億泰「幻想御手…? こいつぁ違うぜぇ~」(407)

立つのか?

学園都市。

それは総人口約230万を誇る超巨大都市の通称である。
最先端の科学技術に支えられたその都市にはひとつの目的があった。
それは『超能力』の開発。

その事実を知った『とある』財団は、事態を重要視。
幹部による会議を重ねるうち、財団の重要幹部である一人の学者がひとつの解決策を提示。

それは…学園都市に学生を一人送り込み、どこまでが真実なのか確かめてもらうという単純でありながらも効果的な妙手。

かくして、その学者がもつ独自の交友関係から選ばれた一人の男が学園都市に訪れる。
到着早々巻き込まれた爆弾事件に首を突っ込み、爆発寸前の爆弾を『削りとり』、そのまま犯人を一蹴。
非道なスキルアウトを完膚無く叩きのめし、絶望しかかっていた少女の心に爽やかな風を吹かせた男。

科学でも魔術でもは測定できない謎の能力を持つその男の名は…
虹村億泰といった。

■とある学生寮・虹村億泰の部屋

備え付けられた家具以外は何も無いガランとした部屋に朝日が差し込む。
ベッドの上ではガーガーと大きなイビキをたてながら眠りこける男が一人。
枕元の目覚まし時計が甲高い音をたてるまで後30分ほど猶予はあった。

だが。

その目覚まし時計は何者かの手によりその機能を停止させられる。
音を立てないよう、そろりそろりと男に近づく小さな影。
男の耳元に手を当て、静かに大きく息を吸い込み…


「おっはよ―――うっ!!!」


鶏も逃げ出すような大きな声でまどろんでいた男の意識を無理やり引きずり起こす。

億泰「おおおっ!? なんだなんだぁ~!?」

突然の大声に跳ね起きる億泰。
そんな姿を見て面白そうに笑っていたのは一人の少女。

佐天「おおっ! 起きた起きた!」

初春「こ、これはヒドいですよ佐天さーん」

慌てふためく億泰を見てニヤニヤと笑う佐天涙子。
そしてその横にはすまなさそうに肩を竦める初春飾利がそこにいた。

事態を察した億泰はそんな二人を見て恨みがましい目で見つめる。

億泰「………とりあえずよぉ」

ガシガシと頭をかきながら続ける億泰。

億泰「なんでオメェらがここにいんのか… キッッチリと! 説明してほしいんだけどよぉ~」

睡眠を邪魔され不機嫌そうな目付きの億泰だったが、佐天はそんな億泰の視線も何処吹く風で受け流していた。

佐天「まーまー 恩返しってやつ…じゃない?」

ニヤニヤと笑いながらも疑問形で答える佐天。

億泰「…恩返しだぁ?」

腑に落ちない表情のままオウム返しをする億泰。

初春「えっとぉ…虹村さん、先日怪我したときに学校おやすみしちゃいましたよね?」

そんな億泰に助け舟を出したのは初春だった。
それはスキルアウト『トリック』を億泰がとっちめたときに負った傷のこと。

これって3作目だよね?

まだ2作目見てないんだよな(;´д`)

涙子って呼んで黒子と初春がキャイキャイ騒いだ続きか?

初春「ですから、虹村さんの体調が万全になるまで私たちがサポートましょう って。 そう佐天さんと話してたんですー」

独特の甘い声でそう億泰に説明をする初春だったが、当然億泰は納得のしようがなかった。

億泰「…っつってもよぉ~ 別にオレァんなこと頼んじゃあねぇーんだけどよぉ~」

そうグチグチと文句を言う億泰だったが、それは佐天の快活な声で遮られた。

佐天「いいからいいから! 早く顔洗って着替える着替える! あ、あたしたちは部屋の外で待ってるから急いでよねー」

バサリと億泰の抱えてる毛布を引っペがしながら笑う佐天。

初春「す、すいませーん」

毛布を部屋の隅におき、さっさと部屋から出て行く佐天を横目で追いながら謝る初春。

億泰「……」

ベッドの上に取り残される億泰。

あぐらをかき、頬杖をつきながら不満げな声をあげた。

億泰「これ…これから毎朝続いたりしやしねーだろーなぁ~…」

>>10
うん
避難所に最初っからのスレたてようとしたんだけど全然つながらないんだ
復活したらスレ立てるつもり

>>11
それ

■学園都市・通学路

夏の日差しが照り返す通学路を歩くはアンバランスな三人組。

億泰「ったくよぉ~… あと30分は寝れたはずなのによぉ~」

大きなアクビをしながらそうボヤく億泰の背中をバシバシと叩く佐天。

佐天「そんなこと言っちゃってー ほんとは嬉しいんじゃないのー?」

ウリウリと億泰の脇腹に肘をいれる佐天。

億泰「……はぁ? 嬉しい…だぁ~?」

佐天「あったりまえじゃない? なんせ現役女子中学生が朝起こしに来るんだよー?」

肘で突付いてくる佐天の攻撃を受けながら億泰が呆れきった声を出す。

億泰「ハッ! ンなわきゃねーだろがよぉ~」

億泰「中ボーなんざガキに興味なんかあるわきゃねぇーだろがよぉ~」

佐天「ガ、ガキィ!?」

億泰「おおよ! …こう足がスラーッとして胸とか腰とかボインボインのオネーチャンなら話は別だけどなぁ~」

憤慨する佐天を放っておいて空中にボンキュッボンなラインを描く億泰。

佐天「うーわ… 今の聞いた初春? こりゃもう初春のパンツでその認識をぶち壊すしかないね!」

初春「へ? えっ? だっダメですぅ! 何考えてるんですか佐天さんっ!」

突然矛先がこちらに向かい、焦る初春。

佐天「えーい! しのごの言わずにおとなしくめくられなさーい!」

初春「やー! ダメですダメです! こんな往来でめくるのはやめてくださいって言ってるじゃないですかー!」


クルクルと億泰の身体を盾にしながら佐天の魔の手スカートめくりから逃げようとする初春。
手をワキワキさせながら初春を逃すまいとする佐天。
キャーキャーとはしゃぎだす二人の少女に挟まれて心底めんどくさそうな顔をする億泰。

億泰「…オメーらってよぉ~ 仲いいのか悪いのかわっかんねーなぁ~」

そんな億泰の声を聞いて二人の足がピタリと止まる。

佐天「へ? なーに言ってんの? あたしと初春は大親友だよ。 ねー?」

初春「そうですよー 大大親友ですもんねー」

顔を見合わせ、符丁のように首を傾けて笑いあう二人。
と、遠くからチャイムの音が鳴りだした。

佐天「げっヤバッ! このままじゃ遅刻しちゃうじゃない! 急ご初春!」

初春「ま、待ってください佐天さーん!」

パタパタと軽い音を立てて走りだす少女たち。

佐天「そんじゃああたしたち先に行くからねー アンタも急ぎなさいよー!」

初春「で、ではお先に失礼しますー またジャッジメントでー」

そう言葉を残し走りゆく二人の少女。
遠ざかっていく背中を見つめる億泰は、ふと何かを思いついたように空を見上げた。

億泰「………元気にしてっかなぁ~」

億泰の呟きは誰の耳に届くこともなく真っ青に晴れ渡った空に吸い込まれていった。

■とある学校・教室

ガラリと戸を開けた億泰を見て、ざわついていた教室が静かになる。
周囲の空気を気にしないまま億泰が自分の席につく。

短期特別留学生という珍しい肩書きをもった転校生ならば物珍しい野次馬が集まってきてもおかしくはない。

しかし、転校そうそうに二人の教師に楯突いたガラの悪い大男に話しかけるほどの根性をもった野次馬いなかった。
再び雑談で賑わいはじめる教室。

そんな億泰の席の前に二人の少年が立つ。

土御門「元気してるかにゃー?」

青ピ「何だかテンコーセーの顔見るのが久しぶりって感じやね」

席についた億泰に話しかけたのは金髪サングラスの土御門と青髪ピアスだった。

億泰「よぉ~ えーと、土御門と……なんつったっけ?」

青髪ピアスの名前が出てこずに頭をひねる億泰。

青ピ「なっ! 名前忘れとるんかい! ええかーボクの名前はやね」

そう億泰に自己紹介をしようとする青髪ピアスだったが。

億泰「ところでよぉ~ 『アイツ』は一緒じゃあねぇのかぁ~?」

今まさに口を開かんとした青ピに気付かずに疑問の声をあげる億泰。
きょろきょろと辺りを見回す億泰に飄々と答えたのは土御門だった。

土御門「にゃー。 上ヤンなら休みだぜい?」

億泰「へぇ~ 休みねぇ~ そりゃまたいったいなんでだよ?」

土御門「なんでもなにも上ヤンは子萌せんせ…風邪かなんかじゃないかにゃ~?」

口を滑らせかけた土御門に気付かない億泰。

億泰「風邪ねぇ~ そいつぁ大変なこったなぁ~」

土御門「なんか用でも……あったんかにゃ?」

サングラスに隠された土御門の視線が鋭くなる。

億泰「いや、そーゆーわけでもねぇーんだけどよぉ~ …なーんか気になんだよなぁ~」

うまく言葉にできずにガシガシと頭をかく億泰を見てボソリと土御門が呟く。

土御門「……気になるっていうのはこっちのセリフなんだけどにゃー」

だが、その土御門の呟きはカラカラと教室の扉が開く音と、子供のような可愛らしい声にかき消された。

子萌「はーいみなさーん! おはようですー! 今日も元気にがんばりますよー」

声の主は教室に入ってきた担任の月詠小萌。
テキパキと授業の準備をしだす担任の姿を見て、雑談に興じていた生徒たちがゾロゾロと自分の席にもどっていく。
その様を横目で見て、これ以上の会話は無理だと判断する土御門。

土御門「けどにゃー 上ヤンなら心配はいらないと思うぜいー? なんてったって上ヤンだからにゃー」

青ピ「なんや、ボクの自己紹介はまた今度かいな。 ま、どーせなら上ヤンと一緒の時がええかもしれんね」

ニャッハッハと笑いながら自分の席に戻る土御門と青髪ピアス。
無人の隣の席、上条当麻の机を見る億泰。

億泰「ふぅ~ん… まぁズル休みしたくなるときなんざ誰にだってあるだろうしなぁ~」

専用のお立ち台を準備して黒板に板書をはじめだした小萌を見ながら呟く億泰。

・・・
・・


虹村億泰は知らない。
上条当麻が魔術結社から送り込まれた魔術師を相手に意地を張り通したことを。

虹村億泰は知らない。
上条当麻が月詠小萌の家で銀髪のシスターに看病をしてもらっていることを。

虹村億泰は知らない。
次に再開したとき、上条当麻の記憶がすべて焼き尽くされていることを。

■繁華街

授業が終わり、学校から開放された億泰はジャッジメントの支部に向かっていた。
一日一回、ジャッジメントに顔を出すこと。

億泰は事情を知る由もないのだが、それは学園都市の上層部からくだされた遠まわしの監視命令。
されとて、わざわざそれに逆らう気もない億泰はのんべんだらりと目的の場所へ歩みを進めていた。

そんな中、学生で賑わう繁華街を歩く億泰の視界に見覚えのある少女が飛び込んくる。
そこには大きな花飾りを頭にのせた少女、初春飾利が手持ち無沙汰にポツンと立っていた。

億泰「よ~ぉ初春ぅ~」

後ろから声をかけられ驚いたように振り返るのも束の間、すぐにほんわかとした笑顔を浮かべる初春。

初春「わっ 虹村さんじゃないですかー」

子犬のようにパタパタと虹村の元に駆け寄る初春。

初春「虹村さんは今からジャッジメントですか?」

億泰「あぁ、メンドくせーけどなぁ~ ところでよぉ、オメェは何してんだぁ~?」

初春「あ、私は佐天さんを待ってるとこですー」

億泰「待ち合わせぇ? 待つもなにもよぉ~ 一緒の学校に通ってんじゃあなかったっけかぁ~?」

キョトンとした顔で初春に確認をする億泰。

初春「あ、はい。 それはそうなんですけど佐天さんは今日掃除当番なんですよ」

初春「それにウチの学校はいつまでも残っていると先生に怒られちゃうんで、外で待ち合わせをと思いましてー」

億泰「ほぉ~ なんだかそっちもそっちでメンドくせーんだなぁ~」

初春「アハハ そうかもしれませんねー」

身も蓋もない億泰の感想を聞いてふんわりと笑う初春。

そんな初春を見て、何かを思い出したように手を叩く億泰。

億泰「おっ、そういえばよぉ~」

初春「はい?」

億泰「ちっと頼みがあるんだけどよぉ」

初春「はぁ… 私に出来ることならお手伝いしますけど…」

頭の上に疑問符が浮かんだかのようにキョトンとした顔で首を傾げる初春。

初春「あっ、でも今日は時間があまりないので前みたいにケーキ屋さんはちょっと…」

億泰「あー違ぇ違ぇ 今日のはよぉ~パフェじゃあねぇんだよなぁ~」

そこまでいって億泰が目を向けたのは立ち並ぶ近代的なビルの一角。

億泰「昨日帰るときに見つけたんだけど今のオレじゃあどうにもならなくてなぁ~」

億泰の視線の先を追った初春が呟く。

初春「あれって…レンタルショップですよね?」

■学園都市・風紀委員第一七七支部

ツインテールを揺らしながら小柄な少女が真剣な表情で携帯電話を耳に当てていた。
少女の名前は白井黒子。

黒子「もしもし? 木山先生ですの? …そうですの。 やっとレベルアッパーを入手しましたので連絡をと思いまして…」

電話の相手は大脳生理学の第一人者、木山春生だった。

黒子「えぇ波形パターンを分析したデータは既に送らさせていただきましたので、後日見解を…」

ひょんなことからレベルアッパーのデータを手に入れ、その解析を依頼するという大事な電話。

黒子「……明日には結果が出る? それは有難いのですけどそちらのお仕事に差支えは…」

想像していたよりも早い回答が返ってきたことに驚きを隠せない黒子だったが。

黒子「えぇ… それは本当に助かりますの。 …はい。 それではよろしくお願いしますわ」

すぐさま驚きを飲み込み、丁寧に礼を言ってから電話を切る。

これでやっと大きな一歩が前進できたと内心喜びながら背伸びをする黒子。


そんな黒子の背後ではグスグスと奇妙な音が鳴っていた。

億泰「くぅぅぅ~… やっぱよぉ~…こいつぁいつ見ても泣けるぜぇ~ なぁ? オマエもそう思うだろぉ~?」

ボロボロと大粒のナミダを流しながら感動した声をあげ、誰かに同意を求める虹村億泰。
そんな億泰の問に答えたのはやはり涙声の佐天だった。

佐天「うん…正直あなどってた… はぁ~… いーい話だったぁ~」

ピクリと黒子の眉が動いた。
ギギギと錆び付いた蝶番が立てるような音と共に振り返る黒子。
そこには小さなモニターに流れるエンドロールに釘付けになりながらボロボロと涙をこぼしている億泰と佐天がいた。

黒子「あの……大変盛り上がってるところ悪いのですけども」

そう黒子が言葉を発しても億泰と佐天には届かない。

億泰「涙が止まらねぇぜぇ… なぁ~ちょっとハンカチ持ってっかぁ~?」

佐天「グスッ……ハンカチくらい持ってなさいよねー」

佐天から渡されたハンカチで涙を拭く億泰を見て、黒子がプルプルと震えだす。

黒子「どうやら…ここが何処だかお忘れのようですわね」

そう黒子に言われ涙にまみれつつもキョトンとした顔で億泰が返事をする。

億泰「…なぁ~にボケたこと言ってんだぁ白井ぃ~? ここはジャッジメントの支部だろ~がよぉ~?」

その間延びした呆れ声を聞いて黒子がキレた。

黒子「その通りですの! ここはジャッジメントの支部! 映画館でもネットカフェでもありませんのよ!」

ムキーと怒りだす黒子。

黒子「いくらなんでも映画を丸々一本鑑賞ってありえませんの! まったく! 初春もこういう時はしっかり注意しないとダメじゃないですの!」

憤懣やるかたないといった黒子が同僚である初春飾利に話を振るが…

初春「……め、名作ですぅ~」グスッ

黒子「……なーんで貴方まで号泣してるんですのー」

感涙にむせぶ初春を見てガクリと肩を落としながら腹の底から呆れ声を出す黒子だった。

黒子「まったく…どうしたっていうんですの?」

腰に手を当てた黒子にガミガミと説教される初春。

黒子「ボンヤリしてるのはいつものことですけど今日は特にヒドいですの!」

初春「あううー… すいませんー」

そんな初春を見て困ったように続ける黒子。

黒子「頭の中身までお花畑になっちゃったんですの? ましてや今更こんな古臭い映画なんて…」

何気なくそう呟いた黒子だったが。

初春「白井さん! それは違います!」

黒子「はい?」

思わぬところで初春に反論を返されポカンとする。

初春「親と子の絆を描いた感動のストーリー! これは歴史に名を残した見事な感動巨篇なんですよ!」

黒子「は、はぁ…」

ふんふんと鼻息を荒くしながら映画の解説をしだす初春。
初春の勢いにタジタジとなった黒子が、机の上に置かれていたパッケージを手にとる。

黒子「…そんなに面白いですの? この[チャンプ]っていう映画は?」

懐疑的な口調でそう呟く黒子に返ってきたのは…

初春「それはもう!」

億泰「オメェ~それ見てないっつーのはよぉ~ 人生の8割損してるっって言っても過言じゃあねぇぜぇ~?」

佐天「面白さはあたしも保証しますよ! かなり大号泣!」

返ってきたのは自信満々なそれぞれの肯定の声だった。

付き合っていられないというように頭を振る黒子。

黒子「はぁ……頭お花畑は初春一人で充分ですのに…」

今日の午後以降にパー速が復活するそうだ
そろそろ年貢の納め時じゃぜ>>1さんや

■とある通学路

歩道を赤く染める夕日の中、佐天と初春がテクテクと歩いていた。

佐天「へー 初春は明日ダイノーセーリガクの先生のとこにお使いかー」

初春「えぇそうなんです。 佐天さんが持ってきてくれたレベルアッパーのデータですよー」

佐天「…ふーん まっ、初春や白井さんが喜んでくれたならなによりだよ」

何かを思い出したかのようにワンテンポ遅く返事を返す佐天。

ふと初春は気になる。
佐天涙子が後悔しているのではないか?と。

佐天涙子が持つ能力への憧れを一番知っているのは初春飾利だった。
もし、レベルアッパーを渡してしまったことを悔やんでいたら…

不安になって佐天の顔をチラと盗み見るも、そこには初春が危惧していた表情はいっさいなかった。

晴れ晴れとした表情の佐天を見て嬉しくなる初春。

現場にはいなかったものの先輩である白井や佐天から話を聞いている。
窮地に陥った彼女たちを助けたのが虹村億泰だということを。

笑っている佐天が隣にいることが嬉しくて、初春はなんとなく疑問に思っていたことを口にした。

初春「あ、そういえば佐天さん?」

佐天「ん? なーに?」

初春「佐天さんは虹村さんのことをどう思ってるんですか?」

佐天「うえええっ!?」

思ってもいなかった質問に驚き慌てふためく佐天。

>>34
あ、そうなんだ。
これパートスレだしあっちでやったほうがいいとは思っていた。

糞スレたててすまん
後日パー速で建てることにするわ。

今すぐ止めろって言ってるんじゃないぞ
アナウンスなしでいきなり移住したら難民も出る

ここ書ききってからあれこれきっちり決めて移動するといい

>>38
把握した

>>36

佐天「どっどっどう思ってるって!?」

質問の意図が掴めずワタワタしだす佐天の問いかけに済ました顔で答える初春。

初春「だって佐天さん、最近よくジャッジメントの支部に顔出すじゃないですかー?」

佐天「う゛」

初春「それに虹村さんとも仲がいいみたいですしー」

佐天「いやあの仲いいっていうか…そっそんなことよりさ!」

自分でもいまだ理解しきれていない心を指摘され戸惑った佐天が無理やり会話の流れをそらす。

佐天「そっそんなこと言う初春はどうなのよ?」

初春「へ?」

キョトンとする初春。

初春「えーと… 私ですかー?」

佐天「そうそう! あんなスキルアウトみたいなガラの悪い格好してるのに初春はもう全然気にして無いでしょ?」

初春「? 見た目はもう慣れちゃいましたよー 佐天さんだってそうじゃないですかー」

当然のようにそう答えられ、言葉が詰まる佐天。

佐天「で、でもさ? それにしたってさ? 初春だって仲いいじゃない?」

初春「はぁー… そう言われるとそうかもしれないですねー」

ポヤポヤとした表情いまいち理解してない様子を見て、ここぞとばかりに畳み掛ける佐天。

佐天「ほらね? 別にあたしに限った話じゃないじゃない?」

苦し紛れに放たれた佐天の言葉を聞いて、にわかに眉を寄せて考えこむ初春。

初春「んー… 私が虹村さんをどう思ってるですか… うーん」

十数秒考え込んでから口を開く初春。

初春が何を言い出すのか?
気がつけばなぜか緊張して初春の答えを待っていたことを自覚する佐天。

初春「虹村さんは……」

佐天「…虹村さんは?」


初春「お兄さんって感じが一番近いんじゃないですねー」


佐天「へ?…お兄さん?」

予想だにしなかった単語を聞いて呆気にとられる佐天。

初春「はいー。 私一人っ子なので昔から兄弟が欲しかったなーって思ってたんです」

そんな佐天の表情に気づかずとくとくと説明しだす初春。

初春「虹村さんはぶっきらぼうな人ですけど…ああ見えて面白いですしー。 それにいざという時頼りになる人って感じがしませんか?」

佐天「そ、そうきたかぁー…」

ニヘラと笑う邪気のない初春の顔を見て肩を落とす佐天だった。

■翌日 AIM解析研究所


初春「じゃあすぐに戻ってくるのでここで待っててくださいねー」

佐天「はいはーい ごゆっくりー」

ヒラヒラと手を振って初春を見送りながら待合室のソファに身を沈める佐天。

レベルアッパーの解析結果のデータを受け取りにきた初春に同行した佐天。
なぜ佐天涙子がここにいるのか?

それは佐天の主張だった。
レベルアッパーを使わなかった佐天だったが、事件の進展が遅れたのは自分の責任だと初春と白井に訴えでたのだ。

最初は拒否していたものの、頑なな佐天に根負けした白井が許したこと。
それが初春と同行して木山からデータをもらってくるというお使いだった。

佐天「私だって関わったんだもん…ちょっとくらいは責任負わないとね」

そう呟きながら天井に向けて右手を伸ばす佐天。

しかし、部屋の奥では佐天の想像もつかない事態が進展していた。

■AIM解析研究所・木山春生の研究室

初春「これって…」

驚きに目を見開く初春。
ほんのちょっと席を外し、部屋の奥に向かった木山。

椅子に座ったまま素直に待っていた初春だったのだが、ふと書類棚からはみ出していた書類に目をひかれたのが原因だった。
初春の手の上で複雑な文字列を並べる研究書類。

常人が見たのでは理解できそうにない数字の羅列。
しかし、情報処理に聡い初春は幸か不幸かその書類が指し示すものが何かということに気づいてしまっていた。

初春「これ…[音楽を使用した脳への干渉] それにこっちのデータは…幻想御手のオリジナル…」

驚愕する初春の肩にポンと小さな手が置かれた。
硬直した少女に囁きかける美しい造形をした女性。

木山「いけないな…他人の研究成果を勝手に盗み見しては」

■AIM解析研究所

木山春生の研究室の前で初春を待っていた佐天の耳にドアが開く小さな音が届く。

佐天「おっつかれー! ういは…」

立ち上がってそう語りかけた佐天の声は途中で掠れて消えていった。
佐天の目に飛び込んできたのは木山春生と両手を拘束された親友の姿。

木山「…おや? 君は確か」

初春「逃げてください佐天さんっ!」

事もなげにそう呟く木山と友人の身を案じて叫ぶ初春。

木山「どうやら…少々無用心だったみたいだな」

木山が視線を走らせると同時に身動きできなくなる佐天。

佐天「えっ? なにこれ… 能力?」

硬直した佐天の両腕に拘束錠をかける木山。

木山「仕方ないな、君も一緒に来るといい」

淡々とそう呟きながら駐車場直通のエレベータのボタンを押す木山の瞳には不可思議な色が映っていた。

■風紀委員第一七七支部

御坂「佐天さんも初春さんも行方不明?」

なんの気なしにジャッジメントに立ち寄った御坂美琴の驚いた声。
そんな御坂に眉をひそめながら答える黒子。

黒子「…ええ。 あまりにも連絡が遅いので現地のアンチスキルに確認をお願いしたのですが…」

御坂「ど、どうすんのよ?」

黒子「今は…アンチスキルからの連絡を待つしか打つ手がないですの…」

歯噛みしながらそう呟く黒子を見て何かを決心したように御坂が立ち上がる。

黒子「お姉様? どうなさったのです?」

そんな御坂を見て不安げな声をあげる黒子。

御坂「私も出るわ。 ジッとしてんのは性にあわないしね」

黒子「なっ! お姉様っ!?」

予想だにつかなかった御坂の言葉を聞いて慌てる黒子。

黒子「ダメですの! お姉様は一般の学生ですのよ!?」

御坂を止めようとする黒子だったが。

御坂「でもさ、佐天さんだって一般の学生じゃない?」

そう返されグッと言葉が詰まる黒子。
しかし、すぐに己が本分を思い出す。

黒子「ならなおのことジャッジメントのわたくしがっ!」

そう息巻く黒子の肩を優しく抑える御坂。

御坂「アンタがここを離れて誰が情報を取りまとめるのよ?」

黒子「ですけど…」

それでも食い下がる黒子を見て優しく笑う御坂。

御坂「アンタは私の後輩でしょ? こんな時くらい『お姉様』に頼りなさいっての」

そう言ってツンと黒子の額をつつく御坂。

黒子「…お、おねぇさまぁ~」

感極まったかのように声を震わせる黒子だったが、自動ドアに歩き出す御坂を見て眉をくもらせる。

御坂「それじゃ黒子はアンチスキルからの情報を回して頂戴」

ドアに向かいながら明るい声を出す御坂。

黒子「お姉様? 無茶はなさらないでくださいですの」

御坂「だいじょーぶだって。 木山先生って普通の学者さんでしょ?」

黒子「そうですけれど… 何だか嫌な予感がするんですの…」

黒子の胸に巣食うの不安な感情。

御坂「なんとかなるって! 私は学園都市の第三位、『超電磁砲』の御坂美琴よ?」

そう言ってドアの向こうに消える御坂。
そんな御坂美琴の後ろ姿を見つめたままポツリと黒子が呟く。

黒子「お姉様がお姉様ではなくなってしまう…そんな予感がしてならないですの…」

■風紀委員第一七七支部

億泰「よぉーッス」

気の抜けた挨拶をあげながらドアをくぐる億泰。

黒子「あら虹村さん。 チィーッスですの」

そんな億泰に返ってきたのは気の抜けた黒子の声だった。
部屋に入ってきた億泰を見ようともせずにモニターに向かい、幾つものウインドウを操りながら生返事を返す黒子。

億泰「へぇ~ 今日は白井一人かよぉ~ 珍しいなぁ~」

そんな感想を口にしながら事務椅子に腰掛けてボンヤリとする億泰。
静まりかえるジャッジメント支部。

そんな空間の中で唯一響くのはキーボードのタイプ音のみだった。

10分ほど経ったころだろうか?
黒子の揺れるツインテールの先を目で追うのに飽きた億泰が口を開く。

億泰「なんかよぉ~随分と忙しそうだなぁ~」

黒子「…そうですわね」

炭酸の抜けたコーラのような生返事をする黒子。

億泰「なぁ~ 今日はよぉ~ 誰も来ねぇのかぁ~?」

黒子「…そうですわね」

億泰「…」

億泰「…そういやよぉ なんつったかなぁ~ ほら、続編になるたびに劣化してったホラー映画」

黒子「…そうですわね」

億泰「…」


会話をしようとしない黒子の背中を見て立ち上がる億泰。
モニターから片時も目を離そうとしない黒子の肩を掴む。

億泰「よぉ いったいどうしたっつーんだぁ~?」

肩に手を置かれ、ようやく黒子が億泰の顔を見る。
しかし、黒子は億泰までもこの事件に巻き込むつもりはなかった。

黒子「心配されるのはありがたいですの …でもこれはあなたには関係の」

億泰「関係ならよぉ~ あるぜぇ~?」

静かに拒否をしようとした黒子のセリフに割り込む億泰。

黒子「…え?」

億泰の真剣な表情に驚く黒子。

億泰「おいおい忘れちまったのかぁ~? あの廃ビルん時をよぉ~?」

廃ビルでの事件。
悪逆非道なスキルアウトに追い詰められた記憶。

あと一歩遅ければ自分だけではなく佐天までも忘れえぬ傷を負うことになっていたかもしれない。
もしあの時目の前の男が現れてくれなかったのならばどうなっていたかなど考えたくもない。

ふぅとため息を吐く黒子。

黒子「そうですわね。 説明させていただきますの」

ちと休憩。
自力保守するつもりなんでスルーしてくれしあ

>>54

真剣な億泰にほだされるようにして説明をはじめる黒子。

木山春生の元に向かった初春と佐天が行方不明になったこと。
学園都市の監視システムで木山が運転しているとおぼしき車両を特定できたこと。
御坂美琴が一足早く現場へ急行しているということ。

そこまで説明を聞いた億泰が険しい顔をして立ち上がる。

黒子「…虹村さん?」

億泰「それを聞いてよぉ~ …おとなしくここで待ってることなんざぁ出来ねぇーなぁ~」

黒子「……だから話したくなかったんですの」

悔しそうに黒子が呟く。

この男が底抜けのお人好しであるということは身にしみて判っている。
説明をしてしまえば言葉でこの男を止めることはできない。

かといって能力で持って捕縛する気も黒子には無かった。
廃ビルで見た正体不明の能力は確かに恐ろしい。

しかし、それは些細な問題でもある。
一番の問題はちょっとやそっとのことではこの男の信念を曲げることができないということなのだ。

どれほど打ち据えようが、四肢に鉄芯を打ち込もうがこの男は立ち上がってくる。
ならば、この男を止めることは不可能だと…黒子は察していた。

億泰「場所は…知らねーなぁ~ まぁタクシーの運ちゃんなら判るかぁ~」

黒子が操作していたモニターの中の地図を見て、向かう先を確認する億泰。
黒子は黙りこくったまま億泰を見つめていた。

億泰「んじゃまぁ… ちょっーとオレも行ってくんぜぇ~」

そう言って背を向けた虹村億泰を見た黒子の背筋に悪寒が走る。

それは確信にも似た予感。
今、虹村億泰を行かせてはならない…そう黒子は直感する。

だが…黒子は億泰を引き留める言葉を持っていなかった。

黒子「ぁ… ま、待っ…」

黒子の呟きは億泰に届くことはなく、静かに閉まるドアに吸い込まれていった。

■学園都市・幹線道路

後部座席に詰め込まれた佐天と初春を載せたスポーツカーを運転するのは木山春生。

木山「さて…質問を聞こうか?」

落ち着き払った木山の声を聞いてブスッとした佐天が声を出す。

佐天「…なんでレベルアッパーなんてものを広めようと思ったんです?」

それは佐天涙子にとって人ごとではなかった。
あと少しでレベルアッパーを使っていたかもしれないのだ。
無能力者の苦悩を逆手にとって危険なファイルを広めた木山に佐天涙子は怒っていた。

木山「あぁ…あるシュミレーションを行うには演算機器が必要だったんでね」

だが、そんな佐天の疑問をいとも簡単に答えてしまう木山。
まるでランチのメニューを決めるような簡単な答えに声を荒げようとする佐天だったが。

初春「それって! 人の気持ちをまるっきり無視してるじゃないですか!」

佐天が口を開くよりも先に尖った声色で木山に言葉をぶつけたのは初春だった。

木山「? …どういうことだ?」

少女たちが突然怒りだした原因が判らないとばかりに頭をひねる木山。

佐天「どういうことって…アンタねー…」

木山「シミュレーションが終われば全員開放される。 後遺症も残らない。 一体何の問題があるんだ?」

ステアリングを握ったまま不思議そうな顔でそう問い返す木山。

初春「…本当に判らないんですか?」

毒気を抜かれるような質問を聞いて訝しげに眉をひそめる初春。

木山「すまないが心当たりが無くてね。 教えてくれるとありがたいのだが…」

前方を見つめたまま車を操作しながら答えを求める木山の背中に向かい佐天が口を開く。

佐天「無能力者がどんなに能力者に憧れてるか…それぐらいは研究ばっかしててもさ、想像つくでしょ?」

それはレベルゼロの佐天涙子が言ったからこそ効果のある言葉。
ピクリと木山の腕が動き、ステアリングが僅かにぶれる。

木山「それは…」

『センセー? 私でもがんばったら大能力者や超能力者になれるかなー?』

脳裏に蘇るはかつての教え子。
他愛も無い問いかけ。
純粋な憧れを確かに木山は聞いたことがあった。

木山「…そうか。 確かにそのとおりかもしれないな」

言い訳をしようともせずに自分の非を認める木山。

佐天「…なんなのこの人?」

素直に謝る木山を見て困ったような声をだす佐天。
初春も木山の思考の流れが理解できずに首をひねっていた。

佐天と初春が顔を見合わせたのと同じタイミングで、木山の運転するスポーツカーが急激にスピードを落とし始める。

木山「……だが」

そういってステアリングに顔を埋める木山。

木山「それでも私はこのシミュレーションを途中で中断する気はない」

木山に遅れて気付く佐天と初春。
前方には装甲車と警備ロボット、そしてアンチスキルの部隊がズラリと並んでいた。

■幹線道路・路肩

前方にて投降を呼びかけるアンチスキルの部隊。
それを見てホッと息を付く佐天と初春。
僅かな間ではあったものの、この木山という名の科学者が狂人や悪人ではないということを知るには充分な時間だった。

佐天「どうすんの? このままチキンレースなんて勘弁してよ?」

初春「今ならまだ間に合います 私たちも口添えしますし」

木山の心に響く佐天と初春の優しさ。

しかし。

木山「言ったはずだ。 私はこのシミュレーションを途中で中断する気はない…と」

そう言いながらガチャリとガルウイングのドアを開ける木山。
車から降りながら淡々と言葉を続ける。

木山「…レベルアッパーは人間の脳を使った演算機器を造るためのプログラムだ」

木山「だが…同時に面白い副作用ももたらしてくれるのだよ」

カツリとパンプスを響かせて車を降りる木山。

大声でがなりたてるアンチスキルを無視して後部座席にいる佐天と初春に謎の忠告を残す。

木山「君達は車から出ない方がいいな。 危険だ」

息を飲む佐天と初春。

原因は木山春生の瞳。

濃いクマを顔に貼りつけてはいるものの整った顔立ちをしている木山。
その半眼が突然充血したかのようにジワリと赤く染まりだしたのだ。

瞬く間に赤く染まっていく瞳を気にする風もなく木山春生がアンチスキルに向かい合う。

す、と伸ばした腕。

その先には荒れ狂う水の塊があった。

佐天「嘘っ!? 能力者なの!? 学生でもないのに!?」

初春「そんな! 書庫(バンク)にもそんな事一言もなかったですよ!?」

驚く少女たちをチラと見て再度忠告をする木山。

木山「頭を低くして衝撃に備えていたほうがいいな」


その言葉と共に木山春生とアンチスキルの戦闘が始まった。

ちっと4-5時間くらい離席しま
奇特な人が保守ってくれて残ってたらここで、落ちたら制速いきま

大嘘こいてごめん

>>70
■幹線道路・高架下

御坂「なによコレ? 黒子、何が起こってんの?」

頭上を見上げながら携帯電話に向かって不審げな声をだす御坂。
嫌でも目に飛び込んでくるのはたなびく黒煙。
幾度となく起こる小規模な爆発音。

御坂の持つ電話の向こうには正確な事実を伝えようと懸命にモニターから情報を読み取る黒子がいた。

黒子『どうやら木山が能力でもってアンチスキルと交戦をしているようですの』

御坂「能力ー? 彼女能力者じゃないって言ってなかった?」

非常階段を駆け上りながら、矛盾している箇所を指摘する御坂。

黒子『そうですの。 書庫(バンク)にも彼女が能力開発を受けたという記録は残っていませんの』

そこまで言ってゴクリと緊張しながら口を開く黒子。
先程感じた嫌な予感の正体はこれなのだろうか?
内心そう自分に問いかけながらも推測を口にする。

黒子『ですがこれは明らかに能力。 それも複数の能力をもつ…多重能力者の可能性が極めて高いですの』

御坂「多重能力者? 実現不可能、幻の存在っていわれてるやつ? あれって都市伝説じゃない」

子供たちの間で囁かれる噂話のような推測を聞いて思わず否定の言葉を口にする御坂だったが…

黒子『…そうとも限りませんの』

それは黒子の深刻な声で否定された。
黒子には心当たりがあった。
目の前で不可思議な能力を見せつけた一人の男が脳裏をよぎる。

黒子『お姉様… どうかお気をつけて。 相手を侮らないでくださいましね?』

御坂「だいじょぶだって。 言ったでしょ? たまには頼りなさいってね」

黒子の心配そうな言葉に明るく返事をして携帯電話を耳から離す御坂。
まだ何か言いたげな黒子との通話を切って、最後の一段に足をかける。
階段を登り切った御坂の目に飛び込んできたのは倒れ伏したアンチスキルたちだった。

御坂「…アンチスキルが…全滅。  …初春さんと佐天さんは?」

そう呟いてあたりを見回す御坂に返ってきたのは静かな答え。

木山「安心していい。 彼女たちは一番向こうにある私の車の中だ」

横倒しになり黒煙をあげている護送車の影から堂々と姿を現す木山春生。
逃げも隠れもしないその態度を見て御坂美琴は警戒を強める。

御坂「…まさかアンタが能力者だったとはね」

パシリと御坂美琴の周囲の空気が帯電をはじめだす。

だが、それを見た木山の口元には不敵な笑みが浮かんだ。

木山「学園都市に七人しかいないレベル5。エレクトロマスター、『超電磁砲』か」

最強の能力者を相手にしても木山が余裕を失うことはなく。

木山「私のネットワークにレベル5は含まれていないが…」

木山「君に一万の脳を統べる私を止めることができるかな?」


その言葉がゴングだった。

戦いの中で主張をぶつけあう二人の能力者。

電撃を放ち、水弾で迎撃し、磁力で垂直な壁に貼りつき、重力子の加速で爆弾をつくり、それを反射波で感知し…
二転三転する勝負はさながらお互いのカードを次々と切っていく消耗戦だった。

そして…先に誤った手札を切ったのは木山春生。
相手の能力を読み違えていたというそれは決定的な敗因とイコール。

全身に電撃を流され、動くことも出来なくなった人が倒れ伏す。
だが、御坂の顔は酷く青ざめていた。

御坂「いまの…なに?」

御坂美琴の脳裏に流れた他人の記憶。
それは間違いなく目の前にいる木山春生の悲しい記憶だった。

木山「…観られたのか?」

乱れた息を整えようともせずに立ち上がろうとする木山。

御坂「なんで? 自分の教え子を助けるためなら…こんなことしなくたって…」

木山がレベルアッパーで何をしようとしているのか…その目的を察した御坂は恐る恐るそう語りかける。

だが、そんな御坂の問いかけは悔しさのこもった叫びで塗りつぶされた。

木山「私が何回[樹形図の設計者]に申請したと思っている!」

普段の冷静さが嘘のように自分の中の激情を吐き出す木山。

木山「統括理事会がグルなんだ! アンチスキルに頼ったところでどうになるわけがない!」

電撃を受けたショックが抜けきれず足元をふらつかせながら立ち上がる。

木山「あんな悲劇二度と繰り返させはしない!」

自らを導いてくれた子供たちはどれほど時を重ねようと木山の胸の中心にいた。

木山「そのためなら私はなんだってする!」

例え他人から罵られようとなんら気にするつもりはなかった。

木山「この街の全てを敵にまわしても!」



木山「私は止まるわけにはいかないんだっ!」



その瞬間だった。

御坂「…なに…アレ?」

突如頭を抱えて苦しみだす木山を見て駆け出そうとした御坂の足がピタリと止まる。
御坂の歩みを止めた原因。


水面に映る鏡像のようなそれは胎児のような形をしていた。

ブヨブヨと揺れ動く肉の塊。
左右非対称に生える腕。
頭上には途切れたリング。

爬虫類のように瞼が動き、真っ黒な眼球があたりを認識しだす。

御坂「これ…能力ってわけじゃないよね…」

その禍々しい姿に思わず後退りをする御坂。


まるでこの世に生まれたことを呪うように

「ォオギィィャァァァァァッッッッッ!!!!!!」

嬰児の形をとったAIM拡散力場の塊…幻想猛獣がマンドラゴラの悲鳴のような産声をあげた。

>>111
■幹線道路・高架上


佐天「なにあれ…赤ちゃん? …それにしてもグロいなぁ~」

高架の上からこっそりと覗きながら素直な感情に口にする佐天。

眼下ではノイズが混じったような罅割れた泣き声をあげながら無差別に触手を振り回しはじめる巨大な嬰児がいた。
その触手の先には佐天のよく知る人物、御坂美琴がいた。

佐天「御坂さんっ! 危ない!」

何も無い宙に氷塊のような塊が突如生成され、勢い良く御坂に向かい降り注ぐ。
だが…

佐天「うわ…御坂さん凄ぉ… なんか大きい塊を楽々砕いてるよ!」

御坂美琴にとって、それはさしたる障害ではなかったようだ。
爆発を磁力で生成したシールドで防ぎながら巨大な幻想猛獣に攻撃を加えていく御坂を見て興奮する佐天。

初春「佐天さーん、ちょっとは手伝ってくださいー」

そんな佐天に困ったような初春の声がかかる。
木山と戦闘し、気絶したアンチスキルを道路の端に引きずって避難させていたのだ。

佐天「ごめんごめん 今行くからー」

そう言って立ち上がろうとした佐天の視界に見覚えのある人物が映った。

佐天「……あれって」

初春「ここは危ないですよ佐天さん…って、どうしたんですか?」

とりあえずではあるが、アンチスキルを遠方に避難させた初春が佐天の隣に並ぶ。

佐天「ねぇ初春… あそこにいるのってさ」

佐天が指さした先を見てアッと驚いた声をあげる初春。

初春「…虹村さん!?」

そこには虹村億泰が驚いたような顔をして立ち尽くしていた。

■幹線道路・高架下

億泰「……なんだぁ~!?」

幻想猛獣を見て素っ頓狂な声をあげる億泰。

億泰の目の前でブヨブヨに膨れ上がった幻想猛獣が御坂美琴を捕らえようと触手を伸ばしている姿だった。
伸びくる触手を電撃で焼き尽くし砂鉄のブレードで切断をする御坂。

バチバチと雷を操りながら危なげ無く攻撃を加えている御坂を見て嫌なものを思い出しかのように眉をひそめる億泰。

億泰「あいつ……『電気』をつかうのかよぉ~…」

複雑そうな顔をしたまま棒立ちになった億泰にようやく気付く御坂。

御坂「ちょっ! アンタなんでここにいんの!?」

億泰がレベルゼロだということを知っていた御坂は苦虫を噛み潰したような顔になる。

御坂「危険だから逃げて! アイツはあたしが引きつけるから!」

そう叫びながらバシンと電撃を幻想猛獣に叩きつける御坂。
その時だった。

ブヨブヨと膨れ上がった幻想猛獣がぶるりと身震いをしたかと思うと体表に幾つもの眼球が生えてくる。
同時に怨念のようなくぐもった様々な声が大気を震わせた。

――――――――――――――――――――――――――――――

「幾千幾万の努力がたったひとつの能力に打ち砕かれるのが現実だ」

「能力を数値化してどっちが優秀かハッキリさせちゃうなんて…残酷よね」

「出鱈目に高くて分厚い壁。 …突破なんて出来るわけないじゃないか」

「…上を見上げず前を見据えず下を見て話そう」

「力のある奴はいつだってそうだ…」

「何をやったってねじ伏せられてバカにされる」

――――――――――――――――――――――――――――――


御坂「なに…これ…?」

泥のように吐き出される大量の感情に驚く御坂。

それはレベルアッパーを服用した一万人の学生達の苦悶の…恨みの…諦観の声だった。
同時に手当たりしだいに周辺を攻撃しだす幻想猛獣。
御坂にはそれがまるで自暴自棄になり自らを傷つけるようにも見えた。

御坂「…苦しんでる…の?」

■幹線道路・高架上

初春「……」

頭に響く卑屈な感情に思わず声を失う初春。
彼等の気持ちはレベル1の初春にとっても人ごとではなかった。

気が抜けたように立ち尽くした初春の後ろにこっそりと立つ少女。

佐天「うーいはるーぅ!」

バサァ! と盛大に初春のスカートをめくったのは佐天涙子だった。

初春「……へっ!? なっ何するんですか佐天さん!!」

スカートをめくられ真っ赤になって佐天に抗議する初春だったが…

佐天「なーにぼんやりしてるのさ?」

そう言って笑う佐天を見て言葉を失った。

佐天「あたしたちは御坂さんや…アイツみたいにあのオバケの前に立つことはできないけどさ」

佐天「それでもあたしたちに出来ることは絶対あるって!」

初春「佐天さん…」

元気づけようとしてくれた佐天を見て初春の瞳に力が戻る。

初春「そっそうですよね! ボーっとしてる場合じゃないですよね!」

自分に言い聞かせるようにコクコクと首を振る初春。
すっかりといつもの調子を取り戻した初春を見て佐天が口を開く。

佐天「とりあえずはさ…あの赤ん坊をどうすればいいのか… あそこにいる生みの親に話を聞きに行こうよ」

佐天の視線の先にはボンヤリと幻想猛獣を見つめている木山の小さな背中が見えた。

佐天「ホラ! 行こう!」

そう言って初春に右手を差し出す佐天。

初春「はっはい!」

元気よく返事をしながらその手を握り共に駆け出す少女たち。

■幹線道路・高架下

暴れまわる幻想猛獣を見て深いため息を吐く木山。

木山「もはや…ネットワークは私の手を離れ…あの子達を回復させることも叶わなくなったか…」

取り出した拳銃をこめかみに突きつけ自嘲する。

木山「…もうおしまいだな」

教え子たちに詫びながら自らの生涯の幕を閉じようとしたまさにその時だった。


初春「ダッダメェ―――!!」

佐天「なに考えてんですかー!」


勢いのついた二つのタックルが木山に叩き込まれる。

木山「なっ!?」

飛び込んできたそれを受け止めることができずそのままゴロゴロと転がる木山。

きゅう、と目を回した木山にまたがるのは佐天涙子と初春飾利だった。

タックルで痛んだ腰と喉をさすりながらも問われるままに現状を説明する木山。

初春「虚数学区?」

聞き慣れない言葉に眉をひそめる初春。
そんな佐天に木山が丁寧に説明をしだす。

木山「虚数学区… それはAIM拡散力場の集合体だ」

木山「アレもおそらく原理は同じだろう」

そう言ってチラリと暴れ狂う幻想猛獣を目にする。

佐天「AIM力場の集合体って言っても… どこにそんなのが…」

疑問をそのまま口にする佐天。

木山「あぁ。 レベルアッパーのネットワークによって束ねられた一万人の拡散力場が触媒さ」

佐天「触媒って… そもそもあんな拡散力場の塊をどうやってシミレーションなんかに使うつもりだったんです?」

そう問いかけた佐天に静かに答える木山。

木山「あのAIMバースト…便宜上幻想猛獣とでも呼ぼうか。 あれは…ネットワークの暴走が原因だ」

木山「まず幻想猛獣に自我があるとは考えにくい。 が、ネットワークの核であった私と一万人のマイナス方向のイメージが表面化しているんだろうな」

初春「じゃあ…どうすれば止めることができるんですか?」

それは最も聞きたかったこと。
その初春の言葉を聞いて木山がポケットの中に手を伸ばす。

木山「あれはネットワークの怪物だ。 ならばネットワークそのものを破壊すれば止められるかもしれない」

木山「…当然、治療用のプログラムも私が持って…いる…」

その木山の言葉を聞いてホッとする佐天。

佐天「なーんだ。 だったら早くそのプログラムを起動しましょうよ!」

そこまで言って佐天は気付く。
ダラダラと嫌な汗を流している木山がそこにいた。

初春「…あ、あの?」

異様な表情の木山を気遣うよう初春。
そんな少女たちの視線を受けてそろそろとポケットの中にいれていた手を開く木山。


木山「………すまない」


木山の手のひらの上にはまっぷたつに割れた小さなデータカードがチョコンと乗っていた。

佐天「…え゛?」

木山「負けるつもりはなかったのだが…」

電気信号の塊であるデータカードは静電気ですら致命傷になりうる。
ポケットの中に剥き出しの精密機器を入れたまま『超電磁砲』と闘ったのだ。

木山「その…まさか私もこんな展開になるとは予想もつかなくてな……悪かった」

親に叱られた子供のように佐天と初春から目を逸らしながら謝る木山。

初春「…それじゃあ」

木山「あとは…力尽くしかないな」

佐天「だ、だったらさ! 今は一旦皆で逃げてアンチスキルに後を任せたりとかだって!」

次の解決策を提示した佐天だったが、それはバッサリと木山に否定された。

木山「…そんな猶予はないだろうな。 幻想猛獣の向こうに見える建物…あれが何か判るかい?」

木山が指さした先を見ると確かに幻想猛獣が大きなプラントのような施設に向かい動き出していた。

木山に問われるもさっぱり見当がつかない佐天。

佐天「えっと…」

木山「あれは原子力実験所だ。」

そんな佐天に恐ろしい事実を告げる木山。

佐天「…嘘」

木山「嘘ではない。 もはやあの巨体のどこかにある20cm弱三角柱の形をした核を破壊するくらいしか手はないだろう」

初春「20cm弱の核?」

遠くに見える幻想猛獣は今や15メートル近くの巨体となっていた。
あの中から手のひらほどの核を破壊することなど可能なのだろうか?

それは佐天と初春にとっては笑ってしまうくらい絶望的な難題に見えた。
しかし、目の前には御坂美琴がいる。 虹村億泰がいる。

ならばきっと何とかしてくれる。 
二人の少女はそう信じていた。

絶望的な状況であるはずなのに諦めているとは思えない少女たちを見て木山春生は首をひねる。
この少女たちは自分の話を聞いて、なおかつ疑いもしていないのだ。

木山「ところでひとつ聞きたいのだが… なぜ私の話を信用する?」

不思議そうにそう問いかけてくる木山を見て佐天と初春が顔を見合わせて微笑んだ。

佐天「なぜって… 判っちゃったからとしか言いようがないですねー」

木山「判った… いったいなんのことだ?」

初春「木山先生が…嘘をつかないっていうことですよ」

屈託の無い瞳を眩しがるように足元を見つめる木山。

木山「…本当に。 根拠もなく人を信用する子供の相手は苦手だ…」

そう呟いた木山の口元には静かな笑みが浮かんでいた。

木山「治療用のプログラムは失われ、アンチスキルの増援が到着するまであとどれくらいかかるのかも判らない」

暴れまわる幻想猛獣を見て淡々と現状を整理していく木山。

木山「もはや…エレクトロマスター…学園都市の第三位『レールガン』御坂美琴に賭けるしか打つ手がないということか」

そう呟いた木山に力強い否定が返ってきた。

初春「御坂さんだけじゃありませんよ?」

木山「?」

顔を上げた木山の目に飛び込んできたのは強い意志の光。

佐天「あそこにいるノッポでガラの悪いアイツもきっと何とかしてくれる。 …あたしたちはそう思ってますし」

初春「私も佐天さんと同じ意見です!」

そう言って頷き合う少女たち。
佐天涙子と初春飾利の願いにも似た希望は数分後、たやすく踏みにじられることとなる。

■原子力実験所前・広場

巨大な剣のように尖らせた力場の塊を電撃で破壊し距離をとる御坂。
ぽたりと大粒の汗が額を流れ落ちる。

御坂美琴が疲労している原因のひとつはここから立ち去ろうとしない『一般人』の存在だった。

虹村億泰から幻想猛獣を引き離すように攻撃を打ち消しながら動き回っていたせいで想像以上の体力が消耗。

ぜぇぜぇと荒い息をつく御坂。

そしてもうひとつの原因。
それは一万人の怨念のようなイメージを至近距離で受け続けた精神的な疲弊だった。


「ntns欲sr」
「n羨rls」
「gw苦dgz」
「助wsdpl」
「jed救zj」

御坂「あぁもう! ホンっとキリない!!」

苛立も混ぜながら大きな電撃を放たんと身構える御坂。
その時だった。

億泰「アホかてめぇ!! なにボケッとしてんだぁっ!」

御坂の背後に大きな怒声が叩きつけられた。

振り返った御坂の目に飛び込んできたのは猛烈な勢いでこちらに駆け寄ってくる億泰の姿。

御坂「なっ!? 危ないから離れててっ言ったでしょ!」

疲弊した御坂美琴は気づいていなかった。
死角からこっそりと回りこむように地を這う一本の悪意に。

獲物を見つけた蛇のように鎌首をもたげ、勢い良く美琴に迫るは赤ん坊の腕を模した触手。

御坂「へっ!? いつの間にっ!? つーかヤバッ!」

ようやく己に迫るそれを見て目を丸くする御坂だったが…

億泰「ンなこという暇あんならよぉ~ 避けろっつーんだよぉーッ!!」

間一髪。
御坂の襟首を掴んだ億泰が引き抜くようにして後方に放り投げる。

そのまま軽々と数メートルは宙を飛び、尻餅をつく御坂。

御坂「っ! 痛テテ… もうちょっと優しくしなさいよねー」

痛む腰をさすりながら立ち上がる御坂。

御坂「………え?」

そこには信じ難い光景が広がっていた。

ごえん寝るす
もし残ってたら再開は明日の午前中って感じになると思うますです
残ってたらレベルアッパーまではvipで、落ちたら制速ってスタンスは変わってないんで保守めんどくさかったら落としてくださいな。

“保守する”と心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!

いいかッ!よく見てろ!!!

ダンッ! ダンッ! ダンッ!(クリック音)

よし!保守『したッ!』

>>165兄貴の言ったこと、今理解した……

頭でなくっ!心でっ!

ポチッポチッポチッポチポチッ(プッシュ音)

ポチッポチッポチッ(プッシュ音)
ポチポチッ(プッシュ音)

保守『した』っ!

保守は…お前に…ある…ぞ…やるんだ…>>167…オレは…お前を…見守って…いるぜ…

>>153

億泰「う…うおおおおおッッ!?」

触手から無数に生えた赤ん坊のような小さな手に捕らわれる億泰。

グジュグジュと耳障りな音を発する手は食虫植物のようにゆっくりと億泰を取り込み始めていたのだ。

億泰「ヤッヤベーぜこいつはっ! ビクとも動けねぇ~」

踏ん張る億泰だったが、抵抗むなしく幻想猛獣の本体に呑み込まれはじめる。

御坂「ご、ごめん…あたしそんなつもりじゃあ…」

結果的に自分の身代わりとなってしまった億泰。
幻想猛獣のうちに引きずり込まれていく億泰に向かい震えた声で謝る御坂。

だが。

億泰「気…気にすんじゃあねぇぜぇ… オマエのせいじゃあねえ…」

無数の手に身体を固定され、ズブズブとその肥大した肉の塊に取り込まれながらも億泰が返事をした。

御坂「でもっ! 私のせいで!」

気休めのような優しい言葉を否定しようとする御坂。
しかし、それを聞いた億泰の声が静かにそれを遮った。

億泰「オレじゃなくてもよぉ… きっと『アイツ』だって同じことをしてたはずだしなぁ…」

御坂「…え」

そう呟く億泰。
御坂の脳裏に映ったのは、ある少年の後ろ姿だった。

馬鹿で無鉄砲で飄々としているツンツン頭。
自分のことを『超電磁砲』としてではなく、一人の少女として相手をしてくれた初めての少年のことを。

言葉を失った御坂に向かい、さらに億泰が語りかける。


億泰「『アイツ』ならよぉ… きっとこう言うはずだぜェ…」

億泰「『悲しんでる暇があるなら…自分の手で切り拓けよ!』ってなぁ~…」


そこまで言ってチラリと遠く離れた高架下を見る。
そこには佐天と初春、そして見知らぬ女性が呆然とこちらを見ていた。

■幹線道路・高架下

佐天「…うそ」

初春「に、にじむら…さん?」

目の前で起きている事実を認められずぺたんと尻餅をつく佐天と初春。

もはや億泰の身体の殆どはAIMバースト…幻想猛獣に取り込まれていた。

首だけを動かしてこちらを見た億泰の口元が動く。
しかしその呟きは佐天と初春に届かず、虚空に消える。

木山「馬鹿な… 拡散力場の塊が人を取り込むのか?」

ある意味では一番驚いていたのは木山だった。
ネットワークの塊、AIM拡散力場の集合体が人間を取り込むなど考えられることではない。

しかし、現実は無情にも木山の推測をまたしても裏切っていた。

■原子力実験所前・広場

佐天と初春に向けて何事かを呟いた億泰が再び御坂に視線を戻す。
真っ青な顔で…それでも視線をそらすことなくこちらを見つめている御坂美琴。

黙りこくった御坂を鼓舞するように口を開く億泰。

億泰「…オマエならよぉ~ 判ってるはずだよなぁ~?」

億泰「今一番守らなきゃあいけねえのが… 何なのかってことをよぉ」

それは御坂に決意を促す言葉。
その言葉は確かに御坂美琴に届いた。

少女の瞳に映る意志を、決意を確認して、空を見上げる億泰。
真っ青に晴れ渡った空に目を細めながらポツリとちいさく呟いた。


億泰「あばよ……『  』」


かけがえのない親友に向かいそう別れの言葉を口にしたのとほぼ同時。
肉の塊に埋もれていくように億泰の身体は完全に幻想猛獣の内部へと取り込まれ…消えた。

億泰が幻想猛獣に取り込まれた途端、その場にいる全員の頭の中を雑音が駆け巡る。
間断なく流れていた一万人の負の感情。
それが塗りつぶされていくように変わっていく。


それは虹村億泰の記憶。


――『おやじのやつ…また億泰を殴りやがったなっ! クズめっ!』

――『10年間だっ! 俺達兄弟はッ! 10年間もの間っ! 欲望に魂を売った肉の塊みてえな親父と共に暮らしてきたんだっ!』

――『親父だからこそ…やりきれねえんだ… せめてフツーに死なせてやりてえって気持ちがあんだ…』

――『俺にさわるんじゃあねえっ! 億泰ッ! おめーも引きずり込まれるぜっ!』


それは実の父親に虐待され続けてきた力ない兄弟の記憶だった。

父を救うために父を殺す方法を探し続け、非道に堕ちた兄の記憶だった。

そして…その身を呈して兇手から弟を救った兄との別れの記憶だった。

それは虹村億泰の記憶。

――『仲間だどっ! オラたち同じ力をもつ仲間だよねぇ~っ!』

――『目が醒めたど…オラ欲に目がくらんでた…』

――『よかったら弁当だけ買って一緒に来ればいいどっ』

――『オラが守るどっ! 『パパ』と『ママ』をっ! 『この街を』守るんだどっ! 』


それは友情を履き違えていた小柄な少年との記憶だった。

両親以外に認められることがなかった孤独な少年だった。

一人でランチを食べることに何の疑問も抱かなかった後輩と共に悪ふざけをした記憶だった。

そして…父と母を、この街の平穏を守ろうとして散っていった友人との別れの記憶だった。

最後の記憶って億泰が知りえない情報じゃね

>>182
うん、そうなんだ。
だが頼む!そこは目を瞑ってくらしあ

少女たちの頭の中に流れるイメージは億泰が抱えていた悲しい記憶そのもの。

普段の態度からは想像がつかないほどの重く辛い想い出だった。

言葉もなく立ちすくむ少女たち。


そして…動かなくなったのは幻想猛獣も同じだった。

幻想猛獣「ギ…ギィィヤアアアァァァァァァッッッ!!!」

耳をつんざくような物凄い叫び声をあげる胎児の形をしたAIMバースト。
苦痛に耐えられないような悲鳴をあげながら幻想猛獣の全身がブクブクと膨れ上がり、肥大する。

幻想猛獣「キィィヤアアアァァァァァァッッッ!!!」

まるで内部で爆発が起きているかのように肉が盛り上がり…そして『弾けた』

ボタボタと周囲に肉片を撒き散らす幻想猛獣。

吹き飛んだAIM拡散力場の欠片が雨のように地面を叩く。

だが、それで終わったわけではない。
幻想猛獣はいまだそこに存在していた。

四散した肉片をそのままに、再生をはじめる幻想猛獣。
数回まばたきができるほどの僅かな時間で先程と同じ巨体を取り戻す。

そしてまたゆっくりと動き始める幻想猛獣。
その歩みの先にショートカットの少女が立ちはだかる。

御坂「自爆…ってわけでもないようね」

御坂美琴の見据える先に立つは先程と変わらぬ巨体を揺らす幻想猛獣の姿。

御坂「ごめん。 恨んでくれても構わない」

ポツリとそう呟く御坂。

いっつも思うんだけど
ザ・ハンドの右手でつかまれて消えた物ってドコ行くん?
俺頭悪いからわかんねーよ

小さなコインをその手に握り、構える御坂。

御坂「原子力施設の破壊だけは…させるわけにはいかない」

それは幻想猛獣を億泰諸共、超電磁砲にて貫くことを意味していた。

御坂「人を殺しちゃえばきっと…私は一生笑えなくなる」

『お姉様がお姉様ではなくなってしまう…そんな予感がしてならないですの…』
人知れず呟いた黒子の小さな言葉。

御坂美琴は一人の少年を思い浮かべる。

御坂「アイツなら…あの馬鹿なら…アンタを救えたのかもしれない…」

あの少年ならばきっと現状を打開してくれる…御坂美琴はそう思う。

御坂「でも」

だが、この場に彼は…上条当麻はいない。

御坂「私はアイツじゃないんだ…………ごめん」

静かに懺悔しながら超電磁砲を撃ちだすため指先に電撃を集中しだす御坂。


…その時だった。

>>187
ガオンッ

>>187
俺も頭悪ぃからよぉ~
よくわかんねぇけど、でもよぉ~
『消える』って事だけは確かだぜ

【まったく…どこまでも馬鹿な弟だ。 だが……ちょっとは成長したか】

どこからか。

【しししっ でもさっきの億泰さんは中々カッコよかったど】

声がした。


幻想猛獣の思念のように響く二つの声。
だが、AIMバーストの垂れ流す思念とは、ある一点が決定的に違っていた。

マイナスな感情を吐き出す幻想猛獣と違い、暖かく力強い意志の込められた声。


御坂「…なに? なんなの?」


突如響いた正体不明の声に驚く御坂は違和感に気付く。

辺り一帯でもぞもぞとナニカが動き出していたのだ。

…それは爆散し、無数にはじけ飛んだ幻想猛獣の肉片。

AIMバーストの肉片から生まれ出てくるようにして姿を現したモノを見て御坂は声を失う。

ずらりと幻想猛獣に向かう小さな影。


…それは武装した兵士。

【整列しろっ! バッド・カンパニィーッ! 攻撃準備だぁッ!】

幻想猛獣の体内から響く雄々しい声に指揮をされ幾何学の形に整然と並ぶ軍隊。

小さな兵士の手に握られているのはM-16カービンライフル。

パラパラと独特のローター音を鳴らしながら宙を旋回するはAH-64攻撃ヘリ。

キャタピラ音を鳴り響かせながら砲塔を向けるはM1戦車とT-55戦車。


…それは異形の戦士。

【ハーヴェストッ! 油断するんじゃあないどっ!】

まだ声変わりをしていないであろう少年の声が大気を震わせる。

異形の戦士は腕を大きく広げ、幻想猛獣の前に立ちはだかる。

太い縞のはいった特徴的なカラーリングは生物ならば誰しも恐れる自然界での警戒色。

4本の腕を持つ無数の小人が幻想猛獣を取り囲む。

■幹線道路・高架下

四散した幻想猛獣の肉片から生まれでたモノを見た木山がボソリと呟く。

木山「あれに常識が通用しないことなど…判っていたはずだった」

木山「…一万人のAIM拡散力場が触媒になっているんだ。 何が起こっても不思議ではない」

木山「意志と力の塊であるAIMバーストならば…どのような能力をふるってもおかしくはないと…そう思っていた」

木山「…だが」

そこまで言って天を仰ぐ。

木山「これは…いったいどういうことなんだ?」

それは奇しくも御坂美琴が口にした『怪獣映画』のワンシーンのよう。
体長数十メートルに達しようとする幻想猛獣に立ちはだかるのは無数の兵士と戦士の混合部隊。

■原子力実験所前・広場

【全隊~~~~~~~~ッ! 攻撃態勢にうつれッッ!!】

【おまえたちっ! 気ぃ抜くんじゃないどっ!】

幻想猛獣からの声に従い、アサルトライフルを構える小さな兵士と拳を握る戦士たち。

AIMバーストの欠片から生まれしものがAIMバーストを討ち滅ぼさんとする光景。
それは反乱だった。

「ntns欲sr」
「n羨rls」
「gw苦dgz」
「助wsdpl」
「jed救zj」

苦痛の悲鳴をあげながら足元に散らばる己の身体から生まれたものを見下ろす幻想猛獣。

自分の意思を伝える方法をそれしか知らぬと言わんばかりに触手を振り上げる。

天をさすかのように振り上げられた触手が唸りをあげて落下するのと同時に叫ぶ二つの声。

熱い展開じゃあないか

>>199
それがいいんじゃあないか(AAry)

【全隊一斉射撃ッ! 全ミサイル全砲弾っ! すべてを撃ちつくせェェェーッ!!!】

砲煙弾雨が幻想猛獣を蹂躙する。

降り注ぐ豪雨のような無数の弾丸が幻想猛獣の肥大した肉体を弾き飛ばす。


【いくどっ! 絶対にっ! 絶対に取り返すんだどっ!】

黒い嵐が幻想猛獣を取り囲む。

獰猛な蜂のように纏わり付き、小さな拳で持って幻想猛獣の肉を抉り出す。



御坂は、佐天は、初春は、木山は知らず知らずのうちに拳を握りその光景を見つめていた。

それはまるで囚われた一万人の希望の力。
押し潰され、踏み砕かれた心の奥底の熱い思い。
巨大な現実…見上げるのも馬鹿らしい壁に反抗し抗う一万人の意地が具現化したように見えた。


「頑張れ…頑張れ…」

ポツリと、そう誰かが呟いた。

いつ終わるともしれない攻撃。
撃ちぬかれ、狙撃され、爆撃され、切り裂かれていく圧倒的な破壊力の速度は幻想猛獣の再生速度を優に超えていた。

幻想猛獣「キィィ゙…ギィィヤアアアァァァァァァッッッ!!!」

マンドラゴラの悲鳴のような叫びをあげながら大きく身震いをするAIMバースト。

その時、ボロボロにはじけ飛んだ身体の中にチラリと何かが見えた。
それは見間違うことのない億泰の身体。

それを確認した戦士たちの攻撃がピタリと止まると同時に大気を震わす二つの声。


【グリーンベレェーッ! この期を逃すなぁっ!!】

【今だどっ! 億泰さんを取り返すんだどっ!】


攻撃を放棄した無数の軍勢が凄まじい速度で幻想猛獣に取り付いていく。

取り込まれた億泰を救わんと振るわれる無数の小さなナイフと拳。
切り裂き、掘り返し…ついには億泰の身体が幻想猛獣から開放された。

しかし、億泰の身体に意志はなかった。
崩れるようにして地面に倒れ、ピクリとも動かない億泰。

身動きをしない億泰に近付き、首筋に手を当てた御坂が下唇を噛む。
指先からは何の手応えも返ってこない。

御坂「……間に合わなかった」

心臓の鼓動が止まった億泰から手を離した御坂の視線の先には暴れ狂う幻想猛獣。

幻想猛獣「キィィヤアアアァァァァァァッッッ!!!」

赤ん坊の癇癪のように力場の塊を生成し、無差別に周辺を攻撃しだす幻想猛獣。

御坂「もう…容赦しないから」

ギリっと歯を食いしばった御坂に向かい幾つもの氷塊が降り注ぐ。

しかし。

御坂「通じるもんかぁっ!」

それらはすべて御坂の発した電撃によって迎撃され、破壊された。

御坂「自暴自棄もいい加減にしなさいよねっ!」

幻想猛獣に言葉をぶつける御坂。

「そうだな…わたしは“結末”だけを求めてはいない。
“結末”だけを求めていると、人は催促をしたがるものだ…
催促した時>>1を見失うかもしれない。保守も次第に失せていく。
大切なのは『完結に向かおうとする支援』だと思っている。
向かおうとする支援さえあれば、たとえ今回はスレが落ちたとしても、
いつかは完結するだろう?支援しているのだからな…違うかい?」

>>210
赤IDで長文貼るなカス

>>211
フヒヒッサーセンwww

幻想猛獣にやりきれない思いをぶつける御坂。

御坂「どんだけ悔しくたって! やっていけないことくらいわかんないのっ?」

さして親しい間柄というわけではなかったが、それでも知人が目の前で死んだのだ。
間に合わなかった悔しさを電撃に込める御坂。

だが、まだ諦めていない意志があった。

それは遠くで見守ることしか出来ない二人の少女の希望。

そして無数の軍勢を指揮する二人の男の遺志だった。


【億泰ッ! 言ったはずだっ! 決めるのは俺じゃないとっ!!】

兄の叱咤の声が億泰の心の臓を揺さぶる。


【そうだど億泰さん! いつまでもボンヤリしてる場合じゃないどっ!】

友人の激励の声が億泰の心の臓に血を送る。



それは―――確かに億泰に届いた。

トクンと…消えてしまいそうな小さな鼓動。

しかし、それは消えることはなく。

それどころか数を重ねるごとに力強さを増していく。


小さな呟きが聞こえた。

「……俺はよぉ~ 最初…夢見てんのかなぁ~って… そう思ったよ…」

声の主、虹村億泰は倒れたまま顔だけを持ち上げてぼんやり目の前の光景を眺めていた。
ジワリと億泰の瞳に涙が浮かび上がる。

億泰「なぁ~… これやっぱり夢でしたっつーわけじゃあ…ねぇーんだよなぁ~」

そう漏らした小さな言葉に返事は帰ってこない。

だが…

幻想猛獣に間断なく攻撃を加える無数の軍勢は確かに『そこ』にいた。

【撃ち続けろっ! バッド・カンパニー!】

【あんなデカブツ怖くなんかないどっ! おらのハーヴェストは無敵だどッ!】

止むことを知らない一斉射撃が氷塊を撃ちぬく。
獰猛な軍隊アリのように群がり、四方に伸びる触手を切り裂いていく。

そんな軍勢の中にぽっかりと小さな空間があった。
それはまるで最後のピースを待っているパズルのよう。

はやく立ち上がれと。
はやくここに戻って来いと。

言葉にならなくとも確かにそれは億泰に伝わった。

億泰「……今行く。 今行くぜぇ…… 兄貴…重ちぃ」

自分に言い聞かせるように呟きながらゆっくりと立ち上がる億泰。

そして――虹村億泰は学園都市に来て初めてひとつの言葉を口にする。


億泰 「『ザ・ハンド』ッッッ!!!!」



それは『幽波紋』

            ヴィジョン
それはパワーを持った像

     Stand by me
それは『側に立つもの』

      stand up to
それは『立ち向かうもの』



それはただ一言…こう呼ばれていた


『スタンド』―――と。

立ち上がった億泰に驚く御坂美琴。
そして彼女はソレを見た。

目撃したのは御坂だけではない。
木山春生の瞳にも佐天涙子の瞳にも初春飾利の瞳にも確かに『スタンド』が映っていた。


億泰の背後にゆらりと浮かび上がった影。

古代の拳闘士のような逞しい筋肉質の肉体。

表情を削ぎ落した無機質な機械のような顔面。

鋼のような胸板には億泰を象徴するかのような『¥』と『$』のマーク。


本来、スタンドを見ることができるのは同じくスタンド使いのみ。
AIMバーストの欠片から現れた軍勢とは違い、億泰の能力をスタンド使いではない彼女たちが見れることはありえない。

だが、この場に限ってはそれは例外だったのだろう。
本来見えないはずの拡散力場が集合し、自我をもったAIMバーストがここに存在しているように。
AIM拡散力場が乱れたせいなのか? それとも川尻早人のように一時とはいえ決意が現実を凌駕したのか?

この答えはおそらく出ることはない。
しかし、ただひとつ確かに言えることがある。


それは虹村億泰のスタンド、ザ・ハンドがそこに立っているという事実がそこにあるということ。

■幹線道路・高架下


初春「オバケ……じゃあないですよね?」

億泰の側に立つスタンドを見てぼそりと呟く初春。

佐天「どうなんだろ …あたしに聞かれてもわかんないよ」

立て続けに起きる想像を遥かに超える事態を理解し切れない佐天。

木山「あれは…AIM拡散力場なのか? いや…個人で具現化するような力場など存在するはずがない」

科学者である木山春生も虹村億泰のスタンドについては全く把握できなかった。

その時、彼女たちの後ろからゼエゼエと息を切らした声がかかった。

支援

「お、お姉様は…無事なんですの? それに…あれはいったい?」

その声に驚いて振り向く初春。

初春「白井さん!? どうしてここに?」

そこには汗だくになった白井黒子がいた。

黒子「こ、固法さんがいらしたので…居ても立ってもいられずテレポートでここまで来たんですの」

ジャッジメントの支部に到着した先輩の固法に無理やり頼み込み、空間跳躍を駆使して現場に急行してきたということを息も絶え絶えにつたえる黒子。

黒子「演算の繰り返しで…少々頭痛がしますけど… それより初春? 状況の説明をお願いしますの」

少々とは言い難いほど疲弊している黒子。
壁に寄り掛かりズルズルと腰をおろす。

そんな黒子の様子に驚きながらも説明をする初春と佐天。

黒子「なるほど…思ったよりも事態は簡単ですのね」

話を聞いた黒子が頷く。
簡単と言い切った黒子に目を丸くする佐天と初春。

佐天「か、簡単ですか?」

黒子「つまりは…AIMバーストをお姉様たちが倒せるかどうか… 問題はそれだけなのでしょう?」

初春「確かに言葉を言い換えればそういうことになりますけど…」

おぞましい巨体を震わせながら泣き叫ぶ幻想猛獣を見て言葉が詰まる初春を見て黒子が優しく諭す。

黒子「わたくしは信じてますの お姉様ならきっと何とかしてくれると」

そう言ってチラリと視線を移す。

黒子「それにお姉様には及ばなくとも… あそこの殿方だって信頼に値する人物でしょう?」

黒子の視線の先を追う佐天と初春。

そこいは無数の軍勢の中心に立つ億泰と御坂の姿があった。

何ハンタスレに誤爆してんだw

>>228
ゴレイヌのせいです^q^

ちょっとゴリラのせいで絶望した
区切りもいいので少し休憩しまふ

>>227

幻想猛獣「jed救zj…ィィ゙…ギィィヤアアアァァァァァァッッッ!!!」

ノイズが幾重にもかかった悲鳴をあげるAIMバースト。
幻想から生まれた猛獣は一万人の学生たちの負の感情に突き動かされ暴走を続ける。
ワクチンソフトは既にこの世になく、内部からこの存在を制御するのはもはや不可能。

だが、その巨体の前に幾つもの人影が立ちふさがる。

それは群体であるAIMバーストの欠片から生まれた軍勢。
幻想猛獣と同じく群体でありながらも個である小さな戦士たち。

かつてそれを操っていた少年はもうこの世にいない。
しかし…スタンド『ハーヴェスト』は確かにそこにいた。

そのざわめく『ハーヴェスト』の中をゆっくりと進む少女。
パチパチと音をたてる静電気をその身にまとい、AIMバーストを見上げるあどけない少女。

それは学園都市では知らぬものなどいない最強の『電撃使い』
七人しかいない最高レベルの『超能力者』である少女の名は御坂美琴といった。

それは群体であるAIMバーストの欠片から生まれた軍隊。
幻想猛獣と同じく群体でありながらも個である小さな兵士たち。

かつてそれを操っていた男はもうこの世にいない。
しかし『バッド・カンパニー』はまるで弟を守るかのようにその場に整列する。

幾何学的に並んだ『バッド・カンパニー』の中央をゆっくりと歩く男。
今は亡き兄のスタンドと共に並ぶは億泰のスタンド『ザ・ハンド』

右手で掴んだものならばなんであろうと問答無用で削りとる強力な力を操る男。
魔術でも科学でもない力を行使する男の名は虹村億泰という。


拳を握る『ハーヴェスト』
雷を操る『レールガン』
兵を操る『バッド・カンパニー』
そして全てを削りとることができる『ザ・ハンド』

4つの力が立ち向かうは10000人の力場の塊。

思い通りにならない世界を呪う幻想猛獣を叩き伏せる怒涛の攻撃がはじまった。

御坂「ったく! メンドーな相手よね!」

伸びくる触手のすべてを雷撃でもって一掃した御坂が文句を口にする。
まるでその御坂の言葉に反発するかのように数を増した氷塊が宙に浮かぶ。

御坂「ハッ! どんだけ数があろうと!」

そう叫んで更なる電撃を放とうとするが、そんな御坂の攻撃より空を切り裂き飛来したのは無数の弾丸。

御坂「…へっ?」

次々と氷塊が撃ちぬかれ四散していくのを見て呆気にとられた声をあげる御坂。
思わず立ち尽くしてしまった御坂を襲おうと触手が再び御坂を襲う。

【狙撃班っ! 気を抜くんじゃあないっ!!】

それらは全てミサイルと銃弾の嵐に撃ち落され砕け散る。

御坂「…ありがと。 助かったわ」

すぐ側でパラパラとホバリング音をたてているAH-64戦闘ヘリに言葉をかける御坂。

億泰「ウッシャアアアア!!!」

伸びくる触手を拳のラッシュで持って迎撃する億泰。

億泰「けっ! 油断しなきゃよぉ~ こんなトロイ攻撃に当たっかよォッ!」

AIMバーストを睨みつける億泰。
同時に宙より飛来する氷塊を軽々と粉砕する。
そんな億泰の耳に悔しそうな声が届いた。

【うぐぐっ! ズルイどっ! 高いところから攻撃なんてルール違反だどっ!】

目を向ければ高所より飛来する氷塊に攻撃をする手段がなく慌てている小さな戦士たち。

億泰「よぉっ! そいつは俺に任せろよなぁ――ッ!」

駈け出しながら叫ぶ億泰。

ハーヴェストを叩き潰さんと落下しだす氷塊に向かい、無造作に空間を引っ掻くザ・ハンド。

ありとあらゆるもの全てを削りとるザ・ハンドの手の軌跡が数瞬、その場に残る。
そして次の瞬間。

 ガオン!

轟音と共にハーヴェストを襲っていた氷塊が億泰の目の前に現れる。

億泰「空間を削りとってぇ~ッ! 瞬間移動させるっ!」

その氷塊に向かい、高々と右手をあげるザ・ハンド。

億泰「そしてぇ~ッ! 更に『削る』ッ!」

氷塊に叩きつけるようにして加えられた掌打。

 ガオン!

中心を削りとられた巨大な氷塊は自重を維持することができずに、砕け散った。

億泰「こーゆーシンプルな戦い方ならよぉ~ 負ける気しねーぜッ!」

ビシッとポーズを取る億泰。

■幹線道路・高架下

黒子「…圧倒的じゃないですの」

幻想猛獣を圧倒する御坂と億泰を見て声を失う黒子。

初春「ふぁー… 御坂さんだけじゃなく虹村さんも凄かったんですねー」

ポカンと口を開けながら喉の奥から素直な感想を口にする初春。

佐天「でも一万人の力場でしょ? あんな簡単にやられちゃうもんなの?」

佐天のそんな疑問を耳にした木山がボソリと口を開く。

木山「レールガンはともかく…あの少年も規格外ということなのだろう。 それともうひとつ」

億泰と御坂の戦い方を見ていた木山は気がついたこと。

木山「攻撃が自然と挟撃の形をとっている。 衝動で動くAIMバーストには非常に効果的だ」

そう結論をだす木山に、聞き慣れない言葉を聞いた佐天が思わず問いかける。

佐天「えっと…キョウゲキっていうと…」

そう言った佐天をフォローするように初春が口を開く。

初春「虹村さんたちはあの怪物の右側から、御坂さんたちは左側ってことですよね?」

両手の人差し指をツンツンと突き合わせる初春を見て頷く木山。

木山「そうだ。 つまりはハサミうちの形になっているということだ」

そこまで説明したときだった。

AIMバーストの腹部からキラリと光が漏れ、それに気付いた木山がハッと驚いて叫ぶ。

木山「っ!? アレはっ!!」

■原子力実験所前・広場

レールガン、ザ・ハンド、バッド・カンパニー、ハーヴェストの波状攻撃は如何に一万人の力場であろうと耐え切ることはできなかった。
絶大な威力をもつ攻撃に再生は追いつかず、まるで砂上の城のようにその身を崩しながらも、尚足を進める幻想猛獣。

そんなAIMバーストの前に億泰が立った。

億泰「オレもよぉ~… オメェー達の言い分も判らなくはねえ」

幻想猛獣「ギィィヤアアアァァァァァァッッッ!!!!!!」

進路を塞がれたAIMバーストが威嚇のような鳴き声をあげる。
だが、そんな耳を塞ぎたくなるような叫びをその身に受けた億泰は静かに問いかけた。

億泰「けどよぉ~ 『逃げ』たってよぉ~ その先にはよぉ~…なぁーんもないぜぇ~?」

AIMバーストは逃げている…そう億泰は指摘した。
その言葉が届いたのかどうか、AIMバーストはその巨体でもって億泰を押し潰さんとする。

だが。


億泰「忘れちまったのかぁ~? スデにてめーは充分! ザ・ハンドの射程距離内に入っちまってるっつーことをよぉ~」


 ガ オ ン !!!

ありとあらゆる物を空間ごと削り取るザ・ハンドの右腕が音をたて幻想猛獣の身体を深く切り裂いていく。

幻想猛獣「ギィィヤアアアァァァァァァッッッ!?」

熱したバターをスプーンで抉り取ったかのようにポッカリと大きな穴を開けられ苦悶の叫びをあげるAIMバースト。
内臓のように蠢く肉の中で光がきらめく。

見え隠れする金属の塊のような三角柱。
その時、遠くから木山の叫び声が届いた。

木山「っ!? 間違いないっ! それが力場を自立させている核だっ!」

その木山の叫びを聞き、右手をゆっくりとあげたのは御坂美琴だった。
掌の中には小さなコインが握られていた。

だが、なぜか戸惑ったような表情を見せる御坂。
狙いをつけた態勢のまま億泰に問いかける。

御坂「ねぇ……いいの?」

それが何を意味した言葉なのか察した億泰は静かにその問に答える。

億泰「…あぁ こいつが消えればどうなるかくらいはよぉ~ …判ってるつもりだ」

そう呟く億泰の視線の先…そこには一度たりとも忘れたことがない兄と友人のスタンドが並んでいた。

御坂「……そっか」

それ以上はもう何も聞けないとばかりに億泰から視線を外す御坂。

御坂美琴の視線の先には胎児の形をとったAIMバースト。

親指に力を込め、手の中のコインを宙に弾く。
太陽の光を反射するそれを一瞥もせず幻想猛獣に語りかける御坂。

御坂「ね。 わかったはずよ…バーチャルリアリティ、自分だけの現実をさ…他人に委ねなくたって可能性はあるってこと」

澄んだ音を立てた一枚のコインが高く高く宙を舞う。

御坂「だからさ…こんなトコで苦しんでないで」 

そう、幼い子供に微笑み掛けるように告げた御坂の拳の上に小さな感触が戻ってきた。

御坂「…とっと自分に帰りなさい」
                                     レールガン
呟いた御坂美琴の掌から撃ち出されたのはその名を冠する超電磁砲。

ローレンツ力で加速されたコインはAIMバーストを楽々と貫通し核に直撃。
音速の三倍というすさまじい破壊力に曝された核がピシリと小さな音を立て…砕けた。

一方、その頃承太郎は……

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承『…この件が片付き次第また連絡をさせてもらう』

木山『あぁ。 楽しみにしているよ』

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承太郎「完全に、連絡するタイミングを失った」

巨体となった幻想猛獣が大きく歪み、灰のように霧散していく。
それはAIMバーストの欠片から生まれた戦士たちも例外ではなかった。

別れの刻。

空気に溶けていくかのように消えていくバッド・カンパニーとハーヴェストを見て億泰は何かを言おうとして口を開く。

億泰「……っ」

だが…何を言えばいいのか判らず、拳を握り締める億泰。
そんな億泰に静かな声がかかった。

【億泰…昔のおまえなら出来なかった決断だ。 『おまえ』が決めることが出来たんだ】

それは億泰の兄、虹村形兆の声。

【しししっ…この貸しもスッとぼけられないように手帳につけておくど】

それは億泰の友人、矢安宮重清の声。

空に舞う幻想猛獣の霧が僅かに人の姿を模したかのように揺らめく。


億泰「兄貴…重ちー…」


名前を呼ぶも答えが返ってくることはなく。
最後に何も聞こえなくなった大地に億泰は立ち続けていた。

御坂美琴は空を見上げる億泰の表情が笑っているのか泣いているのか判らなかった。

それでも、なにか言葉をかけようとした時に自分の異常に気付く。

御坂「…あれ? あれれ?」

空気の抜けた風船のような声を漏らす御坂。

すぐ側でなにかがベチャリと音を立てたことに気付いた億泰が振り返る。
そこには顔面から地面に倒れこんだまま悶えている御坂がいた。

億泰「……なにしてんだオメェ~?」

そんな御坂に呆れ返った声をかける億泰。

御坂「で、電池切れ。 もー無理 もー限界」

そう言い返す御坂を見て億泰がため息をつく。

億泰「…しかたねーなぁ~」

東方巡査「億泰ッ!」
アンジェロ「ガンバレ億泰!」
ムカデ屋店主「わたし達がついているぞ!ガンバレ!」

そう愚痴をこぼしながら御坂に近づく億泰。
しかし、その歩みは飛び込んできた小柄なツインテールの少女に遮られる。

黒子「おおおおねえさまあああああああぁぁぁっっっ!!!!」

御坂「ちょっ! 黒子っ!? 待っ! 私動けなっ!」

ドグシャア!といった擬音と共に御坂に飛び込んできた闖入者。

御坂「なんであんたがここにっ? つーかどいてぇー」

白井黒子に組み伏せられた御坂は必死になってマウントをとった黒子に文句を言うが…

黒子「まぁお姉様? まぁまぁまぁお姉様? なんたる! なんたることですの!」

それは一言一句、只の一言も黒子の耳には届いていなかった。
手をワキワキさせながら御坂美琴の全身をまさぐる黒子。

黒子「んまぁっ! こんなとこに擦り傷が! あらまぁ! こーんなとこに青痣が!」

御坂の傷を見て目を丸くする黒子。

黒子「もしかして…あーんなところにも怪我があおりではなくて? こうなったときは黒子に全部おまかせですの!」

鼻息を荒くしながら御坂のシャツの中に手を突っ込もうとする黒子。

御坂「ちょ! ダッダメ! やめろーっ!」

ギャアアアという御坂の叫びが重く湿った空気を吹き飛ばしていく。

億泰「…なぁーにやってんだアイツラはぁ?」

突如目の前で始まった寸劇に呆れる億泰。
アホクサっと呟いた億泰の瞳に映るのは二人の少女。

初春「虹村さーん!」

佐天「だいじょぶ? ケガとかしてないの?」

パタパタとこちらに駆け寄ってきたのは佐天と初春。

億泰「よぉ~ オマエラこそ大丈夫なんかぁ~?」

そう言いながら佐天たちのもとに歩みを進める億泰。
だが、戦闘で疲弊していたのは御坂だけではなかった。

億泰「おおっ!?」

ガクンと膝の力が抜ける億泰だったが、倒れる寸前、二つの手により引き起こされる。

佐天「ちょっと!? 全然ダメじゃない!」

初春「怪我とかしてないですか?」

億泰の肩を支えたのは佐天と初春の細く頼りない腕だった。

ごめんちょい離席
自力保守するんでのんびりと待っててくらしあ

一方、その頃ジョセフは……




ジョセフ「あのウエスタンルックのサムライガールって感じのお嬢さんはどうしたのかのぉ」

神裂「………」

神裂「ジョースター卿、私はここにいます!」

>>275

自らを支えてくれた二人の少女を見て億泰がフゥと息を吐く。

億泰「すまねぇーなぁ~ …ショージキ立ってるのもシンドイからよぉ~ 肩かりるぜぇ~」

両脇に回った佐天と初春の肩に腕をおき、そのまま体を預ける億泰。
だが少女たちの細い腕では億泰の身体を支えるのは些か困難だった。

佐天「お、重っ! 重いって! てゆーか全体重かけないでよ!」

初春「に、虹村さーん。 このままじゃ私たちも一緒に潰れちゃいますぅ」

情けない声をあげる佐天と初春。

億泰「おいおーい もぉーちっとしっかりしてくんねぇとよぉ~。 フラフラして落ち着きワリーんだよなぁ~」

ズルズルと土煙をあげながら引き摺られることに文句を言う億泰。

佐天「いやいやいや まじで無理だから」

初春「はっはい! が、頑張りますぅ~…」

気丈にそう言い返す佐天、返事は立派だが既に足元がフラフラの初春。

漢字の山のようにアンバランスな三人の前に木山が立った。

億泰「……誰だぁ~?」

初対面である木山を見て眉をひそめながら疑問の声をあげる億泰。
しかし木山はそれに答える時間が惜しいとでも言いたげにそれを黙殺。
それどころか逆に億泰に向かって質問を投げかけた。

木山「ぶしつけだがひとつ聞かせてもらいたい……あれはいったい何なんだ? 君は能力者なのか?」

億泰「あぁ~? いきなり出てきて何言うかと思えばよぉ~ …質問を質問で返すなって学校の先生に教わらなかったのかぁ~?」

突然あらわれた傷だらけの女性にスタンドのことを問われ、乱暴に突っぱねる億泰。
だが、木山はそれに怯むことなく食い下がった。

木山「今は学者だが以前は教鞭をとっていた。 名は木山春生という」

億泰「はぁ~ って…あんたセンセーなんかよ!?」

木山「…元教師だ。 それで気分を害したなら謝ろう。 だから教えてくれ。 あの能力はなんだ?」

それは木山にとって新たなる可能性のひとつ。
そんな木山の希望は困ったような億泰のセリフで打ち砕かれた。


億泰「悪りーんスけど… オレの力についちゃあ迂闊に話すなって言われてんスよねぇ~」

木山のただ事ではない雰囲気を感じ、素直にそう答える億泰。

木山「…そうか」

それを聞いて、木山の顔が地に伏せる。
数十秒の沈黙がその場を支配した。

佐天「あ、あの…?」

初春「木山先生?」

木山の顔にはウェーブの髪がかかり、表情が読めない。
傍目から見ればひどく落ち込んでいるように見え、佐天と初春が心配そうな声をだす。

その少女たちの問いかけを聞いて木山がゆっくりと顔をあげた。
木山春生の瞳には映るのは諦めの光ではなく、熱意の光だった。

俺の意志とは関係なく『永遠に増え続け』!!
弾丸のような『スピード』と、圧倒的な『量』で『ジワジワとテメーを追い詰める』!!
そいつが俺のスタンド、『コックローチ』だ!!

>>301

木山「…まぁいい。 また最初からやり直すさ」

遠くから響いてきた物音の方向に顔を向ける木山。
それはアンチスキルの車輌から響くサイレンの音。
まもなくここに武装した警備員が押し寄せるというのに、木山は静かに笑っていた。

木山「どこに行こうと私の頭脳は私と共にある。 私は『あの子達』を救うためならば手段を選ぶつもりはない」

誰にともなくそう呟くと、ゆっくりアンチスキルの方向に歩き出す。
投降するために両手をあげた木山が、ふと何かを思い出したように振り返った。

木山「…あぁそうだ君。 …そう、そこの大きな君のことだ」

そう億泰に話しかける木山。
それはなんとなくの思いつきだった。

木山「そういえば先程の戦闘でAIMバーストと戦っていた人の形をした力場。 あれの名前は何と言ったかな?」

億泰「あぁ… まぁ名前くらいなら問題ねぇーだろぉーしなぁ~ アレは『ザ・ハンド』っつー名前だ」

その億泰の答えを聞いてクツクツと笑う木山。

木山「フ…やはり聞き間違えではなかったか。 どうにも皮肉な話だ」

    レベルアッパー  ザ・ハンド
木山「幻想御手と幻想の御手か。 …まったく。 奇妙な因縁かなにかで君は呼ばれたのかね?」

そう言葉を残し面白そうに笑いながら去っていく木山。

佐天「…おかしな人」

駆けつけたアンチスキルに自ら手を差し出し手錠をかけるようにした木山を見てポツリと呟く佐天。
佐天の視線の先を追いながら初春が静かに返事をする。

初春「そうですね… でも、また何処かで会う気がします」

一時は誘拐犯とその被害者という関係でもあったが、どこか憎めない木山が護送車に詰め込まれていく。
何とも言えない静まり返った空気が辺りを包む。

黙りこくった少女たちを現実に引き戻したのは億泰の間延びした声。

億泰「何だか知んねーけどよぉ~ 疲れたしとっとと帰ろーぜぇ~」

その言葉と共にズッシリと少女たちの肩にかかる体重。
だが、そんな億泰の声に返ってきたのは震えた声だった

佐天「あーごめん。 …重すぎ。 あたしもう限界」

初春「わ、私もですー あそこのアンチスキルのとこまで辿りつけるかどうか…」

億泰「…おいおいおい」

30秒後、億泰「倒れるんじゃあねえ」と15回言うものの、佐天と初春は転倒。
遅れてやってきた黒子と御坂が泥まみれになった三人を見て大爆笑したのは言うまでもなかった。

……かくしてレベルアッパー事件はいくつかの疑問の種を巻きながら幕を閉じる。

■窓のないビル

その部屋には窓が無い。ドアも階段もエレベーターも無い。
そんな棺桶のような巨大な空間の中央にあるのは円筒状の装置を睨みつける一人の少年。

土御門「説明してもらおうか」

その言葉は巨大な円筒に向かい叩きつけられたもの。
――ゴポリと大きな音をたてた水槽の中には『人間』がいた。

    「説明…とは?」

うっすらと笑いながら『人間』は逆に土御門に問いかける。

土御門「この学園都市に現れた二人目の『右手の』男のことだ。 …おまえが黒幕だっていうことは言われなくても判っている」

    「ふむ。 確かにその件に関しては私が許可をくだしたな。 …それで終わりか?」

笑みを崩さぬままたやすく土御門の問いかけをあっさり肯定し、意地悪く聞き返す『人間』

土御門「…まさかお前が直々に出張ってくるとは思わなくてな。 それほどまでに警戒すべき相手なのかと気になっただけだ」

『人間』のとった行動を皮肉るような土御門の一言は僅かに『人間』の眉を動かした。

    「あれの持つ力など…もとより私は興味がないのだが」

土御門「だったら……何故あの男を呼び込んだんだ? 興味も警戒する必要もない男を招き入れたその理由を聞かせてもらおうか」

土御門「どうした? お前と違って俺はすぐに老いるんだ。 答えてもらおうか…『アレイスター・クロウリー』?」

二人目・・・?一人目は誰だ・・・?

>>318

                  /L_,.イ  __
             ト、ー‐ヽ7:::/::〃<::::∠_
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.         _フ:::::::::::|/     >v<      V:::「´   ら  マ
           ̄レ|:::::N     | l || l |     V┤   気  ジ
             V┤      i        V|    付  ン
.             ト、|        |          |:!    い  ブ
            ヽ|      |        |      て  レ
.               |      `ー'      |      た  イ
.               |、     `こ´       八    ?  カ
.               | ヽ               イ∧       |
.               ト、    、    ,.    /  | \     っ
           /| ヽ     ̄ ̄   /   !  \   て
            /  .|  \         /   |    \
.          /    | /⌒ヽ       |^ヽ.  |        \
       /     |/  「 `ー―――┤  \|           \
.      ∧ |       └-、: : : : : : /            |  ヽ
      /   |           ヽ: : /               |   ヽ
.     /    |             |/                    |     !
.   /    |              ヽ                   |     |
   |     |                 |                 |     |

     「ふむ。 理由を話すにはまず幾つかの説明をしなければならんな」

自らの名を呼び捨てられても気にすることなく口を開くアレイスター。
とはいえ、これは多角スパイである土御門だからこそ。
知らぬものが名を呼び捨てにすれば、いつ気まぐれで殺されるのか判らないほどの暴挙でもあった。

ゆらりとカプセルの中で揺れたアレイスターが言葉を紡ぐ。

     「この学園都市でようやく能力者を生み出せるようになった頃まで遡る」

それは誰にも話したことのないアレイスターの記憶。

     「――私が『彼』と出会ったのは1988年」 

部屋の空気が重くなり、気がつけばシャツがじっとりと嫌な汗で濡れていることに気がつく土御門。


ゆっくりと回想にふけるアレイスター。


     「『彼』はこう私に問いかけた」


     「『天国を信じるかい?』…と」

■???

「本当の『幸福』とはなんだと思う?」

――エジプトから来たという男はそう私に問いを投げかけた。

「本当の『幸福』とは『天国』にある…私はそう考えている」

――人でありながら人あらざる者。

「私は勝利者になる。 そして真の勝利者とは『天国を見た者』であるはず」

――若く美しい超越者は言葉を続ける。

「そのためならばどのような犠牲を払おうと…どのような障害が私の前に立ち塞がろうと『勝利し支配』してみせるつもりだ」

――限りなく近い在り方でありながら私とは決定的に違う在り方を体現している男。

そんな設定で大丈夫か?

一気に風呂敷広がったぞおい

「なぁ…君はどう思う? 『アレイスター』?」

――私の答えを聞いてその男は些か残念だったらしい。

「…そうか。 君は私と同じく既に求めるべき『答え』を持っているようだな」

――そう言ってゆらりと音もなく立ち上がる。

「なに、気にすることはないさ。 君の選んだ『答え』もまた人間が更に進むべき『道』だろう」

――妖しい色気を振りまきながら立ち上がった男の瞳の奥に一瞬揺らめいた感情はいまだに不明だ。

「また会おう『友』よ。 次に会うときは私が『あの血統の一族』と『決着』をつけた後だ」

――そう男は別れの言葉を残して暗闇に消えていく。

「…そうそう。 言い忘れていた。 まずないとは思うが覚えていてくれ.。 もしも――」

――私がその男と会話をしたのはそれが最後だ。

ヤバイ5巻までしか禁書読んでないからついていけなくなってきた
この話理解するために読むべきか

>>328
言葉じゃなくて図で理解しろ

    悪の      ヽ 丶  \
  カリスマ!    \ ヽ  ヽ     ヽ
/  /    ヽ D  \ ヽ   ヽ
 /   |  ヽ \  I  \  ヽ  ゝ           (超能力者)

ノ 丿       \  O  \   ヾ
 ノ  |   |  丶  \  の \         (超能力者)
   /          \  言  \/|                (超能力者)
 ノ   |   |      \  葉    |         ↑
     /\        \      |         (  ↑
   /   \       /      |          )  (
  /      \      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄         (   )
/_        \                    ) (        カエル医師の医術
 ̄  | な  天 真| ̄         ノ⌒ ̄⌒γ⌒ ̄⌒ゝ            / /
   | り  国 の|         ノ   最終計画    ゝ           / /
   | た を 勝|        丿               ゞ      _/ ∠
   | い 見 利|       丿/|/|/|/|\|\|\|\|\ゝ     .\  /
   | ! た .者|                |                 V
――| と  者  、|――――――――――┼―――――――――――――――――
   / い に    巛巛巛巛巛巛巛巛 友への思い巛巛巛巛巛巛巛巛アレイスター
    う
   気         ヽヽノ     ┌――┐             ヽ

   持       ヽ ̄ニ ̄ノ    .│ 土 |   十ノ |フ   ――――
   ち         _ノ_     |  口 .|   フ ̄ |フ    ┌┼┐
               ヽ       |  衣  |    日 |     │
               ノ       └――┘

■窓のないビル

土御門「それと『あの男』、虹村億泰になんの関係がある?」

アレイスターの記憶を聞く。 
ただそれだけの受動的な行動をしただけで極度に緊張していた自分に気がつく土御門。

     「関係は――あるというほどでもないな」

故に、あっさりとそう言い捨てたアレイスターの言葉は土御門の理解の範疇を超えていた。

土御門「…どういうことだ?」

眉をひそめた土御門に向かって退屈そうに言葉を返すアレイスター。

     「強いて言うならば興味が『あった』というまでのことだ」

うっすらと笑うアレイスターは聖人のようで魔人のよう。

     「そうだな―――呼び寄せてみるのも一興か」

もはやアレイスターは土御門の存在に興味など持っていなかった。
下唇を噛みながら『人間』に背を向ける土御門。

土御門「ハードラックに気をつけるんだなアレイスター。 おまえの『世界』が壊れないように…だ」

負け惜しみの言葉を吐き捨てた土御門が暗闇に消えて数秒後。
完全な密室の中でアレイスター・クロウリーは『友』の名を呼んだ。

     「君の意志はまだこの世に残っているのか? 我が友――『DIO』よ」

■学園都市・上空

壁に囲まれた巨大都市に大きな風が吹きこみはじめる。

その風は新しい未来を切り拓く勇気の風。

幾つもの疑問を残し、幾つもの未来を残したまま風は学園都市を駆け巡る。

何が始まり何が終わるか。

誰が出会い誰が別れるか。

それらすべてはいまだ謎のままである。


☞To Be Continued?

なんか尻切れっぽく終わっちゃった感があるけどとりあえずレベアパ編はここまでで。

保守してくれた人まじサンクス

>>340
クリエイターに移るならスレ立てて報告してくれると嬉しい

>>341
kwsk

あそこって勝手にスレ立てればいいんじゃないの?
報告ってなんぞ?

なるほど把握した

ただ今すぐ制速にスレ立てるのはちょいきついかも。
続きじゃなくて今までのスレを手直しして投降するのもちょっと時間かかるだろうし。

95割このスレがdat落ちする方が早い。
一週間以内には制速に建てるつもりなんで、暇な時にでも 億泰「 で検索してやってくらしあ

ローラ=スチュアートが出れば面白い!!!!

イギリス繋がりでなwww





ジョースター卿は英雄!!!!!!

>>389
打ち消せるだろうけどそもそもスタンドは見えないんだからわざわざ右手に攻撃してやる意味がないよね
はい議論終了黙って保守保守

>>391
いやいや打ち消せないだろjk

億泰「学園都市…っスかァ?」
億泰「学園都市…っスかァ?」 - SSまとめ速報
(http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1285922880/)

億泰「学園都市つってもよォ~」
億泰「学園都市つってもよォ~」 - SSまとめ速報
(http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1286357707/)


一応おせっかいだと思いつつも前スレっぽいのは貼っておく
後は自分でなんとかするべし

そもそも議論終了とか以前に「打ち消せるだろうけど」とかいう一言で議論を開始しちゃったのがアンタだからな
スルーしてれば何も問題はないわけで

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