ホロ「たまにはこんな風に甘いのも」 (36)


ロレンス「…ふむ」

ホロ「…」パタパタ

ホロ「…」

ロレンス「…」カリカリ

ホロ「…」

ホロ「…」アグアグ

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カリカリ

ロレンス「…」

ホロ「…」

ホロ「のうぬしよ」

ロレンス「どうした?」

ホロ「その…」

ホロ「退屈なんじゃが」

カリカリ…

ロレンス「悪いがもうしばらくかかりそうだ」

ロレンス「どうせなら外で時間を潰していてくれてもいいぞ」

ホロ「…なら」

ロレンス「金はもう渡せないがな」

ホロ「む」


ホロ「金もなしに街で時間を潰せじゃと?」

ロレンス「昼食代なら渡したはずだ。それをものの数分で使い果たしたのはどこのだれだろうな」

ホロ「さあ?」

ロレンス「人が硬いライ麦パンをはみながら頼まれた仕事をしているそばで美味そうなものを食べやがって…」

ホロ「ちょっと、小麦パンに、肉とチーズを挟んだだけでありんす」

ロレンス「ふん」カリカリ

ホロ「拗ねるでない」

ロレンス「拗ねるもんか」


ロレンス「…」カリカリ

ホロ「あの商人の頼みごとはそれほどだいじなことなのかや?」

ロレンス「まあな。この街にも相当蔵書を持つ本を扱う奇特な商人だ。何でも異国の本まで商うらしい」

ロレンス「お前の故郷のことを思えば、懇意になっておいて損はないだろ?」

ホロ「ふむ…たしかに」

ロレンス「そう言うことだ」

ホロ「では、大人しくしておるかの」

ロレンス「そうしていてくれると助かる」

バサ

ホロ「…」アグアグ

ロレンス「…」

ホロ「…」

ホロ「?」


ロレンス「…」チビチビ

ホロ「…」

コト

ホロ「…」

スッ

ホロ「…」コク

ホロ「…うげ」

ロレンス「ん?」

ホロ「…ぬしよ…こ、これは一体何かや…?」


ロレンス「お前これ飲んだのか」

ホロ「…みじゅ…ぬしよ…」

ロレンス「ほら」パシ

ホロ「…むぅ」コクコク

ホロ「ぷはー。舌がおかしくなるかと思いんす」

ロレンス「勝手に人のものを取るからだ。まったく」

ホロ「…だって」ゴニョ

ロレンス「?」

ホロ「なんでもありんせんっ」プイ


ロレンス「これはコーヒーと言う飲み物だ」

ホロ「…この味でまともな飲み物なのかや…腐っておるわけではないのかや…?」

ロレンス「はは。そう思うのも無理はない」

ロレンス「異国では気つけに飲まれている…要は薬だな。俺もこの雑用の依頼人にどうかと少し分けてもらっただけだよ」ピラ

ホロ「そうだったのかや」

ロレンス「味はともかく気つけとしての効果はあるみたいだぞ」

ホロ「…わっちには必要のないものじゃな」パサ

ロレンス「昼寝ができなくなってしまうからな」

ホロ「んむ」


ホロ「…」

ロレンス「…」コク

ホロ「…」

ホロ「ぬしは」

ロレンス「うん?」カリカリ

ホロ「それ。好きなのかや?」

ロレンス「…いや、…どうしてだ?」

ホロ「気つけと言うておるわりにはよく口にしておる」

ロレンス「…そうだな。慣れると案外悪くない」

ロレンス「だが飲み過ぎるもの怖いんだよな。薬というのは何にしろ程度だと言うからな」

ホロ「…ならそんなもの飲まなければよい」


ロレンス「そうしたいのは山々だが」コク

ホロ「(どこがじゃ)」

ロレンス「売るほどの量はないし、そもそもこの辺りでは飲む習慣のないものだからな」

ロレンス「かといって捨てるわけにもいかないだろ?」コク

ホロ「…ふむ」


ロレンス「ま、そんなとこだ」

ロレンス「仕事に戻っても?」

ホロ「おっとすまぬ」

ロレンス「いいや。俺こそ悪いな。構ってやれなくて」

ホロ「む…わっちは子どもではありんせん。大人しく待っておるくらい何でもない」

ロレンス「そうだな」クス


ロレンス「大した金額ではないだろうが報酬ももらえる。今日はそれで何かおいしいものでも食べよう」

ホロ「! 本当かやっ」

ロレンス「ああ。商人は嘘はつかない」

ホロ「…その台詞がすでに嘘では意味がありんせん」

ロレンス「おっと失礼」

ホロ「このたわけ」クスクス


・ ・ ・ ・ ・


シャ

ロレンス「よし…おわった!」バッ

ロレンス「思ったより苦戦したな…まったく厄介な仕事を押しつけやがる…」

ロレンス「…」ピラ

ロレンス「まあ、雑な仕事だし、いいか」

ロレンス「…」

ホロ「…」

ロレンス「(ホロは…眠っているのか)」


カタ

ロレンス「…」

ホロ「…」スー…

ロレンス「…」

ムニ

ホロ「…ふ」

ロレンス「…悪かったな。放っていて」ムニムニ

ホロ「…??…?」ムニャ


パチ

ホロ「…むぁ?」

ロレンス「お、起きたか」

ホロ「…」ポーッ

ロレンス「…」

ムニムニ

ホロ「…っ」

ホロ「にゃ、にゃにをしてほる!」

ロレンス「喋れていないぞ」

ホロ「ほっぺをちゅまみゅでにゃい!」

ロレンス「はは」

ホロ「たわけ!!」バタバタ


ロレンス「ほら。しばらく構ってやれなかったからな」

ロレンス「その分だ有難く受け取ってくれ」ムニー

ホロ「ふぎゅ」

ホロ「な、なにもありがたくありんせん!」

ロレンス「そいつは残念だ」ムニムニ

ホロ「むあー」グニー

ホロ「むう!」


ホロ「いい加減にはにゃしんす!」

ロレンス「はいはい」パッ

ホロ「…。はふ」

ホロ「…ひりひりする…この、たわけめ…」ビシ

ロレンス「いて」

ホロ「ふん!」パタパタ

ロレンス「(尻尾が大変なことになっているのには気づいていない振りをした方がよさそうだな)」


パタパタ

ホロ「…まったく…この賢狼の頬を弄ぶとは、ぬしほどのたわけはそうはおらぬ」

ロレンス「それは仕方ない。そのくらいたわけでないと、賢狼は歯牙にもかけてくれないからな」

ホロ「まあの。なぜか世では愚鈍でたわけたものほど美味でありんす」

ホロ「羊しかり、ぬししかりじゃ」

ロレンス「羊よりは機敏な自信があるんだけどな」

ホロ「まぬけなさまはいい勝負じゃと思うがの」


パッ

ホロ「まあ、よい。頼まれごとは済んだのじゃろ」

ホロ「ならばいつまでも宿に篭っておる理由はありんせん。のう?」

パシ

ロレンス「ああ」

…スン

ロレンス「?」

ロレンス「(何か甘い匂いが…)」

ホロ「どうかしたかや?」

ロレンス「あ、いや…何でもない。行くか」

ホロ「んむ!」


・ ・ ・ ・ ・


ロレンス「待たせた」

ホロ「どうじゃった?」

ロレンス「思ったよりは羽振りがよかったな。まあ相手もまともなところに頼むよりよほど安上がりに済んだろうが」

ホロ「では多少はぬしの羽振りもよくなるわけじゃ!」

ロレンス「…ほどほどに頼むよ」

ホロ「くふふふ」

ロレンス「…」ハハ…


ホロ「ふむ…そうじゃな」パタパタ

ホロ「宿にまだパンがあったじゃろ? 今日の夕食はそれでよい」

ロレンス「…。何だって?」

ホロ「あ、ぶどう酒と何か挟むものくらいは頂くからの」

ロレンス「…」

ロレンス「それは、うん。構わないが」

ホロ「そうかや。では早く宿に戻ろう」パシ、タタ

ロレンス「…んん?」


ホロ「♪」パクパク

ロレンス「…」パク

ホロ「なんじゃぬしよ。齧ったまま呆けおって」

ロレンス「…いや」モグ

ホロ「のんびりはんでおるとわっちがもらってしまいんす」アーン

ロレンス「…っ」バクバク

ホロ「くふふ」

ロレンス「…」ゴクン

ロレンス「…」チビ

ホロ「♪」パクパク

ロレンス「な、なあホロ」

ホロ「んむ?」


ロレンス「…もしかしてしばらく放っていたことを怒っているのか?」

ホロ「…」

ロレンス「あ、あるいは…そのあとふざけ過ぎたとか、なにか俺はホロの気に障るようなことを———」

ホロ「ううん? ぬしは何もしておらぬ」パクパク

ホロ「いや。まあこうして安物のパンでがまんしておるのはぬしのせいではあるんじゃが」

ロレンス「ど、どういうことだ?」

ホロ「…」ゴクン

ホロ「ふう。ごちそうさま」ペロ


ホロ「ではぬしよ。今度はわっちの用に付き合ってくりゃれ?」

ロレンス「ホロの用?」

ホロ「んむ」ニコ


・ ・ ・ ・ ・


サラサラ…

ホロ「コーヒーには砂糖を入れるとおいしく飲めるそうじゃ」

ロレンス「…ほう」

ロレンス「何だか本末転倒な気がしないでもないが」

ホロ「まあの」

ホロ「気つけとぬしは言っておったが、甘いものと一緒に飲んだり、食後の口直しにも使うそうじゃ」

ロレンス「そうなのか」

ロレンス「…ずいぶん詳しいな。本当は知っていたのか?」

ホロ「いいや?」フルフル

ホロ「ぬしが机に向かっておる間ひまじゃったからの。いろいろと知識を集めてきんす」

ロレンス「いつの間に…いやそれよりそんな情報どうやって…」

ロレンス「あ」


ロレンス「(さっきホロからした、ほんのりと甘い香り)」

ロレンス「(それこそ、てっきりコーヒーに合うとかいう甘いものでも探していたのかと思ったが…)」

ロレンス「あれは、古い本からするインクの匂いだ」

ホロ「くふ」

ロレンス「お前…ひょっとして、あの書籍商のところに行っていたのか」

ホロ「その通り。やはりぬしは、羊とは言え愚鈍ではない鋭敏なそれじゃな」

ロレンス「(羊だという評価が覆るわけではないのか…)」ハハ…


ホロ「物について問うのであれば、持ち込んだ主に聞くのが早いのは道理でありんす」

ホロ「それに本人が知らずとも異国の蔵書があると言うならそれをあたればよい」

ロレンス「その通りだ」ウン

ホロ「そう言うわけで、じゃ」

クルクル

ホロ「これで。多少はこの苦い水もおいしく飲める」

ロレンス「…なあ」

ホロ「うん?」

ロレンス「…それは、俺のためにしてくれた…のか?」

ロレンス「わざわざこっそりと宿を抜けて、まあ確かに俺は、捨てるのはもったいないと言ったが、何もそこまでしなくても…」

ホロ「なにを言っておる」


グイ

ホロ「…んっ」

ホロ「…んむ。悪くはありんせん」

ロレンス「…」

ホロ「そんなのわっちが飲むために決まっておる」

ホロ「わっちが飲めずにぬしだけ飲んでおるなどたわけた話じゃ」

ロレンス「…そう言うことか」ハア


ロレンス「(ひょっとしてホロが俺のために…なんて思ったが)」

ロレンス「(こいつあいてにそれは甘い考えだったな)」ハハ

ホロ「なにを笑っておるんじゃ」

ロレンス「いや。なんでもないよ」

ホロ「ほれ」

ズイ

ロレンス「…え?」

ホロ「ぬしも飲みんす」

ロレンス「…えっと、いや」

ロレンス「俺はいいよ。あとはお前が飲めばいい。飲みたかったんだろ?」


ホロ「ぬしはなにを言っておる」ハア

ロレンス「え?」

ホロ「わっちは、ぬしと一緒に、同じ物が飲みたかったんじゃ」

ホロ「わっちが一人で飲んでしまっては何の意味もありんせん」

ロレンス「…」

ロレンス「あー」


ロレンス「はは。そうか」

ホロ「? へんなぬしじゃの」

ロレンス「ああ。どうかしていた。ありがとう、頂くよ」

ホロ「んむ」

ロレンス「…」グイ

ロレンス「(…あま)」

ホロ「のうぬしよ。砂糖を入れたコーヒーも悪くありんせん?」

ロレンス「…ああ、そうだな」

ロレンス「(たまにはこんな風に甘いのも。悪くないかもな)」


おしまい

以上です。
先日は悲しいお話だったので今回は深い意味のない小話でした。

香辛料SSはもっと増ーえろっと。読んでくれた方ありがとうございました。

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