フィアンマ「許されるのなら、もう一度だけ」 (407)



・CPというCPは特になし(固定CPは無し)

・22巻後、原作1巻時点までタイムリープしたフィアンマさん

・エロもグロも無いです

・少しだけ旧約1巻再構成

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1364399226



世界が何で出来ているか、知っていますか。
とある人は水と言い、とある人は火と言いました。


世界が何を求めているか、知っていますか。
とある人は幸福と言い、とある人は平和と言いました。


世界がどうしてこうなったのか、知っていますか。
とある人は何も変わっていないと言い、とある人は歪んでいると言いました。



—Sofferenza—



右肩の断面が、ジクジクと痛む。
冷えて凍っているが故に、出血はしていないようだ。
金髪の青年に背負われ、ぼんやりと思考する。
独り言を漏らしたところで、誰にも責められはしないだろう。

「……俺様は、間違えたんだな」

掠れた声が、白く空気に溶ける。
全世界から拒絶されたことを、肌に感じている。
それだけのことをしたということも、わかっていた。

本当に世界を救いたかったのなら、悪意に善意が打ち勝ったこの状況を、喜ばなければならなかった。

あの男はそう言った。
あの時、自分は何を考えていただろう。

誰も何も信じられないまま、救済に固執した。
世界から救済を拒絶され、投げやりになった。

あの時、確かに自分という人間は死んだ。

少なくとも、魔術師としての死は迎えた事だろう。
ずっと昔に決めた魔法名を、口の中で繰り返す。

これを達成したかったのなら、もっと方法があったはずだ。
誰も犠牲を出さない、もっと別の方法があったはずだ。
それだけじゃない、世界を救うなら、世界を追い詰めなくても良かった筈だ。

間違えた。間違えたんだ。
失敗した。しくじった。

世界を見なくても、自分が間違っていた事だけはわかる。
息が苦しい。誰かに首を絞められているかのようだ。

「……産まれてこなければ良かった」

『世界を救える程の力』。
『世界を救う為の力』。

不完全なそれを持った。
こんな力が無ければ。
いいや、そもそもこの力の使い方を間違えるような自分という存在さえ居なければ。

「産まれてこなければ、……」

誰も傷つけないで済んだ。
こんな人生に、何の価値があっただろう。

全ての努力をつぎ込んできた分、苦しみの反動がやって来る。



疲労と憂鬱とに、フィアンマは目を閉じた。
そうして、瞼の裏側で、泣いていた。
生涯でただ一度手を差し伸べてくれた少年の死を、嘆きながら。




七月十九日。
右方のフィアンマは、水中で目を覚ました。
状況がわからず、困惑しながらも上がる。

「げほ、っ」

水と息を吐き出し、荒い息を繰り返す。
のろのろと手を伸ばし、掴んだのは、階段の手すり。
彼が浸かっていた、否、浸かっているのは、プールの水だった。
濡れて張り付く髪を後ろへ流し、フィアンマは混乱する。
咄嗟に今使用した右腕も、義手の類ではなく、生身の、自分の腕だ。
視線を下に下げる。フィアンマは水着を着用していたようだ。
即ち、一人で、プールで悠々と遊んでいたということになる。

「…どういう事だ」

日差しが眩しく照りつけてくる。
十月、或いは十一月の空気や、天気ではない。
どう考えても七月頃の空気だった。
フィアンマはひとまずプールから出、周囲を見渡して状況を確認しながら、着替える。
普段の服に着替えて、鏡を見てみる。何の遜色も無く、自分自身だった。

どういう事だ。
どうなっている。

ぐるぐると渦巻く思考に、フィアンマは髪をかき乱したくなる。
我慢しつつタオルで丁寧に髪を拭き、聖ピエトロ大聖堂へと戻ってみた。
何も壊れていないし、騒ぎにもなっていない。

(昏睡状態になり、数年経過……いや、違うか)

それなら、プールの中には居ない筈。
単純に0と1の思考で状況判断をしてみたが、やはりわからない。



そうこうしていると、後方のアックアと目が合った。
彼は敵意などを一切見せず、むしろ不可解そうにフィアンマを見やり。

「今日は休日だと聞いていたが、緊急の予定でも出来たのであるか」
「……特にないが。……アックア、一応聞いておくが」
「何だ」
「今日は、何月何日だ」

フィアンマの質問に、後方のアックアはやはり不可解そうに眉を潜め。
そうして、当たり前の事実を当たり前に答える。

「今日は七月十九日である」
「…しち、がつ?」

西暦を問いかける。
やはり、当たり前の回答が帰って来た。
ここは未来ではない。どちらかといえば、過去だった。

アックアと別れ、フィアンマは地下書庫へ入る。
誰も居ないひんやりとしたその場所は、頭を冷やしてくれたし、思考を整理する相応しい場所だ。

(今日は、七月十九日)
(西暦はXXXX年)
(つまり、俺様は過去へと戻って来た)
(最後の記憶はあのオッレルスと名乗る男に背負われたところまで)
(何らかの術式を適用し、過去に戻したところで諸記憶を消去した?)
(何の為に。目的が全くもって見えない)
(そもそも俺様本人を移動させたのなら右腕は無い筈だ)
(縫合したにしては手術痕が見当たらない。魔術による接続があったとも思えない)
(……同じ世界なのか? 平行世界である可能性もある)
(しかしアックアの反応や言葉を交わした際の反応を見るに、俺様は『右方のフィアンマ』のままだ)
(戦争は起きていない。……そのような準備も、資料を見るに俺様は始めていないようだ)
(まだ、引き返せる。……まだ、………遅くない)
(今まで此処で生きていた"この俺様"には申し訳ないが、)





「許されるのなら、もう一度だけ」





やり直す、チャンスを。



今回はここまで。
地の文オンリーで、割とすぐ終わります。

乙です
スレタイ見て間髪入れずまたホモかと思った
てかいくつのスレを並行しているんだ

またおま


>>17
今回はホモじゃないです…非常に珍しく。

>>19
(俺です)







投下。


—inizio—


人生をやり直す。
そんなことは、不可能とされている。
時間とは一直線なものであり、逆行出来るものではない。
過去があるから現在を生きる事が出来る。
そして、人間とは時間に逆らえない生き物だ。
だからこそ、タイムトラベルなどというものはそう簡単に出来ない。
科学サイドの長学園都市でも、未だに時空移動技術は確率されていないのだ。

だが。

そういった、"絶対に起こりえない奇跡"を、幸運にもフィアンマは手にした。
そうして今、彼は、学園都市へとやって来ていた。

本日、七月二十日。
禁書目録と呼ばれる少女は、安全ピンで補修された修道服を着用して移動していた。
魔術的防護の無い彼女を捕らえる事など、何の力も無い少年一人で事足りる程。
故に、右方のフィアンマが彼女を捕らえる事など、赤子の手首を捻るより、造作も無い容易さだった。


「私を狙ってる悪い魔術師かと思ったんだよ」
「今は思っていないのか?」
「だってこんなに沢山のご飯をご馳走してくれるんだもん、悪い人な訳ないかも」
「その判断基準は改めた方が良いと思うがね」
「む。じゃあ、貴方は悪い人なのかな?」
「否定はしないが」
「………」
「……で、追加注文はしなくて良いのか?」
「んっ、デザート注文したいんだよ。どれにしようかな」

右方のフィアンマと禁書目録と呼ばれる少女は、学園都市内のファミレスに居た。
インデックスはもぐもぐと料理を食べ、デザートを追加注文する。
彼女は街中で行き倒れそうになったところを、フィアンマに拾われたのだ。
胸元の霊装に警戒心を見せる彼女のそれを解くべく、彼はファミレスへとやって来た。
以降、既に三時間程、彼女はノンストップで料理を食べ続けている。
料理を食べる手を緩めないながらも会話はするのだから、いかに彼女が食を愛しているかよくわかる。
もっとも、多少まずくても文句一つ言わずに完食してしまうので、美食家とは程遠いのだが。

「あ」

ふと、彼女は食事の手を止める。
無邪気な笑みを浮かべていた彼女の表情に、陰が差す。

「………、…私、戻らなくちゃ」

言うなり、彼女は食べ物を口へと詰め込む。
そんな彼女を、フィアンマは制した。

「何処へ行くというんだ」
「…ある男の子のお部屋に滞在して、フードを忘れちゃったんだよ」

破損した『歩く教会』の一部が置かれている。
サーチ術式に引っかかってしまえば、あの部屋は襲撃される。
自然な流れとして、家主たるあの少年が拷問されるかもしれない。
あの少年はただ、自分に食事を振舞ってくれただけの、心優しい少年なのだ。
魔術師との闘争に追われる必要はないし、そんなことにはなって欲しくない。
不味い状況だ、と彼女は焦る。

(ああ、この女は此処で引き返し、上条当麻に救われたのか)

それこそが、多くの闘争の始まり。
フィアンマはインデックスを見つめる。

「一人では戻るな」

関わろうとしてくれる優しい人が、此処にも一人居る。
思いながら、インデックスは微笑んで首を横に振った。

「ううん、私一人で戻れるんだよ。だからもう貴男とはさよな、」
「此処でお前に戻られては不味いんだ」
「え?」

戸惑う彼女を連れ、会計へ向かう。
フィアンマはこれからどうすべきか、少しだけ迷走していた。

けれど。

"前"のように迷い無く間違ってしまうより、ずっと良い。


「お前が世話になった少年の家はどちらだ」
「こっちなんだよ」

二人の魔術師は、上条当麻の家を目指して歩いていた。
その足取りはかなり早いもので。
昼食を長時間摂っていたこともあり、上条の家へ到着したのは夕方だった。

「『人払い』を敷いておくべきかね」
「出来ればお願いしたいけど…魔術師相手だと破られるかもしれないんだよ」
「安心しろ、恐らく俺様よりは格下だ」

傲慢に言い切り、フィアンマはルーンを壁に刻む。
相手がルーン使いであれば或いは破られるか、とも思う。
インデックスは彼の行動に安堵しつつ、上条の部屋へ侵入した。
そそくさと白いフードを手にし、頭に被る。

(…うん、後は…イギリス系の教会に助けを求めれば大丈夫、かな)

廊下に戻る。

「回収出来たんだよ。本当にありがとう」
「構わん。……これからどうするつもりだ」
「イギリス清教の関与している教会に身を寄せるつもりかも」
「……そうすれば、お前は記憶を消去されるぞ」
「え?」

戸惑う彼女を、金色の相貌が捉える。
インデックスは困惑しながら、フィアンマを見上げた。
彼は、現時点でインデックスが抱えている事情を知っていた。

一年ごとに記憶を消されなければ生きられない体へ貶められている。

アウレオルス=イザードと話をして、随分と前から。
それを解決しない限り、彼女は地獄の底に居続ける事も。
そしてそんな状態になっている原因は、既に掴んでいる。

「俺様は、お前を救う。…全てを知っている。一度見て、聞いて、知った事だからだ」
「何を、言ってるの? …私と一緒に逃げてくれるってこと?」
「そう言い換えても良いのかもしれないな、或いは」
「……ダメだよ。そんなの」
「何がどうダメなんだ?」
「私と一緒に居ると、……地獄を見るから」
「地獄なら、もう何度も見ている」

だからこそ世界を救おうと決意して、間違えた。


フィアンマはかつて、好きなだけ情報を引き出した彼女の頭を、撫でる。
その手つきは優しく、慰めるように、守るように丁寧なもの。

「私の事情に巻き込みたくないんだよ」
「良いんだ。これは、罪滅ぼしだ」

自分の為に、この少女を傷つけた。
だから、やり直すのであれば、彼女を守らねばならない。
救わねばならないと思うし、助けなければならないとも思う。

「お前は知らない事だが、俺様はお前を傷つけた」
「昔…?」
「いいや、未来の話というべきか」
「何を言っているかわからないかも」
「俺様自身もわかっているとは言えないな」

突如として、炎剣が飛んできた。
フィアンマは咄嗟にインデックスの前へ出る。
彼の服に仕掛けられている防御術式が、炎剣を消した。
暗闇の中から、声が聞こえてくる。
現れたのは、赤髪の、神父服を纏った少年だった。

「悪い事は言わない」

彼は、ルーンのカード束を握ったまま、フィアンマを睨む。
その眼光は静かながら、鋭いものだった。

「彼女をこちらに引き渡してくれれば、後は関与しない」
「残念だが、それは聞けない頼みだ」
「…頼みではないよ。忠告、といったところかな」
「生憎、忠告を受けて容易く行動を変える性格はしていないものでな」

唯一、影響を受けたのは。
命懸けで自分を助けた、あの男だけだ。


「先に名乗っておくよ。君も魔術師なら、魔法名を名乗る意味位分かるだろう」
「『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』」
「僕にとってこれは殺し名だ。…必ず、殺す」

告げて、彼は詠唱する。
フィアンマから発される常人とは一線を画した雰囲気に、最初から切り札を出す事にしたのだ。

少年———ステイル=マグヌスがフィアンマを魔術師と知っている理由は簡単で明快だ。

フィアンマは少年と呼べる年齢ではなく、インデックスのことを詳しく知っていたから。
前者の情報により学園都市の学生ではなく、後者の理由により魔術師と断定した。


  M T W O T F F T O I I G O I I O F
  世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ

   I  I  B  O  L  A  I  I  A  O  E 
  それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり

    I  I  M  H  A  I  I  B  O  D 
  それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり

   I I N F I I M S 
   その名は炎、その役は剣

   I  C  R  M  M  B G P 
  顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ
                                   」


形状は、炎の巨人を象る重油の人型。
真紅に燃え盛る炎の中、重油の様に黒くドロドロとした人間のカタチをしたモノ。
この炎の塊自体を攻撃しても意味は無い
周囲に刻んであるルーンの刻印を消さない限り、これは何度でも蘇る。
教皇級の魔術だ。
3000℃の炎の塊が突撃が、凄まじい威力で突撃してくる。

『魔女狩りの王(イノケンティウス)』

常人であれば。
否、普通の魔術師であれば、防いでいる内に死を迎えるが定め。
だが、フィアンマは臆する事もなければ、防ぐ様子も無かった。
彼の右肩からは、魔女狩りの王よりも巨大で透明な腕のようなモノが顕現している。

        ・・・・・・・・・・・
「……残念だが、たかが教皇級程度ではな」

彼は笑って、右手を振った。
ルーンの記された紙が、熱湯で濡らされる。
廊下に遺るは、少年の息切れ。
青年は、僅かに首を傾げた。

「手早く済ませよう。素人を巻き込む前に」

彼の言うところのそれは、とあるツンツン頭の少年のことだった。


今回はここまで。

>>17
そうそう、並行しているスレは二つです。

平行してるのが2つでも、>>1様は連続で立てますから沢山平行してるように錯覚……
一月の間に何個たてるんでしょうね


>>35
ひと月…大体六個位でしょうか…?
同時並行は三つまでと決めてます。






投下。


—Risolvi—


ステイル=マグヌスを連れ。
インデックスを連れて。
フィアンマは、 第一九学区の廃ビルへやって来ていた。

時刻は午後七時。
暗くなり始めたその場所へ、女聖人は現れる。

(後方のアックアを打ち破った一要素)

思いながら。
フィアンマは冷静に、極東の聖人を見据える。

「今、何と…?」
「…禁書目録には、『首輪』が仕掛けてある。その仕組みが脳を圧迫している」
「……、…」
「それさえ取り除いてしまえば、記憶を消去する必要は無い。元より、人の脳はそんなに脆くない」
「それを、私達が信じると思いますか。そんな、」
「自分達の苦しみの過去を否定する現実を? だが、その意地は何度でも魔道書図書館を殺す事になるぞ」
「ッ、」
「夢物語と否定せず、まずは自分達の落ち度を認めろ」

魔術師にして、科学を識る者。
数度攻撃を弾かれ、果てには反撃を受け。
聖人は———神裂火織は、フィアンマの言葉を聞く事にした。


『首輪』の除去は、非常に難航した。
直接手を出せば後々問題になるフィアンマが、口頭のみで指示をし。
その指示に従って、神裂とステイルが慎重に彼女の喉から『首輪』を抜き取ったからだ。
当然ながら防御機構は働いた。
フィアンマは淡々と『聖なる右』で対処した。
インデックスの意識ごと刈り取り、そうして昏睡した彼女の喉から抜き取った。
『首輪』といっても、特殊な霊装であるだけだ。
グシャリとそれを握りつぶし、ステイルは静かに項垂れる。

「僕達は、…何てことを……」
「…知らなかった事は、罪にはならない」

たった一言だけ慰めの言葉をかけ。
フィアンマは、インデックスを起こした。
彼女は目を覚まし、ぼんやりとした表情で周囲を見て。
そして、首を傾げた。

「記憶を消すっていう話は、どうなったのかな…?」
「片付いた」

シンプルなフィアンマの答えに、インデックスは目を瞬く。
ステイルと神裂を見回して、言葉を数度交わした。

「じゃあ、あなた達は私のともだち、だったんだね」
「……」
「……」

二人の魔術師は、視線を逸らす。
白い修道女は申し訳無さそうに、それでも優しく微笑んでいた。
そんな三人を見て、フィアンマは思う。


(……これは、お前の守った世界というもの、なのか)
(俺様が見ようとしてこなかった、悲劇から救われた人間なのか)


そしてこれは不正解じゃないんだろうと、思う。


「もう行っちゃうの?」

廃ビルから出ようとしたところで。
インデックスの声がかかり、フィアンマはピタリと止まった。
顔を見なくても、寂しそうな表情は見てとれる。
戦争中、意識が繋がる度に自分へ説教していた女と、同一人物なのだから。

「俺様は部外者だ」
「それは、…わかるけど、でも、」
「イギリス清教に身を置き続けるのなら、気をつけろ」
「……うん」
「……では、」
「待って。…名前、教えて欲しいかも」
「名前?」

問われ、戸惑う。
絶対に名乗る訳にはいかない。
フィアンマは迷って、悩んで、嘘をついた。
本当なら歴史に刻まれる筈だった名前だ。

「上条当麻」
「…上条当麻?」
「……ああ」

彼は、一歩踏み出す。
次の瞬間には、彼の姿は消えていた。
残された三人の魔術師は、とある東洋人の少年の名を、脳内で繰り返していた。


少年は、走っていた。
ただひたすらに、武装無能力集団(スキルアウト)から逃げていた。
息が切れ、苦しく、遂には胸が痛くなってくる。

(な、何なんですか今日の不幸はーッ!?)

時刻は午後七時四十二分。
上条当麻は全力で疾走しつつ、泣きそうになっていた。
自分はただ補習を終えて、家に帰ろうとしていただけなのに。
一度家に帰って、買い出しに行こうと思い返し、買い出しに行っていただけなのに。
買い物袋を持ったまま走るのは辛いし、後ろからはナイフが飛んでくる。

「うううう畜生ー!! 不幸だあああああ!!!」

今日のラッキーな事といえば、白い修道女の女の子の謎服を右手の効果で破いた事位だ。
女の子の裸を見たのは今日が初めてだった。きっとこれから先は無いだろう。
そんな余計な事を考えていると、ナイフが僅かに頬を掠る。

「ッ、」

どうすればいいんだ。

思いつつ、路地裏へと逃げ込む。
すると、急に気配が立たれた。
スキルアウトの集団は、上条が路地裏へ飛び込んだのを見た筈なのに、追ってこない。

「ま、撒いた…?」
「そのようだな」
「!!」

暗闇から聞こえた声に、上条は咄嗟に振り向く。
気付けば、両手に買い物袋が無かった。
路地裏の奥の方へ投げ込んでしまっていたようだった。

そんな、買い物袋をキャッチしてくれたらしい。

二つの袋を抱えた赤髪の青年が、暗闇から姿を現した。

「あ、それ俺の…」
「お前の買い物袋だろう。唐突に投げ込まれ、こちらとしても驚いたぞ」
「すみません…後、ありがとうございます」

素直にお礼を言い、上条は青年から袋を受け取る。
青年、もといフィアンマは、首を横に振った。


「礼を言うのは、俺様の方だ」
「へ?」

上条は不可解そうに、フィアンマを見上げる。
フィアンマは彼の右腕を見て、顔を見て。
そして、僅かに口元を歪めて笑みを作った。

誰かを嘲る為ではなく。
苦しみを堪える為ではなく。

誰か<一人分の世界>を救えた達成感、そのままに。

「今のお前に謝っても、仕方の無い事かもしれない」
「何を、」
「だが、言っておく。…ありがとう。それから、すまなかった」

一方的に言葉を押し付け、フィアンマは背を向ける。
上条から逃げ出すように、そのまま姿を消した。
残された少年は買い物袋を持ち直し、首を傾げる。

「……『ありがとう』?」

自分は一体彼に何をしたのだろうか、と思いつつ。
今度こそ安全となった家路を、ゆっくりと歩き出した。


「ただいまー」

一人になった家の中。
上条は、冷蔵庫の中へ、買ってきたものを詰め込んでいく。
昼に会った白いシスターが、ふと脳裏を過ぎった。

『なら、地獄の底までついてきてくれる?』

優しい笑顔と共に口にされた問いかけ。
即答で頷いてあげられなかった。
何度も地獄を経験してきたクセに、頷けなかった。
もしかしたら、あの子は殺されてしまったかもしれない。

「……仕方、ないだろ」

所詮、自分は偽善使い。
偽善者は偽善者らしく、自分の目の届く範囲だけを助けていれば良いのだ。
掃除の時、目に付いた場所しか掃除しないのと、同じ。
大掃除のように隅々まで救う事なんて、出来ない。

「………」

上条は無言で、自分の右手を見る。
何の変哲もない、少年らしい普通の手。
しかし、色んな場所へ不幸を振りまき、不幸の避雷針となる原因の、右手。

「……こんなものがなければ…」

或いは。
真逆の、幸運の右手があったのなら。
例えば、世界を救えるような強大な力があったら。
沢山、皆、あの子のことだって、救えたに違い無い。

嗚呼。

もしかしたら、この手を使った手料理を食べて、あの子は更に不幸になったのでは。
そんなことを思ってしまって、上条はぐしゃぐしゃと髪をかき乱す。
ストレスで気をやられてしまう前に、と買ってきた半額のいちご牛乳を口にした。
不愉快な程の甘ったるさが、上条の口内を侵食していく。

「……ごめんな…」

無邪気な笑顔を浮かべ、食事をしていた少女。
首を横に振って、上条はいちご牛乳を煽る。
空っぽになった紙パックを洗い、無造作にゴミ箱へと投げ捨てた。




「ごめんな……」


今回はここまで。
需要があれば続きを書きますが、さほど無ければ次の投下少レス数で終わる予定です。


レスありがとうございます。
予定を変更して続きを書く事にしました。
なので、>>1から注意書きが変更されます。


・CPというCPは特になし(固定CPは無し)

・22巻後、原作1巻時点までタイムリープしたフィアンマさん

・グロ描写の恐れあり

・この先死亡するキャラが居ます


以上の点を、今後気をつけてお読みください。








投下。


—Monologo—



かなり寄り道をした、その後に。

右方のフィアンマは、聖ピエトロ大聖堂近くへと戻って来た。
自分がしたことが、どれだけの影響をもたらすかはわからない。
だが、少なくとも上条当麻が悲劇に巻き込まれる確率は下がった筈だ。

「……、…」

『誰だって、戦って良いんだ』
『世界を敵に回しても、これだけは守りたいと、そう決めたもののために』

「……それで、お前にとっては、それが、あの魔道書図書館の女だったのか」

独り言だった。
夜の聖ピエトロ広場は、静かだった。
彼の独り言は、彼の中で消化されていく。
今でも目を閉じれば、あの少年と意思疎通が出来るかのように、少年の発言が想像出来る。

「……これで、良かったのか」
(俺は、間違ってないと思うけどな)
「無駄になったかもしれないがね」
(無駄だったら、また助けに行けば良い)
「不毛だな。お前は、そんなことばかりしていたが」
(誰かを助けるなら、責任持てよ。何度だって、助けに行くべきだろ)
「そうだな。……、」

遥か遠いロシアの地で。
あの少年は、どうしているだろうか。
あの悪運の強い男の事だ、死なずに誰かに救われているだろう。

「………」

そう思いたいだけかもしれない。
自分を助けたあの男が凍死などという普通の死に方はしていないと、そう考えていたいだけ。

「…もう少し、お前と話しておくべきだったかな」

脚を組む。
ぼんやりと見上げた空、美しい月が光っていた。



きっと、明日は晴れるだろう。


予想通り、今日も晴れた。
調度、落書きするような気分で、壁へチョークを走らせる。
丁寧に綴ったラテン語の文章は、やがて術式として機能した。
通信術式を仕掛けた相手は、ただ一人。

『呆然、如何にして我が居場所を知ったというのか』
「本人サーチをかけるのではなく、痕跡を追っていけば簡単だろう。
 ましてや、世界を敵に回している男が相手であるならば」
『……なるほど』
「お前が何をするか、知っている。だから、先に忠告しておくぞ」
『困然、何を忠告すると?』

アウレオルス=イザード。
パラケルススの末裔たる、チューリッヒ学派の錬金術師だ。
元ローマ正教の『隠秘記録官』。
その中でも最速筆で知られ、不眠不休で取り掛かれば薄い物なら3日、分厚くても一ヶ月で書き上げられた程の鬼才。
当然の事ながら、フィアンマも彼の存在を知っていた。
そしてカレンダーを見れば、彼がこれから何をするか、知っている。
故に、先回りして全て話した。インデックスに施した処置についても、全て。
通話術式の向こう側、アウレオルスは少しばかり困惑して、混乱して。
そうしてフィアンマを信じ、言葉を受け入れ、現実を認識した。

『当然、…理解した。では、あの子はもう、幸福なのか』
「イギリス清教の女狐がこれ以上何かしていなければ、な」
『そうか。……しかし、何故私の動向を、』
「企業秘密ということにしておこうか」

少しでも、上条当麻が魔術絡みの事件へ巻き込まれる可能性を低めていく。
伏線を忍ばせておくのは、得意だった。
悲劇を起こす事が出来る頭脳は、悲劇を回避する為に生かされる。


アウレオルスとの通信を終え。
フィアンマはミニバゲットを口に咥え、書類を整理する。
戦争の為に行ってきた最初の最初、その下準備を、打ち消していく。
もがもが、と頬張りつつ、書類を片付けた。
一部を焼却して無くし、眠い目を擦る。

「……、…」

これは全て夢なのかもしれない。
死にかけている自分の見ている、白昼夢なのかも。
思うけれど、フィアンマは努力を惜しまなかった。
この世界が自分の救済を拒絶する事は、とうに分かっている。
だから、救済をするための準備など、一切合切捨てるべきなのだ。

「………八月、二十八日」

この日の事件だけは、回避出来ない。
しかし、起こるタイミングと、場所は分かっている。

「………」

過去を変革していけば、未来は変化する。
自分は、十月三十日を無事に越える為に、こんなことをしているのだろうか。

(お前は、世界を救いたいんだろ?)

『上条当麻』が、そう問いかけてきた。
自分が口にしてきたそれと、違う意味合いであることはわかる。
『世界を救おうとして酷い事をする自分』から、世界を救いたいのだ。

「……、…これで良いんだ」

ふぅ、と息を吐く。
乾いた喉を、紅茶で潤した。
ミニバゲット一本、紅茶一杯の粗末な食事が終わる。


今回はここまで。

『上条当麻』はタイムリープについてきた幽霊等ではなく、フィアンマさんの脳内妄想の会話相手です。
所謂イマジナリーフレンドというものになります。


ご要望により続き書いたのは良いものの、ネタが尽きかけてストーリーがふわふわしています。
すみません。ネタ提供のようなものがあるととっても嬉しいです。
展開予想や雑談は荒れない範囲でお好きにどうぞ。









投下。


—tragedia—


バタフライ効果とは、カオス力学系において
通常なら無視できると思われるような極めて小さな差が
やがては無視できない大きな差となる現象のことを指す。
カオス理論を端的に表現した思考実験のひとつ、あるいは比喩である。


八月二十四日。
御坂美琴は、呆然としていた。

「…ど、して?」

絶対能力者進化実験は、完全凍結に至らず。
上条当麻が命懸けで勝ち取ってくれた勝利は、泡と消えた。

「……、」

樹形図の設計者による、再計算の結果だった。
無能力者の襲撃による中断の分、実験回数が増えてしまった。
美琴にとっては、最悪の結果だった。
それはつまり、殺されるべき妹達の数が増えてしまったということなのだから。

「………」

樹形図の設計者が、何らかの原因で破損してくれたら。
そう願わずにはいられない。
だけれど、そう簡単に現実は変わってくれない。
美琴は、愛らしいカエルのキャラクターの描かれたハンカチを、握る。
妹達のとある個体と、一緒に購入したものだった。
ありがとうございます、とぎこちない笑みを浮かべていた。
あの少女達は、やはり、日常には足を踏み入れられない。
一度救われたと思った分、失望感は強く、美琴の精神を追い詰めていく。

「………」

結局。
運命という強大なものに、巨大なものに、押しつぶされてしまうのだ。
絶望が、彼女の華奢な身体を支配していく。今にも心臓が潰れてしまいそうだった。

「あは、…あははは……は、…っっ、…うぅ……ぁ、…ああああああっっ…!!」

溢れる涙を拭う事すら出来ないまま、美琴は項垂れる。
いつも慕ってくれている後輩のルームメイトは、外出中だ。
だから心配されない。孤独が、かえって心地よかった。


とある少年が、壊してくれたはずの下らない幻想だった。

とある青年が、知らずに築いてしまった残酷な現実だった。


「やっぱり、私が消えるしか、ないじゃない。神様って、意地悪以外の何者でも、ないんだ」



八月二十八日。
上条当麻は、諸事情により、実家に居た。
自分の知らない場所で悲劇が起きているとも知らず。
だらだらと過ごしつつ、夏休みの宿題を片付ける。

「あー……」

読書感想文、めでたく終了。
朝早く起きだしてやっつけた為、現在時刻は午後六時五十四分。

「そろそろ飯かn「お兄ちゃんおっきろー!」うわっ」

突如として襖が開き、誰かが飛び込んできた。
キャミソールを纏っているのは。

「誰だよ、って!?」

白井黒子、と呼ばれている女子中学生だ。
美琴を敬愛している様子だった、彼女の後輩だった。
何の悪ふざけだ、と上条は思う。
『空間移動』はレベル4、そうそう『外』には出られない筈。
ドッキリ企画の為にわざわざここまでやるだろうか、と上条は首を傾げる。


八月二十八日。
右方のフィアンマは、日本へとやってきていた。
より正確に言えば、上条当麻の実家付近へと。

「…此処で合っているのか?」
(この先の道を左)
「左か」

独り言をぼやいて歩いて行く彼の姿は、さながら迷いの観光客の如く。
彼はあくまで『上条当麻』と会話をしながら進んでいる訳なのだが。
なので、正確には不思議の国のアリスと例えてみるべきかもしれない。
だとするならば、『上条当麻』はチェシャ猫といったところか。

「……騒ぎが拡大する前に、儀式場を潰す」
(俺の家を壊すってことか?)
「正確には、儀式場の様子を見て、それ次第で決まる」

大型戦術魔法陣の場合、下手に動かすと別の術式が発生する。
いざというときは『第三の腕』で全て壊すか、と思いつつ。
フィアンマはようやく、上条の両親が住む家へとたどり着く。
丁度上条の両親は出かけた後らしく、人気は無い。
これは好都合、とフィアンマは挙動不審になるでもなく、家の中へ入り込んだ。
彼の前において、物理的な施錠など、何の意味ももたらさない。

(何かもう何というか、空き巣だよな)
「言うな。俺様だって好きでこんな事をしている訳ではないのだから」

文句を言いつつ、フィアンマは魔法陣を解析する。
どう動かせば解決、という代物ではなかった。

つまり。

「魔法陣を形成している土産品一切を全て壊す」
(マジで壊すのかよ)
「それ以外に道があるのか?」
(無いけどさ…)

無気力に、フィアンマは右手を突き出す。


上条当麻は、のんびりと海で遊ぶ事にした。
母親と従姉妹の竜神乙姫が、楽しそうに笑って遊んでいる。
ビーチバレーに加わるべきか、とぼんやり思いつつ。
眩しく照りつけてくる日差しに視線をやった。

(朝のは何だったんだろ)

白井黒子が起こしに来る、などと。
変な夢を見てしまったものだ、と上条は思う。
くぁ、とあくびが漏れた。少し眠い。
ごろん、と砂浜に寝転がり、視線を上げてみる。
喉が渇いてきたのだが、立ち上がって買いに行く気力なぞない。
あくまでやる気のない一般男子高校生である上条は、ぼーっと時間を過ごす。
母親と従姉妹が充分遊んだら、旅館へ戻って、冷たい麦茶でもいただこうか。
そんなことを考えている内に、気付けば脱水症状を起こしかける。
だがしかし、海辺で遊んでいる二人の女性は気づかず。


(あ、やべ、何か頭クラクラしてき———)


「うわ、っぶ!?」

突如、頬にキンキンに冷えたペットボトルをくっつけられ、上条は跳ね起きる。
混乱のままに視線を上げれば、そこには。

「…あれ? この前の、」
「また会ったな」

スポーツドリンクのペットボトルを持った、赤髪の青年。
買い物袋をキャッチしてくれた、親切なあの人だった。
学園都市で会って、『外』で会って、しかし、上条は別に彼をストーカーの類とは疑わず。
差し出された未開封のペットボトルを、不思議そうに受け取った。

「? これは」
「今さっき脱水症状を起こしかけていたからな」
「……どうも」

自覚はあった為、有り難く開封して頂く事にする。
ごくごくと甘しょっぱい清涼飲料水を飲み下し、上条はゆっくりと息を吐き出す。
適切な塩分濃度の水分を摂取した事で、頭痛は消え、気分もすっきりとする。

「はー……すいません。これ幾らでした?」
「其の辺の自動販売機で適当に購入したものだ、値段は覚えていない。気にするな」
「と、言われましても…買い物袋といい、飲み物といい、何かすいません」
「なに、袖触れ合うも他生の縁と言うだろう」

前世で縁があったと言い切っても、フィアンマにとっては過言ではない。
上条当麻という少年が生きていなければ世界救済計画は行われず、妨害もされなかったのだから。
彼という少年が居なければ、フィアンマが誰かを救おうと思う事も、無かったのだから。

「日本には観光ですか? 学園都市にもいらっしゃいましたけど…えーと、留学とか?」
「どちらかというと、仕事といったところかな。イタリアと日本を往復しているよ」
「ああ、お住まいがイタリアの方なんですね」
「そうだな。日本まで来るとなると少々疲れが残る」

少しだけ、世間話をして。
フィアンマは、上条と別れた。


八月二十六日。


御坂美琴は、学園都市第一位と向き合っていた。
無気力そうな彼を睨む彼女の口元には。

笑みが、浮かんでいた。

楽しい笑顔ではない。
哀しい、諦念を含ませた笑顔だった。

妹達が殺される以上、もう、自分は生きていられない。
生きていることが苦しい、と彼女は思った。
故に、一方通行へ、自らの十八番である『超電磁砲』を向けた。

「……あの馬鹿と、もう少し話しておけば良かったかな。
 もっと、もっと……今更言っても、遅いよね」

バヂバヂバヂ、と紫電を纏わせ。
ぽつりとそう呟き、彼女はコインを弾く。
真っ直ぐに飛んでいったそれは、一方通行へぶつかり。
その反射膜に触れた事で跳ね返り、美琴へ向かって戻ってくる。
御坂美琴は、静かに、しずかに、目を瞑った。

(あの子達と同じ場所に逝けるかな)

死にたくない、とは思った。
だけれど、これ以上生きていたくないという気持ちも、強かった。
あの少年は今、学園都市には居ない。会わなくて良かったかもしれない。
会えばまた戦って、彼は自分を止めてくれただろうから。





「どうして、こんなことになっちゃったんだろう……?」


人の幸せは、人の不幸の上に成り立っている。


幸運とは、誰かが苦しんでいる中、のうのうと平気な顔をして生きる権利だ。

正史によって助かる筈だった人間が死んでいく中。
正史によって淘汰される筈だった人間が、生きている。

たった一人の少年が記憶を喪わない為に、一人の少女の命が散った。
それを理解出来るのは、神の視点から彼らを物見高く観察する者のみ。
誰かの不幸を回避すれば、誰かへ不幸が降りかかる。
それは確率論などの話ではなく、不可欠不可避なもの。

それが、運命。


人の幸せは、人の不幸の上に成り立っている。


バタフライ効果とは、カオス力学系において
通常なら無視できると思われるような極めて小さな差が
やがては無視できない大きな差となる現象のことを指す。
カオス理論を端的に表現した思考実験のひとつ、あるいは比喩である。


今回はここまで。
フィアンマさんが速やかにインちゃんを救った弊害でした。

樹形図の設計者がこわれてなかったら
8月20日に美琴によるハッキングで実験が中止になる未来が
あるような気がしますな。


シェリーは来るかな?虚数学区の目的になくは……

このシリーズで氷華ちゃん全然見ないから見たいだけなんだけどね……


ホルスの領域に至るフィアンマさんか…。
主人公が誰なのかわからなくなってきた。

>>95
その手があった…!
しかし恐らく絶対能力者進化実験周りは描写しません…

>>97
>>1の安価スレでオティヌスちゃんと氷華ちゃんを絡ませた覚えがあります。
シェリーさんは出すつもりですが、少しだけの予定です…申し訳ありません。







投下。


—disperazione—


八月三十一日。
夏休み最終日。

上条当麻は、無事学園都市へ帰ってきた。
何やら実家の方では土産品が空き巣に全部破壊されるなどという騒動があったらしいが、関係の無い事。
何となしに散歩をしていると、とある少女を見かける。
夏休みに(寝ぼけて目がおかしくなっていただけだと思うが)ツインテール姿の彼女を見た為、上条は思わず声をかけた。

「おーい」
「…何か、…私に御用ですの……?」

振り返った彼女は、落ち込んでいた。
髪の毛も、よく見ればところどころ跳ねていて。
余程ショックなことでもあったのだろうか。
イメチェンではなく、ツインテールにする気力すら湧いていない、という様子だった。
ぼさぼさの髪をブラシでとかしただけ。いつものような美しい髪ではない。
髪の毛を手入れする余裕が無かったということだろう。
偽善使いと自嘲する彼は、勿論そんな彼女を放ってはおけなくて。

「どうしたんだよ。ビリビリと喧嘩でもしたのか?」

上条が、そう問いかけた、その言葉を聞いて。
少女は、白井黒子は、息を止めた。
ぐしゃぐしゃに表情が歪んで、わっと泣き出したい気分になる。
心臓が強く強く握り締められたように、激痛を訴えた。

「……お、おい?」
「……喧嘩なら、どれだけ良かったでしょうか。…ああ、…あなた宛てに、遺書がありますの」
「…は? 遺書?」
「遅ればせながら、お渡ししますわ」

戸惑う上条に、一通の手紙が渡される。
彼がそれを受け取ったのを見、白井は彼に背を向け、歩き出した。
その心中にどれだけの激情を抱えているのか、能力使用さえままならないようだ。


上条当麻は一旦自分の家へ、帰ってきた。
コンビニに寄って購入したミルクティーのペットボトルを開封し、少し飲む。
落ち着きを取り戻したところで、白井から受け取った手紙を開封する。

「………、」

そして、言葉を喪った。



『上条当麻 様
 
 この手紙を読んでいるということは、後輩の黒子があなたに渡してくれたということでしょう。
 端的に言えば、私は自殺しました。一方通行へ攻撃を浴びせ、そのまま反射されたのです。
 鉄橋の上で、私を止めてくれてありがとう。妹達の為に戦ってくれて、ありがとう。
 でも、それらのことは、無かった事になってしまいました。樹形図の設計者の再演算結果です。
 実験は凍結から徐々に立ち戻り、まもなく実験は再開されるでしょう。
 実験回数は誤算の分だけかさ増しされます。この文章で、お分かりいただける筈です。
 私は、こんな現実に耐え切れませんでした。なので、あの子達の所へいきます。
 
 このような結果となってしまい、とてもとても残念ですが、私も、妹達も貴男には感謝しています。
 私達の為に命を張ってくれて、ありがとう。それから、さようなら。

 P.S.
  ……いつも電撃浴びせてごめんね。
  勝負っていうのは、話しかけるきっかけみたいなものだったの。
                                              』



『……喧嘩なら、どれだけ良かったでしょうか。…ああ、…あなた宛てに、遺書がありますの』

白井の言葉を思い返し。
彼女の様子を思いだし。

知らずとはいえ何と無遠慮な言葉をかけてしまったのだろう、と後悔しながら。

上条は、手紙の内容を理解した後、便箋を丁寧に封筒へ戻した。
彼の瞳からは、塩気のある液体が溢れていた。
手紙を、いつも食事に使用しているテーブルに置き。
ベッドへ座り、カーペットを見つめた。涙が止まってくれない。

「…何だよ、それ」

一度掴んだ筈の勝利だった。
だが、結局はダメだった。何の意味も無かった。

「………」

妹達は増産され、殺される。
きっとまた自分が制止しても、今回のように殺される人数が増えるだけ。

救えなかった。
助けられなかった。
何の意味も無かった。
自分のせいだ。

「お、れ、…俺の、せいだ…」

殺される人数が増えたのは、自分のせいに他ならない。
救うどころか、被害を増やしただけ。

『やくびょうがみ!』
『ちかよるな、ふこうがうつるだろ』
『おまえとあそぶとふこうになるってにいちゃんがいってた』

幼い頃に浴びせられた暴言が蘇る。
上条は毛布を掴み、反対の手でぐしゃぐしゃと髪を乱した。
泣きながら、絶叫したい気分だった。

自分のせいで、美琴は死んだ。
妹達はもっと殺される。

自分の、せいだ。

「俺の、」


俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺
のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺の
せいだ助けなければ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺の
せいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせ
い俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ
俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだこんな右手があるから俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺
のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺の
せいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせ
いだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせい
だ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいやっぱり俺は疫病神なんだ俺のせいだ俺のせい
だ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ
俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺
のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺が関わらなければ良かったのか俺のせいだ俺のせいだ俺の
せいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせ
いだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせい
だ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ
俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺
のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺の
せいだ俺のせいだどうしてこんなことに俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせ
いだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺はただ
助けたかった俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ救いたかっただけなのに俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせい
だ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のエゴのせいで傷つけた俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせ
いだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせい
だ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺が死ねば良かったのに俺のせい
だ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだごめんな御坂俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせい
だ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ







俺の、せいなんだ


ふらふらと立ち上がり。
上条は、台所へ歩みを進めた。
調理目的とはまた別に、包丁を取り出す。
慣れない様子で、左手で、持ち手を握る。

「もっとはやく、こうしておけば良かったんだ」

呟いて、その肉切り包丁を、右手へ宛てがった。
まな板の上で右腕を置き、浅い呼吸を繰り返す。

「こんなものがあるから、」

持ち手を握る左手から包丁へ、体重を乗せる。
上条の右腕の真ん中辺りへ、ぐいと刃が食い込んだ。

ぐぎゅり

「が、っあああああ!!」

よく研いであったそれは、役割通り、肉に切込を入れた。
嫌な感触と共に、大量に飛び散る血液。
あまりの激痛に絶叫して、上条は包丁を放り出した。
右腕から、どくどくと多量の血液が吐き出されていく。
上条はぶるぶると手を震わせ、シンクのヘリに手をついて立ち上がる。
はっ、はっ、と浅く荒い息を繰り返し、幼い子供のようにぼやいた。

「にたくない…死にたくない……、…」

恐慌状態で、上条は台所に膝をつく。
傷は浅いものの、血液は流れ続けている。
自傷をしたのは、本当に久々だった。
血で汚れることも構わず、血液にまみれた手の甲で目元を拭う。

「ごめん、ごめん…ごめんなさい……」

謝りながら、上条は泣きじゃくる。
とんでもないことをしてしまった、という思いがあった。


手当を済ませ。
上条はベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見上げていた。
学校へ行けば、何らかの追及は逃れられない。
どう言い訳をすれば優しい担任は泣かないでいてくれるだろうか、と思う。
こんなにも自分の体質が恨めしいと思ったのは、本当に久しぶりだ。

「……」

呆然と、血の滲む包帯に覆われた自らの右腕を見つめる。
こんなものがなければと思いながら、切断は出来なかった。
誰も救えないどころか、誰かを不幸にするだけの、こんな右手。
何のために自分の身体についてしまったのか。

「………」

いつもの口癖を言わないのは、本当に不幸だからだ。
自分だけに降りかかった不幸なら、口にする。
だけれど、今回は違った。自分以上に、周囲を不幸にしてしまった。
故に、何も口にすることはない。

「……俺が、悪いん、だよな」

あの白い少女を救えなかった。
妹達を救えなかった。
美琴を救えなかった。

自分という存在は誰かを不幸にして、貶めてしまうだけ。

死にたいとは思えど、死ぬ勇気すら無い。
不運の塊のような人間のクセに、悪運だけはなぜか良くて。

「……俺が、」


人間は、極度のストレスを感じた時、回避行動を取る生き物だ。
所謂心理的防衛機制だ。
その中でも、上条当麻という少年は、反動形成を選択する。
かつて自らの行動によって誰かを不幸にし、絶望したとある青年と同じように。

「……俺のせいじゃなくて、」

理不尽な運命に対して憎悪を抱きながら、呟く。

「世界が悪いんだ」

かつてのとある青年と同じ考えへ、彼は静かに至る。
この世界が間違っていて、運命が非道過ぎるだけ。
自分に責任なんか、無い。

「……、…」

彼は今まで、誰かを救った事がない。
手を差し伸べても、ことごとく失敗に終わってきた。
或いは、手を差し伸べようとして、完全に拒否されるか。
何にせよ、彼は誰かを救う事に成功したことがなかった。
ようやく手を掴んでもらって、助けられると思った。
だが、相手を地獄へ突き落とし、蹴り飛ばしてしまっただけで。
初めて誰かを救えたと、胸を張れると思った彼はもう、どこにもいない。

「……飯、作ろう」

簡単な和物を作ろうか、と上条は思った。
びりびりと痛む右腕を無視して、動かす。
責任の所在は、既に世界へと押し付けた。
優しさの分だけ、少年の心は歪んでいく。


フィアンマは、とある修道女の下へやって来た。
どよめく他の修道女を無視して、一人の少女へ近寄る。

オルソラ=アクィナス。

近い内に『法の書』を解読し、大きな騒ぎを起こす秀才だ。

「私に何か御用でしょうか?」

不思議そうに首を傾げる彼女を見て。
フィアンマは腕を伸ばし、彼女の細い腕をやや乱暴に掴む。
彼女を、辿る筈の理不尽な運命から救う為に。
先程、自分が後ろ盾となる決意をした。

「今日からは俺様の傍に仕えろ」
「………、…ええと、…プロポーズの類…なのでございますか?」

不可解そうに、少女は首を傾げたまま。
フィアンマは首を横に振って、小さなため息を飲み込んだ。

(……人助けとは疲れるものだな)
(当たり前だろ、助けるってのはそういうものなんだし)


今回はここまで。
思うに、上条さんは悪運がすごく強い気がする。
後、禁書キャラが助かったのは幸運によるところが多いような。

ここから上条(悪)になるのか・・・?


今回の上条さんはデレが無いヤンデルさんです。
皆様のレスを見つつ軌道修正したり想像したりしています。助かります。

>>124
どちらかというと右方の上条…?
あのスレは途中辛いけども最後まで読むとスッキリする良作だと思います(ステマ)




投下。


—Sospendi—


右方のフィアンマは、とある修道女に連絡をしていた。
リドヴィア=ロレンツェッティ。
九月十九日に学園都市を襲撃する女性だ。
フィアンマは失敗の確定しているその襲撃を食い止めるべく、説得をしていた。
交渉は難航する。
彼女は逆境も順境も全て自身のやる気へと転化してしまうため、何者も彼女の前進を阻めない。
つまり、説得にしても、うまく彼女の目的先を変更するところまでしなければならないのだ。

『……しかし、科学サイドを掌握しておくに越した事はありませんので』
「お前が失敗すれば、その火の粉はローマ正教へ降りかかる」
『成功させれば問題ありませんので』
「……不備は無いか? 本当に? 
 人数は、得物は、段取りは、実行時間は、実行場所は、状況は。
 不測の事態程度で崩れるような計画ではないか?」

矢継ぎ早に問いかけ、フィアンマはリドヴィアの思考を悩ませる。
段々と不安になってきたのか、彼女は通信を終えて考え直してみる、と言った。
これで、学園都市の大覇星祭が妨害されるおそれは無くなった。
フィアンマは通信を終え、ぐたりと休む。

「これだけ働いて何も得るものが無いというのが、な」
(得るものならあるだろ。自己満足と平和とか)
「……お前がそれを求めているだけだろう」
(人間誰しも平和で満足していたい生き物だと思うけどな)
「はは、違い無い」

笑って、立ち上がる。
そろそろ昼食を摂るべき時間なのだ。
くきゅるるる、と音を立てる自分の腹部を見やり。

「……今日は何を食べるべきか」
(野菜じゃねえか?)
「んー。サラダ類を購入するか」

独り言の会話を繰り返し、彼は街へ出る。


結局、本日の昼食はペペロンチーノとミニサラダに決まり。
もぐもぐと食べながら、フィアンマは暇を持て余していた。

「お前は何か出来んのか」
(何かって何がだよ)
「チェスだとか、リバーシだとか」
(リバーシなら出来るけど)
「ん、」

行儀悪くフォークを口に含んだまま、フィアンマはリバーシのセットを取り出す。
綺麗に駒を並べたところで、向かい側に椅子を置いた。

「座れ」
(何か良い椅子だな)

『上条当麻』は、用意された椅子へと腰掛ける。
ふかふかとした椅子の感触を楽しみ、笑みを浮かべた。

『どっちからやるんだ?』
「お前から始めろ」
『じゃあ俺が黒か』

『上条当麻』はリバーシの黒い駒を手にする。
そっと配置し、白い駒をひっくり返した。
フィアンマはもぐもぐとサラダを食べ、黒い駒を手にして、置く。
せっかく黒に染まった駒を、白側へとひっくり返した。

『あ』
「どうした、お前の番だぞ?」

小さく笑って、フィアンマはサラダを食べ終えた。
口の中のドレッシングの味を、飲み物で流す。
『上条当麻』は悩み悩み、駒を置いた。


「これで、俺様の勝ちだ」

ふふふふ、とフィアンマは幸せそうに笑う。
盤面は見事なまでに、真っ白に染まっていた。
つまり、フィアンマの全面勝利である。
もっとも、彼一人でやっているのだから当たり前といえばそれまでだが。

『くっそー…角取られた時点で危ないとは思ってたんだよ』
「徐々に追い詰められていくお前の様を眺めているのは愉快だったぞ?」
『この野郎……』

ぎりぃ、と歯軋りをする『上条当麻』に、フィアンマは笑っていた。
彼には、友達が居なかった。作ろうとも思わなかった。
年齢が一桁の頃に『聖なる右』と話していた時以来、こういった"友人"は久しぶりだ。

「……少し疲れが癒えたな」
『ストレス解消か?』
「そうだな。友人と遊戯を楽しむのは、ストレスを減退させるのに有効だ」

リバーシのセットを片付けて。
フィアンマは食事後の後片付けを済ませてしまうと、椅子に腰掛けた。
目下のところ、もうやるべき事は何も無い。

「…休憩だ」

疲れた、と目を閉じる。
今の生活が夢でないことを、忘れず神に祈りながら。


今回はここまで。
のんびりと閑話休題。


病み条さんから闇条さんにシフトしていく予定です。
エロはありませんがグロはやっぱりあるので、流血描写など苦手な方はやっぱりおすすめしません。











投下。


—follia—


九月一日。
本日は、始業式だ。
上条はいつも通り早起きし、腕の包帯を清潔なものに取り替える。

血液量の割に傷が浅かったのか。
はたまた、眠っている間に塞がったのか。

何はともあれ、傷はだいぶ軽傷となっていた。

「…帰りに、また買わなきゃな」

救急箱の中身を思い浮かべ、ぽつりと呟く。
宿題は今日は提出しないので、わかりやすい場所に置いておく。
欠伸を噛み殺し、今日のお昼は何にしようか、とぼんやり考えた。

「………」

無言で、机上を見やる。
可愛らしい封筒に入った、一通の手紙。
彼女の文字は小さくて、可愛くて。
きっとこれから先も生きていれば、その文字はラブレターに使われたはずだ。
そしたら、相手と結ばれたかもしれない。
幸せな家庭を築いたり、そんな未来があったかもしれない。
だが、それはもう存在し得ないものだ。
ある意味において、自分が奪ってしまった命。

「……悪いな、御坂」

でも、世界が悪いんだ。
いつか、復讐してやるからな。

ぼやいて、彼は外へ出る。


長ったらしい校長のありがたいお話が終わり。
上条は包帯についての追及をどうにか逃れ。
そして、学食へとやって来た。
運の良いことに、今日は混み合っていない。
皆始業式を終え、遊びに行っているのだ。
親友から誘われたものの、断り。

「…はぁ。……あ、」

家に帰ろうと歩いていると、何もないところで転け。
いつもの不幸かと思いつつ、上条は廊下に手をついた。
更に不運な事に上条のポケットから財布が落ち、中身、つまり小銭がぶちまけられる。

「ああもう! ……不幸だ」

踏んだり蹴ったり過ぎる、と上条は項垂れる。
と、細く少女らしい指が、小銭を摘まんだ。

「これは…あなたの?」
「え?」

上条は、顔を上げる。
見慣れない制服を着た、一人の少女が居た。

長いストレートヘアから、一房だけ束ねられた髪が伸びている。
知的な眼鏡を掛けているものの、少しずり落ちていた。
そして何より、かなりの巨乳である。

彼女はおっとりとした様子で、小銭を差し出してくれる。
上条は左手で受け取り、こくりと頷いた。

「ああ、ちょっとこけちゃって。悪いな。えーっと…名前は?」
「風斬氷華」

彼女は、薄くおどおどと柔らかな笑みを浮かべる。


小銭を拾い終わり、そのまま世間話へと流れ。
風斬が転校生であることを、上条は知った。
ついでなので、一緒に昼食を摂ることにして。
彼らは二人で『給食レストラン』へとやって来た。

『給食レストラン』。
学園都市中の全ての学校の給食を食べられるレストランだ。
此処で他校の給食をチェック出来る事に加え、給食準拠だけあって味はまあまあ。
充足感こそないものの、本当に不味いものは出てこない。

ここの券売機はタッチパネル式であり、カロリー検索や成分検索が出来る。

500と入力すれば500キロカロリー以下のメニュー。
ビタミンと入力すればビタミンが豊富なメニューが表示される。
また、食材名を入力すればそれを除いたメニューが表示されるのだ。

風斬はどれにしようかと真面目に悩んでいる。

「来た事ないのか?」
「…うん。今日が初めて」
「そっか。よっぽど高くない限り何でもいいんだぜ? 
 あ、何でもいいって言われると逆に悩むか」
「あはは。…じゃあ、これにしようかな」

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
風斬は初めて券売機を使用するのに、手馴れた様子で画面を押した。
上条は風斬が選んでいる間に決めておいた為、同じく押す。


風斬が選択したのは、ごく一般的な給食だった。
牛乳、コッペパン、いちごジャム、ヨーグルト。
本当に一般的で、地味な内容だ。
対して上条も、ナポリタン、牛乳、ヨーグルトサラダ、野菜スープという取り合わせだが。

「ナポリタンって日本料理なんだよな…」
「イタリア料理じゃないから、ね…」

そんなことをグダグダと話し。
上条は時計を見やり、財布の中身を思い返した。

「…良かったらさ、これから遊ばないか?」
「え?」
「ほら、奨学金振り込まれたばっかりだし、ゲーセンとか。
 迷惑だったらいいんだけど…予定とかあったら、断ってくれていいし」

上条の誘いに、風斬は迷って、悩んで。
そうして、こくりと頷いて、嬉しそうに微笑んだ。
二人は地下街のゲームセンターを目指す。


朝六時、右方のフィアンマは目を覚ました。
カレンダーを見て、元居た世界の歴史を思い返す。
今日、これから、学園都市は襲撃を受ける。
イギリス清教のシェリー=クロムウェルによって。

「……」

流石に関与出来ない。
故に、上条が自力で生き延びるのを願う他無く。

「……まあ、俺様に勝利した男なんだ。まず死なないだろう」

正史では死ななかったことだし。

そんなことを心中でぼやき、フィアンマは目を閉じる。
二度寝をしよう、と毛布を抱きしめた。

「………」

自分が行っている事は、きっと正しくない。
けれど、せめて上条が辿る苦しみの道を消せたら。
そう願わずにはいられない。
将来、自分の命を救ってくれた少年の為に、彼は動き続ける。


上条当麻は、逃げていた。
自分を襲ってくる魔術師の女から、ひたすらに。
スキルアウトを相手取るのとは、レベルが違う。
スキルアウトからはリンチを受けるだけだが、この女は。

「戦争の火種が欲しいのよ。だから諦めて死んでくれって、な?」

風斬氷華でも上条当麻でも、どちらでも良い、と彼女は言う。
故に、上条は彼女の攻撃を自らへ引きつけて逃げる。
魔術が能力と同じ異能の力なら、右腕で消せるから。

「っはぁ、は…っぐ、」

ぐらり、と地面が揺れる。
現れたゴーレムのパンチを、上条は右拳で相殺した。
衝撃がビリビリと右腕を伝い、傷が痛む。

「何の為に…ッ!」

魔術サイドと科学サイド、その話は理解出来た。
だが、お互いの領分をきちんと保っている今、わざわざ争う必要などどこにもない。
上条の言葉に、魔術師は、シェリー=クロムウェルは、唇を噛む。
語らず、ゴーレム=エリスによる攻撃を食らわせようとした。
足場がぐらぐらと揺れ、上条はまともに立っていられず、防御が出来ない。

(これまでか)

美琴に会ったら謝ろう。

思いつつ、目を閉じる。


が、予想していた衝撃は、上条には与えられなかった。
横から飛び出してきた風斬氷華が、彼らの間に入ったからだった。
ゴーレムの無慈悲な拳が、彼女の頭を殴り飛ばす。
上条は瞬時に目を開け、惨状に目を見開いた。

「か、風斬…風斬いいいいいいい!!」

焦って、上条は走り出す。
彼女の頭は、抉れていた。
だが、血液や脳というものは露出していない。
中にあったのは空洞と、ジリジリと動く三角柱のようなもの。
まるでカラクリ人形のような、不気味さ。
少なくとも、人体とは遥かに違う構造をしている。
呆然としながら、上条は彼女の頭に右手で触れてしまった。
人が怪我をしている時、その傷口に触れ、血液を押さえ込もうとするような、行動だった。
悪気などなくて、何も考えてなどいなくて、ただただ心配だっただけ。
血液は流れていなくても、自然な流れとして、そのような行動に出てしまっただけだ。

だがそれも、《不幸なことに》裏目に出る。


パキィン、という音。

それから。

風斬氷華という少女の、消滅。


「……え…?」

今度こそ茫然自失としながら、上条は膝をついたまま、動けなくなる。
後ろから、悪意ある声が聞こえた。

「何だ、ソイツもバケモノだった訳か。なるほどね。
 で、今のは? …まあいいか。どうせ殺しちまうんだ」

チョークが、壁に走った。
上条は、のろのろと振り返る。
彼は、笑っていた。
何もかも諦めたように、酷薄な笑みを浮かべていた。

「………か」
「…何…?」
「…また、俺は誰かを殺しちゃったのか」

上条の中で、殺意が爆発的に膨らんでいく。
その笑みに、悪意は見えない。
彼の精神は、いよいよもって歪み、崩壊を迎えかけている。

「お前のせいだ」

責任の所在を押し付け、彼は走る。
ほとんど反射神経で右手を突き出し、あしらい、ゴーレムの攻撃を防いだ。
地面が揺らぐも、飛び越えて走る。
そうしてあっという間にシェリーの懐へ潜り込み、殴りつけた。
思考など、もはやあってないようなもの。

「が、ッあ」
「やっと、俺は踏み出せたのに」

上条は乱暴に、拳を叩き込む。
チョークを動かそうとした腕を叩き、蹴りを入れ、壁に叩きつけて折る。
力加減について、何も考えていなかった。

「ぎ、っがぐ、ぅ、あ、」
「ごめんな、風斬。ごめんな、御坂。ごめんな、御坂妹。
 皆、ごめん、ごめん、ごめんな……」

掠れた声で謝罪をしながら、上条は倒れたシェリーに馬乗りになり、彼女の顔面を殴る。
自分の拳の骨が砕けそうな程痛んでも構わず、殴り続ける。
殺してやろうという気概があった。


後ろから警備員に羽交い絞めされ、上条はようやく暴力の手を止める。
息切れしながら改めて見た目の前の光景は、酷いものだった。
生きてこそいるものの、シェリーの体はボロボロで、ところどころ出血が見える。

「は、…ぁ、」

精神に異常を来した上条は、その光景に何の感情も起こらなかった。
彼の心中には、『殺してしまった』人々への贖罪の感情だけがあった。
しかし涙はこぼれてこず、彼の口元には不気味な笑みだけが浮かんでいる。
虚ろな黒の瞳には、ある意味何も映ってはいないのだ。



「…君、大丈夫か?」

警備員との対話と情状酌量により、上条は無罪となった。
シェリー=クロムウェルはイギリスへ強制送還されるらしい。
上条当麻は警備員からの問いかけに、こくりと頷いた。
ふらふらと立ち上がり、歩き出す。

「……消毒液、買わないとな…」

自分は不運だから、傷口が膿んでしまう。

ぼんやりとそんなことをぼやいて歩く彼は、生きる死体のようだった。


今回はここまで。
オリアナさんの語るところの『善意が引き寄せる悲劇』。

この上条さんだと何か精神的に狂って、盲目的に誰かを救う機械になりそう。某正義の味方とか


おっぱいアイスを買えたと思ったらキーボードが故障している。不幸だ。
投下スピードは頑張ってます…かまちーの偶像崇拝の恩恵…?

>>165
そういえば共通点多いですよね、髪型とか







投下。


—incubo—


御坂美琴の訃報を聞き。
御坂妹と呼ばれる個体は、ぼんやりとしていた。
悲しいという感情が発露していないため、涙は出ない。
どちらかといえば、彼女が死んだ事にさえ実感がない。

「……お姉様」

ぽつりと呟く。
ジャリ、と砂を踏みにじる音が聞こえた。
そろそろ、再開後初実験の時間だ。
反論の声は、上位命令文によって無慈悲に打ち消された。
実験動物が反論するな、ということなのだろう。
御坂妹は、否、10032号は、AK47をしっかりと握る。
メンテナンスはしっかりとしてあるが、撃った所で自分が死ぬだけだろう。
だが、それも仕方のないことだ。

「………」

自分達、つまり妹達には、人権というものが存在しない。
いくらでも換えの利く存在で、研究者の道具でしかない。
ふふ、と10032号は皮肉げな笑みを浮かべた。
あの少年は自分達を人間だと言ってくれたけれど、それだけでは現実を変革することなど出来なかったのだ。
物陰から飛び出すと、そこには白い悪魔が居た。

「……開始時刻には、まだちィとばっかし時間があるか」
「正味十分程ですね、とミサカは補足しました」
「第三位が死ンだことは聞いたか」
「はい、とミサカは頷きます」
「アイツは俺に攻撃を仕掛けて、反射されて死ンだ。犬死の自殺もイイトコだ。
 ………怒らねェのか」
「怒るという概念はありません、とミサカは回答します」
「……やっぱりオマエらは人形止まりだな」

つまらなそうに言う悪魔———否、学園都市第一位の『超能力者』に。
ミサカ10032号は、無表情のままにAK47を抱え直す。

「泣いて喚いて、お姉様を馬鹿にするなだとか、ブチギレてみろよ…」
「これより第一○○三二次実験を開始します」

どこか八つ当たり気味の声と、機械的な文句が、重なった。


九月十二日。
ざあざあと降りしきる大雨の中。
上条当麻は、外を歩いていた。
流石にこの雨の中、歩いている人物は非常に少ない。
上条は黒い傘を差し、どこか虚ろな表情で歩いていた。

「……居ない…」

風斬氷華は見当たらない。
彼女が結局どういうモノだったのか、上条はわかっていない。
誰も教えてくれないのだから、分かる筈もない。

「……いい加減、認めないとな」

上条は、傘を持つ自分の左手を見やる。
自分の右手のことも意識する。
たとえ悪気が無かったにせよ、この両手は血に汚れている。

「………」

奇跡なんて、どこにもない。
どんなに頑張っても、ダメな時はダメで。
結局自分が関わっただけ、事態は酷く、マイナスに進展してしまう。

「本当に、…俺、疫病神だよな…」

学園都市内に、美琴の墓は無い。
それ故に、墓参りをして謝ることも出来ない。
妹達は、墓を作ってもらえる程手篤い葬り方はされない。
誰にも謝る事の出来ないまま、上条は絶望していた。


先程まで生きて、呼吸をしていた少女の死体を前に。
一方通行は何を考えるでもなかったが、彼女に近づいた。
まもなく、他の妹達がやって来て、彼女を片付けるだろう。
それはわかっているし、それで良いとも思っている。

「…………」

一方通行は、彼女の傍にしゃがみ込んだ。
脳内に蘇るのは、彼女を救う為に自分を殴った、不思議な少年。

『俺の最弱は、ちっとばかし響くぞ!!』

無意識に、自分の頬を摩っていた。
何度も何度も殴られたあの痛みの記憶が、頭に浮かんでくる。
ふと、視線を感じた。視線を向ければ、あの日のツンツン髪の少年。
だが、彼の瞳は怯えと絶望に彩られ、こちらへ近づこうとはしない。

「…オイ、」

一方通行が声をかけたところで、少年は逃げ出した。
一方通行に怯えているのではない。

また関わって、更に事態を重くしてしまうことが怖かったのだ。
だから、正義感を抑え込み、逃げ出した。
そんな黒髪の少年を見て、白髪の少年の幻想はぶち壊されてしまう。

「……、」

また、助けに来ると思った。
少なくとも、10032号の弔いだとばかりに、殴ってくるものだと。
だって、彼はそういう類の、英雄だと思っていた。

「…ハッ」

思わず、一方通行は鼻で笑った。
ヒーローなど、この世界のどこにも居ないのだと悟った。

視線を下げる。
目を開いたまま、少女の死体はここにある。
一方通行は手を伸ばし、彼女の目を閉じさせる。

「バカバカしい…」

困っていたら、誰かが助けに駆けつける。
そんな幻想は幼少期に捨て、そして今、もう一度捨てた。


一方通行は、研究所へ戻って来た。
10032号の死体は、他の妹達が既に処理に入っている。
彼は、そう、いうなれば出来心から、こんなことを提案した。

「非合法で作られた人形にこォいうのはナンセンスだと思うンだけどさァ、」
「何だ?」

話しかけられた研究員———天井亜雄は、一方通行を見る。
一時実験が凍結しかけ、研究者人生が終わってしまうという危惧があった分、少しだけ一方通行に感謝していた。
彼と視線を合わせ、白と赤の少年は、こんなお願い事をした。
お願い事というのには、あまりにも高圧的過ぎる言い方ではあったが。

「今まで死ンできた妹達の墓作りてェンだけど」
「墓だと? そんなものを作ってどうする」
「いやァ、別に。ただ、"ただの人形"殺してるより、"人間っぽい人形"殺してると自覚した方がイイかと思ってな」
「実験結果に対して良い影響を及ぼすかもしれんな」

検討してみよう、と彼は頷く。
その答えに満足すると、一方通行は研究所を出て行った。



雨の中を、バシャバシャと水を撥ねさせ、上条は走る。
息が切れても、構わずに走り続けた。
一○○三二号の死体が、脳内に遺っていた。
だというのに、自分は情けなくも逃げ出して。
これ以上事態は深刻化するのが怖くて。

「っ、うう……!!」

ぼろぼろと流れる涙。
身体が震え、吐き気を懸命に堪える。
自己嫌悪に支配され、死にたい気分でいっぱいだった。
傘を放り捨てて走っていると、誰かにぶつかる。
相手は体格がそれなりに良く、上条はぶつかった反動で尻餅をついた。

「っ、」

謝らなければ。
咄嗟に、顔を上げる。

そこには、路地裏の帝王が居た。
彼は、尻餅をついた上条に、優しく手を差し出す。
にこ、と人あたりの良さそうな笑みを浮かべながら。

「大丈夫か?」

彼は、超能力者だった。
彼は、悪意を内包していた。
彼は、特別な人間だった。


彼は、垣根帝督と呼ばれている男だった。


今回はここまで。
キーボードのAの反応が悪い…


キーボードの近くにアイスや飲み物は置かないほうがいいよ。ソースは俺


壊れたとはいっても反応はするのでどうにかかけてます。
ただし左手人差し指がもげそうで。


>>184
………(合掌)







投下。


—malizia—


九月十五日。
上条当麻は、自分の携帯電話を見つめていた。
三日前に会った男の言葉を、ぼんやりと思い出す。

『お前、学園都市第一位を一度破ったんだってな?』
『後、悩んでることがあるだろ』
『そういう目してるからな』
『…これ、俺の連絡先。よかったら連絡してくれ』
『取って喰いやしねえよ。お前の力に興味があるんだ』

うっすらと笑っていた、明るい髪色の男。
どこか、常人ならざる雰囲気を持っていたように思う。

「……、…」

自分は、人を殺している。
だからきっと、どんな罰を受けても妥当なのだ。
ならば、いっそどうなっても構わないのではないか。
あの男にコンタクトを取るのは危険だと、脳は危険信号を発している。
だけれども、上条は携帯電話のボタンを、押した。


四コール程で、電話は繋がった。
応答する声は、にこやかで明るい。

『もしもし』
「…もしもし」
『ああ、お前か。何か困り事か?』
「そうじゃない」

上条は彼の話を遮って、言葉を紡ぐ。

「何で、俺の事を詳しく知ってるんだ…?」
『あん? …ある意味有名だけどな』
「……、…」
『ま、いいや。俺がお前に声をかけた理由は一つ』
「…何だよ」
『お前を俺の組織に招待したい』

囁くような声。
上条は、視線を彷徨わせる。
頷けばどうなるか、予測がつかない。
少なくとも、楽しい事態とはならないだろう。
だが、もはやそれでも構わない、と思う。

「どういう、組織なんだ?」
『誰かを守る仕事』


端的な回答は、決して嘘ではない。
垣根はベッドへごろりと横たわり、キャラメルを口に含む。
ミルク味の甘味が、そっと舌を癒してくれた。

「……どうだ?」

吐息と同じように甘みがかった声で、垣根は上条を誘う。
組織とは即ち、自らの管理する『スクール』———暗部組織だ。
一方通行とはまた別に『第一候補』である上条当麻を掌握しておきたい、という出来心からである。
ダメならダメでも良いのだが、と垣根はぼんやりと思う。

『誰かを、守る?』
「そうそう。まあ、殺したり傷つけたりもするけど」
『…でも、殺したら、絶対に守られる人がいるんだよな?』
「勿論。それは、俺が保証する」

暗部組織の仕事は、学園都市の機密を守る事だ。
表側の学生を守るというのも、ある意味仕事の一部ではある。
決して嘘はつかず、しかし綺麗に彩りを加えて、垣根は説明した。

(コイツを上手く使えば第一位を殺す事も出来る)

にや、と下卑た笑みが、垣根の端正な顔立ちに浮かぶ。
自分の手を汚さずして安全に殺せるなら、そちらの方が良いに決まっている。
一度勝利したことのある上条なら、或いは。

「無理にとは言わねえが、…妹達を救おうとしたお前なら適性はあるかと思ったんだ」

垣根の言葉に、上条は悩む。
悩んで、迷って、考えて、迷走して。





































『それで、本当に人を救えるなら。殺してしまった上に救いも無いなんてことがないのなら。
 ……………………………………………………………………………………………お願いします』


今回はここまで。
キャラの残虐な面などを誇張して書いているので、ヘイトのように見えたら申し訳ないです。
ただ、過去作ご覧になった方多いのでおわかりいただけると思いますが、>>1に嫌いな禁書キャラは居ません。
書きにくいキャラがいる位です。

(と、予防線引いておきます)

乙です
フィアンマさん科学に関心無さすぎです
てかアレイスター何やってんだ


アレイスターさんは『プラン』の範囲内なら静観している人だと思います。


>>199
フィアンマさんはそもそも科学サイドに関心無かったような…。
御蔭で根回しが足りず上条さんがこうなりましたが。










投下。


—cambiare—


九月十九日。
上条当麻は、学生としての生活を謳歌していた。
裏の顔は既に抱え込んでしまっている。
『幻想破壊』として、『スクール』の一員として。
とはいえ、普段は普通の学生だ。
日常に馴染めないと感じるような人格性へ堕ちるまで、時間はかかる。

「うはぁ、校長の話長いわぁ…あれがお姉さんなら良かったんやけど」
「もはや女なら見境なしだよな、青ピは」
「どんな女の子にも女性にも良さはあるものやで?」
「そこまで範囲広いのに彼女出来ないっていうのが涙を誘うぜい」
「うるさいわ土御門クン! この義妹持ちリア充め!!」

親友と馬鹿話をしながら、上条は笑う。
今日は大覇星祭。
学園都市に所属する全学校が合同で行う超大規模な体育祭だ。
9/19〜25の七日間行われる。

「……、」

本当なら。

あの快活な少女が、常盤台中学の看板を背負って戦う筈だった。
あの大人しい少女が、体操服を着て一緒に競技に出たかもしれない。

思ってしまって、めまいがする。

「…か、カミやん、大丈夫なん? 水分補給した方がええで」

熱中症と思われたらしく、スポーツドリンクの経口摂取を勧められる。
上条は曖昧な笑みを浮かべ、スポーツドリンクを煽った。


念には念を。
そんなことを考えて、フィアンマは学園都市へとやって来た。
大覇星祭は『外』向けの一般開放行事である為、正々堂々と入る事が出来る。

「…棒倒しか」
(俺が出る競技だな)
「観戦しておくべきかね」
(……そもそもお前は何の為に来たの?)
「学園都市、敢えて細かく言うなら上条当麻の警護といったところか」

過去に戻って来てから会話(もとい独り言)の多いフィアンマだが、人ごみでは目立たない。
一見してハンズフリーの通話をしているように見えるからである。
『上条当麻』の言葉を聞きつつ、フィアンマはとある高校の出場する競技場へやって来た。
既に準備は終了しているらしく、選手は皆スタートラインにて緊張していた。

「………」

適当な席に腰掛け、上条を見つめる。
と、隣に座るガラの悪そうな少年も、上条を見つめている事に気がついた。
視線をズラし、彼を見やる。目が合った。

「……、」
「……、」

双方、人あたりの良さそうな柔らかな笑み。
だが、彼らの本質は暗部と呼ばれる血みどろの世界に君臨する。


18時30分から、ナイトパレードが開始されるらしい。
これなら仮に『使徒十字』を用いても目的が達成されることはないだろうな、とフィアンマは思う。
とはいっても、まだまだ帰ってしまうには惜しいような。
そんな事を考えていると、棒倒しが終わった。
見た様子だと、上条の所属する高校が勝利したようだ。

次の種目は借り物競争。
上条は出場するらしく、どこか緊張した様子を継続している。
スタートする競技場が変更されたため、観客であるフィアンマも移動する。
上条を見つめていた少年は別の場所へ移動したため、上条を見るのをやめたようだ。
或いは、上条を見ていたというのはフィアンマの勘違いかもしれない。


上条は借り物競争にて、借り物に何を引くかびくびくしていた。
不運であるのだ、到底見つからないようなものになるかもしれない。
しかしながら出場すると決めたのは上条なのだ、今更どうにもなるまい。

「変なの引かなきゃいいけどな…」

ぼやきながら、借り物の内容が書かれた紙を一枚引く。
内容としては、割とシンプルなものだった。

『結婚指輪をしている男性(ただし父親不可)』

「……まあ、まだマシ…か?」

観客の中には、沢山の誰かの父親がいる筈。
左手薬指に指輪をしている男性に一緒に来てもらえばそれで良いのである。
上条は周囲を見回し、きょろきょろと探す。


一方、フィアンマは、護身用の霊装である指輪を手に、どこに嵌めるか迷っていた。
悩んだ末、霊装の効果を最大限に高める左手薬指へそっとはめる。
そうして足音が聞こえ、続いて声がかかった。
紛れもなく、上条当麻の声だった。

「すいません、一緒に来てもらっても…あ」

振り向く。
あ、と声を出し、上条は苦笑いをした。
一度目は偶然、二度目は必然、三度目の逢瀬は運命という言葉がある。

「また会いましたね」
「そうだな。借り物競争か」
「内容が人だったので、良かったら一緒に来て欲しいんですけど」
「借り物、なのに物品ではないのか」

言いつつ観客席から立ち上がり、ついていく。
走るのは好きではなかったが、特別苦手というものでもない。


「結婚なさったんですか?」

ゴール後、上条に問われ。
フィアンマはゆっくりと首を横に振った。
元より、聖職者とは結婚してはいけない立場の人間である。

「諸事情で此処に指輪をはめているだけだ」
「あー…」
「…何か不味い事でも?」
「指定が結婚指輪はめてる人、だったもんで」
「多少の誤魔化し位良いだろう」
「うーん……」
「正直は良い事だと思うがね」

上条とフィアンマは並んで歩き、大玉転がしの会場へと向かっていた。
それが終われば昼食休憩となる。
上条は両親と過ごすらしく、誘われたが、フィアンマは断った。
別に上条当麻が特別好ましくてこのように頑張っている訳ではないのだ。
必要以上に馴れ合う必要はどこにも無いと考えている。
ただ、受けた義理だけは返そうと、動いているだけ。
そもそも、この上条当麻は、厳密にはフィアンマが知る存在ではない。

「あ、そうだ。俺、上条当麻っていうんです。あなたは?」

お前の事は自己紹介されずとも知っているよ、と言いそうになり。
堪え、フィアンマはしばし悩んだ。
どう答えてやるべきなのか、判断がつきかねる。
なので、定例通り偽名を使う事にした。

「上条当麻。同姓同名だな」
「え?」

上条はきょとんとし、フィアンマを見上げ。
何か名乗りたくない事情があるのだろうと思いやりを発揮して、笑みを見せた。

「わかりました」

日常から非日常へ足を踏み入れるその一歩手前の、澱んだ瞳で。
そんな上条の様子に、やはり自分は間違っているだろうか、とフィアンマは思う。


それから暫く見て周り。
フィアンマは、イタリアまで戻ってきた。
聖ピエトロ大聖堂に入ったところで、一人の女に声をかけられる。

「フィアンマ」

呼ばれ、振り返った。
黄色い修道女が、腕を組んでいた。
不審者を見る目で、フィアンマを睨んでいる。

「アンタ、最近妙な動きばかりしてるケド、何企んでんの?」
「何も企んでなどいないが」

答えて、フィアンマは自らの行動の不自然さに気がつく。
ローマ正教の為とはお世辞にも言えない行動ばかりだ。
ヴェントが不思議がるのも当然の事だ、と思う。

そして、思い出したのは。
エリザリーナ独立国同盟で、彼女と戦った事。
ある意味において私利私欲の為に、戦争の起爆剤としてに彼女を"消費"したこと。
傷つけ、何とも思わずに、笑っていたことを。

"死んだ"時。
もう一度やり直せるなら、絶対に間違えないと思った。
彼女を傷つけたのは、間違った事だと、今なら思える。

「……、」
「…、…何よ」

急に近づかれ、ヴェントは戸惑う。
彼は視線を彷徨わせ、やがて彼女を見下ろして、口ごもり気味に言った。

「………すまなかった」
「…は?」
「わからなくて良い」
「何言って、」
「どのような理由があったにせよ、お前は俺様を止めようとした。
 俺様はあの時、あれが一番正しいと思った。だから、謝らなくて良いのかもしれない。
 だが、お前を傷つけた事は、事実だ。確かにあったことだ。…すまなかった」

謝罪して、フィアンマは彼女に背を向ける。
やがてその背中は、『奥』へと消えた。
ヴェントは困惑のままに、彼を見送る。

「…アイツが謝るとか、気色悪い」

訳もわからず呟きながらも。
彼女は、心の何処かで、『別にもういいよ』と、彼を許した気が、した。


今回はここまで。
何度かお話した通り、明日から更新が遅くなります。
ゆっくりお待ちください。エンドは決まりましたが、展開希望はご自由にどうぞ。

この調子だと科学と魔術の戦争は起こりそうにないな・・・
上条と垣根が学園都市の暗部をすべて支配下において、レベル6になったラスボス一方通行と決戦か?


つーか予め書き溜めてたわけでもないっぽいのに、数日目を離しただけでこれとか相変わらず>>1凄いな
かなり面白い

あと脳内上条さんと楽しくやってるフィアンマさんを見ると、ああやっぱり>>1だなぁって思ってしまうww



今一から読んだ
御坂好きとしては死んだのは残念やけど、
後の展開に必要な部分なんで仕方ないと思うことにする


ゆっくりお待ちくださいとか言っておいてこれだよ。


>>217
正確には戦争を起こさない為にフィアンマさんが暗躍している形です。

>>218
垣根くんとの安価スレやりつつ序盤だけ書き溜めてました。
今は即時書き溜めなのでなかなか大変です…ありがとうございます。
>>1スレ恒例、仲良し右方幻想です。

>>219
ネタバレになってしまうのであまり詳しくは言いませんが美琴ちゃんは今後出てくる予定です。
そもそも上条さんの独白で結構出てますが。

















投下。


—Inhumanity—



自分と、美琴と、御坂妹と。
風斬氷華と、白い修道女と。

楽しく遊ぶ。

『とうま、これなあに?』

白い修道女が、笑顔で問いかけてくる。
その箱の中身は大量のぬいぐるみ。

『それか? UFOキャッチャー』
『前はこんなぬいぐるみなかったんだよ』
『ゲコ太があるじゃない!』

美琴が、インデックスの指差したクレーンゲーム台の中身に反応する。

『これはお姉様の大好きなゲコ太ですね、とミサカも張り付きます』
『この猫…可愛い…』

おっとりとした眼鏡少女、風斬は。
美琴と御坂妹が見つめているカエルのぬいぐるみではなく。
柔らかそうな素材で出来た猫のぬいぐるみに、笑みを浮かべて興味を示していた。

『ねえアンタ、取るの得意?』
『得意…とはいかないな』

美琴に話しかけられ、苦く笑う。
そもそも、クレーンゲームはお金を注ぎ込まねばならないものだ。
美琴は財布を取り出し、風斬やインデックス、御坂妹の分を二人で取ってあげようと誘ってくる。
賛成して、俺も財布を取り出した。きっとすっからかんになるだろう。

『インデックスさん、失敗したらしばらくもやし生活だぞ』
『!!? こ、困るんだよ! 頑張ってとうま!』

応援され、百円玉を投入する。




とりあえずぬいぐるみの山を崩すところから始めようと狙いをつけて——————


目が覚めた。
幸せな夢だった。
まるで、本当にあったことのような。

「……はは、…ははははは…ぁ、…あはは…」

思わず、乾いた笑い声が漏れた。
自分が彼女達を不幸へ追いやったクセに、何を夢見ているのか。
反省することもできないだなんて、自分がつくづく嫌になる。

上条は、責任の所在を誰かに押し付ける現実逃避と、自己否定を徹底的に繰り返していた。
彼の心はその度に傷つけられていき、ボロボロになっていく。


携帯が震えた。
鳴り止まないバイブレータに、それが電話着信であることを知る。

「…もしもし」
『よお、幻想破壊。仕事だ仕事』

かけてきたのは、上条の所属する暗部組織のリーダー。
つまり、学園都市第二位の超能力者である『垣根帝督』だ。
呼び出されるまま、上条は外へ出る。
コードネームたる『幻想破壊』———イマジンマーダーとして、働くのだ。

内容としては、スキルアウト討伐。
生け捕り、などといった指示は一切出ていない為、皆殺しということだろう。
どうせ、無能力者など、いくらでも換えが効く存在だ。

「……、」

上条としては、彼らを殺害することで街が平和になり、人が守られるならそれで良い。
無表情で、垣根と顔を合わせる。能力が無い上条には、拳銃が支給された。

「こっちはこっちで、厄介な方を片付けておく。お前は殺しやすいヤツから殺っとけ」
「わかった」

頷いて、二手に分かれる。
上条が組むのは垣根ではなく、スナイパーだ。
上条が仕留めそこなった者を殺してくれる頼れる存在である。


垣根帝督は、大男の身体を踏んでいた。
正確には、彼の死体である。

「能力者相手の戦闘における着眼点は認めるが、」

足を退ける。
生体反応が完全に途絶えた事を確認したからだ。
彼の死体はぐちゃぐちゃに潰れ、出血している。
『未元物質』によって虐殺されたからだ。

「文字通り"レベルが違った"ってヤツだ。…あん?」

ごろり。

少年のポケットから、携帯電話が転がり落ちた。
待受画面には、金髪に愛らしい顔立ちの幼い少女と一緒に写る、大男———駒場利徳の姿。
垣根はふと、最近流行していると噂に聞いた『無能力者狩り』の話を思い出した。

「……なるほど」

理不尽な暴力が無能力者に振るわれる。
そんな状況が嫌で、この男は行動を起こしたのだろう。
頷き、納得し、垣根は彼の携帯電話を拾い上げる。

幸せそうな待受画面を、数秒見つめ。


何の躊躇いもなく、機械を握り潰した。
うっすらと笑みを浮かべる。
その笑顔は悪意に満ち、どこまでも邪悪だった。

「くっ、は、ははは、ははっ、はははははは! ……あー。……ざまあみろ」

希望やら夢やらを信じて、諦めない。
垣根は、そんな甘ったれた連中が大嫌いだった。
目を細め、携帯電話の残骸を地面に放る。
口元には、うっすらと笑みが浮かんだまま。
彼は気分によっては格下を見逃す悪党だ。
悪人の中でも、そこそこに上等な人種である。
けれども、決して善人ではない。
待受画面に映っていた少女を助けてやろうとは思わない。
『無能力者狩り』にしても、勝手に死ねば良いと、そう思う。
垣根はどうまかり間違っても、ヒーローにはならない男だった。

「……ま、"諦めろ"」

言って、垣根は背を向ける。
そして、何を考えるでもなく、アジトであるホテルへ向かった。


上条は、拳銃の銃口を、金髪の少年に向けていた。
彼は上条を睨み、ナイフを今一度握り直す。

「何でだよ。俺は、テメェの顔を知ってるぞ」
「……」
「俺達スキルアウトに絡まれた女の子を、居合わせれば必ず救ったって!」
「……」
「俺達にとっては、勿論邪魔臭かったさ。けど、テメェは正義側だったはずだ。
 能力も持ってない、正義を貫く無能力者だっただろうが。それなのに何で、」

金髪の少年———浜面仕上の台詞に、上条は首を傾げる。
引き金にしっかりと指を引っ掛けたまま、浜面を追い詰めていきながら。
その顔には、酷薄な笑みが浮かんでいて。
まるで自分の側には悪意など微塵もないように。

「俺は、今でも正しい事をしてるぞ?」

疑う余地などなく、俺は正しい。
いつでもそう思っているんだ。

にっこりと笑みながら答えて。






引き金が、引かれた。


今回はここまで。


投下スピードが恐ろしく早いから毎日楽しみがあって嬉しい

上条さんのみならずここの垣根と一方通行の心情や背景も気になるなあ


一方通行の行動は、一方通行「『妹達』だって生きてンだぞ…?」を思い出す

個人的には一方さんは人を殺すのが楽しい快楽殺人者みたいで敵を望んでいたけど綺麗なのも嫌いじゃない


今回のテーマは『皆マジキチ』かもしれない。

>>238
書いてみました。今後投下します。

>>240
あれ涙腺崩壊SSですよね(ステマ)
このスレでは綺麗なんだかよくわからない人になってます。


今更ながら、過去捏造や関係性捏造などにご注意ください。









投下。


—lavaggio del cervello—


十月六日。
上条当麻は、日常を手放した。
今日の天気は悪く、その悪天候が長らく続いていた。
上条の心情を代弁するように、大雨が降り続けている。

「……、…」

学校へ行って。
友人と話して。
友人と遊んで。
家に帰り、宿題を片付ける。

当たり前の日々だったはずだ。
億劫な時があっても、愛おしい日々だったはず。
だけれど、罪悪感が胸を押しつぶしてきて。
自分のような大量殺人犯が、何の非もないクラスメートと談笑していて良いのか。
そんな事を思ってしまえば、後はもう、日常から立ち去る他無かった。

上条の首や手足には、いくつもの躊躇い傷があった。
死んでしまおうと思っては、いつも邪魔が入り。
結局死ねないまま、罪悪感に耐え、毎日を生きている。
普通の学生としての日々を捨ててしまった以上、今度は『こちら』が日常となるのだろう。
暖かで柔らかで、幸せな毎日が、非日常となってしまうのだろう。遠い、存在に。

「………」

上条は、無言で膝を抱える。
口座には、恐ろしい程の金が振り込まれていた。
無能力者として、一般学生として過ごしていた頃では、絶対に手に入れられなかった金額だ。

ピンポーン


インターフォンが鳴った。
のろのろと立ち上がり、ガチャリとドアを開ける。
立っていたのは、明るい親友であり、頼れる隣人だった。

「いやー、元気してるか? カミやん」
「……何か用か?」
「この通り、学校に来た時困らないように優しい土御門さんが書類を持ってきた訳ですたい」

ほら、と差し出される、色々なお知らせ。
上条は、のろのろとそれを受け取った。
どのみち、学校へ行くつもりはないけれど。

「カミやん」
「…ん…?」

サングラス越し。
瞳が、すぅ、と細まる。

「……カミやんは、どうして"こっち"に来たんだ?」
「…何言ってるかわからないんだけど」

上条は、曖昧な笑みを浮かべ、誤魔化そうとする。
土御門は、そんな上条を咎めるように見つめた。

「何かを守る為か?」
「……、…」

もしも、正体が感づかれたら。
相手を見極めて、誤魔化せ。
その誤魔化しが利かない、その道の人間であると判断したならば。
殺害して、後処理を頼めば良い。

垣根の言葉が、脳内に甦る。
尻ポケットにある自動拳銃が、ずっしりと重く感じられる。


だが。
仮にバレたとして、殺せるのか。
土御門元春を。
学園都市に来て、親友と呼べる程に親しくなった、この優しい友人を。
義妹を心から愛していて、馬鹿話で笑い合える、この友達を。

上条の手が、震える。

『幻想破壊。簡単な世の中の運命論ってヤツを教えてやる』
『よく、"お前が怠惰に生きた今日は、昨日死んだヤツが死ぬ程生きたかった明日なんだ"だとか』
『そういう綺麗事、あるよな?』
『あれは間違いだ。実際は違う』
『誰かが笑うには誰かが泣いて、誰かが幸福になるために誰かが不幸になる』
『死ぬヤツも生きるヤツも決まってるんだよ』
『列車事故でたった一人生き残ったり、はたまた数人だけ死んだりするのと一緒』
『シンプルだろ。この世の中は数式で表せられる位にシンプルな仕組みをしてる』
『どんな相手でも、お前が殺した事で、回りまわってそのことで生きながらえる奴がいる』
『或いは、幸福になれるやつが、守られるやつがいる』

垣根の言葉が、頭の中で再生される。
世界は、残酷なシステムとルールで統制されている。
やり直しなんて利かない、一と一の奪い合い。

あの金髪の少年を殺した時のように、自己肯定をしなければ。
そうだ、自分は正しい事をしようとしているのだ。


殺せない。
殺した方が良い。
殺した方が有利。
殺せない。
殺さなければ。
存在を消すんだ。
殺せない。
殺したくない。
そうやって自分は誰かを助けて。
大きな悲劇が起きて。
多くの人が死んで。
自分が意気地なしだったから。
自分が我が儘を突き通したから。

殺せない。
殺したくない。

これからも、土御門と友人で居たい。

「カミやん。カミやんは、今なら、まだ戻れる」

その一言が。
善意の一言が。
上条の、狂った何かに触れた。












「…………やり直せる訳、ねえだろ」


今回はここまで。


一応ハッピーエンドを予定しています。…ハッピーの意味がわからなくなってきた。
















投下。


—Peggior di espansione—




「あは、あははは、ははははははははは…」

崩れ堕ちる。




最初に、狂気があった。
狂気とは、神浄であった。


十月六日。
一方通行は、本日も実験に取り組んでいた。
二万回行う筈だった実験の数は増え、合計にして二万七回。
ハイペースで行われていく中、一方通行の精神は、変化を遂げていた。

「よォ」
「? 実験開始にはまだまだ余裕がありますが、とミサカ16522号は困惑を露わにします」
「無表情じゃねェか。…まァイイ」

酷い雨の中。
一方通行は、16522号を食事に誘った。
困惑するその個体を連れ出し、ファミレスへ向かう。
休日の昼とはいえ、この大雨の中、客はほとんど居らず。

「…何でも良い、好きなモン頼め」
「何故ですか、とミサカは質問します」
「何だってイイだろォが」

つまらなそうに、一方通行は言う。
精神というものは、追い詰められると、停滞期を迎える。
蝶でいうところの、蛹の時期のようなものだ。
発狂にも段階というものがあり、一方通行は現在落ち着いた状況にある。
常人から見れば今も前も狂ってはいるのだが、思考回路に違いがあるのだ。
敢えて発狂することで、彼は『絶対能力者』へ至るのかもしれない。
そもそも能力開発とは少年少女を『自分だけの現実』へ送り込む事だ。

16522号は小首を傾げつつも、メニューを眺める。
色とりどりのサラダや、湯気の立つハンバーグの写真。
どれも視覚的に食欲を誘い、16522号は、無感動な瞳を、少しだけ輝かせる。

「………」

別に、一方通行は彼女を気に入った訳ではない。
妹達に愛着が湧いた訳でもない。
少しだけ哀れみ、自分の実験が少しでも早く終わるよう努力しているだけだ。

上条に見捨てられた妹達。
自分に殺される事が確定している少女達。
その脳内構造がどのような状態か、一方通行は知っている。
知っていて、全個体で共有出来るよう、良い思い出を作る。
そうすることで人間に近づけ、より早く『絶対能力者』になれるよう、努力しているのだ。
そのための投資だと思えば、幾ら食事を奢ろうとも財布は痛まない。
もっとも、彼の預金口座には金山が眠っている程なのだが。

「いただきます、とミサカは呟きました」
「そォいう知識は入ってンのか」
「学習装置に入っていました、とミサカは答えます」

一方通行は研究者のような瞳で、彼女達を見つめる。


上条当麻は、天井を見つめていた。
止めどもなく流れていく涙が、枕に染み込んでいく。
泣きすぎて水分が足りないのか、ズキズキと頭が痛んだ。

「………」

彼の唇は、ぱくぱくと、動いている。
この四時間近く、ずっと。

『ごめん、土御門』

その八文字を、ずっと繰り返している。
茫然と。自分が殺したクセに。

「………」

最初こそ声は出ていたが、やがて枯れた。
上条は喉風邪を引いた人間のように、掠れた吐息で謝罪を繰り返す。
既に、死体は後処理部隊によって処理された。


インターフォンが鳴り、応答する。
訪問者は、メイド姿の小柄な少女。

「兄貴が何処行ったか知らないかー?」

上条も、彼女の事をよく知っている。
先程自分が殺害した親友の、大切な義妹なのだから。
ああ、この子だけは彼の代わりに守り抜いてみせよう、と上条は思う。

「わ、るい。さい、近、体調…悪くて、さ。けほ、…会ってないんだ」
「そうかー…」

息をするように嘘を吐き出す上条。
舞夏はしょんぼりと相槌を打ち、彼に背を向けた。
暗部は基本的に事件を丸ごともみ消す。
故に、舞夏が幾ら探しても、情報の欠片も出てこないかもしれない。
いつか真実を知った時、彼女はいかなる憎悪の視線を、自分に向けるだろうか。
想像して、身震いして、ドアを静かに閉めた。

「………」

俺は間違ってない。
これで救われた人が居るんだ。

そう自分に言い聞かせるも、やはり涙が溢れてくる。
息がぐっと苦しくなって、思わず壁を引っ掻いた。
ザリリ、という音と、痛みと。
ぼろり、と落下した白くて硬いもの。

「……」

爪が剥がれたのだと認識しながら、ベッドへ戻る。
再び横たわり、謝罪を繰り返した。
何度そんな言葉を口にしても、罪悪感が減る訳でもないのに。


夢を見た。
両親が、殺されてしまう夢だった。
金を奪っていきながら、暴漢は笑っていた。
そして、自分の眉間に銃口を突きつけて。

『運が良いな』

そう言って、拳銃が弾切れであることを示し、笑ったのだ。
暴漢は金品を着服して、階段を下ろうとする。
自分は彼の背中を静かに追いかけて。

『いつでも正しい事をしなさい』

そんな、かつての親の言うことに従って、暴漢を止めようとした。
実際はどうだったか、忘れてしまった。
ただ、親が死んで動かなくなったのは暴漢のせいであると理解していた。
だから、復讐しようという気持ちは、多少なりともあったかもしれない。

右手を突き出して、突き飛ばした。

暴漢は階段を落下し、頭から血液と脳漿をぶちまけて動かなくなる。
自分が殺したのだな、と、今だからこそ自覚出来た。
暴漢が次の家を襲わないように、殺したのだ。
これで誰かが救われたのだ。自分は、そう思っていただろうか。

思えば、世界が歪んでいると感じたのは幼い頃からだった。
幸運の絶頂に常に君臨する自分には、不幸しか降りかかってこなかった。

十月三十日(あの日)も。

「………」

目が醒める。
寝覚めは最悪だった。
深呼吸をして、外の景色を見る。
さわやかな朝だった。

「……結局、俺様は何も救う事は出来ないのか」

誰かを幸せにしようとしては、空回りして、大勢の人々を犠牲にする。
フィアンマは、そんな不幸な男だった。


十月十八日。
一方通行は、妹達の一人と対峙していた。
そして、攻撃を仕掛けないままに、立ち尽くしていた。

「っ……」

彼女は、泣いていた。
泣いて、震えて、怯えていた。
彼女は、ミサカ19090号。
布束砥信により、恐怖の感情のデータを唯一入力されている個体だ。
布束は、そのデータ入力による怯えで、一方通行が実験をやめようと言い出す事を期待していた。

「………」

それが、もっと早かったら。

物事には、最適なタイミングというものがある。
もしも、そのデータを入力された個体が、10032号だったなら。
一方通行が『絶対能力者』の精神に近づきつつある今でなければ。
きっと、未熟<まだまとも>な時期であれば。
一方通行は、怯える彼女の為に、殺人の手を止めたかもしれない。

ふぅ。

ゆっくりと、彼は息を吐きだした。
頭の中に、シナリオはきちんと入っている。
個体が泣き出すというイレギュラーには、イレギュラーをぶつけるべきだろう。

「…19090号」

個体番号を呼び。
一方通行は、顔を上げた彼女に、優しげな笑みを浮かべてみせた。
それは彼には酷く不釣り合いで、しかし、似合っているといえば、そうだった。
彼は、手を伸ばし、19090号の髪を、そっと優しく撫でる。
ゴーグルをズラしてしまわないよう、丁寧に、甘やかすように。

「ぁ……」
「死にたく、ねェのか」
「…っ、…死ぬのは怖いです、とミサカ、は…怯えを、吐露しま、す」

怖がっている彼女の髪を撫で。
一方通行はその場にしゃがみ、子供のように泣いている彼女と、視点を合わせる。


ゆっくりと。
怯え、泣きじゃくる幼児に言い聞かせるように、話す。
カウンセラーが、相談者の言葉を聞いて、心を癒すように。

「オマエには、感情があるのか」
「……」

こく、と彼女は頷く。
浅い頷きということは、自信が無いのだろう。
一方通行と過ごした優しい時間の思い出も、確かにある。
ミサカネットワークによって共有されたものだ。
彼女に限らず、感情というものが発露し始めている個体は多い。

「痛いのは嫌です、とミサカは懇願します」
「ン……」

慈悲に満ちた一方通行の様子に。
19090号は、安堵と共に泣いて、言う。

「怖いのは嫌です、とミサカは怯えます」

涙を手の甲で拭う彼女を、一方通行は見つめる。
その赤い瞳には、愛情と呼べそうな光が灯っていた。

「そォか。…じゃあ、予定を変更しような」
「変…更? とミサカは戸惑います」

不思議そうな表情を浮かべる19090号。
一方通行は、彼女の頭を撫でるのをやめ。
そして、優しく、左手で、彼女の右手を握った。


破裂音が響いた。
血液と臓物が、辺りに飛び散る。
唯一遺った"手"を捨て、一方通行はきちんと立ち上がる。
『反射』を適用していたため、彼の身体には返り血一つ無い。
彼はゆるりと、経過を観察していた研究者に問う。

「今回のイレギュラー、誤差の範囲は?」
「あ、ああ、大丈夫だ。問題ない」
「ン、ならイイが。…バリエーションが増えンのはイイが、きちンと管理はしてくれよ」

だるそうに目を擦り、一方通行は歩いて行く。
研究所を出て向かうのは、いつものようにコンビニだ。
最近は缶コーヒーにも飽き、ボトルコーヒーへ手を出し始めたのである。
セキュリティーの確かな場所に住んで丁寧に豆から淹れても良いかもな、と彼は思う。
今のところ無趣味なので、何か趣味を見つけたいところだ。

「……」

くぁ、と欠伸が漏れる。
最早、妹達を殺害することは日常となっており、気に留める事でもなかった。
『自分だけの現実』がより確立されていき、彼は狂っていく。
それこそが実験の目的とするところでもある。
人それぞれ精神を来すにしても発狂の仕方というものがあり。
魔術で言えば脳の構造を砕いて霊装に出来る適性と同じように。
彼にだけ、そうした『特殊な狂い方』に対する適性があるのだろう。
事実、怒りを誘い、『外』の特殊技術を用いたとある実験では恐慌状態の果てに、その細い背に黒い翼を顕現させた。
演算を超えた部分にある、発狂などの精神状態の変化に伴う力の推移、発展。
彼を第一位と位置づける、最も重要な要素。

「…ねみィ」

コンビニに入り、ボトルコーヒーを眺める。
一見して、彼は色素が薄いだけで、普通の男子学生のように見えた。


神様の答え<SYSTEM>を導き出すまで、後、何日。


今回はここまで。
グロと死ネタの連続で申し訳ありません…。

お…乙

ハッピー…エンド…?
アレイスターの…ってこと?

乙。>>1があんまり書けなくなるって言葉の意味、俺理解できてなかったみたいだわwいつもいい意味で裏切ってくれて最高過ぎるww


いい狂気だな。上条さんも一方さんも。
上条さんは『殺す』って事は、その人が存在、行動する事によっての『誰かを幸せにする可能性』も全部奪うって事に気づかないままなのかね…


ハッピーエンドは、上条さんにとってのものです。



>>278
アレイスターさん的にはバッドエンドですね…


>>279
個人的にはこの更新速度遅い方なんですよ…忙しくなければ…ぐぬぬ







投下。


—scopo—



垣根帝督は、第一位の座に就くべく努力させられ、努力してきた。
彼は所謂『置き去り(チャイルドエラー)』だった。
保護者という優しい後ろ盾の無い彼は、地獄のそこの研究所へとぶち込まれた。
実験動物<モルモット>として薬品を多量に摂取し、虐げられ、傷つけられてきた。
精神が摩耗していくと共に、彼の才能は爆発的に開花していった。
生まれ持っていたその力は、『未元物質(ダークマター)』。
この世界に存在しない素粒子を観測し、操る能力。
それは最早、とある世界を丸ごと掌握していることと同じ。

『…、…おれはとくべつなんだ』

研究員に好かれようと、心理学を学び、甘い言葉を覚え。
その特異さ故に学園都市第一位となれる、その一歩手前で。

横から、かっさらわれた。

垣根の様々な努力は、その平凡で非凡な少年の存在によって、泡と消えた。


幸福に生きていく為には金が要る。
能力開発の伸びしろ無しの第二位として研究所から放り出された垣根は、まずそう思った。
法外な実験に身体を貸した多額の謝礼金に、『超能力者』に与えられる破格の奨学金。
それでも、垣根の荒んだ心を癒すには足りず。

学校から、社会から、光から、地位から。

全てから拒絶された夢見がちな少年は、合法ドラッグと酒に頼った。
財産を消費し、毎日のように溺れた。


やがて、彼の人生に転機が訪れた。
薬の売人に誘われるまま、垣根は暗部組織へと足を踏み入れる。
実力の有り余る彼が一組織のリーダーとなるのに、然程の時間はかからなかった。

当時の彼は闇の道を進みながらも、光の住人へ目を向けた。
正確には、光の残る闇の被害者へ。

『お前、名前は?』
『ない』
『能力名は?』
『心理定規』

大人びた装いをした幼い少女。
本当は、もっと明るい場所に立って、笑っているべきだった子供。
垣根は、彼女を救ってやりたいと思った。

しかし、現実とは反吐が出る程に残酷なもので。
心理定規は垣根を裏切り、別の組織と通じて、彼を陥れようとした。
真実を知り、自らの手で裏切り者たる少女を始末した時。

散々荒みながらも保ってきた、少年の中の温かな『何か』が『壊れた』。

まだそれでも修復出来た筈の彼の心は、とある研究者の一言によって穢される。

『ようやく諦めてくれたようで、安心しました。良い表情です。
 実 験 は 成 功 し た よ う で す ね』

全てが仕組まれた、イカれた実験だったと知って。
その時、垣根は笑っていたかもしれない。

『そうか』

邪悪な堕天使の如く、否、言葉通りに。
白い羽を赤黒く染め、垣根は誓った。

学園都市第一位の座を取り戻し。
統括理事長と交渉して、学園都市をこの手に。

暗部という肥溜めの仕組みを壊し。
もう二度と、誰かが『壊れる』ような悲劇の起こらない街にする。

それが、垣根の夢。

自らも絶望し、目先の甘い夢を抱く人間を徹底的に嘲り絶望させる少年の、


たった一つの目標。


その為なら、何でもする。
鬼でもあくまでも化物でも、何と呼ばれてもいい。
現実的に優しい世界を創る為なら。
どんな人間でも殺し、利用し、虐げる。

「……俺は、学園都市の住人を救う」

垣根はもう、薬はやらないし、酒も呑まない。
我慢している訳ではない。
自分の目的が定まっている以上、苦しい事が無いからだ。

「………殺す」

一方通行を。

どんな手段を、使ってでも。


だから彼は、ヒーローにならない。


一方通行は、平凡で、少し頭が良いだけの少年だった。
彼には、既に両親が居ない。ずっと昔に死んでしまった。
保護者という優しい後ろ盾の無い彼は、地獄のそこの研究所へとぶち込まれた。
何度もたらい回しにされ、その度に自分が化物であることを自覚させられた。
実験動物<モルモット>として薬品を多量に摂取し、虐げられ、傷つけられてきた。
精神が摩耗していくと共に、彼の才能は爆発的に開花していった。
身に持ったその力は、『一方通行(アクセラレータ)』。
運動量・熱量・光・電気量etcといったあらゆるベクトルを観測し、触れただけで変換する能力。
それは最早、この世界を丸ごと掌握していることと同じ。
たとえ核爆弾を使ったところで、彼を傷つける事は出来ないだろう。

彼を傷つけられるのはただ一つ。

悪意ある言葉だけだ。
とはいっても、彼は自分の危険性を自覚している。
それ故に、暴力を振るおうとは思わない。
ただ相手が攻撃をしてきて、『反射』されて死んだりしているのを見ているだけ。
そうしている内に、彼は無敵を求めるようになった。
そして、禁断の実験に手を出した。妹達を二万通り殺害して『絶対能力者』へ至るそれだ。


沢山の妹達を殺害し。
一度殴って止められ、再開し。
美琴を『反射』によって殺害した彼は、今、狂っていた。
平凡な日常と平穏な毎日を求め、非日常の中で築き上げた狂気。
だが、そんな狂気の中でも、決めている事がある。

絶対に、『絶対能力者』へなってみせる、ということだ。

神様の答えにたどり着けば。

「……」

一方通行は、柔らかい笑みを浮かべた。
彼が撫でているのは、死亡した妹達の一人の頭だ。

「『絶対能力者』になったら、俺の『一方通行』の適用範囲が広がるらしィンだよ」

死に顔を綺麗にしてやり、彼は言う。
常人が聞けば、ぞっと背筋を震わせるような声で、その言葉を。

「時間に架空のベクトル軸を設定して、操作出来るらしい。
 そォしたら、お前達も全員蘇る。そうしたら、何しよォか。
 オマエ等はミサカネットワークで連携するし、俺は演算スキルが高い。
 実験で鍛えられた者同士、イイ勝負になるンじゃねェか?
 …レースゲームでもしてみっかねェ。…あァ、コントローラ足りなくなるか」

彼の中で、その幸せな光景は既に確定していることだ。
そして、彼女達を蘇らせる予定がある以上、殺す事さえ億劫ではない。
さっさと『絶対能力者』になって、さっさと彼女達を蘇らせる。
自分達はこの実験の被験者同士なのだから、きっと仲良くなれるはずだ。
初めて友達というものが出来るかもしれない、と一方通行は密かに期待している。
彼女達とは実験前まで食事をしたり、和やかな時間を過ごしている。
訳もわからず目的に従って死んだ00001号とも、談笑出来るようになれたらいい。
自分のせいで死んだ人間はとりあえず全部蘇らせよう、と一方通行は脳内でリストアップする。

「その時にはオリジナルにも謝っておくべきか…?」

ナーバスそうに呟く。
彼にとってもはや、死と生は等しいに近しい。

もうすぐ、神様の答えに、手が届く。
指先は引っ掛けた。だから、後少し。


沢山の妹達を殺害し。
一度殴って止められ、再開し。
美琴を『反射』によって殺害した彼は、今、狂っていた。
平凡な日常と平穏な毎日を求め、非日常の中で築き上げた狂気。
だが、そんな狂気の中でも、決めている事がある。

絶対に、『絶対能力者』へなってみせる、ということだ。

神様の答えにたどり着けば。

「……」

一方通行は、柔らかい笑みを浮かべた。
彼が撫でているのは、死亡した妹達の一人の頭だ。

「『絶対能力者』になったら、俺の『一方通行』の適用範囲が広がるらしィンだよ」

死に顔を綺麗にしてやり、彼は言う。
常人が聞けば、ぞっと背筋を震わせるような声で、その言葉を。

「時間に架空のベクトル軸を設定して、操作出来るらしい。
 そォしたら、お前達も全員蘇る。そうしたら、何しよォか。
 オマエ等はミサカネットワークで連携するし、俺は演算スキルが高い。
 実験で鍛えられた者同士、イイ勝負になるンじゃねェか?
 …レースゲームでもしてみっかねェ。…あァ、コントローラ足りなくなるか」

彼の中で、その幸せな光景は既に確定していることだ。
そして、彼女達を蘇らせる予定がある以上、殺す事さえ億劫ではない。
さっさと『絶対能力者』になって、さっさと彼女達を蘇らせる。
自分達はこの実験の被験者同士なのだから、きっと仲良くなれるはずだ。
初めて友達というものが出来るかもしれない、と一方通行は密かに期待している。
彼女達とは実験前まで食事をしたり、和やかな時間を過ごしている。
訳もわからず目的に従って死んだ00001号とも、談笑出来るようになれたらいい。
自分のせいで死んだ人間はとりあえず全部蘇らせよう、と一方通行は脳内でリストアップする。

「その時にはオリジナルにも謝っておくべきか…?」

ナーバスそうに呟く。
彼にとってもはや、死と生は等しいに近しい。

もうすぐ、神様の答えに、手が届く。
指先は引っ掛けた。だから、後少し。


だから彼は、ヒーローにならない。


今回はここまで。
何もなければそろそろ終わる(はずな)んです…多分。
ご希望などありましたらどうぞ。
余談ですが、黒髪のフィアンマさんってかっこいいと思いませんか。
以下それ某城の魔法使いじゃね禁止

乙。他超能力者はどうなってるのやら

CV:木村拓哉か…>>1監督作品『フィアンマの動く城』…か…

公開はよ


一方通行「安価で妹達全員とゲームで対戦する」

炎の悪魔じゃなくて火属性の天使と契約してるわけか

謎連投すみません。あそこだけ重要な訳ではないのですが。

>>303
(今回は描写しない方向で)
フィ「幸運でなければ生きている意味が無い…」ドロォ
上「フィアンマの馬鹿野郎! 俺なんか、…俺なんか、幸運だったことなんて一回もねえよ!!」
誰か右方幻想でハウルパロ書いてるくださらないもねですかね…。

>>304
神の如き者の力と引き換えに心臓を…


「思想を破壊する思想がある。もし破壊され
ねばならぬ思想があるとすれば、まずこの思想
こそ破壊されねばならぬ思想だ。」

哲学者の名言で上条さんが危ない。
ちなみに今日の投下はもう無いです。

神は言っている…!『書いちゃってもいいのよ?』と…

ただハウルパロだと上条さんはじいちゃんだ。萎びたウニさんだ…


地毛が黒のフィアンマさんとかすごくイケメンじゃないか…色素矛盾してるし
過労には皆様お気をつけください…>>1はフィアンマ教やってるので元気です。

>>308
萎びたウニさんに需要は…ありそうで困る
ハウルは本が家にあるんですけどね、パロやるとなると滅茶苦茶大変で



何で黒髪ンマさんの話したかというと出るからです。




投下。


—Realta pene o trattamenti crudeli—



十月十九日。
右方のフィアンマは、カレンダーを見つめていた。
今日も、イタリアは、いいや、世界の大半は平和だ。
第三次世界大戦など、起きる様子すら見えない。
そもそもきっかけとなりそうなものを全て対処したのだから、当たり前だ。

フィアンマは、右手人差し指で、日付をなぞる。

上着の赤いカーディガンの裾を触った。
ぼんやりと日付を見つめてみる。
以前なら我慢ならなかった世界の歪みは、今はどうでもよくなっていた。
あの男に負け、アレイスターに立ち向かった時点で、自分は変わったのだ。

「……この、世界を」

救う必要は無い。
ただ、あの男の代わりに守れば良い。
そしてふと、上条当麻の近況が気になった。
部下に調べさせれば、あっという間に結果は出るもので。
思わず、フィアンマは沈黙した。

「…………」

やっぱり、自分には何も救えない。
あの男のようにはなれない。
思って、フィアンマは目を伏せる。


フィアンマは、自分の部屋へ戻って来た。
ベッドへ横たわり、静かに目を閉じる。
すると、囁く声が聞こえてきた。

『右方のフィアンマ』
「……何だ」

初めて聞く声だった。
少なくとも、人のそれではないことはわかっている。

「そもそも、お前は何だ」
『ふむ。…エイワス、或いはアイワズと名乗っておくべきか』
「俺様に何の用だ」
『ネタ晴らしをしようかと思ってね。世界を丸ごと過去に戻したのは私だ』
「…俺様の記憶だけ残して、か」

小さな笑い声。
気に障る、と思いながら、フィアンマは毛布を握る。

「何の為だ。……何の為に、」
『君は、アクション映画というものを観劇したことがあるか?』

つまりは、暇つぶし。余興。
猫に猫じゃらしを与えたら愛らしい動きをするだろうから、その程度の気まぐれ。
本当の化物は人間の尺度では測れない物事の考え方をするな、とフィアンマは思う。

「それで、…告知しに来たということは、ゲームオーバーか?」

自分の行動がつまらなかったのだろう、とフィアンマは思う。
エイワスは、肯定しなかった。


十月二十四日。
一方通行は、合計20007回の実験を終えた。

彼は、神の身ならずして神の答えに———たどり着けなかった。

端的に言えば、『絶対能力者』にはなれなかった。
彼の背中には、白い翼が悠々と生えていた。
ゆるゆると羽ばたき、やがて、しなり、と崩れ落ちる。
翼は光のようになって、掻き消えた。
赤い瞳は、20007号の死体を、見つめていた。

茫然と。
まるで、親に置いていかれた子供のように。

「なンで、だよ」

妹達は徐々にその実力を上げていき。
一方通行とほぼ対等に渡り合っていた。
魔術だか何だか知らないが、『外』の技術を使いながら。
そして、そんな互角の戦闘を楽しみながら、一方通行は楽しみに待っていた。
神様の答えに届き、時間を操り、全てをやり直せる、その瞬間を。
皆を蘇らせ、一緒に話し、遊び、友人となれる、その時を。
絶対能力者になれなければ、何の意味もない。
実験は失敗だったなんて、そんなこと、認めたくない。

「…なンで……」

膝から、がくりと崩れ落ちる。
地面に膝をつき、一方通行は絶望した。
やり直せない。時間は戻らない。自分はただの殺人者。
妹達の犠牲に、何の意味も持たせられなかった。

もたせて、あげられなかった。


「………」

程よい狂気は、能力開発に効果的だ。
だが、度を過ぎれば、それはただの暴力の切欠にしかならない。
一方通行は、心の底から世界を憎悪する。
救いの無い世界に。救いの無い未来に。
こんな世界、なくなってしまえば良いと、そう思う。

「ッッ、…ァ、…ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

絶叫する。
彼の背中から、白と黒の翼が飛び出した。
決して灰にはならないコントラストが、暴れ狂う。
廃ビルが倒壊し、男性研究員が巻き込まれた。

そんな彼の様子を。
垣根帝督と上条当麻は、安全圏から見下ろしていた。

「おーおー、すげえなありゃ。"失敗"だったみてえだな」
「………」
「…で、殺れそうか?」

垣根の視線を受け、上条は黙り込む。
頷くかどうか、迷っていた。
一方通行を殺さなければ、きっと世界は滅んでしまう。
少なくとも、学園都市の住人は皆殺しだろう。
暴走して危険、そういった大義名分を作る為に、垣根は待っていたのだ。
上条は、右拳を握る。ちらり、と視線をやった。
あの翼も、見るからして異能の力だろう。押さえ込めば、殴り殺せる。


一方通行のストッパーとなれたかもしれない、妹達のとある特別な個体は居ない。
計画が終了すると同時に死ぬよう設定されていたため、息の根は止められた。
だから、誰も彼を止められないまま、破壊は繰り広げられていく。
唯一彼を止められる上条当麻は尻込みし、黙っていた。
垣根帝督は一方通行の様子を眺め、どうするか静観を決め込んでいた。
このまま街を破壊させて、その後のインフラ等を掌握してしまっても良い。
やがて一方通行の凶行は、一般人にも向けられそうになった。
そこに居たのは、金のふわふわとした髪を持つ、幼い少女だった。
随分と前に行方を眩ませた『駒場のお兄ちゃん』を探していたのだ。
その結果、このように人気の無い場所にまで、足を踏み入れてしまった。
一方通行の、やや焦点の合わない瞳は、無害そうな少女までをも攻撃対象として捉える。
垣根は視線を向けたが、上条当麻は顔面蒼白で固まっていた。
助けたい、しかし助けてまた失敗したら、そんなジレンマに苛まれている。

「…大体、な、に…?」

白と黒の煙のような翼を吹き出し、迫る悪魔に、少女は怯える。
暴走している彼は、彼自身でさえ、最早止められない。
垣根は悪意を持って、笑みを浮かべた。本当の一般人を殺害して罪を背負え、と思っているのだ。

少女は。
フレメア=セイヴェルンは、きゅっと目を瞑る。
あまりの恐怖に、失禁してしまいそうだった。
まだまだ幼い彼女に、死という概念の恐怖は理解出来ない。
しかし、痛い事をされるのだろうなあ、という思いは、自然と湧いてきた。

助けは来ない。
救いなど無い。





この世界には、悪意と狂気しか—————










「酷い惨状だ。さて、世界を守るとしようか」


今回はここまで。

この上条当麻をフィアンマはどう思うんだろ?

乙。もし狂暴一方さん、暴君ていとくん、壊れたとーまくん、逆行フィアンマさんが戦えば学園都市全壊すんじゃねww

もしそうなったら、「誰も傷ついてなかった、あの頃へもう一度」の理念の元に皆の知識と力を結集して時間遡行しようとしたりするんだろうか。妹達消えてエイワス顕現できないし


キーボードのAがあまりにも言う事聞いてくれないのでDVしました(懺悔)


>>327
失望と呆れと喜びと、色々と混ざった感情を抱いていますが、『同情』が一番かもしれません

>>328
四人のチートで世界がやばい









投下。


—conoscenza assegnati—


話は、少し前に戻る。
フィアンマと、気まぐれな守護天使の会話だ。
エイワスは『ゲームオーバーか』という発言に肯定の意は見せなかった。
彼、或いは彼女は、アレイスターの『プラン』に飽いたらしい。
それ故にときを戻し、アレイスターが直接殺害しようとしたフィアンマを観察していた。
世界の命運を変え、因果律に大きく作用した行動の数々が、なかなかに愉快だったらしく。

「…それで?」

冷ややかに、フィアンマは問う。
観察云々や気まぐれは理解したが、直接接触しに来た理由が、見えない。

『いや何、"未来で"世界の命運を気にかけていた君に、教えようと思ってね』
「何をだ」
『世界の危機を』

端的に。
実にシンプルに、エイワスは答えた。
現在の行動理念が『上条当麻の守った世界を守る』であるフィアンマは、当然反応した。

「…世界の危機」
『学園都市の超能力者序列第一位の一方通行は、まもなく暴走する』

真実を述べ、エイワスはフィアンマを見つめた。
決して主人公にはなれなかった筈の、非情な青年魔術師を。

『能力暴走ではなく、彼の本質によって』
「アレイスターはどうした」
『"私はここにいる"』

自分が勝手気ままなことはわかっているだろう。
『プラン』に飽きさせた彼に、自分を制御させると思うのか。

つまりは、そういう意味の発言。
アレイスターの束縛から逃れる為に何をしたかは知らない。
正直に言えば知りたくもない。
が、あの死すべき最悪の魔術師が死んでいるとは思えない。
しかしながら、多少の何かはあった様だ。
アレイスターが動けない今、一方通行暴走を止められる人間は、限られ過ぎている。
いや、『絶対能力者』に至りかけている彼に勝利出来るのは、完全な成功率を得た魔神程のものだろう。

「果たして俺様に止められるレベルか」

呟いて。
フィアンマは、雪原でアレイスターと戦った、いいや、一方的にやられた時のことを思い出す。
上条の言葉も。あの日、彼に教えてもらったことを。

本当に助けたいという想いが先行していれば、勝算なんて二の次にならなければおかしい。

「……、…」


右方のフィアンマは、別に上条当麻の事が好ましい訳ではない。
少しばかり憧憬のようなものを抱いているだけで、愛している訳ではない。
ましてや、この世界に存在している…否、自分のせいでどん底へ堕ちた上条は、特に。
だけれど、だからこそ、今この状況に至った世界だからこそ思う。
自分のせいで不幸にも幸福にもなりきれなかった男を、守らなければならないのでは、と。
それを除いたにせよ、世界を守る為に、勝算の計算などかなぐり捨てて向かうべきなのではないかと。
思いを抱けば、後はさほど考え込むまでもなかった。
フィアンマは毛布を放って勢いよく起き上がる。

(行くのか?)

『上条当麻』に問われ、フィアンマは無言で立ち上がった。
浅く頷いて、その足を学園都市へと向ける。
それに、謝らなければならないとも思うから。

「俺様の存在理由を履行しに、な」

悲劇を回避した。
上条の為を思い、不幸となる障害を全て退かした。
全て退かしたが故に上条は記憶喪失という死を迎えることもないままに過ごした筈だった。
そのまま大人になって、それなりに幸せな一生を過ごしてくれると、フィアンマは期待していた。
間違えてしまったものは仕方ない。後始末は自分の手で付ける。


外へ出たところで。
エイワスに呼び止められ、振り向いた。
エイワスはうっすらと笑みを浮かべていた。
清廉とも、邪悪とも呼べる不可解な笑み。

「何だ」
『知識を授けようと思ってね』
「知識?」
『観劇するならハッピーエンドに限るだろう?』

エイワスの知識は、『原典』以上の毒だ。
まともな魔術師であれば、到底耐えられない。
生憎とフィアンマは人間の形をした特別製の魔術師であり。
世界の誰もが笑顔で過ごせるハッピーエンドとやらを望んでいた。
かつて人が、悪魔にそそのかされて知恵の実を口にしたように。
フィアンマは守護天使を見上げ、教えを乞う。
かつて『法の書』を綴った魔術師が、そうしたように。

「………」

毒素を、『聖なる右』で押さえ込む。
たった一人の少年の為に何をやっているのだろう、とフィアンマは小さく己を嘲笑った。
守護天使は最後の妹達が死亡すると共に、その姿を消す。
もっとも、この世界から消滅しただけで、見えない世界には存在するのだろうが。
そもそも、あの領域に存在しているバケモノは、もはや1にも2にもなれる異常者ばかり。

「…さて、行くか」

世界を救いに。
自分がすることは、決してハッピーエンドの伏線とは呼び難い事だけれど。
少なくとも、上条当麻の本質が自分の知っているものならば、納得してくれるだろうと。
そのことを、どうか信じて。


「酷い惨状だ。さて、世界を守るとしようか」

宣言して。
フィアンマは、一方通行を見やった。
垣根は興味深そうにフィアンマを見つめる。
まさかあの状態の第一位に勝利するのか、と期待した。
上条も同じく、フィアンマを見つめていた。
止めなければならないと思うのだが、身体が動かない。

「ihbf殺wq」

赤い瞳が、フィアンマを捉える。
対して、彼は悠々と後ろを振り返った。
怯える少女に対し、丁寧に言う。

「ここから出て、人通りの多い場所へ行け」
「…、だ、…大体、お兄ちゃんは?」
「俺様は大丈夫だ」

ほら、と促されるまま、フレメアは逃亡する。
フィアンマは一方通行へ向き直り、彼の様子を観察した。

「科学製の天使、か。…やはりヤツは妙な事を考えるな」
「xewuyfgijkha」

悪意のあるノイズ混じりの声。
刺々しい殺意と共に、白と黒の翼が襲いかかってくる。
フィアンマは右手を振るでもなく、翼を見やった。
ただそれだけで翼がぐしゃりと潰れる。

「ッ、…fxeywsukhj」

殺意と演算が、途方もなく一方通行の体内で消費されていく。


世界を滅ぼす程の、邪神。
一方通行の存在を、そういった『試練』に見立てるのは簡単だった。
万能である『聖なる右』が振るわれる。
数度の攻撃を受け、昏倒した一方通行を見つめ。
アレイスターに与えられた役割は災厄か何かだろうかと思い、フィアンマはビルを見やった。
そこには、二人の少年が立っている。
その内の一人が悠々と翼を広げ、舞い降りてきた。
一方通行に勝利したフィアンマと戦闘をするつもりはないのか、普通に話しかけた。

「『外』の人間とは思えねえな。外部の超能力者か?」
「そんなようなものかね」
「ふーん。…まあいいか」

大覇星祭でも見たし、誰かの知り合いなのだろう。
彼は、垣根はそう判断して、ビルの方を振り返る。
そして、青ざめている少年を、上条を、手招いた。

彼はのろのろとやって来た。
気を喪い、ぐったりと横たわる白い少年を見下ろしている。
垣根は、ちらりとフィアンマを見やった。

「あー、…悪いが、グロい光景見たくねえならどっか行っててくれ」

一般人として判断せず殺そうとしないのは、一方通行を倒した強者だからではない。
自分よりも余程深い暗部特有の雰囲気を感じ取ったが為、だ。
フィアンマは、緩く首を横に振る。彼は、上条を見つめていた。
上条は覚悟を決めたのか、しゃがみこみ、一方通行の手首を右手で握る。
これでデフォルトの『反射』は解かれた事になる。つまり、ただのひ弱な少年の人体に過ぎない。
垣根は上条を適当に褒めると、血なまぐさい翼を広げた。
そして、上条にぶつからないよう細心の注意を払い、硬質化させた翼で一方通行の心臓を貫いた。


ぐびゅり、という非常に嫌な音がして。
一方通行の身体から真紅の体液が溢れ出し、服を汚した。
動かなくなるまで数度突き刺した後、垣根は翼を消した。
コキコキとだるそうに首を鳴らし、二人に背を向ける。

「処理に関して連絡は入れておく。お前はもう帰っていいぞ」

リーダーらしくそう言うと、彼は歩いて行った。
上条は死体となった一方通行の手首から、手を離す。
ぼんやりとする上条を見やり。
フィアンマは手を伸ばし、上条の手首を掴んだ。

「…、…上条さん?」

上条は、フィアンマを見やる。
家を案内しろと吐き捨てられ、歩く。
憂鬱な足は、確実に上条の家へ向かっていた。


—Parliamo di il futuro—


上条の家で。
正確には、寮の一室で。
特別な右手を持つ男二人は、向かい合っていた。
上条は俯いており、その瞳は昏い。

「お前に言わなければならないことがある」
「言わなければならない、こと?」

聞き返され、フィアンマは頷いた。
その上で、上条を見て、言葉をゆっくりと話す。

自分の通称。
偽名を使用していたこと。
自分がどういった存在か。
魔術と、世界について。

それから。

現在の上条当麻の状況は、自分が作り出してしまったということ。

どういうことだと狼狽える上条に。
フィアンマは、信じるかどうかは任せると告げて、話した。
元の世界で上条がどのような人生を送ったのか。
そして、その上条は、自分のせいで北極海に沈み、恐らく死亡したこと。


瞬間。
上条は、フィアンマの胸ぐらを掴み、床に叩きつけていた。
胸ぐらを掴んだその左手が、震えている。

「テ、メェ」
「……、」
「ッ、誰がそんな事頼んだ! 放っておいてくれりゃ良かったんだ!
 俺が犠牲になれば良かった。俺が死ねば、消えれば、誰も傷つかなくて済んだじゃねえか!!」

自分が不幸なら、耐えられる。
だが、自分の不幸の回避の為に、美琴や、妹達が死んだと聞いて。
我慢出来なかった。腹が立った。誰も、フィアンマに幸せにしてくれなどとは言っていない。
たとえ暗部に堕ちても、上条当麻という少年の本質は一定で、変化は無かった。
どれだけ狂気の道に堕ちようと、自分が不幸になって他者が幸せになれるならいいと、その心は腐っていなかった。
怒り狂う上条と視線を合わせ、フィアンマは抵抗もせずに黙っている。

「俺が、記憶喪失になったら。傷つけば、死んじまえば。
 …あのインデックスって子も、御坂も、御坂妹達も、…皆、助かったんじゃねえか。
 その三沢塾事件っていうのが起きれば、姫神っていう子も救えたんだろ。
 インデックスが居てくれりゃ、風斬だってきっと消さなかった。あんなこと起きなかった。
 俺が消えればそれで解決したのに、何で、…何でお前、余計なこと………」

上条の顔が、ぐしゃぐしゃに歪む。
怒りを、悲しみが上回り、涙が溢れそうになってくる。
フィアンマは彼の手を振り払う事すらせずに言葉を返す。

「………そんなに、悪いことなのか」
「…当たり前だろ。俺が居なければ、」
「世界でたった一人、俺様に手を差し伸べてくれた男の命を救いたいと思うのは、そんなに悪いことなのか」

言いながら、フィアンマは上条を睨む。
上条は、その眼光の鋭さに一瞬怯んだ。

「お前は、最期までそうだった。自分の心を抑え込み、いつも誰かの為に奔走していた。
 何度も傷つけられ、追い詰められ、それでも気狂いのように笑っていた。
 それは褒められるべきで、誇るべき人間性かもしれない。だが、俺様は単純にそうは評価しない。
 お前だって、人権があるはずだ。平穏に生きる権利が、不幸に気づかずに幸福を全うする権利が。
 救う機会さえなくしてしまえば、お前は一人の少年として、普通に生きていく筈だった。
 その右手の存在を魔術サイドはロクに感知せず、狙われることも無かった筈だ。事実、そうだった。
 間違えたのは、お前だろう。堕ちたのは、お前自身のせいだ。その罪まで俺様のせいにするのか。
 たかがキッカケに全てを押し付けて、自分は善人だと胸を張るのか」

責められ、上条は押し黙る。
そして、静かに手を離した。
フィアンマは皺になった襟元を、指先でただし、起き上がる。
上条が不幸になったことが自分のせいであることくらいはわかっていた。
つい言いすぎてしまったのは、この上条を自分が知る男と重ねてしまっているからだろう。

「…と、…まあ、お前を責め立てても仕方がない。……こんな話だけをしたかった訳ではないんだ」

言いながら、彼は上条を見た。
上条は沈黙して、フィアンマを見る。


「この状況、…未来への解決法がある」
「解決法?」

軽い失望をため息に溶かし。
フィアンマは、カレンダーを見やった。
後数日で、元の世界では戦争が始まっていたな、と思う。
結局、世界を救ったら、今度は自分が救いたかった少年は救えなかった。
自分の人生に、もはややり直すべき価値は感じられない。
彼は、上条の右手を、自らの人差し指で指し示した。
黒い瞳と金色の瞳が見つめ合い、青年はその解決法とやらを簡潔に言ってしまう。













「—————俺様とお前が、この世界から消えることだ」


今回はここまで。

一方さんがあっさりやられ過ぎなのがちょっと不満かな?
もう少し頑張ってほしかった。

最後まで見るからこのスレで最後なんて言わないでくれよ!?
フィアンマスレが最後なら別に言いけど>>1の書くSSが見れなくなるのは絶対に嫌だよ?


教えろくださいの件で落ち込んでました。もう元気です。
…きめぇ自覚はあるよ…でもフィアンマスレ無いんだから立てるしかないだろ……。

>>355
聖なる右の特性上こうなるかな、と思いまして…

>>359
ありがとうございます…。もう少し頑張ってみます











投下。


「き、える?」

上条は、思わず聞き返す。
怒りという感情は、消え去っていた。
フィアンマが、の部分は、ひとまずさておいて。

自分が消える事で、皆が助かるなら。
この悲劇の数々が無かった事になるのなら。

それは何て素晴らしい事だろう、と異常者<ミュータント>は思う。
記憶を喪う前、まして暗部へその身を堕した上条の思考は、フィアンマと似ている。
特別な右手に、体質に悩まされ、苦しめられてきた彼らは、似た者同士だった。
フィアンマがかつて『お前と俺様は同じだ』と述べたのは、あながち間違いでもなかったのだろう。
インデックスを救う為の第一歩を踏み出せず仕舞いになった時点で、上条は再生のチャンスを喪ったのだ。
正確には、上条当麻が死に、『上条当麻』となるチャンスを、なのだが。

「『因果律』、という言葉は分かるか」
「……『因果律』」

何らかの事象が起こるには、必ずそれに先立ってその原因となる事象が存在しているという原則だ。

一足す一という計算を行ったから二という答えが出た。
二という答えが出ているから一足す一の計算がなされた、ということはありえない。

推測は可能だが、結果と過程は机上の空論でない限り逆転しないのだ。
殺したから死んだ、は可能でも、死んだから殺した、はありえないのと同じである。

「それで、因果律がどうしたんだよ」

過程の後に結果がある、であるからして結果があるから過程が生まれる訳ではない。
簡単な計算問題の話だ、とフィアンマは言葉を返す。

「この学園都市において起きた悲劇の原因はお前にある」
「…、お、れ?」
「元の世界でもそうだ。…手を加えて、俺様は失敗した。
 俺様とお前という"結果"が存在する限り、"過程"は必ず存在する」

全ての不幸から救う為には消えるしかない、とフィアンマは言う。
上条は眉を潜め、考えてから返す。


「自殺したから取り戻せるって訳じゃないだろ」
「そうだとも。物理的に考えてそれでは不可能だ」
「……大体、俺が死んだら両親は不幸になる訳だしな」
「だろうな。だから、"そもそもこの世界に上条当麻は存在しない"ということにすれば良い」
「……、魔術で?」
「もはや魔術と呼んで良いのかも不明な技術だが。
 術式の執行者である俺様も、この世界からは拒絶される存在となる」
「良いのかよ」

上条の言葉に、フィアンマは首を傾げる。
黒い瞳は、あの日のように真っ直ぐだった。

「俺自身は今すぐにでも消えたいと思ってる。それで、皆が戻ってくるなら、幸せになれるならな。
 ただ、お前はそれに付き合って消えちまっても良いのかよ」
「先程まで怒っていた人間がそれを言うのか?」
「……、…俺は、お前を助けた記憶はない。未来の事らしいしな。
 でも、俺に助けられたから、お前はお前なりに俺の幸せを考えて動いてくれたんだろ」

だから、自分の死に巻き込みたくない。

そんなことを言う少年は、自己犠牲と相変わらずの情けに満ちていた。
本当の本質というものは記憶に関わらないものなのだろうな、とフィアンマは思う。

「動いた結果が、このザマだ。…もう、俺様は充分生きた。
 お前が、…いや、…上条当麻が言った通り、良い世界というものも見た。
 お前にあるべきだった試練を勝手に片付け、貰い受ける形でな。
 だから、もう充分だ。お前の幸福をあらゆる方面から踏みにじった贖罪もせねばならん」

因果から外れる。運命から解脱し、世界から拒絶される。
それは、人をやめ、世界から消えるということと同時に。
神の、或いは神を上回る領域の存在へと至る事とも言える。
守護天使より授けられた知識を元にして初めて成立する特殊術式。

右方のフィアンマは、上条へ右手を差し出す。
自分が不幸にしてしまった少年を、救う為に。
自分が変えてしまった世界を、幸福で正しいものにするために。

「消えるとはいっても、世界には干渉出来る」
「干渉?」
「運命操作というやつだ。…あったことをなかったことに、なかったことをあったことに。
 調整していけば、お前が思うような幸福な世界も、創れる筈だ」

自分は、それを手伝う。
フィアンマの言葉に、上条は黙って考え。



そして、彼の手を掴んだ。


自分が居なければ、皆幸せになれた。
自分なんて生まれてこなければ良かった。
自分がこの世界に居なかったなら。

そんなことを思った、神の子供が二人。

悲しい願いは、叶えられる。
神の子供は、二人共神となる。




これは、そういうお話でした。


今回はここまで。
次からは救済された後の世界のお話。
特に希望がなければ描写しないので、神上さん達のお仕事風景はご自由にご想像ください。

アルティメット上条さん化したということでいいんだろうか


明日で終わります。


>>375
アルティメット神上なのか神浄なのか…









投下。



—全てがすくわれた、カミジョウの統べる世界で—


私は、学園都市第一位と向き合っていた。
無気力そうな姿。当たり前か、私は格下だもの。

思わず、笑っていた。

望んだ、死だ。
自ら選んだ、道で、末路だ。
あの日、私がDNAマップを提供しなければこんな事にはならなかった。

妹達が殺される以上、もう、私は生きていられない。
生きていることが、苦しい。
故に、一方通行へ、自らの十八番である『超電磁砲』を向けた。
絶対に当てる。一撃で。そして、…一撃で、死ななければならない。

『……あの馬鹿と、もう少し話しておけば良かったかな。
 もっと、もっと……今更言っても、遅いよね』

泣きそうになった。
別に、アイツの事なんか好きじゃない。
恩人だとは思ってるけど、そういう意味で好きなんかじゃ、…ない。

そうかな。
どうだったかな。

もうわからないや。
でも、もう少し話していたかった。
もう勝負しようなんて言わない。
雷撃の槍だって飛ばさない。
アンタが嫌がったり、怖がったりすることは、何もしないから。


神様。
もし、私の最期の我が儘を、少しでも聞いてくれるなら。
私の死をもって、アイツと、妹達が。
どうか死ぬまで、幸せにしてあげてください。
そして、生まれ変わったら、許されるなら。
私を、彼らに会わせてください。


バヂバヂバヂ、と紫電を纏う。
慣れ親しんだ音に微笑んで、コインを弾いた。
真っ直ぐに飛んでいったそれは、一方通行へぶつかり。
その反射膜に触れた事で跳ね返り、私へ向かって戻ってくる。
目を閉じた。

(あの子達と同じ場所に逝けるかな)

死にたくない、とは思った。
だけれど、これ以上生きていたくないという気持ちも、強かった。
アイツは今、学園都市には居ない。会わなくて良かったかもしれない。
会えばまた戦って、アイツは私を止めてくれただろうから。





「どうして、こんなことになっちゃったんだろう……?」



「ふぁ、……」

目が覚めた。
何となく寝覚めが悪い。変な夢だった。
学園都市第一位って何の話だ。レールガンって武器の一種だっけ?
殺される、死ぬ夢は縁起が悪いけど、占いでは良い意味だったような。
そういうのに詳しい佐天さんにでも聞いてみようかな、とぼんやり思う。
ゲコッ♪ という音に、携帯電話へ視線を向ける。
三秒待っても鳴り止まないので、仕方なく取った。

「はいもしもしー?」
『お姉様、本日は生徒会の方でお仕事があるのでは?』
「げっ」

時計を見やる。
いつもの登校には余裕だけれど、学校行事準備には遅い。
ある意味において遅刻だ、これは不味いと焦り出す。

「ありがと黒子、今すぐ用意して行くわ」
『ではお家の前にてお待ちしていますわ』

上機嫌な後輩の声をよそに、通話を終える。
慌てて顔を洗い歯を磨きつつ髪をとかし制服を着て、下に降りる。
ママは私を見やり、不思議そうに首を傾げた。

「あら美琴ちゃん、どうしたのそんなに慌てて」
「すっかり忘れてたんだけど予定があって…あ、お弁当これ?」

既に包んであったお弁当を有り難く鞄にしまいこみ。
チョコクロワッサンを口にくわえて、外に出る。
妹達はきっとまだ寝ているだろう。何しろ幼稚園性ばかりだ。
パンをもがもが頬張る私の様子を見かねてか、黒子はやれやれとため息を吐きだした。


「お姉様ったら、はしたないですの」
「仕方ないでしょ、忘れてたんだから…」
「まあそんなお顔も可愛いので問題ないのですけれど。あ、御髪が乱れてましてよ」

黒子が手を伸ばし、私のはねた前髪をヘアピンで留める。
私の事を幼稚趣味だと言う彼女の持ち物も、なかなか少女趣味なものだと思う。
『お姉様のは少女趣味でなくお子様趣味ですの』などと言われた事を思い出した腹立だしい。
それにしても時間が無いじゃないか、と私たちは走り出した。

「もー、…っはぁ、…黒子、アンタ実はテレポートとか使えたりしない訳?」
「無茶なお話ですの、テレビの中の超能力者が羨ましいですわ」

二人して、一生懸命走る。
何だかんだいって、彼女は私の自慢の後輩だ。
風紀委員としてしっかり働き、窘めながらも私を支えてくれる。

結果的に、学校には間に合った。

生徒会の皆に頭を下げ、作業に取り組む。
作業といっても、準備の手伝いなのだが。
もうすぐ文化祭なので、生徒会も何かと慌ただしいのだ。
妙な出し物の話になったら嫌だなあ、とぼんやり思う。


「御坂は何かやりてえものねえの。俺としては食物だけど」

ぐでーん、と机でだらけているのは高等部の先輩だ。
垣根帝督というなかなかかっこいい名前をしている。
イケメンの部類に入るとは思うのだが、自慢家なところがキズだと思う。

「うーん、…と言われましても」

なかなか浮かばないものだ。
甘い物なら、ウチの学校ならなかなか好評な気がする。

「売れ線は焼き鳥だけどね」

ふわふわとした髪、高等部の先輩。
麦野沈利。お嬢様気質の美人だ。
時々急に喧嘩腰になるのを除けば良い人だと思う。
垣根先輩は焼き鳥という単語にものすごく嫌な顔をした。
何でも、鳥類は食べるのも見るのも好きじゃないらしい。

「焼き鳥なら手伝わねえぞ」
「冗談よ、冗談」

朝食代わりのゼリー飲料を飲み干し、彼女は笑う。
中等部高等部の入り混じるこの生徒会の空間が、私は好きだった。


20007度目の実験が、終わった。

俺は、神の答えに———たどり着けなかった。

端的に言えば、『絶対能力者』にはなれなかった。
思考がうまく働いてくれそうにない。
翼が、光の様に掻き消えた。
20007号の死体は、蘇らない。

茫然とする他無かった。

「なンで、だよ」

妹達は徐々にその実力を上げていき。
俺とほぼ対等に渡り合っていた。
魔術だか何だか知らないが、『外』の技術を使いながら。
そして、そんな互角の戦闘を楽しみながら、俺は楽しみに待っていた。
神様の答えに届き、時間を操り、全てをやり直せる、その瞬間を。
皆を蘇らせ、一緒に話し、遊び、友人となれる、その時を。
絶対能力者になれなければ、何の意味もない。
実験は失敗だったなんて、そんなこと、認めたくない。

「…なンで……」

思わず、崩れ落ちる。
地面に膝をつき、絶望した。
やり直せない。時間は戻らない。自分はただの殺人者。
妹達の犠牲に、何の意味も持たせられなかった。

もたせて、あげられなかった。

申し訳ないという気持ちが、苦しさが、胸を満たしていく。

『ゲームで勝負とは楽しみですね、とミサカは心を躍らせます』

死を受け入れ、しかし、蘇生された時が楽しみだと言っていた彼女達。

『まァ、普通に考えりゃ俺の全勝ちだがな』
『そんなことはありません、とミサカはミサカネットワークを代表してむくれます』

頭の中が、黒い思考で埋め尽くされていく。
正確には、何かを考える余裕さえなかった。

「ッッ、…ァ、…ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

本物の神様が、この世界のどこかに居るのなら、頼む。
彼女達を生き返らせて欲しい。俺は、死んでもいいから。


目が覚めた。
昼間だった。
屋上のベンチの上で起き上がる。
あくびが止まらないでいると、屋上に誰かがやって来た。

「よお」
「あン? …オマエか」

垣根帝督。
何か食べているらしい、コーヒーの匂いがする。

「お前も食う?」

差し出されたのは、板状のコーヒーガムだ。

「…どォも」

受け取っておく。
べったりした甘さでなければ、イケる筈だ。

「そうそう、文化祭の出し物決まったぜ」
「生徒会のか」
「ああ」
「で、何になったンだ?」
「焼肉丼」
「………売れるか?」
「昼時に売り込みかけて単価低めにすりゃいけるだろ」

絶対焼き鳥の方が楽だと思うが、鶏肉がダメなコイツに周りが合わせたんだろう。

「なァ、垣根」
「ん?」
「………やっぱなし」

俺を殺した夢を見なかったか。
問いかける勇気は、いまいち出てこなかった。


弟が死んだ。
私を生き延びさせる為に。
私なんて、死んでしまえばよかったのに。
そうしたら、弟は生き延びられた筈なのに。
いいや、私を見捨ててくれればよかったんだ。
医者の判断で弟を生かしてくれれば、それで良かったのに。

『おねえちゃん、あれのりたい!』

指差したジェットコースター。
じゃあ一回だけよ、だなんて言わなければ良かった。
私のせいだ。私のせいで、あの子は死んだんだ。
あの子の命を喰った事に耐え切れない私は、徐々に荒んで。
やがて、一つの組織へたどり着いた。

世界中から敵意を向けられる立場へ至った。

もう顔も思い出せない誰かの事を、思い出す。

『職場で泣くというのは感心せんな。いかに女といえど』

拭け、と乱暴に押し付けられたハンカチ。
うっすらと甘い林檎の匂いがしたのは、香水だっただろうか。
突き返そうにも、ヤツは姿を消していて。



『どのような理由があったにせよ、お前は俺様を止めようとした。
 俺様はあの時、あれが一番正しいと思った。だから、謝らなくて良いのかもしれない。
 だが、お前を傷つけた事は、事実だ。確かにあったことだ。…すまなかった』

偉そうなヤツだった。
もう、男だったか、女だったかすら思い出せない。
何に対して謝ってきたのかも、思い出せない。


「……、」

のろのろと、目を覚ます。
無機質な病院を見上げ、起き上がった。
欠伸が漏れて、止まらなくなる。
二度寝をしようかと思ったものの。

「おねえちゃーん、おなかすいたー」

可愛い弟の甘えた声が聞こえ。
仕方ないなあ、と起き上がって台所へ急いだ。
何が食べたいの、と聞けば、オムレツがいい、との答え。
ふんわりとした半熟のオムレツを作ってあげよう。
寝ぼけた頭で冷蔵庫から卵を取り出す。

「あ、」

手が滑った。
玉子がつるんと手の上から落ち、床に落下しそうになって。
シリコン製の電子レンジ用スチーマーに着地した。
僅かにヒビが入ったが、奇跡的に割れてはいない。

「おねえちゃん、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、割れてないから」

拾い上げる。

「…今日はラッキーデイね」

ぽつりと呟いた。
何だか、少しだけ寂しい気分になる。
それにしても、酷い悪夢を見たものだ。
弟が死ぬだなんて。遊園地では楽しく遊んで帰ってきたのに。

「……疲れが残ってる、とか?」

或いは、ジェットコースターが怖かったのか。
どちらにせよ情けないな、と思いながら、卵をボウルに割り入れた。


術式というよりも。
儀式と呼ぶ方が正しいそれは、承諾を得て速やかに行われた。
チョークでびっしりと部屋の壁や床に文字とも記号ともつかない文章を綴り。
上条の右腕を切り落とし、"中身"を露出させる。
肉の器ではなく、更に内面に存在するものだ。
上条が痛みに呻いている間に、フィアンマも躊躇せずに自らの右腕を切断する。
二本の右腕を陣の中央に置いて、血液を撒き散らしながら作業をした。
グロテスクな空間の中、上条は息を荒げて問う。

「これで、本当に皆助かるんだろうな」
「あの天使が嘘をついていなければな」

多量の血液を喪ったショックによって湧き上がる吐き気を抑え込み。
儀式の発動準備を終えたフィアンマは、床に座り込んだ。
後は、七分程待てば勝手に"消える"。
正確には、誰にも感知されない場所へ移動する、といった方が良いのかもしれない。
赤外線と同じ。傍にあっても、誰にも気づいてはもらえない。
幻想殺しの本質に反応し、文字列が赤い光を灯した。
柔らかな光が室内を覆い尽くし、目の前を白く染める。
上条は浅い呼吸を繰り返し、儀式完了前にショック死しないよう、自分を落ち着けた。

「……土御門、…と。…妹達、と……」

呟いているのは、蘇らせる人間のリストだろう。
正確には、創造し直す世界で、幸福な一生を全う出来る人間のリスト。
フィアンマはそんな上条を見やり、自分もぼんやりと思い浮かべてみた。

「……、…ヴェントの弟、か」

因果の計算をして、予測していかなければならない。
孤独な観測と事務的な作業の繰り返しになることだろう。
学園都市を創らせないようにし、死ぬ人間を決め、生かす人間を決める。
それはとてつもなく大変な作業で。自分が行おうとしていた救済より、遥かに。
ただ、一人でやる訳ではないので、その分マシかもしれない、とも思う。
とはいえ、自分と上条は自我ごと揺らぎ、身体が消滅するのだが。


「あのさ」
「何だ」
「ありがとな」
「何に対しての礼だ」
「俺を、幸せにしようとしてくれて」
「失敗したがね」
「成功云々の問題じゃないだろ」
「……」
「それから」
「……」
「…ごめん」
「……ありがとう。それから、すまなかった」
     


次に意識が浮上した時。
とめどない雨が降っていた。
黒髪の青年は、ふらふらと立ち上がる。
二人分の自我が混ざり、頭がガンガンと痛んでいた。
『必要ない』と思考することで、痛みが消える。
感情の発露にはまだ遅かったが、焦燥感に駆られた。
背中を押されるままに、目の前の盤へ手を伸ばす。
かちゃかちゃと、思い浮かぶままに操作をした。
楽譜のように綿密に組まれた、世界の因果。
それに少しずつ線を加えていって、世界を作り変える。
作曲家のように膨大な作業をする彼らは、孤独だった。

『……こうか』

気の遠くなるような長い時間をかけて。
その楽譜のようなものは、美しく描かれた。
音楽でいえば、曲調はまるで違う。パンクロックとバラードの違いだ。
完成された『幸せな世界』だった。
死にたいと願う者が死に、生きたいと願うものが生きる世界。

彼らの傍らには、何かが転がっていた。
死体のようなものだった。
心をすり減らし、神として動く事をやめた者だった。
『それ』が仕事を放棄したが為に、世界が歪んだのだろう。


雨が止んだ。
彼らは、黒髪の一柱は、金色の瞳で空を見上げる。
不可思議な色の空を眺めている内に、元の自我が少しだけ戻って来た。

『世界を見る事は出来るのか?』
『あちらから俺様達は感知出来んがね』
『そっか。…でも、行きたいな』
『一人で行け』
『もう人じゃないけどな』

笑って、ふい、とそっぽを向いて。


一人芝居の様に行動して、彼らは世界へ降り立った。
幽霊のように人間には見えない特性を生かし、歩いて行く。
黒と赤で構成された彼は、仮に見えたとしても人とは誰も思わないだろう。
どこかに存在した不死の女のように、異質さが際立っているのだ。
金色の瞳、黒い髪、両腕が奇妙な事にどちらも右腕。
彼らに邪な意思があれば、恐らく化物、或いは悪魔と呼ばれた事だろう。

『誰から見るか』

長い時間が、かかった。
数字で表すにはあまりにも途方もない時間が。
この世界の人々は、世界が変更されたことを知らない。
それで良い。それが良い。
誰かに褒められたくて世界を変えたのではないのだから。


世界でも、雨が降る。
日本の秋は、何かと雨が降るものだ。
彼らの纏う白いワイシャツは、濡れない。
雨が彼らをすり抜けるようにして、白いまま。
赤いズボンも同じく濡れないままに。
異質な彼らは、土砂降りの中、傘を差さず、レインコートも羽織らず、歩いていた。

「すげえ雨だな」
「傘持つのだりィ…」
「鍛えろよ」
「面倒臭せェだろォが」

白い少年と、茶髪の少年が、それぞれ傘をさして歩いている。
彼らは友人なのか、連れたってのんびりと歩く。
馬鹿話をして、普通の学生らしく笑う彼らに、血腥さは全くもってない。
そんな二人を見て、青年は小さく笑った。幸せそうな笑みだった。
二人は青年に気づかずに、談笑しながら通り過ぎていく。
それでいい、と青年は歩いて行く。

ふと、少年が二人揃って振り返った。

「…今、誰か居たよな?」
「…気のせい、…じゃねェの」

幽霊に会ったような、恐怖。
彼らはぞぞぞ、と背筋を震わせ、顔を見合わせた。

「…よし、今日は削板の野郎呼んで三人で晩飯食おう。決定」
「……おォ」

ぱしゃぱしゃ、と水を靴底が弾く音が、響いた。


今回はここまで。
何かもうファンタジーだけど禁書だからいいか…。フィアンマさん達が幸せになれますように。
次のスレをどうするか悩んでいます。
ほもぼのか、うみねこホモパロか、エロありホモか…或いはホモか。

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