ダル「牧瀬氏、オカリンのこと好きっしょ?」紅莉栖「ふぇ!?」(449)

時は2010年7月下旬。
天才少女牧瀬紅莉栖は、一人の男によって父親の狂気から命を救われた!
一言お礼が言いたい、彼女は強く願うも事情により無念の帰国!

時は流れ9月、再来日を果たした彼女は、その男の情報を求め秋葉原内を捜索!捜索!!捜索!!!
もう会うことは出来ないのか!お礼も告げることが出来ずに終わってしまうのか!
あきらめ掛けたまさにその時!奇跡が!奇跡が起きた!!
嘲笑うかに見えた奇跡の女神は牧瀬紅莉栖に微笑んだのであった!
「あなたが無事でよかった」その言葉が口から出た刹那に音を立てて崩壊する牧瀬紅莉栖の涙腺!

岡部と名乗るその男は、彼女をラボメンへと誘う!
誘われるがままにラボメンNo.004となった牧瀬紅莉栖!
この先に待つものとは何なのか!!!
(ナレーション:立木文彦)



紅莉栖「いや、間違ってないけど何これ」

まゆり「ざわざわしちゃうねー」

さっきの暑苦しいナレーションにもあったように、私はラジ館の奥のほうでパパと喧嘩になったの。

私はここで死んじゃうのかな、って思ったとき、見ず知らずの男性が現れてね。

その人は私を庇ったせいでパパにナイフで刺されちゃって、私はすぐ救急車を呼ぼうとしたんだけど、

「俺は、お前を、助ける」 って声が聞こえた瞬間、私はそこで気を失っちゃったの。


気がついたときにはパパもその男の人ももういなくて、警察の人と野次馬が大勢。

私の服も血だらけになってたからすぐに病院に連れて行かれたけど、ちょっと頭がフラフラするだけで無傷。

検査入院までさせられたけど、やっぱり異常なし。

退院したと思ったら今度は警察が来て、今度は事情聴取。

警察の人が「現場に流れていた血液は1種類しか検出されなかった」って重々しい顔で言った。

私のその言葉が何を意味するのか、気付くのに数秒かかった。


血の海。

一種類。

それは。

―――出血量から見て、被害者の生存の可能性はきわめて低い―――

事情聴取の後、私はどうやってホテルに帰ったかなんて覚えてなんかいなかった。


見ず知らずの人が。

私のために。

私を庇って。

私の代わりに―――


それ以上の事は考えたくなかった。


「俺は、お前を、助ける」

その言葉が脳内を巡る。

涙が止め処なく溢れる。


疲れてたのかな。
気がついたら私は着の身着のままで眠っていたらしくて、目が覚めたときには夜の11時

何気なくテレビを点けた。ちょうど夜のニュース番組が始まった。

「ラジオ会館傷害事件 白昼の秋葉原で何が・・・」

今日のトップニュース。


―――はい、こちらラジオ会館前の○○です。
今日午後1時ごろ、ラジオ会館8Fの従業員用通路で女性が腹部から血を流して倒れているのを従業員が発見、
警察が駆けつけ調べたところ、この女性に目立った外傷は無く、また衣類に付着していた血液も本人の物では―――


聞きたくない。

嫌でもあの時の光景が鮮明に脳内に映し出される。

私はテレビを消すのも忘れ、部屋を飛び出した。



―――先ほど入ってきた情報によりますと、被害者の男性は都内在住の大学生、岡部倫太郎さん18歳。

   直ちに都内の病院に搬送されましたが、腹部を刺され現在も意識不明の重体、とのことです―――

頭を冷やそうと思って外に出てみたけど。

夜風が生温い。

温度計の表示は28度。日本の夏はなんでこんなに暑いのかしら。


上着、着ないで正解だったかな。

というか、血が付着しちゃったからもう着れなくなっちゃったんだけどね。 

Yシャツは替えのがあるしネクタイはすぐ手に入るけど、あの上着はこの世に一着しかないものだから。


また、同じの作ろうかな。お気に入りだったし。
でも、高校の制服なんてそう簡単に手に入るのかな?


ホテルからすぐ。
小さな橋から川を眺めた。


小さい頃、パパに肩車してもらって見た風景、思い出すな。

この目ではっきりと見た。 

あの人を刺したのは、間違いなくパパ。警察の人にもそう伝えた。

今頃どうしてるのかな。

慌てて海外にでも逃げようとしてるのかな。

私のレポートを持って。

でも、逮捕されるのも時間の問題。


涙で視界が霞む。


なんで・・・こんなことになっちゃったのかな・・・。


さようなら、パパ。お元気で。

もう2度と会うこともないでしょう。

翌朝、といってももう10時。
生活リズム狂っちゃうな。

講演会とかの予定が全部キャンセルになっちゃったから、すごく暇。


電話が鳴る。

英語での会話。


―――日本での出来事は聞いた。このようなタイミングで申し訳ないが、すぐに研究所に帰ってきてくれ―――

―――明日の飛行機には乗れるようにしてほしい―――



そんな。

滞在期間、4日。

私は何をしに日本に来たのだろう。

「申し訳ありませんが、こちらにはそのような方は入院してはおりません」

4件目、ここも駄目。

あの人が刺されたビルの近くの病院に、電話を繰り返す。


名前は分からない。

20代前半くらいの、白衣を着た背の高めな男性。腹部を刺されて重症。

手がかりはこれだけ。

実際の年齢なんてわからないし、服だって着替えてたら手がかりにならない。

事件性がある場合は、一般には公表しないって決まりがあるのかもしれない。


5件目、6件目、7件目。

神様なんてあまり信じてはいないけど、今だけは祈らせて。


「岡部倫太郎さんのことでしょうか?でしたら、腹部刺傷ということで当病院に搬送されましたが・・・」

「面会謝絶、ですか?」

タクシーで病院に駆けつけたけど、ナースの一人が渋い顔で首を横に振った。

「岡部さんは現在も意識不明の重体です。現在も集中治療室で処置が行われています」

涙がこみ上げる。

必死に堪え、ポケットから一つのお守りを取り出す。

ここに来る途中に買ったもの。

「これ、岡部さんの近くに置いてもらってもいいですか・・・?」

ナースはふた呼吸ほど考えたのち、何かを察したように微笑み、小さく耳打ちしてきた。

「わかった。でも、誰にも内緒よ。私が置くってこともね」

安堵。

堪え切れなかった雫が、一筋、頬を伝った。


と。

「あ、あの・・・岡部さんの、知り合いの方でしょうか・・・?」

廊下の奥のほうから、一人の少女が歩いてきた。

「あら漆原さん。今日のお祈りはもう済んだの?」

「あ、はい。・・・で、こちらの方は・・・?」

おどおどした様子で私の方を見る。 もしかして、岡部さんの・・・?

「あ、わ、私は、その・・・先日岡部さんにちょっとお会いしただけ、というか・・・その・・・」

なぜか私もつい挙動不審になる。

「こちらは岡部さんの知り合いの漆原るかさん。神社の子で、治療室の前で毎日お祈りに来てるの」

私と彼女の空気を感じ取ってか、ナースが彼女を紹介してくれた。

「神社の巫女さんが毎日お祈りしてくれるんだから大丈夫。絶対元気になるわよ」

「い、いえ、そんな・・・そ、それじゃボクはこれで失礼します」

「あ、ま、待って!」

「はいッ!?」

「・・・ええ、それで外に出たら、すごく体の大きい男性が女の子を連れてお参りに来てたんです」

「へえ、確かにそれは誘拐に見えるわね」

「は、はい。どうしようか考えてたらその人と目が会っちゃって、ボク、ビックリしてつい走って逃げちゃったんです・・・」

「あはは、ひどーい。その人気傷ついちゃったんじゃない?」


私は病院の近くの喫茶店で、漆原るかさんと自己紹介の後ガールズトークに華を咲かせていた。


それにしても漆原さん、かわいいな。

女の私から見ても、守ってあげたくなる華奢さ。

漆原さん、もしかして、岡部さんの、彼女だったりするのかな。

「漆原さん、もしかして、岡部さんの、彼女だったりするのかな。」

「へっ?」

しまった、つい口から出ちゃった。

「い、いえいえ!そんなんじゃないです!!ただの尊敬というか、その・・・それにボク、男ですし・・・」



えっ。

5時過ぎ。ホテルに到着。

今日はいろいろな事があった。

漆原さん、男だったんだ・・・!



違う、そこじゃない。

岡部倫太郎。

あの人の名前が分かった。


岡部さん。

元気になって。

今度はいつ日本に来れるかわからないけど。

絶対。

絶対に、お礼をするから。

神様、お願い。

アメリカでも、私の巻き込まれた事件は一部でニュースになっているみたい。

研究所内ですれ違う人みんなに「大丈夫か?」と心配された。

アメリカでは、犯人はパパ、って所までは伝わっていないみたい。


私がアメリカにとんぼ返りさせられた理由。

難しくなるから、簡単に説明。


私が日本にいる間に、とある実験において例外が発生。専門である私が呼び戻された。


それだけ。

とはいってもそうそう簡単な問題じゃなさそうだから。明日すぐ日本へ、とはいかないと思う。

仮に明日日本に行けても、岡部さんには会えないけど。

アメリカに帰ってきて2週間。

ロシアの空港でパパの身柄が拘束された。ってニュースが届いた。


驚かないし、哀しくもない。当然だもの。

殺人未遂の容疑者が逮捕されるのは当たり前。

しっかり罪を償ってね。


―――もし、”未遂”じゃなくなってしまったら?―――


こんな考えが頭を過ぎる自分を恨んだ。


岡部さんは助かる。絶対。

漆原さんがお祈りしてくれてるんだもの。

今頃はもうすっかり回復、会話だってできるようになってるに決まってる。

8月も下旬にさしかかって、私をアメリカに連れ戻す原因となった問題がようやく解明。

この3週間、ろくに睡眠もとっていないし、ほとんど家にも帰ってない。

気が抜けた途端、ドッと疲労が圧し掛かった。

今日は久々に家に帰って、ベッドでたっぷり寝よう。


「クリス、ご苦労。急に呼び戻してしまってすまなかった。君のお陰でようやく全てが解決だ」

私の上司にあたる人が、肩にポンと手を置いた。

「『これくらいなんともない』って冗談を返せる元気も残ってないわ」

「ハハハ、今回のお礼と先月の埋め合わせも兼ねて、来週から1ヶ月の休暇を与えよう。」

男はポケットから飛行機のチケットを取り出し、軽くウインクをしてみせた。

「日本でやり残した事があるんだろう?」

「い、いいの?1ヶ月も・・・」

「行って来なさい。もし1ヶ月で足りないのならば、俺に連絡をくれれば善処する」

「クリス、なんだか嬉しそうね?」

仕事中に鼻歌を歌っているところを、同僚に目撃された。からかうように笑う。

「また日本に行くんですって?」

「ええ、明後日の飛行機で出発するの」

「日本で好きな人でもできた?」

「なッ!?べ、別にそんな―――」

立ち上がって大声を出してしまったせいで、周りの研究員の注目を浴びる。

「成就できるよう、祈ってるわよ。クリス」

「だ、だから・・・」



違う、そんなんじゃない。



なぜか、その言葉が、言えなかった。

9月3日 金曜日 午後7時。
日本、東京。

また日本へ帰ってきた。

前回と同じホテルの同じ部屋。

荷物を置いて、ベッドに腰を下ろす。


もう時間も無いし、今日は早めに休もう。


明日は、病院に行ってみよう。

もう退院しちゃったかな。

岡部さんは、もう私の事なんて、憶えていないかな?

翌日、岡部さんの入院していた病院に電話をする。

先月会ったナースが対応してくれた。

「ああ、岡部さんなら小1時間前に退院しましたよ」

タイミングが合わなかった。

「この後は秋葉原に向かうって行ってたから、行ってみたら?会えるかもしれないわよ」

秋葉原。ホテルからは結構近い。

今から行けば会えるかもしれない。

「ありがとうございました。私、秋葉原に行ってみようと思います」

「あ、あとね、あなたがくれたお守り、岡部さんのカバンに付いてるのを見たわよ。安心して」


この人、約束どおり、お守りを渡してくれてたんだ・・・。

日本で感謝する人がまた一人増えちゃった。

秋葉原での岡部さんの目撃情報は、決して少なくない。

最近見てないけど、よく秋葉原近辺に白衣姿で出没するらしい。

この辺りに研究所みたいなのがあるのかな。


秋葉原といっても、十分に広い。とてもじゃないが1人で回りきれるものではない。

この辺には退院後に少し立ち寄っただけで、もうしばらく秋葉原には来ないのかもしれない。


「絶対にオカベを見つけるんだぞ。そいつは脳科学の未来を救った男なのだからな」

ふと、日本へ発つ直前に言われた上司の言葉が頭を過ぎる。

私は諦めない。

この為に私は日本へ来た。立ち止まってなんかいられるもんですか。

私は再び歩き出す。


その刹那。

「っ――――――」

もう、涙は隠せなかった。

隠そうとも思わなかった。

両目に溜まった涙が、堰を切ったように流れ落ちる。

「お・・・岡部さん・・・あなたが、無事で、良かった」」

岡部さんの懐に飛び込む。

それはまるで、泣きじゃくる子供のよう。

「私・・・私、岡部さんに、どうしても、おれ、お礼が言いたくて、どうしても、会いたくて・・・」

彼は、私を包み込むように両腕で優しく抱きしめてくれた。




9月とはいえ、日本はまだまだ暑い。

でも今の私は、岡部さんの体温を感じられることが、何よりも嬉しかった。



もしもし。

おお、クリスか。無事日本に着いたようだな。

それで、オカベの情報は手に入ったか?

・・・何だって?もう見つかった?

ハッハッハ、日本に着いた翌日にもう出会えるとは、こりゃまるで運命だな。

・・・ああ、こっちは問題ない。なーに、大丈夫さ。心配することはない、

休暇はしっかり休む。それも大人のルールってもんだ。

結婚式には俺も招待しろよ?

ハッハッハ、そうムキになるなよ。冗談だよ、冗談。

それじゃ、また何かあったら電話をくれ。それじゃあな。

「・・・ったく、ボスったら何を言うのよ・・・」

携帯をポケットへしまう。


紅莉栖「ごめんなさい。今電話終わったわ」

岡部「ああ。・・・どうした?顔が赤いが」

紅莉栖「ふぇ!?な、何でもないから!気にしないで!」

岡部「ふむ・・・」


二人はまた歩き出す。

横目で岡部さんの横顔に目をやる。


あらためて見るけど、岡部さんってちょっとかっこいい、かな・・・。


って、会って早々に何を考えてるのよ私は!もう、ボスが変なこと言うから!

紅莉栖「そういえば岡部さんって、おいくつなんですか?」

変に高ぶった気持ちを落ち着かせるため、気になっていた点を質問してみる。

岡部「18だ。12月に19歳になるから、学年で言えば紅莉栖の一つ上か」

紅莉栖「18歳!?同い年!?」

岡部「なんだ?そんなに驚くことか?」

岡部さんがニヤリと笑った。

紅莉栖「す、すいません。大人っぽい印象があったから、てっきり20代前半くらいだと・・・」

岡部「謝らなくてもいい。よく老け顔と人に言われるしな。・・・それに」

明快な笑顔が、どこか寂しげな笑顔へと変わる。

岡部「ここ最近・・・色々とあってな。そのせいもあるかもしれない」

紅莉栖「それって・・・私のせい、ですよね・・・」


ラジ館での出来事が映像となって今でも鮮明に脳内で映し出されてしまう。

決して忘れることのできない。7月28日。


紅莉栖「・・・無関係な岡部さんを巻き込んでしまって、本当に申し訳ないと思ってます」

岡部「無関係などではない。俺はお前を助けなければならなかった。言うなれば、俺が望んだことでもある」

紅莉栖「え?それって、どういう・・・?」

岡部「いずれ、機会があれば話す。今はまだ、話せない」

紅莉栖「・・・わかりました。今はまだ、聞かないでおきます」


何だろう。
脳の奥のほうがチリチリする。


岡部「それに紅莉栖、別に敬語を使う必要はないぞ。こう見えて俺とお前は同い年なのだからな」

紅莉栖「あ、はい。・・・うん」

紅莉栖「漆原るかさんもラボメンなの?」

岡部「ん?なぜルカ子の事を知っている?何処かで会ったのか?」

紅莉栖「あ、うん。私、あの事件の数日後に岡部さんの入院してる病院に行ってね」

岡部(ということは、紅莉栖は1ヶ月以上日本にいるということなのか?帰国も近いのだろうか・・・)

紅莉栖「そしたら、ちょうど漆原さんがお祈りしてたらしくて、そこでバッタリ会ったの」

岡部「ああ、その話は聞いた。俺が今こうして歩いていられるのもそのおかげかもしれんな」

紅莉栖「漆原さんの話を聞く限り、あまりにも献身的だから岡部さんの彼女、なのかなって思ったけど」

岡部「ま、待て!ルカ子は―――」

紅莉栖「男の子、なのよね」

岡部「おと・・・・なんだ。そこまで知っていたか」

紅莉栖「・・・しばらく見ない間に、日本は変わったわね・・・色々と」

岡部「ああ、ここ数年で、色々とな・・・」

岡部「そうだ、紅莉栖はいつまで日本にいられるのだ?もうかれこれ1ヶ月以上滞在しているのだろう?」

紅莉栖「あ、そうだ、私、あの事件のあと、アメリカにとんぼ返りさせられちゃって」

岡部「なんだ、そうだったのか」

紅莉栖「アメリカの研究所での実験で特殊な事例が起きてね、専門の私が呼び戻されちゃったの」

岡部(確かに今までにない事例だ。これもバタフライエフェクトの一種なのだろうか)

紅莉栖「解決したのが一週間くらい前。急に呼び戻したお詫びって事でまた休暇をもらったの。昨日日本に来たのよ」

岡部(俺の入院が1ヶ月。それに会わせるように紅莉栖の来日も1ヶ月ズレた、か」


岡部「・・・これも、運命って、やつなのか」

紅莉栖「ふぇ!?う、運命って・・・ど、どういう・・・?」////

岡部「あ!あぁー!な、なんでもない!ところで日本にはどれくらい滞在するつもりなのだァー!?」////

紅莉栖「そ、そうね、今月いっぱいは日本にいるつもり!」////

岡部「そ、そうかァー!たっぷり日本を満喫していくのだぞォー!」////

紅莉栖「う、うん!そうするっ」////

天王寺「なーに歩きながら乳繰り合ってんだ、岡部」

岡部「ミ、ミスターブラウン!なぜここに!?」

天王寺「なぜって、店主が店の前にいちゃいけねえのか」

岡部「へ?あ、ああ。もうラボまで辿り着いていたのか」

天王寺「お?姉ちゃん、見ねえ顔だな。ったく、とっかえひっかえ女連れ込みやがって。一人くらい俺にも紹介しやがれ」

紅莉栖「えっ」

岡部「ご、誤解を招く発言は控えるんだな、ミスターブラウン!彼女らはれっきとしたラボメンであり―――」

天王寺「お姉ちゃん、今のこいつは病み上がりだからおとなしいけどな、そのうちな、」

岡部「だから違うと言っているではないですか!紅莉栖、行くぞ!このビルの2階が我がラボだ!」

紅莉栖「あ、うん。そ、それじゃ、失礼しました」ペコリ


天王寺「はっはっは。若いってぇのはいいな。俺もあと15、いや10若けりゃな・・・」

萌郁「岡部君、帰ってきたんですか・・・?」

天王寺「うおっ!お前、まだいたのか!」

萌郁「支度中・・・でしたから・・・お疲れ様でした・・・」

まゆり「あ、オカリン、おかえりー」

ダル「む?オカリン、そちらの女人はどなたですかな?」

岡部「ああ、紹介する。彼女は」

ダル「ああっ!もしかして、牧瀬紅莉栖!?!若干17歳(ry っしょ!?」

紅莉栖「あ、はい。岡部さんに助けてもらったお礼を言うために、日本に来たんです」

ダル「助けて?・・・ってことは、オカリンが助けたのって牧瀬氏だったん!?」

まゆり「おおー、女の子を助けるなんて、オカリンはかっこいいのです!」

紅莉栖「そしたら岡部さんに、ラボメン?になってくれって言われたので・・・」

まゆり「・・・ラボメンに、なるの?・・・本当に?」

紅莉栖「え?あ、はい。っていってもラボの活動内容とかは詳しくは聞いてないけど・・・」

まゆり「・・・・・・・・・」

紅莉栖「え、えっと・・・?」

まゆり「女の子のラボメンだー♪まゆしぃは大歓迎なのです!」

まゆりがかじりつくように飛びつく。

紅莉栖「わわっ!ちょ、ちょっ!?」

まゆり「今日だけで4人もラボメンが増えるなんてすっごいことだよー♪まゆしぃはとってもとーっても嬉しいのです!」

紅莉栖「あ、ああ、そうなんだ。えっと、まゆりちゃん、だっけ?岡部さんから聞いてるわ」

まゆり「えっへへー、まゆしぃって呼んでくれてもいいんだよー♪早速だけど紅莉栖ちゃんにラボを案内するのです」



まゆり「こっちがラボの研究室でねー、で、こっちがシャワールームなんだよー。まゆしぃもたまに使うのです。それでー・・・」

ダル「見目麗しい女の子同士がキャッキャウフフ・・・これは胸が熱・・・?」

僕と目が合う寸前で、オカリンがとっさに背中を向けた。その瞬間、確かに見た。


ダル(オカリン・・・今、泣いてた?)

ダルが手短ながらも内容の濃い自己紹介を終えた。

紅莉栖が苦笑いに近い表情で俺に視線を向ける。

”ま、まあ一人ばかり残念な男がいるが、他のラボメンにゾッコンだからな。心配はない”

まあ。そういうことだ。心配はいらない。悪いやつじゃない。変なやつだが。

俺も苦笑いで返す。


コンコン。

玄関からノックの音がする。

ドアスコープを覗く。

眼前に広がる、はちきれんばかりの大胸筋。

岡部「ミスターブラウン?どうしたんです」

天王寺「岡部。話がある。下まで来れるか?」

天王寺「もう、傷は大丈夫なのか?」

岡部「ええ、まだ完全ではないですが。だがこんな辛気臭い店内にいたら治るのが遅れてしまいそうだ」

天王寺「・・・」

睨まれた。

反射的に身構えたが、ミスターブラウンはすっと目を細め、フッ、と笑った。

天王寺「そんだけ減らず口が叩けりゃ、十分だな。ま、座れ」


彼の定位置である椅子の対面に置かれた椅子に座る。

岡部「で、話とは?家賃の値上げには応じ」

天王寺「・・・お前が意識不明の重体ってニュースを見たとき、俺は心底、助かってくれ、と願った」

岡部「ほう。あなたには人の心がまだ備わっていたんですね」

天王寺「馬鹿野郎、こっちは真面目に話してんだよ」

岡部「・・・はい」

天王寺「俺はこっちにゃ知り合いも身内も殆どいやしねえ」

彼は、入り口付近に置かれたテレビの、電源の入っていないブラウン管を見つめていた。

そういえば、いつかの世界線。出身はヨーロッパ方面と言っていたな。

天王寺「そんな中、ここの2階を貸してくれってお前が尋ねてきた時、実は嬉しくてな」

岡部「そういえばあの時、特に畏怖の感情は抱かなかった覚えがある」

天王寺「年甲斐もなく舞い上がってたんだろう。あんな破格の値段で2階を貸しちまったんだからな」

岡部「正直驚きましたよ。予想の半分、いやそれ以下の金額だった」

天王寺「人数も増えたことだし、そろそろ値上げしてやろうか?」

岡部「おっと、そんな規約はなかったはずだ。契約書なら大事に保管してますが、お見せしましょうか?」

天王寺「けっ、変なところだけはちゃっかりしてやがる」

天王寺「綯だってな、お前の事、すごく心配してたんだ」

岡部「綯が?」

天王寺「ああ。泣きながら『オカリンおじさん、死んじゃうの?』って腕にしがみついてきてな。
    お店の近くに神社があるから、明日お参りに行こう!ってせがまれてよ、一緒にお参りしてきた」

岡部「ここの近く・・・柳林神社ですか?」

天王寺「名前は知らねえが小さい神社だったな。そこの巫女が俺と目が合った瞬間走って逃げやがってよ。俺は傷ついたぜ」

岡部「ああ、間違いなく柳林神社ですね」

天王寺「ま、綯もああ見えてお前の事を少しは慕ってるんだ。もう少し優しくしてやってくれや。話はそれだけだ」

岡部「・・・ご心配を、おかけしました」

天王寺「元気になったならそれでいい。そうだ、お前先月は2階には1回も来てないよな?」

岡部「ええ、病院にいましたから」

天王寺「じゃあ、先月分の家賃はいらん」

岡部「えっ、ですが、まゆりやダルはラボに来ていたと思いますが・・・」

天王寺「俺は『お前』に2階を貸してんだ。お前が使ってないんなら、家賃をもらう理由はねえ」

岡部「・・・ありがとうございます。ミスターブラウン」

「あっ」
「ん」

ブラウン管工房を出てすぐ、綯と出くわした。

綯「こ、こんにちは。オカリンおじさん・・・」

俺はしゃがみ込み、綯と目線の高さを合わせ微笑む。予想していなかった行動に、綯は目を丸くした。

岡部「お前にも心配をかけてしまったみたいだな。すまない。だが俺はもう大丈夫だ」

綯「え・・・は、はい・・・」

綯の目が潤んでいくのがわかった。

岡部「それと、桐生萌郁って人がアルバイトに来ただろう。あいつは無口だが根はいいやつだ。仲良くしてやってくれ」

綯「は、はい。オカリンおじさん・・・」

岡部「それともう一つ。俺はおじさんじゃない。お兄さん、だ」

綯「わ、わかりました。オカリンお兄さん」

岡部「そうだ。それでいい」

綯の頭をワシャワシャと撫でてやり、ラボへと戻った。

まゆり「あ、オカリン、おかえりー」

ダル「何の話だったん?ずいぶん時間かかってたけど」

岡部「まあ、男同士の話、ってところだ」

ダル「アッー」

岡部「黙れ。 紅莉栖はどこへ行った?」

まゆり「紅莉栖ちゃんなら屋上にいるよー。風景が気に入ったみたい」

岡部「そうか、ちょっと行ってくる」


まゆり「・・・ラボメンが7人かー。えっへへー♪ 賑やかになるねー♪」

ダル「フェイリスたんまでラボメンになってくれるとか、オカリンの人望に全俺が泣いた」

まゆり「るか君もすっごい喜んでたよー」

ダル「男2人、男の娘1人、女の娘4人か・・・これは本が薄くなるな・・・」

岡部「紅莉栖」

紅莉栖「あ、岡部さん・・・ここの風景、なんか素敵ね。夜とか綺麗そう」

岡部「気に入ってもらえて何よりだ。隣、いいか」

フェンスに腕を乗せ、二人でビルの並ぶ風景を眺める。


岡部「ラボの雰囲気はどうだ?」

紅莉栖「思ってたのと全然違ったわ。和気藹々なラボなんて聞いたことない。うふふ」

岡部「改めて聞く。牧瀬紅莉栖にはラボメンNo.004となってほしい。引き受けてもらえないか」

紅莉栖「いいのかな。私、部外者よ? それに、1ヶ月もしたらアメリカに帰っちゃうかもしれないけど」

岡部「お前はもう部外者ではない。まゆりは友達が増えたと喜んでいたぞ」

紅莉栖「・・・うん、なんだか楽しそうだし。ラボメンになってあげる」

岡部「・・・ありがとう」

紅莉栖「そ、そんな、お礼を言われるようなことは何も・・・」

紅莉栖「で、私は何をすればいいの?ラボって言うくらいだから、何かの研究?」

岡部「そこが問題なのだ。以前は未来ガジェットという発明品を作っていたのだが、現在資金が底をついている」

紅莉栖「つまり、することがない、ってこと?」

岡部「むぅ・・・あっ。 紅莉栖、ラボラトリーとはどういう意味だ?」

紅莉栖「え?えっと、研究所とか実験室って意味。制作室、なんて意味でも使うわね」

岡部「制作室。そう、今日から1ヶ月間このラボは制作室となる」

紅莉栖「いや、だから資金が無いんじゃないの?」

岡部「金は無くとも思い出は作れる。牧瀬紅莉栖には被検体となってもらい、日本での思い出を沢山作ってもらう」

紅莉栖「・・・えーっと、それって」

岡部「思い出制作室。悪くないだろう」

紅莉栖「・・・くす、ひどいこじつけ」

岡部「あっ、笑ったな?一瞬で考えた割にはいいことを言ったつもりだったのに」

紅莉栖「やっぱり。・・・でも、嬉しい。岡部さん、優しいのね」

岡部「っ・・・ま、まあ、な。部下を思いやるのは、リーダーの役目だ」

岡部「―――というわけで、お前たちにもこのプロジェクトに参加してもらう」

ダル「・・・オカリン、それ、さっき思いついたっしょ」

岡部「なっ!なぜそう思うのだ!」

ダル「オカリン、誰うまな事言うときって、大抵思いつきだよね。高校のときからそう」

まゆり「中学生の時もそうだったよー。でもまゆしぃは大・大・大賛成なのです♪」

岡部「さすがは能天気少女。話がわかる」

まゆり「1ヶ月間、紅莉栖ちゃんといっぱいいーっぱい遊んで、沢山思い出を作るのです♪」

紅莉栖「うふふ、ありがとう、まゆりちゃん」

岡部「さて、さっそく実行に移したいところだが、もう4時だ。何をすべきか」

ダル「初日はひとまず全ラボメンと顔合わせとかでいんじゃね?僕あとでメイクイーンいく予定だったし」

まゆり「まゆしぃも5時からバイトなので、ちょうどいいんじゃないかなー」

岡部「ふむ、そうだな」

フェイリス「いらっしゃいま、あっ!ダルニャン、凶真ー!」

岡部「お勤めご苦労。フェイリス」

ダル「フェイリスたん、来たおー!」

フェイリス「いらっしゃいませニャン♪凶真は本日2回目のご来店だニャ。ところで」

フェイリスは体を横に傾け、俺の後ろで周りをキョロキョロ見渡す少女を見て小首を傾げる。

フェイリス「そちらの女の子はどちら様ニャン?」

紅莉栖「へっ?わ、私は、えと、まみ、まき」

岡部「牧瀬紅莉栖。アメリカから来日中の少女だ。1ヶ月間限定でラボメンとなってもらった」

色々と衝撃が強すぎたのか、目を白黒させる紅莉栖に代わって、俺が紹介する。

フェイリス「ニャんと!はじめましてクーニャン、ラボメンNo.007、フェイリス・ニャンニャンだニャ!よろしくニャンニャーン♪」

紅莉栖「え、あ、うん、よ、よろしく・・・」

岡部「1ヶ月間、日本の思い出を作ってもらいたくてな。ひとまずここに連れてきた」

フェイリス「ニャるほど。そういうことだったら、日本の文化、メイド喫茶をめいっぱい体験してもらうニャ!」

紅莉栖「これが、メイド喫茶なのね。噂には聞いていたけど・・・」

岡部「ここは特にクセが強い。ちなみにまゆりもここでアルバイトをしている」

フェイリス「お待たせしましたニャン、アイスコーヒーですニャーン♪」

フェイリスが営業スマイル120%、いつも以上の身振りと声色でアイスコーヒーを運んでくる。

遠くの席でダルが眼福とばかりに手を合わせて拝む。ダルには定位置とする2人用の席があり、離れ離れに座る形となった。

フェイリス「凶真はブラックだニャ。クーニャンはどうするニャ?」

紅莉栖「え、えっと、ガムシロップだけ」

フェイリスは手馴れた手つきでガムシロップをコーヒーに入れ、紅莉栖に顔を近づけ、目を見てかき混ぜる!


客たちの心の声
(で、で、出たァーーーッ!!!あれはフェイリス・ニャンニャン必殺「目を見て混ぜ混ぜ ”チェシャーズ・アプローチ”」!
 従来の目を見て混ぜ混ぜの場合、我々とフェイリスたんの顔の距離は平均34.5cm!!
 で、でもあの距離は、推定”15cm”!!! ま、まさか生きている内にこの目であの秘技が見られるなんて!
 というかあのお客さんの女の子も、相当レベルが高い!! 一体今日のメイクイーンは何が起こっているんだァーーーッ!!!)


紅莉栖「」

岡部「すまないな、フェイリス。もう勤務時間も終わりだったのだろう」

フェイリス「これくらい全然お安い御用ニャ。でもちょっとやりすぎたちゃったかニャ?」


会計をすませ、外に出る。

ドアを開けると、そこには口を開けて放心状態で壁にもたれかかる天才少女がいた。

岡部「紅莉栖。・・・紅莉栖-。紅ー莉ー栖ー」

紅莉栖「・・・はっ」

岡部「そんなにか?そんなに衝撃だったのか?」

紅莉栖「あ、ああ、ごめんなさい。ちょっとビックリしちゃって」

岡部「初のメイド喫茶がメイクイーン。しかも相手がフェイリスとあらばやむなし、か」

紅莉栖「岡部さんは、あれ、平気なの?」

岡部「ダルに幾度も連れてこられてるからな。抗体が生まれた」

岡部「さて次は・・・柳林神社だな」

紅莉栖「神社?もしかして漆原さんの所?」

岡部「ああ、そういえば一度会っているんだったな。なら話は早い」


るか「あ、岡部さん。・・・と、牧瀬さん!」

紅莉栖「ハロー。お久しぶり」

岡部「昨日日本に来たそうだ」

るか「お久しぶりです!二人でどこかに行ってらしたんですか?」

岡部「ああ、ちょっとな。明日ラボメン全員でラボに集まろうと思うのだが、来れるか?」

るか「はい、明日ですね。大丈夫です」

紅莉栖「じゃあね。また明日ラボで会いましょ」

岡部「もう6時近いのか。どうする?ホテルに帰るのなら駅まで送るが」

紅莉栖「うーん、そうしようかな。でもホテルに帰ってもあまりすることが無いのよね」

岡部「一度ラボに戻るか?」

紅莉栖「え、いいの?岡部さんの迷惑にならない?」

岡部「構わない。俺は9時頃帰るつもりだから、それまでなら話し相手になってやれる」

紅莉栖「本当?じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」

岡部「本当はラボに泊まりたいが、さすがに親に反対されてしまった」

紅莉栖「病み上がりだもの。無理はしないでね」


(くそ、やはり可愛いな・・・つい顔がニヤけてしまうところだった)

優しく微笑む紅莉栖と目が合い、思わず頬が緩んでしまいそうなのを必死に堪えた。

岡部「なんか飲むか?といってもドクターペッパーかコーヒーしかないが」

紅莉栖「じゃ、コーヒー、もらえる?」



紅莉栖「そういえば、岡部さんはなんで白衣なの?」

岡部「ん?ああ、ラボといったら白衣だろう」

紅莉栖「形から入る人なのね」

岡部「む・・・ま、まあな。そうだ、まゆり用に買った白衣が未使用で残っているが、着てみるか?」

紅莉栖「えっと、じゃあ着てみる。ラボといったら白衣ですものね」

岡部「く・・・」


紅莉栖「サイズピッタリ。やっぱ白衣は落ち着くわね」

岡部「ふむ、さすが本物の研究者だ。着慣れている感がある」


とりあえず、二人でポーズをとっておいた。

岡部「おっと、他にも色々と話していたらもう9時近くなってしまった」

紅莉栖「ずいぶん端折ったわね」

岡部「このペースでやっていては数少ない読者が飽きてしまう。明日もラボには来てくれるか?」

紅莉栖「ええ、皆で集まるんだっけ」

岡部「ああ、昼ごろ集合の予定だ。いいか?」

紅莉栖「うん、お昼ごろ来るわ」

岡部「じゃ、今日は帰ろう」


ラボの鍵をかけ、ドアの脇の配電盤の上に置く。

岡部「鍵はいつもここに置いてある。ラボに誰もいなくてもこれを使って入っていい」

紅莉栖「無用心じゃない?」

岡部「別に盗られるようなものもない」

岡部「はあ、月曜日から大学が始まってしまう。面倒だ」

紅莉栖「えっ、学生だったの?」

岡部「言わなかったか?東京電機大学の1年だ」

紅莉栖「初耳。・・・じゃあ、夏休みは明日まで、ってこと?」

岡部「ああ。貴重な10代の夏休みのほとんどを病床で過ごしてしまった。・・・あっ」

紅莉栖の表情が曇る。


岡部「だ、だが、これがきっかけでラボメンも増え、ラボ内にも結束が生まれたわけだ。いい経験だったかもしれないな!」

紅莉栖「・・・本当に、そう思ってる?」

岡部「あ、ああ!もちろんだ!だから紅莉栖には何も責任は無い!だから気にするな!な!」

紅莉栖「でも・・・うん」


もう夏休みはいやというほど満喫した。

無事に9月を迎えられただけで十分満足だ。

岡部「そうだ、紅莉栖、なぜ俺のことをさん付けなのだ?」

紅莉栖「えっ?えっと、別に・・・」

岡部「こう見えても同い年だからな。岡部で構わんのだが」

紅莉栖「もしかして、お昼に言った事まだ根に持ってる?ごめんなさい」

岡部「いや、ほら、今のは言葉のあやだ。お前ももうラボメンな訳だし、他人行儀で接する必要もない」

紅莉栖「うん。分かってる。でも、岡部さんって呼ばせてほしい」

岡部「む、む。なぜだ?」

紅莉栖「・・・なんとなく。もし嫌だったら呼び方変えるけど・・・」

岡部「ま、まあ、それでよいのなら、それでいいが・・・」

紅莉栖「今日は楽しかった。また明日ね」

岡部「ああ、気をつけるんだぞ」

紅莉栖「ありがと。それじゃ」

紅莉栖は小さく手を振ると、電車は発車した。


岡部(この世界線の紅莉栖はなぜこうも常時デレなのだ・・・)

紅莉栖の姿が見えなくなると、俺は大きく溜息をついた。

岡部(俺が素直に接しているから、あいつも同じく素直に・・・?)




岡部(つまり、俺もツンデレだったと・・・そうなのか?)

紅莉栖「はあ、到着」

ホテルに到着するや否や、荷物を置き、上着を脱いでベッドに倒れこむ。

明日は9時には起きて、ちょっと散歩してからラボに行こうかな。


岡部さん・・・。


まるで、私の事をよく知っているような振る舞い。

笑顔。時折見せる真剣な表情。落ち込む私を庇う仕草。


―――ハッハッハ、日本に着いた翌日にもう出会えるとは、こりゃまるで運命だな―――


紅莉栖「・・・素敵、よね」

朝のニュースに耳を傾ける。

キャスター「今日の東京の最高気温は33度。昨日よりは下がりますがまだまだ暑い日が続くでしょう」

紅莉栖「33度って・・・」


紅莉栖「もう9月よ?なんでこんなに暑いの?バカなの?」

テレビに向かって悪態をつく。


髪、結っていこう。

昨日はそのままだったけど、暑くて辛かったし。


岡部さんってどんな髪型が好きかな。


こらこら!そんなことばっか考えてたら駄目だろうが!

10時。

街をブラブラと散歩してみる。

日曜日の午前中ということもあってか、人通りは少ない。


紅莉栖「・・・あっつぅ・・・」

温度計は既に30度を示している。

昨日よりも不快な感じがするのは、湿度が高いからのようだ。


着替えなんてほとんど持ってきてない。

シャツとストッキングが数枚程度。

そのうち、服、買おうかな。


岡部さん、どんなファッションが好みかな。


だから!私ってば!

散歩も早々にすませたら、もうラボ近辺に。

紅莉栖「11時。さすがにまだ早いか・・・」

ラボの前まで来たら、1階の店舗の中からいかつい男性が姿を現した。

天王寺「お?昨日の姉ちゃんじゃねえか」

紅莉栖「あ、えーと、こちらの店長さんでしたっけ?」

天王寺「おう、ここの店長の天王寺だ。姉ちゃん、牧瀬紅莉栖だろ?」

紅莉栖「ご存知だったんですか」

天王寺「やっぱそうか。前にテレビに出てるのを見たぜ。アメリカから来てるんだったな」

紅莉栖「はい。あと1ヶ月ほど滞在する予定です」

天王寺「そんな姉ちゃんが、なんで岡部なんかと知り合いなんだ?」

紅莉栖「え・・・えっと、それは・・・」

天王寺「訳ありってぇなら、無理に話さなくてもいい」

紅莉栖「い、いえ・・・話します」

天王寺「ここじゃなんだな。店の中、入るか?」

天王寺「・・・ほーお。あの事件の裏にはこんな展開がねぇ」

紅莉栖「岡部さんには、本当に感謝しています」

天王寺「あの岡部がこんな若い姉ちゃんを助けるとはなぁ。こりゃ間違いないな」

紅莉栖「? 何がですか?」

天王寺「いや、こっちの話だ」ニヤニヤ

なにそれこわい。


綯「ただいまー!」

萌郁「今、戻りました・・・」

天王寺「おお、買い物ご苦労。バイト、もう少ししたら休憩はいっていいぞ」

紅莉栖「もしかして桐生萌郁さん?岡部さんから聞いてるわ。牧瀬紅莉栖です。私もラボメンに誘われたの。よろしくね。」

萌郁「あ、うん・・・よろしく」

バイーン。

紅莉栖(わお)

脅威の胸囲。

べ、別にうらやましくなんかないから!


ガラッ

まゆり「こんにちはー。萌郁さーん、もうラボに来れるかなー?あれ、紅莉栖ちゃんもいるよー」

紅莉栖「あら、もうそんな時間だったのね。お邪魔しました」

まゆり「そうだ!店長さんと綯ちゃんもラボに来ようよー!」

天王寺「はぁ?なんで俺まで」

まゆり「新しいラボメンが増えたから、店長さんも挨拶しないとねー♪」

まゆり「店長さんと綯ちゃんも連れてきたのでーす♪」

天王寺「俺は5分もしたら戻るぞ。って、おうおうこりゃすげぇ人数だな。」

るか「!!!!!」

紅莉栖「あれ?岡部さんは?」

まゆり「オカリンねー、病院に行くからラボに来れるの1時過ぎくらいになっちゃうってー」

紅莉栖「び、病院?もしかして怪我が悪化しちゃったの?」

ダル「なんか、通院日の日程とか色々話すことがあるって言ってたお、すっかり忘れてたって」

紅莉栖「あ、そう、なんだ」

まゆり「ということなので、ラボメンNo.002、椎名まゆリが指揮をとるのです!」


まゆり「第1回、ラボメン全員ワイワイ会議ー♪」

まゆり「まずはオカリンに代わりまして、店長さん、どうぞー」

天王寺「1階のブラウン管工房の店長の天王寺だ。こっちが娘の綯」

綯「こんにちは。天王寺綯です」

天王寺「あまり話す機会はないと思うが、よろしくな。さて、帰るぞ綯」

まゆり「えー、もう帰っちゃうのー?」

天王寺「店開けっ放しなんだよ。大事なブラウン管が盗まれたらどうすんだ」

綯「お、お邪魔しました」


ダル「5分どころか2分で帰った件」

まゆり「忙しいんだねー」


るか(よかった・・・バレなかった・・・!)

まゆり「ラボメンNo.002、椎名まゆりです。まゆしぃって読んでほしいなー♪。
    趣味はコスプレ衣装作り、好きな食べ物はから揚げとバナナだよー」


ダル「ラボメンNo.003、橋田至!ダルって呼んでくれてもよいのだぜ?
   二次三次問わずかわいいおにゃのこが大好きです!」


紅莉栖「始めまして、牧瀬紅莉栖です。
    アメリカから来てて、1ヶ月限定でラボメンになりました。短い間だけどよろしくね」


るか「う、漆原るかと申します。まゆりちゃんの同級生です。
   柳林神社で巫女をやっていますが・・・その、ボク、男です」


フェイリス「フェイリス・ニャンニャンだニャ!
      メイクイーン・ニャン×2、よろしくお願いしますニャン!」


萌郁「桐生・・・萌郁・・・でーす・・・
    下のブラウン管工房でバイト、してまーす・・・」


まゆり「第1回、ラボメン全員ワイワイ会議、これにて終了ー!」

ダル「はやっ」

62
まゆり「ここからは、自由にお喋りタイムなのです♪」









やんや、やんやー!








ダル「今ひどい省略を見た」


ダル「・・・牧瀬氏、さっきから気になってたんだけどさ。聞いていい?」

紅莉栖「ん?何かしら?」



ダル「牧瀬氏、もしかしなくてもオカリンのこと好きっしょ?」



まゆり「えっ?」

るか「えっ」

フェイリス「ニャニャ?」

萌郁「・・・」



紅莉栖「ふぇ!?」

   
   は、ははは橋田さんったら急に何を言い出すのよ!
   わ、わわ私がそそそ岡部さんが好きとくぁwsでrftgyふじこlp;

   お、落ち着け私。ミントのようにクールなのが私の持ち味なのよ。
   こういうときは落ちる変化球を数えるといいって聞いたわ。
   ええと、フォーク、チェンジアップ、SFF、パーム、ナックル、シェイク、ヨシボール、ブスジマチェンジ・・・

   ふう、落ち着いたわ。
   さて、こういうときは慌てず冷静に返すっていうのが一番怪しくないわよね。うん。
   「なによ、突然どうしたの?」これでいこう。笑顔だとよりいいかもしれない。
   ここまでの脳内会議の経過時間はおよそ1秒弱ってところね。よし、完璧!



紅莉栖「なによ、突然どうしたの?」ニッコリ


ダル「全部口から出てる上に40秒経過してるわけだが」

るか「野球、お好きなんですか?」

                ハ{::::::::/::::::::::::::::::辷,_:ヽ:::\:::::::::::::::::::::::::::}/:::::::::::::::人ノ丿
                  ∧/⌒ヽ─-::::::::ユ  /^ー-ニ:;_:::::::::::::::::::ノヘ:::::::::::彡::/
              / :∨ ハ ':::::::::爻   {    /⌒^'ー--‐¬}弌-ァ<⌒ヽ
                /  /ハ  l }:::::彡     {    {        ,リ } {:{::l ヽ ',
.               /   /  ∨ }::リ   __       {        / / 从:{ ハ} :}
                ', /     ', }::l    ⌒^弌、   ヽ        / ハ::::}/ }
             ∨ ,rヘ //∧:l     l朷トミ≧ュ_     _,x≦ /ノ乂 /
             /  V  /////ハ    `¨ - 'j `-‐´ /f拆テァ ああ、俺だ
          ノ「   / ////'  ̄ ̄)           / ^¨  ′ '
           /  |:  / /./  / ̄'.'.          ,′    / 新スレを支援した
    _.. -‐'^ / |: l  {/  ≠::::; -‐- 、    ,   :     /│
. -‐''^        ││ ./  ∧:/   . - \    ヽ ノ   / }| 機関の妨害が入っている!気をつけろ!!
            l | ./  //  /:::::::ヘ ┘rー-  .._   .     リ
            ∧〈 {  '   /_,. -─ヘ.  `二ニ´ /     / 取り合えず、
           / ヽ',       '´  ,.‐ァ寸  ; ; / |   }/
     \     /   }         / /   `ー++チ'  │  /  このまま観測するとだけ伝えておこう………
       \         {         {       //|     | /
        \       {         }_   _彡 |    l }   ………エル・ブサイ・コングルゥ………!!

          /::::::::::::::::::|:::::::::::::::::..ヽ::::::::::::..\>>116
           /::::::::::: |::::::|> 、|:::::::::::::::. :::::::::::::::::.
         :::::::::::::::::l::::/>彳|:::::::::::::::|ハ:::::::::::::::i
           |::::|::::::.V/オッノ  |:::::::::::::::|ソ|::::::::::::::|
           |:::::\::::.\    |:::::::::::::::|イ:::::::::::::::|     おk、把握した
          |:::::::::《ッ)j ̄    |:::::::::::::::| |::::::::::::: |
         |:::::: ∧ `     |::::::::::::: ||::::::::::: |     こちらでも機関への抵抗は続けるつもり
         |__r-ハヘ   っ  |::::::::::::::| |:::::::::::: |
         ,.ヘ、〉ハノ \    イ|i::::::::::|___|::::::::::::ハ     健闘を祈る
          |Tノ'/\ _/>< |:ト|:::::::,' ̄|:::::::::::::∧
       //   ( {:::::::::::::::::|:|:::::::/  |:::::::::::::ト:::.\   エル・プサイ・コングルゥ……

         \\// /:::::::::::::::::|:|::::/||  i::::::::::::::| ̄ ̄
         :| ヽ/ /:::::::::::::::::ノ|:::/ ヾ  !::::::::::::ノ
      /|   /:::::::::>/  j///V/::::::::::::/

       :|| |   レ〉:::/∠_  イ|//   /:::::::::::::/
      |\|   / |::/ | ̄ / 「 7   :l:::::::::::: / Y
        } ヽ_/ ノ|:| |   / |_/   /!:::::::::::/  |ヽ


まゆり「紅莉栖ちゃん、オカリンのこと好きなのー?」

紅莉栖「え、えっと、いや、その、なんというか・・・」

フェイリス「ニャフフ、面白そうな話だニャ」

ダル「実際今日もうわの空だし、しきりに時計見たり玄関の方見たりしてたし。ティンと来たのだぜ」

るか「岡部さんと牧瀬さん、昨日うちに来たときも仲よさそうでしたよね」

紅莉栖「だ、だから、それは、えっと、その・・・」

ダル「『そんなんじゃない!』的反応がない所を見れば図星だったりするん?」ニヤニヤ

フェイリス「ダルニャンのいう通りニャ。確かに否定の言葉が1回も出てないニャン♪」

カシャ。

萌郁「・・・顔、真っ赤」

紅莉栖「で、でも!岡部さんの事好きな人が他にいるかもしれないし!ほら、まゆりちゃんは!?」

まゆり「まゆしぃにとってオカリンはお兄ちゃんみたいなものだし、恋とはちょっと違うかなー」

紅莉栖「橋田さんは!?」

ダル「ちょwwwなんで僕にも聞くんwwwバイはバイでも2次と3次のバイなのだぜ」

紅莉栖「う、漆原さん!」

るか「そ、尊敬してますけど・・・その、ボクじゃ迷惑ですし・・・」

紅莉栖「フェイリスさんはどうなの!?」

フェイリス「フェイリスは全人類を愛するニャ。一人に絞るなんてできないニャーン♪」

紅莉栖「き、桐生さん!桐生さん!」

萌郁「・・・タイプじゃ、ない」


紅莉栖「あ、あわ、あわわわわわ」

紅莉栖「ぎ、ぎゃ、逆に岡部さんが誰かを好きってこともあるじゃない?まゆりちゃんとか!」

まゆり「んー、よく一緒にいるけど、そんな感じはしないかなー」

紅莉栖「橋田さんとか!!」

ダル「おまwwwwwwwアッー!とかマジ勘弁wwwwwwwwもちつけwwwwwww」

紅莉栖「漆原さん!」

るか「お、岡部さんは普通に女性が好きだと思いますけど・・・」

紅莉栖「フェイリスさんは!?」

フェイリス「凶真の眼にはフェイリスは映ってないと思うニャ」

紅莉栖「き、希硫酸!桐生さん!」

萌郁「・・・年下は、ちょっと」


紅莉栖「」

世界線はオカクリへと収束する・・・

>>123
あたり前っしょjk

フェイリス「さてさて、二人の間にはなんの障害もなくなったわけだニャ♪」

まゆり「オカリンと紅莉栖ちゃんかー、お似合いだねー♪」

るか「お二人の仲だったらボクも全力で応援します」

萌郁「・・・ヒュー、ヒュー・・・」

ダル「で、実際どうなん?聞くまでもないけど、オカリンの事どう思ってるん?」




紅莉栖「・・・・・・す・・・・・・・・・」


一同「・・・・・・・・・」


紅莉栖「・・・・・・・・・・・・好き、です、よ」

ダル「オカリン爆発キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!」

まゆり・るか・フェイリス「おおー!」

萌郁「・・・ヒュー、ヒュー・・・」カシャ


クッションに胸に抱えて体育座り。

顔が熱い。


私は、

岡部さんが、

好き。


ついに言ってしまった。

ダル「でもさ、オカリンも牧瀬氏のことまんざらでもない希ガス」

紅莉栖「えっ」

フェイリス「なんでそう思うニャ?」

ダル「昨日牧瀬氏がラボに来たとき、まゆ氏と話してたじゃん?あの時オカリン泣いてたっぽいし」

るか「泣いてた?」

ダル「そ。僕と目が合う瞬間に背中向けちゃったけど、確かに泣いてたんよ」

まゆり「なんで泣いてたんだろ?変なのー」

ダル「嬉し泣きっつーの?悲しくて泣いてた感じじゃなかった」



紅莉栖「・・・あっ」


ダル「どうしたん?なんか思い出した?」

紅莉栖「ラジ館でのあの日、岡部さんに『俺は、お前を、助ける』って言われたの、思い出して」

るか(・・・かっこいい・・・)

ダル「? それじゃまるでオカリンが前から牧瀬氏の事知ってたみたいな言い方ジャマイカ」

まゆリ「紅莉栖ちゃんって本に載ったんだよね?それを見てオカリン一目ぼれしたのかなー?」

フェイリス「だとしても、たまたま凶真がラジ館にいて、たまたまクーニャンを助ける、っていうのも無理がある話ニャ」

萌郁「・・・吊り橋効果?」

ダル「ああ、危険な境遇におかれた男女は恋愛関係になりやすい、ってやつね」

フェイリス「それでも『俺は、お前を、助ける』には繋がらないんじゃないかニャ」

一同「うーん・・・」


ビルの前で車から誰かが降りる音がした。

まゆり「あ、オカリン来たよー」

岡部「いやーすまない。病院に行くことをすっかり忘れてい・・・て・・・?」


いつも通りニコニコしているまゆり。

ニヤニヤしつつもドス黒いオーラを出すダル。

頬を染め目を逸らすルカ子。

目を輝かせながらひょうきんに笑うフェイリス。

カシャ。

無表情で携帯のカメラを向ける萌郁。

クッションを抱えそっぽを向くポニーテールの紅莉栖。


岡部「・・・俺のいない間に何があったのだ?」

岡部「少しは家でじっとしてろ、と両親に言われてしまったのでな、今日は帰らなければならない」

まゆり「えー」

岡部「ま、夜には目を盗んでラボに来るつもりだ」

ダル「っていっても僕ら帰るお?明日から大学始まるし」

岡部「ああ、そのことなのだが、俺は明日から1週間自宅療養となるかもしれなくてな」


まゆり「そっかー。退院したばかりだもんねー」

岡部「俺自身はもうなんともないのだがな。そうか、ラボには誰もいなくなるのか。どうするか・・・」



紅莉栖(あ、メール・・・桐生さんから?)

本文:
今がチャンスよ!言っちゃいなさい!(゜∇^d)
萌郁


萌郁の方を見る。

萌郁が親指をと立ててこちらを見ている。無表情で。

紅莉栖「わ、私はラボにいてもいいけど・・・」

フェイリス(ニャんと、クーニャンから攻めたニャ!)

岡部「お、そうか?ならばラボに来るとするか」

ダル(立った!フラグが立った!)

岡部「ところで紅莉栖、なぜさっきからむこうを向いているのだ」

紅莉栖「な、なんでもない!なんでもないから!!」

岡部「ふむ・・・じゃ、俺は一旦帰る。下で親父の車が待ってるからな」

萌郁「あ、私ももう戻らないと・・・」

岡部「そうだフェイリス、これを返し忘れていたな。返しておく」

フェイリス「ニャニャ。ご利益はあったかニャ?」

岡部「軽く凹んだ。まあいい。それじゃ紅莉栖、また夜に会おう」


まゆり「二人ともバイバーイ。また今度ねー♪」

まゆり「紅莉栖ちゃんすごーい!よく言えましたー」

紅莉栖「はぁぁぁぁあああああ・・・・・・」

ダル「それじゃ紅莉栖、また夜に会おう(キリッ だっておwwwwwwwwwwwwww」

るか「岡部さん、ああいうかっこいい台詞、天然で言っちゃうんですね」

紅莉栖「どうしよう・・・岡部さんの顔、まともに見れないかも・・・」

まゆり「でもでもー、オカリン、紅莉栖ちゃんには随分優しいよねー」

フェイリス「クーニャンと話してる時、とっても優しい目をしてるニャ。やっぱり凶真もクーニャンのことを・・・ニャフフ♪」

まゆり「間違いないよねー♪」

紅莉栖「あばばばばばばばばばばb」


牧瀬紅莉栖、大破。

7時。

みんなは5時過ぎにはもう帰っちゃった。

橋田さんと漆原さんは明日の準備。

まゆりちゃんとフェイリスさんはバイト。

つまり、

このあとは、岡部さんと、二人きり・・・だと・・・?



ここでまた慌てると思ったら大間違いよ。

もう皆の前で発表しちゃったんだもの。

怖いものなんてない。

そう。

私は岡部さんが好き。

あの日以来、岡部さんの事を考えない日なんて無かった。

昨日の夜だって、早く岡部さんに会いたくて仕方が無かった。

今日だって、岡部さんがいなくて、思ってた以上に残念だった。

岡部さんが来たとき、心が弾んだ。顔は見れなかったけど。

また夜に会おう、なんて言われたとき、嬉しくて泣きそうになった。

今だって、まだ来ないかな、なんてソワソワしてる。


いつか、この想い、伝えたい。

いつになるかはわからないけど、私の気持ち、岡部さ


ガチャ


来た!まだ語りの途中だったのに!!

落ち着け、冷静になれ私。

まだ私の気持ちを悟られるのは早い。ここは今までどおり接さなきゃ。

紅莉栖「あ、岡部さん?お帰りなさ―――




なんで?

どうして?

なんで岡部さんの方がイレギュラーを引き起こすの?




鼻腔をくすぐる、シャンプーの香り。



まさか。

洗髪したての、サラサラヘアーで現れるなんて。

岡部「おお紅莉栖、待ったか?」

紅莉栖「」

岡部「もう少し早く来る予定だったんだが、ちょっと手間取ってな」

紅莉栖「」

岡部「・・・どうした」

紅莉栖「」

岡部「顔が熱っぽいぞ。まさか風邪でもひいたか?」

紅莉栖「」

岡部「来日してまだ日が浅いんだ。あまり無理してはいけな」

熱を測ろうと、額に手をかざす。

紅莉栖「ひ、ひわぁっ!!」

岡部「!?」

岡部「な、なんだ、どうした」ビクビク

紅莉栖「はっ、ご、ごめんなさい。ビックリしちゃって。大丈夫、なんでもないから」

岡部「そ、そうか。なんともないならいい」

紅莉栖「お、岡部さん、その髪型・・・」

岡部「ん?ああ、どうせラボに来るだけだと思って何もしてこなかったんだが・・・変か?」

紅莉栖「う、ううん・・・その髪型も、キ、キュート、ね」


―――フ、フゥーハハハ!狂気のマッドサイエンティストたるこの俺にキュートなどとぬかすとは、笑止千万!―――


岡部「そ、そうか?キュートなんて初めて言われたぞ」

紅莉栖「え?う、うん。悪くないわ」

岡部「お前も、その髪型、なかなか似合っているな」

紅莉栖「あ・・・ありがと」


さっき、ほんの一瞬だけ頭を過ぎった言葉。あれはなんだったんだろう。

紅莉栖「岡部さん、今日はラボに泊まるの?」

岡部「ああ、そのつもりだ。家にいるよりここの方が落ち着く」

紅莉栖「大丈夫なの?ベッドとかあるわけじゃないし、体壊しちゃいそう」

岡部「1ヶ月間硬いベッドに寝かされていたからな。それに、そのソファーの方が寝心地が良かったりする」

紅莉栖「あっ、ソファー、座る?」

岡部「ああ、・・・どこへいく?」

紅莉栖「え?岡部さんがソファーに座るから、私は椅子に移動しようかと」

岡部「俺が座るからといってよける必要もないだろう。座っていろ」

紅莉栖「う、うん・・・お邪魔します」

岡部「・・・・・・」

紅莉栖(・・・岡部さん、いい匂いする・・・)

岡部「・・・・・・」

紅莉栖「・・・・・・」///

岡部「・・・・・・」

紅莉栖(・・・フォーク、チェンジアップ、SFF、パーム・・・)

岡部「・・・フフッ」

紅莉栖「な、なに?」

岡部「こうやって座っていたら、これまでの事を色々と思い出してな」

紅莉栖「今までのラボの光景を?」

岡部「まあ、そんな所だ」

in メイクイーン・ニャン×2

まゆり「オカリンたち、どうしてるかなー?」

フェイリス「きっと二人でモジモジしてるニャ。二人ともウブそうだしニャ」

るか(いいなぁ・・・)

ダル「ラボでの不純異性交遊はご遠慮いただきたいのだぜ」

まゆり「二人とも、明日の準備はいいのー?」

るか「ボクはもう昨日のうちにすませてるから」

ダル「メイクイーンに来るのも準備の一つなんだお」

フェイリス「学校に行く準備って言ったって、特にすることもないニャ」

まゆり「それもそうだねー。まゆしぃ達もバイト中だもんねー」

ここまででほぼ2/3。

一時離脱する。9時までには戻ってくるお!

ちょっと早めに再開できそうなのだぜ。

保守㌧クス
5分後くらいに再開

8bitって公式後日談じゃなかったっけ

岡部「最初は俺とまゆりの2人だけだった。程なくしてダルが遅れて加入したんだ」

紅莉栖「ってことは、昨日まではずっと3人しかいなかった、ってこと?」

岡部「・・・」

紅莉栖「?」

岡部「そうか、そういうことになるのだな」

紅莉栖「・・・?」

岡部「しかし、1日でラボメンが倍以上になるとはな。これ以上増えるならラボの拡大も視野に入れるか」


なんだろう、この違和感。

まるで、他人事のような話し方。

紅莉栖「あ、色々話してたらもうこんな時間。私そろそろ帰らなきゃ」

岡部「ほう、紅莉栖もその手法を使うか」

紅莉栖「もう80レス超えてるのよ?間延びしちゃいそうだし」

岡部「ふむ。明日はちょっと遅くなるかもしれない。学校に行かなくては」

紅莉栖「ああ、明日からもう学校に行くんだったわね」

岡部「ん、聞いていなかったか?1週間の自宅療養になってな。その手続きやらなにやらがある」

紅莉栖「あ、ああ、そういえばそうだったっけ」

岡部「ラボ内にあるものは自由に使っていいぞ。本なども好きに読んでいい」

紅莉栖「うんわかった。それじゃ、また明日」

翌日。

お昼ちょっと前にラボに来てみたけど、まだ誰もいない。

そういえば、岡部さん、何時頃帰ってくるかを聞いていなかった。

紅莉栖「鍵・・・は、配電盤の上だっけ。・・・手、届くかな」


紅莉栖「ん~~~!ん~~~~~っ!!」

必死に手を伸ばしても届かない。

ジャンプしても、届かない。


「姉ちゃん、なに一人で騒いでんだ?」

物音を聞きつけ、階段の下から、店長さんが顔を覗かせた。


紅莉栖「あ、ごめんなさい、うるさくしちゃって・・・鍵、取ってもらえます?」

本棚にて見つけた洋書を読みふけっていたら、いつのまにか2時。

飲み物を買いに行こうと外に出ると、綯と出合った。

綯「あ、紅莉栖おねーちゃん、こんにちは!」

紅莉栖「こんにちは。あら、それ算数の教科書?」

綯「うん、わからない所があってお父さんに聞こうと思ってたの」

紅莉栖「ちょっと見せてもらえる?・・・ふむん、面白い問題ね」

綯「わかるの?」

紅莉栖「ええ、こういうのは数式を頭の中に描くのよ。まずこっちの式をxと仮定して・・・」

綯「・・・紅莉栖おねーちゃん、小学生の問題にxとか使っちゃだめだよ?」

紅莉栖「えっ・・・x使わないで解けるの・・・えーと・・・」

まゆり「紅莉栖ちゃんトゥットゥルー♪あれ?元気ないよー?」

紅莉栖「あ、お帰りなさい。ちょっとレベル2程度のショックなことがあって」

まゆり「? そうだ、昨日はどうだったのー?」

紅莉栖「き、昨日って?」

まゆり「とぼけてもダメだよー。オカリンと二人っきりだったでしょー♪」

紅莉栖「べ、別に昨日はただ二人でしゃべってただけで、あとは何も・・・」

まゆり「そっかー、順調だねー♪」

紅莉栖「へ?」

まゆり「オカリンねー、心を開いた人としかあまりおしゃべりしないんだよー」

紅莉栖「あ、そう、なの」

まゆり「知り合ってすぐなのにそんなおしゃべりするなんて、いい感じだよー」

紅莉栖「い。いい感じって、そんな・・・」

まゆり「まゆしぃはね、オカリンと紅莉栖ちゃんにはラブラブになってほしいのです」

紅莉栖「な、なん、で?」

まゆり「オカリン、最近元気なかったの。空元気っていうのかな?」

紅莉栖「それって、入院してからの話?」

まゆり「うん、なんかね、まゆしぃにはわかるの。オカリン、無理してるな、っていうのが」

紅莉栖「・・・」

まゆり「でもね、昨日紅莉栖ちゃんと会ってから、元気を取り戻した感じになったんだよ」

紅莉栖「私に、会ってから・・・?」

まゆり「うん、目が違うの。輝いてるっていうのかなー?なんかすっごく嬉しそうなんだよー」

まゆり「だからね、紅莉栖ちゃんは、できるだけオカリンの近くにいてあげてね?」

紅莉栖「・・・できれば、私も、そう、したいけど・・・」///

まゆり「あ、オカリン、お帰りー」

岡部「おお、まゆりが先に来てたか。ちょっと話が長くしまってな」

紅莉栖「橋田さんは一緒じゃないの?」

岡部「ああ、本来今日は午前授業だったからな。ラボには寄らず帰ったのだろう」

紅莉栖(気を使ってくれた?)

岡部「ん?紅莉栖、その洋書を読んでいたのか」

紅莉栖「ええ、でも意外。こんな本まであるなんて」

岡部「俺もなぜ買ったのかわからん」

まゆり「オカリン英語苦手だもんねー」

岡部「ひとまず俺は明日から1週間自宅療養をもらった。半分はラボ療養となりそうだがな」

火曜日。

ラボの前で店長さんに呼び止められた。

岡部さんはまだ来てないらしい。

店長さん、桐生さんと1時間ちかくおしゃべり。

紅莉栖「いいんですか?営業中なのに」

天王寺「どうせ客なんて来ねえさ」

えー。


ちなみに、この1時間、桐生さんはほとんど喋らなかった。

水曜日。

あまりにも暑かったので、ラボのシャワールームを借りる。

シャワーを浴びた直後、バスタオル1枚の私は岡部さんと鉢合わせた。



紅莉栖「きゃっ!」

岡部「ら゛ーーーーーッッ!!!」



目が合うなり全力で飛び出していく岡部さん。


5分後、帰ってくるなりジャパニーズ土下座。

いや、別にそこまでしなくても。

勝手にシャワー借りたわけだし。


それに、岡部さんだったら、私もあまり気にしないけど・・・。

なんて言えない。

木曜日。

きのうの一件以来、岡部さんのことが頭から離れない。

私がここまで”恋するオトメ(笑)”になるとは思わなかった。


岡部さんがラボに来るも、なかなか目が合わせられない。


岡部「・・・怒っているのか?」

紅莉栖「えっ?」

岡部「無理もない。すまなかった」


いやいやいや!全然怒ってないから!大丈夫!

必死に弁明し、溝は埋まった。


お詫びの印なのか、晩御飯をご馳走になった。

金曜日。

いつもより少し早めにラボに着く。

最近段々ラボに行くのが早くなっていってる気がする。


昨日の続きを読もうと、本棚から洋書を引き抜いた。

パサッ。

ん?

1冊のノートが落ちる。

紅莉栖「こんなの、本棚にあったっけ?」

表紙に目をやる。


”入院中の暇つぶし”

紅莉栖(日記・・・みたいなものかしら)

気になる。

紅莉栖(岡部さん、まだ来ないわよね)

だが、これはプライバシー。

しかし、好奇心には勝てない。

紅莉栖(こんな所に置いてあるってことは、そんなに重要なものでは無い、よね)

そう自分に言い聞かせ、ノートを開く。


紅莉栖(岡部さん、ごめんなさい!)

8月○日

昨日、俺は目を覚ました。
あの日から一週間近く経過している。
そうか、そんなにも俺は意識不明だったのか。


病院内で携帯電話を使える場所は限られている。
かといって、ノートパソコンを持っているわけでもない。
傷が痛む。一人で歩くのもままならない。外出などは許されないだろう。


暇だ。


目を覚ました初日にして、もうすることが無い。

医者に「搬送が1時間遅れてたら君は死んでいたよ」と笑いながら言われた。
笑い事ではない。


俺は、生きる。
今日も。明日も。これからもな。

8月○日

傷が痛くて深夜に目覚める。
ナースコールを押すと、看護婦がすぐに薬を持ってくる。
さすがは病院の薬か。また眠れるほどに痛みがひいていった。

あいかわらず今日も暇だ。
親に、ノートとペンを持ってきてもらう。

日記をつけてみよう。
そのうち、いい思い出に昇華されるかもしれない。


つまり、昨日の日記は、ついさっき書いた。
そして、今日の日記ももう書き終わりに近い。

2日分の日記すら、俺の暇な時間を1時間もつぶしてくれない。

参った・・・。
こんなときに携帯ゲーム機を持っていないことを後悔するとは。

8月○日
悪夢を見た
あの日俺はまたこの手で彼女を








紅莉栖「涙の跡・・・」


この日から数日間、日記は書かれていない。



8月○日

今日は寝汗がひどい。
一人では着替えが難しい。看護婦が着替えを手伝ってくれた。

パンツだけは自分で履き替えた。
ここだけは全力で守らなければならない。


男として。





紅莉栖「くすっ」


よかった。普通の日記に戻った。

8月○日

テーブルの上に、見覚えのないお守りが置いてある。
親が置いたものでもない。

看護婦数人に聞いてみるものの、知ってる人はいなさそうだった。

まだ見舞いに来た人もいない。誰の物なのだ?


誰の物かはわからないが、感謝する。


このあとは1日中、考え事をしていた。



紅莉栖「このお守りって、私の・・・だよね」

様々な感情が入り混じり、胸が苦しくなる。

夕方、まゆりとルカ子がお見舞いに来た。

まゆりが飛びついてきた。
あやうく傷口にクリーンヒットするところだった。

ルカ子は俺の手を握り号泣している。
ここまで泣かれると、なんか逆に申し訳ない気持ちとなる。
だが男だ。


今年はルカ子もコミケデビューをするらしい。
ついにコスプレをするのか?とからかってみた。

まさかのその通りだった。

これは・・・有明に”男の娘”旋風が巻き起こる気がする。


お守りのことを尋ねてみたが、2人とも心当たりはない、との事。

8月○日

予想だにしない出来事が起こった。


ミスターブラウンが花束を持ってお見舞いに来た。
貴方はそんなキャラではないだろう。


暇なので寝た。


目を覚ましたら桐生萌郁がベッドの脇に座って俺を見下ろしていた。

驚いて死ぬかと思った。
せめて一言かけてくれ。と言ったら「寝てたから、起こしたくなかった」とのこと。

二度と目覚めない二度寝になるところだった。そんなのはごめんだ。


念のため聞いてみたが、二人ともお守りのことは知らなかった。


そういえばダルは一度も姿を見せていない。つれないやつだ。
会いたいわけではないが。

8月○日

ピンク色の髪をした背の小さい制服姿の女子高生が見舞いに来た。


よく見たらフェイリスだった。


というより、秋葉留未穂だった。


このいたいけな姿をダルに見せたら、亜音速で空の彼方へ飛んでいくかもしれない。
それはそれで見てみたいが、会わせてはいけない気がする。


カバンから猫耳を取り出した。

「これ、私の猫耳のスペア。これを私だと思って、元気出して」

何を言い出すんだこの少女は。
秋葉留未穂かと思われた少女はやはりフェイリス・ニャンニャンだった。


どうするんだ。これ。


とりあえずテーブルに置いておいた。

8月○日
土曜日。

朝からルカ子が来た。
花の水を変えたり、飲み物を買ってきてくれたり、甲斐甲斐しく世話をしてくれている。
だが男だ。


明日コミケに行くらしい。
まゆりの説得により、1日だけ、という条件で引き受けたそうだ。
「コスプレしてくれたら、岡部さんもすぐ回復するよ!ってまゆりちゃんに言われて・・・」

まゆりめ、俺をダシに使ったな。

「コスプレの写真、撮ったら見せてくれよ」
「は、恥ずかしいけど・・・岡部さんになら・・・見せてあげます・・・」

だが男だ。


あんなに嫌がっていたコスプレを引き受けるとは。

だが、俺はお前の気持ちに沿うことは出来ない。

すまない。

>>218
最強のギガロマニアックスにリアルブートされたキモオタがIBN5100手に入れて
世界線変動率が微妙に変わったお話

8月○日

先日フェイリスが置いていった猫耳。

あまりにも暇なので、つい頭につけてしまった。







看護婦に見られた。
死にたい。




紅莉栖「ぷっ。何してんの」

8月○日

ついに外出が可能となった。

外に出てみる。暑い。

だがそれがいい!


そういえば、今日ようやくダルが来た。

「なんだ、元気そうじゃん。心配して損したお」

あやうく俺の心が黒く染め上げられるところだった。


今年のコミケの戦利品をベッドに並べる。

しばらく入院しているためか、一冊の同人誌をパラパラ眺めただけで、俺の


これ以上はやめておこう。


8月○日

ダル、連日の登場。

「ほい、暇つぶし持ってきたお」

ねんがんの けいたいゲームきを てにいれたぞ!(←元ネタはよく知らない)


ソフトの中に、ラプラスプラスというものがあった。

巷で流行っている恋愛シミュレーションソフトらしいが、生憎俺は興味が無い。



俺が愛する女性は、一人だけだ。




紅莉栖「っ―――」

9月○日

明日、退院する。
長かった病床生活ともついにお別れとなる。







牧瀬紅莉栖。

元気だろうか。




紅莉栖「っ、私の、名前・・・」

まだ、日本にいるのだろうか。
あの一件でアメリカに帰ってしまっただろうか。

会いたい。

もう一度、お前の顔が見たい。

怒った姿が見たい。拗ねた顔が見たい。笑った顔が見たい。

会えなくてもいい。

彼女を救うことが出来たのだから、それ以上多くは望まない。

数多の8月を共に過ごせた。悔いなど無い。


だから、元気でいてくれたら、それでいい。

お守り、大事にするからな。




紅莉栖「岡部・・・さん・・・。あれ、続きが・・・」

9月6日 月曜日

紅莉栖へ

お前のことだ。恐らくもうこのノートを読んでいるだろう。
まったく、プライバシーもクソもないではないか。


気にするな。
お前があの洋書を読むことは前から知っていた。

だからこそ、その洋書の隣にこのノートを挟んだのだ。


このノートを読んでいて、疑問に思ったところがいくつかあったと思う。


近いうちに、お前には全てを話したいと思っている。

だから、もう少し待っていてくれ。

岡部「お、紅莉栖、来ていたか」

紅莉栖「・・・お帰りなさい」

紅莉栖は顔を隠すように本を読んでいる。

岡部(・・・怒っている、のか?まさかこの前の事をまだ・・・)


数分の沈黙。


紅莉栖「はぁ、ずっと本読んでたら疲れたわ。ちょっと屋上で風にあたってくる」

岡部「あ、ああ」


顔を見られたくないのか、すぐさまくるりと俺に背中を向け、スタスタと歩いていく。


岡部「・・・読んだ、か」

紅莉栖「目、赤いんだろうな、今の私」

9月の東京を流れる風は決して涼しくはない。


紅莉栖「岡部さん、もしかして、私の事・・・」

だがその風は、霞がかった心を少しづつ晴らしていった。


紅莉栖「・・・好き、って、言って欲しいな。そうしたら、私も・・・」




紅莉栖「ただいま」

岡部「紅莉栖、今から買出しに行くが、一緒に来るか?それとも留守番してるか?」

紅莉栖「あ、うん、行く」


紅莉栖「けっこう買ったわね」

岡部「洗剤やら何やらが一斉に切れてしまってな。重くないか?」

紅莉栖「平気。これくらい持てる」

岡部「構わん、一袋持ってやる」


紅莉栖(こんなに優しいのも、そういうこと、なのかな?)


そんな事を考えながら歩いていると、手にしたビニール袋が、前から来た男性の足にぶつかってしまった。

紅莉栖「あ、ごめんなさい」


???「おうおう姉ちゃん、人の足にぶつけといてそれだけですまそうってか?」


岡部(うわぁ・・・)

全身黒づくめ。

かつての世界線で遭遇した、厨二病集団。


4℃「おい、どうした」

男1「この女が足にぶつかってきたんです」

紅莉栖「だ、だから、ごめんなさい・・・」

岡部「すまなかった、俺からも謝らせてもらう。許してくれないか」

男2「あァ!?そんな謝り方で許されると思ってんのか!?」

紅莉栖「お、岡部さんはいいの!悪いのは私なんだし・・・!」


岡部さんの口が、ニヤリと笑ったように見えた。


岡部「これでは許してはもらえないということか?」

男1「ッたりめえだ!誠意見せろやゴルァ!」

岡部「・・・そうか、ならもう謝るだけ無駄だな。やめた」

男2「ッ!て、てめえ!」

4℃「随分と威勢がいいな、女連れだからって容赦すると思うなよ? おい、やれ」


岡部「紅莉栖、下がっていろ。荷物を頼む」

紅莉栖「や、やめて!また私のせいで怪我なんてしちゃったら・・・」

岡部「下がっていろ!!」

紅莉栖「っ・・・!」



笑顔で振り返る。

「俺は、お前を、助ける」

岡部「貴様ら、紅莉栖に指一本でも触れてみろ。容赦はしない」

男1「ほーう、どうなるのか見せてみろってんだよ!」

男2「ひっひっひ、タイマンなんてヤワなことは言わせねえぞ!」

男二人が同時に岡部に襲い掛かろうとする。



紅莉栖「やめてーーーーっ!!!」



???「おう、何してんだ」

男1「あァ!?なんだてめ・・・」


男1は勢いよく振り返る。


そして、


眼前に広がる、はちきれんばかりの大胸筋。

天王寺「そこの二人とは知り合いなんだが、なんかあったのか?」

男1「う、うるせぇ!てめぇには関係ねぇ!引っ込んでろ!」

男1の体重の乗った右拳が唸りをあげて天王寺の左胸にめり込・・・



まない!



紅莉栖「わ、私が、その人にぶつかっちゃって、それで・・・」

天王寺「はーん、お前ら、そんなことでキレてんのか。ケツの穴の小せぇ野郎だな」

左胸をポリポリとかく。


男2「な、なんだと!4℃さん、この男、どうしま・・・」

男1「って、いねぇ!?」


岡部「さっきの男なら、走ってどっか行ったようだが」

天王寺「そこにいる男はな、最近怪我で退院したばかりなんだ。俺でよけりゃ代わりに相手してやるが?」

天王寺は、半笑いで男の頭ほどある拳をポキポキ鳴らす。

天王寺「別にタイマンじゃなくたっていいんだぜ?」

男1「お、おい・・・」

男2「く・・・ひとまず退散だ!」


男たちは 逃げ出した!


天王寺「・・・ったく、退院早々変なバカに絡まれるなんて、お前もついてねえな」

岡部「ありがとうございました。相当強く殴られたみたいですが、大丈夫ですか?」

天王寺「あれがか?あんなヘナチョコ、殴られたうちに入んねえよ」

岡部(いや、相当な威力だった記憶があるのだが・・・)

>>358
何それ殺意が湧いてくる

>>360
俺も
お前はわかってるしコレを読む権利をやる
http://echelon.wiki.fc2.com/wiki/SS

天王寺「しかし見直したぜ。お前があんな強気に出るとはな」

岡部「貴方の姿が見えたもので」

天王寺「・・・。もし俺が通りかからなかったら、どうしてたんだ?」

岡部「土下座でもしていたかもしれません」

天王寺「・・・見損なったぜ」

二人は苦笑いする。


天王寺「ま、姉ちゃんを大事にしてやれよ。じゃあな」

踵を返し、片手を軽く上げて去る天王寺。


岡部「・・・敵に回したくないものだ。さて帰るか、紅莉―――」

振り返ると、そこには俺の腕にしがみ付き、小刻みに震える紅莉栖がいた。

>>363
もちろん読んでる
今16スレだ

>>367
本家も読めよ

ラボに戻る。

終始無言。

岡部「あ、袋はその辺に置いといてくれ」

紅莉栖は静かに従う。


無言。


岡部「・・・ま、まぁ、今度黒づくめの奴らに会った時は、ぶつからない様に気をつ―――」


紅莉栖は、俺の胸元に飛び込むように抱きついてきた。


岡部「く、紅莉栖、どうした・・・?」

紅莉栖「・・・・・・ひっく・・・」

小さく嗚咽が漏れた。

紅莉栖「ひっく・・・怖かった・・・すごく、怖かった・・・」

岡部「あ、ああ、最近じゃ秋葉原にもあんな物騒な奴らが蔓延っているのだな」

紅莉栖「・・・違う。そうじゃなくて・・・」

岡部「違う?」

紅莉栖「岡部さんが、私の為に、また・・・ひっく、怪我しちゃうんじゃ、ないかって・・・」

岡部「・・・大丈夫だ」

俺は、紅莉栖に微笑みかけ、華奢な体を包み込むように腕を回す。

岡部「・・・お前には、全てを話す」

紅莉栖「・・・何のこと?」

岡部「多分、にわかには信じられないと思う、だが、どうしても聞いて欲しい事がある」

紅莉栖「・・・わかった。でも、もうちょっと、このままでいさせて・・・」

だれかOPのAA持ってきてくれ。なぜか無性にいま見たくなった

>>378

                       ヘ(^o^)ヘ フェニックスの鳳凰に、
                         |∧  
                     /  /

                 (^o^)/
                /(  )      院、そして
       (^o^) 三  / / >

 \     (\\ 三
 (/o^)  < \ 三 
 ( /

 / く   凶悪なる真実、だ
 



>>378

  ( ^)   だから♪
  (  ) ̄
(  | |  )

  _(^o^)  今♪
    ( )|
  (  | |  )

       ( ^o)  1秒ー♪
      ̄(  )
   (   //  )

             (o^ )  ごとに~♪
            (  )ヽ
             | | 

..三  \ \  V  /   (o^ ) 三 世界ー♪
 三  \ \  V  / (  )ヽ 三
三   \ \  |  /  / /   三


三  ( ^o) \  V // / /  三  線をー♪
 三/( ) \  V / (o^/   三
三   ヽヽ  \ |  /(  /  三

..三/( )  \  V  /    (o^ ) 三 越ーえてー♪
 三  ヽヽ^o) \ V   /  (  )ヽ 三
三    \  )\ | (o^/  / /   三

紅莉栖「それって・・・本当なの?」

岡部「真実だ。信じてもらおうだなんて思っていない。だが、全て俺の経験してきたことだ」


俺は、今までの出来事をほぼ全て話した。

Dメール、タイムマシン、タイムリープ、SERN、まゆりの死。

そして、紅莉栖の死。

それらを全て回避し、今の世界があることも。


紅莉栖「・・・」

岡部「信じる、信じないは紅莉栖の自由だ。全て俺の妄想だと思ってもらっても構わない」


紅莉栖「・・・」

              ・ ´  ̄ ̄` ヽ
             /: : : : : : : : : : : : : \
          /,::'/i : : : : : : : : : : 、: :ヽ
         i : {_{从: : : i }人 i| l: :|: :i|

         |::小> \,リ'< 从: :|、i|

          | :|l   、_,、_,  * : :|ノ│  
     ∫ /⌒ヽ__|ヘ 。 j_|゚   j /⌒i !
  ∫  ..\ /〃|: :l>,、 __゚ イァ/  /::|
 .i=ョ=ョ=ョ=ョ/|:リ  v只v´ {ヘ、__∧ |
 .\ ____ /  ´   j j 「 ̄ヾ、三シ:|
 ̄ ̄└─‐┘ ̄ ̄ ̄




          .,川F三ミ三三ニミヽノ,
       _k|;:ヾ川彡三;:;:;ミ三三ニミヾ
        フ;彡,.-‐'"゙´ ̄`"゙ミミ川≦ハ
        /ミ,/(        ヽ川lリハレ

         ル 从●    ●   リソ´゙}l|ハ クリスティーナ!
          ルl⊃ 、_,、_, ⊂⊃ {l|!ノリ 
        /⌒ヽ_レ从.  ゝ._)   .从/⌒iル'
      \ / \゛>,冫__, イy''/  /
.         ソ    ヘ U /  ヘ、__>i
        \    l    l     リ


in メイクイーン・ニャン×2

フェイリス「ダルニャン、今日はラボには行かないのかニャ?」

ダル「・・・フェイリスたん、これを見るお」

フェイリス「メール?なになに、”紅莉栖と大事な話がある。すまないが今日はラボには来ないでもらいたい” ニャ、ニャんと!?」

ダル「」

まゆり「おおー!これって、もしかしてー?」

フェイリス「愛の告白ニャ!まさか凶真から告白するなんて、相思相愛だったのニャ!」

まゆり「やっぱりオカリンは紅莉栖ちゃんのこと好きだったんだねー♪」

フェイリス「今頃二人は抱き合って愛を語り合い・・・ニャフフフ♪」

ダル「オカリンのバカ!もう知らない!!」

フェイリス「ダルニャン、荒れてるニャ」

岡部さんの言ったことは、確かに易々と信じられない内容だった。

でも、すべての辻褄が合う。


初めて会ったときの、今にも泣き出しそうな程の深刻な表情。

「俺は、お前を、助ける」の意味。


紅莉栖「・・・私、信じる。岡部さんの言ったこと」

岡部「いいのか?全て俺の妄想かもしれないのだぞ」

紅莉栖「ううん、私にはわかるの、嘘じゃないって」

岡部「・・・さすがは、脳科学者、か・・・」

紅莉栖「・・・辛かったのね。でも大丈夫。私もまゆりちゃんも生きてるから。安心して、ね?」

岡部「・・・っ」


紅莉栖「改めて言わせて。 助けてくれて、ありがとう」


岡部の目から、一筋、涙が頬を伝い落ちた。

岡部「・・・この話は、誰にも話さず墓場まで持っていくつもりだった」

紅莉栖「・・・ありがとう、話してくれて」

岡部「ああ、肩の荷が降りた」

紅莉栖「なんか緊張が解けたみたい。腑抜けた顔してる。うふふ」

岡部「む、失礼な」

紅莉栖「ごめんね。でも、・・・その顔も、素敵」

岡部「・・・最後に一つ、まだ話してないことがある。聞いてくれるか」

紅莉栖「な、何?あらたまって・・・」


紅莉栖の目をまっすぐに見つめる。
紅莉栖も同じように見つめ返す。




―――お前のことが、好きだ―――

まゆり「なんと、オカリンと紅莉栖ちゃんがラブラブとなりましたー♪」

ダル「末永く爆発しちまえコノヤロー!!!11」

るか「おめでとうございます!(いいなぁ・・・)」

フェイリス「ニャフフ、お似合いだニャ♪」

萌郁「・・・ヒュー、ヒュー・・・」カシャ


まゆり「それではここでお二人からのコメントをいただきまーす!」

岡部「あ、えーと、まぁ、そういうことになった訳だ」

紅莉栖「うふふ、みんな、応援してくれてありがとう」

岡部「な!?皆知っていたのか!どうりでリアクションが薄いはずだ・・・!」

まゆり「では最後に、お二人からコメントをいただきまーす♪ではオカリンからどうぞー!」

岡部「ちょっと待て!たった今コメントしたばっかだろうが!」

ダル「熱い口づけを交わしてしまえばいいだろうがコノヤロー!!!」

岡部「だ、黙れ!」

萌郁「・・・キース、キース・・・」

岡部「携帯を構えるな!こんな所でするものか!」

フェイリス「こんな所で?じゃあどこでならするのかニャー?」

岡部「う、うるさい!揚げ足をとるな!」


紅莉栖(ふふ、最高の思い出になっちゃった)


まゆり「第2回、ラボメン全員ワイワイ会議、これにて終了ー!」


-fin-

もしもし。おお、クリスか。

ああ、わかってる。休暇の延長だろ?

そうくると思ってたからな。実は最初から2ヶ月とってたんだ。感謝しろよ?

なに、こっちは大丈夫だ。いつまでもクリス一人に頼る訳にはいかないからな。

で、オカベとはどうなったんだ?

ほう、そうか!そいつはよかったな!

よし、しっかりオカベと愛を育んでこい!これは業務命令だ!なんてな。

ああ、だから大丈夫だって。心配は何もいらんよ。

それじゃあな。そのうちまた連絡する。

ふふふ、よかったよかった。

さて、次の長期休暇はいつ取ってやれるかな・・・と


懐からチケットを取り出して「クリス、会って来い」

クゥー!俺ってクールだな!なのに何故俺には嫁さんがいないんだろうな?


・・・ふむ、来年の3月あたりは余裕がありそうだな。



クリスにはしばらく内緒にしといてやるか。


-fin-

SS投稿2作目「相思相愛のリコレクション」終了。8時間半ェ・・・

3作目執筆中。

>>433
3作目のタイトル(仮)書いてってくれ

>>435
スレタイは 紅莉栖「明日は5ヶ月ぶりに岡部に会える♪」の予定。
今回とは比にならないくらい紅莉栖がデレるぜ。

送信メール
3/19 8:14
件名:ヾ(*´∀`*)ノ

本文:
べ、別に岡部に早く会いたいわけじゃないんだからね!
勘違いしないでよね!

なんちゃって☆



受信メール
3/19 8:16
件名:テンプレ乙!

本文:
なんだそのツンデレはw
言っておくが、俺はお前に会いたくて仕方がない。
眠くないのも実はそのせいだ。


紅莉栖「きゃー///」ジタバタ

紅莉栖「綺麗・・・」

ライトアップされた桜並木に、紅莉栖は感嘆の声を漏らした。
つないだ手に、思わずキュッと力が入る。

紅莉栖「すごい・・・こんな綺麗な桜、初めて見た」

岡部「しかしまだ人が結構いるな。もっと遅く来るべきだったか」

紅莉栖「ううん、全然構わない。ありがとう、本当に嬉しい」

岡部「喜んで貰えてなによりだ。少し見て回ろう」

紅莉栖「うん・・・ねえ、岡部」


さわさわと枝が揺れ、はらはらと桜の葉が舞い落ちる。


紅莉栖「・・・腕、組んでもいい?」

岡部「・・・鈴羽?なんだよ?こっちを向けよ?なあ」

岡部から目をそらし、神妙な顔で俯く。

岡部「・・・冗談だろ?冗談だよな?おい・・・何とか、言えよ・・・?」


鈴羽「・・・牧瀬、紅莉栖・・・」

鈴羽は、消え入りそうな声で呟く。


鈴羽「・・・私のいる2036年に、牧瀬紅莉栖という人間は」

そして、大きく息を吐き、岡部の目を見て言った。





鈴羽「・・・もう、存在していない」

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