岡部「ただいま」紅莉栖「おかえり」(270)

珍しく実家に帰り、1日を過ごす。

翌日、昼過ぎにラボに向かう電車中で、俺のリーディングシュタイナーが発動した。

「世界線が……変わっただと?」

秋葉原駅で降りた俺は、全力でラボに向かって走る。

~ラボ~

バンッ!

岡部「ダル!助手!」

シ~ン……

岡部「ん?なんだ?誰も居ないのか?しかし、鍵を掛け無いとは不用心な」

ガチャ

紅莉栖「あっ……はろー」

助手の顔をみて一安心する。

世界線は変わったが、助手はラボメンであった。

何が変わったのか?俺はそれを調べなければならない。

岡部「クリスティーナよ、今来たのか?」

紅莉栖「ううん。ちょっとそこまで」

岡部「出掛けるなら鍵を掛けないと不用心だぞ」

紅莉栖「うん……ごめん」

岡部「今後は気を付けろ」

紅莉栖「はーい」

岡部(やけに素直だな……)

岡部「それよりも助手よ」

紅莉栖「何?」

岡部「お前、レンジ動かしたか?」

紅莉栖「ううん……使ってない」

岡部「そ、そうか」

よくよく考えれば、世界線が変わってしまったから、レンジを動かしたかどうかという質問は意味を持たない。

バカな質問だと気付いた俺はこめかみを押さえ俯く。

紅莉栖「ん?大丈夫?」

考え込む俺を覗きこむように助手が話しかける。

岡部「ああ……今日も暑いな」

俺は照れ隠しをする。

紅莉栖「そうね。はいこれ。暑いし水分補給は大事よ」

岡部(ドクペ……助手が自ら冷蔵庫から取り出しただと?)

紅莉栖「ん?どうしたの?」

岡部「あ、いや……なんでもない」

プシュ,ゴクゴク

岡部(この世界線の紅莉栖は素直なのか?それよりも何故発動したか、その方が問題だ)

岡部「助手、他のラボメンは来ていないのか?」

紅莉栖「他のラボメン?さぁ知らない」

岡部「そうか……」

~数時間後~


結局、この日、他のラボメンは誰もこなかった。

助手はラボ備え付けのPCで何か書きこんでいる。

一段落ついたのだろう、時計を見、次に俺を見る。

紅莉栖「今日も楽しかった!さて、私はこれで帰るね」

岡部「ああ、またな」

紅莉栖「ぐっば~い」

岡部(さて、俺も飯でも食うか)

ピロン

岡部「ん?助手からのメールか」

【今日も一日乙ですた。冷蔵庫に夜食を入れてあるので食べて】

岡部「な、何だと!」

俺は冷蔵庫を一瞥する。

そして慎重に、まるで爆弾を処理するように冷蔵庫を開ける。

そこには……

明らかに手作りと思われるサンドウィッチがラップに包まれていた。

岡部「ゴクリ……これは何の罠だ!」

どんな世界線でも、助手の料理は酷いものだった。

まゆりと助手の料理は、いや料理と呼んで良いのだろうか?

兵器―――大量殺戮兵器と言うべきだな。

この状況、奴が練りに練った計略である事は間違いないだろう。

ラボメン全員が居ない状況を作り、そして俺に毒入りサンドウィッチを食わせる算段。

のたうちまわる俺を見て、「ザマァ!岡部!」と言うのだろう。

誰がそんな手に引っ掛かるか!

俺はこっそりサンドウィッチをゴミ箱にリリースし、翌日バレない様にコンビニのゴミ箱に投下し、そこで飯を調達した。

(良い子のみんなは真似しないように!コンビニで家庭ごみを捨てるのはマナー違反だ!)

~翌日~

紅莉栖「はろ~」

岡部「は、早いな」

紅莉栖「そう?夏休みだしね」

岡部「そ、そうか……え?夏休み?」

紅莉栖「何言ってるの?昨日もその前の日も夏休みじゃない?」

岡部「まぁ俺はそうだが、お前は……」

紅莉栖「私も夏休みに決まってるじゃない」

岡部「待て待て!助手、お前の名前は?仕事は?所属は?」

紅莉栖「牧瀬紅莉栖18歳、職業は女子高生、所属は菖蒲院女子学園3年」

岡部「へ?それだけ?」

紅莉栖「未来ガジェット研究所 会員ナンバー002 役職は助手 これでいい?」

岡部「おお……え?」

紅莉栖「何?」

岡部「まてまて!ヴィクトル・コンドリア大学脳科学研究所所属研究員という肩書は?」

紅莉栖「クスッ 何それ?私はただの女子高生、なんで研究員なのよ、今日の倫太郎、面白い事言うわね」

岡部「り?りんたろう……誰だそれ?」

紅莉栖「あーはは!まさか自分の名前忘れたとか言うの?倫太郎。ううん、岡部所長」

岡部「し、所長?」

紅莉栖「何言ってるんですか?」

岡部「そ、それは誰がつけたのだ?」

紅莉栖「自分で言ったじゃないですか!『研究所の長は所長と呼ばれるべきである!』って」

岡部「……そうか(なんだ?この世界線は?)」

紅莉栖「それはそうと、朝ご飯食べた?」

岡部「ま、まだだ」

紅莉栖「そう、良かった。実家からリンゴジュース送ってきたから、パン食がいいかなと思って」

紅莉栖は紙袋からランチボックスを取り出す。

紅莉栖「はい、どうぞ」

岡部「こ、これは?」

紅莉栖「倫太郎の好きなケバブサンド」

岡部「ケバブ……」

紅莉栖「昨日帰ってからパン生地も自分で焼いてみた」

岡部「……」

紅莉栖「どうしたの?」

岡部「いや、別に……」

俺は差しだされたケバブを手に取り、そっと口元に近付ける。

きっとこの世の物とは思えない臭いがする筈。

が……予想の遥か斜め上を行く、良い香りがした。

鼻腔の奥がくすぐられ、脳が刺激を受けたのであろう、そこから発せられた信号が胃を動かす。

ぐぅ~

岡部「は、腹の虫が……」

紅莉栖「余程お腹がすいていたのね。昨日のサンドウィッチじゃ足りなかった?」

岡部「あ、いや……とりあえず戴く」

俺は覚悟を決めケバブにかぶりつく。

岡部「あ……うまい!」

この時、昨日捨てたサンドウィッチについて少しの罪悪感が生まれた。

紅莉栖「よかった!いつも倫太郎が食べているお店の味を研究したの」

岡部「そ、そうか……」

ハッキリ言って、店で買うケバブなぞ足元にも及ばない、それぐらい美味い。

しかし、助手がマッドシェフである設定はどこに行った!?

紅莉栖「まだお代りあるから遠慮しないでね」

岡部「あ、ああ……うぐっ!」

紅莉栖「大丈夫?はい、リンゴジュース飲んで。慌てて食べなくても誰も取らないんだから、ね?」

岡部「す、すまん」

紅莉栖「えへへ。慌てん坊よね、倫太郎は」

岡部「ところで助手。お前はいつから俺を倫太郎と呼ぶ。俺は鳳凰院凶真と呼べと言わなかったか?」

紅莉栖「鳳凰院凶真?何それ?あ!新しいアニキャラ?そうでしょ?」

岡部「お前、本気で言ってるか?」

紅莉栖「ん?はい?ええ、マジだけど」

岡部(なんだこの違和感……今まで経験してきた世界と明らかに違う。それよりも俺は何かを見落としている様な……)

紅莉栖「ねぇ、ご飯終わったら出掛けない?」

岡部「この暑い中、どこへ行くというのだ?」

紅莉栖「ふふ、内緒」

結局、助手が持ってきたケバブは完璧だった。

本来ならドクペの筈が、リンゴジュースとマッチする味わい。

恐るべし、助手。

しかし、俺は何かを見落としている。

なんだ?

~秋葉原~

紅莉栖「ここ」

岡部「ここは……メイクイーン+ニャン2ではないか?」

紅莉栖「そ。倫太郎、来た事ある?」

岡部「まぁ……」

チリンチリン

メイド「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」

紅莉栖「禁煙席お願いします」

メイド「かしこまりました」

岡部「良く来るのか?」

紅莉栖「ん~、学校が有る時は休日だけかな?」

岡部「そうか……」

フェイリス「あ!クーニャン!」

紅莉栖「フェイリス!元気してたー?」

フェイリス「フェイリスは365日、24時間元気ニャ!」

紅莉栖「何!という事は4年に一度、2月29日にくたばるのだな!」

フェイリス「むむむ、クーニャン何故その秘密を!それだけは知られてはイケない秘密だったのにニャ」

紅莉栖「安心するがいい、その時は私が守ってやろう、我がラボの所長の開発した秘密兵器があるからな、ふはは!」

岡部(なんだこいつら?揃いも揃って厨二か?)

フェイリス「それは安心したニャ!ところで、もしかしたらこの方が……」

紅莉栖「そ。うちの所長の岡部倫太郎」

フェイリス「初めまして、倫太郎さん。フェイリスだニャン。いつもクーニャンにはお世話になってるニャン」

岡部「ああ……宜しく」

岡部(俺とフェイリスは面識がない……だと?)

フェイリス「ご注文は何にするニャン?」

紅莉栖「私はダージリンのアイスをミルクで」

岡部「お、俺は……アイスコーヒーで」

フェイリス「分かったニャン」

岡部「なぁ、助手。あのフェイリスって子は友達か?」

紅莉栖「まぁ友達かな?正確には友達の友達みたいな」

岡部「友達?それはもしかして、まゆりか?」

紅莉栖「ん?誰それ?」

岡部「ここでバイトしていただろ?知らないか?」

紅莉栖「そんな子いた?」

メイド「お待たせしました。ダージリンティとアイスコーヒーです」

紅莉栖「ありがとう。あ、私がティーね」

岡部「クリスだけに、クリスティーネってか?」

紅莉栖「ぎゃはは!今日の倫太郎面白い!」

岡部(何故、こんなベタなギャグで笑うのだ?逆に俺が恥ずかしいだろ……)

メイド「楽しいご主人様ですわ」

ふと、そのメイドの声に反応し、助手に向けていた視線を声の主に向ける。

岡部「萌郁!桐生萌郁ではないか!」

萌郁「え?あの……その」

岡部「お前、なんでこんな所でバイトしてるんだよ」

つい立ち上った俺は萌郁の腕を掴む。

萌郁「あの……止めてください」

萌郁は今にも泣きそうな顔で下を向く。

紅莉栖「あれ?所長と萌えちゃん知りあいなの?」

萌郁「いえ……初対面です」

紅莉栖「え?なのに、なんで萌えちゃんの本名知ってるの?ああ!さては噂の萌えちゃんストーカーって倫太郎?!」

そんな助手の叫びにも似た声に他の客が反応する。

岡部「ば、バカをいえ!俺の知人にそっくりだっただけだ!」

紅莉栖「そっくりな上に名前まで同じって?そんな訳あるか!そんな訳あるか!大事な事だから2回言いました!」

岡部「本当だ。その俺の知っている萌郁はもっと暗くて寡黙で……おまけに眼鏡」

紅莉栖「だからって、いきなり腕を掴むのはどうかと思われ」

岡部「あっ……すまん」

ちょっとした騒ぎになってしまった。

カウンターの奥からフェイリスが飛んできた。

フェイリス「ご主人さま、当カフェではメイドへのタッチは禁止しております」

岡部「す、すまない。知人に余りにも似ていたので……」

フェイリス「以後、ご注意ください」

さっきまでの猫娘だったフェイリスは完全に仕事人の顔に変わっていた。

紅莉栖「もう、恥かかさないでよ」

岡部「すまん……」

岡部(この世界はかなり今までの世界とかけ離れている。色々と行動は慎んだ方がいいような……)

そんな事を考えていると、背後から誰かが俺の肩を叩いた。

振り向くと……

ダル「よう、橋田じゃん」

岡部(助かった!この世界、皆いるぞ!)

岡部「だ、ダル!」

ダル「お前、大学にも来ないでこんなところで何やってるん?」

岡部「あ……まぁ色々とな」

ダル「くだらねぇ研究サークルも良いけど、そんな調子じゃ進級出来なくね?」

岡部「くだらないだと?それに、出席ならお前も変わらんだろ?」

ダル「はぁ?何言ってんの?僕は前期無欠席だお?」

岡部「そ、そうだった……かな?」

ダル「それより、お前さっき何したん?萌えちゃんの腕、鷲掴みにしたんじゃね?」

岡部「それがどうかしたか?ダル?」

ダル「お前さぁ、今の時点でこのカフェの客、全部敵に回したんだお」

岡部「はぁ?」

ダル「帰れよ!もうココにくんな!」

岡部「ダル、落ちついてくれ……」

>>33
橋田じゃん…?

が、もう時は既に遅し。

ダルがトリガーとなり、店内は『帰れコール』が鳴り響く。

岡部「あああ……」

紅莉栖「倫太郎、出ましょう」

結局、アイスコーヒーには口も付けず、代金だけ払って店を出た。

紅莉栖「もう、何やってんの!」

岡部「すまん」

紅莉栖「あのさ、萌えちゃんは私の友達なのよ?どうしてくれるの!恥かいたじゃない」

岡部「え?そうなのか」

紅莉栖「そうよ」

岡部「すまない……」

>>36
すまん、そこミス
訂正よろしく><

ダル「よう、岡部じゃん」

ごめんね

紅莉栖「今日の倫太郎、物凄く変!熱でもあるんじゃない?」

そういうと助手は俺の額に自分の額を合せる。

岡部「な、な、なにを……」

紅莉栖「熱は無い。もしかして気でも触れた?」

岡部「断じてそれは無い!」

紅莉栖「そう、信用する。でもね、こういうお店であんな行為はご法度だからね」

岡部「ああ……わかった」

紅莉栖「今日は疲れたし、ラボに戻りましょう」

俺は助手に手を引かれつつ、うな垂れラボまでの道を歩く。

それはこの世界線の余りにも大きな違いに不安を覚えたからであった。

~ラボ~

紅莉栖「暑かったぁ」

岡部「そうだな」

紅莉栖「お茶飲みそこなったし」

岡部「すまん……」

紅莉栖「ところで、本当に萌えちゃんと同姓同名でそっくりな人と知り合いなの?」

岡部「ん?ああ、多分……」

紅莉栖「多分?」

岡部「昨日までと何から何まで全部違う」

紅莉栖「え?……倫太郎……もしかして……」

岡部「助手!」

紅莉栖「倫太郎も厨二患者だったとは!これは大発見!ワロス」

岡部「えぇ……」

紅莉栖「もしかして昨日までの俺と今日の俺は違う!とか?」

岡部「そうなんだ!思い出したかクリスティーナ!」

紅莉栖「プッ!倫太郎、ノリ良過ぎwww」

岡部「え?」

紅莉栖「そんな訳あるか!」

岡部「マジなんだ!信じてくれ」

紅莉栖「はいはい、厨二厨二。これでいい?まぁ私も人の事言えない厨二だけどさぁ」

岡部「はい?」

紅莉栖「自他共に認める厨二でねらーでしょ?」

岡部「……」

紅莉栖「べ、別に私に合わせて無理しなくていいんだからね!」

岡部「……」

紅莉栖「まぁ、萌えちゃんには私から謝っておくから気にしないで」

岡部「すまん……」

紅莉栖「さてと、今日はどうするの?」

岡部「ん?何をだ?」

紅莉栖「帰るの?泊まるの?」

岡部「ああ。一応泊まろうかと思ってる」

紅莉栖「そっか。なら晩ごはん作ってあげる。あいるびーばーっく!」

そう言うと、助手はラボから出て行ってしまった。


「何が何だか。こんな世界線、精神衛生上良くない。とっとと過去にDメールを送って世界線を移動しよう」

「しかし、誰がどんなメールを打って、こんな世界に来てしまったのか?」

「まぁ、いい。とりあえず後で打ち消しが可能なメールを送ってみるか」

俺はラボの奥へと進む。

しかし、すぐに愕然とする。

「ない。電話レンジ(仮)がない!どういう事だ!おい」

振り向いたが、勿論ラボには誰も居ない。

ここで昼間の違和感がついに消える。

『未来ガジェット研究所 会員ナンバー002 役職は助手 これでいい?』

助手はそう言った。

間違いなく。

所長の俺が001、助手が002、だれもまゆりを知らなくて、ダルは大学こそ同じだがラボメンではない。

「という事は……この世界に電話レンジ(仮)は存在しない」

それはどういう事か?

俺は考え込む。

「はっ!デッドエンドだと!?」

そう、袋小路だった。

過去にアプローチ出来ない、すなわち何も改変出来ない。

それどころか48時間のやり直しすら出来ない。

待て、慌てるな。

必ずどこかに何かの方法がある。

「そうだ!奴がキーマンだ!奴を探せば何とかなる!」

踏ん反りかえりながら俺は高笑いをし、自分を安心させる。

*フゥーハハ(略)

ガチャ

紅莉栖「暑かった~」

岡部「ご、御苦労……」

俺はとっさに腰に当てていた腕を降ろす

紅莉栖「ん?どしたの?」

岡部「え?いや軽く体操を」

紅莉栖「ふーん……」

岡部「あはは、ははは」

紅莉栖「ねぇ、それより今夜の晩ごはんだけど」

岡部「ん?」

紅莉栖「じゃーん!うどん買ってきた。稲庭うどんが安かったの」

岡部「うどん?」

紅莉栖「嫌いだっけ?」

岡部「いや、嫌いではないが」

紅莉栖「だよね」

岡部「助手は好きなのか?」

紅莉栖「そりゃ好きに決まってるじゃない。四国なら讃岐、東北なら稲庭で決まりよ」

岡部「お前は、その、函館一番が好きとか?」

紅莉栖「函館一番?あれってインスタントじゃない。あんなの食べない」

岡部「そ、そうか」

紅莉栖「直ぐに作るからそこで座って待ってて」

岡部「そう言えば、助手の田舎は青森だったな」

紅莉栖「え?」

岡部「昨日、実家からリンゴジュース送ってきたと……」

紅莉栖「あのさぁ……リンゴジュースで青森って安直でしょ常考」

岡部「そうか?」

紅莉栖「まぁいいけど。この話、友達の前でしないでよ?分かった?」

ネギを切っていた紅莉栖が包丁を持ったまま振り向き、吐き捨てる様に言った。

その顔には笑顔一つなく、これは脅しでも何でもなく、完全な最終通告だと俺は悟った。

岡部「ああ、分かった」

紅莉栖「だばって、今日の倫太郎は、わんつかおがすし。いっそ不審者だし」

岡部「え?」

紅莉栖「あっ……今の無し!今のは聞いてない事にして!」

岡部「……はい」

紅莉栖「絶対だからね!青森出身は内緒にしてるんだからね」

岡部「ああ。ところで、俺、前にお前と青森に行く約束してなかったか?」

紅莉栖「え?ん~してないと思う」

岡部「そうか……ならいい」

紅莉栖「青森かぁ。永く帰ってないわ。たまにはママに逢うのもいいかな」

岡部「母親が住んでいるのか?」

紅莉栖「まぁね。うちのパパは結構有名人で、学者としてもそれなりの人だからどうしても関東圏で仕事が多くてね」

岡部「父親って……」

岡村「ただいま」
矢部「おかえり」

紅莉栖「知らない?ドクター中鉢」

岡部「知っているが……本当に父親なのか?」

紅莉栖「そうよ。って、あれ?あまり驚きでない?」

岡部「あ、ああ……」

岡部(この世界は殆どが裏返っている。まるでこの世界全てを打ち消すようなメールで改変されたのか……)

紅莉栖「結構、みんな聞いたら驚くんだけど?」

岡部「いや、どうリアクションしていいのか分からなかった」

紅莉栖「それほど衝撃だったかwww」

岡部「ああ」

紅莉栖「さて……はい、出来た!」

テーブルに並んだうどんを喰いながら俺は思考を加速させる。

(ダルをこのラボに引きいれれば、レンジは完成する。)

(助手がこの状態だから、リープ機能は無理だろう。しかしDメールさえ出来れば……)

紅莉栖「倫太郎、どしたの?美味しくない?」

岡部「いや、美味い。美味くて感動して、思考が飛んだ」

紅莉栖「いやはや、そう言ってくれると嬉しいな」

俺は思考を減速させ、今度は手と口を加速させる。

いや、無意識にそうなる。

それぐらい助手の飯は美味かった。

紅莉栖「さて、後片付けしたら寝ますか?」

岡部「へ?」

紅莉栖「今日は私も泊まるからね」

岡部「か、帰らないのか?」

紅莉栖「え?帰らないと駄目?」

岡部「まぁ何と言うか……若い女子が男と二人で夜を過ごすというのは……」

紅莉栖「あっはは、何言ってんの今に始まった事じゃないのに。それとも内緒でしたい事があるのかな?こいつぅ!言ってみろ!」

助手は俺の背中に飛び乗り、腕を俺の前に廻し、耳元でぼそぼそと話す。

紅莉栖「倫太郎、あまりよそよそしいのはどうかと思うよ?出会いはどうであれ……」

岡部「な、何の事だ?」

紅莉栖「またまた、とぼけちゃって。本当に倫太郎は四角四面の堅物だな!」

そう言って、助手は俺の背中から降り、洗い物を始めた。

洗い物を終わらせた助手は、俺に風呂に入れという。

岡部「風呂?」

紅莉栖「今日は散々歩いたし、冷や汗もかいたから一風呂浴びてさっぱりしちゃいなさいよ」

岡部「ここに風呂なんて……」

紅莉栖「へ?あるわよ?」

岡部「……」

シャワー室に入る。

見れば、小さいながらもバスタブが有る。

岡部(やはり細かなところで色々と変わっている。が、もう何も怖くない。明日、ダルを口説ければ万事OKだ)

俺は湯船に浸かり、目を閉じ明日の攻略に向けたプランを練る。

その時だった。

『おじゃましまーす』

岡部「く、クリスティーナ!」

紅莉栖「はい?何?」

岡部「う、お、お前!何入って来てんだ!」

紅莉栖「倫太郎の背中でも流してあげようかと」

岡部「だ、大丈夫だ。気にするな。背中ぐらい自分で流せる」

紅莉栖「まぁまぁそう言わずに。はい出てきて」

岡部「別に、本当にいいから!」

紅莉栖「いいからいいらか。出てこい!」

岡部「はい……」

紅莉栖「はい、素直に聞けばいいのよ。じゃあ洗うからね」

紅莉栖はバスタオル1枚だった。

勿論、俺はマッパである。

小さなタオル1枚で股間を隠しつつ、風呂から出る。

入れ替わりで紅莉栖が湯船に入り、洗い場に腰かけた俺の背中をタオルで洗ってくれた。

紅莉栖「もう少し広かったら良いのにね。倫太郎の背中流すのにいちいち湯船に入るのはどうかと思われ」

岡部「元々は住居目的ではないからな、このビルは」

紅莉栖「そうよね。仕方がないか。でも明日、下の大家さんに交渉してみようか?」

岡部「無理だろう」

紅莉栖「そうかな?新婚生活に不具合があるって言ったら何とかなるんじゃない?」

岡部「誰と誰の新婚生活だ!」

紅莉栖「決まってるじゃない。私と倫太郎」

岡部「何を言ってる」

紅莉栖「えへへ」

岡部「冗談にも程があるぞ」

紅莉栖「はーい。と、はい終わり。流すよ」

紅莉栖は浴槽から湯を汲み、俺の背中を優しく流してくれる。

紅莉栖「さっぱりした?」

岡部「ああ。ではお先に」

紅莉栖「ちょい待ち!交代」

岡部「へ?」

紅莉栖「へ?じゃないわよ。私の背中も流してよ。それでなくても今日は必要以上の汗かいたんだから!」

岡部「あ、ああ……」

紅莉栖に捲し立てられ、俺は助手とポジションを変わる。

俺に背を向けて座り、ぐるっと巻いていたバスタオルを取る。

紅莉栖「お願いしまーす」

岡部「……」

ここでまた何か言うとやぶ蛇になる気がしたので、何も言わず背中を流してやる。

時折見せる助手の恐ろしい顔が脳裏に浮かぶ。

紅莉栖「あーもうちょっと右、ん、そこの下!そこが痒かったのよ」

岡部「……」

紅莉栖の背中を流し、湯を掛けると今度は俺が中腰になってバスタブの中から頭だけ洗い場に出せと命令される。

岡部「こうか?」

紅莉栖「そそ。じゃ、紅莉栖いきまーす!」

紅莉栖は俺の頭を洗い始める。

紅莉栖「どこか痒いところはありませんか?」

岡部「別に」

紅莉栖「熱くないですか?」

シャワーを掛けながら俺に問う。

岡部「ああ、大丈夫だ」

紅莉栖「はい、終わり!じゃ、出て」

岡部「お、おう」

紅莉栖「私は自分で洗えるから」

と、バスタオル姿に戻った助手に、脱衣所へと出されてしまった。

というか、俺も自分で頭は洗える!

脱衣所には下着類が全部綺麗に並べられ、普段着る事の無かったジャージまで用意されていた。

一瞬、この世界も悪くないと思った自分に怖くなった。

紅莉栖「あ~さっぱりした。倫太郎、何か飲む?お酒?ジュース?」

岡部「ドクペ」

紅莉栖「本当にそれ好きね。飽きない?」

岡部「お前は嫌いなのか?」

紅莉栖「何とも言えない香りがダメ。それ飲める人、凄いと思う」

岡部「そうか……」

岡部(こいつとドクペを飲み明かす事はもう無いのか……)

助手と並んでソファーに座る。

ただ無言で、俺はドクペを胃に流し込む。

紅莉栖「あ、ミュージックレポートの時間だ。忘れてた」

と、言いながらTVを点ける。

紅莉栖「今日はゲストが凄いよ」

岡部「へぇ」

紅莉栖「今日のゲストは、何と!ルカマユだよ」

岡部「るかまゆ?」

紅莉栖「ルカ子&マユシー☆、知らないの?」

岡部「あ、ああ知らん(まさか、そんな事は無いよな?)」

紅莉栖「今、一番人気のアイドルだよ?」

岡部「へぇそうなんだ」

紅莉栖「この子たちって、東京出身でね、一人は倫太郎と同じ池袋、一人は秋葉原なんだ」

岡部「何?」

紅莉栖「あ、キター!」

岡部「あ!」

TVに映っていた二人は、紛いもなくルカ子とまゆりだった。

紅莉栖「可愛いよね、二人とも。巫女服+ゴスロリってのがまた人気の秘訣なんだよね」

岡部「……何をしているんだ、こいつらは!

紅莉栖「何って?歌って踊るのよ」

岡部「そうじゃない!」

紅莉栖「シッ!歌始まる」

TVの中で俺の知っている二人が踊っている。

そしてスポットライトを浴びている。

どういう事だ……この世界線は驚きの連続だ。

紅莉栖「やっぱサイコー!ちなみに、どっちか男の子だって噂があるの」

岡部「は、ははは。マジか?」

紅莉栖「うん。ちなみに倫太郎はどっちだと思う?」

岡部「こっちの細い方だ。ルカだろう」

紅莉栖「ええー、それはない、それは。だって、こっちのまゆって子、凄く太い眉でしょ?これってどう見ても男よ」

岡部(知らないというのはこうも安直に物事を考えるのか……)

紅莉栖「さて。テレビも見終わったし寝るよ」

そう言って、助手は立ち上る。

岡部「ああ……」

紅莉栖「はい、どいてどいて」

紅莉栖はソファーの背もたれを倒し、ラボの奥から持ってきた毛布を敷いた。

紅莉栖「はい完成。寝よっか」

岡部「……」

紅莉栖「ん?どうしたの?」

岡部「ここで寝るのか?」

紅莉栖「そうだけど?」

岡部「お前が?」

紅莉栖「そうだけど?」

岡部「そうか。じゃ、おやすみ」

俺は踵を返し、ラボの奥にあったと思われる寝袋を探しに行こうとした。

紅莉栖「おーい!どこに行くのかな?」

岡部「へ?いや、寝袋を……」

紅莉栖「は?何のためにソファーの背もたれ倒して毛布敷いたのかな?」

岡部「そりゃお前が寝るからだろ?」

紅莉栖「ブッブー!不正解。正解は二人で寝られるようにでしょ」

岡部「な、何ぃ!」

紅莉栖「え?一緒に寝るの嫌なの?」

岡部「ええまぁ……」

紅莉栖「なら仕方ないけど……イジイジ」

岡部(うわぁ……可愛いだと?……助手のいじけた仕草だと?)

紅莉栖「で、寝ないの?」

岡部「あ、うん……寝る」

結局、俺はそのままソファーに横になる。

助手に背中を向ける様に寝ころび、目を瞑る。

直ぐそこに助手がいる。

助手はどれだけ疲れていたのだろうか?

俺の横に潜りこむと直ぐに寝息を立てて寝てしまった。

相反するように俺は緊張の為、眠れない。

これは何と言う拷問なのか?

結局、朝方まで眠れずじまいで、空が薄ら青くなった頃に落ち着きを取り戻し眠りに着いた。

紅莉栖「もーにん!りんたろー」

岡部「う?ん?ああ、おはよう」

紅莉栖「眠れた?」

岡部「ああ、まぁ……」

紅莉栖「ふ~ん……でもって今回もチキン太郎だったね」

岡部「!」

紅莉栖「紅莉栖はいつでもおっけーなのです、にぱぁ~!ってかwww」

岡部「悪い冗談はよせ」

紅莉栖「悪い冗談?その口が言う?横にうら若き乙女が寝ているのに何もしないとか、冗談過ぎるでしょ常考」

岡部「……」

紅莉栖「まぁそういう優しい所が私のお気に入りだけどね」

岡部「……」

紅莉栖「さて、ご飯にしましょう」

紅莉栖は普通のレンジでパックご飯を温め、みそ汁と卵焼きと納豆を出す。

普通の朝食。

過去、幾つもの世界線を渡り歩いた俺だが、こんな事をされた事はない。

もしかすると、この世界が俺が求めていた最後の世界だというのか?

確かに、目的は果たされている。

誰も死んでいない。

それどころか、ルカ子やまゆりはアイドルとして活躍している。

ダルは真面目に大学に行って、助手も年相応の生活を多分送っている。

フェイリスは望み通り店を開き、萌郁はラウンダーではなくメイドとして働いていた。

何の不満がある?

これこそが『運命石の扉の選択』なのか?

しかし、まだ安心は出来ない。

そう、未来。

未来がどうなるのか?

それが一番問題だ。

俺は昨日、キーマンは奴だと言ったが、それは間違いないだろう。

しかし、どこに居るのか?

そう言えば、昨日秋葉原を歩いた時、ラジ館は何ともなかった。

という事は、奴は来ていないのか?

万が一、現れないなら……未来はディストピアには成らないという事になる。

電話レンジ(仮)もなければ、SERNも普通の研究所なのか?

萌郁がラウンダーで無いことからも、それが想定される。

紅莉栖「ねぇ倫太郎、どうしたの?怖い顔して」

岡部「いや、何でもない」

紅莉栖「何か悩みごとがあったら相談して」

飯を食い終わると、助手は洗い物を済まし、洗面台で軽い化粧をする。

紅莉栖「さて、準備OK!私はこれからバイトに行くから」

岡部「ば、バイト?」

紅莉栖「いつものバイトよ。じゃ、行ってくるね!あ、そうそうお昼どうする?」

岡部「いや、今日は少し出掛けようと思う」

紅莉栖「そう……じゃ、また晩ごはん一緒に食べようね」

岡部「ああ……」

紅莉栖「じゃ、いってきまーす!」

チュッ

岡部「……」

紅莉栖「にひひ」

紅莉栖は俺の頬に軽くキスをし、バイトに行ってしまった……

一体、何がどうなっているんだ?

俺と助手の関係は?

しかし、安易にそれも直球で聞いた場合、相手を傷つける事が有る。

それはルカ子の件で学習済みだ。

まぁ、それは少しずつ解決すればいい。

それよりも今は……

窓の外から元気のいい声が聞こえる。

「そこのお兄さん!ブラウン管買いませんか?」

岡部「!」

ガラっ!

窓を開けると下階のブラウン管工房前で紅莉栖が居た。

紅莉栖「液晶の時代だからこそ、ブラウン管!FPSするなら応答速度の早いブラウン管で!」

岡部「く、クリスティーナ!何をやってる!」

紅莉栖「バイトよ!バイト!」

岡部「へ?」

俺はラボを飛び出し、表に出る。

ブラウン管LOVEと書いたエプロンをした助手が道行く人に声を掛けている。

工房の中には何人かの客が居た。

そして、俺を見つけ店内から彼が出てきた。

天王寺「よう岡部!お前の紹介してくれた可愛いバイトのおかげで大繁盛だ」

岡部「そ、そうですか……」

天王寺「ああ。流石の俺も応答速度を売りにする事には気がつかなかったぞ」

岡部「はぁ」

天王寺「で。何?お前等、上で一緒に住んでるのか?それならもっと早く言えよ。風呂の改装も考えてやるからな」

岡部「ありがとうございます……って!違う!」

天王寺「客待たせてっから俺はこれで。また暇な時に茶でも飲みに来いや」

そう言い残して、店長は店の中に消えてしまった。

紅莉栖「倫太郎、どっか行くの?」

岡部「ああ、ちょっと出掛けてくる。それより、あまりミスターブラウンに変な事をいうな」

紅莉栖「ニヒヒ、いってらっしゃーい」

駅方向に足を向け、俺は歩きだす。

(何故だ?本来なら奴がバイトしている筈なのに……やはりこの世界に来ていないのか?)

考え事をして歩いているうちに、俺はメイクイーン+ニャン2に来ていた。

カランカラン

メイド「お帰りなさいませ、ご主人様」

岡部「店長は居ますか?」

メイド「少々お待ち下さい」

暫くして、フェイリスが出てきた。

岡部「昨日は済まなかった」

フェイリス「気にしなくてもいいニャン!今日はその為に?」

岡部「ああ」

フェイリス「あはは。クーニャンの言う通りの真面目な真四角人間だニャ」

岡部「そ、そうですか?」

フェイリス「あのクーニャンがお気に入り!っていう意味が分かったニャン」

岡部「その、萌郁、萌えさんにも謝っておいてください」

フェイリス「分かったニャン。ところで、今日はどうされますか?ご主人様」

岡部「いや、昨日の事があるので」

フェイリス「そう……またの機会にお願いいたしますニャン」

岡部「ああ。ありがとう」

店内を見回したが、『ダル』は来店していなかった。

俺は一礼し、ドアを開け外に向かう。

その時、男にぶつかる。

「あ?」

岡部「すみません。ってダル」

ダル「んぁ?岡部か。なぁお前、もう来るなって言ったじゃん?分かってない?」

岡部「いや、今日は昨日のお詫びに……」

ダル「なぁ。来るなって言ったら、詫びにも来んなよな?詫びるって事は許されてまた来たいって事じゃん」

岡部「いや、そういう意味ではない」

ダル「なんかお前ムカつくよな。高校の頃からすげームカついてたけどさぁ……ちょっと来いお」

俺はダルとその仲間に引きずられ、ビルの裏路地に連れ込まれる。

ゴンッ!

ダルはいきなり、俺の頭を壁にぶつける。

廻りの連中はニヤニヤと笑いを浮かべる。

岡部「だ、ダル。聞いてくれ!」

ダル「何を聞くん?おーかーべー君!」

バスっ!

岡部「うっ……」

みぞおちにダルのパンチが食い込む。

俺はその場にうずくまり、嘔吐する。

仲間「うわァきたねぇ!」

ダル「これに懲りたらもう来んなよな」

岡部「だ、ダル……待ってくれ」

ダル「あと、僕の事ダルなんて呼ぶなお。お前が僕を呼ぶ時は『橋田様』だろ常考!」

岡部「頼む。お前が居ないと……お前のその……ハッカースキルで……」

ダル「はぁ?ハッカー?そもそもPCとか全然萌えねぇし」

岡部「は?」

ダル「俺がPC嫌いって知っててそんな事言ってるのか?なんかさぁ、久々に切れちまったお!」

岡部「な!」

ドスっ!

うずくまる俺に、ダルは顔面に向け蹴りを入れる。

殺される!本気でそう思った。

その時、ダル達の背後で声が聞こえる。

「てめぇら、寄ってたかって何やってんだ?あぁん?」

仲間「あ!」

ダル「誰よ邪魔すんのは?うっ……4℃」

4℃「なに昼間っからこの秋葉で私刑楽しんでんだ?このバカ共は!」

4℃……いつか俺とフェイリスを追い回した奴だ。

4℃「やるなら、俺様が代わりにやってやんよ。ほら、かかってこいよ」

そういうと4℃はダルの仲間に頭突きを一発入れる。

仲間「うぐっ!」

その一発でダル達は硬直する。

ダル「……さーせん!」

ダダダダダ!

4℃が睨みつけた瞬間、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げてしまった。

4℃「チッ、つまんねぇ奴らだ。おい、お前。大丈夫か?」

岡部「ああ……」

4℃「最近、この街にもああいう奴らが増えたから気をつけろよ」

岡部「あ、ありがとう」

4℃「あん、どうって事ねぇよ。俺はああいう群れてしか行動できない奴が嫌いなだけだ」

岡部「……」

4℃「立てるか?」

岡部「ああ」

安堵感から次第に傷みが増してくるが、それでも何とか立つ事は出来た。

4℃「また困った事があったら連絡してくれよ」

4℃は俺に連絡先を渡すと、その場を去ってしまった。

「あの4℃に助けられるか……は、は、ははは……」

~ラボ前~

紅莉栖「ちょっと倫太郎!どうしたのよ、その怪我!」

岡部「転んだ」

紅莉栖「転んだ?」

岡部「ああ……」

紅莉栖「うそ。誰にされたの?」

岡部「ほっといてくれ!!」

紅莉栖「倫太郎……」

岡部(くそがっ!何なんだよ、何がどうなっちまった?)

岡部(皆幸せじゃないか。俺さえジッとしていれば何の問題も起きない。でもなんだ?)

岡部(何に不満があるんだ?)

岡部(俺は飛び過ぎたのか?やり直しの利く人生に慣れてしまったのか?刺激のある世界に……)

一瞬、世界が真っ白になる、刹那全てが闇に包まれた。

遠くで助手の声がする。

「……ろう!…たろう!」

目覚めると俺はラボのソファーに横たわっていた。

聞けばブラウン店長がここまで運んでくれたようだ。

紅莉栖「倫太郎、大丈夫?」

岡部「……」

紅莉栖「もう何も聞かないから……聞かないから、無茶はしないで」

岡部「ああ。すまん」

紅莉栖「本当にビックリしたんだからね!服は血で汚れてるし、顔は腫れてるし……」

岡部「お前の言う事を聞けば良かった……」

紅莉栖「え?」

岡部「昨日の事、フェイリスに謝りに行ったら、ダルに逢った」

紅莉栖「で、やられたの?」

岡部「ああ……そうだ」

紅莉栖「そう」

岡部「お前が謝っておくって言ってくれてたのにな」

紅莉栖「うん」

岡部「ごめんな」

紅莉栖「うん。もういいよ。もういいから休んで。どこか他に痛い所は?」

岡部「大丈夫だ」

俺は助手と2,3の言葉を交わした後、また眠りに着いた。

気がつくと、外は暗かった。

それは夕方の暗さではなく、間もなく朝を迎える暗さだった。

仄暗いラボを見渡すと、助手が俺の枕元にへたり込んで寝ていた。

起こさない様にそっと立ち上る。

この世界線は本当に安心できるのか?

俺はこの世界に甘んじていいのか?

答えは見えない。

顔の痛みは引いていた。

きっと助手…いや、紅莉栖が寝ずの看病をしてくれたのだろう。

テーブルには氷枕とタオルと洗面器があった。

俺はへたり込む紅莉栖をそっと抱え上げ、ソファーに寝かす。

床に座り、ソファーにもたれ掛り、これからどうするべきか考える。

考えれば考えるほど、答えは交錯する。

誰かの死と戦うべきなのか?それとも戦わない世界を選ぶべきなのか?

後者を選ぶ場合、このまま俺がじっとしていればいい。

しかし……それは、ただの日常だ。

あの楽しいラボはもう戻ってこない。

俺は……やはり刺激を求めているのか?

ふっと俺の頬を撫でる感触で我に返る。

細く白い指が俺の輪郭を伝い、首から肩へと落ち胸の前へと廻る。

紅莉栖「ねぇ倫太郎」

岡部「ん?どうした紅莉栖、起こしてしまったか?」

紅莉栖「倫太郎はどこから来たの?」

岡部「ん?」

紅莉栖「私分かったの。今の倫太郎は私の知っている倫太郎じゃないって」

岡部「紅莉栖……」

紅莉栖「うん、そう。やっぱり倫太郎じゃない。だって紅莉栖なんて言わないもん」

岡部「あ、いや、今のはクリスティーナと言おうとしてだな」

紅莉栖「今の倫太郎は嘘も下手だし」

岡部「ばれてしまったか」

紅莉栖「ねぇ……今の倫太郎が居た元の世界はどんな世界だったの?」

岡部「知りたいか?」

紅莉栖「うん。私、倫太郎の事は全部知りたい」

岡部「悲しい事もあるぞ?」

紅莉栖「うん。もし、それを聞いたらこの世界は変わる?」

岡部「いや、多分変わらないだろう」

紅莉栖「なら話して」

紅莉栖は身を起こし、ソファーに座り直す。

俺もその横に腰を掛け、今まで有った事、違う世界線の事を話し始めた。

ラボやラボメンの事、SERNやラウンダー、そして電話レンジとタイムリープ。

それだけじゃない、まゆりや紅莉栖本人の死にも触れた。

他にも紅莉栖を騙した事や敵に廻った事……知る限りの全てを。

話すうちに、俺は感極まり涙を流していた。

紅莉栖はそれを自分の親指で拭ってくれた。

俺の涙を拭う紅莉栖の瞳にも、溢れんばかりの涙が光る。

俺はその涙を必死に受け止める。

しかし、紅莉栖の涙は俺の指を伝い、自由落下を始める。

そして―――静寂に涙の落ちる音が響く。


「倫太郎」

「紅莉栖」

俺たちは抱擁し、キスした。

「好きよ、倫太郎」

「好きだ、紅莉栖」

「ねぇ倫太郎、私は彼女になれるかな?」

「俺の方こそ、紅莉栖の彼氏になれるかな?」

「なれるよ、きっと」

「そうか、なら俺もなれる」

そして、俺は悟った。

実家を出た時のリーディングシュタイナー発動は、きっと紅莉栖がDメールを送ったのだろうと。

しかし、今となってはそんな事はどうでも良い。

今の紅莉栖に聞いたところで、思い出すとは限らない。

それどころか、紅莉栖を悲しませる原因にもなりかねない。

そう、紅莉栖が望んだ世界、紅莉栖が意思を持って改変した世界、そしてどこよりも居心地のいい世界。

俺はこの世界に甘んじる事を決意した。

どんな世界線よりも寂しいが、どんな世界線よりも幸せな運命石の扉の選択。

~数日後~

紅莉栖「腫れも引いて良かったね」

岡部「ああ。紅莉栖、お前の看病が良かったのだ」

紅莉栖「えへ?は、褒めても何も出ないからね!」

岡部「そうか?その割に、今日の昼食にはデザートが付いているじゃないか」

紅莉栖「それ標準ですから」

岡部「そ、そうか……」

岡部「なぁ、紅莉栖。俺たちの関係って元はどうだったんだ?」

紅莉栖「え?知りたい?」

岡部「是非とも」

紅莉栖ん~どうしよっかな?」

岡部「紅莉栖!」

紅莉栖「な!何?」

岡部「ぬるぽ」

紅莉栖「ガッ!」><

岡部「で、どういう関係だった?」

紅莉栖「いわな~い」

岡部「言えよ!言わないとお前のコテハンで痛いスレ立てるぞ!」

紅莉栖「ちょ!それ勘弁」

岡部「そうだな……『18歳JKです。>>999とサシオフ』とかどうだ?」

紅莉栖「えっ……ええええーーーーーーー!」

岡部「ど、どうした……」

紅莉栖「それ、出会いなんだけど」

岡部「へ……何!」

紅莉栖「まぁそれからラボに入り浸ってただけ」

岡部「という事は……」

紅莉栖「最初は友達というか……ここも倫太郎も気に入ったから居候みたいな?」

岡部「そうだったのか……」

ねらーな紅莉栖との出会い、まさか@ちゃんねるだったとはな……

ちなみに俺のコテハンは『鳳凰院凶真』ではなく、『秋葉電左衛門』だったらしい……

それから幸せな日々が続く。

幸せの確認をこんな言葉で済ませるのは些か気が引けるが、俺たちの『愛言葉』なのだ。

やっと辿りつけたこの世界を真剣に生き抜いてみようと決心した俺はいつも言う。

ラボの扉を開け―――『ただいま』と。

紅莉栖は必ずこう返す。

『おかえり』と。


おわり?

バン!

天王寺「おい岡部!バイト!大変だ!」

岡部「どうしました?ミスターブラウン?」

天王寺「どうもこうもあるか!テレビつけてみろ!」

岡部「ああ、実は壊れてしましまして」

天王寺「何!?」

岡部「どこぞの安物ブラウン管ですから」

ガツン

岡部「本気で殴らないでください!ちゃんと動いてますから」

天王寺「いいからつけろって!」

紅莉栖「ポチっと」

TV『本日昼ごろ、秋葉原のラジオ会館屋上に謎の飛行物体が不時着しました』

岡部「なんだと!」

天王寺「すげーだろ?これ多分、人工衛星だぞ」

紅莉栖「これは酷い」

天王寺「この形からして気象衛星か偵察衛星だろう」

紅莉栖「これ、ここに落ちなくて良かったよね」

天王寺「ああ、ここだったら……今頃完全倒壊だったな」

紅莉栖「ガクブルだよ」

天王寺「ああ……俺、ちょっと見てくるわ」

店長たちの騒ぎ声は俺の耳に入らない。

ここから何が始まるのか、俺には何となく分かる。

きっと奴が来る。

そう、この世界はいつまでも平和とは限らない。

だが俺は目の前にいる女を幸せにすると決めたんだ。

だから……頼む、現れないでくれ!

しかし、運命石の扉の選択はそれを許してくれなかった。

ガチャ



「ちぃーっす!岡部倫太郎!」






                                           To Be Continued

岡部「阿万音鈴羽……」

鈴羽「やぁ!」

岡部「お前……」

鈴羽「覚えてるんだ?」

岡部「何をしに……」

鈴羽「まぁ、お願い事かな?」

紅莉栖「ねぇ、倫太郎この人……」

岡部「ああ、以前話した事が有るだろ」

紅莉栖「もしかしてラボメンだった人?」

岡部「ああ」

鈴羽「そんな事より、ちょっと手を貸してよ」

岡部「手を貸すにもここには電話レンジもなければ、お前の父親も居ないぞ」

鈴羽「父さんは……もう死んだよ。2020年の秋葉抗争で負けて」

岡部「な、何?」

鈴羽「ま、私は父さんの事は全然知らないんだけどね」

岡部「母親は元気なのか?」

鈴羽「まぁ生きる個体って感じ。何の感情も持たないただの生命体みたいな」

岡部「何?どういう事だ?阿万音由季さんに何か有ったのか?」

鈴羽「私自身が、望まれて生まれた子じゃないからね」

岡部「ど、どういう事だ?」

鈴羽「私は……母さんが橋田至にレイプされて生まれた子供なんだよ」

岡部「何!」

鈴羽「で、悪いんだけど未来を変える為に、父さんを何とかしてほしいの」

岡部「……」

鈴羽「無理かな?」

紅莉栖「ちょっと!倫太郎に何をさせるつもりなの!?」

鈴羽「あ、もしかして牧瀬紅莉栖?」

紅莉栖「そうよ」

鈴羽「ママ、久しぶり!」

紅莉栖「え?どういう事?」

岡部「お、お前の母親は阿万音由季さんだろ!」

鈴羽「産みの親はね。育ての母はこの人、牧瀬紅莉栖」

岡部「ええ!」

紅莉栖「そ、そうなの!ち、ちなみに……育ての父は?」

鈴羽「ん~知りたい?」

紅莉栖「言いなさい!」

鈴羽「は、はい……ママはこの時代でも怖いなぁ」

紅莉栖「えぇ……」

鈴羽「勿論、パパはそこにいる岡部倫太郎だよ」

岡部「何!という事は……」

鈴羽「まぁ二人は結婚するんだけどね」

岡部「は、ははは……ええ!」

紅莉栖「そ、そうなんだ……///」

鈴羽「ここって未来ガジェット研究所でしょ?」

岡部「そうだが」

鈴羽「25年後の世界じゃ、世界一の企業になってるんだよ」

岡部「何!」

鈴羽「ママのパパ、中鉢の爺ちゃんの発明品を製造し販売する会社」

岡部「そ、そうなの……」

鈴羽「うん。岡部倫太郎はCEOで、ママは筆頭株主」

岡部「考えられん。というか、俺はパパとは呼ばれないのか?」

鈴羽「だって、殆ど家に帰ってこないし。オカリンおじさんとか岡部倫太郎って呼んでた」

岡部「そ、そうか……すまん」

鈴羽「仕方がないよ。それでも私は幸せだった。母さんの事を除けば」

紅莉栖「ちなみに、何故私が貴方のママに?」

鈴羽「母さんがアルバイトしていたお店でママと仲良くなったんだよ」

紅莉栖「それって……」

鈴羽「メイド喫茶って言うところ。どんなところか知らないんだけどね」

紅莉栖「フェイリスのお店ね」

鈴羽「フェイリス……ああ!秋葉さんか!」

岡部「未来では……」

鈴羽「元気だよ。未来では芸能マネージメントの会社を経営してるよ」

鈴羽「強引なところもあってオカリンおじさんの会社のCMは全部あそこの芸能人だけどさ」

岡部「そうか……」

鈴羽「ということで、何とかしてくれないかな?」

岡部「鈴羽。悪いが、お前の希望は叶えてやれない」

紅莉栖「倫太郎、いきなり頭ごなしにそれは酷くない?」

岡部「いや、現状では未来は変えられない」

紅莉栖「それってどういう意味?」

岡部「世界ってのはどう頑張っても同じ結果に収束するのだ。だからこの世界線の未来で確定している事は必ずそうなる」

紅莉栖「って事は?」

岡部「お前が言っている事が本当なら、俺と紅莉栖がどんなに喧嘩しようとも結婚する」

紅莉栖「ええ!」

岡部「ダルを殺そうとしても、2020年までは必ず生き延びる。どんな形であれ」

紅莉栖「そ、そうなんだ」

岡部「もう一つ言えば、どうやってもダルは阿万音さんを襲う」

紅莉栖「……」

岡部「それを回避するには世界線を変える必要がある」

紅莉栖「どうするの?」

岡部「過去を改変する」

紅莉栖「そ、そんな事可能なの?」

岡部「それが……俺が居た元の世界線には『電話レンジ(仮)』という装置で出来たんだが……」

紅莉栖「それって作れないの?」

岡部「出来なくもないが……それを作ったのは紅莉栖とダルなのだ」

紅莉栖「ええ!私そんな技術ない><」

岡部「元居た世界のお前は脳医学と物理学の研究員で、サイエンスにも論文が載るほどだったんだ」

紅莉栖「そんな……」

岡部「おまけに、ダルは超がつく程のハッカーだったんだ」

紅莉栖「頼んでみたら?」

岡部「頼んだ結果が、先日のアレだ」

紅莉栖「!」

岡部「今のあいつはPCに興味一つ示さない」

紅莉栖「って事は?」

岡部「この世界線は『袋小路』で出口は無い」

紅莉栖「……」

鈴羽「なるほどね。オカリンおじさんが言っていた事は本当だったんだね」

岡部「何?」

鈴羽「昔は無かった事にする事も出来たって」

岡部「そ、そうか……」

鈴羽「で、中鉢の爺ちゃんに頼んだら『これを持って行け』って言われたんだけど」

岡部「ん?なんだ?」

鈴羽「詳しい事は分からないんだけど、見せれば分かるって」

岡部「ん?あ!」

紅莉栖「これ何?」

岡部「ここまで小型化が進んだのか……」

俺は鈴羽が差し出したB5サイズのノートPCらしきものを受け取る。

銘板には『電話レンジ-NFG505』とあった。

鈴羽「どう?何とかなりそう?」

岡部「ああ……しかし、少し考えさせてくれ」

鈴羽「ええー。直ぐにでも橋田至を何とかしてよ」

岡部「バタフライ効果」

紅莉栖「何それ?」

岡部「ほんの些細な事で、未来が大きく変わる可能性がある」

紅莉栖「どういう事?」

岡部「中国で蝶が羽ばたくと、アメリカでハリケーンが起こるとか、風が吹いたら桶屋が儲かるって話を聞いた事がないか?」

紅莉栖「ん?分かんない」

岡部「例えば、これで過去を改変したとすると、未来が全て変わる可能性がある」

鈴羽「って事は、母さんは助かるってことでしょ?」

岡部「そうかもしれない。しかし……俺と紅莉栖が結婚しなかったり、もっと言えば鈴羽が生まれなく可能性もある」

鈴羽「え……」

岡部「中鉢博士はそれを承知でこれを俺に託したのか?」

鈴羽「あと、中鉢の爺ちゃんから手紙も預かってきた」

岡部「見せろ!」

岡部君へ


久しぶりだな。

いや、この手紙を読む君とはまだ出会っても居ないのだが。

いつも娘が世話になっているようで、感謝する。

さて、鈴羽がそちらに持って行った物は、君ならどういうものか直ぐに分かるだろう。

長い間封印していたのだが……義理とは言え可愛い孫娘の頼みに、この私も折れてしまった。

使う使わないかは君に任せる。

こちらから改変するには、状況も事情も分かりにくい。

なので、君に託す。

良く考えた上で実行してほしい。

また改変する場合、最小限の世界線移動を私は望む。

君と紅莉栖の未来も含め、全世界の未来がかかっている。

今、この世界はユートピアとまではいかなくとも、非常に平和である。

貧富の差も少なく、エネルギー問題や食糧難も解消されている。

まぁ、ひとえにタイムマシンを筆頭とするワシの発明のお陰だが、ふはは。

出来れば未来線を変更することなく、結果は同じように収束するにしても違うルートを辿る様に尽力されたし。

この意味、君になら理解できると思われる。

ではこれで失礼する。

Dr.中鉢

追伸 長い時間、そちらに鈴羽を置くのは良くないので、直ぐに帰らせてほしい。

岡部「……」

紅莉栖「ねぇ、どうするの?」

岡部「考え中だ!」

紅莉栖「ご、ごめん……」

岡部「あ、すまない。大声を出して」

紅莉栖「うん……」

岡部「とりあえず、鈴羽は帰れ」

鈴羽「えー。ちょっとこの時代を観光させてよ」

岡部「駄目だ。お前はこの時代の人間ではない。それに……」

鈴羽「それに?」

岡部「中鉢博士からのお願いも有った」

鈴羽「やだ!」

岡部「お前がこの世界に影響を与えたらどうする?」

鈴羽「えぇー。ねぇ、ちょっと位いいでしょ?」

岡部「困ったな……(そうだ!)」

岡部(紅莉栖頼みがある)

紅莉栖(何?)

岡部(ヒソヒソ……)

紅莉栖(分かった)

岡部「鈴羽、親の言う事をちゃんと聞かないとダメだろ?」

鈴羽「だってこの時代の岡部倫太郎はまだ親じゃないし」

紅莉栖「あら?でも駄々っ子になってしまった事実は私達の記憶に残るわよ?」

鈴羽「え?」

紅莉栖「ふふ、7年後ぐらいかしら?貴方が誕生するのは?その後引き取るみたいだけど……」

鈴羽「それって……」

紅莉栖「ええ。こういう子に育たない様にビシバシ教育するわ」

鈴羽「ゴメンなさいママ。だから、許して。ママは怒ると本当に怖いから……」

紅莉栖「鈴羽はおりこうさん。パパの……中鉢の爺様のお使いが終わったら帰らないと、ね?」

鈴羽「う、うん……分かった」

紅莉栖「じゃあ、ラジ館まで送るわ」

鈴羽「わかった。でも、メイド喫茶だけ見てみたいな」

紅莉栖「いいわ。その代り、その後は直ぐに帰るのよ?」

鈴羽「わかった」

岡部(紅莉栖、GJだ!)

~メイクイーン+ニャン2~

カランカラン

メイド「おかえりなさいませ、ご主人さま、お嬢様」

紅莉栖「禁煙席お願いできます?」

メイド「かしこまりました。こちらへどうぞ」

鈴羽「へぇ、これがメイド喫茶っていうところか」

紅莉栖「そうよ」

鈴羽「うん、思っていた通りだ」

紅莉栖「未来にもある?」

鈴羽「うーん……街中には無いけど、自分の家がこんな感じ」

紅莉栖「え?」

鈴羽「家はこんな感じだよ。いつもメイドと執事が沢山いるからね」

紅莉栖「そ、そう……」

鈴羽「何と言っても、世界一の企業の社長の家だもん」

岡部「そ、それは凄いな、あは、あは、あはは」

鈴羽「ちなみに、全部オカリンおじさんの趣味なんだって」

紅莉栖「へぇ……あんた、そんな趣味あったんだ」

岡部「ま、まて!俺の趣味か?お前じゃないのか?」

紅莉栖「鈴羽は今、「全部オカリンおじさんの趣味」って言わなかったかしら?」

岡部「あは、あはははは……」

紅莉栖「あとでゆっくりお話しましょうね、り・ん・た・ろ・うっ!」

岡部(こえぇよ……)

鈴羽(やっぱママの怖さはこの時代から続いてたんだ……)

紅莉栖「さぁ、時間もあまりないし、何か飲んだら帰るわよ」

俺たちは三々五々、好きな物を頼む。

が、和気藹々と話しこんでいると……

「おーかーべーくーん」

振り向くと、ダル!

ダル「お前、まだ分かんないの?」

岡部「待ってくれ。今日は我慢してくれ!」

ダル「うるせぇえって!」

紅莉栖「ちょっと!あんた!一体何なのよ!」

ダル「何おま?岡部の女?調子こいてたら廻すお?」

紅莉栖「やれるもんならやってみなさいよ!」

ダル「へぇ、面白い事いうじゃん。あとで泣き入れても腰が抜けるまでやっちゃうお?」

ダルは紅莉栖の胸元をつかもうとした。

その時―――

鈴羽「おっさん、あまり調子に乗ってるとこいつが火を吹くよ?」

岡部「す、鈴羽……」

鈴羽「心配しないで。これ本物だから。こう見えても、私戦士だから」

岡部「本物って?ダメだろ!」

鈴羽「平和治安軍のソルジャーなんだ。紛争が起きる前に現地で仲裁したりしてるの」

岡部「だからって、ここでそんなもん出すな!」

ダル「お、面白い事いうじゃん!どうせモデルガンっしょ!お前らやっちまえ!」

ダルの掛け声で数人の取り巻きが一斉に飛びかかる。

が、ほぼ秒殺だった。

鈴羽は格闘術にも長けているのか、一発で取り巻きを沈める。

鈴羽「言ってるじゃん、戦士だって。何ならついでにこの穴から何が出るかあんたの頭で試してみる?」

ダル「あ、あ、あわわ……」

紅莉栖「鈴羽!ダメ!その人は……」

とっさに俺は紅莉栖の口を塞ぐ。

鈴羽「何?」

岡部「何でもない。何でもないから……」

鈴羽「ふーん……」

岡部「鈴羽、もう行こう」

鈴羽「いや、こいつが誰だか私は聞く必要が出来た。何か隠してるよね?岡部倫太郎」

岡部「そいつの正体が分かったらお前はどうする気だ?」

鈴羽「そんなの決まってるじゃない。殺す」

岡部「それはお前が消える事になるんだぞ?」

鈴羽「それでも構わない。母さんが助かるならそれで……私は……」

岡部「未来人のお前からすれば今は過去だ!その行為は世界を変えるんだぞ!」

大粒の涙を流しながら鈴羽は叫ぶ。

鈴羽「死ねよ!」

『まって!』

店の奥から一人の女性が走って来、ダルを庇うように覆いかぶさる。

「橋田さんは粗暴だけど、決して悪い人ではありません!」

鈴羽「あ……阿万音由季」

鈴羽は蚊のなくような声で呟く。

岡部「な、何?この人が阿万音由季さん?」

由季「え?私を御存じなのですか?」

岡部「あ、まぁなんというか……」

そこにフェイリスが駆け寄る。

フェイリス「お店の中で暴れるのは困るんだけど!」

岡部「す、すまん……直ぐに撤収する」

由季「橋田さんはとても……いい人なんです。私がこの店でアルバイトを始めようと面接に来る途中で道に迷ったらここまで案内してくれたんです」

鈴羽「そんなの誰だってする」

由季「それだけではありません。私がお店でミスしても頑張れって応援のメールもくれます」

鈴羽「……」

由季「だから……先日の萌えさんの件での貴方に対する非礼はこの私が代わって謝りますから、どうか許して下さい」

岡部「あ、いや、この間の件は俺が悪いのであって……」

由季「お願いします、どうか穏便に」

阿万音さんはその場で土下座してしまった。

紅莉栖「ちょ、ちょっと!こんな所で土下座したら私達が悪いみたいじゃない!」

由季「許してくれるまでやめません」

岡部「ゆ、許すから頭をあげてください」

由季「本当ですか?」

岡部「ああ、本当です」

鈴羽「私は……」

岡部「鈴羽、お前も許せ。紅莉栖も許すだろ?」

紅莉栖「まぁ私は特に何もされてないし」

岡部「と、言う事だ」

鈴羽「納得できない」

岡部「なら、俺が納得させてやろう」

鈴羽「え?」

岡部「阿万音さん、貴方はそこまでダルをかばうって事はもしかして、この男が好きなんですか?」

由季「……はい」

岡部「ダル。お前ももしかして由季さんの事が好きなんだろ?」

ダル「ど、ど、ど……」

岡部「ど?「ど」では分からん。ちゃんと言ってくれ」

ダル「ど、ど、どうしようもない位、好きだお!」

岡部「おお!それは良かったじゃないか。ここにベストカップルが誕生した!みんな拍手を!」

店内は拍手喝さい、中にはブーイングも聞こえたが……

岡部「まぁそういう事で、ここは丸く収めよう。な?」

フェイリス「ちょっと!何勝手に店の中で決めてんのよ!」

岡部「隙間は黙ってろ!」

フェイリス「><」

岡部 (あ……これは違う世界線での話だった。まぁいいか)

岡部「ということで、これで解決!」

二人が付き合えば、レイプなんて起こりやしない、きっと。

我ながら、咄嗟に浮かんだ適当が実を結ぶとは……思いも寄らなかった。

しかし、今まで見てきたダルを思えば告白など出来る筈もなく、阿万音由季に関してはダルに一目ぼれだったのではないか?

紅莉栖「じゃあ、行こうか」

鈴羽「うん……」

岡部「すみません、お幾らですか?」

フェイリス「157万円7100円です」

岡部「……は?」

フェイリス「157万7100円です」

岡部「すみません?今何と?」

フェイリス「私を侮辱した代金150万円と飲み物代2000円の消費税込で157万7100円!」

岡部「……」

フェイリス「看板娘代も払って欲しい位だわ!」

フェイリス「157万円7100円です」
フェイリス「157万円7100円です」
フェイリス「157万円7100円です」


岡部「すまん、持ち合わせがないので出世払いで(あ!)」

フェイリス「わかった。その代り、出世したら絞れるだけ絞るんだからね!」

岡部「ああ、そういう事か……」

紅莉栖「契約完了しちゃったわね」

岡部「ああ。まぁ仕方がない」

鈴羽「なるほど!ちゃんと未来に繋がってるんだね」

岡部「そうだ。あとこれだけは言える。お前はダルと由季さんの間に間違いなく生まれる。生まれるという事実に変わりは無い。」

鈴羽「そっか」

岡部「ただ、望まれて生まれると思うぞ?」

鈴羽「本当にそうなるかな?」

岡部「但し、ダルが2020年で死ぬ歴史は分からない」

鈴羽「?」

岡部「阿万音さんとダルの今後次第だろう」

鈴羽「そっか。なんとか2020年の秋葉抗争を止められたらいいなぁ」

岡部「ちなみに、その抗争ってどんな争いなんだ?」

鈴羽「父さんと4℃って人が、秋葉の覇権を争って戦うんだ」

岡部「4℃……だと?」

鈴羽「知ってるの?」

岡部「ああ。まぁ熱い男だ」

鈴羽「そっか。やっぱ父さんは悪い人だったんだ」

岡部「まぁこの時点で由季さんと付き合うし、変わるかもな」

鈴羽「まぁ未来ではそんな話聞いてないからね」

紅莉栖「じゃ、行きますか」

岡部「そうだな」

俺たちは店を出て、ラジ館に向かって歩く。

前から一人の男が来る。

岡部「やぁ!」

岡部が2人になったあ

4℃「おお!あれから良くなったか?」

岡部「まぁ、お陰さまで」

4℃「困った事があったらこの俺様―――4℃にいつでも相談しろよ」

岡部「ああ。とりあえず10年後、この街を巻きこむような抗争は止めてくれよ」

4℃「ああん?なんだ?来年の事を言うと鬼が笑うって言うんだぜ?それを越えて10年後か?大笑いだな」

岡部「ああ。大笑いだ。まぁ、忘れないでいてくれればいい」

4℃「そうか。じゃあな」

俺と4℃は軽くタッチをし、別れる。

鈴羽「あれが4℃?」

岡部「ああ、そうだ。いい男だ」

鈴羽「そうだね」

岡部「鈴羽、今あいつを撃ち抜けば未来は変わるかも知れんぞ?」

鈴羽「いい人は撃てないよ」

岡部「そうか……なら後は今日の騒ぎがどこまで影響を与えたか、お前がこの時代に来た事自体がバタフライ効果になる事を願え」

鈴羽「うん」

ラジ館前は人だかりが出来ていたが、鈴羽は荷物から薄いスーツを取り出す。

岡部「なんだそれ?」

鈴羽「光学迷彩スーツ。これを着れば簡単にタイムマシーンまで行けるから」

岡部「そうか。やっぱそれも……」

鈴羽「そうだよ!中鉢の爺ちゃんの発明だよ」

紅莉栖「我が父ながら凄いわ」

岡部「ああ、そうだな。あれだけの物を売ればそりゃ世界一にもなれる筈だ」

紅莉栖「そうね」

まだ出ていない
なえにすべてを崩されるんですね

鈴羽「じゃ、帰るね!」

岡部「ああ」

鈴羽「それからこれ!お土産」

岡部「?」

鈴羽「これ。ダイバージェンスメーターっていうの」

岡部「ああ。懐かしいな」

鈴羽「そうなの?」

岡部「だが今の俺には必要ないから持って帰れ」

鈴羽「そっか……じゃ、行くね!」

鈴羽が目の前から消えた数分後、ラジ館の屋上にあったタイムマシンは青い光を放ちながら消えた。

TVやニュースは大騒ぎ。

そりゃそうだ。

が、俺はそれどころではなかった。

紅莉栖「倫太郎」

岡部「ん?何?」

紅莉栖「さて……メイド萌えについて、じっくり話をしましょうか?」ポキポキ

岡部「あ、まて!話せばわかる!というか、この時代の俺に言われても……」

紅莉栖「その体にちゃんと教え込んでやるから!」

岡部「勘弁してくれよ!」

紅莉栖「許さないわよ!」

結局、ラボで紅莉栖に散々説教をされ、気がつけば朝になっていた。

が、誤解も解け、全て丸く収まった。

あとは精一杯生きて行こう。

そしてこいつを幸せにする。

俺は秋葉の街の空に昇る太陽に誓った。


おわる?

あとがき

今まで書いたSS
岡部「俺がラウンダーだと?」
岡部「まゆり……」
紅莉栖「ねぇ橋田」ダル「ん?何?」
岡部「なぁダル」ダル「ん?何?」
岡部「金がない」ダル「そだね」
本当に今まで助手に酷い事してすまなかった。
反省のつもりで優しい助手を書いてみたんだ。
萌郁一筋も封印して…
これからも宜しく

これからも宜しく
萌郁一筋も封印して…
反省のつもりで優しい助手を書いてみたんだ。
本当に今まで助手に酷い事してすまなかった。
岡部「金がない」ダル「そだね」
岡部「なぁダル」ダル「ん?何?」
紅莉栖「ねぇ橋田」ダル「ん?何?」
岡部「まゆり……」
今まで書いたSS

あとがき


Go to True

Too True

ドンドンドン!

天王寺「おい、岡部!」

岡部「なんですか?こんな朝っぱらから」

天王寺「昨日の件知ってるか?」

岡部「は?ああ、謎の衛星が忽然と消えたって話でしょ?」

天王寺「そうだ!その後、実はな、また来たんだよ!」

岡部「何言ってるんですか?ボケてるんですか?」

天王寺「俺はな、また来るんじゃないかって、コッソリとラジ館の屋上で待ってた訳だ」

岡部「よく警察に捕まりませんでしたね!というか、暇なんですか?」

天王寺「そしたらよ!また衛星が現れて、おまけに若い女が降りてきて、俺に銃を突き付けて言ったんだ!」

岡部「え?」

天王寺「『未来ガジェット研究所所長にこれを渡せ』って」

岡部「手紙?」

天王寺「な、なんて書いてあるんだ?」

岡部「今開けます」

手紙を開け、その短い文を俺は目で追った。

『成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した』

そして、脱力感に襲われ、へたり込む。

すべて成功した。

岡部「店長、これはきっと悪い悪戯ですよ」

天王寺「そ、そうか?ちゃんと見たんだが……」

岡部「いやいや、誰かの悪戯ですよ」

天王寺「そ、そうか。あーあ、スクープだと思ったのによぉ」

ミスターブラウンは後ろ脚でドアを閉め、出て行ってしまった。

『よし!やった!』

つい俺は感動のあまり、声を漏らす。

「こんな気分の日はメイド喫茶で祝杯だ!」

ん?あれ?確か……昨日も紅莉栖はここに……

時は既に遅し……背後に迫る気配に振り向けばそこには紅莉栖が居た。

「倫太郎!まだ説教が足りないみたいね!」

おわり

乙カレー

ここまでご清聴ありがとうございました。

いつも助手に酷い事をしたので、優しくしたら何となく全体的に反転させてみようかと。
ダルのDQNや綺麗な中鉢4℃もいいかなと。

色々設定が違うとか脳内で音声変換できないとか苦情がございましたが、SSという事で甘えさせてください。


もちろん、一連の連作で次回はどんなDメールを送ったか?
その解決篇を書きたいと思いますので、暫しお待ちください。

ではでは。

とりあえず乙ー
きれいな4℃は新鮮だな

今更ながらメイクイーンニャンニャンのメイドは全員語尾にニャンだろハゲ

おっつ
だーりんでクリスの扱い酷かったしこんなのも良かった

>>255

話転がりまくったねー
よく反省した、助手のことを謝ったので…許すよ

>>256
ごめん、おまけに白石萌えなんだ

>>257
面倒だし、隙間だし

>>259
憤慨した、あの助手の扱いは酷い

>>260
ありがとん

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom