オーク「人間の幼女拾った」 (180)


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オーガ「どうすんだよ」

オーク「どうしよう」

オーガ「知らねえよ」

幼女「あぅ……」


オーク「とりあえずメシでも食べるか」

オーガ「なに食うんだ」

オーク「わからん」

オーガ「分からんじゃねーよ」

オーク「誰か知ってそうな奴いないかな」

オーガ「人間の子供の食べ物なんて知らねえよ」

オーク「ミルクとかかね」

オーガ「あー、それならホルスタインのところ行けばいいか」

オーク「そうだな」

幼女(もう赤ちゃんじゃないんだけどなぁ)


オーク「ってわけで、出してくれ」

オーガ「出せるっしょ」

ホルスタイン「はぁ? 無理に決まってんじゃん」

オーガ「なんでだよ」

オーク「え、あれ、乳牛の魔物でしょあなた」

ホルスタイン「子供もいないのに出るかっての」

オーガ「ここにいるじゃん」


幼女「ふえ……」

ホルスタイン「そういう意味じゃない。子供産まないと出ないんだよ」

オーク「なにそれ」

オーガ「役に立たない奴だな」

オーク「早く旦那見つけて子供作れよな」

ホルスタイン「大きなお世話だよ」

オーク「じゃあ、どうするよ」


オーガ「知らねえよ」

ホルスタイン「ジジイのところにでも行ってきなよ」

オーク「えー、あいつ? 確かにもの知りだけどさあ……」

オーガ「話がなっげーんだよなあ」

ホルスタイン「どうでもいいけどね。好きにしなよ」

オーク「非協力的だなー」

ホルスタイン「あんたが拾ったんだからあんたが面倒見るんだよ」


オーガ「行くしかないだろ、もう」

オーク「オーガだけ行ってきてよ、待ってるから」

オーガ「お前も来るんだよ、ほら」

ホルスタイン「あ、こら待ちな」

幼女「あう」

ホルスタイン「……肝心の子供を置いてっちゃって、先行き不安だねえ」


オーガ「っつーわけでジイサン、人間の子供ってなに食うんだ」

ゴブリン「子供にかぎらないが、おもに小麦を練って焼いたものか、炊いたライスじゃの」

オーク「ライス? ライスってなんだ?」

ゴブリン「穀物の一種じゃよ。もともとは東方産出の作物でな……」

オーガ「あー、いい、いい。それはどこに行けばあるんだ」

ゴブリン「この辺りで見かけたことはないのう」

オーガ「だめじゃねーか」


ゴブリン「まあ、人間は雑食性だからの。基本的にはお前さん方の食べているものと一緒で平気なはずじゃ」

オーク「なんだ、そうなのか」

オーガ「聞きに来るだけ無駄だったな」

ゴブリン「無駄とは何じゃ、無駄とは。わしがお前さん方くらいの時にはのう……うんぬんかんぬん」

オーガ「あーまた始まった。帰ろうぜ」

オーク「ああ」


オーガ「俺らが食ってるものって言えば、肉と木の実とキノコと……あとなんだ?」

オーク「お酒とか蜂蜜だな」

オーガ「まあそんなとこだろ。あ、あと乳か」

オーク「じいさん雑食って言ってたし、草とか魚も食えるんじゃないか」

オーガ「そうだな」

オーク「それと、麦を焼いたもの……パンとかかね」

オーガ「俺らじゃ麦もパンも作れねえからな。どっかで貰ってくるか」


オーク「まあそういうわけで……あれ?」

オーガ「どうした」

オーク「子供がいなくなった」

オーガ「あー、そういえばホルスタインとこ置きっぱなしだったな」

ホルスタイン「ちょっとあんたたち!」

オーガ「おう、ホルスタイン」

ホルスタイン「おうじゃないわよ、この子置いてっちゃって! なにかあったらどうするつもりなの!」


オーク「わりいわりい」

ホルスタイン「ったくもう。幼女ちゃん、この人たちのところが嫌になったらいつでもあたしのとこ来ていいからね」

幼女「うん……」

オーガ「なんだ、そいつの名前幼女っていうのか」

オーク「初めて知った」

ホルスタイン「あんたたちねえ……」


――

オーク「幼女、お前肉は食えるか?」

幼女「え……うん」

オーク「ああ、じゃあメシの心配はいらねーな」

オーガ「話が出来んなら最初っから聞いとけばよかったな」

オーク「しょうがねーだろ、初めはなにも喋んなかったし」

オーガ「しかし、メシの話してたらハラ減ってきたな」


オーク「あーもうそんな頃合いか。じゃあ鹿でも狩りに行こうぜ」

オーガ「そうだな」

オーク「あと木の実か。そっちはテキトーに拾えばいいな」

オーガ「じゃ行くか。ほら、お前も行くぞ」

幼女「え? え?」


オーガ「よく見てろよ」

幼女「う、うん」

オーガ「ああして気配を殺して近寄って……そこだ!」

オーガ「ってまあ、そんなもんだ」

オーガ「ギリギリまで近寄って、一瞬の隙にグサリ! これが基本だ」

オーク「おーう、こんなもんよ」

幼女「オークさん」


オーク「オーガ、向こうにもう一頭いたぜ」

オーガ「サンキュ。自分のメシ確保してくるわ」

オーク「じゃ俺らは木の実拾ってっから」

オーガ「おう」ガササ

オーク「よし。こっちだ、付いて来いな」

幼女「う、うん」


オーク「まーこんなもんか」

幼女「こ、これは?」

オーク「ダメダメ、そりゃ渋くて食えねえよ」

幼女「うん……」

オーク「拾ってりゃそのうち覚えるよ。そろそろ帰るか」

オーク「道覚えとけな。いつも俺らがいるってわけでもないし」

幼女「わかった」


オーク「そうだ、幼女は普段なに食ってたんだ?」

幼女「え、っと……拾ったり、貰ったりして」

オーク「それじゃなんだか分かんねえな。ま、そのうち俺らの食いもんにも慣れるだろ」


オーク「ただいま」

オーガ「おかえり」

幼女「うぷっ」

オーク「ん? どうした」

幼女「くさい……」

オーガ「あー、血の臭いはだめか。換気換気」

オーク「ちゃんと洗い流してこいよ」

オーガ「はいよ」

オーク「幼女は外出な、外」

幼女「んむ……」


オーク「なに? もうメシ済ませちまった?」

オーガ「久々の子鹿だった。止まんなくてよ、悪い」

オーク「別にいいよ、どうせ人間の食事作法とか知らねーし平気だろ」

オーガ「そうか」

オーク「幼女、ちょっとこっち来い」

幼女「……?」

オーク「人間が何でも食えるったって食えないもんはあるだろ、ちょっとづつ試すんだよ」


幼女「わ、わかった」

オーク「とりあえずほれ、鹿肉。血は落とした」

幼女「あむ……もぐもぐ……うえっ」

オーク「ダメか?」

幼女「へんなあじ……」

オーク「そんなら平気平気。木の実はどうだ」

幼女「もぐ、こりこり……」


オーク「どうだ?」

幼女「あまい」

オーク「よしおっけ。じゃぁー、酒。一番弱いやつとってくれ」

オーガ「はいよ」

オーク「なんだっけこれ。あー、赤い実のやつか。強いじゃん」

オーガ「それしかないんだよ」

オーク「じゃ仕方ないか。ほれ、ちびっと舐めてみな」


幼女「……? あまにがい」

オーク「お、全然平気そうだな。さすが酒、どんな生き物も大好き」

オーガ「で、どうすんだよ」

オーク「なにが」

オーガ「その子」

オーク「育てる」

オーガ「ん?」


オーク「どうした? ダメか?」

オーガ「別にいいけどよ、育てられんのか? お前」

オーク「ムリ」

オーガ「おいおい」

オーク「いいんだよ、困ったら他のやつ頼れば。ホルスタインとか」

オーガ「はた迷惑な」

オーク「ほっとけ」


オーガ「まぁなぁ、確かに放り捨ててくワケにもいかんしな」

オーク「だろ」

オーガ「まあ、せいぜい頑張れよ。俺、寝る」

オーク「あ」

オーガ「どうした」

オーク「そういえば幼女の寝床用意してなかった」

オーガ「どうすんだよ、もう外暗いぞ」


オーク「いいや、藁分ければ」

オーガ「一緒に寝るとか言い出すと思ってたわ」

オーク「潰しちまうだろ」

オーガ「それもそうか」

オーク「まあいいや。ほら幼女、こっち付いて来い」

幼女「う、うん」


オーク「ここが俺の寝床」

幼女「うん」

オーク「で、この布の下の藁を取り出して」

オーク「適当な布を被せる」

幼女「うん」

オーク「まいったな」

幼女「?」


オーク「雑巾しかねえや」

幼女「ぞうきん……」

オーク「なんかなかったかねえ」

オーク「お、あったあった。狐の毛皮」

オーク「ちょっと贅沢だけどまあいいだろ」バサッ

幼女「あったかい……」

オーク「掛けるもんはねえから我慢しな。明かり消すぞ」


オーク「おやすみ」

幼女「……」

幼女「おやすみなさい」

オーク(みなしご、ねぇ。俺ら見てビビらないってことは、相当だな)

オーク(まあ、なるようになるか)

幼女「すぅ……すぅ……」


オーク「幼女もだんだんここの生活に慣れてきたな」

オーガ「ああ」

オーク「動物を狩るのもうまくなったし、道も覚えた」

オーガ「食えるもんも増えてきたしな」

オーク「あとは……なんだ。なにか必要か」

オーガ「人間に必要なものって何だ?」

オーク「あーあれ、あれは? 文字」


オーガ「ああ、文字な」

オーク「俺らはからっきしだからなあ」

オーガ「やっぱジイサンか?」

オーク「てか、それ以外に思い当たらねーよ」

オーガ「幼女の話が長くなるのか」

オーク「やだなあ、それ」

オーガ「ジイサンだったらついでに魔法とかも教えそうだな」


オーク「たしかにな」

オーガ「ん……そしたら、やっぱ戦い方も教えたほうがいいのか?」

オーク「剣の扱いねえ。持てるかね」

オーガ「剣じゃなくても短いやつでいいんじゃねーか」

オーク「短いやつ? 短剣のことか?」

オーガ「そうそう。あと棍棒とか」

オーク「あーまあ、それくらいなら持てるかもな」


オーガ「そんなとこか」

オーク「あとは、酒の作り方とかも教えとくか」

オーガ「酒強いっぽいしな。将来が楽しみだ」

オーク「あんまり俺らの分まで飲まれちゃかなわんからな」

オーガ「したら、食いもん関連のことももうちょい教えとくか」

オーク「そうだな。獲れるもんしか教えてなかったな、そういえば」

幼女「ただいまー!」


オーク「おう、おかえり」

オーガ「今日はどこで遊んできたんだ?」

幼女「滝! あと、山の上の方のお花咲いてるとこ!」

オーク「花? そんなとこあったか?」


オーガ「ああー、あれじゃね。ハチが一杯いるとこ」

オーク「あー、ハチミツ取れるとこか」

幼女「みて、お花のかんむりつくったの!」


オーガ「おー、すげーな。どこで覚えたんだそんなん」

幼女「ホルスタインさん!」

オーク「あいつ器用だったんだなあ」

オーガ「長い付き合いで初めて知ったわ」

幼女「あとね、お魚とった!」

オーク「サカナ? 美味かったか?」

幼女「おいしかった……けど、骨がいっぱいでたべづらかった」


オーガ「じゃあ今度からは骨のないやつ捕んな」

幼女「そうする」

オーク「骨のないサカナなんていねーよ」

オーガ「知らん。俺はサカナを食わない」

オーク「俺だって食わねーよ」

幼女「あとね、きのことれた。これ」

オーク「これ……」


オーガ「……」

幼女「どうしたの?」

オーク「それなー……食うとしばらくビンビンになるやつだよ」

幼女「???」

オーガ「あーうん、お前はまだ知らなくていいことかな」

オーク「ホルスタインにでもあげてきな」

幼女「?? わかった」


オーク「そういえばよ、いつも一人で遊んでて寂しくねーのか?」

幼女「たのしいよ!」

オーガ「いやーなんていうか、友達とかさ」

幼女「おともだち?」

オーク「一緒に遊ぶ子だよ」

幼女「それなら幼女、おともだちいるよ!」

オーガ「んあ? この森にお前と同じくらいの子供いたっけ?」


幼女「えっとね、森のすっごく奥の方にいるの! アルラウネちゃん!」

オーガ「アルラウネ……」

オーク「あー……マジかー……」

幼女「どうしたの?」

オーガ「いや……なんか変なことされなかったか? 血ぃ吸われるとか」

オーク「この森にもアルラウネが生えるようなとこあったんだなー……」

幼女「それでね、アルラウネちゃんの持ってるヒモみたいなやつがすごいんだよ! うねうねうねーって動いて、まるで生きてるみたいなの!」


オーク「ムチかー……」

オーガ「ムチだなー……」

オーク「……それで、そのアルラウネちゃんとはいつも何して遊んでんだ?」

幼女「え? えーっとねー、あのね、カチューシャ? っていうの作ってるの!」

オーガ「ほかには?」

幼女「おしゃべりしてる!」

オーク「……どんな?」


幼女「えっとね、アルラウネちゃんすごいの! かわいいお花さんとか動物さんとか、おとぎ話っていうのをたくさん知ってるの!」

オーガ「お、おお……」

オーク「妖花アルラウネにしてはまともだ……」

幼女「あとね、花粉? っていうので、動物を石みたいにしたり、しびれさせたり、こんらんさせたり、ゆうわく? させたり……」

オーク「まてまてまてまて」

オーガ「全然まともじゃねえじゃねーか」

幼女「??」


オーク「というわけで、じいさんよろしく」

ゴブリン「こらこらこら、何の説明もなく子供を置いていくんじゃないわ」

オーガ「だから、あー、コイツに文字とか魔法を教えてやってくれな」

ゴブリン「なんじゃそりゃ」

オーク「幼女の頭の良さのためだ。たのむ」

ゴブリン「ええがのう、一体どこまで教えればいいんじゃ」

オーク「とりあえず全部。じいさんヒマだろ」


ゴブリン「ミもフタもない言い方をするのう」

オーガ「知らん知らん。じゃ、あとよろしく頼んだ」

オーク「日が暮れる前には迎えにくっから。じゃーなー」

ゴブリン「こら! 待ちんしゃい!」

幼女「行っちゃった……」

ゴブリン「はあ。昔からあいつら、どうもこの調子でのう」

幼女(やっぱりそうなんだ)


ゴブリン「とりあえず、綴り方から教えるかい……」

幼女「よろしく、おねがいします!」

ゴブリン(なんだかのう)


幼女「はあっ! とおっ!」ブン! ブン!

オーク「うん……うん……まあ、筋は悪くないな」サッ サッ

幼女「ええいっっ!!」

ガキィィン!

幼女「!」

オーク「だが……まだまだだ!」ブオンッ!

幼女「うわあ!」ドシャッ

オーク「今日の訓練終わり、っと」

幼女「いたた……」

オーク「ほれ、擦り傷できてんだろ。薬草塗っときな」

幼女「うん!」


オーガ「……で……これを、こうして……こうだ」

幼女「こう?」

オーガ「そうそう。んで、移し替えたら、これを入れて、完成。あとは一年くらいほっときゃ勝手に酒にならあな」

幼女「一年? ってどれぐらい?」

オーガ「なんだ、ジジイに教わってないのか? 寒くなって、暖かくなって、でまた寒くなる。そんぐらいだ」

幼女「ふうん」

オーガ「ジイサンに聞きゃ詳しく教えてくれらあ。じゃ、酒仕舞いに行くか」

とりあえず書き溜めを投下。
今日はここまでです。

ところでこのホルスタインさんってミノタウロスみたいに人型なのか?
期待。

投下します


幼女「むむむ」

ゴブリン「その調子じゃ」

幼女「えいっっ」ボッ!!

ゴブリン「うむ! 上等上等」

幼女「う~~」ボォォ

ゴブリン「そのままキープキープ」

幼女「~~~~ぶはぁっ!」


ゴブリン「よーしよし、いい具合にコントロールできるようになってきたのう」

幼女「ありがとうございます!」

ゴブリン「技術のほうはひよっこをちょっと過ぎたくらいじゃな。あとは魔力のほうじゃが」

幼女「はい」

ゴブリン「これは成長に任せるしかない」

幼女「はい」

ゴブリン「じゃが、成長に任せる中でも魔力を高めるためにできることはある。明日からはそっちも並行するかいな」


幼女「ドキドキする……」

ゴブリン「なに、たいしたことはせんよ」

幼女「どんなこと?」

ゴブリン「手段についてはいろいろ存在する。詳しくは明日教えるわい」

幼女「わかりました!」

ゴブリン「では、今日の勉強に入ろうかの。まずは昨日の続き、人間社会における金銭についてじゃが……」


幼女「えいっ! やっ!」ガキン! ガキン!

オーガ「そうそう、そんな感じだ。あー、もうちょい腰落としな」

幼女「こう?」

オーガ「それでやってみ」

幼女「えいっ!」ガキィン!

オーガ「ちょっと音が変わっただろ?」

幼女「うん」


オーガ「きちんと力が伝わってる証拠だ。忘れんなよ」

幼女「うん!」

オーガ「じゃ今日の訓練はここまでにすっか。メシだメシ」

幼女「今日はなににするの?」

オーガ「そうだな。いつも鹿じゃ飽きるし、イノシシにチャレンジしてみるか?」

幼女「イノシシかあ」

オーガ「まだお前一人で狩るのは早いから、手伝ってやるよ」


幼女「ありがとう!」

オーガ「この辺のイノシシはバカだから、その辺を工夫するんだ」

幼女「ふうん」

オーガ「たとえば落とし穴とか、石を使うとかか。石を使うってのは、……」


アルラウネ「幼女ちゃん!」

幼女「こんにちはー!」

アルラウネ「いいところに来たね。もうそろそろカチューシャ完成しそうなの」

幼女「ホント!?」

アルラウネ「ここまで長かったなぁー。この森、薔薇なんてほとんど生えてないのに、よくこれだけ出来たってところ」

幼女「そうなの?」

アルラウネ「うん、昔はもっと多く生えてて作るのも楽だったらしいけど」


幼女「そのカチューシャが完成したら、『一人前』なんだよね?」

アルラウネ「そうよ。ホントに大変だったんだから」

幼女「知ってる」

アルラウネ「そもそも私、だいたいはここに生えてるもの。探しに行くのも疲れるし、数は少ないし」

アルラウネ「でももうちょっと、今ここにある薔薇だけで、もう一人前になれるの」

幼女「おめでとう」

アルラウネ「ありがと。完成したら晴れて自由の身だもの、張り切っちゃいますよ!」


幼女「自由の身?」

アルラウネ「あ、説明してなかったっけ」

幼女「うん」

アルラウネ「このカチューシャは、私の魔力を込めながら丁寧に作るの」

アルラウネ「きちんと作り終えると、ほんのちょっとの光でもたくさん栄養が作れるから、根っこがいらなくなるんだ」

幼女「へー」

アルラウネ「動けるようになったら、幼女ちゃんのところにお邪魔してもいいかな」

幼女「いいよ! ぜったい来てね」

アルラウネ「お土産も用意しとくね」


幼女「えっ、パン?」

オーク「おう」

幼女「ど、どうしたの、これ」

オーク「じいさんに頼んで買ってきてもらったんだ」

幼女「おじいさんが?」

オーク「あのじいさんなら簡単だよ。昔は人間にまぎれて生活してたらしいしな」

幼女「で、でも、こんな、パンまるごとなんて」


オーク「ん」

幼女「いままで食べたことない……」

オーク「あー……」

幼女「ほんとに食べていいの?」

オーク「食え食え。どうせ俺らの口には合わねえよ。堅えし」

幼女「あ、ありがと!!」

オーク「おう、食いたくなったらいつでも言えな」

オーガ「あとでジイサンに例言っときな」

幼女「むぐむぐ……うん!!」


ホルスタイン「それでねぇ、何度も振ってると小さい塊が出来てくるんだよ」

幼女「うん」

ホルスタイン「で、周りの乳が透けてきたくらいで取り出して、布で絞る。バターの出来上がりだ」

幼女「ふうん」

ホルスタイン「人間はパンにつけたり、料理に使ったりするみたいだけどね。そのままでも美味いよ」

幼女「じゃあ、今度作ってみる!」

ホルスタイン「そう上手い具合に乳出す動物も魔物もいないよ」


幼女「ホルスタインさんは?」

ホルスタイン「放っといてくれ」

幼女「男の人みつからないの?」

ホルスタイン「放っといてくれ」

幼女「……うん」

ホルスタイン「そうそう、この前幼女ちゃんがくれたキノコだけどね」

幼女「どうしたの」


ホルスタイン「オークに『独身を馬鹿にすんじゃないよ』って言っといてくれる?」

幼女「?? わかった」

ホルスタイン「全くもう」

幼女「そういえば、りょうりってなに?」

ホルスタイン「なんだ、知らないの?」

幼女「気になる」

ホルスタイン「食べ物を食べやすくしたり、違う味にしたり、おいしくしたりすることだね」


幼女「そんなことできるの」

ホルスタイン「出来るわ。お肉とか薬草とか材料を持ってきてくれたら、いつでもご馳走するわよ」

幼女「やったあ!」


オーク「なんつうか」

幼女「?」

オーク「幼女もだいぶ血の臭いに慣れたよな」

オーガ「確かにな」

オーク「今じゃ普通に鹿も捌けるし」

オーガ「最初とは大違いだな」

オーク「慣れるっつったろ」


オーガ「言ったっけか」

オーク「言った」

オーガ「いいか別に。ほら幼女、もっと食わねえと強くなれねーぞ」

幼女「うん!」

オーク「十分食ってるだろ」

オーガ「言葉のあやだよ」

オーク「そういやな、今日はすげえもんがあるぜ」


幼女「なに?」

オーク「りんごのはちみつ漬け。倉庫漁ってたら出てきた」

幼女「!!」

オーガ「こりゃすげえ。何年ものだ?」

オーク「分からん。が、相当漬かってる」

オーガ「見た目やばいな」

オーク「まあ食えるだろ。あー、むぐ」


幼女「おいしい?」

オーク「ウマい。すげえ熟成されてる」

オーガ「俺にもくれ」ムグ

オーガ「なんだこりゃ、ちょうどいい具合じゃねーか」

オーク「見た目やばいけどな。幼女も食べるか」

幼女「食べる! あむっ」

オーク「あ、バカ。そんなにいっぺんに食ったら」


幼女「~~~~っ!!??」

オーガ「口ん中甘すぎるだろ、言わんこっちゃない。水、水」

オーク「ほらよ」

幼女「っ、んぐっ、んぐっ、んぐっ」

オーク「あ、やべえ」

オーガ「どうした」

オーク「これ酒だった。しかも強いやつ」


幼女「……え」

オーガ「どうすんだよ」

オーク「やばいやばい。アレどこだ、アレ……あったあった」

幼女「木のねっこ?」

オーク「これかじっとけ。じゃないと明日頭痛がひどいぞ」

オーガ「俺、水汲んでくるわ」

オーク「頼む」


オーガ「いくら酒強くても子供だからな」

オーク「とりあえず今日は水たくさん飲んどけ。死にゃしねえだろうが万が一もある」

幼女「うん」

オーガ「ほら、水」

幼女「ありがと」


ホルスタイン「前から思ってたんだけど、どうしてウチで本を読むんだい」

少女「静かだし、ホルスタインさんあったかいし」

ホルスタイン「枕代わりかい」

少女「そんなつもりじゃないよ」

ホルスタイン「ウチが静かだっていうのは嬉しいけどね、反面悲しくもある」

少女「なんで?」

ホルスタイン「子供がいないってことだよ」


少女「へえ」

ホルスタイン「少女ちゃん見てると、たまに子供が欲しくなるのよ」

少女「出来るといいね」

ホルスタイン「ありがと、アイツらと違って少女ちゃんは気配りができるから好きだよ」

少女「嬉しい」

ホルスタイン「ふわ~あ……寝るから、誰か来たらよろしくね」

少女「うん、おやすみなさい」


オーク「ふう。今日はここまでにして、メシでも準備すっか」

少女「そうだね」

オーク「剣筋もよくなったし、もうそろそろ一人前っつってもいいかもしらんな」

少女「ありがと」

オーク「さ、今日はなにが獲れっかな」

少女「……」

オーク「ん? どうした」


少女「あのね」

オーク「なんだ」

少女「……お父さん」

オーク「ぶはっ!?」

少女「何」

オーク「そう呼ばれる日が来るとは思わなかったぜ。お父さんねえ」

少女「やめてよ」


オーク「なにがだ?」

少女「は、恥ずかしいじゃん」

オーク「赤くなってんなよ」

少女「じゃ戻す」

オーク「こりゃひでえ。能面みてえだ、誰に教わったんだそんなカオ」

少女「いいからご飯獲ろ」

オーク「はいはい、行きますか」


オーク「――しかし、あの子も大きくなったな」

オーガ「そうだな」

オーク「何年経ったのかわからねえけどよ、ガキがいるっつうのも悪くねえもんだ」

オーガ「俺らと違って育つのが早いからな。成長が見えるのは面白い」

オーク「あいつなあ、剣の才能あるぜ」

オーガ「俺とお前で教えて魔物と同じ食生活してんだ、力がつくのは当たり前だろ」

オーク「あー、それなんだけどよ」


オーガ「何だ」

オーク「どうも、人間に食わせたらいけないもん食わせてたらしいんだよなあ」

オーガ「は?」

オーク「いや……じいさんにさ、どんなモン食わせてんのか訊かれたんだよ」

オーガ「それでどうしたんだ」

オーク「ホラ、じいさんは人間に混じって暮らしてたって言ってただろ」

オーガ「にわかには信じられん話だがな」


オーク「それでだ」

オーガ「ジイサンの話はいいから続きを話してくれ」

オーク「俺ら、猛毒とかかなり食わせてたらしい……」

オーガ「それ嘘だな。本当に猛毒だったら今頃生きてないだろ」

オーク「じいさんも不思議がってたんだよ」

オーガ「はー。人間っつうのは面白い生き物だな本当」

オーク「で、それがそろいもそろって俺らの大好物なんだよ」


オーガ「……」

オーク「……」

オーガ「つまりこう言いたいのか」

オーク「そうだ」

オーガ「まだなにも言ってないだろ」

オーク「言ってみろよ」

オーガ「人間にとっては猛毒な俺らの大好物が、少女の力を強くし」


オーク「そうだ」

オーガ「最後まで言わせろ」

オーク「話が長くなるだろ」

オーガ「ならねえよ。真面目になれ」

オーク「真面目さなんて人間にでも食わせとけばいいんだよ」

オーガ「それだとあの子が迷惑する」

オーク「例外」

オーガ「知ってた」


ゴブリン「おお、おはよう」

少女「おはよう」

ゴブリン「今日からどうしようかのう。魔法も常識も学術もすべて教えきってしまうとは夢にも思わんかったよ」

少女「それなんだけど。アルラウネの花粉について研究したい」

ゴブリン「お、面白そうなテーマじゃの」

少女「どうして花粉一つでたくさんの状態を引き起こせるのか気になって」

ゴブリン「確かにの。精製器官が違うわけでもなし」


少女「サンプルも貰ってきた」

ゴブリン「ふむ。毒、麻痺、混乱、石化、それに誘惑の五種類か」

少女「とりあえず使ってみましょうか。対象はそのへんにいた虫です」

ゴブリン「そういうことならついてきなさい。使いやすい部屋がある」

少女「ありがと」


少女「~♪」

オーガ「今日はご機嫌だな」

少女「お酒がね」

オーガ「酒がどうした」

少女「すっごく美味しいのが出来たの」

オーガ「お前が作ったやつか」

少女「ちょっと飲んでみて」


オーガ「はいよ」

少女「どう?」

オーガ「美味い」

少女「でしょ!」

オーガ「甘くて濃厚な味だ。酒とは思えない」

オーク「おう、どうした」

少女「これ飲んでみて」


オーク「んぐ……美味いな。これ何だ?」

少女「私の作ったお酒」

オーク「マジか」

少女「マジだよ」

オーク「いい香りがする。なに入れたんだ」

少女「蜂蜜と薬草」

オーガ「へえ。ちょっと材料足すだけでこんな味になるのか」


オーク「いつ作ったやつだ?」

少女「たぶん去年のやつ」

オーク「うん、今年からこの酒はレギュラー入りだな」

オーガ「風邪を引いたときにもいいかもしれん」

少女「風邪引いた時用のも作ってみたよ」

オーガ「飲ませてくれ」

少女「はい」


オーガ「うーん、苦い。辛い。臭い。三重苦」

オーク「弱ってるときに飲みたくはないな」

少女「おじいさんが風邪に効くって言ったやつ全部入れた」

オーク「今度はなんだ」

少女「アリとトカゲとなんかの根っこ」

オーガ「……」

オーク「……」


オーガ「ジジイ……」

オーク「あとでコレ飲ませてやってくれ」

少女「……。わかった」

オーガ「俺、殴ってきていいか」

オーク「俺の分も頼む」


オーク「うおおっ!」ブン

少女「ん」サッ

オーク「っ、とっ」

少女「せいっっ」

ガキィィン!

オーク「ぐ……」ズザザ

少女「やった!」


オーク「お見事」

少女「ありがと」

オーク「もうこの森でお前に敵う奴はいないよ」

少女「そうだといいけど」

オーク「オーガにもじいさんにも勝っただろう」

少女「アルラウネがまだ」

オーク「じゃ行って来い」

少女「行ってくる」


――――――

オーク「ただいま」

オーガ「おかえり」

オーク「ついに負けちまったよ」

オーガ「それは良かったな」

オーク「嬉しいやら悲しいやらだ」

オーガ「嬉しいついでにこっちからもお知らせがある」


オーク「なんだ」

オーガ「妊娠した」

オーク「     は?」

オーガ「お前なあ、なにを驚いてるんだ」

オーク「理解できない」

オーガ「おいおい、こんな美人でスタイルがいいオーガとの子供だぞ? 喜べよ」

オーク「いや……だけど……妊娠て……」


オーガ「少女がジイサンのところに出かけてると見るや途端にサカって」

オーク「う」

オーガ「愛してるだなんだ呟きながらさんざん俺をぐちゃぐちゃにしておいて」

オーク「ううぐ」

オーガ「なにがだけどだ。とんだバカヤロウだよ!」

オーク「ひっ」

オーガ「バカヤロウだよ……」クルッ


オーク「  オーガ、」

オーガ「バカ」

オーク「……」

オーガ「こっち見んな」

オーク「……」ギュッ

オーガ「くっつくな」

オーク「……ありがとう」


オーガ「……うわああん! なんだよお前! いつもずるいんだよ!」

オーガ「子供が出来たら素直に喜べ! バカ!」

オーガ「だいたいお前は! 普段はテキトーなくせにこういうときだけ優しくて!」

オーガ「デブの癖にオーガより強いし! ホントもう! バカ!! バカヤロウ!!」

オーク「ああ」

オーガ「ぐすっ……」


少女「ただいまー……? なんでお母さん泣いてんの」

オーク「俺が泣かした」

オーガ「子供が出来た」グスッ

少女「え、理解できない」

オーク「ちょ」

オーガ「……ぐすっ」

少女「嬉しいけど。おめでと、お母さん」


オーガ「…………………………………………うわあああああああああん!!!」

少女「ひっ。ど、どうしたの」

オーガ「だってだって! オークの反応と全然違うし!!」

オーガ「お母さんって呼んでくれたし!!」

オーガ「嬉しくないわけないだろ!!!」

少女「お父さん?」

オーク「   はい」


少女「ちょっと話があるから、外来て」

オーク「   ……はい」


ホルスタイン「そりゃあんたが悪い」

オーク「自覚はしてます」

ホルスタイン「あんたね、下手すると子供の顔見せてもらえないよ」

オーク「え」

ホルスタイン「はぁ。いいからさっさと謝ってきな」

オーク「謝りました」

ホルスタイン「じゃあなんでここにいるのさ」


オーク「入れてもらえないんです」

ホルスタイン「……」

ミノタウロス「おっ、オークの旦那。今日はどうしたんよ」

ホルスタイン「あんた、この馬鹿野郎一発殴ってやってよ、自慢のハンマーでさ」

オーク「これ以上ボコボコになりたくないです」

ミノタウロス「愛妻の頼みといえどさすがに無理」

ホルスタイン「じゃぁー付き添いで家まで送ってやってくれない? そしたら事情分かるよ」

ミノタウロス「はいな」


ミノタウロス「――……」

オーク「……」

ミノタウロス「お前バカか」

オーク「はい」

ミノタウロス「そりゃ俺でも怒るわ」

オーク「はい」

ミノタウロス「ハンマーで殴っていい?」ズコッ…

オーク「それだけは勘弁してください」


オーガ「いつも悪いな」

少女「え?」

オーガ「ほら、メシだの掃除だの、一切合切家事任せてよ」

少女「いいのいいの、妊婦さんなんだから」

オーガ「しかし、教えといてよかったな」

少女「なにが」

オーガ「いや、こっちの話だ」


少女「?? 変なお母さん」

オーガ「それにしても実感がわかねえよなあ、この膨らみ」

少女「赤ちゃん?」

オーガ「家族ができたと思ったら、また子供ができるんだからな」

少女「あはは」

オーガ「しかもあいつとのガキときた」

オーガ「まさか種族の壁越えて子供が出来るとはな」


少女「普通は出来ないの?」

オーガ「知らねえよ。出来ないだろとは思ってた」

少女「へえ」

オーガ「オークもそうだろ。だからあんな変なこと口走ったんだ」

少女(変なこと? 詳しくは聞いてないけどそんなことあったんだ)

オーガ「衝撃的だった。アレは」

少女「私には、取り乱したお母さんの方が衝撃的だったけど」


オーガ「バカ、忘れろ」

少女「ムリ。一生覚えとく」

オーガ「おい、勘弁してくれ」


少女「はあ……」

オーク「どうした」

少女「雨だと、外に出られなくて暇だなって」

オーガ「酒でも薬でも作ればいいだろ」

少女「や、材料がもうないし」

オーク「本」

少女「全部おじいさんのところ」


オーガ「寝ろ」

少女「やっぱりそれしかないか」

オーク「おやすみ」

オーガ「おやすみ」

少女「うん、おやすみ」

ゴロゴロゴロ…

オーク「ん」


バシャァァン!!

少女「雷落ちたね」

オーガ「近いぞ」

オーク「どれ」

オーク「……」

オーガ「どうだ」

オーク「まずいな」


少女「どうしたの」

オーク「丘のてっぺんに落ちたらしい。燃えてる」

オーガ「すぐに消しに行くぞ」

オーク「オーガは待ってろ。その腹じゃ無理だ」

少女「私、みんなに伝えてくる」

オーク「皆気づいてるはずだ。少女は俺と来い」

少女「分かった」


少女「うわ」

オーク「雨が降っているとはいえここに来るまでにだいぶ延焼したか。あまりよろしくないな」

少女「これぐらいなら……」

オーク「どうした」

少女「なんとかできるかもしれない」

オーク「本当か」

少女「けど、おじいさんがいないと。判断は私だけじゃできない」


ミノタウロス「おーい! 誰かいるか!」

ゴブリン「誰かおるかー!」

オーク「グッドタイミング。おーい、こっちだー!!」

ミノタウロス「おう、そっちか。……こういうとき上手く判断できるのはゴブリンさんしかいないし、とりあえず急いで連れて来た」

ゴブリン「こりゃひどいのう。丘一つ丸裸か」

オーク「雨だからまだいいほうだろ、乾燥してたらもっと広がってる」

ゴブリン「すぐに消火じゃな。水が入る容器を用意して、川から運ぶ。いわゆるバケツリレーじゃ」


少女「えっと」

ゴブリン「どうした? そうか、やりかたが分からないかね」

少女「あの、私、水の魔法で鎮火できると思うんです」

ゴブリン「ふむ?」 

少女「洪水の魔法です」

ゴブリン「魔法の教書に載っていたヤツじゃな」

少女「はい」


ゴブリン「やってみないと分からんね。おまえさんが出せる水の量は問題ないが、問題は丘のどこから流すかじゃ」

少女「それは、てっぺんから……」

ゴブリン「燃え盛る炎の中を登ってか」

少女「あ」

ゴブリン「洪水魔法の性質的に、水が下から上へ行くことはない。ここから打てば、逆流した洪水に飲み込まれてしまうぞ」

オーク「おい、早くしないと……」

少女「そんな、どうすれば!?」


ゴブリン「落ち着け。いいか、水を操ればいいんじゃ」

オーク「水を操る?」

ゴブリン「さよう。操った水を炎にぶつけていけばよい」

少女「で、でも! 洪水魔法で発生させた水をどうやって操るの!?」

少女「そんなに一気に魔法は使えないし、最低の水量でも操りきれない!」

少女「飲み込まれちゃうよ!!」

ゴブリン「誰も洪水を操れと言っとらん」


少女「え」

ゴブリン「水なら、そこらじゅうにあるじゃろう?」

オーク「なるほどな」

少女「……雨!!」

ゴブリン「老いたわしの技量では出来ない技術じゃ。じゃが、おまえさんなら出来うる」

ゴブリン「呪文はこう、こう、こうして、こう。後は視線と手の動きで操る。よいか」

少女「はい」

ゴブリン「手の動きは逐次指示するわい、さあ!」

少女「はい!」


オーク「いやすごい。あっという間だったな」

ゴブリン「まさかわしもここまでとは思わんかったよ。日々の鍛錬のなせる業じゃな」

ミノタウロス「いやあびっくりした、ホントに」

オーク「そういえば、ホルスタインはどうした」

ミノタウロス「寝てるよ。一度寝たら起きないし」

オーク「寝たら牛になるって言うが、あいつ元は人間だったりしないだろうな」

ミノタウロス「ははは、ありそう」


オーク「しかし、この子はよくやってくれたな」

ゴブリン「うむ。ソーサラーとしてはもう一人前じゃよ。さすが人間というべきか」

少女「……」クカー

ミノタウロス「疲れて寝ちゃうところは、まだ子供っぽいけどね」

オーク「まったくだ。ずいぶん重くなったもんだよ」

ゴブリン「人間は成長が早いからな。そう感じるのは無理もない、かかか」

ミノタウロス「いつかこの子も親元を離れていくんだろうね」


オーク「そう遠くない未来にな」

ゴブリン「独り立ちするにはもう十分大きいじゃろうて」

オーク「ま、この子に任せるよ。俺としてはいつ放り出しても心配はしない」

ミノタウロス「でもこの森に同年代の男の子はいないから、そこ心配だけど」

オーク「あー、平気平気。オーガの話だともう女になってるらしいし、教育もバッチリだろ」

ミノタウロス「本人起きてたら怒るよ、そんなこと言って……」

オーク「はは、もう力じゃかなわねえからな。またボコボコにされそうだ」


ミノタウロス「もうそんなに強いのかい」

ゴブリン「驚きじゃのう」

オーク「食い物にちょっとした手違いがあってな……」ボソッ

ゴブリン「?」

オーク「なんでもねえ。こいつはもう大丈夫だ、これからは二人目の子の面倒だよ」

ミノタウロス「妬けるなあ。うちも子宝に恵まれないかな」

オーク「子供なんて案外その辺に落ちてるもんだよ」


ゴブリン「洒落になってないんじゃが……」

オーク「俺はこの子拾ってよかったと思ってるよ。自慢の娘だ」

ゴブリン「お前の方は自慢できそうにないわい」

オーク「親なんてそんなもんだ」

オーク「子供がきちんと育ちゃあ、これ以上自慢できることはねえよ」

ミノタウロス「ははは、言うことが深いなあオークさんは」



少女(……お父さん。)



少女「――今まで、ありがとう」

オーガ「ああ」

少女「今日でお別れだと思うと、さみしいよ」

オーガ「俺もだ」

オーク「まー、会えなくなるわけじゃなし。いつでも帰ってこいよ」

少女「うん」

オーガ「ただ……」


少女「?」

オーガ「二年に一回くらいは帰ってこねえと、この子に『誰?』って言われるな」

幼弟「……?」チュパチュパ

少女「あはは。じゃそうする」

アルラウネ「あたしも連れてってよ~……」

少女「どこから湧いた」

アルラウネ「ひどい」


少女「旅って難しいんだよね、人外がいると。だっけ、おじいさん」

ゴブリン「見つかったときに言い逃れができんからな。問答無用じゃ」

少女「だってさ」

アルラウネ「ううう~っ」

少女「諦めなよ」

アルラウネ「無理」

少女「即答?」


アルラウネ「ねえゴブリンのおじいさん、バレなきゃいいのよね?」

ゴブリン「そりゃそうじゃが」

アルラウネ「じゃあこうすればいいじゃん」ミチミチミチ…

少女「うわっ、何」

アルラウネ「じゃーん! 見よ! 私の体は変形自在なのです!」

少女「ブーメラン状に編んだ形になった……? 投げればいいの?」

アルラウネ「ちょちょちょ! 待って! 違うから! ネックレスだから!!」


アルラウネ「ねえゴブリンのおじいさん、バレなきゃいいのよね?」

ゴブリン「そりゃそうじゃが」

アルラウネ「じゃあこうすればいいじゃん」ミチミチミチ…

少女「うわっ、何」

アルラウネ「じゃーん! 見よ! 私の体は変形自在なのです!」

少女「ブーメラン状に編んだ形になった……? 投げればいいの?」

アルラウネ「ちょちょちょ! 待って! 違うから! ネックレスだから!!」


少女「あー、そういうことね」

アルラウネ「いざとなったら枯れればいいし。そしたら種からまた撒いてね」

少女「ブーメランが喋った」

アルラウネ「ネックレスだってば!! ……ねえ、これでも付いてっちゃだめ?」

少女「いいんじゃない」

アルラウネ「やった!」

オーガ「適当だな」


ゴブリン「誰に似たんだか」

ホルスタイン「コイツしかいないでしょ」

オーク「    はい」

少女「そのかわり異端審問にかけられそうになったら問答無用で燃やすよ」

アルラウネ「やめて」

少女「種は燃えないんでしょ。平気平気」

アルラウネ「燃えないけど熱いの!!」

少女「我慢」

アルラウネ「カンベンして……」


ミノタウロス「ごほん。よいかな」

ホルスタイン「それでは、少女の旅立ちを祝して」

ミノタウロス「乾杯!!」

「「乾杯!!」」

少女「――――乾杯。」


――――――

少女(――世界には)

少女(私の知らないモノがたくさんある)

少女(それに)

少女(人間が魔物として生きられるように)

少女(魔物が人間と一緒に生きられる場所もあるかもしれない)


少女(だから私は、自分の足で歩いて、自分の目で確かめる)

少女「……ワクワクするね」

アルラウネ「ね」

少女「行こうか!」

アルラウネ「うん!」



おわり


投下はここまでです。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
ひと区切りついてほっとしてます。


>>57
彼女はケンタウロスタイプです
半人半牛、四足に人間の腰から上と想像していただければ

質問等受け付けてますー

質問など、受け付けてますー

すごく良かった。一区切りってことはまだ続くの?それとも別スレ立てるの?

>>152
需要があったら書きたいなーと
まとめるビジョンが全然見えないですけどww

知識は何処までついたんだろ?
一般常識レベル?学者レベル?

プロローグじゃないですwwwwww
ここで終わりですwwww

予想よりも遥かに需要が多いとな。嬉しくて死にそうです
この話はオーク、オーガ夫婦と幼女のかけあいを書こうと思ったものですので、
続きは別スレを立ててやります。ありがとうございました!

>>165
ゴブリンは人間・魔物双方の一般常識程度の知識を教えていました
魔法に関しては、一部を除き、一人前とみなされる程度までには知識・技術がついています

HTML化依頼してきました。


次スレです
少女「旅してます」 アルラウネ「ひゃっほう!」
少女「旅してます」 アルラウネ「ひゃっほう!」 - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380722144/)

オーガ姐さんも人間の女に近い姿?

>>176
そうですね、いちばん人間に近いです
ただ肌は緑色で、角が生えているという設定です

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