真美「オーダーメイド」 (32)

 白い空間の中、いや、暗いのかな

 目が開かないから分からないよ

 ここはどこ?

 あれ、口が無いから喋れないや
 
 口だけじゃなくて鼻も無いから、息もして無い

 無い無いづくしでイヤになるね

 でも苦しくは、無い。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1379838005



 漂ってるのかな

 それとも停滞してるのかな

 それすらも分からない


『─────これで、聞こえるかい?』


 心と身体が一瞬、震える

 響くような何かをキャッチした

 そうか、これが声か。


『やぁ、こんにちわ』


 こんにちわ

 あなたは誰?


『そんな些細なことはどうでも良いことさ』


 なんで?


『キミは全てを忘れてしまうから』


 忘れちゃうの?

 ここはどこ?


『それも些細なことさ』


 そっか

 どうせ忘れちゃうもんね。


『まず、未来と過去。どちらか一つを見れるようにしてあげる』


『どっちがいい?』


 じゃあ、過去かな

 
『そう』

『キミはキミでありたいんだね』


 うん。

 真美は真美で居たい。


『ちゃんと思い出せたみたいで何よりだよ』


『それにしても、キミは優しいんだね』


 なんで?


『無意識に思い出を選んだのだから』


 思い出?

 そっか

 これが、思い出か。


『さて、次はキミに身体をあげる』


 ねぇ


『なんだい?』


 やっぱり

 思い出はいらなかったかも

『ふふっ。ダメだよ。キャンセルは出来ない』


 そっか

 じゃあ、いいや


『その代わり、腕も脚も口も耳も眼も、鼻の穴も二つずつつけてあげる』

『気にしなくていいよ。今日はサービスデーだから』


 んー。便利かも知れないけど


 口が二つもあったら一人でケンカしちゃうよ

 どうせケンカするなら、他の誰かと

 ううん。大切な人としたい

 そしたらもっと、その人の事を知れるから。


『そうか。じゃあ、そうしよう』


 腕も最初にくれた、このワンセットで良いよ

 いっぱいあったら、真美には手が余っちゃうから。


 目だって、そんなにいっぱいあっても困っちゃうよ。


『なんで?』


 どこを見て良いか分からなくなるじゃん

 前だけを見れるようにしてくれたら、それだけで良い。

 だから、二つもいらないっぽいよ。


『キミは欲張りと真逆なんだね』


 そうかな?


『あ、でもさ。一番大事な心臓は、両胸につけてあげるからね』

『このほうがたくさん生きれるし、いいでしょう?』


 えぇっ!?


『そんなに驚くほど嬉しかったのかい?』


 ちっ、違うよ

 この左に胸にある心臓だけで良いよ

 せっかくだけど、ごめんね


『ホント、君は欲とは無縁なんだね』

 そうかな?

 ケンカの度に少し離れて、またくっつきたいんだよ

 抱きしめ合うように眠れば

 ちゃんと生きてるって鼓動を感じれるから

 ちゃんとこの心が覚えてるんだよ

 二つの鼓動がコトコトと

 重なった心の音が両側で鳴ると落ち着くって。


『思い出に縛られるのかい?』

『勿体ないね』


 そんな事無いよ

 あったかいもん


『ふーん。そう言えば最後にもう一つだけ』

『涙もオプションでつけようか?』

『なくても全然支障は無いし、面倒だからってつけない人もいるよ』


『どうする?』


 確かに、涙って面倒だよね

 でも、真美は知ってる

 涙が大切なものを教えてくれるって。

 悲しい時も、嬉しい時も

 涙の粒が心から溢れてきて

 大切なものを気づかせてくれるんだよ


 嬉しい時に涙が出るとさ

 世界がキラキラして見えるんだよね

 その綺麗なキラキラした世界が見たいから

 涙だけは絶対に、つけて欲しいな。


『涙の味はどうする?』


 それも決めれるの?


『しょっぱいの、すっぱいの、辛いの、甘いの』

『甘いのが一番人気かな』


 ふーん

 じゃあ、うんと、しょっぱくして

 二度と悲しい気持ちにならなくなるように


 ─────あっ。


『望み通り全てが叶えられているでしょう?』


 うん。

 ありがとう。


『だから、その顔をちゃんと見せてよ。さぁ』



 ぐすっ。


 これはホント





 しょっぱいね


『もう、甘くなんか出来ないよ?』


 うん。

 これで、良い


『また、思い出に縛られてるのかい?』


 違うよ

 思い出が、この涙をくれたんだもん

 おかげで一番大切なものを思い出せた


『そう。じゃあこれで、全部終わったよ』


 まだ、終わって無いよ


『…………終わったよ』


 一番大切なものを貰ってないもん


『大切なもの?』


 うん。



 まだ、亜美を貰ってない


 真美に一番必要なもの

 真美の大切な妹

 左は真美で右は亜美。


 一人だと、どこか欠けてるみたいで寂しいもんね

 きっと、それは亜美だって一緒。

 そう、思い出が教えてくれるんだよ


 一人ぼっちで生きていくのはきっと悲しいから。


 全部ひとつで良いから

 亜美と一緒が良い


 はんぶんこでも良いから

 そうやって生きていきたい


『…………ふふっ。前言撤回するよ』

『キミは随分と強欲のようだ』

『特別サービスだよ。ここで待ってるといい』

『キミは忘れちゃうけどね』




















 白い空間の中、いや、暗いのかな

 目が開かないから分からないよ

 ここはどこ?

ラッドだっけか


 優しい音が聞こえる。

 波の音かな

 反響するように

 その波間に聞こえるコトコトって音

 海を泳ぐようにワンセットの手を動かすと

 何か温もりが指先に触れた。


 お互い確かめ合うように

 何度も触れ合い

 聞いてみる





「「どっかでお会いしたことありますか?」」

終了。

ここまで読んでくれたヒト、ありがとうございました

RADと思って開いたらほんとにRADだった

おつん

真美がアンドロイドなお話かとおもったら曲の歌詞に沿ってたのか
ラッドってバンド?なのかな
とりあえず乙


いい曲だよねー

乙です
こういう雰囲気の好きだな

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom