カズマ「はァ?キョジンだぁ?」【オルタレイション】(80)

カズマ「…なんだそりゃ?食えんのか?」

女「な、何を言ってるんだ!? 早く逃げないと巨人に食われるぞ!?」

目の前の慌てている女の話で、ひとまずカズマは状況を理解した
此処に居るとその『キョジン』とやらに食われるらしい

人食いのバケモノ、ねぇ…さしずめ野生動物の大型アルターってトコか?

女「いいから早く…クソッ、見つかった!?」

巨人「ニマァ…」

カズマが後ろを向くと、少し遠くでソレがこちらをニヤニヤとほくそ笑みながら見下ろしていた

なるほど、コイツが『キョジン』か…馬鹿ヅラしたただのデカブツじゃねぇか
だが、アルターでもなさそうなのに中々ヤバそうなカンジがしやがる、面白れェ…!!

カズマは、笑っていた、眉間に皺を寄せ、目標に鋭い眼光を向けて
手ごたえのありそうな『喧嘩相手』に対し、歯をむき出して笑っていた

女「君はどこかに隠れているんだ、私が奴を引き付ける、その隙にあっちへ逃げろ、いいな!?」

カズマ「はァ? 逃げろだ? アホ言ってんなよ、つかオレに指図してんじゃねぇ!」

女「…なっ!?」

目の前の見知らぬ女の言葉に耳も貸さず、カズマは右手の拳を握りこんでいく

カズマ「あのデカブツ、そんなに強えェならよ……オレにやらせろ…!!」

この作品は、以前途中でネタに詰まった末落ちてしまった

進撃の巨人×スクライドのクロスオーバー

の、加筆修正版、です

・以前同様通り地の文多めです
・モブキャラに名前は設定しません
・話の都合上オルタレイションのカズマ
・時期書いてた時は前は無常倒した直後でしたが
 今回はオルタレイションTAOのラスト(TV版だと前期ラストに相当)
・ぶっちゃけカズマ無双

書き溜めの最中にスレが落ちる事も考慮して
ひとまず書きあがってる前編まで投下

スレが落ちなければそのまま後編もここに、落ちたら新スレで

では本編へ

夢を。夢を見ていたのです。

とても激しく、荒々しく、雄々しい夢を。

嗚呼、私は、見続けていたのです―――

――数分前

カズマ「…どこだよ、ここは」

思わず声が漏れてしまう程に、カズマは途方に暮れていた

さっきまで"奴"との喧嘩をしてて、いきなり光に包まれた後…
…あの後どうなった? いまいち記憶が曖昧だ…

カズマ「…ま、考えても仕方ねぇか、しかしデケェ木だな…」

此処が森なのは間違いない、そして森ならロストグラウンドにもある、が…
此処はロストグラウンドじゃない、カズマには確信があった、あまりにも臭いが、空気が違う
何より、木の高さが異常だ、これほどの森は本土にもまず無いだろう

じゃあ此処はどこだ? 敵のアルター使いの攻撃ってワケでもなさそうだ

?「…そこに居るのは誰だ!?」

背後から声が聞こえて振り返るカズマ、視線の先には、なにやら得体の知れない装置を付けた女が居た

なんだありゃ?妙なモン腰につけてやがる

女「き、君は一般人じゃないか!? 何故こんな所に…!?」

カズマ「あン? んだよ、オレが此処に居たらなんかまずいってのか?」

酷く動揺する相手にカズマは怪訝な表情を見せた

何だコイツ、いきなり現れたと思ったら、ワケわかんねぇ
だが、この慌てようはただ事じゃねぇな…で、だ

女「まずいも何もここがどれだけ危険か知らない訳じゃないだろう!?」

どうやら此処に居られて困る理由は、此処が危険だから…らしい



女「ここは壁の外…人を食う巨人の巣窟だぞ!?」

――再び現在


オレにやらせろ…? この男、巨人と戦うつもりか!?

目の前に居る男の発言に、女は驚きを隠せない

一般人が巨人の相手をするなどと…それも兵士を差し置いて…!?

女「君は馬鹿か!? アレに一体どれだけの人間が食われたか知らない訳じゃ…!?」

カズマ「グチャグチャうるせぇなぁ!! 邪魔だから下がってろッ!!!」

女「ちょ、ちょっと…は…ッ!?」

思わず変な声を上げてしまった、男に言われた言葉に対してだけではなく…眼前の現象に
男の髪が逆立ち身体が光に包まれた途端、甲高い破裂音と共に部分的に消し飛ぶ地面

女「き、君は一体…!?」

言葉を発する最中、男の身体は様子を変えていった
腕には黄金の装甲が、背中には赤い羽根が装着された

カズマ「…へっ…んじゃ行くぜぇ!! デカブツッ!!!」

男は臆する事無く迫り来る巨人に向かい走っていく、一直線に
止めなければあの男は食われるというのに身体が動かない、蛇に睨まれた蛙の様に

すさまじい、殺気だった…あんな殺気を出す相手を、私は見たことがない…

傍観する女をよそに、カズマは巨人に向かっていった

カズマ「まずはコイツだぁ!!」

叫び声と共に、カズマが地面を殴りつけ、高く身体を舞い上がらせる

カズマ「衝撃の…ファースト・ブリット…ッ!!!」

カズマが技の名を呼び右肘で背中の羽に触れる、途端に羽が砕けそこから光の粒子が噴き出す
その推進力で身体を加速させ、その勢いで巨人に突っ込んでいく

カズマ「オオオォォォォォオオォォォォォリャッ!!!」

激しい衝撃と打撃音と共に巨人の身体が宙を舞う

女「ば、馬鹿なっ…巨人が、吹き飛んだっ!?」

とても人間技とは思えない光景の数々に、女は自分の目を疑っていた

カズマ「…チッ、手応えあったんだがなぁ…ピンピンしてやがる」

先ほどと表情を変えずに起き上がろうとする巨人を見てカズマは舌打ちをする
だが、カズマは笑っていた、強い相手と『喧嘩』が出来る事を、心から喜んでいた

カズマ「腹が駄目なら頭だな…撃滅のセカンド・ブリットッ!!!」

再びカズマは巨人に攻撃を仕掛けた、真ん中の羽が砕け、巨人の頭目掛けて飛んでいく
対する巨人は立て直しきれていない体勢のまま、男を叩き落そうと腕を振り上げていた

カズマ「だったら腕ごと砕いてやらぁぁぁァッ!!!」

硬いものがぶつかり合う鈍い衝突音と共に、巨人の腕があらぬ方向に折れ曲がり吹き飛ぶ
だが、腕ごと頭を砕くつもりだった攻撃は巨人の腕に威力を殺されてしまった

カズマ「へっ、随分頑丈だなぁおい、だが片腕は貰っ…!?」

カズマは空中で言いかけた言葉を止めた、先ほど骨を砕いて曲げた筈の腕が、元に戻り始めていた


カズマ「硬てェだけじゃねぇってか!? 抹殺のぉ…ラスト・ブリットォォォォ!!!」

先ほどの攻撃を相殺されて宙に浮いたまま、間髪居れず再び一撃を放つ
カズマの拳は、巨人の眉間を確かに砕いていた、巨人の顔面が凹み歪む、が…

女「ハッ…ダメだっ!! 巨人の体は弱点を破壊しない限りいくらでも再生する!!!」

カズマ「ぐぁっ…!?」

巨人の腕がカズマの体を捉えた、先ほど破壊した腕とは逆の腕を振るい、カズマを吹き飛ばした
カズマの身体が遠くの地面に勢い良く叩き付けられる

女「だっ大丈夫か、君!?」

女は吹き飛ばされたカズマに急いで駆け寄っていく

カズマ「…クソッ……おいアンタ、さっき何か言ってたな? 弱点がどうしたって…?」

女「あ…?あぁ、巨人はうなじを激しく損傷させない限りいくらでも再生する…だから…」

カズマ「…そうかい、それだけ判りゃ十分だ」

女「な、十分って…あれだけやられてまだ戦うというのか!? あんあ所から吹き飛ばされて平気な筈が…え?」

カズマ「あ? こんなモンでやられる程ヤワじゃねぇよ、それに…」

なんなんだ…彼は一体…!? なぜ…

カズマ「こんな面白れェ喧嘩…途中で止められるワケねぇだろうが…!!」

なぜ…こんな状況で笑っていられるんだ!?


…さっきは不意打ち食らっちまったな、だが、同じ手は食わねぇ…

そんな事を考えながら軽々と立ち上がる、しかし、腕の装甲はヒビが入り、所々欠けていた

カズマ「ただのデカブツだと思ってたが、これならコイツを出して良さそうだな…!!」

カズマが右腕を高く上げアルターを発動する

カズマ「シェルブリットォォォーッ!!!」

カズマが名を叫ぶと同時に、右腕が分解され先ほどと違う装甲を纏った腕が
曲線を描く羽が、そして顔の右側に装甲が現れた

カズマ「これよ…!!喧嘩はやっぱこうでなくっちゃぁなァ!? 楽しいねぇ!! オイ!?」

叫び声と共に腕の装甲のパーツの一部が弾け飛び、装甲が展開される

カズマ「コイツが、シェルブリットだッ!!」



女「シェルブリットというのか、その腕……一体、どうなっているんだ…?」

カズマ「ヘッ、細かい事気にすんなよ……さて、続きといこうぜ!!デカブツッ!!!」

再び巨人を見据えたカズマの背中の羽が、勢い良く回転を始めた途端、カズマの足が地面を離れた

女「なっ…さっきの立体機動装置のガス噴射のような飛翔じゃない…宙に、浮いている…!?」

カズマ「ほんじゃ行くぜ…!! シェルブリットォォォォーッ!!!」

回転する羽の中央から推進力になるアルター粒子を噴出させ、カズマが体を急加速させ突進した
対する巨人は再び腕を振りかぶり、カズマを叩き落そうとしているようだ

カズマ「あぁそうかい…!! 残念だったなぁ…その腕貰ったァァァーッ!!」

巨人の腕とカズマのシェルブリットが激しくぶつかり合う

カズマ「ぅおおおおぉぉぉりゃぁっ!!!」

女「なっ!? なんて破壊力だ…!? 巨人の腕が…消し飛んだ…」

先ほどの、骨を砕いて吹き飛ばすどころではない、巨人の腕が弾け飛び、肩近くまで無くなっていた

カズマ「なかなか楽しい喧嘩だったぜ…だが、コイツで仕舞いだ…!!!」

攻撃の反動で空高く舞ったカズマが、落下の勢いと自らの羽根の噴射で身体を加速させる

カズマ「シェルブリットォォォーッ!!!」

叫びと共に急降下、その拳は斜め上から再び巨人の眉間を捕らえた
が、先ほどの凹ませる程度だった攻撃とは大きく違う

女「巨人の頭が…うなじどころじゃない…鎖骨の下辺りまで、跡形も無くなった…」

その様に女は唖然とした

人間技ではない、彼は一体何者なのだろう…


生命力を失い、崩れ落ちる巨躯、体は徐々に消滅を始めていた

カズマ「…っと…アンタ、これでよかったか?」

上空から戻ってきて、カズマは女に尋ねた、その姿はもうアルターを纏っていない

女「あ、あぁ…ヤツは確かに倒せた…」

カズマ「そうかい、さて、邪魔したなアンタ」

女「え、ちょっと、邪魔したなって何処に行くつもりなんだ…!?」

カズマ「さてね…あ、いやちょっと待った」

女「…? 一体どうしたんだ…?」

カズマ「…腹減ったなぁ、なぁアンタ、どっか飯食えるトコに案内しろよ」

女は、カズマの言葉を聞いて、気が抜けてしまった
彼女自身、自分でも相当間抜けな顔をしているだろうと思っていた

――ウォール・マリア南端突出区域 シガンシナ区


門から先の通路に大勢の人が集まっている
人々は壁外調査を終えた調査兵団の帰還を見に来ていた

カズマは最後尾で、負傷兵の変装をしていた

あの姉ちゃんに言われた通り、どうにか壁の中に入れたな…
しかしデケェ壁だ……市街の壁もこんなだったか?

カズマは、ロストグラウンドの市街地を思い出していた

そういや、捕まって逃げる時にぶっ壊したこともあったか…
ま、感傷に浸ってる場合じゃねぇな…さて、いつこの行列から抜け出すか…



――数刻前、壁外の森の中


女「とりあえず、本隊と合流しようと思う…んだが…」

カズマ「んだよ、歯切れが悪ィな? なんかマズい事でもあんのかよ?」

とりあえず早く食事にあり付きたい、カズマの頭には今それしか無かった

女「とりあえず、君の事は隠さないと…壁の外に人が居たなんて情報、無闇に混乱を招くだけだからね」

カズマ「あン? どういう事だよ?」

女「…私たちの認識では、壁の外の人間は、巨人に食われて全滅している、事になっているんだ…」

カズマ「なんだと!? オイ、オレは壁の外がどうのなんて話、聞いたこともねぇぞ!?」

女「ま、まぁ、君は巨人相手にあれだけ戦えるのだし、生き延びても不思議は無いけれど……」

彼女は、まだ信じられないという顔で、カズマに再び聞き返していた

女「…君の話だと、君以外にも大勢の人間が、壁の無い場所に居るんだろう? それも巨人に襲われる事無く」

カズマ「あぁ、そもそもあんなデカい、あー…巨人だったか? 見たことも聞いたこともねぇ」

そう、カズマは先ほどの戦闘で初めて巨人を見て、戦ったのだ

女「まぁ、この話題は止しておこう、頭が痛くなってきた…」

カズマ「そうしてくれや、オレもワケわかんねぇ…」

彼女は先ほどの戦闘後カズマに色々と質問をしていた
が、有益な情報は殆ど得られなかった

ひとまず判った事といえば、彼の名前、彼の能力の総称がアルターであり
彼のアルター能力、その名前がシェルブリットであること
ロストグラウンドと呼ばれる土地から来たという事
そこに大勢の人々が暮らしており、更に他の土地にも人が居る、という事程度

…後は、会話の中でカズマの知能があまり高くないという事か

女「…で、話を戻すが、君をこのまま本隊に連れて行くと、尋問されるのが目に見えてる」

カズマ「あー、そりゃ面倒だな」

女「私としては、命の恩人をそんな目に合わせたくはない」

カズマ「別に恩を売ったつもりはねぇけどな、オレは喧嘩をしただけだ」

女「さっきもそう言っていたね、まぁ、私が勝手に勘違いしているだけ、にしておいてくれ」

カズマ「へいへい…」

女「とりあえず、君には怪我人に変装してもらうよ?」

カズマ「変装ね…で、街に入ったら隙見てどっかで逃げりゃ良い訳だ」

女「そういうこと、それじゃあ私は救護班から予備の服と包帯を上手いこと貰ってくるよ」





女「うん、とりあえず大丈夫そうだね」

カズマ「…ホントに大丈夫かよ」

顔全体と右腕を包帯で巻かれたカズマが不安そうな声を上げた

女「大丈夫さ、血糊も付けたし、服もなかなか様になってるじゃないか」

馬子にも衣装、といっても、顔面は包帯でぐるぐる巻きだが
しかし、カズマの戦い慣れた雰囲気は、さながら歴戦の戦士のそれであった

カズマ「…とりあえず、点呼の時だったか? そのポーズとりゃ大丈夫なんだな?」

女「あぁ、それに右腕が使えないから必然的に馬車になる、馬には乗れないって言ってたしね」


カズマ「しかし…何でここまでするんだよ、さっきだってこの血糊、アンタ自分の手を切ったよな?」

女「手を切る位大したことないさ…君が居なかったら私は、あの巨人に食われていただろうしね」

カズマ「どういうことだ? アンタのその腰の、なんだっけ? ソレで逃げられたんじゃ…」

先ほどの彼女の質問に答えるついでに、カズマも彼女の話を色々と聞いていた
彼女が調査兵団に所属する兵士である事、腰に付けている立体機動装置の事
壁の中の街の事、巨人にも色々な種類が居る事、そして…
…彼女の居た班のメンバーが、彼女を除いて全滅していた事

当然、大半をカズマは理解していない、なんとなく程度である

女「…立体機動装置かい? これね、ガスが切れていたんだ…あの時君に気付いた時点で使えなかった…」

震えてやがる…そういや、さっき服とか手に入れる時も花火飛ばして仲間の到着を待ってたな

女「何度も言っただろう? 君は、命の恩人だって…本当に…」


女「本当に…ありがとう…」

彼女は瞳から涙を零していた、様々な感情が入り混じった、泣き笑い顔で

――再び現在


…で、あの後どうにか色々やり過ごして此処に居るんだが…どうしたもんか
とりあえず、あの姉ちゃんの後ろに付いて歩いて隙を窺ってるが…

なんだこれ、注目の的じゃねぇか…周りにゃ誰も居ないが、前の方に居る連中もみんなこっちを見てやがる…
オイオイ、こんな状況でホントに逃げられんのかよ……ん?

最前列辺りで群集の中から出てきた初老の婦人と団長が会話をしている

女(…ここからじゃ良く聞こえないが……今が、チャンスかもしれない…)

カズマ(…そうみたいだな…んじゃ、世話んなったな…アンタ)

女(…こちらこそ、だよ…じゃあ、機会があったらまた会おう、さようなら、カズマ…)

カズマ(…あぁ、アンタもな…えーと…)

女(…締まらないなぁ…あの時名乗ったじゃないか…まぁ、いいさ、ほら、早く…!)

カズマ(…おう、それじゃな…)

視線が前列のやりとりに注目されている隙に、カズマは路地裏へと姿を消した

女(…行ったか、さて……ん? あの子供達…まさか、さっきからこっちを見ていた…?)

女(…ちょっとマズイ事になったかな…まぁ、なんとかなるか…)




カズマ「はー…どうにかなったな…さて、食い物屋はどこだ?」

路地裏の影でカズマはいつもの格好に着替えていた
手には女兵士から貰った、この街で使えるお金
少なく見えるが、これだけあればそれなりの物が食べられるらしい

カズマ「ひとまず通りに出てみるか…」

?「オイあんた! 調査兵団の兵士がこんなトコでサボってて良いのかよ!?」

カズマ「あ?」

背後からいきなり何やら声がして振り返る、そこには薪を背負った子供が2人居た

カズマ「…サボって……チッ、見てたのかよ…」

少女「……っ…?」

少年の隣の少女はじっと様子を窺っていた、カズマを見て少し驚いたような顔をしながら

カズマ「…ま、いいか、おいガキ、オレはそのなんたらの兵士じゃねぇ」

少年「嘘つくなよ!! さっき調査兵団の隊列の中に居ただろっ!?」

カズマ「だから…あ゙~…メンドクセェなぁ……ったく…」

空腹から正直喧嘩する気にもならず、カズマは構うのが億劫になっていた

難癖付けられた内容も勘違いだしなぁ…あー…ホント腹減った…

カズマ「どうせ信じねぇだろうが…オレはあの壁の外から来たんだよ」

少年「だから!!って……は? え、今何て…壁の外、だって?」

カズマ「あぁ、気付いたら森ン中に居てな、んで、なんたら団の兵隊の姉ちゃんと…」

少年「…なぁ!! 海って見たことあるか!? でかくて甘いのか!?」

カズマ「うぉっ? 何だ?お前海見たことねぇのか? 海はデケェが…甘くねぇよ、塩っ辛いぜ?」

少年「…ッ!!! …おいミカサ、この人…」

少年(咄嗟だったとはいえ引っ掛けにもかからなかった…知ったかぶりじゃないみたいだ…)

少女「エレン、簡単に信じちゃ駄目……」

少年「っ…だけど…!!」

少女「…ただ、私も聞きたい事が、貴方は東洋人なの…?」

少女(…それにあの右手、何かを隠してるようにしか見えない…)

カズマ「……あ? 『トーヨー人』って何だ? …『日本人』なら知ってるが…」

少女「…質問を変える、貴方はここに来る前、どこに住んでいたの?」

カズマ「…ロストグラウンド、っつってもわかんねぇだろ?」

少女「…位置は? その…ロストグラウンド?の場所」

カズマ「ロストグラウンドの場所だぁ…? えーと…わっかんねぇよっ!!」

少女「…答えて、西の端か、東の端かだけでいい」

カズマ「…はぁ…? …そういや昔知り合いが『東の端の島国』だとか言ってたような…」

少女「…………。 …エレン、なんとなくだけど、嘘はついてないと思う」

カズマ「あ?んなくだらねぇ嘘ついてどうすんだよ」

少年「…すげぇ…本当に壁の向こうから…!!」

カズマ「あー……お前ら、名前は?」

少年「オレはエレン! エレン・イェーガー!! こっちはミカサ!」

少女改めミカサ「ミカサ・アッカーマン、よろしく…」

カズマ「オレはカズマ、ただのカズマだ、苗字はねぇ」

ミカサ「…カズマ…」

カズマ「ッ……ガキがオレを呼び捨てにすんなっ」

少年改めエレン「そうだぜミカサ、年上相手なんだからさん付けしなきゃ!」

ミカサ「…復唱しただけよ、カズマさん」

カズマ「へっ、そうかよ…あー、ところで、えーと、エレンにミカサ…だっけか?」

目の前の少年、エレンは目を輝かせてカズマを見ていた、まるで財宝でも見つけたような顔で
隣に居る少女、ミカサも、カズマに対して、エレンとは少し違う所に興味を示したようだ

カズマ「…ハラ減ってんだけどよ、どっか飯食えるトコ知らねぇか?」




カズマ「っはー、食った食った……」

カルラ「ふふっよほどお腹がすいてたのね? カズマ君、だったかしら?」

彼女はエレンの母親、今カズマはエレンの家で昼食を食べていた
腹をすかせたカズマをエレンが客として招いたのだ

カズマ「あぁ、飯美味かったぜ、おばちゃんごちそうさん」

カルラ「はい、お粗末様、ふふっ…それにしてもエレンに年上の友人が出来るとは思わなかったわ」

エレン「な、なんだよ母さん、別に悪いことじゃないだろ…! …って、あれ?父さん出掛けるの?仕事?」

グリシャ「あぁ、内地で診療だ、2~3日かかるかな? …いや、客人が居るのに慌しくて申し訳ない」

カズマ「ん? あぁ、オレ? いや、気にすんなって…… …?」


ミカサ「…………。」

ふと、カズマはミカサに視線を向ける、何かを迷っている顔だ、とカズマにはすぐ判った
いつもの彼なら放っておいただろう、だがこの日のカズマはいつもとは違っていた
カズマ自身無意識のうちに、気が付いたらミカサの頭を撫でていた、撫でるというには少々荒っぽいが

ミカサ「……っ…。」

ミカサは、彼女本人からしても珍しく、普段のように落ち着けず、年頃の少女のように戸惑っていた
自分の頭を撫でてくる手の暖かさが、力加減がほぼ無い為に少々痛い、そのゴツゴツした手が、何故か心地よかった

カズマ「……ふん…」

カズマは、自身のその行動が、自分らしくない、我ながら珍しいことをした、と思っていた
自分と共に居た少女の顔がチラついて離れないせいだろうか、心の片隅で苦笑する


ミカサ「…………。 …エレンが、調査兵団に入りたいって…」

ミカサがその言葉を口にした途端、部屋の空気が変わった
だが、カズマはそんな空気をスルーした、当然その後の会話の内容などほぼ聞いていないが
母親はどうやら反対、父親はどうやら反対しないらしい、それだけは理解した

ま、何であろうが最後は誰かの意見じゃなくて自分の意思で決める事だ…

そう思いつつ、カズマはそれを口を出さないでおいた
他人の家の事にいちいち口を出す趣味はカズマには無かった
流石に無関心という訳でもないが下手に口出しして自分に飛び火したら…
それこそ面倒だ、そこまで肩入れする義理も無い、というのが正直な感想だった

そうこうしているうちに父親がエレンに何かを言って、出発していった

エレン「いってらっしゃーい!!」

見送りを終えて、父親の話で上機嫌なエレンに、母親が釘を刺す

カルラ「駄目だからね? …調査兵団なんて馬鹿な真似…」

エレン「はぁ!? 馬鹿だって!? 俺には…家畜に見える人間のほうがよっぽど間抜けに見えるね!!!」

カルラ「…エレンッ!! ……っ」

カルラ「ミカサ…あの子はだいぶ危なっかしいから、困った時は2人で助け合うんだよ…!」

ミカサ「…うん」




カズマ「…で、追いかけるんだろ?」

別に今日会ったばかりの子供の面倒を見る気は毛頭無いカズマだったが
丁度良い暇つぶしになるだろうと考えてミカサについていく気だった

ミカサ「…行く場所の見当はついてる、こっち」

細い路地裏を抜けていく、どうやら目的地への近道らしい
が、曲がり角で運悪くそこを通っていた男にミカサが正面からぶつかってしまう

ミカサ「…ッ …ごめんなさい」

酔っ払い「痛ってぇぇえぇぇぇ、腕が折れたっ、骨が折れたぁぁ~」

わざとらしく、その場でのた打ち回る酔っ払い、勿論、腕はなんともない

ミカサ「…ごめんなさい、大丈夫ですか?」

酔っ払い「大丈夫なワケねぇだろうがぁあぁぁ、あ~ぁ…服も汚れたぁ、こりゃぁ弁償だなぁ~…」

カズマ「謝ってんだろ?ソイツ なんともねぇんだから許してやれよ?」


酔っ払い「なんだぁ~?テメェはぁ~? 俺ぁこっちのガキと話してんだ…」

拳を握り殴りかかる姿勢をとる酔っ払いに、カズマはニヤリと笑う

酔っ払い「テメェは黙ってやがれぇ~っ!!!」

ミカサは、その瞬間を見ていた、男に背を向けたカズマが片足を軸に反転
男の拳をかわしたと同時に、突き出された腕を掴み、地面に叩きつけたのだ

酔っ払い「痛ッててててててて!?」

カズマ「…よぉ、喧嘩なら買うが…どうすんだ?」

カズマは、口元だけ笑った顔で、男を睨みつけていた
殺気こそ無いが、その眼光には圧倒的な威圧感があった

酔っ払い「ひっ…わ、悪かった、俺が悪かった…っ」

腕を離し、蹴りを入れて男が来た方向に吹き飛ばす

酔っ払い「ひっ…ひぃぃぃぃ~っ!?」

男は、来た方向の道を一目散に逃げていった


カズマ「はっ、つまんねぇ野郎だ…大丈夫か?」

逃げていく男を一瞥し、ため息をつきながらカズマが言った
その視線や雰囲気には、先ほどの鋭い空気は微塵も無い

ミカサ「えっ…あ、大丈夫…」

カズマ「そうか、んじゃ、また道案内頼むわ」

ミカサ「…ありがとう」

自分でなんとか出来ただろう、でも、素直にお礼が言いたくなった
ミカサ自身不思議だったが、どうやら、自分は彼の事を気に入ったらしい

カズマ「気にすんなよ、気まぐれの暇つぶしだ」

ミカサ「…うん…あ、こっち」

カズマ「おう」

ミカサは、エレンに対する感情とは別の、不思議な親近感をカズマに感じていた



細い路地を進んでいくミカサとカズマ、どうやら目的地はまだ先だったようだが
そこを抜けようとした2人の目の前を、エレンが叫びながら駆け抜けていくのが見えた

カズマ「お、居たか…って、うおっ」

エレンを見つけるなり凄まじい速さで駆け出すミカサ
その先には、3人組が1人の子供をリンチしているのが見えた
そういえば昼食前に、エレンが後で会わせたいヤツが居ると言っていた気がする
多分今助けに向かったのがその、母親曰く『数少ないもう1人の友人』なのだろう

カズマは遠巻きにその様子を見ていた、一番面白かったのはエレン
…の後ろのミカサを見た途端3人組が大慌てで逃げ出した所だ

3人組が逃げた後、エレンが膝をついた少年に手を差し出す
だが、あえてその手を取らなかった少年に、カズマは興味を持った

へぇ…ただの腰抜けかと思ったが、そうでもなさそうだ…嫌いじゃない

そんなことを考えていたカズマを、エレンが腕を振って呼んでいた

カズマ「へいへい…」

少し気だるそうに、でも不機嫌ではなく、カズマは3人の方へと歩いていった





アルミン「何だって!? その…カズマさんは壁の外から来たって…!?」

エレンがカズマに少年、アルミンを紹介したその後で
アルミンにカズマの事を紹介した直後の、アルミンの一言目がそれだった

エレン「ちょ、声が大きいって…バレたら大変だろ…!?」

アルミン「あ、あぁごめん…でも、本当に…?」

カズマ「ま、嘘言っても仕方ねぇからな」

自覚がなさそうにカズマが答える、信じるも信じないもソイツの自由だ、と言いたげな顔で

…その後は、アルミン達からの質問攻めだった
カズマの話の信憑性が増すたびに目を輝かせていくアルミン
エレンに至っては、まるで自分の事のようにドヤ顔をしている
普段なら殆ど興味をしめさないミカサも、カズマの話に耳を傾けていた

そんな中で、なぜアルミンが先ほどの3人組みから殴られていたのか、に話が及んだ

アルミン「…それで、人類はいずれ外の世界に行くべきだって言ったら、殴られた…異端だって」

エレンは苦虫を噛み潰したような顔で小石を投げながら愚痴をこぼし
それに対し、アルミンは異端と言われる理由を説明していた
が、カズマはそんな事は些細な事だと思っていた
半分以上も理解出来なかったが、そんな自分でも判る事がある

カズマ「くだらねぇな…他人がどうだとかこうだとか、気にする必要あるか?」

ハッ、とカズマの方を見る2人、続けてカズマは

カズマ「お前らがしたい事が正しいとか正しくないとか、決めるのは他人じゃねぇお前らだ、違うか?」

アルミン「…っ、カズマさん…」

エレン「…あぁ、そうだ!! カズマさんの言うとお」

ミカサ「…絶対駄目… ……駄目」

エレンの声を遮る様にミカサが言う、エレンにはただ反対しているだけに見えただろう
その顔は、エレンがタブーを犯そうとする事への非難ではなく、心配の表情だとカズマは気付いた
カズマ自身以前、傍に居た少女にそういう顔をされた事がある、それを思い出していた

カズマ「…ふ……だとよ?」

半笑い、というか若干苦笑気味に視線をミカサに向け
頭にぽんっと手をのせて頭を撫でた、どうも共に居た少女と
似ても似つかないのだが、ダブって見えてしまう

頭をなでられるミカサは、嫌がっていないように見える、珍しい光景だとエレンは思った
だが、そんなミカサの頭を撫でるカズマを見て、エレンは裏切られた気分になった

エレン「…なんだよ、カズマさんはどっちの味方なんだよ…」

カズマ「あン? オレはオレの味方だ、誰かに道を教える趣味はねぇ」

アルミン「…ふっ…あははっ」

エレン「アルミン、なんで笑うんだよ…」

アルミン「ごめんごめん…ただ、カズマさんと話が出来て良かった、って思ってね」

エレン「…ま、まぁ、色々知らない事も知れたから、楽しかったけどさ…だけど」

アルミン「カズマさんは、何かをしようとするのは僕らの意思、だけど」

エレン「だけど?」

アルミン「心配してくれる人が居る事も忘れるな、って事が言いたかったんですよね?」

カズマ「さぁな? ま、そう思ったんならそうなんじゃねぇか?」

カズマはめんどくさそうにそっぽを向く

ガキに説教とからしくねぇ、ついに兄貴の癖がうつったか?勘弁願いたいぜ…

エレン「…けど、俺は…」

アルミン「……まぁ、確かに、この壁の中は未来永劫安全だと信じきってる人は、どうかと思うよ…」

アルミン「…100年壁が壊されなかったからといって、今日壊されない保障なんか、どこにも無いのに…」

カズマ「…………。 ………っ!?」

黙ってアルミンの言葉を聞いていたカズマが本能で何かを感じ不意に立ち上がる
違和感を感じた方向を見た、それとほぼ同時に爆音が響き、周囲を激しく揺らした

――カズマが感じ取った違和感の正体、それは、とてつもない殺気だった…



アルミン「な、何だっ!?」

エレン「爆発か!?」

カズマ「……ッ!!!」

カズマは壁の、門がある方向を睨んでいた、嫌な感じが…殺気が先ほどよりはっきりと感じ取れた

一般人達「あっちだ!」「何か落ちたらしいぞ!?」

アルミンは人が向かう方向に駆け出していた、それを追うエレンとミカサ
続いてカズマも、『そちら』への警戒を一切解かずに後に続いていった

エレン「どうした!?一体何が見えるってんだよ!? ……っ!?」

先に行ったアルミンに追い付いたエレンが状況を問いかけ、皆の視線の先を見て言葉を失う

…壁の上に見えたもの、それは、巨大な片手、巨人の左手だった

カズマ「おいおい?あんなのも普通に居やがるのか?」

ミカサ「…ありえない」

流石にこの状況には苦笑いをせざるを得ないカズマと、驚きを隠せないミカサ
エレンもアルミンも、絶句していた

アルミン「そんな…あの壁は…50mだぞ…!?」

エレン「ヤツだ…巨人だ…!!」

エレン達が絶句している最中、カズマは一気に臨戦態勢に入った

しかし、周囲の視線も躊躇わずアルターを発動しようとしたその直後
その50mを越す巨躯が壁を、門を蹴り破り吹き飛ばした

カズマ「チィ…ッ!!」

その一撃で飛んできた岩塊を殴り砕く為に思わず発動を解いてしまい、舌打ちを零す

ミカサ(…飛んできた岩を、素手で殴って砕いた…!?)

どうやらミカサ以外はあまりの突風に目をつぶっていたらしい、が
それ以上の衝撃的な光景が、その場に居た人達の視線の先にあった

アルミン「…壁に、穴を開けられた…っ」

一般人「巨人が来るぞ…巨人達が入ってくるーっ!!!」

人々がその穴からの侵入者に気付き、叫びながら逃げ始めていた


アルミン「ぼ、僕達も………エレンッ!?」

そんな中、エレンは人々が向かう方向と逆に向かって進んでいっていた

エレン「あっちには家が…母さんが…っ」

ミカサ「…ッ!!」

カズマ「…くそっ!!」

アルミン「ミカサッ…カズマさんっ!?」

呼び止められ立ち止まるカズマは、振り向いてアルミンに叫んで言った

カズマ「お前は先に行ってろっ!!」

アルミン「……っ…でも…………っく」

アルミンは、自分の手が震えている事に気付く、3人の後ろ姿が遠のいていく
震えを抑えるために手を握りしめ、エレン達とは逆の、巨人から逃げる方向に、走っていった




エレンとミカサの後を追い、岩塊に破壊されたエレンの家にカズマはたどり着いた
そこには瓦礫に挟まれて身動きが取れない、母カルラの姿があった

エレンとミカサの2人が必死に柱を持ち上げようとしている所へカズマは近づいていった

カルラ「エレン、ミカサをつれてここから逃げなさい! 早く!!」

エレン「っく…逃げたいよオレもっ!!」

カルラ「エレン…母さんの足は瓦礫に挟まれて、ここから出られたとしても走れない…!」

エレン「…カズマさん!? カズマさんも手伝って…!?」

カルラ「カズマ君!? お願い、エレンとミカサを連れてここから逃げて!!」

カズマ「…ちょっとどいてな」

2人を無視してカズマが前に出る

エレン「カズマさん、何を!? 一人でこんなのどけられる訳…」

カズマ「いいから黙ってな…こうすんだよ…!!」

言うなり、腕を高く突き上げながらカズマが目の前の瓦礫に意識を集中する
途端にカルラの上に重くのしかかっていた瓦礫が破裂音と共に消え去った

エレン「一体何が…はっ、母さん…母さんっ!!」

カルラ「…っ!? …カズマ君!? それは一体…!?」

エレン「何言ってるんだよ母さん…えっ、カズマ…さん?」

その場に居たカズマ以外の3人が、カズマの身体に起きた変化に目を疑っていた
逆立った髪の毛、背中には3枚の羽根、右腕には金色の装甲
カズマの身体が、3人の知らない異形の姿へと変化していた


エレン「カズマさん…アンタ、一体…?」

カズマ「今それどころじゃねぇだろ? おばちゃん連れて逃げろ!」

エレン「っ!? カズマさんは!? カズマさんはどうするんだよ!?」

カズマ「ガキの足でも逃げ切れるように時間稼ぎしといてやる、なに、一宿一飯の恩ってヤツだ」

エレン「一宿一飯ってまだ一飯しかしてない…って、何だよ!?時間稼ぎって!?」

カズマ「入り込んだ巨人を片っ端から潰してやる、別に犠牲になりに行くワケじゃねぇ」

エレンは目の前のカズマの顔を見て唖然とした、先ほどの発言は強がりなんかじゃない、と確信した
カズマは笑っていた、目をギラつかせ、まるで獲物を狙う獣のような目で巨人を見ていた

?「エレン!!ミカサー!! …っ!?」

呆気にとられる中、自分の名を呼ぶ声が聞こえ、エレンは驚いて振り返った



エレン「あっ!?ハンネスさん!? 母さんを背負ってくれ!!足をやられて走れないんだ!!」

ハンネス「何!?よし判った、が先に巨人を……いや、それよりそこのお前、一体何者だ…!?」

カズマ「丁度よかった、アンタ、ソイツの言うようにおばちゃん背負ってここから逃げろ」

ハンネス「逃げろだと!? 見くびって貰っちゃ困るぜ!! 巨人をぶっ殺して全員…」

カズマ「…巨人はオレがやる、アンタはそいつら連れてとっとと逃げろ…!!」

ハンネス「……ッ!?」

ハンネスはカズマにそれ以上言い返す事が出来なかった
カズマのその異形な姿以上に、放った殺気に気圧されてしまった
目の前に居る見知らぬこの男が、すぐそこに迫っていた巨人の何倍も恐ろしく感じていた

ハンネス「…3人とも、行くぞ…」

ハンネスは言われた通り、カルラを背負って逃げる準備をする、完全に戦意を喪失していた

カルラ「ハンネス!? 彼を止めて!? カズマ君、戦っては駄目っ!!」

カズマ「心配すんなおばちゃん…オレは、最強だからな…!!」

4人に背を向け、巨人を見据え、カズマは言い放った

カルラ「カズマ君っ…」

カルラの呼びかけはもうカズマには聞こえていない
次の瞬間にはカズマは地面を殴り空高く舞い上がっていた


カズマ「衝撃のォ…ファースト・ブリットォォォッ!!」

迫る比較的小型の巨人の頭を、その拳で吹き飛ばしていく

それと同時に駆け出すハンネスとミカサ、だがエレンは、その光景に見入っていた

カズマ「撃滅のセカンド・ブリットッ!!」

エレン「す、すげぇ…巨人を、本当に倒しちまった…」

ミカサ「エレンッ!? なにしてるの、早くっ!?」

カズマ「…っ!! ボサっとしてんじゃねぇっ!! さっさと行けぇっ!!」

カズマは一瞬、まだその場に居たエレンに意識を向けてしまう
戦闘中に意識を散漫にする、その行為が、致命的な隙を作ってしまった

エレン「カズマさん!?後ろだ!!」

先ほど頭を吹き飛ばされた巨人とは別の大型の巨人が、カズマに襲い掛かった
噛み砕こうとせず、カズマを丸々一飲みにしようとしていた

カズマ「ちっ……!!」

口を閉じられまいと片腕と足で踏ん張りながら、カズマが巨人の口の中で舌打ちする

エレン・ミカサ「カズマさんっ!!!」

カズマ「うるせぇな、気が散るだろうが…!!」

目の前の光景に半ば放心している2人に向けてカズマが更に言葉を続ける

カズマ「…こうなりたくなきゃとっとと逃げろ!! ミカサッ!!エレンッ!!!」

カズマの叫び声と同時に、巨人の口が閉まる、彼らの目の前で、カズマは、巨人に食われてしまった

エレン「あっ…あぁぁ…っ」

ミカサ「…ッ!!!」

叫び声と巨人の口が閉じる音で、エレン達は我に返った、そうだ、逃げなければ食われる

エレン(畜生………畜生…ッ…畜生ッ…!!)

エレン達はもう振り返らなかった、心の中に様々な後悔を抱えながら走っていった
背後で何かが弾ける音が聞こえたが、それでも、生き延びる為に、振り向かずに、ただただ走った



アルミン「エレン!ミカサ!よかった…無事だったんだね… ……カズマさんは…?」

アルミンは船に乗って座っていた、友の無事を確認出来、安堵したのも束の間、足りない姿に気付いた
エレンとミカサは何も答えずに座り込む、その隣にはハンネスに連れられた母カルラの姿があった
が、2人になんと声をかけていいのか判らない様子だった… アルミンは予想した、皆の身に何が起きたのか
だが、それを予想した瞬間、言葉を失った、なんと声をかければ良いか、アルミンも判らなかった

エレン「…なぁアルミン、オレさ、カズマさんと色々話してて、思ったことがあるんだ…」

エレンは力なく語り始める、その胸中を、言葉を、一言一言搾り出すように

エレン「…もしさ、もしオレに…男の兄弟が居たら、あんな感じだったのかなって…」

ミカサ「……ッ……エレン…っ……」

エレンの言葉を聞いて、ミカサが、感情を抑えきれず、涙を流していた

エレン「…畜生…畜生……っ……駆逐してやる…!! この世から…一匹…残らず…っ!!」

エレンも涙を流していた、その目に、強い怒りと憎しみを宿しながら

母、カルラも、そんな子供達の様子に涙を零す

カルラ(…恨むわよ…カズマ君……この子達に、こんな顔をこんなさせた事…っ)

自分達の命を救ってくれた彼を、それ以上の悲しみを遺して行った彼を、許す事が出来なかった
そして、「ありがとう」を言うことが出来なくなった事が、彼女には何より許せなかった

そんな様子をアルミンは、今は見守るしか出来ない、何も出来ることが無いと思い知った
その歯がゆさと悔しさ、彼らの命を救ったその代償を知り、アルミンも涙を流す

深く重い、悲しみに包まれた彼らを乗せて、船は動き出した…

少し出かけてくるのでひとまずここまで

まだ前編は続きます




――シガンシナ区最終防衛ライン、ウォール・マリア門前


男兵A「クソッ…なんでこんな事に…!」

男兵B「愚痴ったって仕方ないよ!壁に穴を開けられたんだ…」

男兵A「…しかしひでぇな、街がめちゃくちゃだ…」

女兵「…だけど、結構経ってる筈なのに巨人がまだこっちに来てないのね…それに遠くに見える数も…」

小民家の屋根の上に兵士が3人、周囲の様子を窺っていた
彼らは、巨人の進攻が予想より遅かった為に駆けつける事が出来た増援、その後衛の班だった

男兵B「そういえば随分少ないね? 壁上からの報告では結構な数が入り込んでると聞いていたけど」

女兵「先行した前衛の班が頑張ってるんじゃないかしら?」

男兵A「だといいがな、…クソッ、噂をすればだ…っ!」

男兵B「ついに来たか…… …っ!? 待った、あの巨人の後方に居るのは!?」

兵士達の目前に迫った巨人の遥か後方に、何やら様子のおかしい巨人が居た
赤と白の身体、それはまるで、鎧を着ているかのような格好だった

男兵A「なっ…オイッ!? 凄い勢いで走ってくるぞ!?」

男兵B「おいおい…アイツこの門を突っ切る気か!?」

男兵A「まずい!! 下の連中の大砲がまるでけん制になってねぇっ!!」

女兵「…なんて硬さなの!? 大砲の弾を跳ね返してる!?」

下で大砲を撃っていた兵士達が慌てて逃げ出そうとしている
3人はその有様を見ていることしか出来なかった、動けなかった

…しかし事態は、ほんの数秒の間に一変する
突進してきていた巨人が、突然どこからか飛来した何かと衝突し、吹き飛んだのだ

――――ズドンッ!!

男兵A「ぐぅっ!?一体何が…っ!?」

とてつもない衝撃波に身を守る兵士達、巻き上がった砂埃が晴れて状況が明らかになる

男兵B「な、嘘だろう…? あの頑丈な巨人が…」

明らかに異常な光景だった、先ほどの鎧を着たような巨人が
もう1体の巨人を巻き添えにして倒れていた、そして異常事態はそれだけで終わらない

女兵「…2人とも! あれを見て!?」

兵士A「こ…今度は一体… っ!? …な、何だアレはっ!? 宙に…浮いているっ!?」

彼女が指を指すその先に、何かが居る筈のない空に、ソレは居た

男兵B「…き、金色に…光ってる、のか…?」

ソレはヒトのように見えるが、何か様子が違う

腕には何やら身体と比べても明らかにバランスの悪い装甲
そして、背中には何かが回転しているように見え、何より、その全身が光り輝いていた

――その男、カズマは、まだ倒しきれていない鎧を纏った巨人を、静かに睨みつけていた

――少し遡り、エレン達が再び逃走を開始した直後

カズマ「さて、と……」

カズマの居る場所は巨人の口内、喉奥の口蓋垂を掴んでぶら下がりながらカズマは一息つく
先ほど巨人に食われかけた時、あえて抵抗するのを止めて大人しく奥へと入っていた

カズマ(こじ開けんのも面倒だったからな…それに)

アレを見せ付けてやれば自分の身を守る為に行動する筈
危機的状況において人間はまず第一に自分の命を優先する
逃げなければどうなるか、良い見本を見せたのだ

最も、今回は例外中の例外、今までのカズマには無い状況だった
そんな思考を、ひとまず頭から追い出し、目の前の状況に意識を向け直す

カズマ「…一飲みに出来たからって調子に乗ってやがるな? 後悔させてやるよ、デカブツ…!!」

カズマが唸る、拳を握り締め、もう片手を離したと同時に背中の最後の羽に触れ、叫んだ

カズマ「抹殺のラスト・ブリットォォォォォッ!!!」

握り拳を思い切り喉の奥目掛けて突き立てた
破裂音を伴った衝撃と共に、巨人の体に大きな風穴が開く

カズマ「へっ、ざまぁみろ」

勢いのまま外へ飛び出したカズマの背後で巨人が崩れ落ちていく
確実に仕留めた、カズマは振り向かずに次の獲物を探していた



カズマ「…結構な数が入り込んでやがるな」

周囲を見渡すとあちこちで巨人が何かを追うように動いている

カズマ「…なるほど『エサ』を追ってるってわけか、気にいらねぇ…」

気に入らない、そう、この状況が、巨人の存在が、全てが気に入らない
普段のカズマなら別に知らない人間がどうなろうとそこまで気にはしなかっただろう
だが今は違う、この街で世話になった家族、彼らに襲い掛かってくる奴らが居る
ケンカの理由としてはそれで、それだけで十分だった

カズマ「テメェらが売った!オレが買った!だからテメェらをボコる!! 徹底的に、だ…!!」

周囲の倒壊した建物をアルター化し、カズマは歩き出す

カズマ「見せてやるよ…オレの、シェルブリットを…!!」

カズマは地面を殴りつけ、空高く舞い上がり周囲を見渡す
すると、前方に見える巨人が、今まさに女性を食おうと手に掴み持ち上げているところが見えた

まずはテメェだ、心の中でカズマは呟く

空中で羽を回転させ、カズマは一直線に加速しその巨人に向かっていった

女性「いやああああー!? はなせー!?」

女性がまさに食われる寸前、カズマの拳が巨人の、うなじを含めた首を吹き飛ばす

女性「きゃあああああ!?」

巨人が崩れ落ちる、女性は何が起きたかも判らず未だ悲鳴を上げていた

女性「ああああ……あ…ら…?」

カズマ「…おいアンタ、死にたくねぇならさっさと逃げろ」

唖然としている女性に向かってカズマが話しかける、
自分が助かったことも理解していないようだ、カズマの言葉でハッと我に返る
5mの巨体がゆっくりと倒れていったお陰で女性は怪我も無かったようだった

女性「あ、ありがとうございました…っ …っ!?」

どうやら助けてくれたらしい相手に礼を述べた後、声の相手の姿に気付き息を呑む
そんな女性の様子も気にせず、フン、とカズマはハナを鳴らして次の巨人を目指して飛んでいった

女性「な、なんだったの今の…人…? と、とにかく、逃げなきゃ…!!」





カズマは、片っ端から巨人を蹴散らしていた、一撃で1体、確実に仕留めていた
数は数えていないが、既に倒した巨人は10を超える

そんな最中、取りこぼしの1体を見つけた時に、ソイツが現れた
赤い身体に白い装甲を纏った鎧の巨人、ソレが門目掛けて走っていくのが見えた
下で大砲で抵抗していた兵士が逃げ始める、その先には、門があった

カズマ(あのやたらデカイのがやったように、入り口をぶち破るつもりか!?)

カズマ「させるかあぁぁぁっ!!」

巨人の足はかなりの速さだったが、だが、カズマが後れを取る事はない
カズマが更に力を込める、全身に金色の光を纏い、鎧の巨人へと一撃を見舞った

手は抜いていない、手応えもあった、だが、砕いた感触に違和感があった
カズマには確信があった、仕留め切れていないという確証が

カズマが睨みつけていると、巨人がゆっくりと起き上がる
身体の破損した鎧は、徐々に修復し始めていた

カズマ「へっ…硬てぇな、他の雑魚共より歯ごたえがありそうだ…!!」

カズマの顔がニヤリと笑う、強い相手が目の前に居る
手応えのありそうな獲物を狙う、狩人のような目で


カズマ(…しかしコイツ、他のデカブツと随分違うな)

カズマははっきりと違和感を感じていた、巨人の見た目だけではない、その行動に
さっきまで潰してきた木偶の坊とは違う、手応えを感じていた

鎧の巨人が起き上がる、明らかにカズマを警戒しているのが見て取れた

カズマ「来ないなら…こっちから行くぜ…!! シェルブリットォォォッ!!」

再びカズマが鎧の巨人に向けて突撃する
対する鎧の巨人は、カズマを殴り飛ばそうと腕を振り上げていた

ぶつかり合う互いの攻撃、反動で両者の運動エネルギーがそのまま跳ね返る

鎧の巨人「………っ!?」

カズマ「はっはっはっはっ!! そうだよ、これよ!! この位の手応えがなきゃなぁ!!」

大きく遠くに吹き飛ばされたカズマが、背中の羽根で勢いを殺し、空中で静止する


退避して遠巻きに見ていた兵士達が、目の前の光景に目を疑っていた
あるものは驚き、戸惑い、また別の者はその戦う勇姿を賞賛し、また己の無力さに落胆した

「なんだアレは…人間…? だが、空を飛んでいる…!?」

「…金色に輝く…まるで獣のようだ…」

「すげぇ…なんて強さだ…あの奇行種を圧倒してる…」

「…しかし、アレは我々の味方…なのか…?」

「さぁな、だがアレが戦ってくれているお陰でこの内門は破られていない…」

「お、俺は見てたぜ…あの金色のヤツが他の巨人も倒してるのを!」

「…あぁ、一般市民を逃がしてた」

「わ、私! アレに、アレに助けられました…!」

「…くっ、情けない…俺達は兵士だっていうのに…見ていることしか、出来ないのか…」




カズマは異形の巨体の動揺をはっきり感じていた
鎧の巨人は酷く混乱している、焦り、動きが鈍っている

カズマ「おい、まだか? もったいぶってちゃ日が暮れちまうだろうがァ!!」

鎧の巨人「………ッッ!!!」

鎧の巨人が、カズマの挑発に乗って殴りにかかる

カズマ「へっ!! おっしゃ来い!! テメェの全力を見せてみろ!!」

走って向かってくる鎧の巨人、対するカズマも右腕を構え力をこめる
展開された右腕の装甲に、エネルギーが集まり収束していく

カズマ「シェルブリット・バースト…ッ!!!」

羽根を回転させ、向かってくる鎧の巨人に向かい、カズマも急加速する

カズマ「輝け…もっとだ、もっと…!! もっと輝けぇぇぇええぇぇぇぇぇッ!!」

互いが互いへと勢い良く向かっていく、双方が必殺の、渾身の一撃を繰り出す

カズマと鎧の巨人の拳がぶつかり合う、凄まじい衝撃波が周囲を襲う
その衝撃波は高台に非難していた兵士達の方にも届いていた

力と力のぶつかり合い、単純な物理的な衝撃だけではない
すさまじいプレッシャーとなって見ている者達を圧倒した

一瞬拮抗したかに見えた互いの一撃だったが、鎧の巨人の拳が耐え切れず砕け散る

そのまま顔面ごと打ち砕こうと突き進む、が
鎧の巨人も最後の抵抗とばかりにカズマの拳目掛けて頭突きを繰り出した

カズマの拳と鎧の巨人の額が激突し、再び衝撃波が巻き起こる
それと共に鎧が砕け散るかと思われた次の瞬間、それは起こった

遠巻きに見ていた兵達が慌てている
「しょ、衝撃がくるぞ!?」「まずい、アンカーを打ち込んで備えろ!!」
「な、なんなんだありゃぁ!?」「知るか!! 吹き飛ばされたくなきゃしがみつけ!!」


カズマ「クソッ…!? またこれかよ!?」

そうだ、思い出した…野郎との喧嘩でケリが付く前に、コイツが起きて…

光の柱にカズマの身体が飲み込まれていく
同時に、鎧の巨人はその身体をその衝撃で以って砕かれた

その現象は数十秒間続き、光の柱の消失と共に収束していった

暫くして残ったのは、光の柱によって巻き起こった瓦礫の山と
煙を上げて朽ちていく、鎧の巨人の無残な姿だけだった…

―――兵達のいる場所から離れた別の高台


少年「……なんてことだ…彼が、負けた…?」

少女「…! …どうしよう…兵士に連れて行かれちゃう…!」

少年「…だめだ、助けに行けない、僕達はまだ正体がバレる訳には…」

少女「…見捨てるっていうの…!? 今からなら私が行けば…」

少年「…駄目だ!さっき力を使い過ぎてる…とにかく機会を窺うんだ…彼を助け出す為に…」

少女「…アイツにはアレがあるから、殺されたりはしないだろうけど……何年かかるだろうね…」

少年「…判らない…だけど、僕らでやるしかない…僕達2人で、3人分になるんだ…」

少女「…アイツの代わりも…出来るのかな…私達に…」

少年「出来る出来ないじゃない…やるんだ…僕達、いや、"俺達"で…!」






カズマ「…チッ…またここか…」

?「やっとこっちに戻って来たか、カズヤ」

カズマ「カズマだッ! やっぱまた出やがったな!! 変なトコに叩き落しやがって…!!」

?「おいおい、余計な抵抗をするもんだから落とす場所がズレたんだろうが?」

カズマ「知るか!! …テメェにも借りを返さねぇとな? 残留…なんだったか忘れたが」






カズマ「…クーガー!! ストレイト・クーガー!!!」

はい、以上が前編となります



後編はいつになるやら…ちょっと今時間がないので

一応、質問とかあれば答えられる範囲で答えます
けどこれ読んでる人居るのかな、まぁいっか

では、後編書き溜まり次第投下して行きたいと思います

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           r‐、    Vヽ:.:.:.:.:|:.:./        lノ/  〈     保守してあげません
    __      |  l    く  ` ー┴'      仁ソ     i
    〈  \ー-、 l  |    └==テ‐ァ‐ヽ   「  >‐-、〈ト、

    _ゝ、 \‐ヽト  ヽ    r┴ィ´      ノ /   /ヘヘ\
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