kYBnLPmg「俺はこの続きが読みたいんだ!」(1000)


女「……いきなり何の話?」

男「だからまだ完結してないSSの続きが見たいってこと!」

女「完結してないの……『神娘』とか『ラボメンガールズ』とか『紫』とか??」

男「そういう、明らかに続きが来るのが期待できるのじゃなくって!」

女「もー何よ、ちゃんと分かりやすく言ってよ」

男「だからさ、完結してなくて、もう書き手も戻って来そうもない、ほっとけば後は落ちるだけっていうスレ!」

男「そういうスレで続きを読みたいのがいっぱいあるんだよ! 俺には!」

女「……ごめん、全然分かんない」

男「例えば……これだよこれ!」カチカチ



【幼馴染「テストかー」男「勉強教えて!」】


女「……ん~、そのSSがどうかしたの?」

男「ほらこのSS、最後の更新が2ヶ月近く前で止まってるだろ?」

女「うん、そうみたいね。それで?」

男「お前気にならないか? この後男と幼馴染がどうなっていくのか……」

女「んー、別に?」

男「俺は気になるんだ!」

男「いいか? ここから2人は別々にベッドインすることになる」

女「片方は布団だけどね」

男「こまけえ事はいいんだよ!……しかしだ、男の匂いの染み付いたベッドで寝ることは、幼馴染にとって困難を極める」

女「……」


男「当然、いつも通りの安眠が確保できるとは言い難い……つまり……」

女「……これから何かが起こるってこと?」

男「そう! その通り!」

男「2人の関係を進展させてしまうような、トラブルか何かが巻き起こってしまう可能性充分なんだ!」

女「ふーん」

男「……しかし、肝心の更新が全くない。あるのは支援ageのみ……」

男「こっから先どうなるのか、まるで分からないんだ……これってすげえ気にならねえ!?」

女「私は別に……」

男「んだよー、テンション低いなー」

女「そんなに気になるなら、自分で続き考えて書けばいいんじゃない?」


男「……お前、俺の作文読んだことあるだろ?」

女「あー……うん、そうだね、やめといた方がいいかも」

男「続きを書けるのは>>1だけ、そしてその>>1はもう2ヶ月も戻って来ない……」

女「途中で投げたんでしょ? はい、解散解散」

男「それでも続き読みてーから、支援ageしてんの!」

女「いやー無理でしょ。この人もう戻ってくる気ないって」

男「ええい! お前はもう黙れ!」

女「何よ、親切で言ってあげてんのに」


男「とにかく俺たちは、>>1の帰還を信じて今日も支援ageするんだっ!」

女「ヒマだね~」

男「そういう言い方はよしたまえ!」キッ

女「はいはい……それで話はもう終わり?」

男「いいや、続きが気になる書きかけSSはまだまだたくさんあるぞ?」

女「あ、やっぱあるんだ」

男「次に俺が気になってるのは……>>7だ!!」

文才が無いと断る>>1が書く謎のスレとかwwwww
安価なら>>1だけで丸投げ、何人も期待レスしてるこれかな

ゲンドウ「三年振りだな...シンジ」キョン「誰だ」


女「へ~、ハルヒとクロスかぁ、珍しいじゃん」

男「珍しいとか言わないでくださいー、ハルヒはまだまだ現役ですぅー」

女「……いや、さすがにそれは無理があるっしょ」

男「ええい! 俺たちの支援ageで『オワコン』から『イケコン』にするんだぁ!」

女「でもこれ未完でもなくない? まだできたの昨日でしょ?」

男「いいや、俺には分かるぞ? この立ち込めるエター臭……ムムッ!これは誰も続きを書かない味だ!」

女「キモいからベロ出さないでよ」


男「……コホン、で、俺の期待ポイントなんだが……まずエヴァ陣営の語りが食わせ物だ!」

女「ふんふん」

男「ゲンドウもリツコもミサトさんも、一見シリアス口調でしゃべってはいるんだが……」

女「何でミサトだけ「さん」付けなの?」

男「話の腰を折るでない!……しかしキョンとの会話はまるで噛み合っていない、というかマル無視状態だ」

女「みたいだね」

男「このやりとりが、今後の展開のオーラを匂わせている」

女「って言うと?」


男「エヴァとハルヒはその作品のテイストがまるで違う」

女「そうだね、ハルヒは学園コメディだけど、エヴァは何か暗~い感じ」

男「暗いとか言わないでください~! 心理描写が深いんですぅ~!」

女「はいはい……それで?」

男「クロスすることでシリアスに傾くか、コメディに移行するか、それが問題なんだ」

女「どっちがいいの?」

男「俺か? 俺的にはだな……キョンがあのシリアス空間に閉じ込められるという展開は、ちょっとな……」


女「やっぱ暗いんじゃん」

男「やっぱコメディだよなぁ! うんうん、その方がみんなハッピーでいい感じじゃん!」

女「勢いでゴマカした……で、これのどこらへんがいいわけ?」

男「まず言える事は、このSSはハルヒ成分多めのコメディ展開が期待できるって点だ!」

男「キョンが必死にツッコミを入れてもまるで聞き入れてもらえず、否応なしにドタバタに巻き込まれていく……」

男「そんな展開がアリアリと見えるだろう?」

女「……まあそんな感じするね」

男「だろ? しかもご丁寧なことに、すぐさま投入された第二キャラは、サポート役として名高い長門!!」

男「まだエヴァの世界に不慣れなキョンにあれこれ説明する、橋渡し的役割を担うことは、もはや確定的に明らか!」


キョン『ああクソッ! どうすりゃいいんだよ!』ガチャガチャ

長門『落ち着いて、まずは一歩踏み出すところから』

キョン『俺はこのハッチを開けて出て行くことを考えてるんだが?』

長門『心を開かなければ、エヴァは動いてくれない』

キョン『お前たちはまず、俺に対して心を開くべきだと思うんだが? 最低限、会話ができる程度に!』


男「……なんて展開が起こることはもう目に見えるようじゃないか」

女「んー、ありそうだね」

男「そうして、長門を通訳代わりにしながらもドタバタは続く。でも使徒はどんどん強くなるわけじゃん?」

女「んー、そうなの? 知らないけど」

男「それぐらい知っとけよ……で、使徒が強くなりすぎて、話がシリアス展開に傾きそうになったその時!」

女「?」

男「遂に我らがチートキャラ『ハルヒ』が、満を持してご光臨なされるってわけだよ~、分かる??」

女「へ~、なるほどね」

男「ハルヒの登場は、やっぱりあの紙伸ばすヤツの時がベストタイミングかな~」

男「それまでは古泉とみくるさんに何とか頑張ってもらうわけだが、やっぱ必要なのは断然古泉なんだよ」


古泉『さあキョン君、今日もコンビネーションの特訓に勤しみましょう♪』

キョン『特訓はもうあきらめたとして、お前が今広げようとしているのは何だ?』

古泉『これですか? これはツイスターゲームというもので、お互いのキョリを縮めるミラクルアイテムなのですよ』バサッ

キョン『……どうも嫌な予感がするな。本当にそれはネルフ本部から支給された特訓用具なのか??』

古泉『はっはっは、キョン君?』

キョン『……何だ?』 

古泉『時には自ら創意工夫を凝らす……若い僕たちにはそのような成長の節目があって然るべきだ……そうは思いませんか?』

キョン『答えになってねえよ!』


男「……という展開もアリだよなぁ」

女「てゆーか、そこまで考えてるなら、もう自分で話考えて書けばいいじゃん」

男「それはダメ!」

女「何でよ」

男「そしたらみんな楽しむだけで、俺1人だけ苦労するじゃん!」

男「俺は楽してゆったり楽しみたいんだ~!」ジタバタ

女「面倒くさいな~」

男「俺はこのSSも支援ageしまくるぞ~!」

女「はいはい……てかこれ、ある意味完結してるじゃん」

男「ん??」

女「最初から続けるつもりなかったみたいだし、『>>1のみスレ』に書くべきでしょ? スレチじゃないの?」

「そう言われると身もフタもないんだがな……コホン! 次だ次! 次は>>20だ!!」

あのー…ここの>>1で言っている三作品って検索したら一個ずつしかでないけどそれで間違いないかな

>>22
YES


女「何かやたら手の込んでる文章だね。このSSがどうしたの?」

男「これを見てくれ、これが>>1の最後の書き込みになっている……」



306 :1:2013/09/03(火) 07:44:09 ID:/xVd4Xow
生存報告
あと10年ほど待って下さい




女「10年か……ってこれ、もうあからさまに書く気ないってことじゃん!!」

男「待て待て! そう決め付けるのは早計だぞ?」

男「この>>1のジョークセンスはかなりのもの、もしかしたらその10年というのも俺たち読者を欺く仕掛けなのかも知れない」

女「いや~、ないっしょ。もう投げたんだって」


男「shut up!! そんなことはない! きっと>>1は帰ってくる!」

女「ていうかもうこれ、ほとんど終わりじゃん」

男「ん?」

女「このアルミン?って子が、最後に兄に突撃するんでしょ?」

男「兄じゃなくてアニな? 字は正しく!」

女「はいはい……でもどうせまたアルミンがヒドい目に遭っておしまいでしょ? 前からのパターンじゃん」

男「……いいや、このアニへの告白こそが、>>1の集大成になるはずだ」

女「?? どーいうこと?」


男「いいか? 今まで>>1は各キャラの変態性を創意工夫して拡張することで、話を展開してきた」

男「コニーならバカ、クリスタならレズ、ミカサなら残酷性、ベルトルト……は、もはや言うに及ばないな」

女「ふんふん……それで?」

男「ほとんどのキャラは元々原作の描写から、変態性の萌芽が読み取れるんだ。しかし……」

女「しかし?」

男「……アニにはそのような掘り下げられるような描写に乏しいんだ」

男「強いて言えば、格闘を父親から教わったという程度だ」

男「つまり、アニのキャラを生かしながら、なおかつ変態演出をするのは困難を極めるってことだ」


女「へ~、長い、3行で」

男「ちゃんと3行に収まってるだろうが! よく数えてみろ!」

女「要するに、今までみたいに書くのは難しいってこと?」

男「そういうことだ……しかも!」

女「今度は何?」

男「この>>1の今までの展開のパターンを見てくれ」

女「……見たよ?」


男「分かるか? 各々が変態を炸裂させながら、さらにその影響でアルミンがヒドい目に遭うという方程式が完成している」

女「……そうだね」

男「つまり続きの展開においても、アニの変態性を発揮させながら、なおかつアルミンは被害を受けなければならないということだ」

男「この2つの課題をクリアしなければ、>>1の最終ステージは完了しないんだ」

男「この難関を如何にして突破するのかっ……! そこに>>1の技量が問われるってことだ!」

女「ふーん」

男「さあ果たして>>1はどのようなカラクリを仕掛けて、俺たちを唸らせてくれるのか!?」

男「……俺が『集大成』といった真意はここにある」

女「うーん……そうは言うけどさ、これは無理じゃない? 書くの」


男「んん?」ピクッ

女「普通に考えればアニ?をファザコンにして……ってことなんだろうけど、ちょっといいアイデアが浮かんで来ないんだよね~」

男「奇遇だな、俺もだ」

女「でしょ?」

男「フフフ……しかしそこはさすが>>1!! 事前にこうなることを予測して、既に伏線を張っていたのさ!」

女「え? 何それ」

男「いいか? 俺たち読者はアニとアルミンの関係ばかりに目を奪われてしまった」

男「だが、そこに>>1の目指すゴールのヒントは存在しない」

女「……どういうこと??」


男「>>1はアルミンとアニの関係性が薄いことを知っているし、2人どうしでは発展させるとしても『ケチャミン』がいいところ」

男「そんな程度の低い展開は>>1の望むところではない……つまり」

女「いーから早く言えって」

男「コホン……つまり、2人の関係に起爆剤を投入する人物を登場させるってことさ!」

女「起爆剤?? 誰が?」

男「フッフッフ……忘れたのか? アニはな、変身できるんだぜ? 巨人にな!!」

女「……! もしかして……」

男「そう! ソイツの名はエレン!!」


男「巨人に異常な執着を見せる>>1のエレンが、この展開を見逃すはずもないんだ!」

男「しかも、だ……エレンのエピソードをもう一度見てくれ」

女「……見たけど?」

男「分かるか? エレンの思考パターンは極めて単純」

男「アルミンの口から出まかせをいとも簡単に信じ、また、いとも簡単に覆す」

男「そして同じ手口にも何の警戒もせず引っ掛かる短絡さ!」

男「これは外部からの働きかけで、エレンが自動的に決まった行動をするキャラであることを示している」

男「わざわざベルトルトとライナーの2段構えで話が展開したのは、現在に至るまでの準備だったんだよ!!」


女「へー……よく分かんない、3行で」

男「>>1のSSの最終ステージはエレンがカギ!! ってこと!」

男「エレンをどのように暴れさせて、アルミンをギャフンと言わせてくれるのか……ッ!」

男「それを見届けるまでは、俺は支援ageし続けるしかないぜッッ!!」

女「ふーん、まあ頑張ってね」

男「まだまだぁ!」

女「まだやんの?」

男「当然! 次は>>40だ! 行っくぜぇええ!!」

とおいよ...ksk

男勇者「最強パーティーで俺の存在が薄い」


女「……」ジー

男「コホン……」

女「ん~、何なの? この入学したばかりの小学生が書いたような文章は」

男「い、いいだろ、文章的な部分は! それよりもストーリーを見てくれ!」

女「はいはい。まあ、ストーリーもまとまりがなくてよく分かんないんだけどね」

男「もういい! それ以上言うな!」

男「今回俺が気になってるポイントを解説していくぞぉ!!」

女「はーい」


男「まずスレタイを見て予想してしまうのは、勇者以外が無双するコメディなのだが……」

女「違うの?」

男「まあ聞いていろ……しかしフタを開けてみれば、その内容はシリアスもの」

男「確かにパーティーメンバーは無双するものの、その描写は本筋のストーリーにはあまり影響していないように見える」

男「途中から現れた村娘が、サスペンス要素をブッ込んできたからだ」

男「実はこのSSは、謎と仕掛けを隠したサスペンスものだったんだ!」

女「ふむふむ……で、この村娘が魔王なわけでしょ? 多分」

男「多分な。問題はこの村娘が、何の目的で勇者パーティーに近づいてきたのか、という点だ」


女「今までの描写からすると、東の魔人?ってのとグルっぽいね。壊滅させんのが目的じゃない?」

男「その可能性は充分あるが、まだ分からんさ」

女「何しろ続きがないからねー」

男「そういうことだ。しかし謎はもう一つある」

女「え?」

男「>>32>>33を見てくれ。これを見て、何かおかしいとは思わないか?」

女「……あれっ?」

男「……」

女「んー……ちょっと変じゃない??」

男「気付いたようだな!」ニヤッ


男「そう! この世界では、経験値の獲得はロマサガ方式ではなくドラクエ方式!」

男「随行するだけで経験値が配分される仕組みになっている……だが!」

女「出会った頃は勇者の方が強かった……??」

男「そこだ。逆算すると、パーティーメンバーのレベルは、当初20以下でなければおかしい」

男「それなのに、旅を続けるうちに勇者のレベルを追い越すどころか、もはやカンスト状態に陥っている」

男「ではそれだけ戦闘回数を重ねたのか? しかしそれだとなお違和感がある」

男「経験値がドラクエ方式でありながら、随行する勇者のレベルは未だ20に止まっている」

男「配分されるべき経験値が、勇者だけには振り込まれていないんだ」

女「うーん……??」


男「これは>>1のミスによる展開上の矛盾か? いや違う」

男「ここにこそ、>>1の世界に込められた謎が潜んでいるんだ!」

女「どういうこと?」

男「パーティーメンバーが勇者より強くなることは、始めから予定されていた」

女「?? それっておかしくない?」

男「そう、明らかにおかしい。本来であれば、この世界の物理法則そのものを破るようなもの……しかし」

女「……?」


男「この異常なレベルの上昇が、勇者の近くにいることの影響であると考えたら……どうかな?」

女「……!」

男「フッフッフ……どうやら分かってきたようだな」ニヤッ

男「そう! このパーティーメンバーの法外な強さは、戦闘経験ではなく、勇者の方に秘密がある!」

男「そう考えれば、大して戦力のありそうもない勇者をパーティーから分離させたことにも頷ける」

男「村娘は勇者に何らかの秘密があったことを、始めから知っていた可能性が極めてに高いんだ!」

女「なるほどー」

男「俺の予想ではこうだ―――」


男「まず、勇者は近くにいる者を無差別に強化する『増幅装置』のような存在」

男「村娘はそれを知っていたからこそ、自身の強化を目論んで勇者一行への随行を求めた」

男「そして頃合を見て勇者以外の者を始末して、その機能を自分だけのものにするつもりだった」

男「しかし時既に遅し」

男「戦士、賢者、エルフの強さはもはやカンスト状態にまで強化され、今のままでは目論見はかなわない」

男「だからこそ多少リスクの高い手段を取ってでも、勇者を彼女たちから分離させる必要があった」

男「村娘はこのまま2人きりの行方不明を装い、自身の強化を図っているのだろう」


女「……そんな強くなってどうすんの?」

男「3人をパーティーから分離したことから考えても、『世界最強』の立場が欲しいんだと思う」

女「それができたらどうすんの??」

男「それが分からないからこそ、俺たちは続きが知りたくて支援ageするんじゃないか」

女「ああ、そういやそうだったね」

男「だからこそ>>1よ! 早く戻ってきて続きを書くんだッッ!!」

男「このサスペンスものを落としてしまっていいのか!? 落ちたのを再びスレ立てするのはカコワルイぞ!?」

女「こんな所で言ったって聞こえてないって」

男「……そ、そうだな、>>1を呼び戻すにはただひたすら支援ageあるのみッッ!!」

女「頑張ってねー(棒)」

男「次だ次! 次は>>50だ! どんどんイクぞっ!」

女「字がセクハラ……」

中島「磯野…野球…やろうぜ!!」


女「へ~、シリアスのスポーツものなんだ」

男「そう! 小さい頃から共に成長を重ねてきたカツオと中島が、遂に正面対決するんだ!」

男「自らの積み上げてきたものを賭けて勝負に出る、まさに胸熱の展開だ!」

女「でもさ~」

男「ん?」

女「これって普通の野球マンガに「磯野」と「中島」って当てただけじゃん?」

女「そしたらあだちじゅう辺りのマンガで脳内変換した方が早くない?」


男「そう言われると身もフタもないのだが……でもでも! 俺はサザエキャラがガチ勝負するところが見たいんだ!」

女「はいはい」

男「あと、あだち充(あたる)だぞ!? じゅうって何だよ!じゅうって!」

女「えー、だってそう書いてあるじゃん」

男「馬鹿者ッッ! 読み方が違うんだよ!」

女「はいはい……でもさ、盛り上がってるとこ悪いけど、多分こっから先は普通の野球するだけになると思うよ?」

女「早い話が出オチじゃん、このSS」


男「……そんなことは>>1だって重々承知のことだろうさ」

男「しかしだな、そこに色彩豊かなサザエ色を出していくからこその>>1なんじゃないか!」

女「えー、サザエさんらしさってこと? 具体的にはどんなことよ」

男「む、そうだな……バイオリンのBGMも出せないし、やたら小さい手足も出せない」

男「何しろ、ここでは文字情報しか表示できないからな……」

女「それにその最後辺りにも書いてあるよ?」

女「『中学時代の中島はもういないんだよ磯野.... 』って……」

男「むうう……」


女「ほらできないじゃん」

男「しかぁし! だからこそ選択肢が省かれ、集中できるというもの!」

女「どーすんの?」

男「カツオと中島は確かにかつてのサザエさん色を失っている……だがっ!」

男「他のキャラは、どうかな……?」

女「他のキャラって誰を出すの? 応援に来てるワカメとか?」

男「……いや、子どもグループもまた、時間の経過と共にサザエさん色を失っているはずだ」

男「ここは時間を経過してもキャラを失わない大人グループに頼るほかない」


女「っていうと、やっぱり……」

男「そう! 『wave flat』と『ship』だっ!」

女「は?? 誰それ」

男「分からないか? 『波平』と『フネ』だよ!」

女「最初からそう言えばいいじゃん」

男「こういうのは勢いが肝心だからな!」

女「よく分かんないけど、勢い付けるべきポイントはそこじゃないでしょ、多分」


男「……いや待て、『turban shell』と『trout man』も登場させられるかも知れない……!」

女「何となく予想できるけど、サザエとマスオってこと? いい加減普通に言いなよ」

男「コホン……とにかく、サザエ的な雰囲気を出すには、観客席で応援する彼らの協力が不可欠だ」

男「しかし、普通に応援するだけでは、到底その雰囲気は望めないだろう……つまり」

女「つまり?」

男「観客席では、カツオたちとは違うドラマが始まってしまう可能性大ってことだ!」


マスオ『いやぁ~、おしぃっ! カツオくん、あと2mm高く当てていたらタイムリーだったんですけどね~』

サザエ『そう贅沢言わないの。相手はあの中島君なのよ?』

フネ『そうですよ。あの子のボールにバットを当てられる選手が、今の高校野球にはいないんでしょう?』

マスオ『そうですね~、あの中島君の飛び抜けた投球! あれはもう現時点でプロレベルと言って差し支えありませんからね』

サザエ『その中島君と互角に張り合ってるんだから、カツオだって大したものだわ。ねえ、お父さん?』



波平『…………』ヨロッ


サザエ・マスオ『!?』

フネ『お、お父さん! どうしました!?』ガタッ

波平『だ、大丈夫じゃ! これぐらい、どうってことないわい!』ササッ

マスオ『やはり、無理をせず休んでいた方が……』

波平『そうはいかん! もうこれで、カツオの晴れ姿を見納めになるかも知れんのじゃぞ?』

波平『ゴホッ、ゴホッ……のん気に病院なんぞで寝てはおれん!』

サザエ『お、お父さん……』

波平『あいつの勝負、最後までしっかり見届けてやらねば……!』


カツオ(そうだ。父さんが間近で僕の野球を見ていてくれるのは、多分これで最後になる)

カツオ(その最後の試合で中島、お前と勝負することになるなんてな)

カツオ(やっぱり僕たちは決着を付けなくちゃいけない運命にあったんだ)

カツオ(中島、お前が必死で練習を重ねてきたことは僕も知ってる)

カツオ(それでも、この試合は父さんが見守っていてくれる)

カツオ(たとえ相手がお前でも、僕は絶対負けるわけにはいかないんだ……!)


解説『さぁ中島選手! カツオ選手相手にここまで1ストライク2ファウル!』

解説『既に投球は読まれ始めている! ここでカツオ選手を押さえ切ることができるのか!?』

解説『振りかぶって……投げたぁッ!!』




カツオ『……!!』ブンッッ


男「……という展開も有り得るよなぁ」

女「もうその妄想で自分1人だけ納得しちゃえばいいじゃん」

男「そうは行かん! やはりここは>>1に頑張ってもらって、続きを書いてもらわねば!!」

男「俺たちにできるのは、ただただ>>1を励ます支援ageのみッッ!!」

女「何なのよ、そのこだわりは……」

男「それが、俺たち読者の>>1に対する最大限の礼儀であり、同時に誇りでもある……」

女「はいはいそうね」

男「よし! では次だ! 次は>>70について語っていくぞぉ!!」

しろくまカフェ ウニ味


女「あ、私このしろくまカフェ知ってる」

男「ほう! お前が食いついてくるとは珍しい!」

女「あれだよね、やたらリアルな動物が出てくんでしょ?」

男「そうそうそれだ! その動物たちと、とあるキャラのコンビネーション!」

女「うん」

男「……が始まると思うじゃん?」

女「へ?」

男「>>1の考えているこのSSの展望は、そう単純なものではない」


男「お前は、『しろくまカフェ』がどういうストーリーか知っているか?」

女「……ん~、あれでしょ? いろいろ動物が出てきて、カフェで騒動が起きるんでしょ?」

男「その通りだ。しかし重要な点が一つある。それは何だか分かるか?」

女「重要な点?? 何のこと?」

男「この作品の『主人公』は……一体誰だと思う?」

女「主人公? そりゃしろくまなんじゃないの??」

男「……と思うじゃん? 実は違うんだよ」


女「違う? 何で??」

男「このしろくまというキャラは、展開上積極的に動くようなことはしない」

男「話の中心になるのは、大体パンダかグリズリーだ」

男「実はしろくまは、他の動物たちの活躍の場を提供してるだけなんだ」

男「……思い出してみろ? 今までしろくまが目立って活躍するエピソードを見たことがあるか?」

女「ん? んー……ないね、そういえば」

男「だろ? しろくまはほとんどカフェの経営と、店に来た客をもてなすこと、この2つ以外のことは考えない」

男「ただひたすら、カフェという場を提供することに徹している……!」

男「接客……! 圧倒的接客……ッ!」


女「ふーん……で、それがなんなの?」

男「このSSをよく見て欲しい」

女「……見たよ?」

男「ここで展開の中心となるのは、やはりとあるキャラ」

女「ペンギンやら笹子やらが出てくるのは単なる目くらませ。とあるキャラとの橋渡しをしているに過ぎない」

男「おそらく>>1も、これ以上動物を活躍させるつもりはないだろう」

女「どうしてそう言い切れるの?」

男「このSSにはしろくまキャラお馴染みの「ヤツ」が現れない」

女「?」


男「パンダだよ。パンダが活躍しなければ、しろくまカフェの話は半分近くが潰れてしまう」

男「コイツが出て来ないことには、しろくま陣営の活躍も期待できない」

男「パンダはしろくまキャラを動かすブースターのような存在。それが未だに登場しないってことは、>>1も話の中心をとある系にすることを予定しているのが伺えるってわけだ」

女「へ~、そうなんだ」

男「動物たちはただ場を提供するだけ……つまり、>>1の考える展開で実現されるのは、とあるキャラどうしの組み合わせ……! 」

男「そして今現在の設定から、活躍が期待されるキャラは……」

女「……?」

男「……」

女「……溜めてないで早く言いなよ」


男「御坂だ」

女「御坂? あの電とか撃つ子?」

男「そうだ。カフェ『ウニ味』での上条とインデックスの立場を思い出してみろ?」

女「ん~、何か2人で一緒に働いていきそう?……な感じだね」

男「その通り! >>1はわざわざ>>27でフラグを立てた!」

男「これはどうしたことか! 原作では奉仕の「ほ」の字もないインデックスが、自らカフェの一員として活躍を買って出ている!?」

女「そんな驚くようなことなの?」


男「もちろんだとも! はっきり言って、キャラ崩壊と指摘されてもおかしくないレベルだ!」

女「ふーん」

男「もしもインデックスが今後カフェで働いていく予定がないのであれば、>>27は単なる余計なシーンでしかない」

男「……しかし>>1はあえてインデックスに飲み物を提供させた!」

男「これこそが、今後の展開を示す重要なヒントになっているんだ」

女「へー」

男「そして、カフェで上条とインデックスが共同で働く……これだけでもう今後の展開は見えてくる」


女「と言うと?」

男「考えてもみろ? とあるキャラの女性陣はこれから、一緒に働く2人の様子を見せ付けられることになるんだぞ?」

男「となると、ここで嫉妬厨たる我らが御坂嬢が、黙って見ておられるはずもない……ッ!!」ニヤッ

女「あ~……なるほど」

男「おそらく、自分も同じ地平に立つことによって、付けられた差を取り返そうとするはず……ッ!」






ペンギン『しろくまくん、ここもだいぶ繁盛してきたみたいだね』

しろくま『うん、おかげさまで』

笹子『そろそろ新しい人入ってくれるといいんですけどね~』

御坂『……』ピクッ

上条『ステイルと神裂もイギリスに帰っちまったからな……よいしょっ』ゴトッ

インデックス『とうま~! 2番にフレンチトーストの注文とミートソーススパゲッティお願い!』サッ

上条『へいへい……』チラッ


上条『……ん? フレンチトーストしかねーじゃんか』

インデックス『スパゲッティは私が食べたいんだよ!』

上条『ふざけんな! こっちはカフェの仕事で手いっぱいなんだよ!』

ペンギン『インデックスちゃんは働いてるのか寛いでるのか分かんないよね』

上条『本当ですよ……はぁ~、せめてもう1人いてくれたらな……』

御坂『…………』グビッ

笹子『仕方ありませんよ、そんな都合よく働きに来てくれる人なんて……』


御坂『……』ガタッ


カランカラン…


佐天『こんにちは~! 一杯お願いしまーす』

上条『お、いらっしゃいませー』

佐天『おおっと、上条さんにインデックスちゃん! 働いてますね~』

インデックス『遂に私もキンローの喜びに目覚めたんだよ!』エヘン


上条『お前ほとんど遊んでるだけだろ……えっと、カフェオレでいいんだっけ?』

佐天『はい!……あれ?御坂さんじゃないですか。どうしたんですか?』

御坂『……何でもないわよ』ストン

上条『?……変なヤツだな』

佐天『ところで、みんなで何か話してませんでした?』

ペンギン『そうそう、えっとね、今忙しくて人が足りないって話してたんだよ』

笹子『1人入れたいんですけど、なかなか見つからなくって……』

佐天『へ~、じゃあ私、立候補しちゃおうかな!』

御坂『……!』


佐天『これでも私、親戚の喫茶店を手伝ってたことあるんですよ。力になりますよ~!』

上条『うーん、急にそう言われてもなぁ……』

御坂『……』コクコク

笹子『どうします?店長』

しろくま『採用』

上条『はやっ!』

御坂『!?』

佐天『ではでは、早速始めちゃいましょう! 笹子さーん、エプロン貸してもらえます?』

笹子『ちょっと待っててねー』


御坂『……』ジー

御坂『……』グビッ



佐天『へ~……上条さん、ひっくり返すの上手ですね!』

上条『そ、そうかな?』

佐天『私なんか、うまくできなくてその内焦がしちゃったりするのに~』

上条『まあ、俺は毎日のことで慣れてますからね、ははは』

笹子『オムレツもう1個追加でお願いしまーす』


上条『はーい……よぉし!じゃあこの機会に、佐天さんも特訓といっちゃいましょうか!』

佐天『了解であります! 隊長!』


御坂『………………』


上条『こうやってフワッと上げたところに……』グッ

上条『よっと……ほら、できたっしょ?』

佐天『ほぉー……』

上条『オムライス上がりましたー』コトッ

笹子『はーい』


佐天『私、今みたいのがなかなかうまくいかなくって……』

上条『もう少し下の方にしてから、斜めに持つといいんですよ』

佐天『……ちょっとやってみていいですか?』

上条『どうぞどうぞ』

佐天『う~ん……よっと』

上条『おお!うまいうまい! そんな感じですよ!』

佐天『……今の、ちゃんとできてました?』


上条『うんうん、そんな感じの動きでいいと思います!』ニコッ

佐天『一歩前進ですね! 隊長!』ニコッ

上条『いや~、佐天さんは飲み込み早いなー。これじゃ俺もすぐに追い越されちゃうかもな~』

佐天『え~? ホントですかぁ~?』

上条『ホントホント! 佐天さんが高校生だったら、この上条さん自らスカウトに乗り出したいぐらいですから!』

佐天『じゃあ私、高校に上がったら本当にここでバイト始めちゃおっかな~』

上条『本音言えば、もう今の時点で常勤入ってもらいたいくらいですよ~』


佐天『もう! 上条さんたら、そうやっておだててばっかり!』

上条『アハハ』

佐天『ウフフ』


御坂『…………』ギリッ


インデックス『むう……とうま!』


上条『え? 何だよ、今話かけんなよ、危ねーぞ?』

インデックス『3番テーブルからハヤシライス! 早くして欲しいんだよ!』バンバン

御坂『……』コクコク

上条『分かったから叩くんじゃねーっつの……つうかそれ、佐天さんに言えばいいだろ』







男「……とまあ、こんな感じで怒りゲージを限界近くまで溜めつつも、インデックスによる妨害を見て気を鎮めるわけだ」

男「ひとまず上条のガードはインデックスに任せつつ、自分も従業員として店に入るチャンスを何度も伺っていく」

男「しかしそこはミス・デッドタイミング御坂嬢」

男「掴みかけたチャンスはことごとく運命に回避されてしまう」


闇咲逢魔『取るに足らん、実にくだらない仕事だったな』

笹子『闇咲さん、今日店で一番頑張ってたじゃないですか』

御坂『……』



男「続く……続く……ッ!」



風斬氷華『私、ちゃんとできていたでしょうか……』

インデックス『完璧だったよ! 氷華と私のコンビネーションがあれば、もう無敵なんだよ!』

御坂『……』



男「終わらない……ッ! 客としての立場……ッ!!」


上条『ワリィな、急に店手伝ってもらっちまってよ』

青ピ『いやいや! 笹子さんのピンチとあらば、またいつでも助太刀させてもらうで~!』

御坂『……』



男「どこどこまでも…………ッッ!!」



白井黒子『すみませんお姉さま……今日は急に仕事を手伝わされて、偵察はうまくいきませんでしたわ』

御坂『……こ、この裏切り者ォーー!!』


男「……>>1はスレ開始の時点で、このような展開になることを既に予定していた可能性が高い」

男「全く、>>1のズバ抜けたセンスときたら、いち読者の俺など及びも付かねえぜッ!」

女「もうそれ予測とかじゃなくて、完全に自分だけの妄想じゃん」

男「いいや! きっと>>1はこのような展開を目的としていたはずだ!」

男「……変な癇癪を起こすまでは!!」

女「そうだよね。あんな風に投げたら、カッコ悪くて帰ってこれないっしょ」


男「だがっ! それでも>>1はその痛みを乗り越えて戻ってきてくれるはず……ッ!」

女「それも妄想だと思うよ?」

男「静かに!……今>>1が自スレを見ているような気がする……!」

女「それも……あーもういいや」

男「ここは是非とも支援ageせねばっ!」カチャカチャ

女「ガンバレー」

男「ふぅむ……では次は>>120だ!! 気合入れっぞおお!!」

落ちちゃった奴でもいいのかな
上条「史上最強の?」ケンイチ「幻想殺し!」
無理なら
男「ぼ、僕がお嬢様学校に編入する…だって!?」

過去ログ倉庫4350番の 魔王「私も勇者の旅とやらをやってみたいぞ!」安価進行 の続きをお願いしたいです
安価スレじゃなくなっても構いませんのでどうか……

ウツダシノウ

>>122
スッ…(そっとポッキーを差し出す)

>>120
NG


女「……これってさ」

男「う、うん」

女「落ちてんじゃん」

男「はい……」

女「何かさぁ、私何度も聞いた気がするんだよねー」

女「『支援ageしまくる』とかなんとか……」


男「……」

女「あのさぁ……」

男「は、はい」

女「何で落ちてんの??」

女「落ちるワケないよね? 支援ageしてたら」

男「はい……」

女「何で落ちてんの? ねえ何で??」


男「それはその……」

女「ん?」

男「他のSSに気を取られていたといいますか……」

女「あ゛!?」

男「!」ビクッ

男「いえその……私にも、ついうっかりということがございまして……」

女「……あっそ。じゃあこれの結末は私が考えとく、今」


男「え……いやそれは……」

女「何か文句あんの?」

男「い、いいえ……」

女「実はこの世界には勇者は存在せず、人間社会の上層部は勇者の伝説の威を借りて、腐敗の限りを尽くしていましたー」

女「見るに見かねた魔王一行は、勇気ある人間たちと共闘してこの虚偽を暴き、自ら争いの最前線に立つことになりましたー」

女「何やかんやで戦いが終わり、後に魔王一行は『勇者』と呼ばれるようになり、歴史の1ページを飾ることになりましたー。終わり」

男「……」


女「何? 何か不満でもあんの?」

男「いえ、何も」

女「言いたいことあるんなら早く言いなよ、ホラ」

男「いえ、何もありません……」

女「はぁ……ま、今回は大目に見てあげるよ」

男「は、はい」

女「じゃあとりあえずお前、謹慎1週間な」

男「……」

女「……返事は?」

男「は、はい! かしこまりました……」

オラ一週間たったぞ あくしろよ


男「……ふー、全くヒドい目にあったわい」

女「ホントちゃんとしてよね」

男「心配めさるな! 今度のSSこそ間違いありませんぞ!?」

女「うん、まあとりあえず次やったら1週間じゃ済まさないからね?」

男「はっはっは……」(震え声)

女「そんで次は何?」

男「今回紹介するSSは……>>140だぁ!!」

>>1に書かれてる三作品


女「あのさぁ……」

男「は、はい」

女「ちゃんと続いてるよね?コレ」

男「えーっとぉ……そうみたですね、ははは……」

女「何笑ってんの?」

男「あ、いえ」

女「ちょっと私分かんないなぁ」


男「……」

女「何? 思わず笑っちゃうような雰囲気だった?」

男「そ、そんなことは……」

女「はーーー……」

男「……」ゴクリ

女「おい」

男「は、はい!」

女「今度は2週間謹慎だからね。それまで大人しくしとけよ? な?」

男「はい……」

眺めるだけでは満足できんなあ


男「……さて、謹慎も明けたし、そろそろ再開と行こっかな~」チラッ

女「……あれ? もうそんな日にち経ったっけ?」

男「経った経った」

女「ふーん……」

男(バレてないバレてない……)

女「…………」

男「コホン……」

女「……次は何?」

男「フッフッフ……俺が今注目してるSSはこれだぁ!!」

男「この圧倒的創作力で魅せる>>を見よ!!」

男「……さて、謹慎も明けたし、そろそろ再開と行こっかな~」チラッ

女「……あれ? もうそんな日にち経ったっけ?」

男「経った経った」

女「ふーん……」

男(バレてないバレてない……)

女「…………」

男「コホン……」

女「……次は何?」

男「フッフッフ……俺が今注目してるSSはこれだぁ!!」

男「この圧倒的創作力で魅せる>>155を見よ!!」

騎士「百年後の世界?」

投下ロードが開かれたッ!


女「うーん、これさ」

男「待った!」ビシ!

女「ん?」

男「さすがにもう俺も学習したぞ?」

女「何を?」

男「お前はいつも余計なことを言って、SSを辱めるきらいがある!」

男「ここは黙って俺の解説を聞いてもらおう!」

女「……まあいいけど」

男「コホン!……では早速分析に入っていこう!」

女「おー」


男「このSSにはいくつかの謎がある」

男「まずは強敵が2段階で現れたことだ」

女「2段階??……魔王と竜王ってこと?」

男「そうだ。勇者一行は魔王を倒した、そこまではいい」

女「うんうん」

男「しかし、その後更なる強敵が現れる可能性を誰も考えなかった」

男「……いや、誰も気付けなかった」

女「……魔王を倒して平和ボケしてたってこと??」


男「その可能性はもちろんある」

男「しかし、世界の守護を担う姫巫女までもが、その事に対して注意を払わないと思うか?」

女「ん?……ん~」

男「姫巫女は普段おちゃらけていても、全人類の命運を託された存在であり、本人もそのことをよくよく自覚していた」

男「その姫巫女が、魔王討伐以後の危機に備えないと思うか?」

女「ん~、ちょっと考えにくいかも」

男「そう、おそらく姫巫女も世界の危機に対して常に警戒の目を張り、その芽を探していたはずだ」

男「……しかし結果として竜王の存在に気付くことはなく、その突然の襲撃に為す術もなかった」

男「ならば、竜王は一体どこに隠れていた……?」

女「……?」


男「絶大な力を持つ姫巫女をも凌ぐほどの魔力を持って、潜伏してたということか?」

女「……そうなんじゃない?多分」

男「しかしそうすると一つの矛盾が生じる」

女「っていうと?」

男「竜王は、既に全盛期の過ぎた勇者たち3人を倒すことはできたものの、その戦いで大きな傷を負った……」

女「うん」

男「不自然じゃないか?」

女「何が?」

男「姫巫女をも凌ぐ力があるなら、どうして盛りの過ぎた勇者なぞに苦戦したんだ?」

女「え?……うーん」


男「その後の騎士との戦いにしてもそうだ」

男「近接最強とはいえ、たかが人間1人との戦いに劣勢になり、戦闘離脱のために呪いの力を使わざるを得なかった」

男「どうしてこの竜王というのはここまで弱いんだ?……いや」

男「ここは言い換える必要がある……どうしてここまで勇者たちは強いんだ?」

男「もっと言えば、その勇者たちよりもさらに力のある姫巫女でさえ、竜王の出現を感知できなかったのはなぜなのか??」

女「…………」

男「……ここに竜王という存在の謎がある」

女「……うん」

男「しかし謎はもう一つある」

女「もう一つ??」

男「そう即ち……」

男「竜王の”呪いの力”についてだ」


女「……」

男「竜王はその呪いの力を持って、全世界の男を弱体化した……ここまではいいな?」

女「……うん」

男「しかしこれも変だと思わないか?」

女「……え?」

男「そんな規格外の力が使えるなら、何で最初からそれを使わなかったんだ?」

男「最初から勇者たちを弱体化させておけば、苦戦などする必要はなかったじゃないか」

女「……あれ?……そういえば何でだろ」


男「竜王は騎士のような強者を恐れて呪いを掛けた。確かに姫巫女はそう報告した。しかし不自然だ」

男「勇者の村を襲うことは最初から決めていたのだから、そんな区別などしないで誰彼構わず弱体化してしまえばいい」

男「そうすれば、勇者たちにも労せずして勝利することができていたはずだ」

男「……しかし、実際には竜王はそれをしなかった」

女「……」

男「騎士に対する呪いも不可解だ」

男「なんで100年後に飛ばすなんていう回りくどい呪いを掛ける必要があった?」

男「異次元のゲートを開けられるぐらいなら、どこか遠くの宇宙空間にでも放り出して、カーズよろしく永久追放すればよかったんだ」

男「それなのに、100年後なんて割と近い年代の、それも場所も全く同じになるように騎士を飛ばした」

男「まるで、再戦することを望んでいるかのように……」

女「…………」


男「なぜ竜王はこんな妙ちきりんな呪いを掛けたのか??」

女「う~ん……」

男「この謎を解明するためには、発想を転換する必要がある」

男「即ち、いくつかある方法の中から、竜王自身がその呪いを選択したのではなく……」

男「竜王にとって、”そうする以外になかった”のだとすれば……?」

女「??」

男「……この視点を助けるカギは、竜王の現れるタイミングにある」

女「……どういうこと??」


男「竜王は、魔王が倒され勇者一行が村に戻った後に出現し、村を襲った」

男「これは単なる偶然だろうか? いや違う」

男「単なる偶然であれば、それを姫巫女が察知していたはずだ」

男「しかし姫巫女は竜王の出現を見抜くことができなかった。つまり……」

女「……つまり?」

男「竜王の出現は、竜王自身によって、あらかじめ決められていた」

男「そして魔王討伐が成功したことが、竜王の目覚める合図だったんだ」

男「全ては最初から仕組まれていた。竜王の呪いはずっと昔から全世界に蔓延していたんだ」

女「え??……どういうことなのか、サッパリ分かんないんだけど……」

男「竜王は目覚めの時が来るその瞬間まで、誰にも感知できないよう呪いを掛けていた」

男「??……そんなの無理でしょ。だって、目覚めてないんだよ?」


男「そうだな。しかしそれは、竜王が世界に誕生するのが、今回が初めてであった場合に限られる」

男「竜王が太古の昔より『活動』と『眠り』を延々と繰り返していたとすれば……どうかな?」

女「……!」

男「気が付いたようだな!そう!」

男「竜王は様々な呪いを操ると『古い』文献に載っていた!!」

男「つまり竜王は、はるか昔からこの世界のどこかで眠りに付き、覚醒の時を待っていたんだ!」

男「それを知りながら、なぜ勇者一行は竜王討伐に向かわなかったのか?」

男「なぜ姫巫女は竜王の存在を感知できなかったのか??」

男「答えはたった一つ」

男「居場所を探らせないという呪いが、始めから効いていたからだ!」

女「……ほ~、なるほど」


男「だから誰も竜王の存在に気付けなかったし、人々は皆、竜王は既に滅びていたものと勘違いしていた」

男「しかし現実には、竜王はどこか深い地の底で、復活の時を虎視眈々と待ち続けていたんだ」

女「ふ~ん……あ、でもおかしくない?」

男「何がだ?」

女「眠っている間すら、そんな全世界にまで影響するような呪いが掛けられたんでしょ?」

女「そんな凄い力があったのに、勇者たちに苦戦したじゃん? どうして??」

男「……イイ所に気が付いたようだな!」

女「ん??」

男「その通り。絶大な呪いの力を持っていたはずの竜王は勇者たちに苦戦し、その呪いの力も騎士との戦いの最中にようやっと発動した」

男「これは一見、意味不明な行動であるように見える。しかし……」

男「竜王の力の謎を解くヒントはもう一つある」

男「もう一度>>15を見て欲しい」


女「……見たよ?」

男「竜王は全世界に攻撃を仕掛けている、とあるな?」

女「うん、あるね」

男「それは誰がやっているんだ?」

女「……配下のドラゴン……?」

男「そうだ、竜王には多くの配下のドラゴンが控えていた」

女「うん」

男「ではなぜ竜王は、勇者の村に自分1人単独で乗り込んでいった?」

女「……!?」

男「しょせん、既に全盛期を過ぎ衰えた英雄。配下のドラゴンたちを差し向けて、勇者たちを消耗させ、あるいは殺すことは充分可能だったはずだ」

男「それなのに、どうして竜王直々に単独で勝負して仕留める必要があった?」

女「…………??」


男「使えるはずの余力を竜王は意図して使わず、直接勇者たちを倒した」

男「これは竜王にとって大きな意味を持つ」

男「配下のドラゴンたちに譲らず、自分で仕留めることが竜王にとって必要だった。だからこそ単独で村を襲った」

女「……つまりどういうこと??」

男「さっき言ったことを思い出して欲しい」

男「竜王にとって、”そうする以外になかった”という視点だ」

女「……う~ん??」

男「思い出せ……竜王は勇者たちに苦戦しても、呪いの力を発動しなかった……否、”できなかった”」

男「しかし騎士との対戦では、遂にその呪いの力を発動させた。これがどういうことか分かるか?」

女「…………全然」


男「つまりこういうことだ……勇者たちとの戦いの前には、まだ呪いの力は満たされていなかった」

男「その力は、勇者たちとの戦いの後に備わった……」

女「……そうなるね、多分だけど」

男「それは戦いによる経験値獲得の結果などという、有り得ない原理が働いているわけではないことは、お前も知っての通りだ」

女「うん……」

男「では勇者たちとの戦いの前と後で何が違うのか?」

男「何が竜王の力を増大させたのか?」

女「…………」

男「……さて、ここで一つ大きなヒントを出そう」

女「……うん」


男「竜王に襲撃された結果、勇者たちは殺されてしまった」

男「それは村の誰もが認める事実だ」

女「うん」



男「では果たして、勇者たちの遺体は埋葬されたのだろうか??」



女「……!!」




団員A『ふぅ、これは凄い損壊ですね……』

ガラ…

騎士『ははは、あいつら加減なしに思いっ切りやってたからな』

団員B『これが勇者の戦い……きっと我々には想像もできないほどに、熾烈を極めたのでしょう』

騎士『まあそうなんだけど、あんましあいつらと比べないほうがいいぞ?』

騎士『はっきり言って、あいつら人間やめてたからなぁ』

団員C『【あいつら人間やめてた】……っとお』カキカキ

団員D『……はい、口述記録できましたー』

騎士『おいテメーらッ! そんなモン記録すんじゃねえ!』ダダッ

団員C『何を仰います!これは王政府に報告する貴重な記録!』ダダッ

団員D『そうです!任意に細工するなど国家に対する侮辱ですぞっ!』ダダッ


団員A『またやってる……』

団員E『ほっとけほっとけ。それより早く仕事終わらせねえと』

団員B『そうは言っても……んよいしょっ……!』ググッ

ガラガラ…

ゴゴン…

団員B『はぁ、さっきから全然見つかんねえぞ?』

団員A『……本当にここでいいんだよな?』

団員E『まあ、あの人の言うことはアテにならねーけどな』

団員A『……隊長!!』

騎士『あん?』ピタッ


団員A『もう一度お聞きしますが、本当にこの辺りなのですよね?』

騎士『だと思うぞ?……俺ら全員ヘロヘロになってたから、一々確認はしてねーけど……』

騎士『確かにここが魔王のいた場所だ』

団員A『そうですか……ふーむ』

団員B『しかし変ですね。先ほどから探しているのですが、まるで見当たりません』

騎士『んなこと言われてもなー……何しろ必死だったからなぁ』

団員A『うーん……ゴーレム、キマイラ、ドラゴン、ドクロ兵……他の魔物の死体は山ほどあるというのに、魔王だけが見当たらないとはな』

団員B『そんな日にちは経ってないはずなんだけどな……』


団員E『近くに大きい穴もある。ここから落っこちたってことはないか??』

団員B『……隊長! 我々はこの大穴の下を探ってみたいと思います。よろしいでしょうか?』

騎士『それは別に構わねーけど……あれ?』

団員B『……どうされました?』

騎士『こんなデカい穴、残していったっけか??』







男「魔王の死体が発見されたことは今まで一切描写がない。勇者たちにしてもそれは同じだ」

男「彼らの亡骸は一体どこへ消えたのか? それとも単に描写がないだけで、実際には発見されているのか??」

女「……」

男「一つ分かっているのは、彼らは皆確実に死んでいるということだ」

男「そして、竜王はその出現から呪いの発動までに、かなりの時間を要している」

男「その時まで呪いが発動できなかった理由は何か? 発動できるようになるために満たさなければならない条件とは何か?」

女「……」

男「竜王の謎の空白期間を埋める出来事……それは魔王と勇者たち、それぞれの『死』だ」

男「故に俺はこう読む」

男「竜王の力を満たす条件、それは強者の肉体を食らうことだ」

女「……!」


男「竜王は他者の肉を自身の中に取り込み、その力を蓄えて呪いの力とする」

男「そう考えれば、竜王の不可解な行動、その強弱の変化、騎士に対する時間転移の呪い、多くのものに説明が付く」

男「しかしそれでも解明できないことがある」

女「……?」

男「竜王はなぜ真っ先に勇者たちのいる村に向かった?」

男「なぜそこに強者がいると分かった?」

女「……強い魔力に反応するレーダーでも持ってたんじゃない?」

男「普通に考えればそうなる。しかしおかしいぞ?」

女「何が??」

男「それならば、どうして先に騎士を襲いに行かなかったんだ?」


男「姫巫女の言ったように、騎士は全盛期を過ぎた勇者たち3人よりもずっと強かった」

男「力が欲しいなら、真っ先に騎士を襲っていてもおかしくない」

女「まだ自分の力に自信がなかったんじゃない?」

男「それならば、勇者たちを襲った後でも遅くはなかったはずだ」

男「むしろ、勇者の村でワンクッション置いてから騎士を目指すことには、充分合理性がある」

男「しかしその後も竜王は騎士を襲いに行かなかった。自分の根城で立てこもったままだった」

男「これはなぜだ?」

女「んー……んん?」






姫巫女『……』ペラッ


(竜王の記述には共通点も多くあるが、まるで定まらないものがある)

(それはヤツの呪いの力だ)

(ある時は武器が持てなくなる呪い、ある時は呪文の詠唱ができなくなる呪い、またある時は全身の筋力が衰えていく呪い……)

(その時代ごとによって、ヤツの呪いの力は全く異なる)


姫巫女『……』チラッ


(……今度は水が飲めなくなる呪いか、全くえげつないな)


姫巫女『……』ペラッ


(これほど多彩な呪いの力を持っていながら、ヤツは決め手となる呪いを自分で定めたことはない)

(それはつまり、ヤツの呪いの力は有限であること、一過性の消耗される類のものであることを示す)

(ではその豊富なバリエーションを一体どこから取り入れるのか?)


姫巫女『……!』ググッ


(答えは一つしかない)

(おそらくヤツは、その時代に生きる強者を自分の体内に取り込み力とする)

(そして力を蓄えると、今度は脅威になりそうな地上の人類と魔族を滅ぼしにかかる)

(後は配下の者たちと共に、束の間の栄華を楽しむ……)

(きっと、太古の昔からヤツはそうやって生き永らえてきたのだろう)

(しかしヤツは今まで地上の生物を絶滅に追い込むことはしなかった)

(こうして文献にヤツの記録が残っていることが、その証拠だ)

(つまり、ヤツに取っても我々は必要な存在なのだ)


姫巫女『…………』


姫巫女『魔力を補充する、食糧としてか……!!』ギリッ


(ヤツ……竜王には、魔王も巫女も大した違いはない)

(人類の味方になるか、敵になるか……その程度のもの)

(私も魔王も、ヤツにとっては等しく捕食の対象でしかない)


姫巫女『……』ピクッ


(待てよ……?)


男「竜王に取っては、強い人間、もしくは強い魔族が誕生することは好都合だ」

男「そして竜王は、眠りに付く前には全世界に呪いを放つだけの余力を残している」

女「……」

男「ならば眠りに付く前にすべきことは、自分の身を隠すことだけではない」

男「自分が目覚めた時に備えて、手早く魔力を補充するための良質な強者を『飼育』すること」

女「……!?」

男「これが眠りに付く前のもう一つの準備だ」

女「ちょっと待って……じゃあ」

男「……」

女「もしかして、勇者の村って……」


男「そうだ」



男「不思議と孤児ばかりが集まる勇者の村」

男「魔王を討伐できるほどの超人クラスの人材を、全員輩出した勇者の村」

男「この村の存在自体が、竜王の呪いによって構成されていた」



女「……!!」


(魔王も私も、お姉さまたちも……魔族という種族そのものすら……ッ!)

(ヤツが……生み出した……!)ガクガク


姫巫女『……!』ガタッ

姫巫女『ち……っくしょおおおォォ!!』


男「この村には強者が集められるよう仕組まれていた」

男「村人が一旦は村を離れても、いずれまたここへ戻ってくるということも含めてな」

男「だからこそ竜王は勇者の村を目指した」

男「そこへ向かったのは、眠る前から決めていたこと」

男「そこは竜王の『牧場』だったんだ」

女「そんな……」

男「……」

女「それじゃあ、敗北は最初から決まってたってこと?」

男「……その予定だった。竜王に取ってはな」

男「しかしここで運命に異変が起こる」

女「……?」


男「勇者メンバーの中でただ1人、騎士だけは竜王の襲撃から逃れることができた」

女「……あ、そういえば」

男「これは単なる偶然か?いやそうじゃない」

男「自分でも言っている通り、騎士は全く、それはもうアホほどモテなかった」

男「それはおそらく生まれてから、騎士となり、魔王を倒し英雄になった後も、ずっと変わらなかった」

男「このことは騎士は非常に嘆いていた。しかし騎士は気付いていない」

男「その運命こそが、自分の命を永らえさせたということに」

女「??」


男「……仮に、もし仮に騎士が勇者の村にいたとする」

女「うん」

男「騎士はどうなっていたと思う?」

女「……竜王といい勝負できたんじゃない?」

男「無理だな。騎士が竜王と互角以上に戦うためには、ある条件が必要となるからだ」

女「条件?」

男「そうだ。それは、味方の損害を気にする必要がない、ということだ」

女「……」

男「騎士が自分で言う通り、近接戦闘では最強の実力を持つ」

女「うん、そう言ってるね」

男「……しかし、それは裏を返せば『遠くにいる人間には手が届かない』という意味でもある」

女「……」


男「距離のある味方をかばいつつ、竜王と戦う。これは騎士に取って圧倒的に不利な状況だ」

男「もし仮に騎士が勇者の村に滞在していれば、勇者たち同様に竜王の餌食になっていたはずだ」

女「……」

男「……だが、そうはならなかった」

男「騎士は故郷の村に戻ることに抵抗があったからだ。その理由は>>7で書かれている通りだ」

女「……フラれたこと??」

男「そうだ。もちろん異性に避けられたのはその一度きりではない」

男「上は城内から下万民に至るまで、ことごとくノーサンキューを食らわされている」

男「そして>>56>>58でも分かる通り、騎士が自分のカッコメンっぷりを内外に強く示したかったことは明白」

男「しかしあまりのモテなさ過ぎにどうにもカッコが付かない騎士。それでも何とかカッコ付けたい! そうするとこれはもう選択肢は一つしかない」

女「……?」


男「姫巫女の傍仕えとして、騎士隊長の立場を維持することだ」

女「ふむふむ」

男「しかし騎士は気付いていない」

男「自分が姫巫女を護衛するためではなく、自分自身が運命に守られるために城内に留まっていたということにな」

女「……運命??」

男「そうだ。本来、竜王の呪いが予定通り発動していたなら、騎士も勇者たちと同じく村に留まっていなければおかしい」

男「しかしその呪いを跳ね除けて、騎士を城内に留める何かの力が働いた」

男「これはもはや運命と呼ぶしかない」

女「……」


男「村人にも、騎士に向かって帰って来いと呼びかける者はいなかった。勇者たちですらそうだった」

男「女性たちも皆騎士を拒絶し、結果騎士は城内に押し込められる形になった」

男「村人も、女性たちも、勇者たちも、そして姫巫女ですらも……」

男「騎士の周囲の全てが、騎士が村に戻ることを許さなかった」

女「……」

男「それは誰もが知っていたからだ。知識ではなく、無意識のうちに魂に刻まれた真実」

女「知っていた??」


男「そう知っていた。世界でただ1人、騎士だけが竜王を倒せるということ」

女「……??」

男「だからこそ、騎士を村に戻すわけにはいかなかった」

男「決して騎士を『牧場』に行かせはしない……その想いが無意識に働き、周囲の人間は騎士を導いた」

女「???」

男「……分からないか?」

女「……まるっきり、全然」

女「何言ってんのかサッパリで……」


男「俺が今言った運命には、竜王が大きく関わってくる」

女「……」

男「……ここで一つ質問しよう」

女「うん」

男「竜王が世界に掛けた呪い、これは姫巫女が言うには、男を弱体化させる呪いということだが……」

女「……」

男「この呪い、弱体化が本体だと思うか?」

女「……え?」






ドンチャンドンチャン♪

ドドンドンドン!

ワーワーワー…


騎士『こんな真夜中に随分と騒がしいな』

姫巫女『仕方ないだろう? 明日は100周年記念のセレモニーなんだ』

姫巫女『もう日が昇る前からお祭り騒ぎさ』

騎士『……』

姫巫女『……騎士よ、もう私はお前を止めたりしない』

姫巫女『それでも、それでも明日のセレモニーまでは思い留まってはくれないか?』

騎士『……』

姫巫女『セレモニーさえ終われば、いずれ私の口から皆に向かって真実を告げよう。お前を援護する兵も集める』

姫巫女『全てお前の望む通りに、ヤツとの戦いをお膳立てしてやる』

姫巫女『それは、この命にかけて誓う……だから……』

騎士『……』ギリッ


姫巫女『騎士……?』

騎士『スマン姫様……お前の望み、叶えてやれそうもねえ……』

姫巫女『な、何を……?』



――――ズゴォォォン!!!



姫巫女『!?』

騎士『来やがった……!』バッ

姫巫女『ど、どこへ行く!騎士ッ!!』

騎士『ヤツだ!トカゲ野郎だ!』ダダッ

姫巫女『な……何だと!? そんなハズは……!』

騎士『俺は城へ戻る! お前は茶でも飲んで待ってやがれ!』




竜王『……』ググッ…



兵士A『こ、こんな! どうしてっ!?』

兵士B『む、迎え撃たねば……!』

兵士C『総員!構――』


―――ゴゴッゴウゥゥッッ!!


『わあああああああ!!』

『ぎゃああああああ!』

『おおおおおおおっ!!』


ドドドォォッッ!!




警備兵A『そ、そんな……』ゴクッ

警備兵A『たった一発のブレスで、近衛兵団が壊滅しただと……!?』

警備兵B『このドラゴン、まさか…… あっ!?』

警備兵C『ほ、炎がっ!』

警備兵D『にっ逃げ―――』


――――ゴゴゴゴゥッッ!!


『ごあああああああっ!』

『がああああああっ!!』


ドドゥゥッッ……!!


騎士『ぐっ……アイツ本当に封印されてたのかよ!』ダダッ

騎士『何か前よりパワーアップしてねえか!?』




竜王『時は来た』


竜王『決着を付けるぞ、か弱き我が畜生たちよ』



騎士『うおらぁぁぁあッッ!!』ダンッ!

竜王『……』

騎士『食らえッ! 何か超スゲエ大それたチカラッッ!!』ブンッ

竜王『ふんっ!』ブンッ


――ガギンッ!


騎士『ぐはっ……!』ドゴォ!!


竜王『……おお、ようやく戻ったか。名もなき剣士よ』

騎士『剣士じゃねえ! 騎士だッ!!』ヒュン!

竜王『やはり余の見立ては正しかったようだな』ブンッ


――ギキィン!!


騎士『がっ……!』ズゴンッ!

姫巫女『騎士! そ、そんな……どうして……!』

竜王『余が封印を解いたのが不思議でたまらぬか』

姫巫女『わ、私の封印は完璧だったはず……!』

竜王『自らの力を過信するとは哀れな魔族よ。貴様のか弱き封印など、1年と経たずに離脱してやったぞ』

姫巫女『!?』


竜王『愚かなムシケラめ、貴様は何もない場所に100年間も延々と封印を掛け続けていたのだ』

騎士『ゴチャゴチャうっせえんだよ! 今度こそキッチリ死ねッ!』ダダッ

竜王『……余が100年前と同じとは思うなよ、名もなき剣士め!』


――ギィンッ!!

――ガァン!

――ガギギンッ!!


騎士『はぁっ、はぁっ……今度こそ、テメエの墓をおっ立ててやる!』

竜王『威勢がいいのは変わらんな』ブンッ


――ズゴッッ!!


騎士『げふっ……う……』ドサッ


姫巫女『騎士ッ!』

竜王『愚か者め、余が100年間寝ていただけだと思うのか』

騎士『ぐっ……ううっ……』ヨロッ…

騎士(くそっ!100年前とは比べもんにならねえほど強ええぞ!どうなってんだ!?)








女「えっ?何で竜王こんな強くなってんの?有り得なくない??」

男「竜王の呪いによって全世界の男は弱体化した。これは事実だ」

女「……うん」

男「ここで姫巫女の報告を思い出して欲しい。>>23を見てくれ」

女「……見たよ?」

男「『男』と言う生き物に『あんなの』が居るから呪いを仕掛けた……ここまでが竜王の言葉になっている」

男「これは普通に解釈すれば、男という存在を恐れたためその力を抑えようとした、となるな?」

女「うん」

男「しかしこの言葉にはもう一つの解釈がある」

女「?」


男「即ち、『男』と言う生き物に『あんなの』が居るから…………エネルギー源として期待が持てる」

女「!」

男「竜王の呪いによって奪われた男たちの力は、一体どこへ行ったと思う?」

女「それって……」

男「そうだ、竜王の掛けた呪いは弱体化ではなく、力の強制的な徴収だったんだ」

女「う~ん……でもそんなの、何の根拠も……」

男「あるんだよ、ちゃんとな」

女「?」


男「掛けた呪いが本当に弱体化のみだったとしたら、果たして竜王は目的を達成することができるだろうか?」

女「……できるんじゃないの??」

男「いいや、答えはNOだ」

男「なぜなら、封印された瞬間での竜王では、騎士に勝つことは不可能だったからだ」

男「加えて、この呪いが効いてくるまでにも時間がかかる」

男「>>137で分かる通り、騎士の力は100年間の封印の後でもいささかも削がれてはいなかった」

男「これは、呪いが効いていたとしても、その影響が現れるまでに時間がかかることを意味する」

男「そして>>145で姫巫女が言うように、その気になれば、呪いの影響が現れることを待たずして竜王との再戦が可能だ」

男「この状況下で竜王自身が何の強化もできていなければ、騎士と再戦したとしても……」

女「負けるしかないってこと?」


男「それ以外に有り得ない。しかし竜王は騎士を100年先の未来に飛ばした」

男「わざわざ再戦しやすいように、場所を固定したままで、異次元に追放することもせずにだ」

男「いかに竜王とはいえ、封印された状態では強化はできない」

男「100年あろうが1000年あろうが、その先にある騎士との戦いには敗北の未来しかない」

男「それでも再戦を期した。それは未来の戦いにおける勝算が、竜王自身にあったからだ」

女「……」

男「そして竜王が発動させた呪いは2つのみ」

男「一つは騎士に、もう一つは世界に……加えて、騎士に掛けた呪いでは弱体化はされていない」

男「つまり、世界に掛けた呪いの方に、パワーアップの意図が隠されていた」

女「……」

一時離脱


姫巫女(私の封印をたった1年で解いただと!?)

姫巫女(バカな!それならば、なぜヤツは100年も地下に留まっていた!?)

姫巫女(それにヤツのこの強さ、呪いを発動させる前までに回復しているのか!?)


竜王『……暗愚な貴様には解せぬようだな』

騎士『ごっ、はっ……かぁ……ッ!』ビシャ ビシャ…


姫巫女『…………』ジリッ


竜王『余の掛けた呪いが、本当に力の減少のみに留まっているとでも思っていたのか?』


姫巫女『……!?』

姫巫女(そ、そうか!)

姫巫女(まさかコイツは……!)


竜王『全く、貴様らとの戦いは予想外の連続よ』

竜王『全人類から力を集めるはずのこの呪い、一体どうしたことか、『男』にしか通用せんとはな』


姫巫女『キサマは……男たちの力を吸い上げていたのか! 100年間ずっと!』


竜王『ようやく気が付いたようだな、か弱き魔族の女よ』


姫巫女『力を蓄えるために、我々との戦いを避けてきたのか……!』


竜王『そうだ。後は100年間この身を守りきるだけで良かったのだ』

竜王『そこへ都合よく貴様がノコノコ現れ、余を封印しに掛かった』


姫巫女『そんな……』


竜王『感謝するぞムシケラめ』

竜王『貴様のおかげで、余は安全な寝床を得ることができたのだ』


姫巫女『……!』


竜王『おかげでこの剣士に勝てるようになるまで、この薄暗い地下に留まらねばならなかったがな』ヒュンッ!


――ズガッ!!


騎士『ごあっ……!』ドゴンッ!!

姫巫女『騎士ッ!!』ダダッ

騎士『来るんじゃねえッ!』

姫巫女『!』

騎士『ごほ……かはっ……』ヨロ…

騎士『く、来るんじゃねえ……!』


竜王『さあ今こそ復活の時だ!我がしもべたちよ!』


――ドォォン!

――ズゥゥン!

  バサッバサッバサッ……

――ドドォォン!

  ビュゥゥ……!


ドラゴン×??『ゴワァアアアアァアアアアアアッッッ!!!』


母親『!……マズい、囲まれたっ!?』

メイド『これほどの数のドラゴン、一体どこから!?』


竜王『復活の時を待っていたのは余だけではないのだぞ』


竜王『さあ行け!お前たち!!100年前の雪辱、今こそ存分に果たすがいい!!』


ドラゴン×??『ガァアアアァァアアアアァァアッッッ!!!』


母親『も、もう……これは……』ガクッ

メイド『かっ……勝てっこない……!』ガクガク

姫巫女『……めるな……』ギリッ

メイド『……えっ?』

姫巫女『舐めるなッ!!』

メイド『!?』


竜王『……』


姫巫女『守護者『姫巫女』を舐めるなよッ!! 竜王ォォッ!!』バッ


―――ギィィィン!!―――


騎士『! こ、この魔力は……!』

騎士『止めろ! 姫様ッ!!』


男「遂に始まった竜王との最終決戦。竜王はその持てる力の全てを投じて、姫巫女と騎士を叩き潰そうとする」

男「そして姫巫女も、自分に掛けられていた最後の封印を解除する」

男「無数のドラゴンを蹴散らす姫巫女を背にして、騎士と竜王の一騎打ちが開始される……」

女「ちょ、ちょっと待って……」

男「ん?」

女「もう竜王は騎士を倒せるほどの力を獲得した、ってことでしょ?」

男「そうだ。そしてその時期が分かっていたからこそ、あらかじめ騎士を100年後に飛ばしておいた」

女「……それなのに、竜王の呪いは未だ完全じゃなかった……??」

男「気が付いてしまったか?」

男「その通り。騎士を倒せるほどの力を持ちながら、未だ呪いを掛けられる対象は男のみに留まっていた」

女「……」コクッ


男「これは元々の呪いの性能によるものか? 否!そうじゃない」

男「竜王の持つ呪いの力に関わってくるのは、竜王だけではないからだ」

男「その時懸命に生きてきた人間たちの魂をも、竜王はエネルギーと一緒に取り込んでいた」

男「それこそが多種多様な呪いの力を生み出す源泉となっていたんだ」

女「……どういうこと??」

男「……竜王は勇者たちをエネルギーとして自らの体内に取り込んだ。ここまではいいか?」

女「うん」

男「故に勇者たちは間違いなく死んでいる。これもいいな?」

女「うん」

男「ではもう一つ」

女「……」

男「勇者たちは、本当に『消滅』したのか……?」

女「……!?」






竜王『余はこの100年間、ずっと夢見てきた』


――ギギンッ!

――ガンッ!

騎士『くっ!凌ぎ……切れねえ……ッ!』


竜王『貴様を引き裂き、その血肉の滴りを飲み干す瞬間をな!!』ブンッ


――ザンッッ!!



――ドサッ…

――ブシュゥゥゥ……!!


騎士『あ……お……』ガクッ


竜王『これで残りの右腕も失ったな』


騎士『…………』


竜王『続けろ。腕の無くなった剣士がどうやって戦うのか、しかと余に見せるがいい』


――キィンッ

騎士『……!』


騎士(そうか……さっきから、ずっと気になってたんだぞ……)


竜王『……戦意喪失か……しかし名もなき剣士よ、貴様はまことの勇者であったぞ』


騎士(お前ら……そこにいたんだな……)


男「竜王は勇者たちの力を源泉として、呪いの力を獲得した。その呪いの力は今も健在」

男「……ならば、勇者たちは消滅などしていない」

女「……」

男「存在していた。肉体と魂を失ってなお、竜王の中に在り続けた」

男「そして無限に強化されていく竜王の企みを、彼女たちが阻んでいた」

男「死してなお、竜王を封印できる唯一の存在、姫巫女を守ろうとしていたんだ」

男「……だから呪いは完全にならず、目的を達成させるまでに100年もの時間を要した」

男「そのことにただ1人、騎士だけが気付くことができた」


騎士『……ははっ……いるなら声ぐらい、かけろっつーの……』


竜王『その戦いに免じて、苦しまぬよう一瞬で葬ってくれる!』ズズッ


騎士(ワリィな、100年も待たせちまってよ……)


竜王『貴様は此度の余の栄華! その幕開けの礎となるのだッ!!』


騎士(もうちょっと待っててくれ……今すぐ……)

騎士『……』

騎士『眠らせてやるッ!』ギンッ!


竜王『死ねぇッッ!!』

――バツンッッ!!



メイド『!! そんな……騎士ッ……!』



竜王『……』ゴクン…

パァァ……

竜王『おお!感じるぞ! この溢れんばかりの力!』



メイド『死んだ……騎士が……』ガクッ


男「強化された竜王を倒す方法は一つしか残っていない」

男「取り込んだ命の中でも特に強く、支柱として据えられた『核』の部分を叩くこと」

男「しかしその核の場所は特定されず、また復活の度にその位置が変わっていた」

男「だから今までの人間たちには竜王を仕留め切ることができなかった」

女「……」

男「しかし、騎士にだけはその場所がはっきり見えている」


ドドドドドド……


騎士(ここが竜王の内部……)

騎士(数え切れないほどの命が、渦潮の如く、激しく流れ続けている……)

騎士(俺も……力を……奪われる…………でも)


騎士(見える……感じる……)

騎士(みんなが……願っていた……!)

騎士(そうか……俺はずっと……)

騎士(みんなに…………導かれていたんだ!)


―――キィン!


騎士(………………あそこかッ!!)


男「自分を生かしておいたのは、竜王に取って致命傷に匹敵するミスである」

男「騎士はそう言った。確かにその通りだ」

男「しかし実はそれすら大きく上回るミスを、竜王は犯していた」

女「?」

男「それは騎士を生かしてしまったという『異変』を、竜王が自覚していなかったことだ」

女「……?」

男「竜王の呪いは全世界に蔓延していた」

男「しかし世界に影響を与えたのは呪いだけではなかった」

男「そのことに姫巫女、騎士はもちろん、竜王すらも気が付いていなかった」

女「……」


男「竜王は呪いと一緒に、取り込んだ人間の『遺志』までも世界中に広げてしまっていた」

女「……!?」

男「騎士が女から嫌われ続けたことも、村に戻らなかったことも、単なる偶然ではない」

男「全ては竜王を倒すために積み上げられていった、死者たちの導きによるものだったんだ」

女「……ううむ」

男「そして最後の仕上げの時が来る」

男「今の竜王は、一体誰の生命エネルギーを自身の核として据えているのか?」

女「え?……それはやっぱり……」

男「お察しの通りだ」

男「勇者、僧侶、魔法使い……この3人のエネルギーが重なる場所、そこが今の竜王の弱点になっている」


ドドドドドド……


騎士『…………』

騎士(近づいている……見えるぞ……!)

騎士(そこだな!)

騎士(チャンスは一瞬! この生命を奪う濁流の中で、あの小さな標的を正確に射抜かなければならない!)


女「ま、待って?」

男「ん?」

女「倒すって言ったって、もう……」

男「剣もなければ腕もない、か?」

男「……問題ない!」


ドドドドドド……


騎士(あそこを0、1ミリでも角度を外せば、クソトカゲは仕留め切れねえ……!)



騎士(……と、普通のイケメンなら考えるところだ)



騎士『しかぁし!!』



騎士(俺は国始まって以来、史上最高の超ウルトラハイパーイケメン!!)

騎士(近接最強で)

騎士(魔王を倒した英雄で!)

騎士(カッコいいだけに収まらねえ!)

騎士(大国に勤め、騎士部隊の隊長に任命された!!)

騎士(強さも栄誉も地位もあれば、金もあるしおまけに顔もいい!!)


騎士(その俺がッ!!)



騎士『外すワケねえだろうがッ!!』




―――これをお持ちなさい

―――これは?

―――この指輪は私の魔力を封じ込めたものです

―――魔力を持たないあなたでも、これに気を込めれば剣となるでしょう

―――倒すのです……竜王を……


騎士『行けえッ!!』ペッ


――キラッ…


騎士『剣よ!!』


――キィィィン




――――――ズシャアッッ!!




竜王『ごっ―――――!!??』



姫巫女『えっ!?』


竜王『こっ……かっ…………』ピシッ パキッ…



パァァァァァ――



姫巫女『な、何? 何が……』

メイド『ヤツの体内から、光が……?』




――――――ドゴォォォォンッッ!!!




姫巫女『あっ!』サッ

メイド『巫女様……!』サッ


男「何十億か何百億か……無数の生命エネルギーを爆散させながら、竜王は粉々に砕け散る」

女「これでようやっと終わりかぁ、めでたしめでたし」

男「いいや」

女「?」

男「本当のフィナーレはここからだ」

女「何?まだ何かあるの??」

男「竜王の呪いが全て解除されることで、姫巫女たちに異変が起こる」

男「今までは竜王の栄養源となるため、その力を蓄えるよう宿命付けられていた」

男「しかしその縛りはもはやない」

女「つまり……どうなるの??」


男「強大な魔力を持つ姫巫女も、無敵の戦闘力を誇る騎士も、共に普通の『人』に戻っていくんだ」

男「もちろん2人だけじゃない、他の人間も全てだ」

女「……」

男「竜王は倒した。しかしそれを成し遂げた騎士は急速に力を失っていく」

男「ただでさえ両腕を失い生命力も奪われた騎士の命は、まさに風前の灯だった」

男「そして力を出し尽くした姫巫女にも、もはや騎士を救う手立てはない」

男「……最後の手段を使わない限り」

女「……」

男「遂に姫巫女の願いが叶う時が来た。騎士が姫巫女に立てた誓いが、ようやく果たされるんだ」

女「願い?誓い?? もう竜王はやっつけたじゃん」

男「竜王なんて関係ない。元々姫巫女にとっては、竜王なんてどうでも良かったんだよ」

女「どうでもいいって……」

男「忘れたのか? 『竜王を倒して欲しい』だなんて、姫巫女は今まで一度だって言った事はない」






姫巫女『しっかりしろ!騎士ッ! 目を開けろ!』

騎士『……よぉ……姫様……俺、やったぞ……』

姫巫女『ああ、そうだ……だから死ぬんじゃない!』

騎士『こ、これで……ゴフッ!ゴフッ……ハ、ハーレム確定……だよ、な……』

姫巫女『そうだっ!国中の女たちがお前に夢中だ! だからっ……!』

騎士『……ワリィ……今回は、もう、無理っぽいわ……』

姫巫女『バカなことを言うなっ! わ、私が今っ……?!』

姫巫女『はぁ、はぁ……ち、力が消えていく……!?』

メイド『み、巫女様!……いけません! 今巫女様が回復魔法をお使いになれば……!』

姫巫女『……』


騎士『ゴホッゴホッ!……姫様……あ、後……頼む……』

姫巫女『……』

メイド『巫女様……』

姫巫女『騎士よ……私は、お前を死なせはしない!』サッ

メイド『!?……み、巫女様っ!』

姫巫女『止めるな!!』

メイド『!』ビクッ

姫巫女『お願いです!……私の、一生に一度のワガママなのです……!』

メイド『……』

メイド『……かしこまりました』

メイド『騎士を、お救いください』

姫巫女『……』コクッ


姫巫女(私は今まで、自分の力を自ら選択して使うことはできなかった)

姫巫女(始めは自分の命を守るため……)

姫巫女(次は世界を守るため……)

姫巫女(いつだってそうだ。必要に迫られ、私は力を使うことを余儀なくされてきた。それ以外の選択肢はなかった)

姫巫女(でもそれは当然のことだった)


パァァァ…

姫巫女「うっ……」フラッ

メイド「巫女様!」サッ

姫巫女「……はぁっ、はぁっ、はぁっ」

姫巫女「……!」グッ


姫巫女(私はずっと逃げてきた)

姫巫女(守護者としての地位ばかりか、さらに100年という時間までもらっておきながら……)

姫巫女(私には逃げることしかできなかった)

姫巫女(自分の宿命からも、竜王からも……そして、騎士からも……)

姫巫女(でも最後は……最後だけは……!)

姫巫女(たった一人のお前を、救うために……!)


姫巫女『私は今度こそ逃げない!!』




騎士『…………』




姫巫女『甦れッ!騎士ッ!!』サッ


パァァァァ…





騎士『…………』



騎士『……』


騎士『!?』ガバッ

騎士『え?あれ??……生きてる……両腕も……』

騎士『!……そうだ!姫様は!?』バッ


メイド『……巫女様』


姫巫女『……』


騎士『!!』


メイド『さよならです……巫女様……』ポロポロ…

騎士『おっ!おい!姫様ッ!』

姫巫女『……』

騎士『おいっ! 起きろっ!!姫様!!』

姫巫女『……何だ、うるさいヤツだな……』

騎士『お、お前っ、使ったのか! 魔法を……!』

姫巫女『静かにしてくれ……最後まで騒々しいな、お前は……』

騎士『なっ、何でだよ! お前との約束……守って、やれたのに……!』

姫巫女『心配するな……お、お前は見事に……はぁ、はぁ……誓いを、果た、した……』

姫巫女『もう……充分だ……』


騎士『や、やめろ……』

姫巫女『……』

騎士『やめろっ! 行くな!』

騎士『テメエみてえのが、な、生意気に!カッコ付けたりするんじゃねえ!!』

騎士『そういうのはっ! お、俺の役目だろうが……!』ギリッ

姫巫女『……』

騎士『ぐっ……うう……頼む……行くなっ……』

姫巫女『フフ……』

姫巫女『騎士よ……これは罰だ』

騎士『……え?』

姫巫女『お、お前は……私の言い付けに……背い、て……私を、一人ぼっちにした……』

姫巫女『だから……これは……はぁ、はぁ……そのお返しだ……』


騎士『そんなこと言うんじゃねえ!!』

姫巫女『はぁ……はぁ……』

騎士『言うんじゃねえよ……!』

姫巫女『あぁ……もうダメみたいだ……目も見えない……お前の声も……はぁ、はぁ……よく、聞こえない……』

騎士『姫様ッッ!!』

姫巫女『た、頼む……はぁ、はぁ……私の、私だけの『騎士』よ……』

姫巫女『私の……最後の……願いを……』

騎士『!……な、何だ!早く言えッ!』

姫巫女『わ、私を……抱きしめてくれ……』


騎士『……!』ギュウ…

姫巫女『…………あぁ』

騎士『ひ、姫様……!』

姫巫女『これは……いいものだな……』

姫巫女『惚れた男に抱かれたまま、逝くというのは……』

騎士『ぐっ……ううっ…………』

騎士『姫様……さよならだ……姫様……!』ギュゥゥ…

姫巫女『……違う』

騎士『……?』

姫巫女『この命は、もう、お前に預けたのだ……』

姫巫女『だから、ずっと一緒さ……』

騎士『そんなこと……!』


姫巫女『ウソじゃない……』

姫巫女『……お前には……見えてる……聞こえている……』

姫巫女『私の…………『命』が…………』

騎士『…………』




姫巫女『』




メイド『巫女様…………巫女様!!』

メイド『はっ……う……』

メイド『うぐっ!……ふうぅ!……うぅぅっ……!』


騎士『……ああ、分かるよ……』ギュゥ…

騎士『魔眼なんか、なくたって……!』




――キラッ


騎士『……ん』

騎士『夜が明ける……』




騎士『あぁ……眩しいなぁ……』


騎士『お前にも、見えてるんだろ?』


騎士『なあ、姫様……』









騎士(竜王を倒してから、もう1週間が経った)

騎士(竜王復活、撃破……そして、アイツの最期)

騎士(100周年の記念の日にいろんなことがあり過ぎて、その騒ぎは未だに落ち着いていない)

騎士(城内ではまたしても寝ずの会議を続けているらしいが、俺はどうにもそういう気分になれない)

騎士(それに、俺たちを取り巻く環境や条件がいくら変わっても、結局やることなんて大して変わりっこないしな)


騎士『……』


騎士(そうやって自分に言い訳しつつ、今日も日向ぼっこと決め込む)

騎士(もうアイツはいない。そう考えると、どうにも体が動いてくれない)

騎士(俺は、こんなに弱っちい男だったのか……)


騎士『……』

騎士『全然、イケメンなんかじゃねえよな……』グスッ…


――キンッ

騎士『ん?』チラッ

騎士(クナイ……?)


メイド『チッ、外したか』

騎士『何だ、お前かよ……どうした?ご主人様の仇でも取りに来たのか?』

メイド『……お前のつまらない命を取ったところで、巫女様はお喜びにはならない』

騎士『そうかよ』


メイド『……騎士よ』

騎士『うん?』

メイド『巫女様は、自分の命を投げ出してまで、お前を救ったのだ』

メイド『そのお前がもしも……もしも助かった命を粗末にするようなら……私は絶対にお前を許さない』

騎士『……』スッ

メイド『どこへ行く?』

騎士『墓参りだよ』

騎士『みんなにも、ちゃんと挨拶しとかないといけないからな。100年ぶりに』

メイド『……』




騎士『……』ジー

騎士『それにしても立派な墓立ててもらったもんだよな』

騎士『元は孤児だったのが、えらい出世じゃねえか』

騎士『……』

騎士『今度こそゆっくり眠れよ?』

騎士『そのために結構頑張ったんだからな』

騎士『……さて』

騎士『姫様! 聞こえてるんだろ?』


ヒュゥゥ…




騎士『俺さ、ハーレム作りたかったんだけど、やっぱ無理だわ!』

騎士『だってよぉ、イイ女はみんな俺より先にどっか行っちまうんだからな~』

騎士『……それでも、もしもあの世とかいう場所があるんなら……』

騎士『ハーレム!作っちまいたいって思えるかもな!』

騎士『覚悟しろよ!? 姫様ッ!』

騎士『そのハーレムのメンバー……栄えあるナンバー1はテメエに決めたからな!!』

騎士『……』

騎士『ま、ナンバー2以降は今んとこ考えてないんだけどな』


騎士『……行くか』


騎士『じゃ、またな』




メイド『……お前、これからどうするつもりなんだ?』

騎士『ん?そう言われてもな~、あんまりそういうこと考えてねーんだよ』

メイド『そうか』

騎士『うん』

メイド『もしお前が……』

騎士『ん?』

メイド『お前が良ければなのだが……この国に残って、騎士隊長の位を受け継いではくれないか?』

騎士『……』

メイド『もう呪いは解けたのだ。これからは男たちにも頑張ってもらわないといけない』

メイド『今この国にお前のような男がいてくれれば、他の男たちの励みになるだろう』

メイド『隊長もきっと、それを望まれていたはずだ』

騎士『……』


メイド『……どうだ?』

騎士『んー、でもいいのか?』

メイド『何がだ?』

騎士『今の時代、男が要職に就いたりしたら……俺はともかく、推薦したお前の風当たりが半端じゃねえと思うぞ?』

メイド『いいさ。そういうのはな、何ていうか……くだらないことなんだ』

騎士『そうかぁ?』

メイド『そうさ……巫女様も、最後は世界を守護するというお役目を手離して、ずっと想い続けていた男のために尽くされたのだからな』

騎士『……アイツもバカだよな。俺なんかほっといてりゃ、そのまま晴れてお役目御免だったのに』

メイド『私は……そうは思わない』

騎士『……』

メイド『あの時の巫女様は決意と覚悟に満ちていた。私が過去に見たどの巫女様よりも輝いていらっしゃった……』


騎士『……』

メイド『巫女様はそのお力が無くなったから自由になれたのではない』

メイド『あの時、何に代えてもお前を救うと決断できたからこそ、そのお役目から解放され、一人の女に戻れたのだ』

メイド『お前だけではなく、巫女様もまた救われた……100年かかってもできなかったことを、たった一人の男が可能にさせたのだ』

メイド『……私はそう思っている』

騎士『……』

メイド『だからお前も自由だ。自分の好きなようにすればいいんだ』

メイド『私はもう、そうすることにしたよ』

騎士『……』


メイド『……どうだ? 騎士隊長の位、受ける気になってくれたか?』

騎士『……しょうがねえなぁ』ギシッ

メイド『……』

騎士『しょうがねえから……』




騎士『お前の分まで、自由に生きて行ってやるよ……姫様……』




   完



























男「……という感じの展開が>>1によって着々と準備されているはずなんだ……!」

女「っていうかコレ、もう最後までやっちゃったね」

男「んっ!?」

男「んー……」チラッ

女「……」

男「……ホントだ。何で完結してんの?コレ」

女「私に聞かないでよ……自分でやったんじゃん」

男「……」


男「それにしても恐ろしいのは>>1の持つ創造力よ!」

男「まさか、ここまで随所随所にその先の展開を匂わす仕掛けを配置しているとは……!!」

女「全然ゴマかし切れてないから」

男「フー……久々にガチのSSを紹介してしまったもんで、俺としてもついつい本気が漏れてしまってな……」

女「漏れるもんなの?本気って」

男「くっ……それにしても、今回ばかりはSS脳を加速させ過ぎたようだ……!」

女「お疲れー」


男「もはや今の俺には支援ageする力も残っていない……」カチカチ カチ 

女「とか言いながらソリティアしてんじゃねーよ」

男「くっそー、黒の5が出ねえ!」

女「知らねーよ」

モニター「ゲームセッッ!!」


男「……ふぅむ、しばしの間休養を取る必要がありそうだ」

女「そうだね、多分」

男「俺はしばらく自主謹慎とシャレこむぜっ!」

女「ちゃんと寝とけよー?」

男「……まあ、あらかじめ言っておくと、次に紹介したいSSは>>270なんだけどな」

女「やっぱりやんのかよ」

投下ロードが閉じられた……

>>263


女「何かやたら絵がうまいね、このホモの人」

男「いや、この>>1はホモを見るのが好きなだけで、実際にホモなわけではないと思うぞ?」

男「……多分」

女「それで、このホモストーリーの続きがどうしたって??」

男「単なるホモ話ではないぞ? これは>>1の開拓した新たなる境地、名付けてホラーホモだ!!」

女「そのまんまじゃん」

男「まあ今俺が勝手に名付けただけだからな」

女「……でさ、これのどの辺りが気になってるわけ?」


男「フフフ……このSSは原作『青鬼』とは違い、仕掛けを施した知性ある黒幕の存在が暗示されている!……というところだ」

女「へえ、それ何か意味あるの?」

男「大アリだ。元となったゲーム『青鬼』では、いわゆるラスボスというものが登場しない」

男「全ての謎が謎のままエンディングを迎えることになる」

男「よって、そこに到るまでに得られる、物語のヒントと思しき事象は全て未解消のまま捨て置かれる」

女「んー……そうだね」


男「しかしこのSSでは、館の仕掛け人の存在をほのめかせ、その黒幕に向かって少しづつ前進するという流れにある」

男「つまりベルトルトの最終到達点において、今までの謎がパズルを組み合わせるが如く、その全容が明らかにされることもあり得る!……ということッ!!」

男「俺たちは>>1の仕掛けた罠の用意周到さに、思わず膝を叩いてしまう……つまりはそういうことだ」

女「要するに、どんな仕掛けをしていたのか種明かしして欲しいってこと?」

男「簡単に言えばそうだ」

男「そして、それを読み解くためのヒントも、既に>>1は各所に散りばめている」

男「まずは>>176を見てくれ」

女「……見たよ」


男「この時点では、注射器を使用したような形跡が確認できた。これはいいな?」

女「うん」

男「そして>>605では注射器の現物も確認できている」

女「そうだね」

男「この時点で、注射器を用いてアルミンとライナーの理性を奪ったことが確認できる」

男「……ここまではいいな?」

女「うん」

男「さらに館は頑丈に作られ、逃げることは不可能。また侵入者をおちょくるギミックの数々……」


男「これらの情報で読み取れるのは、これは単なる変態の襲撃ではないということ」

男「用意周到に知能を駆使して獲物を狙う存在がいる。しかもソイツはかなりの資金力がある」

男「ベルトルトはそれがキース教官であると未だに考えているが……しかしそれは誤りだ」

女「どうしてそう言い切れるの?」

男「状況証拠から言うのではない。ベルトルトの資質そのものが信用できないからだ」

女「っていうと?」


男「ベルトルトはどんな状況でも冷静に事態を分析し、過たず行動することができる」

女「……うん」

男「ただしそれは、彼が自分の意識内の情報に制限をかけているからだ」

男「あらゆる恐るべき可能性に対して、ベルトルトは事前に脳内をシャットアウトすることが癖になっている」

男「それが精神の均衡を保つことに役立っているからだ。しかし同時に、その癖が逃避となってしまうこともしばしばある」

男「故におそらく今のベルトルトは……小鹿よろしく、考えることをやめてしまっている」

女「……なるほどね」


男「しかしエレンにはそのような制限はない」

男「エレンには、ベルトルトが決して手を伸ばさないような恐ろしい場所まで、意識を巡らせることが可能だ」

男「この2人の対比を如実に示しているのが>>731だ」

女「ふんふん」

男「ご覧の通り、エレンはキース以外の黒幕の存在を想像し始めている」

女「そうみたいだね」

男「しかしエレン自身、明確な証拠があってそう判断したわけではない」

男「館内の大掛かりな仕掛けと、それを可能にさせた資金力から見ても、そのように考えるのが自然だからだ」

男「さらに、エレンがそう考えていること自体が、その先にある展開を示している」

女「……?」


男「ベルトルトはずっとキースが犯人だと思っていた。ライナーもその考えを消極的ながら支えていた」

男「しかしその後エレンが登場し、キース犯人説を覆す、より恐ろしい未来の可能性が提示された」

男「この展開では、もはやキースを犯人とすることはできない」

女「……何で??」

男「分からないか?」

男「もうキースが真犯人であると判明しても意味がないからだ」

女「意味?? どういうこと??」


男「>>1が真に恐怖させるべきはベルトルトでもエレンでもない」

男「>>1は登場人物の誰よりも、俺たち読者を恐怖させなければならない……!」

女「……そりゃ、まあそうだけど」

男「つまり、この時点でキースが真犯人であったとしても、『俺たちにとって』意味がない。恐怖が薄まってしまっているからだ」

男「よって、この後の展開ではキース以外の誰かを黒幕として登場させる必要がある」

女「……」

男「さあ、その黒幕とは一体誰だと思う?」

女「う~ん……」

男「ヒントをやろう」

女「うん」

男「ベルトルトは>>607>>608で真相に近づき、そして遠ざかった」

女「…………」


女「……ベルトルトは」

男「うん」

女「憲兵団に……疑問を感じた…………かな??」

男「だいぶ近くなってきたな!」

男「そう、ベルトルトは憲兵団に疑問を感じ始めていた」

男「この描写では技術的な側面で不足があるのではないかという疑いだった」

男「しかし、おそらく無意識の部分ではこのようにも考えていた」


男「即ち、『憲兵団は本当に味方なのか?』ということ!」

女「……!」

男「この館の設備、維持、そのために必要となる人員、資金、さらには未知の薬物、その投与……」

男「何よりライナーの呼びかけを知っていたかのようにタイミングよく準備されたキース教官……」

男「これらの全てが、単独の人物による実現はほぼ不可能。組織的な力が働いてることはもはや明白」

男「憲兵団、あるいはそれ以上の人員と金が動いている計画であったわけだ」

男「だが生来の癖のため、ベルトルトの意識にその考えは及ばなかった」

女「……ふーむ」


男「未だ分からないのは、この計画が何を目的として為されたのかということだ」

男「……いや、ここは言い換えるべきだな」

男「この事件の首謀者は一体何をしようとしているのか?……だな」

女「うーん……分からん」

男「そう、分からない」

女「だよね、まるっきり意味不明だもん」

男「その通りだ。薬物の実験か、訓練兵の抜き打ち観察か、はたまたからくりの難易度設定か……」

男「何を目的としていたにしても、このやり方よりずっと効率よくできたはずだ」

男「しかしそのいずれにも該当しそうもない、一見無意味な方向にベルトルトたちを導いている」

男「一見じゃなくて、まるっきり完全に無意味っしょ」

男「確かに普通ならそう判断すべきだ。しかしそれ自体が大きなヒントになっている」

女「??」

男「思い出してみるんだ。理性ある状態で、既に常人の理解を越えていたその人物を……」








ベルトルト『はぁっ、はぁっ……』タッタッタッ

ベルトルト(あのアルミンならきっとライナー相手でもそこそこは時間稼ぎができるはず)

ベルトルト(……でも、さっきは不意打ちだったけど、今回は真正面からだ)

ベルトルト(考えたくないけど、あの体格差では勝負は見えている)

ベルトルト(もう既に僕のことを追いかけ始めているかも知れない)

ベルトルト(そう、すぐ後ろに……)


ベルトルト『……』ブルッ


ベルトルト(やめろ!考えるな!)

ベルトルト(今はただ逃げることだけを――)

ザッ

ベルトルト『……!』


ベルトルト(今、向こうから音がしたぞ!?……もしかして?)


ベルトルト『エレッ―――』


ヌゥッ…


ベルトルト『は』



キース『……』ニヤァ


ベルトルト『……ぐっ!』クルッ

ベルトルト『クソッ!!』ダダッ


ライナー『お~い、待ってくれよ~』ノソノソ


ベルトルト(誰が待つか! ホモゴリラがっ!!)ダダッ

ベルトルト(ひとまず、この2人から距離を取って……)タッタッ


スッ


ベルトルト『!?』ガッ


ドテッ!!


ベルトルト『ぐうっ……!?』ヨロ…


ベルトルト(あ、脚払い!? 誰がこんな……)


ベルトルト『エ、エレン! 今そんな悪ふざけは!』バッ


ベルトルト『………………』


ベルトルト『……え、な、何で……?』







マルコ『お久し振り!ベルトルト!』

マルコ『館のハプニングは、楽しんでいただけたかな?』ニコッ


女「なるほどぉ、マルコか~」

男「そう、超絶変態のマルコが自身の趣味趣向を最大限に発揮したものと考えれば、今までの館内の不可解なイベントの数々に辻褄を合わせることができる」

男「というか、それ以外に考えようがない」

女「ふむふむ」

男「加えて、既にラスボスとして登場させるための伏線も張られ、隠しラスボス要件をも満たしている」

女「隠しラスボス要件??……って何?」

男「それはな、序盤で主人公を助ける、あるいは助かるヒントを授けてくれることだ」

男「ホモミン、ホモイナーの2人にクローゼットから引き出されたベルトルトは、マルコとのやり取りで得たヒントを元に、絶体絶命のピンチを乗り切った」

男「このように一見主人公の味方であるかのような描写を示して、真犯人臭を消すこと」

男「これは隠しラスボスに用意される演出の中でも、かなり定番の部類に入る『セオリー』の一つであると言って差し支えない」

男「そしてまさにマルコはこの要件を満たしている」

男「ラスボスとして登場させるのにふさわしい存在なんだ」

女「ふーん」

男「そしてお待ちかね! ここからが俺たちの渇望した種明かしの始まりだ!」




ベルトルト『マル……コ……?』

マルコ『やあベルトルト!元気そうだね!』

ベルトルト『ど、どうして……』

マルコ『やだなぁ、どうしたんだい? まるで幽霊でも見るような顔をして』キョトン

ベルトルト『そ、そんな! だって……キ、キミは……あの時の、戦いで…………!』

マルコ『死んだってことかい? うん、確かにそういうことになってるね』

ベルトルト『……』

キース『……』ニヤニヤ

ライナー『……』ニヤニヤ

マルコ『君たちが見たのはね、偽物なんだよ』

ベルトルト『に、偽物……?』

マルコ『そうさ、憲兵団の特殊技術部に頼んで、僕の死体を用意してもらったんだ』

ベルトルト『そ、そんなこと……できるわけがない!』


マルコ『……ベルトルト、君は知らないだろうから教えてあげるね?』

マルコ『王の直属たる憲兵団は、一般には知られていない技術や知識をいっぺんに囲い込んでいるんだよ』

マルコ『周りからはそういった新しいものをドンドン取り入れながら、しかしそれを自分たち以外に公開することは決してない』

マルコ『この独占体制こそが、今の王国の繁栄を維持していると言っていい』


ベルトルト『……』


ベルトルト(な、何を言ってるんだ……)

ベルトルト(マルコが生きてて、憲兵団と繋がりがあって……)

ベルトルト(いやいや!そもそも訓練兵であるマルコがどうして憲兵団と接点を持ってるんだ!?)


マルコ『かわいそうに、よほど混乱しているみたいだね』

マルコ『今まで黙っていたけどね、僕は元々憲兵団の一員だったんだ』

マルコ『君たちの目を欺くために、こうやって3年間も訓練兵のフリをしていたけどね』

ベルトルト『……!?』

マルコ『実を言うと、今まで見てきた訓練兵の僕の方が、仮の姿だったんだよ』

ベルトルト『…………な』

マルコ『な?』

ベルトルト『な……何のために、こんなことを……!!』

マルコ『んー……ああ、彼らのことかい?』チラッ


ベルトルト『こ、こんなとこをして、一体何の得があるって言うんだ!?』

マルコ『ま、一応新薬の実験ということで申請はしてあるけどね』

マルコ『本音を言えば、君たちにも少し息抜きしてもらいたかったんだ』

ベルトルト『……???』

マルコ『3年間も窮屈で辛い訓練を受け切った君たちへの、僕からのプレゼントだよ』

マルコ『たまには倫理も規律も忘れて自由にならないと、息が詰まって病気になってしまうだろう?』

ベルトルト『な…………何を言ってるんだ??』

マルコ『何って?』

キース『…………』ジー

マルコ『……ああゴメンゴメン、待たせ過ぎてしまったかな?』カチャカチャ

マルコ『ほらっ!好きなだけ突っ込むといいよ!』ズルッ

キース『……』ニヤァ…

ガシッ

ズブ……ズブズブ……

マルコ『おおおっ!大きいねえ! さては待ちぼうけを食らって欲求不満になってるなぁ?』



パンパンパンパン…


ベルトルト『…………』


突然マルコはキース教官に向けて尻を丸出しにして、その肛門で突き上げを受け入れ始めた。

呆気に取られた僕を無視して、教官とマルコは交わりにふけっている。

目の前のライナーはその剛直を天に向けてそそり立たせながら、しかし襲い掛かってくるでもなくただニヤニヤしていた。


マルコ『あっあっあっ……き、君も強情だなぁ。やっぱり、薬を投与しないとダメなのかな?』パンパンパン

ベルトルト『……!』

ベルトルト(そうだ!薬だ!)

ベルトルト『マッ、マルコ! あの薬は何なんだ!』

マルコ『はっ、はっ、はっ……え?』


ベルトルト『あんな……人をホモに変えてしまう、悪魔の如きおぞましいあの薬物は……!!』

マルコ『はっ、はっ、はっ……いやぁ、それは誤解だよ?ベルトルト』

ベルトルト『はっ……?』

マルコ『あの薬にはねぇ……んっんっ……ホモになる成分なんて入ってないよ』

ベルトルト『え?? そ、そんなハズはない!』

マルコ『そうは言ってもねえ。いくら憲兵団でも、個人の趣味趣向まで変えるなんて芸当は、まだ不可能なんだよ?……あっ、あっ』

ベルトルト『ウ、ウソだ! あんな少量でこれだけのことをさせられたんだ!』

ベルトルト『ホモに変えるぐらい、何でもない!』

マルコ『だからそんな成分は入ってないよ』

キース『ォ……ォ……』パンパンパン


ドプッッ!!


キース『ォ……ォ……』ピクッ ピクッ


……ズルゥ

ヌチャッ……


マルコ『フゥ……あれはね、その人が持っている欲求をそのまま増幅させる薬物なんだ』ゴソゴソ

マルコ『食欲も睡眠欲も破壊衝動も、そしてもちろん、性欲もね』

ベルトルト『…………?』

マルコ『アルミンとライナーがこの薬でホモになったということは、元々彼らにその欲求があったからさ』

ベルトルト『!?』

マルコ『……まあ、そういう類のメンバーを僕がピックアップしたからこそ、君たちはここにいるんだけどね』

ベルトルト『そ、そんなハズは……』

マルコ『無いって言い切れるのかい?』

ベルトルト『……!』


僕はアルミンの肛門の感触を思い出していた。

そうだ、彼は元々ホモセックスに強い興味を持っていた。

ライナーにしても今考えればおかしい。

本当にホモになっただけなら、どうしてアルミンを襲わず、僕を執拗に付け狙って来たんだ?

アルミンも、ライナーでもキース教官でもなく、何故か僕を追いかけて来ていた。

ホモに変化したのではなく、最初から僕に劣情を抱いていたのだとすれば、今までのその違和感にも説明が付いてしまう……!


ベルトルト『そ、そんな……』ガクッ

マルコ『……分かってくれたみたいだね』ニコッ

マルコ『ライナー!』

ライナー『……』コクッ

ノソノソ…


ベルトルト(ライナー?……どこへ行くんだ?)

ベルトルト(僕を犯すのは諦めてくれたのか……?)


ライナー『……』ノソノソ

ズルズル…


ベルトルト(何かを引きずっている……?)


ドサッ…


ベルトルト(あれは……アルミン!)

ベルトルト(クソッ!やっぱり本気のライナーが相手では無理があったか!)


マルコ『さあライナー、ベルトルトを押さえるんだ』

ライナー『……』ニヤァ

ベルトルト『!……や、やめろ! 何をする気だ!』

ガシッ!

マルコ『大丈夫、君も彼らと同じように、その欲望を存分に発揮させればいいんだよ』スッ

ベルトルト(注射器!アルミンが持っていた物と同じ!)

ベルトルト『や、やめろ……』

マルコ『僕には分かるよ、ベルトルト。君にも、自分のモノで男の肛門を無理やりこじ開けてやりたいと思う欲求がある』

マルコ『それも誰だって良いってわけじゃない。君の好みはズバリ!アルミンなんだろう?』ニコッ

ライナー『……』グググ…

ベルトルト『ぐ……あ……』

ベルトルト(ダメだ、力が強すぎる!まるで抵抗できない!)

マルコ『さあ、その欲望を解放しようじゃないか!』ズイッ

ベルトルト『やめろォォォォオオオオオオッッ!!!』





女「……うわぁ、これはヒドイ」

男「まさに地獄絵図。しかしこの最大のピンチを覆せる人物が1人いる!」

女「え?……あっ!」

男「気が付いたかな? お察しの通り、>>1も既にこのラストバトルに備えて伏線を仕込ませてある」

男「それが>>501だ」

女「おお!頼むエレン! 君だけが頼りだ!」

男「フフフ……しかも伏線はこれだけじゃない」

女「え?」

男「このSSの時系列にも着目して欲しい」


女「んー……トロスト区奪還作戦……の後??」

男「その通り!そしてエレンはこの作戦で重要な役目を果たした……後は分かるな?」

女「!」

男「そう、エレンはもう巨人になれるんだよ!」

女「やった!これで勝つる!」

男「……マルコは潜在的なホモを誘い込もうとして、この館の準備をしていた」

男「その該当者がアルミン、ライナー、ベルトルトの3名だ」

男「しかしそこに余計な人物が紛れ込んでいた」

女「……」


男「これは言うまでもなくエレンだ」

男「エレンはホモであるかどうかというより、そもそも明確な性欲そのものがあるかどうか疑わしい」

男「よってマルコとしては真っ先に始末しておきたかった」

男「アルミンの元へ掛け付けようとした所にキースを差し向けたのはそのためだろう」

男「しかしエレンの生存本能はマルコの想像を上回っていた。甲斐なくエレンの逃亡を許してしまう」

女「うんうん」

男「やがてマルコは、どうにも捉えきれないエレンをひとまず無視して、標的の3人を取り込むという決断を下した」

男「ホモ軍団を結成し、どこかで隠れているエレンを引きずり出し、巨人化させる前に仕留める!」

男「……そのように計画していたが、しかしその思惑に乗るエレンではない」

女「おお!」


男「エレンは首謀者マルコを確実に仕留めるため、安易に巨人化することは避け、マルコが逃げられないような位置まで来るチャンスを伺っていた」

男「そしてチャンスは遂に来た」

男「キースは脱力、ライナーはベルトルトを拘束、アルミンは気絶、マルコは片手が塞がっている」

男「ホモ軍団の全戦力が最も落ちる瞬間を狙い、エレンは指を噛み切り特攻を仕掛ける……ッ!!」

女「行けっ!!」










男「………………と」

男「普通のSSならば、そのように予測できるのだろうが……しかし」

女「……?」


男「>>1はそのような安易な予測を、読者に許さない」

女「え? どゆこと??」

男「>>1の持ち味は展開の奇妙奇天烈奇想天外さにある」

男「整合性やセオリーなどといった手順に頼らず、自身の直感(インスピレーション)のみによって、その先の展開と絵を描いている」

男「そのため、>>1の放つ多くのSSはしばしば完結に至らず過去ログ落ちになっている」

男「というか、>>1のSSは、往々にして途中で打ち切りになってしまうことがほとんどなんだ」

男「それは書く気が無くなったのではなく、自分にイカヅチの如き直感が降りてこないからだ」

女「……そうなの??」


男「そうとも。整合性のある、完成されたSSなど、>>1にとっては興味がない」

男「>>1が何より目指すのは、常人では為し得ない閃きを自分自身に再現させることなんだ」

男「だからいくら途中までうまく出来ているSSであっても、納得できる直感を思い付かなければ、>>1は躊躇せずそのSSを破棄してしまうんだ」

男「元々『青鬼』というゲームも、謎を一切解明することなく終わらせるという、『過程』のみを楽しむゲーム」

男「これを題材として取り上げたこと自体、>>1からの『別にそんな大層なエンディングなんて用意してないから期待されても困る』というメッセージでもある」

女「ふ~ん、何かメンドくさい人だね」

男「しかしその発想の着眼点はピカイチ」



【ベルトルト「痴女??」】

↑↑↑

男「このスレタイから、ベルトルトが猛獣使いとなりホモミンを従えて館内を探索する、などという展開を一体誰に想像できた?」

女「う~ん、正直あんまり嬉しくないけどね」

男「な、何でだよ……」

女「だってキモいじゃん。要するにホモでしょ?」

男「ええい!だからそういうことを言うなってば!」

女「はいはい」

男「コホン……であるからして、この館内の顛末も俺たち読者には全く想像もできないような展開が待ち受けている可能性が高いんだ」


女「でもほとんど落とすんでしょ?この人」

男「……そうなんだ。しかし、極まれに奇跡のようなタイミングと偶然が重なり、珠のような完結作が生み出されることもある」

女「へ~、そんなこともあるんだ」

男「そうだ。このSSもその一つになる可能性を秘めている」

男「しかし逆に、他の未完SSと共に埋もれてしまう可能性もあるわけだが……」

女「もう落とす気マンマンでしょ、この人的には」

男「だが掲示板に存在する限り、続きが書かれる可能性はゼロじゃない」

女「何で?」


男「>>1は続きを書かない理由として、『過去ログに落ちたから』という弁をしばしば使う」

男「これは逆に捉えれば、落ちない限りは自分に書く義務が残されている、とも解釈できる」

男「よって>>1に言い訳を許さず続きを書かせるには、俺たちがこうやって支援ageし続けるしかないんだ」

女「へ~」

男「>>1ッッ!! 俺たちは絶対にお前を逃がしはしない……ッ!!」カチャルカチャル

女「黒いなぁ~、考え方が」

男「よぉし!それでは次のSS紹介と行くぞ!」

男「鬼才>>1の繰り出す、この>>320を見よ!」

寅丸星ですが……… 【安価】

現在達成度100% 投下開始


男「もはや、俺の言うべきことなど何もない」



八意永琳「……本当に産むつもりなの?」

寅丸星「えっ!? それは産みますよ。どうしてですか??

永琳「どうしてって……あなた、その胎児が怖くないの?」

星「??」

永琳「あなたのお腹にいるのは、確かに龍神様の子なのかも知れないわ。月の都にもそんな技術はないもの」

星「やっぱりそうですか……」

永琳「でもそうなると得体が知れないわよ? そのお腹の子は」

星「……」


永琳「今まで妖怪が身篭ったなんて話は例がないのよ? 一体何が生まれてくるのか……」

星「はぁ」

永琳「……母親になる者にこう言うのは酷かも知れないけど、早めに堕ろしたほうがいいと私は思うわ」

星「!!」

永琳「今なら母体の負担も軽くて済むわよ? 不安要素はなるべく……」

星「しっ、失礼します!!」ガタッ

永琳「あら、まだ話は終わってなくてよ?」

星「お気遣いなく! こ、この子は私が育てますからっ!」ドタドタ


バタン!


永琳「……」



~冥界~


ギィ… ギィ…


小野塚小町「……」チラッ


小町「……」キョロキョロ

小町「……」

小町「ふぅ……さすがにもう飽きたみたいだな」



村紗水蜜「と思いましたか?」


小町「!! ま、また出やがったな!?」

村紗「ご機嫌よう。船はちゃんと直ったみたいですね」

小町「よくねえよ! 今度こそ返り討ちにしてやる!」

村紗「そうでなくては困ります。簡単に沈んでしまっては足を運んだ甲斐がありません」

小町「うるせえ! これでも食らえッ!」ブンッ


ガキンッ!


村紗「……先手を打ったのは良い判断ですが、しかし決め手に欠けますね」

村紗「ではこちらからも参ります。そーれそれ!」

ジャブジャブジャブ!

小町「わわわっ! やめろやめろぉッ!!」


村紗「古今東西、やめろと言われて従う者などいないのです。そーれそれ!」

バシャバシャバシャ!

小町「やめろやめろやめろッ!!」

小町「貴様ッ! 死神にこんなことをしてタダで済むと思ってるのか!?」

村紗「ならばそちらの主に言い付けて、早々にとっちめてもらえばよろしいでしょう」

ザバッ ザバッ ザバッ

小町「…………」


村紗「知ってますよ? あなたは冥界でも有数の怠け者」

ザバッ ザバッ ザバッ

村紗「いつ来ても客を乗せていないから、すぐに分かりましたよ」

ザバッ ザバッ ザバッ

村紗「もし仮に私を告発すれば、やがてはあなた自身の働きぶりも詳らかにされしまう」

ザバッ ザバッ ザバッ

村紗「だからあなたには、私を直接退治するしか手がない……そうですね?」

小町「ぐ……」チラッ

小町「!?……い、いつの間にこんな水が!」

村紗「私はよく働く方の幽霊。話をしていても手を休めたりしません!」キリッ


小町「このこのっ! 水を入れるんじゃないッ!」ブンブンッ!

村紗「もう無駄ですよ。そこまで入ってしまえば、あとほんの一押しです」

ザバッ ザバッ ザバッ

村紗「残念ですね。次からはもっとしっかり守って頂かないと、これでは鍛錬になりません」

ザバッ ザバッ ザバッ

グラッ…

小町「わわわわっ!! し、沈むぅぅー!!」


雲居一輪「村紗! 寺に戻るわよ!」


村紗「?……おや、一輪ではありませんか。どうかしましたか?」

一輪「どうかしましたじゃないわよ! そんな所で遊んでないでさっさと戻りなさい!」

村紗「今しばらくお待ちください! もう少し……もう少しなのです!」

ザバッ ザバッ

小町「ふ、舟がぁぁあーー!!」


グラッ… グラッ…


一輪「ゴチャゴチャ言ってないで、あなたも手伝いなさい! 星が戻って来ないのよ!」

村紗「……!!」ピタッ


村紗「ナズーリンは?」

一輪「手当たり次第探し回ってるわよ。書置きしてた場所にはいなかったみたいで……」

一輪「ああもう! 今忙しいんだから余計な口聞かないの!」

村紗「……承知!」

村紗「急用ができました。またお会いしましょう、空舟の主!」ババッ

小町「二度と来んなぁー!!」ブンッ


グラッ……

ガクッ


小町「どわぁあああーー!!」


ドボドボドボドボボボボボ……


~森~


星「この子が無事で済んだからいいけど……」

星「もう永遠亭のご助力は望めそうもありませんね……」

星「……はぁ、どうしたものでしょうか」トボトボ


ガサガサ…


星「……」チラッ

ナズーリン「おやご主人、こんなところにいたのかい?」

星「ナズーリンですか……」

ナズ「テラコヤに行っても見当たらないから、随分と探してしまったよ」

星「……すみません」


ナズ「どうしたんだい? 何だか元気がなさそうじゃないか」

星「ええっと……」

ナズ「……どうも込み入った事情があるみたいだね」

星「……」

ナズ「とにかく戻ろう。話は命蓮寺で聞くよ」

ナズ「ぬえのヤツも、いつ戻って来るんだってボヤいていたよ?」

星「……はい」



~命蓮寺~


一輪「やっと戻ってきたわね。ぬえがクタクタになってるわよ?」

村紗「一体どうしたんですか? あなたがこれほど長時間寺を空けるだなんて」

星「……」

ナズ「今はそっとしておいてくれないか? 後で説明できると思うから」

ナズ「……ご主人、今日のお勤めは大丈夫かい?」

星「はい……何とか」

ナズ「ふむ……」

一輪「これは姐さんに任せた方が良さそうね。あいつにはもうしばらく辛抱してもらうわ」

星「いえ、もう大丈夫です。交代しますから……」


村紗「星、焦りは禁物ですよ。この命蓮寺はあなただけの場所ではないのですから」

星「!……は、はい」

ナズ「じゃあ私が聖様に――」


ジャリ…


聖白蓮「星ではありませんか。お散歩はもういいのですか?」

星「ひ、聖……!」

聖「あら、驚かせてしまったかしら? ごめんさない」

聖「でも今あなたがここにいると、参拝客はもっとビックリしてしまいますよ?」

聖「何しろ、命蓮寺の御本尊が二人になってしまっているのですから」


一輪「そうね、それはちょっとばかりマズいわね」

聖「とにかく早く本殿にお入りなさい。人目に付くといけません」

星「はい……」



ナズ「……大丈夫かな、ご主人」

村紗「大丈夫です。聖ならきっと何とかしてくれます」

一輪「一体星はどうしたの? まるで世界の終わりみたいな顔してたわよ?」

ナズ「それが、私もまだ事情を聞いていないんだ」

一輪「そうなの?」

ナズ「うん……今まで付き合いは長かったけど、あそこまで落ち込んだのは見たことがないね」


村紗「それだけ、星にとっては大事だったのでしょう」

ナズ「私もそう思うんだけど、どうも心当たりがないんだよなぁ」

一輪「どういうこと??」

ナズ「聖様が封印されてからというもの、ご主人は聖様の教えを守ることだけに心血を注いでいた」

ナズ「これは私が証言してもいい。ご主人にとって、聖様の仏教は生活の根幹そのものだった」

ナズ「だから命蓮寺と聖様以外のことで、ご主人が気落ちするようなことがあるとは思えないんだ」

村紗「……なるほど」

ナズ「ずっと側仕えしてた私にも、今回のご主人のことは皆目検討が付かないよ」

ぬえ「だったら確かめてみない?」


ナズ「えっ?」

一輪「ぬえ!? あなた、お勤めはどうしたの?」

ぬえ「今さっきようやっと解放されたところ」

村紗「これはまた厄介なタイミングで……」

ぬえ「それよりズルいじゃない! 私抜きで面白そうな話しちゃって!」

ナズ「面白いって……ご主人にとっては一大事かも知れないんだぞ?」

ぬえ「でも、あなたたちだって興味あるんでしょ?」

村紗「……」

ナズ「いや、だから……」

ぬえ「きっと今、星は誰にも明かせない胸の内を、聖だけにそっと打ち明けてるのかもしれないわ」

ぬえ「もし星がその秘密を明かしてくれなければ、きっと私たちはずっと知らないままにされてしまうわよ?」

ぬえ「だって聖って、すごく口が堅そうだもの!」


村紗「……やめておきなさい」

一輪「そうよ、変な気を起こすのはよしなさい」

ぬえ「何よ、イイ子ぶっちゃって。後で知りたいと思っても後悔するわよ?」

ぬえ「盗み聞きできるのは、この一瞬しかないんだから!」バッ

村紗「行かせん!」サッ

一輪「雲山! あの痴れ者を捕らえなさい!」

ナズ「ちょ!ちょっと落ち着けって! ここは境内だぞ!?」

村紗「くっ」

一輪「チッ……」

ぬえ「そうそう、大事な寺で大騒ぎしたら、聖が怒っちゃうわよ?」ニヤッ


村紗「考え直しなさい!ぬえ! 後悔するのはあなたの方ですよ!」

ぬえ「そんなムキになんないでよ。ただちょっと、今日一日分の報酬をもらってくるだけなんだから」バサッバサッ…

一輪「待て! 待てというのに!……ああもう!」

ナズ「……こっそり聞くだけなんだろう? 大丈夫なんじゃないかな?」

村紗「この命蓮寺の敷地内でそんな手は通用しません」

一輪「そうよ、すぐにでも…………雲山が終わったと言ってる」

ナズ「え?」

村紗「やれやれ、今日は余計な力仕事が増えてしまいましたね」

一輪「あの子、見た目相応に軽いといいんだけど……」

ナズ「何の話をしてるんだ?」

一輪「行けば分かるわよ」ザッ

ナズ「どこ行くんだ? そっちは聖様が……」

一輪「いいからあなたも付いてきなさい」



村紗「……聖、曲者はこちらで引き取りますゆえ、どうかお気をお鎮め下さい」

一輪「……」

ナズ「……何も返事がないようだけど?」

村紗「よし、行きましょう」

一輪「ええ」

ナズ「?」

村紗「あいつが忍び込むとすれば……この辺りか」チラッ


ぬえ「」


ナズ「あれ? 何でこんな所で寝てるんだ?こいつ」


村紗「一輪、脚の方を持ってもらっていいですか?」サッ

一輪「しょうがないわね……」

村紗「ナズーリン」

ナズ「うん?」

村紗「ぬえが起きて暴れ出さないよう見張っていてください」

ナズ「あ、うん」

村紗「これ以上聖を煩わせたくはない。運び終わるまでに目を覚ますようなら”もう一度”気絶させてください」

ナズ「え?……うん、分かった」


~命蓮寺 茶室~


聖「よっこらしょ」スッ

星「?」

聖「それで……えっと、どこまで話したかしら?」

星「蓮の一字が名前に入ることが、僧侶として大変名誉なことだと……」

聖「そうそう、その話だったわね」

聖「私の白蓮という名は、弟の命蓮から頂いたものだということは話しましたね?」

星「はい」

聖「その昔、命連がまだ健在であった頃、私は仏法者とは言いがたい生活をしていたわ」

星「面倒なことは全部命蓮がやってくれていましたから、私はこれ幸いとばかりに彼の陰に隠れて、毎日のんびり木の実をかじっていました」


聖「白蓮などと大層な名前を頂きながら、やっていることは居候と大して変わりありませんでした」

星「……」

聖「命蓮は何度も私に蓮の言葉の意味を根気強く語ってくれまたが、その頃の私にとってはまさに右から左でした」

聖「私が蓮の言葉の意味を知るようになったのは、命蓮がこの世を去ってからなのです」

星「……」

聖「……寅丸星、あなたは蓮がどのような意義を持っているかは知っていますね?」

星「はい、もちろんです」

聖「そうですね。あなたたちにはしつこいぐらい何度も聞かせてきましたから」

星「はい」

聖「私も自分の名が如何に尊いものであるか、よくよく理解しているつもりではあります。しかし……」

星「……?」


聖「仏法を行ずる者としては、知識があるかどうかはあまり重要でないのかも知れません」

星「……」

聖「いくら頭で承知しているつもりでも、肝心の心がそれに追いついてくれない……そんなことばかりです」

星「……聖、一体何の話を??」

聖「星、今こそ私は正直に申し上げましょう」

聖「私は未だ恐れているのですよ。いずれ訪れる自分の死の瞬間を」

星「!」

聖「自分がこの世界から消滅することではありません」

聖「あなたたちを置いたままこの地上を去らねばならないことを、私は恐れているのです」

星「…………」


聖「私の亡き後に競い起こる苦難を糧として、あなたたちは蓮のように輝かしく成長することでしょう」

聖「頭ではそれは分かっています。しかし心は納得してくれない」

聖「苦難と失意に沈む弟子たちを守ることができない。師匠としてこれほど歯がゆいことはありません」

聖「けれども、苦難というものは辛い時に現れるのが世の習い。それは蓮によって表される仏の慈悲でもあるのです」

聖「あなたたちはきっと私の死を乗り越えるのでしょう」

聖「今はただ、私自身がそれを納得できていないだけなのです」

星「そんな……あなたにはもはや、寿命など無いも同然」

星「何も、あなたが先に逝くとは限らないではありませんか」

聖「いいえ。老少不定とは言いますが、順番から考えれば私の方が先なのです」


聖「成仏に近づいた者から先に天に召されていく……これは永遠不変の仏法の法則なのですよ」

星「……」

聖「星、きっとあなたも今の私と同じような気持ちでいるのでしょう」

聖「ですがこの聖白蓮が断言します。あなたは必ずその苦難を乗り越えることができる」

星「……」

聖「今までは寺の一切をあなた一人に任せたままにしてしまいましたが、もうそんなことは必要ありません」

聖「命蓮寺の御本尊はしばらく不在としましょう。あなたはゆっくり休んでいなさい」

星「! そ、そんな大事にしなくても……」

聖「あなたにとっては既に大事のでしょう。顔を見れば分かりますよ?」

星「……」


聖「心配要りません。しっかり心の準備を済ませるまでは、誰にもあなたのことを追究などさせません」

聖「あなたがその悩みを皆に話せるようになるまで、私たちは静かに待つとしましょう」

星「……」

聖「私の話は終わりです」

聖「そろそろ夕飯の支度を手伝ってきますので、これで失礼します」スッ

聖「今日は山彦の子に料理を教える約束でしたからね」

星「……」

聖「……星」

星「は、はい!」

聖「何はともあれ、夕飯の時間にはちゃんと戻ってくるのですよ?」


聖「皆で集まり、共に食卓を囲む。これも大事な修行の一環なのですから」

星「……はい」

聖「今日はすいとんにしようかしら……」

星「…………」


星「ま、待って!」


聖「はい?」

星「……」

聖「……」

星「あ、あの……」

聖「はい」


星「聖、ちょっと待って……ください」

聖「……」

星「えっと……言うから……」

聖「言う……」

星「わ、私が悩んでること、今から言いますから……」

聖「そうですか……心の準備はもういいのですか?」

星「は、はい……」

聖「……」スッ


ナズ「おい! ぬえ!起きろってば!」ユサユサ

ぬえ「う……うん……?」

ナズ「早くしろ、お前も来るんだ」グイッ

ぬえ「えー? 何よ」

村紗「今日の夕食は聖の命令で全員参加ということになりました」

村紗「今回はあなたにも席に着いてもらいますよ?」

ぬえ「えー、面倒くさい。じゃあねっ!」バッ

ガシッ!

ぬえ「……あれ?」

一輪「今回ばかりは姐さんの強いご希望からのお達しなのよ? 逃げることは許さないわ」グググ…


ぬえ「ふーん……何かあったの?」

一輪「今日は赤飯が出るのよ」

ぬえ「セキハン?? 何それ」

村紗「めでたいことがあった時に食す特別なものですよ」

ぬえ「……それって肉は入ってるの?」

村紗「いいえ」

ぬえ「じゃあいらない」

ナズ「そういうわけにはいかないんだ。聖様から大変重要なお知らせがあるという話だからな」


ぬえ「お知らせ??」

村紗「十中八九、星のことでしょう」

ぬえ「え!?なになに!? その話詳しく!」ガバッ

一輪「あら、急に乗り気になったわね」

ぬえ「いいから何の話なのか説明してよ!」

ナズ「私たちだってまだ何も知らないさ。行けば聖様がお伝えになるはずだ」

ぬえ「行く行く! 早く連れてってよ!」

ナズ「コロっと態度を変えたね。一体何なんだ?」

ぬえ「謎は私だけの専売特許なのよ! 他の奴が勝手に横取りするなんて許せない!」

一輪「そういえばあなたはそういう妖怪だったわね」


一輪「……そうね、この際あいつも引きずり込んでしまいましょう」

ナズ「いいのかい? 部外者を勝手に寺に入れてしまって」

一輪「いいのよ。あの墓地だって命蓮寺の敷地内にあるんだから」

一輪「姐さんだって、寺にいる者全員って言ってたから間違いないわ」

村紗「なるほど、では善は急げですね」

村紗「刻限まであまり時間がありません。速やかに攫ってきましょう」

一輪「出動~!」ダダッ

村紗「陽動はお任せを。あなたには囲い込みをお願いします」ダダッ

ぬえ「何か面白そう! 私も私も!」バサッ…

ナズ「本当にいいのかなー……」タタタッ


村紗「そうだ、墓地にいる化け傘も連れて行きますか?」

一輪「……そうね、この際あいつも引きずり込んでしまいましょう」

ナズ「いいのかい? 部外者を勝手に寺に入れてしまって」

一輪「いいのよ。あの墓地だって命蓮寺の敷地内にあるんだから」

一輪「姐さんだって、寺にいる者全員って言ってたから間違いないわ」

村紗「なるほど、では善は急げですね」

村紗「刻限まであまり時間がありません。速やかに攫ってきましょう」

一輪「出動~!」ダダッ

村紗「陽動はお任せを。あなたには囲い込みをお願いします」ダダッ

ぬえ「何か面白そう! 私も私も!」バサッ…

ナズ「本当にいいのかなー……」タタタッ


~墓地~


多々良小傘「まだかなー」ソワソワ

小傘「張り込みを続けてもう2ヶ月目か。そろそろ誰かが通るかも……」ジー

小傘「今日こそは何かが来る! そんな気がする……!」


ガシッ!


一輪「捕まえた!」

小傘「へ??」

村紗「観念してください。大人しくしていれば手荒な真似は致しません」


小傘「え? 何?? どゆこと??」

ナズ「悪いね小傘、聖様からの集合命令なんだ」

ぬえ「じゃあ私掛け声担当で!」

一輪「撤収~!!」

ぬえ「わっせ! わっせ!」


ドタドタドタ…


小傘「え? え? え??」


~大広間~


聖「コホン……えー、本日は皆さんに大変良いお知らせがあります!」

星「……」モジモジ

ぬえ「早く!早く!」ソワソワ

聖「では申し上げます」

聖「何と、この命蓮寺の御本尊であらせられる寅丸星が、この度…………」

一輪「……」

村紗「……」

ナズ「……」

小傘「……」

幽谷響子「……」


星「…………」


聖「ご懐妊なされました~!」


一輪「えっ!?」

村紗「…………んっ??」

ナズ「はっ!?」

小傘「……??」

ぬえ「」

響子「カイニン?? って何ですか?」

聖「あらごめんなさい。あなたたちにはちょっと難しい言葉でしたね」

聖「つまり、星はお母さんになって、赤ちゃんを産むということですよ」


響子「赤ちゃん……毘沙門天様から子どもが産まれるんですか??」

聖「ええ、その通りです」

ぬえ「はぁ!? 何それ!あり得ない!」ガタッ

聖「うん?」

ぬえ「よ、妖怪が子どもを産むなんて、そんなことできっこないわ!」

村紗「……おい、よせ!」

一輪「……やめなさい! ぬえ!」

聖「あら、妖怪が子どもを産んでもいいじゃない」

ぬえ「良くない! 妖怪はそんな人間みたいなことはしないんだ!」

ぬえ「妖怪は自分とは別々の存在なんて作らない! そんなこと昔から決まってるんだ!」


聖「……少し静かにしなさい? 星は今大事な時期なのですよ?」

聖「そんな大声を出したら、お腹の子がビックリしてしまうではありませんか」

ぬえ「嘘だ! 星は嘘をついている! そうでもなければ」



聖「喝ッッ!!」



ぬえ「」バタッ

ナズ「あっ……」

聖「ぬえ、あなたはもう少し命蓮寺の御本尊に対し敬意を払うべきですよ」

聖「星が嘘をつくはずがありません。それはこの私が保証します」


村紗「……すみません、聖。無理やりにでも私たちが止めに入るべきでした」

一輪「もういい加減、山にでも捨ててこようかしら」

聖「いいえ、その必要はありません。彼女にもきっと分かってくれる時が来ます」

聖「その時を辛抱強く待つ、これもまた修行なのです」

一輪・村紗「……承知」

聖「コホン……子どもが産まれることはこの命蓮寺でも初めてのことですが、今こそみんなで力を合わせ、立派に育てて参りましょう!」

小傘「聖様~、赤ちゃんって、里にいる赤ちゃんのことですか??」

聖「そうですよ。きっと星も可愛い赤ちゃんを産むでしょう」ニコッ

響子「へえ~、山彦聞かせたらビックリしてくれるかな?」


聖「あまり大きい音を聞かせてはいけませんよ? 耳が壊れてしまいますからね」

響子「ちえ~……はーい」

小傘「えっと……じゃあベロベロバーはしてもいいですか?」

聖「それはいいですね! 赤ちゃんはベロベロバーが大好きですから」

聖「……星、小傘が時々子どもをあやしても構いませんか?」

星「わ、私は別にいいですけど……」

聖「良かったですね! お母さんからお許しが出ましたよ!」

小傘「やったぁ! えへへ、私ベロベロバーには自信あるんだ!」

ナズ「……聖様」

聖「はい?」

ナズ「盛り上がっているところ申し訳ありませんが、ちょっとよろしいでしょうか?」


聖「はい何でしょう」

ナズ「父親は誰なんですか?」

聖「え?」

ナズ「子を成すには、雌雄のつがいとなる必要があるはずです」

ナズ「まさかご主人は野良猫じゃあるまいし、よそから見知らぬ種をもらってきたということはないでしょう」

ナズ「一体いつの間に相手を見つけたのですか?」

聖「そいういえばその辺りは聞いてませんね」

星「聖、ちょっと……」

聖「うん? ……ふむふむ……ほほう」

ナズ「……」

聖「気が付いたらお腹に赤ちゃんがいたそうです」


ナズ「!!? そんなバカな!」

ナズ「あ、相手もいないのに、子どもだけできたと申されるのですか??」

聖「そうは言いましても、永遠亭のお医者様のお墨付きだそうですから、間違いありませんよ?」

ナズ「どういうことなんだ……」

村紗「ナズ、そもそも妖怪が妊娠すること自体が前代未聞なのです」

村紗「仮に父親がいなかったとしても、驚くには値しませんよ」

ナズ「……」

一輪「……それより聖様」

聖「はい?」

一輪「子どもが産まれた後のことはまた別に考えるとして、産まれるまでは如何致します?」


一輪「我々にはこのようなことについては知識も経験もあまりに乏しい」

聖「そうですね」

一輪「餅は餅屋と言います。ここは一つ、先の永遠亭に今後の助力を求めていくべきだと思いますが?」

聖「そのことなのだけど……私は永遠亭は遠慮した方が良いと思うのですよ」

一輪「えっ……!?」

一輪「なぜですか? 妖怪が身篭るというこの珍事、もはや永遠亭の永琳でもなければ、最適解を見出すのは不可能ではありませんか?」

聖「うーん、あの永琳というお医者様が医学に大変熱心であることは、私も知っていますよ?」

一輪「それなら……」

聖「だけどほら、あの方の場合はちょっとそれが行き過ぎてると思うのです」

一輪「と言いますと?」


聖「あの方にとっても、妖怪の妊娠なんて初めてのことだと思います」

一輪「そうでしょうね」

聖「だから……何ていうか…………星の子を解剖したくなって、薬でもってわざと流産させるとか……」

一輪「そんなまさか……永琳は里でも評判の名医なのですよ?」

聖「分かりませんよー?」

小傘「カイボウって何ですか??」

村紗「2人とも、ちょっと……」ゴニョゴニョ

小傘「……!?」

響子「……!!」

聖「そういうことをやりそうだって言いたいのではありませんよ?」

聖「ただ、もしかしたらそういう可能性もあると……」


響子「わ、私永遠亭に行くの絶対反対です!」

小傘「私も! 赤ちゃんにベロベロバーしたいんです!」

村紗「……承知しました。では永遠亭は選択肢として除外しましょう」

一輪「そうね。ここでいつまでもすったもんだしてても仕方ないわね」

聖「2人とも分かってくれて嬉しいです……星もそれでよろしいですね?」

星「……」コクッ

ナズ「……」

星「ではそろそろ宴の再開と参りましょう!」

聖「今日は前祝いです! 2人とも今日は好きなだけ酒を飲んでも構いませんよ! 私が見逃します!」


一輪「……」ピクッ

聖「今はこんなものしかありませんが……」ゴソゴソ


ゴトッ

大吟醸【明鏡止水】


一輪「……」チラッ チラッ

村紗「……」ゴクッ

聖「ひとまず今日はその酒で喉を潤すといいでしょう」


コポコポ…


聖「よっこいせ……さあどうぞ!」


一輪「あら? 水のようなものがあるわね。呑んでも構わないのかしら?」グビッ

村紗「……頂きます」グビッ

ナズ「そんなモノ、一体この寺のどこに隠されていたのですか?」

聖「うふふ、秘密です」

聖「今はお酒はそれだけですが、本祝いではもっと良い酒を用意しましょう」

聖「私が聞いた噂によると、白玉楼には凄いお酒が隠されているそうですね」

聖「星の子が産まれたら、是非とも西行寺さんにそのお酒を頂きに参りましょう!」

聖「しかし西行寺さんもタダでは譲ってくれないでしょう。何しろ凄いお酒だそうですから」

聖「……ですので、その時は命蓮寺全員で白玉楼に攻め込み、西行寺さんを倒してしまいましょう!」

ナズ「!?」


響子「それやったらビックリしてくれますかぁ?」

聖「ええ、それはもう! 西行寺さんも大慌てで腰を抜かしてしまいますよ?」

響子「ホント!? じゃあ私頑張ります!」

小傘「私も!私も!」

ナズ「他の者も構いませんね?」

村紗「仰せのままに」

一輪「……まあ仕方ないわね。星の祝いだし」

ナズ「はあ、結局また喧嘩になるのか……」


~後日~


一輪「えらく張り切っていたわね、ぬえのヤツ」

村紗「そうですね。聖は一体何と説得されたのでしょう」

ナズ「そんなのは後でお聞きすればいいさ。それより、方角はこっちでいいのかい?」

一輪「ええ、間違いないわ」

星「……これは、どこへ向かっているのですか?」

ナズ「心配しなくてもいいよ、ご主人。永遠亭には行かないから」

ナズ「ただこっちの方に物知りな奴がいると聞いてね」

星「はぁ……」

村紗「竹林の賢者か……無駄足にならないと良いのですが」


ナズ「何にしても会ってみないことには――」


ドゴォン!!


星「!?」

ナズ「むっ!?」


ドサッ…

チルノ「」


一輪「お出ましのようね」

藤原妹紅「……何だ? お前たち、私に何の用かしら」


ナズ「お初にお目にかかる。私は命蓮寺のナズーリン」

ナズ「あなたは竹林の賢者、藤原妹紅とお見受けする」

ナズ「この度、我らは是非あなたの知恵を――」

妹紅「真っ直ぐ私の家に向かって来たということは……お前たち、人間じゃないわね!」

ナズ「……?」

妹紅「なるほど、刺客にしてはやけに弱いと思ったけど、そいつはただの偵察役というわけね」

ナズ「ん? いやちょっと待って」

妹紅「甘いな! 数を揃えれば仕留められるとでも思ったのか!?」

妹紅「覚悟しろ! お前たちの無残な亡骸を雇い主の元へ送り返してやる!!」ゴゴゴ……

ナズ「お、おい!ちゃんと話を聞け!」


一輪「……どうやらタイミングの悪いところに出くわしてしまったみたいね」

村紗「構えなさい!ナズ! 予定通り護衛の任を果たすのです!」

ナズ「ああもう! またいつもの展開か!」

ナズ「ご主人、下がっていろ! 今回は少しばかり派手になりそうだぞ!」

星「は、はい。よいしょ……よいしょ……」ズルズル…

ナズ「そんな妖精など放っておけ!」

星「そ、そういうわけには……」


妹紅「はぁぁぁぁ…………!!」

ズズズズズ……


村紗「来るか……!」ダッ

一輪「行くわよ、雲山!」タンッ

ナズ「力づくでも大人しくしてもらうぞ!」ダダッ



~少女戦闘中~


村紗「くっ……」ガクッ

妹紅「……ん?」

妹紅「入道、ネズミ、船幽霊……あんたたち、もしかして命蓮寺とか?」

ナズ「はぁ、はぁ……最初からそう言ってるだろう!」

妹紅「あそこの連中は比較的大人しいと聞くわね。もしや刺客ではないのかしら?」

一輪「違うわよ。一体何を勘違いしてたのかしら?」

妹紅「いやぁそれは済まなかったわね。ちょいとこっちの事情で、命を狙われている立場なもんで」

妹紅「……で、何の用?」

ナズ「はぁ、また最初から説明するのか……」


星「終わりました……?」スッ

村紗「ええ、何とか」

妹紅「ん? この前の虎妖怪じゃない」

星「ど、どうも……」

妹紅「何で腹を押さえてんの? 悪いモノでも食った?」

ナズ「もう一度全部説明してやるから、今度こそちゃんと聞いておけよ?」


~少女解説中~


妹紅「何っ!? 妖怪が妊娠した!?」

一輪「ええ、そうよ」


妹紅「……いや待て待て。見たところ、まだ腹も膨れていないようだけど、本当に妊娠したって分かるの??

村紗「私たちには何とも言えませんが、永遠亭の医者はそう診断したのだそうです」

妹紅「永琳か……あいつは思い込みの激しいところはあるけど、医術の腕前だけは確かだったはず」

村紗「竹林の賢者と呼ばれるあなたなら、このようなことについて何かご存知なのではありませんか?」

妹紅「うーん、私もそれなりに長く生きてはいるけど、妖怪が子どもを作るなんて話は聞いたことないわね」

ナズ「賢者でもダメか……」

妹紅「……その賢者とかいうあだ名は、里の奴らが勝手に付けただけよ」

妹紅「私の知ってるのは、この竹林と少々の魔法ぐらいのもの」

一輪「そうなの?」

妹紅「そうよ……いやちょっと待った」


ナズ「何か心当たりでもあるのか?」

妹紅「私の知人に歴史に詳しいヤツがいてね」

妹紅「もしかしたら、あいつなら何か調べられるかも知れない」

ナズ「ふむ……その者は今どこに?」

妹紅「里で寺子屋とかいうものをやってるわ」

ナズ「ふむ、確かそこならもう行ったことがあるね」

妹紅「そこで一番偉そうにしてるから、行けばすぐに分かるはずよ」

ナズ「なるほど」

妹紅「……しかし私がこう言うのも何だけど、そういうのは永遠亭に頼むのが良いんじゃない?」


一輪「永遠亭には頼らないというのが、姐さんの方針なのよ」

妹紅「……何で??」

一輪「何でも、永琳は危険人物かも知れないって言ってて……」

妹紅「それは良い!」

妹紅「いやあ、なかなかどうして、物の分かるヤツがいるものね!」

ナズ「?」

妹紅「そうそう! あそこの連中は揃いも揃って性悪としか言いようがないからな!」

星「……お知り合いなのですか?」

妹紅「実を言うと、私の命を狙ってくる刺客は、まさにその永遠亭の主が差し向けて来るのよ」

妹紅「そいつが放った刺客を私が返り討ちにする。そんなことをもう何百年も繰り返してるわ」

村紗「何とも物騒な話ですね」


妹紅「ま、私の話は止めておこう。とにかく、妊娠のことは寺子屋の主人に聞いて」

妹紅「あいつは何千年、何万年も遡って過去の歴史を見ることができるらしい」

妹紅「あいつなら、妖怪の妊娠なんて出来事も、あるいは過去の歴史から見つけてくるかも知れない」

ナズ「そうか……貴重な情報提供、感謝するよ」

妹紅「あんたたちの主によろしく!」


~少女移動中~


村紗「……星、そこに石が落ちてます。気を付けてください」

星「はい、よいしょ……っと」ヒョイ

一輪「……」

ナズ「……ご主人、どこまで連れて行く気なんだ? その妖精」

星「うーん、とりあえずこの子の住処までは……」

ナズ「そんなことしてやる義理なんてないだろう」

ナズ「妖精なんて、放っておけば自分で勝手に帰るんだろうし」

星「それはそうですけど、ちょっと見捨てて行けなくて……」

一輪「いいじゃない。仏様へのお布施?……だと思えば」


ナズ「お布施ねえ……」

ナズ「そもそも妖精を助けることなんて、善行のうちに入るのか?」

ナズ「妖精なんて、何の目的もなく日々を気ままに過ごしているだけじゃないか」

村紗「……」

ナズ「私としては、助けたところで大して意味があるとは思えないけどなぁ」

星「うーん……何となく……何となく助けたくなっちゃったんですよ」

星「それにほら、この子見た目よりずっと軽いんですよ?」ユサッ

ナズ「いや、揺らされてみても分かんないけど」

一輪「大丈夫よ。星のことは私たちがちゃんと見てるから」

ナズ「別に連れて行くのが悪いとは言わないけどさ」


村紗「……見えてきましたよ。里に到着するまで、もう間もなくですね」

一輪「確か寺子屋だったわよね?」

ナズ「寺子屋の……名前何だっけ?」

村紗「そういえば肝心の名前を聞くのを忘れていましたね」

一輪「別にいいわよ。行けば分かるって言ってたし」

星「名前だったら確か……」

チルノ「…………ふぇ?」

チルノ「ここどこ……?」キョロキョロ

星「あ、目が覚めましたか?」


星「まだ寝ててもいいですよ? ちゃんと住処まで運んであげますから」

チルノ「……」

チルノ「」クテッ

一輪「……あら、珍しいわね。妖精が他人の言葉に従うなんて」

ナズ「ただ単に眠かっただけじゃないか?」

村紗「今の私たちにはどちらでもいいことです」

村紗「それよりもまず、寺子屋を目指さなければ」

ナズ「せめて運び終わるまでは、大人しくしててもらいたいものだな」


村紗「……一輪、雲山を寺子屋に先回りさせられませんか?」

一輪「もうやってるわよ……ん?」

ナズ「どうした?」

一輪「早速見つけたみたいよ? 寺子屋で偉そうにしてるのがいるって」

村紗「今度はすんなり事が運ぶといいですね」

ナズ「あ~……何か今、悪い予感がしたぞ?」


~里 寺子屋~


河城にとり「さあ、寄ってらっしゃい!見てらっしゃい! 河城産業の新発明だよ~!」

にとり「今度の発明は何と! 皆さんお待ちかねの……!」


ナズ「……あれがそうなのか??」

一輪「雲山はそうだと言ってるわね」

村紗「あまり知的な感じには見えませんね」

星「いえ……あれは違う人で……」



にとり「……ん? ああそうとも! 驚けよ!?幼き盟友よ!」

にとり「何とこれは、あらゆる知的生命体が求めてやまなかった夢の技術!」

にとり「名付けて『頭が良くなる装置』だぁあ~!!」

にとり「まずこれをお前の頭にこうやって被せてだな……」

カポッ…


星「あ、あれは大丈夫なものなんでしょうか??」

ナズ「あのリュックサックは何をしてるんだ?」

一輪「随分と不細工な帽子ね。ファッションとしては挑戦し過ぎじゃないかしら」

村紗「……どうも帽子ではないようですね」


にとり「喜べ、幼き盟友! お前を私の新発明の、栄えある体験者1号に認定してやる!」

にとり「これでお前たちの先生をアッと言わせてやろうじゃないか!」

にとり「設定は、そうだな~……ここは発明記念も兼ねて、最高の『天界』レベルにしとこう!」

にとり「ちょいと刺激は強いかも知れんが……まあ盟友なら大丈夫だろう!」

カチカチカチ…


星「……村紗」

村紗「ん?」

星「この子をお願いします!」サッ

村紗「任されよう」スッ

星「行って来ます!」ダダッ

ナズ「あっ? ご主人!何を……」


にとり「さあ行くぞ! スイッチオ―――」

星「ダメぇっっ!!」

スポッ…

にとり「あっ!? 何するんだあんた!」

星「……いや、あの」

にとり「私の商売を邪魔する気かっ!?」

星「そ、そんな……私はこの子が心配なだけで……」

にとり「……そうか、分かったぞ?」

星「え?」

にとり「お前、天狗だな!?」


にとり「卑怯なヤツらめ! 私の一人産業革命に恐れを為して、とうとう実力行使と来たか!」

星「え……ええっ??」


村紗「……マズいですね。あのリュック、ここで弾幕を放つ気ですよ」

ナズ「何!? くっ!正気の沙汰じゃないな!」ダダッ

一輪「流れ弾が怖いわ!速攻でやらないと! 雲山!!」ダダッ

村紗「援護します……!」ググッ


にとり「私はお前たちの卑劣な暴力には屈しない! 返り討ちにしてやるぞ!」サッ

にとり「…………んっ?」チラッ




バシュバシュバシュバシュバシュッッ!!

ヒュンヒュン! ヒュヒュン!ヒュン!

ドドドドドドドド……!!


にとり「う……うわぁぁああああ!!??」

星「さ、こっちに行きましょうね?」ススス…


ドッ…………ゴォォォォン…………


にとり「」



星「ケホッ……大丈夫ですか? まだ息を大きく吸い込んではいけませんよ?」

一輪「その場の勢いで退治してしまったけど、これで良かったのかしら?」

村紗「問題ありません。元よりこのリュックは正気ではありませんでした」

ナズ「しかし寺子屋もろとも煤だらけにしてしまったな。これでは話を聞くどころじゃないぞ?」

チルノ「……ハッ!?」パチッ

村紗「あ、起きましたか?」

チルノ「むむっ!? お前誰だ!」バッ

スタッ

村紗「?」

チルノ「さてはあたいから最強の座を奪いに来た妖怪だな!?」


ナズ「厄介なのが目を覚ましたな……」

一輪「善行を施しても返って来ないといういい見本―――」


ドカッ!!


チルノ「」パタッ

ナズ「あれ?」

上白沢慧音「貴様ら! 何をしている!」

慧音「ちょっと目を離した隙に寺子屋が黒コゲだと!? 一体何の騒ぎだっ!!」

一輪「文句ならそこのリュックに言ってちょうだい」

ナズ「そうとも。私たちは最悪の事態を回避したんだぞ?」

慧音「何?? 何をゴチャゴチャと……!」


にとり「はっ!?」ガバッ

慧音「うん?」チラッ

にとり「わ、私の新発明……!」キョロキョロ

にとり「あ、あった!」ガシッ

慧音「……」

にとり「よぅし! もう一度……!」

カポッ!

星「ちょ、ちょっと! 止めてくださいってば!」

慧音「……」

スポッ…

にとり「あれっ? だっ、誰だ!」クルッ


慧音「……おい貴様、私の生徒に一体何をしている?」

にとり「邪魔するな! 今から天才を作るところなんだぞ!?」

慧音「天才? どういうことだ」

にとり「そいつはお前たち人間の夢が、私という大発明家を経由してこの地上に現れたる奇跡!」

にとり「その名も『頭が良くなる装置』だ!!」

慧音「……ほう、興味深いな」

にとり「そうだ! そいつを里に広めてやれば、私の評判はウナギ昇りだ!」

慧音「ふむ、これはどうやって使うものなんだ?」

にとり「それはだな、頭に被せてそこのスイッチを押すだけのお手軽設計だ!」

慧音「ほう、ここか」


にとり「設定は最高レベル! 一体どんな天才が生まれるのやら、この私ですら……」

慧音「ではまず貴様で試してみるとしよう」

カポッ!

にとり「はえ?」

カチッ



バチバチバチバチバチバチバチッッッ!!!

「がぁあぁぁああああああッッ!?!?」




村紗「な、何だこれは!?」

星「あ、あわわわわ……」

ナズ「眩しい……」

にとり「」バタッ

慧音「こんなガラクタで頭が良くなるだと? 人間の知性をいうものを舐め切っているとしか思えんな」

一輪「嫌だわ、焦げ臭いわね」

慧音「……で、お前たちは何者だ? この寺子屋で何をしていた」

一輪「寺子屋に陣取る悪い妖怪を退治していたのよ」

慧音「……?」

ナズ「……なるほど、妹紅の言っていたのはあなただったのか」

慧音「妹紅だと?」クルッ

慧音「今お前は妹紅と言ったか?」


~少女解説中~


慧音「……なるほど、私の留守に代わって、そこの曲者を懲らしめてくれたのか」

慧音「これは礼を言わねばならんようだな。感謝する。そして、先ほどの非礼を詫びよう」

村紗「しかし外壁を煤だらけにしてしまいました。その点については、こちらにも非があります」

慧音「いいさ、そんなものは掃除すればどうとでもなる。大した問題じゃない。それより……」チラッ

慧音「寅丸星……だったな? 確か」

星「あ、はい」

慧音「あなたがうちの生徒を守ってくれたのか……感謝する」ペコッ

慧音「あなたが居てくれなかったら、取り返しの付かないことになるところだった」

星「あ、いえいえ……」


ナズ「ご主人の勘が良い方向に出たようだね。危ないものだってすぐに分かったのかい?」

星「いえ……ただ、何となくですよ、何となく」

ナズ「ふむ……」

一輪「そんなことより早く本題に入りましょう? 肝心の話については、まだ一歩も進んでないじゃない」

村紗「そうですね。よろしいですか?上白沢」

慧音「ケーネでいい。名字では呼びにくいだろう?」

村紗「承知しました」

慧音「……しかし妹紅が私の所に人を寄越すとはな。珍しいこともあるものだ」

星「珍しい?」

慧音「ああ、そんなことは今まで無かったことだ。よほどお前たちのことが気に入ったと見えるな」


星「……あの妹紅という方は、人見知りなのでしょうか?」

慧音「人見知りどころじゃない。あれはほとんど対人恐怖症に近い」

星「はぁ」

慧音「おかしいだろう? あんな恐ろしい魔法を自在に扱える癖に、当の本人は見知らぬ者に会うのが一番怖いときている」

星「私は……妹紅さんの気持ちが、少しだけ分かるような気がします」

慧音「……ん? そうか?」

ナズ「コホン……ご主人?」

星「あ、すみません……どうぞ」サッ

ナズ「どうぞじゃないよ。自分の話だろう?」

星「そ、そうでした。そうでしたね、はい……」


慧音「妹紅でも分からないことと言っていたな。そんなに昔のことが知りたいのか?」

星「昔かどうかは分かりませんが……ちょっとよろしいですか?」

慧音「ん?」スッ

星「……」ゴニョゴニョ

慧音「……ふむ……うん??」

慧音「……何?? もう一回言ってくれないか?」

星「……」ゴニョゴニョ

慧音「そ、そんなことあるはずが……しかし、永遠亭の医者が診断を誤るはずがないし……」

星「……終わりです」

慧音「ふぅむ……何とも信じがたい話だ」


慧音「疑うわけじゃないが、それは本当に本当の話なんだな?」

星「……」コクッ

慧音「う~ん……」

村紗「どうですか? 過去に星のような例はありませんでしたか?」

慧音「いや、今まで歴史は数え切れないほど見てきたが、そんなことは一度だって無かったはずだ」

慧音「……もちろん、稗田阿求が遺したものの中にもな」

ナズ「成果なし、か」

慧音「いや、逆の例ならば無いこともない」

星「え?」


慧音「推測だが、妖怪や幽霊からの子種を人間の女が授かったと思しき事例はあるんだ」

一輪「へえ、そんなこともあるのね」

慧音「だが妖怪が身篭ることはあり得ない」

慧音「そもそも妖怪には、脆弱な胎児を長期間体内で保つという機能自体、存在しないからだ」

慧音「仮に奇跡的に身篭ったとしても、瞬く間に体外へと排出されてしまうはずだ」

星「……!!」

星「ど、どうしましょう!ナズーリン!」

ナズ「落ち着きなよ、ご主人」

慧音「まあ話は最後まで聞け……あなたのお腹の子は、今どれくらい育っているんだ?」


星「そうですね、永琳さんは二ヶ月ほどと仰っていました」

慧音「はっはっは! それならもう大丈夫だ!」

慧音「胎児を保てない体であれば、二ヶ月どころか、十秒だって持たないさ!」

星「そうなんですか??……本当に?」

慧音「ああ、そうだ。妖怪の体というのは、自分以外の血肉は絶対に受け付けない」

慧音「特に、他の妖怪の体組織が混ざり込む。これが妖怪にとってはのたうち回るほどの苦痛なんだ」

慧音「過去の歴史には、自分以外の妖怪の血肉を傷口に擦り込まれるというのが、拷問手段の一つとして定着していた時代もあったのだぞ?」

星「……」

慧音「要するに、あなたは無事に子どもを産める可能性が非常に高い……ということだ!」ニコッ

星「はぁっ……良かった……」クテッ


村紗「しかし妙な話ですね」

慧音「ん?」

村紗「妖怪には人の肉を食う者が数多くいるではありませんか」

村紗「彼らは人間の血肉など取り込んで平気なのですか?」

慧音「それは私も不思議に思っていたところだ」

慧音「しかしよくよく調べてみると、どうもやつらは厳密には取り込んでいないらしいんだ」

村紗「……?」

慧音「妖怪というのは、いくら体内に異物を取り込んでも、それを外へ排出することがない」

慧音「しかるに、やつらの体重は今まで摂取してきた総量よりもはるかに軽い」

慧音「ならば、取り込んだはずの異物はどこへ消えたのか……?」


村紗「……??」

慧音「……私はこう思う」

慧音「やつらは人間の肉を食うと、喉元を通り過ぎた瞬間に、それが何らかの作用で煙のように消えてしまうんだ」

ナズ「……」

一輪「随分大胆な仮説ね」

慧音「しかしそうとしか考えられない」

慧音「そもそも人間のように栄養を摂取する必要があるのかどうかも疑わしい」

慧音「この間私が捕らえた妖獣は”お腹が減って仕方がなかった”などと言いながら、両手で胸を押さえていたんだぞ?」

村紗「ふむ……」


ナズ「まあその辺りのことはいいさ。どうせ私たちには関係のないことだ」

一輪「そうね。ひとまずちゃんと産めるってことが分かっただけでも、大きな成果だわ」

ナズ「今日はもう帰ろう。そろそろ寺に戻らないと」

村紗「そうですね。後はそこの2人をどうするか……」チラッ

チルノ「スー……スー……」

にとり「」

一輪「ハゲの方は山に捨てればいいわ。どうせその辺が住処なんだろうし」

慧音「そうしてもらえると助かるよ」

一輪「雲山、行きなさい」サッ

フワッ…


星「この子は……私が責任を持って、住処に帰しに行きます。皆さんは先に戻っていてください」

ナズ「気持ちは分かるけど、そう言われても困るよ。私たちはご主人の護衛を申し付けられているんだからね」

一輪「いいじゃない。ついでだし、付き合うわよ」

村紗「私も別に構いません」

星「……すみません。お手数かけます」

一輪「そんなことより、その子の住処はどこにあるのか分かってるの?」

星「……」

ナズ「まあ、そんな事だろうと思ったよ」

ナズ「おい、起きろ!」ペチペチ

チルノ「んん……?」


ナズ「お前の住処はどこだ? 連れてってやるから正直に言え」

チルノ「出たな! 灼熱妖怪!」バッ

星「あっ」

チルノ「今度はさらに油断しないぞ! 覚悟しろ!」スタッ

ナズ「……何を寝ぼけてるんだ?」

慧音「聞いても無駄だぞ? 妖精は絶対に――」

星「……」ヒョイ

チルノ「あっ?」

星「あなたの帰る場所を教えてもらえませんか? 今から連れて行ってあげますから」

チルノ「……あっち」サッ

慧音「!?」


星「そうですか。では参りましょう」

チルノ「……」コクッ

ナズ「何だ? 急に大人しくなったな」

チルノ「むっ!?」クルッ

チルノ「はっはっは! 命拾いしたな!灼熱妖怪!」

チルノ「…………お前誰だ??」

一輪「しゃべってたらキリがないわ。早く行きましょう」

星「じゃあ手は繋いでおきましょうね?」キュッ

チルノ「……」キュッ

ナズ「ではそろそろお暇させてもらうよ」

慧音「……そうか。また何か聞きたい事があれば、遠慮なく来てくれて構わん」


~少女移動中~


星「……」チラッ チラッ

ナズ「……ご主人、やけにあの妖精にご執心のようだね」

星「う~ん、何だか黙って置き去りにしていったみたいで、気が引けるというか……」

一輪「ちゃんと住処に戻して、その上お菓子まで与えたんだから、それで充分よ」

ナズ「そうだぞ? ご主人は自分の子がいるんだから、今はそっちの心配をした方がいい」

星「そうですね……」

一輪「心配しなくても、お菓子を食べ終わる頃には全部忘れてるわよ」


多くの二次創作では妖怪が子供を産むのに何の疑問も抱かれていないが……このSSはその辺甘くないようで


~後日~


ナズ「ぬえのヤツ、随分思わせぶりな態度だったな」

一輪「放っておけばいいわ。きっと私たちに話してしまいたくて仕方ないのよ」

ナズ「まあどうせ大したことは隠してないだろうしな」

村紗「情報収集はどうしますか? 紅魔館には魔法に詳しい者が一人いるとか」

一輪「紅魔館か……あそこへ行くのは骨が折れるって噂なのよね」

村紗「仕方ありません。彼女たちにもメンツというものがある」

村紗「部外者が気軽に立ち寄れる場所であっては、威厳も何もありませんからね」

一輪「厄介な連中だわ」

ナズ「……こう言うのは何だが、もういいんじゃないか?」


村紗「ん?」

ナズ「いつまでもご主人の子どもばかりに構ってられないぞ?」

ナズ「それに出産ははるか先の話なんだ。そう急ぐ必要もないだろう」

ナズ「私たちが何日も寺を留守にするというのも良くないだろうし……」

村紗「……」

ナズ「まずはご主人のお腹が大きくなるのを待ってからにしないか? それからでも遅くはないだろう」

一輪「早い話、星が本当に妊娠したのかどうかが、そもそも怪しいってこと?」

ナズ「……ご主人を疑うわけじゃないんだが、どうも今の私たちは空回りしているような気がしてね」


村紗「なるほど、ナズの言うことももっともです」

村紗「ならば今日は永遠亭に出向いてみませんか?」

ナズ「永遠亭??……しかし、あそこへご主人を行かせたらマズいんじゃないか?」

村紗「もちろん星は連れて行きません。私たちだけで確かめに行くのです」

村紗「妊娠の真偽については、私も気になっていたところですから」

一輪「……そうね。まずはその辺りをハッキリさせないと、どうも調子が狂ってしまうわ」

ナズ「うん、じゃあ……」


ガラッ…

聖「失礼、誰か手の空いている者はいませんか?」


一輪「あれっ? 姐さん?」

聖「お話の途中でしたか? これはすみません」

村紗「いえ、構いません。何かご用ですか?」

聖「小傘と響子を見かけませんでしたか?」

ナズ「あの二人は……今日は見てませんね」

聖「朝の勤行を済ませてから、ずっと姿が見えないのです」

聖「二人してどこかへ散歩しに行ったのでしょうか……何か知りませんか?」

一輪「いいえ? 私たちはそういう話は聞いていませんね」

聖「散歩に行ってるぐらいならいいけど、迷子になっていたら大変です」

聖「一輪、ナズーリン。急ですみませんが、ちょっと探してきて欲しいのです」


一輪「承知しました」

ナズ「はぁ……何やってるんだ? あの二人は」スッ


~少女移動中~


ナズ「何か見えるかい?」

一輪「それっぽいものは何もないわね。そっちはどう?」

ナズ「てんでダメだね。別の場所に移った方がいいかも」

一輪「……ちょっと待って。雲山が何か近づいて来るって言っている」

ナズ「え?」

一輪「まっすぐこっちに来てる……左だ!」


バッ!

東風谷早苗「おや?? こんな所に妖怪が!」


ナズ「! お、お前は守矢の!」

早苗「寺に従するあなたたちが、なぜこのような場所に?」

一輪「今私たちは人探しを……」

早苗「もしやまた何か悪巧みでもしているのですね!? これは退治しなくてはなりません!」

ナズ「言いがかりはよせ! それに、どっちかと言えばむしろ」

早苗「問答無用! 覚悟しろー!!」

一輪「雲山! 迎え撃て!」

ナズ「く、くそっ! またかぁっ!!」


~少女戦闘中~


一輪「くっ! 引くわよ!ナズーリン!」ババッ

ナズ「もうやってらんないよ!」バッ

早苗「はっはっはー!! 思い知ったかぁ!悪行妖怪めー!」


~少女逃亡中~


ナズ「……はぁ、大変な目に遭ったな」

一輪「また会うと厄介だわ。今度は迂回して行くわよ?」

ナズ「しかし聖様の仰る通りだな。あれじゃ辻斬りと大して変わらないぞ?」

一輪「そうね。やはり言いつけ通り、まっ先に逃げるべきだったわ」


ナズ「そういや、あと何人かいなかったっけ? 要注意人物ってのが」

一輪「紅白の巫女……は、あなたも見たことあるわね。あともう一人が誰だったか……」

ナズ「確か黒い姿をしている……」

一輪「魔法使いと言っていたわね。三角帽を被ってて……」


霧雨魔理沙「おっ!出やがったな! ちょうどいいところに来たじゃないか!」ニヤッ


一輪「そうそう。ちょうどこんな感じの……」

ナズ「」

一輪「…………雲山ッ!!」バッ


魔理沙「よぉし! お前らを新魔法の実験台にしてやるぜ!」

ナズ「わ、わわわっ! に、逃げっ」

一輪「固まってたら格好の的よ! 別々の方向に―――」

魔理沙「食らえ! マスタースパークMkⅡ!!」


ドシュゥゥゥン……!!


魔理沙「なーんだ、まるで歯応えがないな。これじゃ実験台にもなりゃしない」

魔理沙「もっと強いヤツを探しに行くぜぇ!」ヒュンッ


ナズ「」ボロッ…

一輪「」ボロッ…


~少女休憩中~


ナズ「あいたたた……」

一輪「……う~ん、そんなに日頃の行いが悪かったかしら?」

ナズ「今日はいわゆる、ブツメツってやつなのかも知れないね」

一輪「何それ?」

ナズ「里で流行ってる新種の占いらしい。良くないことが立て続けに起こる日のことを言うんだとさ」

一輪「ふぅん。里の人間ってのは、くだらないことばかりよく思いつくのね」

ナズ「それにしても、たかが二人探しに行くだけでとんだ一苦労だよ」

ナズ「早く連れ戻して命蓮寺でゆっくりしたいよ」


一輪「さすがにもう今日は出くわさないでしょう」

一輪「たった一日で三人目まで出てくるなんて、そんな珍事は有りっこないわ」

ナズ「…………何か今、とてつもなく嫌な予感がしたけど、気のせいだよね??」


ザッ…

博麗霊夢「出たな物の怪! 私が成敗してやる!」


一輪「ナズーリン! 別々の方向に逃げるわよ!」ダッ

ナズ「やっぱりこうなるのかぁっ!!」ダダッ


~少女逃走中~


一輪「……何とかまいたみたいね」

ナズ「もうここまで来た理由も忘れてしまったよ。何で私たちはこんな所にいるんだっけ??」

一輪「そうね、確か寺の仕事をサボった新人を捕まえようとしてたのよ」

ナズ「ああそうだったな。しかし正直、もう今日はダウジングする気力も残ってないよ」

一輪「今日は本当にブツメツなのかも知れないわね……仕方ない、もう帰りましょう」

一輪「あの二人だって、まさか今日明日で討伐なんてされないでしょうし」


~少し前~


小傘「ごめんくださ~い」

響子「ごめんくださーい」


キィ…

魂魄妖夢「……どちら様ですか?」


小傘「あっ、こんにちわ~」

響子「こんにちわー」

妖夢「あなたたちは、確か命蓮寺の……」


小傘「え、えーっとぉ……」

小傘「……あれ? 何だっけ??」

妖夢「……?」

響子「……」ヒソヒソ

小傘「あ、うん、そうだった」

妖夢「用が無いならお帰りください」スッ

小傘「待って!」

妖夢「?」

小傘「えっと……みょーれん寺の毘沙門天様が、赤ちゃんを産むことになりましたぁ!!」


妖夢「…………」


妖夢「!?」


小傘「それで……何だっけ?? カイ……祝い……えっと……」

響子「……」ヒソヒソ

小傘「うん、うん…………よし!」

妖夢「な、何だ!」

小傘「私たち、お酒祝いをもらうために、幽々子さんをカイボウしま~す!!」ニコッ

響子「しま~す!!」ニコッ


妖夢「!!?」


小傘「あっ! ビックリしてる!」

響子「ホントだ!ビックリしてる! やったぁ~!!」ピョンピョン

妖夢「おのれ!やはり曲者かッ! ここで始末してくれるッ!」チャッ…

小傘「へっ??」

妖夢「我が主の命を狙うとは運の悪い奴らめ! 生かしては帰さんぞ!」ジャキン!

小傘「!??」

響子「わっ、わわわっっ!?」

妖夢「覚悟ぉーッ!!」


~十二時間後~


妖夢「うう~む……」ウロウロ

西行寺幽々子「あら、まだ見回りしてたの?」

妖夢「お戻りください! ヤツらがどこに潜んでいるとも分かりません!」

幽々子「心配しすぎじゃないの? 夜中に誰も攻め込んだりしないわよ」

妖夢「え?」

幽々子「もうこんな夜更けじゃ、誰も喧嘩なんてしたがらないわ」

妖夢「……前々から思っておりましたが、幽々子様はどうしてそんな根拠の無い見通しを、さも当然の如くお考えになるのですか?」

幽々子「だって夜は手元が見えないし、眠くて体もちゃんと動かないのよ?」

幽々子「攻め込むならお天道様が出ている時のほうがよっぽど良いじゃない」


妖夢「……とにかくもうお戻りください。今は危険です」

幽々子「じゃあ先に戻ってるわ。あんまり無理しないでね~」

妖夢「……」

妖夢「気配が全く感じられない……向こうも簡単には探らせてくれないようだな」

妖夢「いいだろう! 根比べしてやる!」

妖夢「お前たちがほんの少しでも気配を漏らせば、今度こそこの楼観剣でとどめを刺してくれる!」チャキッ!


~命蓮寺~


ガラッ…

聖「あら、お帰りなさい」

一輪「……すみません、聖様。二人を見つけることは出来ませんでした」

聖「あ、それでしたらもう大丈夫です。両名とも、今しがた帰ってきたところです」

ナズ「えっ」

聖「見たところ、あなたたちも道中大変だったようですね。ご苦労おかけしました」ペコッ

ナズ「はぁ……」バタッ


一輪「結局、あいつらは何で出て行ったんでしょうか?」

聖「理由は聞いていませんが、ちょっと危ないことをしたようですね」

聖「まあ人間を襲った様子ではなかったので、深くは追及しないことにします」

一輪「……よろしいのですか?」

聖「心配しなくても、あの二人はそんな悪いことはできませんよ」

聖「二人とも根は純朴な若者ですからね」

一輪「はぁ……だそうよ?」

ナズ「何だったんだ一体。文字通りのくたびれ儲けってやつじゃないか」

一輪「気になるなら、事情ぐらい聞きに行ってみたら?」

ナズ「もうそんな余力は残ってないよ……」


~命蓮寺 裏庭~


小傘「あいたた……まだ痛むなー」

響子「死ぬかと思った……」

小傘「でもさ、本当にビックリしてたよね!」

響子「うんうん!」

小傘「赤ちゃんが生まれたら、今度はユユコって人を脅かしに行くんだよね!」

響子「うんうん! 聖様がそう言ってた!」

小傘「早く赤ちゃん産まれてくるといいよね~」

響子「いいよね~」


~後日~


ナズ「よぉし、今日こそ永遠亭に行ってやるぞ!」

一輪「今度こそ白黒付けてやるわ」

村紗「今日は私も同行させていただきましょう」スッ

ナズ「この前のは何かの悪い偶然が重なっただけ。今日こそは障害なく辿り着けるはずだ!……と思う」

一輪「弱気になるほどのことじゃないわ。今までだって何の苦も無く行けたんだから」

村紗「そうです。お二人が辻斬りに遭ったのは、きっとその日だけの何かの間違いでしょう」

村紗「トラブルに出くわさぬよう、慎重に向かえば良いのです」

ナズ「そう、そうだな! いざ出発!」ダダッ


~少女移動中~


ナズ「……」チラッ チラッ

一輪「ほうら、やっぱり大丈夫じゃない」

村紗「そうですね。この良い日和の中、誰も血生臭い喧嘩など―――」


早苗「あっ!! 性懲りもなくまた出てきましたね! 妖怪寺の邪教徒ども!」


村紗「えっ」

一輪「あっ」

ナズ「」


早苗「しかも今日はさらに数が増えてるだなんて!」

早苗「ますます怪しいですね! これは戦略的先制攻撃を仕掛ける必要アリだわ!」


ナズ「に、逃げろぉ!!」バッ

一輪「くっ!」バッ

村紗「後退! 後退せよ!」バッ


~少女逃走中~


ナズ「……ふぅ、何とか今日は逃げ切ったな」

一輪「ええ、やはり油断は禁物だわ」

村紗「しかし今日の山場は乗り切ったようですね。あとは永遠亭まで―――」


魔理沙「おっ!いいところに三人もいるな! 今度は少しは歯応えありそうだ!」


ナズ「」

一輪「」

村紗「」


魔理沙「動くなよ!? 今からとっておきを見せてやる!」キィィィン…


ナズ「に、逃げっ―――」


魔理沙「マスタースパークMkⅢ!!」


ドシュゥゥゥン……!!


魔理沙「やっぱこんなザコじゃイマイチ威力が分からんなー」

魔理沙「ここはいっちょ紅魔館にでも攻め込んでやるぜ!」ヒュンッ


三人「」ボロッ…


~後日~


ナズ「くそっ! 何でこうなるんだ!」ドンッ

一輪「お勤めをサボったのがいけなかったのかしら」

村紗「珍しいこともあるものですね。まさか立て続けに行く手を阻まれるとは」

ナズ「今度こそ行ってやる! 意地でも行ってやるぞ!」

一輪「落ち着きなさい、ナズーリン」

村紗「一輪の言う通りです。まずは冷静に対策を考えないと」

一輪「でも対策と言ってもねえ……あっ」

村紗「どうしました?」

一輪「私に一つ考えがあるのだけど、いいかしら?」


ナズ「……何でもいいさ、私たちのワケの分らない不運を解消できるなら」

一輪「考えってほどのことではないかも知れないけど……ちょっと真剣にお祈りしてみるってのはどう?」

一輪「私たちが頼めば、姐さんだって悪い気はしないはずよ?」

村紗「ふむ……」

ナズ「……いいさ。この際、やれることは全部やってやる!」


~仏間~


聖「時我及衆僧 倶出霊鷲山 我時語衆生 常在此不滅……」

聖「衆生見劫甚 大火所焼時 我此土安穏 天人常充満……」ピクッ


一輪「……聖様、お勤めのところ申し訳ありません。一輪、村紗、ナズーリンにございます」


聖「お入りなさい」

ガラッ…

一輪・村紗・ナズ「失礼します……」

聖「どうかしましたか?」

一輪「実はですね、私たちもちょっとお祈りをしようと……」

聖「何と!それは良い心がけですね! やはりあなたたちも星の安産祈願を?」

ナズ「えっと……まあそんなところです」

聖「ならば三人ともそこにお座りなさい」

三人「はい」スッ


聖「では今から私がお祈りの極意を伝授して差し上げましょう、と言いたいのですが……」

ナズ「?」

聖「この奥義は本来であれば、修行を完了させた僧にしか伝えることは許されない、秘中の秘……!」

ナズ「……」コクッ

聖「しかし私は勿体付けるのは好みませんので、この機会に教えてしまいましょう」

ナズ「はぁ」

一輪「……」

村紗「よろしくお願いいたします」

聖「コホン……いいですか? 祈りというものは命令に近いのです」

一輪「命令……ですか?」


聖「そうです。命令です」

聖「”どうかこの願いを叶えてください”などと、下手に出るようなお祈りでは絶対に叶いません」

聖「祈りというものは、むしろ強気でなければいけません」

聖「”何としてもこの願いを叶え給え!これは私の命令である!”」

聖「……このように鞭を打って叱咤するが如く強く念じるのです」

村紗「……」コクッ

ナズ「それは……初耳ですね」

聖「当然です! 何と言っても秘中の秘、究極奥義なのですから!」エヘン

一輪「……」

聖「……世間では祈りを捧げるという言葉をよく使いますが、それは方便であり、真実ではありません」

聖「本来祈りとは捧げるものではなく、命懸けでぶつけるものなのです」

聖「この宇宙全てに遍く存在する八百万の神々を叩き起こし、その尻を叩いて言うことを聞かせる」

聖「いわば、宇宙そのものを味方に付けるぐらいの勢いでやるべきものが、本来の祈りなのです」


村紗「なるほど……」

ナズ「…………」

聖「ですので、すがり付くような弱々しい祈りではいけません」

聖「そうではなく、自分自身が全宇宙の神々の主になるつもりで、強く強く念じるのです!」

聖「分かりましたね?」

一輪「承知しました」

村紗「はい、ありがとうございます」

ナズ「は、はい……」

聖「では説法はこれくらいにして、お祈りといきましょう」クルッ

聖「経文は私が詠んでいきますので、あなたたちはそのまま祈っていればよろしい」

聖「では参ります……」

ナズ「……」グッ


ナズ「今日こそはうまく行くだろうか……?」

村紗「きっとうまく行きます。あれだけお祈りしたですから」

一輪「そうよ、今の私たちには仏様が付いてるわ!」

ナズ「……ふむ、私も何となく今日は行けそうな気がする!」

村紗「さあ行きましょう! 仏パワー全開ですよ!」ダダッ


~少女移動中~


村紗「今日はまた一段と良い日和ですね」

ナズ「もうあと半時ほどで着くんじゃないか?」

一輪「今日は順調そのものね!」


霊夢「あっ!!またアンタたちね! やたら威勢のいい妖怪の気配を感じると思ったわ!」


ナズ「う、うわぁ!?」

一輪「な、何で……」

村紗「」


霊夢「何だかよく分かんないけど、妖怪が元気になるなんてロクなことじゃないわ!」

霊夢「どうせ良からぬことを企んでるに決まってるわ! ここで成敗してやる!」グッ


ナズ「とっ、とにかく逃げろ!」

一輪「くっ!」

村紗「退避!退避ぃ!」


霊夢「覚悟ッ!!」


~少女気絶中~


ナズ「……はっ」ガバッ


リリリリリ…


   リリリリ…


ホーホー… ホーホー…


一輪「あら、ようやっとお目覚めね」

ナズ「もう夜じゃないか……」

村紗「私たちはあのままやられて、ずっとここで眠っていたのですよ」

ナズ「何だよ、せっかくあんなに祈ったのに……」

一輪「愚痴っていても仕方ないわよ。今日はもう帰りましょう」

ナズ「はぁ、またトンボ帰りか……」


~後日~


ナズ「くそっ! 何で行くとこ行くとこ待ち構えてるんだ!」

一輪「偶然もここまで続くとちょっと不気味ね」

村紗「う~む……」

ナズ「アイツら、ローテーションを組んで私たちのことを見張ってるんじゃないのか!?」

一輪「あのパープリンたちにそんな組織力はないわよ」

村紗「しかし頭はアレでも、その力は神にも匹敵します。出会ってしまえば突破するのは困難です」

村紗「今後も同じことがあるようなら、我らは永遠に永遠亭には辿り着けないのかも……」

村紗「…………プフッ」

ナズ「……」ジー

一輪「……」ジー


村紗「コホン……ともあれ、このような異常事態は今までに例がありません。何か裏がありそうですね」

村紗「もしかすると、聖にご報告すべき一件なのかも知れません」

ナズ「もうこうなったら力づくだ!」ドンッ

村紗「ん?」

一輪「力づく? どうするつもり?」

ナズ「この寺には口車に乗りやすいのがいるだろう? あいつらを抱きこむんだ」

村紗「小傘と響子ですか?」

ナズ「あの辻斬りどもは必ず単独で現れる。つまり、こちらが数を揃えれば撃退できるはずだ!」

ナズ「向こうは一人、こっちは五人! これなら絶対に勝てるぞ!」

一輪「……しかし一人倒しても、立て続きに残りの二人もやって来るわよ?多分」


ナズ「それならそいつらも倒すまでだ!」

村紗「随分と鼻息が荒いですね。少し落ち着いてはどうですか?」

ナズ「……もう逃げるのは飽き飽きなんだよ。君たちだってそうだろう?」

村紗「……」

一輪「まあ……そうね。このままやられっぱなしってのも、虫の居所が悪いし」

村紗「確かに……私もいいかげん反撃に転じたいと感じていました」

ナズ「決まりだな!」ニヤリ


~少女移動中~


響子「せんぱーい、何をして驚かせるんですかぁ?」

ナズ「コホン……それはな、着いてからのお楽しみだ」


小傘「永遠亭か~。どんな風にビックリしてくれるのかな~??」

ナズ「……まあ、アレだ。とにかく全ては到着してからだぞ?」

響子・小傘「はーい」

一輪「……」

村紗「……」

ナズ「さあ来い! 博麗の巫女だろうと、守矢の現人神だろうと、今度こそ負けはしないぞ!」


ザッ…


村紗「むっ!」

一輪「お出ましね!」

ナズ「来たな!今日こそ――――――!?」





伊吹萃香「これはこれは、そんな大勢で一体どこに行くんだい?」ニヤリ


村紗「お、鬼だとっ!?」

ナズ「そんなバカな……!」

一輪「マズイ! こいつ四天王よ!!」

萃香「何と! こりゃあ参ったね!」

萃香「たかが妖怪ごときが、この私をコイツ呼ばわりとはな! 時代は変わったもんだねぇ~」ニヤニヤ

村紗「何とか退路を……!」キョロキョロ

萃香「お前らのような小者なんて萃める気は無かったけど、まあ相手をしてやるよ!」

ナズ「小傘! 響子! 逃げるんだ!」

小傘「ふえ??」

萃香「おおっとお! 逃がさないよ!」サッ


ゾロゾロ……

  ゾロゾロ……

ミニ萃香×∞「ははははははっっ!!」

    ゾロッ……
    
 ゾロゾロ……


響子「わっ……」

一輪「囲まれた……!」

村紗「くっ、これでは……!」

萃香「何の用事か知らないけど、私の相手ぐらいして行ってくれよ?」

萃香「こちとら骨のあるのがいなくって、ヒマしてるんだからさ」

萃香「お前らみたいなザコ相手でも、遊んでやりたくなるくらいになッ!」バッ


バババババババッッ!!


ナズ「う……うわあぁぁああぁぁ――――!!」


~後日~


聖「つまりあなたたちは、私に何の断りも無しに小傘と響子を危険な目に遭わせた……そうですね?」

ナズ「は、はい……申し訳ございません……」

聖「鬼の方が気まぐれで去って行ったからいいようなもの」

聖「向こうが徹底的にやる気であったら、一体どうするつもりだったのですか?」

一輪「どうにもお答えできません……全ては我らの愚かさが招いた結果です」

村紗「この上はいかなる言い逃れも致しません。なんなりと罰をお与えください……」

聖「もう結構です。生きて帰って来られたのであれば、それに越したことはありません」

聖「……ただし、次同じことをするようであれば、今度こそ許しませんよ?」

一輪・村紗・ナズ「……はっ」

聖「一輪、村紗、ナズーリン、あなたたちには三ヶ月間の謹慎を命じます」

聖「謹慎が明けるまでは、寺の敷地内から出ることは許しません。いいですね?」

一輪・村紗・ナズ「はっ!」


~境内~


ナズ「……今回ばかりは参ったね。もう真相を確かめるどころじゃなくなっちゃったよ」

一輪「あれだけのことをして謹慎で済んだのだから、むしろ儲けものよ」

村紗「確かに我らは思慮が足りていなかった。聖の庇護の下で慢心していたのかも知れません」

ナズ「あの二人にはすまない事をしてしまったな。後で謝りに行かないと……」

ぬえ「やあ、おめでとう! 聖からありがた~い謹慎期間を頂戴したんだって?」ニヤニヤ

ナズ「……」プイッ

一輪「今は言い返す気も起きないわ」

ぬえ「何だ、つまんないの」

ぬえ「ところあなたたちは何してたの? 毎日ボロボロになって帰ってきてたわよね」


村紗「……辻斬りに遭っただけですよ」

ぬえ「辻斬り?? そんなのどこにいるのよ」

ナズ「知らないのか? 今は永遠亭までの順路で妖怪が通るのを待ち伏せするのが流行ってるんだよ」

ぬえ「永遠亭?? そんなの出て来なかったわよ?」

一輪「……?」ピクッ

ナズ「何? そんなはずはない!」

村紗「……ぬえ、あなたは最近永遠亭に行ったことがあるのですか?」

ぬえ「永遠亭? ああ、行った行った。確かに医者とウサギがいたわね」

一輪「!?」


ナズ「ちょっと待った。君は永遠亭に行くまで、誰にも会わなかったのか??」

ぬえ「会ってないよ。人っ子一人いやしなかった」

ナズ「そんなバカな……」

一輪「どういうこと……?」

村紗「……待って、あなたが行ったのは一回だけですか??」

ぬえ「いいや? ここ最近用があって、六回ぐらいは行ってたかな」

ぬえ「明日も行くから、それを入れて七回かな??」

村紗「これは……どう考えるべきなんだ?」

ぬえ「今度こそ! 今度こそ奇跡が起きるはず!」

ぬえ「目に物見せてやるぞ! あのヤブ医者め!」バッ

バサッ… バサッ…


ナズ「???」

星「三人とも、大丈夫でしたか?」ヒョコ

ナズ「……ご主人か。体の具合はいいのかい?」

星「ええ、おかげ様で! この子も毎日すくすくと成長しているみたいですよ?」スリスリ

ナズ「そうか。ならいいんだ」

星「それにしてもどうしたんですか? あなたたちが不始末をするだなんて珍しい」

星「いつまでも帰って来ないから、聖も一晩中ずっと心配していましたよ?」

一輪「まあ、いろいろあったのよ」

村紗「……」


星「あなたたちのことです。聖の叱責も覚悟しての行動だったのでしょう?」

星「ここは是非正直に話していただけませんか? 私も何か手助けできるかも知れません」

ナズ「それは……」

星「お願いです。私も皆の力になりたいんです」

ナズ「……」チラッ

一輪「はぁ……仕方ない。もうこれ以上は隠し通せそうもないわね」

村紗「……」コクッ

ナズーリン「分かったよ。実は……」


~少女説明中~


星「実を言うと、私の方も細かいところまではよく分からないんですよ」

星「何となくそんな気がして、実際永琳さんにもそうだと言われましたので……」

ナズ「そうか……」

星「はい。もし気になるようでしたら、謹慎が明けたらみんなで行ってみましょうか?」

ナズ「それは……ちょっとマズイんじゃないか??」

星「どうしてですか?」

ナズ「聖様は永遠亭に関わらないよう申し付けていたじゃないか」

星「あ、いえ、あれは私の方から聖に頼んだのです」

星「実は永遠亭では永琳さんに……その、堕胎を勧められて、思わず逃げ出してしまいましたので、それで…………」


村紗「……そうでしたか」

一輪「まあそんなところだろうとは思っていたけどね」

ナズ「何だ、そうだったのか……しかしそれならそうと言ってくれればいいのに」

星「……すみません」

村紗「いえ、元はと言えば、私たちが断りもなしに浅はかな行動を起こしたことが発端」

村紗「私には星と聖を責めることはできません」

一輪「右に同じく」

ナズ「……返す言葉もないな」

星「もういいではありませんか、そんな話は」

星「三人とも明日からはゆっくり休んでください。私も今まで休んだ分、しっかり働きますから!」


ナズ「ちょっと待ってくれ」

星「はい?」

ナズ「ご主人、今は命蓮寺の外を出歩くのは控えた方がいい」

星「どうしてですか?」

村紗「理由は分かりませんが、このところ危険な相手に出くわすことが異常に多いのです」

村紗「私たちも今までは重傷で済んできましたが、今のあなたでは自分一人の怪我では済まないかも知れない」

星「そうなんですか??」

一輪「そうなのよ。終いには鬼まで出てくるなんて、どう考えてもおかしいわ」

一輪「寺の周りに見えない瘴気でも漂ってるんじゃないかしら?」

星「う~ん……聖は毎日のように里まで出歩いていましたけど、途中誰にも会わなかったみたいですよ?」


ナズ「そこなんだよな……」

星「??」

ナズ「ぬえのヤツも、何度も永遠亭に行き帰りして誰にも会わなかったらしいんだ」

ナズ「でも私たちが行こうとすると、必ず二回以上は通り魔に襲われた」

星「そんなことが……毎日くたびれて帰ってきた理由が分かりました」

村紗「ならず者に出くわすのには共通した何かがあるのではないかと思うのですが、私たちにはそれが何なのかさっぱり分からないのです」

星「そうでしたか……これは、聖に報告すべき事かも知れませんね」

ナズ「やはりご主人もそう思うかい?」

星「ええ、これ以上門弟を傷付けらてしまうのは、さすがに私も我慢なりません」

星「これは聖の名誉を守るためでもあります。今こそ命蓮寺の力を結集して頂くよう、私から上申してみます」


一輪「これは頼もしい! 姐さんの力に私たちが加われば、きっと四天王にだって負けはしないわ!」

ナズ「落ち着きなよ。そうやって失敗したばかりじゃないか」

星「はい、一輪の期待を裏切るようで心苦しいのですが、何も喧嘩をしに行こうと言うのではありません」

一輪「……コホン」

星「これからは調査も兼ねて、出歩く時は多数で協同して行くのが良いでしょう」

星「特にあの新人二名に単独で行動させるのは大変危険です」

星「明日から外出の際には私、もしくは聖の護衛を付けるのが良いですね」

ナズ「……聖様はともかく、ご主人は守られる側だろう」

星「いえいえ!私もこの命蓮寺の一員! あなたたちに危険が迫ったら、この宝塔と長槍で守ってあげますよ!」ニコッ


ナズ「宝塔はともかく、槍なんて持っていても仕方ないだろう? ご主人は槍の修練なんてしたことないんだから」

星「おっと、さすがはナズーリン! お見通しでしたか~!」

ナズ「……まあその気持ちはありがたいよ。いろいろと」

ナズ「でも今のご主人は身重なんだから、あまり無理はしないでくれよ?」

星「はい、心得ています」

一輪「何にしても、全ては明日からね」

一輪「今日はもう疲れたわ……」

星「お疲れ様でした。ゆっくりお休みください」


~後日~


聖「……そうでしたか。やはりあの三人を謹慎にしておいたのは正解だったようですね」

星「何か分かったのですか?」

聖「私も認めざるを得ません。あの三人が度々襲われたことは偶然ではないようですね」

聖「何らかの恣意的な力が働いているのか、それとも……」

星「?」

聖「……いえ、これは今言うべきことではありませんね」

聖「それよりも、あなたはしっかりお腹の子を守ることに専念してください」

聖「いずれあなたのお腹が膨れてくれば、きっと彼女たちも納得してくれるでしょう」


聖「ええと……今三ヶ月目くらいだったかしら?」

星「はい、そのくらいですね」

聖「そろそろお腹が張ってくる時期ですね。すまないけど、時々お腹の様子を彼女たちにも見せて欲しいのです」

星「ええ」

聖「あなたの言葉が誤りでないと分かれば、もう無茶な……」チラッ

星「?」

聖「来ていますね。それほど大きくはないようですが」

星「人間以外の訪問者でしょうか? 珍しいですね」

聖「あなたはそこに控えていなさい。私が出向いてみましょう」

星「はい」


~境内~


星?「な、な、何を言うのでしょうか? 私こそ真の……」

チルノ「うるさいぞニセモン! ホンモノを出せー!」

ナズ「おい、静かにしなよ? そろそろ実力行使に出るぞ」

星?「わ、私には何のことだか……」

星?「コホン、よろしいですか? 私こそが正真正銘、真の毘沙門天であるところの……ナムナム……」

チルノ「いいから早くホンモノ出せー!」

ナズ「うっさい」

ゴスッ!

チルノ「あだっ!」


一輪「珍客とはこのことね。一体何なのかしら?」

村紗「さあ……まさか攻め込んできたわけではないでしょうし……」

聖「何事ですか?」

一輪「聖様、丁度いいところに」

聖「あの妖精は……星が言っていた、チルノという子ではありませんか?」

村紗「はい。どうも星を探しに来たようなのですが、今一つその理由が分かりません」

星?「どこからどう見ても、私こそが毘沙門天!……のはず!」キョロキョロ

チルノ「出ーせ! 出ーせ!」グイグイ

ナズ「うるさいって言ってるだろうが」

ゴスッ!

チルノ「いたっ!」


一輪「ご覧の通りです。何故かは分かりませんが、ぬえの幻術が通用していないようです」

一輪「妖精に見破られるような術ではないはずなのですが……」

聖「ふむ……」

星?「バカな、バカな……! 今度こそ完璧だったはず……!」ブツブツ

村紗「下がらせた方が良さそうですね。もうそろそろ彼女のプライドが限界です」

聖「そうですね……ナズーリン」

ナズ「はい?」

聖「星を呼んで来なさい。それが一番話が早いでしょう」

チルノ「早くしろー! お前たち全員氷漬けにしてやるぞー!」ジタバタ

ナズ「うるさいぞ!……よろしいのですか?聖様」

聖「構いません。もしもの時は私が事を収めます」

ナズ「……了解しました」タタッ


聖「小傘、響子」

小傘「はーい」サッ

響子「はい」ススッ…

聖「妖精の暇潰しをしてあげなさい。あなたたちもたまには一暴れしたいでしょう」

響子「……ホントにいいんですか?」

聖「構いません。ただし妖精と言っても、かなり力があるようです。心してかかりなさい?」

小傘・響子「はーい」

聖「村紗、参拝客を避難させなさい。一輪はぬえを連れて行きなさい」

村紗・一輪「承知」


チルノ「こうなったら覚悟しろ! あたいの超必殺冷凍パワーで…………うん?」チラッ

小傘「行っくわよぉおおー!!」ゴオオッ…

響子「やぁあああー!!」ゴウッ…

チルノ「うわ! 何だお前らー!」


ドォォン…!

  ズゥゥン…!
  
ゴゴォッ…!


聖「弾幕は命の洗濯……っと」

聖「これは命蓮寺の新しいスローガンにしておきましょう」


~少女戦闘中~


小傘「もう一発食らえー!」

響子「食らえー!」

チルノ「食らうのはそっちだ! 凍え死ねー!」


聖「そこまで! 二人とも下がりなさい」


小傘「ええー? もう終わりー??」

響子「もうちょっと続けたかったなぁ」

チルノ「……うん?」


ナズ「おーい、連れて来たぞー」

星「……あら、あの時の妖精ですね。こんにちは」


チルノ「むっ!?」ピクッ

チルノ「……」タタタッ


ナズ「ご主人、一応用心してくれよ?」

星「この子は大丈夫ですよ……こんにちは、また会いましたね」ニコッ

チルノ「……」ジー

星「どうしました? もしかして私を探しに来てくれたんですか?」

チルノ「むー……」ウロウロ

チルノ「ん……」ウロウロ


星「……」

ナズ「何だ? せっかく連れて来てやったんだぞ。早く用事を済ませろ」

星「そうやって急かしちゃダメですよ」

チルノ「むぅー……」ウロウロ

星「……」

聖「……」

一輪「結局何しに来たのかしら?」

村紗「さあ……」

チルノ「……」チラッ チラッ

チルノ「んんー……」ウロウロ

ナズ「……いつまでそうやって歩き回っているつもりだ? こっちだって暇じゃないんだぞ」


星「まあまあ、きっと恥ずかしいんですよ」

ナズ「恥ずかしい?? 何が?」

星「こんなたくさんの人たちに見られてるから、思い切ったことができないんですよ。多分」

ナズ「コイツは妖精だろう? そんな複雑なことを考えるのか?」

星「うーん、何と言ったらいいんでしょう……」

聖「星、必要なら私たちは下がりましょうか?」

星「……すみませんが、お願いします」

ナズ「!?……い、いいんですか??」

聖「はい。どうもあの妖精もその方が良いようです」

ナズ「しかし危険ではありませんか?」

ナズ「ご主人ならまだ大丈夫としても、お腹の方にもしものことがあったら……」


聖「ナズーリン、あなたは少し心配しすぎですよ」

聖「星が大丈夫と言ってるのですから、きっと大丈夫です」

ナズ「うーん……」

聖「心配しなくとも、命蓮寺の敷地内ではもしものことなど起こりません」

聖「この命蓮寺は私が守護しているのですから」
                                
ナズ「は、はい……」

村紗「行きましょう。宝塔も彼女を見守ってくれています」

ナズ「うん……おい、チルノとかいうの!」

チルノ「?」チラッ

ナズ「もしご主人に何かあったら、タダじゃ済まさないぞ!」

一輪「……もう行くわよ、ナズ」グイッ


チルノ「……」ジー

ナズ「ご主人、くれぐれも気を付けてくれよ?」

星「はーい」

チルノ「…………むっ!?」

チルノ「そこに誰か隠れているな!?」タタッ

ナズ「!」


ポスッ…


星「おっと」

チルノ「ここだ!ここに……あれ?」ペタペタ


星「!」

チルノ「……あれ? どこ行った??」ペタペタ

星「まあチルノ! あなたにも分かるんですか?」

チルノ「??」チラッ


ナズ「おい!むやみにお腹に触るんじゃ―――むぐっ」

一輪「ほら、後は星に任せるわよ」グイグイ

ナズ「んーんー」モゾモゾ


~命蓮寺裏庭~


ナズ「あの妖精、変な気を起こさなければいいけど……」ジャブジャブ…

村紗「妖精はそんな難しいことは考えませんよ。自分でそう言っていたではありませんか」ゴシゴシ…

ナズ「それはそうなんだけどさ……」

一輪「大丈夫よ。雲山にも見張らせてるから」ザバッ…

一輪「……今のところ大人しくしてるって」

ナズ「……」

一輪「それよりこっちに集中しなさい。全部洗っても、今度は干さないといけないのよ?」

ナズ「分かってるよ」


村紗「……しかし勝手の違う仕事というものは慣れないものですね」

村紗「私たち三人がかりでも、お昼までに終わるかどうか……」

ナズ「水を吸うとやたら重たくなるしな、このでっかい布は」

一輪「でもこんなこと、本当に修行に関係あるのかしら??」

村紗「そのはずですよ?」

村紗「聖が仰っていました。仏道修行というものは生活法を極めたところにあると」

一輪「しかし何だかパッとしない仕事よね」

一輪「もっとこう……ひれ伏す大勢の人間たちに向かって高い所から厳かに説法するとか、姐さんもそういうことをやればいいのに」

一輪「この命蓮寺は人の集まらない寺じゃないんだから」

ナズ「まあ私はどっちでもいいんだけどさ」


村紗「それにしても大したものですね。つい最近まで、星はこれを全部一人でやっていたと言うのですから」

ナズ「うん……」

一輪「ふう、まだこんなにある……道のりは長いわね」


星「ナズーリン、ちゃんとできてますか?」ヒョコ


ナズ「ご主人か。あの妖精は……?」チラッ

星「やっぱり大丈夫でしたよ。遊びに来ただけでした」

チルノ「……」

ナズ「……」ジー


星「すみません、私も手伝ってあげたいのですが、今手が離せなくて……」

ナズ「いや、別にそれはいいんだけどさ……ふんっ」ギュゥゥ

ビシャビシャ…

ナズ「でも何でわざわざ抱っこなんてしてるんだ? そいつにはちゃんと足があるんだし、空も飛べるじゃないか」

星「まあそのへんはいろいろありまして……」

ナズ「どうもよく分からないな。結局そいつは何しに来たんだ? 毘沙門天にしがみ付くためだけに来たのか??」

チルノ「……」

星「うーん……多分そんな感じです」

一輪「……ナズ、手が止まってるわよ」

ナズ「はいはい……んっ」ギュゥゥ

ビシャビシャ…


一輪「こっちは大丈夫だから、あなたはその妖精の子守りを続けていなさい」

星「はーい……あ、そうだ」

ナズ「?」

星「この子、お腹の子と話ができるみたいなんですけど、何か聞いておきたいこととかありますか?」



一輪・村紗・ナズ「!!?」



星「今のところ順調に育ってくれてるみたいで、私も安心しました」


ナズ「……ちょっと待った。ご主人、今何と??」

星「え? あ、お腹の子は大丈夫みたいです」

星「やっぱり慧音さんの仰っていた通りでしたね」

ナズ「いやそこじゃなくて!」

星「?」

ナズ「胎児と会話だって!?……テ、テレパシーとかいうやつか??」

ナズ「……いや、人間はそういうことができるのが普通なのか??」

村紗「いいえ、そんなことが出来る人間などいませんよ。生まれてもいない子どもならば、なおさらです」

ナズ「……」チラッ

一輪「私も経験がないわ。妖精にもそんな器用なことができるのはいなかったわよ」


ナズ「つまり……どういうことなんだ??」

星「……?」

ナズ「コホン……ご主人、ちょっといいかな?」

星「……お洗濯の邪魔になるのでしたら、すぐにでも退散しますね」ススッ

ナズ「いやいや、今は洗濯なんてしてる場合じゃないぞ!」

星「はい?」

ナズ「その話、本当なのかい?」

星「本当? 何が?」

ナズ「だから、お腹の子と会話ができるってところだよ」

ナズ「その妖精の口から出まかせなんじゃないのか??」


星「そんなことありませんよ?」

星「毎晩私が布団の中で子守唄歌ってあげていることも、ちゃんと分かりましたから」

星「それによるとなんですけど、あまり抑揚を利かせないメロディーの方が、どうもこの子のお好みのようですね」

星「これからは響子の歌ってるような曲は封印しておくことにします」

ナズ「…………」

一輪「ふうん……なるほどね。何も永遠亭に行く必要はなかったみたいね」

一輪「本人がいるんだから、直接聞いてみれば良かったのよ」

村紗「そんな簡単にいくものなんでしょうか?」

一輪「実際できてるみたいだし、そうなんじゃないの?」


ナズ「よし、じゃあ……ご主人!」

星「はい?」

ナズ「そいつに聞いてみてくれ。お前はどこから来たんだ、って」

星「?……いいですよ?」

星「チルノ、あなたはどこから来ましたか?」

チルノ「あっち」サッ

星「……だそうですよ?」

ナズ「だからそうじゃなくって!」

星「?」

ナズ「私が聞きたいのは妖精の住処じゃないよ! ご主人のお腹の子のことが知りたいんだ!」


星「どうしたんですか?そんなに取り乱して。いつものあなたらしくもない」

ナズ「ご主人の方が平然とし過ぎてるんだよ!」

星「はぁ」

ナズ「……とにかく、ご主人だってお腹の子がどこから来た子種なのか気になるだろう?」

星「どこから……う~ん、多分ですけど、きっと龍神様からだと思いますよ?」

ナズ「龍神?? 何でそこで龍神なんて出て来るんだ? まるっきり関係ないじゃないか」

星「それはそうですけど、でも龍神様だけですよ? こんな事できそうなのは」

星「妖獣を身篭らせるなんて、他の神様にもできっこありませんから」

ナズ「……いや、もうこの際父親はどうでもいい」

ナズ「それよりその赤子とやらが何をしにご主人の腹に現れたのか、今はそっちの方が大事だ」


星「何って、それはやっぱり私たちに会いに来たんですよ」

ナズ「それじゃ答えになってないだろう……もういい、そいつに直接聞いてみよう」

ナズ「おいチルノ!」

チルノ「?」

ナズ「ご……毘沙門天様のお腹にいるヤツに聞いてみてくれ」

ナズ「お前は何をしに来たんだ、ってな」

チルノ「……」プイッ

ナズ「む!……おい!聞こえてるだろ! こっちを向け!」

チルノ「……」

星「ダメですよ、ナズ。こんな小さい子を怒鳴ったりしちゃ」

ナズ「小さい子って、そいつは妖精だろう……おい!聞けってば!」


一輪「やめなさい。妖精相手にムキになってもしょうがないわよ」

ナズ「でもご主人のことは命蓮寺の一大事かも知れないんだぞ?」

ナズ「もうかなり日数が経っているのに、私たちは何が起きているのか未だに分からない!」

ナズ「今その手掛かりを掴めそうなのはこいつだけなんだ!」

村紗「……気持ちは分かりますが、ここで焦っていても仕方ありません」

ナズ「そうは言ってもだな……」

チルノ「……」チラッ

ナズ「?…………!!」

ナズ「このぉっ……!」グッ


星「やめなさい!!」


ナズ「!」ビクッ


星「乱暴はいけませんよ? ナズーリン」

ナズ「ち、違う! そいつが今、こっちを見てベロを出したんだ!」

星「あら、そうなんですか?」

チルノ「……」フルフル

星「違うみたいですけど」

ナズ「そりゃそうだろ! イタズラしたヤツが自分でやったなんて白状するもんか!」

星「ちょっと落ち着いてください。少し興奮し過ぎですよ?」

ナズ「フー……フー……」

星「きっとあなたが怒鳴ってばかりいるので、嫌われてしまったんですよ」

星「子どもは怒られるのが一番嫌いですからね」


チルノ「……」ベー

ナズ「むぅぅ……」

一輪「冷静になりなさい。妖精のやることに一々腹を立てるなんてバカらしいわ」

村紗「いずれにしても、チルノが何かの手掛かりになる可能性は高そうですね。ここは慎重に行きましょう」

ナズ「……そうだな。よし、平常心、平常心」

ナズ「コホン……チルノ、悪かったね、怒鳴ったりして」

ナズ「君が妖精だと思って無礼な振る舞いをしてしまったことは詫びよう」ペコッ

チルノ「……」

ナズ「でも私がここまで焦ってしまったことには、それなりに理由があるんだ」

ナズ「実は私たちには、どうしても知らないといけないことがある」

チルノ「……」ジー


ナズ「毘沙門天、こと寅丸―――」


聖「おや、ここにいましたか」


星「聖? どうかしましたか?」

聖「参拝客に御本尊をお見せしたいのですが、ぬえが動けなくなってしまいまして」

星「……それは大変!」

聖「星、大事な時にすみませんが、ぬえの代わりに仕事をしてもらえませんか?」

星「了解しました……あっ」チラッ

チルノ「……」

星「すみません、ちょっと仕事をしてきます。また後で遊んであげますね?」スッ

チルノ「……!」ギュゥ…


星「うーん、弱りましたね……」

聖「離してくれないのですか?」

星「そのようです」

一輪「……」

村紗「……」

ナズ「おい、これ以上ご主人を困らせるんじゃない」グイッ

チルノ「……」

聖「では、この際その子は連れて行っても構いません」

ナズ「えっ」

聖「何か訊ねられたら、毘沙門天の使い魔か何かということにしておきましょう」

ナズ「いやいや、それはちょっとマズイんじゃ……」


聖「マズイ?? どうしてかしら?」

星「ふーむ……ナズーリンの言う通り、それは少しよろしくないのでは?」

ナズ「うんうん」

聖「と言うと?」

星「ここは清浄な寺なのですから、やはり魔法使いを連想させる単語はふさわしくないかと」

聖「……そうですね」

ナズ「いや違うだろ!」

星「ここは一つ、式神という言葉を使うのはどうでしょうか?」

聖「なるほど、確かにそういう便利な言葉がありましたね」

星「そうと決まれば善は急げです」

聖「はい。大変心苦しいところではありますが、少しばかり骨を折って頂けるとありがたい」

ナズ「ちょっと……」


星「久し振りの毘沙門天か……油断しないよう気を付けないと」

聖「いいえ。あなたはただそこいること自体が重要なのです」

聖「その宝塔の輝きは、もはやあなたでなければ現れないのですから」


ナズ「……行ってしまった」

村紗「……」ジャブジャブ

一輪「ナズーリン、洗い物が残ってるわよ」ジャブジャブ

ナズ「はぁ……どうもあの二人のノリには付いていけないな」ジャブジャブ

村紗「私も努力しようとは思っているのですが、なかなか……」

一輪「あんなもの付き合う必要はないわよ。姐さんの教えとは全然関係ないんだから」

ナズ「しかしキリがないね。本当に昼までに終わるんだろうか?」

村紗「まあ何とかなるでしょう」


~洗濯完了~


ぬえ「よぉしもう一度! もう一度よ……!」ブツブツ

村紗「ぬえはいつまでああしているつもりなんでしょう」

一輪「放っておけばいいわよ。どうせこっちの話なんか聞きやしないんだから」

ナズ「そんな事より、ご主人はいつになったら帰ってくるんだ」

村紗「お、ちょうどそこに……小傘!」

小傘「はーい?」ピョン

村紗「聖と毘沙門天はいつごろ戻りそうですか?」

小傘「分かりませーん」


村紗「では響子なら分かりますか?」

小傘「響子はー、お二人と一緒に出かけちゃいましたよ~?」

村紗「そうですか、分かりました。もう戻っていいですよ」

小傘「はーい」ピョン

ナズ「……そういや、しばらくの間護衛付きで出かけることになってたんだっけ」

村紗「手掛かりが得られないのは歯がゆいことですが、辛抱強く待つしかありませんね」

一輪「……ちょっと待って? もしかして、あの妖精を住処に帰しに行ったんじゃないの?」

ナズ「!」

ナズ「マ、マズいぞ! せっかくの手掛かりが……」

村紗「しかしどのみち、今の私たちにできることはありませんよ?」

ナズ「くっ……無理やりにでも引き止めておくべきだった……!」


~後日~


村紗「……出来ましたよ、小傘の分です」

小傘「はーい」スッ


ナズ「……」

村紗「ナズ、よそ見していては危険です。こちらに集中してください」

ナズ「そうは言っても……」チラッ


チルノ「見て見て! あたいの最強のカケトンボ!」

星「まあ、これは高くまで飛びそうですね」

チルノ「よーし見てろよー! 太陽まで飛ばしてやる!」

星「これは楽しみですね~」


ナズ「すぐ近くに、真実を知る鍵があるっていうのに……」

村紗「だからと言って薪割りをサボっていい理由にはなりません」

村紗「いつ何時、大量に必要になるのか分からないのですからね」

ナズ「それは分かってるけどさ……」

村紗「ならば手元から目を逸らしてはなりません。これは危険を伴う仕事なのです」

村紗「謹慎中の身で怪我などしてしまったら、それこそ私たちは立つ瀬がありませんよ?」

ナズ「……はい」サッ

村紗「よっと」

パカン!


聖「くれぐれも気を付けなさい? 慣れてくる時が一番危ないのですから」

ナズ「!……ひ、聖様!」バッ

聖「?」

村紗「あっ、おい……」

ナズ「恐れながら、申し上げたい事が……」

聖「言ってごらんなさい」

ナズ「あのチルノとかいう妖精は、ご主人の子と会話できるのだとか?」

聖「そのようですね。なぜかはよく分かりませんが」

ナズ「ならば今がチャンスではありませんか?」

聖「チャンス??」


ナズ「はい。ご主人の腹に突然やって来た胎児とやらに、その目的を問い質す絶好の機会」

ナズ「この好機、逃す手はないかと……」

聖「……つまりあなたは、あれが命蓮寺に対して何らかの悪意を持って現れた恐れがあると、そう言いたいのですか?」

ナズ「……」

聖「ナズーリン、あなたが星を心配する気持ちはよく分かります」

聖「しかしまだ生まれてもいない者に向かって、警戒心剥き出しで詰問しようという態度は感心しませんね」

ナズ「で、ですが、これは事によっては命蓮寺の一大事になるかも知れないのですよ?」

聖「そうやって恐怖心を先に立たせては、敵でない者まで敵になってしまいますよ?」

ナズ「……」


聖「あのチルノという妖精も同じです」

聖「向こうは何もする気などなかったのに、あなたが散々拳骨を落としたりするから、あなたを嫌うようになってしまったのではありませんか」

ナズ「それは……」

聖「自分のしたことは自分に返ってくるのが世の習い」

聖「あれに対して恐れる気が起こるのは、あなたがそこに自分の影法師を見ているからですよ」

聖「穏やかな心を持って会いに行けば、必ず向こうもそれに応えてくれるものです」

ナズ「……はい」

聖「……異変をいち早く察知するあなたの能力には、私たちは過去に何度も助けられてきました」

聖「けれども今回に限ってはそれは必要ありません」

聖「私も何となく感じますが、あれはこちらを害する気など一切ありません」


ナズ「はぁ……」

村紗「足止めをしてすみません。速やかに仕事に戻ります」

聖「よろしく頼みます」

村紗「ナズーリン、続けますよ?」

ナズ「分かったよ……」スッ


パカン!


~少女帰巣中~


聖「星、このところあなたは、その妖精の世話に惜しみなく心血を注いでいる」

聖「それは良いことなのです。善行を施すことに、私から異論を挟む余地などありません」

星「……はい」

聖「けれども、あなたはその妖精には特にそのような心遣いが強いように見受けられます」

星「……」

聖「何かあったのでしょうか? 以前のあなたなら、妖精のすることなど気にも留めなかったのに」


星「聖……それは私が、妖精の本当のところを知ってしまったからです」

聖「妖精の??」

星「はい。妖精……彼女たちは、生まれてからこの幻想郷を去るまで、ずっと独りなのです」

星「他者と関わり合いを持つ者は、その内のほんの一握り。ほとんどの妖精は、誰とも付き合いを持たずにそのまま生涯を終える」

星「誰にも知られずに生まれ、誰にも知られないまま消える……それが妖精の宿命なのです」

聖「……」

星「妖精は他者と関わろうとしないし、私たちも妖精には興味を示さない」

星「幻想郷はそのような形になっているのです」

聖「……?」


星「しかし、そうでなれけばきっと彼女たちの心は押し潰されてしまう」

星「ただ時間だけが彼女たちを守り、癒し、救ってくれる」

星「この幻想郷においてすら、彼女たちはそのような在り方を選ばざるを得なかった……」

星「これをどうして哀れまずにいられましょう」

聖「星、あなたは一体……」

星「……すみません、まだ私にはうまく説明できないのです」

聖「……」


星「この子……チルノがどうしてここまで大きな力を持っているのか。それは聖でもご存知ないでしょう」

星「妖精の力は、自らの領域から一歩踏み出そうとする勇気が、その源となっているのです」

星「しかしそれには永い、永い時間が必要となります」

星「ならばチルノがここまでの力を蓄えるのに、一体どれほどの年月を要したのか……」

聖「……」

星「それを思うと、私はどうしてもこの子を放ってはおけないのです」

聖「……そうですか」

星「……」コクッ


聖「妖精のことは私にはよく分かりません。しかしながら、あなたがその心を差し出すに足る理由はあるようですね」

星「……」

聖「分かりました。もう私も何も言いません。チルノのことは全てあなたの言う通りにしましょう」

聖「何かある時は遠慮なく申し付けなさい。最大限の助力を約束します」

星「……ありがとうございます」


~後日~


星「今日は凧を揚げてみましょうか」

チルノ「タコ??」

星「チルノは凧を揚げたことはまだないでしょう?」

チルノ「ないぞ! タコ知らないけど!」

星「ではやってみましょう。きっと気に入りますよ?」

チルノ「おー!」

星「ただ揚げるもの結構ですが、今日は彼女たちにも参加してもらいましょう」

星「小傘、響子」


小傘・響子「はーい」

星「あなたたちの分も用意しました。今日はみんなでやってみましょう」

小傘「あ、これ知ってますよ? 人間がやってるところ見ました」

星「ではどこまで高く揚げられるか競争してみましょう」

小傘「はーい」

星「弾幕勝負ばかりではなく、たまにはこういう勝負もいいと思いますよ?」

響子「……うーん、これどうやって使うんですか??」

星「あら、響子は使い方を知りませんか?」

星「これはですね、こうやって糸を解いていって……」ササッ

響子「ほどいていって……」


チルノ「……むっ」

星「そうそう、これくらい伸ばしてから」

チルノ「あたいもできないぞー! 何とかしろー!」

星「はいはい」スッ

星「こうやって糸をグルグル取っていってですね……」

チルノ「うんうん」

星「うーん、手が足りませんね。誰か……あっ」

星「一輪! ちょっとよろしいでしょうか?」

一輪「ん? 何?」

星「響子に凧の揚げ方を教えてあげて欲しいんです」


一輪「凧??」

星「はい。今日は弾幕勝負ではなく、凧揚げ勝負をしようと思いまして」

一輪「……まあいいけど、別にこんなもの何が面白いのかしら?」

一輪「凧揚げなんて子どものやることじゃない」

星「だからいいんじゃないですか」

一輪「こんなものいくら高く揚げたって、私の雲山はその何十倍も高く飛べるのにね」

星「まあまあ、そう言わず教えてあげてください」

響子「くださーい」

一輪「ま、ヒマ潰しぐらいにはなるでしょ」


~少女凧揚げ中~


チルノ「おおー! 高いぞー! すごいぞー!」ピョンピョン

星「チルノ、手を離さないように気を付けてくださいね?」

小傘「えいっ!えいっ! どうだ!こっちの方が高いわよー!」

チルノ「むっ!違うぞ! あたいのタコの方が最強だ!」

小傘「甘い甘い! もっとどんどん高くなるわよー!」グルグル

チルノ「むむっ!? よぉし、こっちだって!」グルグル

一輪「やっぱり素人ね! 経験の浅さが手つきに現れていてよ!」グルグル

響子「せんぱーい、そろそろ私にも貸してくださいよー」

一輪「静かにしてなさい! こういうのはね、子どもの触っていいものじゃないのよ!」

響子「そんなー……」


村紗「大人げないですよ、一輪」

星「一輪、そろそろ響子にも遊ばせてあげられませんか?」

一輪「そうは言ってもね、今大事なところ……くっ!このっ!」ササッ

チルノ「食らえー! タコアタック!」サッ

ドコッ!

一輪「な、何ですって!? それは上級者のみが使える高等テクニック、喧嘩凧!」

一輪「一歩間違えれば、糸が絡まって墜落しかねない諸刃の技! 何で素人のお前が!」

小傘「じゃあ私も! やぁあー!」ササッ

ドコッ!

一輪「むむっ!? 二人がかりとは卑怯なッ!」


響子「せんぱーい……」

星「仕方ありませんね。響子」

響子「はい?」クルッ

星「あなたは予備の凧を使ってください」サッ

響子「わあ! やったー!」サッ

星「村紗、チルノの手元を見てあげてください」

村紗「……任されよう」


~少女再度凧揚げ中~


チルノ「高い高ーい!」

響子「おおー、風の力って意外と強いのねー」

ナズ「ふうむ……人間というのは不思議なものを作るね」

一輪「……」

村紗「……一輪、雲山に凧を触らせるのは反則ですよ?」

一輪「!?……し、してないわよ!? そんなこと!」サッ

小傘「あっ! 一輪ズルーい!」

一輪「な、な、何を言ってるのかしら? 変な言いがかりはやめてちょうだい!」ササッ


ナズ「……なるほど、微妙な糸の引き加減で暗号を送っていたわけか。これは考えたね」

一輪「何を言ってるのかしら!? 全く分からないわ!」

一輪「もういい! 私お勤めに戻る! はい、これ返すから!」グイッ

星「はいはい」スッ

一輪「こんな遊び、いつまでも付き合ってらんないわ……」ブツブツ


ナズ「……深く突っ込んだのは失敗だったかな」

村紗「いいえ、きっと彼女と凧は相性が悪かったんですよ」

星「大勢で集まると、どうしても機嫌を悪くする子が出るんですよ」


星「次からは違う遊びにした方がいいかも……」

ナズ「もしかして、また竹トンボをやらせるつもりかい?」

星「ええ……よく分かりましたね」

ナズ「やめといた方がいいと思うな」

星「そうでしょうか?」

村紗「ええ、負けん気の強い彼女のこと、どうせまた途中から雲山を使いたくなるでしょう」

星「そうですか。う~ん……」


~後日~


星「……と言うわけで、技術のいらない、純粋に運任せで勝負できるような遊びはないでしょうか」

聖「なるほど、ちょっと待っててもらえますか?」スッ

星「はい」

聖「えっと、確かこのへんに……」ゴソゴソ

星「……」

聖「うーん……ありました!」サッ

星「それは?」

聖「これはどんな者でも必ず勝利と敗北を経験できる優れものです」

聖「ちょっと埃をかぶっていますが、綺麗にすれば何とか使えるでしょう」


星「これは……どう遊ぶものなんですか?」

聖「これはですね~」


~超人解説中~


ナズ「ご主人、それは何だい?」

星「これは双六というものですよ」

チルノ「スゴロク??」

星「サイコロと駒を使って遊ぶんですよ? ほら」サッ

村紗「……これはまた懐かしいものを」


チルノ「どうやって遊ぶの??」

星「はい、これがチルノの駒です」サッ

チルノ「コマ……」

星「最初は一輪と村紗に遊び方を教わりましょう」

星「小傘、響子、しっかり見ていてください?」

小傘・響子「はーい」

星「ではまず一番手を一輪にお願いしましょう」

一輪「コホン、私がお手本を示してあげるわ。よぉく見ておきなさい?」スッ

村紗「……」チラッ

星「……」コクッ


星「響子、障子を閉めてもらえますか?」

響子「はーい」タタッ


――ピシャッ


一輪「…………」

ナズ「どうしたんだい? 一輪」

一輪「な、何でもないわよ!? 何かあったのかしら??」ソワソワ

村紗「では始め! 一輪、賽を振ってください」

星「まず自分の駒をこの『ふりだし』に置きます」

チルノ「うんうん」サッ


一輪「よーし……行けっ!」ポイッ

コロコロ…

サイコロ「5」

一輪「ふっふっふ、幸先いいわね」サッ

一輪・響子・チルノ「……」

村紗「では次は私が振りましょう」ポイッ

コロコロ…

サイコロ「2」

村紗「始めはこんなものでしょう」サッ


星「こうやって出た目の数だけ進んでいきます」

星「そうして、この……『上がり』という場所に、一番先に到着した人の勝ちです」

小傘「へ~」

チルノ「……あっ!」

ナズ「うん?」

チルノ「そいつら今ズルしたなっ! あたいの目はゴマかせないぞ!」

ナズ「??」

チルノ「まだよーいドンしてないぞ! フライングスタートだ!」

小傘・響子「??」

一輪「あんた何言ってんの?」


村紗「意外と難しい言葉を知ってますね」

星「大丈夫ですよ? ちゃんと順番を回していって、公平になるようにしてますから」

チルノ「ズルイぞ~! これじゃあたいがビリっけつになっちゃう!」

ナズ「何をワケの分からないことを……」

星「……なるほど。つまりこういうことですね?」

星「順番が一番最後になると、確率的に言えば、自分の勝てる可能性が低くなってしまうのだと。チルノはそう言いたいのですね?」

チルノ「……え??」

星「何万回も同じ条件で勝負すると、一番先にスタートを切る一輪の勝率が上がってしまうということですね。これは盲点でした」

小傘・響子「??」

チルノ「??!?」

一輪「……何? どういうこと?」


村紗「……なるほど、確かにそれは一理ありますね」

ナズ「コイツがそんな深いところまで考えるはずがないだろう」

一輪「!?」

星「仕方ありませんね。今回は特例として、チルノには最初だけ二回サイコロを振らせましょう」

チルノ「ホント!? やったー!これで勝てる!」

村紗「異存ありません」

一輪「ちょっと待って……え? う~ん……」

村紗「一輪……」ヒソヒソ

一輪「…………!」

一輪「な、なぁんだ、そういうこと?」

一輪「そうならそうと言ってよ。説明が分かりにくかったじゃない……」ブツブツ


星「ではチルノ、サイコロを振ってください」

チルノ「行くぞ! やぁあ~!」ポイッ

サイコロ「4」

星「はいもう1回」

チルノ「たあー!」ポイッ

サイコロ「3」

星「では4マスと3マス進んでください」

チルノ「よいしょ……おお! あたいがトップだー!」

星「良かったですね、チルノ」

一輪「ふん、双六の恐ろしさを知るのはこれからよ!」


~少女投賽中~


サイコロ「4」

一輪「ちょっと、4マス先ってまさか……」ススッ…

双六『ふりだしに戻る』

一輪「ぎゃああ!!」コテン

村紗「ついてませんね」

ナズ「せめて骨ぐらいは拾ってやろう。君の駒は私が戻しておくよ」サッ

一輪「」

チルノ「あっはっは~!マヌケ~! お前がビリっけつだー!」


小傘「わあ……こんなに戻っちゃったら、もう取り返せないわね」

響子「私、お経あげた方がいいんでしょうか?」

ナズ「余計なことしなくていい。とどめを刺すだけだぞ?」

一輪「ぐぬぬ……今の内にそうやって慢心してるがいいわ!」

星「でも、一輪のおかげで双六のスリリングな一面がよく見えました」

星「初回から一切寄り道せずに、いきなりデッドスポットに入って見せるなど、先達の鑑ではありませんか」

一輪「……」コテン

星「あ、あれ?」

ナズ「ご主人は時たま、私にも想像できないような辛辣な弁を吐くね」


~少女再度投賽中~


チルノ「やったー! あたいがナンバーワンだ!」ピョンピョン

星「おめでとうございます」パチパチ

村紗「良かったですね」パチパチ

響子「おめでとー」

一輪「むぅぅ……」

チルノ「まさかスゴロクでも最強の座を手にしてしまうなんて……自分が恐ろしいわねっ!」ニコニコ


ナズ「……何か最後の方、村紗だけ1とか2ばっかりじゃなかった?」ヒソヒソ

星「ええ……実を言うと、村紗は好きな目を自由自在に出せますので……」ヒソヒソ


ナズ「……すると一輪も?」

星「あ、いえ、一輪はガチです」


小傘「これ楽しそう! 早くやりたい!」

星「お待たせしました。では小傘と響子にも駒をあげましょう」スッ

小傘「よぉし!」サッ

響子「よーし!」サッ

一輪「次よ次! 今度こそ私の実力を―――」


ガラッ…


ぬえ「おー、やってるやってる」

聖「ちょっとお邪魔しますね?」

響子「あ、聖様」

一輪「え、姐さん……!?」

村紗「!……すみません、少々遊びに夢中になっていました」

ナズ「私たちはそろそろ引き上げて、仕事に戻るとしよう」スッ

聖「いえ、そのままで結構です。続けてください」

一輪「……?」

村紗「しかし我らには仕事が……」

聖「それでしたら大丈夫です。今私が全て終わらせてきました」

ナズ・村紗「!?」


一輪「そんな、私たちが総出でも昼過ぎまでかかるはず……一体どうやって??」

聖「あなたたちはまだまだ修行が足りないのです」

聖「あれぐらい、私一人いればすぐに終わります」

村紗「……御見それしました」

聖「それより中々おもしろそうにやっていますね。私も見物していても構いませんか?」

星「もちろんです。どうぞどうぞ」

ぬえ「じゃあ私も参加しよっかな~」ススッ

星「はいはい。ぬえの分です。どうぞ」サッ

ぬえ「これってさ、一等になったら何かもらえるの?」


星「ええと……拍手してお祝いしてあげます」

ぬえ「えー? それだけー??」

星「んー……はい」

ぬえ「つまんなーい」ゴロン

村紗「不満があるようでしたら、ぬえは不参加ということで……」

ぬえ「ちょっと! やらないなんて言ってないでしょー!?」バッ

一輪「なら、文句言ってないで早く駒を置きなさい」

ぬえ「はいはい」スッ

ナズ「これで六名参加か。かなり賑やかになってきたね」

チルノ「次もあたいが勝つに決まってる!」

小傘「まだー? 早く始めようよー」

星「揃ったみたいですね。それでは始めてください」


~少女投賽中~


チルノ「食らえー! コマアターック!」サッ

カンッ

一輪「あっ! 私の駒が!」

ナズ「ふうむ、なるほどね」

ナズ「同じマスに入るタイミングで、ドサクサに攻撃を仕掛ける。十マス戻るという指示を逆手に取るとは……」

村紗「ルールの網目を掻い潜った巧妙な手口……これは一本取られましたね」

一輪「何が一本よ! 明らかにマナー違反じゃない!」

チルノ「はっはっはー! 勝負の世界に情けはむようなのだー!」


一輪「ぐぬぬ……姐さんの眼前でのその振る舞い、ただで済むと思わないことね!」チラッ

聖「ふふふ……おもしろいですね」

一輪「!?」

聖「これは思いつきませんでした。まさかそんな方法で相手を攻めるとは」

聖「やはり子どもというものは、遊びの天才ですね」

一輪「むぅぅ……」

響子「じゃあ私もー。下克上クラーッシュ!」サッ

ゴッ

一輪「あっ!」


響子「ごめんなさいせんぱい。でも私だって一等になりたいんですよ?」

一輪「なるほど……勝敗を決する場においては、師匠も弟子もないということね! 上等だわ!」

一輪「今こそ私の真の本気を発揮して、小賢しい若造どもを蹴散らしてやるわ!」ゴゴゴゴゴ……

ナズ「とはいえ、別にぶつかったってマスを移動するわけじゃないんだけどね」

星「ナズーリン、こういうのは気持ちの問題なんですよ」

ぬえ「ふっふっふ、そうやって後ろの方で同士討ちしてるがいいわ!」

ぬえ「この隙に私は順調にコマを進めて……っと」サッ

ぬえ「!……フ~、危ない危ない。もうちょっとで強制送還食らう所だったよ」

ぬえ「……で、このマスは……ナニナニ??」


双六『次の順番の人が振った数だけ先に進める』


村紗「私の出番のようですね」チャッ…

ぬえ「一ついい目を頼むわよ!」

村紗「お任せあれ……」ニヤリ



ぬえ「ギャー!!」



コロコロ…

村紗「……おや、私までぬえの道連れになってしまったようです」

村紗「肉を切らせて骨を断つという言葉通りになってしまいましたね」

小傘「おおっ!? 急に順位が二つも上がった!」

小傘「これは私にも運が巡ってきたのかも!」


~少女帰巣中~


チルノ「スー……スー……」

聖「ふふふ……これほど楽しい気分になったのは久し振りです」

星「結局、あなただけは最後まで参加を固辞されていましたね」

聖「ええ」

星「あなたも参加すれば良かったのに……」

聖「いえいえ。あなたたちだけであったから良かったのです」

聖「私が参加してしまえば、それはもはや遊びではありません」

聖「私はあなたたちが伸び伸びと賽を振るところを見たかったのです」

星「はあ……」


聖「……その子には感謝しなければなりませんね」

聖「あのような場を設けることは、私たちだけであったら出来なかったはずです」

星「子どもというものはそういうものですよ」

聖「そうですね……」

星「……しかし安心しました」

星「ナズーリンたちの言うような辻斬りは、やはり出ないようですね」



聖「…………」


星「聖?」

聖「どうやら、私もついに引っ掛かってしまったようです」

星「!」

聖「星、あなたはそこの茂みに隠れていてください」

聖「あと十秒で鉢合わせしますよ」

星「は、はい……」

聖「守りなさい。お腹の子とチルノを」

星「どうかご無事で!」サッ


ザッ…

早苗「あら?」


聖「……」

早苗「おかしいわね。ここに妖怪の気配がしたんだけど」キョロキョロ

聖「妖怪? ここにいるのはあなたと私だけですよ」

早苗「はぁ……ところであなたはこんな場所で何を?」

早苗「妖怪寺の当主様が夜のお散歩ですかぁ?」

聖「そうです。夜のお散歩をしています」

早苗「ふぅん……」ジロジロ

聖「……」

早苗「……ざーんねん、悪さをする妖怪が出るような気がしたんだけどなぁ」


早苗「あふ……眠くなってきたわ。神奈子様にご報告に戻ろうっと」

聖「では私もこれで。夜道にはお気を付けなさい?」

早苗「はーい」クルッ

聖「……」クルッ

早苗「……あ、そうだ」

聖「?」

早苗「あなたの寺の妖怪、最近良からぬことを企んでいませんか?」

聖「いいえ。万が一そうだったとしたら、この私が許すはずがありません」

早苗「そうですか……」ジー

聖「……」

早苗「……フン」バッ

ビュン―――!


聖「あれも哀れな娘ね……」

聖「星、もう大丈夫ですよ」


ガサガサ…


星「助かりました。ありがとうございます」

星「これが、ナズーリンたちの言っていた事なのでしょうか?」

星「確かに珍しいことではありましたが、偶然と言えなくもないですし……」

聖「いいえ、これは偶然ではありません」

聖「やはり彼女たちと鉢合わせするのには共通した条件があるようです」

聖「そして今そのコツを掴みました」


星「何と……恐れ入ります」

聖「どうやらその条件には、あなただけは対象から外れているようですね」

聖「かと言って今の身重のあなたを一人で夜道を歩かせるわけにはいかない」

星「……」

聖「ですが、私がこれから”気を付けて”進めば、通せんぼは回避できます」

聖「おそらくもう今日は彼女たちに出くわすことはないでしょう」

星「……私にはよく分かりませんが、ともかくあなたに従います」

星「宝塔も満足に使えない状態では、聖だけが頼りですからね」

聖「安心なさい。道中の安全はこの私が保証します」


~後日~


チルノ「わっはっはー! あたい参上!」スタッ

星?「おや、よく来ましたね、チルノ」

星?「今日は積み木でもして遊びましょうか?」

チルノ「んっ?」

星?「どうしました? 積み木が嫌ならカルタでもしましょうか?」

チルノ「むー……」

??「騙されるでないぞ!」

チルノ「?」


星?「何奴!」

星??「その毘沙門天は偽者じゃっ! 儂が本物の毘沙門天じゃぞ!」

星??「チルノよ、今宵は満月じゃ! 今から夜に備えて、儂と太鼓の猛特訓と行こうぞ!」

チルノ「……」

星?「むむむ! 私の名を騙るとは何というバチ当たりな不届き者め! すぐにでも化けの皮を剥がしてやる!」

星??「それはこっちのセリフじゃっ!」

星??「真実はいつか天地の全てが知るところ。貴様の小細工なぞ儂が吹っ飛ばしてやるぞい!」

星?「何という愚かな言葉かしら! 仏様はお怒りよ!? ナムナム……」

星??「さあチルノよ、儂の太鼓について来れるか!?」

星??「儂の太鼓は腹に来るでな! ワッハッハッハッハ!!」

チルノ「…………」



ぬえ「」カチーン

マミゾウ「」コチーン


村紗「さて、どうやって解凍したものでしょう」

一輪「ほっときなさい。また騒がれたら面倒よ」

カンカン…

小傘「おもしろーい。本当に凍ってるー」

星「それにしても、よく偽者だって分かりましたね」

ナズ「あんなトンチンカンな事しゃべってたら誰だって分かるよ」


マミゾウ「おかしいのう、あんなに練習したんじゃが」

一輪「随分早い復活ね。もう少し固まってたら?」

星「私は凄くよく化けてると思ったのですが……」

ナズ「……ご主人、それは本気で言ってるのか??」

チルノ「ニセモノはなー、お腹がペッタンコなんだ!」

村紗「ペッタンコ??」

チルノ「ホンモノはこうやってお腹がポッコリしてるんだぞー!」スリスリ

ナズ「……!」


マミゾウ「何と……おお、ホントじゃ! これは気が付かんかったわい」スリスリ

小傘「ホントに膨らんでる~。不思議~」スリスリ

星「うう~ん……」ムズムズ

ナズ「気安くベタベタ触らないでくれ。ご主人が困ってるじゃないか」

村紗「言われてみれば、少し大きくなった……のでしょうか??」

村紗「星、すみませんが、少々手を当ててみてもよろしいでしょうか」

星「ええ、いいですよ?」

村紗「では失礼して……」スッ

星「……」

村紗「……なるほど、確かに膨らんでいますね」


村紗「日数から考えても、もうお腹の張りがはっきり現れている時期ですね」

ナズ「ふ~む……」

一輪「毎日見てるから気が付かなかったわね」

マミゾウ「何じゃ? 何か悪いものでも食ろうたのか??」

ナズ「ご主人は、妊娠してる……らしいんだ」

マミゾウ「!?」

一輪「……星、力入れてお腹膨らましてるってことはないのよね?」

星「?」

一輪「コホン……その、早く生まれて来るといいわね」

星「そうですね」


マミゾウ「そういうのもいるんじゃろうか……うーむ……」

チルノ「……」ジー

星「ああ、すみません。そろそろ遊びましょうか」

チルノ「……」コクッ

星「よいしょ……ふぅ、最近動くのが辛くなってきましたね」

村紗「あまり無理はしない方がいい。チルノの相手は私たちでしておきましょう」

村紗「チルノ、こっちへ来なさい。星の代わりに遊んであげましょう」

チルノ「むっ!」ササッ

星「おや」


小傘「あらら、後ろに隠れちゃいましたね」

村紗「……しくじりました」

小傘「出ておいでー。怖くないよー」

チルノ「……」

一輪「どうも私たちじゃお気に召さないみたいよ?」

ナズ「そうやってご主人にばかり骨を折らせるな。お前の相手をするだけでも結構疲れるんだぞ?」

チルノ「……」グッ…

村紗「また離れなくなってしまいましたね」

一輪「諦めましょう。一度こうなったら、こいつはテコでも動かないんだから」


ナズ「全く厄介なヤツだな」

星「チルノはお任せください。やはり私が面倒見てあげないといけないみたいです」

ナズ「しかし……」

星「大丈夫です。これからはそんなに動かなくてもいいようにしますから」

星「小傘」

小傘「はいはい」

星「すみませんが、書庫から何か、子どもの喜びそうな絵本でも持って来てもらえませんか?」

小傘「絵本……」

星「う~ん、とにかく絵が付いてれば何でもいいです」

小傘「分かりましたー」ピョン


村紗「ここは星の言う通りにしましょう。どうせ私たちでは収められそうもありませんから」

村紗「いざと言う時は聖に助言を請う。これで良いではありませんか」

ナズ「う~ん」

一輪「そうね、ここですったもんだしてても時間の無駄よね。私たちは退散しましょう」

ナズ「……ご主人、くれぐれも無理しないでくれよ?」

星「はい、分かってます」

一輪「それよりぬえはどうするの? このままじゃ御本尊不在ってことになっちゃうわよ」


ぬえ「」カチーン



村紗「おっと、そう言えば彼女のことをすっかり忘れてました」

マミゾウ「何じゃ!まだ凍っておったのか!」

マミゾウ「だらしない若造じゃの~。地底帰りが聞いて呆れるわい! ワッハッハッハッハ!」

村紗「やれやれ。これは急いで湯を沸かさないといけなくなりましたね」


星?「その必要はありません」


星「おや……」

ナズ「あ、あれ? またご主人の偽者??」

ナズ「でもぬえとタヌキはここにいるし……」


星?「私ですよ、ほら」

村紗「……!」

一輪「まさか、姐さん??」

聖(星?)「うまく化けることが出来ているようですね。安心しました」

ナズ「しかしいつの間にそんな術を?」

聖「あれだけ何度も見ていれば、嫌でも覚えてしまいますよ」

村紗「では、ぬえの幻術を?」

聖「はい。私なりに改良を施して、声も似せてあります」

一輪「……お見事です」

聖「いえいえ。若返りの術に比べれば、これぐらいは何でもありませんよ」


マミゾウ「ふぅむ、中々やるわい」ジロジロ

マミゾウ「ここまで出来るとはな……おぬし、本当に人間なのか??」

聖「そう聞かれると判断に窮しますが、未だ妖怪になった記憶はありませんね」

ナズ「聖様、差し出がましいかも知れませんが、あまりゆっくりしていられないかと……」

聖「おっと、そうでしたね」

聖「では私は本堂に向かいます。あなたたちには引き続き命蓮寺の警護をお願いします」クルッ

ナズ・一輪・村紗「承知」


マミゾウ「……それにしても人間があれほどの魔法を操るとはのう」

マミゾウ「一体何をどうすれば、あんな化け物みたいな人間が出来上がるんじゃ?」

一輪「私たちが知るわけないじゃない」

マミゾウ「む?」

一輪「姐さんはね、ご自身の修行時代のことは決してお話しにならないのよ」

村紗「何か事情があるとは思うのですが、何も言わないということは、私たちも探るべきではないのでしょう」

一輪「きっとその辺りに姐さんの強さの秘密があると思うんだけど……」

マミゾウ「なるほどのう」


小傘「ありましたー」ピョン


星「ご苦労様です、小傘」

小傘「こういうのでいいんですかー?」サッ

星「どれどれ……なるほど、とてもカラフルですね。チルノにも良いかも知れません」

星「よく見つけてきてくれましたね、小傘」ニコッ

小傘「えへへ~」

村紗「ではチルノのことは任せますよ?」

星「はい。命蓮寺の警護、よろしくお願いします」ペコッ

マミゾウ「儂もそろそろ帰るかのう。また一から修行のやり直しじゃ!」


~後日~


チルノ「よぉし! チノイケジゴク、とうめいバージョン完成!」ゴトッ

チルノ「さあ食らえー! それそれ!」パシャ パシャ

星「きゃあ冷たい!」

星「やりましたね~? お返しです!」

星「針の山地獄こうげきぃ~!」ツンツンツン

チルノ「きゃははははは!」


ナズ「あれは何をやってるんだ?」

小傘「あれはですねー、昨日の絵本を真似してゴッコ遊びしてるんですよー」

ナズ「絵本……何やら、地獄とか鬼とか、バイオレンスな響きのある言葉が聞こえるんだけど、私の気のせいなのかな??」

小傘「んー、分かりませーん。私、字が読めないので」

ナズ「……まあいっか。ご苦労さん」

小傘「はーい」ピョン

ナズ「しかし、敷地内でじっとしているのも退屈だな」

ナズ「仕事もかなり早めに終わるようになったし……」

村紗「では、かねてよりの念願であった謎の究明と行きましょうか?」スッ


ナズ「わっ!?」ビクッ

村紗「……どうかしましたか?」

ナズ「む、村紗か……いきなり現れるなよ! ビックリしたじゃないか!」ドキドキ…

村紗「これは失敬。とっくに気が付いてるものと思っていたので」

ナズ「ううむ……安全な所に長く居たせいで、体がなまってきているのかも知れない」

村紗「それほど気に病むことはありませんよ。あなたの主たる役割は戦闘ではないのですから」

ナズ「ふむ……さっき何て言ったっけ??」

村紗「真実の究明ですよ」

村紗「どうやら星が妊娠していることも確からしいですし、その子が私たちに何ら危害をもたらさないことも、聖が確認済みです」


ナズ「うん……」

村紗「しかしながら、なぜ星が突如子どもを授かることになったのか。その辺りは一切不明です」

村紗「これが出産を経て、命蓮寺に新しい一員が加わりました。めでたしめでたしー」

ナズ「……」

村紗「……で事が終わるとは、私にはどうしても思えません」

村紗「これは恐らく、何かが起こる前触れなのだと思います」

ナズ「……うん。私もそう思う」

村紗「もちろん聖にも伺いを立てましたが、あの方が言うには―――」


聖『先のことを心配するより、いざ事が起きた時に慌てず対処できるようにしておく方が大事です』

聖『そのためにはしっかり修行を積んで、自身の命を磨いておくことこそが最大の準備です』

聖『……いやむしろ、そろそろ実際の出産を念頭に入れて、予行練習を始める方が良いかも知れません』

聖『未来に何が起こるかなど私たちに知る由はありませんが、星が出産する、これだけは確かなのですから』


村紗「―――だそうです」

ナズ「……確かにもっともだな」

村紗「しかしやはり私は真相が知りたい。そこに何が隠されているのか突き止めたいのです」

村紗「それが解明されれば、命蓮寺にとっても大きな利益になるはずです」

村紗「あなたとて、その気持ちは同じでしょう?」

ナズ「それは……まあ、うん」

村紗「では共に探索と参りましょう。少々難易度が高いのですが、魔界に赴いてみるというのはいかがでしょうか?」

ナズ「しかし私たちは謹慎中の……うん??」

村紗「やっと気が付いたようですね」

村紗「そうです。もう謹慎期間はとうに明けています」


ナズ「そういやそうなるね。チルノの相手で忙しくて、そんなこと忘れていたよ」

村紗「それでも外出の際には、やはり聖にご足労頂かなければなりません」

村紗「それで今から聖に事の次第を説明して、再度説得を試みるつもりなのですが……」

ナズ「うん」

村紗「私一人でというのはいささか心もとない」

村紗「あなたが味方になってくれれば大変心強いのですが……いかがですか?」

ナズ「うーむ……」


聖「二人とも、少しよろしいでしょうか?」ザッ


村紗「あっ、は、はい!」

ナズ「何用でしょうか?」

聖「あなたたちに頼みたいことがあるのです」

ナズ「?」

聖「先日、私が星の代役を務めたことは知っていますね?」

村紗「は、はい、もちろんです」

聖「その日の最後の参拝客を見送った後で気が付いたのですが……」

村紗「……はい」

聖「ふと思い出してみると、その日の参拝客たちは皆、終始驚いたような顔をしていたのです」

ナズ「……?」


聖「私はしばしの間思案して気が付きました」

聖「御本尊たる毘沙門天はいたのですが、その傍らで説法する私がいなかったのです」

村紗「あ……なるほど」

ナズ「ふむ」

聖「よくよく思い出してみると、私は御本尊としてのお役目を務めながら、自ら聖白蓮の代わりとなって説法をしていたのですよ」

聖「普段人前で滅多に口を開かない毘沙門天が訥々と説法など始めるものですから、きっと皆困惑してしまったのでしょう」

村紗「そういうことでしたか……」

ナズ「しかしそれは何て言うか……もう少し、早い段階で気が付けなかったのでしょうか??」

村紗「ナズーリン」

ナズ「失言致しました」


聖「構いません。それで分かったのです」

聖「この寺には、毘沙門天の代役を出来る者はいるのですが、私の代役を出来る者がいないのです」

聖「姿形は似せることはできても、口が達者でないといけませんから」

村紗「なるほど」

聖「つまりこの命蓮寺には、私以外に説法できる者が必要なのです」

ナズ「……まさか」

村紗「……!!」

聖「はい。修行を積んできた古参のあなたたちに、いざと言う時に備えて説法できるよう練習しておいて欲しいのです」


村紗「と、とんでもない! そのような大任、とても私たちには……!」

ナズ「そうです! 私たちはそういう事にはまるで門外漢なのですよ!?」

聖「大丈夫です。命蓮亡き後の寺を切り盛りしていた当時の私も、仏法のことはほとんど何も知らなかったのですから」

村紗「しかし……」

ナズ「それに……妖怪が説法するなど、前代未聞ではありませんか?」

村紗「……」コクッ

聖「前にも教えたでしょう。人間と妖怪に大した違いなどありません」

聖「ただ、あなたたちはほんのちょっと強い力を持っているだけで、それ以外は人間と変わらないではありませんか」

ナズ「いえ、全く同じというわけでは……」


村紗「と、とんでもない! そのような大任、とても私たちには……!」

ナズ「そうです! 私たちはそういう事にはまるで門外漢なのですよ!?」

聖「大丈夫です。命蓮亡き後の寺を切り盛りしていた当時の私も、仏法のことはほとんど何も知らなかったのですから」

村紗「しかし……」

ナズ「それに……妖怪が説法するなど、前代未聞ではありませんか?」

村紗「……」コクッ

聖「前にも教えたでしょう。人間と妖怪に大した違いなどありません」

聖「ただ、あなたたちはほんのちょっと強い力を持っているだけで、それ以外は人間と変わらないではありませんか」

ナズ「いえ、全く同じというわけでは……」


ナズ「……!」

ナズ「そうだ! 私にはほら!この隠し切れない大きな耳としっぽがあるから!」サッ

ナズ「説法するのが妖怪とあっては、彼らも納得しないでしょう! いや~残念です!」

村紗「ズ、ズルいですよ! ナズーリン!」

聖「心配無用です。大きめの衣装と一輪が被るような頭巾を作ってあげましょう。私は裁縫も得意なのですよ?」

ナズ「……!!」

聖「いずれ説法練習のために講義を開きますので、あなたたちも参加なさい。既に一輪にも話を伝えてあります」

村紗「……はっ!」

ナズ「……」コクッ


~少女暗澹中~


村紗「こ、これは、大変なことになりました……!」ブルッ

ナズ「あの方は、時たまとんでもない事をサラッと言うから油断できないんだよ……」

村紗「いずれにしても、まずは一輪と合流した方が良さそうですね」

ナズ「私もそう思うよ。まあ合流したところでどうにもならないんだけどね」

村紗「一輪、いますか?」スッ


ガラッ…


一輪「!」ビクッ


ナズ「……何だ? 君は何をしているんだ?」

一輪「これはちょっとね、フフフ……」

村紗「一輪、そこは窓です。出入り口はこっちですよ」

一輪「おっと、これは私としたことがうっかりしてたわね」コソコソ…


ガシッ!


一輪「あっ……」

ナズ「つかぬことを伺うけど、どこへ行く気なんだい?」


一輪「これは…………そうね、最近体がなまってきたから、そろそろ武者修行に出ようかな~と」

村紗「そうですか。大変よく分かりました」

一輪「じゃあ私はこれで!」

村紗「もちろん、そんな嘘が通用するとは思ってませんよね?」

一輪「……」

ナズ「……」


一輪「さらばっ!! 私より強いヤツに会いに行くッ!!」ババッ

ナズ「あっ! 待てっ!!」

村紗「ええい! 逃がさんッ!!」バッ

一輪「ちょこざいなッ!!」バッ


ドゴォォン…!

ズズゥゥン…!


響子「!」ピクッ

響子「あ~あ、またせんぱいたちか。掃除する所が増えちゃったな」

響子「……まぁいっか! あそこら辺はせんぱいたちに責任取ってもらおっと!」


~後日 命蓮寺客間~


聖「よく集まってくれました。ではそこへお座りなさい」

一輪「は、はぁ……」

村紗「失礼します……」

ナズ「……どうも」

聖「緊張しなくても大丈夫です。お茶でも飲みながら気楽に構えていてください」

コポコポ…

一輪「では、失礼して……」スッ

村紗「頂きます……」スッ


聖「う~ん、最初は何がいいかしら」

ガサガサ…

ナズ「……」ズズッ…

聖「……うん、これが良いわね」

聖「ではこれをご覧なさい」サッ

ナズ「これは……」

一輪「ガイコツがたくさんいるわね」

聖「これは過去のある仏僧が書き遺したものです」

聖「ここではこう言っています」


聖「”富める者も貧しい者も、健やかな者も病める者も、このように一枚皮を剥がせば皆同じである”」

聖「”だから何も悩む必要などないのだ”と」

一輪「はぁ」

ナズ「……なるほどね」

村紗「……」

聖「馬鹿げた話です」ポイッ

ナズ・一輪「えっ」


聖「私たちにとっては、その被った皮こそが重要なのではありませんか」

聖「生まれ、境遇、立場、そういった自分とは違うものを持つ者と分かり合えるからこそ、生きる喜びが感じられるのです」

聖「私たちが苦悩を抱えつつ生きようとするのは、そこに他人というものがあるからです」

聖「呼吸し、言葉を話す、感情を持った命があるからこそ、私たちは苦難を乗り越え生きようとする」

聖「私たちの本質がただのガイコツだと言うのなら、何も苦労して生きていく必要などないのですよ」

一輪・村紗・ナズ「……」


聖「このように過去の文献の中には、仏僧の振りをしてペテンを言う者が少なからずあります」

聖「よくよく照らし合わせて見ると、まるであべこべの事を言っている場合もありますので、注意が必要となります」

ナズ「むむむ……」

聖「分かりましたね?」

聖「経典を分かりやすく語る文献は山ほどありますが、その中には仏の真実を語るものと、そうでないものが混ざっています」

聖「つまりそれらを厳しく峻別する基準が必要となるのです。その基準とは、結論を言えば『慈悲』が含まれているか否かとなります」

聖「そしてその慈悲があるのかどうか見極める目は、仏の真言、経典を心読することでしか鍛えられません」

聖「分かりやすいからといって、仏を軽んじる低劣な書に親しんではなりませんよ」

聖「特に他人の悩みを矮小化して大仰な言を吐く者は、総じてインチキです。よくよく注意なさい?」

一輪・村紗・ナズ「……はっ」


~後日~


聖「……分かりましたね? 何も難しい経文を覚えておく必要はありません」

聖「説法と言っても、特別なことをするわけではないのです」

聖「相手のことを真剣に思いやれば、どんなことを言えば良いのかは自ずと明らかになります」

ナズ「……」

一輪「……」

聖「ではここまでで、何か聞きたいことがある者はいませんか?」


ナズ「……しかし聖様」

聖「はい、何でしょう」

ナズ「仏に供養するためとはいえ、その……焼身自殺して灯りを作るというのは、あまり穏やかではありませんね」

聖「いえいえ、それは一つの譬えですよ。何も本当に炎に包まれて焼け焦げるという意味ではありません」

聖「ここで言う『自らを燃やす』というのは、衆苦を取り除かんがために身命を惜しまないことを意味するのです」

聖「仏事を為すために労を惜しまず、骨を厭わず、衆生の幸福のためにその身を尽くし、捧げ、ご供養奉るという意味なのです」

聖「さればこそ、その身の燃焼によって三世十方をことごとく照らし、無明の闇を払う功徳あるべしと読めるのですよ」

ナズ「はぁ、なるほど……しかし、それならそうと記せば良かったようにも思われますが……」

聖「ん?」

ナズ「最初からそのように書いておけば、私のように誤解することも無かったというか……」

聖「だって、そう書いた方がカッコいいじゃないですか」ニコッ

ナズ「は、はぁ」


聖「では他に質問のある者はいますか?」

村紗「……ひ、聖!」

聖「はい」

村紗「誤りを承知で、お聞きしたいことがあります!」

聖「聞きましょう」

村紗「はい、では…………悩みというものは、完全に消し去ることは可能なのでしょうか??」

聖「結論から申し上げましょう。出来ません。不可能です」

村紗「……!」グッ…


聖「煩悩即菩提という言葉があります。これは悩むことが生きることと同一であることを示すものです」

聖「生きることとは悩むこと……悩むとは、命の営みそのものの異名でもあるのです」

村紗「……」

聖「もちろん完全に消し去る方法が無いわけではありません」

聖「ただしそれは自らの命を断つ事と同義です」

聖「村紗の言うような、いわゆる極楽を描写した経文も確かにあります」

聖「しかしそれは方便であり化城なのです。仏の真実を著したものではありません」

聖「一切の苦悩が取り除かれたとされる天界の住人たちも、結局のところ、その安楽は永遠ではないのですよ」

ナズ「……天界も例外ではないのですか?」


聖「はい。彼らとて、いずれ訪れる寿命の恐怖を忘れようと、気を紛らわすために享楽に浸る日々を送っているのです」

聖「天界という場所も、決して安住の地などではありません」

聖「言うなれば、仏の方便力で現された仮の城で一旦休憩しているようなものです」

聖「そんな場所に留まっていては、無量億千万那由他阿僧祇劫もの果てしない時を越え修行を続けたところで、決して成仏は叶いませんからね」

聖「悩みが存在しないということは、即ち得るべき果もまた限りなく些少であるということ」

聖「『穢土の一瞬は極楽千年の修行に勝る』というのは、まさにこのことなのですよ」

ナズ「……」


聖「詰まるところ、ぶつかってしまった悩みは克服する以外にないのです」

聖「生きていくこととは、次々に現れる悩みを乗り越え続けることにあると言えるでしょう」

村紗「そ、そうですか……」

聖「……そしてその現実に直面した際に、ふんばって踏みとどまるのか、それとも倒れてしまうのか」

聖「その分かれ目において活路を見いだす方法が、仏法なのです」

村紗「……」

聖「だいぶ参ってしまったようですね。ちょっと厳しすぎたかしら?」

一輪「……では聖様」

聖「はい?」


一輪「その悩みをを乗り越え続けるためには、具体的に私たちは何をすれば良いのでしょうか?」

聖「良いことを聞いてくれました!」ニコッ

一輪「えっ?」

村紗「……?」チラッ

聖「悩みを越えるには、やはり自分自身が強くなる他ありません」

一輪「は、はぁ」

ナズ「ふ、普通ですね……」

聖「そして強くなるためにはどうするか。それは修行を続けて命を磨いていくことです」


一輪「修行……聖様のようにお経を上げたり、寺を掃除したりすることでしょうか?」

聖「え? ああ、あれは修行ではありませんよ?」

一輪「……!?」

聖「ううん、厳密には修行ということになるのかしら?」

聖「……ともかくあれが必要であることは確かですが、主たる修行ではありません」

聖「言ってみれば、ただの準備です」

一輪「……では、修行とは何なのでしょうか??」

聖「村紗には繰り返しになりますが、未だ三宝の現れない現在においては、修行とは生活全般のことを指します」

一輪「??」


聖「あなたたちには、今まで炊事、洗濯、掃除等をしてもらいました。覚えていますね?」

一輪「はい……」

聖「例えば洗濯ですが……」

聖「最初のうちこそ、時間がかかったり、時には響子に手直ししてもらうことなどがありました」

一輪「お恥ずかしながら……」

聖「けれども、続けていくうちにどんどん仕事が早くなり、仕上がりも今まで以上のものになりましたね」

ナズ「……ありがとうございます」

聖「それが修行の成果です」

一輪「!?」


ナズ「えっと……洗濯の技術が向上したことを仰っているのでしょうか?」

聖「いいえ、違います」

ナズ「えっ??」

聖「もちろん技術は上がったのでしょう。しかしそれは結果でしかありません」

一輪・村紗・ナズ「??」

聖「あなたたちの洗い方には、それぞれ癖がありました」


聖「一輪は洗うのは速いのですが、その代わり乱暴に擦るので布地を痛めることがありましたね」

一輪「!」

聖「村紗は逆に、汚れをしっかり落とそうと手をかけるのですが、そのために時間がかかりすぎるところがありましたね」

村紗「……!」

聖「そしてナズーリン」

聖「ナズーリンは手際よく動いて時間もかからなかったのですが、汚れが落ちたかどうかあまり確認しないため、汚れが残っていることがありましたね」

ナズ「そ、そんな所までご覧になっていたのですか!?」

聖「もちろんです。私の目は節穴ではありませんよ?」

一輪「姐さんが見に来てたのって、一瞬だけじゃなかったかしら……?」

村紗「私もそのような記憶がありますけど……でも、聖の言葉は確かです」


聖「……しかしあなたたちは洗濯の仕事を続けるうちに、自らの短所を補うようになっていきました」

聖「一輪はより丁寧に洗うようになり、村紗は最小限の動きを探し、ナズーリンは汚れ落ちを確認するようになりました。そうですね?」

ナズ「……はい」

一輪「……」コクッ

村紗「仰る通りです」

聖「それはどうしてだったのか、思い出してごらんなさい?」

一輪「いえ、私ばかり響子から注意を受けていたので、それが悔しくって……」

村紗「二人とも私より早く終わっていたので、自分は少し時間がかかり過ぎているのではないかと……」

ナズ「私は、その、村紗に叱られてしまいまして……」


聖「そうですね。あなたたちは三人とも他の者の仕事を見習って、それぞれ改善するようになりました」

聖「それは自分以外の手本がそこにあったからです」

聖「もし自分一人だけで同じ仕事を続けていたら、最初の頃の癖は抜けなかったかも知れません」

一輪・村紗・ナズ「……」

聖「それでも、最初のうちは隣の洗い方など、何も気にしていなかったでしょう?」

一輪・村紗・ナズ「……」

聖「それがいつの間にか、隣がどうやっているのか気になりだしましたね。なぜでしょうか?」

一輪「……?」

村紗「??」

ナズ「うーん……」

聖「分かりませんか? ならば答えを言ってしまいましょう」


聖「それはですね、飽きてくるからです」

一輪「飽きてくる?」

聖「はい。人間というものは自分一人だけでいると、何をしていても途中からつまらなくなってくるのです」

聖「もし近くに自分以外の誰かがいれば、その人が何をしているのか自然と気になってしまいます」

聖「どうしてかといえば、それは一言で言って楽しいからです」

ナズ「た、楽しい??」

村紗「……」

聖「そうですよ? 自分以外の誰かがいるというのは、とても楽しいことなのです」


聖「衆生所遊楽との言葉にある通り、私たちはこの世界に遊びに来ているのです」

聖「つまり今をよりよく楽しむことこそ、私たちの生きる意味なのです」

聖「では一番の楽しみとは何か。それは自分自身が他の誰かと共に生きていると実感することにあります」

聖「私たちが何をしにこの地上に生まれてきたのかというと、その誰かに会いに行くためなのです」

聖「私たちの魂は、根源的に他者というものを求めているのですよ」

一輪「はぁ……」

聖「村紗、あなたが言う悩みというものは、大抵、というよりほとんど全部が自分一人の悩みなのです」

村紗「……と、言いますと??」


聖「先ほど申し上げたように、私たちは根源的に他者を求めています」

聖「しかるに、悩んで苦しむという状態はその本質に反しているのです」

聖「なぜならば、他者を求めながら意識そのものは自分一人の中へ中へと潜り込んでいくからです」

聖「それではまるであべこべの状態です」

村紗「は、はい……」

聖「そうではなく、私たちは自分自身の本質に従うべきなのです」

聖「苦しい時こそ、一人だけで篭もったりせず誰かに会いに行くのが良い」

聖「どうにもならないと思い悩んでいる時こそ、他人のことを思いやるのが良いのです」


聖「それには自分の生活をきちんと整えていくことが一番良い」

聖「生活を続けるには、他人と関わらざるを得ませんからね」

聖「生活全般が修行であると言ったのはそういう意味です」

ナズ「なるほど……」

一輪「では聖様……」

聖「はい?」

一輪「修行のことは何となく分かりました。しかし、強くなるという部分が今一つ理解が追い付きません」

一輪「ここは無礼を承知で、是非ご教示願いたく思います」

聖「一輪……今日のあなたは良い質問ばかりしますね!」ニコッ

一輪「そ、そうでしょうか? ありがたく存じます」


聖「では説明しましょう!」

聖「仏教でいう”強くなる”というのは、自分自身の本質をどこまで実現させられるかによります」

聖「ならばその本質とは何か……はい、おさらいですよ?」

ナズ「う~ん、意識を外に広げていく……かな??」

聖「おっと! いきなり大正解が出てしまいましたね!」

ナズ「え??」

聖「その通りですよ、ナズーリン」

聖「仏の説く強さというものは、どこまで自分の意識を広げていけるかということ」

聖「もっと分かりやすく言えば、自分以外の者に対して、どこまで思いを巡らせられるのか。これにかかっているのです」

聖「自分以外に思いやれる相手がどれだけいるのか。これが仏法における強さというものの基準となります」


ナズ「ふーむ……」

村紗「……」

一輪「……しかし聖様」

聖「はい」

一輪「お話を伺う限りでは、なのですが……そうすると、いくら強くなっても本人そのものは変わらないというか……」

聖「……」

一輪「これは、その……本人の能力に関しては、特に何も変わっていないのでは……?」

聖「まさしくその通りです!」ニコッ

一輪「え……ええっ!?」


聖「いくら修行を積んで強くなったからといって、本人の知識や技術が向上するわけではありません」

聖「変わるのは、気の持ちようなのです」

一輪「??」

村紗「……」ピクッ

聖「長らくお待たせしましたね、村紗」

聖「ここからが仏法の真骨頂ですよ!」

村紗「……」コクッ

聖「よろしいですか? 強くなってくるとですね…………どんな悩みでも、楽しく悩めるようになってくるのです!」



村紗「!?」


村紗「そ、そんなバカな!」

ナズ・一輪「??」

聖「驚きましたか? ちょっと表現は大げさだったかも知れませんが、しかしそれは充分可能なことですよ?」

村紗「で、ですが……」

聖「悩んで苦しむというのは、要するにそれがつまらないからです」

聖「なぜつまらないのか。それは自分一人に留まる悩みだからです」

聖「しかし、あなたが他人の悩みを解決しようと思いを巡らせるならば、それだけで気の持ちようが変わってくるのです」

村紗「……」

聖「なぜならば、他人のために思い悩むのはとても楽しいことだからです」

村紗「……!」


聖「仮に腕組みしながら唸り声を上げていたとしても、あなたの魂はそこに喜びを感じ取っている」

聖「そうなれば、もはや自分自身の悩みに苦しめられることは少なくなってきます」

聖「どうしてかといえば、自分の悩みだけにこだわることが、とても退屈であると気が付くからです」

村紗「……」

聖「確かに悩みの原因そのものは何も変わっていないかも知れません」

聖「しかし、その悩みに捕らわ続けるという状態からは抜け出すことが出来るのです」

聖「あなたも私に伴い仏道に従う内に、元あった自分の悩みが次第に小さくなっていくような感覚があったでしょう」

村紗「……」


聖「悩みを乗り越えるというのは、ただ単にその原因を解消することだけを指すのではありません」

聖「自分一人だけのちっぽけな悩みから、より広い、大きな悩みへと乗り換えることも指すのです」

村紗「……!」

一輪「あっ……」

ナズ「し、しかし、大きな悩みなど持ってしまったら、それこそ余計に苦しむようになるのではありませんか??」

聖「そう思うでしょう? しかし真実は逆なのです」

聖「確かに課題は増えるでしょう。為すべき事も大幅に増大するはずです」

聖「けれども、そのことに思い悩んですすり泣きをしたり、自分の胸を握り締めて涙を流すような、そんな悲しい悩み方はしなくなるのです」

ナズ「……」


聖「……時に村紗」

村紗「は、はい!」

聖「私は長々と説法致しましたが、このような説法などしなくても、あなたは無意識の内にこのことを理解しています」

村紗「……?」

聖「だからこそあなたは、積極的に他者を助けようとする」

聖「あなたはナズーリンが高い所まで手が届かず、洗濯物を干すのに苦労しているのを見て、誰に言われるでもなく踏み台を用意してくれましたね」

村紗「!」

ナズ「あ、そういえば……あれは君が持ってきてくれたのか」

聖「掃除においても、一輪の衣装が汚れやすい雑巾がけなどの仕事を積極的に引き受けていましたね」

村紗「……」

一輪「そ、そうなんだ……」


聖「村紗、あなたは私が教えるまでもなく、既に修行を積んでいたのです」

聖「それはあなたが無意識のうちに仏道を求めていたからです」

村紗「お、恐れ入ります……」

聖「しかしながら、それを文字や言葉で表現しようとすると、このように込み入ったものにならざるを得ません」

聖「これが説法の難しいところなのですよ」

村紗「…………」

聖「まあそれも、楽しい悩みではありますけどね」ニコッ

村紗「……ありがとうございました!」バッ


聖「村紗、あなたが自らの仏性を疑うことなく信ずるならば、必ずや今生の内に今言ったような境地に到るのです」

聖「そうなればどのような魔王の眷属であろうとも、もはやあなたを貶めることは叶わない」

聖「あなたは周囲を限りない慈悲によって満たすでしょう。さすれば鬼は鬼のままではいられなくなり、悪魔は悪魔のままでいられなくなる」

聖「それが穢土であろうと、地獄であろうと、はたまた阿鼻獄であろうとも、あなたはその火炎に焼かれることはない」

聖「その身がどこにあろうとも、あなたのいる場所こそが浄土であり、あなたの行く先こそが浄土となるのです」

聖「これをゆめゆめ疑ってはなりません」

村紗「……はっ!」

聖「村紗、これからも大いに修行に励みなさい。いいですね?」

村紗「はっ!」


聖「……では、他に質問のある者はいますか?」

一輪・ナズ「……」

聖「なければ今日はこれで終わりとしましょう」ガタッ…


~森~


マミゾウ「……」

マミゾウ「うむ、そこそこうまくやっとるようじゃな」

八雲藍「おい」

マミゾウ「うん?」チラッ

藍「こんな所で何をしている。お前には後任の役目を与えておいたでしょう」

藍「いつまでもフラフラしてないで、さっさと持ち場に戻りなさい」

マミゾウ「……嫌なこった」

藍「何?」


マミゾウ「儂もいろいろと忙しい身でのう。気の進まん仕事は後回しじゃよ」

藍「……」

マミゾウ「それに、あそこは儂が行かんでも大丈夫じゃろう」

マミゾウ「あそこの当主はちいとばかし封印が強いようじゃが、周りの者がよく支えておる」

マミゾウ「おそらく儂無しでもちゃんとやっていけるわい」

藍「お前の考えなど知らん。それより与えられた役目を果たしなさい」

藍「私に与えられた権限はお前も知っているはずよ?」スッ…

マミゾウ「おおっとぉ? これはマズいのぉ~」

藍「そう簡単に逃げ切れると思わないことね」

藍「所詮お前の安っぽい手品など、何度も通用するものではない」


マミゾウ「……なるほど、では目の前の儂が泥人形であることも、既にお見通しというわけか」

藍「…………!?」





泥人形「」





藍「こ、これは……どこへ消えた!?」


マミゾウ『はっはっはっはっは!! 未熟者め!まだまだ修行が足りんわい!!』



藍「くっ……どこだっ!」キョロキョロ



マミゾウ『儂には力は無いが、お前さんを化かす程度の知恵はあるでのぉ~! ではサラバじゃっ!』



藍「今度こそ逃がさんぞ!」ババッ





泥人形「」


泥人形「……」ブルブル




――ボコッ!




マミゾウ「ぶふぁ……こんなこともあろうかと、あらかじめ泥を被っといて正解じゃったわい」

マミゾウ「しかし意外と間抜けなヤツじゃのう。まさか同じ手に引っ掛かるとは」

マミゾウ「さあて、またしばらく行方をくらますとするかのう」タタタッ


~後日~


一輪「何回聞いても、姐さんのような説法は難しいわね……」

村紗「それでもやるしかありません」


星「ではチルノ、今日はこれを読んであげましょう」

チルノ「……」ジー


一輪「……のん気な星が羨ましいわね」

一輪「私も経典の文言なんかに塗れてないで、星みたいに子守りでもしてられたら楽なのに……」

ナズ「……実を言うと、ああ見えてご主人は寺にある経典は全部読み終えてるんだよね」

一輪・村紗「!?」


ナズ「何しろ時間だけはたくさんあったからね」

ナズ「聖様の教えを実感できるものと言ったら、それぐらいしか無かったんだよ」

村紗「それは……驚きましたね」

一輪「なら、説法は私たちじゃなくて、星がやればいいのに……」

ナズ「無茶を言うなよ。ご主人はあのお腹なんだぞ? 無闇に参拝客の前に出すわけにはいかないだろう」

ナズ「そもそもご主人が出られないから、今ややこしいことになってるんじゃないか。忘れたのかい?」

村紗「そういえばそうでしたね」

一輪「むむむむむ……」


星「今度は……」ペラッ

チルノ「……」

星「ほら見てください、チルノ」

星「手足がこんなに細いのに、お腹だけ私みたいにポッコリしてますよ? おかしいですね~」

チルノ「……」

星「ふーむ……」サッ

星「ほらほら見てください」

星「ガイコツが扇子持って踊ってますね~。これは何なのでしょう」

チルノ「……」


星「……チルノ??」ユサユサ

チルノ「へっ? あ、う、うん」

星「どうしたんですか? このところまるっきり上の空ですね」

星「何か困ったことでもあるのでしょうか?」

チルノ「……」

星「ふむ……では今日は二人でボーっとしていましょう」

チルノ「……」

星「はぁー……」


チルノ「……」


星「スー……スー……」


チルノ「……」

チルノ「とらー……」

星「スー……」

チルノ「とらー?」ユサユサ

星「……ん どうしましたー?」

チルノ「うみってどんなとこ?」


星「うみ?? うみって……海のことですか??」

チルノ「んー……」コクッ

星「海ですか。海はですねー」

チルノ「……」ジー

星「水がいっぱいあって、凄く大きいんです」

星「湖よりもずっとずっと大きいんですよ?」

星「あとは……えーと、魚がいっぱいいてー」

チルノ「……」ジー

星「……実を言うと、私もそれくらいしか分からないんですよ」

星「そういえば命蓮寺には海に詳しい者がいましたね」

星「ここは一つ、海の専門家にお話を伺うとしましょう」


~命蓮寺 書庫~


ナズ「……ダメだ、まるでさっぱりだよ」

村紗「私もです。全く歯が立ちません」

一輪「そもそも何て読むのよ、これ」


ガラッ…


星「失礼しまーす。村紗はいますか?」

村紗「星? どうかしましたか?」

星「チルノが海の話を聞きたいらしいのです。少々お時間をいただけますか?」


村紗「……」チラッ

一輪「構わないわ。どうせ一人減ったところで大して違いはないもの」

村紗「では後はよろしくお願いします。行きましょう、星」

星「はい」

ナズ「……ちょっと待ってくれ、ご主人」

星「はい?」

ナズ「これは何て読むんだ?」

星「どれどれ……ああ、これはですね」

星「イッサイセケン、テンニンギュウ、アシュラ、カイイコンシャカムニブツ、シュツシャクシグウ、コガヤジョウ、フオンザオ――――」


一輪「……」

村紗「??」

ナズ「つまり……どういう意味なんだ??」

星「私は生まれてから数十年修行してきたと人は言う」

星「しかし本当の私はすごーーーく長い時間を修行してきたのだ」

ナズ「それってどのくらい??」

星「うーんと、万よりも億よりも大きい、もっともっとすごーーく長い年月ですね」

ナズ「何だそりゃ。そんなの明らかに嘘じゃないか」

星「いえいえ。生まれる前と入滅した後を入れれば、それほど無理でもありませんよ」

ナズ「うーん……??」


星「まあその辺りは深く考えなくていいらしいですよ? 聖によれば」

チルノ「とらー」クイクイ

星「ああ、すみませんね。ではそろそろ失礼します」

村紗「海……か」スッ


ギギィ… 


ナズ「うむむ……」ジー

一輪「…………」

ナズ「やっぱり目を凝らしても読めないものは読めないね」

ナズ「毘沙門天様のお話をもっと真剣に聞いておけば良かったな」


一輪「あー!! もうヤメヤメ!!」バッ

ナズ「ん?」

一輪「こんな読めないものの相手なんかしてたってしょうがないわよ!」

一輪「もう私、こんなカビ臭い所になんかいられないわ!」

ナズ「しかし経文が読めないことには……」

一輪「いいのよ!そんなことは!……よく考えてみなさい?」

ナズ「?」

一輪「この寺に参拝しに来るのは誰かしら?」

ナズ「そりゃまあ、人間だろう?」


一輪「そうよね? あいつらは私たちよりずっと短い年数しか生きていないのよ?」

ナズ「うん、まあね」

一輪「私たちは数百年も生きてきて、それでもこの経文の意味も読み方も分からない」

一輪「それなら、人間たちにはなおさら分かんないわよ」

一輪「私たちですら理解の追い付かないものを説いたところで、人間なんかに分かるわけないのよ!」

ナズ「人間の中には、こういうものをスラスラ読めるのがいたはずなんだけどな」

一輪「細かいこと言うんじゃないの!!」


一輪「とにかく、私はこんな息もできない狭い場所に閉じ込められるなんて、まっぴらご免だわ!」

一輪「私先に行くから! きっとここは私たちには用のない場所なのよ!」ドタドタ…


ギギィ…


ナズ「……」

ナズ「まあ、君の言うことも一理あるかもね」スッ


~命蓮寺 裏庭~


村紗「……まずどこから話したものでしょう」

チルノ「……」

星「ではまず湖と違うところからお願いできますか?」

村紗「そうですね。湖と違うのは……一つは波があることです」

星「波??」

村紗「ええ、海の端というものは大抵砂浜になっているのですが、そこでは耐えず水が押したり引いたりしているのです」

チルノ「……」


星「砂浜? 押したり引いたり??」

星「……それは、どういうことなんでしょうか?」

村紗「うーん、水が勝手に動いているんですよ」

星「??」

村紗「まあ行って見てみれば分かりますよ」

星「そうですか……他には何かあるでしょうか?」

村紗「そうですね、後は……海の水というのは、普通の水ではないのです」

星「と言いますと?」


村紗「舐めてみると分かるのですが、海の水というのは塩辛いのです」

星「それは、どうしてなのでしょう」

村紗「簡単です。海の水には塩が含まれているからです」

星「何と! では海の水があれば、岩塩を探しに行かなくとも良くなりますね」

村紗「その通りです。私の故郷でも、海の水からたくさんの塩を作ったものです」

チルノ「……」クイクイ

星「ん? どうしました?」

チルノ「……」


星「……あ、そうですね」

星「村紗、海というものがどんなものなのか、分かりやすく絵に描いてもらってもよろしいでしょうか?」

村紗「絵にですか? さてどうしたものでしょう。私にはそのような心得はありませんので」

星「簡単なもので構いません。チルノにも分かるようにしてもらえれば」

村紗「そうですか。では……」


ガリガリガリ…


チルノ「……」ジー


村紗「この大きな円の中に……」ガリッ…

村紗「ここ。この小さい豆粒のようなものが幻想郷、私たちのいる所としましょう」

星「はい」

村紗「海というものはそれ以外全部。つまりこの陸地から外は全て海なのです」

星「えっ」

村紗「海というものはとても大きい。私たちの立つ陸地は、海に比べればほんのわずかな広さしかないのです」

星「……しかし、この幻想郷から外へ行けば、まず別の地面があるのでは??」

村紗「もちろんあるでしょう」

村紗「ですが外の世界もこの幻想郷も、海から見れば大した違いなどありません」

村紗「どちらも海から見れば狭い土地でしかないのです」


星「はぁ……海というものは大きいのですね」

チルノ「……」クイクイ

星「ん?」

チルノ「……行ってみたい」

村紗「……」ピクッ

星「チルノは海に行ってみたくなりましたか?」

チルノ「……」コクッ

星「そうですか」

村紗「海……そういえば私も久しく行っていませんね」

村紗「……いや、うん……?」


星「村紗、海に行ってみることはできませんか?」

村紗「でき…………ない!?」

星「え?」

村紗「いや待って、どういうこと??」

星「どうかしましたか?」

村紗「おかしい……何で……」

星「あの、大丈夫ですか?」

チルノ「……」

村紗「ちょっと待ってください。理屈では行けるはずなのです」


村紗「ここからひたすらまっすぐ行けば、外の世界を突き抜けて海へと出るはずです」

村紗「なのにどうして……」

星「?」

村紗「……星、残念ながら海へ行くことはできないようです」

村紗「この地上には、もはや海が存在しない」

星「存在しない? 海が無くなっちゃったんですか?」

村紗「そうです……だがそんなことは有り得ない!」

村紗「全ての河川は海へと通じている。その水流の全てが、まるごと消えてしまうだと……!?」

村紗「……いや、未だに雨雲は絶えない。水そのものは存在している。なのにどうして……」


星「村紗、何か私、良くないことを聞いてしまったのでしょうか?」

村紗「星、私は今とんでもないことに……いえ、まだ私の勘違いかも知れない。きっとそうだ」

星「?」

村紗「海はもうどこにもありません。どこへ行っても海へは辿り着けない」

星「そうですか……残念ですね」

村紗「しかしそれはおかしいのです」

村紗「海が無くなるということは、この地上から一切の水が無くなることに等しい」

村紗「ですが、未だ川には水流が満ち溢れ、雨雲は絶えることなく天を覆う……」

星「……」

村紗「つまり、この世界は矛盾している……!」


星「それはそんなに大変なことなのですか?」

村紗「大変どころではありません」

村紗「言うなれば、太陽が無くなったのに朝が来るようなものなのですよ?」

星「…………えっ??」

村紗「海が無くなるのはまだいい。まだ理解できる」

村紗「それならばこの地上が滅びるだけで、理には適っている」

村紗「しかし水分の循環は何の支障もなく続いている??」

村紗「これは……どういうことなんだ……」

星「い、嫌ですね、村紗は。そうやって冗談を言って」

村紗「これは冗談などでは……いいや、確かに私の思い違いである方が無理がないですね」

村紗「もうこれは聖に確認してみるしかないでしょう」


~命蓮寺 本堂~


聖「海ですか? 確かにこの幻想郷には存在しませんね」

村紗「では聖、外の世界ならば海はありますか?」

聖「外の世界ならばあるでしょう」

村紗「……聖、その認識をおかしいとはお考えにはなりませんか?」

聖「えっ?」

村紗「海とはこの地上にたった一つしかないもの」

村紗「この幻想郷からは干上がって無くなり、しかし外の世界には未だ残っている。このような理屈は成り立たないのでは?」


聖「…………確かにあなたの言う通りですね」

村紗「……」コクッ

聖「おかしいわね。どうして今まで疑問を持たなかったのかしら?」

村紗「それは私も同様です、聖」

村紗「私とて海が無いと知りながら、そのような矛盾に今の今まで気が付かなかったのです」

村紗「もしかすると、他の者も私たちと同じ勘違いをしている可能性があるのかも」

聖「ふむ……」

村紗「聖、私はこの矛盾に何が隠されているのか確かめたいと思いますが……」

聖「村紗、事を急ぐ必要はありませんよ」


聖「確かにあなたの言う通り、この世界には矛盾があるようです」

聖「しかしそのことよりも恐ろしいのは、そればかりに心を囚われて自らの進路を見失うことです」

村紗「……はっ」

聖「ひとまず水も変わらずあるようですし、生活そのものに心配は要らないようです」

聖「この裏には何らかの秘密もあるのでしょう。しかしながら、その秘密が今日明日私たちに襲い掛かるわけではありません」

聖「そのような兆候は、私もナズーリンも感じ取ってはいませんからね」

村紗「はっ」


聖「……ですが、海のことについて気になるというあなたの気持ちも分かります」

聖「チルノには恩もあります。もし行けるのであれば、チルノにも海というものを見せてやりたいと思っています」

村紗「で、では!」

聖「はい。あなたの力、今一度お借りしますよ?」

村紗「はっ!」

聖「聖輦船を起動します。あなたは一輪と共に全員をこの本堂に集合させなさい」

聖「夜更けと共に、この命蓮寺は海に向けて出発します」


~聖輦船運航中~


ゴウン… ゴウン… ゴウン…


響子「すごーい、本当に飛んでるー」

小傘「困るなー。こんなでっかい雨除けがあったら、私はますます要らなくなっちゃう」

ぬえ「オイッチニ、オイッチニっと! フッフッフ……!」

チルノ「この船に! あたいの韋駄天を掛け合わせる! そうすることで!」ダダッ

星「チルノ、危ないからこっちへ戻りなさい。チルノったら」


チルノ「あたいは今、風になったー!!」ダダッ

星「一輪、チルノが落っこちたりしないように見ててもらえますか?」

一輪「? あいつは羽で飛べるじゃない」

星「怪我ではなく、落ちるというのが良くないのです」

一輪「??……まあいいわ。何かあったら雲山に救助させるわよ」

星「はい。必ず受け止めてあげてください」

村紗「おおよその流れも分かりました。このまま川を下ります」サッ

聖「よろしくお願いします」


ナズ「……」

聖「気になりますか? ナズーリン」

ナズ「あ、はい……私の思い過ごしなら良いのですけど……」

聖「残念ながら、あなたのその予感は当たりです」

ナズ「えっ?」

聖「来ますよ。すぐにでも」

ナズ「!」

聖「しかし心配には及びません。このような……いますね、こちらに近付いてきます」


一輪「!」ササッ

ナズ「これは……守矢の巫女か?」

村紗「聖、いかがなさいますか?」

一輪「命知らずなヤツめ! 姐さんの進路にまで立ちはだかるとは不届き千万! こんどこそ叩き潰し」

聖「鉢合わせしては厄介です。村紗、進路の変更をお願いします」

村紗「了解」サッ

一輪「…………」

一輪「フン! 私たちには、あんなつまらないヤツの相手をしている暇はないということよ!」

ナズ「何をブツブツ言ってるんだ?」


~少女探索中~


聖「…………!」

ナズ「来てる……こちらに気付いています!」

聖「逃げ切れないようですね」チラッ


―――ギュゥゥン!


チルノ「んっ?」

一輪「あ、あれは!」

村紗「くっ、来たか!」


小傘「で、出たぁ~~!」バタバタ

響子「逃げろ~~!」バタバタ

聖「全員静かに!……ぬえ、出番ですよ」

ぬえ「はいよっと!」ササッ


魔理沙「こりゃデッケえ的だ! さぞかし―――」

魔理沙「!?」ピタッ


魔理沙「消えた??……どこに……」キョロキョロ


ゴウン… ゴウン… ゴウン…



小傘「で、出たぁ~~!」バタバタ

響子「逃げろ~~!」バタバタ

聖「全員静かに!……ぬえ、出番ですよ」

ぬえ「はいよっと!」ササッ


魔理沙「こりゃデッケえ的だ! さぞかし―――」

魔理沙「!?」ピタッ


魔理沙「消えた??……どこに……」キョロキョロ


ゴウン… ゴウン… ゴウン…



魔理沙「そこかっ!」

魔理沙「待ちやがれ! 私の必殺魔法の餌食にしてやるぜー!」

―――ギュゥゥン!



響子「……?」チラッ

小傘「あ、あれ??」

村紗「……離れて、行った??」

ナズ「何だ?あいつ。あさっての方向に飛んでいったぞ?」

ぬえ「フッフッフッフッフ……」

聖「どうやらうまく行ったようですね」


ぬえ「作戦! 大!成!功!」ニコッ

一輪「あなた、何かしたの?」

ぬえ「知りたいか? 本来であれば超極秘事項なのだけど、今回だけは特別に―――」

聖「彼女に幻術を使ってもらいました。ただ、少し改良を加えてあります」

ぬえ「ちょっと聖! 私の見せ場取らないでよ!」

聖「そうですか? ではどうぞ」スッ

ぬえ「フフン、同門のよしみだ。お前たちには特別に教えて進ぜよう!」

ぬえ「遡ること数百年、私は正体不明の妖怪として人間たちに恐れられていたわ」

ぬえ「この姿が見破られるまでは私の天下だったと言っていいわね」

一輪「……」

村紗「……」


ぬえ「でも当時の私には油断があった」

ぬえ「それは、いざ正体がばれてしまった時に、いかにして身を守るかということ」

ぬえ「この対策を怠っていたがために、私はやがて捕らえられ、長きに渡って封印されるという憂き目に遭う」

ナズ「……ちょっとゴメン、その話まだ続くのか??」

ぬえ「今良いところなんだから邪魔しないでよ……で、ついに私はその対策手段を手に入れたのよ!」

一輪「まだ本題に入らないの?」

ぬえ「今から言うところでしょー!? 空気読みなさいよー!」

聖「要するに幻を二つ作ったのです」

ぬえ「あー! ちょっと言わないでよー!」

聖「そうですか? これは失礼しました」スッ


ぬえ「コホン、そしてその対策とは……偽物を二つ用意することだったのよ!」キリッ

一輪「それは今聞いたわよ」

ぬえ「ムキー!!」バタバタ

響子「つまり……どうやったんですか?」

ぬえ「……ん? 聞きたいのかしら?」チラッ

響子「はい!」

ぬえ「ふむ、中々見所のある子ね! では教えてやろうかしら!」

ぬえ「片方の幻はもちろんこの船の偽物。もう片方の幻に秘密があるのよ」

ぬえ「今の私たちは、あいつにはただの風景にしか見えていないのよ!」

響子「??」


ぬえ「分からないかしら? つまり」

村紗「なるほど、今私たちには夜の景色が被せられているということですね」

ぬえ「あーっ! 先に言うの禁止!!」

村紗「これは失敬。余計なお節介でしたね」

ぬえ「コホン……つまり追っ手には偽物で目くらましして、自分はさらに別の偽物に隠れてやり過ごす!」

響子「へぇ~、それなら絶対ばれなさそうですね!」

ぬえ「これぐらいのこと、どうして今まで思い付かなかったのかしら!」

一輪「いかにも自分で思い付いたように言ってるけど、それ姐さんのアイデアでしょ?」

ぬえ「……」

ナズ「おーい、反論しないのかー??」


ぬえ「……静かに。今私は更なる修行のための瞑想状態に入ってるのよ」

村紗「どうやら彼女の持ち時間は終了したようですね」

聖「おそらく今頃は向こうも偽物だと気付いているのでしょうが、ここまで来ればもう追い付けはしません」

小傘「良かった~……」ヘタッ

聖「今回はうまく欺くことができたようですね。しかしまた同じ手が使えるかどうかは分かりません」

聖「見事海に辿り着けばそのような心配は無用ですが、残念ながらその期待は薄いでしょうから」

村紗「はい……」

聖「今回の探索では川の果てを見に行きます。その果てがあればの話ですけれど」

チルノ「川に果てなんてないわよ?? 川はどこまでも川だから川っていうのよ」

一輪「あんたの言うことは相変わらず意味不明ね」

村紗「……しかし、確かにチルノの言う通りなのかも知れません」

ナズ「と言うと?」

村紗「私と聖の予想も同じなのです。おそらくは―――」


~聖輦船運航中~


ゴウン… ゴウン… ゴウン…


村紗「やはりか……ある意味、予想通りではありましたね」

聖「そのようですね」

村紗「もう山を四十も越えたはずなのに、まるで川幅は太くなりません。他の川との合流も見られない」

村紗「さらに驚くべきは、川沿いに集落一つ見当たらないことです」

村紗「これほど下って民家一つ現れないとは……」

聖「まるで陸の孤島……いえ、陸の牢獄と言ったところでしょうか」

村紗「……」


聖「幻想郷には様々な妖怪たちの拠点があったり、人間の村がいくつもあるというのに、それらは外界からは完全に隔絶されている」

聖「外側はただひたすらどこまでも山と森しかなく、道の一本たりとも幻想郷には通じてはいない」

聖「ただ幻想郷だけがその中心にポツンと存在している……」

村紗「……」

聖「もう戻りましょう。これ以上進んでも違う景色が開かれることはないようです」

村紗「分かりました……回頭!」サッ


グォン… グォン… グォン…



一輪「うう、さぶさぶ……村紗、交代の時間よ」

村紗「はい。よろしくお願いします」

ナズ「何か目新しいものは見つかったかい?」

村紗「いいえ、何も。先ほど言った予想の通りでしたよ」

一輪「ふうん、変な話よね」

聖「他の者たちの様子はどうでしたか?」

ナズ「全員私たちのことなんか気にせずグッスリ眠ってましたよ」

聖「そうですか」


一輪「聖様もそろそろお休みになられては?」

聖「……そうさせてもらいましょう」

聖「何かあったら大声で叫びなさい。すぐにでも駆けつけます」

一輪「心配無用です。その辺の妖怪が出てきても蹴散らしてやりますから」

聖「油断は禁物です。またあのような者に出くわさないとも限らないのですよ?」

一輪「……はっ」

村紗「これより聖輦船は進路を引き返し、命蓮寺の敷地に戻ります」

村紗「おそらく明け方には間に合うでしょう」

ナズ「了解」


~後日~


村紗「今回はどうやって探していきましょう」

聖「無論、外側を回ってくまなく探すのです」

聖「もしかしたら外へと通じる道があるかも知れません」

村紗「承知」サッ

ナズ「聖様、響子たちにも手伝わせた方がよろしいのでは?」

聖「もちろん効率は上がるでしょう。しかし許可しません」

聖「彼女たちを連れて来ているのは、敷地内に残しておくことが危険である可能性が残っているからです」

聖「安全が確認できるまでは、この聖輦船で保護する必要があります。いいですね?」

ナズ「はっ」


聖「村紗、灯りを最大限に開いてください」

村紗「……しかし聖、あまり目立つ行動は危険ではありませんか?」

聖「どのみち灯りは使わざるを得ません。もしもの時のためにぬえには対策を講じてもらっています」

村紗「はっ」

ぬえ「フフフ、腕が鳴るな~」

一輪「それにしても寒いわね~。私も中で双六してようかしら」

ナズ「一輪」

一輪「……分かってるわよ」

聖「今日はそれほど時間はかからないでしょう。一周したらすぐに戻ります」


~少女探索中~


ナズ「……やはり無いね」

一輪「今日も成果は……ん?」


―――ギュゥゥン!

魔理沙「はっはっは! 見つけたぜー!」

魔理沙「この間はよっくも騙してくれたなー!」


村紗「……追って来ますね」


聖「村紗、私が合図したら舵を右に切ってください」

村紗「承知」

聖「ぬえ、作戦Aでお願いします」

ぬえ「よぅし! 私のターン開始!」ササッ


魔理沙「今度は消えても無駄だぜ! 消えたように見せかけて、そこに隠れてるんだろ!?」

魔理沙「そのまま突っ込んでやるぜー!!」


ナズ「うーむ、やっぱりこの前の手口に気付いてるみたいだね」

聖「慌てる必要はありません……村紗、今です」

村紗「はっ!」ササッ


グォン… グォン… グォン…


魔理沙「今度は消えたりしないな! 逃げない度胸だけは褒めてや……!?」

魔理沙「は、速い! このまま逃げ切る気だと!?」

魔理沙「そうはさせるか! この私から逃げられると思うな!!」

―――ギュゥゥン!


一輪「……行ったみたいね」

ぬえ「フッフッフ、敗北を知りたいわねー」

聖「村紗、進路を戻しなさい」

村紗「はっ」サッ


ナズ「今度はどうなったんだ??」

聖「今回は……ぬえ、お願いします」

ぬえ「来たッ! ずっと私のターン!!」

一輪「いいから早く言いなさい」

ぬえ「んー、簡単に言えば作った幻はこの前と同じよ」

ぬえ「ただし幻の船を同じ場所に被せたから、あの黒いのからは、船がスピードアップして逃げてるように見えたってワケ!」

村紗「ほう、なるほど」

一輪「……中々やるわね」

ぬえ「フッ……決まった!」ビシィ!

一輪「ま、どうせ今回も姐さんの入れ知恵なんだろうけど」

ナズ「あんまり言わないでやりなよ。本人が良い気分になってるんだからさ」

村紗「探索を続けましょう」


~後日~


聖「もうこれ以上はあなたたちに負担をかけられません。よって探索は今回で最後とします」

聖「外界との接点が存在しないことは気になりますが、そればかりに心を奪われていては危険ですからね」

村紗「……」コクッ

聖「今回はただひたすら海を目指します」

聖「川を下らずとも、まっすぐ進めばやがては海のあるべき場所に出るはずです。あくまで私たちの常識の範囲内の仮定ではありますが」

聖「今回は見張りも目視も私一人いれば充分です。他の者は船内に下がっていなさい」

ナズ「……だってさ。一輪、双六しに行っていいみたいだよ?」


一輪「誰も後ろに引っ込むなんて言ってないでしょ?」

村紗「私も残ります。万が一何かあったら、船を自在に扱えるのは私だけですから」

ぬえ「せっかくの見せ場、取られたら敵わないわ!」

聖「……結局前と同じ構成になってしまいましたね」

星「すみません、一人追加してください」スッ

ナズ「ご主人は引っ込んでる方が良いだろう。お腹のこともあるんだし」

星「いえいえ。元はと言えば、言い出したのは私ですからね」

星「それに、もし行けるのであれば、私も海というものが見てみたいのです」


ナズ「……」チラッ

聖「許可します。ただし、もし何かある時はすぐに船内に避難するのですよ?」

星「はい。それで構いません」

聖「一輪、ナズーリン、星の保護をお願いします」

一輪・ナズ「承知」

聖「外敵は一切無視して構いません。私と村紗、そしてぬえが対処します」


~少女探索中~


ゴウン… ゴウン… ゴウン…


ナズ「行けども行けども、あるのは山と森ばかりか」

ナズ「全く、海一つ探すのがこんなに大変だとは思わなかったよ」

星「大丈夫ですよ。きっと辿り着けます」

ナズ「いやいや、さすがにちょっと無理だろう」

ナズ「”幻想郷に海は存在しない”これはもう幻想郷では人間、妖怪の別なく持っている共通認識なんだ」

ナズ「外の世界にでも行かない限り、海なんてものは拝めないさ」

星「では外の世界へ行けば良いのです」


ナズ「外の世界……か。そんなの、本当に行けるんだろうか?」

星「え?」

ナズ「ご主人も見ただろう? 幻想郷の外はこの通り、山と森しかない。例えどこまで行ってもね」

ナズ「いくら進んでも、私はこの大自然から出られる気がしない。まるで狐か何かに化かされてるみたいだよ」

星「それでも大丈夫です。きっと行けると思います」

ナズ「……どうしてそう思うんだ?」

星「私が経典から教わった言葉に、こういうものがあります」

星「水を燃やすは易し」

星「山を投げるは易し」

星「銀河を跳ぶは易し」

星「されど、菩薩に会うは難し」


ナズ「……そりゃ、架空の人物に会うのは難しいだろう。最初から不可能なんだから」

星「いえいえ、ここで菩薩というのは心優しい善良な者のことを指しています」

星「この言葉は、親切な者に巡り会うことが大変な奇跡であることを表わしているのです」

ナズ「……」

星「しかし私はもう菩薩には会いました。ならば銀河を一足跳びで渡ることも不可能ではありません」

星「まして私たちのやろうとしていることは、成功の確率はずっと高い」

星「外の世界がどこまで遠いのかは分かりませんが、隣の惑星に行くよりもはるかに近いのですから」

ナズ「フフッ……ご主人は面白いことを言うね」

星「そうでしょうか?」

ナズ「そうさ。ご主人と聖様を見てると、どうやら修行を積むと常識を飛び越えた発想ができるようになるみたいだね」


星「……そうかも知れません。全ては考え方一つですからね」

星「聖も言っていました。自分が変われば、宇宙がまるごと変わると」

ナズ「宇宙か、これはまた大きく出たね」

星「しかし本当ですよ?」

星「同じ風景でも、楽しい時に見るのと苦しい時に見るのでは、全然違って見えますからね」

ナズ「…………!」ピクッ


一輪「おいでなすったわよ!」


―――ギュゥゥン!

魔理沙「性懲りもなくまた出て来やがったな! 今度こそとっちめてやるぜ!」

魔理沙「今度は騙せると思うなよ!? 食らえ! マスタースパークMk13!!」

キィィィン…


ドシュゥゥン…!!


ぬえ「どわっ!?」

村紗「むっ!」

一輪「あ、危なっ!」



ドシュゥゥン…!!

      ドシュゥゥン…!!

 ドシュゥゥン…!!

    ドシュゥゥン…!!


聖「……」

ナズ「な、何だ!? あいつ、あちこちにやたらめったら撃ってくるぞ!?」

星「あれは……」ジー


魔理沙「はっはっはー! 恐れ入ったかー!」

魔理沙「こうやって目を閉じてれば、もう下らない幻には騙されないぜー!!」


ナズ「…………」

聖「村紗、撃ち落しなさい」

村紗「はっ……ディープヴォーテクスッ!!」


ドゴォォォン……


魔理沙「」

ヒュゥゥン…


聖「一輪、助けてやりなさい」

一輪「つまらない仕事ね……雲山!」

ヒュンッ

ナズ「ア、アホ過ぎる……私たちはあんなヤツ相手に苦労してたのか??」

星「全ては考え方一つです」

星「恐ろしいと思えば、どんなものでも恐ろしく見えてしまうのですよ」


~少女探索続行中~


ゴウン… ゴウン… ゴウン…


村紗「……やはりどこまで行っても同じ光景ばかりですね。もはやこの空間そのものが迷宮のようにも思えます」

一輪「どうせいくら行っても何もありゃしないわよ、この分だと」

ナズ「これじゃ最果てがあるかどうかも疑わしい……ん?」


―――ヒュゥゥン!

霊夢「いたわね!」

霊夢「夜が来る度コソコソと出かけていって! 一体何を企んでるのかしら!?」


ナズ「くっ、来たか!」

一輪「随分遠くまで追って来たわね!」

聖「ぬえ、作戦Bでお願いします」

ぬえ「はいよ!」ササッ


サァァァ…


霊夢「……!」ピタッ

霊夢「……」キョロキョロ


一輪「……探してる探してる」

ぬえ「ダ……ダメだ……まだ……まだ笑うな」プルプル

村紗「二人ともお静かに」


霊夢「…………」


ナズ「……いつまで探してるんだ? 幻が見えてないのか??」


霊夢「そこかっ!!」バッ

ドシュゥゥゥン…!!


聖「!」ババッ


ドカァァァン!


霊夢「やっぱりそこにいたわね! 待ってなさい!今退治してやるわ!」

―――ヒュゥゥゥン!!


ぬえ「う、うわぁ!?」

ナズ「見破った!?」


聖「どうやら博麗の巫女には通用しなかったようですね」スッ

村紗「……」スッ

一輪「こうなったら、やるしかないわね!」スッ


霊夢「神妙にしなさーい!!」




―――シュイン!




命蓮寺一同「!?」

ナズ「……消えた??」


一輪「待って、きっとどこかに瞬間移動して……」キョロキョロ

村紗「光射全開! 巫女を探します!」バッ

聖「……いえ、反応はありません。どこかに飛ばされたようです」

ナズ「飛ばされた?? 一体誰に……」



八雲藍「……」



村紗「!?」サッ

ナズ「い、いつの間に!」サッ

一輪「曲者かッ!」サッ

聖「待ちなさい」


聖「……あなたですね? 私たちを助けてくれたのは」

藍「その通りよ。危ない所だったわね」

聖「ありがとうございます。もう少しで大怪我をする所でした」

藍「あなたたちは、こんな所で何をしていたのかしら?」

聖「……世にも珍しい鯨なるものを釣りに行こうと思っています」

藍「鯨なんていないわよ。この世界にはね」

藍「それよりあなたは僧侶なのでしょう? 僧侶なら僧侶らしく、菜っ葉でもかじってなさい」

聖「分かりました。そうさせてもらいましょう」


藍「……それから」

聖「?」

藍「今後は無闇やたらに怪しげな行動を取ることは慎みなさい。私の主様は無益な争いは好まれないわ」

藍「今回はたまたま私が居合わせたから良かったようなもの。同じようなことがあっても助けられる保証はないわよ?」

聖「……以後、気を付けましょう」

ナズ「たまたま……ね」ボソッ

藍「では失礼」サッ



―――シュイン!




~少女帰還中~


ドドォォン…

――ピカッ


ぬえ「ふぅ、何とか無事に帰って来れた~」

ナズ「朝日が眩しいな……」

聖「全員お疲れ様でした。今日は一日ゆっくり休みなさい」

村紗「それにしてもあの妖狐、なぜあんな場所に?」

一輪「あんな所まで散歩で来るわけないじゃない。どう考えたって私たちを追って来たのよ」


聖「一輪の言う通りですが、あの場でそれを問い質すのは極めて危険でした」

聖「もし私たちが潔く引き返さなければ、彼女は私たちに相応の報いを受けさせる気でいましたからね」

星「……」

ナズ「……どうしてヤツはあんな事を?」

聖「今はまだ私にも分かりません。しかしあの言葉は明らかに警告でした」

一輪「警告……」

聖「どうやら謎の真相を探られるのは、向こうにとっては宜しくないことのようです」

聖「そしてこちらがそれに気付いたことにも、おそらく分かっていながら帰したのでしょう」

聖「彼女の主が争いを好まないというのは確かなようです」


ナズ「……」

聖「いずれにしても、これ以上の探索は有益でないばかりでなく、非常に危険です」

聖「以後、時が来るまでは幻想郷の外へ向かうことを禁とします。よろしいですね?」

一輪・村紗・ナズ「はっ!」

星「承知しました。海を見せられないのは残念ですが、命には代えられませんからね」

ぬえ「え~? あんな化け狐一匹に怖じ気づいちゃうの~??」

ぬえ「あんなヤツ、聖の魔法で吹っ飛ばしてやればいいじゃなーい!」

一輪「……」

村紗「……」

聖「ぬえ、あなたには相手の力量が見抜けていなかったようですね」


ぬえ「え?」

聖「彼女は本来の実力の大部分を隠していました。あれは博麗の巫女よりも強い力を持っています」

聖「……しかしそれが問題にならないほど恐ろしいのは、彼女が紛れも無く本気であったということです」

ぬえ「…………」



聖の言い付けを聞きながら、ナズーリンは別の事を考えていた
その胸中に違和感があったのだ

どうもあの妖狐からは何かを感じる
それは強敵と対面する時のような身震いする感覚ではなかった

その不可思議な感覚が何であったのかどうしても分からず、遠出による高揚感の一種と片付けるしかなかった
そしてそのことも命蓮寺での日々の中で、やがて忘れていった


~後日~


ナズ「また撫でてみていいかい? ご主人」

星「いいですよ? どうぞ」

ナズ「ふーむ……だいぶ大きくなってきたね」スリスリ

星「そうですね~、もうすぐこの子とも会えるのでしょう」

ナズ「……何度見ても不思議だ。妖獣が妊娠するだなんて、今まで聞いたことがないからね」

星「私も最初は驚きました。でも今は、どんな可愛らしい子が生まれてくれるのかな~って、一日中そればっかり考えてるんですよ?」

ナズ「そうだろうね。ご主人の顔を見ていれば分かるよ」


星「男の子でしょうか、女の子でしょうか……ナズーリンはどっちだと思います?」

ナズ「うーん……というよりご主人の場合、生まれてくるのは虎になるのか? それとも妖怪なんだろうか??」

星「きっと立派な子が生まれると思いますよ?」

ナズ「……それにしても、父親は本当にあの龍神なのかい?」

星「そうに違いありません。だって、そんなことできそうなのは龍神様しかいらっしゃらないじゃないですか」

星「永遠亭のお医者様もそう仰ってましたよ?」

ナズ「それはそうなんだろうけど……」

星「?」


ナズ「龍神というのは……その、ヘビみたいなヤツなんだろう?」

ナズ「どう考えても、虎と交配できるとは思えないんだよ」

星「……じゃあもしかしたら、虎でも妖怪でもないのかも知れませんね、この子は」

ナズ「え?」

星「人間の里でよく聞くじゃありませんか」

星「せっかく産まれてきたのに、食べるものがないので水子にしてしまうって……」

ナズ「水子、か……それがどうしたんだい?」

星「龍神様は幻想郷の全てをご覧になっているから、たくさんの生き永らえることのできなかった魂をご存知のはずです」

星「きっと里で水子にされてしまった魂を哀れに思し召して、その内の一つを宿らせているのかも知れません」

ナズ「……」


星「幸い、ここ命蓮寺では赤子の一人どころか、十人でも二十人でもどんと来いです!」

ナズ「まあ、いきなりそんな増えたら困るけどね」

星「この子だって、ここならちゃんと育ててもらえそうだと思ったからこそ、私を選んだのかも知れませんよ?」

ナズ「ふむ、なかなか面白い考え方だね」

星「何にしても、この子が元気に生まれてさえくれれば、それ以上私の望むことなんてありません」

ナズ「そうか……じゃあ今のうちに出産の方法を勉強しておく必要があるかもね」

星「そうですね」

ナズ「聖様なら何かご存知かも知れないけど、さすがに出産のご経験は無さそうだし……」


星「やはり人間の里に聞きに行くのが一番良いのでは?」

ナズ「待て待て待て! そうやって勇み足を踏むのは良くないぞ!?」

星「どうしてですか?」

ナズ「どうも未だご主人は、事の重大さを分かっていないようだね」

星「?」

ナズ「ご主人はこの命蓮寺の御本尊でありながら、父親も分からない状況で身篭ってしまったんだぞ?」

星「……そうですね、それが何か?」

ナズ「大問題だろう!」

星「……?」


ナズ「あのな、こういうのは俗に言う『スキャンダル』ってやつなんだぞ?」

ナズ「この事が世間に知られたら、命蓮寺は壊滅的なダメージを被る恐れがあるんだ」

星「はぁ、またその話ですか? ナズーリンは心配性ですね」

星「問題なんて何もありませんよ。聖も大喜びで参拝客に知らせようとしていたではありませんか」

星「いっそのこと、これからは子宝祈願の寺としてやって行くのも良いかも知れませんね」

ナズ「……どうも聖様もご主人も世間離れした所があるようだね」

星「はぁ……」

ナズ「いいかい? 父親も分からない状況で妊娠してしまう者を、世間では何て言うと思う?」

星「?」


ナズ「そういうのは、ふしだらな女と言われてしまうんだぞ?」

星「ふしだら……ですか??」

ナズ「そうとも。だからこそ、ご主人の妊娠は最後まで隠し通さなければいけない」

ナズ「それまで、ぬえのヤツが心変わりしなければ良いんだけど……」

星「別に私には何も恥じることは無いのですから、堂々と胸を張っていれば良いではありませんか」

ナズ「あのね、ご主人みたいにバカ正直なだけじゃ、渡世はやっていけないんだよ」

星「そうでしょうか?」

ナズ「そうなんだ!」


星「でも龍神様のお子を身篭ったのですよ? こんな事を隠すだなんて、もったいなくありませんか?」

ナズ「困ったなぁ、どうにも話が噛み合わ―――」



カシャー!カシャー!カシャー!カシャー!



ナズ「!? だっ、誰だ!!」

星「わっ、まぶし……」

射命丸文「命蓮寺の毘沙門天様、夜のお勤めご成就!! これは伸びますよー!」


ナズ「!! ま、待てっ……!」

文「早く戻って刷り上げないと! 今日は忙しくなりそう!」バサッ

ナズ「おい待て! 待てって言ってるだろ!」

星「……」

ナズ「くっ、ご主人!!」

星「はい?」

ナズ「今すぐあのアホガラスを追うんだ! 早く!」

星「大げさですね、ナズーリンは。放っておけばいいではありませんか」

ナズ「そんなのん気な事を言ってる場合か!?」


ナズ「このままだと、ご主人は有ること無いこと……いや、無いこと無いこと書かれてそこら中にバラ撒かれるんだぞ!!」

星「……」

ナズ「あのアホガラスは興味本位だけでモノを書く大ボラ吹きだ! ご主人は自分の名誉を汚されて平気だって言うのか!?」

星「……!!」

星「ナズーリンッ!!」

ナズ「は、はいっ!?」ビクッ

星「一輪と村紗を呼びなさい! 二人に烏天狗を追わせます!」

ナズ「お、おお……しかしそれなら聖輦船を起動した方が」

星「それだけは絶対にいけません!!」

ナズ「!?」


星「このことは聖にだけは知られてはなりません! 我々だけで内々に処理するのです!」

ナズ「わ、分かった……私たちはあいつの本拠地に先回りしておくよ」

星「頼みます。聖は私が寺に留めておきましょう」

ナズ「……しかし安心したよ。ご主人も自分のことになると、ちゃんと危機感を持つのだね」

星「私のことではありません」

ナズ「えっ??」

星「説明は二人がしてくれます……とにかく早く!」

ナズ「う、うん……」


~少女追跡中~


ザザザザァ…

ビュゥゥ…


村紗「どうですか? ナズーリン」

ナズ「そろそろ私のネズミもヤツの拠点に辿り着く頃だ。おおよそあと三分といったところだろう」

村紗「そうですか……脅しが通用する相手なら良いのですが」

一輪「……フフッ」

村紗「一輪?」


一輪「懐かしいわね、村紗」

ナズ「?」

一輪「千年前もこうやって仇敵を退治しに向かっていたわね。覚えているでしょう?」

村紗「……ええ、そうですね」

村紗「しかし今は昔を懐かしんでいる暇はありません」

一輪「分かってるわ」

村紗「聖は千年前よりもさらに力を蓄えています。今度こそお仕置きでは済まされないでしょう」

一輪「ええ」

ナズ「……あの、ちょっと聞きたいんだけど」

村紗「ん?」


ナズ「ご主人がやたら慌てていたようだが、そんなに聖様からのお叱りは怖いものなのか?」

一輪「そういう問題じゃないわよ」

ナズ「??」

村紗「この際、私たちへのお咎めなど取るに足らないことです」

村紗「怖いのは私たちが受ける懲罰ではなく、カラスたちへの報復なのです」

ナズ「……?」

一輪「姐さんには確かに力はあるけれど、本当に恐ろしいのはその執念の底知れない深さよ」



――


――――


――――――――


~千と数年昔 某所~


一輪「ここに居るのね? 魔法に手を出したっていう尼僧は……」ザッ


一輪「おい、そこの老婆!」

老婆「はい? 何でしょう」

一輪「この寺に聖白蓮と名乗る者がいるでしょう? そいつを今すぐ連れて来なさい」

一輪「この妖怪豪者一輪が力比べを申し込んでいる!……そう伝えなさい」

老婆「……」

一輪「……どうしたの? 当主を差し出すことに罪の意識でも感じているのかしら?」

一輪「出す気がないのなら、力ずくで引きずり出してやるわよ!?」


老婆「あ、いえ……」

一輪「?」

老婆「聖白蓮とは私のことですよ?」

一輪「何? お前が!?」

老婆「はい」

一輪「お前のような……そんなヨボヨボで、今にも死にそうな老婆が、聖白蓮だと……!?」

老婆「はい」


一輪「フッ、フフフ……そうか……!」

老婆「?」

一輪「当主を守るために我が身を犠牲にしようとは! 中々根性のある老いぼれね!」ニヤリ

老婆「……」

一輪「いいわ。お前の命だけは保証してやる」

一輪「しかし、我が身可愛さに手下を矢面に立たせる卑怯者は、断じて許せない!」

一輪「そのような根性なしは、今すぐ私が成敗してくれる!」ダダッ

老婆「……」



バタン! ガラッ…

ドタドタ…


一輪「くっ! どこへ行った! あの卑怯者め!」

一輪「私が来ることを事前に察知して、既にどこかへ逃げたのか……!?」

一輪「何て臆病なヤツなの!? 力が有りながら戦おうとしないなんて!」

老婆「……」



ドタドタドタ…

バサッ

ドンドンドン…


一輪「もう隠れられるような場所なんてどこにもない……」

一輪「抜かったわ。こんな早く…………!」ピクッ


村紗「貴様……誰だ!!」


一輪「出たわね!? 聖白蓮!!」ババッ

村紗「……聖だと?」

一輪「そうよ。私を恐れて身代わりを差し出すつもりだったのでしょうけど、アテが外れたわね!」

一輪「もう逃げられないわよ! 今こそ尋常に勝負なさい!」

村紗「誰だか知らないが、この寺を荒らすつもりならばタダでは済まさない!」スッ

一輪「ハッ! 弱い妖怪ばかりが相手になると思ったら大間違いよ!」スッ

村紗「後悔させてや―――」


老婆「下がりなさい。村紗」


村紗「!」ピタッ

一輪「あっ?」

村紗「ひ、聖……しかしこの者は……」

聖(老婆)「下がりなさい。この妖怪は私たちの敵ではありません」

一輪「!?」ピキッ…

聖「後は私に任せて、あなたは勤行を済ませておきなさい」

村紗「……はっ。お気を付けください」ササッ

一輪「……」


聖「さて、少しお待ちなさい。客間でお茶でも出しましょう」

一輪「待てっ! 老いぼれ!」

聖「はい?」

一輪「この私が敵にならないとは、一体どういう意味だ!!」

聖「?……別に、そのままの意味ですよ?」

一輪「貴様! この私が一輪と知っての言い草か!?」

聖「一輪ですね? 噂はよく聞いていますよ」

聖「そこら中で喧嘩を繰り返して、勝ち星を大稼ぎしているのだとか」


一輪「そうよ! 姿は少女のようでも、貴様ら如き人間よりはるかに長い年月を生きているのよ!」

一輪「私がその気になれば、その老い先短い命がさらに短くなると分からないのか!!」

聖「そんな大声を出さずともちゃんと聞こえてますよ」

聖「年を取っても、ありがたいことに耳は良いままですからね」

一輪「ほぉぉ……」ヒクヒク

一輪「なるほど、その根性の太さ、確かにお前が聖白蓮のようね」グッ…

聖「初めからそう言っているではありませんか」


聖「さあ、勝負などと馬鹿なことを言ってないで、そこにお座りなさい」

聖「お茶でも飲みながらゆっくり話を聞きましょう」ニコッ

一輪「何だと!? 貴様ふざけてるのか!?」

聖「ふざけてなどいませんよ」

聖「あなたが真剣に勝負しようと考えるのと同じくらい、私も真剣にお茶を出そうと思っているのですから」

一輪「!! わ、私の誇り高き決闘が、茶を飲むことと同列だと言うのか!?」ブルブル

聖「……?」


一輪「もう勘弁ならん! 問答は止めだッ!!」ババッ

一輪「聖白蓮! 覚悟ッッ!!」ダンッ





聖「愚か者め!!」







リリリリ…


    リリリリリ…


ホーホー  ホーホー


一輪「」


一輪「…………ハッ!?」ガバッ

一輪「ここは……森?」キョロキョロ

一輪「負けたのか? 私は……」


一輪「……」


一輪「……フッ……フフッ」

一輪「聖白蓮! なるほど確かに相当の手練れのようね!」

一輪「だが今に見ていなさい!? この私を仕留めて置かなかったこと、必ず後悔させてやるわ!」

一輪「行くわよ、雲山! 一から修行のやり直しよ!」ダダッ


~後日~


一輪「さあ、もうすぐよ。聖、今度こそお前は私に敗北する!」

一輪「全く、武者震いが止まらないわ……!」ザッ…

娘「おや、あなたは一輪ではありませんか。ご機嫌よう」

一輪「!?」バッ

娘「?」

一輪「何者だ! 私の背後を取るとは!」サッ

娘「この姿では分かりませんか? そうかも知れませんね」

娘「それより見てください。この華麗な衣装」クルクル

一輪「!?」


娘「一生懸命気合を入れて縫いましたので、これは一生物にしたいと思います」

娘「弟の手前、こういう物は着られませんでしたからね。これからは存分に―――」

一輪「……な、何だ! 何を言ってる!」

娘「おっと、そういえばまだ名乗っていませんでしたね」

娘「私は聖白蓮ですよ。遂に若返りの法を会得したのです」

一輪「!!?」

聖(娘)「色は様々あって悩みましたけど、やはりこの白と黒の組み合わせが一番美しいですね」

聖「僧衣が白と黒を基調としているのも、ちゃんとした意味があるようです」

一輪「……」


聖「では自信作の衣装のお披露目も済みましたし、寺でお茶でも飲んで行きなさい」ニコッ

一輪「!!……なるほど、確かにお前は聖白蓮なのだな!」バッ

一輪「姿形が変わっているから、危うく騙される所だったわ!」

聖「……」

一輪「聖白蓮! 今こそあの時の借りを返させてもらうわよ!」

一輪「屋外で再会したことを後悔するがいい! 雲山!!」


聖「……」


一輪「……??」


一輪「雲山……雲山ッ!?」

聖「あなたの近くにいた入道のことですか? それならそこで伸びてますよ」

一輪「!?」

聖「元が老婆なら、忍び寄って不意打ちしてもいいと考えたのでしょうか? あまり感心しない御仁ですね」

一輪「フッ……雲山を倒した程度でいい気にならないことね!」

一輪「雲山は私の援護役に過ぎない! 修行を積んだ私の力、今こそ見せてやるわ!」ダダッ




聖「…………はぁ……」





~客間~


一輪「」


一輪「ハッ!?」ガバッ

聖「気が付きましたか?」

一輪「お前……私に情けをかけたのか?」

聖「情けというか……あなたのようなうら若き娘を、そう何度も野に打ち晒して置くわけにはいきませんからね」

一輪「……」

聖「少し待っていなさい。今湯を沸かして、お茶を淹れて来ますから」


一輪「くっ……たかだか百年も生きていないお前などに……!」ギリッ

聖「……」

一輪「私は、最強の妖怪となる運命だというのに……こんな、人間如きに……!」

聖「あなたは最強の妖怪になりたいのですか?」

一輪「そうよ! 妖怪になった者なら誰だって最強の座を羨望するものよ!」

一輪「お前のようなその日暮らしの人間などには、到底分からないでしょうね!」

一輪「その栄光を夢見る私たちの気持ちなど!」


聖「……あなたは、もし最強の妖怪となったらどうするつもりなのですか?」

一輪「何?……そうね、地上で最強となったら、今度は地獄に攻め込んでやるわ!」

一輪「私の覇道に行き止まりなんてないのよ!」

聖「ではその地獄も制覇したら?」

一輪「うん?…………そうなると、まあ、次は月か天界かって辺りになるわよね」

聖「では月も天界も、さらに冥界も魔界も制覇して、それに留まらず全宇宙を制覇したらどうしますか?」

一輪「何よ、しつこいわね! そんな先のことは分からないわよ!」

一輪「そんな事を考えたところで強くはなれないのよ!」

一輪「とにかく最強の座を手に入れるためには前進あるのみ! これでいいのよ!」


聖「……馬鹿馬鹿しい」

一輪「!」ピキッ…

一輪「……な、何ですって!? もういっぺん言ってみなさい!」グッ

聖「やめなさい。とうに勝負は付いたはずですよ」

聖「それとも、未だ衝撃が残っている体で戦おうと言うのですか?」

一輪「ぐ……」

聖「最強の称号ですか。私には大して価値があるとは思えませんね」

聖「そんなもの、あなたがその存在を賭けるに値するのものではありませんよ」

一輪「…………」


聖「一輪よ、あなたはそうやって自らをヤクザ者のような暮らしに貶めたまま、生涯を終えるつもりなのですか?」

聖「それまであなたを守り、支え、育ててくれた者たちに対して、申し訳ないとは思わないのですか?」

一輪「くっ……黙って聞いていれば偉そうに!」

一輪「そういうお前は何なの!? 仏僧の振りをしておきながら、平然と戒律を破ってるじゃない!」

一輪「お前にはどんな崇高な理想があるって言うのかしら? そんなものがあるなら、是非とも聞かせて欲しいわね!」

聖「……」

一輪「それともただ単に老いさらばえていくことが怖くて、若作りしただけなのかしら?」ニヤッ

聖「私ですか。私は……」

一輪「……」


聖「人間と妖怪の、融和を図りたいと考えています」

一輪「はっ! ユウワぁ??」

一輪「聞いて損したわね! それこそ全く価値のないものよ!」

聖「……人間は百年しか生きられない。それはあなたも知っていますね」

一輪「うん?」

聖「人間というものは、どんなに頑張っても百年あたりを生き永らえるのが良いところ」

聖「いかに栄華を築こうとも、それを過ぎれば皆、土の下なのです」

一輪「そんなの当然じゃない。何の話してんのよ」


聖「……けれども、百年よりもさらにその先を生きる方法がある」

聖「それは今この時代において禁忌とされる技、魔法を使うことです」

一輪「……」

聖「確かに私はその禁忌を犯しました。しかしそのおかげで、この通り寿命を克服することもできたのです」

聖「ではこの魔法の対価となる代償とは何か」

聖「それは私が妖怪に近い存在となる……ただそれだけなのです」

聖「すぐ近くに寿命を延ばす技があると知っていながら、あえてそれを避ける」

聖「その理由はただ一つ、人間が妖怪となることを恐れるからです」

聖「……まことに下らないことだと、私は思います」

一輪「……」


聖「なぜ人間が妖怪の力を得てはならないのでしょう」

聖「この力が手に入れば、妖怪に襲われることも防げるし、もっともっと長く生きられる。良いことづくめではありませんか」

一輪「……人間の考えることなんて、もはや私の知ったことではないわ」

聖「そうですね、私にも分かりません。なぜ人間と妖怪の間に線を引きたがるのか……」

聖「人間も妖怪も大して違いなどない……いえ、両者は同じ存在なのです」

一輪「……?」ピクッ

聖「妖怪には、人間よりは少々力があるという違いしかありません」

聖「たったそれだけの違いで、人間との間に境界を設けようとすることが、そもそもおかしいのです」

一輪「…………」


聖「人間は妖怪の力を得てもいい。また、妖怪も人間のような暮らしや繋がりを求めていい」

一輪「お前、何を言って……」

聖「私は、人間と妖怪の間にある境界を崩そうと思っています」

一輪「!!」



一輪は自分の耳を疑った
聖白蓮は口では融和を説いている
しかしその理想への挑戦は、妖怪と人間双方を敵に回しかねない危険な賭けである

それは幻想郷そのものを敵に回すことと同義であった
人間はもちろんのこと、どんなに強大な妖怪、あるいは神々の中にすら、そんな無謀な賭けに出る者などいなかった


一輪「お、お前……気は確かか!?」

聖「ひとまず寿命の問題は解決しましたが、未だ課題は山積みです。急がなければなりません」

一輪「……」

聖「一輪、あなたにも私の仕事を手伝ってもらいますよ」

一輪「!!」



幻想郷を敵に回せば勝ち目など無い
しかし、この破戒僧は自分の勝利を露ほども疑っていない
否、そもそも勝利を信じてすらいなかった

ただひたすら理想に向かって突進する意志だけが、聖の両目に宿っていた


一輪「…………」ガクッ…


喧嘩とは勝てそうな相手を探してからやるもの
だが聖のやろうとしている事は、喧嘩と呼べるようなものでは断じてない
今までの自分がやってきたことなど、所詮聖から比べればお遊びでしかなかったのだ


初めから敵うはずがなかった


一輪「ま……」


一輪「参りました………」



―――――――――


――――


――



ナズ「……」

一輪「あの執念が怒りに転ずる以上の恐怖を、私は知らないわ」

ナズ「……でも、あの聖様が本当にそんな苛烈なことを為さるんだろうか?」

一輪「やるわよ。姐さんなら必ず」

一輪「私たちは実際にそれを身を持って経験してるんだから」

ナズ「ふーむ……」

村紗「ナズーリン、射命丸の拠点はまだ着かないのですか?」

ナズ「あ、うん、もう間もなく到着すると思う」チラッ


チッチッ チチッ


ナズ「……うん?」

村紗「どうしました?」

ナズ「先遣隊からの報告なんだけど、誰もいる気配がないらしいんだ」

ナズ「匂いも弱いって言ってる」

一輪「おかしいわね。シンブンってのを作るにはそれなりの装置が必要なんでしょう?」

一輪「シンブンを作る気があるなら、当然そこに戻ってくると思うけど……」

村紗「とにかく急いで向かいましょう!」


~少女捜索中~


ガサッ

ゴソゴソ…


村紗「……完全にもぬけの殻ですね」

ナズ「ダメだ、どこもかしこも匂いが弱すぎる。やっぱり一度も戻って来てないらしい」

一輪「まさか、シンブンを作る気がないのかしら?」

ナズ「いいや、それだけは絶対ない。あのアホガラスは掴んだネタは必ず新聞にする!」

一輪「なら、どこへ……」


村紗「……もしや里に彼女の別拠点があるのでは?」

ナズ「いいや、それもない」

ナズ「天狗たちは人間には強烈な対抗意識を持っている。そんな器用なことなどできないよ」

村紗「そうなのですか?」

ナズ「そうさ。それにあいつは、自分の被写体を譲ることを最も嫌うからな。その時点で人間との連携なんて不可能さ」

一輪「でもシンブンは作るつもりなのよね?」

ナズ「その通りだ。それが分からないんだよ……」


村紗「……もしや、上空からこちらの様子を伺っているのでは?」

一輪「それもないわね。雲山が誰もいないって言ってるわ」

ナズ「……」

村紗「じっとしていても仕方がありません」

村紗「私がここで番をしておきましょう。二人は射命丸を追ってください」

ナズ「……そうするしか、なさそうだね」コクッ

一輪「……」コクッ


ナズ「私たちはあのカラスをくまなく探してみる」

ナズ「もしかしたら山の方に潜伏してるかも知れないしな」

村紗「頼みます」コクッ

一輪「他の天狗を二、三匹締め上げてやった方がいいかもね」

村紗「……この際手段を選んでいられる余裕はありませんね」

一輪「行くわよ、ナズ!」バッ

ナズ「了解!」バッ


ナズ「私たちはあのカラスをくまなく探してみる」

ナズ「もしかしたら山の方に潜伏してるかも知れないしな」

村紗「頼みます」コクッ

一輪「他の天狗を二、三匹締め上げてやった方がいいかもね」

村紗「……この際手段を選んでいられる余裕はありませんね」

一輪「行くわよ、ナズ!」バッ

ナズ「了解!」バッ


~少女捜索続行中~


ナズ「……ダメだ。まるで影も形も見当たらない」

一輪「あれだけ絞って吐かなかったってことは、山にも戻って来てないみたいね」

ナズ「もう戻ろう。あまり遅くなっては、また聖様に気を使わせてしまう」

一輪「そうね。そろそろ村紗も……」

村紗「遅くなりました」スッ

ナズ「期待してないけど一応聞いておくよ。どうだった?」

村紗「やはり戻って来ません。あの装置は遊ばせておくつもりなのでしょうか?」


チッ チチチッ

ナズ「……そのようだね。まあ、新聞が刷られていないことが分かっただけでも良しとしよう」

村紗「しかし、向こうだっていつまでも潜伏しているつもりではないでしょう」

ナズ「見張りも立ててある。何かあったらすぐにでも分かるさ」

チチッ チッチッ

ナズ「……ん? 何だって??」

一輪「どうしたの?」

ナズ「命蓮寺の様子がおかしいって言ってる……もっと詳しく!」


村紗「!……まさか、もう聖に!?」

ナズ「いいや、それはないみたいだけど……」

一輪「今度は何なのよ……」

チッチッ チチッ

ナズ「!?」

ナズ「そ、そんな……」

一輪「?」

村紗「ナズーリン?」

ナズ「二人とも、急いで戻るんだ!」

村紗「何事ですか?」

ナズ「しくじった……先手を打たれたぞ!」


~命蓮寺~


カサカサ… カサッ…

響子「まだこんなにある……嫌だなぁ」

ぬえ「いち、にい、さん、しい……ほーらこっちの方が多い~」

小傘「えー!? こっちの方が多いって!」

小傘「じゃあもう一度! いち、にい、さん、しー」

響子「二人ともちゃんと片付けてよー」

響子「……でも、よく映ってるかも」ジー


村紗「こ、これは……!」

ナズ「やっぱりか……」

響子「あっ、せんぱ~い、聞いてくださいよー。実はさっき……」

一輪「天狗が来たのね?」

響子「へ? あ、はい、そうなんです」

響子「ヒドいですよね。いきなり天狗がたくさんやって来て、そこら中にばら撒いて行ったんですよ?」

響子「もー片付けるのが大変で……」


ぬえ「おっとぉ! こんな所にあと百枚あった~!」

小傘「え!? ウッソ~!」ジロジロ

ぬえ「……」

小傘「あー! 幻出してるー! ズルいズルい!」

ぬえ「おっとっと! 間違い間違い! こっちだった!」サッ

小傘「あれ……??」キョロキョロ

ぬえ「……」

小傘「あー! 私の分取ったー! ドロボーだー!」

ぬえ「ハッ! 取られる間抜けが悪いんだよ!」バサッバサッ

小傘「待て待てー!」ピョン


ナズ「……響子、聖様は今どこに?」

響子「え? あ、それなら今、星せんぱいとお話してて……」

一輪「よ、良かった……」

響子「それで丁度お話が終わって、今こちらにいらっしゃいます」

一輪「!?」

ナズ「ま、待てっ! 今はマズい!」

響子「?」

村紗「は、早く回収しなくては! まだ間に合―――」


ザッ…


聖「ふむ、これですね」スッ

カサ…


村紗「」

ナズ「ひ、聖様……」

一輪「終わった……」ガクッ

星「ひ、聖……これはですねー……何と言いましょうかー」

響子「??」


聖「…………」


聖「これはいけませんね」


村紗・一輪「!!」

聖「これでは事実誤認ではありませんか。彼女たちは誤解しています」

聖「星には何の過ちも無いのですから、その部分は訂正させなければなりません」

村紗・一輪「…………」

聖「……星」

星「は、はい!?」ビクッ


聖「急用ができました。私は今すぐにでも出向く必要があるようです」

聖「他の者たちと共にここで留守番していなさい」

聖「私が戻るまで、あなたには寺の一切を任せます」

星「……分かりました」

聖「そう深刻な顔をせずとも、今度はすぐに帰って来ますよ」ニコッ

星「は、はぁ……」

聖「皆も聞きましたね?」クルッ

一輪・村紗・ナズ「はっ!」


聖「星の言い付けに従って、命蓮寺をしっかり守ってください」

聖「星の言葉は私の言葉であると思いなさい。いいですね?」

一輪・村紗・ナズ「……はっ!」

響子「はーい」

聖「では失礼……」スッ


ナズ「の、乗り切った……のか??」

村紗「私にも分かりません。しかし聖は―――」

一輪「言わないでよ。あんまり怖いことは考えたくないわ」


村紗「……そうですね。余計なことは考えない方が良い」

一輪「後は祈るしかないわ。姐さんの怒りがここまで届かないように」

村紗「参拝客に見られるといけません。早く片付けてしまいましょう」

星「チルノも手伝ってもらえますか?」

チルノ「おー!」ササッ

響子「結局あの天狗たち、何しに来たんですか?」

一輪「さあね。どのみち姐さんに知られた以上、もうどうしようもないわよ」

ナズ「……」

村紗「ナズーリン、あなたも手伝ってください」


ナズ「……おかしい」

一輪「え?」

ナズ「こんな……あまりにもリスクが高過ぎる……!」

村紗「……?」

ナズ「響子!」

響子「へ?」

ナズ「さっき、天狗がたくさん来たって言ったな?」

響子「はい、そうですね。黒いのと白いのがいっぱい来てましたよ?」

村紗「……!?」

一輪「白狼天狗まで? 一体どうして……」


ナズ「やっぱりか」

村紗「ナズーリン……つまり、どういうことですか??」

ナズ「おそらく向こうは山にいる天狗全てを総動員できる体制が整っている」

ナズ「でもそんな事、滅多にできるもんじゃない」

ナズ「あれだけお互い張り合ってばかりいた天狗が急に結束しただと? どう考えても異常だ!」

ナズ「しかも相手をあざ笑うかのような、この大胆不敵な手口……!」

ナズ「用意周到な、いつもの天狗のやり口じゃない!」

村紗「!」

ナズ「間違いない……背後にあいつがいるぞ!」


~妖怪山 天狗領~


文「ぜぇ、はぁ……お、遅くなりました」

伊吹萃香「ちゃんとうまくやってきたか?」

文「はぁ、はぁ……」

萃香「はぁはぁじゃ分かんないだろ?」

文「!」ビクッ

文「は、はい! 寺への十万枚のばら撒き、確かに完了致しました……!」

萃香「それにしちゃあ反応が薄いね。ホントにやってきたんだろうね?」

文「そう仰られましても……」


萃香「……おい」ズイッ

文「…………」

萃香「お前たち……私がここまでお膳立てしてやったって言うのに、まさか下手を打ったんじゃなかろうね」

文「!……ま、まさか! 決してそのような事は!」

文「しかし、私共も何ぶん急のことでして……」

萃香「……」

文「私たちも限界を越えての作業だったのです。輪転機も何台もダメになってしまいましたし……」

萃香「おい射命丸」

文「は、はい……」


萃香「まさかとは思うがお前さん……この私に、嘘をついちゃいないだろうね?」

文「め、滅相もございません!」

文「そんな恐ろしいこと、一体どうして私たちにできましょう!」

萃香「フン……じゃあ見せてみな」スッ

文「……?」

萃香「いちいち間抜けな面見せんじゃないよ。早く出せと言ってるだろう?」

文「!? ははっ!……え、えっとぉ……??」モゾモゾ

萃香「モタモタするなよ。全く気が利かないね」

文「えっ? えっ??」


萃香「写しだ写し。出来上がった号外の見本ぐらいあるだろうが」

文「!……ははっ! 少々お待ちを……」ゴソゴソ

萃香「……」

文「あ、あれ!? えっと、どこだっけ……」

文「あれ、えっと……えっとぉぉ……」ゴソゴソ

文「ど、どこかなぁ…………あ、あるんですよ!嘘じゃないです!」


萃香「……」スクッ


文「ひっ!」ササッ


萃香「まあいい。自分の目で直接確かめてやるさ」

萃香「お前はそのまま床に縮こまってなよ、この能なしがッ!!」

文「……!」ブルッ…

萃香「おい、誰かいるか」

白狼天狗A「はっ」スッ

萃香「奴さんはまだ動かないのかい」

白狼A「恐れながら申し上げます、伊吹様」

白狼A「こちらには徒歩で向かっているのですが、未だ行路の中腹辺りとのことです」


萃香「……ほう、一応は反応しているのか」

白狼A「はっ」

萃香「しかしのったらくったら歩いてくるとはまだるっこしいね」

萃香「どうしてあいつは飛んで来ないんだ?」

白狼A「我々にも分かりかねます。上空からの監視では、特に目立つ動きも無いとの報告でして……」

萃香「……ふっ」

萃香「はっはっは! 仏を拝むと去勢されるって噂は本当みたいだね!」

萃香「……しかし、それならばこっちにとっても好都合。今度こそ誰にも邪魔はさせんさ」

白狼A「……」


萃香「おい、あいつが来てもそのまま通すなよ?」

萃香「何のかんのとうまい事を言って、山中タライ回しにしな」

白狼A「はっ……して、それはどの程度まで?」

萃香「決まってるだろう? 奴さんがブチ切れるまでだ」

白狼A「……はっ」

萃香「あいつらが切れることは滅多に無いらしいからねぇ」

萃香「くっくっくっく……仏屋の激怒する顔が楽しみだ!」


~命蓮寺~


星「いいえ、許可しません」

星「私たちのすべきことは、聖不在のこの寺を守ることです。あなたも聞いていたではありませんか」

ナズ「どうして分からないんだ! これは罠なんだ!」

ナズ「あいつは私たちを挑発して、動き出すのを待ってたんだ!」

ナズ「狙われてるのは聖様かも知れないんだぞ!」

星「だとすれば、なおのこと私たちは手出ししてはなりません」

星「下手に援護などに向かおうとすれば、むしろ私たちを守ることに気を取られてしまうでしょう」

ナズ「……」


星「心配しなくとも、聖にはつまらない待ち伏せなど通用しませんよ」

ナズ「しかし……」

星「ナズーリン、あなたは聖の言葉を忘れたのですか?」

星「聖が大丈夫と言った時は、絶対に大丈夫です。これは私が保証します」

村紗「……」

一輪「……」

ナズ「君たちもどうして黙ってるんだ! 聖様が心配じゃないのか!?」

村紗「……私が心配しているのは、今自分が聖の意志に背いていないかどうか、ただそれだけです」

一輪「右に同じく」


ナズ「くっ……何なんだよ君たちは!」

ナズ「おかしいだろ! 仲間を助けようとは思わないのか!?」

村紗「……」

一輪「……」

星「ナズーリン……」

響子「え、ええっと……」オロオロ

一輪「助ける……ね」

一輪「姐さんには一番似つかわしくない言葉だわ」

ナズ「……?」チラッ


星「そうですよ、ナズーリン」

星「あなたが聖に会うより先に、私は彼女のことを知っていました。だからこそよく分かる」

星「聖は強い。この宝塔の力を全開にしたとしても、聖の戦力には遠く及ばないでしょう」

ナズ「……」

星「だから何も心配する必要などありません」

ナズ「……もういい! 勝手にしてくれ!」プイッ

ナズ「後でどうなっても知らないからな!」スタスタ…

星「分かってくれて嬉しいですよ」


響子「あの、これからどうすればいいんでしょう……」

村紗「当面の問題は、私たちの内誰かが聖に代わって説法しなければならないということですね」

一輪「……!」

村紗「ぬえに術をかけてもらうのは誰にしましょうか」

一輪「そ、そんな!いくら何でも急過ぎるわよ! まだ教学も始めたばかりなのに!」

村紗「一輪、事が起こるのはいつだって突然なのですよ」

星「やはり、私が出向いた方が良いのでは?」

一輪「…………いや、あなたはゆっくりお腹の子を育ててなさい。今回は私たちで何とか収めるから」


星「いいんですか?」

村紗「ええ、あなたには余計な負担はかけさせません……確かに、やや不安ではありますけど」

星「……ありがとうございます」ペコッ

一輪「い、今の内にシミュレーションしておかないと……」

一輪「シミュレーション、シュミレーション……」ブツブツ

一輪「……ねえ、シミュレーションとシュミレーション、正しいのはどっちだったかしら?」

村紗「しっかりしてください。現実逃避が早過ぎですよ」


~妖怪山 3合目~


烏天狗1「……ねえ、あれはどうする?」

烏天狗2「あれか、あれは……どうしようかしら」

烏1「そこら辺をウロウロさせとくのもマズいでしょ。どこかに閉じ込めた方がいいんじゃない?」

烏2「……いいや。どうせ内に置いても外に置いても面倒なだけよ」

烏2「それなら手間が省ける方が良いわ」

烏1「大丈夫かしら? 何かしでかしたら萃香が黙ってないわよ」

烏2「じゃああなたが面倒見る?」

烏1「冗談言わないでよ」

烏2「決まりね」


白狼天狗B「いいえ。私たちは烏天狗の事など知りません」

白狼B「呼び名は同じ天狗でも、全く違う種族なのですから」

聖「そうですか……」

白狼B「もしかしたら東の同胞なら、何か知ってるかもしれませんね」

白狼B「あそこは白狼天狗の中でも少々派閥が違ってますから」

聖「ふーむ……どうも同じような言葉を何回も聞いているような気がしますね」

白狼B「そうでしょうか? 気のせいでしょう」

聖「そうですね。それで、その東に行くにはどうすれば?」

白狼B「ここを降りた所から山道をぐるっと外側を回って行けば……そのうち到着するでしょう」

聖「はぁ」

白狼B「では失礼」ササッ



聖「……不思議だわ」

聖「烏天狗って、もっとたくさんいるような気がしてたけど、探すと意外に見つからないものね」


?「この定型文を応用すれば、ビジネス、プライベート両面に大活躍であり、それ即ち言語の対応力が大幅に向上することを意味していて……」

?「兵站の補給は兵器の補充よりもはるかに重要であり、これは過去の例と照らし合わせれば議論の余地が無いことは明白であり……」


聖「あら? あれは……」

?「むっ!?」ピクッ

タタッ!

聖「……」

にとり「これはこれは!我が盟友よ! こんな所までよくお越し頂きました!」


聖「盟友??」

にとり「その通りですぞ! 我らは互いに分業化し、なおかつ交流を繰り返してきた!」

にとり「いつの世も貿易産業は我らにとって驚きの連続であり、それが既存の文明にとっての起爆剤となっていたのです!」

聖「……?」

にとり「現代においてはもはやその驚きそのものが財産となり、かの遺跡からは我らに壮大なロマンすら感じさせてくれる……!」

にとり「特にこの遺跡への発掘作業! これは一流の推理小説を物ともしない洞察が繰り返される、まさに考察の本戦場であって……」

聖「はぁ……ところで、あなたは烏天狗を見かけませんでしたか?」


にとり「烏天狗! なるほど、扶桑日の本の妖怪、その代表格ですな!」

にとり「確かに空想と片付けるのは容易い。しかし空想だからこそ、そこには無限の可能性と広がりを見いだすことができる!」

にとり「物質には数量と保有エネルギーが付いて回るもの。ですが頭の中に限界などない!」

聖「…………」

にとり「映画、演劇、小説、これらは全てその想像の賜物であり、これこそが文明の成熟度を測る指標と言うことが可能で……」ブツブツ

聖「……私は今訪ねたい所があるのですが、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

にとり「はっはっは! つまりは旅行ですな!?」

にとり「よろしい! 私が今最善かつ最短のルートを探してご覧にいれましょう!」ササッ

にとり「これです! この最先端羅針盤で宇宙の果てだろうと辿り着いてご覧に入れましょう!」

聖「……」ジー


にとり「はいはいはいっと!これでドンピシャ! もう分かってしまいましたぞ!」

聖「はぁ」

にとり「この脇道を真っ直ぐ行けば、そこにあなたの運命が待っております! つまりこれは慶事ですな!」

聖「はぁ、それは凄いですね。私にはただの木の皮にしか見えませんが……」

にとり「おっと、お気を付けなされ! 熱帯雨林やサバンナでは、獰猛な獣がどこから我らを狙っていないとも限りませんぞ!」

聖「さばんな??」

にとり「特に恐ろしいのはハイエナ! 彼奴らは標的に警戒されないように少しずつ距離を縮めてくる!」

にとり「気付いた時には大勢のハイエナたちに囲まれ、どこへも逃げ出せない! そんな状況を回避するためには……」

聖「……」


にとり「このように不規則な移動で撹乱するのですッ!!」ダダッ

聖「そちらは方向が違いませんか?」



にとり「走行における運動神経の伝達には能動的な意識的筋肉収縮と受動的な無意識筋肉収縮の両面が機能していて――――」ダダダッ



聖「……珍しい妖怪もいるものね」

聖「こっちで良いのかしら?」チラッ


~烏天狗拠点その1~


烏A「怒らせるのはいいとして、その後はどうすんの?」

烏A「今どこかにフラフラ出歩いてんでしょ? いざって時に連絡できないじゃない」

烏B「その時は一斉に山から逃げればいいんじゃない?」

烏C「それはいいけどさ、途中で仕事を放棄したって言って、萃香が矛先変えかねないわよ?」

烏D「知ったこっちゃないわよ。またテキトーに言っとけばいいんだから」


ガラッ…


烏一同「!」

聖「ご免くださ~い……あら、やっぱり居たみたいですね」


烏E「……これはこれは、人間が我らの元に訪問するとは珍しい。何か御用ですかな?」

聖「ええ、実はあなたたちが新聞に書かれた記事についてお話がありまして」

烏E「ほう」チラッ

聖「こちらの記事にはやや事実と異なる点が散見されますので、訂正をお願いしたいのです」カサッ…

烏E「……伺いましょう」

聖「では失礼しますね」スッ

烏一同「……」


~30分後~


烏E「……しかしですね、写真でのお姿を見る限り、そのようにしか判断しようがないではありませんか」

聖「いいえ。そのような事実はございません」

聖「これは仏に誓ってもいい。毘沙門天はそんなことしませんよ」

烏E「ですが現に―――」

烏A「ちょっと失礼。西の同胞に言伝をして来ないと……」スッ

聖「……」チラッ

聖「ですからそのような事実はないのです。ここは是非訂正を」

烏E「そうは言いましてもですねー……」


烏E「一度書いてしまった記事を訂正するとなると、我らの信用にも関わってくることでして」

烏E「資源も時間も必要なことになりますから、中々……」

烏B「あっ、私大天狗に報告があったんだ……」スッ

烏E「……」ジー

聖「それを承知でお願いに参ったのです」

聖「考えても見てください? こんな記事が出回ったら、毘沙門天がどれほど心を痛めるか……」

烏E「しかし我らも慈善事業でやっているのではないワケでしてねー」


のらりくらりと生返事をして、相手の追及をかわす
適当に頃合を見計らって他の天狗に押し付けてタライ回しにする
その繰り返しで、やがては相手の方から諦めて去って行く
天狗のいつものやり口である

しかしこの手法には穴があった


烏E「ふむふむ、これは射命丸の写真のようですね」

烏E「もし疑問をお持ちでしたら、彼女の方に聞いてみる方がよろしいかと……」

聖「いえいえ。私は今、あなたに問うているのですよ」

聖「このように他人を傷付けるような記事を書くことを良しとする風潮に、あなた自身も異常を感じているはずです」

C「おっと、お客様にお茶をお出ししないと……」スッ


話に集中している聖の隙を見て、一人、また一人と天狗が立ち去って行く
話し合いが2時間経過した頃には、部屋には二人だけが残されていた


烏E「でもですねー、これを書いたのは私ではありませんので、どうにも弁解しようがないと言いますか……」

聖「私は責任の追及をしに来たのではありませんよ」

聖「私はただただ、心を痛めるであろう毘沙門天のことが心配で、このように申し上げているのです」

聖「是非これは訂正して頂きたい。首を縦に振って頂かない限り、私は寺に帰る訳には参りません」

烏E「うーん……」


聖「まだ納得して頂けませんか? 何も難しいことを言っているのではありませんよ」

聖「ただもう少し想像力を働かせれば、このような記事を書くことが誤りであると、すぐに気が付くと思うのです」

烏E「ですからー、記事を書いたのは私でなくて……」

聖「あなたも同じ天狗仲間として、このような天狗全体の美風を汚す新聞を見過ごす訳にはいかないはずです」

聖「今一度、あなた自身の良心に問うてみてください」

烏E「…………」


~5時間経過~


聖「もう一度申し上げます。毘沙門天は決してそのような破廉恥なことをする者ではありません」

聖「必要とあらば、毘沙門天がいかに寺の御本尊としてふさわしい存在であるかお話しましょう」

聖「いいですか? あれほど仏に従する者として模範的な神は他にないのです」

聖「彼女は大変聡明であり、私の教えも、それはそれはよく吸収してくれました」

烏E「…………」


~9時間経過~


聖「彼女は一時的に僧衣を脱ぐことすら恥として考えていた時期もあったのです」

聖「初めの内は……そうですね、私の与えた僧衣を汚すまいと考えたのでしょう」

聖「何と寝る時ですら立ったままでいて、僧衣の磨耗を防ごうとしていたのですよ」

聖「もちろん私も慌てて止めさせました。彼女の真摯な心は、時に当主の私でも驚かされたものです」

聖「ここまで健気に仏に尽くす者が、どうしてその名誉を汚すようなことができましょう」

烏E「………………」


~17時間経過~


聖「もう一度あなたに尋ねたい」

聖「軽はずみにこのような事実無根の記事を書かれてしまうことに、あなたは本当に何も感じないのですか?」

聖「あなたにも妖怪としての良心があるはずです。よくよく考えてみてください」

烏E「……………………」

烏E「」フラッ


ガシッ!


烏E「う…………」

聖「どうして寝ようとするのですか? まだ話は終わっていませんよ」


烏E「も、もう……堪忍してください……」

聖「いいえ! この記事を訂正してもらうまで、私は寺には戻れません!」

聖「命蓮寺の主として、これを見過ごしたままでは私は毘沙門天に会わせる顔がないのです!」

烏E「…………う……うう……」

聖「では今度は、千年の間どれほど彼女が苦労していたかお話しましょう」

聖「私の居ない間も彼女は懸命に教えを守ろうとしたのでしょう」

聖「しかしいかに健気な彼女であっても、悲しいかな、その力量が届いていなかったことは認めざるを得ませんでした」

聖「当時法界で眠りについていた私には、彼女が実際に苦労しているところを見ていたわけではありません」

聖「しかし、それを察することはできます」

烏E「……も、もうやめて…………」


~35時間経過~


聖「つまり私の踏んだ床すら踏みしめることを避けていたのです」

聖「移動する際にはいつも鼻を利かせ、私の足跡を踏むまいと気を使っていたのですよ」

聖「信じられますか? 毘沙門天より心を尽くせる者など、私は知りません」

烏E「…………………………」

聖「もう分かりましたね?」

聖「その毘沙門天がこの記事のようなことをするなど、断じて有り得ないことなのです」

烏E「あ、あう…………あうあ…………」


聖「しっかりしてください。私は真剣に話をしているのですよ?」

烏E「い……」

聖「?」

烏E「嫌だ!もう嫌だあああ!!」

烏E「誰か!誰か助けてくれえええッッ!!」ダダッ


ガシッ!


烏E「うぐ……」


聖「どこへ行くつもりですか?」

聖「私は今、真剣にあなたに頼んでいるのです」

聖「私には毘沙門天の名誉を守る義務があります。ここでおめおめと引き下がる訳にはいかないのです」

烏E「お……お願いです……もう、許して…………」

聖「いいえ、私は絶対に諦めません。毘沙門天の名誉を守り切るまでは!」


相手の追及をやり過ごして根負けを狙う
これは天狗の常套手段であったが、しかし重大な欠点があった

それはもし万が一、類まれなる根性を持つ者が現れた場合、追い詰められるのは天狗の方であるということ
一人の天狗がまさにその事態に直面していた


~烏天狗拠点その2~


烏A「ねえ、あの坊主が来たのっていつだったっけ?」

烏B「さあね。三日ぐらい前じゃなかったっけ?」

烏C「正確には三日と半日ね。もういい加減萃香の所に行ってるんじゃない?」

烏D「でも萃香とはまだ鉢合わせてないらしいわよ?」

烏F「じゃあもう帰ったんじゃない? やっぱり人間は根性ないわねー」

烏A「それってマズいんじゃない? 萃香が何か言って来るわよ?きっと」

烏G「いいわよ別に。今回は矛先が坊主の方に向いてんだからさ」

烏A「それもそうかぁー!」

烏一同「あっはははははは!」



ガラッ…


烏A「……誰?」

聖「ご免くださーい」スッ


ザワッ…!


烏A「ぼ、坊主!? 何で……」

烏A「……コホン、何用でしょうか?」

聖「ええ! こちらの方としっかり話し合った結果、ようやく私の思いが通じたようです!」ニコッ

烏A「……?」


烏A「お前、まさか…………Eかッ!?」


ザワッ…!


聖「改めてお願い申し上げます」

聖「今回の新聞の記事、これは是非訂正して頂きたい」

聖「記事に書かれているような事実はどこにもありません」

聖「事実と異なることを記事としてしまうのは、命蓮寺の御本尊の名誉に関わります」

聖「……そうですよね?」チラッ

烏E「!」ビクッ

烏E「は、はい……そのとおりなのです……」

烏E「びしゃもんてんのめいよおけがすのは、イケナイことなのでう…………」ヨロッ

烏一同「…………」


同胞Eはまるで別人になってしまっている
過去の博麗大戦の最中にあっても、ここまで酷い状態にされた者はいなかった
一体どれほどの拷問を加えれば、一人の天狗をここまで壊してしまうことができるのか


烏B「どうして、こんな……」

烏E「……あうあー……」

烏C「もういい! もういいから!」

烏C「あなたは向こうでゆっくり休んでなさい。ねっ?」スッ

烏E「……う……うう……」


一人の烏天狗がEに情けをかける
その様子をからかう者はいない
他人の不幸を見物することを無上の喜びとしていた彼女たちでさえ、烏Eの変わり果てた姿には同情の念を禁じ得なかった


聖「真剣に話し合った結果、ようやくあちらの方にも私の誠意に理解と賛同の意を示して頂きました」

聖「皆さんにも、どうか私の気持ちを理解して頂きたいのです」

烏A「……」


烏Eに対して、坊主の方はまるで疲労も憂いも見られない
まるで暖かい布団でよく眠ってから朝風呂へ浸かった後のように、清々しく溌剌としていた
三日続けて拷問を加えていたなら、坊主にもそれなりの疲労があってしかるべきだが、そのような形跡は微塵も残されていない

烏Eと聖の間に何があったのか、想像できる者など誰一人としていなかった


烏A「……それで、我々にどうしろと?」

聖「訂正した記事を再度作り、それを幻想郷全てに配布して頂きたいのです」

烏A「す、全てですか?」

聖「はい」


烏A「……いやしかし、そうするとこれは大仕事になります」

烏A「何しろ、新聞の発行には、手間も時間も資材も必要になることですから」

聖「もちろんそれも承知でお願い申し上げているのです」

聖「このままでは、私は命蓮寺の御本尊に泥を塗ることになってしまうのです」

烏A「でもですねー……」

聖「……分かりました。私も覚悟を決めましょう」

聖「あなたにもしっかり話をつけなければならないようです。今からご説明致しましょう」

烏A「えっと……」

聖「烏Eという方も最後は分かってくれました。あなたもきっとそうであると、私は信じております」キリッ

烏A「……!!」


その時、天狗たちは聖の脅威を理解した
この住職は標的をどこまでも執拗に狙い続け、徹底的に追い詰めた後、確実に仕留めに来る

それは萃香相手には感じない恐怖であった
鬼よりもさらに凶悪な存在、狩猟者(ハンター)との遭遇である


―――ザザッ!!


聖「あら?」

烏A「お、お許しください! 全ては鬼の命令で仕方なくやったことなんです!」


烏天狗たちは一斉に地に伏した
未だ出会ったことのない恐怖が、彼女たちの意識を瞬時に纏め上げたのだ


聖「鬼……?」

烏A「はっ!……わ、我らは鬼には決して逆らえないのです!」

聖「はぁ……それはいいとして、記事の内容は訂正して頂けるのでしょうか?」

烏A「それは、も、もちろんです!!」

烏A「今からでも早急に―――」

聖「そうですか! 皆さんも分かってくれたのですね!」ニコッ

烏A「……はっ!」ググッ…

聖「えっと……寺に撒かれたものだけでも確か八万枚近くありましたね」

烏一同「……!?」


聖「これが幻想郷全体だとかなりの枚数になってしまうと思いますが、どうか皆さんの真剣な誠意をよろしくお願いしたいのです」

聖「さすがに手が足りないでしょうから、私も手伝います。何をすれば良いでしょうか?」


実際に寺にばら撒かれた号外の数は七万八千枚
計画の実行を急かされた天狗たちは、予定より大幅に枚数を減らすことで帳尻を合わせたのだ

不可解なのは、どうしてその数を坊主が知っているのかということ
秘密の漏洩を防ぐため、その事情は多くの同胞、特に烏Eには知らされていなかったはずである
答えは一つしかなかった


烏A「ど……どうかご容赦を!!」


烏A「あの号外は、寺以外には撒いておりません! これだけは誓って申し上げます!」

聖「あら、そうなんですか?」

烏A「あの号外は、寺へ持ち込むためだけのものだったのです!」

烏A「よそへ撒くようなことは決して致しておりません!」

聖「……そうでしたか。それを聞いて安心しました」

烏A「……はっ!」

聖「それなら……そうですね、では寺に撒いた分を回収して頂けますか?」


烏A「はっ! た、直ちに!」バッ

烏B「わ、私も……」スッ

烏D「では私も……!」


ゾロゾロ…


聖「お心遣い感謝します。これで私も毘沙門天に向かって胸を張れます」

烏一同「……」

聖「でもこれからは、鬼に頼まれたからと言って、無闇やたらに引き受けないようお気を付けください?」

烏一同「……」


聖「あのー……聞こえてますか?」

烏F「!……はっ、はい、それはもう……」

聖「くれぐれもお願いしますよ?」

烏F「……かしこまりました」

聖「では失礼致します」クルッ

烏F「……」


あの坊主がなぜその場凌ぎの言葉を信用したのかは分からない
それでも今自分たちが正気を保っていられることは確かだったので、坊主の本心などどうでも良かった
後は萃香に任せて今日のことは忘れてしまえばいい

もうあの坊主に会うことは永久に無いのだから

続 ???

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