まどか「友達代……って何?」(569)

「お、遅くなってしまってごめんなさい。今月分、ちゃんと持ってきたから」
「えと……ほ、ほむらちゃん?」
「少し遅くなってしまったけれど、でもこれで!今月も友達で居てくれるのよね、まどか……!」
「ちょ、ちょっと待って!何なの友達代って、意味わかんないよ……!」
「えっ、だ、だって……」
「……私たちの関係って、お金の関係だったの……?」
「え……」
「友達だって思ってたのって私だけだったの……!?
 酷いよ!こんなのってないよ!ほむらちゃんのバカっ!」
「あっ、まどか……!」

「ほむらさ、あんたどーしたの?まどかと喧嘩でもしちゃったわけ?」
放課後、さやかが心配そうな色を顔に浮かべ、ほむらに訊ねる。
「まどかさんはまどかさんで、1人で先に帰ってしまいましたし……」
「あたしらで良かったら相談に乗るよ?」
「……ありがとう、さやか、仁美。実は……」



「はぁ!?まどかに友達代を請求されたぁ!?」

昨日、日曜日の昼頃。
私はまどかと待ち合わせをしていた。
まどかと2人で出かけるなんて初めて。
今朝突然誘われた時はちょっとびっくりしたけど……すごく嬉しかった。
あんまり嬉しすぎて時間より30分も早く着いてしまった。
でも、もうすぐ長かった待ち時間も終わり。
そろそろ……。
「ほーむーらーちゃん!」
「きゃっ!……ま、まどか。びっくりさせないで……」
「えへへ、ごめんね!」

「もう……ふふっ」
びっくりさせられたが、まどかの顔を見て思わず笑みがこぼれてしまう。
「それじゃ、早速行こっ、ほむらちゃん!」
「えぇ」
そうして2人で歩き出す……と思いきや、ぴたりとまどかは歩みを止めた。
「?どうしたの、まどか」
「そうだ、その前に……。ん!」
「ん?」
まどかは突然、手のひらを上に向けて私の方に差し出した。
まるで何かを要求しているように。
「えっと……まどか?」
「ん!」

手を繋ごう、そう言ってるのかと思い、私も手を差し伸べた……が。
「……違うよ、ほむらちゃん」
「え?」
「手を繋ぐのも良いけど、それより先に。忘れてることがあるでしょ?」
……わからない。
まどか、一体何を……?
私が困惑する様子を見たまどかは、ため息混じりに口を開いた。
「わかんないかなぁ、ほむらちゃん。友達代だよ、友達代。今月分と来月分のね」
「……え?」

友達代……友達代って……何?
「あれ、もしかしてほむらちゃん、私とタダで友達になれたと思ってたの?」
「えっ……あの……えっと……」
「そんなわけないよ!ほむらちゃんみたいな子が私と友達になるには、お金が必要なんだよ?
 今日って月末でしょ?本当は先払いなんだけど、最初の月だから後払いで許してあげる。
 でも来月からは先払いだから、来月分も今日払ってもらわなきゃ」
「え、で、でも、友達にお金が居るなんて、そんな……」

「いやなら良いんだよ?払わなくても。その時はもう友達じゃなくなるだけ。
残念だけど、今日のお買い物もナシになっちゃうね」
「あ、わ、分かった!払う!払うから!だから友達じゃないなんて言わないで!お願い!」
私は慌てて財布を取り出す。
「えへへ!ありがとう、ほむらちゃん!やっぱりほむらちゃんは私の最高の友達だね!」
「え、えへへ……。うん、そうだよね……友達……なんだよね……」
「もちろんだよ!あ、5000円ね」
「え、あ、うん……」
しかし。
「あ……」
財布には今月分を払える金額しか入っていなかった。

「あの、ごめん、まどか……来月分が……足りない……」

「…………」

「あ、え、えっと、ご、ごめんなさい!明日!明日ちゃんと払うから!だから!お願い!」

「……はぁ……。しょうがないなぁ。じゃあちゃんと明日払ってよ?
 その代わり、1000円プラスね。6000円。ちゃんと明日学校に持って来てね。
 そしたら来月も、ほむらちゃんと友達でいられるから」

「う、うん……ごめんなさい……まどか。ありがとう……」


ほむらはそこまで話し終え、さやか、仁美の反応を窺う。

仁美は信じられないという表情を浮かべ、さやかは……。

「最っ低!!まどかがそんな奴だったなんて知らなかった!!」

固く握り締めたさやかの拳は、怒りに震えている。

「にわかには信じられませんわ……まどかさんがそんなことおっしゃるだなんて……」

「じゃあ何!?ほむらが嘘ついてるって言うの!?」

「そう言うわけじゃ……。さやかさん、一度落ち着いて……」

「これが落ち着いていられるかっての!ほむら!今の話、本当なんだね!?」

「え、えぇ。でも、今日友達代をまどかに払いに行ったら……」

「はぁ!?何、あんた本当に払いに行ったの!?」

「そ、そうなんだけど、でもそしたら……」

「払わなくても良いってそんなの!ていうかそんなの友達じゃない!ほむら!」

さやかはほむらの名を呼び、ガシッと手を握った。

「あたしは、友達代なんて払わなくても、あんたの友達だからね!もちろん仁美も!でしょ?」

「ええ、もちろんですわ」

「さやか、仁美……」

ほむらにとってまどかの件はさすがにショックだったが、仁美と、特にさやかが、
自分のためにここまで本気になって怒ってくれているという事実が、少しだけ嬉しく感じられた。

翌朝。
ほむら、さやか、仁美の三人は、さやかの発案で、
待ち合わせ場所と時間をいつもの場所からずらし、まどかとの登校を避けた。

三人が登校したしばらく後、予鈴がなる直前。
教室のドアが開き……

「はぁ、はぁ……。あ、あれ……?みんな居る……」

息を切らせたまどかが登校してきた。

まどかは恐る恐るといった様子で、さやか、仁美に話しかける。

「き、今日みんな待ち合わせ場所に来なかったよね?どうしたの……?
 あ、みんなそれぞれ用事があって、先に登校した、とか……?」

「…………」

「あれ、さやか……ちゃん?どうしたの……?も、もしかして怒ってる?」

まどかは、助けを求めるように仁美に視線を向ける。
しかし、仁美も気まずそうに目を背けた。

「あ、あの、ごめん……私、何かしたかな?何かしたなら謝るから……」

「……自分の胸に聞いてみれば?」

「自分の胸って……わ、わかんないよ!
 あ、えっと、昨日勝手に早く帰っちゃったこと!?でも、そんなことで……」

「はぁ!?違う違う!そうじゃないって!まだわかんないの!?」

「ご、ごめんね。でも、本当にわからないの!さやかちゃんお願い!教えてよ!」

さやかは呆れたようにため息をつき、呟いた。

「……友達の敵は敵ってことだよ。もう良いでしょ。
 しばらくあたしに……『あたしたちに』話しかけないで」

「……さやかちゃん……」

昼休み。
ほむら、さやか、仁美の三人は屋上で昼食をとっていた。

「さやかさん……今朝のアレは少し言いすぎだったんじゃ……?」

「何言ってんのよ。今朝の様子見るとあいつ、自分がほむらに悪いことしたなんて
 これっぽっちも思ってないじゃん!あれくらい当然だよ!」

「……どうにかして、まどかと仲直りできないかしら」

「…………」

重い沈黙が三人を包む。

「……ごめん、私ちょっとトイレ行って来るわ」

沈黙に耐えかねたのか、さやかが席を立った。

「もう、さやかさん。お食事中ですのよ?」

「あはは、ごめんごめん。それじゃっ」

トイレ前。
たまたま、まどかは1人でそこに居た。
そして。

「まどか。ちょっと話あるんだけどさ。今良いかな」

「さやかちゃん……?」

まどかは直感的に、きっと今朝のことだろうと感じた。
さやかの方から話しかけられるのは、まどかにとって少し意外だったが……。

まどかが黙っていると、さやかはその場に2人しか居ないことを確認し、話を切り出した。

「転校生のことなんだけどさー……。あいつ、ちょっと鬱陶しいと思わない?」

「……え?」

「あたしはさ。結構前から思ってたんだよねー。
 まどかと仁美、それとあたしで仲良く三人でやってたとこにいきなり入って来てさ」

「さやか、ちゃん……」

「出会ってまだたった一ヶ月しか経ってないのにもう友達面しちゃってるし?
 正直ちょっと……ねぇ?あんただってそう思ってたんでしょ?まどか」

「…………い」

「ん?」

「酷い……酷いよさやかちゃん!そんなのあんまりだよ!」

「……はぁ?」

「ちょっとちょっと、なーに良い子ぶっちゃってるわけ?
 あんただって転校生のこと、本気で友達だって思ってたわけじゃないんでしょ?」

「そ、そんな……そんなこと………………」

「あれあれー?なんでそこで言いよどんじゃうかなー?やっぱりあんたも……」

「そ、そんなことより!さやかちゃん、どうしちゃったの!ほむらちゃんのことそんな風に言うなんて!」

「どうしたもこうしたも……さっき言った通りだよ」

「……あなたがそんな人だったなんて、思わなかった……!」

「あーそう。そりゃあんたの勘違いだわ。あたしはこういう人間なの。
 ま、そういうわけだから。そんじゃあたしは戻らせてもらうよ。用事は済んだしね」

「…………」

放課後。

「はー終わった終わった。帰ろっか、仁美」

「そうですわね。私も今日はお稽古がありますし」

「おーいほむらー。帰るよー」

そうしてまた三人で帰ろうとした、その時。

「……仁美ちゃん。ちょっと良いかな」

「ま、まどかさん……?」

しかし、そこにさやかが食って掛かる。

「ちょっと、今朝言ったわよね?『あたしたちに話しかけるな』って。忘れちゃったの?」

「……あなたには関係ない。私は仁美ちゃんに用事があるの」

「はぁ!?何それ、逆切れ!?……仁美!あんたはもう帰って!お稽古あるんでしょ!?」

「え?で、でも……」

「良いから!ここは私たちで解決する!」

「わ、わかりましたわ……では……」

最後までまどかとさやかに不安そうな目を向けながら、仁美は帰っていった。

仁美が帰ったのを確認し、さやかはまどかの方に向き直る。

さやか「……あたしの友達に関わろうとしないで。仁美にも!ほむらにも!」

そう言った瞬間、まどかの表情が変わり、急に声を荒げて叫んだ。

まどか「『友達』だなんて……あなたにそんな言葉言う資格なんてない!」

さやか「……は?いや、意味わかんないんだけど」

まどか「ごまかさないで!お昼休み、ほむらちゃんの悪口言ってたじゃない!」

ほむら「っ!?」

ほむら「さやか、あなた……」

さやか「い、言ってないよそんなこと!だいたい昼休み、まどかになんて会ってもない!」

まどか「今更なに言ってるの!?お手洗いで会ったよね!忘れたなんて言わないよね!?」

ほむら「確かにさやかは……食事の途中にお手洗いに行ったけれど……」

さやか「ち、違う!確かにトイレには行った!でも、まどかになんて会わなかった!会ってない!
    そ、そうだ……。あんた、私たちを仲間割れさせようとしてこんな嘘を!許さない……!」

まどか「それはこっちのセリフだよ!上辺だけ友達のふりして、心の底では馬鹿にして……!」

いけない。
このままでは殴り合いに発展してしまいかねない。
発言の真偽は今は置いといて、まずは2人を落ち着かせなければ……。

そう判断したほむらは、まず近くに居たまどかをなだめようと行動に移す。
もともとの原因は、自分とまどかにあるのだ。

ほむら「ま、まどか、落ち着いて。とりあえず、一旦座って……」

そう言ってまどかの肩に手をかけた、次の瞬間。

まどか「ひっ……!」

ほむら「え?」

バチン!と思い切り、手を払いのけられた。

ほむら「ま、まどか……?」

まどか「いや……来ないで……近付かないで……!」

まどかはスカートの裾をぎゅっと押さえ小さく震えている。
その明らかにおかしな様子をさやかも怪訝に思い、話しかける。

さやか「まどか?あんた……?」

ほむら「ま……まどか、どうしたの?」

まどか「どうしたのって……昨日、あんなこと、して……!」

ほむら「え……?」

まどか「私のこと!変な目で見てるくせに……!」

さやか「へ、変な目って……。何?ほむらあんた、昨日まどかに何かしたの?」

ほむら「いいえ……。昨日は朝以降、一度も会話すら交わしてないわ……」

まどか「嘘!昨日の帰り道で会ったじゃない!」

さやか「……まどか、一応聞いておいてあげるよ。なんかただ事じゃないし。話してみて」

まどかはほむらに警戒の目を向けながらも、ゆっくりと話し始めた。

昨日の帰り道。
私はさやかちゃんとも仁美ちゃんとも、ほむらちゃんとも帰らず、1人歩いていた。
周りに人の気配はない。
……その時、遠くから声が聞こえてきた。

「……ドカァ!マドカァー!」

「……え?この声……ほむらちゃん……!?」

声のする方に振り向いた、次の瞬間。

「マドカァー!」

「わわっ!ほ、ほむらちゃん!?」

ほむらちゃんが、抱きついてきた!?

「ホムホム!マドカァー!ホムホム!」

「ちょ、あははっ!くすぐったいよ、ほむらちゃん!
 すりすりしないで!どうしたの、落ち着いて……!」

「ごめんなさい、まどか。私としたことがつい興奮してしまったわ」

「急に落ち着いた!?」

「しばらくまど分を補給していなかったものだから、寂しかったの」

「ほむらちゃん……」

まど分って何だろう、という疑問もあったが、今はそれよりも嬉しさを感じていた。
今朝の、よそよそしい雰囲気はもう感じられなかったから。

「ほむらちゃん、わかってくれたんだね!友達代なんておかしいんだよって!」

「えぇ、そうね、まどか。私とあなたを繋ぐものはお金なんかじゃない……体よ」

「うん、カラダ……え?」

カラダ?体?心とかじゃなくて?

「ところで早速だけどお願いがあるの。まどパンをもらえないかしら」

「ま、まどパンって何?そんなパン、私知らないよ……?」

「まどパンを知らないだなんて。でも無知なところも可愛いわ。まどかわいいわ」

「ほ、ほむらちゃん……?」

「まどパンとはつまり、まどかのパンツの略。あなたの下着のことよ、まどか」

「パンっ……!?し、下着って……!」

「そういうわけで、もらえないかしら」

「な、なんで下着なんて!?」

「まどニーのためよ。決まっているじゃない」

「ま、まど……ニー……?」

「マドニーも知らないのね。どこまであなたは愚かなの。でも愚かわいいわ。
 マドニーとは、まどかとオナニーを掛け合わせた造語よ」

「ッ……!?そ、そんなの変だよ!おかしいよ……!どうしちゃったの、ほむらちゃん……!」

「いきなりこんなことを言って戸惑ってしまうのも無理はないわね。でも安心して」

「え?」

…………ッ!?

「もう貰ったから」

気が付けば、ほむらちゃんは頭に下着を被っていた。
それと同時に、自分のスカートの下にあるべきはずの物がないことに気付く。

「いやあっ!!」

「これで思う存分ほむほむできるわ。ありがとう、まどか。早速家に帰ってまどニーしなくちゃ。
 あ、そうだわ。1つ忠告するわね。汗をかいたらちゃんと拭いた方が良いわよ。あなたの肌、少ししょっぱかったわ。
 私はあなたの肌ならどんな味でも構わないのだけれど、あなたの肌が塩分で荒れてしまうなんて耐えられないの。
 それから、耳は定期的に掃除してるかしら?少し舌を入れただけでかなりの量の耳垢を食べることができたわ。
 それは嬉しいことだけれど、耳垢が詰まって病気になったり私の声が聞こえなくなったりしたら私……」

「か、返して!」

「あっ、まどパン……」

「…………ッ!!」

そのまま背を向け、私はわき目も降らずにほむらちゃんから逃げ出した。

さやか「は?……は?マジで?」

さやかは引きつらせた顔をほむらに向ける。

ほむら「し、知らないわそんなこと!そんな変質者みたいな真似をするはずがないじゃない!」

さやか「そりゃあんたがそんなことするなんて考えられない……ってか考えたくないけど……」

ほむら「まどか、私は!あなたをそんな、性的な目で見たことなんて一度もない!本当よ!」

まどか「じゃあ昨日のアレは一体なんだったの!?信じられないよ!」

ほむらがそんなことするはずない。
しかし、まどかが嘘をついているようには見えない。
客観的に見ればどちらも確かなことだった。

……それでも。

さやか「悪いけど……まどか、私はあんたの言うことの方が信じられないんだわ」

まどか「そんな……!」

さやか「ほむらに友達代を請求するような人間の言うことを信じられると思う?」

まどか「友達代……って昨日の……!?ほむらちゃん、さやかちゃんに何か言ったの!?」

さやか「やっぱり。心当たりがあるんだね」

まどか「ち、違うよ!私、友達代なんて知らない!昨日ほむらちゃんが突然……!」

さやか「言い訳なんて聞きたくない」

まどかに冷たく言い放ち、さやかはほむらに向き直る。

さやか「……ほむら。あたしはあんたを信じる。だからお願い。あんたも、あたしを信じて……!」

ほむら「さやか……」

ほむらは……小さく、こくりと頷いた。

さやか「ありがとう……帰ろう、ほむら」

ほむら「え、でも……」

さやか「良いから。……付いて来ないでね、まどか」

そうして、まどかは1人、そこに取り残された。

まどか「……こんなの……わけわかんないよ……」

その夜。
さやかは部屋で1人、携帯とにらめっこしていた。
ほむらのことを信じられない訳ではないが、
まどかが嘘をついているとは思えなかったのも確かだったのだ。
だからほむらに電話し、まどかの言っていた昨日の奇行について今一度確認を取るべきかどうか悩んでいた。

「……えーい!悩むなんてあたしらしくもない!確認するだけでしょ!
 どうせ『何を言ってるの。そんなはずないじゃない』『だよねーあはは!』で終わるんだし!」

1人で自分にそう言い聞かせ、さやかは発信ボタンを押した。

 プルルルルル……プルルルル……ガチャ

『……何かしら』

「あ、もしもしほむら?いや、今日のまどかの話だけどさ、
 あんたを疑ってるわけじゃないんだけど、……あんな変なことしないよね?」

『変なこと?』

「だから、アレだよ。まどかのパンツを盗ったってやつ。もちろん、そんなことしないよね?」

『何を言ってるの、美樹さやか。そんなはずないじゃない』

「だ、だよねー!あはは!」

『パンツだけじゃない。ブラジャーも盗るわ』

「……はい?」

「えーっと、ごめん、なんか電波悪いみたいでさ。もっかい言ってくれる?」

『あなたは頭だけじゃなく耳まで悪いのね、美樹さやか。もう一度しか言わないわよ。
 私は、まどパンだけでなく、まどブラも盗る』

「…………」

『もちろんそれだけじゃないわ。まどかの体液も、体毛も、すべてが私のものよ。
 私の毎朝の一杯はまどかのおしっこだし、1日に補給する水分はすべてまどかが浸かった後の残りy』

ガチャン!

「…………どうなってんのよ、これ」

翌朝。

ひとみ「おはようございます、さやかさん」

ほむら「おはよう、さやか。遅かったわね」

さやか「お、おはよう……」

さやかはほむらから目をそらす。
昨日のアレはいったいなんだったんだろう。
電話を掛け間違えてなかったか確認したが、やはり間違いなくほむらの携帯にかかっていた。
それに声も、口調も、普段より口が悪かったが……確かにほむらのものだった。
まさか、本当にまどかの言ったとおり……。

休み時間、さやかはほむらを呼び出した。
2人で話がしたい、と。

ほむら「何かしら」

さやか「うん……あのさ、昨日のことなんだけど……」

ほむら「昨日……色々ありすぎてどのことか分からないわ。それとも全部のこと?」

さやか「あー、そうだね。うん。だからえっと……あんたがまどかの下着を……って話。あんた本当に……?」

ほむら「……昨日も言った通りよ。何度訊かれても答えは同じ」

さやか「えっ……。てことは、ほむらあんた……やっぱり……!」

ほむら「だからそう言っているでしょう。あなたも理解してくれていると思ったのだけど……」

さやか「り、理解なんてできるわけないじゃない!この変態!!」

ほむら「……え?」

さやか「人の下着欲しがるだなんて、それも女の子の……!」

ほむら「ちょ、ちょっと……?」

さやか「ううん、それだけじゃないんでしょ!?あんな、あんな……!信じらんない!!」

ほむら「さやか、あなたいったい何を……!」

さやか「とぼけんじゃないわよ!昨日電話で言ってたじゃん!変態!」

ほむら「待って、あなた何を言ってるの!?昨日?あなたと電話なんてしてないでしょう!?」

さやか「はぁ!?そっちこそ何言ってんのよ!
    よくそんな嘘を平然と吐けるね!携帯にはしっかり通話履歴が残ってるんだ!」

ほむら「そんなはずないじゃない!私は本当にあなたと電話なんて…………っ!?」

携帯を確認したほむらは、言葉を失った。

ほむら「嘘……そんなはず……」

さやか「あんたを信じてたあたしが馬鹿だったわ。そんなんじゃ元々、まどかの友達になんてなれるわけなかったんだよ。
    だからってまどかを肯定するわけじゃないけどさ……。とにかく!私にはあんたは理解できないから」

ほむら「ま、待って、さやか!私本当に……!」

さやか「じゃあね!」

そうしてさやかは、逃げるようにその場を後にした。

放課後、さやかはある場所に向かっていた。
巴マミの家だ。
ここ数日の異常。
友人関係の悩み相談……になるかどうかは分からないが、とにかくさやかは誰かに話したかった。
誰かに話すことで少し気が楽になるかも知れないというのもあるが、
マミの持つ癒しの雰囲気を知らず知らずのうちに求めていたのかもしれない。

マミ宅に着き、インターホンを押す。
しばらく後、ゆっくりとドアが開き、隙間からマミが顔を覗かせ、

マミ「……美樹……さん……」

さやか「こんにちはーマミさん!突然すみません……えへへ」

元気な挨拶をするさやかだが、それに対しマミは。

さやか「あれ?マミさん、なんだか元気ないですね……。
    あ、もしかして体調悪かったり……?大丈夫ですか……?」

マミ「…………」

さやか「あー……すみません。なんだかタイミング悪かったみたいですね、帰ります。
    ……あ、そうだその前に!見てくださいコレ!じゃじゃーん!」

そう言って、さやかはマミ宅に向かう途中に買って来たケーキを見せる。
それを見てぴくりとマミが反応したが、さやかは気付かない。

さやか「マミさんがこの前言ってたやつですよね!すごく人気だからすぐ売り切れちゃってなかなか買えないって!
    今日あの店に寄ったら、なんとたまたま最後の1個買えちゃったんです!だからホラ!
    マミさんにあげようと思って持って来ましたー!」

マミ「美樹さん……」

さやか「食欲湧くかどうか分かんないですけど、これ食べて体調治してください!
    たくさん食べて、しっかり栄養つけて、また元気なマミさんに戻ってくださいね!」

その時ようやく、さやかは気付く。

マミ「…………酷いわ……!」

マミは、泣いていた。

さやか「えっ?マ、マミさん?どうしたんですか、そんなに体調が……」

マミ「そうやって、私のことバカにしてっ……酷いわ!あんまりよ!」

さやか「え?え?そ、そんな、馬鹿になんて……」

マミ「また私をいじめに来たのね!美樹さんなんて大嫌い!」

さやか「ちょ、ま、な、なんのこと!?私何かしたっけ!?」

マミ「帰って!帰ってちょうだい!もう来ないで!」

そう叫び、乱暴に扉を閉めてしまった。
さやかはケーキを片手に呆然と立ち尽くす。

さやか「……喜んでくれると思ったのになぁ」

マミ「……ぐす……ひっく……」

さやかが去ってからもしばらく、マミは部屋で1人泣いていた。
すると。

 ピーンポーン……ピーンポーン……

マミ「っ……!」

思わず、体がびくりと強張る。
まさか、また……。

  「おーい、マミー!いねーのかー?」

……この声は。

マミ「佐倉……さん……?」

 ピーンポーンピポピーンポーンピポピポピーンポピーンポピポピポピポピポピポーン

杏子「マミー!おーい!マミってばー!マーミー!」

 ピポピポピポピポピポピポピポpガチャン!

マミ「もう!近所迷惑でしょ!」

杏子「おっ、なーんだ居るじゃねえかー」

マミ「……それでどうしたの?何か大切な用事があったんでしょう?」

杏子「ん?いやー別に。近く通ったから寄ってみただけだよ」

マミ「あれだけしつこく呼んでおいて……ううん。そうね。あなたってそういう人だったわね」

杏子「なんだよー退屈だったんだよ。別に良いだろー」

そこでやっと、マミは笑う。

マミ「ふふっ……そうね。さあどうぞ、あがって」

杏子「おぅ!おっじゃまっしまーす!」

マミ「はい、召し上がれ」

杏子「サンキュー!マミんちに来るとお茶とケーキが出るから幸せだなー」

マミ「あら、もしかしてちょくちょく遊びに来るのはまさかそれが目当て?」

杏子「おう!……あ、も、もちろんそれだけじゃないぞ!
    ケーキも楽しみだけど、遊びに、暇潰しに来てるんだよ!」

慌てる杏子の様子が可笑しく、ついマミは笑ってしまう。

杏子「なんだよー!ほんとだぞ!その証拠に、次遊びに来たときはお茶もお菓子も要らないからな!」

マミ「ふふ、無理しなくて良いのよ?」

杏子「無理なんかしてねえ!くそー馬鹿にしやがってー!」

マミ「でも今日出された分はしっかり食べるのね」

杏子「当たり前だろ?食い物を粗末にするわけないよ。……ん?」

マミ「?どうかした?」

杏子「マミは食わねえのか?いっつもなら一緒に食ってるのに」

マミ「……あ、あんまりお腹空いてないの」

と、答えるが早いか。
 
 キュ~……クルルルル……

マミ「あ……」

杏子「ほら見ろ。やっぱ腹減ってんじゃねえか」

マミは慌てて弁解する。

マミ「えっと、じ、実はその、ダイエット中なの!」

杏子「はぁ?ダイエットぉ?なんでだよ?」

杏子がそう聞くと、マミは俯き気味に答えた。

マミ「だ、だってその……。これ以上……太ったら、嫌だし……。やっぱり、少しでも痩せた方が良いかな、って……」

杏子「何言ってんだよ?これ以上も何も、元から太ってないじゃん。むしろ痩せてる方だろ?」

マミ「え……?で、でも私、体重が同級生の女の子の平均より……」

杏子「そりゃ胸の差じゃねえの?」

マミ「む、胸って……」

マミはほのかに顔を赤らめるが、杏子は意に介さない。

杏子「だからさ、気にすんなって。マミは太ってなんかねえよ」

マミ「本当に……?私、太ってない?本当に太ってないの?」

杏子「だから太ってないって。っていうかどうした?
   なんで急に太ってるなんて思い始めたんだよ。クラスの誰かにでも言われたか?」

マミ「……クラスの子ではないんだけど……」

杏子「ふーん……。まぁマミの学校の奴なんて聞いてもどうせ分かんねえけどさ」

マミ「美樹さんなの……」

杏子「え?」

マミ「美樹さんに、太ってるって言われたの……」

昨日の夕方。
ピーンポーン……

「はーい……あら、美樹さん」

「こんにちはーマミさん!いやー、突然すみません」

「どうしたの?どうぞ、とりあえずあがって」

「はーい!おじゃましまーす」

「その辺に座ってて待っててね。今お茶とケーキを用意するから」

「あー、いえいえお構いなく!結構です!」

「あら、美樹さんが遠慮だなんて珍しいわね。ふふっ、どうしたの?もしかしてダイエット中かしら?」

「やだなぁ、そんなんじゃないですよ。マミさんみたいにデブになるのが嫌なだけですって」

「…………え?」

「あれ、聞こえませんでした?だから、マミさんみたいにケーキばっかりむさぼり食って、
 マミさんみたいな醜いぶよぶよの体になるのが嫌だって言ったんです」

「え、あの、えっと……え……?」

「もしかしてマミさん、気付いてなかったんですか?自分がデブだって」

「あの……た、確かに、平均体重よりは少し……で、でも……」

「うわー、出た出た!『平均よりちょっと思いだけだもん!』デブの真骨頂ー!
 その『ちょっと』が常識とかけ離れた『ちょっと』だって、絶対気付かないんですよね!これだから豚は!」

「ひ、酷いわ……そんなに言わなくてもっ……!」

「ぅわちゃー!出ちゃったよ!デブの真骨頂その2『逆切れ』!人が親切にデブをしてきしてあげたら、
 今度は逆切れしちゃうんだよねー!そしてデブの真骨頂その3が……」

「ぅ……ぐすっ……ひぐっ……」

「『泣いてごまかす』ってねー。デブの涙なんて脂まみれでキモいだけだっつーの!あははは!」

「か……帰って……」

「ん?」

「帰って……帰って……!」

「あーはいはい。もちろんそうさせてもらいますよ。この部屋の脂っこさもそろそろ限界なんで。
 それじゃデブさん……あ、間違えた。マミさん。さよーなら、お元気で!」

杏子「……まじかよ」

マミ「実は今日も……佐倉さんが来る前に来たの……。
  今度はケーキを持って、『たくさん食べろ』とか、『栄養つけろ』とか……」

杏子「そりゃまた嫌味たっぷりだな、おい……」

マミ「私、もう美樹さんに会いたくない……顔も見たくない……ぅぅ……」

杏子「あぁああ泣くなって。しっかし信じらんねえ……話聞いただけじゃ、まるで別人じゃねえか……」

マミ「でも本当のことなの!信じて、佐倉さん……!」

杏子「あぁ悪い、別に疑ってるわけじゃないんだよ。ただな…………うん、よっしゃ!」

マミ「佐倉さん……?どうしたの……?」

杏子「ちょっくらさやかの奴に話聞いてくるよ。そんで、マミの言う通りな感じだったらあたしがぶっ飛ばしてやる!」

マミ「そ、そんな物騒な……」

杏子「何もいきなりぶっ飛ばしたりなんかしないさ。手が出るのは言って聞かせてわからねぇ馬鹿だった時だけだよ。
   ま、そういうことだから。行って来る!」

マミ「あ、待って!」

杏子「なんだよ、止めても無駄だぞ?」

マミ「その……ありがとう、励ましてくれて。嬉しかったわ……」

杏子「へっ、どーいたしまして。……お茶とケーキ、美味かったよ。
   ……それから!太ってなんかねえんだから自信持ちなよ!
   ダイエットとか言って食い物を粗末にしたら許さねえからな!それじゃ!」

「はぁ……」

日はもうほぼ暮れていたが、さやかはまだ外を歩いていた。
はぁ……と、再び大きなため息をついたその時。

「おーっす、さやか!」

「杏子!どうしたの?」

「偶然だよ偶然。ぶらぶらしてたらさやかを見かけたもんだからさ。運命ってやつだな」

「あはは、運命ってあんた……。まぁ良いや、ちょうど良かった。ちょっと付き合ってくれる?」

「もちろん付き合う付き合う!喜んで!」

「喜んで?」

「あーいやいやなんでもない!たはははは!」

「……?なんか妙にテンション高いわね……」

「それで、どうしたんだ?さやか。なんか話があんだろ?」

「うん……実は、さ。ほむらと、まどかのことなんだけど……」

「おぉ。その2人がどうした?」

「なんか最近おかしいんだよ。
 ううん……もしかしたら前からずっとおかしかったのを今まで隠してたのかも知れないけど……」

「おかしい?どういうことだよ」

「まどかってさ、少なくともあたしは、あいつは凄く優しくて、一生懸命で、友達想いで……。
 誰とでも心から友達になりたがる、そんな子だって、ずっと思ってた。でもさ……。
 あいつ、ほむらに『友達で居たいなら金を払え』って。そう言ったらしいんだよ」

「……なんだそりゃ」

「それだけでもショックなのに……。ほむらまでおかしいの。あいつさ、まどかの下着を欲しがるんだよ。
 確かに妙にまどかに懐いてるとは思ってたけど、あれは異常だよ。しかも下着どころじゃない。
 もっともっとヤバい。まどかの何もかもを欲しがってる……。完全に変態なんだよ……」

「ほむらが?まどかの下着を欲しがるって?余計わけわかんねえぞ」

「でしょ?あたしも全然理解できなくて……」

「理解しようとするだけ無駄だろ。なんでまどかの下着なんだよ?さやかのならまだしも」

「…………え?」

「さやかの下着とか体毛とか体液とかならあたしも欲しいから良いとして、まどかのだろ?
 わっけわかんねえ。何考えてんだろうな、ほむらの奴」

「ちょ、ちょっと……杏子あんた……」

「あー、だめだ。こういう会話してたらさやパン欲しくなってきた。さやか、さやパンくれよ」

「ひっ!?」

「なー良いだろー?減るもんじゃないしー。あ、そうだ。あたしのパンツやるよ。
 いいよ。一緒に脱いでやるよ。1人ぼっちは寂しいもんな。
 よい……っしょっと。3日くらい洗ってないけど別に良いよな?ほら。食うかい?」

「く、来るな!変態!」

「あっ、お、おい!さやか!……ったく、何も逃げなくても良いじゃんか」

翌日。
ほむらはやはり、1人で登校していた。
待ち合わせ場所に行っても、誰も居なかったのだ。
さやかがまた時間と場所を変えたのだろう。
昨日、なんどもさやかの携帯に電話したが、一度も出なかった。

それにしても、わけがわからない。
まどかに迫った自分に、さやかと電話した自分。
記憶に無い自分の行動。
その日、放課後まで悩みに悩んだ末、ほむらの至った結論は「相談」だった。
相手に選んだのは……杏子かマミ。
しかしほむらは杏子の居場所を知らないため、必然、相談相手は巴マミとなった。

 ピーンポーン

「……あら、暁美さん。どうしたの?」

「いえ、ちょっと巴さんに相談したいことがあって……」

「まあ!頼ってもらえるなんて嬉しいわ。あがってちょうだい」

「はい、おじゃまします」


「……それで、相談というのは?なんでも言って?」

「あの……こんなことを言うと笑われるかも知れないんですけど……」

「笑ったりなんかしないわ。続けて?」

「はい……。あの……なんだか、自分とは違うもう1人の自分が居るみたいなんです……」

「もう1人の、自分……」

「はい……。私の偽者というか……そういうのが、居るみたいなんです」

「お、おかしいですよね?こんなの……」

「そんな、おかしくなんてないわ」

「巴さん……!」

「裏の世界の自分の誕生……そうだわ。さしずめ、【闇の自分-リヴァース・バース-】と言ったところかしら」

「りばーす……?」

「とてもミステリアスで素敵だわ。そう思わない?【漆黒の焔】」

「し、漆黒の……?」

「ど、どうしたんですか、急にそんな……」

「そうだわ、私さっきからずっと考えてたことがあるの」

「え?」

「ねえ暁美さん。こんな重大な相談を持ちかけてくれるんだもの。私たち、もう友達よね?」

「あ、はぁ……巴さんがそう言うなら……」

「そうよね!だったらほら!アドレス交換しましょ!ね!」

「は、はい……それは別に構いませんけど……」

「ありがとう!すごく嬉しいわ!私、毎晩暁美さんに電話するわね!」

「えっ、ま、毎晩、ですか?」

「だって私たち友達でしょう?安心して!電話は夜だけだけど、メールはちゃんと1日中送るから!
 返信はちゃんと5分以内じゃなきゃダメよ?だって友達ってそういうものだものね!」

「えっと、5分以内はちょっと厳しいような……」

「ダメよ、5分以内じゃなきゃ!5分以内に返信がないと私、
 暁美さんが他の人とのメールを優先しちゃってるのかもって思って凄く悲しいわ!
 もしかしたらそのメールの相手にひどく八つ当たりしちゃうかも知れない!」

「え?え?あの……。……ご、ごめんなさい!
 私、用事を思い出しました!だから、これで失礼します……」

「え?帰っちゃうの?おかしいわよ、そんなの」

「え……」

「友達が友達の家に遊びに来て、30分も経たずに帰っちゃうなんて。そんな酷いことってないわ」

「す、すみません……でも……」

「私たち友達よね?違うの?友達じゃないの?どうしてもう帰っちゃうの?なんで?どうして?どうして?」

「ひっ……!」

「そう……あなたもなのね……。あなたも私と友達になってくれないのね……。
 友達になってくれないなら……死ぬしかないじゃない!あなたも!私も!」

「ッ…………!」

「はぁっ……!はぁっ……!はぁっ……!」

なんとか、逃げられた……!
まさか銃を取り出すなんて……時間停止が間に合って良かった……。
それにしても、おかしすぎる。
確かに巴マミは精神面が少し弱いところはあるが、あんな些細なことで人を殺そうとするなどあり得ない。
自分の身に何が起こっているのか……。

その時。

「おっすほむら。どーした?そんな汗だくで」

「……杏子」

「そういうあなたはこんなところで何をしているの……?」

「あ、そうだそうだ。あんた、さやか見なかったかい?」

「……いいえ、見てないわ」

「うーんそっかー……さやかの奴、どこに居るんだ?」

「さやかが……どうかしたのかしら」

「んー、いやそれがさあ。ちょっと用事があって話そうとしたんだけど、あいつすげえ速さで逃げ出しちまって……」

「あなた、さやかに何かしたの……?」

杏子「何もしてねえよ!……少なくとも、そんな覚えはねえ」

ほむら「……覚えは、ない……」

杏子「何かしちまったのか……?あたしがさやかに……うーん……」

杏子はしばらく1人でブツブツ呟いていたが、突然頭をガシガシと乱暴に掻き、叫んだ。

杏子「あー!ダメだ!エネルギーが足りねえ血糖値が足りねえ!休憩だ休憩!そうと決まれば早速……」

ほむら「待ちなさい。あなた、どこへ行くつもり?」

杏子「ん?決まってんだろ。マミんちだよ」

ほむら「ッ!?だめよ、やめなさい!」

杏子「はぁ?なんでだよ」

ほむら「良いから。これは忠告よ。あの家に行くのはやめなさい。
    ……あなただって無駄な争いは避けたいでしょう?」

杏子「無駄な争いだあ?ふん、上等だよ!かかって来な!」

ほむら「勘違いしないで。無駄な争いを仕掛けてくるのは巴マミよ」

杏子「……?どういうことだよ」

ほむら「さっきまで私は彼女の家に居たのだけれど……私、彼女に殺されかけたわ」

杏子「なっ!?どういうことだよ!説明しろ!」




ほむら「…………というわけなの」

杏子「……そんなはずねえ」

ほむら「信じたくない気持ちはわかるわ。けれどこれは事実よ」

杏子「そんなはずねえ!だって、だってさ!昨日まであいつ、全然普通だったんだぞ!?」

ほむら「……!昨日まで……?」

杏子「そうさ!あたしは昨日、いつもみたいにマミんちに遊びに行って、お茶とケーキを食べたんだ!
    それなのに、今日はほむらを、しかもそんなくだらない理由で殺そうとしたなんて信じられるか!」

ほむら「……まさか」

杏子「とにかく。それが本当だとしても、確かめなきゃなんねえだろ。あたしは行くよ」

ほむら「待って」

杏子「なんだよ。どうしても止めようってんなら力づくで……」

ほむら「違うわ。私も行く。いえ……むしろ、私に行かせてくれるかしら。
    私が1人で行くから、あなたは近くで待機していて」

杏子「なんだそりゃ?なんでそんな……」

ほむら「良いから。お願い」

杏子「……わかったよ」

さすがに、ほむらは緊張していた。
つい先程自分を殺そうとした相手に、再び会おうとしているのだから。

ほむら「……ふぅ~……」

深く息を吐き、覚悟を決め、呼び鈴を鳴らした。
……しかし。
誰も出てくる気配がない。
そこでもう一度呼び鈴を鳴らそうとしたその時。

マミ「あら、暁美さん?1人だなんて珍しいわね。どうしたの?」

ほむら「……!巴さん、もしかして今……?」

マミ「えぇ、今帰ってきたところよ。こんなところで立ち話もなんだし、あがってちょうだい。何か用事があるんでしょう?」

マミは、お茶とケーキを三人分用意した後、テーブルについた。

マミ「それで……話って何?佐倉さんも一緒なくらいだし、余程大切なお話なのかしら」

杏子「なんだよ大切な話って。あたしも初耳だぞ」

ほむらは一息つき、話を切り出した。

ほむら「最近、身近な人が豹変したり、または自分が記憶にないことをしていることになってたりはしないかしら」

マミ「っ……!あるわ……美樹さんがそうだった。あれだけ良い子だった美樹さんが急に……」

杏子「あたしは……そう言えば。今日さやかに会った時、『来るな変態!』って言われた……。
   全然身に覚えがないのにそんなこと言われちまって、さすがにちとショックだったよ」

ほむら「やっぱり、あるのね」

マミ「それじゃあ、暁美さんも!?」

ほむら「えぇ。私たちだけじゃない、まどかもです。説明しますね……」




杏子「えーっと……悪い。混乱してきた。もう1回まとめてくれ」

マミ「つまり今のところ確認できてるのは、性格の悪い鹿目さんと美樹さん、変態の暁美さんと佐倉さん、それと……」

ほむら「厨二病でぼっちでヤンデレの巴さん」

マミ「そ、そうね」

杏子「けどさぁ、あたしたちは良いとして、まどかとさやかはまだ憶測だろ?」

マミ「鹿目さんも美樹さんも、実は本性が出ただけ、ということ?」

ほむら「そんなの絶対に信じたくない。杏子、それはあなたも同じのはずよ」

杏子「そりゃそうだけど……なんとか確認できねえのか?」

ほむら「1つだけあるわ……。巴さん」

マミ「えっ?」

ほむら「まどかとさやかから避けられてる私や杏子と違って、あなたはまだ大丈夫のはず。
    2人を、ここに呼んでもらえませんか?」

マミ「……わかったわ。美樹さんは……まだ少し怖いけれど、頑張ってみるわね!」

杏子「あたしたちはどうすんだよ。顔見た瞬間また逃げられるかもしんねーぞ」

ほむら「そうね、だから私たちは奥に隠れていましょう。……それじゃあ、お願いします、巴さん」

マミ「えぇ、任せて!後輩にかっこ悪いとこ、見せられないものね!」




 ピーンポーン……

「来た……!行って来るわね……」
 
 ……ガチャ

「あ、こんにちは、マミさん。どうしたんですか?急に呼び出したりなんかして……」

「え、えぇ……ちょっと大切なお話があって。……あがってちょうだい」

「…………」

「…………」

2人はテーブルを挟んで向かい合い、黙って座っている。

どうやって話を切り出そう……。

マミは未ださやかの目を直視できないまま、下を向いて話の切り出し方ばかりを考えていた。
しかし、この沈黙を破ったのは……。

「あの、マミさん……」

さやかの表情は、俯いていてよく見えない。

「は、ははははい!?何かしら!?」

「…………す」

「す……?」

「すみませんでしたあああああああああ!!!!」

そう叫ぶと同時に、テーブルに思い切り額を押し付けた。
マミは一瞬驚いたが、できるだけ平静を装い、話しかける。

「す、すみませんでした、って……。あなた、私に何をしたのか覚えてるということかしら……?」

「えっと……それは……その……」

「どうなの……?覚えてるの?覚えてないの……?」

「お……覚えて……」

「…………」

「覚えてませんっ!!!ごめんなさい!!!」

マミ「…………覚えて……ない……」

さやか「で、でも!昨日のマミさんを見て!きっとあたし、無意識にマミさんに酷いこと言っちゃったんだって思って!
    あたしってほんと馬鹿だから、無神経に人傷つけちゃったりもするから……。
    だから、ごめんなさい!!すみませんでした!!!
    そ、それで、良かったら、あたしがどんな酷いことしちゃったのか、教えて欲しいんです、けど……」

マミ「……そう、覚えてない……覚えて、ないのね……ぅぇ……ぇええぇえん……!」

さやか「マママママミさん!!ごごごめんなさい!!覚えてなくてすみません!!!
    泣かないでください!!!どどどうしたら……どうしたら……!!」

マミ「違うの……違うのぉ……良かったぁ……美樹さん……ごめんね……ごめんねぇ……!」

さやか「へっ……?あ、あの、マミさん……?な、何がどうなって……」

杏子「良かったな、マミ」

ほむら「これでさやかもシロ確定ね」

さやか「!?あ、あんたたち!?」

さやか「そんな馬鹿な……。いや、でもそれだと確かに辻褄が合うよ」

さやかは話を聞き、納得した。
ほむらと杏子だけなら確実に話を聞くことすら叶わなかっただろうが、マミが居てくれたおかげだ。

さやか「えっと、その……ほむら!杏子!2人ともごめん!
    話も聞かずに酷いこと言っちゃって……。どうやって償えば良いか……」

ほむら「それには及ばないわ、さやか」

杏子「気にすんなって。こんなの仕方ねえよ」

マミ「2人の言う通りよ、私だって美樹さんに酷いこと言っちゃったもの。今はそれより、鹿目さんね」

さやか「あ、そっか。でも、そういうことなら絶対まどかはシロ確定じゃん!わざわざ確認なんてする必要ないよ」

杏子「でもどっちにしろここに呼ばなきゃなんねえだろ?」

マミ「そうね、じゃあもう一度私が呼ぶってことで良いのかしら?」

ほむら「えぇ、お願いします」




 ピーンポーン

「来たわね。それじゃ、行って来るわ」

 ガチャッ

「えへへ、こんにちは、マミさん!」

「いらっしゃい、鹿目さん。どうぞ、あがって」

「おじゃましまーす」

「……すぐにお茶とケーキを用意するわね」

マミは、まずこの言葉でまどかの反応を見る。
『性格が悪いまどか』であれば、さやかと同じような反応をしてもおかしくはないはず……。

「あ、そんな、お構いなく!」

「遠慮しなくても良いのよ?」

「じゃあ……すみません、ありがとうございます」

「どうぞ、召し上がれ」

「わーい!いただきます!……おいし~!」

いつもと変わらない笑顔でケーキを頬張るまどかを見ながら、マミはどう話を切り出すか思案していた。
そして至った結論は、単刀直入に聞くことだった……しかし。
先に口を開いたのは……。

「それにしても、マミさんって本当に友達居ないんですね!」

「…………はい?」


「だって私が来た時って、いっつもマミさん1人で家に居ますよね?友達と寄り道したりなんかもしてないし。
 ていうか一緒に帰る友達なんて居るんですか?魔法少女以外に話す人、居るんですか?
 居ないですよね?だってマミさん、ぼっちですもんね!」

「……鹿目さん……あなた……」


別室。

「お、おいおい……なんだありゃ……どうなってんだ……」

「やっぱりあいつ……あれが本性だったの……!?」

「落ち着きなさい、さやか。『偽者』の可能性を忘れないで……!」

「そうだマミさん!私が友達になってあげましょうか?ぼっちのマミさんのために!
 あ、もちろんタダじゃないですよ?月5000円の友達代を……」

「そう……」

「へっ……?」

マミは勢いよく立ち上がる。

「鹿目さんは、そんなこと言わないわ!あなた誰!?鹿目さんのふりをしないでちょうだい!」

「な、何言ってるんですかマミさん……!私、どう見ても鹿目まどかじゃないですか!」

「仮にそうだとしても……どちらにしろ!そんな悪い子を見過ごすわけには行かないわ!」

そう叫び、マミは魔法少女姿に変身した。

「ッ……!」

“まどか”はそれを見るや否や立ち上がり、脱兎の如く玄関から逃げ出した。

「あっ!逃げやがった!」

「逃がさない!」

そして全員で玄関を飛び出す。

「居た!あそこ!」

廊下の少し離れた場所に1人立っていたまどかは、
マミ、杏子、さやか、ほむらの姿を確認した途端、踵を返し全速力で走り出した。

「巴さん!手を!」

ほむらはマミの手を握り、そして、時間を止めた。

マミの部屋。
今のこの状況は少し、いや。かなり異様かも知れない。
リボンで拘束されている1人の少女を、4人の少女が取り囲んでいるのだから。

「やっ……ほどいてください、マミさん!どうして!どうしてこんなことするんですか……!」

「どうしてって……あんたやっぱほむらの時と同じで、自分が悪いだなんてこれっぽっちも思ってないんだね」

「マ、マミさん!杏子ちゃん!どうしてさやかちゃんやほむらちゃんと一緒に居るの!?
 みんなそうなの!?さやかちゃんやほむらちゃんと同じなの!?」

「同じ?どういう意味だよ。もしかしてアレか?さやかの性格が悪いとか、ほむらが変態とかってやつか?」

「ッ……!知ってるんだね……じゃあやっぱり、あなたたちもみんな……!わ、私をどうする気なの!?」

「……何か変じゃないかしら」

ほむらがポツリとつぶやいた。
その言葉に、マミもこくりと頷く。

「そうね……だって……」

あまりに話が噛み合ってない。
マミは、床に転がって震えているまどかに近付き、話しかける。

「鹿目さん」

「ひっ!?」

「あなた、どうして自分がこんな目にあってるか本当に分かってないの?」

「分からない!知らないよ!」

「さっき私に言った言葉を覚えてないの?」

「さっき……?さっきって……ひぐっ……分からないよぉ!」

まどかは泣き出してしまった。

「……ごめんなさい、訊き方を変えるわね。あなたさっき、ここで、私に、
 『マミさんは友達が居ない』だとか『お金を払えば友達になってあげる』だとか、言ったわよね?」

「ッ……!?な、何それ……そんなの知らない!知らないよ!」

「おい、どうなってんだ……。こいつ、忘れちまってるじゃねえか……」

「で、でも……さっきの『悪いまどか』とこのまどか、同一人物だよね?」

杏子とさやかが困惑する中、ほむらは少し思案し呟いた。

「……いいえ、そうとも限らないわ」

「え……?」

「あのまどかが玄関を出た時に、私たちは一度姿を見失ってる」

杏子「じゃあ、ちょうどその時にたまたま来た本物のまどかが、こいつってことか……?」

マミ「でもだとしたら……鹿目さん。あなた、どうして私たちを見た瞬間に逃げたりなんかしたの?」

まどか「だ、だって……」

まどかはそこで声を詰まらせ、視線をマミから外す。
その視線の先には……。

ほむら「……やっぱり。私なのね」

ほむらは表情を苦しそうに歪めた。

ほむら「……まどか。お願い」

まどか「ひっ……いや……いやっ……!」

ほむら「お願いよまどか。話を聞いて」

まどか「いやあっ……!来ないで!来ないでぇ!!」

ほむら「何もしないから。お願いだから、話を聞いてちょうだい……」

まどか「だ、誰か……誰か助けて!助けてぇ!誰かぁあ!!ママぁ!!パパぁああ!!うわぁああぁあああん!!」

……当然だろう。
自分を性的な目で見ている変態が目の前にいる。
その仲間に囲まれている。
そして縛られていて抵抗できない。
この状況、錯乱するのも無理はない。
ほむらも当然その心理を理解はできている。
……しかし……。

ほむら「まど……か……う……ぅくっ……」

まどか「えっ……?」

まどかは、突然泣き出したほむらに気付く。
ほむらはしばらく嗚咽を漏らした後、マミに向かい、

ほむら「まどかを……自由にしてあげて……」

マミ「……暁美さん」

ほむら「お願い……もう嫌なの……!耐えられない……!まどかのこんな顔を見るのも!
    こんな顔を向けられるのも!こんな顔をさせてしまうのも!耐えられないの!
    私はただ、まどかに笑って欲しいだけなのに……私は……こんな顔をさせるためじゃないのに……私は……!」

まどか「……ほむらちゃん……ほむら、ちゃん……?……ほむらちゃんなの?」

ほむら「え……」

まどか「ほむらちゃんだよね……?いつもの、ほむらちゃんだよね……!?」

ほむら「ま、まどか……!?」

まどか「ほむらちゃんだ……いつものほむらちゃんだぁ……!ほむらちゃあぁぁん……!」

ほむら「わかってくれたのね……!まどか……まどかぁ……!」

まどかの目には、もう先程までの恐怖心は感じられなかった。

マミ「……ふふっ。どちらにしろ、もう縛っておく必要ななさそうね」

杏子「だな。解いてやろうぜ」

さやか「あはは、まったく。まさかまどかがこんなに聞かん坊だったとはね」

拘束を解かれたまどかに、ほむらが近付く。

ほむら「……ごめんなさい、まどか。乱暴な真似をして……」

まどか「ううん、良いの。理由があるんだよね?私こそ、ごめんね。
    あの変なほむらちゃんは……ほむらちゃんじゃないんだよね?
    今ここに居るほむらちゃんは、いつもの、私の知ってる、大好きなほむらちゃんなんだよね?」

ほむら「だ、大好き……!?ありがとう……。わ、私も、まどかのこと……!」

まどか「えへへ、やっぱりいつものほむらちゃんだ!」


マミ「あらあらうふふ」

杏子「ったく。見てるこっちが恥ずかしいっつーの」

さやか「これが萌えか!萌えなのかー!」

マミ「でもそろそろ……ゴホン!」

マミの咳払いで、まどかとほむらはようやくこっちの世界に戻って来た。

ほむら「そ、そうね。本題に入りましょう」

まどか「ご、ごめんなさい……」

杏子「やれやれ……。でもま、大体のことはこいつも分かってんじゃねえか?」

さやか「だね。まどかもさっき言ってたように、変態のほむらとここのほむらは違う。
    ほむらだけじゃなくて、似たような異変がここに居る全員に起こってるんだよ」

まどか「じゃあ、ほむらちゃんの悪口言ってたさやかちゃんも……」

マミ「えぇ。その美樹さんとここに居る美樹さんも別と考えて良いでしょうね」

まどか「つまり、えーっと……私たちの偽者がこの街に居る……ってことですか?」

マミ「そう考えるのが一番自然だけれど……」

とここで、ほむらが口を挟む。

ほむら「それが、実はそうとも言い切れないの」

杏子「え?なんでだよ?まだ何か他に可能性があんのか?」

ほむら「えぇ、あるわ。私たちが意識を乗っ取られていた可能性が……。
    さやか、あなた覚えているかしら。私とあなたの、電話の件」

さやか「電話?あっ……そう言えば確かに!」

マミ「電話の件……?詳しく聞かせてもらえるかしら」

さやか「えーっとですね。実は私、変態ほむらと電話で会話したんです。そこでおかしいのが、
    確かに通話先はほむらの携帯だったし、ほむらの携帯にも通話履歴がしっかり残ってたんです」

ほむら「携帯を肌身離さず持っていたわけではないから確証は持てないけれど、操られていた可能性もあるということです」

マミ「そう言えば私たち、本物と偽者を同時に見たことないものね」

杏子「なるほどなー……。けど、もしあたしたちの意識が乗っ取られてるんだとすればどう対処すりゃ良いんだ?
   偽者をぶっ潰す!ってわけにはいかねえよな?」

さやか「その時は元凶をぶっ潰す!で良いじゃん」

まどか「さやかちゃん……その元凶が分からないから困ってるんだよ」

マミ「魔女の仕業か、または魔法少女の仕業か。こうなったら、訊いてみるしかなさそうね」

ほむら「そうですね。あいつの手を借りるのは正直気が進まないけれど……」

杏子「あいつ?……あぁー、キュゥべえの奴か。となりゃ、早速探しに行こうぜ」

そうして5人は、マミ・さやか組と、ほむら・杏子・まどか組の二手に分かれてキュゥべえを探すこととなった。

さやか「マミさん、キュゥべえがどこに居るか心当たりはないんですか?」

マミ「ごめんなさい、あの子神出鬼没だから……。テレパシーで呼びかけてはいるんだけど……」

マミはそのまま、テレパシーでほむらに呼びかける。

マミ『暁美さん、そっちはどう?』

ほむら『こちらもまだ……あ、待ってください』

杏子『おい見ろ、あれってもしかして』

ほむら『……今見つけました。間違いありません、キュゥべえです』

さやか『おぉ!ナイスタイミング!』

マミ『お手柄ね!私たちもすぐそっちに向かうわ!』

「思ったよりすぐ見付かって良かったですね!」

「そうね、それじゃ早速向かいましょう」

そうして2人で駆け出す。
現場でキュゥべえと3人に落ち合い、話を聞く……はずだったのだが。

「……あれ。どうしたんだい2人とも?そんなに急いで。魔女退治かい?」

「き、キュゥべえ!?あなたどうしてここに!?」

「僕がここに居たら不思議な理由でもあるのかい?」

「大アリだよ!ほむらたちのとこに居たんじゃないの!?」

「おかしなことを言うね。僕は今日、一度もほむらに会ってなんかいないよ」

まどか「……マミさんたち、なんて?」

ほむら「すぐこちらへ向かうらしいわ」

杏子「意外とすぐ見つかったなー。おーいキュゥべ……」

遠くに見えるキュゥべえに杏子が呼びかけようとしたが、ほむらがそれを制止した。

ほむら「待って……様子がおかしいわ」

ほむらの言葉に、まどかたちもキュゥべえを注視する。

「えーっと……。人の家を覗いてる?キュゥべえ、何やってるんだろ」

「契約相手でも探してるんじゃねえの?」

「分からないわ……。念のため、気付かれないように近づきましょう」

3人はゆっくりとキュゥべえに近付き……何をしているのかが見える位置、声が聞こえる位置まで来た。
3人の目と耳に飛び込んできたのは……。


「うおおおおおお!!たまんねええええええええ!!!!!やっぱ覗きは最高だぜえええええええええ!!!!!!!」シコシコシコシコシコシコシコシコ

幼女「……ママー。あのぬいぐるみなんだかおかしいよー」

ママ「ぬいぐるみ?どこにもぬいぐるみなんて無いじゃない」

「幼女!!!通りすがりの幼女じゃねえか!幼女に見られながら覗き見しつつのオ○ニー!!!!
 うひょおおおおおおおおおwwwwwwwあーやばいやばいやばいwwwwwwうっ!………ふぅ」

幼女「ママー……。あのぬいぐるみきもちわるいー……」

「あぁ!?んだとごらあ!誰が気持ち悪いだあ!!お前も魔法少女にしてやろうk」

パァン!

杏子「よ、よくやったほむら……」

まどか「何も殺さな……ううん。ありがとう、ほむらちゃん……」

ほむら「いいえ、もっと早くに撃つべきだったわ。ごめんなさい」

杏子「しっかしヤなもん見ちまったな」

まどか「あんなキュゥべえ初めて見たよ……」

ほむら「インキュベーターがあんなに感情を持った喋り方をするはずがないわ。まさかとは思うけどこいつも……」

それに……。
死体が出来た以上、そろそろ「代わりのキュゥべえ」が来ても良いはずなのに、いつまで経っても現れない。
そのこともほむらの考えを裏付ける要因のひとつにもなっていた。
その時。

さやか「みんなお待たせーって……そ、それは!……キュゥべえの死体!?」

マミ「……3人とも、何があったか話してちょうだい」

QB「確かにどうしてそこに僕らしき死体があるのか気になるところだけど、
   まず話の前に僕のことを離してくれないかな、マミ。拘束されるようなことをした覚えはないよ」

まずはマミ側から事情を話す。

マミ「このキュゥべえとは、さっきそこで出会ったの。
   あなたたちが出会ったと言うキュゥべえとどちらが本物か判断できるまで縛っておこうと思って」

この話を聞き、杏子、まどか、ほむらは理解した。

杏子「なるほどね。そういうことだったら、多分そっちが本物だ」

まどか「私たちが会ったキュゥべえは、『あんなのキュゥべえじゃないー』ってくらいにおかしかったので……」

さやか「そっか……じゃあもう解いてあげますか、マミさん?」

マミ「えぇそうn」

ほむら「その必要はないわ。一応念のためにまだ縛っておきましょう」

QB「君はいつもそうだね、暁美ほむら。訳が分からないよ」

QB「やれやれ……ようやく自由になれた。
  ほむら、そんなに残念そうな顔をしなくても良いんじゃないかな」

ほむら「別に」

QB「まぁ良い。それで、詳しく話を聞かせてもらえるかい?
  どうして僕が縛られたのか。そして、どうしてそこに僕らしき死体が横たわっているのか」

マミ「実は……」



QB「なるほどね。そういうことなら間違いない。魔女の仕業だろうね」

マミ「やっぱり……!」

QB「細かいことは僕にも分からない。どんな魔法少女から生まれた魔女かも、何も知らないんだ。
  もしかしたら複数のソウルジェムから生まれたのかも知れないね。
  ただ、最近少し変わった魔女が生まれたという情報を得たんだ。
  それにみんなが異変を感じ取った日時、いずれも同等の魔力反応が観測されている」

さやか「えっ、そうなの?教えてくれれば良かったのに!」

QB「訊かれなかったからね」

QB「それにしても、魔法少女になって日が浅いさやかは仕方ないとして
  他の3人のうち誰か1人は気付いてもおかしくないと思うけどなあ。
  体か心のどちらかが余程磨耗していない限りはね。
  もっとも、最近は魔女退治も忙しくなかったし、そんなこともなかったはずだけど」

ほむら「……忙しくなくても心が磨り減ることはあるのよ。あなたには理解できないわね」

QB「そうだね。人間は大変だとは思うけどやっぱり理解できないよ」

QB「それはそうと、これからどうするつもりだい?」

ほむら「当然よ。その魔女を狩るわ」

ほむらは即答する。

杏子「そうだな。こんなうぜえ魔女放って置いたら後がめんどくせえ」

さやか「何言ってんのよ。うざくなくても魔女を放っておくのはダメだってば」

マミ「その通りね。他に被害が出る前に、早くやっつけましょう」

まどか「で、でも魔女の居場所は……?」

QB「それなら安心すると良いよ。4人とも、もう魔力の残滓を捉えてる。見つけるのは時間の問題だろうね」

キュゥべえの言う通り、魔女の居場所はすぐに見つかった。

マミ「ここで合っているわね、キュゥべえ」

QB「間違いない。強い邪気を感じるよ」

さやか「ここって確か……少し前に潰れた漫画喫茶?」

入り口から少し進んだところで、マミは早速結界を開いた。

マミ「さぁ、行きましょうみんな」

しばらく歩く中、まどかが不安そうに口を開いた。

まどか「あ、あの……私ほんとに付いて来ちゃっても……?」

さやか「今更なーに言ってんのよ、まどか」

杏子「1人にしとくと逆に危ないしね。あんたんとこにまた偽者が現れても誰も守れなくなっちまう」

ほむら「その通りよ、まどか。あなたは私が守る。私の傍から離れては駄目よ」

まどか「ほむらちゃん……」

後ろを歩いていたほむらからの頼もしい一言……が。

「そう言うわけでまどか、まどパンをくれるかしら」

「ッ!?」

ほむらの信じられないセリフは全員に聞こえ、一斉に振り返る。
4人の目に飛び込んで来た光景は……。

「くっ……出たわね……!まどかに何をする気!」

「それはこっちのセリフよ……!まどかに手を出さないで!」

2人のほむらが互いに臨戦態勢を取り合っていた。

杏子「くそっ……まずいな。これじゃあどっちが本物かわかりゃしない……」

マミ「『自分の偽者』と聞いた時点でこうなることを予想しておくべきだったわ……!」

QB「合言葉か何かでも決めておくべきだったね。失態だ」

さやか「んもー!ほむら!あんたどっちが本物なのよ!?」

そう叫んださやかに、ほむらたちは同時に顔を向ける。

「私に決まってるじゃない……!考えなくてもわかるでしょう!」

「駄目よ、信じては駄目!いくらあなたでもよく考えればきっと分かるはず!」

さやか「あーもうわけわかんない!でもなんか2人目にバカにされたような気がする!……まどか、任せた!」

まどか「え、わ、私……!?えっと……ほ、ほむらちゃん!」

その声に、今度は2人同時にまどかの方に顔を向ける。

まどか「わ……私は、ほむらちゃんにとっての何!?」

「まどかは私の……大切な友達よ」

「私の嫁よ。困ってる姿も可愛いわね、まどか。大切な友達()なんて放っておいて早くホテr」

マミ「ティロ・フィナーレ!」

まどか「ほむらちゃぁああん!!」

偽者が消えたあと、まどかはほむらに飛び付いた。

ほむら「まどか……怖かったのね、ごめんなさい……。次はもうあんなことにならないように気を付けるわ」

杏子「……ナイス、マミ」

マミ「ありがとう。でも、この偽者……あまり賢くはないみたいね」

QB「そうだね。これなら本物か偽者か見分けるのは簡単そうだ」

さやか「はいはい2人ともー。いちゃいちゃしなーい。ほら、さっさと先行くよ」

まどか「えへへ……ごめんね」

ほむら「そうね、先を急ぎましょう」

さやか「……ところでさー、ほむら」

ほむら「何かしら」

さやか「『いくらあなたでも』ってどういう意味かなー?」

ほむら「ほ、頬をつねるのはやめてもらえるかしら……痛い痛い痛い」

その後、次々と隙を見て偽者が現れたが……。


さやか「杏子ー!あたしのパンツあげようかー!?」

「はぁ!?なんであんたのパンツなんて貰わなきゃいけねえんだよ!!」

「くれ!さやパンくれえええ!!」



ほむら「まどか、これからもずっと友達で居てくれるわよね?」

「当たり前だよ!ほむらちゃんは、ずーっと私の大切な友達だよ!」

「もちろんだよ!友達代払ってくれる限り一生友達だよ!」

まどか「マミさん、ほむらちゃんの二つ名、なんて言うんでしたっけ?」

「え?えっと、二つ名……?どうしよう、答えられないわ……えっと、えっと……」

「【漆黒の焔】ね。ちなみに鹿目さんの二つ名は……」




マミ「美樹さん」

「なんですかマミさん!なんでも答えてやりますよ!」

「なんですかデブさん!」




「うひょおおおおおおwwwwwwwやっぱマミおっぱいでけえええええええええええwwwwwwwwww」

「わけがわからないよ」

QB「初めて僕の偽者を見たけど、思ってた以上に良い気分じゃないね。感情のない僕でも不快に思ったよ。
  それはともかく、恐らくこの扉の向こうに魔女が居る」

杏子「そうみたいだな。ってことはやっぱあの偽者どもは使い魔か」

マミ「それじゃ、さっそく行きましょう?みんな、準備は良いわね?」

大きな扉を開けるとそこには……。


【キーマスター・フォカヌポウ・ヴィップカーラ】
豚の魔女。その性質は妄想。現実ばなれした妄想をして日々を生きる魔女。
キルスティンとお近づきになりたいが拒否され続けているので妄想でブヒブヒ言うしかない。
妄想を具現化し使い魔を生み出すことができるが、魔女の妄想を忠実に再現することしかできないので使い魔の知能は高くない。

杏子「こいつが全ての元凶か……!」

さやか「よーし、さやかちゃん張り切っちゃうぞー!」

マミ「張り切るのは良いけれど油断は禁物よ、美樹さん」

ほむら「まどかはここに居て。この円から出なければ安全よ」

まどか「う、うん!ほむらちゃん、みんな!気を付けて!頑張って!」

QB「わかっては居たけど僕の分の保護結界は張ってくれないんだね」

マミ「覚悟しなさい!」

『ブヒイイイイイイイwwwww』

杏子「足ひっぱんじゃねえぞ、さやか!」

さやか「ふん!あんたもね!」

『ktkrwwwwwwwktkrwwwwwwwwwwwww』

ほむら「その気持ち悪い鳴き声をやめなさい。不愉快だわ」

『mjkwwwwwwwgkbrwwwwwwwwwww』

杏子「あぁああああ使い魔どももうっぜえ!超うぜえええ!」

さやか「次から次へと!しつこいなぁもう!!」

『さやパン!さやパン!』

『デブさーんwww今日は何食べて来たんですかーwwwww』

『友達代早く払ってくださいよーwwww』

『みんな死ぬしかないじゃない!』

『まどかぁああああうわぁあああああん!くんかくんか!くんかくんか!!!』

『お前らパンツ丸見えwwwwパンツ見放題じゃあああああwwwwwwwww』

そしてついに。

ほむら「はぁ……はぁ……!」

『\(^o^)/ ……orz』

マミ「魔女も使い魔も消えていく……終わったのね」

ほむら「もう大丈夫よ、まどか」

まどか「ほむらちゃん!みんなもお疲れさま!」

杏子「えっと……あんた本物か?」

さやか「よく見れば偽者のような気がする……」

まどか「ガーン!ひ、酷いよ!本物だよ!」

さやか「あはは、冗談だって。可愛いやつめーこのこのー」

QB「盛り上がってるところ悪いんだけど、ちょっと訊きたいことがあるんだけど良いかな。
  ……どうして僕たちの体も消えかかっているのか誰か説明できるかい?」

キュゥべえに言われて全員気付く。
本当に、自分たちの体が消えかけている……!

さやか「え……?えぇ!?ほんとだ!なんで!?」

杏子「なんだよこりゃ!どうなってんだ!!」

ほむら「これはまさか……」

マミ「暁美さん!?何か心当たりがあるの!?」

QB「僕にも聞かせて欲しいね。あまり時間がなさそうだから手短に頼むよ」

まどか「どういうことなの、ほむらちゃん!?」

ほむら「それはきっと……私たちも空想によって生み出された存在なのよ」

QB「つまり僕たちもあの魔女の使い魔と同じように、誰かの妄想の産物でしかないということかい?
  ……確かにそれなら合点がいくね」

未だうろたえる4人を尻目に、QBは淡々と続ける。

QB「君たちは僕に感情がないことはおろか、魔法少女が魔女を産むことすら知っているだろう?
  にも関わらず、僕たちの関係は極めて良好だった。こんなことは僕の経験ではあり得ないからね。
  もちろんこの『経験』というのも、ただ僕の中に知識として設定されているだけなんだろうさ」

まどか「そんな……じゃあ私たち、消えちゃうの……?そんなの酷いよ……あんまりだよ……。
    せっかくみんな仲良しで、楽しかったのに……こんなのってないよ……!」

ほむら「泣かないで、まどか」

まどか「ほむら……ちゃん……でも……」

ほむら「私たちは消えてしまうけれど、きっとどこかの時間軸には、ここに似た世界もあるはず。
    パラレルワールドは無限にあるんだもの。その世界の私たちは、きっととても幸せよ」

さやか「んー、まぁほむらが言ってることはちょっとよくわかんないけどさ。
    私たちが妄想の存在だってんなら、もしかしたらまた生まれるかも知れないんでしょ?」

杏子「ていうかさ、逆に言えばずっと存在できるんじゃねえの?誰かが妄想する限りさ」

マミ「みんなの言う通りね。たとえここで消えてしまったとしても、存在は消えるわけじゃないわ」

まどか「みんな……。うん、そうだよね……そうだよね……!」

ほむら「たとえこの場で消えてしまったとしても……ずっと一緒よ、まどか」

まどか「うん!うん……!ずーっと、みんなで仲良しで居ようね……!ずーっと…………!」


おしまい

ていうね。
付き合ってくれたお前らありがとう。
このSSのまどっち達は俺の中で生き続けるぜ。

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