僧侶「朝起きたらみんながいなかったです」(174)

―――宿屋

僧侶「おはようございます!」

僧侶「あれ?」

僧侶「武道家さーん!」

僧侶「賢者さーん!」

僧侶「勇者さーん!」

僧侶「―――ははーん。朝からかくれんぼとは粋なことをしますね」

僧侶「どうせ、ベッドの下とかクローゼットの中に隠れてるんでしょ?」

僧侶「ほらほら、でてきてくださいよぉ」

僧侶「……いない」

僧侶「なるほど……なるほど……」


僧侶「―――私、置いて行かれたな」

僧侶「……なんで?」

宿屋一階 受付 

僧侶「あ、あの!」

店主「ん?ああ、僧侶さん」

僧侶「勇者さんたちは!?」

店主「え?もう随分前に出ていきましたけど?―――って、どうして僧侶さんが今頃起きてきてるんです?」

僧侶「分かりません!助けてください!」

店主「いや……私に言われても……」

僧侶「うぅ……」

店主「そういえば、少し様子が変でしたねぇ」

僧侶「というと?」

店主「なんかこう思いつめているような……みなさん険しい顔つきでした。挨拶しても無反応でしたし」

僧侶「……そうですか」

店主「昨晩、何かあったのでは?」

僧侶「昨晩……うーん」

―――昨夜 勇者の部屋

勇者「えーと、では明日以降の予定についてだけど」

賢者「予定通り、山を越えていくべきでしょう」

武道家「うんうん」

僧侶「でも、ちょっと大変じゃないですか?」

勇者「そうか?」

武道家「でも、山越えしないと次の街には行けないぞ?」

賢者「ええ」

僧侶「そうですか……わかりました」

勇者「僧侶が辛いっていうなら、やめようか?」

僧侶「勇者さん……♪」

賢者「……ちょっと、勇者様」

武道家「……こっちこい」

勇者「え?なんだよ……ちょっと、ひっぱるな!!」

僧侶「……?」

―――宿屋 廊下

賢者「勇者様、僧侶さんのことを大事に思うのは結構ですけど、ちょっと度が過ぎます」

武道家「あいつの意見でコロコロ予定を変えられるこっちの身にもなれ」

勇者「いや……でも……」

賢者「知っています。婚約者なんですよね?」

勇者「う、うん……」

武道家「だからって、過保護すぎやしないか?」

勇者「いや……だって、女の子だし……男の俺たちには分からない辛さがあるかもしれないだろ?」

賢者「そこまで言うなら、もう彼女とはここで別れてはどうですか?」

勇者「え……」

武道家「それがいいな」

勇者「別れるってそんなことできるわけ……!!」

賢者「旅の間だけです。魔王を倒して迎えにくればいいでしょう」

武道家「そんなに大事に思うならそうすべきだと思うぞ?」

勇者「しかし……」

賢者「大切な人を危険にさらし続けるのも気が引けるでしょう?」

勇者「だが、俺は彼女をこれまで守ってきた。これからだって―――」

武道家「もう魔王の城も近い。魔物は凶暴性を増している。絶対に守れるなんて保障はない」

勇者「それは、そうだけど……」

賢者「決まりですね」

武道家「だな」

勇者「……」

賢者「では、勇者様から僧侶さんにその旨を伝えておいてください。私と武道家さんで明日の予定を組んでおきますので」

武道家「頼むな」

勇者「……」

……ガチャ……

僧侶「あ、勇者さん。なんのお話をされていたんですか?」

勇者「いや……大したことない」

僧侶「そうですか?」

勇者「あ……それより、旅が終わったあとなんだけど……」

店主「―――それから、結婚後のお話をずっと?」

僧侶「は、はい……子どものときから、その……結婚することは決まってて……今更、そんな話なんてって思いましたけどぉ(モジモジ」

店主「許婚だったんですか」

僧侶「は、はい……///」

店主「それはそれは、おめでとうございます。早く魔王が倒されて平和な世界になるといいですね」

僧侶「ありがとうございます」

店主「しかし……尚更、置いて行かれた理由がよくわかりませんね」

僧侶「そ、うですね……はぁ……」

店主「愛想尽かされたわけではないでしょうね。わざわざ、寝る前にそんな話をするんですから」

僧侶「勇者さんはそんな人ではありません!!」

店主「では……あ……もしかして」

僧侶「なんですか?」

店主「勇者様はアナタを連れていきたくなかったのではないですか?魔王を倒すという危険な旅に」

僧侶「え……そんなことは……だって、私は勇者さんのために僧侶になって……今ではべホイミも使えるようになったんですよ?!」

店主「え?べホイミ?もうすぐ魔王と戦おうとしているのにですか?ええ?」

僧侶「え?何かおかしいですか?」

店主「いや、私も素人だからあまり詳しいってわけじゃないですけど、この辺を冒険するみなさんはベホマとかベホマラーとか使える人ばかりですよ?」

僧侶「べほま?なんですかそれ?」

店主「いやいや、上位回復呪文じゃないですか」

僧侶「でも、べホイミを覚えたとき勇者さんは「すごいね、さすがは100年の一人の天才僧侶だ」って褒めてくれましたよ?」

店主「それいつの話ですか?」

僧侶「先週ですけど」

店主「―――あの、失礼ですが、使える呪文を教えてくれません?」

僧侶「はい。えと、ホイミ、ニフラム、バギ、ザキ、べホイミ、あと勇者さん直伝のベギラマですね」

店主「……それだけ?」

僧侶「はい」

店主「なるほど……わかりました」

僧侶「え?」

店主「ずばり、あなたが僧侶として使えないから捨てられたのです!恐らく、勇者様ではなく、仲間の方々に!!」

僧侶「な……なんで……!?」

店主「戦力外通告ですよ」

僧侶「そ、そんな……だって、私は……!!」

店主「ベギラマまで習得するほど努力はなさったのでしょうが、やはり僧侶としてはダメダメなので……」

僧侶「でもでも!ちゃんと力の盾とかまほうじの杖でみなさんをサポートしてますし……!!」

店主「そんなの戦士や魔法使いにだってできます」

僧侶「あ、あと……宿屋探しとか買い物とか料理とか率先してやってましたし!!」

店主「魔王の討伐にはなんら意味のない能力です」

僧侶「あ、あとは……えと……えと……」

店主「ふう……僧侶さん、諦めなさい」

僧侶「え……」

店主「貴女は見放された。この事実、現実はどうしようもない」

僧侶「……」

店主「この街で待っていればいいじゃないですか。幸いここは旅人には友好的ですし」

僧侶「で、でも……」

店主「好きな人を信頼して待つのも愛の形だと、私は思いますよ?」

僧侶「そ、そうでしょうか?」

店主「ええ」

僧侶「……」

店主「どうです?ここで働きながら待ってみるというのは?」

僧侶「ここで、ですか?」

店主「いやね。ここ最近、結構利用客が多くなってきて、ベッドメイキングとかルームサービスとかしないといけないのに一人じゃ大変だったんですよ」

僧侶「はぁ」

店主「魔王の城が近いせいもあって、周辺の魔物は大変凶暴でしてね、傷ついた人もよく来るんですよ」

僧侶「そうでしょうね……」

店主「僧侶が常駐している宿屋なんて珍しいですし、どうですか?住み込み、三食付きで」

僧侶「でも……」

店主「では、ここから一人で帰るというのですか?そんなことしては勇者様が困るのでは?」

僧侶「え?」

店主「ここで待ってくれているはずの僧侶さんがいないと知ったら、悲しんで他の女性とくっついちゃうかもしれませんよ?」

僧侶「―――働かせてください!お願いします!!」

―――翌日

店主「一日の流れは昨日教えた通りですから」

僧侶「わ、わかりました……!!」

店主「そんなに固くならずに。リラックスして」

僧侶「は、はい……」

店主「では、まずは空き部屋の掃除からお願いします」

僧侶「はい!」

店主(うんうん……素朴で良い感じの子だ)

僧侶「えと……まずは水をバケツに入れて……モップと雑巾を持って……」

店主「さてと……私も業務を始めるかな」

僧侶「お……おも……バケツ……おも……(ヨロヨロ」

店主「大丈夫?」

僧侶「は、はひ……(よろよろ」

店主「あ、そこ段差になってるからきを―――」

僧侶「―――ぁあああああ!!!!!!(バシャー!!」

僧侶「すいません!すいません!!」

店主「あーあー、ここは私が拭いておくから、僧侶さんは部屋の掃除にかかって」

僧侶「は、はい……本当にすいませんでした……」

店主「気にしない気にしない」

僧侶「はい……」

僧侶(思えばいつも重たい物は勇者さんが持ってくれていたなぁ……バケツすら持てないなんて……はぁ)


―――二階

僧侶「えっと……空き部屋は確か……ここだったかな?」

ガチャ

男「え?」

僧侶「あ……」

男「うわぁぁぁ!!!!なに勝手にはいってきでんだよぉぉぉ!!!!」

僧侶「きゃぁぁぁぁ!!!!!すいませーん!!!!」

男「はやく閉めてくれ!!!」

僧侶「お着換え中に申し訳ありませんでしたぁぁ!!!」

店主「僧侶さん。言いましたよね?たとえ空き部屋に入る場合でも、ノックと声かけは忘れずに、と」

僧侶「うぅ……すいません」

店主「まあ、お客様も許してくれたから良かったものの」

僧侶「すいませんでした……」

店主「もういいですから、ほら、仕事に戻ってください」

僧侶「はい……」


―――二階 空き部屋

僧侶「はぁ……」

僧侶「私……こうして働いたことなんてなかったからなぁ」

僧侶「これ以上、迷惑をおかけしては追い出されてしまいます……がんばらないと」

ゴシゴシ……

僧侶「にしても、結構散らかってますね……ゴミも結構あるし……あ、そーだ♪」

僧侶「バギの風でゴミを外に出しちゃえば楽じゃないですか。私って天才♪」

僧侶「―――バキ!!」

ゴォォォォォ!!!―――ズバ!!!スバ!!!

僧侶「どどどど、どーしよ!?!?」

僧侶「シーツもカーテンも破けちゃった……ああ!!壁に傷まで……!!」

僧侶「これは……怒られる……絶対に怒られる……」

僧侶「そ、そうだ……!!」

僧侶「火事になったことにすれば……!!」

僧侶「よ、ようし……べギ―――」

店主「―――僧侶さん、言い忘れてたんですけど」

僧侶「ラマ!!―――え?」

ボッ!

店主「ぎゃぁぁあああああ!!!!!」

僧侶「あ、これは、その、ゴキブリがですね……!!」

店主「水だぁ!!早く火を消して!!!」

僧侶「は、はい!!―――バギ!!」

ゴォォォォォ

店主「風を起こしてどーするんだぁぁ!!!余計に火の回りがぁぁぁぁ!!!!」

店主「あ……はは……私の店が……もえたぁ……あははは……あははは……」

僧侶「あ、あの……」

店主「もえた♪もえた♪ここにあるのはわたしのみせだぁ♪ぜんぶくろこげひゃっひゃっひゃ♪」

僧侶「あ……」

町長「これ……僧侶さん」

僧侶「はい?」

町長「こっちに来なさい」

僧侶「は、はい……」


―――町長の家

町長「まあ、座りなさい」

僧侶「失礼します」

町長「あの宿屋の火事。原因は貴方と聞いたが?」

僧侶「あ、えと……それは……」

町長「どうして燃やしたのですかな?」

僧侶「ふ、不可抗力です……」

町長「―――何かされたわけではないのですかな?」

僧侶「え……?いえいえ、私は昨日からあの宿屋で働かせてもらうことになって……」

町長「そうか……まだ、被害には遭われてなかったと。では、偶然か」

僧侶「あの……どういうことですか?」

町長「うむ……実はあの店主はな、この辺りの魔物が凶暴で傷つく旅人が多いのを良いことによからぬことを繰り返していたんじゃ」

僧侶「よからぬこと?」

町長「若い娘の旅人には無料で泊らせてやるといって、猥褻なことをしておったらしい」

僧侶「そ、そうなんですか!?」

町長「うむ。もう何人もそういったことでわしのところにきておってな」

僧侶「わ、悪い人だったんですね」

町長「昨日、証拠を見つけたんで今日辺りに町民総出で問い詰めてやろうと考えていたが、今朝の火事だ」

僧侶「す、すいません……」

町長「いやいや、責めているわけではない。むしろ感謝しておる」

僧侶「え?」

町長「良い薬になっただろうて。貴女は街の恩人じゃ。今日はここに泊っていきなさい」

―――街中

僧侶「……うーん、よかったのでしょうか……」

男性「あ、僧侶さん!」

僧侶「はい?」

男性「俺もうすかっとしましたよ!!」

僧侶「はい?」

女性「あの宿屋の所為でこの街の品位が疑われてたんですよ?」

僧侶「は、はい」

男性「そーそー、街の評判は本当に悪くなる一方だったからな。でも、僧侶さんのおかげでもう安心ですよ!」

僧侶「そ、そうですか。よかったです」

女性「僧侶さんはいつまでこの街にいるんですか?できれば、もうずっと居てほしいってみんなで話してたんです」

僧侶「えと……まだ、決めてません……」

男性「まあ、ゆっくりしていってください。あ、働きたいなら俺の道具屋で働いてもらってもいいですよ?」

僧侶「えぇ!?」

女性「あ、私の経営している酒場でもいいですよ!僧侶さんなら大歓迎です!!」

―――夜

僧侶「はへぇ……」

町長「おやおや、どうなされた?」

僧侶「それが、色んな方に「私のところで働いてくれ」って言われて……」

町長「ほう……それで嬉しい溜息を?」

僧侶「まあ、疎まれるよりは全然嬉しいですけど……正直、どこに行こうか迷います」

町長「僧侶さんはこの街にずっと居てくださるのか?」

僧侶「それは……わかりません。とりあえず、ここで勇者さんが迎えに来るのを待とうと思います」

町長「そうかそうか」

僧侶「それにしても……うーん……」

町長「道具屋がいいのでは?」

僧侶「道具屋ですか?」

町長「殆どの客は町民だし、冒険者もそこまで接客対応に文句はつけてこないからの」

僧侶「なるほど……」

僧侶「道具屋かぁ」

―――翌日 道具屋

僧侶「今日からお世話になりますすす!!!」

男性「あはは、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

僧侶「そ、そうですか?」

男性「じゃあ、まずは店で取り扱っている商品から覚えてもらいますね」

僧侶「は、はい!」

男性「ところで、道具屋で買い物はしたことありますよね?」

僧侶「もちろんです!」

男性「実は冒険者用と町民用に品物を分けているってご存知でした?」

僧侶「え?そうなんですか?」

男性「ここは道具屋ですから日用品も置いています。消え去り草とか毒消し草なんて一般家庭ではそうそう使いませんから」

僧侶「な、なるほど、言われてみれば」

男性「ですから、意外と多いんですよ。しっかりとどこに何があるのか、覚えてくださいね」

僧侶「はい!一生懸命だんばります!」

男性「噛んでるけど……まあ、気合いたっぷりでいいか」

客「こんにちはー」

僧侶「あ、いら、いらっしゃいまっす!」

客「あら、新人さん?」

男性「ほら昨日、宿屋を燃やした」

客「ああ、僧侶さん?いやぁ、エプロン姿だとわかなかったわ」

僧侶「えへへ」

客「じゃあ、えっとね、お醤油とマヨネーズと、あとサバとお米5キロ、それからお茶の葉も貰える?」

僧侶「え?えと……醤油にマヨネーズに……」

男性「うんうん」

客「大丈夫なの?」

男性「懸命さは伝わってくるでしょ?」

客「まあ、ね」

僧侶「サバ……に……お米……おも……」

男性「あ……そんないっぺんに持たなくても―――」

僧侶「―――あ!?きゃぁぁぁああああ!!!!(ガッシャーン!!」

客「あらら……」

男性「大丈夫!?」

僧侶「うええ……お醤油とマヨネーズが顔に……くさいです……」

男性「あーあー、服も汚れちゃったな」

僧侶「すいません……」

男性「とりあえず、着替えてきて。片づけはその後でいいから」

僧侶「すいません……本当にすいません」

客「大丈夫?」

僧侶「は、はい……」

男性「あ、すいません。これご注文の品です」

客「ありがと。またくるね」

男性「いつもありがとうございます」

男性「―――さてと、片付けようか……醤油くさいし」


僧侶「くすん……なんでこんな簡単なこともできないんだろ……」

僧侶「よし……がんばろう!しっかりしなきゃ!うん!!」

男「さてと、なに買おうかなぁ」

女「薬草でも買っとこうかなぁ」

子ども「ママー、おやつかってぇ!!」

母「だめです」

ザワザワ……

僧侶(ひぃぃぃ……いっぱいきたぁ)

僧侶(ダメ……ダメです。雰囲気に呑まれちゃ……そこで私の負け!!)

僧侶「いらっしゃいませー」

男性(笑顔がひきつってるなぁ)

男「これください」

僧侶「は、はい!!えと……これが……10G……いや、15G?ん?あれ?」

男「早くしてください」

僧侶「す、すいません!!えーとえーと」

女「まだー?詰まってるんだけど?」

僧侶「えとえと……10Gでいいです!!!」

男性「あー!ちょっと、それは20Gだから。勝手に半額にしないで」

僧侶「あ……すいません!」

男性「もういいから、僧侶さんは品出ししてください」

僧侶「は、はい……」

男性「品出ししながら商品がどこに並んでいるか、値段と一緒に見ておいてください」

僧侶「わ、わかりました」

男性「―――あ、すいません。お待たせしました。合計で120Gになります」

僧侶「はぁ……」

子ども「おかし♪おかし♪」

僧侶「えと……」

子ども「あ、お姉ちゃん、その上のやつとってー」

僧侶「上のって……これですか?」

子ども「うん!!」

僧侶「ちょっとまってくださいね……うーしょ……うーっしょ……あ!?きゃぁぁぁ!!(ガシャァァァン!!」

子ども「oh……」

―――夜

男性「ふぅ……やっと片付いた」

僧侶「すいません……棚が倒れるなんて思わなくて」

男性「俺も商品を取るだけで棚を倒すとは思いませんでした」

僧侶「すいません!」

男性「もういいですよ」

僧侶「でも……」

男性「……明日、酒場の方に行ってみたらどうですか?」

僧侶「え?」

男性「そこの経営者がどうしても来てほしいって言ってましたから」

僧侶「そ、そうなんですか?……でも、ここのお仕事も……」

男性「ま、とりあえず明日は酒場のほうに顔を出してあげてください。僧侶さんを一人占めするわけにもいきませんし」

僧侶「そうですか……わかりました。明日は酒場のほうに行ってみます」

男性「そう、助かります」

僧侶「今日はありがとうございました!」

―――路地裏

店主「ひぃぃぃ!?!?」

魔物「貴様……どういうことだ?」

店主「ですから……店が燃えてしまって……もう、魔王様に若い娘を献上することが困難に……!!」

魔物「そんなことが言い訳になると思っているか!!」

店主「お、おゆるしをぉぉぉ!!」

魔物「店がなくても女を捕えろ。方法はいくらでもあるだろ?ん?」

店主「し、しかし……旅の者でないと……町の人間だと怪しまれます」

魔物「知らん。貴様は我々に生かされてることを自覚しているのか?」

店主「ひぃ!?」

魔物「貴様がなんでもするというから、あの壊滅した小さな村から一人だけ救ってやったのだぞ?」

店主そ、それは……もう、えへへ。魔王様のお陰ですから……へへ」

魔物「ならば、分かってるな?近日中に三人、魔王様に捧げる乙女を用意しろ」

店主「は、はい……」

魔物「頼むぞ?―――ふふふ」

―――翌日 酒場

女「じゃあ、後はよろしくね」

少女「はい」

僧侶「あ、の。先輩!よろしくお願いしますっす!!」

少女「ふふ……もう、緊張しないでください。それに私も先月ここで働きだしたばかりですから」

僧侶「でも、先輩は先輩ですよね?」

少女「まあ、そうかも。でも、そんな堅苦しい感じで呼ばなくてもいいですよ?」

僧侶「そ、そうですか?」

少女「あ、じゃあ、丁寧語もなしで。いい?」

僧侶「は、はい……じゃなくて、うん」

少女「まあ、無理はしないで行きましょうか」

僧侶「はい」

少女「じゃあ、まずはね―――」

僧侶(同じ年ぐらいでしょうか……)

僧侶(私よりもしっかりしてますね……がんばらないと!)

―――夜 開店

ザワザワ

客「おーい!酒、ジョッキで追加!!」

少女「はーい!ただいまー!」

僧侶「あ、ととと……わぁ!!」

少女「―――よっと、危ない。グラスを割ったら、オーナーきれちゃいますからね?」

僧侶「すいません」

少女「焦らないで、急いで、そして丁寧に、ね?」

僧侶「そんな無茶な……」

少女「無茶でもやるの。あと、これ三番テーブルに追加」

僧侶「えぇ……」

少女「ほらほら、追加の声がまた聞こえてくる前に急いで配膳して」

僧侶「は、はぃ!!」

客「すいませーん!!注文、いいですかぁ!」

少女「はーい」

僧侶「あわわ……」

客「あ、ちょっとトイレー」

ドン

僧侶「あ!?(バシャ!」

客「おわ!?つめた!!」

僧侶「す、すいません!!」

客「おい、どうしてくれんだよ!!?服がぬれちまっただろ!?」

僧侶「すいません!すいません!!」

客「謝ってすむ問題じゃねーよ!」

僧侶「ひっ!?」

少女「―――あ、すいません。今すぐ拭きますから」

客「いーや、そんなことじゃ、気が収まらないね!」

少女「え……?」

客「お前ら、俺たちに今晩つきあえよ……結構かわいいし……それで許してやるよ」

僧侶「そ、それは……」

客「ほら、服を濡らしたんだ。それぐらいいいだろ?なあ?」

男「そうだなぁ、いいんじゃねーの?」

男「えへへ、いいねえ。二人ともかわいいじゃん」

少女「ちょっと……放してください」

僧侶「いたっ……!」

客「あー我慢できねえや、一緒にトイレいこうぜ」

僧侶「な?!」

男「げへへ……何する気だよ!!」

客「決まってんだろ?」

男「いいなぁーいいなぁー」

僧侶「いや……はなして……」

客「うっせえ!服を濡らしといて文句いうな!!」

僧侶「ひぃ!?」

客「おら、こい!」

少女「―――やめろ、屑野郎」

客「え?」

少女「―――腰を深く落として……はぁ!!!」

ドゴォ!!

客「ぐほぁ!?!」

僧侶「な!?」

少女「ふん。あなたは客じゃない、帰ってください」

客「てめえ……!!」

男「舐めやがって……!!」

僧侶「あ、あ……」

他客「おいおいやべえぞ」

他客「にげろにげろ」

少女「女の子相手に刃物を抜くなんて……情けない」

客「うっせえ!!!」

少女「―――はぁあああ!!!!」

客「―――あがぁ……が……」

少女「ふぅ……押忍!」

僧侶「あ、あ……お客さんの顔が……面白い形に……」

女「あー少女ちゃん、またやったなぁ?」

少女「オーナー!だって、この人たちが」

客「て、てめえがオーナーか……こんなふざけた店員を……」

女「どうせあんたたちが変なことしたんでしょ?自業自得よ」

客「なんだと?!」

女「ほら!屑はこの店に入る資格はない!出ていき、な!!!」

ドゴォ!!!

客「ぐへぇえ!?!」

僧侶「あの……もしかしてお二人とも……」

少女「うん。私もオーナーも同じ道場で格闘技を学んだの」

女「ま、女性のたしなみってやつ?」

僧侶「は、はあ……」

―――街中

店主「はぁ……どうすれば……このままでは俺は殺される……やばい……やばい……」

男A「くそ……あの女……絶対に今度犯してやる……!!」

男B「そうだな……よし、じゃあ、夜にこっそり後ろから襲うか?」

男C「いいな、それ、やるか?」

男A「じゃあ、いつやる?」

男B「そうだなぁ……」

店主「おい」

男A「なんだよ、おっさん?」

店主「その話、一枚噛ませろ」

男B「はぁ?」

男C「なんだよ、きめえよ」

店主「こっちは瀬戸際なんだ!!!」

男A「な、なんだ……?」

店主「―――いいから話せ。力になれるかもしれん」

男A「ってわけだ」

店主「なるほど……その店員とオーナーは美人か?」

男B「まあ、かなり良い線いってると思うぜ?」

男C「ああ、態度はムカつくけどな」

店主「ふふ……そうか」

店主(バカが三人もいれば使いようによっては……ふふ)

男A「で、どうするんだ?」

店主「よし、じゃあ、明日から準備に取り掛かろう。お前ら、俺が今から言うものを用意しろ」

男B「あ?」

店主「この作戦に重要なものだ」

男C「なんだよ、それ」

店主「いいから言うとおりにしろ。―――良い思いをさせてやる」

男A「マジか」

男B「ひひ……いいねえ」

店主(よし……こいつらに全ての罪を被ってもらうか……くくく)

―――酒場 閉店後

僧侶「じゃあ、お二人とも昔は武道家として冒険もしてたんですか?」

少女「うん。少しの間だけど」

女「まあね」

僧侶「なるほど……それであの強さですか……」

女「でも、ちょっとやり過ぎたんじゃないの?」

少女「オーナーだって」

女「あとでなんかあるかもしれないね」

僧侶「なにかって……?」

少女「報復ですか?そんなこと……」

女「ま、夜道は気をつけるこった」

僧侶「怖いですよ!!やめてください!!」

少女「まあまあ、私が一緒に帰ってあげるから」

僧侶「ほ、ほんとうですか!?」

少女「うん、勿論」

―――魔王の城 地下室

勇者「ここは……!?」

武道家「う……!?」

賢者「魔王の食事の後……のようですね」

武道家「げぇえええ!?!おえぇえええ!!?!」

勇者「むごい……なんてことだ」

賢者「女性ばかりを食っているようですね……」

勇者(僧侶を置いてきて正解だったな……)

賢者「……しかし、妙ですね」

武道家「はぁ……はぁ……何が?」

賢者「これだけ遺体の一部があるということは、かなりの大人数をここに収容していたことになります」

勇者「それがどうかしたのか?」

賢者「……まだどこかに生存者がいても不思議ではありません」

勇者「そうか……これだけの数を食べるとなると……恐らく、どこかに貯め込んでいるな」

武道家「よ、よし……まずはそいつらを救おう」

―――翌日 道具屋

男A「ちょっといいか?」

男性「はい?」

男A「このメモに書いてあるものを全部くれ」

男性「これは……ふむふむ」

男A「あるんだろ?」

男性「あるにはありますが……これをどうされるのですか?」

男A「うるせえ。いいから用意しろ」

男性「わ、わかりました」

男性(だが……これは明らかに眠り粉の原料になるものだ……)

男性(……何をするつもりなんだ……?)

男A「……」

男性(どうみても悪用しそうだな)

男性「―――お待たせしました。どうぞ」

男A「おせえよ!―――ったく、なんで俺がパシリなんて……ぶつぶつ……」

男性「―――ふう」

男性「困った客だ」

僧侶「あの……」

男性「あ、僧侶さん。どうかしました?」

僧侶「えと……私、酒場で働こうかなって、思いまして……それで、あの」

男性「ああ、なるほど。わかりました。遠慮せずに自分に合ったところで働くといいですよ?」

僧侶「すいません。ご迷惑だけかけて、何も恩返しできずに……」

男性「いえいえ。気にしないでください」

僧侶「すいません……それではこれで」

少女「まったまった!おつかいが残ってるでしょ?」

僧侶「あ、そうでした……」

男性「お前もいたのか」

少女「相変わらず品揃え変わらないね」

男性「ほっとけ」

僧侶「お二人ともお知り合いなんですか?」

少女「うん、幼馴染なんだ」

男性「腐れ縁だな」

少女「酷いなぁ」

僧侶「あ、私が商品を探しますね」

少女「お願いね」

男性「どうだ?酒場は楽しいか?」

少女「うん。オーナーもあの僧侶さんも良い人だしね」

男性「でも、失敗も多いだろ?」

少女「うん。昨日はお客さんにお水をぶちまけちゃって大変だったよ」

男性「あはは、いかにも僧侶さんがやらかしそうだ」

少女「まあ、ボコボコにしたけどね」

男性「……おい、それどんな奴だった?」

少女「どんなって……」

僧侶「あ、これで全部です……って、どうかされたんですか?」

男性「僧侶さん、すこしお話が」

―――男Aの家

男A「買ってきたぞ」

店主「おーおー、そうそう。これだ」

男B「これで眠り粉が作れるのか?」

店主「ああ。まあ、エルフが作るような精巧なものじゃなくて即席だけどな」

男C「よくそんな作り方しってんな」

店主「まあな」

店主(魔物から教えてもらったなんてどうせ信じないだろうしな)

男A「ったく、なんでこんなひでえ面で外にでなきゃいけないんだよ……くそ」

男B「じゃんけんに負けたからだろー」

男C「ぎゃはは、なんだ?その痣だらけの顔を笑われたのか?」

男A「そんなんじゃねーよ」

店主「おい、無駄口を叩く暇があれば手伝え」

男B「ちっ……えらそうーに」

店主(ふふふ……これで首の皮が一枚繋がったな……くくく)

―――魔王の城 地下牢

勇者「もう大丈夫ですよ?」

女の子「怖かった……こわかったよぉ……」

勇者「もう大丈夫です……安心してください」

賢者「それにしても50人以上はいますね……」

武道家「まずは外に出してやらないとな」

勇者「ああ」

賢者「あの、少しいいでしょうか?」

女の子「は、はい」

賢者「みなさんは魔物に攫われてきたのですか?」

女の子「いえ……私も含めてここにいる殆どの人は人間の手によって連れてこられたといえます」

賢者「なんですと!?」

女の子「勇者様たちのお耳には入らないことだと思います。―――特定の人間が秘密裏に自分の懐を潤すために、または自分かわいさに人間を魔王に捧げているのです」

魔物「きさまら!!!なにをしている!!!」

勇者「―――ちょうどいい、詳しい話を聞くことにしようか」

―――酒場

女「へえ……眠りの粉を」

少女「どうします?」

僧侶「そんなのをこの店でばらまかれたら終わりですよ!!」

少女「ザメハを使う人が眠らされたら終わりだもんね」

僧侶「ええ……私は使えませんけど」

女「でも、仕掛けてくる方法が分かってるだけ、マシでしょ?」

少女「そ、そうですかね?」

女「眠りの粉か……確かに店内でばらまかれたら終わりね」

僧侶「じゃあ、どうするんですか?」

女「うーん……」

少女「その男の住処でも分かれば乗り込むのに……!!」

女「おお!それいいね」

僧侶「はい?」

女「乗り込んじゃえばいいじゃないの」

少女「どういうことですか?」

女「だって、あの道具屋のお兄さんが気を利かせてくれたんでしょ?」

僧侶「でも……本当に知識のある人物が裏にいるなら、分からないって」

女「でも、賭けてみる価値はあると思うなぁ」

少女「どうするんですか?」

女「まあ、シンプルな作戦よ」

僧侶「はぁ」

少女「……」


―――男Aの家

店主「よし、作戦は頭にはいってるな?」

男A「おう。この眠りの粉を店内でばらまいて……寝た三人を運び出し、馬車の荷台に乗せる」

店主「ああ、その通りだ」

店主(くくく……お前らには悪いがな……ふふふ)

男B「なんかワクワクしてきたぜ」

男C「たっぷりかわいがってやるぜ」

―――魔王の城 地下牢

魔物「ぐはぁああ!?」

勇者「さあ、答えろ。この人たちはどうやって集めた?」

魔物「は……人間の中にも屑中の屑がいるんだよ……勇者」

勇者「なに?」

魔物「金に釣られて自分の娘を献上したり、自分の命欲しさに宿屋に泊りに来ただけ旅人の女を眠らせて魔王に差し出す奴とかな!!」

勇者「……貴様!!!」

魔物「ぐぇぇえええ!!?」

賢者「勇者様!」

勇者「どこにいる?その人間達は!?」

魔物「は……世界中にいるぜ……」

武道家「ちっ……俺達のやってることがバカらしくなるな」

賢者「武道家さん、そんなことを言わないでください」

勇者「―――そうだ。魔王さえ倒せばいいだけの話だ」

賢者「ええ。その通りです。行きましょう、勇者様!」

―――酒場

少女「オーダー追加でーす!」

僧侶「は、はひぃ!?」

少女「あっぶないなぁ。ほら、ちゃんともって。焦らず急がないと」

僧侶「だから、そんなこと―――」

男A「―――邪魔するぞ」

女(きなすった。ちゃっかりガスマスク付けてるし……)

少女「何の用ですか?」

男B「くらえ!!」

僧侶「あ……!!」

ボフン!!

少女「く……ぁ……」

僧侶「あ……ん……」

女「くっ……」

男A「すっげえ、客も寝ちまった。よぉし、若い女だけを運び出せ!!」

店主「おっし、早く荷台に乗せろ!」

男A「女は全部で5人だ」

店主「よしよし、十分だ」

男B「いいぜ!」

店主「おし。じゃあ、行商人のふりをするから、道中で何か訊かれた打ち合わせ通りにするんだぞ?」

男C「分かってるって」

男A「ところでいいところってどこなんだ?教えてくれよ」

店主「着いてからのお楽しみだ。女を抱くには最高の場所だ」

男B「マジかよ!!」

男C「うひゃー!!」

店主(くくく……そう、まさに天国だ……くくく)


男性「―――町長!!」

町長「分かっておる……町におる骨のある男共を呼べ」

男性「はい!!」

町長「うむ……やはりあの店主め……魔物に魂を売っておったか……」

―――魔王の城 城門前

店主「ついたぞ」

男A「おいおい……ここって……!!」

魔物「お、お前、久しぶりだな。キキ!!」

男B「うわぁ!魔物だ!?」

店主「大丈夫だ。俺の顔なじみだ」

男C「なんだと……!?」

店主「ほら、この娘たちなら魔王様も喜んでくれるだろ?」

魔物「どれどれ……おお、確かに!!いいぞ、入れ」

店主「よし、運びこむぞ。手伝え」

男A「お、おお」

魔物「キキ!!傷つけんなよ?」

男B「わ、わかってるよ……」

僧侶(ま、まさか……魔王の城にきちゃうなんて……)

少女(どうしよう……予想外だ……)

―――城内 エントランス

勇者「まて!」

賢者「どうかしました?」

勇者「あれを見ろ」

武道家「あ、あれは……人間!?」


店主「よし、ここでいい」

男A「おい……ここが最高の場所なのかよ」

男B「本当にやらせてくれんのか?」

店主「ああ……天国につれていって……やるぜ!!」

ザシュ!!

男A「あ……てめぇ……」

ドサッ

男C「うわぁぁぁぁ!!!!」

店主「俺の正体を知られたからには生かしておくわけにはいかないんだよ……くくく」

男B「なんだとぉ!?」

僧侶(わ、わ……)

女(タヌキ寝入りがばれたわけじゃないようね……仲間割れ?)

店主「くくく……」

男B「だ、だれにもいわねえ!!勘弁してくれ!!!!」

男C「俺もだ!!誰にも言わない!!だから!!!」

店主「てめえら屑の口約束なんか信用できるかよ!!!」

魔物「やめろ」

店主「あ……」

魔物「ここは魔王様の城である。汚らわしい人間の血をばらまくな」

店主「す、すいません」

男B「ひぃぃ!!?」

魔物「ふん……殺すなら……こうしろ。―――イオナズン!!」

男B&C「―――ぎゃぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!」

ドドォォォォォン!!!

魔物「塵すら残さんように処理せねばな。さてと……ふむ、中々の上玉だ。魔王様も喜んでくれるだろう」

勇者「あ、あれは……!!」

賢者「我々が泊っていた宿屋の主!!」

武道家「じゃあ、あの子はやっぱり……見間違いじゃなくて……僧侶か?!」

勇者「―――く!!」

賢者「勇者様、今飛び出しても先ほど消されてしまった人と同じ目に遭います!」

勇者「しかし!!」

武道家「どうするんだよ!!」

賢者「あの子も少しばかりの呪文が扱える。簡単には死にますまい。それよりも彼女たちを逃がさないと」

女の子「うぅ……」

勇者「任せる」

賢者「勇者様!?」

勇者「俺の愛する人が今、危険にさらされているんだ!!見過ごすことなんてできない!!」

賢者「……わかりました。でも無茶だけはしないでください」

武道家「すぐに行くからな」

勇者「分かった……すまないな」

―――魔王の部屋

魔王「ほほぅ……これはこれは、珍しい……僧侶がいるではないか」

店主「は、はい……いつもただの旅人では飽きるだろうと思いまして……へへ」

魔王「その趣向や良し。気に入ったぞ、わっはっはっはっは!!」

店主「お、おほめいただき……至極光栄でございます」

僧侶(威圧感がすごい……死にそう)

少女(起きるタイミングがない……)

女(まさか魔王に謁見するなんて……)

魔物「では、魔王様。地下牢に連れていきます」

魔王「まて……僧侶は今、この場で食らう」

僧侶(えぇぇ!?!?)

少女(ご愁傷様)

女(南無)

僧侶(そんなぁぁ!!!勇者さーん!!!)

魔王「神に仕える者を食らうことなど、滅多にないからな……くふふ、どう味わってやろうか……」

サルになった
休憩する

―――魔王の城 城外

賢者「では、皆さん。出来るだけ一か所に集まってください」

女の子「は、はい」

賢者「では、飛ばす場所は勇者様の故郷です。そこで王にこの手紙をお渡しください」

女の子「これは……?」

賢者「それを見せれば、貴方たちを温かく迎えてくれるでしょう」

女の子「ありがとうございます!勇者様にも是非、お伝えください!!」

賢者「はい。勿論です。では―――バシルーラ!!!!」

シュン!!

賢者「ふう……」

武道家「休んでる暇はないぜ」

賢者「ええ。勇者様を追いましょう」

武道家「急ぐぞ!」

―――待て!!!

賢者「―――な!?」

勇者「―――待て!!!」

魔王「ぬ?!」

店主「あ……!?」

魔物「貴様は勇者か!?」

勇者「その娘は返してもらおう」

魔王「ふふふ、我の食事を邪魔するとはいい度胸だ。近頃の勇者はテーブルマナーも知らんらしいな」

勇者「生憎と田舎育ちでね。母親も放任主義だった」

魔王「ふん、気品もなにもなったものではないな」

勇者「―――だから、返してもらおう。貴様にとってはただの食糧でも、俺にとっては掛け替えのない愛する人だ」

僧侶(ゆ、ゆうしゃ……さま……///)

少女(お熱いことで)

女(設定温度は30度?エコじゃないね)

魔王「下らん。―――とめてみたくば、我を倒してみよ!!ふははははははははは!!!!!!」

勇者「いくぞ!!外道め!!!」

魔物「させるか!!!!」

勇者「ちっ!邪魔をする―――」

少女「―――せいやぁぁ!!!!」

ドゴォ!!!

魔物「ぐえぇ!?」

勇者「え?」

女「―――はい!せい!!あちょー!!」

ドゴ!バキ!!ドン!!

魔物「ぐべろぼぉ!?!」

勇者「な……魔物を素手で圧倒した……」

魔王「貴様ら……!!」

店主「お前ら!!なんで起きてやがる!?!」

少女「道具屋のお兄さんに偽物掴まされたんですよ」

女「どうやら顔が腫れあがった男が原料を買いに来たらしくてね、怪しすぎるから全く別の原料を渡したんだって」

店主「な、なんだとぉ?!」

僧侶「―――気がつかなかった、アナタの負けです」

勇者「僧侶!!」

僧侶「勇者さーん!!置いて行くなんて酷いですよ!!!」

勇者「すまない……君のためを思ってだったんだ」

僧侶「知ってます……でも、そんな優しさはいりません。ずっと、お傍にいさせてください」

勇者「ああ、もう離すもんか……!!」

ギュ……

少女「ひゅーひゅー」

女「エアコンきつぞーここ」

魔王「おのれぇ……我をコケにしおって……許さんぞ!!!」

店主(まずい……ここらが潮時か……)

少女「ピンチには変わりないか」

勇者「お二人とも下がって」

女「冗談。ここで下がったら武道家として失格でしょ」

勇者「ふ……わかりました。ですが、絶対に死なないでください!!」

少女「了解しました!!」

店主「よ、よし!いまだ―――」

賢者「どこへ行くのですか?」

店主「なぁ!?」

武道家「話は全部この人たちから聞いたぜ?」

店主「は……!?」

町長「攫われた娘さんは勇者様の一行。そしていつに町の住民までもが被害に遭ってしまった」

男性「俺たちは立ち上がることにした……お前と攫われた少女たちを救うためにな!!

町民「「おおおおお!!!!!」」

店主「ば、ばかじゃねーの!!!お前ら人間がいくら束になっても魔王には……!!!」

町長「ふん……魂を売った貴様には分かるまい」

店主「なんだと……?」

町長「越えられぬ壁に挑まねばならぬとき、一人では無理かもしれん。二人でも無理だろう。だが、何十人、何百人と集まれば、壁を昇れる。破壊もできる」

店主「ぐぅぅ……!!」

町長「どけぇ!!!勇者様に助太刀するのだ!!!邪魔だ!!!」

店主「ひぃ!?」

魔王「―――メラゾーマ!!」

ボォォォォォ!!!

少女「あつ!!」

女「タバコの火にしてはちょっと強いわね」

勇者「くそ……!!やはり、この面子では……!!」

僧侶(私にもできることは……)

魔王「ふははははは!!大口を叩いた割には慎重だな。先ほどから一太刀も振っていないではないか!!」

勇者「くそ……!!」

魔王「―――トドメだ!!!」

男性「―――くらえ!!毒牙の粉!!!」

ボフン!!

魔王「ごっほ!!ごほ!!―――何奴!!?」

少女「あ……!!」

町長「勇者様!微力ながら助けにまいりました!!」

勇者「あなた達は……!?」

魔王「人間の分際で……我に刃向うとは……!!!」

賢者「よかった、ご無事でしたか」

勇者「ああ。ここからが本番だな」

武道家「―――あああ!?!」

女「お。なんだ、我が弟じゃーん」

武道家「姉さん!?なにしてんの?!」

勇者「姉さん!?」

僧侶「そうだったんですか!?」

女「へえ、勇者のお供に……ほお」

武道家「なんだよ!ジロジロみんな!!」

少女「くふふ……武道家さん、変わりませんね」

武道家「お前まで!?」

賢者「世間は狭いということですか……それよりも、僧侶さん!」

僧侶「は、はい!!」

賢者「貴女にお願いがあります」

魔王「―――イオナズン!!」

少女「やば!?」

勇者「は!!」

ドドォォォン!!

少女「あ……ありがとうございます……///」

勇者「いや、勇者ですから。か弱き少女ぐらい守ってみせます」

少女「ちょ……か弱いって……やだぁ……」

女「なんだ、ラブロマンスは突然だねぇ」

武道家「姉さんは町の人と一緒に逃げて!!」

女「はいはい。んじゃ、そうしますか」

賢者「いいですか、まだ生き残りの女性がこの城にはいるかもしれません。その方を探しながら脱出してください」

僧侶「わ、わかりました!」

賢者「期待しています」

僧侶「が、がんばります!!」

魔王「全員、消し炭にしてやるぞ!!!」

女「―――うっせ!ばくれつけん!!」

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

魔王「がは!ぐふ!!げは!!!ぼへぇ!!!」

武道家「うわぁぁぁ!!姉さん!!やめてくれぇ!!!」

勇者「す、すごいな……」

僧侶「みなさん!今のうちです!!」

町長「うむ。わかりました。皆の者、生存者がいないか確認しながら城を出るぞ、よいな!」

町民「「おおおお!!!」」

男性「よし、行きましょう僧侶さん」

僧侶「はい!」

店主「ま、まて!!」

僧侶「まだ何か?」

店主「少し考えれば牢屋の鍵がいることぐらいわかるだろ!―――ほら、地下牢の一番奥に隠し通路がある、そこに魔王のお気に入りたちがいるはずだ」

僧侶「店主さん……ありがとうございます」

店主「俺はもう逃げるからな!!あばよ!!」

―――地下牢隠し部屋

僧侶「みなさん!!もう大丈夫ですよ?!」

奴隷「あぁ……夢じゃないですよね?」

僧侶「はい!逃げましょう!」

町民「うわああ!!魔物だ!!!」

僧侶「!?」

男性「怯むな!!気持ちが逃げれば何もできなくなるぞ!!」

魔物「貴様ら……生きて帰れるとおもうなぁ……きひひひ!!」

僧侶「―――みなさん、下がってください」

男性「僧侶さん……?」

僧侶「……」

魔物「きひひひ!!俺達相手に一人で挑もうってか!?」

魔物「あははは、ばーか!ばーか!!無理に決まって―――」

僧侶「………ザキ」

魔物「ぁ―――」

魔物「な!?」

僧侶「……ザキ」

魔物「ひぃ―――」

魔物「うわぁぁぁ!!!くるなぁぁ!!!!」

僧侶「ザキ」

魔物「あ―――」

男性「すげえ……どんどん魔物が息絶えていく……」

町長「うむ。皆の者、奴隷となっていた少女たちを連れてこい!!」

町民「はい!!」

魔物「ぎゃぁぁ!!くるなぁぁ!!!」

僧侶「―――ザキ」

魔物「あ―――」

僧侶「ザキ、ザキ、ザキ!ザキ!!ザキ!!!ザキ!!!!ザキ!!!!!!!」

魔物「んじゃぁあああああ!!!!!!」

男性「よし!魔物が一掃された!!この隙に逃げましょう!!」

女「―――ダブル!」

少女「飛び膝蹴り!!!」

ゴォォォォン!!!

魔王「ぐほぉ!?」

勇者「顎に入った!?」

賢者「よし、勇者様!!」

勇者「―――くらえ、魔王!!!これが、人間の力だぁぁ!!!」

ザン!!

魔王「ぐぉぉぉおおお!!!バカな!!バカな!!!!我が消滅するというのかぁぁぁぁぁ!!!!」

女「―――さっさと逝け!!かかと落とし!!!」

ゴン!!

魔王「ひぷ!」

ドシーン!!

女「オスッ!!」

勇者「……まあ、いいか。よし、脱出だ!!」

ゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

町長「城が崩れ始めた!?」

男性「勇者様が魔王を倒したんだ!!」

僧侶「そうか……魔王の魔力で作り上げられていた城だから……魔王が倒された今……」

町長「皆の者!瓦礫の下敷きになりたくなければ、急げ!!」

町民「「おおお!!!!」」

ダダダダダダッ!!

奴隷「あ……!!」

僧侶「あ、大丈夫ですか!?」

奴隷「すいません……」

僧侶「さあ、手を。立てますか?」

奴隷「はい、ありがとうございます……」

僧侶「早く逃げなければ折角助かった命です―――」

ゴゴゴッ!!

男性「僧侶さん!!巨大な瓦礫が頭上に!!!逃げて!!!」

奴隷「きゃぁぁぁあぁ!!!」

僧侶「―――そんな!!?」

店主「―――どんくせええ!!!!」

ガン!!!

僧侶「店主さん!?!」

店主「俺が支えててやる……早くいけぇ!!!」

僧侶「ど、どうして……!?」

店主「……アンタらのバカが移ったんだよ……く、そ……良い迷惑だ……」

僧侶「店主さん……!!」

店主「いけえ!!長くはもたんぞ……ぐぐ……!!」

僧侶「はい……すいません。……ありがとうございました」

店主「―――すまなかったな」

店主「はぁ……もう少し早くあの僧侶さんに出会えてれば……俺は魔王に破壊された故郷と共に死ねたのかもしれんな」

店主「ふ……今更か―――」

―――ズゥゥゥゥゥゥン!!!

―――城外

勇者「―――終わった」

僧侶「はい」

武道家「姉さんのおかげだな」

女「私はなにもしてない。アンタらの手柄さ」

賢者「しかし、このことを報告すれば、あなたも英雄として……!!」

女「そんなのに興味ないね。私が興味あるのは酒場を盛り上げる方法論だけ」

少女「あはは、オーナーらしいです」

武道家「ねえさん」

勇者「よし、帰ろう。みんなが待っている」

僧侶「はい……勇者様」

勇者「僧侶……故郷に帰ったら正式に結婚しよう」

僧侶「はい……喜んで……」

女「いいなぁ……私も旦那さんほしいなぁ」

少女「彼氏もできたことないくせに―――あだだだだ!!すいません!!!あらぬ方向に腕をまげないでぇぇ!!!」

―――勇者の故郷 城内 謁見の間

王「―――勇者よ!!どういうことだ!?」

勇者「は?」

王「この50人を超える娘たちは皆、勇者の妻になることを希望しておるぞ!!」

勇者「はぁ!?」

女の子「「勇者様、一生お世話させてくださーい!」」

僧侶「勇者さん……どういうことですかぁ!?」

勇者「しまってる……じまっでるがら……ぐび!」

王「手紙の内容も……全員の責任を持つとかいてあるしのぅ」

武道家「賢者……お前の仕業か?」

賢者「まあ、そうでもいわないと王が面倒をみてくれないと思いまして……一夫多妻、いいじゃないですか!勇者の子孫は多くても困りませんし」

僧侶「結婚式は!!結婚式はどうなさるんですかぁぁぁ!!!!!」

勇者「じぬ……!!いぎでぐない……・!!!!」

僧侶「うわぁぁぁん!!!勇者さんのバカー!!今度は私が勇者さんを見捨ててやるー!!!」


おしまい

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