ジャン「また会おうな――親友」エレン「また会おうぜ――親友」(64)

注 ネタバレ 捏造 if展開


貸切の店。
騒ぐは仲間達。
残酷な世界で、今も尚、生きている腐れ縁の同期達。
オレの隣に座るのは。
死に急ぎ野郎。

「……何で最後の晩餐で、隣にお前なんだかね」
「そりゃお前が寂しそうにしてるからだろ」
「馴れ合うのは主義じゃねぇだけだ」
「構ってやってんだから感謝しろよ」
「誰が感謝するか。チェンジだチェンジ」
「誰に」
「決まってるだろ」

オレは睨みつける。
ヤツは笑った。

「ミカサか」
「ミカサ以外にいねぇだろ」
「お前も懲りねぇな」
「懲りてたら、こんな場所にいねぇさ」
「スッパリと振られたクセに」

グラスを持ち上げ、喉を潤す。
苦味を飲み干すように。


「そのミカサを振った、てめぇが言うんじゃねぇよ」
「付き合った方が良かったか」
「オレに訊くなよ」
「ジャンが適任だろ」
「最悪だな」
「最低なのも自覚してる」
「……泣いてたぞ」
「知ってるよ」
「後悔は」
「山ほど」
「だったら付き合えよ」
「無理だって。オレ達は家族なんだから」
「そりゃ本心か」
「……」

ヤツは泣きそうな面で微笑んだ。巨人の力を体内に宿す青年は。どうしようもないだろう、とばかりに。

「オレは化物だからな。結ばれても、アイツを幸せにしてやれない」
「そんなのミカサが気にするタマかよ」
「オレが気にするんだよ。そもそも……この件については嫌ってほど殴り合っただろお前と」
「涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったよな。マジでウケるわ」
「お前もだったろうが」

オレ達は殴りあった。素手と素手で、ガキだった頃の時間を取り戻すように、青春の華を咲かせた。
惚れた女の幸福を祈って。
惚れた女の幸福を願って。
だから知っている。オレが振られたのも、死に急ぎ野郎が振るしか無かったのも。一から十まで、理由と感情をぶつけ合ったから。


「それでも言わせろよ」
「やだよ。オレだって初恋だったんだから」
「オレだって初恋だったさ」
「ミカサもな」
「ミカサもだ」
「……報われねぇな」
「お前がヘタレなせいでな」

睨み合う。まるで鏡合わせのように、そこには似た様な心境を表した面があった。

「お前はまだミカサを諦めてないんだろ」
「オレはミカサ一筋だよ」
「だったら、お前が幸せにしてやれよ」
「それが振られたヤツに言う台詞かよ」
「振ったヤツの台詞で、アイツの大切な家族からの台詞でもあるな」
「最低だな」
「最悪だな」
「一回ぐらい死んどけ、死に急ぎ野郎」
「オレが死んだら困るクセに、この馬面団長補佐様は」
「うるせぇよ。成りたくてなった訳じゃねぇ」
「オレだって巨人になりたくてなった訳じゃねぇよ」

まるで予定調和のように、オレ達は軽口を叩き合う。
いつからだろう。いつからオレ達は、こんな風に会話をする仲になっていたか。ムズ痒くもあり、苦々しい気持ちにもなる。
それだけの長い年月が経て。それだけの腐れ縁の絆を結んでしまった。


「やれやれだな」
「溜息を付くと、幸せが逃げるらしいぜ」
「溜息を付いてなくても、ミカサは構ってくれねぇけどな」
「お前にとって幸せはミカサかよ」
「惚れた女が笑ってれば、幸せになれんのが男だろ」
「違いない。オレもミカサが笑ってたら幸せだ」
「家族としてか?」

オレは嫌味ったらしく訊き、ヤツは未練たらしく零した。

「……半々で」
「だったら半殺しで許してやるよ」
「ははっ。寛大だな」

仕方ねぇだろう。オレが惚れた女は、未だにお前を想ってるんだよ。
だから死なれると困るんだ。


「てめぇが死ぬと、惚れた女が笑わなくなる」
「お前が死んでも、アイツは泣くだろ」
「当たり前だろ」
「そうだな」

オレ達が惚れた女は。オレ達が初めて愛を想った女は。
優しい、優しい、泣き虫な女の子だ。ちっとばかし誤解を招きやすいが、それは決して嘘じゃない。

「だから死ぬなよ、死に急ぎ野郎」
「お前こそ死ぬなよ、馬面団長補佐様」

「オレが死ぬと、惚れた女が泣くらしいからな」
「オレが死ぬと、惚れた女が笑わなくなるらしいしな」

「責任重大だな」
「重荷だと思うか?」
「まさか。それこそ冗談だろう」
「まったくだ。惚れた女の想いぐらい、この肩で背負えなきゃ団長補佐やってねぇよ」

グラスを掲げる。氷が揺れて、硬質な音を鳴らす。
それを掻き消すように、二つのグラスを打ち鳴らした。残っていた紺色の液体を、浴びる様に喉へと流し込む。

いいね


「辛気臭い会話は止めて、オレ達も向こうに混ざろうぜ」
「だな。向こうはドンチャン騒ぎだ」

振り向く。そこには。
ミカサ、アルミン、サシャ、コニー、クリスタ、ユミル。
昔からの腐れ縁のヤツらが揃っていた。誰も彼もが、これから先に待ち構える絶望を知っていて、だからこそこの貴重な一時を。
無駄にしない為に、無為にしない為に。騒ぎ楽しんでいた。
笑顔、笑顔、笑顔。
オレ達が愛した女も、控えめながらも笑っている。この世界は残酷だが、それでも美しい。

「一応、言っとく」
「あん?なんだよ」
「もしオレが本当に死に急いじまったら、ミカサを頼む」
「お断りだ」
「なんだよ、ソレ」
「てめぇの頼みなんかなくても、オレが面倒見るに決まってる」
「そっか」
「そうだ」
「振られたのにな」
「振ったくせにな」
「最悪で」
「最低だ」

オレ達は立ち上がり、笑顔の輪に加わった。
それが最後。
死に急ぎ野郎……恋敵との私事を交えた最後の会話だった。


5日後に迫った最終決戦。
人類と巨人。相容れない二つの勢力が、栄光と繁栄を懸けて命を喰らい合う。その最後の戦いで。
死に急ぎ野郎は、消息不明になり。帰還する事は無かったのだった。

今にして思えば。
ヤツは見通していたのかもしれない。こういう結末になるのだと言う事を。
戦場の奥深くに、単身で突進していった死に急ぎ野郎は、声に出さずオレにだけ語り掛けていたのだ。唇の動きだけで。

ま、た、な。

別れの挨拶。
さようなら、ではなく。またな、と告げたアイツは、戻ってくる気はあったのだろうか。
問い質したくても、当の本人に届く事は無く。
そんな「いつか」なんて訪れることも無く。
人類は巨人の支配から脱し。
全ては過去になった。
完全な幸福は無く。
幸せと不幸せ。
半々の。
未来。

貸切の店。
独りきりの無音の空間。
平穏な世界で、今も尚、待ち焦がれているウダツの上がらない男が独り。
隣席には誰もいない。今はまだ。
靴音が鳴る。
近づいてくる。店の外から。
約束の時間だ。
まるで停まっていた時間が進み出すように、鼓動が跳ねた。

「いらっしゃい。お一人様で?」
「いつからマスターになったんだよ」
「生憎と店員すらいなくてな。真似事で迎えてやってんだ。感謝しやがれ」
「ありがとよ」
「それで、一人なのか」
「さっきまで、連れ合いがいたけどな。あっちもあっちで大事な用事だとさ」

空白だった隣席に、男が腰掛ける。
いつかのように。
いつものように。
終わった筈の過去が、焼き直しを開始した。

「マスター、酒」
「欲しけりゃ勝手に取れ。目の前に用意してやってるだろ」
「無愛想だな」
「オレから愛なんて想われたいか」
「悪い。オレの失言だった」
「分かればいいんだよ」

用意されていたグラスを掴み、貴重な氷が硬質な音と共に投入される。
適当な酒を注ぎ、ヤツの準備が完了する。オレもそれに合わせて、自分の準備を完了させた。

乾杯。グラスとグラスを打ち鳴らす。

「ただいま」
「遅すぎる。待ち草臥れたろうが」
「へぇ。待っててくれたのかよ」
「前言撤回だ」
「久々の再会だってのに、つれねぇな」

死に急ぎ野郎は苦笑した。オレは荒く鼻息を吹く。

「釣られてやっただろうが。突然呼び出しやがって。性質の悪い悪戯かと疑ったぞ」
「それでも信じてくれたんだろ」
「裏からの直通ルートなんて知ってんのは、限られてるからな。それこそオレの同期と、直属の上司だけだ」
「ジャンにだけ伝えたい事があったからさ」

オレにだけ。それは……どんな用件だろうか。薄々は察しが付いているが。それでも……その言い方は卑怯だ。

「……お前、変わったな。昔は情に訴えかけるなんて、しなかったクセに」
「変わってねぇよ。ただ……少しだけ大人になっただけだ」
「馬鹿は一度死なないと直らないらしいが、本当だったんだな」
「ははっ。ジャンは相変わらずだな。全然変わってねぇよ」

安心したと笑うヤツに、オレは唇を斜に曲げる。

「変わったよ。あれから何年経ったと思ってる」
「まだ片手で足りるだろ。ギリギリ」
「もう片手を超えようとしてんだよ」

長かった。どれだけ待ち焦がれていたと思ってるのか。
この日を、どれだけ待ちわびていたと思っていやがるのか。


「幸せだったか」
「半々だ」
「後悔は」
「それも半々だな」
「そっか。オレと同じだな」

残酷な世界は、平穏な世界になった。
だけど。幸せも後悔も、半々のどっち付かずに未来を歩んでいる。人生ってのはままならない。

「てめぇは幸せだったか」
「半々かな」
「後悔は」
「それも半々だよ」
「そうかい。だったら半殺しで済ませてやる」
「物騒だな」
「誰のせいだと思ってやがる」

オレ達は変わった。それでも昔のままで、軽口を叩き合えている。
変わって、だけど変わっていない部分も、確かにあるんだ。オレ達の関係が、変わっていないように。
ああ……嫌だね。歳は取りたくない。

「今まで何処で、何をしてたんだ」
「そういう契約だったんだ」
「契約?」
「そう。オレと巨人側の勢力との」
「これ以上、人類に危害を加えない為のか」

オレは空になったグラスに酒を注ぐ。ついでにもう一つのグラスにも注いでやる。

中途半端だけど、ここまで。改行エラーに捕まって辛い


明日には終わる予定。ではでは

中秋の名月を書いた人かな?乙

いいな

>>13 別人。ジャン好きだから読んで楽しませてもらったけど

じゃあそろそろ書いていこう


「誰も知らない、平穏な世界の為の犠牲か」
「そうかな」
「そうだろ」
「かもな」

懐から葉巻を取り出した。火を点け紫煙をくゆらせる。胸の奥底から唸りだす苛立ちを誤魔化すように。

「それでも……オレはオレが犠牲になったなんて、思ってねぇよ」
「何で」
「お前が。お前達が生きてる」
「勝手な言い草だ。それを自己犠牲って言うんだよ」

吐き捨てる。吸った煙と共に。

「それでもお前がオレと同じ立場なら、絶対に同じ事をしたと思うぜ」
「偉く自信満々だな」
「だってさ……惚れた女や、大切な人達が生きているだけで、幸せになれるだろ」
「そうかもな」
「だから、お前もそうするだろ」
「クソッタレな言い分だが、認めてやるよ」
「最悪で」
「最低だな」

葉巻の箱を隣席へと滑らせた。受け取り一本取り出すと、ヤツも火を点ける。
二本分の紫煙で、視界が曇った。


「案外、アイツらも話せるやつだぜ」
「巨人を一匹残らず駆逐してやると息巻いてたヤツと、同一人物とは思えねぇな」
「だからこそオレがいるんだ」
「もう人類に危害を加えさせない為にか」
「詳しくは言えない。ただ、最後の決戦で。オレはヤツらの王を倒した」
「それで」
「オレが王になった。そして今に至る」
「新兵でも、もうちっとマシな報告書を作成するな」
「言っただろ。詳しくは話せないって。この再会だって、オレが無理を言ったからさ」

二本目に火を点ける。酒を浴びるように煽る。ああ、紫煙とアルコールのせいで視界が揺らいでる。

「元気だったのかよ、死に急ぎ野郎」
「今更な質問だな」
「忘れてたんだよ。殴るか迷っててな」
「元気だったさ。足も二本あるぜ」
「残念と嬉しさが半々だ」
「素直じゃねぇの。馬面団長様はどうだったんだよ」
「見りゃ分かるだろ」
「生憎と目が悪くなってるようでさ」
「煙草の煙でも目に沁みたか」
「お前ほどじゃないけどな」
「てめぇに言われたくねぇよ。元気だったさ」
「良かった。一つ目が確認できて安心した」

その透き通った笑みに。やはりと自覚する。
例え二本の足があろうとなかろうと、コイツは亡霊みたいなもんなんだと。


「オレなんかの安否確認なんかで良かったのか」
「他じゃ駄目だ」
「アルミンやミカサは会いたがってたぞ。他にもだ」

誰も彼もが帰りを待ち続けていた。
だがコイツが指定したのは、オレ個人だけだった。もっと相応しい人物がいるにも関わらず。

「知ってる。それでも……ジャンじゃなきゃ駄目だった」
「それも契約か」
「いいや。私情だな……他のヤツらだと、オレが辛いから」

それに、とヤツは此処ではない方角へと視線をやる。

「アルミンも考えたけど、アイツはアイツで別個の用事があるだろうしな」
「一緒に来たって連れ合い、か」
「正解」
「やっぱりお前らは裏でつるんでたんだな」
「偶然の産物だよ。詳しくは言えねぇけど、今は連れの故郷にいる」
「地下から消えた時は、騒然だったぞ」
「ちなみにユミルもいる」
「巨人の力を持つ者は、遺恨を残さない為にか。クリスタ一筋のアイツがよく従ったな」
「なにせ……王様らしいからな」

巨人の王様と、調査兵団の団長。
契約が無くても、おいそれと面を突き合わすのは難しい関係だ。役柄なんて知った事じゃねぇけどな。
だから確認しよう。今更の。遅すぎて、分かり切った確認を。


「その王様の滞在期間は、何時までなんだ」
「この再会は、オレの我侭なんだ」

遠回しの伝え方に、遠回しの応え。
落胆は無い。ただ幾分かの悔恨があった。

「随分と良い子の我侭だな」
「昔から真面目が取り柄なんだよ」
「真面目なだけのヤツが、薬指に日焼け跡があるんだな」
「目敏いな」
「勝ち逃げか」
「むしろ完敗だよ」
「白旗を揚げてるようには見えないな」
「それが二つ目の確認なんだよ」
「黙れよ」
「頼む……自分勝手だとはしても。アイツの大切な家族としての言葉なんだ」

正直に吐露すると。そんな日焼け跡なんて見たくなかったさ。
オレとお前は、ずっと恋敵だと思っていたから。


恋敵を止めて、敵前逃亡したヤツの言い分なんて耳に入れたくもない。それでも、恋敵を止めたとしても。
家族からの言葉なら、聞かない訳にもいかなかった。

「先に確認させろ。んで素直に応えろ。それが条件だ」
「分かった」

「てめぇの相手は、てめぇが幸せになれる相手なのかよ」

「ジャン……お前」
「うるせぇ」

その面止めろ。オレまで変な面になっちまうだろうが。
仕方ねぇだろう。オレはお前に怒ってるよ。今だってぶん殴ってやりてぇぐらいだ。

それでも。
お前には笑っていて欲しい。お前には幸せでいて欲しいと思っちまってんだよ。
有り得ねぇよな。でも本心だ。

「あのさ……ここでソレは卑怯だろ」
「泣くなよ。男の涙なんて気持ち悪いだけだからな」
「アホか。これは煙が目に沁みただけだよ」
「お前も大概、言語能力が酷いよな」

「幸せだよ。誰かに強制された訳じゃない。オレはその人だから、幸せになれるんだ」
「そうか。……祝福するよ、親友」

「ありがとう。親友か……変な気分だ」
「オレもだ。酒が抜けたら、吐くかもな」
「それでも、今は悪い気分じゃないかな」
「愉快ではあるな」

何度も夢で思い描いていたような再会を、オレは果たしていた。過程と結末を除けば。
なあ、お前はどうだ。望みどおりの再会を果たせているか?訊くまでもねぇよな……その面を拝めば一発だ。

「可愛いのかよ」
「当たり前だろ」
「ミカサよりもか」
「本人に聴かれたら、ぶん殴られそうだな」
「甘んじて受けるべきだな。この罪作り野郎」
「……アイツは今どうしてる」
「その言葉を向ける先の相手は、大分的外れだな」

これが最後の確認事項なんだろう。これが終われば、この再会は終わる。泡沫の如く、溶けて消えていく。


「笑わなくなった」
「元気には、してるんだよな?」
「正しくは、強引にしてやっただな」

オレが付き纏うから。
オレが惚れた女に生きて欲しいから、お節介を焼きまくって。
今のアイツは、泣いたり落ち込んでいると、オレに付き纏われると嫌でも学んで。
人間らしい生活をしている。泣きはしないが……笑わないだけで。

「お陰でオレはストーカー扱いだ」
「約束、守ってくれたんだな」
「した覚えはねぇよ。オレがスキでやってるだけだ。役得が無かった訳じゃない」

そう。別に役得が無かった訳じゃない。
アイツは笑わなくはなったが、それでも感情が無くなった訳じゃないんだ。


ニヤリと意地悪く笑ってやる。ああ……愉快だ。

「なし崩し的に、今も一緒に住んでるさ」
「ちょっとばかし尊敬した、ちょっとだけ」
「構いすぎて鬱陶しがられてるけどな」
「それでも出ていかねぇんだろう」
「予想外にも、な」
「随分と、懐いてるんだな。オレやアルミン以外にそんなに心を開くなんてさ」

心を開く、か。それが事実なら、オレは待ち続けなかった筈だ。
アルコールを流し込み、喉を焼く。

「本気で言ってんなら、ぶん殴るぞ」
「分かってるよ」

「笑わないんだもんな」
「オレじゃ駄目なんだよ」

「……訊きたい事は、確認できたかよ」
「ああ」
「だったら会えよ。てめぇが必要なんだ」
「今夜だけなんだよ、オレ達は」
「待たすつもりもないとか、残酷だな」

この世界は平穏になったが、相変わらず残酷だ。
会いたい人に会えず、別れたくないのに別れないといけない。それでも彼女はこの世界を美しいと思うのだろうか。
そう思っていて欲しい。そんな願望。

「だからコレを渡してくれ。オレから大切な家族や親友、そして仲間へのメッセージだ」
「手紙か。古典的だな」

渡されるのは十枚ちょっとの、封が施された手紙。
飾りのない無地の封には、誰宛か分かるように、相手の名が記っされていた。

「随分と準備がいいんだな」
「そりゃ皮肉か」
「決まってんだろうが」

大切に預かる。これはオレの命よりも、重たかった。
こんなものを手渡されたオレの心境なんて、コイツは絶対に分かっていねぇんだ。

「必ず、渡してくれ」
「承った。どうせなら、直接言えと言いたいがな」
「蒸し返すなよ。辛くなる」
「オレはいつだっていいぞ。ここまで来たら、もう数年ぐらいな」

自分勝手な言い草だ。それでも、これは本心。
誰よりもこの再会を終わらせたくないと思っているのは、オレなのかもしれなかった。

「そんな事を言ってると、巨人が大挙して押し寄せてくるぜ」
「それは怖いな。でも平穏(タイクツ)だけじゃ飽きちまうし、稀には残酷(カゲキ)なのも刺激的だろうさ」
「欲が尽きないよな人間ってヤツは」
「欲があったら、今頃、オレ達はまだ壁の中だったろうさ」
「ああ、それは願ってもねぇな。んでお断りだ」
「……半々だな」
「半々さ」

用件は終わった、とばかりに過去からの使者は立ち上がる。


これが最後。
これで最期。
過去は過去とし、それぞれの未来へと流れていく。……クソッタレ。

「おい、待てよ。死に急ぎ野郎」
「……」

その背に、声を飛ばして。
立ち止まり、振り返ってきた。その顔を、オレは一生忘れないだろう。今にも泣き崩れそうな、その面を。

「せっかちだな。オレもてめぇに贈るモンがあんだよ」
「……出すのが遅すぎだろ」
「そう言うな。タイミングが重要なんだよ」
「それが今か?」
「今だ」

オレも立ち上がり、カウンター側へと周った。
そこには二つの品がある。一つは小箱と、もう一つは……想いが詰まった品だ。

「てめぇがイイ子ちゃんすぎてな。どうにもタイミングが掴めなかったんだよ」
「イイ子ちゃんって……この歳でそんな風に言われてもな」
「まったくだ。……渡すものは二つ用意してる。が、渡すのは片一方だけだ」
「ケチ臭いな」
「てめぇの返答次第なんだよ」

苦笑いの笑みに、皮肉の笑みを。

やっちまった。>>22-23の間が抜けてた。修正お願いします

「ミカサは意外と私生活はズボラだったりとか、料理スキルがあまり無いのも知ったしな」
「一緒に住んでるのか?」
「てめぇが戻ってこなくて、一時期は抜け殻みたいになっててな。面倒だったから、オレの自室に連れ込んだ」
「抵抗されなかったのかよ」
「言っただろう、抜け殻だったって」

アレは酷かった。初めの半年は、夢遊病者みてぇなモンだった。

「ロクに返事しねぇし、飯も喉が通らないみたいだったし、風呂さえ入らなかったからな」
「……」
「んな深刻そうにすんな。役得だと言っただろ」
「すまん」
「責めてねぇよ。てめぇにも事情があったんだろう。それに今は普通に生活してるさ」
「そっか。……まだ一緒に住んでるのか?」
「気になるか」


なぁ……もういいだろ?そろそろイイ子ちゃんは止めようぜ。んなの全然似合わねぇよ、お前には。
オレ達は変わった。子供から大人へと変わった。
でもオレ達は変わっていない。子供のまま大人へと、変わらないまま変わった。
だからさ。
あの頃みてぇに、吼えろよ。どうにも成らない現実を前にして、無意味だと知っていても叫び吼えるのを止めなかったように。
それがあの頃の、オレ達の反逆の証だった筈だ。諦めないという誇り。
それが今に繋がってるんだぜ?

「残れよ。てめぇは此処に残れ。エレン……お前もそうしたいんだろうが。なんなら嫁さんも引っ張ってきやがれ」
「無理だよ……無茶言うなよ……ジャン」

分かってる。知ってる。でも違うだろうが。んな行儀の良い答えなんか知った事かよ。
叫べよ。吼えろよ。どうにも成らない現実だからこそ、オレ達は苦しみながらも叫び吼えたんだろうが。
その結果がコレだとしても。
それでも良かったと思えるように、オレ達は叫び吼えたんだろ。
手本は……オレが見せてやるさ。嫌ってほど間近で魅せ付けられてきたんだ。だから思い出させてやるよ。
最後の最後なんだ。最期の最期なんだよ。
その終わりぐらい、オレ達らしく。
終わろうぜ?


ぶち上げる、大人に成りきれないガキの叫びを。
「うるせぇよ!オレがこんだけ引き止めてやってるんだ!ちょっとは考えて喋りやがれ!!」

ぶち撒ける、未練と後悔がふんだんに練りこんだ咆哮を。
「てめぇを待ってるヤツがどれだけいると思っていやがる!ミカサ、アルミン、コニー、サシャ、クリスタ、エルヴィン元団長や、リヴァイ元兵長にハンジ元分隊長、他にも!オレだってそうだ!!」

建前も世間体も捨てて、ただ我武者羅に叫んだ。
「なのにてめぇは自分勝手だよな!!残されるヤツの気持ちなんて一欠けらすら考慮しねぇ!!てめぇはソレでも、最後の最後までクソつまんねぇ冗談と建前で、去る気かよ!!」

理性は崩壊し形振り構わない激情を乗せて、ただ滅茶苦茶に吼えた。
「てめぇはそうじゃねぇだろう!オレ達はそうじゃねぇだろう!?だったらぶち上げろよ、ぶち撒けろよ!!」

雁字搦めに柵や枷なんて吹き飛んじまえと、ただ目茶苦茶に泣き叫び吼えた。
「そうじゃねぇと残されたオレ達も、残していくてめぇも、綺麗に終われねぇだろうが――!!」


なぁ、そうだろう親友?
頬に伝う冷たさを無視して、引くつく喉の震えを堪えて、オレは崩壊しそうな面を笑みの形に整えた。
笑えているだろうか。自信は正直無い。
あーあ、格好悪りぃな。頭の片隅で思いつつ、オレは無言で震える死に急ぎ野郎を見た。


オレは見た。顔を俯け、必死に震えを押し殺すヤツを。

「こうならないように……お前を選んだってのにさ」

悪いな。オレなら引き留めないと思ってたんだろ。

「辛くなるから……ミカサやアルミン達じゃなく、お前にしたのに」

そりゃ甘い算段だ。オレは誰よりも、お前に嫌がらせをするのが好きなんだよ。

「台無しだ。お前だって、オレの気持ちなんか全然理解してない癖しやがって……!」

当たり前だろうが。オレは神様とかじゃねぇぜ。他人の心の底なんか視えるかってんだ。
だから叫べよ。だから吼えろよ。
いいお手本だったろう?むしろ似非の真似事だけどな。思い出したか、先刻のはお前の真似事だよ。
なあ本家本元。いい加減、本音を曝け出せよ。
そう語りかけた時、爆発が迸った。


ぶち上げられる、大人に成りきれないガキの叫びを。
「うるせぇんだよ!オレだって此処にいたいんだよ!それぐらいお前なら分かるだろうが!!」

ぶち撒けられる、未練と後悔がふんだんに練りこんだ咆哮を。
「何でオレなんだよ!何でオレばっかりこんな損な目に遭わなきゃなんねぇんだよ!?オレは巨人になんか成りたくなかった、お前らと一緒に人間として生きたかったんだよ!!」

建前も世間体も捨てて、ただ我武者羅に叫ばれた。
「ミカサの隣にいてやりたかった!アルミンとの約束を果たしたかった!お前とも下らない事でずっと喧嘩したかった!!他のヤツらとも、もっともっと騒ぎたかった!!」

理性は崩壊し形振り構わない激情を乗せて、ただ滅茶苦茶に吼えられた。
「でも仕方ねぇだろう!?オレがこうしなきゃ、オレ達は死んでたんだよ!!オレはお前達に生きていて欲しかった!!寂しいけど辛いけど、オレはそれだけで幸せなんだよ!!」

雁字搦めに柵や枷なんて吹き飛んじまえと、ただ目茶苦茶に泣き叫び吼えられた。
「だからオレは行く!自分勝手だろうが何だろうが知るか!!オレはオレの幸せの為に、お前達を置いていく!!文句があるかよ!?」


文句はねぇさ。
お前がソレを選ぶのは知ってたんだからさ。だから渡すぞ、お前の大切な人からの、想いの品を。

「受け取れよ。餞別だ」

丁寧に巻いてやる。ここに居ない、彼女の代わりに。彼女がずっと拠り所にしていた、想いの詰まった赤を。

「もう……行くよ」
「ああ。止めはしねぇ。これ以上は野暮ってもんだしな」

顔の半分以上を赤いマフラーで覆い隠したヤツは、今度こそ背を向けた。

「ジャン」
「何だ」
「元気でな」
「お前こそな、エレン」
「ああ。……さようなら」

別れの挨拶。
またな、では無く。さようなら。
もう会う事は無いのだと告げる、決別を示した言葉だった。
だから、

「ああ。――またな」

さようなら、では無く。俺は戯れに、酒を注ぐように、繰り言を告いだ。
また会おう。
そんな「いつか」は決してやってこない。
オレ達を取り巻く状況が、それを許すことは有り得ない。
それでも。希望や夢ってのは、届かなくても輝いてるだけで価値がある。
子供だって、それぐらい知っている。何よりオレは諦めが悪い。
だから言葉を継いだ。

「また会おうな――親友」
「また会おうぜ――親友」

それが最後。それで最期。オレ達はオレ達らしく、再会を終えたのだった。半々の、感情を残して。





貸切の店。
独りきりの無音の空間。
平穏な世界で、今はもう、待ち焦がれるのも待たせるのも止めた男が独り。
隣席には誰もいない。今はまだ。
靴音が鳴る。
近づいてくる。
店の外からでなく、店内から近付いてきた彼女を迎え入れた。
停めていた時間を進める為に、一息吸って覚悟を決める。

「もう、いいのか」
「大丈夫」

泣き腫らしたのだろう、真っ赤な瞳と腫れた瞼のミカサ。すっかり見慣れた首元のマフラーは、そこにない。白く透き通る素肌を覗かせていた。
空席の隣に、静かに腰を下ろす。

「あまり泣いていたら、貴方が心配する」
「心配させてくれるのか」
「する、しない、はジャンの自由。私としてはして欲しくない」

鬱陶しいからか、文字通り心配を掛けたくないからか。
どっちの意味で?
んな無意味な問いかけはしなかった。こういう時は、都合の良い方に解釈してればいい、己にとって。


「これで良かったのかよ」
「良かった、とは」
「こんな風な終わり方でだ」

会いたい人に会えず、別れたくないのに別れないといけない。それでも彼女はこの世界を美しいと思うのだろうか。
なぁ……オレの願望は、お前にとってどうなんだ?

「ジャン、ありがとう」
「その感謝を向ける先は、大分的外れだな」

そんな顔を引き出した、アイツにこそ向けてやるべきだ。

「エレンは幸せそうだった」
「最後は泣いてたぞ」
「それでもエレンは幸せ。家族の私には分かる」
「だったら幸せなんだろうな」
「エレンが幸せなら、私も幸せ」

胸が張り裂けそうだ。見ていて痛々しい。見ているだけで涙が零れそうになる。
彼女の言葉に嘘はない。この女は本気で言っているのだ。なのに、その表情は笑みは笑みでも、見ていて痛々しい気持ちになるのは、どうしてだろうか。


「ジャン……?」
「何でもねぇよ」
「そう。なら良い」

良くはねぇよ。お前の笑顔はそんなんじゃねぇだろう?ああ……恨むぞ、親友。
オレはこのままじゃ、きっと恨んじまう。
本当の笑顔を引き出せない、己自身を。
不甲斐ねぇな。

「ストイックだな。一目見るだけ、声も掛けないなんて」
「掛けたら、苦しむ」

誰が、なんて決まってる。本当に、彼女は、優しい。
その顔を崩したくて、オレはグラスを差し出した。そこに酒を注ぎ、彼女の前に示す。

「一緒に飲んでくれねぇか」

彼女は酒を嗜まない。前に何度か飲ませては、顔を顰めていた。それを知っていて勧める。
ちょっとした気遣いと、少しの下心。

「構わない。……ありがとう」
「どういたしまして。乾杯」
「乾杯」

グラスとグラスがかち合い、硬質な音を鳴らす。
彼女は顔を顰め、オレは微苦笑を零す。そして預かっていた手紙を、そっとテーブルに置く。
彼女にとって大切な家族からの、最後のメッセージ。


「読んでいいの?」
「お前宛のだ」
「じゃあ失礼する」
「と、言いたいとこだが。読む前に、少しだけオレの我侭に付き合ってくれねぇか?」

オレは冗談めかして口ずさむ。彼女はきっと口数少なめで、応じてくれるだろう事を知っていて。
どんな冗談でも、真面目に返すのが彼女の特徴だ。

「別に構わない。貴方の我侭は、今に始まった事じゃないから。その我侭に付き合えるのなんて、私達ぐらいだ」

前言撤回。どうやら彼女も、冗談や皮肉は言えたらしい。

「どうして追わなかったんだ。店の裏口は開けておいただろう」
「追ったほうが、良かった?」
「オレの気持ちを知ってる癖に、性質が悪い返しだ」
「誰のせいだと思ってるの」

誰のせいなんだろうな。あまりにも都合の良い解釈をしてしまいそうで、嫌になる。
脳内が快適だとは、誰の言葉だったろうか。


「追えば、きっと私は戻ってこなかっただろう」
「幸せになれる」
「でもエレンは悲しむ」
「それでも幸せになれるだろ」
「違う。何度も言うけど、エレンの幸せが私の幸せ。私だけじゃ意味がない」

それに、と彼女は言葉を繋いだ。

「エレンは変わった。エレンは私よりずっと大人だった。もう私がいなくても、彼は強い」
「変わったか……」
「私はエレンが好きだった。それは今でも変わらない。でもエレンが変わったように、私も変わろうと思う」

その横顔は、切なくも強い意志を感じさせる。後ろではなく、前を見据える人の顔だった。

「信じて待ち続けれるように。それが残された家族の役目。私はエレンの家族だから」
「ミカサ……変わったのはお前もだよ」
「そう。だったら、ジャン。貴方も変わった」

オレ達は変わった。昔からは想像も付かないような、言葉を交し合って。
変わって、だけど変わっていない部分も、確かに残している。オレ達の関係が、その名残りを残すように。

「もう、満足した?」
「存分に」
「だったら、読む」


素っ気無く視線は外され、独占していた視線は手紙へと移る。
しっかり封をされた手紙が、細くしなやかな指で切られた。真っ白な紙が取り出し、それに瞳を落とす。

「エレン……」

彼女だけが見ることを許された、世界でたった一枚のメッセージ。
そこに何が書かれているかをオレは知らない。知る必要性もない。それは彼女だけが知っていればいい事だ。

「…………」

無言で手紙を読む彼女。その頬には透明の雫。
ポタポタと地面を鳴らす。

「うん……うん……」

オレは静かに見守る。
あの野郎がいなくなってから、オレは彼女が泣くたびに、構いに構った。その度に嫌そうにされ鬱陶しいがられ、稀には癇に触れて殴られもした。
嫌われても、止め様としなかった。悲しみで濡れて欲しく無かったから。
だけど。
この涙は違うから、オレは構わなかった。

「そうだね、エレン……」

それは悲しみから零れる涙じゃなく、嬉しさから溢れる涙だったから。

「……私も、幸せになる」

……ああ、チクショウ。やっぱ、お前はすげぇよ、エレン。


オレがどれだけ頑張ったって。オレがどれだけ頭を悩ませたって。
絶対に引き出せない顔が、そこにはあった。本当の、本物の、笑顔。太陽のように満開ではないけれど、月の仄かな優しさに満ちた笑顔。
見惚れて、焦がされる。捧げた心臓が、戻ってきた心臓が、恋に焦がされた。

嫉妬はあった。その笑顔を引き出しのが、オレじゃないって事に。
それでも幸福だった。惚れた女が笑っているだけで、幸せだと感じるのが安っぽくもオレらしい。

「ジャン……エレンは私に幸せにと言ってくれた」

手紙に視線を落としたまま、幸せを噛み締めるように呟く。

「そうか」
「ずっと、ずっと、私は大切にされていた」
「そうだな」
「私が幸せなら、エレンも幸せになれるらしい」
「そりゃそうだろうさ。お前らは大切な家族なんだもんな」
「そう。私達は家族。そして私がまだ生きているのは、ジャンが、貴方がいたから」

微笑み。その横顔から覗く微笑みは、今だけはオレだけに向けられたモノだ。


「ので、改めて言わせて欲しい。ありがとう、と感謝を」
「……どういたしまして」
「ジャン、いつかの返答を……」

いつかの返答。それは死に急ぎ野郎が戻ってこなかった後に。

『オレはお前を変わらず愛してるよ』
『知っている。私も、ジャンは嫌いじゃない。だけど、私は……』
『それでいいさ。オレも今すぐなんて期待してねぇ。そもそも……オレとお前だけじゃ、意味がねぇしな』
『……貴方まで待つ必要はない』
『待つんじゃない。オレが勝手に待たせるだけさ』
『そう。なら貴方の自由だ』
『いつか……オレ達がちゃんとオレ達らしく、前へと進めたら、さっきの答えを貰うよ』
『……』
『覚えておいてくれ』

まさか本当に覚えているとは思わなかった。
あんな中途半端な、諦めの悪い男の約束を、覚えてくれているとは思わなかった。


「ジャン……?」

手紙から視線を外し、オレを不思議そうに見る彼女。

「どうして、貴方は泣いているの?」
「泣いてるのはお前だろ」
「そうだけど……そうじゃない。私じゃなくて、今は貴方」

まだまだ改善余地のある言語能力を披露する彼女の手を取り、自分の頬に押し付ける。

「泣いてねぇだろ?」
「涙は流れていないようだ」

愛おしい。彼女の熱が頬を通して、全身へと伝わってくる。

「それでも、貴方は泣いている」
「どうして、そう思うんだ」
「ずっと傍に居たから解る。それ以上の言葉が必要?」

焦がされる心臓が、一瞬だが飛び跳ねていた。それを落ちつけるように、もはや癖みたいに気付けば皮肉を飛ばしていた。

「オレが付き纏っていたからだろ」
「……貴方は素直な癖に、面倒臭い人だ」
「あのさ」
「なに」
「あまり誤解や勘違いをさせるなよ。自惚れちまう」

優しい彼女に、卑屈なオレは。卑怯な予防線を張ってしまう。臆病なのは、いつまで経っても治らない。


そんな女々しいオレに対して、彼女は漢前だ。ずっと、昔から。この関係も変わらない。
今だって、情けない事にそうだ。

「する、しない、はジャンの自由。私としては、どちらも変わらない」

親指で瞼の下を拭われた。涙を零していないのに、それを拭う仕草に、また焦がされ愛が溢れる。
胸の内ポケットに仕込んだ、渡しそびれた小箱の存在を意識する。
小箱の中に仕舞った、銀の輝きを。
強く、強く。意識する。

「……今からでも、遅くはないのかね」
「待たせすぎた、と反省している」
「それは違う。言っただろ、待たせたのはオレだって」

そう。待たせたのは、オレだ。惚れた女に、改めて想いを伝えた時に。
結果がどうなるか置いといて、惚れた女が笑っている方が、最高にイカしていると思うんだ。アンタらだって、そう思うだろ?
この瞬間、このタイミング、この場に――全てが揃っている。

絶対的な幸福を味わえるシチュエーションが。ミカサが、じゃなく。想いを告白するオレが。
だから待たせたのは彼女じゃなく。
最後の最後まで、自分勝手なオレだ。誰がどう言おうが、これだけは譲らない。男の子なんだ、見栄ぐらい張らせてくれ。


だから。
だから。

覚悟を決めよう。
待ち焦がれるのも、待たせるのも止めたのだから。焦がされ、溢れ出した想いのまま。
勢いに乗って、長年の想いをストレートに届けた。胸に仕込んだ小箱から、彼女が気に入っていたデザインの銀の指輪を取り出して。



「オレと、家族に、なってくれませんか」



こうして、一つの噺は幕を閉じた。特別な再会を果たした夜は終わり、停まっていた時間は過去から未来へ。
変わったモノ、変わらないモノを背負って、それぞれの針は進んでいく。
遠い遠い場所へ去った誰かのように。待ち焦がれるのも待たせるのも止めた誰かのように。首元の赤から、左の薬指に銀を嵌めた誰かのように。

また「いつか」の約束を残して。
また「いつか」の誓いを信じて。

甘く、切ない。貸切の舞台は、静かに幕を下ろしたのだった。

終わり。
読んでくれた方、どうもありがとうございました。レスをくれた方々もありがとう
また何処かで

皆の為に己を捨てたエレンが巨人側で少しでも安らかに暮らせることを願うばかりだ。


俺、進撃知らないのにずっと追ってたわ。
本当に知らないのに、すごく良かった。
…不器用なやつらめ

乙です!凄く男前なジャンだった…。
よかったらまた投稿してください(小声)

三人組は、既に亡くなったのかな。補足してほしいです。話は、とてもいいです。乙。

乙おつ
エレンとジャンはケンカばっかりで相反して合わないけど、一周回って仲良くて意外と似た者同士だよな
と、思ってた俺得
後、最後のそれぞれの咆えには胸打たれた
また何処かで

>>30-31 また抜けてた……死にたい。まじでごめんなさい。これで本当に終わり。すいませんでした


「これ……何で、ミカサの……」
「必要だろ」
「オレがミカサに上げた……マフラーじゃないか」

ボロボロになりながらも、決して持ち主が手離さなかった、家族の証。

「伝言だ。エレンが寂しくならないように、これを貴方に返す。私達は、ずっと家族。それが証明。寂しかったら、これを私と思って。……だとさ」
「っ……随分と、準備がいいんだな」
「そりゃ皮肉か」
「決まってるだろう」

水滴が弾ける音が、地面を鳴らす。それを隠すように、赤いマフラーで顔を覆った。

「ありがとう。大切にする。そう……ミカサに伝えてくれ」
「ああ、伝えるさ」

きっと届いてるだろう。てめぇのその想いは。この以上なく、ストレートに。

良いものを読んだ…
乙です

>>1は他に何か書いてないの?


ここまで目頭と胸が熱くなったのは久しぶりだ

ジャン好きだけど三笠とくっつけるのってすごい難しいよな

>>47
ライナーとベルトルトはわからんけど、
アニは生きてんじゃないか?

アルミンに会いに行った連れが、アニだろ?
地下から消えたってジャンも言ってるし
つまりエレンとアニは、そういうことだと

すごく良かった
また>>1の作品が読みたい

普段のジャンミカは嫌いだけど、このジャンエレ(ミカ)の奴は好きかな。エレンは自ら巨人側につき、ミカサの幸せを願っていたからな。

これ、裏ではエレアニの感じがするのは気のせい?

>>53,>>56
無理にエレアニ解釈するのはやめたほうがいいぞ?このスレを汚しかねんからな

ジャンさんの幸せ描写が足りない乙
ミカサにエレンを追わせて戻らせるとか完全決別まではいかないけど
それに近い終わらせ方をさせて欲しかったかな

乙乙
このSSはジャンとエレンの友情がメインだから、誰と誰がくっ付いた~って話は野暮じゃないかね

まったく同じのを支部で見つけたんだけど>>1の?

>>60 これ誤解されたらイヤだから言っておこう。>>1です
向こうのキャプショに書いとくべきだったかな

泣けた。乙

自分ではどうしてもジャンとミカサが一緒になる未来を描けなかったから、こういう物語が読めて非常に嬉しい。
乙です。

何年会ってなくても変わらぬ口調で話せるのが本当の親友だって聞いたことがある
この話読んでそれがよくわかった
感動した
ありがとう

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