花山「……ジャッジメントだ……」(824)

 
白井「ちょっと、そこのあなた」

花山「………………」

白井「わたくし、ジャッジメントですの。失礼ですが、身分証明証を拝見してもよろしいでしょうか」

花山「………………」

 
白井「ここは学園都市ですので、学生や教員など……教育機関に携わる者しかいないハズなのですが」

花山「………………」

白井「……白いスーツに、手に持った酒瓶……そして顔のおびただしい数の傷」

花山「………………」

白井「どう見てもそのような風体ではありませんわね。いったい何者ですの?」

花山「………………」 サッ

白井「……書類?」

 
白井「花山薫、高校一年生……転校生ですのね。本日付けで転入、と……」

花山「………………」

白井「あら、年齢は19? それで高校一年生ということは、何やら複雑な事情がお有りのようですわね……」

花山「………………」

白井「なるほど。ですが、学生であればそれ相応の格好をしていただきたいものですの」

花山「………………」

白井「……それにしても、寡黙な方ですわね。はい、書類をお返し致しますわ」

 
花山薫、19歳。

身長――191cm。

体重――166kg。

白のスーツに眼鏡を着用し、その顔に幾つもの疵を持つ、花山組の二代目組長。
鍛えること、武器を使うことを良しとせず、生まれ持った天性の力のみで生き様を形成し続ける『漢』である。

その漢は今、総人口230万人、その約八割の学生が超能力開発のカリキュラムを受けているという、
近代日本の中でも際立って異質な『学園都市』を訪れていた。

 
花山「……お嬢ちゃん」

白井「は、はい?」

花山「ジャッジメント……第177支部、ッてのはどこだ」

白井「え……?」


自分の力……特に素手喧嘩(ステゴロ)をファイトスタイルとする花山が、
超能力という異能の力を扱うこの地の土を踏んだのには、無論、それ相応の理由があった。


白井「ジャッジメントの支部に、何か御用ですの?」

花山「…………今日から、厄介になる……」

白井「厄介になる……って、あ、あなたが?」

花山「………………」

白井(捕まるとか、そういう意味ですの? それとも、ジャッジメントとして……いやいや、まさか)

 
今から一週間前。
それは、藤木組五代目組長、秋田太郎の一言から始まった。


秋田「花山ァ……高校に行ってみねェか」

花山「………………?」


秋田は花山が尊敬する数少ない人間であり、また幼少期の花山を知る、親代わりの人間でもある。
その花山のことを花山以上に知っている者が、ヤクザの組長である自分に、高校に行けと言う。
花山は表情こそいつものポーカーフェイスだったが、内心その事実に驚愕させられていた。


秋田「いや、な……ヤクザっつってもよ、やっぱ時代の流れで変わっちまうモンなんだな」

花山「………………」

秋田「末端の連中がな、うるせェんだ。おめェを慕って入ってきた連中じゃなく、何コも下の連中なんだが」

花山「………………」

秋田「そいつら黙らせんのに、いちいちおめェが出てちゃキリがねぇッてこった」

 
そこまで言われて、花山は秋田の言いたいことが理解できた。

つまりは、組長はそんなにできたヤツなのか、とうるさく吠える偏屈な下っ端どもを黙らせるには、
一人一人を締め上げるよりは、とりあえず高校を出ておいた方が効率が良い、という話だった。


花山「…………アンタの言うことだ。構わねェ」

秋田「そうか、やってくれるか……俺らも悪ィとは思ってる」


花山も花山組のトップに立つ人間であり、立場を同じくする秋田の苦悩も理解できた。
近頃はエリートヤクザと呼ばれる高学歴のヤクザも増えてきて、単純に暴力だけですべてを従えられる時代ではなくなっていたからだ。
しかしなにより、恩人が自分の為に悩んでいるという事実が花山には耐え難く、それこそが決め手になっていた。


花山「…………それだけでもねェだろ」

秋田「……流石に花山だな。分かッてんだろうが、コイツにはちぃとばかし条件があってな」

 
それは容易に想像がついた。ヤクザの組長を学校に転入させるなど、普通の高校では許容できるハズもない。
それを秋田が無理に押し通す、ということならば、何かしら学校側からの条件がつくのは至極当然のことだった。


秋田「おめェには事後承諾で悪ィんだが、いくつかコネのあるトコを当たってみたら……一個だけ、良い返事を貰えた学校があった」

花山「………………」

秋田「そこは『超能力』なんて眉唾モンを開発してる、『学園都市』にある学校でな」

花山「『超能力』……?」

秋田「あぁ……あそこの理事長も、ちィとワケありでな。俺らとは仲良くしてるってわけだ」


格闘、銃弾、刀傷。おおよそ自分と同じ、いやそれ以上の修羅場を潜ってきたであろう秋田から発せられる、『超能力』という非現実的な言葉。
が、眉間に皺が寄った秋田の表情から、秋田自身もまた『超能力』に対してあまり理解を示していないということが見てとれた。


秋田「で、ヤロウの提示してきた条件ってヤツがな……おめェが風紀委員になる、ってコトなんだ」

 
花山には、その秋田の言葉が何の冗談かと思えた。
花山組二代目組長などという、取り締まられる立場、その最高峰にある人間が。
風紀委員という、取り締まる立場の人間になるなど、誰が予想できようか。


秋田「『学園都市』はえらくチンピラや不良が多いって話でな。おめェが風紀委員になりゃその抑止力になるって理屈なんだと」

花山「………………」

秋田「まァ、中学まで地元を仕切ってたおめェなら、不良の扱いも分かってんだろ? どうだ、できそうか?」

花山「…………アンタが、良いッてんなら」

秋田「ああ。まァ、無理に耐えろとは言わねェ。どうしても駄目そうなら別の方法を考えらァ」

 
そのような背景があって、花山はこの『学園都市』にやってきた。
だから、その矢先に風紀委員……ジャッジメントの白井黒子に花山が出会ったことは、ある意味幸運だと言えた。


花山「………………」

白井「………………」

白井(なぜこんなヤクザの回し者が、第177支部……わたくしの所属する支部に)

花山「おい」

白井「ひゃっ!?」 ビクッ


考え事の最中に頭の上からドスの効いた声を浴びせられた白井は、思わず二、三歩ほど退いていた。
この男、今まで自分が裁いてきたスキルアウト達とは全然違う。白井がそれを理解するのに、それほど時間はかからなかった。


花山「どこだって訊いてんだぜ、お嬢ちゃん……」

白井「は、はい! ご案内致しますの!」

花山「…………そこまでしろとは言ってねェ」

 
~ 第177支部 ~



固法「……花山薫?」

白井「ええ、ええ! なんなんですの、あの殿方は!」

固法「なにって……今日から入る、ウチの新入りだけど」

白井「し、新入り!? カチコミの間違いではございませんの!?」

固法「あー……白井さんの言いたいことも分かるけど。それで、その花山薫は今どこに?」

白井「外で待たせてありますの。固法先輩に確認をとらないと、どうしても中に入れる気がしなかったんですの……」

固法「……でしょうね。あの体格にあの強面ですもの。誰だってそうする、私だってそうするわ」

 
花山「…………遅ェ」


外で待ちぼうけを食らっていた花山が、そう呟いた直後。ドンッ、と彼の巨躯に、何者かが激突した。
もっとも花山自身は微動だにせず、激突した者だけが逆に吹っ飛ぶという有様だったが。


初春「い、いてて……」

花山「………………」


自分に体当たりを仕掛けてくる者など刃物を持ったチンピラくらいしか心当たりが無い花山だったが、
倒れたのが少女だと分かり、流石に鉄砲玉では無いだろうとその考えをあっさり放棄した。


初春「ご、ごめんな……ひぃっ!」 ビクッ

花山「………………」


花山の顔を見るなり目に涙を浮かべ始めた少女、初春飾利。彼女もまた、ジャッジメント第177支部のメンバーである。

 
初春「あ……あ……!」


殺される。仕事の中でそう思ったことは一度や二度では無かったが、今回ばかりは駄目かもしれない。

どうして今日に限って、掃除当番だったんだろう。どうして今日に限って、前を見ずに全力疾走してしまったんだろう。
どうして今日に限って、支部の前にこんな人がいるんだろう……

そんな今までの後悔とこれから訪れる悲劇の予感が、一斉に初春に押し寄せた。



花山「………………」

初春「ごっ、ごめん、なさい……ごめっ……」グスッ

花山「………………」


花山としては勝手にぶつかられて勝手に泣かれただけなので、面倒くさい以外の何物でもなかった。
その少女に『大丈夫』のような気の利いた一言も言えない自分自身に、少しばかりの罪悪感はあったが。






御坂「……ちょっとアンタ、何やってんのよ」

 
御坂「アンタよ、アンタ。白いスーツのごっついの」

花山「………………?」


背後からかけられた、別の女性の声。
花山が振り向くと、そこには彼を憤怒の表情で睨みつける、常盤台のお嬢様、御坂美琴の姿があった。
その瞳に、怯えの色は無い。花山は一目で、その少女の強固な意志を感じ取ることができた。


御坂「……初春さんを泣かせたの、アンタでしょ」

初春「み、御坂さん……これは」

花山「…………あぁ、俺だ」

御坂「…………!!」


花山は、言い訳という言葉とは無縁の漢だった。ぶつかったのは初春だが、その後の経緯から、泣かせたのは花山だとも言える。
自分に少しでも非があれば弁明を挟む必要はない。それが、花山薫という漢の美学であった。


御坂「アンタ、いい度胸してるじゃない。学園都市第三位、超電磁砲の可愛い友達に手を出すなんてね」

花山「………………」

御坂「真っ黒焦げにしてやるから、覚悟しなさい……!」

黒焦げになっても「まだやるかい?」って聞いてきそうで恐いな

 
人間が帯電している。その一見ありえないような表現が、現状を表すのには一番相応しかった。
御坂美琴の体の周りには、夥しい数の、青白い電撃が飛び散っていた。


御坂「……ふぅん、これ見てもビビらないのね。タダモノじゃないのか、そうじゃないならタダのバカね」

花山「…………電撃……?」

御坂「そうよ。今からこれを使って、アンタを攻撃するわ」

花山(……『超能力』ッてか……?)


ヤクザの組長の自分が、高校に通う。風紀委員として、不良を取り締まる。
加えて、『超能力』などというワケの分からないモノを開発している『学園都市』で生活する。

正直なところ、ここ一週間のことは、まだ長い夢の途中なのではと疑いたくなることもあった。あまりにも現実味が無かったから。
しかし人間が平然とした表情で帯電しているという事実は、否応が無しに、それら全てが現実であると花山に認めさせた。


御坂「アンタが何者か知らないけど……初春さんを泣かせた分、私がアンタを泣かせてあげるわ!」

 
電撃音。続いて花山の視界を覆う、一瞬の光。


花山「…………!?」


次の瞬間には、花山の体は何本もの青白い柱に包み込まれていた。
柱はお互いを吸収し合い、ビリビリと耳につく音を鳴らしながら、電撃の嵐へと変貌していく。
その範囲は花山の周りだけに収まらず、飛び散った電撃は二人の決闘を見物していたギャラリーにも飛び火した。


御坂「やばっ、やりすぎた!?」


このレベルで人に電撃を浴びせるということは、そう頻繁にあるものではない。
自分の感情が高ぶっていたせいもあっただろうが、周りのことを考えていなかったと御坂は少し後悔していた。


御坂「あっちゃあ……また黒子に怒られるかな。まあ、終わったからいっか」

殺人未遂です

 
御坂の起こした電気嵐が徐々に沈静を始めた。
おそらく次に現れるのは、無残に倒れた大男の姿だろう。

誰もが、そう思っていた。

しかし―――




花山「………………」




そこにあったのは、確かに二本の脚で、電撃を受けた時と同じ体勢で立ち続けていた、花山の姿だった。


花山「……プハァーーーッ……」

御坂「…………え!?」

 
御坂美琴は『超能力者』である。すなわち、学園都市に7人しかいないレベル5の一人。
電気と磁場を自在に操り、彼女の代名詞でもある『超電磁砲(レールガン)』と呼ばれる必殺の技を持つ。

その彼女の電撃を、正面から食らって。


御坂「ぷはぁ……で、済む……? 普通……」


電撃とそれに準じて発生する高熱の渦に囲まれた花山だったが、その結果は……
彼が口から蒸気機関車のように煙を吹き出す、という行為。そして今や黒ずんでしまった、彼の純白"だった"スーツ。

それだけが、全てだった。


花山「……お嬢ちゃん」

御坂「…………!?」

花山「まだ、やるかい……?」

 
手加減はした。したが、それでもその辺のスキルアウト相手なら致命傷レベルの電撃だった。
なにせ、初春が傷つけられたという思いから逆上し、思ったより出力が強すぎたと後悔していたくらいなのだ。


御坂「………………」

花山「………………」


しかし、漢は立っていた。

唖然とする御坂。対して、それを憮然と見下ろす花山。
二人の間には現時点で10メートル程の距離があり、射程を考えても明らかに自分が有利なのに、御坂はこれでも有利とは思うことができなかった。


御坂(もしかして……アイツのように、異質の力を消せる能力者?)


御坂はそう考えずにはいられなかった。
今まで、自分の電撃をマトモに食らって『普段と同じように立っていた』人間など、そうそう存在しないのだから。

 
しかし、花山にとっては『攻撃を受けて立っている』ことなど、呼吸にも等しい当たり前のことだった。
相手の攻撃はすべて受け、その上で反撃する。そのスタンスを貫いてきた花山には、数々の攻撃に対する実績と、培った耐性があった。


範馬刃牙には、何本も指の骨を折られた。

範馬勇次郎には、いとも簡単に四肢を破壊された。

愚地克巳には、音速の拳を何十発も打ち込まれた。

アレクサンダー・ガーレンには、力強いスープレックスで煮え湯を飲まされた。

スペックには、頭を地面に打ち付けられた挙句、口内で火薬を破裂させられた。

ピクルには、『押し合いっこ』で古代の力を実感させられた。


そんな彼が、10秒前後の電撃に耐えられない。そんなことはあろう筈も無かったのである。


花山「………………」

御坂「……な、なによ。ちょっと耐えたくらいで、いい気になってんじゃないわよ!」

美琴のレールガンって電撃なの? それとも超スピードのコイン? 両方?

 
御坂「わ、私の全力がこれだと思ったら、大間違いよ!」

花山「………………」

御坂「つ、次はアンタも本気でやらないと死ぬわよ! 忠告はしたからね!」


御坂は、精一杯の虚勢を張った。言いようの無い不安感。
勝てないかもしれない、殺されるかもしれない。そういった思いを振り払うように、声を張り上げた。

その時。


花山「…………本気で闘っても、いいンだな」

御坂「え……?」

>>54そんなアナタに集英社出版週刊少年ジャンプコミックス ブラックキャットをオススメします

 
花山が、ポツリと呟いた。それは、ただの確認。御坂美琴というまだ年端もいかない少女が、自分と本気で喧嘩をしろと言う。
それに対して『本当にやってもいいのか』と花山は尋ねただけだった。

しかし、それは御坂に衝撃を与え、同時に不安感の正体を明確にさせた。


『じゃあ、マジメにやっても良いんかよ?』


……そうだった。奥に何かを隠している。底が見えない、本当は戦っても勝てる気がしない。そんな男に言われた言葉。
その男と、目の前の男。佇まいこそ違えど、その雰囲気は嫌なくらいに酷似していたのだ。

もやもやとした不安感が、確かなものになった時。
御坂は気が付けば、スカートのポケットに、自分の右手を入れていた。

 
白井「ええ……何やら外が騒がしいようでしたので、窓から外の様子を見たんですの」

白井「そうすると、案の定……あの殿方が揉め事を起こしていたようでしたわ」

白井「ですが、それ以上に驚いたのが……お姉様と初春が、そこに居たということ」

白井「二人の表情を見てわたくし、あの状況をこう推測しましたの」

白井「『花山が初春に暴行を加え、お姉様がそれを助けた』……と」

白井「ですが……初春は泣いているというよりはオロオロしているばかりで、それもおかしな話だと」

白井「……ええ。その時です。お姉様が動いたのは」

語りだしたw

 
白井「超電磁砲(レールガン)……という言葉をご存知?」

白井「簡単に言うと、電気の力で物体を加速させ、撃ち出す武器のことですの」

白井「お姉様は、いわゆる電気人間……しかもレベル5ですから、それを自分の体で行うことができますの」

白井「例えば、今あなたがお財布の中に入れているであろう、コイン」

白井「これを音速の三倍の速度で撃ち出すと、どうなると思われます?」

白井「……そう。お察しの通り、絶大な破壊力を生みます。アスファルトの道路くらいなら、抉り取る程に」

白井「コインが熱で溶けるまでに走る距離は、実に50メートル。ふふ、コインが通過した後の惨状、想像できまして?」

 
白井「話を戻しますの。そこで、お姉様は……ポケットからコインを取り出しましたの」

白井「ありえない、と思いました。だって花山薫は、あの書類が嘘でなければ、今日転入してきたのですから」

白井「つまり……彼は能力開発を受けていない、無能力者ということですの。その彼を相手にした決闘で、コインを取り出す……」

白井「これが、どういう意味かお分かりですの?」

白井「………………」

白井「……お姉様は、認めたのですわ。レベルなんて関係無い……強い男が、『また』自分の前に現れたのだと」

 
白井「お姉様は、親指でコインを上空に打ち上げました。これは超電磁砲発射前の、ポーズのようなものです」

白井「当然……落ちてきます。万有引力の法則に従って、コインが」

白井「……ええ、轟音が。落ちてくると『同時』に、轟音が響きましたの」

白井「その時わたくしといえば……支部の前で道路を破壊しないで欲しいとか、揉め事を起こさないで欲しいとか、別の事を考えていましたの」

白井「そんな考えができたのは、余裕があったからに他なりませんわ。『超電磁砲に耐えられる人間がいるわけがない』という、余裕」

白井「……だから、あの光景には……少なくとも、あの場にいたギャラリーも含め誰もが、こう思ったでしょう……」

白井「…………『ありえない』……と」

白井「そんな考えができたのは、余裕があったからに他なりませんわ。
『超電磁砲に耐えられる人間がいるわけがない』という、余裕」






殺人事件を余裕とかw

 
固法「そこから先は私が話すわ」

固法「御坂さんの超電磁砲は、確かに花山薫に直撃した」

固法「能力で見えない壁を張ったとか……そういう特別なものはなかったわね」

固法「それどころか、花山薫は……それを、『体』で受け止めたの」

固法「……これがどれだけ凄いことか、分かる?」

固法「そうね……例えば、目の前にボールが飛んできたら、どうする?」

固法「ええ、そう。腕を上げて、顔を隠すわよね。人間の本能として、目の前にある物を、怖いと感じるから」

固法「それが、彼の場合……その隠すための、肝心要の腕は、前じゃない。横に広がってたのよ」

固法「いわゆる仁王立ちの体勢。それで、超電磁砲を受け止めたの……」

固法「そうよ。私だって信じられなかった。でも、それが事実」

というか耐えられる人間がいないなら余裕でいちゃ駄目だろwww支部の前で人死ぬぞwww

その間実に二秒ッッッ

 
固法「音速の三倍だから反応できなかっただけ? 違うわね」

固法「花山薫は、コインが打ち上げられた時点では、まだ普段どおり立っていたもの」

固法「まぁ、御坂さんの電撃が直撃して『普段どおり』っていうことだけでも凄いんだけど」

固法「話が逸れたわね。とにかく、彼はコインが撃ち出されてから、あの仁王立ちの状態になったってこと」

固法「つまり……彼には、迫ってくるコインが見えていたのよ」

固法「過去に、音速で撃ち出される攻撃を受けた経験でも無いと、見切ることなんて不可能だと思うんだけど……」

 
固法「彼が超電磁砲を受けた結果? 言うまでもないでしょ?」

固法「ボロボロよ。試験もすっ飛ばしてジャッジメントに配属なんて、どれ程の逸材かと期待したけどね」

固法「そう。着ていたスーツは破片が残るのみで、眼鏡もどこかへ吹っ飛んで、そこにいたのは褌一丁の男だったわ」

固法「……え? やっぱりレベル5の圧勝なんだ、って?」

固法「………………」

固法「……違うわ。あなたは、やっぱり分かってないわ。花山薫という男を」

体で受けたって書いてあるが胸なのだろうか
個人的には背中であってほしい

 
固法「花山薫は、御坂美琴の一撃を食らって、褌だけの姿になった。それは事実よ」

固法「……でも、『それだけ』なのよ」

固法「彼はまだ、戦えた。肉体的な意味でも、精神的な意味でもね」

固法「見てくれはどうあれ、彼は超電磁砲に耐え切った。その姿は、実に雄々しいものだったわ」

固法「だって、御坂さん、白井さん、初春さん、他の女の子達も……」

固法「男性が裸も同然の姿になっているっていうのに、誰も目を背けなかった。もちろん、好奇の目で見たりもしなかった」

固法「それが、花山っていう『漢』なのよ。任侠の世界に生きる人間ならではの生き様ってヤツかしら」

固法「……妙に詳しい? それは当然のことよ」

 
固法「花山薫、19歳。花山組二代目組長で、日本一の喧嘩師。ファイトスタイルは素手喧嘩(ステゴロ)」

固法「警察なら知ってないとおかしいくらい有名なのよ、彼。単純にヤクザとしてじゃなく、漢という人間としてもね」

固法「ジャッジメントは警察じゃないけど、それに似た仕事もしてるし……」

固法「学園都市外の人物とはいえ、喧嘩師花山のことを噂で聞いたことのある人も多いハズよ。白井さんは知らなかったみたいだけど」

固法「……ごめん、また話が逸れちゃったわね」

固法「どこまで話した? ああ、超電磁砲に耐え切った話だっけ」

固法「そうそう……そこでいよいよ、始まってしまったのよ」

固法「ええ……彼の、反撃がね」

>>82
マッハ突きもこんな威力だったらな……

>>99
御坂「だおッ!!」

 
固法「聞いてて分かったかもしれないけど、花山薫という漢は自分だけの美学を持ってるの」

固法「そこから想像できると思うけど……彼は余程のことが無い限り、女性に手をあげないわ」

固法「その彼が、反撃する。それはつまり、認めたってことね。御坂さんは自分が戦うに値する程、強いって」

固法「そして……反撃の一手目。彼、何をしたと思う?」

固法「………………」

固法「……飛んだの……」

固法「………………」

固法「…………ちょっと、何か言いなさいよ。私がバカみたいじゃない」

固法「飛んだのよ! その場で上空に! 空中で一回転してたの!」

御坂「あんたは最大にして最後のチャンスを失ったァ!!」

 
固法「あれは……いわゆる『胴回し回転蹴り』ってやつよね。体を回転させながら、踵落としを浴びせるの」

固法「ただ、私の知ってるソレとは、かなり違ったわね。私の知る限り人間という生物は、能力無しであんなに飛べないから」

固法「もちろん、超電磁砲を耐え切られた上に、そんなものを見せられた御坂さんは、ショックで呆然としていたわ」

固法「そこで、次の瞬間……」

固法「…………ドンッ!!」

固法「……ええ。アスファルトが抉れたわ。能力の無い人間が使った、ただの足技で、ね」

あのバランスのいい御坂選手が

 
佐天「その辺からは、私の方が話しやすいですね」

佐天「私はその時、初春の横にいましたから。すぐ側で見てたんですよ、その光景を」

佐天「結局、御坂さんの1メートルくらい手前に落ちたわけです。あのヤクザは」

佐天「思うに、あれはワザと外したんですよ。御坂さんを傷つけずに、降参させるために」

佐天「御坂さん、ああ見えて怖がりですから。アレはいい方法だったと思いますよ」

佐天「……でも、同時に負けず嫌いでもあるんですよね……」

佐天「その牽制の胴回し蹴りは、逆効果だったみたいで。御坂さん、それで正気を取り戻しちゃって」」

佐天「……はい。いつの間にか御坂さんは、またコインを構えていました」

レベル5ってチャモアンみたいなもんだろ

なめるなッ。私は学園都市の超電磁砲だぜェッ。てめェらとは…てめェらとは…才能が…ッッ

 
佐天「その時の二人の距離は、既に1メートルくらいって状態ですからね。10メートルとはワケが違いますよ」

佐天「流石にあのヤクザでも、至近距離の超電磁砲には、耐えられないだろうなと思いました」

佐天「でも……そういう問題じゃなかったんです」

佐天「あのヤクザが……急に、掴んだんですよ。御坂さんの、右腕を」

佐天「御坂さんは、超電磁砲を撃つために右腕を伸ばしているわけですから。掴みやすかったでしょうね」

佐天「……ヤクザは、御坂さんの手首より少し上を左手。肘より少し下を右手で掴みました」

佐天「正直、ヤクザが何をしているのか、その時は理解できませんでした……」

これはメシウマの予感ッッッッッ!!!

 
佐天「どうやら、ヤクザは両手に力を入れたようでした」

佐天「なんで分かったか? 御坂さんの顔が、憤りから苦悶の表情に変わっていきましたから……アレは痛そうでしたね」

佐天「あ、これは力を見せつけて降参させるんだな……と思いました。さっきの牽制もありましたし」

佐天「……それが、違ったんです。そのまま、ヤクザは力を入れていって」

佐天「そしたら、御坂さんの綺麗な腕が……ヤクザの手に挟まれた部分だけ、だんだん膨らんで、充血していって」

佐天「…………それで。御坂さんの、右腕が。ええ、腕がですよ」




佐天「…………破裂……したんです……ッ」

握激って骨まで砕けるの?

>>132
本来は両手で血液を一箇所に圧迫して破裂させる技だが
花山の握力だったら御坂みたいなひょろい骨くらい握りつぶせそうだな

 
佐天「あっ、ごめんなさい。つい感情移入しちゃって。破裂はしてません(笑)」

佐天「……でも、ぷくぅって御坂さんの腕が膨れ上がってて」

佐天「血管も浮き出て、普段の1.5倍くらいの太さになった腕が、今にも破裂しそうになってました」

佐天「……う、思い出したら気分が悪くなってきた」

佐天「…………と、とにかく。そこで、御坂さんが。あの気丈で意地っ張りの御坂さんがですね」

佐天「『イヤ!』とか『やめて!』とか。そういう感じのことを叫んだんです」

佐天「……ええ、泣いてました。実際、周りで見ていた人達からも、たくさん悲鳴が上がってました」

佐天「そこで、ヤクザは御坂さんの腕を解放しました」

佐天「えっ、その時の私ですか? 恥ずかしながら、初春や御坂さんを傷つけたヤクザが許せなくて……」

御坂「ダヴァイッッッ」

泣いて助けを請う第三位(笑)wwwwww
メシウマwwwwwwwwww

 
御坂「ハァッ、ハァッ…………!」ブルブル

白井「お、お姉様! 今すぐ病院へ!」

花山「………………」

佐天「くそっ! このっ、このっ!」


佐天が、靴の踵で花山の脚を蹴り飛ばす。何度も、何度も。
その勢いたるや、側にあったバットを拾ってまで殴りかかろうとする程だったが、そこでようやく初春に止められた。


佐天「ヤクザがそんなに偉いの!? 女の子を泣かせて、何が楽しいのよ!!」

初春「や、やめてください佐天さん!」

白井「とにかく、お姉様を早く!」

佐天「……うう……私、悔しいよ……!」


御坂に付き添い、去っていく少女達。その中でも佐天だけは、最後まで花山を睨み続けていた。
やがて、ギャラリーも去っていく。胸に大きな焦げ跡が刻まれた漢を残して。




花山「……痛ってェ……」

佐天さん梢ポジションかよwwwwwwwwwwww

 
~ 病院 ~



御坂「ていうかねアンタね! 最初にちゃんと説明しなさいよ!」

花山「………………」

御坂「ただの誤解だったんじゃない! この腕どうしてくれんのよ!」


御坂は、自分の右腕を左手で指差しながら花山に食ってかかった。
花山と一悶着あった後、御坂は腕の検査のために病院に運ばれ、数日入院することになったのだ。


花山「…………すまねェな」

御坂「え……いや、そんな素直に謝られても困るわよ、まあ、少し入院するだけで治るらしいし」

花山「……じゃあ、いいじゃねェか」

御坂「良くないわよ! それとこれとは話が別!」

花山(……この女、めんどくせェ……)

花山に全面的に同意

 
御坂「あーあ、これじゃしばらく超電磁砲は使えないなぁ」

花山「…………アレが『超能力』ッてヤツか」

御坂「そうよ。私は電気や磁場が操れるの。電気の力でコインを撃ち出してるってワケ」

花山(…………本当にそんなモンがあるたァな……)

御坂「そういえば、アンタはなんで入院してないの? 超電磁砲、直撃したハズよね?」

花山「………………」

御坂「ああ、単純にタフなんだ。タフで片付けられたのは初めてだけど」





花山(…………チ……まだ痛みは引いてねェンだよ、お嬢ちゃん……)

能力者は保護されているッッッッッ

 
その時、病室のドアが開き、御坂の友人たち……白井や佐天たちが現れた。
彼女らはあの日以来、連日御坂の見舞いに訪れていた。

一方で花山は、入院初日、すなわち事件当日には顔を出したが、その時の彼女たちの責めるような視線に耐えきれず、
今日は彼女たちの来るであろう時間からずらして見舞いに来たという訳だった。その意味も、たった今儚く消え失せたが。


花山(…………長居し過ぎたぜ……)

白井「お姉様ぁ~! お見舞いに来ましたの!」

初春「白井さん、病院ですから静かに……」

佐天「あっ、ヤクザだ」

初春「さ、佐天さん! す、すみません、すみません!」


佐天の代わりに初春が花山に謝罪する。御坂と白井はいつものことだと苦笑するだけだった。
ちなみに初日と違い誤解は解けているため、佐天は恨みを込めて花山をヤクザ呼ばわりしているわけではない。


佐天「ヤクザのくせにお見舞いなんて、殊勝じゃない」

花山「………………」

>>162
本部さんなら公園にいたよ

>>169
ジャングルジムのところですね

 
佐天「この間白井さんから聞いたんだけど、ジャッジメントになるんだって?」

花山「…………まァな……」

白井「ゴミを掃除したり、落し物を探したり、ジャッジメントは腕っ節だけでは務まりませんのよ?」

花山「……やるしかねェなら、やるだけだ」

御坂「そういえばアンタって訳ありなんだっけ? 自主的にジャッジメントになるってことでもなさそうよね」

花山「………………」


組の都合だ、とはとても言えなかった。
佐天はヤクザ呼ばわりするが実際そうではあるし、カタギの人間には組の事情を知られたくなかったのだ。


初春「なんでも花山さんは、理事長の方から推薦があったらしいですよ。凄い人なんですね?」

佐天「ふーん。でも、なんで19歳にもなって高校に入ったの? あっ、頭が悪くて中卒だったとか?」

初春「さ、さささ佐天さぁん! ほほ、ホントに殺されちゃいますよ!」

なんかこんな話聞いたことがあるなと思ったらマイボスマイヒーローだった

 
白井「ま、下手な正義感を振り回したり、スキルアウトで腕試しをしたり、というものよりはマシな理由なのでしょう」

御坂「うっ……あ、あれは反省したって言ってるでしょ!」

白井「どうだか。今回のこともそうですの。私たちの支部が目の前にあるというのに、連絡もせず花山さんと決闘など」

御坂「だ、だって、ちょっとした喧嘩で終わると思ったんだもん……」

白井「……まあ、普段のお姉様からすれば、この方は規格外でしたのでしょうけど」

花山「………………」


白井は首をほとんど動かさず、視線だけで花山を一瞥した。
花山としては相手が学生だろうが死刑囚だろうが、売られた喧嘩は(基本的に)買うだけなので、特に迷惑だとも感じていなかった。
どちらかと言えば、女4人に男1人という現在の状況の方がよっぽど対処に困るものであった。


花山「…………邪魔したな」

御坂「あれ? もう帰っちゃうの?」

花山「…………あぁ。お友達もいるだろう」

 
佐天「……あっ、そういうことかぁ。女の子がいっぱいで、居づらくなっちゃったんだ?」

初春「さ、佐天さぁん……そろそろフォローできません……」

佐天「照れない照れない! あっ、そうだ、初春のパンツ見る?」

初春「な、なんでそうなるんですかぁ!」


初春は先程から佐天の単刀直入な物言いに不安しか覚えないようだったが、
花山としてはどの発言も当たらずしも遠からずで、この佐天涙子という少女はなかなか面白いと感じ始めていた。
まったく物怖じしないし、媚びてくる様子も無い。あまり自分の周りにいない型の女性に、花山は若干の興味を覚えていた。


花山「…………へッ」

佐天「……なによぅ。今笑ったでしょ?」

花山「いンや…………」

佐天「むぅ……」

 
白井「あ、お帰りになる前に、アナタに言うことがありましたの。一度、あそこに顔を出してくださいな」

花山「…………第177支部、か?」

白井「ええ。あの日は病院に直行して、それから一度も来ておられませんから。固法先輩も仕事を教えたいと」

初春「あっ、そうなんですか? 新人研修、固法先輩なら安心ですね!」

御坂「アレの新人研修なんて、大変そうね……たぶん相当面倒臭いんだろうけど、頑張ってね」

花山「………………」


転入初日から揉め事を起こすような自分に、それを収めるべき立場の風紀委員など務まるのか。
しかし、少女たちはそういった花山の懸念もどこ吹く風であった。

ジャッジメント第177支部。そこには、喧嘩一筋で生きてきた花山を惹きつける何かがあった。

ドリアン「パン・・・ティ・・・・」

花山は学校通っても鍛えることなど女々しいとかいって超能力開発受けないんだろうな

キリがいいからここで寝ますッッッ! おやすみなさいッッッッ!

ほしゅ

すまん、規制解除が嬉しくてつい…

保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 40分以内
02:00-04:00 90分以内
04:00-09:00 180分以内
09:00-16:00 80分以内
16:00-19:00 60分以内
19:00-00:00 30分以内

保守時間の目安 (平日用) 
00:00-02:00 60分以内
02:00-04:00 120分以内
04:00-09:00 210分以内
09:00-16:00 120分以内
16:00-19:00 60分以内
19:00-00:00 30分以内

究極の電撃使い。
身長161センチ、中学2年にしては貧相な胸、
コインを音速の3倍以上で放ち、射程は50メートル。

誰が呼んだかが「電撃使いを終わらせた」とまでいわしめるほどの天才電撃使い。
名を御坂 美琴といった。

>>180
スペック「ビューティフル・・・」

寝る前に保守

上条「じゃあ、マジメにやってもいいんかよ?」
列「私はいっこうにかまわんッッ」

一方通行「飯炊きかァ・・・」

冥土返し「すごいね人体(はぁと)」

目録「飯炊きかァ……」
目録「やるわきゃ無いんだよッッ!」

木原「愛スル人ノ手ダゼッッ」
木原「手ニ取ッテヨォッ 頬ズリシテヨォッ」
木原「泣キ叫ブンダロウガッッ」
木原「アア!?」
木原「ハハハハハハハハハハハハハ」

花山「!?」

木原「!?」


奇しくも同じ構えッ!!!

佐天「ティー……バック…………?うそ…」
初春「へッ。女の子がティーバックはいて、どこがワルいンでェすか………」

今仕事から帰宅ッ!

 
数日後。

花山は高校生としての生活を始めるため、ある高校の職員室を訪れていた。


小萌「はじめまして、ですね。あなたのクラスの担任の、月詠小萌です」

花山「………………」

小萌「その顔。言いたいことは分かりますけど、人を見かけで判断しちゃダメですよ?」


小さい。花山の第一感想がそれだった。

無論、体格とその実力は比例しないものだが、それにしてもこの『学園都市』という異質な場所で
教える立場にある人間としては、少々威厳が足りないのではないだろうか。そんな失礼なことを考えつつ。


花山(…………コイツも能力者、ッてヤツか……?)


ここは、女子中学生とヤクザでさえ、まともな決闘が成立する都市なのだ。
その辺にいる女子供ですら超電磁砲のような能力を持っているのではないか。そんな疑いを持ってしまう。

 
しかし、花山はすぐにその考えを否定した。
それは以前、病院で御坂とこのような話をしたことがあったからだ。


花山「…………第三位……?」

御坂「そ。わたし一応、学園都市に7人しかいないレベル5の1人で、ここじゃ第三位っていう位置付けなのよ」

花山「………………」

御坂「私はアンタに負けたと思ってるから、アンタより強いヤツは2人しかいないってこと。表面上はね」

花山「…………表面上?」

御坂「……目立ってないけど、アンタと似たようなヤツがいるのよ。いや、見た目も性格も、全然違うんだけど……」

花山「………………」

 
御坂「本気でやってもいいのかって訊くところも、私が怖がったらすぐに攻撃を止めたところも、そっくり」

花山「へッ……ソイツは、強ェのか……?」

御坂「……強いわ。悔しいから、本人の前じゃ言ってやらないけどね」


負けたとか強いとか言う割には、御坂は嬉しそうだった。
花山には、御坂の心情など分かるはずもなかったが。


花山「…………名前は?」

御坂「上条、当麻。黒髪のツンツン頭で、"普段は"バカっぽい顔してるからすぐ分かるわよ」





―――その後の話で、その男がレベル0の高校生ということも知った。そんなところまで花山と同じなのだ。
もしかしたら、刃牙のように地上最強を目指す高校生の一人かもしれない。


花山「……学園都市、か……面白ェな……」

 
小萌「……ご家庭の事情は、保護者の方から伺ってます……大変なんですね」

花山「………………」

小萌「でも、せっかく学生になるんですから、『花山ちゃん』も高校生活を満喫してくださいね?」

花山「………………」

小萌「まあ、ウチのクラスは悪い子が多いんですけど。みんな本当は良い子なんですよ?」

花山「………………」

小萌「それにしても、やっぱりスーツで来たんですね~。制服は特別サイズのを注文してるところですから……」

花山「………………」

小萌「……無視されると、先生……泣いちゃいますよ?」

 
花山「……『ちゃん』はやめねェか……」

小萌「やめません。それじゃ、今からHRですから自己紹介を考えておいてくださいね?」

花山「…………ッッ」


月詠小萌という女性は、こんな小さなナリでも意外と強情だった。
ヤクザという自分の素性を知っていてもこう振る舞える女は、あまり花山の記憶には無い。

……何人かはいる。梢とか、佐天とか。




花山「…………ン、自己紹介……?」

小萌「はい。朝のHRで花山ちゃんを紹介するんです。あれ、準備してきてないです?」

 
小萌「簡単なものでいいですよ? 趣味とか、特技とか、将来の夢とか」

花山「………………」


花山は、小学校、中学校と『人並み』の自己紹介などしたことが無い。そもそも、学生生活がまず『人並み』ではなかった。
ムスッとしていたら不良に絡まれて喧嘩。それを繰り返していたら舎弟が増え続け、気が付けば猿山の大将だった。

話そうと思えば話せなくもない(趣味が釣りとか)のだが、自分がそういう社交的な性格ではないことは自覚していた。
そんなわけで、結局いつも通り、話す必要もないと考えた花山は、また小萌の話を適当に流す作業に入るのであった。




小萌「ハイ、着きました! ここが、花山ちゃんがこれから高校生活を過ごすクラスですよ」

花山「………………」

小萌「それでは、花山ちゃんは廊下で待機です。HRが始まってしばらくしたら呼びますから、笑顔で入ってきてくださいね?」

 
ポーカーフェイスの花山に笑顔を作れとこの女性は言う。
言うまでもなく花山は、母と死別してからは日常生活で笑ったことなど、殆ど無いのだが。

教室の中から、小萌の元気な声が聞こえてくる。


小萌「今日は転校生を紹介しまーす!」

青ピ「マジか!? 小萌先生、男でっか、女でっか!?」

小萌「残念ながら男性です~。世の中そうそう上手くいかないものですよ?」

土御門「へぇ……転校生、ね。また変な時期に来たもんぜよ」

小萌「でも、背が高くてスーツが似合う、素敵な人ですよ!」

青ピ「え~……なんや、イケメンかいな。エエとこは全部イケメンが持っていってしまうんや……」

 
土御門「でも、小萌先生に素敵とまで言わせるヤロウがどんなのか、逆に気になるにゃ~」

青ピ「そりゃ言えとるわ。な、カミやん」

上条「ん……ああ、そうだな……」

土御門「? どうしたカミやん。元気無いぜよ」

上条「………………」



上条(人づてに聞いた話だけど、ビリビリがヤクザの……しかも無能力者のオッサンに負けて、入院したらしい)

上条(あのビリビリが、その辺のヤツに負けるなんて考えられねぇ。きっとそのヤクザも、俺の幻想殺しと同じような力を持ってたんだ)

上条(ヤクザが悪いのか、ビリビリが何かしでかしたのかは知らねぇ。でも、入院するまでやるこたねぇだろ……!)

上条(……クソッ。何イライラしてんだよ、俺……)

 
小萌「それでは入ってきてください、転校生さん」


ガラガラ、と教室のドアが開くと、生徒たちはみな好奇の視線をそのドアに向けた。



――そこには、確かに存在した。小萌先生が言うように。


背が高くて。スーツが似合う。


素敵な人……が。




花山「………………」

土御門「………………」

青ピ「…………ヤクザやん?」

(さるさん食らったから別PCから)


シーン、と場が静まり返る。

確かに、背は高い。高すぎて、ドアを通る時も潜るような姿勢になっていた。
純白のスーツも、よく似合っている。どう見てもその辺の店では売ってないサイズだが。

とりあえず、デカいヤクザ。それが全員の共通した印象だった。


小萌「…………え、えっと。じゃあ、黒板に名前を書いてください……」


ポカンとした生徒たちに申し訳なさそうにする小萌。
小萌の前振りが大きすぎたのか、それとも花山が規格外すぎたのか。しかし、誰を責めることもできないのは確かだった。


小萌「その……花山ちゃんは、ご家庭の都合で……その……」

花山「…………いや、いい」

小萌「え…………」

花山「………………」


実家がヤクザで、組の都合で高校生になった、などとは言えるはずもなく。
結局この空気が続き、転校生の花山がほとんど無言のまま終わるという、寂しい自己紹介となった。

 
小萌「それじゃあ……席は、上条ちゃんの隣で」

上条「え!?」


この間席替えしたばかりのせいで、上条の隣には机一つ分のスペースがあった。
その瞬間、近くに座っていた生徒たちが、ここぞとばかりに予備の机と椅子をセットする。


上条「て、てめぇら……」

青ピ「すまん、カミやん」

土御門「俺らも命は惜しいぜよ」


そんな話の中心になっている花山を、上条がチラッと横目で窺うと。


花山「……上、条……?」

上条「え!? な、なんでしょうか! 上条さん、アナタ様のような屈強なお方とは初対面であったりなかったり!」

 
花山が、上条の席までコツコツと歩み寄る。
張り詰めた緊張感の中では、あたふたする上条を覗いて、誰一人声を発する者はいなかった。


花山「……御坂を、知ッてるかい……」

上条「…………!?」


世界が、停止した。

その一言、その表情、その名前。たったそれだけで、二人は互いを理解した。

御坂美琴に強いとまで言わしめた、上条当麻とは―――
御坂美琴に怪我を負わせて入院させた、ヤクザとは―――


―――この、目の前の男だ。



花山「…………強ええんだって……?」

上条「……やんのかよ」

花山「………………」


この瞬間―――確かに花山薫は、『笑顔』になった。

確かにタフさは上条さんも同じくらいあるな
ただ完全に攻撃力不足だけど

ステゴロだと勝ち目ないだろ上条さんww



御坂「…代わりって言ったって…」

御坂「誰も 私の交わりになんて差し出すわけにわいなないわよ…」

御坂「!」

御坂「なに考えてるの!?だめよ…あの子達は…」

御坂「…」

御坂「…でも代わりがいないと私が…」

誤爆 ごめんなさい

 
上条「ちくしょう……御坂も、御坂を取り巻く世界も! 守ってやるって約束したのに!」

花山「………………」

上条「……いいぜ。てめぇがアイツを傷つけたってんなら! まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!」


上条は、机を蹴飛ばし、椅子から立ち上がるやいなや―――花山の顔を、その右拳で、殴り付けた。

その、上条らしからぬ行動の前に、土御門も、青髪ピアスも、先生である小萌までもが度肝を抜かれた。


小萌「ちょ、ちょっと上条ちゃん!?」

土御門「上条ッ!」

上条「…………ッ!」


上条は、眼前で自分を見下ろすこの男が、御坂を痛めつけ病院送りにしたのだと知った瞬間。
ごく自然に、条件反射のように、体が動いていたのだ。

 
花山「…………悪くねェ。が、トーナメントには出れねェな……」

上条「!?」


しかし。その不意をついた上条の拳は、何の効果も持たなかった。

上条も、大小それなりの窮地をくぐり抜けている。その中で、やはり相手と殴り合いになることなど珍しくもない。
その経験上、相手の顔面に拳が直撃した場合、どんな大男でも最低、怯むくらいの反応は見せるはずなのだ。

それなのに。
目の前の男は……花山薫は、微動だにしなかったのである。


愕然とする上条の肩に、ポン、と花山の左手が置かれる。





花山「遊ぼうか」

 
上条「…………!!」


上条の肩に、花山の手が置かれている。そんな距離。
この状態から、砲丸程の大きさもある花山の拳を食らったら、自分はどうなるのか。

上条は、恐怖した。殴られることを。痛みが来ることを。あまりにも唐突に訪れた、死という現実を。


――だが、花山は、動かない。


花山「………………」

上条「……な、なんだよ! やるならやりやがれ! 俺から売った喧嘩だ、怖くなんてねぇぞ!」

花山「…………見てな、ぼうや」


上条から手を離し、教室の壁に歩み寄る花山。
その行動を理解できる者は、この場には誰一人いなかった。

花山って拳銃まともに喰らってもノーダメだぜ?

自由の女神を素手で破壊した男のパンチを何発も喰らって余裕で立ってるからな

 
『 体重 × 』


花山が右拳を後ろに引き、拳を握り締める。


花山「………………」

上条「……お、おい、まさか……!」


それを見た上条は、直感した。その行動が、何を意味するのかは分からない。
だが、何をしようとしているのかは分かった。ヤバイ。この男ならやりかねない。


『 スピード × 』


小萌「……え? え?」


花山の目の前は、壁だ。
コンクリートで構成されており、破壊するにはドリルなどの機械か、レベルの高い能力が必要となるだろう。

モニュ・・・モニュ・・・

 
『 握力 = 』


それでも、こいつならやるッッ! そんな、予感めいたものが上条にはあったのだ。
しかし、それが異能の力ではない以上、上条の幻想殺しでは止められるわけもなく……


『 破壊力!! 』





姫神「音が。ドカンって。音がした」

姫神「ええ。目を閉じて。次に開けたら。壁が。無くなってた」

姫神「驚いた。隣の教室の人と。目があった」

姫神「あれでも。無能力者。信じられない」

 
小萌「花山ちゃん! 上条ちゃん! 後で職員室に来なさい!」

上条「は~い」

花山「………………」


花山が放った大振りのストレートは、見事に壁をブチ抜き、二つの教室をくっつけてしまった。
隣の教室の壁際に誰もいなかったらしく、それだけが不幸中の幸いだったと言えよう。


上条「参った……参りました!」

花山「………………」

上条「アンタ、俺に負けを認めさせるために、こんなことしたんだろ?」

花山「………………」

上条「そんなナリして、人を無闇に傷つけたくねぇんだな。アンタ、すげぇよ」

 
上条「ちょっとやりすぎだとは思うけどさ。でも俺、頭に血が上ってたからな……これくらいで良かったかもな」

花山「…………だが、俺が御坂にやッたことは、嘘じゃねェ……」

上条「でもよ。俺に温情をかけたアンタのことだ。ビリビリ……御坂にも、そうしたんだろ?」

花山「………………」

上条「それにアイツ、負けず嫌いだからなぁ。そりゃ入院するまでやるだろうな」

花山「……ヘッ……御坂は、もうすぐ退院だ……」

上条「…………そうなのか?」

花山「……見舞いにでも、行ッてやんな。細けェ事情はアイツに訊け……」

 
次の授業もあるということで、小萌のお説教タイムは短めで切り上げられた。

その代わり、二人には宿題が多めに出るというペナルティが課せられて。
無論、上条当麻は『不幸だー!』と宣っていた。



その後、二人が教室に戻ると、グラウンドで待っているハズの体育教師、黄泉川愛穂が教壇に立っていた。


上条「なんだ……?」

黄泉川「お、上条に転校生じゃん。小萌先生のお説教は終わったか?」

上条「はあ、一応は……」

黄泉川「転校生も、転校して早々教室をくっつけるとは、やってくれるじゃん!」


この惨状にも飄々としている黄泉川。既に一部の生徒も、花山の凄さを目の当たりにして尊敬の眼差しを送っている。

しかし、黄泉川は内心肝を冷やしていた。
アンチスキルの一員としては、こんな爆弾みたいな生徒を抱える学校の気が知れなかったからだ。

 
上条「で、なんで先生がここに?」

黄泉川「そ、そうそう! 今日の体育は特別に二時間使って、柔道をやるじゃん!」

青ピ「えー、なんで急に柔道なんです?」

土御門「めんどいにゃ~」

黄泉川「若者がダレるな!」

青ピ「だって、あんな暑苦しいもん、誰が好きでやるんです?」

黄泉川「そう言うな。特別講師もいるじゃん。そろそろ職員室に来てるハズ……」

上条「特別講師……?」

黄泉川「そう! アンチスキルどころか、学園都市外の警察にも御用達の凄い人じゃん!」

渋川のじっちゃんじゃね?

 
学園都市の郊外。


不良A「うわぁぁぁぁぁ!!」

不良B「も、もう勘弁してくれ! 俺達が悪かった!」

一方通行「ちっ……てめェらから仕掛けといて逃げてちゃ世話ねェだろうが」


一方通行は不機嫌だった。

ちょっと小腹が空いたからコンビニに行っただけなのに、
往来でスキルアウトに絡まれ、能力を使用させられるハメになったのだ。


一方通行「はァ……寄り道なンかすンじゃなかったぜェ……」

??「ちょっと、そこの若いの」

一方通行「あン?」

??「この高校ってのは、どっちに行けばええんかの」

舘岡か

キリもいいし、モニュモニュ飯食って、ついでに書き溜めてくる
ただ明日も仕事があるから、もしかしたら次は明日の夕方以降になるかもしれない

>>306
スカフェの花山は和製ターミネーターだから人間としてはカウントされないよ

地上最強のホームレス

柳の空掌なら一方さんも倒せるな

オリバが食う肉もな

9982号「」パクパク
一方通行「オ・ネ・エ・サ・マ…ッ舌がじゃまだな」
9982号「」パクパク
一方通行「コ・ン・ニ・チ・ワ・ーっとヒャハハ」

美琴「~~~~ッッ!!!テメェッッ!」

御坂「ハァッ、ハァッ…………!」ブルブル
花山「これが喰いたかった…」

>>341の続きッ


一方通行の前に現れたのは、学園都市外ならどこにでもいるような、杖をついた老人だった。
高そうな眼鏡をかけて、ジッと一方通行の顔を窺っている。

老人の持っている紙には高校の名前が書かれており、どうやらそこに行きたいらしかった。


一方「あァ……その学校なら結構遠いぜ。まずは、あの道を右に曲がってだなァ」

??「………………」

一方「そンでしばらく歩くと交差点があるから、そこを左に」

??「……すまんが、連れてってくれんかね」

一方「は?」

??「見ての通りジジイでの……ボケが酷くて覚えられんのよ、かっかっか」

一方「チ……しょうがねェな」

??「迷惑かけるな、若いの」

 
以前の彼なら「知るか」と突き放していたことだろう。

しかし今や一方通行は、老人と同じように、杖をついて歩く生活を余儀なくされている。
だから、その老人の悩みや苦しみが決して他人事とは思えなかったのだ。


一方「……で?」

??「ん?」


若者と老人が杖を使いながら、ゆっくりと歩みを進めて行く。
時間がかかることが容易に予想できた一方通行は、暇潰しに老人に話題を提供した。


一方「学校なンかに何の用だ、その歳でよォ」

??「ああ、講師とやらに呼ばれちまったのよ」

一方「講師だァ?」

 
老人の話によれば、この老人は柔道の指導員として、警察にも呼ばれる程の人物らしい。
こんなボケた老人がそんなに強いとはとても思えなかった一方通行は、それを話半分に聞いていた。


??「そういや、お前さんも杖を使っとるが……どっか悪いんかい」

一方「悪い? ああ、悪いなァ」

??「ほう……」

一方「悪いのは一方通行、俺自身だァ。なンたって俺は、もう一万人も殺しちまったンだぜェ」

??「…………よくわからんが、大変そうじゃの」


何かが、噛みあってなかった。

 
一方「着いたぞ、ここだァ」

??「おぉ、すまんかったの。ありがとよ」

一方「……礼はいらねェよ。それより、訊きてェことがある」

??「ん、なんじゃい?」


一方通行はその老人の質問に……言葉ではなく、行動で答えた。
すかさず老人の持っていた杖を蹴り飛ばし、同時に距離をとる。

老人は、立っていた。杖などなくとも。二本の脚で、アスファルトを踏みしめて。


??「ほっ……どうした?」

一方「ふざけてンですかァ? この俺も見くびられたもンだなァ」

??「………………」

 
一方「俺はなっさけねェことに、『マジで』杖をついてンだぜェ?」

??「……そうみたいじゃの」

一方「なら分かンだろォ? てめェみたいに『見せかけ』の歩き方、バレバレだってことがよォ」

??「………………」

一方「てめェ……なにもンだ? その佇まい、ただのジジイじゃねェだろ」


一方通行は、先程の老人の話を思い出していた。嫌な感覚がふつふつと押し寄せる。
実は、自分が勝手に嘘八百だと決めつけていた老人の自慢話は、偽りの無い事実だったのではないだろうか、と。





渋川「ま……お前さんの言う通り。この渋川剛気、自分の足で立てんほど、落ちぶれておらんでの」

 
渋川「まずは……若くしてその洞察力、見事ッッ」

一方「けっ。ジジイに褒められても嬉しくねェっての」


渋川は一方通行の嫌味にも、かっかっかと笑って返すだけだった。
この老人は、一方通行が学園都市最強の能力者だと知ってようとなかろうと、そんな余裕を見せることのできる男であった。


一方「なンで杖なんかついてやがった?」

渋川「ヘンソウじゃよ、ヘンソウ。一部の人間からすりゃ、ワシは結構有名なモンじゃよ。もちろん……これも、ヘンソウ」


眼鏡のフレームをコンコンと叩く渋川。


一方「ちっ……食えねェジジイだ」

渋川「ワシの知っとるジジイは、みんな食えんモンじゃあ……菩薩拳やら、空掌やらな」

 
一方「そンじゃ、俺に近づいた目的はなンだよ? 俺は、アンタの顔に覚えがねェが」

渋川「別に、近づきたくてそうしたわけじゃねェ。ただ、さっきのアレを見せられちゃあ、黙ってらんねェ」

一方「さっきの……? ああ、スキルアウト共をノした、アレのことかァ」


渋川は超能力の存在も名前でしか知らず、学園都市に来たのも今日が初めてだった。
当然ながら、一方通行に関しては名前も能力も、知る由も無いのだ。


渋川「攻撃した相手が吹っ飛ぶ、なんてのは、なかなか興味深いモンがあってな……」

一方「………………」

渋川「ワシも、知っとるんじゃよ。そういう技をな」


が、先程の騒動に偶然居合わせたことで、渋川は一方通行の強さを目の当たりにしてしまった。
それも、腕っ節などの単純な強さではなく……自分の良く知っている強さを、である。

 
一方「……なンだ。つまるところ、ヤりてェのか。最初からそう言やァいいだろうがよ」

渋川「かっかっか! 歳をとると、どうも遠回しになっていかんわ」

一方「へ……言ってろ……ッッ!?」


瞬間。

空気が、変貌した。



今まで目の前にいたのは、小さな、小さな。
転んだだけでも骨が折れてしまいそうな、ただの老人だったハズなのに。


一方(……で……でけェ……ッ! なんだ、このジジイ……ッッッ!!)


渋川剛気は、一方通行が今まで見てきた『老人』の常識をすべて覆した。
その姿から感じられるのは、自分に向けられる明確な、威圧、牽制、殺気。

そして何よりも一方通行が驚愕したのは、『そこに居る』という、圧倒的存在感ッッ!!




渋川「ほな……やりましょか、決闘」

 
その頃、花山と上条は騒ぎを起こしたペナルティとして、渋川の探索に向かわされていた。
宿題の追加よりはマシだと、しぶしぶ引き受けたのだが……


花山「………………」

上条「はぁ、はぁ……あ、あれか……?」


見つけた時、二人が目撃したのは、対峙する二人の人物。
一人は紛れも無く、探していた人物である、渋川剛気。そして、もう一人。


上条「なっ、一方通行……!? アイツ、なんであんな爺さんと……」

花山「………………」

上条「と、とにかく止めねぇと! 爺さんが殺されちまう!」

花山「…………待ちな、上条……」

上条「えっ……? で、でも」

花山「…………『達人』……ナメんじゃねェ」

 
一方(さっきのスキルアウト共のせいで、バッテリーも微妙なトコだ。もうそンなに能力は使えねェ)

一方(とりあえず『反射』だな。あとは物体表面上の物理演算に限定すりゃあ、結構保つだろォ……)


首のチョーカーに手を伸ばし、スイッチを入れる。
これが、今は制限されている一方通行の能力を開放する、唯一の手段だ。


一方(とは言え、ジジイの能力は一切不明。さて、どう攻め……)




――眼鏡。



眼鏡が、飛んできた。
一方通行はチョーカーのスイッチに手をかけたまま、その眼鏡を凝視する。


一方(これは……ジジイのか! てこたァ、この眼鏡には仕掛けがあるってことかァ!?)


一方通行の能力は『ベクトル操作』。爆弾や毒ガスの類ならば『反射』によって避けることができる。
しかし、閃光弾のように直接体に触れないものに関しては、彼の能力は効果を発揮できないのだ。

 
――カンッ。


一方通行の懸念も虚しく、眼鏡は彼の足元に落ちた。
逃げの体勢のまま、硬直する一方通行。視線は当然、目下の眼鏡。

……しかし、『達人』と呼ばれる男を相手にそれは、自殺行為にも等しく。


渋川「よそ見はいけねェぜ、小僧」

一方「…………!!」


次に一方通行が顔を上げた時には、渋川は互いの息がかかる程の距離まで近づいていた。
無論互いに射的距離内であるが、動揺した一方通行に比べ、渋川にはこうやって声をかける余裕すら見える。


一方「なろォ!」


小馬鹿にされ逆上した一方通行は、渋川のニヤついた顔めがけ、掌打を放った。
とにかく渋川の体のどこかに触れることができれば、ベクトル操作で吹っ飛ばし、壁や地面に叩きつけられるのだから。

 
一方(なンつーか、よォ……)

一方(人間と人間が、この距離にいて……)

一方(当たンねェってことが、あるンだな……)


そこにあったハズの顔は既に無く。一方通行の掌打は、何も無い宙を切るだけだった。
その瞬間にも、渋川は即座に体勢を低くすることで、掌打の回避と反撃の準備を同時に行っていた。


渋川「ほぅれ」


攻撃直後の一方通行は体勢を崩しており、渋川のいい的でしかない。
無論渋川はその隙を逃さず、一方通行の脚に、軽く自らの右肩を当てる。


一方(体当たり、か。ヘッ……!)




ドンッ。

 
渋川「…………ッッ」


たたらを踏んだのは、渋川だった。


一方「……ハ。どうしたよジジイ。今のは千載一遇の好機だったンだぜェ?」

渋川(…………どういうこった。ワシは確かに、小僧の掌打に合わせて技を仕掛けた)


渋川が、右肩を押さえながら後退する。
それを見た一方通行は、自分の能力に対し、やはりこの老人は無力である、と悟っていた。


一方「どンだけ回避が上手くても、攻撃がヘタクソじゃあなァ?」

渋川(しかし次の瞬間、ワシの肩は『押し戻されていた』……奇ッ怪なモンじゃの……)


渋川剛気。この世に生を受けて70余年。
自らが育て上げてきた柔術を『根本から』覆す敵に、初めて出会った瞬間だった。

 
花山「…………上条、これは……」


渋川と同様に、花山も闘いの流れに疑問を感じていた。
なにせトーナメントでは、渋川の技の前に、あらゆる巨体の男たちが舞う様を何度も見てきたのだから。

それを、もやしのような少年が退けた。花山としては、そんな異常な現象は『超能力』の仕業だと考える他になかった。


上条「……アイツの能力は、一方通行(アクセラレータ)。これ、一部の界隈じゃ最強だとか言われてるらしいぜ」

花山「………………」

上条「なんたって、アイツの体に触れたもののベクトルを、何でも変換できるんだ。物体の反射も停止も自由自在ってことだよ」

花山「…………方向操作、か……」

上条「そういうこと。例え火だろうが水だろうが、そこに存在する以上、アイツに直接ダメージを与えることはできない」

 
一方(……それにしても。返したは返したが、納得いかねェ)

一方(さっき、このジジイは俺の体に触れながら、反射しても『たたらを踏む』程度で済みやがった……)

一方(……最初、俺が眼鏡に気を取られていた時の踏み込み……あンな速度で動ける人間がよォ)

一方(そンな程度の攻撃しかしてこない、なんてこと、あるかァ……?)


一方通行が最も頻繁に使用する『反射』は、物体の持つベクトルを『等値』で反転させるものだ。
渋川が本気の速度で体当たりを仕掛けたとすると、渋川の小柄な体はかなり吹っ飛んで当然なのである。。


渋川「……ナルホド、さっきの連中はコレにやられたんかい」

一方「あァン?」

渋川「ワシが当てた力が、そのまま返ってきおった。殴ったらその分だけ、自分が殴られるっちゅうわけじゃあ」

一方「…………!!」

 
渋川「『超能力』っちゅうのは眉唾モンじゃったが、ホントにあるんじゃのう」

一方「チ……黙りやがれ、ジジイ!」


脚のベクトルを操作し、前傾姿勢で超加速する一方通行。
初動無しでこの速度が出せる無能力者は、まず地球上には存在しないだろう。


一方(とにかく、触りゃあ勝ちだァ! この速度なら反応できねェだろォが!)


渋川に急接近し、腹めがけて拳を叩き込む。




パンッ。




渋川「つかまえたァ♪」

一方「!?」

 
一方通行が出した拳は、渋川に『握られていた』。


一方「み、見えてやがンのか……いや、それより……!」

渋川「これかの?」


渋川が一方通行の拳を引っ張る。と、一方通行もつられて体勢を崩した。


一方「な……!?」

渋川「お前さんは、あんまり感じたことの無い感覚かの? かっかっか」


反射がセットされている状態で『引っ張られる』という現象自体が、そもそも矛盾していた。
それ以前に、幻想殺しも無しに一方通行の拳を握れる人間など、存在しない筈なのに。

 
花山「…………上条、たびたびすまんが……」

上条「……これは、俺なりの考えだから、間違ってるかもしれねぇが……」

花山「………………」

上条「一方通行の攻撃には、打撃に限って言えば、弱点がある」

花山「…………なに……ッッ」

上条「それは『ベクトル操作で自分から相手に向けて力を入れる』箇所だけは、他のベクトル操作はできないってことだ」

花山「…………ッてこたぁ……」

上条「今のように拳で殴った場合、拳だけは反射が切れてるんだよ。もっとも、アイツの移動を見切れる人間にしか意味の無い弱点だけど」

花山「…………ナルホド、な……」

 
渋川「もう一回、試してみッかい?」


渋川が一方通行の拳を解放する。と同時に、一方通行は加速して大きく距離をとった。


一方「ク……クカカカカカッ!! いいぜ、いいぜェ!!」

渋川「………………」

一方「ジジイ! 今てめェは、最大にして最後のチャンスを失ったぜェ!」

渋川「かっかっか、どこかで聞いたセリフじゃの」

一方「ほざけェェェェ!!」


再度、突撃。

 
――パシッ。

今度は、軽い音だった。


一方「………………」


――そうだ。悪いのは自分だ。

なぜ、あの男と闘った時のように、周りの物を使わなかったのか。
なぜ、逆上して、突撃するような真似をしてしまったのか。

弱点なんて、無かったハズなのに――


渋川「いくぜェ、小僧」

一方「…………!?」





花山「…………世界が、回るぜ」

 
回った。

何回かは、分からない。一回か、五回か、十回か。

ただ理解できるのは、投げられた、という事実のみ。


ダンッ、と背中からアスファルトに叩きつけられる。無論、受身などとれるハズもない。


一方「かッは……ッッ!!」


痛い。背中だけでなく、全身に痛みが回る。

そして。


一方「…………うあ……ッッ!?」


視界――空が。家が。電柱が。渋川の顔が。


渋川「ほうれ、ドロドロかのう?」

 
上条「な……なんだ、今の」

花山「…………渋川流、柔術……」

上条「柔術……?」

花山「……自分の力は最小限に、相手の力を最大限に利用するッて技だ……」

上条「な……そ、そんなことできんのかよ!?」

花山「…………現実を見な、上条……」

上条「そ、そんな……で、でもそれなら、爺さんが体当たりした時、ほとんど吹っ飛ばなかったのも納得がいく!」

花山「…………自分の力は最小限、だからな……」

 
一方「負……け……ッッ」

渋川「ほう、まだ立てるんかい」


回転している間、頭が相当揺さぶられた。
しかし微かな意識を振り絞り、地面にぶつかる自分のベクトルを操作することで、若干ダメージを抑えることに成功したのだ。

が、体は動かない。なんとか生きているといったところで、攻撃以前に立つことすらできない。


渋川「……ま、こんなトコかの」

一方「!?」

渋川「お前さん、今は冷静じゃあるめェ。ワシは、そんなお前さんと闘りたかったワケじゃねェのよ」

一方「ふっ……ふっ、ざけン、なァ……ッッ!」

 
一方「まだ……やれンぞッ……!」

渋川「その、立ち上がることもできん、体でか」

一方「…………!!」

渋川「小僧……生き甲斐、奪わんでくれや」

一方「ジ……ジイ……!!」

渋川「……ほな、学校に行きますかね」


渋川は、去っていく。
倒れ伏した一方通行を後にして。

敗者にかける言葉


一方「ッく……ちく、しょうがァ……!」

>>1ですッッ トンデモ理論で書いてるから不満あッたらごめんねッッ

あと、保守だらけになって申し訳ないからこの辺で終わってみようかとミサカはミサカは思ってみたり

分かった、みんなありがとう
せめて次に続けられるような終わり方を目指してみるッッ

ただ問題は、誰と誰が闘ったら面白いかみたいなのを考えてるんだけど、
14キロの砂糖水でも飲まないと思いつきそうにない

>>586の続き
 


渋川による特別授業も滞りなく終わり、その日の放課後のこと。

校舎を出た花山を待っていたのは、上条、土御門、青髪ピアスのデルタフォースだった。


上条「よっ! 一緒に帰らねぇか?」

花山「…………ッッ」


花山は、素直に驚いた。自分はこのナリや性格もあって、トラブルに巻き込まれやすい。
そんな自分に『一緒に帰ろう』などと言った馬鹿が、これまでの学校生活でいただろうか。


青ピ「こ、こんにちは、ご機嫌うるわしゅうぅぅ」ガクガク

花山「………………」

上条「あ、あはは……この二人は、俺が無理に誘ったっていうか……」

土御門「いや! カミやんが認めたんなら、そんなに悪いヤツでもないと思う! 思うことにするぜよ!」ビクビク

上条「そ、そう言われると……上条さん、少々自信が無いんですけど」

 
道中、適当に寄り道をしながら帰る四人。
青髪ピアスの提案で、普段寄らないクレープ屋なんかに寄ってみたりする。


花山「………………」モニュ…モニュ…

上条「クレープって、そうやって食うモンだっけ……」

青ピ「いやぁ~! それにしても花山クンのおかげで助かったわ!」

花山「…………?」

青ピ「いっつもあそこ女だらけで買いづらいねん! けど花山クンが近づいたらクモの子を散らすようにして逃げよったし!」

上条「それ褒めてねぇだろ!」


右手にしっかりクレープを携えながら、高笑いをする青髪ピアス。
そして、事無きを得ようとなだめる上条。この二人の関係は、花山に佐天と初春を思い出させた。


花山「…………高校生、か……」

上条「ん……何か言ったか?」

花山「…………イヤ……」

 
上条「じゃあ、俺達はこっちだから」

花山「…………ああ」

土御門「また明日にゃ~」

青ピ「明日は壁壊したらアカンでぇ~」


三人に別れを告げ、彼らとは別の方向へ歩き出す。
花山には、これから行かなければならない場所があったからだ。


花山(一度、顔を出せ……ッて、言われたからな……)

 
ジャッジメント第177支部。
白井黒子に言われた通り、律儀にここを訪れた花山を待っていたのは、


「なんだ、ホントに来たの?」


という佐天の冷たい一言だった。

佐天も嫌味とか皮肉とかそういうものではなく、
単純に感想として述べているだけで、これっぽっちも悪気は無かった。


佐天「アンタがジャッジメントなんて、信じられないんだもん」

花山「…………てめェは、なんでここに……」

佐天「え? なんでだろ……暇潰し?」

花山「………………」

 
固法「佐天さん、ウチの新入りをいびらないでくれる?」

佐天「そんなつもりは無いんですけど、つい」

固法「もう……いいから、ちょっとあっち行ってなさい」

佐天「はーい。うーいーはーるー!」

初春「きゃあっ! いきなり抱きつかないでください~!」


敷居の向こうから、何が起きてるのか容易に想像できる声が聞こえてくる。
その状況に、やはり固法は頭を抱えていた。


固法「……ごめんなさい、騒がしくて」

花山「…………いや……」

固法「佐天さんも、普段は良い子なんだけどね……どうしてあなたには冷たいのかしら」

 
固法「……で、わざわざ来てもらったのには理由があるんだけど」

花山「…………研修、だろ……」

固法「ええ、話が早くて助かるわ。それじゃ早速だけど、今日から始めてもいいかしら」


顔を出せと言われたのは研修のためだと言われていたので、これくらいは想定内だった。
寮も近いし門限を考えても時間的な余裕はあるので、花山は固法の提案を承諾した。


固法「初春さんや白井さんにはまだ任せられないから、研修は私が担当するわ。よろしくね」

花山「…………あァ……」

固法「人生経験ではあなたの方が上だけど、ジャッジメントとしては私の方が先輩だから。言うことは聞いてもらうわよ?」

花山「…………分かッてる……」

 
1時間後。

花山は固法に連れられ、ショッピングモールに来ていた。


固法「研修といっても、パトロールがメインだから。もちろん、やるべきことはやってもらうけど」

花山「………………」

固法「掃除とか、遺失物探索とか、道案内とかね。もちろん、喧嘩を止めるのも」

花山「………………」

固法「……一応言っておくけど、実力行使に走るのはやむを得ない場合だけよ?」


固法は、花山の強さや性格を(大雑把に)把握した上で、念を押していた。
それは言われた花山自身もよく分かっていたし、その辺のチンピラ相手に自分から喧嘩を売るほど、花山は安い人間では無かった。



---
余談なんだけど、禁書目録とバキのどっちかしか知らない人にも
面白いと思ってもらえるんだな。感動した

 
固法「………………」

花山「………………」

固法「………………」

花山「………………」


特に会話することもなく、街中を闊歩する二人。
まずはパトロールからという基本を忠実に守っているのだが、今日に限って特に事件も起こらず、別段やることもない。


固法(あ~、どうしよう……なんだか気まずいなぁ)

固法(何か話でもしたいけど、先輩の私がパトロール中に、雑談しろとは言えないし……)

固法(そもそもこの人、私と話が成立するのかしら……他の組に乗り込んだ話とかされても困るんだけど……)

 
固法「ど、どう? 仕事、楽しい?」

花山「…………まだ、何もしてねェ……」

固法「で、ですよね……」

花山「………………」

固法「………………」


ダメだ。会話が続かない。
こうなっては、もう無理にでも仕事を作るしかない。そうでないと研修にもならないし。


固法「……それじゃ、道の掃除でも」

花山「おい」

固法「は、はいっ!?」ビクッ

 
花山「……『あれ』は、どうすんだ……?」

固法「『あれ』って…………ッッ!」


花山が、固法の右に広がる道――少し大きめの路地裏を、指差した。

その先では、涙目になった一人の学生がスキルアウトの集団に取り囲まれるという、
それこそ『仕事』の対象になる事件が発生していた。

が。


固法「か……数が、多すぎる……!」

花山「…………7人……ッてトコか……」

固法「こ……こういう時は応援を要請! アンチスキルや近くのジャッジメント支部に……」

花山「…………それじゃあ、遅ェ……」

固法「え!? ちょ、ちょっと!」

 
路地裏に入り、無言でスキルアウト達に歩み寄る花山。
当然、彼らも花山の存在を認知し、花山を睨み返す。

一方で、固法は壁に隠れ、無茶な後輩をフォローするために現状の分析を開始していた。


固法(もう、花山くんったら後先考えないで!)

固法(……でも、よく考えれば人が危険にさらされている以上、すぐに助けるのはジャッジメントとして当然)

固法(花山くんが敵を引きつけている間に、あの学生は逃げることもできるでしょう)

固法(同時に、そこで私が応援を呼ぶことができれば花山くんも助かる……だとすると、彼の行動は間違ってないの?)


固法は自分なりに花山薫という漢の行動原理を検証したが、実はこの時点で、花山は深くは考えていない。
ただ、強者が集まって弱者をいたぶるという行為が、花山の美学に反した。それだけのことである。

 
花山「………………」

不良A「ああ? なんだよ、てめぇ」

不良B「邪魔すんのか? ハッ、正義のヒーロー気取りかよ」

花山「………………」


無論、花山にはそんなものを気取るつもりなど無い。
しかし、今の自分はジャッジメントだ。自分の考えがどうあれ、こういう輩を止める立場にある。

花山は腕章を付けていない。まだ見習いで、今だって研修中なのだから。
しかし、固法にも白井にも、こういう場面で言うべきことだけは習っていた。


不良C「なんだ、コイツ……何も喋らねえな……」

不良D「……貴様、何モンだ!?」




花山「…………花山、薫……」

花山「……ジャッジメントだ……」

 
固法(いくら花山くんが強くても、7人相手じゃ勝ち目は無いでしょうね……)

固法(とにかく、応援を呼ばないと。まずはアンチスキルに)


プルルル、とコール音が鳴り響く。
こんな時に限って、なかなか職員が出てくれない。


固法(もう、何のためのアンチスキルよ! さっさと出なさいよ!)


固法がイライラを募らせていると、ようやく職員が応対する。
こうしている間にも、花山は窮地に立たされているかもしれなかった。


職員『はい、こちら』

固法「ジャッジメント第177支部の固法美偉です! アンチスキルの出動を要」



ごうっ、という風。と共に、固法の目の前を『何か』が通過した。



固法「…………は……?」

 
開いた口が塞がらない。そんな言葉が相応しかった。
もし、電話の向こうで応対した職員が何かを叫んでいなければ、固法が即座に正気を取り戻すことはできなかっただろう。


固法(今の、何……?)


『何か』は二転三転し、道に叩きつけられた。
そこで初めて固法は、『何か』が、路地裏から吹っ飛んできた人間……スキルアウトの一人だと認識できた。




不良D「~~~ッッッ!!」

不良B「リ、リーダーが一撃だとおッッ!?」

不良E「て、てめェ……生きて帰れると思うなよ!」

花山「…………吠えんじゃねェ……」

 
アンチスキルの鉄装綴里は、後にこう語る。


鉄装「ええ。偶然付近を巡回中だったので、1分程で現場に」

鉄装「それはもう、ビックリしましたよ。だって、花山薫ですよ?」

鉄装「花山薫。日本一の喧嘩師。素手喧嘩の頂点。そんなの、私達の間じゃ常識です」

鉄装「ちょっとサインを貰おうと思ったんですけど、現場が現場でしたから」

鉄装「あ……私ったら、つい。アンチスキルなのに不謹慎でしたね……すみません……」

 
鉄装「現場の状況ですけど、ジャッジメントの固法さんが付近にいました。壁に隠れてましたけど」

鉄装「隠れてたことを責めるつもりはありません。あんな規格外のケンカ、女の子の細腕で混じれるワケありませんから」

鉄装「スキルアウト7人……あ、もう6人でしたけど。その6人 対 喧嘩師花山薫、ですからね……」

鉄装「とにかく、私としても花山の強さを知る良い機会だったわけです。一対多で、花山がどこまで戦えるのか」

鉄装「……それで、当の花山ですけど。私が着いた時には、既にスキルアウトに取り囲まれていました」

鉄装「路地裏といっても、結構な広さがありましたからね」

鉄装「花山の前後左右、すべてに敵がいる……そんな状態でした」

鉄装「……これ、意味分かります? 前後左右に『しか』敵がいない、ってコトなんですけど」

 
鉄装「能力を使わないことが前提なんですけど……人間同士の闘いって、相手が何人いても関係無いんです」

鉄装「敵に取り囲まれるとしても、物理的に自分の周り……前後左右が限界ですから」

鉄装「世の中は広いので、三次元で闘うことができる人達もいるらしいですけど」

鉄装「……それは例外として、です」

鉄装「とにかく、4人の敵と同時に闘う技と、そこにいる敵全員を倒しきるスタミナがあれば、100人いたって勝てるんです」

鉄装「でも、その仮定を満たせる人物はあまりいないでしょうね……」

鉄装「オーガとか、オーガに匹敵すると言われるガイア……あとは『武神』の愚地先生くらいじゃないですか?」

 
鉄装「……はい。勝負そのものは、一瞬でした」

鉄装「スキルアウトって、基本的にレベル0能力者が多いんですけど」

鉄装「そういう人達じゃ、何十年経っても彼には勝てない。それを思い知らされる攻撃でしたね」

鉄装「がし、って掴んだんです。花山が」

鉄装「不幸にも彼の正面に陣取ってしまった、スキルアウトの顔を」

鉄装「……それを彼は、左にいた別のスキルアウトの顔に、叩きつけました」

鉄装「当てた、とかそういう生易しい表現じゃ無いんですよ。『ごしゃ』って嫌な音がして……」

 
鉄装「……えっ、具体的に? やだなあ……」

鉄装「うーん……一言で言うと、血まみれでした。二人とも。鼻や歯が折れて、額も割れてましたから」

鉄装「もともと正面にいた人、つまり花山に掴まれていた人は、そこで花山に解放されました」

鉄装「解放というか、その場で捨てられた感じで。ポイッ、て」

鉄装「もう一人……左にいた人は、壁まで吹っ飛んで、ピクリとも動きませんでした」

鉄装「一瞬、死んだんじゃないかと思いましたよ……殺人事件となると、流石に過剰防衛になるかもしれないですし」

鉄装「……他の二人ですか? もちろん、黙ってませんでしたよ。仲間が二人もやられたワケですから」

 
鉄装「後ろの人は、近くの鉄パイプを拾って。ええ、花山の後頭部を叩きました」

鉄装「右の人は、メリケンサックのついた拳で、花山の顔面を殴りました。その人は背が高かったので、花山の顔に届いたんです」

鉄装「二人とも、なんていうんですかね……どや顔、って言うんですか? 『勝ったッ! 第一部完ッ!』みたいな」

鉄装「まあ……なんていうか……バカっていうか、分かってないっていうか……」

鉄装「激掌ってゲーム知ってます? 激掌9っていうのがゲームセンターに……」

鉄装「……あ、知らない。そうですか……」

鉄装「その激掌にも、出てくるんですよ。花山みたいに、攻撃を受けて受けて受けて。一気に反撃する、ってキャラクター」

鉄装「花山がそんなキャラだって知ってれば、あんな顔はできなかったでしょうね。攻撃は、当たって当たり前なんですから」

 
鉄装「次に花山が繰り出したのは、右の軽いパンチでした。これは、右にいた人のお腹に当たりました」

鉄装「あんな『遊び』の無い、手打ちのパンチで、壁に叩きつけられるんですから。さすがは花山、ですよね」

鉄装「……でも、そこで終わってなかったんです」

鉄装「花山が『まだ足りない』と思ったのか……それとも機嫌が悪かったのか、それは分かりません」

鉄装「でもとにかく。花山は吹っ飛んだ相手との距離を詰め……もう一発、顔面にパンチを打ち込んだんです」

鉄装「その時、そのスキルアウトと壁との距離は、『わずかに』空いてる状態だったんですけど」

鉄装「……これが、怖いんですよ」

 
鉄装「分かりやすい例えで言うと……石、って固いじゃないですか」

鉄装「これを、鉄の棒の上に置いて、上から叩いたとします」

鉄装「……これで、割れると思います? 無理ですよね」

鉄装「じゃあ……石を『置く』のではなく、鉄棒との間に『わずかに』隙間を空けて叩くと、どうなると思いますか?」

鉄装「……なんとですね。パカンといっちゃうんですよ」

鉄装「隙間があると……叩いたモノから受けた作用と、鉄棒に当たった時の反作用、ほぼ同時に2つの衝撃が来るんです」

鉄装「しかも後者は、上から叩いた時の速度と、ほぼ同じ速度を持った状態で鉄にぶつかるわけですからね……普通に置いた時よりも衝撃が大きい」

鉄装「……もう、お分かりですよね。花山はそれを、自分の拳と、路地裏の壁と、人の頭で、再現したんです」

 
鉄装「……アレは、酷かったです。人の頭の、前と後ろから血が吹き出す」

鉄装「アンチスキルの仕事をやっていても、あんな怪我の仕方をする人はあまり見ないです」

鉄装「私はすぐに救急車を呼びました。と同時に、これ以上花山に任せるのは危ないと判断して、彼らの前に飛び出ました」

鉄装「するとスキルアウト達も、残った三人が引き際だと思ったらしく、早々に立ち去ってしまいました」

鉄装「立ち去ったと言うよりは、逃げたんですけど。三人とも真っ青でしたし」

鉄装「どの道、路地裏を抜けた先にはアンチスキルやジャッジメントが待機しているので、捕まったと思いますけどね」

 
鉄装「……終わってみれば、事を収めたのは結局、花山の力でした」

鉄装「私たちは、己の無力や対応の遅さを痛感しました」

鉄装「え? 私の対応が遅いだけ? ご、ごめんなさい……」

鉄装「……そういえば、幻想御手事件の時もこんな感じでした」

鉄装「巨大な化物を倒したのは、私たちアンチスキルではなく、一人の少女だったんです」

鉄装「……はぁ。まだまだ、頑張らないといけませんねえ。アンチスキルも、私自身も」

 
花山「…………すまねェ」

固法「………………」


実力行使に出てもいいのは、やむを得ない場合だけ。固法にも止められたのに、花山はそれを無視した。
花山は己の信条に従って行動し、物事を解決したが、それはジャッジメントとしては不適格だと言えよう。


固法「……応援が来るまで、待てって言ったわよね」

花山「………………」

固法「はぁ……」

花山「………………」

固法「……今回は大目に見るけど……次からは、言うこと聞いてよね」

花山「…………なに……?」

 
固法「あなたが、闘わなかったら……私一人だったら、あの学生は助からなかったかもしれない」

花山「…………そいつァ」

固法「ええ、結果論ね。だけど、あなたの行動は間違ってなかった」

花山「………………」

固法「今ミスをしたっていいの。これから直す機会はいくらでもある。白井さんだって、研修時代は酷かったのよ」

花山「…………ッッ」


御坂の見舞いに行った際には嫌というほど上条やジャッジメントの話を聞かされた花山だったが、
そこから抱く白井や初春のイメージは、ジャッジメントとしての仕事を的確にこなしている姿であった。

確かに、組に入った若い構成員も最初はミスを犯すものだ。最初から完璧に物事ができる人間などいる訳もない。

 
固法「でも私は、あなたにも白井さんにも、自分らしさを失って欲しくない。だから……」

花山「………………」

固法「そうね。始末書程度で、勘弁してあげるわ」

花山「…………なに………ッッ」


流れ的にお咎め無しだと考えていた花山に、まさかの一言。


固法「当たり前じゃない! 下手したら傷害致死に器物破損よ!」

花山「…………正当防衛、じゃねェか……」

固法「やりすぎよ! 反省しなさい、バカ!」


第177支部に来てから、どうにもボロクソに言われる機会が増えているような気がする。

ジャッジメントが「ジャッジメントですの!」と宣言するように。

上条も……こういう時、決まってこう言うらしい。



花山「…………不幸、だ……ッッ!」

完ッッッ! 途中で色々アドバイスもらって助かった、ありがとうッッッ

佐天「だーかーら、こうやるの!」

佐天「ジャッジメントですの!」シャキ-ン

花山「なぜそうする必要がある」

佐天「これがウチのやり方なの!さぁ!」

花山「???くだらん」

佐天「ああちょっと!待ってよ!」

   外

佐天「...」

花山「...」

佐天「あっ!学生がからまれてるよ!」

花山「...」ギラッ

ダッ

佐天「待ちなさい!また半殺ししたら始末書どころじゃないかもよ!」

花山「じゃあどうすればいいんだ」

佐天「(コイツに普通の対処なんて不可能ッ...!ならば)」

佐天「ジャッジメントですの!をやるのよ!」

花山「殺ってくるぞ」

佐天「待ってよ!本当にお願いだから!」

花山「...」

佐天「...」キラキラ

花山「...フン」

花山「...スウウウウゥゥゥゥ」

花山は信じられない量の空気を吸い込む。
吸引力の変わらない、ただ一つの花山だった。

花山「ーーーッ...」ピタッ

佐天「...ッ!」

その直後、佐天の肌に衝撃が走る。
それどころか、ビルのガラスを粉砕しそうな大音量で花山は叫んだ。

花山「ジャッジメェントでぇすぅのォォォッォォオオオオ!!!!」ニタァァァァァ




その後現場がどうなったかは言うまでもない

おわり

父さんが読んでるからちょっと知ってる程度でスマン

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