阿良々木「・・・・・・学園都市?」(588)

「おい、のぶえもん」

「ええぃ、分かっとるわい。じゃから何も言うでない」

そう言うと、忍野忍―――怪異であり、怪異殺しであり、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼であり、

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードであった彼女は押し黙った。

そう、夏休み最終日には時間移動までこなした法則無視のチートキャラ

困ったときには忍さんでお馴染みの彼女は押し黙った。

えーっと・・・。

さて困った。どうしたものかな忍さん。

遡ること2時間前

穏やかな秋の昼間、陽気な陽射しが優しく降り注ぐ、一種の気だるさの吹き溜まりのような時間。

「うわああああんっ!!!買ってくれなきゃやーだー!!!」

「お前もう誰だよ!!!」

忍野忍―――もはや、駄々をこねているただの金髪幼女は僕のパーカーの裾を掴みながら泣きじゃくっている。

初期設定からこっち、無口なミステリアスキャラを通し、その風格は見た目こそ幼女ではあったが

凛々しくも神々しかった。

「ダブルチョコレートも食ーべーたーいー!!!」

「あぁ!!はいはい、分かった。もう分かったから!買ってやるから!これで最後な!」

それが今ではこれだ。

見る影もない。

ていうか、何個食べるんだよこの幼い幼女。

重複表現を駆使しても果たして、この忍の愛らしい幼女っぷりを言い表すことは難しいだろう。

幼女を女性として、攻略可能なアダルティのカテゴリーで見てしまうのはさすがに人としての倫理を問われてしまう。

僕が忍に向ける感情は損得抜きで、小動物に向けるレベルの愛情なのだった。

だからこそ甘やかしてしまうのだけど。

―――戦場ヶ原や羽川との受験勉強(まぁ僕が一方的に教わるだけの家庭教師なのだけれど)が

休みの毎週日曜日は常にこんな感じの日が続く。

春休みからこちら、伝説の吸血鬼のバトル、蟹、蝸牛、猿、蛇、猫、蜂、鳥といった怪異のあれこれを乗り越えてきた

百戦錬磨の阿良々木暦の現在の相手はキャラ設定の崩壊した幼女なのであった。

公式設定に対して物議を醸す必要は大いにあるだろう。

「ところでお前様、じゅ・けん・べ・んきょ・う、というのはどうなのじゃ?」

ミスドからの帰り道にふと質問してきた。
それにしてもこいつ、元貴族のなごりというか、さすがというか食べ方なんかの挙動の一個一個の動作の完成度は高い。

ここまでキャラが崩壊している以上、完成度の低さを補うための完成度の高さといえなくもない・・・・・・が、
せめて、描写されるような目立ったところで見せて貰いたいものだ。

「ああ、その前に忍、ドラマCDや傾物語でも言及されたからって、無理してそのしゃべり方挟まなくてもいいと思うぞ」

「シリーズ最新刊が発売する毎に儂のパーソナリティが揺らいでおるでな、ここは傷物語のアニメ化も考慮してひとまず合わせてみたのじゃが・・・・・・」

自覚はあったんだな。

「それに儂としては、ほれ、キャラ的に今は砕けておるが、結構シリアス系のクールな感じじゃろ?おそらく声質的には涼宮ハルヒになると思うんじゃ」

「なるほどな、確かにドラマCDのままいけばそうなるよな。でもいいんじゃないか?快活な感じはお前に合ってるし」

まぁ。
現在進行形じゃあ、泉こなたあたりも捨てがたい気がするんだけれどな。

「ああ、すまん。話逸れたな。受験勉強なら、概ね良好だよ」

もっとも、学年上位の戦場ヶ原と学年トップの羽川に教えてもらっておいて概ね良好であるでは失礼かもしれないが、
僕の学力自体は学年を通しても上の中くらいにまでに向上している。
ただ志望大学を考慮するともう少しってところなので、慎ましい自己評価をせざる得ない。

「かかか、そうか」

凄惨でもなく、あどけない顔で目を細めながら忍は笑った。
春休みのときや最近よく見せてくれる忍のこういう顔は、人間の女の子らしく僕は好きだった。
毎週日曜日―――ここに来る度に他の誰とも違う、忍相手だからこそ話せるような雑談に興じるのは
僕にとって楽しい時間になっていた。

「お前はどうなんだよ?」

「なんじゃいきなり?」

「いや、ここ2ヶ月ちょい夏休みが終わってからこっち、なんで決まって毎週日曜日にミスドに来なきゃいけないのかな?って」

ミスドが食べたければ家まで買って帰るし(それだとパサつくんじゃ!ってことで却下された)
昼間から動くのは仮にも吸血鬼のお前には辛いんじゃ・・・(夜寝溜めするもん!って言われた)
今日は予定があるからというと(うわああああんっ!ばかああああああっ!とグズられた)

僕としてはこいつのことだから何か考えあってのことなのだろうけれどそれが掴めない。
最初はミスドのポイントかと思ったけれど、こいつそういうところには全く興味ないみたいだしな。

「あー」

そんなことかと言わんばかりの反応が返ってきた

「お前様が日々寝る間も惜しみ、身を削りながらも頑張っておる姿を儂は誰よりも傍で見てきたからの。それに感情や思考すらも影の中にいると伝わってくるんじゃよ。ストレスなんて特にじゃ」

ふむ、なるほどな。

「儂としては、そんなお前様が少しでも息抜きをしてくれればよいと思っての、ただそれだけじゃ」

そういうと忍はまたあどけなく笑った。

掛け値なしの心の篭った言葉だった。

甘ったるかったり、素っ気なかったりとは別の、こちらの意識を引くためだけのものでなく

ただ心のままに受け取れるような忍なりの好意。

みぞおちを締め付けられる。

・・・・・・

「どうした、お前様?何を黙っておる?」

僕の中で何かが弾けたのはいうまでもない。

この場合のお相手は普段なら八九寺が担うはずだ。

そうあのロリちっぱいでなければ成立することのない、一巻に一回以上は必ず行われるもはや神聖なる儀式。

読者の皆様の期待もあってか僕としてもそれに十二分に応えることが主人公のあるべき姿であると自負している。

いっそこれからは、ハードルを上げて、十二本の刀集めの旅に彼女と赴きたいくらいだ。実は七花八裂を夜な夜な火憐ちゃんと練習している。

だがしかし、それは八九寺相手だからこそ許されるものであって、

他に―――例えば羽川なんかにすれば

僕は間違いなく人生のピリオドを迎えることになるだろう。

同じ意味では火燐ちゃんや月火ちゃんもそうだろう。

神原なんかは喜びそうなものだけれど、あれもあれで「責任とってくれ」という重い流れで冗談ではなくなるだろうし。

千石相手には、もはや責任云々の問題じゃない。

アニメ化物語のDVDやブルーレイが回収されてしまう。

僕はいつだって全年齢対象版の主人公なのだ。

というか、そもそも実の妹に欲情するなんて人間のクズだと僕は考える。

妹と3ラウンドに渡る歯磨きをしたのだって、妹の歯周病を気にかける兄が妹を想う心からの行動だったわけなのだから。

現在のドロデレ状態の戦場ヶ原なら・・・・・・いやあれは例外だ。

戦場ヶ原が更正して極端ではあるけれど、恋に恋する女の子らしくなったことには僕はかなり嬉しく思っている。

だが、生々しいほどに極端に積極的すぎるのだ。

とても言葉で表現できるものじゃない、ツンドロ、ドロデレ恐るべし。

でもだからこそだろう!だからこその八九寺真宵なのだ!彼女でなければ駄目なのだ!

八九寺真宵―――リュックサックを背負ったツインテール似合う小学五年生

蝸牛に会い―――蝸牛に遭って迷っていた少女

そして今は自縛霊から二階級特進を果たして浮遊霊の少女

しかし、僕は彼女というキャラに、その存在に身を心を委ねすぎていたのかもしれない。

八九寺でなければいけないと思い込んでいたのかもしれない。

そうやって狭められた視野で人を評価できるほどのできた人間でもない僕が恐れ多くもおこがましいほどに

他人への繋がりや可能性を無意識に拒絶し決め付けていたのかもしれない。

浅はかだった。

穴があったら入りたいほどに恥ずかしいことだ。

忸怩たる思いもここに極まった。

でも僕はそれに気がついた、否!気づかされたのだ!

これからはそれに向き合って生きていこう、自分の狭い視野ではなく、他人を尊重できる広い視野を持とう。

この世界の可能性に対する感謝の心を常に持とう。

そして主人公としてかくあるべき行動をしなければなるまい。

さて前振りは終わった。

ここからは新生・阿良々木暦らしく振舞おうではないか!

では!!!

「しーーーーーーーーのーーーーぶーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

僕は思いっきり忍に抱きついた。

「きゃあああああああああ!!!!!!!」

忍の悲鳴が木霊する。
もはや僕にとって可能性を信じて行動することに迷いなんてなかった。

アニメへの配慮や都の条例への配慮なんてものは二の次だった。

忍の謙虚で控えめな体を撫で回し、穴があったら入りたいと先ほど願ったほどの羞恥心を
曝け出すがごとく忍のワンピースの中に顔をもぐりこませ、忍の童話に出てくる妖精のような体に頬擦りし、おへそのあたりで顔をうずめる。

「きゃあああああああああ!!!!!!!」

忍自身が僕の影と繋がっている為、逃げるに逃げられないのをいいことに

僕は更なる行動に出る。

ワンピースを脱がしにかかった・・・・・・ところで、上からものすごい衝撃が下りてきた。

思いっきり忍に殴られた。しかも肘で後頭部を強打された。

顔面がアスファルトの地面にめり込む。

忍には今朝血を飲ませたばかりなので、忍の吸血鬼性も上がっている。

追撃というか止めの一撃と言わんばかりに地面に伏した僕の身体に踵落としが決まる。

「何をするんだ忍!!」

「何をしたのか自分考えろ!!バカぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

忍は息を切らし、涙目になりながら叫ぶ。

僕自身なぜ拒絶されたのか理解が追いつかない。

「一番アニメ化してはならんのはお前様じゃあああああ!!!うわあああああんっ!!!」

大体こいつ夏休み終わりには貞操なんて気にしたことないとかほざいてたのに、実際はこの仕打ちである。

僕はこの世の不条理に耐えられそうになかった。

僕の純情という幻想は右手を使わなくても現実の前に打ちのめされる。

嘆息すらも禁じえないロリを愛することができない世界に絶望した!

「えっと、ごめんな忍。まさかそこまで露骨に拒絶されるとは思わなくて・・・・・・」

「・・・・・・ん・・・ぐすん」

割とガチで忍が泣き出したため、頭を撫でながら落ち着かせることに成功

「歩けるか?」

「・・・・・・ん」

そういって忍は立ち上がると、僕と再び帰路についた。

「・・・その、儂もすまなかった・・・・・・。動揺してしまったとはいえ、あるじ様に手を上げてしまったの・・・・・・」

途中、僕と忍は北白蛇神社の入り口の階段に腰掛けていた。

「いや、それなら僕も気が動転していたとはいえ、ごめん」

沈黙・・・。

何だろうこの初体験を直前に控えたカップルみたいな空気は。

甘いような苦いような。

酔いそうになる。

「・・・儂もな、お前様が・・・その・・・・・・あれじゃ・・・本当に望んでおるというならな・・・その・・・・・・」

妙にボソボソと喋り、頬を赤らめ恥じるような忍の顔つきや仕草に目がくらみかけた。

何この子ラブリーすぎる!!

「あー!!!そうだ忍!!!何か飲みたくないか!?僕喉渇いちゃってさぁ!!」

これ以上この空気に耐えられそうにない!!

甲斐性なんていうものは僕には欠片もないからだ。

「ふぇ!?あ、ああ!!飲みたい!!」

忍といっしょに自販機の前まで歩く。

それにしても八九寺なら、冗談で済むはずの展開が他の人だとこうまでギャグに徹することができなくなるなんて・・・・・・。

買い終えて、北白蛇神社の入り口まで戻ろうとしたとき

目的地とした神社の入り口で大きなリュックにツインテールが目印―――八九寺真宵を発見した。

自販機から神社の入り口までは百メートルほどの距離もある。

それでも普段の僕なら、彼女との物理的距離など星と星の間ほどに離れていようとも、光の速さでかけつけて、

彼女と熱い信頼で結ばれた上で成り立つ交流―――ただ僕が一方的に抱きつくだけなのだが、そうするはずだった。

ぶっちゃけ、忍が影の中に居ようと居まいと。引きずってでも。

ただ先ほどのこともあるので、半ば冷静な僕であった。

だからこそ気づけたのだろう。その違和感に。

八九寺は神社へと向かう登りの階段を走って登っていったのだった。

まぁあいつが街を彷徨うルートに関して僕自身それを全て把握しているわけではないけれど。

それでも

「あの小娘、確か八九寺じゃったか?」

忍がいつになく重い口調になる。

「ああ、でもあいつ神社に何の用なんだろうな?」

僕の中の違和感というのはそれに尽きた。漠然としたものだ。

神社と八九寺という因果関係に心当たりがないといった。

それにあいつを巡る話は何も蝸牛のことだけでなく、夏休み最終日の八月二十日。忍と時間移動をした際のあれこれもある。

それに北白蛇神社自体、千石のこともあったり、忍野の言うところの『妖怪大戦争になるほどの吹き溜まり』だったりと

何かと怪異絡みで縁のある場所なのだ。

ただ千石のことも解決済みだし、そういった悪いものの吹き溜まりだったとしても

そのエネルギーを全部使って忍と時間移動を行ったので、実際のところ今は害のないただの神社なのだけれど・・・。

「お前様よ、儂は影に入る」

「あ?なんだよいきなり?」

「胸騒ぎがする。いいからとっとと追うぞ。何事もなければ、またあの娘を今度こそ人気のない神社でやっちまえばよかろうよ」

そう言い終えた後の忍の顔も声も笑ってはいなかった。

僕は全速力で追いかけた。

普通の人が上っていったというのであれば、もう追いついていてもいい頃合だろうが

さすがは二階級特進を豪語する浮遊霊だ。

ようやくその背中が見える頃には八九寺は階段を登り終えていた。

僕もすぐに後を追い登り終える。

「八九寺いいいいいいい!!!!!!」

同時に叫んだが、その姿はなく、反応もなかった。

「ふぅ、これはこれは・・・・・・」

いつの間にか忍が影から出ている、が、その顔色は良くなかった。

「この神社自体は何も悪いものだけが吹き溜まるような場所というだけではない」

僕が説明を求める前に語り始めた。ゆっくりとしかし重く冷たい口調で。

「以前そのようになったのは完全体であった儂がこの街に来たことが原因だったというだけなのは知っておるな?」

まぁ怪異に良いも悪いもないし、怪異はただそこにあるだけじゃ、と付け加えた。

「あぁ、でも今はそんなことないはずだろう? 忍野のお札やら時間移動のときつかった霊的エネルギーやらで」

「そうじゃな、しかしお前様。この神社は怪異のようなものが吹き溜まるのは以前からで、用はこの場所自体がそれらを引き寄せやすい場所なんじゃ」

「それは分かって・・・」

「例えば時間移動をここから始めて、別の時間軸のこの場所に辿り着いたじゃろう? じゃが、目的地だけならあくまで同じような条件が揃った場所であれば門として作用するからある程度選べるんじゃよ。」

「つまり以前のここと同じ条件が揃っていれば、ここから例えば別の時間軸の別の場所へもいけるのか?」

「ドラえもんほど上手くは指定できんがの、まぁここも門としては作用するじゃろ」

そして忍はキメ顔でこう言った。

「そう、ここが門として作用した。つまり誰かが別の場所から、ここまでの門を開いたということじゃ」

「そもそもここは怪異やそこまではいかなくても霊的なものを惹きつけるような場所じゃからな、浮遊霊であっても例外ではなかろうよ」

ましてあの娘は一度怪異に遭っているのだから。

「それにじゃ、門を開いた後の痕跡が残っておる。お前様には分からんじゃろうが、以前までと同じくらいの霊的エネルギーなら満ちておるし」

「でもどうしてそんなことが分かったんだよ?」と言いそうになったが封殺された。

八九寺はそれに惹きつけられ、巻き込まれ、そして行方不明になったということらしい。

「大方、門を開いたやつは痕跡が残るほど莫大なエネルギーを持っていたんじゃろうな。それこそ全盛期の完全体の儂以上に」

完全体の忍以上と聞いた途端、僕の身体は強張った。

一人で世界を滅ぼせるような吸血鬼以上。 そんなものがあるのだろうか?

「じゃが不幸中の幸いじゃな。霊的エネルギーも十分にあるし、尚且つ門を開いて時間も立っておらんなら追いかけることができるかもしれん。どうする?」

忍は腕を組み、強気に言い放った。
頼もしい幼女である。

「そんなもん決まってるだろ!!」

こうして再び僕は時間移動をすることになる。

時間移動は滞りなく終わった。

忍が前回同様に「呪文の詠唱が必要なんじゃ!気分が乗らんじゃろ!?」と言うので放っておくと

「黄昏よりも暗きもの、血の流れよりも赤きも・・・・・ふぐぅ!!!」

口を塞いで強制終了させた。

「ネタが俗過ぎるんだよ!!街を吹っ飛ばす気か!!」

というやり取りがあった。

それを考慮しなければならないかもしれない。

呪文なんて無闇に唱えたからか分からない。

分かることは一つだけ、僕たちが移動した先が見たこともないほどに都会的だったということだ。

回想終了

ここで一番最初のやり取りまで戻るわけだ。

「時間移動ってのはパラレルワールドに飛んだってことで、つまりあったかもしれない可能性の世界なんだよな?」

僕はもはや何が何やら分からなかった。

「そうじゃな、少なくともあったかもしれない世界っていうのが今目の前に広がっておるんじゃろ」

あったかもしれない別の世界。

東京のど真ん中でも見たことが無いような高いビル、風力発電を行っているであろうたくさんの風車、未来都市的移動手段のモノレールがビルとビル間を縫っている世界。

行き交う人々も僕たちのいた世界とは変わらず、少し垢抜けている都会感がある。

どこでどう初期値からの過程を間違えばこのような世界観が繰り広げられるのだろう。

というかここ、今現在僕と忍の立つ場所は東京都立川市の駅前がベースのようでその名残もあるのだが、

名残があるだけで全く別物だった。

「何かもう完全に文化圏が違うような気がするけど、これお前本当に八九寺見つけてもとの世界に帰れるんだろうな?」

「・・・・・・・それは、んー大丈夫じゃろ!多分!!」

あーあ、軽いなぁ本当にもう!

どんどん不安で満たされていく。

「ひとまずあれだ、ここでじっとしていても仕方がないな」

「そうじゃの、ひとまず前回同様にこの世界のことを調べてみんことにはどうしようもない。・・・・・と、そうじゃ」

思い出したように忍はワンピースの中を弄ると「念の為じゃ」といって怪異のみを斬る大太刀『心渡』を出した。

それを僕に渡す。

「まぁ前回のようにゾンビで溢れるような感じはせんが、一応保険代わりにお前様が持っておれ」

ジーンズにパーカー、そこに日本刀を腰に下げるファッションは前衛的すぎる。

若干周囲の人の目も痛い。

「これ普通に銃刀法違反じゃねーの?」

「かまわんじゃろ?むしろこれくらいキャラ立てせんと都会じゃ個性を確立できぬぞ? 怪しいどころか、ぱないかっこええの!!」

~風紀委員第百七十七支部~

初春はPCに向かい、ジャッジメントの今日の業務について確認していた。

公園の清掃に迷子になった犬の捜索、平穏な依頼である。

これなら早々に切り上げて帰宅できると思った矢先。

ピーッ!ピーッ!

その緊急を表す警告音に表情が変わる。

「はい、風紀委員第百七十七支部」

「第七学区にて学園都市不法侵入者を発見しました。至急調査をお願いします」

通信が終了してすぐに初春はショートカットキーを駆使してその旨を同僚に伝える。

「もしもし白井さんですか? アンチスキルからの緊急信号です」

「分かんねー」

「お前様!お前様!!みて!みて!新作のゴールデンショコラポンデリングじゃって!!ぱないの!!」

僕と忍はひとまず公園を見つけたのでそこのベンチに座っていた。

途中ミスタードーナッツがあり、何やら僕の住んでいる地域では売ってない新作が目白押しだったところを

忍が駄々をこねたので買い与えた。

店員さんに聞いたところ

「この紙幣はお使いになれますよ、それにしても外の紙幣なんて本でしか見たことありませんでした、とミサカは偽札ではないかと疑念をもって調べ上げます」

だそうで、どうやらお金は使えるみたいだ。

で、現在僕の片手には椰子の実サイダーなるものが握られている。

すぐ目の前の自販機のレパートリーはひどく、スープカレー系のジュースやいちごおでんなるものなどで

一番ましなものがこれだった。

こんな怪しい飲み物を飲まなくてはいけないくらい現在の僕の状況は砂漠化しているわけで、

「学園都市?この世界の日本ってどうなってるんだよ」

コンビニで地図やらガイドブック的なものを購入して分かったことは、ここが学園都市と呼ばれていて、

現在自分たちがいる場所が第七学区という場所だということだけだ。

八九寺の手がかりすら全く掴めていない。

「お、お前、様・・・・・・」

「なんだよ、生き別れの家族に今まさに感動の初対面したようなノリで呼びやがって」

「フレンチクルーラーに自分の好みトッピングができるんじゃて!!しかも20種類!!もう一回行こ!!!」

「ほんと順応はえーな!!!」

確かにフレンチクルーラーは別味があってもいいと思うけどさ!

とりあえず、忍が食べ終わったらひとまず図書館にでも行ってみよう。

ここのことが何も分からないのでは動くことさえ難しい。

「見つけましたわ!!!」

行動の指針を考え終わり、缶を捨てに行こうとした直後目の前に女の子が現れた。

やや赤茶のツインテールにどこか幼さも残るもののキリッとした顔立ちの女の子。

「ジャッジメントの白井黒子ですの!!あなたを学園都市への不法侵入の容疑で拘束いたします!!」

えーっと?

ジャッジメント?不法侵入?拘束?

「ちょ!!待ってくれ!!僕たちは決して怪しいものじゃ!!」

「はて?日本刀を腰にぶら下げて、金髪の幼女を連れまわすような殿方を怪しいと言わずしてなんと表現すると?」

「おっしゃる通りだー!!」

外見は人を判断するためにあるんだよなー!!

ほらー!!忍さーん!!怪しさでインフレしてるみたいですよー!!

キャラ立て失敗じゃねーか!!

ヒュン!!

風切音が聞こえたと同時に気がつけば目の前にまで距離を詰められていた

「え・・・・・なっ!っうわ!!」

続いて足払い、地面へ伏すのは本日二度目である。

起き上がろうと身体を動かすも、動かなかった。

動けるには確かに動けるかもしれないが、衣服のあらゆる箇所に細い杭のようなものが刺さっていて

それが僕と地面を固定していた。

「他愛もない。外部からの侵入者などと騒がれていた割りに装備は日本刀一本なんてなめられたものですの」

そう言うと彼女はポケットの中から小さい端末を取り出す。

「もしもし初春? 監視カメラの映像の男は確保しましたの。至急アンチスキルにも連絡を・・・って、は?侵入者は一人じゃない? それってどういう・・・ぐっ!!ぁ!!」

「こういうことじゃ!!」

爆発的な速度でベンチから走ってきた忍は彼女を蹴り飛ばす。

えぐる様に脇腹にヒットした一撃に軋むような生々しい音が聞こえた。

「はっ!どうやったか知らんが咄嗟に上手くいなしたか」

おそらく忍は全力で蹴った。

忍の性格上この場面だとこいつは容赦はしないだろうし。

そしてたとえ八歳の幼女の姿で吸血鬼の残りカスとはいえど、その力はブラック羽川を凌駕する。

その蹴りをいなされたことに僕は驚いた。

「お前様も無様に伏せっておるでないわ、服ならあとで儂が直してやるからとっとと起きろ」

僕はパーカーを脱ぎ捨て起き上がる。

ジーンズには多少ロックンロールなダメージが加わったがこの際気にして入られない。

彼女も起き上がり再びテレポートで距離を詰めようと、まずは自分の蹴り飛ばした幼女の方から身柄を

確保しようと試みる・・・が、

「悪い!!」

テレポートをされる前に僕は吸血鬼の全力をもって距離を詰め、彼女の手を捻りそのまま羽交い絞めにした。

「なっ・・・!」

女の子を地面に伏せさせるというのもそれはそれでSっ気の強いマニア垂涎のシチュなのだろうが

とりあえず、そうはせずに彼女のポケットから手錠を取り出し、それで動けなくはしておいた。

実に紳士的である。

「お前様、女の子のスカートのポケットを羽交い絞めにしながら弄るのは絵的にひどかったぞ」

「言ってる場合じゃなかったろうが!!」

よくよく考えるとあれだよな。

中学生くらいの女の子相手に手錠プレイもなかなかそそる絵面ではあるよな。

「くっ・・・!!能力者用の手錠でテレポートが・・・」

「能力者?」

僕はその言葉を拾う。能力者、さっきの消えたことと何か関係があるのだろうか?

直後、

「ちぇすとー!!!!!」

先ほどの忍の蹴りとは比にならないほどの、爆撃のような蹴りが飛んできた。

爆撃のような?というか公園の地面にひびをいれ、着弾したところには半径十メートル近くの円状の深い凹みができた。

声を辿ってギリギリで回避した僕だったが、それより何より気になったのはその声だった。

薄々考えていた。

ここはどうあってもパラレルワールドなのだ。

ならば、知り合いもいるだろうと。

しかしよりによってこいつかよ。

『栂の木二中のファイヤーシスターズ』、自称『正義の味方』

僕の妹―――阿良々木 火憐が目の前にいた。

「ジャッジメントだぜ!!!んでどいつだー!!!不法侵入者ぁー!!!」

どうやら攻撃した対象が何者なのかも確認できていなかったらしい。

わが妹ながら相変わらずのバカである。

「かかか!お前様の大きい妹御とはの!」

笑い事ではない。

火憐ちゃんが蜂に遭ったとき、

コンディションは瞬きすれば二度と目を覚ませないほどの高熱で

僕は今と同じくらいの吸血鬼性を帯びた上でガチ喧嘩をしたが、

普通に死にそうになったのは記憶に新しい。

痛みを伴って記憶したからこそ鮮明に覚えている。

で、さっきの登場である。

何の原理でどうやって蹴れば、公園の地面にクレーターを作ることができるのだろうか?

まぁこいつならナチュラルにやりそうだから原理なんて無いかもしれないけどな。

「火憐さん・・・あなたの目の前にいますの・・・・・・」

「なにー!!・・・・・・って!!兄ちゃんじゃねえか!!!」

僕のことを正しく兄として認識できるくらいにはこちらの世界の火憐ちゃんの頭も働くらしい。

「お兄さん? 火憐さんのお兄様ですの?」

「ああ!!そうだぜー!!まさか兄ちゃんが不法侵入者だったとはなー!! 兄ちゃんならできると思ったよー!!」

知能指数の低さが喋る度に露呈されている。

もうやだこの子恥ずかしい!!

「おい、火憐ちゃん。聞きたいことが山ほどにあるから、ひとまずこの場をって・・・忍!?!?!?」

忍のタックルが僕に炸裂した。

瞬間、僕の居たところに凄まじい熱量を帯びたものが打ち込まれる。火憐ちゃんの蹴りとはまた別格の危険なもの。

「黒子ー!!! 助けにきたわよー!!!」

「お!お姉さま!!」

「おーう!美琴じゃねーか!」

先ほどの女の子のお姉さんらしく、ついでに三人とも同じ制服を着ているってことは同じ学校か。

この状況が姉妹愛による救出劇ならば、神原のような夏の陽だまりに放置されたおにぎりのようなやつが聞けば鼻血ものなのだろう。

少女はスカートの下に短パンを履いている。

前衛的なシティファッションなのかもしれない。

パンチラがないことは残念だが、しかしそこは僕レベルになると、短パンから覗く太ももの健康的な曲線で欲情できる。

眼福だ!!

ちなみに火憐ちゃんは制服をちゃんと着こなしていた。

普段ならおよそありえないほどの生足の露出。

こいつが制服を着た姿なんて、現在の日本の就職率くらいの確率なので、兄であっても割と見るのは久しぶりだった。

ただし、栂の木二中のものでないため、そしてその着用者が火燐ちゃんであるためコスプレにしかみえない。

女子中学生が制服を着たりスカートをはくことをコスプレとはいわないだろうけれど。

というか、都会の女子高生はこんなにも山吹色が基本配色でいいのだろうか?

閑話休題

それにしてもやばかった。ビーム撃ってきたよこの子!!!

忍が突き飛ばしてくれなかったら死んでたな。

「あんたが黒子に手を出したって言う不法侵入者ねぇ・・・ へぇそんな装備で随分と余裕じゃない?」

この世界ではバトル=生きることなのだろうか、生きることは闘いであるという教えがたくましく広まっている。

加えて、日本刀はバカにされるくらいの装備でしかないらしい。

「シュールな空気で心理戦を繰り広げるような戦いが今時の主人公の在り方なんだよ!!」

吸血鬼の回復力頼りで常に闘ってきた僕にとってそれは負け惜しみでしかなかった。

そして同時にそれはこの場を打開する唯一の手段だった。

力と力のドンパチならば、そうするしかないのだ。 シュールな心理戦なんて柄じゃない。

「ま、いいわ。とっとと終わらせてあげる!!!」

そう言うと、美琴は体中から電撃を放った。

人間の反射神経で電撃を避けるなんてことは不可能ということで、結果僕に直撃したはずだった。

いや、実際直撃したのは間違いない、が何とも無いのだ。

「どうなって・・・」

「お前様!!心渡を抜け!!それでイオナズンは防げる!!」

状況が把握できない僕に忍が叫び、

イオナズンの使える女子中学生は「なんで!?まさかあいつと同じ!?!?」と気が動転していた。

僕はというと、僕の家にはないはずのドラクエ関連の知識をいったいこいつがどこで仕入れたのかが気がかりだった

まぁ嘘だけど!!

とにかく僕は心渡を抜き身構える。

「・・・っ!!させない!!」

彼女は再びイオナズンを撃ってきたが、心渡に触れたとたんにイオナズンは消えた。

「まさか、あのバカと同じで能力を打ち消すなんて・・・・・っ!! でもこれなら!!」

そう言うと彼女はコインを指に持ち、

「音速の三倍飛んでくるコインは打ち消せるかしら?」

言い終えた瞬間、閃光。 爆発的な音が広がり、

(しまっ・・・・)

バシィィィン!!

主人公としてかくあるべきだという条件のようなものがあるとして、

明確な基準があるとして、

最低限何を満たせば主人公になれるのかと考えた場合

僕はこう考える

こういう絶対絶命のピンチに駆けつけてくれるやつは

主人公になれる才能と資格があると!

「ったく・・・・・・何やってんだよビリビリ?」

ツンツンの頭の少年が右手を前に出して僕の前に立っていた。

「あ!あんた!!」

どうやらビリビリと呼ばれて反応したのはイオナズンの少女であり、なるほど確かにと思わざるえない。

少年は日本刀片手に突っ立っている僕の姿を一瞥し、

周りの様子を伺って一言

「・・・・・・はぁ、不幸だ」

事態は収拾した。 と言っても力技で、僕と忍の不法侵入者扱いから端を発した今回の件は、

こっちの世界の火燐ちゃん―――ジャッジメントという警察のような組織にいて、自称ではなく正義の味方をやっている我が妹、

火燐ちゃんの家族だからということで僕と忍の件が有耶無耶になった。

加えて火燐ちゃんとイオナズン少女の御坂はこの学園都市では七人しかいないレベル5の超能力者らしく、

その家族だからというのが一番効果絶大だったらしい。

学園都市内を自由に動けるパス、観光ビザのようなものが発行されたことで解決した。

「まかせろ兄ちゃん!!そんなもんあたしの権限の範囲だ!!」と男らしい啖呵をきってくれたこっちの世界の火燐ちゃん。

僕の世界の火憐ちゃんは生まれてこの方十五年間、兄にとっては全く役に立たなかった妹だったのに!!!

こっちの火憐ちゃんはなかなかグレードが高い。 ゲータレードくらいのグレードの高さはあるだろう。

○火憐 ×火燐
間違えました・・・。

それにしても、だ。前回の世界の滅亡に続いて今回は超能力・・・・・・。

絶対可憐なものしか知らない僕にとっては空想的過ぎて頭がいまいち追いつかない。

でも、目の前でああも力いっぱい使われてしまえば信じるしかないよなぁ。

というか、怪異だの吸血鬼だのっている時点であっても不思議じゃあねぇか。

ともあれ、無事に汚名も晴れた僕と忍はさきほどのミスタードーナッツで、火憐ちゃんや僕を助けてくれた少年、上条当麻君たちに学園都市について教わっていた。

「やーん、この子超かーわーいーいー!!!食べたいものがあったら遠慮なく言ってね」

「わーい!!美琴おねーちゃん!!ありがとー!!じゃあじゃあじゃあ!これとこれもー!!」

見た目は幼女、頭脳は五百九十八歳と十一ヶ月な忍たんであった。

外見を極限まで駆使した交渉術を行使中である。女子中学生にたかってんじゃねえ!

これとこれもー、とか言いながらおそらく全種類選んだのだろう。 となりのテーブルで御坂に抱かれてドーナツを頬張っている忍の

目の前はドーナツがマンガ盛りになっている。

「暦お兄ちゃん! このお姉ちゃんにいっぱいドーナツ貰っちゃったー!!」

「一人称変わってますよぉぉぉぉぉ!?!?」

それとそれじゃあ千石と被っちまう。

ちなみに、忍の快活な『暦お兄ちゃん』が千石の甘えてるような感じとはまた違って心臓のあたりがキュンときたなんてことは断じてない!

「うちのシスターもこれくらい愛嬌があればな・・・・・・ん?悪い!着信きた!少し外すな?」

といって上条君は席外した。

シスター? 妹がいるのだろうか?

さて、

「ところで火憐ちゃん、悪いがもう少しだけ訊きたいことがある」

「なんだ兄ちゃん!!なんでも聞いてくれ!!兄ちゃんにだったら私の今日つけている下着の色以上のことでもさらっと答えるぜ!!」

「ぶっふぉぉぉ!!!それは是非お願いしますの!!」

「黒子ぉ!!」

ツインテールの女の子にイオが放たれた。

「戦場ヶ原や羽川や神原や千石や月火ちゃんは今どうしてる?」

この世界のみんなはどこら辺のポジションにいるのだろうか?というのが八九寺を探す手がかりになるかもしれない。

あわよくば力を貸してほしかった。

「戦場ヶ原? もしかして第四位の戦場ヶ原さんのことかー、面識は全くないから分かんねーな。ちなみに私は第六位だぜー!!」

うわー何気にすげーんじゃねーのこいつら?

この調子でいくと羽川なんかは神か魔王の扱いだよな。

・・・・・・・

えっ?

「もしかして終わり?」

いくらなんでもこれはないだろ!

羽川は?千石は?神原は?月火ちゃんは?

「終わりも何も、兄ちゃんの今言った人で知ってるのは戦場ヶ原さんだけだぜ?会ったことはないけどなー」

火憐ちゃんはバカだ、真性のバカだ。でも嘘はつかない。つく頭もない。

つまり、この世界の僕にはみんなと面識がないということだ。きっとそれはみんなも同じはずだろうけれど。

戦場ヶ原がいるんだから、きっとこの世界で生きているだろうがきっとこの世界ではお互いに交わることはないんだろうな。

そう思うと寂しかった。

「ちょっと待てよ? 月火ちゃんはどうした?妹だろ!?」

この質問の答えによっては、この世界に対する認識を改めなければいけないと思いつつ、

しかし僕は予想はできていた。

「誰?それ?」

僕らは二人兄妹・・・だそうだ。

新しく妹が生まれたのか?と終始騒いで、忍を指してそうなのか!?とテンション高めに尋ねてきた我が妹の様子を見るにつけ、やはり嘘だとは思えない。

おそらく忍も色々と考えているだろうがここでは同じ結論に達したと思う。

認識を改める、つまり、元の僕の世界と深い因果関係にあるはずだという前提を取り払い、全く別の世界、FFとドラクエくらいの違いはある世界と見なすということ。

・・・・・・いやぁどうせならおじゃ魔女とプリキュアくらいの世界観なら僕としても夢ひろがりんぐだったのに・・・不幸だ・・・・・・。

「ところで兄ちゃんは外の学校休んでまで学園都市に何の用なんだ?」

「おいおい、兄が妹に会いに来るのに理由なんていらないだろ?」

僕はキメ顔で即座に切り替えした。

「兄ちゃん!かっけー!」

火憐ちゃん曰く、この世界の僕は学園都市の外側にある―――私立直江津高校に通っている『ただの』学生らしい。

そんな兄が日本刀を腰に下げて学園都市に侵入、あげく能力者相手に渡り合ったのが不自然極まったようだった。

当たり前の反応だよなぁ。

御坂に関しても、白井に関してもやはり、電撃を防いだりしたことが引っかかるらしく追究されたが。

「いや、ほら僕も火燐ちゃんの兄だからな!最近身体を鍛えていたら火燐ちゃんと同じように能力が使えるようになったのさ!!」

我ながら苦しいが、嘘とばれない様できる限り落ち着いて、間髪いれずに答えた。

更なる追究に身構えたが、

「あぁ、火憐さんのお兄さんだし・・・有り得るわね」

といった具合だった。

うちの妹はこの世界でも、けっこう規格外な存在らしく、逆に上手くそれに救われた。

ちなみに忍に関しては従妹となっているが、どんな国際色豊かな血縁関係を敷けば、西洋人100%の親戚ができあがるのだろう。

んなわけねーだろってツッコミがこないのが救われた反面、この世界をちょっぴり心配してしまった。

「さて今回の事件に関して、私は今回の件をアンチスキルに報告してこなければいけませんの」

「そっかー、んじゃあたしは兄ちゃんと兄妹愛が何たるかを確かめ合わねーといけないんですのー」

「火燐さん? あなたは公共物破損への始末書がありますのよ? とっとと支部へ帰りますの!」

「えー!?!?それなら美琴だって暴れてたじゃんか!」

「もちろん今回はお姉さまも連れて行きますの!!」

「なんで!?」

「あの類人猿がいるようなところにお姉さまを置いてなんて行けませんわ!!」

「ちょっ!」

ヒュン!

・・・・・・・。

便利だよなぁテレポート。

あんなのあったら遅刻気にして走らなくても済む上に、さっきの杭みたいに物まで自由に動かせるんだぜ?

例えば、羽川にちょこっと触れてブラジャーを抜き取ることも、マッパにすることも可能な能力なんておいしすぎる。

第六位の火燐ちゃんは名前的に火を操るのかと思いきや、期待を裏切り、肉体強化系の能力者らしい。

聞く限りでは吸血鬼のそれみたいなものらしいが、そこは火を使えよ。

忍を抱いていた第三位の御坂は電気、第四位の戦場ヶ原は不明ときている。

いや、戦場ヶ原についてはドロデレな感じは期待できない。

こんなバトル展開が行く先々で待ち受けているような世界だ。

全開のヶ原ノリで大量虐殺とかやっちゃえるくらいの危ない能力に目覚めているかもしれない。

女性陣が居なくなって、入れ替わりに上条君は通話を終えたのか、席に戻ってきた。

で、開口一番

「阿良々木さんたちは魔術師なのか?」

また濃厚なワードいただきました! 超能力に続いて魔術師て!!!

なにこの世界! 本当におじゃ魔女とドラクエでクロスオーバーしてんの!?!?

「その右手・・・」

僕の思考が停止しているのを見計らって、忍が口を出す

「随分とおかしなものみたいじゃの?」

言うと忍は先ほど僕を助けてくれた際に使われた右手を指す。

「かかかっ!それに魔術ときたか・・・やれやれ、話がいよいよ壮大になっておるの」

凄惨な笑みを浮かべる忍だが、こいつはこいつで多少の理解があるようだ。

「えーっと、ただでさえ超能力だなんだので、話を合わせるのに精一杯なのに魔術? ごめんもう無理! わけ分かんねーよ!」

超能力であの学園異能バトル展開だったのに!!

魔術に対して空中楼閣張り巡らせるなら、それこそドラグスレイブあたりの打ち合いになんじゃねーの!?

ごめん八九寺!!僕超絶帰りたい!!

「いや・・ハハハ・・・・その反応だと違うみたいだな!! 悪い!!変なこと言っちまった!!」

バツが悪そうに笑いながら上条君は笑う

そして阿良々木暦は本能で感じていた。

この話題はこれ以上踏み込んでは駄目だと、確かに八九寺を探すのに手がかりはないが、だからといって無闇に飛び込んではいけないものがある。

こんなバトルワールドで間違いなく踏んではいけない地雷に、今差し掛かっているのだと。

話をそらさねば!

「魔術師ではないがの、儂らは吸血鬼じゃ」

・・・・・・

誇るようにそう答えた。

何を恥じることがある?と言わんばかりの不遜な表情だった。

得意気で小生意気な顔だった。

これがあと5年後くらい姿の忍であったなら、ぶっ飛ばしていただろう。

「しのぶさあああああん!!!!!」

おそらく忍に悪気はない、悪気なんて感じるほど意識して言ったはずもないだろう。

ただ聞かれたから、それに答えただけなのだろう?

あーあ。

一方で、上条君もやっぱりかと言いたそうに、それでいて僕と同じように地雷を踏んでしまったことを改めて再確認するかのように溜息をついた。
こういうときなんていうんだっけ?

ああそうだ

「「不幸だ・・・・・・・」」

「さっき魔術方面に関して詳しいツレと電話してたんですよ」

「なるほど! 魔術ね魔術!! そういえば小学校のとき家庭科で習った!! 魔術!!」

マジ鬱になりそうなくらい危険度のあるワードにともかく話を合わせる僕。

いやラップパートとかじゃなくて。

「お前様、それは引くわ」

「YOっていってないからか!?!?」

「・・・・・と、ともかく、魔術師じゃないんならよかった。 ほら、つい最近第三次世界大戦があったばっかりだしさ・・・・・・」

だ、第三次世界大戦!?!? 恋愛革命じゃなくて!?!?

なにこの世界、まじやめて。

血で血を洗う展開しか予想できないんですけど!!

第三次世界大戦のこと、魔術師のことを上条君からこの後も詳しく説明をうけた僕であったが、
さすがに理解には遠かった。

先ほどの電話の相手、上条くんのお連れさんが朝、「大きな魔術の反応がある」とのことで、ただ事ではない風に騒いでいて

それを覚えていた上条君は学校から帰宅する際、公園を通りかかったところ、

能力者同士のバトルに遭遇。

それを止めようとして介入したら、自分の顔見知りから攻撃されていた男とそれに同伴する幼女の感じが

いかにもな感じだった為、ひとまず場を落ち着かせて、連絡をとっていた―――と。

「もうすぐここに来るはずだけど・・・・・・あっ!おーいインデックス!こっちだこっち!」

こちらに気づいた少女×2が近づいてくる。

一人は腰までかかる黒髪にコスプレなのか巫女さんの衣装を身に着けている線の細い凛々しい顔つきの美人さん。

もう一人は白い修道服に身を包んだ小柄で幼い感じの漂うシスターだった。顔は隠れて見えにくいがこちらも可愛い。

「いてててててっ!!!!!」

隣に座っている忍に太ももを抓られた。肉が抉れるかと錯覚するほどの抓るではなく毟るだった。

一体こいつは何がしたいんだ!

「阿良々木さん、紹介する。 この巫女さんが姫神。で、この白い修道服のシスターがインデックスだ」

「よろ、しく・・・・・・」

「よろしくなんだよ!」

ん?普通に可愛い女の子達だった。

どちらも明らかに浮世離れしているが。

「とーまだけずるいんだよ! ドーナツ食べてたんだね!?」

むぐっ!

僕はたまらず噎せた。

油断していたぜ・・・・・・なるほどこういう展開か。

火憐ちゃんに続いて、恐るべしパラレルワールド。

「落ち着けインデックス!! まだ買ってない!! お前と電話してたろうが!!」

「まだって言ったねとーま!! じゃあ私たちがもう少しくるの遅かったら先に食べていたんだね!?」

「言い方が悪かった!!ってちょ!!インデックスさん!?」

「許さないんだよとーま!!」

シスターさんは修道服の中からバールを取り出し、上条君めがけて構えた。

そんな彼女を僕は知っている。

だから驚かない、騒がない。

『栂の木二中のファイヤーシスターズ』、自称『正義そのもの』

僕の妹―――阿良々木 月火 がそこにいた。

以下 月火ちゃんと呼称

「つっっっきひちゃああああああん!!!!!」

となりのトトロで「さっつきちゃああああああん!!!!!」と叫んでいた少女ばりに心から叫んで、僕は月火ちゃんに抱きついた。

「きゃああああああああっ!!!!!」

妹そっくりのシスターの身体を揉みしだきまくる男の姿がそこにはあった。

ていうか僕だった。

同時にバールが僕の頭に振り下ろされる。

忍はそのやり取りを眺めることもなく、真剣な顔になった。

姫神さんも同じく忍に対して、目を丸くして驚きながら反応した。

「小娘、おもしろい匂いをさせておるな。この姿の儂でなければ、襲っておったろうよ」

抑揚のある声とは対照的に無表情。

忍は強く警戒していた。

「なぜ・・・?・・・あなたがここに・・・・・?」

姫神が言葉を発したところで、ようやく僕や月火ちゃんと上条君もそのやり取りに気づく。

「あなたは死んだはずじゃあ・・・?なぜ生きているの・・・・・・?ハートアンダーブレード・・・・・・」

忍野忍―――化物の中の化物、怪異の王

誰よりも美しく、鉄のように冷たくて、血のように熱かった吸血鬼の成れの果て

元キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード

その彼女を指して姫神さんはそう言った。

~第七学区とあるファミレス~

「浜面ー!炭酸系のジュースを持ってきて欲しいわけよ。この味の新境地ハヤシライス風味のサバ缶に合う―――」

「何を言っているのかしら、この子は。サバ缶?そんなパンピー御用達なものに魅力なんてないわ。今をときめくナウなヤングなら蟹缶に決まっているでしょう?
ああそれと、生ゴ・・・浜面、私はコーヒーをお願いできるかしら?」

「今生ゴミって言おうとしたよね!?!?」

「大丈夫、そんな浜面でも立派な花を咲かせる為の肥料になれる・・・」

「フォローになってねえよ!!!」

「さすが戦場ヶ原先輩だ!!言うに事欠いて生ゴミ!! その冷ややかな表情で言われるとかなり興奮するなぁ!」

ファミレスのボックス席にひときわ騒がしい集団が居た。
彼女たちはアイテム、学園都市の裏組織のひとつ。

フレンダ、滝壺理后、そして

「あら、仕事ね。・・・・・・学園都市へ侵入した不穏分子の抹殺、だそうよ」

「了解した!!」

そう言うとアイテムのリーダー、戦場ヶ原ひたぎとその後輩神原駿河は立ち上がった。

八九寺真宵は彷徨っていた。

どういうわけか、気がついたら見たこともない―――生前であっても訪れたこともないような街並みの中

彷徨っていた。

有り体に言ってしまえば迷子だった。

どう言ったところでも迷子だった。

むしろ迷子なのか? とやや間を置いて考えてみた。

目的地を定め、その過程の中で道を見失うのを迷子だといえないだろうか?

見失う道すらないのが現状である。

迷えるほど知っていることはなく、全くもって無知。

哲学的な方面で考えて解決できるほど、多くの可能性は現状用意されてはない。

オーバーランさえ許されてはいない。

まずはここがどこなのか、を把握する必要がある。

「うぅー、阿良々木さーん・・・・・・」

こういうときに阿良々木暦が後ろから抱き付いてくるのであれば、

私はいくらでも触らせたり揉ませたり舐めさせたりするのもやぶさかではない。

むしろなぜこういうときにあの男は現れないのだろうか?

主人公として作中のヒロインに対する配慮が欠けていると思う。

先日彼とは90年代の主人公について熱く議論したが、彼に足りないのはバミリかただと思う。

バミルことをラ行五段活用で行えないことがそもそもの不足要素ではないだろうか?

それだけ言うと、いつの時代の悪役も主人公が強くなるまで待つ流れを崩さないなとも思う。

実は悪役の方がよっぽど空気の読める、良いやつなんじゃないかと。

まぁ彼のニヒルなキャラを気取ってはいるが事ある毎に、どこかの主人公よろしく

「そのふざけた幻想をぶち殺す」といったノリで話を進行させようとする姿勢は嫌いではないが。

こういうのがギャップ萌なのであれば、彼も今時の主人公として案外たくましいのかもしれない。

ただ「義理の妹なんて萌えるだけだろうが!!」というのは幻想すぎる。

今自分がいる場所は公団系の住宅街なのか、少し背の高い建物が連なっている。

街行く人の数も多く、これだけ見ても、しらない土地なのは把握できた。

「でも私、幽霊だから人がいても見えないんですよね・・・」

溜息もつきたくなる。

さてどうしようか、俯き、つらつらと考えて歩いていたら、

「きゃっ!」

「っ、あン?」

人にぶつかった。

「すみません、考え事をしていたもので。前方に注意が行き届きませんでした。ごめんなさい」

言葉を変えて重ねて謝ったところで認識はされないのだろうけれど、一応―――

「ったく、よォく前見て歩きやがれ」

レスポンス有り!

まさかの当たり―――自分を認識できる人だった!

「あの!すみません!! あなた私のことが見えるんですか? 私の声が聞こえるんですか?」

見ると、アルビノちっくな少年?少女かもしれない。

極めて中性的な顔立ちで頭髪は光の当たり方では銀に見えるほどの純白、縦に細い少年は気だるそうに振り返った。

全部書き溜めてあるけど、切りのいいところで寝ます

「あン? 鬱陶ォしい声なら聞こえてるし、クソガキの姿なら見えてるよ。俺は忙しいンだ。遊んでほしけりゃァ他を当たれ」

「お願いします! 助けてください!!」

八九寺真宵は今流行り?の肉食系少女を演出し、少年の足に力強くかみついた。

「痛え!!!!! 離しやがれェェェ!!・・・うォ!!」

暴れる少年に次はしがみついた。 かみついたくだりからしがみつているのでかみついたままである。

それくらい必死なのだ。

「分かった!分かった!! 助けてやるから離せェェェ!!」

「・・・・・・なるほど、助けてやるといいつつ、こうやって少女を自宅に囲うんですね!?!?」

「人聞きの悪ィこと言ってンじゃねェ!! このマンションには同居人がちゃんといる。 アンチスキルもやってっから、そいつに頼れ」

エレベーターを昇り、通されたのはなかなかに広いマンションの一室だった。

都会的な空気の漂う部屋作り。

家電製品も自分の知っているものとは規格自体がそもそも異なっているほど、炊飯器ひとつとってもボタンがたくさんある。

これがシステムキッチンというやつなのだろうか?

それに炊飯器が・・・・・たくさんあるところを見ると、けっこうな大家族かもしれない。

「おーかーえーりー!!!ってナデコはナデコは新妻気分であなたを出迎えてみるー・・・・・・って早くも浮気!?!?」

ナデコというワードとメープルシロップに蜂蜜を混ぜたような声に聞き覚えがあった、そして決定打になったのはその容姿。

「せ、千石さん・・・・・・・・・?」

「千石? 私はナデコだよ?」

誰それ?といった感じで答えられた。 かく言う八九寺ではあったが実際に千石撫子と会ったことはなく、写真で見たり、人に聞いたり、(発信源は常に阿良々木暦)だったので

他人の空似ということにした。

「ン? あいつらはどうしたァ?」

「黄泉川ならアンチスキルの研修に行っちゃったよー、芳川も学園都市の外の学会だって!」

「あのビッチは?」

「ナデコワーストは分かんなーい」

「あいつらァ・・・・・」

どうやら同居人は留守らしく、結果、少年の当てにしていた人物も居ないらしい。

というか、ナデコワーストってなんなんだろう?

邪悪な千石さん?

あの性格をブラックにした場合、ただの狂ったヤンデレにしかならないだろうなぁと思いつつ、現状を整理。

現在、部屋の中に居るのは同い年くらいの幼女。

つまりこれは

「はっ!私の貞操の危機!!あなたやはり幼女趣味だったんですか!!」

「その発想力には感心するが、残念ながらてめェの被害妄想だァ!!」

「は、話しかけないでください。あなたのことが嫌いです!気持ち悪いです!」

「よォし、分かったァ。つまみだす」

「嘘です!嘘ですー!!」

「ぷぅー、ナデコを捨てて新しい女になんて、ナデコはナデコは許さないんだからねっ!!」

「だとしたら、てめェは過去形から戻ってくるんじゃねェ!!! あァァァ!!!てめェら静かにしやがれェ!!!」

「えー、ごほん!!自己紹介が遅れました。 私、八九寺真宵と申します。」

「私はラストオーダーっていいまーすってナデコはナデコは長いからナデコでいいよって促してみる!」

この場合のラストオーダーという意味は、妹萌の方々の需要を手広く満たすための最終注文という意味でしょうか?

とは決して聞かなかった。

つーか同じ女子として、自分の名前を一人称に当ててくるのは聞いていて少しイライラします!!

心の中でマヨイはマヨイは~と言ってみましたけど、ちょっとこれはCVの差が如実すぎて・・・・・

「・・・・ふンっ、俺は一方通行だ」

ハイパー八九寺タイム

「分かりました、ナデコさんに、えーっと悪性貧血さん?」

「胃粘膜の萎縮による内因子の低下により、ビタミンB12が欠乏することで生じる貧血なわけねェだろ!!見たまんま不健康で悪かったなァ!!俺の名前はアクセラレータだ!!」

「失礼、噛みました」

「てめェ、わざとやってんだろ?」

「噛みまみた!」

「本当に噛みやがったのか!?」

「コミットメント!」

「そりゃァ、てめェ俺を遠まわしに精神病患者って言ってンのか?」

「間違えました。形容詞的に捉えていただければ献身的なということです。 

幼女を家に囲い、献身的に世話をして、献身的に自分好みの色に育て上げるそんな献身的なあなたを敬って言ってみたのです」

「どっちにしろ、バカにしてンじゃねェか!」

「ところでその場合、千石さんが紫の上ということになりますが、他の同居人は全員女性なんですよね? 役割は決まっているのですか?」

「黄泉川は朧月夜で、芳川は花散里か空蝉、ナデコワーストはあれでけっこう明石の上だってナデコはナデコは役を振ってみる!!」

「じゃあさしずめ私は女三ノ宮でしょうか? 随分と偏食な光源氏計画なんですね?」

「もういい・・・言ってろ」

「・・・・・・・ってェと何だ? 気がついたら学園都市を彷徨ってましたってか?」

八九寺は自分の把握できた範囲内で彼に説明した。

話をややこしくしないように自分が幽霊であることは伏せておいた。

しかし結局、説明してもブツ切りの理解の寄せ集めなので、結局のところ彼の今言ったことが全てだった。

「おい、クソガキ。黄泉川の部屋に地図あったろ? それ持って来い。それとてめェ・・・・・・」

「・・・・・・ふぁい?」

「今からてめェのいたとこを地図使って探すから協力しろ。・・・・・あとだらしねェからこれで顔拭きやがれ」

そう言うと、一方通行はタオルを投げてきた。

自分でも気が付かないうちに、半べそ状態だったらしい・・・。

・・・・・・

くそーギャップ萌くそー。

不覚にもドキドキしてしまった。

~窓のないビル~

「・・・・・・・・」

「それが今回のグループへの依頼だ」

男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』、

学園都市統括理事長アレイスター

生命維持装置の中に逆さまになって浮かんでいる彼は、言い終えても熱量のない笑みを浮かべながら、ただ静かに土御門を見据えていた。

「オーケー引き受ける。」

とりあえず、寝る


「よろしく頼むよ」

「ただ、資料を見る限りじゃあ普通のやつにしか見えないけどな?」

「正午過ぎにも異常な力場への干渉と空間の歪曲が確認されている。もしそこに書いてある通りなら早々に手を打たねばね」

「・・・・・・・そうだな」

イギリス清教側からも今回の件は土御門へ報告されていた。

(こいつ自体がそこまで危険なものだとは俺は考えないけどな・・・・・・さて・・・・・・・)

学園都市への侵入者と、それに関わっているであろうものの問題をどう対処したものか?

グループでやるよりも個人で動く方がよさそうだな。

そう考えながらビルを後にした。

「久しぶりの仕事だにゃー」

「距離はあンまし離れてねェみてェだなァ」

一方通行は八九寺が言った情報を元に探し当てた。

「明日にでも学園都市からてめェの街まで送り届けてやンよ」

「良かったね!ってナデコはナデコはマヨイにハイタッチを試みる!」

「はいっ!お二人とも、本当にありがとうございましたっ!!」

「勘違いしてンじゃねェ、クソガキがこれ以上増えてもうぜェだけだからなァ・・・」

ツンデレサービスいただきましたー!

具体的な解決策も見つかったところで現在三人はリビングでくつろいでいた。

「ところでお二人はどういう関係なんですか?」

「ンだァ? いきなり?」

「いえ、少し安心して落ち着いたので、少しばかり雑談にでも興じてみようかと」

「ナデコとこの人は~ん~交友関係? ってナデコはナデコは・・・あいたっ!」

「つまンねェこと言ってンじゃねェ」

「何もぶたなくてもいいのに!ってナデコ憤慨してみる!」

といいつつも嬉しそうに。

「なるほど。 一方通行さん、たとえあなたのそれがツンデレであっても、こうして好意の伝導が滞りなく行えるほどお二人の関係は至福なように思えますね」

「そ、そォか!」

「あなたの好意も一方通行になっていないようです。 ええ! そう見えます!!」

「オイ、う、うまいこと言うじゃねェか!」

「好意ある行為によって至福を満たすために彼女に雌伏を強いてやることやっちまう関係をあなたの想いと言うならば、

それは一方通行な修羅の道かもしれません!!世間様的に!! しかし、止まれない足があるのなら振り向いてはいけないと私は思います」

「ナデコよく分からないかも」

「一方通行さんは賛辞の言葉が尽きるほどの、ロリへの愛情がある殿方だということです! ノーセーブライフな人生をロリかっけー精神で生きているのです!」

「クソガキがァ!! 素敵な性格しやがって!! 唇の端が悪意で歪んでンぞ!!」

明日には帰れるという安心感もあって、やはり少し八九寺は饒舌だった。

一方通行も今日はここに泊めてくれるようだし、その好意に甘えようと思う。

ピリリリリッ!!!

疲れてしまい、ウトウトしてきて眠りかけた途端、横から電子音が鳴った。

見ると、携帯電話だった。

「はい」

八九寺がケータイを渡すとベランダで一方通行は会話し始め、ちょうど一分ほどで切って戻ってきた。

リビングにあるPCとケータイをケーブルで繋いで、何やら作業をし始める。

「何をしているのですか?」

「仕事だ。めんどくせェのが入りやがった。まァ一件はうちの組織の他やつに任せることにしたから俺には関係ねェが・・・・・・」

拡大写真がPCの脇のプリンターから出てくる。

「もう一件の方は関係あるみたいなンでな」

八九寺の前に複数枚の監視カメラの映像を引き伸ばしたような写真が置かれる。

「あ、阿良々木さん!? 忍さん!?」

それに自分の写っているものまであった。

「学園都市外部からの不法侵入者の写真らしい。 ただ、普通の不法侵入じゃねェらしいがな。 で、お前も含めて三人に対して別の組織へ抹殺しろっつゥ依頼がきたそうだ」

抹殺・・・?

それはつまり・・・

「殺されるっつゥことだ」

息が止まりそうになった。 それを見て一方通行は、だがなァと続ける。

「俺に来た依頼はてめェらの護衛だ。 責任もって守ってやる。 とりあえず後の二人も探すからそれに協力してもらうけどなァ」

姫神さんの発言に、語ってくれた過去に一番言葉を無くしたのは僕だった。

殺した? 忍を? この子が?

「ハートアンダーブレード・・・・・あなたは十年前。私の血を吸って死んだはずじゃ・・・・・・・・・・」

姫神さん曰く十年ほど前、京都の山村で暮らしていた彼女は、その血によって吸血鬼を呼び、 吸血鬼化した隣人や家族を皆殺しにしてしまった。

その殺してしまった中に、当時日本にいたキスショットが含まれているらしい。

彼女の能力

『甘い香りで誘い、その血を吸った吸血鬼を問答無用で灰に返すという能力』―――『吸血殺し』

吸血鬼のみを殺害する能力ということだ。

そう、たとえ完全体のキスショットであっても、それは例外ではなかった。

「そうか、この時代の儂だったものは死んでおるのじゃな」

「で、でも!今の僕達には何の影響もないぜ!?」

「それはお前様や今の儂は限りなく人間に近い状態じゃからな。特にそれだとお前様場合人間なのじゃから害はないじゃろうよ」

一呼吸置き、

「儂も今は少し匂う程度じゃ。 ほんの少しな。 じゃがこれがもし、完全体ならば、その一,二歩手前であれば・・・・・・・」

耐えられんじゃろうな、と。

「吸血鬼には様々な伝承があるんだよ。 それこそ天使と同じような捉え方のものもあれば、人間と同じだといったものまで」

月火ちゃんは忍をじっと見つめて、確かめるように言う。

「魔術などと言うからには、やはりそこまでは分かっておるようじゃの? 言わずとも概ね当たっておるじゃろうよ」

吸血鬼は十字架や聖水が苦手だったり、変身したりできるといった特徴のことだろう。

この世界でもある程度の周知はあるらしい。

「でもインデックス?この二人が吸血鬼なら、俺の右手で触れちゃまずくないか?」

月火ちゃんにバールで殴られた傷は殴られた瞬間には回復していた。

その様子や、姫神さんの証言、御坂、白井、火燐ちゃんとの戦闘の一部始終

諸々あって、僕たちが吸血鬼だということはあっさり通ってしまった。

確かにこの体質は言うより見てもらうほうが説明しやすいしな。

ついでに、そのとき簡単にではあるが上条君の右手『幻想殺し』についても教えてもらった。

あらゆる異能、異なる法則が働くものを打ち消す力。

心渡と同系統の力。

「大丈夫なはずなんだよ。二人とも人間に限りなく近いみたいだし」

ただもし、吸血鬼に限りなく近い状態であればどうなるかは分からないということだった。

こりゃ迂闊に忍に血を与えすぎたらどうなるか分かったものじゃない。

今後、バトル展開が続くようなら吸血鬼性を上げておきたいところではあるが。

ていうかさ、

「忍、お前京都に何しにいったんだよ?」

この忍に尋ねても仕方ないだろうが、この慎重で内面はけっこう臆病な吸血鬼がそんな吸血殺しなんてものを知らずに

日本にくるわけがない。知らなかったとしても少しでも察知したら逃げるだろうし。

そんなリスクを犯してまで一体何を・・・。

「さぁ? 多分寺巡りしてたんじゃね?」

さらっと答えた。

儂だったらやっておったと思うし、寺巡り、だそうだ。

「軽っ!!!お前のフットワーク常に軽いな!!!」

「いやぁ・・・・」

「褒めてねぇよ!!!」

こいつ確か、自殺願望があるとかいって僕の街に来る前は名古屋観光楽しんでたらしいからな。

もっと深い理由があったなんてこと自体が僕の考えすぎかもしれない。

僕は正体が既に割れていることもあって、上条君、姫神さん、月火ちゃんに時間移動のこと、八九寺を探していることを話した。

「分かった。協力するよ」

話し終えてすぐに上条君たちは了承してくれた。

見ず知らずの僕たちを信じてくれた。 だからこそ協力する、と言って。

「上条△!!!!!」

これで進展が望めるだろう。八九寺を見つけることができれば解決!あとは帰るだけだ!!・・・・・帰るだけ?

「なぁ忍? 帰れるんだよな?」

「・・・・・・・あー・・・・・・・・・・・・・」

「おまっ!?!?」

「冗談じゃ!!帰れる!!大丈夫じゃ!!・・・・・・・・・多分」

八九寺を見つけても結構重要な問題が控えていた。

「ん? メール? うわっなんだこれ英語じゃん!?」

上条君がメールを見た途端、月火ちゃんにパスする。

本文が英語で書かれていて読めなかったと。

・・・・・・これは以前火憐ちゃんが言っていたが、英語だけではなく全世界で使える共通言語があるらしい。

たった三語覚えるだけで意思の疎通があらゆる国境を超えて行えるという画期的なもの。

「ハァイ」、「チャーン」、「バブー」

の三語。 

かの魚介系家族が織り成す日常系アニメのキャラクターを参考にした三種の神器とも呼べる三語。

・・・・・ほんとそうだったらどれほど世界は楽だったろうか。

言語を共通にしないから生きづらくてしょうがない!!

で、メールの内容なのだが。

「学園都市に天使の反応があった。現在学園都市の組織も動いて調査している。土御門には詳細を伝えているが、

万が一でもあの子が巻き込まれないとも限らない。くれぐれも用心してくれ。 ステイルより」

「追伸 それと関係していると見られる吸血鬼ないしエージェントが学園都市に侵入しているらしい。

土御門から送られてきた写真を添付するから確認しておいてくれ」

月火ちゃんが読み上げてくれたそのメールには、天使や組織がどうとか危険を示唆するような文章があった。

が、それより気になったのは

「関係している吸血鬼?」

うわー嫌な予感しかしない。

添付された写真を確認したところ学園都市に着いたばかりのときの写真だった。

僕と忍の姿がバッチリ写っていた。

八九寺も同じ扱いを受けたようで、写真をどっからどうみてもそれは八九寺でしかなかった。

またケータイが震える。今度は着信だった。

「上やーん!! 今電話おっけーかにゃー」

「土御門か!? ちょうどよかった今ステイルからメールが来て・・・」

「おっ!!それなら話が早いぜよ。 天使の件については俺で調査中なんだけどにゃー、吸血鬼ってあったろ?

あの写真の三人については別の組織が動いていて、どうやらその組織に吸血鬼を抹殺しろって指令がでてるみたいなんだにゃー。

学園都市の統括理事会の誰か一人の独断らしいが、ひとまず学園都市の意向では保護対象ってことなんぜよ。 それでうちの面子で保護兼護衛の任務がおりてるんだにゃー。

けっこう危ない空気になってるから、見つけても関わらず、巻き込まれないように注意しろよー」

・・・・・・・

「ん? 今の電話なんだったんだ?」

「いやぁなんつーか・・・・・・不幸だ・・・・・・」

とにかく命が狙われていると分かった以上、悠長にしている余裕はなくなった。

姫神さんとインデックスを帰宅させ、

上条君に連れられて、僕と忍は身を隠すことにした。

なんでも、学園都市で一番信頼のおける人物がいる病院があってそこに隠れていてくれとのことだった。

そして連れられる途中に僕と忍は彼とはぐれた。

携帯電話の番号はメモしてあるのだが、しかし公衆電話すら見当たらない。

・・・・・・・・・・・

電車に乗って移動していたのだが、帰宅ラッシュに流されてしまい、

気がつけばどこで降りたかも分からず、それでも八九寺が心配だった僕は

じっとしておくことももどかしくなり、見知らぬ土地を動き回り、結果迷子になっていた

・・・・・・・・・・・

「ていうか何勝手に一人称僕で進行させてんだよ!! お前の身体じゃ人波に流されるから影入っとけって言ったのに『子供扱いするでないわ!』

って言って拒否した割にすぐに流されてそのお前を救出していて迷ったんだろうが僕たちは!!」

何で僕が無計画な直情的で短絡的な人間みたいになってんだよ!!

こういう微妙なところで変な意地はりやがってこの幼女。

「わかっとらんのーお前様。そうやって背伸びしておる女子をたてつつ、さりげなく甲斐性のある台詞で説得するのが男というものじゃろう」

「お前の戯言に付き合ってる暇なんてねーんだよ! どうすんだよこの状況!」

「さしずめ漂流教室ただしヒロイン代打幼女みたいな?」

「先手打っといたじゃねえか!! しかも正直微妙な完成度で言ってんじゃねえ!!! 何そのドヤ顔!?」

漂流教室だけ聞いて、咄嗟に今の状況とシンクロさせて理解できるのって僕くらいだろ。

「にしても、さっき居た場所とは随分雰囲気が違うな。ここ」

「物語の進行上、こういう場合は中ボスがひょこっと出てきてもおかしくはないの」

廃工場と空き地というある種の雰囲気を呼び寄せるようなロケーション。

「さっきも考えていたんだけどな。 姫神って子がいる以上、吸血鬼性を無闇にあげちゃ駄目かもしれないだろ?

けどやっぱり念には念を入れて今より少しは上げておいたほうがいいと思うんだ」

「同感じゃな。今なら人目もないしの。ただ上げるにしてもお前様の妹御と同い年くらいが限界じゃぞ?」

「それくらいでいいだろ。 ただ日没までは少し時間があるし・・・・・・今はできないよな」

灰にはならないだろうが。 火傷は確実に負うだろう。

「え!?なんで!?!?」

「逆になんでここでお前が疑問系なんだよ!! 吸血鬼だろうが僕たちは!!」

「そうだったの!?!?」

「同感じゃな~って言ってからまだ十秒しか経ってねえ!!」

すがすがしいほどいい顔で驚きやがった。 物語の骨子を脱臼させる前に先にこいつを何とかしなければならないらしい。

「冗談じゃよお前様。 身体に力が入っておったから、茶化してやったんじゃ」

それにそのくらいなら火傷といっても痛みを感じる前にはなおっておるし、と。

僕は忍に血を与え、臨戦態勢を整えた。

まぁでも、すぐに敵が襲ってくることもないだろうが。

「そうでもないみたいじゃぞ・・・・・・中二的お約束展開への前フリ終了後に都合よくあちら様もきてくれたみたいじゃ」

少し遠いがカツ、カツ、カツとゆっくりとした足音が聞こえてくる。

こういう場面で出てくる中ボスが僕の人生の中でいたとして、適材適所すぎるやつに心当たりがある。 

夕焼けを背にそいつは姿を現した。

傍若無人で暴虐無人。

全身を逆鱗でコーティングされた少女。

三回回って死になさい、のキャッチフレーズでお馴染み。

私立直江津高校三年生。 僕のクラスメイトであり彼女。

「見ぃつけたぁ」

戦場ヶ原 ひたぎが現れた。

考えてみると、こんな僕という特定した個人を攻撃対象にしたようなイベントなら、そこに相応の人物が出てくるのも必然なのかもしれない。

例えば戦場ヶ原とかひたぎさんとかヶ原さんとか彼女とか。

しかし、この戦場ヶ原ひたぎはおそらく僕を知らない。

そして怪異に遭ってない以上、心を閉じてしまっていたかつての戦場ヶ原ではないだろう。

普通の女の子・・・・・という雰囲気は微塵も感じられないが、話せば分かるかもしれない。

「気持ち悪いからしゃべらないでちょうだい」

第一声と同時に、問答無用で攻撃された。

瞬間、閃光。 僕の左腕が吹き飛ばされた。

「ぐあああああああああああああああっ!!痛ええええええ!!!!!!!!!!っくそ!!!」

瞬きする間に、腕は回復する。

前言撤回、話せば殺される!!!!!

こちらの世界でも十二分に元気ハツラツ戦場ヶ原さんだった。

「あなたに恨みはないけれど死んで頂戴。 私も心苦しいけれど、仕事なのよ」

「とかいいつつ、腕とか足とかしか狙ってませんよねえ!!!」

嬲る気まんまんじゃねえか!

「失礼なことを言わないで。 確実にあなたをえっと・・・・・・アプリボワゼ君?を殺すため、逃げられないようにしないと・・・ねっ!!!」

台詞と表情がかみ合っていない。 見たことないくらいニッコニコである。 ひだまり壮のゆのちゃんくらいニコニコしている。

ノリノリな戦場ヶ原さんだ。

「遠まわしに僕のことを銀河系規模で美少年って言ってくれてるなら嬉しいなぁ!!だけど僕の名前は阿良々木だ!!」

「失礼、噛みました」

「やはりそうきたか!」

「噛みま死ね!!綺羅星!!」

戦場ヶ原の周囲の空間から、莫大な熱量を帯びた光線が発射される。

昼間の御坂美琴のそれのような攻撃が全方位にわたり展開される。

「弾幕が薄いようじゃの!! 何をやっておるのやら!!」

忍艦長は僕が撃たれている隙を狙い、背後から距離を詰めようとした、が・・・

「よっと!」

戦場ヶ原あるところにこいつあり。

僕の横をBダッシュで通過したそいつは忍の身体を蹴り飛ばす。この間実に0.2秒。

僕たちを殺しにきた組織という因縁めいたものから、

戦場ヶ原についても神原についても出てくることは予想できていた。

まぁ神原にだけ関して言えば、もうちょっと僕に優しいところ、例えば火憐ちゃんの代わりで出てきても役としては

成立できただろうが、

戦場ヶ原あるところにあってこその神原なのだ。

そしてプッツンヶ原さんに適役なのは結局悪の組織の中ボスあたりになる。

ツンデレ系学園恋愛アドベンチャーのヒロインではない。

結果、僕の前に立ちふさがる以外の選択肢は事実上破綻してしまうと言える。

ヴァルハラコンビ・・・・・・

「すまない戦場ヶ原先輩! お怪我はないか!? もしあるのなら言ってくれ!! 脱ぐから!!」

「もし私が怪我をしていて、仮にあなたが全裸になったとして、それで私に何のメリットがあるのかしら?」

「何を言っているのだ、戦場ヶ原先輩? 年頃の女子が怪我をする、しかも目の前には男。

そうなるとその怪我は初体験で負ってしまった怪我しかないではないか!

ならば年頃の女子の怪我を癒すには、二人で裸になり抱き合うセラピーこそしかるべき対処法、というものだ」

「こちらがまるでしかるべき常識を弁えてもいないような言い方をしないでちょうだい。

大体、こんなシリアスな空気を平気で台無しにするあなたが弁えなさい」

「尻? 言うに事欠いてここでお尻の話とはさすが戦場ヶ原先輩だ!!」

「黙りなさい神原。相手もなかなかやり手のようだし、気を抜くとあぶないわよ」

「そ、それはもしや、しまっていこう!!って意味なのか!? 私の活躍を期待してしまっていこう!とエールを送ってくれているのか!?!? 尻だけに!!

それなら心配はいらないぞ!! 私の括約筋に関して言えば、常に万全の状態にあると誇ってもいい!!」

「あ~なる、ほどね、尻だけに。 でも別に私はそんなアバンギャルドなことを言ったつもりはないのだけれど。

これから、異能バトル展開の命をかけたせめぎ合いになるから、覚悟しなさいと言ったのよ」

「せめぎあい? 攻めて喘ぐ? はっ!!なんだこの私のためにあるようないやらしい響きの言葉は!! だめだ!! 興奮してきた!!」

「そのレベルの聞き間違いはもはや病気よ」

「お前らいつもこんなわけのわかんない会話してんのかよ!!!!!!!!!!!!」

こっちの世界だろうと僕の世界だろうと、きっとどこの世界であってもこうなのだろう。

揺るがないことには関心するが、ここまでポジティブな変態トークをいつもしていると思うと、たまらなくこめかみの辺りが痛くなる。

「あら? 後輩とのキャッキャウフフな会話に野暮な口を『挟ま』ないで頂戴。 

まぁ、あなたは所詮中二の夏くらいの脳みそしかない男なのでしょうから、

女子に自分から口でも『挟んで』、相手をして貰わないと、自らは何も『挟んで』もらえないのでしょうけれど。

相手をして『挟んで』ほしければ、跪いて頭を垂れて『挟んで』くださいと無様にお願いしてみなさいな」

「途中から僕が挟まれることになってんじゃねぇか!! 大体挟むってとこだけ妙にエロく言ってんじゃねえ!!」

しかし興奮してないかと問われれば、そこは僕だって男の子だった。

女の子がそれっぽいワードを言ってると妙に意識してしまうのは我ながら高校生やってるなー。 

それにしてもこいつらの会話聞いてるとヴァルハラって言葉がセクハラの最上級を表すんじゃないかって思う。

まぁいいわと彼女は呆れるように言い、

「では始めましょうか? 神原。その時代錯誤な日本人かぶれの外人の相手は任せたわよ」

「承知した!!」

「はっ! 儂の相手は猿か」

「私はそうね、えーっと、この一生左ハンドルとか4LDKとかに縁が無さそうなのを殺すから」

「僕の将来を勝手に値踏みしてんじゃねえ!!」

『原子崩し』。

それが彼女、戦場ヶ原の能力のようだった。

一定の距離内における人間に無差別なビーム攻撃。

文房具を飛ばす能力なら可愛げもあったろうが、これはさすがに似合いすぎだろう。文房具の比じゃないほど彼女らしい。

だからといって、彼女にこんな危ない能力を持たせても使用上の注意を守らない。

平気で人に撃ってくる。

「いえいえ、そんなださい名前ではないわ。 私の能力はネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲よ」

「そんな局部的な名前でいいの!?!?」

ネーミングはあれとしても全身からビームを放つそれはガンダム相手にも戦えるであろう。

そして忍は、神原と闘っていいる。あちらは超肉弾戦。

完全とはいえないまでも、ある程度の力を取り戻した忍とほぼ互角な戦いを繰り広げている。

二重の極みとか出てきそうなくらい音速だった。

能力自体は不明だけど、神原も火憐ちゃんと同様のものと考えていいだろうな。

戦場ヶ原の能力自体は脅威だけれど、僕には心渡がある。

小学校のとき練習を重ねたガトツゼロスタイルを披露するしかないだろう。

ビュィィン!!ビュィィン!!ボシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!

「無理無理無理無理!!!!!」

海軍の大将の能力ってこんななんだ!!

そりゃゴムじゃ勝てないわ!!

ガトツ使おうにも、僕右利きだしな!!サウスポーじゃない!!

「しかし、食らっても食らっても再生するなんてめんどくさいわね。じっとしてなさいな、楽にしてあげるから」

「それを額面通りに受け取れるわけねえだろ!!」

「あなたはいったい何回死ねば賢者の石を使い切るのかしら?」

「楽にするどころか、一撃でどうにかする気全然ねえな!!」

「私の極意は生殺しだし?」

「私を嬲るって置き換えるとそれは正しく成立するが、それは言葉遊びなのか、それともマジなのか!?」

「失礼ね。 私はこう見えても殺虫剤を使わずに虫を殺す女よ」

「一見それは健気で弱い女子のような文章だが、しかしやっぱ殺すんじゃねえか!! けっこう物理的に!!」

「蝶のように舞、蝶のように刺すというでしょう?」

「二回目になると思うがそこは蜂だ!!」

「? ええそうねよかったわね。私の間違いが指摘できて。一生の自慢になるでしょう? 悔いはないわね? だから死になさい」

デジャヴなやり取りだが、今回のほうが危険すぎる。

「逃げないで頂戴。狙いにくいんだから♪ 惨劇★」

「その記号は使いどころが違いすぎる!」

「そもそも、あなた。 いかにも童貞臭いわね、やだやだ。 でもそんなあなたでもこうして女の子と会話できる、しかもこの眉目秀麗、才色兼備、沈魚落雁、英姿颯爽、唯我独尊な私と

会話できるチャンスなんて人生でこれが最後なんだから楽しみなさいな」

「お前みたいな自分を褒める言葉に唯我独尊選んでても違和感のねえ女と会話するのなんて人生で最初かもな!!」

「やだ、初体験の相手ってことかしら? 照れるわね、でも責任はとらないわよ」

「とらなくていいから、初体験を大事にして今日は帰ってくれない?」

「いえいえ、勘違いしないでちょうだい。 責任はあなたがとるのよ。 死をもって」

「くそっ・・・!!」

と、避けるのに夢中になって足元を見ていなかった。

「しまっ・・・・・・!!」

盛大にこけた。

「はーい残念でしたぁー」

そこに追撃のようにして撃たれ、僕の腹に風穴が開く。

「言い残すことがあれば、今回の任務の報告書へ参考にする程度に聞いてあげる」

「お・・・・・前、今日生理なんだな・・・・・・・・」

地面に倒れている僕の頭上からはスカートの中が覗けた。

「ええそうね。いいストレス発散になったわ。 死になさい」

僕は覚悟した。

「は!「はは!「ははは!「はははは!「ははははは!「はははははは!「ははははははは!!!」

笑い声と同時に発破解体でも行われたかのような爆音。

戦場ヶ原の背後から、金髪の女性が歩いてくる。

「随分遊べたの。 まさか仲間までおったとは。」

そう言うと、動かなくなった神原を振り返った戦場ヶ原の目の前に放り投げた。

「おい忍!!まさか殺したんじゃ!!」

「安心せい。少々殴りすぎたが寝とるだけじゃ。 ついでに近くにおった仲間の方も気絶させてきた」

「神原だけじゃなくフレンダや滝壺や浜面も・・・・・・・・っ!!!」

忍は爆発系の火災をバックに凄惨に笑う。 絵になるなぁ。

それが功をそうした。

忍へ注意が逸れたおかげで戦場ヶ原に隙ができた。

僕はその一瞬を逃さなかった。

「悪い戦場ヶ原」

彼女のお腹のあたりを強く殴った。

彼女を気絶させたことでこの戦闘は幕を下した。

彼女たち五人を白井のもっていたのと同じ手錠、おそらく能力者用だと思われるのだがそれで拘束した。

念のため足にもつけておいた。

「やはりお前様と手錠という組合せは絵的にアウトじゃの」

「僕だってやりたくてやってんじゃねえよ!」

「お前様、言葉に気をつけよ。それではまるで、今その小娘たちをやっているように聞こえるぞ?」

「三回黙れ!!」

僕は忍にこの場を任せ、公衆電話を探しに行くことにした。

まずは上条君に連絡を取らなくては。

戦っていた場所から少し離れたところに電話を発見し、

とりあえず上条君には事の経緯を話し、迎えに来てもらうことにしたのだが、

「ん?あれは?」

吸血鬼の視力は馬鹿に出来ない。

人間の肉眼では確認できないような距離であっても、例えば今の僕ならば一キロ先の女の子の透けた下着でさえも柄の判別ができる。

ここからちょうど一、二キロは離れているだろうか。

そこに見慣れたツインテールの少女を発見する。

同時に僕の顔から血の気が引いた。

少女は血を流しながらグッタリとして、倒れていた。

そして僕は何も考えず、全速力で少女に向かって走っていた。

「アセローラさん」

「誰が、ビタミンC豊富なキントラノオ科の赤い果物だァ。俺の名前は一方通行ァだ!」

「失礼、噛みました」

「てめェ、わざとやってンなァ?」

「噛みまみた!」

「わざとじゃねェのか!」

「カミーユビダン?」

「俺は自分の能力を過信してはいねェし、別に打ち止めのことだって一人で背負おうわけじゃァねェ」

「ただ自分しかそこにいなかったから彼女の為にヒールを気取ってまで闘ったと?」

「てめェは俺をどこまで知ってやがる・・・」

「私シリーズではメタキャラ担当なものなので」

「あァそうかい・・・・・」

土御門が送ってきた仕事で、一方通行は元スキルアウトの溜まり場だった廃工場が多いエリアを歩いていた。

万が一も考え、打ち止めは不本意ながらもあの医者に預けてきたのだが、

八九寺は頑として言うことを聞かず、無理矢理いに一方通行に付いてきたのだ。

「学園都市の監視カメラの最新の映像じゃァ、この辺りにてめェのツレがいるみたいなんだがなァ・・・・・」

リアルタイムの映像ではないのでまだここに居るという確証はないが、探す手がかりはこれしかなかった。

と、考えていると遠くで爆発音が聞こえた

「ば、爆発です!!」

「ンなこたァわかってる! っるせェ、騒ぐな!!」

当たりのようだ。

チョーカーの電源を入れる。

八九寺を抱えて爆発現場へ行こうとしたが

「・・・・・・対象、発見。迎撃にあたります」

全身をノッペリとしたスーツで覆われヘルメットを被っている集団が一方通行たちを囲んだ。

「なンだァ?なンなンですかァ?」

見覚えはある。

確か第三次世界大戦中、ロシアにいた学園都市の部隊だ。

実際に闘ったことはないが、学園都市に帰って戦争時の報告書などを読んでいたとき写真付で詳細を見たのだ。

ヘルメットには『未元物質』と表記されている。

第二位の能力を使ってそれを元に作られた実践武器を仕込んだスーツだったか?

「オイ、邪魔すんなよ。そこをどきやがれ」

「こちらには対象であるその少女を抹殺する指令が下りています。一方通行、あなたの方こそその少女を引き渡してくれませんか?」

「嫌だといったら?」

「力づくで任務遂行にあたらせていただきます」

「・・・・・・・一方通行さん。このデュラハンのような方たちはお友達ですか?」

「生憎、俺に友達なンざいねェよ。」

「そうですか、ではバトル展開のようなので私から一言。 この戦いが終わったら、私があなたのお友達になってさしあげます」

「そりゃァ、謹んで遠慮してェなァ!!!」

スーツを着た部隊は一斉に一方通行たちに襲い掛かった。

相手は西洋の剣のような武器を背中から羽のように生やし、それを伸縮させることで、切りかかってくる。

対して、一方通行は八九寺を庇いながら闘うハンデがある。更に、こちらは丸腰。

八九寺は幽霊であるが、この世界では一方通行や打ち止めにも認識されたり、

一方通行に絡んで暴れた際、ついた傷が傷のまま治らないところをみると、実体があるようだった。

それでこのピンチ。

ギュッと目を瞑る。殺されることを覚悟した。

「なめンじゃねェ!!!!!」

剣が抱えている八九寺を貫く前に、一方通行の手で遮られ、攻撃してきた一人は全身に切り傷を作りながら吹き飛ばされる。

「バカな!! 『未元物質』でコーティングしてある以上『反射』は効かないはずでは!?!?」

「いつの話をしてるンですかァ? ああ゛ん!?!?」

八九寺を抱えたまま、一人、また一人と一方通行は倒していく。

攻撃手段は相手の前に手をかざし風を操ってそれを相手に当てるだけ、それだけだった。

「Xメンですか!!一方通行さんはマグニートだったんですね!?!?」

「あいつは磁力だろォが!! 俺の能力は『ベクトル操作』だ。 デフォで反射にしてるけどなァ」

「ディストーションフィールドとATフィールドのいいとこ取りみたいなものでしょうか?」

「エステバリスやエヴァみてェにケーブルなんざァいらねェけどなァ!!」

※ただし暴走します。

「っとこれで全部かァ?」

十人いた部隊は全滅していた。

「ちィ!! 余計な手間ァ取らせやがって!! 早いとこ行くぞ!!」

一方通行は八九寺を抱えなおし、さきほどの爆発音のあった場所へ向かうため踏み出す。

パンッ!!

「・・・・・こ・・・れで、任務完・・・・了」

倒したはずの一人が銃で撃ってきた。

一方通行は刹那、地面の石を蹴り、レールガン並みの速度で飛ばし、撃ってきた相手に止めを刺す。

「畜生がァ!!!」

銃弾は八九寺に当たっていた。

幸い、急所からは外れているが、ショックで気を失っている。

彼女を下ろし、応急処置にとりかかる。

「手間ァかけさせやがる・・・・・」

この分だと命に別状はないだろうが、病院には連れて行かなくてはならないだろう。

ひとまず任務を切り上げ、病院に向かおうとした矢先だった。

「てめえ!!八九寺になにしやがった!!!!!」

阿良々木暦は一方通行へ殴りかかった。

一方通行の能力は『ベクトル操作』である。

そしてデフォルトで反射の設定をしている以上

殴るという物理的な攻撃方法ではダメージは与えられない。

これが上条の幻想殺しであれば話は別だが、

ただ殴るだけでは通用しない。

したがって

「っいってええええええええ!!!!!!」

阿良々木暦は反動に耐えられず、飛ばされた。

右肘から先は食べかけのフライドチキンのような有様になっていた。

しかし一瞬で治る。

「ンだァ次から次へと三下が湧いてきやがってェ・・・・・・あァン?お前確かこいつの・・・・・」

「僕の愛玩用幼女に何してくれてんだてめえ!!!」

「聞いていた感じに一致するなァ、背格好、容姿、あと変態っつゥところも」

「ウルトラマンのコスプレしてるやつに変態なんて言われるおぼえはねえ!!」

「ああ゛? 流行ってもンをしらねェのかよ?」

「そんな服!!ただの作画の手抜きだろ!?大体、某アニメグッズ専門店でもキャラT売ってるけど、お前のそれ在庫けっこう残ってるんだからな!!」

「っるせェ!!! 俺ンとこの主人公はイタリアいくのにも同じTシャツの使いまわしを何枚も揃えて持参し、

あげく太極図書いてるジャスコに売ってそうなポロシャツに学生服っつゥハイセンスなんですゥ!! 在庫だってこのハイセンスさがパンピーには分かんねェからだァ!!」

「それなら、はーい!はーい!僕だってェ!!パーカーですゥ!! 主人公らしく服装変えないンですゥ!!」

「字にしなきゃ分かンねェが、喋り方真似してンじゃねェ!!」

「大体、主人公がやってるから自分も許されますなんて、そんなの主人公補正がきいてるから許されるに決まってるだろうが!!

もしお前がそんな服着ても読者に許されるなんて思っているなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」

「くそがァ!! やってみやがれェ!! ただし、2,3分後にゃァ、てめェは八つ裂きになってるだろォがなァ!!!!!」

シリアスな中にもギャグはある。

僕はバクマンでその流れの極みを掴んだ。 が、それもそろそろ終わり。

この白髪に赤い三白眼、不健康な僕よりも吸血鬼向けの野郎が八九寺に怪我を負わせたのだろう。

僕はいたって冷静だ。

冷静すぎる頭で状況整理した。

ほら? 僕とこいつしかここにはいない。

ショッカーのような人型の何かが倒れているようだがそれは気のせいだろう。

こいつが八九寺を・・・・・・。

僕は先ほどよりもより疾く、無駄のない動作で彼を捉える。

彼も何かの能力者らしいが、戦場ヶ原たちのように、ビームなどを撃ってこないならば攻撃性のある能力ではないのかもしれない。

ならばここは先手必勝。

影縫さんがみせたあの技を使って決めるしかない。

「しょーりゅーけん!!」

感情の高ぶりによる余計な自己演出だった。昇竜拳といってみたかっただけの男の子。 

影縫さんには悪いがこれけっこう恥ずかしい。

それが彼の顎へと触れようかとなった瞬間、拳に凄ましい衝撃が襲う。

「ぐっ・・・・・・・!!!!!!」

その衝撃は肘、腕、肩と伝わり、僕の腕が無残に潰れる。

さっきと同じ感触。 壁があるような?

「ATフィールドっ・・・だと・・・・・・?」

仮にも春休みの頃ほど完全ではなくとも吸血鬼の全力である。

それが全く通用しない。

「ちっげェよ!! 俺の能力は『ベクトル操作』。あらゆるベクトルを操るのが俺の能力なンだよ」

つまり相手の攻撃のベクトルを相手へ向けて返したってことか。

あれか? ミラーコートとカウンター使える人間なんだろ?

「そういえば小学生のときはレベル100のソーナンス6体でパーティ組んでたっけ」

食べ残しをもたせると、金銀バージョンならこの布陣が最強だった。

その理論をもってくるならば、あちらからは僕に攻撃はできないはずだ・・・・・・・

「・・・・・とか考えてそうだがなァ、三下ァ? ちなみにこうも使えるんだぜェ!!!」

彼が地面を強く踏みつけた瞬間、それだけで地割れになり、僕のいる場所まで巻き込まれる。

「言ったはずだァ。ベクトル操作ってなァ?」

つまり攻撃する場合においても、力の流れそのものを操ることができるということ。

チートすぎる。

もっと卍解とか、あれだけ目が赤いんだから写輪眼とかのノリの世界観かと思ったのに!!

変に現実的な設定もってこられちゃった!!

だが僕にも手はある。

僕は腰に下げた心渡を抜いた。

「八九寺を返してもらうぞ・・・・・・!」

「あァ、こりゃァ駄目だわ。 少し大人しくしてもらうしかねェか」

人間では有り得ない0-100にギアをシフトした最大加速。

いくら理不尽なほどのチートな能力でもそれを使うのがただの人間であれば、反射神経はよくても所詮は人並。

再び一気に距離を詰める。

僕は心臓の音が次第に大きくなるのを感じた。

勝負の先なんて見えていない。そんな真剣勝負の一幕。

六十二秒でケリをつける!!

「うおおおおおおおおお!!!!!!」

「あァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

彼が周囲に巻き起こした竜巻が僕の行く手を阻むせいで、しかし僕は全く近づけずにいた。

「はぁはぁはぁ・・・・・・」

「いい加減よォ、諦めろよ」

「馬鹿言うなよ、僕にはまだエア・カット・ターミネーターっていう必殺技があるんだからな!!」

「エアマスター読ンだところで俺には勝てねェよ」

彼が攻撃をしてもそれを僕はすんでのところで避けられる距離、又僕も彼には決して攻撃が届かない距離で

戦況は拮抗していた。

このままでは消耗戦になる。

そうなれば確実に僕は不利だ。

「そういえば、まだ名前聞いてなかったよな?」

時間稼ぎの常套句だが、その間に対策を考える。

「あン? 俺は一方通行だァ」

「・・・・・・まさかお前、キメ台詞は『お前をアクセラレイトしてやんぜ』とか?」

「一瞬カッコイイと思ったがよくよく考えるとそれ意味わかんねェだろォがァ!!! ちなみにてめェはァ?」

「僕は阿良々木 暦。 呼ぶときはひらがなみっつでこよみちゃんだ!!」

「雅号みてェな名前してンなァ」

「スルー!! こよみちゃんスルー!! スルーされるボケがどんだけ惨めか、お前分かってんのかよ!!」

そして対策を思いついたかもしれない。

『ベクトル操作』を使った彼の反射という絶対防御。

ならば、その反射を適用される直前に手を引き戻すことで、戻るベクトルを反転させ攻撃を直撃させることができるかもしれない。

そんなものは絶対的な格闘センスがなければ無理だろうが、昨日ちょうどエアマスターと刀語を読んだので自信はあった。

春休み、忍が完全体だったころ彼女は吸血鬼の絶対防御である不死に驕りがあった。

僕だってそうだった。

隙はあるはずだ。

そんな絶対防御に頼って戦闘をしてきているやつが戦い慣れているとも思えないからだ。

それに正直、心渡で攻撃してもその能力での防御は崩せるだろうが、生身は斬れない。

つまりダメージを与えられないだろうから不十分だ。

ならばこの策は試す価値があると思う。

僕は心渡を鞘に入れた。

「・・・・・・・つゥか、チンタラやってても埒があかねェ」

「あ?」

一方通行は軽く地面を蹴る。 それだけでこちらに向かって爆発的な推進力で突っ込んでくる。

「ぎゃは! 何でてめェの唯一の武器しまっちゃってるンですかァ!! 大人しくやられる気になったかよォ!! 三下ァ!!」

「ちげえよ・・・・うっ・・・!! お前に勝つためだ・・・・・」

ドゴン、ドゴンと。

人が人を殴っている音じゃない。

再生しては内臓破裂、再生しては骨折、再生しては身体のあらゆるところが破壊される。

彼の細い体躯からでは想像できないような力で殴られる。 サンドバック状態だった。

そんな中、僕も決死の覚悟で反射を適用される直前に手を引き戻す、これを何度も試す。

失敗する度に僕の手は吹き飛ぶが、それは再生するから構わない。

何度も試す。

明鏡止水・・・・・!!

そして、

「あああああああああああ!!!!!!!!!!」

「・・・・っがぁっ!!」

成功した。

「てめェ、木原神拳かよ・・・だがンなもン「反射」の角度・方向に変更を加えれば効くわけが・・・っぐぉっ!!」

続けてクリーンヒット。

「ンな馬鹿な・・・・・」

「なるほどな。 コツは掴んだ」 

「自転車に乗れるようになったら乗り方は忘れねェみてェな理論持ってきてンじゃねェ!!!!!」

一方通行は再び距離を置こうとしたのか、バックステップするが。

僕はそれを逃がさない。

「んなァ!?!?」

あと一撃あればこの拳で勝利を掴み取れる。

「歯を食いしばれよ、最強―――俺の最弱は、ちっとばっか響くぞ!!」

彼の腹に渾身の一撃を叩き込む。

「ザッツオール!!!!!」

「ぐふぉおおおおおお!!!!!」

しかしその拳は届かなかった。

隕石の如く落下してきた忍のピカデリックな叫びの蹴りで僕が地面に叩きつけられた。

・・・・・・・

えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!

「お前様、ヴァカなの?死ぬの?」

「ご、ごめんなさい言葉もございません」

「よかったにゃー、間に合ったぜよー」

「お、お前ら・・・・・走んのどんだけ早えんだよ・・・・・・」

上条君が忍と合流し、忍はなかなか戻ってこない僕を探したそうだ。

僕と忍はリンクしているのですぐに見つけることはできたが、馬鹿みたいなバトル展開が繰り広げられていたため力づくで止めたということらしい。

「しかしにゃー、一方通行? お前下手すると死んでたぞ?」

えーっと、このリスペクトブラック羽川のような話しかたをする少年、土御門は一方通行の仲間らしく

事情をきくにつけ、どうやら全て僕の誤解だったらしい。

「ほれお前様、謝るべきは他におるじゃろう?」

吸血鬼に近づいたせいか肉体的にも成長した忍お母さん。

「ほれ、ごめんなさいしないといけんの?」

「一方通行、ごめん」

「あァ、もういい。こうして合流できたおかげで、情報の共有もできたみたいだしなァ」

「えらいのうお前様!! 自分から謝れる男の子はかっこええ!! ぱないの!!」

「ははっ・・・・・ありがとよ、忍てんてー」

ところで、

「えっと・・・・・・つ、土御門君だっけか?」

僕はできる限り話の腰を折らないように我慢した。

よくぞ我慢できた暦!!

ツッコミを入れたくてうずうずしていたのだけれど。

それを耐えきった。

目の前にいる彼、土御門元春。

ハーフパンツにアロハシャツ、金髪にピアスにグラサンに金のネックレス。

むしろ装飾が増えているが、見た目は変わらない。

どこの世界でも相変わらずの胡散臭いおっさんの姿は変わらない。

忍野メメがそこにいた。ここでも以下忍野としよう。

「ちょっと頼みがあるんだけど」

ともあれ、あれをせねばなるまい。

「なんぜよ?」

「僕の後について復唱してくれ。 斜め七十七度の並びで泣く泣くいななくナナハン七台難なく並べて長眺め!!」

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ・・・・・・・・・・言えないぜよ」

誰得なんだろう忍野版なんて。言わせておいてなんだが、これは羽川じゃなきゃ駄目だ。

しかしハッピーエンドが見えたように思う。

八九寺も見つかったしな!

「さて、あとは帰るだけだな!!」

「はっはー!!そうだったら良かったんだがにゃー・・・・・ 今回の件、これで終わりじゃないんだ」

「・・・・・・っは!!!」

「目が覚めたか?」

「こ、ここは? って!!ロリコンさん!!」

「ストレートすぎる!!もはや僕の名前の原型を全く留めてない上に、ロリコンは僕のパーソナリティであって名前じゃない!ちなみに僕の名前は阿良々木だ!」

「え、これ連想ゲームじゃないんですか?」

「噛んですらねぇのかよ!! 連想ってどっちみち同じじゃねえか!」

「失礼、噛みました」

「いいよもう・・・・・・」

「ちなみに阿良々木さん、この紙に3D、その上に×と書いてその下に2Yと書いてください」

「ん?書いたけど」

「なんて読みますか?」

「NOT三次元YES二次元の幼女!!」

「ロリかっけー!!! 三日で済むはずの拘留が執行猶予付にで二年間牢にいれられそうなくらいのロリコンっぷりですね!!」

「かもしれない。 それに僕は幼女であれば一次元だろうと二次元だろうと三次元だろうと、そこに『幼女』とあれば興奮できる逸材だ!」

「ごめんなさい素で引きました。 ま、でも私はそんな阿良々木さんのこと大好きです」

「え!!まじで!?!?」

「いえ、先ほどはストレートだったので、今度は変化球的意味合いで遠まわしに嫌いと伝えてみました。ツンデレです。」

「八九寺それはツンデレじゃない。僕を傷つけるためだけの高度な嫌がらせだ」

「それでも阿良々木さんに会えたのは本当に良かったです、いつこちらに?」

「お前が神社に入っていったのを追ってたらな、なんつーか流れで」

「神社? 私がですか?」

「ん?そうだけど、覚えてないのか?」

「全く心当たりがございませんが?」

忍や忍野の言っていた通り、吸い寄せられたということ、か。

「でも本当に、本当に会えて嬉しいです。・・・・一人で・・・・・っえぐ・・・・ひおりで・・・・うわああああんっ! 寂しかったんですよおおおお!」

少しして八九寺は泣き疲れたのか、安心したのか寝てしまった。

八九寺の傷を僕の血で治した後、今は一方通行のマンションにいた。

やはりというかなんというか、

移動中に僕は上条君たちに、実は別の世界から時間移動してきたことを伝え、

忍野から今回の件についての全てを聞いたのだが

これでハッピーエンドじゃないらしい。

天使。

今回の元凶であり、八九寺を僕の世界からこちらの世界まで飛ばしたイレギュラー。

神々と人間の中間の霊的存在。

異能の力の塊。

「天使そのものを形作ってるものは、テレズマっていう魔力の塊みたいなものなんぜよ」

加えて、自我と言う物を基本的に持たず、ただ神の書いたプログラムの通り行動するだけのロボット。

その力は例えるならば災害。

「天使自体には自我なんてないからにゃー。 あるのは本来それを呼び出した側の都合だけなんだけど・・・・・・」

僕は天使より何より、忍野の語尾が気に触ってしょうがなかった。

中年が語尾に『にゃー』という、しかも櫻井さんの声で!!

台無し過ぎる!!

しかし、言ってる場合じゃないくらい事態は最悪らしい。

「今回の天使は自我がちゃんとあるし、それを呼び出したやつはいないんだにゃー」

「・・・・・・・つーことはあれか? 風斬と同じってことか?」

「あン? ロシアにいたやつのことかァ?」

「上ヤンも一方通行も冴えてるにゃー。理解が早くて助かる。 そう、あの天使が暴走してるみたいなんだにゃー」

そりゃぁ、怪異や吸血鬼がいるんだし、天使や悪魔がいたって別に僕は驚きはしない。

それに、この世界自体が超能力や魔術といったものが当たり前に存在するようなイレギュラーなのだから。

後述として、風斬氷華について説明を受けた。

AIM拡散力場、能力者が無自覚に発してしまう微弱な力のフィールド。

僕はそれをあの神社に蔓延していた霊的エネルギーと同じだと理解した。

同じだとすると、もうこの時点で忍の時間移動を使って帰ることができるわけなのか。

「ほ、ほれみたことかお前様!! ・・・・・・か、帰れるというたろうに!!」

「お前前半部分からこっち、けっこう不安そうだったろうが!!」

でもまんざら強がってもいなかったのだろう。

霊的エネルギーとほぼ同じ扱いでいいからこそ、忍はこの世界に着いた時点である程度の確信はあったのかもしれない。

で、だ。 学園都市には能力者230万人分のAIM拡散力場が満ちており、 それらが相互干渉を重ね束ねられてしまった結果に

生み出された人工の天使の女の子。 それが風斬氷華。

上条君も一方通行も彼女に対しては共通認識があるらしく、ただ二人から聞く分には敵対するやつではない。

上条君に至っては大切な友達だと言う。

一方通行はそんな化物と互角に闘えるそうだ。

僕はその女の子が眼鏡っ子だと聞いた瞬間に、親しみが湧いた。

んーなぜだろうか?

「そしてここからが重要だ。 暴走した風斬氷華を止めないといけない。でなければ九月三十日同様に、この学園都市が崩壊してしまう。」

「学園都市が崩壊って・・・・・・そんな・・・」

「ったくよォ、ちっと前に世界大戦が終わったと思えばこれかよォ・・・・・・・・」

「・・・・・・お前様、どうするのじゃ?」

「そうだな・・・・・・・」

そう、僕たちは正直いって八九寺を探しにきただけであって、天使と戦いにきたわけではない。

八九寺も見つかって、帰る方法もちゃんとそこにあるのだからこれ以上関わらなくてもいいはずなのだ。

所詮は別の世界の話。

他人事。

どうなろうと知ったことではないのだ。

「・・・・・・そうなんだけどな、悪いが僕はまだ帰れない。 ここまで関わったんだ。 僕もできる限り協力する!!」

忍野曰く、天使が現れる場所、時間などは調べても分からないらしい。

ただ、天使のいる場所から天使を引きずり出すことは可能だと。

「善は急げ、とも言うけれど、これは単に生き急ぐだけかもしれないな。 暴走した天使を相手にするとして、さてさて」

忍野はおどけたようにも、ふざけた口調も一切なく落ち着いていた。 普段の忍野のそれだった。

天使をこちら側に引きずり出す。

それは忍が時間移動の門を開いたのと同じ要領で、空間に干渉することで可能となるらしい。

僕個人、その要領に関しては詳しく説明されても全く理解が追いつかなかったので割愛する。

全員、臨戦態勢は整っている。

僕と忍の吸血鬼性だって極限まで上がっている。

しかしそれでも足りない。

それほど危険な存在。

啖呵切っといてなんだけど、ものすごく帰りたい。

「「不幸だ・・・・・・・」」

上条君とシンクロした。

「まぁ、上ヤンも阿良々木君もそう気を落とさなくてもいいぜよ。 いざというときのための奥の手もあるからな」

「奥の手?」

そういえばこいつ、さっき忍とコソコソやってたっけか。

「ぐちゃぐちゃ言ってねェで、とっとと始めよォぜ」

「はっはー! じゃあ忍ちゃん? 頼むよ」

「心得た」

こちら三名はやる気に満ちている。

一方通行なんて、ぎゃは!ぎゃは!って言いそうなくらいの笑顔。

誰かこの子の笑顔を明日に繋がるようにチューニングしてあげて!!

「いよいよか・・・・・」

忍が両手をパンッ!と合わせると門が開く。

「っ!!くるぞ!!」

開いた忍も門から離れる。

ガラスを何枚も何十枚も割り続けているような音響く。

聴覚的にも視覚的にもそのエフェクトは捉えられ、そして、トンッという何者かが地面を踏んだような音をきっかけにして門が閉じる。

それは天使が地面を踏んだ音だった。

随分親しみが湧くようなその姿。

なるほど確かに、天使云々と言われれば、僕は理解が追いつかない為に首を傾げてしまうが、しかし、ラスボスと言われれば納得する。

僕の物語があったとして、

それが例えバトルファンタジーだろうと学園恋愛シミュレーションだろうと現実だろうと夢だろうと

こいつ以外、ラスボスは有り得ない。

戦場ヶ原や忍でも他の誰でも成り得ない。

優等生の中の優等生、委員長の中の委員長。

そしてこの世界では天使。

その正体見たり。

「は、羽川あああああああ!!!!!!!!」

羽川 翼が現れた。

「はっはー! 阿良々木君元気がいいねぇ? 何かいいことでもあったのかい?」

「いやぁ・・・・・・こればっかりはなぁ?」

忍でさえも、この場にいる五人は一瞬固まった。

羽川翼の姿に表情だけでなく、時間さえも止まったように思う。

上半身はパジャマ。

しかし胸元がキツいのか第二ボタンまで開放されている。

ノーブラ状態。

今の羽川を、少なくともパジャマの上から観察する限りにおいて、注目すべきはその胸元、おっぱい。

形がまず素晴らしい。

ブラジャーを着けてない以上、支えを失っている状態なのに、まるで物理法則に逆らっている。

こ、これが天使・・・・・・・

重力すらも無視できるというのか・・・・・・・・

そして下半身はパンツだった。

清楚な純白。

布面積は狭くなく、しかし特別に扇情的なほど際どくもない。 それ単体では正直地味でしかない。

しかし、上半身パジャマ、下半身は下着という、受け身なエロさ連想させるその姿。

パジャマの裾から覗く下着の控えめなチラリズム。

パンツとパジャマの裾の布面積には何かしらの黄金比でもあるのかもしれないと思わせるほど、

計算されたかのような絶妙さがそこにはあった。

きっとあの中の究極のデルタ地帯には、エデンの園、僕のシャングリ・ラがあるに違いない。

更にそこから見える、女性らしくむっちりとした太ももから伸びる脚線美。

僕たちは、いや少なくとも僕は彼女のその姿に目を奪われた。

眼球が乾き、瞬きすら忘れてしまうほどに。

確かに下着姿の羽川や、パジャマ姿の羽川は見慣れてもいるし、本来ならここまでの感動は得られなかっただろう。

そう。

オプションとして、白い翼を背中に生やし、

三つ編みでなく下した髪が揺れて、

全身から金色の粒子のようなものがわずかに発光する程度ではあるが放出されていなければ。

羽川翼、異形の羽をもつという名前に相応にして、まさしく天使。

つばさエンジェル。

例え見慣れた羽川の姿であっても、おっぱいであっても、下着であっても、

ここまで神々しく主張されてしまえば、見蕩れてしまう。

エロいからではなく、そこに神聖さを見出してしまう。

「引きずり出されたかと思ったら、まさかいきなり私の姿をそんな目線から描写されるなんてなぁ」

「心を読まれた!!」

その声は僕の知っている羽川翼のままだった。

「お前様の思考がおもいっきり声に出ておったぞ?」

「そんな馬鹿な!? というか誤解だ!! 僕はそこにたとえ裸の女の子がいたとしても」

「それを委員長としよう」

「あああああ!!! 羽川としよう!! しかし僕は羽川が嫌がるならば、その姿を見ないし、もちろん襲ったりもしない男だ!!」

「それは当たり前じゃろう?」

「マジで!?!?」

それは知らなかった。

でもまじで僕は羽川ならば、たとえセーラーブレザー体操服柔道着弓道着保母さん看護婦さん

メイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんロリショタツンデレチアガールスチュワーデス

ウェイトレス白ゴス黒ゴスチャイナドレススクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリングショット

水着バカ水着であっても興奮できる。

羽川翼の全てを本気で描写したら赤い指輪と青い指輪を巡る大長編さえ書けると自負している。

「オィ・・・・・・いつまで漫才やってやがンだァ? とっととあのババァ片付けちまうぞ?」 

「そうだにゃー。 早いとこ済ましちまおう」

「待ってろ・・・・・・風斬。 今助けるからな・・・・・っ!!!」

ってえええええええええ!!!!! あの姿の羽川を見てこいつら何も思わないのか!?!?

だっていっしょに固まってたじゃん!?

「中学生以上の胸にいらねェもンつけたババァに欲情するわけねェだろ」

「同じく、義妹のちっぱいこそ正義」

「俺はただ、そこに苦しんでいるおっぱ・・・・・友達がいる!! それを助けるだけだ!!」

「やっぱお前ら全員おっぱい見てたじゃねーか!!!」

ただ、巨乳派が少ない。

僕だって厳密に言えば、巨乳派ではない。 羽川のおっぱい派だ。

「ふ~ん、なるほど。 あなたたちは私を退治しに来たんですか」

その声は冷たく、抑揚がない。

ただとても鋭い敵対心が伝わってきた。

言い終えた直後、翼が羽川の身体の五倍ほどの大きさに広がる。

その瞬間、見えない重りが身体にのしかかってくるかのようなプレッシャーが襲ってくる。

「おっぱいおっぱいって言い過ぎて怒っちゃったかな、羽川さん」

「そンな空気じゃァねェだろォ!!」

「っ!!!!!」

「はっ!!!!!」

それに応えるように、忍が天使に突っ込む。

羽川と忍がぶつかり合い、音と爆発が遅れて発生した。

「・・・・・・儂としては、全力のフラッシュドライブ的なノリで殴ったつもりじゃったんじゃが?」

「ごめんなさい。私、ルミナスアークはやったことがないの」

忍の拳は羽川の目の前数センチのところで止まっていた。

まるで壁にでも遮られているかのように。

「知っておるではないか。 お主は何でも知っておるのじゃな?」

「何でもは知らないわ。 知ってることだけ」

羽川は忍の拳を掴むと、身体を捻り、忍を投げ飛ばす。

「一人目」

忍の身体は背の低い建物にめり込んだ。

「 釘ニ代ワリテ式神ヲ打チ(ダンガンにはシキガミを)、鎚ニ代ワリテ我ノ拳ヲ打タン(トリガーにはテメエのてを)!!!!!」

忍野から直線状に羽川に向けて、赤の式が発射される。

「はぁ・・・・・」

羽川は忍のときと同様にその場から動かない。

ただ、右腕を横に振った。

その動作だけで、赤の式は切り裂かれる。

「なっ・・・・!!!」

「二人目」

先ほどまで、50メートルは離れた位置にいた彼女がいつの間にか忍野の目の前にいる。

しかし、彼女は元の位置から動いていない。 分身・・・・!?

情報を整理しきるより先に忍野は地面に叩きつけられた。

「これは分身じゃないよ、別の世界の人。 私の存在は0と1だけで表現する事が出来る域にはいないの。そこにもいるし、ここにもいる。 言葉で説明できるような力じゃないけれどね」

「グダグダ言っていンじゃねェぞ!! 三下ァ!!!!!・・・・・・・ぐァ・・・っっっ!!!」

「三人目」

叫んだ一方通行が、『何か』に上から押さえつけられる。

「ンのやろォ!! 覇気使えンのかよォ!!!」

「君に力を使われるとめんどうだから、抑えさせてもらうね」

バキッという小さな音と共に一方通行のチョーカーが壊され、彼は動かなくなった。

「この力はデフォルトで反射できていないようだし、こういう負荷なら演算される前に通じるでしょう」

羽川は小さくつぶやいた。

覇気を否定しない羽川さんすげー!!!

重力でもつかったかのような羽川の説明できない力。

羽川のバストが重力に逆らっているように形を保っているのも、重力制御のおかげなのだろうか。

「違うわよ。 これは自前」

「やっぱ僕声に出してねぇよ!!」

忍野も一方通行も忍もやられた。

さすがだよ、ほんとさすがだよ羽川翼。

一切の容赦がないラスボスっぷり。 なんだよ言葉で説明できない力って!!!

要するになんでもありじゃねーか!!!

しかも、だ。

上条君と僕だけで、このスター状態の羽川の相手ともなれば絶望的すぎる。

どうする、どうする、どうする!!

「うおおおおおおおお!!!!!!!」

「なっ・・・!!」

上条君はそのまま突っ込む。

掛け値なく。

羽川は慌てる素振りすらみせず、右手を彼に向ける。

「我が前に立ち塞がりし全ての愚かなる者に・・・・・・我と汝が力以て、等しく滅びを与えん事を・・・・・・・」

「そこまで全力!?!?」

ガチで世界を滅ぼす気かよ!!

90年代系で元ネタ分からない人がいても置いていくのがジャスティスと言いそうなくらいそのネタは古い!!

最強呪文じゃねえか!!

瞬間、説明できない力、羽川のなんでもありな力が彼を襲う。

「四人目・・・・・っ?」

羽川の攻撃は確かに直撃した。

それでも彼が無傷でいられたのは、彼が自らの眼前に突き出した右手による力で防ぐことができたため。

「幻想殺し・・・・・・そういえばあなたにはそれがあったんですっけ」

つまり幻想殺しで羽川の攻撃が防げるならば、心渡が通じるということだ。

せめて近づければ・・・っ!!

「それなら、使えなきゃいいのよね?」

そう言うと彼女は翼を畳む。

「・・・・・・まずいっ!! 構えろ!!上条君!!」

まとわりつくような殺気を直感的に空気で理解する。

僕は全力で走る、羽川との距離は50メートル弱!! 3秒もあればそれで詰められる!!

「遅い!」

「しまっ!! ・・・・ぐっ!!!!!」

一撃目の羽川の攻撃を受けたまま、構えていなかった彼を彼女は容赦なく蹴り飛ばした。

「四人目!! で、あなたが最後!!」

羽川が僕を睨む。

直後、正体不明の『何か』が放出される。

「や・・・・ば・・・っ!!!」

・・・・・・・・あれ?

直撃したはずのそれは僕の頭上に逸れていた。

逸らしたのは羽川。

その羽川の首元に忍か噛み付いていた。

まるで以前の焼き直しのような光景。

忍によるエナジードレイン。 しかし忍はすぐに振り払われる。

それでも、僕はその隙を逃さなかった。

「っけえええええ!!!!!」

活殺自在剣にはほど遠くても、僕は気合でそれをカバーするかのように叫ぶ。

人間の目では反射神経では決して捉えることができないほどの速さ、リスペクト瞬天殺な剣撃だったはずなのに、

羽川には太ももの辺りに掠り傷ができただけだ。

「・・・・・ハァハァ・・・・・・・・・おしかったね、もう少しで斬れたのに」

「そうかい、僕はお前の太ももに傷をつけたことのほうが後悔してるよ」

嘘ではない。

あの羽川の艶やかな太ももに傷をつけるなんて、世界遺産をまとめて核で吹き飛ばすよりも罪なことをしてしまった。

羽川の太ももから血が流れる。

ものすごく、なめたかったが我慢した。

しかし断じて、見蕩れていたからといって外したわけじゃない。

それだけ、目の前の羽川が異常なほど強いのだ。

だが、冷静になって僕は考える。

そう、

天使なんてそんな十字架みたいな清められた存在に吸血鬼である忍がなぜ触れられたのか。

学園都市製の天使。

偽者の天使。

「天使なんかじゃない」

「エンジェル冴島の話? お前様晃君を目指しておったのか!」

「目指してもいないし、生徒会に入る予定もねーよ!!」

そういえば冴島 翠。 羽絡みなんだよな。

エンジェル羽川・・・・・・あっけっこうしっくりきたぞこれ!

これについては僕は後日、午後のコーヒーブレイクあたりで忍と語り明かそうと思う。

じゃなくて!!

「おい、忍。 訊きたいことがある」

「奇遇じゃな。 儂はお前様に言いたいことがある」

「なんだよ?」

「いやなぁ? あのアロハ小僧も言っておったろ? 奥の手があると。 それならばあの委員長を倒せるかもしれんの」

「まじか!?!?」

「うん、だってあの委員長、吸血鬼じゃもん」

「・・・・・・は?」

あの白い羽根生やした、エンジェル羽川が?

「お前様もあやつの正体について訊きたかったのじゃろ?」

「それでもそんな急展開を望んでいたわけじゃないけどな」

「こちらの世界に都合がいい言葉で言うなればあれは天使じゃが、お前様もよく知っておる言葉でその存在は置き換えられるじゃろ」

「怪異ってことか?」

怪異―――怪しくて異なるもの。

その存在は、信じられ、畏れられ、怖がられ、疎まれ、奉られ、敬われ、嫌われ、忌まれ、願われるもの。

人間によってそう形作られるもの。

例えば、現実では単なる血液異常である吸血鬼を形作ったのも。

例えば、超能力や魔術も決して理論武装しただけでは、全てを説明しきれないということも。

等しく、怪しくて異なるイレギュラー。

そして、この学園都市にはAIM拡散力場という霊的エネルギーのようなものが高い濃度で街中に広がっている。

能力者230万人分のAIM拡散力場が相互干渉を重ね束ねられてしまった結果に生み出された人工の天使。

無意識と無自覚の相互干渉。

それによって生み出された怪異。

「でもだからって何で吸血鬼になるんだよ?」

「じゃあなぜ委員長は天使ルックなんじゃ? 十字教の聖典や伝承に基づいた存在ではあるまい?」

起源は学園都市に住む人の無意識と無自覚なのだから。

その問いかけこそ目の前の敵、エンジェル羽川に対する矛盾だ。

「儂もさきほど、委員長に噛みついてから確信を持てたわい。それまではあくまで仮定での話としてアロハの小僧と話しておったのじゃが」

「血の味か?」

「まぁ同族の味を忘れるわけがないからのう」

そう、思えば羽川が闘うときに使ってきたバトルスキルには既視感があった。

睨んだりする眼力での正体不明な力とか、物質想像能力とか。

私の存在は0と1だけで表現する事が出来る域にはいないと言っていたが、それは違う。

もし、完全体の忍であれば?

たった今地球を七週半してきた!とか

相対性理論は儂が破ったとか

昔、神にならんかと誘われたことがあるとか

時間移動してみたりとか

そんな理論に適わない不可能なことでもやってしまうだろう。

天使になっていても不思議じゃない。

そしてこの世界には完全体の吸血鬼が複数いないとも限らないのだから。

「敵役のお約束として手出ししなかったけど、お話は終わったかな? 阿良々木君?」

「羽川、お前なんで僕の名前・・・?」

「知ってるよ。 だってこの人格、羽川翼はあなたの世界にいる、本物を参考にしているわけだし」

パチモンだよと。

「そ、そんな馬鹿な!! だってお前、僕の知ってる羽川よりもおっぱい大きいじゃないか!! そのおっぱいがパチモンなはずないじゃないか!!」

衝撃波がとんできた。

「今日一の顔で驚愕しておっぱいって叫ばないで!! まぁそうね。 正確には私は最初、吸血鬼でさえなかったの。

ただの能力者230万人が脳波リンクして作り上げた幻だった。 形さえ無かった。

それでも脳波リンクから無意識に溢れ出た膨大な思考や情報の量だけは蓄積していった。 そんな中偶然に、時間移動の研究についての情報を拾った。

拾ったというよりは、膨大な量の情報を繋ぎ合わせたら勝手に辿り着いただけなんだけどね。

で、好奇心から試してみた」

「・・・・・・そして行き着いた先が儂らの世界じゃったと?」

「ん~そういうことになるんだけど。 厳密に言うと、今のあなたたちがいた世界以外なら何度も行ったことがあるわよ。

それでも何十万通りと試してきたけど、どの世界にもあなたたちは変わらずそこに居た。

そして必ず怪異もそこにあった。

残念なことにまだ学園都市がある世界には辿り着けていないのだけれどね。

でも、そうして何度も試すうちに、自分の人格が、容姿が、自分の核や軸となる部分が形成されていった」

「この力もそう。

忍ちゃん・・・あなたがまだキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードだったころのものが深く参考になっているわ。

まぁ、今羽川さんの姿になっているのは、羽川 翼という人間の異常性に私が感銘を受けたからでしょうね。

どの可能性の世界においても、怪異とともに必ず存在していた羽川 翼は私からみても私以上に異常だったのだから。

そして怪異の存在しないこの世界には、なぜか彼女の存在だけがなかった。

それも後押ししたのかもしれないわ。 私がこの世界での羽川 翼であることに」

羽川は戦意のない穏やかな声で、それでもはっきりと説明してくれた。

「忍ちゃんは始めから気づいていたの?」

「気づいていた、というわけではないがの。ただ、儂と同じ力を揮う『天使』なんてものは信じて無かっただけじゃ。

それで、あのアロハの小僧には吸血鬼の可能性もあるということで伝えておいた。

そうしたらあの小僧、おもしろいものを儂に渡しおった」

忍は胸元に手を突っ込み、引き抜く。 胸が揺れる。

その手には拳銃。

「この中には、姫神という吸血殺しの小娘の血を練りこんだ銃弾が装填されておる。 銀よりも、おそらく対吸血鬼仕様の武器でこれ以上はないじゃろ?」

「それが奥の手・・・どうしても拳銃じゃなきゃなのか?」

「なんじゃ?」

「そんな痛そうなことしなくても!! どうせ撃ち込むなら座薬とかじゃだめなのかよ!?!? 僕は羽川の眼球を舐めることの次に羽川に座薬入れるのが夢なんだ!!!!!」

「殺してバラして並べて揃えて晒してしまうぞ、お前様」

「詰みじゃな」

「ちょ、ちょっと待て!!」

僕は羽川と忍の間に割り込んで叫ぶ。

「今度はなんじゃお前様? バンパイアハンターSの邪魔をするでない」

「Sってつくだけで不思議と第二期作品みたいに聞こえる!! じゃなくて!! え? この羽川のどこが危険なんだよ!?」

「さっきも言ったと思うけど、私には常に膨大な量の情報が流れ込んでくる。 でも正直、最近はその処理が追いつかないのよ。

それに少し前には暴走して学園都市を崩壊手前まで破壊してしまうし・・・・・・。

これ以上・・・・・・私を野放しにしておけば、今度は学園都市だけじゃない・・・・・・・・・・世界を巻き込む恐れだって・・・・・・ある」

だから、私はここにいちゃいけない、と。

「そんなの分かんねえじゃねえか!! お前がここにいちゃいけない理由にはならないだろ!!」

「なるよ !!私にはそれだけの力がある・・・・・・下手をすると完全体の忍ちゃん以上に!! だから私は消えたかった!!

自分じゃどうにもならないから!! だから、わざと貴方たちにコンタクトをとった!! わざわざ真宵ちゃんも呼び寄せて!!

貴方たちなら私を消してくれると思ったから!! こんな居場所なんてどこにもない世界から私を消してほしかったから!!!」

この羽川は自分を消して欲しくて僕たちをこの世界に呼んだ、と。

そうか、全部だったのか。 こいつは僕たちと闘う前から最初からそうするつもりだったのか。

でも涙ながらにそう言った。

そう言いやがった、こいつは・・・・・・っ!!

「・・・・・・ふざけるな・・・・・・・・・・ふざけるんじゃねえ!!!!!」

僕は羽川に叫ばずにはいられなかった。 沸点の高さには定評のある僕でさえ、我慢できなかった。

「お前に居場所はあるのかだと。あるに決まってんだろ。消える以外に道はあるのかだと。あるに決まってんだろ!!

勝手に諦めてんじゃねえ!!

そうだよ、そうだよ!! 人は勝手に助かるだけさ。 死ぬのだってきっとそうだろうぜ!!

だけどな!! 人は一人で勝手に助かるだけでも!!

助ける側にそんな事情は関係ねぇだろ!?!?

僕たちは、今ここにいる僕たちはお前を助けるために立ち上がったんだ!!

悩んでいるなら頼れよ!! 助けて欲しいなら言えよ!!

居場所がないなんて笑わせんなよ!! こうやってお前のこと思ってるやつらがいるのに!!

それなのにお前はそれさえも否定してしまうのかよ!!!!!

僕たちはお前を否定しないし、自分が消える覚悟で世界のことを考えることができるような優しいやつをいらないなんて思わない!!

もし、お前がそんなことを考えているなら、僕はそれを否定する!! そんな幻想をぶち壊す!!」

心渡や上条君の幻想殺しや忍の持っている銃を使えば簡単に消すことはできるだろう。

けれど、それでは、羽川は救われない。

それじゃあ駄目だ。

「わ、私はいてもいいの? 消えなくてもいいの?」

「ああ。みんなそれを望んでいる。 だから生きろ!」

僕は羽川の手をとる。

泣き崩れる彼女を支えるために。

しかしそれはできなかった。

バンッ!!!

「やれやれじゃな」

忍は羽川を撃った。

「・・・・・・は? おい、おい!!! 冗談じゃねえぞ!! おい忍!!」

「うるさい。 聞こえておる。 なんじゃ?」

「おま、お前!! なんで撃ちやがった!!!」

僕は忍の胸倉を掴む。

その時忍のおっぱいが僕に当たるが、それを揉みしだく気にはなれなかった。

「落ち着け、お前様。 何をそこまで慌てておる?」

「だってお前、それで撃ったら忍は・・・・・・・」

忍野が奥の手だと託すほどのもの。

最終手段として託されたもの。

ならば抜かりは無いだろう。 容赦もないだろう。

あの効率的で常に適切な流れを守る男が託したものならば。

吸血殺しの弾丸。

羽川を消すためだけのもの。

でもそれは、適切であってこの場合あくまで最適ではないはずだ。

だって羽川は消えたくないといったのだから、ここに居たいと願ったのだから。

その可能性を消し去ることのどこが適切なのだろうか?

「しのぶ!!!!!!」

僕は忍を殴る。

「くっ・・・・お前様、分かっておらんようじゃの?」

「それはお前だろう!?!?」

「あ・・・・ら・・・らぎ・・・・・・・くん・・・・・」

羽川の声が途切れ途切れになる。

やばい、このままじゃ!!

「はっはー! 阿良々木君。 君は本当に元気がいいねえ。 この世界の主人公が気絶していることをいいことに説教なんて」

この場に似合わない声が響く。

「何かいいことでもあったのかい?」

しかしその言葉はこの場に不釣合いすぎて、僕は彼をも殴り飛ばしたくなった。

「んなこといってる場合じゃないだろ!?!? 羽川が、羽川が!!!!!」

「大丈夫だよ、阿良々木君。 彼女は消えはしない」

「はっ?」

「よく見てみることだね、彼女を」

そう言われて僕は羽川に駆け寄る。

そこで気が付いた。

羽も金色の粒子のようなものもすべて消えている。

「こ、これって・・・・・・」

「そう、彼女の能力だけを削ぎ取ったんだよ」

よく見ると羽川の身体には弾痕もなかった。

「というか、彼女を倒すだけなら、消滅させるだけなら、こんな吸血殺しの弾丸なんて使わなくても上条君の幻想殺しで触れるか、

君のその刀で致命傷でも負わせてしまえば僕としても簡単なんだけどね。でもそれじゃあ駄目なんだ。

僕は以前の説明で彼女が暴走する寸前といったけど、あれは本当は大げさに言いすぎなんだよ。

それこそ暴走寸前であれば、今言った手段をとっていただろうけれど、それこそあくまで最終手段さ。

僕だって彼女について調べていないわけじゃない。

例えば、彼女が行っていた時間移動だって。

例えば、第三次世界大戦中や九月三十日の彼女の行動だって。

暴走どころか、人間のために闘ったんだよ彼女は。

そういう意味では彼女を消滅させる理由にはならないし、それをしなければならないほどの悪意なんて彼女にはない」

「ど、どういうことだよ?」

「そういうことだよ。 分からないかい阿良々木君? つまり僕は端から彼女を消す気なんてなかったのさ。

まぁそれには彼女を無理矢理消してしまうことで、彼女の中の力がそれこそ暴走してしまうのを恐れたからというのもあるんだけどね」

端から消す気はなかった。

始めから能力を削ぐだけのつもりだった・・・と。

つまり、この戦いはそれを行うためのもの。

「忍野、これはお前のシナリオだったのかよ・・・?」

「いやぁ僕もそこまで何でも知ってるわけじゃないさ。 それこそ委員長ちゃんの領分だよ。

ただ、彼女が吸血鬼じゃないかって確率に賭けてみただけだよ。 その確率は高かったし、忍ちゃんのおかげで確信できたしね。

■■ちゃんの血液を練りこんだ弾丸なんていう回りくどい手段になっちゃったけど」

確率は高かったか・・・。

よく言うぜ。 こいつが動くときは断言できるほどの確信があった時だけだろうに。

「相変わらず、見透かしたようなことをしてくれるなお前は」

「はっはー! 嬉しいねえ。 最高のほめ言葉だよ阿良々木君」

「っと・・・・・忍」

「なんじゃ?」

忍はその忍野のシナリオを事前に聞いていたのだろう。

だから撃った。 むしろ羽川が自分から消えたくないといったから撃ったのだろうな。

適切な処置としてでなく、助けるための最善を尽くす為に。

「その、殴って悪かった」

「よい、ただお前様が悪いと思うなら、後でそれなりに儂に礼を尽くさねばならぬな?」

「なんだよ? 頭ならいくらでもなでてやるぞ?」

「それだけでは足りぬ!! この儂を殴ったんじゃ。 その更に上、儂の胸を撫でるくらいはせぬと許さぬ」

「まじで!!!!!!!! いいの!?!?!? 撫でます!! 撫でさせてください!!」

どうしよう、こいつを完全体に戻してあの魔乳を撫でたい。

世界滅亡と僕の命を賭けなくてはいけないだろうけれど、この際それは本望な気がしてきた!!

「阿良々木君・・・・・」

「いててててっ!!!!!」

僕の腕の中で支えられている羽川に頬をつねられた。

なぜ乳首じゃないんだ!! と叫べるほど僕の変態沸点は超えていたが自重した。

というか、これ腕の中の羽川もノーブラで今にもはだけそうなんですけど・・・・・・

どうしよう、どうすればいいの? ちくしょおおおおおおお!!まじでどうにかしてやりたい!!

「阿良々木君、ありがとう・・・・・」

ぽつりと羽川は呟く。

「なんだよ? 僕は何もしてないぜ?」

「ううん・・・・・阿良々木君は私に居場所があるって・・・・・・生きろって言ってくれた」

涙ぐみながらぽつりぽつりと呟く。

「ああ、そうだ。お前はこうしてここにいる。何度でも言えるよ、お前はここに居てもいいんだって」

「でも・・・・・・いずれ私は・・・・・本当に暴走するかもしれないよ?」

「そのときはそのときだ。そうなったらまた僕たちを呼びにこい!! 駆けつけて何とかしてやる!!」

「・・・・・うんっ、ありがとう阿良々木君」

彼女は最後に笑顔でそういい終えると、僕の腕の中から消えた。

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