は、標高500メートルほどもあるビップ山に匹敵する。



巨人と女妖怪の、目があった。


女妖怪「この妖気は覚えておるぞ・・・!! 鬼、貴様じゃな!?」


女妖怪の言葉に呼応するかのように、巨人の黒い体の中から、何かが姿を現す。

慎重は、黒い巨人の足の指にも満たない。女妖怪と同等ほど。

その容姿は、一昔前の世代にいたような、着物を着た男だった。

ガッチリした筋肉が、衣服の間からのぞく。


鬼「女妖怪様・・・久しいですね」クク

女妖怪「貴様、老人をどうした」ギリギリ

鬼「食いました」ニコ

女妖怪「貴様・・・・貴様・・・!!!」

鬼「フハハハハ。知らないと思ってましたか、アンタが人間に現を抜かしてる事」

鬼「気に食わなかったんだよ、俺は!!」


鬼「老人がアンタを封印した後・・・。アイツはアンタに化けて俺たちに告げた」

鬼「私が退魔師に封印される事により、山の妖怪どもを逃すと」

鬼「俺はもちろん反対した。そして、老人と共に人里に攻め込む事になった」

女妖怪「・・・・・」

鬼「人里に降り、手当たり次第に家を燃やした」

鬼「女、子供・・・。誰彼構わず殺し、食らった」

鬼「老人は食いはしなかったものの、人間を殺しまくっていた・・・あの覇気は、まるで本物のアンタのようだった」クック

女妖怪「・・・・・」


鬼の目を見つめたまま、女妖怪は何も言わない


鬼「やがて、退魔師が現れた」

鬼「一目見て、強いと分かった。ここにいる妖怪が全て束になっても、勝つことは出来ないと悟った」

鬼「老人は退魔師にその身をゆだね、殺されようとした」

男「死ななかった・・・のか」

鬼「そうだとも! 早計な人間は、女妖怪の妖力を吸い、さらに自分の強力な妖力をも併せ持った老人に端から適わないと踏んだのだ!!」

鬼「そして哀れにも、人間どもは殺されようとしていた老人を殺さず、封印してしまったのだ!!」

鬼「俺は逃げた。他の妖怪どもは皆戦って死んだが、俺はおめおめと逃げた」

鬼「そして、老人が封印されるところを目撃した。封印された場所はアンタのいた山ではなく・・・ここ、ビップ山であった」

鬼「その当時、東京に強力な退魔師が多くいたかたらであろう」

鬼「アンタの姿をした老人の妖力は本当に強く・・・俺のような中位妖怪では、触れる事すら出来なかった」


鬼「下手に修行をして力をつけても、退魔師に感づかれる」

鬼「そこで俺は、全国を行脚し、低位の妖怪どもに話をして回った」

鬼「東京のビップ山に切り札がある。それを使える日が来たとき、ビップ山に集えと」

女妖怪「切り札とは・・・老人の事か」

鬼「そうだ。俺は老人の妖力を用いて、人間に復讐しようと考えた」

鬼「だが、待てども待てども老人の妖力は衰えず・・・。気づけば300年が経っていた」


鬼「そんなある日の事だ。封印が、一瞬だけ緩んだ瞬間があった」

男「それって・・・もしかして・・・」

鬼「俺はすぐに分かったよ。九州でアンタの封印が解けたんだろうと」

鬼「老人の妖力の半分はアンタの妖力だ・・・。アンタの体に戻ろうとするのが自然なこと」

鬼「その妖力が緩んだ瞬間を狙い、俺は封印を解き、老人を食らった」

女妖怪「そうか・・・。私の妖力が老人の妖力と混ざりそれで私は妖力移動の術を・・・」

鬼「そして、今に至るわけだ。どうだ、女妖怪・・・いや、葬姫。これがお前の愛した男の最期・・・そして!!」

鬼「この黒い妖気の塊こそが、老人なのだ!!!」


鬼「俺はこいつと同化し、東京を壊滅させる」

鬼「そして、日本を妖怪の国にするのだ!! フハハハハハ!!!」


鬼は高らかに笑うと、黒い巨人に取り込まれていった。


女妖怪「男よ」

男「・・・なんだ」

女妖怪「この黒い巨人。これは、様々な妖怪の思念、憎悪、感情がこもっておる」

女妖怪「いわば、妖怪の集合体じゃ」

男「うん・・・」

女妖怪「じゃがの」

女妖怪「この巨人を構成してまとめているのは、老人の妖力」

女妖怪「つまりこいつは、妖力の集合体とも言えるのじゃ」

男「女妖怪・・・・。お前まさか・・・」


女妖怪「男よ。今から私は、この巨人を全て吸収する」


男「無茶だろ。こんなでかいくて禍々しいの吸収したら・・・お前の体がもたんだろ!!」

女妖怪「・・・老人の妖力が相手では、私でも太刀打ちできん」

女妖怪「私は本気で老人に戦いを挑み、勝った事は一度もない」

女妖怪「じゃが。今は老人の、妖力吸収を使う事が出来る」

男「あいつの体を吸って! それでその後、お前はどうなる!!」


女妖怪「・・・男よ」

女妖怪「お前は私の主じゃ。その首飾りで、私の妖力を吸収できる」

男「!!!」

女妖怪「良いか男。私があの巨人の妖力を全て吸収した後・・・・その首飾りに、私の妖力を全て移せ」

男「そんなことして・・・大丈夫なのか!?」

女妖怪「わからん。その首飾りが妖力を吸収できる限界を超えるかもしれん。

女妖怪「だがな」

女妖怪「ここで、やらないわけにはいかんのじゃ・・・!」ギリッ


女妖怪の握り締めた拳がワナワナと震えていた。

男「女妖怪・・・」

女妖怪「男よ」

男「・・・なんだ」

女妖怪「猫又を頼む」

男「何言ってんだよ・・・。これから死にに行くみてえじゃねえか・・・」

女妖怪「そんな気は毛頭ないが・・・念のためな」

男「くそっ・・・!! お前は最強だろ!? 俺の僕だろ!! 死ぬわけないだろ!!」


女妖怪「・・・・・・それも、そうじゃな」ケタケタ


女妖怪「それと、もう一つだけ」

女妖怪「もし私が死んだら、そのときは」



女妖怪「男・・・お主が、人間と妖怪との架け橋になってくれ」


女妖怪が走り出す。

黒い巨人がその巨体に似合わぬ速度で反応するが、

それよりも更に速く、女の術が発動する。


「ぐぅうおおぉぉおぉおおお!!!!???」


黒い巨人を、緑の光が包み込む。

その光が、滝のように女妖怪へと吸い込まれていった。


女妖怪「ぐっ・・・くっ・・・ううううう!!!!」


歯を食いしばるその表情が、男の胸に突き刺さる。


女妖怪の思いを、無駄にはできない。


男「おおおおおおお!!!」


女妖怪が吸い取った妖力を、男が首飾りに注ぎ込む。


黒い巨人の体は見る見るうちに小さくなり、やがて消滅した。

後には何も残らなかった。



女妖怪が、静かに体を地に伏す。


その体から、男の首飾りへ。


溢れんばかりの緑光が降り注ぎ。


その光が消えようとした頃。


乾いた、小さい音と共に。



男の首飾りが割れ、粉々に砕けた。


ヒュゥゥー、と。

風が空を切る音が聞こえた。


風が撫ぜるは、草木の葉。


女妖怪の長い髪。


男の頬。



そして、粉々になった首飾りのかけらも、風に乗り、空のかなたへと消え去った。


男は、空を見上げる。


いつの間にか、夜になっていた。

風で雲も吹き飛んだのか、星がいくつもいくつも見えた。



男「・・・女妖怪」


倒れこんだ女妖怪に歩み寄る。

その意識は、ない。

呼吸を、していない。


男「・・・・女妖怪!!」


何度呼びかけても、何度ゆすっても。


女妖怪は何の反応もしなかった。


猫又「女妖怪様・・・?」

いつの間にか、猫又がいた。

男「猫又・・・女妖怪が・・・」

猫又「・・・男」


猫又「全てを話せ」

―――
――



――
―――


猫又「なるほど・・・そんな事が」

男「女妖怪は・・・。自分の命を犠牲にしてまで・・・」


猫又「・・・・いや」

猫又「女妖怪様は死んではおらん・・・」

男「!? ほ、本当か!!」

猫又「かすかに生気はある・・・だが」

猫又「・・・妖力が無い。永い眠りにつかれるだろう」

男「・・・どれくらい?」

猫又「少なくとも、この様子では、500年は・・・」

男「500・・・年・・・」


がっくりと、男はうなだれた。


猫又「男よ」

男「・・・なんだ」

猫又「悲しいか」

男「・・・あ?」

猫又「女妖怪様が眠りにつくことが、悲しいか」

男「あたりまえだろ!! お前は悲しくないのかよ!!」ドンッ

猫又「・・・・・・」

猫又「・・・・いや、な」

猫又「女妖怪様とお前はまだ知り合って日が浅い」

猫又「それだというのにお前は女妖怪様を本気で心配し、全力で助け、そして心の底から悲しんでいる」

猫又「もし、全ての人間がお前のようであれば」

猫又「・・・あるいはな」

猫又「そういうのも、悪くないと。私は今・・・そう思った」

男「猫又・・・」


猫又「女妖怪様は最期に言い残したのだろう」

猫又「お前に、人間と妖怪の架け橋になるよう」

男「・・・・・・・」

男「・・・・・それは」

男「女妖怪が死んだらの話だ」

猫又「・・・では、お前はこの先どうする?」

猫又「女妖怪様の意思を、継がないのか?」

男「そんなわけはない」

男「勿論、妖怪と人間をつなぐ架け橋にはなりたい」

男「だけど・・・それを、女妖怪にも見せてやりたかった・・・」

猫又「・・・・・男」

男「猫又。お前は後、500年生きられるか?」

猫又「わからん・・・。だが私はあくまでも低位の妖怪だ。多分、死んでいる」

猫又「まあ、子孫なら残せるとは思うが・・・」


男「なぁ、猫又・・・」

猫又「・・・なんだ」

男「目が覚めて」

男「自分の夢が叶っていても」

男「自分のことを覚えている人がいないんじゃ」

男「寂しすぎるよなぁ・・・・・」

猫又「男・・・・」



山の麓。

二人は夜が明けるまで、じっと佇んでいた。



――5、了

終わり




光の差し込む洞窟。

そこで目を覚ました一人の女性。

女妖怪「・・・・・」

女妖怪「私は・・・・」

女妖怪「そうか・・・。眠りに・・・」

女妖怪「・・・・・・・・」


周りを見渡すと、そこはかつて自分が一度封印された部屋に酷似していた。

女妖怪「あれからどれほどの時間が経ったんじゃ・・・」

女妖怪「・・・男・・・・猫又・・・・」

女妖怪「・・・・・・・・・」

女妖怪「一人ぼっち、かのう・・・」

女妖怪「・・・・寂しいの」

お・・・おう・・・

すごいな
なんかすごいわ
普通に感動できた
>>1


女妖怪「世界はどうなったんじゃろうか・・・」

女妖怪「人間と妖怪が、仲良く暮らしてるんじゃろうか」

女妖怪「・・・・・・」

女妖怪「男は・・・女とでも結ばれたんじゃろうか・・・」

女妖怪「・・・もう、死んだんじゃろうな」

女妖怪「猫又も、生きてはおるまい・・・」

女妖怪「・・・・・・・」


女妖怪「外にでも、出てみるかの」



思い体を動かすと、何者かの気配がした。

思い× 重い○


女妖怪「え・・・・」

振り返るとそこにいたのは。

男「・・・・・・」

女妖怪「おと・・・こ・・・?」


男だった。


男「・・・え!? 俺のことを知ってるんですか!? だ、誰ですか・・・」

女妖怪「忘れたのか・・・? 女妖怪じゃよ・・・!!」


男「妖怪だと・・・?」

女妖怪「・・・」



男「なーんちゃって。ふざけてごめんよ、女妖怪」

女妖怪「男・・・! やはり男なのじゃな!!」

女妖怪「あれから何年たった!? 何故、生きておるのじゃ!?」

女妖怪「話したいこと・・・たくさんありすぎて・・・」ポロポロ


男「ははは。泣くなよ、女妖怪」

男「でも、ごめんな」


男「時間が・・・・ないんだ」


女妖怪「え・・・?」

男「簡潔に説明する。今はあの時から524年経った」

女妖怪「・・・・・男?」

男「俺と猫又と友と・・・。みんなで協力して、多分今の世界は、みんなが手を取り合って生きてる」

男「女妖怪と一緒にその世界を見られなくて残念だ」


女妖怪「・・・もうよい・・・やめろ・・・・」

男「忘れないで欲しい。お前は一人じゃない」

男「どこかにいる友の子孫、女の子孫、猫又の子孫・・・。みんな、お前の仲間になってくれる」

男「だから、安心して生きてくれ」


女妖怪「男・・・・。そうだよな・・・」

女妖怪「500年以上経っているのに、男が生きているはずないな・・・」

女妖怪「男・・・私は、こんなことをさせる為に、お前の人生を、奪ってしまったのじゃな・・・・」


女妖怪「もうよいのじゃ・・・。わかっておる・・・。お主・・・・・憑依妖怪・・・じゃな・・・」


男「すみません・・・。ですが、もうこの肉体を保つのも限界で」

男「貴女が今日目覚めてくれて、助かりました」

女妖怪「やめろ・・・。その姿で話すでない・・・」

男「しかし、私がこの肉体から出れば・・・」

女妖怪「良いのじゃ・・・。男はもう、死んでおる・・・」


次の瞬間、男の体は崩れた。

文字通り、頭から足の先まで、一瞬にして、粉々に。


女妖怪「男は・・・いくつで死んだ」

憑依妖怪「23の時です」

憑依妖怪「男さんが22の時、妖怪と人間は正式に和解しました」

憑依妖怪「もっとも、妖怪の実在に人間は驚いておりましたが」


女妖怪「それで・・・男はどうした・・・」

憑依妖怪「・・・この肉体を使って、女妖怪様が目覚めるまで待ってやってくれと」

憑依妖怪「私の一族で順番に肉体を保ち続け、そして今日が来ました」

憑依妖怪「粋なマネをしたのは分かっています。ですが、これが男さんの望みでした」

女妖怪「・・・・男の。大バカめが・・・!!」ポロポロ



女妖怪の目からは、とめどなく涙が溢れていた。


これは夢を叶えようとした一人の男と。

その夢を引き継いだ一人の女と。

その夢を叶えた一人の男の。


悲しく、そして幸せな物語。



――男だったかけらを拾い集め、女妖怪は愛おしそうにそれを抱きしめる。


女妖怪「男・・・男・・・」




6、了



―完

おぉう・・・続いてたよ
今度こそ>>1
最近妖怪とか多いな

女妖怪「わ、私を呼び出した代償が“童貞”だと・・・!?」
とか
男「……(幽霊いる…)」
とか
双子吸血鬼「がお~!」「血を吸うぞ~!」?
とか
魔女「仕返ししてやる」とか

これくらいしかしらないわ

獣娘もいいんだけどなぁ
狐娘とか

乙!!!
男は何死に?

とりあえず疲れた。こんなに疲れるとは思わなかった。
意味不明な点があればあと少しいるので答えます。
支援とかしてくれた方ありがとう。

>>363
自殺

青年の姿のまま500年維持したって事か?

自殺は何故

男は結婚したの?

>>368
厳密に言ってませんでしたが、男は薬品で自害して、500年後までコールドスリープしてます。

解凍後、憑依妖怪の一族に肉体を乗り移らせて、どうにか維持していました。

で、女妖怪が目覚めたら男から貰っていたせりふを言う事になってた。

>>369
男は女妖怪の主ですから
男の意思

>>370
してません。
女に言い寄られましたが、断って自害します。
女はちゃんと別人と結婚しました。

このあとの女妖怪はこうなるとかある?
ほんのちょっとだけでいいから知りたい

>>378
一応、憑依妖怪から連絡を受けた猫又の子孫が外で待っている予定です。
多分、猫又の子孫や繁栄した妖怪、人間たちと幸せに暮らすと思います。
彼女がまっさきにするのは、男の墓をたてることだと思います。

そういえば妖怪女がいつのまにか女妖怪になっててワロタ。

男は童貞のまま死んだのか?

男がとても女妖怪の顔に精子ぶっかけたのと同一人物には見えない

>>382
童貞です

>>383
俺もそう思う


一つ大事な事を明かしていなかったので補足。

男は老人の子孫ではありません。

人里を襲撃する前、首飾りを間もなく町を出ようとしていた旅商人に預けます。

それがめぐりめぐって、男の家の家宝になっていました。

封印が解けたのは、男が首飾りをしていたからです。

首飾りがなくても、もう200年ほど眠れば封印が解ける予定でした。

ss書いたのは初めてだったけど、一日かかるとは思ってませんでした。
それではおやすみなさい。ご支援ありがとうございました。

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