キョン「朝倉、手を離してくれないか? 帰れないじゃないか」(364)

 

朝倉「ふふっ、嫌」

キョン「嫌ってお前な……」

朝倉「だって離したらキョン君帰っちゃうから」

キョン「そりゃあもう夕方だしな。良い子はお家に帰る時間だ」

朝倉「私、悪い子だもの。だから……嫌」

ギュッ

キョン「……とにかく、離してくれ」

キョン「レイジングストォーム!」

朝倉「お父さんごめーん!!」

キョン「ほら、離してくれ」パッ

朝倉「あ……」

キョン「ふう。じゃあ、また明日……」

朝倉「……」シュン

キョン「そ、そんな子犬みたいな目で見つめられてもだな、困る」

朝倉「お願い。今日は……手だけだから……」

キョン「今日は?」

朝倉「うん……」

キョン「明日は?」

朝倉「……」

朝倉「腕……かな?」

キョン「日に日に範囲が広がっていくのか?」

朝倉「ふふっ、明後日は一気に広がる、かもね」

キョン「なんだよそれ」

キョン「駄目だな。却下」

朝倉「どうしてよ?」

キョン「明後日には何をされるかわかったもんじゃないからだ」

朝倉「何かしてほしいの?」

キョン「どうしてそうなるんだ! とにかく……範囲を広げるのは禁止だ」

朝倉「じゃあ、手は許されている範囲なのかな?」

キョン「まあ、今日だけで長い時間握っていたからな。許さざるを得ない」

朝倉「そうなんだ……ふふっ」

キョン「?」

朝倉「じゃあ明日から、その手は私の自由にしていいのね?」

キョン「なんでそうなる」

朝倉「だって許してくれるって……」

キョン「それはさっきまでの事だ。明日から俺の手を? バカな事を言うなよ」

朝倉「……」シュン

キョン「いや、だからな……」

朝倉「……」シュン

キョン「そ、それに手なんか自由にした所でだな、何があるわけじゃないだろ? だろ?」

朝倉「……何があるわけじゃないなら、自由にしていい?」

キョン「今日みたいに家に呼び出して握るのは無しだぞ。それでもいいなら、いいが」

朝倉「じゃあ……決まりね」

キョン(手を自由になんて……変な朝倉)

朝倉「明日から。約束だからね?」

キョン「あ、ああ……」

朝倉「家に呼んだり、放課後の時間は使わせたりしないから安心してね?」

キョン「まあ、それなら」

朝倉「また明日ね。キョン君」

次の日

キョン「昨日は、何だか変な一日だっな。朝倉に呼び出されて手を握られて……自由にして、なんて」

キョン「ま、深く考えても仕方ないか」

朝倉「そうよそうよ」

キョン「うおっ!」

朝倉「おはようキョン君」

キョン「い、いきなり声を掛けないでくれ。心臓に悪い……」

朝倉「心臓には興味ないの。用があるのはこっち」ギュッ

キョン「え……?」

朝倉「さ、行きましょ。この時間だと遅刻しちゃいそうよ?」

キョン「ま、待て朝倉。何で朝から手を繋いで登校せにゃならんのだ!」

キョン「こ、こんなまるで高校生カップルみたいな……」

朝倉「ふふっ、ただ手を握って学校に向かってるだけよ? だからカップルってわけじゃないわよ」

キョン「本人達はそういう意識だとしてもだな……ま、周りの目がな……」

朝倉「学校着いてもすぐには離さないわよ? 何たって自由ですもの」クスッ

キョン「……勘弁してくれ」

朝倉「ただ手を引っ張って歩いているだけだから、恥ずかしくないわよ?」

キョン「だから、それを知らない周りがだな……」

朝倉「ふふっ、話してたらあっという間に学校だね」

朝倉「おはよう」ガラッ

国木田「あれっ、朝倉さんが遅刻ギリギリとは珍し……」

キョン「……」ギュッ

国木田「……ああ」

キョン「その優しい目付きは止めてくれ国木田!」

国木田「僕はまだキョン……いや、二人に対して理解はあるつもりだけど……」

キョン「り、理解とかじゃなくてな、これには深い理由があって、その……」

国木田「あははっ、それは優しくない目付きをした人間に話してあげたら?」

谷口「やあ……おはようキョン君」

ハルヒ「朝から、随分楽しそうじゃない」

キョン「……」

朝倉「じゃあ、また後でね」パッ

キョン「あ……」

谷口「さて、朝から校舎裏と言いたい所だがもう授業が始まってしまう。そうだねキョン君?」

キョン「谷口、そんな口調はお前らしくないぞ?」

谷口「遅刻ギリギリのバカップルに言われたくないわい!」

キョン「バ! カ、カップルなんかじゃないぞ。ただ手をちょっと貸しているだけというかだな、うん」

ハルヒ「何よその、イヤらしい言葉回しは」

キョン「じ、事実だから仕方ないだろ?」

キョン(確かに説明でどうにかなる状況では無いが……)

谷口「と言うわけで、昼休みに会議開くからな」

ハルヒ「覚悟しなさいよ」

キョン「何の会議だよ! ……国木田、なんとか助けてくれ」

国木田「僕は、中立な考えかな。話も聞きたいけど踏み込みすぎるのも、って感じだし」

キョン「……」

谷口「よし、じゃあ昼休みになったら……!」

朝倉「キョン君?」

キョン「あ、朝倉?」

朝倉「お昼休みの約束、忘れないでね?」

キョン(や、約束? 何かあったっけか? また手の事か? それとも別の……)

他キャラはアクセント程度で。



谷口「……先約が入っていたか」

朝倉「ふふっ、ごめんね?」ニコッ

谷口「ま、まあ今日の所は彼女の笑顔に免じて許してやるぞキョン!」

キョン「その彼女って単語は、呼び方の一つとして使ってくれよ。頼むから」

国木田「彼女が彼女だもんね」
キョン「紛らわしいな……彼女なんかじゃないんだ」


谷口「……ま、オジャマは退散しようぜ」

国木田「うん。また後でねキョン」

谷口「ほら、涼宮も」

ハルヒ「……」プイッ

キョン(怪訝な表情をしながら、ハルヒは去ってしまった)

キョン「なあ、朝倉。約束なんかしてたか?」

朝倉「ただ手の事をもう一回言いに来ただけよ。困ったキョン君の顔が見えたから……」

キョン(結果的に助けられたのか?)

キョン「……って! 昼休みにも手ってもしかして」

朝倉「学校にいる間は、自由にしていいって」

キョン「ま、待て待て。さすがに昼休みに手を繋いで過ごすだなんて、そんなバカップルみたいな……」

朝倉「ふふっ、手を繋ぐだけが自由じゃないでしょ?」

キョン「……ん?」

昼休み

朝倉「はい、あ~ん」

キョン「……」スッ

朝倉「んっ」パクッ

朝倉「……美味しい」ポンポン

キョン「何で俺が朝倉にわざわざアーンして食べさせなきゃいけないんだよ……」

朝倉「全部食べさせてくれなくていいのよ? 本当にたまに、アーンしてくれれば」

キョン「生憎、手の使用権はそっちにあるからな」

朝倉「それもそうね。次はそのミートボールがいいな」

キョン「……はいはい、ほら」

朝倉「あ~……んっ」パク

朝倉「やっぱり美味しい」

キョン「それは結構」

朝倉「はい、キョン君もあ~ん」

キョン「お、俺はいいよ」

朝倉「遠慮しないで。はい、あ~……」

キョン「い、いいってば!」

朝倉「……」シュン

キョン「ま、またそんな目で……」

谷口「食べてやれよーバカップル」

キョン「遠くの席から、棒読みで野次を飛ばすな!」

朝倉「……」ジッ

キョン「……ハァ、わかったよ。ほら、あー」

キョン「ん……」モグモグ

朝倉「どう?」

キョン「気持ち、美味しい気がする」

朝倉「よかった。お弁当がキョン君の口に合ってくれて」

キョン「そう言えば、弁当は朝倉の手作りか?」

朝倉「うん、手料理」

キョン「なんだか手が沢山だな」

朝倉「手が付くと幸せが増える気がするの」

キョン「そんなもんか?」

朝倉「……ごめん。何となく、思い付きで言っちゃった」

キョン「でも美味しかったよ、朝倉の手料理」

朝倉「また明日も作ってきていい?」

キョン「俺にそれを聞くのか?」

朝倉「ね、いいかしら?」

キョン「……ああ、それでいい」

朝倉「やった。キョン君のお弁当もまた食べさせてね?」

キョン「これも手の契約になるのか」

朝倉「繋ぐだけが、手じゃないから……ね?」

キョン「まあ、約束した手前な。それに、周りの視線も段々慣れてきたしな」

朝倉「人間、慣れちゃうものよ?」

キョン「だな……っと、もう昼休みも終わりだな」

朝倉「ね」

キョン「……放課後は、どうするんだ?」

朝倉「活動の邪魔をしたり、家に来てもらう事は無いから、いつも通りかしら?」

キョン「そうか。じゃあ俺は部活に行くよ」

朝倉「ええ、わかったわ」

キョン「なかなかにハルヒの言動が怖いがな、ははっ」

ハルヒ「問題起こさなきゃ何でもいいわよ」

キョン「うおっ! い、いきなりなんだよ……」


ハルヒ「名前が聞こえちゃったから、話し掛けただけよ。部活に私情を挟まなければ良し。それだけ」

キョン(私情って、そんなに重たい活動してるわけじゃないだろうに……)

ハルヒ「今日は部活来るんでしょ?」

キョン「ん、ああ俺は行く。朝倉は関係無しだ」

ハルヒ「よろしい」

キョン(……まあ、ご機嫌ナナメなハルヒよりはいいのかな?)

朝倉「ふふっ」

キョン「王手」

古泉「あっ」

キョン(という間に部活の時間も終わってしまった)

ハルヒ「今日はもう終わりね。私、先に帰るから戸締まりお願いね」バタン

みくる「私も、今日はお先に失礼しますね」

キョン(ついでに帰るにはいいタイミングか)

キョン「じゃあ、俺も帰るかな。またな二人とも」

長門「……」コクッ

古泉「ええ、お気をつけて」

キョン「さて、のんびりと帰るかな、っと……?」

朝倉「あ……」

キョン「あ、朝倉? こんな下駄箱前でどうしたんだ?」

朝倉「……」

キョン「ん? 俯いてちゃわからんぞ。何かあったのか?」

朝倉「手……」

キョン「手は寄り道しない約束だろ?」

朝倉「寄り道なんてしないわよ。ただキョン君の手にくっついて、帰るだけ」

キョン「でも寄り道は……」

朝倉「だから、本当に帰るだけ。それだけ……」ギュッ

キョン「ま、まあ、それなら別に……いいけどさ」

朝倉「本当に? よかった、断られるかと思ってたわ」

キョン「せっかく待っててくれたのを、一蹴するのも悪いしな。さ、行くか」

朝倉「うん」

ギュッ

朝倉「あ、キョン君キョン君。私アイスが食べたいな」

朝倉「あと、明日のお弁当のために買い出ししないと」

朝倉「喫茶店にでも寄ってく? あ、でも喫茶店だとアイスよりパフェになっちゃうかなあ~」

朝倉「でも、パフェもいいわよね? ね?」

キョン「なあ朝倉。さっきまでのシリアスな雰囲気はどうしたんだ」

朝倉「ん? 何がかしら?」

キョン「何が、帰るだけだから、だよ!」

朝倉「ふふっ。せっかく学校が終わったんですもの。楽しまないと損でしょ?」

キョン「はあ……やれやれだよ全く」

カランカラン

キョン(喜緑さんが今日はいませんように。いませんように)

喜緑「あ、いらっしゃいませー」

キョン(いたよ……てか何でわざわざこの喫茶店なんだよ……)

朝倉「二人です」

喜緑「……」チラッ

キョン(これには深い理由がありましてね、ええ。という意味で首を振ればその生暖かい視線は解除してもらえるだろうか?)

フルフル

喜緑「……」

喜緑「……ふふっ、二名様ご案内致します。こちらのお席にどうぞ」ニコニコ

朝倉「はーい」

喜緑「こちらメニューになります。ごゆっくりどうぞ~」ニコニコ

……

キョン(他人向けの営業スマイルと、暖かさに溢れた目……うん、ありがとう喜緑さん)

キョン(何にお礼を言ったかは、知るかそんなの)

朝倉「綺麗な店員さんだったわね」

キョン「……そうだな」

朝倉「でもどこかで会った気もするわね」

キョン(そりゃあ、学校にいる人だからな。見覚えはあって当然だ)

朝倉「……ま、いっか。何食べる?」

キョン「そ、そうだな。まあ夕食前だから軽く……ん?」

喜緑「……じーっ」ニヤニヤ

キョン「……」

キョン(ああ、厨房からよく見えちゃう席なのね、ここ)

キョン(あの人も意外と悪だな……)

朝倉「んー、イチゴ……プリン……チョコ……」

キョン「悩んでるのか?」

朝倉「チョコパフェかイチゴパフェ……どっちにしようかな?」

キョン「二つ頼めばいいじゃないか」

朝倉「パフェ二つ何て食べられないわよ。それにそんなに食べたら太っちゃうし……」

キョン「全然痩せていると思うがな」

朝倉「あら、ありがとう。でも女の子は気にしちゃうのモノなのよ」

キョン「そんなもんかね」

朝倉「んー、どっちにしよ」

俺「じゃあ俺がチョコパフェ頼むからお前イチゴパフェ頼めよ」

俺「二人で分けあえっこしようぜ」

喜緑「お決まりですか?」

朝倉「んー……イチゴパフェかチョコパフェ」

キョン「そんな注文の仕方があるか」

喜緑「その二つで迷ってるんですか?」

キョン「……まあ。おい朝倉、早く決めちまえよ」

朝倉「ん。そう言えばキョン君は?」

キョン「俺は何か飲み物でもな。まあ、特に迷ってはいないさ」

喜緑「それなら、彼氏さんがどちらか一つ頼まれては如何ですか?」

キョン「はい?」

喜緑「ふふっ」ニコニコ

喜緑「それで半分こすれば万事解決です」

朝倉「あ、いいですねそれ。じゃあ、チョコとイチゴパフェ一つずつ」

喜緑「かしこまりました~」

キョン「ちょ、ちょっと待った」

喜緑「ふふっ、注文取り消せないんですよ。ごめんなさいね」

キョン「そんな喫茶店があるかっ!」


朝倉「えへへっ、楽しみだなー」ニコニコ

喜緑「ふふっ、喜んでもらえてよかったですね」ニコニコ

キョン(この笑顔を見てると……バイトしてる事をバラしてしまいそうになるな)

キョン「やれやれ……」

喜緑「はい、チョコパフェにイチゴパフェになります~」

朝倉「わ、えへへ。おっきい~」

キョン(心なしか、量が多い気がする。喜緑さんのサービス精神だろうか)

喜緑「ごゆっくりどうぞ」


朝倉「じゃあ、いただきます」パクッ

キョン「食べ始めるの早」

朝倉「ん、ん……イチゴ……美味しい」

キョン「だらしないくらい、満面な笑みだな」

朝倉「えへへ~」

朝倉「だって美味しいんだもん。キョン君も食べてみて? ほら、あ~ん」

キョン「ん……」モグモグ

朝倉「美味しい?」

キョン「ああ、美味いな」

朝倉「えへへ。じゃあ、そっちも食べさせて?」

キョン「……ほら」

朝倉「あ~ん……んっ」モグモグ

朝倉「チョコ、甘くていい感じ……」

キョン「笑顔ばっかだな。そんなに美味しいのか」

朝倉「今のはキョン君が食べさせてくれたから、もっと美味しく感じただけよ」

キョン(そんなサラリと言うなよ)

喜緑「くすっ……」

キョン(あの人もしっかり聞いてるよおい)

喜緑「はい、お会計ちょうど頂きます。ありがとうございました」

朝倉「さ、帰りましょキョン君

キョン「ん、ああ」

朝倉「あ、外雨降りそう。行きましょ?」

キョン「……」チラッ

喜緑「……ふふっ」バイバイ

キョン「そう、だな」

カランカラン


喜緑「ありがとうございましたー」

キョン「どうする。買い物していくのか?」

朝倉「ん……買い物は中止。今は早めに帰りましょ」

キョン「そうか。じゃあマンションまで送ってくよ」

朝倉「ううん。キョン君に寄り道させるのは悪いから、ね」

キョン「その口が言うか」

朝倉「えへへっ。だから、キョン君の家までくっついていくの。もちろん手繋ぎながら」

キョン「家まで?」

朝倉「それで、玄関で手とバイバイするの。また明日、って」

キョン「もう何でもいいさ」

朝倉「ふふっ、じゃあ行きましょう。はい」スッ

キョン「ん」ギュッ

朝倉「パフェのせいかな。なんかキョン君の手、温かいや」

キョン「俺もそんな気がするよ」

キョン「もう着いちまったな」

朝倉「話しながらだとあっという間ね」

キョン「だな。じゃあ、また明日……」

朝倉「……」ギュッ

キョン「朝倉?」

朝倉「ん……」ギュッ

キョン「離してくれないか?」

朝倉「……」

キョン「帰れないじゃないか」

朝倉「嫌……」ギュッ

キョン「朝倉……」

朝倉「もうちょっとだけ、ね」


キョン「……ああ、いいよ」

朝倉「ありがとう……」ギュッ

キョン「ああ」

帰り道

朝倉「結局、あれからずっと手を握ってて……夕陽が落ちるまで一緒にいて……」

朝倉「昨日も今日も長い時間繋がっていたわよね」

スタスタ

朝倉「なのに……どうしてこんなに虚しいんだろ」

朝倉「好きな人と一緒に過ごせて、遊んで……ワガママだって聞いてくれる」

朝倉「でも何だか自分がバカみたい」

朝倉「どうしてかな。わかんないや」

朝倉「パフェはとっても美味しかったけど……やっぱり、わからないや」

ぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

マンション

朝倉「……っていう感じでね」

長門「ふーん」

朝倉「幸せなはずなのに、何だか満たされない感じなのよ」

長門「そう」

朝倉「一緒にいた時間は長いのに、ね」

長門「……」

長門「それは多分、自分自身が欲しいモノを貰っていないから。満たされないのだと思う」

朝倉「欲しいモノ?」

長門「手を握る。食事を共にする。一緒に寄り道をする……これが今日の主」

朝倉「そうね」

長門「満たされないのは、心がこれ以外の刺激を求めているから……だと思う」

朝倉「ん……」

長門「気持ちの安心、彼に認めて貰いたい。彼からの気持ちで何かを与えてほしい……」

朝倉「あ、どっちかと言ったらそんな感じかも」

長門「琴線に触れた?」

朝倉「……うん、少しだけ見つかったかも」

長門「そう」

長門「これからどうするの?」

朝倉「ん……」

長門「彼は優しいから、大抵の事は受け入れてくれるはず。恋愛とは別の意味で」

朝倉「そう、よね……」

長門「このまま?」

朝倉「今はまだ、このまま。まだ手しか……許されてないんですもの」

長門「そう」

朝倉「だから、今はちょっとゆっくり。少し離れる事もあるかも」

長門「ゆっくり考えるといい」

長門「今日はもう休む?」

朝倉「そうね。聞いてくれてありがとう、長門さん」

長門「……」コクッ

朝倉「あ、お願いついでにもう一つ……」

長門「何?」

朝倉「一緒の布団で寝てもいい?」

長門「……構わない」

朝倉「ふふっ。じゃあマクラ持ってこないと」

長門「……」コクッ

朝倉「じゃあ、おやすみなさい」

長門「おやすみ」

朝倉「……」

長門「……」

朝倉「長門さん」

長門「何?」

朝倉「手、握ってみてもいい?」

長門「言われると思っていた」

朝倉「あははっ、やっぱり?」

長門「構わない」

朝倉「うん、ありがとう。じゃあ……」ギュッ

長門「……」キュッ

朝倉「うん……安心する」

長門「そう」

朝倉「小さくてスベスベしてる……綺麗な手」

長門「……」キュッ

朝倉「落ち着く……」ギュッ

長門「……」

朝倉「ねえ長門さん」

長門「……」

朝倉「長門さん?」

長門「スー……スー……」

朝倉「寝ちゃったみたい」

朝倉「おやすみ、長門さん」ギュッ

長門「んー……」ギュッ

朝倉「握り返しちゃって、可愛い」クスッ

長門「スー……」ゴロゴロ

朝倉「ん?」

長門「スー……」ギューッ

朝倉「……ふふっ、長門さんに捕まっちゃった」

長門「んん……」ギュッ

朝倉「まるで赤ちゃんみたい」

長門「クー……クー……」ギュッ

朝倉「ふふっ、よしよし」ナデナデ

長門「スー……スー……」

朝倉「……」

朝倉「今は、隣に彼女がいるから寂しく無い」

朝倉「でも気持ちがキョン君を忘れてるわけじゃなくて……側に誰かがいる安心感を求めているって言うか……」

朝倉「今日のモヤモヤも、多分そんな感じよね?」

長門「んっ……」ムニムニ

朝倉「……甘えん坊」ナデナデ

長門「ふふっ……」スヤスヤ

朝倉「おやすみなさい……」ギュッ

長門「ん……」ギュッ



長門「……ん」

朝倉「スー、スー……」ギュッ

長門「……」

朝倉「クー……」ギューッ

長門「……」ナデナデ

朝倉「えへへっ、キョン君が枕……」ムニュムニュ

長門「……」

長門「夢で会えるのは幸せ? それとも不幸せ?」

登校

朝倉「寝過ごしちゃった……今日は待ち伏せできないわね」

長門「待ち伏せ?」

朝倉「ふふっ、こっちの話」

長門「そう」

タタタッ

長門「ねえ」

朝倉「どうかした?」

長門「今は、どんな気分?」

朝倉「学校に行けばキョン君がいるから……楽しみな気分かしら」

長門「そう」

朝倉「今日は、特別手だけを繋ぎたいって気持ちじゃないみたい。昨日の長門さんのおかげよ」

長門「ゆっくり探せばいい」

朝倉「そうね……ありがとう」

長門「……」コクッ

朝倉「おはよー」

国木田「……あれ?」

谷口「お、今日は一人か?」

朝倉「え?」

国木田「キョンがまだ来てないんだよね。時間的にはもう来ているはずなんだけど」

谷口「てっきり、また手を繋ぎながら教室に入ってくるものとばかり思ってたぜ」

朝倉(キョン君が来ていない?)

国木田「……あ、チャイムだ」

谷口「遅刻だな」

朝倉(遅刻なら、まだいいけれど……)

朝倉(それから、朝のホームルームで今日は彼が休みだと言う事を聞いた。ちょっとした風邪らしい)

朝倉(風邪……)

朝倉「……」シュン


谷口「なあ、国木田。あの姿は落ち込んでると思うか?」

国木田「気にしてない様子ではないよね」

谷口「だよなぁ……」


朝倉(昨日パフェ食べさせちゃって体が冷えたのかな。それとも帰るのを遅くして玄関に立ってたから?)

朝倉(私のせいかな……)

昼休み

朝倉「ハァ……」

朝倉(このお弁当だって、食べて欲しくて時間無いのに一生懸命作って……)

朝倉(食べてもらいたかったな)

朝倉(今頃彼は布団の中かな?)

朝倉(……食欲無いや)

朝倉(お昼……みんな元気ね)

国木田「でね、この前話していた……」

谷口「ああ、あの話か」

ハルヒ「ちょっとアンタ達。暇ならパン買ってきてよ」

谷口「弁当食ってるのが見えないのか?」

ハルヒ「いいじゃない。お金は半分だけ出してあげるから」

谷口「いや、それもおかしい」

国木田「ははっ、キョンが休みだと大変だよね」

谷口「いい迷惑だ、全く……」

ハルヒ「文句言わないでさっさと行ってきなさい!」

朝倉(……)

「それでねー」

「隣のクラスの女子がさ」

「今日放課後どっか寄ってく?」


朝倉(ああ。彼がいない学校って、どうしてこんなに色んな人の姿が見えるようになるんだろう)

朝倉(見る人一人いないだけで、こんなに視界が広くなっちゃった)

朝倉(人はたくさんいるのに寂しいのは何でかな……)

朝倉(私、今は彼に会いたいみたい)キュッ

ピンポーン

……

キョン妹「はーい」ガチャッ

朝倉「あ、こんにちは」

キョン妹「おねえちゃん誰? ハルにゃんと同じ洋服着てる~」

朝倉「ハルにゃん? ……もしかして涼宮さん?」

キョン妹「そうだよー」

朝倉「ふふっ、ハルにゃんね。私、キョン君とハルにゃんのお友達なのよ」

キョン妹「そうなんだー。でもキョン君今風邪ひきコンコンなんだよー」

朝倉「寝たきり、とか?」

キョン妹「起き上がってるから元気にコンコンだよー」

朝倉「ふふっ、そう」

朝倉(とりあえず一安心……)

朝倉「ねえ、起き上がってるならお見舞いしても大丈夫かしら?」

キョン妹「大丈夫だよー」

朝倉「ふふっ、ありがとう。仲良くなった記念にこれあげる」

キョン妹「わー、チョコレートだありがとうー。えっと~……」

朝倉「朝倉涼子よ。よろしくね妹ちゃん」

キョン妹「わかった~。じゃああがってあがって」

朝倉「ふふっ、お邪魔します」

ガチャッ

キョン妹「キョンくーん」

キョン「おーいい所に来た。水持ってきてくれ水」ペラッ

キョン妹「本読んでるの~?」

キョン「ああ、布団に潜りながらの読書は心を豊かにするからな」

キョン妹「ゆたか~。お水持ってくるね~」

キョン「おう、頼んだぞ~」ペラッ

タタタッ

キョン「ふう……今日のご飯は何かなっと」ペラッ

キョン「あー、昼飯抜いたからマジ辛いわー」ペラッ

キョン「バナナ一本だけの食事って、病人かっての全く」ペラッ

朝倉「……」

キョン「体調が回復すると食欲がな。全く人間ってやつは~……」ペラッ

タタタッ

キョン妹「はい、お水持ってきたよ~」

キョン「おー。ここに置いといてくれ」ペラッ

キョン妹「は~い」カタッ

キョン妹「あれ、まだ座ってないのさくらさん?」

キョン「さくらって誰だよさくらって。野良ネコでも拾ってきたのか?」ペラッ

キョン妹「お見舞いに来たさくらさんだよ~。さくにゃん? さくらん?」

キョン「ネコがお見舞いしてくれるってか。ありがたいね、うんうん」ペラッ

キョン妹「だって~」

朝倉「へぇ……私ってネコだったんだ」

キョン「そうそう。お見舞いには野良ネコちゃんが恩返しのために来てくれて……て?」ピタッ

キョン妹「さくらさんにチョコレート貰ったんだよ~。お見舞い~」

キョン「ほ、ほう。そいつはよかったなあ……うん」

キョン妹「あ、今お茶持ってくるから待っててねさくらさん~」

朝倉「ええ、ありがとう妹ちゃん」

タタタッ

キョン「待って! ねえ待って!」ガタッ

朝倉「……」ジトッ

キョン「……や、やぁ」

朝倉「……」ツンッ

キョン「いやあ、さくらさんね……最初はわからなかったよ、うん」

朝倉「……」プイッ

キョン「だ、黙って見てたなんてズルいぞ朝倉。音もなくただ立ち尽くていたなんて……忍者か!」

朝倉「……」プイッ プイッ

キョン「往復プイプイ……よっぽど怒ったか……?」

……

朝倉「……ふふっ」クスッ

キョン「……!」

朝倉「ふぅ……本当に風邪ひいてたの?」クスクス

キョン「ひ、ひいてた」

朝倉「本当に~? ズル休みしてたんじゃないの~?」

キョン「いや、マジだって。朝は大変だったんだようん」

タタタッ

キョン妹「はい、お茶お茶~」

キョン「朝は大変だったんだよ。熱が急に出て。な、妹?」

キョン妹「学校行く前は苦しそうだったね~。帰ってきたら治ってたけど~」

朝倉「あ、そうだったんだ……」

キョン「昼まで寝てたら楽になってな。すぐに熱も引いたよ」

朝倉「治ったの?」

キョン「ああ、もう余裕だ」

朝倉「でも夜になったら風邪って悪化するわよ?」

キョン「そうなったら、早めに寝るさ」

朝倉「……漫画ばっか読んで夜更かししちゃダメよ?」

キョン「……気を付けます」

ピンポーン

キョン妹「あ、またお客さんだ。はーい」

トタトタ

朝倉「……」

キョン「……」

朝倉(さっきまでは妹ちゃんもいて軽い空気だったけど……)

朝倉(二人きりになると……何だか冗談も言えなくなるわね……)
ガサッ

朝倉「……あ、そうだ、これ」

キョン「ん?」

朝倉「お、お見舞い……時間無かったから……フルーツ缶だけど」

キョン「ミカンの缶詰め、か。ありがとう朝倉」


朝倉「う、うん。後ね……えっと……えっと……これ……」

キョン「……?」

タタタッ

タタタッ

キョン妹「お客さんだよー」

古泉「お邪魔します。いやあ、あなたが風邪と聞きましてね。こうしてみんなで一緒に……」

朝倉「……」

古泉「に……」

長門「……」

みくる「ふぁ……」

ハルヒ「あら、朝倉さん。来てたの?」

朝倉「え、ええ」

ハルヒ「ふふっ、クラス委員長ともなると色々大変よね?」

古泉「ああ、そう言えば……」

ハルヒ「ま、当の本人も元気そうだし。人数は多い方がいいわよね?」

みくる「と、とにかく元気そうでよかったですぅ」

キョン「え、ええ。おかげ様で」

キョン(会話、切られちまったな)チラッ

朝倉「今日は部活の帰りかしら?」

ハルヒ「帰りというより、これが活動ね。キョンのお見舞い」

古泉「たまにはこういうのもいいですよね」

長門「……これを」ガサガサ

ハルヒ「お茶とお菓子よ。感謝しなさい」

キョン「あ、ああ。ありがとうみんな」

古泉「しかし本当に元気みたいですね。もう完治したのですか?」

朝倉「私が来た時は、漫画読みながら野良ネコと遊んでたみたいよ?」クスッ

キョン「な、朝倉……なんで誤解される部分を率先して言うんだ!」

朝倉「本当の事だもん」クスクス

キョン妹「キョン君。朝はお熱たくさんあったんだよ~」

キョン「おお、よくできた妹……」

長門「……」

ハルヒ「前もちょっと言ったけど、活動をサボったりしなければ何でもいいわよ」

キョン「気を付けます……」

古泉「ふふ。安否も確認できた事ですし今日は帰りますか? 元気とは言え、長居しても悪いですしね」

ハルヒ「それもそうね。朝倉さんはどうするの? まだいる?」

朝倉「長門さんと……一緒に帰るわ」

ハルヒ「そう」

みくる「じゃあキョン君……ゆっくり休んで下さいね」

古泉「明日は学校でお会いしましょう」

長門「……」

ハルヒ「じゃあ、またね妹ちゃん」

キョン妹「またね~」

朝倉「あ、キョン君?」

キョン「ん?」

朝倉「ちゃんとご飯食べてね?」

キョン「ん、ああ。食べる食べる」

朝倉「ふふっ、じゃあまたね」

キョン「一気に人がいなくなると寂しいもんだな」

キョン「ま、どうせ明日は学校だ。すぐに……」

ポツン

キョン「ん……誰か忘れ物か? ハンカチに包まれた……」

スルスル

キョン「弁当箱? 確かこれは朝倉の……」

パカッ

キョン「中身もそのまま……」

朝倉『ちゃんとご飯食べてね』

キョン「……これ?」

キョン「オカズも昨日美味しいって言ったのばかりだしなぁ……」

グ~ッ

キョン「……うん。いただきます」

ガツガツ

キョン「米うま。海老フライうま」

キョン「……」ムシャムシャ

キョン「手料理ってだけで、こんなに美味くなるもんかな?」

キョン「それが不思議ってもんか」

キョン「……なあハルヒ。お前の求めるモノとは違うかもしれないけど」

キョン「不思議って意外と身近にあるものかもしれないぞ」

キョン「……ははっ、空の弁当箱抱えて何言ってるんだろうな」

キョン「美味しすぎて、味を覚えてねえや」

長門「一緒に帰ってよかったの?」

朝倉「うん。長居しすぎてもやっぱりね」

長門「そう」

朝倉「残って、みんなに何か言われるかなって少し考えちゃったのもあるけど……」

朝倉「気まずさとかね。でも最初の涼宮さんの言葉で周りと馴染めた気もしたから」

長門「あなたがそれでいいなら、いい」

朝倉「ありがとう、長門さん」

長門「……」コクッ

ピピピピピ

長門「携帯?」

朝倉「あ、メール……マナーにしてなかったみたい」

朝倉「……」

キョン『美味しかったよ、ごちそうさま』

朝倉「……」

朝倉「えへへっ……」

長門「……?」

朝倉「嬉しいなあ、こんなに早く食べてくれるなんて」

長門「何?」

朝倉「ふふっ、何でもないっ」

長門「そう……でも、今のあなたはいい表情をしている。昨日より満たされたような……そんな顔」


朝倉「うん。私今……すごい幸せみたい」

キョン『明日も弁当頼むよ』

朝倉(えへへ、メール保護っと……)

朝倉「ふふ……明日も、明日も……ふふ」ニヤニヤ

長門「ねえ」

朝倉「んー、何?」ニコニコ

長門「洗い物。お弁当箱出して」

朝倉「えー、お弁当箱なら……箱……?」

長門「そう。まだ台所に出ていない」

朝倉「明日の分の箱、よく考えたら無いや……」

長門「?」

朝倉「まだデパート開いてるわよね。うん」

長門「あの、お弁当箱を……」

朝倉「待ってて。すぐに買ってくるから」

ガチャッ

バンッ

長門「……」

長門「買う?」

……

朝倉「た、ただいま……」

長門「おかえりなさい」

朝倉「ふぅ……」

長門「買えた?」

朝倉「ギリギリで閉まっちゃった。スーパーも見たけど可愛いの無かったから……」

長門「そう」

朝倉「明日のお弁当どうしよう……予備の箱なんて無いし、でも作らないといけないし……」

長門「……」スッ

朝倉「え?」

長門「これ」

朝倉「これ、長門さんのお弁当箱……?」

長門「……」コクッ

長門「デザイン、雰囲気的にも似ている。これなら」

朝倉「い、いいの? でも明日のお弁当……」

長門「私はコンビニのお弁当も嫌いじゃないから」

朝倉「長門さん……」

長門「……」コクッ

朝倉「……ありがとうね。明日になったらちゃんと二つとも元通りだから」

長門「……」コクッ

朝倉「じゃあ、早速準備しないと。明日は何食べさせてあげようかしら」ニコニコ

長門「……」コクッ

昼休み

朝倉「はい、キョン君これ」

キョン「お、ありがとう朝倉。そう言えば弁当箱、大丈夫だったか?」

朝倉「うん。長門さんが貸してくれたから……平気」

キョン「そうか。これ、洗っておいたから。帰って一応中とか確認してくれ」

朝倉「うん、ありがとう」

キョン「じゃあ、早速……」パカッ

キョン「唐揚げにミニ春巻き……ポテトサラダ……結構凝ってるな」

朝倉「あまり同じすぎるメニューもね。お弁当だから凝って作れる部分もあるし……」

キョン「そんなもんか」

朝倉「そんなものよ」クスッ

朝倉「ね、食べて食べて。全部自信作なんだから!」

キョン「ん、全部か?」

朝倉「そうよ。もう、全部」

キョン「……朝倉、全部って、お前さんの昼食は?」

朝倉「え、あ……?」

キョン「……いや、これは弁当頼んだ俺が悪かったな。こっちも普通に用意しておくべきだったか」

朝倉「そ、そんな事ないわよ。ただちょっと……メールが嬉しかったから……自分のご飯の事なんて忘れて、それで……」


キョン「……」

朝倉「あ、次からはちゃんと作るから大丈夫よ? またお弁当箱だって買いにいくつもりだし!」

キョン「そうかい。まあ、早速食べるとするか?」

朝倉「うん。早く食べてみて?」

キョン「朝倉も一緒に食べるんだよ。ほら、あーんして」

朝倉「え……?」

キョン「弁当一つなんだから仕方ないだろ。ほら、食べさせてやるから」

朝倉「……」

キョン「ん、どうした。食べないのか?」

朝倉「さ、最初の一口目はキョン君に食べてもらいたいな~、って……」

朝倉「ほら、やっぱりそういう人に一番に食べてもらいたいって言うか……ね?」

キョン「ああ、確かに。じゃあ、いただきます」スッ

朝倉「ん? お箸?」

キョン「さ、頼んだぞ朝倉」

朝倉「……ふふっ。はいはい、あ~んして?」

キョン「あー」

朝倉「……美味しい?」

キョン「うん、美味い」

朝倉「昨日とどっちが美味しいかな?」

キョン「……どっちも好き」

朝倉「好き?」

キョン「あ、でも食べさせて貰ってる分今日のが美味いかも」

朝倉「……ふふっ。バカキョン」

キョン「よく言われる」

キョン「ごちそうさまでした」

朝倉「ふふっ、お粗末様。お腹いっぱいになった? 量的には半分だけど……?」

キョン「ああ。気持ちもいっぱいだ。何だか、不思議な感覚だ」

朝倉「そう、よかった」ニコニコ

キョン「明日も、また頼めるかな?」

朝倉「ええ、大丈夫よ。ちゃんと自分のも作ってくるから」

キョン「頼むよ」

朝倉「何かリクエストはある?」

キョン「……」

朝倉「ん?」

キョン「手料理なら何でもいい」

朝倉「長門さんの手料理でも?」

キョン「朝倉のが、いい」

朝倉「ふふっ、じゃあ頑張って作ってくるから」

朝倉「ただいま~」

長門「おかえりなさい」

朝倉「あら、今日は早いのね」

長門「いつもより少しだけ。むしろ遅いのはあなたの方」

朝倉「ふふっ。新しいお弁当箱……買っちゃった」

長門「そう」

朝倉「今日はありがとう。本当に助かったわ」

長門「それはよかった。ちょうど洗い物をしているから……全部出して?」

朝倉「うん。じゃあ……はい」ガサガサ

長門「……」コクッ

長門「……」カチャカチャ

長門「新しいお弁当箱……」ザーザー ゴシ

長門「私のお弁当箱……」ガチャ ゴシ

長門「そして朝倉涼子のお弁当箱……」パカッ

長門「……?」

長門「……」

朝倉「……えへへ。朝倉のがいい、だなんて……」

朝倉「そんな事言われたら頑張っちゃうわよ、も~」ジタバタ
朝倉「明日は何作ろっかな~……」


朝倉「うん、幸せ……」バタバタ

長門「……バタ足してる」

朝倉「あれっ、どうかした?」

長門「……」スッ

朝倉「私のお弁当箱?」

長門「私にはこれを洗う事はできない」

朝倉「ああ、もうキョン君が洗ってくれたみたいだから水で流すだけでも……」

長門「拒否。あなたが洗って」スッ

朝倉「な、長門さん?」

長門「……」

スタスタ

朝倉「……どうしたのかな? 最近洗い物ばっか任せすぎたかしら?」

朝倉「箱、箱ね……」

パカッ

朝倉「……あれ?」

朝倉「小さいけど……手紙?」

カサカサ

朝倉「あ、キョン君から……私に?」

キョン『メールでも言ったけど、ごちそうさま。明日はウインナーと卵焼きがいいな』

朝倉「……」

朝倉「長門さん、これのために?」

朝倉「……」

朝倉「やっぱり今日は頑張っちゃう、かな?」

朝倉「あ、長門さんにも好きなオカズ聞かなくちゃ……何食べたいのかな? ふふっ」

朝倉「明日のお弁当も喜んでくれるかな?」

朝倉「キョン君が食べてくれるだけでも嬉しいのに」

朝倉「毎日一緒にご飯食べる事ができて、お弁当頼まれて……」

朝倉「ふふっ、本当に不思議な気持ち」

朝倉「……」

朝倉「美味しいなあ。ご飯て美味しい……」

朝倉「明日もキョン君が美味しいって言ってくれますように……」

朝倉「おやすみ、キョン君」

ちょっと外出。二時間以内

授業中

朝倉「……」ソワソワ

朝倉(何だろう、早くお昼になって欲しくて落ち着かない……)

朝倉(早く美味しいって聞きたいなあ……)

昼休み

キョン「さて、今日のお昼は何かな、と」

朝倉「やっとお昼ね~」

キョン「最近はこの時間が更に楽しみでな」

朝倉「えへへ、嬉しい……」


キョン「でもこのお弁当もあと一週間で終わりか」

朝倉「あ、夏休み……?」

キョン「休み中は食べる機会も無いよなー」

朝倉「そ、そうね……」シュン

朝倉(夏休みかぁ……考えもしなかったわね)

キョン「まあ、今は目の前の食事だ」

朝倉「そ、そうね」

キョン「……お、ウインナーに卵焼きだ」

朝倉「おまけで肉団子とウサギさん林檎も」

キョン「ああ、やっぱり美味そうだ」

朝倉「せっかくのリクエストですもの。気合いも入るわよ」

キョン「じゃあ、いただきます」

朝倉「ふふっ、召し上がれ」

キョン「……」モグモグ

朝倉「……」ニッコニコ

キョン「すごい見てるな」

朝倉「美味しそうに食べてくれるなー、って」クスッ

キョン「正直、手が止まってくれないくらいだ」

朝倉「まあ……」

キョン「しかし美味いな。なんでこんな味をしてるんだろうな」

朝倉「別に特別な作り方はしてないわよ。丁寧には作ってるつもりだけど……」

キョン「同じ材料で同じように作ってもこの味にはならないんだろうな」

朝倉「そんなものかしら?」

キョン「多分だけどな。だからこそ、夏休みには食べられないとなると余計に残念だ」

朝倉「うぅ……」

キョン「……ほら、いいかげん食べちゃえよ。昼休み終わっちゃうぞ」

朝倉「……食べさせてくれないと嫌」プイッ

キョン「拗ねるなよ、ほら。口開けて」

朝倉「……あ~ん」モグモグ

朝倉「……おいし」

朝倉「ただいまぁ……」

朝倉「今日は長門さん、まだみたいね」

朝倉「ふぅ……夏休みかぁ」

朝倉「長い休みは嬉しいはずなのに、何でかな」バタバタ

朝倉「お弁当食べてもらえないだけでこんなにモヤモヤするものかなぁ」

朝倉「んー……」

朝倉「……」

朝倉「スー、スー……」

次の日

朝倉「……しかも、今日と明日は休日」

朝倉「はぁ……」

長門「出掛けてくる」

朝倉「あ、いってらっしゃい。今日は遅いの?」

長門「SOS団の活動だから、多分」

朝倉「そう……」

長門「それじゃあ」

バタン

朝倉「活動かぁ。私が参加するわけにもいかないし、お弁当も……さすがにね?」

朝倉「ハァ……どうしよ」

学校最終日

朝倉「今日は、午前だけでお弁当も無し……」

キョン「そう落ち込むなよ。残念なのは朝倉だけじゃないんだ」

朝倉「キョン君~……」フニュ

キョン「完全にふやけてるな」

朝倉「一ヶ月って長いわよね」
キョン「意外とすぐじゃないか?」

朝倉「そうかな~?」

キョン「待ってればすぐさ。俺も楽しみにしてるからさ」

朝倉「キョン君がそう言うなら……」

キョン「じゃあ、体に気をつけて。またな朝倉」

朝倉「うん。バイバイ……」

マンション

朝倉「バイバイ、だって……」

朝倉「しばらくは挨拶もできないのよね」

朝倉「憂鬱ね。こんな夏休み、早く終わっちゃえばいいのに」

朝倉「……なんてね」

朝倉「明日から何をして過ごそうかしら?」

長門「ただいま」

ガチャン

朝倉「あ、お帰りなさい長門さん」

長門「……」コクッ

朝倉「活動、どうだった?」

長門「普通」

朝倉「そう……」

朝倉(その普通がとても羨ましいわ)

朝倉「んー……」

長門「不安?」

朝倉「姿が見えないから、ちょっとね。お弁当だって……ただ私が作ってたから食べてただけかもしれないし……」

長門「……」

長門「あんなに楽しそうにお弁当を作っていたのに?」

朝倉「嬉しい言葉も楽しい気持ちも沢山貰ったけれど……やっぱり会えないから」

長門「……」

朝倉「あ、でも……休みって事は逆に言えばいつでも会えるのよね?」

長門「……」

朝倉「うん、そうよ! 一緒にお出掛けすればいいのよね。じゃあ早速連絡を」

長門「……」スッ

朝倉「ん……長門さんのスケジュール帳?」

長門「SOS団の活動予定」

朝倉「……赤丸でビッシリなんだけど、何これ?」

長門「この丸が付いている日は全て活動日」

朝倉「ほ、ほぼ毎日じゃない!」

長門「八月の予定」ペラッ

朝倉「赤丸しかないんだけど……」

長門「最後の三日だけは連休」

朝倉「これ、本当に毎日集まるの?」

長門「変更がなければ」

朝倉「……元気ね」

長門「……」コクッ

朝倉「こんな予定じゃあ遊びに行く事なんてできないじゃない」

長門「遊びに行くには……時間的に厳しいかもしれない」

朝倉「ハァ……」シュン

長門「でもそれは、朝から昼間に描けての話」

朝倉「?」

長門「ラジオ体操もあれば川釣りもある。でも夜の予定は……今のところ花火大会だけ」

朝倉「つ、つまり?」

長門「夜は……彼も時間があるはず」

朝倉「よ、夜なら……!」

長門「体調的に、疲れて応えられない可能性もあるけれど」

朝倉「私が毎日会うのは厳しいかな……?」

長門「彼の天秤が傾いてくれれば、あるいは」

朝倉「……」

長門「会いたい?」

朝倉「うん、会いたい」

長門「……わかった。誘った時は一応教えて」

朝倉「あ、でも夜ってどこに遊びに行けばいいのかな? あんまり賑やかな場所には行けないし……」

長門「彼とどこかで遊びたいの?」

朝倉「んー、そういうわけじゃないかな。今は会いたいだけかも」

長門「……」

朝倉「ま、誘う時になったら考えるわよ」

長門「そう……」

朝倉「うん。長門さんのおかげで少し元気が出たわ。ありがとう」

長門「……」コクッ

長門「じゃあ、活動があるからこれで」

朝倉「うん、気をつけていってらっしゃい」

長門「いってきます」

朝倉「夜かぁ……」

朝倉「涼しいから食欲は出るかもしれないけど、ずっとご飯作ってあげるのも、ね」

朝倉「んー……」

朝倉「でも出かける場所も正直無いし……。恋人同士でもないから毎日会うなんて……」

朝倉「んー……」


朝倉「時間があっても意外と難しいのかも?」

朝倉「まあ、とにかく……明日から夏休みだもんね?」

二週間後

夜八時過ぎ

朝倉「全然時間なんて出来ないじゃない……」

長門「仕方ない。予定より拘束時間が長い」

朝倉「誘っても返事来ない事もあるし、邪魔になっても悪いし……」

長門「……」

朝倉「ハァ……」

長門「今日は?」

朝倉「今から遊ぶの? どうせ断られるわよ?」

長門「遊ばなくても……いい。会う事が大事」

朝倉「会う事……?」

長門「……」コクッ

夜九時過ぎ

キョン「ふいー。ただいまー」

キョン妹「おかえりキョン君~」

キョン「今日も……さすがに朝から晩まで動き回ってりゃ疲れるか……」

キョン「ハァ……もう寝る……」

キョン「……」

キョン「スー……スー……」

トタトタ

キョン妹「お客さんだよー」

ガチャッ

朝倉「お、お邪魔します……ご、ごめんねこんな夜中に」

朝倉「私は玄関で会えればよかったんだけど、妹ちゃんが大丈夫だって言うから……」

朝倉「……って、あら?」

キョン「スー……スー……」

朝倉「寝ちゃってる?」

キョン「スー……」

朝倉「もう、せっかく遊びに来たのに……帰っちゃうわよ?」

キョン「……」

朝倉「……なんてね?」クスッ

朝倉「アイス買ってきたけど、妹ちゃんに渡しておくからね?」

キョン「スー……スー……」

朝倉「寝顔、初めてかも……」

朝倉「可愛い……」プニッ

キョン「ん……」

朝倉「おやすみなさい。また今度メールするからね?」

朝倉「妹ちゃん。はいこれ」

キョン妹「わ、アイスだアイス~、ありがとう」

朝倉「ふふっ、虫歯に気をつけてね?」

キョン妹「は~い」

朝倉「じゃあ、またね」

キョン妹「うん、ばいば~い」

長門「……」

朝倉「お待たせ長門さん」

長門「話せた?」

朝倉「ううん、寝てた」

長門「残念……」

朝倉「いいのよ。まだ夏休みは残っているんですもの」

長門「ん……」

朝倉「さ、帰りましょ?」

長門「……」コクッ

朝倉「あ、帰りにコンビニ寄っていきましょ? 長門さんの分のアイス買わないとね」

長門「別にいいのに……」

朝倉「ダメ。わざわざ送ってくれたんだもの……お礼よお礼」

長門「……」

朝倉「ね?」

長門「……」コクッ

長門「……」パクッ

朝倉「美味しい?」

長門「……」コクッ

朝倉「ふふっ」

長門「あなたの分は?」

朝倉「私のはキョン君の家に置いてきちゃったから……また今度」

長門「……」スッ

朝倉「ん……?」

長門「あーんして」

朝倉「え、え?」

長門「いらない?」チラッ

朝倉「い、いる……」

長門「じゃあ、あーんして」

朝倉「あ、あーん……」パクッ

長門「美味しい?」

朝倉「イチゴ味……美味しい」クスッ

長門「……」

朝倉「もう一口」

長門「……」スッ

朝倉「あーん」パクッ

朝倉「あま……ふふっ」

朝倉「こんな夏休みも、悪くないかもね?」

長門「……」パクッ


朝倉「キョン君の事ばかり考えてたけど、長門さんと遊ぶ時間も無いのよね」

長門「……」コクッ

朝倉「しかも忙しいのに私に付き合ってくれて……ありがとうね」

長門「……」

朝倉「さ、明日のために寝ましょ?」

長門「……」コク

朝倉「今日は一緒に寝ていい?」

長門「構わない」


朝倉「ふふっ。じゃあ……おやすみなさい」

長門「おやすみ……」

……

キョン「……ん。あれ、俺寝てたのか?」

キョン「今日は確か……昼過ぎからの活動だったな」

キョン「まだ八時か……。寝てても罰は当たるまい」

カサッ

キョン「……?」

キョン「右手に……紙が貼ってある?

ペリッ

キョン「……」

朝倉『ちょっと遊びに来たけど、寝てるみたいだから帰るわね。時間ができたら遊びましょう? 朝倉涼子』

キョン「朝倉……? 来てたのか……。起こしてくれてよかったのに」

キョン「いや、起こしたけど起きなかったのか? ま、どっちでもいいか」ペラッ

朝倉『P.S お土産のアイスが冷凍庫にあるはずだから食べてね』

キョン「アイス、か……本当に好きだな朝倉も」

朝倉『あ……イチゴ味は食べちゃダメだからね?』

キョン「……はいはい。朝倉さんの分ってわけね」

キョン「目が覚めちまったな……起きるか」

タッタッタッ

キョン妹「あ、おはようキョン君。昨日ね、さくらさんが来てね~」

キョン「ああ、知ってる知ってる。しかし朝倉だけはちゃんと、さん付けで呼ぶんだな?」

キョン妹「大人っぽい人なんだもん~」もぐもぐ

キョン「まあ、見た目は確かにそうかもな。身長とか」

キョン妹「ね~。あ、冷凍庫にアイスがあるよ~」もぐもぐ

キョン「ああ、知ってる」

キョン「アイスアイス、と」ガサガサ

キョン「お、ちょっとした高級品じゃないか……えっと、バニラにチョコに……あれ?」

キョン「イチゴは?」

キョン妹「おいし~」もぐもぐ
【イチゴ】

キョン「……」

キョン妹「あげないよ~?」

【イチゴ】

キョン「……」

キョン「まあ、次会う時までに買っておけばいいのか?」

キョン妹「もぐもぐ」

昼過ぎ

朝倉「……」ズルズル

朝倉「一人で食べる素麺って味気無いものね」

朝倉「長門さん、お昼くらい食べていけばいいのに」ズルズル

朝倉「今日も夜まで一人……何しようかな?」

駅前

ハルヒ「みんないるわね?」

古泉「はい」

みくる「いますぅ」

長門「……」

キョン「あー……」

古泉「元気ありませんね? 寝不足ですか?」

キョン「いや、朝からちょっと気付かれしただけだ」

古泉「?」

ハルヒ「今日は隣町まで行くんだから、シャキッとしなさいシャキッと!」

長門「……」

ハルヒ「早速出発するわよ。電車に乗って移動よ移動」

ガタンガタン

キョン「ふぅ……」

古泉「本当に大丈夫ですか?」

キョン「疲れてるだけだよ。顔色はいいだろ?」

古泉「それはそうみたいですが……」

みくる「疲れたら、無理しないで言って下さいね?」

キョン「あ、ありがとうございます。朝比奈さん」

長門「……」

夕方

朝倉「……」ズルズル

朝倉「暑いと本当に素麺ばっかり」

朝倉「頑張って料理作っても誰も食べてくれないから……作る元気も出ないわ」

朝倉「ハァ……」

ガチャッ

長門「ただいま」

朝倉「あれ、長門さん? 随分早くない?」

長門「活動が早く終わったから」

朝倉「そうなの? 珍しいわね」
長門「……」

長門「行ってみる?」

朝倉「え?」

長門「彼の所。今はまだ明るいから」

朝倉「め、迷惑じゃないかしら?」

長門「アイスが置いてある事を大義名分にすればいい」

朝倉「アイスも長門さんの考えだったわよね……」

長門「……」コクッ

長門「行く?」

朝倉「……」

長門「違った。会いたい?」

朝倉「会いたい。話したい……」

長門「ん」

……

キョン「つ、疲れた……早めに帰れて助かった……」

キョン「しかし、長門がな……うん。あいつも疲れていたんだろうか?」

キョン「ま、久しぶりに時間ができたんだ。ノンビリと……」

ピンポーン

キョン「……」

トタトタ

トタトタ

ガチャッ

キョン妹「お客さんだよ~」

朝倉「だ、大丈夫かな?」

キョン「やっぱり朝倉か。なんとなく、そんな気はしたよ」

朝倉「お邪魔するわね」

キョン「ああ、適当に座ってくれ」

キョン「ふー……」グテー

朝倉「大分お疲れみたいね?」

キョン「おかげさまで」

朝倉「押し掛けちゃったけど、平気だった?」

キョン「こんなだらしない格好でいいなら」

朝倉「ふふっ、寝転がってる雰囲気も好きよ」

キョン「悪いな」

朝倉「ううん……会えるだけで嬉しいから」

キョン「ん……そう、だな」

朝倉「うん!」

バタバタ

キョン妹「キョン君アイスだよ~!」

キョン「あ」

朝倉「あ、ありがとう妹ちゃん」

キョン妹「えへへ~」

キョン「いやあ、本当によくできた妹だろ?」

朝倉「そうね。ちゃんと来客用にお茶菓子を持ってきてくれる、いい子よね」

キョン「そのよくできた妹が、朝倉さんのイチゴアイスをだな」

朝倉「そうみたいね」

キョン「妹に免じて許して下さい」

朝倉「それとこれとは別」

キョン「わかってるよ……だからこうやってわざわざコンビニに向かってるんだろ……」

朝倉「……ふふっ。困るキョン君の顔が見れたから、結構満足よ」

キョン「ハァ……ほら、着いたぞ」

キョン「さ、どれがいいんだ」

朝倉「ん~……」

キョン「やっぱりイチゴか?」

朝倉「キョン君が買ってくれるなら、何でも」

キョン「嬉しいけど、困る

朝倉「じゃあ、カラメルショコラ味」」

キョン「ああ。何でもいいさ」

朝倉「キョン君は?」

キョン「……水」

朝倉「帰りの水分?」

キョン「ああ。後ろに人を乗せるのは久しぶりだからな」

朝倉「ふうん?」

キョン「ほら、買ってくるぞ。商品くれ」

朝倉「あ、はいこれ」

キョン「やっと帰ってこられた……」

朝倉「夕焼けでも暑かったわねー」

キョン「水分が無かったら危なかったな」

朝倉「早くアイス食べましょ?」


キョン「そうだな。ふぅ……ただいま」

キョン「……」

朝倉「……」

古泉「お邪魔してますよ。いやあ、妹さんに案内されましてね。ここで待っていれば来ると」モグモグ

長門「……」モグモグ

キョン「それはいいんだが古泉。そのチョコアイスは?」

朝倉「長門さん、美味しそうなバニラアイスね」

古泉「妹さんが出してくれたんですよ。お二人はアイスを買いにコンビニに行ったそうですから、それで」

長門「……」コクッ

キョン「……気遣いができる、いい妹だろ」

朝倉「本当ね」

古泉「いやあすいませんね。お二人の物とは知らずに……この通りです」

長門「……」

キョン「まさか二人が来るとは思ってなかったからな。誰が悪いわけじゃないさ」

朝倉(長門さんはアイスの事知っていたのに……勧められるままに食べただけ?)

古泉「しかし、奪ってしまった事に変わりはありません」

キョン「まあ、そんなに気……」

長門「謝る」

キョン「ん?」

長門「何か形で謝らなければ、私達の気がすまない」

キョン「そ、そうは言ってもな……」

朝倉「ねえ長門さん。そう言えばどうしてここに?」

長門「それは……」

古泉「夏祭りの打ち合わせがありましてね。彼に電話をしたんですが出なかったので」

キョン「ああ、電話は置いていったからな」

古泉「急ぎでしたので、ついここまで来てしまいましたよ」

キョン「それで、妹にアイスを出された、とな」

キョン「ふむ……しかし謝ると言ってもな」

朝倉「そうよね……」

長門「……」ジーッ

古泉「アイス、買ってきましょうか?」

キョン「いや、そんなパシリみたいなマネは……」

長門「……」ジーッ

朝倉(長門さん……どうかした?)

長門「……」ジーッ

朝倉(な、何か言えって事?)

キョン「いやあ、やっぱり友人にそんな真似は」

朝倉「か、買ってきてもらうのがいいんじゃない?」

キョン「え?」

古泉「何でも買ってきますよ。長門さんの分も含めて、ね」

朝倉(こ、これでいい?)チラッ

長門「……」ジトッ

朝倉(ち、違うの?)

キョン「ま、まあ……そうだな。古泉が行ってくれるなら……」

朝倉「あ……や、やっぱり待って!」


キョン「え?」

古泉「?」

朝倉(えっと、えっと……)

長門「……」チラッ

朝倉(古泉君を見てる?)

長門「……」コクッ

朝倉(さっき話していた事は、アイスの事と……夏祭りの事?)

キョン「どうしたんだよ朝倉?」

朝倉「あ……お、お祭り……」

キョン「お祭り?」

古泉「夏祭りがどうかしましたか?」

朝倉(こ、これならどう……?)チラ

長門「……」

長門「夏祭りはSOS団で行く予定」

朝倉(あ、話してくれた……)

長門「それがどうかした?」

朝倉「あ、えっと……」

長門「……」

朝倉「か、かき氷が……食べたい……」

キョン「かき氷?」

古泉「確かに、アイスと同じで冷たい物に変わりはありませんが……」

長門「……」

古泉「当日、かき氷を買ってくればよろしいんですか?」

キョン「まあ、そんな感じ……」

長門「かき氷だけだと、足りない気がする」

朝倉「な、長門さん?」

古泉「確かに、謝る量がプラマイゼロでは気はすみませんね」

長門「その通り。他には?」チラッ

朝倉(ほ、他って……)

朝倉「クレープ……とか?」

長門「……」

朝倉(当たりだか外れだか、微妙な顔してるわね……)

長門「クレープは……時間が経つと味が変わる……」

朝倉「ダメ……?」

長門「買ってあげたいけれど、私達を使うと逆に無理」

朝倉(長門さん達を使うと……?)

長門「買いたいなら、二人で行かざるを得ないと思う」

朝倉「あ……」

キョン「ふむ、難しいもんだな」

古泉「そうですね。やはりアイスを多目に買って謝るという形で……」

朝倉「ま、待って! 私、クレープ買いたい……!」

長門「……クレープ」

長門「クレープだけ?」

朝倉「か、かき氷も」

長門「それだけ?」

朝倉「焼きそばとか、たこ焼きとか……買いたい物たくさんあるの」

長門「一人でそれを持つのは、大変」

古泉「ああ、荷物持ちくらいならこの僕が……」

長門「……」ジトッ

古泉「……」

古泉「僕より彼の方が適任でしょう。ええ」

長門「……」

キョン「ん? ん?」

長門「でもそれだけの買い物をするには時間が足りない。SOS団の活動と併せてだと……特に」

古泉「あ、朝倉さんも一緒にお祭りを見て回ると言うのは……」

長門「……」ジトッ

古泉「ああ、朝倉さんは忙しいんですよね。はい」

長門「彼がSOS団の活動を離れて、彼女のサポートをする必要がある」

キョン「サポートって……ハルヒが許さないんじゃないか?」

古泉「んー、団員全員での夏祭りを目標にしてましたからね……」

長門「でも私達には……アイスの負い目があるから」チラッ

古泉「んっふ。やっとわかってきた気がしますよ」

古泉「では朝倉さん。夏祭り当日は彼と一緒に……おっと失礼。荷物持ちとして使ってあげて下さい」

キョン「お、おい。ハルヒには何て言うんだよ」

長門「涼宮ハルヒには、私達が説明しておく。伝える内容は……あなたの欠席」

古泉「さすがに団員二人からの陳情なら、涼宮さんも聞く耳持つでしょう」

キョン「お前ら……」

古泉「さて、お話が終わったみたいなのでこの辺で。明日も早いですからね」

長門「……」コクッ

帰り道

朝倉「長門さん?」

長門「ん……」

朝倉「古泉君を呼び出したの?」

長門「あなたを迎えに行ったら、丁度彼の家に向かう所だったから。最初は成り行き」

朝倉「アイスについては?」

長門「偶然」

朝倉「本当にただアイス食べてただけなのね……」

長門「最後の方で合わせただけ。彼と一緒にお祭りに行く時間が欲しいと言ってくれれば……すぐだったのに」

朝倉「そんな恥ずかしい事言えないわよ」

長門「正直、かき氷が食べたい、クレープが食べたいと言われても困った」

朝倉「ご、ごめんね?」

長門「古泉一樹が最後に理解してくれたから、まだ」

朝倉「合わせてくれたみたいね」

長門「アイスの負い目が無くても、彼には協力してもらうつもりだったから」

長門「会えなさすぎて……少しだけ同情する」

朝倉「長門さん……」

朝倉「あ、でも当日バッタリ会っちゃったりとか?」

長門「……」

長門「私が監視する。電話を鳴らしたら、近くにいる合図」

朝倉「涼宮さんも見つからない?」

長門「意識しなければ、すぐには発見できないはず。何とか逃げてくれれば……」

朝倉「まあ、一応私も気をつけるわね」

長門「……」コクッ

朝倉「ねえ、長門さん達は何時に向こうに?」

長門「夕方六時」

朝倉「んー、まあ待ち合わせ場所さえ被らなければ大丈夫かな?」

長門「七時になったら、どこかに腰をを落ち着けて花火を見るつもり」

朝倉「そう言えば花火もあるのよね」

長門「七時以降なら会う可能性は低いかも」

朝倉「うん、考えておくわ。早くお祭りの日にならないかな」

長門「きっと……すぐ」

当日

朝倉「……」ソワソワ

朝倉「……」ソワソワ

キョン「朝倉」

朝倉「あ……」

キョン「よ、よう。何だか久しぶりだな」

朝倉「ね……なんか、こうして会うと不思議な感覚」

キョン「そ、そうだな」

朝倉「ね」

キョン「じゃあ、行くか?」スッ

朝倉「なんだかキョン君の手……久しぶりな気がする」

キョン「手、か……」

朝倉「今日は久しぶりに、自由に使わせてもらうからね?」クスッ

キョン「ああ、何でも自由にしてくれ」

朝倉「本当に? 自由って自由って事よ?」

キョン「訳の分からない事を言うなよ。ほら、手」スッ

朝倉「うん……えへへ、行きましょう?」ギュッ

キョン「ん」ギュッ

そろそろ行かなくちゃ

仕事から帰ったら帰ります。ごめんね

ガヤガヤ

朝倉「太陽が落ちはじめて、やっと涼しくなってきたわね」

キョン「暑さはまだいいが、如何せん人が多いな」

朝倉「人混みは苦手?」

キョン「得意な人間ってあまりいないんじゃないか?」

朝倉「そうかもね」クスッ

キョン「ま、集団で動き回るよりは得意かな。こうしてれば離れる事も無いしな」ギュッ

朝倉「うん……」

キョン「……何か食べるか?」

朝倉「食べる」

キョン「よし、今日は何でも奢ってやるぞ」

朝倉「え……そ、そんなのは悪いからいいわよ」

キョン「いやよく考えたらな、ほぼ毎日お弁当作ってもらってたけど……お返しを何もしてなかったな、と」

朝倉「好きで作ってるだけだから、気にしないでいいのに」

キョン「……好きって何が好きなんだ?」

朝倉「えぇ?」

キョン「料理するのが好き?」

朝倉「それも好きだけど?」

キョン「も? 他にもあるのか?」

朝倉「し、知らないわよそんなの!」プイッ

キョン「お、ツンツンした?」

朝倉「ツンツンって何よ、もう……」フニュ

キョン「いやあ、お祭りだからな。ちょっとからかってみたくなっただけだ」

朝倉「バカキョン……」

ただいま

朝倉「……意地悪されたら、お腹すいちゃった」

キョン「花火が始まるまで時間も無いからな。買い物だけ終わらせるか?」

朝倉「そうね。食べる物食べたら、落ち着きましょう?」

キョン「よし朝倉。何が食べたい? 気合い入れて買っていくぞ」

朝倉「……」クスッ

朝倉「じゃあまずはね……」

キョン「結構買ったな。お好み焼きに焼きそば、クレープ、林檎飴……」

朝倉「かき氷~」

キョン「まあ、買うもの買ったし……行くか?」

朝倉「うん!」

キョン「じゃあほら、手を……」

ドン

ドーン

ドーン

キョン「お」

朝倉「花火、始まっちゃったね」

キョン「少しぐらい仕方ないさ」

朝倉「それも……そうね」

ドーン ドーン

パラパラパラ

キョン「こうやって、人混みの中で立ちながら見る花火も嫌いじゃないが」

朝倉「ここにいる?」

キョン「いや、さっき話した通りだ。行こう朝倉」ギュッ

朝倉「ん……」ギュッ

……

朝倉「会場を離れたら、静かなものね」

ドーン

ドーン

朝倉「聞こえるのは花火の音だけ……」

キョン「もうすぐ着くからな。そしたら座って落ち着こう」

朝倉「うん……」

朝倉「神社……こんな所にあったのね」

キョン「不思議探索をしていたら偶然見つけてな。静かでいい場所なんだ」

ドーン

朝倉「花火もちゃんと見えるのね」

キョン「最初はこっちで花火を見る予定だったんだが……長門が意見してくれてな」

朝倉「長門さんが?」

キョン「こうなる事を予測してたのかは知らないが……まあ、結局現地で花火を見る事になったんだ」

朝倉「そう、なんだ」

キョン「……座るか?」

朝倉「うん、座る……」

朝倉(ボーッと、空の光を見つめて……彼が買ってくれたご飯を食べて……)チラッ

キョン「……」

朝倉(隣には彼がいる)

朝倉「幸せ……」

キョン「美味しいか? そりゃあよかった」

朝倉「……バカ」

キョン「ん?」

朝倉「ん……」ポフッ

キョン「……」

朝倉(今なら寄りかかっても……怒られないよね?)

朝倉「落ち着く……」

キョン「そうだな……」

ドーン

ドーン

…………

……

キョン「花火、終わりそうだな」

朝倉「ね」

キョン「そろそろ夏休みも終わりかな」

朝倉「やっぱり寂しい?」

キョン「……何でかな。今年はあまり寂しくない気がするんだ」

朝倉「ふふっ、私もそう思う」
キョン「……」

朝倉「今日はたくさん奢ってもらっちゃったね」

キョン「いいんだよ。まあ、お弁当のお返しだ」

朝倉「気にしないでいいってば。こんなに買ってもらったら、またお弁当作らないと気がすまなくなっちゃうわ」

キョン「そしたら、またお返ししないとな」

朝倉「じゃあまた私がお弁当作って……」

キョン「俺がお返しする」

朝倉「……」

キョン「……」

朝倉「変なの」クスッ

キョン「ははっ、何かな」

朝倉「夏が終わったら、またお弁当作らないとね」

キョン「またよろしく頼むよ」

朝倉「うん……!」

キョン「朝倉……」

朝倉「キョン……」

キョン「……」

朝倉(あ……か、顔が近くて……あ……)

朝倉(唇……くっついちゃいそう……)

ピピピピピ

ピリリリリ

朝倉「ふぁ……」ドキッ

キョン「……電話?」

朝倉「あ……長門さん?」

キョン「こっちは古泉からだ。同時にかかってくるなんて……何かあったか?」

朝倉「と、とにかく出ないと……」

ピッ

朝倉『も、もしもし長門さん』

キョン『古泉か、どうした?』

長門『……』

古泉『んっふ』

朝倉『?』

キョン『?』

長門『バレた』

古泉『バレました』

キョン『バ……』

朝倉『バレ……』

長門『古泉一樹が口を滑らせて……』

古泉『面目ありません。そんなつもりは無かったのですが、突っつかれたらつい……』

キョン『……なんで二人で電話してるんだ。紛らわしいぞ』

古泉『彼女、涼宮さんの命令でしてね。ちゃんと二人に伝える、と言う事でして』

キョン『……なるほどね。ハルヒは怒っているよな? 当然だよな……』

古泉『いえ、それがですね……』

キョン『……?』

長門『……と言った感じ』

朝倉『そう……私、涼宮さんに怒られちゃうのかな』

長門『……二人に対して怒ってはいない様子』

朝倉『そ、そうなの?』

長門『話してくれればいいのに……と呟いていた』

朝倉『そう……なんだ』

長門『それで、今から……』

朝倉『え? 本当に?』

長門『……よろしく』

ピッ

キョン「……」

朝倉「バレちゃったね」

キョン「みたいだな」

朝倉「邪魔されちゃったね」

キョン「みたいだな」

朝倉「残念……」

キョン「残念って……朝倉」

朝倉「あんな後だからかな。今なら素直な気持ち、何でもで話せる気がするの」

キョン「……」

朝倉「ねえキョン君……」

キョン「ん……」

朝倉「私のお弁当、食べてくれますか?」

キョン「そりゃあ食べるさ。朝倉の手料理ならいくらでも」

朝倉「そんな事言われたら、毎日作ってきちゃうよ? 秋も冬も……新しい春が来て、もう一度夏になっても」

キョン「ん……」

朝倉「それでも……食べてくれる?」

キョン「俺は、最初からそのつもりだったんだかな」

朝倉「え……」

キョン「食べ物で釣られたとかじゃなくて……何て言うかな……」

キョン「お昼になったら朝倉が笑顔で弁当箱を持ってきて、蓋を開けて……」

キョン「綺麗に作られた料理と、朝倉の顔を見る。いつの間にか、その瞬間が堪らなく好きになっていてな」

朝倉「キョン……君……」

キョン「お弁当だけじゃない。さっき買い物してる時の横顔だって綺麗だった。笑いながら、歩いている朝倉を見るだけで……」

キョン「俺も幸せなんだ」

朝倉「……」

朝倉「これからも、ずっとキョン君にお弁当作っていいの?」

キョン「俺は朝倉の笑っている顔が見たい……お弁当を食べて笑顔を見せてくれる朝倉が大好きなんだ」

朝倉「キョン君が美味しそうに食べてくれるのが、一番嬉しいから……」

キョン「朝倉……」

朝倉「その顔を……私に毎日見せて? 頑張って、美味しいご飯いっぱい作るから……」

キョン「ああ、約束する」

朝倉「ふふっ、ありがとう……」

朝倉「キョン……」

キョン「ん……」


チュッ

キョン「……」

朝倉「……」

キョン「そろそろ行くか?」

朝倉「うん。長門さん達待ってるわよね?」

キョン「そうだな、あまり遅くなるのも悪いしな」

朝倉「あ、でも……長門さん、ゆっくりでいいって言ってくれてた」

キョン「……」

朝倉「意外と、お見通しだったのかもね?」

キョン「よくできた友達だな」

朝倉「そうみたいね」クスッ

キョン「じゃあ、行くか?」

朝倉「うん!」

ギュッ

……

古泉「ふう……」

長門「お疲れ様」

古泉「全く。アイス一つでこんなに働かされるとは思っていませんでしたよ」

長門「……」

古泉「まあ、涼宮さんも怒っていないみたいですし。これで解決ですかね?」

ハルヒ「まだまだよ。二人で何してたかキッチリ聞かないと」

古泉「おやおや……」

ハルヒ「全く、別行動するならキチン言いなさいよね。団員の自由を奪う程、心の狭い団長じゃないって言うのに」

古泉「……」

ハルヒ「何か文句ある?」

古泉「いえ。素晴らしい団長だな、と思いまして」

ハルヒ「当然よ」

ハルヒ「ねえ有希。この際だから朝倉さんもSOS団に勧誘してみる?」

長門「……」

ハルヒ「そうすれば時間の調整だってできるし、何より団員が増えて……」

長門「多分、彼女は忙しいから」

ハルヒ「あら、そうなの?」

長門「朝は早く起きて……放課後には買い物をよくしているから、きっと」

ハルヒ「ふ~ん。ま、強制する必要もないわよね。鶴屋さんみたいに臨時で参加してもらってもいいわけだし」

長門「……」コクッ

古泉「噂をすれば、お二人が来ましたよ」

キョン「うん、みんないるな」

朝倉「この辺で手、離す?」

キョン「いや……バレてるならいいだろう」

朝倉「そ、そうよね」

キョン「さて何を話されるやら」

朝倉「古泉君、すごいニヤニヤしてない?」

キョン「あれは素だ、多分」

朝倉「……朝比奈さん、すごいオドオドしてる」

キョン「多分何一つ事情を知らないから、落ち着かないんだろうな」

キョン「長門は、相変わらずか?」

朝倉(長門さんは、いつもと変わらない表情だけど)

朝倉(少し、優しい目をしている気がする)

キョン「……ハルヒも怒っている顔じゃないな」

朝倉「そう、みたいね?」

キョン「じゃ……行くか。あくまで元気よく、な」

朝倉「うん……!」

ハルヒ「遅いわよ!」

キョン「いやあスマンな。道が混んでいてつい」

ハルヒ「バレバレの言い訳するんじゃないわよ、全く」


古泉「まあまあ、涼宮さん。こうして集合できたんですからいいじゃないですか」

長門「……」コクッ

ハルヒ「……ふん。まあ、いいわ。立ち話も何だから、移動しましょ」

みくる「ど、どこへ行くんですか?」

ハルヒ「無難にファミレスかしら?」

キョン「夜も結構いい時間なのに、高校生がファミレスなんていいのか?」

ハルヒ「何よ。夏はもうすぐで終わっちゃうのよ? 楽しまなきゃ損じゃない!」

キョン「夏……そうだな」

ハルヒ「そこでキッチリ事情聴衆してあげるんだから」

古泉「楽しそうですね。お二人とも一番奥に座らせますか?」

長門「あえて隣同士で座らせるのもいい……」

ハルヒ「ふふん。有希の意見を採用するわ」

キョン「お、おい待てって……」

ハルヒ「あんたの意見なんて聞いてないの。さ、移動よ移動!」
みくる「な、何がなんだかわかりませんよぅ……」

ハルヒ「……ですって。これからキョンと朝倉さんが、分かりやすく教えてくれるわよ、ね?」

長門「……」コクッ

古泉「んっふ」

キョン「やれやれ……」

朝倉「ふふっ……」クスッ

ハルヒ「さ、行くわよ。深夜のファミレスにレッツゴーよ!」

キョン「まだ十時だから深夜では無いがな」

ハルヒ「深夜料金取られるから、深夜でいいのよバカキョン」

キョン「……へいへい」

……

朝倉(あれから、ファミレスで聞かれた事はよくは思い出せないけど)

朝倉(ただ、涼宮さんには以前からずっと私達は付き合っているように見えていたとかで……)

朝倉(あれだけお弁当一緒に食べていたら当然よね)

朝倉(……夏の終わりに、新しい友人とたくさん話をしたけれど、それでもやっぱり私は彼の横顔しか覚えていなくて)

朝倉(テーブルの下でずっと手を握りあっていた記憶しかなくて……)

朝倉(夕方の暑さと、夏祭りの熱気。花火の後の緊張のせいで……何を話したかはよく覚えていない)

朝倉(今日から付き合う事になった、と伝えて……それを聞いて驚いていたみんなの顔が印象に残ったくらいで、他にはあまり)

朝倉(日付が変わる頃、二人きりで帰り道を歩いて……)

朝倉(彼の手を繋ぎながら、星と月を見上げながら歩いて……私の夏は終わっていきました)

……

朝倉「今日も暑いわね……」

朝倉「でもリクエストだもんね? 卵焼きにハンバーグと……あ、別の箱で冷たいフルーツとか?」

朝倉「うん。みかんを冷やして……タッパーに入れて……」

朝倉「うん。完璧ね」

朝倉「でも、どうしてお弁当だとオカズが子供っぽくなっちゃうのかしら?」

朝倉「でも大人っぽすぎるお弁当って何だか想像できないのよね……」

朝倉「それに、お弁当食べる時の彼って子供みたいに笑うのよね……」

朝倉「……」クスッ

朝倉「あ、そろそろ支度しないと。多分もう……」

ピンポーン

朝倉「……来ちゃった」

朝倉「えっと、お弁当包んだし箸も入れたし……忘れ物は大丈夫よね」

朝倉「あ、ついでにカバン……お弁当だけ持っても仕方ないわよね?」

朝倉「……うん。それじゃあ、今日もいってきます」

朝倉「おはよう」

キョン「おはよ。今日はちょっと遅かったな」

朝倉「お弁当、少しだけ手間取っちゃって」

キョン「今日のオカズは?」

朝倉「学校に着くまで秘密」

キョン「リクエストしたんだから、秘密も何も無いだろ?」

朝倉「秘密な部分があるから、秘密なのよ?」

キョン「ああ、そういう事か」

朝倉「ふふっ。じゃあ、行きましょ?」

キョン「ああ。またギリギリかな?」

朝倉「委員長の私が毎日時間ギリギリだなんて……」

キョン「長門は?」

朝倉「もう学校に着いているでしょうね」

キョン「余裕だな」

朝倉「遅刻にお弁当……余裕のない私の身にもなってほしいわね」

キョン「あ、ああスマンスマン。明日はもっと早く来るから」

朝倉「……もう聞き飽きたわよそのセリフ」クスッ

キョン「ん……そうだっけか?」

朝倉「ええ。でもね……」

キョン「?」

朝倉「キョンのためにお弁当作って、こうやって一緒に歩く事ができる」

朝倉「それが一番幸せよ……」

キョン「涼子……」

朝倉「ね、少しゆっくり歩かない? 今日は天気がいいから少しくらい遅れたい気分」

キョン「……委員長の言葉とは思えないな」

朝倉「ふふっ、そんなの知らない」ギュッ

キョン「お……? おおっ?」

キョン「ま、待て待て。なんで走るんだよ! しかも道が違うぞ!」

朝倉「いいの。今はこうしていたい気分なのよ」

キョン「……勝手にしてくれ。何だか楽しくて、、嫌な気分じゃないけどな」

朝倉「うん!」

キョン「じゃあ、神社行こうぜ神社。あそこでお弁当だ」

朝倉「ええ? まだ朝も終わってないのに?」

キョン「走り回ってれば腹も減るさ」

朝倉「……そうかもね。うん、お弁当にしましょ」

キョン「おし。このまま突っ走るぞ」

朝倉「うん!」

朝倉(やっぱり私、楽しくて幸せみたい……)

朝倉(今日のお弁当も美味しいんだろうなあ……)


カバンの中で優しく揺れているお弁当箱二つ。
数字間後には空っぽになった二つの箱を見て、また私は笑顔になるのだろう。

私の手を握りながら、彼は走っていく。
花火が終わり私達の夏が始まったあの場所まで。


その時何処か遠くで学校のチャイムが鳴っているような気がしたけれど……。

今の私達には、何の関係も無い事だった。

終わりです。保守してくれた人ありがとう。
読んでくれた人ありがとう。

うーん、面白かった
今度は、鶴屋が見てみたいなぁww

>>354
鶴屋さんで夏?

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