一夏「たとえ、この想いが届かなくても――」(411)

立つかな?

・地の文多め、苦手な人は見ない方がいいかも
・設定は4巻と5巻の間ぐらい?あんまり詳しいことはしらね
・まぁー後は適当になんとかする

じゃあ行きます。目標は終わるまで寝ない

いつから彼女に惹かれていたのだろう

自分の拙いISの特訓に、嫌な顔一つせず、協力してくれたときからだろうか
ふと自分に向けられた笑顔を見て、心が和んだときだろうか

それとも、もしかすると初めて会ったそのときから、
俺は彼女に惹かれ始めていたのかもしれない

ゆっくり、ゆっくりと

心はコップのようなものだと、昔誰かが言っていた気がする

それが本当なら、俺のこの気持ちは、自分では気がつかないくらい、
ゆっくりと時間をかけて溜まり、遂には自覚できる量に達してしまったんだろうか

あぁ…だからこんなにも、彼女が愛おしく感じられるんだろうか

――――寮・一夏の部屋


箒「一夏!いつまでダラダラと寝ているつもりだ。朝稽古を始めるぞ!」

一夏「なんだよーまだこんな時間じゃないか…」

バン!と音を立ててドアを開け放つ箒を眠気眼で捉えつつ、不平を漏らしてみる。

箒「何を腑抜けた言っている!しばらく見ない間に剣道の腕はおろか、
  性根まで腐ってしまったかっ!?私が叩き直してやる!!」

一夏「うわっ、大きい声出すなよ!こっちは寝起きだぞ、全く……
   よーしっ、じゃあ勝った方が朝食を奢るってのはどうだ?
   朝稽古が終わったら、そのまま一緒に飯食おうぜ?」

箒「なっ…」カァー

思わぬ申し入れに意表を突かれ、頬が熱くなるのを感じる。

箒「い、いいだろう。望むところだ」


こうして、織斑一夏の一日は今日もまた平和に始まった。

山田「今日はまたまた転校生を紹介しま~す。それでは自己紹介どうぞ~」

誠「みなさんこんにちは。伊藤誠といいます。これからよろしくお願いします」

一同「きゃあああああああああああああああああ、カッコイイイイイイイイイイイイイ」

――――食堂


一夏「くっそー後少しだったのに…朝から出費が痛い…」ショボーン

箒「怠けて帰宅部なんかにいたから、そういうことになるのだ。
  それに、そもそもお前が言い出した勝負だろうが、二言を放つとは、
  男らしくないぞ。」

朝稽古を終えて、朝食を摂りに来た二人。勝負はどうやら一夏の敗けだったらしい。

一夏 「わぁかってるよ。それにしても箒は強いよな。だが『明日は勝つ!』」

箒「ッ…『その明日はいつ来るのだろうな。』」

それは幼い頃、同じ剣道場に通っていた頃に交わした言葉
箒と一夏しか知らない言葉
二人だけの想い出

箒「な、なぁ一夏、昔のことを覚え――」「あぁー!アンタたち!!」

鈴「朝っぱらから二人で何してんのよ!」

一夏「何って、見りゃ分かんだろ?ご飯だよ。朝稽古で負けまって箒の分まで
   払うことになっちまったけどな」

鈴「なっ!?朝稽古っ……」ムムムッ

片想いの異性が、自分以外の女性と一緒にいるのは嬉しいことではない。
それが、恋のライバルならば尚更だ。嫉妬に燃えて当然である。

が、、、
『ちょっと一夏!何回言えば分かるのよ?いいちゃんと聞きなさい。
 こういうときは、こんな感じでこう感じるままに動くわけよ。
 よーするに、大事なのは感覚よ。感覚。いい?』
『なるほどーいやぁ、鈴はホントに教え方が巧いよな。
 いつも迷惑ばっかかけてごめんな?』
『な、何言ってるのよ…ちっとも迷惑だなんて思ってないわよ。
 寧ろ、好きな人の力になれるのが……あっ』
『鈴…お前……実は俺もお前のことが…』
『……一夏』

「ちょっと鈴さん、そこ、空けて頂けます?」

妄想絶好調、朝からシナプス全開で妄想に耽っていたところをぶった切ったのは
自分と立場を同じくするイギリス代表候補生のセリシア

セリシア「あら、一夏さんに箒さん。おはようございます。早いですわね」

一夏「おはようセリシア。急がないとSHRに遅れちまうぞ?」

「ほらほら、ラウラ早く~」「むー嫁が部屋にいないのだ。もしや逢い引きか?」

小走りになりながら書けてくる金髪の少女と銀髪の少女
シャルとラウラだ
あの様子だと、部屋にいない一夏を捜していて遅くなったご様子

シャル「いや、そんなことはないと思うけど…
    あっ、ほら、みんないるよ?みんな、おはよう!」

ラウラ「おはよう。む~一夏。夫婦とは茶碗を共にするべきものと聞いたぞ?」

一夏「おはよう。シャル、ラウラ。ラウラ、それを言うなら『枕を共にする』だ。
   いやしかし、だからと言って一緒に寝たいわけではなく…むぅ、まぁいい。
   ほら、みんな、早く食っちまおう。」


慌ただしくも、日常的な風景


いつの間にか揃っている、いつもメンバー
いつもと同じような会話
でも飽きず、繰り返されることが幸福に感じられる会話

――――昼休み


午前の授業を終え、昼食を摂り終えた織斑一夏は、物思いに耽っていた。

心に過るは彼女のこと

我ながら、最近は本当にどこかおかしいんじゃないかと思う

ほんのちょっとした時間
例えば、授業中にふと窓から外を眺めたとき
例えば、ふっと息をついたそのとき
例えば、寝るためにベッドに入り目を瞑ったとき
例えば、こうしているとき


彼女のことを考えてしまう


彼女は今何をしているだろうかと、何を考えているだろうかと、誰といるだろうかと。


もしかしたら今の自分と同じ様に誰かのことを想っているのだろうかと。

そう考え、胸が締め付けられたように苦しくなる。

彼女の立ち振舞い、言動に一喜一憂し、心が彼女で占められていくのを感じる。

――そうか、これが恋をするということか――

織斑一夏は考える。

あぁ…誰かに心を奪われるとはこういうことか、と。


一夏「はぁ…たまんねぇな」

そう一人ごちて溜め息を吐く。

「なにが?」

急にかけられた声に驚き、振り向くと、シャルがキョトンとした顔をしてる。

シャル「どうしたの溜め息なんか吐いちゃって?悩み事?
    僕で良ければ力になるよ?」

一夏「いや、少し考え事してただけだ。みんなと比べると
   全然ISをうまく使えねーなぁってな」

シャル「そんなことないよ!一夏が初めてISに触れたのはたった数ヶ月前じゃないか。
    僕たちはもう何年もISに乗ってるんだよ
    それを考えれば、贔屓目なしにしても一夏の成長のスピードはホントに凄いと思うよ」ニコッ

一夏「シャル…」

シャル「大丈夫だよ、一夏。僕は一夏が頑張ってるのをちゃんと知ってるから。
    僕で良ければ、いつでも練習にも付き合うよ。
    だから、あんまり自分を追い詰めないで。ね?」

一夏「おう。ありがとな、シャル。だいぶ気が楽になったよ」

シャル「えへへ。一夏だって僕が学園に来たばかりの頃に助けてくれたじゃないか。お互い様だよ。
     …でも、でもね、一夏の力になれて嬉しいな」

そう言って微笑むシャル

シャルに小さな嘘を吐いてしまったことを内心申し訳なく思いながら、全く関係ない話の
はずなのに応援され、励まされて、知らず知らずのうちに滅入っていた気持ちが薄れていた。

誰にでも分け隔てなく優しいシャルらしい、そう思った。


千冬「織斑!デュノア!何をしている!もう予鈴が鳴っているぞ!遅れるなよっ!!」

一夏・シャル「「は、はいっ!」」

一夏「急ごう、シャル!」ギュッ

そう言って、シャルの手を掴み走り出す。

シャル「う、うん!(はわわわ…ててて……手!!一夏っ!)」ドキドキ


千冬の怒号に戦々恐々しながら、授業は午後の部へと進んで行く。

――――アリーナ


セシリア「よいですか、一夏さん。超長距離からの射撃で重要となるのは標的は元より、周りの環境です。
     その時の天候、気温、湿度、風向き、コリオリの法則、さらには発射から着弾におけるまでの
     敵味方の行動予測、反撃を受けた場合の回避行動の想定、次弾装填における…etc」

一夏「……」チーン


放課後、一夏はセシリアから熱のこもった射撃の講義を受けていた。


一夏「(わ、わからん。さーっぱりわからんぞ。
    そもそも俺のISの標準装備に銃なんか入ってねーぞ…
    くそーこんなことならちゃんと授業聞いとくんだった…
    だけど、銃なんて

     ――『当たらなければどうということはない』――

    ってあの人も言ってたからな…どうしても軽視してしまうんだよなー)」

セシリア「――さん?一夏さん!ちゃんとお聞きになっておられますの?確かに、一夏さんには
     必要のない講義のように思えますが、いざ戦闘となれば友軍機の武器を手にすることも
     あるのですよ。そのとき、友軍や自分を守るための講義ですわよ。
     かつての歴戦の戦士も
     
     ――『戦いとは、常に二手三手先を考えてするもの』―
     
     と述べています。ですから、想像力の幅を広げておくことが肝要になるのです」

一夏「確かに、まぁ、そうだな。すまなかったな、セシリア。
   この技術は、セリシアやみんなを守るためのものだもんな。
   いざって時に、セシリアを守れなかったら後悔しちまうからな。」

セリシア「と、ともあれ、私はいつでも一夏さんの側におりますゆえ、一夏さんの身が
     危険にさらされるようなことになれば、この私が身を投げ打ってでも……」ゴニョゴニョ

一夏「おう!俺もセリシアが危険にさらされるようなことがあれば、助けにいくよ。
   絶対に俺が、お前を守ってみせるさ。」

恥ずかし気もなく、そんなことを言い放つ一夏

セリシア「ッ~~」カァー

『危ないっ、セリシア!』
『一夏さん!?』
ドカーン!
『一夏さん!一夏さん!』
『くっ…怪我はないか?セリシア?』
『私のことよりも、ご自身のことを……あぁ、こんなにも血が…』
『俺のことなら大丈夫さ。それよりもセリシアに怪我がなくて良かった。好きな女の子を守ることができて、
 俺は幸せだ。』
『あぁ…私も、私もお慕い申しております…一夏さん…』
『セリシア…』


セリシア「(……いいっ!)」ドキドキ

一夏「ん?どうしたんだ、セリシア?」

セリシア「ななな、何でもありませんわ。さぁ、続きを始めますわよ!」

一夏「お、おぅ!」

――――練習後


一夏「ふぅ~疲れた、疲れた」

セリシア「ご苦労様でした、一夏さん。はい、スポーツドリンクでよろしかったでしょうか?」

一夏「おぉ~サンキューな。セリシアもお疲れ様。
   おかげでだいぶコツが掴めたような気がする」

セリシア「うふふ、お役に立てて何よりですわ。」

一夏「ホントに助かったよ。でも考えてみりゃ、不思議なもんだよな?
   最初の頃はあんなにケンカばっかしてたのに」

セシリア「あ、あの頃のことは忘れてくださいまし。
     私は常に一夏さんに対して淑女として接しようと心がけておりますわ。」ムスッ

一夏「ははっ、セシリアは優しくて綺麗だもんな。確かに淑女ってのはピッタリだ」

セシリア「あ、ありがとうございます…(き、綺麗?私が…)」ドキドキ

本当に綺麗な子だな
夕日のためか、頬に茜さすセシリアを見て本心でそう思った。

(いやー白人の知りあいなんてほとんどいないけど、セシリアほどの美人はそうはいないんじゃねーか?
 顔は整ってるし、胸だって…って、何考えてんだよ、俺はっ!?)

心に過るやましい考えを断ち切るかのように、セシリアから顔を背けた。


(綺麗…私が?)
顔が熱くなるのを感じる
あぁ、彼にはバレてはいないだろうか

内心を押し隠すこともできない自分を歯痒く思い、自分の頬が熱さを感じる。

あぁ、急に顔を赤くして、変な女だと思われていないだろうか

セシリア・オルコット 15歳
まだまだ好きな異性のためには、価値観すら変えられる、うら若き乙女の年頃である。

願わくは、、願わくは夕日が顔の赤みを隠してくれていますように
本心でそう願った。

書き溜めなくなるの早すぎわらえない;;
書いてくる、落ちたら仕方ない

取り敢えず支援

――――帰宅途中


一夏「(今日のセリシアは随分と張り切ってたな。みんなに迷惑をかけないためにも、
    早く強くならなきゃ……もっと頑張らなきゃ…)
   
   ん?あれは――おい、鈴!」

鈴「ひゃっ、一夏か。急に大きな声出さないでよね!ビックリしちゃったじゃない!」ムキッー

一夏「わりぃ、わりぃ。で?何してんだ?こんなとこで」

鈴「な、何にもしてないわよ!バカっ!」

弁当箱「…………。」

ところどころセシリアがセリシアになるのはなんなんだww

鈴「(ちがーう!こんなことを言いたかったわけじゃないのに!あぁ…私のバカっ…)」

『あっ、一夏。今帰り?お疲れ様!あのね、今日は一夏が遅いだろうなって思って、
 料理作ったんだ。良かったら一緒に食べない?』
『…鈴、ありがとう。俺のために…』

(って流れを数十回もシュレーションしたじゃない!!も~あたしのバカバカっ…)

>>25
すまん・・これのキーボード特殊なんだ・・

>>28

×これ
○俺

もうヤダw

一夏「お、おぅ。確かに、何もしてなさそうだったが…あっ、そうだ。
   おい、鈴、お前もう飯食ったのか?」

鈴「へ?いや、まだだけど…(何?このフラグ?)」ソワソワ

一夏「そうか!俺、ISの特訓でまだ食ってなくて、腹ペコなんだ。ついでに一緒に食わないか?」

鈴「う、うん!食べる!(な、なんという結果オーライ!ここで言わなければっ!)」

鈴「ね、ねぇ一夏?実は、実はね。丁度ご飯作ってきてたの!だから良かったら
  アンタの部屋で食べてもいいけど…」ギューッ

弁当箱「………(つ、潰れる…)」ムギュー

一夏「なんだ、そうだったのか!よしっ、じゃあ早く行こうぜ?ホントに今日は腹ペコなんだ。」

鈴「う、うん!」ニコッ

――――食後・一夏の部屋


弁当箱「………(からっぽ…)」

一夏「食った食った。腹が一杯だ。ごちそうさま、鈴」

鈴「はいはい、お粗末様でした。ねぇ、一夏?どうだった?美味しかった?」

一夏「おぉ~すげー旨かったぞ。悪かったな、俺ばっか食っちまって。
   あれじゃあ、まるで鈴が俺のために作ってきてくれたみたいになっちまったな」ハハッ

鈴「だ、誰がアンタの為に…ま、まぁ美味しかったならいいわ」カァー

一夏「いやぁ、腕を上げたのは酢豚だけじゃなかったんだな。
   他の料理だって、みんな美味しかったぞ」

鈴「アンタ…もしかして私が酢豚しか作れないキャラだと思ってたんじゃないでしょーね?」

一夏「ギクッ…って、んなことねーよ!あの約束があったから、てっきりご馳走してくれるのは
   酢豚のイメージが強かっただけだ!」

鈴「アンタの中の私のイメージは一体どうなってんのよ?ったく…まぁ、いいわ。
  …ねぇ、一夏。聞いていい?」

一夏「ん?なんだよ?」キョトン

鈴「わ、私が引っ越して、少しは寂しかった?」

一夏「あれ?お前、前にも聞かなかったか?それ?」

鈴「い、いいじゃない!あんまり二人きりで話をする機会がないんだし、私だって…
  私だって一夏と話したいもん。おまけに私だけ二組だし…不公平だよ…」

一夏「確かに鈴と二人で話すのは久しぶりな気がするな。んーそうだなぁ、前にも言ったけど、
   寂しくなかったって言ったら嘘になるな。
   やっぱりいつも側にいた奴がいなくなったら、物足りないつーか、なんと言うか」

鈴「…うん」

一夏「弾とよく話してたんだ。もしここに鈴がいたら、
   アイツはどんなリアクションするだろうなー?ってな。
   よくあいつと、三人一緒に笑いあっていた日を懐かしんでたよ」

鈴「そっ…か。わ、私もね。寂しかったよ。みんなやア、アンタと会えなくて。
  中国に帰って暫くしたら軍に入ることになって、生活もガラッと変わっちゃったしね。
  うん、寂しかったなぁ…」

一夏「…鈴」

鈴「でも、でもね。今となっては、そんな生活にもほんのちょっとだけ感謝してるんだ。
  ISに乗れるようになって、代表候補生になれて、この国に戻ってこれたし、
  何よりまたアンタと同じ学校に通えるようになったんだからね」ニコッ

一夏「…あぁ、そうだな。また一緒だ。そうだ!今度、弾も誘って三人で遊びに行こうぜ?
   あの頃みたいにさ。アイツ、鈴にすげー会いたがってたぞ!」

鈴「えへへっ…うん!約束だよ、一夏?」



(『寂しくなかったって言ったら嘘になる』……か。
  俺は…俺は寂しかったよ、鈴。
  それまで一緒にいることが当たり前だった人が、急に自分の全く知らない、
  遠いところへ行ってしまうのは、堪らなく寂しかった。
  そんな思い、もうしたくなかったのに。)

鈴「一夏…?」

一夏「ん?わりぃ、少し考え事してた。じゃあ、また弾に話して暇な日を聞いておくよ」

鈴「うん。さってとー、じゃあ私はそろそろ部屋に帰るわね。また日にち決まったら
  教えてちょうだい」

一夏「おぅ、わかった。おやすみ、鈴」

鈴「ん。おやすみ、一夏。…今日は二人で話せて嬉しかった。」ゴニョゴニョ

一夏「へ?」

鈴「なんでもない!じゃあまたね!」


足早に去っていく鈴

一夏「なんだ?まぁ、いいか。さて、俺もシャワー浴びて寝るか」


何かと朝から忙しかった今日も、もうすぐ終わろうとしていた。

――――寮・シャルとラウラの部屋


シャル「ふぃー今週も疲れたね~?」

ラウラ「いや、体力の消費度合いで考えれば、通常通りの一週間だったように思えるが?」

シャル「ラウラは鍛えてるからなぁ、体力あるよね。
    ね?やっぱり、僕ももっと鍛えた方がいいのかな?」

ラウラ「要不用の議論ならば、要だろう。戦時下となれば、体力のないものは
    必然的に足手まといになりやすく、また生存率も落ちるからな。しかし…」

シャル「しかし?」

ラウラ「し、しかし…私の聞いたところでは、男とはほどよく肉のついた体型の女に
    惹かれる傾向があるという。
    そ、その点を考慮に入れるならば、シャルロットのような細さと柔らかさを
    兼ね揃えた肉体は、些か羨ましく思う。私は細すぎるからな」

シャル「もしかして…一夏のことを心配してるのかな?
    一夏も胸の大きい人が好きなんじゃないかとか?」

ラウラ「な、何を言う!?あれは私の嫁だぞ!そんなことがあるはずがないっ!
    …と思いたい…」ショボン

シャル「ふふっ、ごめんごめん。意地悪しちゃったかな?
    でも僕も、一夏はそんなこと気にする男の子じゃないと思うよ。
    だから大丈夫だよ、ラウラ」

ラウラ「う、うむ。そうだ、私が選んだ嫁がそんなことを気にするはずがない」

シャル「うんうん。あっ、そうだ!ラウラは明日のお休みは何か予定あるの?」

ラウラ「明日か?いや、特に何もない。せいぜい、
    『戦時下におけるISの効用とその弱点に関する考察』をしようかと思っていたぐらいだ」

シャル「あは、あはは…それはまた、生産的だね…じゃ、じゃあさ、それ以外に予定がないなら、
    一夏と一緒にお出掛けするのはどうかな?」

ラウラ「なっ!?」

シャル「ほら、ラウラはあまり外に出掛けないでしょ?
    この前二人で買いに行った服だって、全然着てないじゃない?
    早くしないと夏が終わって秋になっちゃうよ?」

ラウラ「そ、それはそうだが…」モジモジ

シャル「それに、あの服は一夏に見せるために買ったんでしょ?いい機会だと思うけどなぁ?」

ラウラ「むむ、し、しかしだな…」

シャル「んーラウラが乗り気じゃないなら仕方ない。
    それじゃあ、ラウラを置いて僕だけ、一夏と一緒にお出掛けしてこようかなー?」

ラウラ「なっ!?行かないなどと言っていない。いいだろう、私も行くっ!」アセアセ

シャル「えーホントかなぁ?」

ラウラ「うむ!…に、二言などないっ。
    それに、一夏とシャルロットと私の三人で出掛けたことなど一度もないからな。よい機会だ」

シャル「うんうん。その調子、その調子。でもごめんね、実は僕明日は朝から
    ISの整備が入ってて空いてないんだ。
    だから僕は次の機会にってことになっちゃうんだけど…」

ラウラ「なっ!何を言っている!?お前がが言い出したことではないか!?」

シャル「だーいじょうぶだよ、ラウラ。一夏はラウラの嫁なんでしょ?
    夫婦が一緒に出掛けるのは変なことじゃないよ?それに、二言はないんでしょ?」フフン

ラウラ「そ、それはそうだが…二人っきりとなると…男は狼になるものだと聞いたし…」カァー

シャル「へへっ、ねぇーラウラ?」

ラウラ「ん?なんだ?シャルロット?」キョトン

シャル「ラウラ、ここはIS学園だよ。通ってくるのは、大半が普通の女の子。
    ラウラは軍籍が長いから、中々難しいかもしれないけど…
    けど、けどね、ラウラも普通の女の子のように色んなものを見たり、聞いたり、
    経験してもいいんじゃないかなって僕は思うんだ。
    その初めてが一夏なら、きっとラウラも緊張しないと思うしね」ニコッ

ラウラ「シャルロット…うむ。『郷に入れば郷に従え』というやつだな。
    よし、早速一夏に伺いをたててこよう」

シャル「うん!」

ラウラ「あっ、だ、だがその前にシャワーを浴びて身を清めることにする」

シャル「ラウラ?」

ラウラ「ま、万が一ということも有り得るからな…狼だし…」モジモジ

シャル「あはは…大丈夫だと思うけど…」

ラウラ「お前はどうする?」

シャル「うん、僕も浴びようかな。もうすぐ寝る時間だし」

ラウラ「一緒にか?」

シャル「ち、違うよっ、もう!ラウラの後!」カァー

ラウラ「冗談だ」

シャル「へ?」

冗談だと言って、浴室へ去っていくラウラ


僕がこの部屋に移ってから、ラウラとはたくさんお話をした。
そりゃ、最初は少し無愛想だったけど――それも今は昔


ラウラが冗談を言うようになったこと
そして自分とラウラが冗談を言い合える間柄になれたことを喜びながら、
シャルロットはラウラを見送った。

――――夜・寮内自室


一夏「ふぅ~やっぱり緑茶は落ち着くな。今日はもうやることないし、後は寝るだけか」

――コンコン

一夏「ん?誰だ?どうぞ?」

ラウラ「わ、私だ、一夏」ドキドキ

お風呂上がりなのか、いつもはストレートの銀髪が緩やかにウェーブしているラウラが入ってきた。

なんというか、、あれだ。
修学旅行で初めて、女子のお風呂上がりの姿を見たときのような――


一夏「ラ、ラウラか。どうしたんだ、こんな夜に?」ドキドキ

ラウラ「う、うむ。実は、明日のことなんだが…?」

一夏「明日?」

ラウラ「その、なんだ、あ、明日はその、可及的速やかに処理しなければならない案件は
    何かあるのか?」モジモジ

なんだ?妙に歯切れが悪いな、とラウラを訝しく思う

一夏「いや、そんな切羽詰まった問題は何もないぞ。
   というか、明日は暇で何をしようか考えてぐらいだ」

ラウラ「そ、そうか?ならば、もし良ければ明日、わ、私と一緒に出かけてくれないか?
    そ、そうだな、駅前とかに服を見に行くのはどうだ?
    以前シャルロットが数点見繕ってくれたのだが、やはり嫁である一夏にも選んでもらいたいのだ。
    その、、一夏が可愛いと思うものを…」カァー

一夏「お?おう。それぐらいお安いご用だ。折角の休みを寝て過ごすのももったいないしな。
   うん、一緒に行こう」

ラウラ「ホントか!?嫌じゃないのか?」ソワソワ

一夏「バカ、嫌なわけがあるか。それじゃあ、明日正門前で待ってるよ」

ラウラ「…うむ」

一夏「ラウラ?」

ラウラ「……狼」ボソッ

一夏「へ?なんて言ったんだ、ラウラ?」

ラウラ「な、なんでもない。では楽しみにしているぞ、一夏!」カァー

何やらご機嫌なまま、走って飛び出していったラウラを見て、
最近は感情表現が豊かになってきたな、と思う。

個性溢れる友人たちに囲まれて、少しずつ普通の女の子らしくなってきた。
それがなんだか、嬉しかった。

――――夢


『ただいま~千冬姉』
『おかえり、一夏。今日の学校はどうだった?』
『う、うん…学校は楽しいよ。友達もたくさんできたし…』
『なんだ?その割には元気がないじゃないか?どうしたんだ?姉さんに言ってみろ』
『うん…ねぇ…千冬姉、どうして僕たちにはお父さんとお母さんがいないの?』
『ッ…』
『今度の宿題で、先生が両親のことを書いてきなさいって言ったんだ。僕は…僕は
 何を書けばいいのかな?僕たちのお父さんとお母さんはどこに行ってしまったの?
 僕たちのこと、いらなくなっちゃったの?』
『一夏…』
『うっ…うっ…お姉ちゃん…』
『…一夏、泣くなっ。私に任せろ』
『グスッ…お姉ちゃん?』
『今日からはお姉ちゃんが一夏のお母さんにも、お父さんにもなってやる。
 一夏が寂しい思いをしなくて済むように、お姉ちゃん頑張るから。
 だから…だから一夏。もう泣かないでおくれ』ギュッ
『く、苦しいよ、お姉ちゃん。でも、ありがとう。僕、千冬姉ちゃんのことが大好きだよ…
 だから僕、もう泣かないよ…』

一夏「夢か…懐かしいな。あの頃の夢を見るなんて…」


あれから、あの約束から千冬姉は、俺の姉であり、俺の母であり、父であり、
俺の家族となったんだ。


一夏「まだこんな時間か、ラウラとの約束まではまだ時間があるが…
   二度寝って気分じゃねーな。シャワーでも浴びるか」

寝汗で気持ち悪くかったシャツを脱ぎ捨てて、一夏はシャワールームへと向かっていった。

――――学園・正門前


一夏「待ち合わせ15分前。うーん、時間少し前に来るのは男として当然だよなぁ」ウンウン


待ち合わせ場所が見えてきた、疎らに人はいるものの、ラウラはまだみたいだ。


そんな呑気に、ゆっくりと歩を進める一夏の前方から、一人の女性が向かってくる。

(えらく可愛い格好をした人だなぁ…って、あれ?あれラウラに似てないか?
 いや、でもあいつがあんな服持ってるわけねーし…あれ?)

ラウラ「お、遅いぞ、一夏!夫を待たせるとは何事だっ」ムゥー

怒ったような、喜んでいるようなラウラの声

一夏「…………」

ラウラ「おい、どうしたのだ、一夏?おーい?」

一夏「(どうなってる?これはラウラなのか?)」

そこには立っている女性は肩を露出させた黒のワンピースを着て、腕には綺麗な
ブレスレットを付けている。靴は洋服に合ったミュール。

色白で極め細やかな肌を露出させ、ミュールのヒールが細く綺麗な足を主張しながらも、
全くイヤらしさを感じさせない。

少なくとも、一夏の記憶の中には、こんな女性は存在しない。

存在しないはずなのに、自分の目の前の女性はラウラと同じ顔をしていた。

一夏「…ラウラ?…その服は…?」

ラウラ「昨日行ったであろうシャルロットが見繕ってくれたのだ。
    や、やはりこのような綺麗な服装は、私のような人間には似合わないだろうか?」

一夏「いや…いやいや……そんなことない!そんなことないぞ、ラウラ!凄くよく似合ってる!
   可愛いぞ!!」

ラウラ「か、可愛い?ホントに!?私がか!?」カァー

一夏「おぅ!見間違えたぞ!いつも支給品の制服ばかりだったからな。
   凛々しい格好のラウラもいいが、可愛い洋服を着込んだラウラも凄くいいな!
   …ってラウラ?」

ラウラ「ッ~~」ボンッ


頭から湯気が沸き起こる

ラウラにとって、オシャレをして外出するのはこれが生まれて初めてのこと
それが意中の男性とのデート
しかも、自分のことを可愛いと形容してくれた

まさに、天にも昇らんかの如き心境のラウラは心の中で、シャルロットに感謝した。

ラウラ「うむ、嫁にそう言ってもらえるならば私は満足だ。さぁ、行くとしよう!」

履き慣れていないヒールに戸惑いながらも、ゆっくりとラウラは歩き出す。

一夏「お、おー!」


後を追いかける、何処と無く緊張した様子の一夏と早くも幸福度MAXのラウラ

今日という1日が、きっと大切な思い出になるようにラウラは感じた

――――寮・廊下

篠ノ之 箒は竹刀片手に、廊下を歩いていた。
向かう先はもちろん、織斑一夏の部屋である。

箒「ふんっ、どうせあいつは休日だとかぬかして、惰眠を貪っているだろう
  折角の休日、朝から晩まで稽古できるというのに……私と、、一緒に…」カァー

『一夏、勝負だ。もしお前が勝ったなら、商品をやろう』
『商品、なんだそれ?』
『今回の商品は、わ、私の身体だっ』
『なっ!?』
『勝ったら私をお前の好きなようにしていいぞ?その代わり、私が勝ったらお前を貰う!』
『なにっ!?絶対に勝つ、いくぞ、箒ーー!』
『来いっ、一夏!』
『くっ、強い…』
『ふはははは、ザクとは違うのだよ!ザクとはぁぁぁぁ!!』
『ぐはっ…ま、負けた…』
『では一夏…約束通り頂くぞ。お前の身体をなーー!』
『アァーーーーー!!』

箒「一夏っ!入るぞ!」ドキドキ

いつものように豪快にドアを開けて入る箒

あれ…?いない…

のほほん「あれー篠ノ之さん、どうしたの?こんなところで」

箒「あ、いや、その、そうだ!一夏を見かけなかったか?」

のほほん「おりむーなら、朝早くからお出掛けしたみたいだよ?」

箒「なにっ!?そうなのか…」

のほほん「あれー?もしかして、おりむーがいなくて寂しいのかな?」

箒「なっ、何を言う!私はただ、あいつを鍛えなおしてやろうと思っただけだ!他意はないっ!」

のほほん「そうなんだ。それならいいけど、篠ノ之さんは綺麗なんだから、
     もう少し素直になった方がいいと思うけどなー。じゃあ、またねー」

もう少し、素直に…
布仏さんに言われたことを反芻しつつ、少しは実践してもいいかもしれないと思う箒であった。

――――夫婦でお買い物・バス内


一夏「しっかし、俺でよかったのか?シャルやセシリアの方が俺なんかより
   よっぽどセンスあると思うぞ?」

ラウラ「わ、私は一夏に選んで欲しいのだ。むしろ、一夏が可愛いと思ってくれなければ
    意味がない!」

一夏「そ、そうか。まぁ、ラウラならどんな服を着ても似合うと思うけどな。分かったよ」

ラウラ「ふ、ふん。分かればよいのだ」

一夏「……」

ラウラ「……」

(な、なんだこの空気はっ?今までこのような雰囲気は経験したことがないぞ?
 な、何か話さなければ、、そうだ!以前シャルロットと話したことを参考にすればよいのだ!
 確か、あのときバスの中で考えていたことは…

      『戦争時下における市街戦のシュミレーション』

 ダ、ダメだ!ダメだダメだ…一夏を相手にして話せるような内容ではない。
 そもそも一夏は軍人でも傭兵でもないのだ…あぁ…どうしよう…)

一夏「ラウラ?どうしたんだ、そんな絶望的な顔をして。頭でも痛いのか?」

ラウラ「い、いや、身体に不調はない。も、問題ない。」ズーン

一夏「そうか、ならいいが…。ところで、ラウラはもうこの街に慣れたか?」

ラウラ「この街に…?どうだろうな。学園を出たのはこれが二度目だ。
    だから知っている場所や人は多くない。
    そもそも、私の見知った場所など本国の施設と学園の内部しかないからな」

一夏「そうか。じゃあさ、ラウラ。今日は色んなところへ行こうぜ。色んなものを見たり、
   聞いたり、感じたりして、新しい経験をたくさん積めば、この街だっていつかは
   ラウラの見知った土地になるはずだ。な?」

ラウラ「う、うむ。そうだな、そうしよう!」

一夏「おう。あっ、駅前についたみたいだぞ。降りよう、ラウラ」

自分の着る洋服を褒めてもらうなど、ここにくるまで経験したことはなかった
沈黙を苦痛に感じることも、今までしたことのない経験だった
打開策が見つからないのも、滅多にない経験だった

それら全ての経験を与えてくれたのは、一夏だ
自分の中で、一夏が占める容量が大きくなっていくのを感じた

ちょっと10分だけ・・

――――駅前デパート


一夏「さてっと、まずはラウラの洋服から見に行くか?」

ラウラ「うむ。洋服を購入する店には、一つあてがある。以前、シャルロットと
    行ったときに見立ててもらった店だ。そこに行こう」

一夏「おう、分かった。案内してくれるか?」

ラウラ「うむ。……一夏、はいっ…」

おずおずと自分の右手を一夏に差し出すラウラ

一夏「へっ…?」キョトン

ラウラ「ここは駅前で、人数も多い。そのため、はぐれてしまう危険性が高い。
    そ、その危険性を排除するために、手を繋ぐというのは比較的妥当な結論だといえる…」カァー

一夏「なるほど。確かに、はぐれちまったら困るもんな」ギュッ

ラウラ「ッ…で、で、では行くとしよう。」ドキドキ

顔を真っ赤にしながら、一夏を先導しながら人混みを進んでいく。

(い、一体どうしてしまったのだ、私は!?自分から手を差し出すなど、、)


自分でもどうしてそうしてしまったのか分からない。
初めてする経験
先ほどとは違う、今度は苦痛とは違う胸が熱くなってドキドキとする経験
ただ一夏に与えられるのではなく、自分から選びとった経験

自分の右手の先に、自分ではない誰かの暖かさを感じる。

(だが、……悪くない。)

自分の頬が熱を帯びていくのを感じながら、ラウラは微笑んだ。

――――デパート内・サードフェイス


店内をぐるっと、見渡してみる。
どうやら、季節に合わせて徐々に夏物から秋物にシフトしていっているようだ。
女の子と一緒に女性物の洋服店に行ったことがないからか、
物珍しそうに商品を眺めていると前方から店長らしき人が近づいてきた。


店長「まぁ。お客様!またお越し下さったのですね!!」

ラウラ「この前は世話になったな、今度は秋物の洋服を購入したいのだが、
    見繕ってくれるだろうか?」

店長「はい!喜んで!で、こちらのお連れ様は?」

ラウラ「こいつか?こいつは私の嫁だ」

店長「へ…?」

一夏「あっ、いや!お、俺はこいつの同級生です。ほ、ほらラウラ、秋物って言ったって、
   どんな洋服がいいんだ?」アセアセ

ラウラ「どんな、と言われても…なんでも…」


(シャル「『なんでもいい』はナシで」)


ラウラ「ッ…で、できれば、綺麗というよりは、可愛い方がいい。寒さは気にならない方なので
    そ、その、多少露出があっても構わない、私に合う洋服などあるだろうか?」モジモジ

店長「(か、可愛い…お持ち帰りしたい…)は、はい!ご用意致しますので少々お待ち下さい!」

ラウラ「(ふぅ…言えた…)」

一夏「へぇ~意外だな」

ラウラ「な、何がだ?」

一夏「いや、ラウラは綺麗系よりも可愛い系を好むのって初めて知ったよ。
   いつも、制服だったから、服に興味ないのかと思ってたんだ。
   新しい一面の発見ってやつだな」

ラウラ「わ、私だって女だからなっ!ちゃんと好みだってある!」
 (嘘だ、、好みがあるんじゃない…好みができたんだ…)


店長「お待たせいたしました。こちらは如何でしょうか?」

店長が持ってきたのは、上下ずつ数枚の洋服たち
この中から選べということだろう。

ラウラ「た、たくさんあるな。一夏はどれがいい?」

一夏「んーこれとこれと、あとこれなんかどうだ?」

一夏が選んだのは、赤いチェックのシャツに重ね着された白シャツ。
白シャツの上に刺繍された、クマさんが可愛らしい。
下は、ショートパンツでラウラの足の細さを際立たせ、多少の防寒のために黒の二―ソックス。

黒のニーソックス=黒ニーソ…それが指し示すもの、すなわち…

                ―ぜ、絶対領域っ!―

ラウラ「う、うむ。いいのではないか?」

一夏「どうだ、試着してみるか?」

ラウラ「うむ。では、行ってくる。」

一夏が選んだ服を抱えて、試着室のカーテンを閉める。

首ひもを解き、ワンピースを脱ぐと、灯りに透き通るように白く、美しい肌が照らされる。

下着姿の自分は、あのときと変わらぬ、しなやかでありながらも、鍛えられたく屈強さがあり、
そして異性にとっては少々魅力が足りない姿をしていた。

だが、

(ふふん、それだけが女を推し量る価値ではないのだ。)

何かの雑誌で見た、豊満なグラビアアイドルのポーズが、
今回ラウラの頭を過ることはなかった。

――

二時間でまだここまでしか終わらない…寝れんのかな…

限界まで付き合う所存でございます

>>80 有難うございます・・・
タイピングは雑だけど早い方だと思うので頑張ります・・

シャッという音を立てて、カーテンが開けられる

ラウラ「ど、どうだ?変ではないか?」カァー

店長「」ポカーン

一夏「」ポカーン

ラウラ「そ、そうか。や、やはり私のような人間に、このような可愛らしい洋服は
    似合わないと見える…」グスッ

そう言って、カーテンで身を隠そうとするラウラ

一夏・店長「「そ、そんなことないぞ!(ありません!)」」

店長「本当によくお似合いです!あまりに似合っていたので、
   何と言って表現すればよいのか分からず固まってしまっただけです!!」アセアセ

一夏「そ、そうなんだ!本当によく似合っている。ラウラ、可愛いぞ」アセアセ

ラウラ「ほ、本当か?う、嘘ではないだろうな…?」グスッ

一夏「バカっ、嘘なんて吐くわけないだろ?本当に可愛いと思ったから言ったんだよ」

ラウラ「そ、そうか。ならば、これにしよう。店長、すまないがこのまま着て出ていきたいのだが、
    着替えなくても清算は可能だろうか?」

店長「は、はい!もちろんですとも。どうぞ、こちらにいらしてください」


店長に案内されるラウラ
店内にいた定員も、その他の女性客も、その場にいたみんなが、ラウラの姿に釘付けだった。

――――デパート内・噴水前


一夏「思ったよりも早く、可愛い服が見つかってよかったな」

ラウラ「う、うむ。な、なぁ、一夏。本当に変ではないか?」アセアセ

シャツの袖を引っぱり、自分の姿を全身で表現しようとする。


一夏「大丈夫だよ、ラウラ。朝着ていたワンピースと同じくらい、今の服装も似合ってるよ」ニコッ

ラウラ「そ、そうか。嫁の目を喜ばせることができたならば、私は満足だ」カァー

一夏「次はどこへ行こうか?まだお昼を食べたばかりだから、時間はたっぷりあるぞ?」

ラウラ「私は一夏と共にいれるならば、どこでも構わないぞ」

一夏「うーん。あっ、そうだ。ラウラは映画館って言ったことあるか?」

ラウラ「映画を巨大スクリーンにて、多数の人間とともに視聴する娯楽の一種だという知識は
    持ち合わせているが、行ったことはないな」

一夏「そうか!なら、行ってみよう。今、何が上映しているのかは知らないけど、
   面白いのがあれば観ればいいし、観れなくても一度くらい雰囲気を味わっておいても
   損はないはずだ」

ラウラ「うむ。映画館はデパートの屋上にあるらしいぞ。ならばエレベーターだな」ニコッ

――――映画館・チケット売り場


受付「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」

一夏「はい。すみません。時間が近いもので何かオススメってあります?できれば、
   女性向きの方が嬉しいんですけど…」

受付「はい。それでしたらこちらの

・アジャコング・プロレスに賭けた我が人生 ― こんな私でも結婚できた1001の秘訣 ―
・夢ひろがりんぐ・とある男の栄枯盛衰と彼を支えた仲間たち ― 今北産業・りんご事業部の真実 ―
・既婚男性、魂の叫び・嫁の飯がまずい ― 好きだから言えない、俺と嫁の100年戦争 ―
・本日弟が童貞を卒業しました。 ― 恋の渡し場・結ぶは二人の想い、輝く未来 ―(完全版)
          (全日本童貞連盟・推薦作品)

の4作品となっております。」

一夏「」

ラウラ「ん?一夏、どうしたのだ?」

一夏「すまん、ラウラ、どうやら良さそうな作品は上映されていないようだ。
   ま、また今度にしないか?」

ラウラ「何を言う。ここまで来たのだ。折角だから、何か観て帰ろう。
    どれ、私が選んでやろう」ズイッ

一夏「へっ…」

ラウラ「(む?この単語は知らない単語だが…)よし、これにしよう。これを二枚くれ」

受付「はい。こちらの

『本日弟が童貞を卒業しました。 ― 恋の渡し場・結ぶは二人の想い、輝く未来 ―(完全版)』

でございますね。少々お待ち下さい」

一夏「ええっ!?あっ…ちょ…」アセアセ

受付「お待たせいたしました。こちら、上映時間が迫っておりますので、
   お早めの入場、お願い申し上げます」ペコリ

ラウラ「一夏、ちゃんと買えたぞ!」ニコッ

一夏「ラ、ラウラ…お前、ちゃんと意味分かってんのか?」アセアセ

ラウラ「むぅ、失礼な。分かっているぞ。
    おそらく副題から類推するに、恋愛を描いた映画のようだ。
    さらに『卒業』とある。『卒業する』とは、学校などの一定の期間身を置く場所・
    或いは特定の社会的身分からの脱却ということだ。
    そう考えると、とある人間の躍進と恋愛が組み合わさった映画であると推定することが可能だ。
    どうだ?間違ってるか?」

一夏「いや、ある意味あってるが…」

ラウラ「では、よいではないか。さあ、早く行かねば始まってしまうぞ」


一夏の手を引き、指定のスクリーンに向かうラウラ。
この後二人はどうなってしまうのか、それは誰も知らない。

ブーーーーーーーーーーー
ブザーが館内に鳴り響き、幕が上がる。


   『本日弟が童貞を卒業しました。』

  1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  俺?俺は妖精だよwwwwwww

  あひゃひゃひゃひゃwwwww……………………………(´;ω;)


  隣に弟の部屋あるんだよ…………

  聞こえて来たんだ………………


  6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  >>1
  お前も混ぜてもらえ


  9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  いつのまにか弟は兄を越す

  10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  まぁ、聞いてくれよ…………

  弟隣でHしてる時に俺何してたと思う?

  変 な プ ラ モ 作ってた……………

  13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  ここはプラモうp!


一夏「(やばい…これはやばい…絶対やばいってー!)」


  23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  これ。
  なにげに買ってから三ヶ月ほったらかしだった………

  24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  >>23
  なんというチョイスwwwwwwwwwwwwwwwwwww

  25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  なにしてんのこれ

  26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  >>23
  うはwww

「クスクス…」

         「クスクス…」


一夏「(えっ?周りがうけてる…?)」

  27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  >>23
  なぜ買った

  28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  ちょwwwwwww

  121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  >>1
  渡し場作ってうp

  120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  >>111
  その前に彼女作れよ

  135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。

  彼女?そんなん作る暇あったら俺は農家造るわ!!!!!!!






         彼女ほしいわ!!!!!

  138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  >>135
  魂の叫びwwww


  <「グスッ…」
          <「…ウッウッ」

一夏「(みんな、同情してる…)」

  353 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  今からでも遅くない

  農村へ行け、>>1

  365 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  一つ言わせてくれ………………

  俺の家…………………………………



  農 家 な ん だ…………

  369 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  >>366
  驚愕の新事実wwwwwwwwwww

  402 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  弟はせっせと子供を作った
  一方兄は村を作った

  404 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  >>402
  兄の偉大さは異常

  453 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  ぬいぐるみ誰に貰ってるの?

  455 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  >>453
  仕事場の女の子。
  まぁ………農家の 娘 ですがね…………

  459 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  >>455
  それフラグたってね?



<「ザワザワ…」
           <「ザワザワ…」

   <「ザワザワ…」

一夏「(ザワザワ…)」

  492 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  じゃあ>>500送る。

  >>486気になる……多分ちょっと好きかも

  500 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  今度一緒に芋種植えしませんか

  519 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  返事きた

  「ん?家は芋苗うえないよ?
   かっちゃんとこうえるの?
   手伝いにこいって事?」

  家も芋うえません。

  536 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  一緒に幸せな農業を営もう

  541 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  >>536プロポーズに見えるwwww

  送ってみる

  552 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  返信きたよ

  「あたし農家継がないしかっちゃんも継がないじゃん(笑)←笑ってる絵文字
   ん?これはどういう意味?」

  568 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  そーいや最近さ、恋とかしてるー?笑

  588 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  ちょw返信きたw
  しかも、あぁぁぁぁぁぁぁ!!

  照れるwww顔がにやけるwww


  こんな経験初めてです!!


  「してるよ(笑)←笑ってる絵文字

   かっちゃんに(ハート)←絵文字」

  590 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!

  597 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  >>1>>23ときて>>588

  この結末を誰が予想できただろうかw

  709 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。

  
        :/    _,. - 、\:    _:
       :/     / M ヽ_,. -‐''¨ ̄ ¨\:
    :/        |  _, -'´ _,. -――   |:
    :/         >‐´ _,-'´  _     ノ:
   :|        /  ∠ -‐''''彡≡ヽ  /:
   :|      / r≡  ミヽ   リィ,.--、'´:
   :|     /  |リ ̄~''     'ィt或アチl__:
   :|    /  / リ, ---_,,    ` ‐''"´¨   \: マンマミーア
   :|    /__/ 、,ィ或tュ、    /        |__:
  :ノ   |    `ヽ 二ノ              |;;;;|:  
 :/    |- ,,__  __                /;;r'!:
 :!  __ |:::::::::::::|  |;;ヽ__lヽ、_      _,,/;;;;;|:
  :Y´  `'‐ ,:::::::::) └-i;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:`¨'''¨´;  ;;;;;/ ̄|:
  :|  -‐-、   ̄    ヽ____/ ̄''''´  /:  
  :|     ̄)          トェェェェェェイ   /:  
  :\              |  `'''''''/  /:  
    :\___,-、_        ヾ'zェェッ'  /:  
          :`''――'''''-、_∪    /:  
  

  811 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。

  あー………涙でてきたwwww
  なんだこれww


<「ウワァーーーーーン…」

    <「クソッ!クソッ!」

          ―二ヶ月後―

  74 : ◆1v62Y8KFbk
  仕事終わりに彼女の家にいったんです。

  でいつものようにご飯をお呼ばれになってたんです。
  呑めない酒すすめられて少し気持ちよくなってたら彼女のお父さんが急に

          明日からお前ら温泉行ってこい。

  って意味不明な発言したんです。


<「エェー!」
        <「それが世界の選択か…」

ブーーーーーーーー幕が下りる

一夏「終わった…」


『以上で第一部の上映を終了します。第二部は15分後からの開始となります。』



一夏「なっ、これ。二部構成かよ!?(……ラウラは?)」

ラウラ「グスッ…」

一夏「(な、泣いてる…)」

ラウラ「い、一夏。こんな顔など、あまり見ないでくれ。」グスッ

一夏「す、すまん。ど、どうする?第二部も見るか?」

ラウラ「もちろんだ!かっちゃんの幸せを見届ける!」キッ

一夏「そうか……そう…か。じゃあ、飲み物でも買ってくるよ。ラウラは何がいい?」

ラウラ「買ってきてくれるのか?では私はストレートティーがいい」

一夏「おっけーちょっと待っててくれ」

ブーーーーーーーー
『ただいまより、第二部を開始致します』

ラウラ「(一夏はまだだろうか…)」ソワソワ

一夏「悪い、遅くなっちまった。思ったよりも混んでた。はい、これストレートティー」

ラウラ「ありがとう。一夏」

一夏「ほら、始まるぞ」

  225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
  彼女は処女じゃないのか?

  249 : ◆1v62Y8KFbk
  >>225
  処女です。初めての彼氏が俺みたいです
  初めてVS初めてなんで余計に緊張

 <「ナ、ナンダッテー!」
                     <「オイ、ふざけんな!」

ラウラ「(なっ!!『初めてVS初めて』、『処女』、『童貞』、『卒業』……まさか…)」

  368 : ◆1v62Y8KFbk
  ちなみに家族全員に童貞はばれてます…(;ω;)

  覚悟きめます!!


ラウラ「まさか…『童貞』とは…」ソワソワ


  396 : ◆1v62Y8KFbk
  弟コンドーム投げていったwwww

  
ラウラ「(や、やはりっ!い、い、一夏っ!)」チラッ

一夏「」プイッ

ラウラ「(なぜだ!なぜ顔を背けるっ!まずい…まずいぞ…)」アセアセ

~15分後~

  xxx: ◆1v62Y8KFbk
  「キスしてもいい?」
  「え?うん。」
  「じゃあ…」
  「あっ、待って。あの、あのね。初めてだから優しくしてほしいの…」

ラウラ「(あっ…あぁ…)」カァー

~10分後~

  xxx: ◆1v62Y8KFbk
  「んっ、あっ、あっ」
  「はぁ、はぁ、くっ…」
  「あっ、あっ…ねぇ、私幸せだよ?」
  「はぁ、はぁ、お、俺も…大好きだよ」

ラウラ「…あ、あんなものが…あんなところに……」ボンッ


<「あぁ、また貴重な妖精が…」グスッ
    
  <「はいはい。わろすわろす……わろ…す…」

       <「…ウッ!…フゥー、落ち着け、まだ慌てるような歳じゃない」

~20分後~

  xxx: ◆1v62Y8KFbk
  そんなこんなで、みんなにはお世話になりました!
  俺たちはこれからも仲良く一緒に、生きていこうと思います!
  それでは!

  <「幸せになー」
                <「※」

<「目から変な汁が出てきた」


ブーーーーーーーー
『以上で本作品の上映を終了いたします。』

ラウラ「」ポォー

一夏「(や、やっぱり…)ラウラ、ラウラ!」

ラウラ「い、一夏。私は、一体…」

一夏「いや!思い出さなくていい!むしろ思い出さないでくれ。
   ほら、終わっちまったぞ?さぁ、出よう」

ラウラ「う、うむ」

――デパート・外

映画を観終わって、外へ出る。
デパートとは違う街の薫りが、両肺を満たしていく。

いつの間にか、街は夕焼けに照らされて茜色に染まっていた。

前にも見た景色。だが、前とは違って見えるのは気のせいだろうか?
それとも、本当に何かが変わってしまったのだろうか?
何が?…私が?


一夏「ふぅ、中々良い時間になったな。もう一か所ぐらい回れるけど、どこに行きたい?」

ラウラ「…公園…城址公園に行きたい」

一夏「城址公園?あぁ、城跡に立てた公園か。うん、行こう」


不思議と、考えるよりも先に言葉が出ていた

――城址公園


一夏「だいぶ久しぶりだな。ここへ来るのは」

ラウラ「前にも来たことがあるのか、一夏は?」

一夏「あぁ、でももうずっと昔だよ。ずっと小さかった頃のことだ」

ラウラ「そうか。あっ、一夏!クレープを食べよう。ほら、あそこにクレープ屋があるぞ」

一夏「すみませーん」

店主「はいよ、いらっしゃい。何にします?」

無精ヒゲにバンダナという風体の店主が頭を下げる。

ラウラ「ストロベートとブ、ブルーベリーだ」

店主は「おやっ?」という顔を一瞬見せたが、すぐに品物の用意に戻りラウラにクレープを渡した。

一夏「お、おいおい」

ラウラ「一夏はどっちがいい?」

一夏「ったく。んーそうだな、ブルーベリーかな」

二人は少しお店から離れたベンチに並んでかけると、クレープをはむっとかじった。

一夏「はむっ、おっ?これ、結構旨いな。」モグモグ

ラウラ「そ、そうだな。イチゴのクレープは、これが初めてだが、旨いと思うぞ」

一夏「(『イチゴのクレープは』?んじゃあ、他のクレープは食べたことがあるのか?
   そう言えば、あの店員さんとも顔馴染みのようだったし…)」ウーン

ラウラ「い、一夏…」

一夏「ん?なんだ、ラウ――」

ぺろっ。――と、ラウラが一夏の唇を舐めた。

一夏「なっ、なぁっ、ななななっ!?」カァー

ラウラ「ソ、ソースがついていた…」カァー

一夏「だっ、だだっ、だだだからって、え、えぇぇ?」

ラウラ「そ、それに両手がふさがっている。」

そう言って、右手のクレープと左手の紙袋を持ちあげてみせる。

一夏「そ、そそそ、それなら言って――」

ラウラ「す、すぐに垂れ落ちそうだった」カァー

人間が完全に想定外の行為を受けたときに、取る行動などそうそう多いものではない。
そしてまた、これは一度や二度経験しただけで、落ち着いていられるものではない。
そう、行為を与える側も――

ラウラ「おっと」

今度はラウラの手にクレープがこぼれてしまう。

ラウラはそれを見つめて、そっと一夏の眼前に手を差し出してきた。

一夏「なっ、ど、どどうしたんだ?」

ラウラ「――舐めて」

一夏「はっ、はぁ!?」
またもラウラの突飛な発言に、胸の鼓動がうるさくなる。

ラウラ「嫌か?」

ゆっくりと右手を一夏の口に近づける
一夏はまるで魔法にでもかかったかのように微動だにすることができず、ただ大きく目を見開いて、
ラウラの潤んだオッドアイと白地の頬というキャンパスを桃色に染めるラウラを見つけることしかできなかった。

それは官能的で、扇情的で、庇護欲をかきたて、異論を言わせないような――

一夏「はむっ…」

ラウラ「ひやぁ、、んっ…」

これが、ブドウとブルーベリーの違い
これが、ミックスベリーの力

シャルロットが言っていた『オマジナイ』をラウラは信じてもいいと思った

――夫婦の会話・帰宅の徒


一夏「……(き、気まずい…)」ドキドキ

ラウラ「……」

一夏「な、なぁ、ラウラ?」

ラウラ「ん?なんだ?一夏?」

一夏「さ、さっきはすまなかったな。
   なんか自分でもよく分かんないぐらい、何も考えられなかった」

ラウラ「さっきの?あぁ、一夏が私の手についたクレープを舐め取ってくれたことか」カァー

一夏「あ、あぁ」アセアセ

ラウラ「気にするな。私が頼んだことだ。それに、私は嬉しかったぞ。
    そ、その、なんだ、一夏の唇や舌が私の肌に触れた瞬間、電気が走ったように感じた。
    あんな経験は初めてだった」

一夏「そ、そうか」

ラウラ「うむ。それに、今日は本当に多くの新しいことを経験できた。
    一夏には感謝している。シャルロットの奴にも報告してやらねば」

一夏「シャルに?どうして?」

ラウラ「そもそも、今日の外出はシャルロットが言い出したことなのだ。
    もっとも、あやつは最初から予定が入っていて、私だけを行かせるつもりだったようだが…」

一夏「そうだったのか…」

ラウラ「そしてあやつに言われたのだ。今の私は軍人である前にIS学園の生徒であると。
    そして、学園の生徒であるのだから様々なものを見聞きして、
    経験するしてもいいのではないかと。」

一夏「シャルがそんなことを…」

シャルがそんなことを言うことを、俺は意外と感じるべきなのか、
それとも、あいつらしいと感じるべきなのか

俺にはよく分からなかった

ふと一夏の前を歩いていたラウラが立ち止まり、はにかんだ笑顔を見せながらこう言う。

ラウラ「そして、その初めての経験を共にする相手が一夏、お前なら、私も幸せだろう、と」ニコッ

一夏「…ラウラ」

ラウラ「あやつの言ったことは正しかった。
    今日、私が初めて体験したことは一夏が一緒にいなければ、価値のないことだった。
    今日、私が初めての経験した感情は一夏が一緒にいなければ、起こり得ないものだった。」

一夏「……」

ラウラ「あ、あんな卑猥な映画まで見せられたのだからなっ」カァー

一夏「あっ…あれは、お前が…っ……まぁ、す、すまなかった」カァー

ラウラ「ふふん。――なぁ、知っているか、一夏?」

一夏「ん?」

ラウラ「人とは、体験した物事や経験した感情・価値観が折り重なって形成されるものだと聞く」

一夏「うん」

ラウラ「そして、私が今までに経験したそれらの中で、嬉しいと感じたことや悔しいと感じたこと、
    忘れたくないと思った想いや、幸せ過ぎて怖いと思ったことのほとんどは、
    ここに来てから得たものだ。

          すべてが一夏やみんなが与えてくれた、私の宝物だ

    わ、私が初めて唇を許したのも一夏で、私が初めて他人の唇に感じ入ったのも一夏だ」カァー

一夏「ラ…ウラ」ドキドキ

ラウラ「だが、その事実に気づいてから思ったのだ。
    私は、今まで与えられた分の幸福をみんなに与えれているだろうかと。
    私はみんなに、一夏に与えられた行為を受けて確かに幸せだ。
    だが、みんなは、一夏は私の行為によって幸せになってくれているだろうかと
    わ、私の想いは自分のためではなく、お前を含めたみんなを、幸せにできているだろうかと」

一夏「なっ…そんなの…当たり――」

ラウラ「本当に『当たり前か』?」

一夏「ッ……」

ラウラ「だから…だから、一夏。お前を幸せにするために、
    せめて私は、私が感じられるであろう全ての初めての経験と感情をお前にやろう。
    お前に私の全てをやろう。その代わり……その代わりに私はお前の全てをもらう」

一夏「(あぁ…こいつはこんなにも俺のことを――)」


ラウラ「決定事項だ。異論は――」
一夏「(異論は――)」

ラウラ「――認めるっ!」
一夏「(――認めない)…あれ?」


ラウラ「馬鹿者。言ったであろう。大事なのは、相手が幸せだと感じてくれることだ」クスッ

一夏「あ、あぁ、そうだな」クスッ

ラウラ「良かれと思って行った行為が、相手を、お前を苦しめては本末転倒だからな」

一夏「ラウラ…ありがとう」

ラウラ「ふふん。さぁ、帰ろう。あまりに遅いとみんなが変に勘繰ってしまうぞ?」

一夏「あぁ…うん、帰ろう。みんなが待ってる」

生まれた時から軍にいた。
軍に優秀だと認められることが全てだった。
他には、何もない。

親や身寄りはいなかった。
自分を他者と隔てるものは階級で、私と上官と部下しか私の世界には存在しなかった。
別段、寂しいとは思わなかった。
当然だ。暖かさという概念など経験したことがなかったからだ。
知らなければ、それはないのと同じだ。

世界中で何十万人が死に絶えようが、自分を取り巻く世界が平和ならば世界は平和だと感じられる。
きっと、それは人の持つ防衛本能の一種なのだ。
知らないから、苦しまない。
知らないから、生きられる。

それなのに――

――教官

貴女は酷いお方です。
苦しみのない世界だったのに。

母がいれば、貴女のように優しく、時に厳しい存在だったのでしょうか。

姉がいれば、貴女のように先を行き、私を教え導いてくれる存在だったのでしょうか。


知識として持ち合わせた「暖かさ」が初めて意味を持つ言葉になりました。

初めて抱いた、その気持ちを私は決して忘れはしません。


あぁ、それなのに…
貴女は、更なる幸福がこの世には存在することだけ教えて、私から去ってしまわれた。

私も貴女を恩返しをしたかった。貴女が私に与えてくれたように、
私も貴女に幸福だと思ってほしかった。


しかし、貴女の視線は私を捕らえてはいなかった。
貴方が捕らえていたのは一夏だけだった。

今思えば、私は一夏に嫉妬していたのかもしれません。

まるで、弟が生まれたために、母を奪われた長女のように。

醜く心が乱れたこともありました。

ですが、今では貴女の全てに感謝しております。

貴女がいたから、暖かさを知り
貴女がいたから、己の中の醜さを知り
貴女がいたから、それを制御する方法を知り、

貴女がいたから――

   ―― 人を愛することができました。

――寮・ラウラとシャルロットの部屋


シャル「ラウラ遅いなぁ~」グテー

―ガチャ

ラウラ「ただいま、シャルロット」

シャル「おかえ……か、可愛ぃ~」ワァー

ラウラ「そ、そうか?」

シャル「うん!凄くよく似合ってるよ!今日買った服だよね?」

ラウラ「うむ。一夏が選んでくれた。最初はこのような可愛らしい洋服が、
    私などに似合うのか疑問だったが、か、可愛いと言ってくれて今では気に入っている」カァー

シャル「うんうん。一夏って見る目あるなぁ。ラウラには綺麗な服が似合うと思っていたけど、
    そんな可愛い服も似合うんだね。ね?今日はどうだった?」

ラウラ「どうとは?」

シャル「もうっ!意地悪せずに教えてよ~楽しかった?」

ラウラ「ふふっ、すまない。うん。楽しかった、凄く。
    たくさんの知らなかったことを知って、たくさんの感じたことのない感情を感じることができた。
    一夏とシャルロットのおかげだ。ありがとう」

シャル「そっか~ふふっ。よかったね、ラウラ。
    でも素敵な1日を送れた一番の理由は、ラウラが頑張ったからだよ」ニコッ

ラウラ「むぅ、お前は謙遜しすぎだ。もう少し自分を褒めた方がいいぞ」ムー

シャル「そ、そんなことないと思うけどなぁ。ね?今日は一夏と他にどんなところに行ったの?」

ラウラ「うむ、今日は生まれて初めて映画を見たぞ。あ、あれは中々言葉で表現のが困難な稀有な経験だった。
    それとお前には申し訳ないと思ったが、あの公園でミックスベリーを食べた」

シャル「えっ……えぇ~~!?
    ミックスベリーってあの公園の?もぅ!抜け駆けしちゃダメって言ったじゃないか~!?
    まったく~油断も隙もあったもんじゃないね、ラウラには」クスクス

ラウラ「すまん、すまん。お詫びと言ってはなんだが、
    是非今度、私とお前で一緒にミックスベリーを食べよう」クスクス

シャル「もぅ!それじゃあ意味が――」



僕はラウラが楽しそうに笑いながら話している姿を見るのが大好きだ。

人を寄せ付けないように冷たく、他人に厳しく、自分には更に、更に厳しい。
娯楽や流行りなどに関する興味はまるでない。

およそ10代の少女とは思えない。
まるでロボットのように強靭で規則正しく、何を考えているのか分からない。

初めてあった頃は、そう思っていた。
この子は、笑ったことがあるのだろうかと疑問になるぐらい。


だけど敵という関係から、同級生という関係になって、初めてラウラが笑っているところを見た。

少しぎこちなく、遠慮がちに目を伏せて、笑うことが恥ずかしいことのように、
コッソリと頬を上げていた。

そのときに思ったんだ。

あぁ、この子はきっと、笑い方を知らないだけなんだって。

だから、そのときに決めたんだ。

僕はこの、世間知らずで不器用で、だけど恥ずかしがり屋で、
そしてとても優しいこの子と友達になろうって。


だから今日ラウラが帰ってきて、まるで今まで無口だったことを取り返すぐらい饒舌に、
そして感情を隠すことなど知らないみたいに、コロコロと表情を変えて、
楽しそうに話をしているのを見て、


僕は本当に幸せな気持ちになれたんだ。

――寮・一夏の部屋



一夏「ッ……クソッ…!」


まるで、自分の気持ちに自分が押し潰されるような気がした




その日、また昔の夢を見た

――翌日・弾の家


一夏「オッス!」

弾「なーにが、『オッス!』だ、このバカっ。貴重な日曜だってのに朝っぱらから電話してきやがって。
  しかも『今から行くわ』って言うなり切っちまいやがって」

一夏「すまん、すまん。なんつーか、こう、衝動的に?」

弾「ったく。まぁ、立ち話もなんだ。上がれよ?」

一夏「おう。さんきゅーな」


叩き起こしてしまったことを、内心で申し訳なく思いつつも
なんだかんだ言いながら、快く迎えてくれる辺り、流石は弾だと感謝する。

今はただ、一人でいたくなかったんだ。

弾「で?」

一夏「で?」

弾「あぁ?用があるから来たんじゃねーのか?
  これでただの嫌がらせだったら、流石の俺も怒るよ?」

一夏「あ~…まぁ、あっ!うん。そうなんだ!実は鈴のことなんだけど」

弾「鈴の?」

一夏「おう。そのさ、この前あいつと話したんだが、今度三人で遊びに行かないか?」

弾「三人って、俺とお前と鈴の三人?」

一夏「それ以外に誰がいんだよ?」

弾「な、なんの罰ゲームだよ…それ…」ハァー

一夏「あれ?嫌だったか?」

弾「嫌というか、何というか…ん?鈴は何か言ってなかったのか?」

一夏「別に何も言ってなかったと思うけど…
   確か中国に帰ってからみんなに会えなくて、寂しかったとか、なんとか…だから、
   折角日本に戻ってこれたんだから、中学の時のように三人で遊びに行かないかって誘ったんだよ。」

弾「へっ?誘ったって、お前から?」

一夏「あぁ、俺から」

弾「えぇ?あの織斑一夏が女の子をデートに誘ったのか!?」

一夏「そう、この織斑一夏が。って、デートじゃねーだろ。三人なんだし。
   でもまぁ、うん。俺から誘った」


弾「て、テメー!!女の子ばかりのうらやまけしからん環境にぶち込まれて早半年、
  とうとう女に目覚めやがったか?」クワッ

一夏「お、おい、弾!?」アセアセ

弾「くっくっくっ、いいぜ、一夏…テメーが親友の俺を捨て置き、一人の女も紹介することなく、
  自分ひとりだけうら若き女性たちのハーレムを形成しようってんなら、
  俺が…この俺が、そのふざけた幻想を――」

『そげふ!』

弾「ぐはっ!?」

弾「」チーン

一夏「ま、まぁ落ちつけよ。確かに難しく考えることもできるけど、
   俺はただ、久しぶりに三人で遊びたいなって思っただけなんだ。」

弾「ふーーーん…」

一夏「な、なんだよ?」

弾「いや、お前さ、もしかして――――」

「お兄!日曜だからっていつまでも寝てんじゃないわよ!布団干すから、さっさと――」

ドカンと音を立ててドアが蹴り開けられて、入ってくるは、弾の妹、五反田蘭


一夏「あ、朝からごめんな。お邪魔してます」

蘭「いっ、一夏…さん!?」

やはり、休日、しかも来客の予想など微塵もしていなかったのだろう。

いつか見たあの時と同じように、肩まである髪を後ろでクリップに挟んだだけの状態。
服装もノーブラにタンクトップ、そのままの格好で寝ていたのだろうか、
下はピンクのショーツしか履いていなくて、目の行き場に困ってしまう。

蘭「ひゃっ…」カァー

自分のあられもない姿を一夏に晒してしまい、急いで壁に身体を隠す蘭。
所謂、逆チョッパー状態。

蘭「い、いやっ、あのっ、き、来てたんですか…?す、すみません。
  見苦しい姿をお見せしてしまって…」カァー

一夏「い、いや。俺の方こそ。女の子が住んでいるんだから、
   こういうことが起こるかもしれないこと、考えておきべきだった。
   恥ずかしい思いをさせてしまったな。悪かった」

弾・蘭「「へっ!?」」

おおよそ、いつもの一夏の口から出たとは思えない言葉。
いつもなら、わざとやってんのかと思うぐらい、さらっと流して全く気にする素振りすら見せないのに…

蘭「で、では、ご、ごゆっくり――」
最後まで言い終らない間に姿を消してしまう。

全く関心が払われていなかった今までは、自分の身体はそんなに魅力がないのだろうかと
確かにヤキモキした気持ちになったが
だからと言って、面と向かって謝れると、痴態を晒してしまったことが一層恥ずかしく感じられてしまった。

一夏「まいったな…蘭の奴、怒ってないかな?」

弾「そ、その心配はないと思うが…」

一夏「そうか。ならいいが」

弾「なぁ、一夏?お前どうしたんだ?」

一夏「…あぁ、どうしちまったんだろうな…俺…」


答える気がないのではなく、自分でも答えることができない。
自分でも自分が分からない。
自分の感情を的確に表すことができる言葉を、一夏は知らなかった。


弾「そうか…よしっ、このまま家にいても仕方ねー。街にでも行ってみようぜ?」

一夏「そうだな。おう、行ってみるか」


そう言って、深くは聞かない弾の心遣いが、妙に嬉しかった。

その後、何処に行くにしてもまずは腹拵えだと弾は言って、五反田食堂で昼食をご馳走になった。

蘭はあれから着替えたのだろう。可愛らしい服をしっかり着こなしていた。
良かった。どうやら、嫌われてはいないようだ。

厳さんは相変わらず厳つくて、それなのに料理の味は絶品で、
蓮さんの笑顔は相変わらず愛嬌があって、優しくって今日もまた、美人だった。

いつもと同じように、弾の軽口が蘭の逆鱗に触れ、それを肴に笑顔が絶えることのない食堂。
厳しさと優しさが、厳さんの料理に負けず劣らず絶妙な分量でミックスされていて、
不思議と心地の良い雰囲気が食堂を包み込んでいる。

傍目に見ても、弾が愛されているのが良く分かる。

いつものように蘭が制裁を加えられるのは、弾に気を許しているからだ。
厳さんが、蘭には甘く、弾には厳しいのは男の孫として立派になってほしいからだ。
いつものように、K.O.されている弾の口から、家族の悪口など一度も聞いたことがないのは、
弾も無意識で、それを理解しているからだ。


愛情が満ちている――

―― あぁ、きっとだから、俺はここが好きなんだ。

保守ありがとうございます><
なんかvipネタというよりも制作でやった方がしっくりくる感じになっちゃいましたが…
とりあえず投下します!

――――中学

一夏「いやー懐かしいな」

弾「何言ってんだ。まだ卒業してから半年ぐらいしか経ってねーじゃねーか」

一夏「ははっ、確かにそうだな。そうか、まだ半年しか経ってないのか」


たった半年か――

少なくとも半年前の自分は、今の自分がこんな風になるなんて考えてもいなかった。

久しぶりに訪れた中学
朝は部活に所属している生徒が汗を流しているのを横目に見ながら登校し、少しずつ難しくなっていく授業を
眠気眼で耐えれば、放課後は日が落ちるまでだらだらと馬鹿話に花を咲かせる。


そんな毎日が懐かしく思え、自分の目に写る学校は、半年前とは少し違って見えた。

増築?改修?

あぁ、変わったのは俺か。


今は成長期、半年あれば、背も伸び、肉もつく
今は思春期、半年あれば、価値観は変化し、感じ方も変わる。

一夏「なぁ、弾?」

弾「ん?」

一夏「鈴が引っ越したときのこと、覚えてるか?」

弾「あぁ…あんな賑やかな奴がいなくなったときのこと、忘れられるかよ。
  そういやあの時、お前は随分寂しそうにしてたじゃねーか?やっぱ寂しかったのか?」

一夏「あぁ、寂しかったな。
   いつも一緒にいた奴が、明日からいないんだって考えたら、すげー寂しくなってた」

弾「そういえば、よく話してたりしてたな。ここに鈴がいたら―って」

一夏「寂しかった理由は他にもあるんだ」

弾「他の理由?」

一夏「あぁ。鈴が引っ越す少し前に、千冬姉がドイツに行っただろ?俺にはそれが耐えられなかった」

弾「一夏…」

一夏「ほら、俺の身内は千冬姉だけだろ?だから急にドイツに行くって決まって焦ったよ。
   でも期日は俺を待ってくれるわけもなく、千冬姉は行っちまった。家に帰っても、誰もいない。
   暗くて、寒くて。そんな家が、堪らなく嫌いだったから、下校時間が近づいても、
   いつまでも、いつまでも残ってたんだ」

一夏が少し申し訳なさそうな顔をしてこっちを見る。
あいつのこんな顔見るのは、初めてかもしれない。

一夏「悪かったな、勝手に付き合わせちまって」

弾「バーカ。見くびんな。俺がんなことで、気を悪くするような繊細な奴に見えるか?」

一夏「ははっ、まーったく見えない。図太くて、鈍感そうだ」

弾「なにをっ!?それをお前が言うかっ!?」

一頻り悪態を吐きあってみる。

あぁ、いつも飄々として、いつも蘭や家族の尻に敷かれているこいつは、こんなにもいい奴だ。

――俺はこいつを、一夏を勘違いしていたのかもしれない。

ことあるごとにモテスリムと茶化して、そのくせ、わざとやっているとしか思えないぐらい女のフラグをへし折る。

鈍感で、女泣かせ、だけどどこか憎めない人懐っこさを持ち合わせている奴だと思っていたけど、実は本当はもっと――


一夏「でも、そろそろ変わらなきゃいけないのかもな」

弾「えっ?」

一夏「いつまでも子供じゃいられないってこと。
   そりゃ、俺はまだ15でいきなり大人になることは無理かもしれないけど。
   でも、大人になる、強くなろうと思わなきゃ、いつまでたっても大人になんかなれないだろ?」

弾「あぁ、そうだな。きっと、まずはそこからだ。
  朝、目が覚めたら大人になってました、なんて話は聞かねーからな」

一夏「……うん」

ふぅーと長く息を吐く、何を吐き出すように。
一夏「さて、そろそろ帰るか。今日は千冬姉が帰ってくる。ご飯作らなきゃ」

弾「おぅ。じゃあ、また何か変わったことがあったら連絡くれよ。まぁ、きっと近々連絡があると思うけどな。
  それから、蘭のことは何も心配しなくていいからな」

一夏「なっ…」

弾「ははっ、じゃあな」

一夏「(敵わないな…こいつには…)」

最後まで軽口で飄々としていて、まるで見抜かれてしまっているようだった。

――――


一体あの人の何が、これほどまでに強く自分を惹きつけるのだろうか。


お互いに親から受けた愛情が薄いために、似た雰囲気を感じるからだろうか。
不遇にも負けず、日々笑顔を絶やさない、その強さだろうか。
それとも、他人のためには自分が傷つくことさえ厭わない、その優しさだろうか。

そのどれもが正しく、しかしいずれも正確ではないように思える。


心はコップのようなものだと、昔誰かが言っていた気がする。

それが本当なら、この気持ちは、自分では気がつかない内に溜まってしまい
遂には自覚できる量に達してしまったんだろうか。

もし、この想いがコップから溢れてしまったら、自分はなってしまうのだろう。


だけど、たった1つだけ分かっていることがある。


胸を締め付けるこの想いは、絶対に成就することはないだろう。

――――実家


千冬「ただいま」
いつものように、ピシッとしたスーツ姿ではなく、白のワイシャツにジーパンという
行動的な人柄をよく表したそれで、千冬姉が帰ってきた。

一夏「おかえり、千冬姉」
いつものように、手持ちのバックを千冬から受け取り、席に着くように促す。

一夏「もうちょっとでご飯できるからさ、少しだけ待っててくれよ」

千冬「分かった。いつもすまんな」

一夏「何言ってんだよ。お互い様だろ?」

千冬「あぁ、そうだな」

生活費の九分九厘を千冬に依存しているのだ。

感謝こそすれ、不満など……この程度のことなんて、苦痛にも感じない。
むしろ、週末にしか帰ってこない姉が、いつもはどんな食生活をしているのかが気になる。
もっと時間があれば、お弁当でも作ってちゃんと栄養のあるものを食べてもらえるのに。

一夏「お茶を入れるよ、冷たいのでいいだろ?」

千冬「あぁ、頼む」

いつもと同じ、まるで夫婦のような会話。

――

千冬「また腕を上げたんじゃないか?」

唐突にそう言って、目を丸くする。


今日のご飯は、カボチャの煮物と唐辛子を加えて煮込んだカレイ

そう、以前五反田食堂でご馳走になったものだ。

あの味が忘れられず、厳さんに頼みこんで秘伝のレシピを伝授してもらった。
まだまだ厳さんの域には、程遠いのかもしれないけど――

一夏「ホント?そう言ってもらえると嬉しいな。
   最近料理することが少なかったから、実は少し不安だったんだ」ニコッ

千冬「ほらほら、食べるか喋るかどっちかにしないと、頬に米粒がついてるぞ?
   頬っぺたにご飯を食べさせてどうする?」ククッ

一夏「えっ、マジ?取れた?」フキフキ

千冬「ったく…ほれ、じっとしろ」

そう言いながら、千冬姉が身を乗り出して手を伸ばす。
タンクトップに押し込められている胸がこぼれそうになり
自然とそこに視線が――

千冬「ほれ、取れたぞ」

一夏の頬についた米粒をそのまま自分の口に運ぶ。

ゆっくりと口を開け、舌を延ばし、指を舐めとり咀嚼する。
その様子を凝視してしまう。

一夏「(やばい…俺、何見てんだっ!?)」カァー

千冬「それにしても一夏、お前はいい嫁、ではなく、いい夫になりそうだな」ククッ

一夏「へっ…?」

千冬「だってそうだろう?料理の腕はいい。家事全般に何の問題もなく、お菓子作りだってできる。
   気遣いは細やかで、誰にだって優しい。こんな男がいたら女は放っておかないだろう?」

一夏「な、何言ってんだよっ」カァー

千冬「まぁ、鈍感で女泣かせなのが玉に瑕だがな」ククッ

一夏「お、俺は別に…」

千冬「それと一夏、お前は自分に厳しすぎる。もう少し自分を褒めた方がいいぞ」


思ってもみなかったことを口にされ、何と答えればよいのか分からなくなった。

千冬「でもあれだな。そうなると困ったことになるな。私が置いていかれてしまう」

一夏「なっ!?そ、そんなこと――」

千冬「だが、それもいいのかもしれん。
   お前が独り立ちして、幸せな家庭を築く様を見ることができるのだから、
   それ以上を望むのは、過ぎた願いなのかもしれん」

一夏「そんなこと――そんなこと、あるわけないだろっ!」

千冬「えっ…」

一夏「千冬姉を一人残して、俺だけが幸せになるなんて、そんなことできるわけがないだろっ!
   俺はただ、千冬姉に幸せになってほしいだけなんだ!
   ッ……千冬姉は…千冬姉は俺のことなんて、ちっとも分かってないじゃないかっ!!」

千冬「一夏っ!私はただ…」

ガタッと音を立てて一夏が席を立つ。

一夏「ごめん、千冬姉、今日はもう寝るよ…食器、水に浸けといて」

そう言って、自分の部屋へ戻って行った。


久しく聞いたことのなかった弟の怒声に戸惑いを隠せなかった。
あいつが怒ったところを最後に見たがいつだったのかすら思い出せない。

それもそのはずか…もう何年も傍にいてやることができなかったんだから…

千冬「私は、姉として失格だな…」

言葉に出すと、急に重みを持ったその言葉が身の上にのしかかり――
 ――己の無力さを怨まずにはいられなかった

――――


ただ悔しかった
ただ自分の無力さが憎かった


物心がついた頃には親はなく
ただ姉だけが傍にいてくれた。それが普通だった。

親がいないことを悲しく思ったことはあるが、そんな悲しさなど姉が吹き飛ばしてくれた。

だけど――

あるとき、ふと考えた。
姉は寂しくないのだろうかと。

自分はいい
気づいた時からいなかったのだ。

だが、姉は違う。

10歳そこそこの少女が親に捨てられて何も感じないわけがない。
どれだけ怒り、どれだけ不安だっだのか。
…俺は何も知らない。

そう、姉は俺の前では、怒りも不安も悲しんでいる姿も、一度も見せることはなかった。

きっとそんな自分の姿を俺に見せたら、俺も一緒になって泣いてしまうと思ったのだろう。
俺が幼く、弱かったから。

その心遣いが、優しさが
暖かくて、嬉しくて、辛くて

ッ…チクショウ…

――

朝目が覚めて下へ降りると、千冬姉はもう出た後で、
台所には、綺麗に洗われた食器だけが残っていた。

――――学校


千冬「――以上だ。では、解散!」

午前の授業が終わりを告げる。
結局、午前中一度も千冬姉の目を見れなかった。


箒「一夏、昼ご飯を食べに行かないか?」

一夏「ん?あ、あぁ。そうだな、行こう」

箒「それにしても、今日はどうしたのだ?授業にも身が入っていなかったように見えたぞ?」

一夏「そ、そうか?そんな風に見えちまったか。でも、なんともないよ、箒の気のせいだ。」

箒「本当か?そ、その、もし体調が良くないようなら、私が看病してやらんでもないぞ?」

一夏「ははっ、箒は心配性だな。ありがとう。でも本当になんともないんだ。
   さぁ、早く食堂に行こうぜ?急がないと混じまうぞ?」

箒「あ、あぁ」

――――

あの人の様子が、今日はいつもとどこか違うことはすぐに気がついた。

そしてその原因を推し量ることも、そう難しいことではなかった。

でも、自分には何ができるのか、何をしてあげるべきなのか


分からなかった

――――食堂


箒「しかし、山田先生は凄いな。流石は元代表候補生だったことはある」

一夏「あぁ。機体の性能の差が、戦力の決定的な違いでないことを教わったよ」

箒「数世代前の型に太刀打ちできないとは情けないことだがな、私たちはまだまだ未熟ということだろう」

一夏「あぁ、まだまだだ。俺は、まだ弱い」

箒「一夏?」

一夏「ん?あぁ、すまん」

箒「そして、その山田先生よりも更に強いのが千冬さんか…」

一夏「………」

箒「まったく、上には上がいるものだな」

一夏「それでも…」

箒「ん?」

一夏「それでも、いつかは越えなきゃいけない壁だ」

箒「あぁ、そうだな。その通りだ。さて、では少しでも早くそうなれるように午後も頑張るぞ」

一夏「おぅ!」

――――放課後

調子のいい返事をしたものの、やはり午後の座学にも身が入らなかった。
いつまでもこうしてはいられない。
早く解決しなければ、千冬姉にいらぬ心配をさせてしまう。

分かってはいるのに――


「やっほ、一夏」


一夏「シャル?どうしたんだ?まだ帰ってなかったのか?」

シャル「うん、少し用事があってね。居残りしてたんだ」

一夏「そうか。もう終わったのか?」

シャル「うん。ちょうどさっきね。今から帰るとこ」

一夏「そうか。じゃあ、一緒に帰るか?」

シャル「うん」ニコッ

――――帰宅の徒


シャル「ねぇねぇ、聞いちゃったよ、一夏?ラウラにエッチな映画見せたんだってー?」

一夏「ブハッ…ちがっ――」ゴホゴホ

あまりに予想外のセリフに飲んでいたジュースを吹き出してしまった。

シャル「もぅー、一夏って案外積極的なんだね。僕、驚いちゃったよ」

一夏「いや、あれは…不可抗力というか何というか…」アハハ…

シャル「でもね、凄く嬉しそうだったよ、ラウラ。こんなことを経験したーとか
    あんな感情を抱いたのは初めてだったーとか。あんまり詳しいことは秘密みたいだけどね。
    でも、本当に嬉しそうだったんだよ」ニコッ

一夏「そうか。よかった。実は映画がトラウマになったらどうしようって責任感じてたんだ」

シャル「ふふっ、それは重い重い責任だね。一生懸けて償わなきゃいけなくなるとこだったよ」クスッ

一夏「全くだ。でも、俺もラウラに教えてもらうことが多かった。意外だったんだ。
   ラウラは俺が考えている以上に大人で――(そして女性だった))」

シャル「うん。確かにラウラは知らないことは一杯あるかもしれないけど、でも賢い子だから。
    力を持っていても、その使い方を知らないだけなんじゃないかと思うんだ。
    だから一夏といれば、『強さ』の意味と、その強さの『使い方』がちゃんと分かってる一夏といれば、
    ラウラも正しい使い方ができるんじゃないかなって思ってたんだ。
    一夏はとても、とても優しい人だから」

一夏「むっ、褒めても何にもないぞ?」

シャル「えっ?何も持ってないの?もー褒めて損しちゃったじゃないか?」クスッ

一夏「ははっ、次はちゃんとご用意させて頂きます」

シャル「お願いしますよ?ふふっ、でも…でもね、一夏が優しい人だっていうことはホントのことだよ。
    一夏は見ず知らずの僕を励ましてくれたし、居場所を見つけてくれた。
    ラウラには、今までしたことのない体験や経験をするお手伝いをしてくれた。
    だから僕は、一夏はホントに優しい人だと思うんだ。」

一夏「あ、ありがとう…」カァー

シャル「ふふっ、ホントそうやったらそんな風に育つんだろうねー
    後々のためにも教えを請いたいぐらいだよ、織斑先生に」

一夏「へ?」

シャル「だって、一夏を育てたのって、織斑先生でしょ?
    きっと何か秘訣みたいなもんがあるんじゃないかなーと思ってさ。」

一夏「秘訣…」

シャル「そう。だってもし一夏が普通に育てられたって言ったら、世の中の男の子だって
    皆、一夏みたいに優しくなっててもおかしくない?でも、そうじゃない。あの人みたいにさ…
    ということは、何か秘訣があってもおかしくないじゃない?」

一夏「ど、どうだったかな…?」

シャル「絶対あるよ!是非今度、織斑先生に聞いとかなくっちゃ」

――――寮・自室

話に気を取られていたら、いつの間にか寮に着いていた。

――秘訣

何か特別なことをされただろうか。
――分からない

俺は特別、他の人よりも優しい人間なのだろうか。
――分からない

俺は千冬姉にとって、自慢の弟になれているだろうか。
――分からない

ふと、昨日行った弾の家のことを考える。

心地のいい空間
愛情が溢れている空間


『―――が寂しい思いをしなくて済むように、お姉ちゃん頑張るから』

あぁ…そうか…

俺は千冬姉に、これほどまでに深い愛情を注いでもらってのか

そう思った時には、足はすでに寮長室へと向いていた。

――――寮・寮長室


千冬「認めたくないものだな、自分の若さゆえの過ちとは…」

山田「はい?」キョトン

千冬「いや、いい」

山田「では、以上が明日からの予定です」

千冬「あぁ、ご苦労だったな。戻って休んでくれ」

山田「はい。では、お疲れ様でした」

バタンという音を立てて、扉が閉まる。

先ほどまで、山田先生が説明してくれた明日からの業務内容は、全く頭に入っていなかった。

(やれやれ、これではまた、読み直さなくてはな)

そう思いつつも、思考は拘泥する。

弟を育てることが私のすべてだった。
そのために、必要と思えることはすべてやってきた。

とりわけ女尊男卑の風潮が強まる昨今、身内に時代を代表するようなモンド・グロッソの覇者がいれば、
親がいないことを馬鹿にされぬ程度の名誉は手に入るだろうと考えた。

だが、その行き着きた先が一夏の誘拐であり、私のドイツへの赴任か…

結局は、私の選択が一夏を一人にさせてしまった。

己の若さと浅学を言い訳にしても許されるものではない。

―コンコン

千冬「はい?」

一夏「俺です」

千冬「ッ……」」

一夏「織斑先生、入ってもいいですか?」

千冬「あ、あぁ。入れ」

ゆっくりとドアが開き、一夏が入ってくる。
自分の顔が強張っているのを感じる。

私は恐れているのだ。

己の全てを懸けてきた存在に疎まれることを。
たった一人残った肉親に嫌われることを。


一夏「千冬姉…」

千冬「…どうしたんだ、一夏?」

きたーーーーーーーー

あぁ・・・・す、すみません…

一夏「俺…、謝らなくちゃいけないと思って。
   俺が、今の俺があるのは、千冬姉のおかげだから。千冬姉が守ってくれたおかげだから。
   だけど、そんな千冬姉にひどいことを言ってしまった。
   だから、俺、謝りたいんだ。
    
   ――昨日はひどいことを言ってごめんなさい」

千冬「ッ、そんな、お前が謝ることではない。悪かったのは私の方だ。私がもっと家にいて、
   お前と一緒にいてやれれば、もっとお前を理解してやることができた。あれは私の失態だ」

一夏「……ねぇ、千冬姉、覚えてる?
   ずっと昔、千冬姉が俺の『お母さんにも、お父さんにもなってやる』って言ったこと」

千冬「…あぁ。(忘れるはずがない。だから私は――)」

一夏「あのときの言葉。凄く嬉しかった。あれから千冬姉のことを、まるで厳しくて頼りがいのある父親で、
   優しくて暖かな母親だと思えるようになったんだ。
   でも、一つだけ気掛かりがあったんだ。
   
   千冬姉は、父親であり、母親であり、姉であり、俺の家族。
   でも俺のために一人で二役も買って出て、姉としての、一人の女性としての織斑千冬はどこにいるんだろうって。
   千冬姉はそれを不満に感じていないんだろうかって」

千冬「その程度のこと――」

一夏「うん。千冬姉はきっとそう言うと思ってた。でも、俺は…凄く怖かった。
   折角、織斑千冬という個人で生きれるはずだったのに、俺が誘拐なんてされたせいで、それが台無しになったこと。
   そしてその後、俺から離れるようにドイツに行ってしまったこと。

   …実はね、千冬姉がドイツに行った時、もしかしたら、俺は捨てられるんじゃないかって思ったんだ」

千冬「なっ……」

一夏「足手まとい、個人として生きるためには俺は邪魔なんじゃないかって。
   だから行ってしまったんじゃないかって。
   俺のたった一人の肉親は、俺の全く知らない、遠くの土地へ。
   そう考えると、堪らなく怖くて――」


一夏「だから、千冬姉がドイツから帰ってきてくれた時は、涙が出そうなぐらい嬉しかった。
   俺は捨てられていなかったんだって実感することができたから。そして思ったんだ。
   もう二度と、不安にならないように、足手まといにならないように、強くなろうって。
   俺が千冬姉を守ることができるぐらい、強くなろうって。
   もう俺の心配をする必要がないぐらい、千冬姉が一人の女性として生きれるぐらい強くなろうって、
   そう……決めたんだ。」

喉が渇きを訴え、足がガクガクと震えているのが分かる。
俺は、自分の言葉をきちんと吐き出せているだろうか。
今までの空白の期間を埋めれるような言葉を、俺と千冬姉の不安を消し飛ばせるような言葉を。

千冬「お前には話したことがなかっただろう。私たちの目の前からある日突然両親が消えた後のこと。
   私は、どうすることもできない怒りに身を焼いた。
   自分という存在が彼らにとって不要だという事実を受け止められず、哀しみに打ちひしがれた。
   何日も、何日も泣いて過ごした。もう死んでしまいたいとすら思えた。だが――

   ―― 一夏、お前がいた
   
   私に甘えてくる弟、泣いている歳の離れた姉を心配して見上げる顔、人懐っこく私を見つめる笑顔。
   どれだけ私が救われたか、お前には分からないかもしれない。
   だが、私はその時に決めたのだ。
   この幼い弟のためならば、どんな苦難にも耐えてみせると。
   私はな、一夏、お前に救われたんだよ。私がお前を守っている?とんでもない。
   一夏……お前が私を守ってくれたのだ」

喉が渇きを訴え、足がガクガクと震えだそうとするのを必死で堪える。
私は、自分の言葉をきちんと吐き出せているだろうか。
もう二度と、愛おしい弟を不安にさせないための言葉を。

千冬「だから、お前が誘拐されたと聞いた時は、血の気が引いたぞ?
   モンド・グロッソ如きがどうした。

   私にとっては世界で最強になることなどよりも、たった一人の弟を守ることの方が比べるまでもなく重要だった。
   たった一人の家族も守ることができない、世界最強などまるで意味がなかった。
   お前が匿われている場所を提供してくれたドイツに行ったのは、そこにいけばお前を誘拐した組織の素性が分かると思ったからだ。
   私は、私のたった一人の家族に危害を加えようとする連中を決して許すことができなかったからな。

   だから、一夏。お前が心配するようなことは何もないんだ。
   私は、あの時、お前を守ることができて幸せだ。
   私は、お前が優しい子に育ってくれて幸せだ。
   そして昨日も言ったように、いつかお前が、お前の愛する女性と幸せな家庭を築いてくれれば、本当にこれ以上ないぐらい、私は幸せだろう。
   これまで精一杯の愛情を注いで、命を懸けてきて育ててきたのだからな」ニコッ

千冬姉が微笑みながら言う。
あぁ、この微笑みだ…
自分を安心させ、今まで守ってきてくれたのは――


千冬「だから一夏。私のことを心配する必要などどこにもないんだよ。
   それとも何か?私程度の美貌では、寄り付く男がいないとでも思っているのか?」クスッ

一夏「そ、そんなことないよ。千冬姉は美人だし…」

千冬「だろ?その気になれば、男など引く手数多で、両足の指を入れても数えきれん。
   ただ残念なことに、その中に私を魅了するような男がいないだけだ」フフン

一夏「そんなこと言ってー生き遅れても知らないよっ!?」

千冬「要らぬ世話だ。今でも十分に幸せなのだからな」ニコッ

一夏「ん、もう!」カァー

千冬「そんなことより、お前の方こそどうなんだ?いるんだろ?惚れている女が」

一夏「なっ!?」

千冬「馬鹿者。気付かないとでも思ってるのか?私を誰だと思っている」ニッ

一夏「あは、あははー」アセアセ

千冬「まぁ、詮索はせん。どこの馬の骨かは知らんが――
  ――本気ならば、逃すなよ?」

一夏「へっ?」

千冬「当然だ。お前はできた姉を持つ身だ。そうすると、必然的に惹かれる女の質も上がり、数も少なくなる。
   逃す魚の大きさ、見誤るなよ」

一夏「……うん」

千冬「お前はお前の、私は私の幸せを追っていけばいい。怖がることはない。
   進む道は違えど、道は繋がっている。私たちは家族なのだからな」

一夏「――うん。ありがとう、お姉ちゃん」

―――――

一夏の様子が、今日はいつもとどこか違うことはすぐに気がついた。

そしてその原因を推し量ることも、そう難しいことではなかった。

でも、自分には何ができるのか。
自分のしたことが正しかったのかどうかさえ







『僕』には分からなかった。

これはシャルか?

――――寮・シャルとラウラの部屋


シャル「はぁ…(余計なことをしちゃったかな…でも、一夏、織斑先生と仲直りできたかな?)」

一体、一夏の何が、僕をこれほどまでに強く惹きつけるのだろうか。
コップの中に、想いが満ちていくのを感じる。

シャル「いち―――か」

一夏は今何をしているだろう?
何を考えているだろう

僕の心は一夏の立ち振舞い、言動で、こんなにも簡単に揺り動かされてしまう。

きっと、想いがたくさん、たくさん入っているから、ちょっとした振動でもすぐに溢れてしまうそうになるんだ。

一夏の暗い顔を見たくはなかった。
一夏が苦しそうな顔をしているときは、それを取り去ってあげたいと思い、声をかけた。

いつか彼が僕にそうしてくれたように
僕も彼の苦しみや哀しみを癒すことができたなら、たとえこの想いが彼に届かなくても
少しも寂しくなんてないんだ。

うん。少しも――


ラウラ「なんだ、シャルロット。帰ってきてたのか?おかえり」ニコッ

シャル「うん、ただいま。ラウラ」ニコッ

ラウラ「シャワー、先に使ったぞ。お前も浴びてくるといい」

シャル「うん。じゃあ、そうしようかな」


ラウラと入れ違いに、シャワールームに入る
室内はまだしっとりとした湿気を含んでいて、微かに薫るボディーソープのいい香りがした。

一糸纏わぬ姿になり、頭からお湯を浴びてる。

ふっー、と息をつき、目を閉じると先ほどのラウラの笑顔が浮かんできた。

最近、ラウラが笑うことが増えた。

きっとそれは一夏のおかげだ。

一夏には不思議な力がある。
人を暖かく、守ってくれるような…そんな力

僕を暗闇から引き上げ、ラウラを先に導いてくれるような、そんな優しい力

僕では力が足りず、ラウラをここまで笑わせてあげることはできなかっただろう。

だから僕は、僕の大切な、大好きなラウラを笑わせてくれた一夏が大好きで、
僕の大好きな人の力を借りて、より一層明るくなっていくラウラを見るのが大好きだった。

そう、だから僕は――

もし二人の想いが重なってくれれば、これ以上の幸せはないって、本当にそう思うんだ。

――

シャル「気持ちよかった~」

シャワーを終え、浴室から出てきたシャルはラウラと向かい合う形でベットに腰掛ける。
髪はまだ濡れていて、濡れる髪の先端をバスタオルで押さえている姿を、綺麗だとラウラは思った。

ラルラ「今日はやけに遅かったのだな。何か用事でもあったのか?」

シャル「う、うん…少し…山田先生に頼まれた用事をしてたんだ…」

心がズキリと痛むのを感じる。
大切な友達に、嘘はつきたくない。
だけど、余計な心配はさせたくなかった。

(僕は、ラウラも一夏もどちらも大好きだから…)

ラウラ「…そうか。なぁ、シャルロット?」

シャル「な、なに?ラウラ」

ラウラ「私は、お前と会えて、知り合えてよかったと思っている」

シャル「えっ?ぼ、僕と?」

ラウラ「うむ。私は、現状の私であることに不満は感じていないが、他の女子と比べて種々の物事に無知であることは承知している。
    そして、できればその無知を少しずつでも埋めていければいいと思っている」

シャル「うん」

ラウラ「そして、お前は他の女子と比較しても遜色ない知識と感性を持っている。
    私はそれが少しだけ羨ましく思う。
    
    私はずっと謎だったのだ。どうして、それほどまでに違う私に話しかけてくるのか。
    人との付き合いの経験の浅い私は、おそらくお前にきつく当たってしまったことも少なくないはずだ。
    それでも、お前はずっと傍にいてくれた。ドイツの冷氷と呼ばれた私を暖かくほぐしてくれたのは、
    他でもない、一夏でもない、お前だった。シャルロット」


ラウラがそんな風に考えていてくれてるなんて、初めて知った。

自分を大切に思ってくれる人がいるという事実が、ただ単純に嬉しかった。

ラウラ「だから、そんなお前を、私が苦しめてしまっていることがとても哀しい」

シャル「なっ…何を言ってるんだよ、ラウラ?僕は苦しんでなんか――」

ラウラ「ならば、なぜ嘘をつく?」

シャル「えっ…」

ラウラ「苦痛を感じていないならば、どうしてそんなに泣きそうな顔をしている?
    どうして、山田先生に頼まれた用事があったなどと嘘をつく?
    どうして、ISの整備があるなどと言って、私だけを一夏と外出させる?」

シャル「なっ、なんで――」

ラウラ「気づかないとでも思ったか、馬鹿者。私にとって、男の中で最も大切な存在が一夏ならば、
    女の中で最も大切な存在はお、お前だ…
    お前が嘘をつけばすぐ分かるし、お前が哀しんでいても、すぐ分かる
    お前は私の、と、友達だからな」カァー

言葉が出ない、出せない

あれやねキュンとくるね

シャル「ぼ、僕は…」

ラウラ「シャルロット、お前は一夏とよく似ている。
    自分のことよりも、他人のことを優先する。
    自分の幸せよりも、他人の幸せを願う。
    お前は優しく、自分が傷つくことを厭わない。
    私には……それが辛い」

シャル「……」

ラウラ「お前が私の幸せを願ってくれるように、私もお前の幸せを願っている。
    だから、お互いが正しいと進む方へ進めばいい。
    心配するな、シャルロット。
    私たちは友達だ。一度交わることができたのだ。どこまで行っても、その道は私と繋がっている」ニコッ

ドクンと大きく胸を打つ鼓動が聞こえる。

ラウラの言ってくれたことがただただ、嬉しくて…
そして、辛かった。

シャル「あ、ありがとう……少し、夜風に当たってくるね」

今は、今だけは、ラウラの顔を見るのが怖かった。
見た瞬間に、泣いてしまいそうな気がしたから――

すみません!少しだけ落ちます。すぐ戻れると思います><

待ってるよ

ドッフフwwww拙者も待ちますぞwww

>>301
お前のせいでこれ思い出した

「ふーん、で、君は涼宮ハルヒのキャラで誰が好きなの?」
「オウフwwwいわゆるストレートな質問キタコレですねwww
おっとっとwww拙者『キタコレ』などとついネット用語がwww
まあ拙者の場合ハルヒ好きとは言っても、いわゆるラノベとしてのハルヒでなく
メタSF作品として見ているちょっと変わり者ですのでwwwダン・シモンズの影響がですねwwwwドプフォwwwついマニアックな知識が出てしまいましたwwwいや失敬失敬www
まあ萌えのメタファーとしての長門は純粋によく書けてるなと賞賛できますがwww
私みたいに一歩引いた見方をするとですねwwwポストエヴァのメタファーと
商業主義のキッチュさを引き継いだキャラとしてのですねwww
朝比奈みくるの文学性はですねwwwwフォカヌポウwww拙者これではまるでオタクみたいwww
拙者はオタクではござらんのでwwwコポォ」

シャル「ぼ、僕は…」

ラウラ「シャルロット、お前は一夏とよく似ている。
    自分のことよりも、他人のことを優先する。
    自分の幸せよりも、他人の幸せを願う。
    お前は優しく、自分が傷つくことを厭わない。
    私には……それが辛い」

シャル「……」

ラウラ「お前が私の幸せを願ってくれるように、私もお前の幸せを願っている。
    だから、お互いが正しいと思う方へ進めばいい。
    心配するな、シャルロット。
    私たちは友達だ。一度交わることができたのだ。どこまで行っても、その道は私と繋がっている」ニコッ

ドクンと大きく胸を打つ鼓動が聞こえる。

ラウラの言ってくれたことがただただ、嬉しくて…
そして、辛かった。

シャル「あ、ありがとう……少し、夜風に当たってくるね」

今は、今だけは、ラウラの顔を見るのが怖かった。
見た瞬間に、泣いてしまいそうな気がしたから――

いつも最後のコポォで吹く

コポォってなんだよコポォて

―――― 一夏の想い・ラウラの想い


シャルが好きだ。
いつも笑顔を携えて、誰にでも分け隔てなくやさしく、そのくせ人に甘えることを知らないシャルのことが
気がついたら、頭から離れなくなっていた。

自分に話しかけてきてくれるとき
自分に屈託のない笑顔を向けてくれるとき

女の子独特の立ち振る舞いを見たとき、なぜか胸がドキドキして、苦しくなって、
その気持ちが恋と呼ばれるものだと気づくのに、そう時間はかからなかった。


けど、俺には千冬姉がいたから。
まずは千冬姉を幸せにしなくちゃいけないと思っていたから。

自分のことなんて、考えてちゃダメだと思ったんだ。

でも――


扉を前にして一息つく。自分でも緊張しているのが分かる。

きたな
やっぱりシャルか

――コンコン

一夏「俺だ。シャル、いるか?」

ガチャと音を立てて顔を出したのはラウラだった。

ラウラ「一夏か。あいつならいないぞ。先ほど、夜風に当たると言って出てしまった」

一夏「そうか…分かった。じゃあ、探してみるよ」

ラウラ「うむ……だが、その前に少しだけ私の話を聞いてくれないか?」

ラウラの目には有無を言わせぬ力が籠っているように感じた。
何か…何か大切なことを言おうとしているんだと。

一夏「あ、あぁ。分かった」

  _, ,_     しゃーない
( ・∀・)   
( ∪ ∪    
と__)__)旦~~

>>319
悪いことは言わないから巣に帰れ

ラビッ党の私はすこし残念
まぁ出番いっぱいあったからいいや

部屋に招き入れられて、備え付けの椅子に腰を下ろす。
変な気分だった。自分の部屋と同じはずなのに、部屋を満たす空気は女子のそれだったから。
シャルの薫りも、そこに含まれているように感じた。

思考を逸らすように口を開く

一夏「それで、どうしたんだ?ラウラ?」

ラウラ「うむ。なぁ、一夏。私は、お前が好きだ。その、、異性として…」

普段から「私の嫁だ」なんて台詞を言われていても
こんな風に面と向かって、自分に対する愛情を表現されたことは一度もなかった。

ラウラ「そして私は…お前の気持ちが私には向いていないことも知っている」

一夏「なっ…」

ラウラ「お前もあいつに負けず劣らずの馬鹿者だな」ククッ

ラウラちゃん……

ラウラ「全く…お前もあいつも、他人のことばかり気にして、自分が他人からどう写っているのかなど気にも留めない。
    似た者同士のように、自分に厳しく、似た者同士のように、他人に分け隔てなく優しい。
    だから――私はお前たちが好きだ」

一夏「ラウラ…」

ラウラ「気にしなくてもいい。私はドイツの冷氷だぞ?それほど弱い女ではない」

一夏「…うん」

ラウラ「だから、一夏。お前やあいつが、自分の他人の幸福を優先しようというならば、
    代わりに私がお前たちの幸福を願ってやろう。

    決定事項だ。
    私が友を想う気持ちに、異論は―――絶対に認めない。
    さぁ、あいつを探しに行ってやれ。
    いくらこの季節とはいえ、あまり外に長くいると風邪をひいてしまう」

一夏「うん…ラウラ…?」

ラウラ「…ん?」

一夏「ありがとう」

ラウラ「うん」ニコッ


ラウラが顔に浮かべた笑顔を、ラウラからもらった想いを、
しっかりと胸に抱いて、俺は走り出した。

ラウラ「全く…お前もあいつも、他人のことばかり気にして、自分が他人からどう写っているのかなど気にも留めない。
    似た者同士のように、自分に厳しく、似た者同士のように、他人に分け隔てなく優しい。
    だから――私はお前たちが好きだ」

一夏「ラウラ…」

ラウラ「気にしなくてもいい。私はドイツの冷氷だぞ?それほど弱い女ではない」

一夏「…うん」

ラウラ「だから、一夏。お前やあいつが、自分よりも他人の幸福を優先しようというならば、
    代わりに私がお前たちの幸福を願ってやろう。

    決定事項だ。
    私が友を想う気持ちに、異論は―――絶対に認めない。
    さぁ、あいつを探しに行ってやれ。
    いくらこの季節とはいえ、あまり外に長くいると風邪をひいてしまう」

一夏「うん…ラウラ…?」

ラウラ「…ん?」

一夏「ありがとう」

ラウラ「うん」ニコッ


ラウラが顔に浮かべた笑顔を、ラウラからもらった想いを、
しっかりと胸に抱いて、俺は走り出した。

大事な事だもんね

――パタン

一夏の後ろ姿を見送り、ゆっくりとドアを閉める。

もうここには、誰もいない…


ラウラ「……ふっ、…ぐすっ、うっ…」ポロポロ

自然とポロポロと涙が溢れてきた。

ラウラ「ひっく…ぐすっ、……」ポロポロ

自分が泣いているという事実に、今は驚く余裕すらないほどに

ラウラ「……ぐすっ、……うっ……ひっく……」

ふと顔を上げる。
鏡に映っているのは、私の顔だろうか?

ラウラ「ふふっ、…まったく…ひどい顔をしているな、お前は。
    …泣くな、今回は誰かを幸せする手伝いぐらいはできたのだ…」グスッ

そう自分を褒め――また少しだけ泣いた

ら、ラウラちゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん(;д;)

――――シャルの想い


『ここにいればいい』

そんな風に言ってくれた人を、どうして好きにならずにいられるだろうか。

母を亡くし、父には道具のように扱われていた僕を助けてくれた一夏
居場所を与えてくれて、存在する理由を与えてくれた一夏

彼のおかげで、僕はここの残ることができて
彼のおかげで、大切な友人たちに出会うことができた

これ以上を望むというのは――

「シャル!」

急に呼ばれた自分の名前に驚き、身体が硬直する。
その呼び方で、自分を呼ぶ人はこの世に一人しか―――

シャル「いち…か?」

振り向かない
振り向けない

一夏「シャル…そのままでいいから…俺の話を聞いてほしい」

シャル「……」

一夏「俺、好きな子がいるんだ。
   その子は、誰にでも優しくできるくせに、自分には優しくできない子で、
   周りのみんなの幸せは願えるのに、自分の幸せは後回しにしちゃうような不器用な子なんだ。
   でも俺は、その子のそんなところにいつの間にか惹かれていた。
   気づいたら、その想いは俺にとってすげー大切なものになってたんだ」

シャル「……うっ、…うっ…ぐすっ…」
あぁ、これまでずっと我慢してきたのに――


一夏「その子が俺に笑いかけてきてくれるとドキドキして、その子の手に触れると、胸が苦しくなる。
 
   俺が、その子を笑顔にできたらすげー嬉しいし、その子が哀しんでるなら、
   どうにかして、それを取り去ってやりたい思う。
   その子が自分に優しくできないなら、その子の分まで俺が守ってやりたい。

   だから俺は、お前が泣くのをじっと見ているなんて耐えられない。
   だって俺は、俺はお前のことが――」

シャル「――ダメ…だよ、一夏…それ以上は…うっ、…言っちゃ…ぐすっ…だめ…」

嗚咽をあげそうになるのを必死に耐えようとする。

それなのに、涙は僕のいうことを聞いてくれない。
きっと……コップから溢れてしまったんだ…

シャル……(・ω・`)

シャル「ダメだよ…うっ、…それ以上…い、言ったら、ラウラが哀しん…じゃうよ…
    他のみんなだって……ぐすっ…か、哀しませちゃうよ……そんなの…やだよ…」

とても、とても嬉しかった。
『ここにいればいい』と言ってくれたことが。


母を失い、誰も私を必要としてなくなって、悲しかった。とても……とても…
月日が経ち、悲しいと思うことさえ忘れてしまった頃に、一夏に出会った。


誰かが周りにいれくれる喜び、自分を人として接してくれる人たちに出会えた。
だから、だから僕は、もう誰にも僕と同じような思いはさせたくなかったんだ。
それは、とてもとても辛いものだって知っているから…

すこしは空気読めクソが

一夏「なぁ、シャル?覚えてるか?お前が俺に『強さ』の意味と強さの『使い方』がわかってるって言ったこと。
   俺なら、ちゃんとラウラにそれを教えられるって言ったこと。

   誤解だよ。
   あの日、ラウラと出かけたあの日、俺の方こそ、ラウラに教えられたんだ。
   想いは、相手を幸せにするためにあるもんだって。
   独りよがりのものじゃなく、相手の幸福を祈るものだって。

   俺が今、この胸に持っているこの想いは、他に渡す人なんていない。その人だけのものだ。
   俺の心は奪われて、その人のためだけのものになった。――たとえ、この想いが届かなくても――
   だからせめて、知ってほしいんだ……俺の心は、お前のものから。シャル」

シャル「…ぼ…僕で…いいの…?」

一夏「馬鹿だなーお前じゃなきゃ意味がないんだよ」ニコッ

振り返って一夏を見る
少し恥ずかしがっているような、はにかんだ仕草をしている、私の愛しい人

シャル「私もね…私の心の中にもね。一夏を想うコップがあってね…
    それがね、溢れちゃって…苦しいの…
    でも、でもね、どうすればいいのか分からなくて…苦しくて…怖いくて――」

シャルは原作で割と不遇なせいかSSだとメイン大杉だろwwwww
姉とシャルメイン大杉w対してラウラは何故かかませになりやすいという

― ギュッ

急に一夏に抱きしめられる。
一夏の匂いがする。

一夏「俺に渡せばいい」

耳にかかる吐息を慈しむ

シャル「…いち…か?」

一夏「想いが溢れて苦しいなら、俺に全部渡せばいい。
   俺の溢れた分も一緒にして、もっと大きなコップを二人で作ればいい。
   愛情も、苦痛も、哀しみも、嬉しさも、怒りや、嫉妬でさえ、同じ感情なんだから
   二人で分かち合えばいい」

自分を抱きしめている腕に力が込められる


一夏「俺がお前を、一人にはさせない」

心が暖かくなるのを感じる
あぁ…この人は――これほどまでに私のことを――


シャル「……いち…か…?」

一夏「ん?」

シャル「…大好きです」

>>355
鈴に謝れよ

――――

あれから、シャルと一緒に部屋に戻った。
ラウラはシャルを見た途端に抱きつき、それを優しくあやすシャルの姿は、まるで母親のようだった。

折角泣き止んだのに、シャルを見た途端にまた泣き出してしまったラウラは
気まずそうにしながらも、シャルに甘えていた。


――――それから数週間後の週末

鈴「ちょっと弾!!アンタ、私の酢豚に箸つけてないでしょ!?まずいとでも思ってんの?」クワッ

弾「いや~こんな美味しそうな酢豚、俺が食べたら申し訳ないと思ってさ」ニコッ

鈴「分かりやすい嘘ついてんじゃねー!!」

ゴンッ!

弾「ぐはっ!!」

今日はピクニック
あれから世話になった弾に事の顛末を説明すると、弾は「なんでお前だけが…チクショー!」と雄たけびをあげながらも祝福してくれた。

セシリア「あらあら、鈴さん。男性に手をあげるのは、淑女としてはどうかと思いますわよ」

ラウラ「いや、あの程度の拳筋、見切れぬ方が軟弱と考えることも可能だ」

箒「最近は軟弱な男が増えて困る」ウンウン

シャル「あはは…弾くん、大丈夫?」

弾「シャルロットちゃんは優しいね…一夏にやるのがもったいないぐらいだ」シクシク

一夏「なっ、お、おい?」

セシリア「皆さん、私特製のサンドイッチもまだたくさん残っておりますわよ。
     ほらほらラウラさんも、もっと食べないと女性らしい肉づきになりませんわよ」

ラウラ「む、むぅ。そ、そんなものに興味はないっ」ムゥー

弾「そうそう。女の価値ってのは、見た目だけじゃ分からないとこに隠されてんのさ」ムシャムシャ

ラウラ「えっ…」

弾「あん?どうしたんだ?えっと…ラウラちゃん?」

ラウラ「い、いや、なんでもない…」カァー

突然赤面し出したラウラを横目にしながら
「こりゃ、ひょっとすると、ひょっとするかもなー」とか考えてみる。

――――実家

シャル「うわぁ~一夏のお部屋、久しぶりだなぁ」キラキラ

一夏「俺だってそうだよ。相変わらず味気ない部屋だけどな」

苦笑いしつつ、俺は椅子に、シャルはベットに腰かける。

シャル「ねぇねぇ、一夏?あれって中学校の時のアルバム?」

そう言って身を乗り出し、ベット脇に備え付けられている本棚に手を延ばす。

一夏「あっ、馬鹿!見ちゃダメだ――」「きゃっ」

――ガタン

それを阻止しようとして、気づいてみると大変な状況に…なんというか…
そう、あれだ、漫画やアニメでよくあるあの状況に…

ベットの上のシャルが、シャルの上の俺が――

いきなり飛び乗ったせいで、シャルの服は乱れていて、それが、、なんというか…男心をくすぐる

向かい合わせになっているシャルの目を見つめる。
綺麗な色をした瞳が、俺を見ていて、上気した頬にクラクラとする。

服が乱れたせいで窮屈そうにしている胸と、それを押し込めたために生じる谷間から目が離せない。

シャル「い、一夏?ど、どこを見ているの?」ドキドキ

一夏「はっ……わ、悪い!」

シャルの声にハッと正気を取り戻し、目を背ける。

シャル「もぅ…一夏のえっち」カァー

一夏「ご、ごめん」アセアセ

シャル「くすっ…いいよ…」

一夏「えっ…」

なんていうか……春だなぁ

シャル「一夏なら、見ても…触っても…いい…よ…」カァー

そう言って目をシャルは目を閉じる

俺は吸い寄せられるように顔を近づけ―― 「んっ…」

――シャルにキスをした

一夏「ごめん、もう止まらない」

そう言って、再び唇を奪う

シャル「んっ…あっ…」

甘い吐息に心が犯されていくのを感じる

背中に手を回す
服が邪魔だ
直観的にそう思った

服の下に手を入れ、シャルの素肌を感じる。
みずみずしくて、柔らかな、

シャル「んんっ…あんっ…」

ブラのホックを外し、服を脱がしたい欲求に駆られる

シャル「んっ…いっ…いち…か…電気…せめて…電気だけでも…あんっ」

一夏「だめ…」

――――

私、織斑千冬はこの日、仕事をしていた。いうなれば残業だ。

家に仕事を持ち帰るのは好かないが、折角の週末だ。
弟と共に時間を過ごすのも悪くなかろうと思ったのだ。

しかし、パソコンを打ちこんでいると二階から「ガタン」という物音が聞こえてきた。
気になって覗いてみればこの様だ。

私は教師だ。
生徒の淫行を許すわけにはいかない。

しかし、私はあれの姉だ。
愚弟の成長を見守る義務がある。

私は岐路に立たされていた。

逡巡した挙句に、私は自室に戻り再びパソコンの前に座り、こう打ち込んだ。

千冬「『本日弟が童貞を卒業しました。』……」グスン


一夏「たとえ、この想いが届かなくても――」」

――[End Of File]

エロはいらないと思うのは俺だけか

そういうことかwww
こういうの大好きだ

あ、乙!

>>1です。
すみません、、最後のオチにつなげるためにあのシーンは必要だったんです^^;

全員の贔屓のキャラを目立たせることができなくてすみません。
初めてss書いたので、誤字脱字等々、ひどいとこがたくさんありますが
目をつぶって頂けると嬉しいです。。

最後に、保守・支援して下さった方
本当に有難うございました><

残りは落とすなり、雑談に使うなりしてくれて結構です。
ではでは!

以下ホモスレ

これでSSかよ……
>>1

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