アリス「タイムスリップしたよ」 (27)

ここは10年くらい前の世界。
わたしアリス・カータレットはある日、突然タイムスリップしてしまった。原因は不明である。

アリス「同じ道に違う町並みが広がってるし、なによりコンビニに並んでいる新聞の日付が証拠!」

アリス「ここは10年前の世界に間違いないよ」

アリス「すごーい! わたし、タイムスリップしちゃったよー!」

アリス「……どうしよう」

帰る家がない。これは困ったことになってしまった。

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アリス「行くあてが無いから、なんとなくシノの家まで来ちゃった」

アリス「でもこの時代のシノはわたしのことを知らないんだよね。ちょっとさみしいな」

アリス「どうしてわたしだけタイムスリップしちゃったんだろう?」

アリス「ひとりぼっちじゃ……シノがいないんじゃ、寂しいだけだよぉ……」グスッ

ガチャ

しのぶ「いってきまーす。わぁ、きんぱつしょうじょですっ」

アリス「!!!」

しのぶ「すてきです~」

アリス「この声、この感じ……まさかこの子は、10年前の!」

しのぶ「わたしえいごしってるんですよ。はろー」

アリス「やっぱりシノだ! シノ、会いたかったよ~!!」ギュー

しのぶ「はろー」

アリス「こんにちはっ」ギュー

しのぶ「はろー」ギュー

しのぶ「ありす?」

アリス「そうだよ。わたしの名前はアリスだよ」

しのぶ「きんぱつかわいいです。さわってもいいですか?」

アリス「いいよ、抱っこしてあげるからいっぱい触って! よいしょ」

しのぶ「わぁ、きれいですー♪」ナデナデ

アリス「おもい……」プルプル

しのぶ「ありすはどこのくにからきたのですか?」

アリス「イギリスだよ。飛行機でひとっ飛びだよ」

しのぶ「いぎりす……は、きりぎりすのくにですね」

アリス「そうだったの!?」

しのぶ「きりぎりすはなまけものなんです。はたらきもののありすとよくけんかするんです」

アリス「それ、アリとキリギリスのお話と間違ってる!」

しのぶ「これからよーこちゃんとあそぶやくそくをしておりまして。ありすもどうですか?」

アリス「そういえば、シノとヨーコは幼馴染みなんだよね」

しのぶ「そーです。なんでしってるんですか?」

アリス「シノのことならなんでも知ってるよ!」ナデナデ

しのぶ「ありす、すごいですーっ」

アリス「じゃあわたしもついてっちゃおうかな」

しのぶ「ありすもいっしょにあそびましょう」

ガチャ

いさみ「なぁに、騒がしいわね」

しのぶ「あ、おねえちゃんです」

アリス「小学生のイサミだ! 私よりちっちゃいなんて、ちょっと感激だよ~」

いさみ「あら、忍のお友達? ……うちの学校に金髪少女なんていたかしら」

アリス「わたしも小学生だと思われてる!?」

いさみ「早くいってらっしゃい。陽子ちゃん待ってるんじゃない?」

しのぶ「はーい。ありす、いきましょー」

アリス「うん。行こう!」

しのぶ「はろー」

アリス「こんにちはー」

いさみ「忍にあんな可愛らしいお友達がいるなんて知らなかったわぁ」

しのぶ「ありすのいぎりすにいってみたいです。つれてってください」

アリス「わたしがつれてかなくても、シノなら一人で来られるはずだよ」

しのぶ「ほんとーですか?」

アリス「うん。わたし、シノが来てくれるのをイギリスで待ってるからね」

しのぶ「たのしみです~っ」ニコニコ

しのぶ「ところで」

アリス「どうしたの?」

しのぶ「よーこちゃんはどこにいるんですか?」

アリス「分からないで出かけてきたの!?」

しのぶ「いつもはうちのまえでまってたら、ぴゅーっときてくれるんです」

アリス「そうだったんだ……じゃあ戻ろっか?」

しのぶ「はい」


ようこ「ええっ、シノもう行っちゃったの!?」

いさみ「ごめんねぇ。私もうっかりしてたわ」

アリス「町並みがだいぶ違うから、ちょっと気を抜くと迷っちゃいそう」

しのぶ「だいじょーぶです。こうすればまいごにはなりません」

アリス「シノ?」

しのぶ「おててをぎゅー、ですよ?」ギュー

アリス「シノが可愛すぎてのぼせてきちゃったよ……」

しのぶ「あ! あっちにわたしのがっこうがあるんですよー」グイッ

アリス「シノの母校だね~」フラフラ

この時のわたしは浮かれるあまり気づいていなかった。知らぬ間にちょっとずつ、二人で知らない道へ歩きだしていたことを。

アリス「うう~……ここ、どこなのぉ」

しのぶ「わぁ~。たんぼがいっぱいですー」

辺りは一面、田畑の広がる世界。
どうやら山を越えてきてしまったようだ。

アリス「なんでわたしたちはこんなところに……途中でバスに乗ったのがいけなかったのかな……」

しのぶ「ありす、みてください。とんぼがとんでますよ。にだんがさねで」

アリス「み、みちゃだめ! シノにはまだ早いよ!」

アリス「人を見つけて道を訪ねてみよう。バス停への戻り方が分かればこっちのものだよ!」

しのぶ「わかりました~」

アリス「それにしても、田んぼが一面に広がっている光景はいいよね。心が洗われていくみたいだよ」

しのぶ「しってますか? たんぼではおこめをつくってるんです。しろくてほかほかのおこめですよ」

アリス「知ってるよ。シノは小さいのに物知りで偉いねっ」

しのぶ「えへへ」ニコニコ

しのぶ「いぎりすってどんなところなんですか?」

アリス「えっ? えーっと、どう説明したらいいのかな。地元のことを説明するのって難しい……」

しのぶ「?」

アリス「えっとね、イギリスは木があって山があって、ってそれは日本も同じだね……えっと」

アリス「そうだっ! 冬のイギリスはね、雪とともに愛が降ってくるんだよ!」

しのぶ「わあっ、それはしれは、すっごく、すてきですねっ!」

アリス「ふう。なんとか答えられたよ」

アリス「それにしても、農家の人とか全然見当たらないね。今日はお休みしてるのかな?」

しのぶ「しずかですね~。まるでだれもいないみたいです」

アリス「!」

嫌な予感が走った。
タイムスリップを成し遂げたわたしのことだ。人類の存在しない平行世界へ飛んでしまったのではないかと不安になる。

しのぶ「ふたりでおさんぽ、たのしいですねっ」

シノの温かくて小さな手。
この手は絶対に離しちゃいけない。

小さなシノと二人で田舎の道を歩きながら、わたしはタイムスリップしてしまう直前の出来事を思い出していた。
あれはシノと二人でショッピングモールを歩いていた時のことだった。

忍『アリスの手は温かくて小さいですね』

アリス『シノの手だって温かいよ。わたしよりちょっと大きい』

シノが手を握ってきたのだ。最初は嬉しくてしばらく繋いだままだったのだが、次第に周囲の目線が気になるようになった。

通行人『あれ見て。かわいい』クスッ
通行人『姉妹みたいね』

わたしが子供で、シノが保護者。そんな風に見られている気がして恥ずかしかった。

アリス『シノ、早くいこっ』

忍『あっ、アリス!』

わたしがいきなり走りだしたばっかりに、二人の手はふりほどかれて。

気がついたら――

アリス『……あれ? シノ、どこー?』

  ――この時代にいた。

今思うと、人の目を気にしていた自分がばかみたいに思えてくる。
元の時代に帰ったら謝ろう。そしてシノと手を繋ごう。
ずっとずっと繋いでいよう。

アリス「シノ……」

しのぶ「なんですか?」

その前に、この小さなシノをお家に帰さなきゃ。

アリス「ううん、なんでもない。ほら、あっちの方におじいさんが見えるよ。道を聞いてみよう!」

バス停の場所を教えてもらったので、帰りのバスに乗り込むことができた。

眠ってしまったシノをおんぶして、大宮家に帰った頃。
空には既に赤い色が広がっていた。

いさみ「忍!」

ようこ「シノー!」

心配で心配でしかたない。二人の顔からはそんな気持ちが見てとれた。

ごめんね。でも、小さなシノとのお散歩はとっても楽しかった。
シノをイサミに預けると、わたしは一言二言謝罪の言葉を残し、踵を返す。

もう帰らなきゃ。

しのぶ「ありす」

背中越しに聞こえたシノの声。起こしちゃったかな。

しのぶ「ありす……」

振り返ってはいけない、と思った。
今にも涙がこぼれ落ちてしまいそうだったから。こんな姿、小さいシノには恥ずかしくて見せられないもん。

しのぶ「またあいましょう」

……うん、待ってる。

――――――
――――
――

アリス「んっ……んん~」

忍「アリス、目が覚めましたか?」

アリス「わたし、寝ちゃってた……?」

忍「寝ちゃってましたよ。いくら軽いとはいえ、アリスをおぶって歩くのは骨が折れました」

アリス「ごめんね、シノ。今下りるね」

忍「いいですよ。もうすぐお家に着きますから、このままでも」

アリス「シノと一緒に歩きたいのっ。その……手を繋いで」

忍「! ……はいっ、アリスがそこまで言うなら」

アリス「夢、だったのかな」

忍「どんな夢を見てたんですか?」

アリス「あのね、小さいころのシノが出てきたんだよ。イサミもヨーコも小さかった!」

忍「まあ、それはそれは」

あの時代の、小さなシノへ。
また会えたね!


アリス「タイムスリップしたよ」
おしまい

アニメのちびシノが可愛すぎたから書いた
今日はもう寝ますね

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