妹「兄さんのことが好きです」(518)

妹「お願い!兄さん立って!立ってお願い!」

兄「…うぅぅ!立ってやる必ず!必ず立って書くんだ!俺は書くぞ!!!!うぉぉぉぉぉ!!!」

「お兄ちゃん、ちょっと話があるんだけど」

夏休みの数日前、妹に部屋へ呼び出された。

「なんだよ急に?お前が自分から部屋に入れてくれるなんて珍しいな」

「いいから、はいこれ読んで!」

妹は俺に押し付けるように手紙を渡してくる。
ハートのシールが貼ってある。ラブレターのようだ。

「なにこれ?俺に?」

「そうじゃなかったら渡さないでしょ?…もう…は、早く読んでよ!」

封を開けて手紙を取り出す。
手紙に目を落とすと、たった二行そこに書かれていた。

*-----------------------*
ずっと前から好きでした。
付き合ってください。
*-----------------------*

妹の方に向き直ると、モジモジしながら俺に言う。

「…そ、それで…返事は?」

「えっ?これ誰から?差出人がないんだが?」

「わ、私に決まってるじゃん!」

妹は耳まで真っ赤にして、怒鳴っている。

「…もしかして、これを誰かに渡してって事か?そんなこと自分でやれよ」

手紙を妹に突き返す。

「ちょ、ちょっと!お兄ちゃんにって、言ったでしょ!?もう忘れたの!?」

「…えっ?これ、俺宛?お前から?」

「うぅ…もう!そうだよ、バカ」

「まさか、お前が俺のこと?」

「そ、そうだって!言わせたいの?そうだよ、好きなの!お兄ちゃんのことが!うぅ~!」

好き?あの口の悪い、俺に暴言ばかり吐いてた妹が、俺のことを?

「いや、でも俺たち兄妹だろ?」

「っ!…言うとは思ってたけど、そんなこと…関係ないよ!」

妹はそう強く言い、俺に詰め寄って来た。
ジッと俺の眼を見る。どうやら本気のようだ。

「そ…それで?お兄ちゃんは、どうなの?私のこと…どう、思ってるの?」

「俺?俺は…」

今まで妹としてしか見てこなかったのに、
突然そんなことを言われても何を言ったら良いんだ…
俺がそんなことを考えていると、妹が割って入ってきた。

「ま、待って!やっぱり待って!」

「なんだよ」

「やっぱり、まだ答え…出さないで」

俺は何も言わず妹が理由を言うのを待った。
少し間をおいて、不安そうな顔で再び話し出す。

「今、お兄ちゃんがどう思ってるのか分からないけど…少しだけ、時間をかけて考えてみてほしい…」

確かに、妹のことを今までそんな対象として考えたこともなかったから時間は必要だろう。
だが「妹」なのだ。恐らく答えを出せと言われたら、否定の言葉を紡いでいただろう。
妹もそれを察して、回答を引き伸ばしにしたんだろうか?
ただ、必死さが伝わってくる。この想いを無下にて安易に答えは出すべきではない。

「…分かった。真剣に考えてみる」

「うん!ありがとう…」

不安な表情から一瞬、安堵の表情を見せたが、
すぐさま普段の表情に戻る。

「じゃあ、もういいでしょ!?出て行って!」

「えっ?いや…俺の事好きなら別に部屋にいたっていいだろ?」

「…っ!つけ上がるな!!バカじゃないの?!」

妹はドアを開けると、俺を外に放り出す。

「いってぇな!」

「ふん!」

バタン!ガチャ!
部屋の鍵まで閉められた。

「くっそぉ…意味分からん…誰が好きになるかよ!バァカ!」

俺がドアに向かって暴言を浴びせると、
鍵の開ける音が聞こえ、扉が開かれ妹がコチラを覗く。

「…ゴメン」

珍しく、いや初めてかもしれない。素直に妹が俺に謝ってきた。
少し涙声になっていて俺は戸惑う。

「あ、いや…別に本気じゃ…」

「これ…」

さっき突き返した手紙を俺に手渡してくる。

「これ、本当…だからね?」

それだけ言うと、妹は部屋に戻る。
鍵を閉める音は聞こえなかった。

不覚にも、少しだけ妹というより女として見てしまった様な気がする…
俺は妹への気持ちを自分へ問いかけながら自室へと戻った。

--それから数日後、夏休みに入ったある日

俺は未だに妹に返事をしていない。
どうしても、態度を決めかねているせいだ。
一度、妹とちゃんと話をしたい。そう思って家をうろうろしていた矢先、
妹が大きな荷物を持って自室から出て二階から降りてくるのを見かけ、声をかける。

「何してんだ?そんな大きなカバン持って」

「うん、せっかくの夏休みだし!友達の家に泊まってくるね!」

「はぁ?そんなこと許すわけないだろ」

「いいじゃん、お父さんいないんだし」

「だからこそ俺が止めてるんだろ…」

俺たち二人が通っている学校が夏休みに入ると、
親父はその日のうちに置手紙一つ残して海外旅行に行ってしまった。

「お兄ちゃんも彼女作って遊んできたら?それじゃ、行って来ます!」

妹は勢い良く玄関の扉を開け、外へ飛び出して行った。

「はぁ…放っておくしかねぇか…」

だが、何か引っかかる…。妹の言葉…

「…?あれ?『お兄ちゃんも』って…!?」

俺が疑問を浮かぶと同時。閉まりかけていた玄関の扉が開き、妹が顔を覗かせる。

「あ、言い忘れてたけど、戻りはあさってになるから!」

「はぁ?ちょっと待てよ!二泊もとか、なんだよそれ!」

妹はそれだけ言い終えると、俺の言葉も聞かず、顔を引っ込めた。
追いかけようと一歩踏み出すと同時、扉はガチャリ。と無機質な音を立てて閉まった、
取り残された。という喪失感からタイミングを失い、その場に立ち尽くす。

「『お兄ちゃんも彼女作って』…まさか、男でもできたんじゃ…!?いやまさか、あのあいつに…」

「そうだよ、そんなわけない。そうだ…あのあいつに限って、んなことは…」

「いつも、何かしら怒ってたけど、お兄ちゃんお兄ちゃんって慕っていてくれたじゃないか!?そうだよ、そんなこと」

「そもそも、俺のこと好きだっていってたじゃねぇか!…あぁでも女心はなんたらとか言うし…あぁ゙!」


かれこれ十数分、疑心暗鬼にかかってブツブツと念仏のように
独り言を連ねていると、玄関の扉が開き、再び顔が覗く。

「あ!おい、妹!もしかしてお前、男でもできたんじゃないだろうな!?」

「えっ…?」

しかし、予想に反し顔を覗かせた人物は、妹ではなかった。
見るに妹と同い歳くらいの女の子のようだ。
俺の大声に戸惑うような表情を見せるが、俺の顔をジッと見つめてくる。

「うわ、だ、誰?」

「声が聞こえたので呼び鈴を押したんですけど、鍵があいていましたので開けてしまいました…すみません」

「あ…いや、ごめん。呼び鈴壊れててさ、もしかして妹の友達?」

「いえ、違います…あの、お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「あ、うん、どうぞ」

女の子を家に招き入れる。背丈も妹と同じくらいのようだ。
結構な大きさの荷物を引きずって入ってきた。

「お邪魔します」

「はいどうぞ。それで、何の用かな?」

「はい、えっと…実はあなたのお父様から伝言を預かっていまして」

「親父から?…て、なんでキミが?」

「えっと、それはこれを聞いていただければ分かるかと思います」

そう言って、携帯を取り出し、音声を再生させる。
しばらくすると親父の声が聞こえてくる。

『長兄よ、これは大事な話だ心して聞いてくれ。俺はしばらくそちらに帰ることはできない、
 突然のことで驚いていると思う…簡潔に言おう、今目の前にいる女の子を何も言わずに
 家に置いてくれ。その子は今日からお前の妹だ』

「…は?」

「そういうことらしいです…続きがあります」

『それから一つ、いいか?…決して手は出すなよ!いいな?絶対だぞ!その子は王族の…うわっ!何をする…ズピッ!ザー…』

「なんだこれ…」

「ここで報告が途切れました」

「親父何してんだよ…」

「あなたのお父様はスパイ、この国のエージェントだそうです」

「はぁ?」

「囚われ、ナグサミモノ?になっていた私を、颯爽と現れ、助けて出してくれました」

「嘘くせぇな」

「そうやって言うと私のことを同情するとか、俺のこと尊敬しなおす…とか、そう言っていました」

「それ言っちゃダメだろ」

「言われていたより食いつきが悪かったので」

「ふむ…」

「…?」

俺は彼女の前にしゃがみ、手を差し出す。

「姫様の御身、父に代わり私めがお守り申し上げます」

「…」

彼女からのリアクションがない。しまった…悪ノリしちまった。
自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。すげぇ気まずい。

チラッと彼女の顔を覗き込むとナニやら難しそうな顔をしているが、
一人、こくっと頷いて声を発した。

「…あなたにそれが務まると申すのですか?」

まさかカブせてくるとは…。俺は腹を括った。

「はい。姫様を守るためでしたら、この命、捨てる所存です」

「ならば、私のために何でもするというのですね?」

「はっ、左様で御座います」

「よろしい。顔をあげてください」

顔をあげると、彼女は俺の目線の位置までしゃがみ込み、
俺に向かって片手を出し、手のひらを見せている。

「これは…?」

俺の問いにニコッと、笑みを見せる。
なんだこの子?異常に可愛い…俺はその笑顔から視線を逸らし、
とりあえずその手の上に手を置いてみた。

「これが、お手です」

「…へ?」

「わんとお鳴きなさい」

「わ、わん」

「よしよし」

俺の頭をグニグニと撫でる。
なんだこれは…?初見の女の子に犬にされている。

「あはは…そう…それで、本当にここに住むわけ?」

「あれ?終わりですか?」

「親父には付き合いきれないからな」

「…そうですか残念です…あ、では、これも読んでみて下さい」

そう言って、彼女は手紙を取り出す。
親父の字だった。

*----------------------------------------------------------------*
妹とは仲良くやっているか?お前らのことだから喧嘩してるんだろうな。
これから新しい妹ができるが、仲良くしてやってくれ。
ちなみに彼女は死んだ母ちゃんのバツイチ不倫相手の連れ子で、
そのクソ野郎が親権を放棄するとか言いやがって、
なんやかんやあって、家で貰い受けることになった。

                            以上
*----------------------------------------------------------------*

「そういうわけです」

「なんでこんな軽く重いこと書いてるんだよ…つーか、親父が親さんのことをクソ野郎だなんて、ゴメンな?」

「いえ、手は上げませんでしたが、確かにちょっと酷いところはありましたし…」

「そうか…」

「あの、よろしくお願いできますか?」

「あぁ…でも、ちょっと気が重いな…」

先ほどの妹の件もあり、正直気分が滅入っていた。

「私としては、フランクに接してもらえると嬉しいです」

「そうか!じゃあ、これからよろしくな!いやっっほぉぉぉぉぉぉ!!!妹が増えたぜぇええええぃぃぃ!!」

「…ちょっと、テンション高すぎです…」

彼女は俺の無理矢理なハイ・テンションにドン引きしていた。
これからの生活が楽しみになった気がした。

とりあえず家の中を一通り案内し、
二人でリビングで一休みしていると、彼女が声をかけてくる。

「あの…」

「ん?何?」

「いえ…」

ぐりゅルルルる…
彼女のお腹の音が鳴る。

「あぅ…」

「あぁ、お腹空いたの?」

「はい…」

恥ずかしそうに俯いていてる。

「んーどうしような?いつも妹が作ってくれてるしな…キミ何か作れる?」

「それが…料理したことないんです」

「そうか、じゃあ簡単だし、そうめんでも茹でて食おうか」

「はい、そうしましょう」

俺はキッチンに行くと、ガスの元栓を開け、
鍋に水を入れ火にかけ、沸騰したところでそうめんをぶち込む。

「あとは煮えるの待つだけか…あ、ザルがそこら辺に入ってたと思うから、取ってくれる?」

「あ、はい分かりました」

彼女は洗い場の下の戸棚からザルを取り出し、そのまま上の洗い場に置く。
その後、しばらく二人で沸騰する鍋を見ていると、不意に彼女が俺の袖を引っ張る。

「ん?どうしたの?」

「あの、おつゆはありますか?」

「確か冷蔵庫に…あった、はいこれ昨日使ったやつだからまだイケるはず」

「はい。それじゃあ小皿に出しておきますね?」

「うん、お願い」

彼女はさっきとは違う戸棚から小皿を二つ取り出すと、
これでいいか俺に確認し、テーブルに置いて、めんつゆを注ぐ。

「できました」

「よくできました」

なんとなく、さっきのお礼というか仕返しにグニグニと頭を撫でてやる。

「うぅ、なんか子供扱いされてるみたいです」

「いやそんなことないよ、テキパキ動いてくれて助かってるよ?」

「そうですか?あ、そろそろいいんじゃないでしょうか?」

「ん?どれ…」

俺は菜ばしで麺を取り、湯で具合を確認する。

「うん、良さそうだね」

俺は火を切り、鍋を持ち上げて、
ザルの上にそうめんを流し込み、水で麺をしめる。
適当に冷えたところで皿に盛り、水を入れて氷を数個浮かべた。

「よし、OK!」

「美味しそうですね」

「じゃあ食べようか」

「はい」

その後、黙々と二人でそうめんを食べる。
正直何を会話していいのか分からなかった。
親御さんの事情も複雑そうだし、そんなこと話していいものか?
などと考えていると、彼女の方から声が掛かる。

「あ、あの…」

彼女は俯き加減に、モジモジとして何か言いたそうだ。

「なに?」

「あの、その…な、何て呼んだらいいでしょうか?」

「えっ?何を?」

「その、お、お兄さんのことを…」

「なんだ、俺のことか、好きなように呼んでくれていいよ」

「え…と、やっぱり、妹なんですから、お兄ちゃんとかがいいのでしょうか?」

「うーん、それは妹に呼ばれてるしな、キミは何がいいの?」

「『兄さん』は、ダメでしょうか?」

少し申し訳なさそうに、俺に問う。

「えっ?問題ないよ。いいよ、兄さんで」

「…そうですか?」

「うん、もちろん!ちょっと呼んでみてよ?」

「はい…兄さん」

「うん、何?」

「えっ?…えと、質問はしてないですよ?」

「まぁ、いいから何か聞いてみてよ」

「じゃあ…あの、兄さんは好きな人とかいますか?」

「へっ?なんでそんな質問!?」

「質問しろと言ったのは兄さんです。答えてください」

彼女は、凛とそう言い放つ。

「…特にはいない」

「では、気になっている人は?」

妹の顔が浮かぶ。

「…いない、かな」

「ふぅん…それは、誰でしょうか?」

「いやいや、いないって言ったでしょ」

「あれ?そうでしたか…?顔にはそう書いてありますが…?」

何だこの子は…会ったばかりの俺の感情を
表情で読み取るとか勘が鋭すぎる。

「じゃあ、質問はここで締め切りね!」

「なんだ、残念です」

彼女はこの数時間で大分慣れてくれたようだが、
なんだか下手したら手玉に取られそうだな…と、そんな気がした。
やはり生きてきた環境が辛かったのだろうか…などと無駄な邪推を巡らせたりした。

ーー夜

夜はご飯を炊いて、テキトウ野菜炒めを作って済ませた。

「あの、兄さん…」

まだ言い馴れないのか、少しぎこちなく「兄さん」と俺に話しかける。

「ん?何?」

「あの、明日から私が料理を作ります!」

「えっ?そんなの気にしなくていいよ…それとも俺の飯が不味かった?」

「い、いえ!そんなことないです!美味しかったですよ!」

なんか必死にそう言う。不味かったのかな…。
彼女は言葉を続ける。

「でも、お世話になるんですし、何かしないといけないと思うんです!

「あはは、そんなに気張らないで、俺たち家族、兄妹だろ?」

「あっ…は、はい…ありがとうございます」

彼女は照れたように微笑んで笑ってくれた。

「あはは」

ちょっと臭いこと言ってみて俺も恥ずかしくなり、照れ笑いで誤魔化した。


「でも、やっぱり料理は作ります!…兄さんに、作ってあげたいです!」

「それは、嬉しいけど、その台詞もちょっと恥ずかしいよ?」

「えっ?あぁぅ…」

彼女はさらに照れたようで、顔を赤くして俯いてしまう。

「うぅ…な、なんだか暑くなってきました…」

「ア、アハハ…じゃあ、お風呂でも入ってきたら?」

「えっ?あ、そう…ですね、先に入ってもよろしいですか?」

「あ、うん…どうぞどうぞ。タオルとかは脱衣所にあるからテキトウに使って」

「ありがとうございます。では、お先に失礼します」

微妙な空気の中を逃げるように風呂場に逃げていった。
俺も妙な緊張の糸が切れて、ため息を一つついた。

彼女が風呂に入ってからしばらく経ち、
リビングでくつろいでいると、何やら声が聞こえてくる。

「…!……!」

「なんだ?」

俺はドアを開けて廊下に出る。

「す、すみませーん!」

と、脱衣所から彼女の呼ぶ声が聞こえる。
足をそちらに向けて近づく。

「どうしたの?」

「あ!すみません…あの、あわわ!待ってください!」

「えっ?うわっ、ご、ゴメン!」

彼女は脱衣所でタオルを体に巻いた状態で立っていたが、
留めている部分が緩んだのか、体を隠していたタオルが落ちそうになる。
視界に入らないように、後ろを向いて話しかける。

「一体、どうしたの?」

「あ、あの!着替えを持ってくるのを忘れてしいまして…リビングに鞄ごと…」

「あぁ、そういうことね…どうしよう、鞄ごと持ってくればいい?」

「は、はい…申し訳ありませんが、お願いします。あの、カバンの中にピンク色の袋がありますので、その中に…」

部屋に戻り、鞄を開ける。何か悪いことしてるみたいだ…。
俺は心を無心にして、ピンク色を探し手にとって脱衣所に戻る。

「持って来たよ」

「すみません…ありがとうございます」

彼女の方から体ごとそむけ、腕だけを伸ばす。

「わざわざすみません…」

「いや、いいよ気にしないで」

「あの…」

「なに?」

「そんなに目を逸らされると、なんだか逆に傷つきます」

そう言って、彼女は袋を手に取る。

「そんなに私の体見たくないですか?」

「えっ?い、いやそういうつもりで後ろ向いてるわけじゃ…!」

「いいんですよ?少しくらいなら」

彼女から思いもしない言葉が飛び出す。

「へっ?」

「えへへ、冗談ですよ、冗談」

「あはは…や、やめてくれよ」

「でも、冗談なんですから、ノリで見ちゃってもいいかも…です」

彼女は俺の背中にピッタリとくっついて来る。

「おい、ちょ、ちょっと!」

突然のことに慌てる俺をよそに、俺の袖をクイックイッと引っ張る。

「兄さん?こっち、見てください」

「…ゴクッ…」

「見てください」

俺は彼女のに促されるように、彼女の方に向き直る。
促されてしかたなく…そう、心で言い訳をしながら。

「兄さん…」

俺はまじまじと彼女の姿を見てしまう。
胸から下をバスタオルで隠し、片手で落ちないように支えている。
彼女も緊張しているからか、風呂上りだからなのか、
顔がやや高揚して赤く火照っている。
髪はほのかに濡れ、先端からはまだ雫がポト、ポトと滴り落ちている。

「兄さん、ここです」

彼女は俺の手を取り、バスタオルが落ちないよう
手で支えている部分に俺の手を導き、その部分をつまませる。

「この手を離しちゃえば、スルッと……ね?」

「…ゴクッ」

心臓が高鳴る。再び、生唾を飲み込んでしまう。
どうしてこの子は俺を誘惑してくるのか…?
そんな思考が巡っていると、彼女の言葉がその思考を遮る。

「兄さん?あんまり焦らされると、やめちゃいますよ?」

「で、でもだな…」

「さん、にぃ…」

カウントダウンを始めると、彼女の手がその度に俺の手に伸びてくる。
カウントがゼロになれば、二度と拝むことはできないのだろう。

「いち…」

「っ!ゴメン!」

俺は誘惑に負け、バスタオルを支えていた指から力を抜いた。
するっ…という、肌と生地が擦れる音が聞こえた。

「……え?」

「どうですか?結構体の綺麗さには自信があるのですが…?」

目の前には、ピンクのパンツとキャミソールのインナーを着た女の子が立っていた。
期待とかけ離れていたため、テンションは急降下してしまう。

「…いや、どうして下着を着てるの?いつの間に…早い…」

「…兄さんは裸が見たかったんですか?」

少し疑いを持った目で、俺を見上げてきた。

「えっ?い、いやいや!そんなわけないって!」

「そうですよね。で、ところでどうですか?」

「どう…って?」

「ほら、結構くびれとか自信あるんですよ?」

腰をクニクニと左右に動かして、盛んにアピールしてくる。
正直、気休め程度にしかくびれていない。
テンションが落ちていたこともあり、つい本音が出てしまう。

「…幼児体型だな」

「っがーーん!!」

さっきまで元気そうだった顔が、
一瞬で意気消沈してしまう。
その姿を見て、慌ててフォローに入る。

「あ!あ!で、でもほら!キミくらいの年頃だったら皆それくらいだって!」

「そんなの、なんの慰めにもなりませんよ…」

「いや、俺はその体系好きだよ?なんたって可愛い!」

「う…可愛い…ですか?」

少し顔に明るさが戻り、反応を見せるが、
『可愛い』という言葉が気に入らないらしい。

「十分、女性として魅力的だよ!うん!」

「そ、そうでしょうか…?」

彼女に明るさが戻る。

「兄さんは優しいですね」

「そ、そうかな…?そんなことはないと思うケド…」

「いいえ、とっても。実際私はこんな体型なわけですし…」

「あ、ねえ!湯冷めするといけないから部屋戻って服を着よう」

少し気恥ずかしくなってしまったのと、
これ以上のフォローは難しいと判断し、そう彼女を促す。

「は…クチュン!うぅ…そ、そうですね…」

彼女は普段着用の服しか持ってきていなかったため、
妹の寝巻きを貸してあげた。

「うん、体型も同じくらいだからピッタリだな」

「へぇ、妹さんも幼児体型なんですね」

何かトゲのある言い方だったが、なんとかスルーしてみせた。
しばらくテレビを見て、他愛のない話をして過ごした。

--夜11時を回った頃

「さて、じゃそろそろ寝ようか」

「…あの、兄さん?」

「なに?」

「私の部屋はあるのでしょうか?」

「はっ!?」

俺の家はそこまで広くなく、居住スペースは
一階にキッチンとリビング、和室、二階に両親と俺と妹部屋しかない。
寝るぶんには和室やリビングで事足りるだろうが、
物が散乱していて布団や私物などを置くには無理がある…。

「ないかもしれない…」

「うぅ、仕方ありませんね…急でしたし」

「どうしよう、とりあえず寝るだけなら妹の部屋でもいいけど」

「…あのそういえば、その妹さんはどうしたんですか?まだお見かけしてませんが?」

「なんか男のとこに泊まりに行ってるご様子で、2日くらい帰ってこないってさ」

俺はぶっきらぼうにそう言う。

「では、その間だけでも借りさせてください」

「うん、多分大丈夫でしょ。じゃあ荷物だけ持って行っておいてあげるよ」

「あ、すみません…ご一緒します」

二人で二階に上がり、妹の部屋の前に立つ。

「普段勝手に入るとスゲー怒られるんだけど、緊急事態だからしょうがないよな」

俺はそう自分に言い聞かせ、部屋のドアノブを回す。
ガチャガチャ!ドアノブは数ミリ左右に動くだけでドアは開かない。

「…鍵が掛かってる」

「どうしましょうか?」

彼女は心配そうな顔で俺を見上げてくる。

「大丈夫だって!あとは、和室か、親の部屋だな」

「じゃあ、とりあえず和室を見せてもらえますか?」

「オッケ!」

二人で階下に下り、和室に入る。

「ここには仏壇があるんだけど、どうかな?」

俺は極力さわやかな笑顔で、彼女に勧めてみた。
母ちゃんとじいちゃんとばあちゃんの遺影が飾ってある素敵な部屋だ。
彼女は少し泣きそうな表情で顔を左右にブンブン振って、精一杯答えてくれた。



再度二階に上り、両親の部屋に入る。ここには鍵はついていない。
この部屋は俺と妹の部屋を繋げたくらいの広さがあり、
ど真ん中にクイーンサイズのベッドが鎮座している。
無駄に広いが、これを親父が一人で使っている。

「ごめんな、ここしかないんだけど…」

「いえ、全然問題ありません。けど…使って大丈夫なのでしょうか?」

「平気ヘーキ、何も気にしなくてもいいよ、無駄に収納スペースあるからそこのタンスとか勝手に使っても大丈夫だと思うよ」

「それでは、手荷物はここに置かせてもらいます」

「うーん…じゃあ、あとは任せていいかな?」

「あ、はい!ありがとうございます」

「何かあったら言ってよ、自分の部屋にいるからさ」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみー」

俺は階下の戸締りをし、消灯すると
自室に戻って電気を消し、ベッドに寝転んだ。

気を落ち着けると、先ほどの脱衣所での情景が
自分の都合良く置換されモンモンと浮かんできた。

『兄さんになら、見せてもいいですよ?』

彼女はそう言って、体を隠していたバスタオルを
自らの両手でそっと左右に開いた。

『ど、どうでしょうか…?私の体、変じゃないですか?』

耳まで真っ赤にした顔を俺から背け、問いかけてくる。
確かにどこも出るところが出ていないが、
胸やくびれ、お尻などはちゃんと女の子をカタチどっている。

『どこも変じゃないよ、綺麗だ』

俺はそっと、彼女の腰に指を当て、撫でる。きめ細かな肌だ。
ツツツ…と腋まで指を這わせ、次に胸へと向かう。

『ひゃっ!?だ、ダメです!触るのは…ダメ…!』

彼女の言葉を無視して、
可愛く膨らんだ胸を指で円を描くようにゆっくりと撫でる。
乳首の付近に触れるたびに、彼女は体をビクッと震わせ、
切なそうな顔で、俺の目を見つめ、求めてくる。

『はぁ…はぁ…あっ、ダメ…ですっ!兄さん、んっ!』

コンコン!
不意にノックの音が部屋に響く。
俺は我に返り、上体を起こして電気を点け、返事をする。

「は、はい!?」

思わず、『はい』などと口に出てしまった。
だがドアの向こう人物は意に介さなかったのか、言葉が続く。

「入ってもよろしいでしょうか?」

彼女の声だ。まぁ、今は二人しかいないから当たり前だが。

「おう、いいよ」

「失礼します」

ドアを開け、部屋の中に入ってくる。

「うん、どうしたの?」

「…はい、あの…」

そこまで言葉が出て、押し黙ってしまう。

なんだか言い難そうだ。俺は言葉の後を押してあげる。

「ほら、いいから言ってご覧よ?」

「はい……なんだか、不安で…」

そう、言葉を搾り出した。

「あぁ、そうだよね突然新しい家族ができて、新しい家に着たんだしね」

「はい…それで…」

「うん、それで?」

「それで、なんだか眠れなくて……い、一緒に寝てもらえませんか?」

「…はい?」

俺は思わぬ言葉に、声が裏返る。

「あ、あ!すみません!ダメですよね…ゴメンなさい、こんなこと言って…」

「そ、そうだよ!一人で大丈夫でしょ?」

俺は軽く笑いながら、否定するようにそう言う。
妹になったとはいえ、初めて会った女の子と一緒に寝るなんて…。

「……はい」

彼女は、落ち込んだようにそれだけ口にする。
余程一人では不安なようだ。
落ち込ませた自分の言葉をフォローするように、言葉にした。

「そ、それにほら!俺の部屋、物多くて床が狭いから布団しけなくて二人も寝れないからさ…アハハ」

「あの、どうしてもダメですか?」

「えっ?」

「今晩だけでいいですので、もうわがまま言いませんので…今日だけでも…!」

彼女は俺にすがりつくように、言葉に出す。

「で、でも…この部屋二人も寝れないから…」

「一緒がいいんです…」

「一緒って…?」

「一緒のお布団で…」

「でも、男女二人でってのは…まずいんじゃ…?」

「私は、兄さんの妹です!」

「妹…妹、そう…だな」

妹、ただそれだけの理由で俺は妙に納得してしまった。
現に、あの生意気な妹が同じ事を言ってきたら恐らく聞いていただろう。
そう自分に言い聞かせた。

「そうだな、分かった。妹の頼みだし聞いてあげないとな」

「あ、ありがとうございます」

お礼を言う彼女の瞳の端には少し涙が溢れていた。

「わ!わ!こんなことくらいで泣かないの!」

「はい…ぐすっ…兄さんが優しいから…うぅ」

「よしよし、ほら、じゃあ寝るぞ?ここ入って」

俺は夏用に使用しているタオルケットをめくり、彼女を招く。

「ぐすっ…はい」

そう言って、彼女は前ボタンを外し始め、
パジャマを脱ぎ始めた。

「……えっ?」

上下ともにパジャマを脱ぎ、綺麗にたたんで床に置くと、ベッドに登ってくる。

「えっ?えっ!?」

「よろしくお願いします」

何がヨロシクなのか一瞬俺には理解ができなかったが、
とりあえず疑問を口に出して聞いてみた。

「あ、あの、どうしてパジャマ脱いだの?」

「…え?いえ、私いつもこの格好で寝てるもので…」

「そういうことね…アハハハ…」

「寝るときに服を着てるのがなんだか嫌なんですが…変でしょうか?」

「いや、どうなんだろ?俺もわかんない…けど、変じゃないと思うよ」

「そうですか、よかった」

「じゃ、じゃあ寝ようか?」

「はい」

俺は部屋の電気を消すと、
彼女がはみ出さないようにタオルケットをかぶせ、彼女に背中を向けて寝転ぶ。
正直、気が気じゃなかった。女の子と一緒に寝るのも始めてなのに、
その女の子が下着姿で隣にいるなんて…!

「そ、それじゃ…おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

そう言って、目を瞑ろうと思った拍子に彼女の手が腰に伸び、
俺の背後に体を密着させてくる。

「兄さんの体、あったかいですね」

「ちょ、ちょ!?なんでくっついてくるの?」

その質問に反して、腰にあった手が更に伸び、
胸の下に腕を絡めて抱きついてくる。

「寝るときはいつもこうやって、ぬいぐるみを抱っこして寝てたんです」

「そういうことね…アハハ…ハ…あぁ、なんかさっもコレも言った気がする」

「すみません…変な子で」

「いや、変じゃないよ。これくらい普通だと思うな(相手がぬいぐるみだったら)」

「ありがとうございます。でも…」

「ん?なに?」

「ぬいぐるみは正面から抱っこしてました」

「それは、どういう…意味?」

「私の方を向いて寝てもらえると、嬉しい…かもです」

「う…」

「お願いします」

「……わかった」

その言葉を聞いて、彼女は俺の体から腕を離した。
俺は彼女の方に向き直る。
月夜の薄明かりで、彼女の顔が見え、目が合うと、
「兄さん」と俺を呼ぶ。ちょっと眠そうな顔をしていた。
俺の体勢が落ち着くと、再び彼女の腕が体に巻きついてくる、

「今までで、一番大きなぬいぐるみです」

「そ、そう…どう?抱き心地は?」

俺は自傷気味にそう聞いてみた。

「あんまりふかふかしていませんが…いい匂いがします」

俺の胸の顔を埋めて、そう言う。
続けて、俺の両足の間に足を差し入れてくる。

「はぁ…落ち着きます…」

「(なんだ!?なんだこの状況は…!?一体いつからこうなった!!?)」

我に返り、状況を改めて考えると、とんでもない状態なのに気付く。
混乱する頭をでしばらくかけて冷静になると、この状況はいろんな意味でマズいと判断する。

「あ、あのさ…ちょっといい?」

「…」

返事がない。
俺は聞き耳を立ててみる。

『すー…すー』と、規則正しい寝息が聞こえてくる。

「…はぁ…」

無理やり起こすのも忍びないので、俺もこのまま寝ることにした。

--翌日

チュンチュンチュン…
朝の光が窓から射し込み、小鳥のさえずりが聞こえてくる。

彼女は相変わらず俺の胸の中で眠っている。
彼女が不意に寝返りを打つたびに、俺はドギマギして目が冴え、
当然、眠ることができなかった。

「んん…ふぁ…」

彼女が目を覚ます。

「あ、おはようございます…」

眠そうな目を指で擦ると、再び俺の胸に顔を埋めてくるが、
突然ガバッと起き上がる。

「ど、どうした?」

「朝ご飯作らないといけません!」

「えっ?」

「昨日決めたんです!」

そう言うと、床に置いてあったパジャマを取り、俺の部屋を後にする。

「はぁ…」

俺はやっと緊張状態から開放されると、
急激に眠気が襲ってきた。
何も思考ができない。俺はそのまま、眠りに落ちた……。

ジジジジジ…茹だるように暑い。
セミの鳴き声と体の汗の不快感によって、意識が覚醒していく。

目を開く。
最悪な目覚めだ。
何時だ…?頭のそばにある目覚まし時計に手を伸ばす。

「あ、起きましたか?」

「ん…?」

「もうお昼過ぎましたよ?」

「…そんなに寝てたのか…?あれ?」

彼女がそこにいることに不思議さを覚え、俺は上体を起こす。
ベッドを背にして、本を読んでいたようだ。
足元には数冊、俺の所有する漫画が積まれている。

「昨日は眠れませんでしたか?」

「えっ?いや、そんなことないよ!ぐっすり寝れたよ?」

「すみません…私がわがまま言ったばかりに…私、寝相悪かったですか?」

「いやいや、ぜんぜん大丈夫!ずっと凄い綺麗に寝てたし!」

「…どうしてぐっすり寝てたのに、そんなこと分かるんですか?」

「そ、それは…!あの、ほら!寝相悪かったら俺も起きちゃうじゃん?それでだよ!」

「むー!納得いかないです…あ!そうだ、兄さんお腹空いてないですか?」

「そうだな…かなり減ってるっぽい、いや腹減った!」

「分かりました!用意してありますので、食べに行きましょう」

彼女は積んでいた漫画を本棚に戻し、俺と一緒に階下に向かう。

「そう言えば、朝ご飯作るとか言ってたよね?どうしたの?」

「兄さんが起きてこなかったので、テキトウに済ませちゃいました」

「なんか、ゴメン悪いことしたね。張り切ってくれてたのに」

「大丈夫です。まだ取り掛かる前でしたので」

リビングに着くと、彼女はキッチンに向かう。

「で、暇だったのでカレーを作りました!」

「…えっ?」

俺の表情を見て、彼女の表情が曇る。

「だ、ダメでしたか?」

「なんというか、この暑さと空腹の初っぱなにカレーは…」

「そ、そうですよね…ゴメンなさい」

彼女は落ち込んだ顔を見せる。
なんというか昨日からショゲさせてばかりな気がする…。

「大丈夫!食うさ!食うよ!暑いからこそカレーだよな!」

こうして、二人で汗をダラダラ流しながらカレーを貪った。

--夜

「モグモグ…このカレー美味いよな。一晩寝かせた味って言うのか?」

「本当ですか?ありがとうございます♪」

晩飯も昼に作ったカレーの残りを食べている。

「でも暑い」

「すみません…作りすぎました…」

「いいんだよ美味いんだし、キミとカレーは悪くない!だけど、だけど暑いんだよ!!」

俺は気付くと、ご近所にも聞こえるような大声で叫んでいた。

「わ、わ!兄さん!気を確かに!」

「あぁ、ダメだ!暑くてマトモな思考ができない」

「そうですね、じゃあ涼しくなるように少し怖い話でもしてみましょうか?」

「おぉ?なんだそれ?じゃあ聞かせてくれ」

「はい、それでは…これは夢でのお話なのですが…」

彼女は語りだした。

夢の中で、会った事も見た事もない人を見ることってありますよね?
それはあなたの心理が作り出したもので、あなたの心を写すといわれています。
ただ、この話は少し別の話で、その知らない人があなたに話しかけてくることはありませんか?
端的に言いますと、夢の中で話しかけてくる知らない人は、霊なのではと言われます。
霊が何かを伝えるため、あなたの夢に入り込み話しかけてきているのだと。
もし、『彼』に話しかけられている最中、不幸にも目が覚めたたとしても、
決して視界を上に移してはいけません。枕元で呟く『彼』が見えてしまいます。
まして、『彼』が忌み言などを発していた場合は特に気をつけて下さい。

また、話しかけられること以外で気をつけるべきものがあります。
それは、人の『部分』だけを見たときです。千切れた腕や足、胴体など。
そんなものは日常で見ることはないので、まず夢でも見ることはないでしょう。
しかし、それでも見ることがあるのならば、それは『彼』が悪意をもって
狙っていると考えて間違いないです。その『部分』はあなたに対する餌です。
『彼』は、意識の外側からあなたに気付かせるために接触してきます。
普段意識しない死角…視界の端、机の下、カーテンの後ろ、モノの隙間、トイレの蓋の中…
もしその時、頭や顔だけの『部分』を見たのなら、気付いてしまったのなら、
あなたは

「…おわりです」

「えっ?なにその消化不良な感じ」

「スミマセン、今考えて作ったのでオチとかが浮かびませんでした」

「…まぁ怖い話っていうか…眠るのが怖くなる話だな。トイレの蓋を開けてみたら便座一杯の大きさの顔が…とか考えると気味悪いよな」

「ちょ、ちょっとやめてください!リアルで想像しちゃいましたよ!」

彼女は両腕を押さえ震える。本当に怖いようだ。

「なんだよ、自分で言い出したんだろ?」

「うぅ…そうですけど…」

「さぁて、じゃあ風呂入って寝るか!」

俺は立ち上がると伸びをし、リビングの外へ向かう。
が、彼女に呼び止められる。

「ま、待ってください!」

「なに?」

「もしかして一人になるのが怖いとか?」

「う…」

「図星か…じゃあお風呂入ってくる」

「えっ?えぇ!?どうして今の話の流れでそうなるんですか!?」

「大丈夫だって、すぐ出てくるから、テレビでも見てれば気も紛れるだろ?」

「そ、そうですよね…」

彼女はテレビのリモコンを握り締め、力なく笑ってみせた。
少し忍びないが、俺は風呂場へ向かった。

体を洗い終わると、俺は湯船に浸かる。

夏なので、かなりぬるめの湯にしてある。
しばらく浸かっていると、体も温度に慣れ、リラックスし、
徐々に瞳が重くなっていく………。

『……兄さん』

声が聞こえる。
俺が目を開くと、そこには昨晩見た情景があった。
下着姿の彼女が、俺に抱きつき、胸に顔を埋めてくる。

…そうか、これは夢か…
なんとなく俺はそう思った。
夢、なら…
俺の手は自然に彼女に伸びていた。

俺の胸にある彼女の頭を片腕で抱きしめると、
もう片方の手で、彼女のお尻をムニムニとまさぐる。

『んっ!ちょ、ちょっと兄さん…ダメです!』

彼女は抵抗を見せるが、それも限りなく弱い。
俺の手の感触に浸るように、次第にその抵抗すらなくなってくる。

腰からお尻、太ももにかけて、ゆっくりと指の腹で撫で上げていく。
太ももの内側の付け根を触ると、特に体を強張らせる。ここが一番弱いようだ。
ハァハァと、彼女の息遣いが強くなってくる。

『もっと、触って欲しい?』

彼女の耳元にそう呟く。
すると一度だけ、コクリと顔を立てに振った。

俺は彼女を仰向けに寝かせると、
俺は彼女の腰当たりに膝をつき半立ち状態で覆いかぶさる。

『どこを触って欲しい?好きなところ、いっぱい触ってあげるよ?』

『ハァ…ハァ…』

緊張しながらも、興奮した息遣いだけが俺の耳に届く。
彼女は一瞬息を呑むと、俺から顔を背け、
着ていたキャミソールの裾を掴むと、ゆっくりと胸の上までたくし上げた。

『ここを…触って、ください』

俺は何も言わず、既に勃起した彼女の右胸の先端に人差し指を添えると、
彼女の快感を焦らすように、円を描きゆっくりと動かす。

『ひぅ…んっ…あぁ、ハァ…んんッ!』

『兄さん…んっ!もっと…!』

『兄さん…!兄さん……!』

「んんっ…」

「兄さんっ!兄さんっ!!」

肩がゆさゆさと揺れている。
なんか寒い。俺は目を開いた。

「兄さん!あぁ、よかった!」

「ん…」

「お風呂入ってから、もう二時間も経ってますよ!?」

「あぁ……って、えっ?二時間!?」

俺は意識が覚醒する。
風呂の湯がかなり冷たくなっている。

「全然戻ってこないから、心配で見に来ました」

「悪い…寝てたみたいだ」

「無事でよかったです…」

彼女はほっと一息つくと、我に返ったように立ち上がる。

「あ!す、スミマセン!もう出ますね!」

後ろに向きに振り返ると、勢い良く走り去ろうとする。

「あ、おい!滑るから気をつけろよ!」

「だ、大丈夫です!キャアッ!?」

風呂場からは無事に出たものの、脱衣所の先でコケたらしく、
ズダーン!という音と、彼女の哀れな声が届いた。

「大丈夫だったか?」

風呂から出た俺は真っ先に安否を確認する。

「大丈夫です…スミマセン…」

ソファーに座り、鼻頭からおでこに手を当てうなだれていた。

「どれ?ちょっと見せて」

彼女の手を取り、おでこを確認する。

「あっ…」

外傷は無いようなのでツンツンと、おでこから鼻までをつついてみる。

「痛くない?」

「…ちょ、ちょっとだけ…」

「特に腫れてもないし、傷もないし大丈夫そうだね。よかった」

「は、はい…!あの、シャワー浴びてきます!」

彼女は逃げ出すように、部屋から出て行った。

しばらくして、寝る前のトイレついでに脱衣所に寄ると、
風呂場からはシャワーを浴びる音が聞こえてくる。
洗濯カゴに脱ぎたての下着が置いてある。脱ぎたての…
いやいやいや!俺は邪念を振り払い、声をかけた。

「俺もう寝るから、寝るときに電気消してきてくれる?戸締りはしておいたから」

「はーい!分かりました!」

俺は彼女の返事を聞いてから、名残惜しいがその場を立ち去った。

--自室

「さて…」

俺はベッドに腰掛けると、ベッドの下に手を突っ込み
エロ漫画を取り出す。

ふんふんふん~♪

本をパラパラとめくる…。

ふんふん、ふふふん♪ふんふんふん♪

「くっそぉぉっぉ!!!集中できねぇ!!」

俺の部屋の真下はちょうど風呂場になっており、
シャワー音はまだしも、鼻歌が壁伝いに響いてくる。

「雑念!雑念を払うんだ…!!!うぉぉぉぉぉ!!!」

俺はベッドに寝転び、布団を頭からかぶって必死に頭の中を無にした。

コンコン…不意にドアが叩く音がする。
誰だ?現在二人しかいないはずの家なのに、俺はそう思う。

ガチャ…
ゆっくりと扉が開くと、そこから見たこともない男の顔が覗いた。
通常の人間の1.5倍は大きい顔をしていた。

『オイ』

ソレはそう声を発した。
俺は戦慄した。何だ…?なんだ?誰、えっ何?え?ヤば、ヤバイ!!
ソレはなおも、『オイ』『オイ』と俺に言葉を投げかけてくる。

『うわぁあああああ!!!!』

俺は必死になって、手元にある枕を投げようと掴み、引き寄せる。

『オイ』

俺のすぐ横から声がした。視線をドアに戻すとそこには何もいなかった。

『オイ』

声は俺の手元から聞こえた。
俺は視線を落とす。

『ミツケタ』

ガバッ!!
俺はベッドから飛び起きた。

「っ…!?…はぁはぁ…」

周りを見渡すが、何も異常はない。
息が落ち着いてきたその時、
コンコン
ドアをノックする音が部屋に響いた。
すぅ…と、俺は息を飲み、そのまま息を殺す。

ガチャリ…と、ドアが開く。
俺はあらかじめ枕を持ち、高く構え身構える。

すっと、開いたドアの隙間から顔が覗く。

「うわああああああ!!!」

俺は叫びながら、持っていた枕を渾身の力でそこにブン投げた。
ボスッ!!と鈍い音が響く。

「ひゃぶっ!?」

ソレは音を立ててその場に崩れ去った。

「や、やった!倒した!」

俺は獲物を確認しにドアに近寄る。

「うぅ、兄さん…酷いぃ…」

そこには下着姿で顔に手を当て、うずくまる女の子がいた。
今日もキャミソールにパンツを履いている。

「まさか悪霊の正体が可愛い女の子だったとは…」

「痛いぃ…可愛いのは嬉しいですけど…兄さん、寝ぼけてるんですか…?うぅぅ痛い…」

「そんなところだ…悪い」

「いえ…」

俺は彼女の手を引いて立ち上がらせる。

「マジで悪かった…で、どうしたの?」

「はい…あの、パジャマありませんか?」

「あ、あぁ…ゴメン昨日の一着しか知らないないんだ…今日洗濯しておけばよかったな」

「スミマセン…今日私がしておけばよかったです」

「じゃあ明日洗っておくよ…で、どうしようか?俺のでよかったら貸すけど?」

「いえ、もうこのまま寝ますので」

「えっ?いいの?」

「はい。では、おやすみなさい」

「うん、おやすみ」

彼女はそのままベッドに向かい、タオルケットに包まる。

「…あの、ちょっといい?」

「はい?あ、電気は全部消してきましたよ?ガスの元栓も締めましたし」

「うん。ありがとう…ってそうじゃなくて、どうしてここで寝るの?」

「さっき枕を顔にぶつけられました…痛いところに追撃です」

「いや、本当に悪かったって…」

「それに…兄さんは二時間もお風呂に入っていました」

「それが、何か関係が?」

彼女は、ふくれっ面で睨んでくる。

「二時間も待ったんですよ…すぐ戻ってくるって言ったのに!」

「心細かったんですからね…!」

少し涙目になり、そう訴えかけてきた。
俺は頭をポリポリと指で掻き、部屋の電気を小さな灯りだけ残しベッドに入る。
寝転ぶと、すぐさま俺に腕を伸ばして抱きついてくる。

「怖い話するのに、怖いのは怖いんだね」

「怖いから怖いんです…当然じゃないですか」

「まぁ、そりゃそうだが」

「でも、こうして誰かと一緒にいると、心が落ち着きますね」

「…そうかも」

先ほどの夢を思い出すが、彼女がそばにいてくれるおかげか、
それほど恐怖は感じなくなっており、故に肯定の言葉を口に出していた。


彼女がもぞもぞと体を上に動かし、俺の目線の位置までくる。
薄明かりの中、彼女が俺を見つめてくる。
俺が疑問に思っていると、彼女が声を発する。

「兄さんの『気になる人』って妹さんですよね?」

「…えっ?」

「妹さんのことを話す態度を見れば分かりますよ」

「うっ…そうだったか?」

「はい、兄さんの事だったら、なんでも分かる気がします…でも」

「…でも?」

「どうして妹さんのことが気になるんですか?…兄妹なんですよ?」

「それは…」

「教えてくれませんか?」

「…あいつに、妹に告白されたんだ」

「……そうですか」

「そういうわけだから…好きとかそういうのじゃなくて、まだ分からないって言うか…」

事のついでだ、俺はこのまま彼女に俺の気持ちを聞いてもらおうと思い、言葉を連ねる。

「兄さんは、妹さんと一緒にいると、心が落ち着きますか?」

「えっ?」

「あ、兄さんまつげが抜けてます…」

まぶたに彼女の指がそっと触れた。
反射で目を閉じ、同時に疑問が浮かぶ。
こんな小さな電球の灯りだけで、まつげが抜けていることが分かるのか?
目を閉じている間、彼女の声だけが聞こえてくる。

「一緒にいると、心が落ち着きますよね…好きな人と一緒だと、特に」

「私は、兄さんと一緒にいると、特別心が落ち着く気がします…」

目を開いたとき、まぶたに触れていた手は、俺の首の後ろにまわされる。
彼女の顔は、俺の目と鼻の先にいた。

「えっ…?それってどういう…?」

どういう意味?そう、聞こうとする前に、彼女が俺の言葉を遮る。

「つまり、兄さんとキスがしたいんです…」

「へ…?」

「もし、嫌でしたら拒んでくれていいです」

それだけ言うと、彼女は俺の唇に自分の唇を重ねてきた。
とても柔らかいものが、俺の唇に触れる。
今まで感じたことのない感覚に、体が熱く反応する。

唇を離すと、一言だけ、彼女はハッキリと俺に伝える。

「兄さんのことが好きです」

そう発する言葉の吐息が俺の唇に当たる。
突然のことに、思考が働かない。
しばらく間をおいて、彼女は体の向きを変え、俺に背を向ける。

「う…」

言葉に出そうと思うが、言うべきものが見つからず言葉にならない。
彼女は沈黙したまま。答えを待っているのだろうか?

俺は、妹が気になっていたはず…。性格が悪くて可愛くない、可愛い妹のことを。
鼓動がいつもより早く脈打つ。どうしてだろう?
どうしてキスを拒まなかったんだ?何より、今、彼女を抱きしめたい。
妹への感情のスキマに、彼女が入ってきていた。この一瞬で。

「…悪い、今なんて言っていいのか分からない」

俺は正直にそう言う。

「そう、ですよね…」

「…」

「でも、鈍感な兄さんに気持ちを伝えるなら、これくらいしないとって」

「いや、ここまでしなくても…」

「…普通、女の子が何も想っていない相手と一緒に寝たいと思うって思いますか?」

「……思わない、かな…?」

「当然です。これだけして何もリアクションなしって、どう考えても鈍感です。今日だって、だから…」

「…で、でも、一体いつから?」

「初めて会ったときから、お話をしてたらもっと…」

「そ、そっか…」

彼女はこちらを振り向く。

「妹さんが帰ってきてしまったら…きっともう無理でした」

「けど今、兄さんの心の中に…私、いますよね?」

「…うん、いるかも」

「よかった…」

「…」

「…あの、キスしてしまって、すみませんでした」

「あ、いや…」

唇の感触を思い出し、言葉が詰まる。

「また、できたら嬉しいです」

「えっ?」

「それとも、今、もう一度してくれますか?」

「い、いや!ダメだって!っていうかそもそもこうやって二人で寝るのもマズい!」

俺は唐突に今の状況を思い出す。
告白してきた女の子と一緒に布団に入るなんて、常識的に考えておかしい。
俺は彼女をベッドから出そうと、起き上がる。

「ダメです」

彼女も起き上がり、俺に抱きついて押し倒そうとしてくる。

「うわ、ちょ!?」

「布団に入るのは、兄さんが私を二時間も放置プレイしたからです。今回の件とは別ですよ」

「放置プレイって…いや、でもだな…」

「今晩限りは私のこと『妹』として扱ってください」

「う…」

俺は反論できず、そのまま先ほどと同じカタチでベッドに倒れこんだ。

「もちろん明日からは、妹さんと同じように一人の女の子として見てくださいね?」

そう言って彼女が体に絡みついてくる。
今日も眠れなさそうだ。

義妹…彼女が俺のことを好きだという、
こんな身近にいて迫られたら、どうやっても好きになってしまうんじゃないか…?
なんとなく、少し妹に申し訳なく思ってしまった。

「兄さん、兄さん!起きてください!」

「んっ…んん…」

妹の声で目覚める。
どうやら気付かないうちに眠ってしまったようだ。

「もうお昼ですよ?」

「…は?そんなに寝てたのか?」

「兄さんは、だいぶ寝ぼすけさんですね」

「誰のせいだと…」

俺はそうボソッとつぶやくが、
そんなことを言っていてもしょうがないので、
妹と一緒に階下へ降りる。

「兄さん、今日のお昼はオムライスを作ったんですよ?」

「いつの間にそんなものを作れるようになたんだ?」

「暇だったのでテレビを見てたら作り方がやっていたので覚えました」

「そんな見ただけでできるもんなのか…?」

妹はキッチンへ行くと、
用意してあった二つオムライスを持ってきてくれる。

「お待たせしました」

「なんだこれは?美味そうだな…ゴクリ…」

「結構、忠実に再現できたと思いますよ」

「それもうなずける見た目だな、とにかく腹減ってるし、いただきまーす!」

きらきらと輝くふわとろの玉子に銀色のスプーンを突き刺し、
中のケチャップライスを絡めとり、それを口の中へ運ぶ。

「どうですか?」

「おぉ、うめぇ!美味いよ!流石だな!妹なんかの料理より全然美味いわ!」

「そんな、えへへ…ありがとうございます」

その時、玄関のカギを開け、扉の開く音が聞こえる。

「ただいまぁ、あーなんかいい匂いするね?」

そういいながら、妹は俺たちのいる部屋への扉を開ける。

「やっほ!お兄ちゃんただい…」

最初俺と目を合わせた妹だったが、
俺の隣にいる妹に視線が移り、視線が重なる。

「ま……………」

妹は時間が止まったかのように硬直している。

「おい、妹?だいじょ---」

「えーーーーーっ!?だ、誰?もしかして、彼女…とか?えっ、嘘でしょ?」

「えっ?いや妹だけど?」

「初めまして、妹です…よろしくお願いします」

「なんだ、妹か…それなら最初にそう言ってよ……………えっ?」

「えっ?どうした?」

「いやいやいやいや!妹は私でしょ!何言ってるの!?」

妹は妹の前まで詰め寄り、当然の疑問を投げかけてくる。

「あぅ…すみません…」

妹は妹の態度に萎縮してしまう。







文章中、妹妹わけ分からんので、以後
妹→舞
義妹→美羽
とします。

「ねぇ、どういうことなの!?」

舞はなおも美羽に詰め寄る。
俺が間に入り、舞に親父の手紙を渡して説明してやる。

「ふんふん、そういうことね」

「納得したか?」

「うん。って納得……するかっ!」

「では、これを読んで下さい」

「なによそれ?」

「もう一通、お父様からです」

そんなものは俺も知らない。
舞と一緒になって手紙を開く。

*------------------------------------------------------------*
美羽は正真正銘、俺と母ちゃんの子供だ。
舞とは二卵性の双子だったんだが、お前たちが生まれてすぐに母ちゃんが
死んじまって、俺一人じゃ家計が苦しくてやむなく妹の美羽を友人に預けた。
俺はちょくちょく会いにいっていたんだが、余計な心配は
かけさせたくないからお前等二人には黙っていた。スマン。

                                         以上
*------------------------------------------------------------*

「というわけです」

「なんだそれ?初耳なんだが…えっ?ちょっと待って…それは美羽も知ってたの?」

「はい、もちろんです。しばらくしたらお二人に読んでもらえとのことだったので」

それじゃ美羽は俺のこと実の兄だと分かって告白してきたのか…?

「…何、考えてんだよ親父は…」

「多分、最初は義妹ということにしておけば、受け入れやすいと考えたんじゃないでしょうか?」

「わ、私は全然構わないよ!」

舞が、はしゃぐようにそう言う。

「妹だなんて、ちょっと憧れてたんだよね!よろしくね、美羽ちゃん!」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。姉さん」

「あはは、お兄ちゃん!『姉さん』だって!キャハー!」

「あと、呼び捨てで構いません。美羽と呼んでください」

「分かったよ、みぅ~♪」

「兄さんも、改めてよろしくお願いします」

「あ、あぁ…」

「何よ、お兄ちゃん元気ないよ?あ、このオムライス食べていい?」

「あ、コラ!これは俺のだぞ!」

妹は俺の言葉も聞かずに、オムライスに手をつける。

「もぐもぐ…んー!おいしい!何これ?美羽が作ったの?」

「あ、はいそうです」

「凄い美味しいよ!ね?」

「あぁ、お前の作る飯とは段違いだな」

「な、何それ!いつも美味しい美味しいって食べてくれてたじゃん!」

「確かに人が食えるレベルではあったな」

「む…っ!分かった、じゃあ今晩は私が料理を作るからね!!」

--夜

妹の料理を囲んで三人で食べる。
ハンバーグだった。

「ど、どう?美味しい?」

「はい、とっても美味しいです」

「うん…美味いよ」

ハンバーグからは全ての肉汁が抜け出し、パサパサしている。
その食感を味でカバーするかのような濃いソースで味付けされている。
一言で言ってくどい。

「で、でしょ?ほら、私だって美味しい料理くらい作れるんだから!」

「姉さん、今度私にも料理を教えて下さい」

「えへへ、もちろんだよ!一緒につくろうねー♪」

美羽のやつ、姉を立てるのが上手いな…。

「あ、ねぇ?美羽は今、どこで寝てるの?」

俺はその質問にギクッとするが、
美羽のことだ、当たり障りのない返事をして…

「はい、兄さんの部屋です」

…くれなかった。

一瞬でその場の空気が凍りついた気がした。
美羽はニコニコとし、ハンバーグを口にしてる。
舞は、うつむき、なにやらプルプルと打ち震えている。
俺はただただ、目を泳がせるしかなかった。

「お兄ちゃん?」

少し凄みの聞いた声で、俺を呼んでくれる舞。

「ひっ?は、はい!」

「一体、どういうこと?もしかして、美羽に手でも出したんじゃ…?」

テーブルから身を乗り出して、今にも俺に殴りかかりそうだ。

「ち、違う!これはっ!美羽が勝手に…!」

「そうですよー?姉さん、そんなわけないですよ。冗談ですよ、冗談♪」

「…へ?」

美羽の一言で、舞の怒りのボルテージが一気に落ちていく。

「兄さん、困らせてしまってすみません」

「い、いや…」

「今はお父様の部屋を借りさせてもらっています」

「そ、そうなんだ…なんだ冗談かー!あははは!」

「すみません…なんだか怒らせてしまったみたいで…」

「別に怒ってなんていないって!話しそれちゃったけど、それでさ…よかったら私の部屋で一緒に寝ない?」

「えっ?いいんですか?」

「もちろんだよ!あ、でもベッド一個しかないだ…」

「構いませんよ?私は布団でも寝れますから!それに一人だと寂しかったので…」

「そう?それじゃあ、そうしようよ!」

「はい、なんだか楽しみですね」

「だね、えへへ」

「なんだこの仲睦まじい光景は…」

「うるさい!姉妹の美しい仲に割り込まないで!」

「そうですよ、折角やっと二人元に戻れたんですから」

「なんだよ…俺は除け者かよ…まぁ、仲良くやれそうで良かったけどな」

「当然だよ、双子なんだもん。ねー?」

「ねー?」

「…居心地が悪いので退場します」

「ダメダメ、お兄ちゃんは用事があるんだから」

「は?いや俺はないが」

「ダメだよ、これから美羽のお引越しなんだから」

「それじゃ、私も一緒に」

「あー、いいのいいの!力仕事は任せておいてよ!荷物は全部お父さんの部屋だよね?」

「はい、一応一箇所にまとめてありますが…でも…」

「いいから、いいから!」

「うー、じゃあ、お皿でも洗ってます」

「う~ん、それこそ本当は私がやるべきなんだろうけど…じゃあ作業交代ということで手を打とうよ!」

「おい、俺を抜いて勝手に決めるな!どうせ俺が全部運ぶんだろうに…」

「部屋の鍵を開けられるのは私にしかでないよ?」

「じゃあ、部屋の鍵を貸せよ」

「…荷物の置き場所も私が決める」

「んなもんテキトウでいいだろ…」

「はぁ…もういいから!早く行くよ!」

「お、おい!」

舞は俺の手を引いて部屋を出る。
背後から『よろしくお願いします』と美羽の声が聞こえた。

--舞の部屋

「運ぶって言っても、このデカイ鞄一つだけかよ…大して重くないし俺がいる必要あったか?」

「まぁ、実際あまりなかったね」

あとは、美羽の寝る布団を敷くために舞は部屋を少し片付け、
俺は親父の部屋から布団を引っ張り出したりしたが、
実労働的に大したことはしていない。

「じゃあ、終わったし俺は自室に退散する」

部屋に戻ろうとドアに手をかけると、
舞が手首を掴んでくる。

「待って」

「なんだよ?まだなんかあるのか?」

俺は振り返ると、すぐさま手を離される。

「べ、別に…」

「なんだそれ…じゃあ引き止めるなよ」

「ち、違うの!お兄ちゃんがだよ!」

「は?」

「私に、何か聞きたいこととか…あるんじゃないの?」

「…ん?いや、別に?」

「ほ、本当に…?」

「うん」

「そんなわけないでしょ?」

「さっきから、一体なんなんだよ?ワケわからん」

「うぅ…私!外泊を二日もしてきたんだよ!?…それなのにお兄ちゃんは私のこと何も気にならないのっ!?」

舞は鋭く俺に言い放った。

「そのことか…確かに気になりはしたけど、あの後すぐ美羽がやってきて、それどころじゃなかった感が…」

「………」

「でも…彼氏ができたんじゃないかって…ずっと気になってたよ。だけどお前の問題だし、口挟むべきじゃないかなって…」

「そんなわけないよ!」

舞が俺に抱きついてくる。

「だって、だって…!あれから何も言ってくれなくて…!だから!だから!ぅう…!」

「……お兄ちゃん、もしかして何も考えてくれてないのかなって…私なんてどうでもいいのかなって!…ぐずっ…不安に、なって…!」

「すまん…」

「うぐっ…謝らないでよ!バカァ!!」

頭に手を伸ばし、優しく撫でてやる。

「…うぅ…やめてよ、怒ってるのに…そんなことされたら嬉しいじゃん…ばか…」

「…お兄ちゃんのこと、本当に、好きなんだからね?」

「だから、彼氏がいるような素振り見せて外泊したのか?」

「うん…お兄ちゃんの気が引けるかなって…はぁ…ゴメン、やってること最低だよね」

「…」

「じゃあ、もう行って!」

「舞…」

「…早く!これから美羽を部屋に招待するんだから!」

「その前に風呂入って、顔洗って来いよ」

舞は、目の端に指を当て、涙をすくう。
その指を見て、自分が泣いていたことに気付いたようだ。

「っ!別に、泣いてなんて、いないんだから!早く行ってよ!バカ!」

「…へいへい」

俺は、舞の部屋を後にし、自室に戻った。

それから数分後、階下からシャワーの音が聞こえてきた。
舞かな…などと思いながら俺はベッドに倒れこむ。

「なんだか疲れた…舞…」

「んっ…んんっ…」

眠い…今まで眠っていたようだ…
点けっぱなしだった電気が眩しい…だけど消すのも面倒だ。
タオルケットを体に被せ、そのまま再び目を閉じた。

カチャ…。静かにドアの開く音と閉じる音が聞こえた。
しかし俺の意識には届かない。

ギシッという音ともに、誰かがベッドに登ってくる。
小さな声で、ソレが話しかけてくる。

「にぃさん♪夜這いに来ましたよー?」

「…うるさい、眠い…」

「?…寝ぼけてるんですか?」

「……」

「起きないと、ちゅーしちゃいますよ?」

目が覚める。目を閉じて顔を近づけてくる美羽の顔があった。
顔に息を吹きかけてやった。

「あぅ…あ、起きましたか?」

「なにしてる…?舞の部屋で寝たんじゃないのか?」

美羽はパジャマ姿の四つんばいの格好で、俺に覆いかぶさっていた。
おとといとは違うパジャマだ。舞から借りたんだろう。

「さっきも言いましたよ?夜這いです」

「じゃあ、失敗したから帰れ」

「残念ですが、女の子側からの夜這いは、ベッドに入ったらもう完了してるんですよ?」

「…?」

「ここで私が叫んだら、姉さんが飛んできます」

「うっ…なにが望みだ?」

「話が早いですねぇ…望みというほどではないですが、兄さんと一緒にいたいです」

「それだけ?」

「はい」

「まぁ、それくらいなら…んっと!」

俺は起き上がり、ベッドに座りなおす。
美羽もそれに習って、俺の隣に座る。

「舞に見つかるとアレだから、しばらくしたら戻れよ」

「分かってます。一応ちゃんと姉さんが寝たのを確認してからきましたから」

「…で、何しに来たんだ?」

「…さっきも言いました」

不機嫌そうに言う。

「…夜這いか」

「違います!一緒にいたいんです。できれば、兄さんと二人きりで…」

「なんで?」

顔をムッとさせて、俺を見てくる。

「兄さんは、バカですか?」

「なっ!?ば、バカとはなんだ!」

まさか美羽からバカと言われるとは…。
舞のは冗談に聞こえるが、美羽からだとなんだか本当に
そう言っているように聞こえる。実際そうなのだろうが。

「だって、好きなら…できるだけ一緒にいたいものです」

「好きって…妹なのにか?」

「はい」

「兄として好きとかじゃなく…?」

「兄妹愛って、こんなに胸がドキドキするものですかね?」

美羽は胸に片手を当てて、俺の手を握る。

「兄さんはドキドキしてませんか?」

「正直なところ、実妹だと分かったら、そんなに…」

「がぁーん!…ちょっと、あぅ…結構ショックです…」

彼女は心底落ち込んだような表情を見せる。

「で、でも!昨日はドキドキしてたんですよね?」

「う、うん…まぁ」

「血の繋がりって、そんなにハードルになるんですか?」

「…俺は、そうみたいだな」

「じゃあ一つ、試させてください」

「なにを?」

「ドキドキしちゃたら、私のことを好きだって認めるゲーム…です」

「なんだよ、それ…?」

「キスも、それ以上のこともしません。この条件で10分耐えてください。耐え切れなかったら私の勝ちです」

「わかった…けど、もし耐え切ったら?」

「そのときは、兄さんのこと諦めます…じゃあ!いきますよ!」

「お、おい!うわっ!?」

座った体勢から、そのままドサッ!とベッドに倒され、覆いかぶさられる。
体を密着させ、耳元で囁かれる。
密着した体から美羽の体温と鼓動が布越しにも伝わってくる。

「兄さん…私がドキドキしてるの分かりますか?」

「…うん」

「兄さんの事が、好きだからこんなにドキドキしてるんですよ…?」

美羽の可愛く、甘い声が脳に響く。
情けないことにこれだけで俺の心臓の脈はかなり早まってしまっている。

「兄さんのことが好き、好きなんです…好き、好き…大好きです」

美羽は顔を持ち上げると、俺と視線を重ねる。
チラッと時計に視線を移す。

「まだ、1分も経ってませんね…?」

「え?あ、あぁ…」

「私、耐えられそうにありません」

美羽の目がトロンとしてる。
軽く目を閉じると、そのまま顔をゆっくりと下げてきた。

「んっ…」

唇を重ねられる。頭を斜めにすると、更に唇を深く重ね、舌を俺の口内に割り込ませてくる。
頭がボーっとする。俺は妹の舌を受け入れ、口内で重ね合わせた。

「あむっ、んちゅ…ちゅぷ…はぁ…はぁ…」

美羽が唇を離すと、互いの舌の間に糸が引き、ツ…と切れる。

「…キスはしないんじゃなかったのか?」

「すみません…でも…」

再び唇を重ねてくる。
今度は唇を味わうように、唇をあむあむと動かし、吸い付いてくる。

「んっ、んん…あむ…ちゅ…はぁ、はぁ…」
「兄さん…ちゅ、んちゅ…れろ、ちゅっちゅっ…」

しばらく唇と舌を互いに重ね合わせた後、ようやく俺から体を離す。

「んっ…キスしちゃいました」

「…反則だろ」

「そうですね、反則ですね…」

「えっ?」

「約束は守らないと…」

「いや、でも…」

「もう、諦めます…………今日は」

「今日は?」

「まさか、兄さんがべろちゅーしてくれるなんて思いませんでした…」

「セカンドキスがべろちゅーなんて結構エロいですよね?…えへ」

両手で顔を抑えながら照れまくっている。

「本当は、朝までちゅっちゅしていたいんですケド、姉さんにバレますし、それは兄さんも都合悪いでしょうから、帰りますね?」

「えっ?あ、うん…」

「それじゃあ兄さん、おやすみなさい♪」

「あ、あぁ…おやすみ」

美羽はまくし立てるように喋り、部屋を出て行った。

俺は未だハッキリしない頭で遅くなった風呂に入って寝た。

--翌日

「にいさ~ん?いつまで寝てるんですか?もうお昼ですよ!」

「ぐー」

「今日は私たち二人でご飯を作ったんですから食べてくださいよ~?」

兄さんを起こさないようにゆっくりと揺さぶる。

「…もう、仕方ないですね…起きないなら…」

私は、昨日の兄さんとの行為を思い出し、
唇にそっと触れる…少しだけなら、大丈夫かな…?
兄さんの両頬を、手の平で包み、唇を重ねる。

美羽がお兄ちゃんを起こしに行っている間、
私は二人で作った料理を盛り付け、テーブルに並べていた。

「こんなもんかな?」

二人が戻るまでには終わらせると思っていたけど、
戻ってくる前に終わってしまった。

「ちょっと、遅いな…?」

どうせ無駄話でもしているのだろう、脅かしてやろうとそっと階段を登ると、
足音を立てないように、お兄ちゃんの部屋に向かった。
少し開いたドアから二人の声が聞こえる。私はそっと聞き耳を立てた。

「寝起きからキスとかやめろよ」

「兄さんが起きないから悪いんですよ?」

キス?何の話?

「ねぇ、もうちょっとだけ…」

「さっきからそればっかだ…んっ…」

「ちゅ、あむ…んんっ…ぷちゅ、はぁ…それは、兄さんが拒まないから…」

「…うぅ!も、もういい…行く!」

お兄ちゃんの足音が、こっちに近づいてくる!
まずい!隠れなきゃ!私は自室に逃げ込もうと思うが、咄嗟のことで足が動かない。

「待ってください、じゃあ、もう一度だけ…」

美羽が、お兄ちゃんを引き止める。
足音が止んだ。私はもう一度ドアを返り見る。
ドアの隙間から、お兄ちゃんが見えた。美羽も見える。
二人が、唇を重ねていた…深く、深く…舌も、舌が…あぁ…あ、あぁ!

潰れそうな心臓を、私は更に押さえつけ、
どうにかゆっくりと、気付かれぬよう…階段を一歩一歩降りていった。

--深夜

昼ごはんの味は覚えていない。
極力悟られないように私は普通に振舞った…つもりだ。
夜ご飯はどうしたっけ…?何も覚えていない。
どうやってベッドに入ったかすらも。

ベッドの下では、私の好きな人とキスしていた女の子が眠っている。
私の妹だ。…どうして?お兄ちゃん、どうして私じゃないの…?

妹の寝ている布団から何か動く気配がする。

「姉さん…?」

美羽の声だ。一体なんだろう?
今は喋りたくない。私は息を整えて寝たフリをする。

しばらくして美羽はドアを開けて、部屋を出て行った。

「兄さん、今日も来ちゃいました」

美羽はパジャマ姿で枕を抱えて俺の部屋にやってきた。
ノックもせず俺の部屋に入ってくる。

「なんだよ?俺の部屋で寝る気か?」

「そういうこともあるかもしれないので、一応」

「ダメだ、部屋に帰れ」

「嫌です。お昼の続きがしたいです」

「昼って…あれで最後だって言っただろ?」

「でも、今日は朝までちゅっちゅしていたい気分なんです…」

そう言って、勝手にベッドに上がってくる。

「おい!ダメだって!」

「どうしてダメなんですか?」

「どうしてって…」

「お前は、妹だろ?…」

「ですよね?でもドキドキすること、もっとしたいです…」

「うぅ…そんな顔で、んなこと言うな」

「兄さんの顔を見るだけでドキドキするんです…だったらキスもしたくなるじゃありませんか?」

「どんな理屈だよ…」

「もう、兄さんも素直になってくださいよ」

「俺はいつでも自分に素直だ」

「ふぅん…あ、じゃあ面白いもの見せてあげますよ」

そう言いながら、美羽はパジャマを脱ぎ始める。

「お、おい!脱ぐな!」

「んしょ…」

制止する間もなく、美羽は下着姿になってしまう。
何度も見てきたキャミソールにパンツの格好だ。
今日のパンツは水色の単色。

「ちなみに昨日は白でした」

「えっ?」

「そんなにマジマジと見ないでください…恥ずかしいです」

「すまん…それで面白いものって?」

「はい、キスしてくれたら分かります」

「は?」

「じゃあ、お願いします」

そう言って、美羽はベッドに上で女の子座りをする。

「んー」

目を瞑って、俺に軽く唇を突き出してくる。
いつも美羽の方から俺にしてきたから何か抵抗がある。
これをしてしまったら、もう好きとか認めているようなものだ。

「もう、しかたないですね…」

動かない俺に痺れを切らしたのか、
美羽は俺の首に腕を回して、自分の方に引っ張ってくる。

「兄さん目を閉じて…?ちゅ…」

そのまま唇を重ねられる。

「えへ…兄さんも私に腕を回してください」

言われるがまま、俺は美羽を抱きしめる。

「兄さん…んっちゅ、ちゅ…ん…あの?」

「んっ?」

「舌、しゃぶって下さい。ん…」

そう言って、俺に舌を突き出してくる。
俺は唇で挟むように美羽の唇を軽く吸う。

「んっ…んあ…んっんっ…」

「ふぅ…」

「はぁ…はぁ…想像してたより気持ちよかったです…」

「想像って…」

「はい、今日してから兄さんとちゅーするのを、ずっとずっと妄想してました…」

トロンとした表情で、そう言う。
俺から体を離すと、美羽は足を左右に開く。

「ここです、見てください」

美羽は自分の股間を指差す。
先ほどまではなかった、染みができている。
水色のパンツが一部だけ縦長に濃い色に染まっている。

「濡れちゃいました」

「…面白いものってこれ?」

「はい、でもまだあります」

美羽は寝そべると、持って来た枕を腰にあてがい、腰を浮かせる。
そして足を広げると、指を股間にあてがい、生地越しにゆっくりと動かし始める。

「んっ…!」

今までと違う、少し甲高い声が口から漏れる。

「見ててください…あと、おさわりは禁止です」

濡れた生地の部分を上下に擦っている。
何度か擦るたびに、徐々に染みが広がっていく。

「はぁ…んんっ!兄さん…見てますか?」

「うん…」

「もっと、見てください…」

そう言うと、空いていた片手をパンツに伸ばし、
横にスライドさせるると、無毛のスリットが目に飛び込んでくる。

「はぁ…うぅ!兄さん、見て…くださいっ!」

外気に触れたためか、俺に直に見られているためか、
先ほどよりも腰を浮かせ、愛撫をする。

肉の丘のスリットに合わせて、中指の腹を少し食い込ませ、上下に往復させている。
耳まで真っ赤にしながら、俺に懇願している。
スリットの上部に指が差し掛かるたび、腰が軽く跳ね、
クチュ、クチュと、卑猥な音を立てながら、妹は行為を続ける。

「んんっ!あぁ、兄さん…あぁ!…あはぁ…はぅ…!んっ!くぅ!」

目が一瞬虚ろになり、今までより一層強く体をビクビクッと痙攣させる。

「うっ…はぁはぁはぁ…はぁ…」

美羽は起き上がると、俺に抱きつき、肩に顔をのせてくる。

「はぁ…はぁ…!」

「だ、大丈夫か?」

初めて直に見る女の子の行為に、
俺は困惑してそんなことしか言えない。

「おか…」

「えっ?なに?」

「おかずをください…」

美羽は俺の股間に手を伸ばしてまさぐってくる。

「ちょ!?うっ!」

「私のオナニー見ながらおっきくしてくれた兄さんのを見ながら、もっとしたいです」

「それは…」

「ダメですか?」

そう言いながら、既に俺のズボンを下ろしていた。
はち切れそうなパンツの先端に指をあてがう。

「つん…」

「うぉ!」

「感じちゃいました?…兄さんもパンツ濡れてますね?」

「変なこというな…」

「それじゃ、見せてください…?んしょ…」

パンツに手をかけ、一気に下ろされる。

美羽の行為を見て、既に最高まで怒張したものをまじまじと見つめられる。

「はぅ…おっき…」

「んっ…ビクンビクンしてます…!」

美羽は、はぁはぁと、荒い息が掛かるほど顔を近づけくる。

「触ります…」

美羽の指が、そっと俺のモノに触れると、ビクンッ!跳ねる。
それに驚いて一瞬腕を引くが、すぐに指を絡めて優しく握ってくる。

「確か、こうするといいんですよね?」

根元から握り、優しく上下に動かしてくる。
美羽を見ると、自分のも同じタイミングで愛撫しているようだ。

「はぁ…すごい…ちょっと触っただけなのに先走りが垂れてますよ?」

「くっ…どこで、そんなこと覚えたんだ?」

「ベッドの下のモノです」

「へっ…?」

「スミマセン、兄さんが寝てるときに熟読しました」

「こら、勝手に…くっ!」

先端から垂れた汁をすくわれ、亀頭全体に塗りたくってくる。

「あの本を見ると、兄さんはSッぽい気がしますが、兄さんはどっちかっていうと」

「くっ…!んっ…」

少し馬鹿にされた気がするので、喋れないように妹の頭を掴んで唇を奪う。
が、すぐさま舌が俺の中に割り込まれ、口内を遊ばれる。
手の動きが早くなり、腰が砕けそうになる。

「くっ!んっ…ちょ、くぅ!」

そのまま、俺は後ろに倒され、美羽に覆いかぶさられる。

「兄さん…」

美羽は両手を俺の耳にあてがうと、俺の聴覚を奪ってくる。
そしてすぐさま、唇を奪われる。

「んっ…んっ…」

美羽の舌が俺の口の中でゆっくりと動き回る。
耳を押させられているせいか、いつもは聞こえないものが聞こえる。
粘液がうごめく音、美羽の舌がニチニチと頭の中で木霊する。

「んっ…んっ…ん…ちゅぷ、はぁはぁ…兄さんは、おいたしちゃダメですよ?」

「……はい」

「よしよし、いい子ですね?」

頭をグニグニと撫でられた。
ちょっと屈辱を感じたが、なんだか気持ちよさを感じた。

頭を撫で終わると、パンツを片側だけ脱ぎ、
俺の頭側に足を向けて、69の体勢で四つんばいになる。

「私の、見ててくださいね?」

目の前で、美羽の指が蠢く。
クチュクチュと湿ったような音がする。
時折、指の先端を埋めたり、クリトリスをいじったりしている。

「んんっ!あぁ、兄さんに…見られ…あんんっ!…あぁ!」

「うぅっ!はぁ、はぁ…兄さん…兄さんもピクピクしてますよ?」

俺は視線を、自分下半身のほうへと移す。
美羽のキャミソールの下から胸が覗いてみえる。
小さな胸だが、乳首がピンと勃起している。

「すごい…兄さんのパンパン…ここから、出るんですよね?あぁ、うぅ!」

「はぁ、気持ちいです…兄さんに見られながら、兄さんの見ながら…あっ、あぁ、イキそうです…!」

「んんーーー!!」

美羽の全身が突然痙攣する。膝を伸ばして、ガクガク震えている。
指を添えている場所は、何度も収縮を繰り返している。

「んっ!んはぁ!はぁッ!はぁ…!はあ…」

息が絶え絶えとしている。
俺は、美羽のソコに、唇を当て、舌を伸ばす。

「ひぅっ!?だ、ダメ!兄さん!うっ!ひぐぅぅぅううう!!!」

突然大きな声を出してしまい、咄嗟に片手で口を押さえ声を殺す。

「んっ!んっっ!んんん!!!」

俺が舌を這わせるたびに、美羽の体がビクビクと跳ね、声が漏れる。

「んぐふっ!ひぅ!ダ…うぅ!メ!あぁぅ!!んっ!んん!」

美羽は耐えられなかったのか、痙攣が強くなると、俺から離れる。

「はぁっ!はぁ…はぁ!はぁ…に、兄さん…はぁ酷いです…!」

「おいたは…ダメて…くっ!うぅ!で、でも良かった…です…」

息が整うと、俺の足の間に入り込み、
俺の股間に両手を添えて、上下に擦ってくる。

「うぅ!?今は…!」

「それじゃあ、兄さんもしてあげますね?」

「ま、待てって!」

「ダメですよ?兄さんが意地悪したから、たくさん焦らしてあげますからね?」

美羽はそういうと、唇を軽く開いて俺の先端に被せ、
鈴口をチロチロと舐める。

「あむ…ちゅ、んっ…レロレロ…」

「うぅ…だ、メ…!くぅ!」

その瞬間、俺のモノから、白濁した液体が、妹の口に吐き出される。
ビュル!ビュク!びゅるるる…!
美羽の舌に当たり、ほとんどが口から漏れてしまう。

「んぶっ!んん!」

美羽は驚いて、こちらを一瞥するが、
亀頭全体を口で包み込み、残りを口内で受け止める。

「んっんっ…ちゅ、んちゅ…くっ…んぐっ…」

ゴクッと美羽の喉が鳴る。

「ぷふぅ…もう、もっと我慢してくださいよ…あぁ、兄さんのはじめてをこぼしちゃいました…」

「しょうがないだろ…限界だったんだ…」

「そんなに興奮しました?」

「はぁ…はぁ…んっ…んんっ!」

私の股間はグジュグジュに濡れていた。
大好きな人が、私以外人とあんなことしてるのに、
私はそれの行為を見ながら、自分の手で慰めていた。
何度イッただろう…廊下の床には私の雫が何滴も垂れている。

「お兄ちゃん…」

床に落ちた液をパジャマの裾でぬぐい
そっと自室に戻り、ベッドに潜り込む。
嗚咽が漏れないよう、枕で強く顔を覆って。

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