サシャ「……知りたくない味でしたね」(114)


・サシャ「どうぞ、ご賞味ください」の続きです。変態注意


―― 夜 調理場

ミーナ「ねえアニ、『滑らかになるまで』ってこれくらいでいいー?」マゼマゼ

アニ「……うん、大丈夫。あとはこっちの布で絞ればできあがり」

ミーナ「へー……あまり聞いたことないお菓子だよね、これ」

アニ「栗きんとんって言うんだよ。これならあんたでも作れると思ってさ」キュッ

ミーナ「ううっ……確かに私、料理は下手だし、これは簡単だったけど……」ムー...

アニ「はい、できた。……味見する?」

ミーナ「あっ、食べたい食べたい!」アーン

アニ「……そこまではしないよ」プイッ

ミーナ「くぅっ……! いきなり距離を詰めすぎたか……ん?」



サシャ「……」ジーッ...


アニ「……」

ミーナ「……アニさんや」

アニ「何?」

ミーナ「なんか、調理台から顔だけ出してこっちを見てる何者かがいるんだけど」

アニ「妖精か何かでしょ」

サシャ「……おかしください」

ミーナ「あれれー? おかしいなー妖精さんの声が聞こえるぞー?」

アニ「奇遇だね。私にも聞こえるよ」

サシャ「妖精じゃないですよ、サシャですよ。サシャ・ブラウスですよ」ヒョコヒョコ

ミーナ「だよねー」

アニ「知ってた」

サシャ「おかし! 私にもください!」キラキラキラキラ

アニ「……つまみ食いしようとしなかっただけ偉いよあんた。成長したね」


ミーナ「サシャ、こんなところで何してるの? お菓子の気配でも感じた?」

サシャ「いえいえ、違いますよ。あったかーいお茶でも入れようかと思って、お湯をもらいにきたんです」

ミーナ「お茶? 一人で飲むなら、私たちのと一緒に入れてあげようか?」

サシャ「いえ、二人……じゃなくて、四人分なので自分で入れますよ」

アニ「四人? ……誰の分?」

サシャ「ライナーとミカサとエレンと私の分です。これから山岳訓練の打ち合わせなんですよ」

ミーナ「そっか、今回は自分たちでルート作らなきゃならないんだもんね。私の班は明日だけど……アニは終わった?」

アニ「私のところは昨日終わったよ。……ねえサシャ、あんたの班にはミカサがいるでしょ? 一緒に来なかったの?」

ミーナ「うん、四人分は流石に一人で運ぶんじゃきついんじゃない?」

サシャ「あー……えーっとですね……」モジモジ


サシャ「実は……ミカサたちが来るまで、ライナーに勉強教えてもらってるんです。なので、ミカサは今いなくて……」モジモジ

ミーナ「へー……二人で、ねえ」ニヤニヤ

アニ「よかったね。……あいつ、アルミンほどじゃないけど教えるの上手いし」

サシャ「? なんでそこでアルミンが出てくるんですか?」キョトン

アニ「……なんでもない。それより、これ持って行きなよ。栗きんとん」スッ

サシャ「えっ、いいんですかっ!?」パァッ!

アニ「この前約束したからね、あげるよ。……ちなみにあんたのツレの分はないから、一人でこっそり食べな」

サシャ「うわーい! おかしー! おかしー!」ヒャッホウ

ミーナ「……聞いてないね、サシャ」

アニ「……お湯沸かすから、ミーナはお盆とカップの準備して」スタスタ...

ミーナ「はーい」スタスタ...


ミーナ「はいサシャ、お盆はこれでいいよね。……でも四人分ってやっぱり重くない?」

サシャ「大丈夫ですよ、これでも鍛えてますからね!」グッ

ミーナ「むぅ……っ! 私だって負けないよ! 最近ミカサに倣って毎日筋トレしてるんだから!」グッ

アニ「ごめん、待たせ――何やってるの二人とも」

ミーナ「筋肉比べ……!」プルプルプルプル

サシャ「くぅっ……! ミーナも二の腕固いですね……!!」プルプルプルプル

アニ「……もうできたから早く持って行きなよ。冷めるから」スッ

サシャ「えっ、入れてくれたんですか? ありがとうございます! ……ちなみにこれ、なんて飲み物ですか? お茶じゃないですよね?」

アニ「お湯にはちみつとレモン溶かしただけだよ。頭使ってんだから糖分いるでしょ」

サシャ「……はちみつレモン」ジーッ...

アニ「気になるなら少し飲んでいけば?」

サシャ「じゃあ、一口だけ……」ゴクゴク

サシャ「おおー……おいしいですねこれ」ホンワカ


サシャ「二人とも、何から何までありがとうございました! それじゃ、私はこれで!」ニンマリ

アニ「待って。……あんたさ、その顔でライナーに勉強教えてもらってるの?」

サシャ「おっと、いけないいけない」キリッ

ミーナ「勉強頑張ってね。……二人で」ニヤニヤ

サシャ「はい、頑張ります!」ニヘラ

アニ「……戻ってる」

サシャ「おっと、いけないいけない……では、失礼しますねー」スタスタ...



                               \ガチャッ バタンッ/



ミーナ「……サシャってさ、ライナーに告白しないのかな?」

アニ「まだしないって言ってたよ」

ミーナ「じゃあ、ライナーからサシャには?」

アニ「さあね。……どうでもいいよ」


―― とある空き教室

サシャ「すみません、お待たせしました!」タタタッ

ライナー「おう。遅かったな」

サシャ「調理場にアニとミーナがいたんですよ。ほら、飲み物も入れてもらっちゃいました」ジャーン!!

ライナー「……ん? さっき二人分入れてくるって言ってなかったか?」

サシャ「そうしようと思ってたんですけど……面倒なのでついでに入れてもらっちゃいました」

ライナー「四人分じゃ重かっただろ? ……言えばついていったのに」

サシャ「いえいえ、鍛えたかったのでいいんですよ! ほら見てくださいよ、最近力こぶできたんですよー力こぶ!」グッ

ライナー「……」ジッ...

サシャ「? どうしました?」

ライナー「……」グッ ムキッ

サシャ「……調子に乗ってすみませんでした」

ライナー「いや、俺も大人げなかったな……一息入れるか。もらうぞ」スッ

サシャ「どうぞどうぞ! まだかなり熱いので気をつけてくださいね」


ライナー「甘いのにさっぱりするな、これ」ズズッ

サシャ「はい、私も味見してきたんですけど、口当たりがいいですよね――あれっ?」

ライナー「……? どうした?」

サシャ「ちょっ、ちょっと待っててくださいね……」

サシャ(えーっと、左手で受け取って、一口もらって……そのままお盆の上に、取っ手を外向きに置いて……あれ? でもその後、扉の開け閉めする時にお盆を持ち直したから……?)グルグルグルグル

サシャ「……」ダラダラダラダラ

ライナー「おい、何かあったのか?」

サシャ「……あの、怒りません?」

ライナー「どこで零してきた」ガタッ

サシャ「ちっ、違いますよ! ――あのですね、さっき私、調理場で味見してきたって言いましたよね?」モジモジ

ライナー「それがどうした? ……はっきり言え、はっきり」

サシャ「じゃあ言いますけど……それ、たぶん私が口をつけたカップです」

ライナー「」ピタッ


サシャ「……他のと交換します?」

ライナー「味は変わらないだろ。……このまま使う」

サシャ「そ、そうですか……///」カァッ...

サシャ(うう……ライナーったら、そういうのあまり気にしないんですかねー……)ジーッ...

サシャ(この前、私のことかわいいって言ってくれたのに……なんだか私ばっかり意識して、不公平ですよ……)ムー...

サシャ「……あ、そうだ! アニからお菓子もらったんです、半分こしましょう」ゴソゴソ

ライナー「お菓子? 今の時間に作ってたのか?」

サシャ「しばらくお休みの日ないですしね。数日くらいなら保ちそうでしたし、今日作って明日以降食べるんじゃないですかね……っと、はいどうぞ!」パカッ スッ


ライナー「……くれるのか? 俺に?」

サシャ「え? 甘いの嫌いでしたっけ?」キョトン

ライナー「いや、好きだぞ……大好きだ!!」

サシャ「は、はぁ……そんな力説しなくてもわかりましたけど……?」

ライナー「……ありがとな、サシャ」

サシャ「いえいえ、どういたしまして」

ライナー「……甘いな」モグモグ

サシャ「そうですね、おいしいですよねー」モグモグ

ライナー「食ったら続きやるからな」

サシャ「了解です!」バッ

ライナー「敬礼はしなくていい」

サシャ「……すみません」エヘヘ


―― 五分後

ライナー「――に代入すれば、到達するまでの距離が割り出せるわけだから……ここの数値が出るよな」カキカキ...

サシャ「おお……出ましたね!」

ライナー「というわけで値は253だ。……ここまではいいか?」カキカキ...

サシャ「……」ジーッ...

ライナー「サシャ?」

サシャ「よく逆さまで文字が書けますね」

ライナー「そうか? 数字なら簡単だろ?」

サシャ「そうですか? ――えーっと、253っと……」カキカキ



      zSε



サシャ「……あれ?」

ライナー「下手くそ」


サシャ「でもでも、2は数字になってますし、5だって頑張って見ればそれっぽいですよ!」

ライナー「いや、どう控えめに見ても記号だろ?」ニヤニヤ

サシャ「……練習します」ショボン...

ライナー「しなくていい」

サシャ「もうっ、いいですよ消しますから!」プンスカ

サシャ(ふんだ、どうせ私はこういうことに向いてませんよーだ……)ケシケシ

ライナー(くっそかわいいなーこいつ)ニヤニヤ

サシャ(うー……そんなに笑わなくたってもいいのに……! ライナーのいじわる……!)ケシケシ

サシャ「そもそもですね、ライナーが正面にいるから悪いんですよ!」ガタッ

ライナー「は? 教えてるんだからこうなるだろ?」


サシャ「いいえ、対面じゃなくたって教えられるはずですよ! ――というわけで、隣座ります!」ギュムッ!

ライナー「おい、隣に座ったら狭くないか?」

サシャ「そんなの知りませんよーだ。せいぜい窮屈な気持ち味わってくださいっ」プイッ

ライナー(……窮屈なのはお前のほうだと思うんだがな)

サシャ「さあ、続きお願いします」クイクイ

ライナー「わかった、じゃあ続きから――」

サシャ「ふむふむ……」ピトッ ムニュッ

ライナー「」

ライナー(あーそっかー離れてたらノートの字が見えないもんなー、仕方ないよなー)

ライナー(左腕に胸が当たってるのも気のせいだよなー……不可抗力だよなー)

サシャ「……? ライナー? 続きはどうしました?」ヒョコヒョコ

ライナー(…………髪の毛、動物の尻尾みたいだな)ウズウズ

サシャ「ライナーってばー、どうしたんですー?」クイクイ

ライナー(……ダメだ、これじゃ集中できん。教えるどころじゃない)


ライナー「……やっぱり正面に戻れ。サシャ」

サシャ「えっ、どうしてですか? ――もしかして私変な匂いしてます!?」クンクン

ライナー「こら、嗅ぐんじゃない! ……髪の毛が隣で動いてると気になるんだよ」

サシャ「これですか? んー、やっぱり邪魔ですかねー……切るべきなんでしょうか」チョイチョイ

ライナー「……髪切るのか?」

サシャ「正直、悩んでるんですよね……ライナーはどう思います?」

ライナー「切るな」

サシャ「……即答ですね」

ライナー「切るなよ?」

サシャ「理由を聞いてもいいですか?」

ライナー「……もったいないだろ」

サシャ「髪はまた生えてきますけど」

ライナー「いいから伸ばしてろ」ワシャワシャ

サシャ「ちょっ!? もう何するんですかぁっ!」ジタバタジタバタ


ミカサ「失礼します。――こんばんは、二人とも」ヒョコッ

ライナー「」ピタッ

サシャ「」ピクッ

エレン「おーっす。……あれ? 時間間違ったか?」スタスタ...

ライナー「いっ、いや、合ってるぞ?」アセアセ

ミカサ「……何をしていたの? 二人きりで」

サシャ「勉強! 勉強教えてもらってたんですよ! ご飯食べた後暇でしたし!」アタフタ

ミカサ「なるほど……熱心なのはいいこと。エレンも見習って」

エレン「あーあー聞こえなーい」

ライナー「全員揃ったから打ち合わせするか。ちょっと待ってろ、今片付ける」ガサゴソ

サシャ「そ、そうですね片付けましょう! 飲み物はそっちのお盆に並んでますからどうぞ! 少し冷めてちょうどよくなってると思いますから!」ユビサシ

エレン「おっ、ありがとよ。ちょうどあったかいもん欲しかったんだ」


ライナー「よし、片付けたからもういいぞ」

エレン「じゃあ俺、ライナーの正面もーらいっ」ドサッ

ミカサ「なら、私はサシャの前に」ギュムッ

エレン「……ミカサ」

ミカサ「何?」

エレン「隣に座るのはいいけどよ……近くね?」

ミカサ「何を言ってるの? これでもまだ遠いくらい」ギュウギュウ

エレン「……ちょっとでいいから離れろ。な?」

ミカサ「これ以上離れたらお互いの声を聞き逃してしまう。ので、不可能」ギュウギュウギュウギュウ



サシャ「……」ジーッ


サシャ「……///」カァッ...

サシャ(今、私とライナーの距離って……拳一個分もないですよね……?)

サシャ(もしかして私、かなり大胆なことしてたんじゃ……)

サシャ「あ、あのっ、ライナー……私、やっぱり少し離れたほうが……」ヒソヒソ

ライナー「……」ギュッ

サシャ「っ!?」ピクッ

サシャ(手、掴まれちゃいました……これは、行くなって解釈でいいんでしょうか……)ドキドキドキドキ

ライナー「何か言ったか?」ボソッ

サシャ「な、なんでもないです……///」モジモジ

ミカサ「……サシャ、顔が真っ赤」

サシャ「ふぁっ!? ……え、えっと、暑いですからね! あはは!」パタパタ

エレン「そうかー? 俺は寒いけどな。そろそろ冬物出すかなぁ」サスサス

ミカサ「寒いなら私が温めてあげるエレン」ギュウッ

エレン「だからお前はもう少し離れろっての」グイグイ


ライナー「二人とも、その辺にしとけ。――ミカサ、地図は持ってきたか?」

ミカサ「抜かりない。チェックポイントに印もつけておいた」バサッ

エレン「今回はいつもの山岳訓練とは違って特別ルールがあるんだったよな? チェックポイントまでのルートを自分たちの班で作るってのはわかったけど、後はよくわかんなかったんだよなー」

サシャ「私も途中までしかわからなかったんですけど……8つあるチェックポイントの中から、自分たちで5つを選んで回るんですよね?」

ミカサ「基本はそう。2日間で5つのチェックポイントを回ることが合格の最低ライン。――そして、6つめ以降は別に得点が加算される」

エレン「えーっと……つまり、最高成績狙うには8つ全て回る必要があるってことか?」

ライナー「そういうことだな。――当然、俺たちの班は8つ全てを狙うぞ。山歩きに慣れてる面子が揃ってるからな」

エレン「異議なし!」

ミカサ「右に同じく」

サシャ「問題ありません!」


サシャ「でも私たちの班だけなんだか偏ってません? ……てっきり、ミカサとライナーは別の班だと思ってたんですが」

ミカサ「私もそれは疑問に思っていた。……何故?」

ライナー「俺に聞くなよ」

エレン「それ、俺もアルミンと話してたんだけどよ。どうやら教官側がわざと体力馬鹿同士を組ませたんじゃないか、って言ってたぜ」

ミカサ「……」

サシャ「……」

ライナー「……どういう意味だ? エレン」

エレン「断っとくけど、俺もアルミンから聞いただけだからな? ――今回の訓練は、敢えて山歩きが得意な奴と不得意な奴とを組ませて、それぞれの対応力を見ることが目的らしいんだ」

エレン「でも、俺たちの班はみんな体力があって山歩きに慣れてるだろ? 8つ全部回ってもたぶん余裕があるだろうしな」

エレン「それで、ここからはアルミンの推測なんだが……実は、毎年こういう俺たちみたいな奴らを集めた班が、最低一つは作られているんじゃないかって話だ」

エレン「その班がどういうルートを辿って、どれくらいの時間がかかったか毎年記録することで、前の年の訓練兵と実力を比べてるんじゃないか、……だとよ」

エレン「へへっ、俺たちが104期の代表って考えたら悪い気しないよなー! ……あれ? どうしたんだ三人とも」


ミカサ「エレンは馬鹿じゃない!!」クワッ!!

ライナー「サシャは馬鹿じゃないぞ!!」ダンッ!!

サシャ「ライナーとミカサは馬鹿じゃないですよ!!」バンッ!!

エレン「は? なんで俺に怒ってんだよ?」ビクッ

ミカサ「エレン、訂正して……」ゴゴゴゴゴ...

ライナー「そうだ、失礼だぞエレン」ゴゴゴゴゴ...

サシャ「謝るなら今のうちですよエレン」ゴゴゴゴゴ...

エレン「へっ? ……え、えーっと、体力自慢がどんなルートを選ぶか、記録してるんだとよ……?」ビクビク

ミカサ「私は知っていた。エレンはやればできる子」ニコッ

ライナー「エレン、偉いぞ」ニッ

サシャ「見直しましたよ、エレン」ニコニコ

エレン「ええー……?」

エレン(おいおい、大丈夫かよこいつら……? ――いや待てよ、みんながダメなら俺がしっかりしないと……!)


エレン「な、なあ、それよりルート決めようぜ!」アセアセ

ライナー「おっと、そうだったな。雑談で時間が潰れちまう」

サシャ「ルートを作るのはいいんですけど、今回は番号が振ってないから厄介ですよね」

ミカサ「数字だとみんな順番通りに回ろうとするから、敢えてやめたのだと思う。――それと、アルミンが言っていた。このチェックポイントの名前は、秋の七草の名前らしい」

サシャ「ナナクサ……ですか?」キョトン

ミカサ「秋の七草は、純粋に見るのを楽しむもの。他にも春の七草というものがあって、そちらは七草粥という料理にして――」

サシャ「食べ物ですか!?」キラキラキラキラ

ミカサ「今は秋」

サシャ「……そうでしたね」ショボーン...


エレン「チェックポイントと同じ名前の植物を採ってくれば合格なんだよな? でもそう都合よく生えてるもんか?」

ライナー「まあ……生えてるんだろうな。きっとこのチェックポイントの位置に群生してるんだろう」

ミカサ「七草の花束を作らせるなんて……、もしかしたら教官は意外とメルヘンチックなのかもしれない」

エレン「まあ、それはともかく……」

ライナー「そうだな。……この“しいたけ”ってなんだ?」ユビサシ

サシャ「しいたけは……しいたけでしょう?」

エレン「そうじゃなくてさ、なんでチェックポイントの中にしいたけが入ってるんだ? この場所に都合よく生えてるのか?」

サシャ「私が知るわけないでしょう」

ミカサ「行けばわかる。気にしてはダメ」

エレン「気になる……」ウーン...


ライナー「話を進めるぞ。――取り敢えず、各自で考えたルートを出していってくれ。ある程度意見が出たらまとめよう」

エレン「そうだな……まず最初に思いつくのはこのルートだよな。ナデシコから出発して、西側に回りこみながら山頂近くのオミナエシを目指して……、最後にフジバカマを採って終わり」

ミカサ「待って。その経路だと途中に立ち入り禁止区域があるから、しいたけを通過するのに余計に回り道しなければならない。……ので、ススキからはじめるのはどうだろう。このルートだとエレンが提案した経路より距離は長いけれど、傾斜は緩いから比較的楽に回れる」

サシャ「んん……? でも、これだと帰りにしいたけを採らなくちゃいけないですよね? 地図だとそうでもないですけど、たぶんこっち側の道は下りの傾斜がキツイですよ。だったら帰りはこっちのキキョウを通ったほうが」

ライナー「いや、それだとしいたけはいいが、フジバカマまでの距離が遠くなるぞ。……ハギから始めるこのルートはどうだ?」

エレン「それだとオミナエシを回収できないだろ。やっぱりナデシコからはじめて、しいたけは――」

ミカサ「だから、その経路はダメだと言った。やはりこちらのススキから、最後にしいたけへと――」

サシャ「ですからね、ミカサのルートだとしいたけが――」

ライナー「一旦山頂に登ってから……うーん、ダメか……」ブツブツ


――三十分後

エレン「だああああああああもうっ!! しいたけ鬱陶しいな!!」ダンッ!!

ライナー「どうあっても俺たちの邪魔をしたいらしいな、しいたけの奴は……!」イライライライラ

サシャ「私、食べ物を憎んだのは生まれてはじめてです……! こんな気持ち、知りたくありませんでした……!」グルルルル...

ミカサ「菌糸類のくせに……」チッ

ライナー「……」ゼエハア

ミカサ「……」ゼエハア

サシャ「……」ゼエハア

エレン「……」ゼエハア

ライナー「……一旦休憩しよう」

ミカサ「……賛成」

エレン「……異議なし」

サシャ「喉が渇きました……」


エレン「なんつーか……絶妙に邪魔な位置にあるよな。しいたけ」

ライナー「同感だ。しいたけを捨てれば、後の七つは比較的楽なんだが」

ミカサ「しいたけを選んだ途端、突然難易度が跳ね上がる……」

サシャ「こんな都合のいい位置にあるしいたけは罪作りですね……」

エレン「……これ、しいたけを通るんならしいたけを採ってくることになるんだよな?」

ライナー「まあ……そういうことになるな」

エレン「駆逐してやる……一本残らず!!」

ミカサ「……削ぐ」

サシャ「食い尽くしてやります……」

ライナー「気持ちはわかるぞ……後続がいないなら俺もそうしたい」


―― 更に三十分後

サシャ「お、終わったぁ……」ヘロヘロ

ミカサ「……久しぶりに、かなり頭を使った」ズキズキ

ライナー「俺もだ。頭が痛ぇ……」ズキズキ

エレン「じゃあ俺、教官に清書した地図提出してくるな。ついでに課題も出してくる」ガタッ スタスタ...

ライナー「ああ、頼んだぞ。――カップは俺が戻しておくから、ミカサとサシャは帰っていいぞ」ガタッ

ミカサ「洗い物もしなければならないはず。手伝おう」スクッ

ライナー「女子の風呂は時間が短いんだろ? 早く行かないと入りそびれるぞ。ここはいいから行け」

ミカサ「……では、お言葉に甘えることにする」

ライナー「おう。そうしてくれ」スタスタ...

サシャ「あっ……待ってください、ライナー!」ガタッ


ライナー「なんだ?」

サシャ「えっと、さっきのことなんですけど……あの、あれってどういう……」モジモジ

ライナー「……また明日な、サシャ」ワッシャワッシャ

サシャ「ひゃうっ!?」ピクッ

ライナー「じゃあな。おやすみ」スタスタ...

サシャ「……うぅ」ムー...

サシャ(頭撫でて、誤魔化しましたよね……今)

サシャ(人の気も知らないで、さっきは手まで握って……反則ですよ、あんなの……)ムー...

ミカサ「……らーぶらーぶ」ダキッ

サシャ「み、ミカサ!? なんで後ろから抱きついて――」ジタバタ

ミカサ「さっき机の下で何をしていたのか、私はとても気になっている。ので、あなたは今すぐ話すべき」コチョコチョ

サシャ「ひゃっ!? ――はっ、話しますっ! 話しますからっ、くすぐるのはっ、ふふっ、やめてくださいよぅ! あははっ!」ジタバタジタバタ

ミカサ「なら、早く教えて?」クスッ


―― 男子寮 エレンたちの部屋

ライナー「ただいま。……ん? ジャン、来てたのか」ガチャッ バタンッ

ジャン「おう、お疲れ。――山岳訓練の打ち合わせだって? 訓練中もあいつの世話係とは、お前も気苦労が絶えねえなぁ」ケケケ

ライナー「……俺が好きでやってるからいいんだよ」

ジャン『はい惚気入りましたー』クルリンパッ

アルミン『ひゅーひゅー、熱いねえ!』グールグール

ライナー「無言で会話するのはやめろ。あと見えないところでそういう会話はやってくれ」

ベルトルト「……? 何かいいことでもあったの? ライナー」

ライナー「……わかるのか?」

ベルトルト「まあね。おおっぴらにからかわれたのに、あんまり怒ってないし」

ライナー「あー……それはだな……」ボソボソ

ジャン「なーにその図体で恥ずかしがってんだよ!! 男だろしっかり俺たちにいい思いを共有させろ!!」バンッ!!

アルミン「さあライナー、大きな声で言ってくれ! 僕たちは決して笑わないから!!」ダンッ!!

ベルトルト(そんな言い方したら、逆に言いづらいと思うんだけど……)チラッ


ライナー「その……――か、間接キスを、だな……してきた、というか」ボソボソ

ベルトルト「……は?」

アルミン「……間接キスね」

ジャン「……なるほどな」

ベルトルト「……いやいやいや。あのさぁ、君たちもっとすごいこと普段からやってるでしょ? 馬鹿なの?」

ジャン「いや、わかるぜライナー……ありゃ興奮するよな」

ライナー「!! ――わかってくれるか、ジャン」

ジャン「ああ。間接キスには無限の可能性があるからな」

アルミン「そうだね……たった一度の間接キスで、女の子の様々な表情を自由自在に引き出せるからね。あれは恐ろしい行為だよ……!」

ベルトルト「……僕、もう寝るね。眠いし」モソモソ

ジャン「おいおい夢がねえぞベルトルト! もっと自分に素直になれ!!」ユサユサ

アルミン「そうだよっ! 君だって一度は妄想したことがあるんじゃあないかっ!? 好きな子と間接キスする妄想をっ!!」ユサユサユサユサ

ベルトルト「しないよそんなの。……もう起こさないでね。後は三人で勝手にやって」バサッ


ジャン『……ったく、本の話はいくらでも乗ってくるくせに、こういう話になるとすぐ付き合い悪くなるんだもんなー、ベルトルトの奴』シュッシュッ

アルミン『まあまあ。――ここは僕たちの力でこじ開けてやろうよ。ベルトルトのウォール・オフトンをね……!』キラーン

ライナー『やりすぎるなよ?』

アルミン『ムッツリスケベが一番タチが悪いと思います!』

ジャン『同感であります!』

ライナー『あまり酷いと止めに入るからな』

アルミン・ジャン『了解』グッ

アルミン「……じゃあ間接キスがどんなに素晴らしいものかを存分に語り合おうか」

ジャン「そうだな。字面だけじゃ何も興奮しねえからな」

ベルトルト(ううっ、外で何か始まった……聞かないようにしよう……)ミミフサギ


アルミン「どうせなら、具体的な例を挙げたほうが想像しやすいよね。どういう子がいいかな?」

ジャン「そうだな……金髪で、小さくてかわいい子がいいんじゃねえか? 身長を使ったテクニックも使えるし」

ベルトルト「……」ピクッ

アルミン『よっし! ベルトルトが反応してるよ! ナイスだジャン!』

ジャン『はっはーあいつの好みは全て把握済みだぜ! ダテに妹同盟組んでねえよ!』

ライナー『お前ら二人のその情熱はどこから来るんだ?』

アルミン『下半身!!』

ライナー『いや間違っちゃいないだろうが』

ジャン「――で、まあその子がよ、ひょいとフォークを差し出して言うわけだ。――『はいベルトルト、これ食べる?(※裏声)』」スッ

ベルトルト(僕の名前はやめてよ……しかも裏声って……)モゾモゾ


ジャン「ただし、ここで『あれっ? こいつ俺のこと好きなんじゃね?』と思いこむのはNGだ。『嫌われてはないようだ』くらいの認識に留めておいたほうがいいな」

アルミン「女の子ってその辺の意識緩いもんね。……それで、君は間接キスだと気がつきながら、フォークごと受け取るわけだよ、ベルトルト」フフフ

ベルトルト「……」モソモソ

アルミン「もちろん、君はすぐには食べない。その間に小粋なトークを楽しんだり、ちょっとした雑談を挟んでもいい。――その子が間接キスだと気づいたら作戦開始だ」ニヤッ

ジャン「お前の強みである身長差を生かすのはこの時だぞ、ベルトルト」ユサユサ

ベルトルト(わっ! ……揺らさないでよ、聞かないようにしてるのに)カタツムリー

ジャン「間接キスだと気づいたその子は、お前から必死にフォークを取り返そうとする……顔を真っ赤にして『かっ、返してよぉっ!(※裏声)』とぴょんぴょんお前の周りを飛び跳ねるわけだ」

アルミン「そう、君はその子の恥じらいの表情と間接キスと食べ物、三つの味を堪能することができるんだよ、ベルトルト……!」ウフフ

ベルトルト(知らないよ)

アルミン「こればっかりは、僕には一生できないシチュエーションだからね。正直羨ましいよ……」

ジャン「そう言うなってアルミン。お前はまだまだ成長期だ、そのうち背だって伸びるさ」ポンポン

アルミン「ジャン……!」ジーン...


ジャン「まあ、間接キスで最も重要なのは恥じらいだよな。――恥じらいのねえ間接キスは断固として認めねえ」キリッ

ライナー「……ちょっと待て。そりゃ異議ありだ」

ジャン「おっと、落ち着けよライナー……勘違いするなよ? 俺が言いたいのは、『間接キスだとわかって仕掛けてくる奴』のことだ。そういう奴は目を見りゃわかる。下心で濁ってるからな」

ベルトルト(君の瞳も今は濁ってると思うよ、ジャン)モゾモゾ

ジャン「だからよ、間接キスだって自覚をしねえで仕掛けてくる行為も、それはそれでオイシイもんだと俺は思うぜ……?」グッ

ライナー「ジャン……流石だな!」グッ

ジャン「おうよ!」

アルミン「くれたほうが全然気にしてないってのはこっちに背徳感があっていいよねー」

ジャン「ははっ、上級者だなぁアルミンは」

ライナー「なあ、まだ続くならメモっていいか?」

ベルトルト(やめなさい)


ジャン「……まあ口でいくら語っても実戦には敵わないよな」

アルミン「そうだね。実際やったことないとわからないよね、この感覚は」

ベルトルト(全くもう……君たちが余計な心配しなくても、この前アニと出かけた時に僕はやったから、何も興奮なんかしないよ……)モソモソ

ジャン「というわけで、だ。――アルミンやれ」

アルミン「仕方ないなぁ。……ベルトルト、あーん♪(※裏声)」キャピッ

ベルトルト「~~~~っ! もう、人の記憶上書きしないでよ!!」バサッ

ライナー「おっ、出て来たな」

アルミン「……なるほど、上書きね」ニコッ

ジャン「へー……誰としたんだろうな、ベルトルト?」ニタァ

ベルトルト「……あっ」ピタッ


ベルトルト「……」バサッ

ジャン「おらおら引きこもってねえで吐け吐け、そっちのほうが楽になるぞ!」バシバシバシバシ

ベルトルト「嫌だ! 嫌だ!」ギューッ!!

アルミン「ライナー、ベルトルトを引き摺り出してよ! くすぐるから!」

ライナー「いや、それは流石に……」

アルミン「サシャのとっておき情報教えるよ!」

ライナー「悪いなベルトルト」バサッ ガシッ

ベルトルト「この裏切り者があああああああああああああっ!」ジタバタジタバタ

ジャン「よーし俺は足を押さえる! 頼むぞアルミン!」ガシッ

アルミン「ふっふっふ……観念するんだベルトルト!!」クワッ!!



                             \ヤメテエエエエエエエエエ!!/


エレン(うるせえな、そろそろ消灯時間だってのに……どこの部屋だ?)キョロキョロ

エレン(……おいおい、俺たちの部屋かよ)

エレン「おい、廊下まで音響いてんぞ! 静かにしねえと教官が――」ガチャッ



ジャン「……」ピタッ (※ベルトルトの足を押さえつけています)

アルミン「……」ピタッ (※ベルトルトの脇をくすぐろうとしています)

ライナー「……」ピタッ (※ベルトルトの腕を押さえつけています)



エレン「」

ベルトルト「え、エレン、助けて……」グスッ

エレン「……お前ら、ベルトルトに何やってんだ?」


―― 山岳訓練当日 出発時間

ライナー「よし、信煙弾があがった。……行くぞ三人とも」

ミカサ「エレン、さっきまで後ろにぴょこぴょこついてきていたベルトルトは何事」クイクイ

エレン「話せば長いからまた今度な。……あと近い」グイグイ

サシャ「うーさーぎーおーいしーまーるーやーきー♪」ゴソゴソ

ライナー「……」

ライナー(自由すぎるな……本当にこの面子で大丈夫なのか?)ウーン...

ライナー「……点呼! 1!」

エレン「2!」ハイッ

ミカサ「3」

サシャ「4!」バッ

ライナー「よし、全員いるな。……エレンは手を下げろ。サシャは敬礼しなくていい。出発するぞ」


サシャ(うーん、いい天気です! 晴れてよかったですね)ノビー

サシャ(それにしても、本格的な山歩きは久しぶりですね……背嚢と腰の立体機動装置がちょっと邪魔ですけど)

サシャ「……」ウズウズ

サシャ「うーさーぎーおーいしーまーるーやーきー♪」ザクザク

ライナー「……サシャ、さっきから気になってたんだが歌詞が違うぞ? 『丸焼き』じゃなくて『かのやま』だ」

サシャ「……? カノヤマってなんですか? 食べられますか?」

ライナー「いや、俺もどういう意味なのかは知らんが……少なくとも食いもんじゃないってことくらいわかるぞ」

サシャ「そうですか、食べものじゃないんですか……」ショボン...

サシャ(……そういえば、鹿の子どものことを『かのこ』って言いますよね)

サシャ(鹿の子の山……鹿の山……お肉の山!?)ピコーン!!

サシャ「……」ジトッ...

ライナー「なんだ?」

サシャ「……一人占めしないで私にも分けてくださいよ」ボソッ

ライナー「お前何か勘違いしてるだろ」


―― 二時間後 チェックポイント・キキョウ

ミカサ「これで3つ目」スパッ

サシャ「花束を作ってると思うと楽しいですよね、これ」

ミカサ「うん。……これにしいたけを添えなければならないのが、残念」チッ

サシャ「……しいたけ」ギリッ...

ミカサ「削ぐ瞬間が、楽しみ……」ニタァッ...



ライナー(ここまで順調だな。全員、体力は問題ないか……いや、余裕がある時だからこそ、一旦休憩を入れるべきか?)ウーン...

エレン「なあライナー。――この訓練ってさ、立体機動装置をつける意味があんのかな」

ライナー「……ん? 突然どうした?」

エレン「だってよ、この山の木の高さって全体的に低いだろ? これじゃ立体機動装置なんて使えないんだから、着けて歩く意味なんてねえじゃねえか」

ライナー「……ふむ」


ライナー「エレンの言い分も一理あるな。――ということは、今回は“使えない立体機動装置を着けている”ってことが重要なんじゃないか?」

エレン「……そうなのか?」

ライナー「たぶんな。――そうだな、例えば……エレンは調査兵団志望だろ? 将来、装備を着けたまま壁外に放り出されることがあるかもしれない」

エレン「……嫌な例え話だな」

ライナー「まあ聞け。装置は使えるが、壁内に戻るためにはこういう山を越えなくちゃならない時もあるだろう。巨人にやられる前に、獣や飢えに殺されるのは嫌だよな?」

エレン「……確かに、そんなことで死んだら笑い話にもならねえな」

ライナー「ああ。……だからな、こういう機会に少しでも知識や技術を学んだり、装置を着けて山を歩く経験を積むことは損じゃないと思うぞ? ――この訓練を生かすも殺すも、全てお前次第だ」

エレン「そっか、なるほどな……俺次第、か」

ライナー「ああ。どんな訓練もしっかりやれば……いつか、この人類の役に立つさ」

エレン「……」

ライナー「あー……しまった、またやっちまったな……。――説教くさくなって悪い、エレン」

エレン「いや、すぐにそういう答えが出てくるんだからすげえよ。さすがライナーだよな!」ニッ

ライナー「……」


ライナー(人類の役に立つ、か。……どの口が言ってるんだろうな)

ライナー(この訓練が役に立つのかなんて……俺が言えた義理じゃ――)

サシャ「ライナー! ライナー!」ピョンピョン

ライナー「……」

サシャ「ライナーってば! 聞いてますー?」ピョンピョン

ライナー「……はいはいなんだなんだ」

サシャ「あの、ここまで順調ですし……山菜! 山菜取ってきていいですか!? ギンナンとかアケビとかサルナシとかヤマブドウとか! 夜ご飯がちょぴっとだけ豪華になりますよ? ね?」ソワソワソワソワ

ライナー「……十分だけな。延長はなしだ。それと、荷物になるから今採るのは今日食べる分だけにしろ。わかったか?」

サシャ「」コクコクコクコク

ライナー「よし、行ってこい」

サシャ「わーい! 行ってきまーす!」ガサガサ

エレン「犬っころみたいに走って行ったな、サシャ」

ミカサ「……ライナーが、まるで飼い主のよう」


ライナー「サシャを待ってる間にここで少し休憩するか。荷物下ろしていいぞ、二人とも」ドサッ

エレン「サシャが休みなしになるけどいいのか?」ドサッ

ライナー「まさか。……ちゃんと戻ってきてから休ませるさ」

ミカサ「ちゃんと戻ってくるだろうか。……私もついていけばよかったかもしれない」

エレン「やめとけやめとけ、あの勢いじゃ置いてかれるのがオチだって。……それにしても、サシャは体力だけは化け物だよなー」

ミカサ「エレンは体力がある割に少し身体が細い。もう少し鍛えるべき」サワサワ

エレン「……どこ触ってんだ」

ミカサ「ふくらはぎ」サワサワ ナデナデ

ライナー「お前らなぁ……見えないところでやれよな、そういうのは」プイッ

ミカサ「なるほど……見えないところなら何をやってもいいということ?」

ライナー「……サシャから聞いたな?」

ミカサ「何のことやら」ニヤニヤ


―― 同刻 森の中

サシャ「♪~」ヒョイヒョイ

サシャ(ギンナン……は、見当たらないですね。アケビはありましたけど)モグモグ

サシャ(まあ、おいしいですけど匂いがキツイですからね、今回はギンナンは諦めますか……あ、ヤマブドウ)ブチブチッ

サシャ(さてと、あっちはどうでしょうかねー……)ガサガサ

サシャ(それにしても、結構歩きやすいですね。整備なんかされてないはずなのに、まるで何かが通った後のような……)

サシャ(…………獣道?)ピタッ

サシャ「……」キョロキョロ

サシャ「――!!」


―― 数分後 チェックポイント・キキョウ付近

サシャ「あのっ、全員いますか!?」ガサガサ

エレン「おっ、サシャ早かったなー。おかえり」

ライナー「もういいのか? まだ時間はあるぞ?」

サシャ「はい。――それよりも、今すぐ移動しましょう」

ライナー「……? お前も身体を休めたほうが――」

ミカサ「何かあったの? サシャ」

サシャ「ありました。……でも、どちらかというと勘に近いものなので、確証はないんですけど」

ライナー「……なら、すぐここから離れるか。話は歩きながらでもできる」ゴソゴソ

サシャ「はい、そうしてください。できるだけ急いで」


―― 三十分後

エレン「おい、ここまで歩いたらもういいんじゃないか?」

ライナー「そうだな。……そろそろ何があったか話してくれ、サシャ」

サシャ「……たぶん、クマが近くにいます」

エレン「は? クマだぁ!?」

ライナー「確かなのか?」

サシャ「はい。草が倒れて獣道ができてましたから。木の幹には爪痕が残ってましたし、草むらには動物の糞がありました。しかも結構新しいです。――ライナー、地図を貸してくれますか?」

ライナー「ああ、いいぞ」スッ

サシャ「ありがとうございます。……えっと」バサッ

サシャ「今までのルートでは、そういう痕跡は見られませんでしたから……たぶん、だいたいこの辺りが縄張りだと思います」

ライナー「……かなり広いな」

サシャ「ここに立ち入り禁止区域があるでしょう? きっとこの辺りが本来の縄張りなんだと思います。もしかしたら、今年はクマの餌が少なくて移動範囲を広げているのかもしれませんね」

エレン「でもこれじゃあ、第一候補のルートが全然使えねえぞ? どうする?」

ミカサ「こうなったら、こっちの道を通って第二候補だったルートに切り替えよう。多少距離が伸びるけど、クマと戦うよりはマシ」

ライナー「ああ。そうしたほうがいいだろうな」


エレン「なあ、煙弾で教官か他の班に知らせたほうがいいんじゃねえか?」

サシャ「いえ、そこまでしなくても大丈夫だと思いますよ。合格ラインの5つを選んで通るなら、この辺りを敢えて通るよりももっと楽なルートがいくつもありますから」

ライナー「仮に知らせたとしても、『この程度で煙弾を撃つんじゃない』って一蹴されて終わりだろうな」

ミカサ「でも、もしかしたら誰かここを通るかもしれない。……ので、符牒を残しておこう」ニンニン

サシャ「フチョウ? 食べられますか?」

ライナー「無理だろ。……その葉っぱに枝を刺したのがそうなのか?」

ミカサ「そう。……本当は五色米が欲しかったんだけど調達できなかった」ショボーン...

エレン「がっかりの基準がわかんねえよ、ミカサ」

サシャ「ゴシキマイ? 食べられますか?」

ミカサ「本物の忍者は非常時にその五色米を食べる」キリッ

サシャ「な、なんと……! 私も食べたかったです……!」ジュルリ

ミカサ「ごめんなさい、私の財力が及ばなかったせいで……!」ガクッ


ライナー「そういう目印を残しておくのはいいが、お前以外誰もわからないんじゃないか?」

ミカサ「いいえ、アルミンなら……! アルミンならきっと気づいてくれる……!」グッ

サシャ「なんでそこでアルミンが出てくるんですか?」

エレン「あー……それな。この前芋食った帰り道に、アルミンが古本屋からニンジャ小説を探してきたんだよ。たぶんそれのせいだな。五式なんちゃらーもその小説の影響だろ?」

ミカサ「五式なんちゃらーではなく、五色米。……あの本のおかげで、私の忍術は更に磨きがかかった」ニンニン

サシャ「なんでいきなりニンジャ小説なんか探してきたんですかね、アルミンは」

エレン「さあなー。『火の中から栗を取り出す技術は本当にないの!?』ってブツブツ言いながら読んでたから、たぶんそれじゃねえの?」

ライナー「……まだ諦めてなかったのか、アルミン」


―― 夕方

エレン「この辺でいいんじゃねえか? 今日の野営地」

サシャ「そうですね。あまり上に行っても風が強いですし、この辺りが妥当だと思います」

ライナー「第二候補のルートで問題なく回れたな。残り3つは明日か」バサッ

ミカサ「うん。このまま山頂付近のオミナエシに向かったら、今日寝る場所の確保が難しくなる。ので、後は夜に寝る準備をするべき」ユビサシ

エレン「……よし。俺、少し下って水の確認してくる。確か川があったよな?」ドサッ

ミカサ「位置は確認した。エレンには私がついていく。二人は少し待っててほしい」ドサッ

ライナー「了解。……気をつけろよ?」

ミカサ「私の特技は肉を削ぎ落とすことです」キリッ

ライナー「……間違って人を削ぐなよ。近くに他の仲間もいるかもしれないからな」

ミカサ「善処しよう」

ライナー「エレン、お前ちゃんとミカサを止めろよ?」

エレン「わかってるって。――行くぞミカサ」スタスタ...


ライナー「……」

サシャ「……」

ライナー「……火でもおこすか」

サシャ「そうですね。手伝います」

ライナー「この辺りにクマはいると思うか?」

サシャ「なんとも言えないですね。さっきのも、指定された立ち入り禁止区域が縄張りだと仮定した上での最低範囲ですから……実際、どこに現れても不思議じゃないと思います。ここまで離れてもやっぱり不安は残りますね」

ライナー「そうか……なら、火の番は二人のほうがいいな」

サシャ「はい。――それと、ご飯もここから離れたところで取ったほうがいいですね。食料の匂いを嗅ぎつけてクマが来る可能性がありますから。山菜は食べきれる量を採ってきましたけど、使った麻袋も念のために離して置いて、それと――」ブツブツ

ライナー「……」

サシャ「? どうしました?」キョトン


ライナー「いや……あの後結局休みが取れなかったからな。今日は歩きっぱなしで疲れただろ? せめて、まとめて睡眠を取れるように配慮する」

サシャ「えっ? ……そんなの三人に悪いですよ。それに、なんだか贔屓されてるみたいで嬉しくないです」ムッ

ライナー「いや、贔屓してるわけじゃないぞ? クマの痕跡なんか、俺たち三人だけなら気づいてなかったかもしれないからな。危険を事前に回避できたと考えれば当然の対価だろ。こんなの安いもんだ」

サシャ「……私、みなさんの役に立ちました?」

ライナー「ああ。……だが、そういう褒め方は好みじゃないな」

サシャ「好み?」

ライナー「そういう言い方だと、まるで損得勘定で言ってるみたいだろ?」

サシャ「……じゃあライナーの言葉で褒めてください」

ライナー「なら、そうだな……お前のおかげで助かったぞ、サシャ」

サシャ「……私のおかげ、ですか」

ライナー「ああ。よくやったな」

サシャ「……なんだか嬉しいです。隣にいる感じがします」エヘヘ

ライナー「……? 今も隣にいるだろ?」

サシャ「例えですよ、例え」


エレン「おーい、戻ったぞー」ガサガサ

ライナー「おう。水はどうだった?」

ミカサ「問題ない。……あと、お客さんを連れてきた」

サシャ「お客さん?」


                                 \ガサガサッ/


コニー「よっ!」ヒョコッ

アルミン「やあ、ライナーにサシャ。今日もお疲れ様」

ミーナ「こんにちは! ……あれ? こんばんはかな?」

ユミル「どっちでもいいだろ、挨拶なんか」


サシャ「おおっ、四人とも近くに来てたんですね! ……ところでコニー、クマには遭いませんでした?」

コニー「クマか……あいつは俺が天才すぎるからビビってどっか行っちまったよ」キリッ

ユミル「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ。全部アルミンが仕切ったおかげだろ」

コニー「あぁ? 俺だって先回りして道の確認とかしたっての!」プンスカ

サシャ「アルミンがクマの痕跡を見つけたんですか?」

アルミン「ううん、僕が見つけたのはミカサが残した暗号だよ。大雑把だったけどクマがいそうな範囲を教えてもらえたから、おかげですぐにルートを組み直せたんだ」

ライナー「……あれがわかったのか?」

アルミン「まあね」ニンニン

ミカサ「やはり符牒を残してきて正解だった」ドヤァ

エレン「得意げだな、ミカサ」


―― 夕食後

コニー「さてと。……どうせだから夜の火の番は全員でローテーション組もうぜ。せっかく合流できたんだしよ」

サシャ「そんなことしてもいいんですか? こちらとしても、助け合うのは大歓迎ですけど……」

アルミン「大丈夫だと思うよ。チェックポイントにある植物の譲渡・交換はダメだけど、他の班と協力しちゃいけないだなんて一言も書いてなかったからね」

ミーナ「……そんなこと、書いてたっけ?」

ミカサ「アルミンは優秀」キリッ

ライナー「まあ……いつも通りならともかく、クマがいるとなったら話は別だよな。――交替は三時間でいいか?」

エレン「そうだな、あまり短い間隔だと疲れも取れねえしな……じゃあ、組み合わせはじゃんけんで決めるか!」グーパー

ミーナ「よーっし、負けないよー!」グーパー

ミカサ「……勝負ではない。組み分け」グーパー


ユミル「ちょい待ち。……言い忘れてたが、アルミンとミーナはじゃんけんに参加しなくていいぞ。とっとと寝ろ」

ミーナ「えっ? みんなに任せてちゃ悪いし、私も参加するよ?」

ユミル「体力ねえ奴にそうやって頑張られても困るんだよ。――なあアルミン、座学トップのお前なら、この訓練の目的くらい気づいてるんだろ?」

アルミン「……まあ、一応」

ユミル「つまり、体力ない奴をある奴がフォローするのも折り込み済みってこった。――わかったらおとなしく休め。そして明日の私とコニーの負担を少しでも減らせ」

ミーナ「で、でも……」オロオロ


ユミル「納得いかないなら、私がお前らに任務をくれてやる。夜明け前に私たち全員を起こせ。できるな?」

ミーナ「……はぁーい、わかりました。――じゃあみんな、ごめんね? おやすみなさい……」モソモソ

アルミン「僕もお言葉に甘えさせてもらうね。――おやすみ、みんな」

ミカサ「うん、お休みなさい」

ユミル「……とまあ、そういうわけだからな。お前ら体力馬鹿の四人と合流できたのはこっちにとっちゃ渡りに舟だ。せいぜい利用させてもらうぞ? まさか成績優秀なお前らが、私たちのフォローはできませんなんてことはないよな?」

ライナー「安心しろ。そんなことはない」

サシャ(全くもう……素直じゃないんですから、ユミルってば)クスッ

ユミル「……何笑ってんだ、サシャ」ギロッ

サシャ「いいえ、なんでもないですよ?」


―― エレン・サシャ組

サシャ「……ライナー、いびきかいてますね」クスクス

エレン「周りが静かだとうるさいな」

サシャ「みんな疲れて爆睡しちゃってますもんね。まあ、コニーたちの班も予定外のルートを歩いて疲れたんでしょうから、無理もないですけど」

エレン「そういやサシャ、今日はありがとうな。おかげでクマに襲われずに済んだ」

サシャ「いえいえ、お安いご用ですよ。訓練も無事に終わりそうですし、よかったです」

エレン「おいおい、気が早いぞ? 無事に兵舎に帰るまでが訓練だろ?」

サシャ「それはそうなんですけど……なんだか、気が抜けちゃって」

エレン「気が抜けたって……思ってるより疲れてんじゃねえか? 結局お前、あれからぶっ通しで歩いてたしな」

サシャ「あれくらいは余裕ですよ。心配されるほど疲れてないです。それにこの後は夜明けまでずっと眠れますしね。……でも、帰ったらおいしいもの食べたいですね。山菜だと口は満足してもお腹いっぱいにはならないので……」ショボン...

エレン「そうだな、兵舎のメシじゃ物足りねえもんなー……魚、食いたかったよなー」

サシャ「ああ……私は見ませんでしたけど、この前の野原の奥に川があるんでしたっけ?」

エレン「そうそう。魚も泳いでたから期待してたんだけどなー……時間が足りなくて残念だ」


サシャ「それなら今度釣りに行きます? コニーとも行きたいって話してたんですよね」

エレン「おおっ、それいいな! 行くか!」

サシャ「おっさかなおっさかなー♪」シュッシュッ

エレン「さっかなをくうとーつーよくっなるー♪」シュッシュッ

サシャ「こーぶーなーつーりしーいっぽんづーりー♪」シュッシュッ

エレン「……一本釣り?」

サシャ「え? 違うんですか?」

エレン「だってその前が『うさぎ追いしかの山』だろ? 『小ブナ釣りし一本釣り』って変じゃねえか?」

サシャ「そうですか? 『うさぎ美味しい鹿の山』だから……やっぱり『小ブナ釣り師一本釣り』だと思ったんですが」

エレン「……あとでアルミンに聞くか」

サシャ「そうしましょうか」


アルミン「……んぅ」モゾモゾ

エレン「」ピクッ

サシャ「」ピクッ

アルミン「んー……」スースー

エレン「……噂をすれば」

サシャ「……何とやら」

エレン「……」

サシャ「……」

エレン「……静かにしような」シーッ

サシャ「……ですね」シーッ


エレン「そういやアルミンから聞いたんだけどよ。鮎や鮭って、今の時期になると海から川に渡って来るんだってさ」

サシャ「……ウミ」

エレン「ああ。……知ってるか? この世界の大半は、その『海』っていう水で大半を覆われてるんだぜ?」

サシャ「!? なんですって……!? なら、鮭が食べ放題じゃないですか!!」ジュルリ

エレン「……お前すぐそっちに行くよな。別にいいけど」

サシャ「ねえエレン。よかったら……私にウミのこととか、壁の外の話を教えてくれますか?」

エレン「……俺は語るぞ?」

サシャ「はい、聞きたいです。……どうせ暇ですしね」クスッ

エレン「言ってろ。暇だなんて思わなくしてやるよ」ニッ


―― 一時間後

サシャ「へー……海って山よりも高いんですか……」

エレン「高いってか深い、だな。――あー語った語った」スッキリ

サシャ「……エレンは、調査兵団に入るんでしたよね」

エレン「ああ。――いつか巨人を駆逐して、ミカサやアルミンと一緒に外の世界を探険するんだ」

サシャ「じゃあ、ミカサやアルミンも……当然、調査兵団ですよね?」

エレン「……あいつらには好きな道を進んでほしいけどな、俺としては」

サシャ「でも、壁外を冒険する約束したんでしょう? だったら調査兵団に入らないと……」

エレン「アルミンが技巧の道に進みたいっていうなら、それもアリだろ。俺が口出しする権利はねえよ」

サシャ「……エレンはそれでいいんですか?」

エレン「目指してるものは一緒なんだから、いつか合流できるだろ。例えば……俺が巨人を駆逐した後に、アルミンが作ったすっげえ馬車に乗って壁外を探険するとかさ」

サシャ「すっげえ馬車って……曖昧すぎですよ」クスクス

エレン「……うっせえな、すげえもんはすげえんだよ。アルミンならいつかきっとやってくれるさ」


サシャ「じゃあ、ミカサはどうするんです?」

エレン「……知らねえ。憲兵団にでも行くんだろ」

サシャ「おや、投げやりですね」

エレン「少なくとも調査兵団はねえよ。……あいつ、小さい頃から調査兵団はやめたほうがいいって俺に言ってたからな」

サシャ「それは……エレンを心配してるんだと思いますけど」

エレン「でもよ、んなこと言ってたら探険なんてできねえだろ?」

サシャ「……まあ、怪我を恐れてたら狩りなんてできませんしね」

エレン「あいつは母さんの言いつけを守ってるだけなんだよ。ミカサの奴、ここに入ってすぐの頃は俺たちにべったりだったし……せっかく開拓地から出られたんだから、もう少し自由に生きろっての。ったく」ブツブツ

サシャ「……エレンは、ミカサに世話を焼かれるのがただ単に嫌なんだと思ってました。ちゃんとミカサのこと考えてるんですね」

エレン「そりゃあ、たまに鬱陶しいこともあるけどよ……嫌いなわけじゃねえよ」

サシャ(……ミカサが聞いたら一時間くらい小躍りするでしょうね)


サシャ「じゃあ、あんなに反発することないじゃないですか。ミカサだってあまり拒絶されたら傷つきますよ?」

エレン「……男が女に守られちゃかっこ悪いだろ」ボソッ

サシャ「エレンはいいかっこしいだったんですか。知りませんでした」

エレン「違っ……あー、もういいよ。それで」ポリポリ

サシャ「意地ばっかり張ってると、ミカサに見捨てられちゃうかもしれませんよー?」クスクス

エレン「あっちがいつまでもガキ扱いするから悪いんだって。何かと言えば世話焼こうとするしよ……口ぐらい自分で拭けるっての」ブツブツ

サシャ「……」

サシャ(そっか、口を拭かれてるってことは子ども扱いされてることと同じですよね……)

サシャ(……これからは気をつけましょう。うん)


エレン「今のところ、調査兵団志望ってはっきり言ってる奴って俺ぐらいしかいねえんだよなー……ライナーとか、調査兵団に入ってくれねえかな? そしたらすっげえ心強いんだけどな」

サシャ「……エレンは、ライナーがどこの兵団希望か聞いてないんですか?」

エレン「いいや? ……そういや話したことないな。勝手に憲兵団だと思ってたけど」

サシャ「私も、そう思い込んでましたけど……どうなんでしょうね」

エレン「……」

サシャ「……」

エレン「……そろそろ交替だな」

サシャ「そうですね、二人を起こしましょうか」


―― ライナー・ミカサ組

ミカサ「……」

ライナー「……」

ミカサ「……どうしてエレンじゃないの」ジトッ...

ライナー「俺に言うなよ。……それより見ろよミカサ、月が綺麗だぞ。今日は満月だったんだな」

ミカサ「……言う相手を間違っている」

ライナー「は? ただの感想に相手も何もないだろ?」

ミカサ「東洋では、それは『あなたが好きです』という意味だとアルミンに聞いた」

ライナー「……さっきの言葉は撤回していいか?」

ミカサ「ぜひそうしてほしい。私はエレンに言ってもらおうと決めているから」


ミカサ「……まあ、それはともかく。あなたと一緒の組になれたのは、ある意味好都合」

ミカサ「そして、エレンとサシャを一緒の組にして、一番最初にしたのもよかった……素晴らしい判断。私の経験上、これでエレンは朝までぐっすり。もう起きないはず」

ライナー「……俺はサシャをゆっくり休ませたかっただけなんだが」

ミカサ「建前はその辺にしよう、ライナー。私たちの利害は一致してるはず。偽る必要は一切ない。こんな機会はお互い滅多にないのだから、協力しあうべき」

ライナー「……そうだな」

ミカサ「私たちは、わかりあえると思う」

ライナー「ああ、同感だ」

ミカサ「なら、はじめよう……寝顔ウォッチングを」キリッ

ライナー「――よし、やるか」キリッ


ミカサ「……」コソコソ

ライナー「……」コソコソ

エレン「……zzz」スピー...

サシャ「……zzz」スヤスヤ

ミカサ「……」

ライナー「……」

ミカサ「ふふふっ、見てライナー……この、エレンの最高にだらしない寝顔を……!」ニヤニヤ

ライナー「馬鹿言え、どう見てもサシャのこの愛くるしい寝顔にはかなわんだろうが」ニヤニヤ

ミカサ「エレンは熟睡している時に鼻がピクピク動くクセがある。――これは、幼馴染の私だからわかること」ドヤァ

ライナー「年数だけで愛は語れねえぞミカサ……見てろよ、この機会にそのクセとやらを探してみせる……!」

ミカサ「一晩じゃそれは無理。もう少し堅実な方法に留めるべき」


サシャ「んぅ……」モゾモゾ

ライナー「!! 寝言か……よし、言え! 記録しといてやる!」サッ

ミカサ「あらかじめ書き留める用意をしてきたのは、いい心がけ……でも、開拓地でコツコツ書きためてきた私のエレン寝言全集には敵わない!」キリッ

ライナー「なぁに、これから追い越してやるさ……! 今日はその記念すべき一ページ目だ……!」

サシャ「らいなぁー……もっとぉ……」

ミカサ「――!? なんてこと……!? 寝言で名前を呼ぶのは、かなり得点が高い……っ!」ギリッ...



サシャ「おしり……さわらないでくださいよぉ……」ムニャムニャ



ミカサ「」

ライナー「」


ライナー「……」

ミカサ「……」

ライナー「……」

ミカサ「ひゅーひゅー、お熱いこったぁ」ポンッ

ライナー「」ビクッ

ミカサ「旦那、顔が真っ赤っかですぜ! まるで火が点いたみてえだ!」バシバシ

ライナー「……」ダラダラダラダラ

ミカサ「……それで、何をもっとなの? サシャに何をしたの?」メキィッ...

ライナー「いえ、あの……ちょっとわからないです……」

ミカサ「なるほど……自覚がないということ……?」チャキッ


ライナー「待て待て待て、俺はサシャの前でケツの話なんかしたことないぞ!?」

ミカサ「自覚もなしに触ったの? ならば尚更危険」

ライナー「いや、まだ腰から下は触ってないはず……」ブツブツ

ミカサ「……なら、胸は?」



  ――  え? 触りたいんですか? ならどうぞ



ライナー「……」

ミカサ「……ライナー?」

ライナー(どうせ削がれるなら、いっそ揉むくらいはしとけばよかった……)ズーン...


ミカサ「それにしても……初回で名前を呼ばれるとは正直羨ましい。エレンは私の名前をちっとも呼んでくれない。アルミンの名前は今まで136回も呼んでいるのに、私はたった57回。羨ましい……」

ライナー「……」

ミカサ「……? どうしたの?」

ライナー「いや……名前を呼ばれるとは思わなかったから、その……正直、混乱してるというか」

ミカサ「あなたは開き直り方が足りない。もっと精進するべき」ハァ

ライナー「ベテランのお前と一緒にするなよ」

ミカサ「……サシャを起こしてみる?」

ライナー「やめてくれ」

ミカサ「そう……とても残念。せめて夢の内容だけは後で聞いておこう」

ライナー「……俺も知りたい」

ミカサ「教えなーい」プイッ

ライナー「お前なぁ……」



                            \ガサガサッ/


ミカサ「……」ピクッ

ライナー「……」ピタッ


                                 \グルルルル.../


ミカサ「……ヤマイヌが、前方から二匹」

ライナー「おそらく残飯目当てだろうな。……ここにはないってのに、馬鹿な奴らだ」

ミカサ「ねえライナー……ヤマイヌは、食べられると思う?」

ライナー「まあ……食えるんじゃないか? 焼けば」

ミカサ「ならよかった……これで、エレンをお腹いっぱいにしてあげることができる……」ジャキンッ!!

ライナー「サシャも喜ぶだろうな……あいつの笑った顔を見るのが楽しみだ……!」ジャキンッ!!




                                    \クゥーン.../



ライナー「おいおい、みっともねえ声で喚くなよ……サシャが起きちまうだろうが……!!」ギロッ

ミカサ「先に喉を掻き切ろう……それからゆっくり調理すればいい」



                               \ガサガサッ/



ミカサ「……逃げた」チッ

ライナー「意気地のない奴め」チッ


―― コニー・ユミル組

ユミル「……うー、寒っ」ブルッ

コニー「あれ? お前マフラー持ってなかったか? この前巻いてたろ」

ユミル「なくしたくないから置いてきたんだよ……」サスサス

コニー「ふーん……ほい、飲みもん入れたからやる」スッ

ユミル「どうも。……これお茶か?」ズズッ

コニー「ローズマリーだ」

ユミル「……なんだって?」

コニー「だからローズマリーだって。来る途中に生えてたんだよ」

ユミル「……」

コニー「乾燥させるとくせが強いんだけどな。生葉だと結構いけるだろ?」

ユミル「……変な味」ズズッ

コニー「そりゃ美味いって解釈でいいのか?」ニシシ

ユミル「……好きに取ればいいだろ」ズズッ


―― 翌日朝 移動中

サシャ「……ミカサ、ご機嫌ですね」テクテク...

ミカサ「昨日はいいことがあった。……サシャはどう? よく眠れた?」テクテク...

サシャ「はい! 今朝は気持ちよく起こしてもらえましたから体調はいいですよ! 体力もばっちり回復してます!」グッ

ミカサ「それはよかった」

エレン「アルミンって昔から人を起こすの上手だよなー、不思議だ」

ミカサ「アルミンは人を気持ちよく起こす才能がある」キリッ

エレン「なんだそりゃ」

サシャ「……」チラッ

サシャ(ライナー、遅れてますけど何かあったんでしょうか……さっきから地図の裏ばっかり見てますし……)


サシャ「ライナー、遅れてるみたいですけど大丈夫ですか? 昨日眠れませんでした?」ノゾキコミ

ライナー「火の番が終わった後はちゃんと寝た。問題ない」

サシャ「ならいいんですけど……あの、地図が裏返しですよ」

ライナー「……」クルッ

サシャ「上下逆です」

ライナー「……」クルッ

サシャ(様子がおかしいですね。別に体調不良とかではなさそうですけど……)

サシャ「……」ジーッ

ライナー「……」サッ

サシャ(地図で顔を隠しちゃいましたね……なんで目を合わせてくれないんでしょう)ウーン...

ライナー(昨日は勢いでミカサに乗っかっちまったが、一眠りしたら罪悪感が……すまん、サシャ……)ズキズキ

サシャ(私が寝てる間に、何かあったんですかね……聞けば教えてもらえるでしょうか?)チラッ

ライナー(すみませんすみませんすみません)


サシャ「昨日の晩に何かあったんですか? それとも何か変な夢でも見ました?」

ライナー「」ピクッ

サシャ(……どっちか当たったみたいですね。どっちでしょうか)ウーン...

ライナー「……昨日、何か夢を見たりしたか?」

サシャ「夢……ですか? いえ、特に何も――」

ライナー「本当か? 正直に話せよ? 隠し事はなしだぞ?」

サシャ「そう言われても……はっきり覚えてるのは、ちょっと今すぐは思い当たらないですね」

サシャ(ライナーが変な夢を見たわけじゃなさそうですね。私の夢のことを聞くってことは、つまり――)ハッ


サシャ「もしかして私、寝言で何か変なこと言ってたんですか?」

ライナー「ああ。言ってた」

サシャ「!? ち、ちなみに何を……?」

ライナー「教えてやってもいいが……その前に、どんな夢を見てたか思い出せ」

サシャ「そ、そんなこと言われても……今すぐですか?」

ライナー「今すぐだ」キッパリ

サシャ「ええっと、ちょっと待ってくださいね……うーん……」

エレン「おーい二人とも、もう着いちまったぞー?」

サシャ「えっ、もう? ……行きましょうか、ライナー」

ライナー「……そうだな」

ライナー(気になる……何の夢を見てたんだ、サシャの奴……)ジロジロ

サシャ(本当に大丈夫なんですかねー……? 目付きが怪しいですけど……)ウーン...


―― チェックポイント・しいたけ付近

ライナー「……思ったよりも生えてるな。しいたけ」

サシャ「訓練兵全員に一本ずつ配ってもまだ余りそうです。……ここで最後ですよね?」

ミカサ「そう。これで花束が完成する。ここまで長かった」バッサバッサ

エレン「おい、振り回すなよ」

サシャ「どうせ一つしか持ち帰れないんならおいしそうなのにしましょう。もしかしたら何か料理にした後にお裾分けしてもらえるかもしれませんし」ウロウロ

ライナー「いや、一班一本だから無理だろ。……味見とか言って食うんじゃないぞ?」

サシャ「食べませんよ。小さいころに生のしいたけ食べてお腹壊したことありますからね!」エッヘン

エレン「……食ったのか」

ミカサ「サシャだもの」

ライナー「サシャだもんな」

エレン「小せえころから変わらなかったのか……驚いたな」

ミカサ「私はむしろ安心した。やはりサシャはそうでなくては」

ライナー「そうだな。いいところは伸ばしていかないとな」


サシャ「……」ムー...

サシャ(なんか散々言われてるような気がしますけど……さてと、どれにしましょうかね)ウロウロ

サシャ(あまり傘が開いてなくて、軸が短いのはっと……)キョロキョロ

サシャ(……? 自然のものにしては、生え方が少しおかしいですね)ジーッ

サシャ(これ、もしかして誰かが育ててるものなんじゃ……あ、やっぱり)

サシャ(端に焼き印が押してありますね、えーっと、何なに……?)

サシャ「……あっ」


サシャ「エレン、ちょっといいですか?」チョイチョイ

エレン「なんだ? しいたけの良し悪しなんて俺に聞くなよ?」

サシャ「そうじゃなくて……ここ、見てください」ユビサシ

エレン「? どれだって?」ノゾキコミ

ライナー「何か見つけたのか?」

ミカサ「……これは、焼き印?」

サシャ「はい。……これって、調査兵団のマークですよね?」

エレン「!! 本当だ、間違いねえよ!」

ライナー「調査兵団所有のものだってのか? この木が?」

サシャ「あのですね、更にその下に、名前が焼いてありまして……」ユビサシ

ミカサ「……シャーディス?」

ライナー「……しっかり書いてるな」

エレン「ん? シャーディスって誰だっけ? 聞いたことがあるような……」ウーン...


ライナー「これが仕事……なわけないよな」

ミカサ「……もしかして、趣味?」

サシャ「ただの趣味で、こんなに大量にせっせと作ってるんですか?」

ミカサ「……」

サシャ「……」

ライナー「……」

ミカサ「……見なかったことにしよう」

サシャ「顔見たら思い出しそうなんですけど」

ライナー「言うな。帰還したら俺が本部で報告しないといけないんだぞ」

エレン「なー、みんなで何話してんだ? わかる話をしてくれよ」

ミカサ「……エレン。世の中には、知らないほうが幸せなこともある」


―― 同刻 コニー・アルミン・ユミル・ミーナ組

コニー「あとはナデシコ採って終わりだな! アルミンとミーナは大丈夫か?」

アルミン「うん、大丈夫だよ」

ユミル「それにしちゃ二人ともペース落ちてるぞ? 昨日ちゃんと寝たのか?」

ミーナ「……ね、寝てたよ。ずっと」

ユミル「本当かぁ?」ジロッ

コニー「ユミル、本人たちが大丈夫だっつってんだから平気だって。――俺ら先行して道見てくるけど、二人は自分たちのペースでいいからな」

アルミン「助かるよ……ありがとう、二人とも」

ミーナ「ごめん、せめて遅れないようにするね」

コニー「いいっていいって。こういう時ぐらい俺たちに任せろ」

ユミル「頼むから無茶してペース崩すなんてことはしてくれるなよ。……じゃあ、先に行くからな」ガサガサ


アルミン「……」

ミーナ「……」

アルミン「あのさ」

ミーナ「うん」

アルミン「もしかして、ミーナ……昨日起きてた?」

ミーナ「……うん」

アルミン「……いつ?」

ミーナ「ミカサが火の番してる時」

アルミン「……」

ミーナ「……アルミンも?」

アルミン「……うん」


ミーナ「えっと……元気出してね。うまく言えないんだけどさ」

アルミン「いや、ミカサがそういう子だってことは薄々わかってたんだからいいんだけどさ。……もう一人」

ミーナ「あっ……」

アルミン「……」

ミーナ「……」

アルミン「黙っててあげようね」

ミーナ「……言えなくない?」

アルミン「言えないね……」



アルミン「……知りたくなかったね」

ミーナ「……そうだね」





おわり


というわけで終わりです 読んでくださった方ありがとうございましたー!
山岳訓練っていまいちよくわからなかったんですがこういうのでよかったんでしょうかね

補完のオマケはアルアニ+ベルアニのアニのお話なので苦手な人はそっ閉じしてください
補完なのでオチなしヤマなしです


―― ある日の資料室

アルミン「……」ペラッ

アルミン(これ、何度読んでも面白いなぁ……借りて帰って部屋で読もうかな。もう五回目だけど)ペラッ...

アルミン「……」ペラッ

アニ「……」

アルミン「……」ペラッ

アニ「……ねえ、正面に座ってるんだから無視しないでよ」ツンツン

アルミン「ん? ……ああ、どうしたの? アニ」パタンッ

アニ「ちょっと相談があるんだけどいい?」

アルミン「……? 僕に?」

アニ「うん。――あのさ、栗を使った料理が載った本を知らない?」

アルミン「料理? ……そっか、この前採ってきた栗で何か作りたいの?」


アニ「察しがよくて助かるよ。それで、何か心当たりない?」

アルミン「心当たりというか……そもそも、なんで僕に聞いたの?」

アニ「あんたなら詳しいと思って」

アルミン「それは違うよ……違うよ!!」ガタッッ!!

アニ「アルミン、声が大きいよ。あと立ち上がらないで」

アルミン「僕は開拓地で野菜クズの浮いた薄いスープを飲んできてそれ以前もおじいちゃんが作った味のほとんどない柔らかい料理を食べてきた人間なんだよ!? 聞く相手を間違ってない!?」ダンッ!!

アニ「ここの資料は全部読み尽くして、トロスト区の本屋にも顔が利いて、お気に入りの古本屋が何軒かある。あんた以外にこういう訓練兵は他にいる?」

アルミン「……いないと思う」

アニ「正直だね。……まあ座りなよ。みんな見てるから」

アルミン「うん」トサッ


アルミン「……あれ? でも、アニって料理できたんじゃなかった?」

アニ「“できる”と“得意”は違うでしょ? レシピがあれば私でも大抵のものはできるけど、何もない状態から作るなんてことは無理」

アルミン「そっか。じゃあ、必要なのはレシピだけなんだね?」

アニ「うん。……悪いんだけど、もしよかったら一緒に探してくれる?」

アルミン「……」

アニ「……嫌ならさっさと断ってよ」イラッ

アルミン「ううん、ごめん。そういうわけじゃないんだ」ブンブン

アルミン「そんな必死そうな顔しなくても、僕にできることなら喜んで協力するよ。アニ」ニコッ

アニ「……“必死そう”は、余計」

アルミン「あっ……ごめん」

アニ「別にいいけど。……ありがと」ボソッ

アルミン「あはは、どういたしまして」


―― 十分後

アニ「……」

アニ(アルミン、何の本を探しに行ったんだろ)

アニ(料理本なんか、ここの資料室にはないはずだけど……あ、戻ってきた)

アルミン「アニ、待たせてごめん。思ったより見つけられなかったよ。取り敢えず五冊だけ持ってきた」ドサッ

アニ「……五冊もあったの?」

アルミン「うん。歴史書だけどね」

アニ「……私は料理の作り方を書いた本を探してるんだけど」

アルミン「わかってるよ。……あのね、歴史っていうのは色々切り口があるんだ。料理もその例外じゃないんだよ」パラパラ...

アルミン「えーっと……あった、ここだ」ユビサシ

アニ「……栗ご飯の作り方?」


アルミン「この歴史書を編集した人は料理が好きだったみたいでね、隙間にこういう記事がたくさんあるんだ」パラパラ...

アニ「……随分自由で自分勝手な奴だったんだね、そいつ」

アルミン「そうかな? 僕としては、こういう試みは嫌いじゃないよ。――例えばこの記事みたいに食べ物の話題があれば、勉強が苦手なサシャも食いついてくるでしょ?」

アルミン「歴史書なんて手に取る人は少ないからさ。全く興味がない人が取っかかりを持ってくれるなら、僕はこういうのもアリだと思うんだ」

アニ「……」ジーッ...

アルミン「あっ、ごめん……つまらなかったかな」

アニ「そんなことないよ。――あんた、意外とよく喋るね」

アルミン「そう……かな」ポリポリ


アニ「……取り敢えず五冊、ってことは他にもあるの?」

アルミン「うん、今持ってきたのはパッと思いついた分だけなんだ。他にもその人が編集してる本があったはずだから探してくるよ」

アニ「私も手伝おうか? 名前を教えてくれたらわかるし」

アルミン「いいよいいよ、アニはどんな料理を作るかどうか考えてて。――それじゃ行ってくるね!」ガタッ タタタッ

アニ(あ……行っちゃった)

アニ(おとなしくレシピ探そうかな)ペラッ

アニ「……」

アニ(全く……ミーナもアルミンも、お人よしだよね)


―― 山岳訓練 夜

ベルトルト「……」

ベルトルト(……火の番って、意外と暇だなぁ)ボンヤリ

ベルトルト(ジャンと交替するまで、あとどれくらいだっけ……)ウツラウツラ

アニ「……ベルトルト」コソッ

ベルトルト「……? アニ、寝たんじゃなかったの?」

アニ「ちょっとあんたに話があってさ」

ベルトルト「……今?」

アニ「今。――あのさ、これ……作り過ぎちゃったから、あげる」スッ

ベルトルト「……え? 僕に?」

アニ「他に誰がいるの?」ムッ

ベルトルト「ああ、ごめん……よく持ってきたね、これ」

アニ「本当は、兵舎で渡してもよかったんだけど……下手に見られて変な噂は立てられたくないからね」


ベルトルト「……僕と噂立てられたくないなら、ライナーを経由してもよかったのに」

アニ「それは無理。今回あいつの分はないんだよ。一個余計にねだられたらミーナの分がなくなっちゃうし。それと……直接、あんたに渡したかったからっていうのもある」

ベルトルト「……直接」

アニ「うん。……これ、この前のお礼も含んでるから」

ベルトルト「お礼? ……ああ、この前出かけた時のか」

アニ「うん。――甘いの、そこまで好きじゃなかったでしょ? この前は無理に付き合わせて悪かったね。……まあこれも甘いんだけど、栗なら大丈夫かなって思ってさ」

ベルトルト「確かに得意ではないけど、あれくらいなら全然平気だよ?」

アニ「そう? ……じゃあ、また頼もうかな」

ベルトルト「うん。いつでも誘ってよ」



ベルトルト(そういえば……この前のお菓子の交換は間接キスになってるって、アニはわかってるのかな)

ベルトルト(いや、たぶんわかってないよね。そういう雰囲気にならなかったし……)

ベルトルト(……別に、ジャンやアルミンの言うことを鵜呑みにしてる訳じゃないけど)チラッ


ベルトルト「……ねえアニ。これ、半分こしようよ」

アニ「私はもう味見したからいいよ。いらない」

ベルトルト「この前サシャが言ってただろ? 美味しいものは分けあおうって。これも分けるべきだと僕は思うんだけどな」

アニ「……じゃあ、一口だけもらおうかな」

ベルトルト(……よし、気づかれてない)

ベルトルト「はい、どうぞ」スッ

アニ「……どうも」パクッ

ベルトルト「」ピクッ

ベルトルト(い、今……アニの上唇が、僕の人差し指に……当たった……!)

アニ「……うん、やっぱりおいしい」モグモグ

ベルトルト(うわぁっ……く、暗くてよかったぁ……! 顔赤いの、バレてないよね……!?)

アニ「……どうしたの? 食べないの?」

ベルトルト「えっ!? ……あ、ああ、うん、食べるよ。食べる食べる」

アニ「……?」


アニ(なんか挙動不審だけど……やっぱり甘い物はダメだったのかな)

アニ(嫌なら嫌って言えばいいのに……大体、まだ一口も食べてないのに食わず嫌いしないでよね)イライラ

アニ(……でも、本当に苦手なら半分の量でもきついか。だからまだ食べようとしないのかも)

アニ「……無理して食べなくてもいいけど。それ」

ベルトルト「いや、食べるよ食べる! 食べます!」ブンブン

アニ「量が多いならもう半分にしようか? 私が食べてあげてもいいけど」

ベルトルト「えっ……えっ?」ドギマギ

アニ(……やっぱり態度がおかしいな。何考えてんだろ、ベルトルトの奴)ジロッ...

ベルトルト(うっ……疑われてる……ジャンもアルミンもうそつきだ、全然幸せじゃないよ、蛇に睨まれてる気分だ……)ダラダラダラダラ

アニ(待てよ、私が食べた後から態度がおかしくなったから、もしかして――)


アニ「……もしかして、私が口をつけたから食べられないの?」

ベルトルト「いやむしろその逆っていうか」

アニ「……逆?」

ベルトルト「あっ」

アニ「……」

ベルトルト「じゃあいただきます」アーン

アニ「ちょっと」ガシッ

ベルトルト「……」ダラダラダラダラ


ベルトルト(ばっ、バレちゃったあああああああああああああっ!! どうしようどうしようどうしよう!! どうしたらいいのこれ!?)オロオロオロオロ

アニ「……や、やっぱりダメ。そういうことならお菓子返して」グイッ

ベルトルト「えっ、で、でも……」アタフタアタフタ

アニ「もう、返してってば……!」グイグイ

ベルトルト「うわっ! 押さないで、危ないから――っ!?」グラッ



                           \グルンッ ドスンッ!!/


ジャン「なんだよ、うるせえぞベルトルト……ぉおっ!?」

ジャン(べ、ベルトルトが……アニを押し倒してやがる……! 何やってんだこんな時に訓練中だぞ!?)

クリスタ「今の音、なぁにー……?」ゴシゴシ

ジャン「……」サッ

クリスタ「んぅ……? なんで目の前がくらいの……? あかりは……?」ムニャムニャ

ジャン「クリスタは見ちゃいけません」

クリスタ「ユミルみたいなこと言わないでよー、ジャン……。もしかして、ジャンはユミルなの……? それとも、ユミルがジャンなの……? そもそもジャンは何……? 馬……?」

ジャン「馬じゃねえよ。人間だっての」

クリスタ「私、馬はだいすきだよ……?」

ジャン「わかったわかった。いい子だから寝ろクリスタ」

クリスタ「そっかぁ、そうだね……いい子になりたいから寝るね、私……」ムニャムニャ

ジャン「……」

クリスタ「……zzz」スピー...


ジャン「……それで、お前らなんでおっぱじめてんだよ」

ベルトルト「い、いや、違うよ、そんなつもりじゃ――」オロオロ

アニ「……じゃ、邪魔」ゲシッ

ベルトルト「痛い!」ゴロンッ

アニ「……私、少し離れたところで寝るから」スタスタ...

ジャン「お、おい! ……ダメだ、アニの奴行っちまった」

ベルトルト「……」ズーン...

ジャン「おいベルトルト、何があったんだ? 膝抱えてないで説明しろって」

ベルトルト「……」グスッ

ジャン「!? おっ、おい、泣くなって! なっ? 俺が悪かったから」ナデナデ

ベルトルト「ジャンとアルミンの馬鹿……」グスグス



おわり

というわけでオマケも終わりです オチなしヤマなしですみません

次回祭り回の予定だったんですがちょっと書きたい話ができたので次々回に持ち越しになります
今週はライナーがサシャの寝顔を堪能したので来週は逆です 今回ほど変態にはならない……はず! それではまた来週!

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