勇者「えっ……? ど、奴隷市場だって?」(168)

戦士「おう。次による街は奴隷都市って呼ばれる位奴隷産業で儲かってるらしいぜ」

勇者「へえ……」

僧侶「「まぁ……なんて罪深い……」

戦士「ま、こればっかりは魔王は関係ないからなぁ……」

勇者「……」

戦士「どうした勇者。顔色が悪いぞ」

勇者「あ、いや。なんでもない……」

僧侶「勇者は優しい人ですから。きっと心が痛んだんでしょう……」

戦士「まぁ、しかし通らないわけには行かないからな。困ったもんだぜ」

僧侶「ええ、そうですね。他に経由場所があればいいんですが……」

戦士「まぁ、できるだけ待ち合わせの剣士とは最短経路でさっさと合流しときたいし」

僧侶「奴隷都市には気が滅入りますが……剣士とまた一緒に旅ができるのは楽しみですね」

戦士「あの野郎、途中から剣の始修行だとか言ってどっか行っちまったもんな」

僧侶「どれくらい強くなっているんでしょうか? 早く会いたいですね」

戦士「そうだけどよ、あいつの所為でこの奴隷都市行かないといけないんだぜ? 勝手に居なくなるわ……全く良い迷惑だよなぁ。な、勇者」

勇者「えっ? ぁ、うん。そ、そうだな」

戦士「……? まぁ、いいや。さっさと宿とりに行こうぜ」

勇者「ああ」

戦士「とーちゃく! ここが奴隷都市かぁー!」

カヤガヤ ザワザワ

僧侶「普通の街……ですね」スタスタ

戦士「ま、表向きはな。一度裏通りに入れば……」ヒョコ

「おらぁ! 死にたくなかったら金出しな!」

「ひぃぃい!」

僧侶「……治安が悪いですね」

戦士「ここら辺は貧民層だからな。金持ちどもの済むところはもっと綺麗で静かで治安もすげー良いらしいぜ。ガードマンが巡回してるとか」

僧侶「嘆かわしい……人が物として売られ、そこに生きる人たちにも格差があるだなんて……ああ、神よ……」

戦士「教会育ちにゃちと辛い現実か? 奴隷市場の方行ったら卒倒しちゃうんじゃねえか?」

僧侶「……しかし世界の現状を見るのも私に課せられた使命ですから……今日は宿を取って、明日見に行きましょう」

戦士「あー疲れたなぁー!」ボフンッ!

勇者「……」

戦士「おいおい、どうしたよ勇者。元気ないぜ」

僧侶「歩いてる時も口数も少なかったですし……」

勇者「ん? ああ……大丈夫だ。心配かけてごめんな」

僧侶「あ、いえ……勇者が元気ならそれで良いんですけどね」ニコッ

戦士「天使の微笑み俺にも頂戴よ僧侶ちゃん」

僧侶「どーぞ」コトッ

戦士「これは? 葡萄酒?」

僧侶「夢の中で会いましょう」ニコニコ

戦士「かっー! 皮肉が過ぎるぜー!!」ゴクゴク

戦士「ぐがーぐがー」

僧侶「すぅ……すぅ……」

勇者「……皆寝たか……」ソッ

僧侶「ん……勇者……? どこへ行くんですか……?」

勇者「……あ、ああ。ちょっと眠れないから散歩でもって思ってな」

僧侶「……勇者、何か悩みがあって困っているならなんでも話してくださいね。力になりますよ、私たちは仲間なんですから」

勇者「……ああ。分かってるよ」

僧侶「そうですか。それなら、いってらっしゃい勇者」

勇者「行ってきます」バタンッ

勇者「寒いな……」スタスタ ブルッ

勇者「えーと……いたいた」キョロキョロ

勇者「おい、お前。奴隷市場までの道知ってるか?」

「あ? なんだあんた」

勇者「案内してくれ」ギュッ

「おっ……へへへっ、まいどっ。ついてきな兄ちゃん」

勇者「ああ」

「あんた旅人か? ここまで奴隷買いに来たのかよ? へっ……物好き、つーか悪趣味な奴だな」

勇者「……黙って案内しろ」

「黙って欲しいなら別料金だぜ」

勇者「……」ジャラ

「まいどー。太っ腹だね兄ちゃん」

勇者「黙ってろ」

「ついたぜ。んじゃあな」

ワイワイ ガヤガヤ

勇者「……夜中なのに、ここは全然……」

「へい兄ちゃん! 奴隷買ってかないか!? 可愛い女の子仕入れてあるよ~」

「物覚えの良い奴がいるぜ? 召使にぴったりさ!」

「こいつは力持ちな癖に従順な奴でなぁ、力仕事はなんでも任せられるぜ!」

勇者「……なんか、予想と違うな……」スタスタ

勇者「確か、こっちの……裏通りに入って……」

奴隷商人「……」

勇者「あ、あった……ここだ」

奴隷商人「客か?」

勇者「……ああ」

奴隷商人「じゃあついてきな。こっちだ」

勇者「……」

奴隷商人「分かってると思うがうちは子供専門だぜ。それに殆どは昨日までに売れちまった。売れ残りが少しあるが」

勇者「……懐かしいな、あんた」

奴隷商人「あん?」

勇者「俺のこと……はは。まぁ、覚えてないか」

奴隷商人「……あんた、どっかで会ったけか? もしかして前にも買った客か?」

勇者「あんた、山賊とか使わないで自ら奴隷狩りしてるんだよな」

奴隷商人「ん? ああ。そっちの方が費用が安く済むからな。まぁ、色々面倒だがよ……ってなんでそんな事……?」

勇者「ああ、間違いない。ありがとう」

奴隷商人「は? あがっ!?」ザシュッ!

勇者「覚えてないだろうけどさ。俺、あんたんとこの奴隷狩りにあった奴だよ」

奴隷商人「ひ、ひぎぃっ! た、たしゅっ」ズリズリ

勇者「おっと! 逃げるなよ!」ドンッ

奴隷商人「ふぐぅ!?」

勇者「喉も潰しとくか……」グッ

奴隷商人「――っ! ぁ―――っ!」

勇者「復讐できて嬉しいよ。本当はもっと痛めつけたかったんだけどさ……時間ないから。じゃあな」ヒュンッ

奴隷商人「」ビクンッ ダラッー

勇者「……」フキフキ

勇者「死体は……まぁ、いいか」

勇者「……子供たちの解放……はは。当ても無いのにな」スタスタ

勇者「……全く、偽善だ……」ガチャ

見張り「あ? なんだおまっ……血!?」

勇者「……」ザシュッ!

見張り「ぎぃひゃぁ!?」ズルズル.....ドサッ

勇者「……他には……いないのか。ふん、ケチるからこういう目に会うんだよ」

少年「……」ガタガタブルブル

勇者「……君、一人?」キョロキョロ

少年「ひぃっ!」ビクッ

勇者「安心して、といっても無理か」

勇者「……うん、売れ残りって君だけ見たいだな」

少年「ひぃぃい……!」ガクガクブルブル

勇者「えーと、鍵は……見張りの死体に……っと。あった」

勇者「……」ガチャンッ!

少年「……」プルプル

勇者「まぁ、俺は何もしてやれないけど。そこから出るか出ないかは君の自由だよ」

少年「……」ブルブル

勇者「売れ残って良かったね。残り物には福がある……って本当だな。ははは、物扱いしてごめんよ」

勇者「じゃ、俺は行くから。当面の資金は奴隷商人の死体から財布かなんかを盗っておけば良いんじゃないかな」スタスタ

少年「……」ガタガタ

勇者「……」バタンッ

勇者「あー……返り血浴びちゃったな。目立つな……どうしよ」

勇者「とりあえず、脱いで……捨てたら、バレそうだし……持って帰るか」

勇者「できるだけ、人目のつかない道を選んで……」タタタッ

勇者「……」タタタッ キョロキョロ タタタタッ

勇者「ふぅ……抜けたな。お、ちょうど良いところに川がある……洗っとくか」

勇者「……」ジャブジャブ

勇者「俺は、運が良いな。子供が失踪したって言う勇者一族の所に買われて……復讐できて、今も見つからなくて」ジャボジャボ

勇者「まぁ、修業はきつかったけど……今は正式な勇者だし。信頼しあえる仲間も居る……本当に運が良い」ギュウッ ボタボタ

勇者「さーてと。今日の事は忘れてまた頑張るかな」ニコニコ

勇者「ふぁーおはよう」

戦士「おそようさん」

僧侶「はい、どうぞ。朝食ですよ」

勇者「ん、ありがと。うまいな、このパン!」

戦士「聞けよ勇者。僧侶の奴なぁ、なんか美味しいにおいがしますぅくんくん、とか言ってふらふらして見つけたパンなんだぜそれ」

僧侶「わ、私はそんなアホみたいなこと言ってません!」

戦士「言っただろうが!」

僧侶「確かに美味しそうな匂いがするとは言いましたがそんな馬鹿みたいな口調じゃありませんよ!」

戦士「いいや、こんな感じだったんだぜ? 俺を信じろ勇者」

僧侶「なっ! ゆ、勇者は私を信じてくれますよね!?」

勇者「ぷっ……あはははは!」

勇者「はははは! 二人ともおかしいな、あはは!」ハハハ

僧侶「笑ってないでどっちを信じるんですか!?」

勇者「くすくす……僧侶を信じるよ」

僧侶「ほらほら! ねっねっ! 流石勇者です!」

戦士「あーあ。俺に対する信頼はその程度かよ」

勇者「僧侶がそんな事言う訳無いだろ。分かってるよ。戦士もからかうのやめろって」

戦士「だってよーこいつからかうと面白いんだもんなあ」

僧侶「なっ! なんですかっ人をからかって楽しむだなんて最低です!」

戦士「ちょっとしたスキンシップだろー」

僧侶「知りませんよ! いつもいつも馬鹿にして!」プイッ

勇者「……」ニコニコ

戦士「許してくれよ僧侶ちゃん。な? な?」

僧侶「いいえ。許しませんよ」

勇者「あはは」

僧侶「……まぁ、許しましょう」

戦士「お? マジで?」

僧侶「勇者も元気になってくれたみたいですし……ね?」

勇者「えっ?」

僧侶「やっぱり勇者はいつもみたいに明るい方が魅力的ですよ。まるでそう、私たちを包み込んでくれる太陽のような……」

勇者「な、なんか恥ずかしいな」

僧侶「あっ! い、いえっそのっ……え、ええと! とにかく元気になってくれてよかったです!」

勇者「うん、心配かけててごめんな。ありがとう」

戦士「んじゃ、そろそろ行きますか。奴隷市場」

勇者「……」

戦士「行きたくなきゃ別にいかんでもいいぜ。どうするよ?」

僧侶「い、いえ。この目に、しっかり目に焼き付けなければいけません。魔王を倒したら次の敵は……世界なんですから」

戦士「そうか」

勇者「む、無理に行く必要はないと思うけどな」

僧侶「いいえ。心遣いは感謝しますが……」フルフル

僧侶「私はただ単に魔王を倒す為に戦っている訳ではありませんから」

勇者「そ、そうか……じゃあ、仕方ないな」

僧侶「我儘言ってすいません」

勇者「いや、俺のほうこそ悪いな。よし、じゃあ行くか!」

ワイワイガヤガヤ

戦士「ここが奴隷市場か」

僧侶「……」

勇者(俺の顔は割れて無いはずだ……暗かったし……大丈夫さ、きっと)

戦士「えーと、どうする? どこ見て周る?」

僧侶「どこ、と言われても……」

戦士「ま、そりゃそうだよな。んじゃ適当に回るか」

僧侶「え、ええ……」

勇者「……」

「さぁ、本日の目玉商品はこの女! 性奴隷にはもってこいの一品です!!」

ワーワー

戦士「うっひょー。美人だねえ。しかもあの格好エロいなぁー!」

僧侶「……」

「では落札です!」

戦士「はぁ~金持ちってのはすげえなオイ。性奴隷だってよ、俺も一人欲しいなぁ」

僧侶「……戦士」

戦士「冗談だよジョーダン。マジになんなって」

僧侶「人間が商品として売られているだなんて……しかも仲にはまだ幼い子供すらいましたね……信じられません……ああ、神よ……」ギュッ

戦士「ま、家畜同然って分けだ。重要な労働力だしなぁ……奴隷産業はなくなんねーよ多分」

僧侶「なくしてみせます! 絶対に!」

戦士「無理だと思うがねぇ……まぁ、頑張れ。俺は世界の平和なんざどうでもいい。欲しいのは金と名誉だけさ」スタスタ

戦士「そういやさ、僧侶は世界平和。俺は金と名誉。剣士は誰にも負けない強さ」

戦士「勇者はさ、何目指してんだ?」

勇者「えっ?」

戦士「俺はよ。魔王倒したら国王からそれなりの領地貰ってさ。城でも建てて……って計画してんのよ」

僧侶「私は勿論、世界の真の平和の為に戦います。魔王を倒して終りではない、神のお告げを聞きましたから」

戦士「魔王倒したらそれ即ち最強の称号みたいなもんだけどさ。剣士はおそらく次は自分を倒してくれる奴を探しにでると思うわけよ」

戦士「でさ、勇者。お前魔王倒したらどうする?」

勇者「そんな……取らぬ狸の皮算用って言うんだぞそれ」

戦士「まーまー。いいじゃねえか。モチベアップのためだよ」

勇者「うーん、俺か……俺は……俺、は……」

勇者「俺は、どうすればいいんだろう……?」

戦士「俺に聞くなよ」

勇者「そう言えば考えた事もなかったなぁ……」

戦士「マジかよ。どんだけ勇者してんだお前は」

勇者「ははは……本当に、俺は魔王を倒す勇者としての教育しかされてこなかったから……」

戦士「ふーん……」

勇者「なにもないなぁ。目的とか……」

僧侶「そ、それじゃあ……その、私と一緒に世界平和の為に戦いましょう!」

勇者「えっ? あ、うーん。まぁ。それもいいか」

僧侶「本当ですか!? 一緒に頑張りましょうね!」ギュッ

勇者「ああ……」

戦士「さて、そろそろ帰るか。充分見て回っただろ……さっさと宿に帰って明朝出発しようぜ。こんな街とはさっさとおさらばだ」

勇者「ああ、そうだな」スタスタ 

バッ!

戦士「うお! なんだ!?」 

少年「……」

僧侶「……子供?」

勇者「あ……」

少年「……」ジッ

勇者「っ……」プイッ

僧侶「勇者、知り合い……ですか?」

戦士「んな分けねえだろ。この街には初めて来たんだぜ?」

少年「……お兄さん。僕を連れてって」

戦士「んあ? なんだ?」

僧侶「……」

少年「お兄さん。お願いだよ!」

勇者「……行こう」スタスタ

少年「っ……ま、待って!」ガシッ

勇者「は、離してくれっ」

少年「離さない。嫌だ。連れてって」

勇者「……」

少年「これ、お兄さんが言った通り、財布。お金なら、あるよ」

勇者「ば、馬鹿! 金なんかいらない! 離せってば!」バシッ

少年「うぁ!」ドサッ

僧侶「あっ、大丈夫!? 勇者! どういう経緯かは知りませんが子供に……酷いですよ!」

少年「僕、行く当てなんか無いよ、お兄さんの所為で」

勇者「やめてくれ……俺はもう捨てたいんだ。忘れたいんだ」

少年「……右も左もわからないのに、放り出されて」

勇者「やめてくれ!」

少年「あのままの方がきっとまだマシだったよ、お願いお兄さん」

僧侶「いいじゃないですか。深くは聞きません、けど、子供の一人二人。それも困っているなら助けてあげましょう」

少年「本当!?」

戦士「なんだかよく分からんが、それは反対だ。目障りだし足手纏いだ」

少年「ぼ、僕なんでもする! なんでも一生懸命する! だからお願い!」

戦士「えー……じゃあ、雑用係な」

少年「うん!」

勇者「だ、駄目駄目駄目駄目だ!」

僧侶「なんでですか」

勇者「なんで、ってそれは……こんな危ないたびにつれていけるか!」

戦士「別に平気だろ。鍵のお守りなんざ大したもんじゃねえし。何より飯作ってくれんじゃね? 後寝床の用意とか」

少年「ぼ、僕料理できない」

戦士「はあん!? 使えないな。捨てようぜ」

僧侶「戦士!」ギロッ

戦士「じ、冗談だって……ジョーダン」

僧侶「行く当てもないという子供を置いてたびに出るだなんて私が許しませんよ、勇者」

勇者「……くっ……わ、分かったよ……」

僧侶「はい! ありがとうございます!」

少年「ありがとうお姉さん!」

勇者「その前に、ちょっと借りるぞ!」

少年「なぁにお兄さん」

勇者「いいか、連れて行ってやる。けどな、あの夜のことは絶対に言うなよ」

少年「……」

勇者「忘れろ、いいな!」

少年「くすくす」ニコニコ

勇者「な、なんだよ。何がおかしい?」

少年「ええー。だってお兄さん、僕に命令できる立場なのかなって」

勇者「なっ!?」

少年「うそうそ。嘘だよ。ごめんね……忘れるよ。言わない」

勇者「……」

少年「僕を助けてくれた人だもん。けど、そんなにあの人たちに知られたくないの? 僕はてっきりいつもしてるのかなって」

勇者「……」

少年「ごめんなさい。これからよろしくね、お兄さん」ニコッ

僧侶「おかえりなさい」

少年「ただいま!」

戦士「しかしよぉ。行く当てがねーって事は……奴隷か?」

少年「うん。元、だけど」

僧侶「そう……大変でしたね」

戦士「なんでそんな奴と知り合いなんだよ勇者」

勇者「えっ? え、えっと」

少年「あのね、お兄さんが僕を助けてくれたんだ。逃げる僕をおっかけに来た奴らにお金を渡して、買ってくれたんだよ」

僧侶「そうなんですか?」

勇者「えっ、あ、ああ」

少年「その後、お金をちょっと貰って。頑張れって言われたけど、僕心細くて……お兄さんの事ずっと探してたんだ」

戦士「ほー……大変だねえ」

僧侶「それじゃあ、生まれはどこか分かりますか? そこまで連れて行ってあげます」

少年「ううん、わかんない……」

戦士「わかんないってどう言う事だよ。村の名前とかよーあんだろ?」

少年「ううん。僕気付いたら道端に倒れてて。そこを通りかかった奴隷商人に拾われて……それから、何も覚えてないんだ」

戦士「本当かよ」

少年「本当だよ! けど、なんだか、とても……」

僧侶「とても?」

少年「気持ちよかったような気がする。それと悲しかった」

戦士「はぁあん? 意味わかんねーぞこのガキ。分かるか? 勇者」

勇者「いや、俺にも……さっぱりだ」

僧侶「……しかし、困りましたね。魔王戦まで連れて行くわけにも生きませんし……」

戦士「適当にどっかの村で降ろして、引き取ってくれるって言うお人好し探すほかにあるまいよ」

僧侶「……そうですね……」

少年「僕、途中で捨てられるの?」

僧侶「えっ…………うーん、あっ! そうだ!教会に連れて行きましょう!」

戦士「お前の?」

僧侶「ええ。魔王を倒すまでの間は暫く、どこかの村に引き取ってもらって……倒したら国に帰るんですから。連れて行きます」

少年「いいの?」

僧侶「ええ。勿論です」ニコッ

少年「ありがとう! お姉さん!」

僧侶「どういたしまして」ニコニコ

戦士「僧侶は人が良すぎんだよなぁ……はぁ、神父様が立派すぎんだよな。だからあんな性格になっちまったんだ」

勇者「仕方ないさ。元々は孤児で教会に拾われた子だ。神ノ教えを一心に貫く……長所でもあり短所でもあるな」

僧侶「料理の仕方は……」カチャカチャ

少年「うん。うん……こう?」

総量「そうそう。よくできましたね、偉いですよ」ナデナデ

少年「えへへ」ニコニコ

戦士「かはぁー。宿に帰った途端これだよ。食堂使わせてもらってさぁ。いくらかかったと思ってんだ」

勇者「まぁ、資金は現状有り余ってるから。いいんじゃないか」

戦士「ま、それもそうか。これは投資だな、とーし。将来的に美味い飯食えるのを期待してるぜ」

僧侶「見てくださいよ! この子が作った料理、とっても美味しいんですよ!」

少年「そ、そんなんでもないよ。褒めすぎだよ」

戦士「ほんとだ。うめーや……おいガキうそついて料理当番から逃れようとしたな!!」

僧侶「またそうやって戦士はひねくれて! いけませんよ! 疑うより信じる方が美しいです!」

戦士「知るかよ……そうやって正直物は馬鹿を見るんだ」パクパク

勇者「なんだかんだ行って食べるのな」

戦士「よし、食うもん食ったしこのガキ引き取ってくれる場所探そうぜ」

勇者「ここじゃ駄目なのか?」

僧侶「こんな所は駄目です! もっと良い環境を探さないと!」

戦士「面倒だなぁ」

少年「ごめんなさい……」

僧侶「貴方は謝る必要はありませんよ。私たちは仲間、家族なんですから」

少年「……ほんとに?」

戦士「いつ俺がこのガキ――」

僧侶「……」ギロッ! 

戦士「そうそう。僕たちは家族ですよー」

僧侶「ね? さぁ、行きましょう」

少年「えへへ、お姉さんって優しいね」

僧侶「そうですか?」

戦士「おい、ガキ。さっきからお姉さんお姉さん言ってるけどな」

少年「うん?」

戦士「そいつ、男だから」

少年「えっ!?」バッ

僧侶「こ、困りましたね……」

少年「えっえっ、でも女の人の顔だし、体つきだし声高いし……シスターさんの格好だし!」

僧侶「すいません。私は男です……け、けど、ですね……こういう格好してるのは、その……神父さまが女の子と間違えて。それが癖に」

少年「ええっ!? そうなの?」

僧侶「はい。ははは……おかしいですよね……」

幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅幻滅

少年「んーん。おかしくないと想うよ」

僧侶「本当ですか?」

少年「うん。だって綺麗だし。似合ってるもん」

僧侶「そうですか」ニコッ

少年「うん!」

僧侶「この際ですから告白しますが、私……男の人が好きなんです」

少年「ええ!?」

僧侶「しかし神は同性愛を禁じております……私は苦しみましたが、世界の平和を達成する、それが私の贖罪だと仰られたのです」

少年「うんうん」

僧侶「いくら懺悔しても晴れなかった心が、一気に軽くなりました。一時は死をもと想いましたが、それは神への冒涜……しかしこれが生きる支えとなりました」

少年「……」

僧侶「世界平和のみが……私を救ってくださる唯一の希望なのです……ああ、神よ」ギュッ

>勇者「なにもないなぁ。目的とか……」
>
>僧侶「そ、それじゃあ……その、私と一緒に世界平和の為に戦いましょう!」
>
>勇者「えっ? あ、うーん。まぁ。それもいいか」
>
>僧侶「本当ですか!? 一緒に頑張りましょうね!」ギュッ
>
>勇者「ああ……」
>
>戦士「さて、そろそろ帰るか。充分見て回っただろ……さっさと宿に帰って明朝出発しようぜ。こんな街とはさっさとおさらばだ」

戦士「出会ってばかりの奴に話しすぎじゃねーか?」

僧侶「家族なんですから。隠し事はよくありませんよ、それに……こういう話を聞いて、私たちとともにするかどうかも聞くのです」

戦士「ま、それもそうか」

僧侶「勿論、ここで置いていきはしません。どこかの村で幸せに暮らすのも、魔王を倒した後ついてくるのも貴方の自由ですよ」

少年「僕はついていくよ。どんなのがあろうとお姉さんは優しい人だもん! あ、お兄さんって呼んだ方がいいかな?」

僧侶「……ありがとぅ。どちらでも構いませんよ」

少年「じゃあお姉さんって呼ぶ!」

僧侶「ええ。改めてよろしくお願いしますね」ニコッ

戦士「ところでさ、前前から気になってたんだが、僧侶ちゃんは恋愛しないのか?」

僧侶「恋愛、ですか……」チラッ

勇者「……?」

僧侶「……ええ。しませんよ。私はそれでも良いのです。充分ですから……」フッ

戦士「あはぁ~ん恋愛もできないだなんて僧侶ちゃんかわいそー」

僧侶「大きなお世話ですっ!」

戦士「第一神様の言う事も疑わしいよなぁ。自分でやれっての!」

僧侶「これは試練です。何より、神は私の為にわざわざ課せて頂いたものです。贖罪のチャンスを与えてくださったんですよ」ニコッ

戦士「はんっ……くだらんな。神様信じてりゃ明日の飯は食えるってのかぁ? 無理無理」

僧侶「戦士……信仰心は心の拠所。支えとなるのです。明日の食事を耐える力を与えてくださるのです」

戦士「アホらしい。耐えても腹は減るわっ。それに明後日のおまんまには辿り着ける保証なんてどこにもないだろうが」バタンッ

勇者「あいつは戦争孤児だからな。赤ん坊の頃に教会に捨てられた僧侶とは違うんだよ。金がなくて飯が食えず死んでった仲間も沢山いただろうからな」

僧侶「……確かに……私は恵まれていました」

勇者「環境の違いさ。けど、俺は僧侶がそんなに我慢しなくても良いと思うけどな」

僧侶「……ふふっ。優しいですね、勇者は。けど、我慢しなければいけないのです……何よりも私の為に」

勇者「そうか……」」

戦士「そろそろ着くな~剣士との待ち合わせ場所」

僧侶「ええ。確か場所は……」

少年「ここらで一番高級な宿泊施設だよ」

戦士「おお。そうだった。やっぱこいつ物覚えいいし役に立つな。どっかに置いてくのか惜しいわ」

少年「じゃあずっと連れてってくれる!?」

僧侶「駄目ですよ。魔王は流石に危ないですから」

少年「ぶー」

戦士「まぁ、さっさとその高級ホテルとやらに行こうぜ」

僧侶「そうですね。早く会いたいものです」

勇者「皆が集るのは久し振りだな……」

戦士「うお……でけー……何階建てだよ」

僧侶「凄いですね……」

戦士「けっ。金持ちは羨ましいね全く」

僧侶「あの、剣士と言う人の……」

「少々お待ちください」

勇者「いるかな?」

戦士「居るだろ」

「はい。最上階のお部屋でお待ちしております」

戦士「げー。確か一番上が一番高いんだろ? かーっ! 羨ましいな!」

僧侶「怖くないんですかね? 自信とかあったら物凄く揺れそうですけど……」

戦士「てか、敵襲とかあったら確実に逃げ遅れるよな」スタスタ

勇者「ここか。疲れたな……おーい剣士」コンコン

「開いてるよ」

戦士「散々歩かせておいて……自分で開けにこいや!!」

剣士「……ふふふ。戦士、君はいつも美しいな……」ガチャ

戦士「ああん? 気色悪いなお前は相変わらず」

剣士「決して変わらない。不変の強さ、不偏の意思、美しい」

僧侶「剣士、久し振りですね」ニコッ

勇者「よう」

剣士「ん? ああ、まだいたんだ……てっきり、死んだものかと」

戦士「とりあえず寛がせてもらうぜ。あー疲れたー」ドタドタ

剣士「あ、おい……ふふ。全く君は変わらない。美しいな」バタンッ

少年「……閉まっちゃったね」

勇者「あ、ああ」

勇者「まぁ、いいや。さっさと入ろう」ガチャ

僧侶「お邪魔します」

少年「しまーす!」

剣士「おや? なんだいそれは。見かけないな」

少年「えっと、僕は少年です! 途中で拾われて、雑用係やってます! よろしくお願いします!」

剣士「なんなんだいそれは」

僧侶「少年ですよ。色々私たちに尽くしてくれるんです。可愛がってあげてくださいね」

剣士「ふぅん。ははは、僕は弱いものに興味はないよ」

少年「僕……? も、もしかして剣士さんも男?」

僧侶「いいえ。剣士は女ですよ。ただ、心は男なのです」

少年「?? よくわかんないや……」

僧侶「ちょっと難しかったかもしれませんね」ニコッ

剣士「そうそう、君たち知ってるかい?」

戦士「あんだよ」

剣士「ふふ、魔王はね、なんでも願いを叶えることができるらしいよ」

僧侶「えっ……?」

剣士「まぁ、一つだけらしいけどね。その者が一番強く願うこと、潜在意識の奥に隠れている欲望、それを叶えることができるらしい」

剣士「魔王はその手を使って世界中から優秀な部下を集めているそうだよ。ふふふ魅力的な話だね」

勇者「けど、それって世界一強くなりたいとか、本当に魔王を倒したいって思ってる奴もなるのか?」

剣士「なるね。けど、どう願っていても人間ってのは浅はかだからね。利己的な願いになるのさ」

僧侶「……」ギュッ

少年「?」

剣士「それに、それは魂の契約でね。願いを叶える為に魔王に使える事を誓約されるそうさ」

戦士「それってさっき言った魔王を倒す、が実現されたらどうなるんだ?」

剣士「その場合、魔王は死ぬ。けど、次期魔王か……それともその契約者が魔王の意思を継ぐか。わからないかな」

戦士「わかんねーならそう言えや!」

剣士「ふふふ。ごめんよ……」

戦士「あー気持ち悪い。けどここにある飯は美味い」バクバク

剣士「ふふふ、好きなだけ食べて良いよ。君の為に作らせたんだから」

勇者「いつ来るかわからないのに?」

剣士「勿論。毎日さ」

戦士「けっ、金持ちは羨ましいな」パクパクモグモグ

剣士「ふふふ。喜んで貰えてなによりだよ」ニコニコ

僧侶「……」

勇者「どうした? 僧侶、浮かない顔して」

僧侶「えっ!? い、いえ……なんでもありません」

勇者「そうか? ならいいんだけど」

僧侶「ええ。心配してくださってありがとうございます」ニコッ

剣士「……君、魔王の願いについて考えてただろう?」

僧侶「そ、そんなことっ……あ、ありませんよ……そうです、ありえません!」

剣士「ふふふ。さて、どうかな……」

僧侶「神は仰られました。魔王を倒し、そして真の世界平和の為に生命を捧げよ、それこそが贖罪になると」

剣士「神と魔王の違いなんて今支配しているものかこれから支配者になるものかの違いだけだと思うけどね」

勇者「まあまぁ。再会を祝してまずは乾杯でもしようじゃないか」

戦士「それもそうだな」

剣士「わかった。今持ってこさせよう」

勇者「皆で飲むのなんて本当に久し振りだなぁ」チビチビ

戦士「わははは! わははははは!」

勇者「もう酔ってやがる……」

僧侶「流石に速いですね」コク

勇者「俺達は静かに飲むとするか」

僧侶「ええ」ニコッ

少年「おいしー!」モグモグ

剣士「二人とも、酒はいくらでもあるんだ。もっと飲みなよ」

勇者「いや、俺はこれくらいが丁度いい」

僧侶「私も……」

剣士「つまらないな……じゃあ、思い出話でもするか」ゴクッ

勇者「ぐぅ……むにゃむにゃ……もーだめぇ……」

剣士「すっかり酔いつぶれたな」

僧侶「剣士は注ぎ方が上手いですからね」ニコニコ

剣士「君も随分と出来上がってるように見えるが」

僧侶「そうですか? そんな事ありませんよ」ニコニコ

剣士「そうかい。戦士ももう眠ってしまって、つまらないな」

僧侶「もっと飲みましょう」ゴクゴク

剣士「よほど鬱憤が溜まっているんだな……ふふふ、本当は神についてなんて思ってるんだい?」

僧侶「神は、います……そして私たちを見守ってくださっているのです! 信じられないのですか!? この異教徒め!」バンッ

剣士「おやおや。おっかないな」ゴクッ

僧侶「ああ、しかし……神よ……お赦しください……私はその異教徒を……」ブツブツ

剣士「その異教徒を?」

僧侶「愛してしまったのです……」

剣士「ほう、そいつは神を信じていない、と」

僧侶「はい……しかもその方は私と同じ男性なのです……ああ、神よ!」ガバッ グスグス

剣士「もしかして酔ってて、僕を神と間違えてるのかな……? 君は、どうしいんだい?」

僧侶「ぅうう……私は、どうしようもない……私は、私は……その方と……」

剣士「その方と?」

僧侶「添い遂げたいのです……彼の愛を感じたいのです。愛したいのです。浅ましくも夢の中で私は……あまつさえ私は魔王の条件に惹かれてしまいましたっ!」

僧侶「ああ! 神よ! 哀れな私を導いてください。慈悲を、脆弱な私を裁きお救いくださいっ!」

剣士「さぁ、もう一杯。今日の事は忘れてしまう方がいいさ……」トクトクトクッ

僧侶「ぅうう!」ゴクゴクゴク!

僧侶「ううっ……頭が痛い……」

勇者「俺も……」

戦士「あんたあんだ? だらしねーな」

剣士「ふふふ、戦士、君はやはり美しいな」

戦士「気色悪い」

僧侶「そう言えば、神のお告げを聞きました」

勇者「へえ、なんだって?」

僧侶「自分に正直に生きろ、と……」

勇者「ふーん。いい事言うな、神様も」

剣士「……もしかして前回のお告げもお酒飲んでて翌日頭痛くなかった?」

僧侶「え? ええ……どうしてわかったんですか?」

剣士「いや、別に……」(神のお告げってのは……神父様の言葉かな。今回は僕だったし……ふふふ、神なんていやしないさ)

僧侶「私は、正直に生きています」

勇者「うん」

僧侶「しかし、全てをさらけ出した方が良いのでしょうか……?」

勇者「そんな事しなくていいんじゃないか?」

僧侶「な、なんで……ですか」

勇者「だって、人間隠したいこと一つや二つあるだろ? それが普通だよ」

僧侶「……そうでしょうか? 私がもし貴方にとても重大な秘密があっても?」

勇者「それは、ちょっと聞きたいけど。良いじゃないか。隠していたいなら隠してて。無理にさらけ出す必要なんてどこにもない」

僧侶「……そうですよね。ありがとうございます勇者」ニコッ

戦士「なにしみったれてんだ。そろそろ出発しようぜ」

勇者「……頭が痛いんだ。もう少し休もう……」

眠い。限界だ
寝る

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