ペリーヌ「高秋のフォーマルハウト」 (20)




今回は地の文が入っています。
苦手な方はブラウザバック推奨です。

現代風エイリーヌの続きです。

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【R-18】静夏「今日も宮藤少尉の私物に私の匂いを染み込ませて、と……」 - SSまとめ速報
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窓の外、秋の到来を告げる茜色の空の強烈な赤が、レンズを通して私の目に映る。
その痛いくらいの光に負けて顔を背けると、教室に戻ってきた彼女と目があった。

「ん? どうした、ペリーヌ。まだ帰らないのか?」

「あぁ……いえ。帰りますわよ。エイラさんはどうして?」

「忘れ物しちゃって……机の中に宿題入れっぱなしで……あぁ、あったあった」

「まったく……もうじき中間テストですわよ、しっかり勉学に励まないと……」

「分かってるってー。じゃあな、ペリーヌ」

「急いでらっしゃるんですの?」

「あぁー、えっと……うん、そうだな」

「……どこへ?」

聞かなければ良かったのに。
聞かなければ、互いにヘンな空気にならずに済んだのに。
聞かずには、いられなかった。

「……一緒に宿題を、やりにいくんだ。昇降口で待たせててさ」

「そう……。お気をつけて」

「あぁ……じゃあな、ペリーヌ」

テスト対策のプリントをカバンに詰め込むと、彼女は教室のドアも閉めずに飛び出していく。
私はそれを見送ると、彼女が開けて出て行ったドアを閉めて、また自分の席についた。





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10月の上旬は、少し肌寒くて、まだまだ天気も崩れやすい……そんな季節だ。
何事もなく過ぎ去った一日の放課後、クラスメイトがいそいそと部活や文化祭の準備で教室を出る中、私はなぜか帰る気にはなれず、
一人でただぼーっと自分の席から窓の外を眺めていた。
私の席は教壇の前から二つ目の席で、ここからは窓の外はよく見えない。

ふと、あの席に座ってみようと思った。
先ほど、彼女が机の中を確認していた……あの窓際の席。
私は自分のカバンはそのままに、彼女の席へ向かい、腰を下ろす。
いつもの景色とは違う教室の雰囲気に少し戸惑う。

何気なく校庭を眺めると、非日常が飛び込んでくる。
普段、自分の席からは見ることのできない景色が、ただの校舎からの風景だというのに、とてもキレイなモノに見えた。
夕陽の赤と、空の青と、雲の白が入り混じる……あの空をずっと眺めたくなった。



ただ、その二人を見つけるまでは。






校門に向かう、二人の少女がそこにはいた。
一人はカバンを肩にかけて、後ろ向きに喋りながら。
一人は肩まで伸びた銀の髪を揺らしながら、両の手でカバンを前に持ち、静々と後ろを歩く。

何を話しているのだろう。

夏休み明けからもう1ヶ月は経っているけれど、彼女は……エイラさんは恋人について何も話してくれない。
もちろん、こちらから聞くことは出来ないし、かといって彼女からソレについて話をされても困るのが、今のところの本音だ。
ギクシャクとした関係に近い、少し遠くに行ってしまったような疎外感が、そこにはあった。

はぁ……ほんと、イヤな所を見てしまった。

だが、目も逸らすことも出来ず、二人が校門を出て角を曲がるところまでしっかり見送ってしまう私は、一体何なのだろう。



結局、あの日行き先を失った私の恋心は、家のゴミ箱でも、風呂場の排水溝でも、学校のトイレでも、アイスを食べても捨てられなかったのだ。






上品な振る舞いではないのは分かっているが、腕を組んで寝てみたい欲求に負けてみる。
彼女はいつもこうして寝ているのだ。
授業中、休み時間、暇があればこうして窓の外の町並みを眺めながら。

夕暮れの空から机に目を戻すと、何やらラクガキがしてあった。
数式や狐のイラストなど、何かのメモだろうか……プレゼント、楽譜型の写真立て、映画のチケット、など様々だ。
一体、彼女はどんな気持ちでこのラクガキを書いたのだろう。
無意識か、それとも……。
疑惑の念は晴れず、頭を巡らしてみるが一向に答えは出ない。
まぁ、彼女のことだからほとんどが意味の無いモノなのだとは思うけれど。

意識して、空気を鼻から肺まで吸うと彼女の匂いは特に無かったが、木製の机の匂いが鼻腔をくすぐる。
なんだか古臭い……家の書庫のような匂いに馴染み深い何かを感じた。






唐突に、スピーカー特有のノイズに混じって、完全下校時刻を知らせるチャイムが教室に響き渡る。
私はソレにカラダをビクリと震わせると、椅子を引いて、机を見下ろし……撫でる。

今日の私は、どこかおかしい。

「何をしているの、私」

孤独の独り言が、教室の生暖かい空気に混じって消えた。






見慣れた帰路に着く。
閑静な住宅街を行く。
秋独特の風と香りを感じながら、私は往く。

あの夏祭りがあった、公園のベンチが目に入った。
どうせ明日は学校も習い事も休みで、特にすることは無い。
寄り道をして帰ろうと思いつき、自販機の“あまりおいしくない”あたたかいミルクティーを買う。

顔を上げれば、いわし雲。
秋の夕暮れに現るは大魚の口、フォーマルハウト。
ダストリングに囲まれて、ロイヤル・スターのお出ましだ。

もうじき、冬が来る。
秋波を送るのも、もう止めだ。

振り返ると、夕焼けに照らされて映し出された私の影は、一つ。
あの人の影を踏みながら歩く、あの子は……なんて幸せなのだろう。
そのイメージが頭にこびりついてしまい、私は払拭することも出来ず、ただただその願望に溺れていく。






秋は失恋の季節なのか、はたまた感傷に浸る季節なのか。
私はその両方に苛まれながら、ベンチに座る。撫でる。
あの時と全く同じ位置に。

彼女は覚えているのだろうか
無かったことにして欲しいないし、でもやっぱりして欲しかったりもする。
好意を伝えたこと、情けない姿を晒したこと。
それも、やはり両方。

左手の腕時計は19時を過ぎた。
そろそろ家に帰ろうかと思ったその時。
聞き覚えのある声で、私の名前を呼ぶ人がいた。
悪いことは何もしていないはずなのに、なぜか疚しい気持ちになる。

なんて、偶然。
いいや……ここは彼女の家の近くだし、むしろ必然だったのかもしれない。
だから私はこれが運命の出会いだとか、そんな軽々しく考えることはしなかった。






でも、会ってしまったのだ。
もちろんドキドキする。してしまう。仕方が無い。
こういう偶然でドキドキするなんて……私もまだまだ乙女で子供なのだという現実に直面させられる。
あれから一緒に帰ることなんて無かったから、教室以外での彼女を見るのが新鮮で、胸が張り裂けそう。
先ほどまで、あんなことを考えて……もう好きじゃなくなる、なんて考えていた私が馬鹿らしい。
所謂、現金な奴なのだろう、私は。

「何してんだ、こんなところで」

「エイラさん……」

こんなところ……。
そう、その通りだ。
こんなところ、彼女にとっては然程重要な場所ではなかったのだ。






「今帰りか? 遅いな。何してたんだー? まさか、私の机にイタズラなんてしてないだろうなぁー」

彼女はいつも一言茶化すクセがある。
でも今回ばかりは、私にはソレがダイレクトなモノで、内心かなりドキリとした。

「結構、早く終わりましたのね」

「いやー、ピアノの練習の時間まで一緒に勉強してたんだけど、あまり遅いと迷惑になりそうだったからさぁ」

「そう……」






互いに無言の時が流れる。
無言の時間は好きだ。
あれこれ考えなくていい、気持ちが通じ合えている人なら。
ただ、こう……お世辞にもギクシャクしていないとは言えない、この間柄では……すごく苦しい。
それは、たぶん互いに。

「そうだ、ペリーヌ。明日暇か?」

だがソレは私の思い違いだった。
そうだ、この人はいつもそんなことお構いなしなのだ。

もう、私には掛かることの無いと思っていた言葉。
……その言葉を待っていたのだ。
同時に、待っていなかったのかもしれない。

ほんと……情けない人だこと。






「暇、ですけど……」

「ならさー、買い物付き合ってくれないか? 文化祭、うちのクラスは占い屋だろ? 準備しなくちゃなぁ。めんどくさ……」

「その、私で……いいんですの?」

その言葉には二つの意味があったが、彼女は知る由も無いだろう。

「ん? あぁ、いいぞ。はぁ……タロット占い普通にやらせてほしいなぁ。雰囲気あっても結果は変わらないのにさ。紫の布とかいらないっての」

「まぁ、そうですわね……」

「んじゃ、明日……向かえに来てくれ」

「はぁ、まったく。強引ですわね……」

「待ってるからな。13時くらいに頼むよ」

私は聞かなかった。
どうして……恋人のあの子と行かないのか、とか。
どうして……私なのか、とか。
どうして……私を好きにさせるの、とか。
色々、それ以上聞くのが怖かった。






私を明日の付き人にしたのだって、おそらくクラスメイトで友達で、まぁ適任だろうくらいの気持ちだったに違いない。

それでも。
きっと、明日が終われば自己嫌悪に陥ることが分かっていたとしても。
今の私には、こう返す以外は浮かばなかった。

「えぇ……分かりましたわ。ちゃんと起きていてくださいまし。私、待っていませんわよ」







彼女と別れてから、途端に我に返る。
あれこれ悩みはあるけれど、明日はやっぱり楽しいと思う。
ただ純粋に、楽しみたい……そう思った。

気付くと、ずっと手に持っていた紅茶はすっかり冷め切ってしまっていた。

「私のも、冷めやすければ良かったのに……」

独り言を零して、しまったと口を噤む。
何を言っているのだろう、私は。
負けを認めたようなものじゃないか。
違う、もう負けっぱなしだ。

やっぱり……今日の私は、どこかおかしい。






キャップを外して、一口。
冷たい。
けれど、冷め切ることはなかった。
むしろ……以前よりも胸の高まりが抑えられない。

「本当、滑稽ね」

明日は、らしくないことでもしてみようか。
たぶん、甘えることなんかしないとは思うのに、どうやって、何を甘えてみようか考える。
彼女の恋人は良い顔をしないだろう。

けれど、今の私は……いや、明日の私は。

きっと、彼女の隣を歩ける私なのだ。



―――みなみのうお座が際限なく光を放つ、その時まで……あと少し。






テテテテンッ デデデンッ!           つづく






オワリナンダナ
読んでくれた人、エイリーヌリクエストして頂いた人ありがとうございました。

次は別のリクエスト頂いたのを書きます。

余談。
『3期アルマデ』は私のコトだとは思いますが、ベッドのSSとても良かったです。

それでは、また。

ストパン3期アルマデ戦線ヲ維持シツツ別命アルマデ書キ続ケルンダナ



久しぶりの投稿か?
毎回楽しみにしてるゾー

乙ナンダナ

>>17
ありがとうございます。とっても嬉しいです!
稚拙な文章ですが、これからもよろしくお願いします。

リクエストした者ですー。
あいかわらず切ないわー。フっといて誘うエイラ側の心情も読みたい。

>>19
リクエストありがとうございました。
続きもまた今度書くと思うのでよろしくお願いします。

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