アーカード「ククク…学園都市か」(1000)

立つかな?

■ロンドン郊外・ヘルシング家

広大な部屋の中央には黒檀の執務机がひとつ。

その椅子に深々と腰掛けているのは妙齢の美しき女性だった。

銀のシガレットケースから取り出した葉巻に火をつけ、深々と紫煙を吐き出しながらポツリと呟く。
        ディープブラッド
インテグラ「……吸血殺しだと?」

英国王立国教騎士団局長インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングはギリと葉巻を噛み締める。

情報の源が今代の大英帝国女王であるクイーンエリザードである以上、それに間違いはない。

インテグラ「その血を吸った吸血鬼を問答無用で灰に返す……か」

調査団からの報告書をバサリと机の上に放り投げ懊悩するインテグラ。

インテグラ「危険だ。 …危険すぎる。 もしこのことがあの男に知られでもしたら…」

そんな独り言に闇の中から返事が返ってきた。


                       マイ・マスター
  「ほう…面白そうな話じゃないか? 我が主」

ズルリと影の中からソレが姿をあらわす。

突如目の前に現れた男を見て、インテグラは酷く不機嫌そうな声で己が下僕を窘めた。

インテグラ「いつから話を聞いていた? アーカード」

アーカードと呼ばれた男は悪びれる様子もなくクツクツと笑いを漏らす。

アーカード「最初からだ我が主。 吸血鬼を殺す血をもつ力。 吸血殺し。 ディープブラッド。 全て最初から私は耳にした」

笑みを漏らすアーカードを見たインテグラは深い溜息をつく。

インテグラ「どうやら言っても無駄なようだな」

そう呟いたインテグラを見て大袈裟に両手を広げるアーカード。

                     オーダー
アーカード「それは違うな我が主。 命令なら話は別だ。 飼い犬を躾けるように。 私に首輪をつけるように命令すればいい」

まるでインテグラを試すように、主君の言葉を待つアーカード。

だがヘルシング家当主であるインテグラにはこの男の底意地の悪い、あからさまな挑発は意味を成さない。

インテグラ「吸血殺し。 もしこのことがヴァチカン法王庁特務局第13課の耳に入れば厄介なことになる」

それは裏切り者のユダの名を冠する特務機関イスカリオテ。

ふぅと紫煙をたなびかせながら言葉を吐き出すインテグラ。

インテグラ「奴らと我々ヘルシングはいまだに冷戦状態だ」

豪奢なクリスタルの灰皿に葉巻を押し付けるインテグラ。

インテグラ「ならば、火種は早いうちに摘み取っておくべきだろう」

その言葉を聞いてアーカードは愉快そうに笑う。
                   マイ・マスター
アーカード「…ならばどうする? 我が主」

愉悦に身を揺らすアーカードに向けてインテグラが命令をくだす

インテグラ「我が下僕よ。 命令する。 もし吸血殺しが驚異となるのならば摘み取ってこい!」
               マイ・マスター
アーカード「了解した。 我が主人、インテグラ・ヘルシング」

楽しそうに笑いながら闇に姿を消していくアーカードにインテグラが言葉を投げかける。

インテグラ「それとだ。 セラスは置いていけ。 二人揃って出掛けられてはここの警備が手薄になる」

誰もいない闇の中から返ってくる声。
                   
                       マイ・マスター
アーカード「言われなくともそのつもりだ我が主。 標的の居場所は?」

インテグラ「極東の島国、日本の学園都市だ」

それを聞いた闇が楽しそうに呟く。

アーカード「ククク…学園都市か」


……かくして。

ミディアン
魔族

ノスフェラトゥ
不死者

デヴィル
悪魔

ノーライフキング
不死の王

フリークス
化物


数え切れぬほどの忌み名を携えた恐ろしき超越者。

             ヴァンパイア
血と死と暴力を携えた吸血鬼・アーカードが学園都市に訪れる。

■学園都市・メクドナルド


土御門「そういや上ヤ~ン? 一昨日やってた深夜映画は見たかにゃー?」

それは土御門の一言から始まった。

青ピ「おっ! それなら僕見たで? 美人女吸血鬼がヘタレ男とイチャイチャえろえろチョイホラーな超B級映画やろ?」

どこぞのC級映画マニアが好みそうなタイトルをあげる青ピ。

上条「いやー…最近は帰ったらそのままグッスリバタンキューですよ。 そもそも吸血鬼なんて架空の存在でラブコメとか見てて悲しくなるだろ?」

手をヒラヒラと振りながら興味がないことを告げる上条だったが、予想外の場所から否定の言葉が返ってきた。

禁書「何言ってるのとーま? 吸血鬼は今も確かに存在してるんだよ?」

上条「エート…インデックスさん? その深夜映画を観ちゃったんですか?」

白けた声を出す上条当麻にむぐむぐと口の中をいっぱいにしながら答えるは銀髪のシスター、インデックス。

上条「異能の力じゃなくて吸血鬼ですかー? なーんでそんなオカルト的な存在が映画やら小説やらにバンバン出てるんですかねー?」

シェイクをすすりながら呆れる上条に憤慨したように禁書が喰らいつく。

禁書「あー! 信じてないんだね? 確かに吸血鬼っていうのは禁忌でありながら広く知られている存在であるのは確かなんだよ?」
禁書「でもそれは逆に小説やテレビなんかで知られているからこそなんだよ! その存在を隠している、隠されている吸血鬼がこの世に存在するのは間違い無いんだよ!」
禁書「私たち魔術に属する人間はカインの末裔って呼んでいるんだけど…その有り様から恐れられ忌み嫌われているっていうのもあってむぐぅ!?」

上条「ストップ! ストーップ!!」

水を得た魚のように目を輝かせて説明を続けようとするインデックスの口にテリヤキバーガーを突っ込む上条。

上条「ほ、ほら! これをやるから大人しくしててくれ! な?」

禁書「むが…これからなんだよ? 吸血鬼のなんたるかを教えてあげようとしたのにー」

そうボヤきながらもテリヤキバーガーをムシャムシャと食べだすインデックスを見てげっそりとする上条。

上条「いきなりこんなところで何言い出すんですか… おかげさまですっかりひかれちまってるじゃねーか」

頭をかかえる上条の隣にはニヤニヤと笑う青ピと土御門がいた。

青ピ「なんや…銀髪幼女シスターで更に電波系とは上ヤンも中々コアな属性持ちやねー」

土御門「まったくだぜい まぁ、面白かったから最後まで聞きたかったっていうのもあるけどにゃ~」

上条「もう何とでも言ってください…」

そう呟いた上条当麻が天を仰ぐ。

しかし、幾分勢いが強すぎた。

上条当麻が座っているボックス席、その後ろにいた人物の後頭部と上条の後頭部が衝突しごちんと大きな音をたてる。

上条「い、痛ぇー!」

痛みに悶絶する上条だったが土御門達はそんな上条を気遣うどころか羨ましがっているようなセリフを口にした。

土御門「こいつは驚きだにゃー。 巫女さんだぜい」

青ピ「しかも美人さん… なんで上ヤンばっかりこないな定番イベントが訪れるんや…」

上条「き、キミタチ…ちょっとは友人をいたわろうという気持ちはないんですか…って。 巫女さん!?」

聞き慣れない言葉を聞いて思わず聞き返す上条当麻。

振り返った上条当麻の目に飛び込んできたのは確かに巫女の装束を来た少女だった。

ファーストフード店にいる巫女という奇天烈な存在に言葉を失う上条。

そんな上条に少女がスッと手を差し出してこう言った。

少女「100円。」

上条「…はいぃ?」

意味が判らず聞き返す上条当麻に当然のようにして説明をする巫女姿の美少女。

少女「100円。 私の頭への一撃。 それの慰謝料。」

ズイと目の前に手を突き出されガックリと肩を落とした上条当麻が何回目になるか判らないあのセリフをぼそりと呟く。

上条「ふ、不幸だ…」

■学園都市・メクドナルド


青ピと土御門に誘われるがまま一緒の席についた巫女と簡単な自己紹介をした上条当麻は最も気になることを聞き返す。

上条「で、あんたは巫女さんではなく魔法使い…と」

姫神「そう。 私。 魔法使い。」

姫神秋沙と名乗った少女はコクコクと頷く。

禁書「だから魔法使いってなに? 曖昧なこと言ってないで専門と学派と魔法めむぐぐぅ!」

上条「はいはい話がややこしくなるから黙ってましょうねー」

興奮したインデックスの口の中にハンバーガーを突っ込む上条当麻。

そして、ふと違和感に気付く。

無表情の男たちが自分たちの座っているボックス席の周りをぐるりと取り囲んでいたのだ。

自分の周囲を取り囲む男たちを見て姫神が立ち上がる。

上条「お、おい… 知り合いか?」

アンバランスな組み合わせに思わず疑念の声をあげる上条だったが、その問に姫神があっさりと答える。

姫神「ん。 塾の先生。」

そう言って男たちと共にスタスタと店を出て行く姫神。

禁書「塾の先生がお迎えもしてくれるだなんて私は過保護すぎだと思うんだよ?」

ムッシャムッシャと上条のハンバーガーを口に放りこみながらそうインデックスが感想を言う。

普段の上条ならば、おまえがゆーな!と言いたくなるセリフだったが、何故か姫神秋沙の態度は上条当麻の心にひっかかっていた。


■路上

青ピと土御門と別れたあと、目の前に子猫が現れる。

飼う飼わないの押し問答を上条とインデックスが繰り広げているうちに子猫がふらりと姿を消した。

子猫に逃げられて走りだすインデックスの後を追おうとした上条の前に突然現れたのは赤髪の魔術師。

豪炎が上条当麻を襲い、反射的に右手でもってそれを打ち消す。

上条「なっ! なにをするつもりだテメエ!」

そう吠えた上条当麻に向かいステイル=マグヌスは小さく笑いこう告げた。

ステイル「うん? 内緒話だけど?」

■路上

ステイル=マグヌスの説明を聞いて深い溜息をつく上条。

上条「…つまりだ」

上条「“三沢塾”にたてこもっている錬金術師が監禁した少女を助けるために行動を共にしろってことか」

上条「それもお願いじゃなくて脅迫でかよ…」

ステイル「おやおや脅迫だなんて人聞きが悪いな。 別に拒否してくれても構わないんだけど?」

ぼやく上条に向かってニヤリと笑うステイル。

ステイル「拒否すれば君の側にいる禁書目録は回収する。 ただそれだけのことさ。 まぁ君は拒否なんてしないだろうがね」

上条「………テメエ」

返す言葉がなく歯を食いしばる上条にステイルが一枚の写真を放る。

ステイル「その娘の顔をよく覚えておけ。 それが“吸血殺し”姫神秋沙だ」

写真を見て上条当麻が絶句する。

上条「マジ…かよ…」

そこには先程ファーストフードで見た黒髪長髪の巫女が写っていた。




物語は加速する。


■三沢塾・昼

ステイルと共に三沢塾に乗り込んだ上条当麻の前に現れたおかしな鎧。

近づこうとした上条にステイルが何でもないように話しかける。

ステイル「珍しいかい? ただの死体だよ?」

事もなげにステイル=マグヌスはそう口にした。

上条当麻はごく普通の予備校のロビーに死体が転がっているということに驚愕し、息を呑む。

ステイル「何を驚いているんだい? ミイラ取りがミイラになる。 戦場じゃありふれたことさ」

そう上条に言うと死体に向き直るステイル。

口の中で祈りのことばを呟くと、次の瞬間に死体は灰となった。

「行くよ ―――戦う理由が増えたみたいだ」

十字を切りながらコートを翻すステイル=マグヌス。

上条(……怒っているのか?)

ステイルの後ろ姿を見てそう心のなかで呟く上条当麻。



そのときだった。

      「自然。 こうなるであろうということは判っていた」

吹き抜けのロビーに声が響いた。

ステイル「ほう…何の策も巡らさず、白昼堂々姿をさらすのかい?」

敵意を込めたステイルの視線の先には髪を緑に染めたオールバックの男がいた。

上条「お、おい… もしかしてあいつが?」

ステイル「そうだ。 あれがパラケルススの末裔たる錬金術師。 元ローマ正教『隠秘記録官』アウレオルス=イザードだ」

目の前に現れた男、アウレオルス=イザードから視線を片時も離さずに上条に説明するステイル。

だが…

      『当然。 策は巡らせてある』

同一でありながら新たな声がロビーに響く。

ステイル「なっ!?」

上条「はぁっ!?」

驚く上条とステイル。

ロビーの反対側から現れたのは全く同じ顔をしたもう一人の錬金術師。

アウレオルス「「完全。 ここに侵入を試み、我が計画を邪魔する輩には等しく死を与えよう」」

寸分の違いもなく二人の声が響く。

それと同時に球体の光弾がありとあらゆるところから浮かび上がる。

ステイル「…これはいっぱい食わされたかな。 なるほど、こんなところで死体が転がっている理由がそれか」

歯噛みをしながらステイルが呟く。

ステイル「まさかレプリカとはいえ“グレゴリオの聖歌隊”を創りだすとはね」

上条「ぐ、ぐれごりおの聖歌隊? なんだよそれ!?」

ステイル「君に魔術の説明をしたところで意味が無いさ。 それよりも僕達がチェックメイトをかけられているという事のほうが重要だね」

何とかして打開策を模索するステイル。

だが、広いロビーの中央に立った彼等を取り囲む無数の光弾から逃れられる術はひとつもなかった。

アウレオルス「「厳然。 例外はない。 私は私の道を阻む者を排除する」」

そう言って手を振り上げるアウレオルス。

だが、その手は振り下ろされなかった。

姫神「待って。」

アウレオルスの前には両手を広げた姫神秋沙。

姫神「私の目的には。あなたが必要。 あなたの目的には。私が必要。」

アウレオルス「……」

姫神「あなたがすべきことは人を殺すこと? それならば。私はもう降りる。」

そう告げた姫神を見てアウレオルスはふっと微笑む。

アウレオルス「必然。 こんなところで時間を裂く必要もなし」

懐から取り出した金の針を己の首筋へ突き立てるアウレオルス。

アウレオルス「少年。 魔術師。 案ずるな、殺しはしない」


        「―――全て忘れろ」




物語は更に加速を増す。


■三沢塾・夕方


禁書「やっぱり…巧妙に隠してはいるけど、このビルから力を全く感じないんだよ」

三沢塾の前に立ったインデックスが呟く。

禁書「結界にしても異質だし… まるで侵入者を逃がさない牢のような構成?」

ブツブツと呟きながらビルの中に踏み入るインデックス。

そんなインデックスにどこか優しさを含んだ声がかかる。

      「当然。 私のことなど覚えてはいないだろう」

声の主はアウレオルス。

三年前…インデックスを救おうと奔走し、それでも力足りず絶望に身を焦がした男。

アウレオルス「依然。 だがそれもすぐに終わる。 私は君を救うためにこの身を堕としたのだ」

金の針をその手に取りながら諭すように言葉を続けるアウレオルス。

      「―――眠れ。 今はただ安らかに」

■三沢塾入口前・夜

夜の公園でぼんやりと佇んでいた上条当麻が、右手で持って自分の頭に触れた瞬間、全ての記憶が復元した。

隣にいたステイル=マグヌスの記憶も同様にして復元。


そして…上条当麻とステイル=マグヌスは再度三沢塾の前に立っていた。


奇妙な形をしたビルの前に並ぶは銀の鎧に身を包んだ何人もの騎士。

上条当麻の制止の声も聞かずローマ正教十三騎士団が放ったのは真なる“グレゴリオ聖歌隊”による聖呪爆撃。

その威力に驚くのも束の間、崩れかかった巨大なビルが目の前で再生していくのを見て上条当麻は目を丸くする。

ステイル「見たかい? あれが僕らの敵。 アウレオルス=イザードさ」

驚く上条当麻にそうステイルが告げてビルの中に駆けこんでいく。

上条「おっおい! 待てよ!」

その言葉に正気づき、ステイルに遅れまいと駆け出す上条当麻。

残されたのは原典である大魔術を無効化され呆然と地に座り込むローマ正教十三騎士団だった。

騎士「…信じれられぬ。 3333人の聖呪をこめた大魔術が無効化されるだと!?」

そう一人の騎士が呟いた時だった。


闇の中から声がした。

     「クックック…どうした? 自慢の切り札が効かないだけで諦めるのか?」

それは闇よりも深い漆黒の哂い。

ゾクリと十三騎士団の背に怖気が走る。

騎士「だっ誰だ!?」

恐怖にその背を追われるように周辺を警戒する騎士たち。

     「フン… なんだそのザマは。 ローマ正教十三騎士団が聞いて呆れる」

クツクツと笑う声。

     「先程の小僧たちのほうが余程マシだ。 “世界の管理と運営”? ハッ! 笑わせてくれる」

その声と共にズルリと姿を現す長身の影。

騎士「ま…まさかっ! 貴様が何故ここにっ!?」

血のように赤いコートをその身に纏う男を見て騎士団は驚きに目を見開く。

騎士「大英帝国王立国教騎士団! ヘルシングのゴミ処理係が何故ここにいるっ!!!」

十字教の中でも忌むべき闇の機関、ヘルシング。
                  ジョーカー
そのヘルシングが誇る最強の鬼札に向かい精一杯に声を張り上げる騎士。

アーカード「なに…今夜はいい月だ。 こんな夜には散歩もしたくなる」

まるで世間話をするかのように騎士団に語りかけるアーカード。

アーカード「それよりだ。 …どうするローマ正教十三騎士団? どうするんだローマ正教? 貴様等は私をどうするつもりなのだ?」

それは挑発。

信仰を試すかのようなその物言いに怒る十三騎士団。

                    ミディアン
騎士「…知れたこと! 十字教が化物を飼っているなど我らは認めん! 今ここで滅するのみ!」

そう叫びながらアーカードを取り囲み、銀の剣を向ける騎士達。

それを見たアーカードの口元が裂けるように大きく歪む。

アーカード「なるほど。 道理だ。 それは全くもって道理だ」

己を取り囲む兇器を愛おしげに眺めながらアーカードが開戦の言葉を口にする。

アーカード「ククク…では始めよう。 人と化物の闘争を。 己が存亡を賭けた闘争を!」

■三沢塾・校長室


長机の上に寝かされたインデックス。

その傍らには懺悔をするかのごとく地に膝を付けた男がいた。

アウレオルス「馬鹿な……」

上条当麻とステイル=マグヌスの前で愕然としているのはアウレオルス=イザードだった。

錬金術師を呆然とさせたのはステイル=マグヌスによって告げられた言葉。


―既にインデックスは救われている―


それはアウレオルス=イザードにとって最も嬉しい言葉であると同時に最も残酷な言葉だった。

アウレオルス「な、何故だ? 何故貴様はもっと早く現れなかった!!」

アウレオルスが上条当麻に詰め寄る。

それは純粋な怒りだった。

自分のためではない。

救うのが遅すぎたと、何故もっと早く救わなかったと…ただ一人の少女、インデックスの為にアウレオルスは怒っていた。

上条当麻はアウレオルスを見ることができない。

上条当麻に落ち度はないが、それでも錬金術師の怒りは痛いほど伝わっていた。

謝罪の言葉など意味はない。

ただ黙ってアウレオルスの激情を受け止めている上条当麻。

そんな中、ポツリと少女がアウレオルスに言葉をかけた。

姫神「でも。貴方のしたことは間違いではなかったはず。」

アウレオルス「…っ! 知ったふうな口を聞くなっ!」

姫神に怒りをぶつけるアウレオルス。

しかし、姫神はそんなアウレオルスを見て静かに笑いかけた。

姫神「貴方は。その娘を救えなかった。 けど。私は貴方に救われた。」

それは姫神秋沙の本心。

己の力を利用しようとした過去の三沢塾を破壊してくれたのはアウレオルスである。

そして彼女の願いを聞き入れ、保護をしてくれたのもアウレオルスなのだ。

例え、それが単なる利害の一致だとしても姫神秋沙はアウレオルスに深い感謝の念を持っていた。

姫神「私は。貴方と出逢うことができて本当に良かったと思っている。」

そう呟いて膝を付いたアウレオルスの肩に手を置く姫神。

アウレオルス「私が…貴様のことを只の駒としか見ていない。 それを知ったうえでも同じことが言えるか?」

まるで自らを罰してほしいと、そうすれば狂うことができると言わんばかりに姫神の手を払い退けるアウレオルス。

しかし…それを聞いた姫神はふわりと笑いアウレオルスの口調の真似をした。

姫神「当然。 私。魔法使い。 そんなことはとうの昔に知っていた。」

それを聞いたアウレオルスは久しぶりに…本当に久しぶりに姫神秋沙の瞳を見た。

アウレオルス「……」

見つめ合うアウレオルスと姫神秋沙の間に静かな沈黙が流れる。

ステイル「…なんだ、拍子抜けだな。 てっきり僕は戦闘になるとばっかり思っていたんだが」

タバコに火をつけながらそうボヤくステイル。

上条「なーんでアンタはいい雰囲気になってるのにブチ壊しちゃいますかね…」

そんなステイルを見て肩を落とす上条当麻。





その時だった。

ゾクリと上条の背筋に悪寒がはしる。

それは圧倒的な死の予感。

暴力の予感。

思わず辺りを見回す上条。

そしてそれはその場にいる者すべてが感じていた。

アウレオルス「…疑念。 貴様らは二人か?」

緊張の中、声をあげたのは錬金術師。

ステイル「フン。 そんなこと聞かなくてもあんたならわかるはずだろう?」

軽口を叩くステイルだが、その口元にあるタバコは小刻みに震えていた。

アウレオルス「ならば必然。 今侵入してきたものは敵であると私は決断する」

立ち上がったアウレオルスが指を鳴らす。


アウレオルス「“私”よ。 侵入者だ」


その言葉に入り口から声が返ってきた。


アウレオルス『当然。 侵入者は排除する』


部屋の奥に立つアウレオルスと入り口に立ったアウレオルスがそこにいた。

二人の錬金術師を見て上条当麻は思い出す。

上条「おまえら…いったい!?」

そんな上条当麻の疑問を鼻で笑った二人のアウレオルス=イザードが声を揃える。

アウレオルス=イザード「「必然。 一人がオリジナル。 一人がダミーだ。 それすら思考が及ばぬとは哀れだな」」

上条「なっ! なんですと!?」

だが、そんな上条の憤慨はいとも容易く無視された。


アウレオルス「“私”よ。 もはや私の目的は無くなった。 既にこの砦に用はない」

そう自らに話しかける錬金術師。

アウレオルス『ならば“私”よ。 話が通じるのならば追い返すということでいいのだな?』

上条当麻の目にはそれが高度な二人による独り言のようにも見えた。

アウレオルス「自然。 今の私に妄執はない」

アウレオルス『必然。 ならば私は“私”の思うとおり動くとしよう』

そう短く言葉を残し、アウレオルスのダミーが消えた。

そんなアウレオルスを見ながらステイルが呟く。

ステイル「ただの侵入者にしては些か物騒な殺気を感じたんだけど…まぁここは稀代の錬金術師のお手並み拝見とするか」

■三沢塾・1階

懐から鎖のついた黄金の鏃を取り出しながらアウレオルス=ダミーが歩く。

それは傷付けたモノを即座に灼熱の黄金に変換するという恐ろしき魔術。

もとよりこのビルの中は全てがアウレオルスの手中にある。

限定された状況ではあるが、この中でなら聖人とも渡り合える圧倒的な力。

…だというのに。

アウレオルス=ダミーはまるで十三階段を登っているような気がしてならなかった。

アウレオルス『間然。 一体いかなる存在が私を脅かすというのか』

そう独りごちながらロビーに出たアウレオルスの視界に飛び込んできたもの。

アウレオルス=ダミーは我が目を疑った。

それは惨殺されていた。

それは轢殺されていた。

それは殴殺されていた。

銀の鎧を見に纏った死体が幾つもそこに転がっていた。
                                      デスマスク
無惨に引きちぎられた手、踏み抜かれ砕けた脚、恐怖に怯えた死に顔。

暴風のような死に襲われたローマ正教十三騎士団の“残骸”がそこにあった。

アウレオルス『唖然。 なんだこれは? なにが起こったというのだ!?』

思わずそう呟いたアウレオルスの耳に靴音が響いた。

カツ…カツ…カツ…

それはブーツの踵を鳴らす音。

まるでダメな子供を馬鹿にした大人のようななくぐもった笑い声。

     「何が起こっただと? 闘争だ。 私と彼等の闘争が起こっただけ。 ただそれだけのことだ」

暗闇の中から現れた美しき男が哂う。

アウレオルス=ダミーは一瞥で“ソレ”が何であるかを理解する。

アウレオルス『憮然… 今更吸血鬼など。 もはや私は求めていない』

吐き捨てるようなアウレオルス=ダミーの言葉を聞いてクツクツと喉の奥で笑いをこぼすアーカード。

アーカード「それは残念だ。 だが…私は求めている。 闘争を。 戦いを。 殺し合いを」

アウレオルスに向かいゴトリと一歩足を踏み出す。

アーカード「貴様はどうする? その手に持つものはなんだ? それ敵を討ち。 敵を殺し。 敵を滅ぼすものだろう?」

両の腕を広げゆっくりと歩くアーカード。


アーカード「それとも…私に道を譲るか? 頭を垂れて腹を見せるか?」

そう言って笑うアーカードの肩に黄金の鏃が突き刺さった。

その瞬間、どろりと肩の肉は黄金の溶岩となり腕をつたい流れ落ちた。

耳を塞ぎたくなるような肉の焼ける音と異臭が辺りにたちこめる。
                 リメン・マグナ
アウレオルス『当然! 我が瞬間錬金でもってその身を第11族元素まで還元してみせる!』

そう吠えるアウレオルス=ダミーを見てアーカードは口元を歪める。

ボタボタと肩の肉を垂れ流しながら哂う。

アーカード「ククク…そうだ! その言葉を! それを待っていた! さぁ闘争だ! 殺し殺されるとしよう!」


そしてアウレオルス=ダミーとアーカードが戦闘を開始した。

■三沢塾・校長室


アウレオルス=ダミーが退出して10分ほど経過しただろうか。

革張りの椅子に座り込んでいたアウレオルス=イザードが突如立ち上がる。

姫神「どうしたの?」

その突然の行動に首をひねる姫神。

しかし、アウレオルスはそんな姫神の気遣いにも気付てはいなかった。

アウレオルス「ありえん。 ダミーが…我が魔術人形が敗北した!?」

その言葉を聞きつけたステイル=マグヌスが訝しげに口を開く。

ステイル「ありえん…というのもどうかと思うけどね。 所詮ダミーだったんだろう?」

だが、その言葉を聞いたアウレオルスは首を振る。

アウレオルス「ダミーといえどあれは我が分身。 魔力の供給が途切れた訳でもない。 必然、負ける道理はない」

眉をひそめるアウレオルスを見て、フゥと煙を吐き出すステイル。

ステイル「とはいえ…負けたんだろう。 事実は事実として受け止めることにして…これからどうするつもりだい?」

アウレオルス「…悄然。 もはや私がここに固執する意味はない」

チラリと視線を動かした先には二人の少女が立っていた。
               アルス=マグナ
アウレオルス「判然、我が黄金錬成に敵はない」

手の内で黄金の鍼をもてあそぶアウレオルス。

アウレオルス「自然。 貴様らはここで侵入者が潰えるのを見ていればよい」

悠然とした態度でそう言い切るアウレオルス=イザードだったが、上条当麻はあることに気付いた。

上条「…待てよアウレオルス」

アウレオルス「断然…貴様に名を呼ばれるのは不快だ」

苦々しく顔をしかめるアウレオルス。

だが上条当麻はそんな表面の態度などは気にもしていなかった。

上条「そんなこと言って誤魔化すんじゃねえ なんだよその拳はよ?」

そう上条当麻に指摘されて初めてアウレオルスは気付いた。

まるで痙攣をおこしているかのように鍼を握り締めた拳が震えていたのだ。

上条「おまえも…怖いんだろ?」

そう言って上条当麻は自らの右手をあげる。
                            イマジンブレイカー
上条当麻の右手、それは異能であるなら神の奇跡ですら打ち消す幻想殺し。

その右手が。幻想殺しが“震えて”いた。

それはまるでこの場にいる全員の胸の底に巣食っている恐怖を体現しているかのよう。

プルプルと震え力が入らない拳をゆっくりと握る上条当麻。

上条「俺が力になれる…なんて言うつもりはない。 けどもしこの右手が一瞬でもおまえの盾になるかもしれないなら…」

そこまで言った上条当麻の声にステイル=マグヌスが呆れた声をかぶせる。

ステイル「…まったく。 異能者なんてどいつもこいつもろくなのがいないな」

バサリとコートを翻しながら立ち上がったステイルがぼやく。

ステイル「素直に言えばいいじゃないか? いつ起きるか判らない彼女の前で格好つけていたいって」

上条「なっ!? 違いますよ!? 俺はただ黙って見てたりなんて出来ねえってことをですね」

ステイルに茶化されて焦る上条を見てアウレオルスがボソリと呟く。


アウレオルス「…判然としない。 このような男が彼女の枷を解き放っただと?」

だが、そんなアウレオルスの袖をくいと姫神の小さな手が引っ張った。

姫神「それは。もう過去。 貴方には。私がいる。」

長身のアウレオルスを見上げながら姫神は続ける。

姫神「貴方は。私を救ってくれないの?」

そんな姫神を見てフンと鼻をならすアウレオルス。

アウレオルス「…当然。 私は約束を破りなどしない」

その瞬間、確かにアウレオルスと姫神の間に何かが通じ合った。





その時だった。

空調の効いた部屋に突如咽返るような匂いが漂う。

――ステイル=マグヌスは反射的にルーンのカードを構える。

熱帯夜のように重く熱くドロドロとした気配が渦巻く。

――アウレオルス=イザードは金の鍼をその手に握る。

それは圧倒的な死の匂い。

――上条当麻は拳を握る。

禁書目録と関わった三人の“パートナー”が肩を並べ同じ方向を。

――闇を見据えた。

まるでそんな緊張をほぐそうとするかのように。

パチパチと闇の中から鳴り響いてきたのは拍手の音だった。


     「ククク… なんとも…なんとも素晴らしい」

暗く深い闇の中からブーツが見える。

     「それこそ人間だ! 愛を! 希望を! 友情を! その胸に抱いて生きることが出来る人間こそだ!」

暗く深い闇の中で赤いコートが翻る。

     「そして…なるほど。 貴様が“ソレ”か」

シャガッ!と闇の中で無数の目が見開かれた。
                      ディープブラッド
その視線は真っ直ぐに姫神秋沙を…吸血殺しを見据えていた。

姫神「…ッ!」

思わず悲鳴をあげそうになり唇を噛む姫神。

どうでもいいけど学園都市に来るの何度目だよアーカードの旦那

>>63
おいマジか
二番煎じなら読んでてもつまらんだろうし撤退するわ

>>62
目の前の存在を見た瞬間、電流のように姫神の脳が、全細胞が否定する。

――違う。 ちがう チガウ

“コレ”は違う。
       ディープブラッド
姫神の血を、吸血殺しを吸って、灰となっていった吸血鬼とは決定的に違う存在であると。

“コレ”は恐怖であり、死であり、悪夢そのものだ。

恐ろしい。 とてもとても恐ろしい。

ガクガクと立っていられないほどに姫神の足が震えだす。

極寒の地に放り込まれたかのように震えだした姫神の背中をポンと誰かが叩いた。

その手の主はアウレオルス=イザード。

それは些細な感触だったが、姫神にとっては1000の応援よりも心強いもの。

気がつけば、姫神の足はまだ倒れることなく地面を踏みしめていた。

姫神はゴクリと喉を鳴らしながら吸血鬼に言葉を投げかける。

この恐ろしい鬼に自分の言葉は通じるのだろうか?

それでも通じてほしいと願いを込めて姫神は口を開く。

姫神「…あ、あなたは。私の血の匂いに誘われてきただけ。」

裏返りそうになる声を必死に抑える。

         ディープブラッド
姫神「私の血は“吸血殺し” 吸えばあなたは灰になってしまう。 お願い。 死にたくないならここから去って。」

だが…そんな姫神の懇願とも脅迫ともとれるセリフは一笑に付された。

アーカード「ククク…なるほど。 吸血殺し。 ディープ・ブラッド。 確かにそうだろう」

深呼吸をし、鼻腔に広がる甘い香りを堪能するアーカード。

アーカード「これに抗える吸血鬼などそうはいまい。 まさかこの血をもつ人間が“また”生まれていたとは思いもしなかった」

姫神は気付く。

―――おかしい。

目の前の男が吸血鬼であるのは間違いない。

だというのに、この余裕はなんだ?

まるでサウザンドワンのヴィンテージワインを楽しむように優雅な振る舞いを見せるこの男はなんなのか?

そんな姫神の内心を知ってか知らずかアーカードが衝撃の事実を口にした。

アーカード「遠い昔。 “私”が血を吸い吸われた唯一の存在。 “全ての始まり” “ミナ・ハーカー”の匂いと瓜二つだ」

その言葉を聞いた瞬間、ピクリとステイル=マグヌスが反応した。

ステイル「……待て。 今何と言った? “私”? “ミナ・ハーカー”?」
                 アンチ
ステイル「………まさか。 反キリストの化け物どもを葬り去るためだけに組織された特務機関…」

じっとりとステイルの額に脂汗が浮かぶ。

                 ジョーカー
ステイル「ヘルシング機関の鬼札 吸血鬼“アーカード”だなんて言うんじゃないんだろうね!?」

それは英国女王エリザードと大英帝国円卓議会からなる『王室派』直属であり、唯一にして最凶の武装勢力。
                                ネセサリウス
最大主教・ローラ=スチュアート率いる清教派の必要悪の教会に属するステイル=マグヌスはその噂を幾度も耳にしていた。

曰く死の河。

曰く死の化身。

曰く魔王。
                                  フリークス
毒をもって毒を制す、まさにその言葉を体現した恐るべき化物。

そして、ステイル=マグヌスの予想は残念ながら的中していた。

アーカード「その通りだ小僧。 だったらどうする?」
             ネセサリウス
ステイル「……僕は必要悪の教会に所属している魔術師。 ステイル=マグヌスだ」

それはステイルが切ることのできる最大のカード。

ステイル「ここで僕達が…清教派と王室派が争うのは両者にとって本意ではないはず。 違うかい?」
            フリークス
聞けばこの吸血鬼は化物でありながら人間に忠誠を誓っているという。

ならば主人が被るような事態は避けるだろうとステイルは予測していた。

だが、吸血鬼はそんなステイルの言葉を聞いて一笑に付す。

アーカード「断る」

ステイル「なっ!?」

アーカード「清教派? 必要悪の教会? 図に乗るなよ小僧」

じわりと闇が膨張した。

アーカード「私に命令を下せるのは我が主のみ。 あまりナメたことを言うとブチ殺すぞ魔術師?」

殺気を振りまきながら足を踏み出したアーカードにアウレオルスが口を開く。

アウレオルス「敢然。 貴様は私の領地で何を言うか」

その手に握られているのは黄金の鍼。

それを自分の首筋に当てると躊躇なく押し込んだ。


アウレオルス「“死ね”」

―――ゴポリと。

アーカードの口から血が溢れた。

それは錬金術の到達点。

世界の全てを呪文と化し、己の手足として使役する事ができる大魔術。

アルス=マグナ
黄金練成

アウレオルス=イザードが思い描くものが現実となる恐ろしい魔術である。

この空間では生も死もアウレオルスの思うがまま。

「死ね」と思えば是非も無く即死する。

それは吸血鬼でも例外ではない。

アーカードが倒れるのを確認もせずに背を向くアウレオルス。

それも当然。

既にアウレオルスは「死ね」と命じたのだ。

だが…

アーカード「ククク…クハハハハハハ! …面白い。 面白いぞ貴様!」

喉の奥から血を吹き出しながらアーカードが哂っていた。

用事できちまった
帰って残ってたら投下するつもりだけど、使い古されてるネタらしいんで無理して保守してくれなくてもいいす…

>>80

アウレオルス「……悄然。 何だ貴様は? 私は確かに“死ね”と命じたはずだ」

理解の出来ない事態を目の当たりにして眉をひそめるアウレオルス。
              ヴァンパイア
そんな錬金術師を見て吸血鬼は噴出す血で自らを赤く染めながら大きく両手を広げる。

アーカード「さぁどうした? たった一度や二度殺した“だけ”で終わりか? 貴様はそれでも“人間”か?」

アウレオルスはその挑発に乗った。

鍼を首に突き刺す。

アウレオルス「“窒息せよ”」

次の瞬間吸血鬼の喉が引き絞られるような音を立てた。

ビチャビチャと言葉を出すこともなく自らの血を地面に撒き散らす吸血鬼。

だが、アウレオルスの手にはまだ何本も鍼があった。


アウレオルス「“感電死”」

虚空より突如現れた青白い電光が吸血鬼の身体を蹂躙する。

バチバチと音を立てた電に耐え切れなかった眼球が小さな音共に破裂した。

アウレオルス「“絞殺”」

そうアウレオルスが呟けば天より縄が降り注ぎ、あっという間に吸血鬼の首に絡みつく。

そのまま勢い良く宙に吊られる吸血鬼。


それは…わずか数十秒の出来事。

たった数十秒、錬金術師アウレオルス=イザードが“そうあれかし”と口にした言葉が全て形となって吸血鬼に襲いかかっていた。

全身が焼け焦げ、眼球が破裂し、喉から血を吹き出しながら宙より吊られている“モノ”に名前をつけるなら…“骸”が一番ふさわしい。

姫神「…ッ」

あまりにも凄惨な場面を見て姫神秋沙が目を逸らす。

――確かにあの吸血鬼は恐ろしい存在なのかもしれない。 だが、だからといってあそこまですることはないんじゃないか?

ふと心のなかでそんなことを思ってしまった姫神。

だが次の瞬間、姫神秋沙は自分の間違いに気付く。

キチキチとひしめきあった闇が牙をもって耳に飛び込んでくるような錯覚。


ゴボリゴボリと音がした。

地獄の釜の底の底から聞こえるような恐ろしい音。

ビチャリビチャリと音がした。

死神がその尖った爪を剥き出しにしたまま歩いてくるような忌まわしき音。


     「…ゴフッッ! クククッ… フハハハハハハハハハハハ!!」


そして。

天上から哄笑が聞こえてきた。

つられるように思わず天を見上げた姫神は絶句する。

                                         フリークス
そこには天より吊られたまま盛大に。痛快に。愉快そうに笑っている化物がいた。

アウレオルス「…ッ! 俄然! 何故貴様がまだ生きている!」

あまりにも不可解すぎる存在に向けアウレオルスが怒りと共にそう叫ぶ。

頭上ではアーカードの傷が逆再生をかけたかのようにみるみると塞がっていくところであった。

凄まじい電撃に曝されて弾けた筈の両の眼はいつの間にか再生し、焼け焦げていたはずの肉体は今や傷ひとつない。

もはや“ただの”ハングドマンでしかないアーカードがアウレオルスに語りかける。

アーカード「…何故? ククク…貴様には私が生きているように見えるのか」

アウレオルス「クッ! 何がおかしいっ!」

吊られたまま、まるで自分の術を馬鹿にするかのように哂うアーカードを見て声を荒げるアウレオルス。

侮辱されたと感じ怒りをあらわにするアウレオルスにアーカードは優しく優しく語りかける。

アーカード「…おかしい? 違うな。 嬉しいのだ。 私は今。 ひどくひどく“うれしい”」

そう笑うアーカードの手にはいつの間にか馬鹿げた大きさの白い自動拳銃が握られていた。

それは454カスール・カスタムオートマチック。

大の大人でさえ両手で持つのが難しいそれを軽々と片手で持ち上げ、吸血鬼は己を吊っている縄に向けて銃爪をひく。

爆音と共に放たれた454カスール13mm爆裂徹鋼弾頭は狙い違わず縄に直撃、アーカードは天より地へ舞い降りる。
                 ヒューマン
アーカード「言ったはずだぞ人間! たった一度や二度私を殺しただけでは終わらないと! なによりこれでは私が至極退屈だ!」

それを見たアウレオルスは深く嘆息する。
                                         アルス=マグナ
アウレオルス「…厳然。 私は吸血鬼を知らぬ。 当然、だからこそ黄金錬成が十全の効果を出さなかったという訳か」

うむ、と顎の下に手をやりそう頷く錬金術師に向かいアーカードがゴツリと大きな音をたてて一歩を踏み出す。

                   ヒューマン
アーカード「ククク…さぁどうした人間? これで終わりか? たったこれだけで白旗を揚げるのか? 領地を侵略者に踏み躙られるのをよしとするか?」

笑いながらアーカードが454カスールを突きつける。

アーカード「…ならば次は私の番だ 白旗を揚げた領地を侵略しよう 蹂躙し踏み躙ろう」

ガチャリと脅すように銃を振りかざすアーカードに向けてアウレオルスが吐き捨てる。

アウレオルス「必然。 蹂躙されるのは貴様だろう」

アーカード「!?」

次の瞬間、背後より猛火の剣がアーカードを切り裂いた。

ステイル「ん~… こりゃ後で厄介なことになりそうだね」

その声の主はステイル=マグヌス。

3000度の炎剣に斬られ、出血すら許されずにゴトリとアーカードの身体が…上半身が崩れ落ちる。

まるで熱したナイフでバターを切り裂くような肉切り行為。

背後より横一文字に振り抜いた軌跡はアーカードの身体を言葉通りまさしく半分に断ち切っていた。

アウレオルス「憮然。 何故貴様が私の助けをした? 貴様とソレは派閥こそ違えど元を正せば同じ教義に属するはず」

そう不機嫌そうにステイル=マグヌスに問いかけるアウレオルス。

ステイル「ふん。 助けってつもりじゃなかったんだけどね」

そう言ってチラリと床に転がった肉の塊を見る。

ステイル「もとよりカインの末裔は僕達魔術師の天敵でもある。 それに…今ここで“ソレ”に好き勝手やられるのは困るのさ」

ステイル=マグヌスの視線の先にはあどけなく眠りこけている銀髪のシスターがいた。

上条「ス…スゲエ… 圧倒的じゃねえか」

上条当麻は驚きに目を見開いく。

突然現れた恐ろしい吸血鬼を“一方的”に何度も殺してみせた魔術師と錬金術師。

“化物”は無惨にも胴を半分にされ、ゴロリと地面に転がっていた。

この世に身体を半分にされて生きることの出来る人間はいない。

上条当麻は、ほんの少し“吸血鬼”に同情をした。
           ディープブラッド
きっとこの吸血鬼は姫神の吸血殺しに惹かれたのだろう。

篝火に飛び込む虫のように、錬金術師と魔術師が待ち構える部屋に飛び込んだのが運のツキ。

上条「…残念だったな、アンタ」

そう小さく呟いてから上条は気付いた。

上条「お、俺達… よく考えたらこのアウレオルスに喧嘩を売ろうとしてたのかよ…」

あの魔術師何を考えてやがる下手したら死んでてもおかしくねーぞ! そんなことを考えていた上条当麻の脳が、細胞が突然反応した。

“化物”に同情?

魔術師と錬金術師を相手にした“化物”が何もしないまま死んで安心?

篝火に飛び込む虫?

運のツキ?

それは誰のことだ?

“それはいったい誰のことだ?”


上条当麻の頭を駆け巡る自問自答の嵐。

そして…上条はゆっくりと歩き出す。

向かう先には二つに断たれた“吸血鬼”の骸がある。

足元に転がる死骸にしか見えないソレを見て、ゴクリと緊張しながら右手を…幻想殺しを伸ばす。

異能ならば神の奇跡も打ち消すこの右手で吸血鬼に触れたのならば…

上条当麻は確かめたかった。

幻想殺しは吸血鬼に効果があるのか?

目の前の存在は本当に死んでいるのか?

そして。 恐怖に震える右手の原因はなんなのか?



生存本能が必死になって訴える。



―――逃げろ!

―――逃げロ!逃ゲろ!

―――逃げナけレば確実に絶対に間違イなく―――死ヌ

瞳を閉じた美しい造形をしている男に手をかざす上条当麻。

上半身だけとは言えその大きく引き締まった身体からは濃密な色気が漂っている。

もはや自分が緊張しているのか興奮しているのか恐怖しているのかすら判らないまま――“吸血鬼”に右手が触れた。


――まだ冷たいわけじゃない。 そうか、さっき死んだばかりだもんな。


それが第一印象だった。

上条当麻の右手、幻想殺しに返ってきたのは微熱を残した肌の温かみ。

てっきり灰になったりジュージューと黒い煙をあげだしたりするのではないかと思っていた上条が冷や汗を拭う。

上条「…き、き、気のせい…だったんですか?」

ふぅと息を吐く上条当麻。

上条「そ、そうだよな。 このイマジンブレイカーに例外はないんだ。 それが異能なら何だって打ち消せるっ」

そう上条当麻が呟いた時だった。



バチリと闇が瞳を開いた。


     「私に。 さわるな。 小僧」

それは人が虫を追い払うような緩慢な動きだった。
                モンスター
だが…“吸血鬼”が無敵の怪物である理由を上条当麻は知らない。
                                       ルール
吸血鬼と対峙するものならば決して忘れてはならないひとつの警告。


吸血鬼は『力』が強い。 とても。 とてもとても『力』が強いのだ。


何気なく振り払われた手を咄嗟に右手で掴もうとしたその瞬間だった。

上条「――ガッ!?」

まるで右腕だけダンプカーに引き摺られたような衝撃と共に上条当麻は吹き飛んだ。

来客用の豪勢なソファを巻き込んでゴロゴロと転がった上条は、己の身に何が起こったのかまったく理解できない。

上条「痛ってて… …なんだぁ?」

そう呟きながら立とうとした途端、凄まじい激痛が上条当麻の脳髄を襲う。

上条「ごっ……がっ……!?」

悶絶して地面を転がった上条当麻はようやく自分の右手を見て、絶句した。

上条当麻の右腕はもはや腕として機能はしていなかった。

まるでミキサーに放り込まれたかのようにズル剥かれた皮膚。

指は折れ曲がり奇怪なオブジェのよう。

腕には関節が幾つも増え、ブラブラと自重で揺れるたびに気が狂いそうな痛みが脳を刺す。

上条「ッ!? …っ!!」

あまりの痛みに言葉も発する余裕もなく、ただ浅い呼吸を繰り返すだけの上条当麻。

それを見てステイル=マグヌスが近づいていきた。
                                            チャーム
ステイル「何をしているんだ! カインの末裔にフラフラと近づくだなんて魅了でもかけられたのかい?」

そうまで言ってステイルは上条当麻の右腕に気がつく。

ステイル「……なんだそれは? さっきあの“死骸”に近づいた時か? まったく…見てやるから動くな」

そう言いながらザッと上条当麻の右腕を検分したステイルはこう呟いた。

それはある意味で上条当麻にとって…

死刑宣告にも等しかった。

ステイル「これは駄目だな。 致命的すぎる。 もはや右腕としての再起は不可能だね」

それはステイルに言われなくても上条当麻自身が感じていたこと。

ステイル「…どうする? このままその痛みに耐えるのが辛いのなら… いっそのこと消毒も兼ねて焼き切ってあげようか?」

軽口を叩くステイルだったが、口調とは裏腹にその表情は酷く険しい。

上条「…っ! クソッ…!」

上条当麻は左手で地面を叩いて己を呪う。

何が幻想殺しだ 何がイマジンブレイカーだ、と。

神の奇跡すら打ち消すその右手はカッターナイフで簡単に切り落とせる。

そんなことも忘れ、不用意に近づいた挙句がこの様だ。

幻想殺しを失った自分が今後どうなるのか? 

少なくともこれ以上インデックスと共にいることはできないだろう。

悔やむ上条と深刻な顔をしたステイルにかかったのは第三者の疑問の声だった。


アウレオルス「…悄然。 貴様らは一体何を喚いている?」


そうつまらなさそうに言葉を吐いたのは錬金術師、アウレオルス=イザードだった。

ステイル「喚く……だって? 言葉には気をつけろよ錬金術師?」

殺気に満ちた視線をアウレオルスにぶつけるはステイル=マグヌス。

アウレオルス「自然、貴様が苛立つのはその少年の怪我が原因か」

フンと鼻で笑うアウレオルスだったが、その袖をクイと少女が引っ張った。

姫神「……じー。」

無言の擬音を口にしながらアウレオルスを覗き込む姫神秋沙。

根負けしたように先に視線を外したのはアウレオルスだった。

カツリと踵を鳴らして上条当麻の前に立つ。

アウレオルス「当然。 これは貴様のためではない。 “彼女”のためだ」

“彼女”がどちらの少女を指すのか?

アウレオルスはその名を口にすることはしないまま、黄金の鍼を首筋に突き立てて言った。


アウレオルス「“治れ”」

>>168

その言葉と共に逆再生をするかのように上条当麻の右腕の傷が消えた。

上条「……マジかよ」

思わず自分の腕をさする上条。

その時、部屋の片隅から声が聞こえた。

     「なるほど。 そういうことか。 道理で歪んでいるわけだ」

地を這いずるような声。

ステイル「バカなっ!? 身体を半分にされてもまだ動けるのかっ!?」

自らの炎剣で身体を断ち切ったステイル=マグヌスが信じられないように叫ぶ。

床に転がった死骸がこちらを見ながらクツクツと笑っていた。
                                                       ミディアン  フリークス
アーカード「勘違いも甚だしいぞ小僧ども。 身体を半分にした? そんなことでこの私を! 夜族を! 化物を殺せると思っているのか!」

               ヴァンパイア
その言葉と共にズルリと吸血鬼アーカードの身体が闇と化す。

上半身は無数のムカデに、蜘蛛に、悍しき毒虫にその姿を変えた。

下半身は巨大な獣に、黒い犬に、バスカヴィルの獣犬へと姿を変えた。

そこまでがアウレオルス=イザードにとっての限界だった。

恐怖に突き動かされたのか嫌悪に突き動かされたのか?

黄金の鍼を首筋に突き刺し命じるアウレオルス。

アウレオルス「“弾けろ”」

その言葉と共に一斉にその身の内側から弾ける闇の眷属。

キイキイと断末魔をあげながら赤い血をあたりに撒き散らす蟲。

互いを侵食するかのように融け合っていく無数の獣。

それは意志を持って一つの箇所に集まっていく。

そして。

               ノーライフキング
混沌の闇の中から再びと不死の王が現れた。

アウレロリス「生き返る度に絶命しろ」


アーカード「」

>>187
■ロンドン・ランペス宮

イギリス清教の最大主教の官邸として用意された巨大な建造物。

厳重な警備に守られたその邸内で、鼻歌が聞こえる。

この屋敷で鼻歌を歌える人物など一人しかいない。

身の丈の二倍以上もある美しき金髪を揺らす女性。

最大主教、ローラ=スチュアートである。

ローラ「ふんふんっふふーん♪」

降り注ぐ暖かな日差しに目を細めるローラ。

部屋には上質な紅茶の匂いが広がっており、うきうきとお茶請けのクッキーにローラが手を伸ばした時だった。

諜報員「主教! 最大主教!!」

ノックの音と同時に部屋に飛び込んできた部下をジロリと見るローラ。

ローラ「…何ぞ用けり? 私はまだ返事をせざらないのだけれど?」

冷ややかな視線に背筋を冷やしながら、諜報員が直立する。

諜報員「がっ学園都市の報告官から連絡です! “王室派”の騎士団が吸血殺しの調査に向かっているとの報告が!」

ローラ「待ちなされ……“騎士派”ではなくて“王室派”の騎士団?」

ローラ=スチュアートの顔が険しくなる。

ローラ「派遣兵力はいかほど?」

諜報員「派遣された戦力はただ一人! “化物殺し”アーカードです!」

それを聞いたローラが立ち上がる。

ローラ「よりにもよって絶滅機関のヘルシング… このことなれば…」

うろうろと部屋の中を往復するローラ。

ローラ「ステイル達と鉢合わせすればマズイことになりけりね?」

諜報員「はっ! “吸血殺し”奪還のことに関してはステイル=マグヌス単独の依頼として処理されています」

その報告を聞いたローラは一も二もなく決断した。

ローラ「これは大至急の命令事項なる! 一刻も早く“彼女”をステイルの援護に向かわせるのよ」

諜報員「はっ!」

命令を聞いた諜報員が走りだしていくのを背中で聞きながらローラは不安な気持ちが拭いきれない。

ローラも当主であるインテグラ卿と何度か話したことはある。

フェンシングの試合で若きペンウッド卿を見事打ち倒したのは見事としかいいようがなかった。

老いてなお、気品を失わない美しき物腰はまさに英国淑女だとローラは思う。


だが…彼女が飼っている化物は別だ。

                カテゴリー
もはやあれを吸血鬼という分類で呼ぶのが間違っているとローラは思う。
    フリークス
まさしく化物。

万の軍勢を圧倒できる恐ろしい存在なのだ。


ローラ「ステイル… 無茶をしてはダメなりけりよ?」

空を見上げながらローラが呟く。

時差を考えれば日本は今頃夜だろう。

ローラ「吸血鬼と出会ったのなれば逃げるしかない。 ましてやそれがアーカードならなおのこと」

ゾクリと三十年前の事件を思い出す。

狂った少佐が巻き起こした事件を、そこにアーカードがいたことをローラ=スチュアートは知っている。


ローラ「“彼が魔術を使ったなれば…一人でも生き延びた敵はいない”のよステイル?」

■三沢塾・校長室

キィン――と澄んだ音が響く。

ステイル「………?」

ステイルは何故か急にタバコを吸いたいと思った。

コートの内ポケットにしまっているタバコを取り出そうとして…やっぱり吸えないなと。 そう思った。

タバコが入っていたはずの内ポケットが吹き飛んでいる。

…内ポケットだけではない。

胸の中心部が何もかも吹き飛んでいたのだ。

自分の胴体にぽっかりと開いた穴を見て…そしてようやく緩慢な動作で前を見る。

そこには妖しく微笑む吸血鬼、その手が握る大きな拳銃の先からは白い硝煙がたなびいていた。

先程鳴り響いた美しい音色の正体は、454カスールから排莢された空の薬莢が地面を跳ねた音だったのかと、ステイルは納得する。

撃たれたのか、とようやく気付いた時には既に意識は真っ白になっていく。

ステイル「…油断したつもりは…ないんだけどね」

その言葉を最後にステイル=マグヌスは――斃れた。


ドサリと目の前で倒れた男を見て上条当麻の頭は真っ白になった。

ピンク色の臓器を撒き散らしながら倒れているあの赤い髪の魔術師は誰だ?

声もなく赤い血溜りに沈んでいるのはステイル=マグヌスではないのか?

知り合ったのはつい最近である。

別段仲がいいわけでもない。

だというのに、上条当麻は無意識で吼えていた。

上条「――――ッけんじゃねえぞ! テメエエエッ!!」

拳を握り駆け出す。

幻想殺しで触れたところでどうにもならないことは知っている。

ただ怒りをこめて目の前で哂う化物を殴ってやると心に決めた。

一歩、二歩、三歩。

哂いながら待ち受けるアーカードに上条当麻が飛びかかった。

幻想殺しを握りしめて全力で拳を叩きつける。



――――だが。

もうアレイスター本人が動けよw

>>284
美琴はねーよw
しかも超電磁砲とか本気でも何でもないだろ

上条当麻の右の拳はパチンと情けない音をたてて吸血鬼の掌で受け止められた。

アーカード「ククク…吸血鬼に素手で立ち向かうとは勇敢な小僧だ。 だが…愚かでもある」

そう言ってクツクツと哂うアーカード。

そのままぶらりと右の拳を掴まれたまま宙に持ち上げられる上条当麻。

アーカード「貴様はその右の拳に自らの全てを賭けた。 私は貴様の勝負を受け…そして“勝った”」

凄まじい力で拳を握られ、痛みに顔をしかめる上条。

アーカード「ならばこれは当然のことだ。 …敗者は勝者の“もの”だろう?」

そう言ってアーカードが大きく口を開いた。

ぎらりと光る鮫のような牙を見て上条当麻は心の底から理解した。

吸血鬼とは人類の上位の存在であるのだと。

上条当麻の首筋にアーカードの牙が近づく。

あとたった数cmでその牙が薄い皮膚を破り、赤く熱い血液が溢れ出すだろう。

その時、朗々と声をあげる男がいた。

      「当然。 貴様の暴虐を見過ごすはずは無い」

声の主は緑髪をオールバックにした白いスーツの錬金術師だった。

アウレオルス「“離れよ”」

その言葉と共に弾けるようにしてアーカードから吹き飛ばされる上条当麻。

ゴロゴロと地面を転がったまま、地に伏せたっきりの上条当麻に向かい言葉を放つアウレオルス=イザード。

アウレオルス「立て。 いつまで無様な姿を晒しているつもりだ」

だが、そんなアウレオルスの言葉は上条当麻には届いていなかった。

ガツンと右拳が地面を叩く。

上条「…クソッ! ふざけんなっ! こんなときにっ! こんなときに役にたたないで何が幻想殺しだっ!」

それはステイルが殺されたというのに一矢も報うことが出来なかった自分への怒りだった。

上条「敵討ちだなんて言うつもりはねえ… けどよっ!」

視線の先にはうつ伏せになったままピクリとも動かない炎髪の少年。

上条「このままじゃ…このままじゃあいつがっ!」

アレイスター「“浮かばれない”……か?」

苦悶を搾り出すようにして叫ぶ上条の言葉の続きを先んじる錬金術師。

その口調になにかを感じて顔をあげる上条。

アレイスター「必然。 黄金錬金を舐めるな小僧」

そう言い切ったアレイスターの後ろには姫神がいた。

アレイスター「“甦れ”」

>>299のせいで頭の中が混乱したんだ!!!
悪いのは>>299なんだ!!!

ごめんwwwww脳内修正よろしく


アウレオルスがそう言った途端、ステイルの身体が震える。

ステイル「…ガッ! …ゴフッ! …ガフッ!」

まるで空気の塊を吐き出すようにして咳き込みながらステイルが立ち上がった。

ステイル「……ゲホッ …あれかい? 僕は…死んだのかい?」

ペタリと自分の胸に手を当てながら呟いたステイルにアウレオルスが返事をする。

アウレオルス「当然。 胸に20cm四方の穴が開いて生きていられる人間はいない」
              アルスマグナ
ステイル「…凄いもんだね。 黄金錬金ってのは。 そうだ、どうせならそいつでそこの吸血鬼もなんとかしてくれよ」

軽口を叩くステイル。

ステイル「“従え”とか“消滅しろ”とかさ? どうだい?」

だが、そんなステイルに向かいアウレオルスが首を振る。

アウレオルス「当然。 出来るものならとうにやっている」

そう言って3本の指を出すアウレオルス。

アルスマグナ
黄金練成はアウレオルス=イザードが“思った”とおりに魔術を現実に構築する魔術。

それゆえに、アウレオルスは幾つかの失敗をしていた。


アウレオルス「一つ。 知らぬうちに私は自らで口にしていた」

―今更吸血鬼など。 もはや私は求めていない―
―厳然。 私は吸血鬼を知らぬ―

無意識に口にした言葉は無意識故に枷となっていた。
                  ディープブラッド
アウレオルス「二つ。 ここに“吸血殺し”がいる」

吸血殺しの血は吸血鬼を滅ぼす。
          ヴァンパイア
だというのにこの吸血鬼は平然と立っている。
            フリークス
アウレオルスはこの化物の有り様に矛盾を感じていた。

アウレオルス「三つ。 吸血鬼であろうと生命はひとつなはず」

そう、確かに命じたのだ。 「死ね」と。
                 モンスター
そもそも最初の一言でこの怪物は滅ばなければならない。

だが、アウレオルスは知らない。
               ヴァンパイア
目の前の存在がただの吸血鬼ではないということを。

シュレの特性利用すれば零号解放もやろうと思えばできるんじゃない?


まぁその時は河からゾロゾロと現れる無数の旦那が出てくるんだろうけど。

悪夢だな

正直2巻は黒歴史だしなぁ

ヘタ錬金()
吸血鬼()
■■()

天使とか出てきちゃってる科学側はともかく魔術側が吸血鬼を恐れる理由が判らん

3000度の炎だの聖人だのがいても吸血鬼を滅ばさないってことはそれ以上に吸血鬼強いのか?

そのうち実はアレイ☆は吸血鬼でした!とか言い出したら鼻血吹く

>>477
吸血鬼は一人存在するだけで世界を壊滅させることができる。聖人でどうこうできるレベルじゃない
アレイスターが吸血鬼はあり得ないでしょ。吸血鬼はオシリスの時代なんじゃないの?

>>480
>吸血鬼は一人存在するだけで世界を壊滅させることができる。

この理由って吸血鬼は時間気にせず大魔術使えるからだっけ?

つか2巻以降吸血鬼に全く触れられてないからなぁ
最後の敵が吸血殺しを克服した吸血鬼で実は■■さんが真のヒロインだったのだ!…さすがにねえかwww

ナンバー・ノーン
所属…ブラザーフッド・オブ・ダダ
能力…あなたの周囲の「誰か」あるいは「何か」はナンバー・ノーンである
エージェント“!”によれば「全ての者と全ての物は、時々あるいはまた別の時に、ナンバー・ノーンである」
事実、初登場時のナンバー・ノーンは「エージェント“!”が開けたドア」だった
彼の殺害は不可能である
何故なら、その存在があまりにも不鮮明すぎるから



何故こいつの話題にならないのか

誰それ?

>>537
2年前ぐらいにVIPで話題になったチートキャラ
X-MENのパクリ元の漫画に出てくる無秩序・無政府主義系テロ組織の所属らしいがもう忘れられたのか…

残っている…だと…!?
感謝の極み。
眠くて頭フラフラだけど書き溜めてある分は投下させてもらいますです

>>339

アウレオルスの説明を聞き、ふぅと紫煙を吐くステイル。

ステイル「なるほどね。 いくら黄金錬成といえど結局は人が成す魔術ってことか」

――否。

ステイル=マグヌスの見解は間違っている。

アルスマグナ
黄金錬成、それはまさしく完全無敵の大いなる錬金術。

本来ならば、“世界の全て”を己の手足として使役する事ができるのだ。

そして数百年はかかる詠唱をたった半日の詠唱でもって発動を可能にしたアウレオルス=イザードはまさしく天才である。

だが天才がゆえに、このパラケルススの末裔である若き錬金術師には一つ致命的な欠点があった。


アルスマグナ
黄金練成を得た者は超人となり神に等しい智恵と力を持つ。

思考をそのまま具現化するという魔術“だからこそ”、この術理を行使する者は超人もしくは狂人ではなければ“ならない”。

揺らぎない思考、崩れぬ自我、妄信的に自らの意志を肯定しきる強靭な精神が無ければ黄金錬成は十全の力を発揮できない。

錬金術師、アウレオルス=イザードは天才であるがゆえ錬金術の到達点に辿りついた。

それは一人の少女を救うため。

ただそれだけのために18歳という若さでもって真理に辿りついたアウレオルス。

そしてだからこそ。

錬金術師、アウレオルス=イザードは天才であるがゆえ黄金錬成を使いこなすことが出来ないのだ。

ステイルの軽口に沈黙で返すアウレオルス。

ステイル「けど… だからといってこの状況で「降参です」と言って諦めるわけにはいかないな。 なぁそうだろう?」

そう言って幻想殺しの右手を持つ少年を見ようとしたステイルは顔をしかめる。

そこにはペタペタと自分の胸をまさぐる上条当麻がいた。

ステイル「君。 気持ち悪いから触らないでくれないか?」

心底嫌そうな顔で上条の手を払いのけるステイル。

上条「…あ、あぁ。 悪ぃ。 さっきまで胸に風穴あけられてたんだよなって気になっちまって…」

上条当麻の顔に浮かんでいたのは親友の安堵を喜ぶような表情だった。

ほんの10時間前、炎剣でもって襲撃したことをもう忘れているのだろうか?

そうステイルが訝しむほど邪気のない顔を見せる上条当麻。

そんな上条を見て苦々しげにステイルは横を向き、吐き捨てる。

ステイル「……ほんとに。 異能者はどいつもこいつもろくなのがいないね」

そのステイルの口元には僅かな笑みがあった。

その言葉が合図だったようにステイルの隣に並び立つ錬金術師とイマジンブレイカー。

彼等の後ろには二人の少女がいる。

ディープブラッド
吸血殺しという重く辛い宿命を負った姫神秋沙。

10万3千冊という魔道書を記憶に詰め込まれたインデックス。

何としても彼女達は守り切るというのが三人の少年たちの譲れない矜持だった。

アウレオルス「敢然。 この吸血鬼をどのように滅ぼすか」

眉をひそめるアウレオルス=イザード。

ステイル「炎剣も効かない。 頼りになるかと思った幻想殺しもどういう訳か効果は見込めないし」

軽く肩をすくめるステイル=マグヌス。

上条「けど諦めるわけにはいかねえだろ… せめて弱点の一つでもありゃあ…」

この状況ではもっとも無力な上条当麻がそう呟く。


だが、そんな上条当麻の呟きを聞いてアーカードが大きく両の腕を広げた。

アーカード「小僧。 何を悩んでいる? 私を討ち倒す方法など“簡単”なことだ」

ノスフェラトゥ
不死者は謳う。

アーカード「化物は“弱い” “化物”は“人間”に討ち倒される」

フリークス
化物は喜劇の演者のように台詞を回す。

アーカード「私を屈服させてみろ。 私を絶望の淵に落としてみせろ。 私を決して覚めぬ永久の眠りにつかせてみせろ」

ヴァンパイア
吸血鬼は悲劇の演者のように台詞を回す。

アーカード「私の膨大な過去を貴様達の膨大な未来でもって粉砕してみせろ」

ノーライフキング
不死王は謳うように台詞を回す。
                         ゴールデンドーン
アーカード「さぁ見せてくれ! 私に! “黄金の夜明け”を!」


それは…まさしくアーカードの嘘偽りない本心であった。

その言葉を聞いて姫神秋沙は思った。

10年前のあの日。 謝りながら、泣きながら灰に還っていった吸血鬼。

目の前に立つアーカードは彼等と何ら変わらないのではないか…と。

だがそれは吸血殺しである姫神秋沙にしか判らない…


そう、上条にはアーカードの心が理解できない。

それは上条当麻だけではない。

ステイル=マグヌスもアウレオルス=イザードも目の前の化物が何を言っているのかまるで理解できなかった。

上条「…ッ! 好き勝手言いやがって!」

拳を握った上条当麻が言葉をぶつける。

上条「そんなに死にてえなら! テメエ一人でケリをつけやがれっ!」

そう上条が吠えた時だった。

部屋の一面に設置されていた窓ガラスが一斉に砕け散った。

    「あなたは相変わらず諦めるということを知らないのですね。 ――上条当麻」

寒風が差し込む部屋に凛とした声が響く。

そこに立っていたのはウエスタンルックな格好をした絶世の美女。

白い半袖のTシャツをヘソが見える位置で縛り、非対称にカットオフしたジーンズはあまりにも歪で扇情的。

長い黒髪をポニーテールにまとめ、腰には2メートル近くもある長刀を携えたその女性に名を呼ばれたものの上条当麻は覚えがなかった。

上条「なぁステイル……知り合いか?」

ポツリとステイルに問いかけた上条の言葉を聞いてむぅと眉をひそめる長身の美女。

    「…確かにこのような方法で登場するのは私の本意ではありません」

そういって粉々になった窓ガラスをチラリと見、そしてまた上条当麻に視線を合わせる。

    「ですが! だからといって今の言い様はあまりに酷いのではないですか? 上条当麻?」

グラマラスな腰に手を当て、ジトッとした目で上条を見据えるサムライガール。

    「それとも一度まみえただけで私の名、神裂火織を忘れたなどというつもりですか?」

それを聞いた上条当麻は言葉につまった。

上条当麻が記憶を失う以前の話。

何と返せばいいのか判らずに口を開くことが出来ない上条当麻。

だが神裂は上条の返事をまたずにアーカードに向き直る。

神裂「お初にお目にかかります。 大英帝国王立国教騎士団、ヘルシングのアーカード様とお見受けしました」

そう言いながら緩やかに足を引き、手を身体に添える神裂。
        ネセサリウス
神裂「私は“必要悪の教会”所属の魔術師、神裂火織と申します」

深々と頭を下げるそれは最上級の一礼。

アーカード「…ほう」

突如乱入してきた新たな人間の美しい一礼を見て愉快そうに小さく声を漏らすアーカード。

そんなアーカードに向け、礼の姿勢を保ったまま静かに神裂が口を開いた。

神裂「この場はどうぞ私たち必要悪の教会にお任せください」

それは裏を返せばアーカードに、ヘルシングに退いてほしいということ。

当然、そう言われたからとてアーカードがそれを受諾するはずもない。

アーカード「ククク… 断る…と言えば?」

そう笑いながら神裂に一歩を踏み出そうとしたアーカードの足がピタリと止まった。

アーカード「………」

無言のまま立ち止まったアーカードが中空に手を伸ばし、そして何かを掴むように軽く横に振った。

その手の動きに合わせポタポタと微小な血液が床に飛ぶ。

神裂「失礼だとは思いましたが…既にこの部屋全域は“七閃”での結界が張り巡らさせてもらいました」

愛刀、七天七刀に手を置く神裂。

神裂「……どうか、ここはお退きください」

そう粛々と告げる神裂火織。

神裂にとってはそうするより他はない。

目の前の存在がいつ心変わりをして誰かに襲いかかるのかもしれない。

彼女には、神裂火織には信念がある。

神が人を選んで救うというのならば、選ばれなかった人々を自分が救うという揺らぎない信念が。



だが…神裂火織は知らなかった。

知る由もなかった。

自分のとった行動がアーカードの逆鱗に触れたということを。

神裂火織は知らない。

ヘルシングに務めていた今は亡き一人の“執事”の存在を。

アーカードを超える。 

ただそのためだけに全てを投げ捨てた“人間”を。

アーカードにとってその“ジョンブル”は執事であり戦友であり悪ガキであり友人であり強敵だった。

執事の名はウォルター・C・ドルネーズ 。

“元”ヘルシングゴミ処理係、“死神”ウォルターの得意とする武器は皮肉にも“七閃”と同じく鋼糸だったのだ。



アーカードの顔がギチリと大きく歪む。

それは事ここに至って初めてアーカードが見せた不愉快という感情。

アーカード「…小娘。 貴様…私の前で“糸”を使うか」

ガツンと床が踏み鳴らされ足元の大理石が砕け散る。

アーカード「よりにもよって! この私の前で! あの“死神”と同じ技を使うのか!」

拳を高々と振り上げたアーカードの瞳に愉悦の色はなかった。

それはただ力任せに拳をふるっただけだった。

アスファルトを容易く切断する鋼糸“七閃”に拳を当てればどうなるか?

当然の帰結としてアーカードの拳は、腕は、肉片となり骨片となり四散する。

神裂「なんて無茶をっ!」

まるで自ら腕を捨てるような暴挙に神裂火織は驚愕し、思わず言葉を漏らす。

そして遅れて気付いた。

愛刀である七天七刀に掛かっているはずの負荷がないことに。

神裂「……まさか」

指先で鞘をほんの少し撫でただけで神裂火織は理解した。

アーカードが放った、ただ一発の拳は張り巡らされた“七閃”全てを引きちぎっていたことを。

影を揺らめかせながらアーカードが歩みを始める。

アーカード「どうした? まさかこれで終わりではあるまい? まさかそれで終わりではあるまい?」

耳障りな音を立てながら再生していくアーカードの右の腕。

アーカード「さぁ剣を持て! 拳を握れ! 夜はこれからだ! お楽しみはこれからだ!」


…かくして化物と人間の闘いが幕を開けた。

ごめんなしあ
眠すぎて限界です。

区切りいいとこになったんで一旦ちょっと休憩をば。
落ちたら制速行くし、無理して保守してくれなくえも大丈夫ですよ?

あとごめん
一個だけ質問っていうか意見聞かせてくれ。       
自分は専ブラ使ってるからあんま気にならないんだけど

        インデックス
とある魔術の禁書目録

こういった書き方って見辛かったりする?
不満が多いようならば、これから投稿するときに

とある魔術の禁書目録(インデックス)

に修正かけるつもりなんでちょっと意見頼んます

幼稚であるってのは重々承知してるよう
こうすれば読みやすい~みたいな場所があったら教えてくれよう


あとルビに関して意見くれた人ありがとう。
参考にさせてもらいま。

>>566

獣が吠えるような轟音が響く。

暗闇を切り裂く十字の閃光は454カスールのマズルフラッシュ。

放たれた13mm爆裂徹鋼弾頭は主人の意志を体現するかのように無数の殺意でもって敵に襲いかかる。

しかし、たった一発でもって容易く人を殺しきるその銃弾はすべて弾かれていた。

そこに立つは一本の七天七刀でもってそれら全てを叩き落としていく神裂火織。

皮肉にも十字教の女教皇が大聖堂の銀十字で鋳溶かされた殺意に相対する。

常人ならば初撃でもって骨ごと潰されるであろう衝撃を難なく成し得るのは聖人である神裂なればこそ。

膠着状態になりはしたものの神裂はこの状況で後手にまわっていることに歯噛みした。

魔術で強化された肉体の反応速度をもってすれば銃弾の隙間を縫ってアーカードに肉薄することも可能である。

しかし、今この場を離れれば銃弾は唸り声をあげながら彼女の後方にいる人間の喉笛に易々と喰らいつくだろう。

それが判っているからこそ神裂火織はこの場を動くことが出来なかった。


その時、神裂火織の隣に黄金の鍼を手にした錬金術師が立つ。

アウレオルス「“銃をこの手に。 弾丸は魔弾。 用途は射出。 用途は相殺”」

それと同時にアウレオルスの右手に現れたのは西洋剣にも見えるフリントロック銃。

古式ゆかしい骨董品としか見えないそれを構えたアウレオルスは言葉を紡ぐ。

アウレオルス「“相対する銃弾を打ち落とす。 射出を開始せよ”」

火薬の破裂する爆発音が部屋を震わせた。

放たれた魔弾は蒼白く輝きながら飛来する弾頭と空中で衝突し、甲高い破裂音が響く。

叩き落そうとしたそれが中空で弾けるのを見た神裂が目線は動かさぬまま僅かに顔を傾ける。

神裂「……助太刀、感謝します」

そう礼を告げる神裂火織をチラと見たアウレオルス=イザード。

アウレオルス「当然。 この場において最も優先すべきことを選択したまで」

そして単発式の銃を構えたまま、更に唇に言葉を載せた。

アウレオルス「“先の手順を量産。 10の暗器銃にて連続射出の用意”」

鋼の扇のようにアウレオルス=イザードの両手に現れる仕込み銃。

アウレオルス「“準備は万端 10の暗器銃。 弾数は敵より多く。 同時射出を開始せよ”」

その言葉と同時に部屋が閃光で白く染め上げられた。

フリークス
化物が扱う一挺の銃と錬金術師が扱う十挺の銃。

当然、物量差で軍配があがったのはアウレオルスだった。

アーカードが放った銃弾はその全てが空中で弾け、吹き飛び、地に落ちる。

いや、それだけではない。

アウレオルスの放った古式弾がアーカードの身体に着弾し次々とその身体を貫いていく。

アーカード「クハッ! クハハハッ!」

血を噴き出しながら笑うアーカード。

圧倒的な物量差に曝されたアーカードはまるでそれを楽しむようにヒュウと口笛を吹いた。

アーカード「素晴らしい! 素晴らしいぞ!」

鉛のムク弾がアーカードの腕に脚に胴に顔に無惨な穴を穿っていく。

それでもアーカードは哂うのをやめない。

アーカード「いいぞ! こんなに楽しいのは久方ぶりだ! 」

そう闘争の評価をしたアーカードに、静かな声が問いかける。

神裂「貴方は――殺し合いがそんなに楽しいのですか?」

一瞬の隙をつきアーカードの懐に神裂火織が潜り込んでいた。

赤いコートの襟を掴んだ神裂が僅かに身体を動かすと、まるでその動きに追従するかのようにアーカードの身体が傾ぐ。

神裂火織が属していた天草式十字凄教は独自の進化を遂げた融合型の多角宗教である。

“ありとあらゆる”宗教を偽装として取り込んだ天草式は当然ながら戦闘においても“ありとあらゆる”手段を使う。

神裂が行ったそれを形容するならば、それは日本の武術である合気道のような体運びが最も相応しかった。

足元を崩したアーカードが向かう先には炎髪の魔術師、ステイル=マグヌス。

神裂「ステイル! あわせてください!」

アーカードの背後より地を駆けながら神裂火織が声を張り上げる。

ステイル「…こういう時は事前に打ち合わせてほしいんだけどね」

そう呟いたステイルが煙草を放り投げる。

そして炎を操る魔術師が、現段階で具現化できる最強の魔術でもって“吸血鬼”に立ち向かう。

 AshToAsh
「灰は灰に―――」

DustToDust
「塵は塵に―――」

SqueamishBloody Rood
「吸血殺しの紅十字!!」


両の腕に現れた二振りの青白い炎剣を構えるステイル。

ステイルの準備が整っているのを確認した神裂火織がフッと小さく呼気を漏らす。

それは体内で魔力を練り、己の身を“神を殺す者”へと作りかえる儀式のようなもの。

“神を裂く者”と化した神裂火織が一瞬にして加速した。

ヴァンパイア
吸血鬼の向かい側にステイルがいる以上、“切り札”は使えない。

だが“聖人”神裂火織の抜刀術は魔力を込めなくとも恐るべき威力を秘めているのだ。

七天七刀の鯉口を切った神裂と炎剣を構えたステイルが寸分の狂いもなくアーカードを軸に交差した。

残心をとった神裂火織の耳にようやく届く二対の斬撃音。

ゆっくりとアーカードの身体が揺らぐ。

振り返ったアーカードの身体には斬撃による十字の印がくっきりと刻まれていた。

アーカード「…ガハッ!」

ビシャリと喉に詰まった血を吐くアーカード。

その身震いで打ち込まれていた魔弾が鈍い音を立て地面にこぼれ落ちる。

アーカード「……ほぅ」

ポツリと自分の血溜まりを見てアーカードがそう感嘆の声を漏らす。

そこには安らかな笑みが浮かんでいた。

アーカード「…なるほど。 大した威力だ。 “走狗”では無い。 確かに貴様等は“人間”だ」

まるで幼子に語りかける老爺のように優しい口調。

アーカード「脆弱なその身でもって、よくぞここまで練り上げた」

まるで愛しき君に愛の言葉を囁きかけるような甘い口調。


アーカード「……ならば私もそれに答えよう。 真摯にその想いを受け止めるとしよう」


ゆるり、とアーカードが両の手で印を結ぶ。


そして―――地獄の釜の蓋が開いた。

アーカード「拘束制御術式」

流れ落ちた血が緩やかに吸血鬼の足元に集っていく。

その言葉にざわざわと部屋の空気が胎動する。

それは誕生を予感した魑魅魍魎の歓喜の声か。


      「第三号解放」

バチリ、バチリと目が開く。

      「第二号解放」

ゾワリ、ゾワリと手が生える。

      「第一号解放」

ギシリ、ギシリと牙が鳴る。

      「“クロムウェル”発動による承認認識」

無数の眼が、手が、牙が敵を求める。

      「目前敵の完全沈黙までの間 能力使用限定解除開始」


アーカード「かかってこい“人間”共。 教育してやろう。 本当の吸血鬼との闘争というものを」

神裂火織の全身から熱病のような汗が吹き出す。

“神の力”による負担ではない。

じっとりと濡れたシャツが肢体に貼りついていることにも気付かぬほど、神裂は目の前の馬鹿げた存在に呑まれていたのだ。

規格外などいう言葉では追いつかない圧倒的な存在の前に人は立ち向かえるのだろうか?

これは“吸血鬼”などではない。 邪神だ。 魔王だ。

そう神裂火織は理解した。

見つめているだけで心が震え、絶望がその身を浸す。

思わず一歩、後退りそうになる。

…今そうしてしまえば間違いなく神裂火織の心は折れるだろう。

しかし逡巡した神裂の後退を止めたのは隣で踏み出された一歩だった。

上条「ふざけるなよテメェ… そんなくだらねぇ理由なんかで… 殺されてたまるかっ!」

恐怖を隠しきれずにブルブルと震える足のまま、そう上条当麻が吠える。

それが虚勢であることは一目瞭然。

それでも神裂の背中を押すに充分な一言だった。

神裂「貴方は――よくよく人を救うのですね。 上条当麻」

そう呟いて神裂は一歩前に足を進める。

神裂火織は覚悟を決める。

この闘いでこの身が果てようとも最期まで抗おうと。

陽炎のように揺らめく闇から目を離さず神裂火織がアウレオルスに話しかける。

神裂「錬金術師。 頼みがあります。 私と…あの伯爵を隔離できる空間の生成は可能ですか?」

その一言で全てを悟ったアウレオルスが返事をする。

アウレオルス「当然。 それならば瞬く間もなく実現可能だ。 …だが」

そう言ってアウレオルスが珍しく言葉を濁す。

アウレオルス「それを為せば……自然、どのような結末が待っているか判らぬわけでもあるまい?」

神裂火織の要望は自らを死刑台のエレベーターに乗り込ませろということと同義。

だが、神裂は清々しい顔でそれを肯定した。

神裂「構いません。 もとより私の身は理不尽な暴力に見舞われた人々を救うためにあるのですから」

この時、“聖人”神裂火織はその生き様までもが“聖人”だった。

上条「なっ!!」

ステイル「君は…何を言ってるのか判っているのかっ!!」

神裂の言葉に驚き、否定の言葉をあげる上条とステイル。

しかし、神裂は優しく微笑んでそれを態度で否定した。

神裂「彼女を。 インデックスをよろしくお願いします」

そう言ってアウレオルスに視線で合図をおくる。

アウレオルス「…厳然。 神裂火織、貴様の名は忘れはしない」

黄金の鍼をその手に持ったアウレオルスは厳かにそう告げると首筋にそれを突き刺した。

アウレオルス「“魔術師、神裂火織と相対するものを隔離せよ”」

例えアウレオルスがアーカードに向かいそう命じたとしても恐らくそれは実現しなかっただろう。

それはアウレオルスが神裂火織を信じたからこその黄金錬成。

アウレオルスの言葉と同時に姿が霞みんでゆく神裂火織とアーカード。


神裂「私の“素敵な悪あがき”をお見せすることが出来ないのが――残念ですね」


その言葉を最後に。 神裂火織はアーカードと共に何処ともしれない空間へと飛び去った。

お腹が減って死にそうですんで豚のように飯を食い荒らしてきます。
ていうか思いのほか伸びちゃって嬉しいやら驚くやら。
1000までに終わるかどうか微妙なんですがどうしましょ。

>>711

その広大な空間に色はなく、天井はなく、音がなかった。

神裂「はァッ!!」

裂帛の気合と共に振るわれた神裂火織の一閃が黒犬獣を斬り伏せる。

ギィギィと断末魔の悲鳴をあげる黒い影。

だが次の瞬間には無数の百足や蝙蝠というおぞましい怪生に姿を変える。

そして神裂が息を付く間もなく黒い血溜まりの中から腕が伸び、対化物用にカスタムされた454カスールが銃火を散らす。

神裂「…っ!?」

あと数瞬遅ければ脳天に直撃していたであろう銃弾をギリギリ躱し、そのまま大きく距離をとる十字凄教最強の名を冠した女教皇。

神裂は肩で息をしながらも油断なく闇の塊そのものとなったアーカードを見据える。

いまだ致命的な傷こそ負ってはいないものの、その身に纏ったシャツとジーンズは至る所を切り裂かれ、白く柔らかい素肌が露出していた。

そんな神裂の前でキチキチと不快な音をたてながら闇の塊がひしめきあい、ズルリと影の中から姿をあらわすアーカード。

アーカード「…ほぅ やるな小娘。 どこぞの犬の糞よりもよっぽどマシだ」

まるで底の見えない笑みを見せながら賛辞を口にしたアーカードに、神裂火織が返答する。

神裂「…っ。 お褒めに預かり恐悦です」

ゼイゼイと息を切らす神裂はそれでも優雅さを失ってはいなかった。

そんな神裂を見てアーカードは哂う。

アーカード「…だが」

その口調には蔑むような色があった。

アーカード「“何故”私の心臓を狙わない? 貴様は私が吸血鬼だと。 そう知っているはずだ」

1000分の1秒が生死を分ける攻防の中でとっていた自らの行動を的確に指摘され、ギクリと硬直する神裂火織。

アーカード「よもや…私が自滅すると思っているわけでもあるまい」

フリークス
化物の言葉は神裂火織の優しすぎる人の心を曝けだす。

そう。 神裂火織は決着を望んではいなかったのだ。

とはいえ、目の前にいる吸血鬼を滅ぼすのが怖いわけではない。

もちろん、今この場で自分が息絶えるのが怖いわけではない。

彼女の目的はただ一つ。

“足止め”であり“時間稼ぎ”である。

神裂火織はこの空間がどのように組成された魔術なのか知らない。

内部と外部の時間はどうなっているのか。

この空間での1秒は外の1秒なのか、10秒なのか、0.1秒なのか?

そこが判らぬ以上、ただ神裂はこの場にて死なないだけの闘いを選択した。

それはまさしく皆が逃げるためだけに限界まで時間を稼ぐ“悪あがき”である。

だが…それはアーカードにとって酷く“退屈”な茶番に過ぎなかった。

アーカード「貴様は勘違いをしている」

出来の悪い生徒を諭すようにアーカードは言葉を続ける。

アーカード「殺し、討ち果たし、朽ち倒す者には。 殺され、討ち果され、朽ち倒される意志が無ければならない」

朗々と言葉を紡ぐアーカード。

アーカード「それを違えることは出来ない …この世の誰にも出来ない“唯一つ”の理だ」

ノスフェラトゥ
不死者の脳裏に今は亡き宿敵の姿が…最期まで“人間”でいることの出来なかった弱い“人間”の姿がよぎる。

まるでその記憶を振り払うように吠えるアーカード。

アーカード「貴様の意志は! 貴様の覚悟はそんなものか! 貴様がしている事はこの世の“理”を踏みにじる侮辱なのだ!」

ビリビリと神裂の全身に殺気が降り注ぐ。

アーカード「さぁ闘え! 全身全霊でもって! 滅ぼすために! 滅ぼされるために!」

まるで神裂を抱擁する準備のように両の腕を広げてそう叫ぶアーカード。

…それを見て神裂火織はふと思った。

彼女の記憶に刻まれた“選ばれなかった”人の想い。

目の前の男が抱えている想いは同じものなのではないかと。

そして――神裂火織の強ばっていた肩から力が抜ける。

神裂「…“唯一つ”の理…ですか」

ポツリとアーカードに返事をする神裂。

その瞳には強く美しいい光があった。

神裂「では…改めて名乗らさせてもらいましょう。 私の名は神裂火織。 そして… “魔法名”はSalvere000」

神裂火織が魔法名を名乗る、それすなわち己の“切り札”を放つということ。

吐き出される細く長い吐息と共に新たな魔力が全身を駆け巡る。

血管に神経に筋肉に内蔵に骨格に限界まで魔力を注ぎこむ神裂。

神裂「私の魔法名。 それは“救われぬ者に救いの手を”という私の信念の形です」

ハードワーク
過酷な運動の代償が神裂火織の全身を蝕み始めていた。

だが、それでも神裂は魔力を注ぎこむのをやめない。

神裂「真説の“唯閃” それもある意味では貴方が言う“唯一つ”の理なのでしょうね」

抜き身の七天七刀を鞘に収め、構えを取った。

ほんの僅か動いただけで。 長い長髪が皮膚に触れただけで。

オーバロード
過負荷をかけた肉体が悲鳴をあげ、警告を出す。

だが、そんな痛みを無視して言葉を続ける神裂火織。

ここで譲ってはならぬと神裂は理解している。

神裂「例えこの身が敵わなくとも… せめて一太刀は貴方の心に刻んでみせます」

それは神裂火織の宣戦布告。

ワンサイドゲーム
一方的な死合では決して終わらせないと神裂火織はそう言ったのだ。

もはやそこにいるのは“必要悪の教会”所属の魔術師ではない。

神裂火織は個人の意志でもってアーカードに立ち向かう。

とんと軽く地を蹴る神裂火織の行く手で牙をむく無数の闇。

アーカード「そうだ! 私は“ここ”だ! “私”は“ここ”にいる!」

嬉しそうに笑うアーカードを見て神裂火織の口元も釣り上がる。

そして…今まで外したことのない仮面を脱ぎ捨て、神裂火織が“吼えた”。


神裂「アーカァードォォッッ!!! 覚悟ッしやがれえええっっっっ!!!」

ごめん、一旦寝かさせてもらいます…
落ちたら制速、残ってたらここでってスタンスは変わらずです。
目覚めたらまた再開します。
ちなみに残りは20~30レスくらい?な予定だし明日中に終わると思っております。

ごめんねごめんね
設定は頑張って考えたつもりなんだけど、やっぱり気になるよね
化物対人間っていう図式で書きたかったが為なんだけど不満な人もそりゃいるよね

しかもこれからかなり不満が出る展開になる確信があるから、そういうのが嫌な人は覚悟してよね

>>769




――物語は僅かに遡る。


■ロンドン郊外・ヘルシング家

英国王立国教騎士団本部の長い長い廊下を一人の女性局員が走る。

ブロンドのショートヘアー、蒼い瞳を持った少女のようなあどけない顔だちを不安に歪ませ走る、走る、走る。

その名はセラス・ヴィクトリア。

ヴァンパイア
吸血鬼アーカードに血を吸われ、彼の眷族となった女吸血鬼。

角を曲がり、階段を駆け登り、ドアを突き飛ばし、目指す先は局長室。

ノックもせずにその分厚い樫の扉を押し開くと同時に大声で叫ぶセラス。

セラス「イッインテグラ様っ! 大変ですインテグラ様っーー!!!」

騒々しく部屋に闖入してきた部下を見て、この屋敷の主、インテグラ・ヘルシングがふぅと溜息をついた。

インテグラ「騒々しいぞセラス。 一体何事だ?」

確か20、30レスで終わるとの事だったから支援は控えめにしないとな

そのインテグラの若干非難めいた声色も耳に届かないほどセラスは混乱していた。

セラス「たっ大変なんです! マスターがっ! マスターがっ!!」

慌てたセラスの言葉を聞いてピクリとインテグラの眉尻が上がる。

インテグラ「アーカードがどうした?」

そう問われたセラスが急に口ごもる。

セラス「え、えっと! あ、あのっ! えー… 何と言ったらいいか そのー…」

口をモゴモゴさせながら言葉を探すセラス。

そして自分が感じた感覚をそのまま言葉に変換する。

セラス「そっそうなんです! えっと! マスターが“消え”ました!」

不安そうな顔をして自らが感じた胸騒ぎを口にしたセラスだったが、それを聞いたインテグラは困ったように頭を振った。

インテグラ「…忘れたかセラス・ヴィクトリア。 もはやアーカードは“どこ”にでもいて“どこ”にもいない存在だぞ?」

そう。 シュレディンガーの猫というパラドックスを内包したアーカードが消えるなどということはありえない。

だが、それでもセラスの表情から不安の色は消えなかった。

セラス「……えーっと それはそうなんですけど… “こっち”にいないというか壁の向こう側に消えてしまったというか…」

うまく言葉にできず頭からブスブス煙をだすセラスを見て、インテグラがゆっくりと立ち上がる。

その手には“吸血殺し”についての報告書があった。

インテグラ「だが…私も気にはなっていた」

バサリとその書類を机の上に放り投げコートを羽織るインテグラ。

セラス「えっと…インテグラ様?」

その行動の意図が掴めず不思議そうな顔をするセラス・ヴィクトリア。

インテグラ「“また”30年も待たされるのはもうゴメンだからな」

苦笑いをしながら身支度をするインテグラを見て、セラスの顔がパァっと輝く。

>>833
ごめん嘘ついたかも
20~30じゃ終わらない予感が…

セラス「インテグラ様! それって!」

インテグラ「あぁ。 私も日本へ向かう」

だが、それを聞いたセラスの顔色が暗く沈む。

セラス「で、でも…どうやって行くんですか?」

ひーふーみーと指を折り曲げて数えるセラス。

セラス「今から出発しても飛行機じゃあ半日近くかかりますし… 新しいヘリだってまだ納入されてないですし…」

そうまで言ってポンと手を叩くセラス。

セラス「いっそのことマスターみたいに専用ジェット機でそのままギューンと突っ込んじゃいますか? ギューンって!」

開いた手のひらに指先をぶつけるジェスチャーをするセラスを見て呆れ声を出すインテグラ。

インテグラ「バカ。 セラス、おまえはホントーに何年たっても相変わらずバカだな」

セラス「なぁ! いきなりそんなこと言うなんてヒドイじゃないですかー!」

溜息をつインテグラにセラスがムキーと憤慨する。

インテグラ「私がSR-71で特攻してどうする… 第一、それより速い“乗り物”があるだろう」

そうインテグラに言われるもまるで想像がつかず頭をひねるセラス。

セラス「へっ!? …まさか。 …ミサイルかなんかにしがみついて行くつもりですか?」

素っ頓狂な答えを聞いてガックリと肩を落とすインテグラ。

インテグラ「…セラス。 おまえのことだ」

セラス「あぁ~なるほど。 私のことだったんですね…って私ですか!?」

インテグラ「そうだ。 おまえも一緒に行くんだ。 セラス・ヴィクトリア」

それ以上は言葉を挟ませぬというように身支度を整え終わったインテグラが窓を開く。

セラス「は、はぁ…それは構いませんけど… あ、でも…屋敷の警護は?」

恐る恐る口を開くセラスにインテグラが答える。

インテグラ「構わん。 奴らの目的は私とおまえとアーカードだ。 狙うべき相手がいない屋敷を誰が襲う?」

腰まで伸びた長髪を風に揺らしながらインテグラが振り返った。

インテグラ「何より。 私はもう充分に待った。 これ以上待たされれば私は“しわくちゃのおばあちゃんに”なってしまう」

セラス「インテグラ様…」

老いたインテグラの想いを感じとったセラスが背筋を伸ばし、インテグラの隣に立つ。

開いた窓から吹き込んだ涼しい風が、立ち並ぶセラスとインテグラの頬を撫でる。

インテグラ「たまにはだ。 こちらから迎えに行ってやろうではないか」

セラス「は、はいっ!」

インテグラ「――では往くぞ。 飛べ! セラス!」

そのインテグラの号令と共にぞわりとセラスの左腕が不定形の霧となった。

セラス「往きます!」

ドラキュリーナ
女吸血鬼と伯爵がアーカードを迎えるために飛び立った。

黒い翼が大英帝国の空を裂く。



しかし――その到着にはまだもう少し時間がかかる。

■三沢塾

静まりかえった部屋の中で上条当麻は思う。

消えていった神裂火織とアーカードの事を。

脳裏に浮かぶは別れ際、神裂が浮かべた優しい笑顔。

上条「…くそっ! 冗談じゃねえぞ!」

右の拳に、あの吸血鬼には何ら効果のなかった幻想殺しに怒りを叩きつけるようにして地面を殴る上条当麻。

そんな上条当麻の後ろに立ったのはステイル=マグヌスだった。

ステイル「…感傷に浸るのは君の勝手だけどね。 いつまでもそんなザマじゃあ神裂も浮かばれないだろうさ」

上条「――っ! テメエッ!!」

ステイルの言い草に激怒し、その襟を掴む上条当麻。

だが、そこでステイル=マグヌスの顔に見たことのない感情が浮かんでいることに気付く。

ステイル「付き合いはそれなりに長かったとはいえ。 あそこまで馬鹿だったなんて思いもよらなかったね」

憎まれ口を叩くステイルの表情には苦しみと怒りと悲しみが入り混じっていた。

ステイル「まったく… お笑いだよ。 彼女は“ヒーロー”じゃない。 “ヒロイン”だろうに」

それは悲しい皮肉だった。

しかし、それを聞いた上条当麻の頭に閃きが走った。

上条「…なぁアウレオルス。 教えてくれ。 さっき二人を隔離したのも“魔術”なんだよな?」

姫神と共にこちらを見つめていた緑髪の錬金術師に確認を求める上条。

アウレオルス「その通りだ。 先の魔術師、神裂火織と共に吸血鬼を隔離したのは我が黄金錬成に他ならない」

肯定を返す錬金術師にさらに問いかける上条当麻。

上条「魔術には“核”があるって聞いた。 それは…“どこ”にあるんだ?」

目の前の少年が何を言い出しのか理解出来ないアウレオルスは疑念をもって逆に問い返す。

アウレオルス「…それを知ってどうするつもりだ少年? …いや、上条当麻」

訝しげな声をあげるアウレオルスに向かい上条当麻は右の拳を向けた。

上条「この右手。 あのヤローに… 一発も入れられなかった小さくて拳だ」

テストは赤点、女の子にもモテない、あげくに目の前の敵すら殴ることができなかった無力な右手。

上条「だけど…この右手には“幻想殺し”がある。 異能の力ならなんだって打ち消せる」

そして。 ゆっくりと上条当麻は儚い希望を口にした。

上条「もしかしたら… “アイツ”だけを隔離したまま “ヒロイン”をこっち側に引っ張り出せるかもしれねえ」

だが、そこまで静かに上条当麻の言葉を聞いていたアウレオルスがゆっくりと首を振った。

アウレオルス「不可能だ。 例えその“幻想殺し”が本当だとしても。 黄金錬成に“核”などない」

上条「…っ」

淡々とその希望を否定され、声にならない呻きをもらす上条当麻。

そんな上条を痛ましく見ながらも、己が起こした事象をただありのままに口にしていくアウレオルス。

アウレオルス「あれはこの空間の裏側。 科学で例えるならば… そうだな、別の次元に等しいものだ」

目の前の空気を撹拌をするように手を動かすアウレオルス。

アウレオルス「強いて言うならば… この空間、このビルそのものが“核”と言ってもいい」

そうアウレオルスが言葉を口にした瞬間だった。

パチリと上条当麻の中でナニカが繋がる。

上条「…そうかよ。 だったら足掻かせてもらう。 いいよな?」

そう呟きながらゆっくりと部屋の中央に進み出た上条当麻は地に向けて右の手をあてがった。

当然、何も起きはしない。

床に手をついたまま微動だにしない上条当麻を見てアウレオルスが見ていられないというように声をかけた。

アウレオルス「無駄だ少年。 彼女は我らのためにその身を投じたのだ。 これ以上…理想と現実を履き違えるな」

その言葉に侮蔑や罵倒といった色はない。

だが、その錬金術師の言葉も上条当麻の耳には届いていなかった。

冷ややかな大理石の感触が上条当麻の右手を押し返す。

―このままではダメだ。

まるで誰かにそう囁かれたように上条は思った。

今、上条当麻がしようとしていること。

それは“血の中”に垂れた“一滴の水”を、“一滴の水のまま”引き上げることである。

目を瞑り、五感の内から視覚を排除した。

体内で響く心臓の音をうるさく感じ、聴覚を遮断した。

嗅覚など随分前から馬鹿になっている。

口中に溜まった血を吐き捨てたついでに味覚も締めだした。

…今の上条当麻は上条当麻であって上条当麻ではない。


イマジンブレイカー
“幻想殺し”がそこにいた。


熱を帯びたかのようにジンワリと掌が熱くなる。

―まだだ。 まだもっと先にある。

理由はない。 只の直感で上条当麻はさらに“殺し続ける”

―奥へ! もっと奥へ!! もっともっと奥へ!!!

右手の上にポタリと何か冷たい液体が落ちた感触。

爪が割れ血がしぶいたのか? それとも鼻血か? 瞳の毛細血管でも切れたのか?

だがそんなことは上条当麻にとって“どうでもいい”

バキンと何かが壊れる音がする。

      「な・・・・・・我が金色の錬成を、右手で打ち消しただと?」

誰かが遠くのほうで驚きの声をあげている。

      「ありえん! 錬金術の到達点を破るなど! その右手、聖域の秘術でも内包するというのか!」


―うるせえな

“幻想殺し”はボンヤリとそう思った。 

もはや理屈など“どうでもいい”のだ。

ノイズ
雑音が脳を蹂躙している。 

だがそれすらもはや“どうでもいい”

ただただ奥に進むだけのシステムとなって。

…これだけは言える。

誰にも頼らず、笑って死地に赴く“ヒロイン”なんかを

―“幻想殺し”は… 否。 “上条当麻”は認める訳にはいかない。


―――そしてついに。 “掴んだ”

一気に型月っぽくなったな

>>874
ガイドラインからコピペ引っ張ってきて改変してるんだ。
許してくれ

上条「―――ッ!!!」

力尽くで右腕を引きずりだす上条当麻。

ブチブチと靭帯が伸びる音がする。

それでも、上条当麻は掴んだ“もの”を離さない。

それを呆然と見ていたステイル=マグヌスが驚きの声を漏らす。

ステイル「なん…だって…?」

目の前の少年が、まるで奇術のように大理石から人の身体を引きずり出しているのだ。

上条当麻の右手は見るも無惨な有様だった。

爪は割れ、指はあり得ない方向に曲がっている。

そして。

上条当麻は“ヒロイン”を血の色をした悪夢の中から引きずり出すことに成功した。

限界まで酸素を吐き出した肺が必死になって呼吸を求めている。

そんな身体の危険信号にも取り合わず、腕の中にいる“ヒロイン”を見た上条当麻は言葉を失った。

神裂火織の顔は屍蝋のように人間味を失っていたのだ。

白く細い腕は欠損していた。

そのふくよかな胸の中心部には砲丸が貫通したような大きな穴が空き、傷口からはピンク色の肉が覗いていた。

絹のように柔らかなその肌は既に体温を失い、上条当麻の火照った身体を冷やしていた。


上条「……嘘だろ」

間に合わなかった。

絶望に囚われた上条当麻は泣くことも叫ぶことも怒ることもできず、ただ呟くことしかできない。

――だが。

そんな上条当麻の言葉とは別に。

小さな小さな言葉が僅かに空気を震わせた。

  「――の ――いは ―ど― ――したよ」

目を見開く上条当麻。

常人ならば100%間違いなく死んでいるその傷を負っているというのに。

腕の中にいる“ヒロイン”がうっすらと瞳を開いたのだ。

神裂「私の… 想いは届きましたよ …と。 そう…言ったのです…上条当麻」

そして…その言葉を言い終わったと同時に瞼を閉じる神裂火織。

上条「おっおい! 寝るなバカ! 目ぇ開けっ!」

傷だらけの身体を揺することも出来ずただ声を張り上げる上条当麻。

そのとき、駆けこむように炎髪の魔術師が飛び込んできた。

ステイル「そんな事言ってる場合か君っ!」

神父が膝まずき、生命を賭した殉教者の首筋に手を当てる。

その指先に返ってきたのは今にも潰えそうな…しかし微かな鼓動があった。

ステイル「――っ! 頼む錬金術師! 彼女を! 神裂火織を!」

その懇願をステイルが最後まで言うことはなかった。

アウレオルス「当然。 皆まで言う必要は無し」

左手でステイルの言葉を制しながら右手を首筋に当てる。

アウレオルス「“治れ”」

その言葉と共に、上条当麻の腕に暖かな重みが帰ってくる。

それは腕一本分の重量にすぎない。

だが、上条当麻はまるで魂が戻ってきたようにも思えた。

ほぅと静かな吐息がその白磁のような唇から漏れた。

そしてゆっくりと瞼を開けた神裂がゆっくりと辺りを見回す。

ステイルをインデックスをアウレオルスを姫神を視界に収め、そして上条当麻を見た。

神裂「…夢では無かったのですね」

呟いた神裂の顔にはもう二度と見れなかったもしれない微笑があった。

上条「感謝します。 錬金術師、ステイル、上条当麻」

その透き通るよう美術品のような笑みに思わず見惚れる上条当麻。

と、モジモジと恥ずかしそうに腕の中で神裂が身をよじる。

神裂「あ、あの… もう支えてもらわなくても結構ですので」

両腕で自らの身体を抱き抱えるような不自由な態勢でそう神裂が口にした。

上条「あ、悪りい。 でも…その腕どうしたんだ? …もしかしてまだ傷口が痛んだりしてんのか?」

そう問われ口ごもる神裂。

神裂「いえ…そういうわけではないのですが…」

上条「嘘つけ! 明らかに傷口かばってるだろ!」

赤い顔をした神裂を見て真剣な口調で心配をする上条当麻。

神裂「そ、そういうわけではないのですが…」

上条「だから! それなら先にそっちが腕を外して傷口を見せればいい話じゃねえか!」

にわかに緩みだした空気をつくる二人の後ろに立つ辟易とした表情のステイル。

ステイル「君ねぇ。 僕が言うのも何だけど、もう少し慎みとか常識を身につけるべきだよ」

その言葉と共にバサリと神裂に自分が着ていたロングコートを投げるステイル。

ステイル「君の悩みの原因はそれだろう? 貸すからさっさと立ち上がってくれ」

神裂「か、感謝しますステイル!」

コートを引っ掴み、あっという間にその身に纏う神裂。

上条「あー… もしかして。 シャツが破れたままだった…とか?」

上条当麻はようやく神裂が顔を赤らめていた理由に気づく。

神裂「え、えぇ… そういうことになりますね」

気まずそうに頭をかく上条と頬を赤らめたままの神裂が向かい合い、空気がどんどんと緩んでいく。

そんな雰囲気を一言で断ち切ったのはステイルだった。

ステイル「…で。 “聖人”の君があれほどの傷を負ったんだ。 あの“吸血鬼”はどうなったんだい?」

それはあっという間に場の空気を引き締める。

神裂「結論から言いますと… 私の“完全敗北”です」

絞るようにして言葉を吐く神裂。

ステイル「……そうか。 まぁ、僕も“アレ”に勝てる存在がいるとは思えない。 よく生きて返ってこれたものだよほんと」

そんな神裂をまるでフォローするかのようにステイルが話題を変える。

ステイル「それよりもだ。 アウレオルス=イザード。 彼が独力でこちらに戻ってくるということはあり得るのか?」

それはこの場にいる皆の思いを代弁した一言。

アウレオルス「厳然。 我が黄金錬成を打ち破れるものなどいるはずがない。 …そこの少年は除くとしてだ」

チラリと苦々しげな顔で上条当麻を一瞥するアウレオルス。

だが、その言葉は再度高まった緊張を和らげるには充分な宣言だった。

ステイル「…ってことは、アイツを何処ともしれない空間に封印することが出来たってことか」

肩の荷が降りたように大きな溜息を吐くステイル。

アウレオルス「まさか私の黄金錬成が一夜にして二つの存在に破られるとは思いもしなかったが」

肩を竦めるようにそう皮肉を吐くアウレオルス。

上条「つーか俺もまさか“幻想殺し”が効かないとは思わなかったですよマジで。 筋トレでもすっかなー?」

ヘナヘナと腰が抜けたようにぺたんと地面に座り込む上条当麻。

だが…神裂火織と姫神秋沙は言葉を発さず沈黙を守っていた。

昏睡したままのインデックスを背負いステイルが立ち上がる。

ステイル「さぁもう長居は無用だろう? 僕達が錬金術師と戦う理由もなくなってみたいだしね」

アウレオルスの後ろに立つ姫神を見てニヤリと笑うステイル。

上条「おぉ! やっとこさ長い一晩が終わりましたよ」

そう言って立ち上がる上条当麻は無言のままの神裂火織を見て声をかけた。

上条「? どうしたんだ? ほら帰ろうぜ?」

そう言って神裂に右手を差し出す上条当麻。

上条「あ、そういえばさ。 あんた、あの長ーい日本刀はどうしたんだ?」

ふと神裂が腰に帯びていた七天七刀がないことに気づき、疑問を口にする。

神裂「…失念していました。 どうやらあちらの空間にそのまま置き去りにしてしまったようですね」

上条に言われるがまま腰に手を当てて、ようやくその事に気づく神裂。

上条「あらら。 そりゃもう諦めるしかないですな」

そう聞いて肩を竦める上条当麻。

あの化物と闘い、生命を落としかけはしたものの、結果的には刀一本の損失で帰ることができるのだ。

上条「まぁ命あっての物種ですよ。 とにかくさ。 “終わった”んだ。 帰ろうぜ?」

再度そう言って神裂火織に向かい右の腕を伸ばす上条当麻。


その時だった。


     「“いいや” まだ“終わって”いない “終わって”はいないのだ。 ――小僧」

ザミエル
魔王の (二度と聞こえないはずの) 恐ろしい (二度と聞きたくなかった) 声が した。

旦那「刀忘れてますよ、はいどうぞ」

神裂「ありがとう」

旦那「いえいえ、では私はこれで」

まるでそれは死神に背後から魂を刈り取られたよう。

誰一人振り返るどころか身じろぐこともできなかった。

     「確かに。 素晴らしい方法だ。 “以前”の私ならそれに対抗することは出来なかっただろう」

闇が影が魑魅魍魎が集い集まり集合し人の形を成す。

     「だが残念だったな。 もう私は“何処にも”いないし“何処にでも”いれる。 “だから”私は“此処に”いる」

亡者の闇の中から黒いブーツがカツリと一歩を踏み出して、大理石を叩く音がする。

     「小娘…いや神裂火織。 “忘れ物”だ」

そして円と化した閃光が上条当麻と神裂火織の真ん中を駆け抜けた。

その閃光に遅れて奇妙な放物線を描きながら“何か”が空を舞う。

上条当麻はぼんやりと“それ”を目で追って気がついた。

ボトリと不恰好な音を立てて地に転がる“それ”には見覚えがある。

―あぁそうか、見覚えがあるのも当然だ。 だってあれは俺の“右腕”なんだもの

魂が抜けたように呆けた上条に。 吸血鬼が。 魔王が。 不死王が。 アーカードが声をかける。

アーカード「どうした小僧? 闘いの最中に“横から殴りつけて獲物をかっさらう”など人間のよくやることだ。 私は怒ってなどいない」


アーカード「さぁどうする? 蹲ったまま死を待つか? 神に祈るか? どうする? どうするんだ小僧?」

アーカードの試すような…誘うような声を聞いた上条当麻が幽鬼のように立ち上がる。

切り落とされた傷口からは動脈がポンプのように血を吹き出し、赤く赤く床を染め上げていく。

そして。バチンとヒューズを落とすような音を立てて上条当麻の精神そのものが異質なナニカに切り替わった。

ビシャリビシャリと血を撒き散らしながらアーカードに立ち向かった上条当麻の口元は歪んでいた。

上条「あはっ あははっ あはははははははははははははは!!!」

イマジンブレイカー
“幻想殺し”上条当麻が哂う。

それは正常なる“異常”


そして…己に立ち向かう“人間”を見てアーカードの口元が愉悦の形に大きく歪む。


アーカード「ククク…クハハハハ…ハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!」

ヴァンパイア
“吸血鬼”アーカードが哂う。

それは異常なる“正常”

喜色満面の笑みを浮かべ、アーカードが謳う。

アーカード「クハハハ! どうした小僧! 腕が千切れたぞ! さぁどうするんだ小僧!!」

パチパチと万感の思いを込めて手を打ち鳴らすアーカード。

アーカード「立ち上がってどうする! 立ち向かってどうする! 貴様は死ぬぞ! 造作もなく死ぬぞ!」

それは事実だった。

千に一つも。 万に一つも。 億も兆も京も。


“那由他の彼方”も上条当麻に勝ち目はない。


だが、それを理解していても上条当麻は哂う。

上条当麻は初めてこの“化物”と相対しでも自分の足が震えていないことに、恐怖していないことに気がついた。

上条「うるせえっ! 可能性が“零”だって言うなら! おまえを倒すことが“幻想”だって言うなら!!!」

それは裂帛の気合だった。


上条「俺は! その“幻想”をブチ“殺す”っ!!!」


喉から血が噴き出るような叫びを聞いてアーカードは目を細める。

アーカード「ククク…素敵だ。 やはり人間は素晴らしい。 まるで夢のようだ!」

…狂気に哂いだした二人に誰も口をはさむことが出来なかった。

神裂火織は上条当麻の返り血に赤く染まったまま呆然としていた。

ステイル=マグヌスは例え自分がどうなろうとも背に負ったインデックスだけは守ると心に決めた。

そしてアウレオルス=イザードは上条当麻の行動が全くもって理解できなかった。

アウレオルス(…何だあれは? 闘うつもりなのか? “聖人”も叶わぬあの化物を相手に? あの死に逝く身で? 右腕もなく?)

それは誰がどう考えても有り得ないこと。

巨大な滝に蟻が立ち向かうのと変わらない。

だが、その時アウレオルスは自分の呟いた言葉を思い出す。

―まさか私の黄金錬成が一夜にして二つの存在に破られるとは思いもしなかったが―

アウレオルス(“闘うことができる”…のか?)

それは祈りにも似た希望だった。

儚い夢がほんの僅かアウレオルスの頭をよぎった。

瞬間。

上条当麻の右腕から鮮血のように噴出す鮮血の流れに異常がおきた。

流れ出る血が透明な“何か”に押し上げられるようにしてそのカタチをゆっくりと顕す。

上条の右腕から生えたのは大きな顎だった。

血に染まったそれは獰猛にして凶暴、巨大にして強大。

ドラゴンストライク
龍王の顎がギラリと口を開き鋸のような牙でもってアーカードを威嚇する。


だが、アーカードはそれを見て更に哂う。


アーカード「クハハハ! 構わん! 私は構わんぞ! 貴様が“誰”の力を借りようが! “誰”の力を行使しようが!」


その言葉と共にアーカードの右腕が影となり霧となりそのカタチを顕した。

アーカードの右腕から生えたのは大きな顎だった。

闇に染まったそれは漆黒にして凶悪、醜悪にして弩級。

バスカヴィル
黒犬獣は短剣のような牙を打鳴らし上条当麻を待ち受ける。


アーカード「さぁはじめるぞ! ただちに! 今すぐに! 三千世界の果てまで届く殺し合いをだ!!」


そのアーカードの言葉と共に、二人の右腕に宿る殺意が相手を喰い殺さんと咆哮した。

ではここで一興
















ぬるぽ

>>946
ガッ

唸り声をあげ、互いを喰いちぎらんと絡みあう二匹の獣。

それはあまりにも凄惨であまりにもおぞましかった。

まるで地獄の果てのような光景。

まさしく三千世界の鴉ですら逃げ出すような“殺しあい”だった。

飛び散る鮮血と闇がどろどろと一つに溶けていくような光景は正常な精神をもつ人間が見てよいものでは決してない。

さりとて…その闘いから目を離すことも決して出来はしない。

ステイル「…あれは …直視できるものじゃないね」

目の前で今も尚進行している惨劇を見てポツリと呟いたのは赤髪の魔術師。

アウレオルス「…同意する」

小さなステイルの呟きに呟きでもって答えたのは緑髪の錬金術師。


そんな時だった。


クイクイとアウレオルスの袖を小鳥がついばむような小さな感触。

引っ張られた感触に気付いたアウレオルスの目にはスーツの裾を引いて自らを主張する“吸血殺し”姫神秋沙がそこにいた。

こちらを見上げる姫神秋沙を見てアウレオルスが静かに声をかける。

アウレオルス「…どうした姫神秋沙? …正視に耐えないのならば私の後ろにいればよい」

だが、そんなアウレオルスの言葉に姫神秋沙は頭を振る。

姫神「ありがとう。 でも違う。」

そう言って姫神がスッと指をさす。

姫神「来る。 あと少しで。」

短い言葉と共に指をさしたのは殺し合いの後方、開け放たれた窓だった。

アウレオルス「…自然。 あのような光景を見れば動転するのも無理はない」

姫神秋沙が正気を失いかけてると判断したアウレオルスが困ったように声をかける。

だが、それを聞いた姫神は無表情なその顔をピクリと動かしてアウレオルスに飛びついた。

アウレオルス「なっ!? 何を!?」

ぶら下がるように首に手をかけ、眼下数センチのところに現れた姫神の端正な顔を見て慌てるアウレオルス。

姫神「違う。 よく見て。 あっち。」

しかし、姫神はそんなことに全く頓着せず、アウレオルスの首をぐいと動かす。


そしてようやくアウレオルスはグングンと大きさを増す赤い極光に気がついたのだ。

   「痛っ なんですかあ! 蹴ることないじゃないですかあ!」

   「五月蝿いバカ! 何が小ジワが増えただ! お前は悪い子だ! このバカ!」

   「そっそれは心配そうなインテグラ様の緊張を解きほぐそうと… ひゃっ! 握らないでください! そこ握らないでくださいってば!」

   「バカ! 違う! 前を見ろ! 前だ前!」

   「へっ? あれっ? ぶっぶつかる!? ちょっとそこのツンツン頭な人ぉ! 避けてぇぇ――っ!!!」


赤い極光から漏れ聞こえたのは叱責と弁解、そして悲鳴にも似た叫びだった。

猛スピードで飛び込んできたそれは“不幸”にも上条当麻に直撃。

ボウリングのピンのように弾き飛ばされた上条当麻はそのまま壁に吹き飛ばされてゴロゴロと転がっていく。

   「うわー… …やっちゃった。 …これって轢き逃げですかね?」

壁にめり込んだ赤い極光は光を失い、その下から現れた黒い翼の内ではヒソヒソと声がしていた。

   「私は知らん。 やったのはおまえだろう」

   「うわ! それ酷いですよインテグラ様!」

   「五月蝿い! それより早くここから出せ!」
   
   「えっ? あっ、はい! 了解です!」

その言葉と共に黒い翼が霧散するかのように一箇所に集まっていく。

闇が収まった場所に立っていたのは二人の女性。

一人は大英帝国王立国教騎士団ヘルシング機関の当主、インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング。

そしてもう一人アーカードの眷族、女吸血鬼“婦警”セラス・ヴィクトリアだった。

部屋の惨状には目もくれず、主の姿を見て目を輝かせるドラキュリーナ。

セラス「マスタ――――!!」

まるで父を慕う娘のように、夫を愛する妻のように、飼い主と再会した仔犬のようにアーカードのもとに駆け寄っていく。

セラス「すいませんマスター! 何だか嫌な予感がしたような気がしたんですけどやっぱり気のせいでした!」

アーカード「…………」

アーカードは黒犬獣を具現化したその姿のままピクリとも動かなかった。

セラス「……マスター?」

不思議そうに首をかしげるセラス。

そんなセラスの後ろからインテグラが現れる。

インテグラ「どうしたアーカード。 お預けを喰らった狗のような顔をして」

アーカード「…………」

その言葉を聞いてゆらりとアーカードの身体が動き、巨大な黒犬獣がただの右腕に戻っていく。

黒犬獣が収まると同時に、アーカードから発せられていた豪風のような殺気がピタリと止まる。

とんでもない方法で乱入してきた二人のブロンドの女性。

更には事もなげにアーカードに話しかけている姿を見て、息を飲み目を丸くする少年と少女達。

そして彼等は次に目の前で起こる光景を見て更に息を呑むこととなった。


ドラキュラ
“悪魔”が。

ノーライフキング
“不死王”が。

ヴァンパイア
“吸血鬼”アーカードが膝をつき忠誠を示したのだ。


アーカード「いや何も。 何も問題はないさ “我が主”」

そう言って畏まるアーカード。

そんなアーカードを見てフンと鼻をならすインテグラ。

部屋の惨状を見れば戦闘が起こったのは一目瞭然である。

だがインテグラはそんなことは些事だと言わんばかりに“我が下僕”に問う。

インテグラ「それで? どうだったのだ? “吸血殺し”は? 果たして“吸血殺し”はお前とセラスの脅威と成りうるのか?」

アーカードの目的。

それは“吸血殺し”が火種となるか否かということであった。

そう問うたインテグラに、畏まったままアーカードが返事をする。

アーカード「…確かに“吸血殺し”は本物だった。 …だが。 あれは私とセラスに限っては大した意味を持たない」

頭を伏せたまま主人にそう報告をするアーカード。

有象無象の吸血鬼ならばともかく、アーカードとその血族のセラスにとってはミナ・ハーカーに似た匂いも理性を崩されるほどのものではない。

端的なアーカードの答えを聞いてそれで満足したのかついにインテグラが押し黙ったままの少年達を手で指し示す。

インテグラ「そうか。 …では次だ。 この状況は一体なんだ? この子供たちはなんだ? 貴様の敵なのか?」

その冷徹な言葉にギクリと身体を震わせる少年たち。

状況から推測すれば信じ難いことではあるが、目の前にたつブロンドの婦人がアーカードの主人であることは間違いない。

もし…アーカードが敵だと言い、それを聞いたインテグラが殲滅せよと命令を下せば今度こそ確実な死が彼等を待ち受けている。

そんな彼等の心情を知ってか知らずか、アーカードはインテグラの問にニヤリと笑ってこう答えた。

アーカード「ククク… なに。 “只の”未来さ。 今はまだ羽も生え揃わね雛鳥だが… いずれ私の前に立塞がる者になって“くれる”かもしれない“希望”だ」

そう言って嬉しそうに笑うアーカード。

そんなアーカードを見てインテグラはどういう訳か目を細めた。

インテグラ「フン。 嬉しそうだな? “伯爵”?」

主が穏やかな口調でそう問いかけ、その問いかけに穏やかな口調で答える吸血鬼。

アーカード「あぁ。 嬉しいとも。 これが嬉しくないはずがない。 わかっているだろう? “伯爵”?」

それを聞いたインテグラがふぅと溜息をはく。

インテグラ「まったく…これだから吸血鬼は困る」

そう言いながら銀細工の美しいシガレットケースを取り出し、一本の葉巻を咥えるインテグラだったがそこでピタリと動きが止まった。

インテグラ「……ふむ」

何かを考えるのも束の間、葉巻を咥えたままカツカツと硬直したままの“只”の未来達の元へと歩み寄る。

そして何も言わずにそこに立ち尽くすインテグラ。

インテグラの視線には幾つもの死線をくぐり抜け、なおかつ年齢を重ねたものにしか無い独特の威圧感があった。

神裂「な、なんでしょうか?」

そんなインテグラに問いかけることが出来たのは、やはりこの中で一番場数を踏んでいる神裂火織。

だがインテグラはピョコリと口元の葉巻を動かして、ただの名詞だけを口にした。

インテグラ「火」

神裂「…はい?」

インテグラ「火」

目の前で煙草をピコピコと動かすインテグラを見て神裂はようやくその意図に気付く。

神裂「…あの。 火というのは… 煙草に火をつけろということなのでしょうか?」

だが、それを聞いたインテグラは当然というふうに鼻を鳴らす。

インテグラ「他に何があるバカ者。 若いくせに気のきかん奴だ」

ぐにゃりと神裂火織の視界が歪む。

神裂「は、はぁ… すいません。 私は煙草を吸わないもので… あの。 彼は喫煙者なのでライターを持っているかと…」

そう言って神裂はステイルを指差した。 

ステイル「…か、神裂?」

こちらを見ようともしない神裂を見てステイルの顔が苦いものを噛んだように歪み、二人の魔術師が水面下で口喧嘩を始める。

だがインテグラにとってそんなことは興味がない。

インテグラ「火だと言っている。 誰でもいいからさっさと火をつけんか」

そう言ってピコピコと葉巻を揺らすインテグラに渋い顔をしたステイルが近づきZIPPOを取り出した。

だが、目の前に差し出されたZIPPOを見てインテグラは眉をしかめる。

インテグラ「フン。 ZIPPOか。 他にないのか? オイルで味が変わる」

ステイル「――ッ!」

子供の我侭のような文句を言うインテグラに危うく何事かの暴言を吐きそうになり大きく息を吐くステイル。

その時、錬金術師が声をあげた。

アウレオルス「“煙草に火を”」

それと同時にインテグラ咥えた煙草の先端に小さな火が灯った。

インテグラ「…ほぅ」

僅かに眉を上げ驚いた感情を示すインテグラが声の主であるアウレオルスを見ながら、ゆっくりと紫煙を吐き出した。

そしてそのまま、まるで何事かを思い出すようにジッとアウレオルスを見つめるインテグラ。

インテグラ「少年。 名はなんと言う?」

年季の入ったその物言いに逆らえる気が起きず、アウレオルスは自分の名を告げた。

アウレオルス「…アウレオルス=イザード。 チューリッヒ学派の錬金術師だ」

それを聞いたインテグラが大きく頷く。

インテグラ「やはりな。 貴様の顔を見た時から気にはなっていたが、ようやく思い出せた。 貴様お尋ね者だろう?」

アーカード「ククク…これだから“老い”とは恐ろしい」

主の言葉を聞いたアーカードがクツクツと愉快げに笑う。

インテグラ「黙れバカ うるさいぞ」

そして笑うアーカードに間髪入れず言葉を返すインテグラ。

そのやりとりを見て呆気にとられたアウレオルスに向かってインテグラはニヤリと笑った。

インテグラ「ローマ正教の“隠秘記録官”だったのも昔。 今や世界中の宗派を敵に回した大馬鹿者で間違いないな?」

ズケズケと物を言うインテグラに思わず狼狽えるもすぐさま気を取り直すアウレオルス。

アウレオルス「――ッ! 敢然。 だが私は今でも後悔などしていない」

インテグラ「…なるほど。 骨はあるようだな。 丁度いい」

そしてインテグラはとんでもないことを口にした。


インテグラ「少年。 貴様は私の機関に、ヘルシングに所属しろ」

アウレオルス「な…何を言うのだ貴方は?」

アーカード「ほぅ…」

突然とんでもないことを言われ混乱する錬金術師と面白そうに笑うアーカード。

だが、インテグラはその反応も織り込み済みだと言わんばかりに説明をしだした。

インテグラ「ハッ よく考えて返事をしろよ少年。 もはやこの世界において貴様に安息の地は“ない” 違うか?」

それは事実だったが故に、アウレオルスは返事がすることが出来ない。

ローマ正教を裏切り、学園都市を敵に回し、十字教には賞金首をかけられたアウレオルス=イザードが身を置ける場所などどこにも無いのだ。

インテグラ「“だが” 我々は別だ。 異端も異端。 対化物に特化し“化物”を飼って“化物”を殲滅する特務機関、我々ヘルシングにはな」

紫煙を吐くインテグラ。

インテグラ「丁度うちも人員不足でな。 屋敷の警護から書記官まで仕事は幾らでもある」

そこまで言って意地悪げに笑うインテグラ。

インテグラ「そうだな… 少年が望むなら貴様の首を斬り飛ばして賞金を受け取りに行くのもいいかもしれん」

そう言われてはもうアウレオルスに反論する術はない。

アウレオルス「ぐっ…」

そんなアウレオルスの袖を再三引っ張ったのは姫神の小さな手。

姫神「あなたの目的は。達成された。 私のことは。気にしなくてもいい。」

そう言われアウレオルスはハッと気付く。

インデックスを救いたいという彼の願いは既に叶っているのだ。

だが、この少女に対する恩義は?

“吸血殺し”姫神愛沙の枷を取り払うのは簡単である。

黄金の鍼を一本首筋に挿して、“そうあれかし”と唱えればいい。

しかし、それで終わってしまっていいのだろうか?

この身寄りのない少女を置いて彼だけが安住の地を見つけてしまっていいのだろうか?

そう葛藤しだしたアウレオルスをニヤニヤと見つめるインテグラ。

インテグラ「何。 安心しろ。 蜜月の期間くらいの休暇なら出してやらんわけでもない。 それとも…コブ付きのままこちらに来るか?」

途端、アウレオルスの顔が赤くなった。

アウレオルス「断然! それは貴方の勘違いである! 邪推はやめてもらおう!」

インテグラ「ほぅ… そうかそうなのか」

ニヤリニヤリとインテグラが、そしていつの間にか話に混じったのかセラスがニヤける。

そこでようやくアウレオルスは自分の袖を掴んだまま離そうとしない姫神秋沙に気がついた。

それを見たインテグラがパンと大きく手を叩いた。

インテグラ「ハッ どうやら決まりのようだな。 受け入れの準備と手回しが終わり次第追って通達する」

強引に決定を下したインテグラが煙草を投げ捨てた。

インテグラ「いくぞ“吸血鬼” ついでだ、少々見物もして帰る」

そう言ってさっさと踵を返し部屋から出て行くインテグラ。

セラス「あっ! 待ってくださいインテグラ様ー!」

    「おいおい マジかよ! 巫女さんだぜ巫女さん! カーッ! 胸が高鳴るなーおい!」

セラス「だからー 人の中で煙草を吸わないでくださいって言ってるじゃないですかー!」
    
    「ハハハ 悪ぃ悪ぃ “つい”な 許せやセラス」

どこからともなく聞こえる男の声と会話をしながらインテグラを追うセラス。

そして、再び部屋の中には残ったのはアーカードのみとなった。

踵を鳴らし振り返る先には“聖人”が“魔術師”が“錬金術師”が“吸血殺し”が立っていた。

ゆっくりと大袈裟に一礼をするアーカード。

アーカード「ではな愛しい“人間”共よ。 いずれ御敵となって私の前に立つのを楽しみに待つとしよう」

その言葉と共に霧のように霞んでいくアーカード。

そして、ふと気がついたように陽炎のように揺らいだアーカードの意志が立ちすくんだ少年少女に向けられる。

アーカード「神裂火織。 貴様の一太刀は確かに私に届いたのだ。 次は更にだ。 更に私を楽しませてくれ」

その言葉を聞いて何故か神裂火織は微笑む。

神裂「…勿論です。 次こそは貴方の心の臓腑に届かせましょう」

それを聞いたアーカードが笑う。

アーカード「クハハッ! せいぜい気張れ! “死神”と同じ武器を使うのだ。 そのことを胸に命じておけ」


もはやアーカードの姿はなく声だけがステイルに言葉を投げる。

アーカード「神父よ。 貴様はまだまだ青い。 神父と名乗るのならば我が宿敵であった“神父アンデルセン”を超えるまで諦めを踏破し続けろ」

その言葉を聞いてステイル=マグヌスは信じられないように呟く。

ステイル「“神父アンデルセン”…!? あれは“偉人”だ。 神の意志をそのまま“体現”した“聖人”じゃないか」

その言葉を聞いたアーカードが笑う。

アーカード「ククク…奴も人だ。 貴様と同じ弱い弱い“人間”だったのだ」

次にアーカードが言葉を投げかけたのは寄り添うようにその場に立つアウレオルス=イザードと姫神秋沙だった。

アーカード「そうだ。 歪んだ過去を背負った者の側に立てるのは歪んだ過去を背負ったもののみだ」

思わず姫神秋沙が中空に言葉を投げる。

姫神「…あなたは。 最初からこのつもりで?」

だがその言葉を聞いたアーカードが哂う。

アーカード「ハッ! 笑わせるなよ“吸血殺し” 今頃私が貴様等を縊り殺していてもおかしくはない。 貴様等はただ偶然の手に拾われただけだ」


そして…未だ部屋の片隅で昏倒してままの上条当麻に言葉を投げかける。

アーカード「ククク…最も弱い人間よ。 だが“だからこそ”小僧。 貴様には“可能性”がある」

意識のない上条当麻にその言葉は届いていないのだろう。

だが、アーカードは愉悦と期待の色を交えて上条当麻の“未来”に期待する。


アーカード「さて。 私も主の元へと駆けつけるか」

そう言って揺らいでいく気配にステイル=マグヌスが話しかける。

ステイル「待ってくれ! どうして… どうして僕達を今殺さない? なんで放っておくんだ?」

その言葉に神裂がアウレオルスが姫神がギョッとする。

アーカード「ふむ…そうだな。 興が削がれたというのもある。 だが…」

僅かに沈黙したアーカードが言葉を口にしようとした時だった。

ころりとステイル=マグヌスの背中にいる小さな頭が動き、ムニャムニャと寝言を呟く。

       「うーん… とーまー もーおなかいっぱいなんだよ…」

ピシリと硬直する少年少女達。

その言葉を聞いてアーカードが大きな声で笑った。


アーカード「ククク・・・! そうだ! 今の私はもう充分に満ちている! ならば御馳走は後にとっておこうというわけだ!」


       「クハハッ! クハハハハハハ! “人間”よ! “人間”よ!!  私を失望させてくれるなよ?」


恐ろしい哄笑を闇に響かせながらアーカードの存在が闇に溶けていく。

そしてアーカードの存在が消えたのと朝日が挿し込んできたのはほぼ同時だった。



――かくして。

長い長い本当に長い一夜が明けた。

■これは後日談である。

“錬金術師”アウレオルス=イザードはヘルシング本部に特別書記官としてその身を置くこととなった。

その頭脳と魔術を活かし、新参ながらもヘルシングの戦力として大いに貢献しているという。


“吸血殺し”姫神秋沙はヘルシングへの出向を希望。

だがアウレオルスに説得され高校を卒業するまでは学園都市にて学生生活を続けることとなった。


“聖人”神裂火織と“神父”ステイル=マグヌス

必要悪の教会の魔術師として世界中を飛び回る。

しかし彼等の心にはいまだ種火のように魔王の言葉がくすぶり続けている。


そして…“幻想殺し”上条当麻は右腕を断ち切られてから先のことを何一つ覚えていなかった。

右腕に顕れた巨大な龍の顎がいったいなんだったのか、それはまだ誰も…上条当麻ですら知らない。


世界の裏側には潜む恐ろしい吸血鬼は様々な波紋を、傷跡を、希望を残して自らの領地の元へと帰っていった。

だが。 いつまた再び吸血鬼が学園都市に顕れてもおかしくはないという夢のような…悪夢のような残滓は関わった“人間”全ての胸に刻まれている。


                        <end...?>

ギリッギリで終わったwwwwwwww

皆の空気の読みっぷりに感動しました。

長々と付き合ってくれてありがとね。

あと何度か言われてたけど億泰学園都市とか禁書ジョジョとかも俺ですごめんなさい。

じゃーまたねー

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