男「宇宙人に攫われたっぽい」 (101)

男(目が覚めたら自宅の部屋じゃあない場所に居た。意味がわからない)

男(何処もかしこも真っ白の空間。認識できる限りでは円形の天井ぐらい…)

男(他に目につくのは、壁にある一つの窓だけだ)

男「そして窓の向こう側には───」

男「…これ明らかに宇宙だよな、テレビとか本とかでしか分からないけども」

男「さっぱり意味がわからん…いやしかし、どう考えてもコレって…」

男「宇宙人に攫われた、のか?」

男「……ぷっ」

男「あっはは! んだよそれ! なにマジで考えちゃってるんですか俺…くっく」

男「なわけ無いだろ普通に考えて。これも夢だろどーせ、うんうん。つか俺も意外に変な夢見るもんだなぁ」

男「じゃあさっさと目覚めるか。よし、頬を抓って」ギュー

男「……痛い」

男「………」

男「えっ? マジで攫われたっぽい?」

ウィーン!

男「ぎゃぁー!? な、なんだなんだ!?」

男(天井から何か降りてきた…!?)

ピチュン!

『──えーどうも、コニチワ。聞こえますか地球人さんタチ』

男「なんだこれ…丸い突起物みたいなのから声が…」

『無事にワタシの声が聞こえていたのならウレシイです。本当に感謝します』

男「……」

『色々と思うこともアルと思いますが、いやしかしながら、ワタシは伝えなければならないことがアリますので』

男(…この声、どうも考えるに宇宙人っぽい? 少し発音おかしいのも含めて、言葉が不自由だな)

『ワタシは地球人タチを無事に元の地球へカエシタイと思っています。けれど、それもウマクいかないことになりました』

『──この宇宙船はまもなく、バクハツします』

男「はっ?」

『あと三分二十秒をもってして、予め搭載されていた自爆を行うことになっています。マコトに申し訳ないと思っています』

男「ばく…な、なんだよそれ…」

『ワタシは地球人タチを死なせたくはない。ので、ので、これまた宇宙船に搭載されている〝わーぷ〟を使い』

『無事に地球へと地球人を送りたいのデスが、これまたいやはや、問題がアリマシテ』

男「ちょ、ちょっとまってくれ! さっきから何を言ってるんだよっ!?」

『──……』

男「爆発ってなんだそりゃっ!? それに、ここは何処なんだ!? お前は一体何者なんだよっ!?」

『これはこれは、地球人───申し訳ありません、ワタシは規制として発言はユルサレてないのです』

男「意味がわからん!」

『詳細は述べられない。というワケですので』

男「っ……と、とにかく! お前は一体何をしようとしてるんだ…っ!」

『地球人タチを助けたいのデス。この宇宙船の爆発から』

男「爆発…そ、そうだよその爆発ってなんだよ!?」

『…残り二分……だメです。そろそろ〝わーぷ〟を行う準備をシマス』

男「おいっ! 聞いてんのか!?」

『申し訳ありません。この宇宙船には約──〝五〟の生命が危険に晒されてイマスので』

『ギリギリなのです。できればみな助けたい、のでので、どうかご質問は控えて貰ってもヨロシイですか』

男「ギリギリ…?」

『それともう1つだけ。ギギギ! バキン! ──あーあー…あれ? だんだんと翻訳機能も調子を戻し始めたかな?』

男「えっ? へっ?」

『マイクテストまいくてすとー…うん! まっさかこのタイミングで調子良くなるなんて、いやはや、運が悪いんだか良いんだか』

『まっ! 爆発するってんだから、少なからず運は良くないよねぇ~あっはははは!』

男「お、おい…」

『じゃあその最後の問題ってとこだけ教えておこうかな。それはつまり、ワープのことなんだけど』

『一回装置に転送するために、身体を分子原子レベルに変換シなきゃいかんワケなのよ。んだから、ワープ後に…』

『…どのような後遺症が残るかわっかりません! ごめんね! ではでは、のでので、転送開始ぃ』

男「お、おおおまっ! 原子レベルってお前…!」キィイイン!

男「って、身体消えかかってる! やべぇ!」

『無事に送信出来てよねぇホンット。マジで始末書もんだからさぁ…』

男「っ……!」

『地球人タチ。どうか戻っても、問題なんて起こさないでよね。マジで』

男(身体が消えて──ちょ、意識が───)

男「っ………ああ……」


ピチュン!


男「のわぁっっ!?」がばぁ

男「はぁっ…はぁっ…こ、ここは?」

男「俺の…部屋だよな…?」

男(夢なのか、アレって…だけどえらく現実味があってないようで…)

男「…めちゃくちゃ汗かいてるよ」

男「く、くっく、あはは! なんだよ夢か…そうだよな、当たり前だよな、あははっ」


『お兄ちゃーん! もう朝だけど起きないさーい!』


男「…え?」

がらり

妹「え? じゃないよ、なにやってんの」

男「お、おお。妹か…」

妹「なに寝ぼけてんのさ。いい加減起きないと遅刻するよ」

男「遅刻ってお前、今なん時───やべぇ! 遅刻寸前じゃん!」

妹「だから言ってるじゃないの。もう私行くからねー」パタン

男「えっ? おおぅ、ちょ、待って! 痛ッ!」ガタン

妹「じゃねー」

男「呑気に夢のこと考えてる場合じゃなかった…! く、くそ!」ゴソゴソ


学校


男「はぁーっ! はぁーっ! ぐっ…!」

友「いやぁおはよう」

男「お、おはっ…」

友「随分と古いネタを持ってくるなぁ。なに、マイブームなわけ?」

男「っはぁー! ……違う、からかうなアホ」

友「ははん。見た限りだとどーも男さん、寝坊したね?」

男「考えることもなくわかることだろうが…はぁ疲れた」

友「めずらし。最近は毎日、妹ちゃんに起こされてたんじゃないのー?」

男「…まぁな」ガタ

友「あいも変わらず兄妹仲いいねぇ。羨ましい、ウチにくれない? めいいっぱい可愛がるけど」

男「え? 俺をか?」

友「どっちでもいいけど?」

男「…怖ッ」

友「ふふふ」

男「…いやなによ、ちょっと変な夢を見たもんでな」

友「夢? おいおい、夢ってのは会話の軸にすると途端に味気なくなるって知らないの?」

男「いいから聞けって。実は宇宙人に攫われた夢を見たんだよ」

友「……」

男「どーだ? つまらなすぎて、逆に笑えるだろ。それが遅刻の原因だというんだから、もっと………うん?」

友「…それホント?」

男「お、おお。マジで昨日見たんだけど…なにその反応、怖いんだけど」

友「実はワタシも見た」

男「は?」

友「真っ白な空間で、1つだけ窓があって、外には宇宙があった…」

男「おいおい…それって…」

友「そして天井からゆっくり、オバマ大統領が出てきて…」

男「おい」

友「どーしたの?」

男「…からかうなよ」

友「ふふっ、バレた?」

男「ったく…こっちはちょっとガチで悩んでる所もあるんだからな!」

友「面白くない話を、尾ひれ背びれつけて、特上の話に昇華させてあげたのだから、むしろ感謝するべきだと思う」

男「俺の心は傷ついたけど」

友「成功に男の傷はつきもの」

男「…」

友「はてさて、今日はしょっぱなから数学。はぁーあ、嫌になる」

男「はぁーそうだな…」

男(やっぱりアレは夢で良かったんだよな。そうだそうだ、それでいいんだ…)


~~~


男「さて昼飯っと」ガタリ

男「今日は屋上で食べるかな…天気も良いし、美味しく食べれるに違いない、うむ」

屋上

男「…ん」

男(なんだ、屋上に誰かいるな。あれは───)


「オイ、てめぇ……今日は持ってきたんだろーな?」

「きょ、今日は都合がつかなくて…無理だったんだよぉ…ごめん…」

「んだとゴラァ? あ? テメーが今日は持ってくるって言ってたじゃねーか、オイ」

「ごめよぉ…ごめんよぉぉ……」


男(おおう、これは…)ささっ

男(学校で有名な不良くんだぜ…嫌な所に出くわしたもんだ)

男「どうすっか。見て見ぬふりをするのは簡単、そりゃ俺もそうしたい、んだがなぁ」チラリ


不良「…じゃあちょっと殴らせろよ」

「ひぇぇ…や、やめてぇ…」

男(…同じクラスの同級生くんじゃあないか。んだよもお)

不良「うるせぇッ!」

同級生「ひぃぃい!!?」

男(体格から見て勝てない。あっちがデカイ、俺小さい、腕の太さも倍以上)

男(うん、無理だな! 教師呼んで仲裁してもらおう…)

ガタン!

男「へ?」

カランコロン! カン!

男「や、やべ! なんで缶が床に……蹴っちまった…!」

不良「あんッ?」

男「……あ…」びくっ

不良「…おい、そこでなにやってんだテメー」

男「ま、まずった……あ、あはは! いやーちょっと昼飯を食べようと…」

同級生「お、男君っ!」

男(俺の名前呼ぶなよ! ば、ばか!)

不良「あんだ、テメーら知り合いか。ならちょっと来い、いいから来いって言ってんだろッ」

男「…え、えーと…」

不良「んだ? 言うこと聞けねーのかよッ?」

男(なんでこうも一々苛ついてるんだコイツは…)スタスタ

不良「話は聞いてたのかよ」

男「…話ってのは?」

不良「さっきコイツが言ってたことだよ。金がねーと言いやがるんでよ…おい、お前貸してくれよ。金」

男「…ちょっと都合が悪くて持ってないんだけど」

不良「しらねーよ。他のやつから借りてこい」

男「…自分が借りればいいだろ」ボソッ

不良「あ?」

男「ナンデモナイデス」

同級生「ううっ」

不良「テメー舐めてんだろ? おっ? 俺のことしらねーとは言わせねえぞ…」

男「……」

不良「なんか言えよッ」

男「……」

不良「ああッ?」

男(やべーどうしよう、出来れば無事に逃げ帰りたい…どうすればいいんだ…)チラリ

男「………あ、UFOだ!」びしっ!

不良「…ああッ?」チラリ

同級生「へっ?」キョロキョロ

男(コイツら馬鹿だ!)だだっ

不良「何言って……オイ! 待てゴラァ!!」

同級生「うわぁっ」ドサリ

男「ッ…ッ…!」ダダダダダ

不良「逃げれると思うなよッ!」

男(マジかよ普通追いかけてくるかッ!? くそ、足がめっちゃ早いじゃねーか!)

男(これ捕まったらタコ殴りされんのかな。いやだなぁ。帰ったらなんて説明したらいいんだろ、コケたなんて理由に───)


キィイィィン!


男「ならない、へっ、あっ?」くるん!

不良「ゴラァ! …お? んだテメーオレに歯向かうってか…ッ!?」ダダダ

男「ッ…!? …ッ!!?」

男(身体が勝手に止まって、振り向いて、なにやってんだ俺!?)

不良「じゃあこのまま死ねッ!」ブン!

男「いや、待って、殴るのはちょっと勘弁──」



男(俺の足元に缶。方向二メートル。相手の足が地面に到達するのは0.5秒後)



コン! カランコロン!


男(身体が勝手に缶を蹴って───)


不良「オオオオッ!」グシャン!

不良「おおっ!?」ぐらっ

男(──不良が空き缶を踏んだ、予想通り、予想通り?)


ギギギ! ギャガ! ずりっ!


不良「おわぁっ!?」ズサー!

男「……こ、転んだ…」

不良「っ……? な、んだァ……?」

男(い、今のって何だ? 俺が地面に転がってた缶を蹴って、それを奇跡的に不良が踏んで)

男(足に綺麗に挟まり込んで、それで滑って転んだ───)

不良「く……クソッ! クソクソクソクソッ! なに笑ってんだテメー!!」

男「えっ!? 笑ってなんか…」

同級生「ギャハハ……あっ……ごめん……」

男「………」

不良「クソクソクソクソ!! クソクソクソクソ!! なめやがって……!!!」ぐぐぐ

男「ちょ、待ってくれ! 今のは事故だろっ? なにもキレなくても…!」

不良「うるせぇ! テメー許さねぇ……顔面ボッコボコにすっからよぉ……!!」

男「な、何言ってんだよ…」

不良「殺すッ」ガバァ

男「ま、待て!」

不良「殺す殺す殺す殺す!!」べきべき! ゴキン!

男「……えっ?」

不良「ぜってーぇ殺すぅ! 殺してやるぅ! ころろろろろ、ころ、こす、こす、こう、こうこうおこう……食う」

男「な、なんだ……?」

不良「食う…殺す……食う食う……」ブツブツ

男「お、おい? どうしたんだよ? 急に…」

不良「………喰う」

男「へっ?」

不良「喰って、喰って、食べて、殺す、骨まで残さず壊して、殺す、喰う、食べる、喰うぅぅぅぅぅぅううう」

男「お前…っ」

不良「はぁっ…はぁっ……ぐぁッ!? あ、頭がッ……痛ェッ……!!」

男「っ……?」

同級生「あわわっ」

男「お、おい? 大丈夫か?」

不良「さ、触るんじゃねェ!! 触れるなッ!!」ばっ!

男「お、おおっ」

不良「はぁッ…はぁッ…な、なんだよコレッ……昨日の夜からずっとだッ…クソクソクソクソッ……!!」ずりずり

男「………」

がちゃっ……パタン

男「なんだったんだ、ありゃ」

同級生「…あ、あのっ」

男「うおっ! おお……お前……」

同級生「…その、ザマーみろだよね」

男「………え?」

同級生「アイツのことさ。不良のことだよ……フフ……だってさ、あんなに苦しがってるんだもん……ぎゃはは…」

男「何か知ってるのか…? あの不良が苦しがってた原因ってのを…」

同級生「えっ? いや、そんなの…え……どうしてボクこんなことを……くっく……あはは……わけわかんないや、フフ」

男「…お前も大丈夫か?」

同級生「ボクゥ? あっははは! ダイジョーブに決まってるだろぉ!? こんなぁ……こんな素晴らしいことなんて、ないよっ」とぼとぼ

男「お、おいっ」

同級生「そうか……そうか……そうやってやるんだね……やっと意味がわかったんだ……」

パタン

男「………………」チラリ

男「なんだ、この学校には変人だらけなのか……?」

男(さっきの感覚。ありゃ一体何だったんだ、まるでそうなるべき、と理解しているみたいに)

男「……予知してたみたいな」

男「? …いや違う、これって予知とかじゃなくて……なんだ、うまい言葉が見つからないな……」

男「とりあえず……昼飯食べるか………」


放課後


友「ワタシはこれから部活なので、それではでは」フリフリ

男「おお」

友「てか昼休みから調子悪いみたいだけど、平気?」

男「…多分」

友「あらま不安顔」

男「まぁ大丈夫だろ。呑気な夢見るぐらいだし、平気平気」

友「ならイイケド。んじゃね、また明日に~」

男「おう」

男(そういえば友、部活の後にバイトがあるって言ってたな)ガタ

男(どっかのファミレスのバイト……今度小遣い入るし、お邪魔でもしてみるか)


~~~~


妹「よっす」

男「…よお学校から帰りか」

妹「ニアミス! 違うよ、これはお買い物からの帰りでしたー」

男「なるほど。じゃあ間違ったとして、持ってやろう」

妹「あんがとお兄ちゃーん」

男「今日の晩ご飯はなんだ?」がさごそ

妹「妹ちゃん特性獄辛カレーだよ」

男「なにそれ…」

妹「絶叫できるほどに、辛い」

男「…お兄ちゃんそれいらないわ」

妹「えーっ!? なんでなんでぇ!?」

男「変わりにママンの特性オムライス食べるから」

妹「ぐぇー……相変わらずマザコン……きもっ」

男「男は皆マザコンだ。ほら早く帰るぞ」

妹「うん。あ、そういえばお兄ちゃん知ってる?」

男「知らない」

妹「まだ言ってないよ。えっとね、私の中学で広まってる新鮮のうわさ話なんだけどぉ」

男「噂?」

妹「そうそう。なんかね、昨日の夜に不審者……っていうのかな、変な雄叫びを上げる人が居るんだって」

男「そりゃ立派な不審者だな」

妹「でしょ! ま、私の学校の子も皆怖がっててさ~私も怖い怖い…ぶるるっ」

男「ふーん」

妹「だからお兄ちゃんも気をつけてね。お母さんにお父さんに心配かけちゃ駄目だよ?」

男「大丈夫だ。平気平気」

妹「真面目に聞いてるー? ねーってばー?」



とある路地裏



「はーぁっ…はーぁっ………!」

「なにか食いたいッ……食いたいッ……喰いたい喰いたい喰いたいッ!」

「あぁぁぁぁあああああああああああぁぁぁ………」

「ガッ!? ガハァッ…!? げ、あ”ぎげっげぎ!!」

「グッ……ゲボォ!!!」


びしゃびしゃ…! ボトォ!


不良「はぁ……はぁ……なんだよこれ……あはは……肉のかたまり……?」

不良「ふ、ふっざけんなァ!! なんだよなんだよッ! 意味が……意味がわからねェ……ッ!!」ガン!!

不良「どうなってやがるんだよッ……どうしてこうなったんだよオレはよォ……!!」ブルブル

不良「んぐゥ!? ンゲハァ!!」


ボトボトボト!


不良「………あ……ぐ………ぐぎぎぎっぎぎぎぎぎぎぎぎ」

不良「ギギギギギギギギギギギギイギギギギイイ」

不良「ギギギギギッギギギギギギギギギギギイイイイイイギャハハハギギッギギギ」

不良「ギャハハハハハハハハハハ」

不良「くおう」


数日後


男「………」

友「どうしたの。変な顔して」

男「変な顔ではない。これは、嬉し顔だ」

友「じゃあ嬉顔が変なんだね。これは息苦しい人生だわ…」

男「ふふん。なんとでも言え、やっと! お小遣いゲットしたのだァー」

友「へーふーん」

男「…何故かバイトが許されない方針のため、この日を待ちわびることしか出来ぬのだ……」

友「良い親御さんのこと。それで? 何か買うの?」

男「別に何も。ただ、お前のバイト先に行こうかなって」

友「ダメ」

男「教えろ」

友「変態」

男「なんでだよ」

友「…ワタシの全てを知りたいなんて、とんだ変態さんだ」

男「よろしくない勘違いをするじゃあない。違うわ」

友「ワタシの制服姿をみて興奮する顔が目に浮かぶよ…」

男「へいへい」

友「…とまぁ、別にいいけどね。特別におせーて上げる、特別よ?」

男「待ってました!」

友「そのかわり注文は高いの頼むように」

男「…うっす」

友「てかね、実はバイトはお休みかも知れないんだよね」

男「へっ? なんで?」

友「知らない? 最近巷で噂の、妖怪の話し」

男「あー……」

友「なんか警察も動いてるらしいけど。見つからないみたいだし」

男「…なんだっけか、人を喰うんだとか」

友「本当は野犬か野熊じゃないかって言われてるらしいけど」

男「熊……そこまでくると馬鹿げた話だよな……」

友「つかありえないけどね。熊なんて、ここ都会だし、だけど被害にあった人達の外傷っていうのかな……」


「全員が全員、ほぼ食われたような後がある」


男「……食われたような」

友「多勢の犬か、大型の熊以外にありえないってニュースやってたよ」

男「………」

友「怖い怖い。男も気をつけるよーに、真っ先に食われそうな顔してるし」

男「…そうだな、うん」

友「それじゃー教えてあげよう。ワタシのバイト先を!」

男「お、おおっ!」


休み時間


男「…次は移動教室か」

「ヒャヒァ…あのね、あのさ、男くん」

男「おっわッ!?」

同級生「ヒヒ…どうも…」

男「おお…同級生くん…びっくりするだろ…」

同級生「これはこれは、ごめんよぉ…ヒヒ…そうか君も選ばれた人間じゃないんだもんね…」

男「え、はい?」

同級生「選ばれた人間はもっと賢く、聡明で、素晴らしい人間だからね……仕方ないね…」

男「……。それで何か用?」

同級生「もう大丈夫だよ男くぅん!!!」

男「っ!」びくぅ

同級生「……君は救われたんだ、彼は自滅した、滅んだんだ、己の力にね……」

男「お、おい…なんだよ急に…?」

同級生「アイツはそのうち己を己で壊し始める……適正がなかったんだ……ヒヒヒ……ザマーミロ……」

男「……ちょっといいか、お前、さっきから言ってる彼ってもしかして…不良のことじゃあ無いよな?」

同級生「……君にはわからないだろうねぇ……それでいいんだぁ……それが一般人としてのげんかいなんだからねぇ」

男「…分かんないな。それに同級生くんが言ってることも、ちっともわからん」

同級生「うんうん……ただボクはそれだけを伝えたかったんだァ……これだけ、これだけなんだよぉ……じゃあね、ばいばい…」

男「………」

男(最近、同級生くんの様子がおかしい。多分あの屋上の出来事があってからだ、普段は大人しくて本を読んでる姿を見てたのに…)

男(今ではロクに授業にも出ずに、学校にも来ずに、何処か浮ついた顔と言動をしている)

男「て、アレ……なんで俺こんな冷静に考えてるんだ……?」

男「うおっ? そろそろチャイムが鳴っちまう!」ガタタ!


放課後


友「…本当に来るの?」

男「来るけどなんだよ」

友「…えっと」

男「えーもしかして恥ずかしいとかですかー?」

友「…そんな感情は持ち合わせてない、と言ってみる」

男「ロボットだったのかお前…」

友「冗談はさておき。ワタシは部活の後に行くから、さきにファミレスで待ってていいよ」

男「そうしとく」

友「んじゃあまた明日……違うか、また後で」

男「あはは。おう、また後でな」

男(はてさて、俺は先に友のバイト先のファミレスでノンビリしときますかー)



ファミレス 数時間後


男「遅い!!」

男(何やってんだアイツ? もう四時間はたってるぞ…部活はすぐに切り上げる、なんて言ってたくせに)

男(これじゃあアイツのバイトの制服姿見て、恥ずかしがる姿を見る作戦が台無しだろ)

男「…まさか何かあったのか」

男「なんてな、そんなコトないだろ、うんうん」


ピリリリリ!


男「…ん。なんだ電話か、おっと、しかも友からだよ」

男「はい、もしもし? お前何やってんだよーこっちは随分と水っ腹だぜぇ?」

『お、男! 今はファミレスに居るんだよね!? そうだって言って!』

男「えっ? あ、うん………ファミレスに居るけども………」

『良かった。それだけを聞きたかったんだ、うん、安心したよ』

男「…お前何やってんの?」

『気にしないでいいから。もしかしたら今日はバイト出れないかもだから、だから、』



『ギャハギャハギャハギャハギャハギャハギャハギャハ』


男「っ……!?」

男「な、なんだ今の声!? 野鳥が近くにでも居るのかよ!?」

『く、くそっ………気にしないでいいから、男はもうちょっとそこにいてて! お願いだから! プツン』

男「お、おいッ!」

男「おい……い、今のなんだよ……変な声っていうか、笑い声……」

男(笑い声にも似た雄叫び……)

男「っ……」ガタタ!



とある路地裏



友「はぁ……はぁ……」

友(まさか、本当に出くわすなんて。これもまた運命ってやつなのかな、それとも───)

ガァァァン!!

友「っ!?」

友「もう近くに来ている…! 早い、さっきまではそこまでの速さは……!」


ガン! ガンガン! ガンガンガンガン!!


友「近づいてきてる──」


「ゴッハァァァァァァアアア………ヒュルルルルルルルル………ブッハァァァァアアア………」


友「っ………」


「ブシュウウウウウ…………フゴッフゴッ……」ドシ ドシ…


友(探してる? 今、アイツはワタシを探してる……! ワタシだけを標的にして、無差別にじゃあない……これは……)

カタン…


「ミィーツケタ」

友「……え?」


「ギャハギャハ!!! ギャハ!! 見つけたミツケタミツケタ喰うミツケタミツケタクウクウクウクウクウ喰う」

友「ッ!」ばばっ


メギャ!


友(っ………壁が壊れ、なんて力…!!)

「オマエ、シッテル、ガッコウノ、ギヒィ!!! しってるしってるしってるしってるシッテルしってるよオレェエエエエエ!!」

友「……ワタシはお前は知らないよ……!」ぐぐっ

「喰う喰う喰うクワセテお願いシニソウ喰わせてオナシャス…」

友「…そっか、もうそこまでの進行をしているんだ。君も苦しい思いをしているんだね…」

「あひぃいぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!!」

友「……なら終わらせないと、ダメだ」

キィン!

友「君の苦しみはわかる……自分が自分でなくなっていく感覚、それは怖いものだから」

「ゲヒッゲヒッオカシテクウキモチイクウノキモチイ……」ズズ!

友「だけど負けちゃダメ。それは…負けたも当然だから」すっ



友「───だからそんな〝お前〟を否定しようと思うから」



「っ………あああああああああああああああ!!!」びくん

友「左足アキレス腱『否定』、右足アキレス腱『否定』」

「いぎぃ!! あぎぃ!!? ぎゅぐゅううぐぎいうぐいうぎうsぎういgs!!」

友「そして、両足関節『否定』」

バキン!

「ぎゃああああああああああ!!!」

友「最後に……心臓を『否定』する」

ザコン!!

「っぁ……」ドシン…

友「……。くっ!? いぎぃっ!?」ズキン

友「ぎぁあああああ!! あああっ!! 痛い痛い痛ッ!!」

友「頭がッ頭頭頭痛いッ……!!」ぐぐ

友「っはぁッ…! っはぁッ……!」

友「なんて恐ろしい力……そう何度も使えない……」

友「ふぅー……」

友「……コレでよかったんだ、これで…」


「…お、おい…」


友「っ!?」

男「これってどういうこと……だよ……」

友「男…どうしてここに…?」

男「ッ…そんなことはどうでもいいんだよ、これはどういうことだよッ!?」

友「それは…」

男「この……化物みたい無い奴はなんだ…? それに、これは……血が……」

友「…ワタシがやったんだよ、ワタシが殺したんだ」すっ

男「殺したって……お前が……?」

友「そう、ワタシの力で殺した。もうこの不良は……元に戻らないとわかったから」

男「不良……っ……お前、なにやってんだッ? 一体なにを…!?」

友「…夢」

男「えっ?」

友「夢だよ男……君も見たはず、あの宇宙船の夢のこと」

男「あの夢はお前……冗談だって思ってたじゃねえか……」

友「ううん、ワタシも見た。同じ夢を、そしてそこから先も多分……一緒の展開だったはず」

男「…お前も同じ、宇宙船の夢を見てたってのか?」

友「そう。そして自爆するからワープするなんて、意味がわからないことになった」

男「お、おお! そうだよ! それで……いや、待ってくれ……それがいったい何の関係があるんだ……?」

友「超能力。ワタシはそう思ってる」

男「ちょ…?」

友「ものを浮かせたり、遠くの人物が近くに来たり、そんな科学的に……根拠のない力みたいな」

男「ま、待てよ! お前何言ってんだ…? 超能力って、突然意味わかんねーこと言うなよ!」

友「じゃあコイツはどう説明するの!!」

男「っ……」

友「ワタシ達は宇宙人に攫われて、そして、ワープされた! その時の言葉を思い出して…!」

男「言葉……確か…後遺症が残るとかなんとか……」

友「それだって。それがこの力……この化物の姿の原因。後遺症が全ての元凶…」

男「こ、後遺症でこうなっていうのかよ……」

友「ワタシはそう判断した。そう判断するしかないよね……だって、こうなってしまったんだから」すっ

男「………」

友「…ワタシは説明すると、『否定』ができる。なんかに対して、なんらかにたいして、否定することが出来る」

男「…否定?」

友「そう。それで否定されたものは……この世に存在できない、消えるか壊れる、そういったものになる」

男「…わ、わけがわらんぞ…」

友「いいよ別に、わからなくても。そして男。アンタにもきっと……」

男「へっ? 俺!?」

友「…きっと、ね」

男「な、ないぞ…! そんなの俺にはまったくないって! お、おい! そろそろ種明かししたらどうだ…? 何の冗談だよこれって…」

友「…そう思うと想って、ワタシは言わなかった。男はすぐに飲み込めないだろうって」スタスタ

男「お、おい! 何処に行くんだよ!?」

友「帰る。もうここには居たくないから」

男「ちょっとまってくれ! まだ話は色々と────」


ゴキン!!


男「…はっ………」ブン!


バッコォオオオオオン!!!



友「────え」くるっ

友「なに、それ、うそ」


「……ヒヒッ……げひひいひっひひひひひひひひひひひひひひひh」

友「なんで起き上がって……男っ!? 大丈夫!?」

男「……ぁ……」

友「意識はある!? しっかりしてってば!!」


「……ジリリリ……ルルッルルル…」


友「くっ…なんで起き上がれるの! 関節は確かに否定して、しかも心臓も……!!」


「ギャハギャハギャハギャハ!」


友「ッ……やるしか、ないッ」

友「──存在を『否定』する!!」バッ!


「ウーヌ」バキン!


友「……え? なに、それ……どうして消えないの…?」

「……ウーヌ、ウヌ、ゲヒッ! ギャハギャハギャハギャハ!」ドタドタ

友「きゃあっ!?」

「……ジリリリ…」

友(近ッ…)

「…オイシソウ…」

友「や、やめて」

「ムリ、クウ」

友「いやっ、やだ、たべないでっ、やだやだっ」

「ティヒヒ」グググ

友「うそ、やめて! やだやだやだ!!!」ひょい

「イタダキマス」

友「嫌───」


「…吐きそうだわ」


「ケヒッ?」

「なんつーか、そうだよな、こういうのって吐きそうって言うんだよな」

友「…え……」

男「…身体痛いし、骨折れてる気がするし、なんだよこれ……」ぐぐぐ

男「──うっぷ」

男「おぇえええええええええ!!」びしゃびしゃびしゃ

友「お、男ぉ!?」

男「おぇっ…おぇっ……うぇええ……すっげー水が出た……」

友「男……?」

男「ふぅ、で? どうだ化物」

「………」

男「──臭わないか、ちょっと」

「ヒヒ……ヒャア? ギャハギャハギャハギャハ!」ドタドタ

男「そうかそうか。うん、多分そうだって思ったわ……」

「ケッッヒィィィィッィイィイイ!」ブン!

友「きゃあ!」どたり


ドタドタドタ!!


「フッシュルルルルルル……オマエ、イイニオイスル……フゴフゴ…」

男「………」

「ナンデ?」

男「…臭いだろ、お前が頼ってる感覚ってのは」

友「臭い……?」

男「なんでって、思ったんだ。最初に傷つけた俺じゃなく、まず友を狙ったのか…それは汚れてたから」

男「随分ときったねー路地裏で逃げまわってたんだろ。だから、キツイ臭いが染み付いてる」

男「だから最初に標的を友にした。だから最初に一撃は、単なる偶然…暴れたから俺にあたっただけ」

友「たったそれだけで……? ど、どうして!」

男「分かったか? 知らん、だけどお前がいう……超能力って奴、かもな」ニヤッ

友「…全力で震えてるけど、大丈夫…?」

男「だ、大丈夫だだ……う”ん”…」

「イイニオイ…イイニオイ…」

男「…お前が不良なのか、本当に」

「フリョウ? ギャハギャハギャハギャハ! なにそれなんだァ?」

男「えらく不細工になっちまって…元からひどかったけども…」

「ギャハギャハギャハギャハ! オマエクウ! ユルサナイボコボコ!」

男「……もういいよ、可愛そうだよお前」

男「夢、見たのかお前も……あの宇宙船の夢を……だからそんな風になっちまったのか……」

男「…くそったれ」

「ギッヒィィィィイイイイイイイイ! イタダキマース!」ばばっ

男「…」

「アー……………ウィ?」

男(…臭いに敏感だということは、だな)すっ

男(他の感覚が薄れてると見た方が正しい考え方だ)

「ニクノ…アジシナイ…」

男「わっ!!」

「げひいっ!?」くるっ


ブン!! ゴシャァアア!!


「…っ? ??? ????」


男「…特に視覚には酷い弊害があると見た」

「キィヒィイ!」ブン!

男「だが聴覚には障害はない。次に触覚だけど……どうも無いみたいだな」

「ウバッシァアアアアア!!」ドッコーン

男「…こっちだ」

「イッギィィィィィィィ!」ドゴーン!

男「何やってんだ。こっちだって、こっち」

「ウバァァアァァアア!!」ガーン!

男「…お前が頼れるのは嗅覚だけ。だが、それでも詳細の位置を判明できないのは…さっきのゲロ」

男「ぶちまけた臭いの塊は、俺を含め地面の辺り一面、壁にもかかってる。壮大なマーライオンだった…」


ズガーン!!


男「…そろそろやめておいたほうがいいぜ、不良」

「…オン?」

男「五感が少ないお前になら、もしかしたらわかってないのかもしれないが」

男「それが分かる俺にはそろそろ───潮時とだと思ってる」

「クウ! クゥ! クワセロ!」

男(…お前が加えた無作為な攻撃。それは他方に渡って、隣接しているビルへとダメージを与えた)

男「その被害はなんだって思う? 俺は別にビルが壊れるとは思ってない、けどな」

男「──ビルに居る人達は危機感を覚える」


ジリリリリリリリリ!!


「ッ…!? ッ……!?」

男「…警報機だな。何かしらの振動を探知して起こる警報……このへんは確か銀行が近くにあったもんな」

「ケヒ? ケヒィイイイイイ!!?」

男「──これで聴覚、奪ったぞ」

男「しっかしうるせぇな…外にまで聞こえるなんて、いやはや、俺もびっくりだよ」

「ギャア!? ギャハギャハギャハギャハ!?」キョロキョロ

男「これで俺はもう逃げるだけだ。簡単、いともたやすく逃げられる」

男「……不良」

「ギャアアアアア! クワセro! 食わせろ! 喰わせろォー!」

男「…友」

友「えっ? あ、はい……!」

男「警察を呼ぶんだ。あの妖怪とやらを見つけたって、早く」

友「あっ、えっと、う、うん!」

男「……なぁ不良」

「喰わせてくれ!! お願いだ! もう我慢できねえんだよ!! 本当だって!!」

男「もう……そこまでだって、お前はもう……」


男「──悪戯に騒ぐんじゃねぇって」

「嫌だぁあああああああ!! 喰わせてくれぇえええええええ!!」

男「………」

友「い、今警察に連絡したけど。後は……どうするの……?」

男「…放って置く」

友「う、うん……」

男「つか俺もゲロ臭くて堪んないから───ぐぁっ!?」

友「お、男!?」

男「な、なんだ頭が急に…!」

友「それは……力を使い過ぎたんだよ! だから、その反動が…!」

男「反動…っ? なんだそれっ…初めて聞いた、ぞそれ…っ!?」

友「ワタシだって全部を知ってるわけじゃあないもん! だから、えっと…どうしよう…!」

男「治るのかこれ…ッ?」

友「わ、ワタシは時期に薄れていったけど…っ」

男「お、おお……そっか……ならいいんだけど……っ」

「ぎゃああああああああああああ」

男「な、なんだ!?」

友「これは……」


「とけ、溶ける! 身体がっ? 熱い熱い熱い!!」じゅわわわ


男「お、おい…」

友「なにこれ…液体になって…」


「ぎゃああああああああああ喰わせて、くれ………」


ばっしゃああん…

男「…嘘だろ」

友「溶けて消えたなんて……もしかして、これが反動……?」

男「ぐっ……」すっ

友「お、男…! 危ないって! 近づいちゃダメ!」

男「……違う」

友「えっ?」

男「なにか、違う。反動……って言ったよな、お前」

友「え、あ、うん」

男「だって、最後に熱がってたろ。熱い溶けるって……それって違うんじゃあないか…?」

友「どうして言い切れるの…?」

男「…………」

友「男…?」

男(って、待ってくれ。俺何言ってんだよ? 意味がわからないこと急に言うなって…!)

男(だけど頭の思考が止まらない、なんだ、何考えてる、俺、意味がわからん!)

男「お……思うんだけど、あれ? 違う何言ってんだ、俺はコイツは……」


『afjofjaojeojajflakjeohgoijapgpowieiapjpagakf;dkfajdpjap』


男(頭のなかでッ……声が、響いて……!!)


『喰って、喰って、食べて、殺す、骨まで残さず壊して、殺す、喰う、食べる、喰うぅぅぅぅぅぅううう』

『そうそう。なんかね、昨日の夜に不審者……っていうのかな、変な雄叫びを上げる人が居るんだって』

『くっ…なんで起き上がれるの! 関節は確かに否定して、しかも心臓も……!!』

『喰わせてくれ!! お願いだ! もう我慢できねえんだよ!! 本当だって!!』


男「──違う、これは〝不良だけじゃない〟」

友「……不良だけじゃないって、なにを……」

男「誰か居る。不良だけじゃおかしい所が幾つかあった…」


ウーウー!


男「警察……逃げるぞ友! 一先ずここから!」

友「えっ!?」

男「話は後だ! 良いから早く!」


男宅 部屋


友「……」チョコン

男「…着替えたか」コンコン

友「ふぇっ!? あ、うん!」

男「入るぞ」ガチャ

友「…えっと」

男「なんだよ?」

友「…どうして家に連れ込まれたのかなって」

男「安全な場所、なんて言い方はおかしいけど、ここなら良いかなと想ったんだが…駄目な感じ?」

友「べ、別に。気にしてないからイイケド」

男「そ、そっか」

友「う、うん」

男「…それで、なんだが」

友「は、はいっ!」

男「えっと、大丈夫か、お前? 具合でも悪いんじゃあ…」

友「いっ、良いから続けて!」

男「お、おう。さっきのことなんだが、不良の消えた感じ……俺はおかしいと思う」

友「…確かにワタシ達と違って、消えてなくなったけど。それっていわゆる…」

男「力の使いすぎってやつか? 暴走して、身体が耐えられなくなって、みたいな感じの」

友「ワタシはそう思うけど。何か気になるの?」

男「…じゃあ俺達はどうして消えないんだ?」

友「わからない、けど。やっぱり暴走とかが原因じゃ…」

男「それだよそれ、暴走」

友「えっ?」

男「おかしくないか。どうして不良だけ暴走したのか、俺らと一緒に夢を見ただけだっていうのに」

友「…違いがあるとでも?」

男「暴走しちゃったじゃなく、暴走された」

友「暴走された? だ、誰に?」

男「他の夢を見た奴に」

友「…根拠はなんなの?」

男「実は俺、不良が力とやらに目覚めかけてるの見たことがあるんだよ」

男「その時はまだ耐えてた気がする。だけど、なにか違ったんだ」

男「…まるで促されてるみたいな、元々、変に苛ついてたからなんだろなって思ってたけども」

友「……」

男「それにその日の前日、雄叫びを上げる不審者が居るって噂があった」

友「…それは不良」

男「だよな。だけど、被害者は居ない、考えるに堪えられたんだ、その時は」

友「じゃあ…耐えられていたものを、誰かに促されてってコト?」

男「そしてもう一つ。お前の力に対抗できた理由、あれって本当に不良だけの力なのかって」

友「確かに変に不死身ぐあいだったけど…それも不良の力だったんじゃ…?」

男「違うな。後になって、アイツの口調…もとに戻らなかったか?」

友「え?」

男「変な声じゃなくって、本当の不良の声っていうのかな…多分、元に戻り始めていた」

友「不良自身のってこと?」

男「暴走してない状態に戻されて、口調が戻り始めた。つまりは──暴走状態を解かれたと見るべきだな」

友「…じゃあ最後に溶けて消えた理由は?」

男「お前だよ」

友「えっ? わ、ワタシ!?」

男「…お前の否定する、だっけ? それが発動したんじゃねって思うけど」

友「そ、そんなことは………」

男「いや、だって人に向かって使った時。その力の起こした現象って……一辺倒だったか?」

友「…っ…」

男「多分、その時は溶けるが力だったんだと思う。否定が溶けるになった、それだけだ」

男「結論から言うに、不良は誰からか暴走させられていた」

男「自分で操れない程に、暴走するぐらいに、そして他の力が通用しないぐらいに」

男「…だから不良だけの問題じゃあない。他の誰か、黒幕がいる」

友「……そんなこと…」

男「でもまぁ、検討はついてるんだけどな」ポリポリ

友「……」

男「お前もわかってるだろ? 同じクラスの……」

友「…同級生」

男「そう、色々とおかしい所もあるし。つか怪しいのアイツぐらいだし…」

友「…男は」

男「うん?」

友「男は一体何を考えてるの、ここまで考えて、これから何をするつもりなの」

男「………」

友「こんなわけの分からないことに巻き込まれて、それで、何を思ってるのか……ちっとも分からない」

友「まるで男じゃない、普段のワタシが知っている男じゃなくなってる。今の顔……鏡で見てみなよ、一回」

男「…そんな変な顔してるか、俺」

友「してるよ。嬉しい顔よりも、ずっと変…」

男「……」

友「ワタシは怖い。こうなってしまって、本当に怖い……わからなくて、何をしたらいいのか、わからない」

男「…うん」

友「男はそうじゃあないの? ワタシは怖いのに、男はどうして…考えていられるの…?」

男「…わからんよ、俺にも。ちっともわかってない、けどな」すっ

なでなで

男「こんなの許せないだろ? だって、人が死んでるんだ…悪戯に…ばかみたいにさ」

友「……だから自分がどうにかするって、コト?」

男「んなカッコイイこと言えねえよ。別にヒーローになりたいわけじゃないし、狙ってるわけでもないし」

友「じゃあどうして…」

男「…別に大した理由じゃない。俺はイジメられてるやつを助けたりする度胸も無いし、不良に勝てるほどの力も持ってない」

男「けど、けどな。友さんよ」


男「お前が傷ついたのは、許せなかった。ただそうとだけ……思っちまったんだ」


友「……」

男「ちゃんとした正義心なんて無いから、んなの、ばかみたいだって言われても仕方ねえけども」

男「…うん、それだけでも動ける気がする。俺は考えられるって思う」

友「……めちゃくちゃかっこいいこと言ってますけども」

男「……あ、やっぱり? でへへ~」

友「…なにさそれ、ほんっと馬鹿」

男「いいだろ別に。やっぱ男ってのはかっこつけたいものなんだよ」

友「…そっか、ワタシの為か」

男「お、おおう。なんだ改めて言うとこっ恥ずかしいなぁ」

友「好きなの? ワタシのこと」

男「…えーと」

友「ちょ、こら。なんで迷うっ」

男「…ゴメンナサイ」

友「なんで謝るの!?」


妹「お兄ちゃーん! なに一人でボソボソ喋って───」がちゃ


男「あ」

妹「………はうぅ!?」

友「っ………こ、こんばんわ」

妹「おに、おにちゃっ! お母さぁぁああん!! いつの間にかお兄ちゃんが女の子連れ込んでるーゥ!」

男「オイ! 何言ってんだお前!」ドタバタ

妹「ぎぁー! 教われるうー!」

友「……」

友「…ワタシの為か、ふふっ」

友(ならワタシも覚悟を決めなくちゃあな…)


次の日 昼休み 屋上


男「……」ジュルルル

男「ぷはっ。まずいなトマトジュース……」

男「なんでコレ選んだんだろ……いや、いいけども別に……」

男「……んでさ、そろそろ喋てくれないと俺、独り言みたいになるんだけども」

同級生「……」

男「…ダンマリですか」

同級生「君は……知っていたんだね……」

男「なにが?」

同級生「ッ……この力のことだよぉっ!? なにをとぼけてるのさぁ!? 君は君はぁ!!」

男「……」

同級生「なにも知らないような顔してぇ……くそぅくそぅ…そうやってボクを馬鹿にするんだろぉ!?」

男「してないって。ただ、同級生くんも…あの夢を見てたんだな?」

同級生「夢、ははっ! 夢かそうか! 君はそう思ってるんだねえ? 違うよ、あれはれっきとした現実さぁ!」

男「そうかもしれない、こうやって…変な後遺症を持ってるんだから」

同級生「後遺症ォ~? ふっざけるんじゃあないっ! これは選ばれたものがもてる証明だよぉ!!」

男「違うよ。これはただの病気だ、あっちゃだめな奴だろ」

同級生「き、君はぁなんてことぉ…! これはねぇーえ!? 素晴らしい力なんだよぉ!?」

同級生「他の人間と格段にフィールドの違う、その、証明! ボクが選ばれたのはその資格を持っているからさァ…!!」

同級生「どうしてそれを認めようとシないんだよぉ!? どうしてどうしてどうして!? 理解不能理解不能!!」

男「…別に俺も君も、互いに理解されようと思ってないし、良いんじゃあないか」

同級生「………何を」

男「何を待ってるんだ。さっきから」

同級生「えっ? な、なにを言ってるんだい…っ? き、君はぁ…!」

男「アイツなら来ないよ。不良なら」

同級生「ッ……!?」

男「さっきから変に黙ってると思ったら。時間稼ぎぐらいだろうなーって」ジュルルル

同級生「何をっ……言ってるんだいっ……!」

男「アイツなら、死んじゃったよ。溶けて消えた」

同級生「…はっ?」

男「消えたんだよ同級生くん。君が操っていた、その不良はさ」

同級生「消えたって、嘘だ、そんなことは…」

男「知らないのも無理ないよな。昨日事だし、それにニュースにもなってない」

同級生「うっ…嘘だ嘘だ嘘だ!! そんなの、嘘に決まってる!!」

男「嘘じゃあない。そうなった、そうなったことが本当にあったんだ」

同級生「アイツはボクの操り人形だった…ハズ…なのに…!!」

男「信じなくてもいいよ。それに、その不良を呼んでなにするつもりだったんだ?」

同級生「んぐっ…!」

男「…まさかだと思うけど、俺を殺そうと思ってたんじゃあ無いのか?」

同級生「ち、ちがっ……ぼ、ぼくはっ…!」

男「……」

同級生「ぼくは、ただ……えへへ……力の証明を、したかったんだよぉ!」

男「証明?」

同級生「そ、そおだよ! こんな力を使えるんだって、その証明をだよぉ!!」

男「…別に頼んだ覚えないけど」

同級生「同じ力の持ち主じゃあないか! じゃあ、こんな力を持ってるって自慢しあってもいいだろぉ!?」

男「じゃあその操った不良を見せるつもり、だったのか」

同級生「あ、もしかして道徳なアレってやつかい? ふふふ、違うよ男くん…アイツはそうなるべきやつだったんだよぉ?」

同級生「彼はああなるべきだった人間なんだよぉ! そうなって、酷いことになるべき人間だったんだよぉ!!」

同級生「だからボクの力──〝促す〟ことによって、ボクは彼を…むしろ……救ってあげたんだ……うんうん…」

男「………」

同級生「この力は本物さぁ……あんな下衆以下の畜生に……思考という時間を与えたんだからねぇ…」

同級生「ねぇ彼の最後はどうだったんだい? 悔やんでた? 悲しんでいた? 哀れんでいた? ねぇんどうなんだいぃ?」

男「…叫んでたよ、最後の最後まで」

同級生「なんて!?」

男「…喰わせてくれって」

同級生「たっはーぁ! やっぱりそうなんだぁ、こりゃ酷いよ、サイコーに酷い…本当にアイツは変わらないんだねぇ…」

男「……」

同級生「知ってるかい? 彼の力は『食事』なんだとさァ! それはそれは……酷いもんだよ……うんうん…」

男「…何時から操ってたんだ、不良を」

同級生「あの屋上の時だよ、わかるだろぉ? フフ、あれからボクは力の使い方を知った…感動だったね、世界が変わったよ」

男「そうだろうな。今まで強者だった相手が、途端に自分の駒になった」

同級生「そぉう! 素晴らしい快感だった……! 本当に本当に、この世の全てを愛してしまったもんだよぉ!」

男「…じゃあ最近の事件は全て」

同級生「…フフ」

男「お前が関係してたんだな」

同級生「そっか…君はそういうことを言いたかったんだね……うんうん……違うよ、勘違してもらっちゃ困るよぉ~」

男「なにがだ」

同級生「成功には犠牲がつきもの。わかるかなぁ? ボクはそれが正しい言葉だって、身を持って経験してるからこそ言えるんだけども」

同級生「僕にとっての成功の犠牲は、その被害者たちの生命だよぉ。これは、何よりも高位な価値のための、尊い犠牲…なんだよぉ」

男「……」

同級生「どうか、どうか、怒らないで聞いておくれよ。僕はね、これでも弱虫で心弱いんだ…怒られたら泣いてしまうし、傷ついてしまう」

同級生「だからどうか静かに聞いてて欲しい。ボクはね……とても興奮したんだ」

同級生「たかがボクのために死んでいった人の数が増える度に快感と興奮が脳内を暴れまわってそりゃもうすごいことになって!!」

同級生「──幸せだったんだァ……!! うんうん!!」

男「…そっか」

同級生「君はどう思う? こんなボクをサイコーのやばいやつだって思うかい?」

男「さあな」

同級生「ボクは思うよぉ? だってこれ、壊れてるよねぇ? 人としておかしいこと、してるなって分かってるんだよぉ?」

同級生「でもねでもね、いざ、いざだよ? そうなって自分の都合で人が死ぬって………裏を返せばもう怖いものはないってことさ!」

同級生「嫌なものも、即! 処分! 即! 廃棄! 即! 分別!」

男「……」

同級生「これはもう駄目だよぉ! もうっ……もうっ……泣いていいかな、ボク…感動でね…うんうん……」

男「……もういいか、お前の話を訊くの」

同級生「あわわっ!?お、怒ったのかい!? 怒らないで聞いてくれって言ったじゃあないか…!」

男「それを本当に思ってるなら、お前、頭おかしいよ」

同級生「…知ってるよぉ、フフ」

男「いや分かってない。お前は自分がしてることに、なんら責任を背負ってない、むしろそれを見過ごしている」

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