あおい「え・・・解雇・・・?」(182)

あおい「え?解雇・・・?」
いきなり言い渡された言葉に私は思わず聞き返してしまう。

オーナー「・・・申し訳ないんだが来期の構想から君は外れていてね・・・」
そういうオーナーは私の目を見ずに机に置かれた資料と思われる紙束を眺めていた。

あおい「そんな、今年は確かに調子は悪かったですけど来年は・・・!」
オーナー「今年は、ねぇ・・・ 今年は17試合で防御率5.87  去年は23試合で5.01」
そういって私の前に差し出された資料にはここ数年の成績が記録されていた。

オーナー「あまり言いいたくはないんだが、これでも我慢して使ったほうなんだよ」
小さいため息をつきながらオーナーはそう言った。

あおい「・・・え?」



このSSは「 早川あおい「うぅ…なんで男子と更衣室一緒なんだろ…」 」
の終了後に続けたSSの修正版になります。
1000まで時間が無く荒く終わらせてしまったので細かいところを修正しています。
大本は変わりませんが色々と追記していますのでよろしくお願いします。


オーナー「君が入団して5年立った。初の女性プロ野球選手誕生。凄い話題だったね」

オーナー「春季キャンプからオープン戦、はたまたペナントレース 君が入団した時は従来の観客数の倍近く増えた。」
ドラフト指名された日には 全国紙の1面を大きく飾り、キャンプからペナントレースまで観客数に悩んでいた
球団は大きく助かったと聞いた。


オーナー「女性特有のやわらかいフォームから放たれるサブマリン。 球威、スピードこそなかったが君はプロ相手に立派に投げた。」
オーナー「最初の年は33試合で防御率3.01 立派な中継ぎでチームに貢献してくれた。」
その年のマリーンズは数年ぶりにAクラス入りを果たし来年こそは優勝だと選手、ファンも大きく沸いた。
あおい「 ・・・ 」

オーナー「しかし・・・だ、プロはそんなに甘くはない 珍しいアンダースロー。数度対戦すればプロの打者達はなれてしまった。」

オーナー「君だって感じることが多くなったはずだ  完璧なコースだったのに、いい変化球だったのに そう思うことはあったはずだ」
オーナー「・・・もう通用しないのではないかい。」
ストレートすぎる言葉に私はただ押し黙ってオーナーの言葉を聞くしかなかった。

オーナー「しかし以前、グッズは売れるし君目当てのファンも多い。 球団としても君を全力でバックアップしていきたいと思っていた。」

あおい「 っつ!それならっ!」
(あと数年でもいい、まだ投げたい!)
思わず私は大きな言葉をだしてしまった。
しかし、
オーナー「今のマリーンズがどうなっているかわかるだろう・・・? 4年連続Bクラス。めぼしいスターも生まれず観客は増えない。」
オーナー「君目当てのファンもずいぶん減ってしまったよ。」
ここ数年のマリーンズは5年前のAクラス入り後、年々成績を落とし今シーズンは5位という形で終わってしまった。
主力も歳を取り思うような成績を残せなくなり、かといって若い選手がレギュラーを取ることもなかった。

オーナー「・・・今のチーム状況ではね、たくさんの選手を抱える余裕はないんだ。あおい君」



あおい「試合で使えない、ファンも呼べない それが理由ですか」
オーナー「はっきり言ってしまえば・・・ね・・・、私としても残念だ。」
あの時笑顔で 我がマリーンズのために力を貸してくれ。といってくれたオーナーは
今私に解雇通知を言い渡した。

オーナー「どうだい、選手としてではなく、球団職員としてチームを支えてもらえないかい?」
口調はうってかわってオーナーは優しく私に言葉をかけてくれた。 しかし私は

あおい「・・・考えさせてください。」
解雇を言い渡されたショックにそう答えるしかなかった

オーナー「いいとも。決まったらまた話をしよう。」

あおい「分かりました。・・・失礼します。」
ソファーから立ち上がり、私は一礼とともに部屋を出た。
不安だけが私の中で渦巻いていた。

行間詰めているのは仕様?


12月21日 
冬も本番を迎え、吐く息は白く
私、早川あおいは球団から解雇通達を受けた。

あおい「・・・5年か・・・」

当時大騒ぎになった甲子園への女性選手登録 
恋々高校の投手だった早川あおいは2回戦で敗れるも
その容姿、話題性から千葉ロッテマリーンズから5位指名を受けた。
もちろん話題だけではプロ指名は受けれない。
アンダースローからのMAX135キロ そしてカーブとシンカーを武器にプロ入りを果たしたのだ

開幕一軍登録。開幕戦でいきなり救援登板
ファンは大声援を送り、あおいはそれに答えた。
スポーツ新聞ではでかでかと一面を飾った。

それが5年前。


>>10
ごめん、みにくいなら修正するね


あおい「(・・・通用しない・・・か)」

そう、自分でもうすうす気づいていた。
前まで打ち取れたコースが、打者が
安打にされるのだ。痛打されるのだ。

登板する試合も接戦からリードしている時、そして・・・敗戦処理。

いつのまにか試合にでるのは既に勝敗が決まった後だけになってしまった。
そしてそこでも私は打たれた。


もちろんプロに入ってまったく成長しなかったわけではなかった。

球速や変化球は伸びなかったが緩急の使い方。コースの分け方。打者の打ち取り方・・・
いろいろな技術を吸収し生かしてきたつもりだった。

でも、結果は悪くなっていくばかり。
2年目からはストレートを狙い打たれ失点することが増えた。
3年目からは得意のシンカーを狙い打たれるようになった。


今日の契約更新も もしかして という気持ちはあった。
毎年開幕1軍に選ばれそのまま1年間1軍で過ごした。

成績が悪い投手は2軍落ちを命じられた。
・・・それでも私は1軍で投げていた。

でも投げる試合は敗戦処理のみだった・・・
試合にでるのはただの客寄せ。
でも、今はもうその客寄せでさえ出来ないといわれた。

あおい「・・・うっ・・・うぅぅ」

選手として必要とされていない。そのことを意識したときあおいの目に涙があふれ出しそうになった


あおい「(もうだめなのかな・・・もう僕は投げられないのかな・・・?)」

甲子園が夢だった
プロが夢だった
活躍するのが夢だった。

女性が高校野球 それだけでも笑われた
女性がプロ野球 野球をなめるなと言われた
活躍なんてできるわけがないと言われた。




一度はあきらめた夢だった。
規則では女性は出られないのだと。
そんな壁にぶつかり。全てをあきらめようとしていた

そのときにアイツは言ってくれた。
「あおいちゃんが出られないなんておかしい そんなルールは間違っている。」


 僕に任せて。


そういった彼は小さな署名運動を始めた。
とても小さな署名運動は地方紙に取材され、その後全国へ広がった。
全国からの疑問、非難の声が上がり高野連は遂に女性の出場を認めると
公式に発表をした。


そして私は女性初の公式戦に登板し、更に甲子園のマウンドをも踏んだ。
初戦は大量リードの8回からアイツから譲り受けた。
1球投げるごとに大きな歓声を受けるのには戸惑ったが
自分の全てをぶつけた。
被安打はなくそのままチームは完勝し1回戦突破を飾った。
その後は大量の取材陣に囲まれ、応答にとても大変だったが
自分が甲子園で投げたのだという現実を認識することができた。

数日後の2回戦目は投手戦になった。私の出番はなかったが
ベンチで祈りながらアイツの投球を眺め大声で応援をした。
しかし負けた 0-1だった。
9回裏に味方のエラーで出塁した打者が送りバントの後センターの前に落ちる
ポテンヒットからそのままサヨナラのホームを踏んだ。



あの時に笑顔で私に 任せてくれ といってくれたアイツは
マウンドで崩れ落ちそのまま号泣していた。

私の目にもいつのまにか涙が流れていた。


あぁこれで終わったんだ。私の夏は

でもそれが悲しいのではなくてアイツが泣いている姿を見ると自然に涙が溢れてきた。

ほかの選手に肩を抱かれながら整列し礼を行い、互いに健闘を称えあった後
アイツは涙声で言った。

「 ごめん、あおいちゃん・・・君をもう一度マウンドにあげられなかった 」


なんだそんなことを気にしていたのか。
私は笑顔で

「ううん、お疲れ様。胸を張って帰ろう?」

私はまったく後悔していなかった。大変だったこと、苦しいこともあったけど辛くはなかった。
彼らと過ごした3年間はとても楽しいものだったから

甲子園から帰った私たちを迎えてくれたのは
温かい町の人からの労いの言葉と学校での人気ぶりだった。

初の甲子園出場を果たし、更に1回戦を突破
偉業とまで言われ数日は周りがとても騒がしかった。

引退してからも私たち・・・といっても3人だけは練習を続けた。

もちろんプロ入りを目指してだ。

いくぞ!甲子園!が口癖だったアイツは いくぞ!プロ野球!へ変わっていて
最初は不自然でちょっと笑ってしまった。







いけない、昔のことを思い出してしまった。
いつのまにか泣きそうになってるじゃないか 恥ずかしい。


アイツはプロにいった。

なんとドラフト2位指名。 競合の結果、読売ジャイアンツに指名を受けた。

校長室で周りを気にせず大喜びではしゃいだ プロだ!! 俺がプロにいける!

元からスカウト達から注目されてたし
150kを超えるストレートを投げるんだ 指名されないわけがない。



その後は、私が指名されるまで じっと、ただドラフト中継を眺め
私の名前がドラフト4位で呼ばれた瞬間 これもまた周りなんか気にせずに
むしろ自分のとき以上に大声で やったー!!!!あおいちゃん!!同じプロだよ!!
と私に抱きついてきた。アイツが余りにも大きな声で喜んでしまったから
本人の私はもちろん嬉しかったんだけど逆に冷静になってしまった。
そして よし、胴上げだ!なんて言ってる時に



おいらが指名されてるでやんすーーー!!


矢部君が大声を出し、見つめるテレビの先には
横浜ベイスターズ 矢部 昭雄 外野手 18歳 恋々高校
とい文字が表示されていた。

あははっ・・・あれは面白かったなぁ
矢部君は今、横浜で俊足を生かして代走と守備要因らしい。
あとは打撃さえなんとすればレギュラー入りって話を聞いた。

ん、話がそれちゃったな。
アイツは今はローテの一角を担ってる。
高校時代のライバル 猪狩守と同じチームメイトになっても
互いに対抗心剥き出しで凌ぎ合ってるらしい



あおい「うじうじしてても仕方ない。明日にでも・・・」
(球団職員の話を受けよう)
思って立ち上がろうとしたとき


prprprprprprprprpprpr・・・・
prprprprprprprprpprpr・・・・

珍しい、私の携帯が鳴っている。
カバンの中から入団した時に買い換えた携帯がメロディと一緒に振動していた。
携帯のディスプレイには懐かしい名前が表示されていた。


1月3日 恋々高校グランド


あおい「懐かしいなぁ・・・」
5年ぶりの母校はとても懐かしいく昔のことを思い出させてくれた。

ここで必死にボールを追いかけて飛びついて泥まみれになっていた。
全てに必死でなんとしてでも甲子園にいくんだとやる気に満ちていた。
練習の後にはみんなでコンビニによって学校のこと野球のことを語り合って道草をくって帰った。
毎日が新鮮で楽しかった。あの頃より楽しい日々は二度と無いと思う。
そんなことを思いながらグランドへ向かうと既に現役の選手達が練習を行っていた。


甲子園出場後はグランドも整備されちゃんとした監督も入り
毎年甲子園を目指して日々がんばってるらしい。

パイプ椅子に座って練習を眺めている監督に私は
あおい「すみません、お邪魔します。」

と声をかけた。

恋々監督「あぁ、始めまして。早川さん。」

40代ぐらいのすこし髭をはやした監督は
やさしい人なんだろうな・・・と印象を受ける笑みを浮かべこっちへ一礼を向けた。

あおい「すみません、練習の邪魔をしてしまって。」

恋々監督「いえいえいいんですよ。プロの自主トレを見れるなんて坊主たちにはいい刺激になるでしょう。」


グランドでは冬メニューなのかグランドの真ん中で短距離ダッシュを繰りかえしてる。

時々何人かがこっちを見て話しているのはきっと私のことを話しているんだろう。

その景色をみるとあの頃の自分をまた思い出してしまう。
解雇を言い渡されたからなのかひさしぶりの母校のせいなのかとても感傷的になってしまってる。

あおい「・・・がんばってますね。」そう一言つぶやいやた。

恋々監督「いやいや、まだまだですよ。今年は準々決勝敗退。」
恋々監督「レギュラーだった2年生は5人残ってますがやはり選手層ではあかつき高校には敵いませんね。」

今でもあかつき高校は名門と知られ5年連続夏甲子園に出場中らしい。



恋々監督「なんといってもやはり投手がね。高校野球だと投手が試合の勝敗の6~7割を占めますし。」

まだまだ技術も精神的に未熟な高校生では強い投手を擁する高校が強いのはセオリーだ。

それを言えば5年前・・・甲子園出場を果たしたのはアイツの活躍が大きかっただろう。

地方大会決勝では名門 あかつき 対 初決勝進出 恋々高校 になり

天才投手猪狩とアイツの投げ合いは縺れに縺れ延長13回に決勝点となる1点を追加し2-1で逃げ切った。



あおい「それで、小波君は・・・?」

恋々高校を甲子園に連れて行った立役者 小波。

プロ入団後は今や猪狩君と共に巨人のローテを守る投手だ。

恋々監督「あぁ、小波君はちょっと前にきてね部室で着替えてるよ。」
指差した先にはこれも懐かしい部室が佇んでいた。

遅れてもだめだしそろそろ着替えようか。

あおい「では、私も着替えます。保健室を借りますね。」
先に連絡を済ませ保健室は空けてもらっている。

恋々監督「はい、どうぞ。グランドや道具は好きに使ってもらってもいいからね。」
そういって監督はパイプ椅子から腰を上げて選手達が練習しているところまで歩いていった。

もしかして、私を待っててくれたのかもしれない。やはり優しい人だな・・・







PCフリーズして貯め置きが少し消えちまったよ・・・


早々と着替えを済ませグランドに出ると早速人だかりができていた。

頭ひとつ高い長身にスラッとしたようにみえてガッシリとした体
今は休憩時間なのか選手達に囲まれいろいろ質問されているようでアイツは少し困っていた。

私が近づいていくとアイツは私に気づいて人だかりを抜けてきて
あの日と変わらない笑顔で

小波「あおいちゃん、久しぶりだね!今日はよろしく頼むよ」

去年の交流戦からだから半年以上前になるのかな。
あおい「う、うん よろしく・・・」
久しぶりの彼に私は鼓動が早くなるのを感じて思わずそっぽを向いてしまった。


その後ろでは

「うぉお、あおい選手だ・・・」
「やっぱ可愛いよな!!」
「意外に大きいな・・・」

「小波さんの隣だから凄い小さく見えるけどね」
なんて選手達がこっちをみてコソコソ話してる。慣れてるとはいえ少し恥ずかしい。

あおい「今日は練習なのにごめんね、できるだけ邪魔しないようにするから。」
と私が笑いながら言うとキャプテンらしき選手が

「い、いえ!こっちもプロの練習は参考になると思うのでぜんぜん構いません!」
と高校生らしい大きな声で答えてくれた。

そう、今日はオフシーズンの自主トレに小波に誘われたのだった。
電話では
《いやー、今年は守が海外へ自主トレに行きやがってさー》
《せっかくだし地元に帰ろうと思ってさ。》
《そこであおいちゃんと自主トレもしようかなって》
《矢部君は、先輩と先約があって無理らしいよ》
久しぶりの会話からなのか彼はとても嬉しそうに話してて・・・

ごめん、私クビになったから・・・もう・・・

その一言を言うことが出来なかった私は
そのまま言われるがままに自主トレの日程を伝えられ
ノコノコとやってきたのだった。


「去年は2位だったし 今年こそは優勝しないとな」

ランニングをしながらアイツはよく喋った

「あいつさー俺が12勝で自分が13勝だからって  やれやれ君はまだまだだね
 とかいいやがってさー あいつのほうが味方の援護多かっただけなんだよ。」

口では文句を言いながらも彼はとても嬉しそうだった。

そして、既にその目は来年のシーズンを見据えていた。


今年で終わった私と違って彼は、次のシーズンのために今の練習を行っている。



1軍のローテを守り華々しく活躍した彼は
私にはとてもまぶしく見えて・・・羨ましくって・・・

なにより未来を見据えている彼に嫉妬してしまった。


小波「あおいちゃんは今年はどうだった?来年は目標とかある?」
何も知らない彼は気楽に聞いてくる
私はもう駄目なんだと 使えない投手といわれクビになったのだと
言ってしまいたかった。その言葉が出ない。

あおい「ちょっと今年はシンカーのキレが悪くてね。
    このオフシーズンで足腰を鍛えなおすつもりさ。」

私は嘘をついた。


小波「そっかーあおいちゃんのシンカーは膝元に決まったら打てないからなー」

彼はなにも知らない。
その膝元のシンカーを軽々と引っ張られホームランにされることを。
空振りをさそったアウトコースのシンカーも流し打たれて長打にされることを

何も知らない。

ナックル姫も解雇されたしな






小波「そりゃ」 

パン!

あおい「ふっ」

パン!

ランニングが終わった後はキャッチボールだ。

5年ぶりのキャッチボール。

互いに軽くは投げているがアイツの球は5年前とは比べ物になっていない。

ムラがあった回転軸のズレも直ってる・・・回転数もあがってる・・・

凄い成長をしていた。






自主トレのメニューは地味だ。

キャッチボールは遊びだし、肩や肘に負担をかけないように軽くしか投げない。

後はダッシュ。体幹トレ。ストレッチ。

3時間程度の自主トレはあっという間に過ぎた。

最後に締めのストレッチをしながら
小波「・・・あおいちゃん。今日はなんか元気ないね。」

いきなり、そんなことを言い出した。

あおい「えっ?そ、そんなことないよ。」
動揺は隠せただろうか、声は上ずらなかっただろうか・・・
ここまで来たんだ、もうあいつには悟られたくなった。教えて句無かった。

小波「なんとなく・・・あおいちゃんらしくないなーって」

小波「電話をしたときもなんか元気じゃなかったし」

小波「今日もなんか練習に身が入ってないような気がするんだ。」

小波「5年ぶりだけどさ。あおいちゃんの練習してる姿ってやっぱ覚えてるし」


・・・気づかれないようにしていたつもりだった。でもそうだろう
練習しても次の試合は二度と来ないのだ。そんな気持ちで練習してるなら
気づかれてもおかしくないだろう

あおい「・・・いや、なんでもないよ」

小波「本当に?」

あおい「本当だって。キミは心配症だなぁ」
アイツに悟られたくなかった。
私がクビになったって聞いたらあいつは悲しむだろうから


そう、言いたくないのはアイツの悲しい顔をみたくないからなんだろう。




最後のストレッチも終わり、互いに着替えということで
私は保健室へ移動した。

私は球団職員になるかどうかの答えを引き伸ばしてここにきている。

意味のない練習。意味のない時間。ただの逃げの時間。


でも5年ぶりのアイツとの練習は懐かしくて嬉しくって泣きそうなくらいだった。
あの頃も試合に出れない。そんな規則の前に打ちのめされて
練習さえも出来なかった時にあいつはそれでも私を励ましてくれたんだった。


着替えも終わり、監督に挨拶を交わし
選手達に見送られ私達は今駅に向かって歩いている。

小波「今日はありがとう。練習にもなったし気分転換にもなったよ。」
疲れた顔の中にも充実感が見える笑顔で彼は言った。

あおい「・・・ううん僕のほうこそありがとう。」
アイツはこの後東京へ戻りチームメイトと自主トレをするらしい。
私にはもう関係ない話だが。




駅が見えてきた。高校時代何百回と往復した道
そうそう、あの駅で小さな署名活動したんだよね・・・
必死でなんとかしようってがんばったんだ

小波「・・・懐かしいね。」

あおい「え?」

小波「ここで署名活動したんだ」

彼も同じことを思い出していたらしい
あおい「ふふ。懐かしいね。大変だったけど本当あの時はありがとう。」






小波「いいよ。あおいちゃんのかわいい涙も見れたし」
そういって照れ隠しなのかおどけた彼を私は

あおい「あーもう、その時のことは忘れてよ」
高野連が女性の甲子園出場を認めたニュースが流れたとき
私は思わずみんなの前で泣いてしまったのだった。

あの頃の私達は17、8歳で子供で何も知らなくて
これからの自分の人生は光輝いていくものだと信じて疑わなかった。

ふと、彼が立ち止まった。

小波「あおいちゃん。」

あおい「どうしたの?そんな真剣な顔して」
彼の顔は先発のマウンドで見せる表情そのものだった。

小波「・・・何を悩んでいるのか僕には教えてくれないのかい」

ドキッとした。そんな真剣な目で私を見る彼を私は5年前にも見たから。
あの時も現実の前に何もできなくなって諦めていた私を
彼は気づいた。いや、気づいてくれた。

あおい「なんで・・・?そんなことないよ」

小波「嘘だよ。3年間一緒に練習して試合して泣いて笑ったんだ。」

小波「電話したときからおかしいなぁとは思ってたけどさ」

小波「あおいちゃんの今の顔はあの時と一緒だよ。」


でも、あの時と今は違う。
規則を変えればいいわけじゃない。
問題は私なんだから・・・関係ない。
シーズンで12勝を上げ来年もローテ候補と期待される君には関係ない・・・

使えないと言われ解雇になった選手に掛ける言葉なんてないんだよ・・・
余計みじめになるだけ・・・だから・・・だからもう・・・



小波「だからさ、また」
彼は私の気持ちなんて気づかずに続ける。
やめて。

小波「何か力になれることがあったらさ。」

やめて。

小波「僕がなんとか」






あおい「やめて!!!」
自分でもびっくりするくらいの声だった。
あぁ、やってしまった。止まらない。感情が止まらない。
言葉が止まらない。彼は驚いている。あたりまえだ。
いきなり叫んで・・・

こんな涙でぐしゃぐしゃになった顔見せられたら誰だっておどろくよね


あおい「私さ解雇なの。クビわかるよね
     使えないってさ。チームにいらないって言われちゃった。」

止まらない。彼は関係ない。彼は心配してくれただけなのに止まらない。

あおい「ファンも呼べないって! 客寄せパンダにもなれないって!」


駄目だ凄い顔してる。涙で前が見えない。

あおい「自分でもわかってたの!!綺麗なアンダースローがどうしたの!」

あおい「ストレートもカーブもシンカーも!! もう・・・駄目になっちゃったの!!」



何が駄目なんだろう。これじゃ意味が分からない。
言葉が上手く出ない 整理できていない。恥ずかしい。

あおい「頑張ったよ・・・頑張ってきたつもりだよ・・・・」
彼は何も答えない。彼の顔は涙で見えない。

あおい「私は小波君や矢部君みたいになれない・・・っ!」
あおい「私は客寄せでしかなったんだから!」
あおい「私はただの客寄せでプロの入ったんだから!!!」



      「違うっ!」









いきなり大声を出された私は思わず黙ってしまった。
初めて聞く怒ったアイツの声。

小波「あおいちゃんは客寄せパンダなんかじゃない!」
あいつは私の両肩を荒く掴んだ。あいつはすごく怒っていた。

あおい「ちがっ・・・ちがっ」
大柄な彼に両肩を強く掴まれ怖さと痛さで私はうまく言葉を出すことができなかった。


小波「違わない!アンダースローで135キロ 十分じゃないか!!」
小波「カーブにシンカー 左右に投げ分けれて打者を翻弄するのに十分じゃないか!!」

彼は私を勇気づけようとしてる。でも、彼が知ってるのは高校時代の私。

私が通用した高校生の話  でも今はプロ相手に投げてる。

プロ相手には通用しない。彼はそれを知らない。

あおい「打たれたの!!だから、全部もう通用しなくなったの・・・!」

そういってるのに彼はまだ続ける。

小波「打たれたからなんだ!俺のカーブなんてコーチに二度と使うななんていわれたんだぞ!」
小波「クイックが遅い!おまえは安打を全部2塁打にするつもりか!」
小波「直球頼りの馬鹿投手。 こんなことも言われたさ!」

小波「あ、でもまあ、そりゃ仕方ないよね。あおいちゃん防御率5(笑)だしwww」

あおい「え…」

小波「だいたい女の子が野球とか無理だし自己満足ならソフトボールでもやってなよ」

あおい「嘘…だよね小波君…」

小波「いやいやいやwジーマーだからジーマーww」

あおい「ひどい、ひどすぎるよ小波くん!」

小波「あのねえ、プロの世界は厳しいんだよあおいちゃ~ん?」

あおい「そんなのってないよ…(´;ω;`)ブワッ」グスグス

小波「んじゃ!これから僕みずきとデートなんでまたね、あおいちゃん寂しくなったら電話してよ。高校時代みたいに慰めてあげるからさ♪~」ブーン

あおい「う…こんなのってないよ、ひどすぎるよ」ポロポロ

???「やあ、あおい。僕と契約して魔法少女にならない?」




小波「あおいちゃんはいきなりプロで通用したじゃないか!」
そう、私は毎年開幕1軍投手。アイツは1年目は2軍暮らしからスタートだった。


小波「通用しないからなんだ!なら通用できるようにすればいいじゃないか!」

あおい「・・・」
彼は努力したのだった。高校時代は豪速球投手と騒がれ
鳴り物入りしたプロ世界。
しかし実際には自分より速く自分より伸びる直球を投げる投手はごまんといた。

小波「俺だって2軍で打たれて、やっとの思いで駆け上がった1軍でも打たれ」
小波「駄目だ、駄目だと俺は駄目なんだと 何回も引退しようかとおもったさ」


小波「でも、そのときに支えになったのは同じプロ入りしたあおいちゃんや、矢部君、守もそうさ」

小波「そいつらが頑張ってるのに俺だけ何へこたれてんだ そう思いながら頑張ったんだ。」

小波「守とかさ、あいつ初めてKOされた時は涙目でコーチの制止も聞かずにブルペンで投げまくったんだぜ」

いつのまにかアイツは笑っていた。
あの頃と同じようにわたしに笑顔を向けていた。





知らなかった。
確かにアイツは1年目は2軍で2年目から1軍で先発するようになって
3年目からローテ入り・・・
順調な成長を遂げアイツはローテを勝ち取った

ただそれしか知らなかった。そこにたどり着くまでにどれだけの汗を流したか
どれだけの悔し涙を流したかなんて考えもしなかった。
私はそこまで出来ただろうか。倒れるほどの汗を流し泣く程悔しがる

まるで高校時代のようなことが私はできていただろうか。



どこかで私は女だから。
どうせ、敗戦処理でしか出ないし
どうせ、客寄せパンダだから

なんて心の隅で思っていなかっただろうか。
使えないと言われて何故私は悔しがれなかったんだろうか
活躍しているアイツには嫉妬だけして自分は何もしていなかった・・・
していたつもりでしかなかった。


あおい「・・・」
彼はいつも本気だった。あの頃から今でも。
野球が大好きなんだ。いつでも全力なんだ


小波「クビだからどうしたんだよ。そんなあおいちゃんの実力を見抜けない球団なんか辞めて
   違う球団にいけばいいんだよ。」

簡単に言ってくれる。
私は見限られたのに彼はいまでも私のことを信じている。

あおい「無理だよ・・・もうクビだもん・・・」
気づいた時には遅かった。もう一度スタートしようにも私にはスタートするグランドが残されていなかった



小波「残ってるよ。 合同トライアウトが。」


あおい「トライ・・・アウト・・・」
知っている。毎年解雇になった選手が
少ない可能性にかけて参加するものだ。
しかし、ほとんどの選手は球団から声がかからず
受かった一握りの選手も数年以内に解雇となる場合が多い。

あおい「そんなの・・・む」

り・・・と言いかけた。まただまた私はあきらめてた。
何もせずに挑戦もせずに無理だと決めかけてた。



小波「無理じゃないよ。やれるよ。あおいちゃんなら。」

アイツはまた無邪気な笑顔で私を見つめる。
いつもあいつはそうだった。
ピンチでも、甲子園出場がかかった試合でも
笑顔でみんなに勇気をくれた。

もう一度頑張る。もう一度だけ頑張ってみよう。
そんな気にさせてくれる笑顔だった。


私はそんな彼のことがずっと前から・・・



それから私は1ヶ月の特訓をした。
グランドは恋々高校のグランドを監督に頼み込んで使わせてもらった。
パートナーには彼に頼んだ。彼は快く特訓につきあってくれた。
たった1ヶ月で何か大きく変わるわけではなかったが後悔はしたくなかった。


そしてトライアウト当日。







1月5日 某球場。合同トライアウト会場
天気は快晴。グランドでは今年各球団から解雇通達を受けた選手たちが
ラストチャンスにかけて必死にプレーをしている。

そしてそのバックネット裏では各球団のスカウト達が目を光らせている。

スカウトA「んー今年もめぼしいものは無し・・・か」
配られた各選手達の資料を眺めながらつぶやく。

スカウトB「まークビになった選手だからなー」

スカウトC「高年齢、怪我持ち、問題アリ 今年も収穫は0かな」

そんな会話をしながら、次の選手がマウンドに登るのを待つ。



「35番 千葉ロッテマリーンズ 早川あおい。お願いします!。」


スカウトA「お、懐かしい選手だ 5年前はあんだけ騒がれてたのになぁ」
スカウトB「5年もプロの世界にいれただけでも凄いんじゃないかな」
スカウトC「ロッテも客寄せがすんだらクビってのもひどいもんだ」

5年前は一躍有名人になったあおいに各球団のスカウトが注目する。
注目といってもスカウト達はただの興味。微塵も獲得しようという気持ちはなかった。



あおい「(後悔しない。全力でいく。)」


一人目の打者 元2番を任されていたこともあるアベレージヒッターだ。
怪我を理由に解雇になったらしい。
1球目 インコース膝元へのストレート   ストライク
あおい「(よし、初球は入った。次はアウトコースへ)」
2球目 アウトローへ投げ込んだシンカーを空振りし2ストライク

3球目、4球目ともボール球でカウントを整え5球目
あおい「(ここでもう一度しんかーをっ!)」

アウトコース低めに投げられたボールになるシンカーへ手を出し
セカンドゴロにしとめる。



あおい「(やった!まず一人!)」


2人目はドラフト1位指名も鳴かず飛ばずでそのまま解雇となった
中距離ヒッター。

あおい「まずはようすみのカーブで・・・」


カーンっ!
甘く入ったカーブを打たれ打球はレフトポール際へ
あおい「(!!)」
際どいところだったが打球はポールを巻かずファール
あおい「(・・・よかった・・・相手は打ち気だからシンカーで・・)」
2球目はシンカーを膝元に投げこれを撃ちにいった打者はサードゴロに倒れた。

スカウトA「お、いいじゃないか」
スカウトB「ま、打者が打者だからね一流打者なら打たれるよ」

トライアウトは結果がすべてではない。
結果よりもスカウトにこの選手はペナントレースで使えると思わせなければならないのだ。
その点、あおいは客寄せとしてのプロ入りとしか思ってないスカウトの前でのアピールは小さかった。



撃った瞬間、、いや撃たれた瞬間確信した。
HRだと。膝元のシンカーをまた打たれた。
打球はそのまま左中間のスタンドへと吸い込まれていった。

(泣くなっ!努力はした!)
後ろを振り返ることはなかった。あの1投には悔いはないから
あれが私のウィニングショットだから。あれを打たれたならもう悔いはない。
あおい「ありがとうございました。!」


スカウトA「ま、球が軽いよね」
スカウトB「打者もさすがだね これは代打の切り札として・・・」
???「・・・ふむ」
あるスカウトがあおいの資料に ○印をつけた。
スカウトC「え?あおい選手取るつもりですか?いやーお金がある球団はいいですね。ファンサービスですか?」
心無い言葉を気にすることも無くあるスカウトは何も答えず次の選手を眺めていた。



まさかここであの選手を見ることになるとはね
いやはやプロは厳しい。
彼女も頑張ったんだろう。だがこの結果ではね・・・


でも、長年の私の勘が言っている。
もう一度チャンスをあの選手にあげるべきだと


彼女は元々は客寄せで指名された投手だ。

それが言葉は悪いが用済みで首になった。

選手としての価値は・・・ない・・・


しかし。打たれても尚揺るがない彼女のその目に私は

>>128
なんか抜けてね?

>>130
ごめん、抜けてた





あおい「(最後の3人目)」

最後の3人目は元メジャーリーガーの3塁手 元HR王にも輝く浪速の大打者だった。
日本球界復帰するも素行が悪く不振を理由にクビにされたらしい。
あおい「(この人を抑えれば復帰の可能性が・・・っ)」

初球は厳しくアウトコースを攻めボール。
2球目はインコース低めのカーブで空振り
3球目は高めのストレートで真後ろへのファール
そして4球目

あおい「(ここで決める。このマリンボールで打ち取るっ)」



 カーンッ













あれから6日が経った。
結果報告は1週間以内に来るらしい。
しかし今日が最後の日。
あおい「(今日が最後。ご飯ものどを通らない。夜も眠れない。)」
あおい「(それも今日が最後。これで駄目なら球団職員でもなんにでもなる)」

prprprprpprprprprprprp
prprprprpprprprprprprp・・・

あおい「ひゃ、はい!」
思わず声が裏返ってしまった。
知らない番号だし、間違え電話かも知れない。
でも期待せずにはいられなかった







《もしもし、影山というものですが。早川さんの携帯でよろしかったでしょうか。》

あおい「は、はい! か、影山さん?」
(どこかで聞いたような・・・)

《何度か恋々高校にはお邪魔したんだがね。話をするのは5年ぶりだね》

あおい「(そうだ、小波君を推薦したスカウトの影山さんだ)」

《電話をした理由は分かっていると思う。単刀直入にいうと君をうちの球団にはいってもらいたい。》
その言葉を聞いた瞬間一気に体の緊張が抜け、思わず崩れ落ちそうになってしまった。
あおい「は、はい!どんな球団でも!よろこんで!」

《そう言って貰えると助かるよ。上に納得してもらうのに時間がかかってしまってね》
《連絡するのが遅れて申しわけない。》









もう一度プロ野球に復帰できることは嬉しい。
でも、1つだけ確認したいことが私にはあった。

あおい「影山さん、ひとつ聞いていいですか?」

《なんだね?》
声が震えながらも
あおい「私を選んだのはファン獲得のためですか?・・・」

聞きたかった言葉を伝えた。

《・・・》
数秒の沈黙の後 影山さんは答えた

《そうだ。》

その一言を聞いたとき私はおもわず泣きそうになった。
選んでもらえたことは光栄だが理由は客寄せ・・・また用が済んだらクビになるのだ

しかし私のそんな気持ちを知ってか知らずか影山さんは淡々と話を続けた。


《上は君を客寄せパンダにしようとしている。》

《でもね、私は君を1人の選手として選んだつもりだ。》

《君はまだ成長段階だ。プロの壁にぶつかったまま君は1軍で投げさせられた。》

《2軍で成長する機会を奪われたままただの客寄せでしか使われなかった。》

《だから私は上に1つのお願いをした。》
 
2軍にいなかったから成長しなかった。そんなことは思いもしなかった、考えもしなかった。

あおい「お願い?」

《君は今シーズンはずっと2軍だ。2軍で力を付けそして来年1軍に這い上がってきて欲しい。》

《それが私が上に出したお願いだ。》




《私は君に期待している。目当ては小波君だったかその隣で一緒に投げる早川君にも目を向けていた。》

《君はもっと伸びる。私はそれを信じているよ。》

あおい「・・・うぅ・・・」
私は泣いていた。客寄せと言われてもこんな風に期待していると小波君以外に言われたのははじめてだから。
あおい「・・・ありがとうございます。私頑張ります。客寄せではなくて選手として1軍のマウンドに登ります。」

《頑張ってくれ。 読売ジャイアンツ早川あおい選手。》ブチ

その後書類も送られてきて私は正式にジャイアンツの選手となった。


そして、私のもう一度の野球人生が始まった・・・










2年後。


実況「あーとここで打たれた!!小波選手。9回1死 ランナー2塁、3塁! もう体力も限界でしょう!」

解説「おっと、ここで監督が出てきます。投手交代のようですね。」

実況「んー完投してほしかったですがここは仕方ないですね。ここでクローザーの登場でスタンドが盛り上がります!」

ウグイス「ピッチャー小波に変わりまして、ピッチャー早川。ピッチャー早川 背番号95」

実況「ここまで巨人を支えてきたクローザーの登場です!」



マウンドには選手が集まっている。
「おーけーナイスピッチング」
「小波お疲れさん、」
 各々が小波君に声を掛ける。

そして私がマウンドに登り声を掛ける
あおい「小波君、お疲れさま!あとは私に任せて。」
彼はやはりとても疲れてるのか汗を拭いながら少し弱気に

小波「ごめん、あおいちゃん打たれちゃった。」


ここ最近の中継ぎ陣の疲れが溜まってることもあって
彼は完投を目指していたんだろう、少し悔しさをにじませていた。


あおい「大丈夫、ここはしっかり抑えてみせるから」

そんな彼を笑顔で私は答える。彼がいつも私にしてくれたように。




実況『ここまで45試合に登板 防御率2.01 派手な三振はありませんが打たせて取るピッチングで打者を押さえ込んでいます。』

解説『んーロッテ時代と打って変わって見事な成績ですね。』

実況『ほんとですよねぇ。』


マウンドをならす。さっきまで小波君が守っていたところ。
今度は私が守る。 小波君の勝ち星を守れるように・・・

高校時代、そしてあの時に私を勇気をくれた、守ってくれた小波君
今は小波君の勝ち星を私は守れる。それがとても嬉しい。


2軍で私は泥水を吸うような努力を重ねた。それこそ女扱いなんてしないでください!
という私の気迫に押されたコーチの鬼のような特訓を受け続けた。
何度もくじけそうになったけど、そのたびに彼の顔を思い出した。
1軍の試合を見ては、絶対1軍に上がるんだと決意を新たにした。
そのおかげで私は今ここにいる。

ここにいるのはみんなのおかげ。 一番は彼のおかげ
いつでも私を信用して励ましてくれる彼のおかげ
アイツとならこれからも頑張っていける そう信じている。


実況『さぁ、早川選手 きれいなサブマリンから第一球・・・ 』

その日、早川は35セーブ目を上げ、小波とヒーローのお立ち台に立った。



   
                                  E N D


エピローグ


時計は既に12時を回り まだ、あいつは寝ている。
昨日は完封勝利だしゆっくり寝させてあげたいけどせっかくのオフだし・・・

寝室へ上がり暢気な顔で寝ている顔を眺める。
いつまでもたっても寝顔は少年のままだね そうつぶやいても彼がおきる気配はない。

彼と入籍して1年が経った。寝室にはいくつものメダルやトロフィーが飾られている。
その中に1枚の写真が飾られている。そこでは優勝ペナントを広げ全員が満面の笑みを浮かべている写真だ。
この写真が現役の最後の写真。
トライアウトから劇的な復活をそのシーズンで38セーブをあげた私はセーブ王に輝き
4年間、ジャイアンツの守護神を勤めた。

しかし、その4年間で私の肩やひじは悲鳴を上げた。 過酷な1年間のペナントレース
抑えという毎試合準備をしななければならない役目。

4年目は肩とひじを庇いながら試合数を抑えながらの出場を続けたが
4年目の日本一に輝いた後、私は球団に引退を申し出た。
球団は引き止めたが私の思いもあって、わがままを受け入れてもらえた。

彼は私が引退をすると話したときは 驚きはしたがそれを引きとめようとはしなかった。

その数日後、彼から付き合いを申しだされ、そのまま直ぐに結婚へと移った。

プロポーズの言葉は『これからも僕を支えて言って欲しい。君と一緒に共にすごしていきたい。』
なんて彼らしいまじめな言葉に私は泣きながら『はい。』と答えた。



それからはプロ野球選手を支える奥さんとしての生活が始まった。
不得意な料理も練習と研究を続け少しはまともな料理になってきたと思う。

そんなむかしをことを思い出していたら時間が大分経ってしまった。
さすがにそろそろ起こさないとね

寝ている彼に近づき、体を揺らす。

彼は
「う~ん、」
と声を出しながら体を起こし始めた。
あおい「もう昼だし、そろそろ起きようよ」


あおい「昨日は完封だもんね、疲れてるかもね」
そう笑いながら私は彼に水で濡れたタオルを渡す。
彼は朝起きて直ぐ顔をタオルで顔を拭かないと気がすまないらしい。
これも結婚してから気づいたこと。結婚して1年たったけどまだまだ彼の知らないことが多いとおもう。

でも、まだまだ試合は始まったばかり。
どこかで失敗するだろうけど、喧嘩もするだろうけど
私は彼を愛してる。 そしていつまでも彼と人生という試合を続けていきたい。
彼の勝ち星を守る仕事はもうできないけど
今は彼の野球生活を支える仕事ができる。


「よしっ!キャッチボールでもしようか。」
なんていきなり彼は言い出した。せっかくのオフでも野球なんて。
いつまでたっても野球大好き少年のままなんだから

でもそんな彼を私は愛している。いつまでもいつまでも愛している。


あおい「もう、疲れが溜まってるんだから軽めにしかやらないよ?」


なーんて言ってる私も笑顔でグローブ用意してるんだけどね?

こんな野球大好き夫婦が上手くいかないわけない

そうだよね、あなた?


                 HAPPY END?


これで終わりとなります!
いや、予想以上に時間がかかってしまった。
見てくれた人、保守してくれた人ありがとう。
無事完結させることができました。
軽い気持ちでやったレスが予想以上に反応が良くて
そのまま続けてしまったら1000までいっちゃって

後から読み返したら あーここはこうしとけば・・・ここは直しとけば
なんて思ってしまって今回書き直させてもらいました。

初のSS投稿、今回2回目でおかしな文章とか多かったとおもいますが
楽しんでもらえれば幸いです。

あおいちゃんはチームに迷惑をかけられないとファンに惜しまれながら引退。

小波君は巨人の猪狩と共にダブルエース。球界を代表する投手として活躍しています。

では長い間見てくれた人お疲れ様でした。みなさんおやすみなさい。




また、どこかで

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