シロッコ「私の妹がこんなに可愛いわけがない」(273)

桐乃「ちょっと、人生相談があるんだけど……」

シロッコ「ほぉ、やっと私のことを頼り始めたか。可愛い奴め」

桐乃「は、はぁ。何いってんのよ、このスケコマシ!」

シロッコ「強がらなくていい。君は癒しの場所が欲しいだけなのだろう、私にはわかる」

桐乃「そ、そんな訳ないでしょ……! いい加減なこと言うじゃないわよ!」

シロッコ「私に人生相談しようと考えた、君の判断は実に正しい。
      君の野望を叶えられるのは私だけだ。これからもそれだけは覚えておいてくれ」

シロッコ「なるほど、エロゲーかい」

桐乃「それだけじゃないわ。メルルとかこういう系の
    DVDいっぱい持ってるのよ」

シロッコ「ほぉ」

桐乃「……。このことについてどう思う。
   やっぱりアンタ、私のことオタクでキモイとか思ってる!?」

シロッコ「フフフ。あまり私を見くびらないでもらいたいな」

桐乃「え?」

シロッコ「オタク趣味で気持ちが悪い。それは俗人の考え方だ」

シロッコ「むしろ私は、私の妹である君がこのような
     趣味を持っていたことに敬意を表したいくらいだ」

桐乃「ど、どういうことよ……?」

シロッコ「私は、今の時代を支配するのは女だと思っている。
     君の行動はそれを見越して、仮想世界の女性を
     携えているのではないのか。そう、
     いつか君がその支配者になるであろう時に備えて」

桐乃「べ、別にそんなつもりじゃないけど……。アンタ、
   私のこの趣味のことおかしいと思わないの。本当に?」

シロッコ「無論だ」

桐乃「信じらんない……。心の中じゃ笑ってるんじゃないの?」

シロッコ「くどいな。血判でも欲しいか?」

桐乃「血判?」

シロッコ「いいだろう。私、パプテマス・シロッコは我が妹のオタク趣味
     に対し、何一つやましい心を抱かんことをここに約束する。
     もし違約した場合は、君に私の命を差し上げよう。これで満足か?」

桐乃「……う、わ、わかったわよ。そこまでするのなら信じてあげるわよ!///」

シロッコ「ありがたきお言葉」

シロッコ「しかし、人生相談と言うほどだ。これだけではないのだろう?」

桐乃「……」

シロッコ「無理に今話せとは言わん。話したくなったときに
     いつでも私を呼んでくれ」

桐乃「……いないの」

シロッコ「よく聞こえなかったな」

桐乃「この趣味について一緒に話せる友達がいないの!」

桐乃「友達には私がこんなアニメとかゲームやってること
   隠しているから……。話せない」

シロッコ「フフフ。隠すということは少なからず疚しいことを
     しているという自覚がある訳なのか」

桐乃「うるさい! 仕方ないじゃない、あんたみたいに
   物分りいい人ばかりじゃないんだから、あやせたちに
   こんな趣味ばれたら絶対軽蔑されるし……」

シロッコ「しかし、語りたいか」

桐乃「悪い!?」

シロッコ「とんでもない。やはり世の中を動かしていくには
     同志というものが必要になってくる。正しいものの考え方だろう」

桐乃「でも、どうすれば」

シロッコ「簡単なことだ。ないものは作ればいい。少し待っていろ。
     私に良い当てがある」

シロッコ「よし、事態は整った。あとは簡単だ」

桐乃「ちょっと。なんなのよ勝手になんかすすめちゃって。
    ちゃんと説明しなさいよ。当てって何なわけ!?」

シロッコ「待てばわかる」


ピンポ~ン

シロッコ「どうやら、来たようだな」

桐乃「来たって……誰が?」

シロッコ「構わん。入って来い」

ガチャ

ヤザン「……」

桐乃「な、なんなのよ、コイツ……」

ヤザン「コイツだとォ?」ギロ

桐乃「うっ」ビク

ヤザン「チッ」

シロッコ「ヤザン、ご足労だったな」

ヤザン「いきなり呼びつけて何のようだァ、シロッコ!?」

シロッコ「今日、君を呼んだのは他でもない。
      実は君に紹介したい子がいる」

ヤザン「どこのどいつだ?」

シロッコ「私のすぐ隣にいる」

桐乃「ちょ、ちょっと!」

           ,,. -─‐ ''"´ ̄   `ヽ
        ,. ‐'´              \
      /                  ,リ
   /                   ,.ゝ

    !                  // 〈
    |         /⌒>yヽ  fr'"'、 }
   |          , '   ´ ('´ `ー'´  l ノ
   │      /      `      レ'       今日、食堂でエマ中尉の髪型の話題で盛り上がった。
    |      (._               |        全員一致で亀頭をイメージしていたらしい。
    |       / -─- 、._      __,..ヘ!       隅の方で味噌汁を啜っていた
   |    r‐、 {  ーヮニニ`ー'  〈ゥニ'‐.|      ジャマイカンも吹き出していた。
   ヽ   | ,ゝ| !         ヽ、 |      食堂を出ると、エマが顔を真っ赤にして
     }    ヽ(、Ll           r:ン' l       青筋立ててこちらを睨み付けていた。
    { ! { { /`ーi      _,. -─‐ァ  l  ̄ ̄`! 勃起したソレをイメージしてしまい
    ,ゝト、ヽ{  {        `ー-- '   ,'    | 吹き出しそうなのを必死に堪えていたのだが、
   i(  ヽミ`ヽ  ヽ、       ー   l       横でカクリコンが腹を抱えて大笑いしていた。
.   | `'''┴-- 、.._  `''‐、       ,!、    亅 強烈なプレッシャーを感じた俺は、
   |   _____ ̄ ̄~ヽ` ー-r-‐ヘ ヽ く´  すぐさまその場から逃げ出した。
.   !  |=<>=<>=|    ト、-、r=ニ⌒ヽ.) ヽ  後ろの方で、カクリコンの 
  _,r=ゝ、  ̄ ̄ ̄     | ヽ. \ `ヽ } /   「前髪は抜かないでくれぇ」 という断末魔が聞こえた。   
      `ヽ ー-----‐‐┴、 }   ヽ レ',ノ./`ー- この日以来、誰もエマの髪型の話をする者は居なくなった。


ヤザン「なんだとォ!? こんな人形紹介するなんざぁ
    シロッコ、ふざけているのかァ!」

桐乃「はぁ? 人形なんかじゃないわよ!」

シロッコ「まぁ、聞け。なにも私とて、無作為に君たちを会わせた訳ではない。
     同じ志を持つ者同士だからこそ、この場に会するに相応しいと思っただけだ。」

ヤザン「同じ志だとォ!?」

シロッコ「ヤザン、確か君は先日の有給休暇に秋葉原へ
     行ったのだったな?」

桐乃「え」

ヤザン「それがどうしたってんだァ」

シロッコ「そこでだ。次秋葉原へ行くときは
     このキリノも連れて行ってくれないか?」

ヤザン「なぜそんなことをせにゃならん!?」

シロッコ「何分、キリノは一度も秋葉原の地に踏み入れたことがない。
     そうだったな?」

桐乃「……そ、そうだけど」

シロッコ「そこでだ、君のような頼りがいのある水先案内人が必要なのだ」

ヤザン「ハンッ。こんな奴、聖地に連れて行ったところで何になる」

シロッコ「ヤザン、言ったはずだ。君たちは同じ志を持つ者だと」

ヤザン「じゃあ、まさかコイツ……」

シロッコ「そうだ。あまりこのような表現は好きではないが、
      俗に言う『オタク』なのだよ。ヤザン、君と同じでな」

ヤザン「……」

桐乃「……」

ヤザン「ハッ。女がオタクなんざ気に入らないんだよ、消えな!」

桐乃「は、はぁ!? なにそれ、男女差別じゃない!
   そういうのマジうざいんだけど! つーか、キモイ!」

ヤザン「ギャンギャン吠えんなよォー! なら、貴様の好きなアニメを言ってみなァ!?」

桐乃「メルルよ。星くずうぃっちメルル!」

ヤザン「メルルだぁ? ヌハッ、魔法少女ごときに熱を上げてるなんざ
    まぁだ子供の間合いだなァ~!」

桐乃「くぅー! アンタ、メルルの魅力が理解できないなんて頭沸いてるんじゃないの!?」

ヤザン「ぬかせ。女が戦場にいるアニメなんざ底が浅いってんだよォ」

桐乃「い、言ったわねぇー! じゃあ、あんたは何が好きなのよ!?」

ヤザン「そんなもん、黒執事が至高に決まってんだろーが」

桐乃「うわー、アンタ男のくせにBL好きな訳? しかも
   よりによってあんな三流アニメ。ドン引きなんだけど」

ヤザン「言いやがったな……? 手篭めにしてやるゥ!!」

シロッコ「もう充分だろ。そろそろこのくらいにしておけ」

一旦休憩。少ししたら戻る

シロッコ「どうだ。お互い価値観をぶつけ合った感想は」

桐乃「楽しい訳ないじゃない。こんなわからんちんと話したって」

ヤザン「ハンッ、にわかがほざくなァ」

シロッコ「ヤザンよ。そこで、もう一度君に問う。
      キリノを秋葉原へ連れて行ってくれはしないか?

ヤザン「この後に及んでどういうつもりか!」

シロッコ「何を言う。先程の論争を聞いた後だかろこそのことなのだよ。
      秋葉原こそ二人の雌雄を決するには絶好の場だと思わんか?
      そう、君のBLを愛する気持ちが確固たるものならば、
      この私の頼みを素直に聞き入れてくれるだろうと信じている」

ヤザン「ええぃ……。パプテマス・シロッコ、お前は汚い奴だな!」

シロッコ「引き受けてくれるか」

ヤザン「仮に引き受けたのなら、俺にもその見返りが来ると考えてよいのだな?」

シロッコ「もちろんだ。期待してくれていい」

ヤザン「んじゃあ、仕方ねぇ。今回ばかりだけだからな」

シロッコ「さすが私の見込んだだけのことはある。やはり君を呼んで正解だった」

桐乃「ちょっと、勝手に決めないでよ。私はまだ行くとは言ってないんだけど!」

シロッコ「この機会を逃せば、君は一生メルルの魅力を
      ヤザンに示すことができなくなるだろう。それでもいいのか?」

桐乃「む……」

シロッコ「行けばきっと、良い経験になる。行って来るがいい」

桐乃「……。わかったわよ。わ、私は別に行きたくないけど、
   アンタがそこまで言うなら行ってあげるわよ!」

シロッコ「いい子だ」

ヤザン「ハッ、いちいち可愛くねぇ野郎だ」

ヤザン「ダンケール!ラムサース!お前らこのBL同人誌以外でのオナニー禁止だ!」

ダンケル&ラムサス「たいちょーーー!」

その夜

桐乃「ねぇ」

シロッコ「どうした。日程なら、一週間後に決まったはずだが」

桐乃「そうじゃなくって。あのさ……えと。アンタは一緒に秋葉原に行かないの?」

シロッコ「やはり私が一緒に居なければ心細いか?」

桐乃「な、何、勘違いしちゃってるの。私はただあんな
   男と二人きりじゃ、アイツ何しでかすか心配なだけよ! バカ、アホっ!」

シロッコ「覚えておいた方がいい。それを心細いというのだよ」

桐乃「だ、だから違うっつてんでしょ!///」

シロッコ「私はヤザンを信頼している。そうでなければ、大切な妹の身を
      見ず知らずの男にやすやすと委ねる訳がなかろう」

桐乃「……」

シロッコ「とは言っても、無理ないかもしれん。キリノはヤザンと
     今日あったばかりだからな。いいだろう、その日は私も同伴するとしよう」

桐乃「ほ、本当!?」

シロッコ「嘘はつかん。しかし、よく私に本当の気持ちを話してくれた。
      この調子で寂しいと感じたらいつでも私を頼ってくれていい。
      私の胸ならいつでも……」

桐乃「ちょ! な、なれなれしく触るんじゃないわよ、この変態っ!!」
バシッ!!
シロッコ「うっ」

桐乃「もういい、寝る!」
バタン

シロッコ「やれやれ……。決められた役割を演ずるというのは難しいものだな」

当日・秋葉原

桐乃「わぁ~。噂には聞いてたけどやっぱりすごいわー、あは!」

シロッコ「どうだね。赴いたかいがあったろう」

桐乃「うん。ねぇねぇ、早くどっか入ろうよ!」

シロッコ「ならば希望はあるか?」

桐乃「えーとね。あ、そうそう。私、まずとらのあな行ってみたい!」

シロッコ「とらのあなか。初めてにしては良い選択だ。
      そういうことだ、ヤザン。頼む」

ヤザン「わあったよ、案内すりゃいいんだろうが。
     メロンブックスから廻るつもりだったのによォ、ケッ」

ヤザン「着いたぞ。ここだ」

桐乃「大きーい。秋葉のとらのあな、一度行ってみたかったのよねぇ!」

ヤザン「ええぃ、はしゃぐのは中に入ってからにしやがれ」

シロッコ「……ん。何だこのプレッシャーは。何か良くないものが来る?」ピキーン

桐乃「ちょっと、何ブツブツ言ってるのよ。アンタも早く店に入るわよ」

シロッコ「ああ、すまない。今行く」

カミーユ「あの、すみません。ちょっといいですか?」

桐乃「え。なに、私?」

カミーユ「はい。もしかして、あなたモデルの高坂桐乃さんじゃありませんか?」

桐乃「え、あ……そうだけど」

カミーユ「やっぱりそうか。感激だな。僕、あなたの大ファンなんです」

桐乃「そ、そう」

カミーユ「ビックカメラまで部品を調達しに来たかいがあったな。
      あの、よければこの色紙にサインしてもらえませんか」

桐乃「そ、それは……」

シロッコ「そこまでだ少年。桐乃が困惑しているのが君には見えないのか?」

カミーユ「な、なんなんです。あなたは!?」

カミーユ「キリノさんのマネージャーか何かですか?」

シロッコ「そんな生暖かい関係ではない。私は正真正銘キリノの兄だ」

カミーユ「身内だったのか。でも、僕はただ妹さんにサインを
     もらうだけのつもりだったのに、お兄さんまで割って入ってくる
     なんて過保護すぎやしませんか! それが兄のやり方なのかよ!」

シロッコ「フンッ、賢しいガキが……」

カミーユ「もらうものもらったらすぐに立ち去りますので
      それまで干渉しないでください。それで、サインの方お願いできますか?」

桐乃「……べ、別に。いいけどさ」

カミーユ「ありがとうございます」

桐乃「はい。これでいい?」

カミーユ「これ、一生大切にします。そういえば今日は
      キリノさんどうして秋葉原へ?」

桐乃「え。そ、それは……その」

シロッコ「いい加減にしたまえ、少年。貴様は
      用が済んだら消えるのでなかったのか」

カミーユ「性懲りもなくまた来る! 自分以外の男が
      妹に寄り付くのがそんなに嫌だっていうんですか!」

シロッコ「貴様はもう消えていい!」

カミーユ「身勝手な兄のわがままで妹を殺すこともある
      ってこと、覚えておいてください!
      それでは、キリノさん失礼します」

タッタッタ

桐乃「……」

シロッコ「気にするな。あらぬ邪魔が入ったが、
      こういうことも多々あるものだ」

店内

桐乃「うはー。エロゲといい、DVDといいすごい品揃えじゃない。
    まさかここまでだとは思わなかったわ!」

シロッコ「気に入ってもらえて私も嬉しい」

桐乃「あ、これ買い。あれも。それも!」

ヤザン「だぁー。どうでもいいが、とっとと終わらせて
     同人コーナーに行くんだよォ」

桐乃「うるさいわね。アンタも少しはエロゲやギャルゲ
    やってみたらいいじゃないの」

ヤザン「断るゥ!」

同人コーナー

ヤザン「ヌハッ。いいねぇー、やはりBLコーナーは活気が違う」

桐乃「うげぇー……」

ヤザン「この同人誌のわんこ、たまんねぇなァ、おい!」

桐乃「理解できないわー」

ヤザン「んん~。そりゃ、ケツの穴小せぇガキの女にはわからんだろうよォ」

シロッコ「やはり、お互い譲らんか。フフッ、面白い。なら」

桐乃「大漁大漁。今日だけで随分遣っちゃったわー。でも、悔いなし!」

ヤザン「ヌハハ、俺の方もとんだ大物が引っかかったもんだぜ」

シロッコ「ヤザン」

ヤザン「なんだ」

シロッコ「今日君が購入した中で一番、気に召している
     同人誌をキリノに見せてやってくれないか?」

ヤザン「正気か!?」

シロッコ「やはり魅力を訴えるには直に作品を
     見せた方がいいだろう」

ヤザン「……。いいだろう。汚すなよ」

桐乃「い、いらない。こんな不潔そうなの別に見たくないし」

ヤザン「あぁん!?」

シロッコ「キリノよ。いつまでも頑なに拒んでいては
     新境地に踏み出すことなど絶望的だ」

桐乃「……。わ、わかったわよ。ちょっとだけなら読んであげる」

シロッコ「フフッ。それでこそキリノだ」

ヤザン「ほらよ。いいか、絶対に汚すなよ!?」

桐乃「……」

ヤザン「なんだ。怖いのかァ?」

桐乃「は、はぁ。そんな訳ないじゃない。
    こんな薄い本ごときで! フン、どうせ
    1分もしない間に飽きちゃうんだろうけどね!」

ヤザン「いいから、減らず口叩いてねぇでとっとと読みやがれってんだよォ!」





桐乃「こ、これは……ゴクリ」

シロッコ「見たまえ、ヤザン。キリノはあの本に引き込まれているようだ」

ヤザン「ヌハッ、当たり前だろうがぁ。よぉし、ビビってるようだから
     少し喝を入れてやるかァ」

桐乃「え、えぇー。こんなことまでしちゃうの……///」

ヤザン「縮んどるぞぉ、まだ本番前だ! しっかりせぇい!」

桐乃「ひっ。わ、わかってるわよ。今、読んでる途中なんだから
    驚かせるんじゃないわよ!」

シロッコ「フフフ。この流れ、悪くない」

桐乃「……ふぅ。やっと読み終わった」

シロッコ「新境地に踏み出した気分はどうだ?」

桐乃「べ、別に特に面白いわけじゃなかったけどさ。
   まぁ、及第点くらいはあげてもいいかな」

ヤザン「言うに事欠きやがって。素直に最高だったと言いやがれ」

シロッコ「目くじらを立てることはない。今の表現はキリノからすれば
     立派といって良いほどの褒め言葉なのだからな」

ヤザン「ホォー」

桐乃「バカ! 褒めてなんかないわよ!」

ヤザン「どうやらやっと貴様もこちらの世界に味を占めたようだなァ?
     いいだろう。俺がもっといいところへ連れて行ってやる」

桐乃「いいところ? どこよそれ?」

ヤザン「それは着いてからのお楽しみってなァ」

ヤザン「ここだ」

桐乃「何よここ。メイド喫茶?」

ヤザン「そんなつまらんところと一緒にすんな。
     いいから着いて来い」

桐乃「なんなのよ、もぉ」

ガチャ カランカラン

ダンケル「お帰りなさいませ、お嬢様」

ラムサス「お帰りなさいませ、旦那様」

桐乃「ちょ、ちょっと。ここってもしかして……」

ヤザン「そういうこったァ!」

ラムサス「これはヤザン隊長。また俺たちの執事喫茶に
      いらしてくれるとは光栄であります」

ヤザン「バカヤロウ。ここで俺のことはそう呼ばないだろォ!」

ラムサス「失礼しました、旦那様」

ヤザン「そうだ、ラムサス。それでいいんだ、ヌハハハハ。
     いいかお前ら、今日は俺より特にこの女をもてなしてやれ」

桐乃「え……?」

ラムサス「了解です」

ダンケル「さぁ、こちらへどうぞ。お嬢様」

桐乃「ちょ、ちょっと、お嬢様って……。やめなさいよ、恥ずかしいわね!///」

ダンケル「それは失礼いたしました。では、どのようにお呼びすればよろしいですか?」

桐乃「……。ああ、もお! 面倒くさいからお嬢様でいいわよ!」

ラムサス「かしこまりました、お嬢様」

ダンケル「それでは、ただいまお飲み物をお持ちいたしますので
      少々お待ちください、お嬢様」

ラムサス「他に何かありましたら何なりとお申し付けください、お嬢様」

桐乃「うぅー、なんたって私がこんなところに……///」

シロッコ「その割にはまんざらでもないような顔をしているな」

桐乃「ち、ちがっ。そんな顔してないっ!」

ヤザン「どうやら少しはこちらの世界の良さがわかったようだなァ」

桐乃「……うん。本当にちょっとだけど、わかった気がする」

ヤザン「ヌハハ、初めから素直に認めておけばいいものォ!」

シロッコ「さて、次はヤザン。君の番だな」

ヤザン「あん?」

シロッコ「キリノが君の趣味を認めた以上、君も
      キリノの趣味の理解に努めるべきだと思わんか?」

桐乃「そうよ。メルル見てみなさいよ」

ヤザン「ええぃ、骨のない幼女が戦うアニメなど誰が見るものかァ!」

桐乃「いいから、騙されたと思ってやってみなさいよ。
    ほら、ちゃんと今日ノーパもDVDも持ってきたんだから」

ヤザン「いやに準備がいいときやがる。どいつの差し金だァ?」

シロッコ「フフッ……」

桐乃「はーい。注目! メルルの始まり始まり~」

チャチャラチャー
『星くずうぃっちメルルー!』

ヤザン「チッ。くだらん」

視聴から5分

ヤザン「ん……。まぁ、少しは骨がありそうだが」

視聴から10分

ヤザン「幼女の変身シーンだとォ!? ええぃ幻覚などに俺が騙されるものかァァ!」

視聴から15分

ヤザン「こ、こいつはなんだァー……!?」

視聴終了

ヤザン「……」

桐乃「どうだった、メルルは?」

ヤザン「このアニメ、俺の弱点を知ってるというのか……!」

桐乃「言っておくけど、今アンタが見たのはほんの初めの一話よ」

ヤザン「なにぃ?」

桐乃「話が進むにつれてどんどん熱くて可愛い展開が繰り広げられるわ」

ヤザン「頼みがある」

桐乃「何よ、いきなり?」

ヤザン「一期だけでいい。メルルのDVDを全巻、貸してくれ!」

桐乃「え、まいったわねぇ。私は全然構わないんだけど
    今、一巻しか持って来てないのよ」

ヤザン「ええぃ、使えん野郎だ」

シロッコ「それなら、心配する必要はない。先程アニメイトに寄ったとき
      メルルをBOX買いしてきた。ヤザン、これを君に進呈しよう」

ヤザン「なんだとォ! シロッコ、本当にいいのか!?」

シロッコ「キリノをここへ連れて来る見返りを期待していい
    と申したはずだ。日頃の君への感謝も含めている。遠慮はいらん」

ヤザン「パプテマス・シロッコ、お前は最高の男だ!」

秋葉原駅

シロッコ「さて、日も暮れてきたことだ。そろそろ帰還するとしよう」

ヤザン「ヌハッ、今日は思いのほか楽しめたぜ。
     シロッコ、キリノ礼を言うぞ」

桐乃「……」

シロッコ「どうやらキリノも君に言いたいことがあるそうだ」

桐乃「私も、今日読んだような同人誌、もっと読んでみたくなったから……だから」

ヤザン「ん?」

桐乃「今度は夏コミに連れてって!」

ヤザン「ホォ~。先に言っておくがあそこは戦場だぞ」

桐乃「わかってるわよ、それくらい」

ヤザン「戦場ではビビった方が死ぬんだ! それでもいいのか!?」

桐乃「覚悟しているわ!」

ヤザン「よし、そこまで言うならいいだろォ」

桐乃「マジ? やったー!」

ヤザン「じゃあなァー。また会おうぜ、お嬢ちゃん」

桐乃「次会うときはちゃんとメルルの予習しておきなさいよねー!」



桐乃「えへへ。やった、やったー。コミケ、コミッケー♪」

シロッコ「どうやら満足してくれたようだな」

桐乃「当然よ。夏ミケにも連れてってくれるみたいだし、
    メルルの良さもやったわかったみたいだし、
    アイツ、意外といい奴じゃない」

シロッコ「そのことだが、私は今非常に驚いている」

桐乃「どうして?」

シロッコ「散々敵視していたあのヤザンに君が頭を下げて
     あのような約束をこぎつけたことについてだ」

桐乃「大したことじゃないわよ」

シロッコ「いや。以前の君からは到底考えられない行動だと
     言っても過言ではない。自信を持っていい、君の
     人間性は着実に成長している。私が保証しよう」

桐乃「なっ……/// 気取ってんじゃないわよ。
    あ、あんたなんかに褒められたって、ちっとも嬉しくないんだけど!」

シロッコ「そうか。それは残念だ」

シロッコ「さぁ、我々も引き上げるとしよう」

桐乃「……」

シロッコ「どうした? そんなにこの場所が名残惜しいか」

桐乃「そ、そうじゃないけど。あのさ……」

桐乃「……」

桐乃「今日はありがとう……///」

シロッコ「フフフ、ハッハッハッ!!」

桐乃「な、なにバカ笑いしちゃってんのよ!!///
    い、い、一回礼言われたくらいで、舞い上がっちゃって
    変態なんじゃない!?」

シロッコ「すまない。気分を害したのなら、謝ろう」

桐乃「あ、当たり前だっつーの! たくっ!」

シロッコ「礼には及ばんさ。私はいわば君に忠誠を誓っている身だ。
     その所存はこれからも変わることはないだろう」

桐乃「……」

シロッコ「そう。この身を滅してでも、君に尽くしていくつもりだ。
      だから、安心してくれていい」
サワッ
桐乃「あ……///」

シロッコ「決して、君の元から黙って居なくなったりはせん」

桐乃「……うん」

数日後
公園

スタッフ「よし、今日の撮影は終了だ。お疲れさん、桐乃ちゃん」

桐乃「はーい!」



桐乃「ふんふふんふ~ん♪」

あやせ「最近、機嫌いいわね。桐乃」

桐乃「あ。あやせ」

あやせ「何かいいことでもあったの?」

桐乃「う、ううん。別に」

あやせ「ふーん、何か怪しい。さっきから自分の手提げの
     中のぞいては笑っちゃって」

桐乃「そんなことないって。あはは……」

あやせ「ならいいんだけど。あ、そうそう、桐乃。
     あなたに是非会いたいっていうファンの子が来てるわよ」

桐乃「え?」

カミーユ「お久しぶりです。今日、公園で雑誌の撮影が
      あるって本当だったんですね」

桐乃「あ、あなた……確か、あのときの」

あやせ「あら。桐乃、知り合い?」

桐乃「ち、違う。全然違うって。いいから、
   あやせはもう先に帰っててよ。ね、さぁさぁ!」

あやせ「変な桐乃……」



桐乃「そ、それで今日は何の用……? サインはもうあげたはずだけど」

カミーユ「はい。今日はそれのお礼をしたくて。これ、ペットロボットの
      ハロっていうんだけど。桐乃さんに差し上げます」

ハロ「ハロ、ハロ。キリノ、ダイスキダ、キリノ」

カミーユ「こら、余計なことしゃべるな」

桐乃「い、いいわよ、別に。何か高そうだし……」

カミーユ「気にしないでください。この前のお礼ですから。どうぞ」

桐乃「……。あ、ありがとう」

ハロ「ヨロシクナ、キリノ、カワイイヨ、キリノ」

カミーユ「今日はお兄さんはいらっしゃらないようですね」

桐乃「べ、別にいつも一緒な訳じゃないし」

カミーユ「少し安心しました。いたらあなたとおちおち話も
      できないですから。怖いんです、独占欲の強い人は」

桐乃「あの、私そろそろ帰るから」

カミーユ「え、もうですか? 今、仕事終えたばかりでは」

桐乃「私、色々と忙しいの。それじゃ」
スタスタスタ

ハロ「マッテ、キリノ、マッテー」



カミーユ「あ……。やっぱり、モデルは忙しいんだな」

カミーユ「ん? この手提げ、キリノさんの忘れ物か?」

カミーユ「届けないとな。中に住所とか書いてあるものは入ってないだろうか」

ゴソゴソゴソ

カミーユ「ん。なんだ、これは……」

カミーユ「『星くずうぃっちメルル』の新作DVD!?
      なんだって、キリノさんがこんな気持ちの悪い子供向けアニメを?」

ゴソゴソゴソ

カミーユ「まだ、何かあるな。これは……ゲームソフトか?
      いや、ただのゲームソフトじゃない。
      ど、どういうことなんだよ、キリノさんが18禁のゲームって!」

カミーユ「なんてことだ。清楚なはずのキリノさんが、こんな……」

カミーユ「こんな趣味して嬉しいのかよ……」

カミーユ「満足なのかよ……」

カミーユ「モデルがオタクで誰が喜ぶんだよーーー!!」

カミーユ「はぁはぁはぁ……」

カミーユ「あいつだ。キリノさんをこうまでさせたのは
      あいつの仕業に違いない!!」

ダダダダダダダダダダ

シロッコ「キリノめ。仕事の帰りにヤザンの元を訪れるほどの
      仲になるとは。よほど意気投合したか。
      読んだとおりだ、時の運はこちらへ傾いてきた」

シロッコ「……なんだ。また異質なプレッシャーがこちらに近づいてくる」

カミーユ「待て!」

シロッコ「ん。貴様は確か秋葉原で妹に付きまとっていた小僧」

カミーユ「お前だ。兄でありながらキリノさんを自分好み
      染めては弄んで!」

シロッコ「フンッ。なんのことだ」

カミーユ「知らないとは言わせないぞ。これは
      一番兄が妹にしちゃいけないことなんだ!」

シロッコ「子供がほざくかー! 私はキリノの兄だ。
      私にはそういう資格がある!!」

カミーユ「まだ、口ごたえするのならば!!」

ダダダダダダダダダダ

グサッ!!

シロッコ「ぐおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ……ぉぉ!!」

カミーユ「ここからいなくなれぇー!!」

シロッコ「うぐぐぐぅ……がはっ」
ピチョピチョ…

カミーユ「やったのか……?」

シロッコ「わ、私だけが死ぬ訳ではない……。
      貴様の心も……一緒に染めてやるぅぅ。
      カミーユ・ビダン……!!」

ドサッ

カミーユ「え……。俺の周りに映像が広がっていく?
      こ、これは、星くずうぃっちメルル?」

そしてまた数日後

加奈子「なぁー、あやせー。桐乃の兄ちゃんって
     最近亡くなったんだよなー」

あやせ「ええ。私はそう聞いたけど」

加奈子「それにしちゃさぁ、桐乃全然動揺してない
     ように見えるんだけど、なんで~?」

あやせ「さぁ。私にもわからない」


桐乃「それじゃ、私、用事あるから先に帰るね!」
タタタタタタ

あやせ「あ、ちょっと桐乃!」

加奈子「それどころか前にも増して元気のような」

桐乃「おまたせ!」

カミーユ「やっと、来たな。それじゃあ、早く劇場版メルルの
      先行試写会に行くぞ」

桐乃「うん。それにしても、あんた大丈夫なの?
    ここ最近、私放課後振り回してばかりだけど」

カミーユ「空手部には病欠といってあるから平気さ」

桐乃「ならいいんだけど」

桐乃「初めて会ったときは、アンタがまさか
    こんなメルルオタクなんて思わなかったわ」

カミーユ「俺にとってメルルは幻覚でもなければ意識だけの存在でも
      ないんだ。キリノと同じくらい愛していられるのだから」

桐乃「や、やめなさいよ、そういう恥ずかしいセリフ!/// 気持ち悪いんだけど!」

カミーユ「あはは、ごめん。それじゃ会場に急ごう」

桐乃「うん」


-Fin-

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