唯「カチカチ山のムギ豚ちゃん!」(316)

ここは『うんたん村』
人里離れたこの村に、
ある仲のいい姉妹が2人きりで暮らしていた。


憂「お姉ちゃん、お昼ご飯はラップして冷蔵庫にはいってるから」

憂「それと、食後のアイスは一個までよ」

唯「ほ~い、わかってるよぉ憂」

憂「それじゃあお姉ちゃん、行ってくるね」

唯「いってらっしゃ~い」

働き者の妹は今日も山へ芝刈りに
のんびり屋の姉は今日も家でゴロゴロ…
姉妹は貧しいながらも、
明るく楽しく助け合って生活していた。

ヒュ~

憂「おお寒い…そろそろ風が冷たくなって…もうすぐ冬だね」

憂「冬が来る前に目一杯食べ物をあつめておかなくちゃ」

憂「よし、一昨日仕掛けた罠の様子を見てこよう」

テクテク

憂「確かこの辺だったはずだけど…」


「むぎゅうううううううう!!!」


憂「わ!何か聞こえたぞ」

タッタッタ

紬「むぎゅうううううううう!!!」

紬「ひゃあ…!あ、足がぁ…」

紬「んん…んんん……」グイグイ

紬「や、やだ、外れない…痛いよぉ」ポロポロ

ガサガサ

ヒョコ

憂「あらあら、丸々と太って美味しそうな豚ね、お姉ちゃんが喜ぶわ」

紬「ひ…!に、逃げなきゃ……んんん…やっぱり外れないよぉ」

憂「無駄よ、その罠はちょっとやそっとじゃ外れないわ」

紬「や…!私なんか食べても美味しくないわ!」

憂「嘘おっしゃい、こんなにムチムチしちゃって、
  脂身いっぱい詰まってそうじゃない」

紬「いやー!!」

憂は豚に猿ぐつわをかませ、
慣れた手つきで縛り上げると
軽々と担ぎ上げた。

紬「ふむむ…むぎゅぎゅぎゅ…」ジタバタ

憂「うふふ、今晩は豪勢な夕飯になりそう…豚カツにしてもいいし、
  豚しゃぶにするのも悪くないわ」

憂は、きっとお姉ちゃんよだれを垂らして大喜びするわ、と
弾むような気分になりながら、
暴れる豚を、尻を叩いて黙らせつつ
山を降りたのであった。

ちなみに、捕らえられたこの豚はムギ豚という
山奥の洞穴に住む珍種である。
今日はたまたま紅葉見物に出かけた所、
運悪く罠を踏んだのであった。

憂「ただいま~」

唯「う~い~、おかえりー、お腹ペコペコだよぉ」

憂「えへへ、お姉ちゃん、今夜はご馳走だよ!」

唯「え!?食べ物いっぱい取れたの?」

憂「うん!……よいしょっと」

唯「うわ~い、ご馳走!ご馳走!」

憂「じゃーん」

紬「むぎゅ…むぎゅむぎゅぎゅ」ジタバタ

唯「あ!」

憂「えへへ、こんなに大きい豚が獲れたんだよぉ」

唯「ム、ムギちゃん!?」

紬「むぎゅ!」ビク

憂「え…!?」

憂「お、お姉ちゃん、この豚のこと知ってるの!?」

唯「うん…ムギ豚ちゃんっていうの」

唯「前に裏山で迷子になった時友達になったの、
  野草のお茶とよもぎのお団子をご馳走してくれたんだよぉ、
  私はムギちゃんって呼んでるの」

憂「そ、そうなの…」チラ

紬「むぎゅ……」

憂(こ、この豚、世間知らずのお姉ちゃんをお茶とお菓子で誘惑して…
  イタズラでもする気だったのかしら……許せないわ)

憂「お姉ちゃん、めっ!」

唯「ひゃ…、う、憂~?」

憂「山の動物に近づいちゃ駄目ってあれほど言ったでしょう?」

唯「で、でもぉ…ムギちゃんいい子だよぉ」

紬「むぎゅう…(唯ちゃん…)」ポロポロ

憂「めっ!動物のお友達なら梓ちゃんがいるでしょう?
  山の動物なんてどんな病気を持っているかわかったもんじゃないわ」

唯「う、うん…」

憂「さ!私は夕飯の支度をするから、お姉ちゃんは居間でテレビでも見てて」

唯「う、憂~、ムギちゃん食べちゃうの~?可哀想だよぉ、放してあげようよぉ」

憂「めぇっ!!いいからっ!お姉ちゃんは居間に行ってて」

唯「ひゃ…!は、はーい」スタコラサッサ

憂「ふう……さぁて」ギロリ

憂は凄まじい形相でムギ豚を睨みつけた。

紬「ひ…!」ビクン

憂「あんた、ムギ豚っていったわね…
  お姉ちゃんを誘惑して、許せないわ、今日はたっぷり苦しめてから
  料理してあげる…」

紬「む…むぎゅうううううううう!!(や…やだああああああああ!!)」


……
………

憂「ふふ…知ってる?」

憂はムギ豚を裸にすると逆さにして木に吊るした。

憂「豚はね、たっぷり苦しめてから殺すと身が引き締まって美味しくなるのよ」

紬「ひいいいぃ…後生ですから、命だけは助けて下さいっ」

憂「黙れっ!」

バチーン!

紬「ぎゃあああああ!!」

憂は木刀で豚の太ももを思い切り殴りつける!

憂「あんた、お姉ちゃんにお茶とお菓子を与えて、いったい何を企んでいたのかしら?」

憂「どうせ嫌らしいことでもしてやろうとか考えていたんでしょう?」

紬「誤解です!唯ちゃんとはお茶したあと川で遊んだだけよ」

憂「嘘をつくな!」

バチーン!

紬「ひぎゃああああ!!」

憂「私は知っているのよ、
  あんた達山の動物がどれだけ恥知らずかってことを」

憂「私の友達の純ちゃんはね、
  澪っていう山狐とエッチして性病を移されたのよ、
  会う度に、おまたが痒いおまたが痒いってとっても辛そうにしてるわ…
  お前もお姉ちゃんを同じ目に合わすつもりだったんだ!」

バチーン!

紬「ぎゃああ!誤解ですっ、私と唯ちゃんはそんなふしだらな関係じゃありません」

ムギ豚は少しでも苦しみから逃れようと暴れるが、
全くの無駄であった。

体中に木刀による打撃を浴び、あざだらけになる。

紬「ひゃああ!痛い!痛いぃ!助けてぇ、おかーさーん!!」

憂「あはは、助けを呼んでも無駄よ、ここにはあんたと私しか居ないんだから」

憂「おら!」

バチーン!

紬「ぎゃああああああああ!!!」


コソコソ

チラ

唯「あ…あわわわ」

唯「た、大変だ…ムギちゃんが…ムギちゃんが…」

紬「むぎゅう…」グッタリ

憂「あら、もうへたばっちゃったの?」

紬「ひぃひぃ…助けて、命だけは…体中がズキズキ痛むのぉ」

憂「ふふふ、ダーメ、あんたにはもっともっといっぱい苦しんでもらうんだから」

紬「いやぁ…」ポロポロ


「憂!もう止めて!!」


憂「!」

憂「お、お姉ちゃん!?」

タッタッタ

唯「ああ…ムギちゃん、こんなに体中腫らして…」

紬「ゆ、唯ちゃん…」

憂「お姉ちゃん、豚に近づいちゃ駄目!病気が移るわ!」

唯「ムギちゃんは病気なんか持ってないよ!だってとっても綺麗好きだもの」

唯「ねぇ憂、お願い、ムギちゃんを助けてあげて、私の友達なんだよぉ」

憂「お、お姉ちゃん、でも…」

紬「唯ちゃん……」

紬(って、あら?なんだかロープが緩んで…)

酷く暴れたためであろうか、
足首を木に縛り付けていたロープは確かに緩んでいた。

憂「で、でもねお姉ちゃん、この豚を燻製にして保存しておけば、
  当分食べ物には困らないわ」

憂「きっと冬も越せると思うの…」

唯「友達を食べるくらいなら死んだ方がましだよ……」

憂「お姉ちゃん……」


紬(ふん…ふんんんん)グイグイ

紬(しめた、これならなんとか足が抜けるわ)


唯「あのね、ムギちゃんってとっても優しくて、おっとりぽわぽわで
  一緒に居るとあったいかい気持ちになるんだ」

唯「それにね、ムギちゃんの淹れてくれたお茶はとっても美味しいし、
  よもぎのお団子も絶品だよ、だからきっと、
  憂もムギちゃんのこと気に入ると思うんだよ」

唯「ね、ムギちゃん……って!ムギちゃん!?」

憂「え!?」

紬「むむむむ…ふんす!」キュポン

紬「やった、抜けた!」

紬「よし、ダッシュよ!」

唯「ああ!憂っ、危ない!」

憂「え!?きゃあ!!」

ガイ~ン

唯に気を取られ、走り出したムギ豚に気がつかなかった憂は、
避けきれずに接触、弾き飛ばされてしまった。

紬「わわ、ごめんなさい、でも今は命の方が大事なの」

紬「に、逃げろ~」スタコラサッサ

唯「う、憂~~~!!」

憂「う~ん、ぱたんきゅー」ガク

豚の全体重が乗ったタックルをもろに食らった形である。
さすがの憂でもひとたまりもない
足腰に深刻なダメージを負った憂は、
そのまま寝込んでしまった。

一方ムギ豚は

紬「はあ、はあ…」タッタッタ

紬「ひゃあ…、酷い目にあった、酷い目にあったわぁ」フラフラ

ほうほうの体でどうにかこうにか巣に帰り着くと
藁を敷き詰めて作ったベットにばったり倒れこみ
やがて気絶してしまった。


………
……

翌日

トコトコ

梓「はぁ…今日はどの家もロクご飯を出さないなぁ」

梓「シシャモ一匹じゃあお腹が膨れないよ」

秋晴れの空の下、なにやら不機嫌そうにブツブツ言っているのは、
梓という名の子猫である。
いまだ何も色気もないが、しかし美少女であり、
その愛らしさ故に村人達は、梓にミルクやら魚やらを与え
可愛がっていた。
ふらりと民家に立ち寄れば
いくらでも食べ物が手に入るこの状況に味をしめた梓は、
働きもせず気楽に気ままに毎日の生活を謳歌していた。


梓「憂の家にでも行ってみよっと」トコトコ

平沢家

憂「あいたたた……」

唯「憂ぃ、大丈夫?腰、痛むの?」

憂「うん…ごめんねお姉ちゃん、こんな事になっちゃって」

唯「憂が悪いわけじゃないよ…」

憂「ああ、どうしよう…冬が近いのに、これじゃあ食べ物を取りに行けないよ」シュン

唯「大丈夫!私に任せて、色々と考えがあるんだ」

唯「憂は体を治すことだけを考えてて」

憂「お姉ちゃん…」

憂(お姉ちゃん優しいな…でもやっぱり心配だよぉ)

梓「お~い、憂~」


唯「あ、あずにゃん!」

梓「鍵が開いてたから勝手に入ってきちゃった…って、うひゃ」ゾクゾク

唯「あ~ずにゃん、今日もネコミミ可愛いねぇ」ダキシメモフモフ

梓「ひゃあ、唯先輩、急に抱きつかないで下さいよぉ」

憂「梓ちゃん、いらっしゃい」

梓「あれ、憂、どうしたの?もうお昼なのにまだ寝るの?」

憂「うん…それがね」

憂「あ、そうだ、お姉ちゃん、梓ちゃんのねこまんま、
  冷凍してあるからレンジでチンしてきて」

唯「ほ~い」タッタッタ

梓「あ、いつもすみませんです」

むぎ豚

焼肉、しゃぶしゃぶ、豚カツ、他の料理もでき、むぎ豚が食べてきたものは栄養が沢山つまった高級食材を食していた為栄養がいい。その上、たくあんもある珍しく食材



誰かジャンプのトリコに投稿しろよw

梓「それで、なにがあったのよ?」

憂「うん、それが…」

カクカクシカジカ

梓「な、なんてこと…」プルプル

憂「おかげで食料を狩にいけなくて、冬も近いのにほとほと困ってるんだよ…」

梓「あんのクソブタ!憂にとんでもないことしでかしてっ!許せんです!」

憂「梓ちゃん、ムギ豚のこと知ってるの?」

梓「ヤツとは動物小学校で一緒だったんだ、昔からいけ好かないデブチンだったよ」

憂「そうなの…」

梓は憂の手をキュッっと握って言う。

梓「憂、私に任せて、私が憂の敵を取ってあげる」

憂「え!?梓ちゃん何をするの?」

梓「憂の苦しみを何倍にもして返してやるんだよ」ムフフ

梓「よしっ!そうと決まれば善は急げです!」

梓「ちょっくら行ってくるね~」タッタッタ

憂「梓ちゃん、行っちゃった…無茶しなければいいんだけど」

唯「ごはんはすごいよ無いと困るよ~♪」

タッタッタ

梓「あ、唯先輩、来たばかりだけど今日はもう帰ります、お邪魔しました」

唯「え?でも、ねこまんま食べていかないの?」

唯「ほら」ス

器に入っているのは解凍したてのアツアツねこまんまである。

梓「おっと、そうでした、いただきますです」

梓「はむっ!ハフハフハフ…ごくん」ペロリ

梓「それでは、またで~す」

梓は猫舌をものともせずに
あっという間にねこまんまを平らげると
一目散に駆け出していった。

唯「ありゃりゃ、あずにゃん、急いでどうしたんだろう?
  なんだか妙に楽しそうだったけど」

むぎ豚

焼肉、しゃぶしゃぶ、豚カツ、他の料理もでき、むぎ豚が食べてきたものは栄養が沢山つまった高級食材を食していた為栄養がいい。その上、たくあんもある珍しく食材
調理する前には苦しめらてから調理すると味がしっかりする。苦しめれば苦しめるほど良いので一年~三年苦しめられたむぎ豚は星十五個とゆう一品である

ムギ豚の巣


紬「くーくー……う~ん、ムニャムニャ……ゲル状よ~……」グーグースピー

紬「……ん」

紬「ふあああ……よく寝たわ」

トコトコ

紬「んんん」ノビ~

紬「は~……いいお天気、日が随分高くなって、もうお昼ね」

ピヨピヨ、アホ~、カァ~カァ~

紬「うふふ、鳥さんおはよう、寝坊しちゃったわ」

紬「……」キョロキョロ

紬「ん…体、何とも無いみたい」

体中の打撲傷はすっかり消えて無くなっていた。
一晩ぐっすり寝たにしても、驚くほどの回復の早さである。
ムギ豚が過酷な山での生活を耐え抜くことができるのも、
ひとえにこの驚異の生命力のおかげであった。

紬「………」ボー

「今頃お目覚めですか、まったく、いいご身分ですね」


紬「え!?…まあ、梓ちゃん」

梓「ふん」

紬「まあまあ、久しぶりね、どうしたの?
  動物小学校の同窓会で会って以来ねぇ」

梓「ふん!別に会いたくて来たわけではないです」

梓「聞きましたよ、ムギ豚、昨日はとんでもないことになったらしいじゃないですか」

紬「あ……そ、そうなのよぉ、昨日は大変だったの…」

紬「危うく人間に食べられるところだったの……
  でも、何とか逃げることができて、今はこの通り元気よ」ニコ

梓「あほ!お前がどうなろうと知ったことじゃないです!」

梓「お前が弾き飛ばした女の子は憂といって、
  私の友達なんですよ、知らなかったんですか?」

紬「そ、そうだったの、知らなかったわ……でも、あの時は私も必死だったから……」

梓「私はしょっちゅう憂の家に遊びに行っては、
  美味しいねこまんまをご馳走になっているです」

梓「それに、憂のお姉ちゃんの唯先輩とは
  よくギターでセッションするくらい仲良しなんですよ」

紬「そ、そうなの…ごめんなさい、
  梓ちゃんの友達と知っていたらあんなに暴れたりしなかったんだけど…」

梓「ふん、いまさら謝っても遅いです」

梓「かわいそうに、お前の体当たりのせいで、憂は腰を悪くして寝込んでしまいました」

梓「あれじゃあとても山へ食べ物を取りに行けないです
  冬用の薪だってまだ集めて無いだろうし、あの分じゃ平沢姉妹は冬を越せそうにないですよ」

紬「まあ大変!どうしよう…私、とんでもないことをしちゃったわ」オロオロ

紬「唯ちゃんごめんなさい…私のせいで、
  きっとお腹を空かせているのね」クスン

梓(唯ちゃん?)

梓「今から菓子折りもって謝ってきたらどうですか?」

紬「で、でも……今行ったら今度こそ食べられちゃうわ…」

梓「はあ…仕方ないですねぇ」

ここで、梓はふいに目を輝かせ、
笑いを噛み殺したような顔つきでこういった。

梓「ムギ豚、この件は私だって腹が立って仕方が無いんですけど、
  今回だけ特別に協力してやるです」

紬「え、どういうこと!?」グイ

梓「わ!こら、そんなに寄るんじゃないです!肥満が移りますっ、
  まったく馴れ馴れしくするんじゃないよ……」

梓「落ち着いて、よく聞くです。憂の代わりに私達で薪や食べ物を集めてあげるんですよ」

梓「そして、薪と食べ物を持って憂に謝りに行くんです、
  まあ私がついて行けば食べられることも無いでしょうし」

紬「まあ……」パァ

ムギ豚はパッと顔中に笑顔を咲かせた。

紬「梓ちゃん!それ名案よ、すぐに、今すぐに行きましょう!」グイ

梓「わ!だから近づくんじゃないです!まったく、
  今日はもう遅いですよ、明日早起きして行きましょう」

紬「そ、そうね…うんわかった、私、明日はお弁当を作っていくわ、もちろん梓ちゃんの分も」

紬「そして、目一杯食べ物を集めて憂ちゃんに謝りに行きましょう、
  そしたらきっと許してくれるわぁ」

梓「決まりですね、それじゃあ私は明日に備えてもう帰ります」

紬「あ…梓ちゃん、ありがとう、私梓ちゃんと友達で本当に良かったわ」

梓「ふん!明日は寝坊するんじゃないですよ」

Gにゃんツンデレモード発動

翌日

この日は昨日に続いて快晴である。
さわやかな秋の日差しのなか、2匹の動物がせっせと薪集めをしている。

紬「ふー、随分と集まったわ、梓ちゃん、そろそろお昼にしましょう」

梓「そうですね、私もお腹が空いてきたところです」

紬「うふふ、今日はね、たくさんお弁当作ってきたから梓ちゃんも遠慮しないで食べてね」ニコニコ

梓「まったくピクニックじゃないんですから」

ムギ豚はウキウキしながら、
体が隠れるほどの大きさの薪の束を軽々と担ぐと、
トコトコ歩き出した。

梓(相変わらず、あきれた馬鹿力です)

紬「梓ちゃーん、こっちよ~、早く早く~」

梓「ひー、ひー、ちょっと、歩くのが早いですよ!」

梓「まったく、こっちは山道に慣れてないっていうのに……」

……

しばらく坂道を上ると、見晴らしの開けた丘の上についた。

梓「はーはー、いつまで歩くんですか?いい加減ご飯にしましょうよ」

紬「うふふ、梓ちゃん見て」

梓「え……わぁ」

梓の眼に飛び込んできたのは、見事な紅葉に染まった山々であった。
胸中に抱いた恐ろしい企みすら忘れ、しばし絶景に見入る。

紬「ねぇ、綺麗でしょう」

梓「は……ふ、ふん、紅葉を見ながらお弁当ですか、ムギ豚にしては粋な計らいです」

紬「ふふ、ここは私のお気に入りの場所なの、毎年秋になるとここへ紅葉見物に来るのよ」

紬「さ、お弁当を食べましょう」


……


食後


紬「はい、梓ちゃん、お茶よ」

梓「ん…いただくです」グビ

梓「……ほ」

紬「ふふふ」ニコニコ

梓「………」

梓「ねぇ、ムギ豚」

紬「うん?なあに梓ちゃん」

紬「……あのこと誰にも喋ってないでしょうね?」

紬「あのこと?」

梓「もう!あれですよ、体育の時間に…」

紬「ああ…もちろん、誰にも喋ってないわ」

梓「ほ…ならいいのです、安心しました」

梓(つまり、ムギ豚を亡き者にすればあのことを知るものは居なくなる…と)

むぎ豚がGにゃんの心を読んだ

紬「で、でもね、私は気にすることは無いと思うの」

紬「だって梓ちゃんは梓ちゃんなんだもの」

梓「はあ?」

梓「うっさいです、そんな気休め言われてもうれしくないですよ」

梓「お前には私の気持ちは分からないです」

紬「梓ちゃん…」

梓「ふん、さっさと片付けて憂の家に行きますよ」

紬「う、うん…」

トコトコ

たっぷり食料と薪を集めた2匹は下山する。
ムギ豚は、これでまた唯ちゃんと仲良くできるわ、
とほくほく顔
一方梓は梓で、これから起こるスペクタクルを想像し
笑いをこらえるのに必死だ。

紬「シャランラシャランラ~♪」

梓「おっと危ない、なかなか山歩きには慣れません」

梓「ムギ豚、鼻歌なんか歌ってないで、先を歩いて、歩き方の手本を見せてください」

紬「あ、任せて梓ちゃん!」

紬「こういう下り坂はね、背筋を伸ばして、
  少し体の重心を後ろに傾ける感じで歩くのがコツよ」

梓「こうですか?」トコトコ

紬「そうそう、梓ちゃん上手よ」

梓「ん…なかなか、ムギ豚のように上手くいきません」

梓「さっきの紅葉もそうですけど、ムギ豚は山のことを色々知ってて凄いですね」

紬「そ、それほどでもないわ…」テレテレ

紬(梓ちゃんったら、どうしたのかしら今日はとっても素直で何だか可愛いわ)

梓「それにしても、随分と沢山集まりましたね、これなら憂も許してくれますよ」

紬「う、うん…そうだといいんだけれど、でも本当に大丈夫かしら」

紬「私、あの憂ちゃんって子は少し苦手、唯ちゃんとは仲良しなんだけど」

梓「へぇ、ムギ豚も唯先輩とは友達なんですか」

紬「そ、そうなの、唯ちゃんはよく私の家に遊びに来るのよ、
  この間も唯ちゃん、お土産にお魚を持ってきてくれて……ん?
  あれれ、何だか変な音がするわ、梓ちゃん、聞こえない?
  何だか、カチカチと音がする」

梓「当たり前です、ここは、カチカチ山ですから」

紬「カチカチ山?ここが?」

梓「そうですよ、知らなかったんですか?
  この山は道を歩くとカチカチ音が鳴ることからそう呼ばれています」

紬「そうなの…私、この山に住んで随分経つけどはじめて聞いたわ」

梓「ムギ豚にも山について知らないことがあるってことです」

紬「うん、そうみたいね、私、山については何でも知ってるって
  少し調子に乗ってたかも知れないわ……って、あら、今度は何だか妙に暑くなってきたわ
  もうすぐ冬なのに…これが温暖化ってヤツかしら?
  それに今度はカチカチじゃなくてパチパチ、ボウボウって音がする…」

梓「当たり前です、だってここはパチパチのボウボウ山ですから」

紬「え?でもさっきはカチカチ山って言ってたじゃない」

梓「もう!いちいち細かいですねっ、そんなんだらいつまで経っても恋人が出来ないんですよ」

紬「こ、恋人が出来ないことは関係ないでしょっ……ってあらら
  これは、いよいよ暑くなってきたわ、何だか気味が悪い…わあ酷い!
  ひゃっ!あつっ!あちちちちちち!!きゃああ!!熱い!!熱い!!
  た、大変!薪が燃えてるわ!!助けて!!助けてぇ!!
  あちちちちちち!!」

梓「あーはっはっは!!」


あっという間にムギ豚は火達磨に、一帯を七転八倒、駆けずり回る。
梓はそれを見て、腹を抱えて大笑い

ムギ豚の悲鳴は山中に響き渡ったのであった。


………
……

翌日、平沢家

梓「って、わけなんだよ~」

憂「へ、へ~」

早速梓は、復讐の成果を報告に
嬉々として憂の元へやってきていた。

梓「ぎゃーぎゃーわめくムギ豚の顔ったらなかったよ、
  あれこそ文字通りの焼き豚ってね」

梓「あ、そうそう、写メ撮ってきたんだ、ほら見て」

憂「わ!凄い、本当に燃えてる……」

梓「ふふん、でもね、まだまだ復讐は始まったばかりだよ」

憂「え!?梓ちゃん、まだ何かやるの?」

梓「当たり前だよ、まだまだ、こんなもんじゃ憂の苦しみに釣り合わないよ」

憂「う、うん…」

憂(私はもう十分だと思うんだけど)

梓「ふふん、次の手はもう考えてあるんだ」

梓(きしし、この調子でムギ豚を痛めつけて、最終的には亡き者に…)

梓(そうすれば、私の秘密を知る者は居なくなり、今後の人生は安泰ってわけですよ…)

唯「あれれ?憂、誰か来てたの?」

憂「うん…梓ちゃんがね」

唯「憂、浮かない顔だねぇ、腰が痛むの?」

憂「うーん…それがね……」

カクカクシカジカ

唯「ええ!?そんな、ムギちゃんが!?」

憂「うん、私はもう十分だと思ったんだけど、梓ちゃん一度言い出したら聞かないし」

唯「た、大変だ、憂、私ちょっと出かけてくるよ!」

憂「え、お姉ちゃん!?…行っちゃった、もう、どうして私の周りの人は
  みんなこうも勝手なのよぉ」

ムギ豚の巣

紬「むぎゅう…むぎゅう」ポロポロ

紬「うう…背中がヒリヒリと痛むわぁ……くすん、
  私はどうしてこう酷い目にばかりあうのかしら」

紬「思えば、お父様とお母様が死んでから不幸ばかり、ひょっとして呪われているのかしら」

紬「この前は、人間に豚カツにされそうになるし、昨日なんか危うく焼き豚になるところだったわ」

紬「くすん…その上女の子には振られてばかりで、
  いつまで経っても恋人が出来ないし
  人気投票も毎回最下位……」

紬「はぁ、どうして私には恋人が出来ないんだろう?
  顔は結構いけてると思うんだけど…やっぱりこの眉毛がいけないのかしら?
  それとも……」

ムギ豚はぽっこりと出た腹に目をやり、ため息をつく

紬「やっぱり太っているのが原因なのかしら…そうよねぇ、こんなおでぶを彼女に
  したら、みっとも無くてつれて歩けないわよねぇ」クスン

紬「落ち込んだらいっそう、火傷が痛んできた……はぁ、
  せめて今年のクリスマスまでには可愛い彼女が欲しいわぁ……おお、痛たた」

その時、表でなにやら声が聞こえた。

「猫の薬屋さんですよぉ、火傷、打撲、切傷、肥満、
 なんにでも聞く万能塗り薬、猫金膏はいかがですかぁ」

ムギ豚は、火傷切傷よりも、肥満と聞いてはっとした。

紬「薬屋さーん、ちょっとこっちへ」

「はいはい、どちらでしょう?」

紬「こっちよ、穴の奥、肥満にも効くって本当かしら?」

「はい、それはもうてきめんに効きますよ」

紬「まあ」パァ

ムギ豚は大喜びで巣から這い出し

紬「あら!梓ちゃん!?」

梓「いえいえ、私は梓などという名ではないですよ、最近この山で商いを始めた雄猫の薬売りです」

紬「まあ…そうなの、それにしてもそっくりね、世の中には自分に似た人が
  3人は居るっていうけれど、それにしても不思議」

紬「ううん、そんなことよりも、そのお薬売ってくれないかしら?
  お代は…よもぎのお団子くらいしかないけれど」

梓「おお、これは酷い火傷ですね、もちろんお代はお団子で十分です
  それにしてもどうしましょう、背中だと手が届かないでしょうし、私が火傷に塗ってあげましょう」

紬「まあまあ、何から何まで親切な方ね、でも…あの」

ここで、なにやらムギ豚、モジモジと言葉を濁す。

梓「ん…なんですか?」

紬「そのお薬を一滴、手のひらに載せてもらえないかしら?」

梓「どうなさるんですか?」

紬「い、いえね、少し確かめてみたいのよ、どんな薬なのか」

梓(むむ…さてはムギ豚、何か感づいたか?)

梓「はあ…まあこんなものですが」ピト

梓は軟膏を少量ムギ豚の手のひらに乗せる。
その瞬間、ムギ豚は上着を捲り、腹に薬を塗ろうとしたので
梓はこれでは薬の正体がばれてしまうと驚く

梓「だ、だめですよ、その薬は、怪我もしてないのに塗っては、刺激が強すぎます」

紬「放して!!」

紬「あなたみたいにスリムな猫には私の気持ちはわからないわ!」

紬「私は少なくとも顔は悪くないと思うのよ!
  ただ人より少しぽっちゃりしてるから、恋人も出来ず、人気投票も万年最下位で、
  とにかく痩せさえすれば、痩せさえすれば可愛い彼女が出来て……ひゃ!
  これは強い薬ね、ぴりぴりするわ、むむむ、でも良薬は口に苦いものというし
  これくらいの方がかえって効きそう…ひゃあ!!お腹が燃えるように熱いっ!!
  我慢よ、我慢よ紬、今度こそ痩せてクリスマスまでに可愛い彼女を…ひゃあ熱い」

紬「ええい、もうやけくそよ!!こうなったらその薬、全身に塗って頂戴」

やぶれかぶれになったムギ豚は素っ裸になってしまう

梓(なんだか知らないけれど、これはこれで計画通りです)

梓はきししと笑うと、唐辛子を練った軟膏をムギ豚の全身に塗ったくる。
その結果ムギ豚は

紬「きゃあ!!沁みるっ…うう、我慢…我慢…ぎゃぴぃ!!
  駄目っこんなの耐えられるわけないわっ、ひぃぃ、お水、お水を頂戴、
  どうして、私ばかりこんな目にあうの!?
  やっぱりデブだからなの!?
  ひぃぃ、せめて恋人が居れば、クリスマスまでにぃ、
  ひゃああああ、不幸よぉおおおおおお」

と、なにやら支離滅裂なことを口走り、やがてぐったりと失神してしまった。


………
……

唯「うう…道に迷って、だいぶ遅くなっちゃったよぉ」

唯「たしかこのあたりだったけど…おーい、ムギちゃーん」

紬「むぎゅ…むぎゅぎゅ」グッタリ

唯「ひゃ…!ムギちゃんすっぽんぽんで何やってるの!?」

タッタッタ

紬「むぎゅう……」

唯「大変、意識が無い…ん、この赤いのは何だろう?」ペロ

唯「ひゃああ!辛いっ、これ唐辛子だ…!」

唯「もうムギちゃん、火傷してるのになんて物塗ってるんだよぉ」

唯「待ってて、今水汲んでくるから」

タッタッタ

唯は近くの小川からバケツいっぱいに水を汲んでくる。

唯「よし、とにかくこの唐辛子を全部流して…」セッセセッセ

唯「……ふう、これでよしっと、とにかく穴の中に運ぼう、よいっしょっと」

唯「うー、ムギちゃん重いよぉ」

紬「むぎゅ…」

唯はムギ豚を藁のベットにうつ伏せにして寝かせる。

唯「うう、ムギちゃん全然目を覚まさないよぉ」クスン

唯「と、とにかく火傷の手当てをしなくちゃ」

唯「よし、この隣のおばあちゃんにもらったアオキの葉っぱをペタペタと」

アオキの葉には抗菌作用があり、古来より
凍傷、火傷、腫れ物に効く妙薬として用いられてきた。

唯はアオキの葉をシップのようにムギ豚の背中に貼る。

紬「むぎゅ…くーくー」

しばらくして、痛みが引いてきたのかムギ豚の呼吸は穏やかになる。

唯「ほ……よかった、何とか落ち着いたみたい」

唯「うう…よかったよぉ、一時はどうなることかと…」

唯「それにしてもあずにゃんもやり過ぎだよ、今度会ったらめっ!してあげなきゃ」プンスカ

唯「うう…ムギちゃん、こんなに酷い火傷をして…
  私がもっとしっかりしてたらムギちゃんのこと守ってあげれたのに…」

唯「………ムギちゃん、私ね、ムギちゃんが元気ないと悲しくなるの、
  ムギちゃんが元気だと私も嬉しい」

唯「だって、だって私、ムギちゃんのこと……」

唯「……え、えへへ///ムギちゃん寝てるのに、今言ったって意味ないね」テレテレ

唯「……」キョロキョロ

唯「……ムギちゃん、寝てる?」

紬「くー…くー」

唯「こんなのずるいかもしれないけど、
  でも、私ムギちゃんの可愛い寝顔を見てたら我慢が出来ないの」

唯「ムギちゃん……ごめんね……今だけは目を覚まさないで……」

チュ

紬「ん……ゆい…ちゃん」

唯「えへへ///じゃあね、ムギちゃん、しっかり休んで火傷治してね」


タッタッタ


……
………


紬「……ん」

紬「あら…?私…いったい」

紬「確か私、表で気を失ったはずだけど」

紬「変ね、薬屋さんが中に運んでくれたのかしら?」

紬「あら…?」

紬「不思議…背中の痛みが引いてるわ…」

数日後

平沢家

梓「憂!ついにこの日がやってきたよ!」

梓「今日こそあの憎きムギ豚の息の根を止めて復讐を成し遂げるよ!」

憂「そ、その事なんだけどね…梓ちゃん」

梓「え…なによ、憂?」

憂「私はもう十分だと思うの……」

梓「は、はぁ?」

梓「な、何言ってるのよ、せっかくここまで色々準備してきたのに……」

憂「聞いて、梓ちゃん、今回の件はムギ豚ばかりが悪いって訳じゃないの」

憂「私も少しやり過ぎたかなって反省しているのよ…」

梓「は、はぁ?なに言ってるの、やり過ぎなんてことはないよ
  あんな豚、いっそ叩き殺したってバチはあたらなかったと思うよ」

憂「でも、お姉ちゃんの話を聞く限り、ムギ豚ってそんなに悪い豚じゃないって
  今では思ってるんだ」

憂「昔から私、お姉ちゃんの事となると、頭に血が上って、
  何が何だかわからなくなっちゃって、つい滅茶苦茶しちゃうの、
  今思えばもう少しムギ豚の言い分も聞いてあげればよかったかなって思ってるの」

憂「だからね、梓ちゃん、復讐はもう十分、これでおしまいにしましょう?」

梓「駄目だよそんなの!!」

梓「今ここで止めたら私の計画が……」

憂「計画?」

梓「…っと何でもないです」

梓「と、とにかく今更止めたって無駄よ、私は絶対にやめないから!
  予定通り今日ムギ豚を亡き者にするよ!」

憂「やめて!梓ちゃん、ムギ豚が死んだらお姉ちゃんが悲しむわ……」

梓「ふん!そんなの知ったこっちゃないよ、私はやるからね!
  止めても無駄なんだから!」

タッタッタ ガチャバタン

憂「ま、待って……ひゃ、あいたた、腰が…」


……
………

梓「ふんだ!憂は甘いよ!」

梓「せっかくムギ豚を殺す都合のいい理由が出来たって言うのに、全く、これだから人間は……」

ぷりぷり腹を立てながら、やって来たのはムギ豚の巣である。

梓「お~い、ムギ豚~、居ますか~?」

紬「は~い、あら、まあまあ梓ちゃん、いらっしゃい
  この間のボウボウ山はとんでもなかったわねぇ
  私、酷い火傷を負って…まあ今はこの通り元気なんだけど、
  梓ちゃんは無事だったのかしら?」

梓「まあ、無事といえば無事ですが、それにしても酷いですよ、
  あんな危ないところに私ひとりをおいて逃げてしまって、
  私怖くて怖くて、少し泣いちゃったんですよ」

無論、泣くどころか腹を抱えて大笑いしていた訳だが

紬「まあ…ごめんなさい、怖い思いをさせて……でも私も生きるか死ぬかの瀬戸際だったから……」

梓「ふん、まあいいです、それよりも、あの後憂に謝りに行ったのですか?」

紬「それが……ここ数日火傷が痛んで、ずっと寝込んでたの、
  結局まだ謝りに行けてないわ」

梓「はぁ、そんなことだろうと思いました…」

紬「梓ちゃん、どうしよう……いよいよ憂ちゃん、カンカンよね……
  でも今から山に行っても、食べ物はあらかた狩り尽されているだろうし
  家にも私の分の備蓄しかないし……」

梓「仕方ないですね……困ったムギ豚に知恵を授けてやるです」

紬「え!?梓ちゃん何か考えがあるの?」

梓「むふふ……海ですよ、海」

紬「え、海!?」


……

さるさんに引っかかりました

憂「はあ…大変なことになっちゃったな」

唯「憂~ただいま~」

憂「あ、お姉ちゃんおかえり、お祭りの準備ご苦労さま」

唯「うん、今年の秋祭りは盛り上がりそうだよ、そうそう
  神社でね、ひさしぶりに和ちゃんに会ったんだよ
  和ちゃん来年から動物小学校の先生になるんだって、びっくりだよねぇ」

憂「そうなの……じゃあまた、3人で遊べるね」

唯「憂……元気ないね、やっぱり憂もお祭り行きたかったよね」

憂「……ううん、そうじゃないの」

唯「憂?」

憂「あのね、私お姉ちゃんに話さなくちゃいけないことがあるの……」

憂「……ムギ豚のことで」

唯「え!、ムギちゃんのこと!?」

憂「うん……実は」

……

唯「な……そ、そんな、あずにゃんが、ムギちゃんを!?」

憂「私はもう十分って言ったんだけど、梓ちゃん聞かなくて……」

唯「こ、こうしちゃいられない」

唯「うい!あずにゃんが何処に行ったかわかる?」

憂「ううん、それがわからないの…」

唯「そっか…」

唯「よし、とにかく私、あずにゃんを見つけて止めてくるよ」

憂「お、お姉ちゃん!?」

唯「憂、話してくれて、ありがとう、
  それと、もしよかったらムギちゃんと仲良くしてあげて
  ムギちゃんとってもいい子だから」

憂「う、うん……」

唯「じゃあ、行ってくるね、夕飯までには帰るよ」

タッタッタ

憂「お、お姉ちゃん……」

憂(お姉ちゃん、とっても頼もしい表情だった)

憂(考えてみたら、お姉ちゃんがここまで積極的になることなんて今まで無かったかも、
  これもムギ豚と知り合ったおかげなのかな……?)

……

タッタッタ

唯「ほっほっほ」

唯(私、決めたんだ)

唯(ムギちゃんに釣り合う人間になるために、もうグータラはやめるって)

唯(そして、これからは何があってもムギちゃんを守るって)

唯(だからムギちゃん、どうか、私が行くまで無事でいて……!!)

唯は走る。
その表情には、愛する豚を何としてでも守り抜くという
決意の念が滲みでていた。



波穏やかな海面に、2艘の小船がぷかぷか揺れている。


紬「わぁ…」

紬「梓ちゃん見て!見て!お水がいっぱいよ!」

梓「そりゃあ海ですからね」

紬「わぁ……あ、遠くの方にお船が見えるわ、
  あれは外国のお船かしら?ひょっとしたら鯨かも知れないわね、
  おーい!おーい!」

梓「はいはい、はしゃいでないで、さっさと海に出ますよ」

梓「よいしょっと」

梓はひょいと、小船に飛び乗る。

紬「う、うん、そうね」

紬「でも私魚釣りなんてはじめてなの……本当に大丈夫かしら?」

梓「なあに、釣りなんて大して難しいものじゃないですよ、
  海に釣り糸を垂らして、ぐっと重みを感じたら思い切り引っ張り上げればいいだけです
  力持ちのムギ豚ならすぐにコツがつかめますよ」

紬「そんなものかしら……ん、そうねここで怖気ついていてもなにも始まらないわ」

紬「いっぱい魚を釣って、今度こそ憂ちゃんに謝りに行かなきゃ」

梓「そうそう、その意気ですよ、
  沢山の魚をお土産に持って行けばきっと憂の怒りも収まりますよ」

紬「そうね、うん、きっとそうね」フンス

梓「ムギ豚、海釣り初心者のお前には、そっちの頑丈な方の船を貸してやるです」

梓は、ツヤツヤと灰色に輝くもう1艘の小船を指差す。

紬「まあまあ…何から何まで本当にありがとう、梓ちゃんには感謝してもしきれないわぁ」

感激しペコペコ何度も頭を下げるムギ豚に、梓は

梓「なになに、困ったときはお互い様です」

と、例の笑いを噛み殺した表情を返す。

ムギ豚は鼻息も荒く、えいやと船に乗り込むと、櫂でバチャリと水面を打つ
梓もそれに続き、櫂を握った手に力を込める。
そうして、2艘の小船はするすると港を離れたのであった。

ムギ豚の巣

唯「えっほ、えっほ…ふう、今度は迷わなかった」

唯「ムギちゃ~ん、居る?おーい、ムギちゃ~ん」

唯「……返事が無い」

唯「ムギちゃ~ん、お邪魔するよ~」

ガサゴソ

唯「あれれ、誰も居ない」

唯「う~、もうっ、2人とも何処に行っちゃったの~?」

唯「と、とにかく村に戻ろう」

タッタッタ

……

唯「はーはー、えーと、あとあずにゃんが行きそうな所は……」

とみ「あらあら唯ちゃん、そんなに息を切らしてどうしたの?」

唯「あ、おばあちゃん!」

とみ「今日のお祭り楽しみねぇ、でも唯ちゃん、今年はおもち、あわてて食ちゃだめよ
   また喉に詰まらせた大変だからね」

唯「う、うん、今年はゆっくり食べるよぉ」

唯「って、そうだおばあちゃん、あずにゃん見なかった?」

とみ「あずにゃん……ああ、あの子猫ね、どうだったかしらねぇ、
   ああ、そういえば港で見かけたような……」

唯「ほ、本当、それじゃあムギちゃんは?」

とみ「ムギちゃん…?」

唯「あ…そっか、えっとね背丈は私くらいで、眉毛がたくあんみたいで、
  髪の毛はとっても綺麗な金髪で……ちょっとぽっちゃりしてるけど、
  でもとーっても可愛い豚さんなの」

とみ「ああ……そんな豚なら、確かに梓ちゃんと一緒に居たねぇ」

唯「本当!?むむむ、港か…あずにゃんめぇ、いったい何を企んでいるの…?」

唯「おばあちゃん、ありがとう、私港に行ってくる!」

タッタッタ

とみ「あ、唯ちゃん……まあまあ、本当に、元気ねぇ」



梓「お…おお、こりゃあ強い引きです」

梓「そりゃああ!」

ザッパーン

紬「きゃあ!梓ちゃんすごーい」パチパチ

梓「ふう、こりゃあ鯖ですね」

紬「梓ちゃん、魚釣り上手ねぇ」

梓「まあ猫のたしなみってやつですよ、それよりムギ豚は釣れてますか?」

紬「うん、さっきから小さい魚はちらほら釣れるんだけど……あ、引きがきたわ!」

紬「ふ、ふむむ、これはなかなか手強い、大物かしら」

紬「ううん……ふんす!!」グイ

ポン!

イカ「ゲソ!」

紬「ひゃ!ひゃああ!何これ、宇宙人!?」

イカ「ゲソ~~」ポチャン

梓「ははは、それは、イカですよ、食べたら結構美味しいんですけどね」

紬「ま、まあ、そうなの、びっくりして手を離しちゃったわ……」

紬「ふう、でもよかった、思ったより沢山釣れたわ……少し休憩しよっと、よいしょっと」

紬「はあ、少し肌寒いけどいい潮風ねぇ」

紬「ふふ、昔お船に乗って旅行した時のことを思い出すわ」

梓「へぇ…ムギ豚、船に乗ったことあったのですか、
  さっきの反応を見てたら初めてかと思いましたが」

紬「うん…小さい頃にお父様とお母様に連れられてね……」

紬(お父様、お母様、天国でも元気でやっているのかしら……?)

ムギ豚はしばし死んだ両親に思いを馳せる。

ちなみにこの豚、今は山奥の穴倉暮らしだが
かつてはこの地方一帯で名の知れた富豪豚の娘として、
多くの使用人に囲まれ何不自由ない生活を送っていた。
しかしある晩、悪質な養豚業者の襲撃を受けて以来、
ムギ豚の生活は一変する。
ムギ豚の一族の上質な肉質に目をつけた養豚業者は
一晩のうちに老若男女問わず、豚という豚を狩りつくし
一族を皆殺しにしたのであった。
唯一、その日たまたま動物小学校の修学旅行で留守にしていた
ムギ豚のみが難を逃れたのであるが
現在もムギ豚の肉を狙う業者は数多く
以来ムギ豚は人目を避けるため
山奥での暮らしを余儀なくされているのである。

紬(ふふふ、ちょっとしんみりしちゃったわ)

紬「って、冷たっ」

紬「え…なにこれ…?み、水!?」

紬「ひゃあ!た、大変、水!水が漏れてるわ!」

梓「ひゃは、当たり前です、泥の船ですから、水が漏れるに決まってます」

紬「な、なな、何言ってるの梓ちゃん!?泥の船ですって!?
  そんなの、いつか沈んでしまうに決まってるじゃない!」

梓「きしし、その通りです、そのためにお前をその船に乗せたのですから」

紬「な…!まさか、梓ちゃん、私を…!ひゃわ、冷たい!、と、とにかく水をかきださなきゃ、
  よいしょ、よいしょ、わあ!こ、今度は後ろの方からも水が……
  た、助けて梓ちゃん、私泳げないの!
  わわ、沈む、このままじゃあ間違いなく沈むわ
  酷いわ、梓ちゃん、私がいったい何をしたっていうの!?
  こんなの認められない、あぷ、あぷぷ、ぺっぺ、しょっぱい!水を飲んじゃったわ
  沈む!いよいよ沈むわ!た、助けて!!!」

梓「ひゃははは、かくも醜き溺れる豚です!」

梓「さっさと、沈んで海の藻屑と消えるがいいです」

梓「えい!えい!」

梓、櫂でぽかぽかとムギ豚の頭を叩く

紬「痛い!痛い!やめて梓ちゃん!このままじゃ私本当に死んじゃうわ!」バチャバチャ

梓「そうです!私の秘密を知ったお前は死ぬべきなんですっ」

梓「えい!」ポカ

紬「痛いっ!ひ、秘密って…あのことは誰にも喋ったりしないわ!」

むぎ豚
「ごぼぼ…ごぼむぎゅごぼぼ…」

Gにゃん
「わーっはっは!あの豚沈んだぞ!わーっはっは!」

唯「あずにゃん!むぎちゃんをどうしたの!」

Gにゃん
「あぁあの豚ですか?泥と一緒に沈みましたよ…ハハハッ」









唯「それは…それはむぎちゃんのことかあぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」
バァァァァン

Gにゃん
「なっ!?なにっ!?」


後は誰か頑張れ

梓「甘い言葉に簡単に騙されるお前のことです、いつコロっと口を滑らすか
  わかったもんじゃないです、私の将来のためにお前は今日死ぬべきなんですっ」

梓「えい!えい!」ポカポカ

紬「ぎゃあ!あぷぷ、酷い、酷いわ梓ちゃん!」

梓「きいぃ!なかなかしぶとい豚ですっ」

梓「って、この豚!、櫂を掴むんじゃないです!
  この、いいからさっさと沈め、ってうわわ、そんなに揺らすな
  危ないじゃないですか、ってわわわわわ」

バッチャーン!!

ムギ豚の馬鹿力で櫂を引っ張られた梓はバランスを崩し
海へ転落してしまった。

紬「あぶ……がぼ……」ポチャン

掴むものが何も無くなったムギ豚は、やがてブクブクと海の底へ…


……
………


紬「……」

沈み行く意識の片隅で、ムギ豚は自分の不幸な人生を振り返る。

紬(私の人生、なーんにもいいことが無かったな……)

紬(養豚業者にお父様とお母様が殺されてから、ずっと不便な穴倉暮らし……)

紬(危うく人間に豚カツにされるところ命からがら逃げ出してみれば
  背中を焼かれ、傷口に唐辛子を塗られ…)

紬(挙句の果てに溺れ死ぬわけね……)

紬(その上人気投票は万年最下位で、恋人だって一度も……)

紬(そう恋人……もしも、たった一人でいいから
  愛し合える人が居れば、こんな不幸な人生でも耐えられると思ってたんだけど……)

紬(それも適わぬ夢なのね……)


「ム………ちゃ………」


紬(あら、何かしら?なんだか声が聞こえる、
  幻聴かしら?それとも天国からのお迎えかしら?
  なんだか唯ちゃんの声に似ていたような…)

紬(そう唯ちゃん……何もいいことが無かったっていうのは嘘ね……)

紬(たった一つ、唯ちゃんとの思い出だけは、私の心の中でキラキラ、宝石みたいに輝いているわ)

紬(唯ちゃん……さよなら言えなくてごめんね、先に……行くね)

紬(唯ちゃん……)




「ムギちゃああああああん!!!」



紬「え!?」


それは幻聴ではなく、確かに唯の声だった。

ドドドドドドドド!!


唯「ムギちゃあああああん!!今助けるよおおおおお!!」


轟音を響かせて、海面を疾走するのは1艘のミニボート
決死の表情で船を操るのは平沢唯その人である。

唯「ムギちゃあああああん!!」

ムギ豚を二度と傷つけはしない、守り抜く
という強い思いが、間一髪、唯をこの場に間に合わせたのである。

唯「うりゃああ!急ブレーキだよっ!!」


グイン!!

ザバババ!!


紬「がぼっ!!唯ちゃん!?」

梓「あばばば……たすけてぇ!私も泳げないんですよぉ!!」

唯「ふんすっ!!網投げッ!!」

ザバン!!

唯「2人とも!!その網につかまって!!」

紬「う、うん!」

紬「えいっ」ガシ

梓「ひゃああ、助かりましたぁ」ガシ

唯「うし!2人とも、引き上げるよ!」

唯「よいしょ!よいしょ!ふんすっふんすっ」

ドンドン!

梓「はひー、大変な目にあいましたぁ」

紬「げほっげほっ!」

唯「よし!ひとまず港に戻るよ!」

ドドドドドド

………



紬「はー、はー」

梓「うう、冷たい、まったく酷い目にあいましたよ」

梓「いやー、唯先輩、どうもです、おかげで助かりました」

唯「あずにゃん!」

梓「ひっ…な、なんですか?唯先輩」

唯は梓をキュッと睨む

唯「めっ!」

梓「ひゃ…!な、なに怒ってるんですか?」

唯「あずにゃん!、私全部知ってるんだよ
  あずにゃんがムギちゃんに何をしたのか」

紬「梓ちゃん……」

梓「うぇ!……で、でも、それはムギ豚が憂を怪我させたから……」

唯「めっ!それにしたってやり過ぎだよ!
  海で溺れさせようとするなんて……んん?って、あれれ……あずにゃん、耳が」

梓「へ?耳が何です?」

紬「あ!」

唯「え?え?あずにゃん、耳が…、それにふさふさの毛が無くなって……」

唯「わ……!ゴ、ゴ、」

梓「ゴ?」


唯「ゴキブリ!?」


梓「!!」

梓「は、はぁ?ゆ、唯先輩何を言って…」

梓「ま、まさかムギ豚、喋ったんですか!?」

紬「ち、違うの梓ちゃん!耳が……」

梓「え……げげ!」

梓(し、しまった!海で暴れてネコミミが取れたです!
  そ、それに、貼り付けていた毛皮も水でふやけて取れかかっているです!)

梓の頭には、ネコミミの代わりにぴょこんと2本の触覚が、
さらに、取れかかった毛皮の隙間からは
ツヤツヤとなにやら黒光りするものが見え隠れしている。

唯「ふぇ…ふぇぇ、あずにゃん、猫さんじゃなかったの?」

梓「い、いや、これは一種のコスプレでして」カサカサ

バチャン

唯「ひゃ!あずにゃん、それ、羽?」

梓「げげ!」

梓(まずいです!海水で糊が完全に駄目になって…毛皮が取れてしまいました!)

梓「ち、ち、ちくしょう!」

梓「こ、ここはひとまず退散ですっ」

梓「逃げろ~~~~」


カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ

カサカサきめぇぇぇぇぇぇぇwwwwwwww

唯「わ!こらあずにゃんまだ話は終わって……行っちゃった、速いな~」

紬「う……」

紬「うわ~ん」ポロポロ

ここでムギ豚、わーと泣き崩れる。

唯「わわ、ムギちゃん泣かないで、おーよしよし、怖い目にあったねぇ、もう大丈夫だよ」ナデナデ

紬「違うの…違うの」

唯「違う?何が違うの?」

紬「うう…唯ちゃん、どうして私なんか助けたの?」

唯「ええ?そりゃあ当たり前だよぉ、だって私、ムギちゃんのこと……」ゴニョゴニョ

紬「私なんか、この先生きててもきっと不幸ばかりよ……」

紬「いつか人間に食べられるか、もしそうならなくても、
  誰にも愛されないまま孤独に死んでいくんだわ……」

紬「ならいっそ、海の底に沈んで死んでしまえれば……」

唯「それは違うよ!」

紬「!…ゆい…ちゃん?」

唯「それは違うよムギちゃん」

唯は紬の手をぎゅっと握りまっすぐ目を見据える。

唯「ムギちゃんを愛している人は居るよ、ここに居るよ」

唯「だって私……」

唯「だって私、ムギちゃんのこと、一人の女の子として……」

唯「大好きなんだもの!!」

紬「!」

紬「ゆ、唯ちゃん…///」

唯「だから、死んじゃえばよかったなんて、そんな悲しいこと言わないで
  ムギちゃんが死んじゃったら、私、私、悲しくて……ふぇ、うええええええん」ポロポロ

紬「唯ちゃん……」

キュ

唯「わ、ムギちゃん///」

ムギ豚は唯をそっと抱きしめる。

紬「ごめんなさい、もう死にたいなんて言わないわ」

唯「くすん、そうだよ、それにこれからどんな辛いことがあっても
  私がむぎちゃんを助けるから、守るから」

紬「くすん……うん、うん、ありがとう、ありがとう唯ちゃん」ポロポロ

唯「ムギちゃんまた泣いてるの?」

紬「うん…でも、これは嬉しくて泣いてるのよ」

唯「えへへ、ムギちゃん大好きだよ」ジーン

一人と一匹は互いの体温を確かめ合うように
しばし抱き合い、ほろほろと泣いたのであった。


………

紬「それにしても唯ちゃん、お船の操縦上手なのね」

唯「えへへ、平沢丸っていうお船なの
  ちょっと前からあの船でお魚を獲る練習をしてたんだぁ
  皆には内緒だったんだけど、でも最近はだいぶ獲れるようになってきたんだよ」

紬「まぁ…じゃあこの間お土産に持ってきてくれたお魚は唯ちゃんが?」

唯「へへへ、実はそうなのです」テレテレ

紬「まあまあ、唯ちゃん凄いわ!」

唯「いつまでも憂に頼りっきりじゃあよくないからね」フンス

紬「ふふふ」

紬(唯ちゃんがなんだか頼もしくみえるわ)

唯「それにしても、びっくりしたなぁ
  まさかあずにゃんが猫さんじゃなくてゴキブリさんだったなんて…」

紬「うん……」

唯「ムギちゃんあまり驚いてないね、もしかして知ってたの?」

紬「うん…前にね、体育の着替えのときに偶然見ちゃったの……」

唯「そっかぁ、しかしあずにゃん、何処に行っちゃったんだろう?」

紬(梓ちゃん……)


……

カサカサカサカサカサ

梓「はぁ!はぁ!」

梓(畜生!まさかこんなことになるとは、完全に想定外です!)

梓(ムギ豚のみならず、唯先輩にも知られてしまうとは…
  うう、こうなったら唯先輩も生かしちゃおけんです)

梓「はぁ!はぁ!」カサカサ

梓(とにかく、今はこの姿を人に見られるわけにはいけません)

梓(何とか人目につかない道を通って巣に帰らなくては)

梓(そうだ!神社の裏道を通って行きましょう、あそこなら人がほとんど居ないです)


カサカサカサカサ

~~~~~~~~~~~~~~
「というお話があったのさ」

「続きはぁー?」

「また今度ね?」

「唯ちゃーん!ご飯よー!」

「はーい!ほらほら行くよ?」



律「うん!」



律「豚から産まれた律太朗!」


~まえがき~
「おぎゃー!」
「産まれたよ!」
「可愛い女の子ね♪」
「名前は…律太朗!」
「良い名前ね♪」


律「えっ?Gヶ島にいけって?」
公開予定

神社


梓「ふう、よし、ここを抜けていけば……」


「きゃあああああ!ゴキブリ!!」


梓「な!?」

澪「わあああ、ゴ、ゴキブリっ、こっちへくるなぁ」ガクガクブルブル

梓「なぁ!?澪先輩!?」

律「ど、どうした澪?」

澪「うう、律ぅ、あそこにゴキブリがぁ」

律「ええ!?ゴキブリ…!?
  げっ本当だ、ん?ていうかあれ梓じゃないか?」

ガヤガヤガヤ

「なんだ?騒がしいな」

「ゴキブリが出たんだって、いやねぇ、気持ち悪い」

「おい、あれってあずにゃんじゃないか!?あずにゃんってゴキブリだったのか?」

「げ~まじかよ、俺、あの子に毎日ミルクをあげてたんだぜ
 俺ゴキブリに飯をやってたってことか?」

「くそっ!これって一種の詐欺じゃねーか、許せねー」

「あら、私、あの猫は前々から怪しいと思ってたのよ、だって眼つきが卑しいもの」


梓(し、しまった!今日は神社で秋祭りがあるのでした!)

梓(うう、こんなに沢山人が集まって)

梓「う…うう、どうしよう、どうしよう」

俺がそれとなく終わりっぽくしたのに続ける>>1に惚れた

澪「ひっ、こっちへ来るなぁ」

律「むむ」

律(こりゃあ、澪にいいところを見せるチャンスだぞ)

律「聡ぃ、ゴキジェットだ!」

聡「あいよ!姉ちゃん!」

律「お、用意がいいな」

律「やいやい、ゴキブリ梓め、澪を怖がらせてただじゃおかないぞ」

律「食らえ!!」プシャアア

梓「きゃあああ!!止めるです!止めるです!目に沁みますっ」

律「な!?こいつ、ゴキジェットが効かないぞ」

和「みんな!石よ、石をぶつけてゴキブリを退治するの」

「おお!」

「よっしゃ、嘘つき梓をやっつけろ」

「ゴキブリなんて生かしちゃおけねぇ」

ポイポイ

ポカポカポカ

梓「ぎゃああ、痛い!痛い!止めるデス止めるデス、石なんかぶつけたら本格的に死んでしまいますっ」

梓「ち、ちくしょおおおおおおおおおおお!!」



………

後日談

それからしばらく経ったある日の平沢家

唯「憂、お昼ご飯はラップして冷蔵庫にはいっているから」

唯「それと、食後のアイスは一個までだよ」

憂「うふふ、はーい、お姉ちゃん」ニコニコ

唯「憂!それじゃあ行ってくるね」

憂「いってらっしゃ~い」

ガラガラ

憂の腰の完治にはまだ少しかかるようで
その間の憂の世話や家事は唯が一手に引き受ける
ようになっていた。

憂「ふふふ、お姉ちゃんすっかり頼もしくなっちゃって、
  腰を悪くしたときはどうしようかと思ったけど、
  結果的にはよかったのかな?」


唯「ほっほっほ」タッタッタ

唯「よ~し、今日も沢山お魚獲るぞ~」



ドドドドド

唯「うし、このあたりがいいかな」

唯「ギー太!、今日も一仕事、よろしくね」

唯「えい!」

ギュワ~~ン

唯は船上でギー太をかき鳴らす。
積みこまれたアンプから発せられたディストーションサウンドが
海面を揺らし、しばらくして

魚「きゅー、参りました」プカプカ

唯「やったね!今日も大漁だよ!」

後に"ギター漁"と呼ばれることとなる新漁法を編み出した唯は連日大漁、
危ぶまれた平沢家の食料事情も好転し、唯達は無事冬を越せそうである。

唯「へへ、またムギちゃんにお魚持っていってあげようっと」

一方梓は

梓「どういうことですか!?」

梓「ここなら大丈夫って言われて行ったのに、面接すら受けさせてもらえませんでしたよ!」

職員「ははぁ、それは災難でしたねぇ
   なにぶんこの不景気では、どんな条件の悪い求人にも人が殺到しますから」

職員「大方すでに誰かの採用が決まっていたんでしょうね」

梓「そ、そんなぁ……」

梓の正体が村中に知れ渡り
以前のように食べ物をもらえなくなったので
渋々町に出て就職活動を始めたのだが…

梓「とにかく、早く別の求人を紹介するです」

梓「もう食料の備蓄も残り少ないし、早く職を見つけないと……」

職員「ははぁ、と言われてもですね、動物ならまだしも
   あなたゴキブリですよねぇ?ゴキブリの求人と行ったら後は
   汲み取りかドブ掃除くらいしかありませんよ」

梓「それでもいいです、とにかく紹介するです!」

連日ハローワークに通うも
既卒、職歴なし、資格無しのゴキブリがこの不景気のなか
簡単に就職できるほど世の中は甘くないようで

梓「うう…こんなことなら動物小学校を卒業したときに新卒で就職するべきでした」クスン

その後梓は、昆虫専門ソープランドのソープ嬢に
身を堕とすことになるのだが、
それはまた別の話である。

そして、ムギ豚は

紬「シャランラシャランラ~♪」

紬「うんうん、この葉っぱいい香り、きっと美味しいお茶になるわぁ」


「お~い、ムギちゃ~ん」


紬「あら、まあまあ、唯ちゃんいらっしゃい」

唯「えへへ、ムギちゃんに会いたくて走ってきたんだよ」

紬「ま…//唯ちゃんったら」

唯「へへ、はいこれ、お土産の魚だよ、夕飯に食べてね」

紬「まあまあ、いつもいつもありがとう」

紬「さ、お茶にしましょう、今日は新しい葉っぱが取れたのよ」

唯「うわ~い」

コポコポ

唯「ん…、このお茶美味しい」ゴクン

紬「ふふふ、本当ね、お団子もあるから食べて」

唯「うん、頂きま~す」モギュモギュ

紬「うふふ」ニコニコ

唯「……ねぇ、ムギちゃん」

紬「ん…?なあに唯ちゃん?」

唯「あのね、そろそろ私達のこと、憂に話そうと思ってるんだ」

紬「え……、でも憂ちゃん、怒ったりしないかしら」

唯「大丈夫!憂はね、たまに暴走するけれど、普段はとっても優しいんだよ」

唯「ムギちゃんのこと誤解してたみたいだけど、その点は私がちゃんと話してあるから」

紬「そうなの…?」

唯「そうそう、ムギちゃんは可愛くて優しくてとっても素敵な豚さんですってね」

紬「唯ちゃん…///」

唯「へへ、ム~ギちゃん」ギュ

紬「きゃ!唯ちゃんいきなり……」

唯「えへへ、ムギちゃんってとってもあったかいねぇ」

紬「あ…///ゆ、唯ちゃんだってとってもあったかくてやわらかくて、素敵よ」

唯「ん…ムギちゃん」チュ

紬「ん…」

紬(私の人生今まで沢山辛いことがあったけれど)

紬(でも、もう平気)

紬(だって……)


唯「ん…?ムギちゃんどうしたの」

紬「私、唯ちゃんのこと大好きよ、愛してる」



紬(だって、私には唯ちゃんが居るんだもの)




おわり

終わりです。
元ネタは太宰治のカチカチ山です。

読んでくれてどうもありがとうございました。

律澪をあまり活躍させられなくてごめんなさい
あと、律は人間です。

~一方その頃~

小松「トリコさん!ムギ豚の棲家を見つけたって本当ですか!?」

トリコ「ああ、どうやら最後の一匹が残ってたらしい。
           捕獲レベルは66ってとこか、腕がなるぜ!」

小松「伝説のムギ豚ですもんね。しかしそんな情報どこから?」


??「まだ終わらないです…!」サカサカサカサカサ

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