杏子「くうかい?」(950)

般  羯  多  呪  多  得  想  掛  所  亦  無  耳  不  是  異  蘊  観  仏
若  諦  呪  能  是  阿  究  礙  得  無  意  鼻  増  舎  色  皆  自  説
心  羯  即  除  大  耨  竟  ,r'""´`゙゙''、,  識  舌  不  利  色  空  在  摩
経  諦  説  一  神  多  涅  /       l,  界  身  減  子  即  度  菩  訶
        呪  切  呪  羅  槃 rヽ  .,‐- ,- |. 無  意  是  是  是  一  薩  般
    波  曰  苦  是  三  三 ヾ   `゙" ,l ゙´|  無  無  故  諸  空  切  行  若
    羅      真  大  藐  世 . _>    -=='./  明  色  空  法  空  苦  深  波
    羯      実  明  三  _/|, `゙ヽー--ノヽ、,_.   聲  中  空  即  厄  般  羅
    提      不  呪  rー'""l,  'l,     / .| ||/`>、、  無  相  是  舎  若  蜜
            虚  是  /    |   'l,    /  .|./》/ ∧   色  不  色  利  波  多
    波      故  無 /  , | ヽ   ヽ,、/.@ / 《l,l / ヽ 無  生  受  子  羅  心
    羅      説  上 /  、,ヽ|/ ヾ。ツ`' 「ゞ / /《ヾ  /゙ヽ    不  想  色  蜜  経
    僧      般   ./  ///l`゙'゙ー-'"  / // ノ// //`l、   滅  行  不  多
    羯      若  ,|.  /// |  |___,,,ノ≡≡ツノ//_,,-‐'"".l,   不  識  異  時
    諦      波  | /// /|    /二=‐'"´´/ /`゙゙'ー-、,_.l    垢  亦  空  照
            羅  |/// / |   /|三="´  / //"´´゙'ー、|    不  復  空  見
    菩      蜜  ///ノ   ノ ノ ノ‐-二‐'"´ ノ/r=、,_ー-、_|    浄  如  不  五
    提              /                /
    薩     _______  /   __/   _______/
    婆  _/             _/         _/  _  _
    訶      /     /            /        /  /   /
         _/   ___/    __/   _    _  _    _/
                               /   /    /
    __    __/          /   _____    __/
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「くうかい?」
「いただくわ」

袋からポッキーを一本抜き取り、口に運ぶ。
美味しい。好意は素直に受け取っておくものね、と暁美ほむらは思った。

「意外だな。あんた、そんなふうに笑えたんだ」

言われて、自分の口角が上がっていることに気づく。
佐倉杏子は頬をポリポリと掻いて、お菓子の包みを差し出してきた。

「美味かったんならもっと食えよ」
「……ありがとう」

違うのよ、そういう意味で笑ったのではないの――という言葉を呑み込んだ。
わたしはただ、『くうかい?』とあなたに問われて、
無愛想に『結構よ』と返した、あの時の自分を思い返していただけなのだから。

郊外の寂れたゲームセンターから、見滝原市街地へ移動する。
杏子は何気ない調子でいった。

「この街は巴マミの縄張りだったはずだ。
 あんたはその、あいつとは上手くやってるのか?」
「上手くやってる、とはどういう意味かしら?」
「つまり……成体の魔女を獲り合ったり、
 グリーフシードを奪い合ったりしないでさ、
 一緒に協力して魔女と戦ってるのか、って聞いてんだ」
「……いいえ」

そっか、と杏子は落胆を滲ませた声音で言う。
指摘すれば彼女は否定するだろうけど。

「巴マミとは、停戦協定のようなものを結んでいるわ。
 わたしは彼女を邪魔しないし、彼女もわたしを邪魔しない。
 魔女は、先に見つけた魔法少女のもの」

「ふうん。相互不可侵ねえ。
 そっか、あたしもそんなふうに言い寄れば良かったのかな」

杏子は天を仰ぎ、鯛焼きの一欠片を口に放り込む。
ほむらは問いかけた。

「あなたは今までに、巴マミと接触したことがあるの?」

返事の内容は分かっている。
でもこの会話は、わたしの目的を達成するために、必要不可欠なプロセスのひとつ。

「前に、この街に魔女を狩りに来たことがあってね。
 その時運悪くあいつと鉢合わせて、魔女の奪い合いになったのさ。
 あいつの得物が何か知ってるなら、説明するまでもないだろうが、
 あたしとあいつの相性は最悪だ。
 しかもあの時、あたしはまだ駆け出しの魔法少女だった。
 距離をとられれば不利、近づいても五分で、
 勝ち目がないと見たあたしは、命からがら逃げ延びたのさ」

ま、見逃してもらった、と言う方が正しいかもしれないけど――と杏子は自嘲して付け加える。

「あいつが生きてるうちは、
 二度とここに来ることなんてないと思ってたんだけどね……」
「もしもあなたが彼女と再会すれば、衝突は避けられないでしょうね。
 でも、心配する必要はないわ。わたしがついているから」
「あ、あたしは心配してなんか……!」

分かりやすく狼狽える杏子に、ほむらは優しい声音で言った。

「彼女は人よ。言葉を解さない魔女や、その遣い魔とは違う。
 あなたがこの街に来た目的を話せば、彼女もきっと、過去のことは水に流してくれるわ」

杏子はヨットパーカのポケットに両手を突っ込み、唇を尖らせる。

「ふん、話が通じなかったときは、無理矢理にでも分からせてやるさ」

そして赤く光り輝くソウルジェムを握りしめ、

「あたしはもう、昔のあたしじゃない。今なら巴マミにだって勝てる」
「わたしは冷静な者の味方で、愚か者の敵よ。
 話し合いが第一。そこは忘れないようにしてね」
「チッ、分かってるよ」

血気盛んな赤色の魔法少女を横目に、ほむらは反芻する。

『あなたに新しい狩り場を提供したい』

そう言ったわたしに、杏子は音楽ゲームをプレイしながら答えた。

『あんた、正気かい?』

魔法少女の常識に照らし合わせれば、わたしは異常者以外の何者でもない。
魔女の数は限られている。
それは魔女が落とすグリーフシードの数が限られていることと同義。
だから魔法少女は各々に縄張りを持ち、互いに争いを避けている。

『わたしは正気よ。
 さっき言ったことも本当。ただし、一つだけ条件がある』
『へえ、言ってみなよ』
『今から約二週間後、この街に"ワルプルギスの夜"が来る』
『……なぜ分かる?』
『それは秘密』

わたしはなるべく無感情に聞こえるように告げた。

『あなたにはわたしと協力して、"ワルプルギスの夜"に対処してもらいたい。
 そいつさえ倒せたら、わたしはこの街を出て行く』

佐倉杏子の性行を鑑みれば、願ってもない提案のはず。
果たしてわたしの祈りは、
この世界におわす酷薄な神に聞き届けられたようだった。

『ふぅん。そういう意味で、狩り場を譲る、ねえ。
 それにしても"ワルプルギスの夜"か……。
 確かに一人じゃ心許ないが、二人がかりなら勝てるかもな』

杏子は振り返り、不敵な笑みで言った。

『その提案、乗った』

そして時は今に至る。
杏子は新しい鯛焼きの頭にかぶりつきながら、

「あんたさぁ、」
「わたしの名前は暁美ほむらよ。ほむらでいいわ」
「んっ……」

杏子は喉に詰まった餡を、強引に飲み下して言った。

「ほむらは、巴マミのやりかたに納得しているのかい?」
「巴マミのやりかた?」
「グリーフシードを孕んでいない魔女や遣い魔を、
 片端から殺していくやりかたのことさ」

「……他の魔法少女がどんな理由で魔女を狩ろうと、わたしには関係のないことよ」
「あたしはそうは思わないな。
 魔女の数は無限じゃないし、
 一度にたくさん現れる時化の時期もあれば、長いこと一匹も現れない凪の時期もある。
 今の力じゃ敵わない魔女を相手にしたときや、
 土壇場で魔女に逃げられちまったときに、消費した魔力は戻ってこない。
 それに あんたも長いこと魔法少女やってるなら、とっくに気づいてるだろ?
 魔女と戦って魔力を消費しなくても、少しずつソウルジェムが濁っていくことにはさ」

ほむらは頷く。
杏子はポケットからグリーフシードを取り出すと、
それを器用に、人差し指の腹でコマのように回転させた。

「そんなときのために、あたしたちは出来るだけコイツを貯めておく必要がある」
「あなたは、」
「佐倉杏子だ。杏子でいい。
 どういうワケかあんたは最初からあたしの名前を知ってたが、
 どうせ訊いても秘密なんだろ?」

ええ、そうね、とほむらは苦笑し、

「杏子は――ソウルジェムが濁りきるとどうなるか知っているの?」

杏子はにわかに表情を曇らせて答えた。

「いや、知らないよ。
 あたしは一匹狼で、穢れを溜め込みすぎた魔法少女の知り合いはいないし、
 それに、たいていの魔法少女は、結界の中で魔女にやられて死んでいくだろ?
 あたしはただ、キュウべえから聞いたルールを律儀に守ってるだけさ。
 グリーフシードがなけりゃ、いつかは魔法が使えなくなる。分かりやすいよな」
「ええ……確かにシンプルね」

単純なシステムの裏には複雑な権謀術数が潜んでいることを、
佐倉杏子を含めてほとんどの魔法少女が知らないし、知ろうともしない。

「話を元に戻そう。とにかくあたしは、巴マミのやりかたが気に入らない。
 グリーフシードを孕んでない魔女を殺すなんて、
 タマゴ生む前のニワトリ締めるのと一緒じゃないか」

「グリーフシードを落とす魔女は速やかに倒し、
 そうでない魔女や遣い魔は成熟するまで放置する……効率的で無駄のないやり方ね」
「そういうあんたもそのクチだろ?
 最初に見たときに分かったんだ。ほむらからは、あたしと同じ匂いがするってね」

同族意識の感触に、思わず身を翻しそうになる。
思い返すのは、駆け出しの日々。
正義感に満ちあふれ、心優しい"友達"と頼れる"先輩"と一緒に、
街の平和を守るのだと意気込んでいた、あの頃の愚かなわたし。

「昔は、巴マミと同じ考え方をしていたわ。
 馬鹿なことをしていたと思う。でも、今は違うわ。
 効率よくグリーフシードを集めるためなら、多少の犠牲は厭わない。
 杏子は――最初からそうだったのよね?」

含みを持たせた言い方に、杏子の頬がかすかに引き攣る。

「あ、当たり前じゃねえか。
 能力は自分のためだけに使う。それがあたしの哲学だ」

30分ほど出かける
残ってますように

「わたしはあなたの考え方に共感できるし、
 事実、それが正しい魔法少女のあり方なのだとも思う。
 けれど人は人それぞれに哲学を持っているものよ。
 杏子が巴マミのやり方を愚かだと思っているように、
 巴マミは杏子のやり方を非道なものだと思っている。
 そこに妥協の余地はないわ。
 どちらかが持論を曲げないかぎり、歩み寄ることなんてできない」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ?」
「どうもしなくていいのよ。
 わたしと巴マミがこれまでそうだったように、
 杏子は巴マミと極力関わり合いを持たないようにして、
 自分の魔女狩りに専念すればいい」

杏子は鯛焼きの包みをくしゃっと丸めると、目くじらを立てて言った。

「あいつが無闇やたらに魔女を殺すのを、黙って見てろって言うのかよ?
 それは間接的に、あたしが手に入れるはずだったグリーフシードを摘まれてるってコトなんだぞ?」

「あなたが考えているよりも、この街の土壌はずっと肥沃よ。
 魔女は次から次へと、ひっきりなしに生まれてくるわ。
 たとえどんなに巴マミが優秀な魔法少女でも、
 その全てを狩り尽くすことなどできはしないわ」
「確かに、今のあたしの狩り場とは違ってさ……」

杏子は手のひらを庇にして、
大きな河川に隔てられた、見滝原市の中枢を眺め、

「あれだけ人が密集してりゃ、魔女も餌には事欠かなさそうだな」

それはつまり、魔法少女にとっての餌も、事欠かないということ。
地球上の生物の頂点に立っているのは、人じゃない。
その上に魔女がいて、そのさらに上に魔法少女がいる。
そして、裏の食物連鎖を支配しているのが――。

「とにかく、杏子が巴マミの狩りに気を払う必要はないのよ。
 この場所には十分な数の魔女がいるし、
 今この瞬間にも、新たな魔女が生まれている。
 巴マミにしても、未熟な魔女や遣い魔を見逃すあなたを咎めることはあっても、
 あなたの狩りを邪魔することはないはず……」

そこでほむらは、不意に足を止めた。
左手に連なる高層建築群。右手を走る車道。
延々と続く幾何学模様のタイル。
向こうには河川をまたぐ大きな橋が見える。
そこはほむらが、"奇跡"と"魔法"の存在を初めて知った場所だった。
魔女の結界に足を踏み込んだほむらが、二人の魔法少女に命を救われた場所だった。

「どうしたよ、おい?」
「……なんでもないわ。行きましょう」

足早に歩き出したほむらに、杏子は怪訝そうな表情で歩調を合わせる。

「さっきから聞きたかったんだけどさ、ほむらはどこに向かってんだ?」
「見滝原市立総合病院よ」

杏子はどこまでも真面目な面持ちで言う。

「どこか痛むのか?」

「馬鹿ね。そんなわけないじゃない」
「あっ、今あたしのこと馬鹿って言ったな!」

ほむらは溜息を吐いて言った。

「いいから、黙って着いてきて」
「なあほむら、あたしとあんたはその……な……なか……チッ、共闘関係なワケだ。
 そのなんでもかんでも秘密にするクセ、どうにかならねーのかよ?」
「これはクセじゃなくて、必要だからそうしているだけ」
「そうかい」

杏子はふいと顔を背けて拗ねてしまう。
良くも悪くも直情的な子ね、とほむらは思った。
だからこそ感情を奧に押し込めるあの子と相性が良かったのかもしれない、とも。

ほむあんと聞いて飛んできますた

ほむらは言った。

「病院にひとつ、孵化しかかっているグリーフシードがあるのよ」
「なんでそんなことをほむらが知ってるんだ?」
「この目で見てきたからよ」
「そのグリーフシードが孵化するまでに、どれくらいかかりそうだった?」
「……はっきりとしたことは何も言えないわ。
 もしかしたら、もう孵化して結界を形成している段階かもしれない」

杏子は軽く下唇を噛み、目を細めて、

「あんたはそれを、放置してきたってのか?」

魔女の特性を知っている者なら誰でも、
病院に巣くった魔女の危険性に気づく。

魔法少女が希望を振りまく存在なら、魔女は絶望を振りまく存在だ。
不幸にも魔女に口付けられた人間は、
負の感情を増幅させ、死に至る道程を歩み始める。
しかし誰もが魔女の標的になるかと言えば、そうでもない。
元々心に隙間が空いている人間、生命力が衰えた人間が、魔女の哀れな餌食となる。
病院はそういう『弱った人間』が集まる場所だ。
魔女からしてみれば、餌が自ずから口に飛び込んできているようなものだろう。
放っておけば、犠牲者はどんどん増えていく。
しかし、ほむらは冷徹に言い放った。

「ええ、そうよ。
 杏子の実力を見極める、いい実験台になると思ったから、そのままにしておいたの」
「くっ……」

杏子は自分の矛盾に気づいていない。
目の前にいるわたしは、あなたが標榜する自分自身であるというのに、
そのわたしに対して、無言のうちに憤っているのはなぜ?

あなたはグリーフシードを手に入れられさえすれば、
それで満足なのではなかったかしら?
魔女によってどれほどの犠牲者が出ようとも、気にも留めないのではなかったかしら?
突き付けたい言葉はいくつもあったが、ほむらはあえて口にしなかった。
なにも意地悪をしているわけではない。
本当の気持ちは、自分で気づき、思い出さなければ意味がない。

「そのグリーフシードの大きさは?」
「なかなかの大きさだったわ」

ほむらは建前を用意する。

「生まれる魔女は、また新たなグリーフシードを落とすでしょうね」
「じゃあ、急ぐぞ。
 もたもたしてると、巴マミの奴に横取りされちまう」

駆けだした杏子を、ほむらは薄く笑んで追いかけた。

◇◆◇◆

白亜の建物は、西日を受けて朱色に染まっている。
駐輪場近くの壁に、ほむらと杏子が探していた刻印はあった。
常人には見えない、魔法少女の目にしか映らない、結界への入り口。
杏子はそっと指先で印をなぞり、

「一度開いた痕がある。
 もう誰かが結界に入り込んでるのかもしれない。
 ほむら、準備はいいかい?
 ……って、あんたにそれは愚問だったね」

杏子は手早く変身を済ませると、
長柄の切っ先で刻印を切り裂いた。
杏子が飛び込み、ほむらが後に続いた。
ただでさえグロテスクな光景に、強烈な既視感が相俟って、ひどい吐き気がほむらを襲った。

「さっきから辛そうだが、大丈夫かい?」
「心配無用よ」

こめかみに指先を当ててメンタル・エンチャントを施し、自律神経を復調する。
わたしの計算が正しければ、
今ごろ美樹さやかはキュウべえと共に先行し、
その後を巴マミと鹿目まどかの二人が追いかけているはず。
やがて迷路の先にふたつの人影を見つけ、ほむらは自分の推測に確証を得た。

「そこの二人、止まれっ!」

杏子が叫ぶ。

二人が振り返る。
突然の呼び声に、片方は怯えたように肩を竦ませ、
片方は毅然とした態度で言葉を返した。

「随分と懐かしい顔ね。佐倉杏子……だったかしら?
 それと、暁美ほむらさん……言ったはずよね、二度と会いたくないって」
「巴、マミ……クソッ、出遅れたか」

歯噛みする杏子の前に、ほむらが一歩進み出る。

「今回の獲物はわたしたちが狩る。あなたたちは手を引いて」
「そうもいかないわ。美樹さんとキュウべえを迎えに行かないと」
「その二人の安全は保証するわ」
「信用すると思って?」

マミは艶然と笑み、自慢の巻き髪に触れる。
彼女が右手を突き出した刹那、魔力で編まれたリボンが出現し、ほむらと杏子に襲いかかった。

為す術なく拘束されるほむら。
しかし杏子は巧みな槍捌きで、リボンを細切れにして見せた。

「あっさりやられてどうするんだよ。
 それとも、簡単に手の内は見せない主義なのか?」
「…………」

杏子はふうっと溜息を吐き、ほむらを縛るリボンも瞬く間に切り裂く。
もちろんほむらの学生服や素肌には、傷一つ残らない。
マミはあくまで余裕を崩さずに言った。

「あなたたち、いつから手を組んでいるの?
 一緒にいる理由は?
 大方、協力して邪魔なわたしを殺すためかしら?」

杏子は挑戦的に言う。

「もしそうだとしたら?」

空中でくるりと一回転。
着地したマミは変身を終え、無数のマスケット銃を周囲に展開する。

「もしそうだとしたら、全力で相手してあげるわ。
 あなたたちが束になってかかったところで勝ち目がないことは、
 佐倉杏子さん、あなたが一番よく分かっていることじゃないかしら?
 あなたに勝ったわたしでも、未だ記憶に新しいんだもの。
 負けたあなたが忘れているわけがないわよね?」

ご飯食べよう
残ってますように

キ モ チ イ イ

挑発はそれで充分だった。

「てめぇ……今のあたしが、昔のあたしのままだと思うなよ」

杏子は長柄を振り回し、突進の姿勢をとる。

「おい、ほむら。あんたは手を出さないでくれ。
 こいつはあたしの雪辱戦だ」

肩越しの言葉に、ほむらは応えない。
マミはマスケット銃構えて言った。

「悪いけれど、わたしたちは美樹さんとキュウべえを待たせているの」
「だから?怖じ気づいた言い訳にするつもりかい?」
「まさか。手加減なし、と言いたかったのよ」
「へっ、上等じゃねえか」

危なくなったら時間とめてやれよほむほむ・・・

>>56
杏子「そんなの、あたしがゆるさない」

一触即発の空気の中で、ほむらの目は、ただ一人の少女に向けられていた。
睨み合うマミと杏子を交互に見つめ、
どうにか事態を収拾させようと必死に考えを巡らせている、哀れな少女に。
鹿目まどか。
この四人の中で唯一魔法少女でない、場違いな存在。
ああ、わたしの大切な、たった一人の――。

「やめてよっ!」

彼女が悲鳴にも似た叫びを上げた瞬間、世界は停止した。
否、ほむらの能力によって停止させられた。
折しもそれは、佐倉杏子の長柄が対象を突き刺さんと空を裂き、
巴マミのライフルドマスケットが銃弾を発射したのと同時だった。

やっぱこうしてみると龍騎くせぇな

どうしてあなたたちは矛を交えるの。
どうして仲間同士の争いが無意味だと分からないの。

灰色の世界を、ほむらは悠々と歩いた。
長柄の先端をハイヒールで踏みつけ、
弾道の直線上に、左腕の盾を構える。
時間が動き出した瞬間、銃弾は盾に弾かれ、
軌道を逸らされた槍の切っ先は地面に埋まった。

「あ、あなた、いつの間に……?」
「どうやったんだ、今の……?」

茫然とする二人を余所に、ほむらは盾の内側から拳銃を取り出し、

「どういうつもりだ、てめぇっ!」

その銃口を杏子に向けた。
イタリア製自動拳銃ベレッタM92。
装弾数16発。口径は9mmパラベラム。
銃弾をエンチャントしたところで魔女相手の殺傷能力はマミのマスケット銃に大きく劣るが、
人間相手の携帯武器としてこれほど適切なものはない。

「わたしは言ったはずよ。
 わたしは冷静な者の味方で、愚か者の敵」
「最初に挑発してきたのはあっちだぞ。
 なのにあたしだけ悪者かよ?」
「巴マミの反応は予想できていたわ。
 話し合いをするためにも、あなたから矛を収めて」

このほむほむは士郎やない真司や

「クソッ」

悪態をつきながらも、ソウルジェムに槍を格納する杏子。

「これでいいんだろ?」
「ええ」
「あらあら、もう仲違い?
 あまり相性の良いコンビじゃなかったみたいね」
「マミさんっ!」

まどかがマミの元に駆け寄り、マスケット銃の銃身を下ろす。

「鹿目さん……」

後輩の下瞼に浮かんだ涙を見て、マミも毒気を抜かれたようだ。
ほむらは言った。

「今は魔法少女同士で争っている場合じゃないわ」
「そうね……あなたの言うとおりだわ。
 佐倉さん、暁美さん、今は魔女退治に集中しましょう?
 話し合うも、戦いの結着をつけるも、この件が終わってからでも遅くはないはずよ」

まどっちまどまど

ただし、とマミは付け加える。

「あなたたちは、わたしの戦いを黙って見ていてもらえるかしら?
 信用できていない誰かに背中を預けるのは、正直言って不安なの」
「その気持ちは分からないでもないわ。
 けれど、今度の魔女は、これまでの奴らとはわけが違う。
 あなた一人じゃ勝てない」
「余計なお世話よ。
 わたしに倒せなかった魔女はいないわ」

行きすぎた自信は慢心となり、慢心は命取りになる。

「あなた、死ぬわよ」

ほむらの断定的な口調に、マミは翠眉を顰めた。
一抹の不安が、マミの胸中を過ぎる。

マミ「蟹ポジ言うな」

「巴マミ、わたしは……」
「もういいじゃねえか」

なおも説得しようとしたほむらを、今度は杏子が遮った。
そしてマミに向き直ると、

「この結界に入ったのは、あんたが先だ。
 今度の魔女を倒す権利は、あんたにくれてやるよ」
「勘違いしないでもらいたいわね。
 わたしはグリーフシードを独り占めするために、
 あなたたちの協力を拒んでいるわけじゃない」
「口では何とでも言えるさ」
「ひとつだけ確かなことがあるわ。
 わたしは……あなたとは違う種類の魔法少女よ」
「だろうね」

言葉の応酬を終えると、マミはまどかの手を引いて踵を返した。

ちょい風呂
このほむほむは出来る子

マミまどとな

風呂行ってら

QB「まどかと契約できないのも暁美ほむらって奴の仕業なんだ」

「ほむらちゃん……止めてくれて、ありがとう」

去り際のまどかの一言に、ほむらは胸が締め付けられるような思いがした。

「なあ、そろそろその物騒なモンを下ろしてくれよ」

ほむらが素直にベレッタを仕舞うと、杏子は両手を頭の後ろで組み、

「あんた、さっきのは一体どうやったんだ?
 一瞬であたしと巴マミの間に現れてさ……。人間業じゃねえよ」
「忘れたの?わたしたちは魔法少女だってこと」
「そういう意味で言ったんじゃない」
「すぐに種明かししてあげる。巴マミらの後を追うわよ」

ホムスピナー\クロックアップ/

駆けだしたほむらに、杏子は白けた調子で言った。

「待てよ。あんた、本気であいつの援護をするつもりなのか?」

ほむらは半身を翻して首肯する。

「ええ、そのつもりよ」
「こう言うとあたしがあいつを認めてるみたいでイヤだけどさ、
 『余計なお世話』っていう、あいつの言葉は強がりじゃない。
 魔女を狩ることにかけては、あいつはこの界隈じゃ一、二を争う魔法少女だよ」

一はもちろんこのあたしだけどな、と無邪気に笑う杏子。
ほむらは物わかりの悪い生徒を諭す教師のような、低い声で尋ねた。

「杏子は……魔女との戦いで生き残る秘訣を知ってる?」
「な、なんだよいきなり」
「面倒だから答えを言ってしまうとね、そんなものは"ない"のよ。
 どんな魔法少女も、死ぬときには死ぬ。
 それまで培った経験も、磨いた戦闘技術も、何の役にも立たないわ」

黒髪の魔法少女が語る言葉の重みに、杏子はごくりと固唾を呑む。

「さっきわたしが言ったことは本当よ。
 今度の魔女と戦えば、巴マミは死ぬ」

このほむほむはいいodnですね

◇◆◇◆

結界の中心部に迫ったあたりで、巴マミはキュウべえのテレパシーをキャッチした。

「マミっ!
 グリーフシードが動き始めた……孵化が始まる……急いでっ!」
「オッケー、分かったわ。今日という今日は速攻で片付けるわよ!」

一息に変身を済ませ、可愛い未来の魔法少女を一瞥する。
さあ、はやく魔女とその手下どもを倒して、
みんなで美味しいご馳走と、ケーキを食べましょう。
マミは己を鼓舞し、お菓子の世界に降り立った。
空中に具現化させた六丁、胸元から具現化した一丁、
都合七丁のライフルドマスケットで、並み居る魔女の手下たちと対峙する。
あなたたちには、これだけで充分。

マミ「馬鹿な・・・私は・・・絶対生き延びて」

飛びかかってきた手下の一匹を真正面から打ち抜き、
返す手で後方からの奇襲を叩き潰す。
蹴り上げたマスケット銃を両の手に掴み、左右からの同時攻撃を打ち払う。
即座に正面と後背に照準を定め、勘とセンスでトリガーを引く。
用済みになった銃を投擲し、新たに二本のマスケット銃を蹴り上げ、
慣性はそのままに手下の一匹を蹴り飛ばす。
宙を舞うマスケット銃を両手に回転、至近に迫った二匹を振り払い、
両脇から飛来した手下を、余裕を持って迎撃する。
古い銃を手下にぶつける形で蹴り飛ばし、
最後に残った二丁を蹴り上げ、自分の体を抱き締めるようにして、バックショットを放つ。

銃弾は正確に手下を打ち抜き、
ただの一射も外れることがなかった。

マミは戦いながら、喜びに震えていた。

体が軽い。
こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて。
もう――なにも怖くない。

これはマミる

表現が上手いな

ネルベント

『マミさんはもう、ひとりぼっちなんかじゃないです』

と、耳許で温かい声がリフレインする。
そうよ。わたしは、ひとりぼっちじゃない。

『マミさんと会って、誰かを助けるために戦ってるのを見せてもらって……。
 同じことが、わたしにもできるかもしれないって言われて……。
 何よりも嬉しかったのは、そのことで……。
 だからわたし、魔法少女になれたら、それで願い事は叶っちゃうんです。
 こんなわたしでも、誰かの役に立てるんだって、
 胸を張って生きていけたら……それが一番の夢だから』
『大変だよ?
 怪我もするし、恋したり遊んだりしている暇もなくなっちゃうよ?』
『でも、それでも頑張ってるマミさんに、わたし、憧れてるんです!』

ああ……。
誰かに憧れられることが、誰かに認めてもらうことが、
こんなに気持ちいいことだったなんて。
舞い戻ったマミを、尊敬と憧憬の眼差しで迎えるまどか。
お菓子の世界を駆けながら、マミはこれからの未来に思いを馳せる。

10スレ以内で落とすための糞スレを立てたはずなのになんで伸びてんの?

>>102
杏子「てめぇ!どの面下げて戻ってきやがったッ!!!」

ともすれば我を忘れてしまいそうな幸福感の中で、
しかし暁美ほむらの死の予告が、静かに警鐘を鳴らしていた。

最後の障壁をぶち破り、
マミとまどかはついに結界の最深部に辿り着いた。
巨大なドーナツの影に隠れるようにしていたさやかとキュウべえを見つけ、駆け寄る。

「お待たせ」
「はぁー、間に合ったぁ」

さやかは安堵の息を吐く。
が、マミたちの到着と時を同じくして、キュウべえは魔女の出現を感知した。

「気を付けて!出てくるよ!」

白い液体が降り注ぎ、結界内の全景が変化し始める。
やがて中央に脚の長い丸テーブルと一対の椅子が現れ、
その片方に腰掛けたのは、果たして、まるで魔女らしくない魔女だった。
ピンクを基調とした体に、黒地に赤い斑点の首巻き、紅のマントを纏い、
円らな瞳と橙色のほっぺは、人の赤ちゃんのそれを連想させる。
その外見には可愛らしさすら覚えるが――しかし、マミは容赦しなかった。

「せっかくのところ悪いけど」

マスケット銃の銃床で椅子の脚を砕き、

「いっきに決めさせて!」

落下してきた魔女――シャルロッテ――を打ち上げる。
壁に叩きつけられたシャルロッテには、自由落下さえ許されなかった。
ライフルドマスケットの掃射を一身に浴び、
ようやく地面に落ちたところに、マミは無慈悲な零距離射撃を叩き込む。
弾丸は当然のように貫通し、魔力によって編まれた繊維は、
シャルロッテの矮躯を高く高く持ち上げた。
その光景はまるで、断頭台に上げられた罪人のよう。

「いやったぁー!」

快哉を叫ぶさやかとまどか。
うふふ、あんなにはしゃいじゃって……あんまり早く終わらせちゃうのも考え物ね。
今回の魔女は特別弱かったけど、普段はそうもいかないんだから。
……ううん、きっと鹿目さんたちは分かっていてくれているはず。
魔女退治は、華やかな見た目ほど、簡単なお仕事じゃないってことに。

マミは心中で独りごち、全てを終わらせることを決意する。
マスケット銃は、あくまで彼女のサブウェポンに過ぎない。
銃口をシャルロッテに向け、魔力を銃身に集中させる。
イメージは『破壊』。
銃身は大砲クラスに進化し、そこからさらに、大艦巨砲クラスに進化する。
そして、

「ティロ・フィナーレ!!」

轟音と共に発射された巨大な弾丸は、易々とシャルロッテの胴体に大穴を開けた。
弾道を描くように伸びた極厚のリボンが、シャルロッテの体を締め上げる。
小柄な魔女を撃滅するのに、大袈裟な炸薬なんて必要ない。
その思い込みが、マミの敗着だった。

シャルロッテの小さな口から、蛇のような形をした巨体が飛び出してくる。
ここで質量保存の法則は通用しない。
結界の中は魔女の世界。
人の常識は非常識と化す。
そしてその巨体こそが、シャルロッテの真の姿だった。
体表の模様は前身の首巻きのそれとよく似ているが、
表情は全身のそれと似てもつかない。
狂気を宿したシャルロッテの目は、一瞬、それを見た者の行動の自由を奪う。

研ぎ澄まされた歯列の白が、
濡れた口腔と舌の深い赤色が、
今、マミの視界いっぱいに広がった。

にしてもこの空間、世界中のありとあらゆるお菓子が揃ってるように見えて、

「何か欠けてるような気がするんだよなぁ……」

違和感を覚えつつ、杏子はほむらの後ろ髪を追う。
反則技――大砲による壁抜き――を使えるマミと違って、
杏子たちは馬鹿正直に迷路を攻略する必要があった。
いくら槍で壁を切り裂いても、壁は淡い傷跡を表面に残して、すぐに修復されてしまう。

『あんたもお手上げかい?』

とほむらに問うと、

『出来ないことはないけれど、回数に限りがあるし、
 魔女戦に備えて、攻撃手段は温存したい』

となんとも微妙な答えが返ってきたのだった。

迷路を探索すること数分。
最深部に辿り着いた杏子とほむらは、
開けた視界の先に、ドーナツの影に隠れている三人と一匹の姿を発見した。
もう魔女は倒されちまったのか?
いや、結界が安定しているところを見るに、
まだ魔女は傷一つ負っていない状態のはずだ……。
思案していた杏子の左手が、ふいに、ほむらの右手に掴まれる。

「ひゃんっ」
「なに大きな声出してるの?
 静かにして。今はまだ、あの子たちには気づかれたくない」
「せっかく追いついたのに、黙って見守るのか?
 ほむらの考えてるコトはよく分からねー……じゃなくて!
 なんでさも当然のように、あたしの手を握ってんだよ、あんたは!」

ほむらは眉一つ動かさずに、

「必要なことなの。不快なら謝るけど、今は我慢して」
「ふ、不快ってワケじゃねーけどよぉー……」

久方ぶりの人肌の温もりに、全身がムズムズする。

杏子が悶えているあいだに、結界に動きがあった。
ついに魔女――シャルロッテ――が姿を現したのだ。
ぬいぐるみみたいな外見の魔女だった。

「こりゃ下の下だな。ルーキー相手に善戦するのが関の山だ」

と早々に評価を下した杏子に、ほむらは小さく首を横に振る。

「なんでだ?……アレを見てみなよ」

マミはマスケット銃から巨砲の連携で、瞬く間にシャルロッテを無力化した。
ベテランの魔法少女を相手に、生まれたての魔女がまともに抗えるはずがなかったのだ。

「ほうら、やっぱりあたしたちの助けなんて、」

全てが停止した灰色の世界に、ほむらの声が響く。

「必要だったでしょう?」

「信じられねえ。どうなってんだよ、おい」

杏子の言葉は、二重の意味を含んでいた。
ひとつは、ついさっきまで完全にやられていた魔女の体から、
無傷のどでかい本体が飛び出してきたことについて。
そしてもうひとつは……。
まるで蝋の霧を吹き付けられて、一瞬のうちに固められたみたいに、
自分とほむら以外のありとあらゆるものが静止していることについて。
思わず振りほどこうとした手が、今度は痛いほどに強く握りなおしてくる。

「あんた、こんなときにいつまであたしの手を握ってるつもりだ?」
「離してはダメ。わたしから手を離したら、あなたの時間も止まってしまう」

杏子は灰色の世界を見渡して言った。

「コイツは……ほむらの魔法なのか?」

ほむらは視線を左腕の盾――正確には特殊な腕時計――に注ぎ、

「ええ。わたしの能力は"時間停止"。
 今この瞬間、息をして動いているのは、わたしとあなたの二人だけよ」

「ははっ、こりゃ傑作だ。
 時間を止めるなんて、神様の御業じゃんか」
「わたしの能力について、詳しく説明している暇はないわ。
 停止させられている時間にも限度があるの。今は……」
「巴マミの救出を最優先、だろ。分かってるよ」

杏子はほむらと手を繋いだまま、マミの元へと駆け寄る。
それはまさに、絶体絶命の一瞬だった。
恐怖に竦んだ肩。
いっぱいに見開かれた双眸。
不思議と、いい気味だ、とは思わなかった。
変な話だよな。
コイツは新人時代のあたしを馬鹿にして、
絶好の餌場から遠ざけた張本人だってのにさ。
ほむらは淡々と言った。

「このまま見殺しにする、という選択肢もあるわ。
 あなたは言っていたわよね。
 もしもこの先、この街で魔女を狩るなら、
 見境なしに魔女を狩る巴マミの存在は邪魔だって」

「実に魅力的な提案だね」

もしも今ここでマミを見殺しにし、
後からあたかも初めて訪れたかのように振る舞い魔女を倒せば、
あたしたちは、グリーフシードと、
この街の魔女を独占する権利を一挙に得ることができるって寸法だ。
あのマミの子分二人にも、キュウべえにも、あたしたちのしたことを知る術なんかない。
ましてや非難なんて、できるわけがない。
逆に『助けてくれてありがとう』と感謝されるだろう。
非難できるとすれば、それはあたしの"良心"だけさ。
答えはハナから決まってる。

「ふざけたこと言ってんじゃねえ。
 救える命が目の前にあるんだぞ。
 あたしは魔法少女である前に、一人の人間なんだ!」

ほむらはクスリと笑んで言った。

「なら、巴マミと魔女の間に、防護壁を編むのを手伝って。
 今わたしが巴マミの手を握ったところで、彼女の時間が動き出すわけじゃない」
「あんた……あたしを試したのか?」
「ええ、そうよ。ごめんなさい」

まったく悪びれたふうのないほむら。
杏子は怒りを通り越して、そのまた呆れも通り越して、やっぱり怒りに落ち着いた。
よくもあたしをハメやがって。

「覚悟しとけよ、ほむら。
 ココを出たら、たっぷりお菓子を奢らせてやるからな!」

◇◆◇◆

瞬きを忘れた瞳に、赤と黒の格子模様が映り込む。
鈍く重い音と、ガラスが砕け散るような音がほぼ同時に響き、
とてつもなく大きな振動が、体を上下に揺さぶった。

「ちぇっ、やっぱ一撃しか持たなかったか」
「軌道を逸らせただけでも重畳よ」

巴マミは忘我の状態で、自分の傍らに誰かが立っていることに気づく。
流れるようなストレートの黒髪と、後ろでひとつに結わえられた鮮やかな赤髪。
この二人に命を救われたのだ、と気づくまでに、そう時間はかからなかった。
ついさっきまで目の前にいたシャルロッテは、
今では赤く腫れ上がった鼻先を舌でぺろぺろと舐めながら、激痛にのたうちまわっている。

マミさん生存ルート
残ってますようにと祈りながら寝る

「それじゃあ、初のチームバトルと洒落込みますかね」

杏子は長柄を肩にかけ、
身の丈の十倍はあろうかというシャルロッテを見上げた。
ほむらは肩越しにこちらを伺い、

「立てる?」

戦える?――と訊かなかったのは、
きっとわたしが戦意を喪失していることに気づいているからだ。
目と鼻の先に迫った死の感触を、払拭することができなかった。
手足はどうしようもなく震えている。
これでは後じさるのがやっとで、まともにマスケット銃の照準をつけることすらできない。
……わたしは最早、戦力に数えられていない。
無力感に打ち拉がれるマミに、ほむらは言った。

「あなたは下がって、まどかたちを守って。
 魔女にはわたしたちが対処する」

「優しいのね、暁美さんは」

役立たず、と叱責されて当然のわたしを、折らないでいてくれる。

「鹿目さんたちのことは、わたしに任せて。
 彼女たちには指一本触れさせないわ」

マミはマスケット銃を地面について、ゆっくりと立ち上がった。
魔法の力には頼らない。動いて、わたしの体。
奥歯を噛み締め、戦慄く両足を奮い立たせる。
後退したマミの元へ、まどかとさやか、キュウべえが走り寄ってくる。

「マミさんっ!」
「大丈夫ですか!?」
「怪我はないかい、マミ?」

みんな、わたしのことを本気で心配してくれていたみたい。
キュウべえは相変わらずの無表情だけどね。
マミは精一杯の笑顔を浮かべて、

「大丈夫よ。ちょっと油断しちゃっただけだから。
 一瞬で終わらせる、なんて恥ずかしいこと言っちゃったなあ。
 二人には、カッコ悪いとこ見せちゃったね――っ」

言葉を遮るように、まどかはマミを抱き締める。

頬を伝う涙が、まどかの制服を濡らした。

「……っ……ぅ……」

声を押し殺して泣いた。
もしもまどかがマミよりも年上で、経験の長い魔法少女だったなら、
マミは小さな女の子のように慟哭していただろう。
魔女との戦いの中で、死を覚悟したことは何度もあった。
孤独と死への恐怖は、とうの昔に克服したと思っていた。
なのに……ああ……わたしは油断していた。
仲間を得られる喜びに舞い上がって、見失ってはいけないものを見失っていた。

「わたし……やっぱり、ダメな子ね」
「そんなことないです。マミさんはダメな子なんかじゃありません」
「そうだよ。あんな魔女、反則だって」

鹿目さん、美樹さん……。

二人の眼差しに、魔女に敗北した魔法少女への、
蔑みや失望の色は見て取れない。
こんなわたしに、まだ、憧れを持ってくれている。
その期待に応えたい気持ちを、今は封じ込める。
きっと今のわたしが参戦しても、彼女たちの足手まといにしかならない。

「また、戦いに戻るんですか……?」
「ううん。わたしの役目は、あなたちを守ること。
 悔しいけど、あの魔女の相手は、あの二人に任せることにしたの」

情に絆されてはいけないことは、痛いほど思い知った。
もう、決して驕らない。
わたしは自分に出来ることをする。
マミは両手を突き出し、幅の狭い、しかし強靱なリボンを具現化した。
格子状に編まれたドームの外側で、
今、地面をのたうっていたシャルロッテが、ゆっくりと頭をもたげた。

◇◆◇◆

ほむらの頭上から、杏子の檄が飛ぶ。

「さっきからなにボーッと突っ立ってんだよ!
 チームバトルって意気込んだあたしが馬鹿みたいじゃねえか!」
「忘れたの、杏子。
 これはあなたの能力を見極める、模擬戦のようなものよ」
「ふっざけんなっ。
 あーもー、こいつ、図体のわりにはすばしっこいからムカツク!」

軽口を叩く余裕があるなら、援護の必要はないだろう。
むしろ杏子が窮地に陥ることを、密かに望んでいるほむらだった。
杏子には、ワルプルギスの夜が来るまでに、
"時間停止"による支援に慣れてもらう必要がある。

「へえ、見りゃ可愛い顔してるじゃねえか」

杏子は軽やかな身のこなしで宙を舞い、
シャルロットの頭上から神速の突きを放つ。

「コイツで終わりだっ!……なっ」

ギンッ、と甲高い音が鳴り、
果たして槍の先端は、シャルロッテの前歯にがっちりと挟み込まれていた。

「やべ」

シャルロッテはにんまりと笑って、顎の力を緩める。
杏子の体は重力に従って、
一直線にシャルロッテの口蓋へと落ちていき――。
そこから少し離れたテーブルの上に、ぺたんと座り込んでいた。
杏子は傍らのほむらを見上げて、何が起こったのか理解する。

「助けてくれたのか。サンキューな」
「あなたが窮地に陥ったときは、わたしがカバーする。
 あなたはもっと大胆に立ち回ってもいい」
「要するに、ガンガン攻めろってことだな」
「ただし、慎重さを失うのは禁物よ」
「りょーかい」

>>194
「へえ、見りゃ可愛い顔してるじゃねえか」 ×
「へえ、よく見りゃ可愛い顔してるじゃねえか」 ○


それから何度か"時間停止"による援護を行うと、
杏子はそのタイミングと、一瞬にして立ち位置が変化することに慣れてきたようだった。
ほむらは"時間停止"を発動し、両足にフィジカル・エンチャントを施した。
十数メートルの高さまで一気に跳躍し、
またしてもシャルロッテに食べられかけている杏子の襟首を掴んで、
近場のテーブルに着地する。
シャルロッテの足許にM26破砕手榴弾を投げ込み、"時間停止"――解除。

「おっ、悪いな」

素早く戦線復帰しようとした杏子の腕を、ほむらが掴む。

「待って。もう杏子は十分、わたしのサポートがどういったものか理解できたはずよ。
 そろそろ、終わりにして。面倒なら、代わりにわたしが終わらせてもいいわ」
「参ったね。ほむらにはバレてたか」
「表情に出ていたわ。
 それにわたしは、あなたの本気がどんなものか、最初から分かっている」
「ふうん、誰にも見せたことないんだけどね……。
 ほむらは"時間停止"の他に、"千里眼"や"過去視"みたいな能力も持ってるのかよ?」

「秘密よ。今はね」
「またそれかよ。
 ……ま、気長にあんたが話してくれるのを待つとするか」

お喋りに夢中の魔法少女たち。
シャルロッテはその背後から、そろりそろりと顔を近づけ、

「―――!?」

足許で起こった突然の爆発に、
周囲のお菓子を巻き込みながら倒れ伏す。
ほむらは振り返りもせずに言った。

「それで、どっちがやるの?」
「なあ……最後くらいは、一緒に片をつけないか?」

ニッと笑う杏子。それも悪くないわね、とほむらは笑い返す。
柄じゃないことは分かっている。
これは余興よ、と彼女は自分に言い訳し、左腕の巨大な腕時計に魔力を流し込んだ。

"時間停止"が発動するまでのタイムラグに、
杏子はシャルロッテの上空で、長柄を振りかざしていた。
一閃。
これまでの突きが神速なら、
あの円弧が描かれた速度を、なんと形容すればいいのだろう。
発生した真空の刃はシャルロッテの巨体を、
まるで溶けたバターに入れられたナイフのように、あっさりと両断した。

ほむらはシャルロッテの断末魔ごと凍結された世界で、
結界の中央、マミに砕かれなかったほうの椅子に座る存在に目を向けた。
この結界には二重の罠がある。
ひとつは、シャルロッテの第一形態が、魔法少女の油断を誘う仮の姿であること。
そしてもうひとつは、シャルロッテの第二形態を倒したところで、
その力の源を絶たない限り、何度でも復活を遂げること。
ほむらは静かにベレッタを構え、繰り返しトリガーを引いた。
薬室の一発、弾倉の十五発、都合十六発の9mmパラベラム弾が発射され、中空で静止する。

"時間停止"を解除した瞬間、
自動拳銃は散弾銃として機能し、対象はボロ切れと化した。
これまでに何度、この魔女を殺してきたことだろう。
これまでに何度、この魔女の元の少女に黙祷を捧げてきたことだろう。

「なーんか、妙な魔女だったな」

杏子は砂糖とクリームに塗れた黒い結晶を拾い上げると、
ああ、と小さく息を吐いた。

「やっと分かった」
「何が分かったの?」
「や、ずっと気になってたんだ。この世界に足りないものが何なのか。
 ……チーズだよ。この世界には、どこにもチーズが見当たらないんだ」

早めの昼飯と朝風呂
残ってますように

作者、むかしポケモンのSS書いてたりしたか?文体が似てる気がする

◇◆◇◆

闇夜の帳に覆われた道に、五人と一匹分の足音が響く。
暁美ほむらを先頭にして、一行はほむらの自宅へと向かっていた。

「悪いね、ほむら。お言葉に甘えさせてもらってさ」
「いくらなんでも買いすぎよ。あなた、それ全部食べられるんでしょうね?」
「当然。こんな量じゃ、間食にもなりゃしないっての」
「信じられない胃袋ね」
「それ、誉め言葉か?」
「……もちろん違うわ」

さやかは先を歩く赤毛の少女――確か佐倉杏子とかいった――を眺める。
パンパンに膨れたコンビニの買い物袋を振り回し、見るからに上機嫌の彼女は、
なぜだろう……初めて会った気がしなかった。
胸のモヤモヤから気をそらしたくて、さやかは隣の親友に声をかける。

「何企んでるんだろうね、転校生のやつ」
「さやかちゃん、そんな言い方ってないよ。
 ほむらちゃんとあの子は、マミさんを助けてくれたんだよ?」
「それは分かってるんだけどさあ……」

まどかは純粋すぎる、とさやかは思う。
あるいは優しすぎる、とも。
全幅の信頼を寄せるのは、相手のことを、よく知ってからにするべきだ。
その点あの転校生は、肝心なことは何も教えようとしない。
まどかは『助けてくれた』と言っているけど、本当のところはどうだか。
魔女を倒してグリーフシードを手に入れるついでだったんじゃないの、と勘ぐってしまうさやかだった。

「あんたらも食うかい?」
「わっ」

目の前に突然、棒状の何かが突き出される。

「おいおい、そんなに驚くこたあないだろ。
 ただの『うんまい棒』だよ。まさか知らないとは言わないよね?」
「そ、そりゃあ知ってるけど」

小さな頃に食べた覚えがある。

「あたしも食い意地張ってると思われるのはイヤだからさ……やるよ」
「要らない」
「つれねーこと言うなよ」

明太子味だ、美味いぞー、としつこく勧めてくる杏子。
頭痛がする。初対面のくせに、馴れ馴れしくしないでよ。

「要らないって言ってるじゃんっ!」

「あっ……」

宙を舞ううんまい棒。
くしゃっと音を立ててアスファルトに落ちたそれを、杏子はそっと拾いあげる。
中身はきっと、粉々になっていることだろう。
杏子はおもむろにさやかに近づくと、ぐいと胸ぐらを掴み上げ、

「……っ」

すぐにその手を離した。
一瞬合った杏子の目は、何かに堪えるように眇められていた。

「無理に押しつけて悪かったな」
「あ、あたしの方こそ、ごめん……」
「まだ食える。味は一緒さ」

杏子はくるりと背を向け、転校生と一緒に歩き出す。

「さやかちゃん、いったいどうしたの?」
「美樹さん、大丈夫?」

まどかやマミさんに、合わせる顔がない。
どうしてあんなことをしちゃったんだろう……。
それにあの目。
あいつも何か、あたしに思うところがあるのだろうか。

「マミさんは、あの……佐倉杏子とは知り合いなんですか?」
「そうね、今では命の恩人だけど……」

マミさんは冗談めかして微笑み、

「……昔はちょっと……ううん、かなりの問題児だったわね。
 そこら辺は、彼女と契約したキュウべえに訊くのが手っ取り早いんじゃないかしら」

水を向けられたキュウべえは、可愛らしく耳を揺らして答えた。

「魔法少女になりたての頃は、精力的に魔女を探して倒していたみたいだよ。
 でもある時を境に、彼女の中で、手段と目的が逆になってしまった」
「どういうこと?」
「手段とは魔法、目的とは魔女を倒すことだ。
 それが逆転したということはつまり、
 彼女は魔法を使うために、魔女を倒すようになってしまった」

>>226
彼女は魔法を使うために、魔女を倒すようになってしまった」 ×
魔法を使うために、魔女を倒すようになってしまったということさ」 ○


魔法は、使い方によっては犯罪にも利用できる。
たとえば極端な話、杏子が気に入らない一般人に対して、
ソウルジェムから実体化した槍で怪我をさせたとしても、凶器は永遠に見つからないままだ。

「見つけた魔女を、あえて見逃すこともあった。
 その魔女に人を襲わせて、グリーフシードを孕ませるためにね」
「………許せない」

さやかは杏子の背中を睨み付けた。
あいつは、あたしの憧れるマミさんとは、対極に位置する魔法少女だ。
怒れるさやかの肩に、マミが優しく手を乗せる。

「わたしも美樹さんと同じことを思ったわ。
 だからわたしの活動範囲に、あの子が入り込んできたときに、少し懲らしめてあげたの」
「あいつは今も、そんなやり方を続けてるんですか?」
「さあ、それは本人に訊いてみなければ分からないわ。
 わたし自身、彼女と会うのは、その時以来だから……でも……」

語尾を曖昧にして、マミは杏子の背中を見つめた。
ちょうど、粉状のうんまい棒を、口の中に流し込んでいるところだった。

◇◆◇◆

清冽な白の空間に、原色のスツールがいくつも並んでいる。
俯瞰して見れば、それは時計を表しているようだった。
壁にはコルクボードに貼られたメモ書きのように、魔女と思しき絵が何枚も乱雑に飾られている。
天井に設えられた巨大な振り子時計は、ゆったりと時を刻んでいた。
ここは暁美ほむらの私室。

「暁美さん、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかしら」

手近なスツールに腰を下ろし、マミは問いかけた。

「鹿目さんを魔法少女にさせたくない理由と、
 暁美さんと佐倉さんが組んでいる理由について」

「今から約二週間後に、ワルプルギスの夜が来ることを、あなたは知っているかしら?」
「質問に質問で返すのは反則じゃない?
 ……知っているわ。キュウべえから聞いたもの」

まどかが口を挟んだ。

「あの、ワルプルギスの夜って?」
「魔女の中でも、特に強力な魔女をそう呼んでいるの。
 その力は結界の外にも影響を及ぼして、
 一般人には地震や、洪水といったような、天災として認知されるわ」

ほむらの説明に、まどかとさやかの顔が蒼白になる。

『わたしがいるんだから大丈夫よ。この街はわたしが守るわ』

そうやって胸を叩けたら、どんなにいいだろう、とマミは思った。
シャルロッテの鋭利な歯が、彼女の脳裏にフラッシュバックする。
わたしはただの魔女相手に遅れをとった。
ワルプルギスの夜をやっつけられると嘯いたところで、もはや誰も信じてくれないだろう。

それが悲しくて、悔しかった。
でも、落ちこんではいられない。
たとえ勝ち目がなくても、人に害なす魔女を倒すのが、魔法少女の役割。
マミが密かに意を決したとき、杏子が言った。

「あたしたちは、そのワルプルギスの夜を倒すために組んでるのさ」
「あ、あんたが?」
「何だよ。なんか文句あるのかい、美樹さやか?」

うんまい棒の一件が糸を引いているのか、
微妙な空気が二人の間に漂う。

「文句っていうか……なんていうか……信じられないだけ。
 あんたは、魔女を倒すために魔法少女をやってるんじゃなくて、
 魔法を好き勝手に使うために魔法少女をやってるんだよね?」

杏子は唇についた葛餡をぺろりと舐め取り、

「誰に聞いたのかは知らないが、……その通りさ。
 あたしは自分のためだけに魔法を使う。
 そこにいる巴マミとは違う種類の魔法少女だよ」

「じゃあ、なおのこと不思議ね。
 ワルプルギスの夜との戦いは、ハイリスクローリターン。
 あなたの考え方からすれば、とても挑むに値しない魔女じゃない?」

マミは尋ねながら、佐倉杏子が改心していることを期待していた。
が、杏子は右手をひらひらと振って、

「理由ならちゃんとある。
 ひとつは、ワルプルギスの夜を放置すれば、
 大災害で普通の魔女の餌場、延いては魔法少女の狩り場まで無くなっちまうからだよ。
 そしてもうひとつは、」

チラ、と黒髪の魔法少女に視線を投げて、

「ほむらに、ワルプルギスの夜を倒したあとは、今のポジションを譲ると言われたからさ。
 なあ巴マミ、あんたは暗黙の内に、ほむらが同じ縄張りで狩りをすることを認めてるんだろ?
 なら、そこにあたしが入れ替わっても問題ないよな?」

「そう。そういうことだったのね」

失望を禁じ得ない。

「勝手にしなさい」

という言葉の他に、マミは投げかけるべき言葉を持たなかった。
もしもその時、マミが杏子を真正面に座っていたら、
杏子のの三日月型の口以外の表情を、見て取ることができただろう。

「ワルプルギスの夜を倒したあと、暁美さんはどうするつもりなの?」
「この街を去るわ」
「ほむらちゃん……?」

誰よりも小さなまどかの声は、その実、誰よりもよく通った。

「街を去るって、わたしたちの前からいなくなっちゃうってこと?」

「ええ」と頷くほむら。
「そんな……どうして?
 まだこっちに来たばっかりなのに……せっかく、ほむらちゃんと、」

遮るようにほむらは言った。

「お父さんの仕事の都合よ。
 転校は昔から何度も経験してきたわ。"知り合い"とのお別れもね」

友達ではなく、知り合い。
まどかはその言葉が聞こえなかったかのように、ほむらの嘘を糾弾する。

「何度も転校してきたなんて、そんなわけないよ。
 だってほむらちゃんは、生まれつき心臓が弱くて、」
「……ッ。いったい何を言っているの?
 わたしの心臓はどこも悪くない。
 体育の時間、あなたはわたしが運動しているところを見ていたでしょう?」
「……う、うん」

「とにかく、この街を去ることは、既に決まっていることなの。
 そのことで、あなたにとやかく言われる筋合いはないわ……」

涙を堪えるように、俯くまどか。
二人の遣り取りを見ながら、マミは思う。
ねえ暁美さん、あなたの拒絶するような物言いは、あなたなりの演技なのよね?
だってあなた、鹿目さんを見るときだけは、目の奧の光が和らいでいるもの。

「話を元に戻しましょう」

とほむらはマミに向き直って言った。

「わたしは、あなたに協力を申し入れに来た」
「それはつまり、暁美さん、杏子さん、わたしの三人で、
 対ワルプルギスの夜の共同戦線を張る、ということかしら?」

「ええ、そうよ。
 ワルプルギスの夜を倒すという一点では、わたしたち三人の利害は一致している。
 断る理由はないと思うけど」
「正直なところ、願ってもない提案よ。
 わたし一人じゃ、とてもワルプルギスの夜には勝てなかったでしょうから。
 けど、あなたの仲間の佐倉さんは、わたしと協力することに納得しているのかしら?」
「ここら一帯は元々あんたのシマだ。
 こうなるってことは、薄々勘付いてたさ」

でも、と杏子は串の先端をピッとマミに向けて、

「あんたがあたしのことを信用してないように、
 あたしもあんたのことは信用してない。
 このチームはあくまで一時的なもんだ。
 仲良しこよしのお仲間ごっこはご免だからな」
「気が合うわね、佐倉さん……元よりわたしも、そのつもりよ」

マミと杏子の視線がぶつかり合う場所に、割って入る者がいた。
ほむらは黒髪を靡かせて、朗々と響く声で言った。

「あなたたちが啀み合うのは結構よ。
 魔女戦で連携を取れとも言わないし、
 同士討ちしない限りは、好きなだけスタンドプレーに走っても構わない。
 けれど、わたしの能力の性質上、わたしのことは信頼してもらわなければ困る」

杏子が取り繕うように言った。

「あたしは……あんたのことは嫌いじゃないよ。
 そのサバサバした性格は、あたしと結構合ってる気がするし、
 さっきの魔女戦でだって、あたしは上手いことあんたのサポートを受けられてたじゃないか」
「それは本当の意味での信頼とは違うわ。
 それにわたしの本当のサポートは、あんなディフェンス寄りのものじゃない。
 わたしはあなたたちに命を預けるし、あなたたちにもわたしに命を預けてもらう」

項垂れる杏子。マミは言った。

「でも実際のところ、それはとても難しい相談じゃないかしら」

『わたしはあなたのことを信頼しています』
と口に出してみたところで、心がこもっていなければ意味がない。
そして誰かを信頼する気持ちとは、一朝一夕で出来上がるものじゃない。

「でしょうね。
 だから最初に、わたしがあなたたちに、わたしの命を預ける」

ほむらは左手の中指からリングを外すと、
手のひらの上で、卵大の大きさに変化させた。
魔法少女の魔力の源泉。ソウルジェム。
藤色の輝きに目を凝らせば、底から五分の一ほどまで、
黒い澱のようなものが溜まっているのが分かる。
真意を計りかねる聴衆の中、
キュウべえがわずかに身動ぎしたのを、マミの目が捉えていた。




ちょい休憩

◇◆◇◆

ほむらが口を開いた瞬間、マミは慌てたように言った。

「ねえ、暁美さん。もうこんな時間よ。
 鹿目さんと美樹さんには、家に帰ってもらったほうがいいんじゃないかしら?」

直感的に察知したのかもしれない。
これから起こることを二人が目の当たりにすることで、
彼女たちが魔法少女になる道を、閉ざしてしまう可能性を。

「すぐにすむわ。
 それに今からすることは、是非二人にも見てもらいたいことなの」
「門限のことなら気にしないで下さい、マミさん。
 まどかも大丈夫だよね?」

頷くまどか。

ほむらはソウルジェムを片手に、
巴マミと佐倉杏子の顔を交互に見つめて言った。

「どちらが最初に、わたしの命を預かるか決めて」
「ちょっと待ってよ。命、命ってさ。
 さっきから、ほむらは何を言ってるのさ?」
「物の喩えで言っているのかしら?
 確かにわたしたち魔法少女にとって、ソウルジェムは命のようなものだけれど」
「わたしの言ったことは、そのまま受け取ってもらってかまわないわ。
 ソウルジェムは、わたしの命。
 もっと正確に言うなら、わたしの命がキュウべえによって結晶化されたもの」

静寂を、杏子の乾いた笑い声が破った。

「それじゃあ何かい?
 ほむらのソウルジェムが砕けたら、ほむらはポックリ死んじまうのか?」
「ええ。死ぬわ」

あっさりと答えたほむらに、杏子が押し黙る。
ほむらの言葉には、妙な説得力があった。
杏子の指先は、無意識のうちに、リングの冷たい表面を撫でていた。

>>212
>>279のトリでポケモンSSを書いてたことはある
同一人物かは知らない

「もしも暁美さんの言葉が真実だったとして、
 今こうして、わたしたちと話している"あなた"は何なの?」
「抜け殻のようなものよ」

ほむらは自身の胸の中心を指さし、

「この肉体は魔女との戦いに特化したハードウェアで」

指先をこめかみに持って行く。

「この脳髄はその肉体に命令を下すための高度なソフトウェア」

コンピュータのアナロジーを延長するなら、
さしずめソウルジェムは魔法少女を動かす電源装置といったところね、とほむらは締めくくる。

マミは首を横に振りながら言った。

「言葉遊びにしか聞こえないわね。
 この体も、この頭も、他の普通に生きている人たちと何も変わらないじゃない」
「わたしたちの肉体や精神は、魔法で強化することができる。
 魔法少女なら誰でも知っている常識。そうよね?」

メンタル・エンチャントは負の感情を正の感情に変え、痛覚の訴えを和らげてくれる。
フィジカル・エンチャントは総合的な膂力を向上させ、常人ではありえない身熟しを可能にする。
巴マミも佐倉杏子も、これまで何度もその恩恵に浴しているはず。
二人が頷いたのを見て、ほむらは続けた。

「じゃあ、魔法で強化できる精神と肉体が、
 魔法少女のそれらに限られることは知っていたかしら?
 いくら魔法少女が一般人に魔力を与えたところで、彼らには何の作用も及ぼしはしない」

嘘だと思うなら、試してみればいい。
言外の意味を受け取って、マミと杏子の視線は、
自然とまどかとさやかに向けられていた。

「巴マミ、もしもあなたの言っていることが正しければ、
 エンチャントは鹿目さんと美樹さんの二人にもきちんと成功するはずよ」
「できないわ……そんなこと」

失敗するのが怖いから、ではない。
初めから失敗を予感しているからだと、巴マミの表情は物語っている。

「これで信じてもらえたかしら?」

杏子は掠れた声で言った。

「ほむらの言うことは筋が通ってるし、納得させられる部分もある。
 けどさ、やっぱり信じられないよ。
 こんな……こんなちっぽけな宝石の塊が、あたしの本体だなんてさ」

「そうよ。暁美さんの話は、臆測の域を出ないわ。
 第一、それを証明する方法がないじゃない。
 わたしは自分のソウルジェムを傷つけて確かめる気にはなれないし、
 その説を信じている暁美さんなら、なおのことそんなことは出来ないはずよ」
「真実を確かめる方法は、別にもあるわ」

ほむらが静かにそう言ったのと、
それまでまどかの膝の上に座っていたキュウべえが、
ほむらの前に進み出たのは同時だった。

「君はとても危険な賭をしようとしているよ、暁美ほむら」
「忠告ありがとう」
「僕は本気で君のことを心配しているんだ」

心配?笑わせないで。
ほむらはキュウべえの紅玉のような瞳を睨み付ける。
キュウべえは臆した様子もなく続けた。

「さっき君はコンピュータを例に使ったけれど、
 それに倣うなら、これから君がしようとしていることはコンピュータの"強制終了"だ。
 最悪の場合、プログラムは"アボート"される。
 その危険性を、君はきちんと理解しているのかい?」

「ええ、もちろんよ」

覚悟はとうの昔に済ませてある。
あの日、わたしの親友の亡骸を抱いて、
最良の未来を勝ち得ると、彼女に誓った瞬間に。

「そうか。なら、僕はもう何も言わないよ」

大人しく引き下がるキュウべえ。
それと立ち替わるようにして、まどかが言った。

「ほむらちゃん……キュウべえの言ってた『危険な賭』って何なの?」
「あなたが心配する必要はないわ。
 キュウべえは、大袈裟に言っているだけ」






晩ご飯

「どうしてほむらちゃんは、わたしに何でも隠し事をするの?
 わたしはほむらちゃんの考えてることが分からないけど……、
 何か、とても危ないことをしようとしてるなら、考え直して。
 わたし心配なの。ほむらちゃんのことが」

やめて、まどか。
わたしの決心を鈍らせるようなことを言わないで。
ほむらはまどかの声を無視して言った。

「体にエネルギーを供給するためには、
 ソウルジェムを出来るだけ体に近いところに置いておく必要があるわ」

たいていの魔法少女は、通常時、ソウルジェムをリングに変化させている。
イヤリング、ネックレス、ブレスレットの場合もあるが、
共通しているのは、常に肌身に触れているアクセサリーだということ。

「だから魔法少女は本能的に、
 ソウルジェムを自身から遠ざけないようにしているのよ」
「もしも何かの拍子に、体からソウルジェムが引き離されたら?」
「杏子の想像しているとおりになる、と言っておくわ」

ほむらは優雅に足を組み直し、最初の質問を復唱する。

「さあ、どちらが最初に、わたしの命を預かるか決めて」
「…………」
「…………」

顔を見合わせるマミと杏子。
重い沈黙が部屋に満ちる。
果たして先に耐えきれなくなったのは、マミのほうだった。

「な、なにも"そんなこと"する必要ないじゃない?
 鹿目さんの言うとおりよ。
 度胸試しじゃないんだから、暁美さんが危険な橋を渡ることないわよ」
「あなたは怖れているだけでしょう、巴マミ?」
「ち、ちがっ……」
「違わない。何も違わないわ」

狼狽えるマミに、ほむらは釘を刺した。

「これはわたしがあなたたちに命を預ける儀式であると同時に、
 鹿目さんや美樹さんを含めたこの場にいる全員に、
 魔法少女の真実を知ってもらうためのプレゼンテーションでもあるの。
 どうしても知りたくなければ、あなたは目と耳を塞いでじっとしていればいい」

「あたしが先にやる」
「佐倉さん……」
「あんたもあたしも尻込みしてたんじゃ、話が進まない。
 ほむら、あたしにあんたの命を預けてくれ」

ほむらは淀みなく杏子に歩み寄ると、

「はい。大切に扱ってね」

その手のひらの上に、そっと藤色のソウルジェムを乗せた。

「あたしはこれから、どうすりゃいい?」
「この家を出て、300mほど離れた地点で、5分間待機した後で、この場所に戻ってきて。
 わたしの命はこの時点で、あなたの手の内にある。
 わたしの言ったとおりにするも、途中で捨てるも、砕くも、あなたの勝手よ」

それは、少し歪な信頼の形。

「分かった」

出て行こうとする杏子の前に、立ちふさがる人影があった。

「どきな」
「ダメだよ。こんなの絶対おかしいよ。
 もしもほむらちゃんの言ってることが本当なら、ほむらちゃんは、」
「本人がそれを望んでるんだ。
 あんたの心配は、ほむらにとっちゃありがた迷惑だろうさ。
 あたしは、魔法少女の真実が知りたい。それはあんたも同じだろ?」

半ばまどかを押し退けるようにして、杏子は部屋を出て行った。
ぱたん、とドアの閉じる音が響き、再び重い静寂が訪れる。
まどかは覚束ない足取りでわたしに近づくと、
隣に腰を下ろして、わたしの手を握った。温かった。
思わず、彼女の肩に頭を預けてしまいたくなるくらいに。
カチカチカチカチ、と耳障りな音が聞こえる。
それが巴マミの歯ではなく、自分のそれによって鳴らされていると気づくのに、少し時間がかかった。

心臓は不規則なリズムで跳ねている。
視界に黒の斑点が浮かびはじめる。
耳鳴りがする。
呼吸が乱れる。
それらは強い恐怖の波に襲われた体の、生理的な反応だった。
いずれ訪れるであろう仮初めの死が、どうしようもなく怖かった。
でも、魔法は使わない。
わたしは自分一人の力で、この恐怖と対峙する。
手先の震えを感じ取ったのか、まどかは強くわたしの手を握りしめた。

「ほむらちゃん!」

まどか、と名前を呼び返すことは叶わなかった。
舌が喉に詰まり、視界が暗転する。
ほむらは薄れ行く意識の中、

「君の行為は驚嘆に値するよ、暁美ほむら」

というキュウべえの声を聞いた。

◇◆◇◆

果てしなく広がるグラフィティアート。
夜中の繁華街もかくやの大騒音。
結界に侵入してからものの数分で、杏子の不快指数はMAXに差し掛かろうとしていた。

「魔女め、どこにいやがる!
 隠れてないで姿を見せやがれっ!」

そんな杏子を嘲笑うかのように、

「ぶぅーん!ぶぅん、ぶぅーんっ!」

魔女の手下――アンニャ――は、
奇声をあげながら結界上空を飛び回る。

「てめーみてぇな下っ端に用はねぇんだよっ!
 親玉を呼んでこい!」

一閃。
断ち切られたアンニャは、派手にペンキを撒き散らして、
杏子の白い肌と深紅の衣装に、前衛的なアクセントを加えた。

「…………」

杏子の額に青筋が浮かぶ。
乾いた音が響き、さらに数体の魔女の手下が撃ち落とされた。
地面に叩きつけられたアンニャは、やはりペンキを撒き散らして、
杏子の綺麗な後ろ髪と、自慢のブーツに刺激的な配色を加える。
もう我慢の限界だった。

「おいマミ、ほむら!
 後ろから援護射撃してくれるのはありがたいけどさ、
 ……ちょっとは前衛のあたしの被害も考えろってんだ!」

暁美ほむらはM249軽機関銃を掃射しながら、

「変身を解けば元通りよ。今は我慢して」

魔女の手下が沸き出る穴に、
淡々と大砲級の射撃をぶち込んでいるマミも、

「なあに?
 大した用が無いなら話しかけないで。
 狙いが逸れちゃうかもしれないじゃない」

とまるで他人事――いや、何気に物凄く恐ろしいことを口走ったな、あいつ。

「はぁ」

杏子は感情を殺して、尖兵の役割に徹することにした。
立ちふさがるカンバスやルーズリーフの束を切り裂き、
魔女の手下を切り捨てながら、戦線を押し進めていく。

べとべとあんこちゃん!!

どれほどペンキを浴びただろう。
結界の最奥付近で、杏子の目は、明らかに手下とは違う何かを認めた。

「いたぞ!魔女だ!」

慌てて接近しようとしたものの、

「キーヒヒヒ!!キャーハハハ!!」

アンニャが大挙して現れ、たたらを踏む。
肉の壁を切り崩したとき、既に魔女の姿は見えなくなっていた。

「あっちよ!」

ほむらが叫ぶ。
が、彼女の視線を辿れど、そこには汚らしいグラフィティアートが描かれているのみ。

「どこにもいないじゃないか!」
「落ち着いて。
 この魔女は、絵から絵に自由に飛び移れるみたい。動きもかなり素早いわ」

と、遠距離から全てを見ていたマミが言った。

フィジカル・エンチャントの応用は、視力の倍加をも実現する。

「ほむらの能力でなんとかならないのか?」
「無茶言わないで。ここから魔女までの間に障害が多すぎる」
「手榴弾いっぱい持ってんだろ?景気よく使っちゃえばいいじゃんか!」
「数には限りがあるわ。
 ワルプルギスの夜までに、出来るだけ火力は温存したい」
「クソッ、あたしは貧乏性が大嫌いだ」

杏子は頬のペンキを拭って、考える。
ほむらの"時間停止"。
あたしの"槍"。
マミの"大砲"。
こっちは三人がかりなんだ。倒せないわけがない。
沈思黙考すること数秒。

「閃いたっ!」

へへっ、あたしってば天才じゃね?
こんな名案、誰も思いつかないよ。
やっぱり見滝原市のNo1魔法少女はこのあたしだね――。

「自画自賛はそこまでにして、その名案とやらを教えてもらえるかしら?」
「あ、あんたたち、あたしの心が読めるのか?」
「全部口から出ていたわよ」

杏子は顔を赤らめながら、ボソボソと閃きの内容をテレパシーで語った。
「悪くない」というのが、ほむらとマミの共通の見解だった。

戦いは続く。
長柄の切っ先が、軽機関銃の5.56mmNATO弾が、迫撃砲の高性能魔力砲弾が、
魔女の手下を容赦なく蹴散らすが、
無尽蔵に沸いて出る彼らと、隠れんぼ好きの魔女には、功を奏しているとは言い難い。

「まだなのか……!」

歯軋りする杏子の耳に、マミのテレパシーが響く。

「今よ!」

その瞬間、ほむらは"時間停止"を発動させた。
灰色の世界で杏子は思う。
やっぱりまだ、誰かと手を繋ぐのは苦手だ。

「待ちに待った瞬間ね?」
「ああ。正直片手でコイツを振るうのは、やりにくいったらありゃしなかったよ。
 それに何より……お手々繋いで魔女退治なんて、見映えが悪すぎる」
「今更だと思うけど」

ペンキに塗れたほむらの姿に気づき、噴き出す杏子。
ほむらも間近で見た杏子の酷い有様に、口元を押さえて笑いを噛み殺す。

「笑ってる場合じゃなかったね」

杏子は槍を、拳の小指側に切っ先が来るように持ち直した。
槍の形状は、彼女のイメージ通りに変化する。
柄は太く重さを増し、穂はより細長く、穂先はより鋭利に。
神経を研ぎ澄ます。
吹雪のようなルーズリーフの切れ端や、飛び乱れるアンニャの合間に、
杏子は今まさにグラフィティアートからグラフィティアートへと飛び移ろうとしている魔女を見つけた。
マミのタイミングはバッチリだったらしい。

「いい的だよ、あんた」

右腕に魔力を集中させる。
今この瞬間、単純な右手の膂力において、彼女の右に出る者はいない。
渾身の力で放たれたジャベリンは、いったん中空で静止し、
ほむらが能力を解除したのと同時に、魔女を壁に磔にした。

が、それが致命傷にはならなったらしく、

「ギーッ!?ギギギーッ!?」

遣い魔が魔女のもとへ殺到する。
放っておけば、彼らは力を合わせて投槍を引き抜いてしまうだろう。
しかし杏子は背を向けると、大きく手を振ってみせた。
マミがテレパシーで応える。

「後は任せて」
「外したら承知しないからな」
「十八番よ?
 これを仕損じたら、わたしは魔法少女を引退するわ」

その宣言からきっかり三秒後、
魔女の直径はあろうかという大きさの魔力砲弾が飛来し、
手下もろとも魔女を吹き飛ばした。

マミさんマミマミ!!!!
お風呂

「いつもながら馬鹿げた威力だな……って、おい、マミっ!」
「なあに?ここからでも、綺麗に止めをさせたことは一目瞭然よ」
「やり過ぎなんだよ、あんたは!
 あたしの槍まで綺麗に吹っ飛んじまってるじゃねえか!」
「ふふ、ごめんなさい」

ほむらといい、マミといい、
こいつらの「ごめんなさい」には、ちっとも謝意がこもってない。
魔力で創り出した槍だ、また新しく創ることはできるが……。

「弁償だ。コンビニ寄って帰るぞ」
「またお菓子?
 健康には気を遣ったほうがいいわよ。
 野菜ジュースも一緒に買ってあげるから、飲みなさい」
「うるさいな。あんたはあたしの母親か?」

軽口を叩き合っているうちに、結界が薄れ、現実世界に戻ってくる。

結界の中での距離は、現実世界のそれに相当しない。
遙か後方にいたはずのマミは、
杏子から数メートル離れたところに立っていて、ほむらは――。

「そうしていると、二人ともとっても仲良しに見えるわよ?」

ニヤニヤと笑うマミ。

「バ、バカ言ってんじゃねえ」

繋いでいた手を離し、飛び退く杏子。
ほむらは、ふぅっ、と息を吐いて、変身を解いた。

「や、別にほむらのことを嫌ってるワケじゃないんだよ。
 マミのヤツが変にからかうからさ……」

取り繕う杏子を意にも介さず、
ほむらは路地裏からメインストリートに続く階段に近づくと、

「戻っていなさい、と忠告したはずよ」

彼女が見上げる先には、西日に縁取られた二つのシルエットがあった。

また来てたのかよ、懲りない奴らだな、と杏子は冷めた視線を向ける。
ほむらは言った。

「一般人の出る幕じゃないわ。
 魔女の危険は、あなたたちもよく分かっているはず。
 もう着いてこないで」
「あたしたちは、あんたに着いていってるわけじゃない。
 マミさんに着いていってるの!」

美樹さやかの声は、なぜか、あたしの琴線を震わせる。
名前を呼ばれたマミは、辛そうに顔を上げて言った。

「美樹さん、鹿目さん、よく聞いて。
 魔法少女の体験学習は、もうお終いにしましょ」

「そんな……」
「それがあなたたちのためよ。
 今なら、何も知らなかったフリをして、日常に戻れるわ。
 魔女や魔法少女のことも、時間が経てば忘れられる」
「わたしたちに色んなことを教えてくれたのは、マミさんじゃないですか!」

マミは寂しい笑顔を浮かべて、

「わたしは、先輩風を吹かすには、まだ年紀が浅かったみたい。
 わたしは自分でも驚くくらい、魔法少女のことを知らなかったの。
 あなたたちを巻き込んだのは、軽率だったわ。
 もしも今のわたしが、あの頃の二人に会っていたら、
 絶対に魔法少女になることなんて、勧めなかったと思うから」

「……ッ」

さやかは踵を返して、雑踏の中に消えた。

「さやかちゃんっ!」

その後を追うまどか。
ほむらの目配せに、杏子は頷き、足に魔力を込める。
マミは言った。

「悪いわね、嫌な役目をあなたに押しつけて」
「ほむらが言うには、美樹さやかの説得には、あたしが一番の適任らしい。
 それにあたし自身、あいつとは腹割って話したいと思ってたんだ。
 ……一石二鳥ってやつさ」

杏子は力強く地面を蹴りつけ、三角飛びの要領で、
小高いビルの屋上に降り立った。

細かいフィジカル・エンチャントは不得手だが、眉間を揉んで、視力を強化する。
だいたいの見当をつけて、雑踏に視線を這わせると、さやかはすぐに見つかった。
進行方向には見滝原市立総合病院がある。

「幼馴染み、ねえ」

杏子は馴染みのない言葉を口の中で転がすと、
ビルの屋上から屋上へと飛び移り、さやかの後を追った。






寝る
明日はこれても昼過ぎ
残ってますように

まどっち「マミさん、新しい顔だよー」

杏子「…くうかい?」

シャルロッテ「」

時間停止使ってシャルロッテの口にキュウべぇ放り投げればよかったんだよ

◇◆◇◆

指先をタッチスクリーンに滑らせると、ガラスの箱は静かに上昇しはじめた。
美樹さやかはその中でひとり、小さくなっていく薄暮の街並みを見下ろす。

『さやかはさぁ……』
『なあに?』
『さやかは、僕をいじめてるのかい?』
『えっ』

繰り返し再生される、悲しい記憶。

『なんで今でもまだ、僕に音楽なんか聴かせるんだ?
 嫌がらせのつもりなのか?』
『だって恭介、音楽好きだから――』
『もう聞きたくなんかないんだよ!
 自分で弾けもしない曲、ただ聞いてるだけなんて!
 僕は……っ…うぅ……僕はっ……!!』

砕け散るミュージックプレイヤー。
清潔なシーツを染める血飛沫の朱。
少年に覆い被さった少女の耳に、嗚咽混じりの声が聞こえた。

『動かないんだ……もう……痛みさえ感じない……。
 こんな、手なんてっ……!』
『大丈夫だよ。きっと、なんとかなるよ。
 諦めなければ、きっと、いつか――』
『諦めろ、って言われたのさ。
 もう演奏は諦めろ、ってさ……先生から直々に言われたよ。
 今の医学じゃ無理だ、って』

『………』
『僕の手はもう、二度と動かない。
 奇跡か魔法でもない限り、治らない』

奇跡も魔法もあるんだよ――その言葉を、さやかは呑み込んだ。
暁美ほむらによって知らされた"真実"が、
奇跡の"真の代償"が、彼女の決断を鈍らせていた。
エレベーターのスピーカーが、幼馴染みの病室がある階に到着したことを告げる。
が、さやかは足を踏み出すことができなかった。
会って何を話せばいいんだろう。
自分が恭介の傍にいることに何の意味があるんだろう。
後ろ向きの思考が、頭の中をぐるぐると回る。
無情にもドアは閉まり、エレベーターは再び、今度は終点へと上昇を開始した。

見滝原市立中央病院の屋上には、花壇の迷路がある。
その迷路の真ん中に、一人の少女がこちらに背を向けて立っていた。
デニムのショートパンツに、オリーブグリーンのヨットパーカ。
腰まで届く長さの髪は、後ろでひとつに結わえられている。

「佐倉……杏子……」

さやかは一瞬後じさり、今度は広い歩幅で歩き出した。
杏子から逃げようとしている自分を、認めたくなかった。

「どうしてあんたがここにいるわけ?」
「どうしてって、そりゃあ、あんたを追ってきたからさ。
 見舞いが終わるまで待ってるつもりだったんだが、随分と早く切り上げてきたんだね。
 ロクに話もできていないんじゃないのかい?」
「……ッ」

振り返った杏子は、意地の悪い笑みを浮かべていた。

恐らく杏子は、さやかが真っ直ぐここまで来たことを、
幼馴染みに会う勇気を出せなかったことを知っている。
さやかは蔑みを込めて言った。

「恭介のことは、あんたには関係ないでしょ。
 で、なんであたしに着いてくるの?
 あんた、あたしのストーカーなの?」
「ハッ、こりゃまた酷い言い草だね。
 何もあたしだって、好き好んであんたを追っかけてきたわけじゃない。
 あたしはね、美樹さやか……。
 あんたが魔法少女を諦められるように、諭しに来てやったのさ」
「そんなことして、あんたに何の得があるわけ?」
「得なんかない。
 あたしはただ、出かけてる杭に、出たら打つよ、って言いに来ただけだ。
 打たれて痛い思いをしたくなけりゃ、大人しく引っ込んでな、ってね」

穏やかな恫喝に、しかし、さやかは臆さない。

「あたしが魔法少女になるも、ならないも、あたしの勝手でしょ」
「つくづく酔狂な女だな、あんたも。
 ほむらが見せてくれた魔法少女の真実を、まさか忘れたってわけじゃないんだろう?
 あれを知って、どうしてまだ悩めるんだい?」

悩む余地なんてないじゃないか、と両手を肩の高さまで上げる杏子。
あんたには分からないでしょうね、とさやかは思った。
自分のためだけに魔法を使う杏子に、
誰かのために魔法を使おうとしているあたしの気持ちが、理解できるわけがないんだ……。
杏子は言った。

「なあ。あんたにとっての上條恭介は、
 あんたがこの先の人生を棒に振ってもいいと思えるほど、価値のある男なのか?」

「恭介は関係ないって言ってるでしょ。
 何度も同じことを言わせないでよ」
「白々しい嘘はやめなよ。ほむらから聞いて、全部知ってる。
 上條恭介が、あんたが魔法少女になろうとしている理由なんだろ?」

さやかはぎゅっと下唇を噛み締めた。
あたしと恭介の関係を調べ上げ、あまつさえそれを杏子に喋った転校生が憎い。

「そいつ、交通事故がきっかけで指が動かなくなっちゃったらしいね」
「…………」
「今の医学じゃ治る見込みもないんだってね」
「…………」
「どんな天才バイオリニストだって、商売道具が壊れちゃお払い箱だ」
「…………」
「時間が経てば、誰も見向きもしなくなる」

言葉のひとつひとつが、さやかの心に突き刺さる。

「……それ以上恭介をバカにしたら、あたしはあんたを許さない」
「おっかしいな。
 あんたの幼馴染みをバカにしたつもりなんて、これっぽっちもないんだけどね。
 全部――紛れもない事実じゃないか」

違う。最後の一言だけは、間違ってる。

「他の誰が恭介を見限っても、あたしは絶対、恭介のことを諦めない」
「ああ、そうだったね。
 上條恭介が事故に遭って以来、足繁く通ってるあんたは例外だ。
 なあ、これはほむらが直接教えてくれたわけじゃない、あたしの想像だが、」

杏子はストレートに訊いてきた。

「好きなんだろ、上條恭介のことが」
「そ、それは……」

言葉に詰まるさやか。
会話の脈絡からすれば、沈黙は肯定と同義だった。

幼馴染みに異性を意識したのはいつからだろう。
隣にいると胸がドキドキして、顔が熱くなるような、片思いの相手になったのはいつからだろう。
はっきりと『恭介のことが好き』だと自覚したのは、
奇しくも、恭介が交通事故に遭ってからだった。
それまでの恭介はあたしにとって、幼馴染みであると同時に、
雲の上の神様のような存在だったからかもしれない。

「確かにあんたがキュウべえに望めば、
 上條恭介の腕は、元通り動くようになるだろう。
 そうしたいって気持ちはよく分かるよ。
 誰か大切な人の願いを、その誰かに代わって叶えてあげたいって気持ちはさ」

嘘ばっかり、とさやかは心の中で杏子を詰る。
でもね……、と杏子は低い声で続けた。

「……その気持ちは純粋なモンなのか?
 上條恭介に恩を売って、好かれようって魂胆がないと言い切れるのか?」

さやかの耳許で、マミの言葉が蘇る。

『あなたは彼に夢を叶えてほしいの?
 それとも、彼の夢を叶えた恩人になりたいの?』

訊き方さえ違えど、杏子の質問の本質はそれと同じだった。
あの夜から、随分と悩んできた。
何度も何度も、恭介の腕と自分を秤にかけてきた。
さやかは自分の胸に手を添え、両の瞼を閉じる。
走馬燈のように流れる、恭介の記憶。






晩ご飯

「恭介はね、本物の天才なんだ。
 どんな難しい曲も、少し聞いただけで自分のものに出来たし、
 小さな頃から何度も大舞台に立って、たくさんの人を感動させてきたの」

恭介のしなやかな指は『バイオリンの神自ら鑿を振るった』と謳われ、
その指が奏でる旋律は『ヤッシュ・ハイフェッツの再来』と評された。

「あんな不幸な事故さえなかったら、
 恭介は絶対に、世界で認められるヴァイオリニストになってた。
 お見舞いに行くたびに、思うんだ。
 どうして恭介なんだろうって。
 どうして才能のある恭介が事故に遭って、
 何の取り柄もないあたしが事故に遭わなかったんだろうって」

代われるものなら、代わってあげたい。
時折遠い目になる恭介を見て、何度そう願ったかしれない。

「上條恭介の幸福のためなら、自分が不幸を背負ってもいい。
 あんたは本気でそう思ってるわけだ」

さやかは頷く。
あたしは恭介の夢を叶えたい。
間違った神様の差配を、正したい。
たとえ魔女を滅ぼすことを運命付けられることになっても。
たとえこの命を結晶化して、元の肉体を失うことになっても。

「見返りなんて、求めない。
 後から恭介が夢を叶えられたのは、
 あたしのおかげだったなんて言うつもりもないよ」

杏子は肩を竦めて言った。

「ふーっ、熱い熱い。純愛だねえ。じゃあ……」

不意に一陣の風が吹き抜け、咲き乱れたオオアマナを揺らした。
純白の花びらが大量に舞い、
黄昏時の屋上に、目も綾な光景を作り出す。

「……なおのことあんたを、魔法少女にするわけにはいかないな」

◇◆◇◆

マミの現実は崩れかけていた。
一秒が無限の長さに感じられた。
いくら空気を吸っても、息苦しさが消えなかった。
酷い寒気が全身を粟立たせ、冷たい汗が背筋を流れ落ちるのが分かった。

『ほむらちゃん!』

まどかの悲鳴が響き渡り、反射的に顔を上げた。
ぐらり、とほむらの体が頽れる。

『ほむらちゃん、返事して!返事してよぉっ!』

泣き喚くまどか。

『嘘、でしょ……?
 何とか言いなよ、転校生』

立ち竦むさやか。
マミは奥歯を噛み締め、ともすれば発狂しそうなほどの恐怖を押し殺した。
わたしが確かめなければ。
ソウルジェムから引き離された鹿目さんの体が、本当に死んでいるのかどうかを。

>>530
ソウルジェムから引き離された鹿目さんの体が、本当に死んでいるのかどうかを。  ×
ソウルジェムから引き離された暁美さんの体が、本当に死んでいるのかどうかを。  ○



マミは努めて冷静に言った。
暁美さんがまだ生きていると仮定することで、鹿目さんは落ち着きを取り戻すはず。

『暁美さんを横にしてあげて。
 その姿勢だと呼吸がしにくいだろうから』
『は、はいっ』

マミはスツールをいくつか寄せて即席のベッドを作り、そこにほむらを寝かせた。

『ほむらちゃんは、気を失ってるだけですよね?
 すぐに目を覚ましますよね?ほむらちゃんは――』

マミは片手でまどかを制し、身を屈めた。
保健体育で習った応急救護の知識が、こんなところで生きるなんてね……。
ほむらの額と顎先を押さえて気道を確保し、
口と鼻に自分の耳を近づけ、目線で胸が上下しているか確認する。

それからマミは人工呼吸を二度行い、頸動脈の脈拍を確かめて、
暁美ほむらの心肺が完全に停止していると判断した。
彼女の表情を見て悟ったのか、まどかの瞳から、再び大粒の涙が零れ出す。

『酷いよ……こんなのって、ないよ……』

心臓マッサージに取りかかろうとしたマミに、キュウべえが言った。

『無駄だよ、マミ。
 それはもはや、暁美ほむらの魂を失った、ただの抜け殻だ。
 どんな蘇生措置を施したところで、その目に光が戻ることはない』
『暁美さんの言っていたことは、本当だったのね?』
『幾分、悲観的に脚色されていたけれど、概ねは彼女の言うとおりだ』

あっさりと認めるキュウべえに、さやかが詰め寄る。

『どうしてそんな大事なことを、あたしやまどかに黙ってたの?
 良いことばかり言って、都合の悪いことは隠して、騙して契約させるつもりだったの?』

『僕が君たちを騙す?
 人聞きの悪いことは言わないで欲しいな、さやか。
 僕は訊かれなかったから、言わなかっただけだよ。
 それに魔法少女にとって、肉体と魂の分離は、実に便利で合理的なシステムじゃないか』
『合理的、ですって……?』
『そうさ。心臓が破れても、ありったけの血を抜かれても、
 魔力の源たるソウルジェムさえ砕かれなければ、
 魔法少女は魔力で傷ついた体を修理することができる』

絶句するマミとさやか。
体温を失い始めた体を温めるように、まどかはほむらを抱き締めた。
彼女の顎先から落ちる涙の粒が、ほむらの制服のリボンを濡らした。

『君たちはいつもそうだね。
 事実をありのままに伝えると、決まって同じ反応をする。
 どうして人間はそんなに、魂の在処にこだわるんだい?』

風呂
できるだけのこのスレで終わらせたい
終わらないときはSS速報で書ききる

『それが分からないのは、
 あなたがわたしたちと違う生き物だからよ、キュウべえ。
『今の発言はなかなかに正鵠を得ているよ、マミ。
 僕たちの種族はまだ、"感情"というものを完全に理解できていないんだ。
 君たち人類が"原子力"という比較的扱いやすいエネルギーを持て余しているようにね』

意味深な言葉を、しかしマミは聞き流して言った。

『あなたのことは、良いパートナーだと思っていたのに……』
『僕のことが憎いかい?』
『わたしの命を救ってくれたことには感謝しているわ。
 あの時魔法少女になる道を選ばなければ、わたしは死んでいたでしょうから。
 けれどあなたは、決して魔法少女になる必要のない、美樹さんや鹿目さんにも契約を迫った』
『僕は良かれと思って、素質ある彼女たちに声をかけただけだよ』
『魔法少女になることによって、何を得て、何を失うことになるのか、
 予めきちんと話さないあなたのやり方は、悪質だと言わざるを得ないわ』
『やれやれ。
 やっぱり僕と君たちの価値観には、大きな齟齬があるみたいだ。
 そして認識の相違から生じた判断ミスを後悔するとき、なぜか人間は、他者を憎悪するんだよね』

キュウべえはスツールから床に降り立つと、
さやかとまどかを交互に見つめ、

『しかし今回君たちは契約前の時点で、
 幸運にも――こういう表現は不本意だが――ソウルジェムの本質を知ることができた。
 その上で魔法少女になるか、ならないかは、完全に君たちの自由だよ。
 人智の及ばない奇跡が必要になったときは、いつでも僕を呼び出してほしい』

最後にさやかを一瞥し、照明の影に姿を隠した。
マミが目のかすみを覚えて瞬きすると、
キュウべえはどこにも見えなくなっていた。

『ひっ……えぐっ……うぅ……っ……』

まどかの嗚咽は、部屋の静けさを逆に際立たせた。
マミは祈るような気持ちで、振り子時計を見上げた。

杏子が出て行ってから、濃密な五分が経過しようとしていた。
ソウルジェムが肉体の近くに戻れば、暁美さんは息を吹き返すのだろうか?
キュウべえは『危険な賭』だと言っていた。彼女自身もそれを理解しているようだった。
もしも、暁美さんが蘇らなかったら……?
マミが最悪の場合を想定したそのとき、
だらりと垂れ下がっていたほむらの手先が、ぴくりと動いた。

――――――
――――
――

ザァァァァ、という水音に、我に返る。
白昼夢を見ていたらしい。
マミはシャワーを止めて、大きな姿見に映った裸体を見つめた。

「……ただの入れ物……なのよね……」

人差し指の爪先を、胸の正中線に軽く突き立て、数センチ切りつける。
ささやかな痛みとともに血が滲み出し、
彼女が魔力を注いだ瞬間、傷口は跡形もなく塞がった。

メンタル・エンチャントをほどこせば、ささやかな痛みさえ消すことができる。
魔法。それは人の域を逸した者のみが使える業。

「……わたしはもう……人間じゃ、ない……」

鏡の中の自分に言い聞かせるように、そう呟いた。
マミがほむらの私室に戻ると、まだ杏子は帰ってきていないようで、
ほむらは一人スツールに腰掛け、壁に掛かった魔女の絵を見つめていた。
ちなみに対ワルプルギスの夜のチームを結成して以来、
根無し草の杏子はほむらの家の一室を陣取り、我が家のように振る舞っている。

「ありがとう。さっぱりしたわ」
「ずいぶん長いシャワーだったわね。
 浴室で倒れているんじゃないかと思って、
 様子を見に行こうとしていたところよ」

  ,'.:       〃 ,:1  ,  __/  // /         } ,     ',
__彡ァ       乂_ノ :!  ,′ ./ ̄/7=‐.、__ノノ     ,'∧      '
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 ,'/リ.,   ,イ  ./`¨´i.|:∧. 、 .c弋匕Z_         >、_`ヽ、」     ,'    
_彡'厶イ./iヽ,′   |:::∧ {Ⅵ//             ア:::抃、 |    /
       / i|:::{:     `(( .Ⅵ .))       ‘     弋匕Zっ    /
     /  ∨:、     }}_口_{{     ,_-‐- 、      / //  淹れるしかないじゃない!
.    i.|   ∨:\ .γ´,...-‐-ミメ、 └‐―-、、、    .辷´五ニ=一、
.    ヾ、   \,:´,´./ ,.-‐-、.刈ハ.     `~    /          \
-‐…‐-'_ヾ   / l l. {::::::::::::} l l≧:.. ___.... -‐=¬=-、― _....___〉

  /¨,-‐… 7 . 八圦 `||‐' ,' 厂`Y   /        `ヾ´/////

. /  {    /.Y¨Y .ゞ.,`=||-‐ 彡.1辷7―‐-/               ∨―‐- 、
. !   ',     /  !:::::::::`¨||¨´::::::|// `ヽ/                 ∨   .〉
. | >'´`ヽ:. /.i⌒i::::::::::::::||::::::::::::|/⌒) (  , -―-         j   ./

\! .Уヽ   (./ ./::::::::::::::||:::::::::::::!  / ∧/ , -‐-、. \        〈‐‐-、 j
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           ,;:--‐‐ ||‐--、
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           l,       ,:!√フ;`

           l,       ;;,:!レ;''´
           .ヽ、    :;:;:;:/´´
             .゛''''''''''''" 


マダー?

保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 40分以内

02:00-04:00 90分以内       
04:00-09:00 180分以内       
09:00-16:00 80分以内        
16:00-19:00 60分以内      
19:00-00:00 30分以内      

保守時間の目安 (平日用) 
00:00-02:00 60分以内    
02:00-04:00 120分以内    
04:00-09:00 210分以内    
09:00-16:00 120分以内     
16:00-19:00 60分以内    
19:00-00:00 30分以内


少しでも無駄レスが防げたら…それはとっても嬉しいなって…

あんこちゃんマジ聖女

こっちの方が正確かも

新・保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 15分以内
02:00-04:00 30分以内
04:00-09:00 50分以内
09:00-16:00 25分以内
16:00-19:00 20分以内
19:00-00:00 10分以内

新・保守時間の目安 (平日用)
00:00-02:00 20分以内
02:00-04:00 35分以内
04:00-09:00 60分以内
09:00-16:00 35分以内
16:00-19:00 20分以内
19:00-00:00 10分以内

さやかが安定のさやかになる理由を真面目に考察してみた

1.好きな男がいる
美少女アニメを見る視聴者層がヒロインたちに求めるのは処女性
さやかは精神的に他の男のものになっているので遠慮なくネタにできる

2.視聴者の情報量とキャラの情報量の相違
さやか「聞いたよ、アンタ自分のためにしか魔法を使わない嫌な奴なんだって?」
視聴者「ふざっけんなほんとのあんこちゃんは数話後にはお前のために特攻自爆までするんだからな!」

3.ループを経験した人間の情報量としていない人間の情報量の相違
ほむら「実はそこにいるQBは宇宙のエントロピーの拡散を防ぐために希望と絶望の相転移を」
さやか「わけがわからない」
視聴者「わかれよ物わかりの悪い奴だな!」

4.世界観による「普通」の基準のマヒ
ヒロインA「私は主人公のために命を懸けるわ!」
ヒロインB「私も主人公のためにプライベートは全て犠牲にしているの」
ヒロインC「え、いや……主人公は好きなんだけど私普通の幼馴m」
視聴者「ヒロインC自分勝手な奴だな!ぼっちになれ!」

5.二次創作で嫌な奴だからなんか嫌な奴なんじゃね?本編見てないけど!

このほむらは一体何があってここまで積極的になれたのだろう
あれか、やっぱり前週まどかに泣き落としされたのか

>>760
「ほむらちゃん……ぐすっ 他の子とも、仲良くしてくれなきゃやだよ……くすん」くらい言われたら即本気出しそう

バレット引きずりだしてお風呂になったのかと一瞬考えてしまった

>>776
ほむら「火薬が湿ってしまうから遠慮するわ」

マミ「あら、それならこのタオルで保護するといいわ」タプンッ

あんこ「……ぐぐ、こっちまで遠慮したくなってきた」

なんて会話にしかならないぞ

仁美「上條恭介君を契約出来るようにしてくださいまし」

QB「」

杏子「どこで使い方を習った?」
ほむら「説明書を読んだのよ」

むしろUROBUCHIが脚本の本編で銃の描写があんなに抑えめなんて驚き

ほむら「…じゃあ、いってくるわ」
まどか「そんな……杏子ちゃんも死んじゃったのに、一人でなんて」
ほむら「だからよ」
ほむら「もうワルプルギスの夜を止められるのは私しかいないから」

              .,-'''''~~~ ̄ ̄~~''' - 、
 \      ,へ.人ゝ __,,.--──--.、_/              _,,..-一" ̄
   \  £. CO/ ̄            \       _,,..-" ̄   __,,,...--
      ∫  /         ,、.,、       |,,-¬ ̄   _...-¬ ̄
 乙   イ /    /   ._//ノ \丿    ..|__,,..-¬ ̄     __,.-一
      .人 | / ../-" ̄   ||   | 丿 /  ).  _,,..-─" ̄   ._,,,
 マ    .ゝ∨ / ||        " 丿/ノ--冖 ̄ __,,,,....-─¬ ̄
        ( \∨| "  t-¬,,...-一" ̄ __--¬ ̄
 ミ  ⊂-)\_)` -一二 ̄,,..=¬厂~~ (_,,/")

     .⊂--一'''''""|=|( 干. |=| |_      (/
   /  ( /      ∪.冫 干∪ 人 ` 、    `
 /      )         ノ '`--一`ヽ  冫
                 く..          /
                .  ト─-----イ |
                  ∪       ∪

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