五和「たったたた建宮さん!?」(190)

建宮「今日の晩はサンタクロース萌えメイドで行くしかないのよ!」

五和「ま、またそんなものを!!」

建宮が両手で広げている衣装に五和は二重の目をぱちくりさせている。

その衣装は身体のラインがはっきりとわかりそうな赤と白のベースにフリルがたくさんついている。
もちろんサンタクロースの帽子もついていて、メイドであることを強調するためかホワイトブリムがくっついている。
胸元には谷間が見えるようにハート形の穴。
天草式が誇る隠れ巨乳の五和のために建宮は「いつもの」デザイナーに頼んでおいたのだ。

建宮「これを着て、自分の武器をアピールすればあの上条当麻もイチコロ間違いなしなのよ!」

五和「ぶ、武器ってなんですか!? っていうか、わた、私は別にそんな!」

今日はクリスマスイブ。
天草式の面々は正月を家族のもとで過ごすため日本に戻ってきたのだ。
建宮と五和を囲う輪のように他の天草式の面々は待機しているが周囲に完全に溶け込んでいる。
街はこの時期ならではの飾り付けがなされ、歩く人々もどこか浮足立っている。
しかし、そんなクリスマスムードの街角で騒ぎ合っている2人はあろうことか周囲の目を引いていた。

建宮「五和、俺はよーくわかってるのよ。お前の気持ちは」

五和「え、な、なんですか?」

建宮のどこかにやけながら悟ったような表情に五和は背筋がぞくっとする。
前にも、似たようなことが……。

建宮「ま、とにかくこれを着れば大丈夫なのよ」

五和「全然大丈夫じゃないです!そんなの…着れませんよ!」

建宮「今日はイブ。俺らみたいな連中といるよりあいつと過ごしたいのよな?」

五和「!! わた、私は別に! 十字教徒として天草式のしきたりに則り――」

建宮「はぁ、お前は前にこんな寝言を言っていたのよ?」

と、建宮は懐から手のひらサイズの黒い機械を取り出し、

五和『……上条さん…クリスマス……ケーキ…………ぐすっ…一緒に…』

五和「きゃあああああああああああああああ!! な、な、な、何してるんですかっっ!!」

五和は顔を赤くし、わなわな震える手で建宮のコートの裾を掴む。
すっかり湯気が上がった彼女に建宮は、

建宮「俺は可愛い後輩の背中を押してあげたいだけなのよ」

建宮が少し申し訳なさそうにするため、心優しい五和はそれ以上怒れない。
何より上条と一緒に過ごしたいというのは本心だったため行き場を失った興奮にわたわたしていた。

建宮「五和…………だめ?役に立てると…思ったのよ」

建宮は暗い顔で呟いた。
その言葉を聞いて五和は思った。
こんなに自分のことを思ってしてくれたのにそれを反故にすることはできない、と。
それに上条当麻と今日を過ごしたいのは確かな事実。
白い帽子をかぶっている五和は顔を真っ赤にし、クリスマスカラーさながらの状態で、

五和「わ、わかりました!着ます!着て頑張ります!」

今日クリスマスイブに勝負をかける宣言。
その声に、会話を聞いていた天草式の面々は色めき立つ。

建宮「いえーい!やったのよ!」

牛深「やりましたね!ついに!」

香焼「さすがすね!元教皇代理!」

野母崎「乳が…小さければなぁ」

諫早は小さくガッツポーズをし、対馬はこんな男衆を見て不満そうにふんと鼻を鳴らした。

牛深「時に対馬、イブの予定は?」

対馬「えっ!?いや、私は…」

牛深「いや、やっぱいいわ」

香焼「そうだ。どうでもいい」

対馬「な……な……」

野母崎「対馬は乳が小さくていいなぁ…」

男衆は対馬には興味がないのか実にそっけない。
ただ一人を除いて。

五和「えええ、ちょっ、さっきの顔は演技だったんですか!?」

建宮「もうそんなことはどうでもいいのよ。五和、作戦はバッチリ用意してあるから心配しなくていいのよ!上条当麻に全力でアピールすれば!!そうすれば二人っきりのクリスマス!!」

五和「か、かみじょうさんと、かみじょうさんとふたりっきり…くりすます…ごにょごにょ」

五和は両手の人差し指をツンツンと合わせて聞き取れない言葉を呟いている。
そんな彼女に建宮は妙に真面目な顔で、

建宮「五和、やるのよな?今日やるしかないのよ?」

五和「は、はい!頑張ります!」

透き通るような冬の澄んだ青空に五和は拳を突き上げる。
もう引けない状態になってしまったがそれが彼女を前向きにさせた。
もうやるしかないのだ、と。
天草式の男衆に激励を受けた五和はバッグにおしぼりがちゃんとあるか確認するのだった。

建宮(うまくいったのよ。これは面白そうなことになってきたのよ)

ぼんやりとした形を作る天草式の輪から少し距離を置いてその様子を眺める影が一つ。
12月だというのに片方の裾を根元まで切断したTシャツに片足だけ大胆に切ったジーンズという寒々しい恰好をしている。
そう、天草式十字凄教の女教皇(プリエステス)、神裂火織(18)である。
再びトップの座に戻り、新生天草式の一員であるのだが、

神崎(なっなんて破廉恥なっ!?天草式はいつの間にこんなことに……はっ!やはり私がいぬ間に誤った方向に…!)

頭を抱え、苦悶の表情を浮かべる。
生真面目な神崎は自らの責任を感じているのだった。
だが彼女を悩ませているのはそれだけではない。

神崎(あ、あの子が上条当麻のことを…!?しかもあの衣装…。前に聞いたのは本当だったんですね。くっ、このままでは私の順位がどんどんと下に…。禁書目録という高い壁もあるというのにっ!)

神崎は恨めしげに五和を見る。
土御門が以前に言っていたように、五和は空回りしているだけであって行動力はあるようだ。
そしてあの言葉が蘇る。

土御門『つまりねーちんは五和に負けているんだにゃー。女の器のレベルで』(16巻より)

神崎(こ、これが女の器の違いなのでしょうか…?)

×神崎→○神裂

感謝、尊敬、その他諸々のちょっと言えない上条当麻への想いの総量には自信がある神裂だったが、行動に移すにはトラウマが。
そう堕天使エロメイドの姿を披露した時の上条の怯えた目が忘れられないのだ。

神裂(うわァァああああああああああああああああああッッ!!私はなんてことを!!)

建宮「なんて顔をしておられるのですか、女教皇様!」

目ざとい建宮が神裂の元へとやってきた。

建宮「もちろん、今回も女教皇様の衣装はイギリスから持ってきていますなのよ!バージョンアップしたハイパー堕天使ドエロメイドなのよ!!」

神裂「ま、またそんなものをォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

建宮が掲げたのは前のバージョンよりもエロ5割増しの悩殺メイド衣装。
何故か可愛らしい赤いリボンが結ばれており、

建宮「私からのクリスマスプレゼントなのよ!」

神裂「余計なことを!だ、第一、私がこれを着なければならない理由なんてどこにも!」

建宮「そんなことおっしゃらず、せっかく用意したのよ。今日のために…」

建宮はしょぼんとした顔を見せる。

神裂「またその手を!先ほど見ていましたよ!私にはその手は通用しな――」

建宮「うう…救われないのよ…」

神裂「ぐ、ぬ………」

その言葉に神裂はぴくと反応する。
建宮の台詞が耳に張り付き彼女をいっそう悩ませる。
神裂はしばし葛藤した後、

神裂「わ、わかりました!着ればいいんでしょう、着れば!!」

叫んでしまった。
無理もない。
彼女の魔法名はSalvare000。
救われぬ者に救いの手を。
その手を向ける先は人を問わない。
あの少年の姿を見て神裂はそれを一層強く意識していた。
敵味方を問わず、思い立ったがすぐに救いの手を差し伸べ、その者の世界を守る少年。
聖人という巨大な力を持つ彼女だからこそ、力を持たずとも懸命に力を尽くす彼の姿に惹かれるものがあり、実際に人々を救い出す彼に尊敬の念を抱いているのだ。
彼ならば、どんな小さなことでも手は差し伸べるだろう。
そう思った彼女だからこその叫びだったのだ。
その少年に向けた密かな淡い想いを胸に秘めて。
新生天草式のトップであり、リーダーとして普段は毅然と振舞う神裂火織。
そんな彼女は恋する乙女、正真正銘の18歳である。

土御門「ぎゃはははははははは!そいつは傑作だぜい!ねーちんも動くとはな」

建宮「そうなのよ!だからここはひとつ、よろしくお願いするのよ!」

土御門「おーけーおーけー。もちろんだにゃー」

作戦のため天草式の面々と一度別れた建宮は学園都市内の土御門の部屋を訪れていた。
本棚にはメイドに関する本がずらっと並んでいる。
2人は同士なのだ。

土御門「この部屋を貸すなんてことぐらいお安いごようだにゃー」

建宮「衣装を着た様子はばっちりカメラに収めるのよ。だから俺に任せて欲しいのよ」

土御門「生で見たいけど仕方がないにゃー。メイドという萌え要素を得たねーちんのハレ姿が楽しみだにゃー」

建宮「ふふふ、聞いて驚くなかれ!今回はハイパーでドエロなのよ!!」

土御門「うっほおおおう!そいつは楽しみだぜい!やっぱコスはメイドに限るにゃー!」

舞夏「兄貴ー、どういうことだー?」

建宮と楽しげに談笑していた土御門の顔が凍る。
彼の義妹、土御門舞夏がやってきたのだ。
いつもの清掃用ロボットには乗っておらず、自分の足ですたすたと歩いてくる。
幼さが残る顔つきには怒りの文字が見てとれる。

舞夏「兄貴はまだメイドを萌え属性の一つとしか見てないようだなー。これは鉄拳制裁が必要だなー」

土御門「ぎゃー!あれはごめんだにゃー!こ、これからイブのデートだってのに顔に傷を作っちゃまずいぜい?」

舞夏「むー。仕方がないなー。今回は見逃してやるぞー。」

土御門「ふー、助かったにゃー」

舞夏「その代わり、イブをたっぷり楽しませてもらうぞー」

土御門「そんなのお安い御用だにゃー。そういうわけだ。この部屋は自由に使っていいにゃー」

建宮「恩に着るのよ。ふふふ、これであとは実行に移すのみなのよ」

イン「クリスマス~♪クリスマス~♪今日はクリスマス~♪」

上条当麻の部屋。
インデックスはご機嫌に自らが作詞作曲した『クリスマスの歌』を朝から何百回も歌っている。
その両手にはスプーンとフォークが握られており、

イン「とうま、とうま。私はお腹が空いたんだよ?今日の特別なごはんはまだなの?」

上条「はぁ、不幸だ…」

上条は大きなため息をつく。
こっちは今日何回目だろうか。



ちょい離脱。
あんまり需要なさそうなんで落ちたらまぁそういうことで。

需要が無い×
テンポが遅いから書き込まない○

>>51
あ、申し訳ない
ラストまでの流れが突然頭に浮かんだのでベッドから飛び起きた



昨日インデックスのためになんか用意してやるかなーと買っておいたチキンだのピザだのケーキだのといったクリスマスらしい食べ物は朝食であっという間に飲み込まれてしまった。
それも冷蔵庫を勝手に開けられてだ。
更に、もしかしたらサンタさんとかまだ信じてるかもなーと思って買っておいた長靴型の綺麗に包装された箱に入ったチョコやクッキーの詰め合わせも早々に発見され、
「私はそんなこどもじゃないんだよ!」との言葉と同時に噛みつかれ、気がついた時には無残な箱の欠片しか残っていなかった。
深夜に堂々と風呂場からインデックスの眠るベッドへ向かうためにサンタの衣装も買っておいた上条だったがそれも無駄に終わった。

イン「ねえ、とうま。……もう、またそうやって私のこと無視するんだから!」

上条「ふざけんな!上条さんは昨日からせっせと今日のために準備をしてきたっていうのにそれを一瞬の内にパーにしたのはお前だろ!」

イン「む、それは聞き捨てならないんだよ、とうま。だいたいあんな量じゃ足りないんだよ」

上条「うるさい!このブラックホール!白い修道服着てる癖に腹の中も心ん中も真っ黒じゃねーか!!だいだいなんですか?朝食べた分に関して感謝もないんですか?いくら温厚な上条さんといえどもそういうのは許しておけませんよ!」

イン「ぐぬぬぬぬぬ……ぎにゅにゅにゅにゅにゅ……とうまァァあああああああああああああああああああッッ!!」

インデックスが動物のようなうめき声を上げる。そして、

上条「ぎゃああああああああああああああああああ!不幸だぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

上条の右手に宿っているのは幻想殺し(イマジンブレイカー)。
イブを楽しく過ごしたいなどという幻想(ゆめ)はあとかたもなく破壊される。

同時刻。
上条当麻の隣、土御門元春の部屋。

神裂「こ、これでいいんでしょう!」

神裂は例の悩殺衣装を身に着けていた。
豊かな彼女の胸はそれを隠す僅かな布から溢れんばかりに自己主張をしている。
零れ落ちないのが不思議なほどだ。
いや、零れているのかもしれない。

建宮「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!女教皇様!!お似合いなのよ!!!」

神裂「ふん、そんな気休めの言葉はいりません。で、私はこれからどうすればいいんですか?」

顔を赤らめた神裂はどかっと床に座る。
内心は相当焦っているのだろう。
いつもの彼女なら見せることのない所作だ。

建宮(おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!たまらんのよ!!)

建宮「しばしお待ちを。とりあえず私は五和と上条当麻の部屋に向かいますのよ」

そう言うと建宮は不気味な笑みを浮かべ、テレビを指差し、
建宮「女教皇様、電源をお入れくださいなのよ」

神裂「? いったいテレビが何だというのです? そもそも私はこういった機械の類は――!?」

神裂は驚き、目を皿のように広げ、画面を食い入るように見つめる。
そこに映っていたもの、それは上条当麻の部屋だった。

神裂「か、か、かか上条当麻の部屋!?…じー……はっ!?こ、これはどういうことです!?」

建宮「どういうことって、御覧の通りなのよ」

神裂「ここここれは盗撮です!」

建宮「なーにをいまさら言っておられるのよ。今までも監視やら保護やらで上条当麻のプライバシーなんてもんはあってないようなものなのよ」

神裂(上条当麻…またしても…申し訳ない)

神裂はまたしても借りを感じるのだった。

建宮「ま、とにかくこれを観て待ってて下さいなのよ」

神裂「は、はぁ、よくわかりませんが待っていればいいのですね」

眼福にあずかった建宮は軽やかな足取りでドアに向かう。
目の保養はまだ終わりではないのだ。

そう、次に待っているのは、

五和「あ、あの…これ、寒いです……」

露出の多いラブリーなエロ萌えサンタ、五和だ。
建宮の計算通り、胸のハートの部分には深い谷間が刻まれていた。
いつもは街に溶け込むためにギャル風の服装が多い五和だが、くりくりとした大きな目に胸元を中心に丸みを帯びた体躯は甘めなファッションも実によく似合っていた。
冷たい風が五和の髪と衣装のレースに吹き付ける。
両腕で自らを丸く抱え、かたかたと身体を震わせる五和は実に愛らしい。

建宮(こ、これは…想像以上なのよ…!これならいけるッッ!!)

建宮「寒いなら早く部屋に入るのよ。ほらほら」

五和「え!は、はい!…久しぶりだなぁ、ははは」

建宮は上条の部屋のドアの前に立つと勢いよく開け放った。

建宮「上条当麻――――――――!!」

上条「痛たたたたたたたたたた!?た、建宮!?」

インデックスに頭をかじられていた上条は何事かと振り返った。

建宮「へへーん、遊びに来たのよ」

上条「? 遊びにってお前…まあいいか。上がれよ。イギリスからわざわざ来たのかー」

建宮「ああ、そしてもう一人」

建宮は身を横にしてばばーんと両腕を広げる。
長身の建宮の背中にしがみつき、隠れるようにしていたものの、こうして姿を現すこととなってしまったのは、

五和「あ……おひさしぶり、です。……めりーくりすます」

上条「!? い、五和…………?」

上条は唖然とした表情だ。
お口がぽっかりと開いている。

五和「えっ! やっぱり、やっぱりやっぱりやっぱり衣装変ですよねごめんなさいッ!!」

上条「い、いや、そんなことはないんじゃないかな?」

五和「そ、それってどういう――」

その先を聞こうとした五和だったが、遮るように、

イン「なんで天草式のいつわがまた来てるの。………………いいもん」

インデックスの様子に上条の口はすっかり乾く。
デンジャラスチェックポイントの再来だ。
あれは第22学区でアックア戦った日だったか。
あの時はどう切り抜けたのかと必死に記憶を辿っていると、

建宮「禁書目録、ちょっとばかり用事があるのよね」

上条&イン&五和「!?」

インデックスに用事。
――魔術師か。
上条はさっと神経を引き締める。
これまで幾度となく彼女の頭の中の10万3000冊の魔道書を狙った魔術師の襲撃を受けてきた。
更には国家をも超え、世界をも揺るがす出来事も起きているのだ。
そもそも建宮たちが突然遊びにくるなんておかしいじゃないか、などと考えていると、

建宮「そんな怖い顔するなよな。大丈夫、今回ばかりは事件じゃないのよ」



ちょっと食事で消えます

イン「じゃあなんなの?」

建宮「ま、同じイギリス清教に所属する者どうし、色々あるのよ。ほら、ちょっと」

建宮は手でインデックスを招き寄せ、そのままドアの向こうへと連れ出す。
と、

建宮「上条当麻、携帯電話を貸してほしいのよな」

五和「あっ、それなら私――」

建宮「上条当麻、貸して、ほしいのよ」

五和「……」

上条「ん?まあよくわかんねぇけど、ほらよ」

建宮「用事済ませたらこっちから五和の携帯電話に連絡入れるのよ。あ、そうそう、五和の服は生地の触り心地がすごいらしいのよ。じゃ」

上条「お、おう」

パタパタと手を振り、見届ける2人。
ドアが閉まって数秒後、五和は現状をやっと認識した。
本当にイブに上条当麻と二人っきりになってしまった、ということを。

イン「で、よーじってなんなの?」

建宮「まあまあ、くればわかるのよ」

そう言って建宮が連れて行ったのは上条の部屋から数メートル、お隣さんの部屋だ。

イン「まいかの部屋?」

建宮「ささ、入った入った」

ドアを開けると、神裂はテレビに掴みかかり、8.0の視力にもかかわらず画面との間に隙間がないほど近くで隣の部屋を観察していた。
画面にはどうしたものかと腕を組んで考え込んでいる上条と顔を林檎のように真っ赤にしてわたわたしている五和の姿があった。

神裂「あ、な、なんなんですか!これは!」

建宮がドアを開ける音には気づかなかった神裂だが、締める音には気づいたようで、びくう!と飛び跳ねて建宮たちの方を向いた。

神裂「禁書目録……?いったいこれはどういう?」

イン「私もわからないんだよ。とうまといつわを部屋に置き去りにして」

インデックスは神裂の横に座り首をかしげ、神裂も同じような動作をする。

神裂「えっと、あなたはなんと言われてここに?」

イン「あのクワガタによーじがあるって言われて」

神裂「クワガタ?……あ、ちょっと――」

建宮「じゃあ、そういうことなのよ」

神裂&イン「あっ!!」

かちりと鍵が締まる音。

建宮「まぁ二人でのんびりクリスマスイブを過ごすといいのよ」

神裂「こ、これはどういうことです!?」

建宮「まーまー、女教皇様、落ち着いて、折角のクリスマスイブなのよ?」

神裂(私だって…私だって上条当麻と…。そのためにこの格好だって……)

神裂「ふ、残念ながらそうはいきませんよ。私は聖人。その腕力をもってすれば鍵のかかったドアを開けることなどはたやすいことです。
窓ガラスや壁を壊して出ることも可能。そんなことも気づかなかったんですか?」

珍しく得意気に語る神裂。その調子に合わせて建宮は、

建宮「さすがは女教皇様。御見それしたのよ。確かに強引に出ることは可能ですのよな」

ドアの外の建宮は一拍置き、

建宮「しかし、この部屋が誰の部屋かお気づきで?」

神裂「!? こ、この部屋は――」

イン「まいかの部屋なんだよ」

神裂「まい、か…土御門!!」

はっとした表情の神裂にドアの向こうからやけに平坦な声が飛んでくる。

建宮「女教皇様は土御門にまで借りを作ってしまうのよなー。上条当麻とイブを過ごしたいからって
ドアをぶっ壊しても、壁や窓を突き破っても、部屋をめちゃくちゃにしてまでも愛しの相手に会うためならそれぐらいの犠牲は厭わないのよなー」

神裂「な…な…」

神裂(くぅぅうううううう!こんな計画ではなかったはずです!一体……何故……!?)

そして神裂はインデックスから冷たい視線を浴びていた。
上条とイブを過ごしたいーという内容の会話を聞いていたからだろう、ぴきぴきと青筋を立て、つーんとした顔で「ふんっ」を繰り返している。

建宮「女教皇様もたまには禁書目録とごゆっくり。テレビでもご覧になるといいのよ。では」

神裂「ちょっ、こらァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

寮から颯爽と走り去る建宮。
ガッツポーズをし、天高くに向けて笑い声を上げる。

建宮(ここまでは全部うまくいったのよ!五和は二人っきりかつあの衣装のおかげで蜜月のような甘いクリスマスイブを過ごし、
女教皇様はその様子を生中継で見て一層上条当麻への想いを募らせて……おおおおおお!!
何かが起こりそうなのよ!!さあ上条当麻、お前はどっちを選ぶのよ!?)

上条「何か外が騒がしかったけど静かになったな。なんだったんだろ?」

五和「え!?ささささあ!ななななななな何だったんでしょうねッ!!」

上条「? 五和? やっぱり何か事件なのか?」

五和「ちちちちちちちちち違いますッ!!」

五和(これは私のために用意してくれた機会なのであって……!!なんとか、なんとかしなきゃ!!)

上条「うーん、でもやっぱり気になるなー。ちょっと見てくるわ」

五和(!? もしかしたら外でまだ何か準備とかしてくれてるかもしれないし、それは、ダメッ!!)

五和「い、行かないで下さいッ!!」

上条「えっ!?」

思わぬ言葉に上条はどきりとする。
五和は上気し、座ったまま身をよじった体勢でなんだかとっても艶っぽい。
よくよく見るとすごい恰好だ。
胸がぱっくりと開いたサンタクロース。
健全な男子高校生の上条が夢に描かないこともないこともないような格好をした女の子が目の前にいるのだ。

上条「え、えと」

五和(い、言わなきゃ!ちゃんと!)

五和「あ、あのっ、一人にしないでくださいッ!!」

五和(はぁぁあああ~!言えた!)

興奮した五和は直球しか投げることができなかった。
そんな球も上条にはちょっとした変化球に見えるようで、

上条(五和が狙われてんのか…?……ま、まあそういうことならしょうがないな)

上条「おう、わかった。俺はどこにもいかねぇよ」

五和はぱぁあと顔を輝かせ、生き生きとした表情で、

五和「ありがとうございますッ!!」

ぺこりと一礼するのだった。
その様子も上条には迫りくる危機の香りに感じられてしまうのだが。

上条「えっと…どうしようか」

五和「え、そ、そうですねッ!!」

上条はさっき建宮が去り際に言った台詞を思い出した。

上条「そういえば五和の服、触り心地がどうとか言ってたよな」

五和「そそそうでしたね!」

五和(あれ?この生地そんなにいい触り心地かなぁ?)

上条「えと、触ってもいいか?」

五和「もちろんッ!ど、どうぞッッ!!」

上条がそっと右手を伸ばし、五和の肩の部分の生地をつまむと、

ストン、と。
五和を中心に赤い花が咲くように、衣装の縫い目がほどけて落ちた。

五和っていつから上条さんが好きになったの?

>>98
原作初登場の11巻ではもう既に


上条&五和「!?」

あまりの事態に上条も五和も首まで真っ赤だ。

サンタの衣装は胸が苦しいということで上の下着をつけなかったのがよくなかった。
五和は腕と落ちた布地で必死に胸を隠す。
この際白いパンツなどに構っていられない。

五和「見、見、見……ッ!」

五和はあの時と同じ表情だ。
頭に噛みついたり、10億ボルトの高圧電流で黒焦げにしようとはせず、限りなく原色に近い赤い顔で、
目に涙を溜め、それでもまずい雰囲気にしないために必死に笑顔を作ろうとしているのが実に健気である。
心優しい彼女の気づかいに感動すら覚える上条だったが、それでもやはり気まずかった。
キャーなどど声を上げる女の子ではないことはフランスで会った時にわかってはいたが。

上条「か、上条さんは何も見ていません!大丈夫!見る気はありませんから!!」

その言葉を受けた五和はちょっぴり複雑だ。

五和「な、な、何かありませんか!?」

上条「えーっと……インデックスの服は小さすぎるし……」

ひと思案し、

上条「とりあえずベッドで布団かぶってていいぞ」

五和「!? えっ!? そそそそそそそそそそそそれはッッ!!」

言ったあとに上条は気づいた。
女の子に自分のベッドで寝てていいよなんて言うのはちょっといただけない。
しかも五和は裸同然だ。
インデックスで感覚が少しおかしくなっていることを自覚した上条は反省し、バスタオルを手渡した。
その時五和が少し残念そうな顔に見えたのがよくわからなかった。
――気のせいだろうか?

あちこちの棚や収納をごそごそと探しているとインデックスの安全ピンを見つけた。

上条(これなら…よし!)

上条「五和、これで留めたらどうだ?インデックスみたいに」

五和「あ、はい、やってみます」

バスタオルを身体に巻いた五和はせっせと衣装を繋ぎ合わせて行く。
たくさんの断片に分かれたわけではなかったので案外簡単に元の形に近いものとなった。
胸のハートマークも健在だ。

五和「はぁはぁ、な、なんとかなりましたよ。ありがとうございました」

上条「ああ、いや、ごめんな、俺が不用心に触ったばっかりに」

五和「あれはあの人が悪いんですッ!上条さんは悪くありませんッ!!」

上条「そか。それにしても暑いな。慌てて探し物したから汗かいちまった」

上条はTシャツをぱさぱさせて身体を扇いでいる。
はっと閃いた五和はがさごそとバッグを漁り、

五和「使います?」

白いおしぼりを差し出した。

上条「あ、どーも」

上条は汗をふきふき。
とても気持ちよさそうだ。

五和(よしッ!よしッッ!!)

神裂「ああああああああああああああああああああああああああああ!!何なんですか、これはッ!!!!こんなのを私に見せて一体何がしたいんだか!!!!」

神裂(あの子、上条当麻と……あんなに睦ましげにッ!!)

イン「と――う――ま―――――――!!うがァァああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!!!!」

二人が掴みかかっている土御門家のテレビはミシミシと音を立てている。

神裂(あの子の衣装にはあんなに好意的なのにどうして私にはあんなに怯えた目を……ッ!!)

神裂「それに私の裸を見た時と反応が違う!!」

イン「そうなんだよ!!」

神裂&イン「え!?」

お互いに顔を見合わせた。
停滞した空気に間の抜けた二人の顔と声だけが浮かんでいた。

汗をぬぐい、さっぱりした上条当麻は、着替えはないかなーと棚を漁っていると。
ガサリ、と袋が落ちてきた。
サンタクロースの衣装だった。
上条が今日の日のために用意していたものだ。

上条「五和、ちょっと大きいかもしれないけど代わりにこれ着るか?」

五和「い、いえ、私は大丈夫です!……そそそそれより……」

上条「?」

五和は何事かをごにょごにょ喋りながらもじもじしている。

五和「あ、あの……上条さん、着てくれませんか?」

上条「俺が、これを?」

五和「はいッ!あ、でもでもでもでも嫌だったらいいんですよ!!上条さんとクリスマスっぽいことできたらなーって思っただけなんで!!!」

上条は内心喜んでいた。
折角用意したサンタの衣装。
披露する機会がなくなってしまって朝から肩を落としていたのは秘密だ。

上条「着る着る!!嫌なんかじゃないから気にすんなよ」

上条は意気揚々と風呂場に消えるとかなりの速さで着替えて戻ってきた。
引き締まった筋肉質の身体のサイズに合っている。
色が赤でなければもっと着ることができそうな代物だった。

上条「ど、どうだ?」

五和「あ…似合ってますよ」

五和(か、かかか、上条さんがわわわわた、私のためにッッ!!)

上条さんは当然五話の前で着替えたんだよな?
男だし?

あれその部分ハショるの?それでいいの?逆にそれでいいの?

すっかり空気に酔ってしまった五和は、

五和「…衣装、おそろい、ですね」

などという台詞を吐き、

上条「そ、そうだな!なんかカップルっぽい…かな?」

五和「!!」

五和(か、か、かっぷる………)

ぷしゅー。

上条「い、五和!おい!」



>>112
ごめん、>>111で五和に見えないように風呂場で着替えさせてしまった
上条さんはきっとそういう男だと思ってしまったんだよ

イン「うがががががががががががががががががががががががががああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

野獣化し、テレビをがぶがぶと噛むインデックスとは対照的に神裂は自分の内側にこもっていた。

神裂(私がもっと早く、もっと堂々と感謝の意やらなんやらをはっきり示していればこんな想いをせずに済んだのに……私は……まだまだ未熟ですね……)


上条たちのいる寮とは少し離れた某所。
建宮ら天草式の面々は歓声と興奮の雄たけびをあげていた。
上条の部屋と土御門の部屋の両方の様子が生放送されている。
どちらの部屋にもバッチリ監視カメラを設置済みなのだ。
雄々しい声の向かう先はいじらしく、それでいて今日はなかなか逞しい五和と、嫉妬していじけてしまう可愛らしい女教皇様に対してだ。

建宮「五和、頑張るのよ!!」

五和「すすすすいませんッ!!なんか身体が熱くなっちゃって!!」

上条「いいよ。気にすんな」

冬の日は短い。午後4時を回ったとこだがだいぶ日が傾いている。
よく晴れた青空には早くも月がぼんやりと顔を出していた。

上条「あーどうすっかなー。建宮の方からは連絡ないしなー。五和ー、クリスマスっぽいことしたいって言ってたけど他にやりたいことあるか?」

五和(こ、このまま上条さんとおそろいの恰好で、上条さんの部屋でのんびりしてるのもいいけどッ!)

五和「……あ…けーき、たべたいです……いっしょに…………」

五和はもじもじと小さくなりながら呟いた。

その言葉を聞いた上条は、

上条「上条さんもそう思ってたんですよ!いつもはなかなかケーキも自分の分は食べられないもんで」

五和「じゃあ、一緒に…行きませんか?」

上条「おっし!約束だ!」

二人はちょこんと指を突き出し、指きりげんまんをする。

上条「出かけるならちょっと建宮に連絡した方がいいか?」

五和「あ、そうかもしれないですね」

五和は上条に自らの携帯電話を渡し、

建宮『はい、もしもしー』

上条「そっちはどうだ?俺たち出かけようとか思って――」

建宮『オッケー!ぜんっぜんオッケーなのよ!!こっちはまだまだ時間がかかりそうなのよ!!』

まだほとんど話をしていない。
あたかもこっちの事情はすべて知っているかのような口ぶりの建宮に少々疑念を抱く上条だったが、

上条「インデックスは大丈夫か?何か問題とか起こしたりしてないか?」

建宮『禁書目録は……(ちら)……(多分)大丈夫なのよ!!』

上条「そか。じゃあまたあとで連絡するわ」

建宮「わかったのよ、あ、いや、こっちが終わったら連絡するからそっちはのんびりとイブを楽しむといいのよ!」

上条「? わかった。ありがとな。じゃ」

上条「じゃ行こうぜ」

五和「あ…あの…この格好で、ですか?」

五和の表情と言葉で上条はようやく気付いた。
自分たちは今、なかなかとんでもない恰好をしているということに。
上条も顔が熱くなってきたが、

五和「……きましょう」

上条「へ?」

五和「…行きましょう?……折角の…くりすます、ですから」

今日は五和がアクティブだなーと思い始めていた上条は、それに同調し、

上条(この際思いっきりクリスマスを楽しむか!)

上条「じゃあ、行こうぜ」

五和「はいッ…!」

2人のサンタはクリスマスムードの街に繰り出した。

御坂美琴はいらいらしていた。
今日はいつまでたってもあの馬鹿に会えないからだ。
白井黒子の追跡を振り切り、最初から門限など破るつもりで街に出た彼女は不機嫌からビリビリと電気を飛ばしていた。

御坂(ったくなんなのよあいつ。肝心な時に限って姿を現さないんだから。……まさかあのシスターと…………!?)

バチバチと電撃を飛ばす御坂に合わせて薄暗闇に灯り始めたイルミネーションがチカチカと点滅する。
今日はずっと前になんとなく言われた『敢えて不器用なキャラが不器用なりに頑張ってみたボロボロクッキー』を持って歩いていたのだ。

御坂(ってそれじゃあ私がまるで不器用なやつみたいじゃない!………あんの馬鹿ァァああああああああああああああああああ!!)


建宮「撮影班撮影班!早く位置に着くのよ!」

いよいよデートに移るということもあって男衆は俄に活気だった。
既に仕掛けておいた監視カメラはもう役にはたたない。
一部始終を捉えるため、準備は急務だ。
この映像はもちろん土御門の部屋にも届くこととなる。

2人は第7学区の繁華街に出た。
派手な装飾ときらびやかな街の中でも2人の恰好は目立っていた。
上条はいい加減慣れて来ていたが、五和は少し前かがみの姿勢で上条の袖をぎゅっとつかんで歩いている。

上条「しっかし、どの店もいっぱいだなー。まあ、当然か」

もう繁華街をぐるっと一周したが入れそうな店はなかった。
本格的な夜が訪れ、だんだんと街に人が増えてきたようだ。
完全下校時刻は過ぎていたがやはり今日だけは特別なのだろう。

五和(どどどどどどどどどうしよう!お店が見つかんない!わたっ、わたわたわたわたわた私があんなことを言ったばっかりに……!!)

ごにょごにょごにょごにょ―――――!!っと五和が小声早口で何かを呟いていると、

御坂「見 つ け た わ よ ―――――――――――――――――――――!!!!」

繁華街のど真ん中でも飛んでくる雷撃の矢。
上条はさっと右手を出してそれを打ち消す。

上条(何でいつもこうなるんだよ…はぁ…)

神裂「で、デート、ですか。もう、もう我慢できません……!!」

神裂(私は……私はもっと自分に素直にならなければ。そのために今日もこんな、ハイパー堕天使ドエロメイドなどという衣装を身につけてッ!!)

イン「どうしたのー?」

急に立ち上がった神裂にインデックスはいつもの状態に戻る。

神裂「私は、待っているだけなど、もう耐えられません。自らの意思で動きます」

イン「私もなんだよ!私もとうまのところに――」

どす、という鈍い音とともにインデックスは気絶した。
傷はない。
眠りに落ちたかのようにゆったりと床に横になった。

神裂(申し訳ありません。今回の件にあなたを巻き込むつもりはありませんし…それに、ライバルは少ない方がいいですからね)

決心を固めた聖人を止められる人間などものなどそうそういないだろう。

七閃。

土御門の部屋は窓ガラスがある側の壁ごとそっくりなくなったが神裂は気にとめない。
ただ、想いを寄せる相手の元へと、急いだ。

御坂「なっ、あんた、なんて格好してんの!?隣でおそろいの恰好してるのは……いつかのサッカーボールの!!」

その御坂の言葉で、五和は上条に胸を鷲づかみにされたことを思い出し、彼の顔を見ることができない。

御坂「あ、あ、あんたたち、ま、まさか、つ、付き――」

上条「御坂ー。クリスマスにまで雷撃はないだろ。はあぁ、こっちはせっかくクリスマスを満喫しようとしてたのに」

御坂「…………悪かったわね…………………」

書き溜めないの?

御坂は怒りと悲しみで自分を抑えきれない。
必死に何時間も歩いて探し回ったのに上条にこんな相手がいたこと、邪魔者扱いされたこと、そして頑張って作ったクッキーが無駄になってしまいそうなこと。
このままでは目から何かが溢れてしまいそうな御坂は、

御坂「さぁ、勝負よ、久しぶりに勝負!」

一方五和はまだ一人でごにょごにょ言っていた。

五和(ま、また女の子が出てきた…。どうしようどうしようどうしよう……)



>>141
先の方を書きながらここに書き込んでる

五和はずっと握りしめている上条の衣装の袖を見る。
今日という日は確実に彼女を前に進ませていた。
現にこうしてクリスマスイブという大切な日に、上条当麻に最も近い場所にいることができている。
今もクリスマスムードの街を二人っきりで歩くことができているのはケーキを食べたい、という自己主張をきちんとできたから。
自分に自信を持った五和は絶対に譲りたくない今の位置を逃すまいと上条の袖をより強く握る。

上条「はぁ……やっぱりお前はそれかよ」

御坂「べ、別にいいでしょ!決着ついてないんだし!さぁ勝負勝負――」

五和「………ないでください」

御坂「ん?」

五和「邪魔しないでくださいッッ!!」

五和の剣幕に上条は電撃とはまた違うピリピリとした刺激を感じた。
御坂は銭湯で会った時以来地味少女と思っていた相手からの思わぬ急襲に鼻白んだ。
そして感づいた。
彼女は上条当麻の明確な「そういう相手」ではないのか。
よくよく見ると二人はほぼ同い年だろう。
御坂自身は、まだ中学生。
抗いがたい壁があるような気がした。
あのシスターはその背格好、見た目から判断するにどこか対等かそれ以上の闘いができる気がしていた。
が、この少女は別だ。
「色んな意味」で成長しきれていない御坂は対等な勝負ができるとは思えなかった。
諦めるしか、なかった。

御坂(まったく…なんなのよ……そういう相手が同級生にいるなら……早く言えっつーの!!)

御坂は上条たちに背を向けて走り出した。

御坂(馬鹿!馬鹿!……あの馬鹿!)

そうしないと、また、あの馬鹿の前で涙を見せてしまいそうだったから。

御坂「………………………………………」

今日という日を御坂も楽しみにしていたのだ。
あの馬鹿とイルミネーション見たり、ちょっとしたお店で夜ごはんを食べたり…などと夢見ていたのは文字通り、夢のまま終わってしまった。
健気にずっと昔に言われた通りクッキーを焼いた自分が馬鹿らしくてしょうがなかった。
御坂は常盤台の寮からほど近い路地で立ち止まる。
いつも御坂ぐらいしか利用しない道。
ここなら人もこないだろう。
今日は、イブなのだから。

御坂(あいつのこと馬鹿馬鹿って言って……一番馬鹿なのは…私じゃないの……)

御坂「ぐすっ、ひっく、ううううぅぅぅ…………」

御坂の嗚咽は誰もいない路地裏に響き渡る。
高い壁に阻まれ、月も見えない街のはずれ。
バッグから取り出したクッキーは走った衝撃でバラバラに砕けていた。
――何がハート形だ
御坂は、孤独だった。

五和「あ、あああああああああああッ!ごめんなさい!あんなこと言っちゃって!!」

上条「ん?ああ御坂にか。あいつにはあれぐらい言っておかなきゃだめだよ。さんきゅ」

五和「え?そ、そうですか。それなら、よかった。本当によかった。……引いたりしてないですよね?」

上条「引く?なんで?上条さんは普通の心優しい女の子に引いたりしませんよ」

五和「心優しい……あはは、ありがとうございます」

上条「歩き過ぎてちょっと疲れてないか?近くに広場があるからそこで休もうぜ」

五和「は、はい!」

繁華街を抜け、横道に入り、学生寮が立ち並ぶエリアにある児童公園に辿りついた。
ここはかつて親船最中と話をし、そして、彼女が撃たれた場所だ。
改めてこの場に来ると感慨深い。
その後、アビニョンで五和とともに戦ったのだ。

周囲の学生寮の部屋の明かりはまばらだ。
今日がクリスマスイブだからだろう。

上条「アビニョンも懐かしいな」

五和「そうですね。あれからたった数カ月しか経ってませんが色々なことがありましたからね」

五和(フランスは…初めて上条さんと二人っきりで…)

五和にとってそこは大切な場所だ。
上条と初めて一対一、一人の人間としてコミュニケーションを取れた場所だからだ。

上条「まあ今日は魔術とか戦争とかそういう話はよそうぜ」

五和「はい。これからどうしましょうか」

上条「うーん、そうだなぁ……」

と、考えていると、

ざっ。
上から人、いや天使が降ってきた。

神裂「上条当麻、話があります」

上条は神裂の姿に卒倒しそうになった。
以前堕天使メイドを見たときより格段にバージョンアップしていたからだ。
そんな恰好をしているにもかかわらず、神裂の顔は冷静そのものだ。
何か決意のようなものが感じ取れる。

五和は当惑していた。
相手はさっきのようなただの少女ではない。
天草式のトップ、女教皇様だ。
このお方が上条に自分と同じような思いを抱いていることを五和は知っている。
が、上条を挟んで立つような状態になるのは初めてだった。
同じ十字教徒として、自分が属する組織のリーダーとして、神裂を尊敬している五和はこの場面で自分がどう動くべきか煩悶する。
少なくともさっきの少女に言ったような台詞は、言えない。

神裂はすっと目線を五和に移す。
五和にはそれだけで十分だった。

五和(もう…だめだ……)

さっきまであんなに強く握りしめていた上条の袖をぱっと離し、五和は走り去った。
上条には五和の目に光るものがあった気がした。

上条「五和――――――――――ッ!!」

神裂「上条当麻、私は――」

神裂(私は……私は……私は……)

ここまで来てもう一歩が踏み出せない。
衣装の力を借りていてもだ。
五和が衣装の力を借りて積極的に動いたのはバッチリテレビで見ていた。
だが、それは容易なことではなかったのだということを神裂は思い知った。

上条「神裂、ごめん。俺五和のところに行かなくちゃ」

神裂「なっ……し、しかし……」

上条「俺さ約束したんだよ。あいつとケーキ食べるって。それですごく嬉しそうな顔してたんだ」

神裂「…………………」

上条「そんでさ、指きりしたんだ、右手で。いつも何かを壊したり、消したりばっかの右手でさ。
この右手で人の世界を守るって誓ったこともあったけど、本当に守れたりできてるのか時々自信無くて。
だからさ、約束ぐらいは、守りたいんだよ。約束を守るってことはより確実にできることだろ。
しかもそれで五和の笑顔も守れるんならさ。俺はそのために動きたい。
約束を幻想で終わらせたりなんかせずに、守りたいんだ」

神裂「…行きなさい」

上条「すまねぇな、神裂」

神裂「あの子は待っているでしょう。どこかで、あなたを。さぁ、早く」

上条「ああ、じゃあな」

上条は走り去る。
ずっと求めていた背中が遠ざかる。
神裂の心はさっぱりしていた。

神裂「私は……まだまだ及びませんね……」

白井黒子はへとへとだった。
クリスマスイブとなると夜でもいつも以上に学生たちが街に繰り出す。
となれば仕事もその分多くなるのだ。

テレポートを繰り返し、近道にいつもの路地を使うと、

黒子「お姉……様?」

黒子憧れのお姉様は壁に背を預けて泣いていた。
黒子の存在には気づいていないようだ。
あれは、黒子には見せない顔。
黒子は知っている。
御坂美琴という人間はとある人物を覗いてには見せない顔があることを。
そして自分には自分の役割があるということを。
黒子は今、この状況での自分の役割を認識する。

黒子「お・ね・え・さ・ま、何をしていらっしゃいますのー?」

御坂「!?…って黒子か」

目が充血している。
が、黒子はそのことには触れない。

黒子「あらぁ、それはもしかして、クッキーですの?仕事終わりで疲れたわたくしのために!?」

御坂「んなわけないでしょ!……まぁあんたにあげるわ、失敗作だし」

黒子「ほ、本当ですの!?キャ―――――!!お姉様から手づくりクッキーをいただけるなんてっ!!粉々でも嬉しいですの!!
黒子は、黒子は幸せ者ですの――――――――――――――――ッッ!!」

飛び付いて来ようとする黒子に、御坂は、

御坂「馬鹿なことやってんじゃないわよ!」

鉄拳をお見舞いする。

黒子「お、お姉様…いつものことながらひどいですの…」

御坂「はいはい、さ、帰るわよ」

黒子「お姉様と黒子の熱―――いクリスマスの始まりですのっ!!」

がつん、ともう一度殴られる。

御坂の顔には笑顔が戻っていた。

五和はとある公園の自動販売機の前で体操座りをしていた。
12月の夜は寒い。
ましてや露出の多い恰好だ。
自動販売機が放つ熱が心地よかった。

五和(上条さんは女教皇様と…今頃は…)

もう夜はかなり更けている。
イブが終わり、もうすぐ25日がやってくる。
12月のこの時間の気温は針で刺すような痛みがあった。
かじかんだ手にはぁと息を吹きかける。
上条の袖を掴んでいたのがもう懐かしかった。
あのまま離さなければよかったとも五和は思う。
が、もう過ぎたことだ。

――と。

五和「あっちぃ!!」

首元に目の覚めるようなものすごい熱さを感じた。
金属のような肌触り――

上条「おっす。探したぞ」

五和「かかかかかか上条さんッ!!どどどどうしたんですか!?女教皇様は!?」

上条「まぁいいから、ほら、飲めよ」

上条はそう言って缶のミルクティーを差し出した。

五和「あ、ありがとうございます……」

上条「これぐらい気にすんなよ」

まろやかなミルクティーは五和の冷えた身体と心に染み渡った。
かじかんだ手も缶の温もりに喜んでいるように感じた。

五和「あのっ……イブをこんな感じになっちゃってすいません」

上条「? 何がだよ」

五和「いや、だから、こんな……」

上条「まだ終わってないだろ?」

上条は手に提げた白いビニール袋に手を伸ばす。
その様子は恰好も相まって本物のサンタクロースのようだった。

上条「ほら、これ」

五和「あ……けーき」

上条が取り出したのは雪のように白いレアチーズケーキだった。

上条「こんな時間に買えるのはコンビニしかなくってさ、ごめんな。しかも、1切れしかなかったんだよ」

五和「いえ、嬉しいです!おいしそー。ありがとうございます」

と律儀にぺこりと頭を下げる。

容器に入ったケーキを手渡し、五和の前にしゃがみこんで上条はビニール袋をがさごそと探っている。

上条「あれ?店員さんに言ったのにフォークが一本しか入ってない…まあいいか。ほら五和」

五和「あ、ありがとうございます。いいんですか?」

上条「いいからいいから」

そうはいっても五和が望んだのは上条と一緒にケーキを食べることだ。
五和はうーんと考えた後、

五和「はい、かかか上条さん、あーん」

上条「!! こ、これはもしやいわゆるあーんというやつで!?」

五和「そそそそうですッ!!だだだだだだだだって、こうでもしなきゃ一緒にケーキ食べたことにならないじゃないですか!!」

上条「そ、そうだな」

五和「じゃあ……あ、ちょっと待って下さい!」

五和は急にフォークを持つ手を戻す。

五和「あーんの前に、言いたいことというか、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

上条「よし、上条さんに何でも言ってごらんなさい」

五和「今日、不幸でした?」

上条「えっ!?」

五和「いえ、上条さんは右手のせいで不幸に見舞われやすいって聞いたんで。私もお見苦しい姿を多々見せてしまいましたし、お知り合いにひどいこと言ってしまいましたし…」

そんな五和を見て、上条は、

上条「五和は今日、どうだった?」

五和(えっえええええええええええええええ!?えっ、あっと……今日は……ちゃんと、言わなきゃ!)

五和「…………すごく……幸せでした」

上条「そっか、よかった。なら俺も不幸なんかじゃない。幸せだよ」

そう言ってほほ笑む上条に五和は照れていた。

五和「じゃあ、はいっ、あーん」

ちょっと上目遣いの角度になる五和のあーんは上条にはなかなか刺激が強かった。
サンタクロース萌えメイドの衣装も有効に働いたようだ。
こんな状況で、上条はケーキが美味しいということはわかったが、味はよくわからなかった。

上条「じゃあ今度は俺の番か」

五和「えええええええええええええええ!?」

上条「だって、そうだろ?一緒に食べるんだから」

五和「ははははは、はい、そそそそそうそうですね!」

その時、闇夜の空が急に輝いた。
どこからともなく、あちこちから歓声が上がる。
25日になったのだ。
クリスマスだ。
学園都市の技術で空に光の文字が描かれていく。
その文字は1つのメッセージとなった。

上条「あ、そうだ、俺も言いたいことあるし。五和はもう言ってくれたんだけどな」

上条はケーキをフォークで切り、五和の口元へと運ぶ。

五和は緊張で震える唇を開く。

上条が動かすフォークによって五和の口に一口分のケーキが収まる。

あまりの幸福に五和は溶けてしまいそうだった。

顔を赤くした五和に、上条はそっと優しく告げる。

上条「五和、メリークリスマス」

THE END

長々と失礼しました
誤字・脱字、拙い文、矛盾はお許しください
インデックスも美琴も好きですが特に好きな五和を前面に出そうと思って書きました
アニメでも登場が増えるのでこれからが楽しみです
周囲の掘り下げは可能ですが上条さんと五和で締めたいのでこれで終わります
読んで下さってありがとうございました

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom